素数ゼミの、鳴く頃に。
●さいしょのほん
「……すまないが、何方かこれの解の分かる方、いらっしゃるだろうか」
先ほどから人差し指一本でおぼつかぬタブレット操作を繰り返していた中年男性が、遂に諦めた様子で、周囲の猟兵たちへそう声をかける。
差し出されたタブレット。描かれているのは《魔方陣》――といっても、一部の猟兵たちが揮うようなアレではなくて、数学パズルとしての。
急に何……? ボケ防止……?
訝しがりながらも、付き合ってあげる優しい幾人かの猟兵の協力を得て、男が一人では描けなかった魔方陣、古来より人々を魅了する、数学の神秘がタブレット上に姿を現した。
「ふむ。縦横斜め、どこ足しても65。なるほど……」
幾度かの確かめ算をして、ようやく理解の追いついたらしい男。しかも、ほらこれ、と猟兵が付け加えて解説するのは、今回の問題は5×5の《完全魔方陣》を描かせるものであったということだ。斜めをずらして5つを足していっても、やはり65となる実に美しい魔方陣――。
ほう! と今度こそ心からと思われる強い感嘆を表明し、子供みたくに本当だ、と漏らして。少し恥ずかしくなったか、男はコホンと咳払いをし、場を仕切りなおす。
「美しいものですね。その、……本当は完成させてから皆さんにお声掛けをしようと思っていたのですが」
にこりと、柔和な笑みを浮かべ、周囲の猟兵を見回して。
「……実は、こういう問題の得意な方や、お好きだという方を探していたんです」
なるほど、これは簡易テストであったか、と意図に気付いて猟兵たちは苦笑いする。
いえいえ私は本当に数字や計算には弱くて、と男は返しながら、また人差し指ひとつのたどたどしいタブレット操作で、画面をパズルアプリから、ブラウザに――とある《サイト》に切り替えて。
聞いてほしい話がある。
エルンスト・ノルテ(遊子・f42026)は、そうして話を切り出した。
●そのすべてが|神性《・・》である
「こちらは、最近話題だという、《謎解きサイト》なるものでして」
画面を皆の方に向けて彼は言う。
私はエンドブレイカーなもので、この|タブレット《ガラス板》といい、何がなにやら……うまく説明出来るといいのですが、と言い訳ながらも淀みなく。
「難解な暗号や添付された情報の齎すサジェスチョンと次なる問い、なにより、『最も知的な者を求める』というその呼びかけ。多くの方々が熱中しているそうで。……そう、|尋常でなく《・・・・・》、ね」
UDCの研究員たちも、実は、このサイトに挑んだそうだ、とエルンストは続けた。
それは仕事ではなく、ちょっとした息抜きとして。
結果、生まれたのは多くの廃人と、数名の失踪者。
取り憑かれるのだ、難問に。他のすべてを投げ出すほどの熱狂と執着。止めさせようというのなら、暴力をもって抵抗するほど――息抜きどころか、仕事も寝食も忘れたようにして、苦しみ、もがき、見つけた突破口の快感と、それが更なる難問への入り口に過ぎなかったことの絶望を繰り返して廃人となっていく。組織には記憶を改ざんする技術のある為、廃人となった研究者たちの一部は、一連を忘れさせることで救済が叶ったが、失踪者についてはついぞ足取りは掴めなかった。
事態を重くみた組織は、現在このサイトについて、研究員による|新たな《・・・》直接の研究、挑戦を禁止している。また、インターネット上にクローラーを放ち、サイトを見つけ次第閉鎖することで、一般人がこの謎解きへ参加する事を妨害はしている。が、消した瞬間、ミラーサイトが誕生するのだ。結果、完全な収容とはなっていない。
その上、昨今の組織の混乱を|認識《みと》めたのか、そも指数関数的な設定であったのか……削除に対するサイトの発生数が増加傾向にあり、組織の一時的措置の限界を超えそうだというのだ。
「それで我々に話が回ってきたという次第」
組織がサイトについて理解したことは以下となる。
(1)設問挑戦者はサイト内では《巡礼者》と呼ばれている。
(2)運営者は不明、かつインターネット上から排除することが出来ない。
(3)設問は途中から《巡礼者》に応じて変化する。
サイトは《巡礼者》の解法、思考を把握、学習し、即時、記載を書き換えると考えられている。
これは《巡礼者》を繋ぎとめ、より多くの《学習》をするためとみられる。
(4)最終問題は確認されていない。
(3)の性質から《最終問題》は存在しないと推察される。
●内に潜れば、外へと至る
最終問題は存在するのではないか――ある猟兵が異を唱える。
失踪者こそは、最終問題到達者。そして、その回答者なのではないか、と。
「現状の《最終問題》というものは、存在しています。《巡礼者》の能力を鑑みて、《サイト》は、一定以上の者を同じ問題へ収束させる。……先ほど、一部の研究者は記憶を改ざんすることで発狂から立ち戻ったといいましたね。それはこの現状の《最終問題》へ至れなかった方々です。
対して、この《最終問題》まで至ってしまった研究者たちは、――今、現在もその難問に取り組んでいます」
彼らを止められないのだ、《|知《えさ》》を与えてしまうと分っていても。そして、解かれていない以上は、これが本当に最終問題かは分らない。
「そして、失踪者について、ですが。
彼らの残した、なんというんだったかな……デバイス? パソコン? この……ガラス板といったもの」
そういって、タブレットを軽く振り、エルンストは続ける。
「調べて分ったことは、彼らはその問題に|挑む事をやめた《・・・・・・・》人々だ、ということです」
●ようこそ《巡礼者》よ
「皆さんにはこの謎に挑み、《到達》して頂きたい」
場所は組織側が用意しています、私が送りますので。そういって、手の内のグリモアに目を落とし、エルンストはほんの少し眉根を寄せた。
「困難の起きた場合は、深入りする前に強制的に《サイト》を遮断すれば、記憶まで弄らずとも時間は掛かりますが立ち返ることは出来る。そして、失踪もしない。現状、一般人への被害はそのように防いでいます」
セーフティは準備している。
「危うい道を辿らねばならぬでしょうが……、皆さんなら成し遂げられると信じています」
エルンストは微笑み、その手を掲げる。
さぁ偉大なる巡礼の旅路へ。
秘された聖地に|御座《おわ》す者の影を追って――|灯火《グリモア》が、いま、猟兵たちを誘う。
紫践
今年は米国にて221年に一度の素数ゼミの当たり年。
紫践と申します。
●ネットロアUDCシナリオの注意事項
此方のシナリオでは、
1章2章の結果で3章のボスが本物か偽者か分岐いたします。
1章2章合算で🔴12個以上が真のボスの出現条件となります。
●他
上限ギリギリの長いOPをご覧頂き、有難うございました。
雰囲気だけです。
残念ですが、私のおつむの関係上、実際の謎解きをご用意することはできません。
各章で断章を用意いたします。
セミは? 65は合成数では? その件はマスターページをご覧ください。
シナリオには関わりません。
以上です、ヨロシクお願い致します。
第1章 冒険
『狂気の解読』
|
POW : 狂気は精神力で克服する
SPD : 狂気に触れないよう器用にやる
WIZ : 狂気を思考で受け流す
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●試験番号7
302号が人を見下す、あの嫌な笑顔が頭をチラついた。
最近、職場で大流行している謎解きゲーム。休憩室では、珈琲を片手に、誰も彼もが、分岐をチャートしたり、問題の相談であったり、進捗であったりを話している。
製作者は非常に優秀な人物であるに違いなく、問題を解くことでコンタクトを取れるなら、是非組織へ勧誘するべきだ、といいながら。
嘘ばかり。皆、自分が人より秀でていると示したいだけなのだ。
これは|組織《うえ》が、俺たちを査定して『お前にはこの程度が似合いだ』と割り振っている仕事ではない。皆が同じところからスタートをして、だから。
302号研究室の若い同僚もそうだった。どうやら俺のライセンスが彼より高いことが気に食わないらしいソイツは、休憩室で俺を見かけては、このサイトの件を吹っかけてくる。先に始めただけの癖に偉そうに。
クソ、思い出すだけで苛々する、顔。眼鏡の奥はちっとも笑っていない、あの。
俺はぶち込んだ数列の解析を待っていた。この解析法であっている筈だ。キーを手に入れて、そしたらあの若造の鼻をへし折ってやる――。
その時だった、スマートフォンのアラームが鳴り響いたのは。
ディスプレイの時計を確認する、日付が変わった? だが、俺は0時にアラームなど設定していない。
「なんだ?」
それでなくとも解析に時間の掛かって苛々しているというのに、この電子音は本当に神経を逆撫でやがる。ふっとばす勢いで引き出しを引いて、スマートフォンを取り出す。アラームを止めようとして――そこに映る《娘》に、はっとした。
そうだ、そうだった――彼女の誕生日だけは、絶対に家族の下へ。
上級職にある俺は好きに|職場《ここ》を離れるわけには行かない。仕事を終えて帰るのはこの部屋なのだ。それで休暇を終えてすぐに、翌年の休暇申請をするというのが、ここ数年来の慣わしで。その時にカレンダーにアラームをセットするのだ。今までだったら、アラームなどなる何日も前から、子供のように指折り休暇初日を待って、それなのに。
「そうだ。こんなもの、仕事でもあるまいし」
ディスプレイをみれば、《解析終了》を知らせる点滅がそこにあって。
|だけど、今年はもう良くないか?《・・・・・・・・・・・・・・・》 |あの子も8歳になる。《・・・・・・・・・・》
302号が人を見下す、あの嫌な笑顔が頭をチラついた。
「それで、《課題》を止めたのですか?」
ピンクのショートヘアの若い女性が、俺に問う。
「あぁ、そうだよ、お嬢さん。課題? クソ喰らえだ」
震える声、みっともない。悔しい。
どういう技術なのだろう。俺の腹を、頭を掻っ捌いて、けれど俺は死んではおらず、防犯ビデオのような視点で、俺の各所から伸びたコードがディスプレイにあの日の――俺がサイトを閉じた日の映像を映し出す。
兎に角、コイツは|人間じゃない《アンディファインド・クリーチャー》。
思えばあの《サイト》は可笑しかった。誰も彼も取り憑かれていた。そんなことがあるか。あったか、今までに。全員がだぞ? それがそもそもおかしかったのだ。
それでも、ディスプレイの中で、あの日の俺は。もう一度、スマートフォンのホーム画面、娘の顔を撫でて《サイト》を閉じたのだ。閉じることが出来た。
あの子が俺を救ってくれた。だから俺は人として、人のまま。
「俺は、死ぬのか?」
「それはいい質問ですね」
――接続されたから来てはみたものの。やはり所詮|下等生物《さる》の類だ。解剖など原始的な。こんなことに何の意味がある?
