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獣人世界大戦⑳〜All'alba vincerò!

#獣人戦線 #獣人世界大戦 #第三戦線 #はじまりの場所 #はじまりの猟兵

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●世界の真実を識る者よ
 闇があった。
 ただひたすらに、闇が溢れていた。
 シベリア奥地の深い森の中で、彼女は――『はじまりの猟兵』は立っていた。

「……六番目の猟兵!」

 待っていた。
 ずっと、待っていた。
 けれどもこの身はとうに朽ち、|世界の敵《オブリビオン》と化してしまった。
 伝えたいことがある。
 けれどもこの口は真実を語ることすらままならない。

(「いっそ紙芝居にすれば……いや……」)

 まずは、紙芝居を収納する専用の舞台を用意しないといけないし――いや、それ以前の問題であった。どんなに葛藤しようとも、完膚なきまでに叩きのめされでもしない限り、今の自分は真実を語れぬと、はじまりの猟兵本人こそが一番良く分かっていた。

(「……!? 闇が、勝手に……!」)

 彼女の意志とは関係なく、己を包む膨大な闇が、とんでもない怪物を生み出そうとしていた。このままではいけないと、焦る『はじまりの猟兵』。

「ま、まずはこの闇を何とかしなければ!」

 最も古き者。はじまりの猟兵。
 正直言って弱いとは本人の弁ではあるが、果たして――?

●歪んだ己に向き合う勇気を
 グリモアベースの一角で、懐中時計を手にしたニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)が、集まった猟兵たちをぐるり見渡すと、ひとつ頷いて懐中時計の蓋を閉じた。
「流石は皆、時間通りの集合に感謝する」
 そして一礼し、今回の予知の説明を始めた。
「皆の奮戦のお陰で、今まで謎の結界に遮られて視えなかった戦場の予知が出来るようになったのでな、早速なのだがその対処にあたって貰えればと思う次第」
 言うと同時に中空に展開されたホロビジョンには、どす黒い闇と禍々しい鎖に囚われたような、少女らしきものの姿が映し出されていた。
「遂に俺達は『はじまりの猟兵』との接触が可能となった訳だが――少々、問題があるようでな」
 難しい顔をしながら、ニコは話を続ける。
「『はじまりの猟兵』は、既にその命も尽き、オブリビオンと化してしまっている。現状では、識っている情報さえも正しく伝える事が叶わないのだろう。真実を語れる時が来るとすれば其れは」
 ニコは一度言葉を切り、そして告げた。

「容易には復活出来ぬ程叩きのめされた時、その末期に少しだけ許されるとの未来が視えた」

 相手は、既にオブリビオンと化している。ならば、猟兵としては骸の海に還すより他にない。ニコは険しい表情のまま、懐中時計を握りしめた。
「だが、俺が視た予知は少々勝手が違うようでな。『はじまりの猟兵』を包む闇が、彼女の意志を無視して『怪物』を生み出すので、それを彼女と『共闘して』倒して欲しいのだ」
 共闘? と問われたニコは首肯する。今回は、倒すのではなく、共に戦って欲しいと。
「ご覧の通りの膨大な闇が生み出す怪物の正体は、皆の『真の姿』を更に歪めたような、酷く禍々しい形状をしている――故に『怪物』と呼んだ。そういう存在が生じるからだ」
 俺であれば、ヒトのカタチさえ保てなくなるだろうな、などと独りごちながら。
「『はじまりの猟兵』としても、それは不本意な状況だ。戦場に現れた皆の、禍々しい真の姿を次々に生み出す闇に慌てて、共闘を持ちかけてくるという寸法でな。それにより、闇を撃退しようという流れになる」
 なるほど、それは悪い話ではない――真の姿を歪められるという不愉快さを除けば。
 ニコは、真剣な表情で、猟兵たちを改めて見渡した。
 受け入れて、その上で戦いに臨める者が居たら、助力を賜りたいと。

「闇は『はじまりの猟兵』のエネルギー源でもあるようだ。皆が『闇の真の姿』に打ち克てば、闇は去り、共闘を終えた『はじまりの猟兵』も消滅するだろう」

 虹色の星形のグリモアが輝く先には、底知れぬ闇があった。
 そして、そのただ中で待ち受ける少女らしきものの姿も、また。

「この共闘が成功を重ねれば、世界の真実の一端に触れることも叶うだろう」
 ニコはそう言うと、瞑目する。
「闇を恐れよ。されど恐れるな、その力――何処かで聞いた言葉だ、武運を祈る」


かやぬま
 夜明けと共に、私は勝つ!
 『はじまりの猟兵』と共に、闇に、そして歪んだ己に打ち克って下さいませ。
 かやぬまがお届けします、よろしくお願い致します。

●プレイングボーナス
 ・『はじまりの猟兵』と共闘する/自身の「闇の真の姿」を描写し、それに打ち勝つ。

●闇の真の姿と『はじまりの猟兵』について
 最低でも具体的な容姿と戦い方を、余裕があれば性格や口調も、プレイングで教えて下さい。
 基本的には「真の姿を禍々しい方向に歪めたもの」となりますので、そういう雰囲気でお願い致します。
 『はじまりの猟兵』は「これは放っておけません」とばかりに闇の真の姿を一緒に倒そうと持ちかけてきてくれるので、是非共闘して何とか打ち克って下さい。
 ユーベルコードは、PSWのうち一つだけ指定して使わせることが可能ですので、必要に応じて指定をお願いします。字数が厳しいなどでお任せの場合は、皆様が使用するユーベルコードのPSWに対応するものを選択して、適宜攻撃をしてもらいます。

●プレイング受付について
 断章はありませんが、オープニング公開後即受付ではありません。
 タグとMSページにて告知しますので、お手数ですがご確認の上プレイングの送信をお願い致します。
 また、ご参加の前にMSページにも一度お目通しをいただけますと非常に助かります。
 戦争シナリオのため、期間内に頂戴した問題ないプレイングでも、状況次第では全採用が出来かねるおそれがあることだけ、お許しいただければと思います。

 それでは、皆様の熱いプレイングをお待ちしております! かやぬまも頑張ります!
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第1章 ボス戦 『はじまりの猟兵』

POW   :    ストライク・イェーガー
レベルm半径内の対象全員を、装備した【ライフル】で自動的に攻撃し続ける。装備部位を他の目的に使うと解除。
SPD   :    プログラムド・ジェノサイド
【予め脳にプログラムしていた連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    キューソネコカミ
【ライフル】が命中した敵を一定確率で即死させる。即死率は、負傷や射程等で自身が不利な状況にある程上昇する。

イラスト:hoi

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御園・桜花
※頓痴気香る

腐った木の肌をした萎びたドライアド
腐った葉で出来た黒茶の髪
頭上の萎れた桜の枝2本
精霊なので勿論全裸
「今上帝…ウヘヘ…今上帝…」エンドレス

「…え、え?お、お婆さん?想像と違いますよ?」
周囲キョロキョロ

※本来は普通の木目で緑と桃色の髪で萎れてない

「幾ら精霊は全裸が普通でも、見せて良い身体と見せちゃ駄目な身体があるんです!ノーモア視覚の暴力ですよ!」
「協力お願いします、第一さん!」P希望

「此れ人に見せちゃ駄目です滅殺滅殺!」
桜吹雪になって吶喊
敵外観隠しつつバリバリ雷鳴電撃
速やかに塵にして証拠隠滅図る


「お目汚しして本当に済みませんでしたっ」
戦闘後周囲に(第一含め)米搗き飛蝗のように謝り倒す



●認めたくない闇の姿
「あ、あわわ、はわわわわ……」
 自らを包む膨大なる闇が、勝手に『六番目の猟兵』たちを歪に模した『怪物』を生み始めたものだから、『はじまりの猟兵』はすっかり慌ててしまっていた。
 戦場へと真っ先に降り立った御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、まず狼狽えるはじまりの猟兵を見て、それから――とんでもないものを見た。

 それは、端的に言ってしまえば『萎びたドライアド』であった。
 腐った木の肌に、同じく腐った葉で出来た黒茶の髪。頭上には申し訳程度に萎れた桜の枝が対になるように生えていて、一糸まとわぬ姿でゆらりと立っていた。

『今生帝……ウヘヘ……今生帝……』
 ん? うわごとのそこかしこに桜花さんの要素が含まれているような……?
「……え、え? お、お婆さん? 想像と違いますよ?」
 嘘でしょ、と言わんばかりに桜花は周囲を見渡すも、視界の端にどうしても萎びたドライアドがチラチラと入り込んできてしまう。地獄かな?
「えっ、あっ、ごめんなさい……わたしのせいというか……」
 はじまりの猟兵と呼ばれる少女が、仮面のせいで表情こそ分からないものの、声音で明らかに申し訳なさそうにしているのが伝わってきた。
 桜花の名誉のために申し添えておくと、本来の真の姿は肌も髪も腐ってなどおらず、麗しい木目の肌に緑と桃色の髪持つ、瑞々しい精霊の出で立ちであるという。
「幾ら精霊は全裸が普通でも、見せて良い身体と見せちゃ駄目な身体があるんです!」
 桜花は珍しく取り乱した様子でそう叫ぶ。
「ノーモア視覚の暴力ですよ! 強力お願いします、第一さん!」
「が、合点承知ですっ!」
 放っておくといつまでも今生帝についてのお腐れトークを続けそうな萎びたドライアド――桜花の『闇の真の姿』を倒すべく、今ここに第六の猟兵とはじまりの猟兵のタッグが爆誕した。

「第六さん、わたしはぶっちゃけた話弱いので、ライフルで援護射撃をしますね!」
 はじまりの猟兵は、両手の先に浮かべた二挺のライフルを巧みに操ると、銃口を萎びたドライアドに向ける。
 それに合わせるように、桜花はくるりとその場で一回転すると、思い切り叫んだ。
「此れ、人に見せちゃ駄目です!! 滅殺滅殺!!」
 桜花は凄まじい気迫と共に、その身をあっという間に桜吹雪へと変化させた。

 ――速い!
 ただの桜吹雪ではない、稲妻の如き速さで移動するため、花霞に見える程だ!

