獣人世界大戦⑮〜悪魔が悲劇を嗤おうと
●救い無き絶望の怨嗟
「御機嫌よう。第二戦線も終わりの迫る獣人世界大戦、集まってくれた皆に感謝を」
グリモアベースにある作戦会議室、招集に応じた猟兵たちをカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手・f21100)は一礼で出迎えた。
獣人戦線の世界に割拠するオブリビオンの超大国が各々の思惑を胸に動き出し、戦乱の渦は「|世界の滅亡《カタストロフ》」さえ呼び起こす。
無辜の獣人たちを戦禍から守る為、そして世界を脅かす超大国を叩く為、猟兵はこの戦争に介入する事になる。
第一・第二戦線と猟兵の快進撃も続く中、戦いも佳境に差し掛かろうとしている。
「今回の戦いはスタノヴォイ山脈に布陣する|黯《あんぐら》党首魁との決戦だね」
彼らを率いていた本田英和は撃破されたが、契約していた悪魔ブエルが戦線を引き継いでいるとカタリナは語る。
相手は|超能力《サイキック》によってあらゆるものを「否定」するユーベルコードを持つ強大な異世界の悪魔であると同時、留意すべき点がもう一つあると彼女は告げた。
「この戦場では無数の影朧が語る“己の生前にあった、極めて理不尽な悲劇”が生み出す幻影が相手を呑み込む。これを破らないとブエルに攻撃は届かない」
それは影朧たちが絶えず紡ぎ続ける呪いであり、猟兵とブエルを遮る障壁でもある。
打ち破るにはそれでも世界を護る理由を掲げ、幻のもたらす世界への絶望と憎しみを振り切る他無い。
また、幻影は猟兵自身の|絶望や憎悪《トラウマ》を引きずり出す可能性もあるとグリモア猟兵は付け加えた。
「今回も危険な戦いになるけれど、キミたちの武運と無事の帰還を祈っているよ」
締め括った言葉と共にグリモアが輝き、豪奢な装飾の施されたゲートが開いて。
ふーみー
当シナリオをご覧くださりありがとうございます、ふーみーです。
着実に最終局面の迫る獣人世界大戦、今回は『悪魔「ブエル」』とのボス戦になります。
プレイングボーナス:悲劇の幻がもたらす「世界への憎しみ」に打ち勝つ。
場合によっては猟兵自身の抱えた闇が立ち塞がるかもしれません。プレイング準拠。
特に言及無ければ通常通り影朧たちの語る悲劇が幻影となって猟兵を苛むでしょう。
また、試験的に難易度オプションも実施しています。
興味のある方はMSページをご覧ください。
それでは皆様の健闘をお祈りしています。
第1章 ボス戦
『悪魔「ブエル」』
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POW : 存在否定呪文
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【魔力弾】を放つ。発動後は中止不能。
SPD : 生命否定空間
戦場全体に【生命否定空間】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【戦場全体の敵から奪った生命力】による攻撃力と防御力の強化を与える。
WIZ : 損傷否定詠唱
自身が愛する【即時治癒魔法の詠唱】を止まる事なく使役もしくは使用し続けている限り、決して死ぬ事はない。
イラスト:キリタチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●No buts.
燃えるような怒り、凍えるような悲しみが戦場を満たしていた。
嘆きだ。
生前ついぞ僅かな救いを得る事もなく理不尽に踏み躙られた影朧の慟哭は、たとえ耳を塞ごうと魂を蝕むだろう。
「世界は護るに値しない。お前たち猟兵の戦いに意味など無い。道理無き者に影朧の幻影は超えられない……」
安い絡繰めいた悪魔の顔が見えなくなり、声も聞こえなくなる。
代わりに映し出されるのは終わりなき悲劇の牢獄。
……幻だが偽りではない。
影朧の魂に刻まれた真実であるが故に、破るには同等以上に揺るぎない“答え”が必要だ。
絶望を知り、悲劇に目を背けず。
打ち克て。
黒城・魅夜
欺瞞などと一方的に決める愚か者ども
愛も美も善も背負い続けることに疲れた者だけが
欺瞞の名のもとに目を逸らす
偏狭な視野の独断で世界を値踏みするのではありません
怨嗟も悲嘆も悪霊である私にとっては美味佳肴
狂気耐性と呪詛耐性を行使しつつ
結界に満たした私自身の呪詛で怨嗟の声を反転
我が糧とさせてもらいます
……そして亡霊達よ
私があなたたちを喰らったということは
あなたたちの嘆きも私が未来へ連れていくということ
希望の名のもとに今は眠りなさい
さあ後はあなただけ
もともと悪霊たる私に生命の否定など無意味
