君がため点す灯りを目印に
●夜闇を祓う道しるべ
西の水平線に陽が沈む。朱に染まった海からの照り返しの様に赤い空へと、まるで圧し掛かる様にして黒い夜闇が下りて来る。
夜が来る。闇が降る。
今宵、月が昇ることはない。
約束された暗闇を祓うかの様に、満点の星空を戴く浜辺にやがて灯が点る。獣人らが無数に並べて点けてゆく蝋燭の群れの形は無造作だが、酷く暖かな色をしていた。
月も照らさぬ夜なればこそ、彼岸からでもこの灯はさぞかしよく見えよう。
この灯を頼りに帰っておいで。迷わぬように照らしておこう。帰ったらいつかの様に語り明かそう、宴をしよう。陽が昇るまで共に在ろう。
年に一度、盛夏の新月の日に執り行われるその祭りの名は何と言ったか。いつから続くものであったか。問うたところで獣人たちすら首を傾げるばかりだが、風に灯火が消えぬよう見守る眼には深い慈しみの色がある。
●そう言えば、夏
「死者を弔う祭り、だそうだ。まったく——」
そうした儀礼とおよそ無縁な悪霊は、いかにも蔑む声音で鼻で嗤った。まったくに続けようとした言葉が何であったか、傍らの姫君がマントの裾を引っ張って黙らせた為に闇の中。
「獣人どもの住む海辺の町の風習だ。夏の盛りの新月の夜、海辺に無数の灯を点す。それだけと言えばそれだけだ。その灯を頼りに死んだ者の魂が還って来ると、そんな与太話は現地の連中もどれだけ本気で信じているかは解らぬが——」
遮る様に殊更に、まぁ素敵!と言わんばかりに姫君が両の指先を合わせてみせた。悪霊は気まずそうに頷きひとつ。
「……無論、信じることは自由だ。先立った者へと想いを馳せて感傷に浸ろうとも、嗤う者はなかろうよ。逆に、観光気分で灯りを眺めて愉しんでも、咎めるものは別にない。好きなスタンスで参加せよ」
要するに、現地の獣人たちの中でも、温度感にはずいぶん幅があるらしい。
「村にはイヌの獣人が多いか。賑やかな連中だ。慰霊祭すら湿っぽいまま終わらせるのは好まぬらしく、夜半には宴を始めるようだ」
蒼昏く煌めくグリモアを起動しながら、そう言えば、と首を傾げて、曰く。
「夜とは言え灯りがあるのだ、波打ち際で遊んでも良いらしい。どうせなら水着で行って来るのも一興か」
せいぜい楽しんで来ると良い。斜に構えた調子で吐き捨てながらグリモアを展開した悪霊は、留守番のくせにしっかりと水着姿を披露していた。
lulu
luluです。ごきげんよう。
気付けばお盆ももうすぐで、早いものだなと存じます。
夏休みをして頂けたら良いな、というようなシナリオです。
●1章
慰霊祭。
キャンドルをたくさん並べたビーチで物思いに耽っても、映える写真を撮っても特に構いません。
●2章
宴。
獣人たちと騒いでも、遠巻きに独りで黄昏れても、デートをしていても別に構いません。
宜しくお願いいたします。
第1章 日常
『死者を弔う満天の星空で慰霊祭を』
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POW : 慰霊祭を執り行う手伝いをする
SPD : 戦死者の遺族を弔問する
WIZ : 死者へ安らかな祈りを捧げる
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
尾守・夜野
POW
あらあらお祭り…なるほど?
まぁ私共がこうして戻ったりもしてますのであながち戻ってくるというのも嘘ではないのでしょう
世界が違えども行事は似たものがあるのねぇ
…私の方でも目印を立てたら仇の方々も戻ってきて下さり何度でも殺せるのかしら
まぁ私共が一番嫌いなのは助けられなかった私共なので行う意味などないのですが
暇潰しとして参考にできる物がないかしら?と準備を手伝いましょう
…お盆やハロウィンとは違う感じなのかしらねぇ
灯籠流しに近いのかしら?
