4
暖かな島の熱き物語

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ
🔒
#群竜大陸
🔒
#勇者
🔒
#勇者の伝説探索


0




●Fact or Fiction
「キミたちはさ、伝説って信じるかい?」
 グリモアベースに集った猟兵たち。彼らに投げかけられたのは、和綴じの本に視線を落とす妖狐からの質問だった。
「より詳しく言えば伝説の根源、かな。つまるところは成り立ちさ。偉業や事跡を語り継いできた真実なのか、はたまた、創作家や剽軽者が生みだした虚構なのかってね」
 質問の主、徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)は白い尾を右にゆらり、左にひらりと揺らしながら話を続け、
「伝説……多くは物語として伝わっているそれら。でも伝説を楽しむうえでさ、実際の所その真偽は重要な事じゃあない。だってそうだろう? 実話だろうと作り話だろうと面白いものは面白いのだから」
 ぱたん、と本を閉じる音をようやく手元から響かせる。それを合図とするように、グリモア猟兵は猟兵たちを集ったあらましを語りだした。
「今回キミたちにお願いしたい事、調べてもらいたい事もね、重要なのはそれが真なのか偽なのかじゃあないのさ。真実だろうと虚構だろうと、等しく価値がある」
 紙面の文字をなぞっていた視線が、今度は猟兵たちの顔を右から左へと見渡していく。それは彼らがここに集ってくれたという事実の一つ一つを確認するようで。
「物語を読むように、物語を読み聞かせるように、物語の登場人物になるように、……そうだな、うん、楽しんでくるといい。とわはそう思うよ」
 事の外観を話した妖狐の口元は緩い笑みを作り、彼女の胸に息づく『楽しい』を滲ませているようだった。

●Truth or Tale
「本題に入る。今回のキミたちの行き先はアックス&ウィザーズ。とある島の街だ」
 外観に続くのは当然内実。
 話の進みに呼応するようにこの場に集った猟兵らの見る風景はアックス&ウィザーズの、温暖な気候に包まれ、肥沃な土地を湛えた、観光地としても親しまれる常夏の島へと移り変わっていく。
「ここね、とある勇者……かつて群竜大陸に渡ったとされる勇者の所縁の地らしいんだ。キミたちにはこの勇者についての伝説についてを調べてきてほしいわけだ」
 群竜大陸。それを聞いて猟兵の幾人かにはピンときた者も居たかもしれない。
「今回のお願いの根源にあるもの、成り立ちはね、群竜大陸、そして帝竜ヴァルギュリオス絡みなんだよ」
 続く竜の名にこの場の空気もピンと張ったかもしれない。
 アックス&ウィザーズに於いて広まり続けているこの大陸と竜の復活の噂は猟兵たちも知る所だっただろう。
「こいつがオブリビオン・フォーミュラだとすると大陸の発見は急務だ。……が、何かに干渉されているんだかこれに関する予知が上手くいかない。その解決策が勇者の伝説探し、そしてその伝説を解き明かすことなのさ」
 かつて群竜大陸に辿り着き、帝竜を滅ぼしたとされる勇者の一行。彼らの痕跡を、意志を集めることが、何らかの予知に辿り着く力になるはずだと続けてとわは語った。
「真実ならよし。たとえ解き明かした伝説が虚構であっても、それは真実との選り分けが出来るという事だ。積み重ねれば予知の精度を高めるはずさ」
 ね? どちらも価値があるだろう? とわは微笑んで、さらに言葉を続ける。
「で、だ。干渉がこっちにも響いているんだか伝説についても詳しい事は予知できなかった。この街に手掛かりがあるらしい止まりさ。だからキミたちには情報収集から始めて欲しい」
 情報があやふやで申し訳ない。――なんて素振りは見せることもなく、そういう事だから仕方ないねと言わんばかりに語るとわ。
「ただ聞き込みをするのもいいけどさ、どうせならキミたちも色々聞かせてきてあげるといい。伝説を聞くなら、こっちも伝説級の話を聞かせてあげるのさ。その辺、猟兵というのは事欠かないものだろう?」
 彼女はマイペースに、先刻まで開いていた本を軽く掲げながら猟兵たちへ一つの提案を持ちかける。
「実体験でもいいし、友人知人の話でもいい。丁度いいものが無ければ創作だって構わない。なに、聞き手は向こうから来てくれるはずさ。何せこの街は島にあって、そして観光地だ。余所者に大らかで外界への好奇心も旺盛だろう」
 勿論自分好みの場所に赴いたり、語る話にぴったりマッチする相手を探すのも手だ。内容や話術に自信がなくともそれを埋める手段はきっとある。続くとわの言葉は、或は今回用いられる手段に顔を曇らせた猟兵への励ましだったのかもしれない。
「聞かせて気持ちを盛り上げてあげればさ、きっとお返しに勇者の伝説を聞かせてくれるはずだよ。観光客に特産品や名所を、胸を張って教えるようにね。それにほら、人々には群竜だの帝竜だのの暗い噂より冒険譚みたいな心躍るものを胸に抱いていてほしいものじゃあないか」
 言って、妖狐はあどけない笑みとグリモアとを浮かべ、
「じゃあ、事が終わったら是非とわにも伝説の顛末を聞かせてくれたまえよ。楽しみにしている」
 アックス&ウィザーズへの転移を始めるのだった。


芹沢
 第六猟兵のシナリオ、参加するのとてつもなく楽しくないですか……?
 今回は猟兵の皆さんが解決に携わってきた事件、思い思いにあるだろううちの一つをアックス&ウィザーズの住人に語ってもらえたらなと思います。芹沢も大変気になります。
 勿論今回が初めての参加でも大丈夫。大丈夫にするのがMSの仕事ですので、気軽にご参加頂ければ幸い。

●各章について
 第一章:島の街で勇者の伝説探し(日常)
 第二章:伝説に語られる場所への探索(冒険)
 第三章:辿り着いた先での戦闘(集団戦)

 という流れで進行します。
 上記の流れ以外は定まったものはありません。どの様な行動であっても結果はプレイング内容とそれによる判定にのみ依存します。ですので自由な、猟兵の皆さんらしさ溢れる発想で臨んで頂ければと思います。

●その他
 スケジュールとキャパシティの都合でプレイングをお返ししてしまう可能性は常に付きまといます。無理のない範囲でより多くの採用をしていきたい所存ですが、予めご了承して頂けますと幸いです。

 以上、芹沢でした。
 皆様のプレイングをお待ちしております。
100




第1章 日常 『冒険の話をしよう』

POW   :    感情や実感のこもった体験談

SPD   :    聞き手の反応に合わせた小話

WIZ   :    表現や描写にこだわった物語

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラザロ・マリーノ
【POW】
そういう話を聞きたいんなら、やっぱり酒場だろ。
酒が入れば口も軽くなるし舌も回るようになる。

俺は、猟師の依頼で山より大きいヘラジカを獲りに行った話でもするか。

猟師と一緒に森に入って、半日もしないうちにそいつは見つかったよ。
噂に聞いてたより遥かに小さかった。まあ当たり前だけどな。
ただ…俺が思ってたより遥かにデカかった。
森で一番高い杉よりも更に背が高かったし、足跡なんて小さい家が一軒丸ごと収まるくらいだった。

弓も槍も通じねえ、歩いてるだけで杉も楓もなぎ倒してく化物に何ができるよ。
俺も猟師も呆然とそいつを見送るしかなかったぜ。

アンタらも、デカブツに挑んだ奴の話を何か知らないか?

※アドリブ歓迎


作図・未来
さて、情報収集にあたってこちらからも話をするとはいったものの、どんな話をすれば興味をもってもらえるだろうか

実体験で考えると、つい先日戦ったケセランパサラン……は、少し勇敢な冒険とは違うか

なら、友人知人の話……
(ふと思い浮かべるは、守ると誓った女性。華やかに、自由に、自信を表現しながら戦っていく姿は、きっと華麗な冒険譚になるだろう。……が)
……もしもこれを熱弁している最中に本人に聞かれたりしたら流石に、ね

さて、そうなると創作の話だが
丁度いいものがあるね。以前僕がアルダワ魔法学園の迷宮で手に入れたこの「護る為の騎士の物語」
迷宮の書庫に眠っていた貴重な品だ

さて、どうだろうか。少し聞いていかないかい?



 街の酒場は昼日中から賑わいを見せていた。
 何せここは春の訪れがほど近いこの暦にありながら、初夏のような温暖さに包まれた島。観光地の街の、その酒場。
 太陽光を弾くような白の塗装と木目を露わにした家具たちとが配され、爽やかで、どこか温かみがあり、開放的な飲食店を思わせた。
 所謂夜の、男共が集う、喧噪の絶えない……等々と修飾される酒場とは店の雰囲気が異なれば、当然そこで席についている客層も異なる。
 島の住人に観光客。
 老若男女に家族連れ。
 ――長躯のトカゲに、黒衣の少年。
「っあー! やっぱコレだな!」
 飲み下すエールの喉越しとフルーティな香りに体表の鱗を震わせ、ラザロ・マリーノ(竜派ドラゴニアンのバーバリアン・f10809)が杯の底でテーブルを叩く。
「ふふ、随分美味しそうに飲むんだね。でも情報収集も忘れないようにしないと」
 その隣で水の注がれたグラスを前にしているのは作図・未来(朝日の死者のタンツ・f00021)。ラザロの豪気な飲みっぷりにくすりと笑みを浮かべ、湿気を取り除くために一度外した帽子を被り直している。
「安心しろって、これもそのためだ。酒が入れば舌も回るってもんでな、飲める歳になればわかるぜ」
「ああ、そういう。……そうか、そうだね」
 ラザロの言葉に一理ある、と。とはいえアルコールを飲む訳にはいかない未来は水で舌と喉とを湿らすことにするのだった。
「あんたら観光客かい? それとも旅の人?」
 そんな二人に声をかけたのは隣席に座っていた恰幅の良い男性。気の良さそうな笑顔を浮かべ、その瞳には二人の猟兵と好奇心とを映していた。
「俺ら? そうだな……肩書はいろいろあるけど」
 傭兵、ボディガード、決闘代理人……さて、どれもこれも荒々しいな、とラザロはより適当なものを探る。
「観光客かな。それか冒険者、でいいんじゃないかい?」
 そんなラザロに助け舟を出すように答える未来。彼の言葉に男性は瞳を輝かせ、皺を深く、笑顔を濃くした。
「それで変わった格好してたわけか! なあなあ、ちょいと冒険の話を聞かせてくれよ」
「ああ、ああ、勿論だ。そうだな、猟師から請けた依頼の話なんてどうだ」
 早速来たな、と狙い通りの展開に、そして胃の腑から香るエールに気を良くしてラザロは牙の並んだ口を開く。
「ヘラジカを獲るって依頼だったんだけどな、俺を……あー、冒険者を駆り出すくらいの、だから大物なわけだ。曰く、山より大きいってな」
 話を聞く男性は興味の分だけ前のめりに、恰幅の良い身体を支えるようにテーブルに腕と共に体重を預けて話に聞き入る。
「まあ、それだけデカけりゃ半日どころか依頼を受けた時点で視界に入ってそうだけどな。当たり前だがそこまで大きくはなかった。そうだな……この店のこっから向うが蹄一個分くらいの、その位のもんだったぜ」
 ――もう弓も槍も通じねえの。
 店内の半分程を指し示しながら、そんな怪物が如きヘラジカを笑い話のように……事実豪胆に笑いながら口にされれば、極上の肴を得たように男性の酒も進む。
「アンタも、デカブツに挑んだ奴の話を何か知らないか?」
「あるよ、あるある。デカブツなら丁度いいのが。この島の伝説だ。兄ちゃんの見たヘラジカもデカかったろうけど、この話も負けてない」
 語る男性の表情はまるで自分の事のように自信満々で、身体を捻ると微かな潮風を運ぶ開け放たれた窓を、
「あいつに挑んだ男の伝説だ!」
 その先に聳える一つの山を指差した。

「(……山。山に挑んだ。登山とか、そういう……、……おや)」
 男性の示した先、遥かな山の頂き見据える未来の視界に、下からひょこりと頭頂部が、そこに橋のようにかかるリボンが一つ。
「やあ。こんにちは」
 視線を下げれば、じっと未来の事を見つめる女の子の顔があった。
 言葉少なな子なのだろうか。或いは彼らが冒険者だという事を隣で聞いて、緊張しているのだろうか。女の子は頷きだけで応じ、ただただ視線を送っている。
 これはきっと話をねだられているのだろう――未来がそう察したのは、自身も少々の口下手だからだろうか。
「(実体験か、友人知人の話か、さて……)」
 思うのは一つの誓いの話。
 浮かぶのは華やかな桃色の髪、それを跳ねさせて自由に動き回る姿。そして自信を宿した、青い瞳。
「(……いや、何かの拍子に本人の耳に届いたら、うん、流石に)」
 ならば違う話を、と未来が取り出したのは一冊の本。
 装丁に描かれた騎士の盾を撫で、
「『We'll see』(“――そのうち判る、今に知るだろう。”)」
 題字を読み上げる。
「以前ある迷宮で手に入れた本でね。綴られているのは……護る為の騎士の物語だ」
 迷宮。騎士。子どもが興味と憧憬を抱くには十分な単語が流れ、……或いは騎士様に守られる自分を想像したことがあるのかもしれない幼い少女には、その本が宝物のように映っていた。
「ふふふ、じゃあ今から読み聞かせてあげよう」
 その瞳を見れば女の子の望みは一目瞭然で、未来は装丁を開き、頁を捲る。
 口下手な話し手であっても朗読となれば苦は無く、聞き手は情景を思い浮かべ時に息を飲み、時に感嘆の吐息を送った。
 傍らでは竜人が意気投合した男性と酒を飲み交わしていて、老若男女が思い思いに昼の――情報収集の――ひと時を過ごしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天命座・アリカ
常夏楽園アイランド!楽しみたい所だが!お仕事もねしないとね!
今回の私は!そうだね旅の吟遊詩人!
美貌と美声で人を呼ぶ!物語をね聴かせよう!

さて、何を語ろうか!この天才美女自体が伝説ではあるが!自分語りばかりでは、風情がないのさ芸がない!
ならば、伝説の鹿の話を……いやいやこれも日が暮れる!
物語はね、簡潔に完結!
では、迷う所だが!古今東西老若男女に伝わる話!そう、スポーツだ!
不二山頂でのエクストリームアイロニング団体の部が激闘を!

友情!努力!勝利!その全てが詰まっていた!
仲間たちの結束!現れる強敵!衝撃の真実!涙無しには語れない!
あれこそが伝説の1ページ!
え?そのスポーツがなんなのかって?……さあ?


鍋島・小百合子
POW重視:舞踊を交えた冒険語り

斧魔の世界では不穏な噂が立ち込めているようじゃがそれにも負けぬようなわらわの武勇伝を聞かせてくれようかの

「さあさ今から語り舞うはさる島国出身の女武の武芸帳なり」
薙刀の刃に布を巻き巫女装束を着込み、大衆に向け舞を披露しつつ自身のサムライエンパイアでの武芸長を語る
魔の者による一揆の阻止、無念のまま蘇った者達との戦い、諸国漫遊での日々等自身が体験した事を舞に乗せながら話す(コミュ力込)
戦いの部分は薙刀を用いての力強いパフォーマンス(残像・ジャンプ込)にて場を誘惑するよう心がける
終いには祭祀扇を広げ一礼
「やはり何事も己の身になる経験じゃな…」

他猟兵との絡み・アドリブは可


シャルロッテ・エンデ
聖職者はときに詩人でち
バード、琵琶法師…
(夜明けの鐘が澄んだ音色を響かせ)

今から語るのは、あらゆる勇者の物語の
舞台裏に隠された、幻の都の伝説

悪に敗れた勇者が、奇跡の復活を遂げるのはなぜ?
神隠しや異世界転移の起きる理由は?

