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ジェミニの誘星

#ダークセイヴァー #戦後

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#ダークセイヴァー
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#戦後


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 果ての無い、きれいな空だ。
 星がいっぱいで、月もあって。あ、流れ星かな。
 ねえ、お母……さ、ん。……。
 ……どうして。
 どうして、僕を置いていったの。
 病気は、おいしい林檎を食べたら治るんじゃなかったの。

 お父さんはね、お母さんはあの星達の一つになったって言ったんだ。
 だから寂しくないよって。いつも僕を見ているんだって言ったんだ。
 でも、寂しいよ。
 そんな遠くじゃ手が届かないよ。
 星の光じゃなくて、僕はお母さんの笑顔が見たいんだ。

 お母さんが好きだった湖は、今日も綺麗だよ。
 でも……。……え?
 あれは、何?
 とても大きな……鳥籠?

 ――! おかあ、さん?
 お母さんだ、おかあさんがあの鳥籠の中に居る!
 笑ってる、腕を広げてる。
 僕を、呼んでる!

●星を望む白夜上の
「……|今《こん》な噺を御存知ですかい」
 広げた扇をぱちんと閉じて、紗我楽・万鬼(楽園乃鬼・f18596)は一息一言ひっそり零した。
「とある常夜に鳥籠に飼われた仲良しの双子が居りました。たまに抜け出し遊ぶ程度、歪でも穏やかな日々でした」
 それはダークセイヴァーの、ある街で発生している事件の前座噺だそう。
 騒がず騙らず、噺屋はゆっくりと言の葉を語り落としていく。
「外の危険を知らなかった彼女達はある晴天の夜、異端の神に出会した。成す術も無く……片割れが喰われました」
 生き残った方は悲しみに暮れるも、仇討ちを誓う。此処迄ならありふれた御噺なんでしょうねと男は続ける。
 そう、話は未だ続いてしまっているのだ。
「『喰われた方』も哀しみました。外に出ようと誘わなければ。争えず喰われ、心を護れず悲しませてしまったから」
 言い終わり一息つく。……もう御分かりですねと短く添え、今一度静かに息を吸った。
「此度御願いするは其の『喰われた方』です。強い想いだった過去が、オブリビオンと成られました」

 では此れより現状を説明しますねと鬼が言う。
「転送する街の近くに、大変見事な星見の湖が御座います。彼女は其処で『巣』を創りました」
 街で星鏡の夜と呼ばれる広大で澄み渡る湖が噺の舞台だと言葉が続く。
 曰く、常に凪いだ水面は磨き上げられた鏡の如く果て無き星空を映し込んでいるのだとか。
 何の障害物も無い在るが侭の星彩が天と地を染め、透明な境界線が現実を曖昧にさせる程の絶佳を生み出す。
 だが現在は煌めくその光景上に、異端が存在しているようだ。
「今湖の中心に、巨大な銀の鳥籠がございます。ええもう、人を入れるのに御誂え向きな」
 それは銀細工で拵えたような、見事な作りの鳥籠なのだそう。
 湖に少しだけ沈んで、それでも天を仰ぐ程の大きさで絢爛な存在感を示している。
「街の人々が少しずつ鳥籠へ誘われ行方不明と成っています。まだ、皆様無事です」
 今から行き猟兵が対応すれば『何方にも』最悪の事態は防げると万鬼が告げた。
「開いてる鳥籠の入口迄は、何故か湖面を歩いて行けるようですね。其処で、待っております」
 オブリビオンが? そう問われた羅刹へ肩を竦めた後、首を横に振った。
「いいえ。待っているのは皆様が『今は寄り添えない』と思う方です。其れも、とても友好的な状態で」
 寄り添えないとは、選び進む生の中で道を違えてしまった事を指すのだそう。
 例えば死別。例えば仲違い。触れ合う事も出来なくなって、逢えなくなって。心通わせられずでも日々は過ぎる。
 そんな過去がもう一度形を成し、記憶と同じ声を出して鳥籠の中で待っているとしたら。
「其れは共に星を観ようと。鳥籠の中で、美しい星夜を眺め過ごそうと誘ってきます」
 生前と同じ姿で、敵対する前と同じ顔で。大切だった人が猟兵と星夜を過ごしたいと伝え願う。
 鳥籠の中は変わらず歩ける澄み切った湖上が広がり、静かで優しい星夜に包み込まれている。
 何なら銀のベンチやティーセットが並ぶテーブル等、穏やかに過ごすアイテムが出現したりするらしい。
「『彼女』が何処に居るか今視えませんので、状況が動く迄御相手して差し上げると良いんじゃないですかね」
 敵対しないようですしと付け足した後、最後にと小さく呟いた。
「是は個鬼的な御願いですが。……どうか、命を奪わせてしまう前に。彼女を優しく祓って頂けませんか」
 もう、痛いのは御厭でしょうから。
 残滓の如く独り言ちるのと、利き掌を下に男のグリモアが花開くのは同時だった。
「では参りましょう。語りましょう逢いましょう、物語の名は――」
 輝きが仄明るく転送先を照らし出した。


あきか
 あきかと申しますよろしくお願いします。

●執筆について
 プレイング受付開始のご案内はマスターページやタグにて行っています。
 お手数ですが確認をお願いします。

●シナリオについてのお願い
 各章とも冒頭文が詳細な案内になります。
 追加される文章をご確認頂いてからの参加をお願い致します。

●一章
 綺麗な星空を映した湖に巨大な鳥籠が鎮座しています。
 その中に入って、PCにとって『今は傍に居られない方』と逢い共に星見をしましょう。
 死に別れた、今は敵対(宿敵)等と「もし誰々と穏やかに話ができたら」を行います。
 自分や他人の小さかった頃、昔の姿等の過去に逢う等でもOKです。
 但しゲーム内で存在するPCさん指定は相手と同時参加のみ採用します。
 詳細は冒頭文にて。

●二章
 ボスに逢いますが、会話>戦闘になる予定です。
 街の人はボスに対応出来たら無事に戻ってきますのでケアは不要です。
 詳細は冒頭文にて。

●期間限定ルール
 闇の救済者戦争の⑱『ケルベロス・フェノメノン』で入手した|小剣《グラディウス》の研究が進められています。
 この研究の進行度は、ダークセイヴァー戦後シナリオの成功本数に比例します。
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第1章 日常 『星鏡の夜』

POW   :    わくわく過ごす

SPD   :    どきどき過ごす

WIZ   :    静かに過ごす

イラスト:葎

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あの子の噺
 お母さん、おかあさん。逢いたかったよ。
 うん、うん。もう離れないでね。暖かいな……え?
 ここに居ればずっと一緒に居られるの?
 あのひとが護ってくれてるから、大丈夫?
 ……うん。わかった。僕もうここから出ないよ。
 ずっと一緒だよ!

●あなたの噺
 星鏡の夜と呼ばれる湖の前に転送されてきた猟兵を、絢爛の景色が出迎える。
 説明と違わない世界が視覚を明確に占拠した。一瞬、天高き宙に浮いたのかと錯覚する程に。
 永遠を恣にしたスターリーナイトは視界一杯存在し、とめどなく流れる天体ショーで溢れていた。
 数多の恒星総てが自らを主張する輝きで空を彩って、宇宙塵を巻き込んで巨大な銀河を形成する。
 特に輝く一帯は極彩色なガス状の星間物質で着飾り、天の川と呼ばれる絶景を魅せつけた。
 そんな地平線が夜に塗り潰され天地曖昧な境界上で、大きくて綺麗な銀の鳥籠が存在している。
 遠目だが籠の扉が開いているようだ。言われた通り、一歩湖に足を踏み出す。
 静かな波紋が広がっただけで、足が沈む気配は無い。そのまま、目的地へと足を動かした。
 大地が視界から消えて、上も下も星空だけ。そして、真直ぐ向けた目線の先で。
「――――」
 眼を疑う光景に、自分を呼ぶ声に導かれて。
 銀の境界を一歩、進み越える。

 ガシャン。
 鳥籠の扉が閉められた。

●マスターより
 参加は単独推奨(第二章で合流可)です。
 同時参加希望以外は全員別空間扱いになり、他の参加者は見えません。

『逢いたい方』が同行者と同じ。
『逢いたい方』が別でも同行者と同じ空間にしてほしい。
 等は同時参加で来てください。

 同時参加でも第一章は別空間希望の場合は、団体名の前に★を付けて下さい。
 一緒に返却しますが、入った瞬間同行者が消えた事にして別々に描写します。

 現れる『逢いたい方』の会話や口調は基本頂いたプレイング通りです。
 色々喋らせても良いよという方はプレに☆を入れて頂ければプレ参考にアドリブします。
 不思議空間なので共に星を眺めながら過ごしたりやお茶会したりと、ある程度好きにできます。
 のんびり過ごしてみてください。
神臣・薙人
美しい場所ですね
危険性を聞いてもなおそう思います

鳥籠の中にいるのは
神臣みづき
14歳で殺された僕の従妹
…僕がずっと想い続ける人

薙人、一緒に星を見ようよって
みづきが僕を誘って来る
そうだねって
一緒に鳥籠の床に座ろう
星が目に付く度に
あれは何ってみづきが聞いて来るけど
僕だって詳しくない
分からないよって言っても
みづきは笑ってる
薙人と一緒だと楽しいねって
そう言ってくれる

…こんな事、ある筈が無いんです
みづきが私をどう思っていたかなんて分からない
でも
この鳥籠の中でだけは
楽しそうなみづきと一緒にいたい
猟兵の私ではなく
みづきの従兄の僕でいたい

みづきがどうしたのって聞いて来るけど
なんでもないよって返して
また星を見よう



●泡沫月花
 神臣・薙人(落花幻夢・f35429)が境界を越えるそのひと時、星の入東風が湖を撫でた。
 袂を揺らす初冬の温度は鳥籠に入った瞬間穏やかな心地に、来訪の歓迎へと変貌する。
 湖面は凪いだ侭か、不思議な空間だ。寒くないのは有難いが。
「美しい場所ですね。危険性を聞いてもなおそう思います」
 独り言ちる程、見上げる自然の天象儀は見事だった。
 もう一度緩やかな微風が頬を掠め、彼の枝から春の欠片を一枚攫ってゆく。
 茶色の瞳が其れを追い、桜花が待ち人の許へ舞い飛ぶのを静かに見届けた。

 鳥籠の中にいるのは、何一つ違わない大切な思い出のかたち。
「……みづき」
 思わず零した名に反応して笑う花のかんばせが。薙人、と己の名を呼び返す。
 もう聞く事など無いと思っていた。聲の主は同じ苗字を冠する、僕の従妹。
 14歳で殺された、ずっと想い続ける人が。命散る前の姿で欠ける事無く立っている。
 それは儚い記憶の中で、唯一覚えている確かな光景だった。
『薙人、一緒に星を見ようよ』
 朧げな追憶より鮮明な音が薙人を誘って来る。
 沈黙は一呼吸の間だけだった。そうだねって言葉を捧げ追想へと歩き往く。
 幾つかの水紋が足跡に消えた後、寄り添う大きな波紋を広げ二人が鳥籠の床に座り込む。

 隣に、傷一つ無い従妹が確かに存在している。
 銀細工で繋ぐ檻越しの空がどんなに綺麗でも、薙人の心は傍らに有った。
『あれは何?』
 星が目に付く度にみづきが聞いて来るけど、僕だって詳しくない。
「分からないよ」
 だから素直に返答した。自然にお互いの顔が向き合って……みづきは、笑ってる。
 満天の星をただ観て言葉を交わす何気ないやり取り。
 それだけだ。でも、それだけで。
『薙人と一緒だと楽しいね』
 想い人が、思い出と同じ表情で応えてくれる。

(……こんな事、ある筈が無いんです)
 みづきが私をどう思っていたかなんて分からない。
 私が今、どんな顔でみづきを見ているかすら。
 でも。
(この鳥籠の中でだけは、楽しそうなみづきと一緒にいたい)
 彼方で輝く数多の瞬きよりも、今は眼前の笑顔が何より燦めいている。
 解ってる。大切な人の事だけは、儚く散った記憶だって覚えてるのだから。
 だとしても。今は。
(猟兵の私ではなく、みづきの従兄の僕でいたい)
 恒星に照らされ輝く月のように、星明かりに還り咲く花を目に。記憶に刻み付ける。
『薙人、どうしたの』
 不思議そうに尋ねる顔だって、かけがえのない。
 そう、伝えられたら。
「――なんでもないよ」
 満開の想いを胸に、ひとひらだけ言の花弁を舞い散らす。
 これ以上の桜颪は避けたくて。再び視線を空に、星月を見上げた。

 天と地に煌めく星群が、桜の精と傍らの衛星へ優しい光を贈り続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水澤・怜

会いたい人
若くして病に倒れた兄
怜自ら桜の癒しを与えた宿敵
白い軍服姿
口調は怜と同じだが堅苦しさはない

『久しぶ…いや早すぎないか?』
あの時はゆっくり話す余裕などなかっただろう
戦いの後暫く療養所に缶詰だったとか
形見の軍刀の重さに驚いたとか
他愛のない話を

『…で、最近はどうなんだ?』
あぁ…また恒例の色恋話か
『共闘した娘を斬った時…お前激昂していたよな?』
確かに彼女は大切な人だが…色々と事情が…
『なんだ、遂に怜も大人の事情を解する齢になったか!』
腹を抱えて笑う兄に少しムッとしつつも
筋金入りの堅物だった俺に大切な人が出来て
兄さんが今の俺を見たら…と思っていたが
やはり…笑うんだな
なんだか少しだけ…ほっとした



