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梅雨の温泉への来訪者

作者：寅杜柳

●望まれぬ異星からの観光客
　ケルベロスディバイドのとある温泉地。
　春のうららかな空気がしとしとと静かな雨の降る梅雨に移っていくのに合わせ、庭園の紫陽花が色鮮やかに咲いている。
　美しい庭園、そして様々な効能があるという温泉目当てにやってくる観光客を狙うデウスエクスがいた。
　多腕の戦士たちを従えガイドブックを捲る『星座獣・アルゲーディア』、かの食通デウスエクスの趣味と実益を兼ねた襲撃はもう、間もなくと迫っている。

「はーい獣人世界大戦おつかれさま！　早速で悪いんだけど、ケルベロスディバイドの事件が予知されたよ！　手の空いてる人はちょっと力を貸してくれないかな？」
　はきはきとしたドラゴニアンの少女、ソニア・コーンフィールド（西へ東へ・f40904）の声がグリモアベースに響く。
「えっと、今回事件が起こるのはとある温泉地だね。静かな庭園に囲まれた旅館があって、そこに集まってくる観光客を狙ってデウスエクスが来るみたいで、このままだとグラビティ・チェイン奪取のために虐殺されちゃうからそれをどーにか阻止してほしいの！」
　そう語ったソニアは彼女の見たデウスエクスと戦場についての説明を始める。
「最初に来るのはラーヴァナ戦士団の部隊だね。腕が多い人型で、魔法の炎と曲刀を巧みに使ってくるみたい。庭園の近くでまだ整備されてない広場があってそっちから庭園の方に向かってくるみたいだから、そこで迎撃するのが戦いやすいかもしれないね。その次は部隊を指揮してる宇宙食通の『星座獣・アルゲーディア』との戦いだね。名物料理を堪能してグラビティチェイン枯渇させてきたり奪ったり、食事に没頭して攻撃遮断してきたり……宇宙食通ってなんだろね？　ちなみにここの名物は今の時期だと山菜や川魚、特に鮎の塩焼きが絶品で、他にはヤマモモのジャムとかも美味しいよ！」
　あとは決戦配備も上手く使えばより確実に倒せるかもね、とソニアは付け加えてグリモアである謎めいた立方体のパズルを取り出して。
「あ、デウスエクスを撃退できたら旅館の人が歓待してくれるみたいだよ。温泉貸切だったり名物料理振る舞ってくれたり……のんびりしてから帰るのもいいかもねー。まあまずはデウスエクス退治をちゃちゃっとやっちゃおう！」
　そう締め括り、がちゃがちゃとパズルを組み替えるソニアは猟兵達を温泉地へと転送したのだった。

第1章 集団戦 『ラーヴァナ戦士団』

POW   :    羅刹焔 レベル×1個の【紅蓮】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。 SPD   :    月の刃 自身の【瞳】が輝く間、【曲刀】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。 WIZ   :    精神征服 質問と共に【手にした髑髏から魔炎】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。 イラスト：Anenecca 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●平穏を狙う羅刹を撃破せよ
　猟兵達が転移してきたのは穏やかな空気の田舎の旅館。
　広い土地を利用した広々とした庭園は鮮やかな紫陽花がよく目立ち、春から夏にかけて開く花々が美しく彩っている。
　その庭園の端に未整備の土地がある。何も無いそこに急行する猟兵達は、その向こうからやってくる羅刹ーー『ラーヴァナ戦士団』の群を見定めて、一気に攻撃をしかけた。

　最初に切り込んでいったのはサングラスを掛けたダンピールの風雷堂・顕吉（吸血鬼ヴァンパイア狩人ハンター・f03119）。この世界の日差しはダークセイヴァー出身の彼には強すぎる、しかしサングラス越しに討つべきデウスエクス共を見据えると、ユーベルコード【血統覚醒】を起動してその瞳を真紅に輝かヴァンパイアに変身、『｜小竜公《ドラクリヤ》』という銘の鉄塊の如き刀を携え羅刹へと切り込んでいく。
