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帝都櫻大戰㉔〜命の定義とは

#サクラミラージュ #帝都櫻大戰 #第三戦線 #幻朧帝イティハーサ #イザナミ

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●死桜花は咲くか、散るか

 ――それは病的なまでに美しい世界であった。

 天も、地も、遍く櫻の木々と乱れ舞う花弁によって彩られた楽土。一見すると幻朧桜にも思えるがこちらの方は少しばかり色素が薄く、まるで朽ちた骨の様だ。それがどこまで、どこまでも、見渡す限り広がっている。
 だがもしこの場へ降り立つ者が居るならば、きっと違和感を覚えるだろう。桜が、櫻が、|手向け草《さくら》が、それらが果て無く存在するのは良い。問題なのはそれ以外が何もないという事実。
 小鳥の囀りも、川の潺も、風が枝葉を揺らす囁きさえも。この世界には存在しない。おおよそ|生くる命《せいめい》に由来する全てが、天と地の狭間には欠片ほども見受けられぬのだ。在るのはただ、|咲良《サクラ》だけ。

 或いは、さて……地の底にて、亡者を貪る蛆虫だけか。

 これは『女』が願った世界では無かった。これは『女』が望んだ楽園では無かった。
 ただ、『神』が『是』とした『|歴史《イティハーサ》』ではあった。
 『意志』は必要だ。『未来』は不要だ。『過去』は必要だ。『生命』は不要だ。
 世界に熱を灯す命は土と骸へ帰し、冷たき死色の華のみが満ち満ちる。
 もしも、希った祈りの残滓があるとすれば。それは、きっと。

 ――桜の下に埋まった、死体だけだろう。


「さて……遂に封じられていた幻朧帝『イティハーサ』が復活を果たし、帝都櫻大戦もいよいよ佳境へ突入したよ。尋常な手合いではないと予想はしていたけれど、随分と規格外な能力を持っていたようだ」
 グリモアベースへと集った猟兵たちを前にし、ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はそう口火を切った。先日交戦した超古代種族『エンシェント・レヰス』。その戦闘力は急遽駆けつけた各世界の実力者と協力し、やっとの事で被害を抑え込めたレベルだ。
 その彼らを以てしても、自らの命と故郷を引き換えに封印するのが精一杯だったという正真正銘の絶対存在『幻朧帝』。予知されたイティハーサの持つ権能は実際問題、想像を絶するものであった。
「奴の持つ力は『世界の創造』……文字通り、現在確認されている三十六世界とは全く別の世界を生み出す能力。言葉から察するに、過去の歴史を材料として対象の望む世界を創り上げるようだけれど、もしもそれが真実なら正に神の所業と言わざるを得ないね」
 幻朧帝はエンシェント・レヰスやカルロス・グリードを再孵化させて、彼らと同化。それぞれが抱く望みに合わせて新たな世界を生み出して見せたのである。それらは幻ではなく確立された存在であり、万が一終戦までに制圧出来ていなければ、他世界へと侵略を開始してしまうのだ。
「そこで皆にはそれぞれの世界へと赴き、他者と融合したイティハーサを討って貰いたいんだ」
 今回、ユエインが予知したのは『イザナミ』の生み出した世界。一見すると櫻に覆われた美しい世界だが、地の底には夥しい数の蛆獣が蠢き、あらゆる生命体は存在するだけで『死の静寂』によって衰弱死してしまう『サクラタルタロス』だ。
 そうした世界法則上、戦闘は必然的に超短期決戦となる。つまり、急激な消耗に耐えつつ速やかに渾身の一撃を与え、即撤退するという方法だ。しかし戦闘スタイルなどの兼ね合い上、そうした方法を取れぬ者も居るだろう。その場合、或いは――。
「己が命の輝きをイザナミに示す、か。幻朧帝は生命を不要と切って捨てている一方、イザナミ自身は命を慈しんでいる……その差が付け入る隙になるはずだよ。イザナミに命の輝きを示すことが出来れば同化している幻朧帝が怯み、ごく短時間だけれど『死の静寂』が止まるみたいだ」
 何をどうすればイザナミの琴線に響かせることが出来るのか。正直言って未知数でありリスクはあるが、狙うのも一手ではあろう。ともあれ何にせよ、幻朧帝の完全復活だけは何としてでも阻止しなければなるまい。
「敵が規格外だった事なんて、これまでも数え切れないほどあった。だから、今度も何とかなると信じているよ?」
 斯くして説明を締め括ると、ユエインは猟兵たちを送り出してゆくのであった。


月見月
 どうも月見月でございます。
 ちょっと何を言っているか分からないOPですが、私もあんまり良く分かっていないので、考えずに感じて頂けますと幸いです。
 それでは以下補足です。

●最終成功条件
 『イザナミ』を取り込んだ幻朧帝『イティハーサ』の撃破。

●プレイングボーナス
 生命力が尽きる前に一撃を与え、離脱する。
 自身の『命の輝き』をイザナミに示す。

●戦闘開始状況
 戦場は侵略新世界『サクラタルタロス』。天地の区別なく夥しい数の桜で埋め尽くされており、地下には『蛆獣』が蠢き、『死の静寂』によって急速に生命力が奪われる世界です。上記の特性上、長期戦を行えば例外なく衰弱死してしまいます。敵の攻撃を掻い潜って一撃を叩き込む短期決戦か、或いは『命の輝き』を示して猶予を生み出す必要があるでしょう。

●プレイング受付について
 21日(土)朝8:30~から開始。今回は断章はありませんので、OPの内容をご参照下さい。
 場合によっては再送をお願いする可能性がある事を御了承頂けますと幸いです。

 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『イティハーサ・イザナミ』

POW   :    天矢『サクラタルタロス』
【射た矢が突き刺さった地点】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【冥府の蛆獣による寄生】の状態異常を与える【真白き死桜花の嵐】を放つ。
SPD   :    神鷹『サクラタルタロス』
【神鷹の羽ばたきと共に白い花弁】を噴出し、吸引した全員を【冥府の蛆獣】化し、レベル秒間操る。使用者が製作した【世界の住人たる証】を装備した者は無効。
WIZ   :    骸眼『サクラタルタロス』
レベルm半径内を【生命を拒む世界】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【死をもたらすための力】が強化され、【生を長引かせようとする力】が弱体化される。

イラスト:炭水化物

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エミリィ・ジゼル
短期決戦ならお任せください。スピーディに一撃を入れてみせましょう。

戦場突入と同時にUCを使用。竜巻をまとったサメに乗ってイティハーサに突貫します。
敵の攻撃は【弾道計算】で【見切り】ながら、自慢の【騎乗】テクニックと【空中戦】の経験を生かして速度を上げていきます。そして最高速度で体当たりを実行。
時速15600km。マッハ13を超える体当たりで、イティハーサを【串刺し】にしてやりましょう。

目的を達成したらそのまま離脱。
サメイドはクールに去ります。アデュー!



●|サメVS幻朧帝《もう結果だけ教えろ》
 そよ風すらも吹かぬのに、ただはらはらと死色の桜が舞い散りゆく。侵略新世界『サクラタルタロス』。此処は奈落の底、冥府の牢獄と冠するに相応しく、一切の生命が存在し得ない。小さな羽虫も、巨大な獣も、永劫を生きる御柱でさえも。この世界においては等しく命の熱を垂れ流し、早晩桜の根元へ骸を埋める事となる。
 で、あるならば。一体どのように立ち回るべきか。猟兵と言う立場上、決して避けては通れぬその問いに対し、提示された最適解とは。
「ィィィイイイヤッホゥウウウウウッ! 短期決戦ならお任せください。スピーディに一撃を入れてみせましょう。何故なら鮫はあらゆる事象を解決します。何故ならば、サメはサメですから!」
 消耗し切る前に全力の一撃を叩き込む離脱戦法。そして、掛ける時間は短ければ短いほど良い。それが出来れば苦労はしないが、そんな難題を飛び越えて見せるのが猟兵と言うもの。そんな訳で、まず真っ先に先陣を切ったエミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)は開幕から既にトップスピードであった。
 その速度は時速15600km。マッハ13を優に超え、最新鋭戦闘機どころか有人飛行を想定していないミサイルレベルの飛翔スピードだった。そんな彼女が騎乗しているモノは先の宣言通り、サメだ。それもただのサメではない。|竜巻《トルネード》を纏ったサメだ。何を言っているのかと余人ならば問うかも知れないが、残念ながらサメとはそういう存在である。
『……愚かな。竜や神格ならば兎も角、たかが幾つかの逸話を帯びただけの魚類に乾坤を賭すなぞ。風を操って、それが何だと言うのか。生命そのものが、風の前の塵に同じだというに』
 進路上の先では巨大な女が、それと比して小さいながらも遥かに濃密な存在感を湛えた老翁が待ち構えゆく。大気を引き裂き音すらも置き去りにする吶喊を前にしても尚、幻朧帝は詰まらなさそうに一瞥するのみ。ゆるり、と。猟兵の速度とは比べ物にならぬ緩慢さで弓に矢を番えるや、徐にそれを放つ。
 とすりと地面へ突き刺さった瞬間、周囲に舞う桜の花弁が濃密さを増す。桃色と言うには薄く、白と言うには濁った其れは骨色死色の花吹雪。漂う死臭に釣られたのだろう。地の底より這い出た蛆獣たちは新鮮な血肉を食むべく、恐るべき執念深さでサメへと飛びついてゆく。
「やや、余計な重りは勘弁願いたいのですが。とは言え、ここまで勢いがついてしまえば慣性の法則でそのまま突撃可能でしょう。それに、です」
 足元からサメが僅かに身じろぐ気配が伝わって来た。それと同時に、エミリィの身体から力が抜け、ベーリング海が如き冷たさが四肢の末端より這い上がる。細かな調整に幾分か支障が出そうだが、ここまで速度が乗ればそう簡単に停止はしないしそもそも出来ない。
 加えて、彼女としてもサメに対する侮辱は看過し難かった。確かにB級の代名詞、下に見られがちな存在だ。しかし、そんな評価を食い破るのもまたサメの醍醐味である。
「死体だろうが、ゾンビだろうが、霊体だろうが、神や悪魔だろうが。それこそ、サメの|過去作《イティハーサ》は網羅済みですとも!」
「であれば、それこそグリードオーシャンにでも行けば良いものを。理解できん」
 果たして、飽くまでも上から目線を崩さぬ幻朧帝へと吶喊したサメが牙を剥く。真正面から激突し、轢き、撥ね、食い千切る。既にかなりの量の生気が失われており、わざわざ振り返って戦果を確認する余裕は無い。だが、サメの口元から覗く肉塊と衣服の残骸を見れば十分だろう。
「取り敢えずお仕事は果たせました。では、サメイドはクールに去ります。アデュー!」
 斯くしてエミリィは徹頭徹尾速度を緩める事無く、本格的に動けなくなる前に『サクラタルタロス』より離脱してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

神樹・鐵火
先駆者の36世界を妬ましく思う、創造神としては新人か
だが、出来る事は他人の力の横取りと、過去の模倣と継ぎ接ぎ
新たなものは嫌だ意味がないどうせ壊れると愚図るとは
無駄に年だけ重ねただけか、失望したぞ

『八幡演武』解放
弟子の居る世界ではな、超古代にこの世界と似たような、極寒の死の時代があった
人は絶滅寸前まで追い込まれたが...炎と邂逅した事で生きる術を見出し、絶滅を免れたそうだ
時代と命を繋いだ炎の【覇気】で蛆獣と花弁を【焼却】、【全力魔法】を上乗せした【怪力】の一撃を叩き込む

貴様の様な臆病者に神の座が与えられると思うな
永遠の闇の中で独り嘆いていろ!この腑抜けが!


