●勇者の伝説
その貴族の屋敷の庭は、本日特別に解放されていた。
なんでも、とある冒険者の一行がその貴族の危機を救ったとかで、当主たる彼は自分の屋敷の庭を開放し、多くの冒険者たちを招いてガーデンパーティを開催しているのだ。
飲食物も饗されているが、このパーティのメインはダンス。感謝の気持ちを込めて、主催貴族の縁者である紳士淑女が冒険者たちを誘ったり、誘いに応えたりしてくれるらしい。もちろん、冒険者たち同士で踊るのも良い。
「やだっ……かっこいい……」
「お嬢様がお通りになっただけでいい匂いがした!!」
「イケオジ……目の保養……」
生まれ持った気品、にこやかに応じてくれる紳士淑女。彼らに思い思いの感想を述べる冒険者たちもいれば。
(「すごく……しっかりとしたお身体……」)
「活発な女性も、とても魅力的に思いますよ」
「私があと三十年若ければ……」
紳士淑女側も、その技量や知識で世を渡る冒険者たちに思うところがあるようだ。
「幼い頃に聞いた伝説の勇者様の御一行も、この方達のようだったのでしょうか……?」
「この中から、いつか新しい伝説の勇者たちが生まれたり……な?」
主催の貴族夫婦は、庭に面したバルコニーからパーティを見下ろしつつ、そんな冗談をかわし合っていた。
●グリモアベースにて
「あのっ……お願いがあるのっ……!」
グリモアベースにて。白い羽を背にオラトリオの少女が猟兵たちに声をかけている。
「あのね、アックス&ウィザーズに行って、勇者の伝説を見つけてほしいのっ……」
グリモア猟兵――コルネリア・メーヴィス(闇に咲いた光・f08982)の背後には、アックス&ウィザーズの景色が広がっていた。
勇者の伝説? と足を止めて聞き返す者もいれば、聞いたことがある、と足を止める猟兵もいる。コルネリアはそんな彼らに向けて、再び口を開いた。
「えっと、あの世界には『帝竜ヴァルギリオス』が『群竜大陸』と共に蘇ったっていう噂があるの。でもね、『群竜大陸』の場所はまだわかっていなくて……もしも『帝竜ヴァルギリオス』がオブリビオン・フォーミュラだったとしたら、『群竜大陸』は見つけておかないと、ね?」
かつて『帝竜ヴァルギリオス』を倒した冒険者たちは、勇者と呼ばれている。『帝竜ヴァルギリオス』との決戦に参加した冒険者たち皆が勇者と呼ばれてるので、勇者の数は数多だ。当然、何らかの形で残された『勇者の伝説』もたくさんある。
「さすがに残っている伝説が、全部本当のことってわけじゃないと思う。でも何か残っていたら、その『伝説』を持ち帰って欲しいんだよ」
ひとつひとつは真偽の怪しい『伝説』かもしれない。けれどもその『伝説』には『勇者の意思』が残っている可能性が高く、それを集めていけばいずれ何らかの予知が得られる可能性があるのだとコルネリアは言う。
「まずみんなに行ってもらいたいのは、貴族のシールズ家で開かれているガーデンパーティだよ。当主さんの危機を冒険者が救ったとかで、多くの冒険者たちが招かれているんだ。そしてパーティのメインはダンス!」
ガーデンダンスパーティと言ったほうが良いだろうか。そこでは冒険者同士で踊るのはもちろん、シールズ家の親類縁者である紳士淑女たちも気軽に冒険者たちと踊ってくれるという。
「かなりの数の冒険者が招待されていて、招待されている人が知り合いを誘ったりとかでお互い顔を知らない冒険者たちもいるから、簡単に会場に入れると思うよ」
皆がダンスを楽しんでいるパーティで、自分も踊ったり、パフォーマンスをしたりと楽しみながら、勇者の伝説についての情報を集めてほしいな、とコルネリアは告げた。
冒険者とも貴族とも話を聞けるこの機会、生かさない手はないだろう。
篁みゆ
こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。
このシナリオの最大の目的は、「勇者の伝説を手にすること」です。
※必ずしも形あるものとは限りませんが、便宜上こう表現しています。
第一章では、シールズ家の庭で開かれているガーデンダンスパーティに参加しつつ、情報を集めていただければと(パーティへの参加は簡単にできますので、『パーティに参加をするまでのプレイング』は不要です。参加出来た前提でどうするか、を書いていただければと)
冒険者と貴族、どちらも複数いるのでどちらにアクションをかけても構いませんが、ある程度対象を絞ったほうがプレイング文字数的にも良いかと思います。対象の絞り方は「貴族/冒険者」に限りません(女性中心、とか年配の男性中心、など)
提示されているPOW/SPD/WIZの行動例はあくまで一例ですので、あまり気にせずご自身のやりやすい方法でどうぞ。
第二章では、第一章で伝説の情報が得られれば、その情報で語られている場所へと向かい、探索することになります。
第三章では、戦闘になるかもしれません。
ご参加はどの章からでも、何度でも歓迎いたします。
現地まではグリモア猟兵のコルネリアがテレポートしたのち、猟兵のみなさまをお喚びする形となります。
コルネリアは怪我をしたり撤退する猟兵のみなさまを送り帰したり、新たにいらっしゃる猟兵の皆さまを導いたりと、後方で活動しており、冒険自体には参加いたしません。
プレイングを失効でお返ししてしまう場合は、殆どがこちらのスケジュールの都合です。ご再送は大歓迎でございます(マスターページにも記載がございますので、宜しければご覧くださいませ)
●お願い
単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。
皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 日常
『ダンスパーティー!』
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POW : ダンスを踊って楽しむ。
SPD : 歌や演奏で盛り上げる。
WIZ : 魔法による演出をする。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シエル・マリアージュ
いつも通りの白いドレスに聖硝剣アーシュラを背負い、小竜のキルシュをお供にパーティーに参加。
ダンスは遠慮して、料理の中から肉料理を取ってキルシュに食べさせたら、貴族の子供達のところへ行って話しかけます。
キルシュで子供達の気を引いたら、まず自分からアーシュラにまつわる話を子供達に聞かせます。
「昔々、悪い竜が暴れて大地は焼かれ、それを悲しんだ女神様の涙が大地に落ちて大きな湖になりました。その深い湖の底で一本の剣が生まれ、それを手にした勇者が悪い竜を退治したのです」
話し終わったらアーシュラを子供達に見せながら、今度は子供達が知っている勇者の話、中でも勇者の武器にまつわる話を聞かせてもらいます。
アウレリア・ウィスタリア
歌いましょう
ボクの歌でこの場が少しでも盛り上がるのなら
それはとても素敵なことです
踊りましょう
皆で楽しい一時を作るために
歌い踊り、気を惹くことが出来れば幸いです
【合わせ鏡の境界】
さあ、もう一人の私
素敵な音を奏で、素敵なリズムを刻みましょう
見る人によっては双子が奏でる一幕に見えるでしょう
貴族の好みそうな優雅な、そして優しい歌を
穏やかに心踊る雅な舞を
貴族を対象に情報を収集
勇者の一向を歌った吟遊詩人の話や
踊り子の仲間などいなかったか尋ねてみたいですね
もしかしたら勇者の仲間に音楽家がいたり
歌や踊りで仲間を守り鼓舞する存在がいたかもしれませんし
ボクはこの世界が好きです
きっと素敵な話がたくさんあるのでしょう
ステラ・アルゲン
勇者の伝説ですか……とても気になりますね
さて、ダンスを踊りながら情報を集めましょうか
【情報収集】にて庭に壁はありませんが壁の花となっていそうな令嬢を探しましょう
失礼。よろしければ私と一曲、踊ってくださいませんか?
【世界知識】にてこの世界の【礼儀作法】は知っています
ダンスの踊り方もです。
【コミュ力】をもって話しかけ少し容姿を利用して【誘惑】
せっかくの宴です。あなたも楽しまなくてはいけませんよ
差し出された【手をつなぐ】
壊れ物を扱うかのようにそっと【優しさ】をこめて
この一時の間だけですが、あなたの騎士としてありましょう
そのかわり、勇者の伝説について知っていることがあれば教えて欲しいですね
●
楽団の、優雅な演奏が流れる庭園。その殆どがダンスに適した曲なのは、このパーティの趣旨がダンスだからであろう。
曲が切り替わるごとに踊るペアたちも入れ替わることが多い。
ただ、現在ダンスのために用意されたそのスペースでは、一組の(見た目は)男女が優雅に踊っていた。
冒険者男性の巧みなエスコートに、パートナーとなった貴族の女性はうっとりとしながら身を預け、彼らがが舞うさまに他の冒険者や貴族たちも目を奪われていた。
――男性としてリードしている冒険者が、実は女性であることは秘密だ。
(「勇者の伝説ですか……とても気になりますね」)
ワルツを聞きながら、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は会場を見渡す。ガーデンパーティ故に壁はないが、いわゆる『壁の花』となっていそうな令嬢を探せば、スッとワルツのリズムに乗ったペアが移動したその先に、俯いている少女の姿が見えた。豪奢なドレスを纏っているからして貴族の令嬢であることは見て取れたが、なにかあったのか、つまらなそうにしているように見える。
「失礼。よろしければ私と一曲、踊ってくださいませんか?」
「ごめんなさい、私は――」
この世界の礼儀作法に則って差し出した手。謝罪の言葉を紡ぎながら顔を上げた少女は、年の頃は10代半ばごろ。もしかしたら親に言われて無理矢理参加させられたのかもしれない――その曇った顔が、ステラの全身を視界に捉えたことで色を変える。
「うそ……ヴァネッサの騎士様……?」
「せっかくの宴です。あなたも楽しまなくてはいけませんよ」
彼女の呟きの意味はわからぬが、悪い反応ではないことは確かだ。ステラは優しく笑み、彼女の背中を押すべく言葉を紡ぐ。
「……は、はい……」
目をとろんとさせて顔を赤らめた彼女は、差し出されたステラの手を取る。ステラは壊れ物を扱うかのようにそっと優しくその手を取って、彼女をダンスフロアの中心へと導いた。
そして曲が始まる。最初こそ他に数組踊っていたのだが、曲が進むごとにダンスフロアで踊っているのはステラたちだけなった。
巧みなリードで女性にストレスやプレッシャーを与えずに、ごく自然にステップを踏ませる。あまりにリードがうまいものだから、最初に踊っていた他のペアたちも踊りをやめて彼らに見とれている。
「あの……『騎士様』とお呼びしても……?」
「ええ、勿論です。この一時の間だけですが、あなたの騎士としてありましょう」
おずおずと紡がれた彼女のそれを快諾し、ステラは付け加える。
「そのかわり、貴女の名前と、勇者の伝説について、知っていることがあれば教えていただけますか?」
彼女が頬を赤らめたまま、破顔するのを見て、ステラも優しい笑顔を浮かべた。
ステラがダンスを申し込んだ相手はヴァネッサという名で、騎士物語に憧れているそうだ。
「あのね、騎士様はヴァネッサの騎士様にそっくりなのよ」
彼女いわく、いつか自分にも素敵な騎士様が現れてくれる――そう信じ、願っていた妄想……もとい、理想の騎士像がステラそのものだという。
「ヴァネッサ殿は、勇者の伝説よりも騎士物語のほうがお好みですか?」
彼女を否定せぬよう注意しながらステラは問う。すると彼女はやや興奮気味に口を開いて。
「あのね、あのね、勇者様たちの伝説の中にも、騎士物語みたいなお話があるのよ。私はそれが好き」
「どのようなお話なのか、お聞きできますか?」
椅子までエスコートした彼女の足元に片膝を付いて彼女を仰ぐ。
憧れの騎士様のその振る舞いに、ヴァネッサの口が滑らかにならぬはずはない――。
●
ダンスフロアからは楽師たちの演奏が聞こえる。歓声も聞こえることから、誰かが美しく踊っているのであろうことも窺い知れた。だがシエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)が向かったのは、立食パーティよろしく料理の並べられたテーブルの前。フリルとレースで飾られたふわりとした純白のドレスをまとうその姿は、貴族のお嬢様然としているが、背負った『聖硝剣アーシュラ』と彼女の肩付近をぱたぱたと飛ぶ小型のドラゴン――さくらんぼ色をしたキルシュが、彼女が冒険者であるという説得力をもっていた。
「キルシュ、これはどう?」
「キュ?」
小皿にとったお肉を差し出すと、ふんふんと匂いをかいだのちにぱくりと頬張るキルシュ。
「キュ、キュッキュッ!」
よほど美味しかったのか、身体で喜びを表現しつつ、キルシュはぐいぐいと皿をシエルの方へと押す。
「え? 私にも?」
「キュー!!」
促されて小さく切った肉片を口に運べば、噛む前にほろりと溶けるように柔らかい。上等な肉を腕のいいシェフが料理したのだろう。このような料理を食べ慣れていなくとも、それだけはわかるような美味しさだ。
「ええ、美味しいわね。……ん? もう少し食べたいの?」
キルシュのために再び肉をとってあげながら、シエルは複数の視線を感じていた。
「あれ、本物のドラゴン?」
「あの剣もすげー!」
「お姫様みたいなのに、戦うんだ……」
こそこそこそ。聞こえるのは子どもの声。彼らが潜めていても、自然と耳に入ってくるその声にくるりと振り向けば。
びくうっ!!