●輪廻の寄り道
 星彩の下に居た人は、最後に逢った時より煌めく白を纏っていた。
「兄さん」
 革靴で波紋を描き水澤・怜(春宵花影・f27330)が歩み寄る。
 呼び届けた相手への絆は、澄んだ星夜に良く響いた。
『久しぶ……いや早すぎないか?』
 返ってきた声も、還ってきた姿も元気そう……と云うのは聊か不思議な気がする。
 若くして病に倒れ、影朧と成った兄。
 成長した己と共に狗神を討ち、最期は怜自ら桜の癒しを与えた――宿敵だったひと。
 溢れる感情を桜花の餞にして見送った瞬間は、永遠に忘れる筈が無い。
 なのに当の本人は軽い調子で再会の再開とするものだから。
 僅かに有った緊張が、はらりと散り落ちた。

『あの時はゆっくり話す余裕などなかっただろう。息災か』
 想いをぶつけたかの激しい激闘をあの時と呼ぶのなら、息災所か。
 戦いの後暫く療養所に缶詰だったと告げたら、そうだろうなと穏やかに返される。
 形見の軍刀の重さに驚いたとも伝えたら、今度こそ楽し気な声が軽やかに響いた。
 嗚呼。
 兄と、現実離れした夜と星の世界で。
 他愛の無い話が、できている。

 交わす言葉は重なり、やがて一つ話題の蕾を膨らませた。
『……で、最近はどうなんだ?』
「あぁ……また恒例の色恋話か」
 短い問いだけで内容が解る辺り、兄弟の距離は身心共に遠く無く。
 ただ少々慣れない流れに怜の視線が揺れ眼下の星空へ。
『共闘した娘を斬った時……お前激昂していたよな?』
 弟の動揺を理解した上で兄が畳掛けて来る。その通りなので、否定は出来ず。
「確かに彼女は大切な人だが……色々と事情が……」
 何とか絞り出した返答に、再び噴き出す音が鼓膜を叩いた。
『なんだ、遂に怜も大人の事情を解する齢になったか!』
 堪らず顔を上げ腹を抱えて笑う兄に少しムッとしつつも、何処か落ち着く気持ちも有る。
 文武両道で、憧れて。自分が大人に成る前に儚くなった|彼《己の誇り》は。
(筋金入りの堅物だった俺に大切な人が出来て、兄さんが今の俺を見たら……と思っていたが)
 今眼前で、唯一人の誠が心を以て想いの花を咲かせていた。
(やはり……笑うんだな)
 心がすとんと腑に落ちる。
 なんだか少しだけ……ほっとした。

 この感情を何と呼ぶのか、形にしようと口を開いて。
『怜、俺は嬉しい』
 答えは相手から帰ってきた。僅かに見開いた弟の眼が兄を捉える。
『大きくなったお前と、話が出来た。あの時もだ……怜と共に戦えた』
 双方悩みや葛藤が無かったと云えば嘘になる。
 それでも、此処で逢い談笑出来たのは。
 天で煌めくポラリスのように、互いを思い遣る心が変わらぬ輝きで在り続けるからだろう。
 例え片方が――廻る旅へ逝こうとも。

 静かな星夜に、兄弟の穏やかな声だけが紡がれていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
私はぜひ会いたい人がいます。戦いの中やお出かけで何度がであったけど、二人きりではなしたことないから。

母方のお祖母様。28年前、お母さんが15歳の時、病弱の身で歌い続け、儚く亡くなったお母さんの強さの原点。今もお母さんが歌い続ける理由。

現れたお祖母様の隣にこしかけて、結婚したんです、と報告します。相手は一緒に育ってきた人で。困難も多くありました。でも思いを遂げられたのは身を削ってまでも人々の為に歌い続けた、お祖母様の強さを受け継いでいたかもしれませんね。

今は小さな妹と弟分の為に戦ってるんです。ダンスが専門ですけど、歌もうたえるんですよ。お祖母様、聞いてくださいね。できれば合唱しませんか?



●絆の歌
 踏み入れた境界の先は変わらず静かな絢爛に覆われている。
 囲う鳥籠の外は輝く綺羅星が揃って水鏡広がる湖面を優しく照らしていた。
 そんな淡い灯達に導かれ、真宮・奏(絢爛の星・f03210)が歩む先に。
 銀のベンチに腰掛けた待ち人が、優しい眼差しで彼女を待っていた。

 私はぜひ会いたい人がいます。
 奏はそう告げて、家族を連れずたった一人で此処にやってきた。
 鳥籠に入り、出逢えたのは母方のお祖母様。今も、お母さんが歌い続ける理由のひと。
(お母さんが15歳の時、病弱の身で歌い続け、儚く亡くなったお母さんの強さの原点)
 戦いの中やお出かけで何度がであったけど、二人きりではなしたことないから。
 傍に行き、逢えた嬉しさを込め挨拶を一つ。
 歓迎の声も返す表情も母の面影を感じる相手に断りを入れ、隣に腰掛ける。
 暫し、そのまま空を仰いで星を眺めた。

 常は傍に居る人達の声が聞こえない。
 それだけで、夜の静寂をより鮮明に感じる気がした。
 されど独りで来た意志は変わらず、奏はゆっくりと口を開く。
「結婚したんです」
 短い報告と共に隣へ視線を移す。祖母は、孫を静かに見ていた。
「相手は一緒に育ってきた人で。困難も多くありました。……でも思いを遂げられたのは」
 星明りだけの世界で、一等優しく光り照らす恒星のような人と確り向き合う。
 緊張は無かった。想いの侭、自分なりの言葉で伝えるのを相手は頷き聞いてくれている。
「身を削ってまでも人々の為に歌い続けた、お祖母様の強さを受け継いでいたかもしれませんね」
 父が居ない間、女手一つでも沢山の愛情込め育ててくれた母を知っているから。
 奏で承ける絆は、確かに子へ。孫へと響き繋がっていく。
 そうして二人は、同じ貌で笑い合った。

 箒星が幾つ流れても、伝えたい話題が尽きる事は無く。
「今は小さな妹と弟分の為に戦ってるんです」
 夫はもとより、小さな家族が増えた事だって今を生きる大切な糧だ。
 ふと。浮かんだ思いに立ち上がり、少し距離を開けて向かい合う。
「ダンスが専門ですけど、歌もうたえるんですよ」
 お祖母様、聞いてくださいね。返答の笑顔に見守られ奏は澄んだ夜風を吸った。
 満天の星へ高らかに、孫から祖母に想い込めた歌声が贈られる。
 数多の煌きが降り注ぐ一夜限りのステージで、唯一人が為の言葉は唱と成った。
 お祖母様が次へ繋いでくれた命は、これからも末広がり続くと謳い上げる。
 揺れる水面銀河、余韻を残し消える波紋と聲。唄い終えると確かな拍手が応えた。
 感謝に此方も、笑顔を輝かせて。
「できれば合唱しませんか?」
 提案は二つ返事。間も無く、交じり調和する二種の旋律が夜空へと響き渡る。

 祖母と孫の二重唱は星夜を声音で飾り、彩ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
死に別れてから幾度か視た
悪夢や依頼の幻影での親との再会
俺は全て
特に両親には直ぐ背を向けた
必ず引き留めたり俺に迎合する
あり得ない事を言ってたから

元々折り合いが悪くなってた
価値観も希望も全員全く合わない家族
ゴーストの襲撃を受けず過ごしていても
きっといつか絶対バラバラになってたろうね

…そっか
今日は寄り添えるのか
なら最期にせめて一度ぐらいは―

そう思い足を踏み出す

思った通り
既に幾度か、はっきり解る形でまみえた兄貴はいない
両親だけだ

嬉しいのか二人とも笑顔だ
巻き戻って死に別れた頃と俺も変わらないから
違和感無いよね
心配させずに済む
「星、綺麗だね」

大人になって時が経てば
融和できたかも知れない軋轢や相違を
正す機会は永遠に来なかった
兄貴も両親も死んで
今は俺だけ

星に願いを、か
成し遂げたい事があるからそれだねって
「今はそれ頑張ってるよ…多分、死ぬまで」

頑張りたいならそれで良いんだよと
叶うと良いわねと
幻想と解ってもそれでも
今日はその言葉が俺の背を押す

大丈夫
俺はまた幾らでも戦える

「ありがと…」
これでいい
これで良いんだ



○If you wish upon a star
 数多の星が煌めく夜天と、燦然を映し込む水面の世界を男が独り歩き進む。
 静かに消える波紋を幾重も描いていた葛城・時人(光望護花・f35294)の足は、湖の半ばで止められた。
 夜と揃いの、されど星下に凛と在り続ける黒を纏う青年が見据える先で。開く扉が、訪問者を歓迎している。
 其処を通れば逢えるらしい。僅かな迷いが一歩を躊躇い、生者は一旦視線を落とした。
 透徹の湖中は瞬く星達と、一部沈む檻の見事な銀細工を閉じ込めた水槽かと思う絢爛さで満ちている。
 眼下に広がる星彩のアクアリウムは越えられない境界の先を示している気がした。
 生が、生き残っている者が超えられない場所。それが今時人の心を揺さぶり続けている。
(死に別れてから幾度か視た、悪夢や依頼の幻影での……親との再会)
 己の予想が正しければ、向こうで待っているのは彼岸の彼方へ発って久しい人達だ。
 もう居ない存在だと十二分に理解している。だが時に虚像で、時に自身の中で相見えるそれらを。
「俺は全て、」
 思いが一言溢れ出た。拳を握り締め、後を飲み込む。
 特に両親には直ぐ背を向けた。詳細に再生出来る過去の記憶が意思を蝕み顔を顰める。
(必ず引き留めたり俺に迎合する、あり得ない事を言ってたから)
 元々折り合いが悪くなってた。価値観も希望も全員全く合わない家族だった。
 血の縁を失ったのは自分が能力者に目覚めたあの惨劇だ。でも。
(ゴーストの襲撃を受けず過ごしていても……きっといつか絶対バラバラになってたろうね)
 身の内で巡り続ける昏い想いは少しずつ諦めを裡に蓄積させていく。
 ならば。どうして、此処に来たのだろうか。
 僅かな自問自答の後ゆっくりと貌を上げ、青き瞳で眼前を捉える。
「……そっか。今日は寄り添えるのか」
 至る一つの答えに、鉛の如く重かった両脚が軽くなるのを感じた。
 諦観の底で微かに光ろうとする何かを、確かめたくて。
「なら最期にせめて一度ぐらいは――」
 そう思い、足を踏み出す。

 潜り抜けた先、永遠の輝き達を暫し双眸に映して。目線を前へ、覚悟を決める。
(思った通り)
 待ち人は男女一人ずつ。既に幾度か、はっきり解る形でまみえた兄貴はいない。両親だけだ。
 思い出と同じ姿で立ち並び、揃って息子を見つめている。
 逢えて嬉しいのか二人とも笑顔だ。それぞれが我が子の名を呼ぶ、懐かしい声も喜色に染まって。
 此処がもし、別次元の常夜ではなく銀誓館が有る地球だったなら。
(巻き戻って死に別れた頃と俺も変わらないから、違和感無いよね)
 学びが終わり、友人達と過ごして。日が暮れたから、帰ってきた。
 ただいまと言って、おかえりと出迎えられる親子のかたちで……在れただろうか。
 何にせよ。
(心配させずに済む)
 彼等の許へ行くのに、今度はすんなり足が動いた。
 何事も無いように、何も無かったかのように。何気ない雰囲気で、声をかける。
「星、綺麗だね」
 優しい返事が二種響き還ってきた。……同意を、得られた。
 冬の大三角形より小さな形で二人と一人が寄り添い、共に空を仰ぐ。

 空に輝く星達は、誰の頭上にもどんな時でも変わらない煌きを放ち続ける。
 見上げる時人の心に光を届け、奥底に沈めた想いの姿を露わにする気もした。
(大人になって時が経てば、融和できたかも知れない軋轢や相違を……正す機会は永遠に来なかった)
 兄貴も両親も死んで、今は俺だけ。
 護る力は其の時に発現した。彼等の為には、使えなかった。
 考え方が違って、折り合いがつかなくて。でも、それでも。
 棄てられずに抱いていた僅かな望を輝かせたいと思う気持ちは、確かに有った。
「星に願いを、か」
 もし願いをかけるなら。何を、あのポールスターに告げるだろうか。
 淡い願望は月の如く。照らす恒星が必要だったのかもしれないが、終わった過去にはそれが無かった。
 ならば今なら如何なのか。青年は星から視線を外し、改めて両親を視界に収める。
 暖かな表情で自分を見守る、優しい星明りを受けながら己の意志を一つ思い浮かべた。
 成し遂げたい事があるからそれだねって一言目を皮切りに、今の自分を二人に伝えてみる。
 どれくらいぶりかもう考えるのも止めた家族の会話を、星達以外に聞かれる事は無いのだから。
「今はそれ頑張ってるよ……多分、死ぬまで」
 最後の方は少しだけ力無く付け足し、終いとした。上手く、言えたのだろうか。
 父と、母は――微笑んでいた。
『頑張りたいならそれで良いんだよ』
 子を気遣い、相手を尊重する肯定で返す落ち着いた声と。
『叶うと良いわね』
 優しさと穏やかさを以て同意を、応援を贈る思い遣りが。
(幻想と解っても、それでも。今日はその言葉が俺の背を押す)
 再会を望んで良かった。そして新しい決意が、心に宿り光を灯す。
 大丈夫。俺はまた幾らでも戦える。

 やっと、願いの一つが叶った気がした。
 例え此処は現実が曖昧な星夜の中だとしても。
「ありがと……」
 これでいい。
 これで良いんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未丘・柘良

俺様の世界じゃ満天の星空なんて疾うの昔
学者だった親父が拵えたプラネタリウムをガキの頃に良く見てた
なぁ…兄貴?

