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獣人世界大戦⑲〜Primal Plague

#獣人戦線 #獣人世界大戦 #第三戦線 #ワルシャワ条約機構 #五卿六眼『始祖人狼』

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#五卿六眼『始祖人狼』


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 血脈絡む木々立ち並ぶ、暗き森のその奥に。
 三つの狼頭具えし巨躯が、空を見据えて独り立つ。
「──すべては|祈り《m'aider》より始まった」
 左の頭が口を開く。語る声音は朗々と。
「弱き吾々は|罪深き刃《ユーベルコード》に縋り、絶望の海に餮まれていった」
 右の頭が言を引き継ぐ。声音に滲む情は知れず。
「──全てを識った所で、変わるはずがない」
 中の頭が続くに合わせ、左右の頭もまた口を開き。
「「「その衝動こそが、猟兵の根源なのだから」」」
 唱和する。この後に訪れる『もの』を、確かめるかのように。

「「「故に、吾々は排除する」」」
 なれど、この場を譲る意志も無しと。示すかの如く唱和は続く。
「「「はじまりの猟兵を──それを求むる者共を」」」
 それこそが、己らにとっての至上命題たるが故に。
 五卿六眼『始祖人狼』──あらゆる人狼の始祖にして元凶は、その病毒を撒き散らす。
『人狼病』──森羅万象遍く全てを、己が走狗と化さしむ病を。



「──以上の通り、『五卿六眼』始祖人狼の所在が判明致しました」
 グリモア猟兵、セラフィール・キュベルト(癒し願う聖女・f00816)は、決然たる声音で猟兵達に呼びかける。
 始祖人狼。
 ダークセイヴァーの支配者たる『|五卿六眼《ごきょうろくがん》』最後の一柱であり。
 ワルシャワ条約機構を大呪術『|五卿六眼《シャスチグラーザ》』にて監視・支配していた存在。
『はじまりの猟兵』と其を求めるものを滅ぼすべく、此度の大戦のきっかけを作った存在であり、そして。
「『人狼病』──ダークセイヴァーの人狼の方々が罹る病の元凶でもある、文字通りの『人狼の始祖』でもあります」
 その病は、人を人狼に変えるだけではない。大地も、水も、大気さえも。あらゆる概念を人狼化させ、己が走狗と化さしめる、恐るべき力である。
「この病は、猟兵の皆様であっても抵抗の極めて困難な代物です。皆様の心身に対し、命が直接削り取られるかの如き苦痛と、理性が根こそぎ吹き飛ばんばかりの凶暴化の発作を齎します」
 いずれも、技能や装備やユーベルコードの助けがあろうと対抗困難な程のもの。そのような病に侵された中で、強大なオブリビオンである始祖人狼に対抗できるのだろうか。
 セラフィールは数瞬、瞑目の後。この困難なる局面を乗り越える術を語る。
「──ただ。この病は、ひとつだけ皆様にも益を齎します。猛烈なる苦痛と狂気は、皆様の『真の姿』を発揮することを可能とした上で、攻撃力を大幅に高めるのです」
 発現する真の姿は、全身から無秩序に狼頭の生じた悍ましいものとはなるが。通常より格段に攻撃性の高まった、強力無比なるものともなるとセラフィールは言う。
「ですが、いずれにせよ。人狼病に侵された状態では皆様と言えど長くは持ちません。高まった攻撃力を以て始祖人狼に対し最大の攻撃を叩き込んだ上にて、速やかに離脱なされることをお勧め致します」
 グリモアベースに戻れば、人狼病の治療も叶うから、と。セラフィールは猟兵達へ案ずるように視線を向ける。
 尚、人狼病は森羅万象全てを人狼と化さしめると言ったが、此度の戦いにおいては大気や大地が人狼化することは無い。猟兵に人狼病の影響を齎す為に何らかの指向性を与えているのでは、とはセラフィールの推測である。

「かの敵を倒すことができれば、獣人戦線の戦火の拡大を止めることが叶う筈です」
 既に猟兵達の挙げた戦果は、超大国群に決定的な打撃を与える程にまで至っている。此処でかの敵を打倒し大戦を収めることができれば、この世界のオブリビオンの脅威は大幅に減ずることが叶う筈だ。

「その為にも、厳しい戦いとはなりましょうが──皆様、どうか、勝利を──!」
 セラフィールの祈りが、グリモアの光となって彼の頭上に輝いて。
 猟兵達を、始祖人狼待ち構える血脈の森へと送り出してゆく。


五条新一郎
 何もかもが狼である。
 五条です。

 獣人世界大戦、続いての決戦は一年遅れで姿現したる五卿六眼最後の一柱。
 かの敵の齎せし凶猛なる病を御し、その力を逆に叩きつけてやりましょう。

●このシナリオについて
 このシナリオの難易度は「やや難」です。

●目的
『五卿六眼『始祖人狼』』の撃破。

●戦場
 獣人戦線、シベリアの森の一角。
 血脈の絡む木々が随所に立っていますが、機動は割と自由にできると思われます。

●プレイングについて
 OP公開と同時にプレイング受付を開始します。
「苦痛と狂気に耐えて戦う」「『狼頭にまみれた真の姿』に変身し、最大最強の一撃を放つ」ことでプレイングボーナスがつきます。
 真の姿について指定や希望ありましたらプレイングにてご記述くださいませ。

 それでは、皆様の夜明けに至るプレイングお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『始祖人狼』

POW   :    天蓋鮮血斬
【巨大化した大剣の一撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    血脈樹の脈動
戦場内に、見えない【「人狼病」感染】の流れを作り出す。下流にいる者は【凶暴なる衝動】に囚われ、回避率が激減する。
WIZ   :    唱和
【3つの頭部】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【人狼化】の状態異常を与える【人狼化の強制共鳴】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シズホ・トヒソズマ
※連携・アドリブ歓迎

いましたね最後の五卿六眼
ま、あっちにもまだ残ってるから全然最後では無いんですけど
わざわざ単身赴任派遣業務ご苦労様ですが
それも終了のお時間です!

他の人には聞くのでしょうねこの苦痛
しかし生憎私にとっては私を高ぶらせる刺激でしかない
ましてや狂気まで与えられては尚更です!

