スイっと進むよ夏の芋煮艇!
ヴォルフスブルク・ヴェストファーレン
夏休みノベルリクエスト致します。
■概要・シチュエーション
・旅団【芋煮艇】のメンバーで夏キャンプをしよう、という流れになりました。
・全体としては海岸沿いで釣りをしたり砂浜でテントを張ったり、何らかのマリンスポーツをしたり人によっては海底散歩したりなど海を満喫する感じです。
各キャラクターの心情や実際に行いたい行動等については、個別のプレイングを参照
■個人
・非常にドジっ子です。トラブルメーカー、被害担当はお任せください
・夏キャンプの為に頑張ったりドジしたり奇声をあげたりします。何かしら冷たいものを運んで転んだり、魚を見ようとして海に落ちたり、花火を用意してうっかり発射したりなど
ひょあ…前に冬の山でキャンプをしましたが今度は海辺のキャンプ…楽しみですっ
すごく…すごく色々用意したいですね…花火なんかもあげたいですね、何と言いますか夜空にどばーんとあがるとこう…すごく…すごくいい感じですので
ヴェアアアアッ!?やっちゃいました!?
鉄棘・リオ
夏休みノベルリクエスト致します。
■概要・シチュエーション
・旅団【芋煮艇】のメンバーで夏キャンプをしよう、という流れになりました。
・全体としては海岸沿いで釣りをしたり砂浜でテントを張ったり、何らかのマリンスポーツをしたり人によっては海底散歩したりなど海を満喫する感じです。
各キャラクターの心情や実際に行いたい行動等については、個別のプレイングを参照
■鉄棘・リオについて
・明るいノリの20歳の女の子です
・口調は「○○なんだよね~」「○○だ~!」「○○っていいよね~」と言う感じで、言葉を伸ばす場合は「ー」ではなく「~」を付けて喋ります
・きゃぴきゃぴした感じで喋り、旅団の皆は全員「下の名前+ちゃん」で呼びます
■主な行動
・海に潜って魚を取ったり、ビーチバレーをしたり花火をしたりと全力で遊びます
他のメンバーとも積極的に交流してお話をしたり手伝ったりと旅団イベントを心から楽しんでいます
・立ち位置はどちらかと言えばボケ寄りですが、ツッコミに回る事もあります
・うっかり猟兵の力で深海まで潜って取ったグロテスクな深海生物を、「カワイイ…」と思ってしまうちょっとズレた感性を持ってます
うわ~い!海だ~!遊ぶぞ~!!
砂浜でお城作ろうお城!人が住めちゃうようなおっきいの!
海の底もキレイだね~!あっ!あのお魚めっちゃ可愛い!可愛いよね!?
え~グロい?そうかな~…このぱっちり(飛び出た)目とかエモくな~い?
まだまだ遊ぶぞ~!
ヴィヴ・クロックロック
【芋煮艇】
シチュはヴォルフスブルク・ヴェストファーレンさん参考のこと。
【個人】
ヴィヴは天然入っていますが気質はツッコミふてぶてしくノリノリでなんでもやります
今回も様々なアクティビティに興味を示すでしょう
海中よりは海上や陸、釣りや波乗りあたりが好みと考えられます
曰く、まあ楽しく遊べればなんでもいいのだ。
甘甘・ききん
【芋煮艇】
どうも、ひと夏の思い出です。少年があの日出会ったわたしです。そんな少年が五万人くらいいることでしょう(フェルミ推定)。だって貝が採れたから。無限にだよ?無限に採れるの。食べられるやつ。すごくない?これタダなん!?そうして掘り続ける姿が夏休みの人の子らを魅了したと伝えられています。
以上が今年の水着イラストのコメントなわけですが、ゆえにわたしは貝を無限に採らなくてはなりません。無限に。無限にだ。この海の貝類は全てわたしのものだぁ~。渡さねぇ~、誰にも渡さねぇ~。掘られる前に……掘る!この海の一等賞になりたいの潮干狩りでわたしは!そんだけっ!(ほりほりほり)
要約:潮干狩りをします。
源・土申
■概要・シチュエーション
・旅団【芋煮艇】のメンバーで夏キャンプをしよう、という流れになりました。
・全体としては海岸沿いで釣りをしたり砂浜でテントを張ったり、何らかのマリンスポーツをしたり人によっては海底散歩したりなど海を満喫する感じです。
各キャラクターの心情や実際に行いたい行動等については、個別のプレイングを参照
■個人
メガネを掛けた小柄な男性で、性格は真面目なお人好しなのですが、今回は、舞台がアスリートアースなのでスポーツギャグ漫画に出てくるコーチみたいなトンチキな振る舞いをします。
長い管をくわえて水中に潜んでみたり、ビーチの砂に埋れて姿を隠してみたりと海辺でやれそうな忍術のトレーニングをしています。
最近忍術の弟子を取りたいと思い始めたところで、トレーニングの内容に興味を持った旅団メンバーに声をかけてあわよくば忍術のあれこれを教えてしまおうと企んでいるのです。猟兵であれば肉体的にも精神的にも素質は十分でしょうから。
■言いそうなこと
俺の術を見破るとは、君には忍者の素質があるようだな。(眼鏡くいっ)
源忍術スクールで学べば、必ずや立派なシノビになれるだろう。
無料お試し期間や初心者用手裏剣のプレゼントもあるぞ。
いや待てよ。俺が◯◯(相手のジョブ)を学ぶために君に弟子入りするのもありなんじゃないか?
おい、どこへ行く。
そんな感じでよろしくお願い致します。
●育てた芋から宇宙船
宇宙へ艇がスイと出た。
べつに芋によって発生したガスで、ズバババンと宇宙カッパとの水泳競争に繰り出したとかそんなことは一切なのである。
一見するとちっぽけな宇宙船『イモータル級二号艦艇』、それが人呼んで『芋煮艇』である。
館内は不思議と広大。
どこになにがあるのか、どんな機能があるのかは船長すらも把握していないっていうから、さあ大変である。
『芋煮艇』のクルーたちは、今日もどんちゃん騒ぎを飽き起こしている。
寄っておいでよ、見ておいでよ、よいとこだよ『芋煮艇』。
芋煮は心のオアシス。
――ということは今回あんまり関係ない。
関係あるとしたら、登場する人物たちは皆『芋煮艇』のクルーである、ということ。
もれなく猟兵である彼、彼女たちの一夏の物語である。
つまり?
|いつもの《どんちゃん騒ぎ》ってやつ――!
●海・夏・キャンプ
夏と言えば、海。
海と言えば水着。
水着といえばコンテスト。
そう、今年もやってまいりました水着コンテスト!
トライアスロン・フォーミュラ『時宮・朱鷺子』も言っておりました。
『アスリートアースに生まれ落ちた全ての者には、例えいかなる危機の最中であろうとも、夏になれば全てを賭して「水着コンテスト」に集う運命を背負っている』、と!
猟兵もそうである。
そうなのじゃ。
猟兵もじゃ。
いつだって本気で生きることこそが猟兵たちの務め。生命の埒外であるとか、一人ひとりが別種の存在であるとか、世界の外からやってきた新種の侵略生命体であるとか、そんなこと言われているが、水着コンテストだけは別である。
誰もが歯列極まりないコンテストレースに身を投じる。
条件はただ一つだけ!
水着! 水着を着ることなのである!
単純なれど一筋縄でいかないのが水着コンテスト。若けりゃいいのか! 若けりゃいいんだよ……(ボソッ)みたいな感じなのである。
しかしまあ、ここまで大層に振っておいてなんだが、水着コンテストの話ではない。
今回、芋煮艇のクルーたちは夏キャンプにやってきたのである。
アスリートアースの海! 泳がずにはいられないッ!
