●
夕方の商店街は少しばかり慌ただしい。
学校帰りの生徒。
夕飯時を控え急ぎ足で買い物をした人が帰路に着く。
生鮮品を扱う店は売り尽くしの札を掲げ始め、揚げたてや焼きたての総菜が美味しそうな匂いを通りに放っている。
「遅くなっちゃった。早く迎えにいかないと」
ある者は幼稚園に預けていた我が子を迎えに急ぎ、ある者は夜の仕事や飲みの約束に向かい。
そんな夕暮れの時間帯も幻朧桜は咲き誇っており――ひらりひらりと花弁を落とす。
落ちていく淡い色の花弁が、その時赤く染まった。
『あれ? 迎えに行くの? ……それは気まぐれ?
遊びに行くの? 誰かを忘れてない?』
花弁と共に少年の声が石畳に零れ落ちたその瞬間、走った蒼雷が赤を飛沫させた。
「……っ――あぁぁぁああっ!」
強い青刃で斬られた者が衝撃に硬直し、二拍後に悲鳴を上げた。周囲に知らせるような決死を籠めた声だった。
突如商店街に出現した青い巨体の群れは、急いでいた人々の群れを割り、両側に構える商店を破壊していく。
『迎えに行けないね。帰れないね。もう会えないね。かわいそうだね。みんなみんな、悲しみと絶望と怨嗟に染め上げて、赤にして還してあげるね』
たのしげに、やさしげに、そして冷たく告げる少年の声は、青い巨躯群の蹂躙の最中に少しずつ遠ざかっていった。
●
「獣人世界大戦、お疲れさまでした! 民間の被害は最小限、超大国に徹底的な打撃も与えて、オブリビオンの叛逆への機運も高まった結果となったわね」
やったわね! と言って、ポノ・エトランゼ(ウルのリコ・f00385)は猟兵たちを迎えた。
「大戦の最中に|黯党《あんぐらとう》の首魁も撃破したけれど、|黯党《あんぐらとう》の悪魔召喚士たちは同盟者のカルロス・グリードに悪魔生物『デモノイド』を供与していたみたいね。早速、影朧に働きかけ動き始めたわ」
幻朧戦線将校であるカルロスは儚く弱い存在とされる影朧にデモノイドの軍勢を与え、「世界への復讐」を果たすよう唆しているようだ。
「影朧たちは自身が持つ復讐への甘美なる誘いに易々と乗ってしまうの」
常に、生前の未練や執着に苛まれている影朧という存在が故に。
「オブリビオンという敵を知ってるからこそ、私たちなら察することができるんじゃないかしら。デモノイドを使って復讐を果たしても、影朧の未練は晴れないということを」
放置すれば力に溺れることは必須。
更なる復讐に邁進し続けてしまうだろう。
「影朧のテロ行為は阻止していかなくちゃね」
そう言ったポノは、今回猟兵たちに向かってもらいたい場所を伝える。
「人が行き交う夕方の商店街。そこにデモノイドの群れが現れて人や店――様々なものを破壊していくの。様々なもの、の中には、誰かの大切な人や本来歩むはずだった未来……この事件を機に様々なものが破壊されてしまうわね。事件を防ぐのは当たり前のことなんだけど、改めて思うと猟兵は今までも誰かの未来をたくさん救ったり繋げたりしてきたのよね」
悲劇の起点を作らせるわけにはいかない。
「話が逸れちゃったわね。皆さんの到着と同時にデモノイドの群れが出現するから、敵の撃破と避難の声掛けをやっていただきたいの。
一般人の安全確保と、デモノイドの撃破と、どちらかに集中しても大丈夫よ」
デモノイドの攻撃『デモノイドグラップル』は周辺地形を破壊する。商店街という建物の密集地故に被害は免れないだろう。
「商店街を抜ければ広い車道があるからそこに誘導するか、頑丈な建物への誘導か。安全確保の方法は現場で臨機応変に動ける皆さんに任せるわ」
咆哮で無差別攻撃となる『デモノイドロアー』も警戒した方がいいだろう。
デモノイドに理性はなく、主である影朧の命に従い行動している。
「敵群の行動に今回のテロの首謀者である影朧の恨みも垣間見えるかもだけど、油断せずに対処してね」
無事にデモノイドの群れを一掃できれば、影朧が次にテロルを起こそうとする現場を突き止めなければならない。
「その頃には月夜の下で動くことになるんだけど、ここでは皆さんの過去の幻覚を見せつける影朧が次々と現れるの」
こちらは儚い影朧で、幻覚を見せてくるだけだ。
「……とはいえ、テロ影朧の影響下にあるだろうから、皆さんが過去の幻覚と向き合うことで次のテロ現場を見出すことが出来ると思うの」
影朧が見せる幻覚は様々で、今は懐かしい家族や恋人であったり、救えなかった誰かであったり、様々だ。
「対話をしたり、惑わされまいと振り切ったり……何にせよ、皆さんの心に負担をかけてしまうわね」
でも、と言葉を続けるポノ。
「商店街を、次のテロ現場を、誰かの悲劇や絶望の起点にすることはできないわ」
だからよろしくね。
ポノはそう言って猟兵たちを送り出すのだった。
ねこあじ
「世界への復讐」を果たさんとデモノイドを放った影朧を倒しにいくシナリオです。
恐らくゆっくり進行になるかと思います。
ねこあじです。
第1章:👾『悪魔生物『デモノイド』
デモノイドの群れと戦いましょう。
一般人の安全確保も大事ですので、どちらか一方に特化したプレイングでも構いません。
第2章:🏠『月夜にあなたは笑う』
過去の幻覚を見せつける影朧が現れます。見せる幻覚は様々で、今は懐かしい家族や恋人であったり、救えなかった誰かであったり。シリアスとコミカル、どちらもOKです(なおシナリオ全般はシリアス方面です)。
テロル影朧の次のテロル先も見つける情報収集も兼ねてますが、プレイングは好きなように掛けてください。
幻覚内容によってMS側で情報を付与していく感じです。
第3章:👿『ボス戦』
ボス戦です。
プレイング受付期間が発生すると思います。
それでもよろしければ、よろしくお願いします~。
第1章 集団戦
『悪魔生物『デモノイド』』
|
POW : デモノイドグラップル
単純で重い【悪魔化した拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : デモノイドカッター
【剣状に硬質化した腕部】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。
WIZ : デモノイドロアー
【恐ろしい咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:佐々木なの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
紅筆・古金
※アドリブ、アレンジ歓迎です。
デモノイド……復讐だなんだと叫ぶのは勝手だが、ただ平穏に生きている堅気さんたちに迷惑をかけるのは許せないな。
とはいえ、敵を倒すよりまず先に一般人の避難を優先させる。
オーラ防御を体にまといながらUC道を拓くで敵に突進、後退させた隙に一般人を逃がす。
団体行動で周囲に目を配りながら、一般人の退避優先で動いていく。
敵からの攻撃は受け流すか激痛耐性で耐える。
ユウ・リバーサイド
共闘アドリブ歓迎
近くの建物の壁なども足場として利用
「俺ひとり止められなくて
絶望なんて振りまけねぇだろ!」
大声で影朧を挑発する演技
更に蹴り技を交えた派手な動きと光を宿した剣での攻撃で
敵の注意を惹き車道へ誘導
UC使用
心眼で敵の寄生体の核を見抜き
『esprit noir』に指示を与え貫いていく
『アレは人の魂に寄生し闇を喰らう』
|可能世界の同一存在《 向こうのオレ 》の記憶が混じってくる
直撃せぬよう空振りする方向へ攻撃を誘い
ダンスと軽技の要領でかわす
『置き換わるんだ、魂の闇が』
『魂は光だけでは存在できず消滅する』
「知るか!」
ここはサクミラだ
賭けだとしても
俺は目の前の|デモノイド《 ひと 》も救いたい!
商店街のあたたかくぼやりとした喧騒、空は茜に染まり、建物の影は深みを増す――平穏で、けれどもどこか不穏も忍ぶ時間帯。
絹を裂くような悲鳴とともに、青い走狗の破壊音が店の通りを劈いた。
「なっなんだ!?」
「影朧……!?」
だがサクラミラージュの民が知る影朧よりもこの異形の生物は、力強い生命力と咆哮を物理的に叩き込む。
咆哮。
悲鳴、悲鳴、悲鳴。
『ガアァッ!!』
パニックが渦巻く商店街――人間を襲撃するデモノイドが腕を振るう――その刹那。
「そこまでだ」
紅筆・古金(巫女の血を継ぐ人・f43521)の開かれた鉄扇が敵の剛腕をいなした。
闘気を纏う古金の駆けといなしは、自身の間合いに一般人を保護し、そしてデモノイドの巨躯を退ける。
(「世界への復讐だなんだと叫ぶのは勝手だが――」)
事件を起こした影朧の気配は既に微か。ここは荒々しい青の存在が乱立する場。
腰を抜かし逃げ遅れた者、物陰に隠れる者と対処は様々だ。道には日常の、たくさんの物が散乱している。
「……ただ平穏に生きている堅気さんたちに迷惑をかけるのは許せないな」
呟き、庇った相手――男の腕を引く古金。
こっちだ。と告げれば、男は危うい足取りで一緒に駆けだす。怯えた目であったが男は周囲にも目を向けていた。
「いいか。お前さんも逃げ遅れている人たちへ声を掛けてやってくれ。共に逃げるんだ」
「わ、わかった……でもあの青いのが近付いてきたら……どうすれば」
「その時は俺がさっきの様に道を拓く」
古金が拓くは、彼らが生き抜く道。
「デモノイドの目を引くのは俺に任せて」
駆け付けたユウ・リバーサイド(壊れた器・f19432)が古金と逃げる男へと声を掛けた。
ユウが一瞬向けた穏やかな微笑みは、次の瞬間には破壊行為をするデモノイドの群れを強く見据えるものとなる。
凹凸の激しい瓦礫の丘を足場に弧を描くような跳躍したユウは晧き陽光たる剣を振るった。
茜空を背に描く銀の半月――落ちてくるユウに身構える挙動を行ったデモノイドの胴が拓ける。降下と僅かな遠心に振った蹴撃がデモノイドの巨躯を揺るがせ、されどそれすらも跳躍の台にユウがひらり宙を舞う。
到達した建物の壁を刹那の地にし今度は鋭角なる跳躍を見せるユウ。
「俺ひとり止められなくて、絶望なんて振りまけねぇだろ!」
黒揚羽とも見紛うesprit noirがひらり舞う。
――『アレは人の魂に寄生し闇を喰らう』
この時ユウの脳裏に響くは、彼……|可能世界の同一存在《向こうのオレ》の記憶だった。
一体のデモノイドの拳が迫るユウに放たれる。異形の膂力が籠もる一撃は衝撃波を起こし、ユウはそれを利用し風波に自身を舞わせ避けた。
敵の大振りの一撃を誘い、空振らせる一撃に商店街の石畳が隆起した。石の突き上げすらも足場にするユウの軽やかな立ち回り。
避難誘導を行う古金とは真逆に位置する、通り向こうの車道へとデモノイドたちを誘導していく。
闇に舞う蝶を放てば、esprit noirはデモノイドの身の内へと消えていった。デモノイドは、元々は人間。デモノイド寄生体を移植し生み出された悪魔生物だ。
――『置き換わるんだ、魂の闇が』
――『魂は光だけでは存在できず消滅する』
記憶がノイズのように散乱する。
「知るか!」
何かを抑えつけるようにユウは声を上げた。
ここはサクラミラージュ。幾度となくユウが声を渡らせた世界。
「……賭けだとしても……! 俺は目の前の|デモノイド《ひと》も救いたい!」
裡に寄生・共生・同化した魔術由来の生物を攻撃する闇に舞う蝶は、デモノイドの魂を解く。
青い肉厚によって塞がれたその奥――誰かの瞳が刹那に、美しき幻朧桜の世界を視た。
「さあ、こっちだ」
物陰に隠れていた学生を見つけた古金は安全な場所へと誘導しようとするが、学生は震えが止まらず歩けなさそうだ。
「……立てなさそうか?」
問いかけに頷きが返ってくる。中学生くらいのその子を抱える古金。
デモノイドに追い回されたのか、靴はなく、脚も傷だらけであった。
「もう大丈夫だ。安全な場所へ行こう」
子供の背中をぽんと叩き、駆ける。守るものを抱えた無駄のない足取りは危険箇所を易々と越え、商店街に満ちる戦闘音を素早く遠ざけていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
悪魔生物・デモノイドだと。
カルロス・グリードは世界を渡り、私達のまだ知らない
世界から、新しい戦力を連れてきたのか!
「来い、私が相手だ」
デモノイドの前に出て、注意深く様子を観察する。
骨太の巨躯はいかにもなパワータイプ、耐久力も高そうだ。
デモノイドカッターの斬撃は、ブレイドウイングを展開して
《ジャストガード》《シャドウパリィ》で弾き、スラッシュストリングで
反撃。戦いながら《瞬間思考力》で、有効打を与える手段を導き出す。
クロスグレイブを【念動武闘法】で複製し、《念動力》で操作
しながら空中から《レーザー射撃》を浴びせていく。
《空中機動》で死角を突き、首筋や脳天をピンポイントで撃ち抜き
仕留めていこう。
ニコ・ベルクシュタイン
デモノイド、此奴……何処かで……?
(本能的に本体である懐中時計を見る)
……いや、今は其れどころでは無いな
一般人に累が及ぶ事だけは避けなければ
【時計の針は逆さに回る】発動、箒に跨がって商店街の上空へと舞う
威力を増したBloom Starで敵の頭部を部位破壊狙いで殴りつけては
一撃離脱を繰り返し、群れの意識を俺へと引き付けよう
何故頭を狙うか? 咆哮を放つ暇さえ与えたく無いからだ
「どうした木偶の坊、俺一人に為す術も無いか」
等、通用するかは分からぬが時間稼ぎに挑発を試み
一般人へ意識が向かぬように心掛ける
一体一体殴るだけでは間に合わないならば
炎の属性攻撃による全力魔法を杖から放とう
一応、魔法使いなのでな
透き通るような幻朧桜の花弁が時の茜に染まり舞う。
商店街に現れた、青い巨躯の群れを見たニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)は、刹那思考を巡らせた。
(「デモノイド、此奴……何処かで……?」)
既視感は気のせいだろうか?
本能的に手に持つもの――自身そのものである懐中時計を見る。
(「いや、今は其れどころでは無いな」)
とニコが頭を切り替えるその瞬間、静かなけれども警戒を露わにした女性の声が鋭く場に切り込まれた。
「悪魔生物・デモノイドだと? カルロス・グリードは世界を渡り、私達のまだ知らない世界から、新しい戦力を連れてきたのか!」
駆けつけたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の長い髪が、赤き一閃のようにニコの側を抜けていった。
学生服を取り扱う店を執拗に破壊していたデモノイドに向かっていくガーネット。
「来い、私が相手だ」
デモノイドの前へ出る彼女の姿、避難誘導を行う猟兵に従い逃げる一般人、刻一刻と進みゆくこの盤上。
懐中時計を握ったニコがユーベルコードを発動させる。
「百年の時を経て今此処に甦れ、我が力の根源よ!」
懐中時計の魔力がニコを赤い魔法使いの姿へと変えた。空飛ぶ箒に跨り、一瞬で空へと上がったニコのマントが夕風になびく。
茜に染まりゆく商店街は破壊され、瓦礫が歪な影を描いている。そして点在する青の悪魔たち。
「これ以上、一般人に累が及ぶ事だけは避けなければ」
そう呟いてから箒を駆り、地上に向けた飛翔は弾丸の如き鋭さだ。
狙うデモノイドは頭を上げた一体。降下と飛翔の加速とその重力に任せた一撃はシンプルなものだ。
つまり、Bloom Starを用いた殴りつけ。
重い一打はデモノイドの頭部を潰し、放たれようとしていた咆哮音を破裂させ、虚空を響かせる程度に留めた。
そして時の二拍先へ向けて牽制の力籠めた声を渡らせる。
「どうした木偶の坊、俺一人に為す術も無いか」
攻撃によって生じた衝撃を利用し、ニコは人の気配残る箇所――次の標的に向かって弾くように飛んだ。
――オ゛オ゛ォォグオオ!!!
悪魔生物が吼え、ガーネットに向かって突進してくる。
デモノイドの巨躯にして三歩ぶん。そして、
(「骨太の巨躯はいかにもなパワータイプ、耐久力も高そうだ」)
敵は間合いを的確に捉えている。デモノイドがデモノイド寄生体を移植され、ある程度の時間が経っていることが分かる。
ガーネットが彼我の距離を読み、備える。
デモノイドが腕を振りかぶり繰り出す剣刃の軌道。
そして膂力任せの攻撃に応えるは硬質な金属音。
敵を引き寄せつつ身を翻したガーネットの姿は、刹那に夜魔なる翼を広げたように見えた。
エッジを硬質化させた液体金属の翼がデモノイドカッターを受け止め、上段へと弾く。
デモノイドの腕はブレイドウイングの軌道延長へと伸ばされ、そこが踊り場であるかのようにガーネットは更に身を翻す。舞うような彼女の腕からブレードワイヤーが放たれ、がら空きとなっていた敵胴を切り裂いた。
手応えは幾層もある。肉質は厚い。
「やはりか」
弧を描き、一体、二体と迫るデモノイドへ繰り出すスラッシュストリングは牽制のものと化していくなか、戦場の空気に熱が混じる。夕のひと時に訪れる暖まった空気ではない。斜陽を裂くは赫焉。
ニコのBloom Starから放たれた蛇腹焔がデモノイドの巨躯を後退させ焦痕を残す。
杖振れば焔は尊厳ある龍のように重々しく虚空を舞う――後退るデモノイドをまるでひれ伏させるかのように――そして誘うように。
「今だ!」
ニコがそう告げた瞬間、ガーネットは呼応する。
「神殺しの力の一端をお見せしよう」
彼女が複製し、空を覆うクロスグレイブは152機。砲身の十字架が夕の空に光輝燦爛と。数多の角度から放たれたレーザー射撃が入り乱れた。次々と戦場のデモノイドの頭、太い首を打ち抜き、異形の悪魔生物を屠っていく。
――オォォ、ぉ゛ぉ゛……。
潰れた頭を中心にデモノイド体を構築し集束していた寄生体が弾け飛ぶなか、ゾンビの様に、千鳥足に歩む敵の姿。
「あるべき処へ還るがいい」
ニコの炎の魔法がその敵身を灼けば敵の巨躯は瓦解し骸の海へと還っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【SPD判定】
終始真剣口調で話すよ
デモノイドについて|ずっと以前から《・・・・・・・》知っている風に話すよ
アモンか…ハルファス辺りかな?
