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贄の栖

#サイバーザナドゥ #アバドン・カンパニー

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#サイバーザナドゥ
#アバドン・カンパニー


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●贄
 ごぉん、ごぉん、と太い金属のパイプに鈍い音が反響する。
 欠けて剥がれたコンクリートパネル。剥き出しの鉄骨。
 無骨で古びた工場の設備の中を、不揃いな足音が往く。|機械化義体《サイバーザナドゥ》に換装された足が混ざるからだ。誰の足音にも覇気はなく、ふらつく足は機械でなければ骨と皮ばかりだ。
「さぁ、早くお進みください」
 美しい女の顔をしたレプリカント達が、その腕から触手と端子付きのコードを伸ばし、力なく巨大な機器に据えられた透明なカプセルの中へと進んでいく|人間《サイボーグ》たちを誘導する。
 人間たちの瞳にはほぼ光と呼べるものは宿らない。
 それでも時折、『それ』を宿すものが居る。
「もう嫌だ!! 帰らせてくれ!! このままじゃ……このままじゃ、オブリビオンになるだけだ!」
 喚き始めた人間を、異形のヘルメットの男は「あちゃあ」貴族が如き礼服の袖が汚れるのも構わず、酸化した金属の手すりに腕を預け、見下ろした。
「困ったなぁ。ディーナオシーMk8、またケアを頼むよ」
「承知しました。さぁ、こちらへお越しください。メンタルケアを開始します」
 ヘルメットの男が指示すると、レプリカント達は触手とコード端子を伸ばし、喚いた人間を捕らえた。最初こそ大声で騒いでいた人間も、次第にだらりと力を喪い、瞳から『それ』を失くしていく。
 レプリカントがそのままカプセルの中に人間を放り込む。「あ、」ヘルメットの男はふと思い立ったように声を掛けた。
「そいつ、『海』多めにしてみようかな。いい『ユーベルコード』が生まれるかも」
「承知しました」
 指示を出すと、ヘルメットの男はご機嫌に鼻歌を歌いながら、施設の奥へと消えた。

 そこは奴隷工場。
 『骸の海』を人為的に過剰投与し、『ユーベルコード』を覚醒させた──オブリビオン化させたとも呼べる──生物兵器を生み出す場所だ。

●グリモアベース
「元は低賃金労働者ってヤツに仕事を斡旋するって|体《てい》でひとを集めてるみたいなんですがね。蓋を開けりゃなんてことはねー、単なる奴隷工場だったってな話です」
 人間を生物兵器にするなんて所業は、いかなサイバーザナドゥであろうとも違法行為だ。
 ただし──『法』などあってないような場所であるのも、サイバーザナドゥだ。
「あんた達に乗り込んでもらうこの工場は、メガコーポの本拠地じゃねーです。それでも、こんな所業が見逃されてる以上、メガコーポとの関わりは絶対にあるはず。この工場の責任者をぶっ倒せば、この工場の『上』のメガコーポの情報も得られるかもしんねーです」
 まぁ、大量にある『|巨大企業群《メガコーポ》』の内のひとつだ。どこまでの有用性があるかは判らないが、それでも得られる情報は得ておいた方が良いだろう。
「やってもらうことは簡単です。まず工場に行って暴れて来てください。奴隷たちが居ますんで、彼らを傷つけねー方向で。めちゃくちゃに破壊してくれりゃあ、奴隷たちの『ケア』をしてるオブリビオンたちが止めに入ってくるでしょう。んで、そいつらも倒せば、さすがに責任者も出て来るでしょうから」
 にっこり、屈託のない笑顔でセロは猟兵たちを送り出す。
「どうぞ、ご自由に」
 左頬のハートのペイントが歪んだ。


朱凪
 目に留めていただき、ありがとうございます。なかなか好き、サイバーザナドゥ。朱凪です。

※まずはマスターページをご一読ください。

▼ご案内
1.がっつり第六猟兵の戦闘ルールでダイス判定します。(もちろんプレイングボーナスも判定します)
 ダイス目に応じて想定外の行動になっても許せる方向けです。
2.3日間のプレ期間で、朱凪が『動かせる!』となった方を『ひとりずつ』描写していきます。
 先着順ではありません。
 👑の数に🔵が到達したら〆切ですが、時間切れで返却になっちゃっても、お気持ちにお変わりがなければ再度投げてもらっても大丈夫です。

 プレイング募集はタグにてご案内します。

 では、巨悪に立ち向かうプレイング、お待ちしてます。
200




第1章 冒険 『破壊工作』

POW   :    火力で蹂躙し物理的に施設を破壊する

SPD   :    非合法的活動を行うための設備のみ破壊する

WIZ   :    ハッキングを駆使して施設を自壊させる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

コッペリウス・ソムヌス
ヒトを生物兵器にするなんて所業は
どこの世界だろうと違法行為っと
いのちって何だろうなぁと偶に想うよね
とりあえず奴隷工場とやらは破壊しようか

工場って事だし装置とかが在るのは奥かな
響く音とかを頼りに、
足音や人影が見つかれば当たりだろうか
奴隷にされてるヒト達は傷付けない方向性で
機械工場では火気厳禁かなっと
引き裂いた紅蓮に燃える頁を
騒音の元凶たる巨大な機器に向ければ
いのちを何だと思ってる?
なんて恨み言にも似て綴る
言葉だけでは足りないだろうから
オレ自身も動く影や、刻の剣を手に
破壊工作には勤しもうか

鉄の塊に想いなんて届かないのだろうけれど
壊した先に『上』でも出てくるなら
こういう事も悪くはないよねえ



●いのち
 ブーツの踵を無遠慮に踏み出すと、薄っぺらいコンクリートパネルがぐらついて跳ねた。
 銀の瞳が胡乱げに見通すのは薄暗闇。
──ヒトを生物兵器にするなんて所業は、どこの世界だろうと違法行為っと。
 歩きやすい場所へとひょいと足を移し、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)は吐息をこぼす。
「いのちって何だろうなぁと偶に想うよね」
 彼の傍らで翼を忙しなく動かすのは|Lyla《ライラ》。その蝙蝠は大きな瞳をぱちりと瞬き、コッペリウスを見る。彼は、ね、と声には出さぬまま夜の子と目線を合わせ、それから前を向いた。
 『骸の海』を人為的に過剰投与する装置などがあるのは奥だろうか。響く音や足音なんかを頼りにすれば初見の工場でも目的に辿り着けるかもしれない。
 音と言えば。ちらと視線を遣れば、彼の意図を察したらしいライラが不規則に見える動きで工場内を飛び廻り──そしてコッペリウスへと道を教える。
 迷いのない足取りで進んだ先に、大量の人間が居た。独特の匂いが鼻を衝く。コッペリウスは薄らと闇の中に浮かび上がる機械を見上げた。天井へと伸びる大樹、けれどよくよく見れば黒い鋼やらケーブルやらが寄り集まったものだ。その歪な『樹』の実のようにずらと並び、生るカプセル。
 『実』の窓からは、中の人間の様子が窺えた。
 コッペリウスの乱入に、居並んだ奴隷たちは胡乱な眼差しを向けるばかり。
 その光景を目の当たりにして、得も言われぬ感情がコッペリウスの胸の奥を揺らした。
 手許に開いた書物。指先でびッと頁を破り取れば、紙片が紅蓮の炎に巻かれ燃え上がった。それは|陽炎《カゲロヒ》。
「……機械工場では火気厳禁かなっと」

 いのちを何だと思ってる?

 恨み言にも似て綴った言葉が炎を纏い、文字ごと放つ頁はまっすぐに『樹』へと一閃し、途端にケーブルが弾け、千々と鮮やかな火花を散らした。
 見送るまでもなく、刻の剣抜いたコッペリウスは踏み込み、振り抜く。
 ようやく奴隷の目が見開かれ、やっとのことで悲鳴が上がり、混乱が工場内を埋め尽くす。逃げ惑う人間たちの間を縫い、軽い身のこなしで身を捻るコッペリウスの切っ先は、的確に凶悪な機械だけを裂く。
 なにを言おうと、なにを綴ろうと、鉄の塊に“想い”なんて届かないのだろう。そんなことはコッペリウスにも判っている。けれど。
──壊した先に『上』でも出てくるなら。
 硬い手応えに、に、と口角が上がるのは苦味ゆえか、あるいは楽しみゆえか。
「こういう事も、悪くはないよねえ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

エリー・マイヤー
文明が滅びた世界と、文明と共に悪徳が栄えた世界。
どちらの方がマシなんでしょうね。
住民からすれば、どちらもたまったものじゃなさそうですが。

まぁ、今はどうでもいいことですか。
とりあえず、暴れろとのオーダーでしたし、暴れます。
【念動オーバーフロー】で念動力溢れるヤバイ状態になりまして…
溢れた念動力を叩きつけて、工場の設備を破壊しつつ侵攻します。
ひとまず、警備が多くて扉にきちんと鍵がかかってる方に向かいますかね。
責任者も貴重品も、置くならセキュリティが厳重な場所でしょうし。
何かいいものが見つかるかもしれません。
逃げる人間は基本放置です。
向かってくる人間は、首を絞めるなりして気絶させる方向で対処します。