さんざめく波がキラキラと太陽光を反射し、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)の肌を下からも上からも焼くようであった。
彼女の見事なプロポーションの肉体を彩るのは、鮮烈なる赤。
蝶をイメージした水着。
細身とも言える体は陶磁のような滑らかな肌を一層際立てるようだった。黒髪が風に遊び揺れる様は、ただそこに立っているだけで一枚の絵画のよう。
そんな優美な彼女のほほえみは、照りつける太陽に歪んでいた。
「確かに……確かに素晴らしいデザインの水着は気に入っていますそれに皆さんと夏の思い出を作れること、喜ばしいことです」
魅夜は呻く。
「何でしょうこの暑さは。ふざけているのですか。ふざけているのですね」
彼女はダンピール。
強烈な陽の光を苦手とするのは、ある意味当然であった。
でもまあ、夏だし。
サマーだし。
サマーバケーションだし。
「夏だからと言って何でも許されると思ったら大間違いです」
わなわなと肩を震わせる魅夜。
「おのれ太陽許せません。例え誰であろうと私の邪魔をするものには容赦しませんよ」
きらめくユーベルコード。
「ちょ、ちょっとお待ちをデスよー!? 魅夜さんー!?」
試作機・庚(盾いらず・f30104)は思わず、海辺に乗り入れたキャンピングカーから飛び出し魅夜の発動しかけたユーベルコードを止めに入った。
「庚さん、どうかお止めにならないでください。ふふ、ふふふふ、太陽という狼藉者に仕置をしなければならないのです」
「いや、流石にそのユーベルコードは困るんデスよ!」
「何故しょう? 私のユーベルコードであれば、熱帯夜であろうとなんであろうと快適で素敵なバカンスが過ごせるのです。止めないでください」
確かに。
確かに太陽は空気読まないほどに強烈な日差しと気温をもたらしている。
だが、魅夜のユーベルコードは苛烈過ぎる。
世界を書き換える力。
火炎や高熱・高温を伴う事象の禁止という法則を付与する力なのだ。もしも、発動してしまえば、この海辺でバーベキューができなくなってしまう。
それは困る。
芋煮艇のクルーたちは食べ盛りである。
それ故に火が使えなければ、腹をすかせたクルーたちの大暴動が起こりかねない。
庚は、今回裏方としてキャンプの設営に勤しんでいた。
キャンプにバーベキューは必須である。
バーベキューのないキャンプなんてがっかりキャンプである。
「お気持ちはわかるデス! ですが、どうか、どうか!」
「太陽が燃えている……まさしく、夏と言った陽気だな」
そんな二人を見やりながら、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は、この夏の気温にまったくたじろぐことなく太陽を見上げていた。
強烈な紫外線。
はっきり言って対策をしていなければ、乙女の肌はこんがり焼けてしまうことだろう。
しかしながら、キリカの向日葵をイメージした色の水着を見よ。
大人の色香ありながらなんと爽やかなことであろうか。
戦場傭兵として引き締まった体躯。
彩るは向日葵の色。なんとも太陽の似合う女性であろうか。切れ長のキリっとした目つきとは裏腹なれど、彼女の生来持ち得る性質というものが垣間見えるようでもあった。
「言ってる場合デスか! このままだとバーベキューなしデスよ!?」
庚の悲鳴にキリカはクールに笑む。
「それもそれで、と言いたいがまだ火を起こすには早いだろう。少しばかり快適な気温にしてもらっても構わないのではないか?」
彼女の言葉に続くようにキャンピングカーより飛び出したのは、鉄棘・リオ(鉄棘の魔女・f27639)だった。
黒に赤いラインの入ったビキニスタイル。
スタイルが抜群すぎる。
あまりに見事で完璧なボディラインにビキニという女性的な魅力の全てを解放したような姿は、ちょっと声を掛けるのをためらうほどに美しかった。
だが、そんな彼女の大人の女性的な肉体に秘めたる正確は明るく穏やかそのものであった。
「うわ~い! 海だ~! 遊ぶぞ~!! いえ~い、一番乗りだ~!」
砂浜に駆け出していくリオ。
まだ足跡一つ付いていない砂浜を独り占めするように屈託なく笑い、くるりとキャンピングカーに振り返って手を振る。
「はやく、はやく~! あ、そうだ。お城作ろうお城!」
「……なんでお城?」
キャンピングカーから続いておりてきたのは、ルメリー・マレフィカールム(黄泉歩き・f23530)だった。
黒い水着姿なのはリオと同じく。
だが、差し色は彼女のものとは対象的に青。
ともすれば、その姿は魔女めいたシルエットを生み出すものであった。目深に被った帽子から覗く赤い目は太陽の輝きに負けぬ光をともしているようにも思えた。
とふ、と砂浜を踏みつけるブーツ。
色白な彼女は、黒い水着姿と相まっていっそ、病的な肌色にさえ見た。
けれど、そんなどこか、ぞっとするような美しさを持つ彼女であっても、その内面は心優しく朴訥なだけであることがうかがえるだろう。
そんな彼女がリオの後を追う。
「砂浜で作る物といったらお城しかないでしょ~! 人が住めちゃうようなおっきいの! つくろ!」
「……テント設営いらなくなるくらい?」
「それもアリかもね~!」
二人は早速砂浜で砂を集め始める。
海水も必要だし、と思っていると、いつのまにか彼女たちの背後にレン・ランフォード(近接忍術師・f00762)が立っていた。
「おもしろそうだね……」
「わお、れんちゃん! 手伝ってくれる感じ?」
「……うん」
「なら、海水運んできてもらってもいい?」
「……私は?」
「ルメリーちゃんは、砂を集めよう!」
三人は早速、砂のお城造りに勤しみ始める。
もともと、レンは多重人格者の面倒くさがりである。手伝いとか面倒事というのは別人格にまかせてのんびりしようと思っていたのだ。
けれど、リオとルメリーが面白そうなことを始めようとしていたのならば、興味津々とニンジャらしく近寄って言ってしまうのだ。
「それじゃあ、集めた砂をね、海水と混ぜて~」
「……なんで?」
「海水混ぜると塩の結晶が砂と砂の間に食い込んで接着剤みたいな役割を果たしてくれるんだったかな~確かそんな感じ!」
適当にリオは笑って言う。
けれど、それくらいでいいのだ。いい加減なくらいがちょうどいい。
「……お城って洋風、和風?」
どっち? とルメリーは砂のお城を作るにしたって、デザインの方向性というものが必要だろうと二人を見やる。
「……両方?」
れんは首を傾げる。
やっぱりいい加減である。
だが、何度も言うがこれくらいがいいのである。
べつにコンテストをしているわけでもなんでもない。みんなで楽しくお城が作れればそれでいいのだ。
どちらかではなく、どっちも、というのは欲張りな気がしないでもない。
けれど、それが楽しいのだ。
三人はキャンピングカーでの移動の際に海が見えた時、とってもうずうずしていた。早く遊びたい。その逸る気持ちを発散させるように砂浜でお城を作り上げていく。
両方、と言ったれんの言葉通り、三人が作り上げた砂のお城は和洋折衷。
石垣は和風であり、けれど、その上に作り上げられているのは塔を柱にしたような洋風。
さらには何故かピラミッドが逆さに作られ、塔が支えている。
「……ここからまだ盛れる気がする」
ルメリーは首を傾げる。
何故、ピラミッドが逆さに? わけがわからない。さらにこの上に何を盛ることができるだろうか、と考えているようだった。
「もう一回ピラミッドかな~!」
もうそれはお城と呼ぶに呼べないオブジェクトと化していたが、三人の力作は波にさらわれるまで砂浜にて異様な存在感を放ち続けていた。
そして、そんな彼女たちの大作の横で甘甘・ききん(可哀想な 人の振りをする狐・f17353)は、一人、一心不乱に砂浜を熊手でもって掘り掘りしていた。
額に汗が珠のように浮かんでいる。
麦わら帽子の下に浮かぶ、ききんの表情はどこか熱に浮かされるようであった。
「大漁、大漁……掘っても掘っても後から後からどんどこって貝が出てくる」
すごい。
しかも全部食べられるやつである。
シジミにアサリ、ハマグリ。
なんでこんなに沢山食べられる貝が出て来るのだろうかと、ききんは首をひねる間も惜しんで熊手を浜に突き立てる。
少し掘ればすぐに粒立つように貝が採れてしまうのだ。
こんなことってあっていいのだろうか?
貝のフィーバータイム。大当たりというやつなのだろうか?
