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獣人世界大戦⑲〜ラスト・ソング

#獣人戦線 #獣人世界大戦 #第三戦線 #ワルシャワ条約機構 #五卿六眼『始祖人狼』 #『A』ubade

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#五卿六眼『始祖人狼』
#『A』ubade


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●m'aider
 すべては祈りから始まった。
 その言葉は一つの狼頭より発せられた。
 一つの言葉にいくつもの狼頭が追従するように言葉を重ねる。
 唱和。
「弱き吾々は|罪深き刃《ユーベルコード》に縋り」
「絶望の海に餮まれていった」
「全てを識った所で、変わるはずがない」
「その衝動こそが、猟兵の根源なのだから」
 響く声は歌声にも似ていたし、流れる血の色も鼓動の音も、生きている誰かを彩るものであった。
 命を紡ぐ。

 哭いた。
 五卿六眼『始祖人狼』の三つ首の狼頭は唱和しながら哭いたようだった。
「故に吾々は排除する」
「『はじまりの猟兵』を。それを求める者を」
「疾く蔓延れ、吾が『人狼病』」
「|五卿六眼《シャスチグラーザ》照らす大地のあらゆるものを、吾が走狗と化してくれよう」
『人狼病』――それは動植物はおろか大気や水すらも『人狼化』させるものであった。
 如何なる者も防ぎようのない病。
 それこそが『人狼病』である。
 例外はない。
 不足はない。
 生命を削り取る苦痛と抗いがたき凶暴な衝動。
 発作と言ってもいい。
 痛みと狂気。
 それこそが如何なる理性をも噛み殺すものである――。

●獣人世界大戦
 ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は、転移を維持するための集中を欠かさぬことに必死だった。
 体躯を走るは痛み。
 抗いがたい苦痛。
 爛々と薄紅色の瞳が輝いている。
「ハッ、ハッ、ハッ――」
 飢えた獣のようだった。
 だが、それは共に転移してきた猟兵たちにおいても同様に起こり得たことだった。

 心身を苛む痛み。
 生命を直接削り取られているような激しい苦痛。
 そして、何より抗いがたい凶暴な衝動。
 壊したい。
 壊したい。
 半壊など生ぬるい。絶望の海に餮まれていくような苦しみと狂気の中にありて、猟兵達は己たちの姿が変貌していくのを識るだろう。
「長くは、保ちません。これは、『人狼病』……ッ! これこそが五卿六眼『始祖人狼』の能力……ッ!」
 ナイアルテは明滅する瞳のまま猟兵たちに告げる。
 恐らく機会は一度。
 一撃。
 そう、ただの一撃しか『始祖人狼』へと攻撃を叩き込む機会はない。
 それ以上は猟兵たちを襲う『人狼病』によって心身が保たない。
 例外などない。故に、一撃離脱しかないのだ。

 猟兵達は己たちの真の姿が暴かれていくのを識るだろう。
 だが、それはこれまでの戦いおいても幾度かあったことだ。それでもこの力は暴れ狂うような激流めいていた。
 狂気が迫る。
 そして、猟兵達は己の真の姿、その全身から無秩序に『狼の頭』が生えた姿へと変貌していく。
 膨れ上がっていく力。
 膨大な攻撃力が己が体躯に宿るのを感じるだろう。

 その力に比例するように体躯と心に走る痛み。
 筋繊維の尽くが引きちぎれていくような痛み。心が軋み上げ、傷つけてはならない心が震駭するようだった。
「一撃……己が持てる最大最強の一撃を……どうかッ!」
 ナイアルテの言葉に猟兵達は頷く。
 それしかない。そうしなければ、『始祖人狼』は打倒できない。
 それ以上に自分たちの身が保たない。
 苦痛と狂気に耐えて戦うしかない。
 例え、『狼の頭』に塗れた真の姿を晒そうとも、それでも――。


海鶴
 マスターの海鶴です。

 ※これは1章構成の『獣人世界大戦』の戦争シナリオとなります。

 ダークセイヴァーの真なる支配者『五卿六眼』の一柱にして、超大国が一つワルシャワ条約機構を大呪術『|五卿六眼《シャスチグラーザ》』で監視・支配していた張本人、『始祖人狼』との戦いになります。

 ですが、みなさんが転移すると同時に『始祖人狼』が放つ『人狼病』が遅い来るでしょう。
 これを防ぐ手立てはありません。
 あらゆるものを『人狼化』させる力は、皆さんを侵食し、生命を直接削り取るような激しい苦痛と抗いがたい凶暴化の発作をもたらします。
 さらにこの痛みと狂気は皆さんを『全身から無秩序に狼の頭が生えた真の姿』に変身させて、莫大な攻撃力を与えます。

 この『人狼病』の痛みには皆さんと言えど心身が保ちません。
『始祖人狼』へと己が持てる最大最強の一撃を加えて、素早く離脱しなければなりません。

 プレイングボーナス……苦痛と狂気に耐えて戦う/「狼頭にまみれた真の姿」に変身し、最大最強の一撃を放つ。

 それでは、超大国をも巻き込んだ獣人世界大戦にて多くを救うために戦う皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 ボス戦 『始祖人狼』

POW   :    天蓋鮮血斬
【巨大化した大剣の一撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    血脈樹の脈動
戦場内に、見えない【「人狼病」感染】の流れを作り出す。下流にいる者は【凶暴なる衝動】に囚われ、回避率が激減する。
WIZ   :    唱和
【3つの頭部】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【人狼化】の状態異常を与える【人狼化の強制共鳴】を放つ。

イラスト:UMEn人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

純・あやめ
…こりゃキツいねー、【カキツバタ】
『こっちにまで影響が出てるとかシャレにならないわ
私たち悪魔のサポートはほぼ無いと思ってちょうだい』
了解!それじゃあ【アイリス】、絶対両断の権能だけ貸して!
後はこっちでなんとかするから

あー、つらいなー
なんだろ、前にもこんな事あった気がする…あれは、確か…あの子と戦った時の…
『しっかりしなさい!敵に到達する前に倒れたら死ぬわよ!?』
あ、ごめんね、【カキツバタ】…嫌な事思い出してた
『は?あんた、まさか…』
この取り戻した記憶のストレスと今までの苦労全部乗っけて、いくぞ!UC【蒼光断罪】!
山ごと吹っ飛ばされて世界転移に記憶喪失とかロクでもないなぁ、わたしの過去!



 戦場に転移すればわかる。
 この場に漂う空気。
 それ自体が『人狼病』へと変貌している。
 狂気を抑えられない。
 破壊衝動を抑えられない。
 心の内側、その根底にあるものは、世界を壊す愛そのものであったのかもしれない。
 故に、己が心が軋み上げる音を純・あやめ(水流と砂塵の衛士・f26963)は聞いただろう。
「……こりゃキツいねー、【カキツバタ】」
 あやめは己の召喚悪魔へと語りかける。
「唱和:『人狼病』は平等である。どんな存在にも訪れるものである」
 戦場に佇むは唯一人のオブリビオン。
 奇異なる姿。

『狼の頭』を三つ首もつ異形の如き狼獣人。
 それこそが五卿六眼『始祖人狼』である。
 彼の虚の如き眼窩に眼球はない。唯一つの眼を持って、あやめを見据えている。
 その視線を感じ、あやめは己の中から狂気が溢れ出すのを感じただろう。
 生命を削り取るような痛み。
 防げない。
 此処に長くとどまっていては、ただそれだけで己の生命が終わることをあやめは理解しただろう。
『こっちにまで影響がでてるとかシャレにならないわ。私たち悪魔のサポートはほぼないと思ってちょうだい』
「了解! でも、【アイリス】、絶対両断の権能だけ貸して! 後はこっちでなんとかするから!」

 あやめは斬撃の悪魔のちからが込められた『青のナイト』のチェスピースを握りしめる。
 手にした二丁警棒に蒼光の刃がまとわれる。
 一気に決めるしかない。
 己の中から溢れ出す狂気が、世界を壊す前に、『始祖人狼』へと一撃を叩き込まなければならない。
 だが、同時にあやめは既視感を覚えていた。

 つらい。
 ひどく心が痛めつけられているように思える。
 前にも同じ様なことがあったかもしれない。
 いや、あったのだ。思い出せ。それはあやめの中にあるものだ。
「確か……あの子と戦ったときの……」
『しっかりしなさい! 敵に到達する前に倒れたら死ぬわよ!?』
「唱和:誰もが絶望に餮まれていく。変えようのないことだ」
『始祖人狼』の言葉にあやめは頭を振る。
 同時に己の悪魔の言葉にも歯を食いしばる。
 己の心に負荷を掛けるストレスが、今まで彼女が歩んできた道程をこそ思い返させrうのだ。
 様々なことがあった。
 つらいことは一つではない。
 いくらでもあったのだ。

 ならばこそ、その過去を踏みつけて己は前に進まなければならない。
 取り戻したものがある。
「ごめんんね、【カキツバタ】……嫌なこと思い出してた」
『は? あんた、まさか……』
「いくぞ! 水無月曲槍流の太刀に裁けぬものなし! 蒼光断罪(アクアマリン・フラッシュ)!」
 あやめは己が放つ蒼光の斬撃と『始祖人狼』の放った剣の一撃が激突する瞬間を見た。
 多くの辛いことがあった。
 振り返って見ても、自分の道程はロクでもないことが多かった。
 己の過去を振り返れば、そこに轍がある。
 刻まれてきたものがある。
 それを足跡と呼ぶのだろう。何度振り返ってみても、あやめは、その過去がどうしようもないものだと思う。
 けれど。

「それでも生きていかないといけないのが……誰に頼まれなくたって生きるのが人間ってものでしょ!」
 振るう一撃が『始祖人狼』の剣を両断し、その一閃を体躯に刻み込む。
 それが彼女にできる最大の一撃。
 振り返らない。
 結局過去は過去だ。変わらない。どうあがいても己の歩んできた道は変わらないのだと、あやめは脇目振らずに、その場を離脱するのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルタン・ノーヴェ
アドリブ歓迎

グリモアの予知越しにも被害をもたらすとは……尋常ならざる脅威デスネ、始祖人狼!
状況了解であります、ナイアルテ殿!
ならば余分は排し、一撃に全身全霊を叩き込むであります!
すなわち、転移即UC発動!

一瞬で侵蝕する苦痛と狂気を度外視!
限界を超えて、我輩のフルパワーのマキシマムをアタックしマース!

右手には普段使いのファルシオン風サムライソード!
左手には禁軍猟書家との交戦中に現れた、はじまりのニューファルシオンソード!
二刀流から繰り出す、前人未踏前後不覚な同一UCの二重機動!
「六式武装展開、光の番と光の番!」
右のビームと左のビームを始祖人狼に叩き込み、そのまま戦闘不能に。
後は回収を頼みマース!



