花雫のモアナ・ガーデン
●夏花の海庭
広がるはエメラルドグリーン。
奥を、底を――見通せるほど透き通る美しき海には、数多の宝が眠る。
色鮮やかな珊瑚礁。優雅に泳ぐ色とりどりの魚。そして、夏を象徴する花々。
波に踊るように、ゆらゆらと揺れる花々は海の中だからこそ見える神秘さを持つ。
そして――その神秘さをより強くする、『宝』を抱くのは伝承の一つ。
●煌めく水辺と金魚の記憶
「折角の夏ですから、グリードオーシャンの海でのひと時はどうでしょう?」
晴れやかな笑顔で、ラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)は猟兵へと述べる。
強い陽射しを感じる夏がやってきた。数多の世界を渡る猟兵故に、人により夏と云って浮かべる景色も気温も違うだろうけれど、その熱から逃れたいと思うのは共通だろう。
そんな数多の世界の中で、今回は海の世界への誘い。
場所はアリスラビリンスから落ちてきた島。
透き通る程の美しいエメラルドグリーンの水。泳ぐ魚は色とりどりの色を宿し、水面から注ぐ陽射しを浴びてキラキラと輝き優雅に泳ぐ。
鮮やかな珊瑚礁。――そして、水中を揺蕩う海の花。
眩しいお日様色の向日葵は、水面に向かいのびのびと育ち。色濃く映る水底で咲く真白の百合の花は可憐な色合い。岩々に映える色合いは、するりと伸びる朝顔。
美しき夏の花が海中に咲くこの海は、『夏花の庭』と呼ばれている。
「アリスラビリンスの影響でしょうか? この海の中では呼吸も出来るしお喋りも出来るみたいで、泳ぎが苦手な方でも安心して泳げるみたいです」
不思議な不思議な現象だけれど、それならばずっと海の中で楽しむことが出来るだろう。水温も冷たすぎず、すぐに身体が冷えることも無さそう。
ただ、美しき海を揺蕩う。
それだけで十分夏の色を楽しむことは出来るのだろうが――。
「この海の花々の中……そこには、宝物が隠されているってお話があるそうですよ」
口許に人差し指を当てて、悪戯な笑みを浮かべラナはそう言葉を添えた。
それはよくある、浪漫溢れる海の物語なのかもしれない。
けれどその伝承を胸に海を揺蕩えば――どこか物語の世界を泳ぐ心地になるだろう。海を泳ぐ魚やクラゲ達に問い掛ければ、その場へと案内してくれるかもしれない。
海を揺蕩っていれば、キラキラと輝く『何か』が現れる。
「それは、硝子のような金魚さんです。オブリビオンなので、しっかり倒して下さい」
鮮やかな朱や黄の煌めきを帯びた金魚が、数匹泳いでやってくる。その輝きは海の中と云え妙に瞳に焼き付く為、直ぐに気づくことが出来るだろう。
彼等が直接何か危害を与える訳では無い。けれど、倒さなくてはいけない理由がある。
――モザイク金魚に逢ったならば気を付けて。お前を過去へと回帰させるよ。
そんな言い伝えがある通り、この金魚は人を過去へと戻させる。その過去が幸せなものであるか、不幸なものであるかは分からない。強く心に残る景色かもしれないし、もう忘れてしまった、心の奥の断片の景色かもしれない。
それは、出逢うまで分からない。
けれど誘われた過去から脱出しなければ、未来永劫囚われてしまうだろう。
そのキーは、『これは過去なのだ』と強く想い、『今』への帰還を強く願う事。
願えば不思議と視界は元の海へと戻り、ただ煌めく金魚だけがそこに泳ぐ。彼等はただ過去へと回帰させるだけで攻撃は仕掛けてこないので、脱出さえ成功すれば倒すことは容易いだろう。大切なのは、心を強く持つこと。
「折角の夏ですから。暑くてだれちゃいますけど、楽しみましょう!」
敵の話を終えた途端、真面目な表情から楽しげな笑みへと変えラナは紡ぐ。
世界や立場によっては『夏休み』と云う言葉もある季節。日々暑さは厳しいけれど、この時期でしか楽しめない事も、景色もある筈だ。折角なのだから思い切り海の世界を楽しむのが良いだろう。
「あ、勿論敵のことも忘れずに、です」
最後に、念の為と言葉を付け加えるけれども。どうしても浮き浮きとした気持ちは隠せない。零れる笑みのまま、ラナは猟兵達を導いた。
さあ、夏の始まりを告げる、花隠れのひと時を――。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『グリードオーシャン』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 日常(夏花揺蕩う海の庭)
・2章 集団戦(モザイク金魚)
●1章について
透き通る美しいエメラルドグリーンの海。
鮮やかな魚が泳ぎ、珊瑚礁や沈んだ海賊船など海の中っぽいものなら色々と。
水中に向日葵、百合、岩を伝って生える朝顔があります。
それぞれの花の中には『宝物』が眠っているとの伝承があります。
宝物……花の中に咲く真珠のような宝石です。色合いは様々。ごく一部の花の中だけなので、見つけられるかどうかは行動次第です。『花が零した涙の雫』と言われています。
●2章について
過去へと時を刻む金魚。
同行者がいる場合は、一緒に同じ過去へと遡ることが出来ます。その場合はどちらかの過去のみとなります。
他シナリオや外部情報は参照致しません。プレイング内である程度説明お願いします。
POW……ご指定の年齢の姿でモザイク迷路を彷徨います。思考は元のままでも年相応でも。
SPD……ご指定の年齢の過去の光景へと巻き戻ります。あくまで幻想なので現在軸の事実を変えることは出来ません。
WIZ……今この場の戦場で、姿のみご指定の年齢へと変化します。
※年齢は自身で立って行動出来る年齢のみとなります。
●装い
1章のみ参照。特に指定が無ければ言及は致しません。
水着コンテストの装いの場合は、記載頂ければ拝見致します。(○○年水着等分かるように。文章の流れによっては反映出来ない可能性がありますので、ご了承のうえお願いします。リプレイ返却までステータスで該当イラストを活性化しておいて頂けますと、探しやすくて助かります)
●その他
・全体的にお遊びです。
・どちらかだけのご参加も大丈夫です。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『夏花揺蕩う海の庭』
|
POW : 海の生き物たちと戯れる
SPD : 海中探索、泳いで回ろう
WIZ : 海に浮かぶ花を楽しむ
イラスト:青谷
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●泡沫の夏庭
真白の砂浜に、遠く遠く見渡せるほどのエメラルドグリーンの海。
絵画のようなその光景は、此処が現実では無く絵の世界と錯覚するほどに美しい。
肌を焼く陽射しから逃れるように、海へと潜れば一瞬肌を撫でる冷ややかさ。けれども暫し時間を置けば、その水は肌に馴染むかのように心地良さが広がる。
瞳を開ければ広がるのは遠く遠く、揺らめく海の世界。色とりどりの珊瑚礁、優雅に泳ぐ魚達、そして――色とりどりの、夏花の庭。
その景色に驚き唇を開いてみれば、泡沫と共に音が零れる。
此処は『夏花の庭』と呼ばれる不思議な不思議な海。
花の零した雫を見つけることが出来たならば。きっと幸せが見つかる筈。
何処にあるか迷ったならば、海の生き物へと問い掛けよう。――もしかしたら、花達もお喋り出来るかもしれない。
劉・久遠
夏花の庭、美しき海の世界……ええねぇ癒される
最近は建具や家具の図面と睨めっこが続いてたし、まずはゆったり揺蕩うのを楽しみましょか
水中カメラを持ちゆっくり潜り、流れに身を任せ揺蕩いながら美しき海中を堪能
家族への土産と仕事の資料兼ねて写真撮ります
もしウミガメがいたら満面の笑みで小さく手を振り写真撮らせてもらお
カメさん大好き!
花の零した涙の雫、か……
息子が好きそうやし、写真撮って帰りたいなぁ
逆に娘は興味ないんやろなと苦笑しつつ、少し考え
ここは一つ、先住のモンに頼るとしましょ
決して奪ったり傷つけたりせんから、良ければ案内したってくれへん?
視界内の生き物に泡と共に声をかけ
見つけられたかはMSにお任せ
●
「夏花の庭、美しき海の世界……ええねぇ癒される」
キラキラと陽射しの煌めく、まるで絵画の世界に降り立ったような美しい景色。――それはシルバーレインの世界で見る海とはまた違う、幻想的なもので。劉・久遠(Lady Bug・f44175)は糸目をやわらげる。
肌に触れる水は包み込むように優しく、入った瞬間は冷たいと感じた水もいつの間にやら心地良くなった。ぷくぷくと口許から上がる泡を見つめながら、久遠は水中カメラを手にそのシャッターを下ろす。
パシャリ。
水中に確かに響く音色。
その音に惹かれたのか辺りの魚がくるりと舞ったかと思えば、久遠の周りを優雅に泳ぎ出す。透き通る海の中、鮮やかな魚達の色はあまりにも美しく幻想的で、この景色を残したいと思い、久遠は幾度もシャッターを下ろしてしまう。
全ては最愛の家族の為に――勿論、仕事の資料と云う事も忘れていないが。
「花の零した涙の雫、か……」
ゆらり、ゆらり。流れに身を任せ、魚達と共に揺蕩いながらぽつりと零す。
息子が好きそうだと想えば、写真を撮ってみせてやりたいと思うのが父心。
(「逆に娘は興味ないんやろな」)
愛する双子の全く違う様子を想像しては、思わず苦笑が零れる。そんな事を考える時間も幸せで、彼等の為に彷徨うのも嬉しいけれど。
「ここは一つ、先住のモンに頼るとしましょ」
話によれば、確か海の生き物が教えてくれるかも、との事だけれど――魚達に聞いてみようか、そう想い辺りを見回した時。色とりどりの魚達の奥から優雅に泳ぐ大きな影。
「!」
その姿を捉えれば、久遠は驚いたように息を呑んだ。まさか逢えるとは思わなかった。大好きな海ガメの姿を捉え小さく手を振れば、彼は気付いたのかヒレを動かしまるで返事をしてくれているように思える。そのまま写真を構えれば彼は逃げるどころか撮りやすいようにと角度を変えてくれた。
「決して奪ったり傷つけたりせんから、良ければ案内したってくれへん?」
折角だからと問い掛ければ、カメはゆるりと瞳を瞬き――魚と共にくるりと向きを変え、優雅に泳ぎ出す。その速度は人間である久遠に合わせたもので、案内してくれている事が分かる。そのまま彼等と共に海中散歩を楽しめば、鮮やかな太陽色が見えた。
海のように広がる向日葵の中。一際大きく育った向日葵の周りをくるくると泳ぐ彼等に導かれて覗き込めば、そこには深い藍色を宿す涙が眠っていた。
大成功
🔵🔵🔵
蓮見・双良
【空環】23年水着
僕にとっては、あなたと居られる場所はどこだって楽園ですよ
悪戯心が勝り耳許で囁き
一番"とっても綺麗"なのは杜環子さんですけどね
…と言うと益々照れてぎこちなくなるだろうから
微笑みだけ返し
手重ね海へ
幻想的な風景にまた1つ世界の彩と燦めきを実感しつつ
こうして増えていく記憶に
常に杜環子さんがいるのが嬉しい
ジンベイザメ…あ、あっちに居るのがそうじゃありませんか?
彼女が万華鏡だとは分かってるけど
今日の姿はまるで人魚姫
海の景色よりもつい彼女を見てしまう
そうですね。今にも瑞々しく香ってきそうです
飾られた百合に微笑み返し
あなたが笑うと、僕も笑みが毀れて…まるで鏡ですね
僕だけの、不思議で愛おしい鏡
壽春・杜環子
【空環】23年水着
…まぁ!
見て見てそらくん、ほら、とっても綺麗でしてよ!ふふ、何だか楽園のよう
美しい光景に双良の手を取って花の海へ
南国めいた異国の色の海に微笑み、鮮やかな魚と遊んでサンゴ礁や大きなジンベイザメは見られるかしら?
雄大な姿を手を取り合って眺め、勿論花も
お水の中だとは思えない…綺麗ですこと、ふふ…よい香りがしそうなんだもの
ふと、そらくんを見てから百合を一輪“わたくしの大切な人を飾らせてくださいな”と一言断って手折り、そらくんの耳元…わたくしと鏡合わせになる位置へ飾って
ふふ、そらくんもわたくしとお揃い!
何度見てもその笑顔に胸が高鳴るのは何故かしら
あなたが笑ってくれるなら、わたくしは幸せ
●
「……まぁ! 見て見てそらくん、ほら、とっても綺麗でしてよ! ふふ、何だか楽園のよう」
色とりどりの魚が優雅に泳ぎ、鮮やかな珊瑚礁と花々が広がる不思議な景色。
エメラルドグリーンの海中に広がる、幻想的な世界を前に壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)は藍色の瞳を万華鏡のように輝かせ傍らの彼を呼ぶ。
美しい、と素直に零すその唇からはこぽこぽと、泡と共の音がしっかりと零れている。
水中でゆらゆらと揺れる煌めく乳白色の髪や、海中でこそ煌めく彼女の海を思わせるその装いを見れば――それは人魚姫のように美しく、蓮見・双良(夏暁・f35515)の視線は逸らせなくなる。
――僕にとっては、あなたと居られる場所はどこだって楽園ですよ。
だから、こその悪戯心なのだろうか。彼女の傍にふわりと近付き、その耳元で優しく紡ぐ。水中故に常に水音が響いているけれど、その囁きはしっかり杜環子に届いたのだろう。彼女は白い肌を桜色に染め上げて双良を見る。
――一番『とっても綺麗』なのは杜環子さんですけどね。
そんな彼女の姿をに、そう零してしまいたい想いが強まるけれど。その言葉を音にしてしまえば、ますます照れてぎこちなくなってしまうだろうから。双良は甘い笑みだけを彼女に返すと、そうっとその細い手を取った。
心地良い水中で、重なる掌だけ熱い体温が伝わってくる。
波間を眠らせた裾を揺らし、此方だと案内するように双良が泳ぎ出せば、杜環子は素直に従った。ひらりひらり、白を基調とした二人の影に惹かれるように、周りには魚達が集まってきて、挨拶をするように杜環子が手を伸ばす姿は見惚れる程。
美しくも幻想的な、南国めいた異国の色の海。
(「こうして増えていく記憶に、常に杜環子さんがいるのが嬉しい」)
その幸せを感じれば、胸が熱くなるのは気のせいでは無いだろう。
「大きなジンベイザメは見られるかしら?」
「ジンベイザメ……あ、あっちに居るのがそうじゃありませんか?」
珊瑚礁の間を泳ぐ魚達を眺めていれば、不意に零れた彼女の問い。それを反復しながら辺りをきょろきょろと見回せば、少し先に雄大な存在が海中を舞うのが見える。
視線が合い思わずびくりと肩が跳ねてしまうけれど、彼は敵対することなく優雅に海中を泳ぐ。繋いだ熱を感じながら、ただただその光景を杜環子は見守るが――変わらず双良の視線は、海に溶け込む杜環子に夢中だった。
(「彼女が万華鏡だとは分かってるけど」)
その装いは、あまりにもこの海に似合いすぎていて、何時までも追い掛けたくなるのだ。そんな彼の心には気付いていないのか、杜環子が足元に咲く真白の花へと近付くと、そうっと鼻を近付ける。
「お水の中だとは思えない……綺麗ですこと、ふふ……よい香りがしそうなんだもの」
「そうですね。今にも瑞々しく香ってきそうです」
穏やかに笑む彼女に笑顔と頷きを返せば――彼の姿を見た後、杜環子は暫し考え。そっと一輪の百合へと手を伸ばすと、淡く唇を開く。
――わたくしの大切な人を飾らせてくださいな。
小さく小さく紡がれた声は、この距離だからか、それとも水流が運んでくれたのか。何故だか双良にはしっかり届いた。不思議に思うと同時杜環子は花を一輪ぷちりと手折ると、双良の左側の耳元へとその白百合を飾る。
「ふふ、そらくんもわたくしとお揃い!」
鏡は無いけれど。嬉しそうに笑う杜環子の藍色の瞳に映る百合を彩る自分の姿を見て双良もまた嬉しさに笑みを返す。その笑みを見ればとくん、と杜環子の心が跳ねた。
何度見ても、その笑顔に胸が高鳴るのは何故かしら。そう不思議に思えば、双良は繋いだ手をきゅっと握ると真っ直ぐに杜環子を見て唇を開く。
「あなたが笑うと、僕も笑みが毀れて……まるで鏡ですね」
隠さずに己の心を零す双良。その言葉にまた胸が鳴るけれど、甘い笑みを見れば杜環子の口許も自然とやわらいでしまうから。
「あなたが笑ってくれるなら、わたくしは幸せ」
その手を握り返しながら、そうっと世界を映す瞳を閉じながら言葉を零す。
揃いの花を揺らし、改めて宿るのは熱い想い。
――僕だけの、不思議で愛おしい鏡。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
澄清・あくあ
「ふしぎな海です✨」
『草原みたいです!✨』
伝承とか説明とか一度置いといて、きれいな海を二人で楽しむのです。
行っても大丈夫な場所に限って色々と泳ぎ回り、隅まで期間限定かもしれないたくさんの情景を見るのです
一通り見て回ったら伝承についても調べてみるのです
涙が零れるのはなぜだろう。悲しいからか、感動したか、そのぐらいしか思いつかないのです
探すとしたら、「寂しげに咲いてるお花」か「素敵な場所を見つけた誇りのあるお花」
この2択なら、美しい世界の中で目立たないけど、一際心が揺れ動くほどきれいな場所と
そこにたどり着いた|先駆者《お花さん》を探してみようかな?
