汝の筋肉、光源氏よりも輝きたり
●かくまでに削ぐるは、夜もすがらの不寝にて候へりや
──アヤカシエンパイア。
彼の世界は『禍津妖大戦』なる激戦にて一度は滅亡を危機を迎えたが、日の本の国は平安貴族らの陰陽術『平安結界』をもってして辛うじて維持されている。
だが、平安結界は脆くも儚きまぼろしに過ぎない。
日本全土に渡る平安結界を維持するには絶え間ない儀式行為が不可欠であり、異能者たる平安貴族らが平安時代ならではの交遊や儀式などを行うことで絶えず結界を張り直している。
時には雅な歌を詠み交わし……。
「鞠肩や 背には鬼神が 宿りしと |小《こ》なる|牛車《ぎっしゃ》 乗せたるものか」
時には雅な儀式めいた遊びに興じる……。
「いみじ! あないみじ!」
「切れたるぞ! 切れたるぞ!」」
「腹に宿りし京の道! 胸に拓かれし大胸筋荘園開墾!」
此頃都ニハヤル物。
さいどちえすと。
だぶるせいぱっぷす。
もすとますきゅうらあ。
光る若き貴公子らは競べ弓ならぬ競べ体で鍛え上げた身体を主張し合い、家人らによる主人の仕上がり具合を讃える声援が行き交う。遠くから眺めるうら若き姫君らは、檜扇で緩んだ口元を隠しながら眩しい笑顔を向ける君らを慎ましくお慕い申し上げている。
なぜこの様な奇祭が開かれているのかと申されれば、この世界の平安貴族らは平安結界の向こう側たる妖蠢く死の大地から滲み出てくる妖の殲滅を高貴なる者の務めとしている戦闘集団において他ならないからだ。
妖との闘いは熾烈極めるもので、例え陰陽術に長けていようとも妖らは様々な策謀を用いて平安結果の護り人たる平安貴族を殺めよう。その護身術として生まれたのが、この『合わせ身体』なる新たな雅な貴族遊びである。
普段は雅な歌を読み交わし暇あれば蹴鞠を嗜む平安貴族とて、いざ夜が乱れれば軍事的指導者として立つ。まさしく文武両道を往く平安貴族、敷いては武芸を家芸として宮廷にお仕えする軍事貴族の間で瞬く間に広がったのは自然の理であった。
まさしく、ノーマッスル・ノー平安貴族。
何故かこれで平安結界が維持され、妖退治の土台となる頑健たる肉体作りも出来てまさに一石二鳥。貴族のたゆまぬ努力により筋肉が仕上がれば、自ずとして平安結界を護り妖を祓う戦闘集団の質も向上するのだ。
さりとて、光あるところに影あり。
光る身体を狙った妖の魔の手が伸びつつある──ッ!
●いといみじ
「……という悪夢を視ちゃってねぇ……」
グリモアベースに集った猟兵の前に自らが視た白昼夢を語り終えた平安貴族、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は深い溜め息を吐いた。
「いや、ボクも日々の鍛錬で身体は鍛えている。だけど、ああいうむさ苦しい集いは苦手でね。どうせなら、ボクの美しく絞られた裸体は口説き落とした美しき姫君だけのものに……おっと、話が脱線してしまったね」
この平安貴族、『恋多き御方』と市井の庶民から噂されるまでの大層な女好きである。星の位とも呼ばれる公卿の仲間入りを果たした今も、暇あらば宮中では息をするように女房女官を口説くのを日課としているまでの筋金入りであるが、そんな女好きが貴公子らの裸祭に興味があるはずもない。ないのであれば、当然ながら|妖《オブリオン》案件について得た予知報告にグリモアベースへと参内した次第である。
「近々京に住まわれる|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》なる平安貴族の館にて、合わせ身体の催しが開かれる。益猪殿は武芸をもって宮中にお仕えされる叩き上げの軍事貴族で、後進への励みとして合わせ身体好きでおられる御方。参加資格は貴族のみでなく、家人への士官を願う主なき坂東武者らにも門戸を開かれるボク顔負けな酔狂者さ」
齢50を過ぎてもなお衰えることなき身体。まさに|益荒流《まっする》の化身たる平安筋肉卿。鋼の筋肉から繰り出される陰陽術の前に破れた妖の数は幾百とも知れぬ剛なる者だ。
「どうやらその筋肉卿か参加する貴族らを亡き者としよう奸計を巡らす妖が、合わせ身体の宴に潜り込んだようでね。この催事は庶民の噂の種にもなっている。彼らに平安結界の存在、妖の正体を知られることなく速やかに退治せねばな難しい依頼さ」
まぼろしを具現化し、自然や新鮮な水すら生み出す『平安結界』。
平安貴族は滅びた大地と妖を人々から隠蔽しながら、妖の殲滅を目指して今日も人知れず戦い続けている。仮にそれらが暴露されたらば、仮初の平安が内から瓦解するのは目に見えている。
「手がかりなくしては犯人を突き止められないだろうし、ボクが予知の中で知り得た情報も話しておこうか。妖は筋肉に異常なる関心を寄せている。ま、合わせ身体は仕上がった筋肉を褒め称える催事だし、この場に居るもの全ては筋肉に関心ある者ばかりだ。その中で特に関心、興味を持つ奴こそが妖って訳さ。勿論それだけじゃないだろうし、後は現場での聞き込みあるべしだよ」
果たして妖は平安貴族に化けていのか。それとも益猪卿に仕える官人に入れ替わっているか、はたまた招かれた板東武者らに化けているやもしれぬ。
まさに有象無象から見つけるのは困難を極めようとも、生命の埒外たる存在である猟兵であれば造作ないことだと頼典は激励の言葉を送った。
「益猪卿は宮中での政務においてまだ見習いの身であるボクの上司でもあらせられる。貴殿らのことはボクから卿に話しておくよ。心置きなく調査に専念してくれたまえ」
話は決まったと言わんばかりに、頼典は広げ扇いでいた檜扇を畳むとピシャリと掌で叩き鳴らした。そして、印を刻むと自身の陰陽術流派『|迦波羅《かばら》』の真言をしめやかに唱え始める。
「オン、アビラウンケン、ソワカ。永盧遮大日如来、ソワカ……」
すると程なく彼の身体に宿るグリモアの光が霊気の迸りとなって、周囲を白く染め上げていく。
かくして猟兵たちはグリモアの導きにより、儚き夢と幻によって具現化された平安京へと誘われるのであった。
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
ここ暫くは|現実《リアル》の忙しさが続きに続いてそちらを優先しておりましたが、ようやくシナリオ1本分の運営なら大丈夫であろうな所まで落ち着きましたので、久々なシナリオとなります。
リハビリがてらとなりますが、よろしくお願いします。
●シナリオ概要
宮中や貴族の邸宅、庶民の暮らす村などなど……つまり人々の生活空間の中に、巧妙に人に化けた妖が紛れ込んで悪事を働こうとしていることが予知によって判明しました!
勿論、放置する訳には行きません。ですが敵は極めて自然に人間になりすましており、正体を暴くには何とかしてボロを出すよう仕向ける……或いは妖として何らかの事件を起こそうとする現場を押さえる必要があるでしょう。
現地に赴き、慎重に調査を行い、まずは隠れ潜む妖が誰なのかを見つけ出しましょう。
第一章は【日常】フラグメントとなります。
平安貴族の公卿『|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》』の館にて開かれる『合わせ身体』なる競べ体もとい平安ボディビルディング大会。
事件が予知された雅な催事に赴き、宴に出された料理を飲み食いしながら掛け声を送ったり、異世界者の筋肉を参加して披露。もしくは感動を和歌でしたためながら「この場に居る者のうち誰が妖なのか」の目星をつけてください。
第二章は【冒険】フラグメントとなります。
前章の結果、怪しい奴は絞り込めましたが、決定的な証拠はありません。万が一にも誤って無実の人に戦いを挑んでしまった……なんてことが起きないよう、何とかして「こいつが妖である」ことを暴き明かしましょう。
第三章は【ボス戦】フラグメントとなります。
遂に猟兵は妖の正体を突き止め、暴くことに成功しました。後はこいつを討ち取るだけです!
それでは、皆さんの熱くも雅で平安マッチョ賛美歌な|掛け声《プレイング》をお待ちしておりマッスル。
第1章 日常
『貴族の宴』
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POW : 大いに飲み食いし、主催者のもてなしを褒め称える
SPD : 他の参加者と共に遊戯や歌に興じる
WIZ : 花や月を愛で、その美しさを語らう
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
──|益猪《まっちょ》家。
古くから武芸を家芸として地方に土着しながらも朝廷に仕えし一族で、平安結界による仮初の平安を破らんとする妖退治が始まると頭角を現す。
皇族らを妖の魔の手から英断された帝の不在により摂関家の支配から解き放たれ、殿上人や地下人問わず都での出世を望めない軍事貴族らにも出世の機会が訪れた。
戦闘集団となった平安貴族の出世要項に、妖退治の功績が多大な影響を及ぼすようになったからだ。かくして地方から都に移った益猪家であったが、その格式は『|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》』の代となってから大きく飛躍する。
陰陽術を扱えることが大前提である平安貴族であるが、その流派は家ごとに違う。
渡来系民族を祖とする八秦家を例にあげれば、かの家の祖先が大陸から渡ってくる際に共に持ってきた数秘術が組み込まれている。それと同じく益猪家の陰陽術も特異なるものであり、流派の名は『|碁里羅《ごりら》』。伝説の霊獣たる碁里羅を自らの身体に宿すという謂わば強化系の陰陽術だ。
それで得られる剛力は妖の首を素手で千切れるほどだが、その反動として術師の身体に多大な負担が掛かる。それを解決する秘策こそ肉体の鍛錬である。
益猪・碁里輔の筋肉は一族の最高傑作であり、陰陽術の行使に伴う肉体の負荷を見事克服した英傑であった。まさしく筋肉はすべてを解決する。
碁里輔の鍛え抜かれた碁里羅ボディは、例えるならば仏教の守護神である『金剛力士』、あるいは『仁王』が如し。これには共同して妖退治を行っている他の平安貴族らも惚れ惚れするものであり、何時しかモテるには鍛えられた身体であるべしという風潮が育まれたのは言うまでもない。
功績を認められ公卿に列する出世を遂げた碁里輔卿は競べ体を奨励し、平安貴族らは立身出世と姫君の心を射止める野望を筋肉に託し互いに切磋琢磨するようになった……が、満ちた満月はいつか欠ける運命にある。
「……ふぅ。先日まで上げれていた|弾杷榴《だんべる》が何時に増して重く感じ得る」
老いである。
齢50を過ぎてなお剛健たる肉体を維持しているが、その身体の変化は自分自身だからこそよく分かる。
そうなると息子の『|碁里政《ごりまさ》』、『碁里忠《ごりただ》』、『碁里道《ごりみち》』らへの家督相続し、自らは隠居という考えがよぎってくる。
だが、息子らは未だに益猪家の陰陽術『碁里羅』の長時間に渡る行使に耐える身体となっていない。故に碁里輔卿の心のうちに焦りの色が生まれていた。
「息子らが|益荒流《まっする》の化身となるには、合わせ身体で他の筋肉に感化され切磋琢磨するしかなし……か」
この盛大な競べ体を催したのも、すべては老い朽ちるのみの年寄から新しい世代への交代を促すものである。
老兵は死なず、ただ消えゆくのみ。
己が築き上げた功績は永きに渡り語り継がれるであろう。されど、それを継承する者が居るかどうかの問題がある。
故に碁里輔卿はこの宴は、己の残り僅かな人生を賭ける所存で開いた。
例え息子らが至らずとも他の者が己の志を受け継ぐ可能性を信じて、だ。
メディア・フィール
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK
SPD選択
「雅な和歌、雅な和歌、雅な和歌……」
別世界でいうところのポージング合戦を見ながら一生懸命考えますが、飛び散る汗とマッチョな笑いが脳の大半を侵食してきて、なかなかいいのがまとまりません。その結果できたのが……。
『マチョシマや ああマチョシマや マチョシマや』
「それは和歌ではな~い! 俳句、いや川柳だ! しかも丸パクリだ!」
案の定、ツッコミが飛んでくる。
だが待ってほしい!
平安に俳句や川柳の概念?しかもパクリだとわかる?パクリという言葉を使う?