全身に狼頭を増やしつつ全てが紫のマスクや口轡をされた拘束状態
『『『いいですね、痛みも拘束も数倍のこの姿。名残惜しいくらいですが今回は我慢しましょう!』』』
UCでエル・ティグレの力を使用
狼の形の暗黒星雲エネルギーを纏い高速疾走
回避力4倍で無理矢理下がった分を補強です!
相手の攻撃を避け
カウンターで高速の蹴りを直撃です!


レヴィア・イエローローズ
――苦痛と狂気
プロフェッサー・モリアーティと戦った今なら分かる――純粋な憎悪すら踏破したわたくしなら――
自らを律し、黄薔薇の黒檀杖と黄薔薇の白夜杖……更に『『病理』の切断者』を用いて『人狼病』の狂気と苦痛を耐えられる様時間軸操作や概念切断により処置
その上で、『狼頭にまみれた真の姿』に変身する

余り、見てくれの良い状態じゃないわね……!
全身から狼頭を生やしながらも、直ぐに『始祖人狼の肉体』という『物質』を再構築していく
その再構築で、肉体に著しい損傷を与えるわ――其れが最大最強の一撃!
そうして肉体再構築を放った後、人狼病にこれ以上蝕まれない様に撤退していくわ



 五卿六眼『始祖人狼』、ワルシャワ条約機構の支配者たるかの存在の在る森へと、猟兵達は転移を果たす。
「いましたね、最後の五卿六眼……!」
 程なくして認められた三頭の人狼、その巨躯の姿をマスク纏った依代の瞳に映してシズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)は其を呼ばわる。
「「「来たか、第六の猟兵達」」」
 応える声音は三重。中央の頭、その左眼だけの視線が、向かい来た猟兵達を見据える。
「――ええ。あなたを倒し、『はじまりの猟兵』のもとへ到達する為に……!」
 シズホと並び立つレヴィア・イエローローズ(亡国の黄薔薇姫・f39891)はいっそ静かに、だが決然たる声音で以てその意志を示す。
「「「何人たりとも『はじまりの猟兵』のもとへは辿り着かせぬ。全て、この場で排除してくれよう」」」
 なれども始祖人狼の意志にも紛いは無し。得物たる大剣を構え、二人へと対峙する。其に対抗せんと身構える二人であるが。
「……ぅ、ぐ……!」
 レヴィアの表情には苦悶が滲む。この戦場に蔓延する病――人狼病が猟兵達を蝕んでいるのだ。肉体には激痛が、精神には狂気が襲い掛かり、其々を破壊に導かんとする。
(しかし……苦痛と狂気、ですか……)
 此処へ至る前、プロフェッサー・モリアーティと対峙した際のことを思い出す。かの敵に対抗する為の鍵は、正義の心や善なる意志を放棄した先に在りしもの――純粋なる憎悪。
(其を踏破したわたくしならば――)
 単純に抑え込むのとは、また別の答えを見出す。両手に携えたる黒檀と白夜の杖、更には病理という概念自体を切断する鋸刃を以て、増幅を続ける苦痛と狂気とを処置。以てそれらを耐えられる範囲にまで制御を試み――
「!!」
 直後、レヴィアは見る。始祖人狼が振り抜いた刃の、見る間に巨大化してゆく様を。
「「「砕けよ!!」」」
 そして戦場に荒れ狂うは鋼鉄の暴風。双杖を以て回避成功した時間軸を引き寄せることで凌いだレヴィアだが。
「ああああああああ――」
 シズホは其をまともに受けて吹き飛ばされる。防御行動は取ったようで傷自体は深くはないが、もとより激痛に苛まれている中でこれ程の打撃を受ければ、最悪ショック死も有り得る――そんな懸念もあったものの。
「――ああははははははは!!」
 だが、ことシズホに関して其は杞憂と言えた。何しろ彼女は苦痛に歓喜を覚える性癖の持ち主。人狼病が齎す苦痛さえ、彼女にとっては己を昂らせる刺激でしかない。そして其は、同じく人狼病に齎される狂気で更に加速していた。
「はははは! 始祖人狼さんわざわざ単身赴任派遣業務ご苦労様ですが!」
 高揚した精神のままにシズホは高らかなる声を上げる。始祖人狼へ向ける、己の意志の表明。
「それも終了のお時間です!」
 語ると共にシズホの全身に異変。肉体から幾つもの狼頭が生え、それら全てに紫のマスクや口轡がかけられてゆく。其はシズホの真の姿の発現――此度においては人狼病で歪んだそれだが、其処にもシズホは己の徴たる拘束をかけてゆく。人狼病をも制御してみせんとばかりに。
『『『――いいですね、いいですね……! 痛みも拘束も数倍のこの姿!』』』
 それらの口からシズホの声が幾重にも重なって溢れ出る。己の置かれた状況への明確な高揚と興奮が露となった様相。今、シズホはこの上なく満たされていた。
『『『これが今回限りなのが名残惜しいくらいですが、今回は我慢しましょう!』』』
 シズホの背後から、暗黒をその髪に編み込んだ少女のヴィジョンが現れ出る。サッカー・フォーミュラ、エル・ティグレのものだ。其は溶け崩れると共に渦巻く暗黒のエネルギーとなり――シズホの身へと纏われる。かつて対峙したオブリビオンの力を己がものとする業。エル・ティグレの暗黒星雲の力をその身に纏ったのだ。
 駆け出すシズホ、その向かった先ではレヴィアもまた己の真なる姿を露としていた。光輝く鹿神の姿――なれど、その全身からは幾つもの狼頭が生え、悍ましい様相を其処に示す。
『余り、見てくれの良い状態じゃないわね……!』
 忌々しげに唸るレヴィア。なれども見目に拘れる状況ではない。それに、今の彼女ならば多少なれども対処は叶う。
『でも、これで勝負といかせて貰うわ』
『『『さあ、私達を防ぎ止められますか……!』』』
 光を纏ったレヴィアと、暗黒星雲を纏ったシズホとが地を駆ける。
「「「させん……吾々の刃で、吹き飛ばしてくれよう……!」」」
 なれども始祖人狼はあくまでも冷静に、構えたる大剣を大振り。巻き起こる猛烈な衝撃波が、森の木々を薙ぎ倒しながら二人を目掛け襲い掛かり――
『そうはいかせないわ!』
「「「!?」」」
 だがレヴィアの周辺には届かない。まるで微風の中を駆けるかの如く、軽やかな様相で始祖人狼目掛け肉薄してゆく。
 レヴィアの真の姿の発現に伴い行使可能となった、あらゆる物質の分解再構成を可能とする力。其を以て衝撃波を無力化しているのだ。
『『『そして! これを受けてみるが良いでしょう!』』』
 形成された安全地帯から飛び出すかのように速度を上げ、シズホが始祖目掛け駆け迫る。拳を振りかぶる姿に、始祖人狼のは大剣を構え。迎撃の刃を叩き込まんと試みるが。
「「「何!?」」」
 だが横薙ぎの斬撃は空を切った。迎撃を前にシズホが更に加速して、刃を潜り抜けたのだ。暗黒星雲エネルギーによって疾走速度が格段に上がったシズホの疾走速度は最大時速14300kmにも達する。其を瞬間的に最大発揮することで、敵の攻撃をすり抜け、そして。
『『『てぇぇいっ!!』』』
「「「ぐあ……!」」」
 すれ違いざまに繰り出した強烈な空中サイドキックが、始祖人狼の胴を捉える。呻き、後ずさる狼。だが、これで終わりではない。
『その肉体、粉々に再構築してあげるわ……!』
「「「ぐ、お……!? 吾々の身体が……砕ける……!?」」」
 其処へレヴィアが己の権能を向ければ。始祖人狼のの肉体が急速に再構築を開始。生きながらにして身体を再構築されるというのは、一度肉体を粉々にされるかのような激痛を伴うものだ。
 始祖人狼の五卿六眼としての存在格は、どうやら未だに相当なものであるらしく。これだけで分解とはいかなかったものの、少なからぬダメージをかの存在へ齎したと言える。
 其を確認すると共に戦場を離脱したレヴィアを追うように、シズホもまた撤退していく。如何に快感に変換叶うとて、人狼病にその身を晒し続けるのは、やはりリスクが高いが故に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
連携×