それは、恋の呪いに縛られた暁の女神が
薔薇の架け橋を通じて、選ばれた者たちを
幻の都へ匿っているから

そこは、永遠の冬に閉ざされし
時の流れの止まった世界
大災厄により全ての神々が去った
悲しみに凍てついた地

闇夜に迷える旅人の、心を支える灯りであれ

その信条を胸に、明日を取り戻すため
冒険者は廃都の迷宮に挑む

極光舞う氷の大地は
寒いけれども、人の心は暖かい
(異世界TVから、聴衆に微笑む暁の女神)



 所変わって、ここは燦々と日差しが降り注ぐ街の広場。
 響き渡るのはこの場の中央に位置する噴水の、暑さを流していくような爽やかな水音。
「遠からんものは美声に聞け! 近くば寄って美貌を見よ!」
 ――そして、爛々とした声。
 水音を更に流していく声量は、自身に満ち溢れた名乗りは広場に居合わせた人々の顔と視線を噴水に、
 「旅の吟遊詩人がね! 物語をね聴かせよう!」
 その傍らに立つ天命座・アリカ(自己矛盾のパラドクス・f01794)に向けさせるには十二分なものだった。アリカは桃色の髪を風に揺らし詩人の竪琴を……いや、現地購入したウクレレを構える。
「この天才美女の話をしてもいいのだがね!伝説の鹿の話を吟ずるのもいいのだけどね!」
 ぽろろん。弦を爪弾き、音色に声音を乗せる。
「いやいやどちらも日が暮れる!聴衆の望みは長編じゃあない! 簡素に完結!なんてったってこの後も控えている!」
 自称天才美女が美声と美貌で人々を集め、その人だかりが更に人を集める。
 青い瞳に映る聴衆の数を十分と見て、口を閉じ固唾を飲む聴衆の顔に満足して、アリカはウクレレを掻き鳴らす。
 それはもう、
「じゃあ聞いて行って欲しい!」
 ジャカジャカと。
 まるでエレキギターを情熱的に操るように。
 牧歌的な旋律は今や彼女の振る舞いを表すような自由律。
 続く言葉は彼女がどんな時でも天命座・アリカなのだと知らしめる冪等律。
「最初のナンバー! 『エクストリームアイロニング ~不二山頂を駆けるアイロンとエキセントリシティ~』!!」
 聴衆の口が、一様にあんぐりと開かれた。

 およそ四分半後。
「いやぁ……友情、努力、勝利、その全てが詰まっていたね……涙なしには語れない、正に伝説だった……そうだろう!」
 そこにあったのは己が熱唱に感じ入り目尻を指でひと拭いするアリカと、
「まさか石炭アイロンの石炭を現地で掘るなんて……!」
「アイロン台の代わりに背中を差し出す所なんて、くそっ……どこまでもアツい奴らじゃねぇか!」
 謎のスポーツと吟遊に熱狂させられた聴衆たちだった。
「よし!場は暖めておいたよシャルロッテ嬢!」
「なんだかすごいことになってるんでちゅが……!」
 こんなバトンタッチになるとは露と思っていなかったのだろう、シャルロッテ・エンデ(暁のびしょうぢょ神官・f12366)が噴水を囲むように集まった人々の顔を見上げる。
 しかし引き下がれない。何せよく通る声でアリカに名前を呼ばれたのだ。聞いていた数人は次の演者に、シャルロッテの顔に期待の眼差しを送っていた。
「やるしかないでち……聖職者はときに詩人でち!」
 引き下がれない以上やるしかない。シャルロッテはぎゅっと拳を握り噴水の傍ら……のさらに先、噴水の縁へと上がる。
 彼女が水音を背にすれば、数分前仰天に包まれた聴衆が目にするのは明けの空。夜明けの青にオールドローズの陽が昇る暁天。
 神官の衣を小さく揺らし、ドワーフの小さな身体を折って一礼したシャルロッテはハンドベルを取り出し、鐘の音を一つ。
「今から語るのは、あらゆる勇者の物語」
 澄んだ音色で呼吸を整えるように、二つ。
「……その舞台裏に隠された、幻の都の伝説」
 落ち着いてきた人々の声と心地よい水音を感じながら、三つ。
 身体は小さく、そして声高に語るような話でもない。
 しかしシャルロッテの声は、話は、闇夜に見る灯りのように、集った人々の耳に届いて行く。
 ――悪に敗れた勇者が、奇跡の復活を遂げるのはなぜ?
 ――神隠しや異世界転移の起きる理由は?
 それはシャルロッテが信仰する暁の女神の話。

 ――それは、恋の呪いに縛られた暁の女神が薔薇の架け橋を通じて、選ばれた者たちを幻の都へ匿っているから
 それは彼女を救った女神の話。

 ――そこは、永遠の冬に閉ざされし時の流れの止まった世界
 ――大災厄により全ての神々が去った悲しみに凍てついた地
 それは女神の住まう聖地の話。

 ――闇夜に迷える旅人の、心を支える灯りであれ
 それは彼女の手にするベルに刻印された、信徒の信条の話。

 ――その信条を胸に、明日を取り戻すため
 ――冒険者は廃都の迷宮に挑む
 それは或いは、「ちいさなあかり」を目指すドワーフの話でもあるだろうか。

 ――極光舞う氷の大地は寒いけれども、
 未だ燦々とした日差しの中、光の熱が降り注ぐ広場の中、シャルロッテのハンドベルが最後の音を響かせる。
 余韻はまるで、氷の涼やかさを周囲に広げていくようで。

「人の心は暖かい」
 いつの間にか彼女の頭上には蜃気楼のように現れた暁の女神の姿。
 微笑と共に、鐘の音の終わりと共に女神の姿が消える頃には、広場を包むのは心地よい暖かさ。
 再びの一礼と共に縁を降りるシャルロッテを包んだのは、聴衆の暖かな拍手。
「はぁ~、きんちょ~しまちた!」
「見事。見事じゃったのうシャルロッテ殿。わらわも負けては居れぬ」
 ほっと胸を撫で下ろした彼女に送られる拍手は女武者の――いや、今は巫女装束に身を包んだ娘の手からも一つ。
「ありがとでちゅ! 小百合子しゃん、あとはお願いしまちゅよ!」
「あい任された。エンパイアの舞踊、篤とご覧じろう」

 刃に布を巻いた薙刀を手に、シャルロッテと入れ替わって噴水の傍に歩み出るのは鍋島・小百合子(朱威の風舞・f04799)。彼女は開始の合図にと薙刀の石突で広場の地を叩く。
「わらわ、姓は鍋島、名は小百合子。遠く遠く遥か遠く、島国小国の出じゃが侮るなかれ。戦場に在っては『女武者』の勇名を馳せた身」
 薙刀を掲げ、ぐるりと回せば保護された刃であっても鋭く風を斬り、
「これより語り舞うは、魔を祓い闇を切って捨ててきた、わらわの武芸帳なり!」
 その膂力と技量に、そして勇ましく切った見栄に人々は再びの盛り上がりを見せる。
「ある時は山裾の宿場町に襲い来る鬼の群れ、そしてそれを裏で操る仮面の武僧」
 薙刀を錫杖のように構え、
「ある時は齢十と五の美しき姫を狙う山賊の統領」
 時にひらりと身を翻し、冷ややかな流し目で周囲に視線送ったり、
「またある時は異教の者どもと結託し一揆を企てる女僧兵」
 口端に艶を乗せてにやりと笑みもする。
「島国に蔓延る魑魅魍魎、悪鬼羅刹」
 薙刀に仕草、表情の全てで表すのは小百合子がこれまで戦ってきたオブリビオンたち。
 いつの間にか女武者の舞踊を盛り上げるように鼓の音が……いや、くるりと回したウクレレの背で奏でられた、拍子の音が鳴り響いている。
「女武者はその悉くを!」
 彼女は声を張り、腰を落とし、舞踊のしなやかさと戦場での力強さで地を踏みしめる。
「斬り!」
 それは武僧の錫杖を捌いた自在の薙刀術。
「斬り!!」
 それは盗賊に血の化粧を施した一振り。
「斬り!!!」
 それは女僧兵の雷を払った刃の閃き。
「……各地に平穏を取り戻してきたわけじゃ。御清聴、感謝御礼じゃ」
 切れと迫力を籠めて見舞われた舞踊は最早演武とさえ呼べるもので、動の後の静はより際立つ。
 祭祀扇を広げ嫋やかに一礼した小百合子。彼女が顔を上げて、一拍の後に割れんばかりの拍手が送られた。
「やはり何事も己の身になる経験じゃな……」
 ぽつりと零れた言葉はこれまでの戦いに。そして舞踊の手解きをしてくれた侍女との、在りし日に。

「お姉さんたち、歌も踊りも上手だね!」
 拍手に紛れて一人の少女の声が上がった。
「それほどでもあるよ! 何せこの天命座、天才美女であるからしてね!」
「喜んでもらえたなら何よりでち」
 再びウクレレを奏で、神官衣を風に揺らし、アリカとシャルロッテが小百合子と少女の元に歩み寄る。
「あのね、お礼に私もお話を聞かせてあげる!」
「本当かえ? それは是非とも聞かせてほしいの」
 非日常のようなひと時を楽しみ笑顔いっぱいの少女、彼女の提案こそ猟兵たちにとっては最高のおひねりで。
「うん! えっとね、炎の精霊と一晩踊り明かした、勇者の話!」
 少女の語りと、それを即席で盛り上げる弦に鐘、そして手拍子の音が広場に響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅葱・シアラ
お話を聞いてもらえるんだね?
えへ……冒険をしたお話、してあげるね!


【POW】で判定
これはアックス&ウィザーズの、何でもない日常を取り戻すためのお話

とある小さな村が山賊たちに蹂躙される、そんな危機を察してシアたちは山賊たちを止めに行ったの

山賊たちに小さな幸せを営む村人たちが襲われようとしていたの
シアはね、ミーユイとアリカっていう綺麗で素敵なお姉さん達と共に勇敢に山賊たちと戦ったんだ!

アリカが舞台で飛んで跳ねて踊り回るトップスターのように!
彼女を彩り自らもスターとして輝く歌姫のミーユイ!
シアの放った胡蝶蘭の嵐は皆を包む花吹雪!

鮮やかな三つの花が彩って、山賊たちを華麗に蹴散らして行ったんだ!


セリア・エーデルワイス
勇者の伝説…ですか。
実際に竜を退治したというそのお話が真実かどうか、しっかり見分ける事がこの依頼の鍵になりそうですね。

島に着いたらまずは街に住む子供達に話を伺ってみようと思います。
勇者などのお伽噺は子供達のほうが特に気になってしまうものですから。
子供達にお話を伺いつつ、こちらからも一つお話を聞かせてあげましょう。

「実は私はこの目で天使が見たことがあるのです」
ふふ、作り話ではありませんよ。普段は光の球のようなものになって、遠くから見つめているのです。
どうしてそんなことをするのか?それは天使にとって人間の生活がとても興味深いからです。
だからこそ時に寄り添い、加護という形で守ってくれているのですよ。



「――それでね、それでね! 舞台に上がったトップスターのように跳ねて、踊りまわって!」
 広場に高らかな歌声が響いていた頃、小さな公園では小さな妖精の大きな冒険の――何でもない日常を取り戻した――話が語られていた。
「こうやって……、くるっとピンクの髪を振りながら、回し蹴りっ! 吹き飛ばされた山賊たちを見て、『これで終わりかい?』って!」
 口にする浅葱・シアラ(黄金纏う紫光蝶・f04820)が身振り手振りに足振りさえ交えて語る、アックス&ウィザーズの一夜に繰り広げられた山賊たちとの戦い。それを聞くのは公園で日向ぼっこをしていた、年老いた男性だった。
「そうかいそうかい……その冒険者さんはきっと綺麗な人なんだろうねえ」
 重ねてきた年月の分だけ年輪のように刻まれた皺だらけの顔に笑みを浮かべ、孫の話を聞くように耳を傾ける老人。穏やかで柔らかな聞き手の様子に普段は引っ込み思案のシアラも饒舌に話を続けられている。
「うんっ! それにね、トップスターだけじゃなくって――」

 一方和やかに盛り上がる二人の傍ではセリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)が子供二人と、老人と共に公園に遊びに来ていた彼の孫たちと言葉を交わしていた。
「実は私はこの目で天使が見たことがあるのです」
「うっそだー! だってぼく見たことないよ!」
「ねえねえ、本当? 天使さまってどんな姿をしているの?」
 二人の反応にふわりと微笑むセリア。彼女の微笑みに呼ばれたように吹いた風が白い髪と、その髪を覆う白いヴェールを優しく撫でていく。
「ふふ、作り話ではありませんよ」
 祈るように、子供たちを見て湧きあがった優しい気持ちを包むように、緩く指を組んで上を向く。
「普段は光の球のようなものになって、遠くから見つめているのです」
 それは中天に座した太陽を仰ぎ見るようで。……いや、その彼方、遠く遠くにまで祈りを送るようで。
「近くに来てくれないんじゃ見えないよー」
「どうして光の玉なの? 天使の姿じゃだめなのかな」
 口先を尖らせ、首を捻り、思い思いに言葉と反応を返す子供たち。それはそれだけ熱心にセリアの話を聞いているからに外ならず、視線を戻したセリアは灰色の瞳を細める。
「それはですね、天使にとって人間の生活がとても興味深いからです」
「「興味?」」
 声を合わせた子供たちに彼女は頷きを一つ。言の葉には慈愛を籠めて。
「ええ、興味。今日はどんな事をしているんだろう、明日はどんな事をするんだろうって。傍に行ってしまうと天使の話題で持ち切りになってしまうから、だから遠くから、こっそりと」
「たしかに。天使さまを見つけたら、やってることをほうり出してそっちに行っちゃうかもね」
「うん。大ニュースだもんね。遊んだりおかしを食べてる場合じゃなくなっちゃう気がする」
 顔を見合わせて意見を交換しだした二人。セリアは語り聞かせた話にそっとヴェールをかけるように、この話の最後を口にする。
「ふふふ、そうでしょう? だからこそ遠くから、必要があれば時に寄り添い、加護という形で守ってくれているのですよ」
 修道女の優しい語りに納得して、或は一つの疑問が晴れて、子供たちは安心したように笑い声を上げていた。

「――歌姫も居てね! 魔力の乗った歌声を、夜の山林に響かせるの! 綺麗で、それに格好いい声でね、聴いていたシアたちも力が漲ってきて!」
 シアラの冒険譚は丁度二人目のスターが、一人目と同じく桃色の――より正確に言うならば、途中から鮮血の紅へと彩を変える――髪を持つ歌姫が現れた所。
「わしも聴いてみたいものだのう、そのお嬢さんの歌を」
「もうすっごいんだから、二人とも! でもシアも頑張ったんだよ! シアの放った胡蝶蘭の嵐は山賊たちを次々と切り刻んで、スターたちを包む花吹雪にもなって!」
 ぱーっと! と小さな腕を大きく広げ、胡蝶蘭の花弁が舞う様を表すシアラは満面の笑み。
「差し詰め壇上には三つの鮮やかな花、といったところかねえ」
 老人もまた笑顔をより濃くし、華やかな舞台を思い浮かべて優しく頷きを返すのだった。

 ひとしきり話し終えたシアラと、それを楽しんだ老人。二人の傍らからは、あどけない笑い声が二つ。
「ありがとうねえ、こんな爺に話を聞かせてくれて、それに孫の面倒まで見てもらって。お前たちもちゃあんとお礼を言うんだよ」
「わかってるよ! お姉ちゃんありがとうね!」
「また天使さまのお話聞かせてね!」
 笑顔の老人に促され、元気よく口にされた子供たちの言葉。その笑顔を受け取ったシアラも、言葉を受け取ったセリアも、にこやかに口を開く。
「ううん! シアも楽しかったから! お話、聞いてくれてありがとう!」
「ええ、またいつかお話ししましょうね」
「お礼になるかはわからないが、爺のする話も聞いていくかい? この島の危機を止めに行った勇者の話なんだけどねえ」
 聞き慣れた話なのだろう、またはじまったね! と子供たちは笑い合い、公園の遊具へと駆けていく。
 猟兵二人はその場に留まり、老人の語るこの島の伝説を聞き終えるまで、穏やかな時間を過ごしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

零井戸・寂
*匡(f01612)と

伝説ねぇ
確かに僕らそういう事は事欠かないけどさ

僕に全振りかよ!?
いや、確かに匡がこの手の苦手なのは知ってるけど、よく来たねこの依頼
……まぁいいさ、仕事と思って割り切るよ

【SPD】

【コミュ力】
宇宙の話なんてどう?