 真の姿。
 それは猟兵によって千差万別。
 法則性はない渾沌。
 だが、猟兵の根源、その衝動は変わらない。
 ユーベルコードの明滅が止まらない。己が瞳に輝くは半壊すら許さぬと言わんばかりの破壊衝動であった。
 如何なる猟兵も逃れ得ぬもの。
 それが『人狼病』であった。
 否、生命さえも、空気も大地も水も。
 あらゆるものが『人狼病』に侵されていく。

 五卿六眼『始祖人狼』は己が剣を両断し、その体躯すら傷つけたユーベルコードの斬撃に咆哮する。
「唱和:如何にしても吾が『人狼病』は防げぬ」
 響く声。
 それは三つ首の『狼の頭』から重なるように発せられていた。
 断ち切られたはずの剣が大剣へと変貌していく。凄まじき力の発露。『始祖人狼』の掲げた大剣は、その一撃をもって汎ゆるものを吹き飛ばさんとするものであった。

 余裕はない。
 迷っている暇もない。
 それは何も『始祖人狼』の一撃があるからだけではない。
「状況了解でありマース!」
 バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は一気に転移した戦場を疾駆する。
 瞬間、己が身を襲うのは『人狼病』であった。
 耐え難いほどの苦痛。
 狂気が頭の中をかき回すようであった。
 破壊しろと叫ぶ声が聞こえるようでもあっただろう。何を壊せばいい? 如何にして壊せばいい? 壊す? 
 混乱しそうになるほどに狂おしき衝動を前にバルタンは己が瞳をユーベルコードに輝かせる。

 己を侵食する狂気が思考を染め上げるのだとしても、それを彼女は無視した。
 例え、己の体躯が壊れ果ようとも、それでも限界を超えるのが己だと言わんばかりに叫ぶのだ。
「六式武装展開、光の番!」
 抜き払うはファルシオン。
 普段遣いにしている刀剣。されど、もう片腕に握り締められていたのは、禁軍猟書家との戦いに手にした『はじまりの』ファルシオンであった。
 真の姿を暴かれるようにしてバルタンの駆体の内部から『狼の頭』が皮膚を食い破るようにして出現する。
 壊せ、と咆哮するような衝動と共にバルタンは迫る大剣の一撃を交差させたファルシオンで受け止める。

 いや、受け止めたのではない。
 今の彼女に防御という概念はない。
 ならばこそ、その交差させたファルシオンは受け止めるためではなく。攻撃の動作、その初動であったのだ。
 火花散るようにして二刀のファルシオンの刃が輝きを増していく。
 十字交差の輝きは、光芒一閃(ビーム)へと変貌する。
「これが我輩の限界を超えたフルパワーのマキシマムアタックデース!」
 交差した光が放つ一撃は極大の光条となって『始祖人狼』へと叩き込まれる。

 ぐらりと揺れる体。
 足が動かない。意識もおぼつかない。けれど、バルタンは迫る衝動を抑えるようにたち、そのまま転移によって戦線を離脱し、大地に刻まれた己が放つ光条の十字痕を見下ろすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
アドリブ連携○

体のあちこちから狼の頭が生えてくる
破壊衝動と狂気が、共鳴によって呼び起こされる

こ、これが…、本当の人狼病…?
今まで抗ってきた苦しみとは比べものにならない
けど、簡単には、負けないの
UC発動、竜胆色の狼に変身
魔術陣の首輪と魔術回路の鎖で戒めて意識を保つの
封神武侠界の桃の精さんからの加護と香りにも助けられて、なんとか少しは動けると思う

唱和を遮る様に、|遠吠え《詠唱》
人狼魔術で大気中の満月の魔力をかき集めて、月光の槍を何本も作って撃ち出すの

あなたの祈りがなんなのか、知らない
知っても、きっとぼくは止まらない
でも、ぼくが向かおうとする先は、あなたと同じ場所の気がするの
意識がある内に撤退なの



 何故、そうなるのかはわからない。
 けれど、己が足を踏み入れた瞬間に理解する。
 これが『人狼病』である、と。
 体躯の奥からせり上がるのは衝動だけではなかった。
 破壊しなければならない。
 破壊したい。 
 破壊しなければならない。
 破壊したい。
 交互に襲ってくる衝動は狂気そのものであり、共鳴するようにロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)の内側からこみ上げ、皮膚を突き破るようにして無数の『狼の頭』が出現する。
「こ、これが……」
 本当の人狼病だとでもいうのか。
 今まで抗ってきたものは、その痛み苦しみをおいても比べ物にならないものだった。

 全身が悲鳴を上げている。
 それだけではない。
 己の心までをも苛むようであったし、生命そのものを削り取るような凶暴性があった。
 痛い。苦しい。
 くじけてしまいそうだった。けれど、己が体躯は吠えたける真の姿をさらけ出す。
「簡単には、負けないの」
 竜胆色をした毛並みが風になびいた。
 魔術陣の首輪と魔術回路が煌き、己が意識を保つ。

 負けない。
 この破壊衝動に負けてはならない。
 己は人狼なれど、人だ。生きているのだ。ならば、己は生きることをやめない。
 鼻腔をかすめるは桃の精の放つ香りと加護。
 甘い香りだ。それが自分という存在をつなぎとめる。
「唱和:無駄である。如何なる存在も絶望の海に餮まれていく」
 変わらないことだと五卿六眼『始祖人狼』は言う。
 巨大な光条の十字痕の上に立つ存在はあまりにも異様であった。
 鎧の上にあるのは三つ首の『狼の頭』。
 されど、眼窩にある瞳はただ一つ。
 その一つの瞳がロランを見ていた。
「唱和:あまりにも無駄な抵抗である。この『人狼病』は全てを吾が走狗と為すもの。例外はない」
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉ……――ん!!!」
 ロランは唱和を妨げるように、遮るように吠えた。
 関係ない。

 己が人であるという拠り所は、それだけではないのだ。
「唱和:祈りに昇華した願いは、いつだって絶望を呼び込む」
「知らない。あなたの祈りがなんなのか、知らない。知っても、きっとぼくはとまらない」
 ユーベルコードの輝きを宿すロランの瞳が大地に残光を刻む。
 纏うは満月のオーラ。
 ハイイロオウカミへと演じたロランは、その遠吠えにも似た叫びと共に『始祖人狼』を穿つ月光の槍を天に生み出す。

「でも、ぼくが向かおうとする先は、あなたと同じ場所の気がするの」
 けれど、止まらない。
 昨日までの生命は昨日までのもの。
 それを踏みつけて僕らは生きている。
 なら、今という今日を一日、しっかり生きるのが自分だ。
 どれだけ踏みつけにした昨日があっても、先の見えぬ暗闇のような明日が眼の前に広がっているのだとしても。

 それでもロランは願ったのだ。
「今日も一日、しっかり生きるの」
 ただそれだけだと言うように彼の放つ月光の槍は『始祖人狼』を縫い留めるように、その体躯へと叩き込まれ、今日という過去を踏みしめて明日へと走り抜けていくのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎

人狼病は既に何度か経験しているから
長時間持たないのはわかっている
グリモア猟兵のためにも、速攻で終わらせよう

今、俺の裡にあるのは、オブリビオンへの憎悪
ダークセイヴァーと獣人戦線、両方の人々を苦しめる、始祖人狼への怒りだ!!
凶暴な衝動は俺自身の憎悪と結び付けて受け入れ
狼頭に塗れた真の姿を解放する

天蓋鮮血斬を「怪力、武器受け」で無理やり受け流し、巨大化した大剣を空振りさせたら
「ダッシュ、地形の利用」で一気に始祖人狼に接敵
指定UC発動後、至近距離から黒剣で全力の「2回攻撃、鎧砕き」の斬撃を叩き込む!

これが俺の、怒りの、そして憎悪の一撃だ!!
始祖人狼、此の地で果てろ…っ!!



 我が身のことを識る。
 それを『始祖人狼』は意味のないことだと言う。 
 どれだけ識るのだとしても、根底にある衝動に突き動かされる。それが『人狼病』であると言う。
「唱和:故に、絶望の海に餮まれていく。吾々は弱き者なれば」
 響く言葉。
 三つ首の狼の頭が言う。
 言葉を揃え、和と為すようにして響き渡る。

 それは純然たる事実だろう。
 今も、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)の身には耐え難い痛みが走り抜けている。 
 そして、心の内側から奔るは狂気にも似た破壊衝動だった。
 壊さなければならない。
 壊す。 
 その狂気に真の姿がさらけ出される。
 何度目かの経験。されど、これまでとは比べ物にならないほどの痛みが彼の体躯を痛みでもって蝕んでいく。
 生命を直接削られているような痛み。
 されど、痛みに声を上げることはなかった。
「今、俺の裡にあるのは、オブリビオンへの憎悪!」
 漆黒の鎧に赤き文様が浮かび上がる。
 怒りがある。
 憎しみがある。
 世界を苦しめるのではなく、そこに生きる者を虐げる者への怒り。
 それは純然たる怒りであったことだろう。

 許しがたい。
 壊さなければならない。壊す。壊す。壊す。
 その心の衝動と共に体躯に狼の頭が肉を裂くように出現していく。
「唱和:憎悪だけではないはずだ。そこにあるのはそもそもの衝動」
「黙れ! ダークセイヴァーと獣人戦線、両方の人々を苦しめる、貴様への! これは、怒りだ!!」
 踏み込む。
 迫るは大剣へと変貌した『始祖人狼』の刃であった。
 振り下ろされた一撃。 
 受け止める。斬撃を手にした剣で受け流すようにして起動をそらす。
 だが、その凄まじき一撃は火花をちらしながら敬輔の鎧を削るようにして振り抜かれた。
 大地が砕ける。
 衝撃で揺れる大地にあって彼は踏み出す。

 砕けた大地を蹴って飛ぶようにして『始祖人狼』へと肉薄するのだ。
 強大なまでに膨れ上がった力を振るうことにためらいはない。
 敬輔は幻視する。
 己の家族の姿を。
 奪われたものだ。喪ったものだ。故に、その怒りこそが踏み込む彼の体へと家族の魂を憑依させるのだ。
 膨れ上がる力と共に黒い刀身もつ剣がユーベルコードに輝く。

  魂魄奥義・英魂憑依(コンパクオウギ・エイコンヒョウイ)。
 それはきっと己の生命を削るものであっただろう。喪っても、喪っても、其れでもなお奪えぬものがある。
 きっとそうなのだと言うように赤い瞳が『始祖人狼』を睨めつける。
「これが俺の、怒りの、そして憎悪の一撃だ!!『始祖人狼』、此の地で果てろ……ッ!!」
 咆哮と共に放たれた一撃が『始祖人狼』を捕らえ、その体躯を袈裟懸けに切り裂いた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