デモノイド寄生体の|魔術儀式《つくりかた》を教えたのは
そのうち|上位種《デモノイドロード》までもが|骸の海《かこ》からやってきそうだね
前例は、|既にいる《ロード・プラチナ》事だし
避難誘導は他の人に任せて、ワタシは戦闘に集中するよ
UCは『ワタシのソロモンの雷』
ソロモンの悪魔の雷で、デモノイドのみを攻撃するよ
ワタシ自身もネクロオーブから放つ光弾による中・遠距離攻撃で攻めるね
技能は【エネルギー弾/弾幕/誘導弾】を使うよ
サクラミラージュの商店街はデモノイドの出現によって瓦礫と化していく。
一方的な蹂躙。
そんな戦場に駆けつけたクローネ・マックローネ(快楽至上主義な死霊術士・f05148)は、ユーベルコード『ワタシのソロモンの雷』を発動し、ソロモンの悪魔を召喚した。
ソロモンの悪魔の全身から放たれるは幾数の雷閃。
光の速さほどの遅れで戦場を劈き轟く雷音が渡った瞬間、雷の魔法で集中的に数多に貫かれた青い異形の悪魔生物の寄生の身が瓦解する。
「アモンか……ハルファス辺りかな? ……デモノイド寄生体の|魔術儀式《つくりかた》を教えたのは」
クローネはデモノイドについて|ずっと以前から《・・・・・・・》知っているかのように呟いた。
そうして思い出すは、過去のアックス&ウィザーズでの大きな戦い。
帝竜戦役で再孵化した帝竜『プラチナ』の存在だ。
かの地で生物を死滅させ、命令電波で|悪魔兵《デモノイド》の軍勢を創造していたプラチナ。あの竜のことを考えると、クローネもまた警戒せざるを得ない。
(「そのうち|上位種《デモノイドロード》までもが|骸の海《かこ》からやってきそうだね」)
デモノイドに彼我の距離を詰めさせまいと、召喚したソロモンの悪魔は嵐の如き雷を放っていく。
敵味方を識別する雷は、まるでデモノイドを避雷針としているかのように正確だ。
デモノイドの一体が腕を振るい、剣刃の切れ味を犠牲にしながらクローネへと迫る。
駆ける稲妻に身を瓦解させながらまた一体。
ソロモンの雷に倒れ骸の海へと還るデモノイドたち。
雷嵐から抜けた一体がクローネに一撃を与えるも、すでにデモノイドカッターは切れ味を削がれている。
巨躯の衝撃を受け、半ばいなしながらクローネはネクロオーブを掲げる。
ソロモンの悪魔を操っていたオーブに力を集束させ目前のデモノイドへと光弾を放てば、光は青き巨躯を貫き、集まる寄生体を易々と解いた。
「彼女の雷を受け続けて、無事で済むとは思わないことだよ」
元は人間。
デモノイド寄生体を移植された異形の悪魔生物の存在は、儚き影朧よりもさらに儚い|存在《モノ》となっているのかもしれない。
成功
🔵🔵🔴
木元・杏
【かんにき】
刀、最近のサクミラの様子はどうだった?
この青いのが来る予兆等があったのか…、わからないけど、今すべき事は救助、そして排除
ん、皆で連携していこう
刀をフォローする形で中衛気味の位置取り
救助の方に向け、幅広の大剣な灯る陽光から防御付のオーラを飛ばそう
ん、距離を取ったのはデモノイドの迫る動きから間合いを取る為
動きを悟れば瞬時に【鎌鼬】で顔面を狙い
そしてうさみん☆、小太刀のフォローを…
(3倍なウサミミ眺め)
小太刀。(こくん)
うさみん☆、小太刀のフォローを
余裕があればこの勇姿を素早く写真っておこう
小太刀(3倍)の巨体を有効に活用し、死角から接近しデモノイドの脚を大剣で叩き斬る
鈍・小太刀
【かんにき】
そういえば刀はサクミラ在住だっけ
単身で修行もまた大変ね
その分杏達より確りしてるし頼りにしてるわよ
それにしてもあの青い巨体
どこかで見た事があるような無いような曖昧な記憶
でも何よりこれ以上被害を出させる訳にはいかない
食い止めなきゃ
刀が一般人への対策を
杏が後方支援を担うなら
ここは私が前に出る所ね、任せなさい!
でも巨体をどう相手にするべきか
やはりこれしかないか
渋々な表情でUC使用
やけくそ気味に青く巨大な海兎…グラサン青兎の着ぐるみに変身
そこ、笑うんじゃないの!
巨大サーフボードをブンブン振り回し
八つ当たり全開で敵の群れを薙ぎ倒す
ふふ、でも一人じゃないからね
決め手は巨体に隠した…
杏、任せたわ!
木元・刀
【かんにき】
姉さん、小太刀さん、御無沙汰です。
ようこそサクラミラージュへ。
はい、最近は一般街でも無差別テロルへの備えを始めました。
頼もしい限りですね。
あれがデモノイド。暴力の権化。
無心のまま人を殺めさせるわけにはいかない。人々を守らなければ。
ポノさんによれば、近くに広い車道や頑丈な建物がある。ならば。
『手伝ってくれますか?』
父さん、小太刀さんの武器に憑依してサポートを……笑っちゃ駄目ですよ?
母さん、怪我人の応急手当を。動けるようになったら、誘導を頼みます。
兄さんは……何故幻影なんですか、踊ってないで本人が来て下さい!
僕自身は逃げ遅れた人を庇いながら、二人の掩護射撃です。
店を壊しませんように!
「姉さん、小太刀さん、御無沙汰です」
サクラミラージュの現地へ入った木元・刀(端の多い障害・f24104)は、同じく到着した木元・杏(お揃いたぬき・f16565)と鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)に挨拶をする。
「ようこそサクラミラージュへ」
刀の言葉に、小太刀は一瞬目を瞬かせた。
「そういえば刀はサクラミラージュに住んでるんだっけ」
杏と、ここにはいない彼の兄に思い馳せた小太刀は成長してしまっている刀を見て頷いた。
「単身で修行もまた大変ね。頼りにしてるわよ」
ぐっと握りこぶしを作った小太刀は、それを揺らしながら言う。落ち着いた佇まいの刀は木元家のなかでも一番しっかりしているように見えたのだ。
単身で修行、の辺りで刀はこの世界に来た経緯が脳裏に過り、苦笑しながら頷きを返した。
「ん、ごぶさた。刀、最近のサクラミラージュの様子はどうだった?」
杏は姉らしくどこか鷹揚な構えだ。
「はい、最近は一般街でも無差別テロルへの備えを始めました。頼もしい限りですね」
直近では何故か獣人戦線へと現れた黯党。他にも不穏な情勢の渦中となっているサクラミラージュでは警戒も高まっているようだ。
刀が齎す情報に――現在渦中の現場へと向かいながら杏は考える。
デモノイド。その寄生体を移植するにも人が必要だ。その人的資源はどこから得ているのか――。
「そういう……あの青いのが来る予兆等があったのか……わからないけど、今すべき事は」
救助、そして排除だ。
そうね。と呟き応えた小太刀は、駆ける先に見えた商店街――そこに出現している青い巨体を見据える。
(「それにしてもあの青い巨体……どこかで見た事があるような、無いような」)
誰かに聞いたのかもしれないし、そうでないかもしれない。曖昧な記憶だ。――でも。
「何より、これ以上被害を出させる訳にはいかない。食い止めなきゃ……!」
空と同じ茜色に染まる商店街では破壊音が起こり続けている。
瓦礫が転がる道を軽やかな駆けで越えた小太刀。
「そこまでよ!」
と、一番近いデモノイドの群れへと声を放った。
小太刀が敵群の注意を引くなか杏は彼女を追う半ばに留まった。その手には大剣の形状にした灯る陽光。周囲を見渡すために瓦礫の山に上がればその長大さが分かる。
「あれがデモノイド。暴力の権化……」
(「無心のまま人を殺めさせるわけにはいかない。人々を守らなければ」)
脳内で駆けて来た道を振り返る刀は商店街の路の把握に努めていた。通りに面した店と人や自転車が行き来できる道幅、各所に在る標識。子供の泣き声。店の奥から逃げ遅れた人の気配。恐らくは商店街を進めば進むほど、逃げ遅れた人の数は増える。当然、救助の人手は足りない。
案内人が示した通り広い車道はあるようだ。そして破壊されてない頑丈な建物も既に視界に入っている。
(「ならば」)
刀が馳せる故郷の面影。
サクラミラージュは故郷のひと時を想わせる世界だ。
常に咲き誇る、清廉なる桜。
ひらりひらりと舞う花弁のなかで過ごした時間。
「手伝ってくれますか?」
幼かった刀はいつも『誰か』と一緒にいた。
子供の嗄れる泣き声が聞こえる店へデモノイドが向かっていく。止めるために片時雨で斬りこむのは小太刀だ。
太い繊維の集合体。厚い肉質は容易に刃が通らない。そして敵は巨体だ。
「……くっ!」
腕を振る動作ひとつで、踏ん張りが持っていかれそうになる。
斬り落とせないまでも敵の腕を傷付け、一度飛び退いて彼我の距離を作る小太刀。
蠢く寄生体が傷の修復を行っていくのを見つける。
「この巨体……どう相手にするべきか……」
日本刀を構えながら思考を巡らせるも、どれも辿り着く最良の案は一つ。
「やはり『これ』しかない、か」
渋々な表情で片時雨を鞘におさめ、秘蔵のサーフボードを掲げる。
「いい!? 生やすわよ!!!!」
やけくそ気味で発動させたユーベルコードの変身術。にょっと生えたウサミミ。次の瞬間、小太刀の姿は青ウサギの着ぐるみに変わっていた。グラサンがきらりと光る。
そして大きい。
五メートル近くの巨体着ぐるみ小太刀は、キャバリア並の大きさとなっていた。
ぐんと上がった小太刀の視界には、こちらを見上げるデモノイドの姿。
笑い声が聞こえて「キッ」と目を吊り上げた小太刀が、共に巨大化したサーフボードを睨みつける。
「そこ、笑うんじゃないの!」
「そうですよ、父さん。笑っちゃ駄目ですよ」
小太刀のサーフボードに憑依したものは、刀の家族の幻影であった。
「荒ぶる波(物理)の力! 見せてあげる!」
ぶんと振るった巨大サーフボードでデモノイド群れを薙ぎ倒す。一閃させてまた一閃。
幻影(父)の笑いだか悲鳴だかな声も共に振られているので微妙なドップラー効果が起こり、刀が店の奥から救い出した子供は「ひぇ……」と引き攣った表情になっている。
泣き止んだのが幸いしたのか、デモノイドはもう子供を意識していなかった。
灯る陽光から暖陽の彩が放たれ、花弁のように戦場を舞う。
飛光するそれは建物の中、影にも入っていき、刀が抱える子供や逃げ遅れ隠れている一般人を護る。
「うさみん☆、刀たちを守って」
うさ耳付メイドさん人形を走らせて、一時安全な場所への誘導を。
そこには杏と刀の母の幻影が怪我人の応急手当を行っていた。
転ばないように。気を付けて。光が守るから、落ち着いて避難して。うさみん☆についていって。
そういった声掛けを、瓦礫の山から瓦礫の山へと移動しながら杏は行う。
そして護る人々にデモノイドは近付けさせない。
青い巨体との距離を保ちつつ敵が近付いてくるのならば、その顔面目掛けて跳躍した杏がうさ印の護身刀を素早く振るう。その挙動は鎌鼬の如くだ。
商店街の奥へと進めば逃げ遅れた人は結構いる。急ぎ誘導を行っていると、杏は瓦礫が砕ける音が激しくなっていることに気付く。
敵が激化しているのだろうか。
中距離で戦場を俯瞰にしていると、子供に反応するデモノイドが多いことに杏は気付いていた。
「うさみん☆、今度は小太刀のフォローを……」
言いながら小太刀の姿を探し――た、先には巨大な青いウサギの着ぐるみがいた。
「デモノイド……ちがう」
デモノイドの色とは違う青。
瓦礫が砕ける音は、サーフボードに轢かれ瓦礫の山に突っ込んだデモノイドが発したものだった。
「小太刀」
こくん。一つ頷く杏。察し。
ひとまず写真にはおさめねば。スマートフォンを取り出しぱしゃり。
「たまこもお写真よろしく」
さらにはサイバーたまこを放ち、手厚くする。
一方その頃、刀。
サイバーたまこが放たれ、一瞬挙動がおかしくなった幻影の兄。
「兄さん……この子をよろしくお願いしますね……」
若干力なくそう言いながら、刀は抱えていた子供を幻影の兄のもとに。両親によく似た笑顔で迎えた兄は子供を元気づけようとしているのか、『再び』踊り出す。
刀は兄に申し立てたいことがある。
「兄さんは……兄さんは何故幻影なんですか、踊ってないで本人が来て下さい!」
刀の声に、ますます笑顔(心外そうな)になる兄。絶対『え~?』と、とぼけ言っているに違いない。
隙を見て逃げ出したのか、区画から飛び出してくる人間を追うデモノイド。
敵の咆哮をかき消すように刀の軽機関銃が放たれた。デモノイドの脚を撃ち、青い飛沫を散らせる。
「小太刀さん!」
「任せて!」
今の小太刀の一歩は大きい。あっという間に距離を詰め、街の角を曲がった先にいるデモノイドの群れに辿り着く。
そしてサーフボードを一刀――横薙ぎは金魚すくいの要領で。
デモノイドの体勢を崩したり、ふわり浮き上がらせた巨体を落下の勢いで潰したり。
「杏、任せたわ!」
「ん」
キャバリアな小太刀の身体は着ぐるみ姿なので幅もある。
ふわふわな青毛の影から飛び出した杏は、刹那、小太刀のサーフボードを足場にかつカタパルトにして跳躍する。低く。すくいあげられふわり浮上していたデモノイドの真下へと。
地面擦れ擦れに大剣が薙がれ、突如と斬り上げれば、敷き詰められた光の花弁がぶわりと舞い上がる。
それは桜花弁が地吹雪くように。
耀く暖陽の彩が光刃を象り、デモノイドの群れ払っていく。
軽やかに宙を舞う大きな白銀の軌道が一体、また一体のデモノイドの脚を叩き斬って物理的な足止めを。
杏、小太刀、刀の連携が次々とデモノイドの群れを骸の海へと還していくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シリン・カービン
「あれが新しい獲物、と言うわけですね」
デモノイドの能力はすでにポノから聞いています。
街や一般人への被害を考慮すれば自ずと戦術は決まるでしょう。
高い建物から見下ろし、避難ルートを確認。
障害となるデモノイドの許へ駆け降ります。
「風の精霊よ、彼奴を縛れ」
精霊猟銃から風の精霊を宿した投網弾を撃ち、数体ずつ纏めて捕縛。
身動きが取れなくなっても咆哮で攻撃しようとするでしょうが、
風の精霊が音を操って外には伝わらないため被害は及びません。
時間を稼いでいる間に、逃げ遅れた人々がいれば救助を。
いなければデモノイドにとどめを刺します。
風に乗って届くのはよく知る友人たちの声。
微かに笑みを浮かべ、次の敵へ向かいます。
『商店街』と一言言っても小さいものではない。
細々とした商店の集い。その通りはそのぶん区画化されているものだ。
森の木々、枝から枝へと跳躍するように――刹那に風の精霊の力も借りて高い建物へと上がったシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は商店街の合間にある路の数々を俯瞰する。
「区画化されているぶん、森とは違って分かりやすいですね」
地面が枝葉に隠れることもない。
「あれが新しい獲物、と言うわけですね」
点在する青き獣の群。否、悪魔の生命体。
デモノイドと呼ばれる異形の存在を見据えるシリン。
俯瞰する戦場ではあるデモノイドの群れに駆けつけた猟兵が対応し、周囲には避難誘導に専念する猟兵もいる。
広い車道はシリンの背後に、そして少し先の方にもあるのだろう。
その時、避難誘導され逃げる民間の遥か先の路にデモノイドの群れが現れるのを視認した。
「!」
精霊猟銃を携えたシリンがしなやかに跳躍する。
茜色の空に森色のハンター・マントがたなびいた。
「風の精霊よ、彼奴を縛れ」
虚空の最中、降下中の滞空――ブーツの裏に感じる空気の層を一瞬の足場にしてシリンは精霊猟銃を構え、撃つ。
取り巻く周囲の風は狙撃音を散らし、放たれた投網弾を鋭くする。
一体のデモノイドを捉えるとともに巻き起こった風によって投網はより拡がり、デモノイドの巨躯を二体、三体と巻き込んだ。
それを角度を変えて数弾放つ。
多角、幾層にも張られる投網に捕らわれたデモノイドは身動きが出来ず、集束し巨躯を象っている寄生体を蠢かせた。
――ヴオ゛お゛オ゛ォォォ!!!!
空を破裂させ、耳を劈く咆哮が放たれるも、シリンから切り込まれた風が大音声を散らしに散らす。
飛散した声は遠くに渡らず、即座に過去の時へと堕ちていった。
「進む先にはデモノイドがいます。迂回をお願いします」
風の精霊に声を伝播させ、シリンはこの場所に向かってくる誘導の猟兵と一般人に現状を伝える。
『あっちにはデモノイドがいるらしい!』
『ではこちらの道へ』
風が伝えてくる戦場の音。
敵の咆哮を消し、届けるべき声を届ける風の精霊にシリンは礼を述べた。
いつだって、どこにいようとも、世界の精霊はシリンと共に在る。
精霊猟銃を捕らえたデモノイドに向け、シリンは呟いた。
「今日もまた、得られる『生』の糧に感謝を。――あなたは私の獲物」
猟兵たちが救った命、還す存在、その影響は福音をもたらし未来へと響く。
敵を狩る弾を放ち続け、その身と魂を骸の海へと還らせる。
耳を劈く猟銃の音を散らすなか、風に乗ってシリンに届けられるもの。
――任せた!
