帝都櫻大戰④〜Alkaloidの残響
●幻覚の呼び声
文字が、踊っていた。止めどなく小説たる文体が、視界に踊る。
「誰か」「だれか」「ダレカ」「誰か」。
識った誰かは言うだろう。頭上に文字が表示される、電脳世界の表記のようだ、と。
空に文字を描くが如き『ヘリオンサイン』のようだと。
遥か天空に一般人の目や観測器具に写らない「巨大な文字」――しかしそれが墨汁がごとき黒一色、明るさなど決して無い過激な自体で踊り散らされている。これが普通?いいや違う。
此処は、現世と黄泉比良坂が如き終焉の隙間、次元の交わる間の夜の帳が落ちた場所。
噂の中の袋小路、「逢魔が辻」とはよく言ったものだ。
煙が蔓延しており、通常空間でないことは誰の目にも明らか。誰かが支配下空間だ、文字は踊り壁に張り付き空間を徐々に光さえ通さない黒一色に塗りつぶしてくことだろう。
「忘却の、再来を。「創作」の旅を此処に燦華せよ。罪の数はいずれ逢魔が辻寄り外へ飛び出し世界を過去が言葉責めにやってくるだろう。お前が、お前たちが――忘れたのなら、思い出させてやろう」
●影法師は問う
「仕事の時間だよ。僕が聞いた話をしても、いいかい?」
ソウジ・ブレィブス(天鳴空啼狐・f00212)はまっすぐに君を見る。
「怪異の起こる事がある曲がり角、望まれた時出現する"逢魔が辻"――僕の知る場所は殆ど無害な場所なのだけれど、そこに『黄泉変異』を起こす主が流れ着いてしまったようでね。誰も望んではいないけど、夜の帳、"幻朧桜"から作り上げられた夢が如き一夜の限りの幻覚を起こす合法阿片を扱うタバコ屋さんが、出没しているらしくてさあ」
古い、寂れた店舗が一つ逢魔が辻の中には存在する。
本来ならば、帝都にそのような店は存在しない。
「幻覚を見せ、忘れた記憶を思い出させる――その地域での噂、『alkaloidの花束』現象。本来明るく優しく、帝都の人たちに寄り添う怪異――なんだけどね。悪用されているみたい。その空間には合法阿片ベラドンナの匂いが充満しているだろうし、あまり長居はおすすめしないよ」
合法阿片の効能、について手元の資料をめくりながら告げる。
「ううん、あくまで錯覚と幻覚の力が強い薬物の匂いだってだけだよ。未成年でもこれに関わるのは問題ないかな。主成分は、幻朧桜から抽出された幻(毒)――だからね。傷ついた魂を慰める成分が主だったんだ。……逢魔が辻の主は、これを利用して強くその場所に執着を抱いているよ。まずは、それをどうにかして弱体化させてあげないとね」
執着を見つけて指摘する、それが一番相手に聴く終わらせ方だろう。
「佇むものはキセルパイプを蒸しながら、問うだろうね。"私は誰だ"って。君は相手を識らないだろうけど……きみいにはきっと『後悔を抱いた相手』に見えるんじゃないかな。そういう幻覚要素がその空間には満ちている。君たちは、未来へ向かって歩く乗り越える人たちだから――きっと心配なんて、要らないだろうけれど」
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
このシナリオは戦争に属する1章のみのシナリオとなります。
プレイングボーナス:「主」の執着の正体に気付き、弱めてやる。
●場所
逢魔が辻の内部、怪しい煙で埋め尽くされた空間です。現実世界ではないです。
開幕時点で、この空間に猟兵はやってきます。煙いっぱい空間でもあります。
タバコの煙が満たされまくった空間、みたいに想うといいかも。匂いの方向性は「サクラの匂い」です。
周辺は段々と文字に埋め尽くされた異様な空間。一本道、って感じ。
あなたは、合法阿片の匂いでいつかどこかで「後悔を抱いた相手(影法師)」と出会います。居ない場合は、ストレートにボス『贖罪の山羊』の姿が認知できます。
空間を元の状態に戻す(消す)ためには『空間の主』を倒さなければならないでしょう。
●「alkaloidの花束」現象
過去シナリオにてすでに起こっていた現象ですが読了する必要はありません。
あくまで、テーマ性を引き継いだもの、と思っていただければ。
●合法阿片(ベラドンナ)。
いっときの夢(幻)を誘う、薬物。主成分は毒性の強い花の名称をとっていますが隠れ蓑。
幻朧桜の不思議さをぎゅっと詰めた、違法薬物です。望まれた時裏で出回り、いつの間にか消える怪異薬物です。一時的に実像を結んだ現実に夢(幻)を見せるだけなので、薬物中毒になることも特に無いです。
●「後悔を抱いた相手(影法師)」
「自分のことを忘れたのか」たとえどんな存在でもそう問いかけてきます。
時間、後悔を司る敵が、貴方の識った相手の顔で、語るでしょう。
プレイング内容とキャラシ以上の確認を行わないので、必要なことはプレイング内で完結することをおすすめいたします。ご注意くださいますようお願い申し上げます。
●その他
断章などはありません。OPが断章みたいなものです。さくっと完結する場合があります。状況に合わず見送ることもあるので、ご留意ください。状況が特殊な運用を行う見込みですが、もし見ている光景が同一だというのなら、問題なく合わせも出来なくはないかと思います。先着順ではなく、期間内で書けそう順の判断で行いますのでよろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『贖罪の山羊』
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POW : あのとき、本当はどうしたかった?
