【幻夜の南瓜祭】夏は終わり、残されて……
●注意
当依頼は、PBWアライアンス『コイネガウ』からのシナリオです。
PBWアライアンス『コイネガウ』の詳細を以下でご確認お願いします。
公式サイト:(https://koinegau.net/)
公式総合旅団:(https://tw6.jp/club?club_id=4737)
●
常に初夏のような気候を保つ人工島、|希《こいねがい》|島《じま》。
この島には今、異変が起きていた……。それは夜が延々と続きいつまで経っても朝が訪れない『幻夜』という現象だ。
いろいろと調べられた結果どうやら呪いによるものらしいという結論が出ている。原因は複数あるようで良くは解ってないけれど、範囲の割には弱い呪いであるようで明るいエネルギーで吹き飛ばせることも判明していた。
つまりは、南瓜祭をいつも通りに開催して祝えばよいのだ。
ただこの普通じゃない夜には普通じゃないことも起こりやすい。
例えば、いつもはモヤの様な姿で同じことを繰り返すだけの不安定な幽霊がはっきりとした姿と意思をもって歩き回る、とか――。
「だれかー! |希人《まれびと》または猟兵の方は居ませんかー!」
あたふたと慌てた様子で情報屋の|希人《まれびと》ソフィア・アマティスタ(ポンコツな私立探偵・f41389)がやってきた。そして、彼女は|希人《まれびと》または猟兵であるあなたに気がつくとさらにズンズンと近づいていく。
「すみません……っ! 助けてほしいことがあるのですが……!」
去年の|南瓜祭《ハロウィン》からちょくちょく彷徨う幽霊の目的情報はあったのだが、その幽霊が今回の幻夜ではっきりした姿となって歩いているらしい。
この幽霊について追加の調査を進めていたソフィアは彼女が紛れもなく当時崖から落ちてしまった女性であると確信している。そして彼女が向かう先がかつての事故時の彼氏の家であることも――。
「亡くなった方との再会で済むならまだ良いのですが、ちょっとこのままだと最悪の場合幽霊さんがショックのあまり呪いの一部になってしまう危険がありまして……!」
何をするのが最善かはソフィア自身もまだつかめていない。そのため碌なアドバイスもない状態ではあるのだが。
「……彼女が亡くなったの20年くらいは前なんです。彼氏も初老に差し掛かっていて……。あ、まだ独り身らしくはあるのですが……、とにかく失った月日を呪ってしまわないように、幽霊さんが未来を向くお手伝いをしてもらえませんか……? お呼ばれしたら私も手伝いますので!!」
ソフィアは両手を合わせると、どうかお願いしますと頼み込んできた。
ウノ アキラ
注:今回の依頼は、【幻夜の南瓜祭】の共通題名で括られるシナリオソースのシリーズです。
コイネガウ暦20X4年10月における「ハロウィン」の物語となります。
各MSによるシナリオはどれも内容が独立している為、重複参加に制限はありません。
注2:南瓜祭会場の一覧表は以下です。
雅瑠璃MS:お色気。儀式。
ナイン高橋MS:お色気。南瓜行列。
鳴声海矢MS:戦闘。
ウノ アキラMS:日常。幽霊さんシリーズ。
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はじめましての方は初めまして。そしてこんにちわ。ウノ アキラです。
『コイネガウ』のシナリオに興味を持っていただき、ありがとうございます。
前回の【南瓜祭】の幽霊さんの続きです。
このご縁がどうか良い結末となりますように。
●依頼について
事実を知って混乱している幽霊さんに希望を与えていくのが目的になります。
今回は似たような対応の方はなるべく同じリプレイにまとめます。
タイミングが合わなくてまとめられなかった場合は、違和感がでないよう時系列を前や後ろにズラした話として書かせていただきます。
事前に状況を調べてたソフィアが道すがら推理を交えて説明してると思うので、断章の状況や人物は既に知っているものとして大丈夫です。
おおまかにBad、Better、Good、Happyの段階で結末を考えていますが、予想を超えたMiracleやWonderも楽しみにしています。
以上となります。
よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
イラスト:YoNa
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
あの日あの時事故で消えた命は、僅かに残っていた思いの残滓に奇跡が宿ってそのままこの世に留まっていた。
消えずに|希《こいねがい》|島《じま》の町を彷徨っていた彼女だけれど、彼女の時間は止まったままで今もあの日あの時の続きだと思っている。もしも魔法が解けてしまったら彼女はどうなってしまうのだろう。
消えてしまうのか、それとも災いの元になってしまうのか……。
「森で失くした髪飾り、見つかってよかった……♪ パトリックに見つかったよって伝えなきゃね」
そう言って彼女はかつての彼氏の家を訪れた。合鍵の隠し場所はあの時から変わってなくて、だから彼女は|いつも《・・・》のように家に入っていったのだ。
けれどそこに居たのは、彼がそのまま年を取ったような男性で。
「あれ? パトリックの親戚の方かしら……? すみません、パトリックいますか?」
「……ヘレナ? あの時のままだ……。夢か? 僕は夢を見ているのか……?」
このやり取りは、ヘレナに時間のズレを自覚させるのに十分だった。そして彼女は|自分の死を思い出した《・・・・・・・・・・》。
ヘレナは思わず家を飛び出していた。
突き付けられた事実で胸が一杯になり、気持ち悪くなって思わず逃げ出したのだ。
彼女はハロウィンの装飾で輝く町中をデタラメに走っていく……。
自分が何をしたいのか、これからどうしたいのかも定まらない。
解るのはもう戻らない月日が過ぎ去っていること。そして自分はその月日に置き去りにされてしまったことだ。
苦しい。感情がぐちゃぐちゃでとても苦しい。
このまま闇に混ざって消えてしまえたならどれほど楽だろう――。
小桜・連理
悩むだろう?苦しむだろう?ヘレナとパトリックの縁は今も結ばれてるからね。
鏡の中からこんにちは。20年前の願掛けを実らせに来ましたよ。
氏子さんひどいな~、神社にお参りしたっきりバックレちゃうなんて~。
見つけるの苦労したんだゾ☆
な~んて。実は放置してたんだけどね。
意識無いとか、管轄外だったし!