――ん。
それはよく知る友人たちの声だ。
彼女は微かに笑みを浮かべ、再び高い建物の上へ。
同じ戦場で、それぞれの役目を果たす――シリンは次の敵へ向かっていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
ポノさんのおっしゃる通りです
猟兵として
命と未来をしっかり守り抜きます!
到着と同時にリートを起動
拡声機能で避難を呼びかけます
ここは危険です!すぐに逃げて下さい
私たち猟兵がお守りしますからご安心を
大丈夫ですからね
呼びかけながら演奏も始めていますから
周囲の商店が次々と魔力へと変換されていきます
これにより
デモノイドさんの攻撃による建物の破損や倒壊
それに伴う被害(破片に当たったり巻き込まれたり)を防止
避難ルートの障害物も無くなりますね
変換する魔力は今回は風が主です
音の伝搬を操作し
避難の呼びかけが更に遠くまで
耳が遠い方へもしっかりと届くようにする他
咆哮と逆位相になるようにして
咆哮そのものを打ち消して
その攻撃をキャンセルします
シンフォニアを前に音を使った攻撃とは
100万年早いですよ(えっへん
風の魔力を旋律に踊らせれば
激風がデモノイドさん達を
薙ぎ払ったり吹き飛ばしたり
キリキリまいさせたりします
…貴方方も道具として扱われておいでなのですよね
お可哀想に
海で静かにお休み下さいね
戦闘後も演奏を続けて鎮魂とします
エリシャ・パルティエル
儚い影朧を唆して
日常を破壊するなんて許せないわ
あの青い悪魔は仲間に任せて
あたしは一般の人を安全に避難させるわね
いきなりこんなことになったら
びっくりして動けなくなってる人もいるかも
小さい子供やお年寄りには優しく声をかけて
安全な場所までしっかり誘導するわね
UCで勇気を与えたらきっと歩き出せるはず
怖かったでしょう
でもあたしたちが来たからもう大丈夫
ゆっくりでいいから歩ける?
あたしに掴まって
手を貸したり引いたり
小さい子ならおぶったりして
不安を与えないように声をかけて
避難させるわね
安全な場所に着いたら
不安な気持ちを少しでも減らすために
飴を配るわ
甘いものは心落ち着くもの
一人でも多くの人を安全に避難させるわね
茜色に染まるサクラミラージュの商店街。
買い物の途中、帰路、人々の予定が詰まり忙しく動く時間帯で起きた襲撃は道に様々な日常の物を散乱させた。
瓦礫の合間に散るは踏みつぶされた食材や鞄、人形と。
経過の見える惨状に、現地へと到着したエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は息を呑む。
「儚い影朧を唆して、日常を破壊するなんて許せないわ」
「ええ。今からでも皆さんの日常、これからの命と未来を、猟兵としてしっかり守り抜かないと……!」
エリシャの言葉に箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は力強く頷いた。懐中時計のボタンを押し、カッツェンリートを展開させる。
「青い悪魔の群れは仲間の皆に任せて、あたしたちは避難誘導を急ぎましょう。商店街の中心地には逃げ遅れた人々がいる気がするの」
一言で商店街と言っても、小さな店、大店とあり、路地があればそこには区画が存在する。
駆けだしたエリシャと仄々。
破壊されて今や無人の区画を走り抜け、破壊音が近くなった場所で仄々はカッツェンリートの拡声機能を使い避難を呼びかけた。
「ここは危険です! すぐに避難を! 私たち猟兵がお守りし、誘導しますからご安心を!」
店の奥に届くように呼びかければ、恐る恐るといったように出てくる八百屋の店主と買い物客。
さっとエリシャが駆け寄る。
「大丈夫? 動けそうかしら」
「あ、ああ。おれたちは大丈夫だが……横の路地に化け物が……」
店のすぐ横を通る路地に目を向ければ、瓦礫で完全に塞がれていた。奥から誰かの泣き声が聞こえてくる。
「ここは私にお任せを――」
仄々が竪琴を『ポロロン♪』と奏で、トリニティ・シンフォニーを発動すれば無機物である瓦礫が翠の靄に変化した。
竪琴の流麗な音色に呼応し、翠の靄は緩やかな風の魔力となり仄々が操る。
周囲から瓦礫という障害物はなくなり、風の魔力は無事な建物を覆う。
さらに仄々は魔力を操作し、翠色の音符をいくつか作り出してふわりと浮上させた。
「デモノイドさんが破壊しようとも、すぐに魔力へと変換されるので瓦礫が障害となることはなくなります。さあ、道が安全な内にあなたがたは避難を。この音符が案内します」
広い車道まで行けば猟兵の設けた臨時の避難所がある。
八百屋に隠れていた数人が仄々の指示に従って逃げていく。
その間に路地奥へと向かっていたエリシャ。店の裏にある小さな通りは子供たちの遊び場でもあるようだ。
残されているのは縄跳び、地面に描かれた輪っかとデモノイドの足跡。
微かな泣き声は奥まった場所にある木造の建物から。エリシャは優しく呼びかけた。
「どこにいるの? あの青い悪魔はいないから出てきても大丈夫よ――」
仄々が周囲を警戒するなか、エリシャはそっと近付いて泣き声が聞こえる場所を注視する。……扉はないが、木造の壁に割れた部分がある――子供が潜れるくらいの大きさ。声はそこから漏れているようだ。
「お願い、あなたの無事な姿をあたしに見せてくれる?」
神への祈りと発するは慈愛の言葉。エリシャから聖なる光が放たれて、周囲を優しく包み込む。
「……っ」
勇気を出したのか、建物の穴から子供が二人這い出てくる。
「えらいわ! さあ――あたしに掴まって。怪我はない?」
穴から抜けてくる子供たちに手を差し伸べて動きを助けるエリシャ。
「ば、化け物がきて……」
「……わたしたちすぐに隠れたの」
「ええ、……ええ。怖かったわね。もう大丈夫よ。安全な場所に行きましょう」
震えのおさまらない二人に頷き、声を掛け続け、エリシャはぎゅっと抱きしめて温もりを分け与える。
「青いの、クラブがいるみんなのところに向かったの」
「みんな逃げたけど、わたしたち、逃げられなくて」
少しずつ声を発して、話すことで落ち着いてきたようだ。
エリシャは二人の頭を撫で、がんばったわねと褒めた。
「仄々、援護をお願いね」
「はい、エスコートはお任せください! デモノイドのどんな声も届かないようにしてみせます」
渡ってくるはデモノイドの咆哮――仄々の猫のヒゲが空気の振動を読み取り、彼はカッツェンリートの音色を変える。二転、三転とさせて魔力の層を練り上げて、届かんとするデモノイドの波長と逆位相となるように。
音の伝播を打ち消す風の魔力と、そこに含ませた水の魔力が漏れ抜けようとする音を包み込んだ。
「シンフォニアを前に音を使った攻撃とは――100万年早いですよ」
えっへんと胸を張りリートを演奏する仄々。
そして途中までエリシャたちを追っていた仄々だったが、とある地点で留まり、三人を見送る。
少しずつ高所に上がって周囲を見渡せる位置まで――俯瞰した戦場には学童クラブの中を破壊し出てきたデモノイドの姿が。何かを探しているような姿だ。
(「子供を探しているのでしょうか……?」)
たった今破壊された建物の瓦礫をトリニティ・シンフォニーで変換し、真下から風を吹き上がらせデモノイドを攻撃する。
集束しているデモノイド寄生体をぶちぶちと裂き、敵身に入り込み解いてゆく風。
「……貴方方も道具として扱われておいでなのですよね……お可哀想に」
手向けの音楽、浄化の風。
「……海で静かにお休み下さいね」
謳うような祈りの言葉。
『彼』の最期を見届けて、仄々は次の場所へと向かった。
小さな子を抱える母親が歩いている。
隣には足に怪我をした子供を抱えるエリシャ。子供の頬は飴をふくみ丸くなっていた。
茜色の空は少しずつ夜の帳を広げて落としてくる、そんな時間帯に。
臨時の避難所が立つ車道ある通りには、商店街から逃げて来た人々がたくさんいる。
「さあ、病院にいこう」
「今日はうちに泊まって行きなさい」
「かえろうよぉ……」
「区長が泊まれる場所をつくってくれたよ」
子供の応急手当てを終えたエリシャは声を掛け合っていく人々のなかに入り、先程と同じように、新たに避難してきた者に飴を配っていく。
「甘いものを食べて、少しでも心を落ち着かせて……もう大丈夫よ」
皆が安心できるよう、声を掛け続けた。
ふわりふわりと浮く魔力の音符からは風に伝播される竪琴の音色が流れてくる。
聴こえてくる仄々の調べは、穏やかな、鎮魂のものとなっていた。
彼の演奏もまた人々の心を和ませ、惨状に見舞われたひと時から癒しの時へ。
青い悪魔、デモノイドに襲われた夕暮れの商店街。
復興には時間が掛かるだろう。
一番星が輝いて、猟兵たちは次の時を悟る――まだ、事件は解決していない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『月夜にあなたは笑う』
|
POW : 影朧が作り出した幻覚と対話する。
SPD : 過去に引きずり込もうとする影朧に惑わされない。
WIZ : 幻覚と向き合うことで、影朧を浄化する。
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「助けて下さり、ありがとうございました」
商店街に住まいがあり家屋が破壊されてしまった人は一時的に親切なご近所さん、親戚、公民館に身を寄せることとなり、猟兵たちに礼を述べた。
怪我人の搬送、迷い子を家に送り届けたりとやるべきことが片づけられる頃にはすっかり夜の時間帯となっていた。
月明かりの強い夜だ。
息を吐きたいが、まだ事件は解決していない。
猟兵たちは影朧が次にテロルを起こそうとする現場を突き止めなければならない。
「それってどこだろう」
「デモノイドの様子を見て、何か気付いたことはあった?」
「……そう言えば、子供に反応していた気がしますね」
そう話している間に、儚い影朧たちが猟兵の元へと忍び寄ってくる。
『足止めをしておいてよ。次は――に行かなくちゃ』
今回の事件を起こした「世界への復讐」を果たそうとする影朧らしき声が届き、その強い気配は遠ざかっていく。
残されたのは儚い影朧たち。
『おかあさん、おかあさん、かえろうよ』
『おなかがすいた……』
『こんなところにいたの!? お使いはちゃんと出来たの!?』
影朧たちは猟兵を囲み、猟兵の思考を読み取らんとする。
『わたしたちは過去のかがみ』
あなたが望む幻覚、望まない幻覚。
今宵、惑うて、共に参りましょう。
=====
(MSより)
過去の幻覚を見せつける影朧が現れます。見せる幻覚は様々で、今は懐かしい家族や恋人であったり、救えなかった誰かであったり。
テロル影朧の次のテロル先も見つける情報収集も兼ねてますが、プレイングは好きなように掛けてください。 シリアスとコミカル、どちらでもOKです(なおシナリオはシリアス方面です)。
幻覚内容によってMS側で情報を付与していく感じとなります。
=====
紅筆・古金
『ねぇ、まだ戦うの?』
幼い子どもの姿が目の前に現れる。幼い頃の自分、体が弱く、無力だった頃の自分。
『もうやめちゃおうよ』
そう誘う子供にため息をついて首を振る。
「生憎と、辞める気はねぇな」
自分は自分のやりたいようにしている。だから辞める気は無い。
もう、無力であった自分とは違うと、自分の足で歩いて行けるのだと思いたいから。
過去の自分に攻撃などはせず、対話をメインに行いますが誘いにはのりません。
対話をし、相手から情報を引き出そうとします。
『足止めをしておいてよ。次は――に行かなくちゃ』
今回の事件を起こした「世界への復讐」を果たそうとする影朧らしき声は、少年のような少女のような儚き色でふわり揺らぐものであった。
「待ちな――」
思わずといった様子で声を発し、聴こえた場所へ向かい一歩踏み出した紅筆・古金に『ねぇ』と呼びかける子供の声。直前に聞いた影朧とはまた違う声は、芯が確りとしていて、それでいて儘ならぬ何かを抱いているようにやや剣呑としていた。
『……まだ戦うの?』
古金の前に現れた幼い子供は、古金を見上げそう問う。子供は見覚えのある姿をしていた。
日に当たらないせいか白磁のような肌の色に対し、黒曜石みたいな髪色はいっそ眩しく艶やかだ。丁寧に櫛が通されているのが分かる。
表情は不服そうな、不満そうな表情。
「…………お前さんは……」
そう、昔、見たことがある。否、探れば古びた写真の一枚や二枚、あるかもしれない。
これは幼い頃の自分自身。
体が弱く、無力だった頃の自分だ。
何事も儘ならぬ日々に嫌気が差す時もあった。
幼い古金を見下ろしていた彼は、ふと、目線を合わせるように身を屈めた。
(「幼い頃は、ああやって見上げてばかりいたな」)
体が弱かったせいか床についていた時も多く、幼い彼が俯瞰できる位置といえば縁側に出た時くらいのものだ。
目線を合わせた古金に、幼い古金は一瞬驚いた表情を見せる。頬がぱっと花咲いたように色づき、とても子供らしい顔色となった。
『ねぇ、もうやめちゃおうよ』
とととっ。と寄ってきた幼き彼は、古金の袖を引きながらそう言った。
つかれたでしょう?
いたいでしょう?
やめちゃえば、いたいのはもうなくなるよ。
――落ちてきた拳はとても痛い。
――痛い。つらい。くるしい。かなしい。
泣き声が聞こえて、少年のような少女のような姿をした影朧は、泣き声のほうへ向かっていく。
――笑っていてほしいのに、どうして叩くの。
――わたしは、ぼくは、居ないほうがいいの?
『ああ、苦しいよね。嫌われたら生きていけないよね。わかるよ』
幼い古金の周囲に誰かの記憶が現れては消えていく。
ノイズのような幻覚と幻聴。
『やめちゃおうよ』
念押すように誘う幼き古金。
古金は袖を引く小さな手を解く。小さく細い五指は子供なりの力いっぱい。そのまま自身の大きな手で包み込む。
「生憎と、辞める気はねぇな」
ため息をついて首を振り、応えた。
自分は自分のやりたいようにしている。
自身を振り返りながら古金はそう思った。
……もう、無力であった自分とは違うと、自分の足で歩いて行けるのだと思いたいから――。
だから、今を辞める気は無い。
故に未来へゆくために過去に問いかける。
「痛かったか?」
古金の問いは、刹那の空白を間にして、幼き彼の姿をほろほろと崩れさせた。
形をなくした影朧からしゃくりあがる声が零れる。
『い、いたかった』
『おとうさんはあたしを庭に埋めたの』
『母さんはおれを捨てた』
ほろりほろりと死を迎えた子供たちの言葉が影朧から零れ放たれていく。
古金は頷き、聞き役に徹する。
絶望した言葉の裏には誰かの『誰かにしてほしかったこと』が隠れている。
「困ってないか? 俺にして欲しいことはあるか」
尋ねれば返ってくる影朧の言葉。
『痛いことをしようとするあの子を止めて……』
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
元々、只の懐中時計であった俺は
数多の人々の手を渡り、百年の愛情を込められ、人となった
今こうして人の役に立てている事には喜びを覚えるが
俺の「最後の持ち主」のことは何時までも心残りであり
アルダワ魔法学園の、分不相応な階層に単身で潜り
火喰い鳥の災魔によってその命を奪われた、年若き少年
あの時はまだ懐中時計でしかなかった俺は、当然、何もしてやれず
彼の命が尽きていくのを、時を刻みながら、見守る他無かった
時が、戻せるものなのだとしたら、等と
決して考えてはならない事さえ考える
幾多の愛と、犠牲の上に、俺は立っている
其れに報いるためには、時計の針を止めない事――つまり
確りと、幸せに、生きていくより他に無いのだろう
――お預かりしていた時計でございます。よく手入れされてきたのが一目で判る御品ですね。
柔らかな布に包まれ、闇に満ちていた「視界」が開く。数日前に見た、時計屋の天井だ。梁の渡しが重厚で年代物の建物なのだと分かる。
――古い懐中時計だが、手にした人達が丁寧に扱ってきたのだろうね。私の元にやってきた時のまま、そしてこれからも変わらぬ姿のまま、大事にしてくれる者に譲ろうと思っていてね。
どうもありがとう。と、懐中時計の持ち主が時計屋に礼を言う。再び時計の「視界」は闇に閉ざされた。
ぱち、とニコ・ベルクシュタインは一度目を瞬かせた。
今、彼の赤い瞳は闇に閉ざすも光を映すも自在のままだ。
「……これは……」
久しぶりに懐かしい顔を見た。「最後の持ち主」から一代前の持ち主の顔。
そう、馴染みの時計屋で手入れをされた後、最後の持ち主の元へ、この時はまだ懐中時計だった彼は届けられた。
数多の人々の手を渡り、百年の愛情を込められ、人となったニコ・ベルクシュタイン。
現在は渡ってきた持ち主たちのように丁寧に物を扱える指があり、包み込む手のひらがある。
戦う力がある。
守れる力がある。
(「今、こうして人の役に立てている事には喜びを覚えるが――」)
ふと時計である自身を撫ぜた熱い手のひらを思い出す。
ニコの「最後の持ち主」は年若き少年で、穏やかな最期ではなかった。
何体もの影朧がニコを囲み、影朧の一体は彼に触れた。
『後悔してる? 守れなかったこと』
「後悔……、心残りなのは確かだが……」
触れた影朧の身が焔の色に染まった。伝染するように他の陽炎も次々と焔の色に染まり、サクラミラージュの路は一瞬にして見覚えのある迷宮の一室へと変化した。
火喰い鳥の災魔のけたたましい鳴き声が迷宮内に響き渡り、迷宮の侵入者を威嚇する――アルダワ魔法学園の年若い学生。
今や猟兵となったニコは複雑なこの地下迷宮、出入口が焔と同調し不明となるこの階層の難解さを理解できる。
「この階層は、お前には早かったというのに……」
ニコの、懐中時計の声は、少年には届かない。
火喰い鳥が羽撃てば熱波の嵐が。
鞭打つ熱風は容赦なく少年の身を切り裂き、痛みに叫べば肺に熱が入り込みヒトの内部を灼く。
ニコは少年の悲鳴も、崩れ落ちる瞬間も今だ鮮明に思い出せる。それは何度も何度も脳裏によみがえる、振り払えない瞬間だった。
少年は武器を握りしめた。
空いたもう片方の手で懐中時計を握りしめた。
戦う意志を示すなかで誰かを想っていた。
(「あの時はまだ懐中時計でしかなかった俺は、当然、何もしてやれなかった――」)
ニコにできたことといえば、少年の命が尽きていくのを、時を刻みながら、見守ることだけ。
地下迷宮アルダワ階層が動く。
力なくなった少年の手から時計は零れ落ち、彼らは離れ離れとなっていく。
次に、小さな手が彼に触れるまで、彼は時を刻みながら地下迷宮に取り残される。
ニコに触れていた影朧が少年の形を作った。
『ああ。もうこんな時間だ。帰らないと』
なんでもないことのように、懐中時計を見て呟く。
『さあ、行こう』
影の懐中時計を懐にしまい、影朧が歩もうとすればニコの身体がぐぐっと引っ張られた。
(「彼らについていけば……否」)
即座に浮かぶは否の言葉だ。
(「偶に。時が、戻せるものなのだとしたら、などと、決して考えてはならない事さえ考える」)
考えてしまう、情。
これはヤドリガミとしての、人の身を持つからこそ生じる迷いだろうか。
秒針が風のように駆けていく。
思考を巡らせる長針に、歩む短針。
主たちと過ごした時、猟兵となり過ごす日々、そのすべてが今のニコを象り、どれもがかけがえのないひと時。
「時計の針を戻すわけにはいかない。幾多の愛と、犠牲の上に、俺は立っている」
『え……』
影朧の少年は意外そうな、悲し気な声を零した。
幾多にニコに贈られ、ニコが知ることとなった愛や犠牲は報われねばならぬ。
応えること。それがニコに出来るはなむけだ。
「だからこそ、確りと、幸せに、生きていくより他に無いのだろう」
ニコの言葉に影朧は少年の姿を解く。
『生き、て……?』
『シアワセにナッテ……?』
誰かに託された言葉を次々に紡ぐ影朧の声はどれも未発達な少年少女のもの。
『アア、あなたの成長シタ姿を見たカッた……』
『どうか子供たちをお願い』
次いで聞こえるは大人のもの。
それは露となり消えた願いたち――未練ある影朧たちの姿。
影朧はある方向を指差し、告げた。
助けてあげて。
次の血の雨は、待つ者、旅立つ者がいる園に降る。
大成功
🔵🔵🔵
木元・あかり
【かんにき】
※もきゅ!としたモラ語しか話せません
きゅー(子供達が先行してた気がしたけどどこ行ったかなー)
脇差の頭にがしっとしがみつき
周囲を見渡し状況確認
振り払われても負けないゾ☆
は、兎も角
子供に反応するデモノイドか
嫌だね、妙な同情心出ちゃいそうで
きゅきゅー…(子供らしき影朧眺め
きゅ!