ぼくの運命を変えた存在
だけど今となっては、ぼくには必要な力だったの
人狼の力であなたに挑むよ

共鳴も狂気も苦痛も受け入れてUC発動、竜胆色の毛並みの狼に変身
魔術陣の首輪と魔術回路の鎖で封じることで意識を保つの
頭が生えてきて狂気に染まりそうになっても、封神武侠界の桃の精さんの加護と香りが守ってくれる
大切な人たちとの絆もぼくの力だから、思って強くなるの!

一吠え、人狼魔術発動してダッシュ
満月の魔力を集めた月光のオーラで体を包んで突進

人狼として、あなたを越えていくの!

引き上げられた分も含めて、全ての力を振り絞って、月光の弾丸と化して始祖人狼に体当たり
そのまま離脱するの



 ダークセイヴァーに生きる人狼の多くは、始祖人狼の蔓延させたる人狼病に罹患することで人狼となる。其は多くの者に狂暴化の発作をはじめとする多くの疾患と、それらに伴う短命化を齎す。罹患した者の運命を変える病と言える――無論、殆どは暗転という形にて。
 7歳の時に人狼病へ罹患したロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)にとっても、その病は己の運命を変えたもの。だが、彼の場合は必ずしも暗転を意味しない。
(――今となっては、ぼくには必要な力だったの)
 その力があればこそ、己は猟兵へと至り、より良い未来を――ダークセイヴァーの解放と復興を目指す道へと至れた。故にこそ。
「……ぼくは……この力で、あなたに挑むよ……!」
 真っ直ぐに、力強く。体躯において何回りも上回る始祖人狼を見据える。活性化せる人狼病が齎す苦痛と狂気を抑え込み、戦いにかける意志を、示すかのように。
「「「よかろう――ならば」」」
 応える始祖人狼、三つの首が同時に開くと共に。三つの顎の全てから、力強くも悍ましき咆哮が轟いた!
「「「Awooooooooooooonnnn!!!」」」
 其は耳にした者の心や魂に宿る人狼病を、強制的に励起させる力宿す咆哮。無論、ロランの心身に根付いた人狼病も。
「あああああ……!!」
 増幅する痛み、溢れる狂気。歯を食いしばり其を堪えつつ、ロランが思い浮かべるのは、己に近しい人々の姿。信頼せる戦友達、無二の親友達。彼らを思うことで、狂気を抑え、激痛に耐える。
「……まだ……まだ、倒れはしないの……!」
 痛みを堪え、抗う意志を示すロラン。その身が徐々に形を変え、竜胆色の毛並みを持つ狼へと変じていく。だが、その姿は、全身至る処から無数の狼頭を生やした悍ましき有様。
 更に。
「………!!」
 心の裡に、凄まじい衝動が溢れるのをロランは感じる。何もかも――理性も意志も放棄して、只々己の求めるまま駆け出さんとする狂気という衝動を。
 心が砕けんばかりの強い衝動。なれどロランの精神はすんでの処で踏み止まる。その花を擽る。優しい桃の香りによって。
 封神武侠界の桃の精から与えられた桃の花、其を収めたサシェから立ち昇る浄化と癒しの気と香り。其がロランの心を慰め、狂気に堕ちかけた精神への助けとなる。
 首から展開される首輪じみた魔術陣。頭を中心に全身へと走る魔術回路の鎖。それらの力も合わせ、ロランは増幅する心身への苦痛を押し留め。
『――Waoooooooooonn!!』
 一吼えすると共に走りだす。その身は満月の魔力で編んだ月光のオーラに覆われ、優しくも確かな加護をロランに齎す。
「「「病に耐え、反撃を試みるか。だが」」」
 其を前として始祖人狼は大剣を構え、大きく、力強く振るい抜く。放たれる重い斬撃波を、ロランはステップや跳躍で以て躱していく。
『ぼくは、越えてみせる――』
 更なる加速を見せるロラン。徐々に速度を上げてゆくその疾走は、彼の身を矢、或いは弾丸じみて見せる。
『人狼として、あなたを越えていくの!!』
 跳躍、オーラの護りを高める。以て月光の弾丸と化した狼の体当たりが、始祖人狼の胸へと、真っ直ぐに突き刺さった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒影・兵庫
ぐああっ!
(「黒影!これ以上は無理よ!今すぐ撤退しましょう!」と頭の中の教導虫が警告する)
いっいいえ!せんせー!ここで奴を倒さないと!
この程度で撤退する…わけ…に…は…ヴゥ…
(「まずい!狂気に飲まれかけてる!…ごめん!黒影!脳内の痛覚の『情報伝達』を操作!痛みを増幅させ正気を取り戻す!」)
がっ!?ぁああ!?
(「伝達遮断!黒影!一瞬だけ痛みも狂気も消失させた!今しかないわ!」)
はい!せんせー!
(『早業』で手足を『硬化』させ『肉体改造』で背中に翅を生やした真の姿に変身し{蜂蜜色の靄}を身に纏うとUC【一寸鋒矢】を発動し敵に向かって突撃する)
人狼病ごとこの世から消えてなくなれぇぇ!