印旛院・ラビニア
「ぎゃああ! もう、痛い痛い痛い!!」
今までにない痛みで気が狂いそうになるけど「戦場にいられるリミットがある」「戦場から離れれば痛みは治まる」これだけ知っていれば【やり込み】ゲーマーには十分
鎮痛剤がわりに【高速詠唱】【召喚術】で【浄化】【回復力】持ちの戦乙女を召喚して痛みを緩和。それで多少マシになった頭で【神滅の戦乙女・ジークヒルデ】を確実に当てさせるように思考を巡らせて突っ込むよ
「コインくん達、援護お願い!」
クリーピングコインくん達で撹乱し、場合によっては自分も切り込むなり銃撃するなりして攻撃の囮となり、確実にジークヒルデの攻撃を直撃させるよう誘導する
「とにかく一撃!重いのブチ込むよ!!」



「ぎゃああ! もう、痛い痛い痛い!!」
 叫ぶ声が響く。
 体躯を駆け巡る痛みは耐え難いものであった。
 体内の中で針が蠢いているような、それでいて鈍痛が響く。
 骨身を削られていると思えるような痛み。それどころか、己の魂さえも鉋に掛けられているのではないかというような、拷問じみた痛みが印旛院・ラビニア(エタらない人(仮)・f42058)の体に走り抜けていく。
 耐え難い痛みだ。
 こんな痛みを抱えたまま叩けるわけがない。
 気が狂いそうだった。
 爪の一枚一枚を引き抜かれるような痛みが指先に、足先に奔る。

 生皮を剥がれる。
 心を剥がされていく。
 己が魂さえも、その奥底にある真の姿さえ、引き剥がされるような耐え難い痛み。
 ラビニアは叫んだ。
 けれど、涙こぼれる眦をぎゅっと瞑って、見開く。
 条件がある。
 そう、『戦場にいられるリミットがある』、『戦場から離れれば痛みは収まる』という条件をラビニアは理解していた。
 なら、と彼女は痛みにあえぐ喉を震わせながら、叫ぶ。

「召喚! 神滅の戦乙女・ジークヒルデ(ディバインスレイヤー・ヴァルキリー・ジークヒルデ)!!」
浄化の力と回復力を持つ戦乙女によってラビニアは全身を貫く痛みを緩和しようとする。
 ダメだ、まるで効果がない。
 痛みに際限がない。
 ならば、とラビニアは頭を回す。全開だ。ここで回さなければ、いつ回す。
 
 迫るは『始祖人狼』であった。
「唱和:抵抗は緩和とならない。抵抗は延命ではない。抵抗はただ身を苛む責め苦でしかない」
 故にと『始祖人狼』は己がユベルコードでもってさらにラビニアを『人狼病』でもって追い込んでいく。
「コインくんたち、援護お願い!」
 やるしかない。
 ラビニアは『始祖人狼』の言葉を聞かなかった。聞くことができなかったとも言える。
 余裕なんてない。
 ならばこそ、ラビニアは己の持てる最大の一撃を叩き込むために、狂気と破壊衝動を己が意識、意志のみで抑え込んで踏み込む。

「唱和:絶望の海に沈むことしかできないのならば」
「そのつもりはないよ!」
 ラビニアは『クリーピングコイン』と共に戦場を疾駆する。
 それは『始祖人狼』を追い込むような動きであった。
 痛みでまともに動けない。
『クリーピングコイン』さえも『人狼病』の影響を受けている。
 長くは保たない。
 ならばこそ、ラビニアの瞳がユーベルコードに輝く。
 今しかない。
「とにかく一撃!」
 持てる最大の一撃。
 それを叩き込むためにラビニアは叫ぶ。
「行け、ヴァルグラム・ノヴァ!!」
 叫んだ瞬間、召喚された戦乙女の持つ魔剣『ヴァルグラム』より放たれるは神殺しの一撃。
 汎ゆるものを人狼化させる『人狼病』ですら意に介さない一撃。
 その光線は、膨れ上がった工場となって『始祖人狼』の体へと振り下ろされ、その凄まじき衝撃を大地に刻むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神酒坂・恭二郎
ここで仕舞いと行きたいが
さて、これはきついねぇ

スーツのシャツが破け、全身から燃え上がるように青い風桜子が吹き上がる。皮膚の内側から食い破るようにいくつも狼の頭が生え、新たな首も皮膚の下で蠢いているのが分る

なるほど、こいつは頭がおかしくなる
ぶっ壊れそうな痛みに、そして全部ぶち壊したいって禍つ心が止められねぇな
こりゃあ後少しで狂って死ぬか、禍つ獣に堕ちるかだね
自分の悲惨な未来を幻視し、しまらねぇなと涼しく笑う
自分にロクな死に方はないと、その【覚悟】だけは決めている
ま、これも悪くはない
悪くはないが

「こんなのをカタギの衆に味合せるのは、どうにも筋が通るまいよ」

涼やかな一太刀を始祖人狼に馳走する



 己の体躯を包むスーツが引き裂かれる。
 内側から食い破るようにして『狼の頭』が現出していた。
 制御できない。
 神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は己が全身から燃え上がるように青い風桜子が噴き上がるのを見ただろう。
 本来ならば、制御できているものだ。 
 だが、どうしようもなかった。
 膨れ上がって際限なく噴出し続けている。
 それほどまでに『始祖人狼』の放つ『人狼病』は凄まじいものであったのだ。

「ここで仕舞と行きたいが。さて、これはきついねぇ」
 全身を駆け巡る痛み。
 此の痛みをこらえきれることはできない。
 恐らく猟兵であっても長くは持つまい。それほどまでの痛みと狂気が己が内側から溢れてやまないのだ。
 凶暴な衝動ばかりが頭の中に溢れ出す。
 壊したい。
 眼の前に映る全てを壊さずにはいられない。
 世界さえも壊したいと思う狂気が恭二郎の頭を押さえつけるようであった。
 体躯のあちこちから、その狂気を知らしめるように『狼の頭』が出現しては、未だ蠢いているのを感じるのだ。

「なるほど、こいつは頭がおかしくなる」
「唱和:それこそが猟兵の根源にして根底にあるものである。逃れ得ぬ、決して、それからは」
「禍つ心というやつだな。こりゃあ、あと少しで狂って死ぬか、禍つ獣に堕ちるかだね」
 恭二郎は眼の前に対峙する『始祖人狼』こそが、己の末路であると識るだろう。
 悲惨な未来しかない。
 だが、それは幻視だ。
 まだ訪れない未来を悲観してどうなる。
 まるで見通せぬ未来を想像してどうなる。
 そんなものに意味はない。
 未来はお先真っ暗だろうが、しかし、己が手にする力はなんだ。

 その暗闇をいくばくでも照らして進むためのものであろう。
 確かに、恭二郎は己が碌な死に方はしないだろうと思っている。それはもう覚悟したことだ。
 幻視した未来も悪くはない。
 まだ上等な死に方であるとさえ思っただろう。
「唱和:続く未来は絶望の海につながっている」
「だろうな。悪くはないが」
 恭二郎の瞳がユーベルコードに輝く。
 己の死に方としては上等かもしれない。この痛みと狂気のままに堕ちることもまた、まだマシだと思う。
 けれど。

「こんなのをカタギの衆に味合わせるのは、どうにも筋が通るまいよ」
 己に如何なる痛み、辛苦迫るのだとしても構わない。
 けれど、どうにも許せないことがある。
 これを、己以外の誰かに味あわせて言い訳がない。
 涙に濡れることさえ、許せないと思う。
 だからこそ、恭二郎は涼風(スズカゼ)を歩むように狂気と破壊衝動の中を歩む。

 緩やかな、涼やかに澄み渡るような風桜子と共に彼は己が消耗を度外視した一撃を『始祖人狼』の放った大剣の一撃を迎え撃つようにして放たれる。
「これが馳走する、神酒坂風桜子一刀流は涼風の太刀……」
 その斬撃は、まさしく大剣すら意に介さず走り抜け、その体躯へと刻まれる。
 あまりに早く、あまりにも不可視の如き斬撃は鮮血と共に宙を舞うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サーシャ・エーレンベルク
頭の中を支配する狂気、体中を走る激痛。少しでも目を閉じれば、私は気を失うでしょう。

……あなたもまた正義のために、多くの人を喪ったのでしょう。
でも……でも……!
これまで幾度となく戦火に見舞われ、仲間たちは戦の中で死んでいった。
けれど、彼らは最後まで絶望はしなかった。生きるために戦ったのよ。
だから、私はこの力を憎まない。彼らの生きた証を否定することになるから!

狼頭にまみれた冰の女王の姿に変身、病を振り切るように走る。
その巨剣も、爪牙も、おそらく私を遥かに超える技量を持っているはず。
それでもこの一撃だけは!
ユーベルコードを発動、剣を抜き、征く!
私の全て……獣人の想い全てを込めて、始祖人狼へ一撃を!



 気を失いそうな痛みだと思った。
 痛みで気を保つことなどできそうもない。
 それほどまでの痛みがサーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)の体に走り抜ける。
 耐え難い痛みだった。
 全身の毛穴から脂汗が噴出する。
 息が乱れる。
 肺がうまく動いていないのではないかと思った。心臓が痛いくらいに跳ねている。
 何より、どうしようもないほどの狂気が彼女の心を食い破るようだった。
 頭の中を満たすは破壊衝動だった。

 壊したい。
 壊す。
 壊さなければならない。
 壊す。壊す。壊す。壊す!!!
 頭を抱える。爪が食い込むようだった。滲む血が彼女の神を染める。
「……あなたもまた正義のために、多くの人を喪ったのでしょう」
「唱和:全ては絶望の海につながっていく。誰も彼もが過去になる。誰も逃れられない。あらゆる行為が過去になる。それは無為無駄」
『始祖人狼』の言葉にサーシャは頭を振る。
 己の記憶が走馬灯のように頭の中を駆け巡っていく。
 狂気さえも塗り潰すようだった。
「でも……でも……!」
『始祖人狼』の言葉は真実だろう。どうしよもうないほどの覆せぬ事実なのだろう。

 けれど、サーシャは見てきたのだ。
 己の体躯に刻んできたのだ。
「これまで幾度となく戦火に見舞われ、仲間たちは戦の中で死んでいった」
 胸元を抑える手にふれるものがあった。

『キミへ』

 それは仲間たちの声が重なるものであった。
 幻聴であると言われたそうなのかもしれない。それほどまでの狂気と痛みだったのだ。

 けれど。
「けれど、彼らは最後まで絶望しなかった。生きるために戦ったのよ。だから、私はこの力を憎まない。彼らの生きた証を否定することになるから!」
 サーシャは立つ。
 いくつもの狼の頭にまみれようとも、されど、此処にある女王の姿を見よ。
 白き剣を手にし、喪って、喪ってもなお、引き継いできたものを手にしたた冰の女王の姿が其処にある。
 どれだけの絶望が眼の前に広がっているのだとしても。

