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許されざる者と願い飛ばす者

#サクラミラージュ #新皇塚 #ソウマコジロウ #ソノ魂幻朧桜ニ還ルコト能ハズ

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●秘密結社の野望
 不死の帝の治世など、言語道断!
 帝都転覆の夢をもう一度!
 その為には、かの『ソウマコジロウ』の力を借りるより他にない!

 復活の時だ!
『ソウマコジロウ』を、今こそ解放すべし!

●新皇塚の血戦へ
「集まってくれてありがとう、今回はちょっと急ぎの用件なの。お願いできる?」
 ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、グリモアベースの一角で、珍しく急いた様子で猟兵たちを見回した。頷いた猟兵たちを見てほんの少し安堵の表情を浮かべると、ミネルバは早速とばかりに中空にホロビジョンを一枚展開した。
「……!」
「ここはサクラミラージュの帝都、大手町。帝都七百年の歴史の中で唯一、七日間だけとはいえ『帝都制圧』に成功したとんでもない大叛逆者――その名も『ソウマコジロウ』の魂魄が封印されている『新皇塚』がある地区でもあるわ」
 ホロビジョンに映し出された光景を見れば、事態は一目瞭然であった。
 古代の大叛逆者を鎮め祀る塚の周囲には、既に多数の影朧であふれかえっていたからだ。
「普段は帝都軍の厳重な監視下に置かれているんだけど、急に影朧がこんなに湧いちゃったものだから、超弩級戦力の方に救援要請が出たってわけ」
 軍服姿の影朧たちは、皆口々に『解放の時だ!』『帝都転覆を今度こそ!』などと、己の主張を声高に張り上げているものだから、狙いは明確だという。

『ソノ魂幻朧桜ニ還ルコト能ハズ』

 これは、七日間の攻防の末に帝都を奪還し、『ソウマコジロウ』を処刑した不死の帝が、その魂魄を新皇塚に封印した際に発した号令だと言われている。
「それだけのことをしでかした、っていうことなのよ。察するにあまりあるわよね?」
 影朧たちが狙う『帝都転覆』、その要として目を付けられた『ソウマコジロウ』の魂魄。それが解放されてしまっては、間違いなく帝都に悲劇をもたらすことだろう。
 そして今まさに、影朧たちは動き出している。急ぎ帝都は大手町に向かい、新皇塚を襲い『ソウマコジロウ』の魂魄を復活させようとしている影朧たちを撃破しなければ。
「帝都には人間なり影朧なり、帝都転覆を狙う集団がそこそこ居るんだけど」
 有名どころで言えば『幻朧戦線』、『黯党』あたりに始まり、帝都の平穏を乱す秘密結社は数知れず。不死の帝の治世も、安泰とは行かないのが難しい。
「今回の敵は『秘密結社バッテン党』を名乗っているみたいね、一応伝えておくわ」
 どうせ今回で壊滅させちゃうんだから、別に覚えなくてもいいけど――なんて、物騒なことを言いながら、ミネルバは雪花のグリモアを輝かせる。

「多分ね、影朧を退治しただけだと、収まりがつかないと思うの。新皇塚の周りには幻朧桜がたくさん咲いてるんだけど、そこで転生させてあげることは前に言った通り叶わない」
 雪の結晶が舞い散る向こう側に開くのは、影朧たちが徘徊する新皇塚のすぐそば。
「その代わり、ちょうど『スカイランタン祭り』っていうイベントが予定されてたんですって。影朧を追い払えばイベントも開催できるでしょうから、ついでに参加して『ソウマコジロウ』の魂魄を鎮め直してきてくれると嬉しいわ」

 じゃあ、死なない程度に頑張ってね。
 毎度のミネルバなりの激励を受けて、猟兵たちはサクラミラージュへと転移していく。
 降り立った場所が既に、影朧の占領下にあると覚悟を決めながら――。


かやぬま
 帝都を狙う秘密結社、悪い輩ですがちょっと憧れなくもないですね。
 そしてその野望を打ち砕く正義の味方というのもまた良きものです。
 かやぬまです。無辜の人々に累が及ぶ前に、事件の解決をお願い致します。

●章構成
 第1章:集団戦『秘密結社バッテン党の突撃隊員』
 帝の御世を転覆させようと目論み暗躍する秘密結社の実行部隊、突撃隊員たちです。
 邪魔するものは超弩級戦力であろうと排除しようと襲いかかってきます。
 WIZで放ってくる質問は『貴様等も本当は帝の治世に疑問を抱いているのではないか?』です。

 第2章:ボス戦『妄執の軍人』
 秘密結社バッテン党の、暫定的な党首を務めています。
 妄執に取り憑かれていて、帝や皇族、それに関するもの全てを壊して殺し尽くしたいという衝動に突き動かされているため、説得の類はほぼ不可能と思われます。
 この影朧は新皇塚のすぐそばに陣取って戦うため、塚から漏れ出す『ソウマコジロウの怨念』によって、皆様は毎ターン『強制改心刀に似た、肉体を破壊せず、影朧や新皇(ソウマコジロウ)への敵意だけを破壊する攻撃』を受け続けることとなります。
 戦意喪失をすることなく戦い抜くための何らかの対策を練っていただければ、プレイングボーナスが発生しますので、ボス戦の際は工夫してみて下さい。

 第3章:日常『サクラ・スカイランタン』
 影朧が湧いたことで中止が懸念されていた、元々『ソウマコジロウ』を鎮めるために行われる予定だったイベントが無事開催されることになりました。
 時間は夜。桜色の紙製のランタンに無病息災などの祈りを書き込んで、熱気球と同じ原理で空に飛ばします。
 幻朧桜も力を貸してくれますので、皆様でランタンに祈りを込めて空を桜色に染め上げれば、『ソウマコジロウ』の魂魄も再び鎮まることでしょう。
 この章のみ、プレイングでお声掛けいただければ、グリモア猟兵のミネルバがお邪魔することもできます。

●プレイング受付について
 すべての章で、断章投稿後に受付期間を設定して承ります。
 タグとMSページでご案内を致しますので、お手数ですがご確認をお願いします。
 プレイング送信前に、MSページにもお目通し下さいますと非常に助かります。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
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第1章 集団戦 『秘密結社バッテン党の突撃隊員』

POW   :    総員、突撃せよ!
【ライフル銃の射撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    銃剣さばきを目に焼き付けよ!
【銃剣】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ   :    真実を吐かねば苦しむぞ!
質問と共に【拷問道具】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それぞれの『大義』
『我等、身命を賭して悪しき帝の御世を覆す者なり!』
『我等、超弩級戦力にも屈することなく戦う者なり!』
 軍服に身を包み、ライフル銃で武装した影朧たちが、予知で見た通り新皇塚の周囲にあふれかえっていた。これでは流石の帝都軍の手にも負えないというものだ。
 猟兵――超弩級戦力たちが身構えると、突撃隊員たちもまた銃剣を構える。
『貴様等に、我等の崇高な理想を止められるか!?』
『我等、其処らの弱き影朧とは違うということを、身を以て知るが良い!』
 軍服姿の影朧たちは、皆一様に赤い瞳を爛々と輝かせて士気も非常に高い。群れをなしているからといって油断すると、痛い目に遭うかも知れない。

『だが、我等も鬼ではない!』
『貴様等の中に、帝の御世に疑念持つ者あらば、同胞として迎え入れなくもない!』

 どうやら、こちらを試す行為をする可能性もありそうだ。心してかからねば。
御園・桜花
※妄言頓痴気腐人

「ハッテン等…まあ」
両頬押さえ
「今上帝とは|衆道《主導》性の違い、ですのね…大胆な」

「新皇✕今上帝、今上帝✕新皇、確かに主義者には何方を先にするか血で血を洗う祭りにハッテンしてもしょうがないのでしょうけれど美しければ何でも良いではありませんか純愛濡場バッチこーい!」
途中からノンブレス
「今上帝の閨の壁になりたい雑食の私には何一つ禁忌等御座いませんが新皇を目覚めさせるべきは今上帝のみ今上帝|衆道《ファースト》に異を唱える輩は謹んで滅殺させていただきます!」

UCで飛行
桜鋼扇で銃剣ぶっ叩き破壊しながら敵も連打
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す

「男装女子百合っぷる…?貴方神ですか?!」開眼



●百合の間に挟まる男は許されない
 転移を受けた御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、たんっと地に足をつけたその瞬間に、影朧――秘密結社バッテン党の突撃隊員たちにいっせいに銃剣を突きつけられた。
『貴様、超弩級戦力だな!?』
『我等、秘密結社バッテン党一同! 相手が誰であれ邪魔立てする者は排除する!』
 普通、初手からこんなに敵意むき出しで威嚇されたら、こちらだって迎撃態勢に入る他ない。だが、桜花は違った。何故か、両頬に手を当てて恍惚とした表情をしていた。

「|ハッテン等《・・・・・》……まあ」
『『は???』』

 影朧にとっての超弩級戦力とは、悔しいが、基本的に自分たちより技も力も上回る存在であり、脅威以外の何者でもない。
 だが、眼前のこの桜の精と思しき女性はどうか。自分たちに敵意を向けるどころか、何故か熱い視線を送ってくるではないか。一体これはどうしたことか。
「今生帝とは|衆道《主導》性の違い、ですのね……大胆な」
 影朧たちの困惑にも構うことなく、桜花がうっとりとした口調で、意味が確実に伝わるととんでもないことを言い出せば、影朧たちは分からないなりに言葉を返す。
『さ、然様……不死の帝主導の世と我々が目指す世では、齟齬があり……』
『確かに大胆な手口ではあるやも知れないが、こうしてソウマコジロウの魂魄に』
 それを聞いた桜花は、影朧たちを止めるどころか、うんうんと頷いて理解を示す仕草をしてみせた。

「新皇×今生帝、今生帝×新皇、確かに主義者には『何方を先にするか』において血で血を洗う祭りにハッテンしてもしょうがないのでしょうけれど美しければ何でも良いではありませんか純愛濡場バッチこーーーい!!!」

 すごかった。途中からノンブレスだった。オタク特有の早口の見本だった。
『……な、何を言って』
『新皇と帝が……な、何だって?』
 影朧たちは、明らかに狼狽えていた。強い主義主張には負けないくらい強い主義主張をぶつけるのが最善の策ということなのか。
 このまま、桜花が影朧たちを論破してしまうかと思われたその時、起きて欲しくなかった奇跡が起きた。
『貴様――|出来るな《・・・・》』
「……まあ」
 一応隊列を形成して桜花と相対していた突撃隊員たちの中から、一人の影朧がゆらりと進み出てきたのだった。他の隊員とは一見見分けがつかないが、その眼は他の隊員とは異なる、どこか昏い輝きを宿していた。
『だが、純愛だと? 笑わせる! 新皇と帝の関係性は殺し愛こそが至高ッ! 濡場であっても互いを喰い殺さんばかりの情景に真の昂ぶりを覚える者なり!』
『待て、貴様まで何を言い出して……』
『気でも触れたか!? 濡場がどうとか、今する話ではなかろう!』
 影朧たちの中に、動揺が走る。心を一つにする隊員同士だと思っていたのに、いわゆる腐男子が混ざっていたとあらば、それは団結を容易く揺るがす理由となる。
 対する桜花は、不敵に笑った。腐男子の突撃隊員を筆頭に、全ての影朧たちに向けて、力強く言い返した。
「殺し愛、それもまた良き――今生帝の閨の壁になりたい雑食の私には何一つ禁忌など御座いませんが」
『その思考そのものが禁忌だとは考えたことはないのか!?』
『雑食か……それもまた一つの嗜好であるな』
『貴様は黙っていろ! 話がややこしくなる!』
 この様子、封印されているソウマコジロウの魂魄が聞いているとしたら、その胸中はいかばかりなものだろうか。いや、その辺はおっかないので深く考えないようにしようと思います。
 はいはいこの話おしまい! という風に流れを元に戻したい大多数の突撃隊員が桜花に向けて銃剣を向ける中、桜花もまた桜の花弁が刻まれた鉄扇を取り出し、身構えた。

「一つだけ、解釈違いが存在します」
『何……?』
「新皇を目覚めさせるべきは今生帝のみ! 今生帝|衆道《ファースト》に異を唱える輩は謹んで滅殺させていただきます!」

 腐男子影朧のみが、その場で固まった。
 それ以外の影朧ですか? もう付き合っていられないという顔になりました。
『もういいッ、こいつを黙らせろ!』
『我等が銃剣の錆となるが良い!!』
 ――突撃! 桜花を刺し貫かんと銃剣の先が容赦無く襲いかかる!
 だがその瞬間、桜花の身体は幻朧桜の花弁の嵐に包まれ、そのまま天高く舞い上がったのだ。空しく空を切る銃剣は、同士討ちを誘う。
『貴様、危ないだろう!』
『くっ……あの頓知気な女はどこだ!?』
『ぐあッ!!』
 その身を精霊と化し自在に桜舞う空を飛び回る桜花に、上空からの奇襲を受けた影朧が次々と銃剣を破壊され、ついでに頭部も鉄扇でぶっ叩かれて地に伏していく。
『上だ! 攻撃してくる隙を突いて刺せ!』
『何て奴だ、まるで捕らえられない……!』
 影朧たちも、針山のように銃剣を上空に突き出して桜花を狙うのだが、如何せん桜花の抜きん出て優れた第六感により、そのことごとくを躱されてしまう。
『文字通り、腐っても超弩級戦力ということか……』
 自らも銃剣を構えながら、腐男子影朧は玉砕覚悟で桜花に向かって、こう叫んだ。

『もしも、もしもだ――これは我が長年誰にも言えずに秘めてきた妄想だが――』
「聞かせていただきましょう!」
 その叫びに応えるように、桜花が天女のように身をひるがえし、腐男子影朧の元へと迫る。
『新皇も帝も、互いに男装女子の百合カプだったとしたら、というのは』
「貴方神ですか!?」
 腐男子影朧が持つ物騒な銃剣のみを鉄扇で弾き飛ばし、空いた手を取り舞い降りる桜花。
 どうやら新しい可能性に開眼してしまったらしき桜花は、しばし腐男子影朧と語り合ったという。
 その間他の影朧たちがどうしてたかって? ドン引きして身動きが取れずにいましたよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァン・スピネルバトン
【連携歓迎】

わっかんないなー……
なんでこんな、人が怖がるし傷つく様なことをして、それでいいと思ってるんだ? 泣くやつや怪我するやつの事を考えねえの?
人間って、時々分からねえことするよな。
(そうだなー、と脳内にマイペースかつ非難轟々の俺達の声が)

ま、そんなわけで正義の味方としては止めないとなわけでな?
行こうぜ、俺達。

そうだな……統率取れてるとこに俺達一人一人が行ってもなあ……よし、正義の味方っぽくないけどあの技使うか。

【吸血赤蝙蝠召喚】っと。ただ血を吸うだけじゃなくて足にまとわりついたり(【足払い】)、顔に張り付いて視界を遮ったり(【目潰し】)してとにかく相手の集団行動を乱すって戦法をとるぜ。