ツッコミ相手への疑惑は深まる。しかし、他の猟兵が持ち込んだ知識の可能性もある。まだ断定はできない。
満開の桜が咲き乱れる卯月の中頃。
春の眠りは心地よく、うっかり寝過ごし、夜明けに気付かない。
今朝に至っては寒の戻りかと思う花冷えが都に寒々しい空気を齎したが、日が昇るにつれて春眠を誘う陽気に包まれた。
そんな日に『|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》』邸にて盛大なる合わせ身体の宴が催される。早朝にも関わらず、予め方忌みで行き先を調整していた平安貴族らを乗せた牛車の列が通りを行きかい、庶民の京烏と京雀らはその様子を今日の噂の種とする。
当然ながら、噂の話題は競べ体である。
俺たちは日々を糧を得るだけでも一苦労だってのに、あくせく働かずとも食うに困らないお貴族様の間で流行っている新しくも雅なお遊び。
されど、美しくも身体を作れるのは高貴なる者の特権。嗚呼、憧れるものだ。
都の庶民は自分たちと住む世界が違う催しをある者は馬鹿にし、ある者は憧憬を抱く。当然ながら彼らは此の世は平安結界によって創られた仮初の平安であること知る者など居ない。同じくこの様な催しで平安結界が維持されることも、それを破壊せんとする妖が人に化けて都に潜っていることも……だ。
「うう……緊張するなぁ……」
最悪の自体を防ぐため、猟兵たちはアヤカシエンパイアへと降り立った。
メディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)もその中のひとりであるが、彼女はブルーアルカディア辺境諸島王国の|姫勇者《お姫様》。
猟兵としてもご活躍されている八秦卿が招いた異界の客人として益猪卿に自己紹介をしたところ、「其れなれば然るべき身分の席へ」と、庭に設えられた高貴な身分の姫君らが御台覧される畳敷きの平台へと招かれた次第。
『嗚呼、あの御方の競べ体が待ち遠しいですわ』
『あら? 前座の坂東武者らによる荒々しい競べ体も良い物でございましてよ?』
話題が筋肉なれど高貴なる姫君の語らい。
いや、確かにボクもお姫様なんだけど、どうせなら参加する側でこういう空気の場はちょっと苦手と言うか、何と言うか。
おほほと檜扇で緩みきった口元を隠しながら談笑する筋肉フェチな姫君に挟まれた彼女も、思わず愛想笑いをして場を取り繕うしかなかった。
『そうですわ。この坂東武者らによる競べ体を歌にするのはどうでしょう?』
『まぁ、それは良きことですわ。そうですわね……』
かくして肉々しくも雅な和歌が詠い交わされるが、普段から歌会を楽しんでいる平安貴族ならいざしも、急にふられても和歌に馴染みがないメディアは白紙の短冊とにらめっこするしかない。
(雅な和歌、雅な和歌、雅な和歌……)
せめてもの救いは、廻りの姫君らは急かしてくれていないことか。
だが、次々と奏でられる軽やかな和歌を聞かされては同じこと。
視線を移して別世界でいうところのポージング合戦を見ながら考えを巡らせるが、白熱する競べ体で飛び散る汗とマッチョな笑いしか入ってこない状態では中々と良い歌も纏まらぬもの。
(考えるな……感じろ、ボク)
和歌とは理詰めの詩でなく、感じた情景に抱いた感情や感動を言の葉で奏でる歌だ。
ならば、自分自身も感じたままの言葉を詠うまで。
今感じたままに想いを筆に乗せ、メディアはようやく短冊に綴った言葉を軽やかに歌い上げた。
マチョシマや
ああマチョシマや
マチョシマや
ハイクである。
平安時代を永世万年に渡り続けているアヤカシエンパイアには無い歌調べに、異界からの客人が詠う和歌が如何なるものか興味深そうに耳を傾けていた姫君らも驚きの色を浮かべていた。
(あれ? もしかしてボク、何かやっちゃった?)
和歌の五七五七七の調べでは思い浮かばなかったので五七五のハイクで詠ったメディアであったが、場の空気がやけも変わってしまった。
『……マチョシマや ああマチョシマや マチョシマや』
『マチョシマや ああマチョシマや マチョシマや……。まぁ、なんて斬新な歌』
が、どうやらそれは杞憂であったようだ。
若き姫君らは新しい物好きというのもあって、これはきっと異界の和歌なのですわ、思わず口ずさんでしまいますわと好評な模様。
『ですが、メディア様。平安結界を維持するには和歌でなければなりません。この場の歌会も平安結界を維持する貴族の務めでございますので、ご了承の程を……』
「う……確かにそうだよね。でも、良い歌が思い浮かばないからなぁ」
『でしたら、マチョシマをお題としました和歌を手本として皆さんで詠い上げません?』
これを皮切りとして即興で歌い始められるマチョシマの筋肉賛美な和歌の数々に、メディアは圧倒される。
(お姫様の嗜みは苦手だけど、ボクも芸事も頑張らないとなぁ……)
世界は違えど姫としての在り方は共通する。
例え武力を振るえなくとも、この様に華々しくも世界を維持しているのだ。
そしてだが、メディアは確信する。
妖はこの場に居る姫君らに化けていないと。
平安結界の破壊を目的とする妖であれば、かの様な真似をする筈もない。
「えぇっと……よし、出来た!」
洗練された和歌でなくとも平安結界は維持される。
和歌は依然として不慣れだが、だからこそ挑戦し甲斐もありよう。
メディアは次こそはと意気込み、マチョシマの和歌を詠いあげるのであった。
成功
🔵🔵🔴
西恩寺・久恩
なるほど、同志がここに居たとは…!
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=55590で身体を鍛えた成果を見せる為に参加する事にした
(宴の料理を食べながら考えている)
一応怪しい人物探しながら参加します。その人物を心眼で探して気配感知で妖の気配を探り第六感も使用します
会いたかったです…益猪・碁里輔殿
噂に聞いていました、私の益荒流を見せましょう!
と挨拶をした後に筋肉を披露する事にした
肉体は細マッチョで凄まじい怪力を発揮する為に鍛えた肉体を様々なポーズをしながら皆に見せつける
…悪くないですね、この大会
と怪しい人物の目星を付けながらマッスルポーズを続けるのだった
「なるほど、同志がここに居たとは……!」
西園寺家の息女、西恩寺・久恩(妖怪陰陽師(物理)ここに見参!・f42881)は驚嘆した。競べ体に参加される高貴なる身分の御方らが控室代わりとされている『寝殿』と呼ばれる屋敷の中心に位置する広い間では、各々らが朝早くからの宴がてら本番に備えてウォーミングアップをされていたからだ。
平安貴族である西園寺家の一員にも関わらず久恩は平安京の都では合わせ身体の儀が流行しているのを知らかったのは、一族を襲った『とある事件』の後に生き残った彼女の養父である西恩寺・|宏伸《ひろのぶ》が遠く都を離れた森での隠遁生活を始めたことによるもの。故に久恩は都でなく森の中で30年に渡り育てられていたが、その理由は彼女の正体はこの世界における『東方妖怪』において他ならない。
しかし、西園寺家と縁ある止事無き身分の御方から人畜無害な妖、あるいは式神の類として養育の許しを得て今日まで育てられた次第であった。
『これは西園寺家の御息女とは。宏伸殿もよき娘に恵まれて何よりのこと。ささ、細やかな宴席であるがゆるりとお召し上がりに』
若い貴族らはあの事件を知らぬが、|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》卿と同じ年代の貴族らにとって『妖に襲われた』哀しき事件として記憶に新しい。とは言え、その真相はより闇深いものであるんだが、真実を知っている貴族らは|禁忌《タブー》として誰ひとりとてそのことを口にしない。
「これは……これが父様より聞き及んでおりました都の湯葉料理……!」
高タンパク質、低カロリーの湯葉。それらをふんだんに使った宝石のような宴席料理の数々に久恩は思わず目を輝かせてしまう。
箸でつまみ上げて興味深そうに眺めた後に口へと運べば、湯葉独特のほうわりと残る香りと確かな味わいが鼻腔をくすぐる。まさしく筋肉が喜ぶ味に思わず久恩は狐耳をピンと立てさせるものだったが、彼女はこの場に居るのは宴席の場に居る貴族らが妖であるかどうかの判別するため。贅を凝らした料理に舌鼓を打ちつつも、東方妖怪ならではである第六感による心眼めいた妖気の感知をしているがとんと反応がない。
(確か筋肉に並々ならぬ関心の持つ妖でしたよね。ならば……)
「……益猪・碁里輔殿。この場にお招き頂き恐悦至極に存じ奉りまする。細やかなお返しとなりますが、宴の余興に妖退治で噂となっていましょう……私の|益荒流《まっする》を見せましょう!」
時はまだ競べ体の儀が始まっておらず、会場となる庭の準備に追われた家人らが慌ただしく行き交っている時刻。儀式が始まってからでも遅くはないのだが、化けた妖はどの身分に化けているかを探るには丁度良いタイミングでもある。
徐ろに立ち上がった久恩に宴に興じる平安貴族らの視線が一身に集められると、久恩……いや、妖怪陰陽師(物理)フォフォの装束を成していた護符装束が崩れてサラシ姿と変わっていく。
貴族の娘として何と破廉恥なであるが、そう申し立てる者などこの場には居ない。
なんせ、久恩が森の中で日々鍛え上げられ絞りに絞られた細マッチョたる超越者の肉体に魅せられているからだ。
『おお、あなやいみじ!』
『あなや、腹に朱雀大路のはしりけるかな』
『背筋張りたるは八幡太郎の剛弓が如し!』
『かくなるまでに絞りたまふには、え眠らぬ宵もありしならむ!』
そして始まる人外なりとて、美しき筋肉に対する雅な|賛美《コール》の大合唱。
久恩は自身と養父に襲い掛かる妖を撃退すべく猟兵へと覚醒し、無謀な量のトレーニングを日課とすることで培われた膂力と拳によって物理的に祓う|無限天理陰陽《むげんてんりいんよう》の術式を用いる。
だが、それはあくまでも降りかかる火の粉を払うための護身に過ぎない。
破壊のために振るわれる力であるが、たゆまれぬ日々の努力の結晶がこうも褒めちぎられればなんとも心くすぐられるものであって、より力こぶしが滾ってくるではないか。
得も言えない高揚感に包まれながらもポージングを決めれば、貴族らから発せられる掛け声によってより輝く様は、碁里輔卿も思わず唸るものであった。
(悪くないですね……この大会!)
ここに集っている平安貴族は筋肉に対して大層関心を抱かれている御方ばかり。
さりとて、妖気らしい妖気の欠片ひとつ微塵も感じられない。
果たしてそれは妖がこの場に居ないからか?
それとも、狡猾にも本性を現していないからか?
一足早い余興の最中で久恩は妖の目星を付けるべく、次第に熱を帯び始める身体を滲み出る汗で輝かせながらのマッスルポーズを決め続けるのであった。
成功
🔵🔵🔴
家綿・衣更着
アドリブ歓迎
「【化術】の達人、おいらが潜んだ妖を暴いてやるっす!…いえ、違うっす。おいらは世界を守る猟兵っす」(←妖怪)
【化術】してるのがいないか、参加者の筋肉を褒めながら怪しい人を【情報収集】で探すっす。
「背中に羅生門背負いしか!っす」
「蛋白質の物の怪か!っす」
「足ゴリラ…違った、足狒々か!っす」
探りを入れようと妖っぽい言葉入れてたらいやな顔されちゃったっす。
…狒々も美女に変化したっすね…念のため女性も見てくっす。
感動を和歌にしつつ【コミュ力】で交流。
「胸厳い うるさし腹筋 蟹が裏 広らかなりし 背中は亀甲」
目をぎらつかせた怪しい人がいないか探ってくっす。
むむむ、怪しい妖気を感じるような?
時は変わり、競べ体の儀が始めらし頃。
平安貴族よりも早く儀を行うは、荒々しくも勇ましき坂東武者なりけり。
彼らは関東に領地を構えた武士なれど、彼の地はかつて発生した『|禍津妖大戦《まがつあやかしのおおいくさ》』によって荒れ果てた妖蠢く死の大地であり、耐えず瘴気を含んだ野分が吹き荒れている。
『背中に鬼神ぞ背負ひける!』
こんな掛け声が送られるが、坂東武者の背中で盛り上がった筋肉がさしずめ憤怒の形相を浮かべた鬼のように見えるつつも、実際に鬼神をその身に宿している。
彼らは平安貴族のような霊力を持った陰陽師ではなくとも、不毛な死の大地に生きる術として妖を肉体に憑依させる術を会得した|戦闘集団《サムライ》である。げに恐ろしき掛け声が存在するのも、そんな彼らの武勇を讃えるものが肉体派の平安貴族の琴線に触れて取り入れられたのやもしれない。
そして、彼らの協力なくして平安結界維持はままならぬ。坂東武士らも政治経済の中心である平安京の貴族と繋がりを得ようと、若き|武士《もののふ》らの一部は武者修業がてら家人となるべく上洛し、かのように日々たゆまぬ鍛錬で培った己自身の売り込みを合わせ身体として行っていてもあった。
「並々ならぬ妖気を感じるっすけど……殆どの坂東武者から出ているっす!」
この館に迫る危機を未然に防ぐべく招かれた猟兵のひとり、家綿・衣更着(綿狸忍者・f28451)は驚愕した。何せあの人間には鬼が、その人間には雷獣の妖気が感じ得るのだ。
後で知ったのだが、これは『サムライ妖武装変』と呼ばれているユーベルコードなのだという。自身の身体に妖を憑依させることで武具を織りなしたり肉体の強化を図る術であり、まさしく妖蠢く死の大地に適応した異能の現れ。
と言うことは、仮に妖が坂東武者に化けていたとすれば、どろんはっぱを隠すのであれば森に隠すというカクリヨファンタズムの諺めいた策士なのかもしれない。
「化術の達人、おいらが潜んだ妖を暴いてやるっす!」
そう考えると、自ずとどろんバケラーの血が滾ってくる。
如何なる化術をもって化けているかと俄然興味が湧いてきた狸の妖怪は、見物している貴族らに己のはち切れんばかりな筋肉をアピールしている坂東武士団に声援を贈る。
「背中に羅生門背負いしか! っす」
「蛋白質の物の怪か! っす」
「足ゴリラ……違った、足狒々か! っす」
妖であれば妖の言葉に反応する。
そう考え、数々の妖怪をもじった掛け声を送ったのだが……。
『出たるや妖、酒呑童子!』
『並びたる姿。熊、星熊、虎熊、金熊!』
『さながら物の怪ぞ! 源頼光ぞ召し出し賜え!!』
……などと、とんでもないレジェンドらを使った掛け声が他から投げられる次第。
坂東武者らにとって妖とは、討つべき存在でもあり畏敬の念を抱く対象なのかもしれない。
(そう言えば、狒々は美女にも化けたっすよね……)
衣更着は坂東武者らの熱気に押されつつも、掛け声で出した狒々は女性に化けることを思い出して和歌を詠み合う姫君らの傍に寄って歌を詠む。
胸厳い
うるさし腹筋
蟹が裏
広らかなり
背中は亀甲
だが、こっちも梨の礫。
こうなれば目をぎらつかせた怪しい人が居ないか足で稼ぐっすと練り歩こうとしたその時、ふとすれ違った坂東武者の身体から仄かに漂う死臭めいた妖気を感じ得た。
(うっ……何っすか、この腐れ爛れた感じの妖気は!?)
