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うだるような暑さも、太陽が沈めば少しは落ち着く。それが自然に囲まれた丘の上なら尚更だ。
『星屑の丘』と呼ばれる丘を登りつつ、麻生・竜星(銀月の力を受け継いで・f07360)が見上げるのは広がる夜空。
夏の星座が煌めく空を見上げつつ、竜星は目を細める。
「あの丘に行く途中も本当に綺麗な星空だ」
ここでこれだけ綺麗なら、丘の上から見る星々はもっと美しいだろう。
期待に胸を躍らせつつ、竜星は軽快な足取りで進んでいく。目指すは丘の上、幼馴染が待つウッドデッキだ。
その幼馴染である風魔・昴(星辰の力を受け継いで・f06477)は、しっかりと茶会の準備を進めていた。
「軽食はこれで大丈夫。飲み物もこんな感じでいいわね」
一通り準備が終われば、しっかり周囲を確認して。
大きなテーブルには星空柄のテーブルクロスを。その上に並べるのは、お菓子やサンドイッチが綺麗に盛られたお皿。
そしてティーカップセットが二つ、コーヒーカップセットが一つ。準備は完璧だ。
これから行うのは、大切な客人二人を招いた『星空茶会』。星空の下で寛ぐだけでも心地良いが、仲間達との語らいも加わればより楽しくなるだろう。
昴は広がる満天の星々を眺めつつ、静かに客人を待つ。足音が聞こえれば、すぐにそちらに振り返って。
先に丘へとやってきたのは、昴にとって先輩のような存在である北十字・銀河(星空の守り人・f40864)だ。
銀河は昴の視線に気付くと、緩く手をあげて応える。
「今晩は、いい夜だな」
「今晩は、銀さん。うん、最高の夜空だわ。銀さんの席はこっちね」
「ありがとう。それじゃあ竜を待とうか」
二人で微笑みを向け合えば、気持ちも安らぐ。銀河は案内された席に腰掛けつつ、のんびりと空を眺める。
昴も共に星空を眺めていれば、聞こえてきたのは馴染のある足音だ。
二人でそちらに視線を向ければ、思った通り。竜星もウッドデッキへとやってきたのだ。
「茶会の誘いサンキュな、スー。銀さんも今宵はよろしく」
昴に笑顔を向けつつ、竜星が進むは銀河の元。そうすれば銀河は自然を拳を前へと突き出し、竜星が自身の拳をそれに合わせる。
このような挨拶も三人にとっては馴染んだものだ。
今日はしっかりと準備をした茶会になるが、それ以外の時でも三人はよく集まっていた。
星が好きな者同士で気が合い、時に語らったり遊びに行ったり、共闘したり――昴と竜星、そして銀河は既に強い絆と縁で結ばれている。
「いらっしゃい。竜はこっちね」
「ありがとう……良い香りがするな」
案内された席に腰掛け、竜星が感じたのは心地の良い紅茶の香り。その言葉に昴は緩く微笑む。
「今夜はダージリンを使ってみたわ。銀さんのコーヒーも良い豆を用意出来たの」
言葉を紡ぎつつ昴が並べるのは、ダージリンが注がれたカップと深煎り焙煎のコーヒーが注がれたカップ。
紅茶は昴と竜星の席へ、コーヒーは銀河の席へ。
「ダージリンか、いいね。レモンを入れていただこうかな?」
竜星は綺麗に置かれたレモンを手に取り、早速レモンティーを用意していく。
昴の方は銀河に視線を向け、少し不安げな表情を浮かべた。
「……豆は良いものを用意したけど、淹れ方のほうはどうかな? 銀さん」
「大丈夫、いい香りだ。ありがとう」
「良かった。おかわり、ここに置いておきますね?」
銀河の言葉に安堵しつつ、昴が置いたのはキルトの布を被せたコーヒーポット。
夜風で冷めないように、という配慮なのだろう。細かい心遣いに、銀河は心の中で礼を述べた。
昴も一通りの準備を終えて、自身の席に腰掛ける。これで茶会はいつでも始められるだろう。