春真…数年前に喪った、俺の兄
俺より頭の出来も性格もイイ優しい兄貴で
「柘良、懐かしいよな…こうして二人で星を眺めるとかさ」
見えて無い癖に良く言うぜ
いや、今だけは見えてるのか…?

ああ、牡羊座はアレだ
ハマルにシェラタン…俺達の由来、だったか
はは、無理があるよなマジで

春兄の目が見えなくなった分、俺が代わりに見てやると誓った
だから俺は良く見える眼をこうして手に入れた
その分兄貴は耳を澄ませてくれるって聴力特化を施して…
そのお陰で、敵の襲撃を免れたのは俺だけ
兄貴は…俺を守る様に…

――なぁ、ちょっとだけ泣いても構わないか?
この眼から涙は流れないとしても、それでも
今だけ、あんたの弟だって思い出させてやくれないか?

いつか、本当の春兄を取り戻す
無理矢理オブリビオンに墜とされた兄貴を、骸の海から解放する
目の前の兄貴にそう誓う様に告げ

春真口調:俺、君、~だね、~かな
宿敵絵で外見参照頂けると幸い



○プラネタリウムに耳を澄ませて
 星鏡の夜に存在する巨大な鳥籠内は、常に星達の輝きが差し込み仄明るく照らされている。
 細やかに導かれ空を仰ぐ未丘・柘良(|天眼《てんげん》・f36659)の眼総てにも、等しく瞬きを齎していた。
「俺様の世界じゃ満天の星なんて疾うの昔」
 低く零した望郷の音色が余韻を残す頃、星夜を揺らす微かなモーター音が耳へと届く。
 天然の淡い照明が場を満たす中、柘良の傍らで星光と異なる輝きが空へと放たれていた。
 視界を上から下げていく。眼前には一台のプラネタリウムが存在し、微かな稼働音を伴い動いている。
 その姿形は古い記憶に記録されたものと良く似ていた。
「学者だった親父が拵えたプラネタリウムをガキの頃に良く見てた」
 現状への感嘆と懐かしさが溢れ出る。勿論、こんな短文で済む程簡単な想いではないのだが。
 でも、話の切っ掛けには丁度良い。
「なぁ……兄貴?」
 視線伴い隣人へ呼び掛ける。
 思い出の天象儀に、製作者の子がもう一人寄り添っていた。

 過日のプラネタリウムは嘗て観た輝きをその恒星球から放ち続ける。
 学者の智力詰め込んだ恒星原版とレンズを介した光は、天に手作りの銀河を映していた。
 丁度、頭上は銀の格子が覆うドーム状だ。照らす先は無限の星空が広がり、自然と上映の識別を曖昧にする。
 そして柘良が今見据える己と似た男もまた、映像かと思う程存在感と白い外套を夜に際立たせていた。
(春真……数年前に喪った、俺の兄)
 想い出と切り捨てるには切ない程鮮明な姿。余り動かぬ瞳を添えた顔は、確かに弟の方へと向けられて。
『柘良、懐かしいよな……こうして二人で星を眺めるとかさ』
 スピーカー等存在しない空間で、忘れられない声色が覚えの無い台詞を紡ぐ。
 この時を虚像とするには、あまりにクリアだった。
「見えて無い癖に良く言うぜ」
 言いたいことが数多と有るのに、鏤められた感情の欠片を上手く集められない。
 つい、軽い皮肉だけが流れ落ちる。……なのに兄の貌は穏やかな侭で。
 彼の昏き瞳を見返したくなくて、再び空を仰いだ。
 現在と過去が重なる夜天に良く知る輝きを見つけ、3つの瞳が周辺をなぞる。
「ああ、牡羊座はアレだ」
 確かな星座線を思い浮かべ、口にする。
 由来を名にした2等星のα星が羊頭となり、3等星のβ星を連ねる天体群は二人にとって思入れ深い。
「ハマルにシェラタン……俺達の由来、だったか」
 一つ一つ、星を確認し言葉を重ねる。何故だか解らないが、そうしたかった。
 昔と変わらぬ白羊宮。兄弟の未来が違おうとも、根源は同じあの輝きだと云うのだろうか。
「はは、無理があるよなマジで」
 軽く笑い飛ばし同意を得ようとした先の人は、静かに夜空を望んでいた。

 揺らがぬ眼に牡羊座を映す横顔は、柔らかな雰囲気を湛えている。
(俺より頭の出来も性格もイイ優しい兄貴で)
 尊敬する人の為に、自分が出来る事があるならしたかった。
(春兄の目が見えなくなった分、俺が代わりに見てやると誓った)
 兄貴はもう、夜空も星座も視覚で認識できない。
 だから俺は良く見える眼をこうして手に入れた。
(その分兄貴は耳を澄ませてくれるって聴力特化を施して……そのお陰で、敵の襲撃を免れたのは俺だけ)
 余り有る視力で見てしまった鮮烈な瞬間は、デリートできず遺り続ける。
(兄貴は……俺を守る様に……)
 堪らず視線を下げかけ、て。踏み止まる。
 そうだ兄は見えない筈、なのに何故アリエスを瞳に捉えているのだろう。
「いや、今だけは見えてるのか……?」
 無意識に出た戸惑いの波に反応し、ゆっくりと春真の顔が動いて――柘良を見た。
『例え見えなくても、俺には解るよ』
 落ち着いた、あの頃と変わらない優しさが光亡き眼に満ちている。
 何故、と小さな問いかけは聞き取れるか怪しい程だった。でも。
『何時でも柘良の声が教えてくれるからかな』
 ずっと、弟の聲を拾い続けていた。懐かしむ言葉も、星座の場所を告げる一つ一つを。
 その方向、空気の揺れ。総てを聴覚で補って、彼は世界を視ている。
 理解した瞬間、胸が詰まる思いがした。処理しきれない思いが心に募って。
「――なぁ、ちょっとだけ泣いても構わないか?」
 この眼から涙は流れないとしても、それでも。
「今だけ、あんたの弟だって思い出させてやくれないか?」
『はは、今だけか』
 それから暫し天地全てが銀河の世界で目立つ音は消え失せる。
 プラネタリウムの稼働音より小さくて弱々しい声の波が、響く事は無かった。

 気を落ち着かせた弟が、決意の眼差しを兄へ向ける。
「いつか、本当の春兄を取り戻す」
 本来、二人はこうして穏やかに会話できる状態ではない。
 無理矢理オブリビオンに墜とされた兄貴を、骸の海から解放する。
 必ず救うと、目の前の兄貴にそう誓う様に告げた。
『また、柘良の声が聞けるのだね。……いくらでも待つさ』
 穏やかに返す眼前の存在が本物かは解らない。
 ならば、もう一度。
 今度は取り戻した彼と改めて、満天の星と牡羊座を眺めようか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】★⭐︎
逢いたい方は自分の母親
自分自身では無く愛する男しか見えない哀れな女

大きな鳥籠?
なるほどアレが『逢いたい方』の幻を魅せる世界
小さな手が強く握られる
傍のルーシーちゃんもきっと家族を見えているでしょう
大丈夫と僕の所へ帰ってくると笑顔で彼女は先に中へと入っていった
それを見送ると
僕も君の元に帰りますと呟き

『ユェー』
一度も呼ばれた事の無い自分の名前
その声は自分を産んだ母親という存在
ルーシーちゃんはいえ、ララは強く前に進んでいる
僕も…俺も負けてはいられませんね

ふっと笑って鳥籠の中へと

入れば屋敷の中?
俺と母は洞窟の中でしか暮らした事がなかったから
上級貴族のお嬢様の母
あの男で出逢い、愛して捨てられた
プライドか現実を見てないのか
あの男にそっくりな俺を
『俺』を『あの男』の代わりとして愛した

『愛してるわ、私の可愛い我が子』
そっと抱きしめられる温もり
それは偽物だとわかっていても
俺は瞳を閉じて、そっと抱きしめ返すのだった

嗚呼、コレが母親という、生き物


ルーシー・ブルーベル
【月光】★☆
現れるのはブルーベル家の父
外見は活性中の宿敵イラスト参照

うつくしい所ね
誰かに呼ばれずとも足を踏み入れてしまいそう
『ララ』
わたしの本当の名を呼ぶ声に顔を上げる
其処にいるのは淡い金髪、青い瞳
ブルーベル家らしい特徴を備えた男の人
…お父さま

ぎゅ、と僅かに繋いだ手に力を込めて
大丈夫よ、パパ
私はもう大丈夫
必ずパパの所に帰ってくるから
だから、行ってきます
鳥籠へ
あの人の隣へ

ごきげんよう、お父さま
『ララ』と呼ぶ声に涙がでてしまいそう
生前は私を本物の『ルーシー』の代わりとしか扱わなかったのに
今は『わたし』を確りと見て、
星を見ながらお茶をしようと穏やかに話してくれる
テーブルに並ぶ、嫌いだったキャロットケーキも
今は笑顔で食べましょう
ねえ、もうひとりお茶会にお呼びしてもいい?お父さま
――来て、ルー

わたしソックリの少女
本物のお父さまの娘、『ルーシー』を喚ぶ
ニセモノの娘と本当の娘
そうしてお父さま
本来ならば集うことなどありえない3人
今、このひとときだけ
歪で夢の様な
おかしなお茶会をしましょうか



○僕と私
 きらきら光る透明な道を一組の親子が寄り添い歩く。
 夜空は煌めきで溢れ、見上げる度に光の軌跡が描かれ地平線迄瞬きで飾り付けていた。
「うつくしい所ね」
 パパと手を繋ぐルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が、あおいろ一杯に耀きを捉えていく。
 幻想絢爛なスターリーナイトと空想を現像させた燦たる銀の鳥籠へ、思う侭が言葉と成る。
 確かに此処は、誰かに呼ばれずとも足を踏み入れてしまいそう。
 余す事無く見納めようと一つの眼差しが水面下の光彩とも戯れる、刹那。
『ララ』
 花が、見開かれる。
 だれ。ルーシーを、**と呼ぶのは。
 わたしの本当の名を呼ぶ声に顔を上げる。……見据える先、本当は解っていた。
 其処にいるのは淡い金髪、青い瞳。ブルーベル家らしい特徴を備えた男の人。
「……お父さま」
 そう。棺の蓋は私が開けたけれど、今度はあなたが籠の扉を開けたのね。
 覚悟はしてきたけれども。無意識にぎゅ、と僅かに繋いだ手は力を込めていた。

「大きな鳥籠?」
 朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が視る硝子を通した光景でも、星鏡の夜に浮かぶ夢想的な銀籠は美しく。
 なるほどアレが『逢いたい方』の幻を魅せる世界と納得した直後、包む小さな手が強く握り込まれた。
 視線を隣へ、未だ幼さ遺すも気高き花のかんばせは真直ぐ前を。件の先を凝視している。
(傍のルーシーちゃんもきっと家族を見えているでしょう)
 あえて声をかけず気遣う眼差しだけに留めたが、直ぐに大輪の虹彩は信頼を映した。
「大丈夫よ、パパ」
 言葉無くとも月光の煌きは恣相手へ捧げられる。
「私はもう大丈夫。必ずパパの所に帰ってくるから」
 二人は隣り合い共に同じ耀きを受ける衛星であり、もうずっと前から自ら輝いて互いを照らす恒星でもあった。
 迷いに陰り惑いの雲が遮ろうと、半魔の親子が結ぶ|絆《ひかり》が消える事はない。
「だから、行ってきます」
 月下の青花が向き合い、今一度確り手を繋いで微笑み合う。
 解く指先に再会を約束して、大丈夫と僕の所へ帰ってくると笑顔で彼女は先に中へと入っていった。

 誘星へ消えるひと時、細やかな追い風に千の花弁を伴う後ろ姿。
 それを見送ると独りはひと度瞼を伏せる。
「僕も君の元に帰ります」
 多彩な決意を込め呟き、開く眼差しをパパから●●に切り替える。
 見据える先にはもう、存在していた。
『ユェー』
 一度も呼ばれた事の無い自分の名前。音色だけは、身心に深々と刻まれている。
 その声は自分を産んだ母親という存在。唯、事実だけの親と謂う繋がり。
 自分自身では無く愛する男しか見えない哀れな女が……己を呼んでいる。
 心に咲く感覚は知る由もないもの。困惑が足を縛り根を張る。でも。
「ルーシーちゃんはいえ、ララは強く前に進んでいる」
 あの子も苦しんだ過去を糧に育てた仮初の花から、新しい種を摘んで育て始めている。
「僕も……俺も負けてはいられませんね」
 ふっと笑って鳥籠の中へと。
 彼もまた、一つの境界を越えていく。

