獣人世界大戦⑩〜キッド・ザ・タフガイ
獣人戦線は中国という国があった地方。
無論、今でもそう呼ばれることもあるが、多数のオブリビオン超大国がひしめくこの世界において、その土地を支配しているのは人民租界と言われていたのだが……。
その中でも遼東半島突端部に位置する「旅順要塞」は、幻朧帝国の租借地となっているという。
謎に包まれていた幻朧帝国によるその要塞には、多数の異世界人たちが集まるとされている「流れ者の宝庫」とも呼ばれる楽浪郡を近辺にもっているためか、その在り様は混沌としている。
そのいずれもが、屈強なオブリビオン。多種多様なオブリビオン兵団を束ねるには、それはもう屈強な団長が据えられなくてはならないだろう。
「なんだぁ、てめぇ!? ここで俺っちとやろうってのかい?」
「おっと、私闘はルールで禁止っスよね。でも、やろうってんなら、いつでも歓迎っスよ」
いさかいは絶えず勃発していたし、ひとたび対立が表面化すればお祭り状態で、止めるどころか煽り立てて収拾がつかなくなる。
だがそんな彼らをまとめ上げるのは──、銃声だった。
「ちょほいと待ちなぁ……命を張った勝負結構……だが、ここを任されたからにゃあ、止めなきゃならねぇ」
二挺のリボルバーが硝煙を吐くのをかすかな余韻としつつ、渋い低温ボイスで静まり返った要塞の広間を練り歩き、重たい質感が腰に下げたホルスターへと収まると、ウサギのガンマンにしてこの兵団をまとめ上げる『バニー・ザ・キッド』の姿は、それこそ銃を携え直立したウサギにしか見えない愛らしい姿をしているが、その腕前は本物であった。
彼の率いるキマイラ兵団は、その愛らしさと男気がおもしろそう……もとい、惚れ込んでついてきたキマイラフューチャー出身のオブリビオンが多くを占めるらしい。
いさかいを起こした荒くれキマイラが手にした凶器……アイスすくうやつ(アイスディッシャーというようだ)やペッパーミルは、目のも止まらぬ早撃ちで弾き飛ばされ、振り上げた拳どころか、妙に様になるキッドの立ち振る舞いを素直に称賛する。
恐ろしい支配者の一角に過ぎぬオブリビオン兵団であるが、キッド率いるキマイラ兵団はその妙なノリから、妙に恐れられているという。
「なんという……可愛らしい、恐ろしい集団でしょうか!」
グリモアベースはその一角、レトロなお仕着せに黒い鳥を連れた給仕の疋田菊月は、予知によって齎された映像を食い入るように見つめていた。
今回の目標である幻朧帝国の将の一人、バニー・ザ・キッドは、恐ろしい獣のオブリビオン兵団を率いるという。
本人も凄腕のガンマンであり、一癖も二癖もあるキマイラフューチャーからあぶれたオブリビオンを率いているのだという。
見た目はファンシーだが、どうやら周りから一目置かれているらしいぞ。
「中国といえば、人民租界のサイバーな感じかと思っていたのですが……どうやら、謎に包まれている幻朧帝国が関わっているようですねー。私もサクラミラージュから来ているので、気になってしまいます」
サクラミラージュの皇族や桜學府の首脳部は、幻朧帝国を知っているのか。いや、獣人戦線という世界すら知り得ていなかったという話だが……と、愛らしい空気には不似合いな真面目な顔で考え込み始める菊月を、傍らの黒い鳥がつついて進行を促す。
「とにかくですね。可愛らしい見た目ですが、兵団をまとめ上げるくらいの侮れない相手です。そして、キッド氏を倒そうとすれば、まず間違いなくキマイラ兵団も相手取る必要があるでしょう。
変わり者ぞろいの、一見階梯の高い獣人さんにも見えますが、むやみやたらに強いので、注意しましょう」
ただ、怪人に身を窶してキマイラフューチャーに居られなくなった、或は神隠しで連れてこられたキマイラであるとはいえ、彼らの本質は大きく変わっていない。
かっこいいノリにはかなり弱く、もしかしたらキッドに勝るとも劣らぬキメ芸を披露すれば、うっかり簡単に倒されてしまうかもしれない。
故郷を追われてしまっても、彼らのあこがれはいつだってヒーローである。
「かの兵団に対処できてさえしまえば、キッド氏との対戦を有利に運べることでしょう。恥ずかしがらずに、堂々とキメちゃってくださいね。
皆さんの雄姿は、後で動画にしてお送りしますから!」
余計な事を言いつつ、菊月は猟兵たちを送り出す準備を始めるのであった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
悲惨で過酷な戦線を形成する今回の戦争シナリオの中で、どうしてこんなノリになってしまったのか、よくわかりませんが。
まあ、その、どんなシナリオにしようかとパッと見た敵将の姿が輝いて見えたので、こうなりました。
このシナリオは戦争シナリオとなっておりますので、1章完結の短いものとなっております。
また、戦争シナリオですので、プレイングボーナスというものも、公式から設定されております。
この要塞に詰める幻朧帝国の将は、癖の強い異世界のオブリビオンの兵団を従えています。
本人も強いですが、何よりも彼の者が率いる兵団に対処する必要があるかもしれません。
その内容については、オープニングをよく読んで……まぁ、その、ノリでついて来てください。
断章及び、プレイング募集期間は設けず、基本的には貰った順にリプレイをお返ししていく感じになると思います。
むやみに戦わずとも、イキるだけでもギリなんとかなりそうな、貴重なシナリオになるかもしれません。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 ボス戦
『バニー・ザ・キッド』
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POW : ガンマンスタイル
【2丁拳銃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 早撃ち
レベル分の1秒で【実弾】を発射できる。
WIZ : 超炸裂弾
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【大爆発を起こす炸裂弾】を放つ。発動後は中止不能。
