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ただ、君の泣く声を聞きたかった

#ダークセイヴァー


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
 月の明かりも射さない、寒い寒い場所で。
 彼女はただ謝り続ける。
 自分のその行為がどれほど身勝手で、どれほどの人を傷つけるか知っているから。
 けれど、そうするしかなかった。
 それ以外の選択肢を選ぶことができなかった。
 病に侵され、高熱と、相反する寒気の中で、ただ謝り続ける。

「許して、許してください……」
 懺悔の言葉を聞き届けるものはおらず。
 誰も彼女を裁けない。
 誰も彼女を許さない。
 誰も彼女を認めない。

「……誰か」
 誰も彼女を。

「助けて……」
 助けない。



「ダークセイヴァーのとある村で、事件が起こる」
 ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は集まった猟兵たちに、いつもどおりそう告げた。が……その表情は芳しくない。
 グリモア猟兵がこういう顔をするときは大体、救いようの無い話が出てくるものだ。
 彼女は語り始める。その村で、何が起こるのか。

「住民は百人前後、そんなに大きい村じゃない……虐殺や圧政が無い、っていうのを平和と呼ぶのなら、他の村より恵まれてるとも言えるかもね」

「領主のオブリビオンは、契約を村人たちが果たし続ける限り、彼らの生活に干渉しない。理由なく滅ぼしもしないし、意味なく殺しもしない。もちろん、助けることもしないけど」

「……じゃあ、本題に入るね。領主と村人たちの契約は単純さ。半年に一度、生贄を捧げること。それは若い娘でなくてはならない」

「領主は病を司る竜、病喰いのヴィルドラグ。この個体は特に悪辣でね。一人の生贄を病に感染させて、生かさず殺さず苦しめて弄ぶ。半年間、たっぷり苦痛と絶望を与えてから喰らう……内部のウイルスが全身を余さず侵し尽くした頃が食べ頃なんだってさ。泣きわめく、生贄の声が大好きらしいよ」

「……皆には、このヴィルドラグを退治してもらいたいんだ。っていうのも……生贄となるはずだった女性が、逃げ出しちゃったんだよ」

「もちろん、ヴィルドラグは怒った。村全体を病に感染させて、指定の時間までに用意できなければ……全員死ぬぞ、と、村人たちに告げたんだ」

「当然、村は大パニックさ。今、総出で生贄の女性……エトワールっていうんだけどね、その娘を探してる。なんとしても」

「だからまず、皆には先んじてエトワールを保護してほしい、その後、生贄を喰らいに来るヴィルドラグを迎撃、倒してほしいんだ。病は、ヴィルドラグを倒せれば血清が作れると思う……そういう能力がある猟兵がいたら、お願いしたいな」

「……ただ、村人たちは相当気が立ってる。もし出し抜かれたら、エトワールは無事じゃ済まないと思う。もちろん、余所者の皆のことも、良い顔はしないはず。良くも悪くも、オブリビオンの支配が薄いがゆえに、閉鎖的な村だから」

「……もしかしたら、皆、不愉快な思いをするかもしれない。心無い言葉や、理不尽な怒りに晒されるかも知れないけれど」

「……助けてあげてほしい。よろしく、お願いします」


甘党
 君の涙は蜜の味。甘党MSです。よろしくおねがいします。
 今回の依頼に関しての注意事項は以下になります。

 ●全てを救えるとは限りません。
 ●手放しで喜べるハッピーエンドにならないかもしれません。

 また今回のシナリオは、冒険パートにおいて「リプレイが投稿されてから得た新しい情報をもとに、プレイングを書き直して投稿する」のも問題ありません。
 アドリブに関する補足など、MSページにありますので、そちらも一読願えれば幸いです。
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第1章 冒険 『消えた花嫁』

POW   :    捜索隊を押し留める。

SPD   :    手当たり次第にいろいろな場所に出向いてみる。

WIZ   :    手がかりを元に居場所を推理する。

👑11
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「ふざけやがって! あのクソガキ!」
「恩知らずめ……! 誰がここまで育ててやったと思ってやがる!」
「見つけたら足を折ってもいい! 二度と歩けないようにしろ!」
 村は喧騒に包まれていた。
 殺気と焦燥が生み出す混沌は、人の感情からたやすく容赦と情けを奪う。

 ●

「テメェが逃したんだろう! このガキが!」
 村の広場の中央で。
 太く硬い拳が、簡素な木の十字架に磔にされた少年の腹に突き刺さる。

「ぐぇっ、げぇ! がはっ……うぶぇっ」
 痣と血だらけの顔が苦悶に歪み、胃の内容物を通り越して、赤い塊が吐き出される。

「“餌係”のお前以外に誰が逃がせるってんだ、ええっ!?」
「知らな……い、知らないん、です……僕は、なにも……」
 うわ言のように繰り返される“知らない”に。
 男は、傍らにおいてあった、桶の中身を少年にぶちまけた。
 わずかに粘性を持つ、生臭い液体。

「ふざけんじゃねえ」
 全身を濡らしたその油は。

「あっ、あああああ! ぎゃっ、あああっ! ぎっ、ぐおっ! おおおおおおおおぁぁぁ!!!」
 皮肉なことに、とても良く燃えた。

「手段は選んでられねえんだ」
 炎に包まれる少年を血走った目で見据えながら。
 男は笑った。
 理性の代わりに、狂気を詰め込んで。

「なんとしてでも吐いてもらうぞ、トゥライ」
聖護院・カプラ
なんと罪深い。なんと業深い。しかしまだ救えましょう。
彼女を、彼を、村を。

トゥライと呼ばれた少年と村人との間に割って入り、因果を断ち切る手刀『警策』で少年が燃える原”因”と燃えた結”果”を切り離します。
そのままただ制止するだけでは対話が望めないかもしれません。

そこで、嘘偽りの身分を名乗る事は心苦しいのですが
病喰いのヴィルドラグに匹敵するオブビリオンとして事情を聞き出します。

私は炎をかき消したように毒素を掻き消せますが、それには手ずから動かねばなりません。
手間なのです。
私の領民となりえる人間をこういったやり方で苦しめるヴィルドラグを討伐に来たのです……と『存在感』を以てカバーストーリーを語ります。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  きかいじかけの、かみさま
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三


「おやめなさい」
 声と同時に放たれた一刀が、その炎をかき消した。

「うう――――」
「なっ!」
 驚くその暇の間に。
 呻く少年、トゥライと、炎を放った男の間に、圧倒的存在感を伴って――この世界には決して存在しない未知なる形状と機構を持つウォーマシン、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)が突如として出現し、割り込んだ。

「な、なんなんだテメエ!? そこを退きやがれ!」
「否。退くのは貴方の方です。――ああ、あまりに憐れだ。彼女も、貴方も、少年も」
「は、はぁ!?」
 突如として憐れまれた男は、しかし攻撃的な態度を崩さなかった。

「なんだかわからねえが、邪魔すんなら容赦しねえぞテメェ!」
「今ならまだ、間に合います。謝罪も、行動を止めることも」
「は、はぁ!? 何が――――」
「我が名は聖護院・カプラ――――新たなこの村の領主となる者です」
 ざわ……と顔を見合わせたのは、周囲に居た村人たちだ。
 新たな領主、それは村を支配する、ルールそのものが変わる、という事だ。
 ありとあらゆる生活と状況が、一変するという事だ。
 対処仕様のない災厄、災害、と言い換えても構わない。

「病喰らいのヴィルドラグ。あのような獣に統治を任せとくのは忍びない。貴方達は私の領民となる者。このように人心を乱す彼奴を討伐する為、この地を訪れたのです」
 カプラの発する一言一言の、異常な重み。
 誰もが目を離せない存在感を前に、村人達は、その言葉を信じるしか無い。
 信じてしまうしか無い。

「や、やめろ! やめてくれ!」
 だから――――男が反射的に、涙声で叫んだ。

「あの女さえ見つければ全部チャラになるんだよ! “俺たちはヴィルドラグ様の支配下でいい”んだ!」
「……なんと?」
 それには流石に、カプラも瞳を明滅させて、疑問の意を示した。

「このような状況に陥っておきながら、なおあの竜の支配を望むのですか」
「全部あいつのせいだ!」
 男はトゥライを指して叫ぶ。
 今だ煙を上げ、磔られた少年は、掠れたうめき声を上げるのみ。

「あいつが生贄を逃さなきゃ、こんな事にはならなかった!」
「生贄を差し出さなくても良い治世を、私がするとしてもですか?」
「じゃあ他に何を要求してくるってんだ!? 金か!? 食い物か! そんなもんこの村にはねぇ! だったら――――」
「何も」
 カプラは、断じた。

「私が貴方達に求めるのは信仰です。私を信じ、心の支えとすること。それ以外、貴方達に求めません」
 間違いではない――ヴィルドラグを倒せば、結果的にそれが真実となるのだから。
 そしてその言葉は、村人たちにとっては救済となるはずだった。
 新たなる支配者の甘言である、という可能性を差し引いても、受け入れない理由にはならないはずだった。

「…………………………」
 ――――男は目を逸らした。
 “それは困る”と言うように。
 “そんなものを求めてはいない”と言うように。

「……ぁ、ぅ……」
 少年が、口を開こうとした。

成功 🔵​🔵​🔴​

天羽・祝詞
悪趣味な奴だなぁ。でも広範囲に積極的な害を与えようとしないだけマシな部類なのか?
それはともかく、女性とその周辺、あと生贄云々の背景が気になるな。

彼女を探している村人達に声を掛けよう。人手は欲しいはずだし。

「なんだか困ってるようですけど、どうしたんですか?」
「よかったら私も手伝いますよ」

そう言ってエトワールさんの捜索に加わろう。これで見つかれば楽でいい……いや、村人達に見つかると不味いんだよ。とりあえず、捜索の手掛かりを知りたいという体で、彼女のこと、あと生贄の選ばれ方について尋ねてみるか。

ついでに捜索の妨害でもできれば御の字だけど、まあ、そんな器用さはないから、下手なことはしないでおこう。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  いけにえの、ひとごと
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「よかったら私も手伝おうか」
 そう告げた天羽・祝詞(血染めの白き獣・f12492)に対して、その“村人”の反応は幸い好意的だった。
 というのも。

「ありがとうございます!」
「助かります!」
 そう返してきたのは、十代前半程度の少女たちだったからだ――恐らく、姉妹だろう。

(大人の村人に声かけたら、誰だお前って話になるもんなぁ)
 逆に言えば、子供が駆り出されるほど、村にとっては切迫した事態なのだろうが。

「……お姉さん、見覚えないけど、旅人サン?」
 天羽を見上げ、妹のほうがそう尋ねた。
 白鹿の角、白狼の脚、白烏の翼。
 血の色がむき出しになった瞳以外、全てが白一色の異形を見ても、彼女らはそれを違和感として覚えない。
 それが、猟兵の持ちうる得意性――キマイラである天羽が恐れられぬ理由でもある。

「んんー? うん、そうそう。旅人サン。……この村、結構そういうヒト多いの?」
 とりあえず適当に話を合わすことにして。
 あわよくば情報が得られば、と尋ねてみる。

「時々来ますよ、旅のヒトとか、他の村から逃げてきたヒトとか……。この村は、平和だから、皆住みたがるって村長さんが。みんな、すぐに居なくなっちゃうけど……」
「………………」
 平和。
 確かに平和だろう、積極的な虐殺がないのだから。
 生贄という、犠牲の上に成り立つ平和だ。

「キミ達、何歳?」
「ええと、十三歳です、妹は十一歳」
「怖くないの? 次の生贄は自分かも知れないだろ?」
 “生贄は若い娘で無くてはならない”。
 この少女たちは、十分に“若い娘”だ……今はまだ幼すぎるかも知れないが、あと二、三年もすれば心も体も成長するだろう。
 それこそ、エトワールが見つからなかったら、代わりに彼女らのどちらかが差し出されてもおかしくない。
 だというのに。

「え?」
 姉のほうが、きょとんとした顔でそう言った。

「え? って……生贄は村人から出すんじゃないのか?」
「そうなの?」
 妹が姉に訪ね、そうして首を傾げた。

「えっと、生贄になる人は、村長さんが決めるんです、でも。
 私が知ってる限り、“村人から生贄がでたことはない”です」
「……………………は?」
 半年に一度生贄を捧げる必要がある。
 これは、この村の大前提だ、それがあるから自分たちはここに来たし、それがあるからこの村は存在し続けている。

「……じゃあ、生贄は誰なんだ? エトワールは村人じゃないのか?」
「エトワール……?」
 名前を知らない。
 子供達は、誰が村のために犠牲になるのかすら、わかってない。
 失われる命に頓着していない……興味をいだいてない、というより。

(……なんでこいつら、生贄に対してこんな“他人事”なんだ?)
 子供達が恐れているのは、あくまでヴィルドラグが村を滅ぼそうとすることだ。
 自分たちが、生贄に選ばれるかも、という恐怖は、どこにもない。
 その生命が何のために失われようとしているのか――全く、興味がない。
 もっともっと、悍ましい何かが……この村にはあるんじゃないか。

 エトワールは、まだ見つからない。

成功 🔵​🔵​🔴​

アロンソ・ピノ
くそったれだな。ああ、くそったれだ。オブリビオンも村人もこの状況もダークセイヴァーも何もかも
POW判定で村人の足止めに回る。話して止まるとも思えんし、力づくだ。だが刀は抜かん村人だしな。
代わりに刀を使わん、純粋な腕力…鉄戒で動きを止める。捜索隊といったところで元は村人なんだろう?
一番目立ちそうな、ガタイがデカいか声がデカいかリーダーか、そんな野郎の身体を【怪力】で掴んで、見せしめにする。一人掴んでも止まらないなら何人か、体力有り余ってる奴や声が煩い奴を優先して「留まってもらう。」なるべく怪我はさせる気はないが筋か骨は少しダメになるかもな。
―春夏秋冬流、参る…参りたくもねえがな、くそったれだ。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
   いたみを、ともなう
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 くそったれが。
 アロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)は内心毒づきながら、その男に歩み寄った。

「あの体で遠くまで行けるはずねえんだ! どこかに隠れてるに違いねえ! 探せ探せ!」
 村人たちを指揮している、リーダー格であろう大男は、恐怖と焦燥に顔を歪めていた。
 それは、自分達にせまる危機に対する剥き出しの感情だ。
 容赦がない。冷静さもない。躊躇もなければ、余裕もない。
 だからこちらも、容赦しなくていいだろう。

「おい」
「あぁ!? なんだてめ――――がっ!」
 手首を掴んで、ひねって、力を込めるのは一瞬。
 鋼鉄の刃すら素手でへし折るアロンソの怪力の前に、ただの人間が対処の術を持たない。

「あ、がああああああ!? て、てめぇ、止めろ、離せ――――がっ!」
「うるさい、こっちは気が立ってるんだ」
 お前ら以上にな。と付け加え。
 男の悲鳴を聞きつけて群がってきた村人たちを、そのまま一瞥した。

「何だこいつ!」「まさか他の村の奴らじゃあ――!」
 武器を構え――農具や木材だ――にじり寄ってくれる彼らは、とてもじゃないが“止まるつもり”はないだろう。

「…………」
 イライラする。
 なんだこいつらは。
 逃げたのは、たった一人、若い女なんだろう。
 そんなモノ持って、何をするつもりだったんだ。

「ぎぃ、やああああああああああああ!」
 怒りは握力という形で表に出た。
 骨が軋みをあげる。罅ぐらいは入っただろうか、その痛みで悶絶してひれ伏す男を前に、村人達は流石に顔を見合わせた。

「……で、どっちがいい」
「な、何がだ……」
 戸惑う村人を、睨みつける。
 敵意や殺意で人を殺せるなら、その男は、もう死んでいたかも知れない。

「全員この場で骨を砕かれるか、大人しくしてるかだよ」
「ひっ――――」
 その言葉に逆らうものは、居なかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

挾間・野菊

「……まず、指。腕。それでもくるなら、首」
「あんしんして。アタシは、一思いにやったげるから」


捜索隊の足止め
要求は
自分達が黒幕を斬る、邪魔するな、すれば斬る
説得を試みる者を、助力するのでもいい

元より言葉は巧くなく、取れる手段は威圧と暴力
斬り重ねた人間の数と、ただ斬れるというその事実

狂騒を削ぐ、指
欠損で覚悟を問う、腕
それでも群で来るならば、命を奪う以上の妙手もなく
故にただ斬る


みんなの為の犠牲
珍しい話じゃない
彼等もまた被害者で

だからどうした
関係ない
アタシはその子の側に立つと決めた


気付かぬ心の内
少女への憐憫、勝手な共感
村への筋違いな、もっと手はなかったのかという叫び
そして黒幕へのどろどろと濁った殺意



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
   りゅうけつの、いと
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 ぎゃあ、わあ、と悲鳴が響く。
 流血は雄弁に、非常事態を語る。
 即ち「病によって訪れる未来の死」と「今この場で訪れる死」を、強制的に比較させる。

 挾間・野菊(血泥に咲く花・f04250)の選んだ答えは、暴力による抑制だ。

「た、助けて、助けてくれ! 悪かった! 俺たちが悪かったから!」
 最も、想像していた以上に酷いことにはならなかった。
 軽く斬り裂かれただけで、捜索を行っていた村人たちは、あっさり白旗を上げたからだ。

「もうやめてくれ、わかった、降参だ! 俺たちが悪かったから許してくれ!」
 そういって武器を放り捨てる彼らの、なんとあっさりとしたことか。
 武器を放棄した彼らを、これ以上斬り重ねる理由はない。
 くすぶった感情だけが、残った。

「……………」
 野菊は喋らない。
 もとより言葉を交えるのは苦手だ。
 それに。

「……畜生、なんでこんな事に」
 それでも何か聞き出そうとして、その見苦しさが一線を超えた暁には。

「あいつさえ逃げ出さなきゃ、こんなことにはならなかったのに……!」
 この胸の中にある、煮詰まった感情がむき出しになれば。

「おとなしく生贄になってりゃよかったんだ!」
 きっと、この場にいる全員を、バラバラにしてしまうだろう。

 ダンッ、と。
 短刀を地面に突き立てる。鋭く研がれた刃は根本まで突き刺さり――村人たちを一斉に黙らせた。

「黒幕は、アタシ達が、斬る」
 抑揚のない声は――トーンが一定だからこそ。
 それが本気であることを、暗に思い知らせた。十分だった。

 “だからこそ”。

「ふ、ふざけるな……」
 最初に野菊に斬られた男が、絞り出すように叫んだ。

「ヴィルドラグを殺すだと……そ、そんな事したらどうなるか!」
 それは、何かに追われるモノの、恐怖。
 いや。
 そこで。
 そこで初めて、野菊は疑問を抱いた。

 コイツらは……自分たちの死を恐れている。それは間違いない。
 だが、同時に――――。

「ああ」
 ようやく気づいた。

「お前、たちは」
 オブリビオンに。
 病をばらまく、竜に。

「飼われて、いたいのか」
 そして、その為の餌を差し出し続ける。
 ご主人様の機嫌を、取り続けるために。

成功 🔵​🔵​🔴​

天御鏡・百々
【POW:捜索隊を押し留める。】
……生贄となるために生かされている者がいるのであろうか?
許されざる所業ではあるが、
村を存続させるためならば安易に断罪もできぬ
支配者たるオブリビオンを倒せぬ以上、
この村には誰かを犠牲にする選択肢しかないのだ

そして、それを解決できるのは我ら猟兵のみだ
ただの村人では話にならぬ
この村の構造を作った村長なりと交渉するとしようか

「生まれながらの光」にてヴィルドラグの病を癒した上で、
我ら猟兵の手によりオブリビオンからの解放をすると示そうぞ
彼のオブリビオンさえいなければ、生贄も必要は無い
(救助活動10、、礼儀作法1、医術8)

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  かがみよ、かがみ
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 年に二度、生贄を捧げなければ、この村は生き残れない。
 であるなら。合理的に考えるなら――“その為”の人間を用意して然るべきだろう。
 時が来てから誰かを失うよりも、失われる者を先に選んでおく、という、あまりに身勝手な理屈。

 許されないことだと思う。
 残酷なことだと思う。
 けれど、天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)には、それを即座に断罪することもできなかった。
 彼らには、そもそもそれ以外の選択肢しかないのだから。

 ◆

「お前も見たことがねえ、よそ者か……!」
 じり、と武器を構えて百々ににじり寄ってくるのは、捜索隊の一人であろう、若い青年だった。
 顔色は芳しくない――病に蝕まれながらエトワールを探しているのだ、無理もないだろうが。

「……はぁ、動くでない、今、治療をしてやる」
「何を――」
「いいから、言うことを聞くがよい。……汝らは」
 百々の持つ鏡から、優しい光が放たれる。
 その光に触れた青年の顔色は、段々と血の気が戻っていく――完治には至るまいが、失った体力を取り戻す程度には。

「こ、こりゃすげえ! で、でもあんたは……」
「我の事を話しても、伝わらないであろう。……村長と話がしたい」
「村長? 村長に何を……」
 戸惑いながらも、百々の力の一端に触れたからだろう、多少警戒心を緩めて、青年が聞き返した。

「ヴィルドラグは我らが倒す。彼のオブリビオンさえいなければ、このような真似をする事もない……生贄は、もういらぬ」
 幼き童女が言うにしては、度が過ぎる、冗談にすら聞こえる非現実的な言葉だ。
 その言葉を聞いた青年は、言葉に詰まって、目をそらし、そして、こう告げた。

「……村長にそんなこと言っても、無駄だよ」
「……何故だ?」
 百々の問いに、青年は項垂れながら告げた。

「だって……“ヴィルドラグと契約を結んだのは村長なんだから”」

成功 🔵​🔵​🔴​

朧・紅

表に出るのは紅のみ

村人たちを助けたいとは思うですが、同情はしないのです
仕方ないとはいえ生贄で永らえる村とは…
永く絡んだ枷を外して上げれると良いですが…


いろんなことが不可解みたいですから村や周囲を回って【第六感】で違和感のある場所を探して調べてみるです

人が居たらそっと【聞き耳】立てて情報収集
人に見つかるor話しが出来そうなら【誘惑】して交渉してみるです
困っているなら別の生贄を立るといいです?僕とか。選ぶ基準あるですか?
ダメそうなら冗談なのです、と子どもの冗談でごまかす

もし戦闘になるならギロチンのロープで【ロープワーク】で全員拘束できるといいですね

探偵さんみたいですねっ


土斬・戎兵衛
○ 【POW】
生け贄たー、まったく趣味が悪りーね

圧政を敷くならやっぱり鉄板の重税が一番だと思うんだけどなー

黒いローブを身に纏いヴィルドラグの使いを名乗り演じて村人を留めよう
演技の精度を高めるため、同業が集めた情報を共有させてもらいたいな

「……刻限には早いが生贄の生娘は既にこちらで捕らえた。娘一人用意できない無能は本来なら主、ヴィルドラグ様の病毒に侵され死すべきだが、主は寛大にも今一度の機会を与えると申された。まずはこの騒ぎを抑えて村人を広場にでも集めるが良い」

俺ちゃんの正体を疑う者は片っ端から定切の峰打ちで気絶させ【恐怖を与え】て従えようか

村人を抑えれば誰かが少女を保護してくれるだろーさ



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  じゅようと、きょうきゅう
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 生贄なんてモノ、醜悪以外の何物でもないが。
 より醜悪なモノがあるとしたら、それは――――。

 ◆

 土斬・戎兵衛(営業広報活動都合上侍・f12308)が事前に企んだ作戦はこうだ。
 ヴィルドラグの使いとして、村に降り立ち。
 村人達を嘘で縛って、行動を封じる。

 しかし、他の猟兵達の行動を追えば、一つの疑問が浮かび上がる。
 即ち、“村人はヴィルドラグの支配を何らかの理由で望んでいる”――ということだ。

「どちらにしても、試して見る価値はあるかもねぇ」
 どう転んでも、反応は手に入る。
 そう判断した土斬は、黒いローブを身にまとう。
 顔を隠し、体型を隠し、傍から見れば、個人のパーソナリティを埋め尽くして。

「聴け、村人共」
 男女合わせて十人程度で捜索を行っていた、村人達の前に降り立った。

「な、なんだお前――がっ」
 近寄ってきた村人を、まず一撃で仕留める。黒剣・定切による峰打ちは速やかに男の意識を刈り取った。
 内心、『すまないねぇ』と呟きつつ。けれどこういうのは、何よりインパクトが大事だ。

「ひ」「わあ!」「誰だ!?」
 驚き喚く他の村人。彼らの表情は未知に対する恐怖がありありと見て取れた。

「黙れ。我はヴィルドラグ様より遣わされし使者である」
 その言葉に。
 村人達が、硬直した。
 特に、中年を過ぎた男たちは、馬鹿な、嘘だろ、と顔を見合わせ、大きな汗の粒を一つ流した。

「……刻限には早いが生贄の生娘は既にこちらで捕らえた」
「な、なんだって!?」
「娘一人用意できない無能は本来なら主、ヴィルドラグ様の病毒に侵され死すべきだ――この様にな」
 気絶させた男を足で蹴って、ごろりと転がす。
 村人達に、土斬の抜き打ちは見えなかっただろう。
 不意に意識を失って、そのまま死んでしまっているようにも、見える。
 そのハッタリは、驚くほど有効で、村人達は再度顔を見合わせた。

「だが――主は寛大にも今一度の機会を与えると申された。まずはこの騒ぎを抑えて村人を広場にでも集めるが良い。そこで追って主の言葉を伝える」
 重要なのは、村人を動かさないこと、だ。
 追っ手さえ居なくなれば、あとは他の猟兵達がエトワールを見つけるだろう。
 村の人間は総勢百名前後、その内半数近くは女子供なのだから、これだけでも十分の一。

「…………?」
 そう考えて、引っかかる。
 この場にいる十人だけで、全体の十分の一、だ。
 計算上、そうなる。

 “それはおかしいんじゃないか”と。
 拝金主義者たる……金勘定を得意とする土斬の思考は反射的にその答えをはじき出した。
 帳尻が合わない。
 釣り合いが取れない。

 生贄は一年に二人、若い娘が必要だ。
 生かさず殺さず弄び、苦しみ悶える様を楽しむための生贄だ。
 言い換えるならそれなりに体力があって、ある程度長持ちするほど育って無くてはならない。
 どこまでを「若い」とするかにもよるが、十代半ばから二十代前半までをそう捉えるとして、だ。

「…………“足りる”か?」
 この村がどれだけ長く続いているか、ヴィルドラグの支配体制が何時から続いているのかは知らないが。
 人間一人が生まれるのは、時間がかかる。育つのはもっとだ。

 年間二人のペースで「若い娘」を消費し続ければ、供給は追いつかなくなるのではないか。
 いや、だからこそ、エトワールを必死に探しているとも取れるが……。

「……あ、あの」
 逆らう理由がない……逆らえる理由がない村人達は、土斬のその指示に従ったが。
 一番年長であろう男が、思考を遮るように、声を上げた。

「何だ」
 意図して不機嫌そうに応じる土斬に、男は怯えながらも続ける。

「ほ、本当にヴィルドラグ様が、その……」
「疑うか? 貴様を生かす理由は我にはないが」
「ひぃっ! し、失礼しました! ど、どうか命だけは……!」
「………………」
 これが商売だとするのなら。
 需要に供給を間に合わせるとするならば。
 自分ならば、“調達”するだろう。
 ……どこから?



