帝都櫻大戰㉕〜過去を骸に、骸を過去に。
静かなバーにはっきりとした声が響く。
声の主はカウンターの奥にいる天黒・氷海(ロストヴァンプ・42561)だ。
「今回も、幻朧帝イティハーサの出現ね。……最近の予知、規模感がオカシクないかしら?」
テキパキとカウンターの上を開けて、話しながらに魔法陣を設置する。
準備はすぐに終了し、説明に入るようだ。
「えぇ、と。とりあえずこれを見て欲しいわ。」
いつものように注目を集めて見せているのは、魔法陣によって映し出された|立体映像《ホログラム》の映像だ。
猟兵が骸の海にて戦っている姿。奇妙な点は、その相手が猟兵と似た姿をしているといったところか。
「要するに…今回は骸の海からイティハーサによって引き摺り出された“自らの過去”を打ち破った後に、イティハーサに一撃を加えることが依頼になるわ。」
記憶に作用して見た目を真似るようなオブリビオンもある程度存在するが、これほどまでの力を有した存在はそういない。
場所は完全アウェーな上にイティハーサとの連戦もある。相当な苦戦を強いられることだろう。
「自分の過去とはいえ、その力は今の貴方達と同じくらいになるみたいね。どういう力が働いているかわからないけれど、元々の力が今より大きくても同じくらいまで抑えられるらしいわ。」
つまり、今の自分と同じくらい強い相手と戦わなくてはならない、ということだ。
猟兵としての数の有利を取れる敵ではないし、そういった面でも強敵と言えるだろう。
「ただ、思考はともかく自由意思や思想といったものはないから、ただ向こうの傀儡が増えただけ。 存分にボコして問題ない相手よ。」
気持ちの面はともかくとして、相手は骸の海から引っ張り出されただけの“過去”。いくらその姿形が自分や味方と同じだったとして、絶対的な敵であることに間違いはないのだから。
「まあ…未来を歩む貴方達には関係ない話でしょう? 過去の自分が持ち得なかった攻撃とかなら、思考の虚をつけるんじゃないかしら? 実際にどうするかはお任せするけれど。」
指を鳴らして魔法陣を消し去り、グリモアを利用してバーの一角にサンサーラナラーカへと通じる門を開く。
「と言うわけで、行き先はイティハーサが創る世界『サンサーラナラーカ』。健闘を祈るわ。」
相手は世界を侵略する存在。世界の敵だ。
何も心配することはない。
さあ、猟兵達よ。その全力をもって幻朧帝イティハーサを|殺す《還す》のだ。
カスミ
どうも、カスミです。
帝都櫻大戰、もう少しで終わってしまいますね。
今回はリアルの方が少し忙しかったのであまりシナリオをお出しすることができなかったのですが、ラストスパートということで今回出させていただきました。
それでは前置きはここらにして、説明に映らせてもらいますね。
帝都櫻大戰、戦争シナリオとなっております。
なので、一章完結の短いシナリオとなっております。ご了承ください。
第一章:イティハーサを倒せ。
今回、イティハーサは骸の海から“過去の自分”を引き摺り出して戦わせてきます。戦闘力は今と同程度まで引き上げられ、相当な強敵となっているのですがこれを倒し、最後にイティハーサに一撃を入れる…というのが今回のミッションです!
過去の自分にはこれまで積み重ねた経験を叩きつけて、サクッとイティハーサも殴っていきましょう!