イラスト:くらりん
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アレクサンダー・ライオンハート」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
オクト・パスフォルド
クルクル転がる謎の草を背景に要塞に足を踏み入れる
無頼の空気は馴染み深い
銀河でも地上でも、結局は流れ者達の行き着く場所は同じと言う事か
「バニー・ザ・キッドに用がある。通してもらうぞ」
無頼キマイラ達に声をかける
勿論彼等が素直に従うとは思わない
だが、彼等に囲まれても気にせず、歩みを進め
「退け。お前達に用はない」
眼に【覇気】をこめて、道を空けさせる
それでも銃を抜こうとする者には、早抜きでコスモガンを突き付けて一つ睨んで黙らせよう
演出は分かりやすい位が良い
バニーに対峙し、告げる
「殺しは一度覚えたら止められない」
今はノリノリのキマイラ達だが、その実は危うい立場にいる
「夢の時間はここで終わりだ」
銃声が鳴る
ミスツ・シューパリツェ
※アドリブ連携歓迎
流れに流れて頼るのが男気溢れる奴ってえのはキマイラでなくても納得ではあるな
だがそれがオブリビオンじゃあ話は別だ
釣られて悪事重ねる前にカタギに戻してやるのが筋ってもんだ
て訳で邪魔するぜ、と広間に扉を触手でぶち破ってカチコミだ
どよめいて威嚇してきても俺にはペットの鳴き声よ
「ピーチクパーチクうるせえなわんころ共!俺が用あんのはここのアタマ、その兎野郎だけだ。男同士の勝負で蹴りつけようや。てめえらは指かっぽじってようく見てやがれ!」
て軽く◆恫喝してやりゃ黙るだろ
兎野郎の銃弾は短刀『跳ね兎』で兎野郎ごと全て切り裂く
ま、本当はUCで全身の目で見て切断しただけだが今回はハッタリも重要ってな
旅順要塞を形成するのは、いくつかの砦によって成る。
多種多様な流れ者のオブリビオンを抱えるからには、一つ所に収まらないのだろう。
数々の多様な砦の中でも、そこは異質であった。
一見するとポップな看板。しかし、荒涼とした風がどこからともなく吹き付け、風景と合わせて見てもどこか色あせて見えるような、パステル絵の具できれいに仕上げた絵画を、敢えてデザインナイフで粗く表面を削ぎ落してしまったかのような、荒々しくうらぶれた、それは雰囲気だった。
びょう、と風が吹く。
突風ではないが、長く吹き付ける乾いた風は、どこからともなく鞠のように丸まった草の塊をかさかさと転がしていく。
どうでもいいが、タンブルウィードという荒野の風に乗って転がることで種を放出するれっきとした植物の繁殖行動であることは、案外知られていない。
それを視界の端っこに見送るのは、一筋の長い影を落とす男が一人……男、男だよな?
オクト・パスフォルド(銀河提督・f43245)は、一見すると赤く茹ったタコのような、丸く一つ尖った頭とそこから生える触手状の手足からなる、通常の類人猿から進化したとされる人間とは異なる体型をした、マルス星人である。
その辺のSF小説に転がっていそうな異星人のように、でかい頭にほっそりしたクラゲのような手足ではなく、彼の身体を支えるその触腕は、束ねられた金属ワイヤーを思わせる隆々とした筋肉を感じさせる。
そして何より、傷跡の残る鋭い眼光が、オクトの並々ならぬ経験を、尋常ならざる来歴を物語っているかのようだった。
かつて、銀河にその男ありと噂された銀河提督。それがどこの銀河であったかは定かではないが、ここに居るのはただの男一人。
ぎぎぎ、と軋みをあげる砦の扉を押し開ければ、即座に降り注いでくる剣呑な眼差し、眼差し!
視線にナイフのような切れ味があるとすれば、今頃オクトのその身には、無数の切っ先が向いていたと言えるだろう。
懐かしい暴力の空気。無頼の空気がなじみ深く、そして懐かしく思えるほどに、男は歳を取ってしまったのか。
「銀河でも地上でも、流れ者の行き着く先は同じという事か……」
「なんだぁ、おっさん! タコ踊りは頼んでねぇぜ」
「バニー・ザ・キッドに用がある。通してもらうぞ」
パンクなブルゾンでキメキメのキマイラが、視線を上下に舐めるようにしつつ、オクトを威嚇してくる。
猫っぽいキマイラだが、ブルゾンにはホットドッグがプリントされ、どことなくコミカルである。
凄んでくるそのキマイラに鼻で笑いかけつつ、オクトの握り締めた触腕が目にも留まらぬスピードでボディをえぐる。
うぐぐ、とつんのめって埃まみれの床板に転がるキマイラに、周囲の剣呑な視線が色めき立ち、咄嗟に銃を手に取る者も居たが、それよりも早く、オクトはコスモガンを抜きつけ、まるでそこに糸でも繋いでいたかのようにぴたりと狙いをつけてしまう。
殴るのも、狙いをつけるのも、あまりにも熟達した技術故に、その辺のチンピラの目には留まらなかった。
或は、衝動のままに手にした銃で発砲し、騒ぎを大きくすることもできたかもしれない。しかし、キマイラの若者にはできない。
コスモガンの銃口、それと共に向けられた鋭い男の目。ただのひと睨みが、銃で立ち向かう事の無意味さを諭しているかのようであった。
「退け。お前たちに用はない」
「ククッ、マカロニだねぇ」
ぴりっと比率く空気の中、どこからともなく女の声が聞こえる。固まった空気にヒビを入れるようなその声は、次の瞬間、本当に割れる音と共に降ってきた。具体的には、高い位置にあった窓を突き破って落っこちてきたのだ。
白い、それは女、のような、何かだった。
ミスツ・シューパリツェ(バイオモンスターのバーバリアン・f17654)は、ミルクを溶いて少しだけプルトニウムを混ぜ込んだかのようなケミカルな質感を思わせる、バイオモンスターである。
可憐な乙女のように見えるのは実質上半身だけであり、異形の翼と、主に下半身を構成するのは無数の触手。そして、乙女のように見えるし実際性別は雌であるのだが、彼女の主導権はかつて捕食された暴力組織の男であるという。
ゆえに、可憐な顔でミスツは暴力的に笑む。
「邪魔するぜぇ、タコの旦那」
「いい演出だな」