宇宙は何か?
空の遥か上さ
龍さえ飛んでけない程
そこで暮らす人たちを敵から守る為に猟兵達は戦ったんだ

て、どしたの匡
随分静かだけど
いや、向いてるって言われるのは嬉しいけど

(…自分は話に関わってない、みたいな顔されるのは心外だし)

そうそう、彼も凄いんだぜ
敵の幹部一人倒したんだから

(何処か寂しい気持ちにもなる。
だから意趣返し代わりに話の中に引きずり込むとしよう)

*アドリブ歓迎


鳴宮・匡
◆フルイド(f02382)と
◆アドリブ歓迎

伝説、ねえ
フルイド、なんか面白い話ないの
だって、「楽しんで」話すんだろ、そういうのは苦手だ
え、なんで来たかって?
……なんとなくだけど

実のところ「楽しく」話してるのを聞けば
それがどういうものかわかるんじゃないかなって思ったけど
でも、言葉を聞いたり顔を見ていればすぐにわかる
それは俺にはまだ「遠い」世界観だ、って

……ん? ああ、なんでもないよ
堂に入った話しぶりだなって思っただけ
やっぱそういうの向いてるんじゃない?

あとは首尾よく相手から話が聞けるなら
あれこれ質問して膨らませるかな

……ちょっと待て、俺の話は勘弁してくれ
あーもう、こういうの苦手だって言っただろ……


ヴィクティム・ウィンターミュート
英雄譚、ねぇ。端役の俺には、縁遠い話じゃねえの?とわも無茶振りしてきやがるぜ…。ま、要は活躍を語ればいいんだろ?なら、ちょうど少し前に戦争があったし…ひとつ聞かせてやるかな。

WIZ

あるところに、黒い宙を支配する帝国があったんだ。この帝国がまた、絵に描いたような極悪さでな。
帝国の支配と戦う連中に、戦争ふっかけてきたのさ。
俺は、そいつらを助けるために帝国相手の戦争に参加したんだ。

そこに、黒騎士アンヘルっつー、過去を操る強い敵がいた。
俺はそいつに勝つ為に、仲間に飛んでくる剣を庇って、腹を貫かれた
めちゃくちゃ痛ぇーし、死にかけたけど、俺は言ってやったよ。

これで奴は剣を引き戻せねぇ。
今だ!!ってな。



「英雄譚、ねえ」
 それは男の……いや、男たちの声。それも一様に揃って口にされた、三人分の。
 小さな飲食店に広がる沈黙。席についていた三人の猟兵が顔を見合わせ、その光景を面白そうに店の店主が眺めていた。
「……流石に今のは笑えなくない?」
 最初に沈黙を破ったのは零井戸・寂(アフレイド・f02382)。間の抜けた空気に眼鏡がずれ落ちてやいないかと心配になって、赤いフレームに指を添える。
「逆に笑うしかねぇだろ、フルイド。匡を見習おうぜ」
 続いて口を開いたヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)だったが、笑うしかないと言いつつその笑顔は苦々しいもので。
「え。なんで俺?」
 口元に柔和そうな笑みを浮かべていた鳴宮・匡(凪の海・f01612)はといえば、話の流れが分からないといった風にしていた。
「三人が仲良いのはわかったからさ、そろそろ英雄譚を聞かせておくれよ」
「仲……。腕前は信頼してるけど、……ごめん、さっきのなしで」
 ニコニコと笑いながら催促する店主に、見事に声が揃ったことは忘れてくれ、と匡が眉を下げて頼む。
 どこぞで聞いたようなやり取りに、寂もヴィクティムも気の抜けた吐息を一つ。
「で、英雄譚か。……フルイド」
「なんか面白い話ないの」
「僕に全振りかよ!?」
 ヴィクティムと匡の視線に寂が抗議の声を上げる。
「端役の俺には縁遠い話だろ。荷が重くってな、いやー重い重い」
 とぼけたようにだらりと腕を下げるヴィクティムだったが、その気になれば彼が端役として支えてきた主役たちの話がごまんと出てくるだろう事を寂は察していて。
「だって、『楽しんで』話すんだろ、そういうのは苦手だ」
「いや、確かに匡がこの手の苦手なのは知ってるけど、なんで来たのさ、この依頼」
 であれば抗議の矛をより強く向ける先は匡だったが……、
「……なんとなくだけど」
 深い深いため息。
 暖簾に腕押しどころかその溜息で暖簾がそよぐ感慨を覚え、項垂れた拍子に今度こそは本当に眼鏡がずれる事となった。
「……まぁいいさ、仕事と思って割り切るよ」
「よく言った。フォローは俺に任せろ」
 目論見通り寂を即席の主役に立たせることに成功し、端役が口端を釣り上げる。
「そうだな、そうしたら宇宙の話なんてどう?」
 気を取り直し、眼鏡をかけ直し、寂が店主に向けて語りだす。
「ウチュウ?」
「空の遥か上にあるところさ。龍さえ飛んでけない程のね」
 彼の説明に、想像もつかない世界の話に帰ってくるのは、感嘆とも呆然ともつかない吐息の音。
「そこで暮らす人たちを敵から守る為に猟……あー、えっと」
「神話の英雄たちが戦ったわけだ。黒い宙を支配する帝国相手にな」
 人々に猟兵の知識がなく、冒険者と区別が付かないこのアックス&ウィザーズに於いて猟兵をどのように言い表すべきか……それに窮した寂の元に一つの助け船。
 暗号化されたコードをこの世界に相応しいだろう形に変換し、ヴィクティムが話を引き継ぐ。
「あ、勿論神話の端役も出て来るぞ。それでな、この帝国がまた絵に描いたような極悪さで――」
 事情を知る由もない店主が相手なのもあって、冗談交じりに自分の存在を神話に登場させたヴィクティム。彼は悪ガキのようににやりと笑みを浮かべていた。

 救うべき移民船と守るべきフォースナイトの話。それらをつけ狙う無尽蔵の帝国軍の話。
 宙を渡る数多の、巨大な船の話。その悉くを墜としたみせた話。
 帝国大要塞が如何に大きいかの話。防衛艦隊を物ともせずそれに突入し攻略した話。
 寂とヴィクティムによって代わる代わる語られる英雄譚。猟兵たちと……いや、神話の英雄たちと銀河帝国との戦い。
 聞き手は店主と、
「(……実のところ『楽しく』話してるのを聞けば、それがどういうものかわかるんじゃないかなって思ったけど)」
 ――この戦いの当事者の一人である筈の、匡。
 しかし彼はぼんやりとテーブルに頬杖をつき、時折に、
「そうそう」
 とか、
「あー、うん」
 なんて相槌や頷きを送るばかり。
 どこか、心ここに非ず。
「(でも、言葉を聞いたり顔を見ていればすぐにわかる)」
 それもそのはずだ。
「(それは俺にはまだ『遠い』世界観だ、って)」
 彼の心は、少なくとも彼の認識では、遠い所からこの話を聞いているのだから。

 語りが端役の手番に回ったところで、ひと時の主役はちらりと同じ宿の住人を見る。かける言葉は英雄譚を邪魔しないように、寂かに。
「で、どしたの匡。随分静かだけど」
「……ん? ああ、なんでもないよ。堂に入った話しぶりだなって思っただけ。やっぱそういうの向いてるんじゃない?」
「いや、向いてるって言われるのは嬉しいけど」
 当事者の口から出て来る、さも自分は関わっていないといった口ぶり。そして表情。
 ――なんだかな。
 それは心外だし、このままにしておくには、どうにも寂しく感じられて。楽しくない気がして。
 だから意趣返しのように、自分の楽しさを少しばかり優先するのは、或は信頼の表れか。
「そうそう、伝説の傭兵も凄いんだぜ。敵の幹部一人倒したんだから」
 思い出した風を装って軽い軽い戯言を口にするのも、或は――。
「……ちょっと待て、俺……そいつの話は勘弁してくれ。てか伝説って。それにあれはあの場の全員で……」
 急に何を言いだすんだ、と匡が抗議の声を上げるが、
「くく、そうだな。そうだそうだ。伝説の傭兵! 帝国の双翼の一人、過去を操る黒騎士アンヘルを倒した男!」
 ヴィクティムが食い気味に、かの傭兵を主役の席へと座らせる。
「端役も傭兵と同じく黒騎士と戦ってな。そいつに勝つ為に、仲間に飛んでくる剣を庇って、腹を貫かれた。めちゃくちゃ痛ぇーし、死にかけるけど、端役は言ってやってやるんだよ――」

 言葉では既に遅しと恨めしげな視線を送る匡に、ヴィクティムは前座は任せろとばかりにウィンクを送る。頼んでいない、その言葉は進み行く話の流れに置き座られ、声の乗らない溜息だけが零れ出た。
「割り切りなよ。仕事仕事」
「まったく……」
 この流れを作り出した張本人は楽しげに笑うばかり。
 しかしてこれも仕事であるならば、人の手を借りてそれを全うするのは致し方なしか。全う出来ずとも、出来る気が湧かずとも、その気概を示すのは、致し方なしか。

「――これで奴は剣を引き戻せねぇ。今だ!!ってな。そいで傭兵が……」
 さあ、主役の出番だ。視線を送るヴィクティムと寂。つられて店主の視線も今日に注がれる。
「……ああ。って」
 絞り出すような、一声。
「…………」
 広がる静寂。
 フルイド、あとで覚えておけよ……、と心中で握られる右拳。
「いや、いや、それだけじゃない。傭兵はだな、引き金を引くんだ。黒騎士の脳天を目掛けて」
 どうにかこうにか話を膨らませようと、一声に声を重ねてを肉付けしていく。
「締めのセリフがまたなー! 『恨んでもいいぜ。だが、次もその次も、』……」
 舞台袖から差し出されるカンペ。
 心中で握られる左拳。
「……お前には何度だって……死んでもらう」
 弾倉の弾を撃ち切ったように、傭兵はそれ以上英雄譚を語る事は無かった。

「いやー、凄いね伝説の傭兵。僕惚れ惚れしちゃったよ」
「やめろフルイド。あーもう、こういうの苦手だって言っただろ……」
「なかなかのもんだったよ。くく……チル」
 拍手と恨み言、そしてスラングが渦巻くテーブル。そこに食欲をそそる料理の匂いが流れ込む。
「突拍子もない話だったけど、面白い話だったよ! こいつは奢りにしてやる! うちの名物『活火山プレート』、たんと食って行ってくれ!」
「待ってました!」
「奢り? 奢りって言ったか!?」
 テーブルの上に乗せられたのは、山のように高く盛られたマッシュポテト、頂から一筋引かれた溶岩の如きケチャップ、街並には野菜がちりばめられ、外周をハッシュドビーフの海が囲う。そしてポテトの山の中腹に突き立てられた、爪楊枝のような小さな剣の飾り。店の自慢の一皿。
 店主の言葉とやって来た品に互いの手を打ち鳴らし、寂とヴィクティムがポテトの山をスプーンで掬う。
「……活火山?」
 匡だけはスプーンを手に取る前に、店主に質問を投げかけていた。視線の先にはこの島を模したのであろう料理と、何を模したのか定かではない剣の飾り。
「ああそうだよ。この島の山、あれのことだ。といっても噴火したなんて話は大昔、伝説になってる位のな。死んじゃいないそうだけど今は穏やかなもんさ」
「へえ。その伝説、詳しく聞きたいんだけど」
 傭兵の仕事は、今暫く続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
祇条・結月(f02067)サンと

伝説探しのために冒険譚!
すっごく楽しそうだケド、昔の話は悲劇ばっかりだカラ
最近見たやつを話していこうカナ
祇条サンのお話も、聞くのを楽しみにしてるカラ
いっぱい聞かせてネ

まず話すのはとある宇宙
私の呼んだ竜の背から飛び移って、巨大な衛星兵器の砲塔を破壊した傭兵のお兄さんの話トカ
後は後は、悪い鬼の――
フフ、おんなじお話しようとしてたネ
ゆっくり話を聞きナガラ
そこに錠と苦無を使うお兄さんがいたコトとか、妖精の剣士サンの機転とか
錠をおとして鬼の奥の手を封じた瞬間のお兄さんの台詞トカ
こっそり脚色入れてみるヨ

ウン、物語はハッピーエンドがいいネ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ
好きに動かしてネ


祇条・結月
レイラ・エインズワース(f00284)と

……話を、かぁ。人前が苦手とかは全然ないけど、それと面白おかしい話ができるかは別の話だし。
とはいえレイラだけに任すのもどうかと思うから、

……はは。そうだね。小妖精の少女剣士と魔法使いの女の子が、沢山の宝物が眠る山を占領した鬼の大軍を退治しに行く話、なんてどう?

男子同士では延々与太話を続けたりなんか日常茶飯事だし、聞いてる相手の反応を読むのは慣れてるつもり。
向こうの様子を見ながら緩急つけて、戦いは盛り上げて。

「……鬼の親分を退治した山には、麓の村から奪われた『日常』という宝物が眠っていたのです」

……めでたしめでたし。王道には王道。悪くはないだろ?



