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ゆらら、さらら ~古書市と京の街~

#シルバーレイン #戦後 #メガリス

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 ――シルバーレイン世界・|糺の森《ただすのもり》。
 京都市内にある賀茂御祖神社、通称『下鴨神社』の境内にあるその鎮守の森は、本格的な夏を迎え、今まさに鮮やかな緑一色に染まっていた。

 京の夏と言えば、真っ先に思い浮かぶのは盆地ながらの蒸し暑い気候だけれど、それを忘れさせてくれるほど涼に満ちた場所が糺の森だ。
 森を満たすのは強い日差しではなく、愛らしい鳥たちの軽やかな囀り。
 背丈の幾倍にも伸びた木々は大きな木陰を生み、さやさやと風がそよぐたびに柔く木漏れ日が揺れ、蝉の唄はひっきりなしに響くも、森を渡る小川から溢れる水のけわいとせせらぎがそれすらまろやかにしてくれる。
「そこで毎年開かれている古書市に、メガリス『カルナマゴスの遺言』が紛れ込んでいることが分かりました」
 そう切り出した蓮見・双良(夏暁・f35515)は、本のサイズを指で形取った。
 羊皮紙を束ねた和綴じのようにも見えるこの本は、賢者カルナマゴスが過去や未来の出来事を綴ったもので、本を開いた者のみ“時間の流れが早くなる”というメガリス効果を持つ。
 大事件が起こる代物ではないとはいえ、放置しておくわけにもいかない。
「幸い、どの店で売られているかの目星はついていますので、誰かに買われる前に回収してきていただけませんか。
 回収したメガリスはこちらで預かっておきますので、あとは古本市を見て回ったり……夜まで観光を愉しまれてはいかがでしょう」
 青々と色づく木々のなか、朱色の鳥居の傍らに軒を連ねた白いイベント用テントの群れ。その裡には、古今東西集った数多の本が“新しい持ち主”との出逢いを待っている。インターネットで手軽に本が買えるようになった今だからこそ、こうした場所でお宝探しというのもまた一興だ。
「市には、本だけじゃなくかき氷やドリンク類のお店もありますよ。道の脇の床几台に座ってのんびりするのも良さそうです」

 糺の森を抜けて、夏の京都を巡るのも一興だ。
 市街地の北にある高雄や貴船の川床での食事は、今の時期ならば一層気持ちが良いだろう。木陰の裡、清流のすぐ上に作られた川床で出される料理をつつきながら、せせらぎと水飛沫が運ぶ涼に浸る。これほどの贅沢もなかなかあるまい。
 貴船であれば、貴船神社にも立ち寄ってみたいところだ。水神を祭神として祀っている貴船神社は、全国に約500社ある貴船神社の総本宮でもあり、縁結びのパワースポットでもある。
 夜の川床も、昼とはまた違った風情があって良い。特に鴨川納涼床ならば、夜の五山送り火――如意ヶ嶽の山肌に現れる大文字を眺めながらの食事もできるだろう。高雄や木船の川床は会席料理を主とするが、鴨川納涼床は和洋中と料理の種類が豊富なのも魅力だ。

 南下するなら、伏見で日本酒を嗜んだり、宇治でお抹茶スイーツを満喫したり。
 更に奥へと行った先にある正寿院・通称『風鈴寺』で、夏の風物詩『風鈴まつり』を愉しむのも良いだろう。風情ある自然を背景に凛と鳴り響く、2000個超の風鈴たち。それを十分耳と眼に焼きつけたら、世界でひとつの風鈴を作る『風鈴絵付け体験』も面白そうだ。
 勿論、市内も見所が盛りだくさん。
 二条城ではプロジェクションマッピングによる花火や天の川が鮮やかに夜を飾り、縁日屋台には京都老舗茶舗の特別なかき氷もいただける。
 京都水族館では、夜限定の照明で幻想的な空間を生み出す企画が開催され、暗がりで発光するクラゲソーダを片手に夜の魚たちを愛でられる。
 街灯にしっとりと浮かぶ夜の東山界隈、特に清水寺に近しい一念坂や二寧坂には約100基の行灯が並び、風情ある石畳を往くだけでも京らしさを満喫できるに違いない。

 そして夜には、誰しもが四方の山々を眺め見る――五山送り火がある。
 “お|精霊《しょらい》さん”と呼ばれる死者の霊を、あの世へと送る。その標として焚く5つの篝火を、橋のうえから、街中から、時に高台に登り、しめやかに眺めながら、祈りながら夜を過ごす。
 刻同じくして行われる、嵐山の渡月橋詰や遍照寺の広沢池での『灯籠流し』も、その幻想的な風景がきっと心に残るだろう。

「異世界の方にとっては、もしかするとありふれた景色かもしれませんが……是非、銀の雨降る世界の京の夏も愉しんでいってください」

 此処でしか巡り逢えない彩が、きっとあるから。


西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

久しぶりの京の夏へのお誘いです。

🎐全体補足
・2章完結のシナリオ。各章のみ、途中参加も歓迎です。
・各章POW/SPD/WIZの選択肢は一例です。OPに添っていればご自由にお過ごし下さい。
・OPにない情報も盛り込み自由です。極力採用します。
・飲食物など持ち込み自由。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。
・メガリス回収のプレイングは不要です。
 (リプレイ末尾に、回収された旨の一文が入ります)

⛩️各章補足
 <1章>
 ・種類豊富な古書市でのお買い物や休憩、糺の森の散策をお楽しみいただけます。

 <2章>
 ・時間帯は12時頃~21時頃まで。京都府内全域にて自由にお過ごしください。
 ・昼は○○に行き、夜は××をして…といった内容は各描写が薄くなりやすいため、どこか特定の時間帯&遊びに絞ったプレイングをお勧めします。

🎐同伴人数
いずれも冒頭に【IDとお名前】か【グループ名】をご明記下さい。
 ・オーバーロード使用なし:ご自身含め2名迄
 ・オーバーロード使用あり:人数上限なし
  ※同伴者全員オーバーロード適用必須

極力全採用できるよう努めますが、キャパオーバーの場合は流れる場合もあります。
申し訳ございませんが予めご了承下さい。
※オーバーロードは、プレイングに問題がない限り全て採用します。

⛩️プレイング受付期間
タグにてご連絡いたします。
オーバーロードは送信可能であればいつお送りいただいても構いません。

🎐当方グリモア猟兵
2章のみ、お声かけいただき、プレイングに問題がなければご一緒します。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『探しものを求めて』

POW   :    じっくり探す

SPD   :    効率的に探す

WIZ   :    閃きで探す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

遠藤・修司
メガリスというものの回収がてら、古本市を眺めるよ
この世界にはまた読んだことが無い本が多くて楽しいね
たまにはのんびり買い物でも、と思ってたんだけど……

そうだった、他の“僕”も読書が好きだったね
あれが欲しいだのこれが読みたいだの、煩いったらないや
目立ちたくないから、人前では騒がないでほしいんだけどな

買ってあげるから大人しくしてくれるかな?
一人2冊まで、あまり重たいのは買わないよ

思ったより本が増えちゃったか……
本が入った紙袋を両手に抱えて休憩しよう
ミステリやSFはいいけど、後はゲームの資料集に医学書にオカルト本に……
僕の趣味じゃないのも多くて、積ん読がまた増えるのか
やれやれ……本棚に入りきるかな?



●緑なす古書市
 照りつける陽を浴びるアスファルトから一歩踏み出せば、忽ち火照った身体が木陰に包まれた。未だ汗は止まらぬも、漸く得た涼に人心地着くと、遠藤・修司(ヒヤデスの窓・f42930)は絶えることのない木漏れ日が続く境内を、緩く視線を巡らせながら進んでゆく。
 “鎮守の森”の名の通り、糺の森は厳かな静寂に満ちていた。勿論行き交う人々は後を絶えないが、皆誰しも砂を踏む音だけを響かせながら歩いている。語らう者がいるとして、自ずと密やかに声音を落とす。此処は、不思議とそうしたくなる空気で満ちている。
 傍らで響くせせらぎのお陰か、それまで然程気にならなかった蝉の声が俄に鮮明になったかと思えば、連なる白いテントと穏やかな賑わいが聞こえてきた。誰かに尋ねるまでもないほどに集められた本の群れ。嗚呼ここが市か、と修司も密かに合点する。
 メガリスなるものはとんとお目に掛かったことはないが、ちらほらとほかの猟兵の姿もある。特徴的な外装だと言うし、いずれは誰かが見つけるだろう。無論、それが己でも構わない。
 そも、古本市自体がお宝の山なのだ。そこに少し異質な宝が潜んでいて、それを誰が手に入れるか予想もつかぬというのがなによりの醍醐味というものだろう。
 そういう修司もまた、その宝を目当てに訪れたひとりだった。
 この世界にはまだまだ読んだことのない本が多くて、それを想うだけで気も漫ろになってしまう。だからこそこの猛暑のなか、盆地で更に熱が籠もると分かっている京都へと着慣れたスーツ姿で足を運んだのだ。最近は特に仕事が続いていたし、たまにはのんびり買い物も悪くはない――と、思っていたのだが。
(……少し、静かにしてくれないかな)
 市へと入った途端、俄に騒がしくなった脳内の“僕”等へと、修司は辟易しながら声をかけた。
 そういえば、ほかの“僕”も読書好きだった。やれあの背表紙の本が気になるだの、その手許の本を取ってみせろだの、煩わしいことこのうえない。
(目立ちたくないから、人前では騒がないでほしいんだけどな……)
 そう聞こえるように脳内で声にしても、一向に各人の自己主張は終わる気配がない。仕方なく修司は溜息を零すと、もう一度“僕”等へと語りかける。
(分かった。買ってあげるから、大人しくしてくれるかな? 1人2冊まで。あまり重たいのは買わないよ)
 言った途端、更に脳内が騒がしくなったのは言うまでもない。

「思ったより本が増えちゃったか……」
 言われるが侭に本の海を巡り歩き、気づけば両手に抱えるほどの紙袋一杯に詰まった本を床几台に置くと、その隣へ腰を下ろした。漸く得られた休息に、今まで忘れていた蝉とせせらぎの音が再び鼓膜へと染み始める。
 一息ついて、何気なく袋のなかを漁る。ゲームの資料集に、医学書に、オカルト本。ミステリやSFばかりなら良かったが、自分の趣味ではないものもかなりの数あるはずだ。
「やれやれ、積ん読がまた増えるのか……本棚に入りきるかな?」
 帰ったら本棚の整理だな、と。ひとつ増えた労力を思いながら零れた溜息が、穏やかに揺れる木漏れ日に溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭間・クオン
古本市…色んな本が有るんだね。
面白そうな本も多そうだ。