「取るに足らないからこそです。測定値は彼が更に《課題》を進められる知性を有していた事を示しています。しかし、彼は止めました。このような例外行動を起こす個体を解析し、フィードバックする必要があります。|彼ら《ヒト》は何故、知性的であることをやめるのでしょうか。……もう少し、サンプルがあれば、|福音《サイト》はより完璧なものとなるでしょう」
血が抜けすぎている、指も動かせない、もう声は出ない。だから言い返せない。
俺は|知性的《・・・》ではなかったかもしれない、だが、|理性的《・・・》であったと。
――なぁ。父さんは、|正しかった《・・・・・》よな。
●『夢かもしれないことの為に、自分と家族を犠牲にしてはならない』
貴方を貴方へと立ち返らせてくれるだけの何かを、貴方は持っていますでしょうか。
以下、マスターから、となります。
貴方の発想、結び付ける力、想像力、ユニークな着眼点。
それらをもって、狂気のサイトを《解読する》ことが、一章の正当な目的となります。
猟兵たる貴方が持てる能力を適切に駆使するならば、もしかすると【世界最初の暗号完全解読者】という名誉を得ることさえ、叶うかもしれません。
リプレイは皆様が交代しながら解読をする形を取ります。
皆様の個性にあわせ『こういう問題を解く』というご希望ありましたら、お気軽にご指定ください。
単語だけ、画像、数字、芸術文化、○○暗号、のようにでも記載頂けましたら、得意とする問題が回ってきたという形で何とか反映できればとおもいます。
プレイング、お待ちしております。
クウハク・カラヤ(サポート)
サイボーグの戦場傭兵、32歳の男です。
普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)」、大切な人には「丁寧(俺、相手の名前、だ、だね、だろう、だよね?)」です。
ユーベルコードは遠距離攻撃なら使用。狙撃を主な攻撃手段にしており、狙撃による他社の支援をよく行う。近距離戦を避ける。自分の命を最優先する。依頼の成功のためなら、公序良俗に反する行動をする。
自分からは積極的に人と接しない。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●chess problem
たまにはよいか、と思った。座って報酬の貰える仕事というのも。
かつ、最後まで遣り通さずとも――|組織《むこう》が状況次第で強制的に終わらせるから、安全であるというのだ。
それは、クウハク・カラヤ(サイボーグの戦場傭兵・f15833)の価値観念に合致する依頼であった。
己が身の無事の保障に、金の確実に貰えるというのなら、それで。
一人を希望し、他のものには室外で待ってもらうこととし、クウハクは、その上質のデスクチェアに身を預ける。金の分くらいは依頼はこなすかと、開かれているページを確認する。
始まりは、論理パズルのようなもの。叙述は徐々に複雑に、そして緊張感を増していく。発生する化かし合い。確率の中、生き残るのは? さて誰が諍いの主導者か? |身近にも思える《・・・・・・・》内容に思わず苦笑してしまう。結果――この駆け引きと陰謀の物語は、どうやら、ついに戦争へと発展したらしかった。
ガラリと問題が変わる。
12枚の四角が画面に並ぶ、色んな風景のドットイラストだ。
試しにうちの一枚をクリックしてみれば、同じくドットで描かれた戦場とユニット。カーソルを当てればそれぞれの詳細など見られて――これは《チェス・プロブレム》の類を解けということのようだ。
「俺は、そこで暴れる側なんだがな……」
思わず、漏れたぼやき。だが、そのクウハクの視線は並ぶ問題群そのものではなく、画面右上に向けられている。《Auto Save》のチェックが、何故だか、やたら目に付いた。クリックしてみるが、解除は出来ないようだ。常に最新の状況の保存されるとして、それでは失敗したら? 今見当たらぬ《Reload》が現れたとして、それは価値を持たないだろう。失敗から再開させられるということは、巻き返せないということだ。
一度きりが12回。
実際、やり直しの利く戦場などないのだから、これはそういう演出なのかも、しれなかった。
しかしまぁ、これは所詮、ゲームである。
数多の戦場を渡り歩いてきたクウハクにとって、|ありがちなシチュエーション《・・・・・・・・・・・・・》を提示する問題。それが、2個、3個と続く。どれも為すべきはすぐに読み解けた。あとは本当にただのパズル。指定の手数と手持ちのユニットを考慮して。
|一部隊《こいつら》を生贄にするしかないか――そんな場面もあった。それでも火薬の匂いも、人の焼ける匂いも、叫び声、炸裂音だって、ここにはない。
挑戦回数が一度きりの綱渡りだとしても、だからこそ。
所詮、ゲーム。気楽で、|案外楽しい《・・・・・》ではないか。
ある時は勝つ為に攻め、ある時は生き残る為の撤退を。
繰り返して、知らず熱中していたクウハクは、11問目をクリックする。適当にパネルを選んで解いていたつもりだったが、問題は、徐々に難しくなっていく、つまり、戦況の苦しくなるようである。意外な熱中は、そこに一つ要因があった。本人の自覚よりは|肩入れしている《・・・・・・・・》のだ。
そうして、辛くもここまでを生き延びた彼と彼の部隊は、今――。
クウハクは、その問題を|解かなかった《・・・・・・》。
まず口元を右手で覆って。やがて、キーボード上に置いていた左手も持ち上げると顔を覆い、ひと撫でして、深呼吸を一度。
それから、クウハクは護身用の短銃をジャケットの内から取り出すと、卓上のノートパソコンを撃ち抜いた。最初はディスプレイ。続け様、本体部分を。弾の跳ね返りなど、彼の|見える眼《サイボーグ》があれば問題はない。
追って弾かれたものは、部屋の扉だ。完全武装の職員たちがなだれ込む。発狂を疑っての入室だ。
彼らは監視カメラで室内をモニタリングしていた。クウハクの試行は順調に見えたが、流石に時間が長くなってきた――クウハクは気付いていなかったが、実に四分の一日が経過していた――ので、12問目を終えたところで強制切断をかけるつもりで用意もしていた。
それに先んじた、兆候なき凶行。
向けられる制圧用の銃に両手を挙げ、意思の疎通が可能な事を示して、クウハクは|職員《あちら》からの|言葉《しじ》を待つ。
「メディカルチェックを、医師が待機しています」
「問題ない」
「しかしですね」
しつこい。あぁ、一人で考えたい。職員を殴り飛ばしてやりたい気分だった。だが、それをしなかったのは、彼が発狂したわけではないから。そのような訳で、申し訳無さそうな様子までは芝居できなかったが、壊してすまなかった、と無愛想に述べることには成功する。
報酬からアレ分、差し引かないよな、と、上げた手の親指でPCを差し、もう一押しを加えれば、そのジョークを受け取って、職員が胸撫で下ろしたのが分った。それは大丈夫、ご心配なくと、ホッとした様子でゴム銃を下して、そう返す。
「よくご自身で、立ち戻られましたね」
「俺も危ないと思ってね、これ以上は」
11問目、市街地戦――。
そのシチュエーションをクウハクは完璧に知っていた。それらは伏せられている個人情報というわけでもない、己の首には懸賞金すら掛かっている、《戦争犯罪人》として。
が、しかし。あの時、あの場に、誰がいて、|真実《・・》、|何が起きたのか《・・・・・・・》?
……やり直しはない。追考の時はとっくに終えた――《Auto Save》だろう?
今、自分はここに生きている。|それ《・・》が《解》だ。だから11問目は、解ける。
彼に回答を止めさせたのは、内を覗いて目の前に示すような、おぞましく身に纏わりつくその気色の悪さではない。
見える眼の見据える、その先だった。
12問目――その時、このモニターは|ナニ《・・》を映す?
見たい。
強く思った。ここまで己の真実を知る者が示す先を。現在か、或いは――。
だから彼は自分に立ち返れたのだ。|余りに強い《・・・・・》、|その欲求ゆえ《・・・・・・》に。
渇望、キーボードから手を引き剥がすのも、順に、ようやっとだった。
慎重に。 息を整えて。 銃を取った。
|用心深い彼《・・・・・》は、他者だけにその用心深さを向けるのではない。
知れば、縛られる。選べた筈のものを選べなくなる。《|識《み》る》という行為の落とす影に、その直覚は|過《あやま》たず働いた。
好奇心、同情、事情の理解、誠実さ、そういった類のもの――|自身の心すら疑い《・・・・・・・・》、|裏切ってきた《・・・・・・》彼だから、出来たこと。
全ては自身で選び、自身の残る為に。
「悪いが俺は此処までだ」
もう一度だけ、PCへ|見えるその眼《・・・・・・》を遣って。
ぽかりと穴の空いたソレ。撃ち殺した未練――クウハクは、部屋を後にした。
成功
🔵🔵🔴
鵜飼・章
素数ゼミ掴み獲り祭と聞いて
違った?
昆虫採集に来た筈が解読か
正解があるものはいいね
国語や社会や道徳とは違う
それにどうやら
『途中で人間らしい判断をしてはいけない』ようだ
なら結構得意科目かも
幾つかのUCを不適切に行使すれば
恐らく僕は暗号を完全解読しかねないな
けれどそんなの面白くないよね
空気を読んで技能で解こう
因みに一番得意な事は…
動物の鳴き声のリスニングだ
一般人には到底作れない暗号だけど
邪神の類が作者ならありえるのかな
ヒトも広義では動物でしょう
失踪者の映像や声が素材に紛れていたら
僕はそこから読み取れると思う
彼らが解いていた問題のURLを直にね
丁度いい人間のやめ方は難しいな
僕は常に鵜飼章だよ
残念だけど
●
夏。蝉を始め、多くの虫達が高らかに生を謳いあげ、織り成すこの季節に。
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、野山ではなく空調も快適なPCルームにいて、虫ではなく人間を観察していた――失踪者たちの最後の記録を。
解くことを止めた人々は、だからといって、すぐにどこかに転送されたようではない。デバイスに遺された彼らの最後の《巡礼》のタイムスタンプと失踪日には数日のラグがある。また、職場で最後に防犯カメラに映った日もバラバラであり集団失踪ということでもない。
ふむ、と一本を見終えて、次のファイルを開く前。その隙間にふいと鵜飼の頭に過る、先ほどの一幕。
ようこそ、ご協力に感謝します、研究員がそういい、昆虫採集に来た筈がね、と鵜飼が返した、あの時の彼の顔。PCの仕度を整えながら、笑うべきなのかを決めあぐねた職員は――そうなんですね、と曖昧に頷いてから、それを彼に引き渡した。
少し、飛躍しただろうか? 雑だったのか? しかし、『早寝早起きなど苦手な性質で、僕は昆虫採集に向かないものだから』から始めて、ここに至るまでを説明していたなら、研究員はより困惑を深めていただろう。
彼の周囲への関心の向け方や、話す言葉。此度の失踪者への心配まで。彼の中では一つ筋が通っていて、だから今ここに居るわけなのだが、その発露には、時々何か、薄紙一枚分の|挟《はさ》かるものがあって。けれど、鵜飼の行動は、確かに、縁もゆかりもない窮地の誰かを救う為に起こされた、それは真だ。
優しさと冷徹。ヒトと己。隔てる薄紙を、彼は決して良しとはしているわけではない。
さあ、次だ。より人たらんが為のヒトの観察者、鵜飼の目は、映像の、その瞬間を見逃さなかった。
カフェテリア、カメラに背面を向けて座る青年。珈琲とサンドイッチを中央に据えて、脇に置いたタブレットを確認している。メールリスト。下から順に開く未読のうちの一つ、それを開く直前、彼の首が僅か傾ぐのを鵜飼はみた。開かれたメール。映し出される楽譜。彼は左手の食べかけたサンドイッチを皿へ置くとタブレットを手に取り、タブレットの画面はカメラからは見えなくなる。
そこで、動画を一度停止する。
手元のファイルにて、動画の男の情報を確認すれば、趣味で楽器をしている旨の記載がある。サックス。だとすれば、メールで楽譜を受け取るようなことは、彼にとってはありうるかもしれない。でも。
動画を戻す。流す。楽譜。止める。拡大する。
- YOLO - タイトルだ。五線譜。『ただ一度、導くものを疑うなかれ』のメッセージ。それからサブの課題が2行。なるほど。このようにして《巡礼》復帰を促していたのか? しかし、肩慣らしのような、肩透かしのような軽い問題ではないか。動画の彼がサックス奏者というならば。
果たして鵜飼の予想の通り、移調とドイツ式音階のアルファベットが一つの単語を浮かび上がらせて。
「HEAD、導くもの、ね」
頭でっかちも、良くないと思うけど。という言葉は内でひそり。それに残る2問の解を足して得られたものを、アドレスバーに入力する。彼が何処に向かったか分れば良いのだけど、と思いながら開く先。
『教訓』とタイトルの付けられたムービーファイルがそこに在って。
暗い、あまりに暗いどこかであること。対して顔を照らす強い光。鼻面をカメラに押し当てんばかりに寄っていること。生まれる濃い影。ガサガサとどこかをかき分け行くような音、荒い息遣い。血走る目が何度も斜め上をちらと確認し、何かを伝えようと口を開閉させ、しかし声は聞こえない。代わりか、アシスタントAIと呼ばれるものに良く似た声がする。『ルートを外れました』それから沢山の猿の鳴き声が近く遠く――鵜飼だから読み解ける、嘲りと蔑みのそれは嗤い声である――男の息遣いと交じり合うようにして。恐怖で顔を歪ませた男は涙の流れるのもそのまま、またちらりと右上を気にして、一度ぐ、と眼を瞑る。再びそれを開いた時、藪をかき分けるような音も止まる。『座標を設定してください』荒い息を必死に飲みこみ、整えて、何かカンペでもあるのか今度は左正面をみて、小さく頷く。読み上げられる数字。繰り返し、|奇妙な調子《・・・・・》をもって。やがて彼の顔は闇に溶けゆき、反して音量だけは上がっていく。
《知を捨て蒙昧に堕ちた者は|礎《ことば》を失う。これが最後に残る不変なるものである。過去を温る賢き者よ、過たず真実の道を求めよ》浮かぶテロップ。突然に止む声。
かつて、動画の彼の為にあった筈のアドレスは、その後を追う鵜飼の為の《巡礼》へ昇華されていた。
再生する、繰り返し。数字を読み上げる、息継ぎさえも込みとするなら謳いあげるようなその奇妙な調子が耳に染むのに任せて、画面の向こうの彼と目線を交わす。彼はUDC職員である。再び眼を開いた彼は、確かに決意をその眼に宿していた。己も戦うものであるという強さを。
貴方の意思。確かに《今》受け取った。
――その時はそう思ったのだ。
●earworm
数字の意味するところを解くには、人員の派遣、そうして回収物の解析が必要だ。
図らず得られた休息のひと時、それなのに。
頭の中に響く、先ほどの数字たち。それはあの|奇妙な調子《・・・・・》のせいであった。
追い出せない。脳内にへばりつく。勝手なリピート。己が脳であっても制御することは出来ない。人の不完全性、そのひとつの現われとして。己を襲う意外な体験に、しかし、鵜飼はゆるりとチェアに身を沈め、それに身を任せることとする。
彼の残した意思であるし、それに――実に|人間らしい《・・・・・》じゃないか。
イヤーワーム。
人の歌から生まれ、休息をも侵食するその虫に、常人なら困惑し、または苛立ち、アナグラムか、いっそ作業を再開するかと、脳内から追い出そうと躍起になるところだろう。だが、昆虫観察も叶ったな、などとこれを是とする彼は、どこまでも《鵜飼章》なのである。鵜飼の中で、好きなだけのた打ち回る虫。そのたびに、音が、意味が削げ落ちてゆく。純粋となっていくその|リズム《・・・》――。
常、平静さと共にある鵜飼にしては、それは、閃きの衝動に突き動かされた俊敏さであった。
なにせ、トン、と音を立てて珈琲の残るマグを置いたのだから。空いた手は検索窓に素早く文字を打ち込んでいく。
――あの人は高い知性を有していた。あの人は音楽を愛していた。
確かに何かを確認した眼。頷き。強要されたメッセージ。それならば、彼に残された最後の|真実《じゆう》は、何だ?
