5
帝都櫻大戰⑪〜鐵惑い、狐嘆く

#サクラミラージュ #デビルキングワールド #帝都櫻大戰 #第二戦線 #護国鉄神零號 #妖狐七星将『破軍』

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#デビルキングワールド
🔒
#帝都櫻大戰
🔒
#第二戦線
🔒
#護国鉄神零號
🔒
#妖狐七星将『破軍』


0





 小さいものより大きいものが好き。
 柔らかいものより硬いものが好き。
 地味なものより派手なものが好き。
 安全なものより危険なものが好き。
 許されたものより禁じられたものが好き。
 カワイイものよりカッコイイものが好き。
 秩序より混乱が、弱者より強者が、善玉よりワルが好き。

 悪魔の価値観とはだいたいそんな感じである。
 だから彼らにとって|ソレ《・・》は正しくワルの化身と呼ぶべきものであり、全てのワルが規範とすべき理想の姿であった。
 故にその威光に打たれた瞬間、彼らは発心した。舎弟にして貰おうと。
 ふわふわの毛並みで子供達に愛されている場合ではない。俺達は今日から真のワルへの道を歩むのだ。


「いやまあ実際カッコイイとは思うんですけどね」
 何やら言いつつ、カルパ・メルカは資料を広げた。桜色のマップだ。桜色とは即ち幻朧櫻の色であり、つまりは帝都櫻大戰の戦況を示す図である。
 はい、そんな訳で戦争の話をしましょう。
 姿の見えぬ透明の武人やら、通信を司る超弩級モダンボーイやら、羅針盤戦争から縁のあるカルロスやら、様々な怪物の犇めく第一戦線が先日ようやく一段落して、帝都を騒がす戦争は次の局面へと突入した。これより第二戦線開始である。
 新たなステージに移り、第一戦線から状況の変わった点は大きく二つ。
 一つ目は、ビームスプリッターに続いて|超古代種族《エンシェント・レヰス》の残る三種族が蘇ったという事。
 二つ目は、幻朧桜が|櫻花幻朧界《サクラミラージュ》の境界を越えて溢れ出し、他の世界までもが戦場になったという事。
 危機でない戦争など過去一度も存在しなかったが、それを認めた上で尚これは度を越えて緊急事態だと言わざるを得ない。急ぎ救援に向かわねばならぬ。

「そこで皆様にはデビルキングワールドへと向かって頂きたく」
 かの世界にはエンシェント・レヰスの一角『護国鉄神零號』が出現している。
 旧き世界『鋼鉄共栄圏』の八億の魂を載せた鉄神は、もはやただの個に非ず。言うなれば世界そのもの。巨躯に秘めたる力は数多のオブリビオンを退けた今の猟兵から見ても尚圧倒的と呼ぶべきもので、加えて骸の海を航行する能まで備えていると聞けばどれ程の脅威かご理解頂けるだろう。
 何としても対処する必要がある――のだが。実を言うと、これを退けるのは今回のお仕事ではない。
 じゃあ何をするのかと言えば。
「困った事にですね、一部の悪魔さん達が彼の配下になろうと集まっててですね」
 曰く、護国鉄神零號は「めちゃくちゃパワフルでカッコいいワル」であるらしい。
 護国鉄神零號は過去に君臨していた6thKINGビームスプリッターと同じエンシェント・レヰス。ならばデビルキングと同格の存在と言っても過言ではなく、そう考えれば臣民が自ずから傅くのも理屈としてはそこまで変な話でもない。
「んですけど、そんな馬鹿を許容する余裕は今現在全くないので」
 という事で、これをボコるのが今回のお仕事である。

「重要な案件ではありますが、戦力的にはぶっちゃけ特段言う事はないです」
 無論、全くの雑魚が相手という訳ではない。悪魔達は強大なユーベルコード使いであり、だから今困っているのだ。とは言え、エンシェント・レヰスらとの直接戦闘に比べれば児戯のようなもの。猟兵が本気を出せばどうとでもなるだろう。
 更に今回は、キャンピーくんの力によってシルバーレインから妖狐七星将の『破軍』が参戦している。協力すれば勝利はより盤石なものとなる筈だ。ちなみに破軍さんは何だかとても疲れた顔をしていたので、労ってあげると喜ぶかもしれない。
「注意点としては、過度な残虐ファイトは避けた方が良いかも? ってくらいですかね」
 無辜とは言い難いがこの世界の住民、虐め過ぎるのは忍びない。要は「猟兵の方がもっとずっとヤバくてカッコいい」んだぞ、と思わせさえすれば良いのだ。そうすれば彼らは敵ではなくなる。
「まあ、一度灸を据えた方が彼らの為かもしれませんが」
 って事で、程々に暴れちゃって頂きたい。


井深ロド
 ここに何か書こうと思っていたのにド忘れしました、井深と申します。
 まあリプレイの出来には何一つ影響しないので、それはともかくお付き合い下さい。

 プレイングボーナス:悪魔達に猟兵のパワーとカッコよさを分からせる/破軍と協力して悪魔を蹴散らす。
55




第1章 集団戦 『ワルの遊園地のきぐるみアクター』

POW   :    ふわふわ
【ふわふわ】に変身する。変身の度に自身の【ふわふわ】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
SPD   :    ぷにぷに
自身の肉体を【ぷにぷに】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ   :    夢を破壊するもの
【着ぐるみ】を脱ぎ、【中の人】に変身する。武器「【夢を破壊するキビヤック】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。

