帝都櫻大戰㉔〜死桜奈落の篝火
●白き渾沌の中にて
サクラミラージュ帝都、千代田区にある帝城の遙か地下こそ幻朧帝封印の地。
新世界の|虚《うろ》は白き花弁に包まれ、混沌の中に諸悪の根源たる存在はいた。
幻朧帝イティハーサ――曰くそれは『世界を創造するもの』。
新たな世界を望む意志さえあれば、如何なる世界をも創り上げると翁の姿をしたそれは告げる。
彼の名の示す|歴史《イティハーサ》を、過去の断片を繋ぎ合わせるだけで出来ると|曰《のたま》うのだ。
『――再孵化せよ、エンシェント・レヰス「イザナミ」――サクラエリュシオンの女神だった者よ』
己をかつて封印した存在をオブリビオンと成し、世界を滅ぼす尖兵としても尚、その善なる意志を封じ込め。
『儂に、新世界を望む『意志』を寄越すのだ』
(『――嗚呼、妾の愛しき命達よ、どうか、どうか――』)
イティハーサに取り込まれながらも女神は願う。
生きてる貴方達を彩る、紡ぎ続ける命の輝きを見せて――と。
●流れる血の色も鼓動の音も
「|天地初発之時《あめつちのはじめのとき》に生まれた伊邪那岐命と伊邪那美命は渾沌とした地上を掻き混ぜて最初の島を生み出した――」
神社に奉仕する神職らしく古事記に伝えられる日本の創世神話に触れながら、蓮条・凪紗(魂喰の翡翠・f12887)は集まった猟兵達に第三戦線における戦いについて説明を開始した。
「幻朧桜イティハーサ、とうとうお出ましやね。帝城での戦いで渾沌化した影朧と戦った連中もおるやろ。まぁまぁ予測通り、骸の海そのものみたいな存在みたいやな、あのジジイ」
骸の海を自称するものと言えば先の戦争でも予兆に姿を現した鴻鈞道人を思い起こすが、それとの関係性は解らない。だが、歴史とは即ち過去だ。骸の海と同義と考える事は難しくないのだろう。
「皆に行って貰うんは侵略新世界『サクラタルタロス』。幻朧帝がイザナミと融合しおってその意志から創り上げた世界や。イザナミが元々おったサクラエリュシオンの記憶の影響なんやろな……」
天も地も櫻の花に覆われているその世界。しかし櫻の下には無数の『冥府の蛆獣』が轟き、命有る者は等しくその身を蝕まれるのだと言う。
「|楽園《エリュシオン》やなくて|奈落《タルタロス》と言う名前の通り――生者を拒むかの世界やな」
もしここでイティハーサ・イザナミを取り逃がせば、この新世界は他世界の侵略に乗り出すだろう。
「――まぁ、きっと皆のことやし、ペンペン草一本残さん勢いでやってくれるんやろ?」
逆に、全ての戦場を制圧すれば。グリモアエフェクトの発動により幻朧帝を完全に滅ぼす事が出来るのだ。
山本五郎左衛門が行った『諸悪の根源滅殺儀式』も無事に為されている。あとは――倒すだけ。
「サクラタルタロスの内部は制止した『死の静寂』に満ちとる。いるだけで急速に生命力を消耗する……そんな世界やさかいな。で、手立ては二つ」
凪紗は指二本を立て、その手段を猟兵達に告げていく。
一つ。自身が消耗しきるその前に、幻朧帝に渾身の一撃を叩き込む。
「まぁシンプルやな。会心の一撃を決めた後は気ぃ失う前に転移での撤退支援はするから安心し」
流石に反撃を受ける前に、とか細かい指定をされてもタイミングまでは計れないのでダメージを受ける覚悟は決めて行けと凪紗は苦笑いを浮かべながら話す。
もう一つ。それは幻朧帝に取り込まれたイザナミに向けて働きかけると言うもの。
「女神はんの意識は完全には失われてへん――そう信じて、皆が『命の輝き』を示す事出来たら或いは……」
死と静寂の世界に灯火、いや、篝火の様に命を燃やせば。その生きる力がイザナミと同化した幻朧帝を怯ませて『死の静寂』の効果を止める事が出来るかも知れない、と凪紗は説いた。
「イザナミは死の女神ではあるけど、命を愛でるからこそ――死を憂う者をサクラエリュシオンに導いたんやないかな……って。そんな事思うんよ、オレは」
日本神話にある同じ名前の女神だって、死ぬ前は母なる神であったのだから、と。
天宮朱那
天宮です。
イザナミで……と思っていたのでこのフレームの名称を見て即決。
ユーベルコードをカラオケで歌った直後だけに、もう。
プレイングボーナス……生命力が尽きる前に一撃を与え、離脱する/自身の「命の輝き」をイザナミに示す。
どちらを選んだかはプレイングの行動や心情で示して下されば、と。
前者プレボの場合、一撃決めた後の離脱については特に指定は不要です。イイ感じに溶鉱炉に親指立てて沈むと思って頂ければ。致命傷負う前に回収されてると思いねぇ。
なお、強敵である事も踏まえてある程度の負傷描写も入るかも知れませんのでご了承を。
技能の『』【】等カッコ書き不要。技能名羅列なプレイングは参加人数次第で採用率低めになります。
どう使うか、どう動くか――技能の使用に具体的な記述有る方がプラス評価。