●トイソルジャーズ
 秘密結社バッテン党の突撃隊員たちと超弩級戦力たちとの戦いは、のっけから風変わりな展開となったが、それでも着実に当初の数よりは戦力を削ることに成功していた。
 この調子で、新皇塚の周りに群がる影朧たちの数を減らしていきたい――その為に、ヴァン・スピネルバトン(別物ヒーローズ・f38625)はやってきた。
(「わっかんないなー……」)
 その気配を察し、即座に銃剣を構えた突撃隊員たちを見て、ヴァンは思う。
(「なんでこんな、人が怖がるし傷つく様なことをして、それでいいと思ってるんだ?」)
『貴様! 邪魔立てするならば我等が全力で排除するまでぞ!』
『これは脅しではない、我等が崇高なる使命のためならば躊躇はせん!』
 影朧たちの、威嚇の声がどこか遠く響く。
 会話が成立するとは到底思えなかったけれども、自然と口が開いていた。
「お前らさ、自分がしたことで泣くやつや怪我するやつの事を考えねえの?」
 すると、影朧たちは迷いなき言葉で、すぐさま返してきた。
『世界を革命するためには、相応の犠牲も止むなし!』
『斯様に甘いことを言っていては、我等の理想には手が届かないと知れ!』
 ヴァンは息を吐く。無駄な問答をしたとまでは思わないが、おおむね予想通りの答えに、話は尽きたと判断するより他になく。

「|人間《・・》って、時々分からねえことするよな」
 ヴァンが代表して声に出せば、その脳内では『きょうだい』たちが「そうだなー」や「ホントにねー」などの声を上げ、マイペースでありながら内容は非難囂々というヴァンへの同意が繰り広げられていた。

 影朧たちは、最初から理解してもらおうなどとは思っていないのだろうけれど。
 そもそも彼らはいわゆる『悪役』だ、どう足掻いても改心の見込みはなさそうで。
「ま、そんなわけで正義の味方としては止めないとなわけでな?」
 ――行こうぜ、|俺達《・・》。
 幻朧桜を舞い散らす風が吹き抜け、ヴァン|たち《・・》と影朧たちの戦闘が始まった。

『相手は一人だ、串刺しの上磔刑に処せ!』
『応ッ!』
 突撃隊員たちは、ヴァンが|どのような存在なのか《・・・・・・・・・・》を知らない。一目見て見極められたら、それはそれで大したものではあるが。
 殺到する銃剣突撃を、手にした赤い偽剣で何とかいなしながら、ヴァンは考える。
(「そうだな……ここまで統率取れてるとこに俺達一人一人が行ってもなあ……」)
 ヴァンさえその気になれば、己の分身を実体化させて、連携攻撃も可能ではある。だが、この状況では各個撃破されるという最悪の事態にもなりかねないと判断を下した。
(「よし、正義の味方っぽくないけど、あの技使うか」)
 欲を言えば、正義の味方らしく、正面切って戦いたかったけれど。
 流石にこれは多勢に無勢が過ぎるというもの、故にヴァンは英断を下す。
 すいっと腕を前に掲げると、手の甲に実体を持たない赤い蝙蝠が生じた。蝙蝠がひとたび羽ばたけば、その数をどんどん増やしていき、ヴァンの周囲をあっという間に包む。
「ほーれ、飯の時間だぞー」

 ――きい、きい。

 ヴァンの声に応じるように、無数に増殖した赤蝙蝠の群れがいっせいに影朧たちに向かって飛び立ち、次々と首元に噛みついてその血を吸い始めた!
『ぎゃあ! 何だこの……このッ!』
『おのれ、振り払えん! どうなっている!?』
 ただ血を吸うだけが赤蝙蝠の攻撃手段ではない。影朧たちの足にまとわりついて転倒させたり、顔面に張り付いて視界を遮り銃剣攻撃自体を封じ込めたり、多彩な活躍で突撃隊員たちの統率と集団行動能力を奪ってみせたりと、見事な活躍を果たしてくれた。
『おわっ!? あ、足が絡んで……』
『前が、前が見えな……わっぷ』
『迂闊に動き回るな! 敵の思う壺だぞ!』
 影朧たちは、何とか状況を打破しようと試みるが、何しろ赤い蝙蝠たちは実体というものを持たない。引き剥がそうにもその手をすり抜けてしまうものだから、されるがままになるしかない。
「うーん、何というか……次に機会があれば、もっとこう、いかにも正義の味方らしい戦い方ができればいいんだがなあ」
 想像以上の戦果に、ヴァンが苦笑しながらも本音を漏らす。
 その脳内では、「まあまあ」「たまにはいいじゃない」「話によれば、こいつらの親玉もいることだし」などと、きょうだいたちからのフォローが入っていたとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
確かに、碌に情報のない帝を全面的に信頼できるかと言われればそれは否だが
だからと言って、平和な世界を破壊していい理由にはならないよな
帝への疑問はいずれ、もっと平和な形で答えを見つける事にするよ

問いかけに答えてから大刀【冷光霽月】を抜いて敵と相対
大刀を盾のように構えて射撃を防ぎながら、ダッシュで敵の元へ
前列の隊員たちに向けて剛式・弐の型【激浪】
勢いよく斬撃を叩きつけ、吹き飛ばして敵同士を衝突させる事で攻撃の手を一瞬止めさせる
そこから敵陣に斬り込んで乱戦に持ち込もうか
こうなると誤射の危険を承知で撃つか、近接戦を仕掛けてくるか
どちらにせよ俺の方が動きやすい。適宜の薙ぎ払いで敵を後退させながら戦おう



●理想を手にするための力
 秘密結社バッテン党の突撃隊員たちは、徐々に同志を失いつつも、なお意気軒昂として新皇塚の周囲で超弩級戦力たちの迎撃にあたっていた。
 転移を受けた夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)がそのただ中に舞い降りるや否や、いっせいにライフルの銃口が向けられる。
『来たな、超弩級戦力! 怠惰な安寧を是とし、世界の堕落を助長する者め!』
『埒外の力を持ちながら帝の犬と成り下がる体たらく、情けないとは思わぬか!』
 同時に、相当ひどい罵声を浴びせられ、鏡介は思わず眉根に皺を寄せた。国家転覆を本気で目論む輩なのだからこの過激な言動も当然のことなのやも知れないが、それにしたってここまで言われる覚えはないというもの。
「確かに、碌に情報のない帝を全面的に信頼できるかと言われれば、それは否だが」
 つとめて冷静に、鏡介は言葉を返す。
「だからと言って、平和な世界を破壊していい理由にはならないよな」
 七百年の時を生き続ける、不死の帝。その存在には、確かに謎も多い。
 だが、その治世によって人々が平和に暮らしていくことが出来ているのは、本当だ。
 桜舞うこの世界に生まれ、そして生きる鏡介だからこそ、それを誰よりも理解しているつもりだった。

「帝への疑問はいずれ、もっと平和な形で答えを見つける事にするよ」

 きっと、いずれ、その時が来る。
 そのためにも、今は帝都の、そして世界の平和を守り抜かねば。
『温いッ!』
『貴様のその甘い性根、叩き直してくれる!』
 赤い瞳を爛々と輝かせながら、突撃隊員たちがいよいよ射撃態勢に入る。鏡介はあくまでも冷静に、この戦に相応しい得物を選ぶ。そうして握ったのは、全長なんと2メートル近くある大刀【|冷光霽月《れいこうさいげつ》】だった。
 巨大な大太刀を容易く構える鏡介の姿に、影朧たちが一瞬動揺したのが分かる。これこそが、超弩級戦力と影朧との『格の違い』と言えよう。
 だが、力量はともかく士気だけは異様に高い連中である。陣形を敷いた軍隊の様相を崩さぬ影朧たちは、鏡介目がけていっせいにライフル銃を発射した。
『てーーーッ!!!』
(「……仕方ないか」)
 鏡介はその身をやや屈めるようにすると、大刀を盾のように構えて放たれる銃弾を防ぎながら、地を駆けて一気に影朧たちとの間合いを詰める!
『ば、馬鹿な!? これだけの銃撃を防いで……!?』
 あっという間に最前列の影朧たちに肉薄した鏡介は、大太刀を構えたまま一度前に突き出して、自らに向けられたライフル銃を複数同時に跳ね上げさせた。
『おわッ!』
『銃を恐れぬとは……どういう神経をしているのだ……!?』
 驚愕する突撃隊員たちに、鏡介は一言だけ答える。
「どんな得物でも、極めきっていなければ、恐るるに足りないということだ」
 いかな大義があろうとも、そのために銃の道を極めたとあらば、話は別だったろう。だが、突撃隊員たちにとっての銃は、掲げた理想を叶えるための『道具』に過ぎなかった。
 鏡介はどうか。選ばれし者としての責務を果たすべく日々鍛錬を欠かさず、極めたと言っても過言ではない剣の道をなおその先へと突き進んで止まない――その差は歴然であった。

「薙ぎ払う――【|剛式・弐の型【激浪】《ゴウシキ・ニノカタ・ゲキロウ》】」

 その言葉通り、冷光霽月は美しい軌跡を描きながら前列にいた突撃隊員たちのことごとくを薙ぎ払い、一気に吹き飛ばして中列に控えていた隊員たちに激突させ、統率を乱して攻撃の手を止めさせることに成功した。
『い、急ぎ態勢を整え……ッ!?』
「その|暇《いとま》は与えない」
 勢いのまま、鏡介は敵陣深く斬り込んでいく! 大刀を振るえば、ライフル銃で辛うじて防御しようとも、その剣の『重み』に吹き飛ばされる影朧たち。
『構うな、撃て! 撃て!』
『いや、着剣だ! 銃剣での刺突に切り替えろ!』
 突撃隊員の中でも、統率が取れない。よもやまさか、ここまで深く踏み込まれて陣形を乱されるという事態そのものを想定していなかったのだろう。
(「案の定、誤射の危険を承知で撃つか、近接戦を仕掛けてくるかで迷いが生じたな」)
 破れかぶれで振り下ろされたライフルの銃床を紙一重で躱しながら、鏡介は大太刀を振るい続ける。こうなれば、どちらにせよ鏡介の方が圧倒的に有利に動けるというもの。
 すっかり統率が乱れた烏合の衆と化した突撃隊員たちを、薙ぎ払っては吹き飛ばし、じわじわと後退させていく鏡介。その威圧感たるや、凄まじいものがあった。
 薙ぎ払いによるダメージは強烈で、吹き飛ばされただけで消滅してしまうものもあれば、耐えたとしても装備品の軍服を破かれ防御力が低下し、出血で身動きが取れなくなるものも出た。
『駄目だ、これ以上戦闘を続行しては、全滅する……!』
『惜しむ命ではないが、|今はまだ早すぎる《・・・・・・・・》!』
 遂に突撃隊員たちは、負傷者を収容しつつ、新皇塚近くまで後退してしまった。

(「早すぎる……? 時間稼ぎか何かをしているとでも言うのか?」)

 一抹の疑問を残しながら、鏡介はそれ以上の追撃は控え、大太刀を鞘に戻すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
×

帝の治世に不満があるのなら
武力ではなく言葉で訴えかけるべきでしょう
民間の方に被害が出る前に
速やかに排除しなくては

現地に到着した時点で
可能な限り多くの敵を巻き込み
白燐桜花合奏を使用
立ち位置には気を配り
相手に囲まれる事の無いよう注意

なるべく蟲笛の演奏が途切れないようにしますが
拷問道具が飛んで来た時は一旦中止
質問に答える事を優先

帝の治世に対する疑問ですか?
ありませんね
異世界から来た私にも
700年という年月がいかに長いかは分かります
それほどの長きに渡って世を治めているのなら
それは民衆に支持されているという事です
そう言う貴方々に正義はあるのですか?

解放されればUC再使用
少しでも数を減らして行きましょう



●正義の在処
(「帝の治世に不満があるのなら、武力ではなく言葉で訴えかけるべきでしょう」)
 開かれたゲートをくぐるまさにその時、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は思考する。
(「民間の方に被害が出る前に、速やかに排除しなくては」)
 手にした龍笛型の蟲笛を、いつでも構えられるように。
 薙人は、ふわりとした感覚に包まれながら、桜舞う帝都へと転移していった。

 ――ざあっ。

 転移を受けて降り立った場所は、まさに戦の真っ只中という様相を呈していた。既に数名の猟兵たちと交戦を繰り広げたのか、突撃隊員たちは負傷者を後方に送りながら、隊列を組み直している最中であった。
 そこへ、追撃のように現れた新たなる超弩級戦力だ。いまだ健在な影朧たちは進んで前に出てきて、薙人に向けてライフル銃を構え、吼えた。
『貴様も我等が道を阻む者か!』
『速やかに排除すべし! 動けるものは疾く陣形を組め!』
 皮肉にも、この士気の高さこそが薙人に味方することとなったことに、影朧たちはきっと気付くことはない。
 よもやまさか自分たちが、これから脅威的な超常で一網打尽にされようなどと、少しも考えたりはしないだろうから。

 ~~♪

 薙人が、影朧たちの怒号に動じることなく、蟲笛を口に添えて演奏を始める。すると、たちどころに桜の花吹雪が巻き起こり、影朧たちを包み込み――その身を切り裂いた!
『な、何だこの桜は!? ただの幻朧桜ではないだと!?』
『一旦散開だッ! なるべくひとかたまりにならぬよう、花吹雪を避けよ!』
(「まるで軍隊のようですね、それなりに統率が取れているのが厄介です」)
 蟲笛の演奏による【|白燐桜花合奏《ビャクリンオウカガッソウ》】を発動させている間、薙人は声を発することができない。故に、内心で少々苦々しく思う。
(「包囲されてしまわぬように、気をつけなければ」)
 途切れぬ音色は、新皇塚周辺一帯に美しく響き渡り続け、桜吹雪は徐々に薙人の周りを渦巻くように展開される。これなら、影朧たちも迂闊に薙人に近付くことはできないだろう。

『くっ……超弩級戦力め、どいつもこいつも……!』
『待て、もしや此奴……この攻撃をしている間は口が開けないのではないか?』
『成程同志、そこに目を付けるとは!』

 薙人が巻き起こす桜吹雪になす術なしかと思われていた影朧たちが、悪そうな顔で何かを思いついたという風に、笑った。その手には、いかにも良くしなりそうな鞭が握られていた。
『問おう、超弩級戦力よ。帝の治世に、疑問を抱いたことはないか!?』
 言うが早いか、ほぼ同時に薙人目がけて唸りを上げて鞭が飛んでくる!
 薙人は咄嗟に跳び退って鞭の先端から紙一重で逃れると、一旦笛から口を離す。そして、突撃隊員たちを真っ直ぐに見据えて、凜とした口調で質問に答えた。
「帝の治世に対する疑問ですか? ありませんね」
『ちいッ……』
 手慣れた鞭さばきで、再びいつでも鞭を振るえるようにした突撃隊員が舌打ちをする。
「異世界から来た私にも、七百年という年月がいかに長いかは分かります」
 つい先程まで薙人が居た地面は、鞭で鋭く穿たれていた。恐るべき威力だ。下手な誤魔化しでその場をしのごうとしていたら、間違いなく餌食になっていただろう。
 もちろん、薙人はそのような姑息な真似はしない。
 いつだって、誰に対しても、真摯に向き合うのだ。
「それほどの長きに渡って世を治めているのなら、それは民衆に支持されているという事です」
『だから! それこそが|おかしい《・・・・》とは思わぬか!?』
 鞭を持つ影朧が、激高した声を上げた。鞭が唸り、再び地面を穿つ。
『人はいつか死ぬものだ、不死の存在など不自然極まりない! 斯様な存在の支配など、歪でしかないのだ!』
 それを聞いた薙人は、ほんの少しだけ、頭部の枝を揺らす。
「そう言う貴方々に、正義はあるのですか?」
『――何?』
「たとえ帝の存在が人の理から外れているとしても、今申し上げた通り、七百年もの間、人の世の平和を守り続けておられます」
 薙人が影朧たちを見据える金茶の瞳は、揺るがぬ強い意思を宿していた。
「貴方々はどうですか? 自らの行いの先に、人々が安心して暮らせる世界を作ることは出来ますか?」
 突撃隊員たちの間を、一瞬だけ――沈黙が支配した。
 だが、それもすぐに放たれた怒号によってかき消された。

『我等、帝の治世を覆す尖兵なり! その為に流れる血など、省みること無し!』
『弱き者、そして貴様らのような帝の犬畜生共を排除して、我等が闘争を有利に導くこととそ我等が使命なり! その先にこそ、真なる理想の社会が――』

 ――ざああ……っ!!