●祈り
 エリー・マイヤー(被造物・f29376)は迷いのない足取りで薄暗い工場の中を進む。蠢きながらも澱んだ空気は、エリーにとってどこか馴染みがあった。
 凪いだ青い瞳で周囲を見渡せば、微かに人の気配。遠く聴こえる微かなざわめき。警備が多くて、きちんと鍵が掛かっている方向。それがエリーの狙いだ。
──責任者も貴重品も、置くならセキュリティが厳重な場所でしょうし。
 なにかいいものが見つかるかもしれない。
 例えば、腐った企業群の情報だとか。
「……」
 軽く息を吸い、吐いて──ああ、|おいしい《くるしい》──、彼女は鋼鉄の厳しいドアへと掌を添えた。もちろん、エリーは鍵など持ってはいない。

 どん、と。

 黒々とした鋼鉄の扉が、中央に巨大な円形の凹みが生まれた。
 彼女から溢れ出る、悍ましいほどに莫大なサイキックエナジーが塊となって扉を叩きつける。|念動《サイ》オーバーフロー。残響が激しく喚いても、中から誰かが現れる気配はない。
 ……構わない。
 どん、どん、とエリーの放つサイキックエナジーが何度も叩きつけられ──そしてひと際大きな音を立てて重厚な扉がひしゃげ、吹き飛んだ。もちろん吹き飛んだ扉が人間たちに被害の及ばぬよう、有り余るエナジーで絡め取り、ゆるりとひび割れた床に置く。
 逃げるならば放っておく。エリーとしてはそのつもりだった。
 だが。
「!」
 ぅわああぁ、ひぃいい。そんな絵に描いたような悲鳴を上げて、混乱した人間たちが彼女の方へと向かって来たのだ。
 なにも悪くない。ひとつ言えるなら運が悪かった。
 がちゃがちゃと不揃いな足音、周囲を見ることもなく突き進み、転び、足掻く手や腕。奴隷として集められ、生物兵器の材料にされていくばかりの人間たち。突然のことにも、ただ翻弄されるしかない人々。
──文明が滅びた世界と、文明と共に悪徳が栄えた世界。どちらの方がマシなんでしょうね。
「住民からすれば、どちらもたまったものじゃなさそうですが。まぁ、今はどうでもいいことですか。……仕方ありません」
 けれど、エリーにとってはそれは、不測事態と呼べるものですらなかった。
 彼女の周囲、あるいは彼女の進路に居た人間たちが、ぱたぱたと倒れていく。ずる……と紐状になったサイキックエナジーが人間たちの首から離れる。
「息はあります。安心してください」
 急に倒れ伏した隣人に恐れ慄く人間たちに軽く伝えて、エリーはまっすぐに見上げる。
 鋼鉄とケーブルが寄り集まった、大樹のような機械。カプセルが生る『樹』。
「とりあえず、暴れろとのオーダーでしたし、暴れましょう」
 更に膨れ上がるエナジーが、まっすぐに『樹』へと叩き込まれた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
暴れて。
めちゃくちゃに。
破壊。
…(ふむ)
いやぁ、変装も演技も謀略も不要な工作。実に良いですね!
何とも分かり易く…何時もより、遣り易い。

カプセルは内部に人が居る可能性を考慮し後回し。
『海』の保管、或いは通り道。投与口…
制御装置など有れば尚良し。
作業を成立させるに必須の箇所の破壊を。
廃工場未満を使うなれば、態々それらを壁内に埋めはすまいと、
カプセルより逆に配管等を辿り、道々に矢で穴を空け、或いは鋼糸で断ち。
硬い、又は殊徹底的に壊しておきたい場ではUCも交え。
奴隷と遭遇の際は、太めのロープ等を用いて拘束、破壊工作より離れた地点へ転がしておきたく。

正義なんてつもりは毛頭ありませんが。
承った以上、完遂を



●合理
 暴れて。
 めちゃくちゃに。
 破壊。
 与えたれた指示を脳裏で再度反芻し、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はふむと小さく吐息のような音を喉からこぼし──ふ、と笑んだ。
 それはもう、晴れやかに。
「いやぁ、変装も演技も謀略も不要な工作。実に良いですね! 何とも分かり易く、」
 躍る外套。伸びる腕の先、グローブより射出した細い糸がきらと光を弾いた。
「……何時もより、遣り易い」
 眼鏡の奥の青い瞳が、まっすぐに内部へ続くがらんどうの空間を見据える。その双眸に笑みは無い。
 既に先に進んだ猟兵らによって路は作られ、上がる悲鳴と暗闇をあかあかと照らす残照が如き揺らめきと、鋼鉄に鉄球でもぶつけたかのような音を頼りにクロトは迷いなく進む。
 直に現れたのは天井へ伸びる、幾多の黒い鋼とケーブルが複雑に絡み合った『樹』。見上げたクロトの表情は無。感情を露わにするほど、未熟ではない。
 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、逃げ惑いもはや方向も見失った奴隷たちが猛進してくるのを、彼は淡々とロープで拘束し、張り巡らせた糸を利用して『樹』から離れた場所へと運び出していった。下準備は重要だ。
 そうしつつも、工場の壁をつぶさに確認する。隠蔽のためか、予想より厚みもある。だが想定どおり、装置そのものは埋め込まれてはいない。精々が無数のケーブルやパイプが毛細血管のように這っている程度だ。
 クロトはグローブ嵌めた拳をすいと差し向け短矢を放ち、流れるように破壊していった。
「……」
 地上に太いケーブル伸ばして降りているカプセルは|空《から》。高い位置で生っている『実』には人間が入っているようだ。空間を有効活用している。
──合理的で、反吐が出る。
 柔和な表情を崩さぬまま、クロトはカプセルから配管を辿っていく。『骸の海』の投与口、通り道、……保管場所。
 途中にあるのが制御装置か。
「まぁ、……正義なんてつもりは毛頭ありませんが」

 承った以上、完遂を。

 |拾式《ツェーン》。ただ十指を握り込む。遍く張り巡らせられた鋼糸が弛みを失い、縦横無尽に確認した装置を斬り刻んだ。散った火花が、小規模爆発に変わるまでひと瞬きもない。
 けれど。
──ひとつサンプルが見つかると次を探すのは楽ですね。
 クロトの|背《ヽ》へと弾け飛ぶ金属片は全て糸に絡め取られ、割れた床へと音を立てた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
ひとの身を蔑ろにした所業が珍しくない地ではありますが…
無理に作り替えられるのを、黙って見てはいられぬ
知ったからには