夜刀神・鏡介
イティハーサが生命を否定して過去……骸の海に沈めようとするのなら、死を否定するような楽園の存在は非常に目障りだったろう
そして楽園を壊して作り上げられたのが冥府とは。悪趣味にも程がある

大刀【冷光霽月】を抜いてイティハーサと相対
奴の動きを悠長に待ってやる理由はない。悠長に詠唱をするならば、その隙に接近し
即座に射てくるなら効果範囲は然程広くない……すぐに効果範囲から抜け出す事ができるだろうから、どちらにせよ然程脅威にはならない

距離を詰めながら気を練り上げて剛式・暫定奥義【  】
ここで長期戦は不可能なのだから、技を使った後の反動を考える必要はない
渾身の力を込めて、超高速の連続攻撃を叩き込む



●原始の熱、技の冴え
「……なんだったのだ、あの珍妙な輩は。まぁ良い。食い千切られた我が身も、積み重ねて来た|歴史《イティハーサ》からすれば極々微々たるもの。骸の海と言う大海を為す一滴に過ぎぬ」
 幻朧帝は深々と溜息を吐きながら、己が脇腹を撫ぜる。其処は文字通り大きな歯形に沿って肉が抉られていたものの、瞬時に傷口が再生してしまう。やはり、見た目以上の耐久力を持っていると言う事か。依然として老翁の力量は底が伺えなかった。
「随分と大仰な物言いではあるがな。先駆者たる三十六世界を妬ましく思うとは、とどのつまり創造神としては新人か」
 しかしそんな相手を前にしても尚、神樹・鐵火(脳筋駄女神・f29049)の口調は尊大さを保ったままだ。相手は世界を創り出し得る程の神格だが、それがどうしたというのか。猟兵には様々な神も覚醒しており、彼女もその一柱である。『格』に大きな差が在ろうとも、此処で臆せば神の名折れであろう。
「だが出来る事は他人の力の横取りと、過去の模倣と継ぎ接ぎのみ。所詮は無から有を生み出すのではなく、有り合わせを組み上げただけ。新たなものは嫌だ意味がないどうせ壊れると愚図るとは、見た目通り無駄に年だけ重ねただけか。全く以て失望したぞ」
「|幻朧帝《きさま》が生命を否定して世界を過去に……骸の海に沈めようとするのなら、死を否定するような楽園の存在は非常に目障りだったろう。あまつえさえ新世界創造と嘯きながらも、楽園を壊して作り上げられたのがこの冥府とは。悪趣味にも程がある」
 時を同じくして『死の静寂』へ降り立った夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)は仲間の辛辣の物言いを継ぎながら、自身も敵の在り様に対し嫌悪感を露わにする。再孵化した『カルロス・グリード』によればグリードオーシャンとは元々、或る世界が水没して生まれたのだと言う。
 その世界こそ、イザナミの故郷とされる『サクラエリュシオン』。死を想う楽土を破壊し、その上でエンシェント・レヰスの願いを穢すかの如き侵略新世界を生み出し見せつける。これ程までに醜悪な所業はそう無かった。
「どれも人間らしい些末な感傷だ。無から有を創れぬのではない。在り合わせで大抵の望みは事足りてしまうだけの事。それに我が手に掛かれば世界なぞ容易く生み出せる。である以上、その崩壊に如何ほどの重みがあろうか」
 だが、幻朧帝はそんな猟兵たちの非難に何かを感じ取る様子は無い。彼にとっては蟻か何かが鳴いているのに等しいのだろう。根本からして価値観が異なっていた。そしていま為すべき事は隔絶を埋めるのでは無く、太古から続く禍根を断ち切る事のみ。
 この瞬間も、刻一刻と猟兵たちの全身から生命力が抜け落ちている。分かっていた事だが、やはり短期決戦以外に道は無し。臨戦態勢の構えを見せる相手に対し、老翁は機先を制すように弓に矢を番えて引き絞りゆく。二人を脅威と見たのではない。ただ、鬱陶しい羽虫をさっさと追い払おうとしているだけだ。
 ――ひょう、と。
 斯くして、放たれた一矢を契機とし双方が同時に動き出す。身の丈を大きく超える刃を携え踏み込む鏡介の横を、紅蓮の灼熱が追い抜いてゆく。戦闘可能な時間が限られている以上、出し惜しむつもりは無し。開始早々、鐵火は躊躇う事無く己が真の姿を解放していた。
「……弟子の居る世界ではな、超古代にこの世界と似たような、極寒の死の時代があったそうだ。大地は白き氷河に覆われ、生き延びれたものはそれに適応したごく僅かな種のみ。当然、人は絶滅寸前まで追い込まれたが」
 ――炎と邂逅した事で生きる術を見出し、絶滅を免れたそうだ。
 濃密さを増す死色の桜吹雪も、命の温かさに引き寄せられて這い出て来た蛆獣も。触れる全てを一切合切燃やし尽くして灰と化す業火。その姿は先程までの見目麗しい女ではなく、甲冑とも獣ともつかぬ荒々しき威容へと変じている。
「時代と命を繋いだ炎の煌めき、死を見守る冥神の眼にはどう映る?」
 二足の獣が文明を編む人へと変じた、大いなる一歩。それこそが火を扱う事であった。原始の暗黒を照らし、牙を剥く獣を遠ざけ、道具を利する。生存と発展の歴史が常に火と共に在ったのならば、確かに彼女の輝きは『生命』の象徴と呼べるに違いない。
『嗚呼、冷たき世界に灯る暖かさ……ええ。これは、正しく』
「イザナミ……! 貴様、この期に及んでまだ縋る気かッ」
 その荒々しくも輝かしい光を目の当たりにし、幻朧帝と女神の同調に乱れが生じてゆく。結果、ほんの僅かな間だが猟兵たちを苛む『死の静寂』が弱まった。この機を逃す手は無し。鏡介は矢を避けるべく大きく迂回しながら、仲間とは別方向より敵へと肉薄する。
(『死の静寂』は軽減されたが、放たれた矢の脅威自体に変わりはないだろう。だが、奴の動きを悠長に待ってやる理由はない。悠長に詠唱している間に効果範囲を脱し、仮に二の矢を射たところで……)
 青年の予想通り、新たな矢が真っ直ぐに迫り来る。しかし、分かり切った軌道に当たってやる程、彼もまた甘くは無い。小さく息を吸い込んで気を練ると、先ずは下段からの斬り上げにて矢を弾く。そのまま老翁を間合いへと踏み込むや、手首を返して振り下ろしを叩き込む。
「ぬぅ……っ」
「まだ未完なれど、悪しき帝に今の全力を奉る」
 ――剛式・暫定奥義【 】。
 如何なる材質で出来ているのか、幻朧帝は咄嗟に掲げた弓でそれを受け止める。しかし完全には勢いを殺し切れず、半ば白骨化した額に刃先が触れ、小さな傷跡を刻みゆく。無論、鏡介の攻勢はそれで終わりではない。
 半身と共に素早く刀身を引き、そのまま刺突へ転じ。重心の移動を以て左右の薙ぎに変わり。全身を捻って逆袈裟の一閃を放つ。息をつかせぬとは正にこの事。疾風怒濤の大連撃により、着実に老翁の全身へとダメージが蓄積しつつある。
「……|演舞《・・》としては見応えがあった。が、やはり磨き切れぬは限りある人の限界であろう。所詮、生命などこんなモノに過ぎぬ」
「ッ、むぅ!」
 だが本人自身が未完と言っていたように、五合を超えた辺りから技の精彩を欠き始めてしまう。更には『死の静寂』が再び効力を取り戻し始めた事も相まって、鏡介の動きが急速に鈍り始めた。こうなればもう、老翁でも対処は容易い。機を見計らい、今度こそ矢を突き立てんと狙いを定め――。
「飽くまでも斜に構え、他者と向き合うつもりは無いか。貴様の様な臆病者に神の座が与えられると思うな。永遠の闇の中で独り嘆いていろ! この腑抜けがッ!」
 横合いから割り込んできた鐵火が、幻朧帝の横っ面を殴り飛ばす。如何に神たる彼女とて、『死の静寂』の効力は無視できぬ。しかし、蝋燭の火は消える最期が最も激しく輝きを放つという。況や、火を司る戦神ならばその熱量は筆舌に尽くしがたいものだ。
 結果、青年の連撃によって圧されていた老翁は大きく体勢を崩してしまう。ダメージ自体は十分に与えられた。そろそろ頃合いか。鐵火は疲労を覚える身体へ鞭を打ちながら、完全に身動きの取れなくなった鏡介を抱えて、死桜舞い散る楽土より撤退してゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

円谷・澄江
楽園を元に碌でもない世界を創るとはとんでもない性格してるねえ。
そんなワルにはきっちり応報の仕置きをくれてやるよ!