ガラス片の中で前髪をかき上げる仕草を見せる闖入者にも、オクトは慌てなかったものの、ここに巣食う荒くれどもはそうはいかない。
「なんだぁ、てめぇ! お前こそタコじゃねぇか!」
「カチコミ、カチコミだぁ!!」
「けっこうかわいいかも!」
騒ぎ立てるキマイラたちの罵声を、いちいち聞き耳を立てるように、時におっとり、ときに舌を出しててへっと聞き流していたミスツは次第にそれも面倒になったのか、心地よい子犬のさえずりのように涼しげな顔をするのもひと時のこと、やがて肩をすくめてにぃと笑う。
「ピーチクパーチクうるせえなわんころ共! 俺が用あんのはここのアタマ、その兎野郎だけだ。男同士の勝負で蹴りつけようや。てめえらは指かっぽじってようく見てやがれ!」
この場の何者にも勝るかのような、それは怒声であった。少なくとも、喧嘩を振りまくのに場慣れしたかのような、巧みなそれはある意味で話術と言えるだろう。
よく通る大声で、いわば力業でねじ伏せるかのように宣言するそれは、あまりにもチンピラであるにもかかわらず、その剣幕のみであっという間に場の空気を支配してしまった。
「悪い大人の手管だ」
「言うなよ、旦那。タイマンなら力だがよ。暴力を制するのは、恐怖だ」
いかにもな粗暴。しかし計算のもとで暴力を使うそれは、暴力組織の人間として必要な素養の一つであった。
混沌の中にも、目に見えない秩序は存在し、そこには混沌を維持する摂理が存在する。
無法の中に存在する礼儀。ともすれば悪用しかされない道理を、息をするように利用するモンスターと、マルス星人は、混乱と恫喝に支配された空気の中に、やがて統率者の到来を感じた。
「ちょほいと待ちなぁ……。やれやれ、乱暴な客が多いぜ。そんなに死にたいのか?」
低い声。そしてそれに見合わぬ可愛らしい毛皮のガンマンは、その見目にそぐわない強者の風格を確かに備えていた。
バニー・ザ・キッド。直立したウサギにガンベルトを巻いたような可愛らしい姿に似合わず、その言葉は剣呑であった。
「お前さんなぁ。わかってるのか?
流れに流れて頼るのが男気溢れる奴ってえのはわかるぜ?
だがそれが、オブリビオンじゃあ話は別だ。
釣られて悪事重ねる前に、カタギに戻してやるのが筋ってもんだ」
「……殺しは、一度覚えたら止められない」
キマイラと言えば、楽しい事が大好きな、陽気な連中なのは知っている。人が滅んだ遥か未来の世界で、毎日楽しく、それはもう平和に暮らしているのを知っている。
中にはアウトローの道に入り込んでしまい、あぶれる者も居るだろう。
だが、今は楽しくとも、一線を踏み越えたら、もう戻っては来れない。
悪の道を知る者たちだからこそ、カタギの有難みを知っている。
いかに愛らしくとも、その手に持つのは人殺しの武器であり、バニー・ザ・キッドはオブリビオン。おそらくその味を知っている。
「お優しいな。それで、口だけで止められると思ってるのか? 違うはずだぜ、兄弟」
鼻と口が一体化したような、ともすればバツ印にも見える口元が、或は鼻がふんふんと緩んでみたえのも束の間。
キッドの腕組みしていた手先が肩をすくめるようにして動いたと思った瞬間、機先を制する意識の外側に隠れるかのように、するりとホルスターにその手が伸びる。
意識が動く、そのほんの一瞬の間に、ガンマンは銃把に手をかけ、腰に銃床をあてがうかのようにしつつ撃鉄を器用に起こす。
腰を支点に二挺の銃をそれぞれ片手でファニング。そんな小さな手でどうやって、などと野暮なことは言うまい。
恐ろしく速い抜き打ちは、居合にも通ずるものがある。おそらくは、猟兵でなければ見逃していたかもしれない。
そう、キッドが相対するのはその猟兵であった。
見えていたのだ。ミスツには、それこそ頭に相当する部位のほか、全ての触手に視覚器官が存在する。
そして彼女のユーベルコード【乱血乱斬・散桜花】は、その強力に集束した眼力でもって、気合で相手を斬るものなのだが、それだけでは傍目にはったりが利かないので、
「しゃっ!」
抜き打つドス『跳ね兎』が、飛来する鉛玉を斬り裂いた、かのように見せかけ、同時に猛然と踏み込んでその腕を斬り裂く。
「夢の時間はここで終わりだ」
楽しい夢が悪夢に変わる前に、オクトの光線銃は、キッドの早撃ちを見切り【コズミック・ギャンビット】によって早撃ちで上回る。
交わした会話の長さでその抜き打ちは速さを増すのだが、言葉少なながら、オクトは理念と経験で、銃声を制する。
「ぐうっ……!!」
銃を取り落とし、後ずさるキッド。
確かな銃技を以て行われた、その攻防はまさに一瞬。目にも留まらぬものであったが、その銃声、刃の痕跡は誇張はあれども嘘をつかない。
「す、すげぇ、戦いだぜ……!!」
あぶれ者の若者たちは、その在り様に息をのんで佇むしかなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メルキア・セルデモン
何というべきかしらね。……奇妙?
とはいえ、その銃の技術には興味があるわ。
相手が使った能力(ユーベルコード)を使用不可にした上で、私はソレを借用できる『能力奪取(ユーベル・スナッチ)』。それを利用すれば、ウサギのついでに取り巻きのオブリビオンもどうにかできるはず。
兵団の対処や能力使用条件の防御手段は、持ち前の猟銃で的確に撃つか、毒を仕込んで倒すか……イメージとしはそんな感じね。
〇アドリブ・連携歓迎です
キャット・アーク
フカフカでカワイー感じなのに、ちゃんと|群れの長《リーダー》なんだ
確かに面白いね
UC発動
ここはもうオレの|世界《もの》
武器とか(よく分からないものとか)向けられても、指先で押し返すだけで矛先は外れる
ほらほら道をあけて
|花火《超炸裂弾》はまだダメ
何事もタイミングってものがあるからね
ウサギの目をジーッと見つめる
オレ、キミたちの|兵団《チーム》が結構気に入ったんだよね
見てて飽きないし
オレと一緒に来なよ
そしたらオレみたいに、楽しくてサイッコーに気持ちイイ生き方ができるよ
とりあえずその|とっておき《超炸裂弾》は全部、超大国側の陣地に使っちゃおうか
悪の帝国に反旗を翻して戦う……すっごいヒーローっぽくない?
