●悪魔の囁き
心の|澱《おり》、という言葉を何かの小説で読んだことがある。
今の『私』には、まさに心の底にモヤモヤした何かが沈殿しているようだ。
街行く幸せそうな人々を見ると、それを素直に受け止められない。
キラキラ眩しく見えて、それが、疎ましいとさえ感じてしまう。
「お前は何をやっても駄目な奴だ」
「きょうだいの中でもお前だけが出来損ないね」
「ねえ、生きてて恥ずかしくないの?」
富豪の家に生まれたのは、間違いない。
何の不自由なく育てられたように見えただろう。
けれども家の中では、自分一人両親の期待にそえず、蔑まれてばかり。
確かに兄や姉は出来が良く、自分はそうではない。
だからといって、存在自体を否定される程のことなのだろうか。
『真に否定されるべきは、世界の方だ』
家路につく足取りも重く、気がつけば、薄暗い路地裏に入っていた。
そして聞こえた声に顔を上げると、見知らぬ軍服姿の男と――青いバケモノの姿。
「ひ……っ」
『華やかなりしサクラミラージュ、その眩さを恨み呪う者よ』
軍服姿の男は、青いバケモノを『私』の前にかしずかせると、こう言った。
『|これ《・・》を物言わぬ忠実なる走狗として、存分に扱うがよい』
「……否定されるべきは、世界……」
口にすると同時に、心の澱は黒い|靄《もや》になって『私』を覆った。
『……そっか、全部、壊しちゃえばいいんだ』
わたしのことばにこたえるように。
あおいバケモノたちは、ゆっくりとうごきだした。
●猟兵、出撃
「皆、お集まり頂き感謝する。サクラミラージュで不穏な動きが視えたので、助力を賜りたく思う」
グリモアベースの一角で、ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)が一礼してから、己が視たという予知を語り始める。
「先の『獣人世界大戦』の最中、|黯党《あんぐらとう》の首魁は撃破されたが、残された党員の悪魔召喚士達は、同盟者たる幻朧戦線将校『カルロス・グリード』より悪魔生物『デモノイド』なるものを供与されていたことが分かった」
ニコは険しい表情のまま、中空にホロビジョンを展開させる。そこには、青い巨体を持つ、バケモノとしか形容のしようがない生物が映し出されていた。
「カルロスの狙いは、独力では果たせぬ『世界への復讐』を抱く弱く儚い影朧にデモノイドを与え、その本懐を遂げさせ、結果的に無差別大規模テロルを起こす事だ。だが、斯様な手段を用いての復讐で、影朧の未練や執着が完全に晴れるとは到底思えない」
ニコはニコなりに、サクラミラージュにまつわる様々な事件に関わってきたつもりだった。故に、直感がそう告げていると、集まった猟兵たちに説明する。
「むしろ、放置すれば力に溺れ、更なる復讐に邁進してしまう可能性の方が非常に高い。そうなれば完全にカルロスの思う壺というもの――其れを、皆に止めて貰いたいのだ」
そこまで言うと、ニコは一度言葉を切って、もう一枚のホロビジョンを展開する。
映し出されていたのは、資産家たちが集まる華やかなパーティ会場のような場面。
「カルロスに唆された影朧が、デモノイドに命令を下して破壊行為を遂行させようとする。その現場に皆を直接転移させるので、先ずは会場の一般人の安全を確保しつつ、デモノイドの群れを一掃して欲しい」
パーティ会場はどうやらハイカラなホテルの大宴会場らしく、広々としていて、工夫次第では一般人を避難させながら戦うことも難しくはなさそうだ。
「テロル行為の首謀者たる影朧については、『何故資産家たちのパーティを狙ったか』という点から、守り抜いた一般人から事情を聞くなどすれば、全貌が明らかになるやも知れない。落ち着き次第、情報収集を行うべきだろう」
そもそも、何故このような事件を起こそうと考えるに至ったのか?
それが見えれば、次なるテロルが発生するであろう場所の特定も可能かも知れない。
「影朧の待ち伏せに成功すれば、これ以上の悲劇を食い止められる事だろう。状況次第では、説得の言葉も通るやも知れない。其の辺りは、現場の判断にお任せしたい」
一通り話を終えたニコは、虹色の星形のグリモアを輝かせる。
「影朧の正体まで見通せれば良かったのだが、どうにも明瞭に見通す事が出来なかった、申し訳無い。どうも……靄がかかっているような感覚ばかりでな……」
ニコにしては歯切れの悪い言葉と共に謝罪が為される。それでも、猟兵たちは事件とあらば、挑まなければならないと転移を受け入れる準備を整えた。
「其れでは、よろしく頼む。時間厳守で、必ず無事に戻って来る事。約束してくれ」
改めて深々と一礼すると、ニコは猟兵たちを戦地へと送り出した。
かやぬま
|悪魔《ダイモン》ブエルに続いてデモノイドの登場に心が躍ります、かやぬまです。
サクラミラージュに迫る新たなる脅威に立ち向かっていただきたく思います。
デモノイドとは何ぞや? という状態でも全然問題ございませんので、ご安心下さい。
●章構成
第1章:悪魔生物『デモノイド』。
集団戦です。理性はなく、影朧が命じるままに、破壊行為をするだけの存在です。
何しろ見た目がおっかないものですから、襲撃を受けたパーティ会場の一般人は恐慌状態です。それを何とか安全な場所に避難させるなどしながら、群れて行動するデモノイドを皆様の力で倒しきって下さい。
ハイカラなホテルの大宴会場を舞台とした戦いになります、使えそうなものは何でも使って大丈夫です。後片付けはホテルの従業員さんが頑張ってくれると信じて……!
第2章:真実の探求:影朧の軌跡。
日常章です。テロル行為の首謀者についての情報収集をしていただきます。
なぜ世界をここまで恨むに至ったか、その手がかりを解き明かすことができれば、次にテロルを引き起こそうとする現場を推理して先回りができるはずですので、頑張って下さい!
詳細は断章にて追加します。
第3章:絶望に取り憑かれた乙女。
ボス戦です。詳細は断章にて追加します。
説得を試みることにより、プレイングボーナスが発生する可能性があるとだけ先に記しておきます。
●プレイング受付について
オープニングが公開されましたら、断章を追加しますので、まずはそれをお待ち下さい。
プレイング受付につきましては、タグとMSページにて日時を設定させていただきますので、期間中にお預かりしたものを可能な限り書かせていただければと思います。
プレイングの送信前に、お手数ですがMSページにも一度お目通しをいただけますと幸いです。
それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております! かやぬまも頑張ります!
第1章 集団戦
『悪魔生物『デモノイド』』
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POW : デモノイドグラップル
単純で重い【悪魔化した拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : デモノイドカッター
【剣状に硬質化した腕部】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。
WIZ : デモノイドロアー
【恐ろしい咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:佐々木なの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●恐怖の闖入者
「いやあ、本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
「こちらこそ! 常日頃より、大変お世話になっております」
帝都のやや外れに建てられた、ハイカラモダンなホテルの大宴会場は、実質的に帝都の経済を動かしている資産家たちの社交パーティの場となっていた。
立食形式のビュッフェに舌鼓を打ちながら、ここぞと名刺を交換し、隙あらば次の商談を持ちかけたり、純粋に交流を深めたりと、様々な思惑が交差する。
努力であれ、生来のものであれ――この場に居る者はことごとくがいわば『成功者』。
いわゆる『勝ち組』と呼ばれる人種であることは、間違いないだろう。
「ご子息も立派に成長なさって、会社の方も安泰でいらっしゃいますなぁ」
「孝行息子を持って私は幸せ者ですよ、それに比べて末の娘と来たら――」
小太りの男性がにこやかに話しかけるのに、神経質そうな男性が応じた、その時だった。
「うわああああっ!!」
「な、何だ! 影朧か!?」
パーティ会場の一角で、悲鳴が上がった。
人々が声の方を見るや、一瞬で顔面を蒼白にする。
無理もない。
辛うじて人のカタチを保っているかのような蒼いバケモノどもが、大宴会場の入り口を破壊しながら、次々と押し入ってきたのだから。
「た、助けてくれ!」
「おい、邪魔だ! 逃げられないではないか、退けっ!」
「嫌、嫌ぁ……! 死にたくないぃ……!」
あっという間に恐慌状態に陥った人々に、蒼いバケモノ――デモノイドが迫る。
そんなただ中に、超弩級戦力たちは転移を受けて割り入ることとなる。
一般人の安全を確保しつつ、デモノイドの群れを殲滅する。
それが出来るのは、超弩級戦力を以て他にない。今こそ、活躍の時だ。
絶龍・しれゑな
【アドリブOK】
【話す時には「い」が「ゐ」、「え」が「ゑ」となる。】
「このままこじれても良ゐのですが…
それはよくありませんよねゑ…
ここはわたしがお相手ゐたしましょう…
でもまずは…」
恐慌状態の他の人々に対しては自分に意識を向けるように
誘惑するような仕草を見せる。
「皆様落ち着ゐてくださゐ…
このままでは皆様の命があぶなくなります。
ここはわたしにお任せ致すようにお願ゐします…」
避難誘導をして周囲を避難させた後はようやくデモノイドへの勝負を行う。
「くふふっ…このままあなたの心の闇を見せて下されば嬉しゐですねゑ…」
ユーベルコードの力を用いて周囲の敵を薙ぎ払いながら次々とデモノイドを倒していく
ユウ・リバーサイド
共闘・アドリブ歓迎
拡声器を使い
周囲に声掛け
従業員用裏口か仲間が拓いた突破口に誘導
「俺達は超弩級戦力です
慌てず、誘導に従って会場から退避してください」
交戦中でも落ち着いた声のトーンを保ち
周囲の不安を煽らないように
テーブルや椅子も足場として利用
蹴りと剣での攻撃で自分へと注目を集め
客の避難先とは反対へ誘う
敵の攻撃を見切り
ダンスの要領でかわし
空振りさせていく
UC使用
心眼でデモノイド達の寄生体の核を見抜き
『esprit noir』に指示を与え貫いていく
予兆が本当なら彼らは一般人だ
寄生体を壊しただけで助かるかは分からない
でも俺は「デモノイド」という現実を変える
(剣の輝きで自己強化し)
助ける
目の前の貴方も!
●こころの在処
物言わぬ蒼いバケモノどもが、次々とホテルの至る所を破壊しながら、大宴会場になだれ込んでくる。パーティを楽しんでいた人々は突然の出来事に思考を止めてへたり込んでしまったり、恐怖のあまり悲鳴を上げたり、あるいはホテルのスタッフに何とかしろと怒鳴るより他なかった。
何故かって? 蒼いバケモノ――デモノイドが群れをなして出入り口を塞いでいるものだから、逃げ場なんてどこにもないと、気付いてしまったからだ。
デモノイドは、目についたもの全てを破壊せよという命令のもとにのみ動いている。
このままでは、人々が肉塊と化すのも時間の問題だった。
それを止めるべく、二人の超弩級戦力が大宴会場に降り立った!
「わたしとしては、このままこじれても良ゐのですが……」
一人は妖艶なる美女、その名も絶龍・しれゑな(謎食い探偵しれゑな・f22446)。
「それは、よくありませんよねゑ……」
しれゑなとしては、事件はこじれればこじれる程、その裏に潜む闇が暴かれた時に得られる快感が大きくなるものだからとは思うものの、今の状況でこれ以上を望むのは、即ち一般人に累が及ぶということに等しいとも理解していた。
けれども、この突如として現れたデモノイドたる謎だらけの存在への興味関心だけは止められない。それはユーベルコヲド【|謎を悶ゑて暴れ貪る《ナゾヲモダヱテアバレムサボル》】の発動という形で顕れた。
その細腕からは信じられないような怪力で、眼前に迫ったデモノイドの体勢を一番崩せそうな部分――巨躯を支えるにはやや頼りなく見える足首を狙い、デモノイドが拳を振るうべくその身を起こした瞬間、しれゑなは懐に飛び込み、掴み――天地をひっくり返すかの如く、持ち上げた!
『――!?』
「ここは、わたしがお相手ゐたしましょう……」
何事もないように言いながら、しれゑなは、持ち上げたデモノイドを、群れるデモノイドのただ中にぶん投げて叩きつけた。巨躯と巨躯がぶつかり合い、混乱が生じる。
「な、何だ……!?」
「あんなことが出来るのは、超弩級戦力しか居らん!」
「助けに来てくれたのね!?」
この場を一刻も早く逃げ出したくても、デモノイドそのものが障害となって行き場を失っていた一般人たちが、しれゑなの姿を見て次々と声を上げる。
しれゑなの初手からの派手な一撃が、完全に一般人たちの意識を引きつけることに成功した。それを好機と捉えたしれゑなは、豊満な肢体を見せつけるような姿勢を取りながら、人々に蠱惑的な声音でこう話しかけた。
「皆様、落ち着いてくださゐ……このままでは、皆様の命があぶなくなります」
しれゑなにぶん投げられたデモノイドや、巻き込まれて体勢を崩されたデモノイドどもが、ジタバタしているうちにと、しれゑなは言葉を続ける。
「ここは、わたし|たち《・・》にお任せ致すようにお願ゐします……」
思わせぶりな言葉で、しれゑなが瞳を細めた、その時だった。
「俺達は超弩級戦力です。慌てず、誘導に従って会場から退避してください」
しれゑなが強烈な一撃を喰らわせた隙に、ホテルの従業員たちが使用する裏口という脱出経路を確保したもう一人の超弩級戦力ことユウ・リバーサイド(壊れた器・f19432)が、白金製の小型拡声器を使用して、努めて冷静な声音で人々の不安を煽らぬよう意識しつつ、避難誘導を開始したのだ。
「さあ、こちらへ……!」
「ちょ、超弩級戦力が来たなら、もう大丈夫よね?」
「ご婦人、足を挫かれているご様子とお見受けする。肩をお貸ししよう」
「……ところで今の男性の声、どこかで聞いたことがあるような……?」
ユウの落ち着いた声のトーンが、力を持って人々の心を静めたこともあってか、避難は順調に開始された。あれだけ混乱していた人々がここまで落ち着けたのは、ユウたちがただ超弩級戦力だということだけでなく、避難を促す過程での二人が持つそれぞれの特技を活かした結果と言えるだろう。
次にしれゑなとユウが成すべきことは、少しでも多くのデモノイドを倒すこと。
どうやらここを襲撃せよと解き放たれたデモノイドの数は、視認出来ている範囲をさらに超えている可能性が高い。ならば、見えている範囲だけでも倒していかなければ!
「くふふっ……このままあなたの心の闇を見せて下されば嬉しゐですねゑ……」
しれゑなは、タンッと軽やかに地を蹴ると、自らの両足でデモノイドの頭部を挟み込むと、そのままバック宙のような形で回転し、巻き込んだデモノイドを脳天から地面に叩きつけた。何という力技か!
物言わぬデモノイドどもに、果たして闇を抱えるだけの心が残されているのか?
それは、確かめてみなければ分からない。
艶やかな笑みを浮かべながら、己の求める闇を見出すまで、しれゑなはデモノイドを手当たり次第にちぎっては投げ、ちぎっては投げるのだった。
一方のユウにも、デモノイドの魔手は迫っていた。いや、敢えて迫らせていたという方が正しいだろうか。豪勢な食事には申し訳ないと思いつつ、テーブルクロスを一気に引き去ると上に乗っていた料理たちを撤去し、空いたテーブルの上や椅子を足場にして、ひときわ派手な挙動でデモノイドに近付いては長い脚による蹴りと刺突剣による攻撃を繰り出し、一般人が避難する方向とは逆の方向へと気取られぬように誘導していたのだ。
(「巨体から繰り出される拳の一撃は、目的がはっきりしている分、見切りやすい」)
ただ、破壊のみを目的とした拳が振るわれるも、狙いが自分だと分かっていれば躱すのも容易い。ダンスを踊ることに見立てれば、相手が自分に合わせてくれているも同然だ。
「ふっ……!」
優雅に、華麗に、しかし無駄のない動きでデモノイドの拳を次々と回避していくユウ。大宴会場の床には次々と亀裂が走っていき、今にも床が抜け落ちてしまいそうだが、人命には変えられない。
そして、何よりユウにはどうしても試みてみたいことがあった。
(「予兆が本当なら、|彼ら《・・》は一般人だ」)
理性もなく、言葉もなく、ただ手当たり次第に破壊のみを行う、デモノイド。
しかしユウのみならず、猟兵たちのほとんどが視たであろうカルロス・グリードの目論みによれば、デモノイドの正体は『寄生体を移植された人間』だという。
ならば、寄生体を何らかの手段で除去することが出来れば、元の人間に戻すことが叶うのではないか? ユウは、そう考えたのだ。
「どうか……どうか、目を覚ましてくれ!」
それは、祈りにも等しい願い。ユーベルコヲド【|闇に舞う蝶《パピヨン・イン・ザ・ダークネス》】に一縷の望みをかけ、ユウは黒揚羽とも見紛う意匠化されたハートを操作し、デモノイドの周囲を舞わせる。
研ぎ澄まされた心眼で、デモノイドに植え付けられていると思しき寄生体の核を探すユウ。もちろん、予知では何も言及されていなかったことであるが故に、それが見出せるかどうかは分からない。けれども。
(「寄生体が見つかったとして、それを壊しただけで助かるかは分からない」)
頭では、難しいと理解していた。
だからと言って、それが挑戦を諦めさせる理由にはならない!
