#サイキックハーツ
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●|骸の海《うみ》の底に沈んだ火
「……かつて、ファフニールの名を冠する古の|竜種《イフリート》がおった」
現在生き残っている|我々《イフリート》を穏健派と分類するなら、彼奴はそれから意見を異にする派閥の者――と言う理解でそう間違っておらぬじゃろう。見嘉神・キキ(昔日の夕暮れ・f44086)は懐かしきかつてへ思いを馳せるように、ファフニールの|竜《ひと》となりを滔々と語り始める。
「同輩への情に厚く、己がイフリートであることを何よりの誇りとし、それ故決して灼滅者と相容れる事無く激しく争い……遂には討たれた。思想的には対極であったが、存外、あやつこそがイフリートの|未来《さき》を誰より案じていたのかもしれん」
――しかし。それも全ては過去の話。
僅かの間、憐れむような、悲しむような、そんな複雑な|顔色《いろ》を浮かべた後、キキは決然瞬く眼差しで猟兵達に向き合った。
「地に還る事無く|骸の海《うみ》に沈み、イフリートの理からも逸脱し、ただただ憎悪のままに世界を破壊せんと企む今のあやつは既に、正真正銘如何仕様も無きオブリビオン。退けなければ何もかも、いずれ全てが灰燼じゃ」
殺されたから、殺し返す。その根源的な情動に、どちらが先かどちらが善悪かなどの|発端《おこり》は最早何の意味も無く、あるのはただ、虚無にも近しい血の応酬か。
――それでも黙ってやられる道理は無い。そして殺らねば……殺られるだけだ。
「あやつの復讐対象は最早灼滅者だけではあり得ぬぞ。灼滅者が猟兵の戦列に加わったのなら諸共に倒すべき宿敵、その身がオブリビオンに堕ちたのならばその他種族のオブリビオンも全て同胞。情に厚いからのう。あやつはそう言う考え方をするじゃろう。必然、同胞を狩る猟兵の存在を許せるわけもなく……なにより|猟兵《おぬし》ら、どこぞの異世界に現れた垓王牙を屠っておるな?」
『あの』垓王牙は、ファフニール――武闘派イフリートたちの、いわば|大元締め《集合体》だという。
「否。別段責めてはおらん。既に我らは『其処』から分かれて久しく、また猟兵がオブリビオンを倒すのも当然のこと。しかし世界を救けると言う尊き行いも、時に予測も出来ぬ死角から、思わぬ業を呼び込むことがあると云う事じゃろう」
……そして、業と言うならもう一つ。ばさりと地図を広げたキキが、|長野市《まち》の中央を指差した。
「ファフニールとその取り巻き達が動き出す以前、あからさま此方を誘き出す様に、|惨劇《コト》を起こそうと目論む輩がおる」
刃の如き研ぎ澄まされた殺気を発するその化生。気性的には当初殺人鬼……六六六人衆ではないかと疑ったが、どれほど記録を漁ってみても、これまで灼滅者と交戦した痕跡一つなく、また生残している六六六人衆達に質しても、みな口を揃えてそんな輩は知らぬし序列に存在しなかったという。その|来歴《あしどり》の不明瞭さは、まるでつい最近、突如として|この世界《サイキックハーツ》に現れたかのような――。
「ダークネス、と言うよりは、どういう訳だか|猟兵《そちら》に近しいモノを覚え――ううむ、得体が知れん。しかしどうあれ狂行は止めねばならぬ。待ち構えているのは明確な死線、それでも敢えて彼奴等の術中に飛び込むことになるが――気をつけよ」
あの化生、かなり『遣う』ぞ。
キキが警告し終えたと同時、ベースの景色が揺らぎ――赤々とした西陽の色に変わった。
長谷部兼光
一番得体が知れないのは前回のリプレイ完結からいつの間にか半年経ってる事です……。
●目的
・オブリビオンを全て撃破する(三章構成)
●鋭い殺気を放つ化生
詳細不明のオブリビオン。
気まぐれで、残忍かつ好戦的な性格。
その容姿はとある猟兵の真の姿に酷似しているが、別人。
●竜種ファフニール
オブリビオンと化したイフリート。
猟兵は絶対殺す。
●備考
プレイングの受付は、各章とも冒頭文を追加してから以降になります。
第1章 ボス戦
『刃を奪われし妖刀の影』
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POW : 示現流無刀「|蹴殺《けころ》」
【廻し蹴り落としの構え 】を構えて【雲耀雷撃の闘気】を纏い、発動前後が無防備となる代わりに、超威力・超高速・防護破壊の一撃を放つ。
SPD : 田抜流「蛇の道」・「熊手薙ぎ」
【敵の死角に回り込む特殊な歩法からの攻撃 】が命中した敵を【熊が剛爪を振るうかのごとき諸手薙ぎ払い】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[熊が剛爪を振るうかのごとき諸手薙ぎ払い]で受け止め[敵の死角に回り込む特殊な歩法からの攻撃 ]で反撃する。
WIZ : 田抜流心法「水月の位」+千里眼
【明鏡止水の心境 】と【「疑似グリモア」と化した両眼による未来視】を組み合わせた独自の技能「【絶対最適カウンター】」を使用する。技能レベルは「自分のレベル×10」。
イラスト:傘魚
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠田抜・ユウナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●刃影
「――鮮血さながら朱に染まった逢魔が時。頬を擽る清風。そして精妙自在、我が意の儘に動くこの|四肢《カラダ》――悪くない」
ぐにゃりと。天地の境が解けて歪む。
……そんな幻視すら容易く引き起こす程濃密な殺気の中心に、それはぽつんと佇んでいた。
「だが――窮屈だ。仮初の身体であるにも関わらず、この身を縛る幾重の|封印《いましめ》は真のもの。肝心要の|刃物《得物》を使えぬ苛立ちを、さあてどこにぶつけたものか」
抜かずの刃など何の意味も無かろうに。化生がぽつりとそう零す。
どれほど怨念めいた邪気に晒されようと、化生が肩から提げた妖刀の、雁字搦めの封印は厳として解けない。
しかし無辜たる|一般人《エスパー》達はそうもいかぬ。訳の分からぬまま不可視の殺気に呑まれた人々は、最早二つの足で碌に身体を支える事すら儘ならず、文字通り這う這うの体でこの場から離れようと足掻き、藻掻く。
化生――刃を奪われし妖刀の影は、それらに一瞥もくれない。どうせ自ら手を下さなくとも、今更何処へ逃げたとて竜種共が地の果てまで追いかけよう。そして何より、『本命』が来たがゆえに。
「この身体の慣らしがてら戯れに、怒れる竜種と憐れな青い肉塊共の片棒を担ぐつもりだったが……気が変わった」
刀の影は身を翻し、無造作空に|放《ほう》っていた業火の如き深紅の視線を猟兵達へ差し向ける。
「泣き叫び、惨めにも命乞いをする人間の|人生《にく》など何時でも断てる――しかし猟兵。貴様らは容易くそうはいくまいな」
だからこそ、その命に用がある。影がゆるりと開いた掌に、顕現するのはグリモアにもよく似たエネルギー体。
「彼奴等が何もかもを灰に帰す前に横から全て掻っ攫う。貴様らの血|《いのち》を以てこの窮屈な戒めを穢し、そして我が糧としよう。さすればこの贋物に過ぎぬグリモアも、或いは世界を渡る|真作《ホンモノ》に化けるかもしれん」
ゆらり、影が構える。無刀、即ち徒手空拳。得手を封じられたと嘯き晒したその姿に、しかし一部の隙も無く。
不可視の殺気のひやりと鋭利な切っ先が、全ての猟兵を捉えて離れない。
そして影は、嗤った。
「――呵ッ呵呵呵! 灼滅者だろうがケルベロスだろうがエンドブレイカーだろうが能力者だろうが猟兵だろうが――誰であろうが如何でも構わぬ! ただ只管に狩るのみよッ!」
既に|一般人《ひと》の姿なく、観客は、暮れなずむ夕陽の眼差し一つのみ。
……瞬間。雷火迸り、清風が血風に変じた。
アルテミシア・ルッシュリア
ダークネスのグリモア猟兵の依頼となれば、シャドウとイフリートという違いこそあれど参加しない訳にはいかないね
瞬間、仮想質量を自身に付与
付与した仮想質量の質量に比例する形で加速能力を発動していく
『ムーンライト・ロンギヌス』、廻し蹴り落としを切り落とせ
――|君《槍》にも、仮想質量を付与する
瞬間、光速を突破する速度で体捌きと槍の刺突が違う速度の高速で『刃を奪われし妖刀の影』の足や急所を狙って繰り出されていく
デスギガスの体躯を再現するよりも、それを仮想の質量で再現した方が取り回しと機動力が良いだろう?
そんな風に僅かに優越の微笑を浮かべ、再び加速していく――
しゃん、と。|喧騒《おと》の消えた街に響くのは、|慈愛《ハート》の杖が奏でる涼やかなれども苛烈な|打擲音《おと》。
攻撃、防御、回避に牽制。地の果てまでも真っ赤な戦場で、人知れずぶつかり火花を散らす影と影。
「ダークネスのグリモア猟兵の依頼となれば――」
呟きながら、アルテミシア・ルッシュリア(月を示す影・f44022)の掌中にあった|慈愛の杖《オーバームーン・シャドウ》が形を変える。
「シャドウとイフリートという違いこそあれど参加しない訳にはいかないね」
影の意のまま|贖罪《スペード》の鞭となったトラウメンヴァッフェが空を裂き、躊躇う情の一つなく、刀の影へ降り注ぐ。
「……ダークネス。かつてこの世界の支配者だったと聞くが、戦に敗れ、今となっては|灼滅者《勝者》の小間使いが精々か」
しかし刀の影は鞭の驟雨をするりといなし、アルテミシアの至近へ迫る。それは絶好の――|徒手空拳《こぶし》の間合いだ。
「さあてね。そういう話は然して興味も無いし知らないよ」
鞭を解き、シャドウは答える。
アルテミシアがこの世界に『生まれた』のは第三次新宿防衛戦の翌日。灼滅者との争いと、自らの種族が辿った顛末自体は把握しているが、だからどう、と言う|感慨《もの》も無い。
解けたサイキックエナジーが、|絆《クラブ》の砲口を形成し、無数のそれらが刀の影の四方を取り囲む。
即座拳の間合いは砲の間合いに転じるが、全ての砲が光を放つその直前、刀の影は咄嗟、包囲をこじ開けて、アルテミシアから距離を取る。
「|影《シャドウ》の|影狩り《シャドウハンター》……|同族《ひと》が|同族《ひと》を殺せなくなった世界で、その存在は業が深い」
だが。と、紅の双眸が相対するアルテミシアを睨む。
「この身もまた『影』ならば、或いはその|職業《なりわい》は我が天敵となり得るか――ともすれば」
いの一番叩いて潰すが上策! 刀の影は縮地さながら再びアルテミシアへ肉薄し、勢い蹴撃を見舞う。
が、アルテミシアの全身を覆うイミテーション・チェーンがそれを受け止め、びくともしない。
――『重い』のだ。華奢な少女の見てくれにあるまじき、まるで見上げる程大きな怪物の質量が、其処に在るように。
「そのまま受けたら、まず間違いなく吹き飛ばされていただろうからね。少しだけ、ずるをさせて貰ったよ」
そう言って、アルテミシアは刀の影を振り払い、遥か上空へと飛翔する。
刀の影の攻撃が当たる寸前、自身に付与したのは大きな大きな仮想質量。そしてびくともしない『重さ』と同時、彼女は、|音速《おと》すら軽く置き去りに、およそその十倍の速度を得る。
地を見据え、構えた槍の切っ先が睨むのは、こちらを仰ぐ、刀の影。
烈風。超高速度の槍撃が、瞬き一つ許さずに、『呆気にとられたまま』『無防備状態』の刀の影を貫き――否。ぞくりと、何か。
槍があと数ミリで刀の影へ到達しようという、その刹那、アルテミシアは強引に身を捩って回避する。
瞬刻。迸るのは、雲耀雷撃の回し蹴り。まるでこちらの動きを把握していたように。もしあのまま突撃していたら、どうなっていたか。
刀の影の貌に目をやれば、その右眼が贋物のグリモアと同化し――ゆらゆらと、ひどく怪しく輝いていた。思い返せば、あの影は此方の攻撃を都合良くも紙一重、悉く躱し続けている。恐らくは、未来視の類なのだろう。
「この小娘の|千里眼《めだま》は特別でな。封印の類は馬鹿馬鹿しいが、これだけで元は取れると云うものだ」
それが猟兵の真の姿を模したモノなら、オリジナルの持つ全てを扱えてもそう不思議な話では無い。刀の影が薙ぐように腕を振るえば、無数の斬撃波が戦場を蚕食した。
そっちも大概ずるだねぇ、そう零し、アルテミシアは態勢を立て直す。
千里眼。雲耀雷撃。成程、|時速一万二千六百キロ《生半な速度》では駄目らしい。ならば単純明快に、千里眼すら捕らえ切れない速さ、即ち|雷《ひかり》を上回れば勝ちの目も見えてくるだろう。
「|神殺しの聖槍《ムーンライト・ロンギヌス》――君にも、仮想質量を付与する」
そう、相手を圧倒するに足る|質量《歓喜》を。光すら超越する理外の速度を。
そして容赦なく振るわれる|大質量《ダイヤ》の槍刃。刀の影はそれを躱し、応酬の拳がアルテミシアの頬を掠めて一巡。
血が飛沫く。だがアルテミシアは退かない。繰り出した重く、鋭い槍撃は一巡目を圧倒的に凌駕する速さで、最早『生半な速度』すら比較にならず、それでも歯を食いしばって受け止めるこの相手は、やはり相当『遣う』のだろう。だが返しに放った刀の影の攻撃は、加速し続けるアルテミシアの体捌きを捉えきれずに空を切る。
そして三巡目。先手で穿たんと光り輝くのは雲耀雷撃の闘気。しかしもう『遅い』。天井知らずに増加させた仮想質量と、それに比例する加速能力はアルテミシアを疾うの昔に光速の、さらに上位の領域へと引き上げて、先の先、遂に閃く|廻し蹴り落とし《ひかり》を叩き落とす。
「似たような『影』同士、もしかすると大きく勝敗を分けたのは、体を自由に使えるようになってからの|年月《じかん》、かも知れないね」
……そこから先は一方的だ。贋物の千里眼では捉え切れない無数の槍の流星群が脚へ、急所へ、刀の影に降り注ぎ――。
「デスギガスの体躯を再現するよりも、それを仮想の質量で再現した方が取り回しと機動力が良いだろう?」
そう、アルテミシアは僅か優越の微笑を浮かべ、再びその身を加速させていく――。
大成功
🔵🔵🔵
神崎・伽耶
ふうん、此処がサイハの世界。
綺麗な夕陽はUDCチック。違和感ないわね~。
……前言撤回。
殺気丸出しじゃない、少しは隠しなさいよ?
ま、仕方ないからしばらく伽耶さんがお相手しましょ♪
相手の殺気は笑みに溶かし。
真面目ちゃんと正面から殺り合うつもりはないわ。
ってか、同じ土俵に上がる必要ないじゃない。大人は狡いのよ♪
急ぎ距離を取らせてもらってから。
ふわり、飴ちゃん発動。
あとは死角を意識しながら、攻撃を見切って躱す!
殺気で首筋ゾクゾクするから、勝手に避けちゃうわね?
死角から来るのがわかってれば、敢えて誘い込むのも乙だけど。
あたしじゃ決定力に欠けるからね?
でもまあ。
今回の隠し球は。
雷ヨーヨーからの、隠刃蹴り!
「ふうん。此処が噂に聞いたサイハの世界、ねぇ?」
数か月に一回の恒例行事。今度はどんなヘンテコ世界と思いきや、何やらちょっと懐かしさを覚えるのは、よくよく見知った街並みや地名のせいだろうか。ファンタジー世界だとかロボットが闊歩する世界に比べれば、あまり別の世界に来た、と言う感覚は無いかもしれない。
「綺麗な夕陽もUDCチック。違和感ないわね~」
ゆっくりと山間へ沈みゆく日の入りに情感たっぷり浸りつつ、路地に打ち捨てられていた新しめのガイドブックをパラパラ捲る。そこに記載されている観光名所や名産品の類もUDCアースのそれと特段変わった部分は無さそうだが、この世界、全国津々浦々のご当地品を激推しするオブリビオンが引っ切り無しに現れるというのだから、そこの所グルメライターとして|食べ比べ《チェック》してみる価値はあるかもしれない。
「――なんて、軽い旅行気分でウキウキしてたところなんだけど」
神崎・伽耶(トラブルシーカー・ギリギリス・f12535)は溜息一つ、ガイドブックを|グリュプスの魔法鞄《かばん》に押し込め、尋常ならぬ殺気を放つ刀の影と対峙する。
「……前言撤回。殺気丸出しじゃない、少しは隠しなさいよ?」
「隠す道理が何処にある?」
やんわりと窘めるような伽耶の言葉に、影は問答無用とばかりに敵意で返す。
「成程、そーゆータイプってコト。だったらまぁ……仕方が無いわ」
|一般人《エスパー》がたちまち頽れる程の邪気に晒されながら、それでも伽耶は自然体を崩さない。相手の殺気を笑みに溶かし、引き抜いた|鞭《ヒップホップ》を二度、三度、数度大きく振るって手に慣らす。
「しばらく伽耶さんがお相手しましょ♪」
影目掛け、唸りを上げるヒップホップ。しかし、幾度いなし躱そうが、幾度獲物を付け狙う粘着質なその鞭の性質を、影は僅か数手のやり取りで見切り、回避が困難ならばと|痛み《ダメージ》も覚悟、千里眼にて強引に、不可視の域まで加速した鞭を掴み取り、そしてさながら大魚を釣り上げる要領で思い切り、それを引き寄せる。
「あら、|嘘《うっそ》!?」
『ワー! 空ヲ飛ンデルヨー!?』
『釣リ上ゲラレチャッタヨー!』
鞄からひょっこり顔を出したばす停が騒がしい。引き寄せられるままに死角を晒し、このまま行けば相手の必殺圏。待ち受けているのは熊に狩られた鮭の如き結末だが、先ずは深呼吸。伽耶にとってこの程度のトラブルは|日常茶飯事《いつものこと》。此処は慌てず、窮地の閃き、ウィッチロープを適当な街灯に引っ掛けて、自由落下する自分の軌道を無理矢理変えてやり過ごす。
ヒップホップの小手調べで、グリモア猟兵の言っていた『遣う』の意味を実感として理解する。こんな|武術家《まじめちゃん》と正面からやりあってどうなる物でも無いだろう。と言うか、同じ土俵に上がる必要も無い。
……ので。大過なく地上へ戻ってきたその刹那、踵を返して回れ右の全力ダッシュ。
『エー!? 敵前逃亡シチャッテルヨー!?』
『大丈夫!? 大丈夫ナヤツナノコレー!?』
「シャラップ! 大昔の偉い人は言いました。三十六計逃げるにしかず。大人は狡いのよ♪」
|理想《カッコつけ》で腹が膨れれば、ギリギリスなんてやってない。鞄からバイクを取り出し跨って、アクセル全開シティドライブ。信号無視に関しては、替わりに世界を救うので、そこのところどうかお目溢ししていただきたい。
影は此方を追い縋る。単なる全力疾走で、バイクに迫らんとするその速度、|封印《いましめ》に抑え込まれているとしても、|箍《リミッター》の方は外れていると見た。
だったらそっちはこっちで何とかしよう。
「そんなカッカしてないで、ほら、あめちゃん、いかが?」
そう口遊み、伽耶が呼ぶのは飴色の靄。甘ったるい香りと共に、靄は真っ赤に染まった戦場をすっぽりと覆い隠し、同時、全方位からの不可視の攻撃が、影の進撃を阻む。『不可視』が見える程に目が良いのなら。逆にこれは効くだろう。なまじ見えてしまうが故に、放置は出来まい。
けれども決して気は抜けない。靄に苛まれている筈なのに、此方へ飛んでくる斬撃波の狙いは正確で、伽耶のハンドル捌きは右へ左へ忙しなく。
兎も角ここは意を決し、斬撃波の根源へと迫る。
絶え間ない殺気にゾクゾクする首筋の感覚一つ頼りに、押し寄せる斬撃波の群を紙一重で躱し、いっそこのまま轢き飛ばしてやろうかと言う勢いで極至近まで肉薄するが、靄の晴れたその先に影の姿なく、ただ、自身の背後、完全な死角に、あからさま此方を狙う気配が一つ。
「……もしかして、殺気を当てるだけで攻撃が成立するって事? 蛇の道が過ぎるんじゃない?」
そう言って、振り向いた目鼻の先には熊手薙ぎ。
……もしも影が万全の状態なら、それで狩られていただろう。
だが、散々降り注いだ靄の攻撃が、伽耶に死角へ回った影の動きを察知するだけの時間を与える。そして咄嗟放ったヨーヨーを、苦し紛れと影が払いにかかった刹那、青白い電流が迸り――。
「からの~?」
ヨーヨーの放った電撃が、一瞬、影から攻撃も防御も取り上げて、
「今回の隠し球!」
伽耶がバイクを踏み台に高く跳ぶと同時、|踵《スニーカー》からギラリと|凶器《やいば》が飛び出した。
靄。ヨーヨー。その二つで欠け気味の|攻撃力《決定力》を補った渾身の蹴撃が今――。
.