正装した貴族の子どもたちが、ひいふうみい……五人ほどだろうか。デザートのテーブルの影に隠れ(ているつもり)ながらシエル達を見ていた。
「キルシュ」
「キュ!」
小声で名を呼ばれ、肉汁を口元につけたまま、キルシュは子どもたちが隠れている(つもりの)ところへ飛んでいく。
「わ、きた!」
「ど、どうすんだよ!?」
突然のことに驚く子どもたちは、このままデザートテーブルのテーブルクロスを引っ張って、テーブル上の品を落としてしまいかねない。
トッ……音も立てずに飛んだシエルは、子どもたちの前に降り立ちながらテーブルクロスを押さえ、そしてキルシュを肩に着地させて柔らかく笑む。
「ごめんなさい、驚かせてしまったようね」
その一連の動作が子どもたちの心を、ぐっと掴んで奪った。
「昔々、悪い竜が暴れて大地は焼かれ、それを悲しんだ女神様の涙が大地に落ちて大きな湖になりました」
お詫びにこの剣にまつわる話を聞いてくれる? ――子どもの好奇心と貴族の自尊心の両方を満たすその言葉に、子どもたちは目を輝かせて。こっちこっちと彼らに手を引かれて辿り着いたのは、庭の外れのよく手入れされた芝生の区域。本来ならば正装でそんなところに座っては怒られるだろうが、今はパーティの最中だ。大人の目が届きにくいのをいいことに、子どもたちはシエルを座らせて自身はその周りをぐるりと囲むように座った。
「その深い湖の底で一本の剣が生まれ、それを手にした勇者が悪い竜を退治したのです」
「ねえ、それって伝説の勇者様のこと?」
ステラが話して聞かせたのは、硝子のように透き通った『聖硝剣アーシュラ』にまつわる話。話し終えるとひとりの子どもがそう、問うてきた。
「でもわたしの聞いたことない話だわ」
「僕も!」
「オレも初めて聞いた!」
他の子供達がそう声を上げるのに目を細め、シエルは口を開く。
「あなた達が知っているのは、どんなお話? どんな武器に関するお話か、聞かせてもらえるかしら?」
●
(「ここは、穏やかな幸せで満ちているのですね……」)
パーティ会場を見渡して、アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)は思う。
喜び、感謝、歓迎――それらが満ちるこの場所は、アウレリアには少し眩しく見える。けれど
(「歌いましょう――ボクの歌でこの場が少しでも盛り上がるのなら」)
それは素敵なことだから。
(「踊りましょう――皆で楽しい一時を作るために」)
そっと、人目につかぬところでアウレリアは『合わせ鏡の境界』を発動させる。そこに顕現したのは、アウレリアとそっくりな少女。
「さあ、行きましょう、もう一人の私。素敵な音を奏で、素敵なリズムを刻みましょう」
今流れている曲の終わりを待ち、楽団に声を掛ける。事前に話を通しておいたからか、スムーズに通してもらえた。二人の少女の登場に、パーティ客たちの視線が集まる。
深く息を吸い、アウレリアが旋律を紡ぐ。追うようにもうひとりのアウレリアも音を紡いで。
優雅で、けれども優しい歌声は、同じ声帯から発せられるハーモニーによって、人々が息を呑むほどの仕上がりとなっていた。
暫くふたりで旋律を紡いだ後、アウレリアは楽団に頷いてみせた。すると楽団が奏で始めたのは、心躍るリズム。
穏やかさの中に心躍る音を含む旋律に乗って、アウレリアたちは対になって踊る。まるで双子のようなふたりがみせるのは、派手さよりも雅さを重視した舞。
その一挙手一投足が見事に対になっているものだから、ふたりが舞い終えると歓声と拍手がその身を包んだ。
「やあやあやあ、大変素晴らしい!」
場内には再び、楽団によるダンス用の旋律が響き渡り始めた。楽団のそばからダンスフロアを抜けて物陰で『もう一人の自分』を還したアウレリア。会場に戻ると、恰幅のいい貴族の男性に声をかけられた。
「今度母の誕生日パーティがあってね、ぜひそこで披露してもらいたいくらいだ!」
「ありがとうございます」
片割れは休憩のために席を外しているという口実で、アウレリアはひとりでその貴族から話を聞くことにした。
「もったいないお申し出です。ボクたちは、もっと修行を積まなければと思っているところです。そういえば、勇者の一行にも吟遊詩人や踊り子がいたらしいという噂を耳にしたことがあるのですが、ご存知であれば教えてもらえませんか?」
貴族の世界に人付き合いと情報収集は欠かせないと聞きます。不躾ではありますが、人生経験豊富な旦那様ならば何かご存知かと思いまして――下手に出てそう告げれば、その貴族も悪い気はしない。
「いや、若いのによく分かってるじゃないか!」
上機嫌になった貴族の男性が、知っていることを話してくれるのをアウレリアは待つ。
群竜大陸へと渡り、帝竜ヴァルギリオスとの決戦に参加した冒険者はたくさんいる。その全てが勇者と呼ばれているからして、武力に秀でた者、魔法に秀でた者、治癒の心得のある者――たくさんの役割を持つ者が『勇者』と呼ばれているに違いない。だとしたら、歌や踊りで仲間を守り、鼓舞する存在もいたかもしれないとアウレリアは思う。
(「ボクはこの世界が好きです。きっと素敵な話がたくさんあるのでしょう」)
アウレリアの視線を受けて、男性は口を開く――。
●
「私が聞いたのは、とある騎士の話でした」
ステラが聞いたのは、主を失ったある騎士の話。その身を捧げた主を病で失った騎士は、その縁者に是非と望まれるも、生前の主への風当たりが強かった彼らに仕える心は起こらず、無為な日々を送っていた。
ある日、偶然、彼はとある女性冒険者に出会った。小さで華奢な体に宿した強い意志が、けっして揺らがぬ生き様が騎士の心を引いた。
「この方に仕えよう――花咲く大樹の元で彼女のみの騎士となるべく、誓いの儀式を行ったふたりは、後に群竜大陸に向かい、勇者と称されることになったそうです」
ステラの話を静かに聞いていたシエルとアウレリアが、なるほど、と頷いて。次にシエルが口を開いた。
「わたしが子どもたちから聞いたのは、勇者の武器に関する伝説ね」
いざ群竜大陸へ向かうことが決まった魔法使いは、新たな杖またはその素材となるものを求めて各地を巡った。けれどもどうしてもその魔法使いの求めるようなものは見つからない。諦めて手持ちの杖の中で一番良いものを持っていくか――そう考えつつ眠りについた魔法使いの夢に現れた景色は、とても懐かしいもの。夢の中で魔法使いが立っていたのは、見覚えのある大樹の前。
その大樹は、その魔法使いが忘れてしまっていた記憶。故郷にあり、魔法使いの成長を見守ってくれていた大樹。
「大樹の精霊を名乗る女性が現れて、木製の杖を差し出したの。それはその大樹の枝から作った杖であり、まさに魔法使いの求めていた、魔力を宿した杖だった。そして目覚めたときに隣にあった不思議な杖を持って、魔法使いは帝竜との戦いに参加したらしいわ」
「なるほど。魔法使いですか」
「ボクが聞いたのは、群竜大陸から帰還した吟遊詩人の話です」
頷いたステラ。今度はアウレリアが語り始める。
多くの勇者が沈みゆく群竜大陸と運命を共にしたと伝えられているが、僅かに生き残って帰還した者もいるという。
アウレリアが聞いた話に出てくる吟遊詩人は、歌や演奏で仲間たちを支援したらしい。そして吟遊詩人の誇りからか、帝竜との戦いを、冒険者たちの奮闘を後世に残すために、なんとか生き残って戻ってきたのだという。
「その吟遊詩人は、毎年同じ時期に、大樹のある町を訪れては、勇者たちのことを謳ったそうです」
その時期にその町にかならず来る以外は、行き先も滞在期間も定めずに旅をしていたというので、その吟遊詩人にとっては大樹のあるその町は何か意味のある場所だったのだろう。
「ただ……現在はその町はなくなってしまっているそうです。ここかもしれない、と言われている場所はあるそうですが」
時の流れで地図が変わるのはよくあることだ。候補地がわかるだけでも十分だろう。
「騎士に魔法使いに吟遊詩人……さすがに多くの勇者がいるだけあって、職業もばらばらね」
「噂の内容もばらばらですが……」
シエルとアウレリア、そしてステラは顔を見合わせあって。
「ひとつだけ、共通のものがありますね」
ステラの言葉に二人共、頷いた。
それは『大樹』。
偶然なのか何かに関連があるのかは、今の時点ではなんとも言い難い。他にも情報を集めつつ、他の猟兵たちの聞いた話を共有していこう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・ファルチェ
(絡みやアドリブ歓迎)
情報収集なら張り切っちゃうよ!
もちろん女性を中心に、話を聞かせてもらえればなって。
【礼儀作法】は忘れずに、紳士的に【情報収集】。
飲み物を運んであげたり、絡まれてる娘が居たら【庇って】あげたり…騎士として恥ずかしくない振る舞いをしながらお話が聞けたらいいな。
あと、ちょっとお行儀は悪いけど噂話を【聞き耳】で拾えないかな?