「これタダなん!? すごい! こんな穴場があるなんて!」
ききんは熱に浮かされながらも笑む。
笑いが止まらない。
そりゃそうである。なんだかんだ言って貝っていうのは採るのが大変なのだ。大変ってことは価値があるっていうこと。
言ってしまえば、浜辺に金塊が埋まっているようなもんである。
妖しい笑みは、妖しい魅力に溢れていたことだろう。
そんな、ききんの表情を見ていた少年たちは、なんとも言えない感情を胸に去来させていたことだろう。
言葉に言い表せないほどの感覚。
少年たちは、まだその感覚、感情の名前を知らない。
みんな初恋もまだであったであろうから。
そんな初恋キラーと化すような艷やかな笑みを浮かべる、ぱっと見美少女ききん。
「なんだか、ききんさん、すごいですね……」
百目鬼・明日多(一枚のメダル・f00172)は、彼女が多くの貝を乱獲ばりに採取するのと同時に少年たちの初恋もハントしているのを見ておののく。
だが、彼も彼でまた浜辺をどよめかせていた。
何故なのか。
言うまでもない。
彼の身にまとった水着のせいである。
いや、先に断っておこう。
この芋煮艇キャンプ夏の陣においてクルーたちはみんな水着着用の義務があった。当然、明日多もまた水着を着用している。
言葉面だけみたら、まともなことである。
むしろ、ちゃんと水着着用してエライ! と褒められるまであるだろう。
だがしかし、問題なのは、その水着である。
今まさに彼が身につけている水着は、有り体に言って『ヒモ』と称されるレベルものであった。
ホワイトブリムにキャットガーダー、そんでもってマイクロビキニ。
なにかおかしいところがあっただろうか?
おかしいところだらけだと思った方は、申し訳ない。
だが、事実である。
明日多は男の子。
まごうことなき男の子。
ちゃんと確認した。指差し確認した。ヨシ。
「気軽に持ってきたはいいものの、結構ヤバいデザインのやつでしたね……」
どうして持ち込む前に気が付かなかったのか。
いや、それは野暮っていうものであろう。
際どすぎる姿に浜辺のオーディエンス……いや、この場合オーディエンスと言っていいのかは憚られるが、ともかく明日多の水着姿に大いに人々は混乱した。
男の子、だよな? 男だよね? あれぇ!?
みたいな感じである。
ちょっと派手に動いたら大変なことになる。絶対後でめちゃくちゃに怒られるやつであろう。
「とりあえず、派手に動かなければいいはずです。なにかお手伝いすることはないですか?」
明日多は未だ魅夜と庚が一進一退の攻防を続けているバーベキュー戦線に躍り出る。
「魅夜さん! 落ち着いてください! 暑さは、暑さはなんとかしますから!」
「だいじょうぶです。私は冷静です。今まさに太陽が私を照らしているのは挑発行為と受け取っていますから」
「まったくもってだいじょうぶそうではないですね……」
明日多は庚と共に魅夜がユーベルコードを発動させないように必死であった。
なにか手伝おうにも、これでは……と思っている所にヴォルフスブルク・ヴェストファーレン(鉄の狼・f34026)がキャンピングカーに積んであったクーラーボックスを抱えてふらふらとこっちにやってくるではないか。
あ、やばい、と彼女の姿を捉えたクルーたちは思っただろう。
いや、ただクーラーボックスを運んでいるだけである。
別に難しいことではないし、まあ、多少は重たいであろう。けれど、侮ることなかれ。ヴェルフスブルクは、とある国の飛空艇装甲化計画によって生み出されたヴェストファーレン級装甲飛空艇の一隻!
そう、快速とタフネスことが売りのガレオノイドなのだ。
氷と飲み物が満載されたクーラーボックス?
そんなのお茶の子さいさいなのである。
でも、なんでじゃあ、あんなにフラフラしてるんですか? という問いかけには答えねばならない。
そう、彼女は確かに脅威なる装甲を持つ、それはそれは大変に素晴らしいクロスタイプの水着姿をしていらっしゃる淑女。
だがしかし、強靭なる体躯に宿すは類稀なる艦運。
あ、悪運っていう意味である。
もっと踏み込んで言うのなら。
「皆さん、熱中症には水分補給が大切ですよ、ひょああああっ!?」
そう、ドジっ子である。
座れば足がしびれて、立てばなにかに躓く。
そんなのは日常茶飯事。
ヴォルフスブルクは、今日もどこかで躓く。寄りにもよってなタイミングで、狙いすましたように躓くのだ。
彼女が運んでいたクーラーボックス。
本来ならば蓋にしっかりロックがされている。
クーラーボックスは保温性が重要とされている。即ち、きっちり閉まっていることこそが、ボックス内部の温度を一定に保つ要因なのだ。
だがしかし。
言わせていただこう。
ヴォルフスブルクはドジっ子である。
クーラーボックスを運ぶ前に一度、中身を確認したのである。
氷は十分だろうか。飲み物……即ち飲料缶やペットボトル、ボトルといったものはちゃんと入っているだろうか。
後にヴォルフスブルクは語る。
「はい、ちゃんと中身が入っているかどうかを確認するために一度、クーラーボックスを開けておりました。でも……あんなことになるなんて思いもしなかったのです」
そう、彼女は確認した。
中身がちゃんとあるのか、冷えているのか。
それ自体は責められることではない。
だが、彼女はドジっ子である。
何回言うのだと思われるかも知れないが、もう一回言う。
ドジっ子である。
そう、ロックを解除したクーラーボックスそのままに彼女は運んでいたのだ。
そして、ここぞという時に躓くのがヴォルフスブルクである。
後は言わないでもわかることであろう。
そう、妻い付いたら手にしたクーラーボックスは彼女の手から離れて宙を舞う。
宙を舞ったクーラーボックスから飛び出すのは飲料缶やペットボトル、ボトルであった。だが、それらは庚や、いつのまにか戻ってきていた、レン、飲み物ほしいな、と思っていた美少女エルフ、ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)や、アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)の身を護る自動防衛機能『シュヴェールト・ガードナー』と呼ばれる不可視の剣がなんとか全てをキャッチして用意した飲料がダメになる、という自体は避けられていた。
だがしかし、ことは単純ではない。
ヴォルフスブルクのドジによってクーラーボックスの中身の半分を占めていた氷と溶け出すことによって生まれた冷水が魅夜に降り注いだのだ。
「ひょあああああっ!?」
「ひっ――!?!?」
焼け石に水。いや、正しくない。使い方が全く持って正しくない。
が、魅夜の太陽によって照らされ、火照った体躯は一気に冷やされる。気化熱ってやつ。
一気に冷やされ、あわやユーベルコードを発動しようとしていた魅夜は冷水を浴びせられたのだ。
だが、氷は礫のように魅夜へと降り注ぐだろう。
当たったらめちゃくちゃ痛い。
下手すれば大惨事である。
だが、全ての氷は有坂・紗良(天性のトリガーハッピー人間・f42661)が手にした水鉄砲でもって全て弾かれていた。
「困ったら取り敢えずブッ放せば何でも解決する……」
そうかなぁ!?
いやでも、クールダウン極まるヴォルフスブルクのドジを紗良の水鉄砲がファインプレーで事なきを得たのだ。
いや、ちっとも事なきを得てない。
だって冷水は魅夜に容赦なく降り注いでいたのだから。
「あわ、あわわわわ……魅夜さん、その、あの、いかがでしたでしょうか、アイスバケツチャレンジは」
違う。
そうじゃない、と周囲のクルーたちは思った。
だが、今の時代にアイスバケツチャレンジと言って通じる者がいるのだろうか?
