帝都櫻大戰①〜義を見てせざるは
●見えざる将
曾て帝都を制圧した者がいたという。
ソウマコジロウ――彼は幻朧帝の危険を知り、行動したが……歴史の闇に葬られる。
果たして幻朧帝に反旗を翻した男は、その仇によって透明軍神『ソウマコジロウ』として望まぬ蘇生に憂き目にあうも。
青山の『帝都桜學府本部』を制圧し、サクラミラージュの大地破壊儀式を遂行せんとしている。
「まったく趣味の悪ィ話だな?」
ニヤニヤと阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は笑って、猟兵達を見る。
「ってわけで、この戦いは、人助けだ! 一銭の特にもならないやつだな」
余計な一言を足しつつ。
ソウマコジロウを、意に沿わぬ戦い、意に沿わぬ儀式――それから解き放つ。
「奴は、サクラミラージュ軍部によって生み出された最初の怪奇人間なんだとさ。強力な透明人間で、身体はおろか、武器やユーベルコードすら透明化できるってんだ」
便利な能力だな、と本気で羨ましがり、
「そんなわけで、能力を活かして、さっくり先制攻撃をしかけて来やがる。手心の一つも知りゃしねぇ」
口をへの字に曲げたまま、サイカは続ける。
「ま、ダーリンどもなら大丈夫だろ。何とか突破口を見出せ。草臥れ損の只働きは、悪党だろうと善人だろうと嫌なもんだ」
任せたぜ、そう告げ。
猟兵達を、戦場へと放り出すのであった――。
●帝都桜學府本部の一画にて
桜の花弁が降りしきる……学び舎の。
透明軍神『ソウマコジロウ』は、ただ時を待つ――。
傀儡として、儀式が成ることを。
己を止める、猟兵の訪れを。
そして、曾ての学徒として、幻朧帝が倒れることを――。
黒塚婁
どうも、黒塚です。
やっぱり桜の下にはなんかあった!
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プレイングボーナス:敵の必中先制攻撃に対処する/敵の透明化能力に対処する。
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個人的には「必中先制されるからこそ、それを利用してなんとかする」ほうが好みでございます。
透明化は対処しない限り、解除されないものとお考えください。
会話のために姿を現すとかはあるかもですが、戦闘となれば、透明化して気配も消えちゃうイメージで。
●プレイングに関して
導入はありませんので、公開時より送っていただいて構いません。
期限はシステム上受けつけている限り。
書けそうな方を書けるだけ。
ですので、プレイングの送信は何時でも構いませんが、締め切りの都合で書けないということも多々あります。
内容問わず、全員採用はお約束できませんので、ご了承の上、参加いただければ幸いです。
それでは、皆様の活躍を楽しみにしております。
第1章 ボス戦
『ソウマコジロウ』
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POW : 透炎剣
【透明化中に見えない炎を帯びた刀】で虚空を薙いだ地点から、任意のタイミングで、切断力を持ち敵に向かって飛ぶ【透明な炎】を射出できる。
SPD : 透明魂魄軍団
【叛逆の同志たる「透明魂魄軍団」】の霊を召喚する。これは【全身を透明化したまま戦闘を行える能力】や【様々な和風の武器】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 透明念動弾
【自身を共に透明化した装備】から【見えざる念動弾】を放ち攻撃する。その後、着弾点からレベルm半径内が、レベル秒間【透明化】状態になる。
イラスト:秋原 実
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携歓迎
ソウマコジロウ。
御身の見えざる義、果たしてみせマショー!
貴殿の手でサクラミラージュは破壊させマセーン!
透明化の状態は、なるほど脅威的でありますな!
しかし、攻撃が当たるということは実体があるということ!
攻撃を仕掛けてきた直後に、カウンターを狙いマース!
二本のファルシオンソードを構えて、スタンバイ!
透炎剣が飛来する、空気を斬る音・炎の熱を見切って切り払い!
技後の隙に内蔵式兵装展開! フルバースト・マキシマム!
見えずとも、攻撃射程にいるならば全方向に範囲攻撃をばら撒けば当たるという作戦デース!
