獣人世界大戦⑳~『はじまり』より……
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――ユーベルコード。
かつて『はじまりの猟兵』より伝授された力。
|助けを求める声《m'aider》に応じて、齎された抗う為の力。
それは、確かに獣人たちの未来を切り開いたのだ。
だが、それを|過去《骸の海》は『赦されざる罪』と言う。
それは自然現象ではない、と。世界の仕組みではない、と。
例え、|世界の敵《オブリビオン》を倒すのが猟兵だと世界が定めていたとしても。
|罪深き刃《ユーベルコード》を獣人たちに授けたことで、『はじまりの猟兵』たちは世界から『罪深き者』と定義されたのだ。
だが、彼女は言う。
「それでも、わたしに後悔はありません」
仮面の奥から感じる視線は力強く、意思を伝えてくる。
「皆さんだって、その気持ちは同じ筈です」
だから……彼女はまた|世界《骸の海》に抗う。抗う為にその姿を顕す。
だけど、彼女も生き物であった……ゆえに時間は等しく消費され。
寿命の尽きた彼女は過去となり、されどこの場に留まることで不倶戴天である|世界の敵《オブリビオン》と化している。
「真摯に真実を告げようとしても、皆さんに嘘の情報を渡してしまうかもしれません」
オブリビオンは世界を喰らい尽くす存在が故に。否、過去が現在と未来に干渉することは自然の摂理では無いのだ。
だから、伝えたい言葉は歪んでしまう可能性がある。
「本当は、今すぐ皆さんに全てを伝えたいけれど……」
それが叶わぬ事を知っていて……その上で自身の願いを叶える術を知っている。それを猟兵たちに告げる。
「だからすみません……わたしと戦ってください!
容易には復活できぬ程叩きのめされれば、その末期に少しだけ、真実を語ることができます」
|過去《骸の海》から現在に滲み出すのがオブリビオン。その、『滲み出す』ための力が無くなれば。
また骸の海に落ちるが、逆に言えば、それはたった今、現在から過去になるということだ。現在が未来に進むための糧になるということだ。
その瞬間ならば……伝えることが出来る。
「知りたい方は、わたしに向かってきてください」
――二番目から五番目の猟兵について。
彼女が持ちうる情報は猟兵の歴史である。
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「オブリビオンは何故復活しなくなるか……ちょっと気になるわよね」
ティルライト・ナハトギフト(ブルーゲイル/ゲッカビジン・f41944)は赤い眼鏡のフレームを押し上げながら、そう呟いた。
どんな存在でも骸の海から世界に滲み出る可能性はあるだろう。だが可能性があるだけで、全てがオブリビオンと化すわけではない。
何か……特定の条件があるはずだ。その条件を満たした上で、世界に滲み出る回数が限られているのは何故か。
「きっと、復活の為のリソースが定められているのね。だからそのリソースを使い切れば戻ってこれなくなる」
そのリソースは何で、どうやって用意するのかはまだ謎なのだが。
ともあれ。
「『はじまりの猟兵』が姿を顕したわ。彼女が持っている情報にはきっと大いなる価値があるでしょう」
だがその為には戦わなければいけない。
彼女は|世界の敵《オブリビオン》であるが故に、その軛を断たなければいけない。すべてはそこからだ。
「彼女をオブリビオンとして復活できない程度に。叩きのめす。これが|依頼《クエスト》の内容ね」
つまり何度も何度も倒せば。復活の為のリソースが尽きる。その瞬間、彼女はオブリビオンから『ただの過去』となり。
「私たちは過去を糧に未来へ進むことが出来る」
『はじまりの猟兵』から情報を得ることが出来るのだ。
「あるのは戦いだけ。もちろん言葉を交わすな、とはいわないけれども、言葉から得られる情報は無いと思って大丈夫よ」
だから。
ティルライトがグリモアを人差し指で、ぴんっ、と弾く。
「よろしく。報酬は出ないけれど。貴方たちが得た情報はきっと皆を前に押し進めるわ」
そう言って、ティルライトは猟兵たちを転送していく。
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『…………』
『はじまりの猟兵』は静かに闇の中で佇んでいた。否、待っていた。六番目の猟兵の訪れを。自身を倒してくれる存在を。
そう、自身が真実を語る事が出来るのは、彼ら彼女らに『完膚なきまでに倒された時のみ』……。
『まって。いっそ紙芝居にすれば戦闘中だって……あ、でも……』
さっきまでの覚悟はなんだったの!
『いやいやいや。意図せず嘘情報を語っちゃう可能性もありますし……うーん……』
結局、戦闘中に語ることは無さげである。
やはり、あるのは戦いのみ。
グリモアによって転送されてきた猟兵たちを前にして、『はじまりの猟兵』は語る。――今は、不倶戴天の敵だけれども。ずっと、ずっと待っていた存在を前にして。
「言っておきますが、わたしは最も古き者……正直言って、弱いですよ!」
そう言って、彼女はライフルとナイフを構える。
『はじまりの猟兵』はその名の通り|最初期《旧式》の猟兵。純粋なスペックで言えば、最新の能力や戦術を修得した『六番目の猟兵』よりも弱い。
だが彼女は、自身の修得したユーベルコードと自身の『技能(戦闘に関するものを一通り高レベルで習得済)』を組み合わせて戦う。それは六番目の猟兵に見られる、『綺麗な戦い方』ではない。いうなれば、姑息で卑怯な……己に取れる手段全てを使い尽くす『戦場の戦い方』で挑んでくる。
「世界の敵たる衝動が、手加減を許してくれそうにありません。全力で、お願いします」
彼女を包む闇が、戦場へと広がる――!
るちる
まいどです。いつもありがとうございます、るちるです。
最後に少しだけ。ポンコツの香りに弱いるちるです。
そんなわけで、『はじまりの猟兵』との戦いをお届けします!