 大通り沿いに配された、日焼けしたベンチの一つに赤い瞳が三組六つ。
 内二つはベンチより瑞々しく、しかしながらベンチ同様に日焼けをした肌を持つ街の少年の瞳。
「……それでその宇宙、って所を竜が飛んだんだ?」
「そうそう。魔法使いが鞍に跨って手綱を握って、そして傭兵のお兄さんがその後ろにネ」
 まだまだ猟兵たちの記憶に新しい大戦の話がここにも一つ。少年に語るのは藤色の髪を三つ編みに纏めた少女、レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)だ。
 昔と呼ぶにはまだ日の浅い、悲劇ばかりではなかった戦いに思いを馳せ、赤い瞳を細めている。
「それって普通逆じゃない?」
「……っフフ。どうなんだろうネ?」
 少年がこれまでに聞いてきた冒険譚では往々にしてそうだったのだろう。例えば竜を駆る騎士と、その腰に腕を回す魔法使いだとか。
 しかしながら事実は冒険譚より奇なり。逆でなかったからこそ為せたこともある。
「その傭兵のお兄さんは射手だカラ、きっとそれで良かったんじゃないカナ。正面から急接近してくる敵も百発百中で落としちゃうんだヨ」
 ――こう、バンバンっ! ってネ。
 何もない空間をジェスチャーと声とで射貫くレイラ。
 その仕草を――時にシリアスに、時にユーモラスに話すレイラの姿を、この場の赤い瞳の最後の持ち主である祇条・結月(キーメイカー・f02067)は微笑みながら眺めていた。
「(楽しそうに話すな、レイラは。真剣な戦いの話でも、どこか面白く、おかしくなって……)」
 結月の瞳に宿るのは関心と、
「(とはいえ、レイラだけに任すのもいけないよね)」
 少しばかりの申し訳なさ。
 それに気づいたかは定かではないが、語る口をそのままにレイラは結月と視線を合わせるとにこりと笑いかける。
 ――祇条サンのお話も、聞くのを楽しみにしてるカラ。
 そんな風に言いたげな、少し悪戯っぽい笑顔で。
「……そして最後には傭兵のお兄さんのありったけの攻撃がおっ……きな砲塔を壊したんだ」
 恙無く進行していたレイラの語り。果たして少年の脳裏に大輪の光の花は咲いただろうか。少なくとも聞き終えた彼は花が咲いたような笑顔を浮かべ、
「ハッピーエンド! ねえねえ、他には無いの?」
 更なる話を求める。
「そうダナー……じゃあ、」
「小妖精の少女剣士と魔法使いの女の子が、沢山の宝物が眠る山を占領した鬼の大軍を退治しに行く話、なんてどう?」
 ハッピーエンド。少年の口にした言葉をキーワードに真新しい冒険を紐解いていくレイラ。結月もまた、聞き手の反応からそれに合った話を選び取っていた。
「(フフ、おんなじお話しようとしてたネ)」
 奇しくもそれはレイラの思い浮かべた話と同じもの。
「アレ、一人忘れてるんじゃナイ? 錠と苦無を使うお兄さんもいたヨ」
 ……いや、必然だろう。何せ二人がともにした冒険の話なのだから。
 瞼を下ろし澄まし顔で笑うレイラ。するりと登場人物を足され、敵わないな、と結月も笑う。
「鬼の大群?」
「そう、大群。親分が叫べば新たな子分が10、20、30……どんどん増えていく、大軍団」
「うわ……そんなじゃとても退治なんて出来ないんじゃない?」
 この先に本当にハッピーエンドがあるのだろうか、興味を引かれた少年はそれを疑問の形にして口にする。結月はそれを見て取って静かに、しかしながら徐々に徐々に盛り上げるように語りを続けた。
「そうだね。魔法使いも……ええと、錠使いも、立ち塞がる鬼の大軍のせいで足を止められてしまってさあ大変」
「でもそこを飛び越えて、妖精の剣士サンが親分の相手をしに行くんダ。ネ?」
「そうそう。手下の鬼を呼んでしまう鬼の親分の注意を引きにね。でもそれどころじゃない、自分の何倍も、何十倍も大きな親分に手痛い一撃をお見舞いするのさ」
 レイラの合いの手を交えながらテンポよく、時に抑揚をつけて少年の思い浮かべる鬼の姿さえ膨らませるように情景を語り描いて行く。
「生まれた隙に魔法使いは魔法の槍を放って大軍を蹴散らして、錠使いは親分の子分を呼ぶ力を封じるんだ」
「『これ以上、お前の好きにはさせナーイっ!』」
「そ、そんなだったかなぁ?」
 朗らかにセリフを付け足すレイラに、そしてじわりと湧いた気恥ずかしさに思わず結月は苦笑して。そんな結月に、レイラもまた笑って。
「……何はともあれ。一人きりとなった鬼の親分を退治した山には、麓の村から奪われた『日常』という宝物が眠っていたのです」
 ――めでたしめでたし。
「すごいね、みんなで協力して……このお話もハッピーエンド!」
「ウンウン、物語はハッピーエンドがいいヨネ」
「やっぱり王道は悪くないね」
 ご満悦の少年に魔法使いはにこやかに。錠使いは相応しい鍵を選べただろう事にほっと一息。
「それじゃあお礼に僕もハッピーエンドのお話聞かせてあげるよ。これも山に行くお話なんだけどね、こっちは山の中にある洞窟に行くんだ」
「山の、洞窟?」
 少年の切り出した話に似た話もあるんだな、と思ったのは束の間の事。これがきっと件の伝説だろう、思い至った結月はその仔細を聞くべく、特に興味の湧いた部分を問い掛ける。
「そうだよ、それも本当にある洞窟なんだから。あの山の、あそこらへん、真ん中位にね」
 街中のベンチからでさえ全景の望める高い山の、その中腹辺り。二組四つの赤い瞳は少年の指さす先をじっと見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『灼熱迷宮の進め』

POW   :    高温多湿の環境に耐えながら洞窟内を進む

SPD   :    体力が尽きる前に洞窟内を素早く進む

WIZ   :    高温多湿に耐える対策を行い洞窟内を進む

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――昔々のそのまた昔。
――この島を大きな災いが襲いました。

――大いなる山の大いなる怒りが、青い空を黒く焼いたのです。
――怒りは山肌を伝い、空から降り注ぎ、裾野の村々やそこに住む人たちを襲います。

――そこに一人の、勇敢な剣士が立ち上がりました。
――木々を薙ぎ払い、岩をも砕く剣の使い手です。

――しかし剣士が挑まなければならないのは木々を育み、岩を抱える、山そのもの。
――そこで剣士は山の心臓を目指すことにしました。

――剣士は怒りに震える山を駆け、心臓へと続く洞窟へと踏み入ります。
――進めば進むだけ山の怒りが剣士の身を焦がしますが、剣士は恐れず歩み続けました、

――ついに剣士は山の心臓に辿り着き、手にした剣を突き立てます。
――剣は山の怒りの、その息の根を止め、島には平和が戻ってきました。

――しかし剣士は身を焦がし、疲れ果て、剣をも失ってしまいました。
――そんな剣士を、炎の精霊が誘います。

――精霊は山の怒りを収めた剣士を祝福し、一晩限りの宴を開きました。
――剣士は振舞われた酒で傷を、御馳走で疲れを癒します。

――いつしか剣士は山に挑む前よりも元気になっていました。
――嬉しくなった剣士は宴を大いに楽しみ、精霊たちと歌い、踊り明かしましたとさ。
 猟兵たちが聞き集め、持ち寄った島の伝説。
 語り手によって少々の誤差はあれど、その大筋は、そして向かうべき場所は同じだった。

 山の中腹――そこにある、山の心臓に繋がるという洞窟。
 中天にあった陽は既に大きく傾き、初夏の陽気も幾分涼しくなった頃、猟兵たちはその入口へと辿り着く。
 この奥底で、きっと伝説の真偽が判明するだろう。

 しかし一歩踏み出してしまえば、向こうは別世界なのではないだろうか。
 そんな風にさえ思わせる程の、肌に纏わりつくような熱が、その口から漏れ出ていた。
 猟兵たちが聞き集め、持ち寄った島の伝説。
 語り手によって少々の誤差はあれど、その大筋は、そして向かうべき場所は同じだった。

 山の中腹――そこにある、山の心臓に繋がるという洞窟。
 中天にあった陽は既に大きく傾き、初夏の陽気も幾分涼しくなった頃、猟兵たちはその入口へと辿り着く。
 この奥底で、きっと伝説の真偽が判明するだろう。

 しかし一歩踏み出してしまえば、向こうは別世界なのではないだろうか。
 そんな風にさえ思わせる程の、肌に纏わりつくような熱が、その口から漏れ出ていた。
鍋島・小百合子
SPD重視:洞窟の速度踏破

勇者の言い伝えから聞いてはおったが熱いのう……
このままではこちらが参ってしまうわ

「熱で事尽きる前に急ごうかの」
洞窟内の熱対策で鎧甲を脱ぎ袖通しの良い巫女装束に早着替え(籠手は着けておく)、脱水に備え水分も確保
ある程度歩を進めたところでユーベルコード「鎧装馬騎乗」発動
召喚した鎧軍馬に騎乗、火炎耐性と併せて洞窟内をダッシュで駆け抜ける
熱さで参っている猟兵がいれば水分を分け一緒に乗せてあげる
騎乗に負担のない範囲なら妖精程の身の丈の者も同乗を許す
「熱くて敵わぬじゃろう。揺れる故しっかりつかまるがよい」
「妖精の者か。わらわの懐にてつかまってもらうが一緒に来るかえ?」


浅葱・シアラ
わっ……暑い……
この洞窟の中を進むの大変そう……
でも、負けない……この先を進まなきゃ……!


【WIZ】で判定
使用するユーベルコードは「エレメンタル・ファンタジア」
高温多湿で体力が削られちゃうなら……それの対策をしちゃおう
『水属性』と『涼風』を融合して、冷たい水を含んだ涼風を作り出して、シアや他の皆を包んで、高温多湿の影響を緩和するよ
暴走しないようにきちんと制御しつつ、洞窟の中を進んでいくよ

魔法の制御を崩さないように先を進む皆にくっついて進んでいくよ

一体洞窟の中はどんな風になってるだろう……?
洞窟の先はどうなっているんだろう……?
凄くワクワクするね……!


ラザロ・マリーノ
【SPD】
暗いの狭いのは慣れちゃいるが、この温度はなかなかキツそうだな。
こんなところに入るなんて、いい度胸してやがる。さすがは伝説の剣士ってところか。

氷の【属性攻撃】で自分を殴りながら、全速力の【ダッシュ】で走り抜けるしかないな。
エコーロケーションの【聞き耳】【暗視】があるから、灯りを持たなくていい分マシか。
もっとも、溶岩がお出迎えしてるなら灯りの心配なんて無用だけどな。

まあ、話の通りなら既に誰かが通った道だ。行けねえって事はねえだろ!

※アドリブ・連携歓迎



――一体洞窟の中は、それにその先はどうなっているんだろうね……凄くワクワクするね……!
 シアラがそんな風に瞳を輝かせていた時からどれ程の時間が経過しただろうか。
 およそまともな生物が適応できないと思わせる程の熱気は、時間の感覚を狂わせるようで、背景らしい背景の存在しない単調な洞窟の風景もそれに拍車をかけていた。
「暑い……ね」
 魔力で生み出した、潤いを帯びた涼風で熱を緩和しているとはいえ、洞窟の奥底からは高温が無尽蔵に伝わって来る。
 それはつまり、常に熱を緩和し続けなければならないという事。制御の難しい、暴走の可能性さえあり得る魔法の継続使用は、魔力と集中力を用いての山との根競べの様相を呈していた。
「シアラのお蔭で随分助けられちゃいるが、この温度はなかなかな。ったく、伝説の剣士って奴は良い度胸してやがる。こんな所に入るなんて」
 羽ばたく妖精の数メートル先、ラザロが手にした松明で洞窟内を照らしながら先行している。
 洞窟に踏み込んで以降、分かれ道に遭遇するたびに複数の班に分かれながら進んできた猟兵たち。ラザロは自分の居る班が今の人数になって以降常に先頭に位置取っていた。
「勇者の言い伝えから聞いてはおったがのう……このままではこちらが参ってしまうわ。ほれシアラ殿、水じゃ」
 シアラのすぐ後ろ、最後尾では小百合子が現状洞窟内の熱に抗する生命線であるシアラの様子を見守り、気遣いながら歩を進めている。
「わ、ありがとう小百合子。貰うね……」
「よいよい。シアラ殿はわらわたちの為に頑張ってくれておる故な。ラザロ殿も飲むかえ、灯りを手にしていては尚暑いじゃろう?」
「俺はまだいい。自前でも何とかしてるしな」
 貰った水分に喉を鳴らすシアラとは対照的に、ラザロは小百合子の提案に首を横に振る。彼は時おり冷気を纏った拳で胸を叩き、尾では背を打ち、体温の調整を殴って解決していた。
「では役割の交代はどうじゃ?」
「隊列もこのままが最適なはずだ。……俺は夜目が利くからな」
 続く提案にも首を横に振るラザロ。
「……そうかえ」
 しかし断られた小百合子の表情は穏やかなものだった。それはきっと、ラザロの思惑を察していたからだろう。
 後ろを行く者には松明が光源になるとはいえ、そう遠くまで先を照らせるわけではない。加えて先を行く者には限られた光源で目を凝らし、耳さえ研ぎ澄ませ、行く先に危険がないか気を配る事も求められる。
 言わば彼は後続の二人の灯台になるべく、松明を手に先頭を進んでいるのだ。
「ならば、うむ、このまま頼むとしよう」
「ありがとうね、ラザロ。シアも負けない……この先を進まなきゃ……!」
 そんなラザロの背中は小百合子とシアラを確かに勇気づけ、引っ張っていた。

 着実に歩み続けた三人。彼らの瞳に映る、代わり映えのしなかった洞窟内の風景が、徐々にその様相を変化させていく。
「道、広くなってきたね。えへ、ちょっと開放的かも」
 広がるように広くなった道幅、高くなった天井。ぽっかりと開いた空洞のような場所に三人は辿り着いていた。
 狭い空間を移動し続けていたことで感じていた息苦しさが晴れていくようで、シアラの表情も明るい。
「これなら走れそうじゃ。熱で事尽きる前に急ごうかの。……出でよ!」
「走る? 俺は構わねぇけど、そっちは平気――」
 揚々と口にした小百合子にラザロが振り返るころには、彼女は小手を残して武者鎧を脱ぎ去っており、
「……そうだな」
「おうとも」
 鎧を纏った軍馬が彼女の隣で嘶いていた。
 召喚された軍馬、その身の丈は凡そ一寸。巨馬と呼んで差し支えないそれに小百合子は脱いだ鎧を載せ、自身も跨り鐙に足を通す。
「さ、シアラ殿。ここからはより一層シアラ殿の術が頼り故な」
 言って、彼女は身を包む巫女装束の襟に手をかけ、ぐいと開いてシアラに差し出した。
「集中しながら速度を合わせるのは大変じゃろう、わらわの懐にて掴まってもらうことになるが」
「そっか、走ったらもっと暑くなるもんね……! うん、それじゃあ……お邪魔して、シアは周りを冷やすのに専念するよ」
 ふわりと飛び寄り、すぽりと懐に収まるシアラ。翅を休め、身体を休め、その分だけ魔法の維持と更なる冷却に注力する。
「準備できたかよ」
 二人の様子には背を向けていたラザロだったが、会話から事の成り行きとその決着を察して声を上げる。
「うん、大丈夫だよ! ラザロは平気?」
「万端じゃ。なんならラザロ殿も乗っていくかえ?」
「……まだ参ってねえ。さっきと変わらず、隊列はこのままだ。行くぞ!」
 二人の声に彼は三度首を横に振る。
 洞窟内の空間に、駆ける靴音と蹄音が木霊していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆アドリブ・絡み歓迎


随分突拍子もない伝説だよな……
……普通はこういうの「面白そう」とか思うもんなのかな
どうにも、俺にはわからないな

ま、請け負った仕事だ
最後まで付き合うさ
連れは街で待ってるらしいし
まあ、とりあえず進むか
……知り合いでも捕まえられれば都合がいいんだけど
誰かしらいそうだしさ

洞窟内の音を拾いながら進む
反響音や風の音で構造はある程度把握できるかな
なるべく最短で奥までいけそうなルートを選定しよう

目で視て判断できる危険な場所は避けつつ
明らかな危険がなくても、常に音を気にして危機感知は怠らない
……こんだけ熱いと溶岩流とかも気にした方がいいのか?
だとしたら、流れの上方へ行けば奥へ辿り着くかな


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――では、此よりミッションを開始する。

(ザザッ)
WIZ及びSPDを選択。
現場たる迷宮前へと取り急ぎ移動。
――高熱の環境は些か鉄の体にも厳しいな。適宜対策を取るとしよう。

"サンダークラウド"を召喚。上空より迷宮を偵察、内部の形状探知。目標へと到る最短経路を検索し進む。

熱が過剰に蓄積する前に、UC『Craft: Bomb』で生成した"凍結弾"で任意の箇所を起爆、冷却スポットを作り出し適宜休息を取る。
他にも休息が必要な友軍が居れば共に休むのも良いだろう。
武器や肉体が鋼製の者が該当すると思われる。

本機の作戦概要は以上、此より実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッハー、お次は火山探索か。グズグズしてると体力をごっそり奪われかねないな。対低温の手段何ぞいくらでもあるが、高温相手じゃ対策もがあまり無い…ここはスピード勝負でいこう。

ユーベルコードによる偵察ドローン達をフル動員して、分岐路を片っ端から洗って【情報収集】だ。行き止まりや進行不可を除外して、ルートをどんどん絞っていって、【ダッシュ】で進んでいこう。
道中は常に【聞き耳】を立てて異変に対してアンテナを張っておこう。
天然の罠なんかがあったりするかもしれねーからな。