(アドリブ歓迎、二人をお好きに喋らせてください)
●
「ふしぎな海です」
『草原みたいです!』
遠く遠く――どこまでも広がる海の世界に、澄清・あくあ(ふたりぼっちの【原初の一】・f40747)とあるまは大きな瞳を輝かせる。
水気を帯びたスライム状の身体の為、より海にその身体は馴染む。水流に身を任せるように身体の力を抜けば、長い髪も、柔らかなその身体も水に溶けたような心地。
透明な視界はどこまでも続き。
エメラルドグリーンの世界を泳ぐ魚達は鮮やかで、くるくると優雅に海中を楽しむ。
色とりどりの珊瑚礁。ゆらゆらと揺れる海中に咲く花々。そのどれもが珍しく、ただこの世界を眺めていたいとあくあとあるまは強く想う。
――どれ程、この世界を楽しんでいただろうか。
海の水温にもすっかり身体は馴染んだ頃。二人はくるくる舞う魚達と共に海を満喫し、改めてこの海で語られる伝承と云うものを思い出す。
海に咲く花が零した涙――それは一体何だろう。
「涙が零れるのはなぜだろう。悲しいからか、感動したか、」
『そのぐらいしか思いつかないのです』
手を取り合った二人は視線を合わせ、その謎に触れてみようとまた海を揺蕩いだす。
探すのならば――寂しげに咲いている花か、素敵な場所を見つけた誇りのある花。
ぼんやりと浮かぶその言葉に応えるかのように、ごつごつとした岩にひっそりと映える、一輪の朝顔を発見した。他の岩にはしっかり多くの花が連なっているのに、この子だけひとりぼっち。しかも海の色に融けるような青色で、つい見逃してしまいそうだ。
その花の元へと近付いて――ふと振り返ってみた景色に、あくあは気付きあるまの腕ををちょんっと突く。その指に気付いたあるまは彼女に倣い振り返ると、其処は岩に咲く朝顔も、岩下の一面に咲く向日葵と、百合の花の全てが見通せる場だった。
何処までも続く花畑。此の景色を此の朝顔は、ひとりで見ていたのだろうか。
そこに辿り着いた先駆者のお花さん――そうっとその花弁を覗いてみれば、そこには花々と同じ色の宝石が見えた。
大成功
🔵🔵🔵
シン・コーエン
【シン眞】
SPD
これはまた綺麗な水中の庭園だ。
眞白の水着姿、とても可愛くて綺麗だ。似合っているよ。
さあ、行こう。
と最愛の妻に手を差し伸べ、二人一緒に潜ります。
(2023年の水着姿で)
まずは珊瑚礁を巡りつつ熱帯魚と戯れてみよう。
眞白と感想を交わしつつ、笑顔で巡る。
そして『夏花の庭』。
水中の煌きに揺蕩いながら咲く花は地上とは違う美しさだなあ。
百合の花は眞白に似合う感じがする。
『花が零した涙の雫』は有るだろうか?
眞白に似合う白い『宝物』をプレゼントできないか、(花を荒らさないよう)第六感も使って丁寧に探す。
眞白のお誘いには笑顔で応え、ひととき情熱的に抱き締めて口づけを。
今この瞬間は言葉は要らないな。
神元・眞白
【シン眞】(2024年版水着の装い)
不思議なところ。おとぎ話のような。けれど夢でなく現ですね。
ラナさんのお誘い。まずは楽しんでから、することをしましょう。
……綺麗。海の世界ならでは、ですね。
何もしなくてもこうして2人でいられるのもできないことですから。
この庭の中、散策するだけで様々に刺激がもらえそうです。
宝物。シンはとても楽しそうで。見つけられるでしょうか。
今のこの景色やこの場所が宝物と言ってもいいぐらい。
ただ、探しながら時間を楽しむのも1つでしょう。
シン。……なんでもありません。呼んでみたかっただけ。
シン。……こっちに。……人目を気にしても仕方ありません。
必要な言は口に出さずとも。伝わります
●
とぷんと海へとその身を預ければ、広がる世界は鮮やかなもので。
「これはまた綺麗な水中の庭園だ」
ほう、と溜息混じりにシン・コーエン(灼閃・f13886)は零す。
「不思議なところ。おとぎ話のような」
――けれど夢でなく現。
肌に触れる水の冷たさが、これが現なのだと強く意識させる。遠く広がる海の世界をその青い瞳に映し、光の注ぐ水面を見上げ――ゆらゆらと揺れる神元・眞白(彩の旅路・f00949)の煌めく銀の髪に一瞬見惚れ、シンは息を呑む。
「眞白の水着姿、とても可愛くて綺麗だ。似合っているよ」
銀の髪や真白の肌と黒の水着のコントラストが美しく、素直に最愛の君を褒めれば彼女は静かに微笑んだ。
さあ、行こう――その言葉と共に差し出された手を取って、まずは楽しもうと彼等は海を揺蕩いだす。くるくると優雅に泳ぐ魚達は二人を歓迎してくれているのか、一緒に泳ぎたそうに長い尾ひれをひらひらと揺らしている。シンの薔薇咲く水着の裾が気になるのか、ちょんっと口で突く様子が愛らしくて二人は笑い合った。
そのまま彼等と共に海中散歩を楽しめば――目の前に広がる、真白の庭。
真白は美しい百合の花。真っ直ぐに咲き誇るそれらは海の流れに乗せゆらりゆらりと揺れ続け、外界で風に揺れるそれとは全く違う。世界が青いからこそ、その真白もよく映えていて、水面から注ぐ陽射しを浴びる姿がまた神秘的な姿を魅せている。
「……綺麗。海の世界ならでは、ですね」
「水中の煌きに揺蕩いながら咲く花は地上とは違う美しさだなあ」
ほうっと、眞白が深い深い溜息と共にそう零せば、彼女の言葉に頷きシンも素直に零す。きゅっと握った手を強めながら直ぐ横の君を見れば――。
(「百合の花は眞白に似合う感じがする」)
白花の中見惚れる姿に、ふとそんな事をシンは考える。
その名の通りでもあるけれど、透き通る程の美しい銀の髪もまた白百合のようで。彼女に花を添えてみればきっと似合うだろう、そんな事を考えていれば眞白は微笑み。
「この庭の中、散策するだけで様々に刺激がもらえそうです」
耽るシンの顔を覗き込みながら、嬉しそうにそう零した。
何もしなくてもこうして二人でいられるのもできないこと――だから、この時間が幸せだと思う。こうして水の中に溶け込んでいるからこそ、繋いだ手の熱さを強く感じる。
幸せそうな彼女の後ろ、ゆらゆらと揺れる花の姿に、あの伝承を思い出す。
「『花が零した涙の雫』は有るだろうか?」
そう、愛しい君に似合う白の『宝物』を、プレゼントとしたいと思ったのだ。
手を繋いだまま、花畑の中を縫うように泳ぎ出す二人。花を荒らさぬよう細心の注意を払いながら、一つ一つ、花を覗き込んでいくシンを眞白はただ静かに見つめていた。
彼女にとっては、楽しそうな彼の姿が見られることが嬉しくて。今のこの景色やこの場所自体が宝物だと、想うから。
ただ――共に探す時間を楽しむのも一つだと、その口許は淡く和らいでいる。
「あ、これ!」
不意に上がるシンの声。その声に視線を向けてみれば、いつの間にやら彼の掌には純白の宝石が。真珠のようにも見えるけれど、これが花が零した涙なのだろう。
「シン」
望む物を見つけることが出来て嬉しそうな彼のその横顔へ、不意に声を掛ける眞白。不思議そうに彼が顔を上げ瞳を見つめ返せば――。
「……なんでもありません。呼んでみたかっただけ」
そんな、可愛らしい事を彼女は紡いだ。
「シン。……こっちに。……人目を気にしても仕方ありません」
手は繋いでいるけれど、もっとこっちにと彼女が誘う。広い広い海の中、人目など無意味だろう。きっと、見ているのは海の生き物達だけ。
彼女の誘いが嬉しくて笑顔で受け入れて、距離を詰めれば互いの唇に熱が触れる。
今このひと時に、言葉は無用。
だって――必要な事は口に出さずとも、伝わると信じているから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キアナ・ファム
■WIZ
■水着はステシのとおり(2024)
水神祭都っ子のアタイが海がらみの冒険、とあっては黙ってはいられないな、うん!
……(用意していた、水中用技能がまるで無用だったことに拍子抜け)
しまったな。ちゃんとラナさんの話を聴いておけばよかったな
ま、それならば、まるで泳ぐのに不向きなはずのこの水着や、まとめ忘れた髪も問題ないか!
あと、本当なら羽根が邪魔して泳ぐどころじゃないはずの、パトリシアも呼べるぞ!
(【UC】で話し相手になってもらいつつ、宝石を探してもらおう)
アタイも女性のハシクレ。宝石の輝きにはちょっとくらいときめいても
問題は無いよ、な??
※連携、アドリブ共歓迎
●
水溢るる水神祭都生まれであるキアナ・ファム(世界を駆ける(自称)妖精騎士・f38897)にとって、海と関係するものはつい前のめりになってしまうもの。
だから、仕方が無いのだ。あまり詳細は聞かずともこの場に着いてしまい、こうして海中へと沈んで初めて気付いたとしても。――息も出来れば言葉も零せる。泳ぎさえ出来ればこの場で困ることは無いのだと。
(「しまったな。ちゃんとラナさんの話を聴いておけばよかったな」)
そういえば、そんな話を言っていたような気もする――記憶を辿りながら眉を下げ、自身の行動を反省するキアナ。
「ま、それならば、まるで泳ぐのに不向きなはずのこの水着や、まとめ忘れた髪も問題ないか!」
唇から言葉を零せば、本当に泡と共に音が零れて少し驚きながら。彼女はどこまでも前向きに瞳を輝かせる。波間に揺蕩う長い焦げ茶の髪と、鮮やかな赤い水着がエメラルドグリーンの海中に華やかで。普段は水の中では共に出来ないフェアリーのパトリシアを呼べば、彼女もどこか嬉しそうにキアナの周りをくるくると舞う。
彼女の蒼の身体は海に融けてしまいそうだけれど、キアナの赤と合わされば見失わない。腰の長いリボンがひらひらと海中を舞えば、その鮮やかさに惹かれたのか辺りに魚達が集まってきた。
尾の長い魚達に混ざって泳げば、キアナの髪やスカートやリボンのひらめきは仲間のようで。この幻想的な光景につい口許に笑みが零れてしまう。
すると辿り着いたのは、一面の白――白百合が波間に揺れる其処へと、ひらひらとパトリシアが降り立つものだからキアナも着いていく。
彼女は探し物が得意だから、きっと宝物だって見つけてくれる筈。
(「アタイも女性のハシクレ。宝石の輝きにはちょっとくらいときめいても問題は無いよ、な??」)
期待に胸が逸るのは仕方が無いのだと、自分に言い聞かせるように心で想うキアナ。揺れる白花の合間を泳いでいれば、突然パトリシアが止まりちょんちょんっとキアナの腕を突いて一輪の花を指差した。
その指の先を覗いてみれば――淡いピンク色の宝石が見えた。
大成功
🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
24年水着
此度の夏も夏らしく
楽しげな巫女の姿に頬を緩める
此度の私は海上サーカスの鮫使いだ
サヨは泳げるようになったの?
偉いね
日々成長している
頼もしいと笑って海へと促そう
夏花の庭…
どんな世界がひろがっているのだろう
花の零した涙、見つかるといいな
私につかまろうとするサヨが微笑ましい
まだ泳ぎには自信がないのだろうか
折角だから手を繋いで
…サヨ
大丈夫、歩けるよ
しがみつかれるのは役得だが動けない
ゆっくり手をとり花に珊瑚礁にとみてまわる
宝物はどこにあるかな
サヨ、ここにも咲いているよ!
たくさん海を巡って、花を愛でて
水底に咲く、私の桜が咲う様に癒されて──みつけた幸せの雫は…きっとね
きみのような美しい桜色だ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
24年水着
夏!そして、海!
桜道化師な水着を纏いばーんと夏の浜辺に立つわ!
ギラギラした陽射し、焼けるような暑さ…此度の夏も生命力が強いわ
うふふ…私、毎年少しづつ泳げるようになってきてるのよ
任せて!
夏花の庭へ
『花が零した涙の雫』を探しに行くわ
あ、ちょっと待って
念の為カムイに掴まって
手を繋ぐの?こそばゆいわね
海に潜れば(カムイにしがみつく)青の世界は美しくて心地いい
かぁいい鮫に扮したホムラの姿も微笑ましいわ
宝物ならやっぱり海賊船の中じゃないかしら?
あちらこちら遊びながら探してまわる
水底に咲く花、なんて不思議
向日葵に百合に、朝顔に…綺麗ね
あら、それは?