――――

○俺と母
『おかえりなさい』
 忘れられぬ顔が、記憶にない表情と仕草でユェーを出迎える。
 入れば見知らぬ舞台が用意されていた。
「屋敷の中?」
 絢爛豪華が、不可思議な形で展開されている。
 華やかな彫刻を施す柱が規則正しく建ち並び、合わせて煌びやかな調度品が連なり続く。
 湖面には道や場を示す質の良い絨毯が敷かれ、壁さえあれば――此処は見事な御屋敷だった。
 天井は無く、天上の銀籠と星達が天然のシャンデリアとして二人を淡く照らしている。
 何て、なんて綺麗で……空虚なパライソなのだろう。
(俺と母は洞窟の中でしか暮らした事がなかったから)
 上級貴族の、お嬢様の母。あの男で出逢い、愛して捨てられた。
 実験と言う予定調和が無かったら。生まれた子が、イレギュラーでなかったのなら。
 穢れ一つ無い艶やかなヒールで歩み寄り、華美を鏤めたドレスを魅せつけるその姿が思い出と成れたのか。
『ずっと、待っていたわ。あの人と一緒に』
 嬉しそうな声色。だがあの人とやらは一体何処に居るのだろう。
 星は数多と瞬いているのに、きっと女の一番星は……永遠に見つからない。
 プライドか現実を見てないのだろうか。あの男にそっくりな俺を。
『俺』を『あの男』の代わりとして愛したのに。

 子母の距離が近くなる。動けなかったけど、相手が来てくれたから。
 血の繋がった眼差しが己を見ている。嗚呼、父と同じ貌が二つも目の前に映っている。
 嫌悪するその姿を、狂った愛が長く永く逃さなかった。
 自分を見ている筈なのに、呼ぶ名も認識も別のもの。
 愛する男だけを見ていた哀しき女の前で、息子は存在できなかった。
 照らされないと、月は輝けないのに。
 でも。
『ユェー』
 夢現曖昧な光が手を伸ばしてくる。綺麗な繊指が、『俺』の頬に添えられた。
 始めは遠慮がちに、次に掌で触れて。すぐにもう片手も添えられる。
 顔を包む仕草は優しく、輪郭をなぞる様に。眸はずっと、我が子を視ていた。
 キラキラと煌めく白銀の髪も、妖しく輝く金色の瞳も。
 全部、ぜんぶ……確認している。
『ああ』
 永久の夜から、星が双つ流れゆく。
『あなたが、ユェーなのね』
 母に、親に成れなかった女は久方に逢う子へ捧ぐ言葉すら覚束ず。
 大きくなったのね、なんて。そんな当たり前の呼び掛にすら辿り着けない。
 至るには。彼女には眼前の存在が『あの男』ではないと、理解する始まりが必要だったのだろう。
 そして血を受け継いだ者もまた、燦めく双眸で母親の姿を捉えているのに黙した侭だった。
 もう一筋箒星が落ちる頃、音も無く息を吸った唇が其の儘開きかけて――留まり。やがて力無く閉じていく。
 親子として、二人には欠けているモノが多すぎて。補うには心も思い出も足りなかった。
『愛してるわ、私の可愛い我が子』
 そっと抱きしめられる温もり。それは偽物だとわかっていても、争う気になれなくて。
 胸中は形容し難い感情に覆われ新月と見紛う心と想いが有るのに、かける言葉が浮かんで来ない。
 それでも、そうだとしても。決めたのだ、あの子の背中を見送りながら。 
 終わらぬ朔は無い。月光満ちる望を目指して、零月ノ鬼は動き出す。
 俺は。ユェーは瞳を閉じて、そっと抱きしめ返すのだった。

 星の光遮る世界で、吸血鬼と半魔がふたりきり。
 寄り添う理由はあの頃と違えども。伝わる暖かさは確かに、追憶と同じだった。
(嗚呼、コレが母親という、生き物)
 子という存在もまた、朧気な親というかたちを少しずつ理解していく。

――――

○わたしたちとお父さま
『ララ、おかえり』
 見捨てられない記憶と変わらぬ声が鼓膜を揺らし、穏やかな音は帰還の娘を出迎える調子で奏でられる。
 沢山の青花が咲き乱れる先、華やかなティーテーブルの前で少女を待つ人が立っていた。
 思い出と同じカトラリーも、卓上に収まらず周囲に置かれたプレゼント達も何処か輝いて見える。
 でも、何よりも。わたしを『ララ』と呼ぶ声に涙がでてしまいそう。
(生前は私を本物の『ルーシー』の代わりとしか扱わなかったのに)
『こちらにおいで』
 呼び掛ける聲も仕草も同じなのに、その意味は過日と全く違う彩を以て花開く。
 今は『わたし』を確りと見て、星を見ながらお茶をしようと穏やかに話してくれる。
 もし此処が星夜の湖上に設えたファントムガーデンでなかったら。
 辟易の奥に隠した願いの果てだったら、駆け出してしまいたかった。
 幼き想いが交ざって、成長した自分を見失ってしまいそうな程に。
 溢れる想いを堪えて、ブルーベル家の淑女は静かに前当主の前へ歩み寄る。
「ごきげんよう、お父さま」
 今宵の纏いに手を添えて、完璧なカーテシーでご挨拶。
 これも後継者として身につけたもの。されど伺う高い視線のあなたは、お揃いの瞳に我が子を映して。
『上手にできたね、ララ』
 褒めてくれた。ルーシーをがんばる、わたし自身を。
 強く、スカートの端を握り込んだ。少しでも気を許したら綺麗に注いだカップから心が零れてしまいそう。
 下も向けず唯立ち尽くすだけの姿へ、父は傍の椅子を引いて促す。
『僕の隣に座ってくれるかい?』
 差し出された手を、断れなかった。

 過ぎ去りし日の茶会と同じ菓子、ティーセットがテーブルに並んでいる。
 中央は花柄可愛らしい空白の大皿と、隣に嫌いだったキャロットケーキ。
 嬉しそうに切り分けるお父さまの為なら、今は笑顔で食べましょう。
 でもその前に。
「ねえ、もうひとりお茶会にお呼びしてもいい? お父さま」
 勿論だとも。いつの間にか、反対隣りに同じ椅子が一脚生えている。
 準備は万端なのね。少しだけ、可笑しそうに目を細めて。
「――来て、ルー」
 蒼き幽世の蝶が星空から舞い降りて、青花を巻き込みミルキーウェイを纏いだす。
 煌きは『わたし』ソックリの少女を。本物のお父さまの娘、『ルーシー』を喚ぶ糧となった。
 舞い散る花弁が幾つもの波紋を描く頃、ニセモノの娘と本当の娘が向かい合う。
 そうしてお父さまも。本来ならば集うことなどありえない3人が揃い、娘二人が仲良く席に着く。
 今、このひとときだけは。歪で夢の様な、おかしなお茶会をしましょうか。
 言い終え、て。

『まだだよ、ララ』
 わたしたちの父親が、優しい眼差しで開始に待ったをかける。
 その手には切り分けたキャロットケーキの皿が一人分。
 迷わずそれをルーシーの前に置いたルーベンは優しく娘の髪を撫でてから。
 もう一人の『娘』に、微笑みかけた。
『ララ。君の好きなものは何だい?』
 違わず、その声は『わたし』を見てそう言った。
 嫌いだったものの隣にある花柄鮮やかな皿には、何も乗っていない。
 ああ。
『わたし』を。わたしのを其処に、置いてもいいの?
 こころが揺れて、むねが一杯で。上手く言葉が発せられない。
 堰き止めるのが精一杯な視界にそっと、暖かさで満ちる一杯が置かれていく。
 満天の星に照らされ、咲き誇るブルーベルに囲まれて。
 ララの隣で願いを叶える少女が、逢えた人が見守っている。

 紅茶色の星空に、流れる一粒の小さな星が描かれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『星望の白夜『アリア』』

POW   :    わたしを害せば、あなたの幸せも消えてしまう
【白夜の鳥籠 】から、物質を透過し敵に【安らぎの幻覚を伴う束縛】の状態異常を与える【宵色の小さな双鳥】を放つ。
SPD   :    ここにいれば、もう大丈夫
【身に咲く白薔薇 】から【拘束する夜陰の茨】を召喚する。[拘束する夜陰の茨]に触れた対象は、過去の【幸せな思い出】をレベル倍に増幅される。
WIZ   :    外に出なければ、ずっと一緒だから
【触れると幸福な白昼夢を魅せる薄明の羽根 】が命中した敵に、「【ずっとここにいたい】」という激しい衝動を付与する。

イラスト:なすか

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠オリオ・イェラキです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 流れ星が一つ地平線の彼方へ堕ちた瞬間、湖面の星空が不自然に波打った。
 水紋は隣接する空気をも揺らし、空間の一角に煌めき伴う波紋を描いて。
[――あら]
 誘星の鳥籠に、邂逅の時に。
 猟兵達の思い出には存在しない声が一つ木霊した。

 夜へと沈んでいく白き羽根を舞い散らし、白薔薇飾る独りのオラトリオが現れる。
 それはふわりと降りて来て、透過の地へ上等のプリーツを広げていった。
[ごめんなさい。あなたのひと時に、お邪魔してしまったみたい]
 眉尻を下げ、眠れる夜に囁く声色で女が紡ぐ。
 彼女もまた予想外の訪問だったようだ。
[わたしはアリア。ようこそ、わたしたちのおうちへ]
 優しい眼差しで歓迎を告げる。その手に星々を囲う銀の鳥籠を、大事そうに抱えながら。
[あなたの力が強くて、わたしと繋がってしまったのね。安心して、すぐ元に戻すわ]
 笑顔で伝える言葉に不穏と不明の純粋さを感じ取る。
 そのドレスや、肌の白さに。真夜中より昏い茨が絡み付く。
[外はとっても危ないの。ここにいれば、大事な人とずっといられるから]
 鳥籠の中で、綺麗な星夜に包まれて。逢いたかった人と永遠を供に出来る。
 だから幸せ。何処にも行かなくていい。心からそうだと、白夜の娘が謳う。
 でも――オブリビオンは気付けない。
 思い出だけでは街の人達が衰弱してしまうことを。
 微笑む顔に、寄り添う二羽の黒い小鳥達も……涙を流し続けていることにも。
[大丈夫。あなたはわたしが護るから。ずっと、これからも]
 外のこわいものから、全部護ってみせる。だから。

『一緒に此処に居よう』

 最後の言葉は、猟兵が逢えた人の音色と重なる気がした。

●マスターより
 ボス戦です。単独参加の方は他の猟兵の姿は見えません。
 同時参加の方は同行者が同じ空間に現れた(合流した)後、ボスに逢います。
『逢えた人』も一緒に居ます。

 ボスは初手に猟兵が使用するUCと同じ属性の技を使います(ダメージ無し)
『逢えた人』は指定がなければ特に何もせず見守ってます。
 ただし、プレイングに★を入れて頂く場合。
 ボスからの攻撃を『逢えた人』が防ぎ、PCを護ります。
 庇って消滅はしません。

『逢えた人』はボスを討った後、静かに消えます。
 少しくらいは見送る時間があるかもしれません。
 色々喋らせても良いよという方は引き続きプレに☆を入れて下さい。

●プレイングボーナス
 鳥籠から出る理由を告げるとボーナスが付きます。
ガスパール・アーデルハイド
鳥籠の中に住まう小鳥は
たしかに幸福なのかもしれない

神隠しのごとき別離によって
おれは本来の家族というものを知らないし
もし再会を望むなら
そのひとたちの姿かもしれない
自らのルーツを示すような
灰色のケモノの其れらと

けれども野を往くモノがあることも
大空に飛び立つ鳥がいることも
もう今は少しだけ知っているから
天の光を示す指先を 白夜の娘へと向けて
…ひろい世界を知りたいと思っているんだ

幸福な白昼夢も
「ずっとここにいたい」という想いも
あたたかな家のような居場所は確かに
いつかは帰れるところとして胸の裡に
世界で生きていく自分の足跡をのこすため
歩いていくよ



●はじまりの目覚め
 白夜の娘が鳥籠いっぱいに注ぎ込む夢幻星夜は、ティースプーン一杯の甘さより無限に優しくて。
 ガスパール・アーデルハイド(護森狼・f44874)の指が触れた先も、暖かく柔らかな雰囲気を湛えていた。
 不思議の世界のクルースニクが視る未知は、遠い昔本能に刻まれた既知のかたち。
 自らのルーツを示すような灰色のケモノの其れらと、確かに今寄り添えているものの。
「おれは本来の家族というものを知らないし」
 神隠しのごとき別離によって、幼少の頃から己はずっと迷いびと。
 心優しき集団に拾われた僥倖に育まれ今日まで生きてこられた。それでも。
「もし再会を望むなら、そのひとたちの姿かもしれない」
 そう思ったから逢えたのだろうか。たどたどしく言葉を繋げ、拙く感情を表現する。
 彼等は嬉しそうだった。