あ、冒険者の中に怪我をしてる人が居たら治療もするね。
冒険者に限らず、具合が悪そうな人が居ても介抱するよ。
こう見えて【医術】の心得もあるからね。
騎士だけじゃなくてクレリックでもあるから、僕。
【誘惑】は最終手段。どうしても情報が見つからなかったら、かな。
ラリー・マーレイ
POWで行動。
「勇者かぁ……。やっぱ、冒険者になったからには何時かはそう呼ばれたいよなぁ」
と、帝竜と勇者との勇壮な戦いを想像してにやけたりしてます。
パーティでは、件の先輩冒険者の皆さんに色々話を聞いてみたいです。
「あ、あの……俺、ラリーっていいます!最近冒険者になったばっかりで……。よ、よければお話聞かせて貰えないですか……!」
と、緊張でガチガチになりながら、先輩達に冒険譚をせがんだりします。
貴族の危機を救ったっていう話にも興味あるし、それに『帝竜ヴァルギリオス』を倒したっていう勇者の話も、俺の知らない伝説とかまだあるかもしれないし。色々聞かせて欲しいっす。
●
(「情報収集なら張り切っちゃうよ!」)
背筋をピンと伸ばし、静かな夜の月の光のような銀糸の髪を揺らしながら、アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)は果実水入りのグラスを手に会場を歩く。ゆるりと視線を動かしながら、その視界に入った女性の姿はすべてチェックし、声をかけるべき相手を吟味している。
(「男性連れよりも、女の子だけのほうが声をかけやすいんだけどな。あまり大勢のグループよりは……」)
すでに話の盛り上がっている場に入るよりも、輪に入れていない娘に声をかけるのがいいかななんて考えつつ。
(「万が一、絡まれている娘とかいたら助けて守ってあげなきゃと思ってたけど」)
さすがに主催のシールズ家縁者の女性たちに絡むような冒険者はいないようだ。紳士的に対応するか、ガチガチになりつつも頑張って相手をしているか、恐れ多くて声をかけられずにためらっているか。下手に貴族の娘に絡んで騒ぎにでもなったら、せっかく冒険者に好意的な様子のシールズ家の心象を悪くするだろうし、シールズ家を救った冒険者のパーティにも迷惑をかける事になるのは目に見えているからだろう。
だが、逆はどうだろうか。
(「ん……?」)
アルバの視界の隅に、気になるものが映った。3、4人の正装した貴族の青年たちが、庭から建物の裏手に回ろうとしている後ろ姿。女性をチェックしていたアルバとしては、『本当にそれが男性の集団であったならば』アウトオブ眼中なのだが。
「あれは……」
アルバは近くのテーブルにグラスを置いて、その集団の後姿を目で追う。
「んー……」
できれば見間違いであって欲しい。けれども彼らの動きには、『慣れ』が見て取れることから、恐らくこういった行動は初めてではないのだろう――背後と左右を固め、女性をひとけのないところへ連れて行くのは。
背の高い男性で周囲を囲み、エスコートしているように見せて連れ込もうとしているのだ。パーティの雑踏の中、後ろから見られても男性の団体にしか見えない。けれども、アルバは男性の足の隙間からちらちらと見える細い足を見逃さなかった。
(「合意の上で、なら僕が口を出すべきじゃないんだけど」)
なんだか嫌な予感がして。アルバはそっと彼らの後を追う。男たちが建物の裏手に回ったのを確認し、アルバは角を曲がらずに人待ち顔で壁により掛かることで彼らの様子をうかがう。もちろん、何かあるならば、いつでも飛び出せる心づもりで。
「なぁなぁ、だから、金は払うっていってるだろ?」
「何なら言い値でいいぜ?」
(「あー、これは……」)
聞こえてきたのは、同じ男として許せぬ言葉。仮にも貴族が、街のごろつきと同じセリフを吐いてるのだから笑えない。
「冒険者なんだろ? 報酬だすんだから俺たちの『依頼』も受けてくれるよなぁ?」
聞き捨てならない言葉。彼らに壁際で囲まれているのはどうやら冒険者の女性二人のようだ。相手はシールズ家縁者の貴族のボンボンなのだろう。彼女たちは下手にあしらえずに困っているのかもしれない。アルバが出ていこうとしたその時。
「冒険者を馬鹿にするな! あたしたちはプライドをもって、命をかけて冒険に挑んでるんだよ!」
たまりかねたのだろう。女性のうちひとりが一歩前に出て怒鳴った。金色の短い髪がアルバにも見える。
「はぁ? ものをいうのは報酬だろ? 報酬の額しか見ない奴もいるって聞いたぜ」
「そうだよなぁ、労力に見合った報酬がなきゃ、受けないんだろ?」
「くっ……」
男たちの言葉に、女性の悔しそうな様子が見て取れる。先程怒鳴った女性の後ろで庇われるようにしている薄紫色の長い髪の女性が、たしなめるように「アヴィ」と呼ぶのが聞こえた。
確かに冒険者にとって依頼の報酬は大切な生活費であったり、次の冒険のための支度金となったりする。報酬を殊更重視する冒険者がいないとはいいきれない。けれども。
「あたしたちは、いくらお金を積まれたって、あんたたちみたいなのと腐った遊びをするのはごめんだよ! 最低でも、親の金じゃなくて自分で稼いだ金を手にしてから言うんだね!!」
「なんだとぉっ!?」
金髪の女性がキレた。間違いなくキレた。ここまでかなり我慢していたのだろう。けれども自分たちだけでなく冒険者全体を貶められて、黙っていられなかったんだろう。
「おい、押さえろ!」
だが、彼女の言葉は正論であるが故に、彼らを激昂させてしまう。
「コルノ!」
アルバはとっさにドラゴンランスのコルノを男たちの方へと飛ばす。任せろ、とでもいうように「キュ!」と鳴いたコルノは、小さな翼で羽ばたいて、もふもふの身体で男たちの顔を順に覆っていく。
「なっ!?」
「おい、何だこれっ!?」
「どうなってる!?」
男たちが混乱し、包囲が緩んだ。その隙に、駆けつけたアルバは女性二人の手を取って、包囲から脱出した。コルノは未だに男たちの顔をそのもふもふボディで順に覆い、混乱を維持している。
「もう少しだけ走ってね」
告げて、なるべく人混みの外側を選びつつ、他の客にぶつからないように走る。
「ここなら大丈夫だよ」
アルバが足を止めたのは、シールズ家当主夫妻が歓談しているテーブルと椅子の見えるあたり。さすがにこの場所ならば、彼らは無体なことは出来まい。衆目の場で、そして主催の目に留まり耳に届く場所で下卑た計画が晒されれば、恥をかくのは本人たちだけではないのだから。そのくらいの頭は働くだろう。
「待ってて。飲み物を貰ってくるよ」
近くを通った給仕に果実水のグラスを二つもらい、アルバはすぐに二人の元へと戻った。
「事を荒立てないようにと思ったから……びっくりしたよね?」
ごめんね、と告げるアルバからグラスを二つ受け取ったのは、薄紫色の髪の女性だ。年の頃は二十代はじめ頃。息を切らしてはいるが、儚げな笑顔をアルバへ向けて。
「ありがとうございます。助かりました。私達だけでは、大きな騒動に発展させてしまったかもしれません」
はい、アヴィ――彼女がグラスを差し出した金髪の少女は、芝生に座り込んで俯いている。震える手でグラスを取った彼女は。
「こ、腰が抜けたー……プリシラだけは絶対守んなきゃって思ってたから……」
ごくごくごく。勢いよく果実水を飲み干す彼女。聞けば十代半ばくらいの金髪の少女はアイヴィーという名前で(アヴィは愛称らしい)、薄紫の髪の女性はプリシラという名前らしい。アルバもまた、名を告げて。無事で良かったよと笑んで見せる。
「本当にありがとな。あのままだったらあたし、短剣出しちゃったかも」
「今回のこと、主催さんに報告する? なんなら執事さんとかでもいいと思うよ」
「……、……」
アルバの問いに、ふたりは顔を見合わせてうーん、と唸った。
「折角のパーティに水をさすのも……」
「でも、あいつら手慣れてるみたいだったから、同じ目に遭う娘がいないといいんだけど……」
迷っている様子の彼女たちは、アルバの言葉にもう一度顔を見合わせる。
「さすがにこの場で処断とかはしないと思うよ。あちらも体面があるだろうしね。せいぜいこっそりパーティ会場から締め出すくらい?」
「それなら……」
「じゃあ僕があそこの執事さんに話してくるから、ちょっと待って――」
「キュキューーーー!!」
どーん。聞き覚えのある鳴き声。飛来してきた毛玉。もとい、犬……いや、ドラゴンを反射的に抱きとめるアルバ。
「コルノ、おかえり。ありがと」
褒めて褒めてと目を輝かせるコルノを撫でてやり、アルバは彼女たちに向き直る。
「コルノと一緒にいてくれるかな? 良かったらたくさん撫でてやってよ。頑張ってくれたから」
「あ、あのっ、あとでお礼をさせてくださいっ!」
「じゃあ、君たちのことと、勇者の伝説について教えてほしいな」
ふたりにふわもこのコルノを預け、アルバは一番年嵩の執事らしき男性の元へと向かった。
●
「勇者かぁ……。やっぱ、冒険者になったからには何時かはそう呼ばれたいよなぁ」
広い庭にたくさんの冒険者たちが集っているのを見て、ラリー・マーレイ(見習い剣士・f15107)の口から思わず漏れた呟き。これまで耳にした帝竜と勇者の話を、自分の想像力で補って。脳内で壮絶な戦いを繰り広げる勇者たちの顔が自分の顔に見えて、思わずにやけてしまう。いつか自分も勇者と呼ばれる存在になりたいと夢見るのは、無理からぬ事。
(「冒険者がたくさんだなぁ……」)
冒険者に憧れて故郷を飛び出してきたラリーにとっては、ここにいる冒険者たちすべてが先輩と言っても間違いではなく。見るからに実力者のオーラを纏っている者からそれらしい格好をしている者、反対にまったく実力を感じ取れぬ者など様々だ。
(「意図があってわざと誇示している人は別だけど……相手の実力がわかるようになるには、やっぱり自分が強くならないと駄目なんだろうなぁ」)
そんな事を考えつつ、ラリーはパーティ会場を行く。きょろきょろと、目的の人物を探しながら。
「えっと……」
ラリーが探しているのは、シールズ家の危機を救ったという冒険者たち。つまりこのパーティの主役である。主役であるからして、どこかに人混みができていればそこにいるかなぁなんて考えてもいたが、シールズ家の当主夫妻らしき人達の姿は見つけられたものの、その付近にそれらしい人だかりはなく。
(「パーティ組んでると思うから、その中の一人でも見つかるといいんだけど」)
きょろきょろしてはうーん、と唸るラリー。いっそのこと、誰かに聞いたほうが早いかもしれない、そう思い始めていた時。
「君、誰かを探しているのかい?」
「えっ」
声をかけられて振り向けば、そこに立っていたのは美貌のエルフの青年だった。エルフゆえに実年齢が外見どおりとは限らないが、陽に輝く金の髪と優しげな瞳が、ラリーに「この人になら聞けそう!」と思わせた。
「あ、あの……俺、シールズさん達を助けたっていう冒険者の人たちに話を聞きたくて……」
軽装に見えるが杖のようなものを持ったこのエルフは明らかに先輩冒険者だろう。自然、ラリーの口調が改まる。
「ああ、なら案内しようか。ついておいで」
「は、はいっ!!」
エルフの彼は嫌な顔ひとつせず微笑んで、ラリーの前をゆく。わくわくわく、ラリーの鼓動は高鳴るばかり。期待と彼の背中を見失わない事で頭がいっぱいだったので、人混みが彼を避けるように道を作っていっていることに気が付かなかった。
暫く彼の背を追って行くと到着したのは、パーティ会場の奥。シールズ夫妻のいた場所のように特別に長椅子とテーブルの置かれた場所だ。そこに座しているドワーフの男性と目が合い、ラリーは思わず背筋を正す。
「紹介しよう。こちらが今回の立役者、『追放者の檻』のリーダー、ゴドウィン。そしてこちらが同じく『ノスタルジック・ドリーム』のリーダー、キャロライン」
エルフの男性によってドワーフの男性、そして長椅子の反対側の背もたれに座っていたフェアリーの女性を紹介されて、ラリーは慌てて口を開く。
「あ、あの……」
「ちょい待て」
「あ、はいっ……!」
ゴドウィンの低い声に制されて、ラリーはびくっと肩を震わせた。だが。
「驚かせたならすまん。坊主が悪いんじゃねぇよ」
長椅子から立ち上がったゴドウィンは、のしのしとエルフの男性の前に来て、彼を見上げる。ドワーフのゴドウィンと並ぶと、エルフの男性の華奢で繊細さが際立つ。
「そもそも最初に依頼を受けたのはてめぇだろうが。何をとぼけてやがる、座れ」
「えっ……?」
わけの分からぬラリーの前で、エルフの男性はゴドウィンに引っ張られて、空いていた長椅子の真ん中に座らされてしまった。
「こいつが一番最初にシールズ家の依頼を受けた『忘却の方舟』のリーダー、ユリシーズだよ。最終的には、三パーティ合同になったがよ」
「え……えぇっ!?」
自分に声をかけてくれた彼がこのパーティの主賓だったとは。そして自らが探していた冒険者だったとは。驚きを隠せないラリーに対してユリシーズは、「悪気があったわけじゃないんだよ?」と、同性だけでなく異性をも魅了するような微笑みを向けた。
「あ、あの……俺、ラリーっていいます! 最近冒険者になったばっかりで……。よ、よければお話聞かせて貰えないですか……!」
改めて自己紹介。三人のリーダーの座る長椅子の向かいに椅子を用意してもらい、テーブルを挟んで向かい合う。おそらく熟練の冒険者であり、パーティーリーダーを務めるような人物を三人も前にして、新米冒険者であるラリーに緊張するなという方が無理な話である。
「あはは、緊張しすぎぃ~!」
ガッチガチに固まっているラリーを見て、キャロラインがころころと笑う。
「キャロライン、失礼だよ。君にも彼と同じような頃があったはずだ」