　自在に操作される紅蓮の炎は厄介極まりないが、ヴァンパイアに変身し戦闘能力が飛躍的に増した顕吉はそれらを見切り躱しつつ羅刹の懐に飛び込み鎧砕きの刀を薙ぎ払い数体の羅刹を纏めて吹き飛ばす。
　一瞬デウスエクス達が怯んだ所に、憤怒の形相の猟兵が一人飛び込んでくる。
「……お前達はリア充だな！？」
　強烈な顔立ちの不破・静武（人間の非モテの味方・f37639）がいきなりそう叫んできて、流石のデウスエクス達も何を言われたのか理解できないように動きが一瞬止まる。
　静武にとってはこんな温泉旅館にやってくるようなオブリビオンがリア充でないわけがない。グラビティ・チェインの収奪という目的を達成しつつ温泉を楽しむなど仲間のデウスエクスの中でもきっと勝ち組でモテるのだろうーー一方的な理屈付けだが、やる気のないよりは殺意を燃やし戦う動機になっているのなら否定する必要もないだろう。
　愛用のリア充ころし（焼却）という名の火炎放射器を構え
「リア充は消毒だ～～！！」
　ユーベルコード【汚物は消毒だ】を起動した彼の怒りは炎を生み出して、ラーヴァナ戦士団の操る紅蓮の炎へと真っ向からぶつけ、拮抗させる。
　炎と炎がせめぎ合う中、鉄塊剣『錆色の乙女』を持つ仇死原・アンナ（処刑人、地獄の炎の花嫁、焔の騎士・f09978）は静かにユーベルコード【半陰陽の鉄の乙女】を起動、地獄の炎が鉄塊剣より燃え上がると共に、刃は対戦車砲形態へと変形。移動能力を失うが破壊力と射程は三倍に跳ね上がっている。
「……貴様等はこいつで蹂躙される……貴様等が犯したであろう女子供達のように……」
　どれだけの無辜の民がこの不死のデウスエクス達の犠牲となり、グラビティ・チェインを収奪されたことか、その憤怒を力に変えアンナは叫ぶ。
「その恐怖と苦しみを思い知れ……ッ！』
　地獄の炎纏う徹甲弾が放たれラーヴァナ戦士団に直撃、彼らが反撃で操ろうとする紅蓮の炎は徹甲弾が撒き散らす地獄の紅蓮の炎、そして爆発に飲み込まれ炎の大半が消し飛ばされ、衝撃にラーヴァナ戦士団の陣形が崩れた。その炎の中、目立たぬよう紛れ死角へと飛び込んだ顕吉が小竜公を振るい羅刹を仕留めていく。不滅のデウスエクスだから完全なる滅びは与えられないが、当分は復活できないだろう。
「リア充爆発しろ！！！！」
　更には静武がガソリンをラーヴァナ戦士団にばら撒きつつリア充爆破スイッチをぽちっとな。ガソリンに引火して炎上どころか大爆発を起こし、スイッチの爆発も合わせて戦士団を盛大に吹き飛ばした。
　ーー徹甲弾といい火炎放射器といい、庭園で派手にやり合っているが、まだ未整備なので後々何とかなる筈だ。
　嫉妬と地獄の炎に焼かれながらも、けれどラーヴァナ戦士団はまだまだ数がいる。グラビティ・チェイン収奪という目的を達成するために猟兵に負けてなどいられないと示すかのように月の刃を構え、迎え討つ猟兵達に次の攻撃を仕掛けてくるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●雨招く神剣振るいし浄土よりの帰還者
　火炎が渾然一体となって燃え上がる未整備の庭園を、羅刹の戦士達は最高速度で突っ切ってくる。
　三日月の如き月の刃は羅刹達が瞳を輝かせている今、その斬撃は九倍となり猟兵に襲いかかる寿命を代価にした強力なユーベルコード。
　不死のデウスエクス故に寿命が意味を為しているのかは不明だけれども、能力自体が発動しているのは間違いないとアラタマ・ミコト（極楽浄土にて俗世に塗れし即身仏・f42935）は見定めていた。
「……荒魂鎮神命が命じるのでございます」
　かの羅刹達の勢いを削ぎ、打ち倒すために天叢雲剣の神器を構え、ユーベルコード【神器解放】を起動して月の刃へと応戦する。九倍の斬撃、それに対抗するためには此方も刃を増やせばいい。
