戦乱望みし繰り糸を断て~グエイザン統治領治安維持戦~
●勤勉さと、善意と、一摘まみの悪意
「いやぁ……残念だ。実に残念だよ、同志オリガ。せっかく僕らが用意した『プレゼント』が無駄になってしまった。喜んで貰えると思ったのに、いまじゃ『人民国』と『共和国』は愛想笑いをしながら握手している有り様! とても悲しいよ、世界は不条理だッ!」
「……道化るのも程々にしてください、同志ペリア。『祖国』の目論見が外れたのは認めましょう。しかしまさか、ここまで穏健な占領地運営をやってのけるとは。大規模な市民暴動やゲリラ活動があればとも期待したのですが」
其処は良く冷房の効いた室内であった。黒檀の執務机が設えられ、品の良い調度品が主張し過ぎない程度に配置されている。その中で言葉を交わすのは一組の男女。一人は禿頭が目を惹く中年男、もう一人は紙巻き煙草を燻らせた妙齢の女。どちらも身に纏った軍服から、恐らくはどこかの軍人なのだろう。
ペリアと呼ばれた男はぐねぐねと身体を揺らしながら、壁に掛けられた周辺地域の地図へと手を伸ばす。『グエイザン大密林』と記された箇所には二つのピンが立っており、一つは『人民国』、もう一つには『共和国』と記されている。男はペシリと後者のピンを叩き落とした。
「と言うかさぁ、アレって絶対仕込みだよね? もう談合だよね、口裏を合わせてたよね? じゃなきゃここまですんなり事が運ぶと思う? ひっどいなぁ、さっさと戦争を終わらせる為に部下を磨り潰して、自分はちゃっかり要職の椅子を確保してるだなんて」
「さんざん政敵を蹴落としたが貴方がそれを言いますか。ですが、全てあの『深緑の魔術師』と謡われた名参謀、ホアンが描いた図面ならば恐ろしい限りです。諜報部に寄れば『人民国』将軍のグエンまで抱き込んでいたとの報告も上がっています」
そんな男の稚気じみた振る舞いに動ずることなく、オリガと呼ばれた女は短くなった煙草を灰皿へ押し付ける。もう一方の手には幾つかの紙束が纏められており、紙面上には眼鏡を掛けた痩身の男と、豪快そうな恰幅の良い男、二人の老軍人の顔写真が印刷されていた。
先述の『人民国』と『共和国』はつい半年前まで血みどろの総力戦を繰り広げており、戦況はジリジリと後者が劣勢に追い込まれつつあった。そこで彼らの属する『祖国』は善意の第三国を装って『共和国』への軍事支援を画策。更に戦争を長引かせて漁夫の利を得ようとしたのだが、双方の軍事指導者の機転によってその前に停戦を迎えてしまったのだ。二人からすれば目論見が大きく外れてしまった形である。
「『人民国』側も凄腕の傭兵を迎えており、彼らが終戦条約会議の締結に一役買ったとの事。恐らく、本国からの干渉を嫌って部下ではなく外部の人員を雇ったのでしょう」
「もうそれ単なるプロレスのブックじゃん。あーもう、がっかりだねぇ。ただ……『プレゼント』はまだ僕の手元に残ってるんだ。これをそのまま国庫に返すのも芸が無いと思わない?」
「ですが、今のところ『人民国』の『共和国』統治に瑕疵はありません。因縁をつけられるような火種があるとは思えませんが」
「火種ぇ?」
嫌じゃ嫌じゃと駄々を捏ねるペリアに対し、どうするのだと胡乱気な視線を向けるオリガ。部下からの問い掛けを受け、中年男は二マリと頬を歪めて見せる。彼は文官であり、軍事はからっきしだ。だが、人の嫌がる事ならば瞬時に十個はアイディアを生み出す才能があった。
「良いかい、同志オリガ。我らは勤勉でなくてはならないんだ。だから無い事を嘆いてる暇はないよ。つまり、火種はねぇ……」
――無ければ作れば良いんだよ?
斯くして、謀略の手は速やかに動き出すのであった。
●
「GutenTag、Kamerad。みな、集まってくれて感謝する。さて、この度はクロムキャバリアで謀略の気配を予知したのだが……時に諸君らは、昨年末に行われた『人民国』と『共和国』の戦争を覚えているだろうか?」
グリモアベースへと集った猟兵たちを前に、フランツィスカ・リュッツオウ(音速越えの叛逆者・f32438)はそう口火を切ってゆく。彼女が問い掛けているのは半年前に猟兵たちが介入したある戦争についてである。
グエイザン大密林と呼ばれる広大な熱帯雨林を舞台に、『人民国』と『共和国』の二カ国は泥沼の闘争を繰り広げていた。その果てに『共和国』側が劣勢に立たされたのだが、そこへ『善意の第三国』による軍事支援の動きが予知された結果、これ以上の長期化を防ぐべく猟兵たちが『人民国』側で参戦。『共和国』の首都を占領という形で終結させ、戦後に行われた終戦条約会議の軟着陸にも一役買った――という事件があったのだ。
「その後の『共和国』統治については最初こそ多少の混乱もあったようだが、概ね問題なく運営されているらしい。双方の代表である『人民国』将軍のグエンと『共和国』元参謀のホアンも、文句を言いつつ上手くやっているようだな」
戦争を早期決着させるべくそれぞれの立場で動いた二人の老軍人。彼らは現在、統治機構の指導者として戦後処理や課題の解決に奔走しており、苦労しながらも両国の融和に努めているらしかった。より時間が経てば徐々に落ち着いてくるだろう。だが、そうであるならば猟兵たちが呼ばれたりはしまい。
「だが、目論見が外れた『善意の第三国』としてはその状況が面白くないようでな。『祖国』と称するこの国家は暫くは一波乱起きないかと事態を注視していた様だが、それが望めないと悟って次なる行動を企図し始めた。国外追放された政治家やタカ派の元軍人を密かに呼び戻し、更にはキャバリアを始めとする軍事物資を渡して蜂起を煽っているらしい」
幾ら統治が上手くいっているとは言え、元々が血で血を洗う総力戦を繰り広げていた敵国同士。敵対意識を完全に消し去るのは難しい。無論、終戦条約でそう言った危険分子の封じ込め対策は行っていたが、他国の介入までは如何ともし難かった。
「『祖国』の目論見としては反乱を煽って『共和国』側を混乱させ、『人民国』が鎮圧用の戦力を投入する前に軍事介入。統治の不手際を糾弾しながら、飽くまで『善意の第三国』として中立の立場から楔を打ち込み、影響力を確保する……とまぁ、そんなマッチポンプを狙っている様だ」
と言う訳で今回、猟兵に求められるのは元『共和国』過激派による反乱の鎮圧、及びその後にやって来る『祖国』の軍事介入部隊の撃退である。幸い、戦争後とあって『共和国』『人民国』共に戦力的余裕は無い。以前に知己を得たグエン将軍の覚えも良い為、戦闘に参加する事自体はそう難しくは無いだろう。
「敗残兵の集まりとは言え、機体は軍事支援のお陰で良いものを揃えている。無論、その後に待つ『祖国』側の戦力は言わずもがなだ。以前のようなキャバリア未満の装備ではない。くれぐれも油断だけはしないようにな。詳細は現地到着後、老軍人が説明してくれるだろう」
そうして説明を締め括ると、フランツィスカは仲間たちを送り出すのであった。
月見月
どうも皆様、月見月でございます。
反乱からの政権転覆は冷戦の華と言う訳で、今回は以前に公開したシナリオの続編です。
それでは以下補足です。
●最終成功条件
反乱勢力及び『祖国』派遣部隊の撃滅。
●シナリオについて
本作は下記シナリオの続編となります。
勿論、内容を知らずともOP・断章の内容をご参照頂ければ問題なくご参加頂く事は可能です。
・明日の為に希望を絶て~グエイザン大密林掃討戦~
(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=52740)
●第一章開始状況
戦場はグエイザン大密林と呼ばれる広大な熱帯雨林地帯。開けた平野に乏しく、鬱蒼と茂る樹木や曲がりくねった河川があちこちに点在しています。これらに紛れて以前の敗戦で追放された元『共和国』の過激派軍人や政治家が反乱を画策しており、先ずはそれらを鎮圧して頂きます。お粗末な機体を駆っていた前回とは異なり、それなりの量産機に乗っているため、戦力回復中の統治機構にとっては十分な脅威となります。詳細については断章にて補足予定です。
加えて第二章以降に関しても適宜断章にて描写していきます。
●グエン将軍、ホアン元参謀
それぞれ『人民国』『共和国』の軍人。かつてはお互いの立場故に敵対していたが、元々は三十年来の腐れ縁で友人。今は四苦八苦しながら協力して統治を行っている。
●同志ペリア
『祖国』のとっても勤勉なおじさん。ベリヤでもロリヤでもない。軍人と言うよりも文官や政治屋な人。無職になって困窮していた元軍人さんに『プレゼント』を届けた親切な第三者。
●同志オリガ
ペリアおじさんの部下で凄腕のキャバリア乗り。上司について思う所は有るが、政治力だけは信用している(NOT信頼)。『祖国』側部隊における戦闘面の指揮官。
●プレイング受付について
断章投下時に受付開始期間を告知。なお、参加頂いた人数や進捗状況によっては再送をお願いする場合がございますので、恐縮ですがその点を予めご了承頂けますと幸いです。
それではどうぞよろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『ガザニア・マリーネ』
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POW : 対艦・対要塞ミサイル
【対艦・対要塞ミサイル】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : ガトリングシールド
レベル×5km/hで飛翔しながら、【ガトリングシールド】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ : ビームライフル
【素早く銃口】を向けた対象に、【ビームライフル】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:Matsuhisa
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●死に損なった|兵《つわもの》よ
「全く、機を見るに敏と言うべきか。よもや、連絡を取ろうとした矢先にそちらからやって来るとは。諜報網でもあるかと勘繰ってしまうぞ……ともあれ、久しいな。半年振りか」
かつては旧『共和国』の議事堂であり、現在は『統治機構』が居を構える庁舎。そんな軍人たちが慌ただしく駆け回る場所へ足を踏み入れた猟兵たちを、『人民国』将軍のグエンは直々に出迎えてくれた。
彼は以前の一件における猟兵の雇い主であり、その働きを高く買ってくれた有力者だ。長年に渡る戦争が終わった事で重荷から解放されたのか、血色は半年前よりも良い。しかしその一方、眉間には深々と皺が刻まれている。
「再会を喜びたいところだが、見ての通りそうも言っていられん状況でな。現在、この首都近郊に大規模な反乱が発生しておる。どういう訳か、追放処分を受けた元『共和国』軍人が舞い戻り、出所不明の兵器で暴れ回っているのだ」
勝利を求める余り違法行為に手を染めた者。憎悪や反骨心が強すぎて戦後の禍根になると判断された者。そして、敗戦の責を取らされた政治家や官僚。そうした危険分子は終戦条約後の裁判で裁かれたり、或いは追放処分を受けていた。にも拘らず、彼らは監視の目を搔い潜って帰還を果たし、異様に充実した装備で牙を剥いたのである。
「我々が保有する戦力は穏健派『共和国』兵士による警備隊と、『人民国』から派遣された少数の正規部隊のみ。だが前者は装備が制限され、後者は数が少ない。その上、首都の近くと言う立地が最悪だ」
取り決めにより、統治の主体は素行に問題ないとされた旧『共和国』兵で構成されており、『人民国』の正規軍はその監視と言う意味合いが強い。その為、余計な考えを起こさぬように前者は最低限の武装しか許可されていなかったのである。
更に人口の多い首都近郊が戦場となれば、当然ながら住民の保護が急務だ。彼らの避難や統制に人員を割いた結果、どうしても後手に回らざるを得なかったのだろう。加えて、どうにもそれだけが理由では無いらしい
「それに反乱側も元々は『共和国』の人間。それを再び『人民国』の戦力で叩き潰せば市民感情を逆撫でしかねない。しかしかと言って、『共和国』側の人員を動員するのも、その、なんだ」
「……下手をすれば奴らの主張に同調し、離反者が出かねない。そう危惧しているのだろう?」
説明の途中で歯切れ悪そうに言い淀むグエンだったが、不意に横から怜悧な声が言葉尻を継ぐ。何者かとそちらを見やれば、瘦身の老人が姿を見せていた。初めて見る相手だが、その声音には聞き覚えがある。そう、かつて『共和国』のゲリラ部隊を殲滅した際、繰り返し流されていたプロパガンダ演説の主。
「お初にお目に掛かる。私はホアン。グエンの使い走りをしているしがない軍人だ。その節は色々と世話になったな。さんざん打ちのめされた身でおかしな話だが、礼を言わせて貰おう」
『深緑の魔術師』と謡われた元『共和国』参謀にして、かつての戦いで早期終戦を成すべく敢えて泥を被った戦争指導者の片割れだ。当初は自らの首を以って事態を丸く収めんと画策していたのだが、背景事情を知る猟兵が『共和国』側の代表として持ち上げた結果、統治の実質的な先導役へと収まっていた。
「貴君らの尽力により、我が祖国は命脈を保った。だが、それは依然としてか細い糸だ。反乱を起こした者らは飽くまで追放された者であり、建前上は現体制と無関係だが、『人民国』上層部の心象悪化は避けられまい……故にこそ、万が一の可能性を潰しておきたいのだ」
それに、と。そこまで話してから、ホアンはそっと猟兵たちへと顔を寄せる。余り周囲には聞かれたくない内容なのだろう。老軍人は囁くような声量で続きを紡いでゆく。
「私が早期終戦を決意する決め手となった『善意の第三国』。奴らがこの馬鹿騒ぎに一枚嚙んでいるのは確実だろう。だが、私も窓口になっていた訳ではない為、詳細までは掴めていない。くれぐれも注意し給え……っと?」
そうして一通りの説明を終えた瞬間、外から遠雷の如き轟音が鳴り響く。泡を食って飛び出した面々が見たものは、都市部の周りに広がる熱帯雨林から立ち昇る無数の黒煙。恐らく、反乱勢力と友軍が衝突し始めたのだろう。そんな予感を裏付けるように、音割れ気味のざらついた放送が鳴り響く。
――我らは真に祖国を憂う者である! 先の終戦条約は売国奴によって結ばれた欺瞞に過ぎない!
――祖国を売り渡し、敵国に尻尾を振る裏切り者にどうして未来を委ねられようか! さぁ、同胞よ! 今こそ志ある者は我らと共に立つべし!
「おい、呼ばれとるぞ売国奴」
「茶化すな。だが、こちらの気苦労も知らずに調子の良いものだ。報告通り、機体も中々の物を使っている。連中で無く我々に渡すという選択肢は無かったものか。実に惜しい」
脇を突くグエンの手を払いつつ、ホアンはやれやれと溜息を吐く。反乱勢力の使用している紫色のキャバリアは『ガザニア』と呼ばれる機種の海兵隊仕様である。ビーム、実弾、ミサイルとバランスの良い武装を持ち、ホバリング能力を備えた軽快な運動性の強襲機。
障害物や足場の悪い密林地帯と相性は良く、言うまでもないが以前交戦した『ドウェルガー』とは比べ物にならぬ高性能機だ。提供者の思惑を抜きにすれば、両国にとって貴重な戦力になっただろう。
「……一度目は許した。だが、二度目は無い。そうだろう、グエン?」
「ああ。搭乗者の処遇については貴様ら猟兵に一任する。撃破しても良いし、捕縛し引き渡して貰っても構わん。こちらできっちり処分すると約束しよう」
ともあれ、こうなってしまえばもう状況は待った無しだ。せっかく取り戻した平和を再び乱されるなど言語道断である。老軍人からもお墨付きも貰えた以上、もはや遠慮の必要も無し。
さぁ、猟兵たちよ。繰り糸に操られし傀儡を打ち払うのだ。
※マスターより
プレイング受付は26日(金)8:30~より開始。
第一章は集団戦、首都近郊まで侵入して来た反乱勢力の殲滅となります。周囲一帯は熱帯雨林や河川が広がっており、開けた場所はほぼありません。敵機体は滞空能力を持っており、かつ操縦者も地の利に詳しい為、そういった障害物を苦にはしないでしょう。故に何らかの対処をしなければ苦戦する可能性も有ります。なお、キャバリアを保有していない場合には友軍から借り受ける事も可能です。
それではどうぞよろしくお願い致します。
村崎・ゆかり
戦後統治が上手くいってるようで安心したわ。グエン将軍とホアン元参謀(今の役職はなんだろう?)の二人三脚、順調のようね。
それなら、綱渡りの平和を守るため一肌脱ぎましょ。
あたしへの報酬は、戦災復興事業に回しておいて。
さて、ホバー機能のある海兵隊使用のオブリビオンマシンか。使える手が限られる。
「全力魔法」「結界術」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「呪詛」で紅水陣を展開。
あたしの絶陣とその機体の装甲、どちらが強いか勝負よ。
密林の中なら、「目立たない」ように隠れるにはうってつけだわ。「環境耐性」「地形耐性」を活かしつつ、なるべく死角へ入るように動く。
ビームライフルを向けられるのは、流石にぞっとしないからね。
●いま再び、雨は降る
「さて、と。残念な状況になってしまったけれど、戦後統治が上手くいってるようで安心したわ。グエン将軍とホアン……元参謀で良いのかしら? ともあれ、二人の二人三脚は順調のようね」
傭兵と言う建前上、往々にして猟兵が必要とされる場面は鉄火場が多い。今回もそんな例には漏れないものの、旧『共和国』が穏当な状況である事を知らされた村崎・ゆかり(“|紫蘭《パープリッシュ・オーキッド》”/黒鴉遣い・f01658)は静かに笑みを零す。
彼女がいの一番で駆けつけた事からも分かる通り、頭の片隅で戦後の動向が気掛かりだったのだろう。安心したのは確かだが、一難去ってまた一難とはこの事か。状況としては前のゲリラ掃討戦に似ているが、相対する敵の質は以前と比べ物にはならなかった。
「少しずつでも良い方向に進んでいたのなら、綱渡りの平和を守るため一肌脱ぎましょ」
「……|猟兵《イェーガー》、か。敵にすると恐ろしいが、味方ならこれ以上頼もしい存在もそう居まい」
「儂らの懐事情も決して良いとは言えんが、出来る限りの報酬は約束しよう。それが誠意と言うものだからな」
そう決意を新たにするゆかりに対し、せめて見送りをと出てきた老軍人たちが頼もしそうな視線を送る。彼らはそれぞれの立場から猟兵の実力を目の当たりにしていたのだ。故にこそ、その信頼は厚い。対して乙女はひらりと手を振って見せた。
「傭兵的に言うなら、これもアフターサービスってところかな。だからあたしへの報酬は、戦災復興事業に回しておいて」
それで良いのかと苦笑する二人を尻目にゆかりは単身、密林地帯へと飛び込んでゆく。兎にも角にも、此処は首都に近すぎる。敵の撃退と並行して、少しでも戦線を押し込むべきだろう。
幸いにも、わざわざ敵を探す手間は必要なかった。不意に強烈な突風を感じたかと思うや、彼女の頭上に影が差す。ハッとそちらを見やれば、紫色の機影が視界いっぱいに広がる。見つけるまでも無く、反乱勢力は首都目掛けて今まさに殺到しているのだ。
『なんだ、斥候の歩兵か……いや、それにしては妙だな?』
『まて、この娘の顔には覚えがある。ああ、そうだ。気を付けろ、こいつは「人民国」が雇った傭兵だ!』
どうやら、かつて直接交戦した兵士も混じっているらしい。猟兵の存在を認識した途端、敵部隊の纏う雰囲気が剣呑さを増す。一方、ゆかりは端から油断など無し。凄まじい勢いの風圧を受けて目を細めながらも、頭上に陣取る敵機を睨む。
(さて、ホバー機能のある海兵隊仕様のオブリビオンマシンか。飛行じゃなくて滞空レベルだけど、あのサイズに浮かばれると生身じゃ近づきにくい……使える手が限られる、けど)
素早く向けられた銃口から高エネルギーが放たれ、射線上にあった樹木ごと消滅してゆく。至近距離を通り過ぎる高熱に顔を顰めながらも、猟兵は思考を巡らせてゆく。直接の切った張ったが難しい点は厄介だが、それならそれでやり様があるものだ。
「……古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」
『これは前にも浴びた……ッ!? だが、今回は装甲で防護されているのだ。そう易々とは!』
「あらそう? それじゃ、あたしの絶陣とその機体の装甲、どちらが強いか勝負よ」
ゆかりが発動したのは以前の対ゲリラ戦でも使用した、強酸性の赤い霧雨を招き寄せる術式である。前は相手の機体が機体ゆえに短時間で行動不能となったが、此度は流石にそうもいくまい。
(なるべく死角に……ビームライフルを向けられるのは、流石にぞっとしないからね)
乙女は射線を切るべく走り回り、周囲に生い茂る熱帯雨林へと身を紛れ込ませてゆく。絶え間なく放たれる光条が戦場を照らす度、抉る様に緑が消えてしまう。同時にじゅうじゅうと霧雨も蒸発してゆくが、それが不味かった。
『ッ、機体にエラー!? 装甲の隙間から蒸気が入って来たのか? おのれ、またしても……ッ!』
「これで二連勝ね?」
次々と機能不全に陥り、崩れ落ちてゆく強襲機たち。その有り様を一瞥すると、ゆかりは不敵な笑みを浮かべるのであった。
成功
🔵🔵🔴
イーブン・ノルスピッシュ
折角たどり着いた平和だというのに、それを自ら破壊するか
勿体ない事だ
キャバリアは必要ない
密林迷彩の|外套《ポンチョ》を借りれればそれで十分だ
霊体化しても唯一熱源センサーには引っかかるが、それも彼ら自身の作り出した戦火のために判然としない筈
密林の樹木を足場に跳び回り、邪魔な枝葉も敵の攻撃も真っ直ぐすり抜けて肉迫
搭乗席のハッチをパイルで穿って、怪力任せにこじ開けよう
さあ、死の沼の|幽霊《ブギーマン》が仕置きに来たぞ
パイロットを地面に投げ落とし、機体は念入りに破壊
逃げるにせよ投降するにせよ、いずれにしても鉄騎の行き交う戦場を丸腰で抜けてもらう
ここらの地理に明るいという話だったな
なら死にはせんだろう
●狩り立てよ、炎
早々に到着した仲間が反乱勢力との戦端を開いていた頃。ほぼ同じタイミングで戦場へと降り立ったイーブン・ノルスピッシュ(|死を焚べて灯る鬼火《ゲシュペンスト・イェーガー》・f40080)は、忌々しそうに溜息を零す。
「折角たどり着いた平和だというのに、それを自ら破壊するか……その源は排斥された恨みか、自らの想像と異なる結果への反発か。何にせよ、勿体ない事だ」
彼の生まれ故郷は獣人戦線。『超大国』による侵略に晒されている現状を思えば、この小競り合いが絶えぬクロムキャバリアの惨状も他人事では無い。だからこそ、決して完璧では無いが間違いなく平穏と呼べる状況を敢えて乱す行為を理解できないのだろう。
「猟兵殿。上からは出来る限り要望に融通せよと通達されています。我が軍の機体を貸与する事も可能ですが……」
「いや、キャバリアは必要ない。武器弾薬も自前があるし、地形はおおよそ頭に叩き込んである。後は密林迷彩の|外套《ポンチョ》でも借りれればそれで十分だ」
その背を見送る兵士に必要な装備はあるかと問われるも、彼は問題ないと長大な大型の改造狙撃銃を担いで見せる。技術レベルは比べ物にならぬが、それでも『キャバリア』と言う存在ならば勝手知ったるものだった。
斯くして、イーブンもまた密林地帯へと飛び込んでゆく。予想通り周囲の見通しは枝葉で悪く、足場も水気を含んでぬかるんでいる。普段ならまだしも、キャバリア相手にこれでは些か分が悪い。そう判断した兎人は小さく深呼吸をするや、己の裡側へと意識を向けた。
(霊体化しても唯一熱源センサーには引っかかるが、今の状況が状況だ。彼ら自身の作り出した戦火に紛れ、きっと判然としない筈。問題はビームを始めとする高熱系の兵装か)
すると揺らめく炎が身体のあちこちに灯ったかと思うや、肉体や装備が燃え盛る霊体へと置換される。これで物理的干渉に対してはほぼ無敵となった。だが、炎と同じ性質を有している為に熱を感知されてしまう点と、同系統の攻撃では手傷を負う可能性がある点の二つが懸念と言えよう。
ともあれ、これで機動力に関しては解決だ。兎人は枝葉を足場に、一塊の焔と化して密林を跳ね進む。そうしてイーブンが移動中の敵機を発見したのと、相手がセンサーに違和感を覚えたのはほぼ同時であった。
『高速で移動する人間大の熱源……? まさか、猟兵とやらか!?』
「遅いッ!」
咄嗟にこちらへ銃口を向けられただけでも賞賛に値すべきか。すぐ真横を駆け抜けた光条は炎以上の威力を帯びた高熱線。掠めた手足が抉られるような痛みを訴えるも、直撃に比べれば可愛いものだ。
兎人はそのまま敵機の胸部へ取りつくや、狙撃銃先端に取り付けられた射突機構を起動。僅かな隙間を|鉄杭《パイル》で強引に穿つと、そのまま力任せにハッチを抉じ開ける。物理的に常人ではありえない事態に、操縦者はただただ唖然とするしかなかった。
「さあ、自称愛国者。死の沼の|幽霊《ブギーマン》が仕置きに来たぞ」
「お、おおっ!」
思わず腰元の拳銃に手を伸ばすが、イーブンはそれを取り上げるとそのまま相手を機外へと放り出す。痛みに呻く敵兵を尻目に、彼は機体を徹底的に破壊。一先ず応急修理程度では動かせぬレベルにしてから、くるりと元兵士に向き直る。
「お、俺を殺すのか……ッ?」
「いいや。お前が逃げるにせよ投降するにせよ、いずれにしても鉄騎の行き交う戦場を丸腰で抜けてもらう。確か、ここらの地理に明るいという話だったな。なら死にはせんだろう」
猟兵の言う通り、この土地で生まれ育った者ならば生きて脱出する手もあるだろう。尤も、この状況では流れ弾に当たる危険性も決して低くはない。とは言え戦闘はまだ始まったばかりなのだ、わざわざ安全地帯までエスコートしてやる義理も無かった。
「……同情はしない。代わりに、黒幕とやらにはきっちりと責任を取って貰おう」