突入時
捕まっている方々をより解放できるよう
改造用の設備の元へ

到着したら
彼らが被害受けぬよう
端的に
今から此処で一悶着あります
危ないので、巻き込まれぬよう出入り口付近に避難できます?と声を掛け
瓜江に先導を任せ

自身は器から繋がる管を辿り
制御している機械自体に綾繋の糸繋ぎ操り
器を開き、無事人々を中から出せたら…
それから自壊させられたら良いが

機械にそこまで詳しくないから
そこまでは難しいかな
であれば、手っ取り早く風魔法込めた薙ぎ払いもちい
機械同士を繋ぐ管を重点的に破壊

さて、どんな顔が拝めるかな



●渦巻く
「危ないので、巻き込まれぬよう出入り口付近に避難できます?」
 辿り着いた先では、奴隷たちは既に潰乱していた。人の波に逆らって進みながら、それでも冴島・類(公孫樹・f13398)の精神は揺らがなかった。
 混乱して闇雲に逃げ回る奴隷たち──少し立ち止まって見れば、猟兵たちの攻撃の矛先が悍ましい『樹』に向いていることは明白なのに──の腕を取り、ひたと視線を合わせる。手をつなぐ。それだけで、ひとは落ち着くこともある。
「安心してください。彼が露払いします」
 掌で類が指し示すのは仮面の男。ひとつ寡黙に肯く男の名は瓜江。ひらと衣翻す彼へ向けて類が奴隷の背を軽く押したなら、奴隷は我に返ったように、あるいは狐に抓まれたような顔つきで、男を追った。瓜江へ繋がる糸が類の十指から伸びることに気付きもせず。
 ひとつ息を吐いて、改めて類は『樹』を見上げた。黒い鋼とケーブルが蔦のように絡まり合い、天井へと伸びる巨大な物体。
 その『実』には高低差があり、床側の『実』はほとんどが|空《から》。ならば。
 類は手を差し伸べる。くんッと全身に重力が掛かり、彼の身体は宙空へと引き上げられた。綾繋──アヤツナギ。類は不可視の糸を放ち、|果柄《かへい》に当たるケーブルへ絡ませ『実』へと足を掛け、小窓を覗き込んだ。
「っ、……ひとの身を蔑ろにした所業が珍しくない地ではありますが……」
 思わず類は眉を顰めた。中には人間が居た。苦悶の表情だった。サクラミラージュなら怪奇人間、ヒーローズアースならばバイオモンスター、そんな“形”の人間がいた。
──無理に作り替えられるのを、黙って見てはいられぬ。……知ったからには。
 きりと色違いの双眸に力を籠め、類は果柄から枝、『樹』の幹へと視線を移した。
 彼の繰る糸は見えないことだけが役割ではない。無機物に接続し、制御権を剥奪する。糸は『樹』の隙間に潜り込み、かちりと音を立ててカプセルの扉が開いた。
「大丈夫ですか、ここから──」
「ぅ、ァ、あ……」
 覗き込んだ類の声掛けにも、カプセル内の人間が応えることはない。「……」唇を引き結び、類は手を挙げる。がしゃ、と類の居る『実』の上に瓜江が同じく飛び乗り、カプセルから自失状態の人間を抱き上げて入口へと戻って行った。
 可能ならばこの言い表わせない感情を乗せて『樹』へ自壊するよう操作したいところだったが、あいにく類は機械に詳しくない己を自覚している。
 静かに短刀を抜き、全力の風魔法を纏わせた。いくつもいくつも垂れ下がり繋がり合ったケーブルへ向けて刃を差し向けると、ごぅと巻き上がった暴風がそれらを裂き引き千切っていく。ばちばちと火花やなんらかの薬液が散る。
「……さて、どんな顔が拝めるかな」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・ハクト
誘き出すためはもちろんだが、こんな工場は二度と動かないようにするのが一番だからな。

把握できるなら、既に動き出した猟兵や奴隷の位置を参考に入れつつ。
最低限進路の邪魔な物を糸で断つ程度にとどめて進み、奴隷の退路塞がぬ位置でUCで変身。

手近な設備に爪を立てたらひと吠えしよう。
奴隷たちにとって逃げるべき相手、オブリビオンにとって止めるべき相手が現れた事がわかりやすいだろう。
あとは手当たり次第に破壊。

奴隷が落下や爆発などに巻き込まれそうな場合は割って入る。
安心されても困るから、邪魔だとばかりに威嚇。

アドリブOK



●弱きもの
──想像はしていたが。
 |黄金《こがね》の双眸が周囲を見渡す。
 そこかしこで上がる悲鳴と、燃え上がる炎、絶ち切られてだらりと下がり揺れるケーブル。轟音と共に突如破壊される機器。
 周囲の状況と混乱を把握したクロム・ハクト(黒と白・f16294)は出入り口から距離を置いた場所へと駆け寄った。そして親指の腹を鋭い犬歯で咬み切った。溢れる紅い血に命じる。其は紅き月の昏き夜を裂くもの──。
 彼の姿を包んだ帳が上がる頃、そこに居たのは身の丈五メートルを越える大狼。狼は既にカプセルが|空《から》になっている悍ましい『樹』へと爪を立て、文字通りの金切り音を立てた。他の騒音の中にあってなお、その神経に障る音は工場内に響き渡り、耳目を集めた。
 恐怖と戸惑いに見上げてくる奴隷たちの視線を巨体に受け、クロムは息を吸う。深く、深く。
 その奴隷たちの視線には、見覚えがある気がした。あの夜と闇の世界の住民たち。彼らに、似ている。

「        !!!」

 迸る咆哮は、世界を揺らした。
 奴隷たちには恐れ、逃げ出してもらうために。|罪人《オブリビオン》には相手はここだと示すために。
──誘き出すことはもちろんだが、……こんな工場は二度と動かないようにするのが一番だからな。
 冷静に見ることが出来たなら。
 突如煙のように現れた黒い大狼が、手当たり次第に鋭い爪を振るい『樹』を裂き、凶悪な牙で以てケーブルを咬み千切り、太い脚でカプセルを踏み潰すその行動が、集められた人間たちを傷付けぬよう意識を配っていることなど容易に知れただろう。
 だが、恐慌に陥った人間は違った。
 悲鳴を上げ、めいめいに逃げ出す。それはクロムにとっても想定通り。だが、想定外があった。
 恐怖心に蝕まれ、腰を抜かし、泣いて蹲る人間たちが居たのだ。
 爆発の衝撃で飛び散った破片が皮膚を裂こうとも、丸呑みに出来るほどに巨大な咢が開き威嚇しようとも、焦点を失った瞳がきょろきょろと忙しなく動くばかり。
「くッ……!」
 崩れ落ちる梁をその背で受ける。巨大化すれば護れる範囲は増えるが、痛みも増える。大狼の懐に囲われる形になった人間たちは、それでも動き出す、否、動き出せる気配がない。
「──ケアの必要性を確認。ケアの必要性を確認」
「メンタルケア、フィジカルケア、全てを要すると判断します」
「これより一斉ケアに入ります」
 幸か不幸か、当初予定通りの誘き出しは、完全に成功したようだ。
 焦りはない。ただ真摯に次の手を考え、クロムはちいさく奥歯を噛み締めた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『TOR-MM8『ディーナオシーMk8』』

POW   :    メンタルケア:思考能力改善施術
【触手やコード端子 】に触れた対象の【思考】を改竄できる。また【記憶】を奪ったり、逆に与えたりできる。
SPD   :    ボディケア:体質改善ナノマシン投与
攻撃が命中した対象に【肉体改造用ナノマシン 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【目的に応じた肉体への改造或いは破壊】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    スキンケア:施術用薬液分泌
自身と武装を【体内機能活性化作用のある薬液 】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[体内機能活性化作用のある薬液 ]に触れた敵からは【肌の老廃物や角質、思考能力や抵抗の意志】を奪う。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●量産型オブリビオン
 奴隷工場の奥で、フロアをぶち抜く『樹』──もとい、生物兵器を作り出すための機械は、猟兵たちによって壊滅状態と言っていい。
 騙され掻き集められていた奴隷たちも、ほぼ凡そは逃避を図ることができ、あるいは猟兵たちによって運び出された。僅かに残るのは、唐突な襲撃によって逃げるという選択肢を忘却し、蹲るばかりのひと握り。そして。
「保護に感謝します。こちらでメンタルケアを実施します。お引き渡し願います」
 愛らしい少女の姿をした量産型オブリビオンたちの袖から、ずるずるとコード端子や触手が伸びて奴隷たちへ絡みつこうとする。
 できることと言えば、逃げ遅れの奴隷たちを完全に無視してオブリビオンの掃討に全力を注ぐか、守りながら戦うか、はたまた──見捨てるか。
 量産型オブリビオンの数は多い。運によっては猟兵ひとりに対して複数体を相手取る可能性もある。それを踏まえた上で、最善を選択しなくてはならない。
 なにせ猟兵たちには、更に目指す先があるのだから。
 
冴島・類
めんたるけあ?と言う名の
抵抗する意思を奪う処置
それを認めるぐらいなら
壊し、逃してないわけで

お断りします
僕の目的は、此処でつくられるものの阻止
だけでなく保護も、なので

一体多数…になったら防護壁でもなければ
防ぎ切れぬな
力をかしておくれ
連れた白薔薇、りりを介し守護の薔薇を呼び
蹲る子らへ伸ばされる端子や触手を
守護の結界も込めた茨で防御壁作り防ぐ

相手が技を使う前なら
迅速に数減らす為、武装手繰る部位から狙い薙ぎ払いで斬る

視界から消えたなら…
目や耳で捉えられずとも
触れればわかるはず
枝に触れた敵の位置を教えてとりりに声かけ
その位置へ六感も駆使し踏み込めば
薔薇も、守る子らも巻き込まぬよう
生体部分狙い、突く

…次



●カゴ
「お引き渡し願います」
「メンタルケアを施します」
 ずらと並んだ量産型オブリビオンの笑顔に、冴島・類は微かに眉を寄せた。
「めんたるけあ? と言う名の、抵抗する意思を奪う処置。それを認めるぐらいなら──壊し、逃してないわけで」
 抜いた短刀。銀杏色の組紐飾りが揺れて、刃が皓く光った。
 身を低め、踏み込む。