●目的
『はじまりの猟兵』たる彼女と全力で戦い、倒すこと。
●全体
1章構成の戦争シナリオです。
純戦です。しかし、死力の尽くし方は各々にお任せします。シリアスだけが純戦ではありません。また、倒し切る気概が大切です(必ずトドメになるとは限りませんが)
禁止事項:公序良俗に反する行為。お持ち帰り行為。
ナンパまでなら許します(なお、結果はお察し)
(=============================)
プレイングボーナス……「戦場の戦い方」に対抗する/圧倒的な力や最新戦術で叩き潰す。
(=============================)
戦場の戦い方とは、ゲリラ戦法であったり不意打ちであったり、まぁ小賢しい作戦と言えるでしょう。ですが彼女は『自身の力』を正確に把握してフル活用してきます。
その作戦に付き合うか、『今の基本スペック』でぶっ飛ばすかはお好みで。
●1章
ボス戦『はじまりの猟兵』との戦闘です。
戦いの場は、獣人戦線でありがちな戦場。塹壕があったり障害物があったりと1対多、あるいは強大な敵に個が立ち向かうことに適したフィールドです。落とし穴があったりとか。いずれも『それだけ』では致命傷になりませんが、組み合わせることで大きな力とするのが彼女の戦い方です。
ちなみに不意打ち上等な性格とします。
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オープニング公開後、プレの受付開始です。説明や断章はなし。オープニングに書いてないことは想像でフォローしてください。
戦争シナリオのため、プレは全採用というよりは程よくチョイス……たぶん最低限の数を書きやすいものから書いていく感じになると思います。タグでの案内はないかもですが、6人超えてきたら流れる可能性が高くなります(チョイスするため確実ではありません)
それでは皆さんの参加をお待ちしていまーす!
第1章 ボス戦
『はじまりの猟兵』
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POW : ストライク・イェーガー
レベルm半径内の対象全員を、装備した【ライフル】で自動的に攻撃し続ける。装備部位を他の目的に使うと解除。
SPD : プログラムド・ジェノサイド
【予め脳にプログラムしていた連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : キューソネコカミ
【ライフル】が命中した敵を一定確率で即死させる。即死率は、負傷や射程等で自身が不利な状況にある程上昇する。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
菫宮・理緒
はじまりの猟兵さん。
なんだか、こちらが聞きたいっていうより、
むこうが話したい感じだよね。
ずっとぼっちで寂しかったのかな?
だとしたらわかる!わかるよ!
わたしも引きこもりだったからね!
あ、でも、急に話すと声量おかしかったり、
噛み噛みになったりしちゃうから気をつけてね。
もちろんそれも、|萌え《ポンコツ》要素だけだけれども!
こちらとしては紙芝居ありなんだけど、戦うなら短期決戦、一発勝負で行くよ!
【偽りの丘】で攻撃を無効化したら、一気に間合いを詰めて勝負!
じゃーんけーんぽん! あっちむいてほい!
コツは、指先をしっかり見せること。
相手の瞳がわたしの指先をロックオンしてから動かすと、
反射で釣られるんだよー♪
●
どこかの次元、どこかの世界で、言われている言葉。
――戦いに際しては心に平和を。
極論すれば、『敵を殺す』ことが戦いの目的だ。
そんな戦いの中で、そのような言葉が生まれるならば、戦いの中に渦巻く感情は、憎悪や怨恨だけではない、と言える。
そこにある感情が、尊敬、敬愛、友情、あるいは共感ならば。
戦いの前のひと時、言葉を交わすこともおかしな話ではない。
「はじまりの猟兵さん。なんだか、こちらが聞きたいっていうより、むこうが話したい感じだよね」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が愛らしい瞳をくりくりっとさせながら首をかくんこてん、と傾げる。
『ふふふ、わかりますか?』
『はじまりの猟兵』さんがなんかドヤ顔になっている気がする。
そんな様子を見て理緒は『ずっとぼっちで寂しかったのかな?』とか思う。でもだとしたら、である。
「だとしたらわかる! わかるよ! わたしも引きこもりだったからね!」
『え? そこですか?!』
別に引きこもっていたわけじゃないんだ。むしろ封印されてたまである。
が、まぁ人との繋がりが無くなっていた状態というならば、確かに引きこもりと言えなくはない。
「あ、でも、急に話すと声量おかしかったり、噛み噛みになったりしちゃうから気をつけてね」
『だ、大丈夫です。説明には自信がありましゅ!』
早速噛んでるじゃねーか。
それを受けて蹲る理緒。どうして鼻のあたりを押さえているのか?
「もちろんそれも、|萌え《ポンコツ》要素だけだけれども!」
萌えてただけだった。通常運転ですね。
『まぁ。とりあえずの交友はここまでとしまして』
「うん。こちらとしては紙芝居ありなんだけど……」
そういいながらゆっくりと戦闘態勢に入る『はじまりの猟兵』。それに対して理緒もまた手を軽く振ってホロディスプレイ&コンソールを出現させる。
「戦うなら短期決戦、一発勝負で行くよ!」
『望むところです!』
その声を皮切りに、二人の猟兵は戦闘へ突入する。
●
『はじまりの猟兵』のライフルが火を噴く。
それは寸分違うことなく、理緒の体に吸い込まれ……ていかない。
『これは……!』
瞬く間に切り替わった風景。どこか殺風景な丘の上に転移……否、これは理緒のユーベルコード。自身の潜在意識を心象風景という結界にして戦場を覆い尽くす……【偽りの丘】。
そしてどこからともなく、『はじまりの猟兵』が放った弾丸と寸分違わない弾丸が生み出され、激突。対消滅する。
「偽物が本物に劣るとは限らないんだ、よー」
そんな理緒の言葉に対して、動揺もせず。冷静に『はじまりの猟兵』は攻撃を重ねる。手にしたナイフを投げつけ、足元の意思を蹴り上げ、さらにはライフルを突きつけて|【キューソネコカミ】《即死の弾丸》を放つ。
だが。
いずれもその進路を真逆から潰すように、|偽物《コピー》が出現し、攻撃を相殺していく。
『なるほど、これが六番目の猟兵のユーベルコード。ですが!』
次なる攻撃を放とうと『はじまりの猟兵』がライフルを構え直す……その前に理緒は前に向けてダッシュ!!