「神器よ施されし封印を解きその力を示すべし！」
　天叢雲剣に施された無限複製の封印を解除すれば、神剣の刃が複製され羅刹の刃全てを受け止め、更に凌駕、多腕の羅刹が防御に回る時間すら与えず切り裂いた。
　その勢いのままに次に向かってくるラーヴァナ戦士団の戦士へと天叢雲剣を振るい、雷雲を呼び寄せて周囲に雨を降らせながら戦うアラタマの姿は悪鬼を屠る明王の如き姿。
「……あらたまちゃんのらいふを削っているのです！　高れああいてむや素材をどろっぷするのです！！」
　ーー精神性の方は何とも俗に塗れてしまってはいるけれども、即身仏の少女は一歩も引かずにデウスエクス相手に神器で無双するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●葬送の旋律と火焔の舞
　猟兵とラーヴァナ戦士団の戦いは徐々に猟兵が優勢な戦況となっていた。
「助太刀します！」
　二丁の拳銃でデウスエクス達を牽制しながらシホ・エーデルワイス（捧げるもの・f03442）が参戦。
　発射炎は十字、それを見た多腕のデウスエクスに次々と銀の弾丸と光の精霊弾が命中し、進軍を阻む。
「キノキノ、キノが来たからもう、大丈夫だよ」
　そして毒々しい色合いの大きなキノコ笠を揺らすキノコつむりのキノ・コバルトリュフ（｜キノコつむり《🍄🍄🍄🍄🍄》の星霊術士・f39074）も合流して星霊バルカンの炎でラーヴァナ戦士団に抵抗する。　
『おのれ……新手か！　お前達定命の者が不滅の我らに勝てると本気で思っているのか！？』
　問いかけと共に髑髏より魔炎が放たれ二人に命中。精神征服のユーベルコードによる問いかけは命中した相手が真実を言わないのであればダメージを与えるもの。
「勝てます！　皆さんと力を合わせれば乗り越えられない困難などありません！」
「マツタケ！　キノには星霊の仲間がいるから大丈夫！！」
　しかし二人は即答し、魔炎はダメージを与えられずに解除される。
　恐るべきデウスエクス相手に堂々と言い放った二人に怯むラーヴァナ戦士団に、二人は攻勢にかかる。
「トリュフ！！キノ達の活躍を見せてあげるよ」
　キノがユーベルコード【神火大嵐舞】を発動して奉納の舞を踊り始めれば、星霊バルカン『バルくん』がラーヴァナ戦士団の周囲をぐるぐると周り、尾の炎が一気に燃え上がり創世記の炎の渦を顕現させる。
　高速で回転するバルくんに導かれるように高速旋回する火焔は髑髏の火炎を凌駕してデウスエクス達を火炎地獄へと叩き込み、消滅させていく。
　その焔を何とか逃れた個体がキノの舞を止めようとするが、それをシホの支援射撃が阻む。
「一曲捧げましょう」
　【【弾葬】聖銃二丁で奏でる葬送曲】をシホが起動してピアとトリップの聖銃二丁のマシンピストル機能を起動、羅刹の群れに向けて銃弾を連射する。
　銀の弾丸と光の精霊弾は楽器を奏でるようなリズムで放たれ命中、葬送曲のような発砲音と共に不滅のデウスエクス達を消滅させていく。
　キノが大火力で敵を焼き尽くし、逃した個体を命中率の高い銃撃で確実にシホが仕留めていくという連携。
　これまでの猟兵の攻撃で削られていたラーヴァナ戦士団はその勢いに耐えきる事は出来ず、全て倒れ去った。
　キノが炎の渦を解除すれば、バルくんがぴょんと肩に飛び乗ってきて。
「あなたの魂に救いあれ」
　倒れ消滅したデウスエクス達に弔いの祈りを捧げるシホ。デウスエクスであるからいずれは蘇ってくるのだろうけれども、不滅の彼らの魂に救いの日はくるのだろうか。
　ラーヴァナ戦士団の後続はもうない、次にやってくるのは彼らを指揮していた指揮官――星座の獣。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第2章 ボス戦 『星座獣・アルゲーディア』