しかし、山の怒りを殺した英雄譚とは…また随分とヒロイックな物語だな。
さて、今回猟兵が紡ぐ火山探検は、どうなるかな?
ま、俺は端役なんだけど。



「一人の剣士が山に挑む。随分突拍子もない伝説だよな……」
「あー……また随分とヒロイックで……。端役にゃこの探検はきついぜ……」
 洞窟内を行く小集団の一つ、匡とヴィクティムが肩を並べて歩いている。
「ま、請け負った仕事だ。最後まで進むしか……そこ、段差あるから気を付けろ」
 片や酷暑の中であっても何食わぬ顔で、目と耳を研ぎ澄ませながら歩を進め、
「おーう……あ、次の分岐右な……」
 片や熱に炙れら項垂れながら、洞窟内に飛ばしたタクティカルサーチドローンより送信されてくる情報を元にルートを選択していた。
「…………なあ匡、暑くないわけ?」
「いや暑いに決まってるだろ、俺を何だと思ってるんだ? まあそっちよりはマシとは思うけどさ」
 ヴィクティムの問いかけに苦笑を浮かべる匡。汗こそどうにもならないものの――いや、汗をかくからこそ、その気化熱によって多少なりとも暑さから守られていた。
「の割には平然としてるじゃねぇか……。気遣いどーも……」
 一方のヴィクティムはといえば、身体に纏うのが、或は身体そのものが各種デバイスだ。
 電子機器は熱に弱ければ、人体と金属の比熱の差は言わずもがな。機能と能力とを損なわないために冷却能力も有してはいるが、凡そ棲みつける生物の存在しないだろうこの高温環境では、その消耗は著しい。
「姿勢崩して歩いても余計な体力使うだけだろ? 口を開けてれば余計な水分が飛んでく。普通に歩いてるのが一番消耗少ないんだよ」
 それは街中を行くのと変わらないような、平然とした、涼しげな口ぶり。
 彼の口にすることは正しく聞こえるが、しかしそれを誰しもが実行できるかといえば、往々にして否。
 五感から得た情報は精神に変化を与えるものだし、精神に動きがあればそれは思考に影響を与える。実行するには並々ならぬ忍耐力で何れかを抑えるか、或は――
「――でも、ま、結構歩いたしな。一度休むか。俺よりヴィクティムより、多分あっちが一番きつい」
「おう……。ジャーーーック、悪いがまた冷却頼む……」
 鳴り止む二人分の靴音。その後方、数歩分遅れて物々しい金属音も止まった。
 匡とヴィクティムとが並んで歩ける程度の幅の道を一匹の獣が、その巨体故に慎重に進んでいたのだ。
《――了解した。凍結弾の生成を開始する》
 多湿の空間に乾いた砂嵐の音。全身鎧の威容、機械の黒豹、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)は二人に追いつくと、言葉通りに投擲弾の作成を始める。
 作成した投擲弾は六つ、纏った機械装甲の射撃機構に装填し、
《生成完了。――冷却開始》
匡に一つ、ヴィクティムに二つ、自身には三つ、それぞれの足元へと撃ち出した。
「あ”ー冷やっこい……」
 弾頭は地面に接触すると爆ぜ、白煙を周囲にばら撒く。霧は空間に満ち、空気と溶け合うとその熱を奪い、多分に含まれた湿気を凝縮。液体に戻った水分は壁面を濡らし、伝い、更なる冷却によって凝固さえさせられていく。
《高熱の環境は些か、鉄の体には厳しいからな。適切な冷却は必須だ》
 急速に下降する周囲の空間温度と体温に、凝縮と凝固の道を辿った水分とは対照的に、ヴィクティムの表情は分かりやすく弛む。
 ジャガーノートもまた、表情の変化こそ伺えないものの、束の間の涼に気分を落ち着けているだろう。何せ彼の、少なくとも目に見える体表は金属率100%。当然ヴィクティムを上回っているし、鎧の内部温度がどうなっているか等推して知るべしだ。
「その分有難さも一入だな。助かったぜジャック。地獄に仏ってやつだろ、神様仏様ジャック様ってな」
《気にする事はない。本機に実行可能な対処を遂行したまでだ。――ふっ、仏と呼ぶには物々しいだろう》
 笑い声と砂嵐とが交わされ、涼やかな洞窟に談笑が――暖笑が響く。ヴィクティムの軽口に、硬質そのもののジャガーノートの表情すらどこか柔らかく感じられるようで。
 匡はといえば、ひやりと冷たい壁面に背を預け、楽しげな二人をぼんやりと眺めていた。
「(……やっぱり俺には――)」
 しかし二人の声は、そして匡の思考はすぐに中断されることとなる。
 断続的な異音が進行方向から響いてきたのだ。
「これ何の音だ?」
「あー……ドローンが限界みたいだな、やっぱこの環境じゃそう長くは飛べねえか。稼働の長い奴から落ちてってる」
 一つ、また一つと消失していくドローンの反応。ヴィクティムは渋い顔で進行方向を見据え、故障して消滅した分を補うべくドローンを再生成する。
《流石に遠方までは冷却できないからな。――すまないヴィム、本気の能力不足だ》
「ジャックが謝る事じゃねえって。しっかしどうするかね、まだマッピングは終わってねえし……」
「……いや、これはこれでいいんじゃないか? 寧ろヴィクティム、分かれ道があったら積極的に落してくれ」
一筋縄ではいかない洞窟探索、能力を発揮する者が居れば知恵を出す者も居る。匡は壁に預けていた体重を両足の上へと戻し、一歩踏み出す。
≪――反響定位か≫
「そういうこと。ドローンには最後まで役に立ってもらおう」
 反響定位。またはエコーロケーションとよばれる、音や超音波の反響を以って周囲の状況を知る術。匡は機能不全に陥ったドローンの落下音を利用し、それに近い事が出来ないかと思い至ったのだ。
「オッケー。主役の花道になるなら甲斐もあるってもんだ。んじゃ探索再開といくか」
 ドローンの統括者も彼の提案を快諾し、猟兵たちは徐々に温度の戻り出したその場を後に、伝説に謳われる山の心臓を目指して歩き出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

祇条・結月
レイラ(f00284)と。

興味深い伝説だよね。炎の精霊が疲れ果てた勇者を癒す、か……
そんな伝説の元になるものでもあったのかな。

事前に水分補給とか探索準備を整えてくる。
体力もだけど朦朧としての判断ミスも怖いし。

探索なら僕が前に立つよ。【暗視】や【ロープワーク】で進みにくい場所も手早く進めるように。レイラにも手を貸していく

念のため【罠使い】でなにか仕掛けがないかは適宜確認
人工洞窟だったりしたら嫌だし。

万が一戦闘時は苦無の【投擲】と【スナイパー】で手早く戦力を奪う。深追いしないで、探索重視なレイラを守ることを優先。

頼りになってる? あはは、なら嬉しいけど。
そうだね……この探検もきっと思い出に。


レイラ・エインズワース
祇条・結月(f02067)サンと

ネ、しかもこんなに広く伝わってるナラ、何か素敵なものがありそうダヨ
こうも暑いと大変だケド、頑張って探していこうネ

飲み水と、探索の道具を用意して
サァ、洞窟探検と行こうカ
カンテラの灯りで照らしテ、祇条サンをサポートするヨ
【世界知識】や【情報収集】で洞窟の構造を把握シテ、できるだけ奥に伸びる道を
呼び出した怪盗にも奥へ行く道を探してもらおう
エ、モノ以外は専門外? ソコハ頑張って、ネ?

こういうのはあんまり得意じゃないケド
祇条サン頼りになるんダネ
何が待ってるかわからないケド、きっといい思い出になりソウ
楽しみダネ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ
好きに動かしてネ



 ――潰えた夢を数えヨウ。交わした約束、間に合わなかった手。
 蛇行して。
 起伏して。
 複雑に入り組んだ洞窟の中。
 ――幼子の為に立ち上がった怪盗の見た夢。過去の幻だとしても、
 反響して。
 残響して。
 少女の囁く声が岩土の壁面を伝う。
「今再び夢は舞い戻る。……怪盗さん、そっちの道をお願いしていいカナ」
 二つに枝分かれする進路、その分岐点を藤色の灯が照らしていた。
「……エ、モノ以外は専門外? ソコハ頑張って、ネ?」
 藤灯る角灯の持ち主、レイラの呼びかけに応じて喚び出された怪盗。初老にこそ見えるが怪盗としてのキレのある動きでレイラの顔を二度見している。
「ふふっ。僕からもお願いするよ、怪盗さん。それに物じゃないかもしれないけれど、伝説に纏わる何かがあるかもしれないんだ」
 どこかユーモラスな二人のやり取りに小さく肩を揺らし、結月も怪盗に頼みを告げる。
 この洞窟内で同行する少女に単独行動させる訳にもいかない、そんな結月の気持ちも汲んだのだろう、怪盗は二人に背を向け、示された道にブーツの硬質な靴音を響かせていった。
「ヨシ、私たちも行こうカ」
「そうだね。あ、水分補給は大丈夫?」
「まだ大丈夫……と思うケド、飲んでからにしようカ。何かあってからじゃ遅いもんネ」
「うん。朦朧として判断ミスしたら怖いし、小まめに飲んで良いコンディションを保とう」
 二人は揃って水筒の水で喉を潤し、洞窟内で失った水分を補給する。身体の渇きを潤すことは気持ちにも潤いを与えるようで、慎重ながらも軽やかな足取りで探索を再開した。
「……にしても、炎の精霊が疲れ果てた勇者を癒す、か……。興味深い伝説だよね」
「ネ、しかもこんなに広く伝わってるナラ、何か素敵なものがありそうダヨ」
 藤色に照らされる土、岩肌、そして結月とレイラの姿。
 結月が一歩前を行き、角灯の灯りを頼りに目を凝らす。
「うん、今回の仕事の目的でもあるしね。この先でそれが見つかると……いいんだけど」
「こうも暑いと大変だケド……ふう、頑張って探していこうネ」
 天井から突き出た岩を潜り、でこぼこの斜面を昇り、壁面に人工的な仕掛けがないかさえ気を配り、必要とあらばレイラに手を差し伸べて。結月は四方八方に注意を払っていた。
「もしかしたら怪盗さんに先に見つけられちゃったりしてね」
「エーっ。フフ、それは困っちゃうナー」
 その甲斐あってかレイラの足取りは安定したもので、暑さはやはりあるものの、彼女の表情は変わらずにこやかで、穏やかで、
「私サ、こういうのはあんまり得意じゃないケド……祇条サン、頼りになるんダネ」
 それと同様の心持ちのまま、結月の背中に語り掛ける。
「……頼りになってる? そうかな……あはは、なら嬉しいけど」
 彼は振り返ることなく、だが口にした言葉には確かに喜色が乗っていて。
「ソウだヨ。もし私一人だったら心細かったシ。だからコノ大変な探検もきっといい思い出になりソウ」
「……そっか。そうだね……この探検もきっと思い出に」
 結月の助けでレイラの足取りが安定していると言うのなら、レイラの言葉もまた結月の足取りを確りとしたものにさせていた。
 相も変わらず振り返る事はなかったが、その表情が藤色に照らされることはなかったが、きっと結月もにこやかで穏やかなまま、この洞窟を進んでいけただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリア・エーデルワイス
WIZ
山の中央へとつながる洞窟…この先にその伝説に通じる場所があるのですね。
とはいえこの熱さは…長く居れば身を焦がしてしまうほどの熱量です。
少しでも早く心臓部へとたどり着かないと…!

この高温を乗り切るために、まずは【オーラ防御】を張って熱を遮断できるか確認します。
その後はなるべくはぐれないよう、皆さんの後をついていく方法で進みたいと思います。

洞窟内で疲れや行動不能が目立つような方を見かけた場合は、【未来謳う生命讃歌】で回復しながら先へ進みましょう。
「剣士と精霊が歌い、踊り明かした場所…どんな光景だったのでしょうね」
歌を歌って皆さんを励まして、辿り着きましょう…!


シャルロッテ・エンデ
WIZ
アドリブ連携歓迎

いよいよ、溶岩ダンジョンに挑むでち
応援よろちくでちゅ!
(視聴者に手を振るシャルロッテ)

異世界TVで、猟兵たちの冒険の様子を
さっき情報を教えてくれた街の人々にも
中継してます

同時に、女神の化身が光のカーテンで
寒暑から味方全員を守ってくれる
自前の火炎耐性も活かし
暑さ対策にチェインメイルを脱いで
神官衣とエルヴンダブレットをメイン防具に

それと、適度に岩塩を溶かした水入り革水筒
鍛治の民ドワーフが、このくらいで
バテるわけにはいかないでちゅ

洞窟内の危険箇所も見極め、地形の利用で
ボス戦への余力を残して奥へ進むでち
暗い場所では、トナカイヘルムのヘッドライト使用



 時は遡り、猟兵たちが分岐路によって小集団に別れて間もなくのこと。入り口からはまだ浅い場所にドワーフとオラトリオ、そして二人に微笑みを向ける女神の化身の姿があった。
 女神はその権能により猟兵の探索の様子を、街中に投影することで中継している。
 ――女神による中継番組『異世界TV』。女神の放つ光のカーテンを照明に、今はその特別企画の真っ最中だった。
「いよいよ、伝説のダンジョンに挑むでち。みなしゃん応援よろちくでちゅ!」
 ドワーフの――種族特有の小柄な容姿も相まって違和感はないが――自称びしょうぢょ、シャルロッテが観客である街の人々に向け大きく手を振れば、被ったトナカイヘルムが合わせて揺れて、ヘッドライトの赤い光も右に左と尾を引いた。
「ささ、セリアしゃんも!」
 次いでシャルロッテは、隣を行く共演者の袖をくいくいと引く。
「私もですか? ええとー……頑張ってきますね、よろしくお願いします」
 彼女に促され、オラトリオの修道女セリアは女神に向けて謙虚に頭を垂れる。
 出演者二人の顔色は、小さく汗こそかいているものの、酷暑の洞窟内にあって街中に居た時のまま。
 二人それぞれオーラを纏って熱に対処し、女神もまた光のカーテンで以って高温の環境から二人を守っていた。
「洞窟の中は岩がごろごろ、湿度もすごいでちね」
「ええ。それに女神さまに守って貰っているとはいえ、それでもこの暑さ。長く居れば身を焦がしてしまうかもしれませんね」
「鍛治の民ドワーフが、このくらいでバテるわけにはいかないでちゅ。何かあったらセリアしゃんを担いで進みまちゅよ」
「ふふ、頼もしいですね。ですがシャルロッテさんに、それこそおんぶにだっこでは申し訳ないですから、少しでも早く心臓部へとたどり着かないと」
 視聴者に向けて洞窟内部の様子をリポートする二人。
 シャルロッテは手慣れたもので、あどけなさの感じられる腕に力こぶを作って見せたり。そんな彼女に引っ張られるようにセリアもふわふわと、自然体で探索とリポートをこなしている。
「……そうだ。シャルロッテさん、歌なんてどうでしょう? 洞窟の中は暗いですけれど気持ちが明るくなりますよ」
「あ、いいでちゅね、歌のコーナー! 街の人たちにも届きまちゅよ」
 女神の庇護を一方的に受けている現状に思う所があったのだろう、はたと思いついたサリアの提案。彼女の申し出をシャルロッテはサムズアップで快諾した。
「ん、ん。それでは……『聖なる愛よ、燃え盛る命の灯火は太陽のように輝いて。そしてまた明日を導くだろう――』」
 洞窟の中を伝っていく、セリアの紡ぐ讃美歌。歌声は不規則に並ぶ岩肌を跳ね、揺らぎ、重なって、自然によって齎された神秘的な厚みと共にシャルロッテの耳を揺らす。
 全周から響く詩歌はドワーフを優しく包み込み、耳だけでなく肌身にも染み渡るようで、彼女の身も心も最良のコンディションへと引き上げていった。
「――……ふう」
「素晴らちい歌だったでち、セリアしゃん! きっと街の人たちの心にもひび~たと思いまちゅ!」
「ふふ、楽しんで頂けていたら幸いです。……剣士と精霊の歌も、それに踊りも、こんな風に洞窟に響いたのでしょうか……どんな光景だったのでしょうね」
 歌声に続くのはシャルロッテが打ち鳴らす、そして洞窟が響かせる万雷の拍手。セリアはにこやかにお辞儀して、伝説に謳われる光景に思いを馳せるのだった。
 彼女たちの探索は、中継は、恙無く終始和やかに進んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

作図・未来
まさか、勇者が立ち向かった相手が凶暴な獣や霊の類ではなく、山そのものだったとはね……。
そうなると今回戦う相手は大自然の脅威ということになるな。
獣や霊のように、いつもの武器を持って対峙する相手との戦いとは違う。目に見える全てに気を払わないといけない。
……厳しい戦いになりそうだ。気を引き締めていこう。

死者の舞踏を展開しながら進んでいこう。
彼らの冷気を上手く使えば多少は熱さを軽減することができそうだ。
それに、大自然ということは野生の獣がいるかもしれない。索敵もかねて数が多いことにこしたことはないだろう。

ああ、そうそう。
洞窟は暗かったり地形が悪かったりするかもしれない
足元にはよく注意して進まないとね。


クロヴィス・オリオール
……大口ぽっかり開けやがって、食う気満々ってか。
はーぁ、こないだまで寒かったのがよーやくマシになってきたかってところでこんなモン用意してくれやがって……ったく、極端すぎンだっつの。
ンなクソ暑いとこじゃタバコもうまくなさそうだ、吸う価値がねェ。(洞窟内部の酸素を無駄遣いしそうなタバコをしまう)

さてしょーがねェ、腹くくっていくとするかね。
熱い空気は上にいくっつーくらいだし、飛んでくのは下策か?
そしたらちっと面倒くせェが歩くとするか……って、あ、おい待…、いやさすがにこうして歩くと他の奴らと歩幅が全然違ェな!?

やー、誰かのなー!肩とかに乗れたらなー!楽なんだけどなー!?(ちらちらっ)

※アドリブ歓迎


天命座・アリカ
やってきたのさ本丸へ!探検するのさ迷宮を!
果たして伝説の真相は!解き明かそうか物語!
チャンネルはそのままでお願いするよ?
(ぽろろーん。ウクレレが気に入ったらしい)

探検隊は山の中!洞窟へ足を踏み入れる!
しかしてどうして熱気がすごい!天才だってね暑いんだ!
とりあえず対策を講じよう!私は茹でても美味しくないさ!

演算処理がね追い付かないね!カチューシャが悲鳴を上げている!
はらひれほれ……。嗚呼、どこからか天才美女を讃える声が聞こえるような……
え、えっと、氷枕を再現して……適宜氷を補充しよう……
すごくリソースの効率が悪い気がするがさ……頭を守るの重要だ……
この私だって駄目な時は駄目なのだよ……



 洞窟を行く足音が一つ。
「そっちは……そうか、何も無かったか。ありがとう」
 しかし気配は幾多。
「中々厳しいな……流石は大自然、流石は勇者の立ち向かった相手か」
 音の主、未来は帽子をはたはたと宙で打ち、生まれた風で面を扇いでいる。
 彼の周囲にはツルハシを携えた影――坑夫の霊が無数に同行していた。
「……よし、探索を再開しよう。前と後ろの警戒、お願いするよ」
 帽子を被り直し、表情を引き締めて再び歩き出す。霊達は声も無くそれに付き従った。
 未来は帯同させる霊の放つ冷気によって洞窟内の蒸し暑さを減じさせ、時には分かれ道の先の索敵も任せていた。
 環境への対処を一人で賄えることもあって彼は単独行動に踏み切ったわけだが、
「…………こういう時誰か、そうだな――」
 体温のある話し相手というのは、一人で賄えるものではなかった。

 洞窟を行く足音が二つ。
「演算処理がね……追いつかないね……! カチューシャが悲鳴を上げている……!」
「お蔭でオレぁ六倍の歩幅に追いつけてるけどな。しかし……ったく、ぶっ倒れるより前に引き返した方がいいンじゃねェか?」
 しかし影像は一と六分の一。
「何を言うんだクロヴィス君……やっと来たんだ本丸だよ……!? 探検しなくちゃ迷宮を、解き明かさなくちゃ物語を……!」
 ぽろろん、とアリカがウクレレを掻き鳴らして抗議の声を上げる。
 しかし熱で弦が緩んだのだろう、調律の狂った音が奏でられるばかりで、持ち主であるアリカも溌剌とした普段と比べ弛んだ――いや、くたくたな様子だ。
「なら泣き言わねェで腹ぁ括れ。こっちもこっちで不便はしてンだぜ?」
 彼女の隣、下方。クロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)が脱力した顔で咥えた煙草――火の点っていないそれをひょこひょこと動かし、気だるげに纏った衣服の胸元を緩めている。
 彼は僅かでも温度の低い場所を移動しようと翅を動かすことを止め、妖精の足と歩幅で洞窟に挑んでいた。
「この私だって駄目な時は駄目なんだ……天才だって火山は暑いんだ……! 何か冷たいもの……と、特別ゲスト……!」
 頁を手繰るのも億劫なのか、取り出した書の確認もそこそこにそれを閉じるアリカ。小さくパタンと響いた音に一泊遅れ、頭上から氷嚢が落ちて来て頭頂部に着地する。
「……っく~! これだこれ! クロヴィス君、キミも使うといい!」
 氷嚢が彼女の頭部とカチューシャ――カチューシャ型の演算及び記録用デバイスの熱を徐々に取り除いていく。
「いや、袋は」
 クロヴィスの頭上から落ちてきたのは一粒の氷。これまた頭頂部に着地していて、しかし周囲の熱に早くも溶けだしていた。
「生憎フェアリーサイズは収集不足だ! 水も滴るいい男と言う事でね! 勘弁して欲しい!」
「マジで滴らせるヤツがあるかよ……」
「泣き言は言わない約束だろう? 腹を括りたまえ! さ、探検再開だ!」
「あ、おい待っ……! 復活したなら肩にでも乗せてけ!」
 冷気によって普段の調子を取り戻したアリカがジョギングでもするように駆け出す。彼女の後を、クロヴィスは止むを得ず低空飛行で追うのだった。

 別に心細くなったわけではない。寂しくなったわけでもない。
 ただ彼は、明るい話や笑顔が好きな少年なのだ。不得手とはいえ、喋るのが好きな少年なのだ。
 だから暗く静かなこの洞窟に誰かを求めた。言葉も表情も明るい、多弁な誰かを。
「――天命座君とかが居たら、賑やかだったろうな」
 無意識だろうか。
 それとも空想が口から出てしまったのだろうか。
 周りには霊達しか居なかったから、気にする事も無く一人の名前を挙げていた。
 ……その折、前方から声が聞こえてくる。

 ――はらひれほれ……。
 ――調子に……だ! 氷補充しろ、……!
 ――向こうから……を讃える声が……気がしてね……。

「……ん、他の猟兵たち……か?」
 耳の届いたのは二人分の、恐らく会話しているだろう声。
 あえて避ける理由など無く、未来は合流を目指して前進する。
 洞窟の中に求めた灯を見つけた気がして、歩を進める。
 程なくして彼が見つけたのは、
「オイオイ、いよいよ幻聴まで聞こえてきたんじゃねェか?」
「この天命座だよ! 頭脳明晰!容姿端麗!文武両道!才色兼備の!天才美女だよ! 聴力だって完全無欠の……」
「……天命座君? それにオリオール君も」
 桃髪の天才美女と妖精の賭博師だった。

 洞窟を行く足音が二つ。
「持つべきものは信頼できる友だね安心できる仲間だね! 助かったよ未来君!」
「いやマジで。至れり尽くせりだわ」
「ふふ。役に立てたなら……うん、よかったよ」
 しかし声音は三人分。
 霊たちの放つ冷気でアリカは今度こそ状態を整え、クロヴィスは未来の肩に腰を降ろし、足を組んでいた。
 未来はといえば、穏やかな表情で二人と言葉を交わしている。
 三人が合流したのは丁度三つの道が交わる分岐点。それぞれがやって来た道を選択肢から排し、残る一本を揃って歩いていた。
「それに僕も、丁度誰かと話したいと思っていた所でね」
 ――だから、ありがとう。
 少年は話し声と笑顔に照らされ、仲間を熱気から護りながら、賑やかになった探索の道を行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『炎の精霊』

POW   :    炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 偶然か必然か。一組、また一組と合流を繰り返し、一度は別行動をとった猟兵たちは道すがらに再会を果たし、遂には再び全員での行軍となる。
 彼らが辿り着いたのは、ここが山の中、洞窟の中だという事を忘れさせるような空間。天然の大広間。差し込む明りこそないが、広々とした光景に閉塞感は置き去りにされるようで。
 ――しかし同時に、熱気も高まりを見せていた。
 
 異様な熱。
 この山が活火山だという情報を得ていた猟兵たち、彼らは思い思いに対策を講じてきたが、疑念が浮かぶ。
 果たしてここまで暑いものなのだろうか。
 道中で流れる溶岩を目にした者は居なかった。
 山が震えるのを感じた者も居なかった。

 ――死んじゃいないそうだけど今は穏やかなもんさ。
 誰かが、街で得た、そして全員で共有した情報を思い出していた。

 今は穏やかな、活発な活動を見せていない、しかし過去には噴火した記録を持つ山。
 であればこの活火山は、古い定義では休火山と呼ばれるべきものなのでは。この暑さは何か別の原因が――。

 猟兵たちの思案は突如吹いた熱風に寸断される。
 風の吹いてきた先、この空間の奥で空気が陽炎のように揺らめいていた。
 揺らめきが朱に、紅に、橙に色付き、いつしか空間を照らす炎に。
 炎は集まり、溶け、煉り合わさり、いつしか四肢を持つ獣の姿へ。
 獣が一歩踏み出せば、炎の毛並みを揺すれば、その身体から舞い飛んだ火の粉が連なって、次々と新たな獣を生み出していく。

 熱と共に伝わる元素の魔力に、猟兵の幾人かはそれが炎の精霊だと知覚した。
 肌を刺す殺気に、猟兵たちはそれがオブリビオンであることを直感した。

 未だ洞窟の最奥までは道半ば。
 伝説の真偽を確かめるならば、立ち塞がる炎獣の群れ――炎の精霊たちを打ち倒して進まなければならない。
浅葱・シアラ
ひぅ……!?
こんなに熱かったのは炎の精霊さんのせいだったんだね……。
伝説の真実、島の冒険の果てに見るもの……シアはそれを確かめたい、だから……邪魔しないでほしいな……!


使用するユーベルコードは『神薙胡蝶蘭』
熱や炎をつかさどる精霊に炎熱はご法度だよね……
だったら、敢えて、刃の花弁を咲かせて見せよう!
鉄塊剣を胡蝶蘭の花弁に変えて、花弁は刃となって嵐に乗って吹き荒れる!

【属性攻撃】で嵐がもつ風属性を、【全力魔法】で魔法そのものを強化して、【高速詠唱】で何度でも発動させるよ!

魔法を纏った花弁の刃は例え炎熱にだって燃やされない!
吹き荒れる風は炎熱さえも冷やしていくよ、きっと!


セリア・エーデルワイス
この炎の精霊がこの熱さを生み出した原因だったのですね。
オブリビオンである以上、貴方達を倒さねば伝説へはたどり着けそうになさそうです。
「人々の危機を脅かすのであれば、聖者として務めを果たすまでです」

私は基本的に攻撃は行えませんが、せめて複数いる炎の精霊を引き付ける役目を請け負いましょう。
【オーラ防御】で身を守って他の方の攻撃を守りつつ、こちらへ攻撃を引き付けます。
なるべく距離を取って逃げ回りつつ、【神よ、人に導きの手を】を使って相手の動きを封じ込めます。
「皆さん、今が好機です!」
無事に動きを封じたら、皆さんを呼び掛けて攻撃をお願いします。

※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎



「ひぅ……!? また熱くなった気がする……!?」
 空間を伝う熱がシアラの身体を仰け反らせる。吹き付ける熱風は彼女の翅を押し後退らせる。
「この炎の精霊たちが熱さを生み出した原因だったのですね」
 燃え盛る四肢で地を焦がしながら、一歩、また一歩と猟兵との距離を詰める炎の精霊たち。
 おっとりとした、柔和な顔立ちを引き締め毅然と相対するセリアの蟀谷には、汗の一滴。それは多量に熱を抱えた大気のせいか、はたまた緊迫を孕んだ空気のせいか。
「でもシアは伝説の真実を……島の冒険の果てに何があるのかを確かめたい。だから……」
 シアラの右目に戦う意思が灯る。瞳の鮮やかな緑は滲み、意志はその色を赤く染めていた。
 彼らを倒さねば伝説へは辿り着けない。
 その認識をシアラとセリアは視線に乗せて交わしあい、同時に頷いていた。
「邪魔しないでほしいな……!」
 翅を打ち振るい、風を裂き、自身の身の丈ほどもある大剣をその手に構え、熱の只中へと突撃していくシアラ。
 振り上げ、そして降ろされる精霊の前足。しかしシアラは手にした得物の重量を感じさせない、軽やかさな動きでそれを躱し、懐に潜り込む。速力を落とさぬまま掲げるように大剣を構えれば、刃が精霊の腹を撫で、縦一文字の斬り傷を残していった。
「よしっ、この調子で……ひぅうっ!?」
 しかし股下を抜けたシアラを待ち受けていたのは、また別の精霊。
 巣穴を飛び出した鼠に猫が飛びかかるように、精霊が力強く跳躍し、シアラを地に叩き伏せんと飛び込んでくる。
「危ないっ」
 しかしシアラに迫る影は、更に一つ。
 横合いから飛び込んだセリアがシアラを抱きかかえ、強引に彼女の進路を変える。
 倒れ込んだ拍子に土煙が上がり、セリアの装いを汚すが、気にしている暇もそのまま転がっている暇もありはしなかった。
「お怪我はありませんか?」
 腕の中のシアラにふわりと微笑むと、セリアは妖精を抱えたまま立ち上がり、駆けだす。
「だ、大丈夫だよっ! セリアは、セリアの方こそ大丈夫っ!?」
「平気ですよ。私は聖者としての務めを果たしたまでです、どうかご心配なく」
 彼女は纏うオーラの守りによって、振り下ろされた爪の直撃を免れていた。
 ……しかし、至近に迫りオーラの上で空を斬った精霊の爪はセリアの衣服を焦がし、黒い爪痕を、衣服の内の身体には引き裂かれたような火傷を残していた。
 それでも修道女は――聖者は、笑みを絶やさない。慌てた様子の少女を安心させるように慈愛を溢れさせる。
「シアラさん、私はこのまま精霊たちを引き付けます。ですから攻撃、お願いしてもいいですか?」
「……わかったよ! シアラに任せて!」
 笑顔も、時として戦う意思を示すことができる。この位で折れはしないと、まだ立ち止まらないと、務めを果たし続けると。
 だからシアラはセリアの笑顔を信じて頷くのだ。それを疑ってしまえば、自分の瞳を染める赤を、父親からの贈り物を、自分の意志を疑う事になってしまうから。
 洞窟の天井近くまで、ぐんぐんと飛びあがっていく妖精を見届けて、聖者はゆったりと速力を落とし、立ち止まって後ろを振り返る。
 迫るのは三匹の獣。炎の毛並みで擦れ違う空気を熱し、露わにした爪で岩を掻いて、動きを止めたセリアとの距離を瞬く間に詰めて来るが、セリアは動じない。
 剰え迎え入れるように、両の手を広げて差し出す。
「……どうか私の声を、言葉を聞いて」
 彼女の穏やかな声音と共に放たれたのは、肌に纏わりつく洞窟の熱気とは別物の、柔かな熱。それは精霊たちを照らし、包み込み、
「シアラさん、今が好機です!」
 猛る炎熱の動きを鎮静させてしまう。
「うんっ、全力でいくよっ!」
 合図を受けたシアラは手にした大剣を逆手に握り、それを動きを止めた精霊たち――いや、彼らの踏みしめる洞窟の地面目掛けて投擲した。
 空を裂き、下へと突き進む金属塊。瞬く間に地面へと近づくが、シアラが詠唱を終えるには、全力の魔力を注ぐには十分すぎる時間だった。
「綺麗な胡蝶蘭だって――」
 大剣はしかし、洞窟に突き立つことはなかった。鈍い音を立てて砕ける事もなかった。
「時に炎を切り刻む牙になるんだから!」
 ただはらりと柔らかに解け、無数の胡蝶蘭の花弁へとその姿を変じたのだ。大剣の落下地点からは旋風が巻き起こり、見る間に勢いを増して花弁を乗せた嵐となる。
 舞い飛ぶ花弁は精霊の身体を斬り裂き、細かな火にして散らしていく。
 次第に削られ、嵩を減らす炎の身体。吹き荒ぶ嵐には抗う事はできず、蝋燭に灯った火のように吹き消されていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鍋島・小百合子
POW重視:精霊討伐

熱くて苦しい洞穴内の奥部にいるのもやはり暑苦しい物の怪の類じゃったか…
突破するぞ!