「ご主人は読書好きだよね。なにか読みたい本とかあるのにゃ?」

そうだな…ライトノベルとか探してみようかな。
別の世界だし、私が見たことがない作品もありそうだ。
ネロさんも、付き合ってね。

「りょーかい」

ネロさんを連れてライトノベルを探しながら見て回るよ。
うちの世界(サイハ)に良く似た世界だけど、出てる本も同じのがあったり、微妙に違ったりするのが面白いね。

この本は昔のライトノベルかな?…え、何かすごく分厚いけど。
あ、でも内容は面白そう。折角だし、買って帰って読もうかな。

「…全部読むのに時間がかかりそうだにゃー」

ゆっくり読むのも読書の醍醐味、だよ。



 あまり積極的に交流する性格ではない狭間・クオン(ハザマの黒猫・f44064)だけれど、青々とした木々に包まれた素朴な市は、自然と気後れすることなく人々のなかに混ざることができた。なにせ、誰もクオンを気に留める者などいやしない。皆、今日巡り逢えるとっておきの本を探さんと、そればかりを考えているのだ。
 無論、クオンも例に漏れず、都市伝説『黒猫のネロ』をおともに、手近なテントから本の群れを眺め始める。
「色んな本があるんだね。面白そうな本も多そうだ」
『ご主人は読書好きだよね。なにか読みたい本とかあるのにゃ?』
 問われ、そうだな、とクオンが黙考する。都市伝説を題材にした小説をインターネットで公開している身としては、それ絡みが王道といったところなのだろうが、折角古本市を訪れたのだ。今日ばかりは違うジャンルを選んでも良いだろう。
「……ライトノベルとか探してみようかな。別の世界だし、私が見たことがない作品もありそうだ」
 ネロさんも付き合ってね、と足許を見遣れば、『りょーかい』と言ってネロがひょいとクオンの肩に飛び乗った。本を探すのに最適の高さだ。
 それぞれのテントは古書店別になっているようで、テントのなかの本はある程度ジャンル分けされているものの、どのテントにもライトノベルはそこそこ置いてあるようだった。クオンとネロは|眼《まなこ》を凝らしながら、背表紙の文字を追ってゆく。
『それにしても、こんなにあるとは驚きだにゃ』
「|サイキックハーツ《うちの世界》に良く似た世界だけど、出てる本も同じのがあったり、微妙に違ったりするのが面白いね」
 例えば、タイトルの“白”が“黒”になっていたり、“できない”が“できる”になっていたり。男主人公だったはずの表紙が美少女になっていたりと、ちいさな発見に次々と出逢う。
「――あ、」
『何かあったにゃ?』
「これ……」
 つ、と指を添えて、クオンが1冊の文庫本を手に取った。
 まず、目についたのはその分厚さだ。ライトノベルのようだが、これ1冊で普通の文庫本のゆうに2冊分の背幅がある。
「何かすごく分厚いけど……昔のライトノベルかな? あ、でも内容は面白そう」
 ぱらぱらと捲ったページの文章は、自分好み。テンポも良さそうだ。
『買ってくにゃ?』
「うん、折角だし。家で読もうかな、って」
 そう言って店の主人へと本と代金を渡し、紙袋に包まれた本を受け取ったクオンの肩で、ネロが溜息交じりに零す。
『……全部読むのに時間がかかりそうだにゃー』
「ゆっくり読むのも読書の醍醐味、だよ」
 猟兵になって、色んな世界を巡る術を得たけれど。
 物語のなかで、心のままに世界を巡る――それは、本からしか得られない“愉しさ”なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パティ・チャン
■SPD
古書市の依頼とあっては、黙っているわけには参りませんね!
(先ずは【UC】で、体躯を人間サイズにしておいて……)

……話には聞いていましたが、京都ってとんでもなく暑いです~
(大慌てで髪の毛をぐるっと纏めて簪で留めて)
す、少しは楽になった、かしら?
蓮見さんのおっしゃってたお店は~と、あそこ……でよかったのかしら?
(メガリスの回収の可否はお任せいたします)

さて、こうなってしまっては、私の中の「本の虫」が黙っているわけがありませんね!(目に星が光る勢い)

とてもじゃないけれども、この暑さでじっくり探すだなんてムリ!
ブースのジャンルを目当てに運命の出会いを信じて探します!
(歴史モノの小説を探します)



 普段は羽音を立てて宙をゆくパティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)も、今日は人間の少女ほどの背丈となって靴音を響かせながら市をゆく。
 こう見えても“本の虫”のはしくれならば、古書市と聞いたら黙ってはいられない。聞くところによると、京都の夏はかなりの暑さだというが、それがどうしたと言うのだ。書類系の収集家は、暑さ如きで怯んだりはしないのだ。
「……と思って来たんですが、京都ってとんでもなく暑いです~」
 それでも、この糺の森に入ってからはまだ幾許か熱が和らいだ。道の端、せせらぎと水辺の涼を届けてくれる小川の近くへと寄って、大慌てで髪をくるりと纏めて簪で留める。
「す、少しは楽になった、かしら? ――さぁ、もたもたしてはいられません。お目当てのメガリスを探さなければ!」
 気を取り直したパティは、意気揚々と市へと飛び込みきょろきょろと視線を巡らせた。

 ――メガリスが売られているお店ですか? 『暗夜堂』っていう店名で、ご老人と妙齢の女性が売り子をやっているはずです。
 ――テントには店名は出てませんから、店員を目印に探すと良いかもしれません。

(蓮見さんのおっしゃってたお店は~と、あそこ……でよかったのかしら?)
 幾つかのテントを見てみたけれど、大体は壮年の男性や若い女性が店番をしていた。この周辺で老人と妙齢の女性の組み合わせは、あのテントしかないようだ。
 なかを伺いながらテントの裡へと入ったパティは、ほかと同じようにざっくりとジャンル分けされただけの本の群れを眺め始める。
(えっと、羊皮紙を束ねた和綴じの本……――あっ)
 ほかの本よりもひとつ背の高い、背表紙のない素朴な本が目に留まり、パティはそっと本棚へと手を伸ばした。触れた瞬間、得も言われぬなんらかの力が指先から伝わってくる。
(これだわ、『カルナマゴスの遺言』……!)
 浮き足立ちそうな気持ちを抑えながら、それを店員――女性のほうへ手渡すと、ふ、と微かに女の笑みが深まった。老人の骨張った手からおつりを受け取り、パティも軽く一礼する。
「お買い上げありがとうよ、お嬢ちゃん」
「どうぞ、|愉しんで《・・・・》くださいね」
 ――そは、知ってか知らずか。

「さて、目的も達成しましたし……ここまで来て、私の中の“本の虫”が黙っているわけがありませんね!」
 グリモア猟兵からも「欲しければどうぞお持ち帰りください」とも言われたメガリスを確りと抱えながら、愈々パティの眸が星のように燦めき始める。
 とはいえ、この暑さのなか、無策で巡るのは無理が過ぎるというものだ。
「こうなったら、ブースのジャンルを目当てに、運命の出会いを信じて探します!」
 待っていて、私の歴史物小説――!
 その一途な想いのままに、パティは再び本の海へと飛び込んでゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
水色の地に金糸で星柄が描かれた22年浴衣姿。
ふらっと行った先で思いがけず素敵な本に出会ったりするのが古書市の魅力ですよね。絶版だったり、なかなか手に入らない本が売られてたりもしますし…

古書市を巡りながらやっぱり目につくのは天文関連の本。
美しい挿絵の星座にまつわるギリシャ神話の本、世界の絶景と星景写真が収められた写真集、迫力あるビジュアルの宇宙図鑑や学術的な天体物理学の本まで、気になる本が多すぎて…あんまり買うと荷物になるしどうしよう?

真剣に悩んだ結果手に取ったのは月の物語が書かれた海外の綺麗な絵本。
絵本なら読めなくてもなんとなく内容は分かりますし、何より絵が綺麗で。
部員にも見せたいな…



 からころと下駄を軽やかに鳴らしながら、空色に金糸で星座を鏤めた浴衣に身を包んだ八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)が古書市を巡る。
 ぶらりと立ち寄った先で、思いがけず素敵な1冊と出逢えるのがこうした場所の魅力だ。今や絶版のものや、入手困難なものもあるだろうけれど、一等良い本に巡り会おうと気構えることはない。
 誰しも、それを識っているのだろう。テントの裡で本を眺める人々もまた、誰しも愉しそうだ。陽を透いて一層鮮やかに染む木々の葉に囲まれた此処だからこそ、より自由に、自分のペースで本を探せるのかもしれない。
「うーん……どうしよう……」
 数軒立ち寄った先で、そう独り言ちながら詩織の手が止まった。
 天文関連の本があれば、と思ってはいたけれど、思いのほかに数が多い。とはいえ、星座にまつわるギリシャ神話の本は見入ってしまうほど挿絵が美しいし、世界の絶景とともに撮られた星景写真集はまるで幻想のよう。肉眼では到底拝めない宇宙図鑑はどの写真も大迫力だし、学術的な天体物理学の本は授業の参考にもなるだう。
 あまり買い込んでは、荷物になると分かってはいる。それでも、どれも比較できないほど魅力的なのも確かなのだ。
 ――そんななか、今この手の裡にあるのは、1冊の絵本。
 月の物語がしたためられた海外のもので、確りとしたハードカバーの表紙には、薄藍とも浅葱とも思える、けれどどちらでもないような不思議と胸があたたかくなる色合いの美しい夜空に、蜂蜜色のお月様が描かれている。ぱらりと数ページ捲ってみれば、その得も言われぬ優しい雰囲気に夏の暑さも忘れてしまいそう。
「……ん、これにしよう」
 今日見つけたどの本も魅力的で、手にするたびに真剣に悩んできたけれど。この絵本であれば、読めない人にでもある程度の内容は分かるだろうし、
(何より、絵がすごく綺麗……)
 改めて眺めても、見とれてしまう。インターネットのあるこの世界ならば、探せば後日でも手に入るかもしれない。けれど、それはこの本であって、この本ではない。
 今こうして出逢ったのは、どこかに住む、あるいは住んでいた誰かの手を渡って今自分の手にしているこの本は、この世でたったひとつのものなのだ。
「すみません、こちらいただけますか?」
 店員へと言って、会計を終え丁寧に包まれた本を抱きしめる。
 ――ああ、早く部員にも見せたいな。
 そう想い馳せながら、詩織は再び、淑やかにからころと下駄を鳴らし始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
時間が早くなる、ってことは周りから見たらすごい速さで本を読み進めているように見えるのかな?
内容の面白さも気になるけど早めに回収しとかないとね。

と言う訳でメガリス回収かねて古書市をのんびり巡るね。
この世界この国の古い本、どんな本があるのか楽しみだにゃー。
気になるのは実用的な本、書き込みとか結構あるレシピ本とかあったら何だか掘り出し物見つけた気分で買っちゃうかな。
味の好みが合うかは分からないけど、試行錯誤のメモ書きは前の持ち主の性格とか出てたりしてきっと役に立つだろうから。
帰ったら実際作ってみるかな?と考えつつ抱える本の数が増えて…一回預けに戻った方がいいかにゃー(ふらふら)

※アドリブ絡み等お任せ



 時間が早くなる、ってことは周りから見たらすごい速さで本を読み進めているように見えるのかな? ――なんて。
 メガリス効果への興味は尽きなかったところに無事回収完了の連絡が入り、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はひとつ安堵の息を吐いた。内容にも興味はあるけれど、それはまた後日、機会があれば教えてもらおう。
「じゃあ、あとは気兼ねなく古書市を巡れるにゃー」
 人々の流れに沿ってふわふわと飛びながら、ぴんと来たテントの裡へと誘われるように入ってゆく。
 常に新しいものが生み出される世の中で、古いものというのはそれだけで貴重だ。それが、この異世界でもある|銀雨世界《シルバーレイン》の、この日本という国のそれならば、俄然興味も湧いてくる。
 そんな今日のお目当ては、実用書。
 なかでも、料理のレシピ――特に、色々と書き込まれたものならばクーナにとってはお宝だ。味の好みが合うかは分からないけれど、それはそれで持ち主の人となりが分かるし、試行錯誤のメモ書きからも性格や生活が窺えてきっと役に立つはず。
「――あっ、これ、お菓子のレシピだにゃー……!」
 形の良い耳をぴんと立て、猫口がふわりと緩む。藍の双眸を燦めかせながらページを繰れば、饅頭、大福、串団子におはぎなど、どこかレトロな印象を抱かせる絵と書体が飛び込んできた。どうやら、昭和なる時代に発行されたものらしい。
 “あんこが柔らかすぎるときは冷蔵庫で冷やす”、“団子の生地は季節や湿度によって水の量を変える。耳たぶくらいの柔らかさ”――丁寧で美しい筆跡で書かれた文字は、後から追記されたであろう文字になるとやや震えが見え始め、恐らくひとりの人物が年老いるまで使い続けたことが窺える。
「和菓子かー。なかなか作る機会もないから、面白そうにゃー」
 これぞまさに、掘り出し物と言って良い一品だろう。帰ったら実際作ってみるかな? と心浮き立たせながら迷わず購入すると、クーナは受け取った包みを持ってきた袋へと大切にしまった。そうしてまた、ずしりと袋が重くなる。
「……さすがに、1回預けに戻った方がいいかにゃー」
 そんなことを考えながら、けれどやっぱりふらふらと。
 まだまだ出逢えていない本を求めて、お宝巡りを続けてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橘・創良
猟兵になってから他の世界に行くのが楽しみになったんだ
シルバーレインも僕たちの世界と似ているね
古書市だなんてわくわくするし
そこに紛れ込んだメガリスを回収する仕事なら
僕でも役に立てそうかな

…とはいえ、たくさんの本を前にしたら夢中で手にしてしまって
この本、図書館にも置いておきたいって思ってたんだ
絶版で手に入らないと思ってた貴重なものも?
世界は違っても名作は同じなんだね
たくさんの人の手に渡ってここにあることに縁を感じて
こういう出会いがあるから古書市は素晴らしいね