何より刃を欲する刀の影を、容赦なく斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵
六島・椋
【骸と羅刹】
その気骨自体は嫌いではないが
殺す者、というのはあまり好きではない
真っ正面からやりあう道理もない……いやなんか普通にやりあってるやつはいるが
エスタが気を引いた隙にUC発動
夜になるぞ、黙って寝ろ
エスタが腕を振り回す間、今度はこっちに引き付けて時間を稼ぐ
死角からの攻撃は我々もそれなりに|得意とするところ《【二回攻撃・早業】》だ
数の利でなるべく隙を与えないように攻撃したり、からくり糸で足を狙ったりしつつ動く
あらかじめ武器や|骨《かれ》らの爪などに塗布しておいた毒で、こちらが触れたり相手が防いだりしてもダメージが蓄積するように
ついでに発光塗料も相手に仕込んどこう。ぶっ飛ばすのはあいつの仕事だ
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
そーだな、シンプルイズベスト
敵がオブリビオンなら仕留めるまでよ
猟兵の姿、か
気にならねぇ訳じゃねぇが今は置いとこう
敵は不自由な身の上らしい
わかる
ちっと付き合ってやっか
|拳《【グラップル】》で相手をしよう
まぁ実家での修行をサボり途中でブッチしたんで、
【怪力】任せの【暴力】だが【存在感】マシマシよ
敵のUC発動前の無防備になる隙を逃さずに攻撃して発動を阻む
発動しちまったらしょうがねぇ
【激痛耐性】で耐えつつ吹っ飛ばされる
なかなかの腕前じゃねぇか
じゃあ椋
あと任せたぜ
椋の靄ン中で『羅刹旋風』発動
悠々と腕を回しておくぜ
椋の戦闘音で大体の位置は分かるだろ
接敵した瞬間殴り掛かる
よう、さっきぶりだな
不気味なほど鮮やか緋色に暮れなずむ戦場。歪つ、|人気《ひとけ》の絶えた街の角。そして何より、何もかもをどす黒に塗りつぶそうと蠢く邪念。
……嫌な感覚だ。刀の影を前にして、六島・椋(ナチュラルボーンラヴァー・f01816)は本能的にそう思う。
「その気骨自体は嫌いではないが……」
一瞬焦茶の瞳を伏せて、そうもいかぬと悍ましき影を再び視界に収める。自身と|骨《かれ》らを繋ぐ糸をすら、さながら眼力一つで断ち切らんとぎらつくその姿。あまり直視はしたくない。
怖じている訳でも無ければ、|猟兵《なかま》と同じ姿の敵への躊躇がある訳でも無いが……この類の殺気を放つ輩の正体は、往々にして知れている。人の|血肉《いのち》を断つことを、何よりの快楽とする……即ちあれは『殺す者』。
命を何とも思わない輩が|骨《かれ》らに敬意を払う所以もなく、無辜のかれらを軽々に壊し、砕き、弄び――故に決して相容れぬ。
立ち振る舞いから察するに、かなり高度な武術を修めているらしいが、既にその|拳《て》が真っ赤に染まって見えるのは、夕陽のせいだけでは無いだろう。
「真っ正面から馬鹿正直にやりあう道理もないな……だからエスタ、」
「――ああ。そーだな、シンプルイズベストって奴だ」
いいや別に全然そういう話の流れじゃなかったろ。と言う椋の真っ当な抗議は、ずしんと大きな碑の如く、深々地面に突き刺さった|鉄塊剣《フリント》の|轟音《おと》に掻き消された。
首を回して腕を鳴らし、|準備運動《ウォームアップ》もほどほどに、エスタシュ・ロックドア(大鴉・f01818)は自身に向けられる斬り裂くような|視線《さつい》を跳ねのけ、逆に眼を付け返す。
「猟兵の真の姿、か。気にならねぇ訳じゃねぇが――」
なぜこの世界にそんなモノがオブリビオンとして現れるのか、興味はあるが、今は捨て置くしか無いだろう。
「そのうちばったり自分自身の真の姿と出くわしたりしてな」
「よせよ。縁起でもねぇ」
椋の|冗談《かるくち》に、エスタシュもまた笑いながら軽口で返す。とはいえ、姿同様、|本人《オリジナル》が持つ装備や技量をそのまま扱えるのは脅威だろう。最も、眼前の刀の影に関して言うのなら、何かしらの|封印《いましめ》までそのまま引き継いでしまったらしい事には――自業自得とはいえ――少々同情するが。
「不自由なぁ……解る。何にせよ、窮屈なのは如何仕様も無く息苦しいもんさ」
三十余年も生きていれば、苦い記憶もそれなりに。それらをそんな事もあったなと笑って流せる今の自分は、少なくとも刀の影より窮屈では無いのだろう。
「成程な……察するに、服のサイズの話だな」
「いいや別に服のサイズの話じゃねぇよ? 全然そういうそういう流れじゃ無かったろ!?」
椋の言に合わせて骨格人形達が『解る』みたいなジェスチャーを飛ばしてくるが、お前ら痩せも太りもしないんだから服のサイズとは無縁だろう。絶妙な理不尽感があった。
けれどもまぁ、激戦前のリラックスにはちょうど良い。それじゃあちょいと気張って来るかとエスタシュは不敵な笑みを湛えたまま、刀の影へ吶喊した。
「おう、何処かの誰かの偽物さん。誰彼構わずぶっ殺そうってその|気概《いらだち》、俺で良けりゃあ付き合うぜ?」
こう見えて、面倒見は良い方だからよ! 威勢充分、叫びながら振り下ろした拳は、しかし、半身、半歩、ひらりと躱される。子供の頃飽きるほど見た古武術系の|足捌き《うごき》が不意に脳裏を掠めた。
「自ら得物を投げ捨て向かってくるとは酔狂な。図図しくも、それで大上段から正々堂々を気取るつもりか?」
「まさか。|拳《グラップル》で相手をすんのは――単に俺の|流儀《きぶん》の問題さ」
無遠慮に拳を振り回し、足癖悪く蹴りを放つ。しかしどれもこれもが紙一重。応酬に、超高速で迫るのは鋭い手刀。ひとたび思い出せば次々と、連鎖的に実家での修行の日々が頭に浮かぶ。何かこう――この手の攻撃に関してはこう避けるのが正解だと教わったような気もするが――所詮は途中でサボって|出奔《ブッチ》した付け焼刃。記憶を縁に生半再現したところで大怪我するのがオチだろう。こんな土壇場で生きるのは、何より自分の身に染みたモノ。つまり……暴力だ。
大きく開いた掌で、寸前急所に至る手刀を受け止める。影の爪先が深々エスタシュの手を抉り――しかし、捕らえた。
「なかなかの腕前じゃねぇか。でもなぁ……!」
ごうと吹き出る群青色の炎。だがそんな傷には目もくれず、掴み、捻り上げ、投げ飛ばし、叩きつける。少しは効いたか、影は立ち上がりながら口端から零れた血を拭い、だらりと。無防備に。否。これは大技への予備動作。
そうはさせじとエスタシュは、型も、躊躇も放り投げ、怪力そのもの思い切り、勢い付けてぶち当てる。
だが。
「軽いな。その拳。まさかそれで全力か?」
「……はっ。言うじゃねえか」
エスタシュが全てを一撃に振ったのなら、影もまた|大怪我《ダメージ》覚悟で防御を投げ捨て、
「……|失敗《しく》ったか。じゃあ椋、あと任せたぜ?」
瞬間。雲耀雷撃の一閃が、エスタシュを彼方まで吹き飛ばす。
「――ああ。任された」
激しい衝撃音と激突音。相棒がどこぞのビルへめり込んだのを皮切りに、椋と骨格人形達が本格的に動く。
エスタシュを退けた刀の影が次の獲物を物色しようと周囲を見回す。が、
「あっちの蛮行に釣られて数手、此方への対処が遅れたな。まああそこまで存在感マシマシに大暴れされたら無理もない」
蛮行呼ばわりは酷くねぇ? と何処からか非難めいた声が聞こえたような気がしたが、特に気にしないことにした。
「さあ、夜になるぞ、黙って寝ろ」
気が付けば、周囲に立ち込めるのは闇の如き黒く深い霧。刀の影は霧の隙間から天を見た。この季節、日没まではまだ早い。だが椋が呼んだ霧は、まるで夜の闇を借りてきたように、何もかもをも包み込み、かたかた、がたがた、彼方此方からざわめくように骨の音。
「|視覚《め》を奪い、|判断能力《じゆう》を奪う。死角からの攻撃は我々もそれなりに得意とするところだ」
一瞬。波立つように、骨の音が大きく響いた。指先より、糸を伝って意図のまま、骨格人形達が闇を征く。
先手を切るのは|人体骨格人形《オボロ》の白掌。そろりと闇より背後から、刀の影に忍び寄り黒に紛れたダガーを無音、振り下ろす。しかし影とて無策の棒立ちではあらず。疑似グリモア閃く両眼の超視野で、|現在《いま》を透視し|未来《さき》を読み、寸前オボロの襲撃を、薄皮一枚掠める程度の被害に留め、即座反撃に転じるが、|竜体骨格人形《ナガレ》の尾撃と|鷲獅子体骨格人形《ハガネ》の爪撃がそれを遮る。その隙に、オボロはかたかた、笑うように闇に紛れ、入れ替わり、空から降ってきたのは|馬体骨格人形《ヨハ》の強烈な踏みつけだ。
それでも影には見えている。
「……っ!? これは、貴様小細工をっ――!?」
「ああ。するとも。そう言うのは得意な方でな」
見えている、はずだ。だが、異様に身体が重いと影が気付いたのは、余裕で回避できた筈のヨハの前足を、咄嗟間に合わず、やむなく受け止める判断をして直ぐの事に相違ない。
黒霧が連れてきたのは骨の音と、睡魔。微睡みの|封印《いましめ》は、オボロが刃を振り下ろす更に前より、影の思考を蝕んでいた。本来の影の身体能力なら、オボロの一撃すら軽く躱していただろう。
だが最早取り返しはつかない。紙一重の切り傷が。皮膚が擦れた防御痕が。刃や|骨《かれ》らの爪先に塗布した毒が、不自由な刀の影からさらに自由を奪い取る。
そうして皮肉にも、闇の淵より影目掛けて迫る|熊体骨格人形《ヨイ》の爪。影は舌打ち、眠気を噛み殺し、|熊《ヨイ》の攻撃を、熊が剛爪を振るうかのごとき諸手薙ぎ払いで受け止めるが、|骨《かれ》爪にもまた、毒が。
それでも最早構いはせぬ。ヨイの死角は取らせまいとくるくる踊る|蝙蝠骨格人形《サカズキ》達を押し退けて、意趣返し、せめてこの熊だけでも屠ろうと、諸手に全て薙ぎ払おうとした、
その刹那。
「――よう。さっきぶりだな?」
敵も味方も黒くて深い霧の中。けたたましくも鳴り響く戦闘音と、骨格人形達がさり気に仕込んだ発光塗料を頼りに、全身から流す|血液《ほのお》も明々と、エスタシュは再び、刀の影の前に立つ。ぶっ飛ばすのはエスタの仕事だろうと、至れり尽くせりのお膳立て。また『貸し』が増えそうな予感がした。
突如現れた羅刹の大男に、刀の影は何かしら、言葉を交わす余裕も曝さず、問答無用に雷気を奔らせる。が、廻し蹴り落としを見舞おうとした直前、不意にがくんと、軸足が何かに引っ張られ、構えが乱れた。
「真っ暗だからな。足元注意だ」
それは舞踊の傍ら、サカズキ組達が密やか巻き付けた椋の操り糸。
乱れたフォームから、顔を歪め、刀の影はそれでも、無理くり意地でエスタシュに蹴りを放つ。
……先程と同じだ。影が無理矢理攻撃を仕掛けてくるというのなら、此方も無理矢理|激痛を凌ぐ《うけとめる》のみ。
そして。一閃の後の残光が浮かび上がらせるのは、毒と睡魔と糸に囚われ儘ならぬ無防備の状態に陥った刀の影と、闇の中、密やか悠々と全力の数倍以上に力を蓄え、今まさに炸裂しようとする羅刹の|旋風《こぶし》。
――瞬刻。隕石の、地を穿つが如き轟音が、戦場に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・明莉
「ケルベロス」やら知らん単語が出てくるな
世界が以前とは少し違うんだなと改めて納得
まぁ、やる事は変わらないし
相変わらず1人で闘う訳ではなさそうだ
他の猟兵達と連携して対敵する中で
軽めの攻撃はカウンターや拳で受け流しつつ隙や急所を見抜いてこう
…闘気を纏うのはお互い様だ
夕暮れの視界の悪さを活かし闇に紛れ死角から思い切り懐に飛び込もう
その瞬間にオーラ【櫻光花滴】を身に纏い防御を高め、敵の服をふん掴む身体を寄せ超近接
ここまで近けりゃ命中率の悪さも多少マシか?
無防備になる瞬間ついてUC【鋼鉄拳】で2倍の威力を叩き込む
キキの言うように『こちら』のヤツじゃないんだろうが
行き着く先は同じ『骸の海』てトコなんかね
淳・周
ファフニールは変わんねえな…
だがあの頃からアタシも成長してるんだぜ?
今度こそ叩き潰す、が、その前に便乗犯を叩きのめさねえとな!
皐月のオーラ燃え上がらせ妖刀の影に殴りかかる!
てめぇも素手でやり合うんだろう?
アタシもだ!
徒手空拳で戦いながら向こうの動きの癖を読み、構えを取ろうとしたらUC起動、硬度最高の燃え盛る紅炎の手甲を両手に装着しアッパー叩き込む!
発動前後が無防備になるなら発動前に思い切り空へ怪力で打ち上げて構えを崩してやるぞ!
不安定な体勢からだと強烈な一撃も完璧な威力や速度は出せねえだろう?
狩る側の気分かもしれねえが、アタシにとっちゃてめぇは狩られる側だ。
ぶっ飛んでろ!
※アドリブ絡み等お任せ
「ケルベロスやらエンドブレイカーやら、知らん単語が出てくるな」
本音を言うなら、自分自身が『猟兵』と呼ばれる事自体、どうにもまだまだ馴染みが薄い。
――見知った世界の見知った街角。そこに突如現れた、日常を脅かす新たな敵と、それに立ち向かう異界の戦士たち。
その激闘を銀の瞳の視界に収め、木元・明莉(灼滅者のストリートファイター・f43993)は暫し、思索を巡らせる。
思い返せば、過去に倒したはずのダークネスが復活し、サーヴァント達が自由気ままに動き出すようになった辺りから、兆候らしきものはあったのだろう。
「|サイキックハーツ《ここ》以外にも、三十幾つの世界が在るんだってさ」
「それはまた……いきなり随分とSFだよな」
同じ|灼滅者《なかま》である淳・周(赤き暴風・f44008)の言に、|素直《シンプル》な反応を返しつつ、明莉は泰然、|呼吸《いき》を整える。
何時の間にやら自分にも、異なる世界を行き来する能力が備わっていたと云うが……今この瞬間重要なのは、他所の何処かへ思いを馳せる事では無いだろう。
見知った世界の見知った街角。しかし世界は少しだけ、以前までと景色を変えた。
明莉は幽か口元に笑みを浮かべる。あの日の夕暮れから舞い戻ってきた金色狐もそうだが、まさかダークネス達と損得抜きに肩を並べて闘う日が来ようとは。
「……それでも、|灼滅者《俺たち》のやるべきことは変わらない」
周と互いに頷いて、瞬間、いつものように地を駆ける。
どれだけ何かが変わろうと、独りで戦う訳じゃない。ならば相手が未知の敵だろうとも、かつてと同じく、やりかたは無数にあるのだ。
明莉の振るう|斬艦刀《激震》が、夕陽を受けて大きな大きな弧を描く。瞬間斬り捨てた、と俄かに確信するも手応え無く、刀の影は紙一重、刃の間合いから距離を取る。
が、敵に安全圏をくれてやる道理も無い。影が退いた逃走経路を一気に辿り、周は影を追い詰める。
「――『起きろ!』」
瞬間翳したスレイヤーカード。直後燃え盛るのは焔血の如き紅の闘気。さしもの影も続けざまの連携に、その身を躱す猶予なく、忌々しげに周の|拳《こぶし》を受け止める。
「てめぇも素手でやり合うんだろう? アタシもだ!」
「呵呵! |灼滅者《スレイヤー》! 数多のダークネスを|灼滅《ほふ》りしこの世界の覇者共か。面白い!」
影は嗤う。その供笑は、武を極めんとする格闘家のそれではない。血と死に狂う、如何仕様も無い破滅を誘う者の、壊れた笑みだ。
そのまま紅の闘気をやり過ごし、姿勢を崩した周へ影が振舞うのは、殺意に塗れた不可避の拳。
「そんな大層なコトじゃない。俺達はそれぞれが思い描いたばらばらの|結末《モノ》を、紆余曲折の末、如何にか掴み取った。たった、それだけの話だ」
しかし寸前、明莉が割り入って、周の代わりに影の殺意を受け流し、彼もまた、握りしめた拳にて、|応酬《カウンター》への|応酬《カウンター》を返す。
数多の戦いを経た今ならば、|攻め《クラッシャー》から|守り《ディフェンダー》へのスイッチも淀み無く流麗に熟せよう。
そうして明莉が手繰り寄せた僅かな間隙に、周は即座意識を立て直すと疾駆して、勢いそのまま刀の影を蹴り穿つ。
……赤の大空。一瞬の静寂。思い出すのはあの日の夕暮れ。
――ファフニール。
|もう一つの夕焼け空《イフリート》に話を聞く限り、あいつは|骸の海《うみ》に堕ちてもそう変わりはしないのだろう。終わった筈の因縁に、再び炎の灯った感覚があった。
(「けどなファフニール。あの頃からアタシも成長してるんだぜ?」)
ならばこそリベンジマッチだ。赤の瞳がぎらりと燃える。全霊を以て、今度こそ叩き潰す!
……だが。その前に。
「便乗犯を叩きのめさねえとな!」
「出来るのか? 貴様らに?」
口の端を三日月に歪め、影は嘲笑う。確かに便乗犯の一言で済ませるには隔絶した技量を持つ相手だが、手は有る筈だ。
影が拳を振るえば、灼熱の血液が飛び散って、朱の戦場を火花の如く照らす。明莉の援護があって尚、相応の代償は払ったが、その甲斐あって光明を掴む。此方がこう言う攻撃を繰り出せば、あちらはこう返すのだろうと言う、千里眼を以てしても隠しきれぬ、宿命的な、動きの癖。
真正面に突き出した、渾身の拳が払われた。ならば次は、そう。絶対的な暴威を見せつける為の、廻し蹴り落としの――。
「――構えたな?」
瞬間。ごう、と陽の如く、周囲の大気を燃焼し、顕現するのは何より|熱《あか》い紅炎の手甲。その|紅炎《ほのお》を写し取った影の瞳が一瞬揺らぐ。ここまで来たなら切り札を限界まで隠していた周の堪え勝ち。回避。防御。千里眼。いずれも既にもう遅い。
「狩る側の気分かもしれねえが、アタシにとっちゃてめぇは狩られる側だ」
突き進むしかないのだ。周の情熱を掻き消す様に、雲耀雷撃の一閃が奔る。
「不安定な体勢からだと、強烈な一撃も完璧な威力や速度は出せねえだろう?」
しかし、最高硬度の紅炎は、それよりなお迅く。
「ぶっ飛んでろ!」
強く、鋭く、抉り抜き、咆哮と共に怪力のまま突き上げた拳は、刀の影を大空高くかち上げた。
古今東西、或いは異世界までをも含めても、武術の真髄は即ち足の|捌き《はこび》にあると、明莉は嫌と言うほど識っている。
故に今、どれほどの遣い手であったとしても、自由落下・錐揉み状態のそれに、激震が虚空へ撃ち出した衝撃波を受け止める術はない。
さらに吹き飛ばされた影は、着地と同時斬撃波を乱れ撃つ。抉れる地面。裂かれる建物。これだけ暴れて刃が使えぬと嘯くのも甚だしい。周が放つ|紅炎砲《オーラキャノン》の援護も受けて、明莉は銀の大刀、その刀身を大盾に、怯む事無く影へと一息、一直線に肉薄する。
ダークネスでも無い。闇堕ち灼滅者でも無い。キキの云うように、『こちら』に似て、しかし非なる正体不明の|何者か《オブリビオン》。この世界で惨劇を引き起こそうと躍起になっているさまは、見ていて面白い物では無いが、あの影を永遠に黙らせるには『|宿縁《えん》』が無いと、灼滅者では無く猟兵としての直感が告げている。
「けれど……骸の海、だったか」
完全に灼滅出来ずとも、一時そこへ退かせることは出来る筈だ。衝撃波を放った時より目論見通り……影との距離を詰めきった明莉はそのまま激震を叩き当て、弾き飛ばす形で、人形遣いの猟兵が残した黄昏時よりなお暗い『夜闇の如き黒霧』に刀の影を押し込むと――慣れた動作で激震を玄武紋のスレイヤーカードへ収納し、自らもその闇の中へ飛び込んだ。
光の届かぬ暗夜行。しかし互いに高度の遣い手ならば、|視覚《め》が使い物にならずとも敵の位置など知れて居よう。明莉は全て見えているかのように、迷いなく、思い切り、見えずの影の懐に飛び込んだ。
僅かな気配で影もそれを察したか、拳に雷光闘気を蓄えて、神速、『其処』にいるであろう明莉へ当たりを付けて撃ち放つ。
「闘気を纏うのは……」
――刹那。ひらりと。無明の闇のその中心、桜の花弁が舞うように、明莉を覆う光の霊気が轟く雷撃を遮断する。
「お互い様だ」
「貴様……ッ!」
ぐいと、敵の上着を掴んで、引き寄せ、超近接。零の距離。
闇に紛れた明莉を|警戒し《おそれ》、防御をも貫く蹴殺の構えを躊躇った。たった一手の逡巡が、明暗を分けたのだ。
目鼻の先すら見えぬ夜霧の黒。周囲を照らす光源は、櫻光花滴一つのみ。
だが。ただ只管に鍛え上げ、幾度もの激闘を潜り抜けたこの光が、今更虚像を映す道理もない。
――存分に|覇気《ちから》を籠めた鋼鉄拳が、邪念も殺気も一纏め、刀の影を打ち砕く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
闇月・心愛
※アドリブ連携OK
『種族も派閥も過去の因縁も乗り越えて二分!つまり誰を斬れば良いか一目瞭然♪わっかりやすーい⭐︎』
だからの連戦で面倒なんだって。まずはみんなを助けないと。
『はいはーい⭐︎』
私達と同じ妖刀使いだね。いや、使われてる、のかな?