一目散に逃げてゆく兵士の背中を眺め、イーブンはそう独り言ちる。彼は踵を返すや、新たな敵影を求めて再び移動を開始するのであった。
成功
🔵🔵🔴
ジェイミィ・ブラッディバック
(UC発動、アークライト自治領のPMSC・イェーガー社と共に現地へ)
停戦監視活動に関しては我々イェーガー社もノウハウがあります。一枚噛ませていただけませんか。
無料で戦力の供給を行うような活動を許せば我々の事業が打撃を受けますし、何より余計な波風は立てるべきではないでしょう。
ガザニアの海兵隊仕様ですか。ならば走破性の高い四脚のストライクフェンリル隊を出し、私自身もTYPE[JM-E]で出撃。
イェーガー社のレーダー要員はヘルメスの広域レーダーで索敵を。データリンクを行い、常に敵の位置と地形状況を共有。
1機のガザニアに3機のストライクフェンリルで攻撃。
私は前線指揮と遊撃。
効率よく敵を撃墜します。
●鉄の猟犬からは逃れ得ぬ
半ば奇襲に近い形で始まった反乱勢力による蜂起だったが、速やかに駆けつけた猟兵の働きによってその衝撃力は徐々に勢いを失いつつある。とは言え、まだまだ油断を許さぬ状況だ。そんな中、多くの隊員を引き連れて戦場へと姿を見せる猟兵が居た。その動員兵力を見たグエンは思わず口笛を吹く。
「これはよもや、一部隊丸ごと引っ張って来たのか。押っ取り刀であるはずなのに、随分と手際が良いな」
「お褒めに預かり恐縮です。停戦監視活動に関しては我々イェーガー社もノウハウがあります。どうか此度の案件に一枚噛ませていただけませんか?」
その正体はジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/Mechanized Michael・f29697)と、彼の要請を受けたアークライト自治領のPMSC・イェーガー社の面々だった。此度の事態は猟兵としてのみならず、傭兵としても見逃せぬ事態である。故にこそ、彼は過去に得た伝手を動員してまで駆けつけたのだ。
「終戦協定に不満を抱く反乱勢力へ、軍事供与を行った第三勢力が存在する、と。無料で戦力の供給を行うような活動を許せば我々の事業が打撃を受けますし、何より余計な波風は立てるべきではないでしょう」
「何事も|無料《タダ》より高いものはない、だ。利息がどれ程になるか分かったものではないからな。諸君らの報酬に関してはきっちり払わせて貰うので、心配はしないでくれ」
「ええ、お任せを……さて、敵機種はガザニアの海兵隊仕様ですか。ならば走破性の高い四脚のストライクフェンリル隊を出しましょう」
ホアンの言葉に首肯を返しながらジェイミィは素早く現状を分析してゆく。相手が機動力に長けた機種である以上、こちらもそれに着いていけねば話になるまい。なればと彼が起動させしは狼型のキャバリア、型式番号ARL-CCV-15QE『ストライクフェンリル』が一個中隊分。獣と人型の二形態に変形可能な最新鋭の無人機だ。
戦機はPMSCの社員に索敵を任せつつ、自身もまた愛機を装着。無人機を引き連れて戦線の押し上げを図る。少しでも首都から敵を遠ざけねば、こちらの戦術的自由度も大きく制限されてしまうからだ。
『ブラッディバック君。十時方向に敵部隊の反応アリ。数は四、距離二百。どうやら動きを見る限り、まだこちらには気付いていない様だ』
機体や練度は決して低くないが、組織力と言う点ではやや甘いように思える。そこまで綿密に計画された蜂起ではないからか、それとも脅威ではあるが後で『叩き潰しやすい』ように敢えてそうされているのか。形容しがたい作意の気配を感じながらも、まずは眼前の敵戦力を打ち破るべく戦闘へと思考を切り替えてゆく。
『分かりました。総数ではどうあれ、局地的な数的有利を活かさぬ手はありません。敵一機に対してストライクフェンリル三機をぶつけます。確実かつ効率良く行きましょう』
|先に補足し《ファストルック》、|先に放ち《ファストショット》、|先に墜とす《ファストキル》。現代戦の鉄則を遂行すべく、ジェイミィは示された方向へと進路を取る。熱帯雨林の見通しは悪いが、データは嘘をつかないものだ。彼は教共有された情報に従い、接敵と同時に無人機たちの手綱を手放す。瞬間、猟犬は獲物目掛け猛然と襲い掛かった。
『なっ、なんだ、奇襲かッ』
『ぐ、ぉぉおっ!?』
如何な高性能機と技量があろうとも、それを活かせねば脆いもの。猟兵側の奇襲攻撃によって四機中二機が為す術もなく撃破される。だが一方、残りは手足をもぎ取られながらも強引に距離を取り、ライフルの銃口を突き付けてきた。
『この動き、無人機かッ! ならば、司令塔さえ潰せば……!』
『短時間で見抜く戦術眼は敵ながら見事と言えるでしょう。惜しむらくは、それを長期的視野に活かせなかったことですか』
狙い違わず猟兵目掛けて高エネルギーが放たれるも、戦機は構えたシールドで受け流し、或いは無人機を割り込ませることで被弾を凌ぎながら距離を詰めてゆく。更には別の敵機を撃破し終えた機体も攻撃に参加している以上、大きく開いた数の差を覆す事など出来るはずもなし。果たして、ものの数分も経たぬうちに遭遇した敵戦力は撃破される事となった。
『一先ず、周辺一帯に敵影を認めず。今の部隊はこれで終わりらしいな』
『私の損傷も軽微かつ、ストライクフェンリルの損失も無し。この後の事を考えれば上々でしょうか』
観測要員の報告に頷きながらも、ジェイミィに油断は無い。この蜂起は事態の表層に過ぎないと彼は確信していたのだ。斯くして戦機は友軍と連携を取りつつ、速やかに敵の殲滅を完遂すべく動き出すのであった。
成功
🔵🔵🔴
ベスティア・クローヴェル
せっかく平和になった所にちょっかいを出すなんて、野暮というか、なんというか…
争いが続く方が得をするなんて考え方、どう捻くれたら出来るのだろうね
なんにせよ、放っておくわけにはいかないよね
とはいえ、周囲は熱帯雨林で燃やすわけにもいかない
それにキャバリアなんて複雑な機械を操縦するのも難しい
ならば、敵の力をそのまま利用させてもらおうか
周囲の音をしっかりと聞き分けて不意打ちに注意しながら、周囲の熱を食らい悠々と歩き続ける
生身の不審者が歩いているのだから、向こうから見つけてくれるでしょ
銃でもなんでも撃って居場所を教えてくれれば、あとはこっちのもの
視界に捉えて、最大の一撃を叩き込んでしまえばいいだけだもの
●戦火を喰らいし銀狼
ピクリと耳を立ててみれば、聞こえて来る音はどれも不快なものばかり。火薬の爆発、機甲が軋む金切り音、そして兵士の上げる断末魔。うんざりだとそれらを意識の外へ切り離しながら、ベスティア・クローヴェル(salida del sol・f05323)はちびた煙草を落として踏み消す。
「せっかく平和になった所にちょっかいを出すなんて、野暮というか、なんというか……争いが続く方が得をするなんて考え方、どう捻くれたら出来るのだろうね。平和である方が得られる物は多い筈なのに」
望んで平穏を得られる事なぞ、そう多くはないと彼女は身に染みて知っている。だと言うのに、わざわざ戦乱を求める思考が理解できないのだろう。事実、その考えは間違っていない。戦争で得られる利益なんてものは、世間が考えるよりも僅かだ。だが一方、それを『有効な手段』と考える者が居るのもまた事実。
「……なんにせよ、放っておくわけにはいかないよね」
最終的に裏で糸引く者が何を狙っているのかは分からぬが、思い通りにさせてやる義理も無し。他人の庭で火遊びするような連中にはご退場願わねばなるまい。その為にも、ベスティアはどう立ち回るべきかと思考を巡らせてゆく。
(とはいえ、周囲は熱帯雨林で燃やすわけにもいかない。火の海にでもしたら、どっちが侵略者なんだという話だしね。それにキャバリアなんて複雑な機械を操縦するのも難しい……ならば、敵の力をそのまま利用させてもらおうか)
多少の森林破壊ならば|許容の範疇《コラテラル・ダメージ》だろうが、それでも被害が少ないに越したことはない。彼女は単身、濃密なる緑の中へと飛び込む。既に交戦を開始してから短くない時間が経過しており、其処此処には破壊されたキャバリアとそれを舐める炎が見えた。
「――|大狼《スコル》が陽を呑み、終わらぬ冬が訪れて、世界は終末の時を迎える」
スゥ、と。彼女が小さく息を吸うと同時に、燻っていた焔が文字通り『消えた』。後はただ、微かな煙を上げる残骸が残るのみ。銀狼は悠然と戦場を歩みながら、目に付く熱を片端から喰らってゆく。
(先行したお仲間に散々叩きのめされてるだろうからね。そんな状況で生身の不審者が歩いているのだから、向こうから見つけてくれるでしょ)
ベスティアはあくせく獲物を探す様な真似はしない。周囲の気配に神経を研ぎ澄ませ、敵の到来を待ち構える。果たして、不意に大気を切り裂く轟音が耳朶を打つ。慌てる事無くそちらへ視線を向けると、彼女目掛けて飛翔する誘導弾、そしてその向こう側に攻撃者である紫の機影が見えた。
『おい、それは虎の子の対要塞用ミサイルだぞ? あんな歩兵相手に使わずとも……』
『いいや。これくらいしなければ、連中は仕留められん』
前回と今回の経験から、歩兵相手でも油断しなくなっているのか。元『共和国』兵士たちは弾数の限られる高火力兵装を躊躇なく発射。堅牢な拠点や軍艦をも沈める威力を猟兵へと直撃させた。
『流石にこれならば……ッ!?』
「随分と遠慮がないものだ。だけど、これはある意味で好都合かな。爆発も大別すれば『熱』には違いないからね?」
濛々と立ち込める爆煙に相手は撃破を確信するが、予想を裏切り怜悧な声が戦場に響く。ピキリと言う硬質な音と共に周囲が霜に覆われ、煙の中からベスティアが姿を見せる。流石に無傷とはいかなかったらしいが、それでもダメージは軽微。誘導弾が炸裂した瞬間、発生した熱量を全て吸収したのだ。
「居場所を教えてさえくれれば、あとはこっちのもの。キャバリアは確かに強力だけど、生身と比べれば遥かに大きいからやりやすい。視界に捉えて、最大の一撃を叩き込んでしまえばいいだけだもの」
銀狼の視線が敵機を射貫いた瞬間、彼女の全身から咆哮の如き衝撃波が迸る。それは喰らった熱量を変換した純粋な力の奔流だ。『見る』と言う極めて単純かつ確実な動作を切っ掛けとするその異能はほぼ必中。そも、狼に狙われてどうしてその牙から逃れられようか。
『ここまでやって、何故また……ッ!?』
一度ならず二度までも敗北する事実に思わず悪態が兵士の口を突くも、最後まで言い切る猶予も無し。斯くしてそっくりそのまま叩き返された一撃により、機体は搭乗者を乗せたまま戦闘不能へと追い込まれるのであった。
成功
🔵🔵🔴
ティー・アラベリア
友軍相撃を回避しつつ、しかして共和国の指揮の元、事態の早期終結を図りたいと。ご心労の程お察しいたします。
相手がオブリビオンである限り、我々は最適な道具であると申せましょう。
敵に地の利あり、数の利あり、装備良好で士気旺盛。
非常に楽しい状況ですね。
森ごと吹き飛ばすのは民心の離反を招くでしょうから、淑やかに参りましょう。
叩き潰すべきは指揮結節及び通信基盤です。
敵の長所たるは高機動力。すなわち、部隊単位での機動の柔軟性と速度の速さです。
これらは上級部隊の指揮統制下にあってこそ真価を発揮します。逆を言えば、明確な指揮統制を受けていない敵機は、単に速いだけの機体にすぎません。
そこで生み出しますは波動管制妖精。電子戦用の妖精です。
ボク自身の輻射波動分析機構とも組み合わせ、戦場の電波の内容と発振位置を収集分析。
周辺部隊の展開状況と指揮結節、つまりは大隊あたりの本部位置を特定します。
特定完了後、波動管制妖精を用いて全無線周波数帯にジャミングを実施。
部隊の間隙を突破し、敵指揮官の首を刎ねて差し上げましょう。
●奉仕人形の戦場清掃
『友軍が次々と撃破されている。どうやら、以前我々に煮え湯を飲ませた傭兵が向こう側に居たらしい』
『なに? 偵察ではそんな兆候など微塵も……いや、やはり|情報提供の通り《・・・・・・・》、連中は裏で手を組んでいたのだ! 茶番で我々の愛国心を愚弄するばかりか、蜥蜴の尻尾切りに使いおってッ』
猟兵が反撃に動いたという事実は既に反乱勢力の間へ広まっていた。彼らの主敵はもちろんグエンやホアンを中心とする『統治機構』指導部だが、猟兵と言う存在もまた仇敵と言えよう。傭兵ならば対価を提示しての交渉も選択肢に入って然るべきだが、どうやらそんな可能性なぞ露ほど思考に無いらしい。
「……成る程。市民感情を慮って友軍相撃を回避しつつ、しかして対外的には共和国指揮という体裁の元、事態の早期終結を図りたいと。ご心労の程、お察しいたします」
一方、手短にこれまでのあらましについて友軍から説明を受けたティー・アラベリア(|ご家庭用奉仕人形《自立駆動型戦略魔導複合体》・f30348)は慇懃そうに顔を伏せる。半年間の統治というのがどれ程の実績として評価されるか、一概に是も非も言えぬところだ。
しかし、依然として老軍人たちの立場が薄氷の上と言う事は理解できた。故にこそ、彼は奉仕人形として雇用主のニーズを満たさねばなるまい。幸い、こうした『清掃作業』はティーの得意分野である。
「相手がオブリビオンである限り……我々は最適な道具であると申せましょう。では、どうぞご安心して仕事ぶりをご覧くださいませ」
そうして人形はたおやかに微笑みながら、臆することなく敵の真っ只中へと飛び込んでゆく。どの様に『業務』を完遂するにしろ、まずは情報の整理が欠かせない。ティーは足場の悪い密林地帯を駆け抜けながら、脳裏で段取りを組み立ててゆく。
(敵に地の利あり、数の利あり。その上、装備良好で士気も旺盛。非常に|楽《むずか》しい状況ですね。流石に森ごと吹き飛ばすのは民心の離反を招くでしょうし、雇用者の心象も悪くなる……ならば、今回は淑やかに参りましょう)
ハッキリ言って、戦況は余り芳しくないと言えるだろう。友軍は数も質も劣っている上、実質的に首都を人質に取られている。機動力を活かせぬ軍隊なぞ文字通り手足を縛られたに等しい。だが裏を返せば、故にこそ単騎で超人的な戦力を持つ猟兵が活きるとも言えた。
(まず叩き潰すべきは指揮結節及び通信基盤でしょうね。敵の長所たるは高機動力……即ち、部隊単位での機動の柔軟性と速度です。ですが大前提として、これらは上級部隊の指揮統制下にあってこそ真価を発揮する)
彼の推察通り、反乱勢力は腐っても軍人の集団だ。仮に『元』と但し書きが付いたとて、彼らが培った経験や技量が消えてなくなる訳でも無し。策も連携も取らず、無為無策に突っ込んで来る様な無能を期待すべきではないだろう。だが、それ故の弱みもまたある。
(……逆を言えば、明確な指揮統制を受けていない敵機は部隊でなく、単に速いだけの個が集まった存在にすぎません。敵も汚れも、綺麗にしたいならまず『根本』から断ちませんとね?)
上命下服は軍隊の宿痾。それは時に堅牢な組織体制を作る利を齎すが、打ち砕かれれば短期間でのリカバーは困難だ。つまり、猟兵の狙いは指揮系統を狙い澄ました『斬首戦術』だった。ティーはそんな『要石』を見つけ出すべく、そっとスカートの端を摘まみ持ち上げて見せる。
主機の命令に応じ、不可侵なる絶対領域から顕れ出でるは小さな妖精型の機械が九つ。それらは波動管制、端的に言えば電子戦に長けた従僕たち。奉仕人形は自身に内蔵された分析機構とも連動させ、戦場に飛び交う情報を掬いあげてゆく。
(通信の強弱や量、平文か暗号か。繰り返されるフレーズや傾向。例え断片的であろうとも、それらを重ね合わせれば目指すべき方向は見えてくる筈……っと?)
通常であれば十数人がかりで為すべき作業を単身でこなしてしまうのは、猟兵の面目躍如と評するべきだろう。彼はある地点へと向けられる通信量が異様に多い事を看破するや、そちら目掛けて一気に加速する。
果たしてティーの予想を裏付けるかの如く、熱帯雨林の一角に屯する部隊を捕捉した。パッと見の外見は他の機体と変わらないが、この状況下で戦線後方に引き籠っている戦力が何者であるかなど今さら問うまでもない。
『ッ、高速で接近する|未確認戦力《アンノウン》を認む! あれは……なんだ、メイド?』
『以前交戦した傭兵のリストには無いな。新手だ、注意せよ!』
だが、相手は素行にこそ問題有りと判断されたが、兵士としては先の戦争を戦い抜いたベテランばかり。索敵圏内へと飛び込んできた猟兵にすぐさま反応。突き付けられた無数の銃口から放たれる高出力ビームが、輝く嵐となって奉仕人形へと襲い掛かった。
(ビームライフルの照準自体はマニピュレータとの接触通信で機体とリンクされてしまう様ですね。となれば、一先ずは連携を寸断するのが先決でしょう)
降り注ぐ熱線はキャバリアの武装としてありふれた仕様だが、人間サイズが相手となればそれは重砲以上の火力と化す。その上、こちらの動きを封じる様な統制射撃に晒されれば些か以上に分が悪い。
自らの纏う装束が発する焦げ臭い匂いを感じ取りつつ、ティーは妖精を通じて全無線周波数帯へ強烈なジャミングを実施。機体間の通信を断ってやると、その効果は正に覿面だった。途端に弾幕の射線に偏りが生じ、僅かながらも突破口が生まれる。彼はその隙を目敏く見つけると、強引に間隙へと身体をねじ込ませてゆく。
『何だ、これはッ。猟兵とか言う傭兵連中は、どいつもこいつも化物か!?』
「化物? いいえ、ボクは単なる……」
――奉仕人形でございますので。
斯くして相手が驚愕に目を剥く中、ティーは敵指揮官の撃破に成功する。いずれは次席に指揮権が移譲されるだろうが、それでも暫くは混乱からは立ち直れまい。彼は己の目的が達せられたと判断するや、追撃のビームを掻い潜りながら一旦後退してゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
※増加装甲を付けたヘヴィタイフーンMkⅩに搭乗
心情:追放された連中は極刑を免れたのに自らサインして処刑台に登るのか、救いがねぇな。しかもあからさまな第三国の打算も見向けねぇ、仮にクーデターが成功してもどう立ち回るつもりやら。
手段:市街地に入れる訳にはいかん、ここで殲滅する。
【熟練操縦士】を発動して各種性能を向上、右肩のアウル複合索敵システムを起動、周囲の敵性機体の位置を把握、味方猟兵にも位置情報を知らせて円滑で効果的に迎撃と連携が出来る様試みる。敵は飛行能力もあるそうだ、コングⅡ重無反動砲に対空霰弾を装填、これで飛んでるガザニアを叩き落とす。
地べたの機体には左肩のクロコダイル単装電磁速射砲を連射にて対応する。
近接攻撃は相手が距離を詰めた場合だな、スパイクシールドで防ぎカウンター気味にバーンマチェーテで斬り付ける。
問題は敵の対艦ミサイルだが、遮蔽物になり得る大きな岩や大木の幹の影に隠れ直撃は避けるよう試みる、コングⅡの対空霰弾を撃って迎撃するのも手だな。
●此度もまた慈悲は無く
『追放された連中は極刑を免れたのに、自らサインして処刑台に登るのか……ほとほと救いがねぇな。冷遇されて苛立つ気持ちは分かるが、命あっての物種だろう』
次々と入って来る報告に耳を傾けながら、ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)は心底呆れかえったように深々と溜息を吐く。彼は以前の一件に参加し、終戦条約の締結に尽力した猟兵の一人だ。それ故、今回の反乱蜂起には思う所が多々あるのだろう。
『しかも、あからさまな第三国の打算も見抜けねぇとは。仮にクーデターが成功してもどう立ち回るつもりやら。貸しの取り立て代わりに首輪をつけられるのなんざ分かり切ってるだろうに……ま、だからこそ追放されたとも言えるんだが』
追放された面々は誰も彼もが『そのまま残せば、今後の禍根になる』と判断された連中ばかり。そうならない為にも武装や権限を剥奪し、国外や僻地への追放処分を以て対策としたのだ。命だけは助けるという都合を鑑みれば、穏当且つ確実な手段であったのは間違いない。
だが、流石に他国の介入まで想定しろと言うのは無茶だ。加えてヴィリーの言葉通り、彼らは『善意の第三国』に大きな借りを作ってしまっている。疲弊しきった国に返す当てなど無く、待っているのは債務と返済の関係による経済的支配だろう。
(尤も、『第三国』とやらは端から成功させてやる気なんざ無いんだろうがな)
だが、考えてもみよう。仮に反乱を為し間接的に『善意の第三国』が元『共和国』の実権を握った所で、『人民国』とはまず間違いなく敵対してしまう。だが、『人民国』の手に負えなくなった事態を代わりに収拾したという体裁であれば、両国に恩を着せる事が可能だ。つまりどう足掻いても、反乱勢力に未来は無いのである。
『……ともあれ、市街地に入れる訳にはいかん。ここで殲滅する。考えてみれば、あの時とは真逆の構図か。首都から打って出て、連中を熱帯雨林の奥深くまで押し込むぞ』
此度の騒動を叩き潰せば、裏で糸を引く連中も押っ取り刀で姿を見せる筈。そちらへの対応は向こうの出方次第だ。今はまず、眼前の脅威を排除する事が先決である。傭兵は増加装甲を纏った愛機を駆り、密林地帯を突き進んでゆく。
幸い、先行した仲間のお陰で戦線を押し込む事には成功している。加えて、指揮系統に一撃を喰らわせたらしく、当初の足並みも乱れつつあった。つまり、攻勢に打って出る好機と言う訳だ。
『火器管制システムオンライン、センサー・駆動関係異常無し。全システムオールグリーン。アウル複合索敵システム起動、データリンク正常。よーし……反撃開始だぜ!!』
乗機の肩部に搭載された強固な索敵システムは、例え彼我の間に鬱蒼とした密林地帯が広がっていようとも敵の存在を炙り出す。果たして、少し離れた場所に一塊となっている敵戦力を捕捉する。
(頭を潰されて退くも進むも判断できなくなった連中が、取り敢えず寄り集まったってところか。敵は飛行能力も備えているらしいからな、ホバリングで取り逃しても詰まらない……念のため友軍にも情報を共有しつつ、コングⅡ重無反動砲で叩き落す)
先の条約では不十分だったというのなら、今度こそきっちりと禍根を断つ。傭兵は万が一に備えて別方面に展開している友軍にもデータリンクを行いつつ、無反動砲に対空用の霰弾を装填。仰角を調整しながら敵目標へとにじり寄る。
彼の乗騎は高火力かつ重装甲な反面、速力に秀でているとは言い難い。故にこそ、初撃からどこまで素早く仕留められるかが肝であろう。果たして、彼は密林地帯上空でホバリングしていた敵部隊目掛けて先制攻撃を叩き込む。
『まずは頭を押さえるッ!』
『なっ、ここまで近づかれていたのに気づかぬとは……ッ!?』
放たれた砲弾は宙空で弾けたかと思うや、内部から無数の子弾を投射。不意を突かれた敵部隊は咄嗟に高度を下げて散布界から逃れんとするも、反応の遅れた機体が巻き込まれ立て続けに爆散してゆく。一網打尽とはいかなかったが、飛んで逃げるという選択肢を潰すことは出来た。
『あ、あれは以前の戦いでも見た重キャバリア……!?』
『ガトリングやライフル程度であの装甲は抜けん。出し惜しむな、対要塞用兵装を使えッ!』
前回、ヴィリーは『共和国』のゲリラ部隊を容赦なく殲滅している。恐らく、その時に刻み込まれた脅威は半年経ってもなお色褪せていないのだろう。首都へ踏み込んだ際を想定した拠点攻略用の対地ミサイルを躊躇なく発射。専用の武器とあって、直撃すれば如何な重装甲とて無事では済むまい。
(周囲に遮蔽物となりそうな岩石は無し。大木の幹を盾にしても諸共に吹き飛ばされるな、ありゃ。出来れば直撃は避けたいが……いや、そうだな)
向かってくる誘導弾の群れを前に素早く思考を巡らせた傭兵は、再装填を終えた無反動砲を構え直すと再度発射。中間地点で炸裂した霰弾の嵐による迎撃を試みた。全てを撃ち落とせはしなかったものの、その多くが誘導装置に不調をきたし在らぬ方向へと離散してしまい、有効打を与える事は叶わない。
続けてヴィリーはお返しとばかりに左肩のクロコダイル単装電磁速射砲を浴びせかけ、端から順に地上へ降り立った残敵を刈り取ってゆく。強襲機は足回りを活かしてこそ。その強みを潰されては単純な重火力に抗し得る手段はほぼ無い。そう……。
『貴様に焼き滅ぼされた同胞の仇だけでも、せめて取ってくれようかッ!』
『ッ、白兵戦狙いか!』
ほぼ、無い。その数少ない例外こそが白兵戦である。砲撃戦では分が悪いと悟った相手は余分な兵装を投げ捨て、ビーム発振器を抜刀。高熱エネルギーの刃を形成しながら斬り掛かって来る。
対して、傭兵は鋭い突起のついた中型防盾を繰り出す。それは呆気なく溶断されてしまうが、僅かに生まれた隙を見逃さずに山刀型の過熱刃を抜き放ち、返す刀で敵機の中枢へ叩き込む。単純なマニピュレータ出力であれば此方が上だ。鍔迫り合いは一瞬。胸部を貫かれた敵機は糸の切れた人形の如く、その場へと崩れ落ちる。
『……軍人を謡うなら戦友だけじゃなく、国民の事も考えて欲しかったんだがな』
殺し殺されは戦場の理。それに恨み辛みを吐くのは自由だが、本分を忘れてくれるなとヴィリーは小さく呟きを零す。彼は鋼の骸を一瞥すると、更に密林奥深くへと敵を求め進んでゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【WIZ】後ろの正面だぁれ?
共闘可
やれ、この世界は何時も鉄風と硝煙が渦巻いているね
血気盛んな連中同士が喧嘩する分には構わないけれど、静かに隠居したい老骨にはさぞ耳障りな事だろう
……私も、別所でとは言え闘争を収めてきた身だ、静かな戦後を迎えるためにも手を出させてもらおうか
以前の戦闘経過はお偉いさん二人に蓄積があるだろう、鉄火場に向かう前に情報収集しておこうか
その上で、敢えて求煉は待機だ
ゲリラ戦は隠れてなんぼだからね
【哀怨鬼焔】
先の報告を見るに、視界不良の中で熱源による撹乱は有効とみた
イミナの操る百をくだらぬ人型の紫炎は、かつてこの地で命を落とした者の怨嗟も混じろう
この鬱蒼とした森で、焔の亡者と人ならざる生者の真贋を見抜くにはさぞ骨を折ることだろうね
私?