たくさん買い込んだ後は糺の森を散策しよう
暑い夏でも緑の木陰がカーテンのようで
鳥の囀りに耳を澄ませて
清涼な空気って言うのかな
不思議な力を感じるね



 ――面白い。
 それが、|銀雨世界《シルバーレイン》を訪れた橘・創良(静謐の泉・f43923)の初印象だった。
 誰しもダークネスを内包し、そして実体を得たダークネスたちに闇堕ちを促さんと見えぬ形で支配されてきた世界。
 そうして全ての知的生命体が闇堕ちし、その魂がひとつとなって至ることのできる最強のダークネス――“サイキックハーツ”の名を冠した世界に生まれた青年は、己の住む世界にもあるこの京都という土地を、新鮮な気持ちで歩く。
(猟兵になってから、他の世界に行くのが楽しみになったんだけど……ここも、僕たちの世界と似ているね)
 正確に言えば、住んでいる武蔵野市ならばともかくも、そうではない京都となると風景だけでは大きな違いが分からない。
 けれど、ふとしたときに感じる違和感――いや“差異”が、創良へと此処が異なる世界なのだと教えてくれる。いつだってその発見が、この心を躍らせる。
 あのころは、灼滅者たちを送り出すことしかできなかった。
 今はこうして、己の足で世界を巡ることができる。
 一歩一歩、別の世界を歩むたびにじわりと歓びが胸に染む。実感が充足感に変わり、例えるならば年甲斐もなく駆け出したくなるような気持ち――だろうか。
 己も闘うと決めたのは、つい先日。だからまだ猟兵としては手探りなことばかりだけれど、古書市に紛れ込んだメガリスを回収する仕事ならば自分でも役に立てそうだし、なにより。
 ――武蔵坂学園図書館学部を卒業し、司書を仕事に選んだ身ならば、古書市なんて黙って聞き過ごすことなんでできるはずもない。

(あっ、この本、図書館にも置いておきたいって思ってたんだよね……)
(これ……! 僕の世界じゃ絶版で、もう手に入らないと思ってた貴重な本……!)
(ああ、こんなに重版されてる……世界は違っても、名作は同じなんだね)
 暑さも、煩いほどの蝉の声も忘れて、夢中で背表紙を追い、ページを繰る。
 これまでたくさんの人々の手を渡り、たくさんの縁を紡ぎながら、いま此処に集った数々の本たち。それは貴重な縁であり、自分もその一部なのだと深く思い浸りながら、創良は何冊目かの本の入った袋を大切に抱きしめる。
「……こういう出会いがあるから、古書市は素晴らしいね」
 満足感に満たされながら、糺の森をゆく。
 蝉の声が響くなか、それでも澄み渡るほどに明瞭に聞こえる鳥の囀り。
 さやさやと揺れる葉影はふわりと靡くカーテンのようで、不思議と心穏やかになる澄んだ空気が、静かに夏の熱を浚っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
ディフさん(f05200)と

涼しくて幾分過ごしやすい森の
古本市へ友とぶらり歩き

漫画や図録、物語…
天幕の下に並ぶ豊富さに
アルダワのように魔法に因んだのはないでしょうが
この機会に触れたことない種類の本に挑戦するのも
良いかもですよね

ディフさんはどんな子に興味あります?
成る程、それもわかるな…
僕は、学ぶ系以外だと
絵本や旅行記
冒険譚や随筆とか好きですが
少し前は推理小説や…
勉強にと、恋愛小説を読んでみたりも
ディフさんも?
奇遇だなとつい笑みこぼれ

それも良いな、僕も探してみよう
後、お土産用に刺繍の図案の本とか…
ええ、きっと!

迷うのすら楽しいけど
あっという間に時間が過ぎ
冷たい珈琲も売ってるみたい
休憩挟みますか


ディフ・クライン
類(f13398)と

互いに本好き
気の置けぬ友と漫ろ征く

これだけ本があると宝探しの気分だな
ふふ、そうだね。折角だ。新しい本に挑戦してみよう
良かったら、類も

本って基本は勉強の為だったから
娯楽の為に本を買うってことがなかったのだよね
いつもなら魔術書や医学書を探すんだけれど
そうだな……オレ、旅行誌とか気になる
遊びに行く参考にもなるしさ
ふふ、同じ
オレも恋愛小説はこっそり勉強の為に読んだよ
今日は新しい恋愛小説を探すのもいいな

おや、お土産か。奥さんもきっと喜ぶよ
オレも……レシピ本とか編み物の本とか喜ぶかな

あれもこれもと見ていてもまだまだ宝探しは尽きない
いいね、一息つきながら
本探しの相談も、本の感想も話そうよ



 その鎮守の杜に入ったころから、街の喧騒は消えていた。
 慌ただしく行き交う車の走行音は知らぬうちに小川から聞こえるせせらぎへと変わり、照りつけるほどの陽射しも、抱くように空を覆う葉影に隠れて此処までは届かない。歩むたびにさくりさくりと鳴る砂の音は柔らかで、肩を並べた気の置けぬ友ふたりの口許も、自ずとふわり柔く緩む。
 木々の間からちらりと見えた白い翼を広げたような天幕の群れに、其処が目当ての市だと察したふたりの裡も俄然沸き立つというもの。
 漫画や図録、物語――賑わう人々の波に乗りながら、見渡しただけでも分かるその豊富さに、思わず感嘆の息が漏れる。
「これだけ本があると、宝探しの気分だな」
「アルダワのように魔法に因んだのはないでしょうが、この機会に触れたことない種類の本に挑戦するのも良いかもですよね」
 普段落ち着いた冴島・類(公孫樹・f13398)にしては、語尾が僅かに弾んでいて。ふふ、と笑み零しながらディフ・クライン(雪月夜・f05200)も眦を細める。
「そうだね。折角だ。新しい本に挑戦してみよう。良かったら、類も」
「ええ、勿論です」
 なんと魅惑的なお誘いだろう。答えなぞ、ひとつしかないに決まっている。
 そう言わんばかりに頷いた友と連れ立って、ディフもまた本格的な宝探しへと乗り出した。

 此処が本の海ならば、ひとつひとつの天幕はまさに、お宝眠る未開の地。
 似たようでいて個性的な島々をじっくりと眺めつつ、無論相談も欠かさない。
「ディフさんはどんな子に興味あります?」
「本って基本は勉強のためだったから、娯楽のために本を買うってことがなかったのだよね」
「成る程、それもわかるな……」
 本の成り立ちを考えればこそ、まずは学びが先んじるものだろう。そんななか、これほどの娯楽向けの書物が世界に広がったことは喜ばしいことに違いない。
 いつもなら魔術書や医学書を探すんだけれど、と前置きながら、視線は眼前に並ぶ本棚へと向けたまま、ディフが云う。
「そうだな……オレ、旅行誌とか気になる。遊びに行く参考にもなるしさ」
「あ、良いですね。眺めているだけでも愉しそうですし。僕は、学ぶ系以外だと、絵本や旅行記、冒険譚や随筆とか好きですが、少し前は推理小説や――」
 そこまで云うと、類はこそりと声を潜めて。
「……勉強にと、恋愛小説を読んでみたりも」
「ふふ、同じ。オレも恋愛小説はこっそり勉強のために読んだよ」
「ディフさんも? 奇遇だな」
 どこかはにかむように微笑む友。いつも穏やかで惑うことなぞなさそうなのに、新たに知ったディフの一面に、類もついほろりと笑む。
「なら、今日は新しい恋愛小説を探すのもいいかもな」
「それも良いな、僕も探してみよう。後、お土産用に刺繍の図案の本とか……」
「おや、お土産か。奥さんもきっと喜ぶよ。オレも……レシピ本とか編み物の本とか喜ぶかな」
 伺うような視線と声音には、応援の気持ちを込めて力強く頷いて。
「ええ、きっと!」
 次のお宝を目指してふたり、まだまだ終わらぬ海路をゆく。
 地図なんてない。迷うのだって醍醐味だからと、気づけば結構な数となった戦利品を手にした類が、同じような姿のディフへと視線を送る。
「お互い、結構買いましたね。冷たい珈琲も売ってるみたい。休憩挟みますか?」
「いいね。一息つきながら、本探しの相談も、本の感想も話そうよ」

 ――そう、これは気持ちばかりの小休止。
 この焦がれるほどの本への想いは、もう暫くは尽きそうにない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィンデ・ノインテザルグ
【黎明】
相棒の昴と共に古書市へ。

嘗て教会の蔵書にしか触れてこなかった私には
燦々とした陽の下に並ぶ書物の数々が煌めいて見える。

…昴、二人で気に入った本が在れば購入してみないか?
以前は己の書庫を持つこと等赦されなかったが、今は違う。
最初の数冊は君と共に選びたいんだ。

モノクロの盤面を想わせるスリーブケースから
取り出した古書には幾つもの『手』が描かれている。
収録された36篇の掌編小説は、聖書に慣れた私にも読み易く想えて。
表紙を開く度に鳴る軋みが、ドアを開くようで気分が高揚する。

私は―…昴、私はこの本が『欲しい』。
初めて口にした欲求が気恥ずかしい。
君と一緒に…私達の『好き』が詰まった書庫を創ってみたい。


蒼乃・昴
【黎明】
相棒のヴィンデと共に古書市へ。

相棒の横顔が微笑ましい。
…彼が書物に関心があったとは知らなかったな。
ふふ、そうか。それは名案だ。
俺もヴィンデと共に選びたい。

戦闘兵器の俺には書物を読んで過ごす時間が無かった。
だから何もかも新鮮で、彼が手に取った本も目新しい。
タイトルを知ると益々惹かれるものを感じるな。

彼の『欲しい』という言葉を聞くと、目を見開く。
俺達は出会ってから殆どの時間をずっと一緒に過ごしてきたけれど、君の口から初めて聞いたような気がした。
だから胸が凄く、温かい。
…ああ、帰ったらすぐに創ろう!
そしてこの本を俺達の書庫に迎える『1冊目』にして、君と二人で『好き』を溢れさせていきたい。



 直射日光に当たらないよう管理された、教会内の書庫――それが己の知る“本の在処”だった、ヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)は、梢から伸びた葉が穏やかに吹く風に揺れ、隙間からほろほろと木漏れ日が零れた先に並ぶ本たちに目を瞠った。
 天幕の下とはいえ、書籍の管理としては教会の蔵書のほうが適切なのだろう。けれど、此処にある書物はどれも、ぬくもりと燦めきを孕んでいるように見えた。まるで本自身が、新たな出逢いを待ちわびてときめいているかのように。
「……昴。ふたりで気に入った本が在れば、購入してみないか?」
 そんな相棒の横顔を微笑ましく眺めていた(夜明けの|六連星《プレアデス》・f40152)は、ふと視線を自分へと移しながら掛けられた言葉に、短く瞬く。
「以前は己の書庫を持つことなど赦されなかったが、今は違う。最初の数冊は、君と共に選びたいんだ」
 共に相応の時間を過ごしてきたと思っていたけれど、そこまで書物に関心があったとは。新たに知った一面に、歓びのまま昴も頷きを返す。
「ふふ、そうか。それは名案だ。俺も、ヴィンデと共に選びたい」
 そういう自身も、戦闘兵器であるが故に、書物を読むという経験すら満足に得られず――寧ろ、書物へと意識を向ける余裕さえ持てずに今までを生きてきた。
 だからこそ、皆にとっては良く識る本であっても、昴にとってはなにもかもが新鮮に映った。
 図鑑、文学、学問、歴史や経済、アートやレシピ集。この限定された空間だけでも、これほどの種類があるならば、世界にはどれだけ多くの書物があるのだろう。これからもふたりで、その機会を増やせていければ――そう未来へと想いを馳せる。
 綺麗に並べられた背表紙を眺めて、惹かれたタイトルの本を手に取ってみる。その行為だけでも胸が躍るし、傍らでヴィンデが選んだ本も目新しく、眩く映る。
「……昴」
「どうかしたか?」
 尋ねながら視線を落とせば、相棒の手には1冊の本があった。
 モノクロの盤面を彷彿とさせるスリーブケースから取り出されたのは、幾つもの『手』が描かれた古書。丁寧にページを繰ると、どうやら36編の掌編小説を纏めたもののようだった。
 どこか聖書にも似たそれは、ヴィンデにも読みやすく思えた。なにより、表紙を開くたびに鳴る独特の軋みが、未開へと繋がる扉を開くようでなんとも気持ちが高まってゆく。
「私は――……昴、私はこの本が“欲しい”」
 それは、己の声で、自らの意志で発した初めての欲求。
 どこか気恥ずかしくも、けれど昴になら聞かれても良い――いや、自分自身の言葉で伝えたい、そして聞いて欲しいと思ったから。
 その想いを察した昴は、一度瞠目した眼差しを柔く緩めた。
 出逢ってからふたり、殆ど共に時間を共有してきたけれど、ヴィンデの声で初めて紡がれた言葉に、言い表しようのないほど胸にぬくもりが灯って。
「君と一緒に……私たちの“好き”が詰まった書庫を創ってみたい」
「……ああ、帰ったらすぐに創ろう!」
 この本は、その“俺たちの書庫”に迎える1冊目。
 そして此処から創ってゆこう。――君とふたりの“好き”が溢れる、世界にただひとつだけの書庫を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【遊歩】
(差し支えなければお供のぴよこ&亀も一緒に)
くっ…折角清々しい森に入ったってのに、このむさ暑苦しい図…!
嗚呼、一夏の出会いとか思い出とか、今年こそはと思ってたのに――!
(抱えた頭をお供ズにつつかれ、何とか気を持ち直し)

ああ分かってるってば!流石に御神前で不躾な真似はシマセンヨ
ぴよこと亀にも絵本とか探したげるから、どうどう!
確かに、エンパイアでは出会えない書物の宝庫となれば、こーして見るだけでも楽しいってのは同意で!