足引く皆に留められてるだけで別に未練とかなく基本興味引くままふらふらしてますの
…火のついてない蝋燭は置けても火には近寄れません
宿敵的トラウマもそうですが格好的にも
●ルソン・ド・テネブレ
「あらあらお祭り……なるほど?」
気負わぬ興味を紡いだ声はテノールだったかアルトだったか。いずれにしても、イヌの獣人らが思わずと言った風情でよく利く耳を立てた程度には淑やかな声である。振り向いた彼らの視線の先、貴婦人めいた白いドレスを翻して佇む痩躯は、蝋燭の灯に淡く照らされながら、神秘的なまでの儚さを焼き付けた。
尾守・夜野(自称バブ悪霊な犬神と金蚕蠱モドキ混合物・f05352)はそんな視線をものともせずに、ただ静々と浜辺を往く。重力を感じさせぬ足取りは、嗚呼、実際に重さがないのだ。この浜の砂は鳴き砂だ。それが鳴かぬは、夜野が地を踏んで居なければこそ。悪霊たる身は世の理を裏切ればこそ、死して今尚此処にある。艶やかなグレージュのパンプスの、よく磨いた爪先も高い踵も僅か浮かせてついぞ地を踏むことはなく、宙空を滑る様にして夜野は進む。それに見入りつ、隠しもせずに、ほう、と息をついて見せたのはどのイヌだったか。小屋先に椅子と机を置いて酒盛りをしていた様からすると、鎮魂の二文字を省いて単なる祭りの趣を楽しんでいる手合いであろうか。
「信じてないわけじゃないんだよ。ただ、その」
どうせ迎えてやるんなら湿っぽいのは悪いだろ? 照れ隠しの様に酒瓶を呷ったイヌへと、夜野は嫋やかに微笑んだ。
「ええ。きっと皆さん、本当に戻って来ていらっしゃると思いますの」
語らぬ根拠に絶対の自信。事実、一度は此岸を去った夜野自身、こうして『戻って』来ていることこそが全てであろう。国も世界も異なれど、故人を偲ぶ行事がどれも何処かしら似通っていると思われるのは、おそらくは、偲ぶ気持ちの等しさを映したものであるが故にか。
興味本位、暇つぶしがてら、そうと口に出すことはせず手伝いを願い出た夜野に、イヌたちは朗らかに笑って尻尾を振った。曰く、夜明けまで蝋燭の灯の絶えぬよう、まだ新しく並べたいのだそうだ。配置に別段の決まりごとはなく、ただ、灯すことに意味があるらしいこの行事、夜野の知る中では灯篭流しが近いだろうか?
浜辺に蝋燭を置くだけ置いて、だが、夜野にはその先の作業は躊躇われた。火を寄越そうとしたイヌの獣人の目には、夜野が長い袖や裾のフリルを気にして炎を遠巻きにしているとでも映ったか。それもあながち間違いでもないながら、夜野の赤い瞳は己の袖口よりも裾よりも、吹けば消える様な灯の先に遥かな過去を見つめていた。
炎。一面の紅だ。
有象無象を焼き尽くすまで、焼き尽くしてすら燻ぶり続けて尚消えぬ。夜野が故郷と定めたあの村を、燃やし焦がして地図の上からも消し去ってくれたあの業火。
「ほら、これで向こうからでもちゃーんと見えるだろうよ」
夜野を現実に引き戻した獣人の呑気な声音。先ほど夜野が置いた蝋燭に灯を点す作業すらもう片の手で酒を呷りながらのものであり、だが、その気楽さが今は逆に心地が悪くない。
「……ありがとう」
闇の向こうへと目を凝らし、その場へと望む姿は何であったか。夜野にとって、『帰って』来るべきは護るべき者、亡くした者の類ではなくて怨敵だ。もしもあれらが戻って来るならば、また殺すことが出来るではないか。あのときの怨嗟をぶつけるが如くに、何度でも何度でも何度でも——……?