 薙人は、返事をしなかった。
 その代わりに、再び蟲笛の演奏を始め、先程よりも強く激しい桜吹雪を巻き起こす!
 いわゆるテロルを目論む相手に対して、まっとうな正義を問うことほど空しいことはない。図らずも、薙人は身を以てそのことを理解してしまった。
 だが――こうなれば、一切の躊躇は無用!
 美しい桜吹雪の中で、一人、また一人と切り刻まれて消滅していく影朧たち。
 今できることは、こうしている間にも迫っているソウマコジロウの魂魄を解放せんとする首謀者への道を切り拓くこと。
 薙人は、美しい音色を奏で、次々と影朧たちを消滅させていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
不満がもつのはまだわかります。その状態を変えたいと願う事も。
でもその後「どうするのか」「どうしたいのか」それが無ければただの駄々ではありませんか。
……理路整然と考え実行できるのであれば転覆などと言い出さないのでしょうね。
そもそも帝が悪しき存在とおっしゃる意味が解りません。
宗教的な意味で言えばむしろ寿命があるものが原罪という罪があるのでは?(本心ではそう思ってませんが相手の言ってる事がおかしいと思ってるので反論)
ああもう頭が痛い。
雷光で音ごと一掃してしまいましょう。

問いへの答えはただ一つ。
ただ日々を生きる庶民には誰の治世であってもたいして変わりません。
日々の安寧を覆そうとする貴方がたが害悪です。



●平和を守るということ
 帝都、大手町。
 新皇塚の周辺には、まだまだ多くの『秘密結社バッテン党の突撃隊員』を名乗る影朧たちが跋扈している。
 突撃隊員、を名乗る以上は、どこかにこの騒動の首謀者が別に存在するのはほぼ間違いないが、現状ではとても親玉を見つけ出して叩くところまでは手が届かない。
(「地道に、道を切り拓いていくしかありませんね」)
 既に戦場と化した新皇塚周辺に転移を受けて降り立った夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は、ライフル銃を手に待ち受けていた影朧たちと対峙して、覚悟を決める。
『超弩級戦力……不死の帝の治世などという歪な安寧に甘んじる軟弱者どもめ!』
『我等、貴様等がいかに強敵であろうと一歩も退くこと無く理想を追う者なり!』
 影朧たちから、威勢の良い叫び声が上がる。既に多数の同志を失ってなお、その士気は高い。言っていることだけは立派なように聞こえるが、内容は非常に物騒だ。
「不満をもつのはまだわかります、その状態を変えたいと願う事も」
 人がどのような考え方を持つのか、それ自体は自由だ。故に、藍はそう切り出した。
「でも、その後『どうするのか』『どうしたいのか』――それが無ければ、ただの駄々ではありませんか」
 宙色の瞳は、惑わされることなく、本質を射抜く。
 彼らの言動は、自分の主張を押し通さんとわめき散らす子供と、さして変わらない。
(「……理路整然と考え実行できるのであれば、転覆などと言い出さないのでしょうね」)
 影朧と化したことによる思考力の低下か、はたまた何かの妄執に囚われ視野が狭くなっているのか。いずれにせよ、癒やしが云々という次元は、既に過ぎてしまったのだろう。

『革命のその先を考えるのは、|我等が党首の役割《・・・・・・・・》!』
『我等はその手足となって、理想の実現に向けて邁進する者なり!』
 突撃隊員たちは、ライフル銃を構えて、赤い瞳で藍を睨みつけた。
『邪魔をするならば、例え相手が超弩級戦力であろうと、全力で排除する!』

 ――ああ。
 これは、どうあっても話が通じない輩だ。
 藍は内心で息を吐きながら、姿勢をやや低くして身構える。
『だが一つ問おう、超弩級戦力よ!』
 隊列を組んだ突撃隊員たちの間から、鞭を手にした影朧が一歩前に進み出てきた。
『貴様、不死の帝の存在を不自然に思ったことは、本当に無いのか?』
「……」
『|七百年《・・・》だ、それほどまでの長きにわたり、一人の人物が世界を支配する――あまりにもおかしいとは思わぬか!?』
 ――びしぃっ!! 鞭が飛んで来て、藍の足元を抉る。当てようと思えば当てられたはずの軌跡だ、これは試されていると理解した藍は、迷わずこう答えた。
「ただ日々を生きる庶民には、|誰の治世であっても《・・・・・・・・・》たいして変わりません」
 変わり映えのない日々であったとしても。
 怠惰に思える日々の過ごし方のように思われたとしても。
「日々の安寧を覆そうとする、貴方がたこそが、害悪です」

 知っている。
 世界の平和が、いかに尊いものであるかを。
 知っている。
 それを乱された結果が、いかに悲惨であるかを。
 猟兵として世界を渡り、幾多の戦いをくぐり抜けてきた藍だからこそ――知っている!

『害悪だと……!?』
『得体の知れぬ帝こそ、害悪ではないか!』
「そもそも、帝が悪しき存在とおっしゃる意味が解りません」
 言葉の応酬は続く。両者、一歩も退く気配はない。
「宗教的な意味で言えば、むしろ寿命があるものが原罪という罪があるのでは?」
『なん……だと……!?』
 藍の言葉に遂に狼狽えた様子を見せた影朧に、内心でほんの少しだけ舌を出す。本気でそうとは思っていない台詞ではあったが、明らかに影朧たちの言い分の方がおかしいと思ったので切ったカードだった。
 何なら影朧である自分たちの存在そのものを見直して欲しいと思うところではあったが、これ以上連中を相手取るのも、頭が痛くなってくるのでぐっと呑み込んだ。

「ああ、もう、頭が痛い」
 貴方がたの相手をしていると、色々な意味で疲れます。そういう意味合いを込めて。
『のうのうと平和を享受しているだけの堕落した己を、恥ずべきものとは思わぬか!?』
『嘆かわしい! その腐りきった性根を叩き直してくれるッ!』
 まるで雑音を遮断するかのように、藍は一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
 打刀「青月」を抜き放ち、そのまま天にかざし――叫んだ。

「轟け! 【|雷光《ケラヴノス》】!」

 その日、避難を余儀なくされていた人々は、新皇塚周辺に無数の雷が降り注いだのを見たという。それは紛れもなく、藍が巻き起こした複製神器による包囲攻撃の余波だった。
 轟く雷鳴の中では、影朧たちがどれだけ主義主張を叫ぼうと、かき消されるばかり。
 話は尽きたのだから、雑音ごと一掃してしまっても構わないだろうと。
 影朧たちの一群をまるごと消滅させた藍は、ただ肩をすくめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
弱き影朧とは違う、ねぇ。
それじゃ見せて貰おうかしら……その崇高な理想とやらを貫く意思を、ね。
それだけ大層に宣言してくれたんだもの。少しくらいは……抵抗してくれるわよね?
(好戦的に微笑む)

【無念無想拳】発動
闘気を纏って視聴嗅覚から逃れ、私を捉えられなくする
その隙に接近&接触し、一人ずつ意思を奪って無力化していく
(強烈な闘気を至近で浴びせることで精神に直接ダメージを与えるイメージ)
相手が消えたと思ったら、恐慌した様子で周りの同志が一人ずつ倒れていく……ホラーさながらの演出は、高い士気を折りに行くにも丁度いいんじゃないかしら

もう終わり?
この程度じゃ「其処らの弱き影朧」の方が、まだ手応えあったわね。



●成し遂げる力
『……悔しいが、力では超弩級戦力の方が圧倒的に我等を上回る、ということか』
 大勢で大挙して新皇塚を占拠したところまでは良かったが、猟兵――超弩級戦力たちの対応があまりにも迅速で、秘密結社バッテン党の突撃隊員たちは想像以上の速さでその数を減らされつつあった。
『せめて、あと少し……一矢報いることすら叶わずとも、|時間を稼ぐのだ《・・・・・・・》』
 まるで、誰かに何かを託しているかの如く。
 突撃隊員たちは、残された人員で再び隊列を組み直すのだった。

 ――ざりっ。
 地を踏みしめる、鈍い音が響いた。
「『弱き影朧とは違う』、ねぇ」
 不敵な声音に影朧たちがいっせいに振り返れば、そこには小柄な女が立っていた。
『何だ、貴様』
『……待て、この気配は』
 女――荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)の姿を認めた影朧たちは、最初こそその外見に惑わされたが、すぐに彼女も憎き超弩級戦力であると知る。
「それじゃ、見せて貰おうかしら……その『崇高な理想』とやらを貫く意思を、ね」
 つかさはあくまでも冷ややかな視線で、突撃隊員たちを見据えていた。その態度が気に入らず、影朧たちはライフル銃を構えながら口々に威嚇の言葉を発する。
『我等を試そうと言うのか!? 随分と侮られたものだ!』
『言われずともその身に叩き込んでくれようぞ、我等の折れぬ信念をなッ!』
 つかさは「ふぅん」とだけ返すと、両の指を順番にボキボキと鳴らした。
「それだけ大層に宣言してくれたんだもの」
 無表情に見えたつかさのそれが、初めて好戦的な微笑みに変わった。

「少しくらいは……抵抗してくれるわよ、ね?」

 突撃隊員たちは、知るよしもなかった。
 これから始まる、一方的な『虐殺』に近い惨劇を――!

『な……消えた!?』
『どういうことだ、何かの幻覚だったとでも言うのか!?』
 ついぞ先程まで、確かに大仰なことを言っていたはずの超弩級戦力が、消えたのだ。どんなに耳を澄ましても、目をこらしても、その気配を感知することができない。
『が……ッ』
 その時、突如影朧の一人が白目を剥いてその場に崩れ落ちた。何の予兆もなかった。
『おい、どうした!』
『何が起きたッ!?』
 影朧たちは、倒れ伏した同志を助け起こす。辛うじて意識はあるが朦朧としており、外部からの刺激に一切反応することができず――。
『何だこれは……まるで、廃人状態ではないか……』
『突然どうしたというのだ……ッ!?』
 その時、同じように隊員がまた一人、がくんと身体中から力を失って倒れ伏す。まるで状況が掴めない突撃隊員たちは、徐々に恐慌状態に陥りつつあった。
『ひいィ!?』
『こ、これはもしや……ソウマコジロウ殿の……!?』
『馬鹿を言うな、我等はソウマコジロウ殿の味方をせんとする者なるぞ! そのような訳が……』
『と、とにかく周囲を警戒しろ! 必ず何か前兆がある筈だ!』

 ――そんなもの、あるわけないじゃない。

 何が起きているのか、よい子のみんなには説明しておこう。
 つかさが発動したユーベルコヲド【|無念無想拳《インビジブル》】とは、使い手とその武装を環境に溶け込む闘気で覆い、視聴嗅覚での感知を|不可能にする《・・・・・・》という、とんでもない効果を持っている。
 そしてさらに、纏った闘気に触れた敵対者からは意思を――この場合、突撃隊員たちを突き動かす原動力である『国家転覆という理想を貫く意思』を奪ってしまうのだ。
 当然、影朧たちの唯一無二である行動理念を根こそぎ奪われては、後に残るのは抜け殻も同然。つかさはただ姿を消したまま、影朧たちに触れるだけで良いのだ。

(「相手が消えたと思ったら、恐慌した様子で周りの同志が一人ずつ倒れていく……」)
 思った通りの状況に、つかさはほくそ笑みながら、次の|対象《ターゲット》の肩に軽く手を置く。すると、触れられた隊員は泡を吹いてその場に崩れ落ちてしまった。
(「ホラーさながらの演出は、高い士気を折りに行くにも丁度いいんじゃないかしら」)
 まさしく、つかさの意図通りであった。影朧たちには、どう足掻いてもつかさの存在を察知する術はなく、ただ同志たちが次々と謎の昏倒をしていくのを、手をこまねいて見ていることしかできないのだから。
『つ、次は我か……!? 嫌だ、何も分からずに殺されるのは嫌だァ……!』
『しっかりしろ馬鹿者! それでも誇り高きバッテン党の党員か……あぐッ』
 つかさは、敢えて士気が高い者から狙って無力化していく節があった。ここぞという時に取り乱す程度の輩など、自ら手を下す必要もないということなのだろうか。
 そうして、すっかり統率が乱れた突撃隊員たちの情けない有様を見たつかさは、ため息を吐きながら、わざとその姿を露わにしてみせた。

「もう終わり?」
『ひい……ッ!』
「この程度じゃ『其処らの弱き影朧』の方が、まだ手応えあったわね」

 腰を抜かした隊員ばかりが残る状態で、なおも反駁するものあり。
『やはり……やはり貴様の仕業だったか! 超弩級戦力は超弩級戦力で、不死の帝と似たり寄ったりの信用ならない輩よ……!』
「キャンキャン五月蠅いわよ、雑魚が」
 つかさが、冷ややかな表情で言い放つ。
「そのライフル銃は飾りなの? 自分一人では何一つ出来ないくせに粋がらないで」
『……!!』
 影朧は、身体中が震えていた。当然、銃を構えることすらままならない。
 つかさにぐうの音も出ないほどに打ちのめされて、突撃隊員たちはしばしその場にへたり込むばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・潤
×
サクラミラージュは大恩ある方の故郷
安寧のお手伝いが出来れば満足です

