目指すは北の海~アヤカシエンパイアの旅~
戦いが終わりしばらく後に国見・眞由璃は自身の状況に気が付いた。
「……私はどのように帰れば良いのでしょうか」
テントのような姿の異形の者はいずこかへ居なくなり、同盟関係の猟兵たちもいつの間にやら帰ってしまっている。
帰ろうにも帰れない――けれど、眞由璃はあまり悲観していない。
何故ならば自分がシルバーレインの世界に居るだけで今を生きる同胞を危険に晒す可能性を内包するからだ……。ならばいっそ、全てのしがらみを捨ててこの新天地で好きに生きるのもありではないかという思いさえも過る。
陰陽の術と思われる平安結界一枚を隔てた先には平安時代を思わせる文明が存在する。それはかつて生前の眞由璃が数百年の眠りについた鎌倉末期よりさらに古い文明だ。
幼き頃に語り聞かせで聞いたことがある古き時代を模した世界。そんな未知の世界で何かを始めてしまおうか――そう、思った矢先のことであった。
眞由璃は突如何者かに声を掛けられた。
「汝も帰還の術を持たぬや。我が名は妖狐七星将『廉貞』。汝、我が策を聞かなむ。其の策は我と汝を等しく利するもの也」
声に振り向けば、そこには眞由璃と同様にキャンピー君に置き去りにされた廉貞がいた。
「すみません……上手く聞き取れませんでした。もう一度言ってくれませんか……?」
眞由璃は思わず聞き返す。すると、廉貞は言い直した。
「……あなたも帰る術が無い様ですね。私は妖狐七星将『廉貞』です。私に策があるので聞いてくれますか」
廉貞の策とは以下のもの。
「我が目指すは北の海辺の都市。この地が我等の知る日の本に酷似せらば、日の本の喉仏の嘗てに『界渡りの宝物』の心当たりあり。あるいは禍津妖大戦より以前に大陸より渡りし別の宝物も有なむ」
――つまり。
「……ここから北の海沿いへと向かい、福井県の敦賀市のあたりを目指します。私たちの知る日本の過去と似ているなら、そこは大陸との交易で栄える大都市のはずです。そして同じであれば私に帰還方法の心当たりがあります。他にも禍津妖大戦が起こる以前に大陸から渡った帰還に有用な宝物があるかもしれません」
そして廉貞はわかりやすい話し方でさらに言葉を続けてゆく。
「……とはいえ私たちはこの世界では異物。余計な問題を起こさないためにも道中はこの滅びた大地を進むのが良いでしょう。休む場合は平安結界を利用しますが、この旅路はひとりではいささか大変なのです」
眞由璃はこの策に乗ることにした。それは帰りたくなってきたというよりは、廉貞の放つ気迫が断る事を許さぬ雰囲気だったからだ。
「感謝致す土蜘蛛の女王。然れど心せよ。我等が目指すは迅速なる帰還。此度の道程は呉越同舟なれば、虚心坦懐を願う」
……言葉通り一刻も早く金毛九尾の元へ帰りたいのか、それとも眞由璃を監視することで猟兵に借りを作ろうとしているのか。廉貞の真意は分からないがこのようにして二人はアヤカシエンパイアを旅することになるのだった。
目指すは『界渡りの宝物』、そして元の世界に帰ること――。
「帝都櫻大戰への参戦、お疲れさまでしたー。今回はその際にアヤカシエンパイアに置き去りにされた『廉貞』さんと『国見・眞由璃』さんの行方を追っていただきたく……」
グリモア猟兵の天日・叶恵(f35376)は最初にそう伝えると、追って予知の内容を伝えていく。
なんやかんやでアヤカシエンパイアを一緒に旅する二人と合流し、それを助けていこうというのが今回の猟兵側の目的だ。
「グリモアによるテレポートは私たち六番目の猟兵しか対象にできないようでしてー……。申し訳ありませんが、お二人の帰還のフォローを暫しの間、お願いしたいのですー」
――以上の状況を伝えると、叶恵は転移の準備を開始する。
「事前の情報は以上となります。私は転移の発動と維持のため同行できませんが、皆さんならきっと大丈夫です。――それでは、いってらっしゃいませ」
ウノ アキラ
はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。ウノ アキラです。
このオープニングに興味を持っていただき、ありがとうございます。
●執筆タイミングなど
基本的に土日に書いていきます。
木曜~土曜午前あたりにプレイングを頂けると、ステータスシートを確認できるので助かります。
他にもマスター紹介のページは一読頂けると文字数を少し節約できるかもしれません。
●依頼の補足
アヤカシエンパイアの依頼になります。
一章は冒険。二章が集団戦。三章がボス戦。
三章構成です。
プレイングで特に言及がなければ廉貞と眞由璃はリプレイにあまり出ません。
もし仲良くなりたい方がいましたらプレイングで触れる必要があります。
一章は冒険です。
二人が旅の途中にとある平安結界内部で宿をとっています。
なので、二人を探して合流してください。
軽く面識合わせをする感じです市、がっつり交流しても構いません。
二章は集団戦です。
平安結界の外に出て旅を進めると『小烏天狗』が襲ってくるので、蹴散らします。
三章はボス戦です。
通っていた道は『土蜘蛛女御』の縄張りだったようです。
これは『妖』であり、廉貞や眞由璃の知る土蜘蛛とは別の存在です。
そのまま敵として戦うので、猟兵も参加して討伐してください。
最後の補足です。
この眞由璃はシルバーレイン世界から持ってきた薙刀を装備しています。
また赤手は所持していないため紅蓮撃が使えません。
ユーべルコード『疑似式「無限繁栄」』、『土蜘蛛禁縛陣』そしてアビリティを使用します。
廉貞はユーベルコードを所持していません。
ですが本気を出せば並の妖は恐れを感じて平伏するほどの実力があるため、通常攻撃とアビリティのみでボス級の妖とも渡り合えるでしょう。
第1章 日常
『雅な会(みやびなかい)』
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POW : 蹴鞠や鷹狩など体を動かす遊びをする
SPD : 貝合せや琴の演奏など技工を凝らした遊びをする
WIZ : 歌会や聴き香など心情を表す遊びをする
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●雅やかな宿にて
廉貞と眞由璃の二人は旅路の途中で宿に泊まっていた。
平安結界を一枚隔て、滅びた大地と人の住む空間が同居するこの世界では休息に限っては安全地帯が確保できるのがありがたい。
「連環の愚を見るが如し。我等の目的は物見遊山に非ず……日の出に備えるが道理」
「解っています。ですが、人々の営みを見ていたいのです。ここでは人々は滅びた大地を包み隠して懸命に生きている……。さらには、ここはかつて話に聞いた平安の時代によく似ています……」
早く部屋に戻って寝ることを促す廉貞であったが、眞由璃は付近を散策したがっているようだ。もしいま部屋に押し込んでも、このままでは年ごろの好奇心でまた抜け出す可能性がある。
そして廉貞は眞由璃に単独行動をさせるつもりが無い。単独行動をさせないのであれば、抜け出されたら廉貞も休む事ができなくなる分けで、その様な攻防に繋がるよりはと廉貞は少しだけ妥協する。
「|四刻《二時間》。……其れを過ぎれば汝を捩じ伏せるまで」
「ご配慮に感謝します」
とった部屋は二部屋。金目のものは廉貞の持ち合わせでなんとかなっている様である。
猟兵たちがやってきたのは、ちょうどそんな時だった。
アリス・フェアリィハート
&&&
アドリブや
他の方との絡み歓迎
UCで
分身を喚び
お二人を探し
交流
『眞由璃さん…廉貞さん…戦争では、ご助力有難うございました…』
この眞由璃さんが
どの様なお考えを
お持ちなのか
私には
知る由は…
けど
これまでも
「戦争」でも
私達に助力下さったのも
事実…
ご帰還を
お手伝い
して差し上げたいです
眞由璃さんが付近を
散策したいとの事で
『私達がご一緒なら…宜しいでしょうか…?』
眞由璃さんと共に
十二単を着
(自分と分身は|袿《うちき》
姿で
『眞由璃さん、お似合いです…♪』
散策や
分身『蹴鞠っての、一度やってみたかったんだ☆』
蹴鞠や
(但し自分は運動が苦手で
ついていけず
分身に笑われ
【楽器演奏】で
琴を演奏
眞由璃さんに
お聞かせしたり
儀水・芽亜
ご機嫌よう、女王、そして廉貞殿。
今回は大変だったようですね。お供いたしましょう。
旅の疲れを取るのに一曲歌いましょうか。
竪琴の「楽器演奏」でヒーリングヴォイスを「歌唱」。
廉貞殿、貴方様が進路を定め志は、かつての時代に銀誓館学園と干戈を交えた敦賀の地なりや?
その地に大いなる秘宝が眠りけると仰せになられる?
その旅路、吾も供に同行し、貴方方の一助とならんと欲す。
さて、ひとまずは腹ごしらえでもいたしませんか?
平安の世とは言え、飯屋の一つもあるでしょう。道行く方から、評判のいいお店を教えていただきましょう。
お店に入ったら、白湯と、一番評判のいい料理をそれぞれにお願いします。
来ましたね。いただきましょう。
龍巳・咲花
&
廉貞殿とは幾度となく共闘してるでござる故、大分仰っている事が分かる様になってるでござるぞ!
……え? 今なんて?
(廉貞殿の言葉には、なるほど○○でござるな! と勝手に良い方向に解釈したりもします)
拙者等が眞由璃殿の御付きとして四刻程市中巡りを突き合えば、廉貞殿も心置きなくお休みできるでござろう!
旅のお供も忍びのお仕事の一つでござるしな!
眞由璃殿の好むものを探したりなど一緒に見て回るでござろう
それと見回りながら、朝食なり軽食なりで唐菓子などの唐の食料をお土産に買っておけば廉貞殿の心労も少しは労われるでござろうか
この先の険しき道のりを考えれば多少の羽伸ばしも必要でござろうしな!