[覚えていなくても、はじまりはちゃんとあなたの裡にあるの]
 傍らで再会を見守る鳥籠の主が微笑んだ。
[逢えてよかった。ここならずっと、一緒に暮らせるから]
 視線を向けたガスパールは、頬に煌めき零す女が翼を広げる姿とかち合う。
 相棒が連ねる羽根とは違う毛色の欠片達が、星空に舞い飛んで。
[ここに居たいと強く願って。わたしが護る、あなたたちだけの楽園に還れるわ]
 降り注ぐ薄明のさいわいを護森狼は静かに仰いだ後、ゆっくり眼を伏せた。
「鳥籠の中に住まう小鳥は、たしかに幸福なのかもしれない」
 此処ならば、心の底に沈む微かな繋がりを確かな形で遺し続けられるのだろう。
「けれども野を往くモノがあることも。大空に飛び立つ鳥がいることも、もう今は少しだけ知っているから」
 もし恩義を感じる者達に出会えなかったら、永遠の停滞を受け入れていたかもしれない。
 されど。彼は既に理解している。そして、その先を望むことも。
 上げゆく片腕は不承諾の意志と覚悟。天の光を示す指先を 白夜の娘へと向けて。
「……ひろい世界を知りたいと思っているんだ」

 星空に差し込む聖なる輝きが、誘いの羽根をかき消しオブリビオンに降り注ぐ。
[どう、して]
 夜明けに融けゆく娘が行かないでと願う手を猟兵へ伸ばす。
 夢と現の指先が、触れ合う事は無かった。
「幸福な白昼夢も、「ずっとここにいたい」という想いも……あたたかな家のような居場所は確かに」
 いつかは帰れるところとして胸の裡にと、餞に捧げた言葉は穏やかで。
 下げた手に触れる、灰色のあたたかさ。拾えたのは失くしている過去のほんのひと欠片だとしても。
 鳥籠の外で、世界で生きていく自分の足跡をのこすために。
「歩いていくよ」
 数多の夜を渡り、今度はこの手で星を掴むから。
 また、その時迄。

 いってらっしゃい。
 朧気な再会達の優しき音色と眼差しに見送られ、意識が夜の底へと沈んでいく。
 きっと、次の目覚めに親しき呼び声や温もりは無いのだろうけれど。
 得た思いも、告げた決意も――鳥籠の総てを幻想にはしたくない。

 次の旅路を夢見て、ガスパールはひと時瞼を閉じていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【調和の絆】で参加:3人





奏が一人で行くといってたのでね。なんか思い詰めた表情だったからおいかけてきた。鳥籠に閉じ込められ、一緒にいる人に目を見張る。

・・・・母上。なるほどね。奏が一人で会いたいと思うのもわかるよ。

でも、3人で帰るんだ。イバラは【迷彩】【心眼】【残像】で避けたいが、絡みつかれたときの過去の幸せな思い出が流れてくるのに歯軋りする。ああ、実家でいつまでも歌を歌えていれば幸せだったよ。でも今更だ。【気合い】【怪力】で【飛竜閃】白薔薇と茨を一気に薙ぎ払う!!

奏、無事かい?律と一緒に帰ろう。

母上。奏と話してくれてありがとう。私はもう大丈夫だ。見守っててくれ。


真宮・奏
【調和の絆】で参加:3人





あ・・・いつのまにかすっかり鳥籠に閉じ込められてます・・・お祖母様は大丈夫のようですね。目の前にいる女の方はオブリビオンですね。優し過ぎて不気味です。

お父さん!お母さん!ごめんなさい。話に夢中になったドジしてしまいまして・・・ええ、帰る家があるんです!!すぐこの鳥籠からでましょう!!

攻撃が精神を乱してきますね・・・トリニティ・エンハンスで状態異常の抵抗力を上げ、【狂気耐性】【呪詛耐性】【回復力】でたえながら【衝撃波】で攻撃します!!

お祖母様、お話できてよかったです。私は家族のみんながいるので、大丈夫ですよ。


真宮・律
【調和の絆】:3人



珍しく奏が一人で任務に出かけていったから心配になってな。思い詰めたような表情してたから。案の定、鳥籠に閉じ込められた奏が。一緒にいるのはおそらく響の母さんか。顔と雰囲気でわかる。

一度あいたいと思ってた。もちろん奏は鳥籠から連れて帰るが。

羽は【迷彩】【心眼】【残像】で避けたいが、たとえここにいたい衝動を付与されても【回復力】で耐えながら、まあここの場所の不気味さは嫌というほどわかってる。ここから家族3人で帰るという明確な目的があるからな。雷電の一撃で羽ごと焼き尽くす!!

母さん。響と奏は俺が守る。安心してくれ。会えてよかった。



●家族の唄
 湖上の鳥籠から、楽し気なユニゾンが聴こえてくる。
 何一つ逃さないと願われ創られた銀色の檻だが――彼等は波長が合うのだろうか。
「奏の声?」
 扉の前で真宮・律(黄昏の雷鳴・f38364)がほぼ確信を以て呟く。
 しかし歌声は二種存在する。もう一つの音色に男は覚えが無かった。
 どうしたものか隣の真宮・響(赫灼の炎・f00434)に視線を向けると、考え込んでいる。
 どうやら彼女もとい、妻には心当たりが有るらしい。
 唯まだ何か疑っているようだ。何はともあれ、娘がこの中に居る事は確かならば。
 夫が促し二人は視線を合わせ頷く。次いで、共に中へと飛び込んだ。
「奏!」
 案の定、鳥籠に閉じ込められた奏が居た。呼び掛けに驚き此方を向き、もう一度驚いている。
「お父さん! お母さん!」
 両親が娘に駆け寄り、家族が合流した。
「奏、無事かい? 律と一緒に帰ろう」
 どうしてと言わずとも、子の視線に気付いた父母が明るく笑う。
「奏が一人で行くといってたのでね。なんか思い詰めた表情だったからおいかけてきた」
 当然の如くと快活な雰囲気を湛える響が先に応え。
「珍しく奏が一人で任務に出かけていったから心配になってな。思い詰めたような表情してたから」
 追い打ちと言わんばかりに律が似たニュアンスの解答で締めくくる。
 似たもの夫婦とも、同じ愛情で娘を見守っているともとれる二人の気遣いは星屑よりも煌いて視えた。
 そんな大事にされてる奏は二人の来訪に喜ぶも、彼等の後方で閉まる扉に気付く。
「あ……いつのまにかすっかり鳥籠に閉じ込められてます」
 漸く現状と状態を理解した。つい夢中になって歌っていたから……唄っていたから?
 そうだと別の心配が脳裏に過り急いで後ろを振り向く。
「……お祖母様は大丈夫のようですね」
 ベンチに座ったままの祖母は変わらず柔和な笑みで親子を見守っている。

 娘の行動を見た母が、安心する姿の向こうに視線を向けた。
 鳥籠に閉じ込められ、一緒にいる人に目を見張る。
 それからああ、やっぱりと独り言ちる妻を横目に夫も予測を確信へ変えていく。
(一緒にいるのはおそらく響の母さんか。顔と雰囲気でわかる)
 少し、と言うには長い時間空白があったとしても響に一番近い男だから十分に理解できる。
 あの風情、笑う顔の数多に愛する人の面影が在るのだから。
「……母上。なるほどね。奏が一人で会いたいと思うのもわかるよ」
 色々を納得し、祖母の娘は己の子へ優しい眼差しを向けるも当の本人は少し申し訳なさそう。
「ごめんなさい。話に夢中になってドジしてしまいまして……」
 素直にしょげてる奏を見た両親は再び顔を見合わせ、それから揃って笑ってみせる。
 大丈夫と返す二人の顔は、一番星より明るく輝いていた。
「一度あいたいと思ってた。もちろん奏は鳥籠から連れて帰るが」
 代表して返事する律が真面目に落ち込む紫の瞳へ頼もしく輝く緑を映す。
 そして父の眼差しは義母へと向け……お義母さんが、何処か違う所を見ている。
 其処は何もなかったが、次の瞬間空気が揺れ空間に波紋が広がって。
[――あら]
 招かざる主催がやってきた。

[素敵、家族が出会えたのね]
 広げた翼をゆっくりと下げ、落涙する白い夜が嬉しそうに微笑んだ。
 異端な状態で良かったと安心した仕草をみせる姿に、親子は警戒心を強める。
「目の前にいる女の方はオブリビオンですね。優し過ぎて不気味です」
 すぐに状況を察知した奏が身構えると、両親も後に続く。
 オブリビオンは穏やかに『逢えた人』へ挨拶した後、視線を三人に向け此処の主である口上を述べた。
 そして奏が望んだひとは静かにベンチから立ち上がり、血と縁を繋いだ者達を見守っている。
 確かに此処では永遠の過去が寄り添うのだろう、でも。
「3人で帰るんだ」
 響が一歩前に出て宣言した。元より彼女達に迷いはない。
 律が同意し、両親に後押され二人の娘もまた気を取り直す。
「ええ、帰る家があるんです!! すぐこの鳥籠からでましょう!!」
 祖母に逢えた事は幸福だ。だが此処が閉ざされた夢現不明な楽園であるならば。
 骸の海が生み出す世界に留まる事は、できない。
[出る? 外は、危ないの。わたしがあなたたちを護るわ。だから]
 もう一度、囚われて。
 誘星が薄明彩の翼を広げ、星を映す水面に夜陰の茨が茂っていく。
 銀籠から出でし双子の小鳥が、高らかに鳴いた。
「響、奏。来るぞ!」
 父の号令に母娘が頷いて。其々が武器を手に、過去の存在と対峙する。

[ここにいれば、あなたはお母様とずっと一緒よ]
 星夜に浮かぶ白薔薇から湧き出た宵闇の茨が、赫灼の炎を取り囲む。
 熟練の戦士は迫る拘束達を見極め、素早い動きで星夜に紛れ回避していく。
 夜陰の縛りは僅かに残された虚像を飲み込んでも尚、本体へ押し寄せる。
 それは一瞬の交差だった。天より迫り来る棘の波を薙ぎ払った刹那、湖中から湧く一束に足を絡め取られた。
 すぐ響の動きが止まり、紫色の焦点が霧散する。
 脳裡に過去の幸せな思い出が流れて溢れ、堪らず奥歯を噛み締め歯軋りした。
「ああ、実家でいつまでも歌を歌えていれば幸せだったよ」
 大事にしてくれて、弱る身体を押しても響かせ続けた優しい母の心や歌声は裡に根付く礎として確かに在る。
「でも今更だ」
 己は、恋した人と共に居たくて家を出た。その選択と判断に迷いも悔いも無い。
 築き上げた信念の象徴に情熱が灯る。誘いの暗闇を振り払って、神経を研ぎ澄ませた。
 紫炎の瞳に輝きが戻る。燃え盛る切っ先を偽りの幻惑に向け、駆け出した。
「確実に当てて見せるさ!!」
 竜騎士が放つ灼熱の一撃が昏き束縛を燃やし白花を散らしていく。

 舞い落ちる羽根が、外は危ないと訴えかける。
[外に出なければ、もう離れ離れにならないから]
 誘いの欠片が黄昏の雷鳴へと降り注ぐ。されど羽先が触れた身は残像だった。
 雰囲気も回避も似ている辺り夫婦の絆を垣間見つつ。戦場に紛れる猟兵へ追撃の量は増えていく。
 遂に実体へと黎明が至り、律の精神に強い感情が芽吹いて裡を蝕んだ。
 胸を抑え顔を顰める。たとえ、ここにいたい衝動を付与されても耐えると心に決めていた。
 ここの場所の不気味さは嫌というほどわかってる。だからこそ自分を律し、強く在れる。
「ここから家族3人で帰るという明確な目的があるからな」
 意志を諸手に込め、己の相棒を握り締める。白銀の髪がふわりと揺れた瞬間、身に電流が走った。
 それは魂人の身体から周囲へ連鎖し隣接する羽根を伝い空間に広がっていく。
 戦慄く仕草は力の制御。膨れ上がる信念が、破裂する。
「羽ごと焼き尽くす!!」
 猛る戦闘猟兵の一咆えに雷電の一撃が呼応し、解き放たれた。
 感電の衝撃が全ての誘いを焼き尽くす。

 両親の活躍を頼もしく思いながら、絢爛の星は凛々しさを湛え剣を構える。
 一呼吸後、渦巻く三種の魔力を加護にして。マジックナイトは戸惑いの顔を浮かべる白夜の娘を見据えた。
[どうして。大切な人と、居られるのに]
 哀しむ声に反応して飛び立つ夜色の双子鳥も泣いている。
 奏の周囲を旋回する二羽が齎す、先の見えない安心感。気持ちが不安定に傾いていく。
「攻撃が精神を乱してきますね……」
 堪え、心を奮い立たせる。どんな幻想や惑いが交じろうと、調和の絆を望む侭奏でられるように。
 自分は独りではない。今なお戦う家族に援護され、標的への道は開かれている。
 灼熱と霹靂が夢幻を打ち破り、炎雷の娘が刃に魔力を込めた。
「攻撃します!!」
 幽閉の拒絶を高らかに、振り下ろした衝撃波は家族の間を奔り抜け誘星を打ち砕く。