——否。
己が一番嫌っているのは、護るべき者たちを助けることが出来なかった己自身に他ならぬ。そうして、己、その言葉が指すものはあらゆる人格全て一絡げに『私共』とでも括るべきものであり、何の言い訳の予知すらなしに唾棄すべき対象に他ならぬ。
「嬢ちゃん、酒は飲めるのかい? まだ夜明けまで随分あるから、ゆっくりしてってくれな」
「……ええ」
世の中にはごく稀に、思考を妨げられることが悪でないこともある。また唐突に呑気なイヌに声を掛けられ、誤りを強いて正してやる気も起きて来ない時の夜野はまさにそうであろう。
夜明けまでどう過ごすかは気分次第。遠目に眺める分には穏やかな蝋燭の炎たち、暗闇を退けて揺らぐ光の群れに、悪霊の紅い双眸が見出すは——。
大成功
🔵🔵🔵
玻璃月・瑛華
わぁっ綺麗ー…ね、珱貴!星がすっごく綺麗に見えるよ。ここに紙とペン持ってきたら色々書けそう
蝋燭の明かりも素敵だね、ねぇイヌさん。どこか浜辺が見渡せる場所に椅子はありませんか?のんびり眺めて見ていたくて
海は、蝋燭は、胸に染み入る程に綺麗で、泣きそうになる
…UDCアースに来てから、何年が経ったのだろうね。本物のとと様とかか様はご無事かな…
何事もなければ…いや、もし何かあったなら世界を渡ってここに来…いや珱貴!暗に両親死んでれば良いのにとか言っているわけじゃないぞ!?
お前こそ、私なんかに憑いて来なければ今頃消えて永遠の安寧を手にしてただろうに!事故だった?知るか!
風景見て落ち着こう
やっぱり綺麗だなぁ
●それは目眩く万華鏡の移ろいにも似て
「わぁっ綺麗ー……」
飾り気のない本心が、飾らぬ言葉でそのまま零れた。己でそうと気付いて玻璃月・瑛華(虚無に注ぐ姫詠君・f44065)が覚えた仄かな心地のよさは、どんな言葉で形容するのが近かろう。
処世の為に己の言葉や感情を繕うことには慣れていた。随分上手く麗しく拵えた外向けの仮面をそれと気取らせず被ることにも、慣れている。そうして不本意ながらも慣れているものを取り去った時のこれは、嗚呼、解放感とでも言うべきか。
「ね、珱貴!星がすっごく綺麗に見えるよ」
なんと他意のない、実に他愛のない言葉。いかにも十七歳の少女らしい、否、いっそそれよりも幼くすら思えるそんな言葉を彼女が口にできるのは、此処が本来の故郷から、或いはUDCアースからも遠く離れている為であろうか。いずれの世界にあろうとも、今その言葉を耳にする者が傍らのただ一人、翠の黒髪を夜風に遊ばせた青年ひとりであることは必要十分条件として。
この世界、この時代での漁村の夜と言うものは暗いらしい。加えて灯火が目立つよう、家々は灯を落としていた。浜辺の灯の群れを少し離れればもう闇だ。現代のUDCアースで眺む街灯だの家の灯だのなどに妨げられることのない夜と闇とがそこにある。
透き通る夜闇を仰げば、宝石箱もかくやと言わんばかりの満点の星空があることを珱貴は知っている。知っているが、それよりも主人の横顔を見つめ続けることを選んだ。
紙とペンがあれば色々描けそうだと燥ぐ瑛華は無防備に空を仰ぐ。遥か光年の先を見つめるその瞳は綺羅星を映し煌めいている。珱貴にしてみればその眼差しが己に向いていないがゆえに些か不躾に彼女を眺められるこの僥倖。
綺麗、奇麗と口にするその桜色の唇が、繊細な横顔こそが何よりもキレイなのだと、だが、思ったままを口にしてやる程にはこの化神は純でも初心でもありはせぬ。
やがて視線を下ろした先の蝋燭の灯に瑛華の興味は移ったらしい。適当なイヌへと声をかけ、浜辺が見渡せる場所で座す場を求めた結果、漁具を収めた小屋のウッドデッキに通されて二人、並んで椅子に腰を下ろした。蝋燭の灯を敷いた浜が一望できる場だ。
「蝋燭の灯りも——」