振り返れば、男は足を引きずりながら人混みの中に隠れてしまった。
如何にも歩き方が不自然極まりない。
しかし、坂東武者なれば身体が不自由になる負傷を負ってもおかしくはない。
「他にも妖っぽい証拠が無いか探らないとっすね」
だが、妖となれば妖怪である自分の妖力も感じ得るだろう。
衣更着は気合をいれて中途半端な獣人状態から人間への完全変身をし、距離を取りつつも男の後を追跡するのであった。
成功
🔵🔵🔴
神城・星羅
彼の昇進頭である八泰様の言いつけとなれば。ぜひ。少しでもお役に立ちたく。
八泰様も失礼ながらかなり色んな意味で豪胆ですが、そのかたさえ悪夢とは・・・嫌な予感がしますのですぐ参りました。
宴の場に入ったところ。すぐ納得します。確かに今の父は体幹もよく鍛えられておりますが、よく気遣ってくれますし、立ち振る舞いも洗練している贔屓目に見ても素敵な殿方です。体ばかり見せつけられてもこれ以外何もないとは・・・
これでも十分違和感ありますが、作法は心得ておりますので黎明の祝詞で盛り上げながら宴を観察します。流石に統一がすぎるところですし、異様な姿があれば察しはつくかと。本当に人は多様ですね。
「八泰様も失礼ながらかなり色んな意味で豪胆ですが、そのかたさえ悪夢とは……」
幼き|平安貴族《陰陽師》、神城・星羅(黎明の希望・f42858)が難しい顔で訝しむのも無理はない。
八泰・頼典の稀代な女好きっぷりは彼女の耳にも『好色貴族』だの『恋多き御方』だのと届くまでにだらしないが、その類まれ無い霊力はまさしく英雄を色好むの故事を体現している。そうして猟兵へと覚醒するや否や、破竹の勢いで瞬く間に上司であるはずの|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》卿と列する星の位へと出世した。
平安貴族は平安結界を維持する戦闘集団と化しているが、それでもなお『家格』という風習が残っている。益猪家は元地方貴族であったが故に都での家格は低く、古くからの慣習に則れば「公卿=家柄ありきの超エリート」「諸大夫=昇殿の可能性は皆無ではないが出世は難関である」「地下家=到底昇殿が見込めない下級貴族」の図式で諸大夫と地下家の中間に位置している家格である。即ち、激務をこなしたからこそ殿上人への出世が出来る訳ではなく、出生コースが用意されているからこそ激務が与えられるという家格カーストなシステムだ。
碁里輔卿ほどの実力があっても家格が叙位の妨げとなったのは言うまでもなく、次第に激しさを増していく妖との闘いにより命を落として空席となった公卿の後釜として家柄に囚われない出世を果たした。そこから叩き上げの公卿と成った碁里輔卿が政治改革に乗り出し、今日の家柄関係なく妖退治による功績を重視した叙位が本格的に始まった。
それに見事応えてくれた昇進頭こそが部下であった八泰卿であり、八泰家の大陸より移り渡った渡来系民族を祖として家格はそれほど高くなくであっても異例中の異例な大出世を果たしたという前例を作り、幼くして正四位上にまで登った自身も近い内に最年少の星の位となり得よう。
そんな方が見た悪夢とは、きっとげに恐ろしき妖に違いない。
「……嫌な予感がしますので、急ぎましょう」
そして、星羅は庭園に設えられた舞楽台の上で互いに仕上がった身体を見せつけ合い、更に熱を帯びる競べ体に興じる場を見やっている。
今は各平安貴族が家人として雇っていたり、伝手を頼って士官を願う坂東武者らが己の蛮雄なる身体を自慢し合っている。彼らは宴の前座でもあり、終われば今度は隣に座している平安貴族らが雅にも鍛え上げた身体を自慢し合うだろう。実のところ、これこそが女好きの八泰卿が視てしまった悪夢な光景に相違ない。そんな事とはつゆ知らず、他方から集まった坂東武者らの姿を碧き淨眼がしかと見据えた。
「今の父も体幹もよく鍛えられておりますが、よく気遣ってくれますし、立ち振る舞いも洗練している贔屓目に見ても素敵な殿方です。寝殿より御覧されております方々の背筋がピンとしていらっしゃるのも、きっとその現れ」
本来の家族とは死別してしまったが、思い出せばあの厳しさあって今の自分がここに在る。彼らがここまでに身体を鍛えるのも、己自身を律して頑健なる肉体の得る錬成以外にも心を鍛える意味合いもあってなのだろう。
であれば、はしたない気はしてもこの場の作法に則って声援を送るべきか。
泣き稚児の
黙しにけりや
二頭筋
富士の高嶺に
雪は残らじ
音属性に特化した陰陽師たる星羅が鈴を転がすような声で詠い上げた祝詞を聞いた貴族らが、おおっと感心の唸りをあげた。
『流石は神城家の才女。まこと新しき鼓筋和歌を即興なされるとは』
──鼓筋和歌。
それは筋肉を賛美する和歌の総称である。
舞楽台を取り囲んで発せられている雅な掛け声によって平安結界が維持修復されるが、当然ながら和歌という形であればその効果効力はより高まる。
星羅が詠った歌の意味を現代語に訳せば、「泣く子も思わず見惚れて黙ってしまう二頭筋の力こぶ。その盛り上がり具合は雪解けを迎えた最高峰の|富士の山《チョモランマ》であった」。そんな詩的な情景を思いかべれば、思わず筋肉が滾ってくる。
この場に居た平安貴族らはより良い返し歌はないものかと鼓筋和歌を即興し合い、寝殿周辺に平安結界を維持修復する霊力が高まっていく。
だが、星羅がこの歌を詠んだのはその為だけではない。
(……どうやら妖は反応したようですね)
この寝殿と舞楽台との距離はそう離れていないが、鼓筋なる掛け声で包まれれば星羅が詠った歌など聞こえる筈はない。
しかし、足を引きずっていた坂東武者は振り返った。偶然とも考えられるが、果たしてあのタイミングで振り向いた理由は如何なるものか?
その訳を問いただすべく、星羅は鼓筋和歌が詠い競われるこの場から静かに立ち去るのであった。
成功
🔵🔵🔴
スノレンツェ・ノレシーン
ゆるゆると人間態になって。
わあ、すごーい☆
こういうとき、筋肉あるの羨ましいって思うんだよね☆
ほら、スノちゃんってブラックタールだから、『筋肉なにそれ?』って感じだし。
出来ても、どこか緩んだ再現になっちゃうしね。
でも、見る方の参加はできるよね♪
わあすごーい、『不動明王』が入ってるぅ!っていう声援を送ろっと。
本当にそう見えたから、嘘は言ってないよ☆
ほら、ここの平安貴族って人々を守るんでしょ?なら、人々を迷いや厄災から守る『不動明王』はぴったり!
眉をひそめるのがいたら、それは妖だよね☆
っていう感じで見張っておこう☆
『そろそろ前座が終わるか』
『ええ、兄上。ここからが競べ体の本番であり、我らの出番』
『勇ましき坂東武者らとは一味違う筋肉の仕上がり、とくと御覧あれ』
厳つい顔つきの|碁里輔《ごりすけ》とは異なる整った顔立ちは母親になのであろう、『|碁里政《ごりまさ》』、『|碁里忠《ごりただ》』、『|碁里道《ごりみち》』の|益猪《まっちょ》家の三兄弟が立ち上がる。寝殿の外で控えていた従者が壇上より折りてきた若き君らの召し物を脱ぎに掛かった。
そして、露わになる高貴なる物のたゆまぬ努力で仕上がった筋肉が露わとなる。
長男の碁里政は端正な顔立ちと裏腹にゴリゴリな筋肉のギャップ差なゴリマッチョ。
次男の碁里忠は兄とは対象的で、筋肉の密度を高めに高めた細マッチョ。
三男の碁里道は両兄のいいとこ取りである、均衡が取れた中庸マッチョ。
これでも規格外の碁里輔にはまだ遠く及ばずであるのだが、寝殿の上から御覧される貴族や先程まで勇ましき己が肉体を自慢しあっていた坂東武者も息を呑む美しさである。
「わあ、すごーい☆ こういうとき、筋肉あるの羨ましいって思うんだよね☆」
さながら漆黒の漆ような光沢を放つ粘度が高い球体が人を身体を成す者、スノレンツェ・ノレシーン(不死を愉しむ・f42698)。普段はポヨポヨタールスライムな姿をしている彼であるが、シルエットでヒトであると判断できる姿にも成れるブラックタールだ。
しかし、液状の身体故に筋肉とは無縁な彼としては人体の構造を完全に模するのは難しい。見様見真似で真似しても、どこか緩んだ再現となってしまい「最近だらしねぇな」と言わんばかりだ。そんな人体の神秘たる筋肉への慕情を込めた視線で寝殿から舞楽台まで敷かれた緋色のカーペットを渡る益猪三兄弟を眺め、彼らが並び立てば雅楽の調べが庭中に響き渡る。雅な調べに身を委ねつつも、碁里政、碁里忠、碁里道は舞を披露するかのような足取りで息のあったポージングを決めていく。
『あなや! 云ふべきにも非ず!!』
『高貴なの者たちの平等院鳳凰堂!!』
『二条大路!』
『四条大路!』
『六条大路!』
『朱雀大路!』
『『『『腹筋平安京が如し!!』』』』
そうなれば、当然ながら舞楽台を取り巻く家人や坂東武者らによる怒涛の|掛け声《コール》大合唱が始まる。本当にこれで平安結界が破壊されず修復されているのかと訝しまれる光景だが、ちゃんと維持修復されているのでご安心を。
「わあすごーい、『不動明王』が入ってるぅ!」
この熱気に押しつぶされそうになりつつ、スノレンツェは負けじと声援を送る。
不動明王とは、大日如来の化身たる明王の一尊。
かの仏は人々を厄災や迷いのみならず、煩悩に塗れた救いがたい者も救う救済者。仏道の妨げとなる邪な心を断つべく勇ましい出で立ちをしているが、かの慈悲深き仏神を世の安寧を護る平安貴族に重ねた率直な言葉であった。
『……ちっ』
だが、そう思わない者も居る。
ざんばら頭の坂東武者が苦々しい顔で舌打ちするが、かのような場でこのような態度を取る人間がここに居ようか?
(あっ☆ もしかしてこれは~?)
そんな妖しい人物の姿にスノレンツェの頭脳に閃きが走り、どろんと身体を崩してスライム状に戻ると足をひきずりながら場を離れる坂東武者の後を追うのであった。
成功
🔵🔵🔴
武富・昇永
近頃の俺は武に一辺倒すぎると気にしていたが
この宴は武で優雅さを生み出している!
何と素晴らしい!
さて宴に潜む妖を炙り出さねばならんな!
({座敷式神・出世魚モジャコ}を召喚するとUC【臘月陰陽符】を発動し五感を共有する)
モジャコよ
俺はこれから碁里輔さまに挨拶と共に
妖討伐で鍛えた肉体を披露してくる!
碁里輔さまは宴の中心
そこで俺の肉体を見せれば妖の注目を浴びるはず
そこでお前は探知能力を使って『情報収集』しろ!
しかし傷跡が多々ある俺の体では碁里輔さまに
見苦しいと思われてしまうかもしれん
だが印象には残るはず!
すると俺の一挙手一投足が碁里輔さまの目に留まり
巡り巡って俺の出世に繋がるはず!
…滾ってきたな!