泥に塗れるも厭わず、人肌の熱も無い人型は、囮を目眩ましに悠々と迫らせてもらおう
装甲の脆弱箇所を見極めて、刺し、薙ぎ斬る
あぁ、そうだ
その紫炎は囮だけれど、囮に収まらない
しばらく出番の無かった彼女はどうもご立腹らしくてね
精々、妬かれないようにね?
ティオレンシア・シーディア
あー…予想はしてたけれどやっぱりちょっかい出してきたわねぇ、「善意の第三国」とやら。
これだけ自分と状況に酔ってればノせるのもさぞ簡単だったでしょうねぇ…
相手に土地勘あっても熱帯雨林で視界は切れるわけだし、そこから崩しましょうか。
スノーフレークに○騎乗してまずは|エオロー《結界》で傾斜装甲の○オーラ防御を展開、さらに|ラグ《幻影》と|摩利支天印《陽炎》で光学・熱源○迷彩を起動。索敵はマルガリータに任せて二重の迷彩でセンサー類誤魔化しつつ●射殺・改式で狙撃叩き込むわぁ。悪目立ちってほどじゃなくても多少相手の索敵に引っかかるようにしたほうが釣りやすいかしらぁ?
弾丸に|帝釈天印《雷》なり|ニイド《欠乏》なり刻んでおけば、制御系ブッ壊すなり燃料不足なりで擱座させられるでしょ。
積極的に殺しはしないけれど、死んだら死んだでまあいいか、程度の意識ねぇ。撃ってるんだもの、撃たれもするでしょ?
そのまま投降すればひとまず捕虜として扱ってもらえるとは思うわよぉ?
…その後までは、あたしの知ったことじゃないけれど。
●陽炎、密林にて惑わし
当初こそ奇襲効果も有り首都目前まで迫っていた反乱勢力だったが、猟兵の参戦によって戦況は瞬く間に覆されつつある。既に戦線を熱帯雨林奥地へ押し込むことに成功しており、予想外の一手でも打たれなければこのまま押し切れるだろう。
だが、その事実に安堵してもいられない。此度の蜂起は飽くまで事態の表層に過ぎないのだ。裏で謀略を企図する者らの目論見を挫き、表舞台へ引きずり出す為にも速やかな殲滅が不可欠である。そんな状況を踏まえ、戦場へと降り立ったファン・ティンタン(天津華・f07547)は呆れた様に首を振りゆく。
「やれやれ、この世界は何時も鉄風と硝煙が渦巻いているね。血気盛んな連中同士が喧嘩する分には構わないけれど、静かに隠居したい老骨にはさぞ耳障りな事だろう……況や、その余波が戦火に疲弊した人々を苛むというなら猶更か」
一難去ってまた一難とは正にこの国の様な状況を言うのか。戦乱と切っても切り離せぬ世界だが、よく飽きもせずに相争うものだと白刀は眉根を顰める。別の戦線では『争いを続けて何が得られるのか』と苦言を呈した者も居たように、根本的な思考の立脚点が異なるのだろう。
「あー……予想はしていたけれど、やっぱりちょっかい出してきたわねぇ、『善意の第三国』とやら。追放された手合いもこれだけ自分と状況に酔ってれば、ノせるのもさぞ簡単だったでしょうねぇ。腐っても元軍人なら、少しはおかしいと勘繰って欲しかったけれど」
一方、同じようにさもありなんと溜め息をつくのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)だ。彼女もまた先の一件に参戦していた猟兵の一人であり、老軍人たちが終戦の決め手とした軍事支援の話をしっかりと覚えていた。そのまま手を引いていれば良いものを、余計な事をしてくれたと眉根を顰めゆく。
「戦闘経過を知っているお仲間が居るのは心強いね。地形はもとより、反乱勢力の練度や戦術について教えて貰えると助かるよ……私も、別所でとは言え闘争を収めてきた身だ。静かな戦後を迎える為にも手を出させて貰おうか」
「お安い御用よ。とは言え、以前戦った時に使っていた機体はこう、キャバリア未満の重機レベルだったのよねぇ。だから、戦力は確実に強化されていると思うわ。あと、前回に引き続きやたらと戦意も高いみたい」
二人は本格的な戦闘に先立ち、手短に情報を共有しあう。素行面に問題有りと判断されたものの、元とは言え腐っても軍人だ。地の利を得ていることもあり、その技量は決して侮るべきではない。
一方、異様な士気の高さは良し悪しか。相手に後がない以上、最後まで抵抗を続ける可能性が高い反面、視野狭窄にも陥りやすい筈。それらを踏まえ、ファンは立ち回り方の方針を定めた。
「成る程、ね……キャバリアにはキャバリアをぶつけたいところだけど、敢えて求煉は待機だ。ゲリラ戦は隠れてなんぼだからね? その上で先の交戦報告を鑑みるに、視界不良の中で熱源による撹乱は有効とみた」
彼女は自前の機体を持ち込んでいたものの、どうやら今回は生身で赴く事にしたらしい。対するティオレンシアも熱源と言う言葉に何か考えがあったのか、うっすらと微笑みを浮かべてゆく。
「まぁ確かに、幾ら相手に土地勘があっても熱帯雨林で視界そのものは切れるわけだし、まずはそこから崩しましょうか」
ともあれ、戦術が決まれば後は行動あるのみ。持ち込んだ量産型キャバリア『スノーフレーク』を駆る女店主が先導しつつ、白刀がその歩みに随伴してゆく。戦線を押し込んでいる関係上、敵機と交戦するまでに幾分かの猶予がある。その間に仕掛けを済ませてしまうおうと、ファンが取り出したのは一枚の手鏡だった。
「百は下らぬ哀怨鬼焔、その一握にはかつてこの地で命を落とした者の怨嗟も混じろう。離合集散するこれらなら、生身も鉄騎も自由自在だ」
その鏡面が熱帯の湿り気を帯びた陽射しを反射した瞬間、ぼわりと紫色の炎塊が次々と周囲に立ち昇ってゆく。器物に宿る呪詛、その具現化たる鬼火だ。それらは絶えず合体と分離を繰り返しており、時に人型となり、時にキャバリアと見紛う程に大きさを増す。見通しが利かぬこの状況下では、これ以上ないデコイであろう。
だが、そこで終わらせては二番煎じで芸がない。もう一工夫を加えるべく、乗機の操縦席に収まったティオレンシアは握りしめた操縦桿を通じ、指向性を付与した魔力を躯体へと巡らせてゆく。
『まずは表層に|エオロー《結界》を張り巡らせて傾斜装甲を形成。その後、さらに|ラグ《幻影》と|摩利支天印《陽炎》で光学と熱源に対する迷彩を付与、と。二重の迷彩でセンサー類を誤魔化したいけれど、多少は相手の索敵に引っかかるようにしたほうが釣りやすいかしらぁ?』
避弾経始を目的とした魔力障壁を構築しつつ、その表層へ二種の欺瞞用術式を施す。これで機体そのものの安全性を確保しながら、同様のものを周囲に浮遊する紫焔にも伝播させていった。
これこそが策の肝。ただ単に|炎塊《デコイ》を増やすだけでなく、それらの露呈と隠蔽を任意で切り替えることにより、敵の攪乱を企図しているのである。全て検知させて頭数を多く見せることも、或いは交互に隠蔽を繰り返す事で神出鬼没を装うことも出来るだろう。センサー頼りになりがちな森林戦においてこれ以上の欺瞞工作もない。
「これだけの数だ。この鬱蒼とした森で、焔の亡者と人ならざる生者の真贋を見抜くにはさぞ骨を折ることだろうね」
『これなら気付かれる心配もかなり低そうねぇ。索敵はマルガリータに任せて、私は狙撃で確実に頭数を減らそうかと思うけど、そっちはどうするつもりかしら?』
「私? そうだね……この身は刃と同じく熱を発さない。泥に塗れるも厭わず、人肌の熱も無い人型は囮を目眩ましに悠々と迫らせてもらおう」
女店主の問いかけに対し、白刀は己の核たる刃を鞘走らせることで答えとした。強固な鎧を斃すのに弾丸一発あれば済むように、巨大な鉄騎とて脆弱部を狙えば切っ先一つで事足りる。
斯くして、敵の注目を惹くべく炎塊群を展開しながら熱帯雨林を進んでいた二人。周囲は相変わらず深緑に覆われていたものの、いち早く異変を検知したのはティオレンシアの機体に搭載された支援AIであった。
『どうやら食いついたようねぇ。狙い通りこっちを大部隊だと誤認しているみたい。動きを見た限り、分隊規模に分かれて包囲を狙っているのかしら?』
機械に似つかわしくない朗らかな合成音声に耳を傾けながら、彼女はモニター上に表示された光点へ目を走らせる。見かけ上の数では断然こちらが上回る以上、幾ら頭が茹だった手合いであろうと流石に真正面から挑んでくる事などあり得ない。
ゲリラ戦の原点に立ち返り、全周包囲と一撃離脱を織り交ぜて戦力を削り取ろうという算段か。だが猟兵からすれば実際に戦える人数は二人だけなので、寧ろその方が各個撃破を狙えて好都合だった。
『先に手を出させて、肩透かしを食らったところで狙い撃ちにしちゃいましょうか』
「確かに混乱してくれた方がこちらとしても距離を詰めやすいからね」
女店主と白刀は炎塊群からそれとなく距離を取り、それぞれが仕掛けやすい位置へと身を隠す。その数秒後、彼女たちと入れ替わるように紫色のキャバリアたちが一斉に飛び出して来る。
『姿も隠さず、大部隊で暢気にやって来るとはな。既に勝った気でいるのか!』
『舐めおって! ゲリラ戦術による遅滞戦闘で被った痛手をもう忘れた、と、は……?』
飛び交う高出力ビームに撒き散らされる徹甲弾の雨霰。まともに浴びれば大損害は必至な火力ではあったものの、それらは全てむなしく虚空を打つだけだ。既に炎塊たちは小さく縮小し、なおかつ欺瞞のルーンで隠されている。故に反乱軍の目に映るのは、何の変哲もない熱帯雨林の緑のみ。
『な、なんだこれは……つい一瞬前まで、機体の反応があったはずだぞ』
『いま現時点でのレーダーには一切の反応無し。大規模な電子戦の兆候があったとも思えないが。なんであれ、此処に留まるべきではないだろう。各隊は後退しろ』
動揺交じりにハッキングの可能性を口にするが、彼らもたまさか実際に物理的な火が焚かれていたとは思うまい。兎にも角にも『原理は分からぬが何か良くない事態が起こっている』と悟って兵士たちは、速やかにその場からの離脱を試みるのだが……。
『今ので、おおよそ誰が指揮官なのかは分かったわねぇ。なら、まずは頭から潰しちゃうわよ?』
そうは問屋が卸さぬとばかりに、ティオレンシアが動く。彼女は相手の動きからどの機体が上位者か見抜くと、狙い澄ました狙撃を叩き込む。無論、ただの弾丸ではない。|帝釈天印《雷》や|ニイド《欠乏》の刻印を入れた特別製だ。
高圧電流が制御系を焼き切ればマニピュレータ一本動かせず、動力源を奪えば燃料不足で沈黙せざるを得ない。その証拠に、直撃を受けた機体は全身から煙を噴き上げて沈黙してしまう。どちらも積極的に操縦者を殺傷する類のものではないが、かと言って今回は不殺を心がけている訳でもなかった。
(積極的に殺しはしないけれど、正直『死んだら死んだでまあいいか』程度の意識ねぇ。撃ってるんだもの、撃たれもするでしょ? それにあの老人たちも法を無視する手合いじゃないし、そのまま投降すればひとまず捕虜として扱ってもらえるとは思うわよぉ?)
――その後までは、あたしの知ったことじゃないけれど。
軍民問わず、なぜ裁判という手間の掛かる手続きが必要なのか。理由は多々あろうが、その一側面は世間へ知らしめるの為だろう。その者が如何なる罪を犯したか詳らかにし、故にこそ刑に処さねばならぬ、と。
ホアンとグエンはどちらも話の分かる人物だが、それは甘さを意味しない。どのように捕虜を処断すればその不当性が喧伝でき、自らの支持に繋げられるかを熟知している。『勝てば官軍、敗ければ賊軍』は時代、国を問わぬ心理であろう。
『くそ、狙撃手だと! やはり罠に嵌められたか……だが、居場所さえ分かってしまえば』
『待て、背後に敵の反応が多数!? そちらは囮だ、背後に回り込まれたッ』
淡々と狙い澄ました狙撃で着実に頭数を減らしてゆくも、流石に何度も弾丸を浴びれば射撃地点も割れるというもの。相手はすかさず飛び回りながらガトリングガンの牽制射で正確な位置を割り出そうとするが、出鼻を挫く様に警告が飛ぶ。
これ見よがしに狙撃手で圧を掛け、その隙に背後から逆奇襲。それが猟兵側の策だと判断した敵部隊は、すかさず右手に保持したライフルからビームを放って対応する。が、またしても其処に敵影は無く、ただ揺らめく紫焔が漂うのみ。
『な、なんだこれは。まさか、この熱源に騙されて……』
「ご名答。まぁ、正解したところで敗北以外にあげられるものは無いんだけどね?」
自分たちを欺いた絡繰りを目の当たりにし、絶句する兵士たち。そうして我を忘れたほんの数瞬を見計らい、乱立する巨躯の間へとファンが躍り出る。彼女は身軽な動きで敵機の上へ駆け上るや、装甲の間隙や構造上厚みが薄い部分を狙って手にした得物を突き立てた。
人間が腱を一本断たれればその手足が動かなくなるように、キャバリアもまた人型である以上は泣き所である『アキレス腱』が必ず存在している。それを絞り込めれば、生身で無力化する事も十分可能だ。
『おのれぇ……ッ!』
『おい止めろ!? 味方を撃つんじゃな――ッ』
センサーやレーダーは信用できず、狙撃に晒される状況下で足元を抜身の刃が駆け回る。こうなってしまえばもう乱戦は避けられない。白刀を叩くべく熱線を撃ち込むも、肝心の目標は得てして友軍機に取りついているのだ。これで同士討ちをするなと言う方が無茶だった。
こうなれば遅かれ早かれ全滅は不可避だが、ファンは容赦なく駄目押しの一手を下す。
「あぁ、そうだ。その紫炎は囮だけれど、単なる囮に収まらない。しばらく出番の無かった『彼女』はどうもご立腹らしくてね」
悪戯っぽくそう告げながら、彼女はいつの間にか敵部隊の至近距離まで炎塊を忍び寄らせていた。無理もない、反乱軍もそれらは飽くまでレーダー欺瞞用の熱源だと半ば捨て置いていたのだ。しかし、炎は炎である事に変わりはないという事実を彼らは念頭に置いておくべきだった。
「――精々、妬かれないようにね?」
『ッ!? 総員、たい……』
撤退を命じたところで刻既に遅し。無情なる宣告と共に膨れ上がった紫焔は立て続けに炸裂。強烈な熱量を以って敵部隊を纏めて呑み込んでゆく。無論、術者であるファンに加え、距離を取っていたティオレンシアも言うまでもなく無傷だ。
斯くして炎が消え去った後には、半ば融解した敵部隊の残骸のみが残されるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
寺内・美月
猟兵間通信網構築
アドリブ・連携歓迎
※美月は出動準備中のため副官と直属部隊のみ派遣
・森林での戦闘を踏まえて副官直轄RCTにAACo(高射中隊)、対騎兵装備のATBn(対戦車大隊)及びキャバリア化CCo(騎兵中隊)を配属
・RCTは森において近接および誘導火力を以て敵部隊を迎撃、これを撃滅する
└RCT前衛は手頃な河川沿いに展開。渡河もしくは河川上空を通過する敵騎兵に対し、AACoおよびATBn支援の下にて水際防御を行い頃合いを見て後退し予備隊として運用
└RCT主力、AACo及びATBnは現地の地形・地象に明るい人員指導の下に要所毎に部隊を配置。接近してきた敵部隊を最大火力にて迎撃、さらに予備隊としてCCo及び前衛を運用し敵部隊を駆逐する
・AACo及びATBnの火力運用はAACoが叩き落としてからATBnによりこれを撃破するが、RCTのHMCo等の固有火力と協力しての弾幕射撃も許可(その際の火力発揮はATBn長の指揮統制により行う)
●下命を違う弱卒無し
首都近郊での武装蜂起と言う火急の事態に晒された元『共和国』領であったが、駆けつけた猟兵の尽力によって戦況は大きく変わりつつあった。既に事態は防衛戦から追討戦へと移行しており、後は如何に効率良くかつ被害を抑えて勝つかと言う状況である。
だが反乱勢力は敗れたとは言え、かつてはゲリラ戦で『人民国』を散々に苦しめた者たちだ。打ち漏らした残党が散り散りとなり、各地に潜伏されでもしたら目も当てられぬ。故にこそ、こちら側も有機的な連携を行えるような体制を組み立てる必要があった。
「……各隊の現状は?」
「|連隊戦闘団《RCT》に加え、|高射中隊《AACo》、対騎兵装備の|対戦車大隊《ATBn》、及びキャバリア化|騎兵中隊《CCo》の合流を確認。各隊掌握後、速やかに作戦行動へ移行予定です」
それを為さんと戦場へ姿を見せたのは寺内・美月(霊軍統べし|黒衣《学生服》の帥・f02790)。より正確に言えば、彼の姿に似せた自我を持った|分身体《トゥルパ》である。出動の準備を進めている美月が黒い学生服を纏うのに対し、白を基調とした軍装に身を包んだ分身体は連隊を率いる副官からの報告を受け取っていた。
連隊、そう連隊戦闘団である。先んじて戦場へと派遣された戦力は機械化歩兵が一個連隊に加え、対空戦闘に長けた高射部隊、対機甲火器を備える対戦車大隊、そして相対する敵と同じ鉄騎に搭乗した騎兵中隊。様々な兵科を内包した一つの戦闘団が、熱帯雨林の戦場へと到着していたのである。
「分かった。これより|連隊戦闘団《RCT》は熱帯性森林地帯において、近接および誘導火力を以て敵部隊を迎撃、これを撃滅する。敵戦力は徐々に後退しつつあるが、これを逃せば潜伏され再度の跳梁を許すことになるだろう。故に、この場で確実に叩く」
ほぼ半壊状態と化し、ジリジリと押し込まれている反乱勢力にとってこれだけの戦力は文字通り致命的だろう。しかし一方で、肝心の分身体や副官には驕りや慢心と言った気配は微塵も感じられない。
そこに在るのは命ぜられた指示を遂行するという冷徹な意志のみ。勝敗が真に決するその瞬間まで、手を抜くという選択肢は彼らに存在しないのだ。遠雷の如く鳴り響く戦闘音を耳に感じ取りながら、指揮官たちは矢継ぎ早に命令を下す。
「|連隊戦闘団《RCT》前衛は手頃な河川沿いに展開。渡河もしくは河川上空の通過を企図する敵騎兵に対し、|高射中隊《AACo》および|対戦車大隊《ATBn》支援の下にて水際防御を行え」
果たして号令一下、各部隊が一斉に行動を開始してゆく。古今を問わず、河川は重要な防御線となる存在だ。歩兵にしろ機甲戦力にしろ、渡河している間は無防備にならざるを得ない。故にこそ無事な橋を奪い合い、または分厚く氷の張る冬季を狙い、或いは水深の浅い地点や機動支援橋車輛などを動員し、その隙を無くさんと苦心しているのである。
幸い、周囲一帯には大小様々な河川が流れており、戦況に応じて適切な河に防御線を敷くことは容易であった。敵が後退している状況故に、|連隊戦闘団《RCT》前衛はある程度進軍した後に見つけた比較的大きな河を防御地点に選定。曲がりくねった形状を上手く利用し、想定侵入経路に十字砲火を浴びせられるように各戦力を配置してゆく。
「友軍より入電。二個中隊規模のキャバリア戦力が河川防衛線に向け進軍中とのこと。観測速度から滑空状態で移動中と推定。残存戦力を再編した反攻行動と思われます」
「|高射中隊《AACo》及び|対戦車大隊《ATBn》の配置状況は?」
「既に完了しております」
通信兵からの報告を受け、分身体と副官を始めとする指揮部隊の空気が張り詰める。どうやら後退してばかりではジリ貧だと悟った者らが戦力を取り纏め、反撃を企てているらしい。その行動は破れかぶれさを禁じえない一方、ある意味では有効と言えるだろう。
戦線を押し上げているという事は、即ち自部隊の後方に空白地帯が生じているとも言い替えられる。そして現状、後背の警戒に当てられるだけの戦力的余裕なぞ統治機構側に無い。つまり仮に戦線を抜かれれば背後からの強襲も、そのまま首都へ襲い掛かるのも自由自在だ。
「|対空レーダ装置《JTPS》、データリンク。|高射中隊《AACo》が短距離|地対空誘導弾《SAM》を投射後、|対戦車大隊《ATBn》が|対戦車誘導弾《LAM》を始めとする最大火力で迎撃せよ。キャバリア化|騎兵中隊《CCo》は予備隊とし、必要に応じ投入する」
手短に告げられる指示を聞き漏らす様な不心得者など此処には居ない。それぞれが何を為すべきかを過不足なく把握し待ち構える中、熱帯雨林を乗り越える様に都合ニ十機を超える紫色の機影が飛び出して来た。
『一機でも二機でも良い! 戦線を突破し、首都へと至れ!』
『我らの勇姿を、献身を目の当たりにすれば、首都住民の蒙も啓け……ッ!?』
この期に及んでも自分たちの正当性を妄信し、市民たちが呼応すると信じているのか。一縷の望みを託した乾坤一擲の反撃だったが、彼らが河へと至って目の当たりにしたのは、迎撃態勢を完全に整えた|連隊戦闘団《RCT》の防衛線であった。
河川を超える為に匍匐飛行で移動しており、急な方向転換は困難。咄嗟にライフルの銃口を向けられただけでも良く反応出来たと言って良かったが、それに先んじて統制された火力が火を噴く。
「総員、射撃開始!」
果たして、敵の放った高熱レーザーの何倍にも及ぶ反撃が放たれた。短距離|地対空誘導弾《SAM》が浮遊する敵機を叩き落し、河中へと落下し身動きが取れなくなった機体を|対戦車大隊《ATBn》が|対戦車誘導弾《LAM》を以てトドメを刺す。
それでもしぶとく耐え抜いた者が居ようとも、|重迫撃砲中隊《HMCo》が絶え間なく砲弾の雨を降り注がせて散々に叩きのめしてゆく。その有り様は正に飛んで火に入る夏の虫。二個中隊規模の鉄騎が見る間に溶けてしまう。
『が、ぁああああッ!』
それでも何とか動いて見せたのは意地か、怒りか。半壊状態の敵機がブースターを吹かせ、至近距離で高熱を浴びせんと強引に指揮部隊へ迫り来る。生身であれを受ければ、大損害は免れまい。しかし、指揮官たちが動ずることは無かった。
「……予備隊、前へ」
その号令が発されるのとほぼ同時に、後方で控えていたキャバリア化|騎兵中隊《CCo》は即座に吶喊。手にした白兵戦用武器で瞬時に相手を無力化してしまう。後に残ったのはもう、無惨に破壊された残骸が広がるのみ。
斯くして、|連隊戦闘団《RCT》は最高指揮官たる美月の到着を前に、反乱勢力の一掃を為し得るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
メサイア・エルネイジェ
またおゴリラの森ですのねぇ
今回も沢山シバき倒して沢山ご褒美を頂くのですわ〜!
ご褒美は美味しいものがよろしいですわ〜!
ヴリちゃん!クロムジェノサイダーで参りますわよ〜!
おゴリラはどちら?あちら?
隠れんぼなさっておりますの?
あっちこっちからビームが飛んできましたわ!
ラージシールドで防ぐのですわ!
サブアームで持っておりますから前にも後ろにもぎゅいんぎゅいん動きますのよ
沢山生えている木も盾にいたしますわ!
木をお背中にしていれば前と横だけ気にしていればよろしいのですわ〜!
おゴリラが見付からなくてイライラしますわ!むきー!
はっ!そうですわ!
隠れる場所が無ければ隠れられないのですわ!
わたくし天才ですわ〜!
ジェノサイドバスターのブレイクブラストで木ごとぶっ壊しますわ!
手当たり次第に片っ端からぶっ壊しますのよ〜!
制圧すればもうお隠れになれる場所はございませんわ〜!
石器時代に戻して差し上げますわ〜!
やはり暴力ですわ〜!
見付けましたらアンカークローを発射!
捕まえて引っ張ってインナーおパイルでズドンですわ〜!