完結重視で全員採用は確約出来ません事をご了承下さいませ。
ソロ、或いはペア参加まで。相方が解る記載をお願いします。
オープニング公開からプレイング受付。
マスターページやタグ、Twitter(@Amamiya_syuna)などでも随時告知。確認頂けますと幸いです。
第1章 ボス戦
『イティハーサ・イザナミ』
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POW : 天矢『サクラタルタロス』
【射た矢が突き刺さった地点】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【冥府の蛆獣による寄生】の状態異常を与える【真白き死桜花の嵐】を放つ。
SPD : 神鷹『サクラタルタロス』
【神鷹の羽ばたきと共に白い花弁】を噴出し、吸引した全員を【冥府の蛆獣】化し、レベル秒間操る。使用者が製作した【世界の住人たる証】を装備した者は無効。
WIZ : 骸眼『サクラタルタロス』
レベルm半径内を【生命を拒む世界】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【死をもたらすための力】が強化され、【生を長引かせようとする力】が弱体化される。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
円谷・澄江
楽園から奈落とか…性格ロクなヤツじゃないね。
そんな酷いヤツのに意志を悪用される前にここで止めてやらないとね。
生身で特攻。
もし僅かに止まるかもしれなくても期待し過ぎない方が良い。
この死の世界を全力で乗り越え幻朧帝を一刺しする事に集中。
UC起動しばら撒かれる花弁を念動力で空間ごと捻り飛ばし吸わないように距離を詰める。
移動にも念動力を利用、アタシ自身を押し出すように力をかけて加速、或いは方向転換して猛攻を凌ぐ。
制限時間や死が近づくほど研ぎ澄まされる感覚…ドスで弾き激痛も堪え前へ、前へ。
未来はアタシら生者が作る、滅びた過去なんかに好きにさせるか!
ドスや空間の断裂を全力で叩き込む!
※アドリブ絡み等お任せ
「楽園から奈落とか……性格ロクなヤツじゃないね」
視界を埋め尽くす様な桜の花弁はどこか青白い。転送された先で急速に身が重たく感じるのは生命力を奪われていくせいか、と円谷・澄江(血華咲かせて・f38642)はその紅い瞳覗く瞼を細め、それでも前へと進む。
同じ桜花舞う世界であっても、イザナミの意志から創り出されたこの世界は生者を迎えるどころか拒むものであった。歪められ、邪悪なものに……骸の海そのものに生まれ変わった世界はきっと彼女の望むモノではあるまい。
「そんな酷いヤツのに意志を悪用される前にここで止めてやらないとね」
そう呟きながら澄江が行うのは――ドス一つ身一つによる特攻。
イザナミに働きかければ、もしや僅かにこの『死の静寂』に命の波紋を広げて止める事が出来るかも知れない……が、過度の期待を彼女はしていなかった。
ならば、着実な方法を。この死の世界を全力全霊で乗り越え、かの幻朧帝を一刺しする事に一点集中すると腹を括ったのだ。
『愚かな……大人しくこの静寂に身を委ねれば苦しまずに済むものを……』
イティハーサは嘆く様に言うと、その左手に止まる神鷹に目配せする。猛禽の羽ばたきと共に白き花弁が澄江に向かって勢い良く包むかの様に飛んでいくも。
「念動力全開!!」
ばら撒かれる花弁を空間ごと己より弾き飛ばしてそれの吸引を阻止する。光すらも捻じ曲げる強力な|念動力《サイキック》は彼女を守るバリアと化し、同時に本人の身も後ろから押し出す様にして幻朧帝が立つ其処まで一気に飛び抜けていく。
その間も気力を、生命力を益々減じていく感覚。気を抜いては地上で蠢く蛆獣達に呑み込まれるのは明白。しかしユーベルコードの制限時間と生命力の枯渇が近付けば近付く程、己の五感が冴え渡り研ぎ澄まされていくのを澄江は感じ取っていた。
「未来はアタシら生者が作る」
必死に意志を、命を振り絞りながらも澄江はドスを振るい、飛び来る矢の攻撃すら見極め撥ね除け、幻朧帝を己の射程に捉えた。振りかぶる刃に載せる念動力は空間をも斬り裂く力。
「滅びた過去なんかに好きにさせるか!!」
全力全霊の斬撃が、空間毎幻朧帝のその老いた身体に叩き込まれ、青白き桜の世界を一瞬だけ命の赤に染めた。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
【生命の輝きを灯す】
幻朧帝の作る世界が、イザナミさまが望んだ世界であって良いはずがない。
だからこそ……ぼくは命の輝き、イザナミさまに人の心の輝きを見て欲しいんだ!