こちらから仕掛けるよ。刀を抜いてUCを発動!
『熊手薙ぎは素手を使った受け止め!そこに刀の斬撃を合わせたら流石にダメージ入るでしょ♪』
でも蛇の道は厄介かも。攻撃に【斬撃波】を乗せて回り込む隙を減らすね。
『アハハッ⭐︎呪物の風上にも置けないよね!私だったら心愛を素手で戦わせたりしないもの♪』
寿命を削る誰かさんとどっこいどっこいだと思うんですけどー……。
何時の間にやら、既に夕陽も微睡み半眼。灼熱色の大空に、じわりと宵の色が滲みだす。
勢い付けて振り被り、懸命伸ばすのはワイヤーと言う名の命綱。刀の影が撃ち放つ、嵐の如く乱れ舞う斬撃波の僅かな間隙を潜り抜け、闇月・心愛(アンサラー・f16155)は窓割れの、何処かのビルの何階か、知らないオフィスに身を隠す。
『これまでの! サイキックハーツのあらすじ! 種族も派閥も過去の因縁も乗り越えて|生者《みかた》と|死者《てき》に真っ二つ! はい♪ あらすじ終わり⭐︎ つまり誰を斬れば良いか一目瞭然♪ わっかりやすーい⭐︎』
首から下げたスマホの中の『玖琉美』が燥ぐ。
そりゃあお金目当てで誰彼構わず一般人が襲い掛かってきた|前回《サイバーザナドゥ》に比べたらましだけど、そう零しながら心愛は身を屈め、そろりと窓の縁より|刀の影《そと》の様子を窺う。
「だからの連戦で面倒なんだって。結局、|死者《てき》の方が多くなるのはお約束だし。だから私達も頑張ってまずはみんなを助けないと……」
『はいはーい⭐︎ それじゃ今回も景気よく|抜刀《つか》おっか♪」
「……まぁ、やっぱりそうなる?」
『なっちゃうねぇ~⭐︎』
此方は『使える』。向こうは『使えない』。そのアドバンテージを利用しない手は無いだろう。と頭では理解しているが、己の命を削る|荒慚々鬼《かたな》柄に手を掛ける度、躊躇の心が芽生えるのもまた事実だった。
『大丈夫♪ 今回は張り切って大暴れするけど出血大サービスで命は吸わないってさ⭐︎』
「えぇー……?」
時折気紛れに見せる気安さが逆に怖い。と言うか、そう言う器用な事が出来るならそもそも命を吸わないでほしい。
……心愛は暫し両眼を瞑った後、意を決し……するりと禁呪のヘアゴムを前髪から落とした。
夕闇に紛れ、さながら|弾丸《たま》の如く放たれたワイヤーが影の至近を掠めて地を穿つ。
下手糞め。そんな嘲り混じりの瞳が線の始点を辿れば――其処にはワイヤーの収納を利用し超高速で突っ込んでくる『玖琉美』の姿。
主の意のまま|封印《いましめ》を解かれたもう一本の妖刀が、すれ違いざま居合の要領、抜けずの影を斬り伏せる。
……が。影は寸前、|疑似グリモア《未来視》を瞬かせると、難なく|熊手薙ぎ《うで》を前に、
『――止められた!?』
「うん。抜き身の|妖刀《やいば》を、生身の|素手《うで》でね♪ 意外と平気な風を気取ってるけど……ほら⭐︎」
愉し気にそう笑って、玖琉美がスマホの中の心愛に見せた荒慚々鬼の刀身には……鮮やかな朱の色がべったりと。
「貴様……さては|呪物《どうるい》か」
「ふっふっふー⭐︎ 大体合ってる感じのご明察♪」
揶揄う様な玖琉美の言動にも無感動に、影は己が腕に塗れる血液を邪魔なモノと振り払い、地を蹴り一足、息もつかせぬ格闘術で玖琉美を攻め立てる。
『私達と同じ妖刀使い――いや、使われてる、のかな?』
「そう考えると、能く『使ってる』よね⭐︎」
絶え間なく押し寄せてくる熊手薙ぎの連撃を、玖琉美は守勢、丁寧に妖刀で捌き、反撃の際もまた執拗に刃を疾らせ生身の防御を苛む。
そんなもう一振りの妖刀の振る舞いに、影は警戒を強めると、瞬刻|戦術《リズム》を入れ替える。より用心深く、蛇の如く狡猾に、刃の前から退いて、|剣閃《やいば》の届かぬ死角から――。
「おっとっと⭐︎ それはダメー♪」
強襲を仕掛けようとする刀の影の目論見を、玖琉美は直前、斬撃波で薙ぎ払い、影もまた斬撃波を放つ。が、抜き身の分だけ玖琉美が上だ。相手のそれを砕き、触れずに影を斬り裂くと、影は序盤とあべこべ建造物を盾に身を隠す。
そして静寂と共に、戦場の全方位が玖琉美の死角と化した。
「……多分だけど。あの影のオリジナルの人は、かなり|真面目《シリアス》に自分の妖刀と向き合ってるんじゃないかな? 刀の怨念が実体を得ても決して刃を使わせない位、生真面目に」
『え? それじゃ話の流れ的に、私が不真面目だって事にならない?』
「それはだってまぁ……心愛は夕方結構遊ぶし買い食いするし?」
『ぐぬぬ……』
何か言い返したかったが、事実なので言い返せなかった。
そんなやり取りの最中にもいずこかの死角から、影が迫る気配がある。何時襲われても不思議ではない。
それでも玖琉美はいつもの|夕方《やすみ》の時のように気楽に笑い――しかしもうすぐそこに、影の殺気が。
「なのでここから先は不真面目妖剣士の滅茶苦茶殺法♪」
歌うようにそう口遊みながら唐突に、玖琉美はぎぃんとギターを掻き鳴らす。全方位の音響攻撃に、もうすぐそこの死角に潜んでいた影は、咄嗟耳を塞ぐ訳にもいかず怯んで姿を晒し、
「そう♪ 私達は結構遊んでるから? ギターも弾くしゲームもするし? 逆に結構実地で働いてもいるから――」
銃を使うのも全然アリなんだよね♪ 言って玖琉美は至近距離から記憶消去銃の引き金を引く。オブリビオン相手に銃の効果は一瞬だろうが、一瞬あればそれでいい。
――刹那。彼岸の如く血が飛沫く。|防御《かまえ》を忘れた刀の影へ存分に、荒慚々鬼の目にも止まらぬ斬撃乱舞が閃いた。
「アハハッ⭐︎ 呪物の風上にも置けないよね! 私だったら心愛を素手で戦わせたりしないもの♪」
『……うん。それはまぁ有り難いけれど、でも、正直寿命を削る誰かさんとどっこいどっこいだと思うんですけどー……」
……飽きるくらいついてきた妖刀に関する溜息を、スマホの中で心愛は今一度、大きく吐いたのだった。
●不変の巷
「――ち。|限界《おわり》か。だが良い。命一つを使った体の『慣らし』も、そう悪くない感触だ」
我が宿縁未だ断ち切られず。ならば『次』もあるだろう。死に逝くはずの妖刀の影は、ゆるり、沈む西陽を仰ぐと、途端|表情《かお》を歪め、嘲りの大笑を張り上げた。
「呵ッ呵呵呵! 愉悦の為に、或いは然したる意味も無く無辜の者を惨殺する。正義だの、何かを護るためだの、潔癖な題目を掲げ敵を屠る。どちらもそう変わりがあるものかッ!」
いずれ死した物は過去となり、もはや何処にも進めぬそれらはただ、生あるだけで進み続ける者が妬ましいのだ。呪言を吐き出しながら、影の形が大きく崩れ始める。
「一皮剝けば何処の|巷《せかい》も憎悪と怨嗟に満ち満ちて、どれだけ世界が変わろうと、否、変わったからこそ、それらは決して尽きぬとも。呵呵! 幾多の世界を駆けずり飽きもせずそれらを鎮める貴様らの行いは、さながら賽の河原の石積みが如きよ!」
貴様らがどこまで足掻けるか、しばし特等席で眺めるとしよう。そう言い残すと不遜の態度を崩さぬまま、跡形も無く影は消え――。
――そして。西の空より。幾多の咆哮が宵混じりの黄昏時を震わせた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『機銃デモノイド』
|
POW : 近接機銃戦
【腕部による殴打からの近接射撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 青弾散射
自身に【デモノイド細胞】をまとい、高速移動と【無数の弾丸】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 偵察魔兵
レベル×1個の脆い【飛翔する眼球状のデモノイド細胞の塊】を召喚し、攻撃や偵察を行わせる。
イラスト:キリタチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●竜の先触れ
※次回冒頭文更新7月23日(火)予定。
デモノイド。理性無き蒼の異形。破壊の化身。
今や異世界にすら侵出しているその怪物の、哀れな|素体《ベース》となったのは、何の罪なき無辜なる人間。
友と笑い、家族と過ごし、それまで只、平穏に生きてきた人々が、|悪魔《ダークネス》の策謀で、突如未来を奪われた無情の末路。
その身に巣食った|寄生体《ちから》を制御するだけの資質が無かった故|灼滅者《デモノイドヒューマン》になれず、
ひたすらに善良であったが故、極黒の悪意を以て力を自在に扱う|宿敵《デモノイドロード》になりえず、
ただ、時機に見放され、今を生きる|一般人《エスパー》になる事すら叶わなかった、
全人類が寿命以外のあらゆる死を克服し、戦争や犯罪もほぼ存在しない理想的な|世界《みらい》から、弾き出された『なりそこないの』『零れ落ち』。
……なぜ我々はそうじゃない?
……なぜ我々はそうなれなかった?
空を震わす咆哮は、同時彼らの慟哭でもあった。
最早言葉も紡げぬ大きな|顎《あぎと》で有らん限りに叫喚し、何にも繋がらず、殺す事しかできなくなった|機銃《りょううで》から、がらんどうの街へ泣きじゃくるように破滅をまき散らす。
街が砕け、ただただ空しくも|崩落音《おと》が響く。誰も居ない。誰も彼もが|過去《ひげき》を乗り越え|未来《まえ》を向いて生きている。嗚呼。
そんな行き場のない絶叫に、唯一寄り添うのは竜種の|炎《いかり》。
加護にも似たそれを受けた蒼の身体が|炎獣《イフリート》の如き強靭な赤の色に染まり、やがて吐き出す全ての|暴力《こうげき》に|紅蓮《ほのお》が帯びて、あらゆるモノを加速度的に灰燼へと変えてゆく。
即ちあれは――竜種化デモノイド。
『|生ある者《おまえ》達も、こちらに来い』
|骸の海《うみ》に溺れた|怪物《にんげん》達が、既に言葉を亡くした咎無き|異形《にんげん》達が、怨嗟混じり確かにそう……咆哮した。
――いずれ死した物は過去となり、もはや何処にも進めぬそれらはただ、生あるだけで進み続ける者が妬ましいのだ――。
……それでも。今の世界の平穏の為に。彼らを撃破しよう。
アルテミシア・ルッシュリア
…参ったね
滅びに帰結するしかないとはいえ、完全にファフニールの行いは『正義』としか言いようがない
理想世界から零れ落ちた者達の悲哀と怨嗟を掬い上げる
灼滅者と六番目の猟兵では出来ない、確定された過去だからエンドブレイカーも無理
生命の守護者たる銀誓館とケルベロスもまた然り
都合の良い未来に怒りを覚える|復讐者《オブリビオン》しか、彼らを救う事は出来ない
だからこそこう言おう――君達の悲劇等、ボクの未来に比べれば知った事か
ボクはダークネス
開き直り、今いる同胞の為に『正義』を粉砕するとしよう
遠距離を保ちつつ、弾丸を避けて鉤爪型トラウメンヴァッフェから精神と物質を侵食する超電撃と真空波を放出して殲滅しよう
「……参ったね」
薄宵闇の|街角《せんじょう》で、アルテミシアは諦観混じりにそう零し、幽か|頭《かぶり》を振る。勢い良く繰り出したロンギヌスの切っ先が、襲い来る|赤《ほのお》に染まったデモノイドを穿ち――しかしその傷は、分厚い|筋肉《にく》に阻まれ想定よりも遥かに浅い。
そんな傷などお構いなしに、赤の悪魔は岩塊の如き腕部を振り上げ、アルテミシア目掛け叩きつける。槍を引き抜き咄嗟腕をやり過ごすが、無茶苦茶に振り回されるそれが無軌道に吐き出す弾丸の、一つ一つ迄は面倒を見切れない。
避け損ねの数発が|結界膜《チェーン》を揺らし、その他あちこちへ|逸《はぐ》れた無数の弾丸が種火となってごう、と、戦場を炎に侵す。
デモノイド達が叫ぶ。それはきっと、取り残されてしまった者の、如何にもならない慟哭なのだろう。
……理想世界から零れ落ちた者達の悲哀と怨嗟を掬い上げる。闇や海、未来を拓く為強大なモノへ『抗う』事を本領とする灼滅者と六番目の猟兵にとってそれは――せめて此処が|幻朧桜《さくら》の咲き乱れる世界であればまた事情が変わって来るだろうが――少々不得手とも呼べる分野の話だろう。悪しき未来を壊して回るエンドブレイカーとて、確定してしまった|過去《エンディング》までは早々容易く手が届かない。生命の守護者たる銀誓館とケルベロスもまた然り。
逡巡にも似た思索の終わり、アルテミシアは自らのサイキックで形成した刃を振るう。光映さぬ影の剣は堅牢な|怪物《にんげん》の肉体を素通りし、その奥の精神のみを斬り捨てる。心を両断されたデモノイド達は、体を震わせ大きく呻き……しかし、彼らの歩みは止まらない。例え心が壊れていても、ただ|凶器《うで》を振り回す事さえできれば、何かを壊す事は容易いからだ。既に真っ当では無く、そう成り果ててしまったが故に。
「残念ながら。完全にファフニールの行いは『正義』としか言いようがない、のかもね」
最早都合の良い未来に怒りを覚える|復讐者《オブリビオン》しか、彼らを救う事は出来ないのだろう。だから彼らは死して尚『悪魔』の名を冠し、辿り着く事の出来なかった|愛し《にく》き|現在《いま》へその凶弾を差し向けるのか。
……しかし、結局どれだけ足掻こうと、彼らが今を取り戻す、奇跡のような|逆転劇《パラドクス》は起こり得ず、滅びに帰結するより他に道は無い。
サイキックハーツ。究極の生命体。そこに至る為のダークネス達の闘争。太古より繰り返されてきた、この世界を繁栄させる為の生命の循環サイクル。その|仕組み《システム》の犠牲者となった彼らが『そんなモノ知った事か』と仕組みの外の理屈を用いて台無しにする権利は大いに有るのかもしれぬ。
――だが。
「……だからこそ敢えてこう言おう――君達の悲劇など、ボクの未来に比べれば知った事か」
暫しの間眼を閉ざし、刹那、決意と共に敵を見据えた。月の光が無数の砲の形を成し、幾多居るとも知れない怪物達をあらゆる方位から撃ち貫く。
その反撃にと、然して狙いもつけず無暗に放たれた弾丸が街を削り、四方で燃え盛る炎の光が真昼時より明々と戦場を照らす。
光が奔れば奔る度、其処に浮かぶ影の色もまた深く濃くはっきりと。どれだけ距離を取ろうとも、銃口の群れがアルテミシアを睨めつける。アルテミシアもまた、|敵意《それ》から逃れるつもりは無かった。
絆と歓喜が斃れ、慈愛と贖罪の果て――少数なれど、しかしシャドウは未だ、生きている。振り返れば、ほんの少しの機に恵まれた、紙一重の結果に過ぎない。
そして、今は自らも猟兵なのだ。それでも命があるのなら、相手がどんな悲劇を帯びていようとも、生きるため世界の破滅に抗うのみ。
炎に照らされ、もう一つの|影業《かげ》が揺らめく。勢い伸長した影は、|暗幕《ベール》の如くアルテミシアの姿を隠すと、迫る弾丸をその身に飲み込んで、即座、同性質の攻撃を撃ち返す。
即ち炎の弾丸。竜種の加護を受けた彼らにはそう効果はあるまいが、しかし多少なりとも『傷』が付けばそれで良い。槍も剣も砲口も、全ての攻撃がそうだ。これまで負わせた傷跡も|精神攻撃《トラウマ》も、炎は全て良く映してくれた。
踊るように殴打と弾丸を潜るアルテミシアの左腕、無数の砲が収束し、鉤爪の形に変じたトラウメンヴァッフェを虚空へ振るえば、その軌跡から広範囲に超電撃と真空波が巻き起こり、異形達の肉体と精神を同時に侵食する。|物理攻撃《やり》が通らず|精神攻撃《けん》でも倒れぬ、片一方で如何にもならぬなら、両方同時、高出力でぶつけてやればいいだろう。二連二重の爪撃に苛まれた異形達は、大きく叫ぶと、竜種の炎を抱いたまま倒れ……二度と起き上がっては来なかった。
「――ボクはダークネス。かつてこの世界を支配し、君達を虐げていた種族の、その生き残りだ」
憎いのならば、来ると良い。アルテミシアがあえてそう大きく喧伝すれば、目論見通り異形達の|殺気《しせん》は先程よりも苛むようになお強く自身に集まる。
その視線は、アルテミシア本人の境遇からすれば冤罪に等しい。だがそう弁明したところで、どうなるわけでも無いだろう。
ならばいっそ開き直って、見ず知らずの先達が築いてきた悪名までをも拝借し、彼らと堂々相対する。
ほんの少しの機に恵まれた、紙一重の命脈だからこそ――今いる同胞の為に、『正義』を粉砕する事へ躊躇は無い。
超電撃と真空波が閃く。それは荒ぶる|怪物《にんげん》たちに一時、安らかな眠りを齎した。
大成功
🔵🔵🔵
神崎・伽耶
へえ。
よくわかんないけど、死者が生者を憎んでる?
怨霊が世界を呪ってる、みたいな?
UDCと似てるような違うような……ま、やることは同じね。
飯種の敵には、此処でくたばっていただくだけだわ!
蒼い巨体……行動タイプはあたしに似てるけど、馬力が違うか~。
よっし、ここは出番よきゃピちゃん♪
アンタの図体を今こそ役立てる時!
エブリロード・オン!
これで、火力は互角かしらん。
頭頂ににょっきり生えたアホ毛を鞭代わりに、死角をなぎ払いながら味方を援護。
鼻歌も絶好調、スイングしていって頂戴な!
竜種……灼滅者とやらへの執着が凄いのね。何をどうやったら、そこまで……その一途さ、ちょっとだけ羨ましくもある、かもね?