でも、戻ってきたからには、ちゃんとするよ♪
ヘレナさんはもうわかってるよね?おかえりなさい♪20年後の現世へ!
始めましょう、やり残した思いを。20年の間のわだかまりをほどいて、あの日見た彼のもとに帰るんだよ。案外20年ポッチじゃ人の魂は変われないもの。ちょっと大人ぶるのがうまくなった彼と時間を埋めてみると良いよ
●
可能性が重なった鏡の中の世界……。そこで小桜・連理(断ち切り様をナメるなよ☆・f38699)は|この可能性《・・・・・》を選んで飛び出した。
『|多重《タジュウ》|鏡落《キョウラク》|日《ジツ》』――その能力でつくる合わせ鏡が生み出した、幾重にも重るもしもの中から連理が選んだのは渦中の幽霊さん……つまりヘレナに追いつく可能性――。
――縁が器用に結ばれて、連理はヘレナの前に現れる。
「氏子さんひどいな~、神社にお参りしたっきりバックレちゃうなんて~。見つけるの苦労したんだゾ☆ な~んて。実は放置してたんだけどね」
町中で|南瓜祭《ハロウィン》の灯りを照り返す窓ガラス。そこから連理がにょろんと出てきてヘレンを追いながら話しかけた。
声色が明るくおどけていているのは素なのかそれとも気遣いか。この明るい呼びかけに、ヘレンは驚いて声に振り向きと立ち止まった。
振り向いた顔は不安にまみれて涙が流れていたけれど、これで縁が繋がったと連理はホッとする。
(鏡の中からこんにちは。20年前の願掛けを実らせに来ましたよ)
これまでの幽霊さんは思いの一部が残っていただけで、『魂』というよりもこの世にこびりついた『現象』だった。おそらく元の魂は天に還っていて、今ここにいるのはコピーに近いのだろう。
けれどそんな存在が、|南瓜祭《ハロウィン》の影響でこれだけ自我がはっきりしてしまったのだ。だったら|南瓜祭《ハロウィン》で死の世界から魂が『戻って来た』と言えるのではないか。
(悩むだろう? 苦しむだろう? ヘレナとパトリックの縁は今も結ばれてるからね)
その縁が何よりの『戻って来た』証拠だと連理は考える。だから、こうして探しにやって来たのだ。
(意識無いとか、管轄外だったし! でも、戻ってきたからには、ちゃんとするよ♪)
次に結ぶのは現世との縁。一度繋がった縁から悪いものだけ切りとって、連理は新しく良い感じの縁を結び直す。
「ヘレナさんはもうわかってるよね? おかえりなさい♪ 20年後の現世へ!」
連理は戸惑うヘレナの手をとった……まずはこれで気持ちを落ち着かせる事が出来るだろう。
「始めましょう、やり残した思いを。20年の間のわだかまりをほどいて、あの日見た彼のもとに帰るんだよ」
「帰る……でも……」
変わってしまったものへの不安は大きい……。だってあの日から今に至るまでの事を何も知らないのだから。けれど、だからこそ。連理はその不安を蹴飛ばすように明るく自信満々にこう答える。
「大丈夫。案外20年ポッチじゃ人の魂は変われないもの。ちょっと大人ぶるのがうまくなった彼と時間を埋めてみると良いよ」
「うん……ありがとうございます」
この言葉に勇気づけられてヘレンは再び歩みはじめた。|南瓜祭《ハロウィン》の灯りが連なる町を、暗くて明るい夜の町を。
まだ不安そうな様子だけれど、彼女の涙はもう止まっていた。
大成功
🔵🔵🔵
銀龍・仙
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#心情系
ヘレナ殿を気に掛ける御主人のために、先んじてやれる事をやるのじゃ。
紫蘭の花言葉は『あなたを忘れない』『変わらぬ愛』そして何よりも『楽しい語らい』なのじゃ♪
ヘレナがパトリックと、和気あいあいできるようにお膳立てが必要なのじゃ。
もう会えない血族が多い余としても、会える機会は逃がしてほしくないのじゃ。
パトリックには、ここでしっかりと繋ぎ止めてほしいのじゃ。
というわけで、余|達《・》は、パトリックに接触するのじゃ!作戦はソフィア!ヘレナ殿との間をうまく取り持つのじゃ!
パト殿も混乱するのは仕方ないのじゃ♪
そこが、うまく入口に成るようにするのじゃ。ヘレナに思う所が在るのは丸見えなのじゃ。
心の泉が枯れないなら、求めるべきなのじゃ。
御主人の為にどんな願いでも叶えてやるのじゃ。
何一つとして夢じゃないのじゃ。
未来へつなぐための第一歩!おかえりなさいパーティーの準備なのじゃ。
パト殿がいれば、他は適当でもヘレナは喜びなのじゃ。
でも余は準備の手を抜けないのじゃ。
足りない手は、ソフィアを使うのじゃ♪
●
|南瓜祭《ハロウィン》の飾りのある町をチョロリとレオパードゲッコウが駆け抜ける。
それは|御主人《銀髪の少女》の目を盗んでこっそり出てきた銀龍・仙(のじゃ~・f28075)。仙が今回ひとりで動いているのには理由があった。
(ヘレナ殿を気に掛ける御主人のために、先んじてやれる事をやるのじゃ)
髪飾りの欠片を探したあの日以来、仙の御主人はこの幽霊さんの件に積極的である。ひとりで過ごしがちだった御主人に訪れたこの変化を仙は好ましく思っていた。
(御主人の為にどんな願いでも叶えてやるのじゃ)
ただの|ヤモリ《レオパ》と侮る事無かれ。その正体はなんと|モノノケ《竜神》なのだ!