たとえば、この場に相応しい言葉としては、混沌という有様を当てはめるのがいいのかもしれないように。
多種多様な流れ者を擁する要塞の、その小さな砦を担うキマイラ兵団たちは、他の集団と同じように、いや、それよりも混沌の度合いが大きいのかもしれない。
ここに居るのは、いずれもが一つの獣に留まらない。獣人の世界においてすら、彼らキマイラというオブリビオンになった者たちは、異端であった。
その経緯は様々であれ、自由と享楽をひたすらに求めつつ、平和な世界に馴染めなかった荒くれどもの中に、小さなガンマンの姿は輝いて見えたことだろう。
バニー・ザ・キッドの在り様には、芯があったように感じたのだ。
多少、キメ過ぎな気もするが、愛らしい見た目にそぐわず、そのテンガロンハットを耳が邪魔して被れない頭には見えざる王冠があったのだ。
「へえ、フカフカでカワイー感じなのに、ちゃんと|群れの長《リーダー》なんだ。
確かに面白いね」
キャット・アーク(|路地裏の王様《ボスネコ》・f42296)は、王という言葉にそれなりに敏感だ。
そのサイボーグの少年には、貴族の青い血が流れている。などということはおそらくなく、動きやすい服装に身を包む、なんだか愛嬌のある雰囲気以外はどこにでもいそうな少年の姿は、どちらかと言えばキッドの周りに集う荒くれと似たような空気があるだろう。
だがその見た目に騙される者は、彼の交友関係の広大さを知れば驚愕することだろう。
何故かと聞かれれば、それは彼が愛される存在であるから。自らを猫と言って憚らない少年もまた、見えざる王冠を手にしている者なのかもしれない。
権力とは据えられるものであり、自ら名乗ることは稀である。そして、王とは、それを名乗るとき、名乗るものを傲岸と言うだろう。
生意気そうに、不敵に笑うその底知れない顔つきも、今はそれすらも仕掛けに過ぎない。
「何というべきかしらね。……奇妙? でも……」
メルキア・セルデモン(2つの存在を掛け合わされた者・f40535)は、当然のようにその小さな直立したウサギのシルエットに疑問を抱くのだが、彼女のミレナリィドールとして構成されるまでに組み込まれた蜘蛛の要素が、警戒せよと告げていた。
虫の知らせというのか、単純に直感的に感じるだけなのか。メルキアがこういった危機感にも似た感覚を外したことは無かった。
ただの小さな獣人でないことは、オブリビオンである時点で理解しているつもりだったが、見た目の愛らしさがどうにも侮りの感情を育ててしまう。見た目が可愛いというのは厄介である。
おそらくはその何倍も、キッドは侮られてきたのだ。しかし、それを黙らせるだけの技量を秘めているに違いない。
だとすれば、あの銃……いや、それを扱う技術だろうか。
気になる……。何かとんでもない隠し玉を持っているのではないか。
メルキアの興味は尽きなかった。
そして、砦の闖入者である二人への扱いは、相応に荒々しいものであった。
「なんだ、てめぇらぁ!? ここはキマイラ兵団の砦、ひいては要塞なんだぜ。何の用事だぁ?」
荒っぽい口調のキマイラの男は、いかにも平和とは程遠いはみ出し者といった風情だったが、その目つきはどこか何かを期待しているようなものがあるように見えた。
彼らキマイラは、争いごとやトラブルを嫌ってはいない。そこには苛立ちよりも、新手の倒すべき障害という、ヒーローの餌があるからだろう。
救いようがない程に、彼らは娯楽に飢えている。
だが、彼らはわかっているのだろうか。
キッドは将校であり、その後ろにはるのは獣人たちの世界を席巻する、もっといえば蹂躙する超大国なのである。
英雄が跋扈する。そんな綺麗ごとでは語れまい。
それを勘違いさせたまま、戦力として率いるのは、王としてどうなのだろうか。
キャットは肩をすくめる。
パイ生地やパンを伸ばすための木製の棒を手に、ほんのり粉っぽい凶器を突き付けて恫喝してくるキマイラのそれを、つんと指で押しのける。
屈強なチンピラのそれが、何の力も込めていないキャットの指先で逸らされて、つんのめる姿は異様であった。
あれっと小首を傾げるチンピラの疑問は、まさに波を打つかのようにして周囲に伝播すると、それに応えるかのようにキャットはニヤッと笑う。
「ここはもう、オレの|世界《もの》。そうだよね」
【猫の一声】それが、砦の饐えた空気を一新してしまう。
何気ない言葉一つ。しかし、そこに抗いがたい服従の令が宿る。なぜならば、その空気、その世界は既に、キャット・アークを王とし、服従し|傅<かしず>くことこそ幸福である世界に変わっているからだ。
「ほらほら、道を開けて」
堂々と歩くキャットにとって、その世界は実に都合がよく、無意識のうちに抵抗力を奪われたらしいチンピラどもは、あれぇおかしいなぁとは思いつつも、敬うようにしてそそくさと道を開けていく。
なぜだろう。しかし彼の言葉に従うと、とてもいい気分になった。
「嫌な空気に、してくれるなぁ? こまったお坊ちゃんだ」
その中で唯一、キッドだけが銃を向けてきた。
彼には世界の法則が効いていないのか。いや、そんなことはないのだが、キッドは曲がりなりにも将校。ならば王に異を唱えるもあり得なくはないのだろうか?