クニークルスに搭乗、イザナミ…の手前の幻朧帝目掛け最高速度で突っ込む!
兎翼広げ電探で敵の動きを探知、演算、多少の損傷は気にせず少しでも速く…確実に攻撃を叩き込むことを優先。
矢を射て来たらUC起動、地を這うように身を低くし、ありったけの斥力の魔力で矢を何も無い空へ弾き飛ばす!
矢が当たればそこから死桜花の嵐が起こるが、当たらないなら発生を遅延できる…どうせ消耗で長居ができないんだからそれで十分。
その間に距離詰めでビーム・ドスをぶっ刺して切り上げてやろうじゃないか。

※アドリブ絡み等お任せ



●生き様とは桜の如く
「随分と騒々しい連中であったな。取るに足らぬ主張ではあるが……よもや、彼奴らに同調してイザナミが『死の静寂』を止めるとは。こればかりは儂も予想外であったわ」
 戦神の拳撃、青年の剣閃。渾身の一撃を浴びた幻朧帝であったが、ほんの数瞬の内に無数にあった筈の傷跡が綺麗さっぱり消え去ってしまう。依然として底の見えぬ不気味さを感じるが、それでも一切効いていない訳でもあるまい。今はただ、着実にダメージを蓄積させるのみ。
「楽園を元に碌でもない世界を創るとはとんでもない性格してるねえ。おまけに生きモンなんざ全部無意味だときた。そんなワルにはきっちり応報の仕置きをくれてやるよ!」
 そんな巨悪へ落とし前を着けさせるべく、新たに姿を見せたのは円谷・澄江(血華咲かせて・f38642)であった。彼女の背後には兎の耳を思わせるセンサーアンテナを備えたキャバリアが鎮座している。如何な兎の脚力とて、一息に敵の元へ辿り着くのは至難の業だ。ならば、鉄騎を駆るのも一手か。
 澄江は素早く機体へ乗り込むや、跳ねる様に老翁目掛けて加速してゆく。分厚い装甲に包まれた操縦席の中に在っても尚、『死の静寂』は変わることなく全身を苛み続けている。痛みと錯覚するほどの冷たさは四肢から徐々に忍び寄り、いずれは心の臓すら鼓動を止めるだろう。
(そうでなくとも、手足が動かなくなれば機体の操縦だって儘ならなくなる。こりゃ、予想以上に戦える時間は短そうだ。おまけに、アイツだってただ棒立ちで待ってくれる訳もなし、と!)
 吶喊早々、電探に感有り。これまでの交戦経験から、相手も矢の一本二本程度で猟兵を止められぬと悟ったらしい。直射曲射を問わず、幾つもの矢が鉄騎目掛けて降り注ぐ。澄江は予測軌道から進路を割り出し、巧みに機体を操って攻撃を避けていった。
 だが着弾地点を中心として死桜の花吹雪が吹き荒れ、その中から蛆獣が這い出て来る。舞い散る花弁はセンサーに干渉する性質があるのか、頼みの綱である電探にノイズが走りゆく。その過程で補足し切れなかった蛆獣が装甲へとへばりつき、牙を突き立て食い破らんする。
(多少の損傷は端から織り込み済み。最悪、一撃叩き込めれば上出来だ……とは言え、こうなれば相手も狙う事は一つだけってねッ!)
 纏わりつく悍ましき存在を振り払いつつ前へ、更に前へ。しかし矢の雨によって猟兵の行動範囲を狭めた幻朧帝は、今が好機と見るや本命の一撃を放つ。一直線に放たれる鋭き矢に穿たれれば、先程の比にはならぬ数の蛆獣に殺到されて貪り食われるに違いない。
 だが、左右は元より後方すらも先ほどの矢が突き立ち、じわじわと花びらの嵐が広まりつつある。故に避ける事は不可能。絶体絶命の事態を前に、しかして澄江の口元には笑みが浮かんでいた。
『勝ち誇った時こそ、油断するな……覚えておきな、ドサンピンッ!』
 被弾する寸前、女はそれまで温存していた魔力を解放。装甲表面に魔力の燐光が迸り、ごく短時間ながらもあらゆる攻撃に対する絶対的耐性を得る。その勢いに押され、軌道を逸らされた矢は頭上高くへと弾き飛ばされた。
 こうなればもう、澄江の眼前を阻む障害は無い。すらりと引き抜かれた発振器から短くも厚みのあるレーザー刃が形成され、それが幻朧帝へと突き立てられた。キャバリアサイズでは短刀だが、人間からすれば丸太ほどの大きさだ。結果、老翁は胴体丸ごとを貫かれる。
「後で蛮勇のツケを払うと言うのに、よくやるものだ」
『細く長くより、太く短くって人生もあるんだよ!』
 常人ならば致命の状態であっても、幻朧帝は超然としたままだ。詰まらなさそうに呟く相手に威勢の良い啖呵を返しながら、交戦限界を悟った澄江はその場からの離脱を選ぶのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

出水宮・カガリ
いわとの。閉じよ。塞げ。隔てよ(【泉門審問】)

世界を作るのに、「意志」は必要であるのに。「未来」が不要、とは。
これまでの時間で得られた「意志」には、意味があって。この先の「意志」に、意味が無いのは。何故なのか。
やがて滅ぶから。滅ぼすから意味が無い、のであれば。過去の命とて、同じであったはず。
カガリなりに、考えたが……今生きる命には、全く関係なく。「世界を作る|歴史《いてぃはーさ》にとって意味が無い」だけ、ではないか。

くだらない。その上に、手前勝手な。
ひとは。命は。そのような、世界側の都合になど。付き合ってはくれない。
どれほど安寧の壁で囲っても、その内から出ていこうとする英雄が絶えないようにな!



●生命問答
「……飽きもせずに次から次へと挑んで来るものだ、六番目の猟兵よ。確たる脅威とまでは呼べぬが、さりとて捨て置くには鬱陶しい存在。全く、忌々しい」
 幻朧帝の胴体には光刃によって貫かれた大穴が空いていた。常人ならば絶命して当然の傷にも関わらず、相も変わらず老翁は詰まらなさそうに言葉を零すのみ。音もなく肉体は修復され、死桜の楽土は元と変わらぬ風景へと舞い戻る。
 あと十日足らず。それだけ凌げれば|櫻花幻朧界《サクラミラージュ》は崩壊し、侵略新世界と共に完全なる解放を迎える。これまで幻朧桜の根元に封ぜられた年月を思えば、瞬きに等しい時間だろう。ただその時を待てば良いと独り頷くも、しかして世界に異変が生じてゆく。
「――いわとの。世界を閉じよ。境界を塞げ。彼岸と此岸を隔てよ」
 それは断絶、と呼べばよいか。眼には見えず、音にも聞こえず。然れども、確かに何某かの境界線が引かれた。そんな形容しがたい感覚が世界に張り詰めたのだ。無論、この世界を創造したのは他ならぬ幻朧帝自身である。故にこそ、その元凶が何であるかも知覚していた。
「何のつもりだ、限りある『|器《カタチ》』たるモノよ。この世界を覆う『死の静寂』を知らぬ訳ではあるまい。よもや、悠長に語らう心算ではあるまいな?」
「お前と仲睦まじく言葉を心算なぞありはしないが、もし似た様なものだとすれば……さて、どうする?」
 老翁が徐に視線を向けた先に居たのは、小さな童子を連れた出水宮・カガリ(死都の城門・f04556)。いまこの瞬間も彼の全身は桜舞う景色とは正反対の、深海の如き冷気によって包まれている。例え仮初の肉体であろうと、その冷たさはいずれ回避不能な終わりへと彼を導くであろう。
 だがそれでも、鉄門扉は誰何の声を上げてゆく。勿論、問答に伴う異能によって敵の余力を削るという目的も当然ある。しかしそれ以上に、脅威を退ける器物として鍛造された身の義務として、カガリは問いを投げ掛けざるを得なかったのだ。
「世界を作るのに、『意志』は必要であるのに。『未来』が不要、とは。これまでの時間で得られた『意志』には、意味があって。この先の『意志』に、意味が無いのは。何故なのか」
 幻朧帝イティハーサは断言した。新たな世界を創り上げるのに生命は、未来はもはや要らぬと。ただ過去さえあれば、意志さえ寄こせば事足りると。全てはいずれ|過去の存在《オブリビオン》へと堕ち、骸の海に沈むのだから……と。
 猟兵としては到底、看過できる内容ではない。その様な結末を覆す為にこそ彼らは存在するのだから。これまでの様に干戈を交えて押し通っても良いだろう。だが、彼は敢えて問答を以て相対してゆく。
「やがて滅ぶから。滅ぼすから意味が無い、のであれば。過去の命とて、それは同じであったはず。お前の話した内容を、カガリなりに、考えたが……今生きる命には、全く関係なく。『世界を作る|歴史《いてぃはーさ》にとって意味が無い』だけ、ではないか」
「……わざわざ迂遠な手段に出て、何を尋ねるかと思えば。実に短命種らしい考えだ」
 問いは為された。童子の権能により老翁の視界は闇に覆われ、全身には凄まじい重力負荷が掛かっている筈。にも拘らず、幻朧帝の立ち振いは先程と変わらないどころか、従える鷹は羽搏きによって桜吹雪を舞い起こす。
「世界がどれ程の年月を経たと思う? どれ程の命が生まれ、死んでいったと思う? 抱く願いなぞ大同小異、代り映えなぞしないものだ。なら、もう十分だろう。儂からみれば、お前たちの全ては過去の焼き直しに過ぎん。故にこれ以上の未来は不要。どの様な世界を欲するか、意志だけを寄こせば良い」
 どれほど文化が、文明が、技術が発達しようとも、生命の本質が変わるなどそうは無い。だからこそ、これまでの|歴史《イティハーサ》があれば、これからの|世界《イティハーサ》にも対応できると老翁は告げているのだ。
「……くだらない。その上に、なんと手前勝手な。それはお前が、世界を、生命を見ようとしていない、だけではないのか」
 しかし、その返答はカガリの逆鱗に触れるものだった。青年の激情へ呼応するかの如く、重力負荷が激しさを増す。幻朧帝は完全に命を下に見ていた。見下し、十把一絡げに扱い、個々の想いを切り捨てている。そんな価値観なぞ、それこそ認められない。
「ひとは。命は。そのような、世界側の都合になど。付き合ってはくれない。どれほど安寧の壁で囲っても、その内から出ていこうとする英雄が絶えないようにな!」
「だが、儂の言葉は事実だ。それは何人たりとも否定は出来ぬよ」
 もはや問答無用と、桜吹雪がカガリを押し流してゆく。しかし、彼の反駁もまた強烈な意志に他ならぬ。結果、彼は世界から弾き飛ばされながらも、老翁の骨を折り砕いてやる事には成功したのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シュプリムント・メーベルナッハ
こんなに綺麗なのに、寂しい世界。
それに…
(怨念珠の反応を見て)
そうだよね。みんな、もっと生きていたいものね?