気付けば独り
ふと傍らを見れば、昔、傍にいた影
…ああ
今なら、あんたがどんな気持ちで俺の傍に居たか、わかる気がする
でもまぁ
安心しなよ?子は案外強いもんだし
何より俺の隣の永久指定席は売切れたよ
ぱちっとモラスパークで影と影朧を弾き飛ばす
プリシラ見つければきゅきゅー♪と懐きに行こう
塩対応されても脇差に八つ当たるから大丈夫
プリシラ・アプリコット
【かんにき】
やれやれ、デモノ 腫れもノ イド処構わずだわネ。
あかりん脇差、チビたち追わなきゃだし、ずんずか行くわヨ~♪
キレイな月夜だワ。
こういう闇の深い日は……まあ色々思い出すことも多いわよネ?
プールでずぶ濡れにされて、スゴスゴもふもふ幸せそうに戻ってきた人とか。
ツンデレ武人化して、撲りかかって来たモラ……あら、あのときはモラじゃなかったわネ?
ホント、後先考えずに突っ込むヤツばっかで、気が気じゃなかったワ!
聞いてる、二人とも!?(幻覚がビビった風)
後衛の心 前衛知らずとはよく言ったものだワ。
ま、アタシも前衛だったけどネ♪
……テロルさんも、寂しかったんじゃないかしらネ?
さ、チビたち探すわヨ♪
鈍・脇差
【かんにき】
悪魔生物デモノイドか
自我を失っているというのに親の心は…(溜息
というか、いい加減頭の上から降りろ!(あかりを振り払おうとぶんぶん
俺に親はいない
まあ生みの親はどこかにはいたのかもしれないが
コミ溜めの様な世界の中で
物心ついた頃には既に犯罪の組織の一員だった
家族の温もりなんて俺には無縁だ
そう思っていたんだけどな…
幻覚として現れるのは
武蔵坂学園の職員として残業続きだったある日の出来事
帰宅したら部屋に明かりが灯っていた
ソファーに座ったまま、すやすやと眠る妻と娘
テーブルの上に置かれた画用紙には
不器用に笑う人の顔と、『おとうさん』の文字
そして何故か、人参が描かれていた
…ああ、迎えに行かないとだな
「やれやれ、デモノ 腫れもノ イド処構わずだわネ」
デモノイドが暴れた商店街を見て回りながらプリシラ・アプリコット(奥様は聖者・f35663)が言った。
記憶にあるあの青い巨躯も今回の青い巨躯もデモノイド寄生体によって変貌した、元人間だ。
「悪魔生物デモノイドか……」
鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・f36079)は淡々と呟いた。けれども息遣いはどこか遣る瀬無いものを感じる。
(「自我を失っているという。だが……」)
デモノイドたちの反応は、背後に在る影朧の影響だろうか、それともデモノイド化する前のものだろうか。その両方か。
「悪い奴っていうのはいつの時代も変わらないわネ」
デモノイドを利用した黒幕が諸悪の根源。同じく利用される影朧を追い、プリシラたちは行く。
瓦礫の山の向こうにある無事な建物に、近所付き合い同士で集まっているのだろう。ランプや篝火といったまとまった灯りがちらほら見える。
「後日、刀に経過を報せて貰わなくちゃネ。さ、あかりん! 脇差! チビたち追わなきゃだし、ずんずか行くわヨ~♪」
「もきゅ!」
「あだだだ……!」
プリシラの号令にモーラット……木元・あかり(トメ子さん・f35690)が同調して飛び跳ねて、その土台となっている脇差の頭髪は可哀想なほどにボサボサになっていく。
「きゅ♪ きゅ♪」
「いい加減頭の上から降りろ!」
「もきゅー……」
おめめをウルウルさせて麗しいモラ鳴きで訴えるあかりであったが、「知らん。可愛い子ぶるな」と脇差はどこまでもいけずの対応だ。頭をぶんぶんと振り、あかりを振り落とそうとする。
(「――と、脇差を揶揄うのはここまでにしとこ~」)
てしてしとモーラットの手で脇差の頭を叩き、落ち着かせるあかり。
(「子供に反応するデモノイドか。……嫌だね、妙な同情心出ちゃいそうで」)
見下ろせば月夜に照らされる路に対し、より濃く見える物陰から影朧が一体、二体と出てくる。
『ここ、どこぉ……』
「きゅきゅー……」
幼い子供の声が影朧から漏れてきてあかりは警戒しつつ寄っていく。害はなさそう。
今のモーラットの小さい体では、鳴いたり飛んだりとあやすので精一杯だ。
だから近寄ってきた影に最初は気付けなかった。
「もっきゅ……」
馴染みのある――かつて――あった気配にあかりは振り返る。影朧が象る形は顔を隠したかつてのサーヴァントの姿。
視線を少し見上げる角度になんだか昔に戻ったかのような感覚。
「もきゅ、きゅ」
(「……ああ。今なら、あんたがどんな気持ちで俺の傍に居たか、わかる気がする」)
あかりは肩を竦めれば、モーラットの身体が宙で上下する。
でもまぁ、という風にビハインドらしき影朧をぽんぽんとした。空振っているが気にしない。
「もきゅきゅきゅ、きゅ」
(「安心しなよ? 子は案外強いもんだし――」)
|もきゅぅ《何より》、と呟いて、パチパチと空気を震わせる静電気を起こす。
「きゅきゅもっきゅ」
(「俺の隣の永久指定席は売切れたよ」)
背を預けられる愛おしい人を思い浮かべれば、彼の柔らかな雰囲気を読んだのか、影朧は象っていた姿を解く。
『あの子に、愛を教えてあげて』
どこか微笑ましげな声を零した影朧は、モラスパークを受けてその身をほろほろと崩していった。
脇差に親はいない。
だが……。
『おとうさん』
と、脇差の思考を読み取ったように影朧が呼ぶ。
一体の影朧はその身を月明かりに染めて、そしてよりあたたかな家の灯の色へと変わった。
一転する景色。
「……これは……」
廊下は暗く、けれどもリビングの光が漏れてくる――どこにでもある一般家庭の光景。そろり廊下を進み、音をたてぬように気配を潜めて脇差はリビングに続く扉を開いた。
ソファーには座ったまま、すやすやと眠る妻と娘の姿。
脇差に親はいない。
だが、彼は親になった。
生みの親はいただろうが、どんな事情で、どんな気持ちで脇差を世に生かすことにしたのかは分からない。
(「ゴミ溜めの様な世界の中で、物心ついた頃には既に犯罪の組織の一員だった。
……家族の温もりなんて俺には無縁だ――そう思っていたんだけどな……」)
自分自身が世に送り出された理由は知らないが、夫としての自身を作ってくれたのは妻で、父としての自身を作ってくれたのは子供たちだ。
独りでは決してなれなかった今の脇差がここにいる。
寝顔を見て、テーブルの上へ視線を移せばそこには画用紙。
毎日武蔵坂学園へと出勤するスーツ姿の男が描かれていて、不器用に笑っていた。ぎこちない絵の横にはぎこちない「おとうさん」の文字。
……何故か人参も描かれていて、人参の葉っぱはうさ耳の形をしているような……気のせいだろうか。
その時、画用紙にぽつりぽつりと雫が落ちて、赤い染みが出来ていく。
『迎えに来てよ』
『いつきてくれるの?』
『せんせいは何も言わない……』
たくさんの孤児の影朧が涙を零すも、透明の雫は降る血の雨にあっけなく染まる。
『ぼく、おとうさんの顔をわすれちゃうよ』
「キレイな月夜だワ。こういう闇の深い日は……まあ色々思い出すことも多いわよネ?」
もふもふとした尻尾を揺らして、プリシラが声掛ける先には影朧たち。
物陰の闇の濃い場所から出てくる影朧はその体積をどんどん拡げていった。月の光を隠し、周囲を蠢く闇で満たしていく。
夜に忍び寄る深き闇の存在はとても馴染みのあるものだ。
油断すれば心が闇に満たされていく学園生活だった。
皆、日々を持ち前の明るさとともに過ごし、人としてささやかに営み、学生らしい学園生活を送り、日常を大切にしてきた。
それでも無理をして、闇に堕ちてしまわなければならない時があった。
堕ちた者が見つかるのをひたすら待ち続ける日々は心が不安に押し潰されそうだ。
迎えに行けば、闇堕ちた故の変貌に心が震えた。でも、皆、拳を作って、一人も欠けさせないように、日常を取り戻すために戦った。
うん、とプリシラは一つ頷いた。
「プールでずぶ濡れにされて、スゴスゴもふもふ幸せそうに戻ってきた人とか。
ツンデレ武人化して、撲りかかって来たモラ……あら、あのときはモラじゃなかったわネ?」
影朧はついさっきまで一緒にいた脇差の学生時代の姿を。
そして隣にはメイド服を着てぴるぴる震える黒うさぎがいる。鍋があれば自ら飛び込む所存。みたいな念を出していた。
「ホント、後先考えずに突っ込むヤツばっかで、気が気じゃなかったワ! 聞いてる、二人とも!?」
プリシラの一瞬で上昇した剣幕に、脇差姿の影朧と黒うさぎ姿の影朧はびくーっと飛び上がった。
同時に闇の外で「きゅ」やら「おい」やら声が聞こえてきたが、今は無視無視とばかりにプリシラは腕を組んだ。
「『後衛の心、前衛知らず』とはよく言ったものだワ。……でも、ま、アタシも前衛だったけどネ♪」
明日がどうなるか分からない日々だった。
けれども駆け抜けた日々の先にあった『今』は彼女にとっての幸せなものでたくさん溢れている。
プリシラはにこりと笑った。
「おかえりなさい」
その言葉は誰かに向けたものだったのか、過去の自分自身に向けたものだったのか。それはプリシラにしか分からない。
けれども影朧は安心したかのように象っていた身を解いて、嬉しそうに呟いた。
『帰ってきたよ』
『かえろうかえろう』
『――迎えに行こう』
「……テロルさんも、寂しかったんじゃないかしらネ?」
プリシラが呟けば、影朧は彼女の手を引いてある道を行こうとする。まるで着いてきてと言わんばかりに。
「きゅきゅー♪」
と、プリシラの肩めがけてあかりが飛んでくる。
あかりをひと撫でしたプリシラは、ひょいと摘まんで再び脇差の頭に乗せる。
「さ、チビたち探すわヨ♪」
「……ああ、迎えに行かないとだな」
「きゅ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シリン・カービン
「誰が来るのかと思っていましたが」
のそりと歩み寄る大柄な影たち。
「あなた達でしたか」
擦り寄せてくる大蜥蜴と飛竜の頭を嬉しそうに撫でる。
「トーガ、アイリィ、カーナ」
A&Wで一時共に旅した相棒たちと、自分が名付け親となった子。
いま目の前にいる彼らが幻影だとはわかっている。
それでも心を許した彼らと再び会えることは嬉しくて。
だからこそ感じてしまう。
「……カーナ?」
生まれたばかりの子蜥蜴がじっとこちらを見ている。
言葉はなくても何か訴えたいことがあるのは分かる。
「……あの子の居場所を教えてくれるのですね」
純粋に人に寄り添ってくれるからこそ、分かるものもあるのだろう。
ああ、またあの子たちに会いたいです。
ふと吹いた月夜の風は、石畳や建物にそぐわない薫風を含んでいた。
は、とシリン・カービンは息を呑む。
今まで見つかった、猟兵たちが訪れる世界は様々。そして猟兵によって世界の見え方も様々だ。
シリンが見回す――周囲の精霊の数は変わらないままなのに、彼女を取り巻く世界の気配は少しずつよく知る世界のものへとなっていく。
「アックス&ウィザーズ……」
自身が生まれ育ち、猟兵となって知り、より俯瞰するようになった出身世界の名を呟く。
これは生き物がもたらす、世界の気配だ。
「キュッ!」
その時、ひと時よく聞いた声がシリンの耳に届く。
「誰が来るのかと思っていましたが」
くすりと笑んだシリンの目は柔らかく細められた。決して戦いのなかでは見せない優しい表情となっている。
手を差し伸べればそうっと触れてくる、少しごつごつとした凹凸ある爬虫類の頭。
「あなた達でしたか」
下からぐいぐいとシリンの手のひらを突き上げる大蜥蜴の子供のカーナ。
飛竜のアイリィが頭を垂れさせたので、シリンは空いた片方の手を伸ばして鼻先を撫でる。
「カーナ、アイリィ、トーガ」
最後に呼んだトーガはこの中で精神的にも年長なのかもしれない。喜ぶカーナとアイリィからやや遅れて、落ち着いた様子でのそりとシリンに寄ってくる。
「久しぶりですね。おとうさんになったトーガは――少し、貫禄もでてきたでしょうか?」
シリンの記憶にある彼らは、邂逅した時の姿のままだ。やや寂しそうにシリンは言った。
「カーナは大きくなって、もう立派に仕事をこなしているでしょうね」
シリンが名付け親となった子蜥蜴のカーナは成長したことだろう。
トーガとカーナを見比べて、シリンは今の彼らを想像する。
「それでも、今、あなた達に会えたことを嬉しく思います」
クルル、とアイリィが鳴く――空を震わせる首喉の音色はまるで鼓動のようにも思えた。
目の前にいる彼らが幻影だとはわかっている。それでも心を許した彼らと再び会えることは嬉しい。
岩の大地や草原を駆ける大蜥蜴。特徴的な乗り心地は今でも身体にしみついている。
大空を飛翔する竜。竜の翼膜が風を叩く音は、シリンの耳を楽しませた。
彼らとともに雄大な自然をゆく光景は、今でも鮮やかによみがえる。
「キュ」
その時、子蜥蜴が鳴いてシリンの注意を惹いた。
生まれたばかりだったカーナの瞳は、純粋な愛に満ちている。優しく撫でれば瞼が下から上へと動く瞬き。とてもとても嬉しそうに。
シリンの手のひらを頭で促して、カーナは彼女をじっと見つめた。
「……カーナ?」
言葉はなくても何かを訴えているのは分かる。
「……あの子の居場所を教えてくれるのですね」
世界への復讐を果たせと唆された影朧が次に起こすであろう場所へと向かったことは知っている。
純粋に人に寄り添ってくれるからこそ、分かるものもあるのだろう。
アイリィが飛び立ち、乗れ、と、いつものしぐさでトーガがシリンを促した。
「――懐かしいですね」
その背にはしっくりと馴染む鞍があって、シリンはひらりと彼の背に乗った。
たしり! とまるで岩場であるかのように、瓦礫の山を登り、建物の凹凸を伝ってあっという間に場を俯瞰できる位置へ。空から竜翼の音が落ちてくる。
竜の起こす風がシリンの髪をかき混ぜた。
『優しく撫でて欲しかったの』
『憎い。嫌い。でも、好きだった』
大成功
🔵🔵🔵
ユウ・リバーサイド
古い映画のポスターやパンフだらけの喫茶店の景色
向かいの席に1人の青年
『これも|敵情視察《カフェ巡り》の一環だから』
深夜の呼び出しを詫びる“自分”に相手が笑む
スマホの日付は“2016/08/27”
UDCアース生まれの俺じゃない
これは向こう側の“俺”の記憶
…さっきの影響で?
