#封神武侠界
#戦後
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生はまるで山河のようだと、誰が果たして歌ったのか。
ならばこの雲海は、人が打ち立てて来た碑そのものであろうか。
仙界の雲の海を、幾つもの船が下っていく。船の先には灯りを灯して、暮れ行く世界でゆっくり、ゆっくりと下る。
船頭の顔は窺い知ることは出来ない。恐らく、誰かが一緒に乗っても、其の顔を確認することは難しいだろう。
ああ、雅楽の音がする。高い笛の音が、高く果てない封神武侠界の空へ昇っていく。
君は船で、果たして誰と相席するのだろうか。
其れは君だ。何か道を踏み外し、破滅の運命を迎えた君自身だ。
どうして破滅に至ってしまったのか、どうすればよかったのか。
或いは彼・彼女は、君にアドバイスをしてくれるかもしれない。
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ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)が笛を奏でている。ぴぃりりり、と高く鳴る旋律は、何処か中華めいた雰囲気を感じさせた。
麗人は花唇を笛から話すと、やあ、といつも通りの雰囲気で猟兵に語り掛ける。
「封神武侠界の仙界で、祭りがあるらしい。船楽祭っていうんだ。船にのってね、雲海をゆっくり回るんだよ。メインとなる浮島では音楽祭が開かれていて、飛び入り参加も出来るらしい。聴くに回るのも良いし、飛び入りで演奏してみても――彼等はプロだからね。きっと合わせてくれるだろう。さて、そして其の浮島から船が出ているんだが、|倍乗れるはずなのに《●●●●●●●●●》、|半分の人数しか乗れない《●●●●●●●●●●●》。この意味がわかるかい」
くるくると笛を回しながら、蒼い髪の魔女は笑う。
そうして僅かな沈黙の後、乗るんだよ、と一言告げた。
「破滅を辿ったお前達の亡霊が、思い残した事がある誰かが、乗って来るんだそうだ。この船楽祭はそういう意味でも、思い残しとの決別を意味している。話し合ってみると、案外何か得るものがあるかもしれない。どうして破滅へ辿ったのかとか、どうすれば道を間違えずに済むか、とかね」
――人生は積もるもの。
――人生は流れるもの。
人生は山河であると誰かが歌った。
ならばせめて、其の山河が美しくあるための助言を、『或いは』の己に問うてみるのも一興だろう。
key
こんにちは、keyです。
祭り…というには少々しずしずとしています。
●目的
「船楽祭に参加しよう」
●場所
封神武侠界の片隅、少し大きな浮島です。夕暮れ時です。
所々で篝火が燃えて明るい中、様々な人が楽器を演奏しています。
猟兵は飛び入り参加で楽器を演奏したり、いっそ楽しい雰囲気にしてしまっても構いません。彼等はきっと合わせてくれて、楽しい音楽を奏でることが出来るでしょう。
第二章では、船に乗ることが出来ます。
一人(一グループ)ずつしか乗れません。船は丁度其の倍乗れる大きさをしているのですが、猟兵たちが乗り込むと直ぐに滑り出してしまいます。
そうして気配を感じると、空いていた筈の席に同乗者がいます。其れは『破滅の運命をたどった猟兵自身』であると判ります。
彼等は「俺みたいにはなるなよ」と言うかもしれません。或いは「このままでは俺のようになるぞ」と言うかも知れません。貴方がたは少しの間、同じ船で雲海を回る事になります。
●プレイング受付
受付、〆切はタグ・マスターページにて適宜お知らせ致します。
●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
また、アドリブが多くなる傾向になります。
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此処まで読んで下さりありがとうございました。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『美しい調べに』
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POW : 演奏に耳を傾ける
SPD : 演奏に耳を傾ける
WIZ : 演奏に参加する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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静かな――
まるで渓流のような音楽が、其の浮島を満たしていた。
或いは太鼓を叩くもの。或いは笛を吹くもの。或いは鳴り物を鳴らすもの――様々な者たちが集まって、思い思いに音楽を奏でている。
彼等は曲調こそ合わせてはいるものの、一つの楽団という訳でもなさそうだ。
奏でたいものが集まって、奏でたいメロディを奏でているのだろう。
だから君が奏でたいメロディの為に乱入しても、彼等は怒ることはない。
楽しい歌を。
哀しい歌を。
怒りの歌を。
歓びの歌を。
君たちは自由に奏でることが出来る。
道具が足りない? 大丈夫。周りの仙人に言えば、大抵のものは用意出来るだろう。
そう、此処は仙界。長く長く生きる仙人たちが、背負っている未練に音楽と共に別れを告げる為の、船楽祭なのだから。
儀水・芽亜
ふふ、楽しそうなお祭の噂に惹かれてまかり越しました。
舞台で一曲、およろしい?