酒井森・興和
&&&
叶恵さんに聞いた話だと狐の大将が妹の世話をしてるみたいで微笑ましいような
いや、そんな事考えたらお二方に失礼か
でもここで会う女王は時に年相応の娘さんに思える事もある
…まあお目に掛かるとそんな事考えてられないがねえ
やっぱり緊張するし…
鋏角衆の蜘蛛族感知で女王の方角は何となく分かるがUCで精度を上げよう
その方向に素朴か雅か
楽の音が聞こえるねえ
女王がそれを楽しんでおられたら少し待ってお声掛け
先の戦いでは有り難うございました、女王
あの時はかなり無理して居られたようで…
もうお身体は回復されましたか
帰還の為平安世界の外を旅なさるのでしょう
僕個人の希望でお力になりたいと…
微力ですが僕も同行させて下さい
●
猟兵たちが宿を訪れるや、廉貞はしばし思案した。
……それは、解りやすい言葉使いを心がけるか否かである。
廉貞にとって平易な話し方はとても話しづらく、労力を有する。それは過去に銀誓館学園と『一縷樹休戦条約』を結んだ際に話し合いの最中に額に汗をにじませていたことからも窺い知れる。
相手が権威や面子を重視する文化であれば、あえて平易に話す事は礼や威厳を失することになるのだが……それは今回は当てはまらないだろう。何より伝わらなければ意味がなく、加えて廉貞には猟兵たちを無碍にする事が出来ない。
何故なら猟兵たちと争うことで得られる利益は全く無く、逆に友好関係を保つほうが得られる利益が大きいためだ。
骸の海による世界の浸食は大陸妖狐にとっても脅威であり、彼らにシルバーレイン世界で骸の海と戦ってもらうことは重要な事。則ち、この場での廉貞の振る舞いは世界を跨ぐ外交的な意味を持つ事となる……。
――ここまで考えて、廉貞は誰よりも早く挨拶を投げかけた。
「皆さん良く来てくれました。私達にどのような要件でしょうか」
アイサツは大事。ここで先手をとり話を聞く構えをとることで友好的な空気を創り出す事ができる。
それに対して猟兵側もアイサツを返してゆく。
アリス・フェアリィハート(不思議の国の天司神姫アリス・f01939)は。
「眞由璃さん……廉貞さん……戦争では、ご助力有難うございました……」
と礼を述べ、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は気安く話しかけていった。
「龍陣忍者が一人、今回も助太刀いたすでござるよ! 幾度となく共闘している仲、廉貞殿が休めるよう拙者も手伝うでござる!」
咲花は実際に第二次聖杯戦争⑧や帝都櫻大戰⑲で幾度と廉貞と肩を並べており、初期こそ伝え聞くだけの存在と一目置いていたものの、今ではすっかり戦友の様な距離感だ。
最後に儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)がお辞儀と共に挨拶を行った。
「ご機嫌よう、女王、そして廉貞殿。さて、要件なのですがお二人の帰還の手伝いに参りました」
「お久しぶりです。手伝い……ですか」
眞由璃がそう返答すると廉貞が平易な言葉使いで話を繋げる。
「その様子ですとやはり、皆さんの帰還方法は、私達では利用できないようですね。手伝いとは、何処まで把握されているのでしょうか。猟兵の皆さんにも銀誓館学園のような『未来予知』があると、私は考えています。その予知に、何か問題が見えましたか?」
廉貞は平易な言葉使いで話を続けてゆくが、早くも額にうっすらと汗が浮かんでいた。やはりとても話しづらい様だ。
それに気づいたアリスは、慣れた話し方でも構わないことを告げる。
「あの……廉貞さん……、お辛いのなら、いつもの話し方でも構いません……。ちょっと聞き返すかもしれませんが……。私達も、がんばりますので……」
「配慮感謝致す。我は骸の海撲滅を共に志す汝等と、敵対の意志無し」
廉貞の表情がすこしだけ和らいだ。
●
助力をするにせよまずは目的の確認を。
そう考えて芽亜は早速廉貞の考えを確認する。
「廉貞殿、貴方様が進路を定め志は、かつての時代に銀誓館学園と干戈を交えた敦賀の地なりや? その地に大いなる秘宝が眠りけると仰せになられる?」
廉貞に合わせた言葉遣いで歩み寄る姿勢を示す芽亜。この問いに、廉貞はこう答えた。
「然り。其地は我等妖狐の日の本の拠点。此地に或りし彼の地が我等の知る世に酷似せらば、万軍率いし大陸組織の痕跡有りしは道理。故に大陸より来たる宝物も同じく有なむ。何れも不確かなれど運否天賦、然れど重見天日也」
「……え? 今なんて?」
咲花は思わず聞き返した。廉貞にある程度慣れてきたとはいえ長い言葉となると聞き取りが追い付かないようだ。アリスも目が泳いでいて困っている様子が見える。そして眞由璃も考え込む様を見せており、意味の翻訳に時間がかかっているようだ。
廉貞は改めて言い直す。
「……福井県の敦賀市は古くから大陸との貿易を行う港町として栄えたことから、私達『妖狐』の日本での拠点となっています。組織の象徴たる封神台をそこへ設置するほどに、拠点として重視していたのです。そして私は、この世界でも同様に『禍津妖大戦』以前に存在した大陸勢力の拠点があると考えます。そこには大陸から渡って来た宝物があるはずです。これらは推測であり、天運に身を任せるようなものでしょう。ですが、何もしないよりは可能性があると考えています」
「成る程。その旅路、吾も供に同行し、貴方がたの一助とならんと欲す」
この内容を聞くと芽亜は手伝う意志を伝えるのだった。
そしてアリスもあっと気づいて言葉を加える。
「私も……これまで戦争でも私達に助力下さったお二人の、ご帰還をお手伝いして差し上げたいです……」
「力添え、感謝致す」
「心強いです。ありがとうございます」
その言葉に、廉貞と眞由璃はお礼の言葉を返すのだった。
「それでその手伝いなのでござるが。まずは拙者等が眞由璃殿の御付きとして四刻程市中巡りを突き合えば、廉貞殿も心置きなくお休みできるでござろう!」
会話がひと段落したところで咲花が提案を開始した。
これは現段階でできるお手伝いだ。つまりは眞由璃の監視を猟兵に任せて廉貞はゆっくり休む事を優先してほしいというもの。
これにはアリスも賛同の声を上げる。
「眞由璃さんが、付近を散策したいのでしたら……。私達がご一緒なら……宜しいでしょうか……?」
「旅のお供も忍びのお仕事の一つでござるしな!」
この申し出に廉貞はいちど思案する。その結果、まぁ問題無いだろう……との結論を出し提案を受け入れた。
「重ね重ね、深謀遠慮感謝致す。我休息を取らむ。明朝は日の出と共に発つ。成れば遠慮近憂を以て障り無く進めよ。備えに遅れる事許されぬと心得よ」
「なるほど! 日の出と共に出るからして明日は寝坊厳禁というわけでござるな!」
今度は咲花にも何を言っているのかが分かった。
●
廉貞の頷きを確認すると、咲花とアリスは眞由璃の手を引いて出掛けてゆく。
「眞由璃殿の好むものを探したりなど一緒に見て回るでござろう!」
「着物など……着てみませんか……?」
「あっ、えっと、では衣服から……?」
「ほらほら時間は直ぐに過ぎてしまうでござるよ!」
過去に死んだ時点で年齢が止まっているならば、オブリビオンとしての眞由璃は齢にして17ほどだろうか。咲花とアリスに手を引かれてゆく眞由璃の姿は、土蜘蛛の女王ではなくただの年相応の娘のように見えた。
そんな三人を見送ると、芽亜は廉貞を引き留める。
「旅の疲れを取るのに一曲歌いましょうか」
そう言って、芽亜は竪琴の『Playland In Sleeping』でユーべルコード『ヒーリングヴォイス』を奏でていった。いくら強いとはいえ、猟兵やオブリビオンと異なって廉貞はあくまで生命の範囲内の存在。疲れの回復もすぐにとはいかない筈だ。
のびやかな優しい歌声で体力が回復していくその最中、しかし廉貞は芽亜を見ていた。
「我、汝に覚えあり。抗体撲滅と休戦条約の折に我が銀誓館を訪れしとき、その場に居きや?」
廉貞は過去に協力の要請と休戦条約で銀誓館学園を訪れている。……どうやらその際に集まった(元)生徒たちを覚えていた様だ。
「なれば一つ新たに忠告を与えむ。我等が世界に発足せし新進気鋭の民間組織、"熾木カンパニー"に心せよ……」
それを聞くや芽亜は歌をとめた。そして、こういった込み入った話は立ち話よりも座敷が良いだろうと廉貞を食事に誘う。
「ひとまずは腹ごしらえでもいたしませんか? 平安の世とは言え、飯屋の一つもあるでしょうから、話の続きはそこで。道行く方から評判のいいお店を教えていただきましょう」
話を聞くに、どうやらその会社は除霊建築士達を中核として悪しき能力者や吸血鬼、そしてオブリビオンを取り込みながら、表向きは不動産とITの事業で規模を拡大しているらしい。そして大陸妖狐と銀誓館の間の条約を知らないのか、勢力拡大をそそのかして大陸妖狐に接触してきたため大陸妖狐側はスパイを送って実態を探っている様である。
……蘇った劉・叔成の陰陽都市計画の延長か、はたまた複製の聖女アリスの吸血鬼株式会社によるものか。暫く目立つ動きが無かったオブリビオン側にも動きが出て来ている様だ。
●
一方でこちらは眞由璃の方。眞由璃とアリスは和服を着ていた。
眞由璃はアリスが用意した十二単を着て、アリスも袿姿となっている。そしてアリスがユーべルコードで呼び出した分身のメアリーアンと、咲花も袿姿になっている。
「私の頃はもっと簡略化されていましたが、このような格好は久方振りですね……」
「眞由璃さん、お似合いです……♪」
「こういう服着てみたかったんだよね☆」
「こうしていると貴族になったような気分でござるなぁ」
そんな他愛ない話をしながら餅茶と共に椿餅スイーツを食べる最中、咲花はあることにはっと気付く。
(はっ! これはもしや女子会ではござらぬか……!?)
奏でられし楽の音。着飾って食べ歩き、蹴鞠で遊びとそこには|雅《みやび》なる平安貴族スタイルのキラキラ女子会の様相がある。
その様子を遠巻きに見守っていたのが、眞由璃の生前から彼女をずっと敬愛し、銀の雨の時代を生き残って来た鋏角衆の酒井森・興和(朱纏・f37018)である。
(やはり、ここで会う国見の女王様は年相応の娘さんに思える事もあるねぇ……)
今さら考えても仕方のないことだが、あの土蜘蛛戦争の結果がもう少し違うものであったなら眞由璃も学生として銀誓館学園に通いこのような姿を見せていたのかもしれない。
さらには転移前に聞いた話の中で狐の大将が妹の世話をしてるみたいだと微笑ましく感じていたものだから、このような姿を見せられてしまってはますます眞由璃の過ごす時間がひと段落するまで姿を見せる訳にはいかなかった。
なぜなら、今の年相応の姿の眞由璃も否定するつもりもないからだ。
(……まあお目に掛かるとそんな事考えてられないがねえ。やっぱり緊張するし……)
それは女王と頂点とする在り方を本能として感じているからなのだろうか。
しばしの時が過ぎ、廉貞への土産を買っていこうかという段階で興和は姿を現した。
「先の戦いでは有り難うございました、国見の女王様。あの時はかなり無理して居られたようで……もうお身体は回復されましたか」
「鋏角衆の酒井森。お前も来てくれたのですね」
興和の姿を見るや眞由璃の言葉遣いは土蜘蛛の女王へと戻ってゆく。けれどその表情は、これまでと違って柔らかい微笑みがあった。
この平安世界が良い気分転換になっている様だ。
「酒井森、お前も菓子を食べませんか。この|粉熟《ふずく》は|私達の時代《鎌倉時代の後期》には無かった物ですよ」
恐れ多く感じつつも女王に下賜されては断れない。興和はひとくち頂いた。すると眞由璃は再び微笑んだ。
(ああ、良かった。国見の女王様はだいぶ元気を取り戻されている)
このような笑顔になれるのなら、きっとこれからの困難も乗り越えていけるだろう。
興和は改めて国見の女王へと進言した。
「帰還の為平安世界の外を旅なさるのでしょう。ならば、僕個人の希望でお力になりたい。……微力ですが僕も同行させて下さい」
「ええ。勿論、頼りにしています」
土蜘蛛の女王、国見・眞由璃は柔らかい表情でそう答えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シホ・エーデルワイス
《狐御縁》
&&
現地で燦と爛に合流
爛は誕生祝いをありがとう♪
眞由璃さんと廉貞さんに逢えたら
置き去りにしてしまった事をお詫びします
すみません
私達だけ先に去ってしまいまして
お二人が無事で良かったです
ミニチュア視肉さんと炎帝鷂さんも元気かしら?
事情を聴いて私達も市中見物の同行を申出ます
基本的に眞由璃さんの行きたい所へ一緒に行きます
シルバーレインに行ったらですか…遊園地良いですね
森林浴も良いかな
ら、爛落ち着いて(おろおろ)
廉貞さんも是非
お互いの人となりを知っておくのも大事ではないでしょうか?
お金は以前鵺退治に参加した時に頂いた報酬と
普段から『聖鞄』にストックしてある換金用物資がありますので
それで買い物します
眞由璃さんは何か欲しいものはありますか?