おじいちゃん、生き物は死んだらそこまでって思ってるでしょ?
死んだ後にはね、想いが残るの。その形は様々だけど、生きていた証になる想いがね。
この世界にも、想いはいっぱい詰まってる。殆どは怨念って形ではあるけど…
(UC発動)
こうしてプリムが呼びかければ、想いはカタチを示すコトができる。
これが皆の生きた証、皆の命の輝きだよ!

生成した黒死弾を限界まで撃ち続けて敵を攻撃。
敵のUCで「攻撃成功率は上がり防御成功率は落ちてる」状態だと思うから、只管攻撃に専念。

この子達の願いは…あなたが死ぬコトだからね!


天玲寺・夢彩
過去があるから未来があるし、過去から新しい世界を作るのはそれそれでいいかもだけど、肝心の無限の未来や生命がなきゃ何も意味ないんだよう!

敵の攻撃はオーラと結界で周りを守りながら全力ダッシュで軽業のように回避しながら進むよ!
特に厄介な矢は突き刺さる前に早業の居合で切り伏せたりジャストガードだよ。

イザナミさん、色んな種類の桜の花言葉に「思いを託します」ってあるの知ってる?
キミの慈しむ|命の輝き《夢彩たち第六猟兵》を信じて託してよ!
越えない冬はないし、命芽吹く春は必ず春風と共にやって来るんだよ。
まあ、今ここに来たのは|夢彩《春の大嵐》だけどね!
(UCに魔力増強+浄化)

・アドリブ◎



●死したる後に遺るモノ
「……理解に苦しむ。全てはやがて、骸の海へと流れ落ちる定め。だと言うのに、何故こうも足掻き続けるのか。汝もそう思わぬか、イザナミよ」
 全身の骨と言う骨が折り砕かれ、見るも無残な有り様の幻朧帝。しかし、平然とした口調でそう問いかけながら、まるで映像を巻き戻すかの如く肉体は元の状態へと修復された。彼が言っているのは、先程の鉄門扉との問答の事を指しているらしい。
「いいえ、決して。妾からすれば、過去を軽んじているのは貴方自身に他なりません」
 死を慈しむ冥神は身動きが取れないのか、ただ哀し気にその相貌を陰らせるのみ。せめてもの反駁として紡ぐ言葉も、老翁からすれば敗軍の将がする言い訳にしか聞こえぬだろう。現に問い掛けた側にも拘らず、幻朧帝は半ばその言葉を聞き流していた。生命が生み出すものなぞ、全て似たり寄ったりの有象無象。だからこそ、過去だけあれば事足りると嘯き――。
「……おじいちゃん、生き物は死んだらそこまでって思ってるでしょ?」
 そんな内面を見透かしたかの如き一言が浴びせられる。ジロリと視線を向けて見れば、その先にはシュプリムント・メーベルナッハ(穢死檻の巫女・f38888)がはらはらと花弁を零す桜の枝葉を手繰り寄せていた。
「だから、こんなにも綺麗なのに、此処はとっても寂しい世界。死んだ後にはね、想いが残るの。その形は様々だけど、生きていた証になる想いがね。この世界にも、想いはいっぱい詰まってる。性質上、殆どは怨念って形ではあるけど……」
「そういった過去があるから未来があるし、未来が無ければ過去も生まれない。積み重ねて来た過去から新しい世界を作るのはそれそれでいいかもだけど、肝心の無限の未来や生命がなきゃ何も意味ないんだよう!」
 そして、そんな仲間の言葉に天玲寺・夢彩(春の大嵐少女・f22531)もまた同意を示す。老翁が無意味だと切って捨てる明日にこそ、少女は無上の輝きを見出している。それはきっと、囚われの身と化している女神も同じであると確信していた。幻朧桜から生まれ落ちた精として、過去の象徴たる影朧が転生し新たな生を歩むという流れを何よりも尊んでいるのだから。
「そもそも、その未来や生命自体が無価値であり、お前たちの生み出すそれらは無限などでは決してない。全て|過去の歴史《イティハーサ》によって踏襲された二番煎じ、三番煎じの焼き増しに過ぎぬ」
 だが、夢彩の言葉が相手に響くことは無い。数千年、下手をすれば万をも超える歳月によって形成された価値観を覆す事など一朝一夕では不可能だ。そも、問答ならば先に挑んだ猟兵が試みた。である以上、彼女らが取るべき選択肢は一つのみ。
「あら、そう? でも、『みんな』はそう思っていないみたいよ? ……ええ、そうだよね。みんな、もっと生きていたいものね?」
 そんな幻朧帝の冷酷な物言いを受け、シュプリムントは徐に宝珠を一つ取り出して見せる。其処に映るのは生命の残滓とも呼べるもの。この死桜色の冥府を創り上げる為に材料とされた、過去の怨嗟。自らの悲嘆を、憤怒を、憎悪を量産品と断じられて安らかに眠っていられる程、死者と言うのもか弱い存在ではない。
「こうしてプリムが呼びかければ、想いはカタチを示すコトができる。それらは決して、無駄でも無意味でもない。少なくとも、おじいちゃんに一矢報いる事くらいは出来る。さぁ、これが皆の生きた証、皆の命の輝きだよ!」
「蝋燭が放つ末期の輝きを生命と嘯くとは。否、燃え滓と言った方が正しいか? ともあれ、汝もじきにその一部となる事を忘れている様だ」
 果たして、双方の発動した権能によって周囲一帯は一気に死の気配が充満してゆく。巫女が怨念を凝り固めた黒死弾を放つと同時に、幻朧帝の白骨化した虚ろな眼下が怪しく光を放つ。それは生命を拒む老翁の価値観が具現化した異能。死を齎す権能が強化され、生き延びようとする行為を弱体化させる法則の強制だ。
 尤も、シュプリムントに限って言えばそれは必ずしも不利とは限らない。先ほどの宣言通り、彼女の扱う力の源泉は死者の怨念。である以上、攻撃面はむしろ強化されていると言って良く、その猛攻には目を見張るものがあった。
(でも……その反面、生きようとする行為は全部上手くいかない様になっちゃってる。これじゃあ『死の静寂』も相まって、全力を出し切る前に潰れちゃう)
 しかしその一方、夢彩は身体から抜け落ちる生命力の量が戦場へ降り立った当初より格段に増えている事を感じ取る。ただでさえ余裕のない交戦時間が更に短縮され、これでは有効打を叩き込むよりも先に猟兵側が限界を迎える事は明白だ。だが、老翁を今すぐどうにかする事は実質不可能。
 ならば状況を打破する突破口、全ての鍵を握るのはやはり愛と死の女神か。少女は急速に感覚が無くなりつつある手足へ喝を入れながら、囚われの神格目掛け真っ直ぐに駆け出してゆく。勿論、それをみすみす見逃してやるほど相手も甘くは無い。
「困ったときは神頼み、か。所詮、追い詰められた者の考える事は同じだな」
 一度に三本の矢を番えるや、ひょうと弓を引き放つ。二本は夢彩の進路上へ落下する様に調整し、一本はそのまま本体を狙い撃つ軌道と言う、極めて厭らしい一手。だがそれでも、彼女の歩みが鈍りはしなかった。
(一本……ううん、せめて二本は斬り伏せてみせる!)
 鞘に納めた桜霊刀による抜き打ち。それでまずは直撃コースの一矢を切り払い、進路上に突き立たんとする二矢も着地寸前で弾き飛ばす。流石に三本目までは間に合わなかったが、それだけならばまだ対処は可能だ。
 視界を遮る死桜吹雪を突破し、殺到する蛆獣を振り払い。傷口から生命の熱を血潮と共に垂れ流しながらも、夢彩は冥神の元へと辿り着く。その大いなる威容を見上げながら、彼女は喉が裂けんばかりに想いの丈を叫ぶ。
「ねぇ、イザナミさん! 色んな種類の桜の花言葉に『思いを託します』ってあるの知ってる? キミの慈しむ|命の輝き《夢彩たち第六猟兵》を信じて託してよ!」
 その率直なまでの言葉は、倦怠と諦念に倦んだ女の瞳へ一筋の輝きを灯らせる。不味いと悟ったのか幻朧帝が追撃の矢を放たんとするも、そうはさせじとシュプリムントが死力を振り絞って攻勢を強めてゆく。そんな仲間の援護の甲斐あって、少女は最後まで想いを紡ぐことが出来た。
「越えない冬はないし、命芽吹く春は必ず春風と共にやって来るんだよ! サクラエリュシオンが色んな世界の島々で満ち溢れた様に、サクラミラージュに私たちが生まれた様に! まあ、今ここに来たのは|夢彩《春の大嵐》だけどね!」
「ええ、ええ……そうですとも。それこそ、妾が愛し慈しんだ命に他ならぬ。例え千の死を迎えようとも、それを超える生を以て芽吹くのが貴方たちなのです」
 ただ生を奪うだけが、女神の望みでは無かった。『死の静寂』は彼女の一側面に過ぎないのだから。彼の御柱は愛と死を司る者。奪うだけでは片手落ちだ。斯くして、猟兵たちは自らの身を苛んでいた冥府の冷たさが綺麗さっぱり無くなっている事に気付く。今こそ好機だと勢い付く二人に対し、幻朧帝は忌々し気に歯噛みする。
「イザナミめ、性懲りもなくまた……ッ!」
「他人の願いを曲解しておいて、その言い草は無いんじゃないかな? 自業自得の因果応報ってね。さぁ、バーッンとぶつけちゃうよー!」
 死桜の嵐を逆に利用し刀身へと纏わせるや、夢彩はそのまま老翁へと叩き込む。一枚一枚は取るに足らぬ重さでも、嵐の如く束ねれば巌すらも打ち砕く。そして、それはシュプリムントとて同じ事。散った|怨念《さくら》を限界まで収束させるや、花吹雪に呑まれ身動きの取れぬ相手へ狙いを定める。
「想いなら、プリムだって託されているよ。だって、この子達の願いは……あなたが死ぬコトだからね!」
「おのれイザナミめ、六番目の猟兵めぇ……ッ!」
 斯くして、今度こそ巫女は黒死弾を直撃させてゆく。夢彩との連携も相まって、その一撃は遂に幻朧帝の余裕を剥ぎ取る事に成功するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サハリエ・ステーロ
フーハッハッハッ、初めましてイザナミ君。ビームスプリッターの主として他のエンシェントレヰスの指導者へ挨拶に来たぞ。もちろんイティハーサは倒すとも。

UC【光線銃を撃ちまくれ!】使用
効果でUC【兎の魔王軍】を同時使用
まずはビームスプリッター君、君の素晴らしいビームで蛆獣達を蹴散らし配下達の立つ場所を作れ、
そして、イザナミよそれぞれの個性を生かし頑張って働いてくれている我が配下達の輝きを見よ!
近接戦闘が得意なものは蛆獣に対処、建築が得意なものは防壁を準備、風をおこせる者は花弁を追い返し、遠距離攻撃が出来る者はイティハーサへ攻撃せよ。
僕は危なくなったときにすぐに部下を返す準備をし、余裕あれば魔法攻撃だ


ベルト・ラムバルド
アドリブ上等!