少し不安である。
簡単に説明すると冷水と氷が満載されたバケツを頭からかぶる陽気なパーティーピーポー御用達のパーティ芸の一つだ。
SNS隆盛なる時代において、ムーヴメントを一瞬だけ巻き起こしたアイスバケツチャレンジ。
もしかしたら芋煮艇のクルーたちもチャレンジしたかもしれない。
だがまあ、それはそれである。
むしろ、この土壇場でよくヴォルフスブルクは、そんな過去の遺物みたいなミームを引っ張り出せたものである。
慌てるともうダメな感じのヴォルフスブルクからすれば、それはとんでもないキラーパスを魅夜へと放ったようなもんであった。
「……」
魅夜は少し呆然としていたが、しかし、ふっ、と笑む。
むしろ、清々しいまでの笑みであった。
「程よく冷えてよろしいものでしたよ。ああ、太陽もパラソルの下にいれば、悪くないものですね。ええ、暑さ遠のけば、あの輝きも許せるものでしょう」
すごい。
魅夜は氷水でクールダウンして冷静さを取り戻したようであった。
「これで素敵なバカンスが過ごせます」
にこやかであった。
庚やレン、アンノット、ルエリラは、『それでいいんだ……』みたいな顔になったが、あわやユーベルコードでバーベキュー中止の憂き目に合わなくてよかったとも胸をなでおろす。
「いや、もっとこう、アイスバケツチャレンジというものは凍えるようなリアクションがないといけないのではないだろうか?」
酷く冷静なツッコミをヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(仮)・f04080)がしてくれたし、クルーの皆の心を代表するものであった。
しかしまあ、この程度のどんちゃん騒ぎは芋煮艇のクルーたちにとっては日常茶飯事。
ある意味で壊滅的なドジであろうとも笑い話にしてしまえるのが、彼らの良い所であった。
初見の人からすれば、困惑しきりのトラブルである。
こういったトラブルを笑い飛ばせるのが芋煮艇の強さと絆というものであろう。
「いえ、私も冷静になりました。寛大な心で太陽を許しましょう」
ええ、と魅夜は優雅に滴る冷水を払って笑む。
正直、この状況でここまで言ってのけることができたのは大物というほか無い。
「は、あわわわわ、ごめんなさいごめんなさいぃ~!」
ヴォルフスブルクは魅夜の濡れた体をバスタオルで拭き取りながら、懸命に頭を下げ続けるのだった――。
●真夏の頂点
日が昇っていく。
海キャンプにやってきた芋煮艇のクルーたちは思い思いに過ごしている。
なんやかんやとトラブルめいたものはありはしたものの、それは夏の一幕のドタバタコメディとしてうまく処理されたように思える。
魅夜も夏の暑さに参ってはいたが、冷水で冷やされ、今はパラソルの下のチェアでゆったりと満喫している。
ヴォルフスブルクは甲斐甲斐しく飲み物を運んだりと忙しそうだ。
そんな中、ルエリラもまた優雅にビーチチェアに腰掛け、サングラスをかけて海辺ではしゃぐクルーたちを見守る。
「やーやー夏だね」
まったくもって夏である。
真っ盛り。
もう何処を見ても夏色である。
正直、太陽の圧は強いものの、それでも夏を満喫するくらいの余裕はまだある。
確かにルエリラは、クルーたちと共に遊びに来た。
けれど、彼女ももう18歳。
美味しい芋煮の臭いに釣られて芋煮艇に忍び込んだのは、指折り数えれば、もうはるか昔のことのように思えた。いや、まあ、まだそんなでもないかもしれないが、もう18歳なのである。
少なくともルリエラは、ビーチチェアに腰掛け優雅にジュースをストローでチュウチュしながら落ち着いた大人の美女エルフにクラスチェンジしたことを誇らしげに示していた。
そう、歳を重ねるということは落ち着きを得るということ。
騒がしかった美少女エルフ、ルエリラちゃんも、大人になっていくのである。
美女エルフっていうのは得てしてそういうもんなのである。
落ち着いた雰囲気はクールを呼び込むし、クールはエルフ特有の神秘性を更に高めてくれることだろう。
昨今のエルフ風評被害はひどいもんであるが、ルリエラは自分がまた正統派美女エルフの道を歩めば、そうしたエルフって割りとポンコツなの多いよなっていう風評をぶっ飛ばせると思っていたのだ。
「……」
「ああ~! お城が波に侵食されちゃう~!」
リオたちが作り上げた異形の砂のお城。
レンやルメリーたちもなんとかして波から砂城を守ろうとするが、いかんせん自然の力である。人間の力っていうのはちっぽけなものである。
砂の城一つ波の侵食から守りきれないのだ。
諸行無常。
全ては砂上の楼閣のごとく、というやつである。
「……ん。でも楽しかった。崩れたけど、また作ればいい」
ルメリーは表情こそ変わらないが、少しの惜しさと共に砂の城を作れたことが嬉しかったのだろう。
変わらぬ顔から伝わる感情は共に砂城を作ったリオやレンをほっこりさせたかもしれない。
「……写真にとってあるからだいじょうぶ。いつでも見返すことができる」
レンは自分のスマホを指差す。
「ナイスだよ、レンちゃん! 夢中になって全然写真撮ってなかったよ~! ありがと~!」
リオがルメリーとレンを抱えるようにしてハグしている。
そのさまがなんとも微笑ましい……と思うのが大人の美女エルフなのだろう。
だが。
ルリエラは震えていた。
なんだかんだ言っても!
やっぱり遊びたい盛りの18歳である。どんなに斜めに構えていても、どんなに大人びた雰囲気を放っていようとも! やっぱり遊びたい!
「どうか楽しんでいらして?」
隣で魅夜が笑む。
その言葉に背中を押されるようにしてルエリラの水着のフリルが揺れる。
大人びたグラスジュースをヴォルフスブルクへと預け、尻尾を揺らし、耳をピンと立てて駆け出す。
揺れる青い髪。
夏の日差しはルエリラを歓迎するように降り注ぐ。
砂浜の熱さも、吹く風も、何もかもがルエリラを歓迎するようだった。
「へいへいへー! この私もしっかり混ぜるんだよー!」
砂を蹴って走るルリエラ。
だが、次の瞬間、ビク、と体が硬直する。
ただならぬ雰囲気。
これは一体……リオたちもルエリラがピタと立ち止まったことに怪訝な顔をする。
「ど~したの~? おいでよ~?」
「……待って」
リオの言葉にルメリーとレンは互いに顔を見合わせる。
彼女たちもなにかに気がついたのかもしれない。
「……そこにいるな!!」
瞬間、ルエリラの足元の砂中から飛び出すのは、眼鏡を掛けた小柄な男性。源・土申(ドシン!・f43488)である。
そう、今の今まで何処にいたんだと思っていたら、砂浜の中に潜んでいたのだ!
ニンジャだからね。
潜むのは、むしろ役目でしょ。
「俺の術を見破るとはやるな」
不敵な笑み。
なんか雰囲気が違う。
掛けている眼鏡のレンズが光を白く反射して、その瞳を隠している。
ゆらりと立ち上がった所作に一部の隙もない。
只者ではないことだけは皆理解している。
だってニンジャで仙人なのだ。
これでサイボーグだったら属性過多すぎて食傷気味になるところであった。
属性胃もたれには、漢方が効くらしい。
「いや、ていうか砂の中、めちゃ暑じゃなかった? 熱中症だいじょうぶ?」
ルエリアは、ちょっと引く前に土申の体のことを心配した。
特にこの夏は気温が尋常じゃないことになっている。
如何にニンジャと言えども、土の中でスタンバっていたのならば、それはもう砂蒸し温泉のように体内の水分が滝のように失われていったことだろう。
熱中症になってしまったら、楽しいバカンスが台無しだ。
「フッ、心配ご無用。仙術と忍術を駆使して……いや、そもそも鍛え方が違うんだ。心配ご無用。だが、ルエリラ君、そしれレン君、ルメリー君。この俺の術を見破った君たちにはニンジャの素質があるようだ」
眼鏡のブリッジを指で、くいっとやって土申はまた眼鏡のレンズを輝かせた。
そう、土申は今回の芋煮艇夏のキャンプにてバカンスなれど忍術トレーニングを行っていた。
日々是鍛錬。
ニンジャに休息はない。
だが最近、土申は思ったのだ。
己の鍛え上げ、体得してきた忍術。
これを広めるべきではないか、と。忍術は素晴らしい。仙術も素晴らしいが、仙人になるのは才能と体質というものが重要になる。
誰でも成れるものではない。
猟兵だったら楽勝ジョブチェンジっていう便利なシステムがあるが、そういうことではないのだ。
ニンジャ。
それは忍ぶ者。
術理を得れば、きっと正しく身につけることができる。
そう、筋肉が裏切らないように忍術だって裏切らないのである。故に、この素晴らしき術理を土申は誰かに伝えたい。
あわよくば弟子を取って師匠ポジションを得たいと思い始めていたのだ!
そんでもって芋煮艇のクルーは猟兵ばかり!
