帝都櫻大戰⑯~厳ツ霊に皓々
●憂う黄金
うつくしい黄金が、電脳空間を蝕んでいく。
薄紅の花弁が舞っては骸の海へと落ちて、小さなノイズを生み出した。たった2KBの呪詛——|ヤマラージャ・アイビー《遅効性の思考破壊プログラム》を起点と現れた無数の幻朧桜。その中心で、多腕の神王はただ静かに黄金色の光と共にあった。
周囲へ滅びの力を振り撒いて、ただ静かにそれは座している。
「私の放つ骸の海は無限に広がりゆく。それを阻む術は無い……」
サイバースペースより溢れ、現実世界を飲み込もうともこの海は枯れぬ。
時が進む限り、過去は生み出され続けるのだから。
●無限と無限
「終りが無いというのは、些か厄介でござるな」
尾を一つ揺らして、一文字・八太郎(ハチ・f09059)は告げる。
帝都櫻大戰は|櫻花幻朧界《サクラミラージュ》だけにとどまらず、他の世界にもその脅威を拡げつつあった。
「サイバーザナドゥの電脳空間にエンシェント・レヰス『神王サンサーラ』が現れたのでござる……どうにも厄介な力を持った御仁だ」
かつては幻朧帝と戦った|超古代種族《エンシェント・レヰス》の指導者だったが、今や世界の敵へと成り果てている。己の周囲へ骸の海を無限に広げゆく、異能と共に。
ただそこに存在するだけで、世界の悉くを破滅させる。なるほど神王の名に恥じぬ強大な力の持ち主だ。
「だが、あまりに強すぎるというのも問題があるようでな。神王サンサーラは|完全に無傷の状態《・・・・・・・・》でない限り、顕現を維持することが出来ぬ」
一太刀。
たった一太刀さえ届けば、神王は撤退を余儀なくされるという。
それは簡単なようでいて難しい話でもある。無限などという終りの無いものを、限りある命で相手どらねばならぬのだから。
――なら、同種の力を持つ者であれば?
「此度この戦場においては、碎輝殿が助太刀してくれるでござるよ」
幽世の竜神親分である彼は、戦闘開始時点では最弱。しかして特筆すべきは、無限の成長能力にある。伸びしろの限界など知らず、瞬く間に力を増し。最弱が最強に至ることさえできるならば、神王を退ける可能性はゼロでは無い。
「よって貴殿達には碎輝殿を守り、強くなった彼と共に戦って頂きたい」
広がり続ける骸の海の向こう。輝かしい神王の姿は遠く、放たれた光は世界を飲み込み消していく。翳される両掌からはこちらの五感を鈍らせ、継続する戦闘において脅威となるだろう。
長期戦は好ましいことばかりとは言えない。
けれど掴み取る勝機は、そこに存在し得るのだ。
「それでは電脳の世界にて、無限対決へといざ参らん。皆様どうぞよろしくお頼み申す」
●鳴る黄金
うつくしい黄金色が、雷鳴を轟かせる。
何故山本親分が、キャンピーくんに力を借りて自分をここへと連れてきたのか。
その意図を読み取った碎輝は槍を強く握り込んだ。まだ弱い電撃が指先ではじける。意志を湛えた赤い瞳が見据えるのは、広がる骸の海の中心。
己とは違う、昏く光る黄金色。
「悪いが俺は、世界最弱の『お前を止められる男』なんだ」
無限を生み出す神王へ、無限の成長力を持つ竜神は宣言する。
手強い相手に全力で挑み、至る先。碎輝は元の最弱へ戻れるのかは分からない。
だが。
「やるしかないな!!」
たとえどんな強敵であろうと、世界の敵ならば――打ち砕くまで。
一緒に行こうと猟兵達へ呼びかけるように、竜神の咆哮が電脳空間内に響き渡った。
砂上
はじめまして、こんにちは。
砂上(さじょう)です。
今回の舞台は帝都櫻大戰での一幕。
一章のみで完結するシナリオとなります。
●プレイングボーナス……弱い状態の碎輝を守って戦う/強力に成長した碎輝と協力して戦う。
碎輝は手にした槍や黄金竜に変化して、雷撃での攻撃を行います。
共に戦う心意気などございましたらプレイングに詰めていただければ幸いです。
●受付等
OP公開後から受付ております。プレイングが送れる限りはいつでもどうぞ。
早期完結を目指す予定ですので、少数&場合によってはサポートのお力をお借りする予定です。
※先着順ではありません。採用の確約は致しかねます。
●それでは素敵なプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『神王サンサーラ』
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POW : サンサーラディーヴァ
自身の【眼前】を【広大無辺の仏国土】化して攻撃し、ダメージと【神王サンサーラへの到達不能】の状態異常を与える。
SPD : サンサーラノヴァ
【かざした両掌の間】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【五感封じ】の状態異常を与える【神王光】を放つ。
WIZ : 強制転生光
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【サンサーラの光】を放つ。発動後は中止不能。
イラスト:ぽんち
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
空桐・清導
POW
「心配すんな碎輝!お前が戻れなくなる前にケリをつけるんだ!