2人は書類を手に何かを話してたが
唐突に“俺”が言い出す
『この映画、知っていますか』
抑揚の無い声
感情も内容も
直前と整合の取れない異常な言動
相手は混乱し
恐れすら顔に浮べ
『孤独と絶望が“狂気”を育てる』
『狂気を持つ一握りの俳優を“天才”と言うんです』
幻影を覗く俺も怖気を覚え
『でも―』
“俺”の声が泣きそうに歪む
“孤独も絶望も与えたくない
だから大切な人達の前から消える”
そう語る“俺”と止める相手
哀しげな相手の表情に息を呑む
“俺”の言動が相手の心の芯を壊してた
“狂気”に巻き込んでた
…何やってんだよ、“俺”!?
『草那岐くん!』
『神鳳先輩…後をお願いします』
立ち去る“俺”
…今は“俺”の記憶に構ってる場合じゃない
影朧に逢いに行かなきゃ
けど
夜空に上がった丸い月がほんの少しずつ、異なる色に染まっていく。
月灯は刹那に黒と白からなる何処かの室内を構築し、ユウ・リバーサイドは構えた。サクラミラージュの空気は仄かに感じ取れる程度……否、意識すれば、すでに彼の身に馴染みある幻朧桜の気配は常にそこに。
だが。
洋館風の建物内の喫茶店――ステンドグラスを使ったレトロ感あるランプ。近くには映画館があるのだろう、店の出入り口には映画のパンフレットが置かれていて――中にはリバイバル上映なのか描画は古めかしくも新しい質感のパンフ、店内を飾るのは額縁で丁寧な装丁を施された古い映画のポスターたち。
白黒の写真を引き伸ばしたもの、画家が描いたもの、デザインは趣向が凝らされていて見れば見るほど、発見できるものがある。
『また訪れたくなる喫茶店だな』
そう言った相手に、“ユウ”は頷いた。
真向かいに座る青年はどこかゴールデン・レトリバーを思わせる髪の色。
『これも|敵情視察《カフェ巡り》の一環だから』
許してくださいね。
と、『ユウ』が詫びれば青年は笑んだ。
鞄から書類を出して青年に渡した“ユウ”は、ふと、そのままスマートフォンを手にした。今は何時だろう、という意識にすら上がらない何となくの確認。
けれどもスマートフォンに表示された時間よりも、何故か日付に目を奪われた。
“2016/08/27”
あれ? と思う。
同時に、思考が乖離した。
(「――これは……ここにいるのは、UDCアース生まれの俺じゃない」)
ユウでない彼が声を発している。
ユウでない彼は書類を手に、青年と何かを話している。
(「これは向こう側の“俺”の記憶……?」)
2016年……いや、2024年、さっきまでの自身は何処にいて、何をしていたのか……。
一度我に返り、自身の意識を保てば変わらず在る幻朧桜の気配。
そうだ。デモノイドとの戦闘を終えたばかりで。
(「まさか、この景色はさっきの戦闘の影響で……?」)
戸惑いながらもユウは彼らの会話に耳を澄ませた。
だが、それが符牒であったかのように、会話をしていた“ユウ”は唐突に抑揚無き声で青年に告げた。
『先輩。この映画、知っていますか?』
あまりにも唐突過ぎた。
ユウも、そして目前で珈琲を飲んでいた青年も、“ユウ”の声に顔をあげた。
彼の表情は抑揚の無い声に相応しきものとなっていた。
映画の内容は、先の視えない抑圧された日々を送る主人公を蝕んでいくもの。
『孤独と絶望が“狂気”を育てる』
|闇《病み》を抱えてゆく主人公と共に演者もまた心が狂気に満ちていく。
感情も内容も、直前と整合の取れない異常な言動。淡々とした声で語る“ユウ”に、彼の周囲にあるすべてのものが恐れを向けてくる。
喫茶店に存在する影が、天井のファンに動き蠢く闇が、先輩の瞳が。
『狂気を持つ一握りの俳優を“天才”と言うんです』
そう言う“ユウ”の声色に、ユウもまた怖気を覚えた。
心の中に、ぴんと張りつめた糸がある。それがふっと緩むと共に“ユウ”の声は『でも――』と泣きそうに歪んだ。
『草那岐くん……?』
『孤独も絶望も与えたくないんです』
“だから大切な人達の前から消える”
『落ち着くんだ、草那岐くん』
確りとした、ぶれない青年の声に“ユウ”は顔を上げた。恐る恐ると。
彼は――先輩は哀しげな表情を浮かべていた。
“消える”と決断した、“ユウ”の言動が衝撃を与えていた。
(「ああ……“俺”の言動は、『先輩』の心の芯を壊してた――“狂気”に巻き込んでた」)
本当は、巻き込みたくは無かったのに。
“ユウ”のことなど、気に掛けなくてもよかったのに。
心優しい人。相談すれば親身になって聞いてくれる人。
「……何やってんだよ、“俺”!?」
ユウは思わず声を上げた。だがその音は空間には響かない。
これ以上、ここにいてはいけない。“ユウ”はそう思った。
コーヒー代と後悔を含んだ紙幣を一枚、テーブルに置いた。
その動きだけで青年は察したのだろう。呼ぶ。
『草那岐くん!』
『神鳳先輩……後をお願いします』
かろうじて、しぼりだした自身の声――“ユウ”は青年の制止を振り切って、店を飛び出した。
思わず後を追うユウに現実が呼び止める。
『孤独も絶望も与えたくないの?』
言葉で、誰かを叩いたのに?
影朧がユウに問う。
(「……今は“俺”の記憶に構ってる場合じゃない」)
影朧に逢いに行かなくてはならない。
けど――ユウは焦った。
煽るように周囲の儚い影朧たちは呟いた。
『振り上げたものは返ってこない。誰かを痛めつけた』
既に過ぎ去った時。
もう還らない、“彼”の選択は、“彼”の周囲にどんな影響を与えたことだろう。
『悲しみに暮れさせた?』
『誰かに恨みを育てさせた?』
影朧たちが進む。“ユウ”を責めながら。
行く先は誰かが捨てた負が集う園。
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
(……!?)
気がつけば、高い塀に囲まれた軍事施設の中に立っていた。
ここはスペースシップワールドの、とあるコロニー船防衛隊の基地だ。
私は本来の名前を偽り、身分も隠してここに入隊したんだ。
そんなワケで、サングラスのおっかない女教官に叱咤されるがまま
仲間と共にランニング地獄開始!
「違う……こんなところで走っている場合じゃない。早く影朧を探しにいかないと……」
ウワーッ!?後ろから宇宙バイクに乗った教官が、鬼の形相で
追いたててくる!……だが、妙な既視感を感じるぞ。
そう、これは全て私の思い出の中の出来事(実話)。
やがて私はサイキッカーとしての適性を見出されて、
皆とは別の特務部隊に転属することになるのだけど。
【イデア覚醒】を使い、感覚を研ぎ澄まして《心眼》を発動すれば、
教官に化けた影朧の姿が露わに。
「重要な任務がありますので、これにて失礼します」
ブラックバングルからエーテルの《エネルギー弾》を放ち、
思い出の中の教官に別れを告げよう。
夜空の月と星々の輝きが遠ざかっていく。
それに伴い、ガーネット・グレイローズの周囲は少しずつ闇深くなっていった。
その闇から影朧たちが次々と出てきてガーネットの手を引っ張った。
『遊ぼう遊ぼう』
『かけっこしよう』
「いや、私は――」
無造作に手を引っ張られてガーネットの赤い髪がふわり虚空に舞う――が、紗のような髪の擦れは突如彼女の頬にかかった。
(「……!?」)
サクラミラージュのむせ返るような幻朧桜の気配は遠ざかり、循環するある意味清浄な空気に満ちた場へと切り替わった。
『走れ! 走れ!』
険のある声が響き渡る。清浄化された空気は地を踏み進む軍靴群によってあっという間に荒れ果てた。
『シンシア! メイジャー! ルビー! 何を呆けている!!』
怒号が飛んできて、ガーネットを含む複数人が身を強張らせる。否、強張る時間を発生させるなんて、それこそ無能でしかない。
ガーネットは本能的に飛んできた怒号に従い駆けだした。
銀河帝国から鹵獲した小さな船の資材、残骸が放置されたフィールドは正直走りづらい。支給された靴はまだ硬く、そしてガーネットの足のサイズに合っていなかった。これではマメが出来てしまうのも時間の問題だろう。
後々は銃を携行しつつのポートアーム走となるだろうが、訓練初期はそういった装備品がないのがありがたかった――いや、ありがたい。
何故か過去形でそう思ったガーネットは、『現在』に視点を合わせた。
志願者の脱走防止か、機密の軍事施設故か、彼女が今いる場所は高い塀に囲まれている。見慣れた宇宙が見えない閉ざされた空間。
『ルビー・アンバレスト! 何を考えている、目の前のことに集中しろ!』
「はい!!!」
サングラスをした女教官に𠮟咤され、ガーネットは鋭く呼応した。
速度を落とさずに目の前の瓦礫の山を越える。
敵の有無を考えなくていいただのランニングだが、障害物は多い。
コロニー船防衛隊の基地とあって訓練施設は様々だ。船が沈む荒野に模造の殺人的な太陽光が降り注ぐ。
(「って、違う……こんなところで走っている場合じゃない。早く影朧を探しにいかないと……」)
しっかりしろ、グレイローズ!
……だが自身の叱咤は女教官の叱咤にあっけなくかき消された。
『全力を尽くせ! それが本能として叩きこ込まれるまで、我々もお前たちに対し、全力を尽くそう!』
そう告げた教官は宇宙バイクに乗り、鬼の形相でガーネットたちを追い立ててくる。まるで牧場の家畜にでもなった気分だ――いや牧場主は手加減をするぶん、まだ家畜の方がマシかもしれない。
瓦礫の山を登り、下りは転げ落ちるように。
強かにあちこちを打ち、一瞬痛みが走るもアドレナリンが痛みを屈服させる。
(「そうだ。覚えてる――覚えているぞ」)
ガーネットの胸に渦巻く妙な既視感。これは実際にあった出来事だ。
体力向上訓練、射撃訓練、座学。何をするにも教官の許可が要る。チームワークは絶対で罰直を喰らえば連帯責任となる。
宇宙へ進出した吸血貴族「グレイローズ」の名や付随する身分を偽り、ガーネットはこのコロニー船防衛隊へ志願し入隊した。
分け隔てなく、そして自分自身の力がどこまで発揮できるのかを知りたかった。
数々の訓練を終えるころ、皆が適性検査を受けた。
(「私はサイキッカーとしての適性を見出された」)
急務が起こる部隊故に教官から直接密やかに告げられたガーネットは、地獄の訓練を共にしたチームを抜け特務部隊へと転属した。
サイキックの訓練を受けながら同時に現場で叩きあげられていく。
教えられた感覚は、常にガーネットと共に在る。
経験し乗り越えてきた数々の戦場がガーネットを研ぎ澄ませていった。
心眼に依って視る――イデアを覚醒させるガーネット。
其処は月夜のサクラミラージュ。幻朧桜が咲く下で、儚い影朧たち、生命力あふれる住民たちが存在する世界。
今宵、静かな夜に重ねる皆の夢はなんだろう。
いつしか見た夢だろうか、過去の想い出だろうか。
教官や、チームだった皆に化けた影朧たちの姿がそこに在った。
「あの日々は私の糧となり、発露した力は誰かの未来を紡ぐためにあります」
チームメイト、そして教官へと視線を移していくガーネット。
自身のブラッドエーテルを巡らせながら、僅かに腕を上げた。
「教官。これから重要な任務がありますので、これにて失礼します」
いつだったか、上官に告げた言葉をもう一度。
『ああ、全力を尽くせ。あの頃の様に――皆を、世界を救うために』
ブラックバングルから放ったエネルギー弾が影朧たちに着弾すれば、影朧の身は覆うサイキックの力に蝕まれていく。
幻影は消え、刹那の夢の中で駆け続けたガーネットは、とある場所に辿り着いていた。
煉瓦の塀が続き、鉄柵の門から敷地内が見える。子供が遊ぶ庭だ。
「ここは……孤児院か……」
皆が寝静まる穏やかな夜に、そうっと血の気配が忍び寄る――。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
世界への復讐を願うとは
余程お辛い過去があるのですね
更に
カルロスさんの口車に乗せられてしまって
本当にお可哀想です
早く見つけてお止めして差し上げたいです
ぽろろんと
リートを奏でながら月下の道行です
吹く風が心地よくて
見上げるお月さまも綺麗で
素敵な散策ですね〜
現れるのは
これまで出会った様々な世界の市井の方々です
予知があっても
全ての悲惨な未来を未然に防ぐことは出来ません
これまでご縁のあった方々
美味しい食事を作ってくださったり
演奏を聴いてくださったり
一緒に歌ったり
共に笑い合ったりした方々の未来が
過去の化身に消されてしまうかも知れません
それがとっても怖くて恐ろしいのです
少しだけ爪弾く指が震えるかも知れません
けれど
音色に耳を傾けて月を仰ぎ見れば
すっと心が落ち着きます
杞憂で心を曇らせてしまうだなんて
私たち猟兵が一番してはいけないことです
今を精一杯頑張る
猫の手の届く限られた範囲で
皆さんをお守りする
それが望む未来にきっと繋がると信じる
そんな想いを載せた旋律を影朧さんたちへ贈ります
幻と気づきをありがとう
さようなら
「華やかなるサクラミラージュを恨み呪う、弱く脆き影朧共よ」
幻朧戦線将校『カルロス・グリード』はサクラミラージュの、「世界への復讐」を果たしたい影朧たちに悪魔生物デモノイドを用意した。
「物言わぬ忠実なる走狗として、存分に扱うがよい」
あの時、カルロスの声は猟兵たちの――箒星・仄々のもとにも届いた。
彼が与えた無慈悲なる業をつい先ほど目の当たりにした仄々は、ふと敵の声を思い出し自身の黒い毛並みを総毛立たせる。
ふるり、身を震わせ怖気を払って、仄々は事件を起こそうとする影朧の声を追ってゆく。
(「本当にお可哀想な……」)
世界への復讐を願いそして果たしたいと強く思った影朧には、余程の辛い過去があるのだろう。
デモノイドの襲撃から逃れ知人のもとへ向かう商店街の住人たちを励ますように、そして今宵の月へと捧げるように、カッツェンリートの弦を爪弾きはじめる仄々。
ぽろろん♪
美しい流麗な音色は、美しい月夜にぴったりなもの。
「影朧さんを早く見つけて、お止め差し上げなければ」
仄々が想いを言葉にすれば猫の脚はもっと軽やかなものとなる。
月明かりに照らされるサクラミラージュの夜を行く様はまるで願いを携えた箒星。
幻朧桜の満開の花々を撫ぜ揺らしたり、夜影に溜まる冷たさを払ったりしている風はほのかにあたたかく心地よく。
風がたてる世界のメロディに合わせた指運を綴れば、即興の協奏曲となる。
(「この素敵な夜の散策を、見上げる綺麗なお月様を、音楽にして皆さんにおすそ分けしていきましょう」)
カッツェンリートを奏でながら歩んでいると、近くに寄ってきた影朧が一人を象った。
もう一体は寄り合った二つの影となり親子連れとなる。
おや、と仄々はその親子を注視した。
アックス&ウィザーズの祭り広場で交流した親子だ。演奏をしていた仄々に差し入れのジュースをプレゼントしてくれたのでよく覚えている。
異なる影朧が象るはダークセイヴァーで出会った孤児たち。
更に違う影朧は獣人戦線で祈っていた人へ。
一定時間、見覚えがある人の姿をした影朧は、一度揺らいで今度は違う人の姿となった。
仄々が覚えている縁の数々……懐かしく彼らを見守っていた仄々は、ふと気付く。
彼らの姿は少しずつ、前に出会った人へと遡っていくように変化していく。
一夜限りに咲く花を楽しむ村の人々――でも夜が明ければ、花はその存在を閉じた。次代へ命繋ぎつつも、自身は枯れ、骸の海へと向かってゆく生の時間。
示唆されたものに、ああ……と仄々は思う――。
(「予知があっても、全ての悲惨な未来を未然に防ぐことは出来ません」)
このケットシーの小さな手から零れたり、硝子のような綺麗な瞳に映らなかったり。
猟兵個人で出来ることなど、きっとほんの一握りで。
でもその一握りから芽吹いた未来は仄々にとってとても愛おしいものばかりだ。
(「これまでご縁のあった方々――美味しい食事を作ってくださったり――演奏を聴いてくださったり……」)
過去に演奏した曲を今ひとたび演奏すれば、ほら、皆の笑顔が鮮やかに脳裏によみがえる。
周囲の影朧たちの姿は未来に進む時を刻んでいく。
お祭りで演奏する楽団や、酒場でのセッションに湧いた歓声。
だが。
この楽しい時間の裏で、悲劇に蝕まれる誰かの時間がある。
(「……。一緒に歌ったり、ともに笑い合った方々の未来が……いつか、過去の化身に消されてしまうかも知れませんね……」)
それが恐ろしい。
ふるりと震えた身――夜の冷えではない。
爪弾く指も震えた。
(「いいえ、『とっても』怖くて恐ろしいのです」)
猫の指が少し強張り、指運が僅かに乱れた。優れた聞き手ならばすぐに気付くものだろう。
けれども仄々はそこで諦めずに爪弾いてゆく。
躓いても、楽譜の音符を見失っても、例え竪琴を弾けなくなっても。
仄々には世界の音色を聞く耳がある。
躓いてしまったのなら、慎重に歩けばいい。
楽譜の音符を見失ったのなら、探しながらゆっくりゆっくり弦を弾いていけばいい。
例え弾けなくなったのならば、動かぬ指を弦にあてて|弾《はじ》く。世界の音色を聞きながら真似ていけば、それはきっと音楽になる。
今宵聴いた風のメロディのように。
一音一音を月を仰ぎ見て捧げる。
そして忘れてならないのは、笑顔。
「杞憂で心を曇らせてしまうだなんて、私たち猟兵が一番してはいけないことですよね」
問うまでもない呟きは、恐らく未来の自身に向けて。
ぽろん♪ ぽろろん♪
調子の戻ってきた指運は再び流麗な音色を放って、続き力強い爪弾きを披露する。
(「今を精一杯頑張りましょう」)
猫の手の届く限られた範囲で。
(「皆さんをお守りする」)
夜に響き飛んでいく力強い一音を、柔らかな音色で包みこむ緩急ある演奏。
仄々はふくふくと猫のヒゲを揺らして。
(「それが望む未来にきっと繋がると信じていくのです」)
「私は、あなたたちのことも忘れません――。一緒に未来へ連れていきます」
今宵、今から、この想いをのせた旋律は影朧たちへ贈り物。
『一緒に?』
『猫ちゃんみたいに弾む音になってきたね』
「ええ、一緒に行きましょう。この音楽は今日の邂逅を記念したものですよ」
題名は何にしましょうか。
さわさわと囀る影朧たちに応える仄々。否、仄々の演奏に彼らが応えているのだろう。
『きねん?』
『すごいね。クリスマスみたい!』
『おたんじょうび!』
……周囲の影朧たちは子どもばかり。
仄々はぱちっと瞬きをして気付く。いつの間にか誘導されるように歩いていた。
大きな幻朧桜の下には遊具の置かれた園がある。
掲げられた看板を見て、は、と息を呑んだ。
「孤児院。影朧さんはまさかここで……?」
『みんなをよろしくね』
ここまで仄々を連れて来た影朧たちが一体、また一体と消えていく。
「……はい。幻と気づきを、ありがとうございました」
さようなら――。
別れの言葉は鎮魂曲にのせて。
大成功
🔵🔵🔵
エリシャ・パルティエル
商店街で親子連れを見ると
母さんのことを思い出すの
奇蹟の力を持つ母さんは
薬が効かない疫病も治せた
でも沢山の人を救う代わりみたいに
その病で命を失ったの
母親に甘えられる友達が羨ましかった
でもずっとその気持ちを押し込めて…
あれが影朧が見せる幻影?
