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獣人世界大戦⑬〜重逢

作者：ツヅキ

　混沌化、それが最初に猟兵の前に現れた時のことを覚えているだろうか。
　とても強い相手だった。
　そして恐ろしい相手だった。
　悪ですらない、まるで空虚そのもの……有頂天道人が使う力はそのようなものだ。彼の右半身は蠢く白い靄のような異形となって襲いかかる。
「どちらが先に『はじまりの猟兵』の元へたどり着けるかな？　これは『師父』の命だからな。俺は絶対に譲らないぜ……！」

「有頂天道人は、『サイバー化』と『渾沌化』で己の肉体を強化しつくした百戦錬磨のコンキスタドールだ」
　仰木・弥鶴（人間の白燐蟲使い・f35356）はあらためて有頂天道人について説明した。
　圧倒的な暴力のみならず、智謀すらも駆使して人民租界のサイバーマフィアを統率する、強敵。彼が『師父』と呼ぶ者の正体は未だ不明である。
「だが、有頂天道人が渾沌化で操る異形……『白き天使の翼』、『白きおぞましき触手』、『白き無貌の牛頭』、『白き殺戮する刃』、見覚えがある人もいるんじゃないかな。不規則に変化する混沌化によって放たれる『予想もつかない不意の一撃』は脅威だ。冷静な立ち回ることができなければ翻弄され、有頂天道人の前に敗北を喫することになるだろう」

　既にサイバー化と混沌化によって比類なき強さを手に入れた有頂天道人の、さらに隠し玉とも言える異形なるものたちの不意打ちを克服しなければ、その先を目指すことは不可能だ。
「果たして、初めて見るものではないのが良い方に働くのか悪い方に働くのか。すべては皆次第。準備が良ければ送るよ。混沌化すらもマスターする実力者、有頂天道人のところへ……」

第1章 ボス戦 『有頂天道人』

POW   :    サイバネ殺法 undefined cyberne 【機械化義体でカンフー技】を放ち、命中した敵を【undefined】に包み継続ダメージを与える。自身が【中国拳法の構えを】していると威力アップ。 SPD   :    サイバー渾沌拳 undefined kungfu 【サイバー化した肉体】と【渾沌化した肉体】を組み合わせた独自の技能「【サイバー渾沌拳】」を使用する。技能レベルは「自分のレベル×10」。 WIZ   :    渾沌波動弾 undefined aura レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1ｍ以内の全てを消滅させる【undefined】を放つ。発動後は中止不能。 イラスト：松宗ヨウ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