仙は人の姿をとると、今しがた状況を説明したソフィアを引っ張ってパトリックの家を訪ねてゆく。……そこには、未だに呆然と立ち尽くす彼の姿があった。
家の様子をちらりと伺った仙は路地へと戻りソフィアの肩を掴む。
「というわけで、余|達《・》は、パトリックに接触するのじゃ! 作戦は、ソフィア! ヘレナ殿との間をうまく取り持つのじゃ!」
「えっ、ま、丸投げですかぁ!?」
「ヘレナがパトリックと、和気あいあいできるようにお膳立てが必要なのじゃ」
「うーん、ええと……とりあえず対話が出来る状態まで心を落ち着かせる、でしょうかね……? とにかく話しかけましょうか……! |HC《ホープコード》で召喚していた影の追跡者から、ヘレナさんがこちらに戻り始めたという連絡がきましたので、あまり時間がありません……!」
「なんじゃと!?」
刻一刻と変わる状況と、過ぎて行く時間。ならばまずは動くべきだ。なせば成る、なさねば成らぬ何事もの精神で二人は突撃を開始する。
「たのもーう!」
「すみませーん!」
ヘレナが飛び出した時にドアは開いたままだったため、二人はそのまま家に入り驚くパトリックに詰め寄っていく。
「混乱するのは仕方ないのじゃ♪」
「これは幻夜の奇跡ですよ! しっかり受け止めましょう!」
「えっ、な、何なんだ君たちは……!?」
この状況でいつまでも放心できるほど彼も間抜けではない。思わず正気に戻ると、彼は不審者二人を追い返そうと箒を手に取り威嚇する。
けれど仙は食い下がった。まだ伝えるべき言葉があるからだ。
「心の泉が枯れないなら、求めるべきなのじゃ、何一つとして夢じゃないのじゃ! それにもう会えない血族が多い余としても、会える機会は逃がしてほしくないのじゃ。パトリックには、ここでしっかりと繋ぎ止めてほしいのじゃ!」
事情を知っているような口ぶり――それを聞いて、二人を追い出そうとするパトリックの手がはたと止まる。
その隙にソフィアが自身の名刺を取り出した。
「すみません、私こういう探偵業をしている|希人《まれびと》でして……。あなたと彼女に今何が起こっているのか、説明させてもらえませんか……?」
遥か昔に死んだと思っていた人がひょっこり戻って来て、いきなり外に飛び出したかと思えば、今度は知らない人物が二人も押しかけて来る有様。そこに幽霊だの奇跡だのと伝えられても、普段ならばバカげた詐欺だと一蹴していただろう。
しかし近年頻発する|希《こいねがい》|島《じま》の神秘現象の事件やそれを解決する|HC《ホープコード》の使い手、|希人《まれびと》のことはここに住む住人なら誰もが耳にしている。
加えて今日が|南瓜祭《ハロウィン》とくれば「そういうこともあるのかもしれない」と思えて来るのだ。
「海岸に花を添えておるのはパト殿なのじゃろう? 紫蘭の花言葉は『あなたを忘れない』『変わらぬ愛』そして何よりも『楽しい語らい』なのじゃ♪」
仙が言っているのはかつての髪飾り探しで見つけた花と、そこに込められたメッセージ。これはパトリックが今もヘレナを想っていることを示している。
その言葉にパトリックは気が動転して忘れかけていた想いを思い出したようだ。彼の目の色が真剣なものに変わってゆく。
「ヘレナさんもさっきはびっくりして出て行ってしまいましたが、もうすぐここに戻ってくるはずです」
「未来へつなぐための第一歩! おかえりなさいパーティーの準備なのじゃ!」
半ば強引に、けれどチャンスを逃さぬよう素早く確実に。仙は家主の許可をとりつけると早速再会パーティの準備を始めてゆく。
そしてさっきまで呆然とするだけだったパトリックも手を動かすうちに落ち着きを取り戻しはじめているようだ。
海岸の岩陰に添えられていた紫蘭……そこに込められた思いが成就して、仙の御主人が笑顔になることを願いながら仙はパーティの準備を進めていった。
大成功
🔵🔵🔵
黒雪騎・実夢
銀治郎と連携。アドリブ歓迎。おまかせプレイング。
方針としては、他のPL様の内容補完の補助的な役目。
前回と同様、実夢と銀治郎のコンビで挑みます。
実夢が探偵役で、銀治郎は助手役。
「20年前の事故の真相……ヘレナさんが向き合えれば……前に進めるかも、ね?」
と実夢は考えます。
当時の事故を探偵として調査した実夢は、
悩んで迷って走って来たヘレナさんに対して、推理を明かします。
「大丈夫……。あたしらも、付き合うから、あの時の事故の話を……よく聞いて?」
もっとも、推理して犯人を追い詰めるというものではなく、
真実へと至る事で混乱している人を励ます様な推理です。
パトリックさん等の当時の関係者達の思いを伝えます。
西行寺・銀治郎
実夢と連携。アドリブ歓迎。おまかせプレイング。
方針としては、他のPL様の内容補完の補助的な役目。
前回と同様、実夢と銀治郎のコンビで挑みます。
「待ってくれ、ヘレナさん、聞いてくれ! 20年前の事故の真相をっ!!」
町中をデタラメに走って行くヘレナさんを銀治郎が走って追い掛けます。
実夢と共に調査した20年前の真相を伝える事がヘレナさんを助ける事だと信じて。
銀治郎が追い掛けた先に実夢が立っています。
実は銀治郎は闇雲に走っていた訳ではなく、実夢の指示に従って誘導していました。
実夢の推理を信じつつ、銀治郎は励ましの言葉を紡いで行きます。
「つまりだ、ヘレナさん? 真実は……意外と優しかったりするぞ?」
●
暗くて明るい町の中、道を照らすのは|かぼちゃの頭の《ジャック・オー・》ランタン。
時々すれ違う人々は、日常とお祭りを楽しんでいて、確かにここに生きている。
けれどこれは|南瓜祭《ハロウィン》。時々この世のものではないものが紛れ込むこともある……。
そんな町中をヘレナは歩いていた。さっき勇気づけられたため、改めて彼氏の家へ戻ってみようと思ったのだ。