それに、そこまでして封じなければならないモノなど
何処の世界でも永劫に蘇るべきではないと考えますから

バッテンとはまた何とも味のない命名ですね
せめてもう少し捻りがあれば格好良いものを
…などと考えて普通に歩いていたら当たり前に気付かれましたか

「では始めましょう」

護剣・断罪捕食を詠唱し真っ向から戦いを挑みます

広範囲をなぎ払う事三閃
減り始めましたね

今回は斬るに感情も不要です
彼らは壊れた絡繰人形に等しいですから
それが証拠にただただ向かって来るだけ
「烏合の衆など恐れるに足りません」

全力で斬り裂き真の敵へ急ぎたいのです
「邪魔しないで下さいね」



●護るため、血に濡れる
(「サクラミラージュは大恩ある方の故郷、安寧のお手伝いが出来れば満足です」)
 転移を受けて新皇塚周辺に降り立った天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)は、周囲の雰囲気が当初聞いていた『それ』とは少々異なることに気付きながらも、構わず歩を進めた。
 本来ならば、転移を受けてすぐに接敵となる予定だったのだが、潤が舞い降りた場所には影朧たちの姿が見当たらないのだ。
 ただ、気配はする。いまだ蠢く影朧たちの気配と、その向こう側に渦巻く強力な怨念の気配。
(「それに、そこまでして封じなければならないモノなど、何処の世界でも永劫に蘇るべきではないと考えますから」)
 こちらから出向いてでも、止めなくては。潤は地面を踏みしめながら、一歩一歩、禍々しい気配の方へと突き進んでいった。

(「『バッテン』とは、また何とも味のない命名ですね」)
 帝の治世にバッテンをつける、という意味合いなのだとしたら、あまりにも安直が過ぎる。
(「せめてもう少し捻りがあれが、格好良いものを」)
 帝都をはじめとした世界で暗躍する輩は多々あれど、猟兵――超弩級戦力たちが知る中でマシな方なのは『|黯《あんぐら》党』あたりだろうか。『幻朧戦線』は……だいぶ長い付き合いとなるがいまだその全容が掴めないのは不気味ではあるが、やはりその名は安直と言えよう。こういった輩は、分かりやすさを重視するものなのだろうか。
『くっ、また超弩級戦力が来たぞ!』
『狼狽えるな同志よ! 先程は遅れを取ったが、今度は油断せずかかれば良いッ!』
(「……何か、あったのでしょうか?」)
 どうにも、戦闘が始まる前から影朧たちが及び腰に見えてならないのは気のせいか。
 だが、それはそれで好都合というもの。何しろ、これはあくまでも『前座』なのだから。

「では、始めましょう」

 潤は「黒蒼刃」を抜き放つと、迫り来る突撃隊員たちを眼光鋭く見据えた。
「護る為に……凡ての敵に、死を」
 潤の声と共に、脇差の刀身が凶悪な形状に変化していく。これこそがユーベルコヲド【|護剣・断罪捕食《ゴケン・ダンザイホショク》】の能力、そのはじめの一つだ。
『敵が見えてさえいれば恐るること無し! かかれーーーッ!』
『てーーーッ!』
 突撃隊員たちは、隊列を組んでいっせいに潤目がけてライフル銃を発砲する! だが、潤は全く怯むどころか、禍々しく変形した脇差を大きく一閃する!
『|銃弾《たま》を……斬った……!?』
『来るぞ! 近寄らせるな、もう一度だ!』
 だが、突撃隊員たちの次なる射撃は、不発に終わった。
 前列の隊員たちが構えていたライフルの銃身を、潤が再びの斬撃で一気に斬り落としたからだ。
『な……ッ』
『退け! 我が撃つ!』
 剣で銃身を両断されるという信じがたい光景に固まっている隊員を押しのけて、中列に控えていた隊員たちが代わりに発砲しようとするのを――三回目の斬撃で、その一切合切を、斬って捨てた。血しぶきが飛び、潤の身体を濡らすも、お構いなしだ。

「敵が見えていれば――何でしたか?」

 返り血を浴びて、ゆらりと立つ潤の姿に、さしもの突撃隊員たちも思わず固まってしまう。相手の手の内さえ分かっていれば対処できる――そう思っていたのに、実際はどうか。激烈とも言える広範囲にわたる斬撃は、想像以上の被害をもたらしたではないか。
『おのれ……! 何が超弩級戦力だ、所詮は帝の犬畜生に過ぎぬ分際で!』
『怠惰な安寧に身を浸し、堕落しきった輩に屈する我等に非ず!』
 残された突撃隊員たちは、己を奮い立たせるかのごとく口々に強い言葉を放ちながら、ライフル銃を構えて再び潤へと照準を合わせた。
 潤は一度脇差をぶんと振って血を払うと、再び斬撃を繰り出す構えを取る。
(「今回は、斬るに感情も不要です」)
 手に取るように分かるのだ。
 大義名分を掲げているように見えるが、そのあまりの薄っぺらさが。
 本当の『信念』を知る潤からしてみれば、あまりにも――温い。
(「彼らは、壊れた絡繰人形に等しいですから」)
 仕組まれた『言葉』を発し、ただただ向かってくるだけの、脆い存在。

「烏合の衆など、恐るるに足りません」
『なん……だと……!?』

 再びの、一閃。
 あっという間に十数体の影朧たちの胴体が、真っ二つとなって消滅した。
『ば』
 突撃隊員の一人が、呆然と口にした。
『バケモノめ』
 そして、他の同志と同じく、身体を切り裂かれて霧散した。

「邪魔しないで下さいね」
 すっかり返り血にまみれた潤が、地を蹴って先へ進むべく身構えながらそう呟く。
 残存勢力の隊員たちは、それをただ見送るしかなかったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪華・風月
◎【飛剣】
ヘスティアさんに運んでもらって敵集団上空へ
そして集団の中に穴を開けてもらいそこに飛び降ります

帝都桜學府所属、雪華・風月参ります…!

雪解雫を抜き、|観の眼《心眼》にて敵の攻撃を『見切り』、『切り込み』ます!
彼らが連携を取れた人物であるということは使う武技、流派なども同じということ…相手の動きから情報を得て、それを元に立ち回りの最適化を

崇高な理想とはどういった物でしょう?政治形態、法、予算、税…その他諸々全てに対して展望はありますか…?
そしてそれを為すにあたって今の帝都の民全てにとってより良い物ですか?

少なくともわたしはあなた達の迷惑を顧みない大義より今の帝の治世の方が良いと考えますので


ヘスティア・イクテュス
◎【飛剣】
風月の両手を掴んでティターニアで『空中機動』、まずは初手影朧達に向かってマイクロミサイルの|『一斉発射』《範囲攻撃》

崇高な理想、帝の治世?知らないわよわたしSSWのスペースノイドだし
ミサイルで蹴散らした後に風月を投げ込み、量子保存空間よりプチヘス達とレーヴァティを転送(SAN値減少おまかせ)

そのまま敵の攻撃を躱しつつ、プチヘス達と|連携《集団戦術》
レーヴァティで風月を上空から援護射撃ね


まぁわたしから一つ言えるとすれば
武力で民への被害などを気にせず国を治める立場になった人間が民のための治世を行えるとは思えません
といった感じかしら?



●決裂の時
 雪華・風月(若輩侍少女・f22820)とヘスティア・イクテュス(SkyFish団船長・f04572)は、グリモア猟兵に『転移先を新皇塚上空にして欲しい』と依頼した。
 かくしてその通りにした結果、ヘスティアが風月の両手を掴んで、バッテン党の突撃隊員の頭上に現れるという図式が完成した。
「のっけから行くわよ、マイクロミサイル一斉発射!」
 まさか頭上からの奇襲を受けるとは想定していなかった影朧たちは、たちまち統率を乱してしまう。
『て、敵襲ッ! 上空からの爆撃と思われます!』
『おのれ小癪な……! 敵は目視出来るか!?』
 影朧たちが散り散りになりながらも見上げれば、まさに敵陣真っ只中に飛び込まんとする風月の姿が目に飛び込んできた。

「帝都桜學府所属、雪華・風月! 参ります……!」

 ――ざっ!
 名乗りを上げながら敵陣にちょうど開いた空間の真ん中に着地した風月は、立ち上がると同時に日本刀「雪解雫」を抜き放つ。
 四方八方を囲まれた状況ながらも、風月はまるで臆する様子がない。それを見た突撃隊員たちもまた、油断せず風月への包囲網を徐々に狭めていく。
『いかな桜學府の學徒兵と言えど、一人で何処まで我等の相手が出来るかな!?』
『見せて貰おうか、超弩級戦力の実力をッ!』
 流石は秘密結社の党員というべきか、一度は乱された統率をすぐに取り戻し、陣形を組んで風月へと迫る。接近戦を選んだ影朧たちは、ライフルの銃床で四方八方から殴りつける戦法を選んだ。婦女子相手に割とひどい。
 だが、風月を相手取るにはそれでもなお生温かったかも知れない。|観の眼《心眼》による敵の動作の先読みは完璧であり、最低限の動作で振り下ろされるライフル銃を躱すと、翻した身で雪解雫を一閃、敵陣へと切り込み、次々とライフル銃を叩き落としていく!
『くっ、ちょこまかと!』
『隊列を乱すな、布陣ではいまだ我等の方が有利であるぞ!』
 長い黒髪をなびかせながら、風月は舞うように敵陣のただ中で奮戦する。
(「彼らが連携の取れた人物であるということは、使う武技や流派なども同じということ」)
 まるで複製体のようにそっくりな見た目の突撃隊員たちの長所は、ひるがえって短所となる。
(「相手の動きから情報を得て、それを元に立ち回りの最適化を図れば――」)
 風月の動きが、さらにキレを増していく。
 だが、敵も物量で攻めてくる。入れ替わり立ち替わり、風月を攻め立てる。

「風月!」

 その時、上空からヘスティアの声が響いた。同時に、スペーススップワールド秘伝の技術である量子保存空間から自身を模した二頭身ロボとビームライフル「レーヴァティ」を転送し、周囲に展開させる。
『先程の爆撃は貴様によるものか!』
『影朧兵器……ではなさそうだな、それにしても物騒なものを使う輩よ!』
 突撃隊員の半数が、ヘスティアの迎撃にあたるように、上空目がけライフル銃を構える。
「いいわよ、相手してあげる! 行くわよ、プチヘス部隊!」
「「「ピー!」」」
 可愛らしい機械音を発しながら、大量の二頭身ロボことプチヘス部隊が武装したブラスター銃で先手を打って突撃隊員たちを撃ち始めた。ちっちゃくてもこうかはばつぐんだ!
『ぐわッ!? 面妖な攻撃を仕掛けてきたぞ!』
『怯むな、撃て……がっは!』
 ヘスティアとそのお供たちを撃墜しようとした影朧たちのお留守になった足元を、風月が勢いよく足払いですくい上げ、思い切り転倒させる!
「頭上注意ですが、足元も注意ですよ?」
『このッ!』
『貴様等ごとき小娘共に、我等の崇高なる理想を妨げられる訳には行かぬのだ!』
 その言葉に、ヘスティアと風月が戦闘を続行しながらもそれぞれ返す。

「崇高な理想? 帝の治世? 知らないわよわたし|SSW《スペースシップワールド》のスペースノイドだし」
「崇高な理想とは、どういった物でしょう? 政治形態、法、予算、税……その他諸々、全てに対しての展望はありますか……?」

 ジェットパック「ティターニア」で上空からふんぞり返ってドヤるヘスティアはともかくとして、この世界に生きる風月は真剣そのものだ。
「そして、それを為すにあたって、今の帝都の民全てにとってより良い物と言えますか?」
 風月の視線に射抜かれた突撃隊員たちは、一瞬その気迫に気圧されるも、すぐに言い返す。
『民草には些か犠牲となって貰うこともあろう、だがそれは必要な犠牲なのだ!』
『血を流してこその革命である! 傷口から膿を出すのと同じことよ!』
 それを聞いた風月は、そしてヘスティアも、同時に目を見開き、そして険しい顔になった。
「……やはり、あなた達にかける情けはないようです」
「そうねぇ、こりゃダメだわ」
 風月は雪解雫の切っ先を突撃隊員に向けて突き出し、凜とした声で言った。
「少なくともわたしは、あなた達の迷惑を顧みない大義より、今の帝の治世の方がずっと良いと考えますので」
「まぁ、わたしから一つ言えるとすれば」
 上空で腕組みをしながら、ヘスティアも援護射撃の言葉を放つ。
「武力で民への被害などを気にせず国を治める立場になった人間が、民のための治世を行えるとは思えません――といった感じかしら?」
 突撃隊員たちの様子はどうか。
 全員、険しい表情を崩さない。
『我等の目的は、帝の治世を覆すこと! それにより、微睡む愚かな民も目覚めるだろう!』
『貴様等は帝の犬畜生であるが故に、理解出来ぬだけなのだ!』

 今や新皇塚周辺に渦巻くのは、むせかえるほどの殺意ばかり。
 覚悟を決めた風月とヘスティアは、地上から、上空から、熾烈な戦いを繰り広げた。
「少しでも数を減らすわよ、風月!」
「はい! もう、躊躇はしません!」
 雪解雫の切っ先が走り、影朧の胴体を真っ二つにして消滅させる。
 ヘスティアも精神の消耗を意に介さず、プチヘス部隊を駆り、レーヴァティで撃つ。

 今は、戦うしかない。
 戦って、帝都の――ひいては、世界の平和を守るしかない。
 そのための力が、自分たちには与えられているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御桜・八重


ソウマコジロウ。
転生を禁じられるって、よほどの存在だったんだろうね……

「桜學府所属、御桜・八重! 悪漢どもよ覚悟しろ!!」
転送直後、學徒兵の制服で仁王立ち。桜學府を名乗って挑発する。

銃口が一斉にわたしを向いたら、射線を見切って刀で弾丸を弾き飛ばす。
「いざ吹き荒れん、花嵐!」
続く神速の八連撃で殺到する弾丸を全て切り払い、
動揺する突撃隊員の間に飛び込んで、嵐のごとく二刀を振るう!

あなた達にも理想があるのかもしれないけれど。
人々を泣かせるような革命なんてダメだよ。
主張は然るべき手順を踏んで進めないと。

大体人の力に頼ろうって、どういう了見?
虎の威を借りた狐の言うことなんて、誰も耳を貸さないよ!