イラスト:RAW

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ロビ・シートン
はっはっは。
オオカミの強さを教えるのは容易い…
あ、そういや、こいつら、なりはともかく、実際には悪魔なんだよな。
じゃあ、群れは呼ばん。(基本的にUCで眷属とは言え、出るのは普通のオオカミなので)
なら、どうするか。
ここでUC使用して加速して、カッコいいところを見せつける。
ついでにボコす。



 灰色の疾風が吹き抜けた。
 通り過ぎたものの正体を確かめんとして悪魔達が一斉にざわめき立つ。円らかな双眸が毛玉の数だけ警戒態勢に入り、何者かの影を捉えんと周囲を探る。
 何かが、いる。同胞達の白色に紛れ、暗色の何かが時折チラリと監視の目に映っては消える。
 どこだ? どこにいる? 目を凝らし、そして悪魔はそれを見た。それは獣だ。大型の灰色狼が縦横無尽に戦場を駆け、そして今自分の方へと――
「むぎゅ」
 彼の意識はそこで途絶えた。

「はっはっは」
 嘲笑うつもりはなかったが、しかしその声はロビ・シートンの口から自然と漏れた。たった一手試しただけで勝利を確信するのは幾ら何でも油断が過ぎるが、しかしどうやら速力においては彼我の間に大きな隔たりがある。
 陸に上がったアザラシなど所詮オオカミの敵ではない。いや、ゾウアザラシなどが相手であれば勝負は分からなかったが、見たところワモンアザラシの子供といった風体だ。であれば我々の強さを教え込むのは全く容易い。数ばかり多いのが聊か手間だが、眷属を呼べば直に格付けは完了するだろう。
「我、呼ぶ。我が……?」
 と、そこでロビは違和感を覚えた。毛玉の顔面を踏み付けた脚に伝わる感触が、どうも思っていたものと違う。
 はて? 改めて哀れな犠牲者を見下ろしてみれば、腹の辺りに何やら繋ぎ合わせたような痕。
「……あ、そういや」
 こいつら、実際には悪魔なのだったか。余りにもそれらしくないナリだったから忘れていたが、そう言えばそんな事を聞いた気がする。ブギーモンスターとかいうヤツか? であればガワと中身で形が違うのも頷ける。
 ならば群れを呼ぶべきではない。止めておこう。埒外の異能で呼び出される眷属ではあるが、自然神である己と違って基本的には天然自然のオオカミだ。ユーベルコード持ちを相手取らせるのは荷が重かろう。
 なら、どうするか。
 ――決まっている。独りでボコせば良いだけだ。
 愛用の短刀を器用に銜えて、ロビは敢えてもう一度笑った。
「群れは呼ばないでおいてやろう」
 言葉に、悪魔達へと動揺が広がった。
 これで良い。呼べなかった、などと馬鹿正直に伝える必要はない。呼ぶまでもなかったのだ。これでウルフパックの幻像は彼らの中で実体以上に膨れ上がる。ロビは強靭無比なる軍勢を従える王となり、手心を加えながらも敵を圧倒する絶対者となる。
 下拵えは済んだ。後は。
 ――存分にカッコいいところを見せつけよう。
 そして、オオカミは再び疾風となる。
 否。再び、ではない。今初めて、だ。これが、これこそが疾風。これに比べれば最初のそれは微風にも等しい。
 更なる速力を得て、暴風が猛り、荒ぶる。哀れにも撥ね飛ばされた白色がピンボールの如くに弾け飛び、斬り裂かれた毛皮から何者かがまろび出た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
かわっ…こほん
いけないいけない、つい本音が

破軍さんもお疲れ様
来てくれてありがとう
ごめんだけど…もう少しだけ、僕達に付き合ってね
後ろは任せたよ

僕だってかっこいいってところ見せるんだ
可愛いじゃないんだ、断じて

敢えて清鎌曼珠沙華…の刃に風魔法を纏わせて
刃が当たる前に吹っ飛ばす事で怪我は負わせない様に
かつ見栄えだけはかっこいいように利用
剣舞の様に優雅な
それでいて鋭い薙ぎ払いの範囲攻撃で吹っ飛ばし

更に空中戦しながら指定UC発動
破軍さんを癒しながら、接近してこない相手には光線を落とす事で
遠近両方対処できる様に

勿論加減はしてあげてるから安心してね

改心したらふわふわ触らせてくれないかなとかこっそり思ったり…



 ふと見上げれば、遠くに超巨大鉄神の姿が見えた。
 距離感を狂わせる圧倒的な巨体は、じっくり見ると確かに中々かっこいいように思える。何やらせわしなく動いている様子からして、どうやらアチラはアチラで勇者リリリリ達と戦っているのだろうか。
 ああ、であれば暢気に観戦している場合ではない。コチラはコチラの役目を果たそう。飛翔するロケットパンチを見送って、猟兵は己の戦場へと視線を戻し。
「か、かわっ……」
 余りの落差に、思わず本音が口を衝いた。