まだ10歳ぐらいのあたしと
あの時母さんに救われたっていう人
あたしに感謝の言葉を述べるけど
この人たちがいなければ
母さんが命を落とすことはなかったのに…
小さいあたしは顔を背けてしまう
気持ちの整理がつかないのね
でも今になってわかる
あたしが母さんでも同じことをするわ
目の前に救える人がいるなら手を伸ばす
だから…
小さなあたしを抱き締めてあげる
大丈夫よ
物心つく前だったから
あなたは母親に愛された記憶がないだけで
でもとっても愛されているの
まぼろし橋で出会った母さんの言葉を
いずれ知ることになるわ
それにもうすぐ新しい家族が増えるの
血は繋がってないけど可愛い義弟よ
その子を大切にしてあげて
自分がしてほしかったことをしてあげるのよ
あなたには大切な家族がいて
いつだって愛されているから
「一緒に来てくださり、ありがとうございました」
「何とお礼をすればいいのか……」
「ううん、無事に子供たちと合流できて良かったわ!」
幼稚園に向かう人たちに同行していたエリシャ・パルティエルは、彼ら親子が無事に合流するのを確認して安堵した。
おとうさん! と幼い子が抱き着いてそのまま抱き上げられたり、母親と手を繋いだり。
皆が皆、待ちわびていた様子だ。周囲はもう暗い。調達した明かりが持ち手や足元を照らしていた。
「建物が崩れたり、道が瓦礫に埋まっていたり、幼稚園への道中も危険がいっぱいだったわ。他の道も混んでいるだろうし――気を付けて帰ってね」
商店街を避けての帰路となるだろう親子たちに手を振ってエリシャは見送り、彼らの背中に向けて聖女の祈りを捧げる。
生まれながらの光は疲労した皆の心身を癒し、それは帰路の安全を選びとる勘を冴えさせる。
(「どうか無事に家にたどり着けますように」)
穏やかな家へ帰れば、愛おしい時間が満ちている。
ふと、エリシャは幼い頃に繋いだ母の手もあんな感じだったのだろうか、と、先程みた親子たちの様子に想いを馳せた。
握り合った大人の手と子供の手。
奇蹟の力を持つ母の手は他者へと向けられることが多かったが、故郷で歩んだ帰り道では、その手はエリシャだけのものだったりしたのだろうか。
(「奇蹟の力を持つ母さんは、薬が効かない疫病も治せた――」)
たくさんの人を救った。
けれども、力を使い過ぎたせいだろうか、奇蹟の代償だろうか、奇しくも治し続けてきたその病で命を失った。
物心ついた頃にはすでに、よその家庭にいる『母親』がいなかった。
友達に会った日は、友達が家に帰れば母親に甘えられる事が羨ましかった。
でもそんな気持ちを吐露しても友達は困っていたことだろう。気持ちを押し込めて、幼いエリシャはやり過ごしたのだ。
生まれながらの光が月明かりに同化し融けてしまうと、瓦礫の影に潜んでいた影朧が這い出てくる。
『どうして』
『みんな、生きたかっただけ』
『でも、あたしは母さんにも生きていてほしかった』
あちこちの影から幼い少女の声が零れてくる。エリシャが振り向けば、俯いている幼い自身がいた。
『この人たちがいなければ』
『母さんが命を落とすことはなかったのに……』
エリシャの姿を象った影朧たちの言葉は、当時、彼女が声に出来なかったものばかり。
ぐっと言葉を吞み込んだ時のことを思い出す。
酸っぱい味がして、胸は苦しくて痛くて、息をするのも辛かった。
声を零した影朧は次にアックス&ウィザーズの市井の人々――見覚えのある衣装姿になった。
顔はよく見えない。きっとあの時、『エリシャ』は見なかったから。覚えたくなかったから。
エリシャの目の前に現れた影朧たちは、『彼ら』と10歳ぐらいの『エリシャ』、そして今よりも若い父の姿になっていた。
『ありがとう、ありがとう』
『うちの娘を助けてくれて』
『これはほんの、気持ちばかりの礼だが……』
薬が効かない疫病に、彼らの中にも間に合わず亡くなった家族がいただろう。
間に合わなかったと詰ることもなく、救われた者のために、皆、エリシャやエリシャの父に感謝を述べた。
顔を背けたエリシャに添えられる父の手。
それを見た彼女は思い出す――。
(「父さんの手は時々少し震えていたっけ……」)
まぼろし橋で出会った母は「後悔はない」と言っていた。
父も母を誇りだと言っている。母を――妻を傍で見守り支えてきたから。伝わってくる信頼と、言葉。
今となってみれば、エリシャにもわかる。
(「あたしが母さんでも同じことをするわ。目の前に救える人がいるなら手を伸ばす。――でも、この目の前のあたし……あの頃のあたしは……」)
エリシャは小さなエリシャを抱きしめる。落ち着かせるように背中をぽんぽんとさせて。
小さなエリシャはびくりと身を竦ませた。
「大丈夫よ。物心つく前だったからあなたは母親に愛された記憶がないだけで、でもとっても愛されているの」
声を紡いで、優しい言葉で伝える。
「まぼろし橋で出会った母さんの言葉をいずれ知ることになるわ」
『……?』
小さなエリシャは怪訝な表情になっていた。そんな彼女を安心させるように、エリシャは微笑んでみせる。
それにね、と柔らかな響きで続けた。
「もうすぐ新しい家族が増えるのよ? 血は繋がってないけど可愛い義弟よ。エリシャ、その子を大切にしてあげて」
抱きしめて、さするように少しだけ揺らして。
そうすると小さなエリシャは寄り掛かってきて、仄かに重みが増した気がした。
「自分がしてほしかったことをしてあげるのよ」
手を繋いで。
抱きしめて。
今のように明るい月夜の晩には内緒のお喋り。
お腹を空かせていたら、美味しいご飯を。
独りで居たら迎えにいく。
「エリシャ」
あなたには大切な家族がいて。
いつだって愛されているから。
想うエリシャから聖なる光が溢れでて、周囲の影朧たちを癒していく。
『わたし、してほしいことがあったの』
『迎えに来てほしい』
『かえってきてほしい』
『おかあさんのごはんが食べたい』
でもね。
ごはんは作ってくれなかった。
帰ってきてほしくなかった。
見つかりたくないから隠れる。
『痛いことをするのをやめてほしい』
『助けて』
と影朧たちはエリシャを導くように駆けていく。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『天空の申し子シエロ』
|
POW : 雷ゴロゴロ
【左手に持った雲】から【雷】を放ち、【感電】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 真っ赤な真っ赤な桜吹雪
【てるてる坊主】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【血に染まった桜の刃】で攻撃する。
WIZ : てるてる坊主てる坊主、血の雨を降らせておくれ
【てるてる坊主から血の雨】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:灰色月夜
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アイレキア・ベルフィオーレ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『迎えがこない可哀想な子たち。帰ったとしてもまた痛い日々? 必死に隠れ場所を探して可哀想だね。苦しいことは、憎いこと』
孤児院へと辿る道を伝うように、ふわり飛ぶ影朧がやってくる。
月明りのなか、道には雲影が流れていた。
この影朧の少女は――否、少年は、親に虐げられ、幼くして亡くなった彼の思いから生まれた影朧だ。
今でも親から逃れようとする心理が働いているのか少女の姿をしている。
『みんなみんな、悲しみと絶望と怨嗟に染め上げて、赤にして還してあげるね』
血の雨で濡れていく道には血に染まった桜花弁が降り積もり、ぱちぱちと雷気が迸った。
この影朧が「世界への復讐」を果たさんとテロルを起こす影朧なのだろう。
『邪魔するひとはみんなみんな赤に染めていこうね』
猟兵と対峙した影朧『天空の申し子シエロ』は不気味なほどに穏やかにそう告げた。
紅筆・古金
※連携、アドリブなどOKです
「世界への復讐、か」
苦しかったのだろう、悲しかったのだろう。親に虐げられ、亡くなった者……だが復讐などさせる訳には行かない。
UCによりダメージを一時的に無視しながら梅月で攻撃
とはいえなるべくダメージを抑えるようオーラ防御を使用し、近づけたら2回攻撃を行う。
「こんな悲しいこと、もう辞めようなぁ」
ユウ・リバーサイド
アドリブ連携歓迎
「あんな“過去”を見せた後じゃ
俺は偉そうなこと言えないな」
少年の憎しみを受け止める
奥にいる人々を傷つけさせたりしない
赤に染まるのは、人を傷つけた俺だけで十分だ
亡霊ラムプ掲げ
注目集め自分へと攻撃を誘う
根性で体の限界だって超えて耐えるさ
少しでも苦しさを重荷を吐き出した後の君に
周りの影朧に
仲間の皆の言葉を届せるために
それにここで倒れてられない
届かなくても
赦されなくても
俺は傷つけた人達に
世界に
贖い続けなきゃならないから
(“俺”の分もだ)
だからせめて
君達を助ける手助けをさせて欲しい
UC使用
回復しながら耐えつつ
“俺”が知る多様な都市伝説の幻に
俺の王子様としての光の力を重ねて少年の鎮魂を祈る
ガーネット・グレイローズ
随分と懐かしい記憶だった……さて、遂に事件の黒幕か。
「なんて痛々しい……」
胸に刺さるような敵意にも怯まず、足を踏み出す。子供の影朧か……。
【結界斬弦糸】で、鋼糸を防御結界として利用。
飛来する花弁の刃を迎撃していこう。
辛い気持ちは分かる。
私の《第六感》が、あの影朧から深い悲しみと絶望を感じ取ったのだ。
この子を撃つことはすぐにできる。だが、
その前にシエロの目を見て語りかける。
「さあ、その武器を放して」
大人として、子どもに罪を負わせるわけにはいかない。
「大丈夫。生まれ変わらせてあげる」
影朧は魂を転生させ、新たな命に生まれ変わるという。
幻朧桜よ、この子を暖かな日だまりの下へ導いてほしい。
『ああ、おとなだね。自身の善悪で暴力を振るう――』
猟兵たちを見た天空の申し子シエロは吊るし雛のように飾られたてるてる坊主や雲を掲げる。
まず戦場に迸らせたのは夜闇を切り裂く稲妻だ。閃光ともなう雷が刹那に闇を白く染め上げて紅筆・古金めがけて駆けていく。
「っ」
梅月の柄を握りながら古金が構えれば、彼の刺青に宿っている梅林の主が同化する。先祖の巫女は力を天に向け伸びる梅枝のように放ち、瞬時の避雷針がわりとして雷を方々へ散らした。
龍の如き雷音が空に放逐される。
古金の耳には悲しき咆哮にも聞こえた。
「世界への復讐、か」
苦しかったのだろう、悲しかったのだろう。
「親に虐げられ、亡くなった者……だが復讐などさせる訳には行かない」
古金の言葉に「そうだな」とどこか気遣わしげに呟き応えたのはガーネット・グレイローズだ。
「剥き出しの敵意が……これほどまでに痛々しいとは……」
彼女の視線の先には、近付くことをゆるさない雷気纏う影朧の姿。
シエロが放つ真っ赤な真っ赤な桜吹雪は頭上に咲き誇る幻朧桜を染めていくように。敷き詰められていく赤き花弁の絨毯――影朧の少年の、胸に刺さるような敵意にも怯まずにガーネットは一歩を踏み出した。
その時、シエロを中心に地面を這い空に突き上げていくような風が巻き起こり、花弁が地吹雪く。ガーネットに向け立てられた桜花弁の刃は容赦なく彼女を切り裂かんとする。
数多もの小さな刃をスラッシュストリングで払った――しかしこれはひらり舞う刃だ――可憐な凶器は舞いながらもよく知る桜花。
二度、三度と腕を振るい切り離した鋼糸を虚空へと送り出したガーネットはさらに念動力を扱い、防御結界を構築した。
二人の起動する防衛に迸る稲妻と赤い桜吹雪は阻まれる。鍔迫り合いの如き攻防が続いた。
一進一退の状況へ差し込むはユウ・リバーサイドが掲げた亡霊ラムプだ。
「あんな“過去”を見せられた後じゃ、俺は偉そうなこと言えないな」
やや自嘲気味な呟きを吐くとともに彼の脳裏に浮かぶは、人を傷つけた記憶。それが例えその人を、周囲の人々を気遣った言動であっても――。
「孤児院にいる子供たちを、人々を傷つけさせたりはしない」
赤に染まるのは自身だけで十分だ。ユウはBleu pétroleから零れる光を操り、幻影の都市伝説たちを戦場に発生させていった。
「我は語る。失われし過去の声を。今へと繋ぐ情愛の温もりを。未来へ誘う希望の道筋を……」
春一番なる強き風が赤い花弁を浚い、影朧の意識を惹きつけるユウの元へ放たれていく。
一瞬出来上がった何もない空間へ切り込んでゆくは古金とガーネットだ。
駆けと踏み込み、いちはやくシエロの元へと到達したのは古金。感電させるべく放たれた雷は、梅の枝花を伝うように彼の纏うオーラとともに払われてゆく。
『うっ』
抜刀した梅月で横一文字を描いたのち、刃を翻しての二刀目。僅かに後退るシエロへ放った袈裟懸けは吊るし雲の一部を霧散させた。
「こんな悲しいこと、もう辞めようなぁ」
『かなしい? これは救いだよ。だってみんな『|助かる《死ぬ》』んだから』
命尽きればもう痛くない、傷付かなくていい、怯えなくていい。
影朧の少年の善意は世界への復讐へと直結するものなのだろう。
古金は影朧を痛ましげに見る。影朧の殺意は無垢そのものだ。
古金の声は、彼から仄かに漂う梅香は、そして梅月の一撃は少年の荒ぶる魂を僅かに鎮めた。
一方、今やガーネットが織り上げた鋼糸の結界は繭のように。裂かれた桜花の刃は細々に散り、雪片のように虚空で掻き消えていく。
(「シエロの辛い気持ちは分かる――」)
ガーネットの第六感はシエロの……影朧の深い悲しみと絶望を感じ取ったのだろう。ガーネットとてその感覚を経験したことがある。
けれども、その時、彼女はもう大きかった。
だがシエロは、
(「この子は子供だった。この子を撃つことはすぐにできる。だが……」)
シエロへと近付いたガーネットは、少年の目を見て語り掛けた。真っ直ぐな視線にシエロは驚いた様子。
「さあ、その武器を放して」
(「大人として、子どもに罪を負わせるわけにはいかない」)
長年、大人というものをやってきた。
銃を手にする子供だって見たことがある。猟兵になる前は力及ばず、様々な想いを殺して生きてきた。
「大丈夫。生まれ変わらせてあげる」
猟兵の攻撃、ガーネットの声掛けに真っ赤な桜吹雪が弱まり、ユウの創りだした幻影たちは鎮魂と再生の光を強めていく。
(「少しでも苦しさを重荷を吐き出した後の君に。周りの影朧に。仲間の皆の言葉を届せるために」)
その時間を作る為ならば、と、ユウは敢えて攻撃を引き受け続けていく。
だが倒れるつもりは毛頭ない。
(「届かなくても、赦されなくても、俺は傷つけた人達に――世界に、贖い続けなきゃならないから」)
故にユウは改めて思う。サクラミラージュに声を届け続けていこう。
「せめて君達を助ける手助けをさせて欲しい」
猟兵たちに向けるシエロの攻撃は影朧としての勢いを徐々に削ぐ。対し、猟兵が繰り出す一撃には、瞬発的に対抗する力を生み出した。
(「サクラミラージュの影朧は魂を転生させ、新たな命に生まれ変わるという」)
いまは人を傷つける血の桜が舞っているけども、とガーネットは想い馳せる。
「幻朧桜よ、この子を暖かな日だまりの下へ導いてほしい――」
桜の精の癒やしがこの影朧に与えられるようにと彼女は願う。
『は、はは……こんな想いを向けられたことって、あったっけ……?』
猟兵たちの願いが届いたのか、てるてる坊主のひとつが解け、金の雫として消えるなか鈴の音が鳴った。
影朧と戦い慰める「ユーベルコヲド」が、言葉が、想いが、戦場に蔓延する過去の血臭を薄れさせてゆく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
ニコ・ベルクシュタイン
子は親を選べない、とは言うが
其の一言で済ませてしまうには、余りに不憫だ
此処はサクラミラージュ、転生による癒しが許された世界
やれるだけの事は、やってみよう
指定UCで死を司るものの霊を召喚
死神の鎌を振るって、血の雨を払っては貰えぬか
地獄の炎を操る霊ではあるが、火力は程々に抑えて欲しいと頼む
願うは転生への道行きだからな、テロル行為に対する罰程度で構わない
俺は幸い、生い立ちに恵まれていた故
お前の――お前達の胸中を理解出来るとは言い難い
だが、影朧のまま憎しみを抱えて在り続けて、其の先に何がある?