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  いけにえの、きじゅんは
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「余所者が攻め込んできた?」
 初老の――この世界に置いては、十分高齢に数えていいだろう、六十を数えた――――村長の元に届けられた報告は、耳を疑うようなものだった。

「ええ、俺達と一緒で、その……エトワールを探しているようです」
 続く言葉に、目を見開き、眉をしかめ、一報を届けた若者をにらみつける。

「……なんだと、まさかとは思うが、“家族”じゃあないだろうな」
「それは――ないでしょう、性別も年齢もバラバラです、だけど……」
 次々に、村人達を拘束し、動きを制限している。
 もしこのまま、エトワールを見つけられなければ……。

「俺たちの体もいつまで保つか……くそっ、今までこんな事なかったのに」
 病は刻一刻と進行している――皮膚の色が黒ずんでいく度に、鈍い痛みが襲ってくる。
 ヴィルドラグの“病”で苦しみ悶える姿を知っている彼らは、恐怖する。
 生贄の娘が、苦痛と恐怖で狂い、泣いて、喚いて、殺してくれと懇願する様を、ただただ眺める領主の姿を知っている。

 “あれ”になるのだけはゴメンだ。

 それは、村長を含む全村人の、共通見解だった。

「トゥライはどうした、どうせ逃したのはあいつだろう、あの恩知らずが!」
「今“話を聞いてる”最中のはずですが……殺しちまってるかも知れませんね」
「……ちっ」
 舌打ちして、村長は家の外へと出た。
 全てうまく行っていたのに、一体何が悪かったんだ?
 彼はその時、本気でそう思っていたし。
 まだなんとかなると信じて疑ってもいなかった。

 ◆

 朧・紅(朧と紅・f01176)の行動方針も明確だった。
 村人達を助けたいとは思うが、同情もできない。
 せめて、この因果の鎖を解いてあげたい。
 そう考えた紅に対して――――。

『あァ、それでいいンじゃねェの?』
 己の中に眠るもう一つの――殺人鬼の人格である朧は、頭の中で投げやりにそう答えた。

「反対しないですか」
『する意味がねェからな』
 もとより、戦うこと、殺し合うことにしか興味のない朧だから、それ自体は不思議なことではないのだが。

「……なんでそんなに“にやにや”してるのです?」
『オイオイ、顔なんて見えねェだろ』
 なんとなく語調が弾んでいる。
 なんとなく楽しそうだ。
 なんとなく面白がっている。
 こういう時は大体、血と、殺戮と、戦いの匂いを嗅ぎ取っている時だ。

「表に出てきちゃ駄目ですよ、朧。村人達も傷つけたりはしないです、ぎゅーっと縛っちゃうだけですよ」
『だからそれでいいンじゃねェのッて言ッてンだろ? ひひひ……』
 けどよォ。と声が更に響く。

『“お前ガそれを望む時は別だゼ?”』
 そう告げて、頭の中の声は止んだ。
 ……紅が気づいていないことを、おそらく朧は気づいている。

「……教えてくれたっていいのにです」
 少し頬を膨らませながら、紅は村中を聞き耳立てて歩く。

「……あれ?」
 なにかに気づいて、とっさに木の陰に隠れる。
 その視界に映るのは、そろそろ老人に差し掛かろうとしている中年、といった風情の男と、付き従う数名の男たち。

「村長、捜索はやはり芳しくありません……」
「ちぃ、代わりになるのはおらんのか!」
「エトワールで最後です、どうしましょう、見つからなければラライの家の娘がちょうど……」
「馬鹿者! 村人から犠牲を出したら私の立場はどうなる!」
「ですが、このままだと全員――――」
 その会話から、村長と、村の中で地位の有る男達なのだとわかった。
 だから紅は、ぱっと飛び出した。

「待って欲しいのです」
「!」
 突如現れた幼い少女の姿に、男たちは目を見開いた。
 真っ先に平静を保ったのは村長と呼ばれた男で――彼は目を細めると、憎々しげに口を歪めた。

「捜索の邪魔をしている余所者共の仲間か……なんのつもりだ!」
「あの」
 返答は即座に出た。

「生贄、僕じゃ駄目なのですか? 困ってるなら、別の生贄を立てればいいです」
 その言葉に、またも全員が目を丸くする。
 なんのつもりだ、どういう意味だ、何を考えているんだ……という思考は、その視線から読み取れた。
 村長が首を振って、舌打ちをする。

「……幼すぎる。ヴィルドラグが求めるのは十五から二十四までの娘だ。子供は使えん」
「……そうですか。でも、捜索を続けるのはやめてほしいです、ヴィルドラグは紅達が倒すです! そうすれば――」
「はっ!」
 その言葉を、村長は一笑に付した。

「ヴィルドラグを倒す? “バカげた事”を言うな。――行くぞ」
「は、はい、その子供は……」
「放っておけ! 今はどの道役に立たん!」
 歩き出す村長達。
 後を追うべきか、いっそ足止めしてしまうべきか。

「……今はって、どういう意味です?」
 そこでふと、その言葉が気になって足を止めた。

『あと五年たッたら使えるッて意味だろ』
 茶化したような声が、頭の中に響く。

「……朧、気づいてることがあったら教えてほしいのです。よくわかんなくなってきたのです」
『――ひヒっ。紅よォ』
 朧の声は。
 なんとなく語調が弾んでいて。
 なんとなく楽しそうで。
 なんとなく面白がっていて。
 ……ああ、早く気付けばよかった。
 その奥に、不愉快の色が滲んでいる事に。

『この村は……そんなに悲劇的だと思うカ?』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル

みんな生きていたくて、死にたくなくて
必死になるのは当然のこと、なんだよね
村の人たちも、生贄にされちゃう人も……だけど
ちょっとだけこわい、ね

村中に撒かれた病をわたしの中に取り込んでみる、ね
これだけでみんなを治すのは、たぶん、できないけど
それでも、ちょっとでも体調とか気分が良くなれば、お話を聞いてくれる人もきっといる、よね
他の猟兵の人たちも、動きやすくなると思うから

なるべく見つからないように村を回って
できるだけたくさん病を取り込んでく、ね
見つかっちゃった時は、すぐ逃げる、よ
わたしのお話は、聞いて貰えないと思うし……今のわたしは、病がいっぱいであぶない、から
大丈夫、だよ。嫌われるのには慣れてるから



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
 どくをくらわば、やまいまで
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 一人の、と形容すべきか。
 一体の、と表現するべきか。
 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は、粘液の体を忍ばせて、小さな一軒家に忍び混んだ。
 予想通り、病で動けないほど消耗した子供が、薄い布団の上で苦しそうにうめいていた――その顔がより歪んで苦しげになったのは、アイシスが家の中に入ってきたからだろう。
 酷い悪臭、ドブの底の臭い。ダークセイヴァーにおいても、それは忌避されるものなのだろう。
 だから、申し訳ないと思いつつ。

「ごめんね、すぐに、終わるから、ね」
 アイシスは、その体に手を触れた。
 体温が高い、溶けてしまいそうなほど。
 汗も酷い――外で動いている村人達はまだそれほどでもないようだったが、体力の低い子供たちはそうは行かないようだった。
 だから。

「わたしはいくら汚れても、大丈夫だから」
 触れた手が、何かを引きずり込むように。
 身体を侵す病を暴いて、取り込んでいく。
 アイシスの体に、周囲の不浄を取り込むユーベルコード――《母なるアイシス:犠牲者(マザー・アイシス・サクリファイス)》。
 その効果はてきめんだった。子供の顔はみるみるうちに安らかなものになっていく。
 荒い呼吸は静かになっていき、辛そうな顔も和らいで。
 だが……完治には至らない。病の証であるアザは、身体にまだ残ったままだ。
 放っておけば、また病が進行していく、結局の所、ヴィルドラグを倒さねば血清は作れそうにない。
 一方で。

「……酷い」
 それの病を取り込んだアイシスは、つぶやいた。

「こんなの……酷い、なぁ」
 病そのものは……恐るべきことに、アイシスには効かなかった。
 もとより汚物の塊であり、汚れきった身体にとって、病はさして問題ではなかった。
 たが、取り込んで分析すれば、それがどんな性質を持つかはよく分かる。

 ――――まず高熱。意識は朦朧として、激しい頭痛に襲われる。
 ――――同時に内蔵が少しずつ狂い出す。じわじわと体の機能が損なわれていく。
 ――――けれど、頭の中は覚醒する。意識がある間、身体の痛みをゆっくりじっくり味わえるように。
 ――――神経を火で炙られるような痛みが続くだろう。それもだんだんと感じなくなっていく。
 ――――今度は身体を強制的に活性化させる。細胞分裂を強引に促し、自己治癒力を無理やり底上げする。
 ――――治っては苦しみ、治っては苦しみを繰り返す。もし自己治癒力が病を上回ると、今度は全身の損傷が即座に癒着を発生させて、どちらにしろ死に至る。

 もし「これ」にまともな人間が感染したら……いや、猟兵だって辛いだろう。
 ヴィルドラグは生贄を探させるために、あえて動けるように、弱くした病を撒いたのだ……動けなくなっては探しようがないから。
 けれど、それもやはり時間の問題だ。

 厄介なことにこの病は、感染者が消耗してればしているほど、爆発的に進むという特徴があるようだ。
 強制的に再生を活性化させるシークエンスまで一気に侵攻してしまい、その後の治療が効かなくなる。
 老人や幼い子供、けが人などは、長くは持つまい……。

「……きゃああああああああああああああ!」
 その時、悲鳴が家の中に鳴り響いた。
 考えすぎた、と思った時は、もう遅かった。
 子供の母親だろう、子供に、悍ましい黒い粘液が触れているのを見て。
 叫びながら、石を投げつけてきた。

「離れて! 離れなさい! 何をしているの! いやぁああ!」
「っ」
 石がぶつかる。痛くはない。身体は。
 心だって。慣れているから大丈夫。
 大丈夫なのだ。

 窓から身を躍らせるようにして、アイシスは逃げ出した。
 けどまだだ。死ぬかもしれないヒトから、助けてあげないと。
 石を投げられても。
 悲鳴を挙げられても。
 アイシスのやるべきことは、変わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア

夜空の星を探すなら、そっと静かに見つめましょう
星の光が消えないうちに、そっとこの手で救いましょう

少年を救う仲間が居ますから、その場は任せます
私は暗視や忍び足を駆使して、村人さん達に見つからないように、エトワールちゃんを探しましょう。
月がなくとも、星の光は十分に。

村人さんたちがお急ぎのようなら、鋼糸の罠で優しく包んであげましょう。
私、結構怒っていますけれど……人の弱さを知っていますから
少しのお仕置きで済ませて差し上げます。
揺り籠で眠って、起きたらすべてが解決している……
なんとも幸せな村人さんたちですね。

大丈夫ですよ、エトワールちゃん。
貴女を……いえ、貴方達を。まるごと全て、助けに来ました。


月輪・美月

邪悪な竜から生贄にされそうな少女を救い出し、村の皆も救って幸せな……

ってなるなら好きなシチュなんですけどね
この雰囲気じゃそう簡単じゃない

【行動】
まずは何よりエトワールさんの確保を優先です。残念ですが、今の村の人達に僕らの声が届くとは思えません。村人に見つかる前に安全な場所に隔離し、猟兵達で守る方向で動くつもりです

僕は影の狼達で捜索に行きましょう。狼が村人の捜索力に劣るなんてことはありません。必ず先に見つけて怯えている女性を救い出しましょう

この世界で、貴女を助けたいと思う人がいるということ、ちゃんと伝えたいです

【全員を救うために動きますが、救えなかったり、村人に石を投げられたりするのも歓迎】



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
 かげのなか、おおかみさんが
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 邪悪な竜が村に降り立ち、娘を生贄に捧げよと告げ。
 勇者はそれを剣で追い払い、皆に祝福される。
 幸せなハッピーエンド。美しいトゥルーエンド。
 きっとそうならないだろう、という事を。
 月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)は、よく理解していた。

 ◆

 まずエトワールを保護しなければならない。
 美月が呼び出した影の狼達は、一斉に村中に散っていった。

「せめて、匂いがわかればよいのですけどね……」
 エトワール本人の持ち物でも手に入ればよいのだが。
 他の猟兵達も捜索と、村人達を抑えることに注力している。
 己も、頑張らねば――と目を閉じる。
 狼達は五感を共有する。それは言わずもがな、神経を削る行為だ。
 せめてこの場にいる、己の感覚を封じて、調査に没頭する――。

(影だ)
 ダークセイヴァーは闇の世界。
 到るところに影がある。
 大きな大きな影が。
 それは必ずしも、“影狼”を操る美月にとって都合が良いとは言えない。
 影は光無くして生まれず。
 光の一切ない暗闇の中に立ち入るのは、難しい。

(――――ハァ、ハァ)
 荒い息遣い、これは違う。病に侵された村人のものだ。
 彼らもまた、助けねば。
 そのためにも、早く。

(……くそっ、どこだ!)
(誰か捕まえれば――)
 焦る村人達。殺意に飲まれ、理性を忘れ。

(……とぅ、らい)
「――!」
 ぴん、と美月の白い耳が立ち上がった。

「この声、だ」
 それは直感だった。
 今にも消えてしまいそうな、か細い、か弱い声。
 それでも、その名前は確かに聞いた。
 村の広場で暴行されて、今は他の猟兵達が止めているはずの。
 
「確かにいた……どこです……どこなんです、どこなんだ!」
 それは闇の中から聞こえた。
 それは影の中から聞こえた。
 どこかに居る。
 一切の光の射さない暗闇に。
 誰かの名前を呼んでいる。

「だ、誰だお前」
 ――――その集中を遮ったのは、そんな声だった。

 ◆

「他所者が居たぞ!」
「こいつもアイツらの仲間か!」
「ぶっ殺せ!」
 農具と松明を構えた男たちが、目を血走らせながら、美月は片目を抑えながら飛びのいて遠ざかる。
 今、影狼達と知覚の接続は切れない。手がかりを失う訳にはいかない。
 何より……何より、彼らも救う対象だ。傷つけられない。

「くそっ、邪魔しないでください!」
「何言ってんだこいつ!」
「殺せ! 殺せ!」
 がっ、と大きな石が額にぶつかった。血が流れる。けれど。

「……僕は!」
 尾が。
 耳が。
 逆立つ。
 月の光を宿した瞳が、より爛々と、力強く輝く。

「あなた達も助けたいんだ! 貴方達も、エトワールさんも! だから――――」
「うるせぇ!」
 遮るように、男は言った。



「あの女は死ななきゃいけねえんだよ!!」



 頭に昇った血が、冷めていく。
 何を言ってるんだ、と思って。
 だってそうだろう。
 誰も死なないほうがいいに決まってる。
 誰も犠牲にならないほうがいいに決まってる。
 そのために。
 そのために僕達は。

 抑えろ。
 昂ぶるな。
 鎮めろ。
 “殺すな”。

 感情があふれるのを抑えようとして。
 そのままに、牙を、爪を振るうのを収めようとして。

「がっ」
 無抵抗だった美月を、傷つけるものはなかった。

 ◆

「ご無事ですか?」
 男たちは、皆意識を失っていた。
 目を凝らさないと見えない、細い細い糸が、首にかかっている。
 殺したわけではなく、一瞬で意識を刈り取ったのだろう。

「――はい、ありがとうございます」
「それは何より。心配してしまいました」
 目隠しをした、その従者は。
 優雅にスカートの裾をつまんで、カーテシーを一つ。
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は小さく微笑んで、美月に手を差し伸べた。

「……格好悪いなぁ、僕」
「いえいえ、とても格好良かったですよ。ちゃんと我慢できて、とても偉いです」
「……僕、どんな顔してました?」
「秘密です」
 唇に人差し指を当てて、アレクシスは微笑んだ。

「そちらは……その、どうですか、調査は」
 美月が、苦笑しながら尋ねると、アレクシスはむむ、と唇を尖らせ。

「芳しくありませんね……探せるところは探したのですが、村の外、というわけではなさそうですし」
「……僕もそう思います、おそらく、なんですけど」
 呼吸を整えて……もう知覚が切れてしまった、狼達とつながっていた感覚を思い出しながら。

「地下です」
「……地下?」
「はい……エトワールさんは、地下の何処かに居ます。一番影が大きく深い、その場所に」

 ◆

「地下室のある家は四つです」
 枯れ草や枯れ枝を踏んでいるにもかかわらず、アレクシスの移動には一切の音が生じない。
 森遊びに慣れている美月のほうが、よほどうるさいぐらいだ。

「わかるんですか?」
「場所だけは。中にまでは入ってないのですが……」
 指折りながら、アレクシスは数えてゆく。

「村長さんの家、村の備蓄倉庫、集会所、それに――村外れの教会、です」
「……どうやって調べたんですか?」
「それは勿論、従者の手並みで」
 くすくすと微笑みながらはぐらかすアレクシス。
 だが。

「でも、積極的には調べて居なかったのです。隠れる場所としてはオーソドックスですし、実際、村人さん達も探してますし」
「そうなんですか?」
「ええ。村長さんの家は、エトワールちゃんが入るのは難しいですし、集会所は私も行ってみたのですが……」
「……居ましたか?」
「いえ、生きている人は誰も」
 それが含みのある言い方であることぐらい、美月にもわかる。
 この村で一体、何が起きているのだろう。

「……教会は? いかにも、って感じですけど」
「んー……多分、村人さん達が真っ先に探しているはずです」
「……なんでですか?」
「“教会の地下にエトワールちゃんが囚われていたから”です。トゥライくんという男の子が、毎日食事を運んでいたそうですが、今日になって姿が見えないと。」
「……そう、ですか」
 囚われていた。
 虜囚のように。

「まさか言葉だけ信じて、確認しないわけ無いですもんね」
「はい、ということで、後回しにしていたのですが……」
 ふふ、とアレクシスは笑った。

「美月さんがそうおっしゃるなら、見に行きましょう」
「え……」
「だって、私達はエトワールちゃんを助けなくちゃ。でしょう?」
 柔らかく。
 それでいて、諭すように。
 少年の声を、従者は確かに聞いた。

「みんな、まるごと全て、助けてあげましょう。ハッピーエンドは、私も大好きです」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
村人はエトワール様のことを知らない?いえ、大人たちは知っているはずよね。そうでないと探しようがないもの。知らないのはきっと子供達だけ。
……嫌な予感がするわ。

ちょっとこの村の実態を詳細に調べた方が良さそうね。申し訳ないけど、強引な手段を取らせて貰うわ。UCで兵士達を呼び出し人海戦術で探索させるの。
まずは村長の家を探しましょう。大きな家か作りの良い家を目安に情報を共有して探しなさい。
見つけたら押し入って地下室がないか、牢が無いか探すわ。邪魔するなら牽制して追い払って。傷付けてはダメよ?
誰か囚われていたら解放して話を聞いて。いなくても何か痕跡が無いか探すわ。

……お願い。ただの杞憂であってちょうだい。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  しんじつは、しゅうあく
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 子どもたちは、エトワールのことを知らない。
 それは言いかえるなら。
 エトワールは子どもたちの目につくところに居なかった。

 推測はできる。
 きっと、閉じ込められていたのだろう。
 “餌係”なんて言葉がある程度には、自由も、未来もなかったのだろう。

「……本当に、嫌だわ」
 不快感を隠そうともせず、フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)は、捜索に向かわせた妖精兵士の一体の導きに従って、そこにたどり着いた。
 村の中で一番大きくて立派な、村長の家だ。幸運というべきか、不幸にもと言うべきか、人の気配はなかった――総出で、エトワールを探しに出ているのだろう。
 既に内部で、彼女の軍勢が家探しを始めている。

「どこに閉じ込められていたのかしら……地下室、牢屋、そんな物があるとするなら」
 こういう所よね、という、嫌な予感。

 やがて、兵士の一体がそれを見つけた。本棚が動くようになっていて、地下への階段がその後ろにあったのだ。
 よしよし、と手柄を上げたその子の頭を軽く撫でてから、暗いそこに歩みを進める。

「エトワール様……居るの? 助けに来たわ。誰かいるなら、返事をして」
 そう言いながら歩いてみたものの。
 声が返ってくることはなかった。

「ハズレ……かしら、でも……」
 結論から言うと。
 フェルトの直感は、“あたっていて、外れていた”。

 あたっていたのは“地下になにかがある”という部分で。
 外れていたのは“それはエトワールではなかった”という部分で。
 見つかった真実は、ヴィルドラグの与える死と病など比べ物にならないほどの、醜悪だった。

「――なにこれ」
 フェルトは、決して、か弱いだけの少女ではない。
 技術を研鑽し、目的と目標を持って、努力を重ね、戦場に赴き、戦いというものを経験してきた。
 それでも、積み上げられた“それ”の数と、その意味を考えれば。
 言葉を失わずにはいられない。

 肉の削げ落ちた人の頭。
 乾いて割れた、丸い塊。
 誰にでも伝える言い方をするなら、それは頭蓋骨、と呼ぶのが最も適切だろう。

 いくつも積み上がっていた。無造作に転がっていた。
 割れて砕けているものもたくさんあった、十や二十ではきかない数の「死」があった。
 大きいのもある、小さいのもある。
 とてもではないが、「墓場」などと呼べる立派なものじゃない。
 これは…………ゴミ捨て場だ。
 要らなくなって、邪魔なものを、押し込めて、処分しているだけ。

「……これ」
 フェルトがまっさきに思い浮かべた疑問は。

「…………“誰の?”」
 生贄はヴィルドラグが連れ去りいたぶる。
 だからこの頭蓋骨は、生贄のものではありえない。
 けど、死んだ村人達のものでもないはずだ。
 墓穴ぐらい、ちゃんと掘って埋めれば良いのだから。

 だから、これらの残骸は全て。
 全て。

大成功 🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂

(生贄は一人。その犠牲の上に成り立つ平和。被虐者に痛みを押し付ける。反吐が出そうだ)

早く見つけよう、NAVI。
【SPD】
(敵意を伴わない限り村人に接触しても平気そうなのは有難い。
【コミュ力】で協力者を装い聞き込み。)

この辺で暖かくて安全な所は?
疫病に侵されてる病人なら体を休める為にそういう所に隠れるかも。
ああ、寒くて明かりの差さない場所は捜査から外そう。病人はそんな所は隠れないだろ。
(嘘だ。予知でメメが見たのは"寒くて月明かりも差さない場所"。こっそりそっちも聞き出し)
暖かい所に心当たりがある?僕も行こう。

(寒い方には影の追跡者としてNAVIを派遣。うまく見つけてくれよ。【追跡+情報収集】)



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  ひだまりの、だんぺん
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「暖かい場所? あるよ」
 声をかけた少年がそういうものだから。
 零井戸・寂(アフレイド・f02382)は大人しく、ついていくことにした。

「花畑があるんだ」
「……花畑だって? ダークセイヴァーに?」
「だくせ?」
「あ、いや、なんでもない……けど、そうなのかい?」
 幸いにも、病の進行がそこそこでもなく、また大人でもないことから、状況をよく把握していない村の子供。
 体調が悪い素振りも見せず……あるいは、状況をわかっていないのか。
 脳天気に、森を歩いていく。
 この世界に置いてそれは、ともすれば自殺行為にも等しいはずだが、気にした様子もない。

「その……怖くないの? もしかしたら、吸血鬼が出るかも」
「えー、大丈夫だよ、この村は領主様が守ってくれてるんだってお父さんが言ってたもん」
「そ、そっか」
 領主様。
 ヴィルドラグ。
 病喰らいの、生贄を求める者。

「……けど、ほんとにそのエトワールって人、この先に居るの?」
「多分……ほら、病気なら、暖かくしなきゃいけないでしょ?」
「なるほどー、でも今は微妙かもなー、あそこ」
「……そうなの?」
「うん、あ、見えてきた、あっちだよ」
 少年が指差す先には、確かに“花畑”があった。
 半畳にも満たないスペースに、枯れそうな花が密集しているのを、そう呼んでいいのなら、だが。

「……これは……」
「うーん、やっぱり今は駄目かぁ、ここ、時々日がさすんだけどなあ」
「……そう、なんだ」
「だから、その時は花も元気になるんだけど……月に一回ぐらいかな?」
 ああ。
 反吐が出そうだ。
 この子は悪くないけれど。
 子どもたちには何も知らせず、誰かに犠牲を押し付けて、仮初の平和を作っているこの状況に。

(メメが見た予知は――――)
 寒くて、月明かりも射さない場所。
 それこそそんな所、いくらだってあるだろうけれど。

「にぃ」
 零井戸の電子精霊、黒猫のNAVIは静かにその足元を離れ、村へと向かう。

(頼んだよ、NAVI。見つけて、あげてくれ……)

「けどさぁ、時々妹とここに来るんだけど、ちゃんと花が咲いてる時は綺麗でさー」
 楽しそうに語る子供は、きっと話し相手が居なくて退屈だったのだろう。
 零井戸は笑顔を作りながら、けれど浮かんだ言葉を言わなかった。
 責めてるように聞こえるだろうから。
 彼に罪はないのだから……だけど。

 どうして――生贄になった人達にも、同じ幸せを分けてあげられなかったの、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玄崎・供露

【POW】連中を押し留める
……よくあることかと思ったらなんだ? 妙にキナ臭ェじゃねえかよ

生け贄を出さなきゃこの村が滅びる。なのになんで【代わりの生け贄】を用意するっつー案が出ないんだ?

なァおい簡単な話だろ。何処に行ったかもわかんねぇ娘一人探しだして連れてくるよりずっとずっと簡単だ。なのになんでそれをしないんだ? 手段は選んで居られないよな、違うか?

生け贄なんて野蛮で残酷なことできないってか?
違うよなァ、この村は何回もそうやって生き長らえているんだ。お前らはそういうことが出来てしまうんだよ
――なんでそうしない?やっぱあれか。身内は切れないのか?

……ここを訪れた旅人達は、どこへいったんだろうな?


ミーユイ・ロッソカステル

……救いのない世の中だとは、住んでいた頃から思っていたけれど

それでも私は、恵まれていたのかもね。……えぇ、こんな状況の村に生まれずに

まるで家畜だわ、ここに住んでいるのは


……少し、きな臭くなってきたわね
探りを入れてみましょうか

少年を拷問していた男でも、誰でもいい。とにかく何かを知っていそうな人間を――あぁ、この手管なら、男性がいいかしらね。

人気のない所へ誘導して、病魔の支配化でいい、などというのは、どういうことか、と問いただし

答えを渋るようなら……そうね、耳元で誘惑をするように
囁くような声量で歌ってあげましょう

……あら、夢見心地な表情をして
教えてくれるなら、もっと歌ってあげてもいいのだけれど?


ヴィクティム・ウィンターミュート

──妙だ。村人の反応はまるで、「進んで支配下でありたい」と言ってるようだ…

「病喰らいのヴィルドラグ」という名前
この病喰らいの部分が、引っかかる気がするな…
病に侵された女を食うのが好きだから、じゃないとしたら。
「病」そのものを喰い、侵された者から取り除けるとしたら…?
ヴィルドラグがいる限り、あらゆる病から救われる…それをネタに、縛りつけられてるとしたら…?
病を治せる、そんな噂を聞きつけた外部の連中を…生贄にしてるとしたら。

…あくまで仮説だ。外れていてもいい。
よし、UCで透明化、隠密で村長周りを【情報収集】で探る

もしエトワールが外からの人間なら、逃亡先は故郷かも
村長ならその場所を知ってるんじゃ…


シホ・エーデルワイス


生贄は家畜なのね(悲しい目)
せめて皆さんの命を繋いだもの達への感謝は忘れないで欲しいです


村長に生贄になる事を<礼儀作法、コミュ力、覚悟、優しさ>で交渉

私は皆さん全員を助けたい

村人に私を殺す気で傷つけてもらい
【贖罪】で負傷を抑え
【祝音】でトゥライさん達村人も含めて回復

ご覧の通り私は丈夫で治癒能力もあります

病を感染させて下さい
私の体と<医術>で抗体を作ります

仮に失敗しても
私を生贄に差し出せば皆さんは生きられます


交渉成立なら
仲間にエトワールさんとトゥライさんの身を預けて欲しいと願う


病は
まず<呪詛耐性、毒耐性、激痛耐性>で耐え
限界を感じたら【贖罪】と【祝音】で抗体作成

念の為
治療の研究記録を残しておく


アイリス・イルダルヴ
なんと痛ましいことでしょうか…
おどきなさい、トゥライとやらの治療、このわたくしが受け持ちます
彼から話を聞きたいのは我々とて同じ。ですが狂乱の中にある彼らにこれ以上拷問まがいを任せてはおけません

さあ、わたくしの光をお受けになって。意識ははっきりしてますか?
痛いのはよく理解できます、ですが今はわたくしの質問にお答えください
お答えになってください。痛いのはわかりますから。
…痛ェのはわかってるっつってんだろうがさっさと泣き止め!!男だろ意地見せろや!!
――いえ、なんでもございません。今は彼と話させて下さい。

よーしそれじゃあキリキリ話して貰おうか。何があって、どこに行った?
嘘は手前のためにならないわ



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
   あゝ、いのちよ
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「ちっ」
 という、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の舌打ちを、聞く者は幸い居なかった。

 技術屋としての冴え渡る直感を、こういう時だけは恨むしかない。
 嫌な予感というのは、当たるものだ―――最悪を想定したときほど、的確に。

 猟兵達が制圧した村人達の言動や行動を探れば探るほど、一つの結論にたどり着く。
 即ち。

「進んで支配下でありたい――――はっ、そんな事があるかよ?」
 ダークセイヴァーにおいて、オブリビオンは人畜を支配する上位種だ。
 事実、ヴィルドラグも贄を求めている。
 残酷な代償と引き換えに、一時自らの命を繋ぐ――それがこの世界の人間の扱いであり。
 その抗えない運命を切り開く為に、猟兵がいるのではないのか。

 わざわざそうする理由は?
 例えば……ヴィルドラグが何かしらのメリットを与えてくれるとか?

 ……いや、それはない。
 ヴィルドラグは助けも救いもしない。それは前提条件だ。
 ならば考え方を変えよう。
 ヴィルドラグが存在することで、村人に発生するメリットがあるとしたら。


「待てよ、だったら“あっち”はどうする? いらないはずだ、俺なら……捨てる。何処に?」
「埋めるか? せめてもの弔いを込めて埋葬するか?」
「そんなワケがない。そんな人間性を見せるぐらいなら、最初からそんな事しない」
「捨てたんだ。文字通り、何処かに。だとしたら――――あぁ、そうだよな、“地下”だ」


 その思考は、凄まじい速度で行われる――電子の速度で行われる。
 そうしてはじき出した答えは、実にシンプルで、酷い。

「おいおいおいおいおい」
 なんて冗談だ。なんて最悪だ。
 ヴィクティム・ウィンターミュートは。
 思わず。側にあった木に思い切り、己の拳を叩きつけた。
 鈍い反動と、かすかな痛み。

 ただ生贄を捧げて生き延びているというのであれば。
 理解できる。人間が行う、酷くて、けれど仕方ないと思える、罪の一つの範疇だ。
 だが。
 こいつらは。

「――――“オブリビオンより殺してやがる”ってのかよ、おい」

 ◆

 この世界に救いはないにせよ。
 人は、人として生きていると思っていた。
 飼われて、首輪を繋がれて、言いなりになって、生贄を犠牲に永らえる。
 それをよしとするのなら、ああ、まるで家畜のようだ。

 ……責められた話ではないことはわかっていても。
 ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)はそう思わずにいられない。
 だから、せめて星の光だけは。
 掬い取りたいと思った。

 ……けど、彼らはもっともっと、残酷だった。
 ミーユイはまだ、人がどれだけ悍ましくなれるかを、知らない。

 ........。

「クソがっ!」
 ガッ、と松明を持った男が蹴りつけたのは、古びた教会の扉だった。
 錆びた蝶番が外れ、腐った木製のそれが倒れても、咎めるものは居ない。
 寂れてボロボロになった建物の傍らには、簡素な墓がいくつか。

「やっぱりいやがらねえ……畜生――」
「ねえ」
 気を立てた男に、ミーユイはそっと近づいた。

「聞きたいことがあるのだけど」
「っ! 何…………あっ!」
 振り向いた男は、その姿を見て目を見開いた。
 腹をすかせた野良犬が、極上の餌を見つけた時のような。
 砂漠を放浪していた旅人が、オアシスに至った時のような。
 そんな顔だった。

「お、お前――余所者か?」
「私の質問に答えなさい」
 問答をするつもりはなかった。
 意味はないし、理由もない。
 だが、男は手にした松明をちらりと見て、それからミーユイを見て。

「なぁ、俺達は今、大変なんだよ」
「知ってるわ」
「だから、許されるよな」
「何が?」
「だって……やらなきゃ死ぬんだもんな」
「ああ、そういうこと」
「アンタ……何歳だ?」
「無粋ね」
 女性に歳を尋ねるなんて。
 松明を振りかぶった男が、整った顔めがけて振り下ろされた。
 声にならない悲鳴が、轟いた。

 ◆

「退きなさい、退きなさいっ!」
 圧倒的存在感を放つ者が村人達を押し留めた直後。
 アイリス・イルダルヴ(花も恥じらう・f15431)は、その隙間を縫うように、トゥライと呼ばれた少年に駆け寄った。
 焦げた皮膚。
 焼けた肉。
 燃えた油に塗れて。
 それでもトゥライは生きていた。

「かはっ、くふっ」
「動かないでくださいまし。大丈夫、もう大丈夫ですわ」
 アイリスの放つ光が、、トゥライの傷を確かに癒やしていく。
 血色はみるみる良くなっていく。「モノ」だった肉の塊が、「人」へと形を戻していく。
 それは傍から見れば奇跡のようで。
 視点を変えれば、悍ましい術にも見えるだろう。

「ぅ……ぁ……」
「意識ははっきりしてますか? 痛いのは、よくわかります。辛いのも。でも、どうかお応えください。エトワール様はどちらに?」
「……たす、け……て……」
「ええ、必ず助けます。ですから、エトワール様の……」
「エト、ワ……ル、たす…………け……」
「はい、ですから……」
「おね……が……」
「――――助けるっつってんだろだからまずテメェが助かれ男だろうが意地見せろや!」
 突如として、キレた。



「いいか! あたし達はテメェらを“まとめて”助けに来たんだよ! 頼まれなくてもやってやらぁ! けど、まずその媚びるような眼をやめろ!」
「絶望してんだよなぁ! 苦しいんだよなぁ! んなこたわかってんだよ!」
「“だから”助けに来たんだろうが! 言わせんじゃねえ馬鹿野郎! テメェの選択肢は一つだけだ!」
「洗いざらいゲロったら、あとは邪魔な奴らはあたしらが叩き潰す! テメェは好きにしろ!」
「だからまずは……話せ。何があって、どこに行った!」



 怒りと感情に任せたその言葉に、誰もが言葉を失った。
 トゥライですら、ぽかんとしたまま、目を白黒させている。
 白黒させられる程度には……治療が進んでいる。

「ほんとう、に……?」
「――こほん、ええ、任せてください」
 咳払いして、微笑む。それは、見ているものに安心を与える、高貴な者の、高貴なそれだった。
 眩しいものを見るに目を細めて、それから。