「はぁい、ごめんねぇ」
ユリシーズにたしなめられ、キャロラインは居住まいを正す。
「それで、どんな話が聞きたいんだ、坊主」
ゴドウィンの問いに、相変わらずガチガチのままラリーは口を開いた。
「あの、今回の、シールズさん達を救ったっていう話も聞きたいですし、それに、『帝竜ヴァルギリオス』を倒したっていう勇者の話も、俺の知らない伝説とかまだあるかもしれないし……色々聞かせて欲しいです」
「欲張りねぇ~」
またキャロラインが横槍を入れるが、悪気はなさそうだ。
「今回の話と勇者の伝説……か」
「まあ、勇者の伝説は色々あるからなぁ。各地を旅してると、耳に入ることもあるな」
ユリシーズは考えるように口元に手を当てて、ゴドウィンは皿から木の実をつまんで口の中に放り入れ、背もたれに体を預ける。ラリーは話が始まるのを、今か今かとじっと待っていた。
「シールズ家の件は、最初はよくあるような、領地に出るモンスター退治だったんだ。僕たちのパーティがそれを受けたんだけれど……ちょっと違和感を感じたもので、依頼の完了を報告する時にシールズさんへ伝言を頼んだんだ」
元々は単発の依頼で、ユリシーズたち『忘却の方舟』のみがそれを受けていた。杞憂であればいいと思っていた『違和感』が事件となって現れ、今度はシールズ家から名指しで『忘却の方舟』に依頼があったのだ。ユリシーズの残した伝言により警戒をしていたため、被害を最小限にできたらしく、当主は彼らを信頼したのだろう。
そこから様々な調査や討伐依頼を重ねていくことで、相手はシールズ家を潰すことを目的としているとわかり。数ヶ月掛けて黒幕を突き止め、『追放者の檻』と『ノスタルジック・ドリーム』と協力してシールズ家を守りながら黒幕の拠点へと乗り込み、制圧したのだという。
「――、――!!」
その冒険譚に、ラリーの感動は言葉にならない。目をキラキラさせている彼を見て、先輩冒険者たる三人はそれぞれ自分が新米冒険者だった頃の姿を思い出しているようだった。
●
「僕が聞いたのは、恋をした樹の話だったよ」
合流したアルバは、アイヴィーとプリシラから聞いた話を紡ぐ。
大樹のある街を、モンスターの群れが襲った。建物は壊され、焼かれたが、戦える者たちが武器を手にモンスターたちを撃退してゆく。けれどもモンスターたちにどんどん押され、前線は街のシンボルである大樹の前となった。その時、剣を手にした一人の青年が叫んだ。
「命にかえてもこの樹だけは守り通してみせる――青年はこの街で、この樹のもとで育ったから、この樹を大切に思っていたんだって」
するとその言葉と想いを受けた大樹は、一瞬でその枝に咲かせていた白い花を薄紅色に染め上げて、青年を始め戦う者たちへと力を与えた。
「『大樹が恋をした』――街の人達は皆、口を揃えてそう言ったんだ。青年も大樹に感謝をして、毎日声をかけた……けれど」
青年は冒険者として、群竜大陸へと旅立つことを決めた。
――君が初めて頬を染めたのと同じ季節に、必ず帰ってくるよ――青年はそう約束して、旅立っていった……。
「帝竜が倒され、群竜大陸が沈んでも、青年は帰ってこなかった。けれども大樹は、彼への合図のように、毎年春になると薄紅色の花を咲かせる――これが僕が聞いた伝説だよ」
「ロマンチックだな」
「女性に聞いた話だからね。ラリーくんは?」
ふむふむと話を聞いていたラリーの言葉に、アルバは笑みを浮かべながら問う。
「俺は、冒険者の先輩たちから聞いた話だ。いくつかかいつまんで聞いたけど、三人全員が知ってたやつがいいかなと思って、それを詳しく聞いてきた」
薄紅色の花を咲かせる大きな樹のウロに、勇者の残した宝が眠っている――どこのどの樹を指すのか、宝とは何なのか、はっきりとしない伝説だ。
「その樹には、群竜大陸に渡る前に、後に勇者と呼ばれる冒険者が帝竜ヴァルギリオスの討伐を誓い、祈願したらしい」
祈願時に何かを遺したのか、帰還してから何かを入れたのか、そもそもその冒険者が無事に帰還できたのかすらわからない。
「もっと、しっかりとした逸話の残っているヤツのほうが良かったかな?」
「いや、多分それで良かったんだと思うよ。ここまでで僕たち猟兵が集めた伝説に共通するものがあるし。わかるかい?」
「あっ!」
アルバに言われ、ラリーは思わず声を上げた。
大樹(大きな樹)――これまでの伝説に共通するワードである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
小宮・あき
アドリブ、連携、歓迎です。
UDCアースの上流階級の娘。
大型リゾートホテル(旅団)のオーナーも務めております。
持ち前の【コミュ力】【礼儀作法】【存在感】で貴族の方とお話する事にします。
【変装】技術で着飾ります。
髪をアップにして、イブニングドレスを着て。
冒険者を隠すつもりはありません。
貴族の目線を持った冒険者が居る事を知って貰えたら嬉しい。
行動は「雑談」です。
皆のダンスや演出を見ながら、お話します。
私の冒険履歴は、アックス&ウィザーズが9割。
貴族の皆さんの聞き覚えのある地域や村のお話もできるでしょう。
帝竜ヴァルギリオスの話は耳にしています。
勇者の話、…そうね、伝承や、遺跡の噂とかご存じないかしら。
琥珀川・れに
ダークセイヴァーの貴族の僕にとって、
貴族との会話は朝飯前どころか日常だよ
【コミュ力】全開でぜひ美しい女性の貴族を指定したい。
僕は王子様のような振る舞いにあこがれているんだ
強くて優雅で、人を守れるような。
正義の味方とは、僕の目指すところでもあるんだ
かっこよさの参考に「勇者の伝説」というのをお聞きしたい。
どんなところが素敵?どんなところが凄い?ビジュアルは?
そして、一通り聞いた後にあえて聞いてみるんだ
瞳を見つめて
「君の中のその勇者と、今の僕と、どちらが魅力かな?」
反応が楽しみ。
※アドリブ大好き&楽しみ。追加省略アレンジもご自由に。
●
(「ダークセイヴァーの貴族の僕にとって、貴族との会話は朝飯前どころか日常だよ」)
余裕綽々で会場を行くのは琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)。風に揺れる薄紫の髪、ピンと伸びた背筋に堂々とした歩き方。自信に満ちた表情でマントを揺らしゆくそのさまを、会場の若い女性たちが目で追っている。
ふと見れば、室内からもってきたと思しき肘掛け付きの椅子に腰掛けて扇で口元を隠した女性が、斜め後ろに立つ使用人の女性と言葉をかわしている。
ばちんっ……会話を終えて前方を向いた女性とばっちり目が合った。れには笑顔を返しながら、まっすぐ彼女のもとへと向かう。
黄色い声と共に、れにの行く手に道ができる。人波がぱっくり割れて、れにと彼女の間に障害物は何一つない。
コツ、コツ、コツ……。一定のリズムで靴音を鳴らして彼女の前に到着すると、れには優雅に一礼して跪いた。
「はじめまして、お嬢様。突然お声掛けする非礼をお許しください」
「……、……」
「ぜひ、お嬢様と歓談する栄誉をお与えいただきたい」
跪いたまま見上げる女性の瞳は晴れた空のような青い色をしている。だのに今はその空が曇って見えて。
「お嬢様――いや、姫。君の瞳を曇らす憂慮、この僕が晴らしてみせよう」
キリッ……見上げる瞳に強い意志。曇り空が、揺らぐ。
「……不思議。あなたは、平気だわ……」
女性はぽつりとそう零し、女性使用人に何かを命じた。女性使用人が通りかかった男性使用人になにかを告げると、頷いて彼はその場を離れていった。
しばらくして戻ってきた彼の手には、女性が座しているのと同じ椅子と、日よけも兼ねた折りたたみ式パーテーション。完全に隣り合うようにではなく、ハの字の内側を向くように設置された椅子。パーテーションは、れに以外に極力彼女の顔が見えぬ位置に設置された。
「どうぞ、おかけになって」
「ありがとう。それでは、お言葉に甘えて」
ふわり、マントを翻らせて優雅な動作で椅子に腰掛けるれにを、女性は相変わらず扇で口元を隠したまま、じっと検分するように見つめていた。
「僕はレニー。名前を聞いてもいいかな?」
下心なんてこの世に存在しない、そんな清潔感で名乗り、問うれにに、女性はそっと扇を外して。手元でそれを閉じながら、れににまっすぐ視線を向けて口を開いた。
「ベアトリクスと申しますの」
先程まで瞳だけしか見えなかった彼女の顔。その全てを視界におさめ、れには自分の直感が間違ってなかったと心の中で頷いた。
瞳だけではもう少し大人びて見えたが、ベアトリクスは年の頃は十代半ばよりやや上。緩く波打つ金の髪を綺麗に飾り、白い肌に長いまつ毛はまるでビスクドールのような美しさだ。
「ベアトリクス……素敵な名前だ。ありきたりな褒め言葉しか紡げない僕を許してくれ」
言葉を駆使して褒めるより、ストレートに褒めて誠実さを出したほうがいいだろう。そう判断したれにはつづける。
「君の青空を曇らせているのはなんだい?」
「……それなら、もう半分は晴れたも同然ですわ」
「……ほう?」
彼女の言葉の真意を知るべく、れには小首をかしげて彼女を見つめた。
「……わたし、殿方が苦手ですの」
絞り出すように小さな声で告げられた内容に、ああなるほどと思いつつ、れには彼女を見つめ続ける。
「だからこのパーティも、憂鬱でしかありませんでしたわ。けれども不思議……あなたは平気なの」
「それは光栄だ」
男性が苦手だという彼女の瞳には、れには男性に映っているのだろう。
病気に伴う風習で男として幼少期を過ごしたが、れには女性である。だが今も男装が抜けきらぬ彼女。彼女が目指しているのはまさに『王子様』だ。強くて優雅で人を守れるような――だからベアトリクスがれにを男性だと勘違いしても無理もないことだし、れにもまた、自ら女だと明かすつもりはない。
「ではこのひととき、君と歓談するひとときは、どんな宝石よりも貴重なものだと心得よう」
「……、……」
その言葉に、ベアトリクスの頬が少し赤く染まったように見えた。
「……でもわたし、殿方のお喜びになるようなお話、出来るかしら……」
「それならば、君の知る勇者の伝説を教えてくれるかい?」
恐らく彼女もひとつやふたつなら聞いたことがあるだろう。れににとっては本命の話題を切り出したに過ぎないが、ベアトリクスにとっては『誰もが話せるであろう話題』を振ってもらえたと思えるに違いない。
「昔いた使用人に、内緒で聞かせてもらった話なら……覚えているわ」
「是非、聞かせてくれないか?」
求められ、ベアトリクスははにかみながらぽつりぽつりと語り始めた。
「なるほど」
ベアトリクスの話を聞き終えたれには、その内容を頭に留めつつ、彼女の顔を見て。
「その勇者は、君にとってどんなところが素敵? どんなところが凄い? 君が今でも覚えている話だ。僕もその勇者を見習って、格好良くあらねば」
「そんな、あなたは――」
ベアトリクスの言葉を遮るように椅子から立ち上がったれには、彼女の前に跪いた。最初の時よりも、もっと近く。そして膝に置かれた彼女の手を優しく取って――射抜くように瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君の中のその勇者と、今の僕と、どちらが魅力的かな?」
彼女の頬が紅潮していくのがわかる。けれども瞳をそらすことはせず、手を離すこともしない。彼女はもう片方の手で扇を開き、顔を覆ってしまった。けれども、払いのけようとすればできるれにの手を、払いのけはしない。
「――意地悪な質問ですわ……比べるまでもありませんのに……」
体全体で答えを物語っているベアトリクス。彼女の手にそっと唇を落として。
「これ以上ない誉れだ」
れには優しい笑みを浮かべた。
●
ざわざわざわ……。
「あの方は? シールズ家の縁者のお嬢様?」
「オレに聞いてもわかるわけ無いだろ」
冒険者たちが一人の少女を見て、ひそひそと言葉をかわしている。
「彼女は? 冒険者なのかしら?」
「それにしては洗練された振る舞いね……」
貴族たちもまた、彼女に注目している。
ピンク色の髪をアップにし、イブニングドレスに身を包んだ彼女は小宮・あき(人間の聖者・f03848)。この場において背筋を伸ばし胸を張って堂々と振る舞える彼女は、UDCアースにおける上流階級の家庭に育った。現在は旅団でもある大型リゾートホテルのオーナーも務めていて、年若くあれどその存在感はこの世界の貴族と見紛うもの。かといって冒険者であることを隠そうとはしないから、人々は判断を迷っているようだ。
「失礼いたします。ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか?」
あきが足を止めたのは、シールズ家当主夫妻の座る椅子の近く。まずは控えている執事と思しき人物へと声を掛ける。彼が夫妻にあきの要望を伝え、許可が出ると彼女は礼儀正しく夫妻の前で礼をとる。
「はじめまして、小宮・あきと申します。この度のこと、心よりお慶び申し上げます。そして我々冒険者のためにこのような場を設けてくださり、誠にありがとうございます」
この世界の礼儀作法に則った挨拶の動作。そのスムーズさから、彼女がこのようなフォーマルな場に出席するのに慣れていることが夫妻にも伝わる。
「喜んでもらえているなら、我々も嬉しい。失礼だが、お嬢さんは冒険者ということだが……」
当主が濁した言葉の先を読み、あきは口を開く。
「はい。冒険者ですが、上流階級の生まれです」
「まぁ……」
あきの答えに夫人は驚いたようだ。けれども貴族の目線を持った冒険者がいるということを知ってもらえたら――あきはそう思うから、包み隠すことはしない。