「す、凄いです! さすがは六番目の猟兵、信じられない戦い方です……!」
 感嘆の声を上げながら、はじまりの猟兵はライフルを撃ちまくる。ばら撒かれる弾丸の間を縫うように、物理攻撃を受け付けぬ身となった桜吹雪が、その身をクネクネさせながら何やら妄想を垂れ流している萎びたドライアド目がけて吶喊した。
(「うわああああいけませんいけません、一刻も早く消えて無くなって下さいいいいい」)
 桜吹雪はドライアドを中心に渦を巻くように、その姿を絶妙に他者の目から隠す。
 そして、雷鳴が轟き電撃が走り、はじまりの猟兵によるライフルの攻撃も相まって、雷撃を至近距離で喰らったドライアドは、元々腐れていたその身をグズグズと崩していった。
「しょ、証拠隠滅完了……!」
 桜の精の姿を取り戻した桜花は、額の汗を拭いながら成し遂げた顔をするも、同時に転移を受けた他の猟兵たちやはじまりの猟兵の視線を感じ、顔色を真っ青に変えてしまった。
「お、お、お目汚しして、本っ当に済みませんでしたっ!!」
 そして、その場に突っ伏すと、まるで米つきバッタのようにひたすら謝り倒す。
「い、いえ、わたしの纏った闇がだいたい全部悪いので!!」
 はじまりの猟兵もまた、ひれ伏せない代わりに腰を思い切り折って謝り返した。

成功 🔵​🔵​🔴​

凶月・陸井
自分の幻覚と相対する事はあったが
異形とは言え自分を倒すのは初めてだ
その上更に、はじまりの猟兵と共にとは
「さて、行くか」

彼女の居る森へ転送され
闇と禍々しい鎖に囚われたその姿に
オブリビオンと化しても尚
伝えたい事の為にこの場に居る事にも
敬意を表して礼を
「初めまして。俺は凶月陸井だ」

一応ペンと紙は持っているが
伝えるという行為自体縛られているのか
絵心があれば絵でも…と考えていた所で
容赦なく闇は溢れ出した

同じ服、同じ武器だが
人というより獣の様な気配のそれは
全身が深い黒にも関わらずずぶぬれで
滴るのは返り血のようだ
背に負う文字も黒の中で見えない筈だ

俺だったらと考えた瞬間には
音も無く鯉口は切られていた
獣のように低く襲い掛かるそれに対応するには
「人として、猟兵としてだろう」

勿論、彼女にも協力を頼むよ
「一緒に戦ってくれると心強い」
【戦文字「縛」】で敵への妨害と
自身の闇で威力を上げて攻撃
「悪いな、負けるわけにはいかないんだ」

闇を討ち払って、その奥の光に
彼女自身が何かを伝えられる事を願って
「また、一緒に戦おうな」



●人と獣
 百戦錬磨の凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)でさえ、こう思ったという。
(「自分の幻覚と相対する事はあったが、異形とは言え自分を倒すのは初めてだ」)
 その上さらに、『はじまりの猟兵』と共にとは。今や『六番目の猟兵』と呼ばれる身となった陸井は、いっそう気を引き締めるように口を結ぶと、グリモアの光を受けた。

「さて、行くか」

 シベリアの奥地、森の奥深くに『彼女』は居るという。
 転移を受けて降り立った場所がひどく暗かったのは、単に森の奥だからという訳でもないだろう。気配が、既に禍々しかったからだ。
「――」
 そして陸井が目にしたのは、膨大な闇と禍々しい闇に囚われた、仮面の少女の姿だった。
『……六番目の猟兵!』
 陸井の気配に気付いたはじまりの猟兵が、弾かれたように顔を上げ、叫ぶ。
「初めまして、俺は凶月・陸井だ」
 オブリビオンと化してもなお、伝えたいことのためにこの場に在り続けたはじまりの猟兵に、心からの敬意を以て陸井は一礼し、名を名乗る。
『ごめんなさい、わたしを覆う闇が、きっとあなたを害そうとしてしまいます』
「大丈夫、承知の上だ」
 こうして言葉を交わしていられる間にも、何らかの奇跡が起きて真実を告げることが出来たならばと、陸井は念のため懐に紙とペンを忍ばせてはいた。
 だが、何かを言おうとしては苦しげに首を振ってしまうはじまりの猟兵の様子を見るに、どうやらそれは難しいのだろうという結論に陸井は至る。
(「伝える、という行為自体縛られているのか。絵心があれば、絵でも……」)
 駄目で元々、頼むだけ頼んでみようかと考えていたその時だった。
 陸井の思考を遮るように、容赦なく闇はあふれ出した。

『……』
 陸井が、もう一人。
 闇が姿をかたち取り、陸井と同じ服で、同じ武装で、そこに立っていた。
「陸井さん、気をつけてください! それこそが、あなたの闇の真の姿です!」
 はじまりの猟兵が言う。
 |それ《・・》は全身が深い黒にも関わらずずぶ濡れで、滴るのはまるで返り血のよう。
 人、というよりもはや獣のような気配を纏った|それ《・・》は、きっと本来の陸井が背に負う大切な一文字すら黒に沈み、見えることはないのだろう。
(「俺だったら、っ!?」)
 どう動くか、と考えた瞬間には、音もなく鯉口が切られていた。速い!
 動作もまるで獣のように低く襲いかかってくる闇の己に対応するには、どうするべきか。
「人として、猟兵としてだろう」
 こちらまでつられて獣に成り下がってはならない、そうあるべきだと思った。
 闇の奇襲を紙一重で躱すと、陸井は自然とはじまりの猟兵の隣に立つ格好となる。
「一緒に戦ってくれると心強い」
「! はいっ、がんばります!」
 協力を頼めば、快い返事と共に、はじまりの猟兵はまるであらかじめそうプログラムされていたかのように、闇を滴らせながら俊敏に動き回る闇の陸井を牽制する連続射撃を開始した。『自分は弱い』と言う割に、戦闘の勘はやはり目を見張るものがある。
(「有難うだよ、とても助かる」)
 謝辞を発する代わりに、陸井は行動範囲を徐々に狭められていく闇の陸井目がけて【|戦文字「縛」《イクサモジ・シバリ》】による「縛」の一文字を放つ!
『ガ……ッ!?』
 狙い違わず、放たれた文字の直撃を受けた闇の陸井は、突然その動きを止めた。ユーベルコードが効いている証拠だった。
「あ、あわわ、ごめんなさい! 攻撃が止められませんー!!」
 援護射撃の必要がなくなった今、闇の陸井に攻めかからんとする本物の陸井にとって、はじまりの猟兵の攻撃はむしろ障害になりかねないと、少女は慌てて叫ぶ。
 だが、陸井は怯まなかった。それすらも織り込み済みだとばかりに、ばら撒かれる銃弾の間を巧みに縫って、地を蹴り一気に闇へと迫る!

 一番人間らしい武器は何か?
 脳裏をよぎる問いに、手にした相棒からの贈り物たるガンナイフが応えた。

 闇を纏い、六番目の猟兵の名に恥じぬ尋常ならざる威力を宿した一撃を以て、陸井は闇から生じた禍々しい己自身を、一撃のもとに討ち果たしたのだ。
「悪いな、負けるわけにはいかないんだ」
 憎々しげに己を見上げ、しかし元来た闇へと再び溶けて戻っていく闇の陸井にそうとだけ言葉を残すと、勝利した陸井はようやく攻撃を止めることができたはじまりの猟兵の元へと歩を進める。

 闇を討ち払って、その奥の光に。
 いつか遠くない未来に、彼女自身が、真に何かを伝えられることを願って。
「また、一緒に戦おうな」
 そう言葉をかけると、はじまりの猟兵は仮面の向こうで、嬉しそうな声を上げた。
「……はい!」
 その時を楽しみに、己との戦いに決着をつけた陸井は踵を返したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
救えないのは辛いけど
今の猟兵を助けてくれる彼女と共闘し
せめて聞こう
彼女が知る真実を

目前に転送されたし
直ぐに声掛けるよ

「来たよ…俺は葛城時人って言うんだ」
宜しくねと何時もと同じに言い
名を問う
一緒に戦う仲間だし聞けたらって
今は無理なら謝るね

至近で闇が象られた

瞳だけ青く鼻も口もない
醜悪な黒い瘦せこけた化物が
俺に気付くと
錆びた大鎌をゆらりもたげ
狂気の瞳で俺をじっと見た

「っ」
明白な行動阻害の力
体が重い一歩も動けない…
でも幸い俺だけだ

「シネ」とだけ呟く抑揚の無い声と共に
近づく奴から目を逸らさず
慌てる彼女に囁く
「牽制攻撃は可能…?」

小気味良い即答即時
縛る軛など無いような
凄まじいライフルの乱射!
奴は態勢を崩し視線が外れて
…よし動けたっ

「助かったよ!」
礼を叫び白燐剣光大神楽で縫い留める
「闇だけの貴様は蟲も光も知らず、か」
燐光放つ剣先を突き立てると
断末魔をあげ消えて行った

振り返り改めて礼を言う
闇は壊せたけど…同時に別れが迫ってる

「ありがとう」
教えて貰えたら名も
そして彼女が語る全てを
忘れず俺の中へ刻み見送ろう



●光と闇
(「救えないのは、辛いけど」)
 予知の内容を把握してすぐに、葛城・時人(光望護花・f35294)は決意する。
(「今の猟兵を助けてくれる彼女と共闘し、せめて聞こう――彼女が知る真実を」)
 はじまりの猟兵は、その身を賭して伝えようとしてくれている。
 ならば、それに応えなければ。
 そうして時人は、深い深い森の奥へと転移を受けた。