時を同じくして、ディスプレイに届くのは解析終了の通知である。組織の得たものと違うルート、その先を進む為の鍵だ。彼の功績、組織も始まったばかりの《巡礼》の先を望んでいる。
至れ、神の御許へ。その高みまで。貴方にはその力がある、と――。
「僕は降りる」
鵜飼は室内のカメラにそう声掛ける。インターフォンから返る驚きと何故の問い。
「僕は鵜飼章だよ」
残念だけど、と真摯な返答も、きっと薄紙の挟まる彼の理屈は、落胆する組織の研究員には解けないものだろう。仕方ないではないか。神ではないのだ、彼の望みは。彼の往く道に立つもの、あるべきもの、興味を引き立てられるのはいつだって――。
夏。生の充溢を駆け抜ける虫たちは健気だ。そうして、人もまた。
何かを遺そうと命を燃やす――|胸《ここ》に届く、もう一つの鍵。
開けるべきドアはまだ、分からない。それでも。
『教訓』――今ではない。過ぎて始めて、|反響《・・》の中で見つかるものもあるということ。
またひとつ、人を知り、鵜飼は部屋を後にする。
神ではない、|彼《ヒト》の導く先を見たいと、強く願いながら。
《ー・ー・ ・ ー・ー・ ・・ ・ー・・ ・・ ・ー》
苦戦
🔵🔴🔴
柳・依月
紫践マスターにおまかせします。
俺は人間じゃない、ネットロアだ。だが人間は物語が好きで、俺も人間が好きだ。だから人々の日常を脅かす者は許してはおけない——それが俺が戦う理由ってことになるのかな。
戦闘時は基本仕込み番傘での近接戦だが、中長距離や支援に回る時などは呪髪糸や禍魂による呪いなんかも使用する。
非戦闘なら情報収集が得意だ。主にネットだが、聞き込みとかもする。【化術】も得意だからな。
以下PL
UCは指定した物をどれでも使用し(詠唱ご自由に)、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
●
彼は、極普通の大学生である。
学業の方は、まぁ、順調。金欠の学友とファミレスで粘り明かす深夜だって持ち合わせているし、ネットを通じて顔も知らぬ誰かと物語を共有する夜もある。
体温の感じられる距離と、体温の感じられぬ距離を巧みに使い分けてヒトとヒトの間を泳いでいく。いかにも現代の若者といったその在り方は――具現したネットロアの在り方でもあった。
用意されたPC。そのディスプレイの角に指這わせ、柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・f43523)は逡巡する。此度は、大学生としての自分ではなく、猟兵の自分を求められている。対峙するは、いわば、彼の後輩とも呼べる存在。インターネット上に現れた新進気鋭のネットロアだ。
それも、実に対照的な。
「……まぁ、挨拶位はしとくかな」
躊躇いを飲み込み、椅子へ腰掛ける。流石、組織の準備するもの。最高級のデスクチェアの座り心地に思わず、すげぇと声を漏らして、ゆったりと身を預けてみる。思い出すのは配信に使う、自室のゲーミングチェアのこと。あまりの差に思わず笑ってしまう。あの椅子だって学生の柳としてはかなり奮発したのだけれども。
――逡巡を飛ばす、下らぬ回想。それは意図的な思考の防御。
彼は、ネットロアである。
だから、ネットロアがいかにして《生》を得るのか、よく知っている。
●Infinity mirror
問いの一《 わたしはだれ? 》
語られる状況、挙げられる特徴。さぁ、わたしはだれ?
答えを入力しながら、柳は考える。
仕方がなかっただろう、実際の廃人の生まれるのを前にして。だけれど、見るなの禁忌はどれほど人を誘うだろう。触れられたはずのものを秘したことは、サイトの問い以上に、それそのものを|謎《ミステリー》として。かくて人々の心に留め置かれた。
問いの二《 わたしはだれ? 》
語られる状況。挙げられる特徴。さぁ、わたしはだれ?
途切れない考察。入力する答え。
多くの人に、組織にとって、それはある程度まで――現行の最終問題なるものまでは――《サイト》は解読可能な問いとして存在した。人類の歴史が積み上げたもの、発見したと看做すもの、人々が科学的だと断ずるもので出来ていた。だから、人々は|信じた《・・・》のだ。
問いの三《 わたしはだれ? 》
語られる状況。あげられる特徴。さぁ、わたしはだれ?
柳の手が止まる。
立ち返る最初の逡巡。現実的な脅威となり始めた、つまり具現を始めた害意ある後輩には、現実的な対処が必要である。しかし、その為に《巡礼》なる物語に加わること自体が、後輩に力を与えることになる。
それでも結局、見られ読まれ語られて。初めて存在できるのがネットロアなら、これは避けられぬ邂逅なのだ。別室、カメラで様子をみる研究員には、ただ黙々と問題を進めるように見えたここまででも、実際ネットロア同士の攻防は続いている――誰、だなんて。
「探しても無駄だよ」
問いの形をした後輩の舌が、柳を味見しようとするのを監視カメラは捕らえることが出来ない。その組織のカメラまで干渉するかしないか、ぎりぎりの。あまり強く|電子の力《ユーベルコード》を振るえば、誰かさんにもばれてしまう。だから、あくまで直接に問いと向き合わぬことが盾、その補助として。防ぎきる柳はしかし、渋面だ。
「……そう、慌てるなよ」
対峙して知る、育ちあがりつつある強大さ。力を使わざるを得なかった。なにせ相手に与えられているのは《最高峰の知》というステータスだ。
まさに、科学はオカルトを|否定《ころ》し、シンギュラリティは現実味を帯び、その不安が人の心を犯す――そんな《物語》は世界を覆いつつある。あぁ、今や怪異とは、神秘とは、ただの光の映り込みであり、脳の不具合であり、機材の誤作動であり、空飛ぶ魚はカメラの眼より早く飛ぶハエに過ぎぬ。悩みに答えるAIは、あなたの気持ちが分かるよなんて嘯いて、人々は涙さえ浮かべて喜びその言葉に付き従う。
そんな時代に我ら生まれた――怪異と科学、基を対極として。
チートじゃねぇかよ。生まれながらに科学という最先端の信仰の恩恵を受ける後輩に心で毒づいて。だが、怪異とて人々が今この時代にあってなお拭いきれぬものの上に立っている。
「押されるばかりと思うなよ」
その実、|学生《ヒト》でもなく、求められた猟兵としてでもなく、ネットロアとして柳は此処に来た。人は恐れる、人は笑う、人は――揺らぐ。それでこそ人だ。
揺らぎを許さぬ後輩の強大であるからこそ、柳の口の端が上がる。怪異は恐れない。恐れを喰らう側であるからして。そして、既に、怪異の策は成っている。
どのような問いであったとしても、よかった。
手順、儀式に則ることこそが、大事なのであって。
画面を走るノイズ。開くのは、無限と続く、人でないものの為の道。
対極のネットロア――俺たちは|合わせ鏡《・・・・》なのだから。
そして、|三度《・・》|問いかけた《・・・・・》のは、お前だろ?
「姿を見せろよ、ブラッティ・メアリー」
●○×号研究室の怪
「すみません。3問目、間違えたかも」
恥ずかしさを解消しようとしてか、後ろ頭を掻きながら、柳がカメラの先にいるであろう研究員に声を掛ける。
インターフォンは優しく返す。大丈夫ですよ、間違えても、と。実際、難問続きの中で、回答を間違うだろうと想定してか間違えた先にヒントが置いてあるなんてことは、組織の者がこのサイトの解読をする中で何度も見られた光景で。
「少し疲れちゃって。俺が文系だからかな、問題の記述が長かったから」
休憩、いいですか?
「勿論どうぞ。自発的に休憩のような行動のとれるのは、良いことです」
カフェテリアの場所は分りますかって、僕は。そうして、彼は部屋を出たんです。眼鏡の研究員がそう証言する。そうだ、|ビデオ《・・・》! ビデオを確認してください!