綺麗、と彼女は口にしようとしたか。遠く近く眺める蝋燭の灯火は、それこそ泣きそうな程、胸に染み入る程に美しく——だがその先が言葉にならぬ。嗚呼、見覚えがある。この灯火ら、かつて瑛華が住んだ世で、高杯灯台だの高灯台だのの油に揺れた火と同じ橙をしているではないか。
懐かしい揺らぎとあたたかな色彩は、図らずも瑛華の心に深い郷愁を連れて来たらしい。
「……UDCアースに来てから、何年が経ったのだろうね」
あれほど燥いだ様子から急転直下、弱弱しく沈んだ声音で瑛華は零す。
「本物のとと様とかか様はご無事かな……。何事もなければ……いや、もし何かあったなら世界を渡ってここに来……」
言いかけたところで己で何かに気付いたらしい。青褪めながら慌てた様に首を横に振った。
「いや珱貴!暗にとと様とかか様が死んでれば良いのにとか言っているわけじゃないぞ!? 」
否定されずとも彼女の思考などはよく心得ている黒髪の青年の返しは、実際のところは瑛華のみぞ知る。外界から知れるものはただ生温い笑みのみだ。対して、
「お前こそ、私なんかに憑いて来なければ今頃消えて永遠の安寧を手にしてただろうに——事故だった? 知るか!」
傍目にはひとり相撲の全力否定。珱貴は空を仰いで受け流す。
事故、そうとしか言いようがない。知識や発想、そうした恩恵と引き換えに生命力を奪う化神に憑かれた瑛華の側にこそ、災難だったと世人は同情するやもしれぬが——その実、孤独の中でファム・ファタールとも言うべき少女と出会ってしまったこの化神こそ、貰い事故の様なものである。
まだ何か言い募りながら、小動物の様にくるくると表情を変える彼女は灯火などより見ていて飽きぬ。化神は僅かに唇の端を上げた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『獣人酒場大宴会!』
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POW : 誰彼構わず乾杯し、盛り上がる
SPD : トークや歌、一発芸で宴席を盛り上げる
WIZ : 喧騒を少し離れて大人の会話を楽しむ
イラスト:del
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
尾守・夜野
んー…賑やかね
酒宴に誘われた事ですし向かいましょうか
この形だと諸々に抵触しそうですのでアイテム:■■■で無理矢理生前の姿をとってとなりますが
一応死ぬ前成人しておりますので。はい
私共にとっては…ですが
彼らにとっては故人を偲び再び活力を得、心配しないでと伝える祭りでしょう
ですので私は聞き手に回りますの
献花が許されている祭りでしたら余興として、マリーゴールド等の花でも咲かせておきましょうか
もしくはこの日によく捧げる花
少しでも彼らの癒しになれば嬉しいわね
バイカル湖にも伝わってたら…と思いますの
アドリブ連携歓迎
●彼岸と此岸の境目に
夜が更ける。更けて尚、満天の星空も、海辺を照らす蝋燭の灯も変わらずにそこに在る。
灯を捧げ、火の番をしつつ酒が入って陽気さを増した獣人たちはそこらで酒盛りに興じている。雑な木箱に適当な筵、簡素に過ぎる酒宴の席は彼らにも、『帰って来る』者ら的にもこの粗雑さが馴染むのだろう。
とは言え尾守・夜野(自称バブ悪霊な犬神と金蚕蠱モドキ混合物・f05352)の奢侈なサマードレスは彼らの目から見てすらも流石に場違いに思われた。そうでありながら、思わずと言った風情で夜野へと同席を乞うて居たのはどのイヌだったか。夜闇に可憐に舞い飛ぶ胡蝶を見れば手を伸ばしたくなるのがヒトのサガ、誰にも咎める余地はない。