そんなウサギの顔を、キャットはじっと見つめる。
銃を突きつけられている状況で、すぐそばのメルキアは警戒して猟銃を構えるものの、当人であるキャットは相変わらず手に武器の一つも持たない。
「オレ、キミたちの|兵団《チーム》が結構気に入ったんだよね。
見てて飽きないし……。
オレと一緒に」
「いやぁ、断る!」
「っ!」
懐柔するようなその言葉に王の律令があると知るや、言葉を遮るようにキッドは引き金を引いた。
超炸裂弾が視界を焼き、それはキャットを粉々に──することはなく、直前に正確にその弾道を計算し弾頭を迎撃したメルキアの猟銃、その弾丸が延焼を最小限にとどめた。
様々な生物の遺伝情報を持ち、その特性を発揮できる猟銃『ゲノミクス・ショット』は、弾体を対爆性能の高い不定形生物に変質させ、その爆発力を抑えたのだった。
「ちょっと、勘弁してよ。花火はまだダメだって。こういうのは、タイミングが大事だよ?」
撒き上がった埃を払いながら、キャットは咄嗟に間に入ったメルキアにウィンクしつつ、尚も不敵に笑う。
「仕留めそこなったな……まったく」
「いいね。だから気に入ったよ。だからもう一度言うよ。オレと来なよ。
そしたらオレみたいに、楽しくてサイッコーに気持ちイイ生き方ができるよ。
悪の帝国に反旗を翻して戦う……すっごいヒーローっぽくない?」
少年の甘い誘惑は、キマイラたちにとっては、とても効力のある言葉だった。
ハードボイルドな獣人に語り掛けるには、あまりにも甘美で、だからこそ、軍人である彼にはそれが届かない。
チンピラには効果てきめんだったが、たとえそれに従ったとしても、キッドは幸福では動かない。
「悪いが俺は軍人でね。こいつらを束ねて、戦いを仕掛けるのが仕事なんだ。お前さんらはとても強敵で、どうやら手に負えんらしい……つまり、どうするかってえとな」
「まさか!」
もう一挺のリボルバーが、キッド自身を狙う。まさか、超炸裂弾をもう一発用意していたというのだろうか。
キャットを狙うならば、メルキアが止められるかもしれないが、自身を狙う、自決に巻き込むものであるならば、それを止めるすべを、キャットは持たない。
超大国側の陣地に使わせるつもりではあったが、こんな結末を迎えるつもりはなかった。
逡巡はキャットの判断を遅らせるが──、しかしどういうわけか、確信をもって使ったはずのリボルバーはなんと不発に終わった。
銃の名手が、それを許すものだろうか?
「それは使えないわ」
メルキアがゆっくりと片手で猟銃を向ける。
【能力奪取】は、相手のユーベルコードを防御しないと効果を発揮できないが、それを一度でも防ぐことができれば、相手の能力を封じたうえで一度だけ自分で使うことができる。
キッドに向けた銃口を、メルキアはゆっくりと真上、天井へ向けて、引き金を引いた。
激しい炸裂が、砦の天蓋を一撃で貫いて火柱となってつき上がっていく。
激しい揺れもひと時のこと。
「こんなのに、利用されようとしているの。貴方たちがやろうとしていることって、こんなのよ」
「あーあ、もったいない……。まあいいや。それでもさ、ヒーローやりたいの?」
双方に血を流す選択を選ばなかった二人の猟兵のやり方に、集まったオブリビオン、キマイラ兵団はぽかんと口を開けたまましばらく呆然としていたという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
見た目可愛くてもかっこいいに憧れる気持ちは僕もわかるから
防御力重視で彩華満開を発動
花弁から生成した鎌を【オーラ防御】と氷の魔力で固め
聞き耳や気配感知で攻撃時の僅かな兆候、方角も逃さずに
銃弾を鎌で防ぐ
或いは【なぎ払い】時の風圧として放出した氷の【属性攻撃、範囲攻撃】で弾丸をついでに巻き込んだ兵団員ごと一斉凍結、無力化狙い
敢えて空中戦は封印
体力の低さも演技で隠して
短時間限定なら実は高い運動神経を駆使したアクロバティックな動きで攻撃回避
こう…見栄え重視で
これが僕流のかっこよさ
低温火傷にご注意を、なんてね
正直攻撃したいし攻撃する前にもふもふ出来るならしたいけど
交渉決裂なら仕方無い
君達も凍っといてね
朱鷺透・小枝子
例え見目愛らしくとも、それが敵であるのならば壊すのみ。
いざ、いざ!戦おう!!
ディスポーザブル01操縦【早業】『骸炭装甲』回避率10倍
重装甲を軽装甲に変形させ、|跳躍《シュターン!》【空中機動】上からRX騎兵刀を振り下ろし|【重量攻撃】《ズドーン!》
キマイラ集団を【なぎ払い】サイキックシールド展開【オーラ防御】
その2丁拳銃からは逃れられない!ならばこうだ!!
RX騎兵刀をキッドへ【投擲】し【追撃】念動鞭を伸ばし|【ロープワーク】《ぎゅるる!》刀を回避し銃撃を行わんとするキッドの2丁拳銃を【念動力】で絡め取り銃撃を封じ、火牟須比展開【砲撃】大型グレネードで|【範囲攻撃】《ドガーン!!》
吹き飛べ!!!