 振り切る。
「唱和:どんなものも吾が走狗へと成り果てる。変わり得ぬことだ」
「それでもこの一撃は!」
 サーシャは叫ぶ。
 月よ、月よ!(シルバー・ムーン)と叫ぶ。
 月の魔力を得て限界を超えた速度でもって彼女はひた走る。
 己は何だ。
 走狗ではない。 
 己は白き剣である。
 ならばこそ、征くのだ。雄々しく吠え猛り、一直線に進むのだ。

 死せる者たちの思いを引き継ぎ、今を生きる者たちの想いを込めて、|白き剣《ヴァイス・シュヴェルト》が放たれる。
 それはサーシャがこれまで踏破してきた道と、続く轍が全て味方した一撃であったことだろう。
 輝くは月の残光。
 されど、彼女の一撃は『始祖人狼』の胸へと、その一撃を叩き込むのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキト・エルクード
SPD判定
連携・アドリブ歓迎

誰が人様の素を勝手に暴いて良いって言ったんだ?
始祖だか何だか知らねぇが、最低限の礼儀も守れねぇ偉くも無い癖に偉そうにしてる奴がふんぞり返りやがって
そこまで暴力的な接触をお望みならご希望通り元の姿で殺してやる

転移後、即UC【怪祟忍殺】を発動し敵の付近及び人狼病感染の流れの風上へ跳躍
やっこさんの望み通り、変な頭が生えた真の姿へ変異し、痛みを堪えつつ、ありったけの狂気と暴力衝動を乗せた心臓抜きを叩き込んでやる

攻撃を終えた後は神火とフック付きワイヤーを駆使した高速移動で退避
忍びは狂気なんぞに甘えては決して務まらん仕事だ
いつまでもケダモノの思い通りにはならんよ



 真の姿は猟兵たちにとって、時として忌むべきものであったし、秘せるべきものであった。
 しかし、『人狼病』を手繰る『始祖人狼』の力によって猟兵たちは千差万別である己が真の姿をさらけ出されていた。
「誰が人様の素を勝手に暴いて良いって言ったんだ?」
 ユキト・エルクード(亡霊夜警・f38900)の瞳に怒りはなかった。
 あるのはただ、狂気と衝動であった。
『始祖人狼』の放つ『人狼病』を防ぐ手立てはない。
 例外はない。
 生命であろうと、大地であろうと、水であろうと、風であろうと。
 例外なく彼の走狗へと成り果てる。

 猟兵であるからこそ、まだ痛みと狂気に苛まれるだけで済んだのだろう。
 だからなんだと言うのだ。
 ユキトは息を吐き出す。
 痛みはある。耐えられるものではない。
 魂ごと削られるような痛み。
 全身の肉という肉に楔を打ち込まれているようだった。
 だが、ユキトは声さえ震わせずに言い放つ。
「始祖だかなんだか知らねぇが、最低限の礼儀も守れねぇ偉くもないくせに偉そうにしてるやつがふんぞり返りがやがって」

 悪意だ。
 これは悪意でしかない。
 汎ゆるものを即へと堕とさんとする悪意だ。
 これが許せない。
「唱和:例外はない。その名前に如何なる意味があろうがなかろうが、吾は『はじまりの猟兵』を求める者を例外なく排除する」
 そのための力だというように『人狼病』が疾駆する。
 だが、そえよりも早くユキトは一瞬で『始祖人狼』へと踏み込んでいた。
 この病が悪意であるというのならば、ユキトのユーベルコードは如何なる者にも専制する。
 振るうは、首刈りと四肢破壊、心臓摘出を組み合わせた怪祟忍殺(シノビレトリビューション)たる応報暗殺術である。

「その悪意の報いを受けろ」
 ユキトの身の内側から食い破るようにして『狼の頭』が現出する。
 痛みに手元が狂うなんてことはない。
 この暗殺術をお乗れが体躯には叩き込んでいる。
 痛み程度で止まる動作ではない。
 己の狂気が奔る。
 破壊衝動を止めようともおもわなかった。
 必ずや、この『始祖人狼』の、眼の前の敵を壊すという意志を持って貫手を叩き込む。
 その心臓を貫く。
 否、引きずり出す。

 そういうようにユキトの一撃が『始祖人狼』へと叩き込まれる。
 これまで猟兵たちが叩き込んできたユーベルコードの傷跡がある。その傷跡をつなぐようにしてユキトの一撃が放たれる。
 増大した力。
 尋常ならざる膂力。
 その一撃は矢のように『始祖人狼』の心臓を抉るようにして炊き込まれる。
「忍びは狂気なんぞに甘えては決して務まらん仕事だ」
 その一撃を叩き込んでユキトはワイヤーでもってすれ違うようにして『始祖人狼』から離れていく。
 一撃。ただ僅かな時間でしかなかった。
 けれど、それでも叩き込んだのだ。
 その一撃が浅からぬものであったことを証明するように『始祖人狼』が膝をつくのを視界の端に捉え、ユキトは戦場が飛び去る。
「いつまでもケダモノの思い通りにはならんよ――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎
真の姿:橙色の狼

ふむ、一撃と人狼…なれば、わしの出番である!
わしの足で、確実に近づいていこう。こういうところに、陰海月も霹靂も出すことはできぬしな!早業で…かけ足で…そんな中でも狂気なぞ!
そして、最大の攻撃はUCによるものでな…その大剣は、四天霊障にて動かぬように固定する!
そのまま、わしは勢いをつけて黒燭炎を突き刺すようにして…UCつきでいく!

わし、此度。とても戦っておるが…こういうときこそ、わしが最大限に動けるでな!
気にはしておらぬ!!



 耐え難い狂気。
 頭の中を埋め尽くすのは、破壊衝動。
 全身を走り抜けるは痛み。
 どれもが魂そのものを削るようなものであった。
『人狼病』
 それこそが『始祖人狼』の最大の能力であった。
 防ぎようのない力。
 汎ゆる物を人狼化させる力。
 そこに例外はない。猟兵であろうと、生命であろうと、生物であろうと、大地であろうと水であろうと。
 そこにあるのならば、全て人狼化させる。
 恐るべき力である。

 故に猟兵であっても長くは保たない。
 求められるのは一撃。
「ならば、わしの出番である!」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は戦場を疾駆する。
 止まらない。止まれるわけがない。
 止まれば『始祖人狼』の放つ『人狼病』によって己が体躯は人狼化してしまう。走狗へと成り果ててしまう。
 そうなっては、もはや己が力は『始祖人狼』を打ち倒すどころか、走狗として利用されるばかりである。

「ゆえに、一撃である!」
 狂気が頭を染め上げていく。
 溢れる破壊衝動は、誰に向けたものか。何に向けたものか。
 壊さなければならない。
 壊す。
 壊したい。
 それは明確な衝動となってはつろするようであった。
 体躯のあちこちから『狼の頭』が現出していく。食い破られるようであった。
 一歩、また一歩と『始祖人狼』に近づけば近づくほどに、痛みは増す。狂気が頭を染め上げていく。

 だが、それでも踏み出す。
『侵す者』は止まらない。止まれない。
 勢いをつけて走り抜ける。
「唱和:どれだけ早く駆け抜けるのだとしても、意味がない。どれだけ束ねようとも、その呪詛さえも吾が走狗へと成り果てる。与し易い」
「知ったように語りよるわ!」
 振り下ろされる大剣は霊障で止まらない。
 砕ける。
 凄まじい一撃が己が体躯に振り下ろされ、その斬撃が血潮を走らせる。
 
 だが、痛みは己を止めさせない。
 振りかぶるは黒槍であった。
 それは火のように(シンリャクスルコトヒノゴトク)疾く。
 ユーベルコードの輝きを持って、『侵す者』は『始祖人狼』を睨めつけた。
「わしこそが! この一撃こそを最強たらしめる者よ!」
 魂が削られる。
 だが、それでも構わない。
 この一撃を叩き込むことこそが、己が役目であるというように『侵す者』は振り抜く。
 投擲された黒槍の一撃は大地を切り裂くようにして衝撃を生み出しながら、『始祖人狼』の体躯を貫く。
 穿たれた心臓。
 それをさらに砕くのようにして黒槍は凄まじい衝撃を周囲に撒き散らしながら『始祖人狼』の体躯を吹き飛ばすのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱鷺透・小枝子
自分ではない何者かが叫んでいる。
飢えている。渇いている。己以外の何者かが、自分の中で吠えている!
こわせと吠えている。こわしたいか、そうか、だが、ダメだ!!
こわすのはじぶんだ!!きさまでも、始祖人狼でもない!!
いいか、自分に根付いたのであれば貴様も自分だ!!!

ディスポーザブル01操縦真の姿化。
己が|【闘争心】《狂気》を以て苦痛を、狂気を己のものとする!
ユーベルコード発動。壊滅兵器胸部装着【呪詛エネルギー充填】
人狼病の凶暴なる衝動も、己が破壊衝動も、呪詛とし、ディスポーザブルへ急速に注ぎ込む!!

あとで名前をつけてやるいぬころ!!命令するのは自分だ!!!
故に従え!吠えろ!!爪を立てろ!牙を見せてみろ!!貴様は自分だ!!!
だから破壊を為せ!敵を!敵の!なにもかも!すべて!!

胸部装着|壊滅兵器『平和砲』《ピースフルメイカー》【砲撃】
始祖人狼の、その全てを破壊する意志の奔流を放ち【念動力誘導】
始祖人狼の元へ着弾させ、レベルm半径内を壊滅状態にする。

壊れて失せろぉおおおおオオオオオオオオ!!!!!!!