他方、招いた相手が酒を嗜めぬ歳であるならそちらは問題だ。故にいたいけな横顔へ齢を問おうとしたイヌどもが、だが、夜野が席に着く頃には口を閉ざした。何を問おうとしていたのだったか、目の前の|淑女《・・》は纏う色香からして明確に成年のそれではないか。見目好いその姿形が所詮は急ごしらえの、肉体的にも物質的にもスカスカの|見掛け倒し《■■■》であることなどは誰も知らずに、知る由もない。事実、夜野の嫋やかな細腕は見目の通りに何の膂力も持たずとも、今宵、杯ひとつ傾けることさえ出来ればそれで事足りる。
「この地の名酒を何かいただけますか?」
いかにもよく心得た台詞に、否が返る筈が最早ない。
押し付けられた無骨なゴブレットへと注がれた葡萄酒は明らかに熟成が浅いものらしく、柑果の如き酷く爽やかな香りを齎した。軽やかなそれがこの蒸し暑い夜にはやけに合う。
「ありがとうございます。……乾杯」
決して賑やかに音頭を取りに行くものでもない、ただ静かで淑やかな一声がどうして斯くも定かにこの場を制するか。水を向けてやればぽつりぽつりと語り出すイヌたちの想い出話、我こそはと語る言葉に熱が入って徐々に賑やかになるそれすらも、夜野の掌の上のよう。
偲ぶことにこそ意義がある、そう理解していればこそ夜野は彼らにただ語らせていた。逆の立場で見るならば、己のような悪霊ですらヒトの想いで引き留められてこの現し世に留まっている。故人へと向ける想いが、祈りが、彼岸へと齎す意義を知らない夜野ではない。
故に、旧友を、兄弟を、思い起こして誰かが涙声を零したときに、言葉のひとひら、ハンカチの一枚を差し出すよりも気の利いた方法を夜野はよくよく知っている。
「もしもお許し頂けますなら、私共からお花を差し上げても?」
尋ねた言葉に躊躇いがちな頷きひとつ。俺たちは花だとかよく知らねェが——。野暮な返事も待たずして、浜辺に揺らめく灯の傍らを、灯火に負けじと鮮やかな橙の花々が埋めてゆく。灯に導かれて辿り着いたこの場所で、帰る者らを鮮やかな色彩と花の香で迎えよう。海風を浴びてそよぐ花畑、今宵に相応しい花言葉を挙げるならば「勇者」、或いは「変わらぬ愛」か。元来そんな風流を解さぬ獣人をしてすら、励ます様なこの花の色合いは胸に沁みたか。
「綺麗だなぁ……」
誰が零したか、そんな感嘆。互い花々に見入ればこそ、互いの目が赤く腫れているだとか揶揄し合う様な余地もない。花々が放つ癒しは祝福めいて夜風に溶けて、イヌらの心と身体を癒す。明日の朝日を浴びる頃、ほんの少しの心の軽さに彼らが気付くか否かはいざ知らず、ただ、明確に今よりも元気でいるのに違いない。
——願わくば、この想いがバイカル湖にも届かんことを。
灯火の向こう、真黒い海の彼方へと瞳を遣って夜野は静かに物思う。獣人たちの無念を残したかの地へと、伝えたい想いは数限りない。
彼岸と此岸の境界が蝋燭の灯に溶けるとされる今宵なら、無理な相談でもなかろうか。想いを伝えることは勿論、願わくば、癒しを届けることすらも——。
大成功
🔵🔵🔵
玻璃月・瑛華
【アドリブ歓迎!】
宴!?お酒!珱貴、少しなら飲んでも――ドケチ! いいもん、ジュース飲むんだ! 獣人さん、何かお勧めがあったらくださいなっ
皆から乾杯しながらお話を聞こう
戦争が終わった後だって聞くから、きっと嬉しい話やこれからの希望の話とか聞けるんじゃないかなって思うんだ。それはささやかでも、壮大なものでも良い。幸せなものや人の喜ぶ声が聞きたい
…私は、少し…人の幸福を綴るには、引き出しが少ないからな
宴もたけなわなら、聞いた話ぶんだけ盛り上げる礼をしようか
紙(和歌短冊)に光景をしたためて、幻影使いとして詠み上げて浮べてみせよう
夜空には流れ星を、中空には明るい蛍火を
…皆のこれからが、幸せであるように