あの半分骸骨の爺さんが幻朧帝だと!?
それに女神を取り込み新世界とは!スケベ爺め!
光明の暗黒騎士たるベルト・ラムバルドが奴に一撃を与えてみせる!行くぞ!

キャバリア操縦し空中機動で世界を駆け抜ける!
桜まみれの世界とは!桜酔いしてしまうなさすがに…
…まずい!眩暈がする…!力が入らん…この世界の力か…!
だが…ここでみすみす死ぬもんか!我が騎士道を…舐めるなよ!

UC発動し全身にカリスマオーラ纏わせ機体に張り付く白い花弁をオーラ防御で破壊してやる!
そのまま幻朧帝に向かって突撃だ!

我が騎士道の権化たる命の輝きの閃光しかと見よ!
二刀の巨剣を叩き付け幻朧帝を切り捨てる!

…ここまでか!見たか我が光!



●絢爛豪華に光は輝き
「ぐ、むぅ……!? イザナミ、よもや一度ならず二度までも余計な手出しをしおって」
 ぐらり、と。それまで超然とした態度を崩さなかった幻朧帝が苦々しそうに呪詛を吐く。これまでと同様に損壊した肉体を修復してゆくのだが、その速度は些か鈍っている様にも思える。猟兵が蓄積させたダメージに加え、冥神との同調が乱れた事により絶対性が崩れつつあるのかもしれない。
 完全な格下と見ていた存在が自らに反旗を翻した。その事実に対し老翁は忌々しそうな視線をイザナミへと向ける。『意志』は必要だが、それは飽くまでも世界を創造する為に必要だったからだ。それ以上はそれこそ不要だと、統制を強めようとし――。
「おいおいおい、あの半分骸骨の爺さんが幻朧帝だと!? それに女神を取り込んで新世界を創り上げるとは! さては新世界と言う名のハーレムでも作る気だな! 権力者はいつもそうだ、このスケベ爺め!」
 それを見咎めつつも、若干ズレた内容を叫ぶ声がある。今度はなんだと胡乱気な視線を向ける幻朧帝に相対するは、義憤に駆られたベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)であった。
 この世界に降り立った瞬間から彼もまた『死の静寂』が齎す生命の流出を感じている筈だが、それでもなおそう叫べるのは神経が太いのか、根が善性なのか。尤も、そう言った点では同じタイミングで転送されて来たサハリエ・ステーロ(悪魔王を獲得せし者・f37256)も負けず劣らずと言って良いだろう。
「フーハッハッハッ、初めましてイザナミ君。ビームスプリッターの新たな主として、他の『エンシェント・レヰス』の指導者へ挨拶に来たぞ。もちろん|幻朧帝《イティハーサ》は倒すとも」
「それを聞いて安心しました……ビームスプリッターは無事に彼奴の魔手から逃れられたのですね」
 そう、サハリエこそ数多の志願者の中から悪魔王の主となった者。かつて肩を並べ幻朧帝と戦った同胞の無事を知ったイザナミは、弱々しくも柔らかな笑みを浮かべる。その一方、己の目論見を一つ潰された老翁は忌々しそうに眉根を顰めゆく。世界創造のエネルギーを逆に利用され、猟兵に利する戦場が生まれてしまったのだ。その心境は決して穏やかでは無いのだろう。
「だが、意志なき世界は儚き存在。あと十日と持たず崩壊するようなモノに何が出来よう」
「偉そうな事を宣っても一杯食わされた事実は揺るがないがな! 光明の暗黒騎士たるベルト・ラムバルドが更なる一撃を与えてみせる! 行くぞ!」
「悪しき帝王とこの兎魔王……どちらがよりワルか、いざ雌雄を決しようでは無いか!」
 少しずつ、だが着実に相手は追い詰められている。その事実だけでも士気を上げるには十二分。斯くして猟兵たちは余勢を駆ってイティハーサへと挑み掛かってゆく。三者の中でまず先手を取ったのはサハリエ。彼女がパチリと指を鳴らした瞬間、規格外の存在感を帯びた『何か』が世界へと呼び出される。
『緊急、緊急! 吾輩、主ノ求メニ応ジテ推参ス! 幻朧帝イティハーサ、イザナミ殿、ドチラモ懐カシク!』
 その正体こそ何を隠そう、古代種族エンシェント・レヰスが一角『ビームスプリッター』に他ならぬ。帝都タワーを遥かに凌駕する巨躯が地面を割って聳え立ち、無数の触手と光線銃を掲げて見せる。更にはその巨大さを活かし、増援の悪魔軍団をも引き連れていた。
「まずはビームスプリッター君、君の素晴らしいビームで蛆獣達を蹴散らし配下達の立つ場所を作れ! 我が配下たちもそう易々と『死の静寂』なぞに屈するものか!」
 殺しても死なないのがデビルキングワールドの悪魔たちである。彼らは光線銃や通信機器を受け取るや、雪崩を打って幻朧帝目掛けて攻め掛かってゆく。それに対し、老翁は有象無象に一々構ってはいられぬとばかりに、従えている鷹を遣わして強烈は羽搏きを巻き起こす。
 突風と共に舞い散る花弁は、それを吸い込んだ者を悍ましき蛆獣へと変えて操る忌むべき美だ。更には花吹雪の内部からも蛆獣が這い出し、強引にでも花びらを吸引させんと迫って来る。
「風を起こせる者は花弁を追い返し、近接戦に長けし者は蛆獣に対処せよ! 建築が可能な者は防壁を築き、狙える者はイティハーサを撃て!」
 だが、戦争は数だと良く言ったもの。即応態勢を維持しつつ指揮を取るサハリエの号令一下、悪魔たちはそれぞれの強みを活かして攻撃に対処してゆく。光線銃が乱れ舞う様は死色の桜吹雪も相まって非常に派手だ。
『天も地も桜まみれの世界とは! これでは桜酔いしてしまうなさすがに……そんなのはお花見の時だけで十分だ! しかし装甲で花弁自体は防いでいるとは言え、これはちと厄介だな』
 そんな中、紫紺色の鉄騎が一つ飛び出してゆく。それはベルトの愛機『パロメデス』に他ならぬ。悪魔たちが築いた即席の防壁も相まって、さながら砦より出陣する騎士の様だ。だが勇ましい姿とは裏腹に、操縦席の青年は不快感に眉を顰める。操縦桿を上手く握れず、モニター画面が霞む。『死の静寂』は急速に彼の生命力を奪い去っていたのだ。
『まずい! 眩暈がする……! 手足に力が入らん……これが、この世界の力か……! だが、ここでみすみす死ぬもんか! 我が騎士道を……舐めるなよッ!』
 迫り来る死の冷たさを振り払うかの如く、騎士は己自身に活を入れてゆく。全身から溢れ出した後光が機体へと伝播し、鮮烈な煌めきとなって包み込む。急加速を繰り返しながら花吹雪を避けつつ幻朧帝を目指すも、それは蝋燭が消える間際に放つ末期の輝きだった。
 このままではベルトの決意とは裏腹に、そう時間を置かず彼は斃れるだろう。その間に怨敵へ一撃を与えられるか、実際問題かなり怪しいところである。それは流石に忍びないと、サハリエは囚われの女神へ口上を奏でゆく。
「イザナミよ、命無き世界でそれぞれの個性を生かし頑張って働いてくれる我が配下達の、そして己が騎士道を貫かんとする勇士の輝きを見るが良い! 貴女とて、ビームスプリッター君と共に戦った者であるはずだ! ならば、ただ救いの手を待つだけの手弱女ではあるまい? そうだろう!」
「……ええ、その通りです。いま、妾に出来る事は少ない。けれども、それは何も出来ないという事を意味しはしない……ッ!」
 果たして、生命の輝きを精神的にも物理的にも目の当たりにした冥神もまた、己に出来る精一杯の抵抗を見せてくれた。その結果、『死の静寂』は効力を弱め、それと比例するかの様にベルトの放つ光量も指数関数的に増大してゆく。
『お、おお、おおおおおおッ! 力が、漲って来たァ! このベルト・ラムバルドとて男だ! 女神さまに期待を掛けられた以上、無様な姿は見せられん! よぉし、いっちょ暴れてやる~! どりゃーーーッ!!!』
 勢い付いたど阿保、もとい騎士はもはや手が付けられぬ。先ほどまでの命を削る様な切羽詰まった攻勢ではなく、のびのびと自由に暴れ回り始めた。縦横無尽、八面六臂の立ち回りを前にどれほど桜吹雪を浴びせかけようが何するものぞ。そのままベルトは幻朧帝目掛けて一直線に吶喊する。
「我が騎士道の権化たる命の輝きの閃光しかと見よ!」
「さぁ、諸君! 僕らの輝きを女神様にご照覧頂こうではないか!」
 兎魔王軍の放つ光条による援護を受けながら、騎士は幻朧帝へと双剣による斬閃を叩き込む。白骨化した痩身を両断して余りある威力を受け、堪らず老翁の表情が苦悶に陰る。してやったりとほくそ笑むベルトだったが、そこで『死の静寂』が効力を取り戻したらしい。再開する生命吸奪の呪詛に歯噛みしながら、サハリエと共に撤退してゆく。
「ぬ、ぉおお……ッ!?」
「……悔しいがここまでか! 見たか、我らが光ッ!」
 斯くして、猟兵たちは悪しき帝に対し痛烈な打撃を与える事に成功するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

中小路・楓椛
(言いくるめ)

さて。

戦闘は他の方が好き放題やっているでしょうから私は観ているだけで良いと考えていたのですケド、全て終わらせる前に幾つかの確認をば。

死で満たされた世界を望むのはまあ個人の主義主張の範疇といたしまして、その死を維持する為の構造はどうなっています?
釣り合いが取れなくなったら別の世界を苗床として補充するのであればそれは「永遠に完成しない」というパラダイムではありませんかね。

