20XX年度:第云十何回男子高校『野郎会』
バレンタインデー。
ある者にとっては春を告げる祝福の日であり、真冬が明けぬことを宣告される呪いの日でもある。
そんな2月14日、とある男子校のとあるクラスの教室では机を繋げ合わせた大きなテーブルを男子たちが囲っていた。
テーブルの上に広がっているのは市販の大袋入りのカン●リーマ●ムだったり、ミルクチョコレートだったり、ファ●マやセ●ンのこの時期の新作だったり何だりが主だが、
中には女子力があまりにも高すぎる手作りクッキーやマフィンも鎮座している。
そして男子高校生というと食べ盛りなお年頃。そんな彼らの腹を十二分に満足させるだけの量がどでんとテーブルの上に並んでいた。
「いいかお前らー、食い終わった菓子の袋や食べカスは散らかさずにちゃんと持って帰るんだぞー」
十時・龍臣(委員長・f42326)がそう声を張れば返ってくる\はーい/という元気な声。
「相変わらず先生みたいだなー、委員長!」
「むしろ親って感じ?」
「いや親と同列にするなよ???まあいいや、食うぞ!」
\いただきまーす!/
元気な声と共に皆が各々食べたい菓子に手を伸ばし、ハムスターが如く頬張り幸せそうな表情を浮かべる。
しかし、どことなく物足りないというか、淋しげな雰囲気も感じさせてしまうのは決して気の所為ではない。
そう、何故なら――
「うまいけど……せっかくなら女子からもらったチョコをみんなで囲って食いたかったな……」
「やめろ。敢えて見なかった現実を今ここで直視させんな。菓子を食って忘れようと思ったのに!!!」
ここにいる男子全員、彼女という春告げの鳥を持たぬのだ――!!
このお菓子パーティーと呼ぶべきか、そんな彼女いない独り身の男子が集まってのお菓子パーティー、
『彼女いない野郎共が各々お菓子を持ち寄って寂しさを埋めようぜ会』、通称『野郎会』はこの男子校において気づけば発生しており、
気づけば暗黙の了解的に1学年に一つ必ず存在する、それなりに大きな存在(?)となっていた。
同級生たちがクラスという垣根を越え、彼女という春の象徴を持たぬ寂しさとその祝福を得た男子共への嫉妬を分かち合いつつ
お菓子を食べて自分たちを慰める会……それが野郎会である。
「はは、今更どれだけ非リア言われても……ウッ、辛い。彼女欲しい」
「まあまあ。これでも食って元気出せ」
「わ~~~~ん委員長~~~~彼女欲しいよ~~~~~~!!!!」
「わかる。俺も欲しい……頑張ろうな、きっと良い相手が互いに見つかるさ……うん」
龍臣はチョコ味のプロテインバーを頬張りながら、同じくプロテインバーを頬張りながら泣きじゃくる男子生徒の背を優しく叩いてやる。
そうして次々泣き喚き、欲望を叫び暴れ狂う同級生共の嘆きをうんうんと聴きながら落ち着かせるようにプロテインバーを渡していく龍臣の姿は、今この場にいる男子生徒たちからしたらさながら教会で懺悔を聞き届け赦しを与えてくれる神父かの如き慈悲深いオーラが溢れているように感じられた。
そんな龍臣の姿は委員長どころか生徒会長級の頼もしさを感じさせる。
絶対3年になったらこいつが生徒会長になるだろうと、この場にいる全員が漠然とそう思う程度には、とても優秀で頼れる委員長――それが同級生たちから見た十時・龍臣という男だ。
真面目でしっかり者だが、だからといって鬱陶しいぐらいに生真面目というワケではなく、気さくで人当たりも良い。
その上顔も良くて趣味の筋トレによりボディバランスも黄金比、この学校に女子がいたら学校中の女子からの視線とチョコレートを集めていたであろう。
しかしてそれ故に疑問も当然湧いてくる。
「……委員長ってさあ。普通に彼女いてもおかしくなくね?」
「わかる。何で未だにフリーななんかがわかんねえ。何で?」
「あっもしかしてアレじゃね?守備範囲がとてつもなく熟女とか幼女とか……」
「もしかして人外萌え派閥だったり!?」
「聞こえてんぞお前ら」
もくもくとお菓子を食べながら眉一つ動かさずに告げる龍臣、そういった狼狽えることなく事実を告げる様にビビるクラスメートと同級生たち。
しかして龍臣は別に全く怒ってはいないし、他の男子たちもそれをわかっているからこういうやりとりができている。
元気いっぱいの男子高校生共はついうっかり口を滑らせてしまうことも多々あるが、それでも龍臣は眉を釣り上げたり下げたりすることはなく気さくに付き合ってくれるのだ。
面倒を見ること、という行為においてこの男の右に出るものはいないのではないだろうか――野郎会の男子は皆そう思っていた。
◆
各々が喋っては菓子を頬張り、愚痴っては菓子を貪り、あっという間に残りは半分を切った。
流石食べ盛りというべきか、そんな中一人の男子がふと口を開く。
「……そういえば飛鳥きてなくね?」
「あ、いねーの?マジか。甘いもん好きなあいつなら絶対参加すると思ったのに」
「ハッ、もしや……!」
まさか春がきたのか!?と一斉に窓の外を見る。当然飛鳥はいない。
しかしもしそうであるならば、野郎会会員として実に妬まs……いや羨ましい!
「委員長何か聞いてねえの?」
「あー……飛鳥は菓子食いすぎで太っちまったからパスって聞いたぞ。追っかけてるブランドの新しい服がスリムデザインだから~とかどうとか」
「「「「「女子かよ!!!!」」」」
でもまあ、あいつよく服も買ってるもんな……と男子たちは納得の顔をした。
――が、実際は龍臣がたった今でっち上げた嘘である。
彼は去年のクリスマスに幼馴染と結ばれ、無事リア充となったので今年から野郎会に参加することはないのだ。
そしてその相手がずっと付き合ってきた幼馴染ときた。
誰を好きになろうと当然彼の自由だし、自ら選んだのならば尚の事二人きりにしてやるべきだろう。
委員長である以前に友人として、自らになら話せると打ち明けてくれた飛鳥の意思を尊重する為にも。
まあ、問題は来年も同じ嘘で通せるかどうかだが――そこはまあ、何とかなるだろう。
「(今頃帝と二人で何か食ってるんかね)」
窓の外を眺めて一足先に非リアを脱した友人に想いを馳せながら、龍臣は野郎会の女子力バリ高男子が作ったマフィンを頬張ったのであった。
「ところでこれめちゃくちゃうまいな」
「あ、ホットケーキミックスで作った奴だからめっちゃ簡単にできんよコレ。レシピもぐぐったら出てくるしプロテイン使ったのもあんべ」
「へー、ちょっと後で調べてみるか」
きっと来年の今頃も龍臣に彼女ができなかったら、プロテイン仕様の女子力バリ高マフィンがこのテーブルに並ぶことだろう。
もしかしたら友チョコとして非リアでなくなった友人にも配られたりするかもしれないし、しないかもしれない。
何となくどこかでその友人がくしゃみしてたりして、とか思いながら野郎会の楽しく美味しいひとときが過ぎ去っていく――。
成功
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