「六番目の猟兵!」
 喜色さえ混じる声音で、間違いなく己のことであろう呼ばれ方をした時人は、まさにはじまりの猟兵のすぐ目の前に立っていた。
「来たよ……俺は葛城・時人って言うんだ」
 宜しくね、と挨拶ひとつ。これは、誰に対しても変わらぬ、いつもと同じ言動。
「せめて、名前くらいは教えてもらえないかな?」
「えっ……そ、それは……」
「一緒に戦う仲間だし、聞けたらって」
「……」
 一縷の望みをかけて尋ねてみた名前さえ、告げることが困難なようだった。
「ごめんね、無理を言ったようで」
「いいえ……! お気持ちだけでも、十分嬉しいです!」
 結果的に無理を強いたなと時人が謝罪すれば、はじまりの猟兵は首を横に振る。

「謝らないといけないのは、むしろわたしの方で――」

 その言葉と共に、はじまりの猟兵を覆っていた闇が膨らみ、嫌なカタチを象った。
 |それ《・・》は、確かに人のカタチをしているといえば、そうなのだろう。
 けれども鼻も口もなく、瞳にあたる部分だけが淀んだ青をしていて、ひたすらに黒く痩せこけた化物を、果たして人と呼んで良いのだろうか? あまりにも――醜悪だ。
『――』
 一対の青が、時人に視線を向けた気がした。
 錆びた大鎌をゆらりともたげ、狂気を孕んでいるとしか思えぬ青が、時人を凝視する。
「……っ」
 ずしん、と。身体が圧し潰されそうになるような感覚に襲われる時人。それが、眼前の禍々しいモノによる行動阻害の力であることは、疑いようがなかった。
(「体が、重い」)
 あまりのことに、足が一歩も動かない。進むも退くも叶わぬ状況だ。
 幸いだったのは、共に戦うはじまりの猟兵には、その被害が及んでいないことだった。
『シネ』
 抑揚のない声で、ただ一言、明確な殺意を示す『時人の闇の真の姿』。
「と、ととと時人さん! こっちに来ます!」
 錆びた大鎌を手に、ゆうらりと近付いてくる闇の時人から、しかし本物の時人は目を逸らさなかった。醜悪な姿に堕ちた己から逃げず、はじまりの猟兵にこう囁くのだ。
「牽制攻撃は可能……?」
「! は、はいっ」
 それまでの慌てようが、まるで嘘のよう。時人が冷静に問えば、はじまりの猟兵は小気味良い程の切り替えで、両手の先にある二挺のライフルを闇の時人に向けた。
「やれるだけのことは、やってみます!」
 凜々しい少女の言葉と共に、ライフルが火を噴いた。
(「自分は弱い、だって? そんな馬鹿な」)
 その様子を見た時人は、まず率直にそう思ったという。闇にも、鎖にも、何にも縛られず、まるで|軛《くびき》などないかのように、巧みにライフルを駆り、凄まじい乱射を闇の時人目がけて叩き込むのだから!
『……』
 足元を激しく穿たれ、闇の時人が体勢を崩す。同時に、時人を戒めていた重圧が嘘のように消えてなくなる。どうやら、あの青い瞳に射抜かれていたのが原因だったようだ。
「……よし、動けたっ」
「時人さん!」
「助かったよ!」
 身体の自由を取り戻した時人が感謝の言葉を叫び、今まで踏み出せずにいた一歩を力強く踏み出す。右腕をあらんばかりの力で前に突き出し、喚び出すは|白燐蟲《ククルカン》。

「穿ち、奪い、縫い止めろ! ククルカン!!」

 今こそ、反撃の――そして終焉の時だ。
 時人は常に共に在る|白燐蟲《ククルカン》を光の剣に変化させると、その柄を握り剣舞のごとき太刀筋を描く。すると、光を伴う衝撃波が放たれ、まばゆい光で闇そのものとも言える闇の時人の忌まわしい青を封じ、その動きを止めてみせたのだ。
「【|白燐剣光大神楽《ビャクリンケンコウダイカグラ》】――闇だけの貴様は蟲も光も知らず、か」
『――』
 今度は時人によって逆に動きを封じられた闇の時人が、何か言葉を発しようとした。
 だが、その前に。
 頭上で一度大きく白燐蟲の光剣を回した時人が、まさに神楽を舞うように、燐光を放つ剣先を闇の時人の急所――と思しき場所――に突き立てた。
『ガ、ア、アアアアアアアア――!』
 何を言いたかったかは知らない。知る必要もない。
 今知りたいのは、はじまりの猟兵が告げたがっている猟兵の秘密――ただそれだけ。
 断末魔と共に消えていく闇から生じた歪な己を見送ると、時人ははじまりの猟兵を見た。

「ありがとう」
 彼女の援護なしでは、どうなっていたか。
 それを思えば、常より礼儀正しい時人ではあるが、ますます礼を言わずにはいられず。
「い、いえいえそんな! わたし、ライフル撃ってただけですし!」
 あわあわと両手を振って謙遜するはじまりの猟兵に、ほんの少し、笑みをこぼし。
「名前は……やっぱり言えないのかな」
「う、うう、ごめんなさい……今は、ちょっと難しいです」
 今は、ということは。
 六番目の猟兵たちがはじまりの猟兵をあらゆる意味で凌駕することが出来れば。
 彼女が語る『秘密』の中に、その名も含まれているかも知れない。

「じゃあ、その時が来るまで」

 もう少しだけ、待っていよう。『はじまりの猟兵』だなんて無骨な呼び名ではなく、彼女自身を示す名が語られる、その時を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
●闇の真の姿
人型から逸脱した筋肉の怪物
例えるならば、飛行できない「骸の月を喰らう月」
元の姿の面影は欠片もなく、言語を解する知性も消失し、唸るような雄叫びのみを発し、手近なものを叩き潰して捕食しようとする

……何、アレ。
流石にアレを私の真の姿とは認めたくないんだけど。
まあ、いいわ。
歪んでいれどアレが私だと言うならば……弱点なんて決まりきってるもの。

【筋肉の精霊さん】発動し、真の姿開放しつつ正面から突撃
私が囮になり、はじまりさんにはPでの援護射撃を依頼
有効打は期待してないけど、鬱陶しい弾幕は時間稼ぎの足しになるはず
私は前に出て真っ向から「怪力」で殴り合い、150秒をしのぐ
時が来れば筋肉痛とこむら返りで動けなくなるはずだから、あとはお好きにどうぞってね。

私自身の弱点を、他ならぬ私が把握していない筈が無いでしょう?
それにしても、知性を棄てて化物になるだなんて、脳筋としてありえないわ。
何故かって?
脳まで筋肉であるならば、それは筋肉が脳の働きをできるということ。
つまりマッスルはブレインということよ。(



●真の脳筋たるものは
 シベリアの深い森の奥に、巨大な肉塊が出現していた。
「え、えええ、えええええ……!?」
 転移を受けてはじまりの猟兵の前に降り立った荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)は、はじまりの猟兵がつかさと何かを見比べて慌てているのを見て、最初は訳が分からず怪訝な顔になった。
「……何、アレ」
「あなたがここに来た気配がしたと思ったら、闇があっという間にあの形に……」
 つかさとはじまりの猟兵が、遂に同じ方向に視線を向ける。
 ――その先には、人のカタチを逸脱した、筋肉の怪物が鎮座していた。
(「あれじゃまるで、飛べない骸の月を喰らう月みたいじゃない」)

『グルウオオオオオオオオオオオ……』

 状況から察するに、|あれ《・・》がつかさの『闇の真の姿』ということらしい。
 元の姿の面影は欠片もなく、言語を解する知性も消失し、ただ唸るような雄叫びのみを発し、手近なものを叩き潰して捕食しようとするだけの――まさに、怪物であった。
「流石にアレを私の真の姿とは認めたくないんだけど」
「そうですよね、あんまりですよね! ご本人はこんなにも小柄で愛らしいのに!」
 眉間に皺を寄せて渋い顔をするつかさに、はじまりの猟兵もうんうんと同意する。よもやまさかつかさが無双の狂戦士であろうとは、まるで大和撫子のような外見からは想像もできなかったのであろう。はじまりの猟兵は、後に驚愕することとなる訳だ。
「まあ、いいわ」
 割とクールに気持ちを切り替えると、つかさは指をゴキゴキと鳴らす。
「歪んでいれどアレが私だと言うならば……弱点なんて決まりきってるもの」
 さすがは幾多の修羅場をくぐり抜けてきたつかさである。相手が自分だというのならば、むしろ話は早いとばかりに、負けじと『真の姿』を解放した。
 惜しげもなく晒された(さらしは巻いているが)上半身に、硬質な外骨格に覆われた手足の先、羅刹の角は三本に増え、美しい黒髪は銀髪へと変貌する。
「ところで私の真の姿を見て欲しいんだけど、どう思う?」
「すごく……強そうです……」
 すっかり凜々しい姿になったつかさがはじまりの猟兵に問えば、頬を赤らめたはじまりちゃんがうっとりと答える。
「私の真の姿は|これ《・・》よ、今日はそれだけ覚えて帰って頂戴」
「えっ、いや、あの、わたし、お話したいことが……」
「さあ行くわよ! 私が囮になるから、はじまりさんはライフルで援護をお願い!」
「ふぁいっ!?」
 つかさの勢いに流されるまま、はじまりの猟兵はあわあわしながら筋肉の怪物へと二挺のライフルの銃口を向ける。それを確認したつかさは、鋭い爪が生えた足で地を蹴って、一気に筋肉の怪物の方へと駆けていった。