「「「オオオオオオオオ!!」」」
 始祖人狼が放つ三重の雄叫びと共に振るわれる大剣。ユーベルコードを注がれ巨大化した其が木々を薙ぎ倒す中、その合間を跳び回り鉄の暴風を潜り抜けんとする影が一つ。反撃を為さんと着地から身を屈め駆け出さんとした、その時。
「ぐああ……っ!」
 苦悶の呻きと共に、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の膝が地に落ちる。その眼は恐ろしいものを見たかのように収縮し、精神もまた只ならぬ状態に追い込まれていることを如実に示す。
『黒影! これ以上は無理よ! 今すぐ撤退しましょう!』
 頭の中から声がする。兵庫の幼い頃からその脳内に住まう虫――教導虫『スクイリア』の声だ。彼の心身をサポートするかの虫は、兵庫の変調――人狼病の進行を察知。彼が危険な状態にあると判断し撤退を促したのである。
「いっ……いいえ、せんせー……! ここで、奴を倒さないと……!」
 なれど兵庫はその促しに首を振る。己を教育し養育してきた親代わりとも言えるスクイリアの言と言えど、目の前に倒すべき敵の在るならば。
「こ、この程度で、撤退する……わけ……に、は……!」
 振り絞るように言を発するも、声音の苦悶は拭いきれず。撤退の意志が無いことは示したものの、後に漏れる声音は「ヴゥ……ウヴァァァ……!」と意味のない呻きばかり。
『まずい……狂気に飲まれかけてる……!』
 そんな兵庫の様子を前に、スクイリアは愕然と呻きを漏らす。急速に進行――悪化する人狼病は精神を狂暴性という狂気に塗りつぶし、人を獣と堕さしめる。このままいけば、遠からず兵庫は理性なき獣となって始祖人狼へと襲い掛かり――
『――ごめん! 黒影!』
「……がっ!? が、ぐぁ、ああああ!!?」
 そうはいかない。意を決し、スクイリアは強行手段に出る。兵庫の肉体の神経系に働きかけ、その身を苛む痛みを一時的に増幅。以て正気を取り戻させんという荒業だ。加減を間違えれば、痛みの方で発狂しかねない諸刃の剣ではあるが、この時点で狂気を克服するならばこれしかない。少なくともスクイリアはそう判断した。そして。
『――伝達遮断!』
「……ぅ、あ……? あ、お、俺……」
 直後、一時的に痛覚系を遮断。すると、兵庫の口から不思議そうな声。己を苛んでいた痛みと狂気が軽減されたことを不思議がる声。即ち、理性を取り戻したのである。
『黒影、痛みと狂気の遮断はこの一瞬だけ……すぐにまた押し寄せてくる。仕掛けるチャンスは今しかないわ!』
 そんな彼へスクイリアは説く。この一瞬こそ、唯一最大の好機であると。それまで狂気に呑まれかけていた兵庫だが、彼もまた此処までかの五卿六眼との交戦を続けてきた者。即座に意図を理解する。
「はい! せんせー!」
 応えるや否や、その身に生ずる変化。手足が外骨格を纏うかのように硬化、背には虫の翅が生え――そして全身から無数の狼頭が肉体を突き破り生え出て来る。人狼病の影響を受けた、異形の真の姿の発露。痛みと狂気は抑え込めども、その影響は無視できぬか。
「「「やらせん。此処でその命脈、絶ってくれよう」」」
 其処へ振り下ろされる鉄塊。始祖人狼が兵庫へトドメを刺すべく、大剣にて斬りつけてきたのだ。直撃すれば間違いなく致命傷のそれを、兵庫は。
「受けるかよ!!」
 その場から飛び立つことで回避。そのまま、血脈の木々の合間をすり抜けるような高速飛翔を開始。その身は蜂蜜色の靄――彼と共に在る数多の虫達が発するオーラに包まれ、その戦闘力を更に底上げする。
「虫さんたちの思いを込めた一撃、止められるものなら止めてみやがれ……!」
 伝達遮断が限界を迎え、押し寄せる苦痛と狂気。なれど此処に至れば最早止まらぬ。意識の全てを始祖人狼へ。加速する肉体で、かの敵を目掛け突撃する……!
「人狼病ごと! この世から、消えて、なくなれぇぇぇぇぇ!!」
「「「オオオオオオ……!?」」」
 一条の矢の如く飛翔する兵庫の、渾身の拳が。始祖人狼の身を確かに捉え。高まった攻撃力による、大きなダメージを刻み込み。直後、彼の身はグリモアベースへと引き戻されていったのである。確かな戦果を、其処に残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎

■行動
さて、大詰めですねぇ。
参りましょう。

『人狼病』の影響で『神話風衣装を纏い大幅に発育が進んだ姿』に加え、制御困難な『|超惑星級巨大娘《テラサイズ娘》』の側面も多少出たらしく、人狼の頭と共に巨大化が始まっておりますねぇ。