 己という虚にある何かが吼えている。
 どうしようもないほどの乾きが其処にあるがゆえに、声は片々に響いた。
 かすれた声だったように思える。
 だが、わかる。
 飢えている。
 自分の中で自分以外の何者かが吠えているのだと朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は理解する。
「こわせと吠えている。こわしたいか、そうか」
 小枝子は頷く。
 どうしようもないほどの衝動が襲い来る。
 痛みは全身を蝕む。指先、足先、体の汎ゆる場所が痛みを告げる。
 けれど、小枝子は歯を食いしばることもなく叫ぶ。
「だが、ダメだ!!」
 体躯が、軋む。骨身が砕けながら変化していくのを感じただろう。

「こわすのはじぶんだ!! きさまでも、『始祖人狼』でもない!!」
 小枝子が騎乗する『ディスポーサブル01』が真の姿へと変貌していく。
 それは影だった。
 揺らめく黄昏にあるのは、禍つ時を知らしめる妖しき輝きであった。
 ゆっくりと踏み出す。
 己が闘争心は狂気と同義。
 ならば、苦痛が齎す狂気など内包したものでしかないのだ。故に、小枝子は己の体躯を食い破るようにして現れた『狼の頭』を押さえつけながら操縦桿を握りしめる。
 いや、操縦するという意識すらなかったのかも知れない。

 この駆体は己のものだ。
 この狂気は己のものだ。
 この衝動は己のものだ。
 全て、全て、壊すとい思考は誰に植え付けられたものではない。これが根源にあるもの、根底にあるものだとしても、構わない。
 壊す。
 壊したい。
 壊さなければならない。

 否である。
「壊れろぉぉぉぉ!!!!」
 咆哮と共に小枝子の瞳がユーベルコードに輝く。
 その咆哮に同調するようにして小枝子の体躯から次々と『狼の頭』が出現する。それを小枝子は頭を押さえつけてひしゃげさせる。
「邪魔をするな! あとで名前をつけてやる、いぬころ!!! 命令するのは自分だ!!!」
 誰にも命ぜられることはない。
 全ては自分である。
 己に根付いたものであるのならば、その衝動も、自分ではない何者かも、すべてが自分だ。
 垣根など壊す。
 境界などなにするものぞ。
『ディスポーサブル01』の胸部が展開する。
 呪詛が充填していく。

『人狼病』の凶暴なる衝動も、己が破壊衝動も、全て呪詛が束ねる。
 その胸部に装着された破壊兵器『平和砲』(ピースフルメイカー)は皮肉であったかもしれない。
 破壊こそが平和さえも脅かすものでありながら、平和を求めるがゆえに破壊の力に至る。
 だが、全てを破壊する意志の奔流は、その胸部砲口から放たれる。
「故に従え! 吠えろ!! 爪を立てろ! 牙を見せてみろ!! 貴様は自分だ!!! だから、破壊を為せ! 敵を! 敵の! なにもかも! すべて!!」
 壊す。
 誰かに言われたわけではない。
 そこに喜びはない。開放された喜びなど感じるまでもない。己は破壊の権化。
 故に破壊でしか『平和』を求められない。
 意志は、紡がれているのだろう。

「唱和:弱々しい。その破壊の意志さえも、全てが絶望に流れ着く」
「黙れ!! 貴様の言葉は!! 全てが弱者であることを強要する言葉だ!!」
 小枝子は叫ぶ。
 迸るユーベルコードに一撃が『始祖人狼』へと迸る。
 着弾した瞬間、そこはなにも存在できない真黒なる破壊が生み出される。
「壊れて失せろぉおおおおおおオオオオオオオオ!!!!!!」
 小枝子は叩きつける。
 己が意志を。
 どれだけの狂気が迫るのだとしても、もとより狂気とは己が持つものである。破壊衝動など、破壊の権化の前には意味のないことだ。

 もとよりそのつもりだからだ。
 否定などしない。
 その狂気と、衝動と共に戦い続けてきたのだ。故に小枝子は吠える――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・アルブス
【ステルク】

壊したい。
壊したい。
半壊など生ぬるい。

――まずは、このシリアスをぶち壊す!!

ステラさん、わたしもう無理です!
このままだと練乳代で借金生活になっちゃいます!

ステラさん、あの二足歩行ケルベロスが悪いんですよね?
そうですよね?
もう違うって言ってもあれでいいです!

違うなら雄叫んでください!
ステラさんのやべーでシリアスを吹き飛ばしてくださいよぅ。

クールと狂気は両立します!クーヤバですね!

いちげき、というなら、いちげき……いえ、一曲でいきます!
唸れバグパイプ!

頭が三つなら耳は六つ!
他の人の3倍の効き目を期待しちゃいますよ!

ステラさんも!
今日は耳栓許可出しますから、早くシリアス壊してくださーい!


ステラ・タタリクス
【ステルク】
くっ……この衝動
理性ごと持っていかれそうでかなりマズいですね!
ルクス様、さっさと推奨行動通りに……
って既に餮まれているのは何故?
どこぞの何とかブレイカーみたいな事言っててもダメですからね

確かにアレが大元凶ですけども、もうちょっと勇者としてシリアス耐性はないんですか?
誰がやべーメイドですか
私のどこに狂気があると?
どこからどうみてもクールでしょうに……えっ?

ともあれ
ルクス様の命が限界です
耳栓の許可っておかしくないですか?
いつも耳栓と鼓膜破られるのは私なんですが??
と、不満をこぼしつつ
【トニトゥルス・ルークス・グラディウス】いきます!
この一撃は神すら斬り裂かんがために創り出した一撃です!



『人狼病』はいかなるものを蝕む。
 平等である。
 どんなものだって人狼化させる。人も、生命も、猟兵も、大地も、風も、水すらも関係なく人狼走狗へと至らしめるのだ。
 恐るべきことである。
 狂気が襲い来る。破壊衝動がこみ上げてくる。
 吐き気を催すほどの強烈なる衝動。
「くっ……この衝動」
 ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)はうめいた。
 理性ごと塗りつぶされそうな気配。
 己の全てを破壊衝動が覆い尽くしていく。どんな存在であれ、例外はないのだ。

 不味い、とステラは転移直後から襲い来る全身の痛みにうめいていた。
 共に転移したルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)にグリモア猟兵から伝えられた、一撃離脱を試みようと視線を向ける。
「ルクス様……!」
 だが、彼女が見たのはルクスの呻く姿であった。
 彼女であっても『人狼病』が齎す痛みと狂気は防げないのだろう。
 自分だってそうだ。
 己の中にある一等大切なものさえも塗りつぶされそうな気配があるのだ。ならばこそ、ルクスがそうなってしまうのも頷けるところであった。
「壊したい」
 彼女は呟く。
「壊したい」
 呻くようだったし、また同時にそれが本心であるように呟いていた。
「半壊すら生ぬるい」
 壊す。その破壊衝動は、己が身を走り抜ける。
 どす黒い衝動にルクスは己が体を任せるようにして面を上げる。

「――まずは、このシリアスをぶち壊す!!」

 ……。
 ステラは、ちょっと唖然とした。
 なんていうか、すでに飲み込まれている感じがするのは気のせいか。だが、それ以上に彼女の言動がいつも通りすぎた。
 平常運転というやつである。
「ステラさん、わたしもう無理です! このままだと練乳代で借金生活になtっちゃいます!」
「はぁ」
「魔法のカードも限度額ってあるんですよ!」
「はぁ」
「流石にこれ以上は無理! 製乳会社の株を購入して株主特典でもない限り、無理です! ステラさん、あの二足歩行ケルベロスが悪いんですよね? そうですよね? もう違うっていってもあれでいいです!」
「はぁ」
 ステラはルクスの規格外っぷりに目を覆う。
 確かにこの衝動、狂気、痛みをもたらしているのは『始祖人狼』のもたらした『人狼病』である。
 大元凶と言っても良い。
 でもまあ、なんていうか。もうちょっと勇者と名乗っているからにはシリアスに慣れてもらわないといけない。
 アレルギーっていうのはそんな簡単なものではない。
 理屈あれど根性でどうにかなるもんではないのである。限界を超えろ。
「違うなら雄叫んでください! ステラさんのやべーでシリアスを吹き飛ばしてくださよぅ!」
「だれがやべーメイドですか。私のどこに狂気があると?」
 そこにないって言われたらないですね。
 どこからどうみてもクールでしょってステラは思った。
 だが、ルクスは頭を振る。
「クールと狂気は両立します! クーヤバですね!」
 なんて?

「ステラさん! 今日は耳栓許可出しますから! アンチルクスレゾナンスイヤー承認!」
 なんて?
「耳栓の許可っておかしくないですか? いつも耳栓ごと鼓膜ぶち破られているのは私なんですが?」
「いいですから! あの二足歩行ケルベロスの頭が三つならば、耳は六つ! 他人の人の三倍の効き目を期待しちゃいますよ!」
 ルクスは人狼病の狂気と破壊衝動に後押しされるようにしてバグパイプを吹き鳴らす。
 肺から押し出された息が増幅され、唯演奏をするというだけのユーベルコードに破壊の力を宿す。
 無差別破壊音波!
「唱和:その衝動こそが猟兵の根源。如何に識っても、手が届かぬように。望むもの全てに手が届くと望めるのは、幼子のみの特権」
『始祖人狼』のたった一つの眼が見ていた。
 だが、ステラはその言葉を聞き逃した。
 耳栓していたこともあるが、何よりもルクスの破壊音波が凄まじかったからだ。

「天使核、コネクト――この一撃は神すら切り裂かんがために創り出した一撃です! トニトゥルス・ルークス・グラディウス」
 ステラは構えた。
 生み出された雷光の剣が極大の刀身を生み出す。
 苛烈なる雷撃が迸るようにして振り下ろされた一撃が『始祖人狼』へと叩き込まれる。
 耳栓は死んだ。
 それ以上の一撃をルクスと共に叩き込み、ステラは吹き荒れる破壊の中より勇者と共に離脱するのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄翅・静漓
『人狼病』の影響か、狼になってしまったわ
きっとこれも私の真の姿なのでしょうね
四つ足で駆けていくわ

狼の頭が生える度に
私の内側がさらけ出されていくみたい
体の中に閉じ込めた感情すら狼になっているのかしら
苦しくて痛い
笑い憎み怒り嘆き、このまま凶暴な獣になってしまう前に
痛みの中で息を吸い、咆哮を上げる
精一杯、抵抗の一撃よ
周囲に蔓延る走狗諸共、吹き飛びなさい!

――ぐるる……がああアァァッ!



 薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は己の姿が変貌したことに戸惑いを覚えたが、しかし、戸惑い以上の感情に揺れ動かなかった。
『人狼病』――それは例外なく、汎ゆるものを人狼走狗へと変える防ぎようのない病である。
『始祖人狼』の持つ力。
 強引に暴かれるは、真の姿である。
 それだけではない。
 体躯の至るところから『狼の頭』が現出する。
 加えて、己の体躯に奔る痛み。
 耐え難い痛みだった。狂気にも似た破壊衝動が静漓の内側からせり上がってくるようだった。

 これもまた己の真の姿の一つなのだろう。
 走狗。
 そう表現するしかない姿に彼女は変わり果てていた。
 四つ足。
 大地を踏みしめる。疾駆する体の動きに違和感はない。むしろ、これが自然な状態だとさえ思えてしまうのだ。
「私の内側がさらけ出されていく」
 痛みがある。
『狼の頭』が出現するたびに、耐え難いものがこみ上げてくる。
 己が体躯に秘めたものが、狼へと変貌しているのではないかと思うほどだった。
 狂おしいほどに痛みと苦しみが心身を痛めつける。

 打ち付けられ、切り付けられ、えぐられ、なぶられる。
 そんな痛みが永劫に続くのではないかと思うほどに際限なく、間断なく襲いかかるのだ。
 笑む。
 思い出す。
 多くを彼女は思い出していた。
 痛みと苦しみの最中に、どうしてか、最初に浮かび上がった感情は笑みを誘発するものだった。

 ついで、憎み、怒り、嘆く。
 そして、また戻る。
 感情のままに振る舞うのは獣の所業であろうか。
「唱和:その根底にあるものを、その感情で否定するか」
「ええ、そうね。結局。私が最初に思い浮かべたのは、笑みだった」
 息を吸う。
 痛みが奔る。脳の奥まで突き刺されるような鋭い痛み。
 けれど、笑む。
 この感情の源さえも凶暴な獣になってしまう前に、と彼女は吸った息を吐き出すように咆哮する。
 人狼咆哮。
 激しい咆哮が戦場をひた走り『始祖人狼』へと叩き込まれる。

 それはこれまで猟兵たちが叩き込んだユーベルコードをなぞるようにして打ち込まれる。
 これが精一杯だ。
 抵抗とも言える一撃であった。
 視界が閃光に染まる。
「――ぐるる……がああアァァァッ!!!!」
 喉から自分が出したとは思えないほどの咆哮が迸る。
『始祖人狼』の周囲にある人狼走狗すらも吹き飛ばしながら静漓は吠える。猛り狂うようにして吠える。
 閃光が明滅する。
 何かを見た気がした。
 多くを見た気がした。
 それが何なのか、この狂気と破壊衝動の中には理解ができなかった。

 けれど。
「色んなことを、知ったから」
「唱和:識ったからなんだというのだ。どの道、絶望の海へと至るしかない道筋であるというのに」
「それだけではないと識ったから、教えてくれたから」
 だから、と静漓の瞳には狂気以外の感情に濡れて、その咆哮を『始祖人狼』の諦観を打ち砕く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミスト・ペルメオス
・SPD

これが、『始祖人狼』の! 『人狼病』の……ッ!
──ブラックバードッ!!

愛機たる機械鎧を駆って参戦。
装備を介して念動力を活用、機体をフルコントロール。
戦域へと突入……『人狼病』のもたらす苦痛と狂気に、激しく苛まれながらも。
愛機に叫んで呼びかける。出力最大。念動力、最大解放。
ドレッドノート・デバイス展開。
主兵装を左右2門の長砲身重粒子砲に変形させ、それぞれ主腕と副腕で構え、狙いを定める。

オブリビオンがもたらす狂気に沈むなど、鎧装騎兵としての、パイロットとしての己が許せない。
けれど『人狼病』に抗い耐えながら戦い続けることも、残念ながら出来ない。
だからこそ叩きつける。全力の一撃をブチ当てる。
この一撃で焼き尽くす。一撃をもって殲滅する。

リアクター限界稼働。エネルギーライン全解放。
緊急弁閉鎖。エネルギーチャンバー強制充填。出力100、110、115……ッ!

トリガーを引く。2条の閃光が空間を爆裂させながら『始祖人狼』に迫る。
さながら【“|殲滅する者《アナイアレイター》”】の一撃を、叩きつける!



「これが『始祖人狼』の!」
 溢れるは、狂気。
 蔓延るは、破壊衝動。
 迫るは痛みと苦しみであった。
『始祖人狼』の放つ『人狼病』は汎ゆる物を人狼化させる。
 生命であっても、大地でっても、風であっても、水でさえも人狼走狗へと変貌せしめる。恐るべき力である。
 猟兵も例外ではない。
 ミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)は転移した直後に我が身を蝕む『人狼病』の痛みに呻く。
「『人狼病』の……ッ! 痛み、苦しみ……! ――『ブラックバード』ッ!!」
 ミストは己の愛機たる機械鎧を身に纏う。
 黒き装甲さえも『人狼病』は防げない。どんなに鎧うのだとしても、『人狼病』は止まらないのだ。
 念動力が吹き荒れる。

 通常時より明らかに出力が向上している。
 機体のコントロールへとフルに活用できる。痛みが奔る。頭痛が、頭を割るかのようであったし、体躯のあちこちが悲鳴を上げている。
 動くたびに限界を告げてくる。
 四肢が引きちぎれてしまいそうだった。
「ぐっ、ぅぅっ!!」
 視界が赤く染まる。
 苦痛ばかりが己が身を苛む。だが、それ以上にミストの頭の中を占めるのは破壊衝動だった。
 壊したい。
 壊さなければならない。
 壊す、と反響し続けている。
「出力最大、念動力、最大開放……ッ! ドレッドノート・デバイス、展開!」
 ユーベルコードに輝く。

 与えられた時間は僅かだった。
 これ以上この場にとどまれば、己が理性が焼ききれる。いや、それ以上に脳髄が焼き切れる。
 故にミストは狂気と衝動に塗れる己に問いかける。

 ――覚悟は、いいか。

 猟兵としての異能、技能、サイキッカーとしての念動力、そして己が乗騎たる『ブラックバード』。
 それら全てを束ねるのが、“殲滅する者”(アナイアレイター)である。
 故に、ミストの瞳はユーベルコードに輝き、己が打倒さねばならぬ者『始祖人狼』を見下ろす。
『ブラックバード』の最大にして最高の火力を有する種兵装、二門の長砲身重粒子砲を変形させる。
 主腕と副腕でもって支える。
 狙いは定めなければならない。
 だが、己を苛む狂気が手元を狂わせる。震えている。
 狂気が、言う。
 壊すのならば、と。
 壊すのならば、敵ではなく、とささやくようだった。
 だが、ミストは歯を食いしばる。
 痛みなど。狂気など。
「鎧装騎兵としての、パイロットとしての自分を!」
 見損なうな。舐めるな。
 抗うようにしてミストは咆哮し、己が持てる最大の力を掲げる。

 叩きつける。
 全力。この一撃をもって焼き尽くす。一撃をもって殲滅する。
 リアクターの限界を告げるコールが響く。
 エネルギーラインが破断するほどの出力を生み出され、砲身に備わった緊急弁が閉鎖される。
 エネルギーチャンバーに充填され、弾けるようにして引き金を引く。
 カウントを告げる音声すらもミストには遠かった。
「唱和:どれだけの誇りがあろうとも、弱々しい吾々には手段はなかった。故に罪深き刃と呼ぶのだ。それを」
「覚悟なんてとっくにできている! それを!」
 放たれる光条は、戦場を分断するように迸り『始祖人狼』へと叩き込まれる。
 その名に違わぬ一撃。
 それは『始祖人狼』の体躯を包み込み、光柱のごとく立ち上る。

 衝撃波が吹き荒れる中、ミストは『ブラックバード』と共に離脱していく。
 己が矜持が狂気を上回る。
 己が怒りが痛みを上回る。
 だから、己は戦うのだというようにミストは振り返らなかった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミレア・ソリティス
……任務了解しました、ナイアルテ様。
ミレア・ソリティス、現状打破のため、出撃します
(当人に自覚及び認識はないが、背後に黒い十字架状で赤いラインが走り、電子の6枚翼を広げたモノリスユニットが浮いている)

接近戦用5型兵装で挑みます
可変翼により至急敵性体へと接近、こちらの損傷は極力抑えますが、積極的には避けません
敵に接近したならば敵の攻撃により破損した個所を含め、攻撃用に副腕を残して躯体各部、四肢や兵装の連結・制御を解除、同時に侵食発生した狼頭部位も含めそれら全ての質量をsystem:AZOTHの物質変換を利用し「エネルギーへと変換」、それら全てを乗せた副腕クローでの一撃を敵性体へと叩き込みましょう



「……任務了解しました、ミレア・ソリティス(軍団たる「私」・f26027)、現状打破のため、出撃します」
 ミレアは、己に襲い来る『人狼病』の影響を感知した。
 だが、自覚できないものがった。
 己が駆体、その背後に黒い板状のユニットが展開している。
 まるで六枚翼のようであった。
 電子で構成されたユニット。モノリスユニットともい言うべき、翼に赤い十字が刻まれている。

 真の姿を自覚なく暴き立てられながらもミレアは飛ぶ。
「コンパーチブル、5型兵装」
 己が兵装を近接兵装へと切り替えながら推力を生み出し、可変翼でもって上空より『始祖人狼』へと急降下して迫る。
 敵の力『人狼病』は猟兵であろうと生命であろうと無機物であろうと例外なく人狼化させる。
 無論、ミレアもまた己が思考ルーチンに言いようのないノイズが奔るのを感じただろう。
 痛覚などない。
 なのに、これが痛覚であると理解できる。
 電脳に奔る『それ』に困惑しているという情報すら得てしまう。

 だが、ミレアは踏み込む。
 駆体の損傷が避けられれば、それでいい。ただの情報だ。狂気も破壊衝動も、痛みも、全てが幻肢痛のようなものだ。
 ミレアに、それはない。
 言ってしまえば、今のミレアは膨大な情報の濁流にさらされているだけに過ぎない。
「唱和:それでも、立ち止まるには十分過ぎる」
「いいえ、止まりません」
 ミレアは踏み込む。
 そう、意味がない。

 見上げるは大剣であった。
『始祖人狼』の手にした剣が大剣へと変貌し、己へと打ち付けられんとしている。
 咄嗟に受け止める。
 躱すことはできなかった。情報の濁流がやはり、電脳に異常を警報のようにけたたましく鳴り響かせているのだ。
 だからこそ、遅れた。
 大剣の一撃を受け止めるも装甲がひしゃげる。
 砕けた。
 使い物にならない。
 噴出するようにしてミレアの四肢から『狼の頭』が現出する。

 これがエラーの大元。
 ノイズの原因。
 ミレアは即座に四肢の連結を解除し、同時に副腕を振るう。
「……兵装及び躯体の一部機能を停止、並行してAZOTH起動、物質変換を開始……」
「唱和:無駄である。如何に切り離すのだとしても、それさえも人狼化させるが吾の力。走狗となることは、止められぬ」
 そうなのだろう。
『始祖人狼』の言葉が正しい。
 けれど、ミレアは頭を振る。
「――コード・スィスィア」
 ユーベルコードの輝きがミレアの瞳に宿る。
 己が駆体の一部を代償にした質量全てを変換したエネルギーは、その瞬間は人狼化を免れている。

 これこそが己の持てる最大の一撃。
 副腕に乗せたエネルギークローの一閃が『始祖人狼』へと叩き込まれる。
 これが彼女の全力だった。
 どれだけ己が体躯が走狗へと変貌させられるのだとしても、それでも、その絶望すらも超えていくのが己である。
 振るわれた一閃は確かに『始祖人狼』の体躯を切り裂き、その鎧を砕くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・スペルティナ
五卿六眼の残り……!あの世界より続く因縁、此処で断ち切ってやりますわ!

|あの世界《ダークセイヴァー》の無念や未練、呪詛や怨念を背負ってきた以上、今更ちょっと狼頭が生えた程度で怯むわたくしではありませ……ってなんですのこれー!?
何故か狼耳がついて両腕が獣人とかみたいなことになってますわん!
これも貴方の仕業ですの!?え違う?ですが、なんだか力がみなぎってますわん!今なら…!
多少の痛みなんかは我慢して、敵の懐に飛び込み、そのまま力任せに狼爪を振るいますわん!
そのまま呪血の鎖を解き放ちあの者を拘束し引き倒して、そして……魔狼の形をとり現出せしあの世界に満ちたる「怒り」を、今こそ思い知るのですわん!