「エト、ワール、は……――………………に……」


 静かに、その場所の名前を告げた。

「……そこに、居るのね?」
 トゥライは小さく頷いた。
 アイリスにしか聞こえなかったであろうその言葉を、確かに胸に刻みつけた。

 だが。

「そこまでだ」
 しわがれた声が、割り込んだ。
 集まっていた人の群れをかき分けて、一人の老人が姿を表した。
 周囲の人間の様子から見て、彼が村長だろう、とあたりをつけ。

「……なんのおつもりですの?
「……わかっていないようだな」
 村長が指を鳴らすと。
 村人達が、一斉に三人を取り囲んだ。
 それぞれが武器を構え、逃さぬようにと。

「我々には手段を選んでいる余裕も、時間もないんだよ、見給え、トゥライの姿を」
「……!」
 まだアイリスの腕の中にいるトゥライが。
 げぇ、と呻いて、血の塊を吐き出した。

「っ!」
「我々は知っている。ヴィルドラグの病の恐ろしさを。火で焼いたのは慈悲だった。あの病で苦しまなくて済むからな」

 ――――まず高熱。意識は朦朧として、激しい頭痛に襲われる。
 ――――同時に内蔵が少しずつ狂い出す。じわじわと体の機能が損なわれていく。
 ――――けれど、頭の中は覚醒する。意識がある間、身体の痛みをゆっくりじっくり味わえるように。
 ――――神経を火で炙られるような痛みが続くだろう。それもだんだんと感じなくなっていく。
 ――――今度は身体を強制的に活性化させる。細胞分裂を強引に促し、自己治癒力を無理やり底上げする。
 ――――治っては苦しみ、治っては苦しみを繰り返す。もし自己治癒力が病を上回ると、今度は全身の損傷が即座に癒着を発生させて、どちらにしろ死に至る。

 とある猟兵が調べた病の詳細。
 焼かれ、消耗し、治され、回復し。
 命の時計が刻一刻と、進んでいる。

「かわいそうに、半端に施すから、見ろ。これからトゥライは末期症状に入る。お前達の責任だぞ、お前達が首を挟まなければこんなことにはならなかった」
「だったら、また――――」
「無駄だ。ヴィルドラグの病は、ヴィルドラグにしか治せない。我々も、やがて同じ末路をたどる。だから必要なのだ。エトワールが」
「……っ、テメェ、よく億面もなくいい切れたな。恥ずかしくねえのか」
「何がだね」
「女ひとりに全部押し付けて生贄に捧げるその神経の図太さがだよ! 生きてて恥ずかしくねえのかつってんだ!」
「私は村長だ。村人を守る義務がある。どんな手段を使ってでもだ。ヴィルドラグの支配にはこうして抗うしか無い。我々も心が苦しい」
 それは――とあるエルフの一族の女王たるアイリスにとっては。
 “理解できない理屈”ではなかった。
 為政者は時に、犠牲を飲まなければならないことがある。
 だが。

「これまで犠牲になった者たちの為にも。村には子供達もいる。彼らの未来まで損なわせるわけには行かない。
 それとも、君が犠牲になってくれるかね? ヴィルドラグは条件を満たしていれば、生贄に細かい事は言わない、君の年齢ならば、十分に生贄に適する」
「――本気で言ってんのか、おい」
「本気だとも。そしてそれができないのであれば、軽々にうかつなことを言わないで欲しい。この村で犠牲を払っているのは――払い続けているのは我々なのだ、君たちではない」
 猟兵相手に、淡々とそう語る村長を。
 アイリスは、正直な所、そろそろ有無を言わさず殴り飛ばすか、と考えた。
 別に問答したいのではない。さっさとエトワールを見つけ出してヴィルドラグをぶちのめ――退治したいのだ。
 村人達はさっさと無力化して、口を挟ませないのが最も賢いやり方ではないか。
 思考が結論に達したので、後は実行に移す……その直前で。

「お待ち下さい」
 一人の少女が手を上げて、波のように村人をかき分けて、歩み出てきた。

 ◆

「生贄が必要ならば、私が代わりを務めます」
 シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は、臆面もなく堂々と、村人達を前にそう言い放った。

「……なんだと?」
 眉をしかめた村長は、シホの体を上から下まで眺め回す。

「確かに生贄としてふさわしいかもしれないが……それで君になんのメリットが有るのだね?」
「メリットなんて、考えたこともありません」
 シホはただただ、手を組んで、祈るように目を閉じた。

「私は皆さん全員を助けたい。その為なら、この体を捧げても構いません」
「……本気で言ってますの?」
「勿論、ヴィルドラグの討伐は叶うものと、信じています。けれど」
 目を開く。
 まっすぐ村長の瞳を見据え、いい切った。

「万が一、失敗しても、私が贄となればこの村は安全です、生き延びられます」
「………………」
「ですから、代わりにどうか、エトワールさんとトゥライさんに、御慈悲を。私達に預けてはいただけませんか」
 真摯な声だった。
 真摯な言葉だった。
 自己犠牲と、貴すぎるその献身は、きっと本音であろうことが、その場の誰もが理解した。
 理解してしまった。
 理解、できてしまった。
 故に。

「……バカげた話だ」
 村長は、そう言うしかなかった。

「ヴィルドラグを倒す? ふざけたことを言うな! 見過ごせるはずがないだろう!」
「……どういう事ですの? ヴィルドラグが居なくなれば、全部解決、ハッピーじゃありませんの」
 アイリスが思わず口にした言葉に、シホもコクリと頷く。

「何もわかっていない小娘だ! お前達が何故この村に来たかは知らん! だがこの村にはこの村のルールがある!」
 村長の怒声に、村人達も反応した。
 ジリジリと、少女たちを囲む輪が、小さくなっていく。

「この村を滅ぼさせはしない、君が生贄を努めてくれるというのなら歓迎しよう。だが、それはおとなしくヴィルドラグに喰われてくれる場合の話だ。抵抗は許さない」
「…………そんな」
「それとも、君の迂闊な行動で、この村を滅ぼすつもりか!」
 その言葉を合図に、村人の一人が、クワを振り上げた。
 とっさに歩み出ようとしたアイリスは、しかしトゥライが再度吐き出した血の塊に、一瞬だけ視線を奪われた。
 シホは……抵抗しなかった。
 その体は、どうせ死ねないから。
 痛みも、傷も遠ざける、呪われた身体だから。
 しかし。

「うるせーな滅びろよクソが」
 それが体に当たることはなかった。
 黒いセーラー服に身を包んだ何者かが、間に入り込んで、村人を蹴り飛ばしていた。

「……あの?」
「無抵抗に食らってんじゃねえよ平和主義者か。そんでもってよぉ」
 新たな乱入者――――玄崎・供露(テクノマンサー・f05850)は。
 ぽかんと見上げるシホを睨みつけ。
 アイリスを睨みつけ。村人を睨みつけ。そして全員を睨みつけ。
 そして最後に……村長を睨みつけた。



「聞いてりゃずいぶんと正当化してんじゃねえかよ……なぁ、稀代の大量殺人者共がよ」



「……一体何を言っているんだね?」
「あぁあぁ、いいんだよ別に。別に糾弾してぇんじゃねえ。ただ、確認したいだけだ」
 供露の言葉に、村長は目を細めた。
 それは余裕からではなく――指摘されたくない事を、指摘されている事からくる、恐怖。

「私にもわかるように説明していただけませんこと?」
 平静を取りもどし、トゥライの治療を続けるアイリスが、不満げに言うと、供露はあぁ、と続ける。

「なんてこたない、俺らは大前提から間違えてたんだ。村を生かすための生贄だから――気に食わねえけど仕方ない、ってな」
 だが。

「本当にクソだよなぁ、そもそも“村人の中から生贄なんて出してなかった”んだからよ」

 ◆

「ぁ、あぁー……」
「それじゃあ、質問をするわ。知っていることだけ答えなさい」
 自我というものをおおよそ失った男は、耳元でささやかれる甘い言葉にこくこくと頷いた。
 火の消えた松明が転がって、雲に遮られた僅かな月明かりだけが、二人を朧げに、影だけを映し出す。
 闇が支配する空間において、唯一外と繋がれるその生々しい情報に。
 男は囚われた。支配された。奪われた。
 言葉が途切れたら、もう何もなくなってしまう。
 消失した思考からこぼれ出る、唯一のその欲求と恐怖に従って。

「何故、ヴィルドラグを倒そうとする私達を拒むの? あなた達だって嫌でしょう? ……家畜で居続けるのは」
「ちが、ちがう、ちが……う……」
「何が違うの?」
「ヴィルドラグ……は…………つごうが……いい……」
 都合がいい。
 村にとって。
 生贄を求め、犠牲を強いる支配者が。

「……どういう意味?」
「むら、むらは、平和、だから……」
「生贄が必要なんでしょう? 若い娘が。それを平和と呼ぶの? あなた達は」
「だか、だから、お前、あなたを……いけ、にぇ……」
「……ああ、それで襲ってきたのね、愚かなヒト」
「あ、あぁぁぁ……」
「それで。都合がいいって? 何が都合がいいの?」
「……いけにえ、は、半年に、一人……」
「知ってるわ、それは」
 男は。
 唸るように。
 呻くように。
 言った。

「…………半年に……一人“で”……いい…………」

 ◆

「おかしいよな、生け贄を出さなきゃこの村が滅びる。なのになんで【代わりの生け贄】を用意するっつー案が出ないんだ?」
 その言葉に、村長たちは硬直した。

「なァおい簡単な話だろ。何処に行ったかもわかんねぇ娘一人探しだして連れてくるよりずっとずっと簡単だ。なのになんでそれをしないんだ? 手段は選んで居られないよな、違うか?」

「生け贄なんて野蛮で残酷なことできないってか?」
「それは……」
「違うよなァ、この村は何回もそうやって生き長らえているんだ。お前らはそういうことが出来てしまうんだよ」
「いや、だから、我々は――!」
「お前らはどうしようなく“人間”なんだよ。家族が大事で、仲間が大事で、村の中に居る連中は皆同胞ってことだ。――身内を切るのは心苦しいよな」
 ヴィルドラグと、他のオブリビオンが決定的に違う点。
 それは、自らが与えた病から生ずる人間の苦悩以外に興味が無いところだ。

 例えば、自分の子供を生贄に捧げなければならない父親の嘆きだとか。
 例えば、最愛の母親を失ってしまう子供の絶望だとか。
 例えば、生贄を押し付け合う醜い争いだとか。
 そういった事に興味がない、生贄のパーソナリティに興味がない。
 年齢と性別さえ満たしていれば、“誰でも良い”のだ。

 ◆

 ヴィクティムの電脳が新たな答えをはじき出す。

「……あぁ、畜生が」
 簡単な計算だ。
 半年に一人生贄を出さねば、村は滅ぼされる。
 ヴィルドラグは、生贄を捧げる限り、村に干渉しない。
 助けもしないし、滅ぼしもしない。
 言い換えるならこういうことだ。

 生贄さえ用意できるのならば、“村はヴィルドラグの支配されていないも同然だ”と。
 他のオブリビオンからしても、わざわざ領地とするヴィルドラグがいる場所を、横入りする理由がない。

 “ヴィルドラグに支配されて居るから駄目”なのではない。
 “支配者がヴィルドラグでなければ駄目”なのだ。

「――――やっぱり、どう計算しても帳尻があわねぇからな」
 グリモア猟兵が言うには。
 どう考えてもこの生活は長く続かない。
 どこかで生贄が息切れする。
 子供を産める若い女を村人から差し出し続ければ、どこかで限界が訪れる。
 ならどうすればいいか。

「……“他所から持ってくればいい”。他の村から逃げ出してきた連中からしてみりゃ、日常的に圧制を受けてないこの村は天国だ」
 他のオブリビオンが支配する村があったとして。
 そこから命からがら逃げ出して。
 支配がゆるく、平和に暮らせるかもしれないと希望を抱いて。
 運良くたどり着いた村人達はどうなるか。

 男と、年老いた女は殺して。
 若い女は生贄にして、幼い女は生贄にふさわしい年齢になるまで“飼う”。
 餌を与えて、食べごろに育つまで。家畜のように。

 そういった「脱走者」の頻度は決して多くないだろう。
 それでも、年間二人だ。
 調達できない数じゃない。
 手に入らない数ではない。

 そして。

「殺した後は邪魔だから……ってか」
 その残骸は、ゴミとして捨てられていた。
 村長の家の地下に、淡々と。
 自然と口の端が釣り上がる。
 ああ、やはりこの瞬間が……一番心躍る。
 たとえそれが怒りでも。
 昂ぶる事は止められない。

 “―――クズ共の目論見をぶち壊す時”ほど、楽しい事など。

「……上等だ」

 ◆

「……そう。恥も外聞もなく、そんな事を繰り返していたの」
「…………し、しかたなかっ、った……そう、すれば……」
「自由だから? ええ、そう、それがあなた達の結論だというのなら、いいわ」
 男の体を放り投げて。
 ミーユイは。
 笑った。
 滲み出る怒りは。
 湧き出す激情は。
 その形でしか、もはや表現できなかった。

「――――ええ、望み通り自由を上げる」

 ◆

「気に食わねえのは、テメェらがその上で正義ツラしてる所だよ――なぁ、当然ですみたいな顔しやがって」
 供露の口元は、黒いマスクで隠れている。
 それでも、その感情はわかり易いほどよくわかる。

「“全部ぶっ壊してやる”」
 村人達の前で。
 宣言した。

「俺たちは猟兵だ――安心しろよ、お前ら全員助けてやる。ヴィルドラグをぶち殺して、この村を支配から解き放ってやる」
「で、できるわけが、できるわけがない……」
「やりますわよ」
 気圧され、一歩後ずさる村長に。
 アイリスは告げた。

「やると決めたからには。ええ、文句はないでしょう? 安心なさいな、貴方達の罪を糾弾したりはしませんわ。警察でも何でもありませんし、法律だってないんでしょうから」
 けれども。

「――――邪魔だけはさせねぇ。割り込んできたらぶち殺すぞゴミ共が」
 その覇気を前に、誰が逆らえるだろう。
 誰もが言葉を失った。
 結局、彼らは理解しているのだ。本能的に、強者に逆らうことはできないと。
 ――――猟兵という異世界の存在は、その気になれば。
 この場の全員を殺すことだって、できるのだ。
 そんな事をするはずない、と思うことなどできるわけがない。
 今まで、自分たちがしてきたのだから。

「私は」
 シホは、静かに首を振って。
 また、祈るように手を組んで。

「皆さんを――全員を、これからも誰も死なないよう、助けます。身体の病も、心の闇も。ですから」
 そして答えは、変わらない。

「ヴィルドラグを、倒します」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク

花嫁が逃げるのも
村人が花嫁を恨むのも
どちらも仕方あるまい

他者を犠牲にしてでも生きたいと願うのは
生き物として当然の心理だ
履き違えてはならぬ
あくまで吸血鬼が悪なのだ

可能ならば、助けよう
助けを乞われれば、手を差し伸べよう
彼女も、村人も犠牲になる必要はない
オブリビオンを討ち果たせば、それで済む事なのだから

村人と出会えば殺さぬ程度に意識を刈り取る
基本、和解は望んでおらぬ
であれば取り繕う必要もあるまい

月の明かりも射さぬ場所
予知の情報を頼りに

懺悔、か

古びた教会でもあるのなら、其処を訪ねてみよう
後は廃墟など
病人が隠れ潜めるような場所を探っていく

私がきみを許そう
私がきみを助けよう

それが行きずりの縁というものだ



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
 ずっと、かのじょは、そこにいた
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)が訪れたその教会は、酷く寂れていた。
 ずっと昔に建てられたが、補修されるでもなく、ただ放置されている、といった様子だった。
 とはいえ、別の方法で利用されていたようだが。

 真横にある墓場には、意識を失った男が倒れていた。

「にゃあ」
 と、寄り添っていた黒猫が、ギドを見た。

「……この村の猫か?」
「にぃ」
 言葉に応じたのだろうか。
 猫はそのまま、足音を立てずに、教会の中に入っていった。
 後を追うわけではないが……もとより立ち寄るつもりだった場所だ、ギドも続いた。

(縋る神を持たない者たち、か)
 ダークセイヴァーにおいて、人々は蹂躙される存在だ。
 絶望の中で神に祈る者もいれば。
 絶望の中だからこそ、神など居ないと信仰を失う者もいる。
 この村の人間は、どうやら後者の存在らしい。
 とはいえ。

「にゃぁ」
 黒猫が進む。
 正面の壁に掘られた、壊れた女神像。
 その下に、地下へ続く道がある。隠されているわけではないようだったが、意識してみなければ気づけない、小さな穴だ。
 背が低い女性や、小柄な男性なら通れるだろう、といった程度だった。

「…………」
 指を少し動かす。瓦礫が石を持っているかのように、ひとりでに崩れて、スペースをあけた。
 手元に掲げた照明頼りに歩みを進める。空を飛ぶ蛍のように、光が尾を引いて、そこを人が通った証を、空間にほんの少しだけ刻む。
 少し下ってたどり着いた領域は、小さな換気口と、鉄格子の牢屋が二つ。
 地面はむき出しで、酷く冷える。
 だが。

「……居るはずもない、か」
 もぬけの殻だった。
 誰も居ない……厳密には、誰かが居た痕跡はある。
 ボロ布のような毛布に、薄汚れた皿。中身の濁った水さし、油の切れたランプ。
 狭い上に物もない場所だ、隠れようがない。
 そもそも、生贄たるエトワールが、この場所から消え失せたからこその騒ぎなのだから。
 引き返そうと背を翻したギドのコートの裾を、黒猫の爪が引っ掛けた。

「……どうした?」
「にぁ」
「何故私を引き止める? なにかあるのか、ここに」
 その答えだというように、黒猫は鉄格子を越えて、牢屋の中へと入った。
 隅の地面をガリガリと爪で削って、もう一度鳴いた。

「…………まさか」
 ああそうか。
 逃げ出したのではないとすれば。
 一つだけ方法がある。
 自殺行為にも等しい。
 けれど、目を欺ける。
 それの意味があるのならば、だが。

 ギドの眼が、青から金へと転じる。
 大地は、その存在に屈し、物理法則を捻じ曲げる。
 泥が一斉に、消滅した。

 黒猫が示し、ギドが掘り返した穴の中に。
 その女性はいた。
 麻袋を口に当てているのは、僅かでも、呼吸を確保するためだろう。
 暗い暗い地面の中に。
 寒い寒い地面の中に。

 カチカチと、歯の根を鳴らし。
 震えながら、うなされながら。
 ごめんなさいと、繰り返しながら。

 意識は、ほとんど無いのだろう。
 もしかしたら、命の灯も。
 それでも、何故彼女がこんなことをしたのか。
 ギドは、たったひと目で理解した。

「……そうか」
 エトワールは、この場所に閉じ込められていた。
 閉じ込められて、生贄となる日を待っていた。
 “餌係”のトゥライの仕事は、生贄をその日まで生かす事。

 この村で、二人は守られるべき、尊重されるべき“人間”ではなかった。
 生贄と、生贄を維持する為だけの“モノ”だった。

「きみの懺悔は、己が逃げだす事への詫びではなかったのか」
 エトワールにとって、他者との接点はここしかなかった。
 トゥライにとっても、同じだろう。

 逃げ場もなく。
 行く先もなく。
 人々がオブリビオンに支配されるように。
 村の存続のために、村人達に支配されていた二人は。

「ならば」
 お互いを知ったのだろう。
 お互いに惹かれたのだろう。
 お互いに触れあったのだろう。
 お互いに通じあったのだろう。

「私がきみを許す」
 ギドは、ゆっくり手を差し伸べた。

「私がきみを助ける」
 冷たく冷え切った身体に、確かに触れた。

「きみ達の行為は無駄ではなかった。私達が訪れるまで、よく耐えた」
 己の僅かな熱を、少しでも分け与えるように。
 行きずりの縁で十分だ。
 “これ”が救われない世界ならば、滅べと誰もが願うだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​


三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
    きみのために
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 今まで、味方はいなかった。
 必死で逃げて、たどり着いた村で。
 父親と母親を殺されて。
 牢屋に閉じ込められていた、女の子の世話係を命じられて。
 彼女と話している時だけが、心の安らぎだった。
 彼女と触れ合っている時だけが、唯一の楽しみだった。

 虐げられても、罵られても。
 傷つけられても、燃やされても。
 君と居るから。
 君が居たから。

 ……朦朧とする意識の中で。
 知らないはずの人達が、助けてくれたのを確かに感じた。
 あぁ、だったらきっと。
 エトワールは、もう大丈夫だ。
 そう思ったら、急に身体の痛みが取れて。
 だんだん、眠くなってきた。
 安心できる、というのは、素晴らしいことだなんて、知らなかった。

 彼女を助けてくれる人が、こんなに居る。
 それはどんなことより、何よりも、嬉しいことだ。
 それだけで、もう、十分だ。
太刀川・明日嘉

この世界も嫌なことばかりね
生贄を要求する領主も、それを差し出す領民も
全部大嫌い……!

捜索隊の足止めをするわ
どんなに蔑まれても、貶められても
心が痛くなることには慣れているから

あなた達が必死に生きようとしているのはわかるわ
誰かに押し付けないと逃れられないなら、そうすることも
けどそれは、助かる手段が他に無いからでしょう?
私らがこの村を救ってみせるから、お願い
誰かに苦痛を押し付けるなんてやめて!

餌係の少年がまだ危害を加えられそうなら抱きしめて庇うわ
熱かったね、苦しかったね
私たちが、もっと早く来れたらよかったのに
ごめんね、ごめんね



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  ちいさな、だんしょう    
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 どれだけ癒しの光を浴びても。
 どれだけ病を取り除こうとしても。
 溶けた内臓は元に戻らなかった。
 狂った身体は元には戻らなかった。
 ヴィルドラグの病は、その本体から作る血清がなければ治せない。

 全身を焼く、ということが病の進行をどれだけ早めるか。
 村人達は知っていた……試したことが、あるからだ。
 だから。

 ◆

 誰かが、ふざけるな。と言った。
 誰かが、勝手なことばかり、と言った。
 誰かが、いい加減にしろ、と言った。
 誰かが、構わないから殺せ、と言った。
 誰かが、もう動かない少年の体に向けて、その凶器を振り上げた。

 ガッと肉を叩く音がした。
 それは、少年の体を叩かなかった。
 間に割り込んだ女の頭を割って、赤い血が流れた。

「ひっ」
 傷つけた男は、思わずそう悲鳴を上げて。
 傷つけられた女は、それを見上げて、叫んだ。

「……どうして!」
 太刀川・明日嘉(色を失うまで・f01680)は。
 感情を抑えることが、できなかった。


「どうしてそんな事ができるのよ! この子がどんな気持ちで彼女を逃したかぐらい、わかるでしょうに!」
「あなた達が必死に生きようとしているのはわかるわ、ええ、必死だったのよね、生き延びなくちゃならないって」
「誰かに押し付けないと逃げられないから、だったら誰かに下手を掴ませればいいって、だけど!」
「ここまで来て、それでも人の気持ちを踏みにじろうとするなら、あなた達は人間ですらないわ!」


 その叫びは。
 もう、張り詰めていた村人達の糸を切るには十分だった。
 彼らにはわかりたくなかったのだ。

 なんでこの場に現れた連中は、どいつもこいつも。
 他人のためにここまで体を張って。ここまで傷ついて。ここまで苦しんで。
 それでも守ろうと、助けようとするのか。

 だってそれは、彼らが昔、捨ててしまったモノだから。
 思いやるとか、助け合うとかを、村の中だけで使い切ってしまって。
 それを守るためならなんでもする、というお題目は。
 たやすく人の命を奪う、閉鎖空間を作り出してしまった。
 よりにもよって、この世界で。
 人の命が軽く、使い潰される世界で。
 無惨に、悲惨に、人の手によって。

 明日嘉は、静かにトゥライの手をとった。
 あれだけ燃え上がって、熱かった身体は。
 もう少しずつ、冷たくなっていく途中だった。
 けれど、癒しの光が注ぎ続けられたからだろう。
 皮膚はちゃんと元通りだった。
 人の形を保っていた。
 なぜだか、穏やかそうに笑っていた。

「ごめんね、熱かったね、苦しかったね」
「私たちが、もっと早く来れたらよかったのに」
「ごめんね、ごめんね」
「エトワールは、私達が助けるから」
「ゆっくり、おやすみね」
 しばらくの間。
 少年の頭を撫でる明日嘉の姿を、誰もが何も言えず、眺めることしかできなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『命の灯』

POW   :    気合で妊婦を励ます

SPD   :    細々とした産婆の手伝いをこなす

WIZ   :    落ち着かない近親者を宥める

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

 ◆

 一人の男が、女性を抱きかかえ、その場所に現れた。
 どこに居たのか、何故そこにいるのか。
 誰もそんな事は聞かなかった。
 誰もそんな事を気にかける余裕などなかった。

「ああ――――」
 誰かが、声を上げた。

 元よりエトワールに遠くまで逃げる力はなかった。
 だからこそ、近くにいるはずだと、村人達は捜索を始めたのだから。

 元よりトゥライにエトワールを逃がす力はなかった。
 だからこそ、絶対知っているはずだと、村人達は拷問を始めたのだから。

 最初から逃げていなかったのだ。
 逃げたと告げて。確認に来た誰かの目を、少しだけごまかせればよかった。
 時間をかけて、墓穴を掘った。
 死ぬためではなく、ほんの少しだけ、生きていられるように。
 探りを入れられたら、すぐにバレてしまうような儚い嘘に。
 二人は希望を託したのだ。

「なんてこと――――なんてこと!」
 それは。
 エトワールが、泥に汚れているからではない。
 エトワールが、傷ついているからではない。
 エトワールが、病に侵されているからではない。

 エトワールの腹部は、大きく膨れていた。
 はちきれんばかりに。“なにか”が詰まっていた。

 それは、尊い光だ。
 それは、確かな命の灯だ。

 ――――エトワールは、妊娠していた。
 そして。

「ぁ、っぐ、ぁぁぁぁあああっ!」
 悲鳴が響く。その痛みで、彼女の意識は返ってきた。
 既に――破水が始まっていた。

「おね――がい、誰か、誰でも、いい、から……」
 それは、彼女が身を隠した、すべての理由。

「赤ちゃんを……助けて……私は、どうなってもいい、から……」
 ◆ ◆ ◆

 大変長らくおまたせしました。
 第二章は身重のエトワールをどうするか、というお話になります。

 プレイングの際、

 【1】母子共に助ける
 【2】赤ん坊を助ける
 【3】母体を助ける
 【4】母体を元気つける
 【5】その他

 の、どれを行うかを【冒頭に明記】してください。
 それ以外のプレイングは、採用致しませんので、注意のほどお願いします。

 どの選択肢を選ぶかは、プレイングを送っていただいた猟兵の多数決で行われます。

 【1】から【3】まで、すべての選択肢において 技能【医療】【救助活動】が最重要となります。
 また【4】の場合は技能【鼓舞】【手をつなぐ】によって、エトワールを励ますことで、他の猟兵の判定を支援することができます。
 【5】は選択肢を提示する時にご利用ください、基本的に想定してませんが、奇跡とは人の発想力から起こるものです。
 その他、有効と思われる技能は適宜マスタリング致しますが、上記技能以外は「ちょっとは足しになるかも」ぐらいとお考えください。

 【1】母子共に助ける 場合の難易度は「大」 赤丸が3つ以上になった場合、自動的に「2」へ移行します。
 【2】赤ん坊のみを助ける 場合の難易度は「中」 赤丸5つ以上になった場合、自動的に「1」へ移行します。
 【3】母体のみを助ける 場合の難易度は「小」  赤丸7つで失敗します。全て失敗した場合、母子共に死亡します。

 ※新ユーベルコード「スキルマスター」に関して。
  「医療・救助活動の~」という複数の技能を指定している場合でも、技能レベルの合算は行いません。
  あくまで「今回のシナリオにおける裁定」ですので、他の私のシナリオやMSの判定に適用されるものではありません。

 ◆ ◆ ◆

4/23 8:30からプレイング受付再開致します。
おまたせして申し訳ありませんでした。
挾間・野菊

【5】

赤ちゃん……?
そんな……


アタシは、斬るしか、殺すしか……
この血と罪に塗れた手では、助けになんて、なれない

でも
村の中に……お医者さまか、産婆さん、か
くすり士でも、呪い士でも
とにかく、「安定」した村、だったんだから
きっといる、と思う
現地の知識が、たすけになって、くれるかもしれない

いるのか、見つかるか、力になってくれる、か
わからないけど、無駄かもしれない、けど
アタシにできる、ことを

探すまでは、いつもどおりでいい
でも、もし見つかったら
刀でおどす方が、確実だろう、けど
…………あたらしい命に、
ふさわしくない、気がしたから


お願い、します……
赤ちゃんを、あの子を……
たすけてあげて、ください
お願いします



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  ちぬられた、こんがん
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 挾間・野菊(血泥に咲く花・f04250)の世界には、流血しかなかった。
 命とは損なわれるもので、奪うもので、失うものだった。
 だから。

「赤ちゃん……?」
 考えたことなどなかった。
 想像の余地すらなかった。

 眼の前で、命が生まれようとしている。
  、、、、、、
 何も出来ない。

 その事を自覚した瞬間、彼女は自然に走り出していた。
 動揺していても、体に染み込んだ技術と、切り離された心は冷静に判断した。

 この村には、子供が居る。
 生贄と犠牲だけではない。村の中では村の中で、ちゃんと生命のサイクルが存在する。
 なら、居るはずだ。

 何せダークセイヴァーにおいて、ここは一際、“安定した村”なのだから。

「どこに居る?」
「は?」
 呆気にとられて、呆然としてた村人の一人に、野菊は詰め寄った。

「産婆はどこにいる? 医者でも、呪い士でも、いるよね」
 その村人が気圧されたのは、きっと野菊の表情が殺気を孕んでいた――からではないだろう。

「おしえて」
「……あ、ああ」
 余所者に、村の秩序を乱すものに協力する義理立てなど無いのに。

「この道を真っ直ぐ行って、二つ目の分かれ道を右に、真っすぐ行けば……」
 返事もしなかった。
 身を翻して、走りだす。
 地を駆け、木々の合間を跳んで、移動は数分もかからなかった。

 周りの家と比べて、少し立派な建物だった。
 扉を強く叩くと、すぐに開いた。

「誰だい」
 皺だらけの老婆だった。骨と皮で出来た人形細工みたいで、手折ろうとすればすぐに壊れそうだった。

 ――――刀を引き抜いて、首に当てる。
 ――――死にたくなければ従え、と脅し、連れていく。
 ――――赤ちゃんを助ける。
 ――――そんな手を使っても。

 ああ、その手順を考えて、準備もできていたのに。
 柄に手を添えた、そこから先に進めない。
 体が動かない。

「お願い、します……」
 ……あたらしい命はきっと、祝福されるべきなのだ。
 この村で、それを望む事などできないとしても。
 野菊の、血に汚れた手で。
 その誕生を、勝手に汚すなど。

「赤ちゃんを、あの子を……」
 してはならないと、思ったから。
 両膝をついて、野菊は縋るように言った。

「たすけてあげて、ください」
 何も出来ない。
 傷つけるしか出来ない。
 殺めるしか出来ない。

「お願いします」
 少女は、“いのち”に対して、あまりに無力だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月輪・美月
○【1】母子共に助ける
どうしましょう、どうしましょうか、ええと、こういう時はお湯を沸かせて