「“!?”」
 猟兵は慌てて口を噤むが時既に遅し。キッと悪魔達が一斉に彼を睨め付けた。お怒りである。
「……こほん」
 いけないいけない、つい言ってしまった。咳払いして誤魔化しつつ、栗花落・澪はそっと視線を逸らす。
 本当に申し訳ない。でも許してほしい。いやだってその絵面でかっこいい路線は無理だよどう考えても可愛い系だよ。幾ら不良漫画みたいなエフェクト付けたってそのファンシーなボディは隠し切れないよ。
 という本音は今度こそちゃんと内心だけに留めた。かく言う自分も可愛い扱いをされて不本意なところはあるのだ。僕だってかっこいいところを見せるんだ、と思ったからこそ澪は今日ここに来たのだし、ならば夢を追う御同輩の姿を徒に笑うべきではない。
 ……とは思うものの、しかしながら彼らを直視すると決意が揺らぎそうなので、視線を逸らしたまま話題を変える事とする。
「破軍さんもお疲れ様。来てくれてありがとう」
「……ああ」
 毛玉達を相手取る妖狐に声を掛けると、何とも言えない表情と共に言葉が返った。いけない、どうやら先程の様子をシッカリ見られている。こんなのが頼りになるのかと疑われているぞ。
 本当に申し訳ない。猟兵は弁明しようとして、しかし止めた。これ以上言葉を交わしても漫才にしかならない気がしたし――認識を改めて貰うなら、実力を以てした方が間違いなく手っ取り早い。
「……もう少しだけ、僕達に付き合ってね」
 要請と同時、赤い花弁が宙に舞った。

 ゆらり、ゆらり、薄紅色の筆がキャンバスを奔る。時に緩やかに、時に激しく軌跡が踊り、そしてその度に白色が画角から弾き出される。
 薄紅とは金蓮花のオラトリオが振るう清鎌曼珠沙華。ならば当然、白とはそれに蹴散らされるキグルミのブギーモンスターに他ならない。
 斬撃の傷を与えまいと鎌の刃は風魔法の鞘に覆われていたが、それで彼の腕が落ちる訳ではない。剣舞は変わらず流麗で、優雅で、そして鋭い。アザラシの群れはそれを凌ぐ手を持たず、猟兵がステップを踏む毎に一人、また一人とワルの卵が脱落していく。
「……っと」
 毛玉を踏みそうになり、澪は一度攻撃の手を緩めた。彼我の戦力差を理解してか、手近な距離までお相手が近付かなくなりつつある。
 ではどうする?
 倒れた彼らを踏ん付けながら敵陣深くへと突き進むのは流石にちょっとかわいそうだ。となると――空からか。
「――精霊様」
 澪の背で天使の翼が輝きを帯びた。善を助けワルを退ける守護天使の力。その名もマジカル⭐︎つゆりんエンジェルモード。
 ……やっぱり可愛い系じゃないか? と思われそうだったのでこの場では名乗らずにおいたが、ともあれ精霊の加護は彼に更なる力を齎した。空へと舞い上がった澪の身体から光が溢れる。破魔の光芒が遠くに隠れた毛玉を吹っ飛ばし、同時に穏やかな光が奮戦する破軍の傷をじわりと癒す。
「後ろは任せたよ」
「善処しよう」
 眼下に呼び掛ければ、今度は力強く言葉が返った。どうやら幾らかは信頼を得たか。
 頷いて、天使が翔んだ。
 ――加減はしてあげるから安心してね。
 何も虐殺する必要はないだろう。改心さえして貰えればそれで良いのだ。そう、改心だ。そうすれば彼らは過剰に傷付く事はなく――あわよくば、ふわふわ触らせてくれるかもしれない。
 慄く悪魔達を見下ろして猟兵が往く。本音を心の奥底に隠して、優しく、丁寧に、守護天使の蹂躙が始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
ぬぅ、過度な残虐行為……ドリルで小突いたり、回転刃でたたくのはまずいだろうか?
悪魔たちは頑丈なので逆にどのくらいの加減をすればいいのか分からない!!だが、夜剣!!それでも暴威を示せ!!!

夜剣大蛇【操縦】頭部ドリルを回し、内蔵回転刃を回し、
轟音を響かせ悪魔たちを【威圧】する!!

そうだ!怒れ!まつろわぬ大魔よ!神の名に屈する悪魔たちに怒り!
神への【闘争心】を燃やし、刃を回し、放毒するが良い!!

放毒砲展開『亜空間アタック』【砲撃】
|神の名を冠するモノだけ《悪魔たちは違う》を殺す【呪詛】毒液塊の規模を超拡大、膨大な量の毒液で悪魔たちを纏めて吹っ飛ばーす!!

夜剣大蛇は神を壊す魔だ!神如きに平伏するな!!



 キャバリアのコックピットにて、猟兵は小さく首を傾げた。
「ぬぅ、過度な残虐行為……」
 過度とはいったいどの程度のものを示すのか、朱鷺透・小枝子にはそれが分からない。
 まあそれも宜なるかな。彼女は争乱が日常の世界で、死ぬまで敵を潰し続ける為に生まれたクローン兵士である。生命体の埒外にある猟兵はただでさえ世間一般の常識から逸脱しがちなところがあると言うのに、己の知る世間の常識が他の世界における世間の常識とズレているとなれば、もう何が正解かなどと答えられよう筈もない。
 ――ドリルで小突いても大丈夫か? 回転刃で叩いて不味くはないか?
 そこらの一般人が相手であれば全く大丈夫じゃなく確実に不味いという事くらいは小枝子にも分かる。そんな事をすれば発禁待ったなしのスプラッタ映像の出来上がりだ。しかし今回の相手は頑健な悪魔達である。どのくらい加減をすべきなのかさっぱり分からない。この場で求められている|適度《・・》とは何なのだ、誰か教えてくれ。
「……夜剣!」
 猟兵は悶々と思索にふけり、やがて一つの結論に達した。考えても答えは出ない、と。
 ならばどうする? 決まっている。机上で駄目なら現場で試せば良いのだ。
「暴威を示せ!!」
 パイロットの指示を受け、パンツァーキャバリア『|夜剣大蛇《やつるぎのおろち》』が唸りを上げた。