ユーベルコヲド、ハイカラさんは止まらない!
ぼくがこれから行うのは、イザナミさまへの呼びかけ!
イザナミさまが本当に望んだ世界、サクラエリシュオン、きっと美しい理想郷だったと思います。
イザナミさまは生命を愛し、ぼくらに勝利のきっかけ、世界が滅びに立ち向かう人の意志があること!それを改めて示してくれました!
幻朧帝の言う生命の役割の終わりも、世界の終わりも欺瞞です!
ですから……イザナミさま、ここから偽りの世界を創造する幻朧帝を排しましょう!
煙草・火花
生あるものを呪うだけの世界など……!
ましてやそれが侵略のために生み出されたのなら尚の事!
ここで必ず断たせていただきます!
やることが明らかになっているなら小生もやりやすいというもの
この身を學徒兵、世界を守る刃なのですから!
呼吸を止め、外套で口を覆って準備を整えたと同時に足元をガスで爆破
一直線に最短距離で目指すはイティハーサの下!
離脱のことなど考えずに爆発による加速を続け、一直線に!
例え辿り着く前に花弁を吸ってしまってもこの加速と勢いは止められないでありますよ!
辿り着いたならば、一振り……それだけができれば十分
その一度に小生の全力を乗せるであります!
これが、小生の、覚悟を乗せた一太刀!!
サクラタルタロス――悪しき帝は|楽園《エリュシオン》の欠片を奈落へと作り替えた。
「生あるものを呪うだけの世界など……!」
煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)は白き桜花舞う世界に湧き出る怒りを抑えられぬ様であった。ただ其処に居るだけで身が重たく、意志も活力も奪われて行く。それに抗う様に彼女は強気の炎を身の内に灯す。
「幻朧帝の作る世界が、イザナミさまが望んだ世界であって良いはずがない」
国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ|乙女《ハイカラさん》・f23254)もまた同じ事を思う。こんな世界をあの慈悲深く命を愛おしむ女神が願う筈も無いのだから。
「ましてやそれが侵略のために生み出されたのなら尚の事! ここで必ず断たせていただきます!」
火花は真っ直ぐに幻朧帝が待ち構える其処に向かう。やる事が明らかなれば、己のすべき事は一つとやりやすい。この身は學徒兵――帝都を、いや、この世界を守る刃であるのだから!
呼吸を止め、その口元を外套で覆い塞いだ火花は準備完了と同時に足元からのガスの爆発による噴射にてその活力尽きる前にと一直線にイティハーサの元へ向かう。目指すは最短距離。離脱や帰り道の事など一切考えぬ。まさに神風の如き加速で舞い散る桜を斬り裂く様に進むのだ。
『何故抗う? 命など早かれ遅かれ尽き果てていずれこの静寂と一つになろうと言うのに』
弓の先に載せた神鷹に命じ、白桜の花弁を放ちながらイティハーサは問う。まるで理解出来ぬと言う表情で。
「そう、命は儚い。でも! だからこそ……ぼくはイザナミさまに輝きを、人の命の輝きを見て欲しいんだ!!」
鈴鹿の背後より眩き後光が激しく輝きを放つ。サクラミラージュに生きる者のユーベルコヲド『ハイカラさんは止まらない』――!! その光は強き感情の証、即ち生命力であり、この死と静寂の世界に灯台の光の様に瞬きながら――生命力や意志を拒否する世界の|理《ことわり》をも遮断する!!
