帝都櫻大戰㉕〜誰がために君は進む
●歴史
砕けた鋼鉄の駆体、超巨大な『護国鉄神零號』の体躯。
孵化するようにして広がるのは、膨大な骸の海であった。その中心に立つのは『幻朧帝イティハーサ』。
肉の剥げ落ちた半身を持つ『幻朧帝イティハーサ』は静かに告げる。
「三十六世界よ、この|櫻花幻朧界《サクラミラージュ》も含め、確かに汝等は儂の創りしものではない。だが、認めよ」
何を、と対峙する猟兵たちは立ちふさがる。
溢れ出す膨大な骸の海が彼等の足元を侵食していく。恐るべき速度であった。
「これは……エンシェント・レヰス『神王サンサーラ』のユーベルコード!」
グリモア猟兵、ノイン・シルレル(第九の悪魔・f44454)は薄紅色の瞳を瞬かせるようだった。
めまいが起こったのかもしれない。
それは威光の光。
黄金の輝き。
即ち、『神王サンサーラ』の放つ仏国土を広大無辺に広げていくユーベルコードである。
その強烈な光に彼女はたじろいだようだった。
「そのとおりだ。最早、生命は不要である。お前たち六番目の猟兵……『第六猟兵』に縋る必要などない。諦めこそがお前たちに必要なものなのだ」
『幻朧帝イティハーサ』が鋼鉄の骸の上に立ち、その威光を広大無辺に広げていく。
それこそが侵略新世界『サンサーラナラーカ』。
広大無辺の無限地獄である。
全てが骸の海。
猟兵たちは己たちが侵略新世界に飲み込まれたことを知るだろう。
「果たして、本当にそうなのでしょうか」
「何故、問いかける。眼の前に広がる光景を見よ。瞭然である。明白である。この儂が生み出した新世界を見て、何故疑問を思い浮かべる。世界は新たに生み出すことができる。お前たちの眼の前に広がる骸の海こそが、可能性満ちる混沌そのものである。お前たちが踏みつけてきた過去そのもの」
ノインは呻く。
転移を維持するために集中する。
しかし、痛みは彼女の集中を著しく損なわせるものであった。
手足に力を込めて怺える。
「この痛みは、『真の姿』を引きずり出される痛み……!」
彼女の姿が変わっていく。
眼球のない眼窩。
肌の色はくすみ、黒髪は色素が抜け落ちていく。手にした双剣が宿す炎は消え失せていく。
しかし、彼女は面を上げる。
「この世界は骸の海で満たされている。この世界において、六番目の猟兵よ、お前たちは真の姿をさらけ出す。知るが良い。その意味を」
『神王サンサーラ』の『意志』を獲得した『幻朧帝イティハーサ』は、『イティハーサ・サンサーラ』へと姿を変えていく。
それは、オブリビオンを超越した存在。
即ち、『骸の海そのもの』である。
「歓喜の悪魔よ。お前は求められるもの全てを与えてきたな。それはあらゆる望みを叶え、その身に宿した力を失っていく。その醜き真の姿が物語っている。だが、ただ与えるだけで対価を求めなかったが故に、均衡が崩れて悲劇は生まれる。お前は知るべきだったのだ。お前たちの言うところの優しさなど、可能性の一欠にすぎないのだ」
『イティハーサ・サンサーラ』は告げる。
愚かであると。
いいや、愚よりも下劣なものであると。
「お前が与えたものたちは、どうなった? それを知らぬわけではあるまい。ただ与えられるばかりの生命がどのような可能性を持ち得たか。お前がしたことは、偽善にも劣る。己の歓びのみを希求していればいいものを。誰かの喜びがお前というどうしようもない闇を照らす光だとでも思ったのか?」
「……それでも」
「それでも、なんだ。悔恨の涙さえ誰かに与えたか」
猟兵たちは、広がりゆく骸の海から齎される心身への痛みに呻くかもしれない。歯を食いしばるかもしれない。叫ぶかもしれない。身を任せるかもしれない。狂気に陥るかもしれない。
何れにしても。
この程度で止まる猟兵はいない。
誰一人としていないのだ。
さらけ出される真の姿。猟兵たちは、痛みと狂気を得る。だが、それに屈するわけにはいかないのだ。
耐えて、耐えて、耐えて。
やりとげなければならないことをすでに、得ているのだから。
「私は告げましょう」
その言葉を。
幾度となく紡がれてきた言葉だ。
いつかのだれかの言葉。
その言葉に心を守られてきたのだ。
「『己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力』――」
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『帝都櫻大戦』の戦争シナリオとなります。
エンシェント・レヰス『神王サンサーラ』と融合を果した『幻朧帝イティハーサ』は、『イティハーサ・サンサーラ』として侵略新世界『サンサーラナラーカ』を創造しました。
『神王サンサーラ』のユーベルコードによって、『広大無辺の無限地獄』となった世界は、骸の海に満ち溢れています。
元より『イティハーサ・サンサーラ』は強大な存在。
加えて、具現化した骸の海とも言える『サンサーラナラーカ』で戦うこともままならない上に、急速に皆さんを痛みと狂気が襲います。
『真の姿』を引きずり出すこの世界での戦いは、激しい苦痛と狂気に耐えることから始まるでしょう。
プレイングボーナス……苦痛と狂気に耐え、真の姿を晒して戦う。
それでは、幻朧櫻舞い散る帝都にて戦う皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 ボス戦
『イティハーサ・サンサーラ』
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POW : 天矢『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢】で包囲攻撃する。
SPD : 神鷹『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内を【神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気】で覆い、[神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気]に触れた敵から【生命力や意志の熱】を吸収する。
WIZ : 骸眼『サンサーラナラーカ』
【神王サンサーラの力を再現した姿】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【完全性】に比例し、[完全性]が損なわれると急速に弱体化する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
村崎・ゆかり
仏国土を無間地獄に塗り替えるとは、まさに仏敵の行いね。いいわ、討滅してあげましょう。
「環境耐性」「狂気耐性」「呪詛耐性」で自分を保ちつつ、真の姿へ変異。
法衣を纏った三面六臂の阿修羅のごとき姿へ。武器は矛と戦輪と片手剣。
さあ、大罪人イティハーサ。あなたに仏罰を下してあげるわ。
「全力魔法」聖の「属性攻撃」「法力攻撃」「精神攻撃」「破魔」で仏頂尊勝陀羅尼経を読誦!
あなたが積み重ねてきた過去の|業《カルマ》ごと討滅する。
地獄に堕ちるのは、あなた一人で十分だわ。
天羽々矢は槍を振るって叩き落とし、剣で切り捨てて。戦輪を飛ばし、その素っ首叩き落としてあげましょう。
渾沌に還りなさい、幻朧帝イティハーサ!
エンシャント・レヰス『神王サンサーラ』のユーベルコードは本来、広大無辺たる仏国土を無限に広げていくものである。
しかし、彼がオブリビオン化したことにより、そのユーベルコードは『骸の海を無限に広げる』力へと成り果てた。
その『意志』を得て融合を果した諸悪の根源『幻朧帝イティハーサ』は、『イティハーサ・サンサーラ』として侵略新世界『サンサーラナラーカ』でもって猟兵たちを飲み込んだ。
満ちるは骸の海。
どこを見ても一面が骸の海に包まれ、猟兵たちは己の心身が侵されていくのを感じただろう。
耐性を底上げしたところで相手は無限である。
途方も無いほどの激痛が心と体を蝕んでいく。
「仏国土を無間地獄に塗り替えるとは、まさに物的の行いね」
「それもまた可能性の一欠片にすぎない。儂は歴史そのものであると言った。であるのならば、お前たちの語るところの仏もまた骸の海に沈む一つでしかないのだ」
村崎・ゆかり(“紫蘭”/黒鴉遣い・f01658)の言葉に『イティハーサ・サンサーラ』は大灼熱地獄の炎を宿した矢を射掛ける。
幾何学的模様を描きながら宙を走る炎の矢はゆかりの身を撃つだろう。
痛みがさらに彼女の体躯を走り抜ける。
こらえきれない痛みは、彼女の真の姿を引きずり出す。
その姿、三面六臂。
三つの顔と六腕を携えた阿修羅の如き姿へと変貌したゆかりは、矛と戦輪もって骸の海を裂くようにして『イティハーサ・サンサーラ』へと肉薄する。
「この姿になったからには!」
「それがお前たちの真の姿だ。一貫性などない。法則性などない。どこまで言っても、混沌の可能性そのものだ。それ故に」
炎の矢を払う矛。
散る炎がゆかりの肌を焼く。
如何に真の姿をさらけ出したところで、彼女の心身は今もなお骸の海に侵され続けているのだ。
長くは保つまい。
故に『イティハーサ・サンサーラ』はじっくりと時間を掛けるだけで良かったのだ。
それだけで猟兵であるゆかりは自滅していく。
「大罪人イティハーサ、あなたに仏罰を下してあげるわ」
「その仏すら飲み込んだのが骸の海、即ち、儂そのものである。そのような存在の下す罰が如何にして儂に力を及ぼすというのだ」
「そうね。あなたが諸悪の根源であるというのなら、過去の|業《カルマ》ごと討滅する。地獄に堕ちるのは、あなた一人で十分だわ」
ゆかりの瞳がユーベルコードに輝く。
御仏の慈悲。
それは彼女の心にあるものだった。
生命は弱い。
どうしようもなく柔らかく、繊細で、傷つきやすいものだ。
そうした生命が集合するのが世界であるというのならば、業もまた生命に刻まれたものである。
生きることそのものが業であるというのならば、それが罪だというのならば、それを守り救う普遍たるものが必要となる。
それが尊勝仏頂仏母への崇敬である。
彼女の頭上から煌めくキリのように広がる法力、仏頂尊勝陀羅尼経(ブッチョウソンショウダラニキョウ)によって生み出された一撃が『イティハーサ・サンサーラ』に叩き込まれる。
それは肉体を傷つけるものではなく、業を打ち据える。
「混沌に還りなさい、幻朧帝イティハーサ!」
ゆかりは投げはなった戦輪に煌めく霧がまとわれ、その一撃をもって『イティハーサ・サンサーラ』の業を斬り裂くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・フェアリィハート
アドリブ連携歓迎
【SPD】
イティハーサさん…!