限界突破したオーラで空間とやらを中和しUCを発動します
虚無の彼方へ消えるがいいでしょう
私の影に呑まれてね
●悪夢を纏い、猶も
「……欺瞞などと一方的に決める愚か者ども」
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)の声に乗るのは怒りではない。
彼らの声高な物言いは不快でこそあれ、魅夜の心を揺らすには値しない。
「愛も美も善も背負い続けることに疲れた者だけが欺瞞の名のもとに目を逸らす」
確かに世には悲劇も理不尽も蔓延っている。
だが、それだけではないのだ。
絶望が全てであるような顔をして希望の悉くを否定する事こそ欺瞞に他ならないのだと。
「偏狭な視野の独断で世界を値踏みするのではありません」
ましてその妄言を他者に振り撒く病原の如き悪党など、捨て置けるものではない。
「影朧に堕ちるような人間は強くない。賢くもない。自ら目を塞いだ者たちをお前の否定では救えない」
「理解できないなら独りでそう思い込んでいればいいでしょう。永遠にね」
ブエルの目の嘲るような明滅も影朧に遮られて見えなくなる。
代わりに世界を満たすのは彼らの叫び、全てを塗り潰すような悲嘆と怨嗟。
吐息を零した魅夜の口の端に浮かぶのは|微笑《・・》。
「……美味佳肴でしかありませんね。私、悪霊なので」
悪夢なら疾うに打倒した。
悪霊としてこの世界に存在を縫い留める程の執着を宿し、それを御するが故に魅夜は魅夜として在り続けている。
その呪い、その狂気は影朧たちの吐き出す絶望の総量にも劣るものではない。
「……亡霊達よ」
怨嗟を喰らい、飲み乾しながら語り掛ける声には慈悲と憐憫。
「私があなたたちを喰らったということは、あなたたちの嘆きも私が未来へ連れていくということ」
終わってしまった悲劇を変える事は出来ない。
それでも、覚えている。
彼らの痛みも、嘆きも、無かった事になどさせない。……いつか救いを得る事もあるだろう。
「希望の名のもとに今は眠りなさい」
――悪夢が晴れる。
「さあ、後はあなただけ」
「どのみちお前に未来などありはしない。我が否定の前では悪霊だろうと例外ではない」
「くだらないですね」
「…………!」
ブエルの展開した【生命否定空間】は腕の一振りで掻き消えた。
影朧たちを取り込んだ今、魅夜のオーラは本来の限界以上の力を以て理を支配する。
「墜ちゆけ、沈め、奈落の底より深き場所、虚無の果てへと溺れゆけ……虚無の彼方へ消えるがいいでしょう」
【|闇に溺れよ影へと沈め、せめて末期は舞う如く《シャドウィゲート・イネインエンド》】――自在に蠢く影がブエルの影を捕えた。
逃がしはしない。その身を縛めた鎖が全てを無に帰す影へと悪魔を引きずり込む。
「私の影に呑まれてね」
影は最期に波紋を残し、戦場は静寂に包まれて。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド
↑
ここでの戦いも大詰めですね。
オーラを纏った盾のドローン、シュッツエンゲルを浮かべて攻撃を受け流す結界を形成。歌に集中できるようにします。
ブエルの前に、戦場に残された影朧の浄化を。
影朧の見せる悲劇…わたし自身の絶望、別離の寂寥を再び見せられることになっても。
「それでも。」
わたしは歌います。それが彼女に捧げたわたしの誓いだから。
「魂は世界を越えて。幻朧桜の元へお還り…」
【傷ついた魂に捧げる輪廻の唄】を歌い、影朧を浄化していきます。
ブエルにUCは効かないかもしれませんが、スピーカーから発する大音量の破魔の歌で損傷否定詠唱をかき消し、鍛えあげたこの脚…破邪必滅のかかと落としをブエルに叩き込みます!
●それでも天上の旋律は響く
「ここでの戦いも大詰めですね」
質と量、双方ともに圧倒的な超大国の猛威。
|黯《あんぐら》党との決戦、その最前線を駆けるフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は確かな手応えを感じ取っていた。
「希望に意味は無い。お前たちの未来に待つのは絶望でしかない」
「いいえ。決して、そんな事はありません……!」
牽制とばかり連続して繰り出される魔力弾、その一つ一つが出鱈目な魔力を圧縮した爆撃に等しい。
到底正面から防げる次元に無い滅びの具現を阻むはドローンに宿ったオーラの煌めき。
フィーナの護りの技量はユーベルコードにさえ迫ればこそ、僅かなミスも許されない絶技が悪魔の暴威を受け流す。
為さねばならない事がある。邪魔をさせはしない。
「影朧の絶望は虚飾ではない。希望などという不確かな願望で抗えはしない」
息つく間もなく押し寄せたのは影朧の慟哭。
回避も防御も儘ならない波濤の如きそれは単なる声の域に収まらず、如何な守りも超えて世界を満たす。
悲嘆、怨嗟、怒り、悲しみ。
フィーナ自身も心の内に宿した絶望は共鳴し、混ざり合い、表層化する。
「っ……!」
胸の潰れるような後悔、別離の寂寥。
これまでも抱えて歩んできた筈のそれが、耐え難い程の苦しみと共に突き刺さる。
その事に違和感は無かった。
自分が影朧たちの悲劇に胸を痛めるように、影朧たちもフィーナの絶望を嘆いている。
連鎖する苦痛が増幅し合い、やがては永劫の闇へと自我を呑み込んでいくのだろう。
「それでも」
息を吸い込む。噎せ返るような死臭は誰かの大切な人の血肉の匂いだろうか。
足を踏みしめる。冷たく染みるのは誰かの流した血か涙か。
だとしても。
「わたしは歌います。それが彼女に捧げたわたしの誓いだから」
【|傷ついた魂に捧げる輪廻の唄《ソング・オブ・リィンカーネーション》】に、枯れる事無き慈愛を込める。
どれほど残酷な世界であっても、どれだけの否定を突き付けられても、この心に偽りは無い。
「魂は世界を越えて。幻朧桜の元へお還り……」
影朧たちの生前は絶望に閉ざされた。一握りの希望も許されはしなかった。
だが、取り込んだからこそ、今此処に居る影朧にはフィーナの祈りが直接に届く。
……それが救いになったのかは分からない。終わってしまった悲劇を覆す事は出来ないのだから。
ただ。影朧の呪詛が生み出していた幻影が、晴れる。
「ふむ……私は|悪魔《ダイモン》だが『桜』に還る影朧ではない。その歌で私は祓えない」
「――運命が微笑みかけてくれたら。いつかまた、きっと巡り合えるわ」
歌声は影朧たちを送る為に。
一段と強く張った声は束の間、ブエルの【損傷否定詠唱】を掻き消して。
好機は一瞬だ。歌姫に出来る事など知れているとブエルは考えたのだろう。
偽った訳でもないが、いかにも令嬢然としたフィーナの振る舞いは先入観を与えるに充分だったか。
数多の戦場を超えてきた彼女の経験は、護身術を超級の暗殺術へと昇華させている。
「……!?」
「|白き花《ヴァイス・ブルーメン》の手向けを――あなたにっ!」
その踏み込みは音より速く。
悪魔の無機質な脳天を、破邪必滅の踵落としが打ち砕いた。
大成功
🔵🔵🔵
ルー・ガルフィオン
敵の能力の範囲外から狙撃したいけれど、……影朧に阻まれてブエルが見えない
……行くしかない、か。潜伏位置を変更する。マリス(パートナーの悪夢)、接敵に備えて
それと、予めUCで<破魔>能力を高めた銃弾を生成。悪魔にはきっと効果抜群
超大国によってオブリビオンとなってしまった嘗ての同胞たち。私は狙撃手として彼らを殺めてきた
……私が殺した
スコープ越しの血飛沫。この悪夢を見るのは何度目だろう
……いつもの夢?マリスの仕業?
私は死者の声を聞くことはできない。なら、できる限り都合のいいように考える
彼らもきっと平和な世界を望んでいたはず。だから、私は立ち止まらない
ブエル、キミが嫌な悪魔で良かった。引き金が軽い
●今はただ、信ずる儘に
「てってれー……」
【|夢の収斂《アトラップレーヴ》】が生み出したのは破魔の力を宿す対悪魔特効弾。
ルー・ガルフィオン(夢幻の狙撃手・f41066)の腕前を以てすれば異界の悪魔だろうと仕留め損なう事は無い筈だ。
厄介なのは一撃でさえ即死級の魔力弾を乱射する【存在否定呪文】。
「敵の能力の範囲外から狙撃したいけれど、……」
ブエルは影朧たちを操っている訳ではない。現実を歪める程の彼らの呪詛は、操ろうとして操れるものではない。
ただ際限なく溢れ、荒れ狂うが故に技術で迂回できる域を超えて標的と狙撃手を遮っている。
「……行くしかない、か。マリス、接敵に備えて」
声を掛ければ夢の世界より出でし大狼のナイトメアは尾を軽く振って応えた。
息を潜め、可能な限り足音を殺してルーは物陰を駆ける。
「……これは……」
眠たげな紫玉の瞳が僅かに揺れた。
視界に映るのは嘗ての同胞たちだ。名前も声も鮮明に思い出せる。
共に焚火を囲んだ夜を覚えている。
別れを告げた雪の日の朝を覚えている。
忘れられる筈が無い。
生前の彼らと、超大国の手に掛かりオブリビオンと化した姿が重なった。
悲嘆と怨嗟を垂れ流し、変わり果てた彼らが迫ってくる。
所詮は幻影だ。
とっておきの弾丸を消費する事もなく、過去の自分の幻が記憶通りの動きで彼らを仕留めた。
“痛い”“死にたくない”“どうして自分が”――そんな呪詛を吐く事も出来ずに彼らは死んだのだ。
「……私が殺した」
何度も拭った筈なのに、焼き付いたようなスコープ越しの血飛沫。
この悪夢を見るのは何度目だろうか。見飽きたと言ってもいい筈なのに、まるで慣れる気配も無い。
「……いつもの夢? マリスの仕業?」
狼は応えない。
悪魔の姿はまだ見えない。
「……私は死者の声を聞くことはできない。なら、できる限り都合のいいように考える」
言葉は自分に言い聞かせるように。
射殺に躊躇いはない。
恐怖に罪悪感にエトセトラ、そんなもので動きが鈍るようでは狙撃手は務まらない。
「彼らもきっと平和な世界を望んでいたはず。だから、私は立ち止まらない」
絶望を嘆くのは、きっと希望を欲していた裏返しだろう。
|悪魔《ブエル》を討つ事は平和に繋がる。それを為す事は影朧たちの救いにもなる。
その筈だ。
「ふむ……」
「!」
幻影が薄らいだ。
狙いを定め、引鉄を引く寸前に相手が気付く。
存在否定呪文の乱れ撃ちが始まり、猛威を振るう魔力弾をマリスとの連携で間一髪に掻い潜る。
「お前の蛮勇に意味は無い。遠からず自らの呵責に殺されるような狙撃手など脅威には値しない」
「……ああ、そう」
悪魔が悪魔であるからこそ、その侮りは的外れだった。
一秒のインターバルの間に照準を補正し、弾丸を放つ。
動きに僅か数ミリ、コンマ一秒の狂いでもあれば標的を捉える事は叶わないだろう。
「ブエル、キミが嫌な悪魔で良かった」
此度の引き金は軽く、迷いなく。
魔を祓う夢の弾丸が鉄面皮の中央を綺麗に撃ち抜き、吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
やっぱりこれか…
胸奥に残る物は惨劇でも悲劇でもなくありふれた物だ
アースで自分を育ててくれた義父や傭兵団の皆が、南極の邪神討伐に向い、相打ちめ帰ってこなかった。自分は一人取り残された子供だった
いくら待っても誰も来ない部屋。今も魂の一部はそこにある
「けどね……幸せは歩いてこないのよ」
髪の毛と瞳が赤く染まり、紋章が浮かび上がる
謎のシステムメッセージが悲鳴のような未承認の声を上げるが気合で捩じ伏せ『奈落門』を発動
天文学的質量に由来する重力は時空すらも捻じ曲げ、全てを消滅させる魔力弾も折り畳んだ空間にしまって消す
「歩くしかないのよね。血反吐を吐こうが」
簡単な真理と共に、ブエルをこの紋章で殴りつける
●歩みは止めず、阻ませず
「やっぱりこれか……」
有無を言わさず才堂・紅葉(お嬢・f08859)を呑み込んだ呪詛の奔流。
理不尽な暴虐、卑劣な策謀、残酷な悪意。
影朧たちの訴える絶望の果てに浮かび上がった幻影は、見覚えのある一室だった。
惨劇や悲劇と呼ぶ程のものではない、と思う。紅葉自身が直接に害された類の話ではない。
UDCアースには危険を冒してでも邪神に立ち向かう者が居て、犠牲になる者にも家族は居る。
南極の邪神討伐に向かい、帰る事のなかった紅葉の義父や傭兵団の皆もそれに含まれていただけの事。
一人取り残された実感など湧く筈も無かった。
いくら待っても誰も来ない部屋。
今も魂の一部はそこにある。割り切る事など出来ないまま、来る筈のない帰りを待ち続けている。
「けどね……幸せは歩いてこないのよ」
悲しみに沈む事は容易い。
喪った相手が大切だからこそ傷は深く、一歩も動けなくなるような絶望は容易く振り払えるものではない。
それでも、進んできたのだ。
待つだけでは駄目だった。膝を抱えているだけでは何も変わらないのだと紅葉は知っている。
踏み出す意思に呼応するように、瞳と長髪が赤く燃える。
『コードハイペリア承認。アビスゲート限定解除……非承……』
「ッ……ガタガタ言わずに解放しなさい。それが私の示す答えよ……!」
悲鳴のようにエラーを吐く謎のシステムメッセージは自壊を防ぐ為の|安全装置《セーフティ》だ。
強引な解放命令は紅葉自身の身を軋ませ、代償に寿命を削っていく。
構わない。
その全てを気合いで捻じ伏せる。
『……承……認……』
浮かび上がったハイペリアの紋章が青白く輝く。
切り裂いた幻影の先に、討つべき悪魔の姿がある。
「身に余る力に手を出すのは賢くない。お前に限界は超えられない」
「黙りなさい。【ハイペリア重殺術・|奈落門《アビスゲート》】――発動ッ!」
『超高重力場……特異展開……実行』
天文学的質量を封じた奈落への扉から、時空すらも捻じ曲げる超重力が解き放たれる。
【生命否定空間】を貫き、魔力弾の軌道を歪めて消し去り、悪魔へと一呼吸で肉薄。
「歩くしかないのよね。血反吐を吐こうが」
それは今も紅葉を突き動かす簡単な真理。
逃がしはしない。
紋章の最奥に封じられた超重力は既にブエルを捉えている。
「決めるわよ……覚悟なさい!」
力と意思の限りを込めたその拳、如何な悪意にも阻む事は叶わず。
大成功
🔵🔵🔵
ウルマリカ・ラム
(常に笑顔・ですますのすがカタカナ)↑
世界を護る理由、それは楽しいからでス!