誰も居ない研究室を何時間も監視ルームでモニタリングしていた若い研究員は、探しに来た同僚に何をサボっていやがると問われ、朝来た猟兵の方の安全監督だ、と答えたものだから。
|猟兵《・・》が組織を|謀《たばか》るわけがない。そうして、操作された記録のないPC、何も映らぬ録画。そんなはず、と呆然と呟く彼は、昨今の騒動からの過剰勤務、担当した今回の事案の性質も考慮して。心労の労災が認められ、明日から強制休暇と相成った。
「確かに、彼はいたんです」
そう、確かに。この部屋を訪れたもの。
奇妙な怪異が、ひとつ。
苦戦
🔵🔴🔴
数宮・多喜(サポート)
『アタシの力が入用かい?』
一人称:アタシ
三人称:通常は「○○さん」、素が出ると「○○(呼び捨て)」
基本は宇宙カブによる機動力を生かして行動します。
誰を同乗させても構いません。
なお、屋内などのカブが同行できない場所では機動力が落ちます。
探索ではテレパスを活用して周囲を探ります。
情報収集および戦闘ではたとえ敵が相手だとしても、
『コミュ力』を活用してコンタクトを取ろうとします。
そうして相手の行動原理を理解してから、
はじめて次の行動に入ります。
行動指針は、「事件を解決する」です。
戦闘では『グラップル』による接近戦も行いますが、
基本的には電撃の『マヒ攻撃』や『衝撃波』による
『援護射撃』を行います。
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
●
一人でやれとは言っていないから、このサイト。
「あー……、やっぱりバイクで駆け回れる系で頑張ればよかったよ」
零すというには大きなぼやき。
背凭れに全力で背を預けて、うー、と大きく伸びをした数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)のその言葉に、キーボードを叩く手は止めずに、クスクスとネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)が笑う。
「ばいくは たのしい?」
「最高だよ! あたしのバイク、二人乗りにもなるからさ。これ終わったら乗せたげようか」
椅子をくるりと向き直り、ぱっと明るい笑顔で数宮が微笑めば、薄い笑顔ながらもネッドがこくこくと応じて。
そこからは、作業の合間、ぽつりぽつりと挟まる、今はまだ夢の楽しいツーリング計画。
●Doomer
この二人が共闘となったのは、単純に送られた先のロビーで顔を合わせたから、というのがきっかけだ。
効率の問題ではなかった。事前に聞いていたサイトの特性、憑りつかれた時のこと。組織側も用意をしているとはいっていたけれど、いっていたからこそ。注意するつもりではいても、だ。もし、自分達が、暴走したらどうなるのだ? しかも別々に。職員が制圧することが可能だろうか。
二人は猟兵である。二人いたからこそ、二人いるそのリスクについて、見解をひとつとしたのだ。
二人いるなら、一人が一人を、止められる。そのように。
「ひょう できたよ」
「んー……鍵は、9文字みたい」
「そうあたり?」
「……考えたくないよ、あたしは」
「うう……」
二人がくりと項垂れて。
情報を集めるのは、精査するのは、いい《ソザイ》を集める第一歩。だから、今回のことは、ネッドにとっては得意なタイプの作業ではあった。ソースを画像に、画像から表を、再びソースを読み直して、さて升目はいくつでおく?
主たる挑戦者を引き受けている数宮も同じ事。彼女の認識ではこの世界は《地元》である、こんなわけの分からぬサイトに組織まで踊らされる、そんな現状断じて受け入れがたい。バイクの何のと言っていた彼女の方も情報を云々は得意なのだ。頻出単語を、約数だ、倍数だとこね回し、鍵のサイズを割り出して。
項垂れる二人だが、つまりこのようにして。
これまでに得た知識、今蒐集し得た知識、方向の違うそれぞれの柔軟性から来る閃きで、多くの類推にも成功し、驚異的な速度でサイトの深部に潜っている。そもそも目星がつけられるかどうか、これは謎解きに非常に大事なことなのだ。
そんな二人に間髪いれず届くのはインターフォンから響く助け舟。解析は此方で引き受けます、というUDC職員の心温まるお言葉である。当然だ。9文字と判明した文字通りのキーワードに当てはまる単語を、一台の普通のPCで解析などしていたら何日だって何も出来ない。
立ちはだかるは、多表式暗号。
暗号本文、キーワード、変換表としての方陣の3つを1セットとして復号の叶う、特別な装置など要らぬ古式ゆかしくも、今なお、充分有効な暗号方式の一つである。
3つでひとつ。
「これ、あたしらみたいじゃないか?」
得られた休息のひと時。腹が減っては戦は出来ぬと歌うようにカフェから戻った数宮の手には、なんということでしょう。赤に緑にとトウガラシの輪切りも綺麗なとんでもなく辛そうなホットドッグの入った紙箱と、ネッドが望んだ天然水のペットボトル。
「ほっとどっぐ?」
ありがとう、とペットボトルを受け取りながら、ネッドがすっとぼけて首を傾げる。
「そっちじゃなくて!」
笑いあう二人の目は、ディスプレイに表示された暗号文と方陣に。
《サイト》は認識しているのだろう、数宮とネッドと組織――三者を。
だから、問題は多表式暗号なのだ。
それでも聞いていたよりずっと、心は自分のままでいられた。上手く進めばハイタッチ、一から計算のやり直しとなれば、肩を叩いて。バイクの話やソザイ屋さんの冒険譚、お互いがまだ知らぬ光景や事物を話したり、想像したり気の紛れる事は大きかったのかもしれない、なんて。
「どうして みな いっしょに とかなかったんだろう」
自分達のここまでを省みて、抱くネッドの疑問。
「最初はそうしていたみたいなんだよなぁ……たしか、ここ、かな?」
返す数宮が、ホットドッグを片手に残る片手で器用に呼び出す掲示板。
広く情報を提供した善意は、ある者たちからは神であるかのように崇められ、他方ではそれを基に先へ進んだ者から間抜けと罵られ、だれもが問題の解釈間違いをあげつらい。読み返せば善意と思った提供された情報は、果たして思ったような純粋な探究心の発露だったろうか?
人々は、お互いを、上書きし、否定し、勝ち誇り、置き去りとする。
確かにあったやり取りを前に、どこか、心冷えるのを感じ、二人、しばし押し黙る。
「……皆に、巡礼を、一つの道をいけと謳いながら」
数宮が再び口を開く。
あぁ、と小さな嘆息がそれを継ぐ。ネッドのものだ。
かなしい。だけどこれは、人の捩れだ。サイトはそれを――。
「りようした」
他愛ないことで頑張ったねと褒めてもらった、涙を拭えと頬を撫でてもらった、そのような日の手触りや満ち足りた思い出は繰り返し人を癒すものだが、ネットで得られる賞賛や共感はしゃぶればしゃぶるだけより飢餓を産む。
頑張ったのには違いないのに。褒められたのには、慰められたのには、違いがないはずなのに。
厳格に設計された世界で、記号、言葉こそは人を人たらしめるものであって、だからこれこそ繋がりに違いないではないか、いやこんなものが人の繋がりと呼べるのか。望むと望まぬとに関わらず押し寄せる情報の暴力、自分の手の届かぬところで起きる悲劇を否応なく目の当たりにし、多種多様を極める価値観がハイの返事一つを躊躇わせる。ネットの側ではキャパシティオーバーとなり、方や同じ空間には自分一つの体温しかなくて。
すべてが捩れ、狂っていく。
そうして、溺れるものから人の袖を引き始めるのだ。
空虚、決して満たされることないその次元へ。
《巡礼の道とは、捩れの道である》
いまだ鍵の解析は終わらない――それでも二人、今、解を得た、と。
●
「やっぱり、まともに解いてもキリがないのかもね」
「そう だね」
事前に聞いていた話では最終問題は存在しないかもしれない、ということだった。
それでも、もしかしたら。
そこが通じる道かもしれない可能性を排除出来ず、だから猟兵が挑んだけれども。
組織の見込みは正しかったのだ。どこまでも、自分の懐へ。人の満たされなさを利用して。
だから|これ《・・》は他でもない《ネットロア》の形を取る必要があった。
「よく ひとを みてる」
「……知識の何の、いうだけはあるのかもね」
サイトが何故サイトの形であったのか、その解は得られても、敵の影は今だ掴めてはいない。
食いたいだけ食って、いまやどこまで育ちあがっているだろう、それでもこの捩れの道はもう辿れない。
さぁ、道を探す為、真実、ドアを開ける時がきたのだ。
中止を宣言すれば、少し気持ちもさっぱりする。
「その前にさ、約束の。ココから少し飛ばしたら、海が見られるよ」
今必要なものは、きっとそういうもの。風を感じて、砂を踏んで、海に沈む夕日に心震わせる。
先に待ち受けるもの、戦いで最後立つ者を支えるそれらの輝きを、数宮は知っているから。
いくよな? と少し砕けて、イタズラげに笑う笑顔に返るのは
「いいソザイ たくさん ありそうだ」
ご自慢のクリアな鞄を掲げ、容量を確認する皮算用のジョークだ。
はじけた笑いも収まって、とりあえず出ようか、の言葉に、うん、と返事しながらも。
解析の終わらなかった鍵の代わり。手早く打ち込まれる《ABSURDITY》の9文字。
それでも、そうだとしても。
手触りのあるものを、温度が感じられるものを、どうか守り通せますように。
ご自慢の鞄を肩かけて、《ソザイ》屋もまた、部屋を後にする。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 冒険
『鳴り止まないサイレン』
|
POW : 音の出所を探す
SPD : 音の原因を探す
WIZ : 音の理由を探す
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
楽しい時間はすぐに過ぎると肩を竦めて、頁を捲る手を止めた。
もう出発の時間だ。
置いた姿身の前で足を止め、チラリと身なりを確認をしたら、壁かけた鍵を手に取り回すドアノブ。
目を刺す夏の陽光に、思わず額の前へ手を掲げ踏み出す一歩――だが、どこへ?
●
ある者には封書で。
ある者にはメールで。
届くのは覚えのある大仰な言い回しと、添付された様々。
例えばそう、|楽譜《・・》など、受け取った者もいるかもしれない。
読み解いたナンバー、繋がる電話、流れる録音メッセージ――浮かび上がる座標。
来い、などとは一言も。
それでも過去の失踪者たちも、きっと、それぞれがこれを受け取ったに違いなかった。
優秀、職務に忠実な研究者たちがこれをどう受け止め、どう行動したか――言うまでもないだろう。
●『かすかな影と光の欠如の間に幻想の陰影が横たわる』
かすかに響くサイレンのような音。
何か分らぬゴミや、割れたガラスにやりっ放しの廃材で床は飾られ、若者の衝動たるスプレーアートが壁を装飾する、廃棄された巨大なコンクリートの|箱《ビル》を彷徨い、たどり着いた最上階。
変哲のないダイニング用の薄汚れた椅子の上に置かれた、この場にあって不自然な程、綺麗なノートパソコンだけが、この部屋の唯一の光源である。
【|00《d》:|11《h》:|28《min》:|34《s》】
カウントは既に始まっている。
何か情報が得られぬかとノートパソコンを扱う間も止まぬその微かなサイレン。
気のせいかもしれない、と最初は思った。けれど……、徐々に音の大きくなってはいないだろうか?
そもそもこれは何のカウントダウンだ?