良ければ買いますよ
私は赤銅の飾り金具を見つけて
今『ルノ』に作ってもらっている眞由璃さん用の赤手に付けると良さそうだと思い購入
月に桜に紅葉…色々な形状がありますね…
眞由璃さんでしたらどれが好きです?
食事は大事だと思います
持ち帰って宿で食べるのも良いと思います
狐裘・爛
《狐御縁》で参加
&&
改めて燦姉はお疲れ様、そしてシホは誕生日おめでとう
そして眞由璃! あなたの便りで駆けつけることができたわ。綺麗に貸し借りなしでいくんだから、大船に乗ったつもりでいなさい
シホの手前デートの誘いは…どうなの。それに金の無心まで! き、き、綺麗じゃなーい! うがー!(言葉にならない感情をぶち撒けている)
ふう。こういう時は雅な蹴鞠とかよ。和歌とかもいいわね。ふふ、優雅な振る舞い、淑女の私たちにはぴったりでしょ。え、そんな暇ない? まあそれもそうね
それなら行きたいところについて行くわよ。たまには、しがらみにとらわれずやりたいことをやってもいいじゃない! ……やりたいことないの? 遠慮せずに教えなさいよ
猟兵だからオブリビオンだから、ってそんなに考え込まなくてもいいと思うけどな
四王天・燦
《狐御縁》&&
シホ・爛と現地集合で、たのもー!(ウザい)
眞由璃が帰れないと聞いて助けにきたぜ
デートにも行きたいし
シルバーレイン世界に帰ったら遊園地とかどう?
シホと爛はどこに行きたい?
アヤカシエンパイアでもデートしますか
|大陸妖狐《遠き同種族》の廉貞には『急いては事を仕損じる』って日ノ本の言葉を送る。廉貞も探索してはどうだい?
あと四刻だと換金してる暇も惜しいから金くれ(真顔!)
金貨でも渡して取引する
爛よ、お金なかったら贅沢できないもん
蹴鞠…エル・ティグレ式ならできなくもないぜ(えっへん)
時間ないし眞由璃の行きたいように見回らせる
何か発見あるかい?
市井の営みってのは人も土蜘蛛も変わらないものかもね
匂いに誘われきつねうどんでも…と思うが、ゆで上げまで時間ロスするんで血の涙を流しながら我慢します
茶屋くらいはいけると良いんだけど
普通に食って生きていけるなら、もうオブリビオンとか関係ねーんじゃないかなぁ
オブリビオンが未来を作れるって変革を見せて欲しい
廉貞に一応土産は持って行くぞい
お前ね、気を張り過ぎ
●
「あっ、おーいシホ! こっちこっち!」
狐裘・爛(榾火・f33271)は手を振ってシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)に居場所を知らせた。そしてその姿を見つけたシホは爛の元へ駆け寄ってゆく。
このあたりは平安時代と同等と言われるアヤカシエンパイアの中でも文化の水準が高めであり、貴族向けの宿場を中心に平安時代では珍しく、商店が点在していた。これらは貴族たちが各地の妖と戦うときの拠点となるのだろう。
廉貞が宿をとったのはそういった一角で、シホと爛もこのあたりで現地集合をしていたのだ。
「燦姉はちょっと遅れてるのかな? シホは誕生日おめでとう!」
「誕生祝いをありがとう♪」
そんなやりとりをしているとやや遅れて四王天・燦(|月夜の翼《ルナ・ウォーカー》・f04448)も合流した。
「たのもー!」
「燦も来たわね」
「これで揃ったわね。改めて燦姉はお疲れ様!」
三人寄ればかしましく、賑やかに目的の宿を訪れたなら三人は廉貞と眞由璃の元を訪ねていく。
その声を聞きつけて先に出てきたのは眞由璃だった。
「来てくださったのですね」
その表情はシルバーレインの世界に居た頃よりも軽く、重荷を降ろしたような雰囲気がある。
この世界なら自身がオブリビオンとして暴走しても同族に害が及ばない事に加えて、この世界そのものが気分転換になっている様だ。
「眞由璃が帰れないと聞いて助けにきたぜ」
「眞由璃! あなたの便りで駆けつけることができたわ。綺麗に貸し借りなしでいくんだから、大船に乗ったつもりでいなさい」
「それはとても心強いです。ですがどのような方法で……?」
そのような会話をしていると、やや間をおいて廉貞が姿を見せた。
「猟兵の皆さん、よく来てくれました。私達の帰還の方法に関する訪問でしょうか」
分かりやすい言葉を話す廉貞……しかしどこか辛そうだ。何故ならばこの平易な話し方は、廉貞にとって負担が大きいからだ。
このときシホが一歩前に出た。
シホには眞由璃と廉貞に言わねばならないことがあるからだ。
「すみません、私達だけ先に去ってしまいまして。お二人が無事で良かったです」
これはどちらかというとキャンピー君が連れてきた責任を放棄してどこかへ行ってしまった事が原因なのだが、それでもシホは自分たちだけ帰ってしまったことを後ろめたく思っていたらしく謝罪をする。
それに対して廉貞はこう答えるのだった。
「汝等に咎は無し。『教育』を要するはあの糞三角……! 我等を置き去った事忘れることは無し。……大変失礼しました。猟兵の皆さんは悪くありません。悪いのは私達を置き去った、あの三角です」
廉貞はキャンピーくんの自由さに腹を立てているようだ。表現から察するに、その嫌い方は同じ妖狐七星将の『巨門』に対する嫌悪と並んでいる。
廉貞は一瞬だけ怒気を見せたものの、直ぐに落ち着きを取り戻して言葉をつづけた。
「話を戻しましょう。皆さんの帰還方法が私達では利用できないことは、推測できています。そして同様に、皆さんに『未来予知』があることも。つまり、こうして皆さんが現れたという事は、その未来予知に何か問題が見えたのでしょうか?」
平易な言葉使いを心がける廉貞。しかし話しづらさから額に汗が浮かんでいた。
●
シホは廉貞と互いの知る事情をやりとりし、そして廉貞は納得をする。
「配慮感謝致す。なれば其の汝等の提案、受諾せむ」
この依頼はどちらかというと廉貞と眞由璃の負担を軽くするのが目的となる。廉貞は猟兵でもなければオブリビオンでもない。つまりいくら強くとも回復力は生命の範疇なのだ。サンサーラとの戦闘の消耗も相まって、休める機会を得られるのは廉貞にとってもありがたい。
そして、この話がひと段落すると続けて燦が『次』の予定の話を開始する。
「あ、そうだ。シルバーレイン世界に帰ったら眞由璃は一緒に遊園地とかどう?」
「え、遊園地……ですか?」
突然話を振られて戸惑う眞由璃。そして爛は、燦とシホが付き合っていることを知る故の呆れの言葉を挟みこむ。
「燦姉、シホの手前デートの誘いは……どうなの」
「爛、私は大丈夫だから……」
「シホと爛はどこに行きたい?」
「あ、私たちも一緒なのね」
「当たり前だろー!」
「シルバーレインに行ったらですか……遊園地良いですね。森林浴も良いかな」
その場で次の予定の相談が始まるや、廉貞は部屋に戻って休むためにこの場を去ろうと踵を返した。しかし、それを燦が止めた。
「四刻だと換金してる暇も惜しいから金くれ!」
「金の無心まで! き、き、綺麗じゃなーい! 綺麗に貸し借りなしでいきたいのに! うがー!」
「だって爛よ、お金なかったら贅沢できないもん」
「ら、爛落ち着いて……」
この燦の言動に爛は言葉にならない感情をぶちまけて、シホはおろおろ。そして廉貞はこめかみに青筋を浮かべていた。
はっきり言って燦と廉貞の相性は最悪だろう。だが廉貞は今ここで猟兵たちと争っても損が大きいことを知っているため、燦との取引に大人しく応じる。
「さんきゅ! 廉貞には『急いては事を仕損じる』って日ノ本の言葉を送る。廉貞も探索してはどうだい?」
「不要。我、明朝の日の出と共に発つ故、遠慮近憂を以て障り無く進めよ。備えに遅れる事、許されぬと心得よ」
それだけ言い残すと、廉貞は休息のために部屋へ戻ってしまった。
性格の相性が悪すぎて取りつく島もない状態である。そして去りゆく背を見送って燦はこう呟いた。
「……あいつ気を張り過ぎじゃね? あとで一応お土産持って行くかぁ」
●
(廉貞さんも遊園地に誘おうと思ったけど……難しそうね……)
町中へ出る最中、シホはそう感じ取っていた。お互いの人となりを知っておくのも大事だと思ったのだが、こちらに合わせてもらう誘い方は廉貞にストレスを与えるだけになりそうだ。
「時間ないしとにかく行こうぜー。眞由璃はどっち行きたい?」
「こういう時は雅な蹴鞠とかよ。和歌とかもいいわね。ふふ、優雅な振る舞い、淑女の私たちにはぴったりでしょ」
「蹴鞠……エル・ティグレ式ならできなくもないぜ」
さてここは貴族向けの宿場のある通り。平安時代と言えど商店があり貨幣による取引が可能だ。
そして庶民はこの通りから離れた畑の近くの長屋で暮らしている。彼らは畑を耕して採取をし、貴族へ農作物や採取物を納め、残ったものを物々交換したりして|粟《アワ》と野菜の糠漬けで暮らしているようだ。UDCアースやシルバーレインなどでは唐から伝来した小麦を使った麺もあったので、このアヤカシエンパイアでもうどん類はあるだろう。ただし茶は高級品なため貴族用の店に限られてくる。
途中、シホの希望で装飾品の店に寄るとシホはそこで赤銅の飾り金具を購入した。
費用はもちろんシホの自費だ。鵺退治に参加した時の報酬はもちろん、普段から換金用の物資を『聖鞄』にストックしているためこういう時に金銭にはあまり困らない。
「月に桜に紅葉……色々な形状がありますね……。眞由璃さんでしたらどれが好きです?」
そう聞かれたものだから、眞由璃は『桜』と答えた。この世界に連れられて、戦いを終えた直後に視た光景が印象的だったからだ。あの幻朧桜はすぐに消えてしまったけれど、間違いなく美しい光景だった。
続けてシホは眞由璃にこう聞いた。
「眞由璃さんは何か欲しいものはありますか? 良ければ買いますよ」
「でしたら……」
眞由璃は、この世界の服を欲していた。
この世界に溶け込めるような、そんな服だ。買えるものは貴族用のものになってしまうが……市井を歩いても違和感が少ない服を、シホは眞由璃へとプレゼントする。
「ミニチュア視肉さんと炎帝鷂さんも元気かしら?」
と聞いてみればそちらもちゃんと所持していた。荷物を入れる巾着の中でそれぞれ大人しく過ごしている。
買い物を終えれば次は眞由璃の行きたい場所へ。