『――』
ユウは踊るように、デモノイドの攻撃を躱しながら、必死にその蒼の中に寄生体の核が存在しないかを探った。探って、探って――眉間が痛むほどに試みて、理解した。
(「駄目だ、寄生体と完全に同化してしまっている……!」)
大宴会場で肉弾戦を挑んでいるしれゑなが、デモノイドの中に闇を見出せないのと同じように、ユウもまた、望むものを見出せずにいた。
デモノイドが、ヒトのカタチを取り戻した例は――ここではないどこかで、確かに存在した。けれどもそれは、デモノイドにされた直後、心まで失ってしまう前に、外部からの根気強い説得があって、ようやく成し遂げられたことであった。
カルロスの元に供与されたデモノイドは、既に、寄生体に魂まで蝕まれ、バケモノと成り果ててしまったものどもばかりだったのだ。
「助ける! 目の前の貴方も!!」
デモノイドという現実を、変えてみせる。
その心意気一つで、ユウは「esprit noir」をデモノイドに向かわせて、寄生体のような魔術由来の生物のみを攻撃する特性を活かした救出を試み続けた。
一体、また一体、デモノイドの身体がグズグズと崩れて蒼の泥濘と化していく。
「く……っ」
刺突剣の銀の輝きで自身を強化し、可能な限りデモノイドに接近しながら、どうにか一体でも救い出せないかと、祈るような心地で攻撃を続ける。
しかし、増えるのは蒼の残骸ばかり。
「ユウ殿、残念ながら、これ以上はこじれようがなゐようです……」
いっそ心が残されていたならば。
その闇を垣間見てしれゑなが堪能することも出来ただろう。
その心に訴えて、ヒトに引き戻すことも出来たやも知れぬ。
けれど――。
「今は……斃すしか、ないのか……!?」
ユウは、心底悔しそうにしながら、デモノイドと対峙する。
いつか、デモノイド寄生体の制御に成功した存在にも巡り会えるやも知れないけれど。
今は戦うしかないと、今を生きる一般人を守るために、二人は力を振るい続けた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御園・桜花
※微頓痴気
「実は私、こう見えて肉弾戦が得意なんです」
「…脳筋だもんね、桜花」
「花燕さんの評価が割と酷いと思うのは私だけでしょうか…」
165cmおっとりニート系少女(人化した巨神花燕)と参加
なお花燕は遠くで観戦と言うか一般人と一緒に避難
「戦闘は桜花に任せとけばいいかなって」
「花燕さん…巨神なのに…」
UC「精霊覚醒・桜」
マッハ12で飛行し桜鋼扇でぶん殴るヒット&アウェイ戦法
敵の攻撃は第六感や見切りで躱しカウンターでぶん殴る
「…ほら、脳筋」
「花燕さん、避難誘導は手伝ってくれても良かったんですよ?」
「知らない人と話すの、苦手だもん…」ぽそり
「花燕さん…」
戦闘後
鎮魂歌歌い送りつつ周囲の人に頭を下げまくる
●汝は脳筋なりや?
「実は私、こう見えて肉弾戦が得意なんです」
突然そう語り出したのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)。
大丈夫? 殿方同士の夜の肉弾戦を妄想するのが得意とかそういう話じゃなくて?
「……脳筋だもんね、桜花」
おっとりとした声で割と辛辣なことを言うのは、桜花が搭乗するサイキックキャバリアが人の形を取った身長165cm程のニート系少女『花燕』さんだった。
「花燕さんの評価が割と酷いと思うのは、私だけでしょうか……」
桜花のぼやきは花燕さんには届かない。何故なら、二人の距離は物理的に離れているから。デモノイドの間合いに入っている桜花に対して、花燕さんは避難を続ける一般人と一緒に距離を取っていたからだ。
「戦闘は、桜花さんに任せとけばいいかなって」
「花燕さん……巨神なのに……」
割と頼りにならないようで、一般人を背にするように立っているあたりは、しっかり護衛の役割を果たしているからセーフ。花燕さん、やれば出来る子だった。
「仕方ありません、私が脳筋などではないことを証明してみせましょう」
桜花はそう言うと、桜鋼扇を構えて、静かに目を閉じた。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん!」
――【|精霊覚醒・桜《セイレイカクセイ・サクラ》】。桜花の全身を渦巻く桜吹雪が覆い、強い意志の力に応じた戦闘能力の強化と飛行能力を得る!
「行きます!」
デモノイドは巨体故に動きが鈍い。そこへ、マッハ12の速度で飛行する桜花が迫り、勢いのままに桜鋼扇でぶん殴ったら、どうなるか。
『――』
すぱこーーーん!!! ものすごく痛そうな音と共に、一体のデモノイドがずうぅんと地に伏した。飛び回る桜花を捉えようとデモノイドが拳を振るうも、猛然と飛び回る桜花を前に、その拳は空ぶるばかり。
桜花にすっかり気を取られ、わちゃわちゃとしているデモノイドどもを、一体ずつぶん殴っては黙らせていくだけの簡単なお仕事となっていき、桜花は順調に蒼いバケモノどもの数を減らしていったのだった。
「……ほら、脳筋」
遠くで一連の流れを見守っていたような、観戦していただけのような、そんな花燕さんがため息と共にそう呟いたのを、桜花は聞き逃さなかった。
「花燕さん、避難誘導は手伝ってくれても良かったんですよ?」
桜花が意趣返しとばかりに言い返すと、花燕さんは、視線を合わせずにこう言った。
「……知らない人と話すの、苦手だもん……」
「花燕さん……」
人見知りするサイキックキャバリアとか、特定の層には刺さりそうですね。それはさて置き、桜花はぷいっとそっぽを向いてしまった花燕さんを見て、がっくりと肩を落とす。
「あの、うちの花燕さんが本っ当に申し訳ありません!!!」
「いえいえ、あのバケモノがこちらに来ないようにずっと見張っていてくれたんですよ」
「貴女もありがとう、流石は超弩級戦力ね」
あまりの申し訳なさに、避難を続ける一般人たちに頭を下げまくる桜花に、温かい言葉が次々とかけられる。見ている人はちゃんと見てくれている、ということだろう。
「次……来てる」
淡々と言いながら花燕さんが指差す先には、デモノイドの第二波が迫っていた。これでは、鎮魂歌を歌っている余裕もないというもの。
桜花は仕方がないと再び鉄扇を構えると、心の中で哀れな戦闘生物に鎮魂の祈りを捧げつつ、床を蹴って宙を舞い、またしてもぶん殴りにかかるのだった。ああ、脳筋。
大成功
🔵🔵🔵
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【POW判定】
今回は真剣口調で話すよ
…デモノイドか
ワタシが覚えている通りの存在なら、誰が寄生体を用意したのやら…
|上位種《デモノイドロード》が出てくるなんて事は考えたくないんだけど…|前例《ロード・プラチナ》がいるしねぇ…
デモノイドについて|ずっと以前から《・・・・・・・》知っている風に話すよ
何故知っているのか、ワタシ自身よく覚えていないけどね
【団体行動/救助活動/コミュ力/精神の余裕】で会場内の一般人の避難誘導を行いつつ、デモノイドを倒すね
UCは『クローネちゃんのアイスエルフ軍団★』
十数人を避難誘導に当てて、残りの子と共に戦うよ
バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携歓迎
おのれカルロス!
幻朧戦線の野望、悪魔生物による無差別テロルなど、見過ごせマセーン!
一般人を守り、影朧殿を解放するべく!
加勢に参上しマース!
襲撃してきたデモノイドは肉弾戦に長けていて脅威でありますな!
数が多く、一体ずつ処理すると手間もかかりそうデース!
ならば、フルバースト・マキシマム!
滑走靴でパーティ会場やホテルの廊下を駆け回り、行きずりにデモノイドをガトリングガンやグレネードランチャーで射撃爆撃吹き飛ばして参りマース!
接近戦になったらグーにはパー、イルバンカーをお見舞いするであります!
必要なら窓を破ったりして上下階移動も行いマショー!
一般人のエブリワン、避難してくだサーイ!
●蒼の由来と破壊の宴
「……デモノイド、か」
クローネ・マックローネ(快楽至上主義な死霊術士・f05148)は、真剣な面持ちで迫り来る蒼いバケモノどもを見据え、呟いた。
「ワタシが覚えている通りの存在なら、誰が寄生体を用意したのやら……」
現時点で確認されている|悪魔《ダイモン》は、獣人世界大戦で交戦したブエルのみ。アモンなどという存在は居なかった。本当に、どこから寄生体を用意したのか。
「|上位種《デモノイドロード》が出てくるなんて事は考えたくないんだけど……」
クローネの脳裏に、次々と湧き上がる疑念。
「|前例《ロード・プラチナ》がいるしねぇ……」
帝竜『プラチナ』。帝竜戦役で存在が確認された際、かつて余程の隷従を強いられていたと己を振り返った存在。その時も『命令電波で|悪魔兵《デモノイド》の軍勢を創造しようとしていた』と述べていた記録が残っている。
それ故か、それともまた別の理由か、クローネはデモノイドについて|ずっと以前から《・・・・・・・》知っている風に独りごちる。
何故知っているのか、クローネ自身、よく覚えていないけれども。
「おのれカルロス! 幻朧戦線の野望、悪魔生物による無差別テロルなど、見過ごせマセーン!」
クローネの思考は、ハイテンションで転移されてきたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)の声によって中断された。
確かに、バルタンの言う通りだった。成すべきことは何よりも、眼前のデモノイドどもを蹴散らし、無辜の一般人たちを守り抜くことに他ならないのだから。
「一般人を守り、影朧殿を解放するべく! 加勢に参上しマシタ!」
「……そう、だよね。今は、戦わないと」
クローネとバルタンは、手当たり次第に建物を壊しながら迫り来るデモノイドと対峙する。既に数名の超弩級戦力たちが戦力を削ったはずなのに、まるで無限湧きのように次々と大宴会場になだれ込んでくるさまを見て、バルタンが即座に判断を下す。
「襲撃してきたデモノイドは、肉弾戦に長けていて脅威でありますな!」
事前に伝えられていた攻撃方法のみならず、現場での目視による素早い分析。
「数が多く、一体ずつ処理すると手間もかかりそうデース!」
そして、的確な戦略を組み立てる手腕は、間違いなく熟練の兵士のそれであった。
「ちなみに、避難誘導は順調デスカー?」
しかし口調はあくまで軽く、ホテルの従業員に向けてバルタンが問えば、元々そう大きくない従業員専用の出入り口を使用しているため、一度に大勢の人々を逃がすことは出来ず、完全な避難はいまだ完了しない見込みであるという答えが返ってきた。
「こういう時は手数が大事だね、ワタシも協力するよ」
そう言うと、クローネは豊満な肢体を一度しならせると、両手を広げて何かを迎え入れるような仕草を取った。
「クールな子達を紹介するね♪ 【|クローネちゃんのアイスエルフ軍団★《ブラック・アイスエルフ・トルーパー》】!」
ごうっ、と。クローネの身体から冷気が放出され、それは次々と漆黒の肌持つ艶めかしいアイスエルフの姿となって、まるでクローネの指示を待つかのように膝をついた。
「ここからここまでのアイスエルフちゃんは避難誘導の協力を、残りの子たちはワタシと一緒に戦って欲しいな」
クローネからのお願いを受けたアイスエルフちゃんたちは、言われた通りに二手に別れると、まずは避難誘導を担当するチームがそれぞれクローネ譲りの大人の余裕を見せながら、デモノイドから一般人を守るように立ちはだかり、即席の氷で出来た城塞を築きあげようと行動を開始する。
「オーウ、頼もしい援軍デスネー! ワタシも負けてはいられマセーン!」
それを見たバルタンが、陸海空対応型滑走靴なる何やらものすごく便利そうな装備で、シューッと大宴会場を駆け回り始めた。
「おおっとこんな所にデモノイド! |見敵必殺《サーチ・アンド・デストロイ》デース!」
『――』
まずは手始めにと、バルタンは大宴会場内で暴れ回るデモノイドが横一列になっているのを良いことに、その眼前を華麗に滑走しながら、巨大な重機関銃の超連射で次々と蜂の巣にしていく!
「も、もうここまで壊れているなら、今更もう少し壊れても問題ナッシング、デース!」
倒せども倒せども湧いてくるというのなら、それを上回る殲滅力で薙ぎ払うのみ。蠢く蒼の中心目がけて、バルタンは何と最大六発の連射が可能なグレネードランチャーを次々とぶち込んだ! これにはたまらずデモノイドどもも散り散りになり、廊下への道が一瞬だが拓けたのを、バルタンは見逃さなかった。
「どんどん吹き飛ばして参りマーーース!」
ノリにノッたバルタンは止まらない。廊下から大宴会場を目指してのしのしと歩を進めてくるデモノイドどもに対しても容赦はせず、ガトリングガンの掃射を浴びせかけた。
それでもなお拳を振り上げ迫り来る個体には――。
「グーにはパー、アァァァァイルバンカァァァァァ!!!」
元々はキャバリア用の巨大杭打ち機だったものを、バルタンが装備出来るように改造したとんでもねえ武器が、デモノイドの巨躯を一瞬にして粉砕した。こんなんお見舞いされたら並の敵では到底太刀打ちできない。相手が悪かったとしか言いようがない。
バルタンの大暴れによって、大宴会場のデモノイドは一時的とはいえその数を大幅に減少させた。あとどれだけ波のように押し寄せてくるのかは知れないが、せめて一般人の避難が完了するまでは持ちこたえなければならないと、クローネは色っぽさ抜群のアイスエルフちゃんたちを従えて、氷結輪を投げつけたり、氷のブレスを吹きつけたりしながら、こちらは主に牽制を中心にしながらの持久戦を試みていた。
(「殲滅はバルタンちゃんに任せて、ワタシは避難の手伝いをしないとね」)
召喚術も、喚んだものを行使する団体行動も、クローネにかかればお手の物。アイスエルフちゃんたちの活躍もあって、デモノイドの破壊行為は一般人に届くことはない。
その時、ギャギャギャとすごい音を立てながら、バルタンが大宴会場に戻ってきた。
「もしかして、避難経路が狭くて困っているとかありマセンカ?」
「も、もしかしなくても狭いです!!」
「分かりマシタ! では、ちょっとだけ離れていてくだサーイ!」
一般人たちが、アイスエルフちゃんたちが、バルタンが何をしようとしているかをいっせいに察知して、一旦唯一の避難経路である通用口から離れた、その瞬間であった。
グレネードランチャーが一発、通用口にぶち込まれ、壁ごと破壊して大穴を開けたのだ。
「さあ、一般人のエブリワン、避難を続けてくだサーイ!」
「た、助かった……これで一度にたくさんの人が通れます……!」
ホテルの損害は増したけれども、人命には代えられない。バルタンの判断は正しかった。
「む、まだまだおかわりが来ますか! ならばこちらも手加減しマセン!」
今まで手加減していたのか……という顔になる一般人がいたとかいないとかはさて置き、バルタンは遂に秘蔵のユーベルコヲドを解放する!
「【フルバースト・マキシマム】! ワタシの持てる全てを、デモノイドにシューット!」
ズドドドドドドド!!!!! 文字通り、バルタンが内蔵している装備全てを叩き込む一斉発射の結果、デモノイドは破壊の限りを尽くすどころか、サイボーグメイドさんの全力を尽くした攻撃の前に、蹂躙の限りを尽くされたのであった。
「これは……デモノイドの方が気の毒になってくるね……」
ちょっぴり複雑な表情をしつつも、クローネはそれでもなお残るデモノイドに氷の攻撃を叩き込んで、きっちりと一般人の避難誘導にも貢献していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御桜・八重
黯党がまたよからぬことを企んでるって話だけど……
(会場に転移した途端、ぐわーっと吠えるデモノイド)
なんかとんでもないのキターっ!?