「……滾ってきたな!」
|益猪《まっちょ》三兄弟による競べ体を皮切りとして、遂に平安貴族らが日々たゆまぬ努力の結晶たる|合わせ身体《平安ボディビル》が開催される。
今や星の位となられた八秦卿から招待された賓客として招かれた武富・昇永(回遊魚・f42970)は、肉々しい宴に己の出世街道を重ね合わせた。
「近頃の俺は武に一辺倒すぎると気にしていたが……この宴は武で優雅さを生み出している!」
かの君はある日に上昇志向の塊のような性格へと変貌し、手に入れた成果より手に入れる行為に悦びを感じるようになられた。苦痛や屈辱を伴っても受け入れる歪な精神性は、通常の平安貴族ならば穢れると忌み嫌い家人として仕える暴力装置たる坂東武者に汚れ仕事も喜々として果たすまでに成長し、今の階位に就いているのはその成果と言ってもいいだろう。
しかし、それは血に塗られた道でもあった。
もっと強く、もっと偉く、もっと優雅に。
これを座右の銘として妖退治にも政務にも励んできたが、家格はそう変わらない八秦家の女遊びにうつつを抜かす放蕩息子は自分の先へ先へ出世している。
何時しか地方荘園で起きた妖騒動の折に派遣された際は従四位下と従五位上という僅かな差であったのにも関わらず、今となってはその差は広がるばかり。
やはり生まれ持って備えた顔の良さか、近頃宮中で噂となってる止事無き身分の御方に仕える秀麗な少年貴族と耽美な関係を持って得た後ろ盾かだのと憤ることがしばしばあったが、こういう時こそゴマを擦りに擦りながら|割井八田《わるいやつだ》様から聞き出した領主論や平安貴族としての在り方を思い出すに限る。
──良いでおじゃるか。平安貴族とはたゆまぬ努力を積み続けるものでおじゃる。
その言葉を胸にどす黒い出世欲の炎を更に燃やして邁進してきたが、このような勇ましき出世の場との巡り合わせはまさしく運命。
雅なる力の誇示。嗚呼、なんて甘露な響きか。
「何と素晴らしい! 俺の一挙手一投足が|碁里輔《ごりすけ》さまの目に留まれば、巡り巡って俺の出世に繋がるはず!」
昇永は八秦卿が碁里輔卿の部下であったと聞かされ、あの万年散位な好色貴族が星の位へと叙階した異例はかの方の推挙があってこそと確信する。
ならば魅せよう。
己が積み上げてきたすべてを。
予め放っておいた座敷式神『出世魚モジャコ』は、あの怪しい坂東武者を追っている。立身出世の欲望が高まるにつれて座敷式神との五感が共有されているが、今はそれよりも出世のチャンスを逃す訳にはいかない。
奇しくも碁里輔の息子らが競べ体を終えて戻って来られている。次なる者として今自分が舞楽台に立てば、妖を追い詰めるまで十分間に合うと心算をはじき出す。
「碁里輔さま! 次の競べ体は是非私めを!!」
『ふむ……まぁ良い。貴殿は八秦卿の推挙で招かれた賓客。そこまで熱意あるのであるのであれば、自慢の身体をとくと拝見させて貰おう』
「ははっ!」
待ってましたと言わんばかりに、碁里輔卿の許しを得るや否や昇永はバッと脱ぐ。
そして、彼は自身の輝く出世街道とも言えよう緋色の布地道を悠然と渡り歩くが、この場に居る者すべてがどよめき立つ。
『ほぅ……』
思わず碁里輔も唸った正体。
それは昇永の身体に走る生々しい無数の傷跡。
これらすべては妖退治の折に刻まれし己が武威武勲。
坂東武者にも傷者が居たが、ここまで縦横無尽に刻まれている者は居なかった。
果たして如何なる妖と戦えばあのような傷を、如何にして生還したのかとざわめき立つが、己の積み重ねし成果を誇示せんと舞楽台の上に立った昇永がポージングすればそれらも収まってしまう。
──もっと強く、もっと偉く、もっと優雅に。
自身の座右の銘を万感の想いと変えさせた、力強くも雅な肉の舞。
掛け声を送る役目を担う家人らが思わず息を呑んでしまい、雅な雅楽の調べのみが庭園に響き渡っていたが、そんな静寂を剛毅な一喝が破った。
『汝の筋肉、光源氏よりも輝きたり!』
誰もが見惚れる中、碁里輔が放った掛け声に再び全員が驚愕する。
この掛け声は帝が在位されていた頃、輝く存在と言えば太陽か帝であり、それよりも輝く存在と呼ぶことは最大の不敬であった。
だが、そこに登場したのが源氏物語の「光る君」こと「光源氏」。
光源氏は皇族に名を連ねる御方であらされる架空の存在。それを引き合いとするのは在位する帝の不敬に当たらないとして赦されたという故事に由来する掛け言葉であるが、それでも架空の皇族を引き合いに出すのは憚れる。
だが、碁里輔は臆すること無くこれを放った。
つまり、あの碁里輔卿に認められし筋肉であるという最大の賛辞に他ならない!
「ヤーッ!」
最大の讃美を受け、昇永は吠える。
これで次なる叙階……星の位は決まった。
内なるどす黒い欲望と裏腹に筋肉に滴る汗が朝日に照らされ、昇永の身体はより輝いてみせたのであった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『ごくふつうなるおのこ、ありけり』
|
POW : 体当たりだ! 直接訪ねて話し、反応をさぐる
SPD : 尾行し、様子を観察する
WIZ : 正体の手掛かりになりそうなものがないか件の人物の周辺を調べてみる
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
|益猪《まっちょ》邸で開かれた雅にも肉々しい宴が最高潮に盛り上がる頃。
警護の家人の目を掻い潜り、庭から抜けて屋敷の中へと忍び込む者がひとり居た。
猟兵らが男が籍を置いている坂東武者の一門に如何なる人物かと尋ねてみたが、少々変わっているが長きこと一門に直属している『|東鬼《しのぎ》・|高丸《たかまる》』なる者だという。
少々の変わり者だがと皆は口を揃えて語るが、顔は赤みを帯びているというのに身体は土気色に近い体色となっており、やはり怪しい人物に変わりない。
ましてや、この状況で何故屋敷に潜り込んだのも盗賊の類であるとなればそれまで。
この者こそが人に化けた妖に違いないだろうが、決定的な証拠は未だ得られず。
ならば、男に直接問い質してみるか。
それとも、気づかれることなく尾行をするか。
または男の事をよく知るであろう坂東武者らから更なる話を聞くか。
猟兵たちは男の動向を注視しながら内偵を進めるのである──。
スノレンツェ・ノレシーン
さてと、液状になって尾行しよっと☆
名前からして鬼っぽいけど…ほら、決めつけは良くないし☆
決定的なのを…そうでなくても、積み重ねで証拠集めないとね☆
基本的に、物陰に潜みながらの尾行ね☆
スノちゃん、人の形をしてないから、気づかれにくいと思うんだよねー☆
水たまりが尾行してるなんて、考えにくいでしょ☆
にしても…どこいくんだろね?あの人。
このあと、庶民に知られないように退治しなきゃだから、助かるには助かるけどさ☆
メディア・フィール
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK
SPD選択
直接相手を追いかけるのは【軽業】ぐらいの技能しかない自分には難しそうなので、【動物と話す】でリスやスズメに依頼して後をつけてもらいます。報酬はドングリや米粒で。
「明らかに怪しい……けど、ひっかけや陽動みたいなこともあるからね。気を付けないと」
「お願い、頼むよ。これをあげるからさ。でも、危なくなったらすぐに逃げるんだよ」
「ありがとう、また何かあったらお願いするよ」
「そうかわかった。この男は……」
「名前からして鬼っぽいけど……ほら、決めつけは良くないし☆」
名は身体を表すとも言うが、だからとてそれが正しいとは言えない。
スレンツェはブラックタールならではである自らの不定形な身体を時には弾ませ、時には水たまりのように平べったくさせながら『|東鬼《しのぎ》・|高丸《たかまる》』なる男の跡を追跡する。
どうせなら、ダッダーン☆ぼよよんぼよよんとヒトガタとなりたいところでもあるが、ポヨポヨタールスライムの特性を遺憾なく発揮できるならばそれでよし。
「明らかに怪しい……けど、ひっかけや陽動みたいなこともあるからね。気を付けないとだ」
スレンツェに合わせる形でメディアも不気味な男の追跡を行う。
だが、バレてしまえばそれまで。
「なにしてるの?」
「雀に追跡を頼もうと思ってさ。お願い、頼むよ。これをあげるからさ。でも、危なくなったらすぐに逃げるんだよ?」
メディアは人間慣れしている雀に話しかけ、姫様たちの御覧座敷より持ってきた煎られた椎の実を掌に乗せて差し出す。
雀らは警戒することなくメディアの掌に止まると、早速と椎の実を啄み始めればあっという間に平らげてしまう。程なくすれば彼らは散って行って、男の足取りを追い始めた。
「すっごーい☆ 動物と話せるんだ!」
「うん、ちょっとだけね」
流石にこうも褒められると、ちょっとくすぐったい。
ふたりは雀に先導される形で屋敷の中に潜り込んだ高丸を追う。
幸いにも足を引きずっているためかそれほど早くもなく、漆黒の粘液から細い触手を伸ばしたスレンツェが様子を伺いながら進んでいく。
どうやらこちらの気配に気付いている様子はなく、男は周囲を気にしながら屋敷の奥へと向かう限り。
「何かわかる?」
「うーん……何かを探してるみたい? 隠れる場所かな?」
つまり仮に高丸が妖だとすれば、今この場は妖を祓う退魔師である平安貴族と妖を相手に生身で挑む坂東武者らが一同に座している空間。
迂闊に正体を現せば多勢に無勢であり、彼の目的が宴に興じる彼らの寝首をかけるかと言えば疑問甚だしい。
とすれば、密かにどこかへと隠れて夜を待ち、|益猪《まっちょ》家の者たちの寝首をかいて惨殺するのが理にかなった方法とも言える。
「それにしても、一体何処に向かっているんだろ」
既にふたりが先程まで居た庭より遠く離れており、屋敷の奥へと男は向かい続ける。
人気などは無く、都の喧騒に混じって密偵として頼んだ雀の囀りが聞こえる程度……だったが、それが今ぷつりと消えた。
「……もしかして」
メディアは息を殺しながら足音を立てないよう身長に板張りの床を渡り、角から顔を少し出して様子を伺う。
そこには男の足取りを教えるために止まっていた雀の姿は何処にもなく、無惨も毟り取られた雀の羽根が僅かに散らばっているだけであった。
「食べられちゃったの?」
「うん……そうみたいだ。悪いことさせちゃったな」
だが、これでふたりは確証を得た。
アレは妖だ。
人畜のみならず、雀をも喰らう飢えた妖だ。
「けど、何処に行ったんだろ?」
「片足が悪いんだ。そう遠くまで言っていないはずさ」
スレンツェとメディアは周囲を捜索するが、男の姿は何処にもない。
どうやらここは生活空間の場ではなく、書物や催事に使う道具の保管をするための物置めいた場である。まさに身を潜めるには都合が良い。
「でもぉ……ここに隠れたとしても、御屋敷を警備する人たちを目を避けないと戻れないよね?」
スレンツェがさり気なく呈した疑問は的を得ており、この場で夜まで潜んだとしても|碁里輔《ごりすけ》らが寝食を行う生活の場から離れている。
当然ながら公卿の身分なる者の屋敷には警護を担う家人が多くおり、屋敷の中心へと近づくにつれて警戒は強まる。
「となると……ここまで碁里輔さんや息子さんたちが毎日やって来る可能性が?」
「かもね☆ そうねぇ……秘密のトレーニング場とか☆ もしそうだったら、庶民に知られないように退治しなきゃだから、助かるには助かるけどさ☆」
スレンツェの推理を受け、なるほどとメディアは頷く。
確かにそこに身を潜めたとすれば、夜まで待てば自ずとして彼らは筋肉維持のためにこの場へとやって来る。
問題はそれが何処にあるかであるが、ふたりは未だこの近くに居るかもしれない妖に気づかれないよう調べ始めるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
家綿・衣更着
アドリブ歓迎
いい妖もいるかもっすから、妖ってだけで殺すのは反対なんすよ?
「でも貴族屋敷に忍び込んだら斬り捨て止む無しでは?あっはい。調査するっす」
男が籍を置いている坂東武者の一門に【コミュ力】で詳しい話を【情報収集】
最近の様子は、足が悪くなった理由は、筋肉への関心は
「事前情報と違い筋肉への関心が微妙に見えたんすよね」
屋敷内では【忍び足】で尾行、場に適した物品に【化術】して監視
(掛け軸)「|ほれ頭呑《はい!ズドーン!》 |横胸構え《サイドチェスト》 良き厚み 大胸筋が 歩きてをかし」
【盗み】か【暗殺】かそれ以外か目的を推察
念のため【第六感】で他の妖がいないか注意しつつUC『ステータスオープン!』
世の中は|善《ゼロ》と|悪《イチ》の二元論で成り立っている訳でない。
UDCアースにおいては友好的なUDC怪物であるUDC-Pが存在し、妖怪も人間寄りの良い奴だっている。
(いい妖もいるかもっすから、妖ってだけで殺すのは反対なんすよ?)
確かに東方妖怪である衣更着の意見はもっともなものだ。
しかし、世界が変われば善と悪の基準は様変わりする。
アカシアエンパイアの世界は妖蠢く死の大地と化しており、陰陽師らは平安結界をもってして生存圏をかろうじて維持している。
だが、それは虚ろで儚き幻にすぎぬ。
滅びた大地と妖を人々から隠蔽している以上、妖が出没および発見したらば陰陽師らは表沙汰となる前に始末するのを金華玉条としている。
仮に良き妖が居たとすれば、それは人前に姿を見せない妖だろう。
尤も、こちらの利になると判断しての例外も居ようが。
「それを言ったらおいらも退治される側っすけど、世界の補正って奴に感謝っすね」
多種多様な姿や種族で構成される生命の埒外たる存在の猟兵は、世界によって当たり障りない姿として認識されている。
それは衣更着も同様であって、坂東武者らに『|東鬼《しのぎ》・|高丸《たかまる》』について聞き回ったことで眉ひとつ歪めなかったことから、恐らく自分は人間のような存在と認識されているのであろう。
「けど、聞けば聞くほど少し変わり者だけど至って普通の人間って感じだったすね」
曰く、彼は奥州から下ってきた坂東武者である。
曰く、彼は鬼を憑依させるサムライ妖武装変の使い手である。
坂東武者は術力を持たぬ無能力者であるが、妖を肉体に憑依させる事で戦闘能力を得る武装集団である。名字に鬼が付いているのも鬼の妖を憑依させる術を家芸としているのであればなんら不思議なことではない。
ましてや、片足が悪くなっているのも身体への負担が重くのし掛かる憑依術の反動と言ってしまえばそれまでであり、衣更着が感じた妖気もその残り香と言ってしまえばそれまでである。
『変わったこと? そうであるな……彼奴と背丈が同じで体つきも瓜二つだった|佐阿《すけあ》・|九郎《くろう》が忽然と戦場で消えたことぐらいか?』
坂東武者も平安貴族同様、日夜妖と戦い続けている。
油断すれば命を落とす危険がある以上、戦場で妖に敗れて屍となるのはよくある話だ。
しかし、この話には続きがある。
『あったのは数週間も野ざらしで放置されてたような、首がない腐れた爛れた骸のみ。いくら探しても九郎の物と思わしき遺体は見つからなかった』
そうなれば、妖にぺろりとやられたのやもしれぬ。
だが、あれほどの使い手が妖にやられる物かと坂東武者たちは今も合点が行かないようであった。
それともう一点加えれば、高丸は若々しい身体であった九郎を羨ましがっていたという話も聞けた。何でも皮膚病の病を患っており、良くなったり悪くなったりを繰り返しているそうだ。
(これが果たして関係ある情報なのかどうかっすけど……まずは怪しい高丸さんを調査しないとっす)
一通り聞き込みを終えた衣更着は忍び足で高丸を尾行していたが、行き先は物置小屋めいた倉庫な場所。盗賊かどうかの確認をすべく、先回りをして掛け軸へと化ける。
|ほれ頭呑《はい!ズドーン!》
|横胸構え《サイドチェスト》
良き厚み
大胸筋が
歩きてをかし
なんとも雅な鼓筋和歌が綴られた掛け軸である。
盗み目的の盗賊であれば奪うこと間違いなしだろうが、何かを探すような眼で四周を見渡す高丸は部屋に入るもこれを無視した。
(盗み目的じゃない……ってことっすね。なら、ステータスオープン! っす)
掛け軸に化けた状態のままで高丸の背中を視界で捕らえた衣更着の網膜に、ユーベルコードで開示された個人情報が網羅されたウィンドウが次々と浮かんでくる。
これなら楽勝っすと余裕の色を浮かべた衣更着であったが、それはすぐに驚きとなる。
(えっ? これ全部、行方不明になった九郎さんの情報っすよね?)