(「筋肉にも精霊は存在するわ」)
 つかさは、心からそう信じていた。
(「それを、お前に分からせてやる」)
 狙うは、闇のつかさ――筋肉の怪物。駆け抜ける横をはじまりの猟兵が連射するライフルの弾丸が飛び、筋肉の怪物の体表に次々と着弾するが、あまり効いている様子はない。
(「構わない、有効打は期待してないけど――鬱陶しい弾幕は時間稼ぎの足しになるはず」)
『グウウ……』
 まさにつかさの読み通り、はじまりの猟兵が放つ援護射撃を疎ましく思ったのか、筋肉の怪物は前脚らしきものをぶぉんと払い、ライフルの弾丸を一気に弾き飛ばす。
「隙ありっ!」
 腕――であろう部位を広げたことにより、胸部らしき部分が露わとなる。そこを狙って、つかさは猛然と尋常ならざる怪力を乗せて、拳を叩き込む!
『グガ……ッ』
 だが、つかさから生じたものなだけあって、筋肉の怪物もなかなかタフだ。一撃程度では揺るがず、負けじと前脚をつかさに叩きつけようと振り下ろしてきた。
 それを紙一重で躱すと、つかさは更に、愚直に、拳をぶち込み続ける!
(「150秒、それさえ凌げれば」)
 振り上げた巨腕に、はじまりの猟兵が放った弾丸が雨あられと浴びせられる。怪物が怯んだところで、つかさの拳が怪物にめり込む。

「目覚めなさい、筋肉の精霊さん」

 拳を引きながら、つかさが淡々と告げた。
 その瞬間――。

『グ、ア、アガアアアアアアアア!!!??』

 突然、筋肉の怪物がけいれんを起こして、その場に倒れ込み、悶絶し始めたのだ。雄叫びは最早苦悶の叫びと化し、当然、つかさへの攻撃どころではなかった。
「あ、あの……一体何が……!? 拳が効いたんでしょうか……!?」
 もんどり打って苦しむばかりの怪物に背を向けて、はじまりの猟兵の元へ戻ったつかさに、質問がなされる。つかさは、瞑目して静かにこう答えた。
「奴は今、激しい筋肉痛と強烈なこむら返りに苦しんでいる真っ最中よ」
「筋肉痛と、こむら返り」
 はじまりの猟兵が、思わず言葉を繰り返す。ちょっと、理解が追い付かなかったようだ。
「私自身の弱点を、他ならぬ私が把握していない筈が無いでしょう?」
 そう言いながら、つかさは初めてふっと緩い笑みをこぼす。
「それにしても、知性を棄てて化物になるだなんて、脳筋としてありえないわ」
「あれが……あれこそが脳筋の具現化ではない、ということですか?」
「ええ、脳まで筋肉であるならば、それは『筋肉が脳の働きをできる』ということ」
「筋肉が……え?」
「つまり、マッスルはブレインということよ」
「……???」
 六番目の猟兵に真実を告げるどころか、逆によく分からない理論を教え込まれてしまったはじまりの猟兵であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

流茶野・影郎
はじまりの猟兵……か
能力者を経て、猟兵になった俺にはまだ詳しくは分からないけれど
ツッコむところ一つ
「こう……遺書とか残すとか無理だったんですか?」

何て言ったらおいでなすったぜ
『闇の真の姿』
またの名を『正義のルチャ影』

外面から正義の味方を真似た
只の自己満足と自己判断と感情の塊
姿形は昔の俺だけど、そこまでの情熱は持ってないし
何よりも正義なんて概念を実行するために俺は能力者になっちゃいねえんだ

「恨むぜ、はじまりの猟兵さん」
苦笑しつつ
「ダブルイグニッション――ルチャ影参上」
「はじまりの猟兵、貴女は足元を狙ってください」

こいつはエアライダー主体だ
フェイントを駆使して当てて来る
弾丸と一緒に飛び込みスライディングからアッパー
そして殴り合いから隙を伺い――跳ぶ

「だろうな」

おまえも同じことを狙ってくると思ってた
「いまだ!」
はじまりの猟兵に指示
まだ狙っているなら蹴り足を狙うはず、そして――俺が速く当てる

『ルチャキック』

「自分相手何て、十年前に通った道だ。ロートル舐めるなよ」
そしてはじまりの君
貴女は何を残す?



●まばゆい闇と黄昏の光
「六番目の猟兵……! この度は本当にご迷惑をおかけしてしまって……」
 流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)の顔を見るなりペコペコと頭を下げるはじまりの猟兵をどうどうとなだめながら、影郎は考える。
(「能力者を経て、猟兵になった俺にはまだ詳しくは分からないけれど」)
 そして率直に、感じたことをぶつけることにした。

「こう……遺書とか残すとか、無理だったんですか?」
「えっ? ……あっ」

 あ~~~~~、と今度は頭を抱え出すはじまりの猟兵。その手があったかと思ってももう遅い。その身は既に朽ち、|世界の敵《オブリビオン》となってしまったのだから。
「何て言ったら、おいでなすったぜ」
「……|あれ《・・》が、あなたの『闇の真の姿』……?」
 自らを覆う闇が勝手に形取ったモノに、はじまりの猟兵が怪訝な顔をする。何故なら、|それ《・・》は闇とは程遠い、まぶしい程に爽やかな顔をこちらに向けていたから。
「『闇の真の姿』――またの名を『正義のルチャ影』」
 影郎は、軽く眉間に皺を寄せてそう呟いた。
 |外面《そとづら》から正義の味方を真似た、ただの自己満足と自己判断と感情の塊。
「姿形は昔の俺だけど、そこまでの情熱は持ってないし、何より――」
 影郎は、腕を交互に回して肩を慣らしながら、眼光鋭く眼前の『己の闇』を見た。
「正義なんて概念を実行するためになんて、俺は能力者になっちゃいねえんだ」
「……」
 はじまりの猟兵は、影郎の言葉に、無言で頷いた。
「分かりました、そういうことなら……わたしも全力でサポートします!」
 二挺のライフルを巧みにたぐり寄せ、臨戦態勢に入るはじまりの猟兵。それを見た影郎は、内心で苦笑いをしてみせた。
(「恨むぜ、はじまりの猟兵さん」)
 闇の影郎は、その瞳を正義感にきらめかせ、己の信じる『正義』を貫こうとしている。
 出来ることならば、あんまり、相対したくはなかったから。
 ほんの少しだけ、恨み言を心の中で漏らして。
 影郎は、イグニッションカードを高々と掲げて、告げた。

「ダブルイグニッション――ルチャ影参上」

 白いマフラーに軍用コート、素顔を覆面で隠した姿はまさに『覆面忍者ルチャ影』!
「はじまりの猟兵、貴女は足元を狙ってください」
「はい!」
 影郎とはじまりの猟兵は散開し、いよいよ戦いが始まった。

 影郎――ルチャ影と闇の影郎は、互いに円を描くように駆けながら、一定の間合いを取り続ける。時折立ち止まっては、また動く。しばらくはその繰り返しだった。
(「こいつはエアライダー主体だ、フェイントを駆使して当てて来る」)
 忌まわしい話ではあるが、闇の影郎は他ならぬ己自身でもある。だから、分かる。
「う、動きが速くて狙いが定まらない……! これが、六番目の猟兵の戦い……!」
 改めて感服しつつも、はじまりの猟兵は頑張ってライフルの狙いを闇の影郎に定める。その足元をようく狙って――撃つ! 撃ちまくる!
『――』
 闇の影郎が跳び退るのと、ルチャ影が弾丸と一緒に飛び込んだのは、ほぼ同時だった。
 スライディングで一気に間合いを詰めてからの、身体中のバネを思いきり使ったアッパーを繰り出す! 闇の影郎は紙一重で首を仰け反らせて、致命の一撃を避ける!
 そこからは、殴り合い。
 突然身を低くしたかと思えば、打ち込んでくると見せかけての、腹の探り合いのような攻防が続く。ルチャ影が予想した通り、フェイントを交えての攻撃が主体であった。
 その間も、断続的にはじまりの猟兵からの援護は続く。徐々にそれを疎ましく思い始めたのか、闇の影郎はその動きを徐々に加速させ始めた。
(「焦れてきたか」)
 それを見たルチャ影は内心で思う。闇の影郎より、ルチャ影の方が、極端な話をすれば老獪であったからだ。ある意味狙い通りの展開に、ほくそ笑みそうにさえなる。
 自分の未熟さを思い出させるような、甘い一撃が遂に飛んできた。
 その隙を見逃さず、ルチャ影は高々と跳躍する!

「だろうな」

 闇の影郎もまた、跳んでいた。
 ただの甘ちゃんではないことも、知っていた。だから、これも予想通り。
「いまだ!」
「はいっ!」
 鋭く放たれようとしていた闇の影郎の蹴り足目がけ、既にライフルの銃口を向けていたはじまりの猟兵が弾丸を浴びせる!
『……ッ』
 忌々しげに顔を歪める闇の影郎は空中で思わず体勢を崩す。そこを見逃すルチャ影ではなかった。タイミングは完璧、即興の連携にしては、上出来だった。

「ルチャキック!!」

 声を上げさせることすら許さない、首をへし折らんばかりの、鋭い飛び蹴り。
 その一撃で、勝敗は決した。勢いで地面に叩きつけられた闇の影郎は、そのまま動かなくなり、そして再び、元来た闇へと溶け込んでいった。
「自分相手なんて、十年前に通った道だ」
 遅れて着地を決めたルチャ影――影郎本人が、誰ともなしに言い捨てる。
「ロートル舐めるなよ」
 そんな影郎の元に、はじまりの猟兵が駆け寄ってきた。
「す、すごくすごいです! まるで三日月の牙みたいでした!」
「ああ、いや……分かります?」
 最新の猟兵だとか、目をキラキラさせてそう言われても、影郎としてはいまいち実感が湧かないものだから、はじまりの猟兵の反応には些か戸惑う部分もあったりなかったり。
 話題を逸らす訳ではないけれど、むしろ本題に、影郎は切り込んでいった。
「さあ、はじまりの君。貴女は何を残す?」
「……はい。もう少し、あと少しくらい打ちのめされれば、全てお話出来そうです」
 仮面の向こうに隠された素顔までは暴こうとは思わない。
 ただ、話したい真実があるのだとしたら、その枷は取り払ってやりたい。
 ――それだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
…原初の存在、か
興味深いが…己の意思に反した行動しか取れないと聞く