不可能じゃない!なぜかって?此処に!ヒーローがいるからだ!」
黄金に並び立つ真紅の光輝を宿し、雄々しく宣誓
「さあ、やろうぜ戦友!昨日よりも今日!今日よりも明日!
不可能を可能にするのがオレ達の役割だ!」
最弱の碎輝に[オーラ防御]を纏わせて防御を固めてUC発動
何者よりも圧倒的に強い真紅の龍を身に宿す
世界に在るだけで物理法則を完全に超越
世界の流出を真正面から切裂き、道を創りながら碎輝を護る
「十分成長したか碎輝!ケリをつけるぞ!」
清導の創った道を碎輝の雷で拡張
「超必殺!ドラゴニック・ツイン・バースト!」
無限の焔と雷の奔流がサンサーラを貫く!
●金赤色に竜は駆ける
「心配すんな碎輝! お前が戻れなくなる前にケリをつけるんだ!」
太陽のように輝かしく、けれども芯の通った優しさのある声が叫ぶ。
思わずと碎輝が振り返る先には、眩しい程の鮮烈な真紅。竜神の驚いたような眼差しへ応えるようにその赤い色をした男――空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は竜神親分の横へと並び立つ。
「不可能じゃない! なぜかって? ――此処に! ヒーローがいるからだ!」
素顔を隠す仮面から放つ眼差しの光は、真摯な緑。高らかな宣誓は、未来の希望を信じるもの。清導は己の胸を叩いて、言葉を続ける。
「さあ、やろうぜ戦友! 昨日よりも今日! 今日よりも明日!」
表情など見えようがないのに、それでも彼が笑っているのが分かる。
「不可能を可能にするのがオレ達の役割だ!」
「そうだな!」
ならば不安など抱えるだけきっと無駄だ。
笑って頷き返した黄金と、真紅の英雄が走り出すのは同じ。一歩も引かぬ心のまま、ただ前へと。
「行くぜ勇輝龍! オレたちの絆!! そしてお前の全力を見せる時だ!!!」
――超勇輝!!! 合龍身!!!
それは勇ましき竜が咆哮するがごとく。清導の掛け声が響くと同時に、彼の姿が巨大な龍人へと変化した。燃え盛る焔がゆらめき、二人を包み込む。
それは、暖かな守りだった。
そして、敵意あるものを全て拒絶する矛でもあった。
炎は広がる骸の海を焼き尽くして還しゆく。残った灰へ電流が走れば、もはや残る散りすらありはしない。
ただ真っ直ぐに、二つ赤と金の道行を描くのみ。
「十分成長したか碎輝! ケリをつけるぞ!」
応える声の代わりに、雷鳴が一つ轟く。
それはまだ未熟で、けれど迷いなどもう何一つない。真っ直ぐで力強い音だった。
「超必殺!ドラゴニック・ツイン・バースト!」
焔と雷が互いに遊ぶように弾け、一本の奔流と化す。
その眩しいまでの光は力強く。サンサーラまでの道筋を示すように、骸の海を貫き通したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド
アドリブ連携歓迎です♪
神王様を止めるため、碎輝さんを全力で援護します!