けれどここまで滅茶苦茶に走ったものだから、戻るのにやや時間がかかりそうだった。
町並みは見覚えのある場所と全く知らない道が混ざり合い、見知った地形も細部が全く異なっている。それほどに、この20年は長かった。
そしてその過ぎ去った年月を意識するほどにヘレナには不安が募る……。
今の彼の状況がわからない。もしかしたら新しい恋を始めて、もう妻子もいるかもしれない。……自分をどう思っているかわからないのだ。
再び歩みが止まりそうになったその時、そんな彼女に声がかけられた。
「待ってくれ、ヘレナさん、聞いてくれ! 20年前の事故の真相をっ!!」
声の主は西行寺・銀治郎(国立希島学園の一般的な残念男子学生・f38167)だ。銀治郎はヘレナを探して走り回り、いまようやく追いついた。
けれど闇雲に走っていたわけではなく、銀治郎は黒雪騎・|実夢《みゆ》(希島国警察所属のクーデレ私立探偵・f38169)の指示に従って走っていたのだ。
「え……あなた、私の事を知っているの……?」
自分の名前と20年というワード。それにヘレナは反応して足を止める。その時、まるでここに来ることが初めから解っていていたかの様に実夢が路地から歩いて現れる。
「貴女は気づいてます、ね? 自分がすでに、亡くなっていると……。あたしらは、その事故を調べてた、わ。だから事故の真相と……その後に残された人たちのこと、あなたに伝えられる。だから、ね?」
「つまりだ、ヘレナさん? 真実は……意外と優しかったりするぞ?」
「どうして……?」
どうしてそこまで気に留めるのか、何が目的なのか。その疑問から思わず問いが漏れ出たのだが、その疑問には銀治郎が不思議そうな顔でこう答える。
「うん? 助けたいって思ったからだけど、何かダメなのか……?」
このきょとんとした表情と間の抜けた声色は、演技では作れそうにない。
「ふふっ、ごめんなさい。何でもないわ。じゃあ、あなたたちの話を聞かせてらえるかしら……」
悪意のない事を確信したヘレナは、くすりと笑って二人の話を聞くことにした。
●
実夢と銀治郎はこの事故について追加の調査を続けており、今回も新たな知見をためていた。
その調査では自然区の遊歩道での落下事故は一度ではない事が判明しており、以前の商店街の時は6年前のそれと20年前のそれを混同してしまっていたようでである。
だがそれは、それ程までにそれぞれの事故の経緯や状況が似ていたためだ。
いずれも|特定のデザイン《・・・・・・・》のものを身に付けて|南瓜祭《ハロウィン》に自然区を歩いていると襲われる様なのだ。衣類にせよアクセサリーにせよ、|特定のデザイン《・・・・・・・》が狙われるというのは気になるが……今回はヘレナにこれからの生活と向き合あってもらうことが重要なので割愛することとする。
重要なのは現状を整理するための事実。そして不安を除くためのその後のこれまでだ。
(20年前の事故の真相……ヘレナさんが向き合えれば……前に進めるかも、ね?)
実夢は推理の披露を開始する……。
「当時の気温は最高気温14℃、長袖を羽織るくらいの気温、ね。そして前日まで長く小雨が降っていて、森の中はぬかるんでたはず、よ」
当時の二人は、午前は商業区でデートをすると昼過ぎに自然区に立ち寄って二人で夕日を眺めていた。そして日が落ちる前、既に暗くなっていた遊歩道を抜けて帰っていったのだ。だがその途中にヘレナは伸びる木の枝を潜ろうとした時に何かが引っかかったような違和感を覚える……。はじめは気にも留めていなかったのだが、住居地区まで戻ったところで髪留めが外れて無くなっている事に気が付いたという訳だ。
そこでヘレナは、明日に改めて探そうと説得するパトリックの忠告を無視して、自宅に帰るフリをした上で森に探しに向かってしまい、そこで事故にあったのである。
この髪飾りがデートの最中に送られたものだったため、ヘレナは一刻も早く手元に取り戻したかったのだ。けれど日が落ちて暗くなった森とぬかるんだ地面が足元を不安定にして、ヘレナは海に転落してしまうことになる――。
そのとき彼女を引き留められなかったことをパトリックは後悔していた。
その後悔は今も続いていて、彼はヘレナの遺体が見つかった海岸に今でも花を添えている……。彼は、今もヘレナを忘れていないのだ。
「パトリックさんは、今もあなたを愛している、わ。今回は、お互いにびっくりしてしまっただけ。けれどそれは、彼もあなたを忘れていなかった証拠、ね」
「ずっと独身を貫いてたらいしいしな。それにだ、ヘレナさんのご両親もまだ元気みたいだ。当時はとても落ち込んだようだけど、会えばきっと喜んでくれるさ。なんなら俺たちも一緒に説明するぜ!」
「ヘレナさんは、何も失ってなんかない、わ」
実夢はそう締めくくった。
それは真実へ至る事で混乱した人を励ます推理。提示した真実は追い詰めるためのものではなく、安心するためのものだった。
この二人の言葉によって、ヘレナの胸に渦巻く不安はより一層取り除かれていくのだった。
この時、|南瓜祭《ハロウィン》の飾りがもたらす暗明の中で、ヘレナの身体から黒い霧のようなものが出ていくのが見えた気がした……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
五木・瑳良
&&&
※『』括りは召喚した悪魔の台詞
時間って残酷だね
「時が哀しみを癒す」なんて言うけれど…
その時間間隔がズレている事ですれ違ったりもするんだろうね
『君はどうしたいかね?』
わかんないよ
きっと本当の苦しみは本人じゃなきゃ理解し得ないって思う
でもさ、無責任な他人の意見としてなら言いたい事があるよ
「これって奇跡じゃない?」って
『奇跡かね?』
だってそうでしょ?