眞由璃は宿場のある通りを離れた場所にある、庶民の住む長屋の近辺を希望した。
●
眞由璃は宿場を離れた長屋へと赴くと、何をするでもなく、辺りを観察しながら歩いてゆく。
「何か発見あるかい? 市井の営みってのは人も土蜘蛛も変わらないものかもね」
その燦の問いに、眞由璃は「ただ、見たかったのです」と答えた。
シルバーレインの世界では土蜘蛛種族は鎌倉時代の後期(1300年前後あたり)に世界結界によって封印されている。そして次に目覚めたのが2007年。生前の眞由璃は何もかもが異なる時代に突如放り込まれて、1年も過ごせず死んだ状態だ。
しかし平安時代(794年-1185年)は、伝え聞く範囲とはいえ眞由璃にとって現代よりは知っている世界。それ故にどこか安心するのだろう。
けれど、ただ見ているだけというのも物足りない。爛も眞由璃に何をしたいのかと問いかけた。
「たまには、しがらみにとらわれずやりたいことをやってもいいじゃない! ……やりたいことないの? 遠慮せずに教えなさいよ」
その問いかけに、眞由璃はいちど考え込んでしまった。
どうにも眞由璃は|間違わない《・・・・・》ために判断が遅くなる傾向があるようだ。生前の記録を振り返っても状況の理解と期待される役目の理解は早かったが、|どうするべきかという判断《・・・・・・・・・・・・》は遅かった様に思える。
眞由璃はしばし熟考した後に、こう答えていった。
「欲を言うのなら……やはり、種族としての組織を作り、大きくしたいという思いがあります。ですが今はそれは叶わぬ身……。後は同胞たちの安寧を望んでいますが、これはたぶん聞きたい事とは違いますよね……」
「もっと個人的な望みは無いの?」
「……であれば、今は知りたい。私はあまりにも今を知りません……。土蜘蛛を統べる者として君臨する為に生まれた身。君臨する者としての教育は受けましたが、それ以外の事となると……」
これは女王という立場では決して言ってはならない弱音。今だからこそ言える言葉だろう……。
「だったらやっぱりデートだデート! 帰ったら行こうぜ!」
燦は改めて提案する、それにシホも頷いて。
「そうね、これから探していきましょう。やりたいことを」
場を整えていく必要はあるかもしれないが、事あるごとにこうやって過ごしていけばいずれは悩みを振り切って、より未来を向けるようになるかもしれない。
気が付けば日が沈み始め、夜が迫っていた。
この世界は灯りがほぼなくて、日が沈めば人々は眠りにつく。
明日は早い、日が沈む前に宿に戻らなければ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『小烏天狗』
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POW : 木の葉隠れの術
自身と武装を【木の葉】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[木の葉]を飛ばして遠距離攻撃も可能。
SPD : 全ては天狗の仕業
【風の妖力】を纏ってレベル×5km/hで跳び回り、触れた物品や対象の装備を破壊、あるいは使用不能にする。
WIZ : 九條錫杖
【錫杖の先にある金輪】をレベルm半径内の対象1体に飛ばす。ダメージを与え、【捕縛】した部位の使用をレベル秒間封じる。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●妖集団の襲来
灯りのない文明の朝は早い。
日が沈めば早々に床にはいり、そして日が昇れば起きる。
――その時刻や午前4時の頃。
次元をズレるように平安結界を通り抜ければそこは直ぐに滅びた大地だ。
宿を出た一行は結界を出ると木々も生えない荒野の道を進んでゆく。
すると、さっそく『小烏天狗』が群れで襲ってきた。
「ここを通りたきゃ飯と宝と命を置いていきな!」
自由に跳び回り姿を隠しと、風の如く捉え難い野盗であったが――。
「去れ」
廉貞が扇を一振りすれば『魔炎の嵐』が大地を駆けた。
二振りすれば空に『大爆発』が生じ、迂闊に近づけば尾が四方に伸びて『大蹂躙』の様相を作り出す。
眞由璃の方は消耗を抑えようと精気や寿命を消費するユーべルコードの使用は抑え、薙刀とアビリティで応戦をしていた。早々にアビリティの『土蜘蛛の檻』を使用して反動の"封術"の状態異常と引き換えに辺りの敵にマヒを与えてトドメめを刺していく。
両者とも敵の攻撃は難なく躱しているので特に守る必要は無さそうだ。
けれどこれは長旅の道半ばで、敵の数もとても多い。
二人の消耗を抑えるためにも倒すのを手伝った方が良いだろう。
儀水・芽亜
まだ旅は始まったばかりです。無駄な消耗は抑えなければなりません。
「結界術」「霊的防護」「回復力」でサイコフィールドを展開。
仲間の消耗を最小限に抑えつつ、小烏天狗が突っ込んでくれば、睡魔に捕らえて無力化します。
防御は任せてください。出入りは自由ですから、打って出て、それから一旦こちらに戻るのも大丈夫ですよ。
私も、驟雨の弓で「矢弾の雨」を「対空戦闘」「対空防御」に使います。烏風情、全部撃ち落としてみせますよ。
まだ先は長いですからね。こういう遭遇戦はいくらでもあるでしょう。体力の温存が第一です。烏が逃げるなら、深追いの必要もなし。その隙にさっさと進むが吉です。
さあ、次が来る前に先へ行きましょう。
酒井森・興和
&&&
この不毛な外界も追い剥ぎが出るとは
僕がまだ幼名の頃は弟妹達の為に人を狩ったが獲物に山賊や追い剥ぎを狙ったものだ
(小天狗の口上に懐かしくなってしまう)
あの頃は小妖怪もちらほら居たが
さすがに天狗狩りは初めてだな
【第六感、集中力】
敵の木の葉の起点から【気配感知し狩猟】
UCでアタリ付けた空間を葉ごと縦横無尽に【切断】
仲間を呼ばれては厄介だ
術が解けたり逃亡試み姿の見えた敵を【追跡し追撃】
遠距離なら逆鱗の【毒を使い投擲】で
近距離なら三砂を振り抜き翼を折り【逃亡阻止】して【重量攻撃】で仕留めていく
女王も廉貞殿も軽く屠って居られるが
朝イチこれではこの先も大歓迎されそうだ
越前角鹿に何があるのかねえ…
アリス・フェアリィハート
&&&
アドリブ連携歓迎
【SPD】
眞由璃さん
廉貞さん、
私達も
ご助勢します…!
眞由璃さん達と共闘し
【第六感】【心眼】【早業】
総動員し
眞由璃さん
廉貞さんの力に
併せ
UC発動
戦場全体に
焔の蜘蛛糸領界発生
翼で飛翔
【空中機動】
【空中戦】も行い
広域的に立回り
小烏天狗さん達の気を
こちらに惹き付け
攻撃等
【第六感】【心眼】【残像】
【通常攻撃無効】
【結界術】【オーラ防御】で
防御行動や
UCの蜘蛛糸の露で
自身や味方
眞由璃さん達を回復しつつ
『眞由璃さん…これで回復を…!』
クイーンオブハートキーを手に
【ハートのA】も展開
【破魔】【浄化】を込めた
【全力魔法】や
【誘導弾】の【一斉発射】【弾幕】を
UCと組合せ
敵群を
足止めしつつ攻撃
龍巳・咲花
&
お二人共お強いでござる故、雑兵に後れを取ることは無いにせよ、まだ度は始まったばかりでござるしな!
体力温存という意味で露払いは拙者等にお任せあれでござるよ!
群れの攪乱は忍びの得意とするところでござる!
まずは時限爆弾としたムシュマフの鱗を呼び出すでござる!
物品は壊せても|エネルギー体のムシュマフの鱗《ユーベルコード》はそう易々と壊せぬでござろう?
群れへ投擲していき、爆発までの時間差をつけて目の前で爆破させたり、その爆破に紛れてすり抜けて敵陣の只中や後方で爆発させたりなど、敵陣を乱しつつ撃ち落としていくでござる!
爆破で仕留めきれずとも手負いの相手には手裏剣やクナイの投擲追撃で仕留めていくでござる!
シホ・エーデルワイス
《狐御縁》
&&
平安結果の外へ出る前に眞由璃さんへ『ルノ』に作ってもらった
アイテムの赤手
『紅手』花鳥風月の籠手を渡す
眞由璃さん
どうかこれを受け取って下さい
破壊された赤手の残骸は大きな戦いの時に持参という話でしたが
いきなり発生することもありますので
私の方で檻にあった欠片を回収し作り直しました
廉貞さんと会話をする際はコミュ力と読心術と異世界同位体の世界知識を活かして
私が廉貞さんの話し方に合わせ
皆に分かりやすい言葉で伝えます
戦闘では燦と背中を合わせて【巡環】
燦の花弁で動きが鈍った相手に落雷を当てつつ
荒地でも走破し易い環境に変えながら味方を癒す
燦
私も同感です
今回の目的は敵の殲滅ではなく移動ですから
UCで移動速度を上げつつ
進路上の敵は第六感と聞き耳で見切り
聖銃の追跡誘導弾によるスナイパーで翼部位を貫通攻撃し破壊
敵の機動力を削ぎつつ移動距離を稼ぐ事が目的です
爛との絡みはお任せ
狐裘・爛
《狐御縁》&&
シホ、用意してたプレゼントがあるんでしょ? 今のうちに渡しておくといいわ。息抜きはおしまい。ここからは猟兵の時間だからね
お姉ちゃんはいつでもお姉ちゃんよ。ちゃっかりしててもしっかりしていてもね
私は時間を稼いで先に進む足掛かりになるようにするわ。《【青喚】符術『薄雪草の大親友』》の護符を使ってサポートするわよ。二人のコンビネーションで天狗たちをキリキリまいにさせるのを、邪魔なんかさせないわ
防御力を引き上げれば天狗の攻撃だってびくともしない、こともないけど、ともかく時間を稼ぐわね
こういう刺激的な旅も記憶に残るわよね。廉貞、言葉じゃないのよ。私はこういうみんなでする旅好きだな。ね、戦いばかりじゃなくて心に刻み込んでね、綺麗で素敵な思い出を
四王天・燦
《狐御縁》&&
いいなー赤手
アタシもデートの時にお洋服とかプレゼントしよっかな
あと廉貞言語だけど古事記原典読める程度には学はあるぞい。素で話していいんだぜ
さーて戦だ戦
眞百璃も廉貞も人を頼ればどうよ?
シホも爛も心配してるぞい
爛に叱られたし貰ったお金に見合う活躍を見せなきゃね
天狗の攻撃ば神鳴で受け流して前に出る
鞍馬山に入ってしまったかな
天狗様の領域だし非礼を詫びよう
命と旅糧は無理だが、お宝ならこの光る小箱をどうぞと適当に曰くをでっち上げて|時限爆弾《カウントダウン》を献上する。爆発!