見つけた宝物は…きっと幸せの色をしているわ
●
「夏! そして、海! ギラギラした陽射し、焼けるような暑さ……此度の夏も生命力が強いわ」
眩い程の陽射しを浴びながら、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は陽射しを浴びキラキラと水面の輝く海を見つめる。
ふわりと熱を孕む風が吹けば、彼の髪や桜を揺らしていく。ひらひらとストライプ模様の装飾を揺らす道化師な櫻宵の姿を瞳に映し、朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)も釣られて頬を緩めた。
彼の周りを小さな翼でパタパタと飛ぶホムラも今日ばかりは特別な装いで。真っ赤な鮫の着ぐるみに合わせ、カムイの装いは和風な鮫使い。櫻宵のピエロと合わせて、今にも海上サーカスを開けそう。
「サヨは泳げるようになったの?」
この時期には毎年海の誘いが頻繁に出るけれど、彼が恐れを抱いていた記憶は新しい。カムイが少し心配げにその背に問い掛ければ、櫻宵は笑顔でくるりと振り返り。
「うふふ……私、毎年少しづつ泳げるようになってきてるのよ。任せて!」
怯えなど見せない笑顔で、そう告げる。
その姿は頼もしいとさえ思える程で、「偉いね」とカムイは告げそれならば海の世界へと潜ろうと誘いを述べた。
夏花の庭と語られるこの場は――どんな世界が広がっているのだろうか。
彼等の知る世界とは違う此の世界。元がアリスラビリンスとなっている此処はまた不思議な世界が広がっているのかと、見えぬ海中に胸が高鳴る。花が零した涙の伝承を想いながらさくり、砂を踏みしめ桜模様の裾を揺らしカムイが海へと向かう。櫻宵と擦れ違った時――彼はボリュームのある袖を揺らしながらカムイへ掴まろうと手を伸ばした。
キラリ、真っ赤な爪が光瞳に焼き付く。
’(「まだ泳ぎには自信がないのだろうか」)
無意識なのか意識的なのか、櫻宵の行動を微笑ましく思いながら。カムイはその手を自身の腕では無く、掌で迎え入れきゅっと手を繋ぐ。
「手を繋ぐの? こそばゆいわね」
包み込まれる熱に櫻宵は少し困ったように笑う。けれどもしっかりと握り返してくれることが嬉しくて、二人は互いに瞳を交わし笑い合った。
水に足を浸ければひやりと感じ。その身をゆっくり沈み込ませていけば――視界は青に染まり、ぷくぷくと上がる泡と共に自由の利かない水に包まれる。その感覚に、櫻宵は思わず繋いだ手だけでは不安になり、カムイの腕へとしがみついていた。
「……サヨ。大丈夫、歩けるよ」
伝わる熱は正直役得だけれど、海の中で動けないのは少し困る。それと彼を安心させたくて、しっかりとその耳元で言葉を紡げば櫻宵は少し安心したように辺りを見回した。
「かぁいい鮫に扮したホムラの姿も微笑ましいわ」
翼を器用に使い海の中を鮫の姿のまま泳ぐホムラを見ればどこか和み、緊張も忘れてしまう。青に包まれた世界を、色とりどりの珊瑚礁を、夏の花を、眺める余裕も出来てきた。――きっと呼吸も、言葉を交わすことも安心に繋がっているのだろう。
「宝物はどこにあるかな」
「宝物ならやっぱり海賊船の中じゃないかしら?」
手を取り合いながら、美しき海中庭園を進みながら。眠る雫はやっぱり浪漫溢れる場に眠っているのではと彼等は笑い合う。花畑なら広がってはいるけれど――その船はどこだろうと辺りを見回せば、少し先を進んでいたホムラが「ぴぃ! ぴぃ!」と鳴いた。
こっちこっちと呼んでいるようで、彼の声に応えればそこには大きな船が。その景色に二人は微笑み合うと、ホムラを一撫でして船の中へと進んで行く。
船体に影になってはいるけれど、そこにも花は広がっていて――向日葵、白百合、朝顔。夏花が広がる此の景色は、なんとも不思議で美しい。
「水底に咲く花、なんて不思議」
ほうっと、思わず溜息と共に櫻宵が零した時――キラリと、光る何かが。
「あら、それは?」
彼の桜霞の先を追い掛け、カムイが手を伸ばしてみれば――白百合が大切に抱いていたそれは、桜色の涙の欠片。
それは水底に咲く、私の桜が咲う様に癒されて見つけた、幸せの雫。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディエス・シンテローム
【赤桃】
今日も絶好の採取日和!
息も気にせずおられるやなんて最高やな!
シクランは泳げる?
くはっ、その間と答えは合ぅてへんよ?
採取はいつも一人やから誰かと一緒はそれだけで楽しい
美々しい姿に水に揺らめく光を纏ぉて更に眩い花たちへ
愛でるように優しゅう触れながら
素敵なお姫さんたち、ちょこっとだけ薬の素材を分けたって
花と花粉、花の中に溜まった空気
欲張って良えならお姫さんたちの奇麗な涙も貰えたら
他の場所にも笑顔が咲かせられるから更に嬉しい
シクラン、ちょいそれ取って?
指した先は拳くらいの貝
内緒やけど
触れるとパカッ、ワシャーって絡まれるけど痛ないよ?
くはは!知っとった!
ワイも最初ビビッて溺れそうになったもん!
シクラ・テック
【赤桃】
ディー(f40273)と。
そうだな、息も話も出来るのは良いな。
⋯⋯泳ぎは、一応出来るぞ。
この鉱石の体は浮きにくいから泳ぐのは苦手だが、態度には出来る限り出さない。
うるせー、泳げないわけじゃないからな。
ディーの材料採取を手伝いつつ、採取時に花は傷付けないように気を付ける。
綺麗だとそれだけで狙われたりするし、この光景の小さな部分でも傷付けるのは何か嫌だしな。
涙の雫はもし見つかればラッキーくらいに思っておく。
これか?と、ディーの指差す貝を手に取る。
絡まれたら文句の一つも出て当たり前だよな。
「ディー!こうなるの知ってたろ!!」
この貝も話せるのか?俺は遊び相手じゃないからな!
●
美しくも幻想的な世界は、ディエス・シンテローム(薬屋のお手伝い・f40273)にとってはただ美しいだけでは無い。
「今日も絶好の採取日和! 息も気にせずおられるやなんて最高やな!」
ぐっと手を握りながら、己のやる気を言葉にする。薬売りの手伝いとして、数多の植物を育て、素材を集める事が好きな彼にとっては、未知の世界である此の海も素材の宝庫。
「そうだな、息も話も出来るのは良いな」
ゆらゆらと海中で揺れる灰色の髪をちらりと見るシクラ・テック(rufus・f42586)の瞳はキラリと不思議な色に輝いた。それは水面から零れる光の筋のせいなのだが――その煌めき方が特殊なのは、彼の髪や瞳がレッドダイヤモンドだから。
「シクランは泳げる?」
「……泳ぎは、一応出来るぞ」
何処に行こうかと辺りを見回した後、ディエスがシクラへと問い掛ければ不思議な間が生まれる。――彼の身体は一見人に見えるけれど、実際は鉱石だ。その重みや空気の入りにくさ故か浮きにくい為泳ぐことは苦手なのだが、努めて態度には出さないように紡ぐ。
けれども――。
「くはっ、その間と答えは合ぅてへんよ?」
ディエスにはその僅かな間で何となく察してしまったようで、ついつい笑いが零れてしまう。そんな彼をじろりと見て、
「うるせー、泳げないわけじゃないからな」
シクラはそう言い返すけれど、ディエスは悠々と海中を泳ぎ向日葵の花畑へと近付いていく。急ぎその後を追えば、青の世界にゆらゆらと揺れる太陽の花に囲まれる。
射し込む光に向けて、彼等は伸びているのだろう。――だって、向日葵は太陽に恋しているとの伝承もある花。その花弁へと優しく触れながら。
「素敵なお姫さんたち、ちょこっとだけ薬の素材を分けたって」
ディエスは柔く声を掛けると、そうっと花へと触れ素材を採取する。花の花粉に、花の中に溜まった空気――花を傷付けない素材だけを選別し。
そんな彼に倣うように、シクラも花々の間をゆったりと泳ぎながら素材採取のお手伝い。――地に咲く花ならばある程度沈んでしまう身体の方が動きやすい気もする。
綺麗だとそれだけで狙われる。この光景の小さな部分でも傷付けるのは嫌だと想うから、そっと傷付けないように宝石煌めく指先を伸ばしていけば。
「「お、」」
同時に零れる声。
その声に互いに顔を見合わせれば、互いの指先には涙が光る。
――ディエスは深い青色。シクラは瞳と同じ煌めく赤。
互いの手に光るその煌めきの宝物に笑みを零し合えば、ふととあるモノを見つけた。
「シクラン、ちょいそれ取って?」
彼が指差したのは、拳位の真っ白の貝。
「これか?」
素材になるのだろうか。そう想い疑問も持たずにシクラが手を伸ばせば――触れると同時、その貝は音も無く口を開くと、彼の指先をぱくりと挟んだ。
「ぎゃっ!!!?」
その衝撃につい大声を出してしまうシクラ。よくよく見れば全く痛くは無いのだけれど、いくら振っても突いても離してはくれず――。
「ディー! こうなるの知ってたろ!」
「くはは! 知っとった! ワイも最初ビビッて溺れそうになったもん!」
素材採取が好きな彼ならば、元から知識があったのだろう。文句の一つも言いたくなりシクラが大きな声で零せば、彼は反省どころか腹を抱えて水中でバタバタと足を投げ出し笑っている。――彼と同じように溺れそうにならなかったのは、呼吸が出来る此の海のお陰。浮きにくい彼にとって、この場でなければ大惨事になっていただろう。逆に言えば、此の海だからこそ出来る悪戯でもある。
たく……と唇を尖らせながら、改めて指先の貝を見るシクラ。
「この貝も話せるのか? 俺は遊び相手じゃないからな!」
レッドダイヤモンドの瞳でじっと見つめながら紡げば、貝はふるふるっと震えると。
『あそんでくれないのー』
ぱかりと口を開き、ふよふよと海を漂いながら残念そうに、子供らしい声で紡いだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】2024年の水着姿で!
キレイな海ね!ゆぇパパ
海にお花がいっぱい咲いてるわ
みんな涼しそう
水の中でも真っ直ぐにお空を向くのね、ふふー
ね、パパ
ルーシー、宝探しやってみたいの
宝物はお花が零した涙、と言われてるのですっけ
お花さんだって泣きたい時があるよね
キレイな真珠のような宝石になるのですって
ステキだけど…出来れば哀しい涙じゃなくて、うれし涙だといいな
ええ、だいじょうぶ…あら!黒ヒナさん?
ふふー黒ヒナさんも準備ばっちりね
確りと両手に納めて
わあ…あんなにヒマワリもが沢山咲いてる
海のお花畑ね!
何処を見ても見飽きない程キレイな景色だけれど
とはいえ、海って広いわ…!
ううう、クラゲさん何か心当たりある?
何か教えようとしてくれてるのは分かるけど…黒ヒナさん?
黒ヒナさんはクラゲさんやお花とお話出来るの!すごい!
ゆれるお花たちは確かにわたし達に語りかけているみたい
そっちにあるの?
行こう、パパ!
幼い翼が導く方へ進めば
大小、支え合う様に寄り添って咲くヒマワリ
かわいい…本当ね、他人とは思えない
宝物もあるかしら?
朧・ユェー
【月光】2024年の水着姿
本当に綺麗ですね
海に花が咲くなんて幻想的です
きっと水の中でも空は大好きなのですね
おや?宝探しですか?
花が零した涙の雫?
花の真珠?
そうですね、花も僕たちと同じ様に生きて感情もありますから
えぇ、嬉し涙だと良いですね
ルーシーちゃんを抱っこして
では潜りますよ?
あっ、ルーシーちゃんこの子を宜しくお願いします
ぴぃ!
小さなゴーグルを着けた黒雛をルーシーちゃんの両手へポンと置き
ゆっくりと沈んでいく
花たちが近くでゆらゆら揺れて歓迎してくれてる様
おや?ルーシーちゃんクラゲさん達は教えて下さいましたか?
ぴぃぴぃぴぃぴぃ
何やら黒雛が喋っている?