「あなたの一撃が、世界を救う…お願いします!」
碎輝さんが成長して攻撃するまでの間、モーントシャインを纏ったシュッツエンゲルを神王様の方へ1m間隔に展開。攻撃で消滅したら次のエンゲルを配置して光を喰い止めます。
「降り注げ、|悲しみを洗い流す慈しみの雨《ノーベンバー・レイン》!」
戦場に召喚した雨雲から魔を祓い、邪気を滅する雨を降らせ、強制転生光の光を弱めると共に、神王様の放つ力を抑え込んでいきます。
慈雨が降り注ぐ戦場に、破魔の歌声に乗せて思いを響かせます。
「お願い、碎輝さん!神王様を…止めて。みんなの生きる世界を守って!」
とめどなく溢れる過去は果たして誰のものだろうか。
数多の世界で命あるものが存在する限り、骸の海は永遠に消えることは無い。成長する竜神の足元を、今にも埋め尽くさんと広がり続けている。誰もがいつか死にゆくならば、抵抗など無駄だと嘲笑うかのように。
けれど柔らかな光が、優しさでもってそれを打ち払う。
碎輝を今にも飲み込まんとする骸の海を、銀のかけらが澄んだ音を立てて弾いた。
「ご無事ですか!」
銀色の――月の光を帯びたマルチドローンプレートを操るフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)が声を張り上げた。
(止めなくては、なりません)
どれほど神王が強大なのだとしても、彼がかつて世界を救おうとしていたのだとしても。
壊していい世界なんてどこにもない。
背に生えた純白の翼を震わせながらも、彼女は怯まずに竜神へと声援を送る。
「あなたの一撃が、世界を救う……お願いします!」
「助かった!」
たった一つの希望を導くようにして、銀のかけらが宙を舞う。神王が両掌を翳し放つひかりを、月光は許さない。鏡のように磨かれたドローンプレートが、砕けながらもひかりを反射して遠くへ逸らしていく。一撃で壊れてしまうほどに繊細ながら、数を重ねて堅牢な盾と化した。
「降り注げ、|悲しみを洗い流す慈しみの雨《ノーベンバー・レイン》!」
そして呼び出すのは、穏やかな雨雲。
ぽつり、と雫が電脳空間の空から落ちる。重苦しい戦場の空気が、澄んでいく。骸の海に揺蕩う終わったもの、過去となったものたちを宥めるような雨音が、フィーナの紡ぐ歌声と響き合う。
すべてを消し去らんとする光までを抑え込むようにして、慈雨は柔らかに降り注いだ。
「お願い、碎輝さん!」
それは祈りだった。
「神王様を……止めて。みんなの生きる世界を守って!」
音楽を愛する少女が、故郷を、世界の平和を望む祈りだった。
高らかな歌声が響き渡る。雨音が、リズムとなって美しい調べを奏でていた。
怖いものも、痛いものも、悲しいことも、これ以上は必要ない。誰もが笑って生きていける、そんな未来がきっといいのだから。
全てが終わった後、願うならば美しい虹が似合う世界であればいい。
「――ああ、任された!」
少女の願いを背に、黄金色の竜は前へと進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
蔵務・夏蓮
あの姿にはあまりなりたくない、けれど
私が持つ方法のうち、親分さんを守れる確率が高いのは、この方法
なら、やりましょう
飛空艇姿になり、親分さんに中に乗ってもらう
できれば、あまりこの姿は見ないでもらえたら嬉しいけれど
親分さんを乗せたら、飛んで彼が成長するまで時間を稼ぐ
親分さんも戦われるようなら、扉を開けて
攻撃は全て私が受ける。痛みにはある程度耐性があるし、状態異常も問題はない
大切なのは親分さんだもの
辿り着けずとも、親分さんが攻勢に出やすいよう、可能な限り神王に近づいておく
私に無限なんてない。特別なものもない。一番のものもない
少しだけお二人を羨む心はあるけれど。この身は守り、届けるのが仕事だから