自身が【色褪せた台本を開いて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【後悔が残る場面を『再上演』する幻覚】によるダメージか【後悔を克服すること】による治癒を与え続ける。
SPD : 悔やむことは哀しくて尊いことだ
【流星の尾を引く万年筆】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【任意の場面に対する罪悪感】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : あの日にかえろう
戦場全体に、【後悔、罪の意識の深さだけ困難化する性質】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「シャト・フランチェスカ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フィーナ・シェフィールド
アドリブ歓迎
後悔を抱いた相手。
優しく、ちょっと寂しそうに笑う桜の精の女の子。
大切に思っていたけど…何も言わずに、居なくなっちゃった。
わたしのせい?
わたしが、寂しさに負けて、他の人に心を動かしちゃったから?
そう思って、何度も後悔した。
せめて、さよならくらい、言って欲しかった。
もう吹っ切れたと思っていたけど…やっぱり、忘れられないみたい。
これは幻。…うん、分かってる。
「運命が微笑みかけてくれたら。いつかまた、きっと巡り合えるわ。」
囁くように…やがて、逢魔が辻に響くように。
影朧を浄化、転生を促す歌。
【傷ついた魂に捧げる輪廻の唄】を歌います。
…現実でまた逢うのは無理でも…幻でも、会えてうれしかったわ。
●ミチシルベ
桜の匂いが鼻腔を擽る。
満開の桜の中に飛び込んだような不思議な感覚が襲ってくる。
『……ふふ』
ふと、気がついた時フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、静かな笑い声を聞いた。
――あの声を、憶えているわ。
正面に誰かが立っている。
優しく笑う女の子は、フィーナへ意識を向ける桜の精。
儚げに笑って、しかしちょっと寂しげな表情が印象的だ。
最後に見かけた日と同じ姿で此処に居る――あり得ない。
月日は確かに、残酷な程悠く経っていたのだから。
『ああ此処に、居たのね』
フィーナが過去、大切に思っていた相手。
『何処へ行っていたの?』
先に、何も言わずに居なくなったのは儚く笑う彼女の方だ。
『私のことを忘れてしまったの?』
――ああ、懐かしい。
過るのは、あの過去の一時。
声は確かに、語りかけてくる。
「……忘れてなんて、いないよ」
『ふふ。貴方ならそう言うと思ったの。だから、"あの日に帰りましょう"?』
――わたしが、、他の人に心を動かしちゃったから?
いなくなったのは、フィーナではない。なのに、あの日に帰ろうと誘われる。
手を伸ばし、微笑みかけてくる彼女の顔を見ることが――なんだか切ない。
――ずっとずっと後悔していて、何度も後悔したの。
周囲に湧く煙が自分を取り巻き引き込もうとするように思えた。
抵抗しないままでいれば、攫われて意識まであの日まで連れて行かれてしまうかもしれない。
――言わせて欲しかった言葉があるの。
もう吹っ切れたと思っていたけれど。
歌のように、思い出はやはり忘れられるものではない。
――これは幻。…うん、分かってる。
「うん、忘れてない。今度は、……さよならって言おうと思ってたの」
だけど、ちゃんとは言わない。その呼吸は歌として声を紡ぐのだ。
|傷ついた魂に捧げる輪廻の唄《ソング・オブ・リィンカーネーション》。
『さようなら、はまた会う約束よ。だから、言わなかったのは――』
言えなかったのは、そこで区切りとしたくなかったから。
「運命が微笑みかけてくれたら。いつかまた、きっと巡り合えるわ」
囁くように。やがて、逢魔が辻に響き渡るように。
影朧を浄化、転生を促す歌。
幻影だとしても、記憶だとしても――別れの歌より祈りの歌を。
自愛の想いが運命を導く|光《シルベ》となるように。
――あら、もう時間ね。今度こそ、……さようならだわ?
また会いましょう?霞のように掻き消える彼女は、嬉しそうに笑って消えた。
いつかどこかの幻で、望んだ通りの夢、だったかもしれない。
ただ彼女は確かに口を動かして、言ったの見た。
『(さようなら)』
――現実でまた逢うのは無理でも…幻でも、会えてうれしかったわ。
大成功
🔵🔵🔵
禍神塚・鏡吾
「服にラベンダー以外の匂いが付くのは気に入りませんね」
過去は必要な時に思い出すもので、そこに慰めを求めてはいけない
後悔を抱いた相手
吸血鬼の配下をしていた頃に手にかけた無辜の人が大勢いて、一人ひとりの顔までは……
しかしその存在を忘れた訳ではなく、忘れてはいけないとも思っています
似たような能力や罠の効果を受けたことがあるので、冷静に対処できます
執着
創作物を文字の形で残す、忘れた後悔を思い出させようとする、となると「誰かの記憶に残る」のが執着か?
戦闘
ミラーシェイダ―の光学迷彩で姿を隠して攻撃をやり過ごし、照魔鏡で執着について答え合わせします
得られた答えから執着を特定出来たら、他の猟兵と情報共有します
●鏡は何でも知っている
『訪れたのは、誰か。お前は誰か』
ふわあと視界にさえ煙る様が見て取れる色濃いサクラの匂いが香るは此処だ。
入り込んだは逢魔が辻の袋小路。霞むイメージの中に誰かがいる。
『悔やむことはあるか。私は哀しい』
声だけの主は、禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)に声だけをぶつける異物。
「ああ服にラベンダー以外の匂いが付くのは気に入りませんね」
服に付いた匂いを払うように叩き、声の聞こえた方向を見る鏡吾。
「悔やむことは過去を忘れないこと。必要な時思い出すものですので……」
――勿論忘れてなどいない。
人の影を見た。ひとりふたり、いや顔の見えない複数の無辜の民がぞろぞろと出没する。
鏡吾の周囲を取り囲み、うわ言のように囁くのだ。
『|俺達《過去》を忘れたのか』
『|私達《過去》を憶えていないのか』
手を伸ばし、その先々に不自然な装備品、握られた万年筆を振りかざす。
罪の証を書き記さんと紙なき幻想を周囲に文字として書きなぐる。
血。流血。命。無念。
漢字だけのそれらは、悲惨を語る過去の亡霊の言葉。
縋りつかんとする過去は、鏡吾に迫る。どうして、なんでと責め立てるように。
「お答えしますが、忘れた訳ではないですよ。確かに過去私が出会った顔ばかりです」
ただ、一人ひとりの表情までは憶えていない。
いつか吸血鬼の配下をしていた頃に手にかけた無辜の民がどんな表情を、どんな|呪詛《声》を吐いていたか等――。
「しかし、生きるうえで忘れてはいけないことです」
語り聞かせるように、口に出しても『忘れるな』『忘れたのか』と影法師たちは責める言葉を辞める様子がない。
「だから、今度は夢現に私のことを憶えていてください」
終わった幻影に、憶えていて欲しい魂に、こうして文字で語りかけられるとは思わなかった。
願いは恨みに、切望は執着に。
記憶は闇の中に漂う|残響《リフレイン》。
煙は自らだって隠し通す隠れ蓑、周囲に無数の金属板をかざしミラーシェイダーの光学迷彩ですうと自分の位置を隠蔽する。姿を見失った幻影は、口々に問う。
『お前は過去を置き去りにするのか?』
『見ぬふりをして逃げるのか?』
「いいえ、お答えします。貴方の残影は、その根源は「誰かの記憶に残る」――執着か?」
|照魔鏡《ショウマキョウ》――質問と共に放つ耀きを、見当たる限り戦場全体に照らすようにしてやれば呻く声が鏡吾の耳に届く。
『忘れされるだけの過去が、現在から未来に夢を見て――噛みつくが如く乱暴に責め立てて何が悪い』
忘れる方が悪いのだ。忘れたからには、過去には攻撃する権利が生まれるのだ。
敵の言葉はそう取れる。いや、鏡吾の得られた解答はなんだか物悲しいと感じる。
――ああ、寄り添う場所を選べない弱い魂だ。
「貴方は名前を語らない。こちらに忘却や罪を問い責めるだけ。ああ、わかりました。記憶の鍵――存在を確固たるものにする"名前"を|亡《な》くされた事がただ哀しい、のですね?」
大成功
🔵🔵🔵
フィオリーナ・フォルトナータ
この香りが幻覚を見せる類の物であるならば
誰が現れるかなどわかりきっている
僕を忘れたの?
無邪気に問いかけてくる主様
災魔が起こした戦火に呑まれた故郷で
幼くして命を奪われた、わたくしの唯一の
貴方を忘れたことなど片時もありません
貴方を守る為に創られたわたくしが
貴方を守れなかったこと
…後悔しないはずがないのです
わたくしに出来るのは戦い続けることだけ
いつかこのつくりものの身が役目を終えた時に
胸を張って貴方に逢えるように
…いつかまたお逢いしましょう、主様
たとえ幻でも貴方に逢えたこと
それを嬉しいと思ってしまうのは愚かでしょうか
逢魔が辻の主の姿を認識できたならば
迷わず剣を抜いて距離を詰め
聖煌ノ剣を見舞いましょう
●郷愁
胸を満たしたのは優しい香り。
しかし、むせ返るように色濃いそれはフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)に来訪者の訪れを確かに見せつける。
『もう、忘れてしまった?ねえ、僕を忘れたの?』
――誰が訪れるか、分かりきっている。
少女の空色の瞳に映るのは、追憶の庭より訪れたあり得るハズのない優しい|夢《幻》。
無邪気な問いかけてくるのは記憶の中最後に見た姿と全く相違点が見つからない。
――主様。
災魔が起こした戦火に飲まれ、命を奪われた故郷で見た姿そのもの。
――わたくしの唯一の。
幼くして命を炎の中に溶け込ませてしまった夢の続きを此処で瞳に映しているなんて。
『無言は、肯定かな』
「いいえ。貴方を忘れたことなど片時もありません」
問いに否定を返せば、問いかけてくる言葉には疑問が生じる。
『今の今まで忘れてたんだよね?』
知っているよ、と言いたげだ。
しかしフィオリーナは問いかけ自体を否定する。
「貴方を守る為に創られたわたくしです。貴方を守れなかったこと……後悔しないはずがないのです」
終わりは確かにあったのだから。
剣を振ることしか出来ない人形が、ただ一人残された過去は存在したのだから。
『でも忘れていくんだって、知ってるよ』
悲観的な言葉が紡がれるが、これはさて誰の意思だろう。
ごお、と周囲が炎で燃え盛る。いつの間にか手にしている色褪せた台本を、ポンポン叩く彼は擦り切れたページを捲りながら、炎の檻に自分を焚べようとする。これでは過去の再演だ。
幻覚だとしても――今目の前にある光景は。
故郷を焼く炎の音は、全てを焦がし尽くすほどほどの激しさだ。
「わたくしに出来るのは戦い続けることだけ。ずっとずっと忘れず、いつかこのつくりものの身が役目をを終えた時に胸を張って貴方に逢えるように」
フィオリーナは、ふわりと表情を和らげて微笑みを称える。
「貴方に、またお会いする為忘れません。ですから――」
眺めていたのは時間にして数秒。主の幻が炎に呑まれきってしまう前に。
たん、と激しく踏んだ大地を軽やかに飛んで距離を詰め、剣は迷わず抜いていた。
その光は|聖煌ノ剣《ブリリアント・ジャッジメント》――聖なる光を帯びた剣。
輝きは、幻想も幻も幻覚も、必ず捉え炎さえも断ち切る一撃。
――最後に告げる言葉なんて、言わないで。
例え幻でも、幻覚でも此処に確かに貴方を見たこと。
それを嬉しいと思ってしまうのは、愚かでしょうか。
「――いつか、またお逢いしましょう。主様」
耳元に優しく、"また"と告げながら。
両断し、見えていた周辺の炎も幻影はサクラの匂いがかき消して霧散する。
埋め尽くすは全ては、後悔から進んでいく光持つ者の為に。
大成功
🔵🔵🔵
葛城・時人
後悔は絶対に必要なものだ
ない、しない人間は絶対にいつか
二度と上がれない底に堕ちる
俺はそう考えてる
でも
それだけに耽溺するのも間違ってる
その場所に留まり続けても
果てのない地獄があるだけだ
だから俺は歩もう
あの時決めた通りに
一歩進む度文字が満ちる
俺に降り注ぎ押し寄せてくる…
後悔は無論山のようにあるよ
いくたりもいくたりも現れる
俺の前には後悔がいっぱいだ
助けられなかった親兄弟助けられなかった被害者たち
そしてー
問われても歯を食いしばるしかない
だけど
「解ってる」
声を絞り出す
ちゃんと、全員、わかっているよ
だから
「幾度でも謝るし息を引くまで忘れはしない」
能力者の時からずっと刻み掲げている事を告げて
「でもだからこそ。立ち止まる訳にはいかないから」
影法師たちを真っ直ぐ見据えたまま
命還光を詠唱して
影を光で焼き本当の敵を視よう
「…やっと会えたね。礼を言うよ」
怒りは無い
居たのは俺の行いの果てだから
「だけど、毒が過ぎるね」
俺は耐えられても消せても
出来ない人も沢山いるだろう
「店じまいだよ」
もう一度意思を強く持ち光で貫こう
●過去が喚んでる、未来が叫んでる
空気が、肌を凍えさせるほどに冷たい。
逢魔が辻に創られた迷宮はそんな学生時代、叫び声を大地に溶かした来訪者達の残響散歌。
幻聴だ。声が聞こえるなど。
怨嗟の声。忘れたのかと、縋る声。声、声。
自爆霊たるゴーストが此処に居るハズはない。此処に居るのは――。
葛城・時人(光望護花・f35294)は首を横に振る。
サクラの匂いと濃い煙。幻覚を喚ぶこの場所は、真実毒と幻覚の庭だ。
「後悔は絶対に必要なものだ。だから、忘れることなんてない」
後悔しない人間は絶対にいつか、二度と上がれない底に堕ちる。
それは時人の思う考え方。後悔なくまっすぐ進む為、我武者羅に走った結果見つめてこなかった過去に足を掴まれる。
悲惨な目に遭う、困難となって現れる。戦いに赴く身としては何度もあって窮地に立ちたいものではない。
――俺はそう考える。
「だが、ひとつに耽溺するのも間違ってる」
正しいことは常に一つじゃない。
自縛の道を歩くのも、果てない地獄へ疾走るのも同じことだ。
だからそう、踏み出す一歩は必ず見つめる。
――"あの時"決めた通りに。
歩みを止めず声を聞き続ける。
忘れたのか、忘れるな、俺は誰だ、忘れないで。文字が視界に見える世界を埋め尽くし蠢いている。
誰かに伝える為のメッセージであり、誰にも届かない悲鳴のようでも有る。
「後悔は無論、山のようにあるよ」
学生時代、結社や学園全体を見て亡くしたモノは|幾人《いくたり》も。
数えだせば時間が足りない。現われては消える想い出の中にそれはある。
「俺の眼の前には後悔がいっぱいだ」
助けられなかった命の灯火。親兄弟を助けられなかった被害者たちの幻聴さえもまた後悔に色濃い。
「だけど――」
『忘れるのか、"わたし"を。"わたしたち"を!』
手を伸ばす人影は時人の腕を、足を掴まんと伸びてくる。
迷路たる壁から直接伸びる腕は、ああ知覚したくない。憶えの有る腕ではないか。
問われても、問われても歯を食いしばり時人は意識を曲げない。
「だけど!解ってる……」
絞り出した声は、想いの重さを従えて確かに吐き出された。
今自分を捕まえる腕は。背中越しに聞こえる声は。
忘れられることを嫌がる声は、そうだ。時人は憶えている。
――ちゃんと、全員、わかっているよ。
「幾度でも謝るしこの息が引くまで、忘れはしない」
能力者の時から、ずっと刻み掲げている。きっとこれからも、刻み続けるものでも有る。
『忘れ、ない……?』
「ああ。でもだからこそ、立ち止まる訳にはいかないから」
周囲と取り巻く影、影影、影。
どの顔も、よく見えない。影法師は確かな顔の線を結んでいない――。
「顔を良く見せて。――……やっと会えたね。礼を言うよ」
影法師の眺め見て、素早く詠唱を口ずさむ。
|命還光《イノチカエスヒカリ》は、目を焼くほどに輝いて周囲を光で焼き尽くす。
ただ一人だけ山羊の足を持つ存在が目を細め"視られている"と知覚した。
あえて視覚を焼く事に注力したのだ――空間の主ならば、この場に居ると思ったから。
『死と隣合わせの後悔だらけの道は確かに未来へと至る、と?』
煙を纏い、直ぐに姿を晦ましそうな贖罪の山羊は、見定める。
「忘れる人ばかりが人間ではないのさ。此処は毒が過ぎるよ」
蠢く影法師の怨嗟への怒りは時人は持たない。
――俺の行い、その果てが此処に広がっているだけだから。
『一時の思い出させる悪夢、幻覚。それさえお前は否と言うのだな……面白い』
喉を鳴らして笑う山羊に、首を横へ振る。
自分は耐えられても、必ずしもこの道に迷い込んだ全員が耐えられるとは限らない。
猟兵はよくても、帝都の民が紛れ込んでは大変なことになる。
耐える事が出来ない――そんな人だっているはずだ。
「いい加減、情報収集は終わり。此処で店じまいだよ」
創世の光を再度放つ!すると、山羊は慌てて煙の向こうに姿を消した。
致命的な傷をその身に受けながら消える様は滅ぼした――とは到底思えなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ノヴァ・フォルモント
視界を覆う煙、桜の香り
ああ、何だか覚えがあるな
後悔を抱いた相手だって?
俺にはそんなの一人しか居ないだろう
己に似た風貌で、然し宿る色は全くの別
流星の様な銀糸の髪、天色を映した星の瞳
俺の双子の弟の姿だ
けれどその背丈は随分と低く幼い
そうだな、俺が置いてきた後悔はこの頃に在ったか
懐かしい声で問いかけられる
忘れたことなど一度もないさ
俺が今こうして旅を続けているのだって
おまえを探す為なのだから
故郷を失くし、幼い二人で旅に出た
はじめて見た外の世界に密かに心躍らせて
けれど或日、おまえは忽然と姿を消した
何の前触れもなく
いや、本当はなにか在ったのかな
あの頃のことはもう上手く思い出せなくて
だから俺の後悔は
あの日のあの時に置いてきてしまったんだろう
あの日に帰れたらどんなにと何度思っただろうか
けれどもいま俺がこうして此処に居るのは
独り彷徨う永い旅路が在ったからこそ
その旅路で得た沢山の縁や知識
それらを全て無かったことにするのは少し惜しいと想う俺も居る
薄情だと思うか?
返事はないか
あったとて、本物のお前では無いのだから
●輝きは胸の中に
視界を覆う煙、光差すは余りにか細い。桜の香りが鼻腔に触れる。
「ああ、何だか覚えがあるな」
記憶の片隅に、既視感を覚えるノヴァ・フォルモント(月蝕・f32296)。
影朧にとって"件の合法阿片"を利用するのは都合がいいのだろう。
『 』
「聞こえないよ。ほら、しっかり喋って」
足音を聴いた。誰が来たのかなんて、想像は付く。
後悔を抱く相手、そんな存在ノヴァには――"ひとり"しかいない。
『 』
振り向くと、ノヴァに良く似た風貌の視線とぶつかる。
然し宿る色は全く別の彩。
夜空に浮かぶ月色とは対象的に、銀糸を紡ぐ流星の髪が靡く。
黄昏色に似た朱色の瞳にぶつかった視線は、天色を映しとったような星の瞳。
ノヴァの双子の、弟の姿に相違ない。
「……ああ、成程」
しかし、その背丈は随分と低く幼いモノだ。
「俺が置いてきた後悔はこの頃に在ったか」
低めの背丈で見上げる瞳は、確かに声を紡ぐ。
ノヴァの耳にやっと――届いた。
何を呟いていたのか。何を囁いていたか。
『――。……――声まで、忘れてしまった?』
「そんなまさか」
懐かしい声で問いかけられる。
存在は過去に確かに憶えていて、然し声は失われたのかと。
記憶の中に声は、ないのかと。
「忘れたことなど一度もないさ」
空間に幻か、本物か、判断のつかない月明かりがスポットライトのように逢魔が辻を照らしだす。
煙を照らす旅路を月明かりは朧げで、月もまた存在を認知できない。
しかし空に見えないものは大きくもう一つ。それは、ノヴァが探すモノを象徴する。
「俺が今こうして旅を続けているのだって、――おまえを探す為なのだから」
故郷を失くし、幼い二人で旅に出た。
あの日は悠く、然し今でもはっきりノヴァは憶えている。
はじめて見た外の世界に密かに心を踊らせて、けれど或日突然終焉はやってきた。
忽然と姿を消した星は、探しても探しても再び瞳に捉える事が叶っていない。
突然、何の前触れもなく――消えてしまった。
「……いや、本当はなにか在ったのかな」
あれからもノヴァの時間は進んでいる。
「あの頃のことはもう上手く思い出せなくて」
――ああだから俺の後悔は。
朧月夜のように、霞んだ記憶の中をこうして罪有る過去として選んだのだ。
――あの日あの時に置いてきてしまったんだろう。
『だから、声を――忘れてしまったって?』
罪の意識を深くすれば、残酷なほど弟の声は澄んで耳に流れ込む。
ノヴァはゆるりと首を振る。
忘れていない。忘れない。確かなきっかけだけはあるのだと、示すように。
『なら、"あの日にかえろう"』
周囲の光景が、確かに見た憶えの有る夜の光景を再現していく。
道を迷えば過去へ至るそんな道を照らそうとでも言うように月の光は綺麗なものだった。
迷路であるかを疑う程だ。月に並ぶは星の数々。逢魔が辻が更に過去を写し取った迷路に姿を換えていく。
――あの日に帰れたらどんなにと何度思っただろうか。
数え切れない。何日も何夜も、月日の数だけ想う。
「けれど、今俺がこうして此処に居るのは」
あの日を過去に、現在から未来へ歩く星の旅路を選んできたから。
自分だけが語る、自分の想いを頼りにこの路を。
「独り彷徨う永い旅路が在ったからこそ」
後悔はある、しかしそれは今の生きる経験として生きている。
必要なものだった。
「旅路で得た沢山の縁や、知識――それらを全て無かったことにするのは少し惜しいと想う俺も居る」
あの日はノヴァにとって分岐点。此処にもまた、あの日の分岐が手招いている。
今に続く後悔でもあり、忘却するはずのない今へ至る星灯り。
手を伸ばす弟は兄の手を取りたがっているが、ノヴァはその問いには答えず問いで返す。
「過去ではなく今を選ぶ俺を――薄情だと想うか?」
柔らかな竪琴を、ふわりとかき鳴らす。降り注ぐは|星の雨《ホシノアメ》。
嘘偽りではなく、ノヴァの起こす本物の流星だ。
光が空間に舞い降りる。夢幻ならば、正しく自分の夢の中に消えるといい。
『――』
答えは、ノヴァの耳に届かない。
ぱくぱくと、何かを言いたげにした口元が何かを呟いたのは間違いなく見て――踵を返す。
「……返事があるとは思わなかったな」
本物の弟ではないのだから、何を答えられても選ぶ手はノヴァにはない。
然し確かに――。
忘れずにいる事に満足したのか。弟は確かに、何をされるのか分かったように。
『……おやすみ』
そう呟いたように見えた。今日の夢を、安らかな眠りを残響は、ノヴァの言わなった言葉を呟き静かに夢の終わりを受け入れて雨の向こうに消えていく。幻覚でも悪夢でもなく――夢見の路先は、ノヴァの歌声に乗せて。穏やかな風が、桜の匂いを攫っていく――。
大成功
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紫・藍
阿片、でっすかー。
麻薬というのは時に芸術とも関わりを持ちますがー。
思わぬ形で機会を得ましたねー。
ではでは一服なのでっすよー。
……あや?
あやや?
これはその……。
真っ直ぐな道の先に山羊さんがいらっしゃいますねー?
世界に立つ己自身に胸を張り、笑って終われる藍ちゃんくんであり続けて来たのでっしてー。
後悔の欠片もないということでっしょうかー!
嬉しいことなのでっす!
いえ、せっかくの幻、せっかくの迷宮を用意してくださったというのにそれを台無しにしてしまったという点では申し訳ないのですがー。
私は誰、でっすかー。
Nem'oubliez pas。桜の花言葉には、私を忘れないで、というものがありましてー。
山羊さんは忘れないで欲しいという願いや、それでも忘れられてしまった方々、或いは忘れることを罪だと感じるほどに誰かを忘れたくないと想い続けた方なのではないでっしょかー?
歌うのでっす。感情を呼び起こす魂の歌を。
山羊さん自身が自分の後悔=執着を思い出す歌を!
私は誰だ。その答えはご自身と向き合って自分で出すものかと!
●物語の名は――
空間にまず降り立ち、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が肌に感じたのは、湿度有る重さ。幻なんかじゃない煙、煙、煙――。
「これが阿片で造られてる、でっすかー」
所謂、麻薬。しかし麻薬と呼ぶには、優しいサクラの香りまで合わせて害あるものには思えない。
後遺症すら残すものではないのなら、芸術の域にだって近いだろう。
思わぬ形で機会を得た、とさえ思った。
「ではでは一服なのでっすよー」
香りを集めて、胸いっぱいに吸ってやろう。
受動喫煙、に似た気分にはなるが――いい香りなら、胸を満たしたって苦痛ではない。
少しの間、匂いを楽しんで――しかし、違和感が視界の隅から現れる。
「……あや?」
幻覚か?自分の目を疑ったが、煙の群れ、空間を敷き詰める文字の群れの中に確かに何か居る。
「あやや?これはその……」
まっすぐな道の先、山羊の足を持つ空間の主が存在した。
『……なんだ、惑ぬのか』
「何を隠そう、いえいえ隠してないのでっすがー。世界に立つ己自身に胸を張り、笑って終われる藍ちゃんくんであり続けて来たのでっしてー」
へへっ、と笑う藍に対し、贖罪の山羊は怪訝な顔をする。
過去が声をかけぬとは解せぬ、と。
「後悔の欠片もないということでっしょうかー!嬉しいことなのでっす!」
形も姿も朧の何かが、煙の中から現れようとしては霧散する。
呼びかける声も、藍に届かない為に形が保てないのだろう。
認知されてこそ|幻《現実》――。
『そうか。では此処はどこまでも真っ直ぐな場にしか見えてないのだな。形を結べなければ、夢も幻も幻覚も、何一つこの場において無駄だろう』
「いえ、此処だけの話……せっかく幻、せっかくの迷宮を容易してくださったというのに舞台にあがらず台無しにしてしまったという点では申し訳ないのですがー」
『私は誰だ。この場において、真実でしかない。私とは。縁も縁もないだろう、お前は私を何と言い表す?』
山羊はただ、冷たい視線で藍を見た。
「そうでっすねー」
しかし視線などどこ吹く風。
「"Nem'oubliez pas"――此処の匂いはサクラミラージュであると言いながら、桜の匂いが強すぎるでっすねー。意図したものなんでっすかー?桜の花言葉には、"私を忘れないで"というモノがありまっしてー」
忘れてほしくないのは誰か。
忘れたのは誰か。忘れ去ったのは"何"か。
「問いかけぜーんぶ、返答を願ったのは山羊さん自身ではないでっすかー?」
自分以外の誰かの罪を呼び醒ます、呼び掛けるには都合が良かった合法阿片。
『忘却は罪だ。忘我もまた同じく罪だ』
「山羊さんは……忘れられてしまった方々、或いは忘れることを罪だと感じるほどに誰かを忘れたくないと想い続けた方なのではないでっしょかー?」
問いかけられる側から、問われる側へ。
藍の匠な話術の前に、段々と言葉を欠落させていく山羊がいる。
『忘れたのは……』
「歌うのでっすよ!此処で、さあ歌うのでっす。感情を呼び起こす魂の歌を!」
藍テール(アイチャンクン・アオゾラステーッジ)!
声は歌は、空間を晴らす導と為ろう。
天を覆う闇も障害も、心無きものにすら感情を呼び起こす魂の歌を響かせる藍の声に、山羊は頭を抑える。
凛として晴れやかに。空間の淀みだって正しく夢の終わりに連れて行こう。
「山羊さん――この場で一番初めに"忘れたのは誰でっすかー?"」
――私は誰だ。
――その答えはご自身と向き合って自分で出すものかと!
忘れたのは誰か。
誰か。だれか。ダレカ。求めるような文字列は何の為に。
過去の産物、後悔と時間を司る名前を喪った"|贖罪の山羊《スケープゴート》"。
お前は誰だ。その名は――。
『……私、か。私だな。忘れられたのは――未完の物語、完結する前に忘れられた色んなモノ達の思いの寄せ集め』
「思い出したのでっすねー?聞かせて下さってもいいのでっすよー?」
『かつて喚ばれた名は、……ロアだ』
その表情は明らかに、晴れやか。藍に釣られたように、微笑んでみせた。
『ああ、やっと思い出した。完結してもいい|終焉《エンディング》の"名前"を……』
文字の中に生まれた自我、登場人物たちの思いの集まり。
言わば力を得た、名前を忘れた影朧に過ぎない。
『此処に綴ろう終わりの名、私の名を。人生とは物語、その中には確かに』
|登場人物《エキストラ》でも、記述されなければ成らない。
『夢を見る時間はこれにて終わろう。探しものは、確かに――見つかった』
|贖罪の山羊《スケープゴート》は手元の書物に文字を綴り、ぱたんと本を閉じる。
すると、周囲の文字は霧散するように消え失せて、生贄の名を関する山羊は夢幻と消えていく。
『今の主題はきっと――過去を忘れぬ者たちの冒険譚、であるべきだろう』
過去の人物たちは、夢と黄泉の隙間に再び消えよう。
それでも"忘れないで"、"思い出して"とその声を届いた相手に響かせながら。
大成功
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