『――っ!? こ、これは……!!』
その刺すような光にイティハーサは思わず己の目を覆う。直視出来ぬ光の中より響くは鈴鹿の声。それは幻朧帝に取り込まれその内にある女神に向けての呼びかけ。
「イザナミさま、聞こえますか!? 貴女が本当に望んだ世界――|桜の楽園《サクラエリュシオン》、きっと美しい理想郷だったと思います!」
今や海水に沈み、|欲望の海《グリードオーシャン》と成り果てたとしても。他の世界から島と人を喚び込む世界の性質はきっと彼女の力が今でも遺っているからなのではなかろうか。
「イザナミさまは生命を愛し、ぼくらに勝利のきっかけ、世界が滅びに立ち向かう人の意志があること! それを改めて示してくれました!」
桜の精に声を届けたのは誰かは明確では無い。でも、山本五郎左衛門に己を含めたエンシェント・レィスの対抗を委ねたのは間違い無く彼女だから。滅びなど望んでいないのだから。
「幻朧帝の言う生命の役割の終わりも、世界の終わりも欺瞞です!」
『黙れ、小娘……! う、ぐ、黙れ……イザナミ、め……!!』
「ですから……イザナミさま、ここから偽りの世界を創造する幻朧帝を排しましょう!!」
無音の世界に強く激しく響いた鈴鹿の声が幻朧帝の動きを止める。
同時に、幻朧帝に向かっていた火花は己の身体が突然軽くなったかの感覚に気が付いた。
「死の静寂が和らいだ……!?」
『こんな、これしきの事で儂を……!』
白桜の花弁が火花を襲うも、ガス人間たる彼女のジェット噴射の如き加速と勢いは止められない。生命力を消耗する事がなければ、本来の――いや、それ以上の速さを発揮しながら彼女は腰に佩いた軍刀の鯉口を切った。
一振り、それだけが出来れば十分。既に弓矢の射程の内側に飛び込んだ彼女は瞬時の抜刀を決める。
「これが、小生の、全力と覚悟を乗せた一太刀ッ!!!」
帝都桜學府流剣術 桜火ノ型 参式 |万雷《バンライ》
切っ先は白く揺らめく老体の身を抉る様に。そして下からの逆袈裟に斬り上げれば、白とも赤とも付かぬ血吹雪が桜と共に宙に舞った。
「華咲くは一瞬……でありますよ!」
『おの、れ……忌まわしき生命め、イザナミ、め……』
浅からぬ傷を負い、身を退き始めた幻朧帝を追う気力は火花には残っていない。
急ぎ近付いた鈴鹿が火花の身を支え、死の世界から撤収するまでの間――まるでイザナミが二人を守るかの様に、生命力の消耗は不思議と抑えられていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・日明
【アドリブ連携歓迎】
生命は森羅万象の摂理だ。
どれだけ否定しようとも、人類が滅亡しても廃墟に草花が芽吹くように、生命が潰えることはない。
それを潰そうというのなら、僕が貴様という"生命"の芽を摘み取ってみせよう。
イザナミさんに呼びかけるのは他の方に任せ、イティハーサに一撃を見舞うことに専念。
幻影発生装置で迷彩を施し位置を気取られにくくし、ヒット&アウェイ戦法を取る。
遊撃して挑発、おびき寄せ引き付けては奴の意識が別に傾きかける度牽制砲撃で気を散らせて視野狭窄に持ち込みます。
その上で死角からUCを発動し一気に叩く。
奴のユーベルコードは僕にとっては追い風。一気に大ダメージを与えられるハズです!
「生命は森羅万象の摂理だ」
終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)は使い慣れたゴーグルで片目を覆い、戦闘装備のグローブが指先まで違和感無く覆っている事を確認しながら大きく息を吐いた。戦場に向かうのはいつもの事なれど、己の命を危険に曝す行く先に緊張が伴わぬと言えば嘘になる。
「どれだけ否定しようとも、人類が滅亡しても廃墟に草花が芽吹くように――生命が潰えることはない」
人も動物も植物も、全ての命は等しく――生にしがみつき足掻く事を彼は知っている。そして次の世代へと意志は継がれ、土に還った命の代わりに新たな命が紡がれる事も。
「それを潰そうというのなら、僕が貴様という"生命"の芽を摘み取ってみせよう」
気が付けば青白き桜の舞う世界へと出撃完了していた日明は、まだ視界に入らぬ幻朧帝に向けてハッキリと宣戦布告の言葉を投げかけていた。
イザナミへの呼びかけは他の者に任せると決めた日明がこの作戦行動において優先すべきはただ一つ――幻朧帝イティハーサに一撃を見舞う事。
この世界は生者を拒みその生きる為の力を有無言わさず減衰させ行く。幻影を発生させる腕輪により、己の身を目立たなく青白き世界に溶け込ませながら、牽制の砲撃を放ち、幻朧帝の気を散らせる策に出たが。
『――そんな小細工を弄するとは……余程己の生命力に自信があるらしいな』
眼球無き眼窩より溢れる力はサクラタルタロスの力そのもの。老熟した悪帝は己の領域に自信を持っている。仕掛けられぬ限り、敢えて手を出さずともこの生命を拒む空間における戦いでは命有る者が力尽きるまで待てば良い。
(「――くっ」)
普通の空間であれば恐らく問題は無いのだ。だが遊撃や牽制――幻朧帝の言う小細工をすればどうしても時間がかかる。生命力の減退が著しく発生する。
『真正面から向かって来れば、多少は儂に傷の一つも付けられようものを』
「そんな余裕ぶっている場合なのか?」
幾何学模様が宙に描かれる。そこより伸びる黒き手が揺らぐ様な幻朧帝の身を掴み、掻き毟り、その皺だらけの身より白く赤い血を流させた。
『生命を奪う事を否定しながら、お前は儂の生命を摘むと言う――死を齎す力を儂に向けても無駄と言うもの』
動く力を失い、がくりとそこで膝を付く日明を片方だけの瞳で見つめ、イティハーサはククと笑いながら青白い桜吹雪の向こうに姿を消していく。
『知っておろう。儂は|歴史《イティハーサ》――過去たる儂は骸の海そのものなのだから』
成功
🔵🔵🔴
出水宮・カガリ
篝火のように、なぁ。
……ふふ。あまりにも、他人の気がしなくて。
門は、もう。傷から、朽ち始めているようだが。
きみの、篝火になれるなら。
いざなみに神都の紋章を示して、泉花風を。
これなるは、カガリのははなるきみ。黄泉津比売神が地上に生んだ神都の城門。その証。
この力も、きみのものだが。カガリが扱うには大きくて。長く使うと朽ちてしまう。
神都はとうに滅びた。黄泉が、黄泉比良坂を超えるべきではなかったのだ。
……それでも。神都の内には絶対の安寧があった。
ゆえに。この|奈落《タルタロス》も、カガリが境界となって阻む。
この紅の花も、死をもたらす力には違いない。
それが死都の門。|泉門《よみど》たるカガリの務め!