サンサーラさん達も
世界も
貴方の
玩具では
ありません…!
【ゲルセミ】で
キャバリアの能力等
トレース状態に
翼で飛翔
【空中機動】等
【空中戦】で
立体的に立回り
【破魔】【浄化】を込め
UC発動
攻撃等
【第六感】【心眼】【残像】
【通常攻撃無効】
【結界術】【オーラ防御】で
防御行動や
UCで苦痛や狂気等回復し耐え
真の姿に
髪に青薔薇が咲き
背に六枚翼を広げ
全身に神氣纏い|光輪《ハイロゥ》展開する
女神姫らしき姿に
『こんな痛みで…私達は…止まりません…!』
発動中のUCと併せ
【武器巨大化】した
クイーンオブハートキーや
【ハートのA】で
【全力魔法】や
【誘導弾】の【一斉発射】
【弾幕】で
攻撃
煌めくユーベルコードが『イティハーサ・サンサーラ』へと迫る。
だが、彼は骸の海を広げ続ける。
エンシャント・レヰス『神王サンサーラ』のユーベルコード、仏国土を無限に広げる力を、骸の海を広げる力へと変貌させ、侵略新世界『サンサーラナラーカ』を生み出す。
骸の海が満ちる世界。
どこを見ても骸の海しかなく、一歩踏み出す度に心身に耐え難い痛みが走り抜ける。
「イティハーサさん……!」
アリス・フェアリィハート(不思議の国の天司神姫アリス・f01939)は、己の体躯が内側から引き裂かれるような痛みを憶えたことだろう。
それが骸の海に足を踏み出すということだ。
心が散り散りに切りつけられるような、肉体が車裂きにされるような、そんな痛みが断続的に身を襲う。
それでもアリスは言わねばならないと思った。
「サンサーラさんたちも、世界も、あなたの玩具ではありません……!」
「無論だ。玩具などではない。ただ混沌を構築するための一欠片にすぎない。生命の役割はすでに終わっている。可能性を生み出す必要は、これ以上ない。この世界を見ればわかることだろう」
『イティハーサ・サンサーラ』は示す。
広大無辺たる骸の海を。
骸の海は可能性そのものであり、混沌そのもの。
あらゆる可能性が満ちている。
この可能性をすくい上げ、組み合わせることで新たな世界はいくらでも生み出せる。
そのための生命。
可能性を生み出すのが生命であるというのならば、既に骸の海は可能性のるつぼと化している。
「全てが意味のないことだ。これ以上は」
アリスは痛みに堪えながら飛ぶ。
翼を羽ばたかせ、狂うほどの痛みに顔をしかめながら、それでも破魔と浄化の力をもって、その瞳にユーベルコードの輝きを宿す。
「――全てを灼く紅蓮の星焔の蜘蛛糸…全てを癒す銀なる星の蜘蛛糸――それらの領界を…!」
アトラクナクア・ヴァーミリオンウェブ――それは万象あらゆる全てを灼く灼く星焔の蜘蛛糸領界。
迫る冷気を阻む星の焔。
拮抗するように激突するユーベルコードの輝き。
「こんな痛みで……私達は……止まりません……!」
青薔薇が髪に咲き誇る。
灰色の、白濁たる混沌の中にありて、アリスは六翼を広げ、神気を混といて光輪を以て女神へと変貌する。
鍵は黄金の輝きを解き放ち、ジュエルハートが乱舞する。
どれだけ痛みでもって己たちを阻むのだとしても、アリスは、猟兵たちは止まらない。
痛みで止まるのならば、これまでで道は途絶えたはずだ。
だが、そうはならなかったのだ。
弛みない意志が、己たちを前に突き進めてきた。
それは過去を排出して進む時とは違う。
己たちの『意志』こそが前に進むための原動力となって、猟兵たちを破滅という未来へと立ち向かわせたのだ。
故にアリスは己が鍵の一撃を『イティハーサ・サンサーラ』に叩き込む。
「これが、私達の……『意志』です――!」
大成功
🔵🔵🔵
シズホ・トヒソズマ
やれやれ…私に痛みと狂気と真の姿を許してくれるなんて
貴方、墓穴掘りましたよ?知りませんからね
頭も含めた全身を紫のぴっちりスーツで覆い全身を拘束した真の姿に変化
フフ…この姿の名はドン・リストリクト
苦痛を悦ぶ狂気の化身
意志という欲望は我が怨敵
さあその意志も拘束してあげましょう
UCで全身をベルトで更に拘束
苦痛による被虐快楽の高まりも加えて超加速飛翔
そのスピードで矢を回避
時々ギリギリで回避する狂気の軌道で敵へと接近
欲望を解放する自由をこの私は否定する
欲望にはそれを抑える拘束も必要なのです
欲望と似る意志を利用する貴方はあの女以下
終わらせてあげましょう、その意志を
全身のベルトで敵を拘束し
炎剣『王垓』で斬撃
骸の海に満たされた侵略新世界『サンサーラナラーカ』。
広大無辺に広がる世界には、骸の海以外は存在しない。故に、猟兵は異物。
踏み出すだけで、存在するだけで痛みがこみ上げ、己が真の姿を引きずり出さんとする。
その脅威は言うまでもないだろう。
誰もが痛みに強いわけではない。
生命であるからこそ、その痛みにこそ敏感であったし、心は繊細なものであった。
肉体は鎧うことができても、心までは鎧うことができない。
理性と知性とは有する生命であるからこその弱点であるとも言えた。
だがしかし。
「やれやれ……私に痛みと狂気と真の姿を赦してくれるなんて」
シズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)は骸の海満ちる世界にて、つぶやく。
対するは『イティハーサ・サンサーラ』が放つ大灼熱地獄の焔を宿した矢である。
降り注ぐ矢はシズホの肉体を穿ち、傷つける。
だが、シズホは笑む。
「貴方、墓穴掘りましたよ? 知りませんからね」
彼女の体躯が変わりゆく。
紫のスーツが全身を覆い、肉体を拘束する。
何故、と問いかける言葉もなかった。
この骸の海は可能性のるつぼであり、混沌そのもの。
であるのならば、シズホのような可能性も当然内包していると言っても良い。
「それで、お前たちは何をするというのだ」
「簡単なことですよ……フフ……この姿の名は『ドン・リストリクト』。苦痛を喜ぶ狂気の化身。意志という欲望は我が怨敵。さあ、その意志も拘束してあげましょう!」
痛みに悦びを見出す。
それは生命を保全するという道の真逆、逆走するかのような嗜好であったが、同時に命題でもあった。
生命は、知性は、存続を望むのと同じくらいに破滅を望むものである。
人の歴史がそれを証明している。
人という枠組みの中にありて、生命が可能性を生み出すというのならば、それもまた可能性の一つ。
故にシズホの瞳がユーベルコードに輝く。
全身を拘束していたベルトが一瞬で『イティハーサ・サンサーラ』へと迫る。
「これがなんだというのだ。その程度で」
迫る炎の矢。
これをシズホは一気に踏み込み、肉薄する。
凄まじい速度であった。
何故、そんな速度が出るのかなど答えは明白。
彼女が身を拘束するベルト、そして骸の海によって苛まれる痛み。
これによって被虐快楽が彼女を満たし、その満たした快楽こそが彼女の戦闘力を増強させたのだ。
故に、踏み込む速度もまた増強されている。
飛翔するように頬を炎の矢で焼かれ、かすめながらも踏み込む。
「欲望を開放する自由をこの私は否定する。欲望にはそれを抑える拘束も必要なのです」
抑圧と解放。
そのギリギリのせめぎあいこそが、苦痛となって身を苛む。
それは恍惚の瞬間を迎えるための手段であり、また同時に手段が目的にすり替わっていることを示す。
「欲望と似る意志を利用する貴方は、あの女以下」
「それが可能性だからだ。お前のやっていることは、限られた可能性の閉塞による圧力を利用しているに過ぎない」
「ですが、その勢いは貴方を止めることができる。いえ、終わらせてあげましょう、その意思を」
全身のベルトが『イティハーサ・サンサーラ』を包み込み、炎剣『王垓』を叩き込む。
「抑圧されたものは開放されなければならなンンー! やはりこの動けないくらいのきつさが堪らない!」
シズホは己が全身帯巻闘装(ダイダロスフォーム)でもって骸の海がもたらす痛みすら悦楽に変えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
無限の苦痛に、永劫の狂気。
そんなんがずっと続くんなら、なるほど“無間地獄”に相応しいだろうな。
苦痛と狂気はまだいい。まだ耐える|縁《よすが》があるから。
……でもおれにとっては、一番苦しいのは“恐怖”。
戦うことへの恐怖。地獄を体感することへの恐怖。それがいつ終わるかわかんねえ、先の見えねえ恐怖。
底無しの恐怖が、苦痛と狂気と共におれを吞み込もうとして。
……でも。
それでも。
どんなに痛くても。どんなに気持ち悪くても。……どんなに怖くて逃げたくても。
逃げたらきっと後悔する。
|後悔《それ》はいま総身を刻んでいる苦痛や狂気よりも。もっと自分の心を責め苛むんだと、知っている。
だから、覚悟を決めて。
叫ぶ。
「それが―――、どうした―――!」
真の姿を解放。
見た目は何も変わらない。身体に力が漲るわけでもなければ、降りかかる苦痛や狂気・恐怖を感じなくなるわけでもない。
ただ、その双眸は。
琥珀よりももっと強い輝きを宿す。まさに黄金の如し。
叫びと共に、一条の光弾を、スリングショットから撃ち放つ――!