成る程。闇の力を削ぎ…無力化は戦術としてこの上なく正しい
だが、正攻法で攻めたとして後味の悪さは残るかもしれない

運命に一発入れたい、と言うのならば
俺が出来ることは、少しばかりの手向けと…背中を押す事だけだな

▽敵
白髪金眼のドラゴンウォーリアー
二刀流かつ無差別状態
口調は粗め

▼動
まず戦況を冷静に分析
彼女の動作・攻撃を頭に叩き込んでおく

こちらも真の姿で対峙

霽刀と式刀を手に、早業や空中戦を繰り出し
闘気を込めた連撃で縦横無尽の高速戦闘を行う
支援は助かるが…ピンチそうな時は敵を吹き飛ばす等のフォローも

――確か、こんな動きだったな

UCは相殺狙いだが、彼女の武器を再現し動きを模倣
刀剣類を念動力で一斉掃射し死角攻撃によるアレンジも加える

持ち技が決め手になれば、ある意味で自分の運命に抗い勝利した
と少しは胸を張れるかもしれないしな

離脱前に仮面の下や名前を聞きたい所だが…

彼女は敗者だったのか…?
…いや。勝利者がいるとしたらそれはきっと彼女の――



●静と動
「……原初の存在、か」
 アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、はじまりの猟兵について思いを馳せる。
「興味深いが……己の意思に反した行動しか取れないと聞く」
 そうだな? と言わんばかりに横を見れば、うんうんと首肯するはじまりの猟兵が居た。
「本っ当にお手数をおかけして申し訳ないんですが……その……」
 闇にまとわりつかれ、禍々しい鎖に囲われたその姿は何とも痛ましくもあり。
 その闇から生じる『闇の真の姿』を倒せというのならば、それ自体は難しい話ではない。
「成る程、闇の力を削ぎ……無力化は戦術としてこの上なく正しい」
「すみません……多分そろそろ、あなたの闇の真の姿が出てくると思うんですが……」
 心なしか縮こまっているようにも見えるはじまりの猟兵に、気に病まぬようにと微笑みを向けて、アネットは戦うにしても『どう戦うか』についてを考えた。
(「だが、正攻法で攻めたとして、後味の悪さは残るかもしれない」)
 他ならぬはじまりの猟兵自身がそうしてくれと言うからには、共に戦い闇を打ち倒すこと自体には、何の異論もない。ない、が。
(「運命に一発入れたい、と言うのならば」)
 真実の何一つをも語れぬ身は、さぞやもどかしかろう。
(「俺が出来ることは、少しばかりの手向けと……背中を押す事だけだな」)
 方向性が大体固まったところで、はじまりの猟兵が叫んだ。
「――来ます!」

 それは、かつてアネットが変じることができた『ドラゴンウォリアー』を思わせる姿をしていた。今のアネットとは異なる、白髪金眼が印象的であった。
 二振りの剣をそれぞれの手に握り、闇のアネットは鋭い眼光でアネットとはじまりの猟兵を見据えていた。
『――』
「えっ……!?」
 闇のアネットは、事もあろうにアネットではなく、はじまりの猟兵に最初の狙いを定めたのだ。猛然と振るわれた二刀の攻撃を、辛うじて二挺のライフルで受け止めたものの、間合いを詰められると銃使いの方が圧倒的に不利だ。
「させない、これ以上は」
 自らも真の姿――こちらこそがアネットにとっては真の姿なのだが――を解放すると、闇のアネットをはじまりの猟兵から引き剥がすように身体をねじ込んで割り入っていく。
『クソが、邪魔しやがって』
「解釈違いだな、『俺』はそんな粗野な口調ではない」
 短く言葉を交わすと、闇のアネットは自ら飛び退って一旦間合いを取った。
(「一瞬の攻防ではあったが、彼女の動作や攻撃は大体把握出来た」)
 自らも霽刀【月祈滄溟】と式刀【阿修羅道】を抜き放ち、二刀の構えを取るアネット。
「ありがとうございます、助かりました! これからは援護しますね!」
 ぺこりと一礼して、はじまりの猟兵は体勢を立て直すとライフルを構える。援護は素直に有難いので、アネットは簡単な指示だけ付け加えておくことにした。
「もしも俺がピンチになったと思ったら、奴を吹き飛ばして欲しい」
「わかりました!」
 はじまりの猟兵からの力強い返事を背に、アネットは自ら闇のアネットに向けて一気に地を蹴って仕掛けていく!
 二刀と二刀が、激しくぶつかり合い剣戟の金属音が森の中に響き渡る。片方の剣で互いに牽制し合いつつ、もう片方の剣で互いの急所を狙う攻防の繰り返し。それが目にも留まらぬ早業で行われるものだから、闇のアネットは眼前のアネットとの戦いに専念するより他ないし、はじまりの猟兵は息を呑んでその激闘を見守るばかりであった。
「ふ……っ!」
『ちイッ!!』
 片方が跳躍すれば、それを追ってもう片方も高く跳ぶ。そしてそのまま空中戦にもつれ込み、結果的に縦横無尽の高速戦闘に発展していった。

「!」
 一瞬の隙を逃さず、闇のアネットが鋭い剣戟を放ってくる。
 しかし、その一閃はアネットに届くことはなかった。
「はじまりの――」
 果たして彼女は、事前の打ち合わせ通り、アネットの危機を見逃さずに闇のアネットをライフルの連射で吹っ飛ばして、見事なフォローアップを成功させたのだった。
 ならば、ますます、応えなければならないと。
 アネットは先程叩き込んだはじまりの猟兵の戦い方を脳内でトレースする。

「――確か、こんな動きだったな」

 それは、アネットが【|【碌式】洸将剣《コウショウケン》】と呼ぶユーベルコード。
 別名を『模倣剣』、分析と洞察力で武器を想像から創造する、脅威の超常だ。
 アネットは迷うことなく、はじまりの猟兵が持つ二挺のライフルを生じさせる。それを見て驚きを隠せないはじまりの猟兵の気配を背中に感じながら、ライフルに触れることなく二挺を駆使する動きまでをも模倣してみせた。
『小賢しいんだよォ!!』
 苛立ちを隠せない闇のアネットが二刀を振りかざして迫るのを、二挺のライフルによる一斉射撃で押し戻す!
「まだ、あるぞ」
 そう、創造した武器はライフルだけではなかったのだ。
 アネット自身が駆使する刀剣類をも生じさせ、念動力で一斉掃射するというアレンジを加え、ライフルに気を取られていた闇のアネットの死角から一気に刺し貫いてみせた。
『……ッ』
 闇のアネットは遂に力尽き、闇へと溶け込むように消えていく。
 生じた武器たちも、役目を終えたとばかりに次々と消えていく。

(「持ち技が決め手になれば、ある意味で『自分の運命に抗い勝利した』と、少しは胸を張れるかもしれないしな」)
 良かれと思っての手法でトドメを刺したは良いが、果たしてはじまりの猟兵にその意図は伝わっただろうか? 少々気になって、アネットがはじまりの猟兵をそっと見遣れば、はじまりの猟兵は感激した様子で両手を胸の前で組み、打ち震えていた。
「い、い、今のってわたしのライフル攻撃の模倣ですよね!? 見てて下さったんですか!? しかもあんな古い攻撃手段をあんなカッコよくアレンジして下さるだなんて! アッわたしの勘違いだったら恥ずかしいですけど……とにかく、嬉しかったです!」
 早口だった。ものっすごい早口だった。どうやら、想像以上に喜んでもらえたようで何よりだった。
「さて、ひと段落したところで、仮面の下や名前を聞きたい所だが……」
 アネットがそう口にした途端、はじまりの猟兵はシュンとなってしまうあたり、やはりその辺りはオブリビオン化の影響で難しいのだろう。
 今は、成すべきことを成せたことを素直に喜ぶべきだと判断し、アネットは踵を返す。

(「彼女は敗者だったのか……?」)
 今はまだ答えが出ない疑問を、そうと知りながら浮かべずには居られずに。
(「……いや。勝利者がいるとしたら、それはきっと彼女の――」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
●闇の真の姿
宿敵「一耀の羅刹『アラヤ』」の姿
(髪型以外、通常の真の姿とほぼ同一)
(外見は変わらず、心と魂のみが悍ましいまでに歪み果てた姿)
古風な女剣士風の口調で、極まった技量の剣術で戦う
かつての宿敵の再現であり、狂気の笑みを浮かべながらひかるの心臓と魂を執拗に狙う

(最初から真の姿で現場へ)
私の姿を歪めたもの、と「わたし」が聞いた時点で想像はついていたが。
やはり「わたし」と一つになる以前の私が出てくるか。
……見れば見るほど不愉快だ。その首、落としてくれる。

はじまり嬢には一旦隠れて貰い、サシで正面から刀で斬り合う
暫くしたらタイミングお任せでWでの狙撃を入れて貰う
トドメが取れればそれで良し
ダメでも銃声と同時に【時の精霊さん・未来】発動し超加速
狙撃を凌いだ僅かな意識の隙を狙い、首を落とす

私には戦友が居る。精霊達が居る。「わたし」も居る。
にも関わらず、私のみを見ていたのがお前の敗因よ。
最も、曇ったお前の眼には……私しか見えていないのであろうな。
疾く消えよ、贋作。欠片は既に、一つとなったのだ。



●過去の残滓と未来の希望
 荒谷・ひかる(|精霊寵姫《Elemental Princess》・f07833)は、転移を受けると同時に、真の姿を解き放ってはじまりの猟兵の前に姿を見せた。
「あ、あなたは……その姿は……!」
「分かっている、もう既に|居る《・・》のだろう」
 普段のひかるとは見た目も雰囲気も全く異なるのだが、これが初対面のはじまりの猟兵にとっては、その違いが分からない。
 強いて言うなら、己を覆う闇から生じた、六番目の猟兵の『闇の真の姿』が、髪型を除いて眼前の六番目の猟兵とほぼ同じだったことに、驚きを隠せずにいた。