よし、こーなったらココはとにかく少しでもプラスに――実はインテリ〜的な一面を出してくしかっ
(冗談めかした意気込みを宣いつつ、実際のトコロ――ヤドリガミの端くれって立場からしても、永く色んな人達に愛されてきただろう書物や物語――それらがまた新たな出会いを待ってるって光景は心躍るモノで)

そしたらオレも、この世界ならでは、或いはこの都ならではの文学に触れられそーな一冊を
(そしてお供ズへの絵本も見つけた頃には、すっかり嘆きも吹き飛んで)
ああ、そんじゃ一休み――ってホント早!?


千家・菊里
【遊歩】(お供のおたまも問題なければ共に)
はいはい、その台詞はお腹一杯ですよ〜
(エンパイアの都とはまた違う風情を、おたまとのんびり満喫しつつ――毎夏変わらぬ嘆きをあげる伊織を、今年も生温か〜く眺め)
それより、此処は古よりの静謐な地――分かってますね??

やれやれ、この具合だと相生社の御利益も焼け石に水ですかねぇ(肩竦めて笑い)
ふふ、そうですね、今は貴重な書との出会いの一時こそを楽しみましょう
そう、エンパイアとはまた一味違う美食紀行など大変興味深く――おたまも一緒に宝探しと参りましょう(書物と出店の両方へ、忙しなく熱視線注ぐ小狐に笑いかけ)

(言った傍からまた戯れを――と思いきや、存外真面目に楽しむ方向に落ち着いたらしい様子を察せば、茶化すのはやめ)
いやはや、何処を見てもわくわくしてなりませんねぇ

(にこにこと食文化などに纏わる本を中心に見て――特に心惹かれる一冊と巡り会い)
よし、これで一層この世界を堪能できそうです
序でに小休憩がてら、出店の味も堪能と参りましょうか(凄い速さで並んだ食道楽)


吉城・道明
【遊歩】
(またよく解らぬことを言っているな――と、毎度如く嘆く仲間に、毎度の如く生温かい眼差しを向けつつ)
心頭滅却すれば何とやら、と言うだろう
それに折角と言うならば、この森の清涼な風情、楽しまねば損だぞ
(わちゃわちゃしている約一名を横目に、のどかな鳥の声や森の音を穏やかに楽しみ)

うむ、心穏やかにこの地の空気に触れていれば、自然と背筋も伸びるだろう
(伊織が求める其れに関しては、確かに相生社の御利益を持ってしても分からぬところではあるが――と、地味に無言で頷きつつも)
此度に関しては、少なくとも素晴らしい出会いは確約されていよう
この場でしか得られぬ縁――様々な時や想いを重ねてきたであろう古書との巡り合わせもまた、実に良いものだ

(ふと変わった面差しを見れば、それ以上の口は挟まず)
それにしても、正しく宝探し、だな
何処も宝尽くしではあるが――此処はまず、この地で紡がれた文化や歴史に触れられる様な書をいただこうか
読後は其々一度、交換してみても楽しいやもしれぬな
(小休憩にも頷き)
流石、徹底した食道楽だな



 此処に至るまではまさに近代の街並みであったのに、ひとたび鳥居を潜り裡へと入ると一瞬にして世界が変わった。
 あたりは緑に包まれ、ほんのり香る木々の香。どこからか聞こえるせせらぎが耳を潤し、静謐な風が木立を抜けて肌へと涼を届けてくれる。
 文明開化の色なぞどこにも見えぬ、この地が山城国と呼ばれたころから在る原生林は、どこかサムライエンパイアの面影もあるように見えて、呉羽・伊織(翳・f03578)は大きく一呼吸し――そして盛大な溜息を吐いた。
「くっ……折角清々しい森に入ったってのに、このむさ暑苦しい図……!」
 嗚呼、一夏の出会いとか思い出とか、今年こそはと思ってたのに――そう拳を握るその様に、またかと言わんばかりの視線を向けた千家・菊里(隠逸花・f02716)が呆れ声で一蹴する。
「はいはい、その台詞はお腹一杯ですよ~」
 そう、これは言わば毎夏訪れる恒例行事。肩に乗せた『おたま』――ちょこん、もこんとした、よく食べよく遊ぶ多分管狐――とともにのんびりとした空気を満喫していた菊里は、既に聞き飽きた嘆き姿へといつもの如く生暖かい視線を送った。
「心頭滅却すれば何とやら、と言うだろう」
 またよく解らぬことを言っているな、と全く同じ視線を向けながら、吉城・道明(堅狼・f02883)も軽く息を吐く。
「それに折角と言うならば、この森の清涼な風情、楽しまねば損だぞ」
 異世界のこの森のことで、識っていることと言えば少ない。それでも、此処が鎮守の杜であることは、まさに森に抱かれた身だからこそ実感した。一切の濁りのない大気、喧噪の聞こえぬ唯々静寂に満ちたこの空間を、葉掠れと鳥の囀りが心地良く満たしている。
「それに、此処は古よりの静謐な地――分かってますね??」
「ああ分かってるってば! 流石に御神前で不躾な真似はシマセンヨ」
「うむ、心穏やかにこの地の空気に触れていれば、自然と背筋も伸びるだろう」
 頭を抱えながらも反射的に菊里へと叫んだ伊織に、道明も満足気に頷くけれど、
「あいたたたたた……! ぴよこと亀にも絵本とか探したげるから、どうどう!」
 お供たち――ふわもこヒヨコの『ぴよこ』と以前助けてからすっかり懐かれた『亀』――に頭を突かれる姿に、もうひとつ嘆息を零して、
「やれやれ、この具合だと相生社の御利益も焼け石に水ですかねぇ」
(確かに、相生社の御利益を持ってしても分からぬところではあるが――)
 肩を竦めながら笑う菊里へと無言の首肯を返してから、穏やかな声音で言葉を継ぐ。
「此度に関しては、少なくとも素晴らしい出会いは確約されていよう。この場でしか得られぬ縁――様々な時や想いを重ねてきたであろう古書との巡り合わせもまた、実に良いものだ」
「確かに、エンパイアでは出会えない書物の宝庫となれば、こーして見るだけでも楽しいってのは同意で!」
 お供たちの激励めいた激しい突きでどうにか気を立て直した伊織に続き、菊里も愉しげに頬を緩めて。
「ふふ、そうですね。今は貴重な書との出会いの一時こそを楽しみましょう」
 ――宝探しと参りましょう。勿論、おたまも一緒に。既に忙しなく本と甘味の店を交互に見渡しているおたまへとそう双眸を細めた友に続き、伊織と道明も後に続く。

 京の街、それも社の裡ともなれば、和装姿の青年3人も自然と古書市に溶け込んだ。
 見目も歳も異なる人々なれど、思い思いに本を選ぶ横顔は皆同じ。誰しも、期待と歓びに溢れている。
「いやはや、何処を見てもわくわくしてなりませんねぇ」
「これは正しく“宝探し”、だな」
 色気よりも食い気の勝る伊織の興を引くのは勿論、食文化に纏わるもの。特に異世界ともなれば、エンパイアとはまた一味違う美食紀行は1冊でも多く欲しいところだ。
「よし、こーなったらココはとにかく少しでもプラスに――実はインテリ~的な一面を出してくしかっ」
 傍らから聞こえた伊織の声に、言った傍からまた戯れを――と視線を遣れば、思いのほかその横顔は純粋な期待に満ちていて、道明はちいさく瞠目した。これ以上茶化すのは野暮というものか、とそっと口を噤む。
 端くれと言いながらも、矢張り伊織はヤドリガミに他ならない。幾星霜ものあいだ数多の人々の手を渡り愛されてきたであろう書物や物語が、再びの縁を心待ちにして此処に座しているのだと思うと、心躍らずにはいられないのだ。
「何処も宝尽くしではあるが――ならば俺は、此処はまず、この地で紡がれた文化や歴史に触れられるような書をいただこうか」
「そしたらオレも、この世界ならでは……或いはこの都ならではの文学に触れられそーな1冊を」
 言葉にすると、俄然やる気が漲るのだから不思議なものだ。
 そうして各々、無限とも思える書の並びへと視線を運び、手に取り想いのままに頁を繰って。時折、友が欲しているであろうそれを見つければ、傍らへと声をかけて。
 ゆるりと漫ろ歩きながら、刻も忘れて本の森を巡り――気づけば両の腕には、大量のお宝があった。
「ぴよこと亀も、気に入った絵本があって良かったな」
 冒頭の嘆きは何処へやら。すっかりご機嫌の伊織に続き、運命の1冊との巡り会いを果たせた菊里も満足気な笑みを零す。
「よし、これで一層この世界を堪能できそうです」
「皆、良き出逢いがあったようでなによりだ。読後は其々一度、交換してみても楽しいやもしれぬな」
 まだまだ日も高い故、心地良い木陰で暫し読書に耽るのも良いだろう。読み切れねば、戻ってから思う存分書の世界に浸っても良い。
 そう想い馳せながら、道明のその提案には無論ふたりも手放しに賛同して、
「ならば序でに、小休憩がてら出店の味も堪能と参りましょうか」
「ああ、そんじゃ一休み――」
 伊織が言い終わらぬうちに、気づけばおたまと共にかき氷屋の列へと並び始めている菊里の姿に、
「ってホント早!?」
「流石、徹底した食道楽だな」
 賛同せんと首肯した道明もまた、淡く苦笑を零すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

羽柴・輪音
【桜音】
境内の緑の中を歩くのも好きだし、本も好き…二つ合わさった機会ってワクワクしちゃうわ
こういう場所で繋がる本って、まさに「運命の糸」で結ばれたって感じがするわよね

紛れ込んでしまったメガリスもいい感じに回収できるといいのだけど
目的あって赴く場所だけど、好みの本を見つけたらついつい手に取って読み耽っちゃうわね

(色々手に取って読み耽っていたら、夢中になってしまって
ふと見れば、傍でにこにことこちらをみている葵桜の姿)

そんな風に見つめられてるとちょっと照れちゃうわね(くすくす)
そうね、今はちょっと目を離すと大変な子達と日々戦ってたりするからね?

(目の離せない年頃の子供達を預けている今日は、
自分のことに集中していても大丈夫だから安心なのよと微笑んで見せる)

私は職業柄だけど
実家の…三笠の家が本多いのも、わたしの両親が研究者だったからってのもあるわよ

葵桜ちゃんも本は好きかしら?
(おばあちゃんほどは好きじゃない、には正直ものね、とやっぱりくすくす)

本、興味あるの見つけたら一緒に買うから持ってきてね


榎木・葵桜
【桜音】
シルバーレインの、おばあちゃんとこの世界の京都!
景色は私のUDCアースで見るのと似てるんだけど、
やっぱりちょっぴり空気が違う気がするの
シルバーレイン世界って知ってるからかな?
でも、どっちの世界の京都も、もちろん大好き!