早くみんなを助けなきゃ!
・髪飾りの複製を召喚。
・オーラを纏った髪飾りを盾として、一般人をデモノイドの
攻撃から守りながら避難ルートへ誘導する。
救助は子供、女性、老人など弱者優先。
・大きなテーブルクロスに髪飾りを潜り込ませ、
クロスを被って逃げ出そうとしている人の様に見せる。
・コマのように回転する髪飾りを殺到させ、
薄く広がったオーラの刃でデモノイドを斬り裂く。
桜學府にも連絡入れといたから、
応援部隊が一般人を保護をしてくれるはず。
絶対に一人の犠牲も出させるもんかー!
荒谷・ひかる
でも、のい、ど……
うーん、初めて見るハズなんてすが……何でしょうこの、動きや性質を「知ってる」感じは。
っと、今はそんなこと気にしてる場合ではありませんね。
いつも通り行きましょう、精霊さん達。
【本気の風の精霊さん】発動
敵の攻撃は咆哮、つまりはでっかい声
であれば、空気遮断して窒息させてしまえば封じられるはず
平行して突風でテーブルクロスやカーテン飛ばして巻き付けての行動阻害や、普通に鎌鼬での攻撃も依頼
わたし自身は超弩級戦力として名乗り出て、皆さんを「鼓舞」して避難誘導をします
コード効果で要救助者の皆さんも機動力向上してるので、素早く逃げられますし高い所から飛び降りても大丈夫です!
●壊す者、守る者
(「|黯党《あんぐらとう》が、またよからぬことを企んでるって話だけど……」)
そんな企ては、何度だって阻止してみせる! そう意気込んで転移を受けた御桜・八重(桜巫女・f23090)は、大宴会場に着地するや、デモノイドの咆える声に迎えられた。
「わわわっ、なんかとんでもないのキターっ!?」
蒼い巨体に、理性の欠片も感じられない咆哮。超弩級戦力として幾多の修羅場をくぐり抜けてきた八重でさえ驚愕を隠せないのだから、一般人が恐慌状態に陥ってしまうのも無理もない話だろう。
幸い、大宴会場でパーティを楽しんでいた人々の半数近くは既に避難を完了させていたが、腰が抜けてへたり込んでしまった人など、まだまだ助けが必要な人々は残されている。
「早くみんなを助けなきゃ!」
八重は頬を両手で一度ぱん、と叩くと気合を入れて、蒼いバケモノどもに対峙するのだった。
「でも、のい、ど……」
八重と同時に転移を受けた荒谷・ひかる(|精霊寵姫《Elemental Princess》・f07833)は、眼前のデモノイドを目の当たりにして、不思議な感覚にとらわれていた。
(「うーん、初めて見るハズなんですが……何でしょうこの、動きや性質を『知ってる』感じは」)
その感覚の訴えは、ひかるだけではなく、複数の猟兵たちからも上がっていたものだった。事件を予知したグリモア猟兵自身、直接関係はないからと告げずにいたものだった。
故に、ひかるもまた、今はそれを気にかけている場合ではないと判断し、いつも通りの戦いをするだけと気を引き締めた。
「行きましょう、精霊さん達」
ひかるの呼びかけに、風の精霊さんが応える。無残にも破壊されたホテルのあちこちに開いた壁の穴から吹き抜ける風が、窓辺のレヱスカアテンを揺らした。
「ひかるちゃん!」
「八重ちゃん!」
ユーベルコヲド【|花筏《ハナイカダ》】を発動し、桜の髪飾りを大量に複製している最中、ひかるの到着に気付いた八重が声をかければ、ひかるも呼びかけに応じた。
「わたしは先に、残った人たちの避難誘導をするね!」
「ありがとう、じゃあわたしは――」
オーラを纏った髪飾りを盾のように展開させ、デモノイドの暴虐から一般人を守りつつ、既に切り拓かれていた壁の大穴――元々は関係者用の通用口だったもの――へと誘導する八重に、ひかるは役割分担として、デモノイドへの牽制兼攻撃を選択した。
「――舞い、踊り、奏でましょう。吹き荒れる災厄の風を」
真っ直ぐにデモノイドどもを見据えながら、詠唱の言葉を紡ぐひかる。
「自由に流れる旅人の風を。生命を育む福音の風を――!」
実は、詠唱などなくとも意思の疎通だけで精霊さんとは十分やり取りが可能なのだが、ひかるは敢えて儀式めいて詠唱を行う。何故って? カッコいいからに決まってる。
『――、――』
ともあれ、ひかるの願いに応えるように【|本気の風の精霊さん《ウインド・エレメンタル・オーバードライブ》】は発動した。風の精霊さんたちは真っ先にデモノイドどもを包み込み、周囲の空気を遮断した。
「敵の攻撃は咆哮、つまりはでっかい声」
風の加護を一般人に与え、機動力の強化を付与しながら、ひかるは言う。
「であれば、空気を遮断して窒息させてしまえば封じられるはず!」
果たしてデモノイドどもは、喉をかくようにもがき苦しむばかり。
「みんな、大丈夫!? 子供さんや女性に、ご年配の人を優先して避難しよう!」
「おとうさん……っ」
「娘を、娘を頼んだ」
足を怪我したと思しき男性が、それでも我が子を先にと八重へと託す。
「……っ、必ず、あなたも助けるから!」
どうしても、救助には優先順位をつけなければならない。それが歯がゆかったけれど、今は最善を尽くすしかないと、八重は避難誘導を続けた。
「! そうだっ」
髪飾りは大量にある。ならばと床に落ちていたテーブルクロスの中に自在に動かせる髪飾りを潜り込ませ、クロスを被って逃げ出そうとする一般人のように――見せかける!
すると、そうとも知らぬデモノイドがまんまと騙されてはためくテーブルクロスを追い始めた。避難する一般人とは全く逆の方向へと、八重の目論見通り誘導されていく。
「なるほど、ならわたしも!」
それを見たひかるも、風の精霊さんの力で突風を起こしてもらい、テーブルクロスやカーテンを舞い飛ばし、デモノイドの巨躯に巻き付けての行動阻害を試みた。デモノイドの群れは完全に翻弄され、破壊の拳や刃を振るうことすら叶わず、のたうち回るばかり。
「畳みかけます!」
一度やると決めたらとことんやるのが、ひかるの流儀。追撃のかまいたちを放ってもらいながら、ひかる自身は八重一人では避難させきれない要救助者の元へと駆け寄った。
「ちょ、超弩級戦力……」
「そうです、わたしたちが来たからにはもう大丈夫です!」
ひかるの言葉には、信じられない程の力強さが込められていた。人々を鼓舞することにかけて、ひかるの右に出る者はそうそう居ないだろう。
「今の皆さんには、風の精霊さんの加護があります! いつもより、身体が軽いと思いませんか? 効果が続いているうちに、早く!」
「は、はい……!」
軽やかな足取りで、続々と大宴会場から退避していく一般人たち。
だが、それでもなお迫り来るデモノイドは存在する!
「させないよっ!」
八重の声が響くと同時に、コマのように回転する髪飾りが殺到し、薄く広がったオーラの刃がデモノイドの蒼い皮膚を切り裂いていった。
「桜學府にも連絡入れといたから、応援部隊がみんなを保護してくれるはず!」
「皆さん、今なら飛び降りても大丈夫ですから! 今すぐこの場を離れて下さい!」
八重とひかるの奮闘は続く。
「絶対に、一人の犠牲も出させるもんかー!」
その言葉の通りに、一般人に致命的な被害は出ていなかった――今のところは。
「や、八重、ちゃん」
ひかるが、息を呑みながら八重の名を呼んだ。
ガラガラと、建物が瓦礫になる音が響いた。
デモノイドが、今までで一番の群れをなして、ここに来て勢いを増してきたのだ。
「……ひかるちゃん! 一歩も引いちゃダメだよ!」
八重はオーラを纏った髪飾りを、ひかるは愛しい風の精霊さんたちをそれぞれ伴って、何が何でもこの場を破壊し尽くさんとする蒼いバケモノどもに立ち向かう!
その背には、無辜の人々が、少数とはいえいまだ残されている。
守り抜くという意志一つで、八重とひかるは、戦い続けたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と往くよ
蒼、青の化物か…
ゴーストの血を浴び変色した瞳から
そう形容された事があるな、なんて
余計な事も考えてしまうけど
今はそれどこじゃない
此処は大事なダチの第二の故郷だし
人々に手出しなんて絶対許さない
護りきってみせる
相棒と相談し気を引き締め転移を受けたけど
「!」
想像以上の恐慌となぶられる人たちに
すぐ戦法を切り替えた
「勢いを削がないと避難は難しい!」
相棒に言い即UC白燐大拡散砲を詠唱!
「包み込み押し止めろ!ククルカンっ」
何時もは大規模戦にしか使わないけど
小さいとはいえ激烈な大群の俺の蟲たちが
敵を包み込み目をくらまし傷を与え
人々を癒すこの間に
「こっちだ!逃げて!」
全力で救護と避難誘導を行う
幸い蟲たちに完全に押され化物共は動けない!
陸井も的確に人々を誘導してく…よし!
重傷で動かせない人達を背に護り
化物たちと相対する
「絶対通さない!」
高速・多重詠唱で再度詠唱し更に蟲を増やした
「全力攻撃!」
指示し自分でも大鎌で斬りかかる
陸井の手裏剣も次々決まる
「命は狩らせない!此処までだ!」
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
この世界は大事な友人の場だ
その上朧影を唆してのテロ
絶対、許すわけにはいかないな
相棒は別で何か思う所があるみたいだけど
まずは何より目の前の阻止からだ
相棒の背中を軽く叩いて向かおう
「まずは集中していくぞ、相棒」
状況は良くないみたいだ
転移したら即行動
「考えてる暇はない!行くぞ!」
幸い相棒なら即対処できる
初手はまず相棒に任せて
俺は兎に角救助と避難誘導だ
動けない人は手伝いながら
ついでに近場の敵に弾丸も叩き込んでいく
「自分で動ける人達はこっちへ!」
避難が済む間もなく敵は襲ってくる
乱戦だろうから攻撃は紙一重で回避しつつ
【水遁「水刃手裏剣」】を使用
「高威力で繊細に、でも最大限の数と効果を」
両手に生み出せるだけの刃を
敵への威力はそのままに
だけど室内や人へのダメージは出さないよう
細心の注意を払って操って放つ
背に護る人々もホテルも、傷つけずにな
「テロだからこそ、こっちは綺麗に勝たないとな」
勿論デモノイドは一体も残すつもりはない
相棒と最大の一撃を放つ
「お前達のテロは此処で終わりだ!」
●蒼の地獄を打ち払え
(「蒼、青の化物か……」)
グリモアベースで転移を受ける直前、デモノイドなる新たな脅威を開かれたゲート越しに見た葛城・時人(光望護花・f35294)の脳裏に、ある記憶がよぎっていった。
(「ゴーストの血を浴び変色した瞳から、そう形容された事があるな」)
思い出す。出来れば、あまり思い出したくなかったことを、想起させられてしまう。
知らずぼうっとなってしまっていた時人の背を、軽く叩いた者があった。
「まずは集中していくぞ、相棒」
「……あ、ああ」
凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)は、相棒――時人の様子がどこかおかしいことに、いち早く気付いていた。何か思うところがあるのだろうとは理解しつつも、まずは何より目の前で起こらんとしている惨劇を阻止することが最優先だと、陸井なりの気遣いで呼び戻したのだ。
時人もまた、今は物思いに耽っている時ではないと気持ちを切り替える。
「此処は大事なダチの第二の故郷だし、人々に手出しなんて――」
「ああ、その上影朧を唆してのテロなど、絶対許すわけにはいかないな」
――護りきってみせる。
思いを共にした二人の能力者――超弩級戦力は、戦場へと飛び込んでいった。
「!!」
最大限、気を引き締めて現地に降り立ったつもりだった。
先に到着した超弩級戦力たちの奮戦により、事態は優位に進んでいるものかと思っていた。
だが、眼前に広がっていた光景は、無残にも破壊の限りを尽くされた大宴会場――だった場所。至るところでデモノイドが傍若無人に暴れ回り、その一部は何かを囲むように密集していた。
「考えてる暇はない! 行くぞ!」
「ああ、勢いを削がないと避難は難しい!」
その言葉を交わしただけで、十分だった。
「包み込み押し止めろ! ククルカンっ!」
時人は迷うことなくユーベルコヲド【|白燐大拡散砲《ビャクリンダイカクサンホウ》】を発動させ、群れるデモノイドどもを|白燐蟲《ククルカン》の猛攻で一気に蹴散らした。
「――っ」
飛び散る蒼の肉塊の向こうに、満身創痍となりながら、残された一般人を守り抜くべく身を挺して戦い続けていた猟兵の少女たちの姿が現れたのを見て、時人は息を呑んだ。
少女たちは、何かを言おうとしていたが、もはやその余裕も残されていないようだった。背にした一般人たちは身を寄せ合って震えてはいたものの、少女たちに守られていたおかげか、怪我こそしているが命に別状はないようなのが救いであったと言えよう。
「よく頑張った、後は引き受ける!」
床に広がった蒼の泥濘を踏み散らしながら、陸井が少女たちの元に駆け寄った。
「……、……」
桜の髪飾りを握りしめた少女と、額に羅刹の角を持つ少女は、意識を保っているのが不思議なくらいに傷ついていた。どうやら、影朧にけしかけられたデモノイドどもが、最後の最後に何らかの指示を受けたか、いっせいになだれ込んできたため、残された一般人を守るのが精一杯となってしまったようだった。
「時人! ククルカンを!」
「もう向かわせてる!」
時人の大技は、普段ならば大規模戦にしか使用されないものだった。けれども、それを必要とされる程に、状況は芳しくなかったということだ。
小さいながらも激烈な大群である時人自慢の蟲たちが、なおも残る大量の蒼を包み込み、目をくらませじわじわと傷を与えるのと同時に、ここまで耐え抜いた少女たちや負傷した一般人たちの傷を応急処置ながらも癒していく。
「自分で動ける人達はこっちへ!」
手近なデモノイドに牽制も兼ねてガンナイフによる弾丸を叩き込みながら、陸井は叫ぶ。
ククルカンの癒しで脅威的な快復を見せた二人の少女たちは、互いを支えながら、陸井に深々と頭を下げると、一般人と共にいったん戦線を離脱していった。
(「ここまで耐えてくれてありがとうだよ、おかげで一般人は全員無事だ」)
怪我をして動けずにいた一般人たちも、ククルカンの癒しで何とか歩けるようにまではなったため、時人がデモノイドを押し止めている間に、関係者用の通用口だった大穴へと陸井が手を貸したりしながら誘導を続け、遂に一般人全員の避難が完了した。
(「陸井も的確に人々を誘導してく……よし!」)
万が一、ククルカンでも癒しきれない人が居れば背に護ってでもと考えていた時人だったが、幸いにして一般人の避難は完了した。陸井が時人の隣に駆け寄ってきたのが、その証拠だった。
デモノイドどもは、破壊するものがなくなったことを不満に思ったか、時人と陸井の方を向いて、鋭い刃と化した左腕を振り上げながら、のったりと動き出した。
「乱戦になるな」
「負けられない」
短く言葉を交わすと、二人はいよいよ攻撃に専念する。時人は高速詠唱を重ねて白燐蟲の数をさらに増やし、陸井は手の中に渦巻く水流を生み出し始めた。
『――』
突如、デモノイドの動きがそれまでののったりしたものから、機敏なそれへと変化する。見た目からは想像もつかぬ動きに、陸井はしかし反射的に対応した。
「【|水遁「水刃手裏剣」《スイトン・スイジンシュリケン》】――躱せるか?」
デモノイドどもは、何が起こったか、分からなかっただろう。
水流で作られた不可視の手裏剣が、次々とデモノイドどもの頭部を貫いていたからだ。
『――、――』
「全力攻撃!」
蟲たちに指示を出しつつ、時人も大鎌「黒月」で果敢に斬りかかっていく。乱戦状態になりつつ、時人も陸井も、紙一重でデモノイドの刃を回避しながら次々と持てる力の全てを叩き込む!