「お断りします」

 僕の目的は、此処でつくられるものの阻止だけでなく、保護も、なので。
 呟きと共に敵の姿を眼前に捉えたと知覚したときには、既に刃は薙いでいる。
 腕に掛かる負荷。ぶちぶちとコード端子が引き千切れていくのが刀の柄に伝わる。触手の肉の繊維が断たれていく感覚も。
 しかし、敵のあどけない表情に変化はない。愛らしい笑みを浮かべたまま。じわと触手に液体が滲んだのを瞬時に把握して、類は素早く剥がれ掛けた床を蹴って後退った。
「あなたの肌。ひび割れています」
「スキンケアを実施します」
 じわり、じわり。触手から溢れ出る薬液が量産型オブリビオンの身を包む。薬液が広がった場所から、彼女たちの姿が見えず、コードや長い裾や袖の衣擦れの音も届かなくなっていく。
 スキンケア。その『攻撃』は、肌の老廃物や角質と共に、思考能力や抵抗の意志を奪う。そこまでの情報を類が知る術はないが、直観的に感じた。あの薬液に触れてはいけない。
 だが、消えたオブリビオン、TOR-MM8『ディーナオシーMk8』の気配は少なくともふたつ。一対多、無策では厳しい。
「……力をかしておくれ」
 胸に咲いたリトル・リティ──りりの白い花弁をそっと撫でる。ぽわ、と柔らかな光が舞ったかと思うと、溢れた光は床に落ち、途端にばきばきと音を立てて薄いコンクリート・パネルを破り、茨が伸び広がった。
 伸びた先には可憐な白い薔薇が咲き、守護の力が包み込む。Prosperity──シロバラノイノリ。
 その守護は崩れ落ちた天井や壁の瓦礫の蔭で怯え震える人間たちの元へも長く枝を伸ばす。
 この場でこの白薔薇が咲く可能性は、決して高くはなかった。それでも見事に芽吹いたのは、強い魔女の祈りがあったからなのかもしれない。
「枝に触れた敵の位置を教えてね、りり」
 茨の結界に触れてそう微笑み告げたなら、類は瞼を伏せた。視聴嗅覚に頼られないのならば、頼らないまで。
 植物と話し、第六の感覚を研ぎ澄まし。
 微かな揺れを指先に知る。
「其処、」
 突き出した切っ先には、なにも見えないのに確かな手応え。上がる悲鳴も掻き消えているのか、あるいはまだあの笑みを浮かべているのか。
 判らない。
 けれど、関係ない。
 びッ、と刃に纏わり付いた薬液を振り払い、心静かに類は獲物を待った。
「……次」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

コッペリウス・ソムヌス
ケアロボットって毒にも薬にもなり得る様な
其れを体現してる見た目の量産型だなぁ
メンタルケアと洗脳は別モノでしょ

逃げ遅れのヒト達も何とかしたいところだけど
出口方向まで引き摺ってかないと
避難完了にはならなそうだろうなぁ
敵のコードや触手って余り触りたくないから
展開したスプーキーシャドウで牽制やら足止めを

見捨てるまではいかない迄も
残念ながら人間を掬えるような
カミサマでは無いんだよねぇ
絡みつこうとする触手に対しては
引き続いての露払い

多勢に無勢となるのはある程度は仕方ない
耳を塞いで祈りを聞いて
工場内に晩鐘を響かせたなら
ヒトの足だけでも立っては行けるから
姿見せないキカイなんてのは御役御免だよ



●誰が為に
 他の猟兵が展開した茨の囲いを、その内側に護られる人間たちの変わらず怯えた姿を、コッペリウス・ソムヌスは見る。
 そして、小さく吐息ひとつ。
 なんとかしたい気持ちはある。けれど、同時に。
「……残念ながら人間を掬えるようなカミサマでは無いんだよねぇ」
 彼は砂の精霊であると同時に眠りを司る神だ。
 見捨てる、とまではいかずとも、出口の辺りまで引き摺っていかないと避難の完了にはならない可能性を察し、改めてうぞうぞと袖から触手とコード端子を蠢かせるオブリビオンへと視線を戻した。
 にっこりと量産型オブリビオンは微笑んだ。
「ご理解に感謝します。では、お引き渡し願います」
「こちらでケアを行います」
 コッペリウスは軽く眉を歪めた。不快感──というよりは、色濃い呆れだった。
「ケアロボットって毒にも薬にもなり得る様な、其れを体現してる見た目の量産型だなぁ」
 すいと床に掌を向けたまま、腕を伸ばす。足許に蹲った影が、焔の如く揺らめいて立ち昇る。
「メンタルケアと洗脳は別モノでしょ」
 強く光る銀の双眸。影が伸び、その鋭い爪で彼へと忍び寄る敵のコードや触手を掻き裂いた。
「困りました」
 それでも、敵のオブリビオンの表情は変わらない。たおやかな笑顔のまま、彼女たちは長い袖を持ち上げた。
 じわと染み出した薬液によって量産型オブリビオンたちの姿が、音が、消えていく。
「治療拒否を確認しました。強制ケアに移行します」
「、」
 薬液が触手を伝いコッペリウスへと垂れ落ちる前に、更に影が眼前に姿を消す前の触手を打ち払う。
「死せる者には終焉を。生ける者には幸いあれ──」
 コッペリウスは、自らの両の耳を塞ぐ。
 祈りの言葉に応じるかのように、身体全体に響くその音。晩鐘──フクイン。此度それは鐘の音だ。終りを告げる鐘の。

 ゴォ、ン……。

 響き渡るそれに、どさ、とコンクリートの床に崩れ落ちた『少女』の身体。命尽き、ユーベルコードの効力が途絶えて音が蘇ったらしい。ざら……っ、と砂になって風に消えていく。

「ヒトの足だけでも立っては行けるから──姿見せないキカイなんてのは御役御免だよ」

 鐘はまだ、鳴り響く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリー・マイヤー
メンタルケアですか。
なんとも、耳障りの良い言い方ですね。
言葉通りの意味であるなら、喜んで引き渡したいところですが…

まぁ、渡すわけないって話ですよね。
念動ハンドを1人当たり10手ほど使って、被害者の避難を手伝います。
手を引いたり、背を押したり、あるいは持ち上げて運んだりですね。
残った手は、全部敵の対処です。
大量の見えない手で、触手及びコードを受け止めて防御します。
で、受け止めた触手を結んだり千切ったりして戦力を削ぎまして…
余った手で敵をぶん殴る方向で行きましょう。
レプリカントなら、体の構造は人と概ね同じですかね。
それなら、頭や鳩尾を殴れば効くでしょう。
たぶん。



●見えざる
 ずらと並んだ量産型のオブリビオン。他の猟兵の攻撃によって真隣に立つ『仲間』が崩れても、笑顔を絶やさずエリー・マイヤーへと手を延べる。
「保護に感謝します」
「メンタルケアを施します。お引き渡し願います」
 繰り返される、同じ言葉。
 そして対峙するエリーの表情も、動かない。
「メンタルケアですか」
 なんとも、耳触りの良い言葉ですね。青い瞳も凪いだまま。ただし──その奥には静かに青い焔が灯る。
 怒り、ではない。
 ただ、気に入らない。
「言葉通りの意味であるなら、喜んで引き渡したいところですが……」
 細くひとつ、吐息をこぼす。

「まぁ、渡すわけないって話ですよね」

 ざわッ……と。
 彼女を中心に、工場内の空気が変わった。誰にも、なにも見えない。それでもそこに、確かに|ある《ヽヽ》。それは大量の──1500の、念動力の手。
 量産型オブリビオンたちも、周囲を取り巻く気配が意思持ち蠢く感覚に、エリーへと近付くことを躊躇する。
 その隙に彼女は『手』を操り、蹲り震えるばかりの人間たちを助け起こした。ある者には腕を引き、ある者には更に背を押し、時には複数の『手』でその身体ごと掴み上げて、戦場から運び出していく。
「いけません。ケアが終っていません」
「『製品』をお返しくださ──、!」
 量産型オブリビオンたちが長い袖を持ち上げ、触手や端子コードを放つ。
 しかしそれらは全て中空で停止し、瞬きの間にぶちぶちと無慈悲な音を立てて引き千切られていった。
 『手』は、いくらでもあるのだ。
「させませんよ。むしろ、覚悟してください」
──レプリカントなら、体の構造は人と概ね同じですかね。
 ちらと見遣る。何度かこのサイバーザナドゥには足を運んでいる彼女は、どこかで出会うことがあっただろうか。確かにTOR-MM8『ディーナオシーMk8』は、メガコーポ『ティルナノーグ・エステティクス』製の医療用レプリカントだ。
 そして件のメガコーポは軍事方面にはそれほど強くない。故に、この奴隷工場の背後にあるメガコーポは別だと知れる。
 だが、今必要なのはその情報ではない。軍事方面には強くない企業が作成したレプリカント。ならば。
「頭や鳩尾を殴れば効くでしょう。たぶん」
 どん。バキン。ガガッ。エリーが呟くと同時に、あちこちで突如としてオブリビオンたちが身体をくの字に折り曲げ、首がぐるんと回転し、金属音と生体が壊れる音を混ぜ合わせて崩れ落ちていく。
 エリーは静かに佇むだけ。
 静かに莫大な集中力で以て操るだけ。
「……さあ、そんな遠巻きにせず。どんどんどうぞ」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロム・ハクト
あいにくあんたらに引き渡すために保護したわけじゃないんでね
あんたらのケアからも含めて保護させてもらう