何故?
もしかして、消えた九郎が高丸に入れ替わった……?
いや、寝食を共にしている坂東武者たちが見間違える訳がないし、そもそも顔が違う。
念にもう一度調べ直したいところだが、高丸は既に部屋から出ようとしている。
慌てふためく衣更着は思わず彼の体でなく後頭部に視線を入れると、情報開示されたウィンドウが表示されたと同時に高丸は部屋から出ていってしまう。
「あっちゃ~。慌ててしまったっす……あれ? 今度はちゃんと高丸さんのっすね?」
どうも不可解だと元の姿に戻った衣更着が首を傾げるが、その理由は高丸なる人物の正体を知った時、すべての謎が氷解した。
「コイツは……とんでもない妖っすよ!?」
すべてを理解した衣更着は足音を立てずに急ぐ。
高丸の目的、動機、手段はまさに妖の所業であったからだ。
成功
🔵🔵🔴
五ヶ谷・グレン
アドリブ連携歓迎
グレンは詳細を聞かされないでいた模様です
■心情
ここがアヤカシエンパイア、
雅な遊びや平安であることで保たれる 泡沫の世界…
つまり、今回は雅な遊びと言うやつが求められるわけだが、
俺で務まるものか…?
って、どう言う事だじいさーん!?
■逃亡
(グレンは逃げ出して薬事辞典の言うままに館に忍び込んだ!)
言動や立ち振舞は雅だったが…
しせんが、獲物を見定める目だったぞ、あの姫様方。
取り敢えず、こう言う時はじいさんの言何だが(今回は別のUC
コソコソしてる人の願いを追ってたら足を引きずってる人を見たが、大丈夫か?
え?
今回の目的なのか?
取り敢えず視て(UC)
他のものまで見たらここだと不味いな(至近距離
「ここがアヤカシエンパイア、雅な遊びや平安であることで保たれる泡沫の世界……」
──時を戻して宴が始まる前。
20尺ほどもあろう巨人の五ヶ谷・グレン(竈の魔女はだいたい筋力で解決する・f33563)は|益猪《まっちょ》邸に降り立や否や、人々は世界の補正に収まりきれない彼の巨大さに唖然としたのは言うまでもない。
だが、猟兵という存在は摩訶不思議なる者。
異郷の地にはこのような巨人が居るのだと、さも平然と受け入れられ次第であった。
(つまり、今回は雅な遊びと言うやつが求められるわけだが、俺で務まるものか……?)
永世に渡り続けられている平安の世、アヤカシエンパイア。
様々な世界を渡る過程で、グレンは平安時代の貴族らが興じた厳かで雅な儀式めいた遊びの数々を知り得ている。魔女としては半人前なのを筋肉で補ってる体たらくの自分が果たして歌会や蹴鞠などを出来るのかと不安であったが、寧ろそっちであった方がマシであったのかもしれない。
「って、どう言う事だじいさーん!?」
前座の坂東武者、真打ちの平安貴族による雅な|競べ体《ボディビル》が行われたが、それはグレンの理解力が到底及ばぬ|世界《トンチキ》。
いや確かに言動や立ち振舞は優雅で雅であるのだが、遠くの御覧席で殿方のたゆまぬ努力の結晶たる半身を見つめる姫君らの視線は獲物を見定める目であったぞ?
これでは己の身が危ういと、逃げるようにして直感にも赴くまま、薬事辞典の言うがままに館へ忍び込んだ次第であった。
だいたいは、詳細を明かさないまま行かせたじいさんのせいである。
「……なるほど。コソコソしてる人の願いを追ってたら足を引きずってる人を俺は確かに見たが、大丈夫か?」
グレンはようやくお茶目なロマンスグレイの喋る帽子より詳しい話を聞かさて、心当たりがある男の姿を思い出す。どう見てもこそこそしてて怪しかったし。
だが、巨人である自分がこうして身を屈めている最中、下手に立ち上がれば相手に気づかれてしまうかもしれないし、何処かに潜り込まれたとすれば更に面倒となる。
「まずは写そう。その瞳にうつる星、数多別れる箒の一筋を」
グレンの瞳の奥底にユーベルコードの煌めきが宿り、まぶたを閉じれば記憶から網膜に映し出された男の姿がはっきりと思い浮かばれる。
──魔女の織【果しなき物語への導き】。
魔女の瞳が偽りや封印から解き放った本来の姿を暴き出し、男の真実の姿を描き出す。その姿はあはれにも腐れた垂れた生ける屍であり、首だけは生気に満ちているという妖に相違ない。
「足取りも視えた。あとは追うだけだ」
魔女の巨人は悠然と立ち上がり、屋敷の通路や中庭を踏み潰さないよう気をつけながら歩きだすのであった。
成功
🔵🔵🔴
神城・星羅
愛しの君の朔兎様(f43270)と参加
どうしましょう、東鬼なる人物怪しい事は確かですが確定ではない。正直困っていたところ朔兎様が。え?東鬼に体当たりして調べてみる?危ないですがこれが手っ取り早いですか・・・せめて後ろについてもしもの時に備えますか。
【式神使い】で金鵄と導きの八咫烏を呼び出して強く【伝令】します。いいですか、確実に朔兎様を見失わないようにするんですよ。本当に体当たりしたのが妖なら朔兎様の御身が危ないんですよ!!
いざとなれば護りの狼に朔兎様を【護衛】させます。いざとなれば白鷺に乗って駆けつけることも厭いませんよ!!さあ白黒つけましょうか!!
源・朔兎
愛しの姫である星羅(f42858)と参加
星羅の無事も心配だが個人的に許せないのできた。俺、背は高いんだが12歳なんでそんなに筋肉育ってない。運命の姫に逞しい筋肉を見せつけるとは許さ・・・コホン。
普通に男達が一杯いる屋敷内に星羅一人で探索させる訳にはいかないんで!!件の怪しい奴には直接体当たりして確かめる!!まあ危険なのはわかるがこの方が早いだろ?それに星羅が支援してくれるからな!!
いつもは突っ走るところだが金鵄と導きの八咫烏に見失わせるわけにはいかないので【第六感】【気配察知】を駆使して件の東鬼を探して全力で体当たり!!
こんな童に付き纏われて悔しくないか?観念して正体を見せろ!!
「星羅の無事も心配だが、個人的に許せないのできた。件の怪しい奴には直接体当たりして確かめる!!」
やんごとなき身分であるが故、素性を明かせばいらぬ混乱を引き起こさないようにと家人や坂東武者に紛れていた、成長著しい源・朔兎(既望の彩光・f43270)が男の跡を追おうとする。
筋肉が育たぬまま背丈が伸びに伸びているが、猪突猛進で血の気が盛んな様は若さ故であろうか。
「ですが、朔兎様。東鬼なる人物怪しい事は確かですが、まだ妖であると確定してはおりません。それに皇族であられる朔兎様が体当たりするだなんて、お考え直しください」
適当な理由で宴から抜け出すのに成功した星羅であったが、中々と尻尾を出さない高丸を相手に様子を伺い続けてきた。そんな折にふたりは合流したのであるが、どうも朔兎はやきもきと感情を荒立てている。
すべての発端は、運命の姫に逞しい筋肉を見せつける筋肉祭りたる競べ体。それに普通に男達が一杯いる屋敷内に彼女ひとりに探索させては何か間違ったことが起こるかもしれないという、早く言えば筋肉を持たざる者の若い嫉妬か。
しかし、星羅としては血気盛んないつもの朔兎様という認識に過ぎず、こうして今手綱を引いて窘めているといった次第である。
「だが!」
「ですから、式神である金鵄と導きの八咫烏を遣わせています。それに妖めが何処へ向かっているのかも、大凡検討が付いております」
ここまで言われてしまえば、武術好みが高じて遂に極めてしまった勇猛なる君もぐうの音も出せず、自分より幼い才女の尻に敷かれるしかない。
そんなやり取りをしていれば当然のように高丸の姿が消えてしまうが、金色に輝く霊鳥と視覚を共有している。現に誰かが密偵として放った雀を取って喰らう様子も星羅は確認済みであり、あとは彼の行き先が自分の推測と合っているかどうか。
「この地下へと続く穴と階段は……もしや氷室か?」
「はい。平安貴族は日々のたゆまぬ努力で陰陽術の鍛錬は怠りません。しかし、これも市井の民草に知られてしまえば自ずと平安結界の崩壊へと繋がってしまいますので、こうして誰の目にも触れられぬ地下室に鍛錬の場を作る家が多いのです」
地方の対妖要塞と化した貴族の邸宅は集落単位で近隣住民も妖へと立ち向かう自警団めいた戦力となっている例が多いが、ここ平安京となればそうは行かない。庶民の中にも平安貴族や坂東武者同様に妖へと立ち向かう人は居るには居るが、平安結界維持のために裏の仕事としている。
そんな人口が密集して昼には目あり夜には耳ありの平安京において、おいそれと庭で陰陽術の鍛錬を行えば昼行灯を装っている平安貴族の正体と目的は何れ噂となり、妖の存在も平安結界もバレるであろう。それを防ぐための秘密なる鍛錬の場として、このように地下へ設けるのが多いというわけだ。
「ここへと降りたのは確かに私が。ここは他の皆さんが来るのをお待ちして待たれるのが……」
「よし! これなら逃げられる心配なく、体当りして問い質せれるな!!」
「あ……ちょ、朔兎様!?」
相手はひとりとは言え、人間に化けて天敵である陰陽師の邸宅へ白昼堂々と侵入した大胆不敵な妖である。そうなれば自分たちだけでどうにか出来る相手でないのは明白であって、ここで勇み足を出せばミイラ取りがミイラになるだろう。
各猟兵へと知らせの使いとして金鵄を放った隙を突く形で、あろうことか朔兎は押っ取り刀で地下の鍛錬場へ飛び込んでしまう。
「本当に体当たりしたのが妖なら、朔兎様の御身が危ないんですよ!!」
星羅もまた静止する間もなく先走っていく初恋の君の身を案じて追いつつ、護衛としての護りの狼を符から放ちつつ、さながら妖が大口を開けながら待ち受ける穴蔵へとふたりは駆け下りていくのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
武富・昇永
凄いお言葉を頂戴してしまったな
この仕事を終えた後
俺の身の上は大きく変わると確信した!
汗が滲むし身震いが止まらん
これが武者震いというやつか
くくく…
何?男が屋敷に忍び込んだと?
よし、直接本人に問いただそう
妖なら俺が一番槍になるし
違うなら妖討伐の
おまけの勲功として捕らえておこう
盗賊の類でないとしても見逃す方が問題だ
({転身式神・多忙冠者}を召喚すると『欲望解放』で{昇鯉紋}を輝かせながら溢れた出世欲を式神に注ぎ『存在感』を際立たせる)
多忙冠者、お前は碁里輔さま達のお相手をしろ
男が妖でない場合
注目を浴びた俺が居なくなったことを
妖に悟られてはいかん
お前は俺の『変わり身』なのだ
無様な真似はしてくれるなよ?
西恩寺・久恩
今回はUC超越者の肉体が暴発しないようにする
…妖怪の気配がする?
心眼で男の怪しい所を見て気配感知で妖の気配を感知出来るか試みる
やはり私の第六感が奴は敵でボコボコにするべきと行ってますが証拠がありません…妖力も無い為変化も出来ない…とほほ
尾行しているが妖力が無い事が悔やまれる
私も妖なので分かりますが、あの癖は…
心眼と瞬間思考力で相手の妖特有の細かい癖を見ます
万が一バレた場合は指定UCで逃げるか試しに西恩寺家について簡単な質問をしてみる
西恩寺家が滅んだ原因は…?
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=55471
でもみ消された筈の事実を知っている場合は…?
グラディス・プロトワン
アドリブ歓迎
他の猟兵達からの情報によると東鬼・高丸なる者が怪しいらしい
俺の体では尾行や周辺調査は途中で気づかれるのが目に見えている
となれば小細工はせず本人に直接接触した方が良いだろう
「失礼、坂東武者の東鬼・高丸殿とお見受けする」
赤の他人に声を掛けられても反応は薄いか…?
ならば機械の身ではあるが肉体の強さを見せつけよう
…っ!
なんだこの食い付きようは
ただ筋肉に関心があるという様子ではない
俺の身体そのものを調べている…?
坂東武者は自身の肉体に妖を憑依させるという
変わり者とは聞いているが、まさか『普通ではない肉体』に興味があるのか…?