ほんとだったらそれが終の別れとなる出来事なのに、どうしてか彼女は此処に居る
だから引き摺ってでもヘレナさんをパトリックさんの所に連れて行くよ
幸い(?)彼も独り身みたいだしさ
離れた時間を取り戻すならまずは話し合わないとね
その為の時間はまだある筈だよ
それに二人の「これから」なんだから、一人で悩んでないで二人で決めなきゃね
世界を呪うのはそれからだって遅くない筈でしょ?
『実に君らしい。』
『報酬次第だが私も協力するとしよう。』
…やっぱりそうなるのね
今回は勢いで誤魔化せるかと思ったのに…分かってるよ
『彼女達が今後を話し合う様に、我々も語らおうではないか。』
●
――これって奇跡じゃない?
五木・瑳良(多重人格者のハイウェイスター・f41529)はそう思った。
けれど、本当の苦しみはきっと本人じゃなきゃ理解し得ないと思うから、瑳良はどうしたらよいのか迷っていた。
……それを見透かしたように悪魔は言う。
『君はどうしたいかね?』
彼は瑳良が過去に契約してしまった悪魔だ。こうして勝手にダイモンデバイスから出て来ては瑳良にまとわりついてい来る。
けれど今回はそれがちょっとだけありがたい。
今回の件は本人にしか理解し得ないことだ。だから、答えが解らない。ならどうしたら良いのだろう?
複数の意見を聞いてみてみれば、三角測量のように精度を上げる事ができるだろうか。
それさえもわからない。
けれど、話す事で考えを整理する事はできる。
瑳良は悪魔を相手に自分の考えを話していった。
それは考えを整理する行為だ。
そしてこの悪魔はそういうのを察して余計な事を言わずにただ聞くという気遣いが出来る。それは生意気で憎らしいけれど、今回ばかりはありがたい。
「無責任な他人の意見としてなら言いたい事があるよ」
瑳良はそう言って考えた。
時が哀しみを癒す、なんて言うけれど、今回はその時が距離を作り哀しみを作ったケースだ。
片方の時間が止まっていたらそれは距離になってしまのだ。だから時間は残酷だと、瑳良はそう感じてしまった。
でも、それでも。
外からこれを見た第三者からしてみたら奇跡だと思う。
『奇跡かね?』
悪魔は確認するように、相槌を返す。
その確認を噛みしめて、瑳良は「だってそうでしょ?」と返答した。
「この機会は失ってはならないんだ。だって死んでしまったらもう無い、二度目が来たんだよ。だったら、離れた時間を取り戻すためにもまずは話し合わないとね。その為の時間はまだある筈だよ」
ほんとだったらそれが終の別れとなる出来事なのに、どうしてか彼女は此処に居る。
だから引き摺ってでもヘレナさんをパトリックさんの所に連れて行こう。
それでもしもヘレナさんの気がとっくに変わっていて、パトリックさんの所へ戻ろうとしていたなら――。
『その時はどうするんだい?』
「あたしのバイクに乗せていく。だってその方が1秒でも早く着くでしょ?」
この悪魔、いまあたしの心を読みやがったな。でも今日は許してあげる。
本当に生意気で憎らしいけれど、今回は話し相手になってくれてとても助かったから。
考えを整理した瑳良は|南瓜祭《ハロウィン》の町にバイクを出した。
けれど彼女が今どこにいるかの見当がついていない。すると悪魔が協力を申し出た。
『実に君らしい。報酬次第だが私も協力するとしよう』
このタイミングであたしらしいってどういう意味だ。
『ひとまずだ、その彼の家はわかるのだろう? そこで情報を集めてみてはどうかね。存外もう解決へ向かっている可能性もある。空回りをするよりは良いのではないね』
「……そうだね」
二人を何とかしてあげたいあまり頭に血が上っていたようだ。
まずは二人に会って話し合ってもらう。そうなる事を手伝うためにも、瑳良はまずはパトリックの家へと向かった。
……そして瑳良はそこでパーティー会場の設営を手伝うことになる。
そのとき悪魔が何もしてないのに報酬を求めて来そうだったので、瑳良はこの設営で悪魔を散々こき使ってやったのだった。
『――さあ、彼女達が今後を話し合う様に、我々も語らおうではないか』
大成功
🔵🔵🔵
銀龍・綾音
&&&
#説得
朝露は人魚さんに預けていきます。前回と同じ轍を踏むわけには行きません。
仙は、呼んでも出てきませんでした、お寝坊さんです。
狼を連れていきます。スマホ画面を見せて、場所わかりますか?
座標の場所は彼氏さんの自宅。
綾音、現場に急行します。
人目が多い所は足元だけ見て視線が合わないように。曲がり角と信号は狼が教えてくれます。
『こゃ~ん』
何でしょうか?路地裏に続く小道の影が少し伸びて鳴いてます。目が合う。
子狐さんだったんだ。黒い毛並みは影と境目がないね。
蝶々追って、影の奥に消えていくけどその先で、誰か居たのが見えた気がする。
思わず追いそうに成ったけど、狼がリードを口で咥えて引っ張って止めるからいかないほうが良い。
彼氏さんの家で、幽霊のお姉さんに会って言うよ。人と一緒に生きる道を選んでって。
仙は、狼の上に乗ってた。仙の隠れ家ってそこなの?
綾音が食べた唐揚げにはレモン汁が掛かってた。きっと妖怪のせいだ。
人魚さんより後に来たハロウィン朝露は、わたしよりリアルが充実です。
銀龍家・朝露
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#おまかせ
友子に預けられたから、逃げるのですわ!
モノノケ通信で狼に、ご主人の現在位置を教えてもらうのですわ!
友子の放つグラスラットの追撃を躱しながらハロウィンの街を駆け抜ける1匹の獣、朝露ですわ!(ぽてぽてふぁさふぁさ)
途中いろんな物が毛に絡みついて、どんどんハロウィン仕様に成って行くのですわ!