防がれたり着弾したり、そうした感触を察知した地点に目測でファルシオンを叩き込みマース!
●一斉発射!
古来より、この国では、散りゆく桜の花弁に、様々な思いを馳せる。
去りゆく季節、死にゆく者の無念――美しくも儚い光景に、つい思わずにはいられぬのだろう。
果たして、尽きること無き幻朧桜が、何を孕むのか。
解き明かして尚、敗れた男が、静かに佇んでいる。
透明軍神『ソウマコジロウ』――その前に立ち、名乗りをあげるはバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)であった。
「ソウマコジロウ。御身の見えざる義、果たしてみせマショー!」
威勢の良く彼女がそう告げると、ソウマコジロウは、微かな笑みを見せた。
本当の彼は、それを望み。
今の彼――透明軍神は、彼女達を一蹴する力を振るわんとする――相反する感情を纏めた、複雑な貌。
だが、それが見えたのも僅か。
既に、バルタンの視覚を初めとする五感の全てから、透明軍神は消え失せた。
「透明化の状態は、なるほど脅威的でありますな!」
脅威と称したものの……バルタンは焦りを見せぬ。
肉切り包丁のように無骨な刀を二対、それぞれの手に提げた彼女は、その時を待つ。
――熱い、感じた時には、身体が灼熱に襲われていた。
(「空気を斬る音と、炎の熱で見切るつもりでしたが!」)
虚空を斬ってから、射出は任意――飛来する炎の大きさも、透明では掴めぬ。
己に纏わり付き、燃えさかる炎すら、透明で見えぬ。
敵が今どこにいるのかも、当然わからぬ。
しかし、バルタンはますます不敵に笑ってみせた。
「なんのこれしきデース!」
今まで数々の強敵難敵と戦ってきたサイボーグメイド娘は、叫ぶ。
「内蔵式兵装展開! フルバースト・マキシマム!」
振るうは、両手の剣ではなく。
火炎放射器やらグレネードランチャーやらガトリングガンやら――その華奢な躰に内臓されている重火器をすべて解き放ち、全方位に一斉掃射する。
静寂な世界は、一転、けたたましい爆音に斬り裂かれ、地獄の如く炎熱の渦が巻き。
激しいでは済まない弾幕の中――突如と、透明軍神が姿を見せた。
全身に銃痕と燻る馨を纏う男へ、同じく炎と熱を身に宿した儘のバルタンが、朗らかに告げる。
「貴殿の手でサクラミラージュは破壊させマセーン!」
それに、男は再び笑って――また、姿を消す。
しかし、派手に散った血だけは、消えることなく残っていた。
成功
🔵🔵🔴
夜刀神・鏡介
以前はソウマコジロウの復活を防いだ訳だが――まあ、秘密結社に好き勝手される訳にもいかなかったしな
あれはあれで正しかったはずだ、きっとな
大刀【冷光霽月】を構えて敵と相対
若干申し訳ない気持ちはあるが、この強敵相手にとやかく言ってはいられない
建物、あるいは周辺の地面などに一撃叩き込み土煙や瓦礫などを舞い散らせる
見えないとしても敵や攻撃は「存在する」のだから、それらの軌跡で位置を把握する事ができるだろう
尤も位置を把握したところで回避は困難。少しでも被害を抑える形で攻撃を受けつつ、此方から敵の方に向かって踏み込んで
敵の刀か、時間差で飛んでくる炎を掠めるように受けながら剛式・漆の型【転禍】で思い切り斬る
●空を捉える
差し出した掌に、桜の花弁が落ちてくる。
何処にいても、幻朧桜からは逃れられぬ。絢爛に咲き、散っていくが、枯れることのない桜……。
「以前はソウマコジロウの復活を防いだ訳だが――まあ、秘密結社に好き勝手される訳にもいかなかったしな」
結局、このように無理矢理復活させられてしまったのかと、夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)は、天を仰いでささめく。