ぴぃぴぃぴぃぴぃ
どうやら花達とお喋りをしてる様だ
ここの花達と話ができるみたいですね
小さな小さな声、あっちだよこっちだよ
まるで海の中で風が吹いてる様に花達がゆらゆらと
びぃ!と小さな翼で一つの花を示す黒雛
大きな向日葵と小さな向日葵が寄り添っている
まるで僕達の様な親子
ふふっ、この花達みたいですね
きっと素敵な宝物がありますよ
●
強い夏の陽射しの降り注ぐ海辺。水面はキラキラと輝き、世界を眩く照らしている。
「キレイな海ね! ゆぇパパ」
海辺の岩上から、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は楽しそうに紡いだ。水中を覗き込む彼女の青い瞳は、水面と同じようにキラキラと輝いている。――それはこの景色へのワクワクにか、光を浴びているからなのか。
きっとどちらもなのだろう。そんな楽しそうな娘の姿を見れば、自然と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)の口許に笑みが零れる。本当に綺麗だと、頷きを返しながら彼女の横に並び水中を覗き込む。――少女が水中に落ちないようにと、意識を向けつつ。
見て、と彼女が指差す先には海中に咲くお日様色の花。遠いけれどもその鮮やかさは見慣れた色で、しっかりと彼等の瞳に焼き付く。
「みんな涼しそう。水の中でも真っ直ぐにお空を向くのね、ふふー」
口許に手を当て、ころころと嬉しそうに笑うルーシー。
ゆらゆらと揺れる水面から覗く花々の姿はどこか幻想的で。それでも真っ直ぐに空を目指す彼等は、きっと地に咲く向日葵と同じく空が大好きなのだろう。
嬉しそうに、愛おしそうに。互いに瞳を細め眺めていたけれど――不意にくいっと白のパーカーの裾を引く感覚に、ユェーは顔を上げルーシーを見る。少女はじいっと、左の瞳を期待の色に染めながらユェーを見つめ。
「ね、パパ。ルーシー、宝探しやってみたいの」
「おや? 宝探しですか?」
娘として、お願いを零す。
海中に咲く三種の花々は、それぞれ宝を隠している――そのお話が、ずっとずっと気になっていたのだ。
「宝物はお花が零した涙、と言われてるのですっけ」
お花だって泣きたい時があるだろうとルーシーは思う。その涙は海中故か、綺麗な真珠のような宝石になるとの事。
「花が零した涙の雫? 花の真珠?」
少女の零した言葉に、不思議そうにユェーは金の瞳を瞬く。彼の言葉にこくこくと頷いた後、ルーシーの瞳に淡い影が落ちる。
「ステキだけど……出来れば哀しい涙じゃなくて、うれし涙だといいな」
ぽつり、零れる彼女のその優しさに、ユェーはつい笑みを零してしまう。
「そうですね、花も僕たちと同じ様に生きて感情もありますから。えぇ、嬉し涙だと良いですね」
安心させるようにその頭を撫でてやれば、影落ちた瞳はまたキラキラと楽しげに輝いて。嬉しそうな笑顔でユェーを見上げる。――優しく愛しい娘のその姿に、ユェーは心から安堵したように微笑んだ後、一声掛けた後ルーシーの身体を抱き上げた。
「では潜りますよ? あっ、ルーシーちゃんこの子を宜しくお願いします」
『ぴぃ!』
確認の後、彼の声に返事をしてルーシーの両手に飛び降りたのは小さな黒雛。小さなゴーグルを着けて準備万端な彼の姿に、ほにゃりとルーシーの頬が緩む。
――とぷん。
水へと浸かれば肌を包みひやりと冷たい感覚。先程まで陽射しでじりじりと焼けるようだった肌が冷やされていくかと思えば、直ぐに身体に馴染んで心地良くなる。
水中に潜るその流れに沿うように、ルーシーの長い金髪と藤模様の裾がひらひら踊る。そのひらひらに釣られたのか、辺りの色とりどりの小魚達が寄って来たかと思えば、二人の周りをくるくる泳ぐ。
『ぴぃぴぃ!』
その色に惹かれたのか黒雛がルーシーの掌で鳴く。小さな翼をパタパタしてアピールをすれば、黒雛に返事をするように魚達もまたくるりと回転する。
嬉しそうな彼の姿に、ルーシーとユェーは瞳を交わし合い笑みを零す。
そのままゆっくり、ゆっくり沈んでいけば――目の間に広がる鮮やかなお日様畑。
ゆらり、ゆらり。水の流れに乗せて揺れる姿は、まるで歓迎してくれているよう。
「わあ……あんなにヒマワリが沢山咲いてる。海のお花畑ね!」
大好きな花達の姿に瞳を見開き、嬉しそうに声を上げるルーシー。この景色とルーシーの嬉しそうな姿にユェーは十分満足なのだが、彼女の願いを叶えて上げたい気持ちもある。ゆっくり、ゆっくり向日葵畑の周りを泳いで、傷付けないようにと注意をしながら間を進んでみるけれども、どこまで続いているのか分からない中の捜索は大変で。
「海って広いわ……!」
どれ程巡っても飽きない程に美しいし、息が出来る水中は心地良いけれども。これでは日が暮れてしまう。それは危険だと思い、直ぐ傍を泳ぐ虹色クラゲへと声を掛ける。彼はどこか知っているようで、その長い触手をゆらゆらと揺らめかせるけれど――。
「何か教えようとしてくれてるのは分かるけど……黒ヒナさん?」
ルーシーにもユェーにも意図を察する事が出来ずに、虹色クラゲが残念そうに触手をしゅんと下げた時。ルーシーの掌の黒雛がぴょんっと跳ねて。
『ぴぃぴぃぴぃぴぃ』
ゆらりゆらり、揺らめく向日葵や虹色クラゲに向けて小さなクチバシを懸命に動かす。
ぴぃぴぃぴぃぴぃ、小さな愛らしい声は鳴りやまない。それは――。
「ここの花達と話ができるみたいですね」
「黒ヒナさんはクラゲさんやお花とお話出来るの! すごい!」
彼の行動を察したユェーが紡げば、ルーシーは手元の黒雛の頭を撫でてやる。何処か分かったのか『ぴぃ!』と小さな翼を向けた先へと、ユェーは泳ぎ出した。
あっちだよ、こっちだよ。
誘うように揺れる花々は、まるで二人に語り掛けてくれているよう。
『びぃ!』
一際大きな声で黒雛が鳴いて、びしっと小さな翼で一か所を示す。
「そっちにあるの? 行こう、パパ!」
手元の彼の声を信じて進んで行けば――そこには大きな向日葵と小さな向日葵が、仲良く寄り添うように咲いていた。
「かわいい……」
ほうっと無意識にルーシーの唇から零れる言葉。
それは彼女の心を強く打った証拠なのだろう。そして、同じようにユェーの心にも強く強く響く。だって、この姿は――。
「まるで僕達の様な親子。ふふっ、この花達みたいですね」
「本当ね、他人とは思えない」
同じことを考えた、と嬉しそうに笑い合う親子。
そのまま花の傍へと寄れば、キラリと陽射しに輝く煌めきが。何だろうとそうっと互いに手を伸ばしてみれば――そこに眠るのは、向日葵色に煌めく宝石。
少し大きさの違う、けれど同じ色の宝物に二人は嬉しそうで。そんな二人の姿を見届けた、虹色クラゲは祝福するように長い触手をゆらゆらと揺らめかせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
彼女と合わせた2024水着で
淡緑の海はまるで森の木漏れ日の中にいるみたいだ
奥さん、お手をどうぞ
そう呼ぶとオレまでくすぐったい心地になって、思わず頬が緩んでしまって
顔を見合わせてははにかんで
手を繋いだまま泳いで辿り着いた花畑に「わあ」と感嘆の声が零れた
すごいな、絵本の世界に入っちゃったみたい
ね、ヴァルダこっち
ゆっくりと泳ぎながら誘ったのは向日葵の園
貴女は百合も似合うけれど、太陽みたいな向日葵もよく似合うと満足げに微笑んだ
ふふ、そうだね。水に舞う桜も本当に綺麗だった
水中の花って幻想的だよね
向日葵を見下ろす貴女の少し下、花と同じ高さで泳ぐ
なんだか貴女を見上げるのは新鮮で、これはこれで悪くない
もしもしと尋ね、道案内してもらえるならば
今度は貴女と同じ高さで水を蹴る
どうして花が泣いてしまうのかはわからないけれど、宝物だと言われるくらいに美しいのなら、それはきっと嬉し涙だろうね
一粒を見つけられたなら、二人の宝物にしよう
そうして貴女との宝物は、これからもどんどん増えていくんだ
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
海で遊ぶことにも慣れてきて今では夏の楽しみのひとつになった
自分の成長を垣間見た気がして、嬉しいような、気恥ずかしいような
!
そうして呼ばれることにまだ慣れなくて、それでも胸に満ちるは幸いばかり
そっと重ねたてのひらを確りと繋いでくれるあなたのことがいとしい
みなそこに広がる夏花の庭
絵物語を開いた中に飛び込んだような心地がして、感嘆と共にあぶくを昇らせ
繋いだ手をしっかり握り直すと水を緩やかに蹴って進んだ
きれい……
あおぞらの下に咲く姿もとっても素敵ですが、海の底でこんな風におはなを見ることが出来るなんて
ふふふ!カクリヨで一緒に見た桜のおやしろも素敵でしたね
みなもを仰ぐ向日葵がぐんと背を伸ばす合間を泳ぐ
見上げるばかりだったその姿をこうして上から覗き込めるなんてなんだかふしぎ
宝物は見つけられるかしら?
揺蕩うように泳ぐ色とりどりのおさかなさんに問うたなら、道案内して頂けるかしら
花が零した涙の雫
向日葵が零したその涙は、きっと真夏の太陽みたいに鮮やかなきんいろをしているのでしょう
●
――淡緑の海はまるで森の木漏れ日の中にいるみたいだ。
ディフ・クライン(雪月夜・f05200)の零した言葉に、ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)はどこか懐かしい心地で溜息を零した。
緑溢れる森で過ごしてきたヴァルダにとって、海はどこか遠い存在だった。何せ、彼の世界では海とはかなり限られた場にしか無いから。けれども、こうして海で遊ぶことにも慣れてきて、今では夏の楽しみの一つになったと気付けば――自分の成長を垣間見た気がして、嬉しいような、気恥ずかしいような心地になる。
とくん、跳ねる心は確かで。その心地良さを強く意識させる。
幸せそうに笑む彼女のその横顔に、小さく笑みを零し。ディフは手を差し出すと。
「奥さん、お手をどうぞ」
「っ!」
仄かにくすぐったさを孕んだ甘い声。緩んだ頬。
しっかりと青と橙の瞳を交わしながら、紡ぐ言葉は彼等が一歩進んだ証拠。まだまだそれは進んだばかりで、慣れずにヴァルダの鼓動は早くなるけれど――それと同じだけ、胸に満ちる幸いを感じ、頬を染めながらも甘い笑みが零れる。
そうっと、彼の差し出した手に己の手を重ねて。
きゅっと繋ぎ合えば、伝わる熱が水の中故更に熱く熱く感じる。その温もりが心地良くて、愛おしくて。彼等は再び顔を見合わせると、幸せそうにはにかんだ。
そのまますうっと、水中を沈みゆく二人。
透き通る水は底をも見通し、くるくると楽しそうに泳ぐ魚達が二人の傍を流れていく。その鮮やかさに微笑み合い、黒に金踊る揃いの水着の裾を翻しながら沈み続ければ、視界に広がる白百合に、青の朝顔に――そしてお日様色の向日葵達。
「わあ……」
ディフの唇から無意識に零れる声と同時、ヴァルダは声にならずに唇からこぽこぽと泡を上がらせる。そこに広がるのは、まるで絵本の世界に飛び込んだような心地の幻想的で、美しい景色。ゆらりゆらりと水中で揺れる花々は、地上のそれとは少し違う。
「ね、ヴァルダこっち」
しっかり繋いだ手を、くいっとどこまでも優しく引くディフ。彼のその言葉と仕草に不思議に思いながらも、ヴァルダは素直に足を蹴り水中を進んで行く。
彼等が辿り着いたのは、一際明るいお日様の花畑。
「きれい……あおぞらの下に咲く姿もとっても素敵ですが、海の底でこんな風におはなを見ることが出来るなんて」
ほうっと、溜息と共にヴァルダが零す。
それは不思議な国を基とする文化だからだろうか。何が起きても不思議では無いこの地にて、幻想的な世界はきっと何かの御話の一頁だったのだろう。その登場人物になったような気がして、ゆらゆらと心地良さそうに揺れる向日葵を見下ろしヴァルダは笑った。
「貴女は百合も似合うけれど、太陽みたいな向日葵もよく似合う」
そんな嬉しそうなヴァルダの姿を見れば、ディフも心から嬉しくなる。
真白の百合は勿論彼女に似合う花だけれど、真っ直ぐな努力家である面は向日葵も似合う。その橙色の瞳もまた、向日葵の温かさと合うと想うから――自然と零れる彼の言葉に、ヴァルダはほんの少し頬を染めた。
視界がほんのり青掛かった、ゆらゆらと風とは違う軌道で揺れる花達。
それは――。
「ふふふ! カクリヨで一緒に見た桜のおやしろも素敵でしたね」
何時だか共に訪れた、桜に恋をした水神の社。凍て付く水底に咲き誇る桜の下で、共に語らったあの日の事。
「ふふ、そうだね。水に舞う桜も本当に綺麗だった」
水中の花って幻想的だよね、あの日の事を想い出すように瞳を細めながら、そうっとディフは手を伸ばす。あの日は此処に、桜の花弁が流れたものだけれど。今日は目の前で咲くのは夏を象徴する太陽の花。
そのまま向日葵の上を泳いでいけば、それらは太陽を目指す為かじっとこちらを見ているようにも感じるから不思議なもの。
「見上げるばかりだったその姿をこうして上から覗き込めるなんてなんだかふしぎ」
高く高く伸びるのが彼等の特徴。決して小柄では無いが、何時もは見上げてばかりいるその花々を、こんなに近くで見下ろす事が出来るのはこの水中だから。
くすくすと嬉しそうに微笑み泳ぐ彼女の姿を――ディフはほんの少し下から、花々と同じ目線で手を繋ぎながら泳ぐ。
これはつまり、向日葵と同じ目線でキミを見ている。身長差故にこうして見上げるのは彼にとっては新鮮な事で。
(「これはこれで悪くない」)
そっと、その口許に笑みが零れたのを、ヴァルダは気付いていただろうか?
すいっと、彼等の傍を尾が長い真珠色の魚が並ぶように泳いだ。ぱちぱちと円らな瞳を瞬きこちらを見た彼へと、「もしもし」とディフは問い掛ける。
――宝物がどこにあるかご存知ですか?
返事をするように長い尾を揺らした彼へと、続きヴァルダは問い掛ける。すると彼は辺りの魚達へと声を掛けたのか、二人の周りには色とりどりの魚が集まってきた。
何か会話しるような彼等の様子を眺めて、ついっと泳ぎ出したその姿を追っていく。――着いて来て、と言っているような気がしたから。
とくん、とくん。
期待に胸が逸るのが分かる。
それはヴァルダの胸も、そして――普段は隠したディフの胸元から、ほんの少し見えるコアの煌めきも同じように熱くなっている。
くるり、くるり。
一際伸びる向日葵の周りで、魚達が泳いでいる。此処だよ、と告げているような彼等へとお礼を述べて、二人は並び足を蹴って近付いた。
宝物は、花が零した涙だと云う。
(「どうして花が泣いてしまうのかはわからないけれど、宝物だと言われるくらいに美しいのなら、それはきっと嬉し涙だろうね」)
どうして? それは此処は不思議の国だからかもしれない。
それを疑問には残さずに、きっと幸せの欠片だと信じるディフ。魚達が見守る中二人同時に花を覗き込めば――その花弁の根本に、キラリと輝く一欠片。
「まあ……!」
そのあまりの眩さに、ヴァルダは瞳を見開いた。
傷付けぬようそうっと指先で摘まんだ色は、真夏の太陽のような鮮やかなきんいろ。キラリ、水面から注ぐ陽射しに煌めく姿はあまりにも眩くて、思わず瞳を細めてしまう。
「二人の宝物にしよう」
「はい!」
共に見つけた、一欠片の幸せの宝石。
共に歩み始めた二人にとっての宝物は、これからもどんどん増えていく――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メノン・メルヴォルド
永一さん(f01542)と
なんてキレイな海…!
ふふ、お宝が見つかるといい、ね
無重力のような感覚と透明度の高い景色に感動しながら
ね、本当に不思議…わあ、永一さん、人魚みたいなのよ(舞うようなバク転に、もふんもふんと拍手 ※本人はパチパチしてるつもり
海底をお散歩できるのはステキなの
こうしてみると海の中ってカラフルなのね
ほら、永一さん見て見て、ここにもお魚さんが
ん、どうかした?
海賊船、行ってみる?(ドキドキ
結構大きそうな船だけれど、朽ちている所も多いみたいなの
…何もなさそう?
小さなガラクタを拾いつつも
でも、コワイ何かが出てこなくて良かったのよ
だって…奥の方は暗かったから…(小声
この辺りは珊瑚が群生してるのね
あ、宝石を秘めたお花が見つかったの?
このお花?
まあ、そうだったのね
確かに普段なら見られないような景色や探検もできて楽しかったのよ(くすくす
?!
え、永一さん!?(見下ろす姿勢と言葉に真っ赤
…も、もう、突然膝を付くからビックリしちゃったの
えと…本当にいただいても?
大切にするのよ(嬉しそうに微笑み
霑国・永一
メノン(f12134)と
夏と言えば定番の海に尽きる
それも今回は泳ぐだけじゃあ無く、強欲の海らしく宝もあるときたもんだ。いやぁロマンだねぇ
さ、メノン。早速宝探しと行こうかぁ
呼吸は無論会話が出来るのは有難い。
こうやって海底に足を付けてこんな事しても息が平気ってワケだ(水中でバク転)
海底伝いに散歩しながら見る色取り取りの魚や珊瑚礁は実に綺麗だねぇ
…ん?(珊瑚礁の隙間を見る)ああ、何でも無いよメノン
あれは海賊船か。何かあるかなぁ?