 耳を劈く轟音に悪魔達がたじろいだ。
 烈しい機械音が戦場を貫く。大蛇型戦闘車輌の体節に内蔵された三枚刃が一斉に回り始め、宙に巻き上げた土塊を直後に微塵へと作り変える。
 夜剣大蛇が首をもたげ、高速回転する頭部ドリルを悪魔の一人へと向けた。これに触れれば最後、お前も|あのように《・・・・・》なるのだ。そう言わんばかりに。
 アザラシ達が一歩下がる。どうやらコチラの危険性は認識して貰えたようだが、威圧としては想定通りに機能しているのだろうか。小枝子には判断しかねた。
 蜘蛛の子を散らすように逃げてくれればそれが一番だったのだが、一歩。僅か一歩だ。これは兵装が|過度《・・》でないという事なのか、それとも恐怖で思うように動けないからか。分からない。まさか目の前の「パワフルでカッコいいワル」に見蕩れているなどという事はないとは思うが。
 自分ではどうにも判断できないので、仕方ない。ここは相手に判断して貰う事とする。もう少しばかり脅し付けよう。
「怒れ! まつろわぬ大魔よ!」
 言葉と共に、轟音が更に一段苛烈なものとなった。
 そうだ、怒れ大蛇よ。神に怒り、神の名に屈するもの達に怒れ。
 神への闘争心を燃やし、敵愾心を燃やせ。怒りを薪に炎を燃やし、その熱で以て刃を回し病毒を放て。

 キャバリアは大道芸の道具ではない。距離を取っているだけで安全が保証されるなどとは、全く甘い考えだ。
 鋼鉄の巨体から第三の武器が覗いた。キグルミの群れが理解して踵を返すも、もう遅い。
 放毒砲、展開。
 大魔が吼え、放たれる神殺しの猛毒。対神キャバリアの砲は対人のそれよりも遥かに巨大であり、そして埒外の亜空間を経由した事で、呪毒の砲弾は本来の口径を更に二回りは上回る巨塊と化した。
 逃げ場はない。毒液が戦場全域を塗り潰し、直撃弾を浴びた毛玉達が纏めて吹っ飛ぶ。
 傍からは過度にも見えたが、しかし問題はない。これが殺すのは神の名を冠するモノのみ。悪魔達には無害。
「夜剣大蛇は神を壊す魔だ!」
 小枝子が叫んだ。
 悪魔達は真面目だ。だから今、悪魔の道徳を遵守しようと空回りしている訳だが、しかしそれは彼らがデビルキング法を完全に憶えているという事。ただの馬鹿ではない。勤勉で記憶力がある。
 故に、こう言えば理解する。今の砲撃はただ不発に終わったのではない。君達が真に神の走狗となれば次はこうはならない。これはそういう警告なのだと。
「神如きに平伏するな!!」
 毒塗れのキグルミ達が頭を垂れた。どうやら適度の範囲で制圧できた、そう考えて良いだろう。
 同じ戦場に来ていた灰色狼の神様が物言いの遠吠えを上げたが、ひとまず今は置いておく事とする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ツォーナ・ロチェアーダ
夢を壊すような事言って申し訳ありませんが、零號さんは望んでこの世界を征服をしに来たわけではありません!
悪い力に操られてしまっているだけ…つまり、ワルではありません!
そのような方をワルと崇め奉るのは、とてもカッコイイワルのする事ではなりません…あえて厳しい言葉使いをさせていただきますが、只のおバカです!

そして貴方達にみせてあげます、大きくて硬くて強くて派手で格好良い…ボクの|翠玉瞳の虹光龍《エメラルドアイズ・プリズムドラゴン》を!
破軍の皆さん、この子が討ち漏らした悪魔はお願い致します!

今から悪魔の皆さんに、本当のカッコイイを見せて差し上げます!



 悪魔達がガヤガヤと騒ぎ立てている。
「かっけー」「でっけー」「うおおスゲェ腕が飛んだ!」
「頭の花飾りオシャレだよね」「排熱で蒸気噴出するトコ好き」「ビーム出たビーム!」
「|D《デビル》稼いで俺もいつかロボキグルミに乗り換えるんだ」
 いやはや、世界の危機を目前にしながら暢気と言うか何と言うか。場違いな所作を暫し眺め、それからツォーナ・ロチェアーダは口を開いた。
 言葉は大事だ。何でもかんでも暴力で解決しようとするのは悪しき考えである。聞けば悪魔を自称する彼らは元は格別に良い子だったというではないか。ならば全く話が通じないという事もあるまい。あるいは滔々と訴えれば分かってくれるやもしれぬ。
「夢を壊すような事を言って申し訳ありませんが、零號さんは望んでこの世界を征服しに来たわけではありません!」
 ツォーナは訴える。今の護国鉄神零號さんは悪い力によって操られているだけ。この破壊行為は彼の本意ではないのです。つまり彼はワルではありません!
「そうかな……そうかも……」「いやでもワルか否かで言えばワルでしょ鉄神さんカッコイイし」
 ――ワルの基準おかしくないですか?
 いや仮に零號さんがワルだったとして、その零號さんが望んでいない侵略を加速せんとするのは果たして正しい行いでしょうか? 手前勝手な理屈で崇め奉るのは本当にカッコいいワルのする事でしょうか!?
「そうかな……そうかも……」「いやでも他人の嫌がる事をするのが正しいワルの在り方じゃない?」
 ――屁理屈ばっかり言いますねこの方達!
 ツォーナは天を仰いだ。何か思ったより話が通じないぞ。破軍さんが疲れている理由が何となく分かった気がします。
 嗚呼、こうなれば仕方ない、ここは実力行使に出る事にしましょう。無駄に暴力を振るうのは問題ですが、これは無駄じゃない暴力だから大丈夫です。
「あえて厳しい言葉遣いをさせていただきますが、貴方達はカッコいいワルではありません! 只のおバカです!!」
 ツォーナは告げた。これよりお仕置きのお時間である。