 斬られた所から星屑と成って白夜が崩れていく。
 煌く涙。伸ばされる手に――そっと、年輪を刻んだ手が重ねられた。
 銀色揺らぐ鳥籠に、優しい旋律が響く。それは真宮家の血を受け継ぎ後世へと渡す唄声だった。
 身を削ってまでも人々の為に。穏やかに奏でられる餞が、贈られて。
[……あたた、かい]
 瞬きに消える姿を見送り、自身もまた少しずつ星夜に融ける姿を家族に向けた。
 別れが近い。それでもずっと微笑み続ける祖母へ孫が一歩前に出る。
「お祖母様、お話できてよかったです。私は家族のみんながいるので、大丈夫ですよ」
『逢えて、一緒に歌えて嬉しかったよ。結婚おめでとうね』
 明るく笑ってみせる奏に逢えた人は嬉しそうに頷いて。
「母上。奏と話してくれてありがとう。私はもう大丈夫だ。見守っててくれ」
『響、立派になったね。いつでもずっと見守っているよ』
 成長した響に彼女の母は素直な気持ちを伝え、眼差しは何処までも柔らかい。
「母さん。響と奏は俺が守る。安心してくれ。会えてよかった」
『私もですよ。娘と孫を、よろしくお願いします』
 生前に逢えず伝えられなかった言葉を律は捧ぐ。義母は深く、お辞儀をした。

 もう殆ど透ける人は三人を見回し、一等の笑顔を輝かせる。
『どうかこれからも、家族仲良くね』
 星夜の幻想も、夢幻の邂逅もひと時微睡めば消えゆくだろう。
 けれど彼等の心に輝く思い出は、いつまでも遺り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

水澤・怜
★☆
先に敵の攻撃に気付く兄
『そういえばあの娘も白薔薇を纏っていたな』
なんて軽口を叩くものだから
「またそういうことを…」と苦笑しつつも
やはり兄との実力差を思い知らされる

俺だけが『幸せだった』と思い込んでいた共に過ごした思い出
兄さんも…少しでも純粋に幸せを感じていてくれていたらとどうしても願ってしまう
だがもう…過ぎた時は戻らない

俺はあの時、この背の傷と共に兄さんの遺志を背負うと決めたのだから
だから…さよならだ
敵に月白でUCを

今は未熟な身なれど兄さんから譲り受けた|軍刀《傾月》も…いつか使いこなしてみせる

(無念から解放された今は弟の幸せだけを願っているというのに…こいつが堅物なのは相変わらずらしい)



●また、桜咲く日まで
 突然の来訪者で驚く怜をよそに、誠が『ああ、君か』と挨拶を交わしている。
 鳥籠で逢う人は主であるオブリビオンにも友好的なのだろうか。
 白手袋の指先を口元に添え、影朧斬りと呼ばれた男は僅かな間思案に意識を傾ける。
 その刹那。視界へ急速に入り込んできた白き軍服の腕が、學徒兵が携える軍刀の柄を掴み引き抜いた。
 猟兵が驚き顔を上げる合間で大太刀型の刃が舞い、夜陰の茨が斬り裂かれ星夜に散っていく。
 見開く緑目の眼界には先に敵の攻撃に気付く兄が弟を護る、その後ろ姿が映し込まれた。
[なぜ、止めるの?]
 次に聞こえたのは白夜の娘が不思議がる声。幻朧斬りと呼ばれた男は、ふっと息をつき。
『怜は、此処から出なくてはならないからな』
 春咲く笑顔を満開にした。

 そのまま振り向き『そういえばあの娘も白薔薇を纏っていたな』なんて軽口を叩くものだから。
 色々張り詰めていたものが再びはらはら解けていく。
「またそういうことを……」
 苦笑しつつも、やはり兄との実力差を思い知らされる。
 あの誠実な背中は今でも頼もしくて、憧れだった。
 茨が心に刺さらずとも、俺だけが『幸せだった』と思い込んでいた共に過ごした思い出が蘇る。
(兄さんも……少しでも純粋に幸せを感じていてくれていたらとどうしても願ってしまう)
 願いの果てがこの邂逅なのだろうか。だがもう……過ぎた時は戻らない。
 彼は白夜の誘いを断ち切ってくれたが、それ以上何かするつもりはないようだ。
 過日の軍人が、お前がやるんだと眼差しで伝えて来る。怜も静かに頷いて。
「俺はあの時、この背の傷と共に兄さんの遺志を背負うと決めたのだから」
 瞳に意志を宿し、洗練された仕草で相棒を抜刀する。
 月の如き蒼白い光が星夜に瞬く。あらゆる闇を斬る切っ先を、鳥籠の主へと向けた。
「だから……さよならだ」
 強き意志を以て湖面を蹴り、桜花を舞わせ。
 逢えた人の隣を――越えていく。
 決意を込め握り込んだ月白で一閃。幻惑の夜陰を討ち、衝撃波が銀の檻を打ち砕いた。

 白い欠片を散らし消えゆく娘を二人で見送り、融け始めた星夜の世界で兄弟は向き合う。
 今一度誠が差し出す形見を、怜が確りと受け取った。
「今は未熟な身なれど兄さんから譲り受けた|軍刀《傾月》も……いつか使いこなしてみせる」
 改めて手にした重さを生真面目に確認する弟へ、見守る兄が彼知れず苦笑する。
(無念から解放された今は弟の幸せだけを願っているというのに……こいつが堅物なのは相変わらずらしい)
 でもそれで良い。今は、この想いは旅路に持って行こう。
 再び視線が交差する。煌めく湖面と同じくらい、もう透けた指先で一片の花弁を見せつけた。
『餞別に貰っていく』
 またもさらばでもない離別の言葉に、すれ違う際舞い落ちた桜花を供にして。
『兄さん』は瞬く星と同じ煌めきになって、消えていった。

 夜空を仰ぐ怜に、北極星の輝きが降り注ぐ。
 彼もまた待つ人達の元へ戻る為――目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

未丘・柘良
★☆
兄弟水入らずんトコ来るだなんて野暮だなお嬢

兄貴が俺を庇った時、嫌な記憶が蘇る
俺を守る為にその身呈したあの瞬間を
春兄は……優しすぎるんだ
ずっと共に居たいと願う思いより現実が俺を突き動かす
そうだ、俺は行かなきゃならねぇ
一緒に星を見たガキの頃と違うんだ、何もかも
――この機械の瞳や腕の様に

悪ぃがこんな綺麗な籠に収まってるには俺様は穢れすぎた
袖から零れ落ちる雀牌を礫として放つ
放つ役は一気通貫
ただひたすらに真っ直ぐに思いを決意を叩き付ける

さて、兄貴…お別れだな
バカ、もう泣いてなんかいねぇよ
次に逢う時はアンタもアンタじゃないんだろうが…
俺の記憶に残る兄貴がそのままで、良かった
また、な…優しかった春兄



●第一打牌に願いを込めて
 發より綺麗な緑色を発する三ツ目が刹那、数秒先の未来を視る。
 その予知通り猟兵へ降り注ぐ薄明の羽根達を――兄が二丁拳銃から放つ弾丸で総て射ち落した。
 銀柵に跳弾させ縦横無尽に飛び交う様は、閉鎖空間に流れた星群のよう。
『全部撃ち抜けたかな。柘良は……無事だね』
 少々呆気に取られていた動きすら聞き分ける春真の声で、弟は我に返る。
 また、兄貴が俺を庇った。自身に付いた羽根は払わず安心する光亡き目を見た時、嫌な記憶が蘇った。
 忘れ得ぬ惨劇を、俺を守る為にその身呈したあの瞬間を。
(春兄は……優しすぎるんだ)
 想いを胸中で形にした瞬間、ずっと共に居たいと願う思いより現実が柘良を突き動かす。
「そうだ、俺は行かなきゃならねぇ」
 道は違えたが、未知なる未来も平行線かは己次第だ。
 今は襲撃に何もできなかった自分ではない。
「一緒に星を見たガキの頃と違うんだ、何もかも。――この機械の瞳や腕の様に」
 共に星空を眺め同じ煌めき映した幼き眼も、天を指差し星座を報せた小さな手も思い出に置いてきた。
 もう、過去の上映会は終いとしよう。

 踏み出す足音に弟の意志を聞き取り、兄は静かに道を譲る。
 開けた先のオブリビオンへ天眼の男は不敵に笑った。
「兄弟水入らずんトコ来るだなんて野暮だなお嬢」
[ごめんなさい。もう一度囚われたら、わたしは消えるわ。でも……]
 白夜の娘は先程妨害した男を見やる。気配に気づいた春真は振り返って。
『すまないな。今の俺が、柘良にしてやれる事なんだ』
 穏やかな顔で過去が一歩後に退く。代わりに、未来を選らんだ弟が前に出た。
「悪ぃがこんな綺麗な籠に収まってるには俺様は穢れすぎた」
 宣言と共に袖から零れ落ちる雀牌は一索。異色が雑ざる鳥は、緑一色にそぐわない。
 偽りの幸福は捨牌に。例え彼の眼に光が無かろうと、揃いの彩はいつか自らの手で救い出す。
 だから、今は。
「安手だが、これで和了にしてやるぜ」
 礫として放つ役は一気通貫。この夜に揃えたのは先へと進む為の覚悟達。
 ただひたすらに真っ直ぐに、思いを決意を叩き付けた。

「さて、兄貴……お別れだな」
 誘星が消え、改めて視る兄は何処か伺う様子で此方を見……耳を澄ましている。
「バカ、もう泣いてなんかいねぇよ」
 悪態付いたら穏やかな声が軽く弾んだ。
 柘良は喉から出かけた言葉を一度飲み込んでから、ゆっくり口を開く。
「次に逢う時はアンタもアンタじゃないんだろうが……俺の記憶に残る兄貴がそのままで、良かった」
 覚悟の上の言葉と、堪らず出た本心の音色は違わず兄の耳に届いて顔を緩ませる。
『俺の弟もそのままだね。どんなに姿形が変わろうと、柘良の音は変わらないさ』
 そうしてハマルとシェラタンは、天と同じ耀きで笑い合った。

 逢えた人が、思い出のプラネタリウムが。
 銀河の彼方へ煌めきと成って消えてゆく。
「また、な……優しかった春兄」
 幻想から目覚め行く柘良が、牡羊座を見上げ一つの輝きを遺していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】★☆

鳥籠の中?
愛おしそうに鳥籠を撫でる女性
なるほど、ここは彼女の世界なのだろう
『逢いたい人』に逢える、それも現実とは違う夢の世界

『ゆぇぱぱ』と呼ぶ声がする
あぁ、よかった。俺の小さな娘
無事で良かったです、ルーシーちゃん。大丈夫ですか?
駆け寄る娘の手を握る
ふふっ、そうですね

二人の影
俺の『母親』とルーシーちゃんの『父親』

『ユェー、どうしたの?一緒に帰りましょう?』
貴女は俺じゃないあの男と一緒にいたい筈
手を伸ばす女の手を見つめて
母上、すみません
彼女は僕の娘です、この手は娘の為に貴女の手は取れない
ララの父上様こんにちわ
貴方の代わりに娘は僕が護りますから

その時彼女からの攻撃を『母親』が庇った
『ユェー、愛してるわ』
何故、俺を庇った?愛してるわけじゃないのに
背中に温かさが伝わる
えぇ、ありがとう
いつも傍に居てくれて

娘とは『血』は繋がってない
でも今まで一緒に生きた『絆』は『血』よりも濃い
俺と彼女は『父と娘』誰よりも濃い『家族』

嘘喰
『偽物家族』は喰ってしまいましょう
この夢の世界と共に

『娘』と外へと


ルーシー・ブルーベル
【月光】☆

現れた人はとても綺麗で
つかの間見とれてしまうけれど

ゆぇパパ!
無事ね?良かったわ
握る手が温かくて安心して
居るべきなのはやはり此処なのね

その方は…
ごきげんよう、ゆぇパパのお母さま
パパ、こちらはブルーベルのお父さま
そしてお父さま、ご紹介するわ
今ララはゆぇパパと過ごしているの
とても…、幸せなのよ

ここに居る父は
本物の父ではないと理解してる
けれど…いえ、だからこそ
ご挨拶が出来て良かった

お父さま、見ていてね
ララは結構強くなったのよ
『蒲公英の散花』
檻は確かに安心するけれど
外に出る事が出来ればみえるものもある

パパ!気を付けて…!
お母さまに護られた、そのお顔を
胸中を思うと心が苦しい
近寄り背をさすって
パパ…言いたい事は言葉にしてもいいの
ララはずっと傍にいるよ

お父さま
先程は答えられなかったけど
ララはね、ブルーベリーチーズケーキが好きよ
ゆぇパパが作るケーキが一番!