(「間違っても、避難した人々を追わせるような真似はさせない」)
二人の意識は同じであった。意識して一般人たちが避難していった方を背にして、数の暴力で蹂躙せんとする蒼いバケモノどもを、手数を増やすことで負けじと屠っていく。
「命は狩らせない! 此処までだ!」
時人が決然と言い放ちながら、デモノイドを次々と蒼い泥濘へと帰していく。
「テロだからこそ、こっちは綺麗に勝たないとな」
陸井も両手に生み出せるだけの刃を湛え、次々とデモノイドの急所へ命中させていく。
不必要な破壊は避け、しかし最大限の数と効果をもたらす、使い慣れた手裏剣は存分にその力を発揮してくれた。
デモノイドの怒濤のような攻撃は苛烈であった。けれど、それをも上回る手数を用意した時人と陸井の二人に、戦いの趨勢は傾いていく。
「お前達のテロは、此処で終わりだ!」
白燐蟲の大群に、一度にまとめて命を刈る大鎌、そして術者への負担が軽く連射が可能なことで昔から知られる水刃手裏剣。
それらが同時にデモノイドの最後の群れに殺到した時、勝敗は決することとなった。
まさに、陸井が宣言した通りである。
「……さすがに、思ったより、厳しかった、な……」
|白燐蟲《ククルカン》を体内に戻しながら、肩で息をしつつ、呟く時人。
「|相棒《時人》が居なかったら、どうなっていたか」
振るい続けた腕を休ませるようにだらりと下ろして、陸井は率直な思いを返す。
大宴会場こそ、破壊されてしまったけれど。
ホテル全体が壊滅させられてしまったり、一般人に犠牲が出るなどの、最悪の事態は避けることができた。
陸井が窓の外に目を向けると、地上では駆けつけた帝都桜學府の學徒兵たちを中心に、救助された一般人たちの応急手当などが行われているのが見えた。
「……良かった」
ひとまず、大規模テロルという許されざる行為の阻止には成功した。
次になすべきことは、可能な限り、救助した人々から、事件に関する心当たりを聞き出すことだろう。
何故、この場に集った資産家たちが狙われたのか。
心当たりを持つ者が、誰かしら存在するかも知れない。
「大変な事件の直後で、申し訳ないけれど」
時人は、人々を慮りながらも、決意する。
必ずや、影朧の狙いを探り当ててみせると――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『真実の探求:影朧の軌跡』
|
POW : 影朧を知る人を探しに行く。
SPD : 新聞や書籍に影朧の情報が無いか調べる。
WIZ : 影朧が執着するものについて調べる。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●一難去ってまた一難
ハイカラな内外装で人気を博していたホテルは、当分の間使用することは出来ないだろう。超弩級戦力たちの活躍により救助された一般人の中には、真っ先にそれを嘆く者が居たあたり、おおかたホテルの運営に関わる資産家あたりといったところだろうか。
資産家ともなれば、多かれ少なかれ、他人から負の感情を向けられることもあろう。
あるいは、表沙汰には出来ない裏の顔を持ち合わせていてもおかしくはない。
これから、超弩級戦力たちは、そんな人々の『裏事情』に踏み込まねばならない。
自分たちが狙われた理由に、心当たりはあるか?
救助した恩を売る訳ではないが、超弩級戦力になら、話してくれるかも知れない。
自分のことではなくとも、他人のことであれば、軽々しく話す輩だって居るだろう。
今回のパーティが開催されることを、どれだけの存在が知り得たのだろうか?
新聞に取り上げられたであるとか、何らかの情報源があってのことかも知れない。
影朧がそこから今回の襲撃を企てたのだとしたら、背景も見えてくるだろう。
パーティの参加者は、ホテル前の大通りで帝都桜學府の救護部門の人員によって手当てを受けている最中だ。話を聞くこと自体は問題なく行えるだろう。
――真実を語ってくれるかどうかは、対応次第になるやも知れないが。
新聞を読みたければ、ホテルのロビーから従業員が持ち出してきてくれることだろう。その中から、影朧にまつわる情報が得られる可能性もゼロではない。
『何故、資産家たちが集うパーティ会場が襲撃を受けたか?』
その理由にたどり着くことが出来れば、影朧への道も、おのずと拓けることだろう。
●補足
デモノイドの脅威は去りましたが、大規模テロルを企てた影朧はいまだ健在です。
何の理由もないまま、パーティ会場が襲撃されるとは、とても思えません。
超弩級戦力の皆様には、各々が得意とする方法で、情報収集を行っていただければと思います。行動の結果は、必ず何らかの形で成果として現れます。
一般人たちも、よほど高圧的な態度などを取らない限りは、協力してくれるはずです。
積極的に情報収集を行い、影朧にまつわるヒントを皆様の力で集めましょう!
バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携歓迎
ふーむ。真実の調査でありますか。人の心は難しいデスナー。
とはいえ、ここで手掛かりを集めないと影朧の方が野放しでデンジャラス!
できる手を打ちマショー!
ハーイ、お疲れ様デース! 炊き出しデース!
ホテルから避難した方々に雑炊を振舞いマース!
高級食材や贅沢な調味料はありマセンガ、超級料理人であり、瞬間最大料理技能レベル千オーバーなワタシの雑炊は一味違いマース!
資産家の方の舌にも合うと思いマスヨー!
恐怖から逃れてほっと一安心したところで、暖かく美味しい料理を食べれば口も軽くなるかと!
雑談の流れで裏事情の話題を聞いてみマショー!
あとは、他の調査が得意な猟兵の方の手助けになれば幸いデスネー!
ユウ・リバーサイド
アドリブ絡み歓迎
惨状を見て拳をぎゅっと握りしめ
…彼らを想うのは後だ
まだ、助けなきゃいけないひとがいる
給湯室を借りて冷たい麦茶を淹れ
一般人や救護スタッフにも配ろう
脱水は怖いし
少しでも落ち着ける雰囲気作りと会話の導入になれば
まだ軽傷か無傷な人達に声かけ
礼儀を意識し自己紹介
「先程は災難でした
お怪我の具合は?」
体調や精神的なショックを気遣い
無理の無い範囲で会話を
「大変な時に申し訳ありません
今回の事件について調べているんです」
パーティの名目や開催頻度や常連や
「今回の参加者のご親族で亡くなられた
…影朧となりそうな方を知りませんか?」
自分からはそれ以上は踏み込まず
読心術で彼らが「避ける」「隠す」話題にも留意
●事情聴取:その一
デモノイドの脅威は去った。
けれども、残された傷跡は深く。
蒼い巨躯が大挙して押し寄せたハイカラなホテルは玄関口からしてことごとく破壊され、広々としたロビーが外からでも見渡せる状態になっていた。
超弩級戦力が救助した一般人たちは、駆けつけた帝都桜學府の救護要員たちの手で応急手当がなされている最中。幸いにも無傷な者から、不幸にも怪我を負った者まで、様々だ。
その全てを見渡せる場所から、ユウ・リバーサイドは悔しげに拳をぎゅうと握りしめた。
デモノイドを蹴散らし、一般人を守れという使命は、果たされた――けれど。
足元に広がった、蒼い泥濘が今でも靴底にこびり付いているような錯覚を覚える。
(「出来ることなら、救いたかった」)
ユウが無力だった訳ではない。
けれども、見つめる両手からこぼれ落ちたものを思うと、自然と表情が険しくなってしまう。
ざわざわ、ざわざわ、と。
様々な人々が交わす言葉が徐々にユウを現実へと引き戻していくようで。
「……彼らを想うのは、後だ」
いつか、この手が届く日が来るかも知れないと、今は信じる他ない。
「まだ、助けなきゃいけないひとがいる」
ユウは、顔を上げた。凜とした表情で、一般人を見た。
そして、痛ましく破壊されたホテルの玄関口へと飛び込んでいった。
「ふーむ、真実の調査でありますか」
ユウが向かったホテルの厨房には、先客の姿があった。バルタン・ノーヴェだ。
「人の心は難しいデスナー」
大宴会場への最短経路とは離れていたためか、破壊の被害を免れた厨房は、設備が問題なく使用できる状態だった。|瓦斯《ガス》も一旦は止められていたようだが、今では安全が確保されたからか、復旧しているのが確認出来た。
「とはいえ、ここで手掛かりを集めないと影朧の方が野放しでデンジャラス! できる手を打ちマショー!」
おー、と一人気合いを入れたバルタンは、ライスカレーなどを提供するために使われている大きな鍋を使って、ご飯を炊く準備を始める。自前のクッキングカーを使っても良かったが、せっかく大きな厨房が生きているのだからと、有難く使わせてもらうことにしたのだ。
超級料理人でもあるバルタンにかかれば、調理場ひとつあれば何とかなる。
じゃっこじゃっこと大量のお米を研ぐバルタンは、厨房に飛び込んできたユウの姿を認めると、考えることは同じかと笑顔で彼を迎えた。
「ヘーイ、アナタも炊き出ししに来たのデスカー?」
「いや、そこまで大仰なことは出来ないけれど……麦茶くらいなら、と思って」
なるほど、ユウが何かを両手いっぱいに抱えていると思ったら、大麦の種子が入った袋だったか。疲れた身体には、きっと麦茶が沁み渡ることだろう。
「バルタンは……凄いな、炊き出しをしようとここへ?」
「イエス! ホテルから避難した方々に雑炊を振る舞おうと思いマース!」
どかん! と盛大に音を立てながら、ざらざらと研いだお米を鍋に移して、バルタンは器用にウインクをする。料理の技能が尋常でなく高いバルタンにとって、水は目分量でも丁度良く入れられる。手際良く雑炊の準備をしていくバルタンに、ユウは自らも|薬缶《やかん》で麦茶を煮出すべく準備をしながら、ぽつりと呟いた。
「……これで、少しでも人々の心身が休まれば」
「デスネー、気分転換にもなって何かしら事情も聞けるかも知れマセーン!」
ぐつぐつ。
ことこと。
米を炊いている間に、卵を大量に割り溶くバルタン。
煮出した麦茶を冷やすべく、薬缶から大麦を取り出し氷水に浸すユウ。
黙々と調理を進める二人は、どちらからともなく、言葉を交わした。
「……いい匂いがしてきた」
「フフーン、良かったら味見がてら一口いかがデスカー?」
高級食材も、贅沢な調味料も、敢えて使わない。
バルタンのみぞ知る、超級料理人ならではの工夫が施された秘伝の雑炊が、小皿によそわれてユウへと差し出される。
「……!?」
それを軽く頭を下げながら頂戴したユウは、言葉を失い、目を見開いた。美味い!
「こ、これをみんなに振る舞ったら、きっと喜んでもらえる!」
「麦茶もあればさらに食が進むというものデース、早速皆さんに配りマショー!」
図らずも、共同作業で簡素に見えて立派な炊き出しを完成させた二人は、完成した雑炊と麦茶を、意気込んで外の簡易救護所へと運び込んでいった。
「ハーイ、お疲れ様デース! 炊き出しデース!」
「冷やした麦茶と、食べやすい雑炊です。皆さんで是非」
一般人のみならず、桜學府の救護要員たちの分まで用意した麦茶と雑炊は、心底ありがたがられながら、人々の元へと渡っていった。
(「脱水は怖いし、少しでも落ち着ける雰囲気作りと、会話の導入になれば」)
(「恐怖から逃れてホッと一安心したところで、温かく美味しい料理を食べれば、口も軽くなるかと!」)
ほぼ同じ考えで厨房に立った二人は、少しばかり一般人たちの様子を見ていた。誰もが嬉しそうに麦茶や雑炊を口に運んでいるあたり、舌が肥えた資産家相手にも十分通用する味に仕上がっていたと判断して良さそうだ。
「これなら、雑談からの流れで、何かしら聞き出せそうデース!」
「俺も、会話に問題なさそうな人から順に当たってみるよ」
バルタンとユウは、そこで手分けして、いよいよ事情聴取にあたることにした。
「雑炊、足りてマスカ? まだまだおかわりもありマスヨー!」
「ありがとう……でも、この一杯で十分。とっても美味しかったわ」
「美味い飯にありつけるかと思ったらあの騒ぎだろう? しかしたまにはこのような素朴な味も良いものだな、礼を言うぞ」
「ご満足いただけたなら何よりデース! ところで……」
料理人として嬉しい褒め言葉を浴びながら、バルタンは声のトーンを頑張って落としながら、一般人たちにこう聞いてみた。
「今回、パーティが襲撃された心当たりのようなものは、何かありマセンカ?」
その言葉に、バルタンの周囲の一般人たちは顔を見合わせると、一様に首を振る。
「ある、といえばあるし、難しい質問だな……」
「色々と事業を手がけていると、どうしても知らない所で不興を買ったりしてしまうし」
「ああ、でも、そうだ」
誰かが、思わせぶりな言葉を発した。見れば、比較的若い男性がバルタンを見ていた。
「城之内さんのところ、事業は上手く行ってるけれど、家庭内に問題を抱えているようでね……今日も、騒動が起きる前にぼやいていたよ」
「! その方は今どちらに!?」
「あれ? そういえば姿を見てないな……どこかには居ると思うんだけど」
「ありがとうございマース! 城之内サン、デスネ!?」
家庭内のいざこざが、パーティ襲撃にまで発展するのかは気になったけれど、今は少しでも情報が欲しい。バルタンは、ぺこりと頭を下げると、駆け出していった。
ユウは、比較的軽傷だったり、ほとんど無傷の人々が集められた一角へと向かっていた。
「先程は災難でした、お怪我の具合は?」
「見ての通り、諸君らのお陰で無事ではある。些か、衝撃的ではあったがな」
「本当に……恐ろしいことですわ、あのような化物が押し入ってくるなんて」
元々はきちんとした身なりをしていたであろう男女も、この騒動ですっかり着衣が乱れてしまい、毛布にくるまってはいるものの、精神的には比較的しっかりしているようだった。
そんな、人々の体調や精神的衝撃を気遣いつつ、ユウは無理のない範囲で、何とか話が出来ればと、言葉を選びながら口を開く。
「……大変な時に、申し訳ありません。今回の事件について、調べているんです」
「君たちも大変だな、いいだろう……我々で分かる範囲のことであれば」
ユウの心遣いが伝わったか、一般人の方もやつれた顔ではあったが、快諾する。
「今回のパーティはどんな名目で催されたか、開催の頻度や、常連などがいらしたら」
「城之内様が主催する、私たち資産家の社交場のようなものと思っていただければ結構かしら。大体、年に二回のペースで催して下さって、あまり新規の方はお見受けしないわ」
なるほど、とユウは丁寧にメモを取る。
「差し支えなければ、もう一つお伺いします。今回の参加者のご親族で亡くなられた……影朧となりそうな方を、知りませんか?」
その問いを聞いた男女は、同時に軽く目を見開く。そして、すぐに苦笑した。
「そのような人物が居れば、そもそもこの催しには参加なさらないだろうな」
「それどころではないでしょうし、そういった話も存じませんわ……けれど」
女性は苦笑しつつも、囁くように、ユウに告げた。
「主催の城之内様のご家庭、正直――あまり上手くいっていないようなの。末のお嬢様の扱いに困っていらっしゃるというか、端から見ると邪剣に扱いすぎているような、ね」
「主催の、城之内さん……」
既に取られたメモの一部に、ぐるりと丸をつけるユウ。
(「……まるで、自分たちの事情を探られたくない一心で、他人の話題を出しているようにも見えるけれど」)
ユウなりに思考を巡らせるも、明確な手掛かりが掴めたならば、活かしていかない手はない。自分からは敢えて深くは踏み込まず、得られた情報を大事にする方向で、ユウは男女に一礼すると、その場を離れた。