人生山河也ですか。それなら、俗世を離れた仙道の方々はさしずめ、果て無き空の高みか、全てを受け入れる大海原か。
では、竪琴をつま弾いて、拙い曲をご披露させていただきましょう。
「楽器演奏」「歌唱」「郷愁を誘う」主に向かいて新しき歌をうたえです。
やはり音楽は、戦闘で武器にするより、聴衆の皆様と心を一つにして歌い上げるのが一番です。
いかがでしょう、皆様。お耳汚しでなければよいのですが。
一曲歌ったあとは、「落ち着き」をもって伴奏に入ります。竪琴でも上手く弾けば、この世界に合った音色を出せるというもの。
さあ、次の方、どうぞ舞台へ。
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「――人生山河也、ですか」
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は雲海を見据え、周囲を満たす楽器の音に耳を澄ませる。
弦楽器も管楽器も、様々な音が入り混じり、一つの旋律を奏でている。
「それなら、俗世を離れた仙道の方々は差し詰め、果てなき空の高みか、全てを受け入れる大海原でしょうか」
芽亜はそっと席に着くと、一つ竪琴を取り出した。
――|主に向かいて新しき歌を歌え《Cantate Domino canticum novum》。
竪琴の跳ねるような音と共に、芽亜の伸びやかな声が静かにメロディに混ざり合っていく。
楽器の弾き手たちはそちらにちらりと視線をやると微笑んで、ゆっくりと主旋律を芽亜へ譲り渡した。
本来なら相手の敵意を削ぐための|この曲《ユーベルコード》ではあるのだが、やはり音楽とは戦闘の武器ではなく、聴衆と心を一つにして歌い上げるためのものだと芽亜は思う。
「――とても綺麗」
「ああ。まるで心が洗われるかのようだ」
聴衆たちが呟くのが聴こえる。
ぽろろん、と流すように弦を弾き、芽亜は一旦主旋律を楽団に返す。
「……お耳汚しでなければ、もう一曲」
答えるのは声ではなく、静かな雨音のように広がる拍手。
迎えられ、芽亜は再びメロディの中に竪琴を持って入り込む。
さあ次の方、どうぞ舞台へ。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
【雷炎の絆】で参加
大分戦乱で騒がしい世界だったが、ここ独自の夏の祭りが出来る事が出来るようで安心した。まあ、色々状況は動いているが、ゆっくり祭りを楽しむ事も大切だ。いい楽の音が聞こえてきた。いいねえ。行こう、律。
ああ、元々歌い手だからねえ。赫灼のアパッショナートを歌い、祭りに華を添える。まあ、律のトランペットはこの世界の感覚ではやかましいと思うが、仙人達は許してくれるだろう。
でも、なんか寂しい雰囲気がするねえ。死者に関連してるせいか、無限の寿命を持つ仙人達が祭りのメインのせいか。
・・・・大丈夫。アタシと律なら乗り越えられる。一度死に別れて再び巡り会えたから。
真宮・律
【雷炎の絆】で参加
俺はこの世界を襲った戦乱を知らない。でも静謐な空気の中に全てを達観した寂しい気を感じるのは俺が一度死んで魂人として蘇った経験を持つからか。
でも、音楽家として神秘的な風景の楽の音は凄く興味が惹かれる、いささか騒々しいと思うが愛用のトランペットを手に飛び入り参加させてもらう。
奏でるは白銀の行進曲。トランペットでこの曲だと雰囲気ぶち壊しかねないが、仙人だから許してくれるだろう。無理やり楽しい場にしてしまう感じか。
その船の先に死の予感が待っていようと一度死に別れて家族に会えた奇跡がもたらした喜びに勝ることはないさ。俺は信じてる。
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【雷炎の絆】――真宮・響(赫灼の炎・f00434)と真宮・律(黄昏の雷鳴・f38364)は音楽流れる浮島へと降り立った。既に演奏は始まっており、中には一緒になって演奏している猟兵もいるようだ。
「だいぶ戦乱で騒がしい世界だったんだがねえ。ここ独自の夏祭りが出来るようになって安心したよ」
「そうなのか? 俺は生憎知らないが……確かに、静謐の中に何か、達観した寂しい気を感じるな」