あなたが遺したララは
もう外をでララの路を進んでいる
だから、さようなら
お家の事も心配しないで

…行きましょう、パパ
見送った後
『父』と手を繋いで外へ



○Re:父娘
 鳥籠を囲う透徹の星空は果て無く高く、春は未だ遠い。
 半魔の親子は離れ離れ、冬の寒さも互いの距離も掴めぬ現夢不明の夜に囚われる。
 されど。

 ――空気の変化に気付いたユェーが顔を上げる。
『どうしたの、ユェー』
 柔く尋ねる母を開放し、離れゆく女の繊指から視界を異なる気配へと移動させた。
 愛おしそうに鳥籠を撫でる女性の存在で、現在の状況を理解する。
(なるほど、ここは彼女の世界なのだろう)
『逢いたい人』に逢える、それも現実とは違う夢の世界。
 此処に居れば、幻は|現実《しんじつ》で在り続けるのだろう。
 でも。あの後姿に、帰りますと誓ったから。
 ――花柄の皿を見つめるララが、空白に言葉を乗せようとして。
『おや、君も来たのかい』
 父が投げかけた声でブルーベル家の娘は来客を認識する。
 現れた人はとても綺麗でつかの間見とれてしまうけれど、紡がれた台詞に現状を思い出す。
 そうだ此処は。けれど今をまほろばと呼ぶにはあまり、にも。
 ララ、***。
 不意にルーシーの服を引く小さな手。『ルーシー』が、内緒話を囁いて幽世蝶へと還っていく。
(……そうね)
 帰ってくると、言ったから。

 彼等が掬び結った|絆《ひかり》は例え何光年離れようと途切れる事は無い。
 母親の隣で零月ノ鬼が見据え、お父さまの傍で願いの子と別れたミオソティスが再度顔を向け。
 二人の視線が誘星に重なる瞬間――ふたつの『空間』が解き放たれ、繋がった。

「鳥籠の中?」
 先程迄居た御屋敷とは違う、星空を映す湖と巨大な銀籠だけの場を見渡す。
『母』は居る辺り未だ此処は『彼女の世界』かと考察しかけて、一旦思考が停止した。
 ゆぇぱぱと呼ぶ声がする。幻聴か? 否、あの子の聲を聞き逃す事は無い。
 金の双眸が数多に幻想瞬く惑いの夜と、唯一の|耀き《げんじつ》を映し込んだ。
「ゆぇパパ!」
 急にお茶会の庭が消え、『お父さま』だけが星夜に残る。
 巡らせた視線の先でララはパパを見つけ、思わず叫び迷わず駆け出した。
 駆け寄る娘の手を、父が確りと握り受け止めて。
「あぁ、よかった。俺の小さな娘」
「無事ね? 良かったわ」
 同時に発する気遣いの言葉が互いを照らす。見合う顔が、揃って笑った。
「無事で良かったです、ルーシーちゃん。大丈夫ですか?」
 降り注ぐ優しい声と握る手が温かくて安心して、心からの笑みが止められない。
 そっと心に灯る想いが、暖かな確信と変わっていく。
「居るべきなのはやはり此処なのね」
 反射し合う月の光は、今の二人を象るかけがえのないもの。
 例え優しい過去が呼び、安らぎの暗闇が誘おうとも。
「ふふっ、そうですね」
 結んだ縁は何にも別つ事等出来やしない。

[ふたりは一緒が良かったのね]
 宵闇に滲む柔らかな声。ここならみんな一緒ねと、落涙の白き夜は嬉しそうに皆を見ていた。
 視線の意味に気付き、改めて猟兵達は『二人の影』と対峙する。
(俺の『母親』とルーシーちゃんの『父親』)
 互いの具体的な『過去』は先と変わぬ雰囲気で存在していた。だが何故だろうか。
 言葉に詰まり返事を迷っていた時とは、景色も気構えも違う気がする。
『ユェー、どうしたの? 一緒に帰りましょう?』
 過日を混ぜた美しい虚像が、煌めく夜にきれいな『貴女』が我が子を望んでいる。でも。
(貴女は俺じゃないあの男と一緒にいたい筈)
 白夜の誘い夢に温もりを得ても、『彼女』の子が知る事実が変わる事は無い。
 それに。
「その方は……」
 呟く娘の小さな手から伝わる心の揺らぎに父は気付き、優しく包み込んだ。
 少女の指先もそれに応え確りと握り合った侭、彼のルーシーが一歩前に歩み出る。
「ごきげんよう、ゆぇパパのお母さま」
 飾らぬ想いを形にし、一礼を捧げる青花の姿。次に手を伸ばす『女』の手を見つめて。
 過去の華へ、今度こそ――口を開く。
「母上、すみません」
 落ち着いた声色で呪われし者と呼ばれた男は停滞を斥ける。
 朧月は変化を望み、少しずつ確かに変わっていった今を選ぶ。
「彼女は僕の娘です、この手は娘の為に貴女の手は取れない」
 父の代わりに愛された子から、大切な娘と共に歩んで行く父親へ。
 月は、照らされているからこそ輝ける。

『ララ、もうお茶会は良いのかい?』
 問う優しい声と望んだ眼差し。確かにこの光景は願いの果てだった。
 されど今、ララの心には駆け出したい衝動よりも強い想いが咲いている。
 後押し一片青き花の加護も淡く纏わるなら。最後の勇気を貰う為、尊き一つの瞳は親しき隣人を映した。
「パパ、こちらはブルーベルのお父さま」
 青と金が交差する。頷くパパに微笑んだ後、視線は『お父さま』へ。
「そしてお父さま、ご紹介するわ」
 過去の花へ、ルーシーとして気品を携えて。
 告げる言葉はララの想いを、意志を込める。
「今ララはゆぇパパと過ごしているの」
 辟易しても見捨てられなかった日々は、決していやではなかった。
 けれど其処では密かに望み続け、罪にも成った願いは真に花開く事叶わずに。
 少女は新しい縁から、煌く今を育て続けている。
「とても……、幸せなのよ」
 新しい道を選び共に歩む人もいると伝える姿は年相応の幸いを形にしていた。
 隣に並び立つユェーもまた、同じ笑みを顔に描いて。
「ララの父上様こんにちわ。貴方の代わりに娘は僕が護りますから」
 丁寧な礼を添え、今を彩る未来への誓いを『彼』へと告げてくれた。
 ここに居る『父』は、本物ではないと理解してる。
(けれど……いえ、だからこそ)
 想いを伝えよう、星夜の虚像を通して自身の裡に。
 底に残された|キャロットケーキ《苦手な思い出》だってもう|食べて《乗り越えて》みせよう。
「ご挨拶が出来て良かった」
 今は、笑顔で言えるから。

『逢えた人達』がどんな返事をしても受け入れるつもりだった。だが。
[親子、家族。とてもすてき。だからみんな一緒に、ずっと居るの]
 招かざる第三者の喜ぶ声。その意味を、猟兵達が理解する前に術が放たれる。
「パパ! 気を付けて……!」
 娘が呼び掛けるも、既に数多の羽根が目前と迫り回避が間に合わない。
 その時、彼より華奢な質量が視界を遮った。あり得ない光景が再び男の現実を彩る。
 決して息子を選ばなかったあの手を広げて、彼女からの攻撃を『母親』が庇った。
『ユェー、愛してるわ』
 告げられた台詞も現状も、理解の処理に負荷を与える。
(何故、俺を庇った? 愛してるわけじゃないのに)
 奏でた言葉は、身を挺して迄貫く想いはあの男のものなのだろう?
 それなのに。嗚呼。どうしてと万感の思いが胸を埋め尽くし常の貌を描けない。
 立ち尽くすパパを見上げる少女もまた、伝染る切なさを表情に映し空く手を握り込む。
(お母さまに護られた、そのお顔を)
 胸中を思うと心が苦しい。そっと近寄り背をさすって、この身は心と一緒に寄り添えるなら。
「パパ……言いたい事は言葉にしてもいいの」
 贈る言葉は自らにも言い聞かせ、望みを込めて大切な後ろ姿に頬寄せる。
「ララはずっと傍にいるよ」
 幼き聲は小さな星明りとなって、大きな背中に温かさが伝わっていく。
 動揺に冷えたユェーの瞳に煌めきが戻り、雪解けの笑みは自然と零れた。
「えぇ、ありがとう……いつも傍に居てくれて」
 並び立って笑い合えばもう大丈夫。さあ、懐古を演じる夜の現夢は終わりにしよう。
 瞳の青き一輪が宵に沈む双鳥を捉えても、ララは臆さず凛と咲き誇る。
 大事そうに鳥籠抱える白夜を見つめた気高き大輪は、ひと時の安らぎに目を向けた。
「お父さま、見ていてね。ララは結構強くなったのよ」
 微笑む顔が蒼明るい花弁を纏い、次第に彩を黄色く燦めき替えてゆく。
 差し出す小さな掌へ蒲公英色の散花が集い、炎球の花束を創り出す。
「檻は確かに安心するけれど、外に出る事が出来ればみえるものもある」
 ダンデライオンに想いを添えて、ふっと一息吹きかけるのなら。
 怪炎の綿毛は揺らいで弾け、誘い泣く夜の鳥達を花色へと散って魅せた。

 束縛も白昼夢も消え、残ったのはオブリビオンと過去が創った『血縁』だけ。
 蒲公英の残り火が先を照らすなら、幕引きを担う手が鳥籠の主へと真直ぐ伸ばされる。
「娘とは『血』は繋がってない」
 白の半魔を起点に凪いだ湖面が水紋広げ、力の行使に煌めく白銀が仄々波打つ。
 現と夢、重なる星夜にズレが生じ天の瞬きが揺らめいた。
「でも今まで一緒に生きた絆は『血』よりも濃い」
 内なるモノ偽りのモノに死の紋様を。虚を剥がして、真実を魅せつける為に。
「俺と彼女は父と娘。誰よりも濃い、家族」
 今こそが、二人が選び至る|現実《ほんとう》であると。
 思い出の遠き光すら受け入れて、行く道を照らす耀きへと昇華してみせるから。
「嘘喰。『偽物家族』は喰ってしまいましょう……この夢の世界と共に」
 零月ノ鬼が放つ無数の華達は白き誘星へと喰らいつく。
 喰華が鳥籠に終焉を齎す最中、ユェーは導かれ往く『女』を見つめていた。
『ユェー』
 此方に向けるあの視線に、愛など無いと解っている。筈なのに。
『愛しているわ。ずっと、これからも』
 呑まれ消えるその瞬間迄『母親』はきれいに笑っていた。

 千切れた白夜の夢が終幕と成り行く中で、少女は残る『逢えた人』を見ていた。
『お出かけかい、ララ』
 最後の時迄優しい『父』へ、身代わりだった女の子は微笑みひとつ頷いて。
「お父さま。先程は答えられなかったけど……ララはね、ブルーベリーチーズケーキが好きよ」
 あのテーブルに、ふたりの好きなものが並んだらきっと幸せだったのだろう。
 でも今その願いは叶わない。それでもいい、だって。
「ゆぇパパが作るケーキが一番!」
 ブルーベルの家では作れないからと、朧さん家のララが笑う。
 それから――ほんの少しだけ眉尻を下げ、儚い微笑みを『彼』に贈った。
「あなたが遺したララは、もう外でララの路を進んでいる」
 それは気高き青花の、心決めて告げる別れの言葉。
 後ろ手で寄り添うパパの服をぎゅっと握るなら、優しい手が支えてくれた。
「だから、さようなら。……お家の事も心配しないで」
 上手く言えたかな。薄い水膜で滲んだ先の表情は、伺い難くて。
『いっておいで。いつかまた、おかえりと言える時を待ってるよ』
 どんな君でもね。
 優しい余韻を残して『お父さま』が星屑と散っていく。

『過去』を見送った後、再び親子は向かい合い視線を交わす。
「……行きましょう、パパ」
 彼等は優しき幻想に、|枠《『血族』》に囚われる事を拒んだ。
 父と手を繋いで、娘と外へと。
 |過去《『』》から放れた絆で結ばれた二人は、現実の星夜へと還り征く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と合流

外に出なければずっと一緒
その言葉に嘘は無いのでしょうね
この羽根を受けても痛みはありませんから
それでも私は外へ出ます
約束したのです
今を生きると
生きて見送って
ずっと覚えていると決めたのです
それは鳥籠の中では叶わない
私は優しい夢に縋る訳には行かないのです

外に出たら葛城さんと合流
ご一緒、頼もしいです
葛城さんがいれば
きっと大丈夫
葛城さんはいつも正しい道を行くひとだから
逢えた方とのお話は尋ねません
きっとそれは
葛城さんにとって大切なもの
視えなくても
私が逢った人が誰かは
きっとお見通しですね