――パーティの主催『城之内氏』は、家庭内に問題を抱えている。
バルタンとユウの尽力により、かなり重要な情報を得ることが出来たのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
UC「精霊乙女の召喚」
ニンフ1540体召喚し行動振り分け
A治療班
5体1班で100班
B聴取班
魅了担当5体話し相手5体で1班で104班
怪我人の所にはA班送りどんどん治療
会場設営責任者と口が軽そうな参加者、特に上等な服を纏った参加者にB班送り情報を集めさせる
B班の聴取内容は
・何故このパーティに参加したか
・襲撃の理由に思い当たるものはあるか
・最近気になった噂話
桜學府が聴取中なら協力させる
自分もB班1班連れ主催者の所へ
「桜學府所属のユーベルコヲド使いの御園桜花と申します。今回の事件解決に協力しております」
何故このパーティを開いたか
参加者の基準
思い当たる襲撃理由
最近気になったこと
魅了交え丁寧に話を聞く
●事情聴取・その二
御園・桜花が情報収集に選んだ手段は、実に合理的なものだった。【|精霊乙女の召喚《ニンフノショウカン》】で、実に千五百四十体もの|精霊乙女《ニンフ》を喚び、それぞれを班分けして行動と役割を振り分けたのだ。
「治療班をA班とします。五体一組で百班、怪我をしている方を見かけたら手分けして片っ端から治療して差し上げて下さい」
様々な能力を持つ精霊乙女たちのうち、五百体が桜花の指示通りチームを組んで、簡易的に設けられた救護施設へと散っていく。
「聴取班をB班とします。魅了担当五体、話し相手担当五体で一班、百四班でどんな些細な情報でも漏らさず聞き取ってきて下さい」
パーティ会場に集まっていた人々は百を超える。桜花一人では、話を聞いて回るだけで時間切れだっただろう。
そこを、数で攻めることにしたのだ。未知の脅威に襲われたという情報だけで駆けつけた桜學府の面々だけでは追い付かないでいた怪我人の治療を、的確にサポートしていく。
「あ、ありがとうございます……! これは、超弩級戦力殿のお力ですね!?」
精霊乙女たちは返事の代わりに小さく頷くと、桜學府の救護要員たちのカバーに入るように、痛みに呻く人々の傷を癒していった。
精霊乙女の容姿は、召喚者である桜花にどこか佇まいが似ていた。ふわふわウェーブの髪に和装メイド服を身にまとい、全身が桜色をしていた。
そんな、元が魅力的な存在が慎ましやかに、そして丁寧に何かを聞きたそうに顔を覗き込んできたとしたら、どうだろうか。
「何故このパーティに参加したかって? ただの成金ではとても立ち入れない、由緒正しい社会の実力者だけが参加を許されるとあっては、来ない手はないだろう?」
「襲撃の理由? ううん……妬みそねみを受けることは確かにあるかも知れないけれど、影朧が絡んできそうな程の悪事を働いた覚えはないわ」
「最近気になった噂話? あまり大声では言えないがね……主催の城之内氏の家庭内不和について、そこかしこで密かな話題ではあったかな」
桜學府の學徒兵たちが事情聴取をしていたところに協力するような形で、各班がさまざまな情報を集めて回る。
どうやら、主催者の辺りからキナ臭い雰囲気が漂っていたので、元々の予定通り、桜花は精霊乙女の一班を伴い、主催者である城之内氏の姿を探した。
「全く、桜學府も落ちたものだ! この程度の救援しか寄越せないとはな!」
男性の怒号が聞こえ、桜花は直感に従い声の方へと小走りで近付いていった。
「も、申し訳ございません……」
「超弩級戦力とやらも、所詮は戦うだけしか能がない連中か。死人こそ出なかったものの、これだけの負傷者を出し、建物の被害もこれだけ出して……」
桜學府の學徒兵相手に、ねちねちと文句を言い続ける男性には、まだ事情聴取が出来ていない。さしもの精霊乙女たちも、近寄りがたかったのだろう。
ここは、桜花自らが出るしかない。意を決して、男性の正面に回ると、桜花はまず深々と一礼をした。従えた精霊乙女たちも、それに倣う。
「桜學府所属のユーベルコヲド使い、御園・桜花と申します」
「――は、直接謝罪に来るとは殊勝な心掛けだ」
別に謝るべきことなど何一つしていないどころか、感謝されても良い場面なのに、このやりとりは何なのだろう? 桜花はそう思わずにいられなかったけれど、不思議と怒りとかそういった負の感情は湧いて来なかった。スルースキルが高いというべきか。
「今回の事件解決に協力しております――ご協力いただけますか? 城之内さん」
やんわりと、微笑みをたたえながら、前向きな話に流れを持って行こうとする桜花。
尊大な態度を取っていた男性が、スンッと表情から感情を消し、言葉を返す。
「うむ、またあのような化物が現れてもたまらん。何とかするのだと言うのなら、君たちに協力することもやぶさかではない」
どうやらこれが、表向きの顔なのだろう。
そして、否定しなかったということは、この男性こそが噂の城之内氏だと見て間違いない。
「パーティを催されたのには、何か理由があってのことでしょうか?」
「資産家同士の繋がりは大切だからな、社交の場を設けることはある種の使命でもあるのだよ。君たちには理解出来ない世界やも知れぬがな」
何故だろう、いちいち一言多いのは、性根が表れているということだろうか。桜花でなければ、逆上して掴みかかる者も居たかも知れない。
「では、パーティに参加する方々には、何か基準のようなものも……?」
「当然だ、まずは最低限、由緒正しい血筋に連なる者でなければな。そこらの成金風情は根っ子の所で作法がなっておらん、とても呼べたものではない」
随分と排他的な割には、百を超える人々が集ったあたり、人望で集めたというよりは名声を目当てに参加した、と見る方が正しそうだった。
「……分かりました。では今回襲撃を受けたことに関して、最近気になったことと合わせて、何か心当たりはございますか?」
「ここまでされる謂れはない!」
またしても、怒鳴り声を発する城之内氏。デモノイドの姿やその暴力性がよほど衝撃的だったのか、感情的になってしまうのも無理からぬことだった。
「申し訳ございません、お話はここまでと致しましょう……ありがとうございました」
「影朧でも何でも、一刻も早く何とかするんだな! それがお前たちの仕事だろう!」
改めて、深々と頭を下げた桜花に、城之内氏は吐き捨てるように言うと、手近な一般人に声を掛けに行ってしまった。どうやら、主催として謝罪に回るつもりなのだろう。
「……ここまでされる謂れはない、ですか……」
精霊乙女たちに優しく頭を撫でられながら、桜花は深いため息を吐く。
どうやら、あの性格では、確かに家庭内に根深い問題を抱えていてもおかしくはなさそうだった。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
【鬼桜】
滅茶苦茶になったパーティ会場を思い出す。
誰か特定の人物を狙うと言うより、会場丸ごと壊したいって感じだった。
何もかも無くなってしまえって絶望してるような……
このお金持ちの界隈で自分の居場所が無くなっちゃった。
そんな人が関わっているんじゃないかな。
ね、とひかるちゃんに語りながら救護所を歩く。
まだ体が痛むけど、そんなこと言ってられない。
ひかるちゃんと別れてさっき助けた人たちの所へ。
下げてくれる頭を止めて話しかける。
「今日集まられた方たちの中で、お身内にかわいそうな立場の方が
いるってお話を聞いたことはありませんか?」
まっすぐ相手の目を見て直球勝負!
さっき助けてくれた二人には、お礼言わなきゃね♪
荒谷・ひかる
【鬼桜】
手口が無差別というにはピンポイントで、かといって特定個人を狙うには大雑把すぎる
とすると、狙いは集団……資産家達のコミュニティと考えると確かに筋は通りますね
影朧絡みなら何かしかの怨恨という線は濃いですし……
【水と草木の芳香霧】発動
治癒効果を撒きつつ、手分けしてお話を聞いて回ります
わたしは八重ちゃんとは別方向、どちらかといえば横柄で偉そうな態度の、無自覚に恨まれる系の人狙い
助かって安心したところにわたしみたいな小娘が癒し手として赴けば、今回のお小言(ピンチになった件とか)と一緒に過去の愚痴や不満なんかも引き出せるでしょう
自分の手当ても後回しで辛いですけど、ここはぐっとガマンです(作り笑顔)
●事情聴取:その三
御桜・八重と荒谷・ひかるの二人は、今回の襲撃において死者を出さずに窮地を切り抜けるにあたり、最も貢献した超弩級戦力と見て間違いない。
圧倒的な戦力差にも屈することなく、身を挺して一般人を守り抜いたことにより、一人の犠牲も出さずにデモノイドどもを倒しきることが出来たのだから。
けれども、二人は称賛を求めるでもなく、ある程度別の猟兵の力で傷は癒えたとはいえ、痛みの残る身体を引きずって、情報収集について話し合っていた。
「手口が無差別というにはピンポイントで、かといって特定個人を狙うには大雑把すぎる」
「うん。誰か特定の人物を狙うというより、会場丸ごと壊したいって感じだった」
ひかると八重は、ほぼ同じ推理をしているようだった。八重は、滅茶苦茶になったパーティ会場を思い出しながら、言葉を続ける。
「まるで、何もかも無くなってしまえ――って、絶望してるような……」
「とすると、狙いは集団……資産家達のコミュニティと考えると、確かに筋は通りますね」
ひかるは八重の言葉を受けて、冷静に考えをまとめていく。
「このお金持ちの界隈で、自分の居場所が無くなっちゃった。そんな人が関わっているんじゃないかな」
「影朧絡みなら、何かしらの怨恨という線は濃いですし……」
あとは、救い出した人々から、事情を丁寧に聞いていくのが良いだろう。二人は手分けして話を聞こうと、それぞれ別の方向へと歩き始めた。
簡易的に設けられた救護施設で、八重は比較的好意的に迎え入れられることとなった。人々は八重の顔を見るや頭を下げ、手を取り、口々に感謝の言葉を述べる。
「えっ!? えっいや、あのっ」
確かに文字通り身体を張って、奮戦はした。
けれどもそれは八重にとっては当然のことであり、こうして礼を言われてしまうと、面映ゆい心地になってしまうのだ。
「いやあ、流石は超弩級戦力! あなた方が居なければ我々は今頃どうなっていたか」
「私たちは資金面での援助という形でしか協力出来ないけれど、必要な事態があれば」
「えーっと、えーっと」
一般人の言葉は、素直に嬉しい。
けれども、今本当に必要なのは、情報だ。賛辞の言葉ではない。
だから八重は、思い切って人々の手を握り返すと、自分から切り込んでいった。
「あのっ、今日集まられた方たちの中で、お身内にかわいそうな立場の方がいるってお話を、聞いたことはありませんか!?」
人々の目を代わる代わる見つめて、直球勝負で聞いたのだ。
一般人たちは互いに顔を見合わせて、しばらく黙り込んだ。
そして、しばらくして一人の女性が言いづらそうにしながらも口を開いた。
「……主催のね、城之内様のご家庭。末の娘さんだけが爪弾きにされているそうなの」
「えっ!? く、詳しく聞かせていただいてもいいですか!?」
「人様のご家庭の事情だからね、大きな声では言えないんだけれど」
今度は、恰幅の良い男性が重々しく口を開く。それに続くように、人々が、口々に、自分が知りうる『城之内家の事情』を語り出す。
――城之内氏には、妻と三人の子供が居るということ。
――長男は城之内氏の後継者として立派な経歴を既に持ち、長女も社交界では引く手あまたの美貌を持つ淑女であるということ。
――末の娘だけは、取り立てて才のない、良くも悪くも普通の少女だということ。
「確かに、上の子二人の出来が良いと比べてしまう気持ちも分からなくはないわ」
「でも、いくら何でも話に聞くだけでも、扱いが酷いようでね……」
「家の恥だ、嫁にも出せん、なんてことをおっしゃられていたこともあって」
それを聞いた八重は黙り込む。知らず、爪が掌に食い込むほど拳を握りしめていた。
(「何それ、何それ……!」)
城之内という人物に対して、怒りがふつふつと湧き上がる。許されるならば、今すぐにでも怒鳴り込みに行きたい。けれど、今はその時ではないということも、頭のどこかできちんと理解していた。
だから、我慢した。「ありがとうございました」とだけ言うのが精一杯のまま、八重は立ち上がると、人捜しを始める。
(「さっき助けてくれた二人も、来てるかな」)
頭を冷やすついでに、自分もまた、礼を言わねばならないと思ったから。
(「助けてもらったお礼をしなきゃ」)
青年二人の姿を求めて、八重は一般人の元を離れたのだった。
ひかるを中心とするように、心身共に癒してくれるような、芳しい香りと目に見えない程度のミストが展開されていた。水と草木の精霊さんによる【|水と草木の芳香霧《エレメンタル・アロマミスト》】の効果だった。
八重が向かった先とは別の方向――桜學府の人々も近寄りがたい雰囲気を醸し出している、何やら横柄で偉そうな言動を見せる、無自覚に恨まれそうな類の人々を、ひかるは敢えて探し出して接触を試みようとしたのだ。
「あの……この度は」
「何だ小娘! 我々は忙しいのだぞ、何をしに……」
「……おや、何やら心落ち着く雰囲気を纏っているように見えますねぇ」
「まさかとは思うが、君が治療をしに来たということはあるまいね?」
そのまさかです、とは口に出さず、ひかるはただ笑顔で癒しのミストを放ち続ける。
「! そうだ小娘、超弩級戦力だな!? 何故ここまで被害が甚大になる前に事態を収束させられなかったのだ!」
他の一般人たちが徐々に穏やかな顔つきになっていくのに反比例するかの如く、神経質そうな男性はひかるに向かってすごい剣幕で怒鳴り立てた。
「それは……ひとえにわたしの力不足です、申し訳ありませんでした」
「何が超弩級戦力だ、この無能め! 私はお前のような役立たずがのうのうと生きているのを見るだけでも腹が立つというのに、お前は――」
「まあまあ、城之内殿。ここはひとつ落ち着いて」
「そうですよ、まがりなりにも我々を救って下さった方でもあるのですよ」
「……フン」
ひかるが心を通わせる精霊さんたちは、その全てがそれぞれ強力な力を持っている。オブリビオンに対してさえ有効なのだから、一般人相手ならば、その力を遺憾なく発揮できるはずなのに、その癒しの効果をもかき消してしまうこの人物の怒りは、余程のものなのだろう。
「……とにかく、我々は今後についての大事な話をしている最中なのだ。邪魔をするな」
「……分かりました、失礼します……」
ひかるはさみしそうに微笑んでみせると、ぺこりと一礼して、その場を離れた。
(「自分の手当ても後回しで、本当に、辛いです」)
笑顔だって、作り笑いが精一杯。本当は、ひかるを詰られた怒りで精霊さんが暴走しそうになるのを、水面下で必死に頼み込んで押し止めていたのだから。
(「でも、きっとあの『城之内さん』が、事件のキーマンなのは間違いないでしょう」)
果たしてひかるの読み通り、八重と合流して、話を突き合わせた結果、やはり城之内氏の家庭内不和が今回の事件に深く関わっている可能性が高まってきた。
「でも、城之内さんの娘さんって、当然だけど……影朧じゃないよね?」
「そうなんですよね、そこだけが気になって……」
デモノイドは、世界を恨む儚く弱い『影朧』に与えられる、と聞いた。
けれど、それが『影朧とは限らない』のだとしたら――?