「ああ。まあ、色々状況は動いているが……ゆっくり祭りを楽しむ事も大切だ。良い楽の音だね、行こう、律」
「ああ」
楽団へと近付いた二人は目線で挨拶を交わすと。まずは響が歌で華を添え始めた。情熱的な歌声は、まるで仙人たちの心の埋火を燃え上がらせるかのよう。
歌いながら思う。
寂しげな祭りだと、響は思う。
恐らくこの後に控えている船に絡んでいる祭りだからか、無限の寿命を持つ仙人たちが祭りのメインのせいだからか。
其れを打ち払ったのは律のトランペットだった。封神武侠界では物好きしか所有していないであろう、使い慣れたトランペットの力強い音が衝撃的に現れて、響の歌と楽団の伴奏を引っ張って行く。
わあ、と仙人たちが静かに沸いた。トランペットの音は高らかに、まるで軍歌を歌うかのように鳴り続ける。他の楽器も其の勇ましさに追随するかのように、場の雰囲気は一気に明るくなっていく。
誰一人として怒る者はいない。もとよりこの音楽祭に、音楽の縛りなどないのだから。楽しい歌を歌ってもいい、勇ましい旋律を奏でても良いのだ。
しかし――この演奏が終わった其の後には、死の予感が待っている事を律は知っている。
果たして己が語り合うのは誰か、と、僅かな不安が音に乗った。
だから、大丈夫だ、と響が歌声に乗せた。
アタシと律なら乗り越えられる。だってアタシ達は一度死に別れて、其れでも再び巡り合ったんだから。
そんな彼女の強さを感じて、律は少しトランペットを唇から話して笑う。ならば行こう、何処までも。律は再び、トランペットの音を奏でるために息を吸い込むのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『江河滾滾』
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POW : 泳いだり水の上を歩いたりして渡る
SPD : 舟や使い魔などに乗って渡る
WIZ : 魔術や仙術を使って渡る
👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
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「お先に」
仙人がまた一人、|二人乗り《●●●●》の船に乗っていく。船頭は船の先端にあるランタンに火を灯し、ゆっくりと日が沈みゆく雲海の中を滑り出した。
「此処ではね、仙人達は後悔を置いていくんだよ。“いつかの自分”と語り合う事で、其の時の後悔と決別するんだ。そうしないと、ずうっとずうっと生きていく中で、生きる事に耐えられなくなってしまうからね。では、お先に」
説明をしてくれた仙人が、ゆっくりと船に乗っていく。彼もまた、後悔と決別するために来たのだろうか。
そうして君たちの番が来る。船頭は急かしもせず、ただフードにローブという出で立ちで佇むばかり。男女さえ測りかねる。君たちはそっと船に乗る。雲海ではあるが、乗り心地はまるで川に浮かんだボートに乗ったかのようだ。船頭がゆっくり櫂を揺らし、船は漕ぎ出す。
夕暮れ時の雲海は、とても美しく、しかし陰が多かった。夕日に照らされながらゆく船は、オレンジ色の雲を掻き分けながら進む。
そうして――気が付くと、君たちの直ぐ前の席に、|誰かが載っている《●●●●●●●●》。
彼とも彼女とも知れぬ影。ローブにフードという出で立ち。船頭にそっくりだが、君たちは直感する。これは『破滅の運命をたどった己』だと。
影はゆっくりと口を開く。
君たちに向かって、何かを伝えるために。
神楽崎・栗栖
現れる影:葛城山殲滅戦(シルバーレイン)に重傷で向かい、戦死した自分自身
「あなたは中途半端な義務感で無力なまま戦いに赴き、たくさんの人を悲しませました。また、あの過ちを繰り返すのですか?」
返答:過去の無謀を悔いてはいるが、激高したりせず、あくまで穏やかなまま
「力尽きて記憶を一部失ったとはいえ、私はあのときの私とは違います。歩みが遅く見えようとも……着実に経験を重ね、今の自分の実力を踏まえて、戦い続けましょう。今度こそ、誰も悲しませないために」