痛みが心身を痛めつける。
侵略新世界『サンサーラナラーカ』は、骸の海に満ちている。
踏み出したが最後、一瞬で体躯は痛みに侵される。
絶え間ない痛み。
連続し続ける痛み。
如何に猟兵と言えど、その痛みは狂気を呼び込む。狂気はたやすく、その真の姿を引きずり出すだろう。
「無限の苦痛に、永劫の狂気。そんなんがずっと続くんなら、なるほど“無間地獄”に相応しいだろうな」
だが、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は耐えていた。
濁流の如き痛みに耐えるための|縁《よすが》が彼には遭った。
それが如何なるものであるのかを語れるのは彼だけだった。誰かが語れるものではない。だからこそ、縁なのだ。
嵐の中で煌めく光。
星のような輝きかもしれないし、太陽のような輝きかもしれない。
「だが、お前の恐怖を照らす光は存在しない」
『イティハーサ・サンサーラ』は告げる。
広大無辺に広がっていく骸の海。
彼のユーベルコードは『神王サンサーラ』のそれを完全に模倣していた。
取り込んだと言ってもいいだろう。
「お前が抱くは恐怖だろう」
「よく知っているじゃあねえか。そうさ。。おれにとって一番苦しいのは恐怖。戦うことへの恐怖。地獄を体感することへの恐怖。それが何時終わるかわかんねえ、先の見えねえ恐怖」
「それは底なしだ。そもそも闇は底が抜けているがゆえに闇なのだ。そして、それはお前がよく知っているものだ」
嵐は己の足元から恐怖が自身を飲み込むのを感じただろう。
震える足がある。
手足は冷たくなっていく。
冷や汗が溢れ出す。
見開いた瞳の焦点が合わない。
「……でも」
「無駄だ。お前が猟兵であろうと、それ以前に己が何者であるのかを知っているのならば、その恐れは拭えぬものだ」
「それでも」
「だからお前は恐れ続けるのだ。己ではどうしようもない恐れを抱き続ける」
「どんなに痛くても。どんなに気持ち悪くても」
嵐は恐怖の中で立ちすくむ。
けれど、震える足は、ただ震えているばかりではなかった。
「……どんなに怖くて逃げたくても。逃げたらきっと後悔する」
そう、嵐は知っている。
後悔は己の肉体と心を切り刻む苦痛と狂気以上に、己の心を裏切る行いであるし、責め苛むものであると知っているのだ。
これに抗う術はただ一つ。
少なくと嵐は、唯一つしかしらない。
そう。
知性と理性とを宿す生命にできることは、一つだけ。
「それが――、どうした――!」
覚悟である。
暗闇の如き未来に進むための覚悟を決めること。
それは勇気とも呼ばれるものであった。
琥珀の瞳が煌めく。
一層色濃く斬り裂くように恐怖という暗闇を斬り裂くユーベルコードの輝き。
彼の真の姿は見た目は何も変わらない。
身体能力があがるわけでもなければ、降りかかる苦痛や恐怖、狂気を感じなくなるわけではない。
けれど、その双眸は見据えていたのだ。
琥珀よりも強烈な輝きを宿す瞳。
それは黄金のような意志の輝き。
幻想虚構・星霊顕現(ガーディアンズ・ファンタズム)によって生み出された一条の光弾をスリングショットから嵐は放つ。
「これがおれの覚悟だ! 拭えぬのなら、穿つ、斬り裂く! そうやって生命は未来っていう暗闇の中を進んできたんだろう――!」
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
骸の海に飲み込まれ、綺羅星の如き真の姿に早変わり!
つまりつまり今日のメイクアップアーティストは骸の海なのでっす!
しかもしかもステージも演出も骸の海!
これはもう藍ちゃんくん骸の海ステージなのではー?
常日頃では得られぬ痛みと軋む心は今この時だけの藍ちゃんくんでっしてー!
この刹那だからこそのライブをお届けしちゃうのでっす!
やや、何だかとっても熱そうな火矢が飛んできますがー。
ここが海だとお忘れでっすかー?
骸の海を衣と無し、火矢を呑み込みSD藍ちゃんくんズ、オンステージ!
メイク:骸の海!
演出:骸の海!
ステージ:骸の海!
作詞協力:骸の海!
これだけコラボしましたからねー。
藍ちゃんくんが活用させていただいた骸の海が、全て藍ちゃんくんになるのは何もおかしくないのではー?
目には目を、骸の海には骸の海を!
可能性満ちる混沌ならばこれもまた可能性なのでっす!
ご自身である骸の海を2分半ほどとは言え奪取されるのはそのままダメージになるかと!
藍ちゃんくんズと今のうちに押し切っちゃうのでっす!
真の姿を引きずり出される。
それは猟兵として数々の戦いを繰り広げてきていれば、一度や二度は経験したことがある現象であったことだろう。
猟兵の真の姿に法則性はない。規則性はない。
まるで混沌のようであった。
あらゆる可能性が満ちている。
それは『イティハーサ・サンサーラ』の語るところの骸の海とにているようにも思えただろう。
けれど、そんなことは紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)には関係のないことだった。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
侵略新世界『サンサーラナラーカ』、その骸の海に藍は飲み込まれる。
痛みと狂気が襲い来るだろう。
心と体。
その両方を苛む痛み。
だが、骸の海から飛び出したのは綺羅星の如き真の姿たる藍だった。
「今日のメイクアップアーティストは骸の海なのでっす! しかもしかもステージも骸の海! これはもう藍ちゃんくん骸の海ステージなのではー?」
綺羅星のように戦場を駆ける。
胸にきしむ痛みがあった。
どうしようもない痛みだ。
この痛みを藍は如何にすることもできない。けれど、今生きている。
今を生きているという実感が、その胸にきしむ痛みにより感じられるのだ。
これはきっと刹那の痛みだ。
「だからこそライブをお届けしちゃうのでっす!」
「強がりだな」
『イティハーサ・サンサーラ』より降り注ぐは大灼熱地獄の炎を宿した矢。
火の雨のように注ぐユーベルコード。
しかし、藍は己がステージ衣装を翻した。
今日のメイクアップアーティストは、骸の海。
ならば、衣装だって同じだ。
迫る炎の矢を翻した衣で受け止める。
「今日の衣装は炎を飲み込む骸の海! そしてゲストは、な、なななんと藍ちゃんくんズ!」
藍ちゃんくん✕藍ちゃんくん=藍ちゃんくん!!(フル・フル・フル・オブ・アイチャンクーンッ)というわけである。
つまりどういうことであろうか。
藍の瞳が答えを示すようにユーベルコードに輝く。
メイクも骸の海。
演出も骸の海。
ステージも作詞協力も骸の海。
ならばこれはコラボレーションライブというやつである。
「これだけのコラボなのでっす。むしろ、藍ちゃんくんの可能性はこんなもんじゃないのでっすよー! むそいろ、これだけコラボしたのであれば、全てが藍ちゃんくんになるのは何もおかしくないのではー?」
「生命の可能性はすでに満たした。骸の海にあるのは断片の可能性のみ。それを」
「これをこうしてこうやってこうやれば!」
様々な衣装をまとったSD藍ちゃんくんが一気にあふれかえる。
骸の海であろうと何であろうと関係ない。
「可能満ちる混沌ならば、これもまた可能性なのでっす!」
「言いえて妙だな。だが」
「ええ、長くは続かないのでっす。でも、終わりがあるから、ライブは明日への活力になるのでっす。何事も終わりはあるのでっす。だから、明日も頑張ろうって思えるのでっす!」
生み出したSD藍ちゃんくんと共に藍は告げる。
骸の海を侵食するかのような藍のユーベルコード。
それによって藍は『イティハーサ・サンサーラ』の放つ炎の矢すらも飲み込み、押し返していく。
「そんなみなさまの為に藍ちゃんくんは歌うのでっす――!」
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
痛みも、苦しみも、歩みを止める理由になりはしない!!
刻め、暗黒星雲!!一切の光を喰らえ!!!
寿命を使い果たした証の白髪が、人工魔眼を両眼に晒され真の姿化
只管に敵を壊さんとする【|闘争心《狂気》】を以てサンサーラナラーカの苦痛と狂気をねじ伏せ『暗黒星雲創装』騎兵刀にルーンを刻み、この世界そのものである、神王サンサーラのユーベルコードを【捕食】
【呪詛】騎兵刀から暗黒星雲の力宿る破壊の呪詛物質を放ち天羽々矢を【なぎ払い】喰らう!
天の獄も、地の獄も!全て!!喰らって壊す!!!
壊れて死に絶えろ!!!幻朧帝!!!!
喰らった世界を、大焦熱地獄を破壊呪詛物質に変換し、
広大無辺の破壊現象を振るい叩きつける!!!