・奴隷たちを守ることを優先しつつ戦う、タイミングはかりUC

この巨躯のままだと触手やコードを伸ばすオブリビオンとは射程の面で分が悪い気がするので変身を解除

(もとより動き出せないのは承知しつつ)
「(保護にしろ変身解除にしろ)突然で戸惑うだろうが、今はひとまずそこでじっとしていろ」と奴隷たちに告げて、彼らを背に敵と相対する

与奪の糸、或いはからくり人形で自分または奴隷に伸びる触手やコードを払い断ちつつ反撃、
(複数相手なら同時攻撃のタイミングに合わせ)敵が仕掛けてきたタイミングで攻撃を受けUC

アドリブOK



●包
「保護に感謝します。お引き渡し願います」
 周囲を取り囲むようにぞろぞろと集まってきた量産型のオブリビオンに向けて、ぐるると大狼は不機嫌に唸る。
「あいにくあんたらに引き渡すために保護したわけじゃないんでね。あんたらのケアとやらからも含めて、保護させてもらう」
 ボディケア──体質改善ナノマシンを投与すべくじわじわと囲みの輪を狭めて来る敵。爪で払うにも、限りがある。仕方がないと。身動きのとれない人間たちを見下ろし、クロム・ハクトはなるべく威圧しないように声を低めて大きな鼻面を割れた床に寄せた。
「突然で戸惑うだろうが、今はひとまずそこでじっとしていろ」
 怯えた視線か、あるいは放心し切った顔を一瞥したなら、舌の奥に苦味を覚えるけれど。クロムは変身を解く。黒い靄が彼を包み、それが晴れるといつもの相棒である白黒の大熊猫と共に、敵へと相対す。問題ない。
 人間たちを背に、きゅい、と糸を引く。
 問題ない、はずだった。
 想定以上の数の敵が群がることがなかったなら。
「く……ッ!!」
 掴み掛かってくる腕や絡みついてくる触手を振り払い、大熊猫の牙で噛み千切っていくけれど、それでも彼の攻撃を掻い潜った端子コードが彼の腕や首筋に絡みつく。打ち込まれた体質改善とは名ばかりの肉体改造用のナノマシンが、クロムの体内を『変えて』いく。
「ぅ、グ……っ!」
 ぶちぶちと強制的に筋肉の繊維が千切れ、強烈な痛みに目の前が眩む。
 拒絶するべく糸を繰っていたクロムの腕が──だらりと下がった。彼の背に庇われていた人間たちの中には、触手と端子コードに絡みつかれて|埋《うず》もれるクロムの姿に息を呑んだ者もあった。
 オブリビオンの女たちは特に変化しない笑顔で更に端子を伸ばす。
「受け容れに感謝します。ボディケアを続行します」

「必要ない」

 小さく、けれど決然と。
 声が告げると同時に甲高い悲鳴が上がった。オブリビオンたちの身体が醜く膨らみ、弾け、千切れていく。
 彼女たちの蔭から現れた包帯巻きの大熊猫が鋭い牙を剥いて笑う。牙からぽたり滴る液体には目には見えない無数の肉体改造用ナノマシンが含まれる。完全な脱力状態で攻撃を受けると、からくり人形から同じユーベルコードを返すことができる、物心ついたときより慣れ親しんだクロムの得意とする技。
 阿鼻叫喚の中、吐息をひとつ。クロムは熱く疼く腕で自らに絡みつく緩んだコードを引き千切った。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

蒼乃・昴
逃げ遅れた者達を保護する為に動く

蹲っていた彼らが抱く恐怖や不安を傾聴し、冷静に行動できるよう心を落ち着かせよう

此処で働けなくなったとしても君達は終わりなんかじゃない
全てが終えれば次の仕事を一緒に探す手助けだってしよう
忘れるな
君達を所有物のように扱い、支配する者達に我が身の行き先を決めさせてはいけない
自分の足で自由を取り戻せ。生きよう。一緒に逃げるんだ

戦闘時は、保護した人間達を守りながら戦う
安全な所で散らばらないよう願い、薬液には触れさせない
機械剣で[吹き飛ばし]近付く事も許さない
同胞よ、お前達は己に与えられた仕事をしている
だが…それゆえに破壊する
UCで体に纏う電気を放出する[電撃]を喰らわせる



●ひかり
 金色の双眸とちらり視線を交わし合い、蒼乃・昴(夜明けの|六連星《プレアデス》・f40152)は素早く蹲るばかりの人間たちの傍に片膝をついた。「大丈夫」恐怖に焦点を失った目を覗き込み、静かな声音で告げる。
「痛みは。立ち上がるのに支障のある……想いはあるか」
 心がそこにあることを、昴は知っている。
 他の猟兵たちの活躍の蔭で、昴は時間を掛けて『奴隷』たちと向き合った。うまく纏まらない言葉に耳を傾け解きほぐす。この場所は更なる戦いの場になる。ならば、確実に逃がす方がいい。
「ケアの補佐に感謝します。これからはこちらデッ──」
「少し黙っていてくれ」
 笑みを浮かべて端子コードを伸ばしたディーナオシーMk8の細い首を、機械剣が叩き折る。もちろんその瞬間が人間たちの目に触れないよう、自らの身体を壁にして遮るのも忘れない。
 振り向きもせずに薙いだ剣を払って、昴は誠実に向かい合う。
「此処で働けなくなったとしても君達は終わりなんかじゃない。全てが終えれば次の仕事を一緒に探す手助けだってしよう」
 彼らは元より仕事としてこの工場に来たのだ。そして騙され、利用される。そんなことを、昴は見過ごせなかった。
「忘れるな」
 底光りする蛍光ブルーの瞳が、まっすぐに人間たちを見据える。
「君達を所有物のように扱い、支配する者達に我が身の行き先を決めさせてはいけない。自分の足で自由を取り戻せ」
 昴にとって、それは過去の己にも向けた言葉であったのかもしれない。故に人々に届いた。消えていた光が、人々の瞳にも灯る。

「生きよう。一緒に逃げるんだ」

 力強い科白に、おお、あぁ、と確かに意志を宿した声が返る。未だ震える脚を叱咤し、立ち上がる。彼らの姿に昴は僅かに目を細め、そして方々から伸びて来る触手を機械仕掛けの刃で叩き払った。
 「散らず。俺の傍から離れないように」背後に庇う人々へと伝え、初めて昴は量産型オブリビオンへと対峙した。
「同胞よ、お前達は己に与えられた仕事をしている。だが……」
 レプリカント。それは敵のことであり、昴の|種族《からだ》でもある。だからこそ理解でき、だからこそ。
 チリッ──と、その身の周囲に青白い電光が弾けた。
「それにゆえに、破壊する」
 目標と定めたほぼ視界に入る全ての対象だけに墜ちる雷は、界雷放出──ヨアケノイカズチ。空気を震わす激しい雷鳴が工場内を奔り抜け、強大なエネルギーの直撃を受けたレプリカント達は瞬時に黒焦げになり、煙を吐きながら崩れ落ちていく。
 ユーベルコードの相性は最良だった。昴はぶすぶすと不快な匂いを上げるレプリカントを一瞥し、そして身を翻す。
「行こう」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
『ケア』と言えば好意的に捉えられがちですが。
その場合、意味合いは『メンテナンス』ですよねぇ。
ま、用法は正しい。
ですが…
良しとするかは、別の話。

壊れかけの工場…土台は十分。
一般人は…パニックになられるよりマシか。
標的は多い…が、それは了承済み。
立ち位置、連携の有無。体や足、視線の向き。伸縮部位の予備動作…等々。
凡ゆるを見切り、知識に照らし、予測し回避に繋げる。
突起等に鋼糸を張り、引いて移動速度の補助、或いは足場として用い、
そのまま回収はせず、次へ。
狙いが己であれば良し。ひとへ向かうならナイフ投擲、妨害し。
軌道は敵を囲う様に。

