獣人世界大戦①~進軍のアリア
●第一戦線
獣人戦線の世界におけるドイツの首都、ゾルダートグラード。
その本拠地である此処は多数の鋼鉄機械罠に守られ、無限軌道によって自ら移動することすら可能なもの――即ち『動く要塞都市』だ。その強固な存在と特性は厄介なものだが――。
「だが、猟兵はこれまでの戦いで六件の将校暗殺に成功している。つまり防衛戦力は低下の一途ってことだ!」
グリモア猟兵のひとり、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は語る。
現在、駆動を開始したベルリンは無限軌道によって都市そのものが『移動要塞』へと変化している。
されどベルリン自体が進撃を開始するということは問題もある。
「移動経路上にある獣人の街や村が危ないんだ。都市そのものが通った後を考えてみろ、全て跡形もなく踏み潰されちまう。何の罪もない獣人たちを守るためにも戦う時だ」
戦場となるのはベルリン深部。
移動要塞の操縦を担当しているのは『機械仕掛けの歌姫マリア』と呼ばれる者。その声は美しくも思えるが何処か虚ろであり、歌姫はオブリビオンと成り果てた存在だ。此処で倒す以外に救いはない。
「さてと、そうと決まったら転送するぜ。歌姫の元まで一直線だ!」
無限軌道都市の進撃を停止させるため。
そして、この戦争の機先を制するべく――あらたなる戦いが始まる。
●機械仕掛けの歌声
「……♪ ……♪ …………♪」
移動要塞の片隅で歌が響いていた。それは黒い天使が響かせるアリアだ。
――止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ。
その声は無限軌道都市を操縦するための力となっているらしく、歌が紡がれる度に辺りがちいさく振動する。
ただ一心に、機械仕掛けの歌姫は声を震わせ続け、動く都市に力を巡らせた。
――我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ。
――いざ行かん、怒りに震え身を任せ。
進め、進め、破壊のために。
その歌に名を刻むのならば進軍のアリアと呼ぶに相応しい。
そして――世界を壊すための歌は、此処で響き続ける。
犬塚ひなこ
こちらは『獣人世界大戦』、①無限軌道都市ベルリンのシナリオです。
●👿『機械仕掛けの歌姫マリア』
元カラス獣人の歌姫。
かつてはその歌声で戦場の兵士達を癒していたが今では敵兵に死を齎す音響兵器と成り果てています。機械のようにぎこちなく、高らかに歌う姿は黒い天使のようです。
マリアは歌うことで無限軌道都市の操縦の一端を担っています。撃破して操縦を止めさせましょう!
●プレイングボーナス
『移動要塞の操縦を妨害する』
戦場はベルリン深部、移動要塞の中です。
物理的な妨害、ボスへの特殊な攻撃などで操縦を妨害できます。皆様の工夫や格好良い戦い方をお見せください。どうぞよろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『機械仕掛けの歌姫マリア』
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POW : アリア「我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ」
【胸に埋め込まれた拡声器】から【戦場全体に響き渡る歌声】を放ち、敵及び周辺地形を爆発炎上させる。寿命を削ると、威力と範囲を増加可能。
SPD : アリア「いざ行かん、怒りに震え身を任せ」
【自身の喉】から、戦場全体に「敵味方を識別する【荒ぶる歌声】」を放ち、ダメージと【混乱とバーサーク】の状態異常を与える。
WIZ : アリア「止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ」
自身の歌う「【アリア「止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ」】」を聞いた味方全ての負傷・疲労・状態異常を癒すが、回復量の5分の1を自身が受ける。
イラスト:SA糖
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「仇死原・アンナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サーシャ・エーレンベルク
戦場の歌姫……とはちょっと違うみたいね。世界を呪う歌なんて趣味が悪いわよ。