あと、私が知らないおばあちゃんの表情見れるのも楽しい
私が知ってるおばあちゃんは、結構人のあれこれが中心かなって思ってたから
こんな風に自分の世界に入り込んでる姿見るのは初めてかも
ふふ、こういう時に、猟兵でよかったなぁって思っちゃうんだよねー

って、ごめーん、おばあちゃん、邪魔しちゃった?
そうでもない?

榎木家側のお家も本多かったけど、三笠のお家もかなり本あったよね!
私は…本、もちろん嫌いじゃないけど、おばあちゃんほどの本好きじゃないかも?
でもねー、糺の森も、古書市も、雰囲気が好き!
緑の中でたくさんの本に触れられるのもいいし、訪れた人達の楽しそうな表情見るのもいいなぁって

あ、この本、姫ちゃん(f04489)が好きな作家さんのお話だったかも
(ぱっと顔を輝かせて手に取り)



 全部で36存在すると言われている「|世界《ワールド》」。
 そのうち、現代の地球――UDCアース、つまりは自分の生まれた場所と似て非なる世界が幾つかあり、そのうちのひとつがここ|銀の雨の降る世界《シルバーレイン》だと識っているからだろうか。同じ京都であり風景も似ているのに、漠然とどこか空気感が違うような気がして、榎木・葵桜(桜舞・f06218)は頭上に広がる木々の葉を仰ぎ見た。
 そも、世界が異なるのだ。この視界いっぱいに在る森も、耳許に心地良い歌を届けてくれる小鳥も、短い夏を懸命に生きようとしている蝉も、同じようでいて別の命、別の存在。
 ならば、それらで構成された世界に差異を感じるのも、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないし、結局のところ葵桜にとっては些末なことだった。どちらの京都も魅力的であり、言うまでもなく大好きなのだから。
 書籍も、鮮やかな緑に囲まれた境内を歩くのも、どちらも好きな羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)にとって、此処はまさしく夢のような場所だろう。
「こういう場所で繋がる本って、まさに“運命の糸”で結ばれたって感じがするわよね」
 声を弾ませながらこの世界ならではの言葉で表現する輪音は、|異世界《シルバーレイン》における葵桜の祖母だ。
 とは言え、実年齢もそうだけれど見目は更に若く、同世代と言っても良いくらい。そんな、傍から見れば姉や友人のように見えるであろう輪音が、そしてUDCアースでは相応に他人のあれやこれやを中心としている姿ばかりだった輪音が、こんなにも愉しそうに声を弾ませている姿を見るのは新鮮だし、なにより自分も不思議と愉しくなってくる。
(ふふ、こういう時に、猟兵でよかったなぁって思っちゃうんだよねー)
 普通に暮らしていたら、決して交わることのなかった人生。
 近くて遠い、存在。
 そんな人とこうして肩を並べて古書市を巡れるのだから、持つべきものはやはり特殊能力、といったところだろうか。
「――あ。葵桜ちゃん、あそこだわ。行ってみましょう」
「うん!」
 既に正午近くになりつつあった市は、同じく自分だけの本と巡り会わんと期待に満ちた眼差しの人々で賑わっていた。思いのほか声が煩くないのは、それだけ皆、書籍との対話を愉しんでいるということだろう。
「メガリスは無事回収されたようだし、心置きなく本を探せるわね」
 言って、輪音は入口付近にあった天幕へと吸い込まれていった。あとに続いた葵桜が、その横顔を微笑みながら眺めているのにも気づかず、あちらこちらの棚から気になる表題の本を手に取り、夢中になって読み耽る。
「……そんな風に見つめられてると、ちょっと照れちゃうわね」
「って、ごめーん、おばあちゃん。邪魔しちゃった? そうでもない?」
 からりと笑って伺う孫へと、輪音は柔く笑み声を立てながら首を横に振った。その様子に安堵混じりに笑みを深めると、葵桜が首を傾げる。
「それにしても、すっごく熱中してたね」
「そうね。今はちょっと目を離すと大変な子たちと、日々戦ってたりするけれど……今日は預けてこられたから。久しぶりに安心して自分のことに集中できて、つい愉しんじゃってるわ」
 今はまだちいさな子供である、輪音の娘――その子がいずれは自分の母となるのだと考えると、やはり世界は面白いし、興味が尽きない。
 口端を緩ませたまま、すぐ近くにあった本を何気なく手に取り、ぱらぱらと捲る。文字がびっしり詰まっていて、この本はあまり今は読む気分にはなれなさそうだ。
「榎木家側のお家も本多かったけど、三笠のお家もかなり本あったよね!」
「私は職業柄だけど、実家の……三笠の家が本多いのも、わたしの両親が研究者だったからってのもあるわよ」
 そんな本に囲まれた家で生まれ育ってきたからだろうか。ここまで本好きになったのも――中等部の教師となり、国語を専科に選んだのも。
「葵桜ちゃんも、本は好きかしら?」
「私は……本、もちろん嫌いじゃないけど……おばあちゃんほどの本好きじゃないかも?」
「ふふ、正直者ね」
 そう飾らずに話す葵桜は、この陽を透いて燦めく緑の葉にすら負けぬほど魅力的で、ふわりと笑みながら輪音も愛おしく眦を緩めた。
 今は未だ私が守っている我が子が、別の世界ではこんなにも素敵な孫を産み、育ててくれた。それが唯々、心強く嬉しく思う。
 そして葵桜もまた、「でもねー」と朗らかに両手を広げる。
「糺の森も、古書市も、雰囲気が好き! 緑の中でたくさんの本に触れられるのもいいし、訪れた人たちの楽しそうな表情見るのもいいなぁって」
「そうね。――私も、ここがとても好きだわ」

 そうちいさく笑み声を重ねあうと、ふたりまた、惹かれるままに本を繰る。
「興味あるの見つけたら、一緒に買うから持ってきてね」
「はーい! ――あっ。この本、姫ちゃんが好きな作家さんのお話だったかも!」
 陽だまりのように花笑みながら、丁寧に手に取った1冊をじっくりと眺めて。
 葵桜は満足気にこくりと頷くと、輪音の許へと駆け寄っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『京都観光』

POW   :    観光する

SPD   :    観光する

WIZ   :    観光する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

パティ・チャン
■WIZ
メガリスと「戦利品」は、「巾着袋」送りにして……。
本の内容は気にかかるところですが

観光ができるというのなら、ぜひ!

この世界には「妖精」はいないようですし、あまり目立ったことはできませんね
(古本巡りの時に羽根が見つかって、大慌てで「コスプレ撮影中でして~」とごまかしたことを思い出し)

今度は[迷彩]で自分の姿を消して夜の嵐山!
(【UC】の移動能力を生かして、自分の羽根で飛んで移動)
普段の自分の体躯だと、キモノフォレストの柱が、本物の巨木みたいですね~まるで

さて、渡月橋は、と
……こうなってみると、空を飛べてよかったというか
(大混雑をしりめに)
これが灯篭流しですか~
(しばらく目が離せなくなる)



●彩なす想いを映す古都
 まだ賑わいを残す古書市を後に、心地良い涼をもたらしてくれた糺の森には後ろ髪を引かれながら、面々は再び夏めく京の街へと足を向けた。
 寺社は暮れ時に閉まってしまうことが大半だけれど、今日が他ならぬ盆送り火ともなれば夜に重きを置く人々も多いだろう。
 パティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)もまた、そのひとりだった。アックス&ウィザーズ生まれのパティであれば尚のこと、サムライエンパイアやアヤカシエンパイアとも異なる趣の街並みはまだまだ興味が尽きない。
(本の内容は気にかかるところですが……)
 無尽蔵と思えるほどに収納できる“巾着袋”越しに、しまったばかりのメガリスと戦利品へと触れたパティは、ぐっと拳を握りしめた。
 文字の波に埋もれることは、帰ってから幾らでもできる。折角京都を訪れているのだ。観光ができるというのなら、是が非でもそちらを優先したいところ!
 そうと決まれば話は早い。その人間サイズの見目が|元の姿《妖精》へと戻ったのも一瞬、今度は忽ち周囲の風景に溶け込んだ。
(この世界には“妖精”はいないようですし、あまり目立ったことはできませんからね)
 かつて古本巡りをした際に羽根が見つかってしまい、「コスプレ撮影中でして~」と大慌てで誤魔化した過去が、色褪せぬ記憶のまま脳裏を過ぎる。二の轍は踏むまい、と万全の注意を払ったら、妖精の粉によって強化された飛翔力で一足飛びに京の空をぶらり気儘に遊びゆく。
 パティのお目当ては、夜の嵐山。
 “灯篭流し”なるものを一目見てみたくて、陽が沈むまではずっと待つ――なんてことは勿体ないからするはずもなく。昼の間はあちらこちらを心惹かれるままに巡って――透明になった姿を生かして、街中にある幾つかの大きな書店もチェックしてから――夕闇に色づく西空へと向かって、嵐電の線路をなぞるように翔んでいく。
「すごく綺麗ですね~!」
 まるで入構する列車のように嵐山駅へと近づけば、宵闇に柔らかなぬくもりを帯びて浮かび上がる京友禅の光林に思わず溜息が零れてしまう。
「これがキモノ・フォレスト……今の私のサイズだと、まるで本物の巨木みたいですね~」
 ひとつひとつ異なる、得も言われぬほどに美しい柄。眺めているだけで弾む心の赴くままに、ほろほろと耀きを零しながら羽根をはためかせて万彩とのダンスを愉しんだパティは、ひとつ高く舞い上がって京の夜空へと飛び出した。眼下を見下ろし、気づけばとっぷりと夜に染まった地上に在るはずの渡月橋を探す。
「あっ、あれですね~……」
 街灯に燈され夜に浮かび上がる橋に、声花咲いたのも一瞬。その周辺一帯に集う人々の影の群れに、思わず一瞬固まってしまう。
 今宵ほど、空を飛べて良かったと思わない日はないだろう。そんな想いを過ぎらせながらも、改めて視線を巡らせる。
 遠く、烏羽色の稜線描く山々には、大の字と鳥居を形取る確かな灯り。
 近く、亡き人への想いを乗せた灯篭は、柔らかなひかりに燦めく水面をゆらり静かに流れてゆく。
 その絶え間なく続くあたたかな彩を眸に映しながら、パティは暫し、京の夜を愉しむのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蒼乃・昴
【黎明】
古書まつりの後は相棒と共に会場の周辺散策へ。
夏空の青。
緑で溢れた糺の森。
その中を歩きながら夏の陽射しを浴びた君の姿が眩しくて目に焼き付ける。
…下鴨神社には神がいるんだな。
なら問題はないのか。
そうか、呼ばれたなら行かないとな。
夏だから彼には暑いかもしれないが、そっと手を繋ぎたい。

授与所で色鮮やかな御守りが並ぶ中、一際綺麗な四季を司る御守を二人で見る。
この夏だけの星の御守りか。勿論揃いで購入しよう。
君は…本当に俺の目の色が好きなんだな。
――いや、なんでもない。自惚れすぎた…忘れてくれ(顔を隠し)
そんな日常のささいな会話だが、俺にはとても特別で。
此処でしか巡り逢えない彩のように感じていた。


ヴィンデ・ノインテザルグ
【黎明】
相棒と共に、戦利品の古書を手にしながら会場の周辺散策を。

糺の森を抜けた先に下鴨神社を発見すれば
僅かな逡巡の後に、立ち寄ってみようと昴に提案を。
…心配するな。確かに私は神職者だが
他宗教の礼拝を行っても問題ないよ。
それに何故だか、あの社に呼ばれたような気がしたんだ。
自然と絡んだ指が心地好くて、私からもそっと握り返そう。

参拝後に訪れた授与所にて
四季を司る御守につい魅入ってしまいそうだ。
ほぅ、今の時期はこの星を授かれるのだな。
ならば…昴、我々も揃いで購入してみないか?