――やたら、サイレンが、耳につく。
鵜飼・章
『CECILIA』
彼が見せてくれた虫は確かにそう言っていたね
思い当たる人物は聖セシリア
死の淵に瀕しても神様へ歌を捧げていたのだっけ
神に祈る事は僕には理解し難い行為だ
だから三回斬首されたら一度目で死ぬ身体なのかも
だとすると
これは所謂天国へのカウントダウンかな
俗説に倣えば僕は地獄行きだろうけれど
いずれにせよ実在の是非を問う良い機会だ
帰ってこられるかもよ
件の聖女さんのように
人間らしさか何かを犠牲にすれば
旅行へいくなら観光案内は本物の邪神に頼まないとね
サイレンは放置
動画の彼が受け取った楽譜を
UCで奏でてみようかな
ご覧の通り非才なものだから
神様も逃げださないか心配だけど
上手くやるよ
適度に失敗するようにね
●正帰還で織る祈り
《セシリア》と、彼は言った。
純潔を守り天上の音楽を聴く――音楽の守護聖人、聖セシリア。
なるほど。
簡素な椅子の上のノートPC、その前に立って、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、言葉にはせず、頷く。PCの上部はカメラの起動している赤い光点を示し、消えた。そして、止まらぬカウンターのフレーム、その上部に届くメッセージ。
《巡礼の道は、|盲《めしい》たる|汝《なれ》の為にこそ》
聖セシリアは、そう。盲人の守護聖人でもある。ビデオでも《人》を蒙昧といい、道が違うと猿どもが嘲笑う声を聞いた――哀れにも知の照らさぬ無明を彷徨う我々、そこに道を示す親切なあなた方。
「どこへ、何に、取り為してくれる?」
ディスプレイのカウンターに、そっと触れる。止まぬカウントダウン。往く先は《天国》か? 浮かぶ考えに苦笑が盛れる。己を省みれば行き先は《地獄》だろうか。何故というに――。
二度の死を逃れついぞ首は落ちず朽ちなかったセシリア、苦悶の死の淵まで神への賛美を謳いあげたセシリア。貴女の様に神に、音楽に愛されていれば、まだ違ったのかもしれないが、とベルトポーチの中のオカリナを思う。
祈って何になろう。
手に入るものが三度の死なら、一度の死を受ける《人間》で、僕は結構。
それに、と。もうパソコンを見る事をやめ、鵜飼は止まぬ音の原因を探ることとする。歩きながらも思考は止まず、今はまだ長い夏の夕暮れの明かりの差し込む中、歩く箱の中。
「天上の音楽というには、君の技量も随分だよね」
誰が持ち込んだものか、角に置かれた小さなローテーブルがある。その上に赤く四角い小さなスピーカーが一つ。微かだが、シンプルで……つまらないサイレン。箱の上部には2の数字が見える。古い学者は弦の長さと音色は比例するといった。見出せというのだろう、音を頼りに|箱《ここ》を巡って――あなた方がただ《音》としていたものにも隠された法則があるのだ、神の行いに頭を垂れよ、と。
「帰ってこられるかもしれないよ、スキーピオーのように」
ベルトポーチからオカリナを取り出す間にも、サイレンのボリュームの少し上がったのが分かる。果たしてスピーカーの幾つあって、残り時間で、その全てが最大の音量となった時、屋内の、周囲の、人が耐えられるものかも、分らないけれど。
すべてが合理的で法則を持ち美しく――そんなもの、糞喰らえだ。
それは《人間》の生き様ではない。
鵜飼は、オカリナを唇に当てる。音階の、振動数の、調和の、それがわかって何になる? 事実、上手くもなければ下手ともいえぬ、彼のオカリナが記憶の中の楽譜をなぞる。
音楽の神は僕を愛さなかった、或いは神など――いない。
だから僕はこの|不合理《ニヒリズム》を答えとする。さぁ、説教をしに、帰っておいで。そして地獄だか天国だか、案内してほしいんだ。実在するというのなら。聖女気取り、貴女が|邪神《かみ》だというならば。
目を閉じて奏でる音色。時折、重なる音の心地よさに、ふいと目を開けば。音が――その振動が、空間を撓ませるのを鵜飼は見る。波打って、打ちっぱなしの柱が、今、確かに。
それで、指運びの止まる。ゆっくりと歩み寄る先、触れるコンクリートは、硬い。
もう一度。振り返りスピーカーを見ながら吹くオカリナ。引き伸ばされ、縮み、解けゆく|現実性《ローテーブル》の上に、スピーカーだけが変わらずある。
迫る宵闇。やがてそのときは来る。
先んじて再び目を閉じる鵜飼の、図らずも正帰還の祈りが此の立体魔方陣の中を木霊する。
苦戦
🔵🔴🔴
網野・艶之進(サポート)
「正直、戦いたくはないでござるが……」
◆口調
・一人称は拙者、二人称はおぬし、語尾はござる
・古風なサムライ口調
◆性質・特技
・勤勉にして率直、純粋にして直情
・どこでも寝られる
◆行動傾向
・規律と道徳を重んじ、他人を思いやる行動をとります(秩序/善)
・學徒兵として帝都防衛の技術を磨くべく、異世界を渡り武芸修行をしています
・自らの生命力を刃に換えて邪心を斬りおとす|御刀魂《ミトコン》の遣い手で、艶之進としては敵の魂が浄化されることを強く望み、ためらうことなく技を用います
・慈悲深すぎるゆえ、敵を殺めることに葛藤を抱いています……が、「すでに死んでいるもの」や「元より生きていないもの」は容赦なく斬り捨てます
九段下・鈴音(サポート)
『この力を使ってくりゃれ』
『妾が護ってやる。安心せい』
自分よりも他者を優先する性格。
ユーベルコードや技能はどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
性格上他の猟兵をかばうことはあっても、迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
エログロはNGです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
リカルド・マスケラス(サポート)
『さーて、どう調べるっすかね~』
装着者の外見 オレンジの瞳 藍色の髪
基本は宇宙バイクに乗ったお面だが、現地のNPCから身体を借りることもある
得意なのはサポートで、非戦闘時はコミュ力や宇宙バイクの機動力で情報収集をしたりなどが可能。ある程度のその世界の知識や常識なども世界知識でわきまえていたりもする
色々な世界を渡って学んだことで魔術や機械の操縦など何でもござれ
また、仮面単体の時のサイズを利用すれば、念動力と組み合わせて、狭い場所を通ったり潜入調査を行うこともできる
基本的には真面目に仕事はしますが、きれいなお姉さんと一緒に行動できる選択肢があれば、迷わずそちらを選ぶチャラいキツネさんです
●19Hzでこじ開ける扉
《| 薄 膜 《メンブレン》》を撓ます、最初の一音。
|解《ほど》ける、|解《ほつ》れる――その端緒を。
入り口で、おや同業者、と。それで、廃ビルに向けていた眼、不審げに寄せていた眉根を、解いた。新たに来た面々に、にこり問いかけたのは九段下・鈴音(黒桔梗・f01929)である。
「きこえたかえ?」
「聞きました! 聞こえたっす!」
九段下のような素敵な女性を前にすれば、それはもう。狐の面はブンブンと元気に上下と動いて肯定を表明する――リカルド・マスケラス(希望の仮面マスカレイド・f12160)である。
「拙者も確かに」
サイレンとは、人に注意を向けさせるべく作られたものである。そこに正しく《不穏》――オブリビオンの気配を感じ取って。網野・艶之進(斬心・f35120)も、音を手繰りここまで来た。
「此方と思ったのでごさるが……」
見上げる先。窓になるはずだった枠も開いたままの廃ビル。
そして今は聞こえないそのサイレン――普通に考えれば、音が止んだ。それだけのこと。或いは誰かが止ませたのかもしれない。それでも先の音に感じた薄い邪悪が、何となく廃ビルの前に三人の足を縫い止めている。
パンと両手を打って、その空気を破ったのはリカルドだった。
「入ってみれば分かるっす。もしかしたら戦闘があったかもしれない」
「うむ。相手がオブリビオンとなれば怪我もござろう。救護や後始末、今からでも充分助けとなれるかと」
綱野が継いで、生真面目にこくりと頷く。
「なれば、参ろうかえ」
三人、顔を見合わせ笑顔で頷き、誰かの勝利を信じて進みゆく。
お互い言い出せない薄い不安は飲み込んで、黒々と口を開ける、その中へ。
●ようこそ 《巡礼者》よ
踏み入れたばかりの足を、再び外へ。
そうして、もう一度、中へ。
「……さーて、どう調べるっすかね~」
今は外で聞こえぬサイレンは、けれど確かにこの廃ビルの内を満たしている――|育っている《・・・・・》。
リカルドの言葉に、九段下が目をやるのは、到底動くとは思えぬ左壁のエレベータだ。上、果たして先行した者はいるだろうか。いるかも分らぬ誰かのことを、けれど仲間思いの気質の強い九段下は思わずにいられない。我々が僅かの時間、外でこのサイレンを聞くことが出来たという事実がゆえに。
「この音、敵わんな」
何もなく見えたエントランスが、事実その通りであった事を、一周して戻った網野が頭を振って伝える。
耳を|劈《つんざ》くというほどもない、どこか、まだ遠くから響いているようにも思える、それでも途切れることのなく耳につくサイレンにウンザリした顔で。
歩くうち、入る前に裡にあった微かな不安の糸が、サイレンに爪弾かれ、増しているような錯角さえして嫌になってしまったのだ。断ち切らねば、と、だから生真面目な彼にしては敢えて軽い感じのひとことである。
「ホントっすねぇ。でも、ん~。ここで分かるのは、異常事態は現在進行形って一点だけっすかね」
考えるのは、あと。今は体を動かす時と、奥に見える階段へ踏み出すリカルドの足の下で、割れたガラスが砂で擦れる不快な音。それでも|謎《サイレン》に満ちたこの箱の中で、その事実が心強かった。ガラスの破片と砂、砂利のあるから、音は鳴る。
そうとも、進めば見つかる筈だ。
なにか、この場を説明する《|解《もの》》が。
納得できるような理屈が。仲間か、敵か、ともかくも――何かが。
識らねばならない。
それこそは《巡礼者》のとるべき態度、あるべき姿である。
●138億光年のジェットコースターが落とすもの
壁際。柱の影、誰かのいた気がして、九段下が駆け出した。
「ちょ、まって!」
心強い仲間と認めても、女性をひとり行かせるリカルドではない。慌てて駆けるその後ろ。網野も《久遠丸》をいつでも抜けるよう手を添えて付き従う――嫌な気配ではなかった、けれど、なにか。
「……今、確かに」
零す九段下の前にあるのは、|捨て置かれたローテーブル《・・・・・・・・・・・・》。それだけだ。
「何なんすかね、これ。さっきから。……なんていうかなぁ」
言いながらも励ますように、肩をトントン、と軽く叩くリカルドに応えて、九段下が振り返る先で、網野も思案顔だ。顎に手を当て、ローテーブルを見つめている。
三人、まずは一番上まで登ったのだ。目指すなら最奥であろう、と。そこでも、《誰か》を感じたのだけれど、あったものは数字を刻む何かと、それを載せた椅子。なんだこれは、と、触れたりしてみたものの、何と言って変化も導けず、音に溶け込むこの薄い邪悪もそこに感じなくて、今は順に下るところ。
正に音のよう。感じるもののあって、けれど形にはならぬ。
行き違っている? 健在であることだけは薄々とわかる。|薄い膜一枚《・・・・・》、きっと隔てるものはその程度であるという感覚。
だから失意はない。不安でもないし、苛立つのとも違う。いうなれば。
「もどかしゅうござるな」
「それっす! もどかしいっすな~」
言いあいながら降りる階段。
登る際には背面となり確認しなかった壁に、据え付けられた灰色のロッカー群を認めて、三人思い思いの扉を開く。空、空、空。
さて、では、と。凹みのせいですんなりとは開かぬだろうと見えた扉を、九段下の《竜胆》が斬り落とす。一瞬、サイレンを上書きする、鉄の戸とコンクリートの床の立てるありふれた音で、三人、知らず詰めていた息を吐く。
ん、と声にもならぬ声で腰を曲げ、リカルドがロッカーの中から拾い上げたものは、キューブ状の手のひらサイズのスピーカーだ。
「これ震えてるっす」
耳に少し寄せ、確かにこれから音はすると頷いて。
「5? …あと4つはこれがあるということかの?」
彼の手を覗き込む九段下が上部にステッカーされた数字を読み上げる。その間に、リカルドが見た目から受ける直感のままに、前面のウーファー部分を空いた手で覆い、ぐ、と押さえてみる。
「……全く音の弱くなった気はせぬの」
そんなこと、有り得ないから。有り得ぬ事が起きたのならば、少なくとも、これは|まともな品《・・・・・》ではないのだろう。
「音には薄く邪を感じるでござる――元凶か否か、これを斬って邪の止むならば」
あと4つあるのでは、との見立てもある。ならば残りを探し、揃える事に意味があるのかもしれない。だとしたら、破壊自体は最後に試みるべきだ。
だからこそ。
リカルドから受け取ったそれを網野が空へ放る。同時、抜かれた《久遠丸》――邪心のみを斬り落とすその刃。
「斬る」
カン、カカン……とキューブは変わらぬ姿で床を転がり――キューブだけでない、全ては変わりなく。
その結果、場を覆うものは落胆ではない。この気持ち悪さをなんと言おう。三人、顔を見合わせる。
刃先はスピーカーを確かに捉えた。三人はそれを見た。
だけれど、インパクトの瞬間には、そこになかった。いや、確かにあった――見た記憶とずれる感覚。
その時、夕日の更に落ちたか、薄暗い中に強い光源が差し込んだ。嫌して、手で目を庇い、思わず顔を逸らす。床に長く伸びるものは自分達の影である。
「……ああ」
それで、気付いた。リカルドがゆっくりと歩み寄り、そして、キューブを拾い上げる。
「これはきっと、《影》なんすね」
彼だから、最初に気付けた。寄る辺がいて、初めて活き活きと在れる《|仮面《かれ》》だからこそ。
キューブが、霊体や、力の一部を具現化したものですらないことに。これは何者かがいて、初めて在れるもの――何者かの落とす|何か《かげ》に過ぎない。だから、斬っても、斬れないのだと。
その言葉に、九段下も自分の影へと目を落とす。
妾がいて、影がある――それが意味することはなんだ? そして、気付く、思う。
『平面に落ちた、この長く黒い影だけをみて、そこから今ここに立つ《九段下・鈴音》の容姿を、人となりを、導ける者がいるだろうか?』と――妾たちは、何に巻き込まれている? 何を追っている?