猟兵でも、村の人でもいい! 誰かを殺すなんてしなくていいじゃないですか、助けるための力を貸してください

医術や救助活動なら覚えがあります、故郷で叩き込まれましたから。この状況は一刻を争う。専門的な知識がある人がいればサポートに、いなければ僕がなんとかします

僕が……皆が二人とも助けます、信じて一緒に頑張って
この過酷な世界で、この子の味方であってください、お母さん。
そのために貴女も生きてください

【救助活動と医術のスキルを使い出産の手伝いを行います。村人にも協力してもらいたいと思っています】


マリス・アップルズ
【1】母子共に助けるを選択。
技能。医術を使用。
産婆の経験は無いけど
命を引き延ばす為に医術は学んで来たわ

必要な道具を消毒して、清潔な布を集める
産まれた子供は体温が下がるから清潔な布で羊水を拭い。
体温を守る為にタオルやコートで包み。
母親の熱を分けるように胸に抱いてあげる。

母親には水分と栄養を取らせる。
花蜜を白湯に溶かして与える

ただ他所の集落へ移動するにも。この世界に安全地帯はない。
村の人にも協力を求めてみる

今は必要悪の掟も、この先は悪に変わり
何時かより強い力を持つ物が現れ村へ制裁を加えるようになる。
その時、自分を釈明できるか人が居れば救いある魂と認められる。
ここで一つ命を救えばそれが証拠になるわ。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
     せいめいさんか
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「清潔な布と、お湯が必要です! とにかく、沢山!」
 月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)が身につけた救助の知識と技術は、付け焼き刃ではない。
 幼い頃から里の大人たちに仕込まれた、実践的なものだ。
 あらゆる非常事態を想定して、対処する為の能力を、文字通り叩き込まれたのだから。
 ただし。

「布だって貴重なんだ! 生贄如きにやれるか!」
「火だって水だって余裕があるわけじゃねえんだぞ!」
「そもそもヴィルドラグに捧げるんだ、助ける意味なんてねえだろ!」
「な…………」
 命の危機に対して。
 周りの誰もが協力的である、というのがその大前提だった。

「大体なあ、そんなガキ、生まれた所で誰が育てるってんだ!?」
「まともに生きられるわけねえんだ!」
「いっそ、殺しちまえ! それより生贄を――――」
 この期に及んで、そんな事をいうのか。
 たった一つ、村に虐げられ続けた二人が望んだ光にさえ。
 死ねというのか。

「ふっ――――――」
 ふざけるな、という怒声を我慢出来たのは。

「あか、ちゃん……を」
 ぎゅっと、弱すぎる力が、美月の手を掴んだからだ。

「あかちゃん、を、たすけて……」
「……っ」
 もしエトワールの事を考えないのであれば、子供を助けることは出来る。
 一番の難点は母体の消耗なのだから、それを度外視してよいのなら、腹を裂いて、引きずり出せばいい。

「わたしは――どうなっても、いい、から……」
 けれど。
 美月は――この場で子供を生かせたとしても、救えない。
 一般人はグリモアの力で転移させる事ができない。
 安全な違う世界に移住させる事が、できない。

 ――たとえヴィルドラグを滅ぼしたとしても、この村の性根は変わらないだろう。
 この村の誰もが望まない子供を、無理に救ったとして。
 望まない生を送ることになるのではないか。

「――――救いようがないというのはこの事ね」

 ◆

 マリス・アップルズ(血嗅ぎの跳梁者・f06184)の、さほど大きいというわけでもない声は、村人の叫びを裂いて、よく響いた。
 彼らの方を見るわけではない、手元にある使える布を用意し、自分用に携帯していた白湯に、花の蜜を溶かして母体の口に少しずつ含ませながらだ。

「今が最後の機会であることを、どうにも自覚していないようね」
「な、何が最後だって?」
 問うた村人を、マリスはその薄薔薇色の瞳でじぃと見据えた。
 その奥に見える光に気圧されたのか、呼吸すら止めて。

「あなた達が、己の罪に向き合う機会よ。決まっているわ」
 令嬢の言葉はどこまでも、村人の心に入り込む。

「――――それが罪悪であると感じているから、子供たちは知らないのでしょう?」
「っ!」
 そう。
 子供たちは知らない。
 この村が。
 どうやって保たれているか。
 どうやって生きているか。
 何を犠牲にしているのか。
 誰を犠牲にしているのか。

 何故なら。
  、、、、、、、、、、、
「その行為が醜悪であるとあなた達自身が知っているから」
 贄を攫い、作り、喰らわせ、命を保つ行為が。
 どれだけ悍ましいか知っているから、教えたくない、知らせたくない、汚したくない。
 必要悪ではない。
 ただの悪だと。

「期待はしていないわ。望みもしない。ええ。けれど」
 それ以上、マリス・アップルズは村人を見ることはしなかった。
 命を救うための作業を、淡々とする。

「今は必要悪の掟も、この先は悪に変わり、何時かより強い力を持つ物が現れ村へ制裁を加えるようになる日が来るでしょう」
 永遠はない。
 ヴィルドラグは今日ここで、猟兵達が必ず倒す。
 村のあり方は、どちらにしろ変わる。

「胸を張って、この村の未来を担う子供たちに向き合いたいと思うのであれば」
 だから今しかないのだ。

「己になにか一つ、善良を成したという釈明を心に刻みたいのであれば」
 この瞬間しかないのだ。

「救いある魂と認められたいのであれば―――手伝いなさい。ここで一つ命を救えば、それが証拠になるわ」
 ……彼らが、罪を償う時は。
 村人達は、しばらく動かなかった。
 やがて、顔を見合わせ、めいめいに、散り散りに何処かへ消えていく。
 残ったのは、村長を始めとする、村の重役たちだけ。
 それも、猟兵達の医療行為に、口出しはしなかった。

「……狼のあなた、子供を取り上げた経験はある?」
 ふぅ、と息を吐いたマリスは、拳を握りしめ、歯を食いしばっていた美月に、そう声をかけた。

「……いえ、出産に立ち会ったことは、ありますが」
「頼りになるわ」
 あとはもう、応急処置を続けるだけだった。
 資材が足りない。
 布、お湯、清潔な空間、あらゆる全てが。

「…………おねがい、あかちゃん、だけ、でも……」
 うわ言のように、母親は繰り返す。
 その願いを叶えてあげられたら、どんなにいいだろう。
 後は任せて、ゆっくりお休みと、無責任に告げてあげられるのが、どれほど。

「…………駄目です」
 けれど、否定するしかなかった。
 この子を愛する人が必要だ。
 見守り、側にいる人が必要だ。
 生きることを望み、育つことを願い、寄り添える人が必要だ。

「そのお願いは、聞けません」
 無償の愛を、ただ幸せを願って注げる者。
 それを、親と呼ぶ。

「僕が……皆が二人とも助けます、信じて一緒に頑張って」
 この子が幸せを得て生きるには。

「この過酷な世界で、この子の味方であってください、お母さん」
 エトワールの生存は、大前提なのだ。

「そのために貴女も生きてください」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 ◆

 エトワールという女性の話を、少しだけしよう。
 彼女は、何の変哲もないダークセイヴァーの村で育って、普通の少女だった。
 それはつまり、ヴァンパイアに支配されているということであり。

 そこでも変わらず、エトワールの役割は「生贄」だった。
 ヴァンパイアの望む生娘であり。
 求められたのはその生き血であり。
 故に箱につめられて差し出された所を。
 両親が、必死の思い出逃したのだ。

 南にずっと行った先の村は、こんなに残酷ではないと。

 『あの村の領主はどうにも変わり者だ。血も飲まなければ肉も食まない。贄などほとんど取らないらしい』と。

 自分たちの村を収める領主が、誰かに語っていたのを聞いたのだ。
 エトワールを逃がしたことはすぐにバレただろう。
 両親はその報復に、当然殺されただろうし、代わりに別の誰かが死んだのだろう。
 いや、もしかしたら、領主の怒りによって、村そのものが滅んだかも知れない。
 どちらにしても好転はないだろう。救われたのはエトワールだけだ。

 獣や、邪悪なる眷属たちがさまよう道を、森を、奇跡的に抜けて。
 飢えて、乾いて、必死になって辿り着いた、『残酷でない』村は。
 彼女にとって、運命だった死を、少し先延ばしにするだけのものだった。

 ◆
アルトリウス・セレスタイト

【5】ヴィルドラグと交戦
正確には「ヴィルドラグの病」と「交戦」
自身が持たない、持った記憶もない家族というものへ向ける感情に触れ、それが何であれ尊く眩いものだと
その先を紡ぐべく、交戦というべき規模で自身の能力を行使する

自動起動する真理で自身の能力精度・規模を最大化
その上で界離で創造の原理の端末召喚。淡青色の光の、円を為す二重螺旋の針金細工
村に蔓延する病と生まれくる生命への祈りを元にその場で術式創造
その病を駆逐し生命力を補う術式を村全体へ行使

力が足りねば臘月で分体を喚んで能力を重複させ最大限まで

死ぬも生きるも俺が決めることではないが、道が一つでなくなるのも悪くはなかろう


天御鏡・百々
【1】エトワールも赤子も死なせてなるものか!
我が全力を尽くしてその命を救おうぞ!

まずは「鏡の中より出づる者」を我自身に使用する
我の鏡像を呼び出し、治療のサポートをさせるぞ
2人ということで、技能の効果も倍となればよいな
エトワールには双子とでも言っておけばよいか

「生まれながらの光」による治療に
【医術15】【救助活動15】を組み合わせ
治療とお産の手伝いをしよう

治療の際は常にエトワールに声をかけ続け、元気づけるぞ
【鼓舞10】

神よ、我が祈りを聞き届けよ
新たなる命と、それを守ろうとする母の命を救いたまえ
【祈り10】

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、連携歓迎


土斬・戎兵衛
○【5】その他

……うん、困った!
俺ちゃん殺しが専門の人でなしだから命の誕生に手伝えることなんかないんだよねぇ
よし、ならば散策だ!(ヤケっぱち)

同業の集めた情報曰く、地下室は四つ
その内二ヶ所とも生け贄制度と関わるものがあったんだから、あと二ヵ所にも何かあるんじゃないかねぇ?
例えば、"生け贄に死なれると困るから用意していた村じゃ高価な医薬品"とか"気まぐれヴィルドラグがよこしたたった一つの血清"とか、そんな奇跡じみたアイテムがあれば母子を少しは健康にできないかな
【暗視】とUCの【視力】でまだ調べてない地下室を物色だ

いー物が見つけられても、売り付けようとしたら同業に袋にされそうだし、タダで引き渡すよ


フェルト・フィルファーデン
◯【4】母体を元気つける
こんな陰鬱な世界でも命は希望よ。それを絶やすわけにはいかないわ。その希望でもしかしたら、この村でさえ変えれるかもしれない。彼女たちは癪かもしれないけどね?……ええ、これ以上、誰1人死なせたりしないんだから。

エトワール様を【鼓舞】で優しく笑顔で励まして2人の命を繫ぎ止めるわ。
「あなたはとても強い人よ。蛮行に耐え、命を繋いでここまで来た。だからね?もう少し、頑張ってみない?赤ちゃんの顔、見たいでしょう?少し頑張れたなら、もう少し希望を抱いて、またもう少し未来を望んで、まだあなたは頑張れる。子供には、親が必要なのよ。だから諦めないで!あなた達の明るい未来は、これからなのよ!」


シホ・エーデルワイス


【1】母子共に助ける

【医術、救助活動】で味方とコミュ力で協力し
二人とも助けます!


すぐ手近な布や上着を彼女の腰にあて羊水を受け止める

リコリスの救急箱とその『極』を味方と共同で使用

好きに使って!

味方を信じ
私ができる事に専念

聞き耳と視力による情報収集と第六感で容態を把握

病を考慮し
【祝音】で病状を抑えつつ癒せそうなら
勇気と覚悟を決めて使用

ダメなら医術でケア

手を止めず祈り
彼女を優しさで鼓舞

お子さんの名前は?
赤ちゃんだけ助かっても
お母さん無しで生きていけますか?
お願い!生まれる子の為にエトワールさんも生きて!


峠を越えても油断せず

敵襲等
エトワールさんとトゥライさん一家の避難する時間が無ければ
【救園】に保護


聖護院・カプラ
【1】母子共に助ける 

それ以外にありましょうか。
自身がどうなってもよいと言う献身の姿勢、平静ならばいい行いでしょう。
しかし子は親の庇護が必要なのです。
残酷な運命が待ち受けようとも、だからこそ、必要なのです。
理論的ではないかもしれませんが、そういった場を幾度も見てきました。

私に医療技術がないことは遺憾に思いますが、幸い衛生的な環境が保たれた【オペ室】の次元圧縮をこの場で解凍できます。
この場での出産はあまりにも母体への負担が大きく、母子共に感染症を引き起こしたり失血死の恐れがあります。
それを避ける事を第一にするべき事と判断しました。

…私が猟兵の方々の尽力に手を貸せるのはここまで、後はお願いします。


富波・壱子

【1】
最初から戦闘人格で行動

UCによる未来予知で予め状況を把握しエトワール発見前から行動を開始しておきます

住民が出払っている民家から鍋や薪などを拝借し湯を沸かして用意
タオルや毛布、ガーゼに使えそうな布があればそちらも借りていきましょう
手持ちの医薬品も必要であれば供出

もしどちらかを殺さねばならないときは率先して行動
躊躇うことなく速やかに処理できれば、その分だけ残る片方を助けられる可能性も増えるでしょう

生まれてくる赤子も警戒
半年前の時点で妊娠していたというなら、病の感染時に何かを仕込まれているかもしれません

例え赤子でも、母親でも、それ以外でも、必要なら殺せます。皆が出来ないことは私がやります



 ◆

 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、墓場に居た。

「………………」
 彼に家族の記憶はない。
 彼は人として生じた存在ではない故に。
 母も父もいない。
 生命を賭して、望まれて生まれたわけではなく。
 無償の愛も知らない。

「ああ」
 だが、それらが尊いということはわかる。
 まばゆく、触れ得難く、そして損なわれてはならないということもわかる。
 だが、現状は絶望的だ。
 猟兵には力がある。
 けれどそれは万能ではなく、奇跡は、無根拠に起こせるものではない。

 物事には、原理というものがある。
 何故そうなるのか。
 何故こうなるのか。
 理屈があり、理由があり、理論がある。
 運命がある。

「ヴィルドラグ。お前が定めた運命を」
 決定事項を覆す。
 確定した未来を退ける。
 只人には決して出来ない。

「俺が廃そう」
 手をかざす。淡青色の光が、糸となって零れ出て、二重螺旋を描き出す。
 この交錯が、今定まった“運命”だ。
 辿り着く結末は『死』。
 要因は複雑に重なりあっているが、最重要項目はやはり『病』。
 ヴィルドラグという悪意が生み出した、災厄の要因。

「――――――」
 どの様に運命と戦えば、0を1にできるのか。
 原理と真理を司る男は、誰にも知られることのない戦いを始めた。

 ◆

 「あ、あんた、何してん――――――ぐへっ」
 玄関を開けて、戻ってきた家主の首筋に、流れるような手刀を叩き込んで眠らせる。

「すいません、あとでお返ししますので」
 まったくすいませんなどと思ってなさそうな、まったく抑揚のない声でそう告げて、ずるずると住民を引きずり込んで、簡素なベッドの上に載せた。
 富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は、知っていた。
 エトワールが見つかることを、身籠っていることを、出産が間近であることを。
 ユーベルコードによる、未来予知だ……ただし、『見つかる』ことはわかっていても『見つける』ことはできなかったので、彼女の選択人格は合理的な選択をした。
 先進的な医療設備が整っていない、原始的な環境で出産を行うのに必要な道具の調達を、事前に済ませておくことだ。

 村人からの協力が得られるとは微塵も思っていなかったので、当然、無許可で。

「……これだけあればとりあえず、布は足りますか」
 麻布の衣服でもないよりはマシだし、羊毛の防寒具はより上等だ。
 だが、お湯は心もとない。そもそも、水をあまり個人の家に蓄えて居ない事もあるし、鍋が小さいのもある。
 大量に沸かして移動できる容器がないのが困りものだ。冷まさずこぼさず、しかし迅速に移動せねばならない。
 何度か往復する必要があるかも知れない――それそのものは、別に構わないのだが。

「――――――」
 母子を救おうとする思考の片隅で。
 命を守ろうとする方針とは反対に。

「……どちらを」
 優先すべきだろうか。
 ……現物を見ずに考えても、仕方ない。
 布と湯を抱えて、壱子は家を出た。

 ◆

 うん、困った。
 土斬・戎兵衛("刃筋"の十・f12308)に、今現在出来る事がなにもない。
 なにせ殺すのが生業だ。いや、商売とお金も好きだけれど。
 生まれてくる命を救うだとか、そういうのは、とんと専門外だ。
 せいぜい雑用をこなすだけ。

「さて……なにか出てくるといいんだけどねぇ」
 今、この場で最も需要のある商品……お湯と布を探しに行ってもよいのだが。
 別に手に入れたところで金になりはしないし、ならばもっと“一発逆転”を狙ってみるのも悪くない。
 よって、戎兵衛は今、食料庫の地下にいた。

 村長の家の地下には、処理された旅人の遺骨があり。
 教会の地下には、エトワールそのものが居た。
 とかく、この村は、隠したいものを地下に押し込めるらしい。

 ならば――他にもあるのではないか。
 何も、隠したいというのは、後ろめたいものだけではないだろう。
 希少だったり、高価だったり、余程のことがないと使えないものだってあるはずだ。
 ……例えば、高価な医薬品だとか。
 ……例えば、ヴィルドラグが気まぐれによこした、たった一つの血清とか。

「……なんて、流石にそりゃ高望みしすぎかね」
 ヴィルドラグからしてみれば、村人にくれてやる理由も用意する理由もない。

「……仕方ない、他のモノで我慢するとしますかね」
 とある人形技師が拵えた、戎兵衛の眼球が、自動的に暗闇の中で瞳孔を絞る。
 暗所でも、必要な情報を適切に読み取る『視力』が、それを見つけ出した。
 冬備えなのだろう、乾いた果物や野菜、干し肉や乾パンといった食料が詰まった(……大した量ではないが)袋の奥。
 非常用、とダークセイヴァーの文字で書かれた木箱を、無遠慮に開ける。
 それが誰のものであるとか、そういったモノに一切頓着しない動きだった。

「こりゃ、木の根か。ふうん……気付け効果でもあるのかねぇ? こっちは丸薬か。…………ん?」
 箱の中を漁る。とにかく全部持っていって、使えるものがあるか医者に聞けば良い。
 そんな心持で、中身を見聞していた戎兵衛は。
 ありえないものを見つけた。
 、、、、  、、
「注射器と、小瓶……だとぅ?」
 細い、清潔な医療用の注射器と。
 針を蓋から差し込んで、プランジャーを押し上げれば中身をシリンジに吸い上げられる、液体の詰まった瓶。
 この世界、この時代、この文明に存在するはずのない道具達。
 ラベルに文字は書いていなかった。中身が何であるかはわからない。
 わからないが。

「使えるかも知れないなら……持ってくだけだねぇ」
 ついでに、滋養がつくかも知れないと、食料もいくつか手に持った。
 遠慮はいるまい、何せ、村人全員の命を、たった一人、彼女に背負わせているのだから。

 ◆

 運命の線が切り替わる。

 ◆

 シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の手際は迅速だった。
 蓄積された医療と、救助活動の経験は、非常事態においてこそ、発揮される。

「すいません、私の救急箱に、無菌テントがあります、それを広げてもらえませんか!」
 上着を脱いで腰にあてがい、あふれる羊水を受け止める。無いよりはマシだ。
 普段は引っ込み思案な少女の声は、そのような印象を感じさせないほど力強い。
 環境が良くない。とにかく清潔を保たねば。

「では、私が」
 応じたのは、270cmを超える大型のウォーマシン、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)だった。
 彼が出現した瞬間、圧倒的な存在感が、周囲を染め上げる。
 作業に没頭していたシホですら、一瞬だけ意識を持っていかれるほどの“圧”。

「か……」
 それは、朦朧とする意識の中にある、エトワールですら例外でないようだった。

「かみ……さま……?」
 カプラは、彼女の神ではない。
 だが、それを望むものに否定することもない。
 人の望みに応じる事を、聖護院・カプラは良しとする。

「おね……がい、たすけ……て、あか……ちゃ……」
「いいえ」
 だから、彼が否定するのは、それ以外のものだ。

「自身がどうなってもよいと言う献身の姿勢、平静ならばいい行いでしょう
 赤ん坊を助けて。
 自分はどうなってもいいから。
 都度、エトワールはそれを訴え続けた。

「しかし子は親の庇護が必要なのです、残酷な運命が待ち受けようとも、だからこそ、必要なのです」
 貴女が救われなければ。
 子もまた、救われないのだと。

「…………ぁ」
「諦めないことを、貴女に望みます」
 カプラがそっと、右手を掲げた。手のひらに、小さな小さな“穴”が出現した。
 穴は一瞬で肥大化して――――その場にいる全員を飲み込んだ。

「な――っ」
 巻き込まれたシホは、一瞬、目を白黒させるが、はっと気づく。
 ユーベルコードで形成された特殊な空間であることが、すぐに知れた。

「オペレーション・ルームを展開しました。衛生環境・設備は整っています。しかし私にはそれを使う術がない」
 神に限りなく近い機械仕掛けは。
 近いが故に神ではなく、万能でもない。

「……私が猟兵の方々の尽力に手を貸せるのはここまで、後はお願いします」
 そう告げて、カプラは領域の維持に力を注ぐことに決めたようだ。

「……ありがとうございます、必ず」
 野外と比べれば、望むべくもない理想的な環境。
 あとは、医者の仕事だ。

 ◆

 死の運命は、未だ強固だ。

 ◆

「う、うぐ、ぁぁぁぁあ!」
「っ、誰か手を握ってあげてください! すごい力で掴まれるから、そのつもりで!」
「わかったわ! 他に……出来ることは!?」
 反射的に応じたフェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)は、エトワールの人指し指を、フェアリーの小さな手で、しっかりと掴んでから、指示を乞うようにシホを見つめた。

「声をかけ続けて、意識を途切れさせないでください。波は、何度も来ます」
「うぐ……ぁ…………あぁっ! ~~~ぐっ、ふぅ――――ぎっ!」
 まさに言われたとおりに。
 苦痛が来て、引いての繰り返し。
 陣痛の波で生じる、痛みと力みが、消耗した、細い腕とは思えない力で、その手をぐいと引っ張ってくる。

「……すごい、力」
 こんなに傷ついて、こんなに弱っているのに。
 何処にこんな力があるんだろう、と思わずにはいられない。
 あるいは、最後の命の灯火を、燃やし尽くしているのかも知れない。

「あなたはとても強い人よ。蛮行に耐え、命を繋いでここまで来た」
 荒い呼吸。流れる汗。絞り出される悲鳴。

「だからね? もう少し、頑張ってみない?」
 手を握るしかできない、というのが、こんなに無力だとは思わなかった。

「赤ちゃんの顔、見たいでしょう? 抱きしめたいでしょう? まだあなたは頑張れるはずよ!」
 きっと彼女は絶望しか知らないのだ。
 もっともっと、と、望むということを知らないのだ。
 それが本来、人が当たり前に享受すべき、祝福される行いですら。
 彼女には、許されていなかったから。

「子供には、親が必要なのよ。だから諦めないで!あなた達の明るい未来は、これからなのよ!」
「ぁ………………ぁぁ! みら、未来……あぁっ! …………ぅうううっ!」
「そうよ、未来よ! 頑張って! お願い!」
 ちらりと焦るように、フェイトはシホを見た。
 だが、彼女は険しい顔で、母体を睨み、唸っていた。

「ど、どうしたの?」
「……出てくる気配がないんです、赤ちゃんも、エトワールさんも、体力が足りてない――――」
 赤ん坊は、産道を通って、子宮口から出てくる。
 ゆっくりゆっくり、自分のペースで。
 その短く、そして途方もなく長い道を手助けするのは、母親の力だ。
 だが、元々エトワールの体は万全ではなく、であるならば、赤ん坊だって同じだろう。

「……母体に子供を出産するだけの体力がなければ」
 子供をとりあげる手段は、もう一つしか無い。

「帝王切開、するしか」
 腹を切って、赤子をとりだす。
 どれだけユーベルコードを駆使しても、それはもはや、エトワールの死を意味する。

 ◆

 運命を覆す一手が足りない。

 ◆

「ぬう……!」
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、神鏡のヤドリガミだ。
 自身の体を鏡に写し、鏡像と共に光を放つ。
 生まれながらの光は、エトワールの体を癒やし、活力を与え続ける。
 だが……。

「あぁあああああああああああああああっ!」
「くっ」
 聖者の放つ光は、己の体力と交換で放たれる。
 必然、母体の消耗が激しければ、百々の疲労も深まる道理だ。
 だが、この光がなければ、もうエトワールは力尽きていただろう。

「無理はしないで……お願い」
 シホにも、同種の力がある。
 【祝音】……病すら癒やす、慈愛の心を光に変えて、癒やしの力として放つユーベルコードだ。
 だが、エトワールの体力を補うため、その力を使い続ければ、今度はシホが動けなくなる。
 そうすれば、出産の補助ができる人間が居なくなる。
 だからこそ、百々がそれを請け負った。人の身ならざるヤドリガミならば、長く保つだろうと。

「無理の一つも、しようぞ」
 汗が一つ、頬を伝った。
 あがりはじめた息を、大きく深呼吸して、整える。

「我もこの体だ。親を知らぬ。だが――大事にされてきたよ」
 年に一度しか、外には出られなかったが。
 かけがえのないモノとして、丁重に、丁寧に。

「……この子を大事にするものが、居なくてはならぬだろう。何より、理不尽ではないか」
 自由と尊厳を奪われてきた少女が、たった一つ手にしたものを。

「子を授かるという幸いを得て尚、命を捨てねばならぬなど」
「だけど、あなたまで倒れてしまったら……!」
 シホのふ、と、二人の百々は、同じ様に笑った。

「この場で、最も医術に精通しているのはシホ殿だ」
「故に、我は時間を稼ごう。どうか探して欲しい」
 気持ちは同じはずだから。

「二人共を助ける手段を」
「腹を裂かずに子を産む手段を」
 天御鏡・百々は、人を助ける事を望む。

「神よ、我が祈りを聞き届けよ」
 光が増す。後のことを考えぬ、強く、気高く、まばゆき光。

「新たなる命と、それを守ろうとする母の命を救いたまえ」
 祈るように手を組んで、二人の百々が目を閉じた。
 エトワールの命の灯は、まだ尽きない。

 ◆

 螺旋が、揺らいだ。

 ◆

 アセビの聖痕は、犠牲と献身を象徴する。
 痛みを引き受け、傷を受け入れ、光を持って人を癒やす、シホに刻まれた聖なる傷跡。

 たとえ己が傷ついても。
 たとえどれほど血を流しても。

 《――――何故お前が生きているんだ》

 ああ、それはかつての糾弾された言葉。
 罪悪感でもって人を救い、贖罪の為に傷つくことを決定づけられた言葉。

 けれど。
 けれどだ。

 今彼女が、この小さな生命と、そのゆりかごを守ろうとしているのは。
 決して、贖罪のためだけではないだろう。

 “救えなかった”という後悔をするぐらいなら。
 “助けられなかった”という絶望を得るぐらいなら。
 傷も痛みも、いくらでも耐えてみせる。

 それはある意味、究極の身勝手だ。
 自分の心を守る為に、手を差し伸べているのだから。

 ――――エーデルワイスの花が揺れる。

 どうしても、ヴィルドラグの病が立ちはだかる。
 出産の消耗と、病の進行が重なる限り、どれだけユーベルコードで癒そうともジリ貧だ。
 コチラが力尽きてしまえば、天秤は母体、双方の死に傾く。
 その限界点が来る前に、どちらかを救う決断が必要だ。

 出来るだろうか。
 大勢の、無辜の生命を奪ってしまったあの時は。
 それでも、救おうとした結果だった。
 よりよい、未来に向かおうと臨んだ結果だった。

 今回は。
 自分の意志で、選ばなければならない。
 選んで、殺さなければならない。

 ――――エーデルワイスの花が揺れる。

「シホさん」
 エトワールの指を握り続けていたフェルトが、ふとこぼした。

「背負い込まなくていいのよ、大丈夫、皆が居るわ」
「……フェルトさん」
「出来ることは、全部やりたい。気持ちは一緒よ、ね?」
 小さな妖精の、小さな笑顔。
 気持ちは同じだ。
 二人を助けたい。
 だからその道をゆくのに、不安を覚える必要はない。
 真っ直ぐ行くしか無い――――。

「おまたせしました」
 声は、不意に割り込んできた。

 ◆

「うううううううっ! ぁぁぁぁぁぁ――――――!」
 陣痛の喘ぎが響く中。
 湯の湧いた鍋を台に置くと、壱子は、片脇に大量の布を抱えたまま、首を傾げた。

「これは、どこにおけば?」
「! エトワールさんの腰の下に、羊水を受け止めるのに使います、それと少し残しておいてください。生まれたら赤ちゃんを包む分が必要です」
「わかりました。お湯はすぐに追加を持ってきます」
 シホの指示に従いながら、壱子はちらりと、エトワールの顔を見た。

(――――現実的に考えるなら)
 二人死ぬよりは、一人助かったほうがいいだろう。
 壱子なら躊躇いなくそれが出来る。母でも、子でも殺せる。
 だが。

「ありがとうございます、お湯は、あればあるだけ!」
「はい」
 少なくともシホは、助ける前提で動いている。

「おまたせぇー! 俺ちゃんの帰宅ー!」
 次いで、オペ室に入ってきたのは戎兵衛だ。手に持った木箱をあけるやいなや、注射器と小瓶を取り出して。

「……これ、食料庫の地下で見つけたんだけどさぁ、何だと思う?」
 問いに、その場の全員が固まった。

「え、これ……注射器? 何で……いえ、お借りしても?」
「どうぞどうぞ、俺ちゃんには詳しいことはわからないから、お医者さんが使って頂戴よ」
「ありがとうございます」
 小瓶の中身がもしも。
 もしも、シホの思い描いたものなのだとしたら。
 針を刺して、中身を充填する。それをそのまま、自らの腕に刺した。
 少しずつ、己の体に注入していく。

「っ」
 途端、全身に広がる悪寒と、神経を削るような痛み。
 思わず膝をつく、腕が震えだす。呼吸が荒くなる。

「大丈夫ですか?」
 駆け寄ってくる壱子を、シホは手で制した。

「だい、じょうぶです。これは……」
 これは、恐らくヴィルドラグの体液、病原菌そのものだ。
 触れただけで感染する。体内に直に入れれば、言うまでもない。

「何で、こんなものが、地下に……あったのかは、わかりませんが……」
 やっと。
 やっと光明が見えた。
 よかった。
 予想通りで。

「……主よ」
 両手を組む。
 祈りを捧げる。
 覚悟はできた。
 
「どうか慈悲と祝福をお与え下さい」
 【祝音】が発動する。
 ヴィルドラグの病は、シホの体内に入った瞬間、全身へと感染していった。
 本来、それは常人であれば即死する程の“濃さ”だった。