廉貞よ、これが日ノ本の狐やで(どやぁ)
怒った天狗はアークウィンド振るって風の衝撃波で撃墜してやりましょ
金輪が嵌っても慌てず符術で封印を解くっ
山賊風情に構う必要もない
交戦中シホと背中を合わせて【巡環】を発動させ目くらましの花弁を叩きつけるぜ
シホ側の5倍速の祝福でトンズラしようぜ
三十六計逃げるに如かずは大陸の兵法だっけか
天狗ども、追ってきたら殺す―散々飄々としてきたけどガチの殺気を飛ばして牽制しとく
絡み追加歓迎です
●
兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり――。
孫子の兵法の一節にあるこの言葉を体現するように廉貞は大技を繰り出し道を作ってゆく。
規模のある戦いは、長期化すれば消耗ばかりで得るものが無くなってゆく。故に、廉貞は次の休憩予定の地まで一刻も早く辿り着こうとしていた。
理想を言うなら昼には次の宿泊地についてしまいたい。そこから宿を探し、無ければ平安貴族の屋敷を訪ねて交渉したなら一晩休む場所を確保できるだろう。
「疾く疾く進め。戦意失いしものは捨て置け。但し我等へ向かう者あれば障害となむ故、漏らさず断て」
廉貞はそう言い放ち眞由璃を急かす。
シルバーレイン世界の能力者や来訪者たちが使用する|能力《アビリティ》は回数に限りがあるため、尚更ゆっくりとしていられないのだ。
だがこの滅びの地の旅路は二人だけではない。
猟兵たちが道中を助けるべく同行している。
「露払いは拙者等にお任せあれでござるよ! お二人共お強いでござる故、雑兵に後れを取ることは無いにせよ、まだ旅は始まったばかりでござるしな!」
龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)はユーべルコード『龍陣忍法「バビロニアン・ムシュマフ・スケイル」』で召喚した炎竜ムシュマフの鱗を投擲した。その鱗は、『小烏天狗』の群れを通り過ぎると後方で爆発を起こしていく。
「龍陣忍法・バビロニアン・ムシュマフ・スケイル! の術でござる!」
「うわっ!? 何だ、爆発……?」
「うっ……」
天狗たちが何事かと振り向けば、次々と龍陣忍者武器が急所に突き刺さる。それらは咲花の投げた手裏剣やクナイといった忍びの武器であり、龍脈の力が乗っているため刺されば内部から肉体を傷つける。
さらにこの爆風で木の葉が散れば潜んでいた『小烏天狗』の姿が露わとなり、それを酒井森・興和(朱纏・f37018)の飛斬帽【丹霞】が切り裂いていった。この飛斬帽はユーべルコード『|追《オイ》|笠《ガサ》』によって熱と炎を携えて飛翔していき、狙撃を試みる天狗たちを討ち倒す。
「ヤバっ、バレた! 場所を変え……ぐわっ!」
「何だあれ、速いぞ……!?」
「これぞ我ら鋏角衆の得手とする飛斬の笠……」
飛斬の笠が宙をゆく間も、興和は鉄片のつぶてである『逆鱗【朱纏】』を投擲し、天狗へ毒を与えていった。
「遠距離への対応はお任せください、国見の女王様」
興和は手元に戻った逆鱗と飛斬帽を再び投げつつ、引き続き木の葉に隠れる天狗たちの気配を探ってゆく。
咲花も炎竜ムシュマフの鱗を四方へ投げて、爆発で群れを乱していった。
「群れの攪乱は忍びの得意とするところでござる!」
連携さえ取れなければ烏合の衆。まして力量の差が明らかとなれば怯むものも現れる。
出鼻を挫かれた『小烏天狗』たちは仕切り直すように距離をとり、そのまま周囲を取り巻いた。
そんないかにもな山賊の動きと出会い頭の口上に、興和はふと懐かしくなってしまう。
それは封印の眠りにつく前の鎌倉の時代の事。あの頃、国見の女王を中心した土蜘蛛勢力は今でいう奈良県の葛城山におり、これはその地での思い出となる。
(この不毛な外界も追い剥ぎが出るとは。僕がまだ幼名の頃は弟妹達の為に人を狩ったが獲物に山賊や追い剥ぎを狙ったものだ)
あの頃は小妖怪もちらほら居たがさすがに天狗狩りは初めてだな、と興和は思うのだった。
●
この間に、儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)とアリス・フェアリィハート(不思議の国の天司神姫アリス・f01939)がユーベルコードの結界を展開する。
「まだ旅は始まったばかりです。無駄な消耗は抑えなければなりません」
「私達もご助勢します……! ――全てを灼く紅蓮の星焔の蜘蛛糸…全てを癒す銀なる星の蜘蛛糸――それらの領界を……!」
芽亜の『サイコフィールド』とアリスの『アトラクナクア・ヴァーミリオンウェブ』が同時に展開してドーム状の領域を作り出してゆく。あたり一帯を、全てを灼く星焔の蜘蛛糸と鴇色の陽炎が覆っていき、中の味方に癒しと状態異常の消去、そして防御力上昇の効果を与えていった。
同時にこれらの結界は、敵に強い睡魔と、行動力や生命力奪う状態異常を与えてゆく。
「眞由璃さん……これで回復を……!」
「防御は任せてください。出入りは自由ですから、打って出て、それから一旦こちらに戻るのも大丈夫ですよ」
この支援を受けるや、遠距離の手段を持たない眞由璃が積極的に前へ出た。
「……これなら」
眞由璃は新しい赤手――錦や金襴の飾り組紐と桜の飾り金具で装飾された赤手を装備している。これは平安結果を出る前にシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)から受け取った『『紅手』花鳥風月の籠手』だ。
「次は私が道を作ります」
眞由璃は廉貞にそう伝えると結界から出て進行方向にある群れへと斬り込んでゆく。放つユーベルコードは『眞由璃紅蓮撃』。赤手を付けた巨大な腕を薙ぎ、触れた部位から凝縮した精気を流し込むと『小烏天狗』の身体を操作して同士討ちをさせてゆく。
あるいは木の葉に触れれば木の葉を操作して別の天狗へ突き刺して、錫杖や風の妖力に触れれば、その場で爆破して天狗には触れさせない。
そして、近くの天狗にはアビリティの方の紅蓮撃を使用して凝縮した妖気を炎に変えて叩きつけていった。この代償で受けた"封術"の状態異常は、アリスの結界がすぐに癒してゆく。眞由璃はさらに背に蜘蛛の足を出現させるや天狗を貫いて先ほど消費した精気を補給した――これもアビリティだ。このアビリティ生気吸収による"封術"の状態異常も、即座に癒されら。
土蜘蛛はその強力さと引き換えに状態異常の反動があら、状態異常を癒す巫女とペアでなければ十分な力を発揮できない来訪者だ。だが今はその問題が解消されていて思う存分に能力を振う事が出来ている。
さらには使い慣れた武器もあれば、先ほどまでの薙刀での戦い方から一変して天狗の群れを軽々と蹴散らす事も出来る。
「……やはり、馴染みのある武器は扱いやすいですね」
新たな武器は、うまく馴染んでいる様だ。
その使いこなしを見て送り主のシホは安堵した。
(私の方で回収していた赤手の欠片で作り直してみたけれど、使い勝手は問題無さそうで良かった)
その様子に四王天・|燦《あきら》(|月夜の翼《ルナ・ウォーカー》・f04448)はプレゼントの活用を羨み、そして。
「いいなー赤手。アタシもデートの時にお洋服とかプレゼントしよっかな。あと古事記原典読める程度には学はあるぞい。素で話していいんだぜ」
と、廉貞へと絡んでいくのだった。
●
「さーて戦だ戦。廉貞も人を頼ればどうよ?」
と|燦《あきら》は廉貞に語りかける。
廉貞はというと相変わらず仏頂面で、自由奔放な相手が苦手なことを隠しもしない。
しかし廉貞はコミュニケーションそのものは拒絶していない。猟兵との関係を保つことを優先し、なるべく言葉を返してゆく。
「汝等が骸の海の災厄を滅せし猛将たる事、異論無し。故に元より汝等を拒む道理無し」
この言葉をシホが世界知識やコミュ力を駆使してなんとか翻訳する。
「ええと猟兵が骸の海を倒す重要な戦力であることに異論はなく、共闘を拒むつもりは始めから無い……。つまり元から頼りにしている、ということでしょうか」
その訳に廉貞は頷いて、言葉を続けた。
「心せしはそこな女王也。|右顧《うこ》|左眄《さべん》にして未熟なればこそ骸の海へ|嚥下《えんげ》為らずや……。而して災厄と成りし素養もあれば孤立も危うし」
「廉貞さんも眞由璃さんを危ういと考えているのですね……。周りの情勢ばかりをうかがってなかなか決められない様子があると……。けれどその迷いこそが暴走しない要因と考えられる……ですか。けれど、いざ暴走したら危険だから放っておくのも危ない……と」
廉貞は頷いた。
それを聞くや|燦《あきら》も頷いて。
「だよなー。眞由璃は人に頼るの下手くそすぎてひとりにするの心配だもんな」
この言葉に廉貞も頷いて、しかし意見が一致した相手と同意の内容に気が付くと眉間に皺を寄せるのだった。
さてここからは猟兵の時間。
シホと|燦《あきら》と共に来ている狐裘・|爛《らん》(榾火・f33271)は、援護のために符術の用意を開始する。
シホと|燦《あきら》のユーべルコードのコンビネーションの気配を察知していつでもそれを補助できるように待機しているのだ。
ここまで|爛《らん》はずっとニコニコしていた。何故ならば、平安結界を出る前のシホのプレゼントが受け取られた事と、それを見届けられたこと。そしてそのプレゼントがいま使用されているのを見られたからだ。加えて今のところ廉貞との距離感も悪くない。
あとはこの刺激的な旅を無事に進めれば、この時間も良い思い出になるはず!
そんな折に|燦《あきら》が突然『小烏天狗』をからかい始めるのだから、構えていた|爛《らん》は思わずズッコケてしまう。
「鞍馬山に入ってしまったかな。天狗様の領域だし非礼を詫びよう。命と旅糧は無理だが、お宝ならこの光る小箱をどうぞ」
それは眞由璃の元まで駆けよって、彼女を狙う天狗の錫杖を受け流しての事。
|燦《あきら》が箱を押し付けると、天狗は最初こそ驚いたが箱の輝きに悦んで持ち去っていった。そしてその箱が爆発するや|燦《あきら》は廉貞へとドヤるのだった。
「廉貞よ、これが日ノ本の狐やで」
我等こそ唯一にして随一の妖狐勢力という自負を持つ廉貞が、それをどう受け止めたかは想像にお任せする。
●
そしていま、この周辺一帯の戦場は『小烏天狗』たちにとって地獄のような様相になっていた。
戦場全体には芽亜による強力な睡魔をもたらす結界が展開され、そこにアリスによる触れると行動力や生命力奪う糸が張り巡らされており、これらだけでも天狗たちはフラフラの状態だ。
「山賊風情に構う必要もない。|爛《らん》に叱られたし貰ったお金に見合う活躍を見せなきゃお姉ちゃんが廃るぜ」
そう言って、|燦《あきら》はシホと頷き合うと互いの力を循環させてゆく。
これは二人のコンビネーション開始の合図。|爛《らん》はそれを見るや用意していた符を展開して術を発動させた。
「お姉ちゃんはいつでもお姉ちゃんよ。ちゃっかりしててもしっかりしていてもね。そして、二人が天狗たちをキリキリ舞いにさせるのを、邪魔なんかさせないわ」
|爛《らん》の符から『【|青喚《セイカン》】符術『|薄雪草《エーデルワイス》の大親友』』による聖痕の光が発せられ、周囲にダメージを与えていった。さらには聖痕の加護が攻撃力と防御力を強化して、サイコフィールドと合わさり天狗たちの攻撃をものともしない守りを作り出す。
そこにさらに百六十メートルほどの半径内で感覚を|晦《くら》ませる花びらと行動速度を下げる落雷が交互に通り過ぎたなら、いかに数が多かろうと天狗たちにはひとたまりもない。
背中合わせの二人が放つユーべルコード、『【|巡環《ジュンカン》】|華狐《カコ》|相愛《ソウアイ》・|巡る陽《ソルチェイン》』と『【|巡環《ジュンカン》】|華狐《カコ》|相愛《ソウアイ》・|巡る月《ルナチェイン》』の力が巡る。
それは感覚を|晦《くら》ませるエーデルワイスの花びらから始まって、行動速度を五分の一にする落雷が降り注ぎ、行動速度を五倍に上げる祝福の光が輝くと、治癒を与える稲荷符が舞って、再びエーデルワイスの花びらが舞ってゆく……。
「トンズラしようぜ。三十六計逃げるに如かずは大陸の兵法だっけか」
「燦、私も同感です。今回の目的は敵の殲滅ではなく移動ですから」
「このままさくさく歩いていくわよ!」
旅の一行の歩行速度は五倍となり一気に道のりが進んでいった。しかし同時にしつこく追いすがる『小烏天狗』たちがにわかにざわつきだしたのだ。
「このまま行くと女御様のお山に行っちまわないか?」
「それはやべぇな……」
「何かあったら俺達が八つ当たりされちまう!」
『小烏天狗』たちの様子が変わった。
これまで強者たち相手にどこか及び腰だった天狗たちが、必至に攻撃しはじめたのだ。
●
「小烏天狗さん達が……一斉に……」
「目の色が変わったでござるな。さてはこの先に視られたくないものでもあるのでござろうか」
咲花は引き続きムシュマフの鱗を投擲してかく乱を継続し、アリスはしっかり迎撃しなければと翼で空へ舞い上がる。彼女は空中戦を得意としているためこの方が動きやすいのだ。
そして長大な金の鍵のクイーンオブハートキーを構えてジュエルのハート達の【ハートのA(アリス)】も展開させると、アリスはクイーンハートキーやハートから魔法の弾を次々と放ち、弾幕を形成していった。この魔法の弾とユーベルコードで張り巡らせた蜘蛛の糸によって、アリスは頭上の防衛ラインを作りだす。
(先を行くみんなに、ついていきながら……、敵群を、足止めしつつ攻撃を……っ!)