今にも食いかかってきそうだ
恐らくこの者が件の…
これ以上の詮索は危険か
ざわ… ざわ…
(汗が滲むし身震いが止まらん……これが武者震いというやつか。くくく……)
宴の主催である|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》より直接出た、合わせ身体における最大の賛辞を受けた昇永は今や宴の中心となっている存在。
『昇永殿、ささどうぞ!』
『それで昇永は、その妖をどう退治されたと?』
『いやぁ、まこと昇永は凄い』
おまけに碁里輔卿の息子らに囲まれて、質問責めを受けている。
出世という承認欲求が満たされてもなお注がれる願望の眼差し。この仕事が終えたらば身の上が大きく変わるだろうと確信する昇永は、ついに掴んだ星の位の座を確実とするために自らの妖退治武勇伝を『|碁里政《ごりまさ》』、『|碁里忠《ごりただ》』、『|碁里道《ごりみち》』に聞かせる。
三人は体つきがやけに良い割には妖退治の経験が浅く、昇永が一挙一動で武勇伝を語れば目を輝かせながら反応するのが何とも歯がゆく心地良い。
しかし、そんな至福の一時も密偵として放っていた式神による報告で終わりを告げようとしていた。
(何? 屋敷に忍び込んだ男が隠し修練場へ入っていっただと?)
少し厠に行くと断り宴席の場から一旦離れた昇永だったが、この報告を受けて瞬時に己の出世街道を打算して打ち出す。
「……よし、直接本人に問いただそう。妖なら俺が一番槍になるし、違うなら妖討伐のおまけの勲功として捕らえておこう」
盗賊の類でないとしても見逃す方が問題であり、どっちに転んでも更なる出世が約束されているとなれば尚の事。
だが、長く戻ってこなければ逆に自分が不審がられてしまう。
そう判断した昇永は、自らの転身式神『多忙冠者』を放って命じる。
「注目を浴びた俺が居なくなったことを皆に悟られてはいかん。お前は俺の『変わり身』なのだ、無様な真似はしてくれるなよ?」
多忙冠者の肩をポンと叩き、昇永と式神は互いに逆の方角へと向かった。
『昇永殿、遅かったではないか』
既に出来上がってしまっている平安貴族が昇永の生き写しとも言える多忙冠者に気づく様子はなかったが、この者の目はそうではない。
(ふぅむ……?)
歴戦の陰陽師たる碁里輔の目は狂いなく在れは化身式神であると見抜くが、どうも部下である八秦卿の姿は何処にか消えており、卿が招いた客らもコソコソと何かを嗅ぎ回っている様子。卿に置かれては恋多き故に何処かで女官や姫君を口説いているとして、客人である猟兵らが水面下で何やらしているという事は……さては我が屋敷に妖でも紛れ込んだか?
『父上、どちらへ?』
『うむ、厠へだ。どうも歳を取ると近くなって敵わん』
そして場所を移し、ここは益猪家の地下鍛錬場。
多種多様なトレーニング機器が取り揃えてある光景に久恩の肉体は思わず反応してしまいそうだったが、思わず反応してしまう超越者の肉体が暴発しないように抑え込む。
一体この使い込まれた鉄亜鈴は何貫ほどありけるや?
「……妖怪の気配がする?」
「するどころか、何やら腐臭も混じっている様子である」
ウィンと機体の駆動音を唸らせ、グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)は暗い穴蔵の中を暗視機能を働かせ索敵を行っている。
不可視の赤外線を壁へと照射させれば生々しい傷が至る所に走っており、ここで行われているであろう陰陽術の鍛錬が鬼気迫るものかを雄弁に物語っていた。
「恐らく壁の傷は、自らの化身式神とスパーリングを行ったものによるものでしょう」
「なるほど、自己鍛錬の最大なる敵は己自身。理に適った方法だ」
感心するグラディウスを他所に、このまま暗がりの中を手探りするのも時間の無駄だと判断した久恩は、自らの妖気から妖火を作り出して地下鍛錬場の燭台に灯りを付ける。
この灯りを頼りに周囲を見渡せば、程なくし部屋の隅で蹲っている『|東鬼《しのぎ》・|高丸《たかまる》』と思わしき者を発見する。
「失礼、坂東武者の東鬼・高丸殿とお見受けする。この場で何を……」
「待って。身体が……」
質問を投げかけようとしたグラディスを何かに気付いた久恩が制するが、その理由は程なくして彼にも理解できてしまう。
「……何だ、これは」
先ほど庭で見かけ、密かに尾行していた際には病的なまでに土気色であった身体が死後数週間も放置されたかのように、至る部分が液化して腐れた垂れている。
彼は皮膚病を患っていたと坂東武者らから聞かされていたが、それでは到底説明が付かない現実が目の前で起きている。
だが、頭は今も生気に満ちており、灯火を受けて反射する瞳が爛々と輝いていており、口元は心なしか裂け始めている気配も感じ得れる。
『如何にも。俺は東鬼・高丸……』
ぎろりと向けられた目にグラディスは戦慄した。
(なんだこの食い付きようは……ただ筋肉に関心があるという様子ではない。もしや、俺の身体そのものを調べている……?)
坂東武者は自身の身体に妖を憑依させるというが、それはまさに諸刃の剣。
術者の身体または命を確実に蝕むのであれば、『普通ではない肉体』に興味がある変わり者だと思うのは自然な考えだろうが、眼の前の現実は逸脱しすぎている。
寧ろ油断すれば、今にも首が離れて食って掛かってきそうだ。
「質問を変えますが……もしや、その首より下の身体は行方不明となられた『|佐阿《すけあ》・|九郎《くろう》さんの物では?」
「首をすげ替えた、と? いや、まさか。俺のような|機械生命体《人型ウォーマシン》ならともかく、通常の生命体がそんなことを……」
「はい。グラディスさんのご意見はもっともです。……しかし、出来てしまうのです。妖ならば……」
仮に陰陽術の類であれば外法中の外法。
惨めに腐れた垂れてしまう己の身体を雅な宴を穢で汚したくなく、こうして死に場所を求めてこの場所へと申しようとでも思っていたのか。
観念した高丸は可可と笑い声を漏らしながら、しわがれた声を絞り出すように語りだした。
『如何にも。俺は妖であり、悪路王とも呼ばれた奥州の高丸よ』
──奥州の高丸。
かの妖は、かつて奥州の山々を根城とした人間一人を丸呑み出来るほど巨躯を誇った大鬼の名である。
その名は陰陽師であるならば誰しもが一度聞いた大妖であり、久恩も養父より話だけは聞いていたが……。
「しかし、奥州の高丸はかつての遠征で討伐されたと聞き及んでいます」
『ああ、そうよ。確かに俺は、とある陰陽師に首をねじ切られ、こんな無様な姿と果ててしまった。苦節数十年、こうして人の頭を喰らい、すげ変わることで俗世に溶け込んでいた……だが、それも今日までよ。ほぉれ、俺の新しい身体がやってきた所だ』
高丸が不敵な笑みを浮かべ、ふたりよりも遥か向こうの闇へ視線を送った。
「待たせたな! 妖め、覚悟せよ!」
その視線は重役出勤さながらに地下鍛錬場へと降りてきた昇永に向けられたものか?
いや違う。高丸は彼よりも後ろの存在に視線を向けている。
『……ここで何をなされている?』
高丸が視線を送っていた次なる肉体……その正体は益猪・碁里輔であられた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『鬼一口』
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POW : うわんッ
【人肉を喰らいたいという飢え】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : わいらッ
自身の【人肉を喰らいたいという欲望】を解放し、物質透過能力と3回攻撃を得る。ただし毎秒加速する【飢えと乾き】を満たし続けないと餓死。
WIZ : おとろしッ
【口を大きく開いた】姿勢のまま、レベルkm/hで移動できる。移動中は、攻擊が命中した敵に【出血と肉体欠損】の状態異常を与える。
イラスト:黒丹
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「仇死原・アンナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「……ここで何をなされている?」
遂に妖を地下の密室へと追い詰めた猟兵たちだったが、不意に背後から聞こえた嗄れながらも覇気に満ちた声に誰もが振り向いたであろう。
声の主は|益猪《まっちょの》・|碁里輔《ごりすけ》。
当館の主である。
「ここは当家の鍛錬場であるが……」
平安貴族は日記を日々綴るが、それは子孫に受け継がれる一族秘伝の教えという面がある。それは陰陽術の鍛錬場も同然で、平安貴族の館自体が一種の要塞であるとするならばここはその中核。陰陽術に纏わる貴重な資料や研究成果が保管されている謂わば研究所であり、門外不出の領域と言って過言ではない。
即ち黙って入れば盗人同然のプライベート空間。
しかしながら猟兵とあろうものがそのような狼藉を働くとは到底考えられないとした碁里輔が睨んだのは、異様な妖気を放つ腐れ爛れた身体の持ち主であった。
『クハ、クハハハ……久しいなぁ? 碁里輔よ』
「その声……もしや……」
『ああ、そうさ。俺様は奥州の高丸……貴様に首を捻り切られた|悪路王《鬼》よ!!』
──奥州の高丸。
かつて奥州の山々を根城とした、人間一人を丸呑み出来るほど巨躯を誇った大鬼。
若き日の碁里輔は死闘の末に剛腕で大妖の首を捻り切った。
だが、首だけとなった鬼はなおも喰らいつき、碁里輔の手によって崖下に叩き落とされて果てたと伝えられている。
『なぁに、簡単な仕掛けよ。俺様の首を探しにきた地侍の頭を丸齧りにしてやって、返り討ちにしてなぁ……。首をすげ替え、その者に成りすまし、可愛い俺様の手下の骸から切り落とした首をぐちゃらぐちちゃらと化粧したまでの事よ』
「……なるほど。儂としたことがまんまと騙されたという訳か」
『応よ。しかしなぁ、首をすげ替えて人間に化けたとしても、並の人間の身体では俺様の妖気に当てられてすぐに腐れ爛れてしまう。今の身体の持ち主であった……東鬼・高丸だったか。アイツは中々良い身体だったので、多少は持った方だったがな?』
何たる生命力、何たる生への執着。
首だけとなっても挿げ替えることで生きながらえてきた鬼は、もはや正体を隠すことなど厭わないとばかりに口を大きく裂けさせながら嗤い出す。
『様々な肉体を試したが……やはりどれもこれも駄目になってしまう。そうしていく内に俺様は確信した。この首に相応しい身体はアイツしか居ないってなぁ?』
「つまり、貴様と因縁深いこの儂か」
『クハハハ! そうよ! 老いぼれてしまったお前が枯れる前にと、身体を変えながら奥州より京へと下って来た。お前こそが俺様の新たな身体に相応しいとなぁ!』
鬼は腕を斬り落とされたとしても奪い返すまで執念深いと云われるが、よもや新しい身体を得ようと長い年月を掛けるまでとは。
しかしそんな挑発に乗ることもなく、忌々しい復讐鬼に碁里輔は嘆息を漏らした。
「なるほど……だがしかし、儂も甘く見られたものよ。老いてもなお公卿の力量を維持する陰陽師と知っての狼藉とあらば、今度こそは完膚なきまでに叩き潰してくれよう……むん!」
ケタケタと嗤う|鬼首《おにこうべ》を前に、碁里輔は低い唸り声と共に肌という肌に血管を浮かべさせながら自身の霊力を高めて行く。
これぞ益猪家秘伝の陰陽術『|碁里羅《ごりら》』!
伝説の霊獣たる碁里羅を自らの身体に宿すという謂わば肉体強化系の陰陽術で、相応に鍛えられた肉体の持ち主でしか伸し掛かる負荷に耐えられない両刃の剣。
だがその威力は代償に見合うもので、まさ筋肉はすべてを解決させる。
「ふしゅるるる……ぐうっ!?」
だが、筋肉は万能ではない。
肉体を整えるべく|蛮附厚附《ばんぷあっぷ》の最中であった碁里輔の胸に激痛が走り、膝を付くと霊力の高まりが止まって落ちていくではないか!?
『クハハハハ! |齢《とし》には勝てんなぁ、碁里輔ぇ? 例え陰陽師と言えども、人間である以上は老い朽ちて逝くものよ。ましてや此処は、如何なる陰陽術の訓練で生じる激音を市井へと漏らさぬ結界が張り巡らされた地下の修練場。助けを呼ぼうにも外には一切聞こえんと来たものだ!』
「ぐっ……貴様、もしやそれを見越して……」
『ああ、そうだ。直ぐにお前の元へ来るのは容易かったが、今の俺様は首だけの存在。馬鹿正直に挑めばお前の剛腕に叩き潰されるのが目に見えているならば……十分に勝てる時が来るまで待った訳よ! まさかこうも上手く行くとはなぁ、クハハハハ!』
熟れた柿がぷつりと枝から落ちるかのように、高丸の首が哀れな被害者の身体から落ちれば人二人分の大きさである鬼の頭へと変貌する。
それはまさに人間を悲鳴を上げさせずに一口でまるごと喰うとされる鬼……鬼一口であった。
『俺様はお前に為る。なぁに、駄目だったとしてもお前のバカ息子や宮中の公卿らの頭を丸齧りして化け直すだけだが……』
巨大な鬼の頭となった高丸は、苦しみながら蹲る碁里輔を一瞥するとギロリと爛々と輝く目玉を猟兵たちへと向けさせた。
『証人に逃げられては後々面倒だ。骨も残らず喰らい尽くしてくれるわ!!』
グラディス・プロトワン
アドリブ歓迎
なんという執念か
首だけとなってもなお生き続けるその生命力…生半可な攻撃では倒す事は出来ないだろう
百戦錬磨の碁里輔殿に頼れないのであれば猟兵が対処するしかあるまい
俺も陰陽術が使えれば良かったのだが、残念ながらそういった類のものは扱えなくてな
もし他の猟兵が妖怪の対処に秀でているようなら、そちらに任せた方が良さそうだ
もしかしたら隙を見て碁里輔殿の身体を奪いに来るかもしれん
こちらへの対処も必要であろう
陰陽術は扱えないというだけで戦闘が苦手なわけではないのでな
迎え撃つぐらいは容易いはずだ
万が一、俺を喰らおうとしてくるようであればその溢れる生命力を逆に喰らってやろう
スノレンツェ・ノレシーン
うわー、やっぱり鬼だったね☆しかもそれだけ考えてる慎重派ってことか☆
一回やられてるから、当然かな?