「あれはあれで正しかったはずだ、きっとな」
あの時に復活した場合には、きっともっと凶悪な敵として蘇ったのかもしれない――今となっては、想像するしかなく。
目を向けるべきは、今この現実の戦いに違いない。
透明軍神『ソウマコジロウ』――穏やかにも見える、厳かにも見える、軍神という二つ名も納得の行く姿に。
熟達したと傲りはせぬが、数多戦い抜いてきた自分よりも、まだ強い敵がいる薄ら寒さ。
怖じ気づくことは、ないのだけど。
(「若干申し訳ない気持ちはあるが、この強敵相手にとやかく言ってはいられない」)
足元の土を乱暴に抉って、土と砂を巻き上げる――。
(「見えないとしても敵や攻撃は「存在する」のだから――」)
そう考えた瞬間、前方に立っていたはずのソウマコジロウの姿が、消えていた。しかしそれは想定内、鏡介は焦らず、周囲の変化を広く捉えるべく目を凝らす。
果たして……その変化は起こった。
土埃そのものが忽然と消え失せる。
然し、その位置を捉えた瞬間、灼熱が鏡介の身を焦がす。
透明な炎は、鏡介の身体を灼きながら、やはり透明な儘。
――これも、想定内。
否、想定よりもばっちり当たってしまっていたとしても――身体が動くならば。
鏡介は全力で地を蹴り、見定めた地点へと詰める――前へと躍りながら振り上げた大太刀が、唸りを上げた。
「一刀で打ち崩す――剛式・漆の型【転禍】」
そこに透明軍神がいると、確信を持って斬り下ろす。
手応えは、あった。防具を破壊し、肉を断つ強烈な一刀。自身がまだ炎に苛まれていることから、最大威力で斬りつけたはず――。
「……っ」
揺らぐ気配が眼前にあった。透明化を一時解除した男は、鏡介の間合いから血を滴らせながら離れていく。
「そして今回も――これが正しい」
そうだろう、静かに尋ねて、鏡介は微笑を向け。
再び青眼に構えて、透明な力とぶつかりあった――。
成功
🔵🔵🔴
鷲生・嵯泉
志在ったものが嘗ての意に反した行いを強制される、か
幾度と無く耳にした話だ――しかし幾度聞いても不快極まる
ああ、止めねばならん
気配すら消えるなら位置を探すは無意味
しかし見えずとも動けば空気に変化は伝わろう
先ずは集中した第六感で以って周囲に生じる変化を感知する事に努め
致命と行動阻害に至る攻撃を受け切るよう図る
1度でも起点を感知出来れば十分だ――刑牲逸返
痛みなぞ覚悟と耐性で捻じ伏せ
全方位の感知した起点へ、カウンターでの乱撃を叩き込む
透明化さえ反転させられれば十分だ
体捌きに得物の向き等から攻撃を見切り躱し
脚力に怪力回しての全力の踏み込みで接敵、一気呵成に“軍神”を叩き斬る
案ずるな。時は訪れよう――必ず
●反転
誰もが将来を夢見て、研鑽を積んだに違いない學府にて――志を踏みにじられた者が、そこにあると聴き。
「志在ったものが嘗ての意に反した行いを強制される、か」
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、ゆっくりと頭を振った。
「幾度と無く耳にした話だ――しかし幾度聞いても不快極まる……ああ、止めねばならん」
オブリビオン――影朧……いずれにせよ、意に反して操られる彼らの想いたるや。
透明軍神『ソウマコジロウ』の横顔は、意思の強そうな作りとは裏腹に、寂しく見えた。
嵯泉が何をか言うまでも無く。
男は、嵯泉に気づき、ゆっくりと振り返る。そして、何も語ることもなく――姿を消した。
これが、最初の怪奇人間たる男の、透明化。音も熱も何もかも消えてしまう完璧な透明人間を前に、嵯泉はそっと柄に手をかけ、待つ。