(一気に間合いを詰めて勝負!)
【偽りの丘】の時間制限もあるが、長期戦になればスタミナで負けるだろう。何をどうやっても、引きこもりと戦場を駆ける兵ではフィジカルな差が確実に在る。
それを『はじまりの猟兵』もわかっている。
『……!』
突撃してくる理緒に対して、軽くバックステップ。しかし、ライフルの銃口はまっすぐ理緒に。
立て続けに放たれるライフルの弾丸はいずれも【キューソネコカミ】の力を秘めている。
『キューソネコカミの真髄は一撃必殺ではありません……! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、です!』
そう、一発当たれば終わる可能性のある弾丸を、弾幕のごとくばらまく。当たれば死ぬかもしれない弾丸の中を駆けるものはそういまい。
理緒にしてみれば、【偽りの丘】で相殺しているので問題ない……と思いきや、バックステップのせいか、なかなか詰められない。
「う、くぅ……!?」
3分弱は戦闘にしては長い方か短い方か。いずれにしても死の弾丸の雨の中を踊る風よけとしては、少し分が悪い。
そしてその瞬間が訪れる。
【偽りの丘】を維持できる限界だ。周囲の風景が血生臭い戦場へと戻る。相殺しきれなかった弾丸は2つ。理緒はひとつをかわし、もうひとつを……。
「痛ぁっ?!」
否、おでこに直撃である。強烈なデコピンを受けたように吹っ飛ばされる理緒。地面に投げ出されて、そこらから土煙が盛大にあがる。
『やった……?!』
フラグである。
「いたいの!!」
土煙の中から、おでこからちょっぴり血を流しながら突撃してくる様は妹のようであったが、それはさておき。
フラグ建設に力を注いでいた『はじまりの猟兵』は、急接近する理緒に反応しきれない。
『しまっ‥…』
懐に飛び込まれた。
咄嗟にナイフを振るおうとする『はじまりの猟兵』。だが。
「じゃーんけーんぽん!」
『へっ? あっ!』
なんか、じゃんけんした。ウィナー、理緒!!
「あっちむいてほい!」
『……っ! あっ!』
ばっちり指先に釣られる『はじまりの猟兵』。だがポンコツとは言わないであげてほしい。この刹那の攻防(?)には理緒の真髄が込められている。
何か。
「コツは、指先をしっかり見せること。
相手の瞳がわたしの指先をロックオンしてから動かすと、反射で釣られるんだよー♪」
戦いの真髄じゃないんかいっ。あっちむいてホイの真髄でした。
『ま、まけた……』
「勝ったーーー!!!」
何の勝負なの。
ともあれ、全力の勝負ではありました!!
大成功
🔵🔵🔵
アシェラ・ヘリオース
その意気や良し
私も死力を以て応じよう
近衛装束に換装し、片手に「破天槍」と「破星刃」を装備し、「闇理力炉」から力を注いで臨界させる【闘志、エネルギー充填、封印を解く】
方針は上空に飛翔し、直下降からの「破天槍」の投擲。彼女に直撃を狙うが、当らなくてもそのエネルギーの炸裂自体での攻撃と炙り出しを狙う【槍投げ、爆破、吹き飛ばし】
追撃は「多機能ミラーシェイド」のセンサーで知覚した彼女に対し、猛禽のように加速を乗せ、巨大化させた破星刃で襲い掛かる。パワーと破壊力、速度を前面に押し出し、全力で仕留めに行きたい。危険な相手だ、ワンチャンスも与えないつもりで行く【メカニック、空中戦、武器巨大化、ダイガタナ】
●
『はじまりの猟兵』は戦いを望んでいる。
それは決して自分の愉楽のためなどではなく、あくまで『猟兵』として世界を……否、猟兵は世界に選ばれながら、世界に住まう人々の為に戦う。だから、|世界《骸の海》から『罪深き者』とされても、戦う。
|助けを求める声《m'aider》に応える者が猟兵なのである。
この戦いは未来を切り開くための一戦。
「その意気や良し。私も死力を以て応じよう」
アシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)が告げる。目の前にいる『はじまりの猟兵』は六番目の猟兵たるアシュラたちを待っていた。
『手加減はできませんので、あしからず!』
ライフルを構える『はじまりの猟兵』。
「……!」
それを視認して、アシュラが近衛装束へと換装する。真の姿の近衛装束――それによって強化された闇理力の翼がアシュラの背を彩る。その手に握るのは『破天槍』と『破星刃』――フォースを極限圧縮し結晶化した赤き武器へ、『闇理力炉』――アシュラの闘志に伴って莫大な力を産むリアクターから力を注ぎ込む。
エネルギー充填、それによる臨界突破。
――だが。
『遅い!』
アシュラ目掛けて飛翔するライフルの弾丸。
「……っ!」
それを咄嗟に破星刃で弾く。まだ想定よりは不完全な励起ながら弾丸を弾くことくらいなら。
しかし、そこへ弾丸が立て続けに降り注ぐ。
『申し訳ありませんが、「相手が強くなる」を黙って待ってるほど余裕はありませんので!』
「くっ……!」
隙と見て、弾丸を叩き込んでくる『はじまりの猟兵』に対して、アシュラは上空へと飛翔する。一時的な退避と次の攻撃準備。これは合理的かつ反撃の一手としては申し分ない動き。
計算外だったのは、『はじまりの猟兵』の【ストライク・イェーガー】が対となるユーベルコードであったことか。
『どこに逃げても一緒ですよ! 【ストライク・イェーガー】の利点は『自動的に攻撃し続ける』こと!』
『はじまりの猟兵』が意識しなくても。弾丸の届く距離にいるならば右手に装備したライフルが自動的に敵を追う、撃つ。
「厄介な……!」
回避しながら上昇。その間にも手に握った破天槍と破星刃へ理力を注ぎ続けている。闘志が衰えたわけではない。ならば、反撃の一手はこの手にある。
「……よし!」
ライフルの弾丸を回避しつつ、上空で反転。そのまま今度は直下降の態勢へ。真下……すなわち、『はじまりの猟兵』に対してまっすぐ降下しながら、破天槍を投擲する!