ちなみに、「イティハーサなんぞに文字数を使えない、過去の自分をメインにしたい」という方はイティハーサ用の描写プレイングを省略していただいても大丈夫ですよ。いい感じに攻撃しておこうと思いますので。
では皆様、幻朧帝イティハーサ・サンサーラ戦、頑張ってくださいね。
プレイングボーナス:自身の「過去の姿」を描写し、これに打ち勝つ/過去の自分の性格や思考の裏をかく。
第1章 ボス戦
『イティハーサ・サンサーラ』
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POW : 天矢『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢】で包囲攻撃する。
SPD : 神鷹『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内を【神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気】で覆い、[神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気]に触れた敵から【生命力や意志の熱】を吸収する。
WIZ : 骸眼『サンサーラナラーカ』
【神王サンサーラの力を再現した姿】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【完全性】に比例し、[完全性]が損なわれると急速に弱体化する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
松月・撫子
なんとか、最終局面には参加できそうですね。
さて、過去の己と相対するというところですが。……過去も今も、きっと未来も。私は詩を詠みたいという希求しかない……はずですが。悪霊となる前後は記憶がないので、そこだけ少し不安ですね。
しかし、以前は確実に今より強くはありませんので。
……新たな生を得て、旅をして、人と出逢い。歌詠みとしても一皮剥けたでしょう。
相手は私の姿をした傀儡だそうですが、果たして良い歌をくれるでしょうか。どうか、楽しい歌会になりますように。
「茶の葉連れ 色なき風の 詠む歌よ」
【詩詠み】、紙の言の葉に【呪詛】を込め。【いのちひとひら】、我が手より飛べ。
過去の己、さらにその後ろまで。
一面に広がる骸の海。いや、この空間そのものがそうなのであれば、当たり前ではあるが一種絶望的に映る過去。
ここは、数多の過去を継ぎ接ぎに縫い合わせた世界、サンサーラナラーカ。
幻朧帝イティハーサ・サンサーラにより紡がれ、拡げられ──生者を許さず過去に堕とす。
そんな場所に──ひとひらの桜が舞い落ちる。
松月・撫子(詠桜・f22875)はふわりと降り立ち周囲を覗く。
過去の集積、古の世界。そう言えば聞こえはいいものの、その実態は今と未来すら消し去らんとする過去の呪。
撫子の正面に立つは幻朧帝イティハーサ。
だがそれよりも──心が吸い寄せられるような存在が手前に居る。
濃桜の艶髪、儚げな出立ち。その身に纏うは桜ではなく白き靄だが、その姿はまさに──自分自身。
過去の自分を呼び出すとは聞いていたが、やはり現物を見ると思うところはある。
自らに記憶の抜け落ちがある為そこだけは不安だったが──間違いない。
──あれは……そうですか。過去の私というのは嘘や誇張などではないということなのですね。
あの瞳は、あの雰囲気は。詩を詠みたいと希求する意思が滲み出ているのがわかった。
過去も、今も、そして未来もきっと。
詩こそが生きる意味だと、心の底で思うが故に。
以前の自分は確実に今現在より強くない。
──新たな生を得て、旅をして、人と出逢い。歌詠みとしても一皮剥けたでしょう。
両者の気配が洗練されたものへと移り変わる。
言葉を交わす必要はない。交わすのは──詩だけでいい。
──果たして、良い歌をくれるでしょうか。どうか、楽しい歌会になりますように。
「茶の葉連れ 色なき風の 詠む歌よ」
詩詠み、紙の言の葉に呪詛を込め。
いのちひとひら、我が手より飛べ。
花吹雪がどこからか、柔らかい風音を響かせ撫子を包む。