 とは言うものの、ただ仕置きすれば良いという話ではない。重要なのはその方法である。
 只のおバカではないツォーナは考える。単純な戦闘力で言えば破軍さんも相当な筈だが、現状彼はカッコいいワルと判定されていない。
 何故か? 恐らくは戦い方の問題だ。彼の朱雀拳は集団殲滅力に優れるとかつて語っていたが、しかし朱雀拳士の|能力《アビリティ》は単体対象が基本である。つまり圧倒的火力で以て一体ずつ確実に数を減らしていくスタイル。各個撃破は堅実な策ではあるが、相手が多過ぎると途中で息切れしてしまう。
 となるとロチェアーダで順番に斬り倒していく遣り方は今回適さないという事だ。何しろ比較対象が超巨大鉄神、コチラもあれに比肩するくらいの広域攻撃が望ましい。悪魔達を纏めて薙ぎ倒せる大技が必要である。欲を言えば見栄えがすると尚良い。
 そんな素晴らしく都合の良い手札が――都合良く手元にあった。
「見せてあげます、大きくて硬くて強くて派手で格好良い……ボクの切り札を!」
 ツォーナの自作した万能バングルが、アルマライトの魔力を受けて熱を帯びる。
 空が歪む。宙に現れる次元の孔。その奥から溢れ出る虹色の光。
「虹を纏う光輝なる竜よ、今ここに顕現し、未来を切り拓く刃と成せ!」
 空間湾曲の研究を進めた甲斐あって、彼女の技術は埒外の領域にまで踏み込んだ。
 即ち、距離の壁を越えて、圧倒的質量を、複雑な機構を損なわず、必要な瞬間に即時に呼び出せる領域に。
「ガジェット召喚! 出でよ、|翠玉瞳の虹光龍《エメラルドアイズ・プリズムドラゴン》!」
 そして顕現する、三稜鏡の巨竜。
 光学素子の身体が陽光を浴びて神々しく煌めく。悪魔達が息を呑み、一瞬戦場を静寂が支配した。

 水晶竜の五体が一際明るく輝いた。
 この竜型ガジェットに発光ギミックは仕込まれていない。つまりこれは光の屈折方向が変わったという事。即ち、虹光龍が攻撃態勢に移行したという事。
「破軍さん、この子が討ち漏らした悪魔はお願い致します!」
「……ああ」
 破軍の返答には間があった。
 不本意ながら応じたから、ではない。討ち漏らしが生じるか疑わしかったからだ。
「それでは! 今から悪魔の皆さんに、本当の|カッコイイ《・・・・・》を見せて差し上げます!」
 ツォーナが告げると同時、竜の姿が掻き消える。
 テレポート? 否。ただ飛んだだけだ。次元を貫いて移動するなどの芸ではない。速いだけ。単純に捷い、絶対的に疾い、ただそれだけ。
「見せて差し上げるなどと、よくも言えたものだ」
 破軍が呆れたように呟いた。透明の存在が光速で飛翔して、いったい誰の目に留まるというのか。
 襲撃者の影を捉える事はブギーモンスター達には叶わず、彼らはただ虹色に煌めく空へと撥ね飛ばされるのみ。
 この虹は冥府への架け橋。いや渡って貰っちゃうと困るのだが、その手前くらいまで彼らをご案内する事だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
正直に言って護国鉄神零號は格好いいと思う
しかし彼はオブリビオン。当人の意思とは関係なく世界を滅ぼさんとする存在である以上、味方をする訳にはいかんのだ……

という訳で、悪魔たちを思い切りふっ飛ばしてやろう
大刀【冷光霽月】を抜いて敵と相対。

基本は待ちで、相手が此方に接近してきた所で剛式・弐の型【激浪】。思い切り薙ぎ払って、その衝撃で吹き飛ばす。文字通りに、思いっきり
ふわふわしている分、斬るには苦労するけれど。うっかりやりすぎる心配がないという意味では寧ろ都合が良いだろう