POW   :    五つ星の評価をやろう 【侵略地域の名物料理を堪能した満足感】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【グラビティチェイン枯渇】の状態異常を与える【全てを喰らう五つの星の光】を放つ。 SPD   :    飯も星も喰らい尽くそう 戦闘中に食べた【侵略地域の名物料理】の量と質に応じて【侵略地域のグラビティチェインを収奪し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。 WIZ   :    美味い！　美味いぞ！ 非戦闘行為に没頭している間、自身の【侵略地域の名物料理からグラビティチェイン】が【異常な効率で経口摂取できるようになり】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。 イラスト：うぶき 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●喰らう星座獣
　未整備の庭園に広がりかけていたラーヴァナ戦士団の魔炎が薄れ消えていく中、やってきたのは黒い三つ目の山羊獣人のような造型の星座獣。
『なんと私の美食を阻む者がいるとは』
　何故かいくつかの弁当や飲料をガイドブックと一緒に四つの腕で持っている『星座獣・アルゲーディア』は、不快そうに魚のような尾を揺らして猟兵達を見遣り、落胆の呟きを漏らす。
　グラビティ・チェイン収奪はデウスエクスとしての役割、そしてかの星座獣は名物料理を堪能する趣味を両立させている宇宙食通との事。
『前菜で小腹を満たす事はできたが、ここまで来たのだからこの地の料理をもっと堪能せねば気は済まぬ。邪魔をするな』
　――やはり本命は旅館料理らしく、穏便にお引き取り願う事は難しそうだ。
　平和な旅館をグラビティ・チェインの収奪から守る為に、猟兵達は星座獣との戦闘に入った。


●極楽浄土の戦法で
　真っ先に切り込んでいくのは即身仏のアラタマ・ミコト（極楽浄土にて俗世に塗れし即身仏・f42935）。
　東方風の巨大刀を華奢な身体で自在に操りかの獣を一刀両断にせんと襲い掛かる。
　が、
『邪魔をするなと言っているだろう』
　星座獣が手にしていた弁当を徐に開き、食し始めると、大刀が当たりはすれどその身体に刃が通らない。
「なるほど、食事に集中することで鋼体を持つ『えねみー』でございますね」
『美味い！　美味いぞ！　弁当でこれ程なら作り立ての料理はどれ程になる！？』
　白米と山菜の漬物の味わいに没頭するアルゲーディアの眼は食事に没頭しており、猟兵など眼中にないようにさえ見える。
　それだけではない。経口摂取で料理からグラビティ・チェインを収奪可能なアルゲーディアの力は箸が進めば進む程増している。完食した時には相当量回収した事で地力そのものも高まってしまうとアラタマは予測する。
「……極楽浄土においては、敵に『ひーる』をかけることで勝機を得ることが稀にございます」
　まずはこの食事への没頭を切り崩さねば、とアラタマはユーベルコードを起動してアルゲーディアを極楽の香気で包み込む。
「……あらたまちゃんの『ばふ』を受けるのです！」
『何たる香り！　未知の料理がそこにあるのか！？』
　その香りに反応したアルゲーディアの体のあちこちに蓮の花、完全治療の代償として極楽の蓮の花に汚染されるというアラタマのユーベルコードは攻撃ではない為、アルゲーディアの攻撃遮断を貫通する。
　元々負傷などしていなかった、もしかすると悪かった部位がよくなっているのかもしれないが、全快状態で完全回復を受けても意味はない。
　そして副作用はもう一つ、極楽の蓮の花に汚染されている間理性なき天上界の獣と化してしまうというものがあるのだが、その影響で星座獣の理性は吹き飛んでアラタマに襲い掛かる。
　――それはつまり、食事への没頭を止めたという事。
　絶対的な防御が解除された今、アラタマの刃も通るようになったということで。
「あらたまちゃんの攻撃を受けるといいのです！！」