 だが。
 慈愛の光が、己の体を包み込む。
 どうすれば、その病を改善できるのか。
 病はどう体を蝕むのか。
 何処を治せば負担がかからないのか。
 治せないのであれば、どう病状を抑えるのか。
                、、、、
 自らの身体をもっておこなう、人体実験だ。
 損傷と再生を繰り返す。時間にしてほんの数分。
   、、、、、
「……出来ました」
 その光は、すぐさまエトワールへと向けられた。

「ぁ、ぅううう――――――うう、ぐぁぁぁあっ! ふっ!」
 悶え、苦しむエトワールだが、青ざめていた顔に、少しずつ血の色が戻っていく。

「あ――――」
 病を、癒やしていく。
 体の勝手が違うから、完治には至らないとしても。

「―――エトワールさん」
 シホは、その手をとった。

「お子さんの名前を、決めていますか?」
「なま、え――――?」
「ええ、名前です。決めてあげてください。あなたが」
 もはや、後のことなど考えていられなかった。
 病の進行さえ止められれば。


「赤ちゃんだけ助かっても、お母さん無しで生きていけますか?」
 癒やすことができれば。
 母体の生存率は、ぐっと上がる。

「お願い! 生まれる子の為にエトワールさんも生きて!」
「――――ふっ、生きて、生きても…………」
 いいの? と、いう言葉が、かすれたように聞こえた。

「――――いいに、決まっているでしょう!」
 その言葉を否定するものは、誰も居ない。

 ◆

 螺旋が解けるのを見届けて、アルトリウスは片膝をついた。
 流石に力を使いすぎた……とはいえ、表情が変わることはない。
 何より。

「一つ、変えただけだ。すぐ“次”が来る」

 確実な死が、生をつかめる“かもしれない”になっただけ。

「後は……頼む」
 人知れず運命と戦った男は、しばしの休息を求めて、そのまま横にどさりと倒れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル

【1】

あの時、わたしに石を投げた人も
エトワールお姉さんも
子供を、守りたかったんだよ、ね
どんなにこわくても、大切な誰かを守るために、戦おうとしたんだよね
……おかあさんって、いいなぁ

わたしは、近寄れない、から
なるべく風下の方で、くさい臭いが、そっちに流れないように注意する、ね
それでも、わたしの力が届く位置から、わたしの中に周りの汚れ……
どんなにちっちゃな汚れでも、今の2人には、毒、だと思うから
ぜんぶ、ぜんぶ取り込んで、お【掃除】する、ね

あとは……お【祈り】するぐらいしか、できないけど
がんばって
負けないで
この世界で、何に、誰に祈ればいいかなんて、わからないけど
それでも、ただ祈る、よ



 ◆

 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は、オペ室の外で、一人、両手を組んで目を閉じた。
 暗闇の中で、思う。

(あの時、わたしに石を投げた人も)
 ――必死の形相だった。子供に触れているアイシスを見る、恐怖と焦燥の顔。
 それは、大切の裏返しだ。

(エトワールお姉さんも)
 生命と引き換えにしてもいいから、助けてと言った。
 それは、大事であることの証左だ。

 死を目前にして。
 怖いはずだ。
 だけど、それ以上に、守りたかった。

「……おかあさんって、いいなぁ」
 それは、無償の愛。
 自分には与えられないもの。
 どれだけ汚れていても。
 どれだけ穢れていても。
 わたしだけはあなたを愛する、という――もし、そんなものがこの身に与えられたら。

 ……それは、アイシスの想像力を越えている。
 ありえない事はわかっていて、だから、ただ羨ましいだけだ。
 そして、こうも、愛されているのだ。
 どうか、生まれてきて欲しい。
 祝福されて欲しい。
 望まれ、求められ、沢山の愛を注がれて、育って欲しい。

 アイシスはその傍にいることはできない。
 生命が生まれる、神聖な場所に、こんな体で立ち会うわけにはいかないから。

「……せめて」
 その子が生まれるこの場所が、綺麗でありますように。

 村中の“汚れ”がアイシスに集まる。
 誰に祈ればいいかなど、わからないけれど。
 それでも、想いはきっと無駄にならない。
 ケガレタ
 聖なる少女は、そう信じている。

 ◆

大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
【1】

新たな命を見逃せる程、僕は人を辞めていないつもりだしね。

【SPD】
使用技能:医療

咎人殺し:
拷問の知識と技術を用いて死なない様注意
衰弱を含めて死ぬラインを見極める

死霊術師:
過去の犠牲者が呪うなら釘にて自身を避雷針にして【呪詛】【呪詛耐性】で
母子に向かない様にする

死人が口にすればそれは呪いなのだから、
見守る事をただ示せば良い。それは祝いになるだろうからね。

母体:
緊急性の高い母体へは【輸液用骸海性剤】にて疑似的に正常化
本格的な治療は可能な人に任せる

赤子:
泣かす。

例え発見される事になっても、
僕等に君の泣く声を聞かせてくれないかな。

妨害者へは、
過去の犠牲者協力で【恐怖を与える】
殺しはしない。


ミーユイ・ロッソカステル
【4】母体を元気つける
(可能な限り、「【1】母子共に助ける」を支持・支援)

……ふざけないで
自分はどうなってもいい、なんて
あなたがここで死ねば、残された子供にあなたの想いが伝わることなんて一生ないわ
もしかしたら迫害や弾圧、生活苦で「なぜ産んだの」と恨みの念を抱くのかもしれない
いなくなってしまった親の心など……子供は、一生わからないままよ
そんな事になど、させる物ですか……!!

医療の心得は、私にはない。直接の手当てでは役に立てない
……猟兵となっても、こんなに無力感を感じるなんて
……私にある力は、【歌唱】……歌うことだけ
それでも、少しでも、足しになるのなら。……何もしないでいることだけは、できないの



 命を賭すことは、ただ尊いだけでは、決してない。
 少なくとも、ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)にはこう映った。
 責任の放棄だ。
 逃げ出すことだ、と。

「ふざけないで」

 感情に名前をつけるなら、怒りの二文字以外がふさわしい。
 なぜなら、それは――――。

 ◆

「はぁ――――はぁ――うっ、ぐ、ふう…………!」
 ユーベルコードを限界まで酷使したシホや百々に変わって、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が治療にあたる。

「様態は、どうなの」
「芳しくはないね」
 淡々と告げるその語調。
 オペ室に設置された計器の数々の意味を、ミーユイは読み取れない。

「病の進行は何とか押さえた。けど元々、栄養失調の塊みたいなものだ。子供がここまで育ったのが奇跡だよ」
 みさきが新たに取り出した注射器の中には、渦巻く“黒”が詰め込まれていた。

「何、それ……」
「体を擬似的に“正常”にする薬さ」
 輸液用骸海性剤。
 骸の海、つまり打ち捨てられた過去の性質を抽出し、薬品にしたものだ。

「……大丈夫なの?」
「保証はできないね。けど子供が危険だ。わかるんだよ、死にゆこうとしているのが」
「っ」
 “死”を強く纏う女のその一言は。

「うう――――ぐっ、ふうううっ! あか、ちゃ……っ!」
  エトワール
 母 体を覚醒させるのには十分だった。

「元気つけてあげてくれないか」
 針を差し込み、少しずつ少しずつ、限界を超えないように。
 生死の境界を見ながら、みさきは告げる。

「あいにく、その手のは苦手なものでね」
「……ええ」
 ぐ、っと、力むエトワールの手を握りしめ。

「……もしあなたが死んだら」
 言う。

 ◆

 “何で生んだの”。
 “好きだったから? 愛し合ったから?”
 “じゃあなんで”
     、、
 “私はこうなの”

 それは投げ捨てた想い。
 それは打ち捨てた記憶。

 真相のほどはわからない。
 結局、ミーユイ・ロッソカステルはその答えを聞くことはなかったからだ。

「あなたがここで死ねば、残された子供にあなたの想いが伝わることなんて一生ないわ」
 言葉にしなければ伝わらない。
 抱きしめなければ伝わらない。
 いくら生命を賭けて、産み落としても。

「子供に――何で産んだの、なんて恨ませる為に、あなたを助けたいんじゃない!」
 愛されなかった子供は、病のようにずっとずっと求め続ける。
 手に入らない温もりを。あるかも知れなかった愛を。

「そんな事になど、させる物ですか! 生きなさいエトワール! 子供二人で、生きなさい!」
 強く、強く手を握りしめて。

“可愛い子 愛しい子”
 歌う。
 ミーユイにできるのは、もとよりそれ一つ。

“闇は深く 夜は長い けれど”
 かつて――ああ、それでもかつて、聞いたことがあるのだ。

“傍であなたを抱きましょう”
 母の口から、確かに。

“涙を指で拭いましょう”
 子守唄を。

“泣かないで 泣かないで”
 どうしてだろう。

“あなたが 笑顔で ありますように”
 他人事だ。我が事じゃない。
 なのに。

“さいわいが どうか ありますように”
 何で私は、泣いているんだろう。

 ◆

 母親から歌ってもらった子守唄を、少女は覚えている。 
 そうだ、絶望しかない世界でも、それで安心できたのだ。
 抱かれて、頭を撫でられて、感じることが出来たのだ。
 愛されたということを。

 赤ん坊を身籠ったと知った時。
 思ったじゃないか。
 叶わぬ夢かも知れないけれど。
 私も。
 歌ってあげたいと。

 ◆
「―――――ヒッ、ヒッ、フッ、はっ、あっ、あああああああああああっ!」
「っ!」
 歌は突如、絶叫に斬り裂かれた。
 様態の急変? いや。

「……来るよ」
 死霊の様に細いみさきの指が、わずかに震えた。

「来るって、何が」
「赤ん坊」
 けどそれは、すぐに収まった。
 もう、患者の体しか見ていない。

「歌が、良い方に転がったのかな。――もうどちらかを、という段階は過ぎたね」
 引き返せない所まで、来た。
 ふたりとも死ぬか。
 ふたりとも助けるかだ。

「大丈夫さ」
 注射器を引き抜く。半分ほど減った中身の効果が、表に出ることを願うしか無い。

「新たな命を見逃せる程、僕は人を辞めていないつもりだしね」
 そして、諦めるつもりは毛頭ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


【5】ユーベルコードを用いた出産

くっそ、次から次に問題が起きやがるぜ。まぁ、けど…どうせなら、両方助かる方が後味は、いいよな。

母子共に助けるのは前提だ。それには最も難題な出産をどうにかしなきゃならねえ。
消費される体力、場合によっちゃ開腹も考えられるが…耐えられるかどうか

だから俺は、リスクを抑えた出産を提案する
別のダークセイヴァーの仕事で使った『疑似グリモア』。ごく短距離しか転移させられない紛い物。
こいつで赤ん坊「だけ」指定して、母体のすぐ近くに転移させられれば…。
痛みも無いから体力を使わない。切らなくていいからローリスクだ。

…できるか?だが…やるしかねぇ。
やるとなったら全力だ。必ず制御し切る


春霞・遙
1△
週数も合併症も分からず環境も劣悪。仮に命が助かっても母が死ねば身寄りはなく誰が育ててくれる?なんて分の悪い戦いでしょう。
それでも望まれて生まれる命を救うために最善を尽くします。いつもしていることを、限られた資源で。

赤子が生まれる前に清潔な布を沢山、体を温めるための熱源も用意したい。
生まれてすぐに泣いてくれれば気道確保して、背中を刺激して泣かせて羊水吐かせて、体の羊水を拭って、安定したら母元へ。
泣かなければマスクバッグ、徐脈が続くなら胸骨圧迫。それでダメなら…母の胸で眠らせてあげよう。

専門外だけど母体のリスクは感染と出血。産科の専門家がいなければ分かる範囲で口は出す。子供のために母を助けて。


零井戸・寂
【5】○
(――嗚呼、なんてロクでもない。)
(人を虐げる過去の残滓も。それ以上に、同じ人を虐げる存在も。この世界は、あまりに僕の嫌いなものに満ち溢れてる。)

……でも
そんな世界でも
救える人は救いたい。

Mode:W。
ヴィムが転移システムでの出産を狙うなら
ぼくはそれのサポートに徹する。
(【手を繋ぐ】。)

……どうか、諦めないで。
負けないで。
(圧制にも、君を虐げる全てにも。)
僕らも君達を救うために全力を尽くすから。
(手を繋ぎ励ましつつ、接触した生体電磁から赤児の正確な位置情報を【追跡】【情報収集】、【ハッキング】でヴィムに伝達。)
後は任せたよ、チューマ……!



 彼が取り出した“それ”は、ある種禁断の道具だった。

「疑似グリモア?」
 零井戸・寂(PLAYER・f02382)の問に、男は静かに頷いた。

「別の仕事で使ったモンだ。短距離しか移動できない、世界の壁も越えられない紛い物さ。だが――――」
 座標を指定して移動させることが出来る。
 その詳細は、電子の魔術師の思うがままだ。
 無論――現実世界に干渉する以上、その難易度は跳ね上がるが。

「母体のすぐ側に転移させる……これ以上母親の体力を消耗させられないだろ」
 言われて、零井戸は考える。
 最大限、リスクを抑えて、メリットだけをかっさらう。
 使うツールが“チート”なだけだが、人命以上に重要なトロフィーなどあるわけもなく。

「……僕とヴィム、二人分の演算能力なら」
「だろ?」
 失敗したら?
 そんな事、いまさら言う必要もない。
 失敗してはいけないのだ。
 できるかどうかではなく、やらねばならない。
 そんな状況、何度もあった。何度も越えてきた。
 今回もやってやる。それが端役の挟持だった。
 だから。

 ――――ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、己の無力を思い知る。

 ◆

 何周目かもわからない、合併症だってあるかも知れない。
 環境は整ったが、分は明らかに悪い。
 それでも――望まれて生まれる命を救うために最善を尽くす。
 それが、春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)が、いつだって背負っている役割だ。
 いつだって、背負っている責任だ。

「許可できません」
 だから、その提案を拒絶する事も、また彼女の責任だ。

「どうして!」
 反射的に声を上げた零井戸に、遙は取り合う時間も惜しいと言わんばかりに、目をやらない。

「あなた達、出産に立ち会ったことはありますか? 母体に関する知識は?」
「いや、それは……」
 口を噤む。
 調べれば、すぐにでもわかるだろうけれど。
 言われているのは、そういう事ではないだろう。

「お腹の中の子供がどういう体勢だかわかりますか? 状況は? 状態は? 子供を転移させる? へその緒と胎盤は? どこまでが子供でどこまでが母体だか、区別はつきますか?」
 責めるつもりはない。
 けれど、素人が素人の判断で、うかつに飛び込んでいい領域ではない。
 ここは戦闘の現場ではなく、医療の最前線なのだ。

 たとえ万能の工作員であろうと。
 たとえ電子の魔術師であろうと。
 立ち入れない領域がある。

「……けどなぁ! やらなきゃどっちも――――」
「気持ちはありがたいけれど」
 ヴィクティムの反論を。
 ぴしゃりと、断ち切った。

「一か八かでは駄目なんです。生命に関する責任を取るのは、医者の役目です」
「うぁああああああああああああああああああああっ! あっ!」
 その時。
 エトワールの声量が、今までで一番大きくなった。
 その体で、その消耗で、よくぞそんなに声が出たといいたくなるほど。
 そして。

「そんな!」
 思わず声をこぼした零井戸を、誰が非難できるだろう。

「……そう」
 汗が、遙の頬を伝った。
 産道から出てきた肉の塊は、ぶらんぶらんと脱力しながらも、確かに動いていた。
 ただし、細い細い足が、一本だけ。

 ――――逆子だ。

 ◆

 オイオイオイオイオイオイ。
 違うだろ。
 限りなくハッピーエンドであるべきだろ?

 どうしたヴィクティム・ウィンターミュート。
 端役は端役らしく引っ込もうぜ?
 お前に出来ることはもう無いってよ。

 待てって。そうじゃないだろ。
 こんなスタティックはいつものことだろ?
 何時も通り、皮肉りながら解決してやろうぜ。

 奇跡は待つものじゃなくて起こす物だ。
 これから生まれる命と母親、両方助けてクールに立ち去るなんてまさしく端役の役目じゃないのか。
 それが出来ないお前は、一体ここに何しに来た?

 現実的じゃない? 知識が足りない? オーライ、その通りかも知れねえ。
 何せこちとらサイボーグと来てるモンだ。マトモじゃあないわな。

 ――――なあ、おい。
 お前にできることは本当にないのか?

 ◆

 出てきたのが片足だけ、というのは、最も厄介かつ最悪だ。
 つまりもう片方の足は、産道の何処かに引っかかっている。
 母体は赤子を外に出そうとするし、赤子も外に出ようとするから、その力は直接、赤子にかかってしまう。
 首が折れるか。
 足が折れるか。

 この状況に陥った場合、最も適切な回答は――――帝王切開となる。
 ただし。

「…………」
 麻酔をかける時間はない。
 直接、今すぐ、裂くしかない。

「やって!」
 気配を察したのだろう。
 エトワールが叫んだ。

「切って、お願い、切って……っ」
 絶叫を、悲鳴を飲み込んで、懇願した。

「……わかりました」
 子供を救う。母親も救う。
 なんとか最小限に抑えて、切るしかない。
 猟兵達が繋いだ、エトワールの体力と生命を信じるしか……ない。

「いいや」
 メスを手にした遙に、割り込むようにヴィクティムは言った。

「まだだ、まだ駄目だ先生、そうだろチューマ!」
「ヴィム? 何する気――――」
            、、
「言ったろはじめから! 転移させるんだよ!
「っ!」
 それは。

「駄目です、許可出来ません!」
「大丈夫だ――信じてくれ先生、今ならわかるだろ、“体勢”が!」
「体勢……あなた達まさか」
 赤ん坊を体外に転移させる。
 それを実現するユーベルコードがあったとして、危険すぎる行為だ。
 へその緒が首に絡まったままだったら?
 どこからどこまでが母親として判定されるのか?
 子供に引っ張られて引き剥がされた肉が、母体にダメージを与えるかも。
 様々な思考の上での却下だった。

「あなた達が何を考えているのかは、わかりました」
 だが。
 仮に生命が助かっても、身寄りがなければ誰が育てる?
 皆が思った。だからこそ、母親をなんとしても助けねばならなかった。

「……ひっくり返そうとはしないでください」
 命を救うために最善を尽くす。
 リスクはある。

「!」
「へその緒が首に引っかかっている可能性があります。引っかかっている片足を、外に出して。そうすれば、取り上げられます」
「……了解っ!」
 偽りのグリモアが光を放つ。
 未来を予知する力はない。
 あるのはただ、未来にいたろうとする意思だけだ。

 ◆

 子供。
 なんとも、ふわふわした存在だと思う。
 いや、自分のまだ、世間的には子供なのだけど、赤ん坊なんて存在はもっとふわふわしている。

 (――嗚呼、なんてロクでもない。)
 けど、小さくて、か弱くて……誰もがかつては、そうだった。

(人を虐げる過去の残滓も。それ以上に、同じ人を虐げる存在も。
 この世界は、あまりに僕の嫌いなものに満ち溢れてる。)
 だったら、手を差し伸べたいと思うのが普通じゃないか。
 だったら、助けたいと思うのが当然じゃないか。
 だって、元々は自分たちだって、こうやって生まれてきたはずなんだから。

(……どうか、諦めないで。圧制にも、君を虐げる全てにも)
 零井戸は、エトワールの手をとった。
 極限まで強化された知覚が、生体電流を読み取って、赤子の位置を探り、割り出す。
 得たデータを即座に転送。

「頑張れ」
 思うだけでは、きっと足りない。

「頑張れ!」
 声にしたって、まだ足りない。

「頑張れっ! お母さんだろ!」
 泥っぽく叫べ。あなたを助けたい人が、ちゃんとここにいると伝わるように。

「後は任せたよ、チューマ……っ!」

 ◆

 疑似グリモア、発動。
 現実を0と1に置換して、書き換えて、また現実に戻す。
 何度やっても骨が折れる。世界を構成する要素が違いすぎるからだ。
 だが。

 それを操り、支配する度に、彼は幾度となく感じる。
           クソッタレ
「――――ああ、ドレックな現実を変えたいのさ」
 どうにもならない。
 どうにも出来ない。
 聞き飽きた、そんな言葉は。

 煩わしいんだ。何もかも。
 泣くなよ、諦めるなよ、絶望するなよ。

 さあ、剣を手に取れチューマ。
 安心しろ、俺がいるだろう。
 お前という主役に、敗北なんてさせてたまるかよ。

 なあ、すごいだろ?
 誰かが先行く未来のために、全力を費やしてやる、細やかな端役がここに居るんだぜ?
 それこそが何よりの幸運だ。それこそが何よりの希望だ。

 “お前が居てくれて助かったよ”

 そしたら俺はこういうのさ。

 “俺は端役だ、主役はお前だよ、頑張ったじゃねえか、チューマ?”

 それで解決。ハッピーエンド。ありきたりな結末を、ああ、幾らでも量産してやる。
 だから――――諦めるなよ。

 ――――そう。
  、、、、、、、
 無力である程度は、止まる理由になどないのだから。

 ◆

 胴体を持って、引きずり出す。揃った両足が、ちゃんとそこにあった。
 案の定、へその緒は首に引っかかっていた。ゆっくり外して、再び外へ。

「あああああああああああっ! ――――あっ」
 最後の悲鳴、それから、一瞬途切れた声。

「生まれた――――生まれたよヴィム!」
 零井戸が声を上げる。ヴィクティムも、じっとそれを見た。
 新しい生命が、外に出た。一つのものとして確立した瞬間。

「何だこりゃ」
 途方もない。
 こんなものを腹に抱えて、女というのは生きるのか。
 誰もが、こんなものを体の中でこさえるのか。

「……凄いな」
「うん、本当に…………あれ」
 けど。
 足りないものがある。
 なくてはならないものがある。
 聞こえなくては、ならないものがある。

「大丈夫です」
 ――――遙は誰より冷静だった。
 とんとん、と赤子の背中を叩く。ごぼ、と水音が響いて、小さな口からどばっと液体が流れ出た。

「う」
 そして。

「うぁ」
 そして。

「うぁあああああああああああああ! うぁああああああああああああああああああああああ!」
 小さな手を高く掲げて。
 小さな足をぴくぴくと動かして。
 目を閉じたまま、けれど、大きく口を開けて。

「うぁああああああう! うぁあああああああああああああああ! うあああああああああああああああああ!」
 ……大きな、泣き声を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク
【4】
必ず助ける、などと大見得を切ったものの
生憎と医療に関する知識は疎い

エトワールの手を握る
本来であれば父親の役目だったろう

この状況で子をもうけるなど些か無責任とは思わなくもない

希望が欲しかったのだと
残せる何かが欲しかったのだと

其れを思えば同情の余地はある

生きろ
エトワール

子が助かればそれでいい?
詭弁だな

きみが死ねば
その子はひとり
この世界に放り出されるのだぞ

昏闇の世界
きみはたったひとりで生きられるのか?
どうかきみの苦しみを
その子にまで味わわせてあげるな

献身は美徳ではない
生きる事を放棄してはならぬ

生きるのだ
これから生まれてくるその子の為に


【5】
最終手段
血を分け与え眷属化し
生命力向上を試みる



 うつろな世界だった。
 光の射さない暗闇に女はいた。

 けれどショックとか、何かを感じるということはなく。
 “嗚呼、戻ってきたんだな”と思うばかりだった。

「もう良いのか」
 ふいに、誰かの声が響いた。
 同じ闇の中で、前にもその声を聞いたような気がした。

“ええ、だって、あの子はちゃんと生まれたから”
 それだけで満足だ。
 それ以上望むべくもない。
 それ以上、望んでいいわけがない。
 何人もの人が、励ましてくれたけれど。
 やっぱり、願ってはいけなかった。身の丈に合わない幸せなど。

「それは違うな」
 闇の中に、小さな炎が灯った。

「希望が欲しかったと、残せる何かが欲しかったと、だから子をもうけたのだろう、君たちは」
 そう、女は求めた。
 自分がこの世界に生きた意味を。

“いいんです、あの子が生まれてくれれば。私はどうなったって”
「違うな。子が助かればそれでいい? 詭弁だな」
 声は、その望みを一笑に付す。

「生きろ、エトワール」
 ならば、産み落として終わりでいいはずがない。
 この世界は残酷だ。
 人は家畜で、支配者は吸血鬼。
 救いの欠片もない、昏闇の世界。

「きみが死ねばその子はひとり、この世界に放り出されるのだぞ」
 知っている。
 女は知っている。
 なにもない黒の中、凍え、震え、僅かな希望に縋る孤独。
 頼るべきもののない、絶望。

「どうかきみの苦しみを」
 知っているから。

「その子にまで味わわせてあげるな」
 痛ましいほど、知っているから。

“だって”
 女は嘆く。

“望んだって、叶わないじゃないですか”
 女は呪う。

“私が望んだことなんて、何一つ、叶わなかった――せめて、せめてたった一つ、それだけを願うのが、いけないことですか”
 女は泣く。
 自分を取り巻く、あまりの不条理に。
 親を、愛する人を失って。
 その上、たった一つ身籠った生命すら失うのであれば。
 生命と引き換えに、と望んで、何が悪い。

「献身は美徳ではない」
 声はその悲鳴すらも。

「生きる事を放棄してはならぬ」
 まるで“許さない”と言わんばかり。

「生きるのだ、これから生まれてくるその子の為に」
 それがこの世界で子を成した、母の責任。

“そんなの!”
 闇に木霊する。

“生きたいに決まってる! 私だって! この子のそばで! ずっと!”
 女の叫びは。

「ならば」
 届いた。
 、、、
「生きろ、どの様な形であろうとも」

 ◆

 目をひらいた。
 光があった。
 彼女がいままで見たこともない、強く、激しく、真っ白な光。
 天国かと思ったけれど、違うだろう。
 だって、こんなにも耳を打つ音が聞こえてくる。

「あか、ちゃん」
 手を伸ばす。
 明るくて、よく見えない。はじめての体験だった。
 けれど、確かにそこにいる。
 愛おしくて、愛おしくて、だけど、抱けないと思っていた我が子。
 誰かが体を起こしてくれた。
 ずっと、誰かが支えてくれていた。それは、わかっていた。
 一体誰? と聞く事も、まだ彼女には出来なかった。
 そんな余裕なんてなかった。
 たった一つのものに、すべての意識が注がれていた。

「ああ」
 まだ泣いている。
 ずっとずっと泣いている。
 生きているんだぞと。
 ここにいるんだぞと。
 力強く、泣いている。

 夢見てきた。
 求めてきた。
 体にあなたが宿った日から。
 この瞬間がくればいいと。
 願い、望み、求めた。

 そう――――ただ、君の泣く声が聞きたかった。

 ◆

 女の首筋に、僅かに赤い色がついていたのを、誰も知る由はなかった。
 それが、いかなる決断の上で、もたらされたのか。
 知るのは、ただ一人のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『病喰い』ヴィルドラグ』

POW   :    パンデミック
【身に纏う瘴気】から【感染力の高いウイルス】を放ち、【症状である軽度の麻痺】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    環境適応
戦闘中に食べた【病】の量と質に応じて【体内の病原が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    突然変異
【体内のウイルスを変異させ狂暴状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。

イラスト:AKKBeryl

👑11
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 その竜は瘴気を纏って飛ぶ。
 その竜は病を巻き散らかしながら飛ぶ。
 『病喰い』ヴィルドラグは。

『刻限だ』
 村に舞い降り、告げた。

『贄を差し出せ』

 ◆

「ヴィルドラグ様!!」
 5mを超える体躯の、その足元に真っ先に駆け寄ったのは、村長だった。
 猟兵が展開した空間を指し、懇願するように叫ぶ。

「贄はあの中でございます! 我々はしかと、贄の準備を整えました! どうかお慈悲を!」
 その言葉が意味する所が、どれほど醜悪なことか。
 ヴィルドラグは一つ頷くと、静かにその領域に近づいていく。

「ヴィルドラグ様、どうか村人の治……がっ」
 治療を頼む、ということはできなかった。
 上半身が、あっさりと喰いちぎられて、下半身が崩れ落ちる。
 その場に残っていた村人たちが、ひ、とか、え、とか声を上げた。

「何でだ!? 生贄を捧げれば病は治すって……!」
『何故に?』
 村人の声に、ヴィルドラグは淡々と告げる。

『汝らは我との契約を果たせなかった』
 ……一つ、村長を含めた村人達の、致命的な勘違いがあった。

『故に、汝らとの契約は終了した。我は腹を満たし、次の領地へ行くとしよう』
 村人たちにとって、支配者はヴィルドラグでなくてはいけなかったが。
 ヴィルドラグにとっては、別にこの村である必要はないということだ。
 そもそも、考えてみればいい。
 半年に一人の生贄で、足りるわけがない。
 いくつもの村で。
 いくつもの場所で。
 ヴィルドラグは、同じことをしているのだ。

 ……契約を果たせなかった時点で、ヴィルドラグは見切りをつけた。
 病を撒いたのは、最後に村人達を“喰う”為だ。

「うぐ、げほっ、ごほっ」
 誰かが咳き込む。血が溢れる。
 元凶がそこに居合わせることで、病が急速に進行しているのだ。
 ヴィルドラグ好みに蝕まれた人間は、適当に食い荒らす分には上等な餌となるだろう。

「そんな、そんな、そんな……」
 因果応報だろうか。
 あるいは、自業自得だろうか。
 村人たちの犯した罪に対する報いと言っても良いかもしれない。
 それでも。

「やっと出てきたな、ヴィルドラグ」
 猟兵の誰かが言った。
 そう、彼らは戦うのだ。
 ……新たな命を、守るために。

◆ Regulation ◆
 冒頭に(1)と(2)、どちらを選択するか明記してください。

1)ヴィルドラグと戦闘する。
 ヴィルドラグと戦います。
 戦闘開始直後に、ヴィルドラグの能力によって病に犯されるため、なんの対策もしていない場合、まともに戦うのは難しくなると思います。
 これは戦闘開始時の位置を問いません、遠距離狙撃でも容赦なく病に囚われます。どのような症状が発生するかはリプレイを参考にしてください。

2)村人を守る
 ヴィルドラグは、強化を兼ねて、村人を襲い、これを捕食します。
 村人を守らない場合、ヴィルドラグは無尽蔵に強化・治療されていきます。
 防御に回った場合でも病に侵される為、その後攻撃に参加するのは難しいでしょう。

3)その他
 エトワールと生まれた子供に対して、なにかあれば書いてください。(1)または(2)と平行して行えます。

 プレイングの受付は5/5 8:30からです。
 また、多分、おそらく、きっと、確実に再送をお願いすることになると思いますが一つめげずによろしくおねがいします。
土斬・戎兵衛
○(2)

さあさあ、ようやっと本業、斬った張ったの刻でござる
村を守って、村人にも、同業にも名を売ろうか

多人数・広域に病対策をしてくれる同業がいたら恩恵に預かる

拙者はUCで銀貨を【早業】射出
銀には化学的にも、たぶん魔術的にも抗菌力があるもの
自己強化効果に加え、抗菌作用で病原菌に立ち向かおうぞ
村人に近づくヴィルドラグを妨害、突然変異で敵の理性がなくなったら射出した銀貨で意識を引いて本差し・分渡で一閃

ダークセイヴァーに経済社会を築くためにも、悪しき支配はこれにて幕引きとしてもらおう

そーいや、俺ちゃんの見つけたウイルス注射は、生け贄を感染させる用だったんかな?
ヴィルドラグが注射器まで用意してくれたのか?