残念、ガラクタや瓦礫ばかりさぁ。物珍しくて面白いけど
(小声を聞き密かに笑う盗人)
さて、そろそろ行くかな(珊瑚礁の方へ行き、隙間にある花の中にある宝石を手にする)
いやぁ実はとっくに見付けてたんだけど早すぎると思って黙ってたのさぁ。その分楽しく海底散策を堪能できたし大成功だよ
(暫し宝石を眺め何かを思いつき、海底に膝を付く)
どうぞ麗しい姫様、お受け取りください
この美しい宝石は貴女に相応しい
(恭しい態度でメノンの手を取り宝石を置く)
いやぁ我ながら合わないなぁ(にやりと笑ってる)
●
透き通る海中景色。
色とりどりの魚やクラゲ等の海の生き物が優雅に泳ぐ、海の世界がどこまでも広がる。
「なんてキレイな海……!」
長い灰色のウェーブ髪を海中に舞わせながら、メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)は美しき世界に感嘆の言葉を零す。大きな緑の瞳はキラキラと輝き、この感動を抑えられないとばかりに彼女は両の手を合わせている。
夏と云えば、定番の海。
「それも今回は泳ぐだけじゃあ無く、強欲の海らしく宝もあるときたもんだ。いやぁロマンだねぇ」
どこか嬉しそうな笑みを零しながら、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は紡ぐ。此処は不思議な国が基となってはいるけれど、世界としては強欲の賊が溢れる場。彼等もきっと心躍る何かが眠っていると想えば、男としては興味が無い訳がない。
「さ、メノン。早速宝探しと行こうかぁ」
「ふふ、お宝が見つかるといい、ね」
ぷくりと口許から泡を零しながら、彼等は共に水底へと潜っていく。
呼吸を気にしなくても良いし、会話が出来るのは正直ありがたいと思う。それなのに身体は水中故に自由に動くのだ。――地上と水中の良い所を合わせたようなこの場に、ついはしゃぐように、永一は砂の海底を勢いよく蹴ると水中でバク転をする。
「……わあ、永一さん、人魚みたいなのよ」
そんな彼の華麗な技に、メノンは笑顔で両手を何度も叩くかのようにゆっくり合わせている。――本人は拍手しているつもりなのだろうが、水中での抵抗のせいでそれはもふん、もふんと少し勢いが落ち、水流を生むだけだが気にしない。むしろ賛辞の言葉に永一はどこか嬉しそうに笑みを零すのだ。
普通の海では難しい程の透明度の海を進んでいけば、数多の色が広がっている。珊瑚礁は色も形も様々で、彼等の間を泳ぐ色とりどりの魚達は見ているだけでも可愛らしい。
「海底をお散歩できるのはステキなの。こうしてみると海の中ってカラフルなのね」
ワクワクとした心地を隠せぬ弾んだ声。気持ちよさそうに横切る魚に手を振れば、その長い尾をふりふりと振って返事をしてくれるのが嬉しくて、メノンはくすくすと笑う。
「色取り取りの魚や珊瑚礁は実に綺麗だねぇ……ん?」
「ほら、永一さん見て見て、ここにもお魚さんが。ん、どうかした?」
彼女と共に青の世界に広がる鮮やかさに目を奪われていたけれど、珊瑚礁の隙間から見える影に気付き視線をそちらへ向ける。そんな彼へと、珊瑚の隙間で休憩する小さな虹色の魚を見つけた事をメノンは報告するけれど――永一を不思議に思い小首を傾げた。
「ああ、何でも無いよメノン。あれは海賊船か。何かあるかなぁ?」
異変や危険は無いと、安心させるように首を振る永一。けれども意識が逸らせないのは、海のロマンに通じる物を発見してしまったからだろうか。彼の言葉にキラリと瞳を輝かせ、少し前のめりにメノンは。
「海賊船、行ってみる?」
そう、尋ねる。
ドキドキと、胸が高鳴るのはそのロマンにメノンも惹かれるから。金と緑の瞳を交わし、笑い合うと二人はするりと海を泳ぎ船へと近付いていく。
近付けば、それはかなり大きく立派な海賊船であったことが分かる。すっかり朽ち果ててしまっているが、魚と骸骨の海賊旗から海賊船であったことは確か。
くるり、くるり。警戒するように辺りを泳ぐ二人。
そうっと船の中を覗いて、入り口辺りを探ってみるけれど。朽ちた木くずや壊れ果ててしまった内装や小物など。到底価値は無いようなものばかりの様子。
「……何もなさそう?」
メノンはどこから転がって来たのか、すっかり錆びてしまったフォークを広いあげながら紡ぐ。これ自体も特に価値は無さそうで、少し残念そうに元の位置に戻した。
「残念、ガラクタや瓦礫ばかりさぁ。物珍しくて面白いけど」
「でも、コワイ何かが出てこなくて良かったのよ」
残念そうに頭を掻く永一へと、どこか安堵の色を宿した言葉を掛けるメノン。
――だって……奥の方は暗かったから……。
ぽそりと、その唇から零れた言葉はとても小さなもの。けれども盗人として、永一の聴力は鋭敏。しっかり耳に届きひっそりと口許に笑みが咲く。
「さて、そろそろ行くかな」
口許に咲いた笑みを誤魔化すように、何も聞かなかったように。顔を上げては海賊船から離れるように泳ぎ出す永一。置いていかれないように慌ててメノンが追い掛ければ、辿り着いたのは美しき珊瑚礁の群生地。
鮮やかな赤色、可愛らしいピンク――海の中に開いた小さな森のようなその景色と、その間を泳ぐ魚達の姿にメノンは瞳を見開いた。
「この辺りは珊瑚が群生してるのね、……永一さん?」
美しい光景に見惚れていれば、永一は迷うことなく珊瑚の隙間へと手を伸ばし直ぐに抜けば――彼の手には、キラリと輝く花弁のように白い宝石が。
「あ、宝石を秘めたお花が見つかったの? このお花?」
彼の手の中の煌めきに驚いて、そうっと珊瑚礁を覗いてみればそこにはひっそりと咲く百合の花が。鮮やかな魚達の中咲く、真白は眩い程に美しい。
「いやぁ実はとっくに見付けてたんだけど早すぎると思って黙ってたのさぁ。その分楽しく海底散策を堪能できたし大成功だよ」
いつものように飄々と語ってみせる彼。その洞察力の高さも彼の生き様故なのだろうけれど、メノンはくすくすと楽しそうに笑い声を零している。
「まあ、そうだったのね。確かに普段なら見られないような景色や探検もできて楽しかったのよ」
時間を掛け、廻った分だけ楽しい思い出を積み重ねることが出来た。
青の世界に広がるカラフルな色も、古のロマンの地も。
それは確かで、振り返るようにメノンが胸元に手を当てた時――永一が彼女に近付いて来たと思えば、海底へと膝を突いた。
「?! え、永一さん!?」
彼の突然の行動に、驚きを露わにし幾度と瞳を瞬くメノン。そんな彼女の手を取ると、永一は笑みを浮かべながら。
「どうぞ麗しい姫様、お受け取りください。この美しい宝石は貴女に相応しい」
何時もとは違う恭しい態度で、そうっと優しく彼女の小さな掌へと先程見つけたほんの少し緑がかった白の涙を置く。
水面から注ぐ光にキラリと輝く宝石と、煌めく永一の黒髪と金の瞳。
その煌めきからメノンが目を離せないでいると――。
「いやぁ我ながら合わないなぁ」
先程とは打って変わり、にやりとした笑顔で永一はそう零した。彼の何時もの笑顔にメノンははっとすると、
「……も、もう、突然膝を付くからビックリしちゃったの」
驚きに胸をドキドキと逸らせながら、掌に乗せられた宝石を見つめる。まるで淡く儚い花弁が雫となり零れたような、美しい真珠石。
「えと……本当にいただいても?」
おずおずと問い掛ければ――彼は勿論と、笑顔で頷いてくれる。
きゅっと掌を握り宝石を包み込んで、メノンは嬉しそうに微笑んだ。
――大切にするのよ。
心からの、その言葉と共に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『モザイク金魚』
|
POW : 硝子の懐旧
戦場全体に、【対象の過去へ刻と歳を巻き戻すモザイク硝子】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : 硝子の感傷
戦場内を【各対象の過去(年齢も巻き戻る)】世界に交換する。この世界は「【自分を偽ること禁止】の法則」を持ち、違反者は行動成功率が低下する。
WIZ : 硝子の追憶
【燦めく小さなモザイク硝子】を降らせる事で、戦場全体が【各対象の過去(年齢も巻き戻る)】と同じ環境に変化する。[各対象の過去(年齢も巻き戻る)]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●懐古の旅路
海中散歩を楽しんでいれば、ゆらゆらと何かが近付いてくる。
段々と大きくなるその影が視認出来るようになったかと思えば――視界はぐるりと変わり、何かが変化する。
ある者は、幼き姿になりキラキラと輝く硝子のモザイク迷路を彷徨い続けるだろう。その道中には思い出の品々が時々置いてある者もいるようだ。
ある者は、幼きあの日、あの光景へと巻き戻り体験することになるだろう。苦しかったこと、嬉しかったこと、今は忘れたいこと、忘れていたこと。それは人にもよるが、確かにあったあの日々を、今再び体験する。
ある者は今この場で、幼き姿で海を揺蕩うことになるだろう。今とは違う海中散歩を楽しむのもまた、幻想への囚われ。
どのパターンでも、記憶や意志を引き継ぐか、幼いあの時のものかは人による。敵は懐古させるだけな為、こちらが手を出さない限りは幼き姿のままである。実力自体は大したことが無く、硝子のように簡単にその身は砕けるだろう。
もう君は過去の人。
あの日、あの時の自分をその身体で再び体験しなくてはいけない。
大丈夫。
強く『現』を想えば、この場へと戻って来れる筈だから。
――モザイク金魚に逢ったならば気を付けて。お前を過去へと回帰させるよ。
劉・久遠
……あれ、めっちゃ見覚えのある教室
それに真新しい白の玄武パーカー
これ13歳の誕生日にあの人にもろたやつ……
『クオン』と呼ばれ振り返ると、全幅の信頼を滲ませた笑顔のあの人がいた
師匠で親友で、でもすれ違い黙って消えた、かつて相棒やった人
見た瞬間、鼻の奥がツンとなる
突然のこの状況に色々疑問も湧くが、それより心の奥底に沈めたはずの「置いてかんといて」の言葉が零れ落ちそうで
思わず頭を掻き毟ろうとすると、今朝も双子に付けられたヘアピンが手に当たる
あぁ……幻覚見せられとったか
もう前に進まんと……あの子らが待っとる
笑顔を浮かべ「さいなら、兄やん」
戻ったら金魚にUC攻撃
幻でもちゃんとお別れできたわ、おおきにな
●
――瞼を開き、藍色の瞳が捉えた景色。
「……あれ、めっちゃ見覚えのある教室」
何年も前。毎日過ごした学校の教室に立ち尽くし、劉・久遠はぱちぱちと瞳を瞬く。
懐かしい――その感情が強く湧き上がる程に見慣れた景色。身を包む真新しい白のパーカー。これは背に玄武が描かれたパーカーであると久遠は察する。
「これ13歳の誕生日にあの人にもろたやつ……」
――クオン。
真新しさを確かめるかのように、きゅっと胸元を握った時。不意に掛かる聞き覚えのある声に呼ばれ彼は振り返る。――そこには、全幅の信頼を滲ませた笑顔の『あの人』が。
師匠で、親友で、でもすれ違い黙って消えた、かつて相棒だった人。
「……ッ」
今この場に居る。笑顔でそこに居る。
その事実があまりにも急激に襲ってきて、脳の処理が追い付かない。けれども鼻の奥がツンとするこの感覚が、意識を確かに保たせる。
突然の状況に疑問が湧かない訳では無い。それでも、心は押さえることが出来なくて。ずっと昔に心の奥底に沈めていた筈の言葉が零れ落ちそうになる。
「――……ッ」
――置いてかんといて。
音に出来ずに息だけ吐きながら、無意識に頭を掻き毟ろうとした時――両手に当たる固い感覚に、彼の意識は戻される。何かと確認するように指先でなぞってみれば、それは今朝も愛しい双子に付けられたヘアピンだった。
そう、それが『現』の彼の姿。
「あぁ……幻覚見せられとったか」
前を向き、尚笑顔を向けてくれる『あの人』を真っ直ぐに捉えながら久遠はくしゃりと笑った。これは、昔々の出来事。学生時代の、青春の一頁。
けれども彼はもう大人で。未来を歩まなくては。だって――あの子等が待っている。
「さいなら、兄やん」
少し不格好な笑みのまま別れを告げれば、再びぐにゃりと視界が歪む。目が回る感覚に瞳を閉じ、再び開けた時には――青の世界の中、キラキラと輝く金魚が泳いでいた。
戻って来たのだ、『現』へと。
一つ、二つ。息を整えるように呼吸をした後、久遠は狛龍を呼ぶと雷で金魚の身を貫いていく。眩い光を浴びながら、彼は目許を和らげて。
「幻でもちゃんとお別れできたわ、おおきにな」
あの日残した想いが、ちりりと焼く感覚のままそう告げた。
大成功
🔵🔵🔵
キアナ・ファム
■WIZ
こいつがオブリビオンの金魚、か
攻撃するでもないのなら、ほおっておきたいところだったが……
(目線が下がって、過去に巻き戻る)
「お父さんは、騎士なのにどうして大魔女の討伐に参加しなかったの?」
「大魔女」と対峙したお爺さんや伯母さんと比べて、城塞騎士として水神祭都を動かなかったお父さんが、どうにも華々しくない、と反発してたなぁ
その祖父や伯母から、お父さんは、マスカレイドから水神祭都の人々を守りきるという立派な責務を果たした、と諭されたんだったっけな……
アタイの為すべきは、
「ファム家の名に恥じない、オヤジのような立派な騎士になる」
事だ!
さぁ!帰るぞ「今」へ!
※連携・アドリブ共歓迎
●
青の美しき世界の中、キラキラと橙に輝く金魚は硝子細工のように美しい。
「こいつがオブリビオンの金魚、か」
目の前の敵を焦げ茶の瞳に映しながら、キアナ・ファムは紡ぐ。
攻撃するでも無いのなら、放っておきたいところ――けれどもオブリビオンであり、直接的に傷を与えなくとも世界に悪を与えるものである。
少し悲しげに瞳を伏せた時――ぐるりと視界が歪んだかと思えば、其処は青の世界では無い。水気を多く含んだ匂いはどこか近いけれども、よく知る景色とよく知る人を前に彼女は一つ瞳を瞬いた。
――お父さんは、騎士なのにどうして大魔女の討伐に参加しなかったの?