――懐かしい、とコンキスタドールである有頂天道人はもしかしたら、心のどこかで思ったのかもしれない。
　バルタン・ノーヴェ（雇われバトルサイボーグメイド・f30809）の展開する『骸式兵装展開、笠の番』は、またしても彼を模倣された九龍城塞の内側へと閉じ込めたのだ。
「リベンジマッチ受付けマスヨ、チャレンジャー！」
「ちっ、やりづれぇ！」
　倒すべき対象を手探りで求める混沌化した異形の獣たちが吼えた。
　だが、低い嗤い声は彼らのものではない。それは鳴上・冬季（野狐上がりの妖仙・f32734）の唇から漏れ出でる嘲りの。なにせ混沌化の能力を持つ宝貝の存在を知らないとは無知蒙昧、さらに嗤う。
「混とは字の如く混じり合うことです。元の性質以外の形質を獲得したもの、そして敵対者に多大なる損害を与えるもの。仙界ではそういう宝貝に、混の文字を与えるのです」
　指先を立てるごと、有名な宝貝の名前をひとつひとつ挙げてゆく。
「混天綾、混元珠、混元傘、混元金斗。１つくらい貴方も聞いたことがあるのではないですか」
　言葉に合わせ、冬季の手元で｜何かが掻き回される《・・・・・・・・・》。今まさに新しい宝貝が生まれようとしているのだ。
　混沌化の作用を眠らせて禁じることのできる、――縛作八音盒。授けられた黄巾力士はそれを持って上空へ上がり、音色を奏でた。
「何が起こってる？　まさか、混沌化が解け始めているのか」
　少しずつ、けれど確実に有頂天道人の右半身が元の姿に戻り始めているのだった。
「なんて野郎だ、混沌を封じる宝貝を自分で作っちまうとはな」
「もっとも一刻しか持ちませんがね。決着をつけるには十分過ぎるでしょう？」
　三度嗤い、雷公鞭を叩きつける冬季の攻撃によって有頂天道人の構えが解かれた。すかさず、儀水・芽亜（共に見る希望の夢／『夢可有郷ザナドゥ』・f35644）と禹・黄風（武の頂を・f40009）が挟み撃つ形で攻撃を繰り出す。
「またお会いしましたね、有頂天道人。あれはあなたではないあなたでしたが」
「これ以上好き勝手にさせる道理はありませんからね。――打ち砕きましょう、この棍に懸けて」
　既に相対は初めてではなかった。
　ゆでに芽亜が有頂天道人の動きを見切るのも速い。霊気を放つ裁断鋏で狙うは、混沌化をもたらす右半身。さあ、どちらが生き残るか、勝負の時間がやってきた。
　天井からは未だに縛作八音盒の音色が響き渡る。さらに芽亜の鋏によって引き裂かれた混沌化は急速に規模を縮小させつつあった。
　黄風は右半身側に回り込み、接近戦を得意とする相手の得意な間合いに入らせない。
「風か！」
「ええ、その通り」
　暴風から身を守るように交差した腕を掲げる有頂天道人に黄風が頷いた。まるで龍のように黄金の闘気を放ちながら有頂天道人を押し返す、暴風雨。勢いを削がれた有頂天道人の攻撃を黄風の棍が払いのけ、逆に重い一撃を相手の胴体に叩き込んだ。
　――手ごたえ、あり。
　突風で加速する三節混は突風に乗って有頂天道人の体勢を崩すのに一役買った。揺らいで狙いのぶれた混沌から冬季が縮地で逃れる。
　夜刀神・鏡介（道を探す者・f28122）は封印を解いた神刀を構え、｜その刹那《・・・・》が来るのを待っていた。どうやら相手は随分と心酔しているようにも見える。
（「ま、わざわざ虎の尾を踏んでやることもないだろう」）
　そもそもこれだけ義体化した有頂天道人に虎の尾があるかどうかが疑問ではあるが。右半身の混沌化を重点的に狙う猟兵の攻勢を受け、有頂天道人の不利はもはや否めない。
「やるじゃねぇか、猟兵！」
「ヒャッハー！　それほどでもありまセーン！」
　奉公人らしく謙遜しつつ、バルタンは火炎放射器をぶちかまして有頂天道人の隙を探る――と見せかけて狙いは別にあった。
　｜密閉度の高い九龍城塞内部でこれだけの炎を燃やしたらどうなるか《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》？
「答えは生身部分の窒息デース！」
　しまった、と有頂天道人がバルタンの狙いに気づいた時にはもう遅い。
「出口は――」
「ここさ」
　サイバーと混沌の合わせ技であろうが、鏡介の前には対処できる攻撃である以上、関係がない。鏡介は炎を踏み越えながら有頂天道人の攻撃を静なる動作で受け流す。ほんの僅かな隙だが、バルタンがパイルバンカーを打ち込むには十分過ぎる一瞬だった。
「勝負ありマシタネ？」
　バルタンは真上から杭を打ち込んだ。
　有頂天道人を真芯に貫き、その場に縫い留める。
「どうやら、勝利の女神は俺たちに微笑んでくれたようだな」
　刀を構え直した鏡介の目には全ての動きがゆっくりと見えた。逸る心を抑え、待ちわびた｜刹那《・・》にただ一度だけ刀を振るった。
　それが致命傷となって、有頂天道人と共に全ての混沌が消滅してゆく。九龍城塞が姿を消した時、後には義体化された肉体の一部しか残りはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年05月12日