そしてゆるりと伸べた手からは詩に乗せるように心のままの呪詛を乗せる。
しかし、相手も自分自身。
同じ力を持っているのならば──偽物は白き骸の桜吹雪を纏いて、詠む。
『枯れ櫻 月浴び響く まよい歌』
同様に手を伸べて、正面からの意思をぶつけ合うように。
歌に載せた呪詛は衝突する。果たして──
僅かな拮抗と、決着。
打ち勝ったのは“今”だ。
どれほどに力を増そうと──意思の力をぶつけ合うならば、過去の自分に負けるわけにはいかない。が、それ以上に。
イティハーサに都合よく歪められた過去の心情如き──真に詩を愛する撫子に勝る道理などないのだから。
舞う桜吹雪とともに、呪詛は幻朧帝にも届き。
オブリビオンによる守りのない幻朧帝はそれを避ける術もない。
体を蝕み、意思を蝕み──幻朧帝のもつ制約により大きく弱体化を受ける結果となった。
大成功
🔵🔵🔵
テラー・レギオン
内観を繰り返し、梵我一如の境地まで辿り着いた自分には
自己そのものなど飽きるほどに向き合っていた
現実に顕現したからどうだというのか
ましてや相手は過去
量子論は物事を空間軸と時間軸で捉える
時間軸の情報量はこちらが圧倒的有利なのだ
<認識阻害>と<ジャミング>を使い、動き回り己の攻撃をしのぐ
己のことは熟知している、生き残ることのみに長けた自分の動き
<目立たない>ように自分が移動した座標すべての陽子に干渉する
攻撃に意思は割かない
<霊的防護>を張り幻朧帝の傍を通り抜け、逃げ続ける
「追尾は悪手だ、一切座標から出ないからな」
立ち止まり、一言だけ放ち
【量子干渉・熱核融合テレポーテーション】を起爆させた
ただ白く暗い世界。
足を踏み入れた“過去”以外の存在を許さず過去へ堕とす世界。
骸の海より、過去より紡ぎ出されし侵略世界『サンサーラナラーカ』
そんな場所にたった一つの水音が響く。
ここが骸の海だとしても、そんなものは関係ないと押し通る猟兵の姿。
テラー・レギオン(何者でもない戦場傭兵・f39434)はただその冷徹な瞳をもって油断なく周囲を観察する。
あまりにも白い世界。その全ては骸の海であり、長時間ここにいるだけでも身体と精神が蝕まれてしまうだろう。
遠くに、近くに、見える人影。幻朧帝イティハーサの姿。、過去から世界を紡ぐ今回の元凶の姿だ。
そして──そんなものよりも目を引く存在。
今より若く、しかし若者にあるような表面だけの活気を纏わず、纏う雰囲気は殆ど今と変わらない。
だが、レギオンはそれにも軽く目を細めるだけ。
──今更。現実に顕現したからどうだというのか。
内観を繰り返し、自分は梵我一如の境地まで辿り着いた。
自己そのものなど飽きるほどに向き合ってきた。
まして過去の自分のことなんて、手に取るように。
量子論は物事を空間軸と時間軸で捉えるモノ。
イティハーサや骸の海の力でその能力が今の自分と同一のものとなったところで──時間軸の情報量はこちらが圧倒的有利なのだから。
戦場に、兵二人。
立場は相反するもの。
ならば、というわけでもないが──言葉を交わすことすらなく、戦闘が始まった。
動き出しは全くの同時。
レギオンは相手に向かっていくことはせず、大きく動き回って|相手《己》の攻撃を凌ぐ構え。
方や相手は生存に重きを置きつつも多少の攻撃で相手を動かす動き。
レギオンは白い粉塵に紛れつつ認識阻害とジャミングをで相手の意識からできるだけ逃れ、自分が移動した陽子に干渉し──布石を打っておく。
まだ、攻撃はしない。
己のことは熟知している。
──生き残ることのみに長けた自分の動きは。
半ば自嘲的な思考を挟みつつ、冷静な判断は止めることはない。
自動小銃での攻撃は決して激しいものではなく、しかしこちらの攻撃も簡単には通してくれないのはわかりきっている。
しばらくの時間が経過した。互いに手傷は殆どなく、体力にもまだ余裕はある。このまま戦闘が続くかに思われたが──しかし、楔を打ち続けたレギオンには同じ景色が違く映るものだ。
これで間違いなく自分は殺せる、と。
レギオンは立ち止まり、一言だけ言い放つ。
「追尾は悪手だ、一切座標から出ないからな。」
レギオンが立ち止まった場所は、この戦場における唯一のセーフゾーン。
慈悲や躊躇いなど欠片もなく、ただ冷徹に──起爆のスイッチを押す。