「へえ。よくわかんないけど、死者が生者を憎んでるって?」
自分に解りやすく解釈すると、怨霊が世界を呪ってる、的な。きっとそう言う感じだろう。なんだかそんな所までUDCとよく似てるような違うような気がした。散り際影は何処の巷も変わらない、などと吐き捨てて逝ったが、こんなおどろおどろしい部分まで似通っているのはノーサンキューにもほどある。変わらないのは料理の美味しさくらいで良かろうに。
「……ま、やることは同じよね」
ちょっぴり懐かしさ多めに感じる世界ではあるけれど、自分はそう接点の無い第三者で、この世界に関わる因縁からは蚊帳の外。
「あたしは結局第三者。けれども大抵、裁判所よろしく民事なり刑事なりこんがらがった因縁を横からぶん殴って何とかするのも第三者の役目でしょ?」
お節介かもしれないけれど、思いっきり首を突っ込ませてもらうわよ、伽耶はにやりと笑いつつ、ばす停を構える両腕に力を籠めた。
『エ? 裁判所ッテソウイウノジャ無クナイ?』
『司法ノ場デブン殴ルノハテロリストノ所業ダヨー』
「まぁねえ。そこの所は例えよ、たとえ♪」
折り返し疑問の声が上がるよりも先に、大きく振りかぶるとハンマー投げの要領でグルングルンと大回転。|遠心力《いきおい》のままばす停の根っこの部分を加減なくデモノイドに叩き当てる。が、当の異形はビクともしない。がっしり根を張る巨木を殴ったが如き感触で、反対に、仕掛けたこちらの手だけが痺れた。
デモノイドはばす停を難なく払い除け、その鈍重そうな巨体からは想像も出来ぬ高速度で|赤《ほのお》に染まった|銃腕《うで》を突き出す。寸前飛び退いて打撃の圏内から外れる物の、次いで待っているのはそれでも至近と呼んで差しつかえない距離からの連続射撃。味方に|誤射《あた》れど構わずに、殴打と弾は途切れることなく伽耶をしつこく付け狙う。
「赤く染まった青の巨体……はちゃめちゃやる所はちょっと親近感覚えるけど……う~ん、馬力が違うか~」
真っ向から張っ倒せれば話は早いんだけど、と、いつの間にやらしれっとバイクに跨って、伽耶はそう愚痴りながらバス停の頭の部分を盾に致命傷を躱す。今は如何にか立ち回れているが、|弾雨《あめ》をしのぐ屋根の無い野晒しのばす停などいずれ朽ち行く定めに相違なく、即ち火葬一直線だ。グルメライターの丸焼きなんて笑えない。
――ならばここは|最終兵器《ジョーカー》を切るしかない。
そう。それは、伽耶の保有する武器の中でも実を言うと最大戦力。とある世界のとある倉庫へ知らない間に紛れ込み、なあなあの内に引き取った、もふっとボディの機械の巨獣。
「よっし、ここは出番よきゃピちゃん♪ アンタの図体を今こそ役立てる時!」
びくりと脅威を察したか、瞬間、異形は攻め手を引っ込め身構える。
揺れる炎。一瞬の静寂。そこそこの窮地を乗り切るため、伽耶が叫んだその名こそ……。
『エーントリィー!』
瞬間、全く唐突に、もふっとボディの機械の巨獣――通称きゃピちゃんは異形達をのっしり踏みつぶし、伽耶の眼前にどっすんと降ってきた。
「あら、きゃピちゃん。って予想外の登場の仕方ね。勝手に鞄から抜け出して、一体何処で油を売ってたの?」
(一応)主である伽耶がそう問えば、きゃピバラはタブレットを明滅させ、
『信州そばたべてた』
「えっ、ずるい」
何という|悪《ワル》。ちゃっかり食レポまで添えて来て隙が無い。だが今はそんな悪の力も借りなければ、この状況を打破することも出来ないだろう。
「そんな訳で、兎にも角にもエブリロード・オン!」
異次元亜空間を纏い、瓦礫と炎を掻き分け飛翔するバイク。そのままバイクごときゃピちゃんに乗り込むと同時、ぎらり、円らな瞳が輝いた。比喩では無く本当に目からビームを出している。
ふふふ。『くくく』。コクピット内で二人は怪しく笑う。
「ま。これで火力は互角かしらん」
『NO! こっちが上ー!』
意外と素早いカピバラは、その機動力で異形達を攪乱し、奇襲染みたボディプレスや爪先ミサイルを景気よく撃ち放ち、順調に撃墜数を増やしていく。正体不明の異界のマシンに、呆気にとられるだけの理性が残っていたのが致命的な隙に変じたのだ。
それでも尚、諦め悪く途切れ途切れに吹き荒ぶ殴打と炎は、無駄に神々しく輝くオーラ防御で涙目堪え、きゃピちゃんは唐突、頭頂部よりにょっきり長いアホ毛を生やす。
「飯種の敵には――」
ぶんぶんと振り回されるアホ毛はやがて音を裂き、火を吹き消すほどの風圧を伴って――。
「此処でくたばっていただくだけだわ!」
きゃピちゃんの鼻歌交じり死角から、そして、死角ごと、嵐の如く異形達を薙ぎ払う。
『元一般人たちよ、痛い目に逢いたくなければ骸の海に帰るがいー』
或いはそれは、センパイの優しさが故の、敢えての凶風なのかもしれない。
「――竜種……灼滅者とやらへの執着が凄いのね。何をどうやったら、そこまで……」
|発端《おこり》は最早何の意味も無い。グリモア猟兵はそう言っていたが、それでも少し興味を惹かれ、
「その一途さ、ちょっとだけ羨ましくもある……かもね?」
伽耶ぽつりと、そう零した。
『くくく安心するが良い。お前を倒すのは竜種などではなくこのきゃピバラ――』
「チョップ!」
『うぎゃー!』
余韻的な物が台無しだった。
そう言えばキャピちゃんオブリビオンマシンだったのを思い出しつつ、信州そばを食べに出かけた割には邪悪なオーラを放つキャピちゃんへ、伽耶は問答無用にチョップを放ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
六島・椋
【骸と羅刹】
その嘆きに返せる答えを自分は持たない
かつて君らの時間が奪われたということに、何も思わないわけではない
が、出来ることをやるだけだ
距離を詰めたり離れたり、|骨《かれ》らで撹乱したりして動き回り、
できるだけ向こうが一ヶ所に集まるようおびき寄せる
詰めるときは相手に近づきすぎないように
どう考えても喰らいたくないし|骨《かれ》らにも喰らわせたくないからなアレ
そのうち、上手いことエスタがやってくれるだろう
エスタが向こうの動きを封じたのなら、|骨《かれ》らはいったん引いてもらう
終わらせるのは|藤切《これ》の仕事だ(UC発動)
周りは気にしない
まとめて一刀のもとに|幕切としよう《【範囲攻撃・解体】》
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
嫌になるな
なんも悪くなかったのに割りを食っちまう奴を見るのはよ
だからって見逃しても何にもなりゃしねぇんだが
そうだな椋、やるしかねぇ
いつもなら業火で荼毘に付すとこだが、炎はもう腹いっぱいのようだな
椋が上手いこと敵をまとめてくれたら『黒縄荊蔓』発動
縛り上げて動きを封じるぜ
特に腕を重点的にな
俺はともかく椋が斬りかかる時にPOWのUC発動されちゃかなわん
敵UCの細胞塊は【怪力】でフリントぶん回して【なぎ払い】【範囲攻撃】【吹き飛ばし】
言いたいこた分かるが、駄々こねたってしょうがねぇ
抵抗して暴れたら蔓ぶん回して大人しくさせる
せめてサクッと終わらせてやろうか
俺は細胞塊も払い続けてるんで
椋、頼む
――ああ、全く。
やり場のない怒りを拳に籠めて、エスタシュは|赤《ほのお》に染まったデモノイドへ叩きつける。ぐらりと揺れる異形の巨体。これで倒れてくれれば少しばかり憂さも晴れたかもしれないが、そう容易くは、終わらない。
「嫌になるな。なんも悪くなかったのに割りを食っちまう奴を見るのはよ」
|溜息《いき》を吐く。無理矢理拳を振り抜いて、膂力のままにびくともしない異形をそれでも強引、殴り倒す。
「だからって見逃しても何にもなりゃしねぇんだが……どこ切り取っても気分が悪ぃ」
吼えるような慟哭が、周囲より無数、耳朶を打つ。決して尽きぬ、嘆きの音。
「……済まないが、その嘆きに返せる答えを自分は持たない」
骨格人形達が忙しなく駆動する傍ら、正反対に、椋はぽつりと静か、そう零す。言葉は不要と気取るつもりも無く、かつて彼らの時間が奪われたという事実に何も思わない訳でもない。ただ、何か、感極まって感想めいたものを口に出したとしても、結局それは在り来たりの陳腐な文字の並びになってしまうだろう。傾注すべきは、其処じゃない。
「だから行動で示す。自分は骨身を惜しまず、出来ることをやるだけだ」
微細な指の動きに沿って、骨格人形達が炎の戦場を駆け抜ける。幾多の言葉を重ねるよりも、|骨《かれ》らの立ち振る舞いこそが、何より雄弁に椋の|主張《スタンス》を示してくれるだろう。
「ああ、そうだな椋。どうあれ向かい合うのは猟兵とオブリビオンの宿敵同士。やるしかねぇ」
地獄も極楽もきっと此処から縁遠く、それでも唯一地獄の極卒に出来る事と言えば、彼らを再び水底に沈めてやること位なのだろう。
ざわ、と、背に刻まれた荊蔓が脈動した。
紅蓮の炎が燃え盛る戦場で、きらと輝く幾本の繰り糸。縦横無尽に、|骨《かれ》らが動く。
残念ながら此方の|攻撃《だげき》の通りも悪く、虚を突いて放ったナイフすら、少々角度が悪ければ容易く弾かれてしまうのは、これまで数度の|交戦《やりとり》で把握済みだ。
|骨《かれ》らの前に立ちはだかるのは、赤く分厚い|筋肉《にく》の壁。ならばと椋は新たに糸を繰り、|骨《かれ》らの動きに変化を促す。迫る異形の剛腕を、オボロは飛び越えるようにやり過ごし、かたかた、ゆらりと、煽る様な仕草を見せる。他の骨格人形達もそれに続くように、サカズキ組が降りしきる|弾雨《あめ》の中をひらひらと彷徨し、ヨイもまた威嚇の姿勢を保ったまま、にじり寄るように距離を詰め、ナガレとハガネがあからさま悠然と、宵闇空を飛翔して、異形達の敵意を散らす。肉が無いから軽やかなのか、肉があるから速いのか、端から見れば椋の指捌きが一進一退の攻防を描き出してるようで、しかしその実付かず離れずの間合いを保ち続けながらの誘導作業。破壊され、燃え盛る街の無惨な有様を嫌と言うほど見せつけられれば警戒するのも当然で、向こうの殴打を一発でも喰らってしまえば忽ち炎弾に晒されて、自分も|骨《かれ》らも無事では済むまい。指先一つの僅かな過ちの先は、焼け焦げの灰の末路のみだ。慎重に大胆に精妙に、糸を伝って椋が誘き寄せるのは、こちらにとって酷く都合の良い、そのひとところ。
異形達を数えれば、|骨《かれ》らのみで手が足りるとは言い難いが……何、痒い所は相棒が良い感じにフォローしてくれる。
そうだろう、と椋はエスタシュへ目配せした。
付き合いが長いから解る。此方を窺う椋のあの眼差しは、『痒い所は相棒が良い感じにフォローしてくれる』とか考えている時のそれだ。
ほんのり横着な気もするが、言った所で今更か。何にせよ、期待に応えぬ道理は無い。
右腕で軽々フリントを引き抜くと、エスタシュは改めて赤の異形達を睨む。
「いつもなら業火で荼毘に付すとこだが……」
飛翔する眼球すら紅蓮を帯びて、間断なく爆ぜ散る炎。煮えた活火山の|内側《マグマ》にも似たこの惨状。|温度《ねつ》自体は慣れたモノだが、他者の炎に焙られる、その居心地は宜しくない。
「これ見よがしに、炎はもう腹いっぱいのようだな」
しかし、どうあれそれが彼らに付き添う唯一のモノならば、こちらの業火をぶつけて掻き消してしまうのも野暮と言うモノだろう。痛みに耐えるのも何時もの事だ。無数の眼球から、文字通り熱視線を注がれながらも、エスタシュは構わず背の羅刹紋から左腕より、棘の蔓を放つ。紋様に過ぎぬ筈の荊蔓が、腕先伝いに色黒の皮膚を離れれば、刹那幾重にも枝分かれ、骨格人形達とともに四方、天地の隔てなく異形達の進路を塞ぎ、ひとところへ押し込めた。
|牢《かご》のように、包囲する形で敵の行動範囲を狭めた蔓は、そこから更に伸長し、|黒縄《なわ》でその身を縛るが如く、異形達を絡め取る。
咎無き者のその腕に、縄を打つのは今回限りと割り切って、ゆっくり拳を握りしめれば、棘たちもそれに従いより強く相手を締め付けた。
如何にか振って払おうと、異形達が足掻き藻掻いて暴れるが、その度棘は深く強く赤の肉体を苛んで、それでも遮二無二脱するために、二つの腕から、無数の目玉から、辺り構わず炎が噴いた。
しかしその羅刹紋は、どれほど|群青業火《ほのお》に晒されようと決して燃え尽きぬ荊の木。彼方此方に炎が奔れば、むしろそれを糧とするように、いましめは強く、頑丈になるばかり。
異形は叫ぶ。何をしようと如何にもならぬ今を呪う、怨嗟の雄叫びだ。
「言いたいこたぁ分かるが――駄々こねたってしょうがねぇ」
|鉄塊剣《フリント》片手、一息断つ。剣にあるまじき重い斬影が、炎を湛えたまま蔓延る眼球たちを薙ぎ払い、吹き飛ばす。
そして歯を食いしばって思い切り、左腕を振るえば巨大な牢そのものを鳴動させて地面に無理くり叩きつけ、或いは宙に撃ち出し大きな放物線を描いた後に|建造物《ビル》の横腹へ勢いよくめり込ます。
「これで大人しく……は、ならねぇよな」
よくよく見知った光景だ。最後まで諦めずに足掻く異形のその姿は、しかし何処までも人間らしくて――。
「――そうだな。せめてサクッと終わらせてやろうか」
それでも。心を|羅刹《おに》にして、鉄塊剣の太刀筋は、鈍る事無く細胞塊を狩り尽くし、
「椋、頼む」
「ああ。わかった」
かたりことりと音を立て、骨格人形達が後ろに退く。|骨《かれ》らばかりに辛い役目を押し付けてはいられない。骨達とすれ違いざま通り風に逆らって、椋は|敵前《まえ》へと歩を進める。携えるのは、藤切と言う|銘《な》の刀一つ。
「終わらせるのは、|藤切《これ》の仕事だ」
静か引き抜いたその刀身には刃毀れ一欠け見当たらず、鏡の如く澄んだそこに、赤い異形達の姿を映し取る。
『――……』
脱力、緊張、|骨《かれ》らの音すら遠ざかり、唯一聴こえてくるのは自分自身の|呼吸《いき》の音。
黒い靄が体を覆う。夜闇の如く深い集中は同時、視野狭窄の無防備状態を呼び込むが、椋は一切気にしない。間近にあった銃声も、目玉の飛翔音にも一切無視を決め込んだ。
靄の中、待てど暮らせど一切それらがやってこないという事は、|目配せ《ようぼう》通り、エスタシュが上手いことやってくれているのだろう。今はただ、彼への信頼と、藤切のみを携えて、
――瞬間。刃が煌めいた。
|黒靄《よやみ》に浮かんだ藤切の一閃は、地上に大きな|弧《つき》を描き出し、籠の中の赤の異形達を同時、痛みも無く|防御《にく》を破って真二つに解体した。
それで全ては幕切れだ。少なくとも、籠に居た人々の行き場の無い慟哭は、そうだろう。
呻きの声がが上がる暇も無く、きん、と。死者を弔う鐘のように。
刃を納めた音だけが、静か戦場に響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・明莉
…別に、誰もが「未来」だけを見ている訳では無いけども
生ある俺が言っても説得力は無いか
この先も何かを為せる者の責として貴方達を海へと還そう
櫻光花滴を纏いオーラ防御を施し
高速移動に惑わされず冷静に動きを観察
弾丸は大刀・激震でも受け流し無駄なダメージを軽減させて
元はただの一般人で戦いに慣れていはおらず動きは単調になりがちだろう
戦闘知識と瞬間思考力で急所を見抜き、攻勢へと切り替える
【龍顎龍尾龍撃乱舞】
急所に向け軽い一手を撃ち込む技を選んだのは痛みを最小限にダメージの蓄積で沈ませる為
慈悲ではなく海へと葬る手向けとして
声が届けばと祈るように言葉を紡ぐ
苦しみが失くならないなら、またおいで
忘れない
天地隈なく疾駆し飛翔する赤の異形。数え切れぬほどの異形達が渦を成して包囲する、その暴威の中心部には、桜舞い、柔らかな|櫻光花滴《ひかり》を纏う、明莉の姿。
静か、水溜まりを避ける様な最小限の動きで、明莉は自身に迫る無数の弾丸達をやり過ごす。
「……別に、誰もが『未来』だけを見ている訳では無い、けども」
世界が大きく変わって数年。人を苛むものが居なくなったとしても、そう簡単に、人の|基本《こころ》は変わらない。未だ終わってしまった過去に囚われている者も居れば、その場に立ち止まり、迷いの果てに、前へ進めていない者もいるだろう。無論、ダークネスの犠牲になってしまった眼前の彼らを悼む者だって、きっと。
「そう、生ある俺が言っても説得力は無い、か」
過去に囚われるのも立ち止まるのも悼むのも、なんてことの無い全ての|『日常』《ふつう》はどうしようもなく生者の特権だ。
ならば生者として、救けられずに済まなかったと彼らに頭を下げるべきか。それとも行き止まりの彼らの境遇に同情を捧げるべきか。
――いいや。どちらも違う。それは武蔵坂の教室から現場に駆け付けた灼滅者達が、生前の彼等へ既に無数、贈ったモノだ。看取るしかなかったが、それらの想いはきっと、去り行く彼らに届いていたのだと信じたい。
そして。それでも骸の海が終った筈の結末を掘り起こし、突き付けてくるのなら、やるべきことは一つきり。
「――この先も何かを為せる者の責として、貴方達を海へと還そう」
そう言って明莉がゆるり構えると、異形達はあらゆる感情をない交ぜに、ただ……吠えた。
徐々に渦は加速して、|弾雨《あめ》もまた勢いを増していく。飛来する弾丸の一粒を、明莉は反射的に右掌で受け止める。オーラ越し、燻る炎はそう熱くない。だが此処から十数秒も経たぬうち、身のこなしだけでは躱しきれない驟雨が降り注いでくるのだろう。
それでも――異形の数や弾丸の密度に怖じてはいけない。生身で避けきれぬ弾幕は、激震の刀身で受け流し、上下左右に四方八方、冷静に、渦の様子を窺う。
理性無き怪物。元はただの一般人。どちらの過去――気質が色濃く反映されているにせよ、そう秩序だった動きが出来るような経験は無いだろう。
それを念頭に置いてよくよく観察してみれば、この大渦は一見連携しているようでいて、そうでないことに気付く。これは陣形の類では無く、誰が一番先に獲物を|殺《と》れるかと言う、謂わば早い者勝ちの徒競走の類に近しいのだ。明確に、其処こそが弱点と呼べるものだろう。
だとすれば、暴風雨に穴を穿つのもそう難しい話じゃない。
瞬間、思考を閃かせ、明莉は一転、大きく前へ打って出る。意図的に|構え《まもり》を崩したことによる、捌き切れない数発の弾丸は必要経費だ。
先ずは踏み込んだ先の最短距離にいた異形へと、軽く一撃、確実に急所を捉えた正拳突き。
(「! これは……」)
過去に相対したデモノイド達より竜種の加護だけ明確に硬い。しかし、難儀には相違ないが、攻撃を重ねれば自身の格闘術で仕留めきれる感触もまた同時に得た。
渦が揺らぐ。デモノイド達の思考は明莉の動きの後追いだ。高次元で武術を修めていたであろう刀の影のような、攻撃を誘う、ブラフを仕掛けると言った先手を取る為の『読み』が無く、ならば向こうがどれだけ速かろうとも、こちらの動きである程度暴威の制御が出来るだろう。
十数連の回転蹴りからの衝撃波。その反動を利用して、明莉は次の異形に飛び掛かる。すかさず明莉の動きを弾雨が追うが、どれだけ撃ち放っても一拍遅い。焦れた一部の異形が、素人考えの当たりを付けて高速度、後先の無い軌道から、無差別広範囲に弾丸を吐き出すものの、案の定明莉を捉える事無く同胞のみを焼き払う。
こうなってしまえば数と速度に意味は無い。赤い渦の彼方此方から火が噴いて、後は瓦解を待つのみだろう。
ともあれ、どれだけうまく躱そうと、飛散する炎が至る所に燃え広がって、徐々に使える足場を狭めるのは事実。長期戦が不利なのは、元より解り切っていたことだ。激震を本気で振るえば、もっと早期にカタが付いていた。
――けれど。明莉は敢えてそうはしなかった。
龍顎龍尾龍撃乱舞。赤い竜の加護に対して明莉が択んだ青龍の|格闘術《わざ》は、威力よりも手数に特化したもの。
長期戦を覚悟して、それでも無数の連撃を重ねて倒す。その真意は、急所への最小限の|傷《ダメージ》で相手を沈める事。
百発の攻撃で倒れるなら、百一発以上の威力は要らない。
感傷ではなく、慈悲ではなく、それは何かを為せる者の責。海へと葬る手向けとして。
「……苦しみが失くならないなら、またおいで」
倒れ逝く彼らへ届けばと、明莉は祈るようにそう――言葉を紡ぐ。
その言葉を受け取ったか、最期、異形の怨嗟は幽か――和らいで。
――貴方達が居た事を、決して忘れはしないとも。
大成功
🔵🔵🔵
闇月・心愛
※アドリブ連携OK
『有史以来堆積し続けた無数のレゾンデートルと、そこから放たれる怨嗟の叫び!生者からしたら禁じ手だよね☆』
手のつけようがないからね。
で、それに対するオプリビオンの答えがこれってコト。
『なにそれ♪結局システムとの戦いじゃーん⭐︎』
……この世界の人々も、私達と大差ないのかもね。
市街戦になるね。
フック付きワイヤーを使って距離を取りながら記憶消去銃で攻撃。
途中で死角に飛び込んで姿を消すよ。
暗い場所も夜目が効くから大丈夫!
