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帝都櫻大戰⑭〜ホイップデコでバズれ！！

作者：ツヅキ

「ここは、空飛ぶバズリトレンディ御殿……！？」
　大量の幻朧桜を引き連れてカクリヨファンタズムに出現したエンシェント・レヰス『イザナミ』は、驚愕に目をみはる。
「大量のギミック！　ここでは通常の攻撃は弱体化され、いかにバズったかが勝敗を分けるというのか！？」
「合点承知の助！　ワイちゃんが今ハマってるのは『ホイップデコ』ちゅうやつでなぁ、推しのトレカを飾る透明ケースやスマホケースなんかにチョイチョイとこうやってなぁ……できたんよ！！」
　トレンディ御殿のギミックのひとつである自撮りカメラの前で完成したホイップデコを見せると自動で配信してすぐに再生数やいいね数が反映される。
「これでイザナミより多くの再生数やいいねを集めたらそれが皆の力になるしんよ～。ワイちゃんらのめちゃやばセンスでイザナミを圧倒しよな！！」

「ホイップデコの材料は簡単で、絞り袋に着色剤で色を付けたシリコン接着剤を用意するだけ。あとはケースの周りにに｜ホイップ《・・・・》して、乾く前に好きなチャームで自由に飾り付ける」
　いかにも新し親分『バズリトレンディ』が好きそうな手作りデコだが、誰でもできる手軽さから界隈では流行っているようだ。
「肉体を蝕む蛆獣によって守られたイザナミに攻撃を届かせるのは至難の技だけど、このホイップデコでうまくバズれたらトレンディ御殿自体がが皆に味方してくれるからね。バズり度に応じて力が強化されるので、縦横無尽に飛び回るバズリトレンディの加勢も合わせたらイザナミの撃破も不可能じゃない」
　もちろん自分で作ったホイップデコは持ち帰れるので、お土産にどうぞ。
「材料は全てあちらに揃っているから、手ぶらでいいよ。もちろん自分で準備したいものがあれば持ち込みもOK。素敵なものができたらいいね」