この星を模した御守…昴の瞳と同じ蒼が、私にもしっかりと認識できる。
あぁ、私は昴を慕っているからな。
…眩暈か?木陰で休憩しようか。



 巡り逢えた本を手に古書市の賑わいを背にした蒼乃・昴(夜明けの|六連星《プレアデス》・f40152)は、他愛もない話をしながら隣を歩くヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)の姿に、ふと眸を細めた。
 見上げれば蒼天。その袂に広がる鮮やかな葉々の深緑の影をゆく相棒は、ほろろと零れる木漏れ日を纏って一等眩しくて。その耀きとともに、そっと心の裡に大切に仕舞う。
 ふたり自然と足が向いたのは、外の街ではなく杜の更に奥だった。耳許へと届く鳥の囀りに惹かれるようにゆっくりと砂道を進むと、木々の間からちらりと華やかな朱が見えて、ヴィンデの足がつと止まった。
「ヴィンデ? ……ああ、そうか。あれが神が居るという下鴨神社――」
 言いかけて、止める。相棒は神官職だ。異なる神の社へと立ち入っても良いのだろうかと過ぎった懸念を、他でもないヴィンデの微笑みが打ち消した。
「立ち寄ってみないか? 昴」
「……良いのか?」
「心配するな。他宗教の礼拝を行っても問題ないよ。それに……何故だか、あの社に呼ばれたような気がしたんだ」
 そう柔く零した横顔に、昴もまたひとつ笑んだ。「そうか、呼ばれたなら行かないとな」と頷いて、そっと傍らの指に触れる。
 夏の陽の下では暑いかもしれないと思ったけれど、重ねたぬくもりの心地良さに浸りながら、ヴィンデもまたちいさく力を込める。
 鎮守の杜に抱かれるようにして在る社は、厳かながらもどこか優しいけわいを纏っていた。鳥居、そして楼門を抜け、中門の奥に座する本殿へと参った後、ふたりは再び通りかかった授与所にぶらり立ち寄ってみる。
「色々な種類の御守りがあるんだな。どれも色鮮やかで綺麗だ」
「――昴」
 淡く囁くように紡がれた名を、けれど聞き逃すことはしまい。昴は呼ばれるままにヴィンデの視線を追うと、その先にあった繊細な作りが美しい蒼の御守りに一瞬、息を飲んだ。
「これは……四季を司る御守りか」
「ほぅ、今の時期はこの星を授かれるのだな」
 傍に添えられた説明を紡ぐヴィンデの声に、今一度、昴は御守りをじっと眺む。
「この夏だけの星、か……」
「ならば……昴、我々も揃いで購入してみないか?」
「えっ?」
 異教の御守りを? そう言わんとする眸を反射的に向けられたヴィンデは、大らかな笑みを湛えながら繋いでいた手を軽く引いた。とん、と軽く、肩と肩が触れる。
「この星を模した御守……昴の瞳と同じ蒼が、私にもしっかりと認識できる」
 だから、欲しいと。
 そう求める心に、つい笑みが毀れた。
「君は……本当に俺の目の色が好きなんだな」
 思わず口をついてしまった声は、ほんの微かな囁き。だからこそ昴も、なんでもない、と|頭《かぶり》を振って誤魔化したというのに、
「あぁ、私は昴を慕っているからな。――この御守りをふたつ、購入したい」
「……っ、自惚れすぎた……忘れてくれ」
「ほら、昴。ひとつは君の――どうした? 眩暈か……? 木陰で休憩しようか」
 相棒にとってはきっと、ありふれた日常のささいな会話。
 だのに、それが何事にも代え難いほどに特別で。
 火照って仕方のない顔を隠すように俯いた昴は、此処でしか巡り逢えぬ彩のように燦めくそれを静かに裡に刻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

遠藤・修司
本をコインロッカーにしまって観光をしよう
この世界は僕のところ(UDCアース)と似たような感じだね

貴船神社か、どんなところなんだろう?
ちょっと気になって聞いただけなのに、“僕”達がまた騒ぎ出した
歴史や見所を教えてくれるのはありがたいんだけど
サイキックハーツはともかく、アヤカシエンパイアの神社は同じとは限らないよね
それに丑の刻参りや呪いの絵馬の話は風評被害だと思う……

とりあえず教えてもらった場所をのんびり見学しようかな
参道の灯籠を眺めて景色を楽しむよ
朱い灯籠が続く道は、まるで異世界みたいだ……

水みくじというのも面白そうだ
水で字が現れるのは不思議だね
……別に原理が知りたかったわけじゃないんだけどな



「ああ……やっと身軽になれた……」
 大量の戦利品を叡山電鉄『出町柳駅』のコインロッカーへと預け終えた遠藤・修司(ヒヤデスの窓・f42930)は、大きく息を吐きながら改札を潜った。駅の作りも、電車の仕組みも、なにもかも|己の世界《UDCアース》と変わりがないから不思議なものだ。
 小振りのホームには、2両編成の可愛らしい電車が止まっていた。ぶらりと乗り込めば、ひんやりとした冷房の風が心地良い。
 車内の電光掲示板には、『鞍馬行き』とあった。けれど、終点まで行けば山を隔てた逆側へと出てしまうから、途中の『貴船口駅』で下車をしてバスに乗り換える。それほどまでに、今回の目的地――貴船神社は、京の喧噪から遠く離れた場所にある。
 暫くして緩りと走り始めた電車の中から、外を見る。幾つかの――どれも素朴で静かな佇まいの――駅を過ぎると、次第に家よりも木々が増えてきた。
(貴船神社か……どんなところなんだろう?)
 何気なく浮かんだ疑問に、修司は直ぐさま柳眉を寄せた。頭のなかでまた、“僕”たちが騒ぎ出す。「全国に2千社ある水神の総本宮」だとか、「水神を祀っているから“きぶね”と濁らず“きふね”と呼ぶ」だとか、「絵馬発祥の社」「縁結びの神でありながら呪咀神でもある」――などなど、全く以て喧喧囂囂たる脳内だ。
 ちょっと気になっただけ、と言っても誰も口を噤む気配もない。
(歴史や見所を教えてくれるのはありがたいんだけど、サイキックハーツはともかく、アヤカシエンパイアの神社は同じとは限らないよね?)
 などと返そうものなら、恨みでもあるのか倍の言葉が返ってくる。それでも、『丑の刻参りや呪いの絵馬の話は風評被害だ』と続けながら往路を過ごした修司は、バス停から続く結構な登り坂も相俟って、貴船神社に着くころには相応の疲労感を漂わせていた。
 それでも、京の避暑地と言われるだけあり、貴船一帯は清涼な大気で満ちていた。傍らに川を眺めながら、糺の森よりも更に丈のある木々が聳える山道をゆけば、左右に朱の灯篭連なる石階段が現れる。
「まるで異世界みたいだ……」
 静寂のなか、風に揺れてさやさやと唄う青もみじの海の波間に、陽を纏い鮮やかながらも柔く微睡む朱のいろは、落とした瞼の裏にも鮮明に浮かぶほど。あれほど茹だっていた身体も、知らぬうちに涼を纏って楽になり、修司は“僕”等に教えてもらった場所を――順番通りに参拝しろと言われながら――漫ろなるままに巡る。
「水占みくじか……面白そうだ」
 目に留まった言葉に惹かれて買った1枚の神籤を、社務所の脇にある“御神水”なる池に浮かべれば、じんわりと浮かび上がる言葉たち。
「本当だ。水で字が現れるのは不思議だね」
 言わずとも、それもまた唯の独り言なのだけれど――、
(……別に、原理が知りたかったわけじゃないんだけどな)
 頭の中に響く、暫くは終わりそうもない蘊蓄の波に、ひとつ溜息を零すしかないのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

橘・創良
真秀さん(f43950)と

京都に行くって言ったら
それなら行きたい場所があるって言うから
真秀さんと合流したけど…

なるほど真秀さんらしいね
でもそんなにたくさんお店を巡っても
僕はたくさん食べられないけど…
お店ごとに抹茶を飲み比べるのもいいかな

確かにお茶の街宇治で抹茶を味わうのはいいね
この抹茶も香り高くてとても深い味わいがするよ

真秀さんは幸せそうにスイーツを食べるね
そういうとこ昔から変わってないね
おごり?
それは嬉しいな
今日はたくさん本を買ったから

そうだね確かに昔と変わってないね
こうして別の世界に行けるようになっても
自分の好きなものに夢中なところは
せっかく猟兵になったんだから
これからも楽しんでいこうか


榛名・真秀
創良先輩(f43923)と

わー、ここがシルバーレイン世界の京都!
わたし初めてです
だから一度来てみたかったんです

行きたい場所は宇治市!
抹茶スイーツの美味しいお店がたくさんあるんですよ
今日はスイーツ巡りをしましょう!

付き合ってもらったので
今日はわたしのおごりです!
ちゃんと社会人として働いてますから

まずは抹茶のパフェ!
わわ、ソフトクリームの抹茶が濃厚!
パフェのゼリーやシフォンケーキもお抹茶味で…
どこを食べても抹茶を楽しめる…
はぁ~幸せ

あ、創良先輩も満足できました?
たくさん本買い込んだんですね
わたしも先輩もなんだかんだ学生時代から変わってないですね
はい、わたしも色んな世界の美味しいもの食べたいです!



「わー、ここがシルバーレイン世界の京都! わたし初めてです!」
 だから一度来てみたかったんです、と飛びはねん勢いで声を弾ませる榛名・真秀(スイーツ好き魔法使い・f43950)に、橘・創良(静謐の泉・f43923)もふわりと口許を綻ばせた。学生時代から変わっていない姿に、どこか安堵する。
「そう言えば、行きたい場所って?」
「ふっふっふ……それは宇治市です! 抹茶スイーツの美味しいお店がたくさんあるんですよ。今日はスイーツ巡りをしましょう!」
「なるほど、真秀さんらしいね。僕は構わないけど……でも、さすがにそんなにたくさんは食べられそうにないかな」
 それでも良いか、と視線で尋ねれば、気づいた真秀も陽だまりのような眸を細めて頷きを返す。
「構いませんよ! ――あ、勿論付き合ってもらうんですから、今日はわたしのおごりです!」
「え? そこまでは――」
「創良先輩? もうわたしも、ちゃんと社会人として働いてるんですよ?」
 だからどーんと任せてください! そう胸を叩くと、真秀は意気揚々と歩き出す。

 出町柳駅から東福寺駅で乗り換え、宇治駅へと南下し終えたころには、どの店もちょうど昼食の賑わいが過ぎ去った様子だった。影となる場所もない路を、焼けるほどの陽射しにも臆することなく、お目当ての店を目指す真秀の後に続くこと数分。創良の視線の先に、落ち着いた佇まいの町家が現れた。店の名の綴られた白布が、風に柔く靡いている。
 誘われるように店内へと入れば、ふわりと茶の香りが鼻腔を擽った。それだけで、不思議と心が和らいでゆく。
「わたしは、まずは抹茶のパフェ! 創良先輩は?」
「お店ごとに抹茶を飲み比べるのもいいかな、と思って……この抹茶と最中のセットを」
 そうオーダーを済ませて暫し待てば、お待ちかねの品々が卓上へとやってきた。いただきます、と添えてから、まずは真秀がそっと抹茶色のソフトクリームを匙で掬う。
「わわ、すっごく濃厚! ただ渋いんじゃなくて、味に奥行きがあって美味しい!」
「……あ。この抹茶も、香り高くてとても深い味わいがする」
「ん~……ゼリーやシフォンケーキもお抹茶味で……パフェのどこを食べても抹茶を楽しめる……」
 パフェスプーンを動かす手は止めぬまま、「はぁ~幸せ」と真秀がふんわりと歓びを滲ませるものだから、創良もつられて口端が緩んでしまう。これは確かに、|お茶の街《宇治》まで足を運ぶ甲斐はある。
「それにしても、真秀さんは本当に幸せそうにスイーツを食べるね」
「これが幸せの源ですから! 創良先輩も、遠慮せずにどんどん注文してくださいね」
「ありがとう。今日はたくさん本を買ったから助かるよ」
 言って、膨らんだ荷物へとちらり視線を向ける。重さは結構なものとなったけれど、それだけ幸せがぎゅっと詰まっているということ。
「本、たくさん買い込んだんですね。創良先輩も満足できたようで良かったです」
 あのころ――常に闇と対峙していたころからそうだった。創良は海外の図書館を巡る旅をするほどに本が好きだし、真秀もまた、毎年の誕生日には欠かさず――それに限らず頻繁に――食べるほどスイーツ好きだ。
 月日は過ぎて、背も外見も変わって来たというのに。
「わたしも先輩も、なんだかんだ学生時代から変わってないですね」
「そうだね。……確かに、昔と変わってないね」
 エクスブレインではなく、灼滅者ではなく、猟兵になって。立ち向かう敵が変わり、情勢が変わり、こうして異なる世界に自由に行き来できるようになっても、変わらず好きなものに夢中でいられる。
 それがどれほどの奇跡かを、これまでの日々が教えてくれる。
「せっかく猟兵になったんだから、これからも楽しんでいこうか」
「はい、わたしも色んな世界の美味しいもの食べたいです!」
 そう互いに笑顔を交わし、再び碗を傾け、スイーツを食む。
 抹茶のまろやかな渋みと旨味が、ひとときの幸せとなって、ゆっくりと裡に染みていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

羽柴・輪音
【桜音】
葵桜ちゃんと
正寿院で『風鈴まつり』を楽しむわ

三笠の家からもほど近いこの場所は折につけ訪れてはいるけれど
おまつりの期間に葵桜ちゃんとこうして過ごすのは初めてかもしれないわ

風鈴の数も彩りもさることながら
初夏から初秋にかけての頃合いで風鈴の花飾りの種類が変わるところも素敵なのよね
院にお勤めされている方々の細やかな心遣いに感謝の気持ちでいっぱいになるわ

客殿で休憩することができそうなら、一緒に猪目窓も天井画も眺めてゆっくりしたいわね
葵桜ちゃん、自由ねぇ(寝転がってよいか尋ねる様子にくすくす)
希望が叶うなら、わたしは他のお客様の様子見ながら、葵桜ちゃんが寝転がる様子を楽しむことにするわ

(皆のものになった感じで寂しくなる、に微笑み)
それは、わたしから見たら、葵桜ちゃんにも言えることよ
ついこの間までは小さかったのに、すっかり大人になっちゃって
(先日会った、他世界の成長した自分の娘を思い浮かべ、そして今一緒にいる孫娘を見つめ、目を細め)
時間はあっという間だから、お互い、今この時を大事にしましょうね


榎木・葵桜
【桜音】
おばあちゃんと!
正寿院で『風鈴まつり』を楽しんじゃうよ!