いわばニンジャの原石ばかりなのだ。
これは伝えねばならぬ。いや、これこそが我が使命とばかりに土申は奮起したのだ。
なにせ猟兵であれば肉体的にも精神的にも素質十分なのはジョブチェンジシステムで証明済みである。
故に土申は、手を差し伸べる。
「源忍術スクールで学べば、必ず立派なシノビになれるだろう。今なら無料お試し期間や初心者用手裏剣のプレゼントもあるぞ」
ずらりと手品のように土申の指の間には手裏剣と無料お試し期間チケット、映画チケット、遊園地のペアチケットなどが並んでいる。
一昔前の新聞勧誘のようであった。
だがしかし、それが土申が真剣であることの現れであった。
「いや待てよ。俺が君たちのジョブを学ぶために、俺自身が君たちに弟子入りするのもありなんじゃないか?」
「……それはどうなの」
ルメリーが冷静にツッコむ。
本末転倒とういうか。
なんか目的が変わってきているというか。
「むしろ、バカンスでもお休みできない悲しいブラック体質って感じがする」
レンはもっとのんびりすればいいのに、と思う。
「いや、なんで遊びにきてるのに修行しなきゃならんの!」
ルエリラは回れ右して土申を迂回する。
「おい、何処へ行く」
「決まってんじゃん! 遊ぶの!」
「ねぇねぇ、あっちで水上ジェットバイク貸し出してるよ~!」
リオの言葉にルエリラは目を輝かせる。
海辺を見れば、ヴィヴがジェットバイクを駆り海上を縦横無尽に駆け抜けているのだ。
うわ、あれは楽しそう。
マリンスポーツの極地とも言えるのではないだろうか。
「待て。あれならば我が源忍術、滑足(ナメアシ)で如何様にも……」
「やだやだあれがいーいー!」
ぴゅーっとルエリラたちは土申が追いすがるのを背にしながら駆け出していく。
ヴィヴの駆る水上ジェットバイクが水しぶきを上げて空中で一回転する。
三つ編みおさげにした彼女の緑色の髪が揺れ、太陽の光を浴びて宝石のように煌めいている。
フリルとリボンが可愛らしく揺れ、彼女の水上ジェットバイクが着水して盛大に波を生み出す。
「ふぅ……なれぬものであるからどうかと思ったが、案外楽しいものだな」
ヴィヴは自分がこうしたマリンアクティヴィティを好むことに意外な思いを持っていた。
彼女の来歴を考えれば、こうした陽の光が降り注ぐ海にて遊ぶということ自体が驚きのことであったかもしれない。
海中は陽光が差し込むとは言え、どこかほのかに暗い。
それはどうしたって彼女の生まれを思い起こさせるものであった。
「次はどうするかな……次は波乗りでもしてみるか」
ヴィヴの体躯は子供にしか見えない。
年齢のことは言ってはならない約束になっているが、とても見た目通りとは思えない。そんな彼女にリオやルエリラたちが駆け寄ってくる。
「さっきのやつすごいね~!」
「やりたいやりたい! あんな楽しそうな乗り物絶対に乗るに決まってるんだよー!」
「……あ、浮き輪もある」
レンは水上ジェットバイクの貸出所で浮き輪もレンタルできるのを目ざとく見つける。
もとより彼女はのんびりと過ごすつもりでキャンプについてきたのだ。
確かにジェットバイクは楽しそうだ。面白そうだと思う。
けれど、砂城を作り上げたことで少し疲れてしまったのだ。
「れん、少し休憩してる。浮き輪でぷかぷか」
「流されないように気をつけてね~!」
「……うん」
レンは浮き輪をしっかり腰に通して、波押し寄せる浜辺に向かっていく。
海を楽しむのには泳ぐばかりが全てではないだろう。
ゆっくりと波に揺れるのもまたバカンスらしくっていい。
浮き輪の浮力で海に浮かぶ、れん。
「ふわぁ……のんびり……のんびり」
海水の冷たさ、太陽の温かさ。
それもが、れんという人格に眠気を呼び起こす。
そんな彼女を他の人格は呆れたように息を吐き出して実体化する。
「れんはまたぼーっとしてますね……」
まあ、人のことは言えないけれどと真面目な人格の蓮は眠気眼な蓮の頬を突く。
「うー……」
「ほっとけほっとけ、コイツはこれはこれで楽しんでるんだろ」
更にもう一つの実体化した錬が、やめとけよ、と突く蓮を制する。
「俺たちも楽しまないと損だぜ。それにせっかく水着なんだ。ここでしかできないことやろーぜ!」
「それって西瓜ですか? 木刀まで持ち込んで」
錬が豪快に笑う。
サングラスで飛び散った西瓜の果肉や汁対策は、バッチリなのだ。
「こういう時じゃねーと西瓜割りなんてやらねーだろ。誰か誘えば乗ってくるヤツもいるはずだし」
「まあ、そうでしょうけど……」
「俺が勝つけどな!」
「誰も張り合ってませんよ」
「……は? れんが勝つし」
むく、とれんが浮き輪から身を起こす。
「うわっ、起きてたのかよ!?」
「……起きる。なんだか楽しそうなことをしようとしているから」
別にこっそりやろうとしていたわけじゃあない。
けれど、れんがやる気になっているのはわかっていた。
こう見えて、れんは負けず嫌いなのだ。
とは言え、他の二人の人格だって同じようなものだ。
「じゃあ、ここらで白黒つけよーぜ! それに他の連中も誘ってさ」
錬の提案に二人は乗る。
砂浜まで戻れば、ヴィヴが迎えてくれる。
「おや、どうしたんだい。浮き輪で浮かぶのはもうやめにしたのかい?」
「……西瓜割りする」
ほう、とヴィヴは笑う。
それはそれで楽しそうだし、夏の風物詩と言えばそうだ。
よくドラマなどのフィクションの中では見かける催しであるが、実際にお目にかかることはない。
となれば、興味が湧く。
「私もいいかね?」
「勿論、負けるつもりはねーぜ」
「とは言え、四人ばかりでは寂しい。他に誘い合わせてみよう」
そう言ってヴィヴが視線を巡らせれば、砂浜ではまだ、ききんが貝掘りをしていた。
一心不乱。
まさしくそんな言葉がしっくり来るほど彼女は熱中していたし、そんな彼女の周りには、初恋ハントされてしまった少年たちが、なんか囲み撮影みたいにして遠巻きに見ているのだ。
あれはあれでなんなんだろうとヴィヴは思った。
声をかけるのも憚られる雰囲気と言えば、そうなのかもしれない。
なら、とキャンプ設営をしている者たちならば、もうそろそろ手が空いてくることではないだろうか。
リオたちはまだジェットバイクに興じている。
あれはあれで楽しかったな、とヴィヴは思いながら設営を行っていた明日多たちに声を掛ける。
「西瓜割りをしようと思っているんだけれど、一つどうかね。設営は一段落したのではないかい?」
「ああ、今終わった所ですよ」
明日多はもじもじしつつ頷く。
際どいが過ぎる水着を着ているせいで、諸々気が気ではないのだろう。
わからんでもない。
ポロリしようものなら、それはそれで謎の光が仕事をしなければならない。太陽の光を酷使するわけにもいくまい。
「西瓜割りか。久しくしてはいないな」
キリカも設営を手伝っていたのだろう。
子供っぽい遊びには付き合わないかと思っていたが、そうでもないらしい。
彼女は彼女なりに最大限、このバカンスを楽しむというスタンスなのだろう。
「私は、その……」
絶対またやらかしてしまうから、とヴォルフスブルクは遠慮げに笑っている。
確かに、とみんな思ったかも知れない。
西瓜割りをする前に西瓜を割散らかしそう。
だが、さりとてそうなっても気にするクルーたちではないだろう。
彼女のドジは凄まじいものであるが、それはもう慣れっこなのだ。
「まあ、西瓜を割るまでが西瓜割だからね。順番まで回ってこないかもしれないこともあるだろうし……」
「こういうのは周りの賑やかしも楽しいものっす」
紗良も設営を終えて、いざ何かを撃ちたくて仕方ないと言わんばかりに水鉄砲を抱えてやってくる。
それならば、とヴィヴたちはこの場にいるクルーたちで西瓜割りをしてみようという話になる。
シートを敷いて、西瓜を置く。
大玉の西瓜だ。
軽く叩けば、身が詰まっていることを示すように良い音が響く。
「コンコンって音を聞くとキマイラフューチャーを思い出しちゃうっすね」
「コンコンコン。システムフラワーズ。あれはすごいよね」
「じゃあ、順番決めましょう。じゃーんけん、ぽんぽんどっち出すの~」
「まさかの両手じゃんけん!」
「ややこしくなる! ていうか、すぐパっと終わらない!」
ちょっと巫山戯たりもしたが、クルーたちは西瓜割の順番を決める。
初手は明日多。
「いきなり僕ですか……うう、ちょっと緊張しますね。引っかかるものとかないですよね?」
ハチマキで目隠しされて明日多は戸惑うようであった。
いや、絵面がまずい。
マイクロビキニにホワイトブリム、キャットガーダー。
何処へ出しても怒られる感じのやつである。
とは言え、順番は順番。
目隠しをしたままその場で、ぐるぐると回転する。三半規管が弱いとこれだけで詰むのだが、明日多にとっては、マイクロビキニのヒモが何処かに引っかかりやしないかと別の意味でヒヤヒヤしているのだ。
回転が終われば、声が掛けられる。
何回転したかわからない。
目隠しで視界はゼロ。頼りになるのは周囲のクルーたちの指示だけだ。
「変な方向に歩かせないでくださいよ!?」
それはフリってやつだろうか? 押すなよ、絶対押すなよ! と三回やったら熱湯風呂に押し込んでいいというゴールデンルールであろうか?