(「気配すら消えるなら位置を探すは無意味――」)
ましてや、相手は、軍神を冠する男。
多少の誇張はあろうとも、その実力は確かなはず。
そんな存在にすべての気配を消されたのならば、後は、現実に起こる変化に目を向けるしかない。
それも、視覚以外の情報から。否、五感を越えた感覚を、研ぎ澄ます。
(「――起点を感知出来れば十分だ」)
残された隻眼すら、閉ざし。
周辺に揺らぐ気配を、感じた瞬間。
身に、慣れた斬撃の感触。触れる鋼の冷たさ、熱さを無数に感じ、嵯泉は目を開いた。
叛逆の同志たる「透明魂魄軍団」が、軍刀抜き払い躍り掛かってきている姿は見えずとも――。
「――其の侭返してやろう、受け取れ」
嵯泉が抜刀するや、刀身が撓む――どころか、鞭状に変化した刃はしなやかに伸びて、空間をデタラメに裂いていく。
透明魂魄軍団も、奔放な刃に無惨に刻まれ、消えていく。
――そう、消えていくのが、見える。
巧く反転したな、と思うは、嵯泉で。敵は眉間に深い皺を刻んで、構えている。
姿が顕わとなった透明軍神の周囲にも、刃でありながら、刃ではありえぬ軌道を描いたしなやかな斬撃に、翻弄されている――儘、嵯泉は強く踏み込み、男との距離を詰め、斬り下ろす。
軍刀を振り上げ、防御の姿勢は見た。
鋼がぶつかり合い、火花が散って、しかし逃れようもない美しい斬撃が、軍神の肩を割る。
高く舞った赤い飛沫の下を潜り抜けながら……嵯泉は静かに告げる、
「案ずるな。時は訪れよう――必ず」
ソウマコジロウの願いは、長い時を経て――猟兵が成し遂げてみせよう、と。
成功
🔵🔵🔴
天瀬・紅紀
まずは凌ぐところから、か
脇構えにて敵陣に立ち、目を瞑る
視覚の分、聴覚と空気の流れに全神経を研ぎ澄ます
刀が風斬る音
槍が突き抜ける振動
質量まで消えてなきゃ空気抵抗は発生するよね
――賭けだけどさ
それで多少目星付けて後は如何に最低限に受け止め流せるか
攻撃される瞬間まで集中
逆を言えば痛み感じた方向に敵がいるって事だし薙ぎ倒してやる
一波を凌いだ段階で最悪首と意識繋がってりゃいいやの心
そして見えないなら面制圧
僕の周囲前後左右180°全ての方向に弾幕の如く紅蓮冥矢放つ
可能な限り隙間無くぶっ放せばまぁ一つか二つは当たるでしょ
もし不自然に空中で消えたならコジロウが焔矢を斬った証だろう
即座に集中弾幕当てるのみ、かな
●さながら、火計
破壊の残滓と、血の臭い。
幻朧桜の花々がひらひら舞い落ちる幽玄のフィルターをかけようと、此所は紛れもなく戦場だと解る、臭い。
そこに、次に現れた長い白髪を靡かせた青年――刀を佩いた天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は――纏う外套もあって、薄灰の世界に、ぽつんと赤いインクを垂らしたように浮かび上がる存在感があった。
透明軍神『ソウマコジロウ』は己が流した血から離れて、紅紀を一瞥した。
「まずは凌ぐところから、か」
真っ直ぐ見つめ返した紅紀は囁き、抜刀するや――脇構えをとる。
鋒を身体に隠す防御の構え。
そして、目を閉じる――彼の身体は、白い貌は、ぴたりと時が止まったかのように動かない。
透明軍神は、その姿勢を、ただ無防備を晒したとは考えまい。
証左、男は紅紀が抜くや、すぐに姿を消している。
元より、視界に求める情報はない。ユーベルコードすら覆い尽くして消える敵――耳を澄ませ、彼が呼び出したであろう透明魂魄軍団の武器を考え、それらが我が身に迫る感覚を読む。
(「質量まで消えてなきゃ空気抵抗は発生するよね」)