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は思う。
己の心身を痛めつける骸の海。
悪霊とて、骸の海は侵食してくる。
痛み、苦しみ。
そうしたものを前にして小枝子は叫ぶ。
「痛みも、苦しみも、歩みを止める理由になりはしない!!」
「強がるな。その痛みは体躯なき悪霊とて、苛むものであろう」
『イティハーサ・サンサーラ』の言葉と共に放たれる炎の矢。
大灼熱地獄の炎を宿す矢は、小枝子の体躯を貫く。痛みがかさ増しされるようであった。
だが、小枝子は痛みに喘ぐよりも疾く叫んだ。
「刻め、暗黒星雲!! 一切の光を喰らえ!!!」
暗黒星雲創装(ネブラカービング)によって、周囲の全てを喰らう。
そして、小枝子の姿が変容していく。
黒髪は白髪へと変わり、人口魔眼は両目に駆動を示すように赤熱していく。
それこそが彼女の真の姿である。
「まともではないな。どこまでいっても」
「そうだ! だが、敵を壊すことできる! 貴様だ!『幻朧帝イティハーサ』!! 自分は、この|闘争心《狂気》を以てお前を壊す!!」
手にした騎兵刀に宿るは、暗黒星雲のルーンであった。
刀身煌めくユーベルコード。
迫る炎の矢を騎兵刀で切り払いながら一気に飛び込む。
迫る骸の海。
「天の獄も、地の獄も! 全て!! 喰らって壊す!!!」
「破壊の権化め。可能性すら壊すつもりか。愚かに極まる。ただそれだけ、単一であると己を定める可能性の拡張とは真逆を行くか」
「だったらなんだ!」
知ったことではない。
己は壊すだけである。それ以外を知らないし、それ以外ができるとは思わない。
できるのかもしれないが、できないかもしれないことに時間を掛けられるほど己は悠長にことを進めることができない。
行き急ぐように結論を求め続ける。
故に壊すのだ。
眼の前の敵を。
ただ一つ、それだけのために小枝子は力を振るう
「壊れて死に絶えろ!!! 幻朧帝!!!!」
食らった骸の海を、大灼熱地獄たる炎を破壊呪詛物質に変換し、小枝子は踏み出す。
眼の前にあるのは『神王サンサーラ』の意志を得た『イティハーサ・サンサーラ』。
その意志が強化であるというのならば、小枝子の騎兵刀に刻まれたルーンは、そういした強化を解除する。
振るう斬撃が、小枝子の取り込んだ広大無辺たる骸の海を飲み干すように力を発露する。
「自分の、自分たちの歩みを妨げるのであれば! それさえも破壊する! それが自分たちだ!」
叩きつけるように小枝子は『イティハーサ・サンサーラ』へと己が力の全てを叩き込む。
斬撃は衝撃を生み、周囲を巻き込んでいく。
此処に満ちるのは骸の海。
ならば、それはきっと可能性の一欠片たちでもあったことだろう。
故に小枝子は可能性を破壊で飲み込んでいく。
どんな可能性とて、一度は粉砕されなければならない。
それを小枝子は己が力、真の姿でもって示すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほんどこかいった
武器:漆黒風
真の姿:23/5/20公開
私はね、幻朧帝が嫌いなんですよ。まして、無限地獄を作るなぞ…。
その苦痛も狂気も、激痛&狂気耐性で耐えてみせましょう。
現したる姿は鬼…到達したであろう『風絶鬼』ですが。今はこれでいいのです。
ええ、その天羽々矢は限界突破させた天候操作による風にて、一時的に吹き飛ばしましょう。
そして…UC付きにて漆黒風を、早業投擲。
この漆黒風には、風属性も乗せましたので、そう簡単に防御できると思わないでください。
言いましたよ。私はあんた(幻朧帝)が嫌いだと。
戦意よりも先に嫌悪が来る。
『幻朧帝イティハーサ』は諸悪の根源であるという。
歴史という名を持つ存在であり、既存の可能性から新たな世界を生み出して見せる強大な力。
確かにこれほどまでに強大な存在に打ち勝つことは難しいだろう。
だが、絶望や諦観より先に嫌悪が勝る。
侵略新世界『サンサーラナラーカ』に溢れるは骸の海。
無限に広がり続ける広大無辺なる地獄そのもの。
一歩踏み出すだけでわかる。
ここは己が存在して良い場所ではない。
痛みが、苦しみが、狂気が身を包んでいく。
心身ともに苛まれる。それは己の真の姿を引きずり出されるのと同じであった。
「私はね、幻朧帝が嫌いなんですよ」
「好き好まざるなどどうでもいい感情である。それはただの可能性の一つでしかない」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱『疾き者』は若返った姿でもって『イティハーサ・サンサーラ』より放たれる無数の炎の矢を見やる。
雨のように降り注ぐ矢。
大灼熱地獄の炎を封じ込めたような苛烈なる矢は、己が体躯を貫く。そして、灼く。
痛みが、狂気が体を苛む。
耐えなければならない。
これに耐えられなければ、何も成せない。
「まして、無間地獄を創るなぞ」
「地獄もまた可能性の一つにすぎない。世界とはこうあるべきだという可能性の一つだ。お前の瞳に映る現し世は、地獄ではないか? 誰かの目にはこのように世界は見えているかもしれない。そして、それは誰にも共有されることはない。生命の見やる現実の一つ一つが、それぞれの地獄を形作っている。無間地獄とは、そうした数多の地獄の集合である、とはおもえないか」
「だったらなんだというのです」
『疾き者』は風を吹かせる。
炎の矢の勢いを減じ、前に進む。
ただ一歩を踏み出しただけだ。それだけでよかったのだ。
大袈裟な力はいらない。
眼の前に広がる光景は、たしかに地獄だ。
そして、それはいつかのだれかが見た地獄の光景なのかもしれない。
『イテョハーサ・サンサーラ』が生み出した『サンサーラナラーカ』は、まさしくそういうものなのかもしれない。
だからとて、誰かにそれを共有使用とは思わない。
「この地獄は私の地獄。ならば、それを誰かに押し付けようとは思わない」
放つは一投。
単純な一撃だった。
だが、それは眼の前の地獄を斬り裂くようにして『イティハーサ・サンサーラ』へと走る。
風を巻き込み、炎を取り込み、加速した棒手裏剣の一投は、『イティハーサ・サンサーラ』へと迫り、炎の矢すら穿つ。
「……生命とは共有することをこそ喜びとするはずだったがな」
「その点は意味のない論点。私は悪霊ですよ。そして、何よりいいましたよ。私は、あんたが嫌いだと――」
大成功
🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
現状は「全自動改悪アレンジ複製世界製造機」止まり、創造主を名乗れる器じゃない……けど道具としては有用だろうから、こいつ誰かの手に渡る前に完全に潰しておくべきっすね
狂気や激痛は耐性任せで。別に真の姿も特に変化ないし…
(服の裾や袖口、髪の毛先などの「輪郭」部分からUDCと同じように黒い何かを滴らせている。しかし当人はその「異常」を全く認識していない)
さておきUCっすよ。そのご自慢の新世界、白と黒とで塗り潰してやる
攻撃による傷は白の雨が痕跡ごと抹消、鳥をさっさと黒の海の触腕で捕縛し、散々肉体も精神も犯して侵して蹂躙してから海にポイ。場合によっては盾に使う。で、後は爺本体も同じ目に遭わせてやるっすよ
「言う事なす事大仰がすぎるっすね」
黒沼・藍亜(に■げ■のUDCエージェント・f26067)は骸の海に踏み出す。
一歩を踏み出すだけで体躯に伝わる痛み。心を襲う狂気。
そうしたものすべてを事象として捉えるのならば、藍亜に変化というものはなかった。
わずかに違うのは、己の体躯の輪郭から黒い何かが滴り落ち続けているということだけであった。
そして、それを藍亜は認識できない。
異常な状態だ。
真の姿。
猟兵全てが持ち得る真の姿。
規則性はない。法則性もない。
あるのは千差万別であるということのみ。
まさに猟兵事態が混沌の申し子とも言うべき存在なのだということを知らしめるような一貫性のなさであった。
それは藍亜にも当てはまる。
異常事態であるのに異常と認識していないことからも伺い知れることがある。
彼女は、これをユーベルコードの一つとして認識しているということ。
「現状は『全自動改悪アレンジ複製世界製造機』止まりじゃあないっすか。創造主を名乗れる器じゃない」
「お前にはそう見えているのだな。だが、お前の言葉がどうであれ、世界は創造されている」
『イティハーサ・サンサーラ』より放たれる冷気。
それによって世界の熱が奪われていく。
藍亜の熱も同様だった。
「そうっすね。道具としては有用っすよ。それは認めるっすよ。けどね」
藍亜の瞳がユーベルコードに輝く。
戦場、侵略新世界『サンサーラナラーカ』を染めゆくのは、漆黒の粘液の海と純白の空から成る『異界』であった。
如何に熱奪う冷気を生み出したのだとしても、それは藍亜には届かない。
このユーベルコードは領域の押し付け合いだ。
世界に新たな領域、異界を生み出すユーベルコード。
無数の触腕が『イティハーサ・サンサーラ』に迫る度に凍りついていく。だが、彼は動けないだろう。
間断なく触腕が襲いかかっているからだ。
嬲り、飲み込み沈めるためだけの海が骸の海ごと包みこんでいるからだ。
「そのご自慢の新世界、白と黒とで塗りつぶしやるっす」
藍亜は互いの領域が拮抗していることを知る。
力押しであるというのならば、藍亜は『イティハーサ・サンサーラ』にかなうべくもないだろう。
だが、ここには自分だけではない。
一人で戦っているわけではない。
自分は、どこでもないどこにもない、どこにもいけない(セカイヲヌリツブスモノ)けれど、それでも、自分以外の誰かは進むこともできれば振り返ることもできる。
心身を苛む痛みは、成長痛にも似たものである。
痛みなんてない方がいいけれど、それでも痛みに意味を見出す者たちがいるのなら。
「乗り越えられない、アンタなんてどの可能性を見てもないっすよ――」
大成功
🔵🔵🔵
アルカ・スィエラ
……鉄神の事もそうだけど……怒りが、湧いてくるのよ…!
アルカレクスへと融合合身、機体損傷はドラクティスで修復し、
……内より湧くこの怒りを狂気と呼ぶのなら構わない、全部ぶつけてやる…!!
(真の姿:アルカレクスと完全融合状態に。
一部装飾が変化し何処かロボット・兵器的というより生物的、機械生命体っぽくなる)
ドラグカプトをⅠ~Ⅳまで全基展開し砲撃開始!!
相手の放つ矢は確かに多いけれど、問題ない!
機体各所の結晶状パーツから放つ【BS-BXステラ・プルウィア】で、あいつ本体も含め攻撃し、全部叩き落す!
そしてドラグキャリバーを抜き、限界突破、推力全開!
一気に接近して一刀の下、あの爺、斬り捨ててやるわ…!!