「違いますけど!?」
でもまあ、こういう場合において一番楽しいのはこういう時である。
「右だよ、右」
「いや、後もう三歩ほど横っす」
「いいや、行き過ぎているぞ」
「違う違う、斜めだってば」
ヴィヴや紗良、キリカたちの指示が飛ぶ。
一気に違うことを言われて明日多は誰を信じればいいのかわからなくなってしまう。
ていうか、本当に水着のヒモが引っかかりやしないか気が気でないのだ。
そうでなくても諸々水着とは言えないヒモそのものみたいな格好! 絵面もちょっとヤバい!
「ええい、ままよ!」
明日多が木刀を振り下ろす。
だが、手に伝わる感触は砂ばかり。
「えっ……」
「あ~、残念」
「……惑わされすぎ」
れんたちが目隠しを取った明日多を慰める。
「うう、どう考えても無理じゃないですかこれ」
「ふふ、層とは限らないぞ。回転捺せられている時に何回転したのか、自分の位置が何処なのか、目標までの目算がどれほどのものなのか。そうした状況の把握をしっかり行うことも重要だ」
キリカの言葉に明日多はがっくり肩を落としてしまう。
それができれば苦労はしないのだ。
けれど、これも遊びと言えば遊びだ。
その後もヴィヴが失敗し、ヴォルフスブルクもドジをしてしまっては、と遠慮していたが、いいからいいからと参加させられてしまう。
まあ、その。
しっかりドジを発動してしまって振り下ろした木刀が明日多の水着のヒモに引っかかってハプニングが起こってしまったりしたが、明日多の名誉のために敢えてダイジェストにさせていただこう。
所謂、お約束というやつである。
「ううぅ……ひどい目にあいました……」
「ひょわわわ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ~!」
「じゃあ、次はボクっすね」
紗良は目隠しされたままぐるぐるとその場で回転させられる。
「……あれ、木刀は?」
れんは紗良が木刀を持っていないことに気がつく。
「だいじょうぶっす。ボクにはこれがあるっす」
ぐるぐると回転していた紗良は、ニコリと笑う。
そう、彼女はぶっ放す機会を伺っていたのだ。
西瓜割。
そう、それは西瓜を割ることを目的としている。
なら、得物はなんでもいいはずだ。よくはない。
「えっ!」
「そこッス!」
ティキーン! とどこかで聞いたことのあるようなサウンドエフェクトが響き渡る。
具体的名前は出さないでおこう。
紗良が手にしていた水鉄砲の引き金が引かれる。瞬間、彼女の水鉄砲はタンクに溜まっていた水を凝縮し、弾丸へと変える。
いや、それよりも打ち方が、エースパイロット全盛期のような振り返りざまの射撃で紗良のヤバさを際立たせる。
トリガーハッピー。
それが紗良である。
どんな時だってぶっ放せればそれでいいと考えている節さえあるし、なんなら彼女も公言している。
普段はマトモなのだが、銃が絡むとちょっと常軌を逸した感じになってしまうのだ。
ばすん! と水鉄砲にあるまじき音が響いて西瓜に命中する水の弾丸。
「お、ど真ん中ッスね」
にこやかに目隠しを外して笑う紗良。
確かにど真ん中に命中しているが、割れてはいない。
「そういうのじゃないんじゃないかい?」
「割れていないしな」
「つぎ、次は、れん」
割れていないのならばゲームは終わっていない――。
●揺蕩う海原
「はぁ……」
吐き出す息は羞恥に染まって熱っぽかった。
海原に浮かぶはアンノット。
彼女は水着というものを着慣れていなかった。普段は生真面目とも言える委員長のような立ち位置である彼女からしたら、今回のバカンスは普段よりもハメを外したイベントでもあったのだ。
だが、着慣れぬ水着に羞恥ボルテージが限界にまで引き上げられているのだ。
透ける生地はまるで人魚の尾ひれのようであったし、肌を覆っている。
けれど、普段の彼女の姿からすれば大胆にも程がある。
胸元のフリルが可愛らしさを演出してくれてはいるが、まだまだ気恥ずかしさの方が買っている用に思えた。
それに、と思う。
何よりもお腹が! オヘソがでている!
それもまた可愛らしいとは思うのだが、羞恥心とはまた別問題である。
「海水が冷たくて気持ちいい……」
羞恥心ボルテージを冷ますように海に揺蕩うアンノットの周囲には自動防衛機能の不可視の剣が漂っている。
こんなときにも仕事熱心だな、とは思う。
とは言え、あんまりにも大仰しすぎはしないだろうかとも思わないこともないのだ。
別に海でそこまで自分に脅威なるものがいるとは思えない。
「ふぅ……みんなはどうしてるのかしら」
ちらりと砂浜へと視線を向ける。
自分たちが乗ってきたキャンピングカー周りにテントが設営されていて、傍らでは今まさに西瓜割りが行われていた。
明日多がトラぶるしていたりしたが、彼の名誉のために目を覆っておくことにした。
どうやらちょうど西瓜が割られる所だったようで、歓声が上がっていた。
みんな楽しそうにしている。
自分だけゆっくりしていて申し訳ないな、と言う思いはあったが、やはり着慣れぬものを着ているせいかどうにもいつも通りにはできないでいた。
「楽しそうにしているわね。あれ、他のみんなは……」
そう思っていると、遠くでジェットバイクが白波を立てながら海上を疾走している。
リオやルエリラ、ルメリーたちが競争をしているようだった。その後ろを土申がものすごい勢いで海上を疾駆している。どうやってるんだろう、あれ。
ともあれ、みんながみんなはしゃぎ倒しているとも言える。
元気だなぁとアンノットは思わず微笑む。
やはり、みんなが楽しそうだとこちらまで嬉しくなってしまう。
そう思っていながら、自分も海を楽しもうと着慣れぬ水着の恥ずかしさが少しでも紛れるかもと海中へと潜る。
ひんやりとした海水は、羞恥に火照った頭や頬を冷ましてくれる。
海中に差し込む陽光を受けて、浅い海底であれば見通すことができる。
あまり遠くまで行ってはならない。
「……え?」
アンノットは自分を護る不可視の剣が一斉に海中へと飛んでいくのを見て、目を丸くする。
なんで?
彼女を護る不可視の剣は、自分に敵対するものを自動で攻撃するようになっている。
それが飛んだ、ということは彼女に対して悪意を持つものがいる、ということだ。
誤作動か。
いや、それはない。
とは言え、不可視の剣が飛んでいったのは事実。
次の瞬間、アンノットは理解する。
何故、不可視の剣が飛んでいったのか。何を警戒していたのか。
そう、それは海底に擬態していた巨大な触腕であった。
「――!? これは!」
ドラゴンランス『ノイギーア・シャッテン』を構える。
巨大な触腕は、アンノットへと襲いかかる。擬態が解けた触腕は、まるで蛸……いや、巨大蛸のものであった。
だが様子がおかしい。
アンノットに向かって海中を走った触腕が彼女に触れる前に止まったのだ。
目算を謝ったのだろうか?
いや、違う。
アンノットとは逆方向に擬態を解いた巨大蛸が引っ張られているのだ。
「なに……? これって、引きずられている? 違う!」
そう、彼女は見た。
巨大蛸は確かにアンノットを狙っていたのだろう。
無数の触腕でもって、得物を得るべく海辺で遊ぶ人々を品定めしていたのかもしれない。
そこにアンノットが一人でいたものだから最初に狙われたのだ。
けれど、その目論見は外れた。
巨大蛸の予想しない場所から投擲された釣具。
その針が巨大蛸の口元に引っ掛けられているのだ。
「釣られたっていうの!? いやでも、あれだけの巨大な蛸、引き上げられるはずが……」
アンノットは嫌な予感がした。
いる。
引き上げられる者ならいる。
なんなら、この世界、アスリートアースの人間たちは皆、超人アスリートばかりなのだ。彼らならこの巨大蛸を釣り上げることもできるかもしれない。できないとも思えない。
だが、それ以上に強靭な者たちがいる。
そう、この場には芋煮艇のクルーという精鋭の猟兵たちがいるのだ。
「フィーッシュ、というやつだな。いや、蛸はこの場合、外道か?」
そう、巨大蛸を引っ掛けた釣り針の主はキリカだった。
彼女は西瓜割が終わった後、すぐさま仕掛けと釣り道具を持って釣りを始めたのだ。
一投目から当たりを引くとは、流石と言わざるを得ない。
「キリカさん!」
「ああ、アンノットか。少し今取込み中でな。大物が掛かったようだ」
キリカはクールに笑む。
いや、そんな余裕たっぷりなのは心強いけれど!