毛づくろいより合流の方が先ですわ!
朝露はご主人の猫盾、いつだって傍に居なきゃですわ!
髪飾りの幽霊さんは、ご主人に無害でも、此の機に動く輩の気配がするのですわ!
手遅れだったのですわ。レモネードさんここに居いるってことが意味するのは。
本職の妖怪としてのお仕事、完遂してたのですわ!
相沢・友子
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#説得
綾音さんから預かった朝露さんを追って合流するよ。
HCで増やした硝子の寝ず見たちの包囲網で、朝露さんの逃走経路はわかった。
向かってるのは、レストランに居た幽霊さん名前はヘレナさんだね。の彼氏さんの家。
みんな集まるなら好都合かもしれない。寝ず見たちは朝露さんの進行方向を塞いで遠回りさせてるようだね。
私は目的地に先に向かうことにするよ。
ヘレナさんの恋は、うまく成就する気がするんだよ。
この世で一緒になれる。
パトリックさんが居る限り消えたりしないよ。
説得に使えそうなら[恋映鏡]も使おう。
奥の手だよ。
真宵蛾・小鳥
&&&
#おまかせ
【悪霊サイド】
ヘレナさんって方が呪いに成るかもって聞いて様子を見に来たよ。
呪いに成ったら、何処かに行ってしまう前に、悪霊としての生き方をレクチャーしといたほうが良いよね。
迎えに来たつもりだったけれど、これだけ人に囲まれてたら、呪いになる心配はなさそうだね。
この一件は杞憂で済んだみたいだよ。
小鳥は、こういうのも好きだよ。
悪霊も妖怪も妖精も居るこの希島で、人としての営みをどこまでも続けていくと良いよ。
ところで何だけど。
ちびさんは、ずっと小鳥の影に居るつもりかな?
綾音ちゃんだね。現人神って言う人間の体を持つ子、とても人の中では生きづらいよね。
呪い呪われた命、祝い祝われた魂。幸あれだよ
鍋方・稚微
&&&
#おまかせ
【悪霊サイド】
小鳥さんの影の居心地も悪くなかったです。
幽世の蝶々の舞う所には、あやかし絡みの事件あり!
木を隠すなら森の中です。ハロウィンもお誂え向き、私達の跋扈する絶好の機会です。
とはいえ今回の私達のポジションはデバガメ、良く言えば語り部と言った所です。
ヘレナさんはこっちサイドに来ないみたいです。けど、
来たら来たで、歓迎する所存。来ないなら来ないほうが懸命です。
適性で言えば、ここに来る途中で見かけたハスキー犬を連れてた少女が、こっち側に来そうでした。あと一歩です。
人あらざる者の道は、いつだってウェルカム全開です。
ヘレナさんは、日の当たる世界でお幸せに!
●
|南瓜祭《ハロウィン》が来たよ。今年も|南瓜祭《ハロウィン》が来たよ。
けれど今年は不思議です。
そうだね。いつもより真っ暗だ。
夜だけじゃなくて、朝も昼も暗い『幻夜』。こんな日はいつもより不思議な事が起こりそう。
コトリバコのヤドリガミと小狐が暗い町をふらりとゆく。
カボチャの灯りはひょいと避けて、ひたすらに暗い道を、くらく、くらく。てく、てく、と。
二人の目的はお仲間探しだった。
もののけあやかしゆうれい騒ぎ。そんな妖しい事件があれば、人あらざる者の道に来る誰かがいるはず。
(人あらざる者の道は、いつだってウェルカム全開です)
と、鍋方・稚微(幼い妖狐(もふ子狐)・f36338)は聞こえない声でこそりと期待を口にする。小狐が潜むのは影の中、影の主はことりばこ。
影の主の真宵蛾・小鳥(コトリと落ちた其の箱は・・・・f32483)は影に向かって囁いた。
(迎えに来たつもりだったけれど、これだけ人に囲まれてたら、呪いになる心配はなさそうだね。この一件は杞憂で済んだみたいだよ。ところでちびさんは、ずっと小鳥の影に居るつもりかな?)
(えへへ、居心地が悪くなかったもので!)
すると幽世の蝶々がひらりと飛んでいたもので、稚微はぴょこりと影から顔を出す。
(幽世の蝶々の舞う所には、あやかし絡みの事件あり! 小鳥さん、あちらに行ってみましょう!)
やれやれ今日は大忙しだ。けどもし呪いに成る子がいたなら、何処かへ行ってしまう前に悪霊としての生き方をレクチャーしといた方がいいよね。
ことりと小狐は『幻夜』の闇をゆらりと進む。木を隠すなら森の中。ハロウィンは人あらざるものが跋扈するには絶好の機会なのだ。
●
薄暗い夜道を銀龍・綾音(地球人のモノノケのご主人さま・f41081)はとことこ歩いていた。
暗い道は危なくて、だから今日は護衛、兼、道案内でハスキー犬の|狼《ロウ》を連れている。
いつも連れている気ままな猫の朝露は、今日は友人に預けていた。
町中は確かに暗いけど、飾りや街灯の灯りもたくさんあるし。夜中じゃないから人だってたくさんいるけれど、今日は|狼《ロウ》がいるからきっと大丈夫。
ひとりで過ごしがちな綾音がこうして出かけているのは例の幽霊さんに会いに行くためである。
あの幽霊さんが何故だかパワーアップして、お話できるようになったらしい。そう聞いたとき、綾音は居てもたってもいられなかった。
どうしても伝えたいことがあった。
だから、|狼《ロウ》にスマホの地図を見せてここに行きたいと懸命に伝えたら、|狼《ロウ》はこくりと頷いた。
だからこうして現場に急行中なのだ。
人目が多い所は足元を見て、視線が合ってしまわないように。
そして曲がり角と信号は|狼《ロウ》に教えてもらい、暗かったり明るかったりする道をテクテクテク。
途中で蝶々がひらひら跳んでいたのでついふらりと追いかけてしまったけれど、|狼《ロウ》に逆に引っ張られて綾音は歩みを停止する。
綾音が|狼《ロウ》のリードを掴んだままじゃなかったら、このまま蝶々を追いかけて暗い影に入っていたのだろうか?