「よろしければ、私がこれまでに受けた依頼の話をさせていただけませんか? 数も多いので、皆さんの聞き覚えのある地域や村のお話もできると思います」
あきのこれまでの冒険履歴は、アックス&ウィザーズが九割だ。どの依頼も思い出深く、記憶に残るものだから、話題には事欠かぬはず。
「あなた、わたくし聞かせていただきたいです」
「そうだな。椅子を」
夫人の声に当主も頷き、使用人に新たな椅子を持ってこさせた。夫妻が座る椅子とテーブルのサイドに置かれた椅子に、あきは腰を掛けて。
「さて、どの冒険からお話しましょうか……?」
記憶の中に在る冒険の引き出しを、どれにしようかと迷いながら開けてゆく――。
「いやー、色々な冒険譚を聞かせてくれてありがとう」
夫妻は意外と冒険の話が好きなようで、本当に楽しそうにあきの話を聞いていた。家を継ぐ貴族であれば、自由は少なかっただろう。それは貴族の娘でも同じだ。だからこそ、夫妻は冒険者に憧れた事があったのかもしれない。
「ふふ、子どもの頃に勇者様の御一行の話を聞いたときと同じくらい、わくわくしてしまいました」
夫人が嬉しそうにはにかんで告げたその言葉を、あきは勿論聞き逃さない。自分の話だけして終わるつもりはなかった。機を窺っていたのだ。それが今、だ。
「そのお話、どんなお話かお聞きできますか?」
「あら、でも子ども向けのお話ですよ?」
「私、勇者の話を聞くの、好きなのです」
にこっと笑顔で告げれば、「あら、そう?」と夫人は夫の顔を窺う。彼が頷いたのに安心して、夫人はゆっくりと語り始めた。
●
「僕がベアトリクスから聞いたのは、お忍びで街を訪れた貴族のお嬢様と、後に勇者と呼ばれる癒し手の話だ」
お嬢様は自分の家の領地にある大樹が素敵な花を咲かせると聞いて、一度見てみたいと思っていた。けれどもお嬢様のお屋敷よりやや遠方の街だったため、許可が下りない。
どうしてもその花を見たかったお嬢様は、その街と比較的近い場所にある別邸へ数日滞在することにし、侍女と共にお忍びで街へと向かった。
「世間知らずのお嬢様には街はとても新鮮でね、顔を隠していたフードも取ってしまい、あちらこちら見て回った――その様子をガラの悪い連中が見ていてね。彼女の行動は誰が見ても世間知らずのお嬢様に見えていたから、良からぬことを企んだったわけだ」
彼女を捕まえようとしたガラの悪い男たちだったが、侍女の機転でお嬢様だけは逃されて。けれども街のことを知らぬ彼女は闇雲に逃げ回るしかなく……辿り着いたのは本来の目的だった大樹の元。しかしゆっくり見惚れている場合ではない。追いかけてきた男たちの怒号が響く――。
「もう走れず、大樹の幹に隠れるしかなかった彼女。まあすぐに男たちに見つかった。けれど、彼女と男たちの間に」
言葉を切ったれには指で上を指す。
「木の上から飛び降りてきた青年が、瞬く間に男たちを伸してしまった。そして逃げる途中で彼女が負った傷を癒やして――ふたりは恋に落ちた」
癒し手であろうと自分の身を守れなくてはならない。ゆえに戦闘の心得のある者も多い。その青年もそのうちの一人だったのだろう。
樹の下で逢瀬を繰り返したふたり。けれども青年は、彼女と出会ったときにはすでに群竜大陸へと向かうことを決めていた。何を言ってもどうしても、彼の決意が揺らがぬと知った彼女は、自分の髪を編み込んだ武器飾りをお守りとして渡し、青年は彼女に指輪を贈った。
「『帰ったら、花束を持って君を貰いに行く』そう約束して青年は旅立っていった。数日後、もう一度だけと大樹のもとへ訪れた彼女は、偶然ウロの中を覗き込んだ。そこには小さな花束と、青年の髪を編み込んだお守りがあった。まるで、自分が帰ってこられないことを知っていたかのように」
「なるほど。その大樹が出会いの場であり、永訣の場でもあったということですね」
れにの語った内容に、あきはふむ、と頷く。
「そっちは? ここまで来て『大樹』が出ないなんて言わないだろう?」
「もちろんです」
あきは頷いて、夫人から聞いた話を語り始めた。
「大樹のある街で育った幼馴染の男女三人は、冒険者になり、パーティを組んで様々な冒険に赴きました」
夫人がわくわくしたのはこの冒険の内容だったらしいが、今回は関係なさそうなので省略して。
「この三人の話の続きは、夫人もおとなになってから知ったらしいのですが……」
三人で群竜大陸へ行く、そう決めていた彼らだったが、出発直前になって他のふたりが街に残ると言い出した。のちに勇者と呼ばれる彼は、ふたりが想い合っているのを知っており、応援していた。だが突然の、裏切りともいえる意思変更に彼は勿論怒った。
「けれども理由を聞くと、あっさりと怒りを鎮めて、一人で旅立ったそうです」
「なんとなく察しがついた。僕の予想通りだとしたら、さすがに子どもには話せないな」
れにの言葉にあきは頷く。
彼が群竜大陸へと旅立ったあと、ふたりは毎日のように大樹の元へ彼の無事を祈りに行った。幼い頃、大樹の幹にそれぞれの名前と相談して決めたパーティ名を刻んで怒られた――その思い出の印を見つめて。
「毎日毎日、雨の日も雪の日も、ふたりは祈りを欠かしませんでした。そしてある日、祈りの途中で産気づいた彼女は、大樹のもとで男の子を出産したのです。満開の花に、祝福されるように」
群竜大陸へと向かった彼が戻ってきたのかどうかは語られていないらしい。
●
得られた勇者の伝説は、内容はそれぞれ違うものの、総合して考えると共通するのは『薄紅の花を咲かせる大樹』であるといえよう。
どの伝説が本物でどれが偽物かはわからない。勇者と呼ばれる者の数は多いからして、全てが本当かもしれないし、全てが偽物かもしれない。
ただ、件の大樹の元へ実際に行ってみる価値はあるだろう。
大樹のあった街自体は既になくなっているというが、候補とされる場所の情報は得ている。
ならば、向かうに躊躇いはあるまい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『花咲く大樹の懐で』
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POW : 資材を樹上に運ぶ。
SPD : 器用に道具を使い修復する。
WIZ : 折れた枝や傷付いた動物を治療する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●花咲く大樹
昔、『大樹のある街』であっただろうとされる場所にたどり着いてみると、そこは森――いや、林のようになっていた。
街があったという情報が誤りなのか、意図的に植樹されたのか、それとも何か他の事情があったのかはわからない。
警戒しながら木々の間を行く猟兵たち。
ふと、視界が開けたかと思うと、そこには薄紅色の花を咲かす大樹があった――。
大樹の周りには木が生えておらず、上空からみると薄紅色の周囲は土や草色で、大樹を中心にして半径十メートルほど外から木々の緑が広がる感じだろう。
大樹はあった。だが。
折れかけた枝や折れ曲がり垂れ下がった枝が多く、花の美しさよりもそちらが気になってしまう。
加えて現在この大樹には、動物や鳥たちが巣を作っているようで。ウロも多いようだ。
大樹の高さは二十メートル前後。幹もそれなりに太い。
遺された勇者の伝説を探すには、樹の補修や修復をしながらがいいだろう。補修をすれば、登るための足場が確保できるかもしれない。余裕があれば、動物や鳥たちの巣を快適にしてあげるのも良い。
大樹のどこに何が遺されているかわからない以上、虱潰しに探すしかないかもしれない。
薄紅色の花を眺めながら、あるいは木を登り、花に包まれながら、作業と探索を――。
アウレリア・ウィスタリア
ボクの歌はアナタに届くでしょうか?
【空想音盤:愛】
大樹に語りかけるように
生き物たちを育み続けてきた感謝を伝えるように
この地を見守り続けてきたことを労るように
ボクは歌いましょう
薄紅色の花、この花の名前をボクは知らない
この花もきっとはじめて見るものだと思う
けれど、どこか懐かしい色の花だとも思う
きっとボクのこの魂が覚えているんだろう
だから語ることのない大樹よ
もしボクの歌が、ボクの想いが伝わったのなら
少しでもアナタを元気づけることができたのなら
アナタの思い出を少しだけで良い、語ってほしい
風に揺れるざわめきでも良い
きっとボクの心はそれを感じ取れるから
この大樹はきっと思い出の場所だったんだ
アドリブ歓迎
琥珀川・れに
(手を添えて)
可哀想な樹…元気だったならきっと見事に咲き乱れる花を見せてくれていただろう
僕一人では到底カバーしきれないけれど少しでも回復できるなら
UC【贄の天涙】
この血は僕が食べてきた者達でできている。
君にもおすそ分けだ。
これを糧とした樹は、鳥が食べる実や、葉は腐葉土となり巡り巡って僕達に返礼してくれるだろう。
【広範囲攻撃(?)】だから疲れた…少し休む
木陰でうとうと
その間、
映画プリンセスみたいに【動物】と話してみよう
何か情報が得られるかもしれない
※アドリブ大好き&楽しみ。追加省略アレンジもご自由に。
伝説の中では生き生きと花を咲かせている姿が想像できた大樹。けれども目の前にあるそれは、いくらかは花を咲かせてはいるものの痛々しさが目に付き、心を締め付ける。
「可哀想な樹……元気だったならきっと見事に咲き乱れる花を見せてくれていただろう」
外皮が剥げ、あるいは割れているその幹に手をついて、琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)は嘆きを言葉に乗せた。
「僕一人では到底カバーしきれないけれど、少しでも回復できるなら……」
「アナタも大樹を元気づけるのですか?」
声をかけられてれにがそちらを向けば、そこには素足でさくさくと草を踏みしめてきたアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)の姿があった。
「ボクも同じです」
「それは助かる。なにせこの大きさだ。僕ひとりには少々荷が重い」
自身の力を過信せず、足りぬ事実を認める。それは誇り高いれにには不本意――否。己の実力を過信して、あるいは矜持ばかりを重んじたことで取り返しのつかない結果を招く……そのほうが不本意である。
「では、始めましょう」
「ああ」
アウレリアが数歩下がって幹と距離をおいた。れには幹に手を当てたまま、大樹に話しかける。
「今、元気をあげるからな」
意識を集中させ、『贄の天涙』を発動させる。
「この血は神の導きによって僕に捧げられた贄達の涙。神からいただいた物は分け与えよう」
雨のように撒かれ、大樹に降り注ぐのは血の雫。ぽつ、ぽつ、ぽつ……枝に、葉に、幹に――落ちた紅(あか)はそれらに吸収されてゆく。
「この血は僕が食べてきた者達でできている。君にもおすそ分けだ」
それを吸収した部分が、明らかに生命力を増していくのがわかる。
「これを糧とした樹は、鳥が食べる実や、葉は腐葉土となり、巡り巡って僕達に返礼してくれるだろう」
ぽつぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ……大樹に降り注ぐ紅を見つめながら、アウレリアは二色の翼で視線の高さをあげてゆく。ちょうど、大樹の高さの半分くらいまで来ただろうか。
(「ボクの歌はアナタに届くでしょうか?」)
そっと、音と言葉を紡ぎ始める。
――薄紅色の花、この花の名前をボクは知らない
――この花もきっとはじめて見るものだと思う
紅の降り注ぐ音と、アウレリアの旋律が絡み合う。大樹に語りかけるようなその歌に、れには視線を上げて微笑んだ。
――けれど、どこか懐かしい色の花だとも思う
――きっとボクのこの魂が覚えているんだろう
ふう、と息をついたれには、大樹の幹によりかかって座り込んだ。広範囲に渡ってを紅降らせたおかげで、酷く疲労している。
「疲れた……少し休む」
けれどもその疲労は、不思議と心地よいものに感じる。
――だから語ることのない大樹よ
――もしボクの歌が、ボクの想いが伝わったのなら
――少しでもアナタを元気づけることができたのなら
アウレリアのその歌は、その歌詞は、生き物たちへを育み続けてきた感謝を孕み、この地を見守り続けてきたことへの労りが込められている。
生きとし生けるものへ捧ぐ清らかなる歌は、れにの耳朶に心地よく触れて。疲労からうとうとしかけていた彼女さえも癒やしてくれるかのようだ。
――アナタの思い出を少しだけで良い、語ってほしい
パササッ……近くで感じた羽音にれにが目を開けると、チチチと小鳥が肩の上で囀っているではないか。歌に惹かれて姿を現したのか、タスッと前足をれにの足にかけているのはウサギ。小鳥や動物になつかれるそのさまは、まるでおとぎ話のプリンセスのようにみえる。
「君たちがこの樹の住人かな? いい歌だと思わないか?」
小鳥とウサギに問いかけるも、その答えは既に知っている。このような状態の樹に住み続けているのだとしたら、ここはあまり人が来ない場所なのだろう。だとすれば、突然現れた猟兵達に動物たちは怯えるに違いない。けれどもこうして姿を見せて、近寄ってきてくれるものがいるのは、れにとアウレリアが大樹のために心を砕いているのが通じたからだろう。
――風に揺れるざわめきでも良い
――きっとボクの心はそれを感じ取れるから
『きを、げんきにしてくれてありがとう」
『なんで、ここにきたの?』
「ん? 僕たちは――」
小鳥とウサギの問いかけに、れにが答えを紡ごうとしたその時。
ぶわぁぁぁぁっ!!