そこへシホも二つの聖銃|トリップ《Tulip》_甲WSと|ピア《Pea》_甲WSによる精霊弾と銀の弾の追跡誘導弾を交互に撃ち、天狗の翼を狙って落としてゆく。
そして芽亜も、移動の合間に空へと雨の如き矢を放っていった。この矢は弓型神器、|驟《しゅう》|雨《う》の弓によるもので、空へ放った矢は空高く上がった後に空中の天狗たちへと降ぎ、射貫いてゆく。
「烏風情、全部撃ち落としてみせますよ。まだ先は長いですからね。こういう遭遇戦はいくらでもあるでしょう。体力の温存が第一です。さあ、次が来る前に先へ行きましょう」
そして残った地上の天狗は、咲花と興和が仕留めていった。
特に咲花は派手な立ち回りで天狗たちの目を引き付けており、爆発までの時間差をつけながらムシュマフの鱗を次々と投擲して爆発を巻き起こしていた。放ったムシュマフの鱗が群れをすり抜けて、その奥から手前までと目まぐるしく炸裂する様は天狗たちを混乱させてゆく。
時に天狗たちはこの投擲物を破壊しようと試みたが、しかし龍陣忍者が召喚するのは龍脈を司るエネルギー体。並の強度ではない。
「物品は壊せてもエネルギー体のムシュマフの鱗はそう易々と壊せぬでござろう?」
小烏天狗へまたひとつ、止めの手裏剣が突き刺さった。
興和はツルハシ状の武器、|三砂《みさご》を突き立てて止めを刺すとふと天狗たちが何を焦っているのかと考える。
(はて、まるで別の強者に脅えているかのようだ。僕は彼らの様な状況を知っている……)
興和は昔に遭遇した山賊や追剥たちのことを思い出す。
(これはまるで、縄張りの支配者に脅える手下たちだ)
この集団を取りまとめる何者かが、ちょうど進行方向の先に居るのだろう。
しかしそれについての心配は無い。興和が気になるのは。この旅路の長さと終わりにあるものだ。
(女王も廉貞殿も軽く天狗を屠って居られるが、朝イチこれではこの先も大歓迎されそうだ。越前角鹿に何があるのかねえ……)
●
「待て待て!」
「お前たちそれ以上行くな!!」
『小烏天狗』たちが必死に止めてゆくなか、しかし猟兵たちは天狗たちを蹴散らしていった。
天狗たちは、強い睡魔を与られ、生命力を奪われ、行動力を奪われ、行動速度を大幅に下げられ、ダメージも与えるフィールドが張り巡らされる中で魔法の砲弾と二丁拳銃の銃弾、さらに矢の雨を降り注がされて、地に落ちれば各個撃破されゆく。
落下した天狗の処分には眞由璃も積極的に協力しており、咲花と興和の両名と共に地に落下した天狗を攻撃していた。
その最中において廉貞も時おりアビリティを放って援護していたが、彼は完全に温存する動きになっている。
今の廉貞は少し余裕がありそうだ。そのため|爛《らん》が仲良くなろうと話しかけてみると……。
「こういう刺激的な旅も記憶に残るわよね。廉貞、言葉じゃないのよ。私はこういうみんなでする旅好きだな。ね、戦いばかりじゃなくて心に刻み込んでね、綺麗で素敵な思い出を……」
「話の遮断を容赦願う。暫し待たれよ」
その言葉を遮って、廉貞は足を止めるや周囲の山の形と太陽の向きを確認し始める。
そして彼は周囲を見たあとにこう呟いた……。
「此処は若狭なれば……」
「どうかしたのかしら?」
そう|爛《らん》が聞いてみれば、廉貞は話すべきかすこしの逡巡を置いたのちにこう明かす。
「……次の宿の思慮をせし。想定より進んだ故、少しばかり戻りて丹後の田辺にせしか、或いは先の若狭の|遠敷《おにゅう》か……」
「えっ、それ今考えること!?」
|爛《らん》が思わず突っ込みを入れるが、廉貞は至って真面目にこう返してきた。
「日が傾く頃には時遅し。町に宿無くば平安貴族の元を訪れ交渉せし事になれど、突然の訪問に応えらるるは昼頃迄ならむ……」
まともな宿が無い場合は平安貴族と交渉をする事になるが、その場合は貴族側の受け入れを考えると昼までに全てを終わらせなければならないとのこと。
妖たちを意に介さないのは、自信の表れかそれとも猟兵たちを信用しているのか……。
ここは恐らく若狭国。京都の北の舞鶴市の付近、青葉山のあたりの様である。
そして、『小烏天狗』たちが恐れる周辺一帯の縄張りの主が近くに居る様だ……。
大成功
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第3章 ボス戦
『土蜘蛛女御』
|
POW : 赤糸くくり
レベルm半径内を【蜘蛛の巣の糸】で覆い、[蜘蛛の巣の糸]に触れた敵から【抵抗心】を吸収する。
SPD : 土蜘蛛八刃脚
【妖力の糸】が命中した敵を【鋭い蜘蛛脚】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[鋭い蜘蛛脚]で受け止め[妖力の糸]で反撃する。
WIZ : 朽ちぬ恋文
自身が愛する【相手に手紙を出すための筆】を止まる事なく使役もしくは使用し続けている限り、決して死ぬ事はない。
イラスト:みよ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●似て非なるモノ
「騒がしい者たちだ」
その声と共に現れたのは、蜘蛛を思わせる脚をもつ妖だ。
それはこの世界の土蜘蛛の一種。妖の『土蜘蛛女御』である。
その姿を一瞥するや、眞由璃は落胆し、寂しげな表情をした。
「……この世界は私の知る世界とよく似ています。ですが、土蜘蛛は全く違うもののようですね」
似ているが、やはり違う。
その視線を、『土蜘蛛女御』は侮辱と受け取った様だ。
「無礼な……。元より私の土地を踏み荒らした事を許すつもりはありませんでしたが、そこの娘は特に脚で串刺しにし、八つ裂きにしてやろう」
その敵意に対して廉貞も戦闘態勢に入ってゆく。
「我等の妨害せしや、討ち倒すのみ」
廉貞は彼の持つ『尾』の|百足《ムカデ》王を呼び出した。それはシルバーレイン世界の強力なゴーストを『尾』として支配した存在。そのうちの一体がこの|百足《ムカデ》王である。
だがこの『土蜘蛛女御』は|百足《ムカデ》王を意識するでもなく、おかしい様子でじっと廉貞を見つめだしていた……。
「まあ……素敵なお方。その勇ましさ、力強さ。くがみみのみかさ様を思い出すわ。是非とも恋文を……」
何処から出したか、硯と筆を用意し始める。
その隙を突こうと眞由璃は『土蜘蛛禁縛陣』の糸を放つが、しかし気づかれて避けられてしまった。
この妨害に、『土蜘蛛女御』は怒り狂う。
「また、私と愛する彼を引き裂こうとするのね! 許さない……彼は渡さない……!」
『土蜘蛛女御』は廉貞と眞由璃を狙っている。
「ああ、高貴なる貴方。愛しております。いま邪魔者を全て殺して、貴方を自由にしてあげましょう。私のものだ。もう離さない。貴方を失わない。今しばらく、お待ちを……」
繰り出す言葉は次第に支離滅裂となり、しかして同時に、情念を膨らませてゆくのだった……。
●補足
事前の説明が足りず、申し訳ありません。
マイナスにはなりませんが、廉貞に生き方の説得や妖狐種族の話題は振らない方が良いです。
彼は、彼自身が所属する組織のトップの金毛九尾の事を第一に考えて、金毛九尾を頂点とした組織を最上で唯一のものとして考え、常にそのために行動しています。
それは揺るがず、基本的に考えは変わりません。
シホ・エーデルワイス
《狐御縁》
&&
ウノ アキラマスターにおまかせします。儚くも健気なシホ・エーデルワイスをお願いします!
援護します!
人柄
普段は物静かで儚げな雰囲気ですが
戦闘時は仲間が活躍しやすい様
積極的に支援します
心情
仲間と力を合わせる事で
どんな困難にも乗り越えられると信じています
基本行動
味方や救助対象が危険に晒されたら身の危険を顧みず庇い
疲労を気にせず治療します
今回は特に眞由璃さんをフォローできる位置にいて
彼女を最優先で援護や庇います
一見自殺行為に見える事もあるかもしれませんが
誰も悲しませたくないと思っており
UCや技能を駆使して生き残ろうとします
またUC【贖罪】により楽には死ねません
ですが
心配させない様
苦しくても明るく振る舞います
戦闘
味方がいれば回復と支援に専念します
攻撃は主に聖銃二丁を使用
戦後
オブリビオンに憎悪等は感じず
悪逆非道な敵でも倒したら
命を頂いた事に弔いの祈りを捧げます
その他
燦と爛とも絡みを入れて下さるとうれしいです
儀水・芽亜
廉貞様、彼の妖と知己にあられます?
まあ、それはどうでもいいことです。降りかかる火の粉は払うまで。星火燎原の故事を持ち出すまでもなく、どんな微細な火の粉でも大火になる可能性は否めませんから。
アリスランスを手にナイトメアに「騎乗」しナイトメアライド。
先手必勝です。「先制攻撃」で「騎乗突撃」、「ランスチャージ」を喰らわせましょう。その勢いのまま「蹂躙」します。
敵が繰り出してくる蜘蛛糸は、「オーラ防御」「霊的防護」で受け止め、蜘蛛脚の追撃をアリスランスで「武器受け」しましょう。
この蜘蛛の攻撃の起点は蜘蛛糸。ならば、「封印術」で抑え込みましょう。少しでも攻撃精度が落ちれば重畳。その勢いでもう一突きです。
アリス・フェアリィハート
&&&
アドリブ連携歓迎
【WIZ】
恋こがれる
お気持ち自体は…
私も
『女の子』として
解る気もしますけど…
何だか仰ってる事が
支離滅裂になって…
『…それにすごい殺意…戦いは、やっぱり避けられないみたいです…』
眞由璃さんや
廉貞さんとも
共闘
敵の攻撃等
【第六感】【心眼】【残像】
【結界術】【オーラ防御】で
防御行動や
眞由璃さん達を防護しつつ
眞由璃さんに合わせ
私も
自身の赤手
『スパイダークイーンレッド・アトラクナクア』を
メイン武器に使用
【ハートのA】達も展開
赤手の爪や焔の
【焼却】や【なぎ払い】
【ハートのA】からの
【破魔】の【誘導弾】の【一斉発射】【弾幕】で攻撃
敵UCの
恋文での「強化」は
告白されてる(?)
廉貞さんの御判断を
優先しつつ…
UCで
解除しつつ攻撃
『その「強化」は…解除させて頂きます…ごめんなさい…』
(自身の髪色や瞳も、黒髪紅瞳になり…赤手で発動)
――戦いの後…
自分が
髪に結んでいるものと
お揃いの
空色のフリルリボンを
眞由璃さんに
プレゼントし…
『…眞由璃さん…「貴女」は…どうか、ご無事でいらしていて下さいね…』
龍巳・咲花
&
ここを通るにはあの者を討たねばならぬようでござるなあ
まあ元より個人的に威力偵察も兼ねているでござる故、丁度良いでござるかな
狙いが分かりやすい分やりやすいでござろう
龍陣ノ楔で廉貞殿と眞由璃殿を含めた味方を強化しつつ、地形操作で相手の足場を崩したり隆起させたりして恋文を書く隙を与えぬようにと、相手の攻撃の起点を崩す様に動くでござるな
相手が体勢を崩し隙を見せた所でバビロニアン・ムシュマフ・チェイス用のクナイを投擲し攻撃でござる!