挾間・野菊

(2)

アドリブ合流等歓迎


……ここ、きらいだけど

……アナタ、もっときらい
斬るよ


敵の首を刈る
その為ならば、気が進まない相手でも
慣れないけれど、守ってみよう
脅してでも、蹴っ飛ばしてでも、逃がして
村の人間は食わせない

熱に茹って、臓物が狂い、痛みに覆われ、頭だけは冴えわたる
……五体満足でない戦いなんて、いつものことだ
殺意と激痛への慣れと、培ってきた戦場作法
この刃は、細る程に鋭さを増す

※技の流派名や描写、捏造歓迎


……わかってない、わけじゃない
弱いものは、選べない
心では、あの子たちを想っていた人もいるかもしれない
だけど、割り切れない
どうしても

あの子たちの、行くさきはわからない
それでも、今はただできることを


アロンソ・ピノ
(2)むなくそ悪い……ああ、むなくそ悪いな。

こういう使い方は初めてだが……というより、あまり使わない型だが、ユーベルコードは冬唄にする。
んで、村人とオレに降りかかる病を斬りながら、ヴィルドラグ本体からも守りきる。
最初に村人に手出しちまったしな。役回りとしちゃ守ってやるのが筋か。クソッタレの多い村人どもでもな。
ただ、あまり保たんぞ。身体中痛むしな、これ使ってると呪縛で。
てなわけで攻める奴ら、頑張ってくれだべ。
むなくそ悪かろうが、守らにゃならんものもある。
エトワール達だけ残して全滅しても意味が無いしな。エトワール、クソッタレな世界と村だが、頑張れよ。

――春夏秋冬流、参る。
(アドリブ、絡み歓迎)



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  きった、はった、かった
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「げほっ、ごほっ」
「こっちだ、逃げろ! 速く……うぐっ」
「助けてぇ! 誰かぁ!」
 ヴィルドラグの放つ濃密な薄紫色の瘴気は、間をおかず村全体に広がり、生あるもの全てを容赦なく侵していく。
 一度、その病に感染してしまえば、後は等しく竜の餌にほかならない。

「ひ、ひぃっ!」
 瘴気に触れた木々が即座に枯れ果てる。そのあまりの侵食力に、逃げ切れぬ者もいる。
 娘が一人、脚をもつれさせて転んだ。病はみるみると迫る。逃げる脚が間に合わぬほどに。

「や、やめろぉっ!」
 青年が、女をかばうようにのしかかった。同じことだ。どちらも等しく、侵される。
 目を閉じて、その時が来るのを待つ。
 ヴィルドラグの病に侵されたものが、どんな無惨な姿になるか、彼は知っていた。
 その現実を直視など――――できようもない。
 …………どれだけ待っても。
 身を焦がす熱も、底冷えするような寒さも訪れなかった。

「ああ」
 声が、した。

「むなくそ悪いな」
 青年は、ゆっくりと目を開いて、眼前の“桃色”を見上げ、息を呑む。
 先程、自分たちに脅しをかけてきた、あの――――。

 ●

「とっとと逃げろ――クソッタレ」
 抜き身の刀を構えたアロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)は、背中越しにそう告げた。

「あ、あんた……」
「走れ、まだ来るぞ」
「あ、ありがとう――ありがとう……!」
 青年は、女の肩を抱いて走り出す。遅々とした動き。
 その背中を見送りながら、アロンソは思う。

 あぁ。
 命をかけて守ろうとするぐらい、誰かに優しく出来るなら。
 何故、あの子にもそうしてやらなかった。

 本当にむなくそ悪い仕事だ。
 何より、戦う相手が、あの竜でないのが気に食わない。
 この手で断ち切れたらどれほど良かったか。
 だが。

「……先に手出しちまったしな、役回りとしちゃ守ってやるのが筋だろうよ。むなくそ悪かろうが、守らにゃならんものもある」
 どれだけ気に食わなかろうと。
 どれだけ癇に触ろうと。
 生きている以上は守るのだ。
 守るために戦うのだ。
 それに。

「エトワール達だけ残っても意味がないしな」
 小さな手、か弱い体。細い腕。
 彼女たちが生きていくために……どうしても、まだこの村は必要だ。
 だからアロンソはここに残ったのだ。

「………ここから先は通さんべ」
 鞘に刀を収め、再度、腰を落とし構える。
 《瞬化襲刀》は、四季折々が見せる木々の色のように、その形を抜き放つ毎に変える。
 春の桃色にも。
 夏の青葉にも。
 秋の紅葉にも。
 冬の枯枝にも。
 その表情を変化させる。

「春夏秋冬流」
 一閃が走った。

「冬の型 弐の太刀 冬唄」
 それは調伏の刃。
 悪鬼羅刹、魑魅魍魎、妖怪変化、怨霊怪異。
 ありとあらゆる目に見えぬ魔を断つ為の剣。

 それがたとえ“病”であったとしても。
 形がないゆえに。
 形を捉えて、斬る。

「…………っ! 頼むぜ、長くは保たん……!」
 その超常を実現するために支払う対価は、己が命。
 

「いざ――――春夏秋冬流、参る!」

 ●

 ようやっと、やりやすい事態になった。
 物事には敵がいるべきで、敵を斬り伏せたら解決すべきだ。楽で良いしわかりやすい。
 ただでさえ、商売事というのは頭を使うのだから。
 戦う事ぐらいは、単純明快で良いだろう。

 斬った張ったの刻が来た。
 土斬・戎兵衛("刃筋"の十・f12308)が最も十全に出来る仕事だ。

「とはいえこれはねぇ」
 喉の奥が焼け付くように痛む。瘴気を少し吸っただけでこの有様だ。
 全身包まれたら最後だろう、できれば、対策を施した猟兵のおこぼれに預かりたいものだが。
 懐から取り出した銀貨――大事な大事なお金ちゃんは、ものの見事に、黒くくすんでいた。

「ちぃ、良くもお金ちゃんを――っと言ってる場合じゃないか」
 ヴィルドラグの放つ病は強力だ。
 さて、どうしたものかと考えたところで。

「おや」
 木々の間を駆け抜ける、一つの黒い影が視界の端に止まった。

 ●

「きゃあああああああああああああ!」
 ヴィルドラグの顎は、ひらけば人一人飲み込む事など容易い。
 相手が小さな子供ならなおさらで、病に侵され、動きの鈍ったその娘は、転んで起き上がる暇すらなかった。
 迫りくる竜の口の中は、悍ましい色をしていた。
 あれに飲まれて、噛まれて、食われて、死ぬまでに。
 どれぐらいの痛みを味わうのだろう……などと怯えることができたのは、きっと死を目前にして体感時間が果てしなく伸びたからか。

「げ、うっ」
 結論からいうなら、その心配はしなくてよくなったし、今後とも怯える必要はなくなった。
 少女の腹を、無造作に蹴り飛ばすものがいたからだ。
 顎が空を噛み合わせ、がちんと硬質な音が響いた。

『ぬ……』
 獲物を喰らいそこねたヴィルドラグが目をやる先。
 女がいた。
 病に侵されるまでもなく、白い肌と不健康そうな顔立ち。醜く血の滲む傷跡。
 枝より折りてくるやいなや、少女を蹴り飛ばした挾間・野菊(血泥に咲く花・f04250)は、冷徹に告げた。

「失せて」
 邪魔だから。
 食わせるわけには行かないから。
 気に食わないけど。
 それが竜の首を落とすために必要だから。
 村人を守るという行為と、利害が一致したから。

「ひいっ」
 怯えた目をして、少女は、這うように逃げる。
 それでいい。
 ここは戦場なのだから
 殺すものと、殺されるものだけが居ればいい。

「……ここ、きらいだけど」
 両手にそれぞれ、刃を一振りずつ。

「……アナタ、もっときらい」
 ゆらり、と体を前に倒したと思った時には。

「斬るよ」
 もう、竜の眼前に迫っていた。

 ●

『愚か』
 猟兵とて、ヴィルドラグの敵ではない。
 彼は竜である、人に怯える道理などない。
 また、対峙した時点で病はすでに敵を侵している。
 動きは鈍り、思考は乱れ、そして餌としての資格を満たしている。
 まずは五体を引き裂いて、ゆっくり食らってやろう。
 そう判じ、爪を振り上げた所で。

 ――――猟兵の姿が消えた。

『!』
 ヴィルドラグの、毒を含んだ表皮が、わずかに裂かれた。
 浅く、痛みもないほどの、しかし確かな傷。
 問題は、その動きを、目で追えなかった事……だ。

 病に侵されれば。
 全身からこみ上げる熱と痛み、寒気と怖気で、動けなくなるはずなのに。
 チッ、チッ、チッ、と。
 体を擦る感覚が増えていく。
 プシッ、と、紫色の血が咲いた。

 ●

 ぐるりと視界が回る。
 平衡感覚が狂っている。
 頭に昇った熱が体液を隅々まで茹で上がらせる。
 臓物が機能を狂わせ悲鳴をあげる。
 痛覚という痛覚が全身を貪っている。
 、、、
 だからこんなにも疾い。

 戦場とはそういうものだ。
 負傷しているのが大前提、血が足りない事等日常茶飯事。
 傷つけば傷つくほど、体は戦に馴染んでいく。
 肩が腕が手が指が爪が――覚えている。
 技ではない。
 本能が。

『不快』
 ヴィルドラグは大きく尾を振りかぶった。
 その動作は、間違いなく認識できたのだが――――。

「っ」
 体が、突如言うことを効かなくなった。
 毒を喰らわば皿までと言っても。
 毒を喰らえば、やがて死ぬ。
 意識より先に、体の限界が来た。
 大きくしなった尾が腹にぶち当たる、吹き飛ばされて、木々を二本ほどへし折って、それからようやく、強制的に体が停止した。

『些末なる者が……!』
 どうやら、あの竜は怒っているらしい。
 成程、つまりは野菊にかまっている。
 その分、村人からは遠ざかる。
 目的は……果たせていると言って良い。

(…………あぁ)
 わかっているのだ。
 言われるまでもない。
 この世界で人間は、支配されながら生きている。
 村人は、確かに邪悪だったが。
 全員がそうでは、きっとないだろう。
 村の方針に支配されて、その流れに従っていた者たちだって居るはずだ。
 本当は、エトワールに。
 優しくしたかったヒトが、いるかも知れない。
 生命を賭した、トゥライのように。

(…………けど)
 受け入れられない。受け入れたくない。
 それとこれとは、別なのだ。
 割り切れない。

 だから――野菊は戦うのだ。
 いのちは、救えない。
 助けることなど、苦手だ。
 殺して守る以外の事を知らない。

『喰らってくれるわ。愚かなる猟兵よ』
 瘴気の顎が、ゆっくりと近づく。
 まだ意識は戦闘感覚の中にあるから。
 異常なほど、その動作が遅く感じられた。
 横合いから飛んできた、くるくる回る銀貨も、しっかりと見て取れた。

(……?)
 銀貨は、竜の側頭部に命中した。
 頭を軽く揺らす程度の衝撃と、カキン、と甲高い音。
 空気を伝って耳に入る前に、もう動かないはずの体が動いた。
 隙があるなら、突かねば。
 それは、徹底的に染み付いた、女の習慣。
 獲物をかちあげるように放つ。一際大きな牙に、刃がかかる。

「いやあ、お見事でござるなあ」
 そんな声が、どこかから響いた。
 横薙ぎの一閃が追加され、二つの剣撃がその牙をへし折った。

 ●

 娘を追いかけてきてみれば、何やら斬った張ったをしているものだから。
 ついつい、手を出してしまった、いや、お金ちゃんを出してしまった。
 くすんでしまった銀貨の意趣返しだ。勿論回収は忘れないが。

「逃げ足の早いことでござるなあ」
 牙一本。それでヴィルドラグは撤退した。
 恐らくは、餌を探しに行ったのだろう。栄養さえ補給できれば、また生えるのかも知れない。
 地に転がった、そのヴィルドラグの牙を蹴転がす。先端から、じわりと濃い紫色の液体が滲み出た――これもまた、奴の持つ毒なのだろう。
 ヴィルドラグに刃を振って以降、倒れて動かない少女に目を向ける。
 呼吸はしているから死んでは居ないようだが、皮膚の色は明らかによろしくない。

「ん? これで血清の材料は手に入ったのかな? 独占販売と行かないのが残念でござるが」
 早めに血清を手に入れてないと、どれだけ犠牲が広がるものやらわかったものではない。
 ダークセイヴァーに経済社会を築くため、まずはこいつを上手く使うことだ。
 村人にも同業者にも恩を売る。生命は最高だ、金に変えられないから、レートが無尽蔵に跳ね上がる。

「……しかし」
 “準備”を進めながら、戎兵衛はふと思った。

「俺ちゃんが手に入れたあの注射器は……ヴィルドラグが用意してくれたのかね?」
 生贄を感染させるためか。
 もっと別の目的があったのか。
 運命の螺旋が辿り着いた、人力の奇跡の結晶は、余人の知るところではない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシス・リデル

2)村の人たちを守る、よ
この村の人たちはひどい事をしてたのかも、知れないけど
それでも、笑ってる人たちはいたもん
なにも知らなかっただけ、だとしても
その笑顔は、それを守りたかった気持ちは、嘘じゃない、筈だから
だったら、守らなきゃ

分裂したわたしたちと手分けして村中を回る、よ
追跡体のわたしたちで村の人たちを探して
動けなくなってる人は、収集体のわたしたちの中に一度隠しちゃう、ね
わたしの中に病を取り込んで、村中をお掃除していく、よ
わたしの力で耐性が付けば、またすぐ病気になったりはしない筈だから

こんなに近付いたら、村の人たちにまた、嫌な思いさせちゃうかも、知れないけど
助けられないよりずっといい、よね


天御鏡・百々

(2)村人を守る

村人をも食らうというならば
我が力にてそれを防ぐとしよう

赤子も母体も救うことができた
後はこの敵を倒して、村を救えば大団円だな

神通力(武器)による障壁(オーラ防御53)を主に使って
敵の攻撃を防いでいくぞ

敵の攻撃が2回目以降の使用ならば
『幻鏡相殺』にて相殺してやろう

敵の撒く病に対しては
都度『生まれながらの光』で治療する
完治は無理でも、進行は遅らせられるであろう

敵の『突然変異』に関しては
タイミングを見て『真実を映す神鏡』にて強化を解除してやろう
解除すれば隙もできるはず
仲間を鼓舞し、攻撃を促そう(鼓舞10)

●アドリブはご自由にどうぞ


月輪・美月

良かった……後は任せてください。なあに、子供と貴女を無事に助ける事に比べたら、竜退治なんて軽いものですよ。僕たちはそれが本業ですから!

……とは言って華麗に飛び出したものの……流石に病は防げませんね……前から病に侵されていた村の人達は限界が近い。
完全に動けなくなる前に勝負を決めるしかない

病は防げませんけど……そもそも戦うのは僕じゃないので。
……影の狼の牙を止める事は出来ません。そいつは僕が死ぬまで戦い続けますよ?

ほらほら、無力な村人を襲ってる場合じゃない……こっちにこい、化物!
どっちが先に倒れるか、勝負と行きましょう
【自身を囮にして逃げ回り、その間に影で出来た巨大な狼で攻撃する】



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
    とうとい けんしん
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「うう……」
 呻き、倒れ伏した村人は、熱にうなされながら、その異臭を感じ取った。

「う、ぶ」
 吐き気をもよおすが、それすらままならない。
 思うように体が動かないと言うことが、こんなにも恐ろしい。

(ひょこっ)
 と、顔を出したのは、拳大の、小さな黒い液体の塊だった。
 よく見れば、それは少女の形をしていて。
 ドブを煮詰めたような悪臭を放っていた。

「みつけたよ」
 アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は、その体をある程度分割することが出来る。
 人ならざる者故の異能。そして……。

「ごめんね、でも、しんじゃうより、いいよね?」
 小さなアイシスが、村人に触れると同時に、病を吸い上げる。
 穢れや不浄を蓄積するアイシスの体ならば、病を取り込んでも問題ないことは証明済みだ。
 それが終われば、ずるっ、と粘液が一瞬で、その体を覆い尽くし。

「ごくんっ」
 飲み込んで、消してしまった。後の残ったのは、小さなアイシスだけだ。
 勿論、食べてしまったとかではなく、アイシスの作り出した、別空間へ転送したのである。
 今頃、村中に散ったアイシスの分裂体が、同じ様に動けなくなった村人達を保護しているはずだ。
 最も、その空間の中も、お世辞にも居心地が良いとも、臭いがきつくないとは言わないが。

 家の外に出て、探索を続けながら、ばら撒かれた病を取り込んで、土地を浄化してゆく。
 最も――――。

『濃い餌の匂いがすると思えば』
 ……巨大な影が、アイシスの真上を横切った。

『この様な“料理”を施してくれるとはな』
 今回に限って、少女の献身は――まごうことなき自殺行為だった。

 ●

「~~~~~~~~っ!」
 アイシスの分裂体たちは、基本的に意識と五感を共有している。
 だから、村中に散った彼女達は、自分が“喰われる”体験を生きながら感じる事となった。
 口腔内に満ちた、瘴気の唾液に、バラバラに裂かれて、撹拌されて混ぜ合わされれば、如何にアイシス・リデルとて無事では済むまい

 ――ヴィルドラグにとって、病は餌だ。
 なら、その病を取り込みながら、村中を這いずった……それも小さく分たれたアイシスなど、“調理済みのご馳走”にほかならない。

 自分を“喰う”様な存在が居るとは思っても見なかった。
 触れられる事に慣れていないのだから。
 まして、体に入れる様な生物がいるなどと!
 意思とは関係なく体を引き裂かれ、貪られ、飲まれ、他者の体の一部になって消滅する感覚。

「どう、しよう」
 それでも、救助の手は必要だ。
 アイシスがされたことは、これから村人達がされることなのだから。
 どれだけひどいことをしていたとしても。
 彼らには彼らの守りたいものがあって。
 笑顔を浮かべていた。暮らしがあった。
 なら、アイシスは、それを守らなければならない。

 尊いものを守れないのならば、穢れたこの身に何の意味があるというのか。

「……うん、がんばらないと」
 意を決して、再び救助に動き出す。
 もうほとんど、自分で動けない人たちは助けたはずだ。
 あとは……。

「あっ」
 分裂体の一人が、見つけた。
 枯れ朽ちた樹のうろの中で、膝を抱えて震える小さな子供だった。
 意識が朦朧としているようなので、一言だけ謝って、体に取り込もうとする。
 瞬間。

『ここか』
 空を切る羽音、悍ましい瘴気。
 ヴィルドラグが、うろの中に、その鼻先を向けた。

「な、なんで……?」
『濃い病の臭いを辿ったまでの事。貴様は美味だった。どの様にすればもっと嘆く?』
 誰かが苦しむ感情を、ヴィルドラグは好む。
 にたりと嘲笑って、口を開いた。濃密な瘴気が、端からこぼれた。
 それを察して、ぞっとした。

 ――――アイシスは……自分の痛みなら、どれだけだって耐えるけれど。
 ――――守ろうとした誰かが傷つくことは、どれだけだって耐えられない。

「や、やめ――――」
 吐き出される瘴気は、狭いうろの中を埋め尽くし。
 中に居た子供の病を一瞬で末期まで進行させて殺すだろう。

「やめて――――――!」
 ゴバ、と紫色のそれが、吐き出された。

 ……。
 反射的に目を閉じ、怯えても、何も起こらなかった。
 恐る恐る開けば、不思議な、柔らかい光が、アイシスと子供を包んでいた。

「救助するのであろう? 子供は避難させてやってくれぬか」
 高い声が聞こえて、見上げる。
 うろの前に、ヴィルドラグは居なかった。
 代わりに丁寧な刺繍が施された服を幾重にも纏った、とてもとても綺麗な少女が立っていた。
 彼女が背負う光が、アイシス達を守っているのだと、理解した。

「あ、あの、ヴィルドラグ、は……?」
「食い止めている所よ。が、長持ちはすまい。汝も避難せよ」
「でも……」
「汝が喰われればヴィルドラグは傷を癒やすであろう。それは好ましくない。大丈夫だ。汝は――――」
 少女は。ニコリと微笑んで、小さなアイシスの小さな頭に、小さな手で臆することなく触れた。

「よく頑張った。後は任せよ」
「――うん」

 ●

「さて」
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、小さなアイシスを逃しながら、戦場を睨んだ。
 ――――竜にまさるとも劣らぬ巨大な狼が、ヴィルドラグと対峙していた。
 ただし、立体感がない。狼の形をした黒い平面が、間違えて現実世界に零れ出てしまったかのようなビジュアル。
 爪と牙は、ヴィルドラグに浅い傷をいくつも刻み、

「百々さん! そっちに居た人は!」
 それを操る者こそ、銀髪の人狼、月輪・美月(月を覆う黒影・f01229)だ。
 ヴィルドラグと一定の距離を保って、影狼をけしかけながら、
 
「救助は済んだ! ―――退くぞ!」
「ええ……ごほっ」
「あまり無茶をするでないぞ、彼奴の毒は――――」
 百々の宿す神通力から放たれる光のオーラは、不浄を退ける。
 まさしく、ヴィルドラグの天敵だ。だが……。

「近くにいるにはあまりに――――濃すぎる」
 無限ではないし、永遠でもない。
 こうして目に見える距離にいれば、防御をどんどんと侵食してきて、体が少しずつ痺れ始める。
 その度、聖者の持ちうる光で治療を重ねるが、エトワールの出産の介助の疲労もまだ完全に抜けているわけではない。

(長くは持たぬか……だが)
 ヴィルドラグは、餌を求めて、猟兵と距離を起きながら、村人を喰らおうとしている。
 時間を稼いで、まだ安全を確保できて居ない村人を守りきり――――他の者達が追いつく時間を作る。

「……その」
 不意に、傍らの美月が、言いづらそうに呟いた。

「む? どうした美月殿」
「すいません……ちょっと失礼!」
「何……ひぁっ!?」
 常日頃から重々しい口調で話す百々の口から、あまりでてはならぬ声が出た。
 それもそのはずで、肩と腿裏に手を回され、いわゆるお姫様抱っこの姿勢で抱きかかえられたからである。

「本当にすいません、決して下心は本当に無いんですが!」
「な、何をそんなに慌てておるのだ……」
 ヤドリガミとしてはともかく、体は八歳の童女のそれだ。美月が何故こうも動揺しているのかと、百々は首を傾げた。

「すまぬ、我も消耗しているようだ、脚が遅かったか」
「いえ、そういうわけではないんですが……少し、荒くなりますから」
 影の狼が、ヴィルドラグの喉元に喰らいつく。血に触れ、瘴気に触れても、影には何の影響もない。
 ただし、この狼は美月と生命力を共有する為――――。

「っ」
 ビシ、と美月の肩が弾けた。飛び散った血が、百々の頬を濡らした。

「美月殿!」
 すぐさま、治癒の光が放たれる。傷は癒えていくが、反動で童女の息が荒くなっていく。
 結局、二人と一匹が、生命の総量を共有している状態にすぎない。
 どこまで行けば
「大丈夫――もう少しですから!」
「もう少し?」
「ええ……ヴィルドラグを、引きつけて、連れて行きます――仲間たちの元まで」
「……! 居るのか、この先に」
「匂いが向こうから。ですので――――」
 徐々に、影狼の形が揺らぎはじめている。
 このまま進めば、逃げ切れるか。

「いや」
 例えばこんな時。
 “あの子”ならどうするだろう。
 考えるまでもない。きっと狂笑をあげながら、刀片手に突撃するに違いない。
 勝ち負けの勘定をするのではなく、闘争に意味を求めているから。
 美月はそこまで、外れられない。
 美月はそこまで、壊れられない。
 だが……今の自分は。
 女の子の前で――敵前逃亡しているのだ。

「……一発、かましてやりましょう」
「大丈夫なのか?」
「これは内緒なのですが、僕、女の子の前では格好をつけたいんですよ」
「本当に秘めておくべきだなそれは……」
 百々は、苦笑しながら、手にした鏡を、自らを抱える美月に向けた。

「美月殿は影を操るのであろう」
 ならば。

「光ある所に生まれるのが、道理」
 眩い光が、神鏡から放射状に放たれた。
 光を遮れば影となる。美月によって生じた影は――――――。

「“影狼”」
 彼一人が作るそれより、遥かに大きい。

「吼えろ――――日輪鏡狼!」
『ム!』
 ヴィルドラグの頭より、遥かな高みから。
 巨大な爪が、頭部めがけて振り下ろされた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ミーユイ・ロッソカステル
○(2)

……とんだ悪食だこと
咳き込みながらそう呟き

喰らうならただ喰らえばいいのに
……あぁ、私たちにとって、料理や味付けをするような感覚だとでも言うのかしら、アレは


喉をやられるのは、正直、歌い手にとっては致命傷だけれど
それで何もしない訳にはいかないでしょう?

こんな屑ばかりの村を守るのも癪だけれど……美味しくて栄養たっぷりの餌になられるのは困るの
「魔物 第2番」を……少しのアレンジを加えて歌いましょう
ヴィルドラグに食われる者の末路を想起させるように……おどろおどろしく

ほら、逃げなければ、そうなってしまうわよ?
……早く、お逃げなさい。そうするだけの体力は、この歌が与えるから


朧・紅

(1)

■紅
僕はなにも、出来なかったですね
生の賛美の中うれしくも自身に欠けた穴を強く感じながら

僕は、僕に出来る事を

朧…殺るのはヴィルドラグだけですよ
きっと…子に母が必要なように、親子には住む場所が必要だったりするですね?

少しくらいお役にたてたです?

■朧
やァっと楽しい殺し合いの始まりダ

病や麻痺が巡る前に【血糸】で血を操り血液パックの綺麗な血と入れ替え
なァに殺るまで持ちゃいい

見える【血糸】をフェイントに
死角から見えねェ硬化した【血糸】の槍で翼を貫き落としてェ

ギロチン刃に【見えない血糸】を纏わせサイズと硬度を自由に強化
届かないと思わせて喉元狙いで掻っ切るぜ

痛み?心地いいねェ
喰われンのは俺かてめェか?



三三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三三
  ぜつぼう と ちまみれのうた
三三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三三

 恐怖に追い詰められた人間は、大きく三種類に分類できる。
 自棄になって突撃するもの、脇目も振らず逃げ出すもの。
 そして――――何もできなくなるものだ。

 ●

 足がすくんで動かない。
 どこへ逃げても無駄だ、という諦観もある。
 村人達にとってヴィルドラグとは、つまり神のことだ。
 それを理解していればしているほど――体が言うことをきかなくなる。
 まして、病で失われた体力と、痛み震える体だ。
 絶望に心を壊されたものほど、弱いものも居ないだろう。
 
「こほっ……とんだ悪食だこと」
 ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は、呟いた。
 喰らうなら、ただ喰らえばよいのに。
 あぁ、それとも。

「……アレにとっては、料理や味付けと変わらないのね」
 獲物を、たっぷりなぶってから喰うような奴だ。
 恐怖と病に侵された餌は、さぞかし美味いのだろう。
 反吐が出る。

 村に充満する瘴気は、じわじわとミーユイの体をも蝕んでいる。
 まして、これからしようとしていることは、まごうことなき自殺行為だ。
 あぁ、けれど。
 何もしないわけには行かないのだ。
 ミーユイ・ロッソカステルは、歌を持っているのだから。

 口を大きく空けて、肺に空気を取り入れる。
 汚れた瘴気が体を蝕み、即座に激痛が走る。
 かまうものか。

『邪悪な 邪悪な 世界の染み いざ 喰らえと』
               オ ブリ ビオ ン
 その曲に与えられし名は“魔物 第2番”。
 本来は、魔物に立ち向かう英雄を鼓舞する歌だが。
 今回は――――。

『喰らう 喰らう アレは お前を』
 耳から染み入り、心に侵食する歌が想起させるのは“恐怖”だ。

 お前は肉だ。
 お前は餌だ。
 お前はこれから貪られる。
 死に等しい苦しみを、幾度と無く味わった後に。
 肉を骨を臓物を尊厳を理性を生命を。
 失い、損ない、朽ち果てるのだ――――。

 それは、頭の中に叩きつけられたもう一つの“現実”だ。
 喰われる“かも知れない”という想像への恐怖ではない。
 喰われる“のだ”という現実への恐怖だ。

「う、うわあああああああああああああああああああ!」
 一人が飛び出せば、後は連鎖的だった。
 恐怖というのは伝染する――――そして、ミーユイの歌は感情を揺さぶった相手に、力を与える。
 それが正であれ負であれ。
 感情は感情だ。

「まったく、失礼するわね」
 私の歌を聞いて、悲鳴をあげるなんて。
 かすれるように、声と音が尽きた。
 細い体がクラリと倒れる。けれど良いのだ。
 もう、この場には誰も居ない。
 歌姫以外には。

 ●

「何か聞こえるなァ」
 尖った耳の先端がピクピクと動いて、その音の波を捕らえた。
 心を直接揺さぶる、絶望の歌だ。なるほど確かに、多数を逃がすならこんな手はありだろう。
 しかし。

「ごきげんな歌じゃァねェか。ゾクゾクすンぜ、なァ紅」
 瘴気の中にあって、その少女は“にたり”と楽しそうな笑みを浮かべる。
 語りかける先に、“誰か”は居ない。
 少女は、己の内に問うているのだ。

『……きっと、村人を逃がすための歌なのです』
「随分と博愛主義なことだなァ。俺だっタらこんな奴ら助けねェ」
『だったら僕が助けるですよ』
「ガキ一人助けるノに何も出来なカったてめぇがか?」
 返答は、沈黙だった。
 は、と鼻で笑い飛ばす。

『……そうです。僕はなにも、出来なかったです』
「そりゃアそうだロ。俺に出来るのは――――」
 耳の向きが、つい、と横に動いた。

 木々を揺さぶる音。
 獣の咆哮。
 羽ばたく翼。
 揺れる風。

「さァ」
 獲物の気配を感じ取って、笑みはより深く獰猛に変ずる。

「やァっと楽しい殺し合いの始まりダ」
 朧・紅(朧と紅・f01176)の瞳が、黄金色にギラリと光った。

 ●

 ヴィルドラグは久方ぶりに“怒り”という感情を抱いていた。
 村人達が生贄を差し出せなかった時ですら、竜の感情は大して動かなかった。
 『あぁこの餌場はもう駄目だな』と思った程度だ。

 しかし、腹を満たすつもりで餌を狩りに来て、それが得られないとなれば話は別だ。
 猟兵共は村人を逃がす。粘体の小娘は美味だったが、小さくてまだまだ物足りない。

 だから、次に現れた獲物は、必ず喰らいつくすと決めた。

 ●

「ハハハハハハッ!」
 五指から生み出された赤い糸が、自由自在に蠢いてヴィルドラグに襲いかかる。
 意思のとおりに動く血液の糸だ。空中を舞うようにその体を縫い留めんと迫る……が。

『笑止』
 応じるように放たれた瘴気が、まさにその血液に触れた。ヴィルドラグのウイルスが、赤を通じて朧の肉体に侵入する。
 それで終いだ。直接、高濃度のそれを体内に入れれば、もうまともに動くことはできなくなる。
 ――はずだった。