未知のものを知り、好物を口にし、この手に財を得、理不尽へ報復する!
その楽しさは世界あってのこと!
あなた方も、痛みと理不尽を越え報復する甘美を知ればよかったのに
シャチと熱帯魚の群れの姿をした悪魔達を召喚
常に相手がより苦痛を感じる場所を探させ、破魔を帯びた攻撃をさせまス
ワタシへの攻撃は、継戦できなくなるもののみ空飛ぶ金貨達を盾にしまス
治癒魔法、つまり何度も苦痛を感じられる素敵な魔法でスね!
ワタシの傷から水が流れるたび、此方の悪魔は強くなる
ワタシが耐えられなくなるのと、あなたが苦痛で魔法を愛せなくなるのはどちらが早いでしょう
●嗤え、愉しめ
踏み躙られた痛み、奪われた苦しみ、終ぞ救われる事の無かった絶望。
深い傷を負った魂は影朧と堕ち、尽きる事のない慟哭は怨嗟となって領域を満たす。
弱者が食い物にされるばかりの世界を。
悪党の非道が罷り通るこの世界を何故護ろうとするのか。
気が狂う程の呪詛の嵐に晒されて――ウルマリカ・ラム(よくばりメイルストロム・f30328)は、笑っていた。
「世界を護る理由、それは楽しいからでス!」
溶け合い、混ざり合った無数の悲劇。
溺れる者が他者に縋り道連れとするように、幻影の苦痛は我が身に起きたかの如くウルマリカをも苛む。
笑みが、抑えられない。
「未知のものを知り、好物を口にし、この手に財を得、理不尽へ報復する! その楽しさは世界あってのこと!」
子供にさえ劣る、己の弱さはよく知っている。
そんな取るに足りない自分が強者に一泡吹かせる番狂わせの味を知っている。
……影朧に堕ちた者たちは良心的に過ぎたのだろうとも思う。
或いは甘い、弱いと切り捨ててもいいかもしれないが、いずれにせよ大きな違いは無い。
そんな有様だから処理しきれない程の悪意に圧し潰されて、どうする事も出来ずに居る。
「あなた方も、痛みと理不尽を越え報復する甘美を知ればよかったのに」
今更都合の良い救いの算段も無ければ、影朧たちを説き伏せる術も義理も無い。
一度交わった道が再び離れていくように、水精はただ悲劇を後にする。
「さて、仕事でスね」
「我が契約者は滅びたが支払われた対価に不足は無い。お前に私を斃す事は出来ず、従って勝算も無い……」
「まあ怖い。ワタシは非力でスから餅は餅屋、悪魔には悪魔と致しましょう」
黒い召喚銃の引鉄を引く事数度、契約に従い姿を現すは無数の悪魔。
有角のシャチが、刃の鰭持つ熱帯魚の群れがブエルへと襲い掛かり……返礼は何の変哲もない魔力弾。
避けられはしない。存在否定の本領を宿さずとも、圧縮された桁違いの魔力は敵対者を消し飛ばして余りある。
「リゲイア!」
咄嗟に飛来した金貨の大群が割り込み、膨大な総量の何%かと引き換えに主人を守った。
いま叶う最小限に抑えた余波だけで水精の身体は容易く吹き飛び、休む猶予などなく身を起こし走る。
ブエルは防御の素振りも見せない。
破魔の力を宿した悪魔たちの攻撃は鋼の躯体にも傷を負わせ、しかし絶える事の無い【損傷否定詠唱】が即座にその傷を|否定《治癒》する。
「私が傷つく事は無い。私を打倒する術はお前に無い。我が前に立った者に未来は無い」
「治癒魔法、つまり何度も苦痛を感じられる素敵な魔法でスね!」
弾切れとは無縁の魔力弾をかろうじて凌ぎ、吹き飛ばされ、崩れゆく身体を泡立たせてウルマリカは笑う。笑う。
「お前たち、用意を! 素晴らしい痛みには、相応の返礼をしなくては!」
「手駒を強化したところでお前は強くない。時間を無駄にする以外の意味は――」
悪魔ルキルの角に抉られ、ブエルの言葉が遮られた。
すかさず傷口を抉る悪魔スイルの追撃に魔力弾の矛先が移るが、【Bite the bullet】の恩恵を受けた悪魔たちはウルマリカより余程手際よく攻撃を掻い潜る。
悪魔たちはより苦痛の強い箇所を嗅ぎ付け執拗に、破魔の斬撃を繰り返す。
「ワタシの傷から水が流れるたび、此方の悪魔は強くなる」
「…………!」
「ワタシが耐えられなくなるのと、あなたが苦痛で魔法を愛せなくなるのはどちらが早いでしょう」
後は愉しい根競べ。
繰り返される苦痛に倦み、遂に治癒魔法への愛が陰ればブエルの不死は機能を失う。
残ったのは無残に損壊した水精と、その苦痛を存分に喰らった悪魔たちの眼光。
「……そうか。くだらない真似を……いい加減付き合う義理も……無い」