「篝火のように、なぁ――……ふふ」
羅刹の陰陽師が告げたその言葉をつい、口の中で復唱しながら。出水宮・カガリ(死都の城門・f04556)は己の眉間走る傷をそっと指でなぞった。
カガリビ。その響き自体が余りにも、他人の気がしない。
転移した先の世界は余りにも美しくて、死と静寂に満ちていて――ああ、やはり他人事に思えない世界なのだ。
青白き桜が花弁を浮かせれば、今やカガリが携える盾でもある鉄門扉が傷から早送りの映像の如く錆び付き朽ちていき。同時に彼の眉間の傷から一筋の紅い雫が流れていく。
桜の木々の上を駆けて征けば、徐々に身体中が錆び付いたかの様に軋む感覚。命宿した城門はそれでもこの世界を構築した意志を感じ取り、其処に向かって急ぐ。
「きみの、篝火になれるなら――」
祈る様な声に対し、目前に見えるは幻朧帝イティハーサの老体。骸の眼窩を輝かせ、向かい来るカガリを――全ての生命持つ存在を拒む力を強めてその活力を根刮ぎ奪い取ろうとする。
『人の思いで生まれた生命よ――お前達こそ過去の物として、歴史に刻まれるべき存在であろうに』
何故抗うのかと悪しき帝は問う。しかしカガリには翁の姿の向こうにある存在が見えていた。
「いざなみ……!!」
その手に掲げるは|神《死》都の紋章。かつて彼が城門として在った都の忘れ形見。
そこより吹き荒れるは紅桜の花弁。青白い桜を塗り替える様に、カガリが示す意志の様に色無き世界を紅く照らす。
「これなるは、カガリの|はは《母》なる|きみ《君》――黄泉津比売神が地上に生んだ神都の城門。その証」
――この力も、きみのものだが。
カガリが扱うには大きくて。長く使うと朽ちてしまう。
けして叫ぶ事は無いものの。その声は朗々として大きく、静寂に満ちた世界に響き渡る。
『……この紅色の桜、これも死桜……か?』
「神都はとうに滅びた。黄泉が、黄泉比良坂を超えるべきではなかったのだ」
イティハーサは弓矢を番えようとするも、己の動きが紅色に阻害されている事に声を震わせる。カガリはその老人を見ず、その向こう側……融合させられし女神に向けて告げていた。
「……それでも。神都の内には絶対の安寧があった。ゆえに」
――この|奈落《タルタロス》も、カガリが境界となって阻む。
ドン、と足踏みしめし地面にカガリは己自身である鉄門扉を立てた。
かつて己に役目を与えし女神と、この世界の元となった|楽園《エリュシオン》願いし女神は近しい存在なのだろう、だから。
「この紅の花も、死をもたらす力には違いない」
しかし死は終わりでは無い。滅びでは無い。
少なくとも、イザナミは死の女神でもあったが愛の女神でもあり、楽園への転生に導く存在であったのだから。
一生懸命生きて、生きて、傷付いた生命が休む時こそが死であり、安寧であるのだ。
生命があるからこそ死があるのだとカガリは識っている。その身を以て。
「それが死都の門。|泉門《よみど》たるカガリの務め!」
生と死を隔てる存在は叫ぶ。気が付けば骸の海たる存在は目の前から消え、死と静寂の力はいつの間にか減衰していた。まるでこれ以上侵略の力となるのを、不必要な死を齎し、全てが終わる事を拒むかの様に。
大成功
🔵🔵🔵
阿夜訶志・サイカ
俺様は属性としちゃ、そっち側だけどよ
だからこそ、端から見てっと、気分悪ィ
特に……継ぎ接ぎの三文小説を、テメェの独創性って誇ってンのもな
おーおー、凄え、って褒めてやりゃいいのか?
俺様なら御免だぜ
好い感じの滅亡を書くのにどれだけ苦労したと思ってんだ
死ねっつーなら、試してみるか
命から零れる、綺麗なだけじゃねえものを見せてやる
刃物で自傷、血から、滅を発動
自ら死に近づく行為?