第1章 ボス戦 『イザナミ』

POW   :    幻櫻死界 指定地点からレベルｍ半径内を【サクラエリュシオン】に変える。内部にいる者は活力（体温・燃料等）を激しく消耗する。 SPD   :    黄泉変異卵 【冥府の蛆獣】から無限に供給される【生命を貪る蛆獣の卵】を、最大レベル体の対象に一瞬で投擲できる。 WIZ   :    火雷大神 自身に刻まれた【オブリビオン化の烙印である腐敗した肉体】を引き裂き、【8体の火雷大神（ほのいかづちのおおかみ）】を召喚する。［8体の火雷大神（ほのいかづちのおおかみ）］は死ぬまで敵を追跡し、【雷】で攻撃し続ける。 イラスト：片吟ペン太 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　新し親分『バズリトレンディ』の空飛ぶバズリトレンディ御殿にやってきた義透はやれやれと肩を竦める。
　その仕草だけで彼が『静かなる者』であると知れた。
「バズる……ですか……」
　ずらっと用意されたホイップデコ用の資材を見つめ、ふむ、と顎を撫でる。
「そういうのって、いつも私が担当になってしまうのですよね……ただ得意かと言われるとそこまで自信があるわけでもないのですが」
　一番器用なのは忍者の彼なのだが、こういうのとは相性が悪くて困る。
「ぷきゅ！」
「陰海月？　楽しそうですね」
「ぷきゅきゅ！」
　どうも、陰海月はやる気満々のようだ。
「ほほう。それでは、任せてみますかね」
「ぷっきゅう！」
　任せろ、と陰海月は紙コップを使って接着剤に青い着色料を混ぜ始める。量は少しだけにして薄っすらとシリコンを青色に染める。まるで夏の海みたいだ。透明ケースのフィルムを器用にぴっと剥がし、「ぷきゅ、きゅっ」とケースにホイップする。
「しかし陰海月も器用になりましたね」
　陰海月の大きさに合ったピンセットを使い、海の仲間たちを配置。ヒトデ、貝殻、パールビーズといったチャームをくっつければ完成だ。
「クエ」
　義透と一緒に見守っていた霹靂が誇らしそうに鳴いた。
　できたよ、とバズリトレンディ御殿に完成したホイップデコを見せると瞬く間に再生数といいねが伸びる。
「ぷっきゅう！」
　嬉しさ全開で陰海月が1680万色にも光輝いた。
「さて、あとは攻撃するだけですね」
「クエ！」
　イザナミは感心しながら破魔矢と爪撃による攻撃を受け止め、その出来映えに唸った。
「これがバズるというものか……！　人々の支持を得るものには力が宿る。妾の蛆獣もこの活気には慄いておる！」
「楽しいは正義ですからね」
「ぷきゅっ」
　今回のＭＶＰは間違いなく陰海月であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「藍ちゃんくんでっすよー！」
　まずは笑顔でご挨拶した後で。
「あーんっど！　こちらコラボ先の皆々様なのでっす！」
　紹介するのはアート関係の共演者である。
　なにしろこれまでいろいろなコラボをしてきた藍なので、彼らの業種も多岐にわたった。
「皆々様と一緒に『アート』な作品を作るのは楽しみでっすねー。是非是非ご期待くださいなのでっすが、ところイザナミのおねえさんは作らないのでっすかー？」
「妾が？」
　きょとんとイザナミが首を傾げる。
「そういう発想はなかったが……」
「でもでも参加なさらないと一方的に不利になっちゃうのでっす！　蛆獣達もおねえさんのホイップデコを許可するしか無いのでは？」
　藍の言う通り、蛆獣はイザナミにホイップデコを作るように促した。
「よいのか！」
「ずっとやりたくないことばかりやらされてしんどかったでしょうし、一緒に楽しめたら嬉しいのでっすよー！」
　何よりも楽しむことが一番な藍のモットーは、ぴすぴす配信された動画の圧倒的な面白さが保証している。
「何色がよいかな？」
　イザナミは照れたみたいに、ピンクや黄色や黄緑といった極彩色を選んだ。やってみると初めてでも簡単にできる。
「というわけで画面の前の皆様も、藍ちゃんくんカードなどのケースを是非デコってくださいなのでっすよー！」
　ゲストと一緒に作り上げたホイップデコを披露する藍の動画は瞬く間にファンの間で拡散されて大人気になった。しばらくの間はホイップデコされたケースに入った藍のトレカをＳＮＳにアップするファンが急増したという。
「とても楽しかったぞ！」
　イザナミは笑顔で藍の音響弾を受け止めた。
　バズリトレンディ御殿のギミックによって強化されたそれは蛆獣の防御すらも貫き、イザナミの元へ藍の響きを伝えることに成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　なるほど、ウュルは理解する。
　つまりは自由にやっていいのだ。
　作業台にはいろいろな道具や資材が用意されている。チャームもポップなものから大人っぽいものまでお気の向くままに。
「ＧＧＯでもこういうのあるよ。クラフトって言うんだけどね」
「へぇ～、ワイちゃんもやってみたいわ！」
　バズリトレンディも興味津々だ。
　ウュルが尋ねる。
「これって作るのは何でもいいの？」
「もちろんやし！」
「じゃあね……」
　――こうしよう！