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
「皆無事でせめて良かった」
人命を護り抜けた事が何より嬉しいよ
起動を解きいつもの恰好で陸井と外へ
ズタボロなのも解いたから見えない
「超弩級戦力と言われてるからには」
涼しい顔で出るのが正しいと思うしね
陸井はそうは見えないけど元々御曹司系だし
なんかアレしてそうな狸…いや年嵩の人タゲるみたいだ
「じゃあ俺は普通に話せそうな人たちを」
つまり若手
「お互い頑張ろう」
拳合わせてから若い子達がいる方へ
当たり前だけど青ざめ震えてる子も多いね
桜學府の人達に聞いて必要なら
白燐大拡散砲で再度癒しを
「大丈夫?」「無理しないで」「護るから安心して」
ごく当たり前の顔と言葉で声を掛けていく
姿は割と近めだし警戒もされないと思う
周りに軽傷の子たちが集まった所で
「今日の会が狙われた事に何か心当たりない…?」
と水を向けてみる
若くても大人の内緒話とか聞いて知ってる子も多いはず
仮に荒唐無稽そうでも真面目に聞き取ってから
陸井と合流して情報の精査をするよ
これで影朧の場所を突き止められるように
念入りにしっかりとだね
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
まずは無事に大規模テロは阻止か
だけどまだまだやる事はあるし
機動を解いて何時も通りの姿で
もう少し気合入れて行かないとな
「さてじゃあ、情報収集と行くか」
「俺は向こうへ聞き込むよ、そっちは任せた」
こういう時の聞き込みは俺よりも
正直な所相棒の方が向いてるんだよな
気付いたら相手に受け入れて貰ってるというか
「まぁ、だからこそ俺は俺らしく行こうか」
見るからに狸って感じの金持ち達
自分の腹は見せなくても
自分の利益になるなら他の情報は売るだろう
「皆様、お怪我の方は如何でしょうか」
怪我の様子にも注意を払いつつ
恐慌の最中についた汚れや
当人が気にしているであろう事にも気を配って
丁寧に丁寧に対応してあげよう
執事の代わり、とでも感じてくれたら重畳だ
その上で、気分よくし始めた顔の所で
すっと差し込むように問いてあげようかな
「しかし、どうしてこの場所だったのでしょうかね」
人は緩急のある情報には素が出やすい
どれだけの狸だろうと
油断からの急所を突かれるような問いには
思わず応えてくれるんじゃないかな
●事情聴取:その四
「……」
デモノイドとの戦闘を終えた葛城・時人は、破壊の限りを尽くされた大宴会場を見た。
ここから、復旧作業が可能なのかは、正直なところを言えば分からない。痛ましい光景ではあったが、それでも、身体を張って護り抜いた人々は今、外で手当てを受けているはずだ。
「皆、無事でせめて良かった」
一人の犠牲も出すことなく、人命救助を完遂出来たことが、今は何より嬉しい。
「まずは、無事に大規模テロは阻止か」
割れた窓の外を見ていた凶月・陸井が、時人の言葉に応じるように呟く。地上では、早速有志による炊き出しや手当てなどが行われているさまが見えた。
二人はどちらともなく互いを見ると、同時にイグニッションカードを掲げ、武装状態を解除した。激しい戦闘でボロボロになった姿も、これであっという間に普段通りだ。
「『超弩級戦力』、と言われてるからには」
涼しい顔で人前に出ていくことこそが、正しい有り様だと思ったから。
けれども、内心では戦に挑む時とはまた違った気合いの入れ方で。
「さてじゃあ、情報収集と行くか」
陸井が眼鏡の位置を直しながら言えば、時人は力強く頷き、共に大宴会場を後にした。
「――」
破壊され、ばっくりと口を広げる形となったホテルの玄関口を抜けた二人の前に広がっていた光景は、想像以上に――和やかな雰囲気を醸し出していた。
美味しい雑炊や麦茶といった炊き出しを提供され、精霊乙女による手厚い治療を受け、事件解決に奔走しているという他の超弩級戦力たちにはそれぞれが知りうる事情を説明し、自分たちが為すべきことはある程度やり終えたという顔で、麦茶を片手に談笑していたりもする。窮地を脱した安堵感から来るものか、正常性バイアスかも知れないが。
そんな中、時人と陸井はある二つのグループに目を留めた。一つは、いかにもな風体をした恰幅の良い男性たちが中心に、パーティの続きとばかりに会話を続ける者たち。もう一つは、親などと共にパーティにやって来たと見られる年若い青少年のグループ。
「俺は|向こう《・・・》へ聞き込むよ、そっちは任せた」
陸井は視線で前者へと向かう意思を示せば、時人も笑顔で応じる。
「じゃあ俺は、普通に話せそうな人たちを」
時人の身体は、青少年グループの方へ既に向いていた。
「お互い、頑張ろう」
二人は拳を突き合わせ、一度頷き合うと、別々の方向へと歩き出した。
(「こういう時の聞き込みは、俺よりも、正直な所相棒の方が向いてるんだよな」)
やれるだけのことは当然やるけれども、思えば気付いたら相手に受け容れて貰えているような、そんな話術を展開する時人を、羨ましく思わなくもない。
(「まぁ、だからこそ俺は俺らしく行こうか」)
そうは言っても、自分は時人のようにはなれない。自分なりの話術というものがある。
相手を上手く選べば、十分な成果を上げることだって不可能ではないはずだ。
「み、皆様、傷が癒えたならばなるべく速やかにご自宅へ戻られては……」
「ハハハ、學徒兵さんは頭がお固い! 我々はパーティを台無しにされた身だよ? 少しくらい自由にさせて貰っても良いんじゃないかな?」
「そうとも、これはいわばささやかな二次会のようなものだ! 諸兄らの尽力には非常に感謝しているがね、すぐに帰れというのは少々無粋なのではないかね?」
「何と言っても、主催の城之内殿から正式な散会の報せが来ていません。それまでは、もう少しご厄介になりますよ」
「う、うう……」
どうやら、學徒兵ではまるで歯が立たないようだった。諜報部門の面々ならば話は違ったかも知れないが、彼らは医療部門の學徒兵。口八丁手八丁に不慣れなのも無理はない。
そこへ、陸井が學徒兵の肩に軽く手を置いて「ここは任せて」と小声で言うと、ずいっと資産家たちの元へと踏み込んでいった。
「皆様、お怪我の方は如何でしょうか」
「何だ――ああ、君はもしかして超弩級戦力かね」
「おかげさまで、命は助かったよ。驚きはしたがね、いやはや君たちには助けられた」
「超弩級戦力の皆様は、事情聴取をなさっていると伺いました。我々も協力しましょう」
仰々しく、相手を慮る姿勢で入ったのが功を奏したか、陸井に対して資産家たちは好意的に接してくれた。これはありがたいと、陸井は気配りを忘れず、話を続ける。
「パーティもですが、折角のお召し物が汚れで台無しになってしまって……」
「なあに、服なら幾らでも替えがある! 命があっただけ有難いと思わねばな!」
「胸を張ってくれたまえよ、君。おかげでこうして、パーティの続きが出来るのだから」
「それにしても細やかな気配りが出来る青年ですね、まだお若いのに大したものです」
資産家たちは、思っていた以上に豪胆であった。あれだけの事態に直面しておきながら、この様子とは。もしかしたら空元気かも知れないけれど、それでも大したものだ。
陸井の、外見と内面の年齢に関する若干の乖離については当然知るよしもないので、資産家たちの陸井を見る目は『非常に心配りが出来る好青年』になっていた。
「そう、ですね……皆様がこうして談笑出来ることこそが、俺も何より嬉しく思います」
まるで執事の如く、恭しく頭を下げれば、資産家たちはますます上機嫌になる。
「ハッハッハ、よく出来た青年じゃないか!」
「超弩級戦力というのも大変だろうが、我々に出来ることなら力になろう」
「実際に活躍を目にして確信しました、あなた方はこの帝都に必要な存在です」
資産家たちの言葉は、素直に嬉しい。陸井は目を細めて笑いながら、考える。
(「自分の腹は見せなくても、自分の利益になるなら、他の情報は幾らでも売るだろう」)
ここまで上機嫌ならば、口も軽くなっているはず。
問いかけるなら、今しかない。
「しかし、どうしてこの場所だったのでしょうかね」
陸井が、ハイカラなホテルを振り返りながら、よく通る声音で言った。
資産家たちは、互いの顔を見合わせるようにして、一拍置きながら、返し始める。
「いやあ、実に不思議な話よな! ホテル全体を破壊するでもなく、パーティ会場を真っ直ぐに目指してきたというではないか」
「我々が狙いだったと? 恐ろしい話だ、世界の経済が停滞しても構わぬというのかね」
「いやいや皆様、今回のパーティの主催が城之内様でいらしたことが肝かも知れません」
(「やはり、な」)
予想通り、自分のことではなく、他人のことであれば、口が軽くなるだろうと思った通りだ。陸井が積み重ねた配慮に加えて、緩急をつけた話の流れには乗りやすいだろうという目論見は果たしてその通りとなり、狸どもはペラペラとお喋りを加速させていく。
「そうそう、城之内殿も大変だねえ! ご家庭に問題を抱えてらっしゃるって?」
「ご本人が愚痴を漏らしていらしたから間違いないとも、末の娘さんについてね……」
「ですが、それと今回の事件とに因果関係は見出せるのでしょうか?」
比較的冷静な見解を示す男性が、陸井の方をチラと見た。まるで『判断は任せる』とでも言わんばかりに。陸井は無言で頷くと、話がひと段落つくまで聞きに徹し、全員が陸井の顔を見たところで、深々と頭を下げて謝意を示した。
「皆様、大変なところに貴重なお話を誠に有難うございました」
顔を上げた陸井は、凜とした表情で、資産家たちに告げる。
「皆様からの情報を活かし、必ずや、再び斯様なことが起きぬよう尽力致します」
すると、資産家たちからは拍手が巻き起こった。
「頼もしい! これからもよろしく頼むよ、起きたことは仕方がないのだからね」
「まずは、今回の事件の元凶をどうにかすることだな。君には期待しているよ」
「君には、期待しています。どうぞ、よろしくお願いします」
拍手は少々気恥ずかしかったけれど、聞き出した情報は精査するべきだろう。
陸井は相棒たる時人と情報の共有をすべく、その場を後にするのだった。
(「陸井は、そうは見えないけど元々御曹司系だし」)
去り行く陸井の背中を見ながら、時人は相棒のことを思う。
(「なんかアレしてそうな狸……いや、年嵩の人タゲるみたいだ」)
陸井が年上の人物に当たるならば、自分は逆を。青少年たちがちょうどグループを作って集まっているのを見つけた時人は、彼らに接触すべく、歩を進めたのだった。
「――大丈夫?」
「……」
幸い、先にやって来た猟兵たちの尽力で、怪我などの治療は既に施されていた後だった。
けれども、心に負った傷までは、そう簡単には癒えない。突然の暴威に襲われて、蒼ざめ震えている子供たちがほとんどだ。問いかけにも、応えられないのは無理もない。
「無理しないで。みんなが今こうして無事なだけでも、俺は嬉しいよ」
「……」
存在の肯定は、それだけで励みになる。俯きがちだった青少年たちの様子が、時人の言葉一つで徐々に顔を上げるようになっただけでも、上出来だった。
「もしまた万が一あんなことがあっても、何度でも、俺たちが護るから安心して」
「……!」
わっ、と。
まだ幼い子供たちが、時人の身体に次々と抱きついたのだ。少しばかり年上の少年少女たちも、そこまではしなかったものの、時人を信頼したかのように周囲に集まっていた。
子供たちの頭を優しく撫でながら、時人は内心で自らも安堵する。少なくとも、外見の年齢では彼らに近しいが故に、警戒も然程されないだろうとは思っていたけれど。
「こわかった……!」
「たすけれくれて、ありがとう」
「あの……皆さんが戦っている姿、すごく格好良かったです」
子供たちは口々に、思いの丈を時人に告げる。ずっと、我慢していたのだろう。大人たちもまた被害者であり、自分たちを慮る余裕はなく。けれどもこうして、誰かに甘えたかった。そんな時に現れた時人の存在は、本当に頼もしく感じられたことだろう。
時人は少しばかり時間を置いた後、答えられたらでいいから、と前置きをしつつ、問うた。
「今日の会が狙われたことに、何か心当たり、ない……?」
青少年たちは、しばらくもじもじとした後、ぽつりぽつりと語り始めてくれた。
「……かなおねえちゃんかも、しれない……」
「佳奈さんは、本当だったら今日の会に居てもおかしくなかったはずなのに」
「かなちゃん、おうちのみんなからいじめられてて、かわいそう」
(「かな……ちゃん?」)
話の流れから読み取るに、影朧という訳ではなさそうだ。一家庭の不和が、デモノイドを呼び込む事態にまで発展するとはにわかには信じがたかったが、今は情報が欲しい。
「その……『かなちゃん』は、どんな子なのかな?」
「かなちゃんは……じょうのうちのおうちの、すえっこで……」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいて、そのふたりはごあいさつしたことあるけど」
「佳奈さんは、こういう会には敢えて連れてきてもらえないようでした」
子供の目線から見ても、明らかに、不自然だったのだろう。
理不尽な扱いを受けていると理解はできても、子供の身では、何も出来ない。
だから、かわいそうな子供が居るのだと、訴えることしか出来なかったのだ。
「……佳奈ちゃんに、どこに行けば会えると思う?」
「かなちゃん、じょがっこうにかようときしか、おうちのそとにでられないって」
「だから、きょうはおうちにいるんじゃないかな」
「佳奈さんは、何も悪いことをしていないのに……正直、理不尽な扱いを受けていると思います」
暗に『助けてあげて欲しい』と言われているようで。
もしも、もしもだ。
城之内・佳奈という少女の存在こそが、今回の事件に深く関わっているのだとしたら、どの道避けては通れない道であると言えよう。
「……分かった、色々聞かせてくれて本当にありがとう」
自分たちのことよりも、今もどこかで心を痛めているであろう少女を思い、真っ直ぐな眼差しを向けてくる青少年たちの気持ちを、無碍にはしない。
時人は、一人一人と丁寧に握手を交わして礼を言うと、何度も振り返って手を振りながら、その場を後にした。
「……城之内家、か……」
「恐らくね、そこの末の娘さんが、影朧に深く関わっている可能性が高い」
合流し、互いに得た情報を突き合わせて精査した結果、他の猟兵たちも得た情報と内容がほぼ合致することが判明した。
「城之内氏本人は、まだ此処にいるのかな」
「さっき接触した資産家たちからは『まだ散会の合図がない』という話があったが……」
陸井が顎に手を当てて記憶をたぐり寄せていた、まさにその時。
「諸君! 今日は非常に残念であったが、この埋め合わせはまた日を改めよう!」
男性の、良く通る声が響いた。
「二度とこのようなことがないよう、桜學府の諸君には奮起を期待する! 以上だ!」
どうやら、これが城之内氏本人の、散会宣言であるようだった。
だとすれば、城之内氏が向かうのは、自宅であると推測が出来る。
「もしも、もしもだけれど。佳奈さんが何らかの方法で影朧の力を借りているのだとしたら」
「次に狙うのは、自宅であってもおかしくはない」
自分を爪弾きにした父親が主催するパーティを台無しにするのに、失敗した。
何もかもがどうでも良くなってしまい、自分を縛る大元である自宅を破壊しようとしても、何らおかしくはない。例えそこに、自分の家族が居ようとも。
「桜學府の皆さん! 城之内氏のご自宅はどこにあるか、分かりますか!?」
「はい!? そ、それでしたら、諜報部門の人がじきに到着しますので、その方に……」
「それでは遅い……! 桜學府の學徒兵さんたちを、至急城之内氏のご自宅へ向かわせて下さい! 話は後です!」
「ひゃいっ!? わ、分かりました!」
派遣されていた救護隊員に、緊急事態だと伝え、自らもいつでも出立できるように準備を整える時人と陸井。
この見通しは、良くも悪くも、合っていることだろう。
事件の裏に潜む哀しき事情が、明かされる時は近い――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『絶望に取り憑かれた乙女』
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POW : 黒の記憶
【自身の影】から【悪意に寄生する影朧】を召喚する。[悪意に寄生する影朧]に触れた対象は、過去の【心的外傷や劣等感】をレベル倍に増幅される。
SPD : 黒の道導
自身の【将来の夢や希望】を代償に、【自身に憑依する影朧】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【希望を引き裂き喰らう爪と牙】で戦う。
WIZ : 黒の未来
戦場内に「ルール:【未来に希望を持つことなかれ】」を宣言し、違反者を【絶望を増幅する影朧の檻】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。
イラスト:ルカ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「夜刀神・鏡介」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●其処はまるで、檻のようで
お父様は、私を『出来損ない』だと事あるごとに罵倒した。
お母様は、私を一度だってかばってくれたことはなかった。
お兄様は、私を『家の恥だ』と相手にもしてくれなかった。
お姉様は、私に『生きてて恥ずかしくないの?』と言った。
どうして。
どうして、そこまで言われなければならないの?
確かに私は、頭もそんなに良くないし、顔だってお世辞にも美人とは言えない。
もしも普通の家に生まれていたならば、ここまで酷い扱いは受けなかったかも知れない。
けれども、私が『城之内・佳奈』であることは、どうしようもない事実。
『父親は、まだ生きている』
逃れる術があるとしたら、私を縛る『城之内』の家そのものを、消すしかない。
『デモノイドは、まだまだ送り込める』
帰る場所なんて――最初から、なかったんだ。
『壊してしまおう、その為の力が、お前にはある』
心の澱が、靄となって、私を覆う。
『……そうね、もう、全部壊してしまいましょう』
城之内・佳奈は、高級住宅街にある自宅の前に立っていた。
覚悟を決めた目で、生まれ育った家を――牢獄のような場所を、見据えていた。
●補足
皆様の情報収集の結果、事件の黒幕は『城之内・佳奈』という少女――影朧ではなく、影朧に取り憑かれた乙女であることと、次のテロルの目標が城之内家がある高級住宅街であることが判明しました。
皆様は、テロルが発生する前に現場へと先回りして、佳奈本人と対峙することとなります。戦闘は回避出来ませんが、説得の言葉は通るかも知れませんし、戦闘不能に陥らせれば影朧のみを退治して佳奈自身は正気に戻ることが出来ます。
説得の内容次第では、佳奈の攻撃が弱体化するプレイングボーナスが発生することもありますので、良い案がある方は是非挑戦してみて下さい。
また、現場には城之内家の人々が、自宅に立てこもって戦闘の様子を見ています。城之内家の人々に対して何か言いたいことがあれば、それも織り込んでみて下さい。内容次第では、佳奈自身への説得ではなくとも、佳奈の心に響くものがあるかも知れません。
ユウ・リバーサイド
アドリブ連携歓迎
良いよ
君の怒り
俺達が受け止める
君は生まれてからずっと戦ってきたんだね
否定の言葉と
でも目の前の家族に跳ね返そうとしてる
君は負けてない
完全に飲まれてない
頑張ったね
偉いな
声を張り上げ背後にも届かせる
壊すんじゃ足りないよ
特級の幸せを掴んで一生分見せつけて見返さないと!