ふふ、私、このお寺さん大好き!
私ね、UDCアースで、三笠のお家に連れてきてもらった時はここにもよくきてたんだよ
猪目窓も天井画も大好きだし、お寺の催し物に参加するのもわくわくしちゃう

たくさんの人の目に留まるようになってから、賑やかになって
私だけの場所って思ってたところが皆のものになっちゃった感じで
ちょっぴり寂しくなっちゃったりも…なーんて、勝手な話だけどね!

ふふ、おばあちゃんの住んでる、
シルバーレイン世界でもこの場所もこのお祭りも親しまれてるんだよね?
ちょっぴり寂しいってさっき言っちゃったけど、
有名になって賑やかになってるのはやっぱり嬉しいことかな

客殿に行けるなら、寝転がってもよいか
お寺の人にお伺い立ててみるね
大丈夫なら仰向けに寝転んで天井画も楽しみたいな

客殿以外の場所なら通された場所で座って景色を楽しむね

風鈴と自然の景色を眺めて
風の心地よさに目を閉じ耳を澄ませば
感じるのは風鈴の美しい音と、緑の匂い
ああ、やっぱり大好きだなぁ



 宇治から更に下った先、長閑な山合いにある正寿院の境内を、またひとたび夏風が吹き抜けた。
 熱気を孕んでいるとはいえ洛中よりも幾分涼しく感じるのは、山々の木立を抜けてきたからというのもあるけれど、なによりもこの清かなる音に在るだろう。
『風鈴寺』の別名に相応しく、境内から見上げた青空を彩るのは無数に飾られた硝子の風鈴たち。風に短冊が靡くごとに、りりん、りりんと星の瞬きのような透いた音色を響かせている。
「ここの風鈴は、いつ来ても綺麗ね」
 三笠の家からもほど近いこともあり、羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)にとってはすっかり馴染みの景色ではあるものの、毎年初夏から初秋にかけて入れ替わる風鈴――今日は、向日葵と水引で編まれた金魚など――は、いつ来ても新鮮な彩で出迎えてくれる。その素敵なひとときをもたらしてくれているのもすべて、此処に勤めている人々の細やかな心遣いの賜物だと知っているから、輪音の裡にも彼らへの感謝が一杯に広がる。
「そう言えば、おまつりの期間に葵桜ちゃんとこうして過ごすのは初めてかもしれないわ」
「だね! ふふ、私も、このお寺さん大好き!」
「あら、良く来るの?」
「うん! UDCアースでも、三笠のお家に連れてきてもらったときは、ここにもよくきてたんだよ」
 そう愉しげな笑み声を零す榎木・葵桜(桜舞・f06218)に、輪音もふわりと眦を緩める。どの世界の三笠であっても、この寺が近くにあるのならば訪れずにはいられない――それは変わりないようだ。
「私、猪目窓も天井画も大好きなんだ! お寺の催し物に参加するのもわくわくしちゃう」
「ふふ。じゃあ、客殿で休憩することができそうなら、一緒に猪目窓も天井画も眺めてゆっくりしましょうか」
 風鈴の海を渡った先、細長い石畳の先にある客殿へとそっと入れば、穏やかな、そしてどこか懐かしい和の室内にひとつ息を吐く。風鈴の音に混じり響くのは、短い命を唄う蝉の聲。受付で快く許可を得た葵桜は、見知った廊下を抜けて誰もいない則天の間へとそろり入ると、その中央でごろり大の字に横たわる。
「葵桜ちゃん、自由ねぇ」
 やり取りを見守っていた輪音は、幸せそうな孫の様子に花笑みを向けた。つと隣に腰を下ろし、倣って天井を仰ぐ。
「こうして眺めるのが、一番好きなんだ」
 広い天井を美しく彩るのは、花と日本の風景を描いたまあるい絵画、ゆうに160枚。花天井とも呼ばれる華やかなそれは、いつまでも心を惹きつけて離さない。
「……でも、たくさんの人の目に留まるようになってから、賑やかになって……私だけの場所って思ってたところが皆のものになっちゃった感じで、ちょっぴり寂しくなっちゃったりも――なーんて」
 勝手な話だけどね! と笑ってみせた葵桜に、輪音は微笑みに愛おしさを滲ませた。
「それは、わたしから見たら、葵桜ちゃんにも言えることよ。ついこの間までは小さかったのに、すっかり大人になっちゃって……」
 つい先日も、異なる世界の成長した娘とともに、夕暮れの海辺を歩いた。あの子も――そしてこの子も、あんなにもちいさかったはずなのに。気づけばもう、自分の意志を持って、自分の足で歩んでいる。
 輪音の言葉をゆっくりと受け入れながら、葵桜は静かに眼を閉じた。再び瞼を上げれば、やはり変わらず万彩の花がそこに在る。
「……そっか。そうだよね。……ふふ、おばあちゃんの住んでるシルバーレイン世界でも、この場所もこのお祭りも親しまれてるんだよね?」
「ええ、そうよ。皆、このお寺もお祭りも大好きだわ」
「うん。……さっきは『ちょっぴり寂しい』って言っちゃったけど……有名になって賑やかになってるのは、やっぱり嬉しいことかな」
 忘れ去られてしまうより、誰の手も入らず寂れてしまうより、幾星霜と鮮明に、鮮やかに、好きなものが残り続ける。
 同じものを愛しいと想ってくれるひとがほかにもいて、守り続けてくれる。
 刻を経ても、変わらずに在る――それもまた、大切なことだから。
「時間が過ぎるのはあっという間だから……お互い、今このときを大事にしましょうね」
 そっと頭を撫でる輪音へと頷きながら、ゆるりとひとつ瞬く。
 さわさわとそよぐ鮮やかな木々。猪目窓から零れる陽のひかり。
 肌に触れる柔い風も、ふわりと胸を満たす緑の香も、清涼なる風鈴の音も。瞼を落とせば、一層鮮明になって。

 ――ああ、やっぱり大好きだなぁ。

 今は唯、その想いに浸りながら。
 葵桜はそっと、ちいさな微笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
ミモザさん(f34789)と。

いっぱい見つけた本は一旦預け、メガリス回収終わったなら観光楽しもうかな。
丁度よく見かけたミモザさんに声をかけて夏の京都を楽しもう。

時間はそろそろ夕方かな?京都と言えばお寺とかが有名と聞くし、風鈴寺に行ってみよう。
夏ももう終わりだけど過ぎていく夏に聞くのも風流…なのかな?
この景色にこの響きは凄く綺麗だし見に来てよかったと思うけど、ミモザさんはどうかにゃー。
そのまま夜まで風鈴の響きと彩を楽しんで、日が沈む頃に五山送り火も街から見える筈。
…今年も無事に向こうへお精霊さん達が帰れる事を祈りつつ、もうちょっとミモザさんと京都を見て回り時間を過ごせたら。

※アドリブ絡み等お任せ



 暮れゆく陽を透いて燦めきながら、溢れるほどに連なった風鈴が涼やかな音色を響かせる。
 向日葵、水引金魚、青もみじ――様々な彩を裡に抱いた硝子のものや、一層鮮やかな単色に染まったもの、繊細な編み衣を纏ったもの。多彩の織り成す旋律に心委ねながら、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)と海藤・ミモザ(millefiori・f34789)はほう、と深く息を吐く。
「んー……この景色にこの響きは凄く綺麗だし、見に来てよかったにゃー」
「本当だねー……癒やされるー……」
 ほにゃりと口許を緩ませたミモザは、脱力しながらひとつ大きく呼吸した。ほんのりと熱の和らいだ風が、紫に染まり始めた空が、もうすぐ夜が訪れるのだと教えてくれる。
「あ、そういえばクーナさん。買った本は?」
「駅のロッカーに預けてきたにゃー」
 お宝はお宝だけれど、それはそれこれはこれ。観光を愉しむのなら身軽なほうが良いはずだからと添えたクーナに、「さっすがー!」とミモザも笑顔を返す。
「夏ももう終わりだけど、過ぎていく夏に聞くのも風流……なのかな?」
「うんうん。これぞまさに風流、って感じ! 誘ってくれてありがとー♪」
 洛中からは相応に離れた場所なれば、声をかけられなかったら訪れる機会もなかったし、こんなにも穏やかな時間を識ることもなかっただろう。
「このままここで浸ってたいけど……このあとどうしよっか? クーナさん、なにか気になるものある?」
「五山送り火も気になってるんだにゃー」
「送り火かー! いいね。折角のお盆だもん、お見送りしなきゃね」
 言って、クーナとミモザは頷きあって。もう暫くだけ、と風鈴の響きに癒やされた後は、ゆるりとまた洛中へと繰り出す。
 祭のようでいて、祭ではない。送り火の灯る街は艶やかだけれど、集った人々の胸にあるのは唯々静かな鎮魂の想い。

 ――今年も無事に、|彼岸《向こう》へお精霊さんたちが帰れますように。

 双眸に揺らぐ灯を映しながら、裡に抱くのは同じ祈り。
 名も知れぬ、けれど誰かの記憶に残る魂へと想いを馳せて――見届けたふたりは、同時に互いへと視線を向けた。
「じゃあ、ミモザさん」
「うんうん、クーナさん」
 まだ眠るには早いから。
 もうすこしだけ――夜の京都をぶらりゆこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭間・クオン
水族館で夜限定のイベントかぁ…。
ねぇ、ネロさん。折角だし、見に行こうよ。