こちらを見失った相手は偵察魔兵を使って来るだろうから、
いち早く体勢を立て直してUCを発動!
なるべく多くの偵察兵を巻き込んで、視覚を遮断。
反撃の糸口にしてあげる!
雷鳴にも似た異形の咆哮。炎を帯びた|弾丸《おおあめ》は、決して途切れる気配を見せず。
陽の落ちかけた戦場は、猶明々と火に塗れ、心愛と玖琉美を包囲する。
『うわうわうわうわ、ひっどい有様♪』
しかし、何時この身を焼くとも知れぬありったけの|敵意《ほのお》に曝されながら、スマホに映る玖琉美の声音は、ネットでバズッた面白動画を見ている時のそれと大差ない。
『有史以来堆積し続けた無数のレゾンデートルと、そこから放たれる怨嗟の叫び! 生者からしたら禁じ手だよね⭐︎』
「手のつけようがないから……ね!」
玖琉美と言葉を交わしつつ、心愛はギターのネックを掴んで横薙ぎに、飛来してきたおどろおどろしい赤の異形を叩き斬る。が、竜種の加護なる物のお陰が防御も厚く、何より無数飛び交う異形の数を見れば、時間をかけて丁寧に一体二体を倒したところで如何にもならない。
「……で、それに対するオプリビオンの答えがこれってコト」
そして余韻に浸る間すらなく、新たに飛翔した異形達が唸り、銃を向ける。
憎悪でも、怨嗟でも、憧憬でも。既に終わってしまった筈の――過去になって途絶えていた筈の、もはや届かぬ『今』に対する強烈な想いこそ、何より世界を破壊するに適しているのはきっと事実だろう。
『なにそれ♪ 結局システムとの戦いじゃーん⭐︎』
画面の玖琉美がけたけた笑う。
「そうだね。でも……」
過去が染み出し世界を食らう。この世界では真新しい概念であっても、心愛たちにとっては必然の現象でしかない。だが。今回のこれは、些か趣味が悪すぎる。
――長い戦いの末に勝ち取った変革世界。全人類が寿命以外のあらゆる死を克服し、戦争や犯罪もほぼ存在しないと言うけれど。それでもここに至るまで、眼前の|異形《にんげん》達のような、目をそむけたくなるような悲劇が過去にあり、そして|オブリビオン《ユーベルコード》が未来を蝕む現状に、心愛が覚えるのは何処の世界でもよく見る既視感だった。
「この世界の人々も、私達と大差ないのかもね」
『うん♪ とすると、こっちが出来る事は一つじゃない?』
「……だね!」
心愛は強く頷くと、勢いワイヤーを射出して、あらゆる方位の銃腕から炎が噴き出すほんの数瞬前に、からがらその場を離脱した。
『――えー? 完全に|抜刀《つか》う感じのノリだったのに、私今回出番無し?』
「えぇ? 玖琉美の言う『出来る事』ってそっちだったの?」
抜けば自分の命が削られるのももちろんあるけれど、罪の無い元一般人を|妖刀《かたな》で斬るのはなんだかちょっと気が進まない。ワイヤーを駆使しつつ市街地を飛び回りながら心愛がそう呟くと、でも|前回《ザナドゥ》はばっちり一般人斬ったでしょ、などと玖琉美がぐうの音も出ないタイプの反論をしてきた。
「あれはまぁ……私も斬るべきだと思ったし結局斬っても全然元気だったし……」
『大丈夫だって! 何の為に如何斬ろうが大して変わんないってさっきの呪物も言ってたよ♪」
玖琉美は無邪気にそう言うが、それは絶対信用してはいけない類のヤツ。
でもそれじゃあ如何するの? そんな玖琉美の問いへ答えを返す代わり、弾丸を躱した心愛は新たにワイヤーを伸ばすと同時、記憶消去銃を引き抜いた。
「こうするの!」
空中、高速度でのすれ違いざま、心愛は異形に|光線《ひかり》を当てる。
瞬間ぐらり、と異形が傾く。|飛翔方法《とびかた》を忘れたのだ。墜落した銃腕を空へ向けるがやはり忘却故に弾は出ず、心愛は破れた弾幕の間隙を悠々通過し同様、光が明滅する度に、異形達から|記憶《きおく》を奪う。
『斬ったとか叩いたとかじゃないけどさ、意外と便利だよね、記憶消去銃♪ オブリビオン相手だと結構すーぐに効果切れちゃうけど⭐︎』
それでも強引に隙を作れると思えば十分だろう。心愛は崩れかけの建造物の影、異形達の四角となる位置に身を潜め、先ずはゆっくり息を吐く。スニーキングミッションの時間だ。
消去銃の効果を脱した異形達が、再び空を飛ぶ。息を整え、十字の瞳でその様子を窺うが、まだだ。
けたたましい銃声と共に、無遠慮、無差別に降り注ぐ炎。潜んだ場所の、足先のすぐ近くで炎が噴いた。まだだ。
見失った獲物を探すため、展開される眼玉の斥候。十の眼で見つけられ無ければ百の眼を。百の眼で見つけられなけば千の眼を。そしてそれらが無数増殖した頃合いに、心愛はそろり、指先をギターの弦に着地させ――今。
『異形達を偲んで弾くのはしっとりバラード? それとも静かな|鎮魂歌《レクイエム》?』
「勿論――」
刹那。大音量で戦場を揺さぶるのは炎に勝る情熱的なパンクロック。
弦を掻き鳴らす度、ライブの演出さながらに、戦場の至る所で音が爆ぜる。
目には見えない音の爆弾は群れを成すの眼玉ごと異形達から視界を奪い、夜の空よりさらに深い、光一つない真っ暗闇へと突き落とす。
無数の眼玉の瞳が心愛の姿を捉えようとあくせく揺れて、しかしもう、何も見えず|炎《なみだ》を噴き出すばかり。
『凄い凄い♪ 何にも見えなければシンプルに、数も威力も意味ないもんね⭐︎ でも結構やってることがえげつない感じ♪』
「やると決めたら全力で! そうじゃないと、やられちゃうのはこっちだもの」
ぎん、と、曲の終わり、心愛は再び楽器を鈍器に持ち直す。
|視覚《いろ》を失った異形達は当たり構わず弾雨を散らすが、視える心愛に当たる道理も無く。
燃える街並みのその一角。
炎を受けて唯一光ったギターの刃が、異形達を|骸の海《まことのやみ》へと還していく。
大成功
🔵🔵🔵
淳・周
デモノイドまで復活してきやがったのか!
元々色々研究されてたから場合によっちゃ竜種化して戦ってた可能性もあったのかな…
まあそんな可能性に今を壊されてたまるか!
不条理も嘆きも憤怒も他所に迷惑かける理由になっちゃいけねえからな、ここで止めてやる!
UC起動、影の荊で片っ端から捕縛して地面へと縛り付けていく。
空飛ぶ眼球っぽいのも針を突き立てるように影を操り迎撃していく。
纏ってる炎は皐月のオーラ燃え上がらせてダメージ抑え込みつつぶん殴って倒していくぞ!
…デモノイドになってるって事は極まった悪でもなんでもないんだろう。
だが同情して手を緩めたりする事はねえ!
まだ、そっちに行ってたまるか!
※アドリブ絡み等お任せ
微睡みながらじっと成り行きを見守っていた太陽も、大半地に沈み、空はとうに夜の色。
それでも地上はなお明々と、炎に浸った街中で、紅の闘気と赤の異形が幾度となく交差する。
「ああ、畜生! デモノイドまで復活してきやがったのか!」
十数手に及ぶ応酬のその終わり、毒づきながら放たれた周の拳が異形を倒す。
一瞬懐かしくも思えたが、しかし彼らの境遇を思えば二度と出会いたくは無かった。
デモノイド。悪魔の都合で生み出された新たな|種族《ダークネス》。故にその『伸びしろ』も大きく、眼前の機銃型とて、よく見た|形態《カタチ》より変異したモノだ。
知性に乏しい彼らは他の種族に良い様に扱われ、色々研究もされていた。ならば、『竜種化デモノイド』など見たことも聞いたことも無い姿だが――もしかすると何か一つ灼滅者の選択が違っていれば、まだ骸の海や他所の世界を知る事など無かった当時でも、見えていた可能性はあるのかもしれぬ。元より巨大化だの、アンデッドダークネスだの、それこそ竜種化だの、後出しで次から次へと策の尽きなかった連中だ。
「考え始めりゃまぁキリも無いが……そんな終わった筈の可能性に今を壊されてたまるか!」
神去月を翻し、息つく間もなく一気、次の異形へ蹴撃を仕掛ける。流石に硬いが倒れないなら二度三度、倒れるまで徹底的にやるまでだ。
ただしモタモタしてはいられない。数秒、数手、時間をかける度、赤に染まった眼玉が集り、野次もさながら火を噴いて、或いは眼球そのもの炎を纏って襲い掛かって来るのだから。
避けられない。いいや、避ければそれだけ向こうに時間と言う名の好機を与えるだけだ。故に周もまた焔血の如き|皐月《オーラ》を灼熱させると、相手の炎を受け止める。
じりじりとオーラを焦がす炎。怒りと怨嗟を種火に燃えるそれはとても熱く、しかし同時ぞくりとするような底なしの冷たさで、気を抜けば、持っていかれそうだ。
だが、と、周は歯を食いしばり、焼け焦げながら、無理矢理弾く。その様に動揺したか、周を取り囲む眼玉たちは激しく瞬き、それを従える異形もまた、怯むような呻きを上げる。
アタシだっててめぇらの境遇に思う所がないワケじゃねぇ。けどな。強き意志の宿った赤の瞳が凛と、悲嘆にくれる赤の瞳と変わり果てた|異形《にんげん》達を見据える。
「不条理も嘆きも憤怒も他所に迷惑かける理由になっちゃいけねえからな、出てきちまったんなら、ここで止めてやる!」
堂々とした周の宣戦布告。それを受けた異形達は圧されたように数歩後ずさる。怖じたのか、それとも過ちを悔いるだけの良心が幽かあるのか、しかしそんな逡巡めいた静寂も僅か、異形達は自らを奮わせる様に咆哮すると、遮二無二、異物たる紅の炎に総攻撃を仕掛ける。
周とて、今更平和的に言葉で止まるとは微塵も思っていない。だが目玉も含めたこの数を五体のみで相手取るには文字通り手が足りない。
故に。周は仁王立ち、不敵に笑った。幾つもの|火柱《ほのお》により浮かび上がった彼女の影が、ゆらりゆらりと大きく揺れる。
無数飛び交う目玉の一つ、その瞳が大きく見開かれたのは、誰より先に異変を察知したからだ。
紅のオーラの足元、浮かび上がった異物の影がぶれ、刻一刻と形を変える。複数の|光源《ほのお》に照らされているのみでは説明しきれぬその変化、幻覚では無いのなら何かがおかしいと他の眼玉や本体に伝えようとしたその刹那、地面から伸びた何かがずるりと前を行く本体を絡め取り、そして再び死線を異物に戻した正にその眼前には、細く鋭い黒色の飛来物が――。
「平伏せ!そして拉げろ!」
周の叫びと同時、四方に大きく広がった彼女の|睦月《影業》は、影糸から大きな荊の群れに変じ、平面から現実世界へ具現化する。|質量《おもさ》や実態など無い筈の影の茨は、しかし確かに飛翔する異形達の行く手を塞ぎ、襲い掛かると絡みつき、地へと引き摺り落として、縛り付ける。異形や目玉にとってそれは、全く予期できなかった第三の乱入者にも等しかっただろう。
拘束された異形達はそれを振り払う事叶わず、ならばと目玉達が熱視線で荊を焼こうと右往左往に飛翔するが、その真下は既に光を食んで大きく広がる影の荊の|領域《テリトリー》。
異形に巻き付く荊の一部が変じ、近付く眼玉の真ん中へ、突き立てるように影の針を打ち込んだ。
影に呑まれた戦場に、君臨するのは紅の焔血。
異形が叫び、眼玉たちの|敵意《しせん》が全てそこに注がれる。あれを倒せばこの荊も解けると、眼から、|銃腕《うで》から、あらゆる|攻撃《ほのお》が迸る。
最早避けるまでも無い密度。空に満ちる月の如き、展開した|長月《WOKシールド》に防御を任せ、周は拳にオーラを集め、距離を詰める。
「ロードじゃない……ただのデモノイドって事は、極まった悪でもなんでもないんだろう」
何処にでも居る咎無き一般人の、その成れの果て。せめて|今回《これ》が最後であってほしいと望むが、きっとそうもいかないのだろう。
しかしそれでも。息を吐き、意を決し、拳を握る。
同情はしない。為すべきことを為すだけだ。
……そうだとも。
「まだ、そっちに行ってたまるか!」
瞬間。
紅の拳が閃き、決して折れて曲がらぬ軌跡を描いた。
●最後の望み
どれだけ追い詰められようと、異形達は退かない。
今への怨嗟がそうさせるのか。世界を壊すオブリビオンの本能がそうさせるのか。
……否。人間として残ったなけなしの理性によって、自らの意志によって、猟兵相手、玉砕覚悟の特攻戦を仕掛ける。
なぜならば。
人から悼まれ、同情され、他の|怪物《オブリビオン》からは見下され都合よく使われる、何処にも行けない成り損ないの零れ落ち。
そんな自分達を仲間だと、そして自分達の死に対し、本気で『怒って』くれるのは、最早あの竜種しかいないのだ。
ならばそれで良いだろう。あの竜種が怒ってくれるなら、理性無きまま蘇り、再び死ぬのもそう、悪くない。
――果たして異形は全て斃れる。
陽が完全に沈み、夜が来た。
そして――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『竜種ファフニール』
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POW : ガイアブレス
【ドラゴンブレス】を放ちダメージを与える。命中すると【ガイアパワー】を獲得し、自身が触れた対象の治癒or洗脳に使用できる。
SPD : ファフニールテイル
【尻尾】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
WIZ : ファフニールファング
【突撃噛み付き】を【翼のはばたき】で加速し攻撃する。装甲で防がれた場合、装甲を破壊し本体に命中するまで攻撃を継続する。
イラスト:有坂U
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●終わらぬ死線
次回冒頭文更新八月四日(日)予定。
何の前触れ一つ無く。
突如ごう、と極大・灼熱の|息吹《ブレス》が彼方上方より迸ると、息吹はいとも容易く|建造物《ビル》の群れを焼き溶かし、地を深々抉って|市街《せんじょう》そのものを砕かんとするように大きな大きな痕を残す。
光の奔流にも似たそれを辿って天を見上げれば、星の瞬く夜空に烈火そのもの、竜種の姿。紅蓮の翼を羽搏かせ、流星さながら疾風迅雷、大地目掛けて|降下《お》りてくる。
激突染みた荒々しい着地音。反動に、地に降り立った竜種と逆さま、砂塵や瓦礫が宙に吹き飛び……それも一瞬。イフリートの炎に曝され、即座跡形もなく消え失せた。
「――デモノイド。皆、逝ってしまったか。だが構わぬとも。今は|一時《いっとき》、海の底で休むが良い」
竜種――ファフニールは、既に斃れて逝った|同胞《なかま》達を独りきり、そう労うと、ぐるり、|世界《あたり》を見回した。
「俺が|灼滅《ころ》されてより後の景色。サイキックハーツに至り、エスパーへと変革を遂げた人類。闇堕ちは起こりえず、人を殺す悪なる|宿敵《ダークネス》を狩り尽くした平穏の世界。成程、本来ならば最早俺の出る幕など無いのだろうな」
所詮は俺も灼滅者との戦に敗れた『なりそこないの零れ落ち』。そう唸り響くファフニールの声音には、諦念に近しい達観の色が帯びていた。
「今更死人が何を如何しようが何処に辿り着く事もあるまい。俺達のやっていることは、結局、赤子の駄々にも等しき八つ当たりに過ぎん」
――だが、それで良い。一転、燎原の火の如く、ファフニールが燃える。世界を滅ぼせと囁くオブリビオンの本能に、身を任せることへ異議も無い、と。
ぎらり、竜の双眸が猟兵達を|睥睨《にら》む。
「どれほど時が経とうとも、そこに刻まれた憎悪は決して消えん。かつての同胞を殺された恨み、今の同胞を斃された怒り、異世界において幾度となく垓王牙を屠られた無念、|この世の理《サイキックハーツ》から外れた絶望、あらゆる全てをくべて燃え盛り、|宿縁《えん》が有ろうと無かろうと、侮り嘲り一つ無く、|猟兵《おまえ》ら諸共、この眼に映る全てを灰燼に変えてやろう!」
退きはせん。退かせもせん。その身を守る防御も回避も容易くさせてなるものか。ただただ燃えて尽きるが良い。あらん限りの咆哮が、戦場全域、否、その外までもを揺るがせる。異形達の燈した残り火が明々と、竜種の威容を照らし出した。
「お前達が未来へ進み続けると言うのなら、俺はお前らが切り捨てた過去を束ねてそれを食らう。故にこれより先、『いつか』にも、『どこか』にも、決して辿りつけぬと心得ろ。そう――」
あらゆる世界の膨大な|過去《オブリビオン》こそが、|猟兵《おまえたち》を狩り殺すのだ。
瞬間。ファフニールより噴き出した圧倒的な|憤怒《ほのお》が、異形達の残り火と一つになって、戦場全てを覆いつくし――世界が、紅蓮の一色に染まる。
――|怒れる死者《ファフニール》を、撃破しよう。
そう。変革を遂げた世界に於いても猟兵の成すべきことは決して変わらない。
即ち……生きたければ、或いは、生かしたければ――狩らねばならならぬ。
六島・椋
【骸と羅刹】
骨、鉄……こちらは火炎に分が悪い
あれこれ小細工も効かなさそうな相手であることだし
|いつも通り《シンプルイズベスト》に行くのがいいか
エスタの後ろに乗って福音発動
積極的に攻勢に出られないぶん、攻撃の予測に力を注ぐ
小細工は効かなさそうとは言ったが使わないとは言っていない
エスタがデカい一撃を食らわせられそうなタイミングを見計らい、
隠し玉のふりをして|毒を塗ったナイフを投げて気を引く《【毒使い・フェイント】》
ナイフならもとより消耗品
溶かされようが毒が効かなかろうが、気が引ければ問題はない
炎に焼かれるのは困る
君の怒りをどうでもいいとは言わないが
この身を焦がすのはひとえに愛のみであるがゆえに
エスタシュ・ロックドア
【骸と羅刹】
肉のように爛れやしねぇだろーがボロボロになるもんな、骨
刀も焼刃になりたかねぇだろう
まぁ結局そーいうのが一番だよな
シンディーちゃんに【騎乗】【運転】
ブルーフレアドレスに点火
椋を乗せたら『ゴッドスピードライド』発動
敵に向かって【悪路走破】【ダッシュ】
【怪力】でフリント振るいつつヒットアンドアウェイで行くぜ
敵の攻撃は椋のナビに従って回避
難しい時はフリントを盾にしたり【激痛耐性】でゴリ押す
デカい一撃入れたいとこだが敵の攻撃中は厳しいか
っつーわけで頼むぜ相棒
一瞬の隙を見逃さずに【カウンター】
すり抜けざまに【なぎ払う】
任せな椋
炎と駄々こねにゃ慣れてんだ
きっちり|寝かしつけ《骸の海に還し》てやる
|戦場《まち》を侵食する紅蓮の海のその奥より、聞こえ響くのは怒りに塗れた竜種の|咆哮《こえ》。
無尽の烈火がまるで意思を持つように四方から此方を取り囲み、何もかもを貪り尽くさんと燃えるその|熱気《おんど》の中では、呼吸一つするのも至難と言えた。気を抜けば、容易く肺腑が焼けてしまうだろう。
「骨、鉄……こちらは火炎に分が悪い」
息交じり、そう呟いて、椋は抜き身の藤切を見やる。炎を映しているだけに過ぎぬ筈の刀身は、しかし、その身そのもの炎で出来ているが如く熱を帯び――刀と言うよりは最早焼きごてのようで、このまま振るえばどろりと溶けてしまいそうな気がした。
こんな環境で糸を繰れば|骨格人形《かれ》らとて無事には済むまい。ともすれば――椋は自分の得手の悉くを封じられていることに気付く。
「肉のように爛れやしねぇだろーが……ボロボロになるもんな、骨。それに刀だってそうだ。焼刃にゃなりたかねぇだろう」
「……全く。こっちの装備で焼かれて平気なのは、せいぜい団子くらいだ」
別段今回持ち込んできているわけでもないが、と。頬の汗を拭う椋とは正反対に、エスタシュは普段と変わる事無く堂々と、はらわたに炎を宿す彼にとってこの程度の火の海は、|日常茶飯事《なれたもの》なのだろう。
「――炎、か。|群青業火《エスタ》と一緒に動くことも多いから、自分にとって大体の場合それは味方だった。だが……」
敵の炎に焙られて、随分と久しぶりに、『火は怖きもの』と言う|根源的《あたりまえ》な感情を思い出した気がする。椋がぽつり率直にそう零すと、そいつは良い、と、エスタシュは大笑した。
「つまり、炎を敵に回す心構えができてるって事ってことだろ。だったら……」
エスタシュが満を持して指笛を吹けば、刹那彼方より竜種の咆哮に負けじとエンジン音を轟かせ、一台の大型バイク――シンディーちゃんが主の元へ駆けつける。
やっぱりこれしかないだろう。気合を注入するように、エスタシュばしんと大きな掌でシンディーちゃんのボディをはたいた。
「確かにな。あれこれ小細工も効かなさそうな相手であることだし、ここは一つ、|いつも通り《シンプルイズベスト》に行くのが良いか」
「ああ。まぁ結局、そーいうのが一番だよな。案ずるより、って奴だ」
例によって。何時もの如く。椋がバイクの後ろに腰を掛け、エスタシュがハンドルを握ると、シンディーちゃんはより速度を求める|形態《カタチ》へと変じ、行き先は、紅蓮の竜種、ただ一つ。