三人は自然な流れでカップを手に取り、共に掲げる。音頭を取るのは昴の役目だ。
「それでは、夜空の旧き友に敬愛を込めて……」
合わせるように竜星と銀河も言葉を紡ぐ。
「今宵の星達に敬意をこめて……」
「美しく輝く星達に友愛を込めて……」
そうして一口飲み物を飲めば、心地の良い味と香りが心を解してくれる。
「……うん。スーの淹れてくれる紅茶はやっぱり美味しいな」
「香りの良いコーヒーだけど、味ももちろん良い。ありがとう、昴」
「こちらこそ。お菓子やサンドイッチもどんどん食べてね。あ、ここにミルクもあるから」
挨拶は厳かに、けれど茶会が始まれば楽しく。
食べ物も摘みつつ。明るく言葉を交わす昴に竜星。そんな二人の会話に耳を傾けつつ、銀河は穏やかな時を過ごす。
(全く……どんなことがあっても強く優しい二人だから……)
再び戦いに身を投じることになったけれど、掛け替えのない仲間がいるから大丈夫。
そう感じるのは、きっととても良いことだ。二人との縁を繋いでくれた夜空を見上げ、銀河が想いを馳せるのは嘗ての師匠だ。
戦い続ける自分も優しく包んでくれるような夜空。それはまるで、大切なあの人のようで。
(最高の仲間に会わせてくれて礼を言うよ……ありがとう)
心の中で祈りつつ、銀河は二人に視線を向ける。ちょうど二人も夜空を見上げていたようだ。
特に昴のほうは熱心に星を見ている。まるで何かに気付いているかのように。
昴が聞いていたのは、星々が語りかける声だった。
『ボク達はアナタ達を、ズットずっとみてるヨ。月女神の騎士モ、オリオンの近衛騎士モ。そしてスバル……キミもネ?』
小さく、けれど確かに響く囁き声。それに呼応するよう、昴はじっと星を見る。
そんな彼女の様子に気付き、竜星も柔らかく輝く星を見上げた。
(子どもの時も、スーとこんな夜空を眺めていたな)
懐かしい記憶を掘り返しつつ、竜星の耳に届くのは――この場にいる二人とは別の声だ。
『……、………』
(え?)
今の声は誰のものだろう。不思議と聞き覚えがあった。あれもきっと、子どもの頃に聞いた――。
きっと気の所為だ。自分は昴のように星の声を聞くことは出来ないのだから。
でも、もしも。もしも星が何かを囁いていてくれたのなら。
(もし居るのなら……ありがとう、月と同じ様にいつも感謝しているよ)
届いた声はきっと温かなものだろう。そう確信し、竜星は心の内で感謝する。
気付けば昴も視線を自分達に向け、カップに二杯目の紅茶を注いでいた。
「竜もおかわりする?」
「そうだな、お願いしようか」
「夏の夜に温かい飲み物っていうのもいいものだな」
銀河もコーヒーを飲みつつ、二人の会話に加わる。
夏の夜だとしても、自然に囲まれた丘の上なら気温は快適。美味しい食事も加われば、お茶会は更に楽しく進む。
星のことはもちろん、思い出話や取り留めのない話題まで。様々な言葉を交わしつつ、三人の時間は過ぎていく。
三人の気持ちは同じ。頼もしい仲間と素晴らしい夜空への感謝、信頼――共に感じる温かさが、とても心地の良いもので。
「次のお茶会のことも考えないとね。秋らしい紅茶やコーヒーも探したいし……」
「そうだな。今度は俺も何か用意しようか」
考えを巡らす昴と竜星に、銀河がそっと微笑んで。
「ここで秋の星座が見れるのは楽しみだ。冬にも澄んだ星空が見れるだろうし」
「ええ、いつだってここの空は綺麗よ」
「俺も銀さんやスーと、色んな空を見たいな」
きっとその時にも同じように、仲間と星に想いを馳せるのだろう。
今日のことはもちろん、これからのことも楽しんで。三人の夏の茶会は、幸せに包まれていたのだった。
成功
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