「良いけど…引っ込み思案なご主人にしては、積極的だにゃ?」

夜の水族館とか、こういう機会じゃないと行かないしね。
後、クラゲソーダがちょっと気になる。

「りょーかい。それじゃあ、見に行ってみようにゃ」

という訳で、人型になったネロさんを連れて夜の水族館に行ってみよう。
まずはお目当てのクラゲソーダを買うよ。
…おお、本当にクラゲさんが入ってる。

「これ、どうやって光ってるんだろうにゃ?」

分からないけど…なんだか幻想的だね。

クラゲソーダを買ったら、夜の水族館を見て回ろうか。
…暗がりでライトアップされた水槽のクラゲも、幻想的で綺麗だなぁ。



 ――夜の水族館。
 その言葉だけでも胸が高鳴るというのに、さらに夜限定のイベントまでもあると聞き、狭間・クオン(ハザマの黒猫・f44064)は普段と変わらぬ淡々とした視線を黒猫のネロへと向けた。
「ねぇ、ネロさん。折角だし、見に行こうよ」
「良いけど……引っ込み思案なご主人にしては、積極的だにゃ?」
「夜の水族館とか、こういう機会じゃないと行かないしね。……あと、クラゲソーダがちょっと気になる」
 前半の理由にはなるほどと得心しながら、後半の理由に別の意味で納得をする。聞いたところによるとその飲み物は、どうやら暗闇で|光る《・・》らしい。本物の海月を入れているとは分かっていても、なにが光るのかは興味深い。
「りょーかい。それじゃあ、見に行ってみようにゃ」
 クオンの頷きを合図と受け取ったネロは、くるりと身を回転させて一瞬にして変化した。しなやかな四肢と尾の代わりに得たものは、人間の姿。黒猫少女・ネロの誕生である。
 ふたりの娘は連れ立って、夕闇もとうに過ぎた洛中をゆく。京都駅から電車で1駅。徒歩15分。さして急ぐこともない夜ならば、のんびりと街を歩くのも良いだろう。
 柔らかな弧を描く建物――京都水族館へと入ったクオンはネロを連れ、アザラシやオットセイのコーナーへは立ち寄らず、真っ直ぐに2階へと階段を昇った。フロアの奥にあるお目当てのカフェを見つけると、“期間限定!”と掲げられたクラゲソーダのポスターを覗き込む。
「ブルーハワイ味とカシス味があるみたいだけど……ご主人はどっちにするんだにゃ?」
 問われ、暫し逡巡ののち各々好みのほうを選んで注文すれば、すぐにふたつの透明カップが目の前に差し出された。
「……おお、本当にクラゲさんが入ってる」
「これ、どうやって光ってるんだろうにゃ?」
「分からないけど……なんだか幻想的だね」
 綺麗な青と赤のソーダにぷっかりと浮かぶ海月型のキューブは、どこか愛嬌もあって眺めていても飽きそうにない。そんな新たなお供とともに、ふたり夜の水族館を巡り歩く。
 夜行性故、すごぶる活発に動き回っているオオサンショウウオに対し、器用に水中に浮かび――たまに沈んだりしながら――微睡むオットセイ。イルカスタジアムではライトアップされたウォーターカーテンでひんやりと涼を愉しみ、360度のパノラマ水槽にふよふよと漂う海月の群れに感嘆の息を漏らす。
「……暗がりでライトアップされたクラゲも、幻想的で綺麗だなぁ」
 ゆっくりと柔らかな動きで水中を舞いながら、その姿は幾重ものひかりを浴びて、次々に色を変えてゆく。
 まるでホログラムのようで、けれどこれもまた確かなひとつの命。
 その音なき|舞踏《ダンス》は、クオンとネロの脳裏に鮮やかに残るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
白夜さん(f37728)と

引き続き22年浴衣姿で夜の鴨川納涼床へ。

白夜さんはトマト好きだからイタリアンのお店にしてみました。
たまにはいいじゃないですか、贅沢しても…
ちなみにエリアによって読み方変わるみたいで、鴨川だと|納涼床《のうりょうゆか》って言うらしいですよ。

京食材を使ったコース料理を堪能していると送り火も始まって。
わ、京都の大文字見るの初めてです…!
白夜さん、京都じゃ大文字焼きじゃなくて送り火か大文字って言うんですよ。
(…まあ、楽しみ過ぎて色々調べてるうちに知ったんですけどね…)
そんな胸の内も知らないんだろうなぁ、と内心溜息をついていると先輩がデザートをくれて。あ、ありがとうございます…


鳥羽・白夜
八坂(f37720)と。

黒の縦縞しじらの23年浴衣に着替えさせられ、鴨川|納涼床《のうりょうどこ》でディナー…ってけっこうお高いんじゃねーの…?
いやこれで高級京料理とか言われたらますます敷居高いしイタリアンでまだよかったけどさ。
そうなの?俺ずっとのうりょうどこって読んでたわ。ややこしーな…

ブルスケッタやパスタなどトマトを使った料理にとりわけ目を輝かせ舌鼓をうっていると五山の送り火も始まったようで。
俺も大文字焼き見るの初めて…そうなの?(2回目)お前ほんと歩く百科事典だよな…
ことあるごとに豆知識を披露してくる後輩に感心するやら若干呆れるやら。

あ、俺デザートはいらねえから食っていいぞ。



「――え? 今日の夕飯って、ここか……?」
 八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)に言われるまま、夜めく繊細なしじら織の浴衣に身を包み、あれよあれよと連れられた先。涼やかな鴨川のせせらぎを背に佇む洒落た店構えを前に、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)は傍らへと尋ねた。
「白夜さんはトマト好きだから、イタリアンのお店にしてみました」
「鴨川|納涼床《のうりょうどこ》でディナー……って、けっこうお高いんじゃねーの……?」
「たまにはいいじゃないですか、贅沢しても……」
「いや、これで高級京料理とか言われたらますます敷居高いし……イタリアンでまだよかったけどさ」
 そういう反応も予想通りで、それがなんだか嬉しくて。くすりと笑った詩織が、一言添える。
「ちなみにエリアによって読み方変わるみたいで、鴨川だと|納涼床《のうりょうゆか》って言うらしいですよ」
「そうなの? 俺、ずっと“のうりょうどこ”って読んでたわ。ややこしーな……」
 貴船や高雄は川の真上に設置された“川床”であるのに対し、鴨川のそれは高床が略されたもの故、その呼び名の違いとなるのだけれど。それよりも折角の料理をすこしでも長く愉しもうと、小咄はひそり裡に仕舞い、詩織は白藍に星鏤めた清楚な浴衣姿で店へと続く石畳の細い路地を通ってゆく。
 扉を潜り、名を告げて、案内されたのは店の奥にある数席ばかりの特等席。夜の帷が下り、幾分涼やかな夜気が心地良く、川辺のせせらぎが耳を愉しませてくれる。
 落ち着いた色合いのテーブルには、ふたりだけを淡く照らす仄かな灯り。対面に座して暫くすれば、京食材をふんだんに使ったコース料理が運ばれてくる。
 とりわけ、前菜の盛り合わせのブルスケッタや、トマトを生かしたパスタや魚料理に眸を燦めかせながら嬉しそうに味わっている白夜の姿に、詩織の眦もつい緩んでしまう。
 美味しい料理も、一緒に食べてくれるひとがいればもっと、美味しくなる。
 ――それが、特別な想いを抱いている相手なら、尚のこと。
「わ、始まりましたよ! 私、京都の大文字見るの初めてです……!」
 昏き稜線のそばに静かに浮かび上がった右大文字に、詩織が思わず声を弾ませた。倣って視線を移した先の一際大きな灯りに、白夜も一度目を瞠る。
「お、本当だな。俺も、大文字焼き見るの初めて――」
「白夜さん、京都じゃ“大文字焼き”じゃなくて“送り火”か“大文字”って言うんですよ」
「そうなの? はは、お前ほんと歩く百科事典だよな……」
 ことあるごとに豆知識を披露する後輩の知識量に感心しながらも、ほんのすこしの呆れも滲ませて。本日二度目のフレーズを口にしながら、白夜がくつくつと喉を鳴らす。
(……まあ、楽しみ過ぎて色々調べてるうちに知ったんですけどね……)
 そんな詩織の心中なぞ露程も知らぬまま、
「あ。俺、デザートはいらねえから食っていいぞ」
「あ、ありがとうございます……」
 不意に向けられた他意のない善意を受け取りながら、詩織は裡でひとつ溜息を零すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
類(f13398)と

観光地としての京都は魅力的だ
行ってみたい場所ばかりで、今日だけじゃ時間が足りないや
川床や貴船神社を楽しんだ後、最後に訪れたのは灯篭流し

これ、オレたちも流せるかな
頷き、共に受付に行って灯篭を一つ手にした

精霊って……ここでは亡くなった人の魂なのだよね
灯りとして川に流すって不思議
類はやったことある?
アルダワはそうだね、オレの知る限りではあまり
そっか。送り火なんだね、これは

自分の灯篭にガーネットの欠片を添えて流す
類のと二つ、ゆらゆら揺れて合流し、流れていく灯篭たちを眺め
きれいだね、いつまでも見ていたくなるよ

友を見れば笑っていたから
ああ、行きたいところ、たくさんあるしねと笑み返した


冴島・類
ディフさん(f05200)と

ですねぇ
行きたい場が点在しているから
1日だと難しい
貴船神社や川床を楽しんだ後
旅の締めくくりは嵐山の灯籠流しに

受付は20時頃までやってるようだから
大丈夫ではないかな?
僕らもやってみましょうと受付に

ですね、先祖やなくなった方の魂を
浄土へ送る供養の儀式…と
此処ではないけど
川に灯を流して祈るのは、やったことありますよ
アルダワでは珍しいかな
UDCや、サムエンでも火や灯で見送る儀は
結構あって

ディフさんが石を添えるのに
込めた想いを感じつつ見守り
自分も、見送った人々への祈り込め
そっと灯籠を川に
あかりが揺れる様は美しくて
見つめ見送り
ええ…綺麗ですねぇ

目が合えば、また来ましょうと笑って



 千年の都と謳われるだけあり、京は魅力の詰まった宝石箱のようだった。季節ごとに移り変わる彩に包まれた古都は、訪れた場所ごとに新たな一面を見せるから、興味は尽きず、時間もまるで足りやしない。
「貴船神社も川床も、涼やかで良かったね」
「ですねぇ。ほかにも回りたいところはあるけど、どこも点在しているから1日だと難しい……」
 時間と地図を交互に見ながら呟く冴島・類(公孫樹・f13398)に、本当にね、とディフ・クライン(雪月夜・f05200)も頷いた。
 だからこそ、旅の最後の場として選んだのは嵐山だった。
 ――なにより今宵は、魂が彼岸へと還る日だから。

 とっぷりと暮れた彼の地は、まるで祭のように人々で賑わっていた。
 けれど、祭囃子もなければ、華やかな太鼓の音もない。唯誰しもが、からころと下駄を鳴らしながら、硬質な靴音を響かせながら、言葉少なに往来をゆく。
 行く手を見れば、渡月橋の架かる桂川にはもう、幾つもの灯りがあった。ひとつ、またひとつと、人々が川辺からそっと伸ばした手を離すたびに増える柔らかな|燈《ともしび》。残されたひとの想いも連れて、魂を乗せた灯り船はゆらりゆらりと黄泉路を渡る。
「あれ、オレたちも流せるかな」
「受付は20時ごろまでやってるようだから、大丈夫ではないかな?」
 僕らもやってみましょう、と続けた類に、ディフも微笑みを添えて頷いた。橋を渡りきった先の公園で受付を済ませ、灯籠を手に川岸へと向かう。
 お|精霊《しょらいさん》、という不思議な響きの言葉の意味を――死者の霊だということを、ディフはもう識っていた。
「精霊って……ここでは亡くなった人の魂なのだよね」
「ですね。先祖やなくなった方の魂を浄土へ送る供養の儀式……と」
「亡くなった人の魂を灯りとして川に流すって、不思議……類はやったことある?」
「此処ではないけど、川に灯を流して祈るのは、やったことありますよ」
 アルダワでは珍しいかな、とちいさく首を傾げた類に、そうだね、とディフも返した。ぱっと思い返しても、そういった文献は読んだことがない。
「オレの知る限りでは、あまり」
「そうなんですね。UDCやサムエンでは、火や灯で見送る儀は結構ありますよ」
 ――見送る儀。
 何気なく音にしたのであろう友の言葉に、ディフは静かに瞠目した。何故“灯り”なのか、その理由に合点がゆく。
「……そっか。送り火なんだね、これは」
 その声が孕む感情の変化に、類は柔く視線を向けた。懐から取り出し、蝋燭の炎を抱いた灯篭の裡へと零したものが真紅の薔薇めく宝石の欠片と気づき、想いの滲むその横顔をそっと見守る。
 どうかその言葉が、想いの先へと届きますように。
 その願いはまた、己も同じだ。見送ったのは一度は二度ではなく、どれも未だ記憶に在る。それをひとつひとつ辿り、呼び起こし、祈りを添える。
 水面に浮かべた灯篭からそっと指を離せば、ふたつの灯りが揺らめきながら岸を離れていった。
 似たような彩はこんなにも溢れているというのに、その彩は心に刻まれたように眸に焼きついたままだった。
「……きれいだね。いつまでも見ていたくなるよ」
「ええ……綺麗ですねぇ」
 傍らから零れた声が、あまりにも優しかったから。ふと見遣れば、灯篭のひかりに淡く照らされた微笑みが其処にあった。
「また来ましょう、ディフさん」
「ああ」
 行きたいところ、たくさんあるしね。
 そう柔い笑み声が、夜気に溶けて。
 魂を連れた耀きはまるで標のように、一条のひかりの河となって闇を渡っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月04日


挿絵イラスト