後はムシュマフが好き勝手攻撃してくれるでござろうから、拙者は地面の隆起で即席の盾を作ったり、足場を作ったり、蜘蛛糸の無い空間を作ったりで味方の援護に努めるでござるぞ!
狐裘・爛
《狐御縁》&&
せっかく友達になれるかと思ったけど、決裂したみたいね。連携して仕留めましょ
燦姉的には渋々な感じ? 私はできる義妹だから、ここは私がサポートするわ。剣技や銃撃が通りやすくなるようにすればいいのよね。なら石化させれば通るハズ!
近づいてきてくれるなら好都合。斬ってくれた糸の隙間に入り込んで、筆か手紙か硯かどれかにタッチ! 《フォックスファイア・炎戯弐式》を憑依させるわ
手放すわけないでしょうから、これで石化は決まりね。煮るなり焼くなり好きにしちゃうわよ! 連携も悪くないでしょ、みんなもそう思わない?
この旅は楽しかったよ。私の大切な思い出がいっこ増えたわ。そうそう、貸し借りが無しが綺麗よね!
四王天・燦
《狐御縁》&&
土蜘蛛も妖狐も世界が異なれば違うものなんだね
眞由璃が親近感覚えるよりよっぽどやりやすい
で、あの恋文どうしよう?
廉貞、そこはやんわりと断るとか…そういうキャラじゃない気はしてるけどっ
乙女を斬るのは憚られるが殺意向けられるなら仕方ねえ
爛、案ずるな。流石に場は弁えるさ
赤糸を切るべく神鳴を抜く
蜘蛛糸切るとやっぱ、べた付くよな…眞由璃の紅蓮撃に肖って火属性攻撃の狐火を刃に纏わせ武器改造だ
火炎神鳴で糸を焼き斬るぜ
シホに攻撃向けられたら割って入る
最低限追撃は阻止するよ
飄々とした鍍金が剥げて殺気全開だ
いきなり神鳴を手放して、無手から気力を載せた【フォックスファイア・拾壱式】の超火力を土蜘蛛女御に叩き込むぜ
手当諸々終えて気力尽きたら戦闘後、シホにしな垂れ掛かります
女御の躯なりに祈りを捧げてはおきましょ
死ねば仏よ。これ日ノ本の習わし也
旅の終点についたら土産にお酒でも買っておくぜ。眞由璃と爛はだーめっ
あと廉貞に借金返しておきます。大将さんにもよろしくな
酒井森・興和
&&&
小天狗が気にしたのは彼女か
土蜘蛛と呼ばれる異端は多いのかな
元からか何かの影響か
狂いかけてるのかね…
ただあれは同胞では無い故に容赦は要らないな
そのぶんあれの蜘蛛糸は厄介だ
巣は【第六感と気配感知】し逆鱗を【投擲し切断】突破口作り【悪路走破】
罵り三砂を振り抜き【重量攻撃】
無断で領地を踏み荒らしたのは此方の非…
が、何処の女御殿か存ぜぬが我等の女王を罵り傷付けるなどと言われては
(内心怒ってる
眷属として見過ごせぬなあ
【集中力】で敵が廉貞に脇見や気を取られる等
隙を狙い三砂で刺突の【咄嗟の一撃】
三砂を刺したまま至近距離【捨て身の攻撃】反撃も【覚悟】でUC獲牙
要らぬ言を仰られぬよう喉笛を喰い破らせて頂こう
●
現地への影響を考慮して滅びた大地を進むが故に、妖どもの獣道かはたまた荒れた街道か。
よく分からぬままに進んだ先でどうやら強力な妖の土地に入り込んでいたらしい。
『土蜘蛛女御』が現れるや、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は状況を把握した。
(ここを通るにはあの者を討たねばならぬようでござるなあ。まあ元より個人的に威力偵察も兼ねているでござる故、丁度良いでござるかな)
敵方は廉貞にラブコールを送ったり、それをガン無視して攻撃した眞由璃に怒ったりと忙しないようで、不意を突くべく忍ぶには丁度良い。
加えて|若狭国《福井県西部》の青葉山といえば古代より山岳信仰の対象となっている山。そのような山には往々にして太い龍脈が通っていて、龍脈忍者の得意なフィールドだ。
咲花はメガリス『龍陣ノ楔』を手に取ると、早速この道具を使うに相応しい地形を探し始めた。
このとき現れた妖に酒井森・興和(朱纏・f37018)は小さな興味を覚えていた。
それは、興和もまた異なる世界で土蜘蛛と呼ばれる種族に属するからだ。
(小天狗が気にしたのは彼女か)
観察をしてみれば下半身が蜘蛛の身体になっており、背からも蜘蛛脚が伸びて腕も蜘蛛の脚。シルバーレイン世界の≪来訪者≫の土蜘蛛や、出来損ないの鋏角衆ともかけ離れている。
(土蜘蛛と呼ばれる異端は多いのかな。それに、元からか何かの影響か、狂いかけてるのかね……)
感情や言葉が繋がっておらず、欲望だけが辛うじて一貫した様子はふと見えざる狂気を思い起こさせた。
ただの偶然か、それともシルバーレイン世界とアヤカシエンパイア世界に何かしらの関連性があるのか……。
……それは考えても仕方がないなと興和は思考を振り払う。
今重要なのは、同胞では無い故に容赦は要らないという事と、あれが女王へ『八つ裂きにしてやろう』と言い放った事である。
(無断で領地を踏み荒らしたのは此方の非……。が、何処の女御殿か存ぜぬが我等の女王を罵り傷付けるなどと言われては。……眷属として見過ごせぬなあ)
しかしそれを表に出さず、興和は冷静に、いつでも支えられるようにと眞由璃の出方を伺っていた。
●
「廉貞様、彼の妖と知己にあられます?」
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)が問いかけるや廉貞は首を横に振る。
「我、不認識。斯様な世迷い事、有象無象なれば鎧袖一触の元に圧倒し、沈黙さすれど……我頭痛し」
そう言うや皺を寄せた眉間を指で抑えるのだった。
廉貞としては今すぐ相手を黙らせたいのだが、相手の実力的にそう簡単にもいかず、多大なストレスを感じているらしい。
「……まあ、それはどうでもいいことです。降りかかる火の粉は払うまで」
そう言うや芽亜はユーべルコード『ナイトメアライド』で純白の白馬を召喚する。その白馬はシルバーレイン世界の≪来訪者≫であるナイトメアのひとり。芽亜はその馬に騎乗すると、アリスランス『ディヴァイン・ユニコーン』を手に『土蜘蛛女御』へ攻撃を仕掛けていった。
「星火燎原の故事を持ち出すまでもなく、どんな微細な火の粉でも大火になる可能性は否めませんから」
先行する芽亜に合わせて廉貞も|百足《ムカデ》王に指示を出した。これは女御を挟み込もうとする進路だ。巨体を持つ|百足《ムカデ》王が壁となり、逃げ場を塞ぐ算段の様である。
この『尾』の|百足《ムカデ》王を、群れではなくあえて一体だけ出したのはこの巨体が却って邪魔になるためだ。そのため廉貞はこの場では|百足《ムカデ》王を火力ではなく敵の妨害として用いている。
その時、咲花が楔を突き立ててユーべルコードを発現、龍脈の力を味方へ与えて強化した。
「今でござる……! 我が呼び声に応えよ、"龍陣ノ楔"発動でござる!!!」
能力が底上げされたナイトメアと|百足《ムカデ》王が女御を取り囲み、追い込んでいく……。それに対して『土蜘蛛女御』は、まだ廉貞へ言葉を投げかけていた。
「妖の群れを平伏させ、統率する神々しさ忘れようもありません。貴方は天。私のもの。黄金に輝く御姿、私を迎えに来たのでしょう? ああ、想いは届かず苦しくも哀しや……」
そのような事を口にしながら女御は多脚の脚で飛び上がり、妖力の糸で|百足《ムカデ》王を縛りつけた。そしてすぐさま鋭い蜘蛛脚を硬い殻へ突き刺して追撃――ユーべルコード『土蜘蛛八刃脚』による攻撃を加えていった。
殻を破られ体液を流して苦しむ|百足《ムカデ》王……。そこへ咲花が龍脈からの地形操作で作った足場を利用してナイトメアが飛び上がり、そこに騎乗する芽亜がランスを突き出してゆく。
そのとき眞由璃も援護のためにアビリティの土蜘蛛の檻を使用した。
「援護します!」
女御と|百足《ムカデ》王のみ範囲に入るよう事前に動いた上で蜘蛛の糸を周囲に飛ばせば、糸が女御に絡みつきマヒを与えて動きを阻害する。
「そこです!」
|百足《ムカデ》王に突き刺さる二本の蜘蛛脚を、芽亜のランスがへし折った。
●
|百足《ムカデ》王に組み付く『土蜘蛛女御』。しかし咲花の作った足場を使い、飛び上がった芽亜がランスでその蜘蛛脚をへし折る。
その直後、女御は通り過ぎる芽亜の背へ妖力の糸を放った、しかしそれは興和の放つ逆鱗が切断する。加えて女御の額に咲花が放つ龍陣忍者武器のクナイがスコンと刺さった。
「このムシュマフの追撃、躱せるものならば躱し切ってみせるでござる。龍陣忍法 バビロニアン ムシュマフ チェイス!」
ユーべルコード『メガリス「龍陣ノ楔」』は他のユーべルコードとの同時使用が可能だ。咲花が投げたクナイが獲物の臭いを付与すると、2つ目のユーベルコードが発動し龍脈から炎や毒や噛み付きで戦うムシュマフの首が現れて『土蜘蛛女御』を追跡し始める。
この山は龍脈に溢れているためムシュマフの首も無数に湧き出ており、『土蜘蛛女御』は止むを得ず回避に徹することとなっていった。
「なぜ私の恋の邪魔をするの? 私はただ、彼を手に入れたいだけなのに。血も涙もない野蛮人どもめ!!」
そんな批難の言葉を投げかけながら、女御は蜘蛛脚と妖の糸で対処をして逃げ回る。
その隙に廉貞は|百足《ムカデ》王をいちど下がらせた。
「百足王の堅固な鎧が斯くも易く破砕されしや……」
そこへすかさずシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)のユーベルコードが届いて|百足《ムカデ》王の傷を治療する――使われたユーべルコードは『【|祝音《シュクイン》】苦難を乗り越えて響く|福音《ゴスペル》』。
「手当します」
「百足王の治癒、感謝致す」
廉貞は配下の治療に感謝した。これほど強力なゴーストは今のシルバーレイン世界では珍しく、失えば補充ができずに『尾』が弱るからだ。
数はまだ十分に多いとはいえ、貴重な一体を早々に癒せたことに廉貞は安堵した。
このとき、ムシュマフの首を迎撃していた『土蜘蛛女御』が突如キレる。
「彼に近づく不届きもの! 長い髪、赤き鎧、ああ無礼な娘! やはり串刺しにして、八つ裂きにしなければ!」
そう叫ぶや狙うのは何故か眞由璃の方。
赤手と|百足《ムカデ》王、そしてシホと眞由璃の長い髪を混同した様である。まともではない狂いっぷりで、女御は眞由璃へ襲い掛かった。
「愚かなお前、哀れなお前! なぜおめおめと生きている!」
出鱈目で支離滅裂。しかしその言葉は眞由璃の意識に刺さり思わず動きが止まってしまう。
シホは眞由璃を庇おうと前に出た。そして両手の銃で『土蜘蛛女御』を迎撃する。
●