●正義の二刀と狂気の軍人
(『ソウマコジロウ』)
 その名を、そして新皇塚のことを、御桜・八重(桜巫女・f23090)は聞いたことがない訳ではなかったけれど。
(「転生を禁じられるって、よほどの存在だったんだろうね……」)
 現在の帝が、七日間の戦いの果てに討ち果たし、その魂魄を封印するに至った、強力な存在。そのようなものが解き放たれては、この平和な帝都は、いや世界は――。

「桜學府所属、御桜・八重! 悪漢どもよ、覚悟しろ!」
 考える時間はお終い。転移を受けた身体が地面に着地すると同時に、すっくと仁王立ち。
 學徒兵の制服をこれでもかと見せつけて、名乗りも高らかに挑発を試みる八重。
『帝都桜學府……!? 影朧を癒やし鎮めるなどという、軟弱者の集まりか!』
『貴様等もまた、帝の治世を支持する不届き者ということか! 覚悟せよッ!』
 突撃隊員たちのライフル銃が、いっせいに八重へと向けられる。ここまでは思惑通り。
 八重は愛用の二振りの刀をすらりと抜き放ち、身構える。
『分かっているぞ、超弩級戦力ならば我等の銃弾さえもその刀で跳ね飛ばすのだろう!』
『だが、我等は折れぬ! 屈せぬ! 貴様を排除するまで、何度でも立ち向かう!』
 何だか、思っていたよりも突撃隊員たちに悲壮感が満ちているのは気のせいだろうか。八重自身には決して非はないはずなのだが、ここに至るまでに、何かあったのだろうか。
(「えっ、ちょっと待って、これってまるでわたしが悪者みたいじゃ……わわっ!?」)
 八重がいぶかしんでいる間にも、ライフルが火を噴いて、次々と八重目がけて銃弾が飛来する!
「ええいっ、その通りですよーだ! てりゃーっ!」
 自分でも驚くほどに、銃弾の軌道が――|見えた《・・・》。
 故に、片方の刀で――陽刀のみで初撃を銃弾をすべて弾き飛ばすのも、容易かった。

『やはりか……! 我等の銃では、超弩級戦力には及ばぬか!』
『だがしかし、止まる訳には行かぬ! 我等の|真の役割《・・・・》を忘れるなッ!』

 再び、ライフル銃から弾丸が放たれる。その数、先程とは比にならぬ程に多い!
「――いざ吹き荒れん、【|花嵐《ハナアラシ》】!」
 八重が叫ぶと同時に地を蹴って、文字通り、幻朧桜を巻き上げんばかりの嵐と化した。
 猛然と二刀を振るい、神速の連撃で殺到する弾丸を次々と斬り払っていく!
「いち、に、さん、し……!」
 数を数えている八重にしか、その回数は分からない。それほどまでの――神速。突撃隊員たちから見たら、猛る桜吹雪が弾丸をことごとく斬り捨てていく姿しか判別できない。
「やああーーーーーっ!!!」
『な……ッ!?』
『此方へ来ただと!?』
 よもやまさか、桜の嵐が自分たちのただ中へ突進してくるとは思わなかったのだろう。影朧たちは動揺し、迎撃もままならず、八重の刀によってライフル銃を叩き落とされていく。桜吹雪の合間から、ほんの僅か幼さを残しながらも、凜とした八重の力強い視線に射抜かれ、得物を失った突撃隊員たちは思わず両手を上げてしまう。

 ――ざああ、あ――。

 猛然と舞い上がる桜の花弁が落ち着きを取り戻し、はらはらと舞う中、八重は陽刀を影朧たちに突きつけながら、言った。
「あなた達にも理想があるのかも知れないけれど」
『……』
 影朧たちは、抵抗を止めて押し黙る。いつ斬り捨てられても良いという顔をしていた。
 だが、八重は言葉を続ける。影朧たちの赤い瞳を、青い瞳でしっかりと見据えて。
「でも、人々を泣かせるような革命なんて、ダメだよ」
『……』
「主張は、然るべき手段を踏んで進めないと」
 影朧たちが、気まずそうに目を逸らす。八重は、それに対してぷうと頬を膨らませた。

「どうしてそこで目を逸らすの!」
『正論で殴られるのは正直辛いのだ!』
『我等には、こうするより他に手段が無かったのだ!』
「だからって、やっていいことと悪いことがあるよね!?」

 ぜー、はー。ぜー、はー。
 突撃隊員たちと八重との間で、まるでお母さんと子供のようなやり取りが繰り広げられた後。
「大体、人の力に頼ろうって、どういう了見?」
『それは……』
「虎の威を借りた狐の言うことなんて、誰も耳を貸さないよ!」
『ぐッ』
 影朧たちが、完全に言葉を失った、その時だった。

『時は、満ちた』
『――党首殿!』
「えっ!? ……誰!?」

 それはまるで、地獄の底から響くような声だった。
 それはまるで、妄執に取り憑かれた狂人のような姿だった。
(「ソウマコジロウ……じゃ、ない……」)
 八重は安堵するも、すぐに身構える。今確かに影朧たちは『党首殿』と言った……!?
『ご苦労だった、貴様等は|用済みだ《・・・・》』
『はッ……え?』
 党首殿、と呼ばれた存在――突撃隊員たちとは比べものにならぬ程の力を纏った影朧が手の平をかざすと、残存していた突撃隊員たちがあっという間に黒い靄と化して、影朧の手の平へと吸い込まれていくではないか!

「ちょ……っ!」
『超弩級戦力、お前たちの首をソウマコジロウの魂魄に捧げよう』

 影朧――『妄執の軍人』は、ニィと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『妄執の軍人』

POW   :    壊そう
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    斬ろう
自身に【狂気の闇】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    呪おう
【片掌】から【呪いの炎】を放ち、【呪縛】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠寧宮・澪です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●狂気と怨念
『時は、満ちた』
 ――バッテン党の突撃隊員たちは、時間稼ぎに使われていたというのか。
 用済みと言い捨て残党たちを己の糧とするように吸収してしまった、強力な影朧。
『超弩級戦力、お前たちの首をソウマコジロウの魂魄に捧げよう』
 その言葉に呼応するかの如く、影朧――『妄執の軍人』の背後に鎮座する『新皇塚』からは、ただならぬ気配が漏れ出していた。

『さすれば、ソウマコジロウの魂魄は此処に復活を果たす』
 妄執の軍人は、淀んだ瞳で猟兵たちを――超弩級戦力たちを見た。
『帝も、皇族も、そのことごとくを血祭りに上げる時が来るのだ』
 ニィ、と。
 軍人は狂気に満ちた笑みを浮かべた。
『憎い、憎い。壊して、殺して、帝の治世すべてを否定してくれる』
 自らの行いの果てにあるものなど、まるで視野に入っていない。
 突撃隊員たちを巧みに操っていた『理想』さえ、詭弁に過ぎなかったのだ。

 不死の帝の御世を一度とはいえ破った『ソウマコジロウ』の復活が成れば、影朧の妄執は現実のものとなりかねない。
 ――止めなければ!

●プレイングボーナスについて
 妄執の軍人の攻撃に加えて、塚から漏れ出すソウマコジロウの怨念により、猟兵たちは毎ターン「強制改心刀に似た、肉体を破壊せず『影朧や新皇への敵意』だけを破壊する攻撃」も同時に受けることとなります。
 戦意の喪失に抗い、心を奮い立たせて立ち向かうことで、判定に上方修正がかかります。
 皆様なりの方法で立ち向かい、影朧の目論見をここで食い止めましょう!
雪華・風月
◎【飛剣】
…ソウマコジロウの怨念、『影朧や新皇への敵意』だけを破壊する攻撃…
それを柳緑花紅にて|断ち切り《呪詛耐性・霊的防護》ます!

柳緑花紅の|霊力《焼却》を開放【真の姿】
正面から切り結び【武器受け・受け流し】、拳を避け【見切り】
相手が狂人であるなら此方は言の葉を持ちません
ただただ怒りを平和を乱す輩に内心で燃やします

ヘスティアさんの声に後方に飛び射線を…
ヘスティアさんのUCで出来た隙に一撃を叩き込みます!


ヘスティア・イクテュス
◎【飛剣】
うわぁ…わたしこういう怨念?そういう科学で対処できなさそう系はちょっと苦手なのよね…

と風月を前に自身は後ろで完全援護の構え
距離取ったらその怨念?薄れてくれないかしら…?

自身の戦意が無くなるなら…アベル!と|ティンク・アベル《自動射撃》にグレムリンやブラウニーズの操作権を、AI操作なら戦意が無くともね
そのまま一撃の隙を作るためアベルに選択を任せた|端末《UC》を…

風月!デッカイの逝くわよ!!



●許されざる者
「うわぁ……」
「な、何ですかヘスティアさん」
 ヘスティア・イクテュスは明らかに雪華・風月を盾代わりにするように、その背中をぐいぐい押して自分は影朧や塚から距離を取ろうとし始めた。
「わたし、こういう……怨念? そういう『科学で対処できなさそう系』は、ちょっと苦手なのよね……」
「だからって、わたしを盾にするのはひどくないですか!?」
「いや、距離取ったらその塚から漏れ出てるっていう怨念も薄れてくれないかしらって」
 怨念による戦意の喪失以前に、自分から勝手に戦意を放棄しているのは気のせいか。風月は半ば諦めたような顔でため息を吐くと、先程の突撃隊員たちとは明らかに格が違う気配を醸し出す妄執の軍人に向き直った。
『どうだ、いまだ完全なる復活を遂げていないにも関わらず、この威圧感よ』
 軍人はニィと笑って、新皇塚の方を見た。
『貴様等はその場に膝を突き、大人しく首を落とされるが良い』
「……させません」
 後方ですっかり縮こまってしまっているヘスティアを置いて、風月は凜と言い返す。
「この『柳緑花紅』で、その怨念を断ち切ってみせます!」
 言うなり、風月は赤い柄の大太刀を抜き放ち、目を見開いた。すると、かつて妖刀と呼ばれた大太刀の刀身に赤い霊力が宿り、それは燃え立つ炎として顕現する!

「やああああああっ!!!」

 風月は、【|柳緑花紅《リュウリョクカコウ》】の強化に加えて、真の姿を解き放つことでの相乗効果で、強引にソウマコジロウの怨念を断ち切ろうと――試みた。
「……え?」
 だが、思惑通りには行かなかった。
 身体が、言うことを聞かないのだ。
 風月は、大太刀を振り上げたまま、その場に片膝を突く。
『随分と余裕だな、學徒兵』
「!」
 体勢を崩した風月の眼前に、軍人が拳を固めて立っていた。
(「真の姿に――なれない!?」)
 その時、動揺する風月の背後から、ヘスティアの怒声が飛んだ。
「何やってるの風月! しっかりなさい!」
 自ら手を下せなくとも、ヘスティアには心強い『執事』がついている。サポートAI端末「ティンク・アベル」だ。アベルに操作権を委譲された無線端末の「グレムリン」や「ブラウニーズ」たちが、間一髪のところで風月と軍人の間に割って入るように、ビームを放ち追撃を阻止したのだった。
「ヘスティアさん……!」
『……フン』
 跳び退り、風月と――ヘスティアの代わりにアベルが放った無線端末たちと距離を取る妄執の軍人。
『一撃で楽にしてやろうと思ったのに、無駄な足掻きを』
「うるっさいわね! 風月ならやってくれるわよ!」
 指を鳴らす軍人に対して、あくまで後方から大声で反駁するヘスティア。
「……」
 だが、風月はどうか。ソウマコジロウの怨念に囚われて、戦意をすっかり喪ってしまっている。一度は大太刀に煌々と宿った赤い炎も、消えかかっている。

「風月、そいつの好き勝手にさせておいて本当にいいの!?」
「……良く、ないです……っ」
「本当ははらわた煮えくり返ってるんでしょう!? ならそれをぶつけてやりなさいよ!」
「怒り……を……」

 そう。怒りだ。
 普段は真面目で穏やかで、誰にでも礼儀正しい風月だが、今その心の裡は怒りに満ちていた。愛する帝都の平和を乱すことに何の躊躇も持たぬ、眼前の狂人が――憎い!
(「相手が狂人であるなら、此方は言の葉を持ちません」)
 力強く大太刀の柄を握ると、刀身の赤い炎は再びその勢いを強く、強く増す!
「いいわよ風月! デッカイの逝くわよ、合わせて!」
 その様子を見たヘスティアが、意を決したように叫んだ。そして、ヘスティアが――実際にはAIたるアベルが最適解として選択した攻撃手段を、解き放った。

 ――キイイイィィィィィィン!!!!!

『!!?』
 狂気には狂気を、というべきか。
 ヘスティアが用意した音声再生端末から、超絶爆音の、原子分解をも引き起こす超音波が放たれた。これには軍人もたまらず目眩を起こし、数歩よろめいた。
 代償もあった。アベルをはじめ、ヘスティアが駆使する電子機器はことごとくがその動作を停止し、ヘスティア自身も聴覚を半ば失いながらも、気力を振り絞って、叫んだ。
「今よ……風月……っ!」
「はい……!」
 ヘスティアが身を挺して作り出した、一瞬の隙。
 風月が怒りを燃やして奮い立たせた心が破った、ソウマコジロウの怨念。
 それらが合わさって、姿勢を崩していた妄執の軍人に、風月は今度こそ一撃を叩き込む!
『ぐ、ッ』
 腰に佩いていた軍刀を抜く暇も与えず、風月の燃える大太刀は、軍人の肩口を鋭く抉っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

夜鳥・藍
ああやはり信念も何もない状態でしたが。
手段と目的が入れ替わってしまってそのまま凝り固まったよう。
先程までの人達とは違って逆に哀れに感じます。
転生する事すら許されない事をした方々に抱く思いではないのかもしれませんが、もしかしたらその感情が逆に戦意の喪失に抗えるかもしれません。

白虎さんを召喚して咆哮による攻撃です。
より攻撃に白虎さんに集中してもらって、私は反撃に対応するのに集中しましょう。
なるべく私の方に相手の攻撃を誘うように目立つように動きます。
自立して動ける白虎さんですがあくまでも私が召喚したから、そのように装うように。



●哀れまれる者
「ああ、やはり」
 夜鳥・藍が、肩口に執念の一撃を受けてなお不敵に立つ妄執の軍人と対峙する。
「信念も何もない状態でしたか」
 眼前の狂人は、藍の言葉を聞いているのかいないのか、それさえも分かりかねた。流れる血もそのままに、濁った瞳で、ただ藍を見てニィと笑うばかりなのだ。
 その背後には、封印が解けかかった新皇塚があった。|それ《・・》が目視できる訳ではなかったが――気配だけで十分に理解できた。
(「ソウマコジロウの怨念が、漏れ出しているのですね」)
 自分は猟兵――超弩級戦力。
 そして、それ以前にこの桜舞う世界を愛するもの。
 故に、この世界の平和を乱さんとするこの狂人はここで討ち取らねばならない。