「!」
「!?」
かろうじてついていたものの頑なに開こうとしなかった蕾が、一斉に開いて。
増えた薄紅色の花が、ふたりの視界を満たす。
だが、ふたりが驚いたのは一斉に蕾が開いたからだけではない。花開いた薄紅をスクリーンのようにして、数瞬だけ見えた光景――杖を片手にした男性が、歌っているような姿。
それは、集めた伝説の一部を混ぜたような光景だ。誰の聞いた伝説のことなのかは特定しづらい。けれどもただ一つだけわかることがある。
「この大樹はきっと思い出の場所だったんだ……」
目の前で花開いた花弁に触れるようにして、アウレリアは小さく呟いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
奇鳥・カイト
探しに行くのもいいが、先に傷付いた鳥たちの手当てが先だ
探すのは後でも出来るし、他の奴らがするだろ
巣も…しっかりと直さないとな
大樹は……俺は別にいいが、鳥が住処にしてたりするからな。こっちも直しておくか
テーピング、包帯、ワイヤー、紐、よく持ってるやつで補修を行う
鳥用の傷薬なんかも普段持ってるやつを使って治療する
手が足りなければ僕でも呼んで手伝わせる
【交流、アドリブ歓迎】
アルバ・ファルチェ
(絡み・アドリブ歓迎)
《WIZ》使用。
事前に動植物についての知識を【情報収集】しておきたいな。
特に枯らさなくてすむ方法とか聞けてたら役に立ちそうかなぁって。
勇者の伝説を探すのはもちろんだけど、折角の綺麗な花が台無しになってしまっているのは可哀相だから治してあげよっか。
んー、樹にも効くかは解らないけどユーベルコードを使ってみようかな。
効くと良いなって【祈り】ながら使ってみるよ。
ダメだったときは、可哀相だけど折れかけてしまったものは完全に折ってしまおう。
ゴメンね、でも中途半端にするよりは良いと思うんだ…。
あとは動物達も治療しつつ、樹のためにどうしたらいいかを話してみようかな。
皆で大事にしたいよね。
目の前で蕾が開いたその光景に、アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)は目を見開いた。そして。
「なら僕も試してみようかな。普段は女性限定だけど、緊急事態だからね」
蕾はほころんだが、これだけの大きさのある樹だ。完全に治療できたとは限らない。
アルバは大樹が元気になるようにと祈りながら、愛を込めて樹へウィンクを。
さわさわさわ……さわさわさわ……。
風に揺れるしなびた葉に、瑞々しさが戻ったのが見える。枝の割に小さかった葉が、一回り大きくなったようにも見える。
「効くんだね、よかった。……でも」
さすがに、折れてかろうじて皮一枚で繋がっているような枝の元気を取り戻すことは出来ていないようだ。乾きかけたその枝には、もう生命力がないのだろう。
「ゴメンね、でも中途半端にするよりは良いと思うんだ……」
長身のアルバが背伸びをして手を伸ばせば届くところにあるそれを、悲しげに瞳を細めながら折って。
「他には……」
見上げれば、地上から見て取れる場所にもまだ同じような枝がある。
「よっ、とっ……」
人狼ゆえに身軽なアルバは、樹に負担をかけないように出来るだけ太いところを選び、掴み、足場にして目的の枝を目指してゆく。
ピィ……ピィ……。
チチチ……チィチィ……。
(「探しに行くのもいいが、先に傷付いた鳥たちの手当てが先だ」)
大樹の下に座った奇鳥・カイト(燻る血潮・f03912)の足の上には、いくつかの鳥の巣が。強風で落ちたのかはわからないが、比較的下の方の枝の又に不自然な形で引っかかっていたものと、完全に落ちてしまったもの。腿の上や肩の上には数種類の鳥たちが乗っていて、弱々しく囀っている。
(「探すのは後でも出来るし、他の奴らがするだろ」)
カイトにとっては、鳥の治療のほうが優先順位が高い。
「順番だ」
取り出した薬入れの蓋を片手で器用に開けて、中の軟膏を指につける。逆の手で優しく掴んだ鳥の傷へと軟膏をつけると、手の中で鳥がびくっと体を震わせた。
「痛かったか? でもこの薬はよく効くんだ」
そっと鳥を地面へとおろして様子を見れば、傷の部分を気にしてはいるようだが、つついたり羽で撫でたりして軟膏を取ってしまう様子はない。
「次はお前だ」
字面的にはあれだが、鳥たちはカイトが自分たちに害をなす者ではなく、むしろ心配してくれていることを本能でわかっているのだろう。おとなしくカイトが差し出した指に乗った。
一通り治療が済んで、次は巣を治そう――そう思った時。
「あっ!!」
ザザザザッ!!
驚いたような声と葉の騒がしい音。次いで上から降ってきた人物は、くるっと一回転して、腰を落とした体勢でカイトの前に着地した。
「……」
「ごめん、驚かせたよね。折れた樹を見に行ってたんだけど、この子がね」
落ちてきたのはアルバだった。見事な着地の時に片腕を使っていなかったと思ったら、その腕の中にはリスの姿が。
「怪我をしてるから治してあげようとしたんだけど、驚かせちゃったみたいで」
他の動物たちより臆病なのか、そのリスはアルバから距離を取ろうとして枝から落ちそうになったのだという。それを助けるべく片手で保護したアルバは、そのまま降りるように落ちてきたのだとか。
「それ、鳥の巣? 設置し直すなら、治りきっていない枝とかもなんとかしないとだよね」
リスを治療ているアルバに話しかけられて、カイトは巣を直しながら口を開く。
「こいつらが住処にしてるからな。安全に暮らせるように、補修したい」
告げてカイトが出したのは、テーピングや包帯、ワイヤーや紐。いつもよく持っているものだが、修繕に役立つだろう。
「なるほどね。折るしかなかった枝は、添え木に使えそうかな?」
「加工すれば十分使えると思うぜ」
「ならよかったよ」
折るしか選択肢のなかった枝。それが大樹自身の役に立つのならば、枝も本望だろう。アルバ自身も、嬉しく思う。
「ちょっと手が足りないか」
巣を戻し、鳥たちを戻し、樹を補修する――もっと手がほしい、そう感じたカイトが紡ぐ。
「盟約に従い、僕よ来たれ。汝の名は黄昏に潜む者」
現れたのは、血と闇で出来た鳥と猫の形をした僕。カイトと五感を共有する彼らに修繕箇所の発見や、巣の設置に適した場所を探してもらい、カイトは直した巣を持って木に登るべく、枝に手をかける。
「僕ももう一度登るよ。この子も巣のウロに帰してあげなきゃだからね」
怪我を直してもらって落ち着いたのか、アルバの掌の上でじっとしているリス。「ね?」と語りかけるようにアルバが掌を自身の顔へと近づけると。
『ありがと』
リスはそう告げて、アルバの鼻先へとキスをした。
「はは、どういたしまして」
笑んで礼を言い、樹を見上げて。
(「皆で大事にしたいよね」)
丁寧に修繕をしているカイトを見て、アルバは心中で呟いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シエル・マリアージュ
まずは、アラクネの紅玉を蜘蛛型に変えて枝や葉が多く人では確認し難い場所を探らせ、自分は飛んで外側から大樹を観察して、【情報収集】して大樹の状態を把握。その情報は他の猟兵にも共有。
完全に腐ったり傷みの酷い枝は切り落とし、折れかかった枝には添え木をして、枝葉が多い箇所は枝葉を少し落として光の通りを良くする。ただし、鳥などの巣がある場所は外から巣が見えないように注意しながら作業する。
この大樹が魔力のような力を持っているなら、その力で何かが隠されているかもしれない。【第六感】を頼りに怪しい場所を見つけたら、大樹に影響しないように【破魔】の力を込めた【視力】で観察してから、見つけたものを丁寧に回収する。
ステラ・アルゲン
ほう、これがあの大樹ですか。
この大樹の元に勇者の伝説があればよいですが……。
手がかりを探しつつ、折れかけた枝や曲がった枝など【情報収集】で探し出し【天満月】の【祈り】にて治療しましょうか。
おや、小鳥ですか。巣から落ちてしまったようなので巣を探して戻します。
できればその巣も落ちないように修復しておきましょう。
……話に聞いた騎士はここで冒険者の彼女にあの誓いを立てたのでしたか。
今は私も主なき剣の騎士。この剣を捧げられる相手ですか……。
いずれ私も、あなたのような騎士になれるといいですね。
(アドリブ・連携OK)
ラリー・マーレイ
これが、伝説に出てきた大樹なのかなぁ……。どうしてこんなに傷付いてるんだろう。
どうしようかな。樹の治療の方法は知らないし。せめて、道具や資材を運んだりしてみんなの手伝いをしてみようか。
物を背負って樹を登り降りしたりしながら、うろや大きな傷なんかがあればつい中を覗いてみたりします。何かないかな……。
一生懸命働きますが、聞いてきたばかりの色々な英雄譚が頭に蘇って、つい仕事の手を止めて空想に浸ってます。……いけない、今はちゃんと仕事しないと。
シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)は手にした『アラクネの紅玉』を蜘蛛型に変えて、樹を登らせてゆく。小型ドローンであることを活かし、人では確認し難い場所へと積極的に進ませる。そしてシエル自身は羽ばたいて、外側から大樹を観察してゆく。上の方などなかなか登りゆくのは大変な場所も仔細にチェックして、記録を進めていった。
「ほう、これがあの大樹ですか」
花開いた大樹を見上げるのはステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)。風が一つに束ねた白い髪と青いマントを揺らしてゆく。
(「この大樹の元に勇者の伝説があればよいですが……」)
願うように思いつつ視線を動かせば、他の猟兵たちの力では治しきれなかった部分が目について。
「上手く登れますかね」
よっ、と声を出しつつ、ひらりひらりとステラは木を登ってゆく。
「これが、伝説に出てきた大樹なのかなぁ……。どうしてこんなに傷付いてるんだろう」
理由はわからない。けれども、なんとかしてあげたい気持ちはラリー・マーレイ(見習い剣士・f15107)の心にある。しかし。
(「どうしようかな。樹の治療の方法は知らないし」)
何をすればいいのだろう、困った――その時、ふぁさっと羽音を立ててシエルが降りてきた。
「ちょうどよかった。何か俺にできることはないかな?」
「こちらこそ、ちょうどお願いしたいことがありましたの」
ラリーの言葉に小さく笑みを浮かべ、シエルは手を加えなくてはいけない箇所を記したメモを見る。そして新しい紙に何かを書き付けて。
「ラリーさんにお願いしたいのは、このメモにある箇所の作業よ。『切り落とし』は完全に腐ったり傷みの酷い枝。『添え木』は折れかかっているけれどまだ生きている枝よ」
「よし、頑張って登ってくるよ」
「ちょっと待ってね」
いざ上へ、と動こうとしたラリーを止めたシエルは、もう一枚の紙に何かを書き付けて。
「登っていく途中にステラさんがいるはずだから、これを渡してもらえるかしら?」
差し出されたメモには場所と『伐採』の文字が。枝葉が多すぎる場所を少し落として、光の通りを良くする目的だ。ただし、鳥などの巣がある場所は外から見えないように注意する。
「わかった、行ってくる」
元気に木を登るラリーの姿を見て、シエルは再び羽ばたく。普通に登っては手が届かない場所に、外側から手を入れるためだ。
「おや、これは鳥の巣ですね。ではここの伐採は、外から見えないように気をつけましょう」
ラリーからシエルのメモを受け取ったステラは、多すぎる枝葉を伐採しながら木を登っていた。伐採するごとに陽の光の入りが良くなり、なんだか樹が喜んでいる気さえして。
「っと……」
見つけた鳥の巣へと近付こうとしたステラだったが、巣の乗っている枝が見た目に反して弱っていて。慌てて体重を移動させて体勢を立て直す。
「何事も、見た目だけで判断しては駄目ですね」
この枝をこのままにしておいては、いつか鳥の巣が落ちてしまうかもしれない。息を整えて、ステラは祈る。
「夜の闇を照らし導く満月よ。どうか手を貸してくれ」
ステラの祈りにより出現した光は陽光――否、月光だ。昼間においてなお堂々と輝く聖なる光が枝を照らす。すると。
「ああ、もう大丈夫ですね」
少し体重をかけて確かめても、先程のように大きく揺れたりはしない。安心して巣へと近付こうとする。
ピィ! チィチィ!
「おや、あれがあなた達の巣ですか?」
ステラの服の襟元から、小鳥が二羽、ひょいと顔を出した。巣から落ちた様子なのを途中の枝で見つけたのだ。
「大丈夫ですよ。今帰して差し上げます」
優しい手つきで小鳥たちを巣に戻すと、どこからか親鳥らしき鳥が飛んできて。その光景に思わず目を細める。
(「だいぶ、登ってきましたね」)
一息ついて下を見れば、浮かぶのは騎士と冒険者の女性の姿。
(「……話に聞いた騎士はここで冒険者の彼女にあの誓いを立てたのでしたか」)
まるで見てきたかのようにその光景がステラの脳裏に浮かぶ。
(「今は私も主なき剣の騎士。この剣を捧げられる相手ですか……」)
抱く思いは憧憬か、羨望か。
「いずれ私も、あなたのような騎士になれるといいですね」
思わず口をついて出た言葉。それが指すのは伝説の勇者と呼ばれる騎士か、かつての主なのか――。
「うーん、このウロははずれかぁ」
シエルの指示通りに作業をしつつも、ウロや大きな傷を見つけると、つい気になって中を覗いてしまうラリー。無理もない。だって勇者の遺したなにかがあるのかもしれないのだから。
「他に何かないかな……」
もちろんきちんと作業はしているけれど、ときおり気がつくと手が止まっている。色々な勇者の伝説や、冒険者の先輩たちの実際の冒険の話を思い出してしまうのだ。冒険者に憧れて故郷を飛び出した彼が、それらの話に浸り、いつか自分もとうっとり空想に浸ってしまうのも無理はないこと。
「……いけない、今はちゃんと仕事しないと」
けれども今はやるべきことがある。手を止めてしまうたびに自分に言い聞かせて、ラリーは作業を続けていった。
(「修復もかなりできたし、陽の通りも良くなったわね」)
上の方から見ても、最初の頃より大樹がいきいきと光を受けているのがわかる。『生きている』と見ているだけで感じるようになっていた。少しは大樹の本当の姿に近づけただろうか?
(「この大樹が魔力のような力を持っているなら、その力で何かが隠されているかもしれないわね」)
シエルは大樹の周囲を上方から下方へと飛び回りながら、怪しく感じる場所がないか、目を凝らして確認していく。すると。
キンッ――……。
微かにシエルの第六感に引っかかった箇所があった。大樹に影響しないように、視力に破魔の力を込めて観察を、そう思ったその時。
キィィィィィィィィィィィ!!
キヒャァァァァァァァァ……!
アァァァァァァァァァ!!
怒りというよりは嘆き。
明らかに『壊れた』声が響き渡った。
「っ……!」
「何だ!?」
「え、何!?」
振り向いたシエルの視界に、尋常ではない声に反応して枝の間から外を覗いたステラとラリーの視界に、『それら』は映った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『崩壊妖精』
|
POW : 妖精の叫び
【意味をなさない叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 妖精の嘆き
【なぜ痛い思いをさせるのかへの嘆き】【私が悪かったのかへの嘆き】【助けてくれないのかへの嘆き】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 妖精の痛み
【哀れみ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【崩壊妖精】から、高命中力の【体が崩壊するような痛みを感じさせる思念】を飛ばす。
イラスト:芋園缶
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
大樹へとめがけて飛んできたそれらは、妖精と呼ぶにはあまりに様子がおかしくて。けれども妖精たる特徴はまだ保っていて。
その声は、嘆きに満ち、明らかに正常ではない。
憎悪と災厄をばらまくそれは、半ば『崩壊』している。
そういえば、パーティでこんな噂を耳にした。
曰く、密猟団が妖精を捕まえ、様々な非人道的な実験をしていると。
曰く、その実験で『壊れて』しまった妖精は、暴走が始まれば自然と崩壊していくと。
曰く、問いかけるような嘆きの答えを得ることが出来なかった妖精は、死後も苦しみ続けるらしい、と。
あくまで噂の範疇で、実際に出会って確かめた者はいないという話だった。猟兵たちも軽く耳に入れただけだった。
けれども実際にそれを目の前にしてみると、目の前の『それら』が噂の妖精だったのか、と不思議と得心がいった。
大樹を取り囲むように出現した崩壊妖精たちは複数。猟兵たちだけではなく、大樹をも攻撃対象と見ているようだ。それとも、何もかもを憎んでいるのか。
大樹がひどい状態だった原因が、目の前の崩壊妖精たちにあるのかどうかは定かではない。
けれども崩壊妖精たちをこのままにしておけば、勇者の伝説を確保する以前に、大樹や動物たちが再び傷ついてしまうかもしれない。
噂通りであれば、目の前の崩壊妖精たちは被害者だ。けれども――。
猟兵たちは何を思い、彼らと戦うのか――。
ラリー・マーレイ
「妖精!?……パーティで言ってた噂は本当だったのか!?」
思わずうろたえます。どうしよう、襲ってきてるけど、戦うのか……?
事前情報は貰ってたのに、冒険に浮かれて対策も心構えも出来てなかった自分の未熟さに歯噛みします。
今は迷ってちゃだめだ!暴走してる、このままじゃ樹や動物達が危ない!
急いで幹の近くへ。UC【鉄身の呪文】を使用し、防御障壁を発生させます。
【学習力】の技能で、さっきまでの作業で覚えてた樹の形状や動物達の位置を思い出し、【オーラ防御】【盾受け】【かばう】の技能を応用して防御障壁を拡大、変形。出来るだけ広範囲の樹肌や動物を守ります。
「やめてくれよ!君達とは戦いたくない!」
思わず叫びます。
ステラ・アルゲン
なんとも痛ましい……。助ける手立てがないならば、せめてこれ以上辛い思いをする前に送るべき場所へ送ろう。
妖精の痛みは抵抗することなく受けよう。君たちの痛みを受け入れる。
【激痛耐性】と【呪詛耐性】そして【勇気】を持って耐える。
その痛みと悲しみを理解し、痛みなきよう【優しさ】と【祈り】を込めた【全力魔法】の【流星雨】にて葬る。
彼らの安らかなる眠りをこの流星に願おう。
(アドリブ・連携OK)
小宮・あき
●連携・アドリブ歓迎。
●SPD対抗
UC【愛雨霰】で攻撃。
愛用のマスケット銃をレベル本を宙に浮かせ攻撃。
高さ・距離をバラバラにし【フェイント】【だまし打ち】をしたかと思えば【零距離射撃】も。
【一斉発射】【援護射撃】を撃ち、抜けた妖精を【早業】で撃つ。
私に嘆きは響かない。
誰かの言葉で心を痛めるような、か弱い少女じゃないんですよ。
お前たちはオブリビオン。
「だからどうした」。
これだけ。
死後の苦しみは辛いでしょうが、ごめんなさいね。
本心なんです。
だから黙っていようかな。【呪詛耐性】
【視力】【第六感】【野生の勘】で回避。
レガリアスシューズ加速と【ダッシュ】【ジャンプ】【スライディング】で確実に交わします。
アウレリア・ウィスタリア
ボクは、壊れてしまったキミたちに同情するのでしょうか?
それとも恐れるのでしょうか?
ボクはボクの感情を理解できない
けれど、この大樹と大樹に寄り添う生き物たちを守りたい
そう願っているのは本心です
空へ舞い上がり迎撃しましょう
ヤドリギの魔銃と【今は届かぬ希望の光】を放ち撃ち落とします
なぜ痛い思いを?理由なんてありません
キミたちが悪かったか?善悪は関係ありません
助けてくれないのか?そんな発想は無いんです
弱者を弄ぶ愚かな存在
彼らの理由なき暴力
私はそれをこの身に受けてきたのだから
痛いのも苦しいのも哀しいのも私は知っている
だからキミたちがそちら側にいることが理解できない
今はただ大樹を守ることを……
アドリブ歓迎
シエル・マリアージュ
妖精が噂通りの存在だとしても容赦しない。
オブリビオンを生み出す存在を倒さなければ、このような悲しみが繰り返されるのだから。
【残像】と【フェイント】で妖精の攻撃を避けながら、それでも攻撃を受けたら【オーラ防御】で防御して【激痛耐性】で痛みに抗う。
大樹の上空から【視力】を活かして崩壊妖精の動きを【情報収集】して【戦闘知識】と【見切り】で妖精の動きを予測、【追跡】して見逃さないように注意して大樹に近付いた妖精を優先的に攻撃、ユーベルコード「蒼焔の殲剣」なら大樹やそこに住む生き物を傷つけることはないから【2回攻撃】で剣の数を更に増やして確実に妖精を仕留める。
妖精を退治したら先ほどの場所を再度調べる。
アルバ・ファルチェ
(絡みやアドリブ歓迎)
《POW》使用。
可哀想…なのかもしれないけど、だからって見過ごす訳にはいかないから。
ここで終わりにしよう?
痛めつけられた大樹、怪我をした動物達、そして壊れた妖精…全てが可哀想だとあえて口にする。
(【挑発】+【おびき寄せ】)
痛みが飛んできたら出来る限りは【見切り】で避け、命中した時は【激痛耐性】で耐える。
こんな痛みに耐えてたなんて、凄いよね。
最期は怖くて痛くて壊れちゃったとしても。
この痛みも悲しみも僕が覚えておくから、もうゆっくり眠ろう?
穏やかな眠りを、と【祈り】を捧げながら【属性攻撃:光】で【なぎ払い】。
可哀想だからって躊躇はしない。
倒す事こそ救いだと思うから。
●
瞬く間に大樹を取り囲んだ崩壊妖精たちは、オブリビオンゆえに視認した猟兵達が『猟兵』という名の敵であることを本能的に理解したであろう。けれども彼らはその名の通り『壊れ』ている。だとすれば、こちらの都合の良いように『敵とみなした猟兵たちだけを狙って』くれるだろうという確信は持てない。大樹も動物たちも、危険である。
「妖精!? ……パーティで言ってた噂は本当だったのか!?」
そのなんとも言い難い姿と苦痛に満ちた声に、ラリー・マーレイ(見習い剣士・f15107)は思わずうろたえてしまった。
(「どうしよう、襲ってきてるけど、戦うのか……?」)
考えようとするものの、結論まで至らない。心を占めるのは、自分の未熟さに対する苛立ち。今回の調査・捜索への関与は不明だったとしても、事前情報として耳に入れていたのに、冒険に浮かれて心構えも対策も出来ていなかった自分の未熟さが許せない。
この場にいる他の猟兵の中に、真偽不明の噂話である崩壊妖精に対して警戒し、対策をしていた者がいるかどうかはわからない。否、ラリーにとって問題はそこではないのだ。
事前に対策ができていなくても、実際にこうして相対した時に、すぐさま己の対応や行動を決められるとっさの判断、臨機応変な対応ができずにうろたえてしまい、どう動くかに迷いが生じて答えが出せない――そんな自分の未熟さに、ラリーは歯噛みしているのだ。
キィィィィィィィィィィィ!!
キヒャァァァァァァァァ……!
しかし崩壊妖精たちは、そんなラリーの思いを知らない。心締め付けるような叫びを上げながら、猟兵たち――そして大樹へと接近してくる。
(「……!! 今は迷ってちゃだめだ!」)
その声が心に触れた瞬間、ラリーは弾かれたように駆け出した。石のように動かなくなっていた足で地を蹴り、大樹の幹へと向かう。
(「このままじゃ樹や動物達が危ない!」)
彼らを守りたい――その気持ちが、今のラリーの原動力だ。幹にたどり着いた彼は、それを背にして精神を集中させる。
「ミームザンメ・ガインレーエインフォー……」
先程までの作業で見た樹や枝葉の形状、そして動物たちの位置を思い出しながら、自身を覆った防御障壁を拡大・変形させてゆく。できるだけ広範囲の樹肌や動物たちを守りたい。
キァァァァァ!!
シャアァァァァァッ!!