風切り音、踏み込みの揺れ……髪の先の違和感まで感知できるよう精神を研ぎ澄ませ――内心、笑う。
(「――賭けだけどさ」)
そんなものが掴めるのか、どうか。
音すら消すだろう敵の能力を思い。結局は、出たとこ勝負――痛みを感じてからが本番だという、覚悟。
刹那、鋼の感触が走る。腕、肩、腰、正面から長物で斬りつけられる予感と、痛み。
(「攻撃は正面のみ! しかし、ソウマ某の方向は――」)
解らない、解らないが、この後に及んで背後をとるような卑怯な男ではない――気がした。
だが、念には念を。
そう思案し動き出すまで、まさに瞬きの間に。
「この火緋色の矢は何者も決して逃がさない」
ぼうっと、緋色の揺らめきが浮かんだ――否、燃え立つような緋色の光がずらりと彼を中心に広がって、火中のように赤く染まる。
ごっ、空気が燃える音が、全方位に弾けていく。
「可能な限り隙間無くぶっ放せばまぁ一つか二つは当たるでしょ」
灼熱が風を起こし、紅紀の髪が乱れた。無数の矢による圧倒的な熱量は、紅紀に軍刀や銃剣を突きつけていた透明魂魄軍団をも焼き払い、そして。
一部の矢が、ふっと消え失せる。
「そこか」
紅紀は、獰猛な微笑みを浮かべ――残る矢を、其処へすべて注ぎ込む。
むせかえるような熱。木材が焼ける異臭。
その中央に、紅蓮の炎を腕に絡められた軍人が、睨むような、笑うような眼差しで紅紀を見つめ――炎と共に、再び消えた。
成功
🔵🔵🔴
ハイネ・アーラス
人助けという言葉もひとによっては随分と変わるようで
姿は見えずとも、炎は感じられるか
熱を感じる一瞬があれば僥倖
口元を覆い、ナイフを持つ手を庇いましょう
一応耐性もあります
後は——この身で炎を耐えきる
炎が俺を蒸発させるか、俺が飲み干すか
傷みには耐えますとも
致命が避けれればそれで良いですから
この身を保てば
次は、俺の番です
静謐の宴へお招きしましょう
この雨が、月明かりがあなたを見つけだす
そしてこの毒は…貴方の刀でも斬れはしない
姿は見えずとも、雨は体を弾きましょう
月明かりの下であればそれも目立つ
雨が軍神に触れる音、違和感を感じた場所に踏み込む
透明人間である相手が、この手の術に対策が無いとは思えません
向こうには俺が見えているのですから、牽制よりナイフを手にすぐに仕掛けます
この毒だけで倒れるような方でも無いでしょう
相手の出方を、戦場の音を逃さず
この一振り、確実に届けましょう
貴方を、殺しに来ました
俺だけじゃ足りないでしょうが…これが唯一の人助けです
●雨と月と毒と――冷たい刃
ハイネ・アーラス(海華の契約・f26238)は戦場にひとり、小さな溜息を零した。
「人助けという言葉もひとによっては随分と変わるようで」
無論、誰の話というわけではない。ないのだ。
軽く目を伏せ、諦めとも微笑みともつかぬ表情の残滓を消す。
今此所にいるのは、ひとふりの刃。
透明軍神『ソウマコジロウ』は其処にいる――透明に、姿を消して。
血の臭いも硝煙の臭いも、彼の居所を探す材料とはなり得ない。渾沌と掻き乱された破壊の跡、戦意の余韻は、良くも悪くも戦士の気配を消してしまう。
だが――それと、己に向けられた殺気という熱量は別だ。
ましてや、本当の熱量を持った攻撃ならば。
(「熱を感じる一瞬があれば僥倖――」)
口元を覆ったハイネは、ナイフを握る手を庇う姿勢をとると。そのまま、待つ。
セイレーンの、ソーダ水の髪――身体もそうだが――が、ゆらゆらと足元に不規則な陰影が映る。
空気が、ちりちりと焦げていく――のは、気のせいだ。
何も見えない。何も感じない。
だがハイネとソウマコジロウの間には間違いなく、殺気が衝突した時に生じる、独自の緊張感があった。