●ゲリラ、ゴリラ、メサイア
『クソッ!? 残存戦力は、いったい何機がいま生存している!?』
『勝算は間違いなくあったはず……なのに、また猟兵に覆されるとは』
猟兵が参戦してから既にもう短くない時間が経過した現在、もはや趨勢は決しつつあった。組織的な行動などとうに瓦解しており、決死の反攻も真っ向から叩き潰されている。あとはもう、僅かな戦力が右往左往するばかりだ。
『こうなればもはや止むを得ん。「彼ら」の庇護を扇ぐしかあるまい……』
幾ら士気旺盛とは言え、自殺紛いの突撃を選ぶほど頭が茹だっている訳では無いらしい。どうやら軍事支援を行った『善意の第三国』の元へ下り、再起を図らんとしている様だ。だが、それはそれで非常に不味い。彼らを担ぎ上げて『我らこそ正当な共和国軍である』等とぶち上げられたら、次なる火種に繋がってしまう。
故にこそ、今ここで確実に後顧の憂いを断ち切らねばならない。斯くして、彼らにトドメを刺すべく、密林地帯へと降り立った猟兵とは――。
「またおゴリラの森ですのねぇ。今回も沢山シバき倒して沢山ご褒美を頂くのですわ〜! ご褒美は美味しいものがよろしいですわ〜! 次こそおマグロを頂きますわ~!」
『うわ出た』
うわ出た。登場早々にして散々な言われようだが、この反応に関しては残念でもなく当然と言うべきか。春先どころか年中頭の中が|春日和《ハッピーハッピー》な第三皇女メサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)、満を持して堂々のご登場である。なお、代わりにシリアスさんが退場しました。
垂れ流す妄言からも分かる通り、メサイアの脳内には上記の様な小難しい考えなど無い。あるのはただご褒美、酒、暴力の三つだけである。これじゃあまだゴリラさんの方が色々考えてるよ。だってほら、森の賢者だし。
『ヴリちゃん! クロムジェノサイダーで参りますわよ〜!』
『付き合ってられるか馬鹿!?』
以前の交戦経験から皇女の|厄介《トンチキ》さを身に染みて|理解《わか》らされていた兵士たちは、真正面からぶつかる事を全力で拒否。猟兵の機体が白兵戦仕様なのも相まって、熱帯雨林に紛れての突破を試みてゆく。
『おゴリラはどちら? あちら? ごりら? 隠れんぼなさっておりますの? 随分とおシャイさんですのね! って、ああ! あっちこっちからビームが飛んできましたわ!?』
とは言え、そのまま素通りする気も無いようだ。と言うより考えてもみよ。メサイアに背中を晒したら、いったい何が飛んで来るか分かったものではない。撃破はならずとも身動きを鈍らせたいと言ったところだろう。
単純な足回りなら強襲機である相手の方が上である。四方八方を飛び回りつつ、間断なく高出力ビームを浴びせてきた。だが、死角から放たれるそれらを皇女は副腕で保持した大型盾で巧みに防いでゆく。頭はアレだが技量は間違いなく一線級である。
『前にも後ろにもぎゅいんぎゅいん動きますのよ? 沢山生えている木も盾にいたしますわ! 木をお背中にしていれば前と横だけ気にしていればよろしいのですわ〜!』
次第に相手の速さにも目が慣れ始めたのか、より良い立ち回りを試みる余裕まで生まれつつあった。大木を背にする事で背後の死角をカバーし、注意すべき範囲を前半周にまで絞り込む。一方、ダメージらしいダメージを与えられていない反乱部隊はそれを崩そうと躍起になり始める。彼らが何故、この皇女を黙らせようと腐心しているのか。その理由はすぐさま明らかとなった。
『ちょこまかちょこまかと、おゴリラが見付からなくてイライラしますわ! むきー! ……はっ! そうですわ、わたくしに良い考えがありますわ! 隠れる場所が無ければ隠れられないのですわ! わたくし天才ですわ〜!』
『おい凄まじく嫌な予感がするんだが』
段々とイライラし始めていた皇女だったが、不意に『足を出せば歩ける』レベルの気付きと共にポンと手を打つ。何やら意気揚々とコンソールを操作し始めた猟兵の姿に、敵兵士たちの脳内でアラートが鳴り響く。果たして、続く言葉はそれを何よりも証明する事になる。
『ジェノサイドバスターのブレイクブラストで木ごとぶっ壊しますわ! 手当たり次第に片っ端からぶっ壊しますのよ〜! 自然破壊は楽しいZOY!』
|虐殺《ジェノサイド》で|砲撃《バスター》。字面からしても剣呑だ。ちなみのその正体は機体口部に備えた強力な荷電粒子砲である。もしかしなくても剣呑だ。ガパリと顎を開くと同時に、シュミョミョミョと音を立てながら光が収束してゆく。これ以上の交戦は危険だと判断した残党たちは踵を返して離脱を選ぶがもう遅い。
果たして、解き放たれた高エネルギーが一直線に熱帯雨林を貫き、そのまま首を振って薙ぎ払いゆく。大半は跳躍して射線から逃れる一方、反応が遅れた機体は為す術もなく爆散してしまう。
『くそ、何てもんを使うんだこのアマ……!?』
『制圧すればもうお隠れになれる場所はございませんわ〜! 石器時代に戻して差し上げますわ〜! やはり暴力ですわ〜! 暴力は全てを解決するのですわ~!』
その言葉は反乱を起こそうとした元兵士たちに対する皮肉とも取れるが、この皇女にそんな高度な意趣返しを思いつく知力など無い。ただ単にビームぶっぱが楽しいだけである。そうして止むを得ず飛び上がった敵機を目敏く補足すると、メサイアはすかさずアンカークローを射出。そのまま巻き取る事で手元まで引きずり込む。
『ぬぉおお、放せ、放せぇッ!?』
破れかぶれにライフルを乱射するが、ここまで来れば最早何をしても無駄だ。皇女は機体両腕に搭載された射突機構を起動。引き寄せる勢いを利用してマニピュレータを叩き込む。
『これで馬鹿騒ぎもお仕舞いですわ! さぁ、インナーおパイルでズドンですわ〜!』
炸裂した鉄杭が敵機を貫き、完全に機能を停止させる。糸の切れた人形の様に崩れ落ちた機体を地面へ落とせば、周囲に残っているの環境破壊の爪痕と敵機の残骸のみ。
斯くして、元『共和国』軍兵士の起こした反乱は此処に鎮圧されたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『ブリュンヒルド』
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POW : バイ・スタンダーⅠ
【大型突撃槍】で触れた敵に、【噴出する熾火の放射】による内部破壊ダメージを与える。
SPD : オール・フォー・ワン
霊力を帯びた【大型突撃槍】で斬る。対象にこの斬撃を防ぐ装備や能力があれば、全て無効化し、更に威力を増大する。
WIZ : 乾為天
【ブリュンヒルド】を操縦中、自身と[ブリュンヒルド]は地形からの激突ダメージを受けず、攻撃時に敵のあらゆる防護を無視する。
イラスト:落葉
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ナイアルテ・ブーゾヴァ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●親切なペリアおじさんとおっかないお友達
『善意の第三国』から援助を受けた元『共和国』軍人による反乱。先の戦いから尾を曳く火種は統治機構に深刻な事態を齎したが、駆けつけた猟兵たちによって辛くも此処に鎮圧を見た。蜂起した部隊は熱帯雨林のあちこちで鋼鉄の骸を晒しており、捕縛した操縦者たちも早晩、然るべき報いを受けるに違いない。
追撃の為に戦線を押し込んでいった結果、彼らの現在位置は首都から大きく離れている。周囲は戦闘の余波で切り拓かれており、ちょっとした平地になっていた。戦況としてもこれで一区切りついた形だったが、猟兵たちに帰還する素振りは無く、また警戒を緩める様子はない。彼らは確信していたのだ。これからやって来る連中こそが『本命』だと。
「……あれあれあれ? ちょっと、これはどういう事なのカナー? いくら負け犬が寄せ集まった烏合の衆と言っても、それなりに良い機体を渡してたよね? 相手の防衛戦力も貧弱って話だったのに、もう全滅してるのなぁぜなぁぜ?? 農業は好ましいですが、誰が熱帯雨林の開拓をしろって言いました???」
果たして、その確信は現実のものとなる。密林の中からぞろぞろと現れたのは、前線指揮所と思しき箱型の装甲車を筆頭としたキャバリア部隊。隊長格らしい純白の大型機の背後には、重武装の量産機が控えている。猟兵の中には、それが仲間の一人が使用している重キャバリア『ヘヴィタイフーン』の最新型と気付いただろう。
指揮車から降りてくるのは小太りの中年男。彼は周囲に広がる惨憺たる光景をつまらなさそうに一瞥しながら、禿頭に滲む汗を手巾で拭う。その立ち振る舞いからは隠す気もない傲慢さが見て取れた。そんな男へ、大型機が声を掛ける。
『やられましたね。どうやら、前回確認されていた傭兵が投入されたようです。しかし、いくら何でも対応が早過ぎる……まさか、事前に情報が漏れていた?』
「ウチの防諜が抜かれていたとは思いたくないけどねぇ。ま、もしそれが本当だったら『再教育』しなきゃ……さて、と。で、『幾ら』だ?」
鉄騎から響く女の声を耳にした男はやれやれと首を振る。そうして億劫そうに猟兵たちへ視線を戻すと、名乗りも無くそう切り出して来た。主語の無い問い掛けに意図を理解し切れず、訝しそうに目配せしあう猟兵たち。対する男もふぅむと唸っていたが、何か得心したように手を打つ。
「ああ、傭兵は信用商売と聞く。雇い主に背いたと触れ回られては今後に差し障るという訳か。なに、安心し給え。『人民国』側には僕から取り成しておこう。所詮は経済的な雇用関係だろう? その代わり、この事は口外しないようにな」
続く言葉を受けて、そこでようやく猟兵たちは相手が買収を持ちかけているのだと気づく。つまり金を渡すから、自分たちが反乱を鎮圧したように口裏を合わせろと、そう言っているのだ。どうやら、相手は猟兵が己の提案を受け入るのが当たり前と信じて疑っていないらしい。
しかし建前上は傭兵として振舞っているとは言え、猟兵の目的は対価で無くこの統治領の平和を維持する事。現状に問題があればまだ一考の余地もあったが、そもそも此度の動乱を引き起こしたのは眼前の者たちだ。いまの体制で上手く回っている以上、その提案に頷く理由などありはしない。
「……ん、どうした? 僕、なにか難しい事でも言ったかな? 学のない傭兵でも分かるようシンプルにしたつもりなんだけど」
『同志ペリア、どうやら彼らにこちらの提案を受け入れる気は無いようです。やはり、ただの外部戦力と言う訳ではないのでしょう。こうなれば、交戦は避けられないかと』
理解できないと首を傾げる上司に対し、部下が言外の返答を噛み砕いて伝える。庇う様に機体を前へ出す女に、男は特段の感慨を表すこともなく無造作に顎をしゃくって見せる。
「あっそう。じゃあ、同志オリガ。後はよろしく。その特別機なら単騎でも蹴散らせるでしょ」
『……ここは我々らしく、物量で押し潰すのがベターでは?』
「戦術的に言えば、ね」
一人で片付けろと命じられた女は、不満を隠す事無く問い返す。その質問に対する返答は、言葉通り戦術とはまた別次元の内容だった。
「ただ僕らの目的って戦争に勝つんじゃなくて、飽くまで『善意の第三国』として介入し、双方に対して影響力を確立する事。その為にもこの部隊は出来る限り目減りさせたくはないのさ。いわゆる棍棒外交ってやつ?」
停戦したばかりの国家を大々的に侵略すれば、『人民国』『共和国』に加え周辺諸国の目も厳しくなる。それを避ける為、彼らは『善意の第三国』という回りくどい手段を選んだのだ。ただ、何事にもテーブルにつかせるだけの『根拠』が必要という訳なのだろう。
『信頼は有難いですが、もし仮に私が敗北した場合は?』
「状況による。被害が大きそうであれば損切するし、押し切れそうなら彼らも動かす。戦力の逐次投入なんて言わないでおくれよ? これは極めて高度に政治的な判断だ。ちなみに前者の場合、今回の一件は同志オリガの独断と言う形にさせて貰うので。いやぁ、僕はやめた方が良いと忠告したんですがねぇ」
『|クソ野郎《Хуй》』
「聞かなかったことにしてあげよう」
冗談とも本気ともつかぬ軽口を叩きあいながらも、純白のキャバリアが猟兵たちへと相対する。どうやら矛を交えること自体は事実らしい。単騎なれども物々しい威容は伊達ではなく、まず間違いなくエース級であろう。ガシャリと、大型突撃槍の穂先をこちらへと向けゆく。
「アレの指示に従うのは業腹ですが、これも仕事ですので。まぁ、運が悪かったと思って頂きましょう」
まごう事なき強敵だ。だが果たして、この場において本当に運が悪かったのはいったい誰なのか。結果を以て示してやらねばなるまい。
さぁ猟兵たちよ、平穏に横槍を入れる者の手を打ち払ってくれ。
※マスターより
プレイング受付は5日(土)朝8:30より開始。
第二章はエース級キャバリアとの戦闘になります。1章の結果、熱帯雨林に開けた平野が生まれており、そこでの戦闘となります。周囲には『祖国』の部隊が展開していますが、余計な損耗を嫌って手出しはしてきません。ただ、万が一そちらを巻き込もうとした場合には同志オリガが容赦なくその隙を突いてくるため、先ずは眼前の敵を打ち倒すのに専念すべきでしょう。
なお、この地点は首都から大きく離れており、グエンやホアンなど友軍戦力は近くに居ません。協力を得ることは出来ませんが、戦闘に巻き込む心配も無用です。
それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
※訂正
プレイング受付は5日(日)朝8:30より開始。
村崎・ゆかり
戦力の逐次投入なんて、随分余裕かましてくれるわね、おじさんたち。
いいでしょ。その隙は容赦なく突かせてもらう。
「全力魔法」雷の「属性攻撃」「電撃」で十字天経。落雷にどれだけキャバリアが耐えられるかしらね。
機甲式『GPD-331|迦利《カーリー》』、顕現! その上に乗って、接近戦の間合いから離れた位置取りを維持する。
十字天経と、「レーザー射撃」の「弾幕」と「制圧射撃」で、敵機の動きを封じるわ。
もちろん、牽制攻撃も敵機の装甲を削れるように。
いくら強力な機体だからってね、数で押されればどうにもならないのよ。力は数。それが戦場の|常識《ドクトリン》でしょ!
味方と行動を共にするなら、適宜レーザーを調節。
●神鳴る力、人の業
木々が薙ぎ払われた荒れ地に佇むは純白の大型機。明らかに凡百の機体とは一線を画すそれを前面に押し出しつつ、後方には重装の砲撃型量産機が戦列を組んでいる。見せ札と頭数の二段構え、もしこれが交渉の場なら極めて有効だっただろう。
「……戦力の逐次投入だなんて、随分余裕かましてくれるわね、おじさんたち。これで支援砲撃でもされたら厄介だったけど、弾代すら惜しんだのかしら? いいでしょ。その隙は容赦なく突かせてもらうわ」
しかし、相対したゆかりからすればそれは慢心以外の何ものでもない。そもそも、分が悪ければ損切りする等と宣っているが、ここまでやらかして後方の部隊共々見逃して貰えると本気で思っているのだろうか?
ともあれ、まずは眼前の敵機をどうにかしなければ始まらない。パッと見た限り主兵装は右腕部の突撃槍だけで射撃武器は無し。完全なる白兵戦用と見ても問題は無さそうだ。なればと猟兵は相手が動く前に先手を取る事に決める。
「幾ら軍用と言えども、キャバリアも精密機器である事に変わりはない。落雷にどれだけキャバリアが耐えられるかしらね? 九天応元雷声普化天尊! 疾っ!」
『む、何を……ッ!?』
果たして、ゆかりが素早く印を結ぶや俄かに空が曇り始めてゆく。気候が気候ゆえに突発的なスコールなど珍しくも無いが、ここまで急な変化は不自然だ。直感的に不穏さを察して身構えるオリガだったがその刹那、強烈な神鳴りが機体目掛けて振り下ろされる。
柱と見紛うばかりの輝き、大気を破裂させる轟音。その直撃を受けた大型機は各所から白煙を噴き上げてゆく。呪力で増幅された超自然の大電量、まず間違いなく致命打になったと確信していた、のだが。
『……我が国の労働者は極めて勤勉ですが、しばしば「数字」が嘘を吐く事がありましてね。最近完成した新型とあって少しばかり心配していましたが、中々どうして、良い仕上がりの様です』
「ッ!?」
今度は猟兵側が驚く番だった。大型機の各種センサーが再起動し燐光を放ったかと思うや、背面のブースター出力を最大まで引き上げる。流れるような踏み込みと同時に大型槍の切っ先を巧みに操り、キャバリアと比べればはるかに小さい筈のゆかり目掛けて正確に叩き込む。
辛くも紙一重で直撃を躱すも、続けて穂先から噴き出した業火が乙女の身体を激しく焼き炙る。落雷に耐えたのも驚愕に値するが、それ以上に操縦者の技量も侮れない。なればと、ゆかりは更なる手札を切った。
「やりますね。ではこちらも……機甲式『GPD-331|迦利《カーリー》』、顕現!」
彼女の招きに応じ、空間を歪めて現れたのは逆三角形型の鉄騎。キャバリアと言うよりもドローンを思わせる機体の上へ飛び乗ると、立て続けにレーザーを放って弾幕を形成してゆく。一発一発の威力は先の神鳴りと比べて劣るものの、手数に関しては断然こちらの方が上だ。
「いくら強力な機体だからってね、数で押されればどうにもならないのよ。一握りの英雄が趨勢を決するなんて極々稀。力は数、それが戦場の|常識《ドクトリン》でしょ!」
『それに関しては同意しますがねぇッ!』
相手としても甚だその通りと言った心情か、八つ当たり交じりに大型槍を振るって攻め立てて来る。一撃でも掠めれば致命傷は免れぬが、ゆかりは上手く距離を取って渡り合う。その狙いは装甲だ。
一度目は耐えられてしまったが、ならば今度は付け入る隙を物理的に抉じ開けるべく、装甲を削り取らんと狙っていたのである。果たしてほんの僅かに装甲板が溶け落ち、内部機構が露出した瞬間を見計らい、ゆかりは再び印を結ぶ。
「いま……九天応元雷声普化天尊! 疾っ!」
『無駄な真似を、いや、なにッ!?』
斯くして、再度落とされる大雷轟。しかし今度は間隙より内部機構へと流れ込み、回路やケーブルを焼いてゆく。オリガの零した驚愕の叫びと共に、一際大きな白煙が機体より立ち昇ってゆくのであった。
成功
🔵🔵🔴
ヴィリー・フランツ
心情:おい禿げ茶瓶、確かに俺達傭兵は金次第で動く犬畜生だ、だがなぁ…そんな畜生にも矜持ってもんがあるんだよ!
もうキレた、あのハゲは生きたまま吊し上げてやる!お前等兵卒に関しては知らん、生き残りたかったらケツ捲って逃げるんだな。
手段:「ふざけやがって、首を洗って待ってろよ!」
弾倉に残った対空霰弾を牽制代わりに撃ち込んで排出、次は徹甲榴弾、特製の【完全被甲弾】を装填する、その後は肩のクロコダイル単装電磁速射砲を連射、奴がこちらに指向したらしこたまレールガンを食らわせてやる。
見た所、相手は近接攻撃機、距離さえ保てれば勝てるはずだ、万が一弾幕を抜けられてもEPフォートレスアーマーを展開、槍先が装甲に接触しなければ効果は発揮せん!
一瞬でも奴が止まればそれが最大のチャンスだ、コングⅡ重無反動砲の155mmUC製徹甲榴弾を奴の胴体に食らわせてやる。
浅かったらすかさず追撃、スラスターを吹かし距離を詰めてスパイクシールドによる胴体への打突、バーンマチェーテによる近接攻撃で追い打ちを試みる。
●傭兵の戦場流儀
「あーらら、傭兵風情と侮っていたけど中々やるねぇ。流石は終戦の立役者ってところかな?」
『他人事のように言わないで頂けますか、同志ペリア。ですが、やはり手を抜ける相手ではなさそうです』
濛々と白煙を上げる大型機だったが、白兵戦特化型とあって耐久性も一般機とは比べ物にならぬならしい。瞬時に機体システムが異常箇所を走査し特定。代替回路などを選択し、戦闘可能レベルにまで復旧させてゆく。
禿頭の中年男が後ろで高みの見物か決め込めるのも、その機体性能を信頼するが故か。上司がそんな暢気な言葉を零す一方、操縦者である女の言葉尻には緊張と警戒感が滲む。直接矛を交えたからこそ、相手の力量が如実に分かるのだろう。
『……おい、後ろでふんぞり返ってやがる禿げ茶瓶』
「ん~……あれ、もしかしてそれって僕のこと???」
その一方、引き続き愛機に搭乗し敵軍と相対していたヴィリーの視線は、眼前の大型機ではなくその背後の中年男へと向けられていた。余裕ぶっている所か危機感が足りないのではとさえ思える態度の相手に、傭兵は苛立ちを隠すことなく怒気を荒げる。
『昨日の敵が今日の雇い主で、明日は肩を並べた連中と殺し合う。確かに俺達傭兵は金次第で動く犬畜生だ、それを否定するつもりはねぇよ。だがなぁ……そんな戦場の底を這いずり回る畜生にも、矜持ってもんがあるんだよッ!』
多くの猟兵からすれば傭兵と言う肩書は建前だが、彼にとってはこれこそが唯一無二の生業だ。故にこそ、それを見下す発言は男からすれば最大級の侮辱だった。無論、仕事柄蔑まれる事など慣れている。いちいち気にしていては切りが無い。だが、それを言って来た相手が自分の事を棚に上げるクソ野郎ならば話は別だ。
「矜持ってなに? |日雇い生活《げんじつ》と折り合いをつける為の言い訳のこと?」
『……もうキレた。|あのハゲ《テメェ》は生きたまま吊し上げてやる! その頭だ、さぞかし光を反射して注目を浴びるだろうよ。お前等下っ端の兵卒に関しては知らん、生き残りたかったらケツでも捲って「|祖国《おうち》」に逃げるんだな』
だが、相手も海千山千の政治屋である。生半可な兵士なら堪らず腰砕けになるであろう傭兵の威圧を浴びせかけられながらも、しかして不遜な態度を崩さないのは褒めるべきか否か。流れる様に返される挑発の言葉に、ヴィリーの堪忍袋が即限界を迎えてしまう。
他方、自分を蚊帳の外に舌戦を繰り広げられた挙句、要らぬヘイトまで向けられた大型機の操縦者は深々と溜息を吐く。恐らく、そこに籠められた感情は猟兵に対するものだけでは無いだろう。女は気を取り直して得物である突撃槍を構え直す。
『これではまるで、同志に背中を撃たれている気分ですね。督戦隊の方がまだマシですが、あんなのでも一応は上司である事に変わりなし……まぁ、問題は無いでしょう。そちらの機体も知らない機種ではありませんしね?』
『ふざけやがって、上も上なら下も下だな。首を洗って待ってろよ!』
ともあれ、少し長くなったが前口上はここまでだ。ここから先は傭兵らしく戦場の流儀で渡り合うべきだろう。斯くして、まず先手を取ったのはヴィリーだった。彼は先の反乱勢力の討伐でも使用した対空霰弾を発射。挨拶代わりだと弾倉に残っていた分を全て叩き込む。
だが機動力を重視していた|強襲機《ガザニア》と比べ、眼前の機体はそれよりも明らかに分厚い装甲を纏っている。炸裂する子弾を物ともせずに距離を詰めてきた。
(クソッ、やっぱり硬てぇな。見た所、相手は近接攻撃機。頑丈さは折り紙付きってか。だが、代わりに射撃兵装は一切なし……こっちは砲撃戦が主体だ。となれば、距離さえ保てれば勝てるはず。しこたまレールガンを食らわせてやる!)
次弾を装填しつつ、傭兵は機体を後ろへ下がらせながら肩部の|単装電磁速射砲《クロコダイル》を連射。磁力で音速まで加速させた弾体で滅多打ちにしてゆく。相手と違ってベースは量産機だが、それでもヴィリーが手を加えてきた愛機である。間合いを保っての射撃ならば分があると踏んだのだが。
『ふむ……テンペスト社製量産型重キャバリア「ヘヴィタイフーン」、その第10バージョン。武装はジオメタル社製の40mm単装レールガンパックと無反動砲。悪くない選択です。実際、後ろに控えている部隊でも正式に採用していますから。ただ、我々の機体は最新の11バージョンですが』
『ちぃっ、手の内は丸見えってか……!』
ほぼ発射と着弾が同時レベルの弾速であるにも関わらず、大型機は装甲を巧みに使って威力を受け流してしまう。機動力は兎も角あんなに巨大な突撃槍を扱う機体なのだ、躯体の運動性が特筆すべきレベルなのだろう。
加えて、傭兵の使っている機体や武装は軍事会社が市場へと流している製品である。つまり、知識のある者からすればその性能をおおよそ推し計れてしまうのだ。情報面でのアドバンデージ差は決して無視できるものではない。
『機動力と引き換えに高火力かつ重装甲。本来であれば、破壊するにも一苦労の耐久力ですが……この「ブリュンヒルド」の突撃槍、そして吹き荒れる熾火ならば!』
稼いだ距離は瞬く間に詰められてしまい、突撃槍の穂先が真っ直ぐに操縦席目掛けて繰り出された。咄嗟に防盾を構えるがそれすらも容易く腕ごと貫通され、あわや串刺しかと思われたその時、不意に攻撃の勢いが鈍る。
『フォートレスアーマーですか。しかし、裏を返せばこれが最後の頼みの綱。突破してしまえばもう……』
『はっ、逃げられないってか? 悪いが、こっちも逃がすつもりなんざねぇよ!』
『ッ!?』
一瞬でも動きが止まってくれれば十分だと、ヴィリーは先程までとは打って変わって前へと踏み込み、手にした|高周波熱刃《マチェーテ》を突き立てる。食い込みはすれども貫通は出来ないが、それで十分。狙いは言葉通り、相手を拘束する事だ。彼はがっちりと敵機をホールドするや、無反動砲の砲門をピタリと押し当てる。
『例え至近距離でも、その火力では「ブリュンヒルド」の装甲を貫く事など……』
『ああ、|通常の弾《・・・・》ならな。こんな稼業やってんだ、誰も知らない奥の手の一つくらいあるに決まってんだろ?』
――当たると痛いじゃ済まないぜ!
果たして、次の瞬間。放たれた必殺の完全被甲弾は純白の装甲を食い破り、内部機構をズタズタに引き裂いてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
イーブン・ノルスピッシュ
負傷OK
……もういい、もう沢山だ
これ以上喋るな
クソッタレの下種野郎……!
最早一片の躊躇もない
今まで無意識に忌避していた、腰に下げたランタンを点ける
病的なまでに蒼ざめた炎が、揺れて、溢れて、全身に奔る
体の感覚が恐ろしい程に遠く薄らいでいく
ただ一つの言葉が脳裏に繰り返し浮かび上がる
「……|壊せ《Töten sie》」
歩を進める度に焦げた足跡が残る
真っ直ぐペリアに向かうが当然阻まれるだろう
だが知ったことか……!