「ハ――――領主サマは応用も効かねェ見てェだなァ!」
 対する朧の行動は、血液を“ぶちまけ”る事だった。
 頸動脈を爪で引き裂き、溢れ出る流血は更に細分化して、ヴィルドラグに向かって放たれた。
 《血糸》は血液を操るユーベルコードだ。それは即ち、出血量がそのまま精度と威力に直結することを意味する。

『貴様――――!』
「上から目線で支配者気取ッてっかラだぜェ!」
 朧の動きに乱れはない。病などどこ吹く風だ。
 血液を武器にする以上、そこを経由して、体に感染させてくるのはわかっていた。
 ならば。
 、、、、、、
 体を巡る前に体の外に出してしまえばいい。
 失った血液は、予め放り投げた輸血パックを引き裂いて、中身を補給する。
 無論、手持ちの資源が尽きればそれまでの特攻戦術だ。
 だが。
 尽きるまでに殺しきればよいのであれば――問題ない。

『ち――――小賢しい真似を』
 ヴィルドラグは羽ばたいて、再度宙へと浮き上がる。
 分が悪いと思ったのか、あるいは。

「てめぇ、まとモに戦ッたことねェだろ」
 ――――逃げようとしたのか。

『……何だと?』
 ズン、と重い音がして、ヴィルドラグの動きが止まった。
 いや、何かにぶつかって、“止められた”。
 細く、細く伸ばされた、先端を尖らせた血の槍が、赤い糸に紛れて、空に放たれていたのだ。

「そりゃァそうだよなァ、てめぇの毒で弱らセた相手しか殺したことがねェんだかラよォ!」
 ヴィルドラグは、今この瞬間まで。
 敵と戦い殺すのではなく、“餌”を喰うつもりで居た。
 あくまで捕食、あくまで食事。
 戦う必要などないのだ。逆らう相手は、即ち病に倒れているのだから。

『我を侮辱するか貴様!』
「図星突かレて逆上してんじゃねェ三下ァ!」
 幼い少女の体からでたとは思えない力で、ギロチン刃が投擲された。
 回転しながら迫るそれを、ヴィルドラグは血槍を払うついでとばかりに、翼を羽ばたかせ、風圧で押しのける。

『人間風情が!』
「どれダけてめぇを高く見積もッてるかハ知らねェけドよォ」
 …………見えない血の糸が、刃の端に繋がっている。
 手首を返せば、まるで蛇の様に伸びて、喉元に喰らいつく。
 コ レ        、
「殺戮しカできねェ俺達の上を行けるわけがねェだろォ!!」
 ――――助けるだとか何も出来なかったとか、そんなのはお門違いだ。
 殺すことしかできないのなら、殺すことだけをすればよい。

 竜の喉を深く切り裂く。代償は、流れる濃紫の血だ。
 ウィルスの詰まったそれは、飛散し朧の体に降り注ぐ。

「ちっ……時間切レか」
 もう一撃叩き込んでやろうと思ったが、意思に関係なく、脚がガクリと崩れ落ちた。
 血を使いすぎた。輸血パックはもう無い。
 その上、毒血の直撃だ。別に死ぬまでやってもいいが――――。

「ハ、てめぇの無様な面が見れテそこそこ満足ダ。後は他の連中にくレてやるよ」
 熱も寒気も痛みも心地よい。
 喉の奥からこみ上げてくる血の味で口を満たしながら、朧は静かに目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリス・アップルズ
2)村人を守る
罪のない子供もいる。
でも罪のある大人は死ねばいいとも思わない

前にオロチウイルスと戦う為用意してたの。
ウイルスを殺すウイルスを作れないか、って。
作る前に解決しちゃったけど。

ウイルスにはウイルスに寄生して増殖して
増殖を妨げるモノが居るって聞いたわ。

【箒星の塵】を使用して生まれたコレがそうかは分からない。
でもこの土地で発生した以上はヴィルドラグかウイルスか
どちらかへ特効を示す事は間違いない。

自分もきっとすぐ感染する。
【医術】と【毒使い】で特性を診て使用する。
ウイルスに対してのウイルスなら事実上解毒できるし。
ヴィルドラグに対するウイルスなら
村人に広がればヴィルドラグはそれを食べられない。


夷洞・みさき

2)村人を守る

村人の今後はどのようになるのであれ、現世の人をオブリビオンに殺されるのは見過ごせないからね。
僕は病を治せないし、防ぐのも難しいから、君を彼らに近寄らせない様にしよう。

【POW】
僕が動けなくなってもこの船は動いてくれるだろうし。
拘束できれば動き回って病を広げる事もできないよね。

自身の病の進行度合いにより、餌と認識されたら、船ごと、竜の口に突っ込んで、顎を固定する。

威圧めいた砲撃音をならせば村人たちも逃げてくれるだろうしね。
船体を中心に【恐怖】と【呪詛】を放ち村の人を遠ざける。

3)
産まれ泣き叫んで縁ある者達の大騒ぎさせるのは赤子の業だ。
オブリビオンなんかに止められる物じゃない。


ヴィクティム・ウィンターミュート
〇(2)

ようやくお出ましだぜ、ウィズワーム

まずはUC発動、村人の防衛に専念する
ヴィルドラグの視線を注意深く見て
ターゲットになる村人への攻撃を予測
可能ならインターセプト
もしくは【かばう】

奴が超強化状態に入ったら、スピードを限界まで振り絞って囮になる
速く動く相手を狙うなら、村人を動かさなきゃタゲは向かないだろう
万が一狙ってきたら【かばう】

そうして【時間稼ぎ】してる間に…『鍛冶師』の解析も済むだろう
奴に対抗できるワクチン足りえる武器が出来たら、あとは主役に託す

動くなよパンピーども!俺が保たせてやる!
あぁ、怖ェ
身体が重い
心臓が止まりそうだ
ドラッグでもプログラムでも何でも使え
主役の為に死ぬ気で走れ!



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
    しるばーばれっと
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 ゴウ、ゴウ、ゴウ、と遠くから音がする――――。

『グォルァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「た、助けてえええええええええ!」
 足を引きずりながら逃げる少年に、竜が追いつけぬ道理はない。
 大顎が開いてその体を飲み込もうとして――――カチン、という、牙が噛み合う音が響いた。
 獲物を喰らったはずなのに、口腔内になんの感触もない事に、竜は怒りの唸り声を上げた。

「おいおい、だいぶブチ切れてんじゃねえかよウィズワーム」
 そして。
 少年を抱きかかえ、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、そんな領主を鼻で嘲笑う。

「情けねえなぁ? デカブツが鼠みてぇな子供一人を、追いかけてんのはよ。あぁそうか、もともと弱いものいじめが趣味だったな、悪い悪い」
 軽口を叩きながら、さり気なく少年の背中に触れて。

「あ、あ……」
「母親はいるか? 父親は?」
「か、母さんは……いる、父さんは……いない」
「なら、速く母さんのところに行ってやれ、安心させてやれ、お前が守れ――走れ」
「う、うん……でも、お兄ちゃん、せ、背中――――」
      スロット・アンド・ラン
「いいから。“急いで走れ” だ。俺はちぃっとこのウィズワームに用事があってね」
 笑みを崩さずそう告げる。背中を軽く押すと、少年はぐっと頷いて、走り出した。
 竜がそれを追わないのは、単純な理由だ。
 駆けてゆく背を見送りながら、視線はずっとヴィルドラグに注がれている。

 ――おいおい、まさか。
 ――猟兵がいるってのに、ガキを追うつもりじゃあ無いよな?」

 十秒程度、続いただろうか。
 にらみ合う両者の均衡を、先に破ったのは――――端役の方だった。

         スクィッシー
「こっちだぜ“軟弱野郎”! それとも雑魚以外は相手にできねぇか?」

 ●

 一方で、ヴィルドラグは。

『貴様、貴様達は……グルルルル…………グルァアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
 かつて無いストレス。
 かつて無い不自由。

 幾度となく食事を邪魔され。
 幾度となく虚仮にされ。
 挙げ句、手傷を負わされて。
 いい加減、限界だった。
 骸の海より蘇ってから、これ以上の不自由はなかった。
 そう――怒り狂うのには、十分だった。

 ●

 ゴウ、ゴウ、ゴウ、と遠くから音がする――――。

「ワックド! こりゃ迫力がある」
 対して驚いても居ない風で駆けながら、一瞬だけ――横目で空中に展開したディスプレイを確認する。

   ネームレス・ブラックスミス
 《名も無き武器工房》、あるいはただ『鍛冶師』と呼ばれる、携帯式の自動工房。
 ヴィクティムの演算力の一部を割り振る事で、高速で敵の弱点を解析し、対応する装備を作成する能力を持つ――が。

(進捗は23%――――)
 英雄に武器を与えるにしても、これじゃ精々果物ナイフと言った所だろう。
 竜殺しの聖剣には程遠い。
 時間が必要だ、それまではヴィルドラグを引き付けなければならない。
 ――――背中に負った傷から、直接ウィルスを流し込まれ、病に侵された、この体で、だ。
 全身機械ならば良かったのだが、生憎、神経系の拡張や追加の電脳デバイスが改造の主体である彼にとって、生身が少々多すぎる。

 ゴウ、ゴウ、ゴウ、と遠くから音がする――――。

(何か解析に役立つ“材料”さえありゃあいいんだがな……!)
 例えば、ヴィルドラグの首の傷から、ぼたぼた垂れる体液等は、手に入りさえすれば一気に『鍛冶師』を完成に導くだろう。
 が、触れれば問答無用で動けなくなることも予測できる。

(さぁて、この状況を覆す一手は――――)
 それでも、ヴィクティムは慌てなかった。
 彼は一人ではないからだ。
 ヴィルドラグの手から、村人を守ろうとする者達は、他にも居るのだから。
                    チ ル
「――――あぁ、こいつは中々洒落てるな!」

 ゴウ、ゴウ、ゴウ、と、近くから音がする――――。

 ドムン、と空気を震わせ、全身を貫く振動が走る。
 轟音。砲声。

『ガ――――――――!』
 重量級の火砲が、今まさにヴィクティムに喰らいつこうと顎を開けたヴィルドラグの頭部に直撃した。
 もはやその身を隠す意図もあるまい。
 朽ち果てたガレオン船が、木々の向こうから、空を泳いで現れた。

 ●

 ゴウ、ゴウ、ゴウ、と、音を立てながら、骸海游濫船・”涸れた波”号が征く。
 全長50mに迫ろうというその巨大さは、ヴィルドラグのサイズを上回る。
 朽ち果て、死に行き、呪詛と恐怖を巻き散らかし――村人達を恐慌に陥れながら、ガレオン船は砲撃を続けていた。

「随分と、大げさなこと」
 途中、偶然にもみさきと遭遇し、同乗したマリス・アップルズ(血嗅ぎの跳梁者・f06184)は、呆れたように呟いた。
 もしかしたら、この船だけで敵を制圧できるのでは? などと考えてしまう――が。

「そううまくは行かないよ。僕が力尽きても船は動くけど、何しろ朽ち果てているものだから」
 船の主である、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は、淡々とそう告げた。
 空中に擬似的な“海”を作り出し、船体を浮かしている”涸れた波”号は、その図体を動かす度に、木片がボロボロと剥離していく。
 長時間の維持は出来ないのだろう――だが、それでもこの火力は強烈だ。
 火砲が直撃する度、巻き起こる爆発。同時に鎖が伸びて絡みつき、”涸れた波”号とヴィルドラグが繋がっていく。

「精々、動きを止める程度だね――けど、足を止めれば病を巻き散らかすことはできなくなるだろう、村人達は守れるさ。ただ――」
「ただ?」
「ここまで連れてきて申し訳ないけど、君には降りてもらわないと行けない。これからすることに他人を付き合わせるわけには行かないからね」
「あら、何をするつもりなの?」
「特攻」
 表情を変えず、淡々とそう告げるみさきの瞳には、それでもしっかりと理性の色が残っている。
 残っているからこそ――本気だとわかる。マリスは一瞬だけ固まった、が。
 覚悟を決めた誰かに、無粋な言葉を告げるのは、高貴たる者のすべきことではない。

「わかったわ――健闘を祈ります」
「そちらこそ。ああ、そうだ――――」
 何かを思い出したように、甲鈑に積んであった“モノ”を見て、みさきは言った。

「お土産を忘れないようにね」

 ●

「ようチューマ、気分はどうだい?」
「少なくともあなたほど悪くないわね」
 何せ、木に体を預けながらの言動だ。
 出血と病で意識が朦朧としているだろうに、端役の軽口に変わるところはない。
 そして、マリスが降り立った先に、ヴィクティムが居たのは偶然ではなく、ガレオン船の主の意図する所なのだろうが。

「は、そりゃそうか。ウィズワームとそこそこ楽しい鬼ごっこをしたもんでね。だからさっさとやることを済ませたい」
「あなたの治療をしながらでもいいかしら?」
「いらねぇ、それより――――ぐぇっ」
 マリスの、細く美しい指が、ヴィクティムの喉に食い込んだ。強制的に口腔が開かれる。

「喉の腫れ、目の充血、毛細血管の断裂――重病よ、よく動けてるものね」
 症状を確認して、手早く治療用の――あるいは解剖用の道具を取り出す。
 注射器に満ちた液体を注入されるのに、もうヴィクティムは抵抗しなかった。

「割と頑丈なのが取り柄でね――トリックを聞くかい?」
「私が聞いて理解できる理屈なのかしら?」
「コンピュータ・ゲームは好きか? VRでもいい」
「チェスのほうが好みかしら」
「それじゃあ今度はデジタル・チェスと洒落込むか――あたたた」
 なんてことはない。
 生身が多いとはいえ、サイボーグはサイボーグ。
 大脳に埋め込んだ演算デバイスを直接ハッキングして、強制的に外部コントロールしているだけの話だ。

「それだけ軽口を叩けるなら、三時間は大丈夫かしら」
  ウ  ィ  ズ
「“そりゃあいい”! こいつが出来上がるまでは生きてられるな」
 『鍛冶師』は今も演算を続けている。進捗率43%。
 ナイフからショート・ソードぐらいには進化しただろうか。要するにこのままじゃ大した意味合いはないということだ。

「……ふうん、似たような発想に至る事もあるものね」
 それを見て、マリスが取り出したのは、赤と白で構成された、小さなカプセル錠だった。

「それは?」
「ウィルス兵器」
 身動き出来ないはずのヴィクティムが、反射的に身体を捩って、奇妙な声を上げた。

「空気感染はしないわ。多分」
「多分って」
「どういう性質のものが生まれるか、自分でもわからないんだもの」
    ネ メ シ ス
 《箒星の塵》と名付けられたユーベルコードが精製するウィルスは、毎回その性質と特性を変化させる。
 把握し、理解できれば有用だが、そのためにはある程度の検証が必要だ。

「この環境下で発生したウィルスだから、どの様な形であれヴィルドラグには通じると思うのだけど」
「成る程ね――うおっ」
 少し貸してくれよ、と告げる前に。
 轟音が鳴り響いた。
 上を見上げれば――――ガレオン船とヴィルドラグが、まさに正面から追突した瞬間であった。

 ●

 この世に存在しない性質を持つ金属の鎖は、船とヴィルドラグを完全に接続していた。
 質量による攻撃だ、直撃すればただでは済むまい――が。

『グルァアアアアアアアアアアアア! グォァアアアアアアアアアアアア!』
 怒りに我を忘れたヴィルドラグは、痛みすら超越して――あるいは、自らのウィルスで感じなくなっているのか。
 砲撃を物ともせず、爪で、牙で、尾で、船を端から破壊していく。

「困ったね、思ってたより暴れん坊らしい。仕方ないな」
 自身もまた、病の症状が強く現れ始めた――だが、みさきは大して頓着していない。
 大げさなことではない。死体は病を恐れないのだから。

「少し早いが予定変更だ。――――行こうか」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 ヴィルドラグが、船を砕かんと、再び顎を開いたその瞬間。
 船の速度が一気に増した。もとより虚構の空(うみ)を征く船だ。波を起こすのも己の意思で行える。
 壊れかけた船の残骸が、竜の口の中に雪崩のように突っ込んだ。

「産まれ泣き叫んで縁ある者達の大騒ぎさせるのは赤子の業だ」
 片手を上げる。指示を伝える。

「オブリビオンなんかに止められる物じゃない」
 全弾斉射。
 顎が閉じ、船が砕かれるのと、大砲が発射されるのは、奇しくもほぼ同時だった。

 ●

 ヴィルドラグの頭部で、ガレオン船が大爆発を起こした。
 赤熱が空間をなめつくし、その余波で夜闇の世界が明るく輝く。
 本当に、文字通りの特攻だ。それでも――――。

『グルルルル――――――人――間――――猟兵――――!』
 竜を仕留めきることは出来ない。ヴィルドラグの怒りは収まらない。

「ち――――とうとうマジになりやがった。なぁ、その――――」
「解析出来る? あなたの力で」
「――――話が速くて助かるぜチューマ」
 マリスが委ねたカプセルを、『鍛冶師』が読み取る。

「前の戦いの時、オロチウィルスと戦うために用意してたの。ウィルスを殺すウィルスを作れないかって」
 結果として、それは完成に至らなかった。する前に事態が収集してしまったからだ。

「理想は、ウィルスを殺し尽くして解毒できれば、と思ったんだけど――――」
「今から用意しても、時間も数も足りねえな。量産が効かねえ」
「……そう。だから」
 『鍛冶師』が答えを弾き出す。

 手元の材料から、竜を殺せるか?
 YESだ。
 マリスが構想し目論んだまさにその性質。
 ヴィルドラグのウィルスを殺すウィルス。
 進捗率100%。

 それは、小さな弾丸の形をしていた。

 完成したのは、たった一つ。
 アンチ・ヴィルドラグというべき、竜を殺す銀の魔弾。

「――――後はこいつを」
 主役に渡すだけだ。
 それで、端役の役目は完了。
 いつでも退場出来る。

「――――わたすだ――け――――」
 意識が遠のいていく。
 体が重い。とうとう演算の限界が来た。
 このままブラック・アウトした意識は再起動するのだろうか?
 その答えは――――。

 ●

「まったく」
 自己犠牲もここまでくれば才能かも知れない。
 マリス・アップルズは高貴なる貴族だ。
 故に、命がけの献身をしたものを、見捨てるわけには行かない。
 三時間以内に治療法を確立すればよいのだ。不可能事とは思わない。

「ねえ、あなた」
 だから、完成した弾丸を。

「これをお願いできる?」
 通りすがった猟兵に委ねることに、躊躇いはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

美星・アイナ

(1)
これ迄の経緯は確認済

闇色の世界に新たに生まれた命の星
その星の輝き、消させはしないよ


ペンダントに触れ交代する人格は
戦士達を鼓舞する戦場の歌姫
「私の歌は、生きとし生けるもの達の希望の歌だ!」

基本は回復役
ヘッドセットを通して詠唱するUCに乗せるのは
艱難辛苦に共に立ち向かう戦友達への鼓舞と
傷付き倒れようとも悲しみを終わらせる覚悟
全てが終わる迄歌い続ける

並行しレガリアスシューズで力を溜めた蹴撃
パルクール系の動きで戦場を縦横無尽に
黒剣を剣形態に変化させ2回攻撃、なぎ払い、鎧無視攻撃、鎧砕きの斬撃
生じた傷口をえぐるように剣を深々と突き刺して串刺し

病、UC、物理攻撃は呪詛耐性・激痛耐性・見切りで耐える


アルトリウス・セレスタイト
(1)
ものぐさな領主がお出ましか
怠惰の代償を支払うが良い

界離で死の原理の端末召喚
魔力を溜め体内に召喚し自身の端末機能を強化
自動起動する真理での干渉強化と合わせ、自身の存在を死に染めて病を殺しヴィルドラグへ

攻撃は破天で
体内に生成・装填した魔弾を、周囲に誰もいなければ自身の周囲全方向へ
高速詠唱で再装填を繰り返し、2回攻撃と範囲攻撃で爆ぜる魔弾を切れ目なく撃ち続け、振り撒かれ天地を染める病を殺しつつヴィルドラグを攻撃

味方か村人に当たりそうなら、装填した魔弾を打撃で打ち込む近接戦
拳一発に195発分の魔弾で殴り続ける

守りは真理で纏う無数の自分に任せる


シホ・エーデルワイス

(2)
私の意図を仲間へ伝え
連携希望


村人が変われる事を祈り
村人が捨てた物を
この身を捧げて見せる

多分抗体を持ち他人を癒せるのは私だけ

<覚悟、勇気、激痛耐性、毒耐性>【盾娘】で疲労と病に抗い
<医術>を応用した【祝音】で
村人と仲間の病も癒しつつ
村人を<鼓舞と優しさで救助活動>し避難

疲労が蓄積した分
多人数を癒せるが
抗体があっても私の増悪は防げない

避難と治療が済む頃
敵近くの食べ頃な贄は私一人

敵前で病に抗わず
十字架を握って倒れ<おびき寄せ>囮になる
喰われる直前に【贖罪】で抵抗
喰えない事で出来た隙を
仲間は逃さないはず


戦後
生存者を【祝音】<医術>で治療
犠牲者を<祈り>弔う

エトワールさんに髪の花を贈って子を祝福



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
 さくりふぁいす/くりあらんす
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三


「もう、大丈夫ですよ、さぁ、はやく向こうへ」
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
 子を背負う親を、あるいは親に肩を貸す子を。
 シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は支え続けた。
 村人一人ひとりに触れて、【祝音】の光を与えて、応急処置を施して、安全地帯へと逃がす。
 誰もが彼女に感謝を告げた。
 誰もが彼女に祈りを捧げた。

「どうして」
「え?」
 治療した村人の一人が――中年の男性だ――シホを見て、何かを恐れるように問うた。

「どうして、私達を助けてくれるんだ? 私達が何をしていたか……あんたらは知ったんだろう」
 それを聞いて。

「はい、知っています。残酷なことだと……思います」
 シホは、あぁ、と心の何処かで。
 安心した。
 彼らは……自分たちがしたことが、どれだけ非道いかわかっている。
 ちゃんと、理解している。
 なら。

「けれど、変われると信じています、祈っています――だから」
 抗体を体内で生成したシホの光は、ヴィルドラグの病の諸症状を抑え込む。
 ヴィルドラグが生きている限り完治には至らないが、竜の餌として機能しなくなる程度にまで治療することに、半ば成功していた。
 ――自らの消耗を考えなければ、だが。

「私は、貴方達を助けます。そしてもし、慈悲と後悔があるのなら」
 それでも、微笑んだその顔は。

「それは――エトワールさんと、その子供に、どうか与えてあげて下さい」
 聖女に見えたのだろう。

「……あ、あぁ……ありがとう……」
 尊く見えたのだろう。

「ありがとう、ございます……!」
 それは間違いではなく――そして正しいが故に残酷だ。

 ●

 村人達の避難が概ね完了したことを、確認し、シホは大きく息を吐いた。
 これからやろうとしていることは、周囲の猟兵達に伝えてある――――合意を得る前に飛び出してしまってはいるが。

 青年が火にかけられた広場に一人、十字架を握って、シホは膝を組んだ。
 それは敬虔な信徒が、神に己の身を捧げる姿によく似ていて。

『――――――グルルル――――――』
 翼を広げ、舞い降りた病喰いの竜の姿は、まさしくその生贄を喰らうモノだった。
 神ではなく――――オブリビオンだが。

「は、は――――」
『……匂う、匂うぞ娘』
 焼け焦げた皮膚、裂けた喉、流れる血。
 それでも尚、ヴィルドラグが嘲笑うのは。
 やっと、餌を見つけたからだ。
 それを喰らいさえすれば、全てが帳消しになる極上の餌。

 治療に己の体力を費やし、病に全身を侵された若い娘。
 つまりそれは、ヴィルドラグの最高の好物にほかならない。
 狂った理性を取り戻させるほど、その匂いは竜にとって、芳醇なのだろう。

『我の好む匂いだ……あぁ、これ以上動くなよ、我を怒らせるな』
 舌なめずりの音と気配。こぼれ落ちる唾液が地面ににじみ、じゅくじゅくと音を立てて溶かす。
 なんて醜い。なんて悍ましい。
 それ以上前置きすることなく、ヴィルドラグはシホの柔肌に牙を突き立て貪――――。

『ぬ――――!』
 ――――ることが出来なかった。
 皮膚を突き破れない。
 肉に食い込まない。

 【贖罪】。
 それは祝福ではなく。
 “死ねない”という呪い。

「私が、ご馳走に見えたんですか――?」
 嘲るように。
 シホは告げた。
 聖女でもなく。女神でもなく。
 憎悪をにじませた表情で、

「あなたが奪って良いものなんて、この場所には――何一つ、ない――!」
『小娘がああああああああああああああああああああああ!』
 ミチ、と更に牙の圧力が高まる。
 傷つかないはずの、死ねないはずの体に、悍ましい何かが侵入してくる。

「ぐ、ふ――く……っ」
 ヴィルドラグのウィルスが、直接、呼吸から皮膚から粘膜から、容赦なく侵入してくる。
 抗体を塗りつぶす濃度と量。体機能が一瞬で損なわれ、意識が途絶えかける。
 楽に死ねない呪いだから。
 苦痛に悶えて死にゆくのか。

(まだ――――まだ、まだ――――!)
 まだ、意識を手放す訳にはいかない。
 まだ、終わる訳にはいかない。
 まだ――――――――。

「よく耐えた」
 その瞬間。
 横合いから殴り飛ばすように、“何か”が高速でヴィルドラグの横面を張り飛ばした。

 ●

『ガルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 口から馳走が離れる感触を得て、ヴィルドラグの怒りは、何度めかわからぬ頂点に達した。
 その咆哮も、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)をひるませるには至らない。

「無事か?」
「は――い……、こほっ」
 牙から開放された少女の顔色は、言うほど良くはなかった。
 エトワールの手術から向こう、ただひたすらその身を捧げ続けてきた、身体の限界は、とうの昔だ。

「お前は役割を果たした。後は俺達が引き受けよう」
「いえ、まだ、私も……」
「俺達の治療はいい」
「でも――!」
「お前がこれ以上身を捧げることを、あの母子は望むと思うか?」
「――――っ」
「お前は村人達を救った。今はそれで満足すると良い。――身を滅ぼし続ける献身は、捧げられる側にとっては、時に傲慢にすら映る」
 その時。

「居たぞ!」「こっちだ!」「見つけたぞ!」「情報通りだ!」
 と、誰かの声がした。
 振り向けば、武器を持った男達が――装備は、とても上等なものではなかったが――駆けつけた所だった。
 血走った目で、震える声で、怯えた脚で。
 何を告げるのだろう。
 領主の敵は、やはり彼らにとっても敵なのだというのだろうか。
 それでも構わない、それでも助ける。
 貰った『ありがとう』の言葉を、シホは忘れていない。

「――――わ、我々にも」
 だが、村人の告げた言葉は。

「で、できることは――ないのか!?」
「だ、大丈夫かよ、あんた達!?」
「く、くるんじゃなかった――やっぱこええよぉ」
「馬鹿野郎、こっちのお嬢さんは俺たちの治療をしてくれた恩人だぞ!?」

「……あ」
 彼らも変わりたかったのだろうか。
 あるいは、慈愛とも言える献身に、心打たれたのだろうか。
 どちらにしても。

「この結末はお前が掴んだものだ。彼らの気持ちを無為にはしてやるな――――」
 アルトリウスが右手を掲げる。
 『原理』。
 それは彼にしか認識し得ぬ、彼の世界。
 万物と概念を掌握する絶対領域。

「……では」
 村人達に支えられて、起き上がりながら、シホは小さく、頭を下げた。

「あとは、よろしく――お願いします」
「任された」
 言葉と同時、響くのは、再度発せられたヴィルドラグの咆哮。
 相対する白は――。

「さあ、怠惰の代償を支払うが良い」
 ――――怯むことなく、病の竜に立ち向かう。

 ●

 竜と人がぶつかり合う様を少し離れた場所で見ているものが居た。

 ああ。
 どうしてこんなにも。
 こんなにも、優しい人達が居て!
 守って、やっと生まれてきた生命なのに!