「それでは……ご機嫌よう」
最期は滑稽な程に呆気なく。
大鯱の一噛みで鋼鉄の躯体は砕け散った。
大成功
🔵🔵🔵
幸徳井・保春
災害、人災、人によっては自業自得からの逆恨みも含まれるが理不尽な悲劇が降りかかったからこそ、影朧として現世にしがみついて晴らそうとする。別段おかしな話ではあるまいよ。それを「運が悪かったから」の一言で片付ける気はない。それで割り切れないのが生物という物。問題はその憤りを誰に向けるか、だ。
憎しみを語るだけならば一時の安息の夢を見させる鱗粉で上書きし、物理的に襲いかかってくる相手にはマスクを貫通して体を痺れさせる毒粉を式神に撒き散らせる。
全てを消滅させる魔力の弾で全てを塗り替えても空虚でしかない。「何か」があるからこそ人は喜怒哀楽を感じることが出来る。悪魔のガスマスクを思いっきり殴りつけよう。
●花道を薄く照らして
「災害、人災――人によっては自業自得からの逆恨みも含まれるが――理不尽な悲劇が降りかかったからこそ、影朧として現世にしがみついて晴らそうとする」
學徒兵の一人なればこそ、幸徳井・保春(栄光の残り香・f22921)は影朧という在り方を知っている。
無念の儘に暴走を続けたところで、救いなど無い事も識っている。
保春が生まれるよりも前の惨劇があった。
帝都の平和を守らんと奔走する影で起きた悲劇があった。
「……別段おかしな話ではあるまいよ」
幻影の牢獄に囚われ、されど揺らぐ事なく真っ直ぐに見据える。
「「運が悪かったから」の一言で片付ける気はない。それで割り切れないのが生物という物」
彼らの怨嗟は間違いではない。彼らの悲嘆を否定する事は出来ない。
保春は――學徒兵たちは、そうした影朧等を相手取ってきたのだ。
「問題はその憤りを誰に向けるか、だ」
今、影朧たちは獣人戦線の世界を脅かす悪意の手駒として利用されている。
世界を渡れど帝都桜學府に属する一人として、為すべき事は変わらない。
引き抜いた霊符に力を込め、蝶の式神たちを呼び出す。
「【胡蝶の舞】。現の夢へ、舞い散らせ……桜の精のようにはいかないが」
式神が振り撒く鱗粉は一時の安息の夢を見せる。
悲劇の幻影が薄らいだ先には鉄面皮の悪魔が佇んでいる。
「その徒労に価値は無い。高々桜學府の若輩一人に、この悪魔ブエルは破れない」
「……ッ!」
咄嗟に身を投げ出すようにして魔力弾を躱せば、直前まで保春の立っていた空間が球状に消し飛ぶ。
一秒とて足を止めてはいられない。
身を起こした時には既に次弾が放たれている。
「全てを塗り替えても空虚でしかない。「何か」があるからこそ人は喜怒哀楽を感じることが出来る」
霊符の備えを纏めてばら撒き、呼び出す式神に渾身の力を宿す。
毎秒途絶える事なく放たれる魔力弾、着弾地点から半径1mという即死領域は近接戦闘に於いてあまりに広い。
研ぎ澄ませた五感で最適のタイミングを見切り、対処可能な位置で式神をぶつけ誘爆させる。
刹那の死線上では抜刀する猶予も惜しい。
最後の霊符と引き換えにした式神を握りしめ、僅か数秒で荒れ果てた戦場を走破して一呼吸に切り込む。
「これまでだ――悪鬼退散ッ!」
黒いマントをたなびかせ、決着は乾坤一擲の拳打を叩きつけて。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
世界には理不尽な悲劇が満ちている……か
そうだな、俺だって悲劇に直面した事はある。絶望して、何もかも嫌になった事はある
だが、世界にあるのは悲劇だけじゃない事だって知っている。だから俺は世界を守る為に戦うんだ
一面だけを切り取って「世界に守る価値はない」というのは……ま、悪魔らしいやり口ではあるのかもな
神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化してからブエルに接近
途中でわざと大きくジャンプ。通常、空中では碌に身動きが取れないのだから、敵は滞空中もしくは着地点を狙って攻撃してくるはず
それを神脚【無依】による二段ジャンプで回避しつつ側面に回り込み、向き直ってくる前に澪式・奥義【無念】の連撃を叩き込む
●夜を数えて朝を描くような
「世界には理不尽な悲劇が満ちている……か」