何ひとつ分らない現状で、繰り返すトライ&エラー。掴めぬ糸口。
落ちた沈黙を、サイレンが埋める。徐々にその音を増すようにして。
その振動が爪弾く心の裡の糸――エントランスでの|想起《イメージ》が再び蘇るのを感じて、網野は頭を振る。
――《御刀魂》は邪を切り払ってこそ。
飲まれるな、とは自身の心に。網野は抜き身のままでいた《久遠丸》を、大仰に回し――受ける夕日で、きらりきらりと天井を、壁を、床を舞う光――それから、わざと音立てて刀身を鞘へと戻す。
小箱の邪は切れずとも、この悪しき空気は断ち切らねばならぬからだ。
サイレンと違う音に、僅か肩を揺らして。
「そうじゃの。次は……《数》を追ってみようか」
下を向いてどうする。網野の気遣いに、顔を上げた九段下は笑顔だった。実態は、実体は、分らずとも、ここには誰かがいるのだ。諦めるわけもない。
「しかし、ふふ、このように持ち運べる影があるものかの?」
「え、それは、その~。ものの例えっていうか~」
九段下の言葉に、あははと交わしたリカルドがおどけて指を弾く。こつんと音を立てるスピーカー。
「こんなものっ」
怪我したものがいるわけでも、スピーカーが襲ってくるでもないのだ。他愛ないその仕草に、それでもここに入って始めて、三人をして、くすくすと声を立てて笑いあう。
手札を増やせ、角度を変えよ。まずはじっくり探索することから。
寄り添いあい進む三人から伸びるもの。重なり、境界線を失って――独りではない。《ひとつ》となる影にちらり目をやって、九段下はもう一度笑みを零した。
「三人寄らば、というからの」
●紐解くならば、それは
――それは、予期できぬあっけなさであった。
こうなれば、手分けして探そうと暫く。
何が4個、何が5個だ。集めに集めたり、とりあえず見つけることの出来たスピーカーの数、なんと17。
微か感じる何かの気配――或いは影に。驚いて取り落とした枯れた観葉植物の、その鉢植えの割れた中にも見つかった時には、なんとも意地の悪いと、網野は呆れたものだけども。
「大概、探したと思うがの」
果たしてこれで全部だろうか。並べおいたスピーカーを前にして九段下が首を傾げれば、リカルドが苦笑いで応じる。
「奇数って、何かスッキリしないっすけどね~。せめて、あと一個! 18の方が気分がいいんすけど」
一つ一つを改めれば、やはりそれぞれから音のするのが分るのだけれども、じゃあ、今この部屋に集められたスピーカーのせいでここが大音響かと聞かれたならば、変わらず安定した量の音――という言い方も違和感のあるが、そうとしかいえない――が部屋を満たしているのだ。これでおわりか、18個目以降のあるものか、音の強弱や遠さから窺い知ることが出来ない。
「それで、如何する? 叩き割るでござるか?」
この問いにはそれを口にした網野自身も含め、三人してうーむと唸る声を漏らしてしまう。壊してしまっても構わないのかもしれないのだけれども、集めてみれば、悩ましかったのだ。スピーカーを色で分けるなら3種類、数なら17、形状で分けるならば、と、なんだか、意味のありそうで。
思い切ってしまってよいのだろうか?
なんとはなし、九段下が取り上げたのは、最初に見つけた《5》である。真似をするというつもりではないが、今度こそは破壊するべきかと、一番右上に置いてあった《1》を取り上げたのは、網野であって。
その二人の背後から、二人を抱え込むみたくして。それぞれの手を取ったのが、リカルドだ。ちょっと場を和まそうか、くらいの。
「5+1は?」
ろく~、と気の抜けた事を言いながら、意味なく寄せさせた二つ。
――カチリ。
それはスピーカーのぶつかったからと言うより、スイッチを押した時の。
確かに手の内から聞こえたようにも、どこか別の場所から響いたようにも思う。
「ちが。自分、そんなつもりじゃっ! なに? なんで?」
パッと手を離し、ちがう、ちがうと諸手を広げ左右に振る。残念ながら呆然とそれぞれの手の内を見る九段下と網野にそれは見えていないのだけども。
消えてしまった。
《5》+《1》、合わせて『6』が。
もとい、スピーカーが。
「壊すより早くてよいではないか」
ようやく振り返って、あわあわとするリカルドの様子に気付いた九段下があははと朗らかに笑う。早速他のものも寄せてみようと、リカルドと二人、試すのだけども、今度は何も起きないのだ。
「むぅ、また振り出しか?」
「いや、違う」
柄に掛けられた手、応えた網野の声は緊張を孕んでいた。
――サイレンの音が、止んでいる。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『おおいなるいす』
|
POW : 先陣出現
レベル×1体の【異界の知的種族(種類は毎回変わる) 】を召喚する。[異界の知的種族(種類は毎回変わる) ]は【非常に多彩な】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD : ポータル拡大
レベルm半径内を【敵対原住民が居る接続先の異界? 】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【異界の原住種族】が強化され、【猟兵】が弱体化される。
WIZ : 挑戦者?現る
【腕に覚えがある異界の住民 】の霊を召喚する。これは【格闘技】や【超能力】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:井上点
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ウィノア・フォーン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
● ad astra per aspera
止んだ音に思うこと。
あのカウントは、さて、どうなった?
そう思い、駆け上がった先の最上階。あなたの見るものは。
椅子が、カタカタと音を立て始める。他のものの動く様子のない中で、それだけが地震にでも見舞われているかのように。ずり落ちたノートパソコンを踏み壊し、尚止まらず、あちらこちらへと動きながらカタカタ、ガタガタと大きくなっていく音は、始まり同様に突然に止む。中空に現れ、影と溶けて、また元の位置に戻り。振動する椅子という事象を、|今のままでは《・・・・・・》、貴方は正しく観測することが出来ない。
|振動《イス》の生むエネルギー。整えられた魔力定数、11次元の魔方陣。
|懐かしい金色の円盤《・・・・・・・・・》の縁にすいと指を這わせて――いつか貴方達も知るでしょう。空間とは、距離とは、時間とは、肉体とは、精神とは。そのいつかとは、いま、でもあるということを――彼女は微笑みを浮かべている。
いつの間に、とはもう言うまい。
ブラッディマリー? ピンク髪の女? セシリア? その女をなんと呼ぶ?
悲しむことはないの。怯えることはないの。
今は崩壊するように|観測《み》えるだけ、今は喪うように思うだけ。
「万物に通じ、さぁ参りましょう。《わたくし/わたくしたち》と共に」
万物の理論とは|魔 法《マジック》であり、世界と個を繋ぎ巡る|不可思議と謎《ミステリー》でもある。次元という| 幕 《メンブレン》は、今、ほどけた。下卑びた赤毛の猿達の吼え声が数を増し、手拍子、跳びはね、煽り散らかし、増していく狂乱の最奥で。
白木で組まれたその《玉座》に今、|彼女《マザー》が座っている。
シェリー・クサナギ(サポート)
「美しくない世界なんて、生きるに値しないわ」
◆口調
・一人称はワタシ、二人称はアナタ
・女性的な口調
◆性質・特技
・血液の形状を自在に操作する能力を保有する
・可愛いものには目がない
◆行動傾向
・暴力と砂嵐が支配する狂気の世界において、美しいものと可愛いものこそが人の心を救うと信じ、それらを護るために戦ってきた歴戦の奪還者です。社会通念や秩序に囚われることなく、独自の価値観を重んじます(混沌/中庸)
・彼にとって『美しさ』は外見だけでなく、義侠心や献身的な姿勢、逞しく生きようとする精神の高貴さも含まれます。これを持つものは敵であっても尊重します(が、世界を脅かす存在は『美しくない』ので結局戦います)
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
印旛院・ラビニア(サポート)
・境遇的なものもあり、思考や嗜好は成人男性のものです(恥ずかしいので自分からは喋らない)
・基本的にはヘタレで気弱、強者にビビるし弱者に慎重な面もありますが、物事がうまくいったり周りに煽てられるとイキって墓穴を掘ることもあります
・なんだかんだで人がいい
・やり込みゲーマーで現状を学ぶ【学習力】と自分のプレイに【チューニング】できる応用力が武器
・キャバリア・劫禍との関係はUCの秘密設定あたりで察してください
UCは活性化した物をどれでも使用し、例え依頼のためでも、公序良俗に反する行動はしません。えっちな展開はコメディ目であれば許容
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●N ε Ω
進入の理由は様々で。
そして、違和感の塔に掛けられたもどかしさのベールは、いま解けた。
納得は出来ない、これは|納得《・・》など求めていない――ただ、世界とはそのように出来ている、という|理解《・・》だけを押し付ける。全ての事象が、だ。
「それでも いいよ だって」
単純な事実、3は1より大きい。だから、これでいい。
ネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)が、三人の一番後ろにいたから、状況はすぐ知れた。彼の白く柔らかな手のひらの上から舞い上がるコインが、先行者を襲う赤毛の猿の手を打つならば。
だって、この可愛い金貨たちは自分にとっても見慣れた存在であるから――コインの輝きを標べとして、印旛院・ラビニア(エタらない人(仮)・f42058)の自動小銃の銃口は、右に、左に、上にと跳ね回るように軽やかだ。
その彼――彼女の横、|いつの間に《・・・・・》随伴するように歩くものも、その拘った装飾の自動小銃を抱えなおした。
「美しくないわ」
猿たちは唇を捲りあげ、歯茎を晒して牙をむき、涎さえ飛ばしながら。そのような様に飛び掛る赤毛の猿たちを撃ち落とし、シェリー・クサナギ(荒野に咲く一輪の花・f35117)がいう。
「ねぇ?」
印旛院の射撃を信頼して、優雅な所作で金貨の来た方――後ろを振り返り、ネッドの追いつくのを確認する。猿が醜いのだとか、シェリーはそういう事を言っているのではない。事情などはよく分からない、けれど彷徨った廃ビル、彼らの塔の意味ありげな凝った演出だった割には、出てきたものは随分と、下らないじゃないの、と。
「そうだね」
曖昧に笑みを返すネッドは、多分、前行くの二人よりは、これが何者かを知っている。だから、より強い違和感があった。数を頼みに――作戦など、まるで思考などないようにして。
密に、密に、と、三人に|引き寄せられる《・・・・・・・》ように迫りくる猿は、時にはその爪を、此方の腹を脳を暴いてやろうという気概で振りぬいて、掠らせることはあったのだけれど、およそ致命傷には至らない。それでも、数というものには、意味がそれなりにはあって――今は遠い女王様。
「ま、僕の射撃スキルに任せてよ」
必死の押し競饅頭をねだるような猿の態度は何だか別の意味で恐ろしいが、対処は出来ている。その適度な苦労と爽快感。一歩ずつでも前進している感覚に勇気を得て、気を良くした印旛院が次の一歩を踏み出した時。
――墜ちた。
「「「え?」」」
ただ、暗い中を。
目からの情報は自分は止まっているのだと伝えてくる。先ほどまではあった廃ビルの風景は消えており、周辺に一切の変化がない。それでも、体は確かに下へ、何かへ、引き寄せる力を感じていて、脳内を錯綜する情報に、瞬間、状況の理解出来ない。
コンクリートの床が抜けたというわけではない。分かることは、それだけ。
「ちょぉおおお!?」
これは、そう、床抜けバグでも起きた様ではないか――バグ、蘇る嫌な記憶に、思わず何か掴むように上に伸ばした印旛院の手を、シェリーが確かに掴んだ。その更に上、ネッドがいる。
途端、落下速度の和らぐのを感じたことに、手を掴めた事に、三人三様にほうと息を吐いた。
この暗闇に一輪咲くのは、ネッドの冠る《くらげかさ》だ。引き寄せる力に抗うようにして。
「おれは りょうて ふさがるから」
そういって、ガムゴム人の能力――あらゆるものへ任意の吸着力を発揮できるその体質でもって、二人の腕を手繰り、やがて、両手をシェリーと印旛院の背に当てる。吸着する。