　ウュルはいつも使っているキャットクローをパステルカラーに調整したホイップで可愛く飾り付ける。
　お揃いでブーツや防具にも。すると一気にもこもこ度が増してかわいくなった。ふふっと笑みがこぼれる。あとは星やハートのチャームをくっつけたら……。
「じゃん！　ゆめかわふわもこビーストスタイルの出来上がり！」
「おわ！　めちゃかわやん！？」
「ふふん、可愛いでしょ～♪」
　ウュルが動画を上げると早くもコメントが付き始めた。
『これ武器なの？　どこで買える？』
『かわいいのに強そうって最強過ぎるでは？』
　いつの間にかバズリトレンディ御殿のイルミネーションがピカピカに輝いてウュルに力をくれる。試しに振り下ろした拳は戦場に吹き荒ぶ氷嵐がごとき衝撃波を繰り出して蛆獣とその卵を吹き飛ばした。普段よりも数倍増しの氷塊交じりのそれを真に受けたイザナミは、ごくりと喉を鳴らす。
「これがバズったものの力か！」
「さっそく活躍してもらっちゃおっと♪」
　さっきデコったキャットクローで殴りつけ、コンボを繋いだ。御殿を味方につけたウュルのラッシュに蛆獣も押されている。
「よ～し、効いてるみたいだね。このままどんどん削り倒していこう！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ここはひとつ、ふたりでやらないかい？」
　姫耶呂羅院はにっこりと笑ってイザナミにコラボを持ちかけた。なにしろ本業は忍者なので｜女優《ふくぎょう》みたいなわかりやすい名刺の代わりに密やかなその名を告げる。
「｜誘凪《いざなぎ》？」
「奇遇だろう。それが僕の本業の名前。これも何かの縁だと思って、ね。イザナミ様？」
　さっそく取り出したのは、枚数限定で配布された試写会特典カード。
　『忍者vs自由の女神』のキービジュアルが印刷されたカードを硬質ケースにセット。まずはホイップに雷雲をイメージした暗い色をつけ、その上から雷や火花に見立てた飾りを段階的に追加する。
「映画の中でこんな風に雷雲の中で女神の使徒と戦うシーンがあるんだ。んー、せっかくだからもっとこうスペクタルな感じにしたいな……」
　じゃらじゃらとチャームの中から特別に大きな手裏剣を探り出して、うん。素敵だ。こういうのは遠近感も大事にしないとね。
「あとは、最後にサインペンで……」
「おお！」
　姫耶呂羅院のサイン入りデコレーションケースが完成する。
　ＳＮＳで大切なのは一にも二にも戦略なのだ。そこは仕事柄、要点を抑えた配信はわかりやすく目を惹く見映えで若者を中心に圧倒的な支持を集めた。
「なんと頼もしいことか！　これならば妾の蛆獣も太刀打ちできまい！」
「じゃあ、お手合わせを頼むよ」
「ああ、最後の勝負をつけよう……！」
　御殿のギミックを味方につけた今、姫耶呂羅院の仕掛けた水蒸気爆発は通常の何倍もの威力で術者の気配を目くらました。
「くっ」
　イザナミのみならず、蛆獣までもが姫耶呂羅院の姿を見失うほどに。
　煌めく火花の立体映像を纏った水流手裏剣を手のひらに乗せた姫耶呂羅院は、洗練された動作で鋭くそれを放った。水平に回転しながら飛翔する刃がイザナミを裂いた途端、御殿を彩る火花の｜演出《エフェクト》が美しく弾ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ホイップデコ……！　はいはーい、夢彩もやるよ！」
　夢彩はまず土台になるスマホケースを選んで手を伸ばした。実際に材料を手に取るといろんなイメージがわいてくる。
「やっぱり可愛くて、綺麗で、賑やかな感じにしたいな……」
　そこでふと、何か思いついたように新し親分とイザナミを見て頷いた。ナイスなアイディアを思いついたのだ。
「ワイちゃんらの顔に何かついとる？」
「完成してからのお楽しみだよ！　いざチャレンジだね！」
　透明なスマホケースは真っ白なキャンバスだ。
　ホイップする色は敢えてのクリア。
　ケースの周りを縁取るようにホイップしてから真珠色みたいな桜を配置する。ココ、と決めて置いたら綺麗な桜が咲いた。
「うん」
　次は、小さめのダイヤと可愛いハート。
　さっきと同じように、ココ、と決めた場所に配置する。
「うん、うん」
　最後はちょっと大きめの果物をワンポイントに置いたら完成――！　
「お？　お？」
「もしかしてこれは！」
　何かに気づいたように新し親分とイザナミが目を輝かせた。
「どう？　二人をイメージしたんだよう！」
　ちょっとだけ照れたみたいに、夢彩は頬を染めて完成したデコレーションケースをふたりの前に差し出した。
「ここは妾たちの目と髪の色になっておるのか！　モチーフの飾りも見覚えがあるな？」
「マジでうまく纏まってるやん！」
　それぞれの目と髪の色を斜めで区切って配色するだけでなく、グラデーションのようになじませながら外枠をクリアなホイップで囲むことで仕上がりがすっきりと綺麗になる。
「えへへ、やったー！」
　配信の評判も上々で、夢彩は嬉しくなった。
「これでイザナミさんも助けられるかな？　チャレンジ大成功だね！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