『FAS』により飛行、『FLS』で|全『祭器』《未装備含》を召喚しまして。
『苦痛』自体は防げずとも『痛みが齎す悪影響』と『狂暴化』のみを『FQS』『FXS』で継続治癒、防ぎきれない分の『狂暴化』は「元が防御的思考故に短期勝負に向かない」私からすれば、この状況では寧ろプラスに働きますぅ。
何方にせよ長期戦が不可能なら【鮮血斬】には相打ち覚悟、【夐獮】を発動し『フロートボード』を召喚して騎乗、飛行手段を此方に切り替えた上で、攻撃に使えない『FPS』『FLS』のみ防御に用いて『即死』さえ免れれば良しとし、残る全『祭器』で集中攻撃を。
始祖人狼の『総戦闘能力』は私より確実に上、手数も踏まえれば最大級の強化が得られるはずですので、回収寸前まで全力で攻め続けますねぇ。



 血脈の森に立ち上がる、歪な大きな影。曲線的なシルエットは極めて豊満な女性と見えるが、其処から突き出ているのは明らかに異様な獣の頭部。
「っくぅぅ……これは相当に厳しいですねぇ……!」
 その影の主は、真の姿を発現した夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)。神話風の衣装を纏い、元より豊満な肢体が更に発育した姿が彼女本来の真の姿だが、今の彼女は其に加え、その双房や臀部、太腿などから無数の狼頭が生え、更にはその体躯自体も巨人に迫ろう程に巨大化を遂げている。
 実はるこるには、巨大化を為すユーベルコードの影響であろうか、『|惑星級超巨大娘《テラサイズ娘》』という側面も潜在している。人狼病の影響によりその面が顕在化し、体躯も巨大化しつつあるのである。
「なんたる巨躯」
「だが我が病には耐えられまい」
 対峙する始祖人狼、その左右の頭部が其々に口を開く。その異形なる姿に驚嘆しつつも、彼女の身が確実に病へ侵されていることを把握しているようだ。
(見抜かれていますねぇ……)
 るこるは内心にて唸る。全身を苛む激痛、精神を侵す狂気。周囲へ展開した祭器によって継続的に治療し続けて尚、全身が裂け割れそうに痛く、正面の三面人狼へ襲い掛からんとする衝動が溢れ出て来る。これではいずれにしても、長く戦い続けることはできない。
「いいえ、これが大詰めであるのなら――」
 祭器群を上空へと展開、背には祭器からなるオーラの翼を広げ。足元へはユーベルコードにて複製されたフロートボードが呼び出され、るこるの身を中空へと持ち上げる。此度はオーラの翼も攻撃用、飛行手段はあくまでフロートボードだ。直径10mを超えるだろうそのボードは、巨人並の体躯と化したるこるの身をも確と支えきる。
 始祖人狼を見据える視線、その瞳の色は狂暴に染まる。本来ならば防御的な性格の彼女だが、それ故に短期決戦への適性は低いと言わざるを得ない。だが、今は。
「全力で攻めるのみ……ですぅ!」
 叫ぶ声音もまた狂的なまでに攻撃的。人狼病によって心中に湧き上がる狂暴性は、本来彼女が持ち得ない攻撃性を齎すという意味においてもプラスに働いていた。
 その狂気に身を委ねるかの如く、攻撃の意志を心中に示せば。思念によって其を伝達された祭器群、その全てが一斉稼働。始祖人狼を目掛けて、其々の手段を以て一斉に攻撃開始する。
 炸裂弾、熱線、爆弾、飛翔斬撃、光線、重力弾、魔力弾、魔力矢、理力球、衝撃波。背中のオーラ翼からは羽弾。全ての祭器から放たれるありとあらゆる攻撃が、驟雨の如く降り注ぐ。その勢いは常の数百、否、数千倍とも見える程。
 発動しているユーベルコードによって、祭器群には驚異的なまでの攻撃回数強化が施されている上に、普段は機動や防御に用いる祭器までをも攻撃に回している。人狼病による攻撃力の強化も合わせ、その攻勢は、現状のるこるにできる最大限の猛攻と言えた。
「「「オオオオオ……!!」」」
 それら攻撃に晒され、苦悶とも雄叫びともつかぬ声を上げる始祖人狼。絶え間なく降り注ぐ攻撃は、かの巨狼へも無視できぬ傷を次々と刻み、その生命力を削りにかかってゆく。
「「「まだ……まだだ……!」」」
 なれども始祖人狼は動く。大剣を振りかぶれば、ユーベルコードを注がれた其は瞬く間に巨大化。一時、浴びせられる猛攻を凌ぐ盾と成した後。
「「「その身、その命――打ち砕く!」」」
 持てる渾身の力で以て、其を振り抜けば。巻き起こる鋼鉄の竜巻が、展開されたる祭器を呑み込み砕きながら、るこるをも喰らわんと迫り来る。
「――あ――」
 るこるは悟る。この一撃、耐えられぬと。バリアや結界を展開する為の祭器も、空間跳躍回避を為す為の祭器も、今は攻撃に回している。空間歪曲障壁こそ、其を形成する祭器が攻撃に使えぬ故に展開されているが。この嵐を前としては誤差に過ぎぬ。
 尤も、るこるとしてもこの結果は覚悟の上。元より長期戦が不可能であるならば、相打ちを前提として攻撃あるのみと判じたが故に。
 探知祭器の伝える情報が、重ねたる攻撃によって敵に少なからぬ損耗が与えられたことをるこるに確信させる。ならば、己の役割は十全に果たせたと言えるだろう。
 そのまま襲い来た巨刃に胴を断たれ、グリモアベースへの強制送還が始まる中。るこるは、己の果たした役割の手応えに頷くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎

この苦痛や狂気は、何度経験しても慣れるもんじゃない
だが、あえて受けて、そして耐えなければ…一太刀も届かせられない

今、俺の裡にあるのは、オブリビオンへの憎悪
ダークセイヴァーと獣人戦線、両方の人々を苦しめる、始祖人狼への怒りだ!!
凶暴な衝動をあえて俺の憎悪と結び付けて受け入れ
狼頭に塗れた真の姿を解放する

天蓋鮮血斬を「怪力、武器受け」で無理やり受け流し、巨大化した大剣を空振りさせたら
「ダッシュ、地形の利用」で一気に始祖人狼に接敵
指定UC発動後、至近距離から黒剣で全力の「2回攻撃、鎧砕き」の斬撃を叩き込む!
これが俺の、五卿六眼に対する怒りの、憎悪の一撃だ!!