「闇色の世界に新たに生まれた命の星、その星の輝き、消させはしないよ」
 戦場に駆けつけるのは遅れたが――それでも。
 美星・アイナ(インフィニティアンロック・f01943)は、迷うことなく、宙を駆けた。
 空気をとんと踏み込む度、星が散る。星が舞う。
 夜闇に包まれた世界の中で、その軌跡は美しく映える。

「出来ることをするよ――私に!」
 胸のペンダントに、そっと触れる。
 それは一つのルーティーンだ。
 自らを切り替える役割を果たす。
 心の奥底に居る、自分ではない誰かを叩き起こす。

「私の歌は――――」
 闇夜の世界に轟かせるのは。

「――――生きとし生けるもの達の希望の歌だ!」

 ●

 お世辞にも豪腕とは言えぬ細い腕で、ヴィルドラグの横面を思い切り殴り飛ばし、吹き飛ばす。
 打撃は一度だが、その攻撃が始まって、完結するまでに叩き込まれた衝撃は二百近い。
 これも、『原理』の操作が為せる技だ。回数や出力と言った概念は意味をなさない。
 が。

「……流石にしぶといな」
『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 傷を負っているはずなのに、その動きは鈍るどころか増していく。

「……そういうことか」
 ヴィルドラグが負傷する度、体液を周囲に撒き散らかす。それはウィルスの根源そのものだ。
 アルトリウスにとって生命という概念は大して意味のない。
 ほとんどの攻撃は、喰らってそのまま死ぬが、死んだ自分は切り離してしまうだけだ。
 どれだけ繰り返し死んだところで、真実アルトリウスを殺すことなど出来はしない――少なくとも物理的には。
 だが一方で、『喰らい、病に侵され、死んだ』アルトリウスは存在する。
 ヴィルドラグは、その概念を喰らっている――――骸の海から出たオブリビオン故に。
 骸の海の理屈で可動する原理の理屈に――食らいついている。
 即ち千日手。このまま戦い続ければ、避難した村人達のところに被害が行きかねない。
 さてどうしたものかと考えたところで。

【君よ、明日を望むなら剣を取れ! 艱難辛苦の群れを薙ぎ払い――扉の向こう側へ駆け抜けろ!】
 それは、高らかに響く歌声だった。
 それは、高らかに響く咆哮だった。

「……誰だ?」
 答えはすぐに訪れた。

【手にした剣、それは――――未来への扉を開ける鍵になる!】
 星屑の軌跡を纏って、一直線。
 今まさにアルトリウスに爪を立てようとしたヴィルドラグの頭部めがけて、赤い意匠を纏った少女が蹴りを叩き込んだ。

『グウ――――!』
【さあ、立ち向かえ、君の行く先に――――】
 歌いながら跳躍する少女を、一瞬、ぽかんとして見つめるが。

「……はは」
 久しく笑いというものを得ていなかった感情に、少しだけ火が入った。

「成程、未来への扉を開ける鍵か」
 生まれたばかりの子供が未来であるなら。
 それを守り抜く、猟兵達こそが鍵だろう。

「いい歌だ」
 魔弾装填。
 解き放つ。少女をすり抜け、爆発がヴィルドラグを飲み込む。

『グルォアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 効いている。通じている。
 これならばとどめを刺せるか。
 足を止め、原理を起動。三十六の詠唱を一瞬で重ね。

「疾く失せろ」
 解き放つ。
 存在そのものを喰らい尽くす衝撃が、アイナが飛び退いた瞬間に、タイミングよく襲いかかる。

『ガ! グル――――――グウ、グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
 絶叫、咆哮。
 血を巻き散らかし、ヴィルドラグが落下していく。

「終わったか」
 ……そう思った。
 経験と、感覚もそう告げていた。
 だが。

『――――――――』
 墜落したヴィルドラグは、しばらく手足を蠢かせた後、翼で体を包むように丸まった。
 グル、グルル、と唸り声が、くぐもって響く。
 それは、客観的に見れば、無防備と言えたかも知れない。

【――――輝かしい、未来をその手に掴むため!】
 ならば当然、隙があれば、叩く。
 アイナが、星屑の尾を引いて、黒剣を構え斬りかかる――――。

「ちっ」
 浅い舌打ちと共に、アルトリウスは駆けた。
 宙を舞うアイナの胴を、片腕で半ば抱きかかえると、そのまま空を蹴り飛ばして、凄まじい勢いで距離をとった。

「わっ! ――げふっ」
 歌に集中していた意識が途切れる。その瞬間、歌姫は“アイナ”になって帰ってきた。

「う、ごほっ、なにこれ、ぎもぢわるい……」
 接近戦を主体にしていたが故に。
 元より、ちょっとした耐性に任せた程度で耐えられる痛みでも症状でもない。
 歌う、というテンションと高揚のドーピングが切れれば、待っているのは体を襲う病だ。
 それでも、主観的に見れば知らない男にいきなり抱きかかえられている状態である。

「動くな」
「え……?
「見境をなくしてきた――来るぞ」
「来るって、何が……あ」
 身を縮めていたヴィルドラグが、大きく、大きく翼を広げた。
 全身の傷口から溢れた血が霧となって、周囲を覆い尽くす。
 植物も、虫も、大気も、その場にある全てを殺し尽くすウィルスの嵐。

「な、何あれ――――!」
「さあ。一つ確かなことは…………」
 その出力はもはや。
 自らの身体ですら、喰らい尽くすほど。

「――――俺たちは、竜の逆鱗に触れたらしい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


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零井戸・寂

……きついなあ、これ。
彼女も苦しかったろうな。

(病に倒れたフリをする。猟兵達へは村人を優先して、とでも言って僕は置いてって貰って

一人になったら)

……あんなに頑張ったんだ、母親も、赤ちゃんも。
今度は僕らが頑張んないとだよな。

やるぞ、NAVI。
(病で力が出なければ、Cat Hand NAVIgationでNAVIの手も借りる。)

アクセス。
《正規アクセスを検知。心の臓を捧げますか?》
アクセプト――!
(変形したデバイス毎、NAVIで心臓を【串刺し・封印を解く】。)

肉体電子化シーケンス:完了。
UDC-146γ:鎧装モード展開。

――是よりミッションを開始する。(ザザッ)

*f02381のプレイングに続く


ジャガーノート・ジャック
◎(1)

(ザザッ)
――戦闘区域に突入。
是よりミッションを開始する。

何よりもこの"病"が厄介だと分析する。
で、あるならば。
本機は徹底して友軍の支援に回るのみ。

(ザザッ)
SPDを選択。
『C.C.』:"Undo"を指定。
35㎥の時間遡及空間、それを最大35個。
念動操作で友軍個々を包み
『病に侵される以前』まで状態を瞬時に巻き戻す。
(援護射撃+早業)

村人まで守る個数は展開できないが、攻撃・救助関わらず猟兵の状態回帰は叶うと推察する。

叶わないならば攻撃を担う猟兵に意識を多く割く。

攻撃は余裕があれば、主に友軍の火線支援を熱線にて。
(スナイパー+二回攻撃)

本機の作戦概要は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


富波・壱子

1)
標的の出現を確認。これより戦闘に移ります
村人の安全は他の猟兵に任せ、私はヴィルドラグを殺します

予め手持ちの解熱剤、鎮痛剤等を服用し症状を緩和
出産の手伝いをした程度で消耗もほぼ無し
他の猟兵による病への対処法が確立したことも確認済み
戦闘行為に支障無し
苦痛を感じても無表情は崩しません

刀での刺突の構えを取った状態で標的の進行方向上に瞬間移動。相手の勢いも利用し突き刺します
狙いは眼。突き刺したら拳銃による柄頭への零距離射撃で更に深く押し込みます

3)
殺そうと思ったことに後悔はありません
どちらかを殺さずに済んだことについても何とも思いません
ただ、どちらも死なずに済んだことについては…良かったと思います



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
    ぼく は ぼく で あって
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

 そのウィルスの侵食と勢いは、今までの比ではなかった。
 わずかにでも体内に入れれば、即座に身体が腐敗して死に至る、もはや毒だ。

 怒りと激情によって、ヴィルドラグの体内で変質したそれらは、もはや宿主すら病へと侵す。
 だが、それが何だというのだ。
 ヴィルドラグは吼える。
 奴らを殺すというその衝動を満たせるならば――――どうなろうとかまうものか。

『許すまじ――許すまじ猟兵――――!』
 我が支配を。
 我が領地を。
 我が餌場を。

『これ以上乱すこと、能わず!』

 ●

 体が熱い。
 なのに寒気がする。
 身体が思うように動かないというのが、これほど怖いことだとは思わなかった。
 いや、違う。
 知っている。
 わかっている。
 体験している。

 自分の意志で、自分が制御できない事。
 自分の思考で、自分が理解できない事。
 そして、行き着く先は永遠の闇。
 これを恐怖と言わずして、何といえばいいのか。
 
(……きついなあ、これ)
 形は違えど。
 二度と体験したくなかった感覚。

(彼女も、苦しかっただろうな――――)
 一人で死にゆくならまだ良い。
 身体にもう一つ生命を抱えている、というのはどんな感覚なんだろう。
 それだけは、どうしたってわかりようがない。
 未来永劫、知る事はできない。
 想像するだけだ。

 感情を思う。
 思考を思う。
 怯えを思う。

 自分の命と引き換えに。
 どうかこの人だけは。

 ああ。
 その決断を下さなきゃいけない、というのは。
 どれだけ残酷なことだろう。

「……あんなに頑張ったんだ、母親も、赤ちゃんも」
 生きようとした。
 この世界で。
 それはきっと、どんなことより。
 勇気が必要だったに違いない。
 だから。

「今度は、今度は僕らが頑張んないとだよな」
 にぃ、と猫の鳴き声がした。
 端末の向こうに、相方の姿がある。
 電子的なドットの瞳は、それでもこう告げる。

『準備はいい?』
「……勿論さ。やるぞ、NAVI」
 赤い、携帯ゲーム機のような端末。
 触れて、ずらす。横棒は、ハートの形へと変ずる。
 日曜の朝にやってる、魔法少女の変身アイテムみたいな形だと、我ながら苦笑する。
 けれどそれが示すのは、紛れもなく“心臓”だ。

「――アクセス」
《正規アクセスを検知。心の臓を捧げますか?》
 実際、それは、そう問うてきた。
 尋ねられてから、考えるのではない。
 答えが決まっているから――繋いだのだから。

「アクセプト――――!」
 ロッドに変じたNAVIを掴み、胸にあてがったデバイス毎。
 自らの心臓を刺し貫く。

「がっ、は――――」
 何度やっても慣れることはない。
 何せ冗談抜きで―――死ぬのだから。
 この世から、消えるのだから。

 一個の存在を別個の存在に再構築する。
 現実にある存在を電子にある存在に変換する。
 想像と創造の余地を、世界に拡張する。

《肉体電子化シーケンス:完了》

『――是より』

《UDC-146γ:鎧装モード展開》

『ミッションを開始する』

《 You are Juggernaut“Jack” 》

《 Good Luck 》

 ●

『グルルルル――――』
 己の生み出した瘴気がじわじわと周囲を蝕んでいくのを肌で感じながら、ヴィルドラグは喉を鳴らした。
 もはや紫色の霧は半径10mを埋め尽くし、その領域内にある生命全てを等しく殺し尽くす。
 近づくことすらかなわない絶対守護領域の完成だ――――そのはずだった。

「標的の出現を確認」
 ――――突如として、眼前に猟兵が現れた。

『――――!?』
「これより戦闘に移ります」
 死の領域圏内に躊躇なく飛び込んだ女が、右目めがけて刃を突きこんできた。

 ●

 皮膚が溶ける。
 粘膜が焼ける。
 傷口から侵入したウィルスは、即座に神経を焼き尽くす。
 ――――その程度の事で、動作を中断する理由は一切ない。
 即ちここは、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)の戦場だ。

『ガッ――――――』
 たった一点、殺すという目的のみを追求し、右手に構えた“カイナ”が、錐の様な形へと変ずる。
 結局、この竜はどこまでも傲慢なのだ。
 人々を病で支配し、生贄を怠惰に貪り、思い通りにならなければ癇癪を起こし、何だかんだで最終的に自分に逆らうものは存在しないと思っている。
 このウィルスもそうだ。これだけやればもはや近づいてくるモノなど居ないという油断に過ぎない。

 そんなわけがない。
 その程度で止まるわけがない。

『ガガアガガガ――――!』
「――――角度調整、不足」
 右目を貫かれ、暴れ、振った頭の勢いで弾かれた壱子は、そのまま苦もなく着地して、“オース”を同じく構え、左手には黒く、特殊な形状をした大型の銃、“ビーチェ”に持ち変える。
 戦闘続行。

 視力――――半減、問題なし。
 病状――――事前に服用した薬剤の効果は出ている。あと五十六秒、行動に支障なし。
 攻撃――――再度実行して殺害できる確立、概算で23%前後。試行回数で補助可能。
 生存――――再度瘴気の圏内に入ってから治療が間に合う確立、概算で12%。
 …………問題なし。
 殺傷行為を行うにあたって、一切の問題なし。
 どこまでも冷酷に、どこまでも冷徹に判断を下す思考は、肉体への命令を速やかに実行に移す。
 激怒し、突撃してくるヴィルドラグを“認識”した瞬間。
 再度、壱子はその姿をかき消した。

『な――――――』
 ヴィルドラグからしてみれば、ありえない行為だろう。
 もう死に体で、逃げるものと思っていた相手が再度突撃してきた。
 二本目の刃が再度右目に突きこまれる。寸分狂わぬ、機械のようにまったく同じ動き。

『に――――――ガガガガガガ!』
 刃は眼孔を貫通し、脳まで達さんとする勢いで突き刺さる。
 だが、ガチ、と硬い感触がして止まった。骨にぶつかったのだろう。
 柄は握ったまま、“ビーチェ”を構える。まだ終わっていない。

『ギィ――――ザァマァァアアア!』
 勿論竜からすれば、この位置は壱子を殺せる距離でもある。
 鋭く立った爪が、壱子の腹部に突き立って、そのまま引き裂こうとする。
 皮膚を裂き、肉を破る。同時にウィルスの侵食が進む。
 身体がちぎれるより先に、肉体の崩壊が始まる。
 それでも、動きは依然、狂わない。

『何故だ! 何故貴様、その様な姿になってまで、動く!?』
「何故?」
 答えは、常に決まっている。

「あなたを殺す為です」
 銃口がヴィルドラグの右目に定め、トリガーを引く。
 ――その前に。
 ズルリと身体が、文字通り崩れ落ちる。
 細胞同士の結合が保てない。人としての形を保てない。
 生命の限界だ。如何に自我を保ち続けようと、物理的限界を超越することは出来ない。

『グフッ』
 消えゆく生命を見て、ヴィルドラグは恐怖と怒りから一転、歪んだ笑みを浮かべた。

『この眼は貴様を喰らって癒やすとしよう――!』
 その瞬間。
 壱子のスマートフォンに、ノイズが走った。

 ●

《 ザザッ 》

  コピー・コード
《“ C. C. ” 発動。対象に友軍を指定 》

  アンドゥ
《 “Undo” 実行 》

《 処理完了。攻撃の続行を。オーヴァ 》

 ●

 壱子の体が喰われるその前に、二つの出来事が起きた。
 一つは、熱線による遠距離攻撃。
 三本の赤い光条が、ヴィルドラグに突き立った刃二本と、口腔内にそれぞれ照射される。
 一瞬で高温を帯びた“カイナ”と“オース”が赤く変じた。鉄すら溶ける熱の暴力が、ヴィルドラグの眼孔内をなめ尽くした。
 もう一つは。

「支援に感謝します」
 壱子の。
 裂かれた腹が。
 ただれた皮膚が。
 溶けかけた眼が。

 全て元通りになっていた。
 現実に電子を置き換え、電子の世界法則を現実に置き換えるジャガーノートの力。

  アンドゥ
 “やり直し”。

 視力――――完全。行動に支障なし。
 病状――――回復。行動に支障なし。
 攻撃――――実行可能。100%。
 生存――――可能。

 全て、全て問題無し。

「では」
 悶えるヴィルドラグの眼孔に目掛けて。
 いや。
 、 、、、、、、、、、、、
 突き立てた己の刃目掛けて。
 ビーチェの引き金を絞る。放たれた弾丸は正確に“カイナ”と“オース”に突き刺さり、その衝撃は余すことなく刀身に伝わり、杭を打つように更に奥深くまで、その刃を届かせた。

「さようなら」
 ……母子に何かあった時、殺そうと思ったことに後悔はない。
 どちらかを殺さずに済んだことについても。それが壱子の役割だ。
 ただ、どちらも死なずに済んだのは、きっと良いことに違いない。
 だから、それをさせない為に。
 弾丸は、幾度となく叩き込まれる。
 領主に、絶対的な死をもたらす為に。


 ●

 ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)の展開した“Undo”の空間は合計で三十五個。
 それらは戦場に展開し、猟兵達の戦いの“場”を作り出す。

《 ――――空間展開完了、ミッションクリア 》
 豹躯――ではない。
 より機能を洗練した人型の躯体が、バイザー越しにそれを見た。
 杭を吸血鬼の心臓に突き刺すように。
 刀を竜の眼孔に突き刺す友軍の姿。

《 ――――戦闘続行、対象を確実に撃破する。オーヴァ 》
 戦果は上々、そしてまだ……終わらない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
◯(1)
相変わらず、この世界は領主の意味を知らないモノばかりね。
……ここの村長様でさえ、彼なりに考え、守りたいものを守るために手を尽くしたわ。やり方は褒められたものじゃないけれど。
それでも、アナタのように治めも護りも導きもせず民を苦しめ貪るだけのモノに、上に立つ者の資格はないのよ!

時間は掛けてられない。UCを使いわたしとわたしの騎士達(絡繰人形)を強化して挑むわ。
病と反動は激痛耐性と毒耐性で耐えるわね。
負傷覚悟で真正面から先制攻撃よ。……ふふっ、ええ、わたしは隙を作るための囮。でもタダでやられたりはしない。カウンターで確実に一撃決めましょう!

新たな命の誕生の場に、アナタはお呼びじゃないのよ。


聖護院・カプラ
(1)
とうとう姿を現しましたか、『病喰い』ヴィルドラグ。
人の命を踏み躙るその行いを何としても猟兵が改めさせましょう。

然し私にできるのは『存在感』によるヴィルドラグの力の『相殺』のみ。
地獄を身体に再現する熱病の進行を一時的に抑える事はできるでしょうが、そこまででしょう。
『相殺』に全力を費やす為、ユーベルコードを用いて戦闘する事はできません。

彼の邪竜を打ち倒す使命、『(立ち向う猟兵の名)』にお任せします。

(3)
私達ができるのはここまでのようです。
これからの貴女達を救うのが人か、教えか、世界か。
それは未だわかりません。
ですがあの時に一縷の光を見出したのならそれを道標に歩いて行ける……そう思うのです。


ギド・スプートニク
(1)
ふたりに向ける言葉はない
この先ふたりがどのような苦境に立たされようとも
それを乗り越えるのは彼女ら自身

唯ひとつだけ
未だに子を為せぬ我が身を省みれば
ほんの少し彼女らが眩く映った


ヴィルドラグの病は『受け付けぬ』
何故なら、この身は既に別の病毒によって侵されているのだから

たかが魔獣風情の病毒が、我が血の呪毒を上回れると思うなよ

とは言え
あまり長く戦えぬ事に変わりはない
ただ一撃

この腕で
ヴィルドラグの身体を穿ち
殺す

体液によって病に冒されようと
この身が朽ちようと構うものか

私が死ぬ前に貴様が死ね

ここで私が倒れようとも、誰かが私を救うだろう
共に戦う仲間を信頼すればこそ、持てる力のすべてを攻撃へと傾けられるのだ



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
  ただ、きみのなくこえが
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

『グ、ル、ル、ルルルルルル』
 壊れたように唸り声を上げ続けるヴィルドラグの右目には、二本の刀が柄まで突き立てられている。
 脳まで達しているだろうその傷は、竜に新たな変質をもたらした。

『ギャ、オォォォォァァァァァァァオオオォォォォアァァァ――――――!』
 思考や理性を司る領域は、もうほぼ消え去っていた。
 そこにあるのはただの本能。

 殺す。喰らう。そして生きる。
 たった三つ、その目的を遵守する為に、病喰いの竜はその体機能を増幅させた。

『グル、グル、グル、グル――――』
 誰でもいい。
 何でもいい。
 どうでもいい。
 眼の前にあるもの、全てを喰らう以外。
 もはやこの欲求も感情も、満たされることはあるまい。

 ●

 やり方は褒められないけれど。
 決して認められないけれど。
 それでも――あの村長ですら、彼なりに考えて、守るべきものを守ろうとして手を尽くしたのだ。
 それと比べたら、ああ、我欲に塗れ、本能のまま病を貪るヴィルドラグの、なんて醜悪なことか。

「相変わらず、この世界は領主の意味を知らないモノばかりね」
 そこに高貴たるもの責務など無い。
 彼らはただ、支配し、貪り、食い尽くす。
 吸血鬼だろうが竜だろうが、その本質は変わらない。
 フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)の呟きを聞いたのは、彼女麾下の人形兵達だけだった。

「――――さあ、行くわよわたしの騎士達!」
 高らかな号令と共に、小さな十指に嵌められた指輪が光る。
 それぞれが違う獲物と役割を持つ、十人で構成されたフェルトの騎士団。
 その全員が同じ目的と、同じ意志でもって動く。即ち。

「我が敵を、その尽く、一切躊躇なく――穿ちなさい!」
 双剣を持つ人形が斬りかかる。
 傷と引き換えに、竜の爪がその体を引き裂き、踏みにじる。
 大剣を持つ人形が突き進む。
 傷と引き換えに、竜の牙がその身体を貫き、抉り取る。
 鉄槌を、槍と盾を、弓を、呪術を、暗器を、爪牙を、鞭を、拳を。
 その体で受ける代わりに、兵士達が傷ついてゆく。
 人形は病に侵されず共、竜の戦闘力は、やはり人智を超えていた。

「まだ――――!」
 
 けれど、《Knights of Filfaden》――フィルファーデンの騎士達は、止まらない。
 フェルトの騎士は最強だ。それを彼女が信じる限り、彼らはその想いに答えるだろう。
 フェルトの騎士は絶対だ。悲劇を終わらせるためなら、何度だって立ち上がるだろう。
 片腕が千切れようと、武器が壊れようと、防具が砕けようと。
 諦める理由には、決してならない。

『グォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウ!』
 そして。
 遂に痺れを切らしたヴォルドラグは、大きく翼を広げ、兵を指揮するフェルトに狙いを定めた。
 無茶苦茶に腕を振り回し、あるモノすべてを薙ぎ払いながら、小さな体を引き裂かんと迫る。
 体が熱い、苦しい、痛い、怖い。
 この距離で対峙しているだけで、全身を蝕む病が、魂を死へと誘う気配を感じる。
 フェルトが常軌を逸した痛みに対する耐性を持っていなければ、とっくに力尽きていただろう。
 けれど。

「来るなら、来なさい! ええ――――あなたにはわからないでしょう。この世界に新しい命が生まれた、意味を!」
 誰もがその誕生を望んだ。
 誰もがその無事を願った。
 誰もがその奇跡を祝った。
 どんな世界でも必ず行われていて、ありふれた――だけどかけがえない、大事な物。

「アナタのように、治めも護りも導きもせず民を苦しめ貪るだけのモノが――――それを奪うだなんて!」
 許せない。
 許す訳にはいかない!

「騎士達よ!」
 声に呼応して、騎士達が世界から消える。
 0と1に分解されて、一瞬でフェルトの眼前に再構築される。

 激突。吹き飛ぶ兵の手足。代わりに、傷を刻む。竜の身体に、確かな傷を。
 主を守らんと壁となり、盾となり、最後の瞬間まで、兵は動き続ける。

「わたしの命は、あなた達と共にあるわ……!」
 一体、一体と限界を超えて。
 最後の一体が剣を取り落とし。
 ついにフェルトを守るものがいなくなっても。

 決して退きはしない。
 逃げることはない。
 絶対に――――この場でフェルトが屈することだけはありえない!

「尊い覚悟を、見せて頂きました」
 ……不意に、妖精の背後から、荘厳な声が響いた。

「僭越ながら、お力添えを致しましょう」
 ただそれだけの言葉に、圧倒的な存在感が含まれており。

「貴女の戦いを、私は肯定します」
 その声の持ち主が戦場に現れた瞬間、病という概念が後光に屈した。

 ●

 聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)の放つ後光が、一個の躯体が持つ存在感を、現実へ干渉する力へと変じる。
 誰も目をそらせない。誰も意識をそらせない。理性を失ったヴィルドラグですら、呆然とその様を見上げるのみ。

「『病喰い』ヴィルドラグ。人の命を踏み躙るその行いを何としても猟兵が改めさせましょう」
 それは決定である、と神が人に告げるようなものだ。
 ――――カプラは己を神だと思っていないが。
 偶像となってその役割に徹することを、定めている。

『ナゼダ!』
 ヴィルドラグが纏う病の瘴気が、後光に触れて相殺する。
 まったく互角だった――――他者を侵し尊厳を喰らう病と、他者に自己を認識させる存在感。

『ナゼ邪魔ヲスル! ナゼ我ガ食事ヲ妨ゲル!』
 失った理性の間で、ヴィルドラグは吼えた。
 戦いが始まってから――あらゆる事が思い通りにいかない。
 その怒りの丈の全てが、ただ身勝手に吐き出されていく。

『我ガ喰ラウ事ノ何ガ気ニ喰ワヌ! 我ガ管理シ我ガ支配セネバ生キテイク事スラ儘ナラヌ人畜ノ分際デ!』
「その支配から人々を解き放つのが、我々の役割なのです。ヴィルドラグ」
 怒りも、あるいは憐憫も存在しない。
 淡々と事実のみを、カプラは告げた。

「あなたは彼らの神であることを、自ら止めた。故に、ここで滅びる――――妖精の貴女」
「……ええ、何かしら」
 呆気にとられていたフェルトが、はっと覚醒し、その声に応じた。

「少しだけ、ヴィルドラグの動きを止められますか?」
「……あら、私を時間稼ぎに使うつもり?」
 僅かに頬を膨らませ、むくれた様に見えて……小さなフェアリーは、小さく微笑んだ。

「――わかったわ、ねえ、行けるでしょう! あなた達!」
 限界を超えて、崩れて尚。
 立ち上がった兵達は、主の指示に忠実に従った。
 壊れかけた――あるいはもう壊れたその身体で。
 脚を、手を、羽を、尾を、最後の力をもって、掴み、押さえつける。

『下賤ノゴミ共ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 暴れるヴィルドラグを封じられるのは、もって数秒。

「これで――大丈夫!?」
「はい、ありがとうございます。後は――――銀の弾丸をもった者に、任せましょう」
 ――――その数秒で、遂に戦いに終止符が打たれる。

 ●

 ほんの数分前。
 ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は、自らが眷属と化した者の末を見た。
 赤子を抱きしめ、心ある村人や猟兵と共に避難する、母の姿。
 それ以上、姿を追うことはしなかった。
 もはや、二人にかける言葉はない。
 この世界は残酷だ。
 人の命は埃より安く、綺麗事に価値はない。
 それでも――生きていかねばならない。

 どれだけ辛くとも、苦しくとも。
 その試練を乗り越えるのは、彼女たちの人生であり、旅路だ。

 だから、見送るだけで良い。与えられるものは、もう無い。
 けれどもし、ギドに何か贈れるものがあるとするならば。
 、、
「アレの始末はつけよう」
 そう。
 支配者は、もう不要故に。

 ●

 強襲、と呼んで差し支えない一撃だった。
 ヴィルドラグが、人形兵達を吹き飛ばすとほぼ同時。
 ギロチンによって切断された喉元の傷口に、ギドの腕が、握り込んだ拳が深々と突き刺さった。

『ギャオグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
 絶叫とともに、返り血を浴びる。
 この場で最も濃密な毒だ。本来、即死は免れないはずだ。
 なのに、だがギドの動作には一切の変化はない。
 肉を貫き、骨を砕く。軋み、割れ、その損傷は竜の脊髄にまで至る。

『何故ダ、何故死ナヌ!』
「応える義理は無い」
 この竜に知る由もあるまい。
 男の体は既に、血という病毒に侵されている。

 この身を夜の王たらしめる吸血鬼の血。
 この身の誇り高きを示す聖者の血。
 この身を捧げ交え紡いだ妖精種の血。

 ギドがギドである為に、その体に流れる三つの血の前に――――下賤なウィルスが侵食する隙間など無いということに。

 それでも、物理的な侵食はある。
 粘膜は焼け、皮膚は溶け、耐え難い痛みは今も身を焼いている。
 だが――――ヴィルドラグに挑むものは、皆そうだっただろう。
 ならば、己もそうするだけのこと。

『コノ、コノ程度デ! 我ハヴィルドラグ! ヴィルドラグダゾ!』
 ミシミシと、貫かれた喉が急速に再生を始める。
 何たる生命力、何たる生への終着。

『殺ス殺ス殺ス! 貴様達ハ皆殺シダ! 死ネ! 死ネェエエエエエエエエ!」
「そうか」
 だが。
 もう決着は、とうについているのだ。
 知らぬは本人ばかりなり。

「私が死ぬ前に」
 ギドは。、、、、、
 その手に握っていた、小さな破片を潰した。

『ガ――――』
「貴様が死ね」
 それは、エトワールを見送った際に出会った猟兵に託された最後のピース。
 ヴィルドラグを殺す為だけの銀の弾丸。

「吸血鬼が銀の弾丸を使うのは、洒落ているだろう?」
『ガガガガガガガ――――!』
 もう、その形を保つことが出来なかった。
 溶けていく。竜の体が溶けていく。
 臓腑が腐り、血管が腐り、皮膚が腐り、肉が腐り、骨が腐り、脳が腐り、死んでいく。

『ナ、ゼ――――』
 死に至るまでの時間は短いだろう。
 だが、その苦しみは――陳腐な言い方をすれば、想像を絶するに違いない。
 病の支配者にして、少女達を嬲り続けてきた竜は。
 これから、細胞の一片たりとも残さず、腐り溶けて死ぬのだ。

『ソノ――力ヲ――――人間、ナド――――に――――』
 竜の最後の言葉は……疑問だった。
 何故お前たちは。
 人間などに。
 肩入れをするのだ。

「貴様にはわかるまいよ」
 この世界に子供が生まれた。
 残酷な世界の中で、確かに祝福がそこにあった。

 ……死がふたりを分かつまでと誓った相手と、未だ子を為せないが故に。
 その小さな眩さが消えることなど、許せるものか。
 いつか。
 いつか、この手で、その光を抱ける時が来るならば。

「恥じ入る事など何一つ、あるわけにはいくまいよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春霞・遙

2)折角救われた命をむざむざくれてやるものですか。

ユーベルコードは死に逝く者をも生かす。改めてその力を見た直後にその力で創られたウイルスを人の科学で防げるとは到底思えないけれど……最低限マスクと手袋はして行動します。
あとは、【葬送花】で竜の発する瘴気が村人や猟兵に向かって吹かないよう花吹雪の風で吹き散らします。病の進行を止めることができなくとも、せめて少しでも竜の目を眩ませてこちらを見失ってくれれば良いのですけど……。
それでも村人を狙ってきたならエトワールと赤子最優先で「かばう」。

3)
貴女にこの子しかいないのと同じように、この子には貴女しかいないんです。
そのつもりで支え合って生きてください。



三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三
     えぴろーぐ
三二ニ=-==ニ二三三二ニ=-==ニ二三

「……心拍数も安定しています、もう、大丈夫でしょう」
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)が聴診器を外してそう告げると、ベッドに横たわった母親……エトワールは安堵の表情で吐息を零した。

「ありがとうございます、なんて、お礼を言ったらいいか……」
「医者としての勤めを果たしたまでです――それに、皆で、とりあげた子ですから」
 肝心の赤子は、手足を元気にばたつかせて、うぁ、とか、ひぁ、と泣き声ともうめき声ともつかない音を発していた。

 ……戦いから数日が経過して。
 ヴィルドラグの死体からは、もうウィルスは消え失せていて。
 病にかかった村人達の治療も無事に終わった。
 犠牲になったものも、僅かながら居たが……猟兵達の活躍によって、ほとんどの命が救われた。

「これから、どうするんですか?」
 そして、遙達猟兵も、いつまでもこの場所にはいられない。
 彼らは皆来訪者だ。事件が終われば、元の場所に戻るのが定めである。

「……しばらくは、この村にいるつもりです。この子が、一人で歩けるようになるまでは」
「それで、良いんですか?」
「はい。……神様にも、言われたんです」
「神様? ……ああ、あの」
 ものすごい存在感を放つウォーマシンの事だろう。

 ――これからの貴女達を救うのが人か、教えか、世界か。
 ――それは未だわかりません。
 ――ですがあの時に一縷の光を見出したのならそれを道標に歩いて行ける……そう思うのです。

「……恨みも……憎しみも。この子に背負わせたくは無いですから」
 支配者が居なくなったとて、完全なる自由が得られるわけではない。
 新たなオブリビオンが村に目をつけ、次なる領主となるかも知れない。
 今度こそ、取り返しのつかない殺戮が、延々と繰り返されない保証はない。
 けれど、今、この時、村は確かに平和だった。
 生贄のシステムを牛耳っていた村長や、その取り巻きが亡くなったのも、ある種の追い風と言えるだろう。
 確執は、埋められないにせよ。
 エトワール達を殺す、ということにも、またならないはずだ。

「……貴女にこの子しかいないのと同じように、この子には貴女しかいないんです。そのつもりで支え合って生きてください」
「――――はい」
 最後に、非常時のために薬と、想定しうる諸症状が起きた時ために、少しの覚書を残して。
 今度こそ、医者の役目は、これで終わりだ。

「では――――お大事に」
 立ち上がり、玄関に向かう遙の背に。

「先生、本当に、ありがとうございました」
 赤子を抱きながら、エトワールはそう言って、頭を下げた。
 振り返り、母子の姿を見る。
 二人が健康で、こうしているのは、一つの奇跡だ。
 そして――――医者というものは。

「どういたしまして」
 きっとこの瞬間にこそ、報われるのだろう。

「どうかお元気で。エトワール、そして――――」
 遙は笑みを浮かべて、一輪の花を髪に揺らす、赤ん坊の名前を呼んだ。

「――エーデルワイス」

 ●

 あの日。
 ただ、君の泣く声を聞きたかった。
 これからは。
 どうか、笑って生きていけますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月30日


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🔒
#ダークセイヴァー


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はサフィリア・ラズワルドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト