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獣人世界大戦④〜旋回舞踏を完遂せよ！

作者：にゃあら

●手っ取り早く狂気に陥る為の簡単な儀式
　ロシア首都――サンクトペテルブルク――へと向かっているのは狂気を載せた、狂気の化身としての艦隊であった。クロックワーク・ヴィクトリアが誇る狂気艦隊は圧倒的なまでの怪物性、怪異性を有しており、これらが首都に到達した場合攻め落とされる可能性も完全にないとは謂えない。故に、君達はこれを阻止しなければならないのだが。さて、その内のひとつの戦艦。中身をちょっとだけ晒すとしようか。
　ヴィクトリア朝の洋館を彷彿とさせる部屋、その豪奢を極めた空間で｜蒸気人形《ビスクドール》が踊っていた。いや、正確には彼女等は狂ったように旋回を続けていた。まるで神を招く為の儀式だ。まるで、ではない。邪神に肉を与える為に旋回をしているのだ。お人形さん曰く、旋回をし続ければ何れ神秘との境界線が喪われ、神との同一化に成功するとの事。しかし、ああ、随分と眩暈のする沙汰ではないか。
　この旋回を完璧にこなす事こそが機関室へと至る唯一の方法なのだ。

●グリモアベース
「文字通りの戦争だなんてビックリだわ。私が経験したのってアスリートアースのやつくらいなんだもの。あ、ぐるめよ。グルメじゃないわ！」
　グリモア猟兵、吐院・ぐるめはお決まりの科白を口にして説明を続ける。
「皆にはクロックワーク・ヴィクトリアの狂気艦隊を相手してもらうつもりよ。あ、安心して。真正面からの戦闘にはならないから。艦隊のひとつに乗り込んで機関室をぶっ壊すのよ！　あ、でも。戦艦の中では｜紳士淑女の作法《ヴィクトリアン・ルール》を守らないといけないの。今回のルールはなんだったかしらね……？　｜旋回舞踏《セマー》を完遂する……？　ぐるぐるバットじゃない！！！」
　ビシィ、とグリモア猟兵はマイバットを構える。
「やることは一緒ね。旋回し、邪神との境界を曖昧にするのよ。狂気が何れ戸口を開けるわ。さあ、皆、頑張って！！！」
　グリモアが輝いて。

第1章 冒険 『紳士淑女の作法』

POW   :    気合と根性の一夜漬けで何とか作法を覚えて来る。 SPD   :    細かいミスをさりげなくごまかす。 WIZ   :    一分の隙もなく完璧なマナーと所作を披露する。 イラスト：fossil 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　旋回舞踏――それは紳士淑女の作法の中でも最も厳しいと分類すべき沙汰である。只管に、莫迦みたいに、それこそ、紳士淑女とは真逆の如く、狂ったように旋回し続ける。これが神への祈りだと謂うのならば、神との同一化の切っ掛けだと謂うのならば、何処かの世界のトンチキとまったく同じである。兎も角、君達はこのイカレタパーティを完遂しなければならない。一応、素早く破壊活動をするのも手段ではあるが一筋縄ではいかない筈だ。
　荘厳なメロディと共に蒸気人形がお辞儀をした。
　さあ、ご一緒に。
　紳士淑女の皆様なら、たとえ醜態を晒してもこなして魅せる事でしょう。


　息絶えた君の一言でオマエは吐物塗れになった。時の止まった冷製の内で熱いものが包まっている。まったく矛盾しているとは思わないか。死体が旋回しても、果て、その半規管は狂う事すらも知らない筈である。少しは鍛えた方が良い。えー……なぁに？　ダンスパーティ？　パッパラパァが敷き詰められてのご登場だ、このご愛敬は魔王サマも辟易するほどの千回目である。……お人形さんたち、生身じゃなくても可愛いお顔してるんならエスコートしてあげるのも悪くないかも。残念ながら猟兵よ、此度は神と対話する儀式の場、不純な思いとやらは即座に淘汰される。え……？　ペアなしに一人で回るの？　ひたすら？？？　理解が早くて助かったではないか。これで紳士淑女の作法は完璧である。
　……は？？？
　えー。文句を垂れている暇はない。もうやだマジ下船がしたい！　残念ながら猟兵よ、賽は投げられた。匙を投げるのは結構だが虹の彼方に至った時にやってくれ。俺の知ってるダンスと違う！　お気に入りの服装で旋回舞踏に参加すると宜しい。そもそも俺は紳士じゃなくてただの憲兵崩れだし……。ならば水葬だ、身投げして棺桶を探し出せ。あーでも帰ろうにもここ海の上かぁ……。仕方ない、お仕事するか。
　器用貧乏だと無限に声掛けされると悦ばしい。歓喜と悲哀の狭間で荘厳なメロディを耳にする。演技だ、もう演技で乗り切る。俺は紳士、俺こそが紳士、何がなんでも紳士……！　ジェントルは回るモノだって言うんなら幾らでも誰よりも回ってやるよバーカバーカ！　素晴らしい旋回ではないか、これには神もニッコリ。……死体のクセに色を失うとはこれ如何に。マジでぐるぐるするんだけど何このキマってる感じ？　やだ。吐きそ……。エチケットは当然用意してある。何せ戦艦なのだから。あ、無理。ちょっと失礼。お花畑と機関室を間違えたのか。ああ、仕方がない。プロテインが胃袋の中で発狂している。
　もーやだ気持ち悪い！
　ド派手にぶっ壊せよ猟兵、オマエに残されたのは黙って鳴く事だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

　大きな大きな板の上、坂道の上、ダンゴムシが転がっていく。
　凄まじい速度に中てられて、吹き飛ばされて、何処に往くのか。
　前転しているのか後転しているのか解せない儘、色々と目を回す。
　私にはまったく関係のないことですね。
　邪神の狂気が齎すのは歓喜そのものだ、何処かの獣性を彷彿とさせる禁忌には一定の甘さが存在している。病的なまでに旋回を続ける蒸気人形はたとえ相手が生身だろうと情け容赦なく『おなじこと』を強制してきた。おお、めまい、この浸透する居心地の悪さは誰かさんが脳髄からはみ出るほどか。戦争に向かう艦内でパーティとは常軌を逸していますね。これが普通と、当たり前と思わないと発狂してしまうのでしょうか。ウェルカム・ドリンクはきっとアルコールの類に違いない。未成年なオマエには関係のない事だが大人はいっそう目を回しそうだ。抗い続けるべきでしょうか？　ともかく、時間をかけるわけにはいきませんね。根っこからの踊り狂いにはこの程度基礎中の基礎と謂えよう。ここでの作法は回り続けることと認識しました。ええ、良かったです、何処かの邪神みたいにシナプスを要求されないのでしたら……。ところで無限に渦を描くのは結構だが蒸気人形側が眩んではいないか。それもその筈、オマエは平衡感覚を永久の如くに扱えている。
　話しかけられたら破壊活動に全力を出せない。ならば、いっそ、眩んでいる連中の歩みを遅延させれば宜しい。オマエの孕んだ旋律が艦内の荘厳を侵していく。これはきっと蒸気人形にとって最悪だ、きっと楽しめないだろう。できるなら艦が沈むその時までくるくると回り続けてほしいですね。可愛らしい回転の奴隷に乾杯、レインボー・ドリンクを一口。レヴィアタンの喝采、渦眩く災厄の化身として。
　そうですね。私はこれでも｜怪物《モンスター》です。
　――艦隊だけで止められるとは思わない方が良いでしょう。

成功 🔵​🔵​🔴​

　波打った感じのヴェールに酔う。
　光在れ――と口にしたのは神だったのか、暗黒だったのか。ざわつく艦内には無数のバットが転がっており、そのついでに様々な蒸気人形が倒れている。彼等彼女等は動きを止めたのではない。そう、シンプルに回転のしすぎで目を回しているだけだ。……なんでグルグルバットが作法なんですか！　紳士淑女は？？？　あと人形が目を回すってどういうことでしょう！　……いや、ツッコンでも意味がないのでやりますが。ナンセンスはゴミ箱にぶん投げて基本姿勢を大切にすると宜しい。素晴らしいほどに傾けて神との同一化を体験せよ。
　宜しくお願いします。新参者ですが旋回させていただきます。なんとも律儀なご挨拶を終えて荘厳メロディをじっくりと聞く。傾聴ではない、何故ならば傾くのは己自身の身体なのだから。ところで疑問がひとつ。テレビウムの頭の中ってどうなっているのだろうか。目を回すにしてもどのようなシステムで？　それこそ考えても仕方のない事。
　ちょっと浮く事でスムーズな高速回転を可能にしている。世界の中心に添えた釘バットは何故か神の怒りを内包している。そうして愈々後光ではないか。時速14000㎞は伊達ではありません。そんなに撹拌したら臓物ぐちゃぐちゃになりそうだが其処は猟兵、能力向上と気合いでそれこそ、目が回るのを我慢するだけで済む。
　では～……そろそろ～……も～く～て～き～を～……。
　高速回転する身体は猛毒暴れ独楽じみて吹っ飛んだ。コントロールの効かない身体諸共釘バットで機関室へと吶喊する。何を壊したのかは不明だがきっと重要なものだったに違いない。艦内が真っ赤に歪んでいく。歪んでいるのは目を回している所為ではないか。ああ、衝撃のダメージはオーラその他でなんとかした。
　平衡感覚がぐちゃぐちゃなのに空へと逃れたのはミスなのでは？
　そんな事はない。物理的に虹の彼方へと到達したのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

　眼球は基本振盪している。
　紳士淑女の二人が揃ったならば、回転のプロが並んだならば、嗚呼、最早敵無しと描写しても過言ではない。たとえ最強のアスリートが相手だとしても、完全なる邪神が相手でも、その相手に｜三半規管《人らしさ》が備わっているならばグチャグチャのドロドロに出来る筈だ。おお、蒸気人形どもの旋回も確かに美しいが、オマエ達の黄金色に比べれば濁りに等しい。声が聞こえる。誰かの声援だ。きっとバット・サイクロンの皆に違いない……。
　花走・りなは賢かった。旋回舞踏と破壊活動を同時に行うのに相応しい『その他スポーツ』を真っ先に思いついたのだ。何処かの伝説が繰り出した追乱の凄惨さに思いを馳せ、頭の回転も速くする。猟兵ブレードを応用すればいいかな。その通りだ猟兵よ、この場合ぐるぐるバットよりもそちらの方が正解と考えられる。帯でも糸でも何でも良いから用意すべきだ。それこそ人形のように、ドールのように着せ替えられるのも悪くはない。
　いつものお仕事が来たっ！　トライアスリートの傍らで「うんうん」と頷いたのは露木・鬼燈だ。わかるですよ。何を理解したのかと問われたならば決まっている。ぐるぐるバットは紳士淑女の競技だからね。いったい誰を見て再確認したのかと謂われたならば、成程、お隣さんなのだが、兎も角。こーゆーオシャレな戦場に旋回が選ばれるのはとーぜんなのです。おお、以心伝心だ。まるで長年付き合ってきた『相棒』みたいな雰囲気を二人は醸し出す。早速ですが……二人でぐるぐるしていくですよ！　エチケットは互いに用意した。あとは全力で、全霊で、いつも通りのパフォーマンスを発揮出来れば宜しい。
　和のテイストを取り入れるならば『傘』は必要不可欠だ。勿論、傘だけを回すのではない。自分と傘を一緒にぐるぐるぶん回すのだ。そのついでに頑丈を極めた傘で機関室へと突撃すると好い。完璧……いや、ここは折角だし合体技なんてどうかな？　ちら、と、流れて往く景色の中でオマエは『黄金』の光を見た。
　速度、姿勢、描く軌跡――あらゆる回転要素が｜黄金比《エネルギー》を発生させる。オーラを纏ったバットの破壊力は神をも虹の彼方に導くほどへと強化されており、その殴打が人形へと向けられたら如何なってしまうのか。嗚呼、言葉にする必要もないだろう。蒸気人形どもは既に｜破砕《バースト》している。合体技……？　いいね、ロマンあるよ♪　アスリート魂に火が点いた。回転中に跳躍し和傘の上に着地する。
　いつもより多めに回しているっぽい！
　いつもより多く回ってるよ！
　二人の連携で機関室は使い物にならなくなった。
　そうして破壊活動を終えた二人は仲良く🌈の輝きを知る。
　これがぐるぐるバットのお約束だよね。
　……わたし猟兵ブレードの選手でもないんだけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年05月04日