 分かっている。
 分かっているはずなのに、敵意を向けようとすると、意識が霞むようで。

『大人しくしていれば、なるべく苦しまずにその首を落としてくれようぞ』
 軍人が、腰に佩いた軍刀に手をかけながら、不気味な笑みのままで一歩踏み出す。
(「手段と目的が入れ替わってしまって、そのまま凝り固まったよう」)
 この軍人は、|本気で《・・・》帝や皇族を殺し尽くして根絶やしにしようと考えている。しかし、それが|何のために《・・・・・》なのかは、既に思考から欠落してしまっている。
 先程まで相手にしていた突撃隊員たちのように、やれ理想だ何だとわめき立てられるのもそれはそれで煩わしかったが、こうなってくると、いっそ。
(「逆に、哀れに感じます」)
 勅命により禁じられたソウマコジロウはもちろんのこと、この軍人も、この有様では桜の精が相手でも転生に導くことは至難の業だろう。
 それらに対して憐憫の情を抱くのは、正直、おかしいのかも知れない。
 けれども、伏していた瞳を開いて影朧の姿を視線で射抜けば、明らかな動揺の色が見て取れた。
『……何だ、その目は』
 軍人の影朧は、笑うのを止めた。面白くなさそうに顔を歪め、藍を睨む。
『刃向かわれるより、余程胸糞が悪い目だ』
「そうですか」
 言われた藍は淡々と返す。意識の霞みは、もはやすっかり晴れていた。
「なら、私の首を刎ねてみせて下さい――|できるものなら《・・・・・・・》」
 物騒なことを口にしながら、今度は藍が笑う番だった。

 軍人はいきなり抜刀はせず、片方の手の平をかざして、藍目がけて紫炎を放つ。明らかに見え見えだった初撃は悠々と避けつつ、藍もまた反撃に転じる。
「虎王、招来!」
 まるで軍人がそうしたかのように藍もまた片方の手の平をかざすと、藍を守るように水色の宝珠を持つ白虎がその立派な姿を顕現させた。これこそが藍のユーベルコヲド【|白虎の咆哮《ビャッコショウライ》】である。
 哀れに思うからこそ、|楽にしてやりたい《・・・・・・・・》。これもまた一つの攻撃の意思と受け取った白虎は、新皇塚どころか大手町一帯をも震わせんばかりの咆哮を上げる!
『ぐ……ッ!?』
 耳をつんざく白虎の咆哮に、軍人が思わず一歩後ずさる。
「どうしました? 私はここです、この首を塚に捧げるのではないのですか?」
『おのれ、女……!』
 藍の挑発に、軍人はまんまと乗った。濁った瞳が今や爛々と輝き、鈍い紫の光を曳いて、軍人が紫炎を藍目がけて叩きつける!
(『あの使い魔のような虎には構っていられぬ、召喚者たるこの女さえ仕留めれば』)
 狂人ではあっても軍人、ということか。戦い方を考えてはいるようであった。
(「狙い通り、ですね」)
 明らかに白虎より自分に狙いを定めて考えを改めようとしない軍人を見て、藍は内心で舌を出す。これで白虎は、自由に動いて攻撃に徹することが可能となる!
(「自立して動ける白虎さんですが、あくまでも私が使役しているように見せかけて」)

 ――グオオォォォォオ!!!

 再びの咆哮に、軍人は藍への攻撃を妨げられ、あからさまに顔をしかめる。それだけではない、思うように行動できないストレスがそのままダメージに直結し、着実に軍人の動きを鈍らせていく。
 さすれば藍への攻撃の手も自然と緩む。藍は放たれる紫炎を悠々と避けることができる。
 やがて、軍人が肩で息をしながら、遂にその攻撃の手を止めた。
「もう終わりですか? ソウマコジロウの怨念も呆れて引っ込んでしまいますよ?」
『黙れ……! す、少し手を止めた程度で、侮るな……!』
 いつでもまた吼え猛れるように身構える白虎に寄り添い、藍は挑発にも取られかねない言葉を発しながら、自分たちに有利な立ち回りを維持し続ける。

 ――可哀想に。

 その感情こそが、ソウマコジロウの怨念から藍を逃し、戦闘を有利に進めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
※妄想頓痴気節再び

「…間男っ?!」
「流石世紀のカップル…こうでなくては立候補も出来ませんものね…」
生温かい目逸らし
「押し付けるだけの恋情で愛は得られません。然し其の熱量が無ければ怖じて立つ事も出来なかったであろう貴方の心持ちも良く分かります。世紀の百合っぷるの相手を寝取りたい等、正気の殿方には出来かねますものね…」

「分かっておりますとも。恋は盲目。性差ゆえに届かなくても、そんな事で諦められる訳が無い。貴方が、今度こそ貴方だけの方を見つけ愛を育てられるよう、心を込めて転生へ導かせて頂きます」

吶喊し敵妄執を桜鋼扇でぶん殴る
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
「貴方だけの愛を、幸せを!どうぞ掴んで下さい」



●狂人には貴腐人をぶつけるんだよ!
「……間男っ!?」
 新皇塚の前に立ちはだかり、狂気の笑みを浮かべる妄執の軍人相手に、そう言い放ったのは御園・桜花だった。というか、この状況でこんな発言ぶちかませるのは桜花さんくらいしかいない。いてはいけない。
「流石世紀のカップル……こうでなくては立候補も出来ませんものね……」
 対峙する軍人は、不気味な笑みもそのままに、軍刀に手をかけた。
『桜の精か、面白い……転生を謳う者共が私とソウマコジロウの前に立つとはな』
 良くも悪くも桜花の妄言が通じていない様子で、軍人は抜刀する。それまで生暖かい視線で軍人を見ていた桜花は、ふいと目を逸らした。
(『刀に手をかけただけで目を逸らすとは、手応えのない女よ』)
 帝を、皇族を、根絶やしにしてやりたい。
 その衝動のままに動くばかりの軍人に、眼前の桜花は邪魔者でしかなかった。
 だが――桜花にとってもまた、眼前の軍人はまさに『邪魔者』であったのだ。

「押し付けるだけの恋情で、愛は得られません」
『ははは、恋情か! 確かに私のこの衝動は、恋慕にも似ているやも知れぬ』
「然し、其の熱量が無ければ怖じて立つ事も出来なかったであろう、貴方の気持ちも良く分かります」
『知った口を叩く女よ、だが面白い……大叛逆者の力を借りるというのは、それ程のこととも言える』
「世紀の百合っぷるの相手を寝取りたい等、正気の殿方には出来かねますものね……」
『……何が、何だと?』

 噛み合っているようで地味に噛み合っていなかった会話が、遂に破綻した。いや、ここまでよく会話のていを保っていたとも言えよう。
 だが桜花は至って真面目で、正気で、真剣だった。
 そしてそこに、新皇や影朧に対する敵意など、一辺たりともあり得なかった。
 故に――ソウマコジロウの怨念も、桜花の前には無力! むしろドン引き!
「分かっておりますとも。恋は盲目。性差ゆえに届かなくても、そんな事で諦められる訳が無い」
『ソウマコジロウの怨念が、退いていく……!? この頓知気な女に気圧されたか!?』
 狂人をして頓知気と言わしめる、それは果たして名誉なことなのか? 今は考えないことにしよう。考えたらきっと負ける。我ら貴腐人、信じた道を往くだけよ!
「今度こそ貴方だけの方を見つけ、愛を育てられるよう」
『……ッ』
 桜花が懐から桜の鉄扇を、軍人が腰の軍刀を同時に抜き放つ。
「心を込めて! 転生へ導かせて頂きます!」
『我が執念が愛だと言うのならば! 貫かせてもらうまでよ!』
 桜花が地を蹴って吶喊し、軍人がそれを迎撃するように軍刀を薙いで衝撃波を放つ!
 あわや胴体が真っ二つかと思われたその瞬間、桜花の身体は勢いに任せて幻朧桜と共に宙を舞った。敵の攻撃を躱す手段は多々あれど、空中戦は得意なのだ。
 ついぞ先程まで自分が居た場所を凶悪な衝撃波が通過していくのを、天地が逆さまになった状態で見遣りながら、桜花はそのまま桜鋼扇を握る。
『やるな女! 名乗ってみせよ!』
 軍人が桜花目がけて叫べば、桜花が迷いなく返す。
「私は御園・桜花、ジャンルは今生帝全般の雑食! 先程貴方が糧としたバッテン党の突撃隊員の方に『今生帝と新皇の百合っぷる』という新たな扉を開かれし者です!」
『百合だと!? 詳しく聞かせろ!』
 まさかのそこんとこkwsk発言をしながらも、高速移動で桜花を的確に捉え、再度軍刀を振って衝撃波を飛ばしてくる軍人。話を聞きたいのか聞きたくないのかはっきりしろ。
「正確には『男装女子同士の百合っぷる』……見目麗しく凜々しき者達の、互いしか知り得ない可憐な姿……」
 桜花は朗々と百合カプの要点を伝えながら、再び衝撃波を紙一重で躱し、着地する。
『男装……女子』
 狂人の手の動きが、一瞬止まった。
『民草にはその素性も知らされぬ不死の帝というだけでも属性過多だというのに、そこへ男装女子という要素まで叩き込むとは……ッ』
「ときめくな、という方が無理な話であること、お分かり頂けましたでしょうか!」
 その隙を見逃さず、桜花の鉄扇が一閃し、軍人の頭部をしたたかに打ち据えた。
『ぐッ!』
「そして、百合の間に挟まろうとすることの罪深さもまた、お分かり頂けたかと!」
 もう一撃! 鉄扇の再びの一閃が、軍人の頭部に生えた枯れた桜の枝を折らんばかりに叩きつけられる!
「貴方だけの愛を、幸せを! どうぞ掴んで下さい!」
『割と痛いな、その鉄扇の攻撃は! だが私は屈さぬ、ならばなおのことソウマコジロウの魂魄を解き放ち、今再びの邂逅をこの目に焼き付けなければ』
「なりません! 新皇を目覚めさせる役割は今生帝だけのもの! だから貴方は間男なのです!」
『今の帝の立場でソウマコジロウを解き放つなど、誰が許そうか! 帝自身がそれを一番良く|理解《わか》っている筈だ! 故に私が成し遂げる!』
「! 貴方は……敢えて汚名を着る覚悟で……!?」
 桜花が、さらに振り上げた手を止めた。
「いいシチュエーションです……けれども、それでは貴方が幸せになれません……」
『構わぬ……物語には盛り上げ役も必要だろう……?』

 ――きィん!

 桜花の鉄扇と軍人の軍刀が交差して、新皇塚一帯に鋭い金属音が響き渡った。
「そういう貴方には、きっと部下とのカップリングがお似合いです」
『貴様のことだ、部下とはやはり同性のことを言っているのだな?』
「当然です、そして貴方が基本的には右側であることも承知の上ですね?」
『ものすごく嫌ではあるが、想像は出来た。その方が状況的にはときめく』
 ここに来て、会話が成立してしまった。地味にユーベルコヲドの効果がてきめんだったのかなあ?
 狂人と貴腐人との相性は、案外悪くないのかも知れなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
(怨念の効果を受けて)
これは……ああ、なるほどね。
さっきの連中が私のアレを誤認したのはそういうこと、か。
……ちょっと、気合入れてかかる必要がありそうね。

【精神力】発動
鍛錬で培った気合と根性で以て心を奮い立たせ、持ち前の「怪力」と併せて強引にぶん殴りに行く
敵意とは敵対する意思、言い換えれば気力とも言えなくもない
それを破壊……削られるのであれば、強引に気合入れて補填していくまでよ

|妹の友達《ミネルバ》がお前は敵だと言ってる以上、私はそれを信じるまで。
ただ負ける程度なら兎も角、あの子達に顔向け出来ないような腑抜けた不様だけは晒せないわ。
この『|信念《心の根源》』……壊せるものなら、壊してみなさい!



●負けられない者
 徐々に手負いになりつつあるとはいえ、影朧――妄執の軍人はいまだ健在。ソウマコジロウの怨念も、不可視ながら明らかに周囲に漂い続けている状況だった。
『ふは、は、はは』
 荒谷・つかさを前にして、軍人は濁った目で笑う。
『貴様、|戦が好きだ《・・・・・》という顔をしているな、良いぞ』
「……」
 普段はその小柄な外見から、侮られることの方が多いつかさは、無表情を崩さぬまま内心で少しばかり驚いた。この軍人、狂気に囚われていながらにして、相手の力量を見誤ることがない――強敵だ。
 そして何より、いつものように戦おうと心を奮い立たせた途端、それを包み込んできて塗り潰してしまうような感覚こそ、ソウマコジロウの怨念によるものなのだろう。
(「これは……ああ、なるほどね」)
 つかさは、まさに先程、自分がバッテン党の突撃隊員たちを文字通り『蹴散らした』時のことを思い出す。視認できない脅威からは、なるほど確かに、逃れようがない。
(「さっきの連中が私の|アレ《・・》を誤認したのはそういうこと、か」)
 ソウマコジロウの怨念――いかほどのものかとは思っていたが、確かに手強い。
(「……ちょっと、気合入れてかかる必要がありそうね」)
 額を伝う汗もそのままに、つかさは改めて身構えた。

『だが残念だ、いかな超弩級戦力といえども、ソウマコジロウの怨念には抗えまい』
「……ほざけ」
 なかなか仕掛けてこない――仕掛けられないでいるつかさを見て軍人が挑発めいた言葉を発すれば、つかさは低い声でそれを一蹴する。
「怨念程度で、私を止められると思わないことね」
『……何?』
 ぐぐ、ぐぐぐ。
 竦んでいたかに見えたつかさの身体が、徐々に動き出す。
(「敵意とは、敵対する意思――言い換えれば『気力』とも言えなくもない」)
 見えない何かに四肢を縛られている感覚を逆手にとって、それらを一本一本、強引に引きちぎっていくイメージを膨らませていくつかさ。
(「それを『破壊』……削られるのであれば、強引に気合入れて『補填』していくまでよ」)

 ――【|精神力《パワー・オブ・マインド》】。

 まさに、尋常ならざる精神力であった。
 鬼の形相と呼ぶべき有様で、しかしそれにも構わず、つかさは全神経を眼前の軍人に集中させる! 己が倒すべき相手はここに居ると、恐れず立ち向かえと心で叫ぶ!
『馬鹿な……貴様、どうなっている……!?』
 一歩、また一歩。つかさはゆっくりと、しかし確実に、軍人との間合いを詰めていく。
 これまでに重ねてきた鍛練で培った気合と根性でもって心を奮い立たせる。あふれる闘志が、怨念による無力化を徐々に上回っていく。
「|妹の友達《ミネルバ》が、お前は敵だと言ってる以上、私はそれを信じるまで」
 つかさが一歩踏み出すたびに、まるで地響きがするようだった。
 軍人は驚愕の表情を、徐々に歓喜の笑みに変えつつあった。
『ふはは、やはりな! 貴様は実に良い!』
 腰の軍刀には手もかけようとせず、軍人は狂気の笑みで拳を固め、つかさを待つ。
「ただ負ける程度なら兎も角、あの子達に顔向け出来ないような腑抜けた不様だけは」

 ――ずしん!!