(直撃すればよし。だが当らなくても……!)
破天槍が内包しているエネルギーが炸裂すれば、地面ごと吹っ飛ばす。その衝撃は決して無視できない威力となるはずだ。
『ちょっ、これは……!』
第六感。【ストライク・イェーガー】で攻撃し続けていた『はじまりの猟兵』はその弾丸が弾かれる様をみて、自身の感覚に従って回避行動を行う。
『ていっ!!』
左手のライフルを投げつける。爆発によってほんの僅かでも威力を減殺し、同時にオーラの護りを展開しつつ、自分が今立っている位置から大きく飛び退く。
大地に突き刺さった瞬間、弾け散る膨大なエネルギー!
『くぅぅぅぅっ!!』
まるでミサイルでも爆発したかのような強烈な衝撃波が周辺をなぎ倒すが、行動を完全に防御へ振り切った『はじまりの猟兵』は吹き飛ばされながらも、その消滅を回避する。
爆風と土煙が大地を覆い尽くし、その中でケホケホと咳き込みながら、『はじまりの猟兵』が呟く。
『痛たたた……やっぱり純粋な力比べでは全然ダメですかぁ』
そもそも同じ土俵では戦いにすらならない。これは純然たる事実なのだ、『はじまりの猟兵』と『六番目の猟兵』との。
「そこか!」
声と同時に降ってくるアシュラの攻撃。『多機能ミラーシェイド』のセンサーで知覚したのだろう、寸分違わず、まっすぐに。まるで猛禽のように加速してきたアシュラは、手にしている破星刃を巨大化させ、一閃する――必殺の|【黒騎瞬煌殺】《ダークスターダイバー》。
(危険な相手だ、ワンチャンスも与えないつもりで行く)
と一気呵成に攻め立てるアシュラ。
それでも……『はじまりの猟兵』は戦いを諦めない。
『見切った!』
決して紙一重の回避ではない。大きく飛び退る……逃げるだけの回避。だが、アシュラの破星刃の動きをしっかりと見切れば、回避そのものは出来なくはない。
『きゃぁぁっ?!』
それでも剣の風圧、あるいは込められた理力の余波か。それで吹っ飛ばされる『はじまりの猟兵』。
パワーと破壊力、速度を前面に押し出した、全力をこめた仕留めの一撃。
それに押し負けて、地面を転がっていく『はじまりの猟兵』に対して、アシュラはさらに追撃を放つ。
『でも、わたしだって!』
転がりながら、戦場に転がっているライフルを拾い上げる『はじまりの猟兵』。【ストライク・イェーガー】を放ちつつ、もう片方の手が別のライフルを拾い上げる。
戦場に落ちているものはすべからく有効活用する。『誰のもの』なんてどうでもいい。勝つことが重要なのだから。
この状況でアシュラへ確実に弾丸を叩き込むならば。
『……こうするしかありませんよねぇ!』
「……!?」
突っ込んでくるアシュラ……に対して空いている方のライフルの銃口を向ける。大きな武器は当然の事ながら小回りに欠ける。
当たらなければ当たる位置で撃てばいい。つまり、零距離射撃。
『勝負……!』
「くらえっ!」
刹那の激突。
押し負けるのは当然のごとく、『はじまりの猟兵』側だ。吹き飛ばされながら……しかし、『はじまりの猟兵』は口元に笑みを浮かべる。
「まさか……捨て身の一撃とは……」
それでもアシュラの身体に大きなダメージが入ったわけではない。五体満足だし、ダメージも大きくはない。このまま継戦と言われたとしても問題なく戦えるだろう。
アシュラが大地に降り立ち、自身の一撃によって吹き飛ばされた『はじまりの猟兵』へと視線を向ける。満身創痍、という単語でしか説明できないような状況。否、消滅しかけている部位もある。このまま放置すれば程なく……。
『お見事でした。さすが六番目の猟兵ですね』
仮面の奥で笑みを浮かべながらゆっくりと消滅していく『はじまりの猟兵』。
「……ふぅ。終わったか」
換装を解き、普段の姿に戻るアシュラ。
初手から翻弄されたが、どうにか勝てたらしい。
その勝利を手にしたアシュラは、大きく息を吐き出すのであった。
成功
🔵🔵🔴
エリー・マイヤー
◎
言動から察するに、はじまりさんは押しに弱くてまじめな女の子。
であれば、スカートを捲ったり柔らかいところをふにふにすれば…
リアクションで一瞬動きが止まるはず。
そう、セクハラが有効な戦術となるということです。
さて、アホな事言ってないでお仕事お仕事。
まず【念動ソナー】で走査して、周辺の詳細な状況を把握。
罠の配置と敵の体け…居場所を割り出します。
で、敵の張った罠や障害物を念動力で遠隔操作して逆利用。
こちらの有利な状況に持ち込みましょう。
銃撃は念動力で逸らして対処。
UCは自分を念動力で動かして緊急回避です。
そんな感じで敵の攻撃に対処しつつ、隙を見て念動力で捕獲。
絞めたり捻ったり潰したりして封殺します。
●
ゆらり、と世界が歪む。そこから顕れるのは『はじまりの猟兵』たる彼女。
グリモア猟兵が語った仮定が正しいとするならば。
オブリビオンはすべからく『骸の海から現世へ復活する為』のリソースがあるはずだ。プールされているそのリソースの分だけ、現在へと滲み出すことができる。
それは骸の海から繋がっているならば。異なる次元、異なる世界であっても可能で、だから彼女は一時消滅しようとも、再び猟兵たちの前にその姿を顕す。
何事も無かったかのように。彼女はまだ其処に『在る』。
『次は……貴女ですか?』
『はじまりの猟兵』が告げる先に立っていたのはエリー・マイヤー(被造物・f29376)。
口元に煙草をくゆらせながら気だるげに立つ姿は、何故か出来る女を感じさせる。『はじまりの猟兵』の言葉には答えず、エリーは口元の煙草をつまみ、空に向かって大きく紫煙を吐き出す。
「言動から察するに、はじまりさんは押しに弱くてまじめな女の子」
『……はい?』
かんっぜんに、想定外な言葉に素できょとんとする『はじまりの猟兵』さんである。
『はじまりの猟兵』と戦いの前に交わす言葉に戦闘を左右する力はないけれども。『はじまりの猟兵』からでしか得られない栄養素があります。え? ほんとに??