自然と口から零れた言葉に、少しの違和感を覚えながら。キアナはきゅっと小さな手を握り締めた。
騎士一族の娘として、自身も終焉を破壊出来る力を持つ者として。『大魔女』と対峙した祖父や伯母と比べて、城塞騎士として水神祭都を動かなかった父を、華々しくないと反発していた時期があったのだ。
けれどもそんな幼き彼女へと、諭したのは大魔女と対峙した祖父と伯母自身。
――お父さんは、マスカレイドから水神祭都の人々を守りきるという立派な責務を果たした。
その言葉は、今もキアナの胸に強く強く宿っている。
ただ大きな敵と戦い、大きな戦を収めれば良いだけではない。一番身近な存在を護る事も、騎士として誇りである大切な事だと知ったのだ。
だから、『今』のキアナの為すべき事は――。
「ファム家の名に恥じない、オヤジのような立派な騎士になる事だ!」
意志のある力強い瞳でそう強く言い放った時、見慣れた景色がぐるりと回る。父の姿は掻き消えて、『過去』が遠ざかっていくのを感じる。
けれどもキアナは振り返らない。
「さぁ! 帰るぞ『今』へ!」
ただ、前を向いて。剣を掲げ彼女は強い想いを言葉にする。
――『現』へと戻れば、パトリシアがキアナへと寄り添った。
大成功
🔵🔵🔵
メノン・メルヴォルド
永一さん(f01542)と
視界が変わるような、歪むような感覚
眩い光に目を背け
…これが、回帰…なの?(自分の掌が小さい事に気付き
キレイな海の中を泳いでいたはずなのに…
雑踏の中のような景色に戸惑いつつ
ここは、どこ?
記憶にない風景
永一さん!
突然不安になって名を呼んで
あ…良かった、はぐれて、どこかへ行ってしまったかと思ったのよ
知ってる顔よりも全然幼いけれど、ちゃんと判る
その事に安堵して
これが、永一さんの過去?
あれがご両親…
日常という『盗み』は悪い事なのかもしれない
でも
自分にとっては色々な場所へと連れ出してくれる優しいお兄さん
あるがまま受け止めて何も変わらない
むしろ、少し核心に触れたような気がして、新鮮なのよ
(微笑めば、いつの間にか少し成長して10歳くらいの姿)
え、何処かへ行ってしまったの?
…むぅ、そうなのね
あのね、永一さん
今、どうしてもやりたい事があるの
だから一緒に帰りましょう?
精霊魔法で金魚を砕く
元に戻れば
ワタシ、ね
永一さんが好きな料理を作ってあげたいの
一緒にご飯を食べましょう(晴れやかな笑顔
霑国・永一
メノンと(f12134)
さぁて、お宝の次は金魚すくいだ。いや、金魚漁と言った方が良いかなぁ?
外来種と同様に狩らないと大変みたいだし、やるとしようか
あれか…おや?成程、過去に行くって聞いたけどこういう
やぁ、メノンも来たようだねぇ
(両親出現)
ああ、こんな風に幼い頃から(犯罪者の)両親に盗みの技術を町中などで実演形式で教えられたり、そのお金で美味しい料理を食べたりしたっけなぁ(眺めながら当人には当たり前の楽しい日常を懐かしみ)(因みに学費もこんな具合で日々の営(ぬす)みによる調達だった)
(自身の姿が高校生なりたてくらいに変化すると両親は忽然と消える)
おお、そういえばこの頃に居なくなってた気がするよ。いやぁすっかり忘れてたや。
行方?まぁいいかで済ませてたしねぇ。分からないかな(笑)
(悲しみと怒りの欠如、盗むことを躊躇しない精神に狂気を宿した普通を自称する男の過去)
いいとも、十分愉しめたしねぇ。戻って金魚漁といくまで
(剣魚に乗り、金魚を貫く)
ほう。メノンの手料理は未体験だ
いいね、楽しみにしているよ
●
キラキラと輝く光のような美しき魚を見た筈だった。
けれどもぐにゃりと視界が歪んだかと思えば、今メノン・メルヴォルドが立つのは何処か見たことも無い雑踏の中。
騒がしい人の声の中、何が起きたのかと分からずメノンはぱちぱちと瞳を瞬く。
「ここは、どこ?」
――お前を過去へと回帰させるよ。
その言葉の通り、これが回帰なのだろう。その証拠に己の手は随分と小さく柔らかいものになっていて、確かめるようにメノンは何度も掌を握り直す。
けれども此処は記憶に無い景色。
ならば――。
「永一さん!」
突然不安になり。先程まで一緒に居た人の名を、雑踏の中小さな少女は呼び掛けた。
――さぁて、お宝の次は金魚すくいだ。いや、金魚漁と言った方が良いかなぁ?
そう、思っていた筈なのに。
歪んだ視界の先に待っていたのは、今から随分と昔の己の姿。そして、昔見た景色。
すっと霑国・永一が瞳を細めたその時、こちらへ駆けてくる灰色の少女を見て彼は笑む。知っている彼女とは違うけれども、彼女だと直ぐに分かる。
「やぁ、メノンも来たようだねぇ」
「あ……良かった、はぐれて、どこかへ行ってしまったかと思ったのよ」
見目は随分と幼いし、声も幼い。けれども何時ものその笑顔に、メノンは見るからにほっとして笑みを零した。
互いに姿を見つけ、ほっとしたのも束の間。――突然現れた大人の姿に、メノンは一瞬驚くが、直ぐ隣で永一の零した「両親だ」の言葉に驚いたように瞳を瞬く。
じっとその姿を見守っていれば、彼等は人に気付かれぬよう街を歩けば店先の物を盗ったり、不思議な程人との距離を詰めたりしている。
「ああ、こんな風に幼い頃から。両親に盗みの技術を町中などで実演形式で教えられたり、そのお金で美味しい料理を食べたりしたっけなぁ」
犯罪者である、両親に。
懐かしそうに、さも当たり前のように永一は語る。
彼にとって、彼等の行為は『悪』では無く『日常』の一コマだった。ただ楽しい日常の、他の人間達も持っている親との楽しい思い出の一つ。――彼が此処まで育つ経過である学費だって、このような具合で日々の営(ぬす)みによる調達だったのだ。
「これが、永一さんの過去? あれがご両親……」
当たり前のように語る彼の様子を見て、両親の姿を瞳に映して、メノンは瞳を伏せる。
日常という『盗み』は悪い事。それは、一般常識である。
でも――永一は、自分にとっては色々な場所へと連れ出してくれる優しいお兄さん。あるがまま受け止めて何も変わらない。
「むしろ、少し核心に触れたような気がして、新鮮なのよ」
そっと胸元に手を当てて、笑みと共に小さな声で零れた本音。その時、また視界がテレビのノイズのように乱れたかと思えば、各々の姿は少し成長していた。メノンは十程。永一は十五程の年齢だと思われる。
顔を上げれば世界も変わっているが――先程まで見えていた両親の姿は無い。
「ご両親は?」
「おお、そういえばこの頃に居なくなってた気がするよ。いやぁすっかり忘れてたや」
メノンが不思議そうにきょろきょろと探すように辺りを見回していれば、永一がそう紡いだ。平然と、何も特別な事でも無いように。何時ものようにどこか飄々として永一は己の過去を目の当たりにして尚語っている。
「え、何処かへ行ってしまったの?」
「行方? まぁいいかで済ませてたしねぇ。分からないかな」
小首を傾げ問い掛けてみれば、特に気にした様子も無く彼は応える。
その様子はあまりにも普通で、特に変わったことでは無いと心から想っている様子。それは――悲しみと怒りの欠如した、盗むことを躊躇しない精神に狂気を宿した、普通を自称する男の過去故の、『今』の姿。
普通ならば、そうなのだろうか。
彼の語る普通には、どれ程の信憑性があるのだろう。
「……むぅ、そうなのね」
けれども、『今』の永一は優しくメノンに笑い掛けてくれる。傷付けるような事はしない優しい人。――それは、確かな真実だから。
「あのね、永一さん」
優しい笑みを零しながら、真っ直ぐに永一の姿を瞳に映しメノンは名を呼ぶ。その声に反応すれば、彼女は戸惑い無く彼へと『過去』では無く『未来』を語る。
「今、どうしてもやりたい事があるの。だから一緒に帰りましょう?」
「いいとも、十分愉しめたしねぇ。戻って金魚漁といくまで」
その『未来』への希望を素直に受け止めると、永一は頷きを返した。――すると、視界の端にキラリと輝く何かが現れたかと思えば、ゆらりゆらりと空間を泳ぐ金魚の姿。
永一は直ぐにカジキ型の邪神を呼びまたがると、不意を突くようにメノンが白薔薇咲く杖を構え彗星を放ち敵を貫き、追い打ちを掛けるように永一が金魚の身体を貫いた。
ぐにゃり、再び歪む視界。
眩暈のような感覚に瞳を閉じ――身体を包む先程とは違う感覚に瞳を開ければ、また世界は青に染まる水中へ。揺蕩う魚達は変わらず楽しそうで、何も変わらぬ美しき海の世界が二人を包み込んでいた。
戻って来た。己の掌を見れば、先程までの小さなそれでは無く何時もの細い指先で。確かめるように何度か掌を握れば、戻った事を実感しメノンは小さく安堵の息を零す。
ちらりと隣を見れば、そこには先程までの幼さ残る男の子では無くよく知る男性が。
良かったと心から想いながら――先程交わした『未来』を叶える為に、願いを告げる。
「ワタシ、ね。永一さんが好きな料理を作ってあげたいの。一緒にご飯を食べましょう」
晴れやかな笑顔で、嬉しそうに語るメノン。
そんな彼女の姿を瞳に映し、永一は嬉しそうに笑みを零す。
「ほう。メノンの手料理は未体験だ」
――いいね、楽しみにしているよ。
『過去』では無く『未来』のアナタと、過ごす約束。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神元・眞白
【シン眞】SPD。人形達の学び舎であり揺り籠。その在りし日へ。
ここは、過去。シンに話していませんでしたね。私の昔日。私でない頃の私の時間。
……今の工房そっくりでしょう?マスター、私の造り手の工房を模していますから。
私はここで造られ、ここで学び、ここで「神元」になりました。
幸せでもあり不幸せでもある。私の後悔、呪い、祈りの時間。
私は……人形なのであまり変わっていませんね。
そして、この人が私のマスター。マスターはシンのお父様ぐらいの年齢だったでしょうか。人に限りなく近い人形の製作、それが志。
まだ何もない私に優しく、そして厳しく。私がひとりでも戦えるように。
マスターが傍にいなくても、大丈夫なように。
……マスター。一人前には遠いですが、連れ添える人ができました。
最初の私なら意味を見出せなかったこと。
でも、今は彼と一緒に過ごせるひと時に、満ち足りています。
だから……今日は行くね。私は大丈夫だって見せたかったから。
シン。まだ言っていない事があります。
勇気が足りない私をそれでも、待っていてくれますか。
シン・コーエン
【シン眞】
眞白の過去に一緒に遡る(シンの姿は現在のまま)。
これが眞白の過去の姿、そして眞白のマスターか。
父という言い方が合っているかな。
眞白が育った環境や過去については興味が湧くのは仕方がない。
眞白が許してくれる範囲で見聞させてもらおう。
愛する人を作り、育ててくれた人。
愛する人が生まれ育った環境。
そのいずれにも敬意を表する。
眞白はまだ話していない大事な事が有ると言っているけれど。
戦人として生きるが故に、大事な事ほどあっさり決めて、決して後悔しないよう覚悟する。
そう心掛けて生きてきた。
眞白と共に生きていく事を決めた時に、知らない事も含めて覚悟済。
なので、揺らぐことなく笑顔で彼女の父に挨拶する。
眞白と夫婦になったシン・コーエンと申します。
と一礼。
己が全力で眞白が笑顔でいられるよう護り、共に幸せに生きていきます。
障害となる存在はいかなるものであろうとも乗り越えます。
(例え暴走し、【真の姿】と化した眞白を斬る事になろうとも)
と眞白と彼女の父に誓う。
(手を差し伸べ)さあ眞白、現在に戻ろう。
●
視界が歪んだ先に待つのは――どこか見たことのある工房だった。
「シンに話していませんでしたね。私の昔日。私でない頃の私の時間」
けれども此処は『現』では無い、『過去』の記憶。神元・眞白の記憶の中と同じその景色を前に、驚いたように辺りを見回すシン・コーエンへと彼女は紡ぐ。
「……今の工房そっくりでしょう? マスター、私の造り手の工房を模していますから」
そう、同じように造ったから。彼にも見覚えのある景色で驚いたのだろう。愛しい人が育った環境や過去について、興味が湧くのは仕方が無い事。勿論、無理に聞き出すつもりなど無いから、彼女が許し、語ってくれる範囲で見聞きさせて貰うつもりでいる。
そのスタートが、此の見慣れた工房だ。
眞白は此処で造られ、此処で学び、此処で『神元』になった。幸せでもあり不幸せでもある。――私の後悔、呪い、祈りの時間。
「そして、この人が私のマスター」
人形故今と変わらぬ姿の眞白が示したのは、一人の男性。――大体、シンの父ぐらいの年齢だったのだろう。人では無い眞白にとってそれは朧げなところだけれど、何となく、そんな感じがする。
マスターは人に限りなく近い人形の作成、それを志とする人である。
まだ何も無い眞白に優しく、そして厳しく。眞白が一人でも戦えるように、マスターが傍にいなくとも大丈夫なようにと、眞白に全てを教えてくれた人。
そう紡ぐ眞白の姿を見れば、大切な人なのだと分かる。そして眞白にとって大切な人に出逢えたことが嬉しくて、シンの心が震えるのが分かる。
愛する人を作り、育ててくれた人。
愛する人が生まれ育った環境。
そのいずれにも敬意を表す気持ちで、彼は胸元に手を当てた。
一歩、眞白が踏み出す。
その青い瞳には真っ直ぐマスターの姿を映し、彼女は唇を開いた。
「……マスター。一人前には遠いですが、連れ添える人ができました」
迷いの無い真っ直ぐな声と眼差しで紡がれるその言葉に、目の前の男は驚いてみせる。その姿を見れば、最初の私ならば意味を見出せなかった事だと改めて思う。
「でも、今は彼と一緒に過ごせるひと時に、満ち足りています」
それは心からの言葉で、彼女の口許には淡い笑みが咲いている。そんな彼女の何時もとは少し違う笑みに一瞬見惚れたが、改めてシンは彼女のマスターを真っ直ぐに見る。
眞白は――まだ話していない大事な事が有ると言っている。シン自身は戦人として生きるが故に、大事なことほどあっさり決めて、決して後悔しないよう覚悟する。そう心掛けて生きてきた。
眞白と共に生きて行く事を決めた時に、知らない事も含めて覚悟済み。
なのでシンは、揺らぐことなく笑顔で――彼女の父へと一礼をした。
「眞白と夫婦になったシン・コーエンと申します」
迷いの無い、言葉で。
勿論緊張はする。彼女の大切な人との突然の対話なのだから当然だ。
けれども戸惑いは無い、自身の心で燃える彼女への想いを言葉にするだけ。
「己が全力で眞白が笑顔でいられるよう護り、共に幸せに生きていきます。障害となる存在はいかなるものであろうとも乗り越えます」
――例え暴走し、【真の姿】と化した眞白を斬る事になろうとも。
真っ直ぐに彼女のマスターを見て、そして眞白を見て。確かにシンは誓いを立てる。
彼のその言葉に、幸せそうな眞白の姿に。マスターは嬉しそうな様子だった。伝えられなかった筈のことを、伝えられた。見せる事の出来ない私の幸せを、見せる事が出来た。
私は、幸せだ――。
「だから……今日は行くね。私は大丈夫だって見せたかったから」
ふわりと笑みを咲かせ、差し伸べられたシンの手を取る眞白。するとシンもしっかりと手を握り返してくれ、二人は瞳を交わし合うと頷いた。
くるりと向きを変え、二人は前を進む。『過去』では無く、『現』へ。そして二人共に歩む『未来』へと。
「さあ眞白、現在に戻ろう」
これは彼女の過去の景色だから。打ち砕く意志をシンが言葉にすれば、ぐにゃりと視界が歪んでいく。初めてなのに、初めてでは無く想える景色から、幻想的な海へと――。
「シン。まだ言っていない事があります」
視界が歪む中、繋いだ手をきゅっと強く握り眞白は彼との距離を詰め零す。その言葉にシンは不思議そうに瞳を瞬きながら、彼女が続けるのを静かに待った。
一つ、二つ――眞白は呼吸を整え。
「勇気が足りない私をそれでも、待っていてくれますか」
ほんの少しだけ不安な色を瞳に宿しながら、見上げる愛しい人。
その姿に笑顔を浮かべ、シンは勿論と頷きを返す。
視界が歪み、歪み――工房の景色が崩れていく。
――振り返る瞬間、最後に見えたマスターは喜んでくれていただろうか?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
眩い金魚を視認した瞬間、世界が変わった
雪が降り積もる森の中
これは冬の加護を得る前
相棒の雪精と出会う前
なにもない、ただの人形だった頃
成長しない人形故に姿は今と変わらずとも、心が幼子だった
ひとり放り出された世界で何処にも行けず、途方に暮れて動けなくて
木に背を預けて蹲る
指先まで冷え切ったまま、ただ涙だけが流れ続けて
そんな鴇、冷え切った頬に触れる幼い手と、声
驚いて顔を上げれば
見覚えのない、けれど知っている
温かな陽彩の瞳の少女
さみ、しくて
――そう、きっと
あの日からずっと、寂しくて、悲しかった
貴女に出会うまでは
そばに、いてくれるの
貴女だって寒いだろうに
貴女は迷いなく抱き締めてくれる
陽だまりに似た温かさで、一生懸命にぬくみを分け与えてくれる
そのぬくみに、愛に
あの日の自分が救われた気がした
嬉しくて、愛しくて、手放し難くて
仄かな熱を思い出した腕で、抱き返した
目を開けば硝子の金魚が悠々と泳いでいく
貴女をしっかりと抱き締めたまま、氷の魔法で金魚を海に返そう
ねえ、ヴァルダ
ずっと一緒だよ
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
両親の言いつけに返事をしてから家の扉を開く
睫毛の先まで凍ってしまいそうな
さむい、さむい
雪の日の出来事だった
『――ほんとうに?』
不意に沸いた違和感に振り返ればあたたかな家は影も形もなくなっていて
常は寄り添ってくれるはずの精霊たちの姿も見えない
とうさま、かあさま
……どこ?