　その小さな“ひかり”のことをスキアファールは「コローロ」と心を込めて呼んだ。なにしろセンスが抜群で、親友と作ったチョコケーキがお洒落な出来栄えになったのもひとえにこの子の功労なのだった。
「さあ、まずはどれからいきますか？」
　スキアファールは物を持てないコローロの代わりにあれこれと甲斐甲斐しく働いた。ひかりは役に立てるのが嬉しいのか終始ぴかぴかに光っている。
　なんでもテーマは『わたしの家族』なのだとか。
　猫のラトナ。
　ヘラジカのラウル。
　スキアファールはひかりの注文するもふもふで高貴な猫妖精にもっとも近いイメージのモチーフを探すのに苦心した。あの絶妙な毛並みの色合いはなかなか再現できるものではない。一方のラウルの大きくて威厳のある感じは配置する場所やモチーフの組み合わせで表現を試みる。
「ふう。これで全部ですか？」
　ひかりは否定する。
　まだ“わたしの一番大好きな人”が残っている。
　その時、影人間の頭からぽふっと煙が出た。｜照れている《・・・・・》その人こそが、ひかりが一番大好きな人だった。

「で、出来ましたよ新し親分さん、イザナミさん！」
「おー！　ええやん！　ん？　この影人間ぽいのんはもしかして……？」
「な、なんのことですかね？」
　誤魔化すスキアファールの肩を新し親分がしたり顔で何度もたたいた。イザナミはどういう意味かわからなくてきょとんとしている。
「お、おほん！　さぁコローロ、一緒に戦いましょう！」
　まるで火花みたいな極彩色の“ひかり”がより一層可憐に煌めいた。
　そこには人知れない愛しさが交合する。
　常に対となる羅睺と計都のように、愛と冥府の女神を前にふたりの絆を証明するかのように、強く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「こういうのは｜愛奴流《アイドル》らきちゃん☆　にお任せあれだネ！」
　今こそバズリトレンディの姉御に続いて愛獲流道を見せる時がやってきた。楽しく鼻歌しながら透明ケースを選んで真っ赤な色をつけたシリコンホイップでくるくると。
　興味津々の新し親分が指さし確認しながら尋ねた。
「これは何なん？」
「骨だネ！」
「こっちは？」
「炎だネ！」
　真夏にピッタリ、テーマはどこまでも『｜火禍煎苦《かわいく》』。
「どこからどう見ても地獄のような気がするが……」
　イザナミはごくりと唾を呑む。
「妾の冥府とはまた違うイメージのそれよな。なるほどモチーフには火鍋を使うのか！」
　まさしく釜茹で地獄へご招待なカードをケースに入れて、ホットな１枚がここに完成。
「うまく出来たネ☆」
　羅鬼は無邪気に喜び、カメラに向かって最高のアイドルスマイル。コメントやいいねが増えるごとにトレンディ御殿のギミックからエネルギーが集まり始めた。
「さすがだな猟兵……え？　妾にも？」
「YO！　SAY！」
「そ、その水着は！？」
　大胆過ぎる赤い紐水着を纏った黒炎の鳥がイザナミに抱き着いた。まさしく焦げるまで抱き合おうと言わんばかりの怨燃羅鬼――！
　卵がどうした？　全部燃やす。突撃ライブという名のDIVEをくらったら神であろうが逃げられない。らきちゃん☆プレゼンツ、真夏の炎ＳＨＯＷが今ここに開幕したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ほほう、ホイップデコっていうの？　粋な遊びだねー」
「八重ちゃんもやる？　やる？」
　バズリトレンディから受け取った桜色のホイップで、八重は透明ケースに桜を象ろうとしてみる。が、あえなく不器用の前に撃沈。
「ううう、難しいよぅ～。途中でどうしても崩れちゃう。ね、ちょこっとだけ、手伝ってくれないかなー……なんて？」
「わ、妾がか！？」
　自分を指差して驚くイザナミに八重が頷いた。
「うん！」
「し、しかし妾もはじめてで……こ、こうか？　桜というのは？」
「おおう、イザナミさん上手ー！」
　ぱちぱちと八重は拍手して喜んだ。
「あ、ここにちょい足して」
「こ、ここか？」
「やったー！　ほんっと、器用だねー♪」
　褒められるイザナミもまんざらでもないらしく、その後も八重の「これここに乗せて欲しいな」「色違いで二つ作って！」といった要望に一生懸命応えてくれる。
「これで最後か……」
　八重の持ってきた桜の花弁を飾り付ければ、サクラミラージュらしく華やかにデコレーションされたカードケースの出来上がり。
「わーいわーい！　やったー素敵なのができたー！　えーい！」
「ぐはっ！」
　喜びのあまり駆け回る八重はそのまま桜彗星となってイザナミに激突。両手を広げ、突き飛ばした勢いのままに抱き着いた。
「イザナミさん、ありがとー♪　わかる？　この勢い、皆の応援そのものだよ。これだけバズれば勝つる！　やったね！」
　画面に向かってピースする八重の動画は瞬く間に拡散されて世界に広がった。イザナミの侵略から世界を救ったヒーローとしてしばらくの間、サインを求められることがあったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年09月17日