それに過去の複数の結末を素材として得たとて多少の味変から再演を続けてもやがて限界は訪れますよ。「その程度」の策を彼方側の存在が試した事がない訳ないじゃないですか。粗製乱造って言葉をご存じで?
再孵化させた存在と同化するのはアナタ単体では世界創造や改竄で得る多様性に上限はありそれを補う目的もあるとお見受けしましたがどうでしょう。

とまあ私個狐として疑義は幾つか生じましたケド、無回答でも私は別に構いませんよ──ではお別れのお時間です。ごきげんよう。
(術式関連能力を全行使後にUC「あんちもじゅらい」を起動)



●問いは咲き、答えて散る
「ぐ、ぬぅ……!? イザナミとの同調がズレた影響で、六番目の猟兵に付け入る隙を与えたか。暫しの間だけ耐え凌げば事足りると考えていたが、まさかそうも言っておられぬか?」
 上下に寸断された幻朧帝の、半ば白骨化した身体が再生してゆく。ここまでされても死なぬ耐久力は特筆に値する一方、その修復速度は開戦当初と比べ目に見えて鈍くなっていた。世界を創り上げるほどの絶対的な権能を持つとはいえ、老翁もまたこの世に存在する以上は無敵でも不死身でもないと言う事か。
「……はてもさても。戦闘は他の方が好き放題やっているでしょうから私は観ているだけで良いと考えていたのですケド、どうやらこの戦いもそろそろ佳境と言った様子。丁度良い頃合いですし、全て終わらせる前に幾つかの確認をば」
 そんな決着が近づきつつある最終局面にも関わらず、否、寧ろだからこそか。中小路・楓椛(contradictio in adjecto・f29038)は敢えて対話を試みんと戦場へ足を向けていた。まるで櫻見物にでも来たような自然体だが、『死の静寂』は彼女にも例外なく襲い掛かっている。言葉を交わせる時間はそう長くは無いだろう。
「六番目の猟兵は随分と語らうのが好きらしい。儂にとっては聞き飽いた内容だろうが、何か目新しい事でも耳に出来れば多少の余興にもなろう。良い、申してみよ」
 一方のイティハーサはまたかと眉を顰めつつ、意外にも拒否せず会話に乗って来た。無論、只の善意である訳も無し。僅かばかりでも体力の回復に時間を当てられるならと判断したようだ。ペコリと楓椛は慇懃に一礼を返し、ならばさっそくと口火を切る。
「お時間を頂き、まずは感謝を……では先ず、死で満たされた世界を望むのはまあ個人の主義主張の範疇といたしまして、その死を維持する為の構造はどうなっています? 釣り合いが取れなくなったら別の世界を苗床として補充するのであれば、それは『永遠に完成しない』というパラダイムではありませんかね」
「死を維持? 何故、そんな事をする必要がある? 完成も何も、死とは既に終わったモノだ。消えも無くなりもしないのは、お前たち猟兵も良く知っていると思ったのだがな」
 妖狐の問い掛けに対し、幻朧帝は理解できないという風に首を傾げた。時間とは質量を持った物質であり、人の死も、過ぎ去った歴史も、『過去』となった時間である。世界はそれを排出することで代わりに新たな時間を注ぎ込み、刻を進めて『未来』へ進む。
 逆に『過去』で完全に満たされ、新しい時間を得る余地が失われた時、世界は永遠の停滞と言う終焉を迎えるのだ。そんな結末を防ぐべく、猟兵はオブリビオンを討伐している。とどのつまり、死という『過去』をどう留めておくかと言う趣旨の質問か。それに対する相手の反応は更なる反問だった。
「儂は何度も繰り返しているだろう。生命はもはや不要だと。生が無ければ、死も起こらず、それ以上の過去もまた生じない。故に排出する必要もなく、それらはただ『世界』に『在る』だけだ。そも、仮に捨てねばならぬとして何の問題がある。『|過去《死》』の集合体をお前たちは良く知っているだろう?」
 |世界《コップ》の|時間《みず》を入れたり出したりしなければならぬから、そんな疑問が生まれるのだと幻朧帝は告げる。総量が変わらなければ、増えも減りもしなければ何も問題は無い。彼の創り上げる世界とは、ある意味で初めから|世界の終焉《カタストロフ》を迎えていると言って良いかもしれなかった。
 尤も、それが楓椛の欲していた内容かどうかは議論の余地があるかもしれない。妖狐はふむと数瞬だけ考え込むが、既に手足の末端からは感覚が失われ掛かっている。思考能力すらそう長く持たぬ可能性が高い以上、今は内容を吟味するより少しでも多くの情報を得た方が良さそうだ。
「……成る程? 一先ずは理解しました。では、二つ目。過去の複数の結末を素材として得たとて、多少の味変から再演を続けてもやがて限界は訪れますよ。『その程度』の策を彼方側の存在が試した事がない訳ないじゃないですか。粗製乱造って言葉をご存じで?」
「先程も似たような問いを投げて来た者が居たな。それこそ汝の言う『多少の味変』、粗製乱造程度で事足りてしまうのが生命の限界であろうよ」
 幻朧帝の操れる過去の総量は現時点では不明だが、たまさか無限と言う訳ではあるまい。使える材料に限りがある以上は遅かれ早かれバリエーションが尽きると指摘する猟兵に対し、それでも問題は無いと老翁が断じる。
 それまで泰然自若としていた相手の声音に、僅かばかりの感情が混じりゆく。それは嘲りか、蔑みか。どちらにせよ、悪意には変わりないだろう。妖狐に目線で促され、彼は先を続けてゆく。
「『エンシェント・レヰス』の望みは端的に言えば『故郷を取り戻す』事。ソウマコジロウとて願ったのは『サクラミラージュ』の繁栄なのだから似た様なものだ。分かるか? とどのつまり、生命の抱く願い自体にそこまでの種類など無い」
 金か、愛か、物か、名誉か、栄光か、知識か、繫栄か、栄達か、欲か。歴史は重なり、技術は発展し、文明は様相を変える。だが、生命は? それ自体に然したる変化はなく、彼らの抱く願いもたまさか空前絶後の唯一無二となる可能性もほぼゼロと言って良いだろう。
「ならば、良いでは無いか。粗製乱造でも、どこかで見た焼き直しでも。所詮、お前たちはその程度のもので満足してしまうのだろう? 無論、だからといって手抜きはせんとも。ただ、願いに見合った世界を創り上げるのみ」
「では、再孵化させた存在と同化するのはアナタ単体では世界創造や改竄で得る多様性に上限があり、それを補う目的もあるとお見受けしましたが……」
「お前たちの願いに底があるとは言え、わざわざ胸中を汲み取ってやる義理もあるまい。『意志』と言う指針を寄こせというのは、そこまで可笑しな要求か?」
 全ては自明の理だと、幻朧帝は言い切る。尤も、いまこの場で話した内容が真実である保証は何処にもない。それこそ、嘘偽りなく説明してやる義理なぞ相手には無いのだから。しかしもう、その裏を取っているだけの猶予は無い。今はおくびにも出してはいないが、既に楓椛の身体からは大部分の感覚が失われている。もう此処が限界だった。
「随分と傲慢な考え方と言う事は十二分に分かりました。問答にお付き合い頂き感謝を。名残惜しいですが、そろそろ頃合いにつき」
 ──では、お別れのお時間です。ごきげんよう。
 双方ともに対話の終わりを見計らっていたのだろう。老翁の虚ろな眼下が輝くのと、妖狐が術式を起動させたのはほぼ同時。果たして生死を流転させる結界と、万物の法則を意味喪失させる術式。二つのぶつかり合いに紛れ、猟兵は影も無くその場より立ち去るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴィゲール・ティモルスケルタ
【猫と犬】アドリブ歓迎
死はそもそも辿り着く為のものじゃない。目的じゃあない。
生命が懸命に生きて、自分の証を残して、その果てに与えられる安らぎこそ死なんだ。
生命が存在しなければ死も存在しない。生命の否定は死そのものを否定する。
イティハーサ。キミの定義する死を僕は死と認めない。
生命を慈しむ優しい人を、これ以上利用させはしない!

護りはぼくが引き受ける、エインセルは全力であいつに攻撃して。
【指定UC】発動。
ぼくの力も生命を奪う死に所以するもの。
【生命力吸収】を主としているから生命を拒む領域の影響を受けないどころかいつも以上に使えるハズ。
この力と【結界術】でエインセルを護り、奴にできる限りのダメージを与えられるよう試みよう。

そしてイザナミにも話しかけるよ。
今、きっと苦しいよね。死を憂う人を導き、包み込む程に優しい心を持っているのにこんなことさせられて……
辛いよね。凄く。
だから、絶対に助けるよ。こんな偏屈じじいの傀儡になんてさせないから。
必ず貴女に心安らげる終わりを、与えてみせるからね……!


エインセル・ティアシュピス
【猫と犬】アドリブ歓迎
アヴィゲールのいうとおりだよ!
みんなつらくってもくるしくっても、がんばってがんばって、すっご―――――くがんばっていきてるんだよ!
ぼくのかいぬしさんも、いっしょにすんでたおとーといもーとたちがいなくなって、かなしいかなしいってないてたけど!
でもそれでもおんなじめにあってほしくないからってがんばってるもん!
がんばってるひとたちを、いまをいきてるひとたちのことをいらにゃいなんてゆるせない!
いざなみさんみたいなやさしいおねえさんもくるしめて!
おじいちゃんみたいなひとのことを「ろーがい」っていうんだよ!!
ぜったいにやっつけるんだからー!!

アヴィゲールがまもってくれるから、ぼくは【指定UC】と【全力魔法】でいーっぱいこうげきするよ!
【回復力】はあんましになっちゃうかもだけど、そじゅーとかアンデッドっぽいオブリビオンにたいしてすっごくこうかがあるんだから!
【浄化】と【破魔】の【レーザー射撃】をちからがつづくかぎりたっくさんぶつけるにゃーん!