サーシャ・エーレンベルク
これが人狼病……遍く全てを汚染する病……。
確かに、恐ろしい力。私の剣が届くかどうか……でも。
これまで、どれほどの獣人たちが息絶え、戦争によってその人生を狂わされたのか……!
であれば、身体を引き裂く痛みも、頭の中を満たす狂気も全て……些事でしかない!

狼頭にまみれた冰の女王、真の姿へ変身してユーベルコードを発動するわ。
全てをこの一撃に賭けて、走る!
始祖人狼はその巨剣を振るうでしょう。
私の竜騎兵サーベルから迸った氷嵐が、始祖人狼の腕を一瞬でも凍結させてその動きが鈍れば――強大で疾い一撃でも、瞬間思考力を以て見切り、回避できるはず……!
身体ごと加速し、全てを込めて……この一撃で、始祖人狼を貫く!



 己の肉体へと食らいつき引き千切らんばかりの激痛。思考と感情とを暴力の衝動で焼き切らんばかりの狂気。それらを以て遍く全てを汚染する病。それが人狼病である。
「なんて、恐ろしい力……」
「……何度経験しても。慣れるもんじゃないな」
 痛みに肉体を、狂気に精神を苛まれながら。サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)はその暴威に戦慄を覚える。並び立つ館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)共々、始祖人狼とは既に幾度となく交戦を果たしているが、齎される苦痛と狂気、やはり筆舌に尽くし難い代物である。だが。
「……けれど、この痛みも、狂熱も」
「ああ。これに耐えなければ……一太刀だって、届かせられない」
 其が齎す力を御してこそ。眼前に立ちはだかる五卿六眼が一を打ち倒し得ると。二人ともが、これまでの戦いの中で身を以てその事実を理解するに至っていた。
「苦痛と狂気を御さんとするか」
「なれど其もまた無為」
「吾々はすべてを排除する。『六番目の猟兵』、お前達も全て」
 対峙せし始祖人狼は言い放つと共に大剣を構える。己の前に在るもの全てを、理不尽に薙ぎ払わんとばかりの様相。
「――赦すものか」
 其を前として敬輔の口から漏れるは、憎悪に満ちたる言葉。否、それだけではない。
「二つの世界の人々を苦しめ続けた貴様の行い、赦すものか……!!」
 それは怒り。ダークセイヴァーにおいても獣人戦線においても、多くの人々に理不尽なる生を、死を強いてきた五卿六眼、その一角に対する怒り。
「そうよ……これまで、どれほどの獣人達が息絶え、戦争によってその人生を狂わされたのか……!」
 サーシャもまた、始祖人狼を見据える視線に怒りを灯す。物心ついた頃より剣を手に戦場を駆けてきた彼女、超大国群が齎す戦禍の悲惨さは身を以て知っている。その元凶たるワルシャワ条約機構の支配者を前に、怒りを抑えられようものか。
「この身を裂く痛みも、脳裏を満たす狂気も……些事でしかない!」
 なれども、怒りは闘志に。その心はあくまでも冷静に。決意を示すが如く言い放つと共に、サーシャの身へ変化が生じる。纏う衣は高貴さと怜悧さを兼ね備えたるドレスとなり、その随所から幾つもの狼頭が顔を出す。人狼病の影響で異形化せし真の姿、冰の女王。
「これは怒りだ――数多の人々を苦しめる始祖人狼、貴様への怒りだ!!」
 敬輔は怒りを怒りのままに、齎される衝動や元より裡にある憎悪と共に叫ぶ。纏う黒鎧に禍々しき文様と、無数の狼頭が形作られてゆく。彼もまた真の姿を解放し、その身に発現せしめたのである。
 同時に走り出す二人。目の前に立ちはだかる理不尽の化身を、己らの刃で以て斬り滅ぼす、その意志と共に。
「「「ならば、其の全てを薙ぎ払う!」」」
 無論、其をただ待ち構えるだけの始祖人狼ではない。大剣を構えれば、其は瞬く間に数倍の大きさへと巨大化を果たし。以て、敬輔とサーシャを薙ぎ払わんと振るわれる!
「……………!!」
 疾走しながら敬輔は己の黒剣を構える。大気を唸らせながら迫る其は、鋼鉄の暴風と称するが相応しき暴威を以て襲い来る。真の姿へ至った己の膂力で押し返しきれるか――そう算段しかけた、その時。
「銀の嵐よ……!」
 サーシャが、己の得物たるサーベルを振り抜けば、刃から迸る氷嵐が吹き荒び、始祖人狼を目掛けて浴びせかけられる。毛皮に覆われた巨躯が霜に覆われ、その腕部に氷が纏わりつきだして――
「「「無為である」」」
 なれど腕部を覆いかけた氷は一瞬で砕け散り。振るわれる巨剣の速度はほんの僅か鈍ったのみ――