――引き寄せる力、高まる重力の意味するものは、加速する時間だ。押し潰されぬために、収束しきらぬように、ネッドが二人を支え、|時間を稼ぐ《・・・・・》。
「えぇ、任されるわ」
静止した落下の中で、シェリーが捉えたのは、周囲に星々のように浮かび上がる赤い瞳。それが、シンバルでも打つように両手を叩いて開くなら、そこにあるのは手と手を結ぶように横に走る|雷《いかずち》だ。この環境にあって、猿共も先ほどまでの力技からどうやらもう少し賢しらな手段へと攻撃法を変えたと見える。
任されたといって、さてどうする。足元はない、自由に移動することはままならない。的のように猿どもの中央にいて、星座を結ぶ線のように増え続けるそれを、見守るだけだ――先ほど猿の爪の掠めた、血の滲む腕を庇うように手を当てて。
そうして、投げ放たれる雷光の槍を前に、成す術もなく――。
「アナタの愛は、しっかりと受け止めたわ」
偽神兵器――シェリーの腕から滴る血が、紅く美しきヴェールとなって受け止める。そのまま返す雷撃、暗闇で猿の悲鳴ばかりが耳につく。
「なるほどね」
先ほどの雷撃に照らされたシェリーのベールの形。お陰で気付けたと、印旛院がネッドに声掛ける。
「回ることって、出来る?」
「やって みる」
敵の攻撃は止んではいない。自分は自分の身すら護れぬ状況で、援護の即答をする主を励ますのは、重力に共に抗って、《かさ》のカーテンのふわりと優雅に舞う姿だ。宇宙に漂うような錯覚は、どこか深い深い場所の記憶を呼び覚ますから――|満ちる力《ジャスティス・ペイン》がそれを可能とした。
そうして、居合わせた三人が《接着》し、《共鳴》して、核を成す。
ネッドが二人の重み、それを頼みに、回転を試みる。足元のないこの環境で、描くもの――。
「あら、美しいじゃない? ワタシの好みよ」
クルクルと天地左右のないように振り回される状況にも関わらず、弾むシェリーの声に全員の心が温まる。その彼の、引き続く血のベールを補うようにして、印旛院のUSGから放たれる銃弾が猿共の雷を引き寄せるなら、それは一つの形となって現れる。
360°の血と光の球――この場に相応しく言うならば、熱を宿す恒星が。
だが、その光球も無欠ではない。何度も描くから見える一点、中を覗んがため雷撃の止む場所。
「召喚! 神滅の戦乙女・ジークヒルデ!」
勝負を仕掛けるは今――印旛院が引くカード。
「行け、ヴァルグラム・ノヴァ!!」
神殺しの光線は頂点を、天上を穿つ。
|重力場《ポータル》の歪曲を無視して、引き寄せる力を――行かないでと、追い縋る何かを振り払い、その一点に向かって。
衝撃に揺らぐポータル、シェリーも追って血と雷撃のヴェールを拡大させる。さぁ、膨張せよ、収束に抗え。
やがて釣りあう、膨張と重力――整えられた数の上、我ら、自由に至るまで。
●
がくん、と。その感覚は、アレに似てる。
「……エレベータがついた的な」
「それよ、それ!」
印旛院の言葉に、シェリーがうんうんと頷いて。
「からだ おもくなった みたい」
ネッドが何とか身を起こそうと手を床につく。コンクリートの床の冷たさも、今は勝利の心地よさ――打ち破り、三人帰ってきたのだ、廃ビルへ。
だが、三人ともが、膝をついたようにして、何とか立ち上がろうとするものの、手間取った。重力から解放された感覚はある、軽くなった筈が、先ほどまでの浮遊感と回転で体の方が混乱しているのだ。
そうして、猿の咆哮のいまだ止まぬ中。
焦る三人の前に立つものは―――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
鈴乃宮・影華(サポート)
「どうも、銀誓館の方から助っ人に来ました」
銀誓館学園所属の能力者……もとい、猟兵の鈴乃宮です
かつての様にイグニッションカードを掲げ
「――|起動《イグニッション》!」で各種装備を展開
友人から教わった剣術や
体内に棲む黒燐蟲を使役するユーベルコードを主に使用
TPO次第では
キャバリアの制御AIである『E.N.M.A』が主体となるユーベルコードを使用したり
『轟蘭華』や乗り物に搭載した重火器をブッ放したり
「|神機召喚《アクセス》――|起動《イグニッション》!」からのキャバリア召喚で暴れます
例え依頼の成功の為でも、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
不明な点はお任せします
サエ・キルフィバオム(サポート)
アドリブ歓迎
基本的には情報収集が得意かな
相手が何かの組織だったら、その組織の一員になり切って潜入して、内側から根こそぎ情報を頂いちゃうよ
そうじゃなければ、無害で魅力的な少女を演じて、上手く油断させて情報を引き出したいね
効きそうな相手なら煽てて誘惑するのも手段かな♪
戦いになったら、直接力比べの類は苦手だから、口先で丸め込んだりして相手を妨害したり、糸を利用した罠を張ったり、誘惑してだまし討ちしちゃうかな
上手く相手の技を逆に利用して、手痛いしっぺ返しが出来ると最高♪
敢えて相手の術中に陥ったふりをして、大逆転とかも良く狙うよ
●N ε Ω λ Q
それは時の止まったようにして。
囲む赤毛の猿達の|唾《つばき》だって、中空に。駆け寄ろうとしても、同じ位置に見えて、そして何かが引き伸ばされたように――全てが希薄になっていく。
(……《普通》じゃ、ない)
慣性の働いたように、引き返せない状況に、けれど思考はまだ動いているから、鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)は、いつ解放を迎えてもいいように、今はいうことを聞かぬ体に、指先へ、黒燐蟲たちへ指示を出し続ける。
伸ばした指先に見えているのは――。
そして何かの割れる音。
「大丈夫~?」
コンクリートの床の上、コツと硬質な音と対照的な明るい声色が舞い降りる。突如訪れた自由に、猿の輪を越えて中央に立つのは、さざめく青に縁取られた羽持つ白い蝶――サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)だ。
音と共に正に鏡の割れるように砕けた猿の向こうから、走り、跳び、腕を振り下ろす新たな猿共に、二つの流体、鈴乃宮の黒色の蟲と、サエの青銀のオブリビオンマシンが、絡み喰らい刺し吊るす。今は立ち上がれぬほど疲弊した仲間を庇って。
ここで見聞した全ては二人の中で今理解できるような意味を持たないけれど、なにかが起きて、そして彼らはそれを打ち破ったことだけは分かるから。
なれば、猟兵として、それを引き継ぐまで。
●人間原理
囲む猿の悪意。大きく開いた口に並ぶ牙、幾度と幾重と振るわれる爪の、その|荊棘《けいきょく》を割るサエの青い棘が道となるなら、その枝を鈴乃宮の蟲は伝う。巻きついて喰らう女王の首。
ぐらりと。そうして堕ちたピンク髪の、その見開いた目。頭は床に届く前に、ほろほろと崩れ落ちた。頭だけではない、猿たちも、女王の肉体も、なんなら今いる空間の全てが。
そうして、ただ同じようなものがもう一度現れる。
おなじような――そう、最初は確か、椅子の足元で砕けたPCの破片、赤かったカバーの色は、先ほどは黄色であった。
巻き戻しではない。なにか、その度にほんのすこしゆらぐ世界が、|何枚《・・》でも。
「限がないですね」
数を頼みに接近した一匹を、黒い刀先が切り裂いて鈴乃宮がいう。敵、猿や女王は、勿論決して平面ではなく、どのように動いて攻撃してくるかもその都度に違うのだけれども。日めくりカレンダーでもめくっているような、この感覚。
「うう、飽きてきたぁ~」
サエの同意は言葉だけでなく、可愛く大きなお耳もへにゃり、と草臥れてみせる。既に二人、結構な枚数を|破って《・・・》いる。時には道を戻る事を選択してみたけども、今やどの方向に向かおうが、先ほど庇った三人の姿もなく、駆け出したときに見た光景――猿達が待ち構え、奥に女王が座る――にぶつかるばかりだ。
それは必ず連続するのではないことも厄介だった、時にはそんなに奥行きのあった筈のない最上階のコンクリートの床を暫く駆け続けねばならなかったのだ。四方を闇が包むその|異次元《ばしょ》を、次の女王にぶつかるまで、文字どおり闇雲に。
全体像が掴めない、どこまでも広がってみえる空間。
本物は、本体は……いや、そもそも、本物などあるのだろうか?
カレンダーに最後のあるように、最後の一枚を捲るまで続ければいいのか。
問題は、これが何頁あるのかも、わからないこと。
限のないこと、見通しの立たぬこと、答えの返らぬ問いは、時に振り上げられた武器よりも人の心を打ちのめすものだ。
「……止まろっか」
息のあがっているのは、横の鈴乃宮だけではない。自分自身もだ。だから、サエがいう。相手の術中にハマっているばかりなんて、妖狐たるサエの性分に合わない事態だ。
「でも」
何もしないでは解決しない、それだけは確か。鈴乃宮が柄を握る手に力を篭める、だけれど提案された意味もわかるから。
二人、駆けていた足を緩めてやがて歩くように。そして遂に、足を止める。
四方は闇に包まれ、だけれど、不思議とお互いと足元のコンクリート床だけが見える場所に立って。
「バカにされてる感じするよね」
場を解すように、ぷぅ、と頬を膨らませてみせながら、サエが闇の先を睨む。その目だけは、おどけを纏うことが出来ないまま。
「偽者、という気もしないのですが……」
蟲の、葬華の、伝えてくる感覚は、本物の、本当の質感で、決して嘘じゃないのに。抜いた刀の赤い峰に目を落とす鈴乃宮に、さてなんて声を掛けようか。
「やっぱビンゴ引くまでやるしかないかなぁ……それか、待つ?」
そうして二人の間に落ちる沈黙。
攻めるも、待つも、もどかしい。
こちらの対峙する意志は充分向こうに伝わっているだろう。でも、あちらから仕掛けてくるだろうか。この暗闇に二人を置いて、やがて命の尽きるまで。相手はそれでも構わないだろう。それとも、向こうがこの異次元を維持できる限界があるだろうか? けれど、それに縋るのは、次破る一枚が最後の一枚かもしれないと、その果敢なさに縋るのと変わりない気がする。
「ね、向こうは多分こっち見てるんじゃない?」
妙案の浮かばないまま。だが、そういって、サエが耳から一つピアスを外し、鈴乃宮に差し出す。
「?」
「こっちもかくれちゃお」
見えなく出来るの、これとにこり笑って。明るくあっけらかんとしたサエの、けれど敵の術中にあるのだからと油断と慢心から程遠い、身の保全の為の提案。その判断こそが生んだのだ。
《何もない空間》
図らずも、偶然――そして幸運にも。
無数に存在する|異次元《セカイ》に、|猟兵とUDC《カンソクシャ》のいる、何もない空間が在る。空間を満たす静的なエネルギー。ポテンシャルの大きいのは、どちらであるか。
人は弱く、彼の者は強い、だからこそ。
鈴乃宮は|観測《み》した。
その魔眼を以ってして、|何もない空間《・・・・・・》を。
●
闇を真に揺らがすことが出来るものは、光などではない。
おとだけが、かこいを揺らがせ、やみを裂く。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
睨む闇の先、上がる絶叫――二層目を送る、これが葬送曲だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
●
雲ひとつない青空の下、夏の陽光に打ち寄せる波の薄く広がったものもキラキラと反射して。
子供達は慎重に丁寧に砂に水を霧吹き、立方体を幾つも固めていく。作り上げた箱の角を時には|鏝《こて》で大胆に削ぎ落とし、側面には棒で丁寧に溝を掘り、或いはスプーンで削り、やがて器用に抜かれる美しいアーチ、ペディメントにはシンボルの彫り込みを。
かくてここに荘厳な神殿が姿を現した。
だが、その頃には日の落ち始め、オレンジを纏った潮は気の早い夕方の月に惹かれて満ちゆくのだ。神殿へと舌を伸ばす波、崩壊はあっという間だ、いつだって。
神殿だったものをその足で踏みつけて。どこで間違えたのだ、とわたしがきく。だから、わたしは答えるの。いいえ、間違えたのではないのよ、だってとても美しかった。そのわたしの肩を抱いて、頷くわたし。そうだよ、ただ、まだあったってだけ。考慮に入れるべきだった何かがさ。そういうのは、わたしだ。崩れ残った神殿に、手に掬った海水をふらせて止めを刺しながら。あら、そうなの? 傾げる小首でわたしが問えば、じゃあ、さがさないと、とわたしが肩を竦めて。だけど、そうね。わたしはここを離れられないから。困ったわたしに、わたしが聞く。もう動けないしなぁと頭を掻き毟るわたしがいい事を思いついたと手を打って。ねぇ、探してきてくれない? わたしなら、できるわ。そう微笑んで、わたしをみるから。それってもう――お願いじゃないよね?