●黒白の幼神、生死を謡いて
「ぬ、ぅ! 大人しくしていたかと思えば、最後に尻尾を見せったな女狐め。回復に当てた分を根こそぎ持っていきおって。考えたくも無いが……このままでは非常にまずい、か?」
 妖狐と幻朧帝の問答は予想通りと言うべきか、手痛い物別れで終わった。会話の間は蓄積したダメージの修復に専念していた様だが、猟兵が置き土産として発動した崩壊術式により結果的には赤字となったらしい。忌々しさに顔を歪めつつ、回復に回らねばならぬという行為そのものが老翁の劣勢を示していると言えよう。
「あり得ぬ。定命の短き生へ縋る者らに、いずれは全て死ぬる定めの者らに遅れを取るなど……」
「……確かに、生命は死から逃れられないよ。でも、そもそも死は辿り着く為のものじゃない。目的なんかじゃあない」
 それはあり得ない結末。強大な『エンシェント・レヰス』が四柱掛かりで挑んで来てもなお果たせなかった、『自身の敗北』という空前絶後の未来。それを否定せんとなおも命を嘲るが、何度目かも分からぬ否の声が飛ぶ。
 今度は誰かと振り返れば、死色の桜の中に立つは黒白二つの人影。発言の主であるアヴィゲール・ティモルスケルタ(死を想う鷹羽の黒犬・f43503)の傍らでは、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)が決然とした視線を以て強大なる神格を見据えていた。
「生命が懸命に生きて、自分の証を残して、その果てに与えられる安らぎこそ死なんだ。生命が存在しなければ死も存在しない。生命の否定は死そのものを否定する。そんなのは単なる無だ……イティハーサ。キミの定義する死を、僕は死と認めない」
「アヴィゲールのいうとおりだよ! みんなつらくってもくるしくっても、がんばってがんばって、すっご―――――くがんばっていきてるんだよ! ぼくのかいぬしさんも、いっしょにすんでたおとーといもーとたちがいなくなって、かなしいかなしいってないてたけど! でも、それでおしまいじゃない! それでも、おんなじめにあってほしくないからってがんばってるもん!」
 司る権能こそ異なれど、彼らはどちらも生命に携わる神の一柱。であるが故に、不可分な領域である筈の生死を切り分ける幻朧帝の有り様は、酷く歪に映るのだろう。黒犬は理路整然たる言葉を以て、白猫は幼くも激しき感情を以て、真っ向から悪しき神帝へと宣戦布告を叩きつけてゆく。
「がんばってるひとたちを、いまをいきてるひとたちのことをいらにゃいなんてゆるせない! いざなみさんみたいなやさしいおねえさんもくるしめて! えんしぇんと・れいすのこきょうもこわして! おじいちゃんみたいなひとのことを「ろーがい」っていうんだよ!! ぜったいにやっつけるんだからー!!」
「ああ、そうだとも。生命を慈しむ優しい人を、これ以上利用させはしない! 遥かなる因縁に決着をつけさせて貰おう、幻朧帝イティハーサ!」
 そんな幼き神たちの威勢を前にした老翁だが、その反応は正しく悪い老人らしいと言うべきか。深々と溜息を吐きながら、鬱陶しそうに視線を向ける。半ば白骨化した相貌にも関わらず、面倒だという感情がありありと見て取れた。
「三十六世界は儂が創造したモノではないが、随分と神を名乗る者が増えたらしい。誰ぞが我が所業を粗製乱造と宣ったが、これが正にそうだろう。せめて汝ら程の力量があれば別だがな、イザナミよ」
 猟兵へまともに応じず、幻朧帝はただ無造作に一瞥をくれるのみ。だがそれだけで、世界の法則が一変する。生命そのものを否定する価値観の具現。基本的に神は不老不死の存在だが、強制される『死の静寂』とも相まって存在その物を削られるかの如き脱力感が彼らを襲う。
 更には老翁の傍らから大きな鷹が飛び立つや、羽搏きを以て死色の桜吹雪を舞い上がらせてゆく。見た目だけながら非常に優美な光景だが、内部には無数の蛆獣が蠢き潜み、更には一枚でも吸い込めば意のままに操られてしまう呪いでもある。
「この調子だと、いくら神であっても長期戦は不利だね。護りはぼくが引き受けるから、エインセルは全力であいつに攻撃して……さて、ぼくの力も生命を奪う死に所以するもの。どこまで通用するか試させて貰うよ!」
 そんな脅威を前にし、対処に動いたのはアヴィゲールだった。迫り来る花びらの奔流へ向け手を翳した瞬間、突如として漆黒の砂嵐が発生。真正面から桜吹雪へぶつかるや、その勢いを相殺してゆく。
 砂を浴びたものから生命力を吸収し、味方へと還元する攻防一体の奇蹟。黒犬の予想通り攻撃の威力自体は通常よりも強化されており、幻朧帝の遣いである神鷹とも真っ向から渡り合えている。だが、やはり単純な強化だけではないらしい。
(生命力の付与が余り、いや、殆ど働いていない……ッ! それも『生を長引かせようとする力』に分類されているのか。加えて、この世界にはそもそも生きている存在が皆無だから、恐らく吸収効率が悪いんだ!)
 吸奪と対となる筈の付与効果が機能していない。『死の静寂』に対する対抗手段として見込んでいたのだが、その当てが外れた形となる。それはそれで痛手だが、死桜の奔流に呑み込まれる心配が無くなっただけでも御の字と見るべきか。ともあれ、護り役としての務めは果たせたと言えよう。また、それが分かったからこその手もあった。
「エインセル、どうやらアレらは命ある存在ではないらしい。だから……!」
「うん、わかったよ! アヴィゲールとおなじく、かいふくはあんましになっちゃうだろうけど、そじゅーとかアンデッドっぽいオブリビオンにたいして、これはすっごくこうかがあるんだから!」
 黒犬の言葉に、みなまで言わずとも大丈夫だと白猫が返す。彼の権能もまた癒しの力を含んでおり、恐らくそれは仲間と同じように上手く効果を発揮しないだろう。しかし同時に、此度の相手である死の群れに対して有効打となる能力もまた帯びていたのである。
 果たして、エインセルが毅然と敵へ顔を上げるや、額に刻まれた英字のBを思わせる紋様が温かな光を放ち始めた。紋様の正体はベオクのルーン。即ち、誕生や成長を司る象徴だ。それ故に本来であれば仲間に治癒効果を齎すのだが、やはり効果は薄い。しかしそれ以上に、生に背く死者に対しては効果覿面だった。
「よし、きいてるよ! あとはただ、ちからがつづくかぎりたっくさんぶつけるにゃーん!」
 本来であれば継続的な負荷を与え続ける、どちらかと言えば長期戦向けの奇蹟だ。しかし、幻朧帝の強いた法則によって白猫もまた攻撃性能が強化されており、光を向けた端から蛆獣が灰や土へと変わりゆく。その温かさは老翁にとっても厄介なのだろう。光源を遮るかの如く桜吹雪を展開して身を隠そうとしている。
 だが、現状ではまだ有効打には程遠い。そもそもとして回復手段の尽くが機能しない現状、強化された『死の静寂』により凄まじい速度で二人の存在そのものが失われつつあった。エインセルも良く攻めているが、このままでは如何に神格とは言え持ちはすまい。
(……やはり、ここは|愛と死の女神《イザナミ》の協力が必要だ)
 そも、地の利は相手に在る。しかし、その根幹を為しているのは老翁ではなく冥神だ。彼女の心を揺り動かすことが出来れば、必ずや勝機はある。アヴィゲールは砂嵐の操作を継続しながら、意識の一部を大いなる女へと向けてゆく。二つの渦巻く力がぶつかり合う中、彼は精一杯の叫びをぶつけ始めた。
「ねぇ。いま、きっと……ううん、間違いなく苦しいよね。死を憂う人を導き、包み込む程に優しい心を持っているのに、こんなことさせられて。本来であれば死の静寂ではない、もっと穏やかな安らぎに満ちていた筈なのに。辛いよね。凄く」
 黒犬は白猫と比べ、より『死』の領域に近い存在である。故にこそ、冥神の抱く苦悩を少なからず共有することが出来た。生者にとって死とは恐ろしいものだ。誰だって好き好んで死にたくはあるまい。だが、生命ある限りその運命を避けられぬ。
 だからこそ、大いなる女は|櫻の楽園《サクラエリュシオン》へと人々を誘ったのだろう。不可避なる恐怖を和らげ、いずれ征くべき道程を示す。死による解放に生じたアヴィゲールとはやはり似た者同士と言える。その責務の尊さを知るからこそ、幻朧帝の所業がどれほど残酷な事なのかも理解出来てしまうのだ。
「だから、絶対に助けるよ。こんな偏屈じじいの傀儡になんてさせないから。これまで貴女がしてきたように、必ずイザナミ自身にも心安らげる終わりを与えてみせるからね……!」
「……感謝します、幼き我が同胞よ。ええ、信じていますとも。生命の流れはこの様な悪意には屈さぬと。遥か悠久の昔から、ずっと」
 黒犬の力強い言葉に対し女神は柔らかく微笑む。これ以上のやり取りは不味いと直感したのか、老翁は中断させるべく強引にそちらへ神鷹を差し向けんとする。だが、そうはさせるものかとエインセルもまた発する光量を強めてゆく。
「ひとのかいわをさえぎっちゃいけませんって、ちいさいころにおそわらなかったのかな! それとも、もうむかしすぎてわすれちゃった? なら、またおべんきょうしなくちゃね!」
「ええい、鬱陶しい真似を。これ以上、彼奴との同調が乱れれば、世界の基盤そのものに綻びが生じかねぬ。いや、待て。貴様、先程よりも輝きがいっそう激しく……ッ!?」
「あれれ? なんだかさっきとくらべてちょうしがいいみたい! もしかして、『しのせいじゃく』がなくなってるのかな? よぉーーし、これにゃらぜんりょくをだせるんだからね!」
 動くのが遅きに失した。イティハーサがそう悟った直後、白猫の放つ輝きが先程までとは比較にならないほど強まり始めた。黒犬の呼びかけによって『死の静寂』の効果が低下した結果、余力を得た幼き神の火力が遂に相手の防御を凌駕し始めたのである。
 依然として治癒関連の権能は効力を失っているが、生命力の喪失をこれ以上心配しなくて良いなら問題はない。『死の静寂』が復活してしまう前に最大火力を叩き込むのみ。
「これ以上の手傷は許容できぬ。あと数日耐えれば、その時点でこちらの勝利は確定するのだ。例え忌々しい貴様らを殲滅できずとも、敗北せねばそれは即ち儂の……」
「そう易々と自分の思い通りに事が運ぶと、本当に思っているのかい? なにも本気を出せるようになったのはエインセルだけじゃない。今やここはぼくの領域だよ。最後まで立てるとは思わない方がいいッ!」
 ここで幻朧帝は方針を転換し、勝つのではなく負けない為の立ち回りを試みる。老翁の勝利条件を考えれば決して誤りではないが、しかして勢いに乗った猟兵をそんな消極的な姿勢で跳ね返せる訳も無し。
 アヴィゲールがより勢いを増した漆黒の砂嵐を叩き付け、防壁と化していた死色の桜吹雪を瞬く間に削り取ってゆく。斯くして絶対であったはずの護りは元より、余裕も、余力も、神格としての優位性も崩れ去った、その果てに。
「いのちのつよさを、おもいしれーーっ!」
「馬鹿な、こんな事象なぞ、儂の持つ|過去《イティハーサ》には、一度も――ッ!?」
 エインセルが放った不死者を滅する極光の直撃を受け、堪らず苦悶の雄叫びを上げてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ブラミエ・トゥカーズ
貴公の認識する命とは如何なるモノであろうかな?
脆弱な生き物たる余は他の命に寄り添うしかできぬわけであるが。
故に貴公の邪魔をさせてもらうぞ。