俺は桜の精では無いので願う事しか出来ないが
お前達の次の生にこそ、救いが見出せると信じている
受け入れてはくれぬか
『てるてる坊主、てる坊主、血の雨を降らせておくれ』
天空の申し子シエロが歌う。明日の天気を願うリズムは、ニコ・ベルクシュタインもよく知るものだ。
子を持つ親と、孫を見守る老人と――歌を聴いたニコの脳裏に過るのは彼らの懐に在った日々の頃。
魔術師の家、ごく普通とも言える一般家庭の家、代々政権を維持する家、様々な家庭を彼は見てきた。
(「子は親を選べない、とは言うが」)
子どもでもある影朧……恐らくは影朧たち、が、降らせる雨は赤い。触れれば裂けるように痛く、麻痺や呪詛なども含まれているだろう雨は明らかに生体を死に導くもの。
「……其の一言で済ませてしまうには、余りに不憫だな」
救いをもたらさなかった世界へ。
絶望しきった影朧、シエロが降らす雨一粒一粒は過去のひとりひとりが受けた痛みや悲しみにも思えた。
Bloom Starを手に、ニコは願い、告げる。
「鳴り響け八点鐘――彼の者を呼びたもう」
ニコが召喚した死神の霊が鎌を振るう。鎌刃が虚空を裂けば、血雨の音をかき消すように鐘の音が汽笛のように渡った。否、実際に地を叩く雨音が消える。落ちる前に払われて、後を追うは刹那の静寂。
「火力は程々に頼む」
そう告げれば、死神は地獄の炎を目に見えぬ熱へと変換したようだ。
二度、三度と振るえば血の雨が払われていく範囲が広くなる。
血雨に満ちた戦場だとよく見えることだろう。鐘の波長は海原の如く広がり、血の雨を迎え入れる――雨一粒が海に溶けていくように。
「俺は幸い、生い立ちに恵まれていた故、お前の――お前達の胸中を理解出来るとは言い難い」
四度目の鎌刃は下段からの斬り上げ。地吹雪の如く上昇する熱気は雨たちを勢いよく呑み込み、空高く霧散させた。
「だが、影朧のまま憎しみを抱えて在り続けて、其の先に何がある?」
『晴れた日に巡り合えればと思っているよ』
シエロは穏やかに応えた。
『晴れた日ならどこへでも……外に逃げられる。雨の日は家から出るのが困難だ。でも……』
晴れた日はのどがかわくね。
悲劇に見舞われた子どもたちにはどんな天気でも苦難が訪れた。
「……今も、喉が潤うことは無いだろう?」
『そうだね』
シエロは椀を作る様に手を合わせた。そこに血の雨が溜まっていく。
『でも、どうすればよかったの? 僕たちは飲むしかなかった』
先程に馳せたものを、つくづくとニコは想い返す。子は親を選べない。
等しく時を刻む八点鐘は終の刻をも告げる。――影朧たちが永遠なる此処から去れるように、と。ここはサクラミラージュすなわち。
「俺は桜の精では無いので願う事しか出来ないが、お前達の次の生にこそ、救いが見出せると信じている」
ここは転生による癒しが許された世界だ。
雨一粒をのせ重みに落ちてくる幻朧桜の花弁もまた葬送の鎌振るいとともに払われている。
母なる海の如く炎熱が広がる戦場で、血の雨は少しずつ浄化されていくように。
「どうか、受け入れてはくれぬか」
ニコの言葉に応えるように、満ちていた影朧の恨みつらみの感情は少しずつ薄れていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
真宮・奏
【星月の絆】で参加
私の両親は駆け落ちの末結ばれ、危険なダークセイヴァーの放浪生活の中でも私を愛情深く育ててくれました。瞬さんはダンピールで、祝福されない生まれでも生みの両親との日々は幸せだったと聞いてます。
だから、この影朧になってしまった男の子の気持ちも良くわかる。
だから受け止めます。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【ジャストガード】【拠点防御】【鉄壁】【硬化】【電撃耐性】で。
一時的に動きが止められても【回復力】で耐えます。
これが貴方の苦しみですか。いつまでも苦しんでいてはいけませんね。信念を込めて眩耀の一撃を。せめて悲しいこころが浄化されてこんどこそ光ある人生を。切に祈ります。
神城・瞬
【星月の絆】で参加
奏も生きることさえ困難でも両親のおかげで立派な騎士になりましたし、僕もダンピールでも生みの両親は愛情を注いでくれました。
僕ら夫婦はとても恵まれていたんでしょうね。だから影朧の元になった少年の悲しみも、苦しみも分かります。
だから、できるだけ痛みがない方法で転生へ導きたい。この子の場合は新しく光ある人生を送って欲しい。
月光の雨発動。いつもの絡め手はやめましょう。【高速詠唱】で【限界突破】。【浄化】【破魔】を秘めた【結界術】を敵に向けて展開。
【オーラ防御】【心眼】【回復力】で保たせながら、奏の攻撃にあわせて【追撃】で【誘導弾】を。
貴方はもう休んでいいんです。次の生への旅を。
闇が広がり危険が満ちるダークセイヴァー世界にて、真宮・奏(絢爛の星・f03210)の両親は駆け落ちの末に結ばれた。
想い合った人との間に子供が――奏が生まれ、彼女が物心ついた頃も、追手から逃げていたのだろう。放浪生活ではあったが両親は愛情深く奏を育ててくれた。
先見えぬ闇の空の下、けれどもそれは未来という希望の星を上げることができる。
両親はそういった希望を掲げていくのが上手で、奏は彼らの希望を見上げ生きてきた。
……それがすべて、真逆の状況だったら、どうなっていたことだろう。
奏は、シエロが天候としてもたらす悲しきものの数々に胸を痛める。
(「瞬さんはダンピールで、祝福されない生まれでも生みの両親との日々は幸せだった、と、聞いてます――」)
彼女の目の前にいるのは、いつだって、誰だって陥ったかもしれない力なき子供。
夫である神城・瞬(清光の月・f06558)をそろりと見上げる。
瞬もまた、同じようなことを思っていたのだろう。
オッドアイの目が優しく向けられていた。
「僕ら夫婦はとても恵まれていたんでしょうね」
瞬の言葉に、奏は頷いた。
(「奏は、生きることさえ困難でも両親のおかげで立派な騎士になりましたし、ダンピールとして生まれた僕でも、生みの両親は愛情を注いでくれました」)
苦難に満ちた環境を、子供の力で覆すのは困難だ。
奏と瞬には、希望を掲げ、共に手を繋いでくれる両親が在った。
影朧の元になった少年の悲しみも、苦しみも、子供時代の彼らに在って。
けれども彼らには澱みを掬ってくれた人がいた。
「――できるだけ痛みがない方法で転生へ導きたいです。この子の場合は新しく光ある人生を送って欲しい」
瞬の願いを込めた声に、奏は「はい」と答えた。
「男の子の苦しみを、受け止めていきましょう」
妻の穏やかな声に瞬は刹那に微笑み、周囲に月光の雨を降らせる。
『優しい、おとうさん、おかあさん。僕も欲しいな?』
強請る様に呟いたシエロがてるてる坊主を振り、血に染まった桜の刃を放つ。それらを撃ち落としていくのは月光の光線だ。
浄化と破魔の力を宿す光条は怨みつらみに染まった赤き刃を霧散させていく。
彼の光を貫き駆けるは敵の雷閃。
近づけさせまいと振るわれ放たれる稲妻の嵐に飛び込むは奏だった。
両親が掲げた希望の空を見上げ育ってきた奏は、彼女自身が希望とあれる。
ブレイズセイバーを薙げば、雷閃は弾かれ空高く放逐されていった。
月の光の癒しを受けながら、奏が受け止めていく影朧の痛み、苦しみ、悲しみ……。
「いつまでも苦しんでいてはいけませんよ――」
(「せめて悲しいこころが浄化されてこんどこそ光ある人生を」)
信念を宿す奏の剣から放たれるは眩耀の一撃。
剣刃に瞬がもたらす癒しの月光を映して。
「貴方はもう休んでいいんです。――次の生への旅を」
子供から大人へ。
成長した二人が放った慈雨なる一撃は、闇深き影朧に一番星を宿すように。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シリン・カービン
不幸はどんな世界にも存在する。
この世界にも、私の世界A&Wにも。
だからと言って、それで諦めなければならない謂れは無い。
それに、ここはサクラミラージュ生まれ変われる世界なのだから。
雷の精霊を宿した精霊猟刀を【雷ゴロゴロ】のタイミングに合わせて
地面に投擲。避雷針代わりにする。
「あなたの行いは止めます」
「これ以上あなたの辛さが増えない様に」
シエロを中心にUC発動。揺り籠のような形になった蔦は幻朧桜にも絡ませる。
体力が吸い出されると共に幻朧桜の力で辛い記憶も癒されていくように。
子守唄を口ずさみながら、蔦を重ねていきます。
もうお休みなさい。きっと次の生では違う幸せと出会えるから。
エリシャ・パルティエル
そう…あなたも辛かったのね
あたしが経験した寂しさとは違う
誰かを憎まずにはいられない絶望
全ての親が子どもを愛してるなんて幻想だってわかってる
義弟も言葉を失うくらい酷い目に遭って…
でもここにいる子たちの未来を奪わせるわけにいかないわ
傷つける人がいれば
癒す人もいる
ああ、あなたも抱きしめてあげたいけれど
あたしも都合のいいことを言うずるい大人なのかしら
それでも
願わずにはいられない
目の前の子の魂が安らぐことを
だってここはサクラミラージュだもの
復讐を果たしてもあなたの未練は晴れないわ
本当に欲しかったものはそんなものじゃないでしょう?
その傷を癒して今はおやすみなさい
今度こそ温かな日々があなたを包みますように…
――かわいそう。
ふと思い立ったように突き立てた刃は柔らかな肌に食い込んだ。
――くるしかったよね。
顔を真っ赤にして痛みに泣き叫ぶ子供の瞳に映っているのは、何だったか……。
世界への復讐を果たしたいと願う影朧が力を手に入れ、テロルを行っていく――復讐心の起点はすべて在りしの日にあるものだ。
澱みを長期に溜め込んできた影朧の荒ぶる魂。
今日の長きさなかに影朧の抱えるものを垣間見た猟兵――エリシャ・パルティエルは天空の申し子シエロへ声を掛けた。
「そう……あなたも辛かったのね」
優しく、柔く、けれども決して引かないという強さを添えて。
「あたしが経験した寂しさとは違う。あなたが宿すのは、誰かを憎まずにはいられない絶望」
エリシャとて、全ての親が子どもを愛してる、だなんて幻想だと分かっている。
子ども食堂を始めてからはより顕著に感じることだ。
経済的に貧しくても仲の良い家庭があれば、親から放置された子だっている。
美味しいという味覚を失う程の精神的苦痛、だが食べなければ生きていけないし、様々な未来へ繋ぐこともできない。まずは『食べる事』――できれば美味しく――を提供していくことに決めたエリシャだが今もまだ試行錯誤の日々に在る。
(「義弟も言葉を失うくらい酷い目に遭っていた……」)
共によく食べてよく眠った先に、今がある。心を砕くということを実感した日々だった。
過去に想い馳せながら、でも、とエリシャは言葉を続ける。
「ここにいる子たちの未来を奪わせるわけにいかないわ」
一瞬だけ孤児院の方に目を向けて、シエロへと言い聞かせるように。
『どうして? 生きていたって苦しいだけ』
吊るしたてるてる坊主を振れば血の雨が降り始める。
「いいえ」
その時、シエロへ否と応えたのはシリン・カービンだった。
「それを決めるのはあなたではないのですよ――不幸はどんな世界にも存在します。この世界にも、私が住む世界……アックス&ウィザーズにも」
オブリビオンの襲撃を受けてシリンは弓ではなく銃を選ぶ道へと入った。
大人も、子どもも、刹那刹那に訪れる選択肢を自身で選んでいく。
苦しくても生き抜いて、見てみたい未来があるかもしれない。
見てみたい未来はなくとも、苦しくても、ただ、生きていきたいかもしれない。
「あなたの辛さはあなたのもので、誰のものでもない。そしてそれは逆も然り、なのです」
誰かの痛みを、苦しみを、憎しみを、背負う必要はない。
「幸福を諦めなければならない謂れは無いのです。……影朧であるあなたにも残された選択肢はあるのですよ」
シリンは淡々とけれども優しく告げる。
「ここはサクラミラージュ。影朧が、生まれ変われる世界なのだから」
「……あたしも、願わずにはいられないわね。この子の魂が安らぐことを――」
シリンの言葉にエリシャは頷く。
幸せがある道など残されていなかったであろう影朧の過去。
だが、影朧となったからこそ出来た幸福への導。
しかし荒ぶる魂を内包する影朧にはその道は今だ見えず。
『僕にはそんな都合がいい|道《世界》なんて見えない!!!』
シエロの左手にある雲からいくつもの雷閃が放たれる。
「シリン!」
「下がって!」
稲光と耳を劈く雷鳴。
エリシャより前に出たシリンが精霊猟刀を投擲した。
鋭く放った猟刀が一瞬にして敵雷の軌道を奪い、地面に突き刺さる。
「あなたの行いは止めます」
避雷針代わりにした精霊猟刀は折れてもおかしくない程の雷閃を受けるが、猟刀に宿した雷の精霊が限界を越えた内包をゆるしていた。
「これ以上あなたの辛さが増えない様に」
シリンがユーベルコード『Ivy cocoon』を発動すればシエロを中心に蔦が発生した。彼女が歌うように言葉を紡げば、蔦は絡まり合いながら急激に成長していく。シエロを囲う形で、周囲の幻朧桜にまで伸びていった。
シリンは普段から迷いなく決断を重ねていく。淡々と、時には冷徹に。けれども、それに裏打ちされているものは――。
「これは子守唄ね……優しいのね、シリン」
エリシャの呟きに振り返ったシリンは、歌いながら自身の唇に人差し指をあてた。ツンとした眼差しは「そうでもないですよ」と告げている。
編まれ揺り籠状になっていく蔦を見て、エリシャは微笑む。
ゆらりとIvy cocoonが動けば、シエロのてるてる坊主も優しく揺れて、降っていた血の雨が呼応する。
エリシャは祈るように組んでいた両手を僅かに開く。右掌の星型の聖痕から聖なる光が零れた。
降るのは赤き雪のようなものへ。
「傷つける人がいれば、癒す人もいる。――ああ、あなたのことも抱きしめてあげたいけれど……あなたにとっては、あたしも都合のいいことを言うずるい大人なのかしら?」
幻朧桜に伝った蔦は影朧の持つ憎しみを少しずつ浄化していく。
『抱きしめてくれる腕なんてなかったし、子守唄なんて、うたってくれる人じゃなかった』
「それはあなたが欲しかったもの?」
『……わからない』
経験したことのない揺り籠に乗り、揺れを感じながら、初めて、歌というものを聞くシエロ。
エリシャの放つ聖エステルの秘蹟は赤き雪雨を虚空に滞空させるように揺らし、刹那に安らぎの空間を作り上げた。
「復讐を果たしてもあなたの未練は晴れないわ。本当に欲しかったものはそんなものじゃないでしょう?」
例えば、エリシャが幼い頃に欲した『母親』との優しいやり取り。
頭を撫でてくれる手のひら、紡がれる子守唄や眠りに導くリズム。
「シエロ」
「その傷を癒して今は」
もうお休みなさい。
シリンとエリシャの声掛けに訪れるは、まどろみ。
「きっと次の生では違う幸せと出会えるから」
「今度こそ温かな日々があなたを包みますように……」
二人の言葉が、願いが、影朧の導として芽吹くように。
残された僅かな時間に影朧が見る夢は、見たことのない優しき夢。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
箒星・仄々
お可哀想に
影朧さん達には
とても辛い過去がおありになったのですね
どれだけ辛く悲しかったことか
シエロさんが怒りや憎しみを覚えるのも
理解できます
そして他者へそれをぶつけても
シエロさんの心は更に辛くなるだけです
他の影朧さんからシエロさんを止めるよう
お願いされました
海での安らぎを贈りましょう
引き続き竪琴を演奏します
今日は素敵な月夜です
雨なんて無粋ですよ
ましてや血の雨なんてもっての外です
孤児院の建物や遊具を魔力へと変換
ちょっとお借りしますね
演奏に合わせて魔力が踊るように
雨を
炎で蒸発させたり
水膜で遮断したり
旋風で吹き飛ばして防御
更にてるてるさんを
燃やしたり押し流したり吹き飛ばしたりします
てるてるさんが雨を降らせちゃだめですよ
シエラさんを
緋蒼翠の輝きで包んで海へと送ります
安らかな眠りを願い演奏を続けて
鎮魂の調べとします
束の間の静寂――。
「『今は』静かな月夜にふさわしき、花吹雪ですねぇ」
カッツェンリートを携えて、幻朧桜の花弁が舞い散る孤児院前の通りに箒星・仄々は辿り着く。
そこには眠りから目覚めたばかりの影朧、天空の申し子シエロの姿。
吊るし雛のように持つてるてる坊主の数は少なくなっている。
「シエロさん、こんばんは。他の影朧さんからシエロさんを止めるよう、お願いされましたよ」
優しく告げる仄々に、シエロは首を振った。
『……影朧の皆は、僕と同じ……苦しくて、つらくて、死んでいった子たち』
「……、心配している方もいましたよ」
幼い子供の影朧を心配していた、大人の影朧も。きっと強い心残りがあって影朧となった。
「皆さんと約束したのです。シエロさんに海での安らぎを贈ることを――」
ポロロン♪ と流麗な竪琴の音が、美しき月光の降り注ぐ場に渡ってゆく。
仄々が弾く鎮魂の曲は、ここまで送り届けてくれた影朧たちや目の前のシエロのためのもの。
(「お可哀想に――影朧さんたちには、とても辛い過去が……」)
どれだけ辛く悲しかったことか。
絶望や憎しみに囚われた彼らが、仄々たち猟兵にシエロを託した。彼らにも桜の精の導きで転生が叶うことを願う。
その助力となれるよう、仄々は心を込めて、荒ぶる魂を鎮める音色を。
「シエロさんが怒りや憎しみを覚えるのも理解できます。ですが、他者へそれをぶつけても、シエロさんの心は更に辛くなるだけです……」
仄々の若葉色の瞳が潤む。
『そうかな? きっと感謝してくれる……つらい日からの解放、苦しい日からの解放』
かわいそうな子供たちがぎゅうぎゅうに詰め込まれた、孤児院。
『僕はやさしいからね。可哀想な子たちが憎しみを覚える前に。壊して、解放してあげるんだ』
てるてる坊主てる坊主、血の雨を降らせておくれ♪
竪琴の演奏に合わせて、ふわり、ゆらりと歌ったシエロがてるてる坊主に願い、血の雨を降らせる。
「シエロさん……今宵は素敵な月夜なのです。雨なんて無粋ですよ」
ましてや、と仄々は竪琴の曲調を変えた。
トリニティ・シンフォニーを発動させれば、孤児院の塀や庭にあった遊具が魔力に変換される。
「血の雨なんてもっての外です」
水の魔力となった塀は仄々の頭上にたくさんの魔力の傘を作り上げる。
パタッ、パタタン、パタパタ――風の魔力で傘を薄らと覆って膜を張れば、雨の音楽。
奏でられる雨音に耳を澄ませながら、猫の指先が弦を弾く。
「てるてる坊主てる坊主、雨を降らせちゃだめですよ」
シエロの歌を返すように仄々が歌う。
指を弦の上で駆けさせると、ポロロロン~♪ と高らかに走っていく音色。
炎の魔力が昇って赤き蒸気がまるで龍のように空を巡った。
演奏に合わせて踊る仄々の魔力たち――まるで日中の孤児院の庭のように賑やかだ――いや、仄々は塀や遊具たちが知る賑やかさを想い演奏しているのだろう。
「シエロさん、てるてるさんは本当は晴れを願うものなのです」
幼い子供に教えるように、仄々は優しく告げる。
二人を取り巻く緋蒼翠の輝きは、
『さっきみた夢の色……』
芽吹いた気持ちにシエロが再び想い馳せてゆく。
「シエロさんのてるてるさんのお顔は、どんな表情をしていますか?」
悲しそうですか?