ま、やることは変わりないか☆
わざと人型とりつつ、雷公鞭でのUC使うね☆
スノちゃん、別に攻撃あたってもいいんだよねー。むしろ、庇うためにも積極的に当たりにいこうか☆
骨も残らずっていうけどさー、スノちゃんは骨もないんだよね、残念☆
肉体欠損しても、まあタールに戻るだけだし。出血何それ美味しいの?
丸ごと喰らわれても、内部から殴るだけだしねー☆
死なないスノちゃんがいる時点で、証拠隠滅も何もないんだよ☆
他の猟兵仲間もいるし、逃がすつもりもないんだけどさ!
「うわー、やっぱり鬼だったね☆ しかも、それだけ考えてる慎重派ってことか☆」
猟兵たちに追い詰められなおも、予定とは違えど目論見通りと相成って妖は遂に正体を現した。
人間の大きさであった頭は鬼の形相となるや否や風船のように膨らみ、嘗ては大鬼であったことが頷ける大きさとなるが、そんな大妖に臆する素振りを見せずにスノレンツェは不定形の身体を震わせながらヒトガタへと変えさせていく。
「なんという執念か。首だけとなってもなお生き続けるその生命力……生半可な攻撃では倒す事は出来ないだろう」
この状況を楽しんでいる素振りのブラックタールとは対象的に、グラディスは本性を現し鬼の首が鬼気迫る形相で睨めば溢れ出る妖気も相まって思わず凄んでしまいそうであった。しかし、ふたりの背後には心の臓の発作で口惜しそうなうめき声を漏らしながら蹲る碁里輔が居る。
僅かに駆体を反らしてモニターにその姿を捉えれば各種センサーが捉えた呼吸や脈拍の乱れなどは数値となって表示されるが、幸いなことに取り分け命には別状がない数値であった。このまま安静にしていれば次第に収まる程度なのだが、状況が状況であって満足に動ける状態ではない。
自ら|悪路王《奥州の高丸》と名乗った生首のみの鬼は、自らをこのような姿へと追いやった碁里輔や自身の討伐を命じた宮中の公卿らに強い恨みを抱き、身体を変えながら虎視眈々とその機会が訪れるのを待っていた。となれば、自分たち猟兵を出し抜いて碁里輔の頭を喰らい、成りすまして逃亡を図るやもしれない。
そして、外では今だ競べ身体は続いている。
仮に碁里輔の身体を手に入れた高丸が宴の場まで逃げた後に、客人として招いた猟兵等が乱心して狼藉を働いたと騒ぎ立てられれば目も当てられぬ混乱は必定だ。
(ならば卿を何としても護り抜き、この場において高丸に引導を渡すしかない)
陰陽術の類を体得していてば何らかの打開策を講じれただろうが、幸いなことにこの世界の猟兵たる陰陽師らもこの場に列している。いざとなれば彼らの助力に頼むしかないだろうが、陰陽師が不倶戴天の敵である妖もまた何らかの対抗策を持っている。
例えばそう、陰陽術を行使する隙を与える間もなく決着を付ける。
『ケケケケ! 脇見は厳禁だぜぇ!!』
グラディウスが碁里輔の容態をチェックした隙を突く形で、高丸の首がゴム毬のように弾んで跳んだ。
ぱっくりと開かれた大口から剥き出された牙は、大鎧を身に纏った坂東武者でさえも具足ごと噛み砕く金剛石そのもの。
ウォーマシンの装甲とて、噛みつかれれば唯では済まされないユーベルコードの一撃。
だが、虚を突かれたグラディウスの前に躍り出る者の姿があった。
「そう来ると思ってたよ☆」
黒い粘体の中から取り出された鋼鉄製の多節鞭である雷公鞭の尖端から閃光が迸り、宝貝『雷公天絶陣』の雷光が高丸の口内へと降り注がれた。
だが、雷撃を喰らわれても怯むことなくグラディウスの盾となったスノレンツェの身体を一口に喰らった。
『クハハハ! 思わず歯がビリっと来ちまったが、これはこれで刺激的だったなぁ!』
人間の形を象ってたと辛うじて分かる程度と成り果てたスノレンツェの身体の一部から黒い粘液が吹き上がり、高丸は嗤いながらそれらを零さずに咀嚼する。
しかし、通常ならば仲間がやられてしまったことにショックを受けるところなのだろうが、グラディウスはまったく動じることはなかった。
と言うのも、喰われているスノレンツェの指がピースサインをしていたのもあったのだが、彼がどのような存在であるかは同郷の世界出身者ならば誰もが知る常識によって裏打ちされたものであるからだ。
「そうか。だが、もっと刺激的なことがこれから起きるぞ」
『アァ? 何を言って……っ!?』
その直後、スノレンツェの身体を残らず喰らった高丸が脂汗を流しながら目が大きく見開いた。
『グゲェエエエ!!』
「骨も残らずっていうけどさー、スノちゃんは骨もないんだよね。残念☆ 丸ごと喰らわれちゃっても、タールに戻って内部から殴るだけだしねー☆ えいえい☆」
不定形な身体の一部を針状に尖らせたスノレンツェが、まるで一寸法師になったかのように高丸の内部から突き刺していく。一突きする度に高丸は悶え苦しむ叫び声を上げながら、口の奥から走る激痛に襲われて暴れ跳ね回る。
「そら見たことか。だが、こちらも消化される前に仲間を助けねばならない。その代償としてお前の|妖力《生体エネルギー》……抱くぞ!」
暴れる頭を取り押さえると、グラディウスの駆体からユーベルコードの顕現を示す蛍光色の発光が灯される。
それを合図に上半身前部に設けられた試作型E.Dシステムのエネルギー吸収孔が開かれて、巨大な鬼の頭を締め上げて密着させれば溢れ出てくる妖気奪うエネルギー吸収攻撃『スタティック・サクション』が始動された。夥しい妖気はウォーマシン用のエネルギーへと変換され、充填されるに連れて締め上げる出力が上昇されていく。
しかし、流石は鬼であるのか頭骨がたわみはする物の潰し切ることは叶わない。蓄えてきた妖力が奪われつつある高丸の力が徐々に喪われているのは駆体を通して伝わており、あともう一押しであるとグラディウスは更に出力を上げる。
『ギギャアアアッ!!』
だが、生き汚い鬼は渾身の力を振り絞って、屈強な拘束から逃れるべく大きく跳ね上がった。それの伴い、大きく開けられた大口から黒い塊が吐き出され、べちゃりと地面に落ちればぷるぷると脈動し出す。
「いえーい! 死なないスノちゃんがいる時点で、証拠隠滅も何もないんだよ☆」
それに続く形で高丸の首が弾みながら地面に落ちれば、恨めしい目つきでふたりを睨み返すのであった。
大成功
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家綿・衣更着
アドリブ歓迎
まずUC『あやかしメダル「打綿狸の衣更着」』の結界術で碁里輔さんを保護
「あくじの高丸!体を奪うなどまさに名に違わぬ非道!正義の忍者、衣更着が成敗するっす!」
UC『骸合体「鬼ん肉」』!さらにおいら(妖怪)と悪鬼(鬼ん肉)と幽鬼(佐阿九郎)の力を借りて今!怒りと共にUC『降魔化身法』っす!(全身から流血)
あんたに死出の歌を送ろう
「筋肉ぞ 驕り|衒《てら》さひ 誇ろへど |盗人《ぬすびと》わろし あな無体なり」
(筋肉を得意がって見せびらかし誇っても、盗んだものに意味などない)
悪鬼(鬼ん肉)のごとき装甲に覆われた腕で、すべての化術を怪力に変換した全力のパンチ!
九郎さんの無念、思い知れっす!
「あやかしメダル『打綿狸の衣更着』っす!」
猟兵の手によって飛び上がった高丸の首と合わせるように、衣更着の手から放り投げられた狸が刻印されたあやかしメダルが空中で回転すればピカリと光る。迸った光は眩い閃光となりながら結界となって、碁里輔と猟兵ないしオブリビオンとを断絶させる。
ほんの一時しのぎだろうが、これならば碁里輔に襲い掛かられようとも結界が弾いてくれるはず。
「あくじの高丸! 体を奪うなどまさに名に違わぬ非道! 正義の忍者、衣更着が成敗するっす!」
『グゥウウウウ! 狸の妖怪ふぜいがッ!!』
鬼は妖怪の中でも高位な存在。
それが人間側に付く化け狸にこうもやられてしまえば、位の高いプライドがそれを許さないのであろう。妖気の大部分を仲間の猟兵によって喪われようともそれらを補わんとばかりの飢えと乾きに苛まれながら、高丸はズタズタにされた内臓より込み上げてくる血で舌を濡らしながら自身の牙を舐めあげて赤く染め上げさせている。
手負いの鬼は血走った目玉を大きく見開かせながら、この恨みを晴らさんとばかりに再び牙を向きながら飛び掛かる。
「骸合体『鬼ん肉』! さらに|妖怪《おいら》と|鬼ん肉《悪鬼》と|幽鬼《佐阿・九郎》の力を借りて今! 怒りと共にの『降魔化身法』っす!」
ユーベルコードが顕現する輝きを瞳の奥底に浮かべさせながら印を結べば、どろんと舞い上がった妖怪煙が衣更着の身体に吸い込まれていく。
その代償として、人体の穴という穴から逆流した血流が噴き出したことにより流血で装束をも血で紅く染め上げさせながら、衣更着も飛び上がる。
「あんたに相応しい死出の歌を送るっす!」
筋肉ぞ
驕り|衒《てら》さひ
誇ろへど
|盗人《ぬすびと》わろし
あな無体なり
部屋の片隅に腐れ爛れた嘗て佐阿・九郎と呼ばれていた坂東武者を憐れみ、同時に盗人猛々しい高丸に侮蔑の意を示した鼓筋和歌である。
罪もなき被害者等の無念を晴らさんと、衣更着の中から沸々と湧き上がる怒りが流れる血を悪鬼あるいは鬼ん肉の如き赤き装甲で覆われた腕をもってして迎撃する。
自らの血で支払った代償をもってして、衣更着は鬼の如き怪力を一時的に有した。
その一撃は鼓筋和歌と共に放たれ、金剛石の如き硬い牙を砕かせながら修練所の壁へと叩きつけさせると空間全域が振動するものであった。
『わいらッ!?』
「九郎さんの無念、思い知ったかっす!」
奇声を発しながらべちゃりと叩きつけられた首を見下ろし、術の効力が喪われても紅く血で染まった狸の化身忍者の怒りはまだ収まりそうもない。
大成功
🔵🔵🔵
五ヶ谷・グレン
アドリブ連携歓迎
『幸と不幸を織り交ぜる一匙』使用(一般的鬼サイズ)
■心情
(とても良い重たいマッチョのグレン君の体重はキャバリアを凌駕しています)
うーん、(意図はしていなかったけど新しい体の標的として目立った自覚はあった)
体自慢ってことなら負けない自負もあったが、
ここまで相手にされないと少し凹むなぁ
■魔女スタイル
(|毒八つ橋《布槍風》を構えつつ)
まあ、執念とか無念とかは比較的やりやすくはあるなぁ。
まぁ、飢えているなら食わしてやろうか
(基本的にUCで相手の飢えや殺意を掴んで物理的にそらし、
翻した毒八つ橋をマタドール的に喰らわします)
腹が減っているならまだまだあるぞ
(UCで飢えを自分に向けさせ、隙を
『ヌゥウウウ! このままヤラれ続ければ、この身が保たんッ!!』
ならば新鮮な血肉を喰らって受けた手傷を癒やさんと、高丸は猟兵らの中から食い出がありそうな人物を見定める。
『……よぉし。お前に決めたぞォ!!』
「えっ、俺?」
ギロリと高丸の視線が向けられた先に居たのは、魔法によって鬼と見間違わんばかりの大男にまで縮小したことで地下修練場へと降りた巨人であるグレンであった。
人間大まで縮んだとは言え、その筋肉の密度と質量は元の巨人変わらないもので、今の体重もここに来るまで数枚の床板を踏み抜くまでなちょっとしたキャバリアを軽く凌駕するほどである。
(うーん……体自慢ってことなら負けない自負もあったが、ここまで相手にされないと少し凹むなぁ)
この大きさとなっても碁里輔にも劣らずな筋肉であれば、新たな肉体候補として目を付けられそうな自覚はそれなりにあった。
だが、現実は新鮮な肉の塊である。
前向きに捉えれば食い出がある身体なのだろうだが、なんと物寂しいものか。
『クハハハ! 恐怖のあまりに身動きすら取れぬか!!』
そんなことを思っているとは露知らず、高丸の首は人肉を喰らいたいという飢えの感情を爆発させれば、ユーベルコードの左様で屈強なグレンの丸齧りできるほどにまで膨れ上がらせる。なんとも禍々しい妖気も放ちながら鬼の首は飛び掛かろうとするが、餌食の対象となっているはずのグレンには焦りの色すら見せておらず、ぼりぼりと髪を掻きむしりながら鷹揚とした態度で動き始める。
「──まあ、執念とか無念とかは比較的やりやすくはあるなぁ」
呑気そうに魔女スタイルで身構え、迫り来る血で染まった牙へとグレンは正対する。
彼が見据えているのは鬼の首ではなく、その周りに浮かび上がっている飢えや殺意と言った負の感情。山の如し不動なる趣きでユーベルコードの顕れを瞳の奥底に湛えさせながら、彼は魔女としての力を振るって飢えや殺意による負の感情その物を掴み上げる。
さすればそれに伴って高丸の首も大きく反れて行き、魔力をもってして生み出された愛を体現する紡がれし抽象である毒生八つ橋を闘牛士が手に持って猛牛を挑発して翻す赤い布さながらに顕現させる。それば牙の尖端に引っかかれば風圧をもってして自然と大口の中へと入っていき、何が起きたか分からぬ一瞬の出来事も相まって高丸は反射的にばくりと口を閉じさせて喰らうに至る。
『グペペペペペ!? 何を喰わせやがったっ!』
即席ながらも魔女の毒スイーツとなれば、その効力は折り紙付き。
血混じりの泡を吹かせながら、今喰らってしまった物を吐き出さんと暴れ回る高丸に向けてグレンはにじり寄る。
「腹が減っているならばまだまだあるぞ?」
喰らうならば喰らって見るが良いと、はちきれんばかりな筋肉の魔女は赤き布の如き|毒生八つ橋《布槍風》を振りなびかせながら更なる挑発を煽るのであった。
大成功
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神城・星羅
愛しの君の朔兎様(f43270)と参加
朔兎様が流石に引いておりますね。自分より体格がいいものを羨ましがるのは男としての気持ちで理解はできますが、喰らって同じになる手段はいただけませんね。行きましょう!!