怒りがこみ上げてくる。
臓腑というものがせり上がるのを感じたかもしれない。
それほどまでの、煮えくり返るような怒りが痛みと狂気とを凌駕する。
アルカ・スィエラ(鋼竜の戦姫・f29964)は融合合身を果した『アルカレクス・ドラグソリス』のコクピットの中で湧き上がり続ける怒りという衝動に身を任せるようだった。
「……鉄神のこともそうだけど……怒りが、湧いてくるのよ……!」
「怒りもまた可能性の一つだ。ただそれだけのことだ。事象の一つでしかない。だが、お前たちはそれを理解しない」
『イティハーサ・サンサーラ』が広げるは骸の海。
広大無辺なる世界。
骸の海は無限に広がり、猟兵たちを苛ませる。
真の姿を引きずり出されたアルカは、『アルカレクス・ドラグソリス』と完全に融合していた。
その可能性を『イティハーサ・サンサーラ』は見やり、つぶやく。
「わかるか。それがお前の可能性であり、お前の内部にある混沌そのものである。あらゆる可能性を内包し、どんなものにもなれる。一定性はない。法則性はない。関連性すら危うい混沌。その怒りの理由すら狂気に堕したものであると理解しないのか」
「だったら何よ……内より湧く、この怒りを狂気と呼ぶのなら構わない。全部ぶつけてやる……!!」
アルカは、己の体の延長線上……いや、己の体そのものとなった『アルカレクス・ドラグソリス』と共に踏み出す。
五感も全てが共有されている。
己が巨人となった感覚は、違和感を憶えさせるかもしれない。
けれど、アルカはまるでそうした違和感を憶えなかった。
なぜなら、これは自分だからだ。
自分であると認識している以上、そこに齟齬はない。
乖離する意志もない。
ただ一つのことだけが確かなことだった。
「この怒りは……私自身のものだ。いつかのだれかのものじゃあない。今まさにお前に感じている怒りは!」
展開される『ドラグカプト』が砲撃を迫る大灼熱地獄の炎宿した矢と撃ち合う。
炸裂する爆発。
そのさなかをアルカは前に突き進む。
機体の随所に配された結晶BS-BXステラ・プルウィア(ステラ・プルウィア)から放たれる無数のホーミングレーザーが『イティハーサ・サンサーラ」を襲う。
「全部叩き落とす!」
「怒りのみか。単一の感情すら己の体躯を突き動かす理由にするか」
「それが生きているということでしょう!」
アルカは咆哮する。
手にしたドラグキャリバーを引き抜く。
推力を乗せた突進の如き斬撃の一撃。
間に入った骸の海を切り裂きながら『イティハーサ・サンサーラ』へと叩き込む一撃。
骸の海が割れるようにして衝撃波が走り抜ける。
「あなたがどんな存在であろうと関係ない。ここで、斬り捨てる!」
アルカの斬撃は『イティハーサ・サンサーラ』との間に力の奔流となって吹き荒れる。
怒り。
そう、そればかりだ。
絶大な力を持つ創造主を前にしてアルカは怒りという一念のみによって、その衝動を叩きつけるようにしてドラグキャリバーを振り抜いた――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
しり……あす……(練乳文字
『ノイン』さんひどいです。ひどい裏切りです。
ここに来てシリアスなんて、ずっこいじゃないですか。
油断して練乳あんまり買ってなかったんですよ!
って、え?
「これまで暴走していた」?
それじゃまるで、今は暴走してないみたいじゃないですか。
常在暴走なんですから、『ノイン』さんに勘違いさせちゃいます。
メイド道 揺らぎないけど 歪んでる(ごーしちごー
いきてはないです。げんじつとーひとかしてるだけです。
でも、ステラさんからのセッションのお誘いですし、
微レアな『ノエル』さんのシリアスもーどですし、わたしも頑張りますね。
わたしもステラさんに合わせて【ボレロ】いっきまーす!
ステラ・タタリクス
【ステルク】
|エイル様《主人様》の!
香りがしまぁぁぁすっ!!
やっとエイル様の気配が!
はぁ落ち着く……これまで暴走していたのがよくわかります
ノイン様
色々と失礼をしまして大変申し訳ありませんでした
いえ、なんというか距離感がわからなくてですね!
歓喜の悪魔とか9ALTとか色々と探求したい気もしますが
それはまた今度
今はノイン様の『今』を言祝ぎましょう
貴女様の過去が我らの道を照らしてきたのならば
いまだ我が真の姿は定まらず
されど我がメイド道は揺るぐ事無く!!
というところでルクス様生きてますか?
シリアス大丈夫ですか?
真の姿アタックでぶっ飛ばしますよ?
【アウルム・ラエティティア】
これが今に一番似合うでしょう?
白い文字が地面に描かれている。
よくよく見ると、「しり」「あす」と書かれている。
せめてカタカナにすれば、横文字だといううことがわかったかもしれないが、わざわざひらがなにしているところで混乱を招くものであった。
けれど、これがミステリーなのならば、名探偵に寄る推理展開されることだろう。
推理とは物語の結論に至るための工程である。
だがしかし、この物語に結論という結末はまだ訪れていない。
ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は薄れゆく意識の中、裏切りを感じていた。
「|『エイル』様《主人様》の! 香りがしまぁぁぁすっ!!」
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の雄叫びで緩和されたような気がするが、ルクスの身を苛むシリアスな空気はまるで弱まっていない。
それどころか、侵略新世界『サンサーラナラーカ』が広げる骸の海によって彼女の心身はひどく消耗させられていた。
「やっと『エイル』様の気配が! はぁ落ち着く……これまで暴走していたのがよく分かります」
こっちが平常運転なのではないか。
むしろ、有能なメイドというのがいっときの気の迷いみたいな状態ではないのかと言われたら、それはそう。
「色々と失礼をしまして大変申し訳有りませんでした! いえ、なんというか距離感がわからなくてですね!」
ええやで。
「ひどいです。ひどい裏切りです。ここに来てシリアスなんて」
油断して練乳買い足してない勇者が悪い。
これは冤罪ってやつである。
タイム・プレイス・オケイションを弁えないのならば、ここで『勝訴』という半紙を掲げて回るところである。
だがしかし、それどころではないのが猟兵の戦いの厳しいところである。
「それにこれまで暴走していたっていうのは、まるで今は暴走していないみたいじゃないですか。常在暴走なんですから、勘違いさせるこようなことは言わないほうがいいんじゃないですかね」
「それよりも『今』を言祝ぎましょう。いつかのだれかの過去が我らの道を照らしてきたのならば!」
「だからシリアスやめてください!」
練乳文字が捗って仕方がない。
「いまだ我が真の姿は定まらず。されど我がメイド道は揺るぐことなく!!」
たまには揺らいでどうだろうか。いや、あれをメイド道と言われたら、本職のメイドさんたちが起こりそうな気がする。
「メイド道 揺らぎないけど 歪んでる」
ごーしちごーってやつである。
いきてる?
「ルクス様生きてますか? シリアス大丈夫ですか? 真の姿アタックでぶっ飛ばしますよ?」
「いきてはないです。げんじつとーひとかしてるだけです」
ルクスはゲッソリしていた。
練乳がないのもあるし、差し入れ一つない現状。差し入れほしいならほしいっていえばくるのにね。
だがしかし、ルクスは立ち上がる。
対するは『イティハーサ・サンサーラ』。
打倒しなければならない諸悪の根源。
ならば、彼女たちは歌い、奏でる。
「いま、此処に在れる喜びを歌に」
「わたしの魂を響かせますよ!」
ともに戦う者たちがいるということは幸いである。
強大なる一つに例え、混沌の如き無限が宿るのだとしても。
それでも此処には己が一人ではないということを実感させるものがある。
隣立つものの熱も、声も、その一つだ。
ステラとルクスの放つものもまた、そうしたものが織りなすもの。
結実したユーベルコードの輝きが、侵略世界『サンサーラナラーカ』に炸裂した――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
源・朔兎
ああああ!!頭が割れる!!力が溢れて壊れそうだ!!・・・はあはあ。
やってくれたなイティハーサ。民の平穏な世界を壊し、思う通りの世界を作って何になる!!勝手に、人の可能性を否定するんじゃない!!
黎明の進撃発動。このいじられた体は制御間違うと大変な事になる。【回復力】【根性】で持たせながら、【オーラ防御】【心眼】【結界術】【自動防御】【幻影使い】もフル活用。髪の毛もところどころ金がまじってるし、角も生えてるし、肩とか腕に棘が生えてる。そう俺は半ば妖なんだよ!!
でも俺を認めてくれる人たちがいるんだ!!【限界突破】で最大限の力をこめた【衝撃波】を!!どんな命でも、生きる権利はあるんだ!!