嬉しそうですか?
それとも、ひょうきんな?
「|未来《あした》を願う、|てるてるさん《みんな》は」
月の光も、赤い雨の色もない、オーロラの輝きが刹那に響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
【かんにき】3人で
おや?そこに居るのは脇差おじさん
もしやわたし達を迎えに来てくれた?
ふふ、嬉しいね小太…あれ?いつの間にかいない
嬉し過ぎて飛び出しちゃったかな?
ん、この嬉しい気持ち
シエロは知らなかった、「そう」ではなかった、逃げなければならなかった
…迎えに来てくれる人が在るわたしにはきっとわからない感情
どう接すればと少し悩んでると、こういう時にはちょっと少しこの位(指ちょこん)頼もしいおじさんの姿に勇気をもらい、きっと向き合う
赤には染まってあげられない
わたしに出来ることは「還して」あげるだけ
【あたたかな光】
対象は桜の刃の攻撃範囲内の人達
あんぶれら形のオーラを対象者達に発射
シエロ、てるてる坊主は雨止みを祈るもの
あなたの血も、涙も、いつか止む日が来るといい
それまで、おやすみなさい
色々終わったら、さ、脇差おじさん、小太刀達探しにいこう
大丈夫、おじさんはちゃんと「お父さん」してる
木元・祭莉
【かんにき】
……なんかカナタの呼び声が聞こえたような?
あ、アンちゃん。来てたんだ。
脇差おじさんも。
え、父ちゃん母ちゃんも来てるの?
もー、すぐはぐれるんだから。後で迎えにいかなきゃだね!
親が恐い?
そりゃそうでしょ。(しれっと)
何してくるかわかんないもんね☆
後ろから蹴られて、穴に落とされたり。
うさメイド服、押し付けてきたり!
優しいこともあった?
そだね、お菓子くれたり、武道の手解きしてくれたり。
でも、機嫌悪いと拳骨もくれるし、ごはんも抜かれるよ?
酷い目にあわされた『相手』を恨むのは仕方ないケド。
関係ない人まで巻き込むのはダメだよ?
仕返ししていいのは、本人にだけ。
だから、今はキミを止めるね!
舞扇を飛ばし、爆発で目眩まし。
絆で縛って、動きを止める。
おいらが動けないなら、キミも動けなくしてあげる!
痛かった?
おいらのコト、憎い?
ん。優しくもするし痛くもする。
ヒトってそんなモノだよ。
あんまり思い詰めないで。
家族は親だけじゃないよ。
次はもっと増えるといいね!(正拳!)
さ、親と弟と幼馴染を迎えにいこっか♪
鈍・脇差
【かんにき】
漸く杏と祭莉を見つけたと思ったら
今度は毛玉達が迷子かよ(溜息
通りで頭の上が軽いと思ったぜ
まあその内見つかるだろうし放っておくか
問題はこっちだな
シエロの両親がどんな奴だったのかは分からない
何であれ彼が傷ついた事実は変わらないし
過去もまた変えられない
それでも未来なら…
だが俺なんかで伝えられる自信は正直無くて
仕方ない、ここは得意な奴らの力を借りよう
海の仲間の中でも育児と『優しさ』に長けた者を召喚する
…って、鎧武者も一体混じっているがまあいいか
穏やかな海の様に
温かな雨の様に
怖がる彼の心を優しく包み癒して欲しい
転生は怖いか?
そうだよな、また同じ目には遭いたくないよな
お前の言う通り世界はいい事ばかりじゃない
でもな、嫌な事ばかりでないのも確かだぞ
俺はお前にも、そんな世界を知って欲しいと思ってる
『お前達』の未来を、その先の幸せを願ってる
…さあ、そろそろ迎えの時間だ
用意が出来たら行ってこい
わしゃわしゃと頭を撫でて送り出す
桜の精に桜の癒しを頼み幻朧桜の導く先へ
海の仲間達にも途中までの供を頼みたい
時は真夜中。
影朧の案内に導かれて、ひと気のない路地をいくつか通り抜けていく。
月の光は建物に遮られ深い闇に覆われた道を駆け抜ける。
不思議な影朧を追っていた木元・杏が再び明るい道へと出れば、そこには月光に照らされ銀髪にも見える、覚えのある人物がいた。
「んむ? ややや? そこに居るのは脇差おじさん」
「杏か。ようやく見つけたな――」
杏が駆け寄っていけば、ハァと溜息混じりに鈍・脇差が呟いた。
「もしやわたし達を迎えに来てくれた?」
「……まあ、そうだな。もう夜も遅いしな……って、見つけたは良いが、今度は毛玉たちがいねぇ……」
通りで頭の上が軽いと思ったぜ、と自身の髪をかきあげる脇差。彼らも良い大人だ。放っていても問題ないだろう、と早々に木元家両親に対しての思考を放棄した。
「ふふ、嬉しいね小太……あれ? いつの間にかいない。刀も」
さっきまで一緒に路地を駆けていたはずの小太刀と刀がいない。杏は不思議そうな表情で周囲を見回した。
先程まだ幼かった頃の小太刀を垣間見た脇差は一瞬複雑そうな表情になる。
その時。
「んん? あれー、こっちからはアンちゃんの声?」
狼耳をぴこぴこ動かしながら別方向の路地からそろりと出て来るは木元・祭莉(しかもかっこいい音速・f16554)。
杏と脇差の姿を見つけてにぱっと笑顔。「やっぱり!」と元気に駆け寄ってくる。
「アンちゃん。来てたんだ。脇差おじさんも! カナタは~? おいら、めちゃめちゃ呼ばれた気がするんだけど~」
ちょうど科学してたんだよね!
駆け続けてきたみたいに、祭莉の頬はすっかりと上気していた。
「木元家大集合だな……」
ぽつりと呟いた脇差の言葉に、祭莉と杏はぱっと顔を上げた。
「え、父ちゃん母ちゃんも来てるの? もー、すぐはぐれるんだから。後で迎えにいかなきゃだね!」
「ふふ。お迎え、嬉しい」
反応はそれぞれだが、まんざらでもない、くすぐったそうな双子の様子に脇差は苦笑した。
『いいなぁ……』
羨ましげに渡ってきたのは影朧の声だった。
三人が声の方を向けば、案内してきた影朧たちの姿はなく、月光の下、地に影を伸ばしている天空の申し子シエロがそこにいた。
猟兵たちとの戦いで欲しいものの夢を見て、他の影朧の願いを聞いて、少年の芽吹きはすっかりとこい焦がれたものになっている。
『やさしい、おとうさん、おかあさん?』
「ん」
そうだよ。という風に杏は優しく頷いた。この嬉しいと思った気持ちをそのままシエロに分けたいと思ったのだろう。
でも、
(「シエロは知らなかった、「そう」ではなかった、逃げなければならなかった」)
出会った影朧の様子から、シエロの事情は窺い知ることしかできない。
(「……迎えに来てくれる人が在るわたしにはきっとわからない感情」)
両親は厳しい時もあるけれどそれは愛情ゆえのもの。
「キミの親は恐かったの?」
『うん。僕たちの親は恐かった』
躊躇なくストレートに尋ねる祭莉と、同じく躊躇なく返すシエロ。どことなくあっけらかんとした二人のやり取りに脇差は目を瞠った。
恐いの内容が盛大にすれ違っている気がする。
(「シエロの両親がどんな奴だったのかは分からない。何であれ彼が傷ついた事実は変わらないし――」)
過去もまた変えられない。
脇差の脳裏に過るのはシルバーレイン世界での戦いの日々だ。あの時があって、今の自身が在る。
(「それでも未来なら……」)
思い馳せると同時に、双子や小太刀たちのことを想う。
彼女たちの存在は何だか、安心して歩いていってもいいんだよと脇差に告げているようで。
そんな未来に向けた安堵を、この影朧に伝えることが出来たらと彼は考えた。――上手く伝えられる自信はないけども……。
「俺がやれることと言えば――」
脇差の呟きが聞こえた杏は、彼を見上げた。
難しげな表情は真剣に悩んでいることを示している。
(「おじさんも悩んでる?」)
シエロへの接し方に悩んでいた杏は、自分と同じく悩んでいる脇差の様子にほっとした。
(「大人も、悩む」)
きっとこれからも様々なことに悩んでいくのだろう。
そんな二人の傍らで祭莉とシエロのやり取りは続く。
「親ってなにしてくるかわかんないよねー☆ 後ろから蹴られて、穴に落とされたり。うさメイド服、押し付けてきたり!」
『……きみ、かわいそう』
シエロが可哀想、かわいそう、と呟いた。少年自身の声だったり、彼の影から零れてくる声だったり。
「んー、かわいそうじゃないよ。おいら」
にぱっと笑うも、『かわいそうだから殺してあげる』と、シエロが吊るし雲を振るえば雷が放たれる。周囲の夜闇に雷閃が駆け、虚空が電気を帯びれば祭莉の尻尾がぶわっと逆立った。
「お菓子くれたり、武道の手解きしてくれたり。優しい時もあるケド。
あ、いや、でも、機嫌悪いと拳骨もくれるし、ごはんは抜かれるね?」
酷いよねー!
ニコニコと祭莉が言えば、いたましそうにシエロは再びかわいそうと呟いた。
『そんな親がいるのは嫌でしょう? 僕たちと一緒にいこうよ。殺してあげるから』
『可哀想な祭莉』と『親』。二重の意味の『殺してあげる』だ。
語る環境を、自身の物差しで判断する影朧に、祭莉は再び否を告げた。
「嫌じゃないよ。キミじゃなくて、本人の気持ちがね、だいじなんだよ。
酷い目にあわされた『相手』を恨むのは仕方ないケド。関係ない人まで巻き込むのはダメだよ? 仕返ししていいのは、本人にだけ」
感電し痛みが走る腕を振るい舞扇の幻影を放つ祭莉。
「だから、今はキミを止めるね!」
舞扇の幻影がシエロに当たり爆破が起きれば、オトナには見えない夢色の絆が繋がれる。
子どもにしか分からない世界が、そこには在った。
『……!?』
きょうだいがいれば一緒に隠れられる子ども。
下の子を守る兄姉。
子どもの絆が祭莉とシエロを結ぶ。
助け合う小さな手の中には、もちろん酷いことをしてくる手もあることだろう。
『僕たちの絆……?』
放たれた舞扇――ユーベルコヲドを扱った祭莉の手は、荒ぶる影朧を鎮めるもの。
「痛かった? おいらのコト、憎い?」
夢色の絆を与えられたシエロは首を振った。祭莉はニコッと笑って頷く。
「ん。優しくもするし痛くもする。おいらもキミもね。ヒトってそんなモノだよ。あんまり思い詰めないで」
遮那王の刻印には祭莉が結んだ絆と約束がたくさん詰まっている。これは祭莉が培ってきたものだ。
(「不思議なものだな」)
少年二人の様子を見て、脇差は素直にそう感じた。暗殺者として育てられてきたが故に裏切りも常で、約束や絆、心地の良い言葉などは警戒の対象――子供時代ですらそうだった。
影朧であるシエロの中にはたくさんの子供の心が詰まっているのかもしれない。そのどれかが琴線に触れたのかもしれない。
自身が子供の頃に祭莉に、いや、銀誓館学園の者たちに出会っていれば何かが違っただろうか。素直に手を取れるようになっただろうか。
「……考えても栓無き事だな」
自身に与えられる『優しさ』があるのかどうか、少しでも培われたのかどうか、脇差は自身では判断できない。ならば、と竜宮の玉手箱を手に召喚するのは――。
「波間より来たれ我が友」
シエロが降らせる血雨。それを呑み込む海風が巻き起こり、イルカが過っていった。後を追うのは何だか溺れるような動きで泳ぐ鎧武者…………しばし神妙な顔で鎧武者を見守っていた杏は、こくりとひとつ頷き、あたたかな光で舟を作ってやった。
その合間にも宙にタツノオトシゴ、シャチ、ウミグモといった7体の海の生き物たちが現れる。
(「穏やかな海の様に、温かな雨の様に」)
脇差がそう願えば、彼らはそこが海の中であるかのように自由に自在に泳ぎ回り始めた。……1体は光の舟を漕いでいるが。
海での子育てと優しさに長けている彼らは、安心して、と告げるようにシエロの周囲を大きく巡る。海風に薙がれ血の雨は渦を作る。
「シエロ」
脇差の創る海に微笑んで、杏は影朧へと優しく声を掛けた。
「わたしたちは、赤には染まってあげられない。わたしに出来ることは『還して』あげるだけ」
そうして離した自身の親指と人差し指をシエロに見せる。
「ちょっと、少し、……この位?」
親指と人差し指の間を狭めて、にこり。
「|未来《まえ》にゆく勇気を出そう。ほんのちょっぴりでだいじょうぶ。これは、わたしが今出した勇気」
この影朧と杏の育ってきた環境はあまりにも違う。
どう接すればと悩んでいたけれど――それはきっと脇差おじさんも同じだったけれど――共にあたたかな海原へ、誘う勇気を杏は持って。
アンブレラの形のオーラは、猟兵や影朧たちに舞い落ちてくる真っ赤な桜花弁の刃を払っていく。
「シエロ、てるてる坊主は雨止みを祈るもの。あなたの血も、涙も、いつか止む日が来るといい」
そう言った杏が差した光の傘は、少し丸くて、天辺にちょこんと乗る球体がてるてる坊主を思わせるものだ。
『でも新しい場所も痛いところだったら?』
不安そうなシエロ。脇差は彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「そうだよな、また同じ目には遭いたくないよな。お前の言う通り世界はいい事ばかりじゃない」
でもな、と続ける脇差の表情は穏やかなものだった。
「嫌な事ばかりでないのも確かだぞ」
銀誓館学園で、そして縁の出来た武蔵坂学園で。
辛く厳しい戦いや穏やかな日常を過ごした記憶は今でも鮮やかに甦る。それが連綿と受け継がれゆく、連続したひと時は健在だ。
「俺はお前にも、そんな世界を知って欲しいと思ってる。『お前達』の未来を、その先の幸せを願ってる」
「脇差おじさん! こーゆー時は、いってらっしゃい! の笑顔しなきゃだよ~☆」
祭莉の助言に思わず引き攣った笑みを浮かべる脇差である。
祭莉はにぱっとした笑顔をシエロにも向けた。
「キミも! こーゆー時は、いってきます! って笑顔笑顔。家族もね、親だけじゃないよ」
妹や弟、おじさんもいるし~と最終的に祭莉が示したのは光の舟に乗る鎧武者だった。
『お姉ちゃん、いるといいな。弟、できるといいな』
シエロの口を借りて、影朧たちが細々と願う。顔を見合わせた木元家の双子は、うん、と頷いた。
「……さあ、そろそろ迎えの時間だ。用意が出来たら行ってこい」
脇差の言葉と、祭莉が繰り出すは鼓舞する拳。
「家族、次はもっと増えるといいね! いってらっしゃい!」
拳はシエロの姿を砕くと同時に影朧たちを散らした。
海の仲間たちが泳いで出来上がった光の渦へと呑み込まれていく。
脇差は海雨をさらに繰って。
――桜の精に桜の癒しを願い、幻朧桜の導く先へ――。
船頭よろしく鎧武者が、脇差たちに向かって陽気に手を振った。
「脇差おじさん、あの鎧武者のおじさん、桜の精なの?」
「……違うと思うぞ」
「桜の精……幻朧桜から生まれる美しき妖精種族。影朧を転生させる……。なるほど」
「どう見ても妖精じゃないだろ」
指差す祭莉と、ぽんと手を打つ杏と、それぞれに否を告げる脇差。
「まーまー、おじさん。さっ、父ちゃん、母ちゃん、カナタとコダちゃんを迎えにいこっか~♪」
明るい祭莉の声に、脇差は一瞬だけやや怯む。それに気付いたのは杏だった。
「――大丈夫、おじさんはちゃんと『お父さん』してる」
だから行こう。
杏は『によっ』と笑んで、指ちょこん。親指と人差し指でほんのちょびっとの勇気を示す。
「わたしたちも、お迎えの時間」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