薙刀を手に早着替えにて武者鎧一式を装着、正面から炎の精霊に立ち向かう
可能ならこの冒険にて関わりのできたアリカ、シャルロッテ、シアラ、ラザロ達と連携を意識、かの者達の盾となる
残像で惑わしながらのなぎ払い・範囲攻撃・鎧砕きを併せた斬撃、持ち込んだ水を薙刀の刃にかけての水の属性攻撃を狙う
敵攻撃には火炎耐性を発揮、薙刀と小太刀で武器受け
空駆けした敵は地上から串刺し
此方の体力が減ったらユーベルコード「亡霊召喚法」発動
召喚した女武者亡霊と共に敵陣を切り払っていく
「戦友よ、かの者達を守るために戦ってくれ!」


シャルロッテ・エンデ
火山かどうかは別として
ここはきっと、大地のチカラに満ちてまちゅ
グルメのお時間でち!

大盾・蒸気ドリルシールドマシンを構えて前線に出る

火の虎が地面に刻む、炎の傷跡を
地脈操作で、琥珀色に光る焼菓子に変えて除去
おいしく食べちゃうでち♪

聖鎚・暁の星のピッケル部分で
サクッと地面を掘れば…スイートポテト!
クッキーにマドレーヌ、ケーキまで♪

ささ、みなしゃんもどぞ!
これで敵は強化解除、味方は回復とパワーあっぷ!
暁の星で、なみいる敵をぼこぼこにして
お星様にしちゃうでちゅよ

UC複数使用OKなら
異世界TVで戦闘シーンから結末まで
街へ中継と、加護での暑さ軽減続けます


ラザロ・マリーノ
成程そりゃ暑い、いや熱い訳だぜ。
ん?そうなると、こいつらを倒せばちったあ涼しくなるのか?

攻撃力重視でUC「極限の領域」を発動。

多少の手傷は覚悟のうえで、【オーラ防御】しながら真っすぐ【ダッシュ】で接近。
【属性攻撃】で氷を纏わせたハルバードを【怪力】で振るって【串刺し】にしたうえで、発勁による【衝撃波】を叩き込むぜ。

この熱い中、長々と戦ってらんねえ。速攻でカタをつけるぜ!

※アドリブ・連携歓迎



 風が通り抜ける間だけの、一瞬の心地良さ。
 洞窟内に巻き起こった嵐の残滓が鱗の肌を撫でる。
「早いとここいつらを倒して……ッ、ちったあ涼しくなってくれるといいんだけどな!」
 しかし通り抜けてしまえば、熱さがぶり返す。心地よかった分だけ今までよりも一層強く感じられる熱気。
 迫る炎熱をハルバードで薙ぎ払い、ラザロが希望的観測を零す。
「これだけ暑苦しい物の怪、倒せば相応に温度も下がろうが……! ちっ、また勢いを増したか!」
 背後から聞こえてくる風斬り音と竜人の声に、小百合子もまた薙刀を振るいながら応える。
 背中を向けあって戦うラザロと小百合子。二人の間には距離があるが、互いに長物を扱う彼らにとってはその間合いを以って十二分に背中を守りあえる距離でもある。囲い込むように集う炎の精霊の群れを打ち、払い、膂力と技量で捌いていた。
 しかし爪や牙を捌かれた精霊の落ちた先で土が燻され、薙がれた先で岩肌が赤熱し、魔力の炎が上がる。
「シャルロッテ! 本当に消火できるんだろうな、頼むぞ!」
「任せるでち! これだけ大地のチカラが満ちていれば~……!」
 徐々に火勢を増す周囲の状況に顔を顰めて叫ぶラザロ。彼と小百合子が描くハルバードと薙刀の軌跡、その楕円の中からシャルロッテが応え、大きな丸盾を構えて前線へと駆け出した。
「小百合子しゃん! 右側、抜けまちゅよ!」
「応とも! そうら、どわあふのお通りじゃ、道を開けよ!」
「ハーフでちゅけどね! さ~、グルメのお時間でち!」
 シャルロッテの声を合図に、進路を妨げる精霊を弾き飛ばすべく振るわれる小百合子の薙刀。シャルロッテは小柄な身体を前傾姿勢で更に屈め、眼前の薙刀の柄を潜り抜けて楕円の外周へと到達する。
「見るでち、ドワーフのとっておき!」
 振り上げるのは鉄球の星を掲げた大槌。しかし振り下ろすのは槌としてではなく、ピッケルとして。流星の尾のように鉄球から伸びる嘴を、炎の上がる岩土に向けて突き立てる。
 ――サクっ。
 しかしそこに響いたのは、金属が岩を砕く甲高い音でも、ましてや土を割る乾いた音でもなかった。
 それはパイにフォークを差し込むような、ビスケットを齧ったような、美味しく幸福な音。
 嘴を引き抜けば、宙を舞うのは琥珀色に光るスイートポテト。オーブンを開けるように次々岩土を掘り返す度、クッキーが、マドレーヌが、果てはケーキまでもがその姿を現す。
「……なんと摩訶不思議な。それ、そのなりという事は実際に食べられるのかえ?」
「……こんな時でも腹は空くんだな。いや、食欲を思い出させるくらい美味そうってことか」
「もちろんでちゅよ! 味もバツグンでち! お一つど~ぞ!」
 戦場を所狭しと駆け回るドワーフ、そして宙を舞う焼き菓子。熱気に乗ったバターの香りが心地よく、小百合子とラザロの喉が鳴る。
 そんな二人の口を目掛けてシャルロッテがマカロンを放れば、例えここが戦場あっても、例え今が戦闘中であっても、タイミングよく口を開けてそれをキャッチしてしまうのは致し方の無い事だ。
 薙刀を振るい、メレンゲを噛み締め、ハルバードを突き込み、ガナッシュを味わう。飲み込めば薫るのはアーモンドの香。
「……美味。実に美味じゃな、この菓子は。茶にも合いそうじゃ」
「いいねえ、これもこの山ならではの幸って言えるのか? 間違いなく他じゃ味わえねえ味だ」
 猟兵たちが取り込んだのは、大地の力そのもの。身体の内から活力が溢れ、四肢に力が漲る。
「腹ごしらえ……はこの後改めてするとして、状況は良くなったかの」
「この熱い中、長々と戦ってらんねえからな。カタつけに行くとするか!」
 小百合子の言葉に、ラザロが一足早く精霊の群れへと駆け出す。
 牙を見せる咢に刃を突き入れ、振るわれる爪に鱗を焦がされようともハルバードを振るい、敵陣を駆け抜ける。
 熱さに滅入る心を捻じ伏せて一歩、熱に焼かれる肌へ喝を入れてさらに一歩。全開を妨げる箍を強引に外し、冷気を纏ったハルバードで炎を散らしていくラザロ。
 精霊が彼を目掛けて宙を跳ね飛びかかるが、ラザロは冷静に槍を突き出すだけ。ただそれだけの事で、炎の方から串刺しになりに来てくれる。
「……悪いな」
 片手で軽々と掲げられたハルバードの先で獣が苦しみもがくが、ハルバードも、それを握るラザロもぴくりとも動かすことはできない。
「『全開』の俺はこの位じゃ止められねえよッ!」
 だから竜人が腰を落とすのは、彼自身の意思故だ。刹那の後に脚に力を籠めれば反作用で力が生まれ、脚から腰へ、背を伝い肩、腕、ハルバードさえ通り炎の内に叩き込まれる。
 流れるように行われた震脚と発勁によって精霊の身体は散り散りに霧散していた。
「派手にやるのう」
 びりびりと背中に伝わる衝撃波に小百合子が口端を釣り上げる。
 彼女は一人攻撃の手を止め、降りかかる炎熱を意にも介さず持ち込んだ飲み水を頭から被り、身を包む武者鎧に、握る薙刀に水気を塗していた。
「――わらわたちも、負けては居れぬ」
 いや、彼女一人ではない。
 いつしか彼女の隣には霊体の女武者が――かつての彼女の侍女が並び立っていた。
「突破するぞ、戦友よ!」
 閃くのは二振りの薙刀、されど一糸乱れぬ動きで作り出されるのは一つの舞い。
 繰り広げられる敵中突破の光景は、彼女の武芸帳に加わる新たな一頁。
 赤く燃え上がる精霊の群れの中を、朱色の鎧が駆け抜けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

作図・未来
楽しい道中もこれで終わり、フィナーレはもう迫っているということか
欲を言えばもう少しあの2人と喋っていたかったのはあるけれどね
とはいえ、こうして用意された折角の舞台だ。一緒に踊るのも悪くない

再び僕は死者の舞踏を展開しよう
数には数を、というのもあるけれど、やはり冷気を扱えるのだからそれを有効的に戦っていきたいね

そうだね、相手の高熱を取り込む攻撃に対して、上手く冷気を使うことはできないだろうか
熱を軽減することにより、取り込む熱が弱まるという作戦だ
上手くいけば、敵の弱体化ができそうだけれど

後は天命座君が気持ちよく戦えるような舞台作りが中心だね
彼女の死角からの攻撃に対して守れるように立ち回ろう


天命座・アリカ
苦あり楽あり楽ありありの冒険譚!
しかし、何事にもね終わりがある!さあ、幕を下ろそうか!
終わりはそして始まりなれば!今、ここに新たな物語を刻むのさ!

炎の獣とは神秘的!けど、もう熱いのはこりごりだ!
今宵此度の演目は!「青い鳥の住む泉」!
角度と視方を変えればさ!蛇となって牙を剥く!
水流を周囲に纏い、最前列で踊ろうか!前だけ見てね一目散に!
横?後ろ?大丈夫だよ大丈夫!目を瞑ったって無問題!
今回だって、いつだって。私は一人じゃないんだぜ?

ふむ……未来君!ちょいと手を拝借!
大蛇で霊をパクっとね!
趣向を変えて、ワルツで行こう!リードは任せて天命座!
冷気充填完了さ!その熱気、上から覆って差し上げよう!



 戦場のどこかで水音が響いた、その少し前のこと。
「――今宵此度の演目は!」
 別の一角で高らかにアリカが声を上げていた。
 開いた右手に乗せるのは開かれた書。手を閉じれば、幾重にも重なった紙同士が触れあう、柔らかくも乾いた音が奏でられた。
「『青い鳥の住む泉』!」
 閉じられた手と書。しかしアリカが演目を宣言すれば、彼女の前方で空間が口を開く。洞窟の岩土を押し退けるようにして現れたのはとある森の泉、その劣化再現。
「神秘的な炎の獣にはね!」
 煌めくようなウインクを炎の精霊たちにプレゼント。
 竦むような殺気が泉の畔から悠然と。
「奇々怪々な水の大蛇でお相手しよう!」
 揺蕩い、波打ち、水面が畝り――その奥底で光る赤い瞳の持ち主、水の身体を持つ大蛇が姿を現した。
「目的の地は最前線!前だけ見てね一目散! さあ――」

 アリカがこれだけの余裕を持って――勿論彼女を突き動かす、どうしようもなく『天命座である』という性はあるが――召喚に臨めたのは何故か。熱気に苛まれること無く、横も後ろも気にせずにいられるのは何故か。
 それは彼女が一人ではなかったからだ。これまでも、今回も。
 きっと、これからも。

「――行くよ! 未来君!」
「ああ。折角の舞台だ、天命座君と踊るのも悪くない」
 帽子を被った指揮者が数多の霊を操り、彼らの手にするツルハシでアリカの死角を護らせ、放つ冷気で熱気さえ遠ざけさせている。
 楽しかった道中の事を今は一度心の片隅にしまい、油断なく周囲に視線を巡らせ、繊細に指を動かしながら、しかしアリカの声に応じる未来の動きに淀みはない。
 靴音と水音が前へ進めばその分だけ前進し、アリカが後ろへ飛び退けば霊を左右に動かして場所を作る。様子を窺うように熱を溜めこむ精霊を見つければ冷気でそれを阻害し、壇上の女優へ手を伸ばす輩にはツルハシの手痛い洗礼。
「今のところは順調……かな」
 未来は彼女を守る為に力を注ぐ。そしてそれを継続させるために自身も護る。
 炎を掻き分けて進むアリカが矛ならば、未来は迫る炎に立ち塞がる盾。矛が盾を信頼し、盾もまた矛を信頼するからこそ徹底した分担が成り立つ。呼吸を掴めばこそ、横と後ろだけを見て前へ進むこともできる。
 ……のだが。
「……未来君! ちょいと手を拝借!」
「えっ……?」
 不意に伸びてきたアリカの左手が未来の右手を取った。
「なに、えっと……なに!?」
 突然の事に、生来の口下手もあってかしどろもどろになる未来。だが帰って来る言葉はあっけらかんとしたものだ。
「いやね、中々どうして熱気がね! 泉の水も蒸発するというものでさ!」
 見れば水の大蛇は先ほどより細く、短くなっていて、度重なる炎の精霊との格闘によりその身体を煮立たせていた。
「あ、あー……。じゃあ一度退いて体勢を……」
「という訳で!」
 未来の言葉を遮りアリカが手を引く。ぐらりと前のめる未来を右手で支え、そのまま彼の肩甲骨の辺りにもっていき、
「趣向を変えて、ワルツで行こう! リードは任せて天命座! 未来君、キミの左手は私の右肩へだ!」
「ワルツ……リードは任せてって……いや、これ本当に男女が逆じゃあないか……!」
 促されるままに未来が手を置いて完成したスタンダード・ホールドは、彼の知識にあるそれとはポジションが反転していて。
「泣き言は無しだ!腹を括りたまえ! って賭博師も言ってたよ! えーっと、こんな感じかな、ちょちょいの、」
 未来が気を落ち着ける間もなく、アリカは左手を動かして未来の右手を振らせる。それに反応するように、ぎこちないながらも霊の数体が動き、
「あっ!?」
「パクっと!」
 水の大蛇が霊達を丸呑みにする。
「……天命座君、説明を……せめて説明だけでも……」
「内から充填して欲しいのさ! 霊から放たれる冷気をね!」
 満足げに頷くアリカの脇、揺蕩う霊たちの発する冷気が煮え立つ大蛇の水の身体を冷やしていく。
「そういうことなら最初からそう言ってくれれば……」
「終わり良ければ何とやらだ! 今、ここから新しい幕が上がるよ!」
「……はあ。わかったけれど、ちょっと待って」
 溜息を一つ。立ち止まればきっと置いて行かれるばかり、ここは本当に腹を括るしかないと、それで気持ちを切り替える。
「霊を操るのにも関わる、から……えっと、これだけは、……譲れない。」
 一度ホールドを解き、ポジションも入れ替える。
「ふっ、ふふふ……やっはっは! いいとも!ならばリードは任せたよ、未来君!」
 二人は踊るように霊を操り、大蛇を舞わせ、精霊たちへと向かっていく。
 熱され、冷まし、飲み込んで。矛と盾とが手を取り戦場に刻む三拍子。
 男女が向き合うホールド。矛と盾で行うのなら、それは矛盾になるのだろうか。
 ――天才美女なら、きっとそれを完全無欠と呼ぶだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
ハッハー!こりゃまたファンタジックな光景だなオイ!イカしたフォルムでめちゃくちゃチルだが…前座に用はねーよ。端役以下のチョイ役には、英雄様方を引き立てて退場する役目をくれてやるぜ。

ユーベルコードを使って攻撃するが…ちょいそ趣向を凝らすか。【フェイント】を交えた接近戦をしながら、UCの炎をこっそりと、【破壊工作】よろしく周囲にある炎に紛れ込ませる。これこそが俺の【罠】
戦闘力の増強に、俺のUC入り炎を吸収すれば…めでたく封印発動って寸法よ。

後は他の連中に任せて、援護に回るよ。
匡とジャックは…助けなくてもいいか。殺しても死なないだろ(信頼感)