ところで破軍氏は朱雀拳士と言ったっけ。ならば一緒に吹き飛ばしてもらうとしよう
流石に将を任せられているだけあって、頼りになるな



 6thKINGビームスプリッターが建造した大迷宮の黄金色と、そこから溢れ出した幻朧桜の薄紅色。背景を埋める華やかな二色に対比されて、護国鉄神の鈍色がいやに際立って見えた。
 ――正直に言って、護国鉄神零號は格好いいと思う。
 その存在感に目を細めながら、猟兵は思う。外見が好ましい、というだけの話ではない。内面も含めてだ。オブリビオン化によって在り方を歪められながらも鉄神の言葉からは未だ知性が感じられたし、扱う得物は違えども護国の武人としての振る舞いには学ぶべき点があるように思えた。
 故に。
 夜刀神・鏡介は、ゆっくりと大刀の柄へと手を掛ける。
 なればこそ斬らねばならない。今の零號はオブリビオン、彼本来の意思とは無関係に滅びを齎さんとする世界の敵だ。如何に本意でなかろうと、それは味方をする理由にはなり得まい。
 ……それとも、立ち向かう事こそが真に味方をするという事になるのだろうか。上辺だけを見て破壊活動に加担する悪魔達が本当の意味で彼に味方しているとも言い難かろう。
「――――」
 まあ、良い。己の選択がどちらの側と見做されようとも、やる事は一つだ。
 大太刀|冷光霽月《れいこうさいげつ》が鞘から抜き放たれ、六尺を越す長大な姿が露わとなる。悪魔達の視線が、霊妙なる光を宿す刃へと一斉に集まった。
 果たして彼らは察しただろうか。その輝きが、今から己が身を吹き飛ばす為に振るわれるという事を。

「ぐむ」
 くぐもった音を吐き出して、白い毛玉が宙に舞う。
 その勢いは二、三度バウンドしても尚止まらず、後列に控える同族達を十体ほど巻き込んで撥ね飛ばす。ストライク。
 悪魔達は一時怯み、しかしすぐに気を取り直して再びの攻勢を掛けた。向かう先は衝撃の出どころ、即ち闖入者たる剣豪である。
「|剛式《・・》・弐の型――」
 殺到するキグルミの雪崩を前にして、だが鏡介は臆する事なく深く静かに息を吸った。
 後手に回っているが、問題はない。此方は端から待ちの一手。剛式は名の通りに剛の剣。より疾く鋭くと研ぎ澄ます他の型に比して乱暴な力押しの性質を強く持つ。その剛力の全てを剣先から余さず伝えるには確りと地に足を着けておく事が肝要で、故に迎撃の構えとの相性は悪くない。
「――【激浪】」
 タイミングを合わせて弧を描いた大刀が、接近するキグルミを狙い通りに過たず打ち据えた。
 独特の弾力ある手応えが刃から伝わる。ふわふわした衣は見た目には可愛らしいが、遊園地のアクター用という事もあってか思いの外に頑丈だ。分厚い毛並みが刃の進撃を阻む。
 が、それならばそれで構うまい。斬るには苦労しそうだが、別に彼らを腑分けしようという訳でもない。我知らず遣り過ぎる不安が減るという意味では寧ろ都合が良いだろう。
 刃が振り抜かれ、桔梗色の旋風が巻き起こった。敢えて引き斬らず、殴り飛ばすように振るわれた太刀は、先に焼き直しのように第二陣を退ける。
 頑強な金属棒で殴り倒せば、斬れずとも十分に致命傷になるのではないかとも思ったが、どうやらその心配もなさそうだ。悪魔達は想像以上にタフなようで、戦闘不能に追い込んでも再起不能にまでは至っていない様子。
 何ならもう少し力を込めても大丈夫そうか? そう思い破軍氏の様子を見れば、此方以上の怒濤の勢いで拳打を叩き込んでいる。聞けば朱雀拳士の術式|能力《アビリティ》、朱雀突というのだとか。中々に容赦がないが、誰より先に矛を交えた上での判断だろう。あれくらい派手に遣って良いという事か。
「良い腕だ」
 見倣って第三陣を弾き飛ばせば、妖狐が短く称賛の声を掛けた。
「そちらも」
 流石は将を任せられているだけある。頼りになる実力者だ。これで猟兵に覚醒していないというのだから恐れ入る。
 この調子ならば押し負ける心配はないだろう。このまま続ければ遠からず「ヤバくてカッコいいワル」の座を奪い取れるに違いない。それが本当に喜ばしい事かどうかは、まあ置いておこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
あやー。
零號さんがすっごく困ってらっしゃって、破軍さんがとっても疲れてらっしゃるのでっす!
お二人も元気にして差し上げねば!
あや? 零號さんは敵?
いえいえ、ファンに藍ドルに敵味方は無いのでっしてー!
というわけで藍ちゃんくんのシークレットライブにご招待なのでっすよー!
きぐるみさんの技はある意味最強最悪でっすからねー!
ライブハウスで遮蔽して外から見えなくすることで、きぐるみファンの皆様の夢もお守りするのでっす!
理性を喪失していっている皆様にはライブハウスを破壊することもできないでしょうし!
後はたっぷりと藍ちゃんくんのかっこよさとヤバさに酔いしれてもらうのでっす!
耐久ライブ!