行く手を塞ぐものが壊れるまでパイルバンカーを叩き込み続ける
クソ野郎の口に改造銃を突っ込んでやるまで止まらない
槍に貫かれようが火に炙られようが、ズタボロの体を平然と引き摺って、ただひたすらに進む
●|命を無視せし猟兵《ゲシュペンスト・イェーガー》
傭兵の放った強烈な一撃によって吹き飛ばされる純白の大型機。命中箇所は装甲が大きく抉れ、内部機構もズタズタに引き裂かれている。そのある意味で無様とも呼べる有り様に、後方で戦況を見守っていた禿頭の男も思わず口を開く。
「あちゃ、ちょっとヤバそう? 援護の砲撃居る??」
『……いえ、不要です。見た目は派手ですが、損傷としてはまだ許容範囲内ですので』
だが、対する操縦者の女はその申し出を固辞した。むくりと機体を起き上がらせる動作はややぎこちないものの、確かに大きな問題は無さそうに見える。着弾の直前、機体の軸をずらす事で|基幹部位《バイタルパート》をギリギリ避けたらしい。
加えて、ここで支援の手を受け入れてしまえば上司に見限られると危惧した様だ。有能さを遇するとは即ち、裏を返せば無能を切り捨てる事だと理解しているだろう。得物を構えて継戦の意志を示す相手の前へ、新たな猟兵が歩み出る。
「まったく、だったらさっさと片付け給えよ。『祖国』において勤勉さこそが美徳だとあれほど……」
「……もういい、もう沢山だ。これ以上喋るな、クソッタレの下種野郎……ッ!」
管を巻く男の嫌味を遮ったのは、イーブンの怒気を孕んだ言葉だった。犬歯を剥くその表情は兎と言うよりも肉食獣のそれであり、大柄な体躯も相まって凄まじい威圧感を放っている。しかし、それも無理はない。彼にとって眼前の相手は憎むべき『超大国』と同じと言って良い手合いなのだから。
「お前たちはいつだってそうだ。自らの都合の為に他者を踏み躙り、それについて何の感情も抱かない。奪われた命の総数を、紙面に記された単なる数字としか見ていないのだから……ッ!」
「んん? そんなのは当たり前だろう。『一人の死は悲劇だが、数百万人の死は統計上の数字でしかない』とは真理だ」
「……もういい」
だが、血を吐く様な言葉も男には届かない。価値観、立脚点、思考。その全てが全く異なるのだ。それを耳にした兎人は打って変わって感情が抜け落ちた様に、腰元へと手を伸ばす。其処に吊られるは|青鉄鋼《ブルースチール》の|角灯《ランタン》。灯されるは病的なまでに蒼ざめた炎。
揺れ、溢れ、迸る焔が男の全身へと伝播し、まるで幽鬼の如く変貌させてゆく。身体の感覚が恐ろしい程に遠く薄らいでいく中、ただ一つの言葉だけが強く彼を突き動かす。異形の大型狙撃銃を握りしめて歩み出す、その姿は正に。
「……|壊せ《Töten sie》」
――|死を焚べて灯る鬼火《ゲシュペンスト・イェーガー》。
真っ直ぐと|禿頭の中年《ペリア》目掛けて歩を進める猟兵に対し、流石にそれは見過ごせぬと大型機が立ちはだかる。幾らイーブンが大柄とは言えキャバリアの体高は彼の倍以上、体重に関してはもはや比較にならぬ。だが、例え小兵であっても相手には手を抜く気などなかった。
『貴方が何者かは知りませんが、死兵という事実だけは分かります。しかし、それは余りにも無謀過ぎるというものです』
大型機は得物を振り被るや、躊躇なくそれを繰り出す。常人ならば挽肉になってもおかしくない威力にも拘らず、対する兎人は回避する素振りすら見せない。果たして、巨大な切っ先が獣人の身体を貫き、噴出する紅の熾火が内部より肉体を焼き尽す、が。
『これは、どんな原理ですか!?』
止まらない。致命的な深手を負い、質量差に押し留められながらも、それでもイーブンの歩みは止まらないのだ。既に彼は決めていた。クソ野郎の口に改造銃を突っ込んでやるまでは例え槍に貫かれようが火に炙られようが、ズタボロの体を平然と引き摺って、ただひたすらに突き進むと。
『こんな事をして、無事で済むはずが……ッ!』
「知った、ことかッ!」
更に圧を強めて来る相手を邪魔だと言わんばかりに、兎人は手にした|射突機構《パイルバンカー》を無造作に叩き込む。どこからこんな力が湧き出て来るのかと驚愕する程の威力で、彼は大型機を強引に引き剥がす。
『……化物め』
たたらを踏む敵機は思わずそう舌を打つ。操縦席の女がモニター越しに見たイーブンは、身体に風穴を空けながらも依然として歩を進め続けてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【POW】ニブルヘイム
【骨斬肉絶】
存外、世界は狭いね、ここでベスティアに会えるとは
知己と肩を並べられるのはこれ以上ないモチベアップだ、喜ばしいことだよ
【混成合掌】
“求煉”with“Surtr”
ベスティアの槍を取り込み、求煉も手に槍を摸倣し近接スタイル
さあ、敵さんと同じ得物
間合いも似た者同士、それなりには打ち合えるかな
……全て、お膳立てだけれどね
ベスティアが周囲の熱を奪うなら、寒冷地特化でなさそうな敵機にはやがて不具合が出そうだ
求煉も、しんどいだろうけれど
機をみて、致命を避けつつ敵の槍撃を求煉の身で受ける
寒気で流動性の悪くなった求煉も、拘束役には適任だろうか?
さて、氷結地獄の主の眼差しは鋭いよ?
ベスティア・クローヴェル
【骨斬肉絶】
これだけ色々な世界があるのに同じ戦場にいるなんて、世界は狭いと錯覚してしまうね
それじゃ、久しぶりに共闘といこうか
愛用の槍をファンに預けて、後方へ
前線は戦友に任せて、こっちはこっちで準備をしようか
私が食えるのは何も炎の熱だけじゃない
大気の熱さえも喰らって大いなる冬を齎そう
熱帯雨林に寒冷地仕様を持ち出すなんてありえないだろうし
どんどん気温の下がるこの環境下でどこまで戦えるか見物だ
焦れて短期決戦を狙ってきたのなら好都合
ファンが動きを止めた隙に近付いて至近距離から最大の一撃を叩き込もうか
至近距離じゃないとファンまで巻き込んでしまうしね
低温環境で鈍った機体性能じゃ私の一撃からは逃れられないよ
●熱き鋼、冷たき眼差し
(敵戦力を見誤っていたと言わざるを得ませんね。作戦が失敗しても、所詮は疲弊した小国二つ程度と高を括っていましたが。とんでもない、彼らはいったい何処の手の者やら)
不死身とも思える獣人との交戦を経て、大型機の操縦席に収まる女は我知らず舌打ちをしてしまう。どのような戦闘スタイルであろうとも、猟兵の戦闘力はそこらの兵士を優に凌駕していた。撤退の判断を仰ぐべきかと背後へ視線を向けるが、いつの間にか禿頭の姿が消えている。大方、兎人にビビッて装甲車の中に引っ込んだのだろう。
(あのハゲ、煽るだけ煽り散らして引っ込みやがった……ッ!?)
「……ふむ。面を拝んでおきたい相手が雲隠れをして、予想もしなかった相手と出くわす。存外、世界は狭いね。まさかここでベスティアに会えるとは」
人知れず女が青筋を立てる一方、また新たな猟兵が大型機の前へと姿を見せる。ファンはちらりと敵陣を一瞥した後、すぐさま視線を傍らへ引き戻す。その先に居たのはベスティアだった。反乱軍の鎮圧時には別々の場所で戦っていたのだが、『祖国』側部隊の出現を受けて合流を果たしたのだ。
「これだけ色々な世界があるのに同じ戦場にいるなんて、世界は狭いと錯覚してしまうね。はてさて、此処で会ったのも何かの縁だ。それじゃ、久しぶりに共闘といこうか」
「ああ、知己と肩を並べられるのはこれ以上ないモチベアップだ。喜ばしいことだよ。端からそんなつもりは無いけれど、もうこれで負ける気がしなくなったかな」
銀の狼は黒檀色の突撃槍をくるりと回し、片や紅瞳の乙女は己自身たる白き刀を鞘走らせゆく。その所作に気負いや緊張の気配など微塵もなく、ただ悠然とした佇まいを見せている。一方、対する大型機は油断なく突撃槍の切っ先を突き付けてきた。
『手痛い代償と引き換えにこちらも学ばせて頂きました。キャバリアであろうと生身であろうと、あなた方は見縊ってはならぬ手合いだと。それが分かっただけでも十分です。もはや遅れは取りません』
「へぇ、そう? なら、試してみようか」
相手の物言いにベスティアは薄く笑みを浮かべる。彼女は不意に握り締めていた得物を手放したかと思うや、それを戦友へ預けつつ後方に飛び退く。咄嗟にその行方を目線で追おうとする女軍人だったが、それを拒むかのようにファンが入れ替わりで前へと出た。
「預けておくから、前線は任せたよ?」
「心得た……さて、さっきは『待て』をさせて済まなかったね。此処なら存分に暴れて貰って問題ない。行こうか、求練」
白刀が地面へと刃の切っ先を突き立てた瞬間、其処を起点としてまるで水源の如く流体重金属が溢れ出す。それは黒槍ごと主を取り込むや、人型を形成。瞬き一つの内に鋭角なフォルムの機体が創造される。その手に在るは友に預けられた物をそのまま巨大化させたが如き突撃槍だ。
『さぁ、敵さんと同じ得物で、間合いも似た者同士。それなりには打ち合えるかな? 加えてこれで|猟兵《イェーガー》がひとりに、|鉄騎《キャバリア》も一機。お手並み拝見といこう』
『悪趣味な真似を……ッ!』
自らの強みを押し通すのではなく、わざわざこちらの土俵に上がって来る。しかも、その上で勝つと宣言しているのだ。相手からすればこれ以上ない程の挑発に違いない。大型機はスラスターを吹かせつつ踏み込んで来るや、鋭く突撃槍を繰り出す。
エース格と言うだけあって、その実力自体に偽りはなし。取り回しに難のある長大な得物にも関わらず、反応したファンを容易くいなして装甲表面に穴を穿ち、内部へと灼熱を注ぎ込む。流体金属であるため修復はまだ容易だが、機体全体へ伝播する高温に思わず頬を汗が伝う。
(求煉じゃなかったらやられていた。流石に言うだけの事はあるか……だけど、まぁ)
――全て、お膳立てだけれどね。
だが、これで良かったのだ。鉄騎は|見せ札《デコイ》、本命は距離を取ったもう一人である。そして当のベスティアは黒白の鉄騎が鎬を削り合う様を後方から見守っていた。その怜悧とした表情に反し、彼女の吐く息は白い。内心は手に汗を握りハラハラしている? いいや、断じて否。
「……私が食えるのは何も炎の熱だけじゃない。大気中の熱さえも喰らって大いなる冬を齎そう。とは言え、熱帯の気温は言うまでも無く高いからね。動作に支障が出るレベルまで下げるには時間が掛かる」
それの正体は冷気による吐息中の水分の結露。所謂、冬に良く見るアレだ。この熱帯雨林で何を馬鹿なと思うかも知れないが実際問題、ベスティアの周囲では何と霜まで生まれつつある。先の反乱勢力と交戦した際に使用した異能と同じものだが、今度は炎でなく気温自体を対象として発動していたのだ。
一呼吸するごとに効果範囲を広げながら温度は下がり続け、徐々に緑の景色が純白に染め上げられてゆく。眼前の相手と渡り合う事に集中していた大型機だったが、計器が異常を知らせる段に至って漸く周囲の異変に気付いた。
『これは……霜? あり得ない、ここは四方数十キロにも及ぶグエイザン大密林のど真ん中だぞ!?』
「だからこそ、だよ。熱帯雨林に寒冷地仕様を持ち出すなんてありえないだろうし、どんどん気温の下がるこの環境下でどこまで戦えるか見物だ」
兵器とは一にも二にも頑丈さが大前提となるが、それでも環境に合わせた調整は必須である。高温下では機関が過熱し、多湿は金属を腐食させ、砂漠の砂塵は故障の原因となり、極寒だと油すらも凍てつく。つまり急にガラリと環境が変わってしまえば、異常の一つや二つ発生する事は避けられぬ。
『熾火を焚いても効果が薄い……こうなってはもはや、時間は我々の敵ですか』
徐々にだが大型機の装甲へ霜が張り付き、別の白で上書きしてゆくに伴って動きが鈍り始める。相手が冷気を遠ざけようと炎を吹き上がらせても、ベスティアにとっては格好の餌でしかなかった。こうなっては女軍人としても身動きが取れなくなる前に状況を打破せざるを得ない。
眼前の鉄騎を仕留めるか。それとも背後の猟兵を狙うべきか。逡巡は一瞬。流石に背中は晒せぬと考え、これまでダメージを蓄積させた相手をまず確実に撃破すべく、これまで以上に攻勢を強めてゆく。だが、その性急さこそ二人が待ち望んでいたものだった。
『いい加減に、斃れなさ……ッゥ!?』
何度目になるかも分からぬ刺突が装甲へとめり込む。すぐさま引き抜き次撃を叩き込まんとするのだが……抜けない。フレームが軋むほどの力を掛けてもビクともしない状況に、漸く女軍人は自らが誘い込まれたことに気付く。
『鉄が熱で溶けるなら、冷気で硬化するのもまた必定。それが流体金属なら猶更、でしょう? 深く食い込ませた分、引き抜くのは骨が折れるだろうね』
――さて、氷結地獄の主の眼差しは鋭いよ?
しまったと思わず脳裏で毒づいたのとほぼ同時に、小さな人影がモニターに映し出される。その正体など今さら確かめるまでも無い。ファンが敵を拘束した瞬間、後方に控えていたベスティアが機を逃さず飛び出した来たのだ。
「視界に映る全てを打ち据える関係上、至近距離じゃないとファンまで巻き込んでしまうしね。だけど、ここまで近づけば問題ない……いくら最新鋭機とは言え、低温環境で鈍った機体性能じゃ私の一撃からは逃れられないよ」
『ち、ぃいッ!』
そこで得物に固執せず、咄嗟に手放して回避に移れたのは敵ながら天晴と言うべきか。なれども、性能の半減した機体では十分な距離を稼ぐ事は勿論、視界内から逃れる事など到底不可能であり――。
「さて、そろそろ幕引きは近いかな」
斯くして放たれた衝撃波により、装甲と霜の二つの白が戦場に舞い散りゆくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メサイア・エルネイジェ
これは…!
おゴリラのボス!ボスゴリラですわ〜!
ご褒美くださいますの?
ならおマグロの頭がよろしいのですわ〜!
一番でっけぇのが欲しいですわ〜!
あとお酒もたくさん欲しいのですわ〜!
なんですの?
頂けませんの?
よくも騙しましたわね!おこー!
嘘はいけませんのよ〜!お仕置きですわ〜!
でっけぇ槍を持っておりますわねぇ
槍をお持ちという事は!それでツンツンするつもりですわね!
わたくし鋭過ぎますわ〜!冴えておりますわ〜!
シールドでお防御して差し上げま…んぎゃー!
火を噴きましたわ〜!
しかーし!盾はもう一枚ございますのよ〜!
シールドパージ!
ブースターで横にシュバっと移動!
同じ手は受けませんわ〜!
そしてシールドおパンチ…と見せ掛けてアンカークロー射出!
おキャッチですわ〜!
ラースオブザパワー!わっしょい!
あんよのクラッシャークローで地面をガッチリ掴んで片方のブースターを焚いてお尻尾を振るのですわ!
するとものすげぇ遠心力が掛かるのですわ!
わたくし賢いですわ〜!
勢いのままぶん回して地面にぶち当てて差し上げますのよ〜!
●力 is パワー
『第一から第七装甲板、中破。マニピュレータケーブル、断線箇所多数。機体フレームにも異常を確認。最新鋭機だと言うのに形無しですね。さて、いったいどこまで持つのやら』
「……だが、連中にも着実に損害を与えているじゃないか。その点を、僕は決して低く評価していないつもりだがね?」
至近距離で強烈な衝撃波を浴びた大型機は、立ち上がりながら被害状況をチェックしてゆく。辛うじて稼働に支障は無いが、蓄積したダメージは決して小さくはない。追い詰められている事を操縦席の女が自覚する一方、装甲車から顔を出した中年男が珍しくもそんな事を宣う。だが、それを額面通りに信じるほど気安い関係では無かった。
『お褒めに預かり恐悦至極。更に欲を言えば労わって貰えると有難いのですが』
「ははは、勿論だとも。|最後まで《・・・・》貴君が『祖国』への献身を貫く事を期待しよう。その暁には、褒美に勲章なぞ申請しても良いかな」
どうやら彼女がなまじ善戦したせいで、上司の思考は『この後』の展開に傾きつつあるらしい。半ば切り捨てられた立場に思わず舌を打つが、退くも進むもどうにもならぬ。ならばせめて最後まで暴れてやろうと待ち構える大型機へと、新たな猟兵が歩み出る。
『これは……! おゴリラのボス! ボスゴリラですわ〜! 身体が白いからきっとシルバーバックというヤツですわ~!』
『……………………んん?』
うわ出た(二回目)。ご褒美と言う単語に釣られてのこのこやって来たのはご存じメサイアである。その本能にどこまでも忠実な言葉に、相対する女軍人も理解が及ばず眉根を顰めてしまう。ごめんなさいね、この子ちょっと頭が|皇女《アレ》なんです。一方、当の本人はそんな反応を意に介する事も無く世迷い事を垂れ流してゆく。
『それでご褒美くださいますの? でもお勲章は食べられませんわ~! ならおマグロの頭がよろしいのですわ〜! 今度こそ一番でっけぇのが欲しいですわ〜! あとお酒もたくさん欲しいのですわ〜! ス●ゼロをダースいやグロスで持ってこいですわ~!』
「同志オリガ、後は任せたよ」
嗚呼、早々に見切りをつけた|禿頭《ハゲ》が部下に丸投げして再び装甲車の中へと引っ込んでしまう。まぁ、そうする気持ちも分かる。だが、それを許されぬ現場側の人間としては堪ったものでは無かった。猟兵の妄言を切り捨てる様に突撃槍を突き付けゆく。
『生憎、任務中の兵士にそんな贅沢は許されませんのでね。いまは持ち合わせが無いのですよ。代わりにこのブリュンヒルドの槍捌きを味わって頂きます』
『なんですの? もしかして頂けませんの?? お|森の賢者《ゴリラ》なのに??? ……よくも騙しましたわね! おこー! 嘘はいけませんのよ〜! お泥棒の始まりですわ~! 悪い子にはお仕置きですわ〜!』
いやなんかもうここまで来ると単なる言い掛かりである。ともあれ、刃を交える必要がある以上はどのみちこの結果に帰結していただろう。搭乗者の意志を示すかのように、黒鋼の暴龍は顎を開き咆哮す。言動はこんなんだが、技量そのものは敵に勝るとも劣らぬ……はずだ。
『ふむふむ、でっけぇ槍を持っておりますわねぇ……つまり、槍をお持ちという事は! それでツンツンするつもりですわね! わたくし鋭過ぎますわ〜! 冴えておりますわ〜! これはもうお名将扱いは待った無しですわ~!』
名将と言うか迷将な考察に、思わず後方で戦況を見守っている『祖国』部隊の面々も涙を禁じえない。残念ながら彼女の知能指数はもう手遅れだ。部下や上司の手前、女軍人もこんな頭皇女な相手に遅れを取っては面子が丸潰れである。
この手の相手に時間と余裕を与えてもロクな事にはならないと、相手は早々に始末してしまうべく突撃槍を繰り出してゆく。機体損耗が激しいとはいえ、切っ先の鋭さは依然として変わりなし。なのだが、対するメサイアは何故か余裕綽々といった様子。もしや、何か秘策でも考えて……。
『ふっふっふ、おゲリラの攻撃も防ぎぎったわたくしに隙はないですわ! シールドで華麗にお防御して差し上げま……んぎゃー!? 貫通された上に火をお噴きなりましたわ〜!?』
る訳が無かった。前面に押し出した大型盾はあっさりと貫通された上に、穂先から噴出した灼熱が鋼龍の装甲を焼き払ってゆく。キミはいったい先に戦ってきた仲間の何を見ていたのか。操縦席で泡を食って慌てるも、そこは(一応)歴戦の猟兵である。すぐさまリカバーへと動く。
『しかーし! 盾はもう一枚ございますのよ〜! と言う訳でシールドパージ! さぁ、同じ手は二度も受けませんわ〜!』
使い物にならなくなった大盾を投棄し、身軽になった分だけ俊敏に横へと飛ぶ。彼女の言う通り、大盾は副腕で保持された左右一対。故に現状は重心バランスが悪化した状態であるにも関わらず、機動の精彩さが欠ける様子はない。
『なんですか、このちぐはぐさは……? 本当の狂人か、それともこちらを攪乱しようと?』
強いて言うなら|ジャンル違い《ギャグ》? 多分、ハジケリストの親戚か何かだと思われる。困惑する女軍人だが、相手も相手で手を抜く気配はなし。今度は防ぐのではなく鈍器として盾を繰り出して来たメサイアに合わせ、カウンター気味に槍を繰り出す事でもう一つの盾も破壊してしまおうと試みる、のだが。
『そしてシールドおパンチ……と見せ掛けて、アンカークロー射出! おほほほ、引っ掛かりましたわね! おキャッチですわ〜! ラースオブザパワー! わっしょい!』
『ッ、賢しらな……!』
それはフェイント。皇女は本命の鉤付きワイヤーを射出することで敵機を拘束。がっちりと脚部のクローで地面を掴みつつ、背面ブースターの点火に合わせて尾を振る。結果、推力と重心移動により強烈な遠心力が生まれ、ぐらりと大型機は体勢を崩してしまう。
『色んなところをいっぱい動かすと、すげぇ遠心力が掛かるのですわ! わたくし賢いですわ〜! 勢いのままぶん回して地面にぶち当てて差し上げますのよ〜!』
『まさか、この為にわざと大盾を投棄して重心を偏らせたのですか!?』
いやたぶん絶対偶々だよ。だが何であれ、その膂力から繰り出される運動エネルギーは本物である。大重量を誇る大型機の脚部が遂に地面から離れ、ふわりと宙を舞う。
斯くしてメサイアが機体を翻した次の瞬間、鉄騎は頭から地面へと叩きつけられるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイミィ・ブラッディバック
ひとつ訂正を。
他の皆様はともかく、私──いえ、弊社は経済的な雇用関係ではありません。
我々イェーガー社と人民国とは業務委託関係にありまして。
「停戦監視活動」を請け負っております。
えぇ、貴方がたと同じ「善意の第三者」というわけですが…両国の停戦履行を違反・妨害する者に対しては制裁措置も視野に入ります。
さて…先程の会話については映像込みで記録させていただきました。
(Rosetta Stoneを操作し買収を持ちかけた部分からの会話を再生)
もうクラウドサーバにアップロード済みですよ。
これが本国や周辺諸国に知られた場合、『損切り』の範囲が広がりますかねぇ…ペリア氏を含む形で。
…ここまで挑発すれば流石に私を消しにかかるでしょうか。「死人に口なし」ですから。
あの大型突撃槍は防御より回避すべきですね。
スラスターでの推力移動と慣性を利用した空中機動、さらにUCを活用し敵の攻撃を回避。
カウンターでこちらもLONGINUSを叩き込みます。
ランスモードからパイルバンカーモードに変形させ、フレームごと破断します。
ティオレンシア・シーディア
あらあら、理屈は理解できるけれど建前が仇になった見事な自縄自縛。ここはやっぱりNDKと煽るのが礼儀かしらぁ?
|機体構成《アセン》を見る限り、敵の戦術は極めてシンプル――即ち、「寄って防御ごと叩き斬って灼き殺す」。この上なく単純であるがゆえに、|特記戦力《エース》が十全にブン回すとすさまじく厄介なのよねぇ。
…じゃあ、そこから崩しましょうか。引き続きスノーフレークに○騎乗して煙幕と閃光弾を起点に●縊殺を起動、描くルーンは|カノ・ソーン《「英知」の「阻害」》に|ニイドの逆位置《強欲による失態》。○目潰しや足止めも立派な「攻撃」よぉ?