真の姿
手枷足枷を嵌めた中世風村娘の形に凝縮したウイルスの集合体
獣に感染伝播することでイティハーサとの距離を詰める
場の力でウイルス達は死んでゆくが、対抗するように分裂を加速させる

わしは世界《UDCアース地球》が生み出した最も古い命の敵の一つだぞ。
異界のモノ如きに引けはとらねぇよ。

敵UCにより【死をもたらすための力】たる感染力、増殖力、致死力が強化される
分裂による増殖のためウイルス単体の【生を長引かせようとする力】は持ち得ていない

わしを殺すにゃてめぇ一つじゃ数も歴史も足りねぇよ。
さぁ、わしを見つけろ、わしから逃げろ、わしを避けろ、わしを防げ、わしを捕らえろ、わしを殺し尽くせ。
てめぇより遥かに弱い命《人間》はやり遂げたぞ?

自身に纏わる人の輝きを間接的に示す
目的達成後はこの場のウイルスが死に絶える
領地の棺内の汚れた土《ウイルスの苗床》から復活が



●命の定義とは
「まさか……負ける? この儂がか? エンシェント・レヰスが己と故郷を犠牲しても尚、封印するのがやっとであったこの幻朧帝イティハーサが? その様な過去なぞ、これまで一度たりとも無かったというのに」
 しゅうしゅう、と。全身から白煙を立ち昇らせながら、老翁は信じられないといった様子で独白を零す。開戦当初は絶対的優位を誇っていた、それは間違いない。しかし、いまの有り様はどうだ。肉体の修復すら追いつかず、不死と謡われた有り様が崩壊しかかっている。そんなかつての怨敵の姿を、|愛と死の女神《イザナミ》はただ憐れむ様に見つめるのみ。
「認めぬ、認めぬぞ。『意志』さえあれば過去から世界を創造し得る儂が、まさかいずれ腐りゆくだけの|生命《イェーガー》に敗北するなどッ!」
「……生命、か。貴公の認識する命とは、果たしていったい如何なるモノであろうかな?」
 もはや、終わりゆく命を慈しむ冥神ですらこの老いた帝は救えない。必要なのは言い訳のしようがない程の『|終焉《し》』だけだ。である以上、その役割を果たすのにブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)以上の適任者はそう居なかった。
「脆弱な生き物たる余は他の命に寄り添うしかできぬわけであるが。ふむ。そう考えれば余と貴様、全く似ても似つかぬという訳でもなさそうだ。同族嫌悪、と言う訳ではないが……故に、貴公の邪魔をさせてもらうぞ」
「訳の分からぬ事を。汝とて所詮は限りある生に縋りつく……いや、なんだ。いったい何なのだ、貴様は」
 これまで同様、相手を取るに足らぬ存在だと吐き捨てかけた幻朧帝だったが、不意に違和感を覚えた。目の前の小娘は確かに人の形をしている。だが、その本質は果たして生命なのかと。そんな相手の疑念を見透かしたのだろう。ニィ、と。ブラミエは酷薄な笑みを浮かべゆく。
「ふむ。どうやら伊達に歳を重ねた訳ではないらしい。余は……|わし《・・》は|UDCアース地球《せかい》が生み出した最も古い命の敵の一つだぞ。異界のモノ如きに引けはとらねぇよ」
 それまでの格式ばった口調は崩れ、現れるは旧く荒々しき素の声音。と同時に、令嬢を思わせる豪奢な装いがぐずりと溶け落ち、代わりに手枷足枷に縛められた見窄らしい村娘が露わとなる。
 見た目こそ弱々しくなったが、滲み出る不吉な気配は先ほどまでの比ではない。否、空気に混じる不可視の禍を敏感に感じ取った老翁は、まるで跳ねる様に背後へと飛び退く。彼の瞳はそこでようやく、彼女の正体を見抜いたのだ。
「これは細菌……いや、ウイルスか! ああ、知っている。知っているぞ。かつて猛威を振るいながらも、とうの昔に根絶されたモノこそがお前かッ」
「然り。転移性血球腫瘍ウイルス『赤死病』、それがワシの名よ」
 ――ウイルスとは生物なのか。
 それは古今東西の医学者や研究者を悩ませてきた問題である。ウイルスは細菌と同じく人に感染し、増え、様々な症状を引き起こす。しかし生物にあってしかるべき自己代謝・単為増殖機能を持っていない。故に奇妙な話ではあるが、ウイルスとは生物と無機物の中間に位置付けられている。
 だからこそ、だろうか。生命に非ず、然れども死を齎す存在。そんな矛盾を孕むからこそ、ある意味で彼女はこの世界と非常に相性が良いと言ってよかった。一方、自身が求めるものとはまた異なる死の気配に幻朧帝は嫌悪感を露わにしてゆく。
「この儂と、たかが塵芥にすら劣る存在が同族だと?」
「はっ、言ったな? そのたかが塵芥を駆逐するのに人間がどれほどの犠牲を払ったのか、過去を束ねるてめぇがまさか知らない訳がねぇだろ。もし忘れてのなら、思い出させてやるよ」
 そんな言葉を最後に、もはや問答無用とブラミエは猛然と敵目掛け吶喊してゆく。彼女は人の姿をしているが、その本質はウイルスの集合体である。足元で蠢く蛆獣が死に属していようが関係はない。実体を、血肉を備えているならば、それを媒介にして瞬く間に増殖を果たす。
 接触だけは絶対に回避しなければならぬと、幻朧帝は後方へと飛び退きつつ足止めがてらに神鷹を遣わす。が、それは悪手だ。蟲よりも上等だとばかりにウイルスを感染させ、赤黒く爛熟する鳥の身体を足掛かりとして更に迫る。
「ぬ、ぅぅっ! 寄るな、死が儂に近寄るでないッ! たかが人間如きに駆逐された塵芥風情が!」
 堪らず老翁は矢を番えて遮二無二放ち、死桜の花吹雪が渦を巻く。内部に蛆獣を内包した骨色の奔流ならば突破は出来まいと確信するも、それらがさぁっと真紅へ染め上げられた瞬間に余裕は脆くも崩れ落ちた。
「たかが人間如きとは、どの口がほざく。わしを殺すにゃてめぇ一つじゃ数も歴史も足りねぇよ。さぁ、わしを見つけろ、わしから逃げろ、わしを避けろ、わしを防げ、わしを捕らえろ、わしを殺し尽くせ」
 ――てめぇより遥かに弱い|命《人間》はやり遂げたぞ?
 |意志《たしゃ》なくば成立せず、その|過去《ちにく》を奪い、果てに|世界《やどぬし》を殺す。幻朧帝と赤死病、やはりその在り様は似通っている。そして、その片割れは既に|命《人間》の手により根絶されるという|過去《イティハーサ》を確定させてしまっていた。である以上、残るもう一方もまた同じ結末を辿るのは正に歴史の必然だ。
「この儂が、不死なる幻朧帝が滅び去るなぞ、そんな事、あり得る筈が……ッ!?」
「かつて、わしもそう思われていたがな。だが、実際はそうではなかった。終わりを迎えたんだ。なら、てめぇもそうならん道理があるものかよ」
「が、ぁあ、げほッ!?」
 斯くして、遂に死が相手へ触れた。風邪に似た症状だと感じたのはほんの一瞬。細胞を媒介として増殖したウイルスは瞬く間に全身へと伝播。肺腑は機能を失い喘ぎ、強烈なまでの飢餓感に陥り、血液その物が悪性の腫瘍と化す。その猛威は老翁自身の権能も相まって、実際の史実以上に凶悪さを発揮していたのである。
 こうなればもう、例えワクチンを打ったところで助かるまい。堪らず崩れ落ちる老人がイザナミへと手を伸ばす形となったのは、果たして偶然か。だが仮にどれほど求めようとも、死を慈しむ冥神が手を差し伸べる事は無いだろう。
「馬鹿、な。生命に、未来にではなく……|過去《死》に、討たれる、とは」
 ――巫山、戯るな……ッ。
 それが末期の言葉だった。倒れ伏した幻朧帝の肉体はそのまま腐り爛れ、地面を汚す染みと化す。再生する気配も、復活する様子もない。悠久の刻を生きた神格の、余りにも哀れな最期だ。
 ブラミエはそれを一瞥した後に、大いなる女へと向き直る。その瞳には安堵と感謝、そして一抹の憐憫が浮かんでいた。彼の者はイザナミ、愛と死の女神であるが故に。猟兵は常の装いへ姿を戻しながらも、身体の端から少しずつ崩壊してゆく。感染力と増殖力を高めた反動により、急速に彼女を構成するウイルスが死滅しているのだろう。
「わしは……余は、暫し眠ろう。貴公も眠るが良い。無粋な輩は一先ず棺へと叩き込んでおいた。加えて、もうこれ以上ウイルスが広まる事も無い」
「……ええ。どうもありがとうございました、旧き死よ」
「うむ、さらばだ」
 会話はそれきり。別れの言葉を述べ終えると同時に、黒い女は完全に塵と消える。後に残されたのは大いなる女、ただ独り。核たる存在を失った|死桜の楽土《サクラタルタロス》もまた崩壊を始めてゆく。残された時間はきっとそう長くは無いだろう。
 しかし、だが。

 ――その世界にはもう、ただ穏やかな静寂のみが満ちゆくのであった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月25日


挿絵イラスト