かっこよさ。それはなんだろう。
思えば、書き出しはかっこいいのに、ノリが続かずにグダグダになる作品をいくつも見てきた。
そんなことはどうでもいいが、旅順要塞の一角を担う砦には、可愛らしいウサギの獣人にして、幻朧帝国の将校の一人、バニー・ザ・キッド率いるキマイラ兵団が詰めている。
実のところ、キマイラのオブリビオンたちは、自由意思がとても高く、統率という意味ではお世辞にも戦力にはならないところだろうとされていた。
むやみやたらに強いが、彼らの行動原理……すなわち、ノリというものが、多くのオブリビオン将校を悩ませていた。
そんな折! 古臭いマカロニウエスタンを引きずり、古ぼけたリボルバーを引っ提げた渋いウサギの獣人という存在は、その技量もさることながら、達人独特の風格が、達人たらしめるそのストイックさが、キマイラたちの琴線に触れたのであった。
少年ならば、誰だったぎらつく刃物を持ちたがるし、拳銃を見たらくるくる回してみたくもなる。
そんなことを、ほんの手慰みにできてしまい、あまつさえ「12発だ!」って言って! というリクエストにも律儀に答えてしまう付き合いの良さともなれば、心をつかむのに十分であった。
ヒーロー。それは時にダーティーで、そしてハードボイルド。
しかしながら、かっこよさとは何だろう。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)と、そして朱鷺透・小枝子(|亡国の戦塵《ジカクナキアクリョウ》・f29924)は比較的真面目に考えてしまう。
これまでに、彼らの砦に対して猟兵たちが行ったアプローチは様々だった。
真正面から、ステレオなカッコよさ、つまりまぁ、キッドのマカロニに向き合った形をとった者たち。
あくまでも戦略的に、そしてカリスマや技能と言ったものを逆手に取り、諭す者たち。
そうなのだ。狙いはあくまでも将校であるキッド一人であり、オブリビオン兵団を全滅させる必要は、実をいうとそれほどない。
キマイラを本分とする彼らはあぶれ者ではあっても、その行動原理はノリという享楽であった。
しかしながら、それを束ねるキッドだけは、生かしてはおけない。あれはおそらく、ふざけてなどいない。本物の侵略者の一味なのだ。
馬鹿馬鹿しい空気に騙されてしまいそうだが、キマイラたちは、巨悪に先導された哀れなあぶれ者なのである。
小枝子は、オブリビオンであれば、それを倒すことに躊躇はない。言い知れぬ憎悪の赴くままに、猟兵の本分を全うすることに躊躇は無いだろう。
兵団の醸し出すどうにも毒気のないノリにいまいち煮え立つような、いつもの戦意が沸き上がってこないのは気がかりだったが、それだけに冷静に考えてしまう。
カッコよさとはなんだろう。
或は、それを示せば、キマイラ兵団は争う気持ちを捨てて称賛してくれるという話だが、戦いにキレイも汚いも、かっこいいもないのではないだろうか。
朴訥とした少女の葛藤は、操るキャバリアの足取りを重くする。
『ディスポーザブル01』は、もとより重武装重装甲。堅牢さを表すかのような角ばった装甲がずしりずしりと重たい足取りを、今日はいつもより重くしていた。
その機体の上で、同じ葛藤を抱く見目麗しい少女のような澪は、静かに拳を握る。
今年で二十を迎えようという彼の背丈のみならず、その体つきは昔と変わらず華奢であり、しっとりと濡れたように艶やかな髪は梳いた真綿のように細く繊細で、肌理の細かな頬はうっすらとチークを塗布したかのように朱が差し、触れたら壊れてしまいそうなくらい、それは燐光を放つかのように儚げな少女の佇まいであった。
そんなものだから、彼はかっこいいと言われたことがほとんどなかった。
「見た目可愛くてもかっこいいに憧れる気持ちは、僕もわかる……」
ぐっと拳を握る姿ですら、同性の目を引いてしまいそうな仕草は、よもや狙ってやっているものではあるまい。
見た目に困っていそうにない。いや、逆に困っていそうな澪にすら、それが難題だというのなら、小枝子のシンプル脳みそであれこれと思い悩むのは、それこそ答えの出ない問いなのではないだろうか。
「……例え見目愛らしくとも、それが敵であるのならば壊すのみ。
いざ、いざ! 戦おう!!」
結局のところ、旅順要塞の一角、目的の砦を補足してしまったところでタイムアップである。
あれこれと逡巡していては、油断につながってしまう。
兵士として、プロとして──小枝子は考えを固める。プロとして──。
「突入をかけましたら、二手に」
「わかった!」
要塞に攻撃を仕掛けるとなれば、それは先手必勝。ディスポーザブル01が堅牢と言えど、わざわざ的になってやる必要はなく、かといって強襲をかけるには機動性がネックである。
そこで【骸炭装甲】を発動させると、鈍重堅牢な装甲はモーフィングするかのようにじわりじわりと形状を変化させ分厚い装甲は見る間にぺろんとした薄皮のように軽装甲、軽量になっていく。質量は……などと野暮なことを言ってはいけない。
ともすれば骨と皮だけのようになってしまったかわいそうなディスポーザブル01は伊達ではなく、軽妙な走りを見せると、しゅたーん! と跳躍。
きりもみを加えた回転は、芸術的ですらあったが、
「ここから先は揺れますので、そろそろ」
「気を付けて。骨みたいで折れそうだよ!」
空中で澪を降ろし、そして軽量化しても武器だけは変わらない、ごっつい大剣『RX機兵刀』を担いで、そのまま、なんだか天井に大穴が空いている砦めがけて、機体もろとも効果の勢いで振り下ろした。
ずどーん! と耳をつんざく巨大質量の重量攻撃。軽量化しているとはいえ、その機体重量は数十トンにも及ぶことだろう。
瞬く間に半壊する砦から露になるキマイラ兵団の目線は、剣を振り下ろした姿勢のままのキャバリアに、釘付けだった。
「ロボだ! ロボがやってきたー!」
その目つきは、少年のようにキラキラしていた。だってロボだぜ?