『来たか、『私』よ。待ちわびたぞ』
 闇のひかるは既に抜刀していた。ぬらりと光る刀を無造作に握っているが、気配からして分かるのは、この者が極まった技量の剣術の持ち主であるということだった。
『その心の臓と魂、今度こそ我が物にしてくれるわ』
 言葉も、表情も、救いがたい程の狂気に満ちていた。
 はじまりの猟兵はそこでようやく『違い』に気付くのだ。この二人は内面があまりにも違いすぎると。闇のひかるは、その心と魂がおぞましいまでに歪み果てている――!
「私の姿を歪めたもの、と『わたし』が聞いた時点で想像はついていたが」
 真なるひかるが、不快感を隠そうともしない声音で口を開いた。
「やはり『わたし』と一つになる以前の私が出てくるか」
 剣呑な雰囲気の中で、はじまりの猟兵だけが事情を飲み込めず、ただただあわあわとなるばかり。どのみち闇のひかるは倒されるべき存在なので、そこは把握しなくても構わないとは知りつつも、やはりちょっぴり気になってしまうようだった。
「……見れば見るほど不愉快だ。その首、落としてくれる」
『面白い、ならば互いの求めるモノの為に、存分に死合おうではないか!』
 ひかるが抜刀し、闇のひかると全く同じ構えを取る。
 そして、ひかるは困惑を隠せないはじまりの猟兵に、こう囁いた。
「はじまり嬢には、一旦隠れていて貰いたい」
「だ、大丈夫ですか……!?」
「無論だとも、その時が来たと嬢が判断したら、躊躇せず狙撃をくれてやって欲しい」
「! 分かりました……!」
 話が終わると、はじまりの猟兵は近くの茂みに身を潜めるべく、踵を返した。

『|一対一《タイマン》か……面白い』
「死合いたいのだろう? ならば邪魔者は不要だ」

 空気が、限界まで張りつめ――。
 そして、二人のひかるが、同時に斬り込んだ。

 刀が激しく、何度もぶつかり合う。火花散り、甲高い音が響き、鍔迫り合いの果てに間合いを取り直す攻防を、何度繰り返しただろう?
『くはははは! 愉快、愉快! こうでなくてはな! 殺し甲斐がない!』
「お前にくれてやるものなど、何一つないと知れ……!」
 がきぃん!! 再び刀が交えられ、瓜二つの顔が近付く。
 だが、良く見れば分かる――闇のひかるの、狂気の深さが。真のひかるの、信念の強さが。
 それらは対極の存在であり、決して共存することはあり得ない、そんな存在であった。
 ひかるが、敢えて仕掛けた。刀を握る両手に力を込めて、闇のひかるに押し勝つ!
『……ッ』
「今っ!」
 闇のひかるが、一瞬体勢を崩したその隙を狙い、ひかるが鋭く声を発した。
 それを合図とし、茂みに潜んでいたはじまりの猟兵が、ライフルを放った。
『!!』
 神業、と言うより他になかった――悔しいけれど。
 闇のひかるは、信じられない反応速度で、狙われた急所を刀一本で防いだのだ。
(「ううっ、やっぱりわたしみたいな旧式の猟兵じゃ、敵わないです……っ」)
 茂み越しに、はじまりの猟兵がライフルを抱えて、涙目になる。
 だが、目を逸らさなかったことで、決定的な瞬間を目撃することとなった。

 銃声を聞いたひかるは、ほぼ同時に【|時の精霊さん・未来《フューチャー・エレメンタル》】を発動させていたのだ。それにより超加速の能力を得たひかるが、闇のひかるからすれば狙撃を凌いだ本当にギリギリの神業さえも『意識の隙』とみなし、あっという間にその首を、宣言通り刎ねたのだった。

「……え?」
 はじまりの猟兵が、思わず茂みから身を乗り出す。地面に転がった首が、次いで倒れ込んだ胴体が、じわりと闇へと溶け込み消えていく。
 間違いなく、真のひかるが勝ったのだ。
 だが、何が起こったのか、はじまりの猟兵にはほとんど理解出来ずにいた。
「これが、六番目の猟兵の力……」
 もはや、そう言い聞かせて納得するより他になく。
 ひかるは、刀を大きく振るうと血を払い、鞘に収めた。
「私には、戦友が居る。精霊達が居る。『わたし』も居る」
 闇のひかるが消えゆく姿を見つめたまま、ひかるは呟く。
「にも関わらず、私のみを見ていたのがお前の敗因よ」
『……、……』
「もっとも、曇ったお前の眼には……私しか見えていないのであろうな」
『……』
 消えゆく最中も、首と胴が泣き別れをしたにも関わらず、口を動かす闇のひかる。
 もはや言葉は不要とばかりに、ひかるは言い放った。
「疾く消えよ、贋作。欠片は既に、一つとなったのだ」
 その言葉に従うように、闇のひかるだったものは、完全に闇と一つになった。

「あ、あの……!」
 はじまりの猟兵が、終始何が起こったのかを把握しきれぬままに、ひかるに頭を下げた。
「この調子で行けば、わたしの考えている最善の未来にたどり着けそうです! ありがとうございます!」
「……そうか、それは、何よりだ」
 ひかるは思う。もしも自分が『わたし』だったら、もっと朗らかに彼女と意思の疎通が出来たかも知れないと。
 けれども、目的は馴れ合うことではないから。
 これで良いのだと、そう思うことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

御桜・八重
「おっまたせ―っ!」
はじまりの猟兵さんの前にすちゃっと着地。
二刀を抜いて自分の闇の真の姿に向き直る。

わたしの前に立つのは、魔法巫女少女。
しかしその衣装の紋様は禍々しく、目には燐光が揺れる。
本田英和との戦いで見えた、影朧の力が暴走した
シズちゃんに重なって見えるけれど……
「集中!」
パンと頬を張って気合を入れ直す。
ずっと待っててくれたはじまりの猟兵さんのためにも、
まずはここを切り抜けないと!
「わたしが足を止めるから、全部叩き込んで!」
プログラムド・ジェノサイドを使うように告げて突撃!

闇の自分は死角からの攻撃がお好みのよう。
剣技は勿論、視線や言葉も弄して引っ掛けて来る。
「そのクスクス笑い、あったまくるなぁー!」
いちいちえげつない攻撃を打ち返しながら機を待つ。

「!」
大技が来た瞬間、自分の身を花弁に変えて攻撃を空かす。
その隙に足元で手だけ実体化し、足首を掴んで動きを止める。
(はじまりの猟兵さんの攻撃が終わるまで逃がさない!)

消えゆくはじまりの猟兵さんを見送る。
「一緒に戦えて嬉しかったよ。またね!」



●光と闇は表裏一体
「おっまたせーっ!」
「ひゃあっ!?」
 はじまりの猟兵の眼前に、突如として御桜・八重(桜巫女・f23090)が舞い降りてきたものだから、はじまりの猟兵は仮面の奥から素っ頓狂な声を上げてしまった。
「わわ、本当に闇に覆われちゃってるんだ。ここからわたしの『闇の真の姿』が出てくるってこと?」
 すちゃっと着地するなり、はじまりの猟兵にグイグイ迫る八重に、はじまりの猟兵はすっかりたじたじである。こくこくと頷いてその通りですという言葉の代わりにする。
「よーっし、じゃあ気合い入れてやっつけますか!」
 八重はそう言うと、腰に佩いた陽刀と闇刀を同時に抜き放った。
「き、気をつけて下さい……! わたしに出来る援護は、何でもしますから!」
 |鎖《とざ》された身ながら、二挺のライフルを器用に操って、はじまりの猟兵が声をかける。
 そして、膨大な闇は、八重の前に『それ』を生み出した。

(「やっぱり、|魔法巫女少女《わたしの真の姿》になったかー……」)
 八重の真の姿を模してはいるが、纏う衣装の紋様はおよそ正義の味方らしからぬ禍々しさで、瞳にはゆうらりと燐光が揺れている。
(「本田・英和との戦いで見えた、影朧の力が暴走したシズちゃんに重なって見えるけれど……」)
 ある程度、予想はしていたけれど。
 こうして実際に対峙してみると、胸中に思うところが山程あふれてくるもので。
 でも、今は――。
「集中!!」
 ぺち、と小気味良い音がした。八重が刀を持ったまま、器用に己の両頬を叩いたのだ。
 気丈な笑みを取り戻した八重は、再び満ちた気合いで、闇の八重を睨めつけた。
(「ずっと待っててくれた、はじまりの猟兵さんのためにも」)
 闇の八重もまた、二刀を抜いて八重を見て、口の端を上げて、嗤った。
『わたしに勝つつもりでいるの? 面白い冗談ね』
「勝つに決まってるでしょ! ここを切り抜けないでどうするっての!」
 まずは舌戦、それから、同時に地を蹴って八重と闇の八重が激突する!
「わたしが足を止めるから、全部叩き込んで!」
「は、はいっ!」
 振り返ることなく出された指示に、はじまりの猟兵は大声で返事をする。その間にも、真っ正面からぶつかり合った八重と闇の八重は、すぐに互いに間合いを取る。
(「……自分から、離れた?」)
 八重は、闇の八重が|わざと《・・・》刀を引いて跳び退ったのに違和感を覚えた。
(「何を考えて、っ!?」)
 相手の出方を慎重に探ろうとした、その時だった。視界から突如として、燐光だけを残し、闇の八重が消えたのだ。