あとは○黙殺・砲列の弾幕も合わせつつ引き撃ちとヒット&アウェイでタコ殴りねぇ。
十全に動かれると脅威なら十全に動けなくしてしまえばいい、脅威の大部分を操縦者が担っているなら猶更――単純な話よねぇ。卑怯?汚い?やぁねぇ、そんなに褒めないで頂戴な。
ああ、そうそう。少なくともあたしを寝返らせたいなら…まず単純に、|国家予算の単位を積んでから《金額不足》よぉ?お生憎様。
●失われた選択、逃れ得ぬ帰結
「……同志オリガ、生きてるかい? その機体は新型な上、猟兵とやらの情報も絶対に欲しいんだ。だから死ぬとしても、戦闘データだけは絶対に守り抜かなきゃ駄目だよ?」
『残念ながらまだ生きていますよ、同志ペリア。部下として忠告させて頂きますが、勤労意欲を削ぐ発言は慎んで頂いた方がよろしいかと』
戦場に鳴り響いた轟音に釣られ、禿頭の中年が一区切りついたのかと顔を覗かせる。頭から地面にめり込んでいる大型機の姿を見て暢気にそんな事を宣うが、まだ辛うじて稼働状態を維持していたらしい。女軍人は体勢を立て直しつつ、上司へ苦言を呈していた。
だが実際、ダメージレースと言う観点ではあながち彼らが不利と言う訳ではない。確かにこのままだと大型機の撃破は免れぬだろうが、猟兵とて誰も彼もが大なり小なりの手傷を負っている。その上で、彼らにはまだ無傷の戦力が丸々残っているのだ。女軍人の心情さえ考慮しなければ、まだ許容の範囲内とも言えるのだろう。
「ふん、敵も味方もやれ待遇だのご褒美だのと嘆かわしい。国家の指導に従い、公正平等として職務に励む事こそが我が『祖国』の……」
『……その点に関しては、ひとつ訂正を。他の皆様はともかく、私──いえ、弊社は経済的な雇用関係ではありません。正しく状況を認識しなければ、手痛い失策に繋がる事もありますので』
ぶつくさと|高説《たてまえ》を垂れる中年男だったが、横から飛び込んできた言葉がそれに水を差す。誰だと億劫そうに視線を向けると、PMSCの社員を随伴させたジェイミィの姿があった。彼は引き続きキャバリアに搭乗しつつ、慇懃に説明を続けてゆく。
「手痛い失策ぅ? たかだが傭兵と死に体の小国に何が出来るの? 遺憾の意?」
『より実効的な対策ですね。我々イェーガー社と人民国とは業務委託関係にありまして、「停戦監視活動」を請け負っております。えぇ、つまりは貴方がたの目論見と同じ「善意の第三者」というわけですが……両国の停戦履行を違反・妨害する者に対しては、断固とした制裁措置も視野に入ります』
――先程の会話については映像込みで記録させて頂きました。
そう言って先程の買収発言の下りを再生して見せる戦機。それを聞いた中年男の表情は相変わらず舐め腐った表情を浮かべているが、彼のセンサーは相手がピクリと頬を震わせた事に気付く。この手の工作は裏でやってこそ。表に出た時点で失態である。
『……あらあら。介入の理屈は理解できるけれど、建前が仇になった見事な自縄自縛。下手に善人面をしてすり寄った分、余計に悪辣に見えるんじゃないかしらぁ? これだったら多少の悪評は覚悟で真っ当に宣戦布告してた方がまだマシよね』
そんな相手の機微を見て取ったのか、畳み掛ける様に言葉を重ねるのは同じく戦場へ姿を見せたティオレンシアだ。何事にも大義名分は重要だが、それで身動きが取れなくなっていれば世話は無い。皮肉気な微苦笑を浮かべつつ、やれやれと大仰に首を振って見せる。
『ここはやっぱりNDKと煽るのが礼儀かしらぁ? 小細工なんてせず、作り笑いを浮かべて普通の援助で貸しを作ってたら良かったのに。裏工作がバレた場合、周りから袋叩きに遭うのが世の常よね?』
『因みに、元データはもうクラウドサーバにアップロード済みですよ。これが本国や周辺諸国に知られた場合、『損切り』の範囲が広がりますかねぇ……ペリア氏を含む形で』
これまで禿頭の中年男が余裕ぶっていられたのも、まだ自分だけは逃げ果せられると高を括っていたからだ。息を入れた『共和国』の軍人は既に全滅し、実質的な損害は大型機が一機のみ。それも新型と言う都合上、不具合があったと言い訳も容易い。
だがこうなってしまってはジェイミィの言葉通り、男へも責任追及が及ぶ可能性が非常に高い。そして件の人物は眼鏡の位置を直しつつ、じろりと視線を向けて来る。
「停戦協力とは初耳だ。それにそんな映像一つ、世に出ようが幾らでも揉み消せる。僕が窮地に陥った回数を知っているかい? 両手足の指の数でも足りない程さ。だけど……まだ此処に居る」
――邪魔者を全て消し去って、ね。
これまでとは打って変わり、男はぐだぐだと言葉を並べるのではなくただ手を振って部下へと指示を出す。それを受け、女軍人は損傷の激しい機体へ鞭を入れる。人間性的には到底尊敬なぞ出来ない相手だが、先の発言は何も見栄やハッタリではないと知っていた。
『あんなのでも上司です。それも有能な部類の、ね。ならば、少しでも次へ繋ぐ布石を打たせて貰いましょう』
自らを使い潰してでも、少しでも猟兵に損害を与える。そして続く本隊が押し切ればトータルでは勝ちだ。なんだかんだと言いながらも己の職務に殉じられるのは軍人の強さと呼べるだろう。加えて死兵とあらば、最後まで侮る事も出来まい。
(|機体構成《アセン》を見る限り、敵の戦術は極めてシンプル――即ち、『寄って防御ごと叩き斬って灼き殺す』。この上なく単純であるがゆえに、|特記戦力《エース》が十全にブン回すとすさまじく厄介なのよねぇ……それに、手負いなのも善し悪しよ)
ティオレンシアはジッと油断なく相手の様子を窺う。性能や戦術は単純であるが、故に付け入る隙が少ない。その上、この状況では機体の不調すらブラフとして使われかねないと踏んでいた。ならば、どうするべきか。
『……じゃあ、まずはそこから崩しましょうか。それに、そちらも同じ考えの様だしねぇ?』
『ええ、今さら「死人に口なし」と消される訳にも参りませんので。やはり、あの大型突撃槍は防御より回避すべきですね』
女店主の問い掛けに戦機も同意を返す。そのやり取りに危機感を覚えた大型機が突撃槍に熾火を纏わせながら肉薄せんとするも、それに応じる気など一切なかった。踏み込みに合わせてティオレンシアが投じたのは幾つもの球体。それがグレネードだと相手が気付いた瞬間、閃光と煙幕の二段構えによって機体のセンサーが潰されてしまう。
『くっ、視界が……ッ!?』
『接近戦に特化しているというなら、それに対する答えは簡単。組み合わなければ良いだけよねぇ? 加えてそれらには|カノ・ソーン《「英知」の「阻害」》に|ニイドの逆位置《強欲による失態》のルーン、つまりは判断力を鈍らせる効果が付与されているわ。道連れ覚悟とは言え、破れかぶれに後れを取るほど私たちも甘くはないわよ?』
センサー類は閃光によって一時的にダウンし、カメラから見える映像も白一色に染め上げられている。相対している最中に敵の姿を見失う。その心理的負荷は計り知れないだろう。立ち止まっていては不味いと踏んだ女軍人はスラスターを吹かし、強引に煙幕の中から脱出を図る、が。
『S.K.U.L.D.System ver.3.0.1 Stand by...Completed』
『ッ、上ですか!?』
白を抜けた先に待ち受けていたのは黒。それが頭上から差す影だと理解しアイカメラを上へ向けると、その先にはタイミングを合わせて跳躍していたジェイミィの姿があった。彼は猛禽の如く手にした機甲槍を繰り出し、咄嗟に大型機も突撃槍を頭上目掛けてかち上げる。
結果は痛み分け。戦機の一撃が敵の頭部装甲を抉り飛ばした一方、女軍人の切っ先が此方の脚部を切り裂いた。補助AIによる支援を受けてもなお当てて来るのは、やはり機体を駆る女軍人の技量故か。もし万全かつ侮りなしで相対していた場合、やはり苦戦は免れなかっただろう。
『なるほど……徹底してますね。飽くまでも付き合うつもりはない、と?』
『ええ、勿論よ。十全に動かれると脅威なら、十全に動けなくしてしまえばいい。脅威の大部分を操縦者が担っているなら猶更――単純な話よねぇ』
歯噛みする相手の言葉にティオレンシアは頷いて見せる。これこそが二人の方針だった。切った張ったでダメージを受ける事が確実ならば、そもそもそんな状況にさせなければ良い。女店主が相手の機先を制しつつ、後は二人で距離を取りながらタコ殴り。言ってしまえばそれだけの話だが、彼我の相性が合致すればこれほど効果的な立ち回りも無いだろう。
それを理解しているが、しかして相対する女軍人はただ口を噤むのみ。戦場に置いて相手の嫌がる事こそが正義であると理解しているのか。他方、戦況を見守っていたその上司は不満げに口を挟む。
「先に交戦した傭兵は矜持だの倫理だのを叫んでいたがね。それに対して卑怯極まる汚い戦術で挑むとは、己の所業を恥ずかしくならないのがとても不思議だ。身命を賭して望む同志オリガもご立腹で言葉もないらしいよ?」
『卑怯? 汚い? やぁねぇ、そんなに褒めないで頂戴な。そもそも貴方だって、いま自分で言ったことを信じてなんていないでしょう? 今更それくらいの言葉で止まるつもりは無いもの』
「まぁ、そうでもあるが」
心にもない事をと返してやると、中年男は悪びれる様子もなく肯定して見せる。これも彼なりの援護射撃だったのだろうが、思ってもいない事を並べられた所で白々しいだけだ。そこでふと、ティオレンシアは説得と言えばと何かを思いつく。
『ああ、そうそう。先ず大前提として、少なくともあたしを寝返らせたいなら……まず単純に、|国家予算の単位を積んでから《金額不足》よぉ? お生憎様ね』
『こと、企業や国家間の信頼はそれほどまでに高くつくという訳ですね。お互いに勝手知ったる仲であれば勉強させても頂きますが、少なくともあなた方に関しては望むべくも無いでしょう』
仲間の言葉を引き継ぎつつ、ジェイミィは手にした機甲槍を|騎槍《ランス》形態から|射突杭《パイルバンカー》形態へと変形させてゆく。お互いに思惑や手の内は明かし切った。これ以上、徒に戦いを長引かせるべきではない。背後に控えている敵部隊との交戦がほぼ確定しているのだ、そろそろ決着をつける頃合いだろう。
相手もそれを悟ったのか、大型機もまた唯一の得物である突撃槍へ再び熾火を纏わせる。ティオレンシアの心理面に対する圧力も効いているのだろうが、どのみち女軍人にはそれ以外にもう道が無いのだ。
『せめて一撃……そうすれば、後は我が『祖国』自慢の重砲撃が全てを押し潰す』
『軍人らしい忠誠心は敵ながら敬意を禁じ得ませんが。惜しむらくは上司に恵まれなかった事ですね』
『分かり切った事を改めて言わないで頂きたい……ッ!』
斯くして、大型機は最後の攻勢へと打って出る。捨て身の一撃はそれ以外の選択肢を潰された果ての選択だが、故にこそ軸がぶれる事は無い。ならば猟兵としてもまたやるべき事は変わらぬと、ティオレンシアはグレネードを投擲。再び視界を奪いつつ、周囲に展開した魔方陣から魔力弾を雨霰と降り注がせてゆく。
『おおおおおッ!』
だが、止まらない。装甲が吹き飛ばされ、内部機構が露出し、フレームが晒されてもなお、吶喊の速度が衰える気配は微塵も無かった。どちらか一方だけでも打ち貫く。その一念の凄まじさに、ジェイミィは敢えて応じて見せる。相容れぬ敵同士だが、それでも戦場には戦場の|礼儀作法《ビジネスマナー》があると知るが故に。
『重ね重ね、惜しい事です……ですがッ!』
果たして、二つの機影が交差する。繰り出される両者の一撃はお互いを捉えるも、その結果には大きな隔たりがあった。大型機の刺突は猟兵機の肩部装甲を捉えるも、重要部からは程遠い。対して、戦機の打ち込んだ鉄杭は敵機のフレームを破断。負荷に耐え切れなくなった機体はばらばらと上下に崩壊し、崩れ落ち、そして。
猛威を振るい続けてきた|純白の大型機《ブリュンヒルド》は此処に撃破されるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『HL-T11ヘヴィタイフーンMk11』
|
POW : RS180mmロケットランチャー
【180mmロケット弾】が命中した敵をレベル×10m吹き飛ばす。
SPD : RS76.2mmオートキャノン
【貫通力が高い76.2mm速射砲弾】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ : EP-Sショルダーシールド&EP複合装甲
装備の【シールドと追加装甲による機体重量超過】ペナルティを無視できる。また、[シールドと追加装甲による機体重量超過]の合計に比例して、全装備の威力と防御力が強化される。
イラスト:ゴミー
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●鋼鉄の砲火を抜けた先へ
「おお、同志オリガ! 奮戦虚しく斃れるとは、僕は哀しい! 勲章の申請は気が向いたときにでもしておこう。さぁ勤勉なる我が同志たちよ、我らが同胞を弑せし悪辣なる傭兵どもに、今こそ鉄槌を……」
「同志、同志ペリア。一つご報告が」
崩壊した大型機の残骸を前に禿頭の中年男が演技ぶって高説を垂れ流す。だが後方に控えていた兵士がその言葉に水を差した。なんだと苛立たし気に視線を向ける上司へ、部下は囁くように内容を告げる。
「同志オリガの生存が確認されました。先ほど回収され、重傷ですが生きておられるとの事。機体の高い剛性に加え、撃破時の崩壊と共に機外へ放り出された結果、衝撃が分散されたのかと」
「…………あっそう。まぁ良いや、どのみちやる事には変わりないし」
興覚めと言った様子で道化の仮面を脱ぎ捨てると、男はパチリと指を鳴らす。そうして前へと進み出たのはそれまで温存されてきた無傷の本隊戦力。テンペスト社製重キャバリア『ヘヴィタイフーン』、その最新機だ。『祖国』の戦術ドクトリンを反映してか、通常の兵装に加えて肩部に大型の実体弾重砲を装備しており、機動力と引き換えに火力が底上げされているらしい。装甲も厚い為、連戦続きの状況でこれを抜くのは骨だろう。
「重砲は戦場における神だ。それは単なる比喩ではない……鉛や炸薬といった資源の調達。それらを製造する技術力に、大量生産を成す強固な工業体制。そして出来上がった砲弾を戦線まで速やかに運ぶロジティクス。我々の勤勉さによって構築されたこの流れは一種の芸術品だ」
余程の自信があるのか、男は脂ぎった笑みをと共に胸を張って見せる。それは先ほどまでの薄っぺらな建前ではなく、本心からの言葉らしかった。まぁ尤も、猟兵からすればだからどうしたという話なのだが。
「戦争における英雄なぞ過去のものだ。僕たちの『祖国』は勤勉な個々人を統合した効率的な組織であり、それは戦場においても適用される。質を備えた数による蹂躙ほど有用なものは無い」
じゃあ女軍人の奮戦は何だったのかと言う視線が猟兵のみならず『祖国』部隊からも出てくるが、それはそれとして自分たちの存在を称賛されるのは悪くない気分なのだろう。機体越しではあるが、兵士たちの士気が上がるのを感じられた。
「ただまぁ……それを『祖国』だけで為し得るのは、幾ら偉大であろうともちょっと厳しい。人も土地も金も有限だ。ああ忌々しき資本経済! だから、我々は『お友達』が必要なんだ。それもたくさんね?」
それが本題か。自国を潤す為の植民地が欲しい。この一連の大騒動を突き詰めてしまえばその一言に集約される。ただそれを得るには、それこそ人も金も時間も掛かってしまう。だからこそ最小限の労力で手に入りそうな『人民国』『共和国』に目を付けたのだろう。
「あーあ、本当なら簡単な仕事だったはずなのになぁ……まっさか、君らの様な傭兵に邪魔されるだなんて。てか、ホントにただの傭兵? 見たことない装備を持ってたり生身でキャバリアを破壊するとか、明らかにマトモじゃないでしょ? なに、どっかの超大国が作った超人兵士なの? キャプテンイェーガー?」
当たらずとも遠からずだが、わざわざそれを教えてやる義理もあるまい。猟兵たちは連戦で疲弊した肉体に喝を入れながら、改めて臨戦態勢を取ってゆく。対する男は肉体労働など専門外とばかりに、指揮装甲車へ引っ込んでしまう。だが果たしてその中が本当に安全かどうか、この後じっくりと確かめて貰わねばなるまい。
さぁ、猟兵たちよ。戦争の裏で紡がれた陰謀の糸を完全に断つ時が来たのだ。
※マスターより。
プレイング受付は14日(火)朝8:30~開始。
第三章は集団戦、温存されていた『祖国』本隊との戦闘となります。敵機種は機動力が低い代わりに高火力重装甲な上、追加兵装として肩部マウント式の実体弾重砲を装備しています。砲撃の雨は極めて強力であり、敵部隊は動く砲兵陣地と言って良いでしょう。なお、キャバリアの搭乗者に関しては機体のみを破壊して捕縛する事が可能です。指揮官であるペリアは指揮装甲車の中で戦況を観察しています。
キャバリアに搭乗している兵士|は《・》機体のみ破壊して捕縛可能です。
それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
村崎・ゆかり
言うだけ言って引っ込んだか、あのおっさん。まあいいわ。欲得ずくで動く分、まだ人間らしい。
それじゃ、終わらせましょうか。
「全力魔法」破壊の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」「竜脈使い」で地烈陣。攻撃力重視。
大地を衝撃で砕き、敵機をその破壊に巻き込んで破壊する。
パイロットの生死? 死なないといいわね。
あのおっさんが乗った車のところまで破壊範囲を広げたいけど、入るかしら?
これでキャバリアの下半身を潰せるかしら。頑健そうな外見だからなぁ。
地烈陣の範囲内にいた以上、もう身動き取れないくらいに地面にはまってるから、完全破壊は他の人に任せましょ。
打ち込んでくるロケット弾は、薙刀で軽く逸らして「受け流し」。
●高望みに足元を掬いて
「言うだけ言って引っ込んだか、あのおっさん。まあいいわ。欲得ずくで動く分、まだ人間らしい。突き抜けすぎていっそ清々しいわね。こっちも遠慮なくやれるもの」
持ち場を堅守するかの如く隊列を組んだ重キャバリアと、そこから更に大きく離れた場所で停車した指揮装甲車。あれだけ自分の精強さを誇りながら、戦闘に巻き込まれぬよう過剰なまでに距離を取っているのか。その俗な臆病さに、ゆかりは呆れた様に鼻を鳴らす。
|禿頭《アレ》に目に物を見せてやりたいものの、眼前の鉄騎群を抜くのはまず間違いなく骨が折れるだろう。さてどう立ち回るべきかと思案する猟兵だったが、どうやら悠長に考えている暇なぞ与えてくれないらしい。
『同志オリガと新型を破った連中だ、気を抜くなよ!』
『個々の技量では同志オリガに我らは及ばぬ。だが、圧倒的数こそが雌雄を決すのだ!』
敵部隊は肩部に搭載された重砲で曲射砲撃を繰り出しながら、右腕に保持した対装甲ロケット弾を一斉に発射。直線と曲線を組み上げた多重攻撃による面制圧を仕掛けてきた。中年男はまだしも、女軍人はそれなりに人望があった様だ。仇を取らんと弾薬を惜しむことなく火力を投じてゆく。
(見ての通り耐久力は折り紙付き。生半可な威力だと耐えられる上に、固く陣形を組んで崩さないと……よし、それなら)
瞬く間に衝撃と鉄片が吹き荒れ、ただでさえ荒れ果てた地面に大小の砲撃痕が穿たれる。ゆかりは紫刃の薙刀を振るい、紙一重で直撃弾を避けるものの、空間そのものを埋め尽くす火力は如何ともしがたい。爆風に揉まれ、飛び散る鉄片や礫が身体に食い込む。
絶え間ない砲撃に全身が痛みに苛まれながらも、それに反して乙女の思考は冷静だった。相手が上と水平より攻め立てるならば、こちらは下から挑むのも一興。お誂え向きに過剰なまでの砲撃により地面の具合も良いとは言い難い。
「それじゃ、終わらせましょうか……古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。竜脈宿せし大地よ。永劫の微睡みから目覚め、汝を忘れ去った者共に相応の報いを与えよ。疾ッ!」
彼女は攻撃と攻撃の僅かな空白を狙い澄まし、得物に神威を纏わせるや渾身の力を籠めて地面へと叩きつける。決して大柄とは言えず、況やキャバリアと比べれば遥かに小さな身体。にも拘らず、その一撃が齎した効果は絶大だった。
『おっ、おお!? なんだ、重量級の機体が、傾ぐッ!?』
『違う、地面だ! 奴め、地面を砕きやがった!』
砲撃の一斉着弾に勝るとも劣らぬ振動が戦場全体を襲った次の瞬間、それによって地表が次々と割れ砕けた。ある機体は体勢を崩し倒れ込み、ある機体は密集陣形が仇となり友軍同士で衝突し、またある機体は地割れに嵌り万力の如く締め上げられる。一瞬にして『祖国』部隊の整然と隊列が掻き乱されたのだ。
「これでキャバリアの下半身を潰せるかしら。ただ、頑健そうな外見だからなぁ。でも地烈陣の範囲内にいた以上、もう身動き取れないくらいに地面に嵌っている筈だから、完全破壊は他の人に任せましょ」
腰から下の脚部を喰らい付かれた機体は多いものの、上半身に関してはある程度の自由がある。この状態でも固定砲台くらいにはなろう。とは言え、幾ら鈍重とは言えこれらは機動兵器なのだ。足回りを封じられてはその真価の半分も発揮できまい。
それにいつ地割れが閉じ、機体が押し潰されるかも分からぬ。その時に操縦席だけ運良く巻き込まれないなど、誰が保証できようか。とは言え飽くまで軍務に殉じる末端だろうが、彼らの安全を斟酌してやる義理も無かった。
「パイロットの生死は……まぁ、死なないといいわね。あのおっさんが乗った車のところまで破壊範囲を広げたつもりだけど、さてどうかしら?」
混乱する敵部隊から視線を外してみれば、悪運強く指揮装甲車は健在。しかし中身は無事では済まなかったのだろう。空いた扉から慌てて転がり出て来る禿頭の姿に、ゆかりは愉快そうに笑みを浮かべるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリー・フランツ
心情:叛乱軍と特装機との戦闘で損耗したおかげで余裕が無くなった。
恨むなよ。
手段:最初に味方に連絡しとく、|IFF《敵味方識別装置》はしっかり確認してくれ、俺の機体はグレーの都市迷彩で相手は森林迷彩だ、頼むから誤射だけは勘弁してくれ。
さて…どう戦ったもんか、盾やマチェーテは亀裂が入り、俺を含めた猟兵の残弾数とエネルギー残量も心許ないはず。敵の肩キャノンは155mmか?それとも203mm?遠距離じゃ遮蔽物に隠れても山なり弾道で撃たれて意味無し、それを抜けても今度はロケット砲とオートキャノンの直射釣瓶打ち。
…コングⅡにEP-155mmクラスター焼夷弾頭を装填、上空に撃ち込み密集しての砲撃態勢を解除させ、相互連携を乱す。回避されても分散する事で味方が死角から攻撃しやすくなるし、当たれば装甲が軟くなり正面からの|クロコダイル《肩40mmレールガン》でも貫徹しやすくなる、後者は最新機種なんで俺も保証しかねるがな!
|禿げ茶瓶《ペリア》に関しては猟兵の中に某PMSCの役員も居るし吊し上げは任せるか。
●|鉄風の嵐《ヘヴィタイフーン》
『各機、被害状況を報告せよ!』
『擱座三、行動不能二、小破相当が複数! 戦闘継続に大きな支障は無し!』
地面を割り砕いた一撃に泡を食ったものの、大型機との戦闘で猟兵の出鱈目さは散々目にしていたのだろう。『祖国』部隊は過度な混乱に陥ることなく、素早く陣形を立て直して見せた。地割れに嵌りどうしても動けぬ機体も、|下半身《アンダーフレーム》を切り離し|固定砲台《トーチカ》代わりとして戦闘を続けるらしい。
(叛乱軍と特装機。厄介な連中との連戦で消耗したお陰で、だいぶ余裕が無くなったな。盾やマチェーテは亀裂が入り、俺を含めた猟兵の残弾数とエネルギー残量も心許ないはず。とは言え、補給のアテがある訳でも無し。さて……どう戦ったもんか)
一方、愛機の操縦席内でそんな様子を窺っていたヴィリーは、小さく舌を打ちながら目まぐるしく思考を巡らせていた。密林地帯での混戦に大型機と一騎打ち、そして完全武装した鉄騎群との三連戦。度重なる激戦を経た結果、機体のみならず搭乗者にも疲労が蓄積しつつある。
それは傭兵の機体とて例外ではない。盾ごと貫かれた腕部マニピュレータの動作は鈍く、武装の幾つかも破損したり残弾が怪しい。その上、相対する機体は彼の乗騎にとって上位互換とも呼べる相手なのが懸念に更なる拍車を掛けていた。
(敵の肩キャノンは155mmか? それとも203mm? どっちにしろ良い物を使ってやがる。遠距離じゃ遮蔽物に隠れても山なり弾道で撃たれて意味無し、それを抜けても今度はロケット砲とオートキャノンの直射釣瓶打ち……正にシンプルイズベスト、小細工なしに厄介だな)
双方ともに乗り込んだ機体はテンペスト社製重キャバリア『ヘヴィタイフーン』。だがヴィリーの愛機がMk10に対し、相手はMk11。つまりは最新型だ。当然ながら機体性能は向こうが上かつ、こっちが大小の損傷を負っているのに敵は完全装備の無傷。ハッキリ言って不利などと言うレベルではない。が、しかし。
(……だけど、そんなモンだろ。傭兵の戦場ってのは)
装備の質がなんだ、頭数の差がなんだ、負傷や損傷がなんだ。そんなものは|いつものこと《・・・・・・》だ。楽な|仕事《せんじょう》なぞ、これまでいったい幾つあった? 赴く先は常に劣勢で、その中から|報酬《しょうり》を拾って来たのだ。それに、それこそ自分で啖呵を切ったでは無いか。犬畜生にも矜持がある、と。
傭兵は深く息を吐き、改めて操縦桿を握り直す。その表情に浮かぶのは笑み。それが本心からのものか、それとも虚勢かを問うなど意味はない。戦いに先立って笑うことが出来る。ただその一点のみが重要なのだ。
『味方には最初に連絡しておくぞ……|IFF《敵味方識別装置》だけは常にしっかり確認してくれ。俺の機体はグレーの都市迷彩で、相手は森林迷彩だ。頼むから誤射だけは勘弁してくれよ? 背中からズドン、なんてそれこそ笑えねぇからな!』
『我々と対峙するよりも先に心配する事が|味方の誤射《フレンドリーファイア》とはな』
『挑発としては上出来だぞ、|猟兵《イェーガー》ッ!』
斯くして盛大に放たれた宣戦の言葉に対し、『祖国』部隊も反応する。軍隊も傭兵も、面子を重んじるのは変わらない。所謂、舐められたらお仕舞いというヤツだ。故にこそ、相手も安い挑発だと分かった上で乗って来た。
無論、敵も無為無策と言う訳ではない。既に隊列は組み直されており、相互防御に隙は無し。向けられる夥しい砲門を前に、しかして傭兵は飽くまでも笑みを崩さなかった。型番違いとは言え同じ機体なら、モノを言うのは操縦者の技量。腕一本で食っている身として、正規兵に遅れを取るなど死んでもいかないのだ。
『さぁ、火力勝負と行こうか、ご同輩?』
果たして次の瞬間、濃密な火力が降り注ぐ。山なりの曲射、直接照準の水平射に手持ち火器の大盤振る舞い。重キャバリアの名に恥じぬ火砲の嵐だ。些か過剰にも思える鉄量だが、同じ機体を駆る者同士だからこそ、手負いとは言えその耐久性を甘く見ていないのだろう。
対して、ヴィリーは持ち前の装甲や先の大型機戦でも使用したエネルギー力場を展開。完全に無傷とはいかずとも、少しでも襲い来る威力を殺さん試みていた。培った戦術眼と巧みな操作技術を駆使してダメージを出来る限り抑えながら、男は手持ちの重無反動砲から空になった弾倉を外し、代わりに新たな弾薬を薬室へ送り込む。
(これでコングの弾薬はカンバンだ。だが、さっき痛い目を見たのに連中と来たら性懲りもなく固まっていやがる。これじゃあ狙ってくれって言っているもんだぜ?)
傭兵は砲門を敵陣、ではなく上空へと向けた。もしも彼らが元『人民国』兵士たちから情報を聞いていたら、この動作に明確な危機感を抱いただろう。だが、あの傲慢な|禿頭《ハゲ》の事だ。演説をぶち上げこそすれ、負け犬の忠告を聞く様な性格ではあるまい。となれば必然、下に居る兵士たちにも伝わらぬはず。
『なんだ、狙いをどこへ向けている? 上か?』
『待て、ヤツは同志オリガに特殊弾頭で手傷を与えた相手だ。油断はするなよ!』
しかし、相手も無能ではない。内容は分からぬが脅威と推定し、防御を構えて身構える。それは通常であれば正しい判断だが、今回に関しては裏目となった。敵の反応にほくそえみながら、ヴィリーはトリガーを引き絞る。
『装填及び弾道計算完了……さぁ、デカい花火を打ち上げるぜ!』
刹那、弾頭から放たれたまっすぐに敵陣上空へと飛翔。充分な高度まで到達した、瞬間。
――バラララッ、と。
夥しい数の球体がばら撒かれたと思うや、それらが凄まじい熱量を撒き散らしてゆく。その正体はかつてのゲリラ部隊掃討戦でも使用した、クラスター式のサーメート焼夷弾だ。効果範囲の狭さを拡散する子弾でカバーしつつ、化学反応によって生み出される熱量は数千度にも達する。
『こんなモノまで持ち出しやがって……!?』
『オイオイ、条約か何かに引っ掛かるんじゃないか!』
敵機の装甲はほぼ生身同然だった『ドヴェルガー』と比べるべくもない。だが強烈なまでの高温は装甲を融解させ、携行弾薬を誘爆させるには十分すぎるだろう。これは堪らぬと敵部隊は陣形を崩し、小部隊ごとに散開してゆく。
(クソ、妙に動きが良い。ありゃ関節部もかなり弄ってやがるな? だが、装甲がヤワになりゃこっちのもんだ……!)