 だが、その僅かな鈍りが、決定的な変化を齎した。

(見えた――そこっ!)
 サーシャの思考能力は、その一瞬の間に回避を為す道程を見出した。姿勢を叶う限りギリギリまで伏せることで、刃のすぐ真下を潜り抜けて。大質量の巨剣が齎す暴風をも切り抜けて。
「始祖人狼――その身、この刃で貫く!」
 更に加速したサーシャ、改めてサーベルを構え。全てを込めて、全てを穿つ刃の一突きを、始祖人狼の胸目掛け――突き出した!
「「「………!!!」」」
 始祖人狼の三つの顎から、苦悶が漏れ出る。サーシャの繰り出した白き刃は、狙い違わずかの敵の胸を穿ち、貫いてみせたのだ。
 そして、それだけではない。
「この怒り、この憎悪、この衝動――止められると、思うな……!!」
 敬輔である。サーシャが齎した凍結によって僅かに勢いの削がれた始祖人狼の剣を受け流し、此処まで肉薄を果たしたのだ。
 人狼病の齎す衝動を、敢えて己の憎悪と結びつけ、更には怒りの炎にくべて。其は真紅の光となって、敬輔の右目を激しく輝かす。
「これが、俺の――」
 黒剣を振りかぶる。込められたる渾身の力で、柄を硬く握りしめる。
「五卿六眼に対する怒りの!!」
 飛び込む。間合いは最早眼前。跳び退かんとする始祖人狼だが、最早逃がしはしない。
「憎悪の一撃だ!!!」
 以て、全霊で刃を振り下ろし、振り上げる。膂力の限界をも軽々超えて叩き込まれた二連の斬撃が、始祖人狼の胸へと、深い斬痕を刻み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
「「「「「藍ちゃんくんでっすよおおおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」
頭数分音声アップな藍ちゃんくんなのでっす!
いえ、狼頭は咆哮かもでっすが、始祖さんは狼語分かるでしょうし、問題ないかと!
藍ちゃんくんに生えた頭であるのなら藍ちゃんくんなのでっす!
しかも藍ちゃんくんに生えてるのでっすから当然声も大きいのでっす!
始祖さんは頭3つな分余計にガンガン響いてるかと!
ところででっすねー。
唱和というのは一人が唱えた後に続くということでっしてー。
始祖さんは同時に喋ってるようで同時じゃないのでっす!
一つの頭と他二頭の詠唱にはラグがあり、そこに隙なのでっす!
藍ちゃんくんが割り込む形でハッキング、いえ、ジャミングになるのでっしょうか?
しちゃいましょう!
藍ちゃんくんが割り込んでる時点で、3つ首の唱和としては不成立でっすし、同じ音声エネルギー量を持つ逆位相の音響弾をぶつけることで唱和分の詠唱打消等などもー!
唱和、詠唱、共鳴――音の扱いで藍ちゃんくんに勝てるとでもー?
ではではトドメの美声衝撃波なのでっすよー!



「「「「「藍ちゃんくんでっすよおおおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」
 戦場に響き渡る、幾重にも重なり合う声。真の姿へと変じた紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が放った名乗りの声は、伴って全身に生えた狼頭からも放たれ、以て重複し共鳴し、より強く広くその声音を響かせるに至っていた。
 本来彼の真の姿には生じ得ない、人狼病に侵されているからこその狼頭達。なれど、己の身に生えているならば己である。その理論のもと、藍はこの狼頭をも己の身体の一部と認めた。それが故に狼頭もまた彼と同じ声を発することが可能となったのだ。
「「「「「如何でっすかー、始祖人狼さん!!! 藍ちゃんくんの声、届いてまっすかー!!?」」」」」
 其を以て、視線の先に在る始祖人狼へと呼びかける。その言葉もまた、全く同様に狼頭からも放たれ、数倍の勢いで以て響き渡る。
「なんたる声量」
「斯様な騒がしさ、世界には不要」
「疾く排除せねばならぬ」
 対峙する始祖人狼はさも不快げに声を漏らす。頭部が三つあり、其々が思考を共有しているならば、感覚器官の機能も三倍。それは即ち、藍の声も三倍響くということ。元より声量には秀でるところに、狼頭も同等の大声を出せるとなれば、響き渡る声の力強さは尋常ならざる領域に至る。
「「「砕けよ、猟兵!!」」」
 其を力尽くで黙らせんとばかり、大剣を振るい斬りかかる始祖人狼。藍の声量に思考を乱されて尚、その速度は凄まじく、振るわれる刃は鋭く。
「「「「「わきゃーーーーーー!!!?」」」」」
 跳び退く藍、伴って放った悲鳴もまた増幅されて始祖人狼の思考を揺さぶる。最早何か叫ぶだけで攻撃が可能とさえ言える勢いだ。
(とはいえ、やっぱり辛いのでっす……!)
 なれども、人狼病本来の作用――激痛と狂気が藍の心身を苛んでいることは変わらない。長くは戦えぬというグリモア猟兵の言はどうやら事実。限られた時間で、如何に己を此処に示すか――その判断が試されるだろうか。と。
「「「Ooooooo――」」」
 始祖人狼の三つの頭から聞こえてくる、大きく息を吸いこむ音。これは恐らく、ユーベルコードの発動予兆。唱和を以て、人狼化の強制共鳴――人狼病の症状を亢進せしめようというのだろう。まともに受ければ、それだけで戦闘続行不能に陥りかねぬ代物だ。
 どうするか――否。既に藍の答えは出ている。即ち。
「「「「「「「「|Waoooooooooooooooonnn《わおーーーーーん》!!!!」」」」」」」」
 そして放たれる、雄叫びの唱和。だが、其処に明らかなる|異音《ノイズ》が混じった。正体は言うまでもなく。
「「「!!?」」」
「「「「「大成功!! なのでっす!!!」」」」」
 驚愕する始祖人狼。うまくいったと自慢げな表情の藍。何をしたかは単純だ。三つ首の唱和に、|藍も加わったのだ《・・・・・・・・》。
 そもそも『唱和』というのは本来、最初に誰かが発した言葉に残りの者が追随するものである。故に始祖人狼にあっては、中央の頭が発する声に他二つが追随するという形を取っていると藍は見た。一見同時に言葉を発しているように見えて、実際は数瞬だけのラグがあることを藍は見逃さなかった――聞き逃さなかった、と言うべきか。
 ともあれ、その数瞬の間に己が割り込んでしまえば。『唱和』は不成立となってしまい、ユーベルコードもその力を十全に発揮できない。藍のその見立ては正しく、彼の人狼病の症状には有為な変化が見られぬままだ。
「「「なんたる五月蠅き輩よ……!」」」
 悔しげ、或いは煩わしげに唸る始祖人狼。対する藍は得意げだ。音の扱いに於いて、己に勝てる者など、音の専門家でなければ存在し得ぬ。歌を、声を力と成す藍ドルの面目躍如、とばかりに。
「「「「「それでは!!!」」」」」
 そして、敵にそう思わせてしまえば、己の勝ちだ。確信を以て、藍はマイクを握る。
「「「「「貴方の為に!!! 歌うのでっす!!!」」」」」
 発された美声は、収束型の衝撃波となって。始祖人狼の巨躯を、猛烈なる勢いで斬り裂いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
あなたが|人狼病《この子》の|元凶《おや》なの?
ふぅん……だったらね、ずうっと言ってやりたい事があったの