よー、精霊ども。最後にたらふく食えてよかったな
じゃ、あばよ


クロヴィス・オリオール
このクソ暑いのはこいつらのせいか…よし、蹴散らすぞ。

ハッタリも得意だがフェイントかますのも嫌いじゃねェ。……言っとくがフェイントとイカサマは別物だからな。これはフェイントだ。

かるく飛んで空中戦に持ち込むと見せかけて、奴らが高く飛び上がってきたトコを、よーく見て避ける。
攻撃は避けやすいし、ケーキもホールで食えちまうし、やっぱでけェカラダっていいわ。

さて、避けるだけ避けたらオレは一足先に地上へ帰るぜ。低いとこの方が涼しいんだってば。
……上に飛び上がるだけ飛び上がったら、翼のねェ奴らはそのまま落ちてくるだけだろ。
着地点がわかりゃ狙いも定めやすいときた、遠慮なく斬りかからせてもらうぜ。

※アドリブ等歓迎


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
敵対存在を探知。
戦闘は不可避と判断。
――構いはしない、『本機』の本領だ。
ミッションを開始する。

(ザザッ)
『Craft: Bomb』作動、『凍結弾』生成。
熱いのは御免被ろうか。

生成した凍結弾をシューターへと改造した右腕を介し射出。
直接敵めがけて放ち攻撃を実行する。
(武器改造+スナイパー+投擲)

爆弾の生成は技能:早業により向上させる。
余りに戦闘区域の熱が高まる様なら
いくつかの地面・壁面に冷凍弾を着弾、冷却する事で温度の低下を狙う。
(地形の利用+範囲攻撃)
炎の精ならば冷却すれば幾らか動きも鈍くなると推察する。

本機の作戦概要は以上。実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)



 霊たちが冷気を振るい、周囲の温度を引き下げていた頃。
《――熱いのは御免被ろうか》
 鉄の獣は文明の利器を以って炎の獣を冷却していた。
 不可視の足場を跳ねるように宙を翔ける炎の精霊たち。しかしジャガーノートの放つ擲弾は吸い込まれるように彼らの顔を打ち据え、胴に突き刺さり、白煙を上げて炸裂する。
 白煙と共に着弾点からは冷気が発生し、精霊の身体から熱を奪っていく。衝撃でよろめき、炎の身体故に身体機能を損ない、精霊たちは次々に岩土へ撃ち落されていた。
「ヒュウ! チル・スナイプ! その調子でガンガン叩き落としてくれジャック!」
 擲弾の爆ぜる音の下、ヴィクティムはナイフで爪や刃を往なしながら戦場を、炎の中を駆け回っている。
《了解した。戦闘は本機の本領だ。――だが地上は、それに炎の方はいいのか?》
「そっちは仕込みの真っ最中でな、まあ任せろって! なあクロヴィス?」
「オレは陽動してるだけだ。ま、上でドッカンドッカンやってくれるおかげで冷気は下に降りてきてる、好きに動けるのには違い無ェ」
 ジャガーノートに負けず劣らず、その翅で宙を打って全力で飛び回るクロヴィス。彼は手にした剣で精霊の首を斬りつけて注意を引き、熱の篭った視線を向けられればひらりと身を翻して後退していく。
 彼の言葉の通り、上方で炸裂を繰り返す凍結弾のお蔭で周囲の温度が高まり過ぎる事は無く、炎から距離を取れば多少蒸し暑い程度にまで身体を冷やす事も出来、猟兵たちは万全に近い運動能力を発揮できていた。
「つまりだ、もう高いだの低いだの気にする必要は――」
 が、クロヴィスはそうする事を止め、空中で静止してしまう。そんな彼を覆い隠すように、冷気が作った対流に乗って白い靄が舞い降りる。
「無ェって事だな」
 薄手のグローブに包まれた手が、煙草の煙を払うように振るわれれば、靄は周囲に散っていって――
「……誰だお前!?」
「いやわかれよ! 背丈しか変わってねェだろ!」
 ヴィクティムの驚声――或いは冗談――に答えたのは、妖精サイズから人間サイズへと姿を変貌させたクロヴィスだった。
《大凡本機と同サイズ、元の六倍といったところか。――だが、どうして今?》
 シューターに改造された右腕より擲弾を放ちながらも、ジャガーノートはクロヴィスを一瞥する。赤く光る目が仄かに明滅しているのは興味の表れだろうか。
「避けてるだけにも飽きてきたンだよ。……さァ、て。行くぜ猫チャン、可愛がってやる」
 手にした剣をゆらゆらと猫じゃらしのように、挑発的に揺らすクロヴィス。彼は先ほど首に小さく斬りつけた精霊目掛けて駆け出し、十分速力の乗ったところで宙へと踏み切る。
 呼応するように精霊も走り、宙を駆けるべく地を蹴るが、後手に回っている以上その全てが、
「――残念。その手じゃバーストだ」
 半歩遅い。
 跳躍後に翅をはためかせることをせず、素早く着地して精霊の四肢の下を潜り抜けていくクロヴィス。遅れは判断と対応さえ遅延させ、精霊のみが宙を高く飛ぶ事となった。
 それも、致命的なほどに。
 反転して駆け出せば、眼前にはようやく着地した精霊の姿。精霊も急いで振り向こうとするが、剣を構えたクロヴィスには急所を晒す行為以外の何物でもない。
「もう少し駆け引きの勉強するこったな」
 見舞われる一閃。剣は手頃な位置にやって来た首を難なく落として見せた。
「やっぱでけェカラダっていいわ。ケーキみてぇに簡単に斬っちまえる」
「かーっ、一時とはいえでかい奴は言う事も違うな」
「僻むな僻むな。それより駆けっこは終わりか?」
 挙げた成果に満足げなクロヴィス。彼を茶化すようにヴィクティムが駆けよって来て、立ち止まる。
「ん? ああ。仕込みはバッチリ。丁度今お前がEnterを押した所だ」
《クロヴィスが? どういうことだ、ヴィム?》
 仲間に向けて口端を釣り上げる工作員の背後、あちこちで炎を立ち昇らせる岩土目掛けて精霊たちが走っていた。
「まあ見てな」
 ある精霊はナイフや小さな剣による斬り傷を持ち、またある精霊は冷気によってぎこちない動きをしている。つい今しがた群れの内の一体を倒されたのもあり、戦力の低下は著しい。
 故に彼らは熱を求めて炎の元に集う。更なる火力を振るうために、凍えた身体を暖めるために。しかし――
「それが罠だ」
 精霊たちの目論見は叶わない。熱を得るつもりが力を失ってしまう。
 木を隠すなら森の中。炎を隠すなら、炎の海の中。ヴィクティムは戦場を駆けながら罠をを、能力行使を阻害するプログラムを内包した炎をそこら中にばら撒いていたのだ。
「よー、精霊ども。最後にたらふく食えてよかったな」
 炎を喰らう事も空を駆ける事も出来ず、低く伏して唸り声を上げるばかりの精霊たちをヴィクティムは皮肉たっぷりに嘲う。
「だが、まだデザートがある。ジャック、立てなくなるまで食らわしてやれ」
《――了解した。品切れするまで振舞おう》
 砂嵐――吠え声――と共にジャガーノートは精霊の群れへ右腕を伸ばす。
 圧縮された空気が解放されるような小気味の良い音、乱れ撃たれる擲弾。高く鳴る風切り音を響かせて、炎の精霊に氷菓の雨が降り注ぐ。
 「さて、向こうは……殺しても死なないだろ。助けなくても――」
 趨勢の決しつつあるこの場を他所に、工作員は一人呟いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆アドリブ/絡み歓迎


全員体力に余裕はないだろうし、時間はかけてられないか

真の姿を解放
全域に意識を張り巡らせ敵の動きを感知/把握
全体の戦闘を円滑にするサポートを主に動く
……まあ、殺れる敵は殺るけどな

動き出しや回避の直後、攻撃直前など
一瞬でも動きを止めた相手から狙撃
中でも攻撃動作に入った敵を最優先
負傷で余計な体力を持っていかれるのは困る

レイラと結月の方へ敵が向いてたら【援護射撃】
肢を狙って敵の勢いを削ぐ
目の前で怪我されると据わりが悪いしさ

ヴィクティムとジャックは
……別に助けなくても大丈夫か
巧くやろうぜ、お互い

◆真の姿
五感情報の鋭敏化/広域化
並列演算・神経伝達速度の強化
瞳の奥に揺らめくような蒼が覗く


レイラ・エインズワース
祇条・結月(f02067)サンと

伝説の勇者を癒した炎の精霊
コレがその存在と同じものかどうかはわかんないケド
オブリビオンになっちゃったのをそのままにはできないカラ
ウン、思い出が汚れちゃうのハ、悲しいからネ

自由に飛び回って熱も奪う
私にとっては厄介な相手カモ
祇条サン、頼りにしてるカラ
道具の本領見せてアゲルネ

竜の魔法は強欲の魔法
空間の割れ目から飛び出す無数の鎖で攻撃
【高速詠唱】で竜の魔法の詠唱を肩代わり【全力】の魔力を上乗せして放つヨ
虎が跳べばこちらは飛んでくらいついたまま【呪詛】をのせた雷撃のブレスを

祇条サンとお互い連携して孤立しないようにするネ
頭ぶつけないように気をつけなキャ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ


祇条・結月
レイラ・エインズワース(f00284)と

暑いと思ったらこういうことか
いつかは外に溢れるかもしれないし、皆が信じてる勇者の伝説が嘘になるのもやだな

……頼りにしてる、って言われたら裏切れないね、任せといて。

孤立して狩られないように、レイラと連携して戦う
適宜【援護射撃】してくね
宙を蹴って移動できるのは厄介だな……! 動きを予想しながら【スナイパー】と【投擲】で確実に狙ってく
【敵を盾にする】や【罠使い】で動きを制限してくけど、あんまり速くて間に合わない時は、こっちも加速して応戦。炎や火の粉をかき消せればやりやすいしね

……道具の本領、か。否定するのは侮辱なのかも。
だけど……



「――大丈夫だよな。巧くやってるだろう」
 銃声が反響していく洞窟内、傭兵の呟きを聞く者居なかった。
 彼は片膝をついた姿勢で静かに、力み無く、突撃銃の引き鉄を引く。撃ち出された弾の行く末を見届けることはない。反動を受け止め、次の標的へ銃口を向け、再び引き鉄を引く。
「お互い」
 弾倉内の残弾数二、薬室に一。
「(……ここか)」
 構えを解かぬままに再装填を始める。今を逃せば次の機会は引き鉄を更に七度引いた後の事、今装填されている弾数では辿り着けない。
 弾倉を落とし、薬室内の弾を吐き出させる。新たな弾倉を差し込めば、更なる銃声。
 匡は俯瞰するように――否、『五感で得た情報を元に予測した進行』と食い違いがないかを確かめるように戦場を見据える。
 瞳の奥底で揺らめく蒼を見る者もまた、誰一人居なかった。

 紫炎が洞窟内を揺らめく幽鬼のように飛んでいる。
 それは或いは悪鬼を誘う灯。色に魅せられ、熱に浮かされ、炎の精霊が宙を駆ける。
「モウ、思った以上に厄介な相手カモ……!」
 レイラは喚び出した魔竜に跨り、追い立てる精霊たちを躱すように天井スレスレを飛行していた。
 警戒は怠らないが、しかし彼女に焦りはない。
 ――頼りにしてる、って言われたら裏切れないね、任せといて。
 数分前に交わしたやり取りが耳の奥で響く。一拍遅れて、獣の吠え声。ちらと振り返れば、顎に深々と苦無の突き刺さった精霊の姿。
「任せたヨ、祇条サン!」
 視界の端で光が瞬き火薬の爆ぜる音が聞こえれば、前足を射貫かれた獣の姿。
「それに鳴宮サンも! 私も道具の本領見せてアゲルネ!」
 追撃の手が緩んだ間にレイラは竜語魔法を紡ぐ。己が魔力を竜に重ね、黒焔に紫炎を重ね、魔竜の咆哮と共に強欲の魔法が放たれた。

「宙を蹴って移動できるのは厄介だな……!」
 軽やかなバックステップとサイドステップ。しかし絶えず移動を続け、精霊から一定の距離を取る少年の表情に軽やかさはない。
 飛び来る炎目掛けて苦無の投擲。また別の炎が駆けてくれば、飛び退いて足元に垂らしたワイヤーを引く。即席のトラップに躯を絡め取られ、身動きの取れない精霊の眉間を彼方からの銃弾が抉った。
しかし結月に息つく暇はない。
 ――祇条サン、頼りにしてるカラ。
 宙には彼を頼りにする少女が居るのだから。
「……っ!」
 結月は天井目掛けて腕を振るう。放たれた苦無は岩肌に向かって突き進むが、甲高い音を響かせるより前に、射線へ飛び込んできた得物の顎へと到達していた。
「……よし……っ」
 レイラを追う精霊に苦無が突き刺さったことを確認し、結月は呼吸を思い出す。
 ――私も道具の本領見せてアゲルネ!
 熱い酸素と共に入り込んだのは少女の声。刹那の後に響いたのは数多の金属が擦れ、揺れる音。
 結月の背後、魔力で編まれた鎖が精霊を雁字搦めに捉えられていた。
「(…………道具の本領、か。否定するのは――)」
 暴れもがく精霊の喉元を、逆手に握った苦無で引き裂く。やはり結月の表情に軽やかさはない。
「――だけど」
 瞳に鋭い光を宿し、鈍い輝きを、罰を纏って地を蹴る。

 再装填の後に匡が引き鉄を引いた回数は五度。
「そろそろ詰めか」
 今、六度目。レイラを追っていた最後の精霊、その後頭部を射貫き、眉間までの風穴を開ける。
「(状況に問題なし。……少し疲れたかな)」
 睥睨する限り周囲には彼の予測と違わぬ光景が広がっていて、片膝立ちの姿勢から立ち上がり、瞼を閉じると指で目頭を解す。
 凡そ戦闘態勢ではない彼に向って二体の精霊が飛びかかるが、
「――鳴宮さん、動かないで」
「――ガブっと!」
 結月が炎を掻き消すように腕を振るい、纏った光で精霊を削り取る。
 レイラの駆る魔竜はその咢で喰らいつくと牙を突き立て、至近も至近から雷撃のブレスを見舞っていた。
「動かないではちょっとおっかなかったな」
「あ、いや、……万が一って事もあったから」
「鳴宮サンが突っ立ってるからダヨー」
 ゆるりと瞼を開いて焦茶色の瞳を露わにし、冗談ぽく、穏やかそうに言葉を発する匡。結月は苦笑を浮かべ、レイラがニコニコと会話に加わる。
「いや、二人が来るのは分かってたから。結月のは本当に意外だったけど。てっきり苦無が飛んでくるもんだと……」
 ただ一点だけ外れた匡の予測。引き起こしたのはきっと、五感では推し測れない、一人の少年の内なるものの動き。
「フーン? ……これで終った、カナ?」
 当然のように言う匡に首を傾げ、レイラは辺りを見回す。合わせて携えた角灯が揺れ、周辺を藤色に照らし出した。
「いや、」
 そこに加わる白い発火炎。匡の背後、岩陰から忍び寄るべく顔を覗かせた精霊の眉根に銃弾が吸い込まれる。
「……今終わった」
「ワオ、ナイスショット」
「凄いね……位置がわかってたの?」
 銃声の残響の後には少女の小さな拍手が木霊し、少年の感嘆が零れた。
「まあそんなもんかな。それより伝説、確かめるんだろ? 行こうぜ」
 徐々に、本当に徐々にだが温度の下がりだした洞窟内。
 その奥底に辿り着くまで、猟兵たちの足音が鳴り止むことはなかった。



 灼熱の洞窟を抜け、炎の精霊を打ち破り、遂に猟兵たちは伝説に謳われた山の心臓へと辿り着く。伝説の真偽を解き明かす。

 どうして猟兵たちにそれが判断できたのか。
 答えは明快だ。

 彼らは風化した皮の巻かれる柄を見た。

 彼女らは湿気に錆びついた鍔を見た。

 猟兵たちは深々と岩に突き刺さる、輝き褪せぬ刃を見た。

 ――遥か昔に島を救った剣士の、熱き物語。
 その残滓が、そこには確かに存在していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月22日


挿絵イラスト