「晒せない」
『……は!』
 つかさは遂に、その拳の間合いに軍人を捉えた。
 それはまた、軍人の拳の間合いでもあったけれど。
「この『|信念《心の根源》』……壊せるものなら、壊してみなさい!」
『良く言った、女! 壊してやる、壊してやるぞ!』
 互いの拳が、相手の顔面を狙って、飛んだ。
 何の小細工もない、真っ直ぐな一撃を、互いに打ち込んだのだ。
『……ッ』
「……!」
 つかさの拳が軍人の頬にめり込み、勢いでその身体を新皇塚の近くまで吹き飛ばす!
 軍人の拳は、僅かに届かず、つかさは押し勝った形となった。
『が、はッ』
 数度地面を跳ねた後、塚の手前でようやく止まった軍人は、しばらく倒れたままだった。
 つかさは額の汗を拭いながら、その様子を遠巻きに見守っていた。このまま消滅してくれれば一番良いが、顔面を一発殴った程度で斃せるような相手には見えなかったからだ。
 少しして、軍人が口の端を拭いながら起き上がる。半身を起こした状態で、笑っていた。
『大したものだな! 私が若い頃、上官に喰らった一発を思い出すようだ! ははは!』
「笑っていられるだなんて大した余裕ね、次こそは殺しに行くわよ」
『それでいい、ソウマコジロウの怨念さえも押しのけた貴様の殺意を、私は味わいたい』
「とんだ狂人ね……いいわ、気が済むまで殴ってあげる」

 少しでも気を抜けば、すぐに燃やした闘志がかき消されてしまいそうで。
 つかさは、迫る軍人を一心不乱に殴り続けた。
 殴り返されもしたけれど、終始つかさの優位に展開は進み――。

「私は! お前なんかに! 負ける訳にはいかないのよ……っ!」
『ぐはッ!!』

 遂に、軍人が起き上がってこなくなるまで、打ちのめすことに成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
【護】

現地で天城さんと合流
天城さんもいらしていたのですね
ご一緒出来て心強いです

それにしても
理想すら詭弁とは
その妄執
砕かせて頂きましょう

初手
白燐蟲を呼び攻撃
自分もしくは天城さんが負傷した場合は
桜花乱舞で治療
呪いの炎には注意し
片手が動いた段階で
攻撃方向から外れるよう立ち位置を調整
天城さんの守護にはお礼を
でも
私も天城さんを護りたいのですよ

天城さんに攻撃が向いた際は
声を上げて注意喚起すると共に
白燐蟲をけしかけ目眩ましを試みます
光量は最大に
回復の必要があればそちらを優先

貴方は私の大切な友人を傷付けている
無辜の民の犠牲を最初から考えてもいない
それだけで心を奮い立たせるには十分
貴方の目論見通りにはさせません


天城・潤
【護】

お声掛け頂いて自然と微笑みが
僕はあなたの故郷を護る為に来たのですから
「此方こそ」
ご一緒出来たら神臣さんも護れますから嬉しいです

妄執は己を破壊する毒
仮に本懐を遂げても永遠に満ちはしない
僕はそれを良く知っています
「愚かな事を…」

神臣さんが動いた刹那
波動が空を伝うのが視え…成程
戦意減退と同時の苛烈な攻撃
間一髪で神臣さんは護れましたが
このままでは…いえ

「勘違いも甚だしい」
そもそもあなた方の出自に興味なぞない
敵が誰であれ僕は
友と呼んでくれた方の意思を護る為に戦えます
ゆえに
「無駄ですよ!」

神臣さんが作って下さった隙に併せ
虚空斬・闇剣詠唱
全速で空を往き急降下を

妄執よりも強く濃く
猛き闇で戦う意思を此処に



●護るべき者
 神臣・薙人と天城・潤は同じ旅団の仲間であったが、この依頼を引き受けていたとは互いに知らずにいたものだから、急遽現地合流で連携を取るという話の流れになった。
「天城さんもいらしていたのですね、ご一緒出来て心強いです」
 薙人の言葉に、潤は自然と笑みを漏らす。
「此方こそ」
 ――僕は、あなたの故郷を護る為に来たのですから。
 短い返答の中に、強い決意を込めて。
「ご一緒出来たら、神臣さんも護れますから、嬉しいです」
 潤がそう正直な気持ちを告げれば、薙人は柔らかい笑みで応える。けれどもそれは、すぐに険しい表情となった。新皇塚の前には、妄執に囚われた軍人の影朧が、いまだに立っていたからだ。
「それにしても、理想すら詭弁とは」
 薙人がこんなにも眼光鋭く敵を射抜いたことなど、あっただろうか。
「その妄執、砕かせて頂きましょう」
 隣で潤が薙人の言葉に頷きながら、自らも身構えた。
「妄執は己を破壊する毒、仮に本懐を遂げても永遠に満ちはしない」
 潤自身が――そのことを、良く知っていたから。
「愚かな事を……」
 故に、否定する。正常な判断力を失い、帝と皇族を屠るなどという妄執に囚われた影朧を。
『貴様等は……|良くないな《・・・・・》』
 軍人が、濁った目を二人に向けて、低い声で言い放った。
『若造に見えるが、幾つもの修羅場を潜った面をしている』
 軍人の周囲を、まるで妄執が具現化したかのように、紫の炎が取り囲む。
『生かしておくと一番厄介な輩だ、先に貴様等から壊そう、そうしよう』
 ニィ、と。
 影朧は笑い、紫炎を燃え上がらせた。

(「最初から全力で、そうでなければ|敗《ま》ける」)
 薙人の判断は速かった。その場の誰よりも先手を取って、蟲笛で白燐蟲「残花」を喚んで軍人にけしかけたのだ。
『ほうら、やはり貴様等は危険だ』
 飛来する白燐蟲たちを、容赦なく紫炎で消し炭にしながら、軍人が笑う。
『ソウマコジロウの怨念さえもものともせず、私を狙いに来た!』
 今度は軍人が地を蹴って、拳を振り上げる番だった。
(「神臣さんの白燐蟲を灼いたあの紫炎……成程」)
 塚から漏れ出すソウマコジロウの怨念に抗いきれず、戦意を削られ、片膝を突いた潤を捨て置き、軍人は薙人を狙い拳を振るう!
「させ……」
 ぐぐ、と。身体を無理やりに動かす潤。
「ないっ!」
「天城さん!?」
 間一髪、薙人と軍人の間にその身を投げ打った潤が、したたかにその身を打たれて地面に転がった。
『ふは、は。美しい友情だな』
「……っ」
 あざ笑うように潤を見下ろす軍人に、薙人が反駁しようとした時、潤はそれを止めた。
 乱れる髪もそのままに起き上がると、今度はしっかりと地を踏みしめる。
(「このままでは……いえ、大丈夫ですね」)
 今なら分かる。はっきりと分かる。きっぱりと断言できる。

「勘違いも甚だしい」
『……あァ?』
「そもそも、あなた方の出自に興味なぞない」

 冷徹な瞳で、軍人を睨む潤には、もはやその闘志を阻むものなど存在しなかった。
「敵が誰であれ、僕は僕を友と呼んでくれた方の意思を護る為に戦えます」
『は――やはりな、貴様等は良くない!』
「天城さん!」
 軍人が再び拳を振り上げたその時、薙人が遂にユーベルコヲドを発動させた。それは不退転の決意により咲き誇る【|桜花乱舞《オウカランブ》】である!
 はらはらと舞っていた幻朧桜を巻き込むように、薙人の決意を乗せた激しい桜吹雪が周囲を包み込み、潤の負傷をあっという間に回復させた。
『貴様は特に良くないな、何故ソウマコジロウを恐れぬか?』
 軍人の問いには答えず、薙人はその紫炎をたたえた左手に注視した。攻撃が飛んで来ても、いつでも躱せるようにと集中しているのだ。
「天城さん、先程はありがとうございました」
 軍人から視線は外さずに、潤に感謝の言葉をかける薙人。
「でも、私も天城さんを護りたいのですよ」
「神臣さん」
 戦意を奮い立たせた潤が、脇差を抜き放ちながら薙人の方を見た。
『あああ、良くない! 実に良くない! どちらからでも良い、壊してやるぞ!』
 互いに互いを護る――その背に『護』の一文字を背負った者たちの眩しさに目がくらんだか、耐えがたいと言わんばかりに軍人が再び拳を固めた。

「来ます!」
 潤への攻撃の予兆を感じ取った薙人が、注意を喚起する一声を発しつつ、再び白燐蟲を喚び出しけしかけて、その輝きの光量を最大に目眩ましを試みる。
『……ッ!?』
(「神臣さん、感謝します」)
 軍人は物理的な眩さに、今度こそ思わず目を瞑ってたたらを踏む。その一瞬の隙を、潤は逃さなかった。
 ――【|虚空斬・闇剣《コクウザン・ヤミツルギ》】!
 闇を纏い、幻朧桜舞う空中高くに舞い上がる潤。軍人は目を開いたものの、完全に潤の姿を見失っている。
「はああぁぁぁあっ!」
 脇差を――「黒蒼刃」を構え、軍人目がけて急降下し、その背に深々と刃を突き刺す!
『がは……ッ!』
(「妄執よりも強く、濃く、猛き闇で戦う意思を――此処に!」)
 脇差を根元まで刺した後、一気に引き抜いて、潤は軍人から跳び退って間合いを取る。
 軍人は数歩よろめきながらも、新皇塚の前で辛うじて踏み止まった。仕留め損ねたかと険しい顔をする潤の横に、薙人が並び立ったのを見て、軍人が呻いた。
『桜の精……貴様、何故ソウマコジロウの怨念に抗えた……?』
 一瞬、自分が問われたとは気付かなかった薙人が、目を丸くした後――すぐに凜々しい顔になって、こう答えた。
「貴方は、私の大切な友人を傷付けている。無辜の民の犠牲を最初から考えてもいない」
『……』
「それだけで、心を奮い立たせるには十分。貴方の目論見通りにはさせません」
『……は、ふは、は!』
 薙人の答えを聞いた軍人は、再び狂った笑い声を上げた。
『貴様のような奴にこそ、見せてやりたいものだなあ! 炎の海に沈む帝都を!』
「……っ」
 再び構える薙人と潤。だが、軍人が襲いかかってくる気配は感じられなかった。
『いつか、その日が来るはずだ。私には分かる。不死の帝の歪んだ治世など、いずれ終わる』
(「神臣さん、追撃しますか」)
(「いえ……ここは慎重に行きましょう、下手に悪あがきをされても厄介です」)
 素早く言葉を交わす二人。軍人の手は、新皇塚にかけられている。強引にソウマコジロウの魂魄を解放する手段に出られても危険だ。

「そのような時は、決して訪れません」
 薙人は、力強い声で返す。
「僕が――いえ、僕達がいる限り、絶対に」
 潤も、そう断言した。
 軍人は、ただ笑うばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御桜・八重


「そんなこと、させないよ!」
自分の部下すら贄とするその非道っぷりに怒り心頭。
二刀を抜き放ち斬りかかるけれど……

「させ、ない、よ……」
ソウマコジロウの怨念で怒りが消えうせる。
刀を持った腕が下がり、避けるのもままならない。
「うあっ」
桜色のオーラで身を護るけど、呪いの炎がジリジリと身を焦がす……

大叛逆者と呼ばれた人物。その動機は明らかにされていない。
ただ、ソウマコジロウも妄執の軍人も、
元からそうだったわけではないだろう。
犯した罪は裁かれなければならない。償わなければならない。
その上でなお。
叶うならば、その魂が救済されて欲しいと願うのだ。

怒りが失せ。敵意が消え。
残るのはただ一心に救いたいと言う願い。
命を懸けた、願い。

覚悟が少しずつ体を動かす。
緩やかに、舞うように。
一挙手一投足毎に衣装が変わり、舞い終わりに現れる|魔法巫女少女《真の姿》の姿。

「ごめんね。今は止めさせてもらうね」
ホウキングを構え、ゆっくりと砲身を向ける。
『覚悟完了…… 一発必中、てーっ!』

いつか、みんな転生出来ますように……



●願う者
 肩口を切り裂かれ、背中を血に染めて、なおも軍人は新皇塚の前に立つ。
 影朧を突き動かすものはもはやその妄執のみ。帝を、皇族を|鏖《みなごろし》にして、帝都を火の海に沈めるという、狂人の思考のみ。
『幻朧桜もさぞかし良く舞い踊るだろうなあ、炎に煽られるようにしてなあ』
 新皇塚から手を離し、新たに現れた超弩級戦力――御桜・八重と対峙するために立つ。
「そんなこと、させないよ!」
 八重は、怒り心頭であった。自らの部下すら贄とする、その非道ぶりに。
 ましてや、帝都転覆が手段ではなく目的にすり替わっているだなんて、とんでもない!
 陽刀と闇刀、佩いた二刀を抜き放ち迷わず斬りかかろうとして――。

「させ、ない、よ……」

 ぐらり、と。視界が揺らいだ気がした。あれだけ満ち満ちていたはずの怒りが、すっかり消え失せてしまうようだった。
 いや――気のせいではない。|本当に《・・・》、怒りがかき消えてしまったのだ。
(「これが……ソウマコジロウの怨念……?」)
 ぼうっとしたまま、八重の動きが止まる。握っていた刀を、二本とも取り落としてしまう。そもそも、何故刀を握っていたのかさえ分からないほどに、八重は呆然としていた。
『學徒兵、貴様は素直で|良い《・・》』
 一歩一歩、軍人が近付いてくるのが辛うじて分かった。その目は濁っていて、明らかに正気ではなかった。狂った男は八重の前に立ち、その手を伸ばしてくる。
(「――ダメ」)
 八重は、本能で危機を悟った。だが、身体が言うことを聞かない。逃げられない!
『良い子は、すぐ楽にしてやらなければ』
「うあ……っ!」
 喉元を、がっしと捕まれた。軍人の手から、紫炎が放たれ、八重の喉を焦がす。
 痛い。苦しい。もはや本能のままに桜色のオーラで身を護るが、淡い桜色を濁った紫がどんどん塗り潰していくようで、明らかに痛々しい状況であった。

(「大叛逆者と呼ばれた人物、その動機は明らかにされていない」)
 軍人は笑う。笑いながら、八重を焦がしながら、吊り上げる。
(「ただ、ソウマコジロウもこの軍人も、|元からそうだったわけではないだろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・》」)
 八重は思う。思いながら、必死に痛みと苦しみに耐える。
(「犯した罪は裁かれなければならない、償わなければならない」)
 首と胴体が焼き切れて、離ればなれになってしまいそう。
 このままではいけないと分かっているのに、八重の脳裏に浮かぶのは、自分を今まさに痛めつけているソウマコジロウの怨念と、それを復活させようとする軍人のことだった。
(「その上でなお、わたしは」)
 だらんと垂れていた腕が、ピクリと動く。

 ――叶うならば、その魂が救済されて欲しいと願うのだ。

 がっ! と、八重の両手が持ち上がり、自分を苛む軍人の腕を掴んだのは、その時だった。狂人の笑みが驚愕に変わるのを見届ける間もなく、八重は思い切り足を身体に引き寄せて、勢い良く軍人の腹を蹴り飛ばす!
『何……!?』
 思わず八重から手を離し、二、三歩よろめく軍人。
『何故、動けるように……!?』
 答えは、簡単だった。八重の中から怒りが、敵意が、自ずと失せたのだ。
 残ったのは、ただ一心に『救いたい』という願い。
 死の間際まで追い詰められようとも譲れなかった、命を懸けた――願い。