奪われた。守れなかった。裏切られ、踏み躙られた。挙句、誰に顧みられる事も無く消し去られた。
戦場を満たす呪詛は影朧の、影朧に堕ちた人々の怨嗟だ。
気の触れる程の絶望は巻き込まれた者の精神をも呑み込み、悲劇の牢獄に閉じ込めようとする。
「……そうだな」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)自身の内側からも、共鳴するように浮かび上がる記憶があった。
「俺だって悲劇に直面した事はある。絶望して、何もかも嫌になった事はある」
生前、救われる事も無かった影朧の呪詛は理解できる。
いわれのない悪意に虐げられる事は間違っている。報いも無く悪党がのさばるなど間違っている。
そんな非道の罷り通る世界を赦せない。その訴えには正当性がある。
……だが、と言葉を続ける。
全てを染め上げるように押し寄せる絶望の中でも、消える事の無い灯火がある。
「世界にあるのは悲劇だけじゃない事だって知っている。だから俺は世界を守る為に戦うんだ」
惑いはしない。
封じの白鞘より解き放たれた神刀が無形の神気を溢れさせる。
「一面だけを切り取って「世界に守る価値はない」というのは……ま、悪魔らしいやり口ではあるのかもな」
「さて……人間が勝手に潰し合い、勝手に絶望した事に私は関知していない」
「良い趣味してるよ。時にはそういう手合いの方が余程、|性質《タチ》が悪い」
一閃、悲劇の幻影を斬り払った先には表情の読み取れない悪魔ブエルの鉄面皮。
機械音声めいて淡々と【存在否定呪文】が紡がれれば、問答無用の消滅をもたらす魔力弾が放たれる。
「無茶苦茶な力だな……でも、そう簡単に喰らいはしない」
「その抵抗に意味は無い。人間に己の身の丈など超えられはしない」
「っ……!」
着脱地点から半径1mという消滅範囲は紙一重の回避を許さない。
解放された神気は鏡介の身体能力を増強するが、毎秒絶え間なく撃ちだされる魔力弾は詰将棋のようにじわじわと逃げ道を奪っていく。
地を蹴り宙に身を躍らせる。
表情など浮かべようもない鋼造りの顔面で、これで詰みだとばかりに緑色のアイレンズが明滅した。
空中で身動きの取れない獲物を消し飛ばさんと、魔力弾が放たれて――
「此処だな」
「…………!」
無依の神気を宿す剣士の脚が宙を蹴り加速する。
即死級の魔力弾に対し、心眼を研ぎ澄ませ地を駆けて躱し続けたのもこの一瞬の為。
トップギアに叩き込んだ最高速度はブエルの反応を遅らせ、死角より神刀の薙ぎ払いを叩き込む。
即座に斬り上げて態勢を崩し、返す刃で兜割りに繋ぐ。
硬い。物質的な硬度だけでなく、なんらかの術式で強化しているのだろう。
それでも内部にまで浸透した衝撃は悪魔に僅かな|硬直《スタン》を強いる。
「仕上げだ」
正確な刺突は間合いを調整する為のもの。
洗練された連撃の型は予定調和のように、必殺の一太刀を見舞う!
「この剣で紕いを断つ。即ち――澪式・奥義【無念】」
無念無想の太刀が引き出すは森羅万象の悉くを斬る刃の真髄。
因果法則さえも超越し、その斬撃は悪魔を真っ二つに断ち斬った。
大成功
🔵🔵🔵
エドワルダ・ウッドストック
↑
幻朧帝国。今はまだ謎の多い超大国ですわね。
その先鋒が悪魔というのは、流石に驚きますわ。
それでも、臆することはありません。
相手が影朧であろうと、かつて悲劇を被った人々の無念が立ち塞がろうと、抵抗を止めることはありませんのよ。
この世界で生まれた獣人ですもの。
救われない悲しみも蹂躙された怒りも、その無念は承知の感情です。
これ以上の悲劇を繰り返さないためにも、幻影を乗り越える覚悟を決めて、ブエルに……。
……戦死した、父の、幻朧……?
違う、お父様は……父上は、そんなことは言わないっ。
悪意を抱く者から、人々を守るために戦ったのだから……!
影朧の紡ぐ呪いに抗い、存在否定呪文をナイフの投擲や銃弾を当てて着弾しないよう凌ぐも、限界がきて、倒れ……。
わたくしは……まだ……!
苦しみながらも、折れずに立ち上がり、進もうとする中。
瀕死に陥ったわたくしの傍に、新しい影朧……いえ、亡霊が現れます。
……父、上?
影朧たちと同じく倒れた者として、死してなお立ち上がる【戦場の亡霊】が影朧の幻影を払ってくれます。
〆はおまかせ
●Spirits are forever with you.