望むところだ
おう、爺、覚悟しやがれ
一匹一匹は弱っちいが、俺様並にしつこいぜ
俺様だけじゃねぇぜ、第六の猟兵ってのは始末が悪い
そんな奴らに喧嘩を売ったのが運の尽き
ダーリンが滅びるまで、終わんねぇ
俺様はさっさと帰って酒を呑むぜ――祝杯をな
「俺様は属性としちゃ、そっち側だけどよ」
ピン、と指先で弾いたのは最早湿気て火も点かない安煙草。阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は吐き出す息がキツくなるのはヤニのせいでは無いと感じつつ、帽子を押さえつける様に被り直した。
「だからこそ、端から見てっと、気分悪ィ。特に……継ぎ接ぎの三文小説をテメェの独創性って誇ってンのもな」
『――|社《やしろ》も|祠《ほこら》も持たず祀られず敬われる事も無き神に何が出来ると?』
青白き桜が霞の様に舞う向こうに、幻朧帝が此方を見下す姿が見えた。己の活力やらが見る間に削られて行くのを覚えるも。近付いて来る様子も無い相手に向かってゆっくり――物理的な足取りの重さを感じさせぬ様にサイカは歩いて見せる。
「おーおー、凄え、って褒めてやりゃいいのか? 俺様なら御免だぜ」
『大した口を利く――』
「ったりメェだ。好い感じの滅亡を書くのにどれだけ苦労したと思ってんだ」
サイカの睨み付ける目付きが明らかに常とは違う。
幻朧帝が創る『世界』は規模は大きいとは言え、過去の粗悪な|模倣《パロディ》しか無い。この奈落とて、イザナミが元々治めていた楽園と其処に生きた命に対する|敬意《リスペクト》が欠片も見当たらぬ。
一方、サイカは作家として――紙の上に新たな世界と歴史、物語と登場人物をペン一つで生み出せるのだと自信を持って言うであろう。書物の中の小さな世界だとは言え、一つ一つを無から生み出すからには途轍もなく労力が要るのだと。文字通り己の命を削るかの様に書き上げるのだと。
「過去のパチモンお手軽世界しか作れねェ老害にゃあ、生みの苦しみは解ンねぇだろうがな」
手にした刃の切っ先を真っ直ぐ悪帝に向け、啖呵を切った。
「少なくとも、創作面じゃあテメェ以上の事が出来ると自負してやンぜ?」
そう告げたサイカは、刃をくるりと返すとそのまま己の身に突き立てた。
『……この世界に命を削られて気を違えたか』
「はっ、死ねっつーなら試してみるか」
ぽたりぽたりと零れる血液が、見る間に鳥の姿へと変じていく。
それは災禍の神が滅亡を刻みつけるが為の御使い。
「命から零れる、綺麗なだけじゃねえものを見せてやる――!!」
|滅《フォール・ギフト》――それは『終わりの始まり』を告げる、八百を超える鴉の群れ。
「自ら死に近づく行為? 望むところだ」
生を縮める行為ならどうなるんだろうな、と既に青白い顔になりながらもその不敵な笑みをサイカは崩さない。むしろ己の命を投げ捨てるかの行動は、幻朧帝に取り込まれたイザナミに命の瞬間の輝きを見せつけるかの様で。
『う、ぐっ、おのれ……!?』
次々と襲い来る緋色の鴉達を追い払い振り払う幻朧帝、だが落とした先から延々と飛来しては嘴や蹴爪が身を引き裂いていく。
「おう、爺、覚悟しやがれ。一匹一匹は弱っちいが、俺様並にしつこいぜ」
多少は『死の静寂』が和らいだ気もするが、流れ出る血は止まらず。膝を付いたサイカはそれでも笑ってみせるのだ。
「俺様だけじゃねぇぜ、第六の猟兵ってのは始末が悪い。そんな奴らに喧嘩を売ったのが運の尽き」
『これは――拉致があかぬ……!』
「ああ、ダーリンが滅びるまで、終わんねぇ」
幻朧帝の気配が遠ざかる。逃げ足だけは早いなとサイカは舌打ちしながら崩れ落ちた。
「俺様はさっさと帰って酒を呑むぜ――祝杯をな」
撤収転移までの僅かな時間――手放す意識の向こうでイザナミが静かに笑みを讃えて見つめていた、気がした。
大成功
🔵🔵🔵
エミリィ・ジゼル
ジゼル家家訓!人の嫌がることは進んでやりなさい!
世界だの歴史だの大仰なことを言う奴の話を無視して、シンプルな暴力でぶっ潰す!
それがおそらく爺が一番嫌がることのはず。がんばりませう
サメ子に乗って戦場に突入し、即座にUCを発動
竜巻をまとったサメでイティハーサに突撃を仕掛けます
弾道計算で嵐の着弾点を予測。影響範囲とイティハーサまでの距離を考慮し、一番早く到着できるルートを算出
同時に、死桜花の嵐をサメでまとった竜巻で跳ね除けて時間を稼ぎつつ、イティハーサまでの最短距離を最高速度で駆け抜けます
そしてそのままイティハーサに全速力で体当たり
彼奴の体にどでかい穴を開けてやります
お前の作る世界に興味なんかねぇ!