　理性なき獣の一撃を華麗に躱し、アラタマの返す刀が鮮やかに獣を斬り裂いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
『はあ……酷い目に遭ったぞ……！』
　天上界の獣と化して暫く暴れ倒していたアルゲーディアの表情にはダメージ以上に疲労の色が濃い。
　それでも食への探求はかの星座獣を略奪へと駆り立てて、奇跡的に無事だった弁当を改めて食して周辺地域のグラビティチェインを収奪せんと試みる。
　だが、それを妨害する光線。咄嗟に回避して弁当だけは守る星座獣。
『お前達も猟兵か！』
「そうだよ。こう見えてもまだまだ衰えちゃいないよ」
　攻撃を仕掛けたのはグレナディン・サンライズ（永遠の挑戦者・f00626）というスペースノイド。愛用の光線銃を収め、フォースセイバーを構える彼女。
「ボクが頑張らないとダメですよね……」
　おどおどしている少女、藍沢・瑠璃（ヤドリガミのゴッドハンド・f37583）は強大なデウスエクス相手に少々気圧されているようにも見える。
『我が美食の探求の邪魔はさせぬ！！』
　四本の腕を器用に操り魔力弾を放ってくるアルゲーディア、強烈な破壊力の弾丸をを経験則を合わせて見切り切り込んでフォースセイバーを閃かせる老婆。
「わわっ！　こないでください……！」
　瑠璃の方は回避に専念し、どうにか無傷で凌ぎながら少しずつアルゲーディアへと近づいていく。
　切り込む老婆の一閃が星座獣を斬り裂いて、血が周囲に散って、
『くっ……なら強化を……』
　魔力弾を放つ手を一組フリーにし、名物料理の弁当を口に入れようとする星座獣。自己強化を行い状況を変えようとしたそのタイミングを見切ったグレナディンは素早くレイガンを取り出して、
「おっとそうはさせないよ」
　起動したユーベルコード【コズミック・ギャンビット】の素早い一撃がアルゲーディアの手を撃ち抜き、摂食を妨害する。
　直前まで会話していればその時間に応じ加速した一撃を放つ事ができるその力で、グラビティチェインの収奪を阻止したのだ
『ならばそっちから切り崩す！』
　そうアルゲーディアが叫び、徐々に近づいてきていた瑠璃へとその大きな両腕を振るい叩きつけようとしてくる。
「こ、こないでください！」
　明らかにビビッている声で、両手を上に翳す瑠璃。どう見ても一方的に叩き潰されてしまうだろう状況――だが、アルゲーディアの拳は瑠璃の腕に阻まれる。
　見た目や振る舞いからは分からない――というか油断させるために装っている部分もあるからなのだが、瑠璃は怪力の持ち主。接近戦しか能がないが、接近戦についてはそうそう引けを取らない。
『こやつ……見た目に拠らず……！』
　星座獣が困惑している間に瑠璃は一気に前に出て、アルゲーディアの胴体に覇気を纏った拳を叩き込み殴り飛ばす。
　そしてユーベルコード【錬成カミヤドリ】を起動し追撃を仕掛ける。
　ヤドリガミである瑠璃の本体は刀身だけで3メートルを超える巨大な太刀『瑠璃宝丸恒実』、それがユーベルコードの力により139本複製されて空中に展開される。
　襲い掛かる大量の大太刀の攻撃にアルゲーディアのは魔力弾で迎撃するが、その隙に瑠璃とグレナディンは再度近づいてきていて、拳と刃の連撃をまともに喰らってしまう。
『やるではないか……！』
　だがまだ星座獣は倒れない。もう一押しが必要だろう。
「グルメよりかは酒かねえ。ここは酒も美味そうだがね」
　レイガンからフォースセイバーに持ち替えながら、グレナディンはそう呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●星座獣を焼け
　猟兵達の猛攻が続く中、星座獣アルゲーディアの旗色は徐々に悪くなっていく。
　それを打開せんと星座獣は早口での詠唱を開始、
「取れたての山菜をたっぷり使い丁寧な処理を行っているのかえぐみもない更にはこのフライは川魚か弁当向けとはいえ素晴らしい出来栄えという、この少量で得られる満足感は……」
　五つの星の光が輝いて、その照射範囲を一気に焼き払った。