多少なりとも火力が分散すればしめたものだ。ヴィリーは隙を晒した敵機へ瞬時に目星を付けるや、|クロコダイル《肩40mmレールガン》を叩き込む。剛靭性を失った装甲はぐにゃりと歪み、そのまま内部機構を蹂躙されてしまう。最新機種のため貫徹できるか少しばかり不安だったが、どうやら杞憂だったらしい。
『あの|禿げ茶瓶《ペリア》は……おうおう、派手に逃げ回ってやがる。良い気味だぜ。今はアレに構っている余裕は無いからな。|某PMSCの役員《しりあい》も居るし事だし、吊し上げはそっちに任せるか』
斯くして傭兵は矢鱈めったらに右往左往する指揮装甲車を尻目に見つつ、着実に敵戦力を減らしてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ベスティア・クローヴェル
【骨斬肉絶】
なんとも自分勝手な言い分だ
自分達を満足させる為に他者をこき使うような関係は「友達」とは呼ばない
そういうのは奴隷っていうんだ
故郷のダークセイヴァーで貴族に虐げられてきた者達を散々見てきた
だからこそ、似たような境遇になりえるこの状況は見過ごせない
さて、先ほどの戦闘で場の空気を随分と冷やしてしまった
こんな寒い環境じゃ、自慢のキャバリアも満足に動けないでしょ
だから、少しばかり温めてあげよう
…いや、ちょっと待った
突然こんな服装になるなんて聞いてない!
こうなったら仕方ないけど、後でちゃんと説明して貰うから
鈍重な砲撃機相手なら、速度と熱でかき回してしまえばいい
身体が十二分に温まるまで、速度にものを言わせて避け続けよう
的が小さいうえ高速で飛び回るのだから、さぞ狙い辛いだろう
そしてやっと捉えたと思ったら|こんな姿《中華バニー》なんだから
身体が温まりさえすれば、あとは接近して重火器に触れるだけ
そうすればオーバーヒートしてあっという間にお釈迦だ
こんな格好で戦う羽目になるなんて、全く酷い目にあった…
ファン・ティンタン
【WIZ】完璧で究極の
【骨斬肉絶】
戦場で多勢による暴力を信奉するのは大いに結構
事実、多くの戦史ではその有用性が証明されている
けれど、だ
この場に限っては、もっと違うモノが望まれるべきではないかな?
【如意宝刃】
人、その全てが暴力を忌避しているとは言わないけれど
自らが戦場に身を置かずとも済むというのなら、どれほどの者が安穏を望むことか
武器を取り闘う役から解放されたいとの願い
しかし、その為には代行者が必要か
ならば、その為に英雄が立つべきか
さらば、全て解決する彼女を求めよ!
君達を戦場から解放する、|(争いの無意味を)うたって(剣林弾雨の中を)踊れる鮮烈な偶像を!《バニー服のアイドル》
ま、コレがどの程度の強化になるかはさておき
元より、鈍重な木偶に遅れを取るベスティアではなかろう
文字通り、彼女は狼にして戦場の野兎と成る
後方の私も敵の動きを把握して前線の最適化に資する合図を出そうか
ん?
戦場の意識を誘引するためとはいえ、一人でこの格好は恥ずかしいと?
ふむ……じゃあ
私も、“|それ《中華バニー》”に合わせるか
●黒白の兎、戦場を跳ね遊び
『駆動系に支障発生!? 復旧までおよそ三百秒!』
『弾倉部に異常加熱を感知、残弾を投棄するッ!』
周囲を焼き尽した化学的超高温は最新の重キャバリアにも多大な損害を齎していた。重厚な装甲に守られた内部機構は辛うじて無事だが、灼熱に晒された表層は融解し、比較的守りの手薄な弾倉類には異常が発生。誘爆を避けて次々と弾薬を投げ捨てている。
そうやって物資を惜しまぬ姿は正しく禿頭男の言葉通り、重工業に裏打ちされた潤沢な補給体制に裏打ちされているのだろう。だがその一方で、当の本人はそれを見て眉を顰めていた。
「ああ、勿体ない。それは勤勉なる同志労働者諸君の成果物であると言うのに……」
『同志ペリア。猟兵の戦力はそうも言っていられないレベルだとご認識ください』
『……やはり、同志オリガと協力すべきだったか?』
そんな現場を知らぬ者のお小言に、聞かれぬよう小声で苦言を呈する兵士たち。愚痴を漏らせる程度にはまだ余裕があるらしい。とは言え、被った損害が浅くはないのもまた事実。総体としての力を上司が誇る一方、下っ端は自部隊のエースが失われた事実を惜しんでいる。
「同志、労働者、組織……なんとも自分勝手な言い分だ。自分達を満足させる為に他者をこき使うような関係は『友達』とは呼ばないし、呼べない。そういうのは単に『奴隷』っていうんだ」
彼らはいちいち自らの『祖国』を誇るが、ベスティアからすればその体制や価値観は醜悪極まりないものだ。そうした思想の根幹を為すのが合理性や効率ではなく、強者が弱者を従えるという極めて原始的な原理に過ぎないと理解しているのだろう。幾ら|虚飾《プロパガンダ》で塗り固めようと、銀狼の嗅覚は滲み出る傲慢さを嗅ぎ取っていた。
「故郷のダークセイヴァーでは貴族に虐げられてきた者達を散々見てきた。だからこそ、似たような境遇になりえるこの状況は見過ごせない。ただ、あのキャバリアたちはかなり厄介そうだ。質では白い機体に幾分か劣るとは言え、まだまだ頭数は多いけれど、さて」
「……ただ、あの|禿頭《おハゲ》と兵士たちとでは、さっきの女軍人ほど信頼関係は厚くないみたいだね? 戦場で多勢による暴力を信奉するのは大いに結構。その考えは間違っていないよ。事実、多くの戦史ではその有用性が証明されている」
|百年の暗夜《ダークセイヴァー》が故郷の者として、似たような暴虐を見過ごすつもりは更々ない。だが、あの重厚な鉄騎は一機一機が動く砦と言って差し支えないだろう。さて、それにどう楔を穿つべきかと思案する戦友に対し、ファンは何か確信めいた物言いを返す。
彼女の言う通り、人望と言う点では両者に大きな隔たりがある。確かに軍集団において上命下服は義務だ。誰がどうなろうとも行動し続ける必要がある以上、兵卒が上司をえり好みする事は出来ないし、すべきでは無い。
「けれど、だ。この場に限っては、もっと違うモノが望まれるべきではないかな? 人、その全てが暴力を忌避しているとは言わないけれど、自らが戦場に身を置かずとも済むというのなら、どれほどの者が安穏を望むことか」
しかし、人間である以上は個々人に感情があり、好悪を抱き、性格がある。故に面従腹背とまではいかないが、上司との関係は部下の士気に大きな影響を齎すものだ。そこに綻びが見える以上、楔を打ち込み亀裂を生み出す事も決して不可能では無い筈。
「例え軍人の義務としてそれが叶わずとも、後方に勤務し前線から遠ざかりたい、或いはせめて有能な者の下にと願うのは人の業だよ。義務感、愛国心、金銭や待遇などなど、軍務に就く理由は千差万別だし、必要とあれば自らの命も投げ出すだろう。だけど、それは裏を返せば『死なないに越したことはない』とも言える」
「まぁ、その考えには同意するよ。だけど実際問題、どうするつもり? 彼らにとって私たちは敵だ。情に訴えかけた所で耳を貸す可能性は低い……それとも、今度はこっちから買収でも持ちかけてみようか?」
白き刀の言葉に頷きを返しつつも、銀の狼はまだ訝し気な様子だ。仲間の言っている事は理解できる。わざわざ死を望む者などそうは居まい。だが、この状況では交渉のテーブルにつかせる事すら困難を極めるだろう。試しに意趣返しでもしてみようかと、ベスティアは軽口めいて口走って見せた。
「冗談はさて置き、どうやらお仲間との戦闘で私が冷やした空気もだいぶ温まったらしい。どうやら急な寒暖差に対応出来てないみたいだ。だから物はついでに「そうだね、その手で行こう」もう少しばかり温めて……ごめん、いまなんて言った???」
発言の途中で挟み込まれた、予想外の一言。理解が追い付かず反射的に聞き返すも、返答はとても清々しい笑顔と肩を掴む手の異様な力強さだけだった。嫌な予感が脳内で鳴り響くベスティアへ、ファンは仮面染みた笑みを維持したまま。
「……その手で行こう」
そう繰り返し宣うのであった。
『各機、砲撃を続けよ! 火力こそが正義だ! 連中を石器時代に戻してやれ!』
『何か小細工をする隙を潰せ! 何時間だって撃ち続けるんだ!』
一方、体勢を立て直した『祖国』部隊は引き続き戦場一帯を濃密な火力で埋め尽くしていた。多少欠けが生じたとはいえ、依然としてその戦闘力は脅威の一言。これ以上余計な事をされては堪らぬと、潤沢な弾薬に任せて力押しを画策しているらしい。単純極まりないが、故にこそ厄介な立ち回りである。
しかし、火力が途切れたらいつどのような奇策が飛んで来るのか予想も出来ないのだ。一見して圧倒している様にも見えるが、兵士たちの気もそれ相応に張り詰めている。そんな神経の摩耗を感じてか、思わず不平不満が口を突く。
『クソッ、予定では首都を早々に制圧するはずだったろ? ロクな戦闘も無いって話だったのに……さっさと終わらせて休暇が欲しいもんだ』
「……汝、武器を取り闘う役から解放されたいとの願いを抱くか?」
『あぁ?』
誰に聞かせるとでもない独白。だが、それに応ずる声がある。何事だとそちらへアイカメラを向けると、そこには神妙な面持ちの白刀と不安そうな表情の銀狼の姿があった。すぐさま叩き潰さんと砲門を向けるのだが、ファンが動じる様子はない。逆にその余裕が兵士の不信感を掻き立て、トリガーを押す事を躊躇させてしまう。そうした迷いを見透かしたのか、彼女は畳み掛ける様に言葉を紡ぐ。
「しかし、その為には代行者が必要か。願いを束ね、要求を通す代弁者が。ならば、その為に英雄が立つべきか。さらば、全て解決する彼女を求めよ!」
「ちょ、ちょっと? 私まだこの後どうなるか聞いてないんだけど……」
その演説はまるで宗教の説法を思わせるもの。徐々に熱が入り始める語気に嫌な予感を覚えるベスティアだが、対するファンは意に介さず言葉を続けてゆく。しかし、どうやら『祖国』ではその手の信仰は敬遠されているらしく、猟兵の呼びかけを聞いた敵機は苛立たし気に攻撃を再開せんとする。そうして今度こそトリガーを押し込もうとした、瞬間。
『何を言い出すかと思えば。その手の話は阿片の様なモノ、と言うのが我が国の常識だ。小細工が仇になって』
「そう、彼女こそ君達を戦場から解放する……」
――君達を戦場から解放する、|(争いの無意味を)うたって(剣林弾雨の中を)踊れる鮮烈な偶像を!《バニー服のアイドル》。
光が弾けた。まるで人々の祈りが集まったかの如く温かな輝きが生まれ、周囲へと拡散する。果たして、今度はいったい何をやりやがったのかと目を凝らす兵士たちが見たものとは。
『……? !? ッ!!!』
「……いや、ちょっと待って。ほんとに、あの、これは聞いてないんだけど!?」
バニーガールである。やや東洋チックなテイストを織り交ぜた、漆黒のバニー姿のベスティア。熱帯雨林には余りにも場違いな装いを目の当たりにし、戦場全体がまるで水を打ったかの如く静まり返る。当の銀狼ですら知らされていなかったのか、怜悧な相貌が思わず羞恥に染まりゆく。対して、それを引き起こしたファンは何だかちょっと誇らしげに胸を張っていた。
「さぁ、行くんだベスちー。コレがどの程度の強化になるかはさておき、元より鈍重な木偶に遅れを取る事は無いだろう。文字通り、野獣を誘う野兎にして戦場の狼と成るんだ☆」
「いや、なに流そうとしてるの? 突然こんな服装になるなんて聞いてないし、しかも強化になってるかさえ怪しいってなに? ああもう、こうなったら仕方ないけど、後でちゃんと説明して貰うから!」
連戦の疲労による|暴走《ハイ》か、本当に勝算あっての事か。ともあれノリと勢いで押し切ろうとする戦友を横目で睨みながら、銀狼が前線へと飛び出してゆく。呆気に取られていた敵部隊だったがそれを受けて我に返ると、砲撃を再開し始めた。
(うう、こんなのでもしっかり強化されているからタチが悪い。いや、文句は全て終わった後だ。鈍重な砲撃機相手なら、速度と熱でかき回してしまえばいい。身体が十二分に温まるまで、速度にものを言わせて避け続けよう)
絵面こそアレだが、流石に全くの虚仮脅しと言う訳では無いらしい。と言うか、そうでなければ単なる痴態の晒し損だ。ベスティアは普段以上の活力を感じつつ、全身に燃え盛る炎を纏って降り注ぐ弾雨の間を駆け巡りゆく。
(的が小さいうえ高速で飛び回るのだから、さぞ狙い辛いだろう。もし命中させたければ、空間そのものを攻撃で満たす他ない。だけど、やっと捉えたと思ったら|こんな姿《中華バニー》だ。色んな意味で集中が乱れるはず……ちょっと複雑だけど)
先に交戦してくれた仲間のお陰か、周辺一帯は十分すぎるほどに熱せられていた。強化も相まって、既に戦闘可能な温度にまで炎は練り上げられている。ここまで高熱ともなれば、砲弾は直撃するよりも前に早爆してしまう。
そうしてそのまま敵機の懐へ潜り込むと砲身や弾倉、給弾ベルトへと指を添わせてゆく。すると途端に赤熱化した火器は歪み、内部の弾薬が誘爆し内側から装備を吹き飛ばす。幾ら潤沢に弾薬があるとは言え、それを放つ銃器自体が壊れてしまえば意味はない。
『何故だか分からない、いやホントに理由は不明なのだが、不思議と照準がズレてしまう!』
『これはあれだ、良く狙って撃たないと駄目だな。他意はない、これも必要な事……おいそこ、視界を遮るな! 散れっ、散れっ!』
と言うか、それ以前になんかもう兵士たちがグダグダである。各種センサー類やらカメラなどがぎゅいんぎゅいんレンズを収縮させていた。女軍人が戦線離脱しちゃったからね、何がとは言えないけどショウガナイネ?
しかし、ベスティアにとってそれはある意味で強烈な攻撃になったらしい。無数の視線を受けてちょっと引きつつ、後方で戦況を見守っていたファンへと視線を向けて来る。距離がある故に言葉までは届かなかったが、何を伝えんとしているかは明白だった。
「ん? 戦場の意識を誘引するためとはいえ、流石に一人でこの格好は恥ずかしいと? ふむ、せっかく眼福……もとい、効果的だったのに。それじゃあ、私も、“|それ《中華バニー》”に合わせるか」
戦友からの抗議を受け、やれやれと首を振った白刀はその場でクルリと身を翻す。すると銀狼とほぼ同じモチーフだが、色だけは彼女らしい純白のバニースーツへと装いを変じさせた。まぁこうなったのも自分に原因の一端があると、ファンは刃を手に敵中へと飛び込んでゆく。
『敵が増えた、だと。これは、不味いぞ。このままでは戦力が分断されてしまう』
黒き兎が熱き指先で触れれば、たちまちのうちに鉄騎が爆散し。白き兎が冷たき刃を振るえば、鋼の巨躯から頸だけ刎ねる。ビジュアルこそアレだが、その戦闘力自体は脅威そのもの。堪らず兵士も懸念を口にする、のだが。
『……なぁ、お前はどっちが好みよ? 俺は黒い方の耳とか尻尾がツボなんだが』
『甲乙つけがたいが、白い子だな。お団子ヘアとか良い……良くない?』
お前ら思春期の中学生か??? ある意味では余裕のある発言とも取れるが、幸か不幸か猟兵が増えた事で兵士たちの好みが二分されてしまった。いやそれで何か困るのかと聞かれれば何も無いのだが、このままでは彼らの固き紐帯に亀裂が入ってしまう。色んな意味で追い込まれた兵士たちは、パッと背後を振り返る。
『ど、同志ペリア、御裁可を!?』
いったい何を判断するのか、等と野暮は問うなかれ。部下の求めに応じ、指揮装甲車に引っ込んでいた男がのっそりと姿を見せる。彼はチラと詰まらなさそうに白と黒の兎を一瞥した後、端的にこう評した。
「……正直どっちも賞味期限切れでは???」
「「よし、あの|禿頭《ハゲ》泣かそう」」
どうやら、中年男からすれば両者共に守備範囲外だったらしい。あんまりにもあんまりな一言に鉄騎を捨て置いて襲い掛かる乙女たちは愚か、味方である筈の兵士たちも流石に『無いわ』とドン引きである。だが形式上とは言え上司は上司、見捨てる訳にもいかず身を挺して守らんと立ち回り、そして。
「こんな格好で戦う羽目になるなんて、全く酷い目にあった……いや、本当に」
「惜しかったね、あと少しで眼鏡をカチ割れたのに」
散々に暴れて多少溜飲が下がったのか。片や疲労を滲ませ、片や少し不満そうに、ベスティアとファンは己が戦果を見やる。途中で狙いを指揮装甲車に変えたせいで幾分が漸減の勢いが落ちたものの、それでも敵戦力を削ることが出来ていた。
斯くして、乙女たちはこれ以上ないほど鮮烈にバニー姿を敵の脳裏に刻み込むのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メサイア・エルネイジェ
おマグロ〜!
わたくしのおマグロはどちらですの〜!?
おマグロが貰えると聞いておりましたのにどこにも見当たりませんわ〜!
皆様嘘つきですわ〜!
ひどいですわ〜!
おマグロ貰えないわたくしとってもおかわいそうですわ〜!
はっ!さては!
そちらの皆様!わたくしのおマグロをお持ちですわね?
隠してもダメですわ〜!
おマグロをお寄越しにになって〜!
たくさん撃ってまいりましたわ!
こんな時は!暴れるのですわ!
イオンブースターオン!
残ったお盾で防御しながら突っ込むのですわ!
お盾をぶっ壊されたら軽くなるのでよろしいのですわ〜!
時々サイドブースターで左右にドヒャアドヒャアするのですわ
そしてヴリちゃんタックル!
ヴリちゃん引っ掻き!ヴリちゃんキック!
ヴリちゃん尻尾!ヴリちゃんブレードエッジ!
跳ね回って暴れるのですわ〜!
触るもの皆ぶっ壊すのですわ〜!
硬くても壊せば壊れるのですわ〜!
壊すと動かなくなるのですわ〜!
わたくし天才ですわ〜!
わたくしが怖いでしょう?
わたくし、いまとても怒っておりますのよ?
早くおマグロをお寄越しになって?
●暴れん坊皇女、鮪求めて三千里
『バニーさんどこ……ここ……?』
『しっかりしろ、傷は深いぞ!? |衛生兵ーッ《メディィック》!』
ああもう滅茶苦茶である。灼熱と斬撃、そして白黒の|兎娘《バニー》に蹂躙された兵士たちの有り様は全く以て酷いものだった。いやまぁ痛手は痛手なのだが、どちらかと言うと心に負ったダメージの方が大きいというか。一度は罅が入ってしまった部隊の紐帯を結び直すべく、兵士たちは立て直しに奔走してゆく。
こういう時に必要なものは様々だが、一番は『敵』だ。団結して挑まねば生き残れぬと本能に直感させる危機。それを前にすれば些細な|女の好み《いけん》の違いなぞ些細なモノだ。斯くして、乱麻を断つ快刀となるべく姿を見せた猟兵とは――。
『おマグロ〜! わたくしのおマグロはどちらですの〜!? おマグロが貰えると聞いておりましたのにどこにも見当たりませんわ〜! おゴリラはもうお腹いっぱいですわ~!』
『チェンジで』
類は友を呼ぶと言うか、|渾沌《カオス》は|混沌《カオス》を呼ぶというか。ふらふらと良い空気を吸いに現れたのは、鋼鉄の機龍に搭乗したメサイアであった。ベソベソとぐずりながらもこの期に及んでマグロを求める姿は、もはやギャグを通り越してちょっとしたホラーである。
その姿にちょっと引いた兵士が思わず変更を要求するも、当然ながら素直に耳を貸すようなタマじゃない。それどころか寧ろ被害者染みた口調で図々しくも相手を責め始めた。
『皆様嘘つきですわ〜! ひどいですわ〜! おマグロ貰えないわたくしとってもおかわいそうですわ〜! 思わず自棄酒してしまいますわ~!(カシュッ)』
連戦続きでストレスが溜まっちゃったのか、炭酸の抜ける音がスピーカー越しに響く。苦痛に耐えられぬ時に飲むものだけど、きっとそれは今じゃないと思うの。おいコレどうすんだよと顔を見合わせる敵の前で、良い感じに|酒精《ス●ゼロ》がキマったのだろう。メサイアは次いでこんな事を言い放つ。
『……はっ! その角ばったお機体、さてはお冷蔵庫! なるほど、読めましたわ~! そちらの皆様! わたくしのおマグロをお持ちですわね? 隠してもダメですわ〜! キンッキンに冷えた犯罪的なおマグロをお寄越しになって〜!』
『頼む、誰か|酔っ払い《コイツ》の言っている事を翻訳してくれ!』
あんまりにもあんまりな難癖に堪らず兵士に泣きが入る。と言うか皇女様、酒抜きにしても最初と比べて段々と知能指数下がってません? 疲れて眠くなっちゃったのかな?? 泣く子と|地頭《けんりょくしゃ》には勝てぬと昔から言うが、残念ながらこの娘っ子は両方の性質を併せ持つのだ。
『アレの相手をまともにしようと思うな。ほら、あれだ。言葉じゃなくて鳴き声だと思えば』
『言い方は不穏ですが同意します。あんなのでも同志オリガのブリュンヒルドを投げ飛ばしてますからね。パワー系酔っ払いの相手なぞ御免です』
とまぁそんな有り様に微妙な表情を浮かべながらも、先程の大型機戦で見せた大立ち回りを目の当たりにしたせいだろう。敵部隊は手にした76.2mmオートキャノンを構えるや、それを一斉に鋼龍目掛けて浴びせかけてゆく。弾幕を張って足止めしつつ、重砲の曲射で叩き伏せようという算段か。
『あ痛っ! あ痛たたたッ!? たくさん撃ってまいりましたわ! お道具を使うなんて賢いおゴリラですわ~! よし! こんな時は! 思いっきり暴れるのですわ!』
本来であればそれらを防ぐはずの大盾は先の戦闘で半分失われており、片割れのみでは全身を守り切るのは難しい。大小の損傷が蓄積している現状、このまま砲火を浴びれば機能不全の一つや二つは起こしかねないだろう。
ドッという轟音と共に飛来する砲弾を一瞥しながら、メサイアは茹だった頭で妙案を思いつく。そう、暴力だ。暴力こそが全てを解決するのだと真っ赤なゴリラもインストラクションしてくれたではないか。いや知らんけど。
『イオンブースターオン! かっちょ良くぶっ飛ばしていきますわ~! でっかい壁でもおっきな芋虫でも掛かって来るが良いですわ~!』
皇女は砲弾が着弾する寸前に各種推進装置の出力を限界まで引き上げると、とんでもない急加速によって弾丸の如く飛び出してゆく。背後で炸裂した衝撃を背に受けつつ、徹甲弾の嵐を前面に押し出した大盾で強引に弾き返す。
しかし、当然ながら無傷で済む筈も無し。76mmと言えば戦車の主砲クラスの威力だ。それが重機関銃の如くばら撒かれ、あまつえさえ鋼龍の加速も相まって彼我の相対速度は尋常でないレベルになっている。頑丈である筈の大盾は瞬く間に穴あきチーズもかくやという有り様となり、遂には負荷に耐え切れず砕け散ってしまう。
『あら、お盾が粉々ですわ~! でも、ぶっ壊されたら軽くなるのでよろしいのですわ〜! これで思い切りドヒャアドヒャア出来ますわ~!』
『何だコイツ、動きが、こう、なんかキモイぞ!? 変態的だッ!』
しかし当の本人は重りが取れたと言わんばかりに鋭角的な機動を織り交ぜ始める。横方向への急速なベクトル変化などGで内臓が潰れそうだが、本人は相変わらず楽しそうだ。なんだかんだ言っても能力だけは一級品だった。
そうして距離を詰めると、勢いもそのままに手近な敵機へと吶喊。元々が大型なのも相まって、重量級である筈の機体が呆気なく吹き飛ばされた。単純な手数や火力ならば相手に分があるだろうが、こうなってしまえば皇女殿下の独壇場だ。
『でででぇ〜ん! で〜で〜で〜でぇぇぇぇぇん! ですわ〜! やってしまいなさいですわ~! ヴリちゃん引っ掻き! ヴリちゃんキック! ヴリちゃん尻尾! ヴリちゃんブレードエッジ!』
各種マニピュレータに搭載されたクローや強靭な脚部で当たるを幸いに切り裂き、身を翻せば棘付きのテイルが薙ぎ払い、全身に仕込まれた刃が一切を寄せ付けぬ。恐竜染みた見た目も相まって、怪獣映画さながらの暴れっぷりである。
『跳ね回って暴れるのですわ〜! 触るもの皆ぶっ壊すのですわ〜! 硬くても壊せば壊れるのですわ〜! 壊すと動かなくなるのですわ〜! 全部動かなくなればお仕舞いですわ~! わたくし天才ですわ〜!』
外れた調子で歌う様に紡がれる内容は若干サイコ染みていた。トンチキ具合と暴虐のギャップを前にした兵士たちは引きつった笑みを浮かべるしかない。もしかしなくとも、これは不味いのではないか。そんな危機感を覚える敵部隊の前で、メサイアは不意にピタリと動きを止めた。
『……ねぇ、わたくしが怖いでしょう? わたくし、いまとても怒っておりますのよ? 何故かお分かりになられますか?』
『ま、まさか、これまでのは全て演技……ッ!?』
今までの言動は全て自分たちを欺く為の計略。皇女と言う身分に相応しく、その胸中には民草を虐げる者への正義の怒りが渦巻いていたのか。そうとは知らずに不敬な言動をしてしまったことを、兵士たちは今さらながらに悔やみはじm――。
『さぁ……早くおマグロをお寄越しになって?』
いや素だわ。紛う事なき本心だったわ。マグロ好きの恐竜とかお前はどこのハリウッド版か。そうして一気に脱力した兵士たちを、メサイアは散々に打ちのめしてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
…発言者の人品性根はともかく、内容自体には割と同意できるのよねぇ。多少癪ではあるけれど。
完全に制御された兵站網とか、戦争芸術の極みの一つだものねぇ。
機動力を犠牲にした重装砲兵隊…さっきのエースサンに単騎突撃させて、こいつらが砲撃爆撃雨霰――ってのが本来の戦術だったんでしょうねぇ。あれだけの腕なら味方の攻撃に巻き込まれるような無様は晒さないでしょうし。
スノーフレークもそこそこ弾薬使っちゃったし、硬い相手はちょぉっと面倒ねぇ。…じゃ、攻め手を変えましょうか。
スノーフレークからミッドナイトレースに乗り換えて|ラド《車輪》と|韋駄天印《迅速》で機動力を底上げ、|エオロー《結界》で傾斜装甲の○オーラ防御を展開。●轢殺・揺走と黙殺・砲列を同時起動して○弾幕張りつつ騎乗突撃かけるわぁ。
|帝釈天印《雷》による制御系破壊に|ソーン・イサ《砲「門を閉ざし」「固定」すること》による暴発の誘発…直接装甲を貫けなくても、ブッ壊す方法は色々あるのよぉ?