「違うの……!」
「ああ、もしかして根掛かりかと思っているのだろう。アスリートアースを釣り上げてしまったな、と。だが、このあたり、根掛かりではないよ」
「そういうのじゃなくって!」
瞬間、海中を真っ黒に染めるほどの墨を噴射しながら巨大蛸は海上へと飛び出す。
凄まじい巨体。
海中で見た時よりも巨大にアンノットは思えた。
あまりにもあんまりなサイズ。
いや、それ以上にびっくりしたのは、巨大蛸の触腕をハサミで挟んでいる巨大蟹もおまけに付いてきているという驚きの事実である。
「え、ええー!?」
「ははは、これは面白いな。まさしく一石二鳥。いや、この場合なんというべきか。一投ニ釣、か?」
「のんびり言ってる場合じゃないよ!? 確かに夢ある光景というか、珍しい光景だけど!」
アンノットの言葉にあくまでキリカは余裕の笑みを浮かべる。
釣り上げても、あれだけ巨大な蛸と蟹である。
絶対クーラーボックスに入らない。
そもそも、釣れた、と言えるのか? 何せアスリートアースの超人アスリートたちを育んだ海の幸たちである。
その巨大さは通常のそれとは異なる。
言ってしまえば、船くらいの大きさがあるのだ。いや、それだとそもそもキリカの膂力が凄まじすぎる。
というか、釣り竿も糸もよく保ったものだ。
「何、心配はいるまい。巨大な蛸と蟹だ。捌き甲斐があるというものだ」
「絶対そっちじゃないよ? 周りに人がいないか……」
「お任せデス!」
空を舞う巨大蛸と蟹。
太陽を遮る巨大な影の下、ジェットバイクが水上を跳ね、勢いをつけて一つの影を射出する。
それは庚であった。
「巨大生物であれど、締めるための急所は同じデス!」
庚は二振りの日本刀、二振一具『壬・癸』を構えて巨大蛸へと迫る。
狙うは目と目の間。
巨大であるがゆえに刺突の一撃では絞めることはできないだろう。故に二振り。彼女の日本刀の鋭さは言うまでもない。
刃と刃が交錯し、火花を散らしながら巨大蛸の眉間とも言うべき場所を一瞬で切り裂く。
真っ黒であった巨体が一瞬にして変わる。
「蛸は絞めました! 後は、皆さんよろしくデス!」
庚の言葉と共にジェットバイクを負っていた土申が凍結させた海面を蹴って飛ぶ。
「火よ、逆らい走れ」
ユーベルコードに輝く土申の瞳。
手にした手裏剣が飛び、巨大蟹のハサミへと突き刺さる。
強靭な甲殻であろうとも土申のユーベルコードは、その甲殻ごとハサミをへし折るほどの爆発を生み出すのだ。
「源忍術、逆火(サカサビ)。どうだろう、君もニンジャになってみないかい!」
しれっと海辺に向かってアピールも怠らない。
ニンジャの弟子を取るという土申の目論見はまだ潰えていないのだ。
巨大蛸は庚の一撃でもって絞められたが、しかしまだ巨大蟹はハサミを吹き飛ばされただけだ。
キリカの頭上へと巨大蟹が落ちようとしている。
いや、落ちようとしているのではない。
ハサミを爆破された怒りに燃えた巨大蟹が蛸ごと己を釣り上げたキリカへと復讐を果たそうと残されたハサミを振り下ろす。
岩場が砕ける。
海上に飛び散る岩が水柱を上げ、ジェットバイクに乗っていたルメリーたちはなんとか急旋回して躱す。
散る飛沫の中、キリカの瞳がユーベルコードに輝く。
「舞えよ、風…踊れ、雷!」
紫電風烈(シデンフウレツ)。
それは彼女が手にした釣り竿がしなり、凄まじい威力となって雷撃と共に斬撃を解き放つ。しかも、ただの斬撃ではない。
彼女のユーベルコードは自在にその動きを変え、大蛇のように巨大蟹の甲殻へとまとわりつき、その雷撃を迸らせ強靭な甲殻の内側からしびれさせるのだ。
「これまた絞め方の一つ、だな」
キリカは釣り竿を収める。
所作の一つ一つが只者ではない。
というか、どう考えても釣りって感じではなかった。
「……出番、なかったね」
アンノットは、自分がと思っていたがしかし、庚たちが一瞬で巨大な蛸と蟹を処理してしまったのを見て笑む。
ハプニングらしいハプニングもあったけれど、誰もけが人がいなくてよかったと思ったのだ。
「でも、これってどうするの?」
「無論、釣り上げたのだ。食さねばな。礼儀というものであろうし」
「それにしてもでっかいデスネ」
庚は自身が絞めた巨大蛸を見上げる。
「うわ~ホントでっかいね~……見てみて、お顔ちょっとかわい~……何人分なんだろう?」
ジェットバイクに乗っていたリオたちもやってくる。
なんだかちょっとズレた感想にクルーたちは、そうかな……と思ったが感じ方は人それぞ。否定はできない。
だが、現実的な問題もある。
ものすごい釣果である。だが流石に芋煮艇のクルーたちが大所帯だとは言え、これだけの食材はどうしようもない。
けれど、アンノットは思いつく。
蟹と蛸。
どちらも海の幸の代表格。
そして、此処はアスリートアースの海水浴場。
なら、お腹をすかせた超人アスリートたちがいっぱいいる。
「なるほど」
「良いアイデアが浮かんだと見える」
キリカたちの視線を受けてアンノットは自らの水着姿を隠すように腕でかき抱くようにしながら、面を上げる。
「みんなにおすそ分けする、というのはどうかしら?」
そのアイデアを否定するクルーたちはいなかった。
どのみち、これだけの大物なのだ。自分たちだけでは処理しきれない。なら、みんなでという解釈を芋煮艇のクルーたちだけではなく、もっともっと多くの人たちへと広げるべきなのだ。
「幸い、こちらも大所帯。捌くには事足りるでしょう。これも忍術修行というもの」
うんうん、と土申が頷く。
なんか、それは、なんか、違うんじゃないかなぁとアンノットは思ったが一応空気を呼んで黙っていた――!