獣人戦線を脅かす超大国の中でも、幻朧帝国の内情は未だ大部分が謎のヴェールに包まれている。
様々な異世界より侵攻する六つの超大国と渡り合ってきたエドワルダ・ウッドストック(金雀枝の黒太子・f39970)にとっても、その先鋒が悪魔だという事は驚きに値するものだった。
それでも臆する事は無い。
魔神や邪神との戦いさえ乗り越えてきたのだ。神に等しき存在さえ名を連ねるソロモン七十二柱の第十席が相手だろうと、その身に流れる血の誇りに懸けて退きはしない。
呪詛の大渦となって自身とブエルを遮る影朧たちを正面から見据える。
「相手が影朧であろうと、かつて悲劇を被った人々の無念が立ち塞がろうと、抵抗を止めることはありませんのよ」
足を踏み入れたエドワルダに襲い掛かったのは影朧たちの慟哭。
理不尽な悪意の犠牲にされた、罪無き民の嘆きがあった。
策謀の毒牙に掛かり、正義と誇りを穢された者の怨嗟があった。
こんな世界は間違っている。守る価値など無い。この絶望諸共に滅びてしまえと、影朧は口々に訴える。
「この世界で生まれた獣人ですもの。救われない悲しみも蹂躙された怒りも、その無念は承知の感情です」
戦いの中で斃れた同胞が居た。護れなかった無辜の民が居た。
影朧たちと世界は異なれど、犠牲となった者の無念は知っている。
その感情も背負って戦ってきた。背負えばこそ、足を止める訳にはいかなかった。
覚悟は疾うに決めている。
これ以上の悲劇を繰り返さないためにも幻影を超え、その先のブエルに照準を――
「――、ぇ」
「……エド」
覚悟が甘かった、と切り捨てるのは酷だろう。
現れたのが戦死した父の幻朧だとしても、彼女は振り払おうとしたのだ。
ただ。悪でなく、虐げられた影朧の悲嘆が。親を想うが故の動揺が、僅かにその手を鈍らせた。
代償は脚に弾けた焼けるような痛み。
“父”の放った弾丸は動脈を撃ち抜き、スタノヴォイの山肌を赤い血で濡らす。
「お前には失望した。守るべき民を取り零し、無意味な抵抗に同胞を巻き込み、世界に苦しみを振り撒いている」
「……やめて」
「何が正義だ。何が誇りだ。結果の伴わない自己満足に耽るのは楽しいか?」
「違う、お父様は……父上は、そんなことは言わないっ」
弾丸が、刃が、容赦なく襲い掛かる。身体の傷なら耐えられる。
軋むのは心だ。
大切な相手と同じ顔に向けられる軽蔑の眼差し、憎悪の言葉は防ぎようもなく突き刺さる。
「だって、父上は……悪意を抱く者から、人々を守るために戦ったのだから……!」
「そうだ。全て、間違いだった」
「間違いなんかじゃ――っ、ぐぅ……!」
思うように身体が動かないのは呪詛のせいだ。
此処で屈すれば、自分たちの戦いまでもが無意味だった事になってしまう。そんな事は許されない。
蹴り飛ばされて地に転がり、猶も起き上がろうとした手を弾丸が貫く。
「終わりにしよう、エド」
「それでも……わたくしは……っ!」
軍用鮫鉈の禍々しい刃が振り下ろされ……硬質な音を立てて弾かれた。
エドワルダを守った新手の顔は見えない。だが、ガーター騎士団の外套を翻す後姿を見紛う筈も無い。
「貴様は……!」
「……父、上?」
清冽な一閃が幻影を斬り裂く。
“父”の姿も幻と共に掻き消え、軍帽を目深に被った亡霊はエドワルダに手を差し伸べる。
負い目や怖れ、彼女の心に巣食う闇が影朧の呪詛により実体化していた幻なれば、傷はいつの間にか消えていた。
「共に戦おうと……仰ってくれるのですね」
耳朶に残る怨嗟は無くならない。
それでも差し出された手を取れば、思い出と変わらない力強さと温もりが支えてくれる。
足に力を込めて見据えた前方には不気味な詠唱を紡ぐ悪魔の姿。
「見苦しい姿をお見せしました。ですが……わたくし、以前より強くなりましたのよ」
「計画に変更は無い。再起したところで傷は無くならない。お前に私は倒せない……」
放たれる魔力弾は着弾と同時に半径1mもの空間を消滅させる凶悪な即死攻撃。
ブエルの分析は客観的な根拠に基づいたものだ。
負った傷は幻だったとしてもエドワルダの動きは万全でなく、秒単位で撃ち出され不規則な軌道を描き迫る魔力弾を凌げる保証は無かった――独力ならば。
拳銃を引き抜いた亡霊の早撃ちが魔力弾を誘爆させ道を拓く。
「……遠い背中ですのね」
けれど、あの日よりは確かに近づいている。そんな実感に、こんな時だというのに笑みが零れた。
恐れは無い。亡霊の背を超え、前へ。
「叩き斬って、やりますわよ!」
ありったけの力を振り絞った軍用鮫鉈の一撃が、悪魔の躯体を真っ向から打ち砕いて。
力尽きたブエルが塵と化し消滅するのを確認すれば、窮地を救ってくれた亡霊に振り向く。
――エド。
やはり声は聞こえない。ただ、短い言葉は口の動きから読み取れた。
――私たちはいつも、君と共に在る。
「っ……ええ。ありがとうございます。どうか、これからも見守っていてくださいませ」
気高く、精一杯の笑顔と共に騎士団式の敬礼で見送る。
敬礼を返す亡霊の姿は、朝を迎えて夢の醒めるように消えていった。
―― 悪魔「ブエル」、撃破 ――
大成功
🔵🔵🔵