「~~~~~っ!!!」

 が、きぃん!
 猛然と迫る強烈な殺意を感知した八重が、間一髪、闇の八重の死角からの一撃を二刀で受け止める。両手に強烈な痺れが走るが、歯を食いしばって耐えた。
『あら、足掻くの? 一撃で楽にしてあげようと思ったのに、お馬鹿さん』
 クスクスと嗤う闇の八重は、禍々しい紫色の燐光を瞳に宿して、八重を見た。
「そのクスクス笑い、あったまくるなぁー!」
『酷い言い草ね、仲良くしましょう、よっ!』
 八重から視線を外さぬままに、身体だけを動かして、再び八重に襲いかかる闇の魔法巫女少女。言動のひとつひとつにまともに取り合っていては、劣勢に置かれそうだと判断した八重は、相手にペースを乱されないよう普段以上に集中して、敵の刃の行方を追った。
『どうしたの? 打ち返すだけじゃ、わたしには勝てないわよ?』
「……っ」
 駄目だ。
 我慢だ。
 いちいち挑発に乗っていては、勝てる勝負も勝てなくなってしまう。
(「必ず、好機は来る。その時を待つんだ」)
 何度、死角を狙われただろう。ここまで、その全てを防げただけでも奇跡だ。
(「絶対に――勝つ!」)
 耳障りな言葉が、徐々に遠くなる。研ぎ澄ました意識が、雑音を防ぐかのように。

『飽きちゃった』
 突如、闇の八重が纏う禍々しい気配が、膨れ上がったのを感じた。
『もう、死んで』
 振りかざされた二刀に、紫炎が宿る。今までにない大技が繰り出される気配がした。
「!」
 八重は、動けなかった。見開かれた目が最期に見た光景は、忌まわしき紫炎――|では、なかった《・・・・・・・》。

 ――【|桜吹雪化身ノ舞《サクラフブキケシンノマイ》】。
 舞い散る桜の花弁と化した八重の身体は、邪剣によって、ただ吹き散らされるのみ!
『な、に?』
 手応えのなさに驚愕する闇の八重が、攻撃を完全に空ぶったその隙を、八重は見逃さなかった。闇の八重の足元に散った桜の花弁の一部を実体化させ、地面から手だけが生えているかのような状態にし、闇の八重の両足首をがっちりと掴んだのだ。
「い、今……ですね!」
『しまっ……た……!』
 八重の手を振り払おうと、足に力を入れるも、逃れることは叶わない。
(「はじまりの猟兵さんの攻撃が終わるまで、逃がさない!」)
 そうして、二挺のライフルによる超高速連続攻撃が、闇の八重の全身に叩き込まれた。
 撃つ! 撃つ! 撃ちまくる!
「……っ、は、はあ、は……」
 自身でも制御が難しい攻撃をようやく終えたはじまりの猟兵が、息を荒げながらまばたきをして、硝煙の向こうに目をこらした。
「はじまりの猟兵さん、ありがとう! やっつけられたよ!」
 そこには、桜の花弁から元の姿に戻った八重だけが立っていた。
「すごかったねー、ああいうのを蜂の巣にする、っていうのかな」
「え、いえそんな……わたしはただ、ライフル撃っただけで……」
 両手をぶんぶん振って謙遜するはじまりの猟兵の手を、タイミングを見計らい、八重はギュッと握りしめる。
「えっ」
「はじまりちゃんは全然弱くなんかない、一緒に戦えて嬉しかったよ」
 八重はそう言って、花が咲くような笑顔を見せた。
 別れが近いとしても、今はただ、共に戦えたことを喜ぼう。
 じきに闇は去り、真実が明らかにされるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア
…あたし、この世で一番キライなものの一つが「自分の真の姿」なんだけどなぁ…

【容姿:真の姿の左半身が業火に包まれ、4本爪の傷跡からは鮮血
性格・口調:「本性」と同様】

うん、「アタシ」だし何かしらやらかすだろうなーとは想定してたわよぉ?けど――
【戦術:スキル・アイテム共本体と同一。ただし「無制限にUCを組み合わせてくる」――即ち、|轢殺+黙殺・妨害+鏖殺・狂踊+鏖殺・掃演+粛殺《バイクで高速機動しながら魔術弾幕でデバフをバラ撒き、3倍の不規則三次元弾幕をアホほど跳弾させながら3×3=9倍威力で撃ちまくる》とかしてくる】
物事には限度とか程度ってモノがないかしらねぇ!?できるならあたしだってやりたいんだけど!

これはもう「始まり」サンにお願いするしかないわねぇ。●黙殺・掃域と黙殺・砲列で死ぬ気で攻撃凌ぐから、どうにかして●キューソネコカミ叩き込んでちょうだいな。これだけ不利喰らえば流石に確率上がってるでしょ。
…というか、あたしにできることはあっちもできる以上あたしじゃ他にどーしようもないのよねぇ。



●賽はダイスカップの中に
 誰にだって、苦手なものや、嫌いなもののひとつふたつ、あってもおかしくはない。
 ぽえぽえボイスと絶えない笑みの向こう側に凄絶な過去を秘め、それを暴かれるや容赦なく牙を剥くティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)とて、例外ではなかった。
「……あたし」
 そんなティオレンシアは、はじまりの猟兵の元に転移を受けるなり、口を開く。
「この世で一番キライなものの一つが『自分の真の姿』なんだけどなぁ……」
「えっ!? そ、それはその……ごめんなさい……」
 この場に立つということは、否が応でもはじまりの猟兵を覆う闇より生じる『闇の真の姿』と対峙することと同義である。何だか申し訳ない気持ちになって、はじまりの猟兵はぺこぺこと頭を下げて精一杯の気持ちを表した。
「まぁ、それは良いのよぉ。分かってて来たことだしねぇ、でも――」
 それを両手でどうどうと宥めつつ、ティオレンシアは徐々に眼前で濃くなっていく闇を見た。闇は炎を湛え、西部劇に登場しそうな出で立ちをしたもう一人のティオレンシアを形取り始めていた。

『――』

 その左半身は燃え盛る炎に包まれ、腹を裂いた痛々しい四本爪の傷跡からは鮮血が流れ、衣服をこれでもかと赤く染め上げていた。
 常はいわゆる糸目のように細められている瞳は鈍く開かれ、鋭い眼光が真なるティオレンシアを射抜くように見据えてくる。
『嘘に塗れた腑抜けのアンタなんか、アタシの方から願い下げよ』
 吐き捨てるように、激情を隠そうともせず、闇のティオレンシアは言い放った。
「さすがは『アタシ』、辛辣だわぁ」
 対するティオレンシアは、あくまでも冷徹に、微笑の仮面を外さない。
『存在自体が不愉快よ――殺してあげるわ』
「さ、殺意が高いです!?」
「そうなのよぉ、困っちゃうわよねぇ」
 闇のティオレンシアの溢れんばかりの殺意に、はじまりの猟兵はおののくが、当のティオレンシアはさらりと受け流す。

 闇がさらに形を生み出し、闇のティオレンシアの元に、真なるティオレンシア本人が良く見慣れたバイク型UFOこと「ミッドナイトレース」そのものが現れた。
「うん、『アタシ』だし、何かしらやらかすだろうなーとは想定してたわよぉ?」
 闇のミッドナイトレースに飛び乗り、何処かで見たシトリン付きのペンを片手に、闇のティオレンシアが深い森の中を縦横無尽に走り始めたのを見て、ティオレンシアは眉間にほんの少しだけ皺を寄せた。
「けど、こう、物事には限度とか程度ってモノがないかしらねぇ!?」
「わ、わわわわわ!!?」
 次の瞬間には、ティオレンシアとはじまりの猟兵を囲むようにバイクを嘘みたいな高速機動で巧みに操りながら、ルーン文字と梵字の組み合わせによる|行動阻害《デバフ》の魔術弾幕を浴びせかけ、それと平行するように難易度ルナティック級の不規則三次元弾幕を、森に生える木々を利用して不規則に無数に跳弾させながら、実質九倍の威力で銃弾の嵐を巻き起こす! 加減しろ馬鹿という域である!
(「こうも無制限にユーベルコードを組み合わせて来られると」)
 ぼやきながらも、ティオレンシアの手はきっちりと動いていた。今の自分で繰り出せる最大の手数はこれしかないと、鉱物生命体「ゴールドシーン」のペン先を中空に走らせ、「ᛈ」の軌跡を描く。
 運命を味方につける力持つ魔術文字は光輝く弾幕となって、闇のティオレンシアによる怒濤の攻撃を辛うじて相殺するが、恐らくは――そう長くは保たないだろう。

「はじまりサン、隙を見てどうにかして|アレ《・・》を叩き込んでちょうだいな」
「ええっ!? い、色んな意味でいいんですか!?」
「これだけ不利喰らえば、流石に確率上がってるでしょ。イケるイケる」
「……分かりました、やるだけやってみます……!」

 弾幕には弾幕を、相殺しながらも徐々に後退するティオレンシアが、さらにその背後に隠れていたはじまりの猟兵に援護の指示を出す。
「……っ、想像以上に、キッツいわぁ、コレ……!」
 己が描いた魔術文字は、あくまでも術者の味方をする。【|黙殺・砲列《デザイア・バッテリー》】のみが許された『他のユーベルコードとの同時使用』が功を奏して、主力である【|黙殺・掃域《デザイア・スイープ》】の弾幕を攻防一体のものと成し、闇のティオレンシアが無尽蔵に等しい行動阻害と純粋な火力で攻めかかってくるのを、ギリギリのところで防いでくれていた。
(「ほっとんど賭けみたいなモノだけど、そうでもしないと勝てないんだから」)
 しょうがないじゃない、と内心でティオレンシアは息を|吐《つ》く。
(「……というか、|あたしにできることはあっちもできる《・・・・・・・・・・・・・・・・・》以上、あたしじゃ他にどーしようもないのよねぇ」)
 忌々しい話ではあるが、相手は歪んでいても自分である。自分のことは、自分が一番良く分かるつもりだ。彼我の力量差も把握済みであり、故に――。

「ぐ……っ」

 燃え盛る炎を曳いた闇のティオレンシアが放ち続ける弾幕の跳弾の一部が、遂にティオレンシアの防御を貫通して、二の腕あたりを掠めていった。思わず呻き声が漏れる。
 ――故に、もう、十分だった。