「五つ星の評価をやろう。弁当でこれなら旅館料理は如何程か！！」
　猟兵達に阻まれて弁当しか食せていないからまだ大した満足感は得られていない筈。それなのにこれ程の威力とはやはりデウスエクスといった所か。
　それでも猟兵達の抗う意志には微塵の揺らぎもない。
「あまり長く詠唱させたら危なそうだよね♪」
　どうやらあのユーベルコードは詠唱時間により範囲が広がる。下手に語らせれば猟兵達が守るべき庭園や旅館まで射程に入ってしまうだろうかと、クローネ・マックローネ（快楽至上主義な死霊術士・f05148）は予測する。
　一般人の安全を確実に守る為には詠唱を続けられない勢いで攻撃を畳みかけ語らせない、というのが手っ取り早く確実だろうか。
「悪い奴はぶっ潰す！」
　そして燃え盛る炎のような勢いで仕掛けていく東方妖怪の陽環・柳火（突撃爆砕火の玉キャット・f28629）。
　美食だとかグラビティ・チェインの収奪だとかそんな事は枝葉、このデウスエクスが人々を虐殺し苦しめるのなら、シンプルに叩き潰すというのが彼女のスタイルだ。
　火車という妖怪らしく疾走する柳火は符をばら撒き、火炎弾をアルゲーディアへと放つ。
　爆符『烈火乱れ咲き』と炎跡『疾走の残り火』のあわせ技で放たれた大量の弾幕が星座獣に襲いかかり、四本の腕から魔力弾を放ち迎撃する。
　だが駆ける柳火を援護するようにクローネがユーベルコードを起動すれば、竜の尾と漆黒の肌を持つ154人の女性たちが召喚される。
「アツアツな子達を紹介するね♪　クローネちゃんのアツアツなお友達★」
　ブラック・ドラゴニアン・レギオンーー武装した人派ドラゴニアンの彼女達は空中へと散開し、星座獣の周囲から炎や銃撃での攻撃を開始。
『私を焼こうというのか？　そう簡単にはいかんぞ！』
　アルゲーディアは襲い掛かる炎弾や弾幕を四本の腕に星座の魔力を纏わせ器用に捌いていくが、誘導弾や爆裂弾も織り交ぜている弾幕に気を取られ、柳火本人への注意が疎かになってしまっていた。
　そして、
「貰った！」
　弾幕に紛れ柳火が突っ込んでくる。即座に対応できぬ速度の火車がユーベルコード【黒猫獄焔牢】を起動した焔灯した脚がデウスエクスのヤギのような頭部を蹴り飛ばす。
「悪ぃな。ちぃーっと足癖が悪いんだわ」
　柳火の蹴撃の軌跡には炎が地獄の焔が残り続け、そして延焼した焔はアルゲーディアの体を焼いて、
「今だよ★」
　そこにクローネが号令をかければ、ブラック・ドラゴニアン・レギオンの火炎のブレスと銃弾が襲い掛かり一気に火力を増していく。
『おのれ……だがまたいつか……』
　火炎に包まれそんな断末魔を遺しアルゲーディアは消滅する。デウスエクスであるからいつか復活する事もあるのだろうが、今この地で繰り広げられようとした惨劇は防がれたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

第3章 日常 『貸し切り温泉に行こう』

POW   :    熱い湯舟やサウナを楽しむ SPD   :    お風呂上がりのドリンクやゲームを楽しむ WIZ   :    薬湯や打たせ湯で身体を癒す イラスト：del 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●一時の休息を楽しもう
　デウスエクスを撃退した猟兵達を、旅館の人々は限りない感謝と共に迎え入れた。
　いくらかは戦いの傷跡が残っているが、何より失われるべきでない人々の命、そして旅館と庭園は無事守られたのだから。
　紫陽花をはじめ初夏の花が咲き乱れる庭園は夜もライトアップされていて目を楽しませてくれるだろう。
　旅館の方はといえば、竜に纏わる温泉があるという事で有名。泉質は美肌美鱗その他諸々の効能があるらしく、露天風呂に内風呂も完備していて気分次第で好きな方を楽しめる。
　料理の方もそれに劣らぬとの評判だ。今の時期なら川魚、特に鮎の塩焼きが絶品。山菜料理も丁寧な調理と味付けで初夏の山の風流な空気を感じさせてくれることだろう。