「であれば、スカートを捲ったり柔らかいところをふにふにすれば……」
『ひぃぃっ?!』
なんかスカートがふわっと不自然にめくりあがりそうになりましてね?? 言うまでもなく、エリーさんの念動力である。
「リアクションで一瞬動きが止まるはず。そう、セクハラが有効な戦術となるということです」
『どういう理論なんですか!?』
ぐいぐい行く感じの念動力に、必死になってスカートを押さえ込む『はじまりの猟兵』さん。どうして戦場で士気とか捕虜とか関係なく、堂々と真正面からセクハラされているのだろうか?
答えは、エリーさんだからである。仕方ないね。
『くっ……こんな六番目の猟兵……はじめて……!』
あくまで復活してから『はじめて』って意味である。そりゃそうだ。
このままでは剥かれてしまう。性的な意味で。『それはマズイ』と『はじまりの猟兵』が強引にライフルを構えて銃弾を放つ。立て続けに数発。
「……っと。さて。アホな事言ってないでお仕事お仕事」
『言ってるだけじゃなくてやってましたよね!?』
威嚇射撃をさらっとかわしつつ、念動力を解除。
「証拠は残っていないはずです」
『くっ……確信犯!!』
とか言う、ふんわりギャグっぽいやりとりはここまで。
一瞬で張り詰める緊張感。
直後、『はじまりの猟兵』が仕掛ける。
ライフルと投げナイフによる連続コンボ。どちらも『それだけ』では間隔が空いてしまうが、二つを組み合わせれば。エリーの周りを円を描くように走りながら、そこらで拾った武器も合わせて投擲による遠距離攻撃。
だが、それはエリーの【念動ソナー】で容易に察知されている。1/152秒で放たされる念動力によるソナー。円状に放たれたそれはその過程で捉えたモノを全てエリーへ伝達する。
「なるほど。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。トランジスタグラマーというやつでしょうか?」
『どこ見てるんですか!?』
「おっと、シリアスでした失礼」
ほんとに何を|走査《スキャン》しているんですかエリーさん。あとで『はじまりの猟兵』のスリーサイズ教えてください。あ、そこまではわからない? 残念。
『……もうっ!!』
ちょっとえっちな雰囲気を振り払うように、『はじまりの猟兵』が足元のロープを掴んで引っ張り上げる。とてもシンプルな罠。地面に乗っかっているものをひっくり返すだけの。それ自体に殺傷力は無く、視界を塞いだり気を逸らすだけの罠。
だが、タネの割れているマジックは通じない。
エリーの【念動ソナー】の本命は、周辺の詳細な状況の把握である。特に罠の配置。落とし穴や地雷といった罠も容易に割り出し、その上で、『はじまりの猟兵』の体け……居場所を把握している。
周囲を囲むほどの遠距離攻撃とて射線がわかれば対処は可能。速度の速い弾丸は念動力で逸らし、遅れて迫ってくるナイフは念動力でキャッチして反転。少し角度を変えて『はじまりの猟兵』の移動する軌道上へ射出する。
『うわっ?!』
こちらもナイフ程度では致命傷にはならないが、さすがに自分が投げたものが全部返ってきたらびっくりする。
『くっ……遠距離では勝てませんか!』
そのうち、『くっころ』言い出しそうなほど、『くっ』って言ってるなこの子。
「え? 剥いていいんですか?」
ダメです。あと、その場にいない人の声に反応するのはやめましょう。え? 私のせい? デスヨネー。
こんだけふざけていても、お互いに致命的な隙は一切晒していない。
「『……!』」
視線が絡み合う。埒が明かないならば。
長期戦は不利と判断した『はじまりの猟兵』が軌道を大きく変えて、エリーへまっすぐ迫る! それを察したエリーが念動力を叩きつけるが、『はじまりの猟兵』へ直接的に作用する念動力は物理だ。『盾』があれば防げる。盾は……この戦場のそこら中に転がっている。
『……そこ! それからこっち。これもか!』
見えないものは見切れない。だが第六感が雑に教えてくれる。盾になりそうなものを拾い上げ、蹴り上げ、時にはナイフを投げつけて。相殺しながらエリーへ肉薄する『はじまりの猟兵』。
「……っ!」
この戦闘において(セクハラを除き)エリーが初めて息を飲む。拳を突き出せば届く距離。いわゆる肉弾戦の距離。ここまで踏み込まれれば流石のエリーとて。
『かわせないでしょう! 【プログラムド・ジェノサイド】!!』
ここで放つのは【プログラムド・ジェノサイド】――予め脳にプログラムしていた連続攻撃である。決められた動きであるがゆえに人知を超えた超高速連続攻撃が可能。たとえエリーが念動力を叩きつけてきたとて……そう、四肢が千切れようとも体が動く限りは『決められた動き』で敵を追い込む。
『もらいました!』
必殺にはなり得ないだろうが、この戦況を変える一手にはなる。その直撃を確信して、『はじまりの猟兵』が攻撃を繰り出す。
ライフルの銃口を突き入れてからの射撃。反動で敵の身体が後方へ流れたらそのまま再度突き刺しつつ、今度は体を入れ替えてナイフでの一撃。そこからは敵との距離感によって瞬時にパターンが切り替わるが、概ねライフルで動きを制しながら零距離で攻撃を叩きつけるパターンが今回の【プログラムド・ジェノサイド】。
だが。
『……うそっ?!』
ライフルの銃口がエリーの心臓の位置――っていうか整ったバストに埋もれたところまでは、確実に視認している。だがトリガーを引くまでの刹那の間に。
エリーの姿が『はじまりの猟兵』の視界から消えていた。
「そんなに私のおっぱいが揉みたかったなんて……」
『違いますっ!! ……くそぉぉっ!!』
エリーの声は後方から。だが『はじまりの猟兵』は【プログラムド・ジェノサイド】を止めることはできない。このユーベルコードの唯一の弱点。
エリーがどうやって回避したか。答えは簡単で、自分自身を念動力で強引に引っ張って動かしたのだ。人の身、あるいは猟兵であったとしても自力では不可能であろう機動を強引に発動して。まるで操り人形が糸に引っ張られるように、『はじまりの猟兵』の背後へと移動したのだ。