森を当て所なくとぼとぼと彷徨えば
枯れ木の根に蹲るひとのかたちを見止め慌てて駆け寄った
ないているの?
凍りついた世界の中
取り残されてしまった彼の雫をとめてあげたくて手を伸ばす
迷子のような言葉に目を瞬かせ、傍らに膝をついて身を乗り出した
思い切り抱きしめたならすこしはあたたかくなるかしら
じゃあ、ヴァルダがいっしょにいてあげる!
すべてはまぼろし
在し日に非るもの
子どものからだではいっぱいに腕を伸ばさなければならないけれど
それがあなたを連れ戻す鍵になるのなら
わたしは何度でもあなたに手を差し伸べよう
鮮やかになった視界の先
彼を強く抱き返しながら拐かしの金魚へと冬護の矢を解き放つ
ゆめはゆめへ
過去は過去へと還しましょう
●
――寒い。
歪んだ視界の先、ディフ・クラインを待っていたのは雪が降り積もる森の中。
人形である彼は見た目的には今と何ら変わりない。けれども冬の加護を得る前、相棒の雪精の姫君と出逢う前の為、この純白の雪景色の中佇めば寒いと感じる。
これはなにもない、ただの人形だった頃――。
見目は何も変わらなくとも、彼の心は閉ざされた世界のままで。見た目とは相反する幼子の心を宿した人形は、独り放り出された世界で何処にも行けず、途方に暮れていた。
雪の上に立つ足は動かすことが出来ない。
ふうっと、息を吐けば白い吐息が灰色の空の下舞っていく。
そのまま彼は――大きな幹へと背を預けて、その場でうずくまった。
部屋の中から聞こえた両親の言いつけに返事をした後、扉を開けた。
肌を撫でる凍て付く風は長い耳をぴりりと冷やし、睫毛の先まで凍ってしまいそうで。ヴァルダ・イシルドゥアはぱちぱちと幾度と瞳を瞬く。
「さむい、さむい」
口許に手を当てながら雪の上を踏みしめる。さくり、さくりと響く音色はすっかり耳馴染みの色だけれど――。
――ほんとうに?
ざわりと胸が騒ぐ。不意に沸いた違和感に幼いヴァルダは振り返ると――其処に温かな家は影も形も無くなっていた。
今、たった今。あそこから出て来た筈なのに。両親とも挨拶を交わした筈なのに。
其処には何も無く、ただ雪景色と永遠の森が広がっている。更に常に寄り添ってくれる筈の精霊たちの姿も見えずに、広い広い雪景色の中ぽつんとヴァルダは立ち尽くす。
「とうさま、かあさま。……どこ?」
弱々しい声で大好きな人を呼ぶが――ざわりと吹いた風がその声をさらい、雪の中へと消していった。
ちらちらと雪が降り続ける。
黒衣故にうっすらとでも降り積もる雪の化粧が映えていて、ディフを白の中へと覆い尽くそうとしているかのよう。けれども彼はただ幹に背を預けたままだった。
凍て付く世界にすっかり指先は冷え切ってしまっている。
頬を撫でる風がより冷たく感じるのは、何故だろう――。
「ないているの?」
不思議に思った時、不意に触れた頬に触れる柔らかな感触。幼い手とその声に驚いて顔を上げれば、そこには見覚えの無い少女が此方へと手を伸ばしていた。
そこで初めて、ディフは自分が泣いていたのだと気付く。
頬を伝う雫はそのままぽたりと、雪の上へと落ちていく。じいっと幼き少女の瞳を見つめれば、その温かな陽彩を何故か――見覚えが無いのに、知っていると感じる。
「さみ、しくて」
ぽつり、ぽつり。
ただゆっくりと、心を言葉にしてディフは零す。
そう、あの日からずっと、寂しくて、悲しかったのだ。貴女に、出会うまでは。
震える声は寒さにだけでは無いのだろう。心からの声だと分かるその声に、小さなヴァルダの心がきゅうっと苦しくなる。凍り付いた世界の中、取り残されてしまったように見えた彼。その涙に、迷子のような言葉に、ヴァルダは瞳を瞬かせると傍らに膝を突き身を乗り出し――小さな身体でぎゅうっと、彼の大きな身体を抱き締めた。
寒い寒い日だけれど、これで少しは温かくなるかしら。
「じゃあ、ヴァルダがいっしょにいてあげる!」
無邪気に、素直に、語られる少女の言葉。
それがじわりと凍て付く心に落ちれば、氷が溶けたようにディフの心が跳ねる。
「そばに、いてくれるの」
自分の背に回された腕は細い。自分だって寒いだろうに、迷い無く抱き締めてくれる少女。陽だまりに似た温かさで、一生懸命温もりを与えてくれる姿が愛おしいと想う。
――これは全て、まぼろし。
――在りし日に非るもの。
けれど――此の幻想があなたを連れ戻す鍵になるのなら、わたしは何度でもあなたに手を差し伸べようと、ヴァルダは想う。
ざあっと大きな風が吹き、彼等の身体を冷やしていく。けれども互いに触れた部分は温かいままで――彼女のぬくみに、愛に。あの日の自分が救われた気がして、ディフは藍色の瞳を大きく見開いた。
嗚呼、そうだ――。
嬉しくて、愛しくて、手放し難くて――仄かな熱を思い出した腕で、ディフは少女の身体を抱き返した。小さな身体はすっぽりと腕の中に収まってしまい、すっかり冷え切ってしまった身体に熱を与えていく。
その温もりに嬉しそうに微笑んだ時――視界の端に煌めく金魚が、揺らめいた。
「ゆめはゆめへ。過去は過去へと還しましょう」
煌めきの主は回帰させるモザイク金魚。その姿を捉えたヴァルダは現への扉を開く為、呪文を唱えると氷雪の矢を作り出す。彼女に倣うようにディフは、少女を抱き締めたまま氷の魔法を唱え――合わさる凍て付く力に、金魚の身体は砕けていく。
さらさらと落ちるその身体を視界に映した時、また視界がぐにゃりと歪んだ。
どこかに吸い込まれるような、放り出されたような、不思議な感覚の後――二人は再び青の世界、透き通る美しき夏の海へと戻ってきていた。
少女を抱き締めていた筈なのに、すっかり大人の女性へと戻っていて。よく知る彼女の姿に少しほっとしながら、先程よりも近くなった目線を合わせると――。
「ねえ、ヴァルダ。ずっと一緒だよ」
ディフが彼女の耳元でそっと囁けば、ヴァルダは顔を上げ嬉しそうに笑みを返す。
回帰で無く、共に歩む未来こそが、二人の道標なのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
澄清・あくあ
(SPD)
そこはいつか見た花畑
見覚えのある人たちの会話が見えた
-本当にいいのかい?【山猫】-
-構わん。後は頼んだぞ【魔術師】、あとアクア、アルマも-
そう一言、白い猫の獣人は塔へ歩き、反対へ藤色と藍色のスライムの二人が、それぞれ橙色と黄色の子を抱きかかえて【魔術師】と歩いて行った
-
…|ご主人様《ますたー》を追いかけよう
塔へ追いかけたら猫耳が地価の階段を下りるのが見えた。
それをさらに追うと重そうな扉
構わず開けると…見覚えのない洗面台と
回っているカセットテープがぽつり
-
思い出せたか?自分が何者で帰る場所はどこか
このテープを聞いているという事は直接来る以外でここにたどり着いたという事だろう
だが、誰かの借り物でだ
そこで追加の宿題だ
落とした物を全て集め、自分の力で帰って来い
歩んだ物語を、聞かせてくれないか
姉妹たちとは別の土産話を儂はここで待って居よう
-
〘再会は、その時だ〙
突然の声に振り返ると銃口が
反射で爪弾を撃ち返すと、景色が瞬く間に変わる
そこには頭を撃ち抜かれた金魚と
ある筈のない薬莢が転がっていた
●
瞳を開いたその先――澄清・あくあとあるまを待っていたのは、いつか見た花畑。
そしてその中に佇む見覚えのある人影。
不思議に想いあくあとあるまは瞳を交わし合うと、彼等の会話に耳を傾ける。
――本当にいいのかい? 【山猫】
――構わん。後は頼んだぞ【魔術師】、あとアクア、アルマも。
そう一言、白い猫の獣人は紡ぐと。そのまま真っ直ぐに目の前にそびえ立つ塔へと歩き出す。その反対へと、藤色と藍色のスライムの二人が、それぞれ橙色と黄色の子を抱きかかえて【魔術師】と歩いて行く。
「……ご主人様(マスター)を追いかけよう」
どうすれば、と相談する間もなく。二人は本能的にそうするべきだと思い、同時に足を動かし【山猫】である白い猫の獣人の後を追い塔へと向かう。
山猫は塔の中へと入ると、地下の階段を降りていく。
カツン、カツン――響く音色に耳を澄ませながら、あくあとあるまは迷う事無く、恐れる事無くその後を追っていく。そして目の前に現れるのは、重厚な扉。
透き通る藤色と蒼色の手で取っ手へと手を掛けて、頷き合いその扉を開けた先には――見覚えの無い洗面台と、回っているカセットテープがぽつりとあった。
ジ、ジ――カセットが回る音が静寂の部屋にやけに大きく響いている気がする。
――思い出せたか? 自分が何者で帰る場所はどこか。
――このテープを聞いているという事は直接来る以外でここにたどり着いたという事だろう。
――だが、誰かの借り物でだ。
――そこで追加の宿題だ。
――落とした物を全て集め、自分の力で帰って来い。
――歩んだ物語を、聞かせてくれないか。
――姉妹たちとは別の土産話を儂はここで待って居よう。
『再会は、その時だ』
カセット故の鮮明では無い声で。けれどしっかりと二人に伝えられる音。続くその音色が終わった瞬間、背後から声が聞こえ振り返ると――そこには銃口が見えた。
それは一瞬の出来事。
咄嗟に爪弾を撃ち返せば、景色は瞬く間に変わっていく。
煌めくモザイク金魚は頭を撃ち抜かれ、硝子が砕けたかのようにさらさらと零れ落ち。この時空にはある筈の無い薬莢が転がっていた。
あの時背後で紡いだあの声の主の顔は、分からなかった――。
大成功
🔵🔵🔵
蓮見・双良
【空環】
母方の実家に親族集った3歳の頃
古い家の段差に躓き転び泣いてしまった
両親が宥めるも
親族からは強烈な蔑視
「この程度で泣き騒ぐなんて品のない
「やっぱり父親の家柄が悪いから…
「おばあ様の選んだ家に嫁いでおけば…
旧家の一人娘の母は
いつかは祖父母の決めた良家の相手と結婚するはずだった
けど父と出会って恋をした
平凡な家柄ならせめて社長にでもならないと結婚は許さない
と言われた父は、若くして起業し業績上げ漸く祖母の許しを得た
決して何も侮蔑される謂れはないはずだ
言語化できずとも子供乍らに無性に腹が立った
パパもママも悪くない
ごめんなさい、ごめんなさい
僕が泣いたから、僕のせいで
赦さない、赦せない
二人を悪く言うみんなも
言い返せない自分も
涙堪え唇噛みしめ誓った
なってやる
勉強も運動も頑張って
お前達が何も言えないくらいの完璧な人に
後から謝っても絶対に赦してやらないから
目隠しと優しい声
…誰?
漸く見えた先には女神様
未来の僕の愛鏡
青の眸に映る藍は綺麗で
…ええ
もう大丈夫です、“杜環子さん”
手握り抱き寄せ
はい
――僕らの家へ
壽春・杜環子
【空環】
わたくしのあの子が痛めつけられている
わたくしの、
そう、先の先でわたくしのものになるあの子が
あぁ口惜しや口惜しや
雁首揃えた者共の、その後ろの正面に―…あぁ
お前たちの欲に塗れた顔でも立たせてやろうかUC
…―おっと
あら、ふふ、いけません
そうね、冷静に
幼くとも愛らしく星のような輝きを湛えたあの子
美しいからこそ妬まれ
輝かしいからこそ疎まれる
星とは己の身を削って輝くもの
だめ
だめよ、だめ
親を想い泣く幼いそらくんの目をそっうと塞いで、
その耳から蕩かすように声を
“はじめまして”坊や…ううん、わたくしの未来の旦那様
あなたのせいではないのよ、よくよく聞いて
あなたのお父様も、お母様も、善き人ゆえに妬まれる
星のあなたを生む輝ける人だからこそ疎まれる
そっと頬を包んで、こつんと額を合わせて見つめ
ねぇ、わたくしと近くて遠い青を持つあなた、
わたくしと涙を分け合いましょう?