音律の式府発動!!【高速詠唱】で【誘導弾】を当てた後、カードは【攻撃回数】増加を選択!!これさえあればもう一度【誘導弾】をあてれば全ての特殊能力を無効化できます!!そしてそのさいには【攻撃力】を選択しましょう。
博打的戦いですが、朔兎様と連携すれば!!【視力】【気配感知】を駆使して透過しても位置を把握するようにし、【残像】【幻影使い】を駆使して攻撃を回避。
【限界突破】の調律の弓の一矢を放ちます!!
源・朔兎
愛しの姫の星羅(f42858)と参加
筋肉多い男が羨ましいのは本当だ。でも俺は未熟だし、修行することで筋肉たくましい男になれると信じてる。なので、嫉妬する相手を取り込んでまで追いつこうとする姿勢は認められないなあ。
シンプルに欲の力は強い。俺も強くなりたいという欲がある。なのでトリニティ・エンハンス発動、防御力をあげる!!【受け流し】【残像】【幻影使い】【変わり身】【オーラ防御】をもって攻撃を耐え切るぞ!!
一度攻撃うければこちらのものだ!!【カウンター】!!【切断】【貫通撃】【限界突破】!!全ての全力をもって必殺の双月の剣の斬撃を!!
せめて自分で努力しろ!!まあ、祓うことに違いないが。
『ぐげ、ぐげげげげ! ようやくスッキリしたぜェ……!』
血混じりの反吐を吐いて、ようやく喰らってしまった毒を吐き出し終えた鬼の首、奥州の高丸。流石は首だけとなっても宿主を替えながら生き長らえてきた妖であると、唯でさえ汗臭い地下空間に満ち溢れつつある酸っぱい臭気の穢れから出来るだけ遠ざるべく、星羅は愛しの君たる朔兎を護る形で調律の弓を引き絞りながら身構える。
「……筋肉多い男が羨ましいのは本当だ。でも俺は未熟だし、修行することで筋肉たくましい男になれると信じてる。けれども、嫉妬する相手に成り代わって貶めるという姿勢は認められないなあ」
「私も同感です。身体はとうの昔に喪われていますが、此れ為る妖を逃がせば宮中のみならず都は混乱に至りましょう。行きましょう、朔兎様!!」
若き退魔師らは互いに頷き合い、眼の前の妖をここで討たんと霊力を高め合う。
『クハハハ! 何とも仲睦まじいものよ。ならば、どちらかが生き残って悲しませないように仲良く喰らってやるわ!!』
今まで与えられた毀傷を癒やすべく、賦活の源でもある妖力の回復を求め、高丸は自らの血で染まった牙を剥かせて襲いかかる。
(このまま避けても二撃三撃目を繰り出して来るだろう……)
(細身の体つきにも関わらず猪武者な朔兎様のことです。私が制止する間もなく突出するでしょう……)
──ならば!
両者の眼底にユーベルコードが顕現する煌めきが灯される。
まず初めの一手を打ったのは星羅であった。
番えていた矢を張り詰めた弦より外せば、密室内に凛とした鳴弦の調べが響き渡る。
『ケケケケ! 鳴弦の儀だと? その程度でこの俺様を祓えると思ったかッ!!』
下級の妖ならいざ知らず、ここまでの大妖となればせいぜい耳障りなものに過ぎない。
しかし、これなるは|超常《ユーベルコード》を顕現させるための音律の式府。
三枚の札が星羅の眼の前に現れ、その一枚を選んで再び弦を弾けば破魔の残響は山彦の如く地下修練場内を反響し続ける。
「朔兎様!」
「助かる!」
一度の鳴弦の調べでは耳障りな程度だが、それらが幾重にも重なり合えば更に耳障りなものとなろう。高丸の眉間が深く寄せられたのを確認すれば、二振りで一組の月の紋章が入った白銀の長剣を抜きながら星羅の背後より躍り出る。
その刹那、朔兎の身体から溢れ出した霊力が炎と水と風の渦となって取り囲み、星羅を喰らわんとばかりに大きく開かれた高丸の突進を受け止めてみせる。
『ふぁ、ふぁんだと?』
「止めてしまえばこちらの物だ!」
一歩踏み戻り、仕切り直した朔兎が泡を食ったのように狼狽える高丸の顔面を銀の双剣をもってして一陣の風と元に切り抜けるべく、再び地面を蹴って跳んだ。
「朔兎様、お見事です! 私も……いざ!」
それに合わせるかのように矢を番え直した星羅が、愛し君へと中てないよう左へと避けながら大妖を狙って調律の弓の一矢を解き放つ。
静止されようとも次なる一手に出ようとした高丸であったが、それは深々と右目に突き刺されば鳴弦の調べを打ち消す絶叫が室内に響き渡ろう。
『アギャアアアアッ!!』
それと同時に朔兎が繰り出した双剣の一閃が鬼の顔面に深く刻まれ、阿鼻叫喚の鬼の慟哭は更に激しさを増したのであった。
大成功
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武富・昇永
逃げるつもりなど毛頭ない!碁里輔さまに代わってこの俺が貴様に引導を渡してやろう!
碁里輔さま、具合を悪くされているところ申し訳ありませんが今しばらくお待ちください!
この青天井の昇り鯉、武富・昇永があの高丸とかいう鬼の首を討伐してまいりますので!
(敵の攻撃を召喚した{護廷式神・出世魚ブリ}で受け止めると『欲望解放』で溢れた出世欲を式神に注いで頑強にする)
俺の式神は中々噛み応えがあるだろう?
さて今度はこちらの番だ!
首実験も不要だろう!
このまま荼毘に付してやる!
({思業式神・出世魚ハマチ}も召喚し突撃させて動けないように抑え込むとUC【出世道・天穿つ瀑布】を発動して敵だけ燃やす蒼炎の渦を召喚する)
西恩寺・久恩
うわぁ…粘着質ですね
敵にドン引きしながらも戦闘態勢をとる
瞬間思考力と第六感は常に発動
当たらなければどうという事はないですね
敵のUCに対しては心眼で敵を見ながら推力移動で横などに回避する(3回攻撃なので最後まで集中します)
これは日頃の鍛錬の成果を見せる時ですね
指定UCを発動して反射無視拳波動を放ち敵を吹き飛ばす(次元干渉の力で物質透過能力を無視して攻撃)
無限天理陰陽術式…鬼瞰之禍!
指定UCの効果でUC無限天理陰陽術式『鬼瞰之禍』を発動
次元干渉の力で敵を殴り飛ばした瞬間凄まじい速さゆえに真空空間が発生して敵が引き寄せられる
『鬼』に相応しい術式でしょ?
といい再び敵を殴り飛ばした
父様との修行の成果です
メディア・フィール
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK
「まさか、ちょっと、その、あれなノリだと思っていたら、こんな強敵が出てくるなんて……」
「だけど、ここで引くわけにはいかないっ!」
「でも、ここでボクらが負けたら、さらに被害が広がるっ! それだけは止めないと!」
強烈かつすさまじい連続攻撃で責め立ててくる悪路王に【邪竜黒炎拳】で対抗します。一撃一撃が重く、【限界突破】しなければ受けきれないような丸かじり攻撃に大苦戦しますが、あえて真正面から受け止め、そして、隙を見て巨大な顔の目に【目潰し】を仕掛けます。もちろん、相手も警戒しているでしょうが、それでもうまくヒットすれば大ダメージになるかもしれません。
「まさか、ちょっと、その、あれなノリだと思っていたら……こんな強敵が出てくるなんて……」
「同感です。日頃の鍛錬の成果を見せる場のつもりが、ここまでになりますとは」
日々弛まぬ努力で磨き上げた肉体を御覧させる平安貴族の雅な遊び、競べ体。
猛々しくも雅な言葉遊びである鼓筋和歌を交えながら肉体美を讃える場に紛れ込んだ妖を懲らしめるつもりが、まさかこんなトンデモナイ展開になるとは誰が想像出来たか。
トレーニングで肉体の鍛錬が日課であるメディアと久恩にとって、ちょっと変わったボディビルダー大会を楽しむ感覚であったのは確かであるが、オブリビオンが関わっている以上はこうなることもままあろう。
「碁里輔さま、御身体の具合は大丈夫ですか!?」
「う、うむ……。少しは、発作が収まって来たそうだ……。忝い、御主の名は……」
「武富・昇永、でございます。碁里輔さま、具合を悪くされているところ申し訳ありませんが今しばらくお待ちください! この青天井の昇り鯉、武富・昇永があの高丸とかいう鬼の首を討伐してまいりますので!!」
大事なことは二度言いましたと、これ見よがしと恩に着せつつ自らの名も昇永は碁里輔へと売り込む。
(ふふ……これで星の位への出世は確実となった!)
どろりとしたドス黒い出世欲を滾らせながら、昇永は心の内でほくそ笑む。
後は碁里輔と因縁深き高丸とかいう鬼の首を討てば、夢にまで見ていた上級貴族たる公卿に列するのも夢ではない。
その為にもあの妖めを取り逃がすことなく、何が何でも生き証人となろう碁里輔卿の眼の前で処せねばである。
『おのれぇ……口惜しや……口惜しやぁ!!』
牙を砕かれ、目を射抜かれ、顔面を斬り割かれようとも、|鬼一口《奥州の高丸》は果てしない恨みの念を振り撒きながら吠える。
「うわぁ……粘着質ですね。……お気をつけください。手負いの獣は恐ろしいと言いますが、妖も同様です!」
「だけど、ここで引くわけにはいかないっ! ここでボクらが負けたら、さらに被害が広がるっ! それだけは止めないと!」
自らは妖力が無い妖怪であり、そんな妖怪に興味を惹かれた妖が寄り付く森で日々激突を繰り返しているからこそ、久恩は知っている。
ここまでやられれば、あとは捨て鉢となって一矢報いようとするのが妖だ。
「左様。中途半端に祓って怨霊と成って貰っても困る故、完膚なきまでに荼毘に付しるのが最善だ」
『ならば、やってみろぉ!!』
ふたりの陰陽師による挑発を受けた高丸は牙を剥かせながら再び襲いかかる。
満たされない飢えと乾きが人肉を喰らい尽くす欲望となり、三人を喰らい尽くさんと大口を開かせる。
幾つかの牙は砕かれようとも、丸齧りされれば猟兵とて命の保証は無きに等しい。
「そんなに喰らいたければ喰らうが良い。ただし……」
昇永は護廷式神・出世魚ブリを召喚して、迫り来る高丸の口へと放つ。
「噛み砕ければな?」
解放された欲望により式神はゴムさながらな弾力性を付与され、高丸が噛みつけばその弾性をもってして牙が突き刺さるものの崩れはしない。
「これは日頃の鍛錬の成果を見せる時ですね。無限天理陰陽術式……仙才鬼才!」
しかし、牙が封じられようとも、高丸は止まること無く迫ってくる。
この身を肉弾としてぶつけようという魂胆なのだろうが、血を滲むような特訓や筋トレで鍛え上げれ、更に霊力を練り上げるころで変形させた鬼の手からユーベルコードが顕現する輝きは放たれて応報される。
かくなる陰陽術の秘拳は、超神速にて次元すら干渉する波動を放つ拳。
加えて背骨を含む全身に至る関節の回転や連結加速させれば、耳をつんざく破裂音と伴う衝撃波が空気の壁を形成して、自身よりも質量を上回る妖を吹き飛ばすことなど朝飯前である。
『グゲェェ!?』
「まだまだぁ!!」
だが、ユーベリコードの域に至った秘拳たる真髄はここからだ。
久恩と高丸の間では、あまりの拳速よって一時的にだが真空領域となっている。
これをもって敵を引き寄せれば、一撃目の遠心力を利用して破壊力は倍以上となる。
名付けて、無限天理陰陽術式……鬼瞰之禍!!
「よぉし! 合わせるよ、フォフォ!」
「望むところです、メディアさん!」
生まれ育った世界は違うが、互いに拳を磨き上げる同士で気が合ったのだろう。
黒き焔を拳に纏ったメディアが久恩が繰り出す二撃目の鬼拳に併せて繰り出されるは、邪竜黒炎拳。
燃え盛る黒き焔の塊となった高丸の首は石壁へと叩きつけられ、頑強な鬼の骨と言えども粉砕されるに至る破壊力を前に再び血反吐を吐くしかなかった。
『かくなる上は……怨霊と成って、お前ら共々恨み潰し……』
「させんぞ」
追撃すべく昇永が放った業式神の出世魚ハマチらが壁に埋もれた高丸の首へと向かい、『出世道・天穿つ瀑布』によって蒼炎の渦を生じさながら高丸の口内へと侵入していく。
穴という穴から浄めの蒼炎が噴き出せば、高丸の怨みを遥かに凌ぐ昇永の身体の内から溢れ出る出世欲によって更に焔の勢いは増していく。
かくして宴の場に紛れた|遠き過去《オブリビオン》はこの世から消滅した。
この事実を知る者はこの場に居た者のみであり、貴族の日記にも残されない記録として儚き平安の|泡沫《うたかた》として密かに忘れ去られるのであった。
大成功
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