以て、此処に有るのは無防備な『はじまりの猟兵』の背後のみ。
「揉めるのは揉まれる覚悟のある者だけだ。誰かが言っていた気がします」
『カッコよく言ってもダメですからね!?』
「いやよいやよも好きのうち?」
『違いますってば!! にゃぁぁぁぁぁぁ?!』
こんな言葉のやりとりをしているし、なんならたぶんついでに揉まれているが。
やっていることは念動力での捕縛から締め上げ、捻り、潰しといった完全封殺である。相手を滅するレベルの。
エリーの掌の上に捕らえられた『はじまりの猟兵』の未来はどっちだ?
大成功
🔵🔵🔵
シリルーン・アーンスランド
『最期の礼儀』が必要な戦いがあることを
わたくしは知っております
いかで口惜しくとも
いかで悲しくとも
倒さなければならぬなら
戦うしかないのです
それでも転送受けましたら
優雅にはじまりの猟兵さまに一礼を
世界の敵として顕現されてなお
その最期を猟兵の為にお使い下さるお心持ちに
御礼を
おそらくこの方にはこれだけで良いのです
「還られるその時、お話改めて伺いましょう」
偽りのお命、頂戴致します
信じられぬ強撃が襲い来たります
敵への仮借なき行動は
まさにはじまりの方に相応しきもの
弱い?とんでもない!
この方の全ての戦技全てのユーベルコードは
血の滲むご努力の果てに会得されたもの
「ですがわたくしとて能力者にして猟兵!遅れは取りませぬ!」
真の姿を解放し異界の力も能力者の力も十全に用い
傷は負えど持ちこたえてのち
メガリス・さまよえる舵輪を詠唱致します
最期の礼儀の果てで
わたくしの元へ参られた方々に希いましょう
「どうかあの方に終りをお導き下さいませ」
と
わたくしの剣にても貫き
「此処までにございます」
終りには今一度深く一礼し心より謝辞を
●
「ちぃっっ!!」
『はじまりの猟兵』が大きく飛び退る。否、全力でひとつの戦場から退避する。
――強い、とはどういうことか?
――勝つ、とはどういうことか?
勝負でそれを言うならば。強いとは相手を上回ることであり、勝つとは相手を負かすことだろう。
だが、戦場においては、異なる定義で押し通ることもできる。
――強くなくたって死ななければ、何度でも戦える。
――こっちが負けなければ、相手が勝つこともない。
総じて生き延びることが。戦場では何よりも重要なのだ。
だから、『はじまりの猟兵』もその機は逃さない。戦略的撤退などお手の物。『生きて』いれば、また勝つ目も出てくる。
『はじまりの猟兵』は確実に『六番目の猟兵』の味方である。
だが、今は。|猟兵とオブリビオン《不倶戴天の間柄》として戦うことが必要なのだ。
『……!!』
『はじまりの猟兵』は退避したその先に、佇む影を確認して立ち止まる。
その影は、敵意や怨恨といった『戦場にありがち』な感情ではなく、唯々。尊敬と切なさと……使命を抱いて、軽やかに優雅に一礼を。
「『最期の礼儀』が必要な戦いがあることを……わたくしは知っております」
あげた顔に、瞳に揺蕩うのは彼女が駆け抜けてきた『どの戦い』であっただろうか。
「いかで口惜しくとも……いかで悲しくとも」
携えた舵輪を握る手に僅かに力がこもる。
能力者が生きてきた世界は、優しくない。
死が、常に傍に有るというのに、それに抗する力は秘さなければ、日常に狂う。隣り合わせの味方は運命が繋がらなければ出会うこともできず、されど面向かって想い通じた相手とて。
「倒さなければならぬなら……戦うしかないのです」
立場、目的、存在の意味、そして……譲れないモノ。
『それ』が戦う者にはあることを、シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は知っている。
彼女の中に在るのは、感謝と決意。
――世界の敵として顕現されてなお、その最期を猟兵の為にお使い下さるお心持ちに
――唯々、御礼を
(おそらく……この方にはこれだけで良いのです)
と。
その様子をじっと見守っていた『はじまりの猟兵』は僅かに笑みを浮かべる。
『覚悟完了……って茶化している場合じゃないですね。嫌いじゃないですよ、そういうの』
構える。お互いに『そういう場面』だということは十二分に理解できている。
「還られるその時、お話改めて伺いましょう」
『あら。貴女に出来ますか?』
軽い、言葉での応酬。だが、まだ手は動かない。この時間は『隙』ではない。
――礼儀には礼儀を。
この場が|死に物狂い《姑息で卑怯な戦い》の場とて、戦いが|貶められる《無礼な》わけではないのだ。
生きるために必要なモノ――それはなけなしの|誇り《自分の生き方》。それを譲ってしまったら生きている意味がない。
「偽りのお命、頂戴致します」
『安くはないので。差し上げるかどうかはこれから決めましょう!!』
戦いが、始まる。
●
『……はっ!!』
短い呼気とともに。『はじまりの猟兵』がライフルを発射。迫りくる弾丸をシリルーンは視線を『はじまりの猟兵』に向けたまま、落ち着いて回避する。
一瞬の隙が致命傷になる。視線を切らさないのは基本だ。
だからこそ、『はじまりの猟兵』はそれを遮る。
「……っ?!」
がばっ、と足元から。『はじまりの猟兵』が蹴り上げたのは戦場に転がっていた誰かの銃だ。それを土煙ごと巻き上げて。攻撃ですらないただの威嚇にして、フェイク。
だが、それもシリルーンには通じない。冷静に。惑わされることなく、ふっ、とひと息はいて、手にした長剣を下から跳ね上げて、ライフルを受け流し。その一瞬に動いた『はじまりの猟兵』の気配に再度意識を戻す。
土煙の中から飛来する攻撃。ナイフが数本と、ライフルの銃弾が数発。そこに数本仕込んででもあったのか。連射の利かないはずのライフルの銃弾が弾幕を形成している。
(範囲が……広いっ!)