「それじゃあ禍根の大元を叩きに行くか。ちぃとばかし乱暴に、荒れっぱなしの悪路を行くが……椋、|道案内《ナビ》の方は頼んだぜ?」
「いいとも。了解。任された。これでもそこそこ|予測《め》は良い方だからな。|骨《かれ》らの助力無くとも骨抜きとは言わせない」
「そいつは結構!」
エスタシュはにやりと笑うアクセル全開、直後、轟とジェットエンジンから群青色の炎が噴きだした。
炎の海を進むのも、また炎を従える大型バイク。排気孔から巻き上がる|群青色《あお》のそれを、ドレスの如く躯体に纏い、シンディーちゃんはあらゆる路を踏み抜いて、戦場を駆け抜ける。
全てが同じ|炎《いろ》に染まった戦場を断ち切るように走る青の軌跡は、やがて紅蓮の大元へと辿り着き、すれ違いざままずは一閃。紅と蒼の炎が鬩ぎあい、輝き、爆ぜて、左右か南北か、両者を対極の位置へと弾く。
それでも双方決して止まらず、時を置かず、そして示し合わせたかように、近接戦の間合いに迫る。
再び交錯するまでの僅かな間隙、エスタシュは片手持ちの|鉄塊剣《フリント》を馴染む位置に握り直す。分厚い刀身伝いに腕を震わす竜種の|護り《うろこ》。やはり赤く染まったデモノイドたちの大元締めだけあって、彼らよりも遥かに強い、
「上」
……などと、感触を確かめる暇もなく、容赦なく降り注ぐのは椋の予測と竜種の尾撃。間一髪、シンディーちゃんを大きく傾け何とか躱すが、尾の先に燈る炎がこちらの切っ先の邪魔をして、むこう同様空振り、空を斬ってそのまま地に不時着したフリントの切っ先がシンディーちゃんの速度に引き摺られ、じりじりと地を削る。
「|炎獣《イフリート》の如き炎を従える羅刹とは。貴様も大概、得体が知れぬ」
「……良いな。それ。謎の男って肩書も悪く無ぇ」
「しかしてその正体は、まぁ……バイクのおっさんだが。右」
「そこはお前、せめて地獄の獄卒で頼む」
まるで十秒先の未来を見てきたかのような椋の予測は的確で、エスタシュは刹那、噴出す|群青色の炎《ほのお》も最小限に急停止、やり過ごしざま一太刀見舞い、直後蘇った速度とともに一息、竜種の攻撃圏を離脱し、そして再び突撃する。
「本当に、ひどい|悪路《みち》だ。ひとたび向こうの間合いに入り込めば、次から次へと引っ切り無しに、攻撃という名の|驟雨《あめ》が降って来る。左」
「確かにな。いっそ|屋根《ルーフ》の一つでも欲しくなってくる所だ」
軽口を叩きながら、それでも決して褪せないハイウェイスターの立ち回り。今度は逆に身を屈め、目一杯に加速して紙一重の間を潜り抜け、そこから先も、シンディーちゃんを唸らせて、打った躱したの十数合。
攻撃の積み重ねはあろうとも、さらに大きく一発欲しいエスタシュと、自ら作り上げた火の領域を我が物顔で疾走する|群青色の炎《いぶつ》を除きたい竜種のにらみ合い。
竜の咆哮、シンディーちゃんの轟音。二つが同時に重なって、先に動いたのは竜種の方だ。
「椋、次は――」
「無理だな」
「何?」
「敵が一枚上手だ。こちらの予測を超えてきた」
「……いいや。そんな事は無ぇ。『無理』って予測を俺に伝えられた時点で、椋、お前の勝ちだ」
何故ならな、そう言いながら、エスタシュはフリントを盾と構え、回避不能の尾の連撃を真正面から凌ぎ、堪え、椋の分も引き受けて、強引に受け取めた。
尾撃は竜種の間合いを抜けるまで、間断なく襲い掛かり、車体とエスタシュを大きく揺るがしながら、それでも倒れず……シンディーちゃんはついに、嵐のごとき乱撃をやり過ごす。
「……な? そう言うもんが先に来るってわかってりゃ、ちいとばかし|激痛耐性《かくご》を決めて、この通りだ」
傷だらけのエスタシュは何事もなかったかの様に笑う。傷口からはもれなく炎が流れ出て、どの通りだ、と言う椋の当然の突込みに関しては、まだ腕先が動く内は知らない風を装っておく。さあ、と、フリントを大きく振るい、もう一合。だが、打ち合うばかりでは千日手か。竜種が焦れる理由もわかる。
「だったら少し、小細工を弄するとしよう」
「オーケー、頼むぜ相棒。けどよ、さっきお前、小細工は効かなさそうとか言ってなかったか?」
「言った。小細工が効かなさそうと確かに言った。が、しかし、小細工を使わないとは言ってない」
なのでここから先は正々堂々思い切り、小細工の時間だ。そう言いながら、ふんぞり返るところでもないだろうと言うエスタシュの突込みを退けて、椋は懐からあからさま、毒々しい色の液体に浸ったナイフを数本取り出した。
「エスタがつけた傷口に、この毒が当たれば――さて、どうなるか」
わざわざ竜種の両眼に映るようにナイフを曝し、そして極めて真剣な調子で――それが竜をも殺す毒である、という確信がさもあるように――傷口目掛け正確に投擲した。
椋の所作から脅威を察した竜種はエスタシュ同様、傷口から紅蓮の炎を噴出して、いとも容易く中空のナイフを溶かし、拒絶する。
|骨格人形《かれ》らの様に無二でなく、藤切の様に銘も無く、毒を塗布して放ったナイフは量産品の消耗品。幾本融かされよう弾かれようと替りのものは幾らでも。
椋は|毒《それ》が竜種攻略の突破口であるかのように、ひたすら竜種に投げつけて、そして竜種は決して食らってやらぬと放たれたナイフの悉くを弾き、溶解させ、搔き消した。
「何度やっても無駄な事。お前もこの哀れな刃物の如く、ただ骨の一つすら無く焼き払われるのみだ」
「それは困る」
竜種にそう答えながら、椋の造作は変わらない。騎上から、毒を塗布したナイフを振りかぶり、
「君の怒りをどうでもいいとは言わないが……」
熱い。身の内側まで焼かんと吹き荒ぶ熱風と、揺らめく無数の陽炎が正確な狙いを許さない。
「この身を焦がすのは――ひとえに愛のみであるがゆえに」
|骨《かれ》らと共にあるために。そう想い、それでも構わず放った刃は案の定、瞬く間竜種の炎に溶かされて――。
「――エスタ。今だ」
得手が封じられようと、やりようは幾らでもある。
言葉も造作も、何もかもがフェイントだ。毒にせよ狙いにせよ、効こうが当たろうが如何でも良く、ただ一瞬、中空の刃に意識が向けばそれでよかった。
幾本ものナイフを溶かすために向けられた熱量の大きさは、そのままエスタシュの|存在《行方》を一時忘れる隙となり――。
「ああ、後は任せな、椋!」
轟音。シンディーちゃんから巻き上がった群青色の炎がフリントを包む。
「こっちも炎と駄々こねにゃ慣れてんだ」
エスタシュがそれを一振り炎を払えば、|鉄塊剣《フリント》は|鬼棍棒《燧石》へと姿を変えて、躊躇無く――。
「だからな……きっちり|寝かしつけ《骸の海に還して》やる!」
極至近の間合いから、超高速、横一文字の|すれ違い《カウンター》。振るって散る血は火花の如く。
瞬きほどの一瞬で、地に刻み付けられた長い長い群青色の炎の軌跡。
ごう、と、その|痕《きせき》の上で、ファフニールは横薙ぎの傷口から火山さながら盛大に、|血液《ほのお》を噴き出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神崎・伽耶
そっか。
八つ当たりなのは承知の所業、ってワケね?
オーライ、意地っ張りさん。
可哀相を越えて、此方の伊達と酔狂、押し通させていただくまで!
ざっと周囲を見渡して。
ん、火力は十分なようだし、あたしは陽動に回ろうかな。
愛機に跨がり、テイクオフ!
きゃピちゃんは応援に回ってね♪
小さく五月蝿い小娘。
集中を乱し、仲間から気を逸らし、敵を足止めし、街を護る。
あらいやだ、あたし正義の味方だ!
え、任侠?
上空、ジグザグ回避。
幾度も肝を冷やし、その度に熱を受け取り。
何度も再生するから、気が晴れないのよ……
今回で全部吐き出しちゃいな!
体当たりからの自爆、命だけは守り抜く!
闘いは一期一会。
グッバイ、また会えないといいわね?
「ふーん? なるほどー。そっか」
ファフニールの眼前で、腕を組みつつ得意げに、右へ左へ行ったり来たり。
「八つ当たりなのは承知の所業、ってワケね?」
片目ぱちんとウィンク交え、伽耶は多分大体そこそこいい感じに理解したわとにやり、悪童の様に笑う。
「そう言う事ならオーライ、意地っ張りさん」
なかなかヘビーな身の上背負ってそうだけど、敢えて可哀相とは言わないわ。折り畳んだままのマスタードソードを携えて、びしり、ファフニールを指さした。
「そう。可哀相を越えて、此方の伊達と酔狂、押し通させていただくまで!」
と勢いのままに言い放ち、正々堂々の宣戦布告から、流麗にマスタードソードを展開、
「面白い。伊達と酔狂とやらを見せてみろ。出来るものならな!」
している最中に、憎悪と怨嗟と|真剣《シリアス》の化身であるところのファフニールは、一切の遠慮なくほぼ丸腰の伽耶目掛けて超高熱のブレスを放射!
全くいけないこのままだと開幕出オチも甚だしい。流石にそれはどうにかこうにかぎりぎり回避しつつ、伽耶は燃える廃墟の片隅の、ファフニールの死角に身を潜める。
『危ウク燃エ尽キチャウ所ダッタヨ~』
などと、すっかり一息ついた様子のばす停。看板の端っこの方がブレス掠めたのかちょっと煤けている感あるのはご愛敬。伽耶自身も無傷なので、ファフニールからは言うだけ言って姿を消したことになる。
「意外とオイシイ状況かもしれないけど、さて、と……?」
ざあっと周囲を見渡す。|剣閃《やいば》が瞬き予測が走り、振るう巨腕に武術の冴えにすごい感じのユーベルコードにその他もろもろ。総じて火力とシリアスは十分で、だったら自分は足りてない部分を補うべきだろう。
「つまりコメディ!」
もとい、陽動だ。鞄を逆さに|愛機《バイク》を取り出しエンジン快調。荒れ果て街路もなんのその、アクセル全開ファフニールとのすれ違いざまマスタードソードで切り付けて、うねる尾撃のトンネルを見事潜り抜けテイクオフ。
さながら夜の果てまで届かんと、跨ったのは興か愛機か、エブリロードバイクは伽耶の意のまま空を飛ぶ。
このまま夜空にバイクの軌跡を刻み続けるのも悪く無いが、さて、相手はそれを許してくれないだろう。ゴーグルキャップを抑えつつ、伽耶が地上を伺えば、其処には大顎いっぱい息吹の光を湛えた竜種の姿が。
ファフニールが息を吐き出し、そして伽耶が息を呑む。夜空を穿つ光の線。なんとかそれを紙一重、やり過ごして夜を駆ける。
ぎりぎりの次は紙一重。だったら今度は当たるかも、どきりと心臓が大きく跳ねた。
「五月蝿く飛び回る小娘め」
再び瞬く息吹の予兆。ファフニールの狙いは正確だ。らしくもなく意を決し、伽耶が目を瞑ったその――刹那。
『アッセンブ~ル!』
突如ファフニールの陣取る直下、地面が隆起し、にょっきりきゃピバラが生えてきた。
なんか急に生えてきたが、そもそも大概来歴不明の塊なので、アホ毛よろしくまだまだ隠された能力が有るのかもしれない。無いかもしれない。
「ナ~イスきゃピちゃん!」
兎も角きゃピバラの|出現《アシスト》により、ブレスの狙いは大きく逸れて、差し迫った窮地を吹き飛ばせたのは確かだった。
「……何? 何だ? 貴様もオブリビオンではないか! ええい、なぜ俺の邪魔をする!?」
余りに強引に吹っ飛ばしすぎてシリアスな雰囲気までひっ剝がしてしまったらしい。憎悪も怨嗟も端に置き、ファフニールは至極真っ当な問いをきゃピバラへ投げ掛けた。
『あらゆる世界の膨大なオブリビオンこそが、猟兵達を狩り殺す。つまりこのきゃピバラこそが、猟兵を狩ってしまっても|無問題《もーまんたーい》』
「ぬうぅぅ……一理ある」
(「あるんだ……」)
どうだろう。わからない。というか傍目に見る限り舌戦でファフニールが押されているような気さえした。
「……だが、宿敵どもを前にして、此処は譲れん」
邪魔をするなら同胞と言えど容赦せん。ファフニールは恫喝交じり、きゃピバラを振り払い、紅蓮の翼を広げ、伽耶のいる中天の戦場へと羽搏く。
実を言うならきゃピバラも当然飛べるので、後追い夜空に乱入し、そして始まるバイクVS竜種VSカピバラの空中大決戦。
一見無茶苦茶な戦場だが、伽耶にとっては都合がよかった。
第三者の乱入で、狂い始める竜種の|狙い《リズム》。急上昇に急加速、時折余裕の|一回転の《アクロバット》を織り交ぜながら、相手の集中力をかき乱し、敵意を一身に受け止め、同時に足止めも熟す。バイクが夜空を駆け抜ける時間そのもの大きな隙へと変じ、空を背に戦っている限りは、これ以上、街の破壊は進むまい。復興費用だってタダではないのだ。
「……あらいやだ、もしかして今のあたし正義の味方だ!」
『ツマリ『義』ノ人、任侠道ー』
ばす停のエールはともかくとして、こちらが優勢なのは確かだった。
空と言う名の戦場を、さながらUFOの如く縦横無尽にジグザグ軌道。
幾度きらめく光の線を、時にきゃピバラの影に隠れ、時にはちゃめちゃな運転で乗り越え、幾度ぎりぎりやり過ごし、その都度熱を受け取った。
その熱の正体は、決して消えぬ、|骸の海《うみ》の底で燃え盛る破滅と言う名の炎だろう。
「……何度も再生するから、気が晴れないのよ……今回で全部吐き出しちゃいな!」
此方を追いかけ続けた代償に、防御への意識が薄くなったその瞬間。ビルを掠める低高度、伽耶はそれまでの回避行動から一転、一瞬。竜種目掛けきゃピバラともに全速力の|突撃《たいあたり》を敢行する。
どかん、とさながら花火の如く、夜空に響く衝突音。鱗にびっしり覆われた、堅固な緋色の胴体に、バイクときゃピバラが突き刺さり、一期一会の精神で全力、ばす停までをもめり込ませ、伽耶がカバンから取り出したのは、身代わり伽耶ちゃん人形と、あらゆるものの自爆スイッチ。
「グッバイ、また会えないといいわね?」
そしてそれをかちりと押して。即座ロープを伸ばし離脱する。
空中戦の終わり。
星空で、炎が爆ぜた。
大成功
🔵🔵🔵
彩瑠・さくらえ
遅ればせながら、だけど…ようやく来れた、かな
切り捨てられた過去の憎悪も、恨みも、怒りも、決してわからない想いではない
生憎とまだ覚醒したばかりだから、どこまで通用するかはわからない
けれど未来を進むことが業だといい、世界を滅ぼすというのなら
今の僕ができる限りで、全力で向き合ってみせる
ファフニール、
想いも業も全部まとめて背負ってやる
正面から受け止めるから、ぶつかり合おうじゃないか
戦法は至ってシンプルに
真正面から向き合い、近接で殴り倒す心算で
UCにて異形化させた[鬼の手]使用して殴っての攻撃中心
ドラゴンブレスは、可能な限り[オーラ防御]と組み合わせて[風を操り]、[受け流し]ての防御を試みるね
|人気《ひとけ》の途絶えた炎の街。誰も彼もが逃げ去って、全てを滅ぼさんと燃え盛る憎悪の根城と化したその場所に、しかし、凛と、新たな人の影ひとつ。
「遅ればせながら、だけど……ようやく来れた、かな」
実際に、夕暮れ時から始まった猟兵の贋物との戦闘から、夜と共にファフニールがやってきた現在に至るまで、そう時間が経っているわけではない。出遅れと言っても、精々が十数分程度の差。
しかし――グリモアベースでひどく懐かしい|炎獣《かお》を見たからだろうか。彩瑠・さくらえ(望月桜・f44030)は随分と久しぶりに、昔馴染みの|戦場《いらい》に顔を出したような感覚があった。
こういう心地もたまには悪くない。けれど懐かしんでばかりもいられない。くすり、さくらえは苦笑すると、改めて守るべき|現在《いま》を確認する。
いつの間にか掌中に在ったグリモア。猟兵として覚醒したのはある日、突然、つい最近。灼滅者ならざる、新たに得た力に関していうのなら、おろしたての靴を履いたばかりのような――馴染むには、もう少し時間が必要かもしれない。
どこまで今の自分の力が通用するかはわからない。だが――赤の瞳と竜の眼、互いの視界に収めるのは、かつての、そして、|現在《いま》の宿敵。
……今更言葉の類も通るまい。己が身を焼く燎原の炎たちには脇目も振らず、さくらえは竜種目掛けて駆け抜ける。
(「懐かしい、か」)
ファフニールへと進むたび、心の裡はあべこべに、記憶を辿り、昔の|出来事《こと》を思い出す。
――翠色に輝く縁。最早ずっと古い話だが、それがあの時の金色狐の縁と繋がって、また幾多の縁と交わり、さくらえは今、ここに在る。そしてその路の続きは今、此処から。
迸るブレスをやり過ごし、至近距離。ぐいと拳を握りしめ、さくらえは異形巨大化した右腕をファフニールに叩きつけた。
頭上に開くファフニールの大|顎《あぎと》。昼の陽光よりなお明々とさくらえを曝し上げる光は、今まさに放出されようとしているブレスの、恐ろしき輝きだ。それを察知したさくらえは、ブレスが噴き出すまでの僅かな猶予、半歩身を躱し、鬼の異形腕を翳す。
|咆哮《どうこく》と共に吐き出される高熱量のブレス。刹那、翳した腕は桜の花弁にも似た|淡光《オーラ》を纏い、同時その身に宿ったカミが|烈風《かぜ》を巻き起こして射線をずらし、受け流す。流石に|異形腕《うで》へのダメージはゼロとはいかないが、その他全身に大過なく。熱を冷ますように数度腕を振った後、既にこれで幾度目か、竜種の躰を殴打で揺さぶる。
「……切り捨てられた過去の憎悪も、恨みも、怒りも、決してわからない想いではないよ」
「ほう。ならば如何してくれる? 我らの怒りを鎮めるために、人身御供になるとでも?」
乱暴に首を振るってあらん限りの力で翼をばたつかせ、鬼の腕が施したいましめから無理やり脱したファフニールは、上空から此方を圧し潰すような、重く鋭い爪撃を繰り出した。
「残念ながら、それは出来ない」
さくらえは咄嗟、異形腕でそれを受け止める。肉が割け、骨が軋む。けれど、と、そう強く発しながら痛みごと竜の爪を振り払う。
如何しても相容れぬ敵がいた。分かり合えたかもしれないのに、倒してしまった敵がいた。人が人として生きるために、斃さねばならぬ敵がいた。
灼滅者とダークネス。サイキックハーツ巡る闘争の中で、消えていった者たちは数知れず。自分だって何か一つ間違えば、そうなっていたかもしれず。
切り捨てられてしまった者たちが、|現在《いま》を生きる者たちに怨嗟を向けるのは、きっと、必然なのかもしれない。
……しかし。それでも。
「未来を進むことが業だと言い、世界を滅ぼすと言うのなら――今の僕が出来る限り。全力で。向き合ってみせる」
怨嗟と憎悪、過去の化身となったファフニールに対して、力強く、そう言い放つ。
――護りたい人達がいる。
――歩みたい未来がある。
だから。どれほど業突く張りと恨まれようと、この路行きを譲るつもりはない。
そんなさくらえに対して、ファフニールは……笑った。
地をも揺るがすその大笑に、しかし負念や嘲りの色は一切見えず、むしろさくらえの心意気を芯から賞賛するような……そんな笑い方だった。
「良いぞ。そうでなくてはな。無抵抗の人身御供を嬲るなぞつまらん。どうあれお前たちは|幾多のダークネス《おれたち》を退けこの世界の変革を成したのだ。ならば勝者らしく堂々と、死の瞬間まで強くあれ。そうでなければ俺達が、切り捨てられた甲斐も無い!」
再び開く大顎。息吹の光が煌々と、さくらえは先ほど同様受け流そうとするが、体が|防御《それ》を拒絶する。先ほどブレスを受け流した後の、あの爪撃。これまでの|戦闘知識《けいけん》から、|異形腕《こちら》同様のいましめを施されたのだと直感したさくらえは、ならばと前のめり。巻き起こした疾風を背に肉薄し、右腕を振るう。
「――ファフニール、想いも業も全部まとめて背負ってやる」
「出来るのか? 瘦せっぽっちの人の身に」
肉薄するさくらえへの対応に、ブレスでは放つに遅すぎると案じたか、ファフニールは強靭な竜牙で振り上げられた異形腕に食らいつく。
「出来るとも。この通り、正面から受け止めるから――全力でぶつかり合おうじゃないか」
ずっとずっと昔から、消えない罪も、闇も、覚悟も、全て抱いて歩んでいく、その心境は決して忘れず、変わらない
さくらえはこれまで温存していた無傷の左腕にカミを宿して鬼に変え、これきり殴り倒す勢いで、思い切り叩き当てた。
そこから先の数十手。
息吹の光が瞬いて、鬼の巨腕が竜種を打つ。
いつ終わるとも知れぬその激突を、街に散らばる残り火達は、己が|怨嗟《ほのお》の尽きるまで――ただ只管に、照らし続けた。
大成功
🔵🔵🔵
闇月・心愛
※アドリブ連携OK
『ファフニール、なかなか寡黙じゃない♪この際言いたいコトは言っても良いんだよ☆』
OBに聞いたよ。穏健派が学園にすんなり受け入れられた時、その人、悔しかったらしいよー。だって『宿敵』なんだし。
『多数決ってそういうものだよ♪でも自分の気持ちに正直でいるのも大事だし?