「五卿六眼の残り……!」
 メリー・スペルティナ(暗澹たる慈雨の淑女(自称)・f26478)は戦場に転移し、見定める。
 その名を知っている。
 五卿六眼。
 ダークセイヴァー世界の真の支配者。
 彼女にとっては因縁浅からぬ敵である。世界が違えど、そこに己が打倒さねばならぬ敵がいるというのならば、関係のないことだった。
「唱和:肯定する。吾は五卿六眼『始祖人狼』」
 重なる声が響いた。
 数多の亮平たちのユーベルコードを受けてなお、その力は健在であった。
 凄まじいというほかない。

「あの世界より続く因縁、此処で断ち切ってやりますわ!」
 だが、そんなメリーを襲うのは『人狼病』であった。
 己が体に奔る痛み。
 苦しみがこみ上げてくる。
 言いようのない破壊衝動が荒れ狂うようだった。
「|あの世界《ダークセイヴァー》の無念や未練、呪詛や怨念を背負ってきた以上、今更……!」
 己が体躯を食い破るようにして現れた『狼の頭』にメリーは呻くことあれど、たじろぐことはなかった。
 そう、今更だ。
 この程度で、と彼女は踏み込む。
 だが、彼女は気がつく。

「……ってなんですのこれー!?」
 メリーは己が腕が獣人のように毛むくじゃらになっていることに目を見開く。
 さらには狼耳が生えているのだが、彼女は知る由もなかった。
「これも貴方の仕業ですの!?」
「唱和:否定。それこそが真の姿」
「真の姿……? なんだか力が漲ってきますわん! 今なら……!」
 だが、それ以上に凄まじい痛みがメリーを苦しめる。
 臓腑を素手でかき回されているような痛み。
 全身の全てが痛みに侵されているとさえ言える痛みの奔流にメリーは顔をしかめる。
 彼女の瞳がユーベルードに輝く。

「告死呪葬:運命喰らう魔狼(フェンリルブレイク)……ですわん!」
 踏み出す。
 脚力さえも向上しているのだろう。
 大地が砕け、一歩踏み出すたびに衝撃と共に破片が飛び散る。
 それほどまでの速度で『始祖人狼』へと踏み込む。
 振るわれる大剣の太刀筋さえ見える。
 狼化した腕部が、この刀身を横薙ぎに振り払う。
 眼の前には猟兵たちのユーベルコードによって亀裂奔る鎧があった。爪の一撃が、この亀裂をなぞるようにして放たれ、打ち破る。

「唱和:如何に力増すのだとしても、行き着く先は絶望の海」
「だったらなんだというのですわん!」
 呪いの血によって生み出された鎖が『始祖人狼』の体躯を絡め取り、引きずり倒す。
 絶望が人の足を止めるのか。
 否である。
 如何に絶望の海であろうと、人は漕ぎ出すことができる。
 そういうものなのだ。メリーは知っている。あの世界で如何に怨念と呪詛と未練、嘆きに塗れてもなお生きていた人々を知っている。

 ならばこそ、メリーは怒りを覚えるのだ。
 あの世界に満ちていた多くの怒りを。
「それを今こそ思い知るのですわん!」
 魔狼の形を得た抗体フェンリルたちが魔炎光線を放ち、『始祖人狼』の体躯を穿つ。
 そう、これが己の全力である。
 どんなにも己を走狗に変貌せし面とする力があるのだとしても、どんな姿でも己は己であることは変わりないというようにメリーは笑うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティグリ・ブリヤジール
わー、ちょーたいこくの大ボスが出たのだ―!でもぐりもあ猟兵さんが大変なのだ―!
こういう時は敵に一撃加えてせんりゃくてきてったいなのだー!
(しんのすがた:つばさがはえるよ!イメージは窮奇)

何だかかっこいいかもしれないけど、ティグはやっぱり虎なのだ―!オオカミの頭は要らないのだー!からだの負担と、「ひがのせんりょくさ」を考えれば一撃に全てを掛けるのだ―!余計な事を考える必要はないのだー!たいちょーに教わった通りに動くだけなのだ―!
『特殊グレネード』を放り投げて何とか隙を作り、『ヴェーチェ』と『グラザー』を構えて突進なのだ―!【とらにつばさなのだー!】一撃加えたらその勢いのままてったーい!なのだー!



 己が背に翼があったのならば、その姿は聖獣とも凶獣とも取れる姿であったことだろう。
 ティグリ・ブリヤジール(トラの戦闘猟兵・f40385)の真の姿をさらけ出すは『人狼病』である。
『始祖人狼』が手繰る力。
 それはあまりにも強大にして防ぎ難い力であった。
 抗うことなどできはしない。
 我が身を貫く痛み。苦しみ。そして耐え難いほどの破壊衝動。
「唱和:それこそが猟兵の根底にあるもの。根源である」
 破壊。
 破壊である。
 これこそが猟兵の根源であるというのならば、一体何を破壊したいというのか。

 だが、そんな『始祖人狼』の言葉にティグリは答えなかった。
「わー、なんだかかっこいい! けれども、ティグはやっぱり虎なのだー!」
 我が身に生まれる『狼の頭』をティグリはなんとも嫌そうな顔をして払いのけようとする。
 けれど、それ以上に身体に走る痛みが彼女の顔を引きつらせる。
 体の負担。
 それは彼女の思う以上のものであった。
 彼女を転移させたグリモア猟兵もそうであったように、これだけの痛みが彼女にも襲いかかっているのだ。
 故にティグリの瞳がユーベルコードに輝く。
 一刻も疾く戦いを終わらせなければならない。
「こーいう時は一撃加えての、せんりゃくてきてったいなのだー!」
 飛ぶ。
 真の姿によって現れた翼を羽ばたかせ、ティグリは飛ぶ。
 その速度は目視できぬほどの速度であり、風の刃を纏っての突進は、ティグリの全てを賭けた一撃でもあった。

 痛みも苦しみも、ティグリには関係なかった。
 確かに痛みはある。
 どうしようもないほどの痛みが全身に走り抜け、何をしても痛みしか覚えない。
 そして、遅い来る破壊衝動。
 狂気にも似た感情にティグリの心は翻弄される。
 けれど、彼女は頭を振る。
 いつだってそうだ。
 自分はそこまで賢いとは言えない。だから、たいちょーの言う事をよく聞いているのだ。
 全部はできない。
 だからこそ、与えられたことを一生懸命にやる。
 ただそれだけなのだ。それでいいのだ。たいちょーさんが褒めてくれる。それだけでいい。

「突撃なのだー!」
 特殊グレネードを投げ放ち、煙幕が濛々と『始祖人狼』の周囲に立ち込める。
 だが、次の瞬間『始祖人狼』の放った大剣の一撃が煙幕ごとティグリへと叩き込まれる。
 強靭な体躯ゆえに切り裂かれることはなかったが、しかし、骨身が嫌な音を立てた。それでも、ティグリは構わない。
 痛みがあれど、全身に走る痛みが、その痛みを忘れさせてくれる。
「なんとかにかなぼー、ティグに翼なのだー!」
 踏み出す。
 構えた二振りの軍刀が、その銘に相応しいほどの風斬り音を響かせ、雷のように煌めく。
 これも部隊の先輩からのお下がりだ。
 自分は多くの他者に依ってできている。
 間違っても『狼の頭』とは違う。誰かの想いが、誰かの無念が、誰かの怒りが、きっと此処まで自分を押し出してくれた。
 叩きつけた一撃のままティグリは空を飛ぶ。
 きっと戻る。
 己が部隊に生きて。それがたいちょーや先輩たちから託された想いだと知っているからこそ、ティグリは己の翼でもって、還るべき場所へと飛ぶのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎

ワンワンワン!ワンワンワンワン!
ワンワンワン…ワォンオンオン!ワォン!

●ワンワン!ワォォン!
ワン?ワンワン!ワォオオオオオン!
はっ!なんてことだい知性の神であるボクとしたことが…もう少しで理性が吹っ飛ぶところだったワン!
んもーそんなに恨まれるなんてなにしたのさあの子は―
いやボクたちもご同罪って?んもー過去ってやつはこまりものだね!
こうやっていつまでも、忘れず、石の下から這い出てきてはボクたちを困らせる!
まったく罪なんてものを最初に考え出したやつの貌が見てみたいよ

UC『暴風の化身』でウルフヘッド交じりの暴風となってビュウウウウッ!!って吹き抜けよう!
ワンワンワン!!ワン!