攻撃の威力よりは行動の制限を狙った制圧射撃。ならば、とシリルーンはオーラの護りを結界とし、身を守らんとして。
――ぞわり。
「……!」
それを齎したのは、幸運か、あるいはこれまでを生き抜いてきた経験か。
咄嗟に飛び退く。それは銃弾の雨の中へにだったけれども。『致死から逃れるにはそれしかない』とシリルーンは躊躇いなく、飛び込む。
「痛ぅ……っ!!」
身を貫く弾丸。だが、これは単なる攻撃であり、受けたダメージも言ってみれば痛いだけのケガだ。だからこそ、まだ。
そのままぐちゃぐちゃになっている地面を転がる。美しいドレスは血と泥に塗れ、しかし、その輝きは失っていない。それはもちろん主たるシリルーンにおいても。
『おお。よくわかりましたね』
「【キューソネコカミ】、ですわね?」
『フフ……』
言葉を交わしながらも、お互いの動きは止まっていない。『はじまりの猟兵』は絶えず移動し、地面から拾い上げた武器を投擲、銃を放ち。その間に織り交ぜて自身のライフルから【キューソネコカミ】を放ってくる。
シリルーンもまた素早く立ち上がり、その場から飛び退く。自身の感覚、生き抜いてきた自信。『死と隣り合わせの青春』は伊達ではない、と。
『連戦とダメージという私の不利。だからこそ為せる、【キューソネコカミ】の即死率! 無視できないでしょう!』
それを織り交ぜる。単なる攻撃の間に。それとはわからぬように複数の中の一発に。
躱してもただでは済まさないと、シリルーンの身にダメージを積み重ねていく。
「……っ! はぁっ、はぁっ!」
風のように動き回ってなお、『はじまりの猟兵』の攻撃はシリルーンを捉える。
(なんという、仮借なき攻撃……!)
確か、『はじまりの猟兵』は秘された猟兵の秘密を、六番目の猟兵に伝えるために戦っているはずだ。だが、先ほどから繰り出されるユーベルコードは、『確実に』シリルーンの命を奪いに来ている。
それを回避した先に『置かれている』攻撃も一発一発に特殊な力が乗せられているわけではないが、当たればただでは済まない。
(まさにはじまりの方に相応しきもの)
現にシリルーンのドレスは小さく数多の裂け目が走り、その下にある白い肌も無事ではない。きめ細やかな肌にはそぐわぬ、死へと誘う赤い痕。赤いだけならいい、信じられないほどの強撃はシリルーンの体力と着実に削っていっている。
『すみませんねぇ! わたし、とっても弱いので、こうでもしないと、六番目の猟兵さんにはとてもとても!』
おどけながら、しかし攻撃の手はさらに熾烈になる。『逃がすつもりはない』と言わんばかりの攻撃。
「弱い? とんでもない!」
シリルーンが否定する。
(この方の全ての戦技、全てのユーベルコードは、血の滲むご努力の果てに会得されたもの)
だからこそ隙は無く、躊躇いもなく、そして容赦が無い。
これが……彼女の|誇り《生き様》なのだ。
だから……迫りくる弾幕の中、シリルーンは叫ぶ。
「ですがわたくしとて能力者にして猟兵! 遅れは取りませぬ!」
『……?!』
巻き起こるは風。
当然だ、彼女はシルフィード。『何物にも縛られない自由な心』を風とする能力者。風は刃であり、盾であり、護り。
シリルーンを中心にすべてを巻き上げる風があらゆる攻撃を上空へと吹き飛ばし……否、一発だけ突き抜けてくる弾丸がある。
「それは……最早通じませぬ!!」
織り交ぜてあるから通じるのだ。一発突き抜けたところで、当たらなければどうということはない。
――ようやく見切れた。
攻撃の軌道を見るだけが見切りではない。どういう攻撃であるか、それを識るのもまた。
だからこそ打てた一手。
『なんと!?』
それを見て『はじまりの猟兵』の動きが一瞬止まる。風の結界に対して、どう動くか。
その一瞬に、シリルーンは真の姿を解放する!
癒える傷、そして真なる力を受けて風が弾ける。放射状に飛ぶソレは衝撃波となって周囲のあらゆる障害をなぎ倒す。
『ちょっと……! というか、真の姿がこんなに強大だなんて!?』
吹き飛ばされながら、しかし態勢を立て直す『はじまりの猟兵』。
――持ちこたえた!
ならば、シリルーンのやることはただひとつ。
全力を叩き込む……!!