今ならば、その撃退は容易い。隙を逃さず、降り立った澪は、薄紅色の花弁を思わせる大鎌を手に【彩華満開】で、自身の身体能力を飛躍的に引き上げる。
息を吸い、そして吐くその呼気に冷たいものが混じると、氷の魔力で強化された鎌が弧を描き、床板を火花を上げながら削り、赤い残像を描きながら、キマイラ兵団を薙ぎ払う。
「つめ、つめたぁ! なんだ、この子!? 子供の来る場所じゃないぞ!」
「くっ!」
オラトリオに許された白い翼を用いた空中戦を封じ、敢えて足運びと鎌を振るう重心移動、遠心力、それらを巧みに合わせ、キマイラ兵団の動きや呼吸をつぶさに拾いながら丁寧に、流麗に立ち回る姿は、まさに氷の花を散らすかのようだった。
だがしかし、それは本来の澪のスタイルではない。
もちろん使えるからには、短時間であれば高い技量を発揮できるのだが、明らかに見栄えを重視したかのような、いわゆる様になる動きを激しく続けるには、澪はまだまだ体力に不安を抱えていた。
息が詰まりそうになる。脈打つ心音が喉元にまで迫るかのように早鐘を打っている。もっと体力づくりを真面目にやっていれば良かったろうか。
ぎゃりぎゃりと、大鎌の頭が床板を削りながら、ふらつくのをごまかしながら構えなおすと、大きく息が漏れる。
冷えた空気の中で、上気した少女のようなピンクの唇から熱っぽい吐息が白く踊る。
「き、綺麗だ……」
どこからともなく、見惚れるキマイラが思わずため息を漏らす。
「これが僕流のかっこよさ。
低温火傷にご注意を、なんてね」
「あ、澪殿!」
「っ!」
笑みをこぼした澪に、銃声が到達よりも早く、銃弾は迫っていた。
思わず小枝子も声をかけるが、危ういところで鎌の刃がそれを防いだ。
ユーベルコードで身体能力を引き上げておかねば被弾していたかもしれない。
あまりにも早い攻撃。気配や素振りすら間に合わせない達人の技は──、と目を向ければ、ちょこんと直立した可愛らしいウサギが硝煙をあげるリボルバーを手にしていた。
キッド……! それを目測した瞬間に、小枝子のキャバリアは大剣を振り上げたが、即応したキッドのリボルバーから放たれる銃弾が、なんと5メートルサイズのキャバリアの動きを、巧みに関節や駆動部を撃ち、阻害してくるではないか。
装甲が厚いままのディスポーザブル01ならばいざ知らず、いや、たとえそうであっても、その攻撃は別格という事か。
歯噛みする小枝子を制するかのように、澪が前に立ち、鎌を持った手を横に広げる。
「正直、攻撃する前にモフモフさせてほしいけど」
「悪いが、俺の毛皮は、ボインちゃんが好みさ」
「交渉決裂なら仕方ない……!」
姿に似合わぬニヒル。そして渋い低温ボイスに苦笑いが漏れそうになるが、その圧力は紛れもなくオブリビオン。
そのまま踏み込むには、あまりに不利。しかし、疲れた素振りも隠し、敢えて見栄えがするように戦うのを心がけていた澪は、ここぞとばかり踏み込む姿勢を見せる。
それに反応するキッドの銃技は、まさに達人。しかし、それであるからこそ、短時間のみしかもたない不得手を敢えて選んだ澪の策略は成る。
「来ない、だと……! しまった」
反応射撃。澪の出足を挫き、そのまま仕留めるつもりだったキッドの銃弾は、しかし実は防御を主体とした澪の身の回りに纏った冷気にからめとられてしまう。
ディスポーザブル01をも牽制のみで止めてしまう技を見ていたからこそ、それを誘発できた。
そして、それを二度も使えば、小枝子にも意図が伝わると踏んでいたのだ。
「2丁拳銃からは逃れられない! ならばこうだ!!」
「スローなんだよっ!」
ぶうん、と放り投げられた大剣は、しかしウサギの跳躍力で横っ飛びに逃げられてしまうが、それが本命ではない。
ディスポーザブル01は、装甲以外にも全身が武器。手のひらから伸びる念動鞭が、今まさに横っ飛びながらかっこいいポーズで二挺を構えるキッドの銃をぎゅるる! と、とらえた。
リボルバーの輪胴を握ってしまえば、シングルアクションと言えど容易には発砲できまい。
「ぬうっ!?」
そこへ、大型グレネードキャノン『火牟須比』が展開、射出!
「吹き飛べっ!!」
赤々と、燃える花が、澪の作り出した冷気の空間を、その結晶をキラキラと撒き上げていった。
美しくも凄絶な光景が、砦を火の海へと変えていったのであった。
大成功
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御園・桜花
※頓痴気強め
「とうとう…とうとう租界とは言え本当に幻朧帝国の領土を踏めるのですね」←間違えて浦塩斯徳に行った
大真面目に
「まあ、素敵美味しそうなウサギさん。貴方…転生の前に、食材を挟んでみませんか?貴方に会う方全てを胃からぽかぽか温かく笑顔に出来るお仕事です」
「ジャータカの兎の布施はとても有名ですもの。貴方も兎界の頂点に立ってみませんか」
にこやかに桜鋼扇振り回す
「どうぞ月兎を超える兎の王に!」
UC「食欲の権化」
空中機動用い滑るように吶喊
桜鋼扇で連打し当たった場所からどんどん食材化
敵の攻撃は第六感や見切りで躱したり盾受けからカウンターで桜鋼扇を叩き込んだりする
戦闘後
兎肉はガッツリ調理し皆に振る舞う
びょうびょう、と荒涼とした風が吹く。
ここの草木は、乾いた潮風にさらされて、すっかり背も低く痩せ細ってあまり元気がない。
海が近い遼東半島は旅順。その要塞の一角を担う砦が、今回の目的地である。
喉が渇くような空風にお仕着せの桜織衣の裾をさらわれつつ、植生が豊かでないことに懸念を抱きながらも、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、胸躍らせる気持ちをその面持ちに浮かべずにはいられなかった。
サクラミラージュに桜の精として生まれ、色々なことがあったが、自身のルーツについては常々考えていたところだし、噂に聞く獣人戦線の世界にあるという超大国の一つ、幻朧帝国なるものが、自分の知っている世界と否かる繋がりあるのか……。
その名を聞いた時からずっと気になっていたのだ。
そして、そこにようやく手が届く……。