……蝶々は路地裏の影の奥へと消えていった。
そこで『こゃ~ん』と狐が鳴いたような気がしたけれど、黒い狐さんかなと目を凝らしてみても姿は見えない。
でもなんとなく、『何か』と目が合ったような気はした。小狐さんかしら? と綾音は思う。
「小狐さんだったんだ。黒い毛並みは影と境目がないね」
綾音はそう言って、もう少しよく見たいなと思ったけれど|狼《ロウ》がとにかく引っ張って止めてくる。
「……いかないほうが良い?」
影に誰かいる様な気がしてやっぱり気になるけれど、綾音は幽霊さんに会いに行く途中だったのを思い出したので、影を見るのはやっぱり止めた。
そうだった。目的は幽霊のお姉さんの彼氏さんの家なのだ。
「|狼《ロウ》、行こう」
明るくて暗い道、光と影が幾重にも重なる道を綾音はとことこ歩いてゆく。
道行く人々は誰が人で誰が人では無いのやら。それはきっと、誰にもわからない。
●
(――そうそう。適性で言えば、さっきいたハスキー犬を連れてた少女が、こっち側に来そうでした。あと一歩です)
小狐は影の中でこゃんと鳴く。お仲間は今回も増えなかったのだ。
けれどどうやら、ことりばこはあの子の事を知っている様子。
(綾音ちゃんだね。現人神って言う人間の体を持つ子、とても人の中では生きづらいよね。呪い呪われた命、祝い祝われた魂。幸あれだよ)
そんな風に話していたら、やたらキラキラ光るものを身に付けた猫が走って来た。
その猫は町中の飾りをいくつか身体に巻き付けて、電池式の灯りがチカチカと輝いてハロウィン仕様になって走って来る。
それはペルシャ猫の銀龍家・朝露(ペルシャ猫のモノノケ・f40765)だ。
綾音が相沢・友子(水使いの淡水人魚・f27454)に預けていたはずの猫である。
(ああ、今日は一旦解散だ。光が向こうからやってくる)
(デバガメポジションはここまでということですね!)
ハロウィン仕様の猫がにゃあと飛びつけば、ことりばこと小狐は霧散するように慌てて退散していった。
一方でこちらは預かっていたはずの友子のほう。
預かっていた朝露が逃げてしまったので、逃走猫を捕まえるべく|HC《ホープコード》で賢い不可視の硝子の寝ず見たちを放って町中を探させていた。
「朝露さんの逃走経路はわかった。向かってるのは、レストランに居た幽霊さん名前はヘレナさんだね。の彼氏さんの家。みんな集まるなら好都合かもしれない」
けれどあんまり到着が早いと、朝露が暴れて邪魔をしてしまうかも。そう考えて友子は硝子の寝ず見たちに朝露の進行方向を塞いで遠回りさせようと考えた。
友子自身はもちろん直接向かう。そして、そこで朝露を捕まえようと考えていた。
●
ペルシャ猫の朝露は街中をトトトと駆け抜ける。
賢い|不可視の硝子の《グラス》|寝ず見《ラット》が邪魔をしてきてうっとおしいけれど、朝露には行かねばならぬ場所と理由があった。
(朝露はご主人の猫盾、いつだって傍に居なきゃですわ!)
あとついでに町中によくない気配もあるので、ついでにネコパンチをお見舞いしておこうという感じである。
けれどこの寝ず見たちは賢くて巧みに朝露の邪魔をする。
その邪魔の隙間を無理に通り抜けるものだから、町中の飾りが時々朝露の毛に絡みついた。
南瓜や魔女の帽子に電池式でキラキラのプラスチックの電球などだ。
(どんどんハロウィン仕様に成って行くのですわ!)
場所自体はモノノケ通信を通して|狼《ロウ》に教えてもらっていたけれど、思ったようにたどり着けない。
朝露はとても苦戦していた。
けれどようやくたどり着いた目的地。
にゃーんと飛び込めばそこはどうやらパーティー会場のようになっていて、知ってる人や知らない人がご飯を食べている様子。
(ご主人が気にしていた髪飾りの幽霊さんもいるのですわ!)
幽霊さんは知らないおじ様とちょっぴりぎこちなく、けれどどこか幸せそうに何か話をしている様だった。
そしてご主人は――!
朝露が綾音を探そうとしたとき、朝露の身体に当たったレモネードの小さな小瓶が一緒に宙を舞っていた。
――レモネードさんここに居いるってことが意味するのは。
バシャ。
綾音が自分用に取り分けていたから揚げにレモネードが降りかかる。そして瓶はそのまま床へ。
このとき綾音は飲み物をとりに席を立っていて、この事に気が付いていなかった。
無残なことに綾音のから揚げに勝手にかけられるレモン。そのことに朝露が唖然としていると、朝露はそのまま友子に捕まってしまうのだった。
「やっと捕まえた。もう暴れちゃダメだよ」
●
さてここまで何があったか整理をしよう。
飛び出したヘレナが落ち着いて戻る最中、仙とソフィアはショックを受けてたパトリックを落ち着かせて途中で来たメンバーも加えて『おかえりなさいパーティー』の準備をしていたのだ。
そこへヘレナが戻って来て、ヘレナを探しにいった面々も合流し、綾音も来て「人と一緒に生きる道を選んで」ってストレートに言ったものだから、なんとなく別に幽霊でも良いかって雰囲気になってきた。
だってご飯が食べられるのだから。
こうしてパーティーは死んだとかどうでも良くなるような楽しい雰囲気になってゆく。
そうとも、これは楽しい|南瓜祭《ハロウィン》なのだから。トリック・オア・トリートと言って貰った|トリート《お菓子》はとても甘いのだ。
そして友子がやってきて、ハロウィン仕様のリア充風の朝露もやってきて友子に捕まってしまう。
仙は何時の間にか|ヤモリ《レオパ》になって、|狼《ロウ》の上に乗っていた。
綾音は何時の間にかそこにいた仙を見て、そこが隠れ家なの? ずっと隠れていたの? と不思議に思う。
そして小皿に分けておいたから揚げを食べて、知らない内にレモンがかかっている事を知るのだった。
「酸っぱい。レモン汁が掛かってた。きっと妖怪のせいだ」
この日は綾音にとっても不思議で一杯の日だった。
綾音の「妖怪のせいだ」という言葉を聞いた朝露の目が真ん丸になっていたのもその不思議のひとつだ。
(やれやれこれで一件落着かな? 小鳥は、こういうのも好きだよ)
窓の外から、影が覗き込んでいた。影の中にはもちろん小狐。
(来たら来たで歓迎する所存でしたが、来ないなら来ないほうが懸命です。ヘレナさんは、日の当たる世界でお幸せに!)