絶叫が迸る。
痛みが、狂気が己に迫ってきている。
それはどうしようもないことだった。
頭が割れるような痛み。
それは外部からの力ではない。
己の内側から溢れる力が、己という器を破壊しようとしているのだということに源・朔兎(既望の彩光・f43270)は気がついた。
溢れる。
こぼれるのではなく、溢れる。
力がどうしようもなく、その制御できぬ力は己という器を内側から破壊していく。
「はあ、はぁ……
「息も整えられぬか」
『イティハーサ・サンサーラ』の言葉と共に炎の矢が降り注ぐ。
大灼熱地獄の炎を宿した矢の雨。
それは一気に朔兎へと迫り、彼の肉体を穿つ。
炎が肌を焼き、痛みに表情が歪む。
「やってくれたなイティハーサ。民の平穏な世界を壊し、思う通りの世界を作って何になる!!」
「平穏な世界など、この骸の海に浮かぶ世界に存在しえない。どんな世界にも生命が溢れるのならば、それは個と個が出逢えば争いが起きるものだ。可能性とは即ち、引力である。どうあっても個が二つあるのならば、引き合う運命にあるのだ」
故に、と己達もそうだというのだ。
出逢えば滅ぼし、滅ぼされる間柄でしかない。
故に、『イティハーサ・サンサーラ』は告げる。
「可能性とは、そうして生命から生み出されるもの。衝突からしか可能性は分岐しない。憶えがあるのではないか? お前たちを襲った悲劇もまた引力による可能性の発露」
それは朔兎にとって、多くの悲しみに起因するものであった。
個なくば、衝突はないというのならば、個であるがゆえに悲しみは己達を試す。
かけがえのない出会いも悲劇がなければ、生じなかった。
今が幸せであればあるほどに、過去の悲劇は色濃く己の心をかき乱す。
そういうものだ。
けれど。
「勝手に、人の可能性を否定するんじゃない!! どれだけ悲しみの記憶に彩られていたとしても!」
「お前たちを形作っているのは悲劇だ。悲劇こそがお前たちの輪郭だ。どれだけ、その中心に穏やかなりし記憶を持つのだとしても、お前という外殻は、結局の所悲劇の集約に過ぎないのだ」
故に、と降り注ぐ炎の矢。
それらを受け止めながら朔兎は怺える。
耐える。
己の力の発露は、白髪の髪を金色に変えていく。
角が額から生え、肩や腕にも棘が生まれ始めている。
自覚する。
己の真の姿は、妖そのもの。
いや、混じっているというのが正しいのだろう。かろうじて人の形をしているからこそ、そうであると言える。
「醜いな。それもまた可能性の発露であるが」
「でも、俺を認めてくれる人たちがいるんだ!! それがどんなに俺を救っているのかをお前はしらないだろう。可能性ばかりを見ているお前には、眼の前にいる優しい人たちが俺を形作ってくれていると知らない! 理解もできない!」
炎の矢に相対するは、黎明の進撃(レイメイノシンゲキ)。
純白のオーラに意志が組み合わさり、己の限界を超えた力を持って衝撃波を叩き還す。
どんなに醜くとも、どんなに悲劇が身を作り上げるのだとしても。
「どんな生命でも、生きる権利はあるんだ――!!」
大成功
🔵🔵🔵
洞木・夏来
過去にすがるのはやめたんです
私の知っている人たちは、憧れた人たちは可能性を求め、未来へと進む人たちでした
だからこそ、私も前へと進んで見せます
痛みと狂気で狂いそうになりながら、この力を確かめる
初めはこの力で失ったものを取り返そうとして、でも実は私が逃げただけで何も失ってなくて
今となってはもっと多くのものを得ることが出来て、たくさんの人に出会えた
この力は呪いではなく、私の一部で、私の未来を変えた祝福です
今までは発動させるのが精いっぱいだったけど、今なら自分の思い通りにできる気がする
自分の感覚を拡張するように、ゆっくりと私の想いを形にするイメージで
想いは恐怖、形はどこまでも自由に飛べるように鳥を
【UC:純黒ノ守護者】(WIZ)、私に前へと進む力を貸してください
狂気に飲まれるよりも早く、苦痛への恐怖よりも多く鴉たちを呼び出して、骸の海の向こうにいるイティハーサへ鴉を飛ばします
全てを切り捨てるあなたとは違う、過去に縋らず、己の一部として前へ進む、これが今の私の全力です
(アドリブ等々全て歓迎です)
振り返れば、過去という轍がある。
生命の可能性というのならば、前に進み続けることであっただろう。
時が前に進み続けるのと同じように、生命もまた前に進み続けるためには過去という大地が必要となる。
眼の前に広がるのは広大無辺の骸の海。
過去そのものであり、混沌そのもの。
可能性満ちる骸の海は、ただそこに存在しているだけで痛みと狂気を洞木・夏来(恐怖と歩む神器遣い・f29248)にもたらす。
痛みと狂気は彼女の心を過去に飛ばす。
縋る。
温かな記憶を頼りに、恐怖心を受け入れる。そうしなければ、自分の心が壊れてしまいそうだった。けれど、それ以上に彼女が憂いたのは、自分の呪いが家族を傷つけることだった。
優しい人々がいる。
強い人々がいる。
己が猟兵となって力を求めたのは、自分のためだ。
彼等とは異なる動機だった。
きっと、その差異は憧れとなって彼女を前に進ませる力とtなっただろう。
「過去にすがるのはやめたんです。私の知っている人たちは、憧れた人たちは可能性を求め、未来に進む人たちでした。だからこそ、私も前へと進んで見せます」
「その進む先さえも作られたものであり、また同時に起こり得た可能性の組み合わせにすぎないものだとしてもか」
『イティハーサ・サンサーラ』の言葉が響く。
あまねく光。
それは『神王サンサーラ』のちからの発露。
広大無辺に広がりゆく骸の海の中心で『イティハーサ・サンサーラ』は告げる。
確かに、と思う。
己が進む先、その未来はありきたりなものなのかもしれない。
痛みと狂気が彼女の思考を侵食していく。
己が背にある光。
己が喪うきっかけとなった力。
失ったものを取り戻そうとするために、目を背けた。
一つを得るために多くを失い、一つを失って多くを得た。
皮肉であったかもしれない。
一つも、多くも。いずれもが大切なものであり、かけがえのないものであった。
同時に、夏来は思うのだ。
「何も私は失ってなんかいなかったんだって、おもうんです。きっとこの恐怖だってそうなのでしょう。この力は呪いではなく、私の一部で、私の未来を変えた祝福です」
迫る骸の海を前にして夏来は瞳をユーベルコードに輝かせる。
怖いというのは本当だ。
けれど、否定はしない。
否定とは逃げることだ。今までの自分と同じことだ。何も失ってなんかいないのに、恐怖に駆られて走ることなんて意味のないことだ。
恐怖とは手繰るもの。
これを祝福だというのならば、夏来は今ならばこの力を自分自身のものとして扱うことができる。
己がイメージするのは。
「大丈夫」
つぶやく。
そう、大丈夫なのだ。
己が感覚を拡張させる。ゆっくりと己の思いを形にする。
彼女の抱くのは恐怖。
いつだって怖いと思うし、そして、斧恐怖はどこまでも自由に飛ぶことのできる鳥。
「純黒ノ守護者(クロノシュゴシャ)は、私の心そのもの。怖くても、私は戦えるし、飛んでいける」
だから、と夏来は己が力を飛翔させる。
「その心こそが不要だとは思わないか。生命が可能性を生み出すのならば、骸の海を見よ。混沌こそが全ての可能性を内包したものだ。これ以上はない。これ以上は増えても必要がない。なら」
「いいえ、あなたは全てを斬り捨てる。あなたと私は違う。あなたは過去を弄ぶ。私は過去にすがった。でも、あなたと私の違いは」
夏来はまっすぐに骸の海の中心に立つ『イティハーサ・サンサーラ』を見据える。
「過去は私の一部。前へ進むために必要なのは過去じゃあなくて」
己を構成していくもの全てだ。
だから、と彼女の後光は黒にさえ輝く。
それもまた己の心。
発露する心は、恐怖を根源としながらも見通せぬ未来に恐れなし、されど進みゆく生命の尊さを示すように『イティハーサ・サンサーラ』へと飛ぶのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
月隠・三日月
『生命は不要』と言うけれど、別に必要とか不要とかで生きているわけではないのだよね。私がどう生きてどう死ぬかは私が決める。
私の真の姿は、妖刀の侵食の表出。不定で千変万化のこの妖刀と同じく、存在がぶれる。
骸の海の影響に加えて、妖刀の侵食まで強く受けることにはなる……けれど、詰まるところ幻朧帝と戦えればいいわけだから、その点は大丈夫かな。
どんなに狂気に蝕まれようと、変わらず戦うのはとても楽しいからね。痛みくらいでやめる気にはならないな。
存在がぶれるのにも利点はある。自分の位置を誤魔化せるから(【残像】)攻撃を躱しやすくもなれば、攻撃を当てやすくもなる。
敵に近づけたら【紅椿一輪】で斬りつけよう。
「これ以上の生命は必要ないのだ。可能性の発露など、最早骸の海の中にあるものだけで事足りる。何故理解しない。すでに骸の海は混沌そのもの」
『イティハーサ・サンサーラ』は『神王サンサーラ』の意志を取り込み、そのユーベルコードを操る。
広大無辺の骸の海。
その中心に立ち、侵略新世界『サンサーラナラーカ』にて満たす骸の海を以て迫る猟兵たちを阻む。
「『生命は不要』と言うけれど、別に必要とか不要とかで生きているわけではないのだよね」
月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)は言う。
痛みと狂気が心身を苛む。
だが、それでも言わねばならない。
己が生きているのは誰かに頼まれたからでも、必要であるからでもない。
生きているということは、それ自体が戦いなのだ。
そして。
「私がどう生きてどう死ぬかは私が決める」
それもまた可能性の一つなのだ。
引きずり出される真の姿。
手にした妖刀。
無名たる刀は、姿を変化させていく。
見るものによって形を変える異質なる刀は、可能性そのものであったことだろう。
その力の浸出によって三日月の姿は、まるで砂嵐のように不定の姿へと変化していく。
千変万化。
そう表現するのに相応しい姿である。
何れも定義できぬ姿。
だが、三日月は気がついていた。
妖刀と骸の海による心身への影響。此処まで強く受けるとは思ってもいなかったのかもしれない。
「でも、いいか。それでも私は戦うよ」
寧ろ、都合がいい。
つまるところ、今己が生きているのは幻朧帝を打倒するためだ。
その理由のために己は生きるも死ぬもできる。
これが可能性と言わずして何を可能性というのだ。
何れも選ぶことができる。
多くの現実は選び取ることさえできないのだ。故に、三日月は笑う。楽しいとさえ思ったのだ。
骸の海が生み出す痛みも狂気も凌駕する。
「痛いくらいで止められるのならば、とっくに止めている。けれど、私はそうしなくてはならないと思うのではなく、そうしたいと思って今此処にいる」
「それで自ら選んだつもりか。お前の言葉は環境に、境遇に、状況に流されているだけではないのか」
「そうかもしれない。けれど、それでもいいだろう。生きるってことはそういうことだ。不変なものが最良とは限るまい」
故に、と不定なる姿のまま三日月は骸の海をかき分けるようにして疾駆し、紅椿を纏った紅染めの妖刀を振るう。
その斬撃も、直後に姿を変えるだろう。
紅椿一輪(クビキリツバキ)。
それは『イティハーサ・サンサーラ』の首元を狙う斬撃。
「どんな狂気に蝕まれようと、私は思う。戦うのはとても楽しい。痛みくらいでやめる気にはならないよ――」
大成功
🔵🔵🔵
ヴィンデ・ノインテザルグ
脳幹まで痺れるような眩暈に耐え
括目すれば、明確な己の変化に気付くだろう。
何故私がFireflyそのものになっている…?
常時の連結している際の一体感とも異なる。
まさかこれが私の真の姿だというのか。
イティハーサよ、好きなだけ囀るがいい。
寧ろ、確信を持たせてくれたことに感謝している。
私は生来のヴィンデ・ノインデザルグではない。
彼…9番目の棺に移植されたワイズマンユニットなのだろう。
残酷な事実を裏付けるように、軽やかに機体が動く。
UCを起動しながら特攻を。
敵が攻撃無効化に怯んだ隙に
タックルと同時にBeelzebulを全力で駆動させながら
十字架状に変形させたAsmodeusを突き立て
完全性を損なわせたい。
これは怒り?哀しみ…?
名の知れぬ感情が溢れ出るままに
衝撃で破損したパイルバンカーはパージして
蹴りと殴打を、146秒ギリギリまで繰り返してしまいそうだ。
我が国は対話不足が原因で滅んだと信じていた。
だが今は殲滅理由が判る。
自棄になりかけた瞬間、脳裏を過る相棒の微かな笑顔。
あぁ、私は…まだ生きていたい。
斬撃の一撃が『イティハーサ・サンサーラ』を捉える。
揺らぐ完全性。
猟兵のユーベルコードの一撃に寄って揺らいだ完全性によって『神王サンサーラ』の強大すぎる意志と融合を果した『イティハーサ・サンサーラ』の姿が歪む。
完全性を失ったことに寄る力の喪失。
「……意志を得たことで完全性に揺らぎが出るか」
だが、溢れ出す骸の海は止められない。
なぜなら、ここは侵略新世界『サンサーラナラーカ』。
骸の海に満たされた世界は、踏み出したものの心身を苛む。
納棺まで痺れるようなめまいが走る。
視界がかすれる。
瞼がどうしても重たくて、握りしめた操縦桿に血が滲むほどヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)は力を込めて、漸く意識を保つことができていた。
揺らぐ視界。
それでも目を見開く。
握りしめていた操縦桿の感触ななく、己が指先は鋼鉄へと変貌していた。
腕も、足も、触れる顔面さえも鉄の感触がする。
「何故」
何故、という言葉が空虚に響く。
発声しているという自覚は遭っても、その音はどこか反響するようだった。
「私が『Firefly』そのもになっている……?」
それは奇妙な感覚だった。
冒涜的な装置に寄る機体との一体化。それとは此度は異なる。
どういうことだ。
己がキャバリアになる、という一体感を越えた、同一になるかのような感覚にヴィンでは思わず呻く。
「まさかこれが」
「お前の真の姿ということだろう。鋼鉄の巨人そのものとはな。可能性とは言え、ここまで己を規定できぬか」
『イティハーサ・サンサーラ』の言葉にヴィンデは皮肉にも己を認識する。
「好きなだけ囀るがいい。むしろ、確信を持たせてくれた事に感謝している。私は生来のヴィンデ・ノインデザルグではない」
「だろうな。お前は鋼鉄の巨人。そして、そのもの。仮初の姿であり、己がそうであると認識するしかなかった鋼鉄の棺の中身そのもの」
九番目の棺。
ワイズマンユニット。
生命ですらない。
だが、此処にいるという認識。
残酷な現実であるというのならば、骸の海以上にヴィンデの心を抉る事実であった。
軽やかに動く機体。
意志と挙動が滑らかにつながる。
わかっている。
己がこの機体そのものであるというのならば、明けぬ夜の中にありて、昼を認識できぬのは何故だったのかを知ることができる。
棺に陽は昇らぬ。
永遠に目覚めることなく、外界を認識している者こそが己。
「だが、私には見えているぞ」
見える。
夜しか見えぬ目であっても、戦場にて打倒さねばならぬ敵が何れかなど言うまでもなく理解しているのだ。
「なんとも愚かしい末路の可能性であろうか。お前は」
「だとして、そのさえずりに意味はない」
機体が、否、己の駆体が砕ける。
撃ち込んだ一撃に腕部が耐えきれず、ひしゃげたのだ。だが、それでも『イティハーサ・サンサーラ』に攻撃を叩き込むことがやめられない。
怒りか。哀しみか。
わからない。
これが感情だというのならば、ヴィンデは己の感情がわからなくなっていた。
パージされるパイルバンカー。
ひしゃげた腕をそのままに『イティハーサ・サンサーラ』へと叩き込む。
あらゆる骸の海も『イティハーサ・サンサーラ』の攻撃も、ユーベルコードの輝き発露する己の瞳が煌めく限り届きはしない。
己の攻撃で自壊した腕部さえも攻撃の手段。
わかる。
この自暴自棄の精神で、対話の不足などただの後付に過ぎない。
もう滅びてもいい。
この敵を滅することができるのならば。
147秒を超えてもいい。
死など既に通り過ぎた。
完全なる死。永遠なる死に踏み込むのだとしても。
だが、己によぎるのは微かな笑顔だった。
己ではない、相棒の笑顔。
それが己を引き止める。アイセンサーが煌きを失い、コクピットの中でヴィンデは天を仰ぐ。
「あぁ、私は……まだ生きていたい――」
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
反転するように、髪は黒く、瞳は赤く染まっていく
引きずり出される姿は、悪性に染まった自分
揺らぎ移ろうのが人の性
これも私の中にある真実の一つなのでしょう
恐れないわ
骸の海を利用し、鋼鉄悪魔召喚を行うわ
大丈夫、私はまだ壊れない
狂気も痛みもねじ伏せてみせる
繋がせて、その力
限界を超えて疾走り、停滞した完全を打ち砕く一撃をここに
出会いと願いが生むものが悲劇とは限らない
私はそう信じているの
多くの苦しみと痛みが身を苛む。
散り散りになるような痛み。心を抉る刃のような痛み。
骸の海に満たされた侵略新世界『サンサーラナラーカ』にありて、薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は思う。
青い瞳は赤く染まっていく。
反転するようだった。
何もかもが裏返しになって、己という存在の裏側をさらけだすような感覚だった。
流れる銀髪は黒く染まりゆく。
引きずり出されるは、悪性に染まった己。
「揺らぎ移ろうのが人の性」
赤は悪性を示し、青は善性を示す。
人の心には悪性と善性が内在する。故に揺らぐのだ。傾き、戻り、また傾く。
その揺らぐ様をこそ、人は良心と呼ぶ。
真の姿をさらけ出されたのは、静漓という存在が真、悪性である証左を示すものであったことだろう。
だが、静漓は痛みを憶えながらも理解していた。
「これもまた私の中にある真実の一つなのでしょう」
「善性ばかりで構築されたものは悪性そのものだ。完全なる善は完全なる悪と同義。それもまた可能性の一つ。故に」
『イティハーサ・サンサーラ』は完全性を発露できない。
数多の猟兵たちのもたらしたユーベルコードの輝きと、真の姿を引きずり出されてなお、
彼等は戦うことを選んだ。
その結実が眼の前にあるのだ。
故に静漓は今まで得てきたものを思う。
幾つもの世界を見てきた。幾つもの生命を見てきた。
触れて、感じて、知ってきたのだ。
様々なことを知ったからこそ彼女は力強く言葉を紡ぐ。
「恐れないわ」
「可能性のるつぼ、己の悪性を引きずり出されてなおか」
「ええ。だって、これも私の一つだと知ったから」
ユーベルコードに煌めく悪性の赤。
鋼鉄悪魔召喚(コウテツアクマショウカン)。
現れるは赤きオブリビオンマシン。
三面六臂。
その名は嘗て鋼鉄の巨人が闊歩する世界にて生み出された者。
名を『セラフィム・エイル』。
六つのアイセンサーが煌めく。流入する情報が静漓の脳を締め付ける。痛みが走り、心が砕かれそうになるほどに圧倒的な情報の洪水が流れ込むのだ。
耐えられるわけがない。
「大丈夫、私はまだ壊れない」
流れ込む情報の濁流。
けれど、静漓は思う。
己が得てきた記憶とも言うべき情報。いや、情報ではない。
「こういうのは、思い出というのよね」
「いいや、可能性というのだ。ただの可能性の一欠片だ。それを」
「違うと思う。これは、繋ぐことで得られる力」
静漓は赤いオブリビオンマシン『セラフィム・エイル』と共に疾駆する。
限界を超え、停滞した存在を打ち砕く一撃は、その六腕に宿っている。
何故、六腕が必要だったのか。
多くの武装を扱うためではない。救いたいと思ったからだ。あまねく全てに手を差し伸べることができるように、その腕はある。
その眼差しが六つあるのは、あらゆる世界を見つめるため。
救わねばならぬという意志があるからこそ、その姿。
「出会いと願いが生むものが悲劇とは限らない」
「何を言っている。それが、その引力が生み出したものをお前たちも見ただろう。争いばかりが、衝突ばかりが生命という個の生み出すものだ」
「そうかもしれない。けれど、私はそう信じているの」
多くを見た。
多くを知った。
だから、静漓は叩きつけられる六腕と共に赤い瞳でもって見据える。
敵ではなく、守るべき未来を――。
大成功
🔵🔵🔵
ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!