『聖銃』|ピア《Pea》_甲WSと『聖銃』|トリップ《Tulip》_甲WSから放たれた炎属性の弾幕が、迫る女御を一気に焼いていく。しかし『土蜘蛛女御』はダメージを受けてよろめきながらも足を止めず、怒り狂った様子で迫っていった。
しかし女御の蜘蛛脚は届かない。
「させねぇ」
四王天・|燦《あきら》(|月夜の翼《ルナ・ウォーカー》・f04448)の神鳴の刃が、女御の伸ばす蜘蛛脚を切断して斬り飛ばしたからだ。
これまでの飄々とした様子の無い、殺気全開の|燦《あきら》の姿がそこにはあった。続けて狐裘・|爛《らん》(榾火・f33271)が女御を掴み、怪力パワーで投げ飛ばす。
「――やっと捕まえた! あっちこっち動き回るんだから……てぇい!!」
投げ飛ばされた『土蜘蛛女御』はそのままシホの銃弾と追ってくるムシュマフの首の攻撃を受け、落下してゆく。
そして先ほどまでの怒りは何処へやら、急に冷静になって防御行動をとり始めた。
「熱い、あゝ、熱い。燃え盛る、私の思い……」
うわ言のようにそう呟くと、女御は周囲に赤い蜘蛛の巣の糸――ユーべルコード『赤糸くくり』を繰り出してゆく。この赤い糸は触れたそばから抵抗心を吸収し、振れた者がされるがままになってゆく糸だ。
「大丈夫か、シホ」
「ええ、ありがとう燦」
「しかし、乙女を斬るのは憚られるが、殺意向けられるなら仕方ねえ」
そう言って|燦《あきら》は巣を広げる『土蜘蛛女御』をちらりと見やる。その様子を見て、|爛《らん》は。
「燦姉的には渋々な感じ?」
とサポートをがんばらなくっちゃと意気込むが、|燦《あきら》は心配いらないと口元に笑みをつくり、笑ってみせた。
「爛、案ずるな。流石に場は弁えるさ。それじゃ、あちらさんも手の内が一通り出たところだし反撃していこうかね」
敵は先ほどからムシュマフの首をやたらと避けている。そのことから、敵は火の属性……それも火のユーべルコードが苦手なのだろう。
それにこの蜘蛛糸も、いかにも炎で焼き切れそうだ。
(土蜘蛛も妖狐も世界が異なれば違うものなんだね。けど、眞由璃が親近感覚えるよりよっぽどやりやすいか)
そう思いながらも、|燦《あきら》は神鳴に狐火の炎を纏わせてゆく。
イメージは眞由璃の紅蓮撃。炎を武器に纏わせて――。
「どうだっ!」
刀を振れば蜘蛛糸は焼き切れた。
そして|爛《らん》もユーべルコードでこの糸を脆い石へと変えていく。
「剣技や銃撃が通りやすくなるようにするわ! 石化させれば壊しやすくなるハズ!」
ユーべルコード『フォックスファイア・|炎戯《エンギ・》|弐式《セカンド》』――|爛《らん》が赤い蜘蛛糸に触れると妖の炎が蜘蛛糸に移り、燃えた糸は次々と石に変わっていった。
●
炎が有効と見るや廉貞もアビリティの魔炎の嵐で薙ぎ払い、援護する。
加えて|爛《らん》の妖の炎も辺りの糸を焼き切れば石となった糸は自重で崩れてゆくため、炎を使う者が多いこの場は守りの赤い糸はあまりに無力。
そんな中で。
「愛しきお方、高貴なるお方、私を平伏なさるのか! この焦がれる気持ちは私です! 貴方様、くがみみのみかさ様、こちらへお戻りくださいませ!!」
このような言葉を独りで語り続ける『土蜘蛛女御』を見てアリス・フェアリィハート(不思議の国の天司神姫アリス・f01939)は複雑な心境になっていた。
(恋こがれる、お気持ち自体は……。私も、『女の子』として解る気もしますけど……。何だか仰ってる事が支離滅裂になって……)
これまでのダメージで女御は弱っている。それが、この守りの行動に現れているのだが……その上でなお、『土蜘蛛女御』は迂闊に近づけば一刺しにせんとばかりの血走った目をしている。
「……それにすごい殺意……戦いは、やっぱり避けられないみたいです……」
アリスは決意をした。
迷っていても彼女は救われない。既に狂っており、こちらを殺そうとしてくるのだ。
ならば、アリスは眞由璃と廉貞の安全を優先する。
だから、アリスは赤手のスパイダークイーンレッド・アトラクナクアを装備すると、そこに全てを灼く星焔の蜘蛛糸の理力を込めていった。
張り巡らされた赤い糸が、赤い巣が、燃え落ちてゆく。
|燦《あきら》と|爛《らん》が糸を焼きながら前進し、拓かれた道を赤手を装備した眞由璃とアリスが駆けていった。
その間、シホが絶え間なく浴びせる弾丸が『土蜘蛛女御』をその場に縫い付けてゆく。
「相手が守りに入って動けない今のうちに……!」
……二つの赤き爪が届くまでさほど時間はかからない。この時、眞由璃の安全をより確実にせんと『土蜘蛛女御』にさらなる牙が襲い掛かる。
いつの間にか、興和が女御の後ろに回りこんでいた。
|これ《・・》は我等の女王を罵り、傷付けると言った。
哀れで愚かだと言い放った。
あろうことか、なぜおめおめと生きていると放言した。
あれらが錯乱の上の言葉であろうとも。
やはりどうにも……眷属として見過ごせぬなあ。
巣を潜り抜け、先んじて到達した興和はツルハシ状の武器、|三砂《みさご》を女御の肩に振り下ろす。
そして、|これ《・・》が二度と要らぬ事を言わぬようにと喉へ牙を突き立てた。
ユーべルコード『|獲牙《カクガ》』――鋏角衆の強靱な牙が、女御の喉笛を食い破る。
●
「――――――っ!!」
『土蜘蛛女御』から声にならない声が上がる。
興和は付近の糸を逆鱗の投擲で切断するや、後を眞由璃に任せて身を引いた。
振り下ろされる二つの赤手とユーべルコード。ひとつは眞由璃の『眞由璃紅蓮撃』で、もうひとつはアリスの『アトラクナクア・フィストヴァーミリオン』だ。
「この一撃を受けよ! 紅蓮撃!」
「私の……アリスの……紅蓮の焔撃……!」
女御の胴が爆ぜ、星焔の理力が身を焼いてゆく。すると最後の足掻きか『土蜘蛛女御』は筆を使役して手紙を綴り出した。
それを阻止すべく、追いついた|爛《らん》がユーべルコードの炎で女御と道具を石化させる。
「させないんだから! 煮るなり焼くなり好きにしちゃうわよ!」
しかし女御の操る筆は石となりながらも止まらず、紙に穴を穿ち恋文を綴り続けた。
朽ちぬ恋文の執念は、|燦《あきら》のユーべルコード『フォックスファイア・|拾壱式《イレブンス》』によって肉体を粉々にされようとも止まらない。そして、恋文を書き上げると筆は地面に落下して砕けた『土蜘蛛女御』の肉体と共に消滅していった……。
「やーっと終わった……!」
戦いが終わるや|燦《あきら》はシホに抱き着くようにしな垂れ掛かる。
敵を確実に砕くべく、ユーべルコードで大量の気力を代償にしたため心が疲れ切っているのだ。
「がんばったわね」
シホは|燦《あきら》を受け止めるとゆっくり頭を撫でる。
対して|爛《らん》の方はなんだかテンションが高めだった。
「連携も悪くないでしょ、みんなもそう思わない?」
と同意を求めて話しかけている。
そして、ちょっぴり気力の回復した|燦《あきら》は姿勢を正すと『土蜘蛛女御』の消えた方へいちど手を合わせるのだった。
「死ねば仏よ。これ日ノ本の習わし也」
その後、|燦《あきら》は地面に落ちている手紙を拾い上げる。
「で、この恋文どうしよう?」
「恐らく、廉貞さん宛ての手紙でしょうから……」
「廉貞、やんわり断る的なことするキャラじゃない気はするし、この手紙もばっさり捨てられる気がするな……」
「不安はわかりますが……それでも渡しておきましょう。呪いのようなものも感じませんし、害は無さそうです。ただの手紙であるならきっと、読んでもらったほうが女御さんも成仏できるはずです」
そんなやりとりの後に、この朽ちぬ恋文は廉貞へと渡された……。
廉貞はその手紙を律儀に最後まで読んだ後、眉間に皺をよせ頭痛を訴えながら指で眉間を抑えた後に、手紙を破り捨てた。
●
行き過ぎた青葉山からいちど下山して、戻った平地を東へ進めばやがて海が見えてくる。
その景色に眞由璃は目を輝かせた。
「これは、もしかして、海……というものですか?」
山で生まれ、山で育ち、その後も海とは縁が無かったため彼女にはこれが生まれて初めての海となる。
とはいえこのまま遊びに行くわけにもいかない。
季節もそうだが、時刻としても既に日は高く、そろそろ宿を探し始める頃合いとなるからだ。
滅びた大地では街道や建物もなく、大まかな地形しかわからないが、先ほどの場所が若狭国の青葉山であるならば遠敷さえもまだ遠い。ましてや越前国となればまだ旅は続いてゆく。
一行は開けた場所で平安結界をくぐった。すると、そこには田畑と港を併せ持つ半農半漁の村が広がっている。
恐らくここは若狭国の大飯郡青里の海岸沿い。現代で言う高浜町青のあたりの海岸沿いになるだろう。そしてここが、今夜の廉貞と眞由璃の宿となる。
辺りを見渡してみても、見える範囲には平安貴族の屋敷や宿場は見当たらない。つまりは村人と交渉してようやく一晩泊めてもらう形になりそうだ。
そして、お湯をたっぷり使った風呂や満足な食事に柔らかな寝床が期待できないと察するや、廉貞は再び眉間を指で押さえるのだった。
ともあれこの日の旅はここまで。
猟兵たちの助けのお陰でこれといった損失もなく目的地に近づけた形となる。
分かれる前にアリスは眞由璃へとリボンをプレゼントした。
それはアリスとお揃いの空色のフリルリボンだ。
「……眞由璃さん……|貴女《・・》は……どうか、ご無事でいらしていて下さいね……」
アリスは、過去に会い、そして決別することになった別の眞由璃を思い返しているのだろう。
眞由璃はその言葉の意味をよく解らないまま、親愛の証としてそのリボンを受け取った。
そして|燦《あきら》も出立前に廉貞から借りた金銭を返済する。
その返済を見届けた|爛《らん》も、「そうそう、貸し借りが無しが綺麗よね!」と満足げ。別れ際にも「この旅は楽しかったよ。私の大切な思い出がいっこ増えたわ」と皆に伝えるのだった。
最後に、村に入る前に廉貞は猟兵たちにこのような約束をした。
「我、帰還の後に汝等の義に応えむ。我が配下を数名貸し与え、骸の海を滅する助力となろう」
それは大陸妖狐の部下を積極的に貸し与えるというものだ。自らの組織を第一にする廉貞が人員を貸し出す約束をするのは、彼としてはだいぶ気前が良い。
それだけボス格のオブリビオンとの戦いを困難だと感じ、猟兵たちの助力が必要だと痛感したのだろう。
最も、無事に元の世界に帰れたらという話だが……。
越前国まではまだまだ距離がある。その地に辿り着くまで二人の旅はまだ続く。
大成功
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