決めた!私、今日は手を貸さない☆』
なんで!?
えと、基本はワイヤーで距離を取りつつ
拳銃で攻撃を仕掛けるかな。
援護射撃もできるよ。
なんとか相手に痺れを切らさせて
UCを発動を真正面から迎え撃つ形を作るね。
ギリギリまで引きつけて、
こっそり自分の後ろに×印を書くよ。
相手の突撃が止まった瞬間、
開いた口に両手の瘴気を叩き込む!
『ファフニール、なかなか寡黙じゃない♪ どうせ倒されちゃうんだし、この際言いたいコトは全部言っても良いんだよ☆』
「異界の小娘が、よくも煽る!」
スマホの|画面《なか》で玖琉美がけたけた笑っているのとは正反対に、燃える竜種は怒髪天。紅蓮の翼を大きく広げ巨体を浮かせると、刹那戦闘機の如き超速度でこちら目掛けて突っ込んでくる。
心愛は咄嗟、うつ伏せにも等しい位地に身を屈めやり過ごす。頭上すれすれを通り過ぎる|疾風《かぜ》の感覚。
『えー? すっごい心外⭐︎ 十割煽ってるワケでも無いんだけどなー? 自分の本音なんて、自分から言い出さないと誰もわかってくれないよって真面目なハナシ♪」
結局二割か四割か、助言交じり、煽っているのは確からしい。
「――OBの人に聞いたよ。穏健派が学園にすんなり受け入れられた時、その人、悔しかったらしいよー。だって『宿敵』なんだし」
一般人達がエスパーへと進化したのも、少数のダークネス達が今もなお健在なのも……この世界が今の形に成ったのは、灼滅者達の最大公約数的な|選択《いけん》が反映されたからだ。今となっては顧みられることも無かろうが、其処に汲まれる事無く零れ落ちて消えた選択も当然無数あるのだろう。
『多数決ってそういうものだよ♪ 誰かにとっては、時にままならない結果が出たりするの⭐︎』
「自分はあっちのお店行きたかったのに、結局みんなに流されてこっちのお店行くことになったりとか、ね!」
心愛は勢いワイヤーを竜種へ差し向ける。大きく振って、戻して、鞭のように二度三度。しかし硬い|竜鱗《うろこ》に阻まれて、引っ掻き傷が精々か。ともすると……心愛の指先が、そろり|妖刀《かたな》の柄に伸びた。
『でもさ、やっぱり、それはそれとして、自分の気持ちに正直でいるのも大事だし?』
そうだね、と相槌を返し、相対する竜種を倒すためには少々命が削られようとも、と、此処は玖琉美の言う通り、自分の気持ちに正直に、刀を引き抜――。
『決めた!私、今日はもう手を貸さない⭐︎』
「――なんで!?」
けなかった。
「……本音が望みと言うのなら、|咆哮《こえ》を大に堂々叫んでやろう……跡形もなく消え果てろ! 小娘!」
「え、いや、ちょっと。あのう。タイムとか……」
勿論。当然。そんなものは全く無い。間髪入れずに迫りくる竜の顎。現実は非常だった。
意を決したその瞬間の八方塞がりに成す術もなく、かすか聞こえたバイクのエンジン音を頼りに、玖琉美はワイヤーを撃ち伸ばし、竜種に突撃する伽耶と入れ違い、一旦その場を離脱する。
「ふぬぬぬぬ……! うーん、全然抜けない……」
火を噴くビルの屋上で、如何にかこうにか使えやしないかと思い切り柄を引っ張ってしばらく格闘してみるが、頑として刀は引き抜けず、そして全く抜ける兆しも無い始末。
『駄目だよ心愛♪ 力に頼って溺れる者の末路なんて相場は決まっているからね⭐︎ どんな苦しい出来事も、やっぱり自分だけで解決しないと♪」
全く以て正論だが、それを言うべき時も場合も場所も人物も何もかもが間違っている。
「というか、さっきは『私だったら心愛を素手で戦わせたりしない』とか言ってたよね?」
『~♪』
「あっ、ひどい、口笛で誤魔化しにかかってる……!」
兎も角。バイクとカピバラと竜種が上空で大決戦を繰り広げているこの隙に、何か策を考えなければ。
「となると、ええと……」
教科書に挟まっていたギターのコード表を一枚引き抜いて、そこにさらさらと『それ』を描く。炎に焙られっぱなしの蕩けかけの思考で考え付いた割には、そう悪くない筈だ。
――空でバイクとカピバラと竜種が爆ぜる。直前その場から飛び退く伽耶の姿を確認した心愛は、竜種の意識を彼女から逸らすため、夜空へ向けて|拳銃《じゅう》を撃つ。
そうすれば、こちらを睨む竜の眼。そのままワイヤーを駆使して空を跳び、竜種をさくらえの|視界《もと》へ誘導する。
奔るブレスを足下にやり過ごすと、拳銃へ弾を籠め直して一呼吸。その間にもぶつかり合う拳と光。
そこから頃合いを見計らっての銃撃で、さくらえから竜種の敵意を引き継ぐと、再び心愛は四方へワイヤーを伸ばし、銃口を竜種へ向けながら、燃え盛るコンクリートジャングルを縦横無尽に飛び跳ねる。
しかし折角撃った銃弾の悉くは、竜種へ接触するより先に流れ星の如く溶かされて、また彼我の距離をじりじりと詰められる。向こうの方が僅かに速いのだ。
このままじゃ追い付かれちゃうよ、どうするの? などど他人事の様に訊いてくる玖琉美に対し、心愛は、
「こう、する、の!」
そう叫び、焦れて増速した竜種に追いかけられながらの進行方向真正面、T字路最奥の建造物へワイヤーを撃ち放つ。
鉤先が建造物にめり込んだの確認すると、即座ワイヤーを腕から外し、着地と同時、くるりと後ろへ振り返る。
そうすれば、目鼻の先には大きく開いた竜の大顎。それでも心愛は怖じる事無く鞘に収まったままの妖刀を突き出し――がちんと。
綾子暗剣呪。鉤先に吊り下げられ、建造物に強引貼り付けられたそれは、|×印《しるし》を描かれ呪物と化したコード表。
大顎が、心愛を轢断するまであと少し。しかしどれほど藻掻こうと、呪いの印はそれ以上の前進を許さない。
「貴様――ッ!」
そして。竜種の大顎は開いたまま、閉じれもせず。
「おー⭐︎ 刀を|つっかえ棒《そんなふう》に使うなんて考えたねぇ♪ もしかして、これで嚙み砕かれて壊れないかってワンチャン期待してたり?」
「……それで壊れてるなら、世話は無いでしょ」
何時ものように溜息を吐く心愛の両掌から、禍々しき妖刀の瘴気が立ち昇る。
外が駄目なら内側から。心愛は掌を竜種の大口に翳し、
――斬撃呪殺。思い切り。超高密度の瘴気をファフニールの臓腑の奥の底、細胞の一片へと至るまで、徹底的に叩き込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
アルテミシア・ルッシュリア
…感情か、ならばボクはーー悪逆を叫ぼう
理性のままに
憎悪?恨み?
何それボク達ダークネスや灼滅者は兎も角、エスパーの人は感知できないよね?
関与できないものに責任を取ると言うならば…君は、等しくエスパーがエスパーでなかった時代の怒りや無念も等しく背負うべきだ
宿縁無き者に因果の鎖は廻らない…それを知らないと言うなら、こちらも君達の想いや感情を『知るもんか』で片付けるしか無いんだよね!
だからこそ言おうーー君達の感情と想いを理解した上で|灼滅《ころ》すと
『一つ残らず自分の物にしたこの世の全ての罪』に密着した「己が武器とみなしたもの」全て…今回の場合、UCのドラゴンブレスを『UCへの無効・複製・吸収・貫通・反射能力』で操作
同時一斉攻撃及び防御に利用して反撃に移る
悪逆なる生者として、最後にこう言おうーーごめんね
最後に、心の底からの謝意を『勝者』に述べて
…彼らの言葉を代弁して、挑んだ時点で、君は勝っていたよ
ーー安らかに眠れ『勝者』よ!
今ここでのボク達には、暴力で黙らせるという『敗北』しか存在しない!
木元・明莉
開戦早々のブレスは瞬間思考力で察知し、装備した櫻光花滴と大刀「激震」でオーラ防御&武器受け
そのまま激震を横振りかぶれば多少でもファフニールに返せるか?
…過去に殺されるのは御免だな
火の竜ファフニールの火はオーラだけでなく火炎耐性でも凌ぎ
防御や回避の低下を感じるならば経戦能力で体勢維持
過去からの戦闘知識でタイミングを見計らい低下分を補う
見境無く八つ当たる、大したエゴだ
その暴力性、憎しみ、それが「イフリート」であるならば狩られるは順当
そう理性では理解してるが
それでも俺はアンタ達に言いたかった
ごめん、と
アンタは憐れみと感じるか?
当然だ、これは俺のエゴなんだから
誰もが己の信念という刃を振りかざしてるなら
どちらかが倒れるまでお互い我を貫き通そうか
真の姿、といっても瞳が青くなるだけで見た目は変わらず
この妙な感覚は、昔意識あるまま闇堕ちたあの教室の一日のよう
UC【激震】
近接し鎧のような鱗を砕き、剥き出しの弱き部位を破壊するように思い切り大刀をファフニールへと振り下ろす
…安心しなよ
灼滅者を狩るのは灼滅者だ
淳・周
とうとう出てきたか。これだけの炎操るのは流石だな。
当時は時間稼ぎが精一杯だったが…あれから随分鍛えてるんだぜ?
今度こそ、その怒りごと骸の海に還してやる!
ここまで来たなら真っ向勝負!
燃やされる前の建物を足場に利用しつつファフニールに接近、ブレスを躱しつつ拳を鼻の傷に叩き込んでやろう!
生半可な地形だと速攻で蒸発しちまうだろうからとにかく動きまくって回避に専念。
顔の向きからブレスの範囲を予測、かつ皐月のオーラ燃え上がらせて余波含め防御。
ブレスが途切れたタイミングで睦月を操り影で竜の口を縛りブレスを妨害しつつUC起動、加速した思考と反射速度で最速の一撃を叩き込む!
アタシの全力の焔とその怒り、どちらが上回るか勝負!
…膨大な過去は次から次に襲い掛かってくるんだろうな。
だが、ただ狩られてやるつもりはねえ。
正義のヒーローは人々を守る者、襲い掛かってくるのが切り捨てた過去だろうが無念だろうが、今を害するならぶっ倒すだけだ。
決して相容れないなら何度出てこようがその度に白黒つけるだけさ。
※アドリブ絡み等お任せ
炎の海。|骸の海《うみ》の炎。
生者と死者が幾重幾度もぶつかれば、それに呼応するかのように、街を焦がす緋は更に強く激しく輝いて、立ち昇るのは最早|夜空《そら》の色、月の光すら飲み込む劫火。
モノも景色も日常も、何もかもが燃え盛る。ばちり、と唐突|火花が爆ぜた。退路も既に火へ沈み、忍び寄るのは|灰燼《きょむ》の気配。
轟と、|戦場《まち》の真ん中で、突如一際巨大な炎が噴きあがる。燎原の空、天を衝く火の柱。そこから現れ出でるのは、紅蓮の世界を飛翔する、竜種の姿。
「とうとう出てきやがったか……全く、これだけの炎を操るのは流石だな」
炎を従え我が物顔で地を見る竜種。
瞬きや、僅か動かす指の先、こちらの一挙手一投足が悉く焼かれているような熱の感覚。一瞬だろうと気を抜けば、きっと蒸発してしまうだろう。
……だが、と周は不敵に笑う。そんな|鉄火場《コト》は今更だ。此処が地獄の果てであろうとも、退くつもりは|最初《ハナ》から無く、むしろ堂々前へと進み出て、|如月《バイオレンスギター》を思うさま掻き鳴らす。苦難に抗う澄んだ音色が高らか宣戦布告を謳い上げると、その音撃は、紅の空に君臨する竜種を激しく苛んだ。
必然竜種は大きな首を動かして、射殺すような眼差しを周へと向ける。が、しかしそれだけ、上空からは動かない。
代わりに動き出したのは、地を這う|異形《にんげん》達の残り火だ。ファフニールの炎を合一を果たしたそれらはまるで意思があるかのように手を伸ばし、周を絡め捕ろうと迫り来る。俺を引きずり下ろしたくば此方まで来てみせろと、ファフニールが咆哮した。
言われる迄も無ぇ! 周は堂々|咆哮《ことば》を返し、走る。瓦礫を踏み廃墟を駆け|建造物《ビル》を蹴り、その数瞬後には波濤の如き延焼が周の足跡全て飲み込んで、すぐさま焦土、何もない。足を止めればそこで終わりだ。それでも周の裡に恐怖は無く、体を流れる熱血が、闇を灼き切る|真紅《ほのお》に変じ、残り火達を退ける。
紅蓮が怖じて怯んだその瞬間、街を裂くのは竜種の息吹。瞬く光。熱線が体のぎりぎり、髪先数本焼き切った。|上空《うえ》から来たそれを躱した周は、一切減速しないままビルの屋上から飛び出して、ファフニールへと吶喊する。空中、極至近の距離で、互いの視線が交わった。
「あの音色。その炎。覚えがあるぞ――そうか貴様、あの時のファイアブラッドか!」
「ああ! そうさ! 当時は時間稼ぎが精一杯だったが……数年振りの巡り合わせだ。アタシもあれから随分鍛えてるんだぜ?」
勝機を託して倒れた日。託された勝機に斃された日。互いにそれを覚えているなら――ここから先は、死線の続きだ。
周は剣ならぬ拳に炎を纏わせる。それはユーベルコードならざる、旧き時代の|レーヴァテイン《サイキック》。
「行くぜファフニール! リターンマッチだ!」
周の炎が|燎原の空《そら》を焼き、一直線に突き進む。狙いは|死し《よみがえっ》てなお残り続ける顔の傷。
強く強く拳を握り、勢いそのまま叩き当てる。『|猟兵《チーム》』としてはここからだ。双翼の羽搏きも無理やり威力で抑えつけ、竜の巨体は地へと墜ち、墜ち切るまでの僅か数秒、間断なく竜種へ降らせるのは嵐の如き真紅の乱打乱撃。
そして竜種の巨躯と地面がぶつかる落下の際、相手の胴を思い切り蹴り飛ばした反動を利用して距離をとる。だが、自身が墜落しようとも、追い縋るのは天地に開いた大顎。
息吹が来る。そう察知した周は、先んじて回避行動をとろうとするが、ほんの一瞬、ほんの刹那、全く予期もしない内、がくんと体がそれを拒絶する。
……髪先数本。それでも『命中』した事には相違なく。たった一拍の足止めが、息吹への対応を難しいものにした。
迫る光。虚を突かれた意識を無理くり立て直すと、周は重症覚悟、防御に転じ、そして――。
守りを固める周と押し寄せる息吹の、目鼻の距離のその狭間、瞬刻にして音も無く。突如地より大きな漆黒が障壁の如く顕現し、息吹の|侵攻《すすみ》を遮った。
ルーム・オブ・ジ・シャドウズ。アルテミシアの影業は、そのまま息吹を受け止めて、鬩ぎ合い、赤熱する。
|戦場《まち》を揺るがす竜種の叫び。勢いを増す息吹の奔流はやがて拮抗状態を食い破るように|影業《かげ》を嬲り、赤く染まった影の四方から炎が噴き出す。あらゆる物体を呑み込み|反映《かえ》す影業をただ強引に、圧倒的な火力だけで突破しようとしているのだ。
果たして赤熱の影は爆ぜる。だが|周《なかま》が退避出来たのなら、アルテミシアとしてはそれで構わない。あからさま豪勢に飛散し驟雨の如く視界を潰す影に紛れ、アルテミシアはそろりと竜種の背後に忍び寄り、|罪業断鋏《オールドメイド》を振り下ろす。
(! 硬い……いや、これは……)
容赦無く振り下ろした罪業断鋏が、しかし傷の一つもつけられず、がちんと弾かれ宙を舞う。その意味を察したアルテミシアはシャドウブレイドを薙ぎ払いに一閃、|竜鱗《うろこ》を無視してファフニールの精神|《こころ》を断つ。
恨み、怒り、無念、絶望。実体無き刀身を通して伝わるそれらの感情の正体は、決して燃え尽きぬ憎悪という名の溶鉱炉、その、ほんの一部だろう。
(「……感情、か。ならばボクは――」)
対極に、悪逆を叫ぼう。理性のままに。
「――憎悪? 恨み? 何それ? ボク達ダークネスや灼滅者は兎も角、エスパーの人はそんなの感知できないよね? 彼らが何時、キミに焼き殺されて然るべき『罪』を犯したって言うんだい?」
|原罪《つみ》とも言えないそんな|冤罪《つみ》、誰だって背負いきれやしないだろう。敢えて挑発するように、道化じみた笑みを顔に貼りつけ、アルテミシアはロンギヌスを振るう。
「それでも関与できないもの達に責任を取らせると言うならば……君は、等しくエスパーがエスパーでなかった時代の――ただただダークネスに踏み躙られていた時代の怒りや無念も背負うべきだ」
神殺しの聖槍が熱をはらむ風を裂き、
「宿縁無き者に因果の鎖は廻らない……それを知らないと言うのなら、こっちも君達の想いや感情を『知るもんか』で片付けるしか無いんだよね!」
そして鱗を掻き分け肉を穿つ。
「……はっ! よくも尤もらしい道理を滔々とと俺に説いたものだ。よもや|ダークネス《シャドウ》であるお前が、今更人類の守護者などを気取るつもりか?」
「さあて、どうかな。けど、そんな仰々しい話でも無いよ……ファフニール、ただ|死者《きみ》が眠っている間に、時代が少し、変わっただけさ」
唸りながら、竜種が|鳴動《うご》く。降り注ぐ爪撃。すかさず槍を引き抜いて、防御を嫌がる本能を理性で律し、受け止める。
「……シャドウ。お前の言い分は正しい。完全にな。だが俺達は、ただ一つの『炎』としてこの世に舞い戻ったのだ。炎に道理を説いたとて、それこそ、消える道理もあるまい」
そして炎の領分はただ一つ。憎悪のままにあらゆる全てを食んで焼きつくし、灰に返すこと。ただそれのみよ!