「ジゼル家家訓! 人の嫌がることは進んでやりなさい!」
小脇にピチピチ暴れるサメの尻尾を抱え、エミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)は拳を握りしめて言い放った。何なのそのロクでもねぇ家訓。
「世界だの歴史だの大仰なことを言う奴の話を無視して、シンプルな暴力でぶっ潰す!」
暴力だ。全ては暴力が解決する。どっかの世紀末で秘孔を研究してる怪しい奴も暴力はいいぞとか言っていた。
「それがおそらく|爺《ジジイ》が一番嫌がることのはず。がんばりませう」
そうして彼女は桜咲く地獄へと向かって行く。諸悪の根源に最大限の嫌がらせ――世界を救って見せる為に。
『……六番目の猟兵とは不思議なものよ』
幻朧帝イティハーサの声は呆れか驚愕か。青白い桜が舞い散り、生命を拒むこの世界を超高速で疾走する存在を目にした老体は、ぼやく様に呟いていた。
「ヒャッハー! 突撃ですっ!!」
それはサメ子に乗り、竜巻を纏いながら爆走するエミリィの姿であった。この戦場に突入した瞬間より彼女が発動した鮫魔術、それは全てを轢き殺すメイドの術……!
『随分と面妖な術を使う事だ――』
残念ながらそれにツッコミを入れる程、この老体は若くも無かった。己に真っ直ぐ向かって来るメイドに向けて幻朧帝は矢を放つ。だが着矢した先で死桜花の嵐が白く吹き荒れた時には、もう既にエミリィは纏った竜巻で矢も桜も嵐も冥府の蛆獣も吹き飛ばしながら、ひたすらイティハーサに突撃しているのだ。
無論、エミリィも闇雲に突撃をしている訳では無い。飛来する矢の弾道を計算し、着弾点と嵐の影響範囲を予測しながら幻朧帝までの距離を瞬時に叩き出し、最も早く効率的にその元に辿り着けるか――そのルートを算出した上だ。バーチャルキャラクターだからこそ成せる演算速度なのだろうか。それとも第六感によるものか。最短距離と最高速度で駆け抜けて行く。
『何……!?』
「余り時間もかけてられないですからね!」
この生命力を消耗する世界は電子の妖精であってもサメであっても、命有れば拒む世界。ならば短時間で済ませるに越した事は無いのだ。
「その骨身にどでかい穴を開けてやりましょうか!!」
エミリィがぶっ放つ会心の一撃、それはサメ子騎乗からの全速力での体当たり!
霞の様に揺れる幻朧帝のその胴体を穿つ様に、彼女達は駆け抜けた!
『うぐおぉぉっっっ!?』
ちらと振り返れば、身に大穴作った幻朧帝の後ろ姿。駆け抜けたサメ子もそれに乗るエミリィも勢いそのままに止まる事もならず。翁の姿が遠ざかるのを見ながら、引き返しての追い打ちかける余力は無いと判断した。それでも。
「お前の作る世界に興味なんかねぇ!」
挑発する様に親指を下に向け、幻朧帝の創る世界をしっかり拒絶して見せたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
伊邪那美命。
国産みの母、冥府の主。
そしてある流派によれば、兵法の祖たる軍神でもありと。
そのような母神の力と想い、信じるといたしましょう。
◆
『死の静寂』の中、どれだけ気魄が奪われようと胸を張り、堂々と佇みましょう。
意識が掠れようと太刀を地に突き立て、口腔を噛み切りながら正気を保ち、イティハーサを見据え。
その姿も、これから語る言葉も、イザナミが見守っていると信じ。
イティハーサ、貴殿はこう言ったそうだな。
未来など、生命など必要ないと。
――それは、子の成長を祈る親に、子など不要と断言するも同じ。
イザナミよ、ヒルコを想われよ。
流された彼の子は、後世の人に憐れまれ、その後の物語を与えられた。
海神として、あるいは福神として。
命が続くとはそう言う事。
イティハーサ、貴殿の創る世界では、死は死のまま不変であろう。
子への想い無き世界など、認められましょうか、イザナミ。
私は認めぬと断固宣言しながら、【曇耀剣】で死桜の嵐を防御。
もし『死の静寂』の効果が薄れたと感じれば、雷の剣で反撃一閃。
母の愛、信じております。
|伊邪那美命《イザナミノミコト》――日本神話における国産みの母であり、冥府の主でもある母神。
「そしてそしてある流派によれば、兵法の祖たる軍神でもあり……と」
鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)は静かに瞑目する。日本に伝わる神話は彼の出自たるサムライエンパイアだけではなくこのサクラミラージュを含む地球世界における日本でも不思議と大きく変わるものでは無かった。