●夜闇の彼方へ祝福を
洋の東西を問わず、宴と言うのは心躍るものである。加えて大人たちが浮き足立つ様というのは、子供心にも興味をそそる。
「お酒!私も少しだけ飲んでみたい!」
「おっ? 嬢ちゃん、冒険してみるか?」
浮ついた空気に誘われるまま、玻璃月・瑛華(虚無に注ぐ姫詠君・f44065)がちょっとした背伸びに挑戦してみたくなったのはほんの無邪気な出来心だ。酔ってご機嫌な獣人たちもそれを咎めるどころか、焚き付けるかの如くに酒を注いだ杯を寄越す。嬉々として両手で受け取ろうとした瑛華だが、流れる様な所作で取り上げたのは傍らの化神であった。穏やかな微笑み、伴う言葉は何もないと言うのにどうして斯くも明確に否を雄弁に語るのか。酔ったイヌらが思わず申し無さそうに尻尾を垂らす程度には圧がある。
「ドケチ!少しくらいいいじゃないかっ」
取り返そうとしてぴょこぴょこと跳ねた瑛華の指先は遥か杯に届かない。涼しい顔をした化神は獣人らへと向けて杯を傾けてみせる。あくまで節度を保っているだけで、宴に水を差す気は更々ないと言う意思の表示に、獣人たちもほっと息をつく気配が見て取れた。
「いいもん、ジュース飲むんだ!獣人さん、何かお勧めがあったらくださいなっ」
瑛華も瑛華で拗ねたように唇を尖らせながらも、気を取り直したかの様に酒は諦めたものらしい。妥協の産物と思いきや、南国を思わせる果実を絞ったフレッシュジュースの色鮮やかさと香り高さは、酒精など入っておらずとも瑛華の唇を綻ばせるに十分だ。
乾杯、と口にしたのは誰であったか。誰が口火を切るともなしに、賑やかなお喋りが場を満たす。
「戦争が終わって、やっぱりこの町の生活も変わったのかな?」
「まぁそうだな。漁のことだけ気にしてられる様な時代がまさか、生きてる内に来てくれるとはなぁ……」
瑛華の問うた言葉に、しんみりと獣人が返す。 長く戦火の只中に晒されて来たこの世界、こんな僻地の漁村とて火の粉から逃れるべくもなく、決して他人事ではなかったらしい。
「見ての通りこんなとこにあるこんな港町だ。水平線の向こうに例の艦隊が見えた時にはもう終わりだと思ったね」
「全くだ。海ってのは常に恐ろしいものだよ。ただ、荒れた海の怖さより、海の彼方から来るモノに怯えるってのは落ち着かなかったなぁ」
「艦砲射撃で町ごと消えても不思議はなかったよなぁ。あんたらが護ってくれたおかげでこうして町も皆も息災だがな」
|その二人称《「あんたら」》が指したのは猟兵だけではないのだろう。雑な木箱の机の隅に手つかずで置かれたままの酒杯に気付いて、瑛華は何も言わなかった。
「もちろん、護ってもらった恩返しとして、生き残ったものの責務として、これまでになく町を盛り立ててやるつもりだよ」
重ねられた言葉は快活な調子ながらも、酔いの力を借りてこそ口に出来る類のものであったか。湿っぽいのは彼ら自身も、今宵『帰った』者たちもおそらく望まぬのだろう。
瑛華は言葉少なに彼らの言葉に耳を傾けながら、ただ静かに肯きを返した。皇族たるもの帝王学の一環として、民が幸せや希望を喜ぶ声を知っておくべきだと思われたが故のこの一連。応える様に和歌短冊に筆を走らせる彼女の横顔を、彼女が意図するところまでお見通しである化神は沈黙の儘に見守っていた。
和歌短冊に筆先が最後に書いた文字は何であったか。確かなことはそれと同時、辺りを淡い蛍火が満たしたことだ。思わず顔を上げた獣人らが仰ぐ夜空を、無数の星が翔けたことだ。灯火とまた同様にこれらの灯りも、彼方からさぞよく見えるだろう。
——皆のこれからが、幸せであるように。
この地へと生きる者へ、或いは生きた者たちへ、衷心からの祝福を瑛華は胸の内にそっと紡いだ。
大成功
🔵🔵🔵