相手が大人しく聞いてくれるかなんて知らないけれど
戦いの最中でも【狂気耐性】【激痛耐性】耐えながら
無理やりにだって、言葉を続けてあげるから
だって当然でしょう?
この子のお陰でメアリは|こう《・・》なった
|生まれ故郷《ダークセイヴァー》では人狼院に囚われて
|不思議の国《アリスラビリンス》ではアリスになって
ヴァンパイアに、オウガに、人間達に、酷い目に遭わされてきた

そう言っている間も、苦痛は、狂気はメアリを苛んで
ああ、ダメよ。まだダメ
我慢するのは得意なんだから

この子がいなかったら、メアリはきっと知らなかったわ
苦痛と恥辱に耐え続ける意味も
その先にある復讐の甘美な味も
ええ、だからずうっと言ってやりたかったの
「ありがとう」って
この子のお陰で、あなたのお陰で……
メアリはいま、とっても楽しいの!

さあ、【雌伏の時】はもうお終い!
半人半獣の人狼、真の姿に変身し
これまで苦痛と狂気に耐えた分、強力な復讐の一撃を!



「おのれ、六番目の猟兵」
「恐るべき力」
 総身を斬られ、穿たれ。或いは燃やされて。最早満身創痍といった姿を晒しながらも。始祖人狼は尚も立ち上がる。その挙動には然程の衰えもなく。
「故にこそ、この場で排除せねばならぬ。我らの敵を」
 そして見据える。現れたる猟兵――メアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)の姿を。
「――あなたが、|人狼病《この子》の|元凶《おや》なのね?」
 メアリーもまた、始祖人狼を見据えながら問う。尤も、其は確認のようなもの。其が事実たるはグリモア猟兵の予知を通し確認済みだ。
「「「如何にも」」」
 始祖人狼の肯定の答え。同時に振るわれる、鉄塊の如き大剣が、メアリーを叩き潰し肉塊に変えんとばかり迫り来る。
「ふぅん……」
 なれどもメアリーは其を横跳びで躱す。反撃は狙わない。今はまだ、その時ではない。
「……だったらね、メアリ、ずうっと言ってやりたい事があったの」
 活性化する人狼病の症状。肉体を苛む苦痛、精神を苛む狂気。其を抑え込みながら、メアリーは語る。無理矢理にでも、語り続ける。
「この子のお陰で、メアリは|こう《・・》なった、って」
 人狼病の発症。其はメアリーの人生を、どうしようもない程に狂わせた。
 生まれ故郷たるダークセイヴァーに在っては、人狼院に囚われて。
 やがてアリスラビリンスへと至れば、アリスとなって。
 その都度ごとに、詰られ、虐げられ、傷つけられてきた。ヴァンパイア、オウガ、時には人間達にまで――
(ああ、ダメよ、まだダメ――)
 思い出すに伴って、肉体が引き裂かれんばかりの痛みに襲われ、思考は狂おしい程の狂暴性に苛まれる。理性も思考も、肉体と共に砕け散らんばかりの。
 だが、耐える。堪える。元より我慢するのは得意だ。もう数十秒程度ならば、耐えきれる――そう己に言い聞かせながら、メアリーは言葉を続ける。
「この子がいなかったら、メアリはきっと、何も知らないままだったわ」
「「「……何?」」」
 続く語りに、始祖人狼は訝しむような声を漏らす。それはまるで、その病を肯定するかのようで。
(そう、苦痛と恥辱に耐え続ける意味も、その先にある復讐の甘美な味も)
 それはきっと、知らずに在るならばそれを幸いと称するべきもの。けれども。
「ええ、だからずうっと、言ってやりたかったの――」
 だがメアリーは、目前の始祖人狼を見上げながら告げる。いっそ清々しくさえある笑顔で以て。
「――ありがとう、って」
「「「………!!」」」
 暴風じみて大剣が振るわれる。其を伏せて躱しながら、メアリーは笑う。
「この子のお陰で、あなたのお陰で――」
 その頭と尻に、狼の耳と尻尾が生える。四肢が毛皮に覆われると共に、狼の有する形へと変異を果たす。そして何より、全身から無秩序に生える、異形の狼頭――
「メアリは今、とっても楽しいの!」
 大剣の振るわれた直後に跳躍する。その手には得物たる鉈。狙うは一点。始祖人狼の三つの頭を繋ぎたる――首!
 攻撃を終えたばかりの始祖人狼は動けぬ。その時間は僅かに数瞬に過ぎぬ、本来なればメアリーが其処を突いて跳んで来ようと、回避であれ反撃であれ対応叶う程度の隙。だが、今は。
(そう――雌伏の時は、もうお終い!)
 此処まで苦痛と狂気に耐え続けた時間。其が彼女のユーベルコードを励起し、彼女に力を与えたのだ。不可能を可能とする程の力を。
 跳び上がったメアリーの身は、一瞬で始祖人狼を跳び越える。振り抜いた鉈には、新鮮な鮮血が纏わりついていた。
「「「―――――」」」
 始祖人狼は動かない。否、その首が動いた。三つともが纏めて、ずるりと、前へと滑り。そのまま、胴体から零れ落ちていく。
 首を失った巨躯は、空を仰ぎ。そのまま、どう、と地へ倒れ。首と諸共に、赤黒い血液と変じて流れ消えてゆく。
 五卿六眼『始祖人狼』、二つの世界に数多の悲劇を巻き起こしてきた存在の、呆気ない最期であった。
「………」
 以て、復讐を為したメアリー。その心中に、何を想うだろうか。



 斯くして、五卿六眼が一『始祖人狼』は、猟兵達によって討ち果たされ。
 獣人戦線を舞台とした大戦は、猟兵達の完全なる勝利で以て、幕を下ろそうとしていた。
 この戦の先に、猟兵達を、この世界を待つものとは、果たして何であろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年06月01日


挿絵イラスト