死を憂う者の傍らに現れ、|桜の楽園《サクラエリュシオン》へと魂を誘ったと言う女神の軌跡が――もしかすると各世界に神話の形で残ったのかも知れない。
「そのような母神の力と想い、信じるといたしましょう」
桜の世界が楽園から奈落へと歪められたとしても。景正はそう願い、祈りながら戦地へと身を投じた。
耳が痛くなる程に、その世界は静まりかえっていた。
ただひらひらと空を覆い尽くす様に舞う、青白き桜の花弁。木々の下には溢れんばかりの冥府の蛆獣。
最初は気圧の差の様に感じた空気の違いが、徐々に身を蝕んでいくのを景正は感じつつあった。
生命力が、気魄が奪われて行く。世界そのものが己を――命を拒絶しているかの様に。
しかし。
「――っ!!」
一瞬途絶えかけた意識を引き戻す様に、彼は太刀の切っ先を地に突き立て、己の口の中を噛み切りながらも気を保つ。堂々と胸を張り、無理矢理にでも足に力を入れてその場に佇み、幻朧帝を世界の中に探す。
『どこまでも生にしがみつき、死に抗うと言うのか――』
景色の向こう、白く幻影の様に揺らめく影は老人の姿。生命を拒絶し、過去のみを是とする諸悪の根源。
『儂には理解が出来ぬ。生命は早かれ遅かれ死を迎える。避けられぬ定めだと云うのに』
此処まで多くの猟兵達が、幻朧帝イティハーサの言葉を否定し、この世界の存在を否定した。しかし未だ尚も、この不死の帝は解らぬと首をゆるゆると横に振って|曰《のたま》うのだ。
「イティハーサ、貴殿はこう言ったそうだな」
幻の様に景色に揺らめく悪帝をしかと見据えながら景正は腹の底から己の気魄を絞り出す様に声を上げた。
「未来など、生命など必要ない――と」
『然り。過去さえあらば、こうして新しき世界など幾らでも創れよう』
さも当然と言うかの態度で、しかし淡々と幻朧帝は応える。
だが、斯様な詭弁を景正は赦せない。故に彼は反論する。
「――それは、子の成長を祈る親に、子など不要と断言するも同じ」
生命力削り取られながらも堂々とした姿も、これから語る言の葉も――きっとあの向こうで、かの女神が見守ってくれていると信じ、呼びかける。
「イザナミよ、ヒルコを想われよ。流された彼の子は、後世の人に憐れまれ……その後の物語を与えられた。海神として、あるいは福神として――」
不具の子として生まれたと古事記や日本書紀に記された、伊邪那岐と伊邪那美の最初の子は、時代を経るにつれて新たな物語が人々により紡がれた。流されて終わる筈だった神は、今もなお信仰される一柱として祀られるに至った。
川は水の流れによって地形を変えて行く様に。時の流れは世界を変えていくのだと。
「命が続くとはそう言う事。イティハーサ……貴殿の創る世界では、死は死のまま不変であろう」
『不変たる事は永遠の安寧を意味する。死と言う静寂の中では全てが等しくあれるのだ』
「そんな安寧も、平等も、私は認めぬ! それは考える事を投げ打ち捨てたに過ぎぬ!!」
――母なるイザナミよ。子への想い無き世界など、認められましょうか。
――喜びも怒りも悲しみも無き世界に、変化の無き世界に、何の意味があるのでしょうか。
景正が断じ、宣言すると同時に。
彼を蝕み続けていた『死の静寂』が、命の輝きと言う波紋を広げて一気にその拒絶する力を弱めた……!
『な、に――!?』
「建御雷命に願い奉る……――神征の剣、貸し与え給え!!」
地に身体を支えていた太刀を抜いて構えると、稲妻が景正の周囲にバチバチと音を放ち迸る。幻朧帝がその弓より矢を放ち、真白な桜花の嵐を呼び起こしたとて、雷の結界が全てを灼き防ぎ、彼の元には届かない。
『おのれ、イザナミ……! 融合されても尚、この儂に楯突くと申すか……!!』
「過去に頼らねば何も出来ぬ貴殿は、イザナミにすっかり愛想を尽かされたと言う事だ」
一歩、二歩と大きく景正は踏み込み駆ける。身体が軽い。奪われ続けた生命力も気魄も、己の血と胸の鼓動に合わせて身の内から溢れつつある。静寂の世界に命の音を響かせながら、彼は大きくその太刀を振りかぶる!
「幻朧帝……覚悟召されよ!!」
|曇耀剣《フツノミタマ》――葦原中国を平定せし軍神が用いたつるぎの如き剣閃が、邪心しか持たぬ諸悪の根源『幻朧帝イティハーサ』の身を雷と共に一刀両断に斬り伏せた!!
『……儂が、滅びる、と……? 不死たる、永遠たるこの儂、が……』
今際の時ですら斯様な事を吐きながらも、悪しき帝は灰となって消えて行く。
同時にこの侵略新世界の崩壊が始まる中――消えゆく幻朧帝の向こうに、涙を零しながら微笑む女神の姿を景正は見た様な気がした。
「嗚呼――母の愛、私は信じております。今も、この先も、ずっと……」
――未来に命が続く限り、永遠に。
大成功
🔵🔵🔵