●蒼穹に霹靂
幾度も撃ち落とされる雷鳴は、白い。
神王までの距離は未だ少し遠くあった。僅かながら広がる骸の海を押し返しつつある戦況は、重ねた時間が確かなものだと示している。
だから蔵務・夏蓮(眩む鳥・f43565)の逡巡も、ほんの少しだけで済んだ。
「こちらへ」
電流を纏う黄金色へ、彼女の細い指がのばされる。静かな青い視線の真摯さが、碎輝の赤い瞳に映ったなら。考えるより早く伸ばされた手が夏蓮の手を取った。
ふわりと少女の薄茶色の髪とスカートが翻って、二人は宙へ浮かびゆく。
そうして、瞬く間だった。目も覚めるような蒼穹の飛空艇が浮かび上がったのは。
広がる骸の海も、神王から放たれたひかりすら置き去りにして碎輝を乗せて夏蓮は――カレン・クラムは本来の姿へと形を変えた。
堅き青きクラムの船。
|意志持つ飛空艇《ガレオン》こそが、彼女の正体。
(この姿にはあまりなりたくない、けれど)
堅牢な青い飛空艇は、脆い人間の体よりずっと大きく頑丈だ。小さな少女の体のまま碎輝を戦場で守り抜くよりも、この姿の方が圧倒的に守護に適している。
――なら、やりましょう。
必要なものを自己都合でやらぬような愚かしさなど、空に浮かぶためには邪魔な荷物だ。素早く下された判断は正確で、ほら。伸びてきた骸の海へ銃弾を降らせてリズムを取り、踊るように旋回一つ。軽やかに夏蓮は空でステップを踏み征く。
神王が放つ光は五感を鈍らせど、この姿なら問題は感じられなかった。いずれ地へと落ちねばならぬかもしれないが、今ここで大切なのは親分を無事に成長させるという事。
その目的の為ならば、今。夏蓮は傷つくことを厭わない。
「すごいな」
「できれば、あまりこの姿は見ないでもらえたら嬉しいのだけれど」
「ああ、悪い……いやしかしビックリした」
呆気に取られて赤い瞳を瞬く碎輝へ、声かけは艦内放送じみて響く。
俺にも戦わせてくれとの言葉には、応じる代わりに扉を開けた。途端吹き込む風は強くて、少し冷たい。
浪漫あふれる砲撃の声に、元気に跳ねる雷鳴が合わさる。腹の底から大声を出すような力強さでいて、しかしてタップダンスでも踊るかのように軽やかに音は繰り返されていく。
敵から放たれる攻撃は碎輝へ当たらぬように動き回れば艇は大きく揺らぐ。船底に負傷を感じようと、痛みはずっと鈍いまま。
まだ、動ける。
まだ、大丈夫。
そうして少しずつ、切り開かれる道は神王の元へと。
(私に無限なんてない――特別なものも、一番のものだってない)
だからほんの少しだけ、彼らが羨ましい。
誰からも畏れられるほどの強大な力が。際限なく広がっている可能性の力が。彼らを輝かしくしているの黄金色だけなく、そう在れることが大きいのだろう。
(でも、)
空を駆け、守り、勝利へと送り届ける事。今すべき仕事を果たすことだって、きっと大事なものであるはずだ。
ぐらりと、大きく体が傾く。
――行ってらっしゃい。
ありがとう! 大きな声と共に飛び立つ碎輝の背を、少女は眩し気に見送った。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
伸び代の塊かぁ
成長に秘められた無限の可能性
そういう先に勝機があるなんて
希望に満ちてるではないですか
やってみせると前向く
その金の意思が育つまで
此方も
やってみせますよ
僕自身防衛系の術は多くは持ってないが
りりに白薔薇の守護の力を借り
くれあと結界術をその上から重ねがけ
碎輝さん成長する間守りたい
勿論それだけではなく
放たれる光
あそこに込められた術を
なるべく引きつける為に前へ
光を、碎輝さんに当たらぬ方に誘導しようと
効かずとも、詠唱を中断させるか短くする為
薙ぎ払い仕掛け気を引き
残像使ったフェイントで狙いをぶらし…