映して
ほら、あなたが泣いているのではないの、映ったわたくしが泣いている
ね、大丈夫
そうでしょう?“そらくん”
帰りましょう?今夜は何にしましょうか
●
歪んだ視界の先――気付けば蓮見・双良は泣いていた。
そうだ、此処は母方の実家。
旧家の一人娘である此処は古い家で、親族が集まる日があるのだ。
そして両親と共に訪れた三歳の双良は、古い家の段差に躓き、転び泣いてしまった。
必死に宥める両親。けれど双良は泣き止まず、周りの親族から刺さる強烈な蔑視。
――この程度で泣き騒ぐなんて品のない。
――やっぱり父親の家柄が悪いから……。
――おばあ様の選んだ家に嫁いでおけば……。
ひそひそと、ギリギリ聞こえる位の音で紡がれる言葉は彼等の視線以上に刺さり、双良の心がちくり、ちくりと痛む。
母は、いつかは祖父母の決めた良家の相手と結婚する筈だったらしい。
けれど父と出逢い、恋をした。
――平凡な家柄なら、せめて社長にでもならないと結婚は許さない。
そう母の両親に言われた父は、若くして起業し、業績を上げようやく祖母の許しを得た。だから――決して何も、侮蔑される謂れは無い筈だ。
三歳ながらに双良はその背景を理解して、彼等から刺さる鋭い刃に腹が立つ。語彙の足りない幼い彼に、言語化は出来ない。けれども、身体は正直に心を表すのだ。
パパもママも悪くない。
ごめんなさい、ごめんなさい。
僕が泣いたから、僕のせいで。
赦さない、赦せない。
二人を悪く言うみんなも。
言い返せない自分も。
ギリリと唇を噛み締めて、零れ続けていた涙をぐっと堪えて。幼い双良は誓ったのだ。
なってやる。
勉強も運動も頑張って、お前達が何も言えないくらいの完璧な人に。
――後から謝っても絶対に赦してやらないから。
(「わたくしのあの子が痛めつけられている」)
ひそひそと紡がれる声と注がれる視線。そしてうずくまり鳴き続ける幼子の姿に壽春・杜環子は煌めく藍色の瞳を細める。
わたくしの、そう、先の先でわたくしのものになるあの子が――。
今はまだ幼い子だけれども。遠い遠い未来を想えば黙ってはいられずに一歩前に出る。
あぁ口惜しや口惜しや。
雁首揃えた者共の、その後ろの正面に――……あぁ。
――お前たちの欲に塗れた顔でも立たせてやろうか。
着物の袖で口許を隠しながら、細められた眼差しはまるで幼子をいたぶる輩を軽蔑するよう。そのまま彼女は呪文を唱えると――此の世界を万華鏡の世界へと変える。
「……―おっと。あら、ふふ、いけません。そうね、冷静に」
あまりにも自分が冷静でいられなかった事に気付き、ぱちぱちと瞳を瞬くと彼女は柔らかな笑みを浮かべる。
先程までうずくまって泣いていただけの幼い彼は、少し様子が変わっていた。
涙に濡れたその瞳はとてもとても強い意志を宿し、輝き出す。
そう、幼くとも愛らしく星のような輝きを湛えたあの子。美しいから妬まれ、輝かしいからこそ疎まれる――星とは己の身を削って輝くものだから。
だめ。だめよ、だめ。
親を想い、泣く小さな少年へと近付くと、杜環子はその目をそうっと塞ぎ、小さな耳元で蕩かすように声を掛ける。
「『はじめまして』坊や……ううん、わたくしの未来の旦那様」
「……誰?」
見えない、知らない声が聞こえる。
知らない筈なのに温かくて、優しくて。ただその身を預けたくなってしまう。静かに杜環子の次の行動を待つ双良へと笑むと、彼女は言葉を続けた。
あなたのせいではないのよ、よくよく聞いて。
あなたのお父様も、お母様も、善き人ゆえに妬まれる。
星のあなたを生む輝ける人だからこそ疎まれる。
その言葉の後――杜環子は彼の目を隠していた手をどけると、そのまま柔らかな頬を両手で包み込み、こつんと額を合わせた。
交わう、藍色と空色。
――女神様。
その透き通るような、煌めく藍色の瞳に吸い込まれるようで。幼い双良は息を呑んだ。思ったことは言葉には出来ずに、不格好な息を吸う音だけが杜環子の耳に届く。
「ねぇ、わたくしと近くて遠い青を持つあなた、わたくしと涙を分け合いましょう? 映して。ほら、あなたが泣いているのではないの、映ったわたくしが泣いている」
杜環子は陶器万華鏡。煌めく藍色は硝子のように、彼の瞳を、そして涙を映し出す。
そうだ、この美しき藍色は、優しく甘いこの声は――未来の僕の愛鏡。
「ね、大丈夫。そうでしょう? 『そらくん』」
優しく、甘く温かな笑顔。
それは見たことがある。自身を呼ぶその声も、聞いた事がある――。
はっとした双良の瞳が見開かれた。零れていた涙は最後の雫が頬を伝い、ぽたりと床に落ちる。そのまま双良は小さな頬を包む彼女の腕へと手を当てて、
「……ええ。もう大丈夫です、『杜環子さん』」
穏やかに、安堵の篭る笑みを浮かべると――そのまま彼女の細い身体を抱き寄せた。するりと頬から落ちた彼女の手をすくい上げ、きゅっと手を握り合う。
分け合うように触れる体温はすっかり何時もの色で、杜環子は幸せそうに微笑み、彼と再び額を合わせる。――ほら、瞳に映る姿は先程までの可哀想なあの子では無い。
「帰りましょう? 今夜は何にしましょうか」
他愛の無い会話が出来る事が、二人の幸せを象徴するようで。
双良は濡れた頬を拭うと、頷きを返した。
はい。――僕らの家へ
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
硝子の金魚?
認識した後に世界が変わる
ここは?
見覚えのある
あぁ、此処は
幼い頃住んでいた
住むというには相応しくは無い
何も無い洞窟の中
『愛してるわ』
僕を見つめる母という名の女性
その顔は母なるモノでは無く女
『アナタ』と呼び抱き締める
その時名前は無かった
嫌だ嫌だ嫌だ…僕はボクで…おれはだれ?
小さな手が僕を連れ出す
ルーシーちゃん?僕と同じ年齢くらい
いや、僕が幼くなっている
僕の過去にルーシーちゃんが
場面が変わる
赤、紅、緋、赤い世界
嗚呼、僕があの子を殺してしまった日
娘も赤は苦手なはず
心配も目の前に気配が
僕にそっくりな男
『父』という名の
がたがたがた
震えが来る
精神は成長したと思ったのに
『名は?…無いのか』
夜空を見上げて真っ赤に染まった月を見て
『月…ゆぇ…お前はユェーだ』
その日ボクは僕となった
抱き締める小さな身体
ううん大きく感じる
僕の為に怒ってくれる娘
そうだね、ララ
僕は貴方の様な父親にはならない
迎月花
美しい世界へ醜い世界はいらない
元に戻ったら小さくなった娘の身体を抱き締めて
ありがとう、ただいま
ルーシー・ブルーベル
【月光】
綺麗な金魚さん
一瞬見とれると
見覚えのない場所へ
ここは洞窟?寂しくて、肌寒い場所
辺りを見回すと女性の声がする
熱帯びた、誰かを恋う声
それと男の子…いえ
あの子はゆぇパパだわ
此処は以前聞いた、パパの過去なのだと理解した瞬間
ぎゅうと胸が苦しくなった
パパはゆぇパパよ
『アナタ』じゃないわ!
その手を引いてぐいぐい進む
くら、と眩暈がする
次いでむせ返る血の匂いに一面の赤に
ぞわと身体が竦んで膝をつく
鼓動が早くて息が出来ない
何とか視界がパパを認めると…震えて、る?
相対するのはパパによく似ている人で
…いいえ、似ていない
仕草が、表情が
心の形が全く違う
初めて知ったパパのお名前の由来
名の無い辛さは良く知っている
けれど、こんな名付けなんて
嗚、そう
…次は貴方なのね
パパをひどく傷つけたのは!!
パパの前
『彼』から庇うように立ち
全身全霊の青糸と銀針を放ちましょう
震える身体に腕を回して
貴方はゆぇパパよ
私や、館の皆を優しく見守ってくれるお月さま
ララが大好きなパパ
貴方だけが
貴方だからこそ持つ『今』を忘れないで
ええ、おかえり!
●
煌めく金魚がゆらゆらと揺らめく姿は美しく――認識した瞬間、視界は歪み鮮やかな青の世界から暗い世界へと招かれる。
――ここは?
金色の瞳が捉えた、見覚えのある景色に朧・ユェーは幾度か瞳を瞬いた。
ゆっくり、ゆっくりとこの場の情報を視覚から捉えていけば――。
(「あぁ、此処は。幼い頃住んでいた」)
――住むというには相応しくは無い、何も無い洞窟の中。
遠い遠い、過去の記憶。その記憶の扉を更に開くように、目の前に人の気配を感じた。
『愛してるわ』
甘い甘い声で紡がれる言葉は母と云う名の女性のもの。
じっと幼いユェーを見つめるその顔は母なるモノでは無く女のモノ。
『アナタ』
甘い声で紡がれ、そっとユェーの細い腕を引き抱き締める。
その時、少年に名前は無く――。
――嫌だ嫌だ嫌だ……僕はボクで……おれはだれ?
胸がざわつく。どうしようもない拒絶が身体を襲い鳥肌が立つ中、
「パパはゆぇパパよ、『アナタ』じゃないわ!」
扉を開くように、声が聞こえ掌に温もりが訪れた。
硝子金魚の美しさに、つい見惚れてしまったのが敗因なのだろうか。気付けばルーシー・ブルーベルは、訪れたことの無い洞窟へとやって来ていた。
「ここは洞窟?」
肌寒い空気が撫で、思わずぶるりと震える。何か無いのかと辺りを見回せば、女性の声が聞こえてきた。その声を頼りに洞窟を進んで行けば、熱帯びた誰かを恋う声が近付く。
何だろう。
何故だか胸がざわつき、思わずぎゅっと両の手を握り締めてしまう。
見えた人影を捉え足音を立てぬように近付けば――女性と、小さな男の子の姿が。
「――男の子……いえ、あの子はゆぇパパだわ」
見たことは無い筈なのに、それは直感で分かった。
淡い白銀の髪は此処では無い光の当たる場なら美しく煌めくのだろう。小さなその身体は、ルーシーを包み込む程に大きく温かな人である事を知っている。
そう、此処は――以前聞いた、パパの過去なのだ。
話には聞いていたけれど、いざ体験してみればなんと寒々しく悲しい場なのだろう。きゅうっと胸が苦しくなり、思わず胸を抑えるルーシー。
けれど――。
――アナタ。
熱の籠った女性のその声に、ルーシーは思わず顔を上げ、駆け出していた。
「パパはゆぇパパよ、『アナタ』じゃないわ!」
何時の間にか瞳にいっぱいの涙を溜めながら、少女は少年の手を引いた。
「ルーシーちゃん? 僕と同じ年齢くらい。いや、僕が幼くなっている」
少女の姿を捉え、ユェーはぱちぱちと瞳を瞬きながらルーシーの手に大人しく引かれていく。初めて経験する同じ目線に不思議そうに想いながら、繋いだ手とは逆の手を何度か握り、自身が幼くなっている事を悟った。
僕の過去にルーシーちゃんが。
――何故だろう、そう思ったのも束の間。ぐにゃりとまた視点が歪んだかと思えば場面が変わる。
赤、紅、緋、赤。
視界に広がる赤い世界。一気に胸に満ちる、むせ返るほどの血の匂いにルーシーはぞわりと鳥肌と共に身体がすくみその場で膝を突いた。
どくん、どくん。
鼓動が早くなる。息が出来なくて、思わず喉を抑え荒い呼吸をするルーシー。
そんな彼女が『赤』を苦手にしていると知っているから、心配が過ぎるけれど――。
これは――嗚呼、僕があの子を殺してしまった日。
あの日の記憶の扉に頭がずきりと痛んだと同時、目の前に現れたのはユェーにそっくりな男の姿。『父』と云う名の、一人の男が立っていた。
「――……ッ!」
ひゅっと息を呑み、言葉を発せ無くなる。
身体が震えるのを止めることは出来ない。
ぎゅっと震えを止めるように、その身を抱きユェーは己の腕に爪を立てる。
『名は? ……無いのか』
前の男が、父と云う名のモノが、問い掛ける。
そのまま彼は夜空を見上げると、真っ赤に染まった月を見て――。
『月……ゆぇ……お前はユェーだ』
――その日ボクは僕となったのだ。
荒い息を吐きながら、それでもルーシーは目の前に居る大好きなパパを捉え続ける。
男を前にして、震える幼き父の姿。
似ている、けれど似ていない。
仕草が、表情が――心の形が全く違う。
初めて知った、パパの名前の由来。名の無い辛さはよく知っている。けれど、けれど――こんな名付けなんて。
ぎゅっと小さな両手を握り締め、ルーシーは前へと出る。
息苦しいのは変わらない。けれども、それ以上に心が苦しいから。
「嗚、そう。……次は貴方なのね、パパをひどく傷つけたのは!!」
駆け出すと、ルーシーは『彼』からユェーを庇うように立ち両手を広げる。普段ならば庇う事など出来ないけれど、小さな少年である今ならば十分に守ることが出来る。
露わになった左目で強く強く、見目だけ似た『彼』を睨むと――ルーシーは青糸と銀の縫い針を作り出すと、強い力を込め男へと放った。
その背中を、光景をユェーはただ見つめる。
その場にしゃがみ込み、何が起きたのかと動揺する彼へと――ルーシーは振り向くと、未だ震えるその身体に腕を回し、きゅっと優しく抱き締めた。
「貴方はゆぇパパよ。私や、館の皆を優しく見守ってくれるお月さま。ララが大好きなパパ」
――貴方だけが。貴方だからこそ持つ『今』を忘れないで。
全身で包み込む小さな身体。否、大きく感じる愛しいその温もりに、ユェーの震えは段々と止まっていく。
『今』の僕には、僕の為に怒ってくれる娘がいる。
そっと普段は小さなその背中へと腕を伸ばし、もう震えの取れた身体で抱き締め返す。
「そうだね、ララ」
確かに君は、此処に居る。
『今』の自分は、確かに居るから。
「僕は貴方の様な父親にはならない」
強い強い眼差しで、『父』と云うモノを睨むとユェーは呪文を唱え常夜のヒマワリ畑を作り出し、その花弁による花吹雪で男の姿を隠していく。
美しい世界へ――醜い世界はいらないから。
パリン、硝子が砕けるような音が響いたかと思えば、気付けば赤では無く青の世界。身体を包み込む水の柔らかさと共に、鮮やかな魚達がくるくると楽しそうに踊る景色。
ふう、現実を受け止め切れずに二人は辺りを見回し、呼吸を整える。
身体の大きさも違う、大きな父と小さな娘の何時もの姿。
『今』を実感し、ユェーはルーシーの身体を抱き締めると――。
「ありがとう、ただいま」
「ええ、おかえり!」
まるで向日葵のような晴れやかな笑顔で、親子は顔を寄せ合い言葉を交わす。
――もう、震えはしない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