みづきは僕の後ろにいてね
アリアの攻撃は痛くないけど
君が傷つくところは二度と見たくない

葛城さんが逢えた人を護るためにも
私も前へ出ます
私だって葛城さんの事
お護りしたいですからね

みづきに逢わせて下さった事は
私もお礼を言いたいです
でも
貴方をこのままにはしておけないから
私が使える力の中で
苦しむ時間が最も少ないものを

桜花燐光撃使用
せめて光の中で眠って下さい

ごめんね、みづき
君の事は
ずっとずっと大好きだよ


葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と合流

居てはいけない
此処で微睡めば俺は誰も護れない
失った残滓の中で視る優しい夢は
俺の誓いからは遠すぎるから

意を決し鳥籠の外へ踏み出すと
目の前に見慣れたダチの背中

ああ、そうだ…
神臣は俺の過去と現在を識る存在
今の俺の舫綱

「ん、此処からは一緒だね」
喉声で返事したら頷いてくれる
視えないけど
きっとその背には愛した少女がいるね

俺の背後には両親
心配の気配は感じるけど手で制して
「大丈夫…俺がやりたい事だから」

あの時は護れなかった
でも今なら
そして視えなくても神臣の大切なひとも
「安心して…神臣は必ず俺が護るから」
呟いてダチと前を向く

戦いは必然
でも彼女は優しい時間をくれた
だからせめて
激烈な戦闘にはせず送りたい

俺への攻撃も神臣へのも防御と技能で防ぐ
後ろへも通さない
「ゴメン…俺は大切なものを護ると決めたから…でも」

ダチと連携した命還光が届く
「会わせてくれて、ありがと…」
二つの光で還ってと祈りを

振り返ると消えゆく両親から
いってらっしゃいと声が
「…いってきます」
しっかり応え今度は俺が見送ろう



○葬送のルミネセンス
 満天の星が放つ、細やかで温度の無い瞬きは永遠の燐光を思わせた。
 その輝きは今この場所でも。苦手な寒さは無く、想い人が傍に居る鳥籠でも同じなのだろうか。
「外に出なければずっと一緒、その言葉に嘘は無いのでしょうね」
 不意の来客に立ち迎えた薙人が、白夜の台詞に返した一言は星夜へと融けていった。
「この羽根を受けても痛みはありませんから」
 嬉しそうな誘星が散らす一枚を掌に乗せれば、淡雪のように溶けてゆく。
[痛いのは厭なの。あなたも同じだといいな]
 同じ。その言葉を辿り映す視線の先で微笑む『逢えた人』は傷も無く、痛々しさとは程遠い。
 ずっとここにいたい。言うのは簡単で、そう思う事自体は悪ではない筈だ。
 それでも。……大切な従妹へ、眼差しを和らげる。
「私は外へ出ます」
 真直ぐ続く想いの果てへ、変わらぬ心で意志を伝えた。
 思いを捧げたひとは『一緒だと楽しいね』って言ってくれた時と同じ顔で笑っている。
「約束したのです、今を生きると。生きて見送って……ずっと覚えていると決めたのです」
 覚悟なんて、とうの昔に。その上で此処に来たのだ。
 結んだ約束を断つ事無く、これからも枯れぬ桜と供に季節を巡り往く。
「それは鳥籠の中では叶わない。私は優しい夢に縋る訳には行かないのです」
 みづきからアリアへ向けた断りの挨拶は慇懃な彼らしいものだった。
 髪に編み込む赤い飾り紐が靡き引かれる思いはしたけれども、桜の精は出口へゆっくり歩み行く。
 そうして鳥籠の扉を、外へと一歩踏み越えた。

 時人の傍で優しい眼差しを向ける父と母の輪郭が、共に星空を仰いだ時より儚くなっている。
 彼等から零れる幽けき光の欠片が夜陰へ消えゆく様は蛍光を思わせた。
[外に出たら、あなたの家族は消えてしまう]
 落涙の娘が気遣う彩を溶かした声で引き留めるも、これで良いと思った心に変わりは無い。けれど。
 ゴーストが来なければ、自分が護れたら。軋轢や相違を融和できる時間があったなら。
 もしもの希望を集めたフォトンは、永遠に来ない理想の未来を形にしてくれた。
 望郷を伴い寄り添う両親。消えるのが惜しいのなら残るべきか……否。
「居てはいけない」
 逢えた人達を見据えた子が、猟兵と成ってオブリビオンに視線を向け意志を告げた。
「此処で微睡めば俺は誰も護れない」
 星望が照らす夢幻の揺り籠は不完全な安らぎと停滞を与え、やがて緩やかな衰退へと堕ち逝くのみ。
 現実は御伽噺の様に願いが一つ叶ってめでたしだけでは終われない。
 覚醒した力で|頁外の噺《未来》を描き続け、力無き者へと書き殴られた悲劇を防ぎ書き換える。
 そう決めたのだ。|過去《アリア》では紡げないこれからを歩む一人の盾として、能力者としても。
「失った残滓の中で視る優しい夢は、俺の誓いからは遠すぎるから」
 往日は変わらない。あの時見た記憶も抱いた想いも糧とし、成すべき事を遂げる為に。
 目線を外の道へ、出口に向ける。意を決し鳥籠の外へ踏み出すと――。
「……神臣?」
 目の前に見慣れたダチの背中が在った。

 二人の猟兵が邂逅した場所は、変わらず星空と銀籠を映す湖面の上だった。
[もう外に出なくて大丈夫。だから、出口はないの]
 夜に浮かぶ誘星が微笑んでいる。『逢えた人』も傍に居るなら、どうやら戻ってしまったか。
 彼女を討つしか外に出る術は無いらしい。状況は把握したが、先ずと薙人は親しき友へ向き直る。
「ご一緒、頼もしいです」
 現状の幸いは彼と同じ空間に来られた事。葛城さんがいれば、きっと大丈夫。
 僅かな時間で現状判断し、すぐ理解を示す彼の眼差しに頼もしさを覚える。
(葛城さんはいつも正しい道を行くひとだから)
 ふと、その背で幽かな揺らめき示す凡そ人型の極光に気が付いた。
 淡く儚い煌めきは二人分。嗚呼そうか。あれは、でも。
(逢えた方とのお話は尋ねません)
 きっとそれは、葛城さんにとって大切なもの。何故なら自分もそう願ったから。
(視えなくても。私が逢った人が誰かは、きっとお見通しですね)
 想いを彩る顔で笑いかける。そして相手の時人もまた、ダチとの合流に安心感を抱いていた。
(ああ、そうだ……。神臣は俺の過去と現在を識る存在、今の俺の舫綱)
 同じ世界で過去を持ち、同じ種の相棒を宿す者同士だけでは彼等の絆は語り尽くせない。
 隔離された鳥籠で互いを手繰り寄せた綱の名は――信頼だ。
「ん、此処からは一緒だね」
 喉声で返事したら頷いてくれる。多く語らずとも分かり合える間柄は共闘するにも心強い。
(視えないけど、きっとその背には愛した少女がいるね)
 視界の端、桜咲く友の背後で寄り添う小柄な燦めきへ元来鋭い眼光を僅かに和らげた。
 己と同じく願いは形を成し、星を望めたのだろう。
 例え是より等しく、再度の別れが訪れようとも。

 背後の両親が、俺を見ている。心配の気配は感じるけど手で制して。
「大丈夫……俺がやりたい事だから」
 未来は違えたから、正しい形はもうわからないけれども。
 今も胸中に毅然と輝く一等星の誓いを胸に、息子としての顔と言葉で時人は告げた。
(あの時は護れなかった、でも今なら)
 此れより戦うのは抗う術を持たず争えなかった過日の悔恨。
 例え白き夜が喚んだ煌きでも『逢えた人達』を背に立ち向かえるのなら。
 そして――視えなくても、神臣の大切なひとも。
「みづきは僕の後ろにいてね」
 春の枝を揺らし、薙人が伝えた言葉は受け入れられ少女が移動する。
 防寒と着込んだ装いの背に感じる恋しき気配。振り向きたい衝動あれど、すべき事があるから。
 今は君を、『逢えた人』を守りたい。
(アリアの攻撃は痛くないけど、君が傷つくところは二度と見たくない)
 そんな想い人に心寄せるダチの横顔を眺めた時人が、僅かに口を開く。
「安心して……神臣は必ず俺が護るから」
 呟くに留めた言葉は星空映す湖に落ちていくも、気配に気付いた少年と視線がかち合う。
「私も前へ出ます」
 改めて向き合い、真直ぐ相手へ眼差しと言葉を投げかける。
 護られているのは解っている。でもそれは、自分も同じだから。
(葛城さんが逢えた人を護るためにも)
 志が同じなら、彼の背を見るよりも隣に立って共に立ち向かいたい。
「私だって葛城さんの事、お護りしたいですからね」
 交わした眼に同じ輝きを宿し頷き合って前を向く。
 護る為に、志を貫く為に。また一歩先に進む道を彼等は選ぶ。

[どうして。外は、危ないの。いかないで]
 並び立つ猟兵達を見た落涙の貌に不安が宿り、翼が戦慄いて薄明の欠片が鳥籠へと鏤められた。
 戦いは必然、でも彼女は優しい時間をくれた。だからせめて。
「激烈な戦闘にはせず送りたい」
 時人の言葉は今度こそダチに伝わり、同意の声が返って来る。
「みづきに逢わせて下さった事は、私もお礼を言いたいです」
 誘いの術が数多に降り注ごうと、思いに惑いも焦りもない。
 心から引き留めようとするオブリビオンへ猟兵達が抱くのは、感謝だった。
「でも、貴方をこのままにはしておけないから」
 薙人の言葉を合図に、能力者達は身の裡で飼う相棒達を呼び起こす。
 星々と見紛う瞬きを放ち、神秘の輝きを抱く白燐蟲が主に応え形を成した。
[わたしは、護りたいの。あなたたちを、大切な、わたしの]
 少しずつアリアは感情を暴走させ羽の流星群が迫ろうとも、盾たる事を誓った人は臆さず前に歩み出る。
 差し出す掌広げた片腕一本より純白の羽毛と翼持つ蛇が溢れ出して群れを成す。
「ゴメン……俺は大切なものを護ると決めたから……でも」
 続きを紡ぐ前に、誘星の奔流が荒れ狂う輝きを以て衝突する。
 されど光望護花の使い達が宿主に与えた守りの祝福、防御の力でその総てを防ぎきった。
[護りたかったの、わたしも。だから]
 星光と燐光の重なりが消え、残った独りきりの姿を見て二人は気付く。
 あの人も一緒だ。大切な誰かを守りたかった願いがずっと心の中で有り続けて。
[もう一度、逢いたい]
 星に願う程叶えたかった純なる想いが溢れ夜空色の水面へ流れ落ちた。
 瞬き零れる|一滴《流れ星》でも彼女の思いを叶える事が出来ないのなら。
「私が使える力の中で、苦しむ時間が最も少ないものを」
 落花幻夢の意志に反応し、丸っこい白燐蟲達が次々と顕現し誘星に向かっていく。
 ころころ転がる様な柔い流れの中に交じった桜花が、抵抗せず項垂れる娘へ桜花の刻印を刻み込む。
「せめて光の中で眠って下さい」
 本来は敵へ食らい付くもの。されど優しい願いに応えた残花は次々白夜に寄り添った。
 白燐の淡い輝き達がおしくらまんじゅうの如く柔らかな拘束をするならば。
 ククルカンを伴う手が、今一度術を解き放つ。
「会わせてくれて、ありがと……」
 先程言えなかった言葉を添え生み出されし創世の光が軌跡を描き、星を望んだ者へと降り注ぐ。
 桜花燐光撃に包まれ、命還光に照らされて。
 二つの光で還ってと祈りを捧げた相手が少しずつ星の瞬きに融けていく。
[――、――――]
 最期に呟いたのは、誰の名だったのだろうか。

 星望の世界が、銀の鳥籠が淡い輝きを伴い静かに崩壊していく。
 綻ぶ優しい夢は夜に瞬く最後の星灯として、猟兵達に今宵の別れを促していた。
「ごめんね、みづき」
 咲き笑う従妹を形作る数多の煌めきが、花散るように少しずつ消えていく。
 薙人が息を吸い、刹那口先戦慄いて。一度呑み込んだ息を――吐きだした。
「君の事は、ずっとずっと大好きだよ」
 昔の記憶は巧く思い出せなくても、確かに輝き続ける一番星へ。
 想いの侭を告げたら、暖かな微笑みが彼の為だけに耀いた。
 白くきれいな手が、そっと伸ばされて。
 触れる瞬間にはもう光の粒子となって、従兄に寄り添い戯れた後夜空を彩った。

 星空の下で、子を呼ぶ親の声がする。
 振り返ると星夜に解けゆく両親が優しく微笑んでくれていた。
『いってらっしゃい』と告げる言葉にも、時人を想う暖かさで溢れているのに。
 恒星が無ければ惑星は光を保てない。ああもうすぐ幾度目かの別れが、誘星の夢が終わってしまう。
 決して眩しさだけではない光景へ青の瞳を僅かに眇めたが堪え、双眸が視る侭を映し込む。
 一度目の別れは凄惨で、言葉も碌に交わせなかった。でも今は。此処でなら。
「……いってきます」
 しっかり応え今度は俺が見送ろう。その想いを、感情を一言に込めて贈り還す。
 寄り添う父と母の姿が星々へと換わり、透過の底へ沈む迄ずっと見つめていた。

 終幕を彩るルミネセンスを見届ける中、次第に瞼が重くなる。
 帰還の目覚めへ発つ猟兵達を、残光達も静かに見守っていた。


●夜想曲に帷を下ろす
 ひと時の再会を得た願い、叶えた一幕が最後の輝きを発し……音も温度も無く沈み消えてゆく。
 鳥籠から解放された者達が湖の畔で目覚め視る光景は、やはり壮観なる満天の星なのだろう。

 今宵観た世界が例え夢幻でも、奇跡の真実だったとしても彼等が歩む未来を照らす輝きに変わりは無い。
 星を望んで迄遂げた想いは、これからも猟兵達の心で瞬き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年12月14日


挿絵イラスト