敵陣引っ搔き回しつつ|指揮官《煽動屋》も追っかけときましょうか。
●硬く、強く、そして疾く
『損害報告ッ! 各隊指揮官は残存戦力を申告後、部隊の再編を急げ!』
『各自、残弾を掌握せよ! 集約し、消耗の激しい者へ再分配を行う!』
立て続けに色々な意味で酷い手合いに蹂躙された『祖国』部隊。彼らは当初保有していた戦力をほぼ半減させながらも、抗戦の構えを見せていた。定数を割った部隊があれば速やかに統合し、生命線である弾薬の手持ちを均一化してゆく。
あれだけの砲火を撒き散らしたにも拘らず、依然として弾薬が底を突く様子はない。しかし、今回にのみ限って潤沢に用意していた訳では無いのだろう。被害を正確に把握しながらも、過度に切羽詰まった様子でない事からもそれが分かる。
(ある種の完成系、ね……発言者の人品性根はともかく、発言の内容自体には割と同意できるのよねぇ。多少癪ではあるけれど。完全に制御された兵站網とか、戦争芸術の極みの一つだものねぇ。それを維持できた国なんて、それこそ歴史上に数えるほどだもの)
戦況を猟兵側優位で進められているのは間違いない。だが、敵のそんな様子を観察していたティオレンシアの表情に油断の色は無かった。少しでも軍事関係を齧ったものならば、兵器の質や技術力云々の前に、兵站こそが最重要であるという事実に異を唱える者は居ないだろう。
戦争や軍隊と言えば所謂『戦う兵士』をイメージしがちだが、それは言わば槍の穂先。それらが十全に戦えるのも後ろで支える『柄』という兵站があってこそ。そう言う意味では、その維持と発展に尽力するあの|禿頭《ハゲ》も間違ってはいない。
「とは言え、そこに政治信条が絡んじゃうのはマイナスねぇ。ちゃんと手を打ってれば、多分だけど目的を達成できてたんじゃないかしら?」
だが、その為に取った手段は決して最善とは言えず、彼女からすれば寧ろ悪手にしか見えなかった。当初の目論見が外れたのは仕方が無いが、であればと手慰みに元『共和国』軍人を焚き付け、更には最もらしい理屈をこねくり回しながら戦力の逐次投入と言う愚を犯していたのだから。
「機動力を犠牲にした重装砲兵隊……さっきのエースサンに単騎突撃させて、こいつらが砲撃爆撃雨霰――ってのが本来の戦術だったんでしょうねぇ。あれだけの腕なら味方の攻撃に巻き込まれるような無様は晒さないでしょうし。連携されていればどうなったことやら」
一対一でも手古摺った相手なのだ。それが濃密な支援砲撃を受けて暴れ回るなど、悪夢でしかない。政治的な理由でその|最悪《さいぜん》を|選んだ《てばなした》男の判断に呆れるべきか喜ぶべきか。だが戦闘が長引いた結果、猟兵側も疲弊しつつあるのもまた事実。
「スノーフレークもそこそこ弾薬使っちゃったし、硬い相手はちょぉっと面倒ねぇ。加えて、相手の火力も御覧の通り……じゃ、少しばかり攻め手を変えましょうか」
ティオレンシアの乗機も連戦によって損傷が蓄積しつつあり、これ以上の継戦は少しばかり危ういと判断。彼女は機体から降りると、別の機体へと跨った。それはバイクの形状をしたUFO。火力と装甲ではキャバリアに劣るが、機動性と小回りの良さは上回る。
ともあれ、一発でも掠めればそれでお仕舞いだ。女店主はそっと表面を指で撫ぜると、魔力で刻印を施してゆく。内容は|ラド《車輪》と|韋駄天印《迅速》による機動力の底上げと、万が一の被弾を想定した|エオロー《結界》。一先ず、これらを仕込めば至近弾程度ならば耐え切れるはずだ。
「弾幕と砲撃による制圧と、二輪車の機動力……さて、どっちが上かしらね? きちんと守らなきゃ、そのまま|指揮装甲車《ほんまる》までひとっ飛びよ」
そうして準備を終えるや、猟兵は臆することなく戦場へと吶喊してゆく。これまでの砲撃によって地面は散々に耕され、粉砕された熱帯性樹木や鉄騎の残骸があちこちで燻っていた。路面状態としては文句なしに最悪。だが、ティオレンシアは些かも速度を減じさせる事無くその中を駆け抜ける。
『あれは、バイクか? 単騎駆けとはまた豪気だな』
『しかし、戦場に置いて蛮勇は早死にの元だ。点ではなく面で吹き飛ばせッ!』
尋常ではない速度で駆け回る猟兵に対し、兵士たちも焦らず対応して来た。どれだけ素早く動き回ろうとも、進路退路迂回路全てを吹き飛ばしてしまえば関係ないとばかりに、一斉に砲撃を浴びせかけて来る。
それも手あたり次第闇雲に撃ち込むのではなく、きっちり各機で砲撃箇所を分担し、攻撃に疎密が生じない様に注意を払っている様だ。遅れを取っているとは言え、良くやっている。すぐ真横で炸裂した砲撃によって巻き上げられた礫や土砂に顔を顰めつつ、ティオレンシアはある地点へと針路を取る。
「逃げ回っていてもこのままじゃジリ貧……なら、砲撃できない安全地帯へ逃げ込むのは必然よねぇ?」
彼女が目指した場所、それはなんと敵陣地の真っ只中であった。幾ら何でも自分たちを巻き添えにしてまで砲撃を続行はしないはず。そんな読み通り、鉄騎の足元へ飛び込むや相手は慌てた様に右往左往し始める。
『ちぃ、潜り込まれたか!』
『動ずるな、我々の機体は砲撃時の負荷を吸収すべく、関節部が強化されている。つまり、見た目ほど鈍重ではないッ!』
砲撃が駄目でも、生身の人間にとってはその重量級の機体その物が凶器だ。頭上から振り下ろされる|踏みつけ《ストンピング》を掻い潜りながら、ティオレンシアはすぅと目を細めゆく。
「マルガリータ、回避機動は任せるわね。さて、と。例え直接装甲を貫けなくても、ブッ壊す方法は色々あるのよぉ?」
女店主は周囲に魔術文字を展開するや、そこから次々と攻撃を繰り出す。強烈な雷撃が砕けた装甲板の隙間へと入り込んでは電子基板を焼き切り、相手が業を煮やして火器に手を伸ばせば砲門を詰まらせ暴発させる。戦闘開始当初の無傷状態であればまだ手古摺っただろうが、今のボロボロの状態なら付け入る隙などそれこそ幾らでもあるのだ。
「|帝釈天印《雷》による制御系破壊に|ソーン・イサ《砲「門を閉ざし」「固定」すること》による暴発の誘発……有効だったようで何よりねぇ? 予想より余裕もあることだし、ついでも|指揮官《煽動屋》も追っかけときましょうか」
そうして文字通りに足並みが乱れた敵陣を一瞥すると、ティオレンシアは元凶の元へ舵を切る。斯くして、彼女は慌てて急発進する指揮装甲車を散々に追い回してやるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
イーブン・ノルスピッシュ
引き続き|ランタンを灯した《真の姿を顕した》まま
流石に吐血し歩みが鈍る
傷口の割れ響くような激痛が、腕に巻きつけたドッグタグの束の鳴る音が、俺の思考を引き戻す
ランタンから溢れるように炎が拡がる
蒼ざめた炎の向こうより来たる陽炎
彼らの唸り声が、一つの唄のように聞こえる
『──見よ、我らは直ぐに来る。報いを携えて来て、それぞれの仕業に応じて報いよう……』
俺と同じ|改造銃《衝動》を携えた陽炎達が奔る
数名が武装の照準を引きつける間に他の陽炎が機体に取り付く
関節や装甲の隙間にパイルを穿ち、機動力を削ぎ、武装を取り落とさせる
首元の隙間に銃口を突き立て、パイルと徹甲弾とでコクピットまで貫き、榴弾を撃ち込む
装甲車に逃げられる前に、陽炎が跳んで車体へ肉迫する
タイヤを穿って横転させれば、動きの鈍った俺でも捉えられる
蒼い炎の中から、鈍色の大鋏をズルリと引き摺り出す
炎に熱された刃で装甲を|抉《こ》じって、怪力に任せて引き剥がす
衝動のままに、車内へ改造銃を捩じ込む
「沈め……貴様が骸の海に打ち棄てた者達と共に……!」
ジェイミィ・ブラッディバック
さて、首謀者の処遇について|知人《ヴィリーさん》から一任されてしまいましたが。
過剰な内政干渉はするつもりは無いですが、それはそれとしまして。
知人の|愛機《ヘヴィタイフーン》の整備は私も経験があり、故に弱点も把握済みです。
正面からの撃ち合いに特化している以上、シールドと追加装甲が施されていない上面装甲はやや薄い。故に空中からの攻撃が有効。
で、温存戦力はこちらにもあります。
セラフィム・リッパー隊、プラチナムドラグーン隊、前へ。
プラチナムドラグーンは量子複製で数を揃え、低空で反復飛行させつつ空爆を行い包囲圧殺します。セラフィム・リッパー隊の携行ライフルには徹甲弾を装填させ、私と共に陽動と遊撃を担当。
指揮装甲車はWORM KILLERでダウンさせて首謀者を捕縛し…後はクライアントの指示に従いますか。
如何します、グエン将軍、ホアン元参謀。
弊社としてはお二人のご意向に従います。
追加報酬は不要ですよ。停戦監視活動の範囲内ですから。
ついでに今回の戦闘データは|本国《アークライト自治領》に持ち帰りますか。
●傲慢なる者へ、因果は応報せり
「……やれやれ。不甲斐ない同志諸君に呆れるべきか、よくぞ傭兵風情がここまで立ち回ったと賞賛すべきか。はてさて、本国にはなんと報告すべきだろうねぇ?」
指揮装甲車から降りた禿頭の男は、眼前に広がった惨憺たる状況に天を仰ぐ。ほんの少し前まで存在していた完全装備の重鉄騎たちは今や辛うじて部隊としての体を為す有り様。特筆すべき戦力であったエースと大型機も既に大地へ倒れ伏している。
相対する猟兵たちも満身創痍と言った有り様だが、彼らが連戦続きだった事も踏まえればとてもじゃないが拮抗状態だなどとは言えまい。深々と溜息を吐きながら眼鏡の位置を直す指揮官へ、堪らず部下が苦言を呈す。
『同志ペリア、そのお言葉は余りにも……!』
「頑張ったから評価してください、と言うのは甘えだよ? 我が『祖国』が結果をこそ重視するのは同志も知っての通りだろう。ともあれ、挽回が不可能でも『最悪』を回避する努力を怠るべきではない、か」
だが、その言葉は無情にも切って捨てられてしまう。一方、追い詰められていると言うのにその口振りはどこか他人事じみていた。そんなやり取りに違和感を覚えながらも、ジェイミィはどうしたものかと思案を巡らせてゆく。
『……さて、首謀者の処遇について|知人《ヴィリーさん》から一任されてしまいましたが。飽くまでも中立的な立場として過剰な内政干渉はするつもりはありませんが、それはそれとしまして』
決着の時はもう間もなく。戦後処理と言うのは実に面倒な物事の山だが一先ずそれは横へ置き、まずは眼前の残存戦力をどうにかしなければなるまい。既に戦力としては瓦解寸前とは言え、機体はどれも最新機種。最後まで詰めの手を緩める理由も無し。しかし、ジェイミィには大きなアドバンテージがあった。
『知人の|愛機《ヘヴィタイフーン》の整備は私も経験があり、構造上の弱点も把握済みです。正面からの撃ち合いに特化している以上、シールドと追加装甲が施されていない上面装甲はやや薄い。故に戦車などと同じく空中からの攻撃が有効……で、温存戦力はこちらにもありますので』
――セラフィム・リッパー隊、プラチナムドラグーン隊、前へ。
戦機の命令に応じて姿を見せたのは、飛行能力を備えたキャバリアで構成された部隊。先の反乱勢力鎮圧に投入した『ストライクフェンリル』同様、それらは全て自律型無人機である。先ほど女軍人が知人の傭兵に対し機体性能が割れていると宣ったが、それはこちらとて同じこと。文字通り隅々まで設計を把握している彼にとって、敵機の強みも弱みも手に取る様に分かるのだ。
一方、相対する兵士たちも新たな敵へ反射的に銃口を跳ね上げ、迎撃の構えを見せる。既に彼らも勝機が失われている事に気付いている筈。それでもなお戦意を保っているのは軍人としての義務感か、それとも背後でふんぞり返る男の視線を恐れてか。だが、そんな健気な挺身を踏み躙る言葉が兵士たちへと浴びせられた。
「では同志諸君、これが|最後《・・》の命令だ。僕が安全圏へ離脱するまで、この場を死守せよ。後退も投降も認めない。『祖国』で待つ家族が不名誉を被るのは、諸君らも本意ではあるまい? 安心し給えよ。無事に戻ったら、みな最後まで責務を果たしたと上に報告しよう」
『ッ!?』
それは事実上の切り捨て宣告。一兵卒と高級将校の価値が等価ではないのは事実だが、それを踏まえた上でも悪辣に過ぎる命令だった。ペリアも部下が承服しないと分かっているのか、銃後に残された家族を人質に取る用意周到さだ。男は指揮装甲車へ踵を返しながら、撤退の指示を出そうとし……。
「今回の計画は失敗に終わったけど、まぁ元々が目論見の外れた案の再利用だからね。寧ろ、被った損害をダシに政治方面から要求を……」
「――いったい、何処へ行こうというんだ」
ゆらり、と。ちょうど退路を断つかの様に後方へ人影が現れた。その正体は幽鬼の如く巨躯を揺らし、虚ろな表情を浮かべるイーブンだ。大型機との戦闘で穿たれた傷跡からは未だに鮮血が滴っており、言の葉を紡ぐ度に赤黒い雫が顎を伝う。立って歩くことは愚か、生きている事さえ不思議なレベルである。
「逃がしはしない。お前は、お前だけは……自分以外の全てを踏み躙って顧みぬお前だけは、絶対にッ」
「し、死にぞこない風情が! 同志諸君、僕を守りつつ退路を確保せよ!」
文字通り血を吐くような怨嗟の言葉に、さしもの男も恐怖を感じたのか。声を上擦らせながら装甲車の中へと引っ込み、相も変わらず一方的な要求を捲くし立てる。ともあれ投降や撤退と言う選択肢が奪われた以上、兵士たちもそれに従わざるを得なかった。
そんな哀れなる敵意と悲哀を前に、兎人は僅かに瞳を細めゆく。依然として身体を覆う蒼炎は健在なれど、意識の混濁は甚だしい。だが常に身を苛み続ける激痛が、腕に巻き付けた|識別票《ドッグタグ》の細鳴りが、彼の精神を辛うじて繋ぎ止めているのだ。
「──見よ、我らは直ぐに来る。報いを携えて来て、それぞれの仕業に応じて報いよう……悔い改める時間など、残されてはいないのだから」
腰に吊った|角灯《ランタン》から蒼ざめた炎が溢れ出す。冷たき熱は戦場の大気を揺らめかせ、陽炎の向こう側からかつて斃れし影を呼び起こしゆく。其れはそれぞれがイーブンと同じ|改造銃《衝動》を携えた、異なる種族の獣人と思しきシルエット。彼らの言葉亡き唸りは幾重にも響き合い、まるで一つの唄を思わせた。
『前門の無人機、後門の兎……こりゃあ死んだか?』
『かと言って、|禿頭《ハゲ》がはいそうですかと白旗を上げさせてくれる訳でもねぇしな』
見ての通り退路は無く、片や事務的に淡々と、片や怨嗟を湛えて、『祖国』部隊を包囲している。である以上、無駄と分かっていても抗う以外に選択肢はない。守りに回ればそのまますり潰されると悟った兵士たちは瞬時に部隊を前後へ分けるや、せめて先手を取るべく残った弾薬を使い切る勢いで砲撃を開始してゆく。
『プラチナムドラグーン隊は砲撃の射線を避けつつ、低空から爆撃を。セラフィム・リッパー隊は携行ライフルに徹甲弾を装填。私と共に陽動と遊撃を行い、包囲圧殺を目指すとしましょう』
その火力が脅威である事には変わりないが、それも直撃すればの話だ。機体性能を熟知しているジェイミィは射程や弾道特性、火器管制の癖などを瞬時に見抜き、無人機たちへ的確な命令を下していった。
にっちもさっちもいかなくなった敵戦力を機動包囲しつつ、射撃によって牽制。動きが止まった所を頭上から別動隊が強襲し、比較的手薄な上部装甲へ的確に爆弾を叩き込む事で次々と無力化してしまう。
『クソッタレェッ! なんだコイツらは、実体がねぇのか!?』
他方、イーブン側の戦場もまた苛烈を極めていた。速射砲や対戦車ロケット、榴弾が雨霰と降り注ぐ中を、蒼炎の獣人たちが意にも介さず突き進む。衝撃や大質量で一時的に吹き散らされるものの、数瞬もすれば元通りだ。
「戦場に立った以上、手加減や容赦をするつもりは無い。ただ、終わらせるだけだ」
陽炎たちはそのまま敵機へ取りつくと、まずは脚部関節へ鉄杭をねじ込んで破壊。がっくりと相手が膝を着くや、今度は腕部や肩部も同様の方法で無力化し、マニピュレータが保持していた武装を叩きと落とす。
そうして無防備になった敵の首元へ大型改造銃を強引に宛がい、トリガーを引き絞る。刹那、射出された鉄杭と徹甲弾が操縦席を守る装甲板を貫徹。間髪入れずに放たれた榴弾を以て操縦者も諸共に吹き飛ばした。
「今だ、連中はキャバリアの撃破を優先している! この内に離脱するんだ、早くしろッ!」
一機、また一機と重鉄騎が無力化されてゆく中、指揮装甲車に引き籠っていた中年男は自身への注目が薄れたと判断したのだろう。運転手を怒鳴りつけ、車両を急発進させんと試みる。己さえ生き残れば、まだ負けではない。確かに状況次第では正しい選択ではある、が。
「言ったはずだぞ、絶対に逃がさないと!」
『流石にこちらの戦場把握能力を甘く見過ぎですね?』
進路上に飛び出したイーブンを始めとする陽炎たちが真っ向から指揮装甲車を押し留め、動きが鈍った所を遠距離からジェイミィが狙い撃つ。長大な針を思わせる弾丸が堅牢な装甲を打ち抜くと、勢い余って車体が横転してしまう。これではもう逃げる事も叶うまい。
「覚悟しろ、このまま一気に……ッ!」
『申し訳ありませんが、どうか暫しお待ちを。その人物の取り扱いは極めてシビアな問題です……故に、まずはクライアントの指示を仰ぐべきでしょう』
そのままトドメを刺さんとする兎人に対し、戦機が待ったを掛けた。彼の言葉通り、相手は腐れ外道でも一国の高級将校だ。殺すにしろ生け捕るにしろ、慎重な判断が求められるだろう。仲間の言葉にイーブンが不承不承と言った様子で手を止めるのを見つつ、ジェイミィは敵の残存戦力を無人機で威圧しながら通信回線を開く。
『と言う訳で、如何しますか、グエン将軍、ホアン元参謀。弊社としてはお二人のご意向に従います。どの様にご判断するにせよ、追加報酬は不要ですよ。これも停戦監視活動の範囲内ですから。ついでに、今回の戦闘データを|本国《アークライト自治領》に持ち帰らせて頂ければ十分です』
『……貴様らがやけに戻ってこないと思えば、そんな事態になっていたとはな。内政だけで手一杯だというのに外交問題まで発生とは、流石に儂らの荷が重すぎやしないか?』
無線機からは首都で待機していたグエンの声が響く。猟兵たちが反乱勢力の鎮圧を完了した後、彼らも共有された情報によって事態を把握していた。その声音からはどうすべきかと頭を抱える姿が容易に想像できる。
「小国風情が、何を迷う必要がある。僕を見逃す以外に、選択肢など、ないだろう。『祖国』が本気を出せば、疲弊した両国共に、叩き潰せるのだから。そうだ、僕が取りなしてあげよう。だから、な?」
それを耳にして与し易しと判断したのか。男は横転した指揮装甲車から這い出ると、そんな世迷い事を垂れ流し始めた。手を出すなと言われたものの、イーブンは嚇怒に顔を歪ませながら改造銃の銃口を中年男へ突き付け黙らせる。
『盗人猛々しいとは正にこの事だな……っておい、ホアン。貴様、こんな時に何を手紙なぞ書いているのだ?』
『見て分からんか、「祖国」の首脳陣に向けて文を認めている』
どうすべきかと知恵を絞っているグエンだったが、対してすぐ傍に控えていたらしいホアンが謎の動きを見せていた。こんなタイミングで手紙とは? 疑問符を浮かべる猟兵たちを余所に、何かに気付いた中年男がしてやったりと笑みを浮かべてゆく。
「はははは、命乞いの嘆願書かね? まぁ、国力の差は歴然だ。それが懸命で……」
『内容は嘆願ではなく、感謝と弔意だ。我が国を襲った未曽有の危機に対し、戦力を派遣してくれた礼。そして、その過程で指揮官を含めた犠牲者が出た事に対する弔いをな……率直に言わせて頂こう、ペリア殿。「貴君の身柄を拘束した」という事実そのものが我々にとっては劇薬なのだよ?』
「ははははは……ハァ??」
高笑いが一転、理解出来ないとばかりに間抜けな声を漏らす『祖国』の高級将校。しかしその一方、こうした業務を日常的にこなしていたジェイミィは老軍人の意図を瞬時に見抜く事が出来た。
(……なるほど。『お友達』を作るとは良く言ったものですね)
例えば仮に、だ。いまこの場で男を捕縛し、真相を世界に暴露したとしよう。統治機構側は高級将校の身柄に彼の持つ情報という、二つの強力な切り札を手に入れることが出来る。だがそれと引き換えに、『祖国』は確実に両国の敵へ回るだろう。そして忘れてはならないのは、この国はいまだ戦後復興の途中だという点だ。
一方、今の状況ならばまだ|主導権《イニシアチブ》は此方側に有る。つまり、対外的に『派遣された「祖国」部隊が窮地を救ってくれた』と、交戦の事実そのものをもみ消す事が可能なのだ。そして、そうすることによるメリットとは。
(『祖国』にとっては火事場泥棒を目論んだ侵略者ではなく、身銭を切って他国を助けた救世主として面子が立つ。しかし私が録音した映像記録がある以上、建前を盾に過剰な恩を吹っ掛ける事も出来ない……表向きには借りを作ったように見せ、その実、裏では貸しにする、と)
しかし、一兵卒の処遇などどうとでもなるが高級将校、それも政治に長けた者となれば話は別。その存在自体が新たな戦争の火種になりかねない。余計な事は聞いていないという証明、そして今後の交渉における不安要素の排除。それを為す為の絶対条件にして大前提こそが『指揮官の死』なのだ。
『流石は「深緑の魔術師」だ、と言うべきでしょうか?』
『よしてくれ。真正面から事を構えられぬ小国の奇策に過ぎんよ』
ジェイミィの軽口交じりの相鎚へホアンは苦々しそうに返す。どうやら、その|二つ名《プロパガンダ》は未だにお気に召していない様だ。グエンも反応が無い事から察するに、戦友の判断を支持しているのだろう。
『……一つ、条件がある。同志オリガの身柄は保証して欲しい。確約を貰えれば、我々もこれ以上の抵抗はせずに投降する』
己の身は安全だと確信していた中年男がそれを聞いて絶句している横で、生き残っていた兵士の一人が警戒しながらも口を開く。自らの処遇すら見通しが立たないにも関わらず、上官の身柄を案じているらしい。統治機構側もこれ以上の戦闘は望まないのか、その条件に肯定を示す。
『うむ、捕虜は丁重に扱うと約束しよう。さて、では……この長々とした馬鹿騒ぎにも、そろそろ幕を引くとするか』
「おっ、おい待て!?」
そこで漸く我に返る中年男だったが、もはやこの男の言葉に耳を貸す者など敵味方含め一人も居なかった。ジリと距離を詰めてゆくイーブンにビクリと身を震わせるや、指揮装甲車の中へと再び引き籠ってゆく。その姿は正しく袋の鼠だ。
『……とまぁ、以上がクライアントの意向ですので。せめてもの手向けです。追って弊社からも弔文を届けさせて頂きましょう』
「ふ、ふざけるなっ! ふざけるな、待て馬鹿どもが! 『祖国』で僕が、どれだけ重要な席を占めていると思っている? 判断を誤るんじゃない!!」
慇懃無礼なジェイミィの物言いへ装甲板越しに喚き散らすペリア。だが、直ぐに彼の表情は絶望に染まる事となった。ぐにゃり、と。堅牢な筈の鋼鉄がまるでバターの如く切り裂かれたからだ。
それは巨大な鋏だった。鈍色の刃を赤熱させた大鋏は装甲の隙間を強引に|抉《こ》じり開け、そのまま怪力に任せて引き剥がす。悪夢めいた缶切りを思わせる工程を経て、遂にイーブンは怨敵を手の届く範囲に捉える。
「沈め……貴様が骸の海に打ち棄てた者達と共に……! これまで散々に為してきた所業、その報いを受ける時がようやく来たぞッ!」
彼は衝動に突き動かされるまま車内へと大型改造銃をねじ込み、銃口を男の肥え太った身体へと突き立てた。これならば外す心配も、逃げられる恐れも無い。そして重鉄騎を屠り去る威力を持つ以上、生き残る余地すらもありはしない。ジリとトリガーが引き絞られる様子を目の当たりにした男は、最後まで言葉を並べ立て続ける、が。
「おい話を聞け! 僕にはまだ利用価値が、待て、待て待て待て待て!? 誰でも良い、誰か僕を助けろ! くそ、このッ!」
――役立たずどもがぁああああああああッ!?
だがそれも、炸薬が弾ける轟音と共に呆気なく断ち切られるのであった。
斯くして、昨年から続いてきた動乱は此処に一つの区切りを迎えた。
反旗を翻した不穏分子は今度こそ壊滅し、謀略の糸を張り巡らせていた元凶が討たれ、付き従っていた者らもその全てが降伏。これで当面の間は内外からちょっかいを掛けられる心配もあるまい。
これから待ち受ける『祖国』側との外交は困難を極めるだろうが、あの老軍人たちの事である。猟兵の奮戦と残した交渉材料を駆使すれば、そう悪い方向にはならないだろう。
そうして激戦を戦い抜いた者たちは幾ばくかの報酬と賞賛を手にすると、傭兵らしくまたそれぞれの戦場へと戻ってゆくのであった。
大成功
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