その歌がこの移動要塞の要になっていることは容易に想像できる。なら、その下品な歌を蹴散らしましょう。
【静かなる慟哭】を発動して、周囲を覆い尽くすような、氷嵐の凄まじい轟音を以てマリアの歌を阻害してみるわ。
機械だもの、凍結したら相応に脆くなる。
だからこそ、この|残酷な咆哮《ショットガン》の一撃を受けてもらうわ。
悲鳴すらも掻き消える、この凄まじい氷嵐を。
炎上する周囲の環境さえも凍りつかせてみせましょう。
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…なんて虚ろな、悲しい有様でしょうか。
この要塞を稼働させるシステムと、成り果てたかのような。
何を思っているかは分かりませんが、此処で止めさせてもらいます。
【蟲使い】にて白燐蟲と黒燐蟲を操り、形成する【オーラ防御】の障壁で敵の炎を凌ぎます。
とはいえ威力はかなりのもの、長くは凌げないでしょう。
出来るだけ速攻で仕掛けていきます。
白燐拡散弾を発動、敵に攻撃しつつ要塞の制御機構へも蟲を撃ち込みます。
内部に入り込ませて内側から機構を食わせ壊させ、操縦できない状態へと追い込んでいければと。
後は、敵のユーベルコードを受ける際はできるだけ制御に関わっていそうな装置のそばで受け、爆発に巻き込む事を試みようかと。
栗花落・澪
歌声、か…
念のため風魔法を乗せたオーラ防御を身に纏い
敢えて耳元で風音を立てておく事で歌姫様の歌声が聞こえにくいように
歌には歌を
ちょっとだけ意地悪かもだけどね
マイクで拡声させながら彩音発動
歌声には催眠術と破魔を乗せて
聞いた人を落ち着かせつつ浄化する事で
歌姫様の歌声による状態異常を少しでも緩和
同時に歌う事によって文字と共に具現化させた五線譜のロープを操り
歌姫様の口元に巻き付けて声を出せないようにしたいな
今の貴方に歌わせるわけにはいかない
だから……ごめんね
具現化した文字による物理的な追撃
女性だもん、なるべく顔は狙わないように
それでも…倒すしかないのなら
かつての貴方の歌声…
ちゃんと、聞いてみたかったな
●侵攻
戦場の歌姫。
それは戦いで傷付いた兵や人々を歌で癒す、言葉通りの存在。
だが、此度に相対する者はそういったものではないようだ。サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)は辺りに響いているアリアを聞きながら戦場となる場所見据えた。
「どうやら、よく聞く歌姫とはちょっと違うみたいね」
移動要塞を動かす力を歌で担っているというオブリビオンは、怒りが宿った歌詞を紡ぎ続けている。
サーシャは僅かに肩を竦め、機械仕掛けの歌声に向けての感想を零した。
「世界を呪う歌なんて趣味が悪いわよ」
「……なんて虚ろな、悲しい有様でしょうか」
ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)も歌を耳にしながら頭を振る。
多数の鋼鉄機械罠が張り巡らされている場所だが、此処からは移動を妨害するための戦闘が始まっていくのみ。
――我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ。
響き渡る歌からは悲しみも感じられる。歌姫と呼ばれたマリアにも悲しい過去があったのかもしれないが、現在は敵対する存在でしかない。ニーニアルーフは決意を固め、前を向く。
機械仕掛けの歌姫はこの要塞を稼働させるただのシステムに成り果てたかのようだ。その様子を見れば胸が痛んだが、ニーニアルーフは心を強く持つ。
「何を思っているかは分かりませんが、此処で止めさせてもらいます」
「怒りと哀しみの歌声、か……」
暫し耳を澄ませていた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)がぽつりと呟いた。思うことはあるが敵である以上は容赦などできない。そのことは澪自身がよくわかっていた。澪は念のため風の魔法を乗せたオーラを身に纏っており、敢えて耳元で風音を立てていた。
そうすることで歌姫の声が聞こえにくいようにするためだ。
サーシャは仲間の準備が万全だと察し、静かに頷いた。移動要塞の振動と共にたえず響いているマリアの歌が要塞の要のひとつになっていることは容易に想像できる。
それならば――。
「その下品な歌を蹴散らしましょう」
サーシャはひといきに地面を蹴り、静かなる慟哭を発動する。機械仕掛けの歌姫は此方に気付いたようだがサーシャの方が疾い。刹那、周囲を覆い尽くすほどの氷嵐が巻き起こった。
凄まじい轟音が辺りに響き、マリアの歌を圧倒するほどのものになっていく。歌そのものを阻害してみせると決めたサーシャはユーベルコードへ意識を注いだ。
「機械だもの、凍結したら相応に脆くなるはずよ」
だからこそ、残酷な咆哮ショットガンの一撃もまた決定打になるはず。
サーシャの鋭い攻撃に続き、ニーニアルーフもマリアへの攻勢に写った。白燐蟲と黒燐蟲を同時に操るニーニアルーフが形成するオーラの障壁は敵の炎を凌ぐためのもの。
(防げる……とはいえ威力はかなりのもの、長くは凌げないでしょう)
相手の胸に埋め込まれた拡声器から戦場全体に響き渡る歌声が鳴り続けていた。敵に思考を悟られないように胸中で独り言ちたニーニアルーフは早期決戦を狙ってゆく。
出来るだけ速攻で仕掛けていけば、ともに戦う仲間が連携してくれる。信頼を抱いたニーニアルーフは白燐拡散弾を発動していき、敵に攻撃しつつ要塞の制御機構の様子を窺った。
蟲を撃ち込んでいったニーニアルーフの思いに応えるが如く、澪も自分に出来ることを行っていく。
「歌には歌を、だよ」
ちょっとだけ意地悪かもだけど、と付け加えた澪はマリアに対抗する。
マイクで拡声させながら発動するのは彩音の力。
「歌姫様、教えてあげる。世界に溢れる鮮やかな音を!」
自らが紡ぐ歌声に催眠術と破魔を乗せていくのは、聞いた人を落ち着かせつつ浄化するため。即ち歌姫の歌声による状態異常を少しでも緩和する目的だ。
同時に澪は歌うことによって文字と共に具現化させた五線譜のロープを操る。
「歌姫様の口元に巻き付けて声を出せないようにしたいけど……胸の拡声器があるんだね」
あれはどうみても移植されたものだ。
口を塞がれても強制的に歌うしかない。澪は胸が締め付けられるような思いを抱きながら、少しでも自分たちの有利に動くように立ち回っていった。
「今の貴方に歌わせるわけにはいかない。だから……ごめんね」
澪の歌とマリアの歌。
衝突しあうように響き渡った音の最中、ニーニアルーフとサーシャも攻撃を続ける。蟲を機械内部に入り込ませて内側から機構を食わせ、壊すことを狙うニーニアルーフ。
「これで操縦できない状態へと追い込んでいけるはずです……!」
彼女の狙いを悟ったサーシャは一気に踏み込み、至近距離からの|残酷な咆哮《クルーエル・ロアー》をくらわせにいく。
「受けてもらうわ。悲鳴すらも掻き消える、この凄まじい氷嵐を――」
炎上する光景すらも凍りつかせて、消滅させる。
激しい呪詛の氷嵐と銃撃が歌声以上の轟音を再び響かせた。そして、澪もまた具現化した文字による追撃を行う。相手が女性であるゆえになるべく顔は狙わないように心がけるのが澪の優しさだ。
――止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ。
だが、尚もマリアは歌おうとしている。
おそらく壊れるまで詩を紡ぎ続けていくつもりなのだろう。懸命さは感じ取れるがあれは世界を滅ぼす歌。倒すしかないのなら、と口にして顔を上げた澪はサーシャとニーニアルーフと視線を交わしあった。
「かつての貴方の歌声……ちゃんと、聞いてみたかったな」
叶わぬのなら、どうか。
此処で歌声を止めることが救いになると信じて。
そして――移動要塞ごと巻き込むような爆発音が鳴り、幾枚もの鴉の翼が激しい風と共に散っていった。
大成功
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イコル・アダマンティウム
【アドリブ連携歓迎:◎】
「歌?」
「上手だけど……たのしく、なさそう。」
なんか……気に入らない
生身で出撃する、よ
【怒りに震え、身を任せ】
<暴力><闘争心><限界突破><こじ開け>
「ん、気に入らない……から、潰す」
混乱しても、バーサークに任せて
マリアに一気に飛び掛かる、ね
<ジャンプ>
【喉封じ:サブミッション・スペシャル】
変速的にチョークスリーパーホールドを仕掛ける、ね
「ん。少しだけ……黙ってて」
これで歌妨害もして、操縦の邪魔をする、ね
僕も動けない、けど……マリアも、動けない
ふり解かれるか、マリアが倒されるまで喉を封じる、よ
<継戦能力>
「次は……別の歌が聴きたい、な。」
白鳥沢・慧斗
よーし、やってやりましょう! 操縦に音波を使っているならそれを掻き乱すのです!
あんまり難しいことは出来ませんが、声の大きさなら負けませんよ! 日々のボイトレの成果を見せて差し上げます!!
「これ以上はやらせませんよ! 止まって下さーい!!!!」
歌声にユーベルコードで対抗、耳を塞いでも聞こえそうな大声で、相手の歌の調子を狂わせてみましょう
自分の状態異常と、味方の混乱にも作用してくれるんじゃないでしょうか
ついでに敵のあなた方も、怒りとか憎しみとかじゃなくて何か良い感じに建設的な感情を持っていきましょう! ね!?!?
まーだめっぽかったら直で蹴り飛ばしに行くしかないですね
実力行使も覚えましたよ僕は!
●正と負
移動要塞が微かに震える。
大地を渡るほどの動きをしている故の振動もあるだろうが、これは――。
「歌?」
イコル・アダマンティウム(ノーバレッツ・f30109)は注意深く耳を澄ませ、聞こえてくる音を確かめる。
それは機械仕掛けの歌姫マリアと呼ばれるオブリビオンが紡ぐものだ。要塞を動かすための礎のひとつになっている歌は美しいが、イコルにとっては妙な感覚を抱かせるものだった。
「上手だけど……たのしく、なさそう」
気に入らない。
何だかよくわからないままだが、一言で語るならばこのような言葉になるだろう。イコルは感じ取っていた。この歌は止めるべきものであり、歌わせてはいけないのだと。
「よーし、やってやりましょう!」
其処に響いた元気で大きな声は白鳥沢・慧斗(暁の声・f41167)のもの。
無表情で前を見つめるイコルとは対照的に慧斗の様子は明るい。手にしたメガホンで対抗してみせると言わんばかりの様子だ。先に交戦している仲間がいるらしく、歌姫の声は怒りと攻撃性を孕んだものになっていた。
敵はそれと同時に操縦に音波を使っているらしい。
「行きますよ、掻き乱すのです!」
「ん、気に入らない……から、潰す」
慧斗の呼び掛けに頷いたイコルは自分の中にも憤りに似たものが揺らいでいることを感じていた。あの歌姫が謳う歌は本来、苛烈な怒りであってはいけないはずだ。直感的にそう思ったがゆえの思いなのだろう。
闘争心に身を任せ、イコルは普段とは違って生身で挑みにいく。
――いざ行かん、怒りに震え身を任せ。
マリアが謳うアリアが戦場全体に荒ぶる歌声を響かせた。
対するイコルはバーサーク効果すら受け止め、マリアへと一気に飛び掛かる。跳躍したイコルが肉弾戦を挑み、相手の顎を狙った一撃を繰り出した。
同時に慧斗も拡声器を掲げる。
「やりますね。こっちはあんまり難しいことは出来ませんが、声の大きさなら負けませんよ! 日々のボイトレの成果を見せて差し上げます!!」
イコルが前衛を担ってくれている間に後方から仕掛ける作戦が有効だと考え、慧斗は息を吸い込んだ。
「これ以上はやらせませんよ! 止まって下さーい!!!!」
目には目を、の応用で歌には歌を。
歌声に対して彼が響かせたのは暁の声。たとえ相手が耳を塞いだとしても聞こえるほどの大音量が鳴り響いた。マリアによる歌の調子が少しでも狂えばこちらのもの。
自分の状態異常と味方の混乱にも作用していく状況は猟兵側にも都合がいい。
「ついでに敵のあなた方も、怒りとか憎しみとかじゃなくて何か良い感じに建設的な感情を持っていきましょう!」
更に呼び掛けていく慧斗は知っている。
負の感情はとても強いものだが、それでは破壊と破滅しか生み出さない。多くの仲間を戦場に送り出してきた慧斗だからこそ、正の感情が作り出す未来を信じていた。
「ね!?!?」
追撃として放った声と共に慧斗はイコルの背を見つめる。
其処では喉封じのサブミッション・スペシャルが容赦なく打ち込まれ続けていた。更には変速的なチョークスリーパーホールドが仕掛けられ、マリアの機械部位が軋んだ音を立てた。
「ん。少しだけ……黙ってて」
たとえ抵抗されても、これで歌の妨害にもなる。操縦の邪魔をすることで移動要塞への間接的なダメージを狙っているイコルは果敢に立ち回り続けた。
「僕も動けない、けど……マリアも、動けない」
「――!」
次の瞬間、歌姫の動きが止まった。イコルはふり解かれるか、マリアが倒されるまで喉を封じるつもりだ。敵を絡め取りながら首だけで振り返ったイコルは慧斗に視線を送る。
「これで、いける?」
「勿論です! 実力行使も覚えましたよ僕は!」
イコルの合図を受け取りながら慧斗は地面を蹴った。後ろ向きな感情ごと歌を止めるべく、彼の蹴撃が勢いよく敵の拡声器に減り込んだ。イコルは射線をあけるために身体を離しており、その際にそっとマリアに告げる。
「次は……別の歌が聴きたい、な」
怒りでも憎しみでも、戦争のためでもない。
違う感情から紡がれるアリアを、いつか――。
大成功
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紫・藍
綺麗な歌なのでっす。
でも。虚ろな歌なのです。
怒りを謳いながらもこの歌は空っぽなのでっす。
怒りすらも響かないのでっす。
でしたら、ええ。
歌うということがどういうことか、思い出させてみせるのでっす!
歌うのでっす、魂の歌を!
心無きものにすら感情を呼び起こす歌を!
ともすれば酷なことなのでしょう。
今の歌姫さんの感情を呼び覚ますのは。
妨害になるとも限らないでしょう。
心を取り戻したことで歌が変わり止まるやもですが、取り戻したからこその心からの怒りの歌でしたら、要塞は動き続けるでしょうし。
ですが、歌に生きる者として。
歌に生きた方の最後の歌が、このようなものであっていいはずがないのでっす!
藍ちゃんくんはお嬢さんの歌が聞きたいのでっす!
……お嬢さんの歌は自身を癒しきれない。
回復量の5分の1のダメージが返ってくるのでっすから。
結末は見えてるのでっす。
ですがそれは運命ではなく、お嬢さん自身が選んだ結末とも言えるでしょう。
良い歌だったのでっすよー、歌姫さん。
ご共演、ありがとうございましたなのでっす!
ノヴァ・フォルモント
ぎこちない歌声が聴こえる
耳障りとも思えるそれは何処か哀しげで
けれどこの歌声が移動要塞を操縦する一端となっているのなら
――倒さなければならないな
機械仕掛けにされて尚
望まぬ歌声を響かせるのは歌姫にとっても本望ではないだろう
歌姫の声に自分の声を重ねて
響かせ合い、相殺するように
――高らかに響く鼓舞
この歌声で兵士達を奮い立たせ、癒やしてきたのだろう
俺にはきっと……真似できないな
誰かのために一心になって
嘗ての貴女には素直に尊敬するよ
相殺した歌姫の声を飲み込んで
朧月夜を爪弾き
穏やかな月の声を響かせる
次に目覚めた時は戦場ではなく心穏やかな場所へといけるように
せめてもの願いを込めて
いま一時は、静かに眠ってくれ
●機械仕掛けの心
「綺麗な歌なのでっす」
「ぎこちない歌声が聴こえるな」
重なる声はふたつ。
紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)とノヴァ・フォルモント(月蝕・f32296)が其々に零した感想と思いは間違っていない。
美しくて、ぎこちない。相反する要素を併せ持つ歌声が移動要塞都市内に響いているからだ。
耳障りとも思えるそれは何処か哀しげだ。
聴いていたいと思える綺麗な声は怒りに満ちている。
矛盾を孕む歌声は、この詩を紡ぐ機械仕掛けの歌姫を体現しているのかもしれない。そして、この歌声が移動要塞を操縦する力の一端となっているのなら――。
「倒さなければならないな」
ノヴァは既に始まっている戦闘の様子をしかと見つめた。
鴉の要素を持つ女性、マリアは胸に拡声器を埋め込まれている。口を塞がれても、喉が潰されかけていても彼処から歌を響かせ続ける機械に成り果ててしまっているようだ。
機械仕掛けにされて尚、望まぬ歌声を響かせるのは歌姫にとっても本望ではないはずだ。
もし自分だったら、と想像したノヴァは頭を振った。
藍もまた、歌姫の過去と今を想像する。
「綺麗でも、虚ろな歌なのです。怒りを謳いながらもこの歌は空っぽなのでっす」
――止まるまいぞ、鉄を纏う古強者よ。
響かせている歌から感じるのは怒り。だが、虚ろならばそれすらも届いてこない。
藍は両手を広げながら、今日の自分の舞台は此処だと示した。移動要塞が微かに振動する様子だって藍にとってはステージの仕掛けのひとつに思える。
「でしたら、ええ。歌うということがどういうことか、思い出させてみせるのでっす!」
「そうだ、せめてもの餞を贈ろう」
「歌うのでっす、魂の歌を! 心無きものにすら感情を呼び起こす歌を!」
ノヴァが首肯したことで藍が青空の如く澄んだ声を紡いでゆく。目を閉じたノヴァも歌姫の声に自分の声を重ねて響かせ合い、相殺するように奏でていった。
爪弾く竪琴から編み上げていくように、月夜の旋律が戦場に広がる。
ノヴァが演奏する月夜眠の音色に続けて藍テールが重なっていき、辺り一帯が本当のステージのように変わっていった。それに抵抗するかたちでマリアが軋んだ音を立てた。
それは高らかに響く鼓舞のように思える。
「貴女は……その歌声で兵士達を奮い立たせ、癒やしてきたのだろう」
――我が血肉は怒りの炎に焼き裂かれ。
ノヴァからの呼び掛けに対して、返ってきたのは忌々しげな歌の一節のみ。
だが、ノヴァは怯むことなく旋律を奏で続けた。
「俺にはきっと……真似できないな」
知らない誰かのために一心になって、また別の誰かのために自分を犠牲にする。嘗ての貴女の姿を想像したのだと語ったノヴァは、素直に尊敬したいと伝えた。
オブリビオンとなり、舞台装置の如き場所に据えられたマリアは歌い続けている。
藍はその姿から目を離さないように心掛け、高らかに歌い返した。それは心無きものにすら感情を呼び起こす魂の歌として場を満たす。
ともすれば酷なことなのだろう、と藍は考えていた。
今の歌姫マリアの感情を呼び覚ますのは苦しみしか生まないのかもしれない。それが妨害になるとも限らないうえ、もしも心を取り戻したとて過去に戻ることは出来ない。
心次第で歌が変わり、止まる可能性もある。しかし歌姫は声を止めようとしなかった。
――いざ行かん、怒りに震え身を任せ。
「やっぱりなのでっす!」
その声を耳にした藍は或ることを考えていた。
機械化され、使役されているも同然の現状を変えられないのならば嘆きは大きくなる。それは即ち。
「取り戻したからこその心からの怒りの歌が響くのでっすねー!」
要塞は動き続けているが、心からの歌を聞けたならば藍としても次に進むしか無い。境遇や謳う歌は違っても、藍もノヴァも――そして、マリアも。
皆が同じ、歌に生きる者だ。
「歌に生きた方の最後の歌を、このようなものであっていいはずがないのでっす! 藍ちゃんくんはお嬢さんの歌が聞きたいのでっす! 怒りでもいいでっす、もっと。もっと!」
それゆえに藍は願っていた。
この舞台で紡ぐ詩を未来に繋げていきたい、と。
他の猟兵たちの猛攻によって機械仕掛けの歌姫は相当な損傷を受けていた。ノヴァは相殺した歌姫の声を飲み込むように、更に朧月夜を爪弾いていった。
ノヴァが紡ぐ月の声は穏やかに、憤りをおさめるが如くマリアを包み込む。
藍もノヴァと共に終幕に向けての準備をはじめた。
「気付いたのでっす。……お嬢さんの歌は自身を癒しきれない。その痛みは、返ってくるのでっすから」
つまり結末は見えていた。
そのように語った藍は一瞬だけ悲しげに双眸を細めた。
されどそれは決められた運命ではなく、歌姫自身が選んだ終幕とも呼べるだろう。
此処で願うことはひとつ。
次に目覚めた時は戦場ではなく心穏やかな場所へといけるように。願いを込めてノヴァは告げる。
「いま一時は、静かに眠ってくれ」
苦しみや怒りだけではなく、夜の睡りに落ちるように静かに。
そして、機械仕掛けの歌姫が崩れ落ちていった。これが悲しい終演だとしても最期はせめて。そう考えた藍は敢えてとびきりの笑顔を浮かべる。
「良い歌だったのでっすよー、歌姫さん。ご共演、ありがとうございましたなのでっす!」
これにて、|歌姫の舞台《ステージ》は終わり。
幕が降ろされた戦場には何の歌も響いておらず、静かな勝利の余韻だけが残っていた。
大成功
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