無限に引き延ばされたかのような、一瞬。
ハイネの――仕立ての良い、柔らかにそよぐ長い袖が断ち切れ、燃える。燃えているのに、炎が透明ゆえに、勝手に結果が展開しているようにしか見えぬ。
炎だけではない。
ざくりと断たれたのは、袖と――腹。深くはないが、斬撃の鋭く差し込む痛み。そして灼熱が、間違いなく身体を苛んでいる。
しかしハイネは。掴んだ、とその唇が僅かに動いたかと思うと、
(「後は――この身で炎を耐えきる……炎が俺を蒸発させるか、俺が飲み干すか」)
凄絶に笑んで、ナイフを握らぬ腕を前に差し出す。
「次は、俺の番です――静謐の宴へお招きしましょう」
そして、優雅な一礼を。
丁寧に伏せてから、軽くあげた貌の――その髪の奥に覗く赤い瞳は、殺気に煌めく。
「空に海を招きましょう。我らが海を――どうか、ご堪能あれ」
サァァァ、と。
清廉な音が落ちてくる。
破壊された學府の一部に、優しくソーダ水の霧雨が注ぐ。一つは、十メートルあるかないかの局地的な雨が――いくつも、いくつも。
天を仰げば、優美に幻影の鯨が泳ぎ……それが、雨を降らせていると知る。
不意に、あらぬ月明かり。甘く香り立つ……何か。
それは、ハイネと――透明軍神が存在する戦場をしどしどと濡らし、染めていく。
「この雨が、月明かりがあなたを見つけだす――そしてこの毒は……貴方の刀でも斬れはしない」
囁き声は、優しい雨音の中で掠れて聞こえる……。
彼の指摘通り。
不自然に消え失せる雨粒を――月の耀きは、スポットライトのように照らし、見逃さぬ。
弾く音を当てにするまでもない、明瞭な結果。
立ち上る薫香の中、ハイネはソーダ水の水たまりを軽やかに蹴って、その消失ポイントへと馳せた。
袖口から、折りたたみナイフを跳ね上げ、覗かせ――ああ、彼の身体は、まだ燃えながら。抗うように霧をくゆらせ、ハイネは囁く。
「この毒だけで倒れるような方でも無いでしょう?」
甘く香るのは、毒の香。
眠るように逝くのに、肺から腐り落ちるとっておき――尤も、それで絶命させられる敵ばかりでないのが、良くも悪くも、猟兵の戦場だ。
ソウマコジロウは、どんな姿勢でハイネを待ち受けているだろうか。
雨粒が切り取ったシルエットでは、よくわからないが、ハイネは躊躇わぬ。最後の間合い、相手の懐に潜り込むように鋭く跳んで。
触れる前から、濃密な血の匂いが、した。
毒で痛めつけられた肺腑からの生々しい匂いと……数々の猟兵が刻みつけた、消せぬ疵の匂い。
「貴方を、殺しに来ました」
愛を囁くような声音で、白銀の刃を閃かせる。
仕草としては、首筋を撫でるのと変わらない――。
なれど、肉と、筋と、血管を断っていく弾力のある手応えに、ハイネは重い息を吐く。
触れた血は熱く――透明で。
サァサァと落ちてくる雨に流されていく間に、赤色を取り戻す。
ゆっくりと数歩歩いて……振り返れば。
軍刀を杖に踏み止まりながら、崩れ落ちる男の背中が、見えた。
彼の貌は見えぬ――嗚呼、死に様を確かめたいというのは悪趣味だ。そして、想像は付く――晴れ晴れとした……仇敵の思惑に打ち勝ったという勝利を湛えているに違いない。
そんなものを見ても――、自嘲に、ふふ、と息を零して、ハイネはナイフを袖に収めて天を仰ぐ。
消えゆく鯨たち。月灯りも弱く、消えていく中。
桜の花弁ばかりが白く明るく、舞い踊る。
灼熱に炙られた身体が、泡とほどけていく感覚を放ったまま――ハイネは微笑んだ。
「……これが唯一の人助けです」
大成功
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