――紅蓮が爆ぜる。竜種が燃える。一種息を呑むようなその光景に、『罪悪感』や『宿業』など在りはせず、其処に在るのはただ、世界を|骸の海《うみ》に沈めようと輝く災厄か。
「ただ只管に純粋な、本能のままに猛る憤怒……鋏が弾かれたときに薄々解っていたよ。だからこそ敢えてこう言おう――君達の感情と想いを理解した上で……|灼滅《ころす》と!」
圧し潰してくる|爪撃《つめ》を弾き、アルテミシアは再び、シャドウブレイドでファフニールの心を掻く。しかし同時、大きく開く竜種の顎。切り札を行使するには一手遅く、さりとて無理やりに数歩退いたところで致命の間合いからは外れない。
――だが。刹那。アルテミシアとすれ違い、銀の刃が閃いて、奔る息吹と対峙した。
光り輝く|櫻光花滴《バトルオーラ》。息吹が|影《シャドウ》を消し炭にしようと溢れ出したその瞬間を察知した明莉は誰より前に立つ。大太刀・激震、|銀《しろがね》色の刀身を盾にして――一番最初、空から街を割ったブレスの時と同様、真正面からそれを受け止めた。
炎の戦場。ぶつかり合う|光《オーラ》と|光《ブレス》。はらはら舞い散る桜の吹雪。それを焼こうと燃える火花。
じわり、大樹の如く地を踏みしめた両脚が、ブレスの勢いに圧され、そのまま勝手、後退る。
相手の火力は底無しか、|継戦能力《きあい》で振り払った防御封じを差し引いて、初撃のそれより威力がなお増している。構え、呼吸、心持ち、何か一つが間違えば、瞬く内に灰と化してしまうであろう際の際。
だが……明莉は銀の両眼、桜吹雪の最奥で、何より煌めく白光夜を見た。
――そうだ。一人じゃない。独りにさせない。だからこそ……。
「……過去に殺されるのは御免だな!」
明莉が叫ぶ。覇気をみなぎらせ、全力のままに思い切り、激震を横薙ぎ、竜種の息吹を弾き|反射《かえ》す。底なしの火力が反逆し、|竜種《あるじ》の巨躯を包み爆ぜた。
――やってくれたな。自身の息吹に焦がされた竜種が忌々しげにそう吐き捨てると、まるで憂さを晴らすかのように、周囲の劫火がさらに激しく燃え上がる。
「見境無く八つ当たる、大したエゴだ」
袈裟の軌跡で虚空に一刀。激震に籠った熱を冷まし、明莉は改めて、ファフニールと対峙する。
「その暴力性、憎しみ、それが『イフリート』であるならば、狩られるは順当」
「ふん、|人間《おまえら》の理屈では、確かにそうであろうとも」
神話の獣さながらの、圧倒的な破壊力と殺戮欲。眼前のファフニールは、かつて武蔵坂で伝え聞いた『イフリート』の気性そのもの。
……過去幾多の戦いの最中、彼らのような明確に人に害為すモノと相対し、そして倒すことに、何かしら悔悟の念があった訳でも無い。
生きたければ、生かしたければ、狩らねばならぬ。だからそうした。紆余曲折を省いて簡潔に説明してしまえばそれだけの話。何を謗られる道理も無く、そう、理性では理解している。が……。
「……それでも俺は、アンタ達に言いたかった」
――ごめん、と。
「何?」
取り繕いの一つも無く、明莉はただ、正直に、己の心情を吐露した。
想定もしていなかったのだろう、また、余りにも素直で短い|謝罪《ことば》であったが故、ファフニールは逆に真意も量れずしばし呆気にとられ、しかし、
「……貴様。憐んだな。最早全てを焼き尽くすしかない俺達を。俺達が永遠に失った生者の目線で……!」
そしてその言葉の意味を理解した刹那、何より強く、|紅蓮《ふんぬ》の炎が燃え滾る。
「ああ。そう解釈してくれて構わない。今更言葉一つを投げたところで、当然どうなるものじゃない。だからこれは、どこまで行っても俺のエゴだ」
断言して、激震を肩に置き、明莉は駆ける。地を四肢で掴んだまま、ファフニールが羽搏いた。巻き起こされた疾風は、炎を浚い火風に変じ、戦場隈なく吹き荒ぶ。けれどそれで怖じてしまってはいけないと、これまでの確かな|戦闘知識《けいけん》が告げている。真正面の一直線。結局の所その路が、一番楽に往けるだろう。
経験に裏打ちされた足取りが、向こう傷を最小限に、ファフニールへと肉薄し、明莉は大太刀を振りかぶる。
「世界を焼き尽くす。御大層な話だが、それも結局、元を糺せばアンタのエゴだろう」
叩きつけた刀身。さらに力を籠めて強引に、鱗を削り、引き剥がす。
「誰もが己の|信念《エゴ》という刃を振りかざしている。だったら……」
襲い来る尾撃。ユーベルコードは帯びていない。相変わらずに回避や防御を意識した瞬間体が硬直するが、しかし刃として扱う限り激震は自在。そして『攻撃は最大の防御』でもあるだろう。尾を切り裂いて、銀の刃の切っ先を竜種に突きつける。
「どちらかが倒れるまで、お互い我を貫き通そうか」
「……面白い。ならば――」
灼熱する周囲の炎。開かれた大顎。今まさに放たれようとする息吹の光――。
だが、竜種がそれを撃ち放とうとした刹那、そうはさせじと閃く二つの人影。
周の|拳《ほのお》とアルテミシアの|剣《かげ》が交差して、強引怯ませ、息吹の|予兆《きざし》をうち消した。
二人の強襲に竜種は短く呻いたが、それでもすぐさま体勢を立て直し、ぎろり、憎悪の眼差しで、自身の眼前に立ちはだかる三人を睨めつける。
「ちっ。流石、と、まずは褒めてやる。再びの竜殺しに臨む者ども。忌々しいが、やるものだ」
ファフニールといえど、これまでの猟兵達との戦いで相応に消耗している筈だ。にも拘らず彼は決して威風堂々とした姿を崩そうとしない。
「そうさ、ファフニール。ちょうどいい機会だ。覚えときな――アタシ達が、どこにでもいる正義のヒーローさ!」
憤怒に燃える竜種に対し、周もまた堂々見栄を切る。
そんな周の宣言に、くすりと、アルテミシアは朗らか笑った。
「ヒーローか。良いね。たまにはそう言うのも悪くない。となるとボクはまぁ順当に……レッドってところかな」
「いやちょっと待て。そんな胸を張るほど赤の要素はさして無いだろ……えっ、あれっ? 無いよな?」
「それなら俺はピンクを引き受けよう。大丈夫。ウサミミメイド姿になる準備は何時だって万全だ」
「――明莉!?」
軽口を叩き合う三人。張り詰めた戦場での、ほんの一息。ほんの一瞬。すぐさま来たる尾の鞭を、各自それぞれやり過ごし、戦いは続く。
眼につく全てを千切らんと攻め寄せる大口開いた牙の列。それに対し千切ってやるのは此方の方だと明莉が巻き起こすのは激震一振り衝撃波。刃を直に当てずとも、竜種の鱗を切り裂いて、それでも唸る爪撃へ、周は攻防一体、|長月《WOKシールド》のバッシュで殴り返す。
再び結集し、剣と槍を飲み込み|反映《うつ》したアルテミシアの影業が伸び、火風に無視を決め込んで、問答無用に相手の肉体・精神、その両方を斬穫すると、すかさず周が竜種の尾を掴む。予め切っておいた焼け焦げの髪先一房で、自身の手先と掴んだ尻尾を括って補強し、右へ左へ地面へと、歯を食いしばりつつ思いのままにぶん回す。それからしばらく、霊力切れの髪の毛が解れてきた頃合いに、明莉目掛けて竜種を放り投げ、パスを渡された明莉の拳が竜種を穿つ。
そのまま全身を覆う櫻光花滴を拳先へと集中させ、巨躯と拳が密着する零の距離、片手撃ちのオーラキャノンを叩き込んで空高くへと吹き飛ばし、それを認めたアルテミシアの掌中で、光球状の|オーバームーン・シャドウ《トラウメンヴァッフェ》が形を変える。激しい閃光が超新星の如く膨れ上がり、収束し、細く鋭い『絆』の投槍と成った。
そして放たれた投槍が、紅蓮の夜天を裂いて竜種を貫くと即座に砕け散り、その|足取り《うごき》を鈍らせ――今この瞬間。利害無く、損得無く、陰謀無く。あの時の様に。あの時を超えて。灼滅者とダークネスが、世界を、人々を守るため、肩を並べて戦っている。
「……成程。確かに時代は変わったようだ。だが――」
そう容易くはやらせぬ。上空で、竜種の首がゆるりと動き、憤怒と憎悪の両眼が、猟兵達を睨めつける。
星明りから断絶された紅蓮の空で輝く光。しかし態々睨めつけて来るのなら、その射線もわかりやすい。僅か程度のいましめ振り切って、周は二人を後ろに、真紅の|皐月《バトルオーラ》を燃え上がらせると、うねり降り注ぐ息吹の奔流を防御する。広く、大きく、余波すら引き受け、限界という閾値を超えてもなお気合で凌ぎ、決して二人を焼かせない。
輝く紅蓮。燃える真紅。ぶつかり合う二つの赤は、やがて同時に爆ぜ飛んで――僅か、戦場に静寂が訪れた。
ぎゅうと、体を縮めて丸まるように、竜種は己の巨体を|双翼《つばさ》で|包《くる》む。今までには見られなかった動作。
|本体《すがた》を隠したそのまま地へと降り立って、再び翼を開いた時、これまで負わせた傷の大半が消え失せて――癒えている。
否、これまで猟兵全員で彼に刻んだ傷痕は、容易く癒えるほど浅いものではないはずだ。ファフニールの性格上、それは窮余のものでなく、また死を厭うてのいたずらな延命ではありえない。即ち此処に来ての回復は、正真正銘『必殺』の意思表示。決着の刻がきたのだ。
ならば、と竜種を見据える眼差しに覚悟を燈すと同時、明莉の瞳が、青に変わる。
普段の技量を超えて満ちゆく力。研ぎ澄まされる意識。自分の体の筈なのに、|灼滅者《じぶん》のものではないような、奇妙な感覚。それと同時、明莉の脳裏に蘇るのは、意識あるまま闇堕ちたあの日の教室。
ふと、幽か、顔を綻ばす。あの時は。我ながら。よくもまぁ。
「……貴様らの|闇堕ち《奥の手》を切ったか、灼滅者」
「――いいや。違う」
それも一瞬。再び鋭い表情で、竜種へ明確、否定の言葉を突きつけた。そう。これは、闇堕ちならざる|猟兵《いま》の明莉の真の姿。
そして明莉は駆け抜ける。衝撃波で強引に|進路《みち》を開け、青の瞳が狙い澄ますのは、先ほど刃を叩き当てた部位。
「龍脈に眠る荒神よ……!」
神速繰り出す激震の横一文字。真の姿で放ったそれは、先の斬撃達よりも重く鋭く、再生したばかりの鱗ごと竜種の体を砕いて斬り裂き、ごう、と、盛大に。大きな刀傷から瀑布の如き|血液《ほのお》が噴き出した。
「ぐうぅ! 貴様っ、龍脈から切り離された俺に、寄りにも寄ってそれを使うか!」
「ああ。そうともファフニール。アンタを倒すために、使える|技術《モノ》は全て使わせてもらう」
明莉の心境を表すように、櫻光花滴は劫火の中で静謐を保つ。まき散らされる緋の色を、火炎耐性に任せて強引凌ぐと返す刀で大上段に振りかぶり、ぐつぐつ煮え滾る|噴火口《きずぐち》へ、思い切り大刀を振り下ろす。
爆ぜる炎。明莉の太刀筋を受けた竜種の体は激しく震え、刃から逃れようと飛び退いた。
そうして即座輝く息吹の光。大技を放った直後の明莉にそれを躱す術も防ぐ術も無く、
……だが今更、ダークネスと共闘するのに言葉を重ねる必要も無いだろう。明莉への射線を遮ったアルテミシアはぽつんと、まるきり無防備にも見える姿で灰と塵を巻き込み侵攻する息吹へ手を翳す。
光に触れた影の指先は、しかし灼けて滅することも無く、ぴたり、竜種の暴威をそこに押しとどめ――息吹の威力や性質の凡そは、影業で受け止めたときに知れている。それが|反射《かえ》せるものであることも、明莉が示してくれていた。ならば。
「――月よ示せ。全ての心に宿る罪……」
翳した小さな掌にあるのは、一つ残らず自分の物にしたこの世の全ての罪。『贖罪』から受け継いだそれが息吹に触れたとき、圧倒的な光の奔流は、竜種にとって予期せざる|挙動《うごき》を見せ始める。
「――其れを引き受け罪深き刃に干渉する事こそ贖罪の本懐。我が罪深き刃を以て、全ての罪を許し給う」
堕ちた筈の月が昇る。|猟兵《なかま》と共に再び夢を照らし出す。
己が武器とみなしたもの、そのすべて。罪を伝って無力化され、アルテミシアの得物に変じた竜種の息吹は、彼女によって無数複製され……紅蓮の空に浮かぶ数多の|月《ブレス》がファフニールを包囲する。
これから為すのは悪逆なる生者として、意地汚くも世界を延命させるためのなりふり構わぬ非情の一手。故に、
――ごめんね。
ぽつりとそう、心の底からの謝意を『勝者』に述べて……刹那、無数の炎が、一斉に炸裂する。
防御を破り全方位から徹底的に竜種を貫く息吹の烈光は、明莉の刻んだ傷口をさらに大きく広げ全身に至り――|護り《うろこ》を失った竜種は、溢れ出す血塗れの、紅蓮の炎そのものと化した。
咆哮。街を侵す残り火達が猛る。四方に散らばっていた炎の群れ、そのすべてが竜種の元へと集結し、一つとなって、大きな体躯からさらに見上げるほど巨きく燃え盛る|竜《ほのお》の形に収束する。
あれが竜種の奥の手か、いいや違うと周は頭を振る。あれは、|炎《いのち》が燃え尽きる寸前の、最期の眩き煌めきだ。
開く炎の大顎。ただ存在するのみで周囲を灰燼に帰す圧倒的な熱量。この状態でひとたび息吹を吐きだせば、戦場一帯は愚か、この世の全ての罪をすら、跡形も無く焼き尽くしてしまうかもしれない。
「させるか!」
周は即座自身の足元から|睦月《影業》を伸ばし、息吹が噴くより先んじて、竜種の顎を縛り上げる。暴れ狂う竜種。みちみちと、悲鳴を上げる影糸たち。馬鹿みたいな抵抗力。束縛もそう長くは持たないだろう。
……終わらせなければならない。拳を強く握り、そこへ己が炎血、灼熱の焔を無尽に|圧縮《こ》める。が、その間は全くの無防備状態。顎のみを塞ごうと、竜種の爪がビルを砕き、尾が大地を穿ち、双翼が烈風を引き起こす。
しかし――周へ暴威が迫るその寸前、明莉の振るう激震の、銀の刃が炎を断ち切り怯ませて、アルテミシアが操る無数の月光たちが、愚者も世界も置き去りに、竜種の意識を影へと誘う。
束縛が破ける。破滅の光が、何より眩しく輝いた。だが同時、周もまた竜種へ走り出す。憤怒と憎悪に染まった竜種の両眼、其処に映る周が携えるのは、拳に閉じ込めた小さな炎。
自身の|焔《ぜんりょく》と竜種の|炎《いかり》、ここまで来たならどちらが上回るかの真っ向勝負。加速する思考と反射速度が|行動《うごき》を縛る枷を振り切って、音すら切り裂く爪を躱し、ビルを崩して撓る尾を踏み台に、残影を空に焼きつけながら、赫き|月光《オーラ》を纏う周はファフニールへと肉薄する。狙いは再び、炎に隠れた顔の傷。
間近で奔る、最大火力の兆し。だが、周の眼差しに迷いはない。
拳に宿した真紅が気高く燃える。独りだけならば、此処まで炎を|圧縮《つめこ》むことは出来なかった。この炎は誰が欠けても為し得なかった皆の成果。これで倒せなければ嘘だろう、と、真紅の密度が豪語する。だから後はただ、叩きつければそれでいい。
「――今度こそ、その怒りごと骸の海に還してやる!」
――刹那。極限を超えて圧縮された業火が爆ぜ……ぐらりと倒れ逝く竜種は静かに瞬く夜天を仰ぐと、最早何を破壊することも叶わず、さながら魂もろともブレスを全て、空へと吐き尽くす。
天を衝く火の柱。やがて消えゆく炎のその終焉が、同時、死線の幕引きを告げた。
●いつか、どこかへ続く道
かくして憤怒は消え果てる。
満天の星の下、瓦礫に塗れてうずくまる竜種の巨躯――だったものは、火種を燃やし尽くしたが故か、鮮やかだった紅蓮がくすんで|灰燼《はい》に近しく、後は僅か、吹けば失せる小さな|命《ほのお》が弱弱しく揺れるばかり。
「……『淀み』だ」
焼け焦げた喉を震わせ、ひゅう、と、風音交りに幽か、竜種はそう零す。
「|灼滅者《おまえ》たちは、太古より続く|この世界の繁栄システム《サイキックハーツ》を断ち切った――循環せぬ世界は、いずれ淀み、停滞する。その『淀み』こそが|復活ダークネス《おれたち》であり、あの刀の影のような者たちが|世界崩壊《カタストロフ》の先触れだとしたら――」
今この世界に迫る脅威がお前たちの選択の結果だったとしたらどうする? と。
消えかけの小さな炎は死に際足掻くように意地悪く、そう問うてきた。
「アタシ達が選び取った結末だ。だったとしたら、如何にかするさ」
周はけろりとそう返す。
他の世界の話を聞く限り、これから『膨大な過去』は次から次に襲い掛かってくるのだろう。
だが、と、頬についた朱を拭う。ただ狩られてやるつもりはねえ。そう啖呵を切った。
「正義のヒーローは人々を守る者、襲い掛かってくるのが切り捨てた過去だろうが無念だろうが、今を害するならぶっ倒すだけだ」
新しい|猟兵《なかま》も居る。決して相容れないなら何度出てこようがその度に白黒つけるだけさ。言いながら、掌中で己が灼熱の|血液《ほのお》を燃やす。この炎が輝き続ける内は、好きにはさせない。
それでこそ、狩り甲斐もあるというものだ。死の淵の骸に等しいファフニールは笑う。今回は退けられたが、次もまた、暴威をもって攻めてくるのだろう。幾度殺されようと幾度蘇る。オブリビオンとはそう言う存在であるが故に。
「世界の外の枠組みに、俺たちは簡単に狩られはしない」
瞳の色を戻した明莉はそう断言する。
「……けど。安心しなよファフニール。灼滅者を狩るのは灼滅者だ」
『人間を殺したダークネスを、お前達灼滅者が狩る。それが灼滅者というのならば、それも良かろう。だが、ダークネスを灼滅した灼滅者、お前達は誰に狩られるのだ?』
ファフニールが生前遺し、宙に浮いていた問いに、数年越し、明確な答えを返した。
「ふん。気取った話だ。この世界でお前らを咎められる者は最早いまい。ならば、好きにすれば良いではないか。共に戦った同胞を狩ってまで、一般人の秩序に合わせる道理がどこにある。それがお前らの『エゴ』というやつか」
「違う。『責任』だ。世界を変えた|灼滅者《おれたち》全員が背負うべき、な」
灼滅者を裁く灼滅者。或いはそれも、ファフニールの言う『淀み』の一つなのかもしれない。そうあるべきだがそうならぬ様に――未来へ向けて今はただ、祈るしかないのだ。
「私見だけれどもね――|人間達《かれら》の言葉を代弁して、挑んだ時点で、君は勝っていたよ」
謝意の続き。闘いの終わり。悪逆を叫ぶ理由も失せた。アルテミシアはファフニールへ静か、自身の本音を語りかける。
「お為ごかしを。俺など結局誰一人も殺せずに、無人の街で駄々を為したのみ。だが――そうか。シャドウ。貴様らは|他人《ひと》の心に入り込むのを何より得意としていた……な……」
見え透いた世辞だが、竜を打倒した|勇者《もの》にそう言われるのは、悪くもない。
ファフニールはぼそりと小さくそう呟いて、眼を閉じ――。
「――安らかに眠れ、『勝者』よ。今ここでのボク達には、暴力で黙らせるという『敗北』しか……存在しなかったのだから」
そうしてついに、小さな炎は掻き消える。
熱が去り、柔らかく猟兵達を照らすのは、星の光と月明り。
辺りを見渡せば荒れ果ての、灰燼ばかりの景色だが、それでも確かに……。
――|静寂《にちじょう》が、戻ってきたのだ。
大成功
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