【量子干渉・熱核融合テレポーテーション】──それはレギオンがこの戦場に干渉していた全ての陽子を、量子もつれを用いて起爆する──複雑な原理はあれど、最終的な結果は至極単純だ。
目が潰れ耳が割れる轟音とともに、レギオンの存在する座標以外の全てが超高威力の爆撃に襲われ塵と化した。
それはイティハーサの存在する座標も例外ではなく、高密度の骸の海により大半は霧散したものの、それでもその身には焼け付く様な痛々しい紋様を刻み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
柳・依月
ああ、この時点の俺が出るか……
これは、俺がまだ自分のことを分かってなかったころ
自分が人間ではないと初めて気がついた……知ってしまったころだな
・過去の自分
外見:依月に似てる気もする平凡な青年
行動:何故自分は人間でないのか、嘘をつかずに生きていくことは出来ないのかと嘆く
呪いを漏出しながら、感情のままに暴走する
抑えるのは難しくないが……
ふう、ちょっと大人しくしてくれよ
【縛霊】の霊符で一旦動きを止め、防御は【霊的防護】【自動防御】の【結界】で
さて、サクッと【切り】伏せよう
大丈夫だ
俺自身のままで生きられる日はいつか来る
そのままでいいんだ
イティハーサ、残念ながら俺には迷いなぞないぞ
先に進ませて貰おう
白き世界へ堕ちた先に、何が待っているのか。
それは、過去へと堕ちた自らの軌跡。思い出の中であれば明るくも暗くも鮮やかな色彩を放つ。しかし、ひとたび堕ちてしまえば──過去は一様に鈍い白で染め潰される。
そんな場所に一歩、足を踏み込んだならば。
迷えるモノに牙を向く地獄となる。
「ああ、この時点の俺が出るか……」
ポツリと呟き、白き戦場に立つは──柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・f43523)。
戦場を見渡すその瞳は眼前に立ち、それでも依月のことを意にも介さない──嘆きの呪言を垂れ流している平凡な青年に注がれる。
髪の色、服装、身長、顔立ち。どれ一つとっても依月と重なる場所なんて無いはずなのに、どこか依月と似ている青年。
──これは、俺がまだ自分のことを分かってなかった頃。
いや、時期としてはそのあたりだろうが……違う。
『何故…俺は俺として、嘘をつかずに、生きていくことは……』
──自分が人間ではないと初めて気がついた……知ってしまった頃だな。
ふらり、ふらりと俯きがちに歩き、その瞳には深い絶望しか映っていない。
幽霊のように、妖怪のように。それはある種正しく、ある種異なる。
意思の介在しない運命によって自らの命を縛られた、哀れな怪異の姿。
『姿も、心も、何も変わらない。のに、全部違う……!』
名も無い怪異は剥き出しとなった心のままに、暴走する。
放出される呪の奔流は渦を成し、未来のない闇底に引き摺り込もうと影の腕が無数に伸びる。
──過去の自分。あの頃の気持ちは自分が一番よく知ってる。
だからこそ。依月は“迷わない”。
「ふう、ちょっと大人しくしてくれよ。」
襲いかかる影腕を風のように斬り伏せ、縛霊の霊符で動きを止める。
『俺はただ、人として、普通の日、常を……』
魂の叫びは嗚咽へと変化し、その度呪は強くなる。
だがそれすらも、依月の貼った結界に弾かれるだけ。
そんな青年に、依月は優しく告げる。
「大丈夫だ。俺自身のままで生きられる日はいつか来る。」
依月の言葉は剥き出しの魂に響く──が、希望を拒絶するかの如く呪はいっそう強まるばかり。
「そのままでいいんだ。」
その肩に手を置くかのように、手を伸ばしながら歩み近寄って──そのまま音も無く青年の首を鋭い刃が通り過ぎる。
青年の長い髪がはらりと散って、重たい音が足元で小さく響く。
「イティハーサ、残念ながら俺には迷いなぞ無いぞ。──先に進ませて貰おう。」
終始依月の表情に変化は無く、ただ普段と変わらない表情で──その瞳にのみ覚悟を乗せて。
歩き、通り過ぎるような緩やかな動き。しかしイティハーサには反応などできやしない。全ては須臾にして、刀の煌めきなど見えるはずもない。
軽く横に薙いだ後、その余韻を埋め尽くすように──戦場に紅い雨が降る。