「藍ちゃんくんでっすよー!!!」
 その声は今日も変わらず高らかに響き渡り。
 ……虚しく木霊して、消えた。

「あやー?」
 声の主、藍ちゃんくんこと紫・藍はカクリと首を傾げた。何だか皆さんノリが悪いのでっす。
 ああ、いやいや、今の言い方はよろしくなかった。お客様に全ての責任を擦り付けているかのようだ。藍ちゃんくんが場にそぐわない振る舞いをしてしまった可能性だってある訳で、もしそうならノれないのも当然である。
 自分のやりたい事だけを一方的に押し付けるばかりではプロとは言い難い。オーディエンスの要望を正しく把握した上で、求める以上のものを返してこそ真の藍ドルというもの。
 そんな訳で、まずは皆様の状況を確認してみよう。
「あやー」
 一足先に仕事に取り掛かっていた破軍さんは、何だかとっても疲れてらっしゃるご様子。これでは声を張り上げて元気に挨拶を返すどころではなさそうだ。
 それで以て、彼の視線の先にはワイワイと騒ぐアザラシのキグルミ集団。破軍さんと小競り合いを繰り返していた筈だが、その増援として現れた藍ちゃんくんに対してどうも反応が薄い。心ここに有らずといった感じである。
 いったい何に夢中なのやら。耳を澄ませて声を聞き取ってみれば、ははあ、なるほど、零號さんに首ったけと。話には聞いていたが思ったよりだいぶ重症だ。
「お困りでっすかー!?」
「……うむ。我も少々困惑している」
 声を張って呼び掛ければ、零號さんから返事が届いた。アチラはアチラで忙しそうなのに律儀なお人だ。
 ともあれ状況は理解した。藍ちゃんくん自身はいつ何時もファンサービスを欠かさないが、しかし誰も彼もにそれを求めるのは正しい事ではない。突然過剰なラブコールを受けてしまっては、今の零號さんのように困ってしまうのも至極当然の道理。
 となれば。
 ――お二人も元気にして差し上げねば!
 あや、零號さんは敵? いえいえ、ファンに藍ドルに敵味方は無いのでっして。オブリビオンである零號さんとは上手く行かない部分もあるかもしれませんが、少なくとも本来のエンシェント・レヰスとしての零號さんとは仲良くできるのでっす。困ってらっしゃるならお助けせねば。
 という訳で。
「藍ちゃんくんのシークレットライブにご招待なのでっすよー!」
 キグルミの皆様には今から藍ちゃんくん派に鞍替えして頂くのでっす。

 瞬間、世界が暗闇に包まれた。
 アザラシ達のざわめきがそれまでとは別種のものに変化する。これはいったい何事だ? 闇の中必死に視線を彷徨わせると、暗黒に慣れ掛けた悪魔の瞳を、突如眩い光が襲った。
 ゆっくりと瞼を開いてみれば、そこに見えるのは色とりどりのスモークと、その奥に佇む猟兵の影。
 否。この場でその呼称は適切ではない。
 天から降る光が輝きを強め、その影を照らし出す。浮かび上がった姿は、そう――藍ドルだ!

「改めまっしてー! 藍ちゃんくんでっすよー!! 憶えて帰って下っさいねー!!!」
 藍ちゃんくんの声が再び響き渡った。
 ムービングライトに照らされたからか、零號さんの姿が見えなくなったからか、それとも藍ちゃんくん自身の技巧の賜物か、何にせよ今度こそ毛玉達の視線は余さず彼に注がれる。
 良し良し、皆さんお揃いで無事に特設ライブハウスへご招待成功。残念ながら零號さんは範囲外となってしまったようだが、仕方がない、後ほど別途ステージを用意する事としよう。
 ともあれ準備は整った。これはただ人々を閉じ込めるだけの異能ではない、照明装置が働いてみせたように当然ながら音響機器も完備している。こうなれば誰にも藍ちゃんくんの歌を聞き流す術はなく、もはやその虜となる他に道はない。これこそ名付けて|藍昧模糊《アイチャンクン・シークレットステーッジ》!
 力尽くで領域を脱出せんと幾人かのブギーモンスターがキグルミを脱ぎ捨てたが、しかし問題はない。そういう乱暴な方への備えをしているのが出来たライブハウスというもの。彼らの抵抗は失敗に終わり、アクターのあられもない姿が白日の下に晒される危機は回避された。子供達の夢は守られた。
 この場において理性なき暴走は許されず、理性ある方々がライブハウスでする事と言えばライブを楽しむ事のみ。後はただ、たっぷりと藍ちゃんくんのかっこよさとヤバさに酔いしれてもらうだけである。
「耐久ライブなのでっす!!!」
 ちなみにこれは余談だが、件の|中の人《・・・》の姿はあくまでキグルミファンの求める方向性とは異なるというだけで、それ自体に問題があるという訳ではない。そういう姿が好きな人も当然いるだろうし、藍ちゃんくんはお客がどんな姿であろうとも等しく受け入れる。
 そう、例えば領域に巻き込まれた破軍さんがこの場に混ざって楽しんでいたって、藍ちゃんくんは当然受け入れる。何も恥ずべき事はない。それを巨門さん辺りが知った時、何と言われるかは分からないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルテミシア・アガメムノン
あら、可愛らしい。
ほほほ、確かに護国鉄神零號さんはカッコいいですし、今は幻朧帝のせいでワルワルですが……
見逃していけないのはご本人的にはイヤイヤだということです!
ワルいのは良い事ですが本人が望まないのにやらされるのはNG!
それを見抜けずに護国鉄神零號さんの舎弟になるというのはダメなワルですわね!!
おしおきです。真のワルの力を見せてあげましょう!