鋼はその実、糸の檻。縒り引き放つ
――拾式

貴女方もそろそろ、お休みなさいな



●独壇場
「ボディケアを」
「メンタルケアを実施します。お引き渡しください」
「『ケア』と言えば好意的に捉えられがちですが」
 わらわらと未だ群れを成して逃げる人々を焦ることなく触手を伸ばして追う量産型のオブリビオンへ、クロト・ラトキエは薄い笑みを唇に刷いたままこつりと一歩近付いた。女たちの視線が次々とクロトへと向く。
「この場合、意味合いは『メンテナンス』ですよねぇ。ま、用法は正しい。ですが……」
──壊れかけの工場……土台は十分。
 きゅい。
 張り巡らされた糸の感覚を、握った指に確かめる。薄暗い工場内に射し込む僅かな光に反射するそれらから伝わる情報は膨大で、しかし『戦場』という場所に慣れ、知るクロトには──扱える。
「良しとするかは、別の話」
 オブリビオンの身体の向き、伸びた触手やコードの数、予備動作に視線。くん、と指を曲げるだけで、彼の身体は中空へ引き寄せられ、彼へと伸ばされていた端子コードが幾多と空を掻いた。
「まだまだ」
 ひらとコートを翻し、蹴った足場は組み合わさった鋼糸。緻密に糸のテンションを調整する必要があるけれど、彼にとっては息をするように容易い。
 飛行能力のない人間として認識していたであろうオブリビオンは、確かに医療用のレプリカントなのだろう。戦いに対しての動きはまるで素人だ。重力乗せた跳躍は速度を伴い、馳せ違い様に巻きつけた糸を絞ったなら、クロト自身への抵抗がてらに敵の姿が細切れになる。
 一体如きで気を抜くほど暢気ではない。そのまま別の糸を引けば、クロトの身体は再び工場の天井付近まで躍り上がる。梁に足を預け、次の敵へと糸を繰りながら、クロトは確かめる。一般人は。
 戦場に居る者だ。犠牲を出してまで救う気はない。しかし自らの意思で戦場に来たわけではないことも加味すれば、見捨てるものでもない。幸い、他の猟兵たちが率先して彼らを逃がす動きをしているが故に、クロトはそれを追うオブリビオンに牽制のナイフを放つだけで済んだ。
 懸念事項は解消された。
 ならば。
 クロトは跳ぶ。張り巡らされた糸を足場に、敵の攻撃を避けて。それはまるで無作為に見えたことだろう。その場を凌ぐための行動に見えたことだろう。けれど全て、予定調和。
 想定通りの場所に降り立って、クロトは軽く眼鏡を押し上げた。張り巡らされた鋼はその実、糸の檻だ。

「貴女方もそろそろ、お休みなさいな。……──|拾式《ツェーン》」

 身体の前で腕を交差するようにぎゅい、と糸を引く。相性は最良。確定の成功。精緻に制御された糸に因る斬撃が、無数のオブリビオンを文字通り一網打尽に付した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴ・セレーナ
まあ、まあ!
ご自身の思いで、ご自身の行動を選び取られることが素晴らしいですのに
『ケア』、だなんて
言葉の意味から調べ直しておいでませ!

射程を犠牲に
攻撃回数を増やしますわ
ひっとあんどあうぇい? という感じになりますでしょうか
(野獣の見た目はお任せします、どんな化け物でも構いません)

危機が迫っているようなら人々を守りますが
他の猟兵さんたちの手が足りているようならとにかく敵の数を減らすことに尽くします
こんなところで!
皆様の足を止めさせるわけにはいきませんの!
怪我したって構いません
だってどうせソーダ水の形が変わればそれでおしまいですから!
(痛いですわ〜!!)

ねえ、どんな記憶をくださるの?



●響
「まあ、まあ!」
 指先を口許に添え、イヴ・セレーナ(流・f43342)は敢えて大仰に声を上げて量産型オブリビオンたちの目を惹いた。
 ちらと遣る視線の先には、蹲っていた人間たちを連れ出す他の猟兵の姿。
──お任せしても問題ありませんね。
 胸の裡に信を置き、イヴは愛らしい姿のオブリビオンへと両の手を差し伸べた。
「ご自身の思いで、ご自身の行動を選び取られることが素晴らしいですのに、『ケア』、だなんて、」
 ソーダ水で構成された彼女の姿が、ぐにゃりと崩れて別のものへと変わっていく。それは戦場に適した野獣。美女で野獣──ドチラカイッポウ。此度の彼女が選んだのは攻撃回数。射程は棄てた。他の猟兵へ敬意を表して、彼女は護るよりも戦うことを選んだ。
「言葉の意味から調べ直しておいでませ!」
 かつ、と割れたコンクリートパネルに音を立てたのは踵ではなく、蹄。すらりしなやかな馬の如き体躯に、水牛の如き角と、獅子の如き頭に牙を持つ化け物に|変身《どろん》したなら、嘶きも遠吠えもなく長い脚で跳躍した。
 この先にはまだメガコーポへと繋がるオブリビオンがいるはずなのだ。
「こんなところで! 皆様の足を止めさせるわけにはいきませんの!」

 ねえ、どんな記憶をくださるの?

 留まることを知らない娘の好奇心が、光となって青い瞳に宿る。
 射程を代償にしたため、至近距離に近付かない限り攻撃は当たらない。相手の顔を覗き込むほどの近さで微笑んだなら、イヴの、野獣の脚がその顔を踏み潰し、弾き飛ばした。
 そしてすぐさま残りの四肢で跳び退る。
 攻撃と離脱を繰り返す──しかし、この後に及んでなお敵の数は多かった。
「いッ?!」
 イヴの背に深々と突き立った端子コード。けれど彼女は気丈に顎を上げて笑って見せた。
「っへ、へいきですわ! だっ、て、どうせソーダ水ですもの……!」
──痛いですわ〜!!
 ……もちろん、痩せ我慢だけれど。
 どくん、と視界が揺れる。流れ込んでくる強烈な『思念』、あるいは『思考』。彼女はハイパーポジティブセイレーン。その|光《ヽ》が、『奴隷』にするには邪魔だと判断された。
 イヴ自身の思考が侵食され、塗り潰されていく。
 明るさなど要らない。
 気力など必要ない。
 閉じる──。
「ッ外は! こんなにも明るいのに!」
 吠えた化け物が後ろ足で立ち、コードを引き千切る。駆け出し、牙が深々とオブリビオンの頸を喰らいついた。
「こんなところでわたくし、止まりませんわ!!」
 

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ウロボロス』

POW   :    曖昧模糊
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【自分の周囲】から排出する。失敗すると被害は2倍。
SPD   :    因果応報
【完全な脱力状態】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、完全な脱力状態から何度でも発動できる。
WIZ   :    森羅万象
【他者のユーベルコードを解析する洞察力】を放つ。他のユーベルコードと同時に使用でき、【模倣したユーベルコードを自分のものにする】効果によってその成功率を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ラスク・パークスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●輪環
「やあ、やあ、とんでもないことをしてくれたね」
 ぱん、ぱん、と手袋の手を打ち猟兵たちの気を惹いて、異形のヘルメットの男は予知と変わらぬ穏やかで軽妙な声を出した。
 古びた上部の通路を舞台かのように両手を広げ、朗々と告げる。
「見たまえ。お蔭でせっかく集めた『労働者』たちは片っ端から工場を去り、『商品』を製造する機械ははちゃめちゃに壊されて、それどころか『商品』の管理・検品すべき『従業員』までことごとく叩き潰されてしまった! これはとんでもない損失だよ!」
 猟兵たちの容赦のない破壊行動により、工場の至るところでは煙が燻り、壁や床は巨大な力によって不可思議にひしゃげ、『海』を入れていた合金の容器は細切れになり、それらを繋ぐはずの管と言う管は断たれ、獣の爪と牙によってずたずたに掻き裂かれている有り様だ。
「この損失が幾らになると思ってるんだい? 軍需産業ってのは世のシェアの中でもトップクラスなんだぜ、ご存知?」
 サイバーザナドゥにおいては殊、当然のことだろう。ぺらぺらと喋りながら、男は軽い身のこなしで手すりを乗り越えた。当然落下する──が、そこはオブリビオン、危うげなく身を捻り、音もなく猟兵たちのいる地続きのフロアへと降り立った。
 なんでもないかのように、男は、ウロボロスは肩を竦める。
「まあね、でもね、良いですよ。私は寛大だし、逃げた『素材』たちより良い『ユーベルコード』が手に入りそうだし」
 フルフェイスのヘルメットで、ウロボロスの表情は一切判らない。それでも笑っているのが明確な声音だった。
「その破壊力、私が貰ってあげようじゃないか」
 
エリー・マイヤー
はぁ…
奪う側の人間というのは、どこの世界でも変わり映えしないですね。
まぁ、やりやすくて助かります。

さて、先程までの戦闘で、|ガレキ《武器》も|鉄くず《盾》も山ほど落ちてます。
サイキッカーにとって、これほど戦いやすい戦場はないでしょう。
ということで、まずは念動力で周囲の物を片っ端から浮かべて盾を確保。
守りを固めたら、そのまま投げつけたり振り回したりして敵を攻撃します。
さっきの扉とかカプセルとか、デカくて硬い物はいくらでも落ちてますからね。
盾としても鈍器としても、使い放題のやりたい放題です。