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神楽崎・栗栖(銀朱の魔剣士・f42945)はじっと前を見ていた。
其処にはローブの人影が、夕日に向かって進む船の上にじっと座っていた。栗栖自身か一目で判別は出来ないが、栗栖は其れが己だと確信していた。
「――あなたは」
存外穏やかな声で、影は語り掛ける。
「中途半端な義務感で、無力なまま葛城山に赴き――たくさんの人を悲しませました。己の力を正確に測れない事は罪に等しい。また、あの過ちを繰り返すのですか?」
葛城山殲滅戦。
あの日で分岐した己なのだろう。そう栗栖は心中で頷いた。きっとこの自分は、あの葛城山で戦死した自分だ。
無論、過去を悔いる気持ちはある。無謀だったと思ってもいる。だが、栗栖は激昂もせず、穏やかにローブの人影を見ていた。
「……力尽きて記憶を一部失ったとはいえ、私はあの時の私とは違います。たとえ歩みが遅く見えようとも……着実に経験を重ね、今の自分の実力を踏まえて戦い続けましょう」
そう。
今度こそ、誰も悲しませないために。
影はじっと其れを聞いていた。そうして、長く長く息を吐くと、安心しました、と零した。
「たとえ亀の歩みであろうとも、経験は確実に力となるでしょう。――どうか、私のようにはならないで下さいね」
「……ええ」
「お元気で」
「お元気で」
そんな短い挨拶と共に、ローブの影はゆらり揺らいで消え去っていた。
ただ船頭が櫂をこぐ音だけが其処に在る。栗栖は己の掌を見て、……あの日を思い返し、拳を強く握った。
大成功
🔵🔵🔵
儀水・芽亜
二人乗りの小舟に一人で乗って、雲海へこぎ出してもらいましょう。
ご機嫌よう、破滅の私。私のことは正道の私とでも。
まるでお葬式の帰りのような黒頭巾に黒の長衣。心なしか、フリルを多用している?
わざわざ過去の自分に忠告を届けに来るとは、物好きですね、破滅の私。
私はこれからいかにして身を滅ぼすのでしょう?
人の心をいじろうと魂の奥底に潜りすぎて、集合的無意識に飲み込まれたと、そういうわけですか。それはあるいは、ヒトの心の奥底にある骸の海。触れれば自我が拡散して消滅することなど自明でしょうに、なぜそんなことを?
己が全人類の心と一つに溶け合う圧倒的な快楽ですか。
ご心配なく。私はそんなことに興味ありませんから。
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眩しい。
芽亜は夕日に向かって漕ぎ征く船の上で、其の光に目を細めた。仙界から眺める夕日のなんと眩しい事か。
そして、だからこそ影は濃く映る。
「こんにちは、破滅の私」
「こんにちは、……貴方の事は、何と呼べば?」
「そうですね、正道の私とでも」
ヴェールの向こうで笑う気配がする。黒いヴェールに黒の長衣。心なしかフリルが多く、喪服のようにも見える。
「わざわざ過去の自分に忠告を届けに来るとは、物好きですね? 破滅の私。それで……私はこれからいかにして身を亡ぼすのでしょう」
「貴方にはまだ知らない快楽がある。ご存知ですか? 己が全人類の心と一つに融け合う其の全能感を」
「いいえ。知りませんし、知るつもりもありません」
「どうでしょうね。いつか貴方も知るかもしれません。でも、魂の奥底に潜り過ぎてはいけない。集合的無意識の海が、貴方を呑み込もうとする」
「集合的無意識――其れは……骸の海に似ていますね。人の心の底にある、海」
「そうです。私は例え己がなくなってしまうかもしれなくても……其処に至りたかった。だからどうか正道の私、貴方もお気をつけて」
「ご忠告有難うございます。でも、ご心配なく。今のところ、私はそんな事には興味がありませんから」
ヴェールの向こうで“影”が笑った。其れは安堵しているのか、これからを予見しているのか、其のどちらなのかは測りかねた。
船が大きく弧を描いて、雲海を掻き分ける。夕日に芽亜が照らされる其の時には――既に影は、其処にいなかった。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・響
舟に乗って河に出たら、さっきまで一緒にいた律がいない。