(そうだね。悪霊も妖怪も妖精も居るこの|希《こいねがい》|島《じま》で、人としての営みをどこまでも続けていくと良いよ)
『幻夜』の闇を跋扈したその影は、悪霊仲間になり損ねた幽霊さんへ祝福の言葉を投げかけて、そのまま再び消えていった。
大成功
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斑染近・紬姫
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#説得
ヘレナさんは、彼氏のパトリックの居る方に進んでいるのね?
じゃあ、あーしもそっちに向かうわ。
ある意味復活を遂げたんだもの。ヘレナさんの今後を祝福しなきゃね。
良いんじゃないかしら、パトリックさんも独り身だし。
冥婚の挙式できるように必要なものは手配できるわよ?
海の見えるチャペルとかどう?
リハーサルだけならここでもできるけど?
HCのフェアリーランドから、服やアクセ、小物や協会にありそうなものを出せるわ。和式がバージョンの神前式セットも有るわ。
巫女さんとかは、友子と綾音でいいわね。即席のリハーサルだからかしこまらなくていいわ。
花と蝶の髪飾りも忘れずに付けて。
冥婚式は、染物屋の新しい事業に成りそうね。
●
「話は聞かせてもらったわ!」
パーティ会場になっていたパトリックの家の扉がばんと開いて斑染近・紬姫(女帝の分身・f29077)が現れる。
小さなフェアリーの身体とトンボのような羽で、ススィっと入ると、紬姫はヘレナのほうに近づいて服を見た。そしてうんうんと頷いて。
「商店街であーしがプレゼントした服だわ。間違いない。ちゃんと来てもらえているようで嬉しいわ」
その言葉に、ヘレナはあっと声をあげる。
あの頃は色々おぼろげだったけれど、ぼんやりした記憶の中で食事をご馳走になったことと、服を貰った覚えがあるからだ。
「あれは夢じゃなかったのね……?」
そう呟くヘレナに、パトリックは「彼女は誰だい?」と問いかける。
「この方は私が彷徨っている間、食事をご馳走してくれたの。あらやだ……よく見たらここにいる皆さんのほとんどがそうだわ……」
今頃気が付いたことが、とても非常に恥ずかしい。ヘレナは思わず赤面して顔を隠すのだった。
するとパーティー会場ににわかに笑いが起こって、落ち着いたころにパトリックが改めて全員へお礼を述べる。
「皆さんこんなにしてくださって……本当にありがとうございます」
けれど紬姫の用事はそうではない。
だから、お礼を聞き終えた紬姫は二人にこう言った。
「感謝するのはまだ早いわ。二人とも聞いてちょうだい。二人の『結婚式』、あーしが手配してあげるわ!」
「「えええっ……!?」」
再会できて、改めて二人で歩める奇跡だけでも一杯一杯だったのに。そこにさらに結婚まで勧められてしまえば二人の心と頭はパンク寸前だ。
フリーズしてしまった二人を見て紬姫は確認を続けていく。
「あら? 嫌だったかしら? 二人は愛し合ってるのよね。もう手放さないと決めたと思ったのだけれど」
その確認に、パトリックが真っ先に応える。
「もちろん、もう手放さない……!」
「じゃあ結婚よね?」
「もちろん……!!」
「ヘレナさんも良いわよね?」
「えっ、は、はい……!」
「じゃあ決まりね。冥婚の挙式できるように必要なものは手配できるわよ?」
あと一歩だけ勇気で踏み出すだけの物事を、紬姫は次から次へと背中を押して進めていく。
これが紬姫式交渉術……!
日取りはまた後日となったものの、こうして二人の結婚式が決まってしまうのだった。
紬姫は海の見えるチャペルを提案し、リハーサルもできるけど? と|HC《ホープコード》でフェアリーランドも出してゆく。
そこから出て来るのはウェディングドレスとブライダルスーツ。そしてアクセサリーに教会にありそうなエトセトラ。和式バージョンの神前式セットまである充実っぷりだ。
紬姫はこの結婚を成功例として新たな事業に繋げるつもりだった。
(冥婚式は、染物屋の新しい事業に成りそうね)
と考える紬姫であったが、完全に商売っ気だけで来たわけでもない。
「とにかくおめでとう。ある意味復活を遂げたんだもの。二人の今後を祝福させてもらうわ」
紬姫の頭の中にはすでに二人を祝うための服のデザインが浮かび上がっていた。
もちろん花と蝶の髪飾りも忘れずにデザインに組み込むつもり。
二人とも、お幸せにね。
こうして、|南瓜祭《ハロウィン》から始まった噂の幽霊騒ぎは『幻夜』の奇跡と人々の絆によってひとつの終わりを迎えるのだった。
唯一残った関係事件の謎も、むやみに自然区に近づかなければ大丈夫だろう……。
ならば今はめでたいことが優先だ。
だって、噂の幽霊さんは新婚さんになるのだから。
大成功
🔵🔵🔵