ただ少しの意趣返しを込めた、精神を蝕む雨。
小さな雨音だけが、白き世界を染め上げる──
大成功
🔵🔵🔵
山吹・夕凪
骸の海より浮かび上がる過去の私
それは妖刀に呑まれ、支配されていた頃の姿
悲しみに染まり、悲嘆の刃を手繰っていた
けれど、悲しみを断ち、さいわいへと繋ぐのが今の私なのだと示しましょう
UCを互いに発動し、速度を奪い合う夜闇の如き刃を繰り出し合う
その中で私が研ぎ澄ますは心眼
肉体や形あるものだけではなく、感情や気の揺らぎから機先を捉える凪ぎの心境
悲しき妖念に染まった心身ならばその動きは読みやすく、逆に解き放たれて明鏡止水を識るに至った私は読み辛きこと
一太刀、一太刀と早業で過去の私の太刀筋を躱し
黒き剣閃を幾重と放ち、私の速度を尋常ならざる域へ
そうして決着をつければ、八寒地獄に呑まれる前に幻朧帝へ破邪の一閃を
一面の白世界。それだけ形容するならば、多少平和にも感じる周囲の風景。
だが現実は違う。白き骸に歪められ、無理やり引き出された過去の世界が、その色彩を失った姿にて靄を浮かべ存在しているのみ。
ここは、サンサーラナラーカ。広大無辺の無限地獄であり、過去を、世界を喰らう世界なのだ。
そんな場所に、涼やかな一歩を踏み出す存在がいる。
常人ならば立ち入るだけで身体と精神を食い潰されてしまうこの場所に。
山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)は涼やかな気配を纏いこの世界へと一歩を踏み出す。
白き艶髪は他の白とは異なる色彩を浮かべ、瑠璃の瞳は仄かな光を灯す。
ただ一点、己の眼前のみを見つめ、過去の記憶を手繰り寄せていく──
目の前に居るのは──白き靄に包まれた|少女の姿《自分自身》。
抜き身の刀を乱雑に構え、その瞳に底知れぬ悲嘆を湛えていた。
夕凪の刀は妖の刀。資格なき者が持てば刀に呑まれ、そこには悲劇しか残らない。
刃から滴り落ちる白い液体は、その色彩を奪われているものの──自らが殺した者の血だ。
忘れていない。忘れるはずもない。
過去の自分が犯した罪も、この手が斬り捨てた未来も。
──けれど、悲しみを断ち、さいわいへと繋ぐのが今の私なのだと示しましょう。
過去は背負うもの。未来は掴むもの。
正しく受け入れ、共に歩む。あの時と違い、今の自分はそれができるから。
夕凪は妖刀を静かに構え、その場から動かずに一息、深く息を吐いた。
少女は妖刀に呑まれ、その目に純粋な殺意を灯して──一歩を踏み出した。
静と動。凪と荒波。
体の、心の、僅かな揺れもない夕凪に対して対照的な少女の姿。
互いの刃が、夜の闇を宿す──
キン、キンと澄んだ音を響かせ、白世界の中に黒い剣筋を浮かばせて。
互いに打ち合う構え、型といったものは似ているものの、感じられる雰囲気のせいか全く異なるもののように見える。
少女が血走った瞳で上段から刀を振り下ろせば、瞳を閉じ心眼にて動きをとらえた夕凪が、柔らかに刀を添えて受け流す。
一転、力を崩した隙にと刀を薙ぐも拒絶するような刀に弾かれ状況は戻る。
肉体や形あるものだけではなく、感情や気の揺らぎから機先を捉える凪の心境。
完成された精神と技量の印。
悲しき妖念に染まった心身ならばその動きは読みやすく、解き放たれて明鏡止水を知るに至れば読み辛きこと。
似たような剣閃、似たような展開。
少女が斬り付け、夕凪が流す。
夕凪は無傷。対して少女は幾重に攻防を繰り返して消耗し、夜の刀に斬りつけられて速度すら十全に発揮することは叶わずに。
荒波のような心身の動きは既に見切っている。
過去の技など、積み重ねた研鑽にて更なる高みへと至っている。
ならば、力が同じとてどうして負けられようか。
黒き剣閃を幾重と放ち、その度に加速する。
相手の動きが、思考が、徐々に切り刻まれていくような。
──過去は、一度既に乗り越えました。己を見つめ、過去を見つめ、凪へと至ったこの身が故に──『さいわい』を目指す路、斬らせるわけにはいきませんので。
最後の一閃。それは全てを包み込む夜闇のように優しく、鋭い一閃。
慈悲故にというわけではないが、頸を斬り、振り返ることもなく──そのままイティハーサへ刀を向ける。