「キューソ……ネコカミっ!!」

 ばぁん。
 極限まで狙い澄まされたライフルの一撃が、はじまりの猟兵によって放たれた。
 それは、狙い違わず闇のティオレンシアの脳天を貫き、その生命活動を止めてみせた。
「……やりまし、た?」
「もっと自信持ってちょうだい、その台詞はフラグだから」
 ティオレンシアが淡々と言いつつ、その動きを止めた闇のティオレンシアを見る。猛然と迫っていた攻撃は全て嘘のように止んで、闇は元来た闇へと溶け出して戻っていく。
「シンプルな一撃ほど致命の率は高いって言うけど、大したものねぇ」
「いえそんな……! 遅くなってすみません、傷が」
「いいのよぉ、この程度。死ななきゃ安いわぁ」
 はじまりの猟兵を覆う闇は、最初に予知で知らされたものより、随分と薄れてきているようにも見えた。
「あなたがどんな話を聞かせてくれるのか、楽しみにしてるわねぇ」
「! はい、ありがとうございます……!」
 そう言葉を交わし、ティオレンシアははじまりの猟兵に背を向けた。

(「やっぱり、自分の真の姿なんて、ロクなもんじゃないわぁ」)

 この世で一番キライなものランキングからは、当分外れそうにない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘスティア・イクテュス
自身を真の姿、青いドレスを纏いティターニアが6枚の妖精の翼へ
眼前に見えるは禍々しい自身の真の姿(おまかせ)付き従う12の艦の姿

不快…そして不敬ね
この身は母に、そして代々のイクテュス家もまた似た容姿だとか…
そしてそんな歪んだ姿の貴方が十二王星艦を使う…

自身の『ハッキング』能力を全て費やし十二王星艦を全艦召喚…

闇に関してはわたくしが攻撃を相殺します、はじまりの猟兵さんは接近して一撃をお願いできないかしら?
お互い本気でやりあってるなら脳の負荷でまともな対処も出来無さそうだし…

対艦ミサイルを対空レーザー【レーザー射撃】で撃ち落とし【武器落とし】
こちらも対艦ミサイル、一部にスモークミサイルも混ぜて煙幕ではじまりの猟兵の姿を隠してその隙にホログラム【迷彩】でデコイを出し接近の手助けを【目潰し】
と相手の攻撃を迎撃しつつ相手へ攻め込むはじまりの猟兵の援護

闇が倒れたら自身もUCを解除し地面に倒れ込み…
脳の負荷で糖分が…糖分が足りない…
あっはじまりの猟兵さんはお疲れ様、助かったわ



●蒼紅、並び立たず
「……ほわ……」
 はじまりの猟兵は、眼前に文字通り舞い降りたヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)の姿を見て、思わず感動の声を漏らしてしまったという。
 妖精の羽を象ったジェットパックは美しい三対六枚の妖精の翼へと変じ、身に纏う衣服はカジュアルな制服風の姿から豪奢な青いドレスへと変じ、その身を――ヘスティアの真の姿を、幾重にも電子の魔法陣が囲んでいたからだ。
 その、あまりの美しい姿に、感嘆の声を上げずには居られなかったはじまりの猟兵に、ヘスティアは優雅に一礼すると、すぐにその表情を引き締め、闇を見据える。
「わたくしの、歪なる姿が現れると聞きました」
「はい……ごめんなさい、わたしにもどうにも出来なくって」
 はじまりの猟兵を覆う闇は、そう言葉を交わしている最中にも、ヘスティアの眼前で徐々に人のカタチを生み出し始めた。

 ヘスティアが青を基調としているのならば、闇のヘスティアは赤を基調にした姿をしていた。翼の枚数もドレスのデザインも同じながら、それは血の赤のように禍々しく、ヘスティア自慢の青い長髪は赤と紫のグラデーションに塗り替えられたように変じていた。
 そして何より威圧感を放っていたのは――闇のヘスティアに付き従うように浮かぶ、巨大な十二の艦の存在であった。
 己の『闇の真の姿』と向き合ったヘスティアは、険しい表情で呟く。
「不快……そして、不敬ね」
 眼前で不敵な笑みを浮かべる闇のヘスティアに、あからさまな不快の感情を示す。
「この身は母に、そして代々のイクテュス家もまた似た容姿だとか……」
 その赤は誇り高き血の赤ではない、明らかに、濁った、淀んだ、忌まわしい赤だ。
「そして、そんな歪んだ姿の貴方が十二王星艦を使う……」
 過去の、かつての解放軍の再演とも言える誇り高き十二隻の艦。
 その誇りを踏みにじるような行為に等しい、猿真似の如き偽物の艦隊を、ヘスティアは何より許せなかった。静かなる怒りは、明確な敵意へと変じていく。

 ――【|禁・電王魔術『再演十二王星艦』《サイエンジュウニオウセイカン》】!

(「ぐ、く……っ」)
 ヘスティアの脳に、精神に、凄まじい負荷がかかり、思わず苦悶の表情を浮かべてしまう。類い希なるハッキングの技量を全てユーベルコードの代償として、自らも十二隻の戦艦――『十二王星艦』を召喚したのだ。
 森の木々などとうになぎ倒され、広大な更地となった戦場に、合計二十四隻の戦艦が浮かび、それを二人の乙女が指揮をするという図式が完成した。
「闇のわたくしに関しては、わたくし自身が攻撃を相殺します」
 額に脂汗を浮かべながら、ヘスティアがはじまりの猟兵に言った。
「貴方は接近して、一撃をお願いできないかしら?」
「接近して? そ、それは構いませんけど、狙撃ではなくてもいいんですか?」
「あちらも『わたくし』なら、近接戦は苦手なはずです。だから、大丈夫です」
 これから繰り広げられるのは、間違いなく艦隊による砲撃の飛び交う艦隊戦だ。そんな中を、一応生身であるはじまりの猟兵が果たして闇のヘスティアに近づけるのか?
 そういった意味では『どの辺が大丈夫なんだろう』と思わなくもなかったが、今はヘスティアを信じる他ないはじまりの猟兵は、いつでも突撃できるようにライフルをたぐり寄せ、身構えた。
 それを確認すると同時に――真なるヘスティアと、闇のヘスティアが、行動を開始した。

 闇の艦隊から対艦ミサイルが放たれると、ヘスティアは即座に指示を出し対空レーザーで迎撃し、撃ち落とす。それが終わるやいなや、すかさず反撃の対艦ミサイルを放ちながら、同時にスモークミサイルも織り交ぜ発射し、煙幕を発生させる。
「この煙幕に乗じて、姿を隠しながら接近していただけますか?」
「分かりました、これなら……!」
「申し訳ありません、お互い本気でやり合わないとならない故に、脳の負荷が酷くて決定打を与えるのは難しそうなのです」
 ダメ押しとばかりに、ホログラムビジョンではじまりの猟兵のデコイを生じさせながら、ヘスティアは声を絞り出しながら己の意図を伝える。
 ここまでお膳立てをしてもらえれば、はじまりの猟兵にとっては十分だった。煙幕の中に躊躇なく突っ込んでいき、その姿がかき消えるのを見送ると、ヘスティアは再び闇のヘスティアが繰り出す艦隊の攻撃の迎撃にあたる。
(「……向こうも……脳の負荷は限界に達しているはず……」)
 徐々に朦朧としつつある意識を奮い立たせ、ヘスティアはわざと防戦一方の姿勢を見せる。もちろん、これははじまりの猟兵が闇のヘスティアに一撃を喰らわせるまでの時間稼ぎだ。
 闇のヘスティアと引き連れる艦隊が、優位だと勘違いしてヘスティアに全神経を集中させ、トドメを刺そうとしてくる瞬間こそが――好機!
『格の違いを見せて差し上げます――主砲! 一斉発射!』
「……っ」
 十二の戦艦が、同時に主砲を光らせ始める。恐らくは、これが決着の一撃となるだろう。
 しかしそれ故に、最大出力を放つために、宣言から攻撃には時間差があった。
 そこを。
 はじまりの猟兵は、見逃さなかった。

「お覚悟を!!」

 こうと決めた攻撃を、連続して叩き込むという、シンプルながら堅実な手段。
 それを以て、はじまりの猟兵は闇のヘスティア自身の死角から、予測も回避も不可能な超高速連続攻撃を叩き込んだのだ!
『――』
 ライフルの連射という恐ろしい攻撃の前に、闇のヘスティアが、何が起こったか分からないという表情のままに次々とその身に穴を開けられ、偽の十二王星艦と共にその姿をかき消されていく。
 はじまりの猟兵がようやく攻撃を止めた時には――彼女を覆っていた闇を含め、全ての闇が振り払われていたのだった。

「終わっ……た……?」
 真の姿を保てなくなったヘスティアが、闇が去り、日を遮る木々もなくなった広い地面に、普段の愛らしい姿になって倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
 駆け寄ってくるはじまりの猟兵に手を握られ、ヘスティアはどうにか声を発した。
「脳の負荷で糖分が……糖分が足りない……」
「ご、ごめんなさい、わたし何も持ってなくて」
「あっ、はじまりの猟兵さんはお疲れ様、助かったわ……」
「こちらこそ! 本当に……本当に、ありがとうございます……」
 ヘスティアの手を握るはじまりの猟兵の手が、徐々に実体を失っていくのが、ヘスティアの目から見てもはっきりと分かった。
「……はじまりの猟兵さん……?」
 確かな温もりが、消えていこうとしている。
 闇がはじまりの猟兵のエネルギー源だと言うならば、それが消えたということは。

「これで、皆さんに全てをお伝えすることができそうです」

 仮面の向こうで、確かに、少女は微笑んだのだと。
 ヘスティアは、ぼうっとする頭ながらに、確信した。
 自分のことは、恐らくグリモア猟兵が何とかしてくれるに違いないと信じて、夜明けと共に消えゆくはじまりの猟兵の姿を見送った。

 ――夜明けと共に、|猟兵《わたし》は勝つ。

 はじまりの猟兵と六番目の猟兵たちは、手を取り合って、勝利を掴んだのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年06月07日


挿絵イラスト