ん?ユーベルコードですか?
見せてあげません。
敵を喜ばせるとわかってて使うほど、私は素直じゃないですよ。



●軌跡
 貰ってあげよう。
「はぁ……」
 さらりと長い髪が流れて僅かに顔に掛かる。まったく、どいつもこいつも。
「奪う側の人間というのは、どこの世界でも変わり映えしないですね」
 髪の蔭から、冴えた青い瞳が異形のヘルメットの男を射抜く。
「まぁ、やりやすくて助かります」
「そうとも。何故ならキミたちも私と同じく『奪う者』じゃないか。こうして争いは起きる。そこで必要なのは軍事力、という訳だ。世の中は実にうまくできている」
「ええ──否定はしませんよ」
 軽薄な口調で話し続けるオブリビオンへ、エリー・マイヤーは淡々と告げて髪を払った。その表情は相変わらずなんの『いろ』も浮かべてはいなかったけれど。
 けれど。
 手を差し伸べるだけで浮き上がった、周囲の瓦礫。それはエリーを中心に、まるで流星群の一瞬を切り取ったみたいに薄暗闇の中で無数の輝きを放ちながら中空に浮遊し続ける。
 「ほう!」ヘルメットの男は明らかな喜色を浮かべた。
「素晴らしい力だ! 代償はあるのかな? キミの気力? あるいは寿命でしょうか。頂くのが楽しみ──、……は?」
 早速ユーベルコードを分析すべく身構えたウロボロスが、間抜けな声をこぼした。
「どうかしましたか。さあ、|これなら《ヽヽヽヽ》いくらでもどうぞ」
 |瓦礫《武器》も|鉄くず《盾》も、先の戦闘によって幾らでもあるのだ。中でも特に大きくて硬い素材のもの、カプセルや『骸の海』が入っていた容器を、ウロボロスに向けて無数に降らせた。
「ふざけッ……! ぐッおぉおオオお……!!」
 肉を叩きつける鈍い音を立てて、男の姿が自由自在に動く瓦礫に翻弄され、まるで踊るように鉄くずの向こうに掻き消える。
 次に。次に。次に。一切の容赦なく、エリーは瓦礫を繰る。

 どん、と。

 ウロボロスに降り注いだはずの瓦礫が跳ね飛んだ。エリーへ迫ったそれを、彼女の眼前で『盾』が危なげなく受け止める。
「……やはり傷は浅いみたいですね」
「どういうつもりだい、キミぃ……、これは『ユーベルコード』ではないッ!!」
 吠える男に、あくまでエリーの表情は変わらない。
「ええ、見せてあげません。敵を喜ばせるとわかってて使うほど、私は素直じゃないので」
 そう。
 彼女が使ったのは技能のみ。
 ユーベルコードほど劇的な効果は望めるものではない。それは悪手と言っても良かった。

 その策を採ったのが、エリー・マイヤーでなかったら。

 経験し修めようと努力したことのある者の、単純に計算して1500倍以上の技巧で繰り出す念動力は、その一途な努力は、ユーベルコードの威力には及ばぬまでも、オブリビオンへダメージを与えることが出来る程度には習熟していた。
 もちろん、相手のユーベルコードを読み取るユーベルコードしか持たないウロボロスが相手だったからこそ、成り立った攻防でもある。
 怒りに震える男へ、彼女はあくまで淡々と告げる。
「質が足りないなら、量で補うまで」
 周囲の瓦礫が、更に幾多と浮き上がった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

コッペリウス・ソムヌス
ウロボロスってそんな名前のヘビがいたねぇ
己の尾を咥えているから
いつまで経っても終わりは見えない
…目前のヘルメット男は
どちらかと言えば機械っぽいけど

ユーベルコードが欲しいのならばくれてやろうか
己の尾を喰み続ける著作から、
情念の獣――永遠の怪物を呼び出して
さっきも問うてみたんだけどねぇ
いのちを何だと思ってる? って

労働者、商品、素材でも
返ってくるのはなんでもいいよ
オレも生命って何だろうなぁと想っているから
他愛ないカミサマの戯れだと思って
コピーが尽きても何度だって見せてあげるよ

こたえなんて見つからない
因果応報、己の尻尾を噛んだ似たもの同士
いつまででも遊んでいられるね



●終らぬ
「ウロボロスって、そんな名前のヘビがいたねぇ」
 己の尾を咥えているから、いつまで経っても終わりは見えない。そういうやつが。
 ちらと己の手にした本に視線を落として嘆息こぼし、コッペリウス・ソムヌスは目の前のヘルメットの男を見遣った。
「……君はどちらかと言えば機械っぽいけど」
「いいじゃないか、機械。生き物より余程ちゃんと想定通り動いてくれるのだから」
 戯けて肩を竦める姿は人間らしくもあり、そんな設定の機械のようでもあった。
「想定通り、か。では君の想定通り、ユーベルコードが欲しいのならばくれてやろうか」
「ほう! 素晴らしいですね」
「無論代価をもらうよ。教えてくれ、君にとっての答えを」
 開いた頁。途端に溢れ出す靄のような黒。蠢くそれに構わず、コッペリウスはひたと異形のヘルメットに視線を据えた。
「さっきも問うてみたんだけどねぇ、── いのちを何だと思ってる? って」
 其の答えを識るまで、僕は死ぬ事もままならぬ。投げた質問と共に著書から上がる靄が情念の獣の姿を象り、低く喉奥を震わせた。
 それは己の尾を喰み続ける物語から喚ばれた永遠の怪物だ。満足する回答を得られるまで、敵を貪り喰らう獣だ。
 既にひび割れだらけのコンクリートパネルを踏み抜き、獣がオブリビオンへと飛び掛かった。鋭く太い牙が黒の中で白々と光る。
「なるほど、では答えよう」
 だらりと両手を垂らし脱力したウロボロスが嗤う気配がある。
 その頸から肩に掛けて、情念の獣の咢が喰らいつく。
「"無駄なもの"さ」
 ぶわっ、と。
 情念の獣の牙の隙間からあふれ出した靄が渦巻き湧き上がり、もう一頭の獣が現れた。強く地を蹴り、二頭の獣が喰らい合い、絡まり合う。
「……なるほどね」
 『労働者』、『商品』、『素材』。回答はなんでも良いと思っていた。コッペリウス自身、まだその答えは見出せていない。
 しかしウロボロスの答えに、コッペリウスが満足することなど出来ない。出来るわけがない。
「こたえなんて見つからない」
 どちらのものか判らぬ獣が消えては、コッペリウスが、そしてウロボロスが次々と獣を喚ぶ。輪環の戯れに失敗などあり得ない、けれどあるのは膠着にも似た停滞だ。
 ほんの僅か口角を上げるコッペリウスの胸の裡に、楽しむ感情など欠片もなく。
「因果応報、己の尻尾を噛んだ似たもの同士。いつまででも遊んでいられるね」
 

成功 🔵​🔵​🔴​

イヴ・セレーナ
よろしくてよ
さあ、真似てくださいませ
何度真似されたところでわたくし、実家に帰っただけのことです
けれど
あなたは、この深海に適応できまして?

人魚姿にどろんしまして
尾鰭でヘルメットを弾き飛ばして…難しそうですかしら
そのヘルメット、酸素を補給…してませんわよね?
そうでなくても水圧や抵抗の増加に耐えられまして?

世のシェア…つまり、皆さんが求めているものという事ですね
それが軍事力?
そんな訳ありませんわ
今はそうだとしても、本当の願いはきっと違うはず
あなたの推しは武器を求めてますの?
あなたは推しに武器を向けますの?
推し方は人それぞれ…けれどわたくしの信念は違います
あなたの売買ルートで推し方指南に参ります!



●芯
「よろしくてよ」
 決然と、凛然と。イヴ・セレーナは細い指を胸に添えてオブリビオンへと笑みを向けた。
 彼女が願うだけで降り注ぐのは雨。ソーダ水のそれは、戦場全体を『深海』へと|変身《どろん》させていく。
 ただでさえ薄暗い『工場』から更に光が奪われる。重く重く、身体に掛かる負荷は水圧だ。
「さあ、真似てくださいませ。何度真似されたところでわたくし、実家に帰っただけのことです。けれど」
 降りしきる雨の中、青い瞳が不敵に光る。スカートの内側のシルエットが形を変え、彼女の脚は美しい尾鰭へと変貌していく。一点に天を突いていた青い角も珊瑚の如く枝分かれし、彼女が海に適応したとことを示す。
 そう。それは人魚のカタチ。くるりと水中と化した宙へと泳ぎ出し、女は咲う。