もう既に、凪いだる心境へ至り。
破邪の力を宿した刀、対して相手はこの世の全ての“邪”と言うべき存在。
この刃が斬れぬ筈は無く、そして夕凪に斬れぬ筈は無い。
一瞬の隙もなく、少女が斃れイティハーサの守りが消滅したその瞬間に、イティハーサの思考よりも早く──刀は届く。
その身に大きく深い傷跡を刻み、イティハーサの強大なる力を幾許か封じ込めた。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドロ・ロッソ
【アドリブ歓迎】
「あれは…」
ずるりと骸の海から引きずり出されたのは紛れもなく俺の姿だ
右腕が龍化する前の姿なのを見るに、過去の俺なのだろう
|人々《定命》を憎み、やり場のない怒りを振りまいていた時の俺だ
(イティハーサめが、この俺の姿すら騙るか…)
だが所詮はイティハーサが過去から生み出した贋作
父祖なる神の加護も、祝福も、溢れんばかりの愛すらも、一欠片たりとも奴にはない
そう思いながら祈りを捧げると、異空間にありながら天から光が降りてきた
これこそが祝福
|未来へと進む者《この俺》にあって、|過去に縋る者《偽物》にない物だ
降り注ぐ祝福の光の下、偽物を歯牙にも掛けず切り裂き
返す刃でイティハーサも切りつけた
崩壊しゆく、白き世界。
過去から紡がれ、過去を模し、過去を歪め、過去に堕とす。
『サンサーラナラーカ』
その全ては過去であり──それ以外を許すことはない。
時には苦痛で、時には狂気で、未来を過去へと手繰り寄せる世界だ。
そんな世界へ、自ら足を踏み出す存在が、またひとつ。
アレクサンドロ・ロッソ(豊穣と天候を司る半神半人・f43417)は白い残骸を踏み締める。
目に映るものは全て白く、それ即ちその全てが“骸の海”によって再現された過去の残滓であるということ。
そんなアレクサンドロの眼前で──白き骸が寄り重なる様に形を成し、ひとつの存在を産み落とす。
それはアレクサンドロと少し似た顔立ちの、比べれば少し若いように思える──不自然に白く染められた人型。
「あれは……」
俺の姿だ、と一目でわかる。
右腕が龍化する前の姿なのを見るに、過去の俺なのだろう。
覚えがある。遥かに昔のことだが───|人々《定命》を憎み、やり場のない怒りを振り撒いていた時の俺だ。
──イティハーサめが、この俺の姿すら騙るか……
アレクサンドロにとっては、過去の自分と相対することよりも、自らの姿を語られたことの方が腹立たしい。
イティハーサは世界を創造する力を持ち、そして融合したサンサーラは正真正銘“神”である為その存在が自らより格上だと知っていても、その感情は潰えることはない。
だが、所詮はイティハーサが過去から生み出した贋作。
向こうが神ならこちらも同様──父祖なる神の加護も、祝福も、溢れんばかりの愛すらも、一欠片たりとも奴にはない。
過去の自分にはそれがあったとは言えないが、少なくとも眼前に居る白のような醜悪な骸では無かった。
未熟ながらも未来を向いて歩んでいたのだから。
アレクサンドロは警戒を途切れさせぬまま祈りを捧げる。
真摯な祈り。警戒しながらとはいえ、これを片手間と表現することは不可能だ。
白に包まれた異空間に、柔らかな光が降り注ぐ。
これこそが──“祝福”
|未来へと進む者《この俺》にあって、|過去に縋る者《偽物》にない物だ。
偽物も同様に祈る。しかし、そこに祝福が降りることはない。
もはや、その一挙手一投足が神に対する侮辱のようにすら思え、沸々とした怒りを抱えながら。
降り注ぐ祝福の下、祝福なき偽物を歯牙にも掛けず切り捨てた。
そして、その背後で偽物を操っていたイティハーサさえも──
「貴様のような存在が神だと? 笑わせる。」
返す刀で斬り裂けば、イティハーサの体を両断する。
祝福を受けたアレクサンドロの一撃など、避けるも受けるもイティハーサには不可能だった。──至極当然のことながら。
声をあげることさえ許さない。
骸の海を生み出し、骸の海を紡ぐ存在。しかし、この状況ではどうしようもない。
その身は泡のように、靄のように、空間へと溶け消える。
そして世界は崩れ──本物の光が、輝ける世界が剥がれた天幕の奥から現れる。
この世界を守り抜いた──猟兵の勝利だ。
大成功
🔵🔵🔵