万一五感奪われても、六感で致命傷は避けながら時間を稼ぎたい
強力な雷撃が走れば…
ああ、なんて苛烈なと
●諦めぬ未来
未来など誰にも分らない。
幸も不幸も目の前に現れぬ限りは手探りだ。進む先は無限にあり、分岐は幾つも広がっている。だからきっと大事なのは、多くの可能性を掴み取れるか否かだろう。
碎輝の成長力は白紙の地図に近い。どこまでも広がりを見せ、どこまでだって行ける。
そしてそれが、勝利の二文字に至る可能性までをもを強く秘めているのだとしたら。
なんと、希望に満ちた話なのだろう。
(やってみせる)
骸の海は昏い。死して終わった、先のない停滞。だが見据える冴島・類(公孫樹・f13398)の瞳がその澱みに囚われることは無い。
手放さなければ掴みとれる結末は既に提示されている。
ならば俯いてなどいられるものか。
「やってみせますよ」
此方とて長く生きてきたのだ。指を咥えて傍観しても仕方がないことなど、よくよく知っている。
類は床を蹴り、碎輝の雷撃が消し飛ばした骸の海の上へ。そこに新たな骸の海が流れ来る前に、咲かすは白薔薇。大切なあの子の小さな分身の力を借りた祈り。護られた空間へ静かに着地を擦れば、お喋りの代わりに微かに花弁を揺らした。
「りり、くれあ、頼んだよ」
電子空間に、花の香りが漂い始める。馴染み深いその気配に、喜びに満ちた炎の精霊が暖かな火の粉を祝福するように散らしていった。恐ろしいものを遠ざけるまじないじみて、しかし彼女たちの献身は堅牢な守護の力を持つ。
奔る雷が何度も落ちれば、そのたびに花達は咲き誇り炎が遊んで、骸の海の勢いを削いでいった。そうして出来た足場を類は駆けぬける。未だ遠くとも、その姿形がはっきりと捉えられるようになった神王の元へ。
灰色の髪を揺らすこともなく、昏い黄金色が放つ光が放たれる。先程までいた場所がごっそりと音もなく削り取られるのを、先んじて跳んだ中空で見た。白い花弁が散る様に胸中が鈍く傷んだ。ごめんね、と小さく呟けば包み込むような花の香りが一際強くなる。
――だいじょうぶ、さぁ行って。
背を押されるように短刀を引き抜けば揺れるのは銀杏色。振るう一閃で巻き起こる風は、けれども神王へ届くより早く光に潰された、刹那。
昏い黄金の眼差しと、類の視線がぶつかった。
それが何かを呟きながら、ゆるく両掌がこちらに向けられる。唐突に全ての感覚が遠のくような不快感が類の全身を包み込んだ。ぐらりと揺れる視界に、おかしな体勢のまま地面に転がる。香りで、白薔薇に着地を支えられたのだと知った。何かで強く殴られたかのように体が重く、次の一歩が遅れる。
けれど直前。確かに神王の意識は確かにこちらへ向いていた。
ならばそれで、十分。
「――碎輝さん!」
「――おうとも!」
類の呼びかけに応える声は、丁度神王の真横に位置するところから。ぼやける視界の中で、けれども電流が強く弾けるのが確かに見えた。黄金から、やがて鮮烈な白へと変われば周囲の空気が逆立つような気さえした。
振り返ろうとする神王よりも、最弱で最強の竜神が放つ雷の方が――早い。
巨大な竜の咆哮と共に、辺りを白く染めるような光が満ちれば。一泊遅れて轟音が響き渡る。
(ああ、)
なんて苛烈な一撃だろう。
最期の一押し、時間稼ぎの囮は上手くいったらしい。成長だけにとどまらず、確実に一手、届かせることが出来た。
その事にホッとして、安堵の息を吐いた類は少しだけ笑っていた。
輝く、希望の光を眩しそうに見つめながら。
目も覚めるような光と音が消え、辺りに静寂が戻る頃には。
溢れていた骸の海も、神王サンサーラも、電脳空間より姿を消していた。
いつかまた相まみえる事があるかもしれない。けれど、誰もが力を合わせたならば。
き次も悪くない未来が、きっと待っているはずだ。
大成功
🔵🔵🔵