桜學府と猟兵が君をバックアップする
こいつらが裏で手を回してきたって全部跳ね除けてみせる
お前が彼女に吹き込んだのか
UC使用し影朧殴り
確かにこれキツイ
…俺も昔
死ねって父さんに刃物振り上げられてさ
限界突破と根性でトラウマに耐え
苦しくても笑ってみせる
否定に呑まれてられないよね
動揺抑え攻撃に集中
心眼で狙い
異形の腕で影の急所を貫く
バルタン・ノーヴェ
アドリブ連携歓迎
ふむ。城之内家の家庭の柵が、佳奈殿の心を蝕んでいたのデスナ。
我輩の人生経験では、佳奈殿への説得どころか境遇への共感を示すことも難しいデスナ……。
ならば、勇ましく戦う姿を披露いたしマース!
ヒャッハー! 黒の記憶との戦いには、赤い炎で応戦しマース!
「六式武装展開、炎の番!」
触れれば心的外傷ダメージを受けるゆえに、接触される前に焼き払うスタイルであります!
邸宅の前で飛び回り、ハイテンションで笑って戦いマース!
佳奈殿! アナタはまだ戦えマスヨー!
デモノイドや影朧に頼らずとも、健康的なボディが有りマース!
殺人は法律的にNGデスガ、拳を握って抵抗する権利は誰にでもあるのデース!
ファイト!
●君が手に入れるべきものは
『さよなら』
城之内・佳奈の口が、そう動いたように見えた。
だが、その思惑は駆けつけた超弩級戦力たちによって阻まれる!
「ふむ。城之内家の家庭の柵が、佳奈殿の心を蝕んでいたのデスナ」
全円スカートのメイド服をひらめかせながら舞い降りたバルタン・ノーヴェが、神妙な面持ちで佳奈を見た。
「|我輩《・・》の人生経験では、佳奈殿への説得どころか、境遇への共感を示すことも難しいデスナ……」
「それでも、いいんだと思う」
暗に『自分では役不足では』と告げるバルタンに、ユウ・リバーサイドはそう言った。
「一緒に戦おう――彼女の怒りを、俺達で受け止めるんだ」
「……! ならば、勇ましく戦う姿を披露いたしマース!」
共に並び立ち、城之内邸を背にするように、佳奈と対峙する二人。靄の影朧に呑まれつつある佳奈は、その愛らしい顔立ちを険しくする。
『邪魔を、しないで』
「君は、生まれてからずっと戦ってきたんだね――否定の言葉と」
『……ッ』
ユウの言葉は、穏やかに、優しく響く。
「でも、目の前の家族に跳ね返そうとしてる。君は負けてない、完全に呑まれてない」
『やめて』
「頑張ったね、偉いな」
『やめて……ッ!』
佳奈の中で、様々な思いがせめぎ合っているのだろう。自分で自分を抱きしめるように、佳奈はユウの言葉を拒絶しながらも、その場を逃げ出そうとはしなかった。
超弩級戦力が現れたということは、大規模テロルを引き起こすことも不可能。目論見が潰された以上、次の機を見計らうべく撤退しても良いはずなのに、それをしない。
どこにも行けないのか。
どこにも行きたくないのか。
もはや、動くことすらままならないのか。
靄の影朧に囚われた乙女は、ただ顔を覆うばかり。
「壊すんじゃ、足りないよ!」
ユウの声が、佳奈の背後――城之内邸にまで届けとばかりに張り上げられる。
「特級の幸せを掴んで、一生分見せつけて、見返さないと!」
佳奈の足はすっかり竦み、彼女を覆う靄がひときわ膨れ上がったように見えた。
「桜學府と猟兵が、君をバックアップする! こいつらが裏で手を回してきたって、全部撥ね除けてみせる!」
城之内邸の中では、今頃他の家族たちが、ユウの言葉に歯ぎしりをしている頃だろう。
彼らにとって、影朧に取り憑かれるなど、家の恥どころの騒ぎではないはずだ。それこそ事件が解決したら、座敷牢にでも放り込んで、一生飼い殺しにでもする腹づもりだったろう。
だが、超弩級戦力たちは、決してそのような非人道的な行為を看過しない!
「佳奈殿! アナタはまだ戦えマスヨー!」
バルタンも、佳奈の心に届けと声を張り上げて叫んだ。
「デモノイドや影朧に頼らずとも、健康的なボディが有りマース!」
生きている。生きていける。生きていても、いい。
「殺人は法律的にNGデスガ、拳を握って抵抗する権利は、誰にでもあるのデース!」
佳奈は、おずおずと顔を上げる。己を勇気づける声をくれる、二人を見ようと。
しかし、突如として靄が膨れ上がり、それを阻んだのだ。
「来るぞ!」
「ヒャッハー! 望むところデース!」
ユウが身構え、バルタンが跳躍する。佳奈から伸びた影より生じた影朧は、まずはバルタンを捉えようとして逃れられ、次いでユウへとその魔手を伸ばす。
「お前が、彼女に吹き込んだのか」
整った顔立ちに明確な怒りを滲ませながら、ユウは【|鬼神変《キジンヘン》】で片腕を異形の巨腕と変え、迫る影朧をむしろ自ら迎え入れるようにぶん殴った!
『――』
ひしゃげる影朧そのものは弱々しく、まさに鬼神の一撃によりあっさりと消滅する――が、それと引き替えに、ユウの眼前に『ある光景』を見せつけたのだ。
「……キツい」
「ユウ殿!?」
嫌な汗をかきながらも、正直に弱音を吐きながらも、ユウはそれでもうっすら笑う。
「……俺も、昔」
「これは……ユウ殿の……」
次第に、バルタンにもユウが見せられているものの正体が明らかになっていく。
男性が、刃物を振り上げて、まだ幼いユウと思しき子供に襲いかかっていた。
「『死ね』って、父さんに」
「――! 六式武装展開、炎の番!」
笑いながら、必死に己のトラウマと闘うユウを見かねたかのように、バルタンは影朧目がけて内蔵する火炎放射器から赤い焔を放ち、物理的に焼き払う!
「ユウ殿も、無理はいけマセーン! そんな痛々しい笑顔は、ノットエレガントデース!」
「バルタン……」
否定になんて、呑まれては居られないと。
懸命に耐えていたけれど、やはり、救われた心地になる。
「……そう、だね。笑うなら、心からでないと」
「ユウ殿! 佳奈殿! 二人ともファイトデース!」
『……わた、し……?』
靄に囚われながら、しかし佳奈は、確かに顔を上げて超弩級戦力の二人を見た。
|心的外傷《トラウマ》によるダメージを受けること自体を避けるべく、戦場と化した邸宅の前を自在に飛び回り、バルタンは影朧に接触される前に次々と【|火炎放射器《フランメヴェアファー》】による焼却で迎撃していく。
「イィヤッホオォォォオ! 超! エキサイティンッ!」
「……はは、調子狂うなあ」
ハイテンションでの高機動戦闘を繰り広げるバルタンの姿に、心からの苦笑を漏らすユウは、変じた腕もそのままに、今度こそ精神を集中させ、研ぎ澄まされた心眼で靄の影朧を見据え――。
「そこだっ!!」
『きゃあっ!?』
佳奈の髪を揺らす程の至近距離に鬼神の拳を叩きつけ、靄の影朧の急所を狙い違わずぶち抜いたのだ。
『――!!』
佳奈を覆っていた靄が、一瞬、霧散したかに見えた。
それは完全には消え去らず、すぐにまた佳奈の周りに集まろうとするけれど。
「さっきの話、前向きに考えてくれると嬉しい」
『……』
靄から一瞬でも解放された乙女の表情は、ほんの少しだけでも見出した未来への光に、縋りたいような複雑なものであった。
ユウの言葉に偽りはない。無事に決着がついたら、今回の事件に関わった猟兵全員を引き連れてでも桜學府に交渉に行くつもりだし、万が一生家からの妨害があったとしたら、どこの世界に居ても飛んできてでも助け船を出すつもりだ。
その決意が伝わったか、再び佳奈を覆った靄は、ほんの少しだけれど、薄れているように見えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と
影朧と心の澱に囚われた少女
正直な所、これ以上彼女は傷付けたくない
相棒もそのつもりらしく声を張っている
その声を無視して警備等が彼女を撃つのなら
悪いが軽く痛い目は見て貰わないとな
「相棒が下がれ、って言っただろ?」
俺自身、閉じ込められていた過去があるから
後ろの屋敷の奴らには言いたい事しかない
今は俺達や猟兵達が来て一瞬でも助かったと思っただろう
その肝を極限まで冷やして貰おうか
「お前達には、別で罪を償って貰う」
だから待っていろと切っ先を向けてから
彼女に相対する
「あぁ。俺達が護るべきは、この子だ」
原因の奴らにはしっかりと釘を刺した
後は彼女を救うだけだ
彼女は全力で挑んでくるだろうが
俺達はとにかくいなして声をかけよう
「それに、君が進むべき場所は此処ではないだろう」
破壊して何もかもを無くすのではなく
彼女の事を心から心配していた子達
そしてその子達が居る場所へ
「こんな所じゃない。君が帰るべき未来は、そこだよ」
地を読み、脈をなぞって、力を纏って
相棒の攻撃と共に影朧だけを撃ち抜くよ
葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と
居るのは虚ろな瞳の少女
直ぐ真の姿で割り入ろう
私兵や警備員が軽機関銃構えてるとかなら
「下がって!」
と声を張る
命令で撃ったら我が身と技能で庇うよ
どうあれ屋敷に通るよう大声で
「貴様らの行いは明るみに出た」
正直護るのも不愉快な酷さだ
「恥を知れ!」
猟兵は好きに出来る傭兵じゃない
それは良く知ってるはず
大喝に身を竦ませてくれたら願ったりだ
俺も陸井も顔立ちキツいしね
「俺達が此処を護るのはこの子に罪を犯させない為だ」
黙って見てろと吐き捨ててから
彼女には大声出して悪かったねと詫び
「君を知る皆は君を本当に心配していたよ」
とごく普通の声音で真摯に聞いた事を伝えよう
挑まれても真の姿で技能も用い
能力者機動も使いいなし切る
陸井と言葉を紡ぐよ
「君が手を汚す必要はもうないんだ」
桜學府も知った
必ず罰を受けるだろう
富豪でも決して許されない
「そんなのの力を借りなくても…君は今もう自由だよ」
勿論影朧は引き剥がす
白燐大拡散砲で包み込もう
俺の蟲がこの子に巣食うモノだけを喰う
必ず人の命と心を取り戻せるはずだ
●君がたどり着くべき場所は
『佳奈』
耳元で、靄が囁く。
『お前の家族は、どうやらお前をあの銃で撃ち殺すつもりのようだ』
弾かれたように顔を上げると、見慣れた自宅の門扉から、父が私的に雇い入れている警備員たちが軽機関銃を手に、次々と出てくるのが見えた。
『案ずるな、|お前は私が護る《・・・・・・・》』
私の心がざわつくのに合わせて、一度は薄らいだ靄が膨らんでいく気配を感じた。
『……ええ』
こころが、にごっていく。
わたしを、ほんとうにたすけてくれるのは。
――お前は私の大事な『苗床』、手放す訳が無かろう?
「う……撃て! 躊躇するな! |そいつ《・・・》はもはやうちの娘ではない!」
「し、しかし……」
「貴様等、私の指示に従えんと言うのか!?」
「……っ」
二階の窓を開け放ち、身を乗り出して怒号を発する城之内氏の剣幕に押され、警備員たちは躊躇いながらも射撃の姿勢を取り始めた。
――銃口を向けた先には、虚ろな瞳をした哀れな娘しか居ないというのに。
「下がって!!」
絶望的な空気を切り裂かんばかりに、葛城・時人の張り上げた声が響き渡る。青と黒に包まれた時人は大鎌「黒月」を構え、佳奈と警備員たちとの間に割り入った。
「う、うわあああっ」
警備員たちにとって、城之内氏の命令こそが絶対なのか。時人の制止の声は聞き入れられず、佳奈を――そして射線上に居る時人もろとも穿たんと、銃撃が放たれた。
「く……っ」
時人は怯みこそしないものの、佳奈に銃口が向けられたことを悔しく思いながら、大鎌をぐるりと回転させる。軌道はオーラを纏って巨大な円形の結界を形成し、銃弾のことごとくを弾き返していく。
時人の視線の先には、警備員たちの背後に音もなく回り込んだ凶月・陸井の姿があった。
「相棒が『下がれ』って言っただろ?」
「あぐっ……!」
陸井は、警備員たちの頸部に手刀を打ち込んで、手際良く気絶させていった。
(「影朧と、心の澱に囚われた少女」)
相棒たる時人の背後にかばわれるように立つ乙女は、何が起こったのか分からないという顔でこちらを見ている。
(「正直な所、これ以上彼女は傷付けたくない」)
佳奈は、もう十分すぎる程に傷付いた。これ以上があって、良い訳がない。
陸井と時人の願うところは、まさに同じ。警備員たちには悪いが、下がれという警告を無視したのは彼らだ。ならば、多少は痛い目を見てもらわねばなるまい。
「ああ、き、君たちはあれかね、超弩級戦力の……」
「……」
二階の窓から、城之内氏の声が降ってくる。明らかな安全圏からの声かけだ。陸井は表情を敢えて消した顔で、視線を声の方に向けた。
(「俺自身、閉じ込められていた過去があるから、屋敷の奴らには言いたい事しかない」)
引き結んだ唇を今開けば、自分でも信じられない程に口汚い言葉が飛び出してしまうかも知れないと、陸井はあくまで冷静であろうと、城之内氏の様子を観察する。
(「俺達や他の猟兵達が来て、一瞬でも助かったと思ったのだろう」)
明らかに、こちらへ媚びへつらわんとするかのような、嫌な笑顔を浮かべていたから。
だから陸井は、ガンナイフ『護』の切っ先を城之内氏へと向けて、こう告げてやった。
「お前達には、別で罪を償って貰う――そこで待っていろ」
「つ、罪だと!? 何を言って」
「貴様らの行いは明るみに出た」
城之内氏の言葉を遮るように、今度は時人が声を上げた。感情を押し殺した陸井のそれとは対照的な、怒気を孕んだ大声だった。
(「正直、護るのも不愉快な酷さだ」)
思いの丈を乗せて、時人は大喝する。
「恥を知れ!!」
「ひ……っ」
この恥知らずは、どうやら超弩級戦力を『好きに出来る傭兵か何か』と勘違いをしているらしい。その思い違いを、正してやるところから始めなければならないとは。
静かなる怒りを滲ませる陸井に、激情を隠さない時人。
二人の気迫にすっかり気圧されて、城之内氏は蒼ざめた顔で身を竦めていた。
「俺達が此処を護るのは、この子に罪を犯させない為だ」
『……』
「黙って見てろ」
佳奈は、そう吐き捨てる時人を見た。そして、自らに向けられている陸井の背中を見た。
『護』の一文字が、うっすらと、滲んで見えた。
「あぁ――俺達が護るべきは、この子だ」
その背中が、ゆっくりとこちらを向く。
こんなにも。こんなにも誰かに強くかばわれたのは、先程以来だ。
「悪かったね、大声出して――驚いただろ?」
時人は、先程とは打って変わって穏やかな笑みで佳奈に話しかける。
『佳奈』
再び、耳元で靄が囁く。
『騙されてはいけない、どうせ誰も、口ばかりでお前を真には救えないのだから』
『あ、あ……』
この人たちの手を取れば、幸せな未来が待っているのかも知れない。
けれども、どこまで行っても、家族という枷はつきまとう。今までが、ずっとそうだったから。
『お前を護るのは――私だ』
『ああああああ!!!』
佳奈は、頭を抱えて叫ぶ。それに呼応するかのように、靄が一気に広がって、時人と陸井目がけて鋭い爪と牙を剥いて襲いかかってきたのだ。
「やっぱり、この靄を何とかしないと駄目なのか……!」
「あれだけ原因に釘を刺しても、負った心の傷は深い……ということか」
二人はそれぞれ跳び退って迫る一撃を回避しながら、注意深く敵を観察する。能動的に攻撃してくるのは靄そのものであり、佳奈はその『養分』にされているようだった。
「聞いてくれ!」
大鎌で靄を切り裂きながら、時人が叫ぶ。
「君を知る皆は、君のことを本当に心配していたんだよ」
『……』
破壊されたホテルの前で、佳奈を案ずるたくさんの声を聞いた。
他人様の家庭の事情だからと、誰も何も出来なかったけれど。
佳奈の境遇を、誰もが憐れんでいたのは、間違いない。
顔を覆うばかりの佳奈から、靄が再び襲いかかり、時人と陸井が携えてきた『希望』を引き裂かんと急接近してくる。
それをガンナイフの一撃で破砕しながら、今度は陸井が訴える。
「それに、君が進むべき場所は、此処ではないだろう?」
復讐心に駆られて、己を束縛する全てを破壊して、何もかもを無くした先に何がある?