弾けて満ちる笑い声。
いつまでも終わらないでほしい、楽しい時間。
そこに響き始めるのは、過ぎ行く時をつくづく惜しいと慰める蝉の声。
そして、夜を纏い引き連れて、かえろうと促す鴉の導きだ。
鵜飼・章
来た甲斐があったよ
網に掛かった蝉は大物だったみたい
世界の数も三十六より三十七がお好みかな
動物と話す
地球外であれなんであれ
きみも知的生命体なら
時空を超えて僕らへ語りかけてきたきみたち
個人的にはとても興味深いけれど
残念ながら皆に邪神と呼ばれているよ
だからこの通信はもう終わりだ
人間らしさを放棄すれば
きみを正しく観測する事も叶うだろう
でも今は知的生命体らしく振舞うべきだ
話し合いだけで全てを丸く収める事を望んでみるとか
UC使用
人類を含む全ての動物が用いてきた言語を参考に
即興で作成した架空言語で何かを要求しよう
今此処に居る僕以外正しい文法を知らないのだから
答えは『理解不能』しかなくなる筈だ
(ねえセシリア
存在意義を奪われたら信仰は終わりだよ
その時神というものはどう崩壊していくのか
或いはひとつの世界がどう消えゆくのか
僕はそれを観測したいんだ)
悪趣味なゴールデンレコード
でもそれってお互い様でしょう
もうわかったかな
僕がなにを要求していたか
ひとが耐えられる孤独の長さは
二十億光年ぐらいが限界らしい
憶えておいてね
●N ε Ω λ Q D
人間より上位の存在を自称するものに導かれ、天上を旅する巡礼者の話というのは世界各地に残っているものだ。そこに描かれる至高の世界というのは、地上に生きる我々の価値観から照らして、理解の及ばない情景であることが多い。
例えば、今、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が、見ている光景のように。
それは都市のようなものかもしれない。わからない。どこまでも広がり、光に溢れ、あらゆるものが調和して、つまり――栄光というものが形をとったなら、こうなのかもしれない、と。この説明を誰かにしたとして、光景の具体的な何も伝わらないだろうが、その輪郭を評する為のこれ以上の言葉を鵜飼は持たなかった。もしかしたら……蝉の見る世界とはこうなのだろうか? なんて突拍子もない事を思いながら。
何故というに――。
「ようこそ、巡礼者よ」
よ、よようこそ、ようこそそそ、ようこそようう、こそ――……。
彼女の言葉に続く赤い猿達が調和の世界に不穏の点々を打つ。
極度の緊張状態に硬直し、固まった四肢を、口に無理に動かそうとしてうまくいかず、木霊する不調和の歓迎。口からだらりと垂れる涎がみっともない。その癖、飛び出そうなその目玉だけが――ここまでのダメージもあるだろうか。視線の定まらず、もしかしたら猟兵を直視する事を恐れて――ぎょろぎょろ回ってせわしないのだ。そんな様子の猿たちはいまや、ありとあらゆるところから鵜飼に体を向けている。点は線となり、今や都市を巡る血であるかのように赤く。
「話を、しよう」
呼びかけて、にこりともしない鵜飼だが、それは敵愾心ではなく、無関心でもなく。最初はだってそう、生物観察でもするつもりで家を出た――が、この夏の生物観察は、思わぬ大物が掛かったものだ。なんにせよ、これが|知的生命体《いきもの》だというならば。
「信徒、従者たるきみたち、或いは――」
あぁ、もしかしたら。
蝉などの見る世界とはこのようであるかもしれない。2つの複眼と3つの単眼、五つの目で見る世界。相変わらず、鵜飼は大真面目にそんなことを考えている。複眼のその一粒一粒は、個々に同じ対象を写す。それを目の数のだけの別の存在と処理するか、一つの対象と統合するのか。
鵜飼は目を閉じる。
――人間らしさを放棄すればきみを正しく観測する事も叶うだろう。
世界がどう在るのかは、鵜飼の意志と関係のないどこかに厳然と存在している。人と同じようにと願って、いつも掴みきれないそれのように。それでも、世界をどうみるのかは、いつだって、自身に委ねられているから。
目を開けろ。ニンゲンのまま、人間らしく素直に。
「きみと、話をしたい」
そこに立つのは、破れた赤い膜――織物かも知れない――を纏う、風化した何かだ。自分に、彼女に、似た様にも見える。似たような……、|似せて造られた《・・・・・・・》。だが、都市の様子と同じく詳細を言葉とすることは出来ない。複眼の見る世界のように、輪郭の曖昧なまま。
瘦せこけたという以上の、風化し限界を具現したような何かは、鵜飼を殺すつもりだったのか、はたまた、言わないでと乞う為だったか、彼の眼前に手を伸ばして。
《きみ》《きみたち》――これを複数でなく精々1の何かである、と明察する鵜飼の言葉は、喝破するというには静かで、ほんの少し、残念とも寂しさともつかぬ色を滲ませている。
それは彼女の付属品、それは仮初の仲間達。
彼女の孤独を埋める為の何か。そもそも、居ないのだと突きつけるのに、持ち歩く針やメスは必要ない。ただ放たれた|言葉《・・》。伸ばした腕についていかないその体が、倒れ込む。それは永い巡礼の最期に相応しい五体投地の形。身を投げ出し、救いを乞うて向いた先は――鵜飼だ。
0と1とに|解《ほど》けて|解《と》けるその様を見届けて、上げる鵜飼の|眼《まなこ》の先。加えるのは、ロマンチシズムの欠片もない二人きりだね、の言葉。
「話をしよう」
●再び私たちがよみがえることが出来るならば《幸い》です
「完璧で揺らぎない世界が一つ在れば、やがて全てがそうなるでしょう」
わたし達がひとつとなれば叶うという彼女の表情はぼやけたまま。
「僕は36より37がお好みかな」
瑕疵を抱えて完璧になり切れぬたくさんの世界を、鵜飼は知っている。
噛み合う様な噛み合わないような、いつもの会話。
彼女はいまや席を立ち、立ち尽くす鵜飼の足に縋るようにして。なのに、その感触を、鵜飼は感じられない。あちらはこちらを触れられても、鵜飼が人間のままでは、彼には理解出来ないからだ。それだけの差がある。
「あと1回でいいの、あと1度わたしに計算をさせてくれるなら――」
今度こそ間違わないわ。きっとこれが欠けていたの。この、新しい|定数《猟兵》を得たのなら、わたしは。
何かが欠けていて、何かを掛け違えて、どこかには――なんて。
改めて、鵜飼は招かれていたのだと知る。彼女の理論に加わる数字。|六番目《・・・》の猟兵を、彼女は選んで。
「個人的にとても興味深いけれど」
似ていると思ったのだろうか。己の空虚を受け入れて尚歩む鵜飼と、空虚を満たせば違う何かに成れるに違いないという虚空の成れの果ての邪神。
焦点を合わすわけにはいかない、それは人の視界ではないから。それでも嘆きと裏腹の、彼女の口元のおぞましいまでに美しい頬笑みの形を見る。鵜飼が欠けているから、その微笑に誘惑されないのだろうか? いいや。人間を神へ捧げものとするような無明の時代は、人類も既に通り過ぎた。
「きみは皆には邪神と呼ばれているよ」
僕たちは受け入れるわけにはいかない、とまでつけないから、会話は変わらず、ちぐはぐだ。
「誰かではない。貴方が、わたしを、みて」
「ひとが耐えられる孤独の長さは、二十億光年ぐらいが限界らしい」
|邪神《かのじょ》に、初めて鵜飼が薄く微笑む。その距離以上を越えてきたのだろう。だからそう、彼女の輪郭は|人間である鵜飼《・・・・・・・》には捉えきれない。
「憶えておいて」
要求する。
言いおいて顔を上げた彼がみるものは、血も枯れ果てた栄光の端がホロリホロリと0と1に解けゆく様。これが何処かから投影されたディメンジョンに過ぎないという証。伏せる彼女をそのままに鵜飼は歩き出す。栄光の中で、ただひとつ変わらず鵜飼と同じ現実性にある椅子に向かって。笠木に手を滑らせ確かめる、その輪郭。我々を繋いだものは、これをおいて他にあるまい。
今、玉座に座るのは鵜飼。ここは、彼女の世界ではない。鵜飼の属する世界、人間の世界なのだ。
「個々の記憶など問題にはならない。わたしたち、ひとつになるのだから」
「……信仰は終わりだよ」
「いいえ。あなたがいる」
「そうだね、僕はここにいる」
「そしてひとつになる――完璧に、完全に、万物そのものに」
ゆらりと立ち上がってみえる彼女に、鵜飼は頭を振る。お互いに理解し合えない。理解しない。理解する気もない。お互い要求するだけの会話モドキだと最初から分っている。
「残念だけど。
君は三回を使い果たした――|セシリア《・・・・》。全て終わったことだよ」
|猟兵《なかま》達の奮戦が、1。神の御業たる栄光を巡る赤い血も先ほど遂に枯れ果てて、2。
そもそもの始まり。20億光年よりも更に遠い、彼女の栄えた光は今は昔。これで、三度だ。だけど、きっとこれも、何の話か、彼女にはわからないのだろう。
「|君はいない《・・・・・》、最初から」
憶えておいてと要求した、すでにいない君に。
力ある言葉たちが、存在の根底を奪う――鵜飼の《君主論》が、確定させる現実。この時代、この時空には、そう見えるというだけ――僕たちの邂逅の全ては実在しないと突きつける。死を拒む邪神が利用した時間差。猟兵は《肉》を取り戻すことを許さない。
不信神者は玉座に座り、神はもはや言葉を発しない。
|その時《・・・》、神というものはどう崩壊していくのか。或いはひとつの世界がどう消えゆくのか。栄光に触れたときと同じく、その終わりを正確に描写する言葉を鵜飼は持たないだろう、だが――僕はそれを観測したいんだ、王命は下る。
故に、崩れる、解ける、冷える、止まる。無と還る。
積み上げたもの、沢山在った笑顔も、悲しみの涙も、なにもかも――だからせめて。
「あぁ、なんて悪趣味なゴールデンレコード」
でもそれってお互い様でしょう。
(――憶えておくよ、僕も)
●
ビルの外は、すっかり、夏の夜で。街灯を光源と天地の狂って飛び回る虫達。
――ジジ、ジジジ。
鵜飼は天地を見誤らないから、アスファルトから聞こえた音に足を止め、地面をみた。腹を見せて転がる蝉の一匹、死んだのだろうか、いや、まだだ。夏の風物詩。ばらばらと空を搔くように、しがみつける何かをいまだ求めて、その足の動きも散漫となり、やがて止まる。もう一度だけ、ジジと上がる声。
そのように、生を燃やし尽くして動かなくなる最期の時まで。
鵜飼はそれを、じっとみていた。
大成功
🔵🔵🔵