●宴はより多くと
楽しいことは多くと共有するほうがいい。
いつだってそうだ。
「はい、蛸串上がりましたよ。次は」
「巨大蟹のカニ味噌……? それは火で甲羅を皿にして炙りながら酒を入れて振る舞おう。絶対美味しい」
「蟹肉をほぐすのって結構大変だね」
「大味……調味料が欲しくなる」
「こちらにありま……ひょわわわわっ!?」
すってんころりんとヴォルフスブルクがすっ転んだり、酒宴が始まったりとアスリートアースの浜辺は大賑わいであった。
大人はみんなへべれけである。
ルエリラは、そんな大人たちの姿を見やり、まだ自分が大人ではないことを思い知るだろう。
世界によって大人の定義は異なるだろうが、まあ、一律お酒は二十歳になってから、というのが不文律であろう。
そう思えば、ちょっと惜しい気がする。
ヴィヴたち大人組は早速キッチンドランカーと化している。
まあ、味は保証できるというものである。
何せ、彼らは猟兵。
いずれもがユーベルコードを有しており、キリカなどは手持ちの食材を使って10秒事に次々と蛸と蟹、そしてキャンピングカーで持ち込んだ食材を調理して振る舞っているのだ。
加えて、ききんが冗談みたいな量の貝を持ち込んだものだから、わんこそばみたいに貝が焼き上がり蓋を開けるようにして身を顕にしているのだ。
「ほんと、ほんと。無限。無限に掘ったら出てくるの。わたしもびっくり。これが本当の無限わんこそば的な?」
ききんが掘りまくっていた場所は、貝の養殖池であったので、後でこっぴどく怒られが発生したりしたのだが、これまた別の話である。
彼女はそれ以上に罪を重ねていた。
少年たちの初恋を根こそぎ奪っていたのだ。
なんていうか、不思議なものである。
永遠の美少女とでも言えばいいのか。はたから見れば幼い少女だ。
けれど、彼女はどこか不思議な大人びた一面も垣間見せる。そのギャップにアスリートアースの浜辺の少年たちは、胸が傷む思いをしたのだ。
なんか知らんが、この子の危なっかしいところは、自分が助けてやらねばならぬという謎の決意を、こじれたまま実らせてしまったのだ。
まじで罪作りな女性である。
まじで呪われし者である。呪われし者と書いて、初恋ハンターと読む、的な。
「これもそれもどれもタダ! いっぱい食べるんだよ」
その上甲斐甲斐しく世話も焼いてくれる。
少年たちはいっぱい狂わされた。で、食べないのかと問われれば、ききんは胸を張って応えるだろう。
「この海の一等賞になりたいの。潮干狩りでわたしは! そんだけっ!」
だから、別に食べなくてもいい。
むしろ、食べてる暇があるのならば、まだ掘りたい。
掘って、掘って、掘りまくって、この海の貝類の全てが己のものだと主張したいのだ。
まじで強欲である。
そんなききんが後で怒られが発生する未来があると思えば、なんていうか物事というのは収まる所に収まるのだなぁと漁協のおっちゃんたちにしこたまお説教される、ききんを幻視してしまうグリモア猟兵もいたかもしんない。いなかったかもしんないけど。
そんなふうにして浜辺の酒宴は続いていく。
食事も美味しい。
潮風も沈んでいく夕日も、全てが芋煮艇のクルーたちを祝福しているようであった。
後で、ききんだけ怒られるっていう確定した未来があるのは、そのちょっとしたノイズかもしれないが、今はまだパーペキだから良しとしよう。良しとして――。
●花火
「キャンプの締めと言えば、やはりこれですよね。お任せください」
にこり、とヴォルフスブルクは持ち込んでいた花火セットをずらりと並べて見せた。
そう、最後はキャンプファイヤー代わりの打ち上げ花火である。
と言っても、そこまで盛大なものではない。
量販店で売っているような一般的な花火ばかりである。
「流石に大掛かりな仕掛け花火の購入は無理でしたけれど……どぱーんとあがると何と言いますか……すごく……すごくいい感じだと思いませんか!」
「でも、流石に大掛かりなものじゃないね」
「ヴェアアアアアッ!? えっ、これってよくテレビジョンで見かける河川敷の空にバンバンバーバーンと打ち上がっているあれじゃないんですか!? やっちゃいました!?」
ヴォルフスブルクは白目を剥いてしまう。
もしかしたら、彼女は量販店の花火セットに描かれていた大きな花火の絵そのものの光景ができると思ったのかも知れない。
だがまあ、仕方なと言えば仕方ない。
※イメージです。
という文言があるので、訴えるわけにはいかないのだ。
けれど、むしろ芋煮艇のクルーたちは、そうした少しチープな位の花火のほうがいいと思ったのだ。
「見上げる花火も綺麗だけれどさ~こういう可愛いのもワタシ好きだよ」
リオは線香花火に火を付けて、散る炎色反応に笑む。
それもそうだと思ったのは明日多だった。
「派手さはないですけれど、こういう場では、こういう花火セットが印象に残るものですから」
「そうだね。それに打ち上げるだけが花火ではないさ」
ヴィヴもまた笑む。
確かに花火セットの花火は打ち上げ花火のように大輪の花を空に打ち上げることはないだろう。
けれど、バラエティ豊かだ。
「……このニョロニョロしたの面白い」
「うん、ヘビ玉っていうんだって」
ルメリーとレンがもこもこと静かに燃えカスが伸びるように膨れ上がっていく様を見て、笑う。
「こっちは鼠花火っていうらしいッスよ」
紗良の言葉と共に火を付けた鼠花火が凄まじい回転と共に足元を走り抜ける。
それはあまりにも凄まじい勢いであったものだから、クルーたちは皆、わあきゃあと騒ぎ立てる。
その様子を見ていた土申は、ふむと考え込む。
もしかしたら、このようにバラエティ豊かな花火セットのあり方を見て、己の忍術…・・即ちユーベルコードのアイデアが振って湧いたのかもしれない。
閃きというのはいつだって大切なものだ。
どこから新たなる力の火種になるかわからない。
「これはどんなやつなんだろう? ロケット花火? ロケット……?」
ルエリラは、細長い棒の先端についた着火点を目にして首を傾げる。
なんとも頼りないものである。
でもまあ、火を付ける場所があって、これが花火だというのならば着火してみたらどんなものかわかるというものである。
「あそれ」
火を点ける。
けれど、じじじじ、と音を立てるばかり。
「何も起こらないじゃ……」
瞬間、ルエリラの手元から飛び立つロケット花火。
猛烈な勢いと共に飛び立った花火にルエリラは目を丸くしてしまう。
「な、なになにあれ何!?」
風切り音を立てて凄まじい勢いで飛ぶロケット花火を庚は、素手で掴み取る。凄まじい反射神経であった。
「ふむ、なるほど。手で持っていると危ないやつデスね」
「素手で掴み取れるもん!?
「造作もないデス」
にこ、と笑う庚。
確かに普段あらオブリビオン退治を重ねていればロケット花火なんていうものは、あくびが出るようなものであろう。
とは言え、不意打ちも不意打ちである。
ちょっと心臓に悪い。
「しかし、多種多様だな。手持ちの花火でも数種ある。色も異なる。なんとも鮮やかな色合いなのだろうな」
キリカも手にした線香花火の見せる反応に知らず微笑む。
「ええ、とても美しいですね。これはススキ花火というのですか……」
魅夜は、手にした花火に火を点けると、まさしくススキのように火花が散っていく様を見て笑む。
まだ季節は夏だけれど、秋の夜長を見ているような気がする。
月光に照らされたススキ。
その穂先であるように思えた。それに小刻み良い音を立てるのも気に入った。
「これは少し大きいけれど、ヴォルフスブルクさん、これも花火なの? ただの箱のように思えるんだけれど」
アンノットが手にしたのは長方形の箱であった。
少し重たい。
とりわけ、この箱型のものがヴォルフスブルクが購入してきた花火の中では最大のものだった。
「はい、少し大きかったので期待できます!」
「ええと、なになに……平らな地面において……」
二人はごそごそと箱型の花火の説明書を読み上げていく。
アンノットが読み上げ、ヴォルフスブルクが作業していくのだ。クルーたちは皆、それぞれの花火に夢中になっていて気が付かなかった。
読み上げているアンノットでさえ、作業しているのがヴォルフスブルクだと気がついていながら、認識が抜け落ちていた。
何の?
そりゃあ、ヴォルフスブルクがドジっ子である、という事実である。
そう、ちょっとしたことが雪原を転がり雪玉となって巨大になっていくように。
いやまあ、今は夏なので表現としては正しくないことは言うまでもない。
けれど、敢えて表現するのならばそういうことであった。
これがまだ、手持ち花火の類であれば、そこまで緊急を要するものではなかったのかもしれない。
「着火線に点火したら、急いで離れて……ん、んん!?」
アンノットは直ぐ側で着火しているヴォルフスブルクを見た。
見てしまった。
「え、なんで? 今説明書を呼んでいるターンじゃないの? なんですぐやっちゃうの?」
ききんが首を傾げている。
こういうのって説明書を呼んでから、手順を追っていくもんじゃないのか、と。
「え」
ヴォルフスブルクも酷く間の抜けた声を上げていた。
説明書通りにやりましたけど、という顔である。
間違っていない。
何も間違ってはいないが、タイミングが悪すぎた。
炸裂するはスターマイン。
打ち上がるは花。
地上では悲鳴と笑い声が入り混じっている。
花火の光が落とす影が踊るようにわちゃわちゃとしている。
「ヴェアアアアアッ!? ひゃあああああ!?」
ひときわ大きくヴォルフスブルクの悲鳴が響いている。
またやってしまったという悔恨。
けれど、芋煮艇のクルーたちは皆笑っていた。
失敗したっていい。失敗しない者なんていないのだ。
それに失敗は成功の仮定でしかない。それに、と皆が思った。打ち上がり続ける盛大な花火を見上げるのも悪くはない。
強烈な花火の光は芋煮艇のクルーたちを照らし続ける。
今日という日の思い出を瞼の裏に焼き付けるように。
これは彼らの物語。
一夏の思い出。
きっと来年も同じように笑い合える。
そんな明日の先に繋がる物語の一幕――。
成功
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