「キャプテンさま……! ハナさま! 皆様! どうかお力お貸し下さいませ!」
シリルーンの言葉に応じて、手に握る舵輪がその姿を変えていく――【メガリス・さまよえる舵輪】……幾度となく銀誓館学園の戦争を助け、そして数奇な運命の末に、シリルーンに『託された』正真正銘のメガリス。
メガリス・アクティブたるシリルーンによって解放される、『さまよえる舵輪』の真なる力。そして降臨するはメガリスロボット。……当時、『なんでやねん』とツッコんでいた思い出があったりなかったりするが、その力は折り紙付き。猟兵化、あるいはユーベルコードを得て『弱体化』していたとて、決戦戦力としては十分すぎる力。
その力の源――過去、『最期の礼儀』の果てに、シリルーンの元へと集った方々へ彼女は希う……!
「どうかあの方に終りをお導き下さいませ」
メガリスロボットの着地と同時に、放たれる無数のホーミングレーザー。それは生体電流が可視化されたもの――ユーベルコード【ライトニングフォーミュラ】。
シリルーンが逃げ回っていたのは攻撃を見切るためでもあるが、このユーベルコードのために自身の生体電流をひたすら舵輪の中へチャージしていたためでもある。
まるで獲物を逃がさなぬ檻のように。ホーミングレーザーが全方位から『はじまりの猟兵』を取り囲み、そして四方八方から撃ち抜く。
『くっ、あぁぁぁぁっ?!』
迫りくるレーザーをナイフで受け流し、弾き返し。足元に仕込んでいたライフル群を一斉射撃して相殺する。……だが。
『数が多すぎますね!?』
「当然、ですわ」
そう、当然だ。だってこれまでの戦闘時間のすべてで。舵輪を握りしめていたのだから。
『はじまりの猟兵』を撃たんと、無限に分裂していくホーミングレーザー。
『このままじゃ……!! だったら!!』
覚悟を決めて。『はじまりの猟兵』が防御を捨てる……!
無数のレーザーに撃ち抜かれながら、しかし銃口が定めるのは一点……シリルーンを守るように立ち塞がる『さまよえる舵輪』のメガリスロボット。
『てぇぇぇいっ!!』
【キューソネコカミ】の連射……とはいっても、ライフルの連射だからそんなに早いわけではない。だが、連続して発射される弾丸は吸い込まれるようにしてメガリスロボットへ到達する。
一発、二発……三発。
「……っ!?」
シリルーンが息を飲む。目の前で崩れ始めるメガリスロボット。
「そんな……!」
『概念の即死に、無機物も有機物も関係あるもんですかっ!!』
これは『ユーベルコード』なのだ。常識すら覆す、世界を敵に回すほどの『超常能力』。
それは『六番目の猟兵』だけの特許ではない。
『今のわたしは死にかけ、絶体絶命。この一撃はいつか必ず即死をもたらす必殺!』
次弾を装填、銃口がシリルーンに向く。
その動作があまりにもゆっくり見えて……だからメガリスロボットが崩れ落ちてくる様もまたゆっくり見える。
想い繋がった大切な方々へ叫びかけて。シリルーンは思いとどまる。
今。『はじまりの猟兵』が放とうとしているのは捨て身の一撃。
――ならば、今やるべきことは。
踏み込む。メガリスロボットの元へ。助けるためではない……身動きのできないこの瞬間すらも、彼ら彼女らはシリルーンの力になってくれている……それを感じて、それを実現するために。
『……っ!!』
『はじまりの猟兵』の銃口が揺らぐ。
冗談のような効果だが……過去、銀誓館学園の戦争にて、いち戦場の戦況すら左右したこの決戦戦力はとにかく『大きい』。
『見失った……!? いえ、隠れましたか!』
ならば、と障害を突き抜けてくるその時を狙い撃つ。構え、動きを止める『はじまりの猟兵』……否、迎え撃つために動きを『止めてしまった』
――直後。
巻き起こるは風。否、先ほどの風とは違う……疾風。足元に集めた風が美しき音色を奏で、その|メロディ《疾風》に乗ったシリルーンは空を舞う。
『はや……っ?!』
銃口がブレる。
|障害《ブラインド》から突き抜けてくることは想定していたが、この速さと高度は想定外。
(ユーベルコードを【ストライク・イェーガー】に切り替え……!)
『はじまりの猟兵』の一瞬の思考を置き去りにするように、唯々、まっすぐ突き出される長剣。その切っ先がすっ、と……『はじまりの猟兵』の胸に吸い込まれる。
「此処までにございます」
汗を、血を、泥を拭いながら、シリルーンは言葉を突き付ける。
直後。
――風が止む。音が消える……。
『お見事です……』
心臓を貫かれ、攻撃の手をおろす『はじまりの猟兵』。ぐったりと、体を預けるようにして倒れこんできた『はじまりの猟兵』をシリルーンは受け止め、地面へと座らせる。
その態勢から微動だにせず、しかし『はじまりの猟兵』は口を開いて笑う。
『たはは……「他」でもやられてますからねぇ……「|力《リソース》」が残っていないようです』
楽しそうに。笑いながらゆっくりと体が消滅を始める。
今度こそ、終わりの。最後の消滅。
『とはいっても、骸の海に、過去に帰るだけですけども』
過去を食らって未来へ進む、こんな世界だから。|オブリビオン《過去》は|世界《現在》にいることは叶わず、|次《未来》に進む糧となるしかない。
『後悔なんてしていません。ええ、例え……わたし達の行動が第二から第五の猟兵を生み出したとしても、それによって世界から|罪《敵》と言われようとも』
――大切な……重要なことだったのだ。|助け《祈り》に応えるということは。
だから、『猟兵』という存在が今も在るのだから。
|最期の時《終り》に、真実を語りだす『はじまりの猟兵』へ。
シリルーンは今一度。深く……深く一礼する。
――心より謝辞を。
戦いが終わり、『はじまりの猟兵』から告げられる真実は『六番目の猟兵』たちに新たな衝撃を与えるのであった。
大成功
🔵🔵🔵