同乗者は・・・ああ、もう一人のアタシか。律と結ばれた後、目の前で律にしなれ、瞬とも会う事なく、奏と共にダークセイヴァーで死んだ20代後半のアタシ。やっぱり最後に奏をかばったんだねえ。血まみれで傷だらけだ。
実家を出て、律に出会って、奏が生まれて。そこまでは納得した人生だった。
でも奏が5歳で律を目の前で失って人生は変わった。5歳の奏と6歳の瞬を抱え、あの子らが猟兵として一人前になるまで一人で頑張った。
後悔してないよ、この人生。歌うは赫灼のグロリア。
目の前にきたのは道を間違えるな、と忠告しにきてくれたんだろう。ありがとう、安心してくれ。
真宮・律
!?案内に従って舟に乗ってみたが、響がいない。そうか、予知の通りだ。
目の前にいるのは死神めいた錆びつき、血を塗りつけた愛用の両手剣をもった俺自身。
元々俺は戦場の傭兵だった。相棒を失い、茫然自失の状態で偶然助けた令嬢が響だった。迂闊にも響と5歳の奏を残して死んだ。ここまでは後悔してない。
でも魂人として蘇らず、過去の残滓としてオブリビオンとして世界に害を及ぼす可能性も十分あった。目の前にいるのは落ち切ってただ無辜の人の命を奪うバーサーカーとしての俺だろう。
ありがとうな、忠告しにきてくれて。俺は間違えない。奏でるは残照のサンクトゥス。安心して還りな、もう一人の俺。大丈夫、きっと上手くやっていけるさ。
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律と響は確かに一緒に船に乗り、夕日に漕ぎ出でたはずだった。
しかし見回せば誰もいない。響がふと気配を感じて前に視線を向けると、誰かが俯いて座っていた。
ああ。これはあの時のアタシ。律と結ばれた後、目の前で律を喪って――瞬とも会う事なく、奏と共にダークセイヴァーで命を落とした己。
「ねえ、やっぱり最後に奏を庇ったんだねえ」
響は語り掛ける。頷いたかは判らなかったが、其の“影”からぱたり、と水のような雫が落ちた。其れが血なのか水なのかは、夕日の所為で判別しづらい。
実家を出て、律に出会って、奏が生まれた。其処までは納得できる人生だった。けれど奏が5歳の時、目の前で律を喪った。響の人生は変わった。思えば瞬に出会った事もまた、響を強く奮い立たせた一因だったのだろう。奏と瞬が一人前になるまでと、拳を握り立ち上がり続ける人生だった。
響は歌う。赫灼のグロリア、即ち栄光あれ、栄光あれと。
きっと道を間違えるなと忠告しに来てくれたのだろう。だから安心してくれと、奏は高らかに歌う。――其のメロディにいつしかトランペットの勇壮な調べが乗っていた。
――時間は少し前に遡る。
律は響と共に漕ぎ出でた、筈だった。しかし其処に響はおらず、いるのは血に錆びた両手剣を持った“影”一つばかり。
元々律は戦場の猟兵だった。相棒と共に駆け抜ける戦場は危険だったが、相棒と上げる祝杯は美味だった。
だが、其の相棒を戦場で失った。呆然自失の律が偶然助けた令嬢が――響だった。其れが二人の出会い。そうして二人は想い合い、奏が生まれた。
しかし戦場は無慈悲にも、幼い奏と響を残して律の命を奪い去った。律は……後悔していなかった。だって己が愛した女だ、きっと強く生きてくれると信じていたから。
ではこの影と己の違いは何か。律は船に座り直す。
「なあ、もう一人の俺。お前はオブリビオンなんだろう? 魂人として蘇ることが出来ず、過去の残滓として世界を害する可能性の俺なんだろう」
深淵に、落ちて、落ちて。墜ちきって、あとはただ無辜の人の命を奪うだけの|狂戦士《バーサーカー》。
ありがとうな、と律は笑う。お前が其処にいるって事は、俺はまだ、大丈夫なんだな。
律はゆっくりとトランペットを構える。奏でるは残照のサンクトゥス、すなわち聖なるかな、聖なるかな。
其のメロディにソプラノが混じって……律は隣に響の温もりがあるのを感じながら。響は隣に律の気配を感じながら。メロディが終わるまで、歌い、奏で続けた。
世界はいつだって残酷だ。
だが同時に、同じだけ慈悲深くもあるのだ。
大成功
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