「ワンワンワン! ワンワンワンワン! ワンワンワン…ワォンオンオン! ワォン!」
 それは犬の鳴き真似めいた声であった。
 戦場に蔓延るは『人狼病』。
 言うまでもなく『始祖人狼』がもたらした力であり、何者も免れ得ぬ恐るべき力である。
 全てを人狼化させる力。
 生命であろうと、大地であろうと、水であろうと。
 汎ゆる物を人狼化させ、走狗となさしめる力。

 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)も例外ではなかった。
「ワン? ワンワン! ワォオオオオオン!」
 彼の吠える声は、一体何を示していたのだろうか。
 誰もわからない。
 犬に翻訳してもらえば、わかったのかもしれないが、しかし、それは意味のあることであっただろうか。
 際限なく迫る痛みと狂気。
 そして破壊衝動。
 ロニは明滅する戦場のユーベルコードに、漸く我を取り戻す。

「はっ! なんてことだい知性の神であるボクとしたことが……もう少しで理性が吹っ飛ぶ所だったワン!」
 似たようなこと言っていた人がいたが、例外なくぶっ飛んでいる。
「唱和:理性など意味がない。その衝動こそが猟兵の根源。根底にして、起源。故に罪深き刃を手繰る吾々もまた罪深き者」
『始祖人狼』の言葉にロニは首を傾げる。
「んもー、そんなに恨まれるなんてなにしたのさあの子はー」
「唱和:吾々の弱さこそが罪」
「いやボクたちもそうなるとご同罪ってことかな? んもー過去ってやつは困りものだね」
 振り降ろされる『始祖人狼』の大剣の一撃。

 大地を分断するかのような強烈な一撃であった。
 その大地の破片すらも『始祖人狼』は人狼走狗へと変貌せしめるのだ。
「こうやっていつまでも、忘れず、石の下から這い出してボク達を困らせる! まったく罪なんてものを最初に考え出したやつの顔が見てみたいよ!」
 ロニの瞳がユーベルコードに輝く。
 痛みがあった。 
 苦しみがあった。
 例外などない。
 どんな存在にも例外なく『人狼病』は人狼化を齎す。
 狂気と破壊衝動は、どこまでも付きまとう。

「しょうがないよね。だってそういうものだし」
 ロニの体躯が暴風の化身(ゴッドウィンド)へと変わっていく。
 狼の頭が現出した体躯なれど、しかしロニは暴風そのものとなって『始祖人狼』へと迫る。
「ビュゥウウウウウッ!! ってね! あ、違った、こっちのほうが通りがいいのかな? ワンワンワン!! ワン!」
 どちらにせよ、言葉は必要ない。
 必要なのは圧倒的な暴力のみ。
 故にロニは笑う。
 そういうのが得意! と。
 理不尽極まりない肉を殺ぎ骨を削り、有形無形を粉砕する神砂嵐へと変貌したロには、『始祖人狼』を飲み込み、その現出した『狼の頭』と共に己が最大の一撃で以て『始祖人狼』の体躯を削り取るようにして抉るのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヌグエン・トラングタン
キツイ。だが、ここで戦わねぇと。俺様は、そんな存在だからな。
全てを人狼化、は。さすがに止めねぇとな!

再び戻れ、凍炎不死鳥。どんなことになろうが、最大の一撃を食らわせるなら…今はこれなんだよ!
視線を向けるには、目が機能してさえいればいいからな!

忌々しいが…青白い炎を纏った黒ドラゴンが俺様の真の姿だ。
どう狼頭が生えようか知ったことか。苦痛と狂気が襲ったとて、怯みゃしねぇ。
ただひたすらに、このUCによる視線をあいつに向けるだけだ。
詠唱時間に応じて、なら。一瞬の凍結も中断にはなるだろ。

…やっぱキツイ。都合三度、真の姿になったが…帰ったら、どうするかね…。



 体の痛みが訴えている。
 これ以上は無理だと。これ以上は進めないと。
 これ以上進めば取り返しのつかない領域まで魂そのものが削られてしまうと叫んでいる。
 痛みは生存本能の発露だ。
 だが、それを押し止める狂気がある。
 破壊しなければならない。壊さなければならない。汎ゆる物を壊すことこそが、己の根底であると言わんばかりに、狂気が頭の中に叫び、衝動となる。
「キツイ」
 弱音めいた言葉だった。
 他に誰もいなかったことにヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)は息を吐き出す。
 傲岸不遜。
 それが己である。汎ゆる欲望を肯定する。それが『欲望竜』である己。
 故にヌグエンは、ここで戦うことこそが己の欲望であると規定する。
 それこそが己。
 その存在の意義を賭けた戦いなのだ、これは。
「全てを人狼化、は。さすがに止めねぇとな!」
 真の姿が引きずり出される。
 暴き立てられるようにして、凍炎不死鳥と同化し魔眼の封印がほどかれる。
 己の意志よりも疾く、『人狼病』が真の姿を暴き立て、さらには痛みと共に己の体躯から『狼の頭』が現出していくのだ。

「唱和:無駄」
「何が!」
「唱和:『人狼病』は止められない。如何にしても止められない。例外はない。故に、今、お前たちの体躯さえも、侵されている」
「だろうな、だからなんだよ!」
 ヌグエンの瞳が『始祖人狼』を定める。
 凍結の炎が『始祖人狼』の動きを止める。だが、『人狼病』は止まらない。
 生命であろうと無機物であろうと、そもそも事象すらも人狼化させるのが『人狼病』である。

 恐るべきことである。
 己の真の姿をさらけ出してなお、『始祖人狼』の放つ『人狼病』は己を蝕む。
 青白い炎を纏う黒き竜。
 それがヌグエンの真の姿であるが、その体を蝕むようにして痛みと苦しみが『狼の頭』として内側から食い破るようにして出現しているのだ。
「その程度で怯むものかよ!」
 視線を向ける。
 停める。
『始祖人狼』の詠唱を停めるのだ。一瞬でも中断させれば、それでいい。
 視線さえも人狼化されても構わない。
 己ができる最大は、『始祖人狼』に詠唱を続けさせないことだ。
 そのためだけに真の姿をさらけ出すほかなかったのだ。

 帰ったのならば、どうするのか。
 悩みは尽きない。
 解決策だって考えられない。けれど、それでもなんとかしなければならない。
 己が決めたのだ。
 なら、自分でなんとかするしかないのだ。

「確かにてめぇは、とんでもねぇよ。けどよ!」
 止められないのだ。
 己が胸の内に宿った願望は、欲望は、止められない。
 誰かの背中を押したいという願望は、己の姿を晒すことになったとしても、それでも止められないのだ。
 それこそが欲望。
 故にヌグエンは、己が真の姿たる『大厄災の竜』としての姿と力を持って『始祖人狼』の動きを止め、留め続けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
吾が『人狼病』、でっすかー。
人狼病そのものであるのなら、「蔓延れ、吾」のような言い方をするのでっしょう。
始祖さんは文字通り、人狼病の感染者の一人目、なのでっすかー?
3つの首、狼頭にまみれた姿、今の藍ちゃんくん達にそっくりなのでっす。
例外はない、不足はない。
それはつまり他ならぬ始祖さんが一番痛みと狂気に苦しんでいるのではー?
ずっと。ずっと。死んでからも。オブリビオンになってさえも。
でしたら、ええ。
哭いてらっしゃる方に届ける歌は……!

歌うのでっす。
苦痛も、衝動も、苦しみも、狂気も。
全部全部歌にして。
頭が増えるというのならちょうどいいのでっす。
口が増えるのでっすから!
咆哮!
咆哮!
咆哮!
それでも、それもまた歌なのでっす。
始祖さんの咆哮も唱和も歌なのでっす!
誰よりも苦痛に、衝動に、苦しみに、狂気に哭いてらっしゃる方へと。
心を込めて歌うのでっす!
あなたに届けと歌うのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
天蓋にも響き渡る歌を始祖さんに!
回避だとか防御だとかそんな余分に回すのなら全部全部歌へと費やすのでっす!



 恐るべき力である。
『人狼病』。
 それは対峙するだけで汎ゆるものを人狼へと変貌させる力。
 生命であっても、木々であっても、水であっても。
 汎ゆる物を人狼走狗へと変貌させる。どうしようもないほどの力である。
 猟兵であっても例外はない。
 全ての猟兵たちの真の姿が引きずり出され、『狼の頭』がいくつも体躯より現出していく。
「始祖さんは、『人狼病』の感染者の一人目、なのでっすかー?」
「唱和:吾々は弱いからこそ、罪深き刃に縋らねばならなかった。それこそが罪である。赦されざる罪」
 紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の瞳からは涙がこぼれて止まなかった。
 全身を襲う耐え難い痛みのせいであろうか。
 魂すらも削るような痛みのせいであろうか。
 それとも、心苛む破壊衝動のせいであったろうか。
 いずれにしても、藍の涙は止まらない。
『始祖人狼』と同じく、三つ首の『狼頭』に塗れた姿をさらけ出していた。

「例外はない、不足はない」
「唱和:肯定である」
 掲げられた大剣が天に輝く。ユーベルコードの輝き。
 罪深き刃。
 その剣閃が藍に迫る。
 その言葉を聞き、藍は涙を堪えることなく流し続け、見上げた。
「つまり他ならぬ『始祖人狼』さんが、一番痛みと狂気に苦しんでいるのではー?」
 死してなおオブリビオンへと変貌し、ずっと、ずっと変わらぬ痛みに苛まれ続けてきたのではないか。

 故に、哭いていると藍は思ったのだ。
 その咆哮さえも、慟哭に似て。
 藍は涙が止まらない。
 哭いている者に届ける歌は。
「ただ一つしかないのでっす。歌うのでっす。どれだけ苦痛と衝動に苛まれても。全部全部歌にして」
 藍は迫る大剣に己があるがままの祈りと願いを込めて、心を発露する。
 藍音Cryね(アイ・ネ・クライネ)。
 哭いているあなたに捧げる歌はただ一つ。
 あなたに届けと歌う。
 己が己であるためにではない。己が己であるからこそ、謳わなければならない。

 そこに理屈も条理も必要ない。
 苦しみと痛みと、狂気さえも超越する何かがあると示したいのだ。
 それはきっと。
「唱和:優しさというものだけで救われるものがあると言うのならば」
「唱和:その心は狂気にも似ている」
「唱和:人の憂いに寄り添うから優しさ。その言葉の意味を識るからこそ、絶望の海に至るのだ」
 響く声に藍は咆哮する。

 己が体躯に生まれた『狼の頭』たちと共に叫ぶ。
 それもまた歌である。
 唱和、と『始祖人狼』は、その三つ首より言葉を発する。
 一つの言葉に追従するようにして響く。
 全ては歌。
 歌は、終わりを告げる。

「絶望に至る歌声であっても、それもまた歌なのでっす!『始祖人狼』さんの咆哮も唱和も歌なのでっす! 誰よりも苦痛に、衝動に、苦しみに、狂気に哭いていらっしゃる方へと心を込めて歌うのでっす!」
 だって、それが藍ドルだから。
 藍という猟兵の形だからだ。
 何かを示す必要なんてない。
 悲しみや恐怖を癒やすのに、力は必要ない。
 言葉だって必要ない。
 歌だって必要ない。けれど、誰かの憂いに寄り添いたいと、己ではない誰かのためにためらうことなく踏み出すことのできる感情を優しさと呼ぶのだ。

 生命は。
 一人きりでは生きていけない。
 強さを求め、力を求めなければ生きられない。けれど、優しさを保ち得ぬのならば、生きる資格さえないのだ。
 故に、藍は叫ぶ。
「藍ちゃんくんでっすよー!」
 響き渡る歌は、振り降ろされた大剣を吹き飛ばし、猟兵たちが叩き込んできたユーベルコードを楔にして繋がりゆく。
 亀裂走るようにして体躯が崩れていく。
 咆哮は、慟哭にも似て。
 されど、この身が壊れど歌うのだ。

 残酷なまでに美しい世界を見た。
 それはどんな嘆きも苦しみも痛みも、たった一つの感情で拭い去れるものだと示すように、『始祖人狼』は、その体躯を崩壊させたのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年05月29日


挿絵イラスト