妖精たちは容赦なくラリーと大樹に向けて攻撃を放ってくる。それらはラリーの展開した防御障壁にはじかれる。しかし、ラリーひとりで大樹全体を護ることは難しい。けれども。
(「今は、仲間が一緒だ!」)
そう、この場にはともに戦う仲間たちがいる。彼らを信じよう。
ラリーは防御障壁を展開している間は動けない。だが意思を、思いを口にすることはできる。
「やめてくれよ! 君達とは戦いたくない!」
たとえ彼らがそれを受け入れる状態にないとしても、偽らざる思いをぶつけずにはいられなかった。
●
大樹の、ちょうど真ん中くらいの高さまで降りてきていたところで崩壊妖精と相対したのはシエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)。
(「この妖精が本当に噂通りの存在だとしても――」)
崩壊妖精たちの悲痛な声とともに繰り出される攻撃をできる限り避けながら、シエルは高度を上げてゆく。上昇する自分に崩壊妖精たちがついてくるならそれでもいい。避けられなかった攻撃があったとしても、痛みには耐えてみせよう。
「――、――」
大樹のてっぺんより上へと舞い上がったシエルを、何体かの崩壊妖精が追ってきた。シエルは視界を塞ぐ崩壊妖精へは『聖硝剣アーシュラ』を振るって牽制するように、追い払うようにする。大樹の周囲――眼下の視界を防がれたくない。
(「思っていたより、動きが予測しづらいですね……」)
自我が崩壊しているからだろうか。無意識下の癖のようなものが読み取りにくい。動きに規則性が見られないのだ。けれども。
(「私達や大樹を狙っていることだけは揺らぎませんね」)
その一つだけでも十分だ。シエルは言葉を紡ぐ。
「聖櫃より来たれ蒼焔の剣、煉獄の焔で悪しきものを滅せよ」
目の前の妖精が、噂通りの悲しき存在だとしても容赦をするつもりはない。オブリビオンを生み出す存在を倒さなければ、このような悲しみが繰り返されるのだから。
今、自分たちの求めている『勇者の伝説』がこの世界にオブリビオンを生み出している存在へと繋がるかどうかはわからない。けれどもその一歩、その礎とはなるはずだ。だから――。
アァァァァァァ!!
ヒャアァァァァァァ!!
シエルが喚び出したのは、蒼い焔を帯びた霊剣。実態のないそれがその神聖性をもってして傷つけるのは、オブリビオンのみ。
百本以上の蒼焔の剣が、雨のように降り注ぐ。追い打ちをかけるように同じ数の剣がもう一度。
大樹に近づいた崩壊妖精を優先的に狙うそれは、降るように彼らへと突き刺さる。
「……!!」
大樹の幹に背を預けて防御障壁を展開しているラリーの目の前。大樹とラリーに迫ろうとしていた崩壊妖精たちは、降ってきた蒼剣の刃に音もなく貫かれて――散ってゆく。
ラリーは思わず瞑目するように瞳を閉じた。
●
(「ボクは、壊れてしまったキミたちに同情するのでしょうか? それとも恐れるのでしょうか?」)
崩壊妖精を目の前にしたアウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)の心に、その答えは言葉として宿らない。けれども言葉にできる気持ちだけは、湧いてきていて。
(「ボクはボクの感情を理解できない。けれど」)
二色(ふたいろ)の羽を羽ばたかせて舞い上がるアウレリアを、数体の崩壊妖精が追う。
(「この大樹と大樹に寄り添う生き物たちを守りたい。そう願っているのは本心です」)
手にしているのは『ヴィスカム』。ヤドリギの精霊の宿った魔銃は、破魔の力を宿して。
「なにものにも染まり、なにものにも染まらぬ七色の光。貫け、天空の光剣」
追ってきた崩壊妖精にその切っ先を向けて放つのは、虹色に輝く七本の光の剣。アウレリアを追って、群れるように舞い上がってきた崩壊妖精たちは、重なって貫かれ、散る。
ラリーが背にしているのと反対側。幹より距離をとって立つのは小宮・あき(人間の聖者・f03848)だ。手にしているのは愛用のマスケット銃。
ピンと伸ばされた背筋、しっかりと地につけられた足。揺れる長い髪は、大樹のつけた花の色に似ている。
(「私に嘆きは響かない」)
崩壊妖精たちに堂々と対面している彼女の瞳は、揺らがない。
(「誰かの言葉で心を痛めるような、か弱い少女じゃないんですよ」)
その愛らしいかんばせに凛とした表情を宿し。
「お前たちはオブリビオン。『だからどうした』」
紡いだのは、それだけ。彼女が抱いた気持ちも、それだけ。
(「死後の苦しみは辛いでしょうが、ごめんなさいね。本心なんです」)
だから、それ以外は口にしない。
キシャァァァァァ!!
ヒヤァァァァ!!
アァァァァァァ!!
嘆きと共に崩壊妖精から放たれるそれは、見切って避けた。避けた攻撃は大樹へと向かったが、あきの背後の部分にはラリーの防御障壁が張られている。だから、あきは攻撃にと回避に集中して。
自らの周囲に浮かべたのは、複製した愛用のマスケット銃。百五十本を超えるそれが、崩壊妖精たちへと銃口を向けた。
「なぜ痛い思いをさせるのか? ――理由なんてありません」
あきと高度は違うが、ちょうど大樹を挟んで背を向け合うように対空しているアウレリアは、更に自分を目指して上昇してくる崩壊妖精たちを見つめる。
「キミたちが悪かったか? ――善悪は関係ありません」
崩壊妖精の姿を視界に捉えると、その言葉にならない嘆きが鼓膜を揺さぶると浮かび上がるもの、それが何なのかはまだわからない。
「助けてくれないのか? ――そんな発想はないんです」
アウレリアにとってはむしろ、彼らがどうして『そちら側』にいるのかのほうが理解できない。
弱者を弄ぶ愚かな存在、彼らの理由なき暴力――それを受けてきた彼女は、痛いのも苦しいのも哀しいのも誰よりも知っている。だからこそ……。
けれども今の彼らにそれを問うても、答えが返ってこないことも知っていた。きっと、彼ら自身もそれを知らぬだろうから。
(「今はただ、大樹を守ることを……」)
アウレリアは七本の光剣を喚び出す。何度目なのかははもうわからない。けれども、彼らが大樹を狙う限りはやめることはない。
「さあ――」
「貫け」
あきが地上でマスケット銃を操るのと、アウレリアが宙空で光の剣を放ったのはほぼ同時だった。
アウレリアは飛ぶ崩壊妖精を、上昇してくる崩壊妖精を狙い、繰り返し光剣を放つ。
あきは大量のマスケット銃を、それぞれバラバラに念力で動かす。フェイントからの零距離射撃をしたかと思えば、他の数十本は一斉に発射させ。撃ち漏らしの無いように、射線から逃れた崩壊妖精を素早く狙い直し、撃ち抜く。
アァァァァァ……。
シィャァァァァァァァ……。
ヒャァァァァァァァ……。
嘆きの断末魔と共に、崩壊妖精たちは砕けるように散って。
確実に、確実に、その数は減っていった。
●
花と緑の満ちるこの場に、嘆きの声が満ちている。それはこの場にいる猟兵たち全てに、様々な感情を抱かせていた。
(「なんとも痛ましい……」)
ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、崩壊妖精たちの痛ましい姿に目を伏せそうになるのをこらえていた。目を逸らさない、彼らが向ける痛みから逃げない、そう決めたのだから。
「可哀想……なのかもしれないけど、だからって見過ごす訳にはいかないから」
悲しそうに表情を歪めて、アルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)は彼らに語りかける。可哀想――彼のその言葉に含まれているのは、目の前の崩壊妖精たちだけではない。痛めつけられた大樹、怪我をした動物たち、そして壊れた妖精――そのすべてが可哀想だと彼はあえて口にして。
「ここで終わりにしよう?」
優しく言葉を紡ぐアルバ。その近くでステラもまた、彼らをしっかりと捉える。
「助ける手立てがないならば、せめてこれ以上辛い思いをする前に送るべき場所へ送ろう」
己の本体たる『流星剣【ステラソード】』を握る手に、力が入る。
シキャァァァァッ!!
キヒャァッッッッ!!
崩壊妖精が召喚したのはさらなる崩壊妖精。彼らが放った思念を、ステラは抵抗すること無く受け止めて。
「っ……!! くっ……」
体が崩壊するような痛みが、四肢が、本体が砕け散ってしまいそうな痛みがステラを襲う。幾度も、幾度も、幾度も、幾度も――……。しかし、彼女はそれをすべて受け止めていく。
「私っ、は……君、たちの……痛み、を、受け……入れる……っ!!」
強い意志、そして勇気をもって、ステラは両の足に更に力入れてその場に立ち続ける。
「っ……」
まだ来る、まだ耐えられる。そう思ったその時、ステラの視界を遮ったのはアルバの背中だった。
「つぅっ……。こんな痛みに耐えてたなんて、凄いよね」
ステラの代わりに痛みを受けたアルバ。
「最期は怖くて痛くて、壊れちゃったとしても」
それまで崩壊妖精たちの攻撃をできる限り避けてきたアルバだったが、『盾の騎士』として、ステラの現状をそのままにしておくことが出来なかったのだ。彼女の行動の意図は理解できたけれど、身体が自然と動いたのだ。
「この痛みも悲しみも僕が覚えておくから、もうゆっくり眠ろう?」
痛みに耐えながらも、優しく彼らに語りかけるアルバ。
(「可哀想だからって、躊躇はしないよ。だって」)
――倒すことこそが、救いだと思うから。
穏やかな眠りを……小さく呟いて『Leone e Fanciulla』の柄を握り直す。星の力を宿す剣、その柄にはめられた魔法石が光の属性を宿して。
「行くよ」
それは崩壊妖精たちへの知らせ。そしてステラへの合図。
目の前の崩壊妖精たちを薙ぎ払って空気に散らしたアルバは、残りの崩壊妖精たちを挑発するように自分の近くへとおびき寄せる。
その様子を確認して、ステラは柄を握りしめて祈った。
彼らの痛みと悲しみは、共感は出来ずとも理解は出来た。だからこそ、彼らがこれ以上痛みを受けぬよう、優しい祈りを乗せて全力を込めて、その切っ先を集まった崩壊妖精たちへと向ける。
「降り注げ、流星たちよ!」
天に広がる魔法陣が生み出すのは、星の矢たる流星の雨。
できれば痛みを感じる間もなく、一瞬で――想いと力の込められた流星が彼女の望み通りに崩壊妖精たちを旅立たせるのを、アルバは白銀の盾で身を守りながら一番近くで確認し、そして見送っていた――。
●
崩壊妖精たちがすべて消えると、大樹周辺は再び穏やかさを取り戻した。
他にもオブリビオンの姿がないか念のために周辺を確認したのち、猟兵たちは大樹の元で仲間を待っている。
そこにふわりと降り立ったのは、シエルとアウレリア。オラトリオのふたりは、崩壊妖精たちの襲撃前にシエルが『何かある』と感じた場所へと羽ばたいていたのだ。
「おかえり」
「何か見つかりましたか!?」
穏やかに出迎えたアルバの声にかぶるように勢いよく問うのはラリー。
「やはりこの大樹は、魔力のような力を持っているわね」
「ウロが隠されていました」
シエルの言葉に、実際にそれを見てきたアウレリアが続く。
「ウロに何かありましたか?」
あきの声にシエルは、ケープコートで包んでいた『それ』を取り出した。
「……水晶玉、ですか? いや、でも……」
それを見たステラが迷うように呟いたのも無理はない。
大きさは直径10cm程だろうか。球体のそれは、占い師の持つ水晶玉のよう。しかし色は、大樹の花弁と同じく薄紅色で。
「触れても?」
「むしろ触れてみてほしいの」
シエルの言葉に、その透け感のある水晶玉へと触れたステラ。
「……!?」
その瞬間、ぶわぁぁぁぁぁっ……と何かが流れ込んできたように感じて。彼女の視界に広がったのは、先日パーティで聞いた、騎士が女性冒険者と誓いの儀式を行っている場面。
「何か見えたかしら?」
「……はい。先日聞いた、勇者の伝説の一場面が見えました」
「お、俺もっ!」
ラリーも手を伸ばして触れる。
「あっ……!?」
見えたのは、薄紅色の花を咲かせる大きな樹のウロに、冒険者らしき人物が何かを入れる場面。
「ボクに見えたのは、この大樹とよく似た樹の下で――まだ町だった景色の中、吟遊詩人が歌っている場面でした」
「私には、大樹の精霊が魔法使いに杖を授けている場面が見えたの」
アウレリアが告げたのもシエルが告げたのも、パーティで聞いた勇者の伝説の一場面だ。
「私も確かめてみます」
そっと玉に触れたあきに流れ込んできたのは大樹の下、満開の花に祝福されるように生まれたばかりの赤子を抱く女性と、寄り添う男性の姿。
「じゃあ、僕も試してみようかな」
優しく指先を乗せたアルバに流れ込んだのは、大樹が花を薄紅色へと染めた瞬間――大樹が恋に落ちた瞬間。
「もしかしたら私達が聞いた勇者の伝説は、全てこの大樹が関わった、実際の出来事なのかもしれません」
それを確かめるすべはない。けれども、シエルのその言葉を否定する者もいない。
この薄紅色の水晶玉が、真に勇者の伝説に関わるものなのかは誰にもわからない。
けれども、これが大樹の記憶の結晶であると言われれば、納得せずにいられないところもある。
とりあえずグリモアベースへと戻り、この薄紅色の水晶玉をグリモア猟兵に預けよう――それに異論を唱える者はいなかった。
はらはら、ひらひら。
チチチ、ピィピィ。
去りゆく猟兵達を惜しむように、そして感謝を述べるように、大樹の花は舞い、鳥や動物たちは声を上げていた。
大成功
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