んもー
不要とか意味がないそんなの決めなくてもいいのにー
不要だから意味がないからそうするんじゃなくて…
キミがそれを嫌いだからやってるだけでしょー?
あーでも…うんそういうのならけっこー好き!
●UC『神論』で狂気や冷気や骸の海を一時的にでも押さえ込む
うー、頭が痛いー…何か出てきそう…?いや思い出しそう…?
そして世界は光に満たされた!的な真の姿露出イベントを挟んで
////はい巻き戻し!///
うっかりなんか出ちゃった気がするけど(まぶしくて)誰も何も見なかった!ってことにしといてよい?ノルマも達成したってことでよい?よいね!
じゃあ押さえが効いてる間に[餓鬼球]くんたちよろしく!
打ち据えられる『イティハーサ・サンサーラ』。
骸の海満ちる世界にありて、骸の海そのものと言える存在は、猟兵たちの煌めくユーベルコードに寄って消耗を見せていた。
「んもー不要とか意味がないとかそんなの決めなくてもいいのにー」
ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は骸の海にて球体の上に座って見下ろす。
「不要だから意味がないからそうするんじゃなくて……キミがそれを嫌いだからやっているだけでしょー?」
「嫌悪などない。そこにあるのは可能性のみだ。あまねく生命に対して、そのような感情など抱く意味等ない。可能性は可能性でしかないのだから」
「そうかなー? そうには見えないけれど」
ロニは首を傾げる。
迫る冷気も、骸の海も、ロニの展開する子供じみた屁理屈や理不尽な世界改変、時間遡行によって全てが巻き戻され無垢化されていく。
「神論(ゴッドクィブル)って便利だよねー。俯瞰した見方をすれば、それだけで事足りるってもんだよ。うー、でも頭が痛いなー」
ロニは骸の海により侵食に耐えられない。
何かが頭の中からせり上がってきているように思える。
いや、思い出すというのが正しいのかもしれない。
砕ける頭蓋が枷であるというのならば、生まれ出るものは何であっただろうか。
ロニの真の姿は、誰にも見られることはない。
なぜなら、ユーベルコードがきらめいているからだ。
どんなことが起こり得るのだとしても、巻き戻す時点で可能性は潰える。
何も怒らなかったという可能性すらもなかったことにしてしまう暴論じみたユーベルコード。
これによって『イティハーサ・サンサーラ』は理解しただろう。
この戦いは意味がない、と。
「巻き戻したところで骸の海の中にある可能性は目減りすることもなければ霧散することもない」
「でもさ、抑えられるでしょ?」
ロニは笑う。
真の姿を何度引きずり出されようとしても、すべてがなかったことにされる。
巻き戻しとは気楽な作業である。
ボタン一つですむ。
それこそ、ロニはそうしたユーベルコードを持って『イティハーサ・サンサーラ』のユーベルコードを封じてきたのだ。
「そろそろノルマ達成ってことでいいよね?」
にこ、と笑うロニ。
「よいね!」
なら、とロニは笑って己が座っていた球体を掲げる。
「じゃあ、あとはよろしく!」
掲げた球体を『イティハーサ・サンサーラ』へと投げつける。
骸の海も、可能性も、子供の屁理屈さえも受け止める器であっても、理不尽な世界改変さえも無にしても、時間を遡行することであらゆるものがリセットされる。
その手軽さを憶えてしまったのならば、もう戻れない。
ロニは笑って、叩きつけた球体の上で背を伸ばすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
メルヴィナ・エルネイジェ
リグ・ヴェーダ…これが私の真の姿なのだわ?
やっぱり私は身も心も本当に怪物だったのだわ
でもずっと前から気付いていたのだわ
人を愛する人が人に愛されるとは限らないことを知った痛み
初めから愛なんてなかった人に裏切られた痛み
その痛みが気付かせたのだわ
私は愛する人を締め殺してしまう怪物だという事を
こんな痛みを知らなければ、彼の思いも信じる事ができたのだわ
あなたに苦しめられるまでもないのだわ!
狂わされるまでもないのだわ!
私はとっくに壊れているのだわ!
全部彼のせいで!
彼が早く私に会いに来てくれなかったからなのだわ!
骸の海も!八寒地獄も!あなたも!彼も!私を苦しめるものは全部!闇より深い海の深淵に沈めばいいのだわ!
海杖に封じていた海を解き放つのだわ
私はリヴァイアサンの化身
私が狂うほど海も荒れ狂うのだわ
大海嘯で何もかもを飲み込むのだわ
過去も未来も可能性もいらないのだわ
今あなたがしているように、そこには痛みしかないのだわ
深海の静寂だけが…私の痛みを癒してくれるのだわ…
なのに…どうしてこんなに苦しいのだわ?
骸の海は可能性の坩堝。
満たされた可能性は、あらゆる物を生み出す。
そう、世界すらも生み出してみせるのだ。
『イティハーサ・サンサーラ』はそれを可能としていた。あらゆる熱を奪う冷気をまとい、猟兵たちのユーベルコードによって消耗させられながらも、しかし骸の海そのものと言える強大な力を振るう。
広大無辺に広がりゆく骸の海。
その波に飲まれ、メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)は己の心身を苛むトラウマの如き光景に涙をこぼす。
もう涙も枯れ果てたと思っていた。
身を斬り裂くようにして己の体躯が変わっていく。
真の姿。
ともすれば人魚の如き姿であるが、メルヴィナにとって、その姿は怪物そのもの。
『リグ・ヴェーダ』。
その姿こそ、彼女の身と心を示す真。
骸の海の海上へと飛び出したメルヴィナは海面を見やり、己の姿を自覚する。
「やっぱり私は身も心も本当に怪物だったのだわ」
その声は涙に震えてはいなかった。
どこか諦観にまみれてさえいただろう。
気がついていたのだ。理解していたのだ。見てみぬふりをしていただけなのだ。
「ずっと前から気づいていたのだわ」
「己の真の姿に自覚的であったと。だが、お前はまだ知らないのだろう。お前の言うところの真というのは」
『イティハーサ・サンサーラ』は骸の海から有り得た可能性をメルヴィナに見せつける。
鏡のような海面に浮かぶのは、己の姿であった。
「皇女殿下!」
「もう、やめるのだわ。そういう他人行儀な言い方は」
「で、ですが……お立場を考えれば」
「今は私とあなただけなのだわ。なら、そういうのが一番傷つくのだわ」
「……それは! ぜ、善処いたします!! 無論、全力で!!」
「がんばりすぎなのだわ、それは」
それは有り得た可能性の世界。
あったかもしれない可能性。
親しげに肩を寄せ合う男女。
睦まじいと呼ぶに相応しい光景。二人の関係性を問うまでもない。
それはきっとメルヴィナが思い描いていた、何よりも望んでいたものだった。
「……」
「お前の真の姿は、この可能性とは裏腹なるもの。思い、描き、焦がれたものとは真逆。それを理解していながら」
「人を愛する人が愛されるとは限らないのだわ」
痛みを知った。
こんな痛みを知るくらいならば。
でも、と思うのだ。
愛を求めても、愛を元から持たぬものは必ず裏切る。いや、裏切るという感覚すら正しくなかったのかもしれない。
愛そうとしたのだ。愛すれば愛してくれると思ったのだ。
だが、裏切られた。何度も裏切られたんだ。
そして、理解したのだ。
裏切りの痛みこそが、己が怪物であるということを。
愛する人を絞め殺してしまう怪物だということを。こんな痛みを知らなければ、|彼《いつかのだれか》の思いも信じることができたのだ。
「不義を赦さず、不信に傾く。愛という可能性を信じるがゆえに、裏切られた大海の権化よ。お前の姿こそが理不尽という可能性の発露である。その苦しみと痛みとともに骸の海に沈むがいい」
迫る冷気に身も心も凍りつく。
だが、痛みが走る。
骸の海ではない、別の痛み。
「あなたに苦しめられるまでもないのだわ! 狂わされるまでもないのだわ! 私はとっくに壊れているのだわ!」
メルヴィナの瞳がユーベルコードに輝く。
戦場に満たされた骸の海すらも侵食する海水。
それが己の力にして、己の痛みであり、また同時に想いの重さ。大海と同等の重さを持つメルヴィナの思いは、大海嘯(タイダルウェイブ)となって『イティハーサ・サンサーラ』の眼前にそそりたつようだった。
「全部|いつかのだれか《彼》のせいで! 彼が早く私に会いに来てくれなかったからなのだわ!」
それは八つ当たりだ。
どうしようもないものだと知っている。
「骸の海も! 八寒地獄も! あなたも! 彼も! 私を苦しめるものは全部! 闇より深い海の深淵に沈めばいいのだわ!」
手にした海杖が更に煌めく。
己は化身。大海の化身。己が激情こそが、力の源。
「可能性すら押しつぶすか、一時の激情で!」
「知らないのだわ! 過去も未来も、可能性もいらないのだわ! 今あなたがしているように、そこには痛みしかないのだわ!!」
癇癪を起こすようにメルヴィナは叫び、生み出した大津波によって『イティハーサ・サンサーラ』を押しつぶす。
完全性を失い、消耗した彼が大海嘯を止められるわけがなかった。
侵略新世界『サンサーラナラーカ』は、深海の如き静寂に満たされる。
その静寂の最中、メルヴィナは溢れた涙すら贖えぬ乾いた瞳で水底から海面を仰ぐ。
「深海の静寂だけが……私の痛みを癒やしてくれるのだわ……」
戦いは終わり、最早見せられた可能性という世界は海面には映らない。
あの睦まじい可能性ありし世界は消え失せたというのに、もう見なくていいというのに。
胸は傷まないというのに。
なのに。
「なのに……どうしてこんなに苦しいのだわ?」
手を伸ばすこともできない。思い描くこともできない。
なのに、どうしてか、あの可能性の世界は瞼の裏にこびりつく。それがまた己の心をかき乱し、渦巻く――。
大成功
🔵🔵🔵