と猟兵のパワーとカッコよさを分からせる方向で
【黄金の暴嵐】を発動。
無限の神雷と恐怖の颶嵐を戦場全体に吹き荒ばせてゆるキャラたちにおしおきです。

その後は真のワルを教えてあげるのでついていらっしゃい!と国民増加で。



「あら、可愛らしい」
 猟兵の率直な感想はそれであった。
 よく出来たキグルミだと一目で分かる。アザラシの愛くるしい姿が上手く表現されている。遊園地で働いていると言うが、間近で触れ合えるとなればさぞや人気がある事だろう。
 それに何より内面が可愛らしい。盲目的に護国鉄神零號を欽仰する様は敬虔な弟子と言うよりも、生まれて初めて見たものを親だと認識して付いていく雛鳥に近い。
「なんだとー!?」「もう一回言ってみろー!」
 可愛らしいとの評価に悪魔達は挙って異を唱えたが、その様はキャンキャンと吠え立てる子犬のようだ。もう言葉選びからしてワルに慣れていない。これを可愛らしいと言わずして何と言うのか。
 故にアルテミシア・アガメムノンは、吐いた言葉を撤回する事なく「ほほほ」と笑った。
「確かに護国鉄神零號さんはカッコいいですし、今は幻朧帝のせいでワルワルですが……」
 そこは否定しない。全く事実だ。そのカッコよさに憧れ、それを目指すのも良いだろう。
 が、その方法が何もかも間違っている。例えばマッチョマンに憧れたなら、まずはスポーツジムにでも通うべきなのだ。追っかけをしている場合ではない。それすら分からずズレた事をしている内はカッコいいワルとは呼べない、まだまだ可愛らしい赤ちゃんだ。
「見逃してはいけないのは、ご本人的にはイヤイヤだということです!」
 ワルいのは良い事ですが、本人が望まないのにやらされるのはNG! そういうのはありがた迷惑と言うのです。自分達だって自称舎弟に付き纏われて見当違いの事をされては困るでしょうに、どうして想像力が働かないのか。
「全くダメなワルですわね! 反省なさい!」
 流石はワル中のワルである魔王、ワルの倫理には誰より詳しい。見事な演説である。こう言われては凡百のワルは心を改める他なく――おや? おかしい、何だかどうにも手応えが薄い。
「言っている事ではなく、やっている事がその人の正体ではないですか」
 あまつさえ反論までしてきた。まだ反省が足りないと見える。
 言わんとする事は分からないでもない。何か大きな事を成し遂げれば勇者だが、考えているだけではただのチキンだ。一理ある。
 が、そういう御託は正しい行いをしている奴が語ってこそ意味を成すのであって、現在進行形でやらかしている奴が何のかんの言ったところで結局は都合の良い自己辯護に過ぎない。
「ほほほ、良いでしょう、良いでしょう」
 アルテミシアは笑った。やるべき事が明白になったが故に。
 そもそもだ。護国鉄神は6thKINGと実質同格などという話を聞いたが、仮にそうだとして本来何一つ問題にならない筈なのだ。何しろこちとら7thKINGである。当代の最ワルがワルの道理を説いているのに全くこの子達は。
 嗚呼、つまるところ舐めているのだ。如何に世界最強の群体などと言ったところで個々の能力は大した事はないのだと、そのように舐め腐っているから今こうなっている。よくよく理解できた。
 ならば、やるべき事は一つ。
「――おしおきです」
 真のワルの力で以て、教育してさしあげましょう!

 そして、黄金の嵐が吹き荒れる。
「――逆らう存在すべてに終焉を」
 これはあくまでも猟兵のパワーとカッコよさを分からせる為のものであって、別に終焉を齎すつもりは全くなかったのだが、アルテミシアは敢えて聞こえるようにそう告げた。魔王国を統べる女帝の御前で狼藉を働けば当然こうなるのだ、真のワルの強さと恐ろしさとはこういうものなのだと、そう知って貰った方が後の為になるからだ。
 故に埒外の暴威は、滅ぼすべきオブリビオンに対して行使した時と寸分違わぬ圧を伴ってこの場に顕現する。
 黄金の女帝の渾名に相応しい黄金の雷が天を照らし、空を貫き、大地を灼く。背後に聳える黄金大迷宮が倍する輝きで照らされて、遅れ来る轟音がキグルミの内の鼓膜を劈いた。
 暴風が咲き乱れる幻朧櫻の花弁を散らし、それだけでは飽き足らぬと暴風は更なる烈風と化して、悪魔達の身を宙へと打ち上げる。烈風は尚も収まらず颶風となって、錐揉みする毛玉でジャグリングの如く遊び出す。
「――!!」「――――!!?!」「――――――!?!?!?」
 叫び声は暴嵐に押し流されて、誰に届く事なく虚空へと消えた。
 そろそろ理解した事だろう。強大なユーベルコード使いなどという自任は広い世界ではさしたる価値はなく、真のワルの前には無力な只人にも等しいのだと。ゆるキャラのキグルミを纏い演ずる事を忘れたなら、世界はゆるく安全なままではいてくれないという事を。
 もはやブギーモンスター達は知恵の布を涙で濡らし、女帝の慈悲を乞うばかり。


 数刻か、数分か、あるいはほんの数秒の出来事だったのか。哀れな羊達には永劫にも等しい時間が過ぎて、やがて世界は平穏を取り戻した。
「真のワルを教えてあげます! ついていらっしゃい!」
 響き渡る女帝の声に逆らうものは既になく。かくして破軍の胃を苦しめたキグルミの乱は終わりを告げて、悪魔達は女帝の治める魔王国の臣民となった。
 より正確に言うならば、一部が魔王国の民となり、一部がアイドルの追っかけとなり、一部が野生に目覚め、一部が武士道にドハマりした。あと一部が金蓮花の天使に抱き着かれ揉みくちゃにされていた。
 そうやって目新しいものに何でもかんでも飛び付くから今回のような事態になったのではないかと思わなくもないが、今は置いておく。ともあれ護国鉄神零號の心労は取り除かれた。これにて終幕である。
 嵐が過ぎ去り、晴れ渡った空を仰ぎ見て、妖狐が大きな大きな溜息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月15日


挿絵イラスト