「あなたは、この深海に適応できまして?」

「ぐっ……! ッふ、ぐ……!」
「どうやらそのヘルメット、酸素の補給はしてくれないみたいですね。良かったです」
 すい、すい、と中空を自在に泳ぎ回り、イヴは男を攻撃する機を狙い定める。 
 ウロボロスはイヴのユーベルコードを観察している。洞察している。解析して、既に模倣できると確信している。
 しかし今、模倣はできない。
 使うことができない。
「世のシェア……つまり、皆さんが求めているものという事ですね。それが軍事力? ──そんな訳ありませんわ」
 敵の焦燥には全く頓着せずに工場内を睥睨し、でもイヴは笑みを絶やさぬままウロボロスへと視線を据え直した。
「……今はそうだとしても、本当の願いはきっと違うはず」
 呟く声は、願いのようで。
 目にも止まらぬ疾さで空を泳ぎ、イヴの尾鰭が動きの完全に鈍ったウロボロスの頭を強く打った。男は体勢を崩し、水圧に負けて膝からその場に頽れた。
「あら、やっぱり難しいですか」
 残念! とばかりにちょっぴり肩を竦め、イヴはウロボロスのヘルメットを両の掌で包み込んだ。額を寄せるようにして、その見えない瞳を覗き込む。
「あなたの推しは武器を求めてますの? あなたは推しに武器を向けますの?」
「な、にを……!」
「推し方は人それぞれ……けれどわたくしの信念は違います」
 きりと唇を引き結び、それからイヴはやはり笑った。
「あなたを倒し売買ルートに乗り込んで、『後ろ』の方々にもわたくし、推し方指南に参りますわ!」
 お覚悟なさいませ!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロム・ハクト
あんたの損得には興味ない。/そういうやり口か。/勝手は俺の方が良く知ってる。

最初は2章同様にUCで返す事を考えたが、糸での攻撃で様子見して出方を見る中で同種の相手と判断。
様子見の体を取りつつ、放った糸が施設の残骸に引っかかった形で罠を張る(罠と言っても放り投げられたり動いた時に掛かり、一瞬でも完全脱力を解く羽目になる程度の物)。

その上でUCで変身して攻撃。
吹き飛ばしたり放り投げる感じで罠で隙を作り、そこで一撃。
完全脱力と重なったと感じた時は、牙・爪の攻撃が返ってくる可能性に備える。
向こうも変身するなら身体が巨体・狼の姿での身のこなしに慣れている事を僅かながらのアドバンテージに。

アドリブOK



●巣
 『海』の呪縛から逃れたウロボロスは、既に満身創痍ではあった。
 それでも、ユーベルコードの気配を察知するとだらりと身体の力を抜く姿に── クロム・ハクトは確かな既視感があった。
「そういうやり口か」
 ユーベルコードを奪うのだという、オブリビオンの戦闘方法を見抜き、クロムは静かに十指から伸びる糸を繰った。
 絡め取る、『工場』の残骸たち。
 ぐんッ、と遠心力乗せて、投擲する。あまりに大きく、からくり人形とは違う感覚。ウロボロスはなんなくそれを避け、無人の壁に突撃した瓦礫が、壁にも大きく穴を開ける。
「やあやあ。とんでもないな、本当にキミ達は。キミ達から『ユーベルコード』をいただいたって終りじゃないんだぜ? どうしてくれるんだい、弁償してくれるのかな?」
「……あんたの損得には興味ない」
 愚直に、真っ直ぐに。
 クロムは糸で瓦礫の流星群をオブリビオンへと放り続け、そして敵はそれを避け続けた。
 もちろん──無策のはずがない。
「ユーベルコード、か。見たいなら見せてやる」
 ぴたり、と。足を止めたクロムが己の指を糸の先で掻き裂いた。再び溢れ出す、紅き帳。彼の身体を包み込むそれは、紅き月の昏き夜を裂くもの。
 帳が上がり、|黄金《こがね》の双眸が爛々と輝く巨大な狼が喉を震わせ吼えた。
「素晴らしい! 巨大化は兵器として優秀だ、有象無象を叩き潰せる……さあ、見せてくれ」
 怖じることなくつかつかと歩み寄り、両腕をショーの如く開くオブリビオン。だが。
 脱力しようとしたその一瞬、だんとクロムの後ろ脚が床を踏み鳴らした。踏まれたのは床だけではない。張り巡らされた糸が、あった。
「!」
 蜘蛛の巣のように張り巡らせた糸は、クロムが踏んで撓みを殺すことで張り詰め、オブリビオンの腕を跳ね上げた。
 どんな生物でも、強制的に身体を動かされれば咄嗟に反発──つまり、緊張する。
「しまッ、」
「ォオ゛ォオオ!!!」
 策に気付いたときにはもう遅い。
 迫った強大な牙がウロボロスへと深々と突き立ち、激痛に悲鳴を上げるよりも疾く、首を振るって身体ごと放り出される。
 その先は、もちろん未だ、蜘蛛の巣の上。
 脱力しようにも事前に妨げられて、ウロボロスは『真似る』というユーベルコードを発動することすらできない。
「ああ、そうだな」
 ふと思い出したように、クロムはこぼした。オブリビオンの意識が改めて彼に向いたのを察し、彼は淡々と告げた。
「あんたはユーベルコードを得ることもなく、この工場もここで終る。……そもそも弁償は必要ないな」
「キ様、」
 怒りに燃えた敵の声ごと、クロムは大きな脚で踏み潰した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
…よく喋るなぁ
やってたのが外道な商いだったから
因果が巡ることもある
とは知らぬわけでもあるまいに

調子良く喋り続けるめっとの彼に
損失補填に差し出せるものは
生憎ございませんと全力で笑み

『UCが手に入る』、か
奪う手段持ってるのかな
相手の条件探り発動させぬよう警戒

真の姿に変じ能力底上げ

糸で手繰る瓜江による蹴撃や
風魔法乗せた刀の薙ぎ払い仕掛け反応を注視
相手の攻撃は見切り
相棒の扇用いたかばい防御や回避目指し

相手が攻撃放った直後や
僕の攻撃への対処中など意識引いた隙にのみ
瓜江を絡繰糸から解いての操作
疎かになっている位置から攻撃を

無事撃破できたら
『上』のめがこーぽとの繋がりに関する資料や
やりとりの痕跡を漁りたいな



●いのちの終わり
 いのちとは──"無駄なもの"さ。
 他の猟兵へと返すその声を、冴島・類も聞いていた。
「……よく喋るなぁ」
 呟きこぼした声音に、温度はなく。
 ゆらと傍らで身を起こす糸で繋がる相棒、瓜江へと類は一瞥を送る。
「やってたのが外道な商いだったから、因果が巡ることもある……とは知らぬわけでもあるまいに」
「そうとも。因果は巡るのだ。"無駄なもの"を『商品』へと昇華してあげているんだよ。その『商品』がまた"無駄なもの"を消す。ねぇ、キミの『ユーベルコード』だってそうだろう? 違うかね? だとしたらこの損害の大きさ、判ってくれるだろう?」
 既に満身創痍の身でありながらもぺらぺらと語り続けるオブリビオンへ、類は笑みを向けた。にっこりと、全霊で。
「損失補填に差し出せるものは生憎ございません」
 言葉の届くが疾いか否か、瓜江の鋭い蹴撃が男のヘルメットを狙った。「おおっと」すんでのところで大きく身を捻ったオブリビオンが避ける。
 体勢を立て直した男が見たのは、相棒のそれとよく似た黒い髪。大きく広がった罅。
「んん? それは『ユーベルコード』ではないねぇ。でも興味深い。その状態で『ユーベルコード』を使ったらどうなるのかな?」
「……安い挑発だね」
 さあ、さあと言わんばかりのオブリビオンへ、類は短く吐き捨てる。もちろん応じるつもりなどない。
「ッ、からくり人形かい、でも」
 ウロボロスの腕が瓜江の長い脚を阻む。
「恐るに足りないとも!」
「どうかな」
 と、その蔭から繰り出される刃が男の腕を掻き裂いて、赤が散った。こんな男の血でも赤いのか。そんな感慨を、覚えたか否か。
 ふつ、と。瓜江と類をつなぐ糸が切れた。
 瞬時生気を失い動きを止めた瓜江を視野に入れ、ウロボロスは哄笑した。
「ほら見たまえ! 所詮人ぎ、ぉッ?!」
 遠心力を乗せた瓜江の、糸の外れたはずのからくり人形のしなる脚が、遂に男のヘルメットを|圧《へ》し飛ばした。他の猟兵が試した通り外れはしなかったけれど、瓦礫の山へと叩き込まれ男の身体は大きくひしゃげた。
 それは相縁。決して断たれぬ縁の糸によって瓜江を遠隔操作する類のユーベルコード。そして。
「あなたの傍らに、|瓜江は居ない《ヽヽヽヽヽヽ》。このゆーべるこーどは、あなたには真似できない」
 最早指先を動かすこともできず痙攣を繰り返す男の懐からちらと覗いた細い金鎖。類は瓜江へ牽制を依頼しつつ手を伸ばした。
 それは、革のカードケースへと繋がっていた。中にはカードキーが収められている。刻まれた社名は、『アバドン・カンパニー』。
「……これが、」
「か、返せ! それは関係なッ!! ──」

「関係があるかどうかは、調べれば判るよ」

 喚声を遮ると同時に瓜江の沓がオブリビオンの身体を破壊して、ざらりと砂のように崩れていく。
 手に残ったケースからカードキーを引き抜いて、類はそれを握り込んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年07月13日


挿絵イラスト