真に目指すべき場所は、佳奈のことを案じていた人々が待っている、光差す世界の筈。
「こんな所じゃない。君が帰るべき未来は――」
陸井が、地を蹴って宙を舞った。
手にしたガンナイフが龍脈の気を纏う。
それを見た時人が、陸井に続いて言葉を紡ぐ。
「君が手を汚す必要は、もうないんだ」
影朧が絡まずとも、これは長きにわたる立派な『虐待』だ。事ここに至っては、桜學府も黙ってはいないだろう。例え大富豪であっても、許されることではない。
「|そんなの《・・・・》の力を借りなくても」
大鎌から片手を離し、手の平を天高く突き上げる時人。それに呼応するように、白燐蟲の大群がまるで天の川を描くかのように現出する!
「君は今、もう、自由だよ」
「未来は、此処にある」
白燐蟲の大群と、ガンナイフに込められた弾丸の全てが、靄の影朧のみに叩きつけられる!
『アアアアアアア!?』
『私の……帰る、場所……』
迫る靄を返り討ちにするのと同時に、佳奈が涙目で時人と陸井を見た。
何度、夢を見ただろうか。家から解き放たれ、自由になるという夢を。
そして何度、それを打ち砕かれたことだろうか。そのたびに、心にひびが入るようだった。
夢なんか見ない。
自分を護るため、そう、思っていたはずなのに。
全てを壊して、楽になろう。
自分を救うため、そう、思っていたはずなのに。
心が、晴れやかになっていくような心地だった。
二人の言葉を、信じてみたくなった。
『胸が……苦しい、のに……あたたかい……』
手を伸ばす。頼もしい手が、次々と差し伸べられる。
この手を、掴めば――。
『サ、セル、カアアアアアアアア!!!』
「!?」
「靄が……!」
確かに吹き飛ばしたはずの靄が、佳奈の心に僅かに残った不安を糧に、最後の悪あがきをしているかのように見えた。時人と陸井の手を食い千切らんと、凶悪な顎を開く!
「あと、ひと息で」
「ああ、もう一押しだ」
二人は、背後から駆け寄ってくる増援の猟兵たちの足音を聞きながら、そう確信した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
荒谷・ひかる
【鬼桜】
八重ちゃん、すっごく怒ってるし……何より、悲しんでる。
それに、「私」も……うん、許せないよね。
お願い、佳奈さんを助けてあげて――
――勿論よ、「わたし」。
開幕即座に【覚醒・一耀の魂】発動
真の姿へ変身し、敵コードを正面から受けて立つ
恐らく「わたし」の佳奈を助けたいという「希望」に反応するだろう
しかし「わたし」の原初の絶望、それは他ならぬ|私自身《宿敵》
故に、その檻は|私《絶望》を|強化《増幅》する
強化された力で以て、彼女の|檻《絶望》を何度でも叩き斬る
私は兎も角、彼女の絶望は払ってやらねばなるまい
決着は八重に任せ、私は城之内氏達へと向き直る
「出来の良し悪しに関わらず、親とは子を愛し、慈しむべきもの」
「それが貴様等は何だ、出来が気に入らぬからと不要なまでに虐げる」
「先に言っておくが、伝わらぬ愛はただの自己満足だ。寝ぼけた言い訳は要らんぞ」
決着後に引き止めてくるようなら、鋭く睨みつけ威圧し立ち塞がる
「下がれ!我が子を愛せぬ輩に、親を名乗る資格など無いわ!」
(かつて母親だった者として憤る)
御桜・八重
【鬼桜】
いつになく険しい顔で城之内亭へ急ぐ。
辛くても悲しくても、誰からも助けてもらえなかった佳奈さん。
でも取り返しがつかないことになる前に、ここで止めないと!
「佳奈さん、もう止めて!」
影朧と戦いながら声をかけるけど、なかなか聞く耳を
持ってはくれない。
だからわたしは、言葉を届けるために覚悟を決める。
「ぐっ」
影朧の攻撃を受け、蘇る心の傷。
親友を失い、人々に裏切られ、絶望へと堕ちた影朧の私。
ある筈の無いシズちゃんの一幕。
記憶には無いけれど、これはかつての自分の体験だ。
わたしの……前世?
「わたしは、それでも、あきらめ……ないっ」
ぐしゃぐしゃの顔で立ち上がり、光と共に魔法巫女少女の姿に。
辛かったんだね。助けて欲しかったんだね。
その手を伸ばして。わたしたちが掴むから。
佳奈さんに二刀を一閃、彼女の悪意を断つ。
寄生している影朧を切り離し、返す刀で一刀両断!
佳奈さん、桜學府に来ない?
ユーベルコヲド使いじゃ無くたって、佳奈さんにしか出来ないこと、
きっと見つかる、よ……(ガク)
ひかるちゃん、後はヨロシク~~
●君に差し伸べられた手は
「……っ、はぁ、はぁ……」
息を切らしながら城之内邸の前へとたどり着いた御桜・八重の表情は、常の彼女からは想像もつかない程に険しいものであった。
二階の窓から事の次第を窺っている城之内氏の姿を認めた八重は、怒りを隠さぬ視線を送るも、何も言うことはなく、邸宅の前に立つ靄に囚われた少女を見た。
『――』
城之内・佳奈は、涙を流していた。
何もかも壊してしまいたい感情と、どこかで救われたいという感情が、ない交ぜになって自身でも混乱しているのだろう。
超弩級戦力たちが伸ばす手を取れば、自分は恐らく救われるのだろう。
けれど、一度でも影朧に囚われ、罪を犯した自分は許されるのだろうか?
拭いきれない不安が僅かでも残っている限り、佳奈を捕らえた靄の影朧は消えない。
『佳奈、お前はもう取り返しがつかないことをしたのだ』
靄の影朧は、佳奈を逃すまいと、耳元で何度でも囁く。
『お前の家族も、もはやお前を許すことはないだろう』
未来への希望を奪い、絶望を糧とし、自らが支配権を握り続けるために。
――何もかもを壊してしまう他に、お前が救われる道はない!
『……お父様』
佳奈が、淀んだ声音で呟いた。
『私も、もうお父様たちのことを、家族だなんて思いません』
二階の窓から様子を窺っていた城之内氏が、末娘の初めての明確な反抗に口を開く。
「生意気な……! 今まで、誰のお陰で生きて来られたと思っているのだ……!」
流石に猟兵たちを自らの私兵が如く扱う言動は控えたようだが、事ここに至っても、佳奈への態度は変わらないようだ。
「佳奈さん!」
二者の間に割り入るように、八重の声が響いた。
「どうしても壊したいっていうなら、まずはわたしが相手になる」
陽刀と闇刀をそれぞれ抜き放ちながら、八重が佳奈の気を引くべく立ちはだかる。
「絶対に、助けてみせるから!」
『……止めて、無駄な期待をさせないで……!』
心のどこかで、信じ切れないでいる佳奈の闇を食んで、靄の影朧が一気に膨れ上がり、八重へと襲いかかる!
(「八重ちゃん、すっごく怒ってるし……何より、悲しんでる」)
やや遅れて駆けつけた荒谷・ひかるが、今まさに始まらんとしている激突を前に八重を思う。同時に、ひかる自身の裡でも、ざわめく「何か」を感じ、胸に手を当てた。
(「それに「私」も……うん、許せないよね」)
ひかるは、内なる声に身を委ねるように、目を閉じる。
「お願い、佳奈さんを助けてあげて――」
その言葉と共に、ひかるの身体は凜々しい女剣士の姿へと変じていった。
「――勿論よ、「わたし」」
前世の己の力の解放――【|覚醒・一耀の魂《アウェイキング・ソウル》】である。主導権を真の姿へと委ねたひかるは、薄れゆく意識の中で、涙を流す佳奈を見た。
(『私は、前の生で、何か酷いことをしたのかな』)
(『悪い影朧で、転生しても罪を許されず、その報いを受けているのかな』)
(『だとしたら、誰も私を愛してくれなくても、仕方がないのかな』)
未来に希望が持てないというのは、どれだけ辛いことだろう。
靄の影朧が放つ檻がひかるを捉えんと、影が真っ直ぐに伸びてくる。
「恐らく「わたし」の、佳奈を助けたいという「希望」に反応したのか」
あくまでも冷静に、ひかるは影の檻に囚われるがままになる。
「しかし「わたし」の原初の絶望――それは他ならぬ|私自身《宿敵》」
檻の内部で、ひかるの力が急速に高まっていくのが、明らかに見て取れた。
「故に、この檻は|私《絶望》を|強化《増幅》する」
抜き放たれた白刃が、あっという間に鋭く一閃を放ち、ひかるを囲う檻を砕く!
「私は兎も角、彼女の絶望は払ってやらねばなるまい」
『……ッ』
佳奈はその様に驚愕した表情を見せ、靄の影朧は忌々しげに狙いを八重へと変えた。
「佳奈さん、もう止めて!」
ひかるの相手を諦め、八重へと矛先を向けた靄の影朧の猛攻を何とかしのぎながら、懸命に声をかけ続けるも、佳奈の涙は止まらない。
『城之内家がある限り、私は一生幸せにはなれない。だったら――』
「わたしたちがついてる! 憲兵さんも桜學府も、きっと味方してくれる! だから」
『だったらどうして、こんなになるまで、誰も何もしてくれなかったの……!?』
佳奈から伸びる影より、次々と靄の影朧が生じ、八重を襲う。
(「中途半端な言葉は通じない……だったら」)
このままでは埒があかないと判断した八重は、意を決して、敢えて影朧の一撃を受けた。
「ぐっ……!」
胸元あたりを抉られた痛みは、正直、然程でもない。
痛いのは――もっと、奥の方だ。心が、痛い。
親友を、失った。
人々に、裏切られた。
絶望に呑まれ、堕ちた影朧の姿は――紛れもない、|八重自身《・・・・》だ。
(「ああ、|また《・・》だ」)
胸元から滴る血の色が、いやに赤い。
押さえる手に、生温い血の感触が広がっていく。
(「ある筈のない、シズちゃんの一幕」)
八重の記憶には全く存在しないけれど、どこかで確信が持てた。
これは――かつての自分の体験だと。
(「わたしの……前世?」)
御桜・八重という少女は、果たして絶望に呑まれたまま終わる存在だっただろうか。
――否!
「わたしは、それでも、あきらめ……ないっ」
痛いし、辛いし、けれどもその一切を飲み込んで。
自然とあふれていた涙を、血にまみれた両手で拭えば、酷い有り様だけれど。
改めて二刀をしっかりと握れば、光に包まれた八重の身体は魔法巫女少女の姿へと。
『どうして……どうして、立ち上がれるの……』
靄に覆われながら、呆然と呟く佳奈に向かって、八重は言う。
「辛かったんだね、助けて欲しかったんだね」
運悪く、最初に差し伸べられた手が最悪なものであったばかりに、こんなことになってしまったけれど。
「その手を伸ばして。わたしたちが掴むから」
『……っ』
佳奈は首を振る。代わりに伸びてきたのは、靄の影朧の一撃。
それを八重は二刀を一閃し、あっという間に斬り捨てる!
八重は、その勢いのまま、一気に佳奈の懐へと踏み込んだ。
『え……っ』
「届いて、この想い!」
――【|桜花一心《オウカイッシン》】!
一歩間違えば自らも影朧に呑まれる危険をかえりみず、もはや捨て身の覚悟と言うべき一撃で、佳奈の肉体目がけて二刀を叩きつけた八重。
『……?』
もはやこれまでか、と目をぎゅっと閉じた佳奈が、身体に何の痛みもないことに気付き、恐る恐る目を開ける。
心が、今までに感じたことのない程に、晴れ晴れとしていた。
「佳奈さんに寄生していた影朧|だけ《・・》を、斬ったんだ」
『そんな……ことが……?』
事実、靄の影朧は、佳奈の裡に沈殿していた邪念を八重により取り払われ、その力を完全に失い、消滅した。残されたのは、あくまでも普通の少女である、佳奈だけだ。
「佳奈さん、桜學府に来ない?」
「お、桜學府に……?」
「ユーベルコヲド使いじゃ無くたって、佳奈さんにしか出来ないこと、きっと」
前例もある。影朧と心を通わせ事件を起こした人物が、一時収容された後に桜學府の人員として活躍しているのを、八重はよく知っていた。
「見つかる、よ……」
そこまで言うと、八重はネジが切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。持てる力の全てを使い果たし、見事佳奈に取り憑いた影朧を払うことに成功したのだから、無理もない。
(「ひかるちゃん、後はヨロシク~~……」)
佳奈がおずおずと近付いてくる気配を感じながら、八重は地に伏していた。
真の姿のまま、八重が佳奈に取り憑いた影朧との決着をつけたのを見届けたひかるは、まだやるべきことがあると、城之内邸の方へと向き直った。
「よ、よ、良くやったぞ超弩級戦力……! 後のことは我々が責任を持って」
「誰が貴様に語ることを許した?」
「ひ……っ!?」
鋭い眼光に、全身から放たれる圧。遠巻きに眺めていても、ビリビリと伝わるようだ。
「出来の良し悪しに関わらず、親とは子を愛し、慈しむべきもの」
ひかるは城之内氏を目線で射抜きながら、戒めるように言葉を紡ぐ。
「それが貴様等は何だ、出来が気に入らぬからと、不要なまでに虐げる」
「ご……誤解だ! 我々は佳奈が、城之内家に相応しい娘となるように」
「先に言っておくが、伝わらぬ愛はただの自己満足だ。寝ぼけた言い訳は要らんぞ」
「……」
完全な正論で城之内氏を論破するひかるの前に、遂に氏は言葉を失う。
そうこうしているうちに、八重が予想していた通り、事情を全て把握した憲兵や桜學府の担当者が、城之内邸の前に集まってきた。
それを見た城之内氏は、血相を変えて窓辺から姿を消す。表に出て来て食い下がるつもりだろう。ひかるは心底軽蔑した顔で、その時を待つ。
「ご事情、概ね伺いました。事ここに至っては、我々の出番であります」
桜學府の仕事には、影朧の事件に巻き込まれた人々のケアも含まれている。事情聴取もあるだろうが、何より被害者である佳奈を預けるには、最適な場所であろう。
「本来なら、民事不介入ではありますが……これだけの事件になってしまっては、ね」
憲兵は男女二人組がやって来ていて、恐らくは城之内家の人々の対応にあたるのだろう。
「ま、待ってくれ……! そんな大事にはしないでくれ……!」
この期に及んで、とうとう最後まで、佳奈の身を案じることはしなかった。
城之内氏にとって大事なことは、あくまでも家の名誉を守ることだったのだ。
「下がれ!!」
これにはひかるも怒り心頭、まろび出てきた城之内氏を一喝する。
「我が子を愛せぬ輩に、親を名乗る資格など無いわ!!」
かつて母親であった「私」は、憤らずにはいられなかったのだ。
へなへなとへたり込む城之内氏を、憲兵が囲む。八重を助け起こしていた佳奈は、桜學府の人々に上着をかけられ、労いの言葉をかけられていた。
――もう、大丈夫だからね。
――大変だったね、これからは僕らがついているからね。
「……う」
救われた。
心の澱は晴れ、己を縛る枷は打ち砕かれ、今度こそ本当に――希望が見えた。
「うう、うわあああああ……っ」
人目もはばからず、泣きじゃくる佳奈。感情が、爆発したようだった。
主導権を返してもらった「わたし」ことひかるは、佳奈の代わりに八重を助け起こしながら、微笑んだ。たくさんの人々が差し伸べた手が、ようやく届いたのだと。
八重も、しばらくしたら目を覚ますだろう。桜學府に行けば、きっとまた会えるから。
その時は――心からの笑顔を見せてくれる佳奈の姿を、楽しみにしていよう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