　デウスエクスやオブリビオンとの戦いはまだまだ続く。休める時に存分に楽しむこともまた大切なことだろう。
「羽目を外さないようにさえすれば旅館の人も結構融通きかせてくれるんだって。貸し切り状態は明日までだからしっかり休むなり楽しむなり、ゆっくりしようね！」
　そう竜の少女はにっこりと、笑顔で猟兵達に言った。


●オラトリオの休息
　デウスエクス達を退けた猟兵達は、思い思いに旅館で穏やかな時間を過ごし始める。
「たまにはゆっくりするのも良いですね」
　日頃世界をまたいで旅をしているオラトリオのシホ・エーデルワイス（捧げるもの・f03442）は先程のデウスエクス達との戦いの後始末をして、旅館での休息を満喫していた。
　普段は自身の過去などの手掛かりを探しているから、このような休養する時間を過ごすことはあまりない。だから存分に楽しもうと、温泉にゆっくり日頃の疲れを癒し、着替えてから静かに庭園を歩いて初夏の夜風で涼んでいた。
　夕の橙と控えめな人工の光に染められた紫陽花のグラデーションは、昼に見た薄紫と青の花を違った色合いに見せている。
　耳を澄ませば小鳥たちの楽し気な鳴き声が聞こえてくる。動物会話で聞き取れる聞こえる内容は眠いとかお腹いっぱいとかそんな他愛のない営み。
　自然が多い場所だから普段聞き慣れない種類の鳥もいるようで、動物好きな事もあって何だか楽しくなってくる。
　季節の移り変わりを感じさせる穏やかな庭園、この地をデウスエクスの襲撃から守れた成果を感じつつ、息を吐いた。
　この地にはシホの求めるものはなさそうだ。この少しばかりの休養を終えたらまた探しものの旅を再開するのだろう。
　それまでの一時を堪能しようと、この地の名物と聞く料理を楽しむためにシホは旅館へと戻っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●ここは極楽浄土ではないけれど
　一方、貸し切り状態の露天風呂ではアラタマ・ミコト（極楽浄土にて俗世に塗れし即身仏・f42935）が湯船に漬かって蕩けていた。
「極楽、極楽でございます」
　その言葉はアラタマが至った極楽浄土で出会った人々が温泉で言っていた言葉を真似たもの。
「極楽浄土で極楽極楽とは、はてと思ってでございましたが……良きものに良きというのもよい事でございます」
　実際に心地よいのだからその言葉が出てもおかしくはない。竜に纏わるというこの温泉の泉質は美肌美鱗その他の効能があるとのことで、先のデウスエクスとの戦いでの疲労も湯に溶けていくような感覚さえあるようだ。
　そして貸し切りというのも実にありがたい、のだが。
「……兜を被って温泉に入るのは変でありますか？」
　彼女は兜を被ったまま温泉に入っていた。
　貸し切りであるからツッコミを入れる者がいないのだが何故か問うたのは、即身仏で極楽浄土に渡った膨大な神通力を持つ彼女だから御仏の言葉が飛んできたのかもしれない。
　もしかすると旅館の人が首を捻っていた事を思い出したのかもしれない、ともかく。
「勝って兜の緒を締めよとも言うのです！」
　次の戦いがいつあるかは分からない猟兵、その心がけはある意味では正しいのかもしれない。
　因みにアラタマ曰く、極楽浄土では頭装備はそのままで温泉に入るのは問題なかったとのこと。一応湯船に直接兜は浸からないようにはしているようだ。
　――彼女の言う｜極楽浄土《GGO》と一般的な極楽浄土には差があるような気がしてならないが、それはきっと些細な事。
　とにかくアラタマはマイペースにこの温泉の極楽気分を堪能し、常日頃の疲れを癒したのだった。

　こうして長閑な温泉旅館をデウスエクスの侵略から守り抜いた猟兵達はゆっくりと休息を取り、英気を養ってグリモアベースへと帰還した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年06月25日