「とうとう……とうとう租界とは言え本当に幻朧帝国の領土を踏めるのですね」
本土ではないとはいえ、ようやくその名前にまた一歩近づいた。
この戦線、この戦争についても、その片鱗を見ようと桜花は色々と足を運んでみた。
うっかり浦塩斯徳にまで足を延ばしたりもしたが、その苦労が少しばかり報われたような気がする。
ちなみにウラジオストックのことらしいぞ。
更にちなみに言えば、旅順がウラジオストックよりも日本列島……彼女の言う帝都のある島に近いかと言われると……。朝鮮半島を跨いだ先なので、正直にな所微妙かもしれない。いや、確実に近づいている気はする。
そうであるはずだ。
とにかく、気になったからには、何が何でも突き詰めてみよう。その力、或は猟兵としての使命とも言うのか。
目的を定めてしまうと、腹の底からやる気が湧き出てくるようだった。
ちょっとやる気が出過ぎて、腹の虫が鳴ったような気もするが、できる女はそんな素振りをスマートに誤魔化すものである。
随分長い事……デリバリー用のケータリングカーにも無茶をさせてきた。
猟兵の活動にも支障がない程度には多機能。その機能のうちに、頑丈さも追及して発注した車は、よく見ると細かな傷や泥ハネが目立ってきたようにも思える。
目的を達し、一段落迎えたなら、綺麗にしてあげなくてはなるまい。
そんな感慨深いことを思いながら、桜花はケータリングカーから下車し、ドアをつつましく閉める。
踏みつけたガラスは、今しがた突入した砦の観音開きになる大きなものだったらしいが、今は見る影もない。
一方で、いきなりピンクの改造キャンピングカーが突入してきたことで、砦に詰めるキマイラ兵団の面々は、騒然としていた。
いや、なんかいきなりカチコミにやってきたパーラーメイドの姿に、ちょっと引いていたのが正しいか。
すでに砦は、猟兵たちの攻撃によって、超炸裂弾が天蓋を吹き飛ばしたり、キャバリアに切られたりして、ひどい有様だったので、キマイラ兵団は若干お腹いっぱいだったのだが、とんでもない。
お腹いっぱいになるのはこれからだと言わんばかり、桜花は一礼する。
周りの者など、何も見はしない。
ただ、この砦を統率しているであろうキッドその人の姿以外は。
「出前を頼んじゃいないぜ、お嬢さん。押し売りは遠慮してるんでな」
「まあ、素敵美味しそうなウサギさん。貴方……転生の前に、食材を挟んでみませんか? 貴方に会う方全てを胃からぽかぽか温かく笑顔に出来るお仕事です」
「……俺たちは、同志の肉を食ったりはしないぜ」
「ジャータカの兎の布施はとても有名ですもの。貴方も兎界の頂点に立ってみませんか」
「……生き急いでいるのは、そっちみたいだな」
いまいちかち合わない会話。お互いに嘆息を挟む程度には、お互いの話を聞きはしていても、そんなもん知ったこっちゃねーとばかり、相手をどうするか決め込んだ桜花は、迷わずに鉄扇『桜鋼扇』を構える。
ちなみにジャータカというのは、インドに広く知れる物語集であり、平たく言えば釈迦の生まれる前の前世、人であったりそうでなかったりしたころのお話であるらしい。
その中に、月の兎という、老いたる老人を救うべく捧げるものが何もないウサギが自身を捧げ、その献身を讃えて月の兎に召し上げたというエピソードがある。
尤も、このジャータカという拾遺集に出てくる釈迦の前世は、尸毘やら薩埵王子やら、やたらと我が身を誰かに食べさせたりするエピソードが多いので、もしかしたら桜花は、それらに準えて食べる気満々だったりするのかもしれない。
そこに殺意はなく、それゆえに、鉄扇を握るその佇まいに、バニー・ザ・キッドは違和感を覚えずにはいられない。
自分のほうが速い。
それに、我らが兵団は、何を恐れているのだろうか。
それはまるで、肉食獣を前に射竦められたかのように身を固める草食動物であるかのように、兵団の誰もが固唾をのんでいた。
抜き打ち──、何十、何百と繰り返し手に馴染んだシングルアクションが、瞬く間に手に収まる。
手首を返すのと同時に、銃床を腰に当てがい、ハンマーを引き起こし引き金を引く。この上なく簡略化し、一体化し、指で爪弾く何分の一にまで効率化させてきた、驚くべき銃技。
その早業に、一足飛びの間合いでは、追いつかれる筈もなかった。
手足を覆う布の多さ、幾重にも重ねた仕事着は動きやすかろうが、毛皮一枚の兎の俊敏性を知らぬ者は居ない。
それにあの鉄扇。何枚も合板を重ね、ずしりと重く見えるそれを軽々と扱うのは、それはそれで凄まじいが、その重さはリボルバーと同じか、それより重いだろうか。
いずれにせよ、火薬の爆ぜて爆燃が生む炸裂の加速が重心で螺旋の溝を通るよりも早く人が動けるはずがない。
そう、ならば。
どうして次の瞬間には、桜花の姿は滑るように跳びながら、さながら花を開くように着物を翻してキッドの眼前に迫っていたのか。
或は、気圧されていたのは、肉食獣の前に射竦められていたのは、キッド自身であったか──。
桜色の花弁の中に、銀の光沢が、早業にて放ったキッドの銃弾を、火花と共に受け流す。
それが、桜花の広げた桜鋼扇であったことに気付いた時には、その切っ先が袈裟懸けにキッドの毛皮を裂いていた。
「チッ……俺も、焼きが回ったかねぇ」
「ええ、ジビエはよく火を通しませんと……さあ、どうぞ月兎を超える兎の王に!」
「冗談じゃねぇ……」
【食欲の権化】により、獰猛に迫った桜花は、一切の殺意なく、ただの食欲で以てその戦いを制した。
切り裂いたその身は、瞬く間にぷるんとした処理済みの食材に変化していく。
兎肉は、とりわけ英国で好んで食されている。
張りのある筋肉質で、やや獣臭が気になるという声もあるが、巷に出回るブロイラーを基準にすればおおよそだいたいの食肉に適するものは臭うのである。
つまりは──、
「さて、獣人戦線の皆さんは、食肉を忌避なさいます。ので、見つからないうちに皆さんに振る舞ってしまいましょう!」
ふう、と一仕事を終えた桜花は、後に残った食材を前に、嬉々として腕まくりをするのであった。
大成功
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