 身体の感覚が、麻痺したかのようだった。あれだけ痛くて苦しかった喉元のあたりも、全く気にならなかった。今はただ、成すべきことを成すだけだと思えば――!
 八重の身体が、徐々に言うことを聞き出した。
 そう|あれ《・・》と思考するだけで、身体が勝手に動くくらいだった。
 酷い火傷になっているに違いないと思われた首元も、桜色のオーラに包まれると、何事もなかったかのように綺麗な肌となっていた。
 覚悟に呼応するかのように展開された桜色のオーラが、八重の全身を包む。その中で緩やかに、舞うように、八重は青い瞳に決意を込めて、あるイメージを脳裏に浮かべた。
 それは、八重の真の姿――魔法巫女少女! 手を突き出せば手袋が、足を伸ばせばブーツが、光に包まれた身体のラインに沿ってフリルとリボンが愛らしい、巫女服をモチーフとした魔法少女の衣装がここに完成する!
「ごめんね、今は止めさせてもらうね」
 八重がそう言いながら手を広げると、掌中に現れる|魔法の竹箒《ホウキング》。それをしっかりと握りしめると、ゆっくり砲身を軍人に向ける。

『馬鹿な……こんなことが……』
「覚悟、完了……一発必中、てーーーっ!」

 それは、ユーベルコヲド【|魔導神道流・桜大砲《マドウシントウリュウ・サクラキャノン》】。
 文字通り、命を懸けて放つ、必殺のオーラキャノン。
 桜色の光に包まれた軍人は、なす術もなく新皇塚に叩きつけられる。
「は、はぁ、は……」
 大技を放ち終えた八重は、ホウキングを取り落とし、その場に膝を突きながら、塚にもたれかかってぐったりしている軍人を見て、呟いた。
「いつか、みんな、転生できますように……」
 あと、ひと息。
 あともう少しで、軍人は倒せる。それは目に見えて分かった。
 帝が直々にそれを禁じたソウマコジロウも、この軍人も、今はまだ転生を許されないだろう。
 けれども八重は、願わずにはいられなかった。
 そしてその願いは、いつか届くかも知れない。
 何故って? その願いの力で、八重はこうして勝利を収めたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
仮にも己の部下にあたる連中を、騙した上で使い捨てるとは……
どの道倒す他なかったとはいえ、流石に少々哀れなものだ

先程と同様に大刀を構えて相対
軍人の攻撃そのものは然程脅威ではないが、戦意を奪われ続けていくとそうも言っていられない
常に襲ってくるものに意志の力だけで抗い続けられるものじゃないしな

だから、一瞬の爆発にかけよう
霞みかけた意識の中で、銀羽根を取り出して自分の身体に突き刺し、その痛みと羽根の持つ魔除けの力で己の身体を封じる呪縛の炎とソウマコジロウ怨念を振り払う

意識と自由を取り戻したなら即座に軍人の元へと踏み込んで、剛式・伍の型【払暁】
軍人の纏う怨念、この世を乱そうとする闇を一太刀で切り払う



●断ち切る者
「仮にも己の部下にあたる連中を、騙した上で使い捨てるとは……」
 夜刀神・鏡介が、複雑な表情で新皇塚の前に立つ妄執の軍人を見た。
「どの道倒す他なかったとはいえ、流石に少々哀れなものだ」
 鏡介の言葉を聞いた軍人は、ふは、と笑う。
『私は、彼奴等を騙したつもりはないがな』
 軍人は抜刀せず、その手に紫炎を宿しながら鏡介を見た。
『むしろ、ここで貴様等に|敗《ま》けたら、それこそ彼奴等を謀ったことになる』
 紫炎が、軍人の周囲をぐるりと巡るように燃え上がる。それはまるで、軍人が糧とした突撃隊員たちの怨念のようにも見えた。

 救いたい、と願う者もいただろう。
 けれども、きっとそれは叶わない。
 ソウマコジロウの怨念を味方につけ、下級の影朧たちの怨念を糧とし、自ら狂気と妄執に突き動かされてのみ動くものに、もはや一切の光は届くまい。
(「――闇だ」)
 鏡介は、軍人の姿に、底知れぬ闇を見た。
 それはきっと、不可視ながら絡み付いてくるような感覚をもたらしてくる、ソウマコジロウの怨念と同じものなのだろう。
(「ここで、終わりにしなければ」)
 突撃隊員たちを相手取った時と同じように、大刀「|冷光霽月《れいこうさいげつ》」を盾のように構えて相対する。
『殺す』
 ただ一言だけ、軍人はそう告げた。
『貴様は、とても|良くない《・・・・》。今ここで殺す』
 ごう! 鏡介に向けてかざされた軍人の手の平から、紫炎がほとばしる。それを大刀で受け流すと、間髪入れずに次なる炎が飛来する。炎の狙いが最終的には自分だと分かっている以上、回避すること自体は容易いが、それだけではジリ貧に陥るというもの。
(「反撃しようと考えただけで、頭に靄がかかったようになるのは――そういうことか」)
 鏡介は、身を以てソウマコジロウの怨念による戦意の喪失を理解する。軍人の攻撃そのものは、はっきり言ってしまえばさほど脅威ではないが、戦意を奪われ続けていくとそうも言っていられなくなる。
(「常に襲ってくるものに、意志の力だけで抗い続けられるものじゃないしな」)
 時折、紫炎の残滓が身体を掠めて肌や服を焦がす。避けるにも限界があった。
『どこまで避けても、所詮は時間稼ぎよ!』
 禍々しい紫炎を操りながら、軍人は狂気に彩られた表情で嗤う。
『死ね、超弩級戦力! ソウマコジロウへの供物としてくれる!』
「く……っ」
 ひときわ激しい炎が吹きつけ、大太刀でも凌ぎきれない程の火力で煽られ、鏡介は思わず苦悶の表情を浮かべた。

 炎の勢いに圧されるように、鏡介が数歩後ろによろめく。
『跪け』
 軍人が、口の端を歪めながら告げると、紫炎が鏡介の頭部からその身を覆い尽くさんと迫る!
「!」
 咄嗟に頭部をかばうように大刀を掲げれば、間一髪刃が炎を両断するかの如く、鏡介への直撃を防いでくれた。だが、周囲に漂う炎の残滓は、着実に鏡介の自由を拘束しつつあった。
 悔しいが、軍人の言う通りになりつつある。
 片膝を突き、辛うじて地に伏してしまいそうになるのを耐えている自分が居る。
(「何とか、この状況を打破しなくては」)
 頼りの大刀は、一度地面に突き刺し手放した。次に炎が迫ったら、身体を捩って躱すしかない。あるいは、そうされる前に何らかの手を打つか――。

 きらり、と。
 鏡介の手の中で、何かが煌めいた。
(「この、一瞬の爆発にかけよう」)
 霞みかけた意識の中で、取り出していたのは純銀でできた一枚の羽根であった。鏡介はあらん限りの力で、銀羽根の羽軸を大腿部に突き刺す!
「……っ」
 鋭い痛みが走った。だが、それで良かった。
 痛覚と、羽根が持つ魔除けの力とで、身体を封じようと苛んでいた呪縛の紫炎とソウマコジロウの怨念の両方を振り払う!
『ふはははは、何をしている! それではろくに得物も振れなくなるぞ!』
「試してみるか?」
 靄が晴れたはっきりとした意識で、鏡介は軍人に対して言い返す。
 身体が言うことを聞くならば、多少の無理は厭うまい。羽根を突き刺した太腿が痛んでも全く構うことなく、大太刀を再び握りながら軍人の懐へと踏み込んでいく。

「その怨念、そしてこの世を乱そうとする闇――ここに斬り払ってくれる」

 闇を断つ光であれと祈りを込められた大太刀の一撃が、軍人を捉えた。その一撃の名を、【|剛式・伍の型【払暁】《ゴウシキ・ゴノカタ・フツギョウ》】という。
『――』
 軍人は、目を見開いて、口を動かして、何かを言おうとした。
 だが、それは遂に叶うことなく、鏡介に斬られた身体は、あっという間に両断される。
 そして、そのまま――黒い靄となって、日が沈みつつあった空へと溶けて消えた。

「……ソウマコジロウの怨念は、そう簡単には鎮まらないという話だったな」

 ちん、と大太刀を鞘に収めながら、鏡介は呟く。
 ひとまず、ソウマコジロウを復活させようという脅威そのものは退けることができた。
 あとは、その魂魄を鎮めるためのイベントとやらの開催を待つばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『サクラ・スカイランタン』

POW   :    ランタンを飛ばす

SPD   :    ランタンを飛ばす

WIZ   :    ランタンを飛ばす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●願い、飛ばす者
 秘密結社バッテン党、を名乗る影朧たちは、その党首を含め党員全てが見事討ち取られた。グリモア猟兵が予知した通り、猟兵――超弩級戦力たちによって、ことごとく壊滅させることに成功したのだ。
「本当にありがとうございました、おかげで『桜天燈飛ばし』の催しを無事に開催できそうです」
 帝都軍の面々が新皇塚の周囲を警戒する一方で、桜色のランタンらしきものを手にした一般人が超弩級戦力たちの元に駆け寄り、頭を下げる。
「元々、ソウマコジロウの魂魄を鎮めるための催しとして予定されていたのですが、ご存知の通り影朧があれだけ発生してしまっては……と思っていたのです」
「よろしければ、警護は我々が務めますので、超弩級戦力の皆様は祭りを楽しまれては如何でしょう?」
 ランタンを持った一般人は、どうやら祭りの実行委員の一人らしい。そして、帝都軍の面々は厳しい表情を崩さないながらも、猟兵たちに祭りへの参加を促す。
「ソウマコジロウの怨念は、いまだ周囲を漂っております。祭りによって周囲の幻朧桜の力を借りて、その魂魄を再び鎮め直す必要がございます故」

 そこまで言われては、参加しない理由はないだろう。
 けれど、具体的には何をすれば良いのか?

「この桜色のランタンは紙で出来ています、紙の部分に祈りや願い事を書いていただければ、我々が火種を用いて空へと飛ばします。それだけで大丈夫です」
 実行委員の男性から、そう説明が入る。祈りや願いは、ソウマコジロウ絡みでなくとも、何でも良いらしい。祈ったり願ったりすること自体に、意味があるのだそうだ。
「ええと、ご安心下さい。書かれた内容は、決して覗き見たりしませんので」
 実行委員の男性は、そう言って笑った。きっと、良く聞かれたりするのだろう。

●ご案内
 いまだ塚から漏れ出すソウマコジロウの怨念を、『桜天燈飛ばし』と呼ばれるお祭りと幻朧桜の力を借りて、再び鎮め直すための時間です。
 ランタン――天燈に書く祈りや願いは本当に何でも大丈夫です。無難なところでは『無病息災』あたりだそうですが、規模の大小は問いません。それが叶うかどうかは、今後の皆様次第でもあるからです。
 気負いなく楽しんでいただければと思います、この章のみのご参加も歓迎致します。
 また、プレイング内でお声掛けをいただければグリモア猟兵のミネルバも顔を出すことができます。
 ここまで本当にお疲れさまでした、ゆっくりお楽しみいただければ幸いです!
神臣・薙人
【護】

影朧は退けられましたね
天城さんもお疲れ様です
まだ不穏な空気は残っていますから
お祭りの力を借りて鎮めましょう

私もランタンを頂いて
お願い事を書きます

お願い事は何でも良いのですね
悩みますが
天城さんが明るい道を歩いて行けますようにと…
叶うかどうかは私次第でも
お願いするのは自由ですよね
天城さんの願い事は
それで良い、のですか?
…ありがとうございます

実行委員の方にお渡ししたら
飛んで行く姿を見送りたく思います
遠くまで飛んで行ってくれたら
怨念も鎮まるような気がします
だってこんなに綺麗ですから

天城さん、ほら
ランタンが桜の花みたいに見えませんか?
天城さんは、綺麗なものがお好き、ですよね
一緒に見られて嬉しいです


天城・潤
【護】

ああ…倒せて良かったです
こういう際の猟兵の力は本当に大事ですね
「神臣さん、本当にお疲れさまでした」

仰る通り所謂『鎮魂の儀』を行うことで
溢れ出た余波も消えるでしょう
「はい。勿論ご一緒させて頂きます」

おや、願い事は何でも良いのですか?
なら折角ですので神臣さんの安寧と平穏を
畳みかけて良いのなら
憧れ背を追う方の護りの一刀となれるようにも
「それが僕の願いです」

灯をともしお渡しして
空を舞うランタンを神臣さんと見送ります
「ええ、本当に」
空に咲く光の鎮魂の桜は掛け値なしに美しいです

「はい。僕、唯美主義者ですから」
この闇と光のあわいに佇む桜精さんも
十二分に美しく堪能させて頂きましたよ、と
心の中で呟きながら



●美しければそれでいい
 日はすっかり暮れて、夜の帳が下りる時、『桜天燈飛ばし』は始まった。一時は避難していた一般人たちも、超弩級戦力たちの活躍で脅威が去ったと聞いて、咲き誇る幻朧桜の元で桜色のランタンに思い思いの願いを書き込んでは夜空へと飛ばしていく。
「神臣さん、本当にお疲れさまでした」
 天城・潤が労いの言葉をかけると、神臣・薙人は柔らかく笑んだ。
「影朧は退けられましたね……天城さんもお疲れ様です」
「こういう際の『猟兵』の力は本当に大事ですね」
 舞い散る幻朧桜を巻き上げて、次々と天に昇っていく桜色のランタンの光を見ながら、潤はしみじみと呟く。
 銀の雨降る世界では、ゴーストがオブリビオンとして次々と蘇り、再びの脅威をもたらさんとしていた。それに呼応するかのように、能力者たちも続々と埒外の存在――猟兵へと覚醒していった。
 猟兵となった者たちは、遂には世界をも渡り、こうして異世界の事件さえも解決するだけの力を得た。潤は今回の戦いを通して、その力のありがたさを改めて痛感したのだ。
 それはきっと、薙人も同様だったのだろう。潤の隣で頭部の桜の枝を揺らして頷く。
「まだ不穏な空気は残っていますから、お祭りの力を借りて鎮めましょう」
 徐々に桜色に染まりつつある夜空を見上げながら、薙人は潤にそう促した。
「はい、勿論ご一緒させて頂きます」
 潤もまた、薙人の言う通り、溢れ出た余波をうっすらと感じ取っていた。この『桜天燈飛ばし』が『鎮魂の儀』であるならば、参加しないという選択肢はない。
 二人は並んで、桜色のランタンを配る天幕へと向かっていった。

「ほわ……」
 桜色のランタンを受け取った薙人は、思わずその愛らしさに声を漏らしてしまう。天幕の中のテーブルには黒いペンが置かれていて、きっとそれで祈りや願いを書くのだろう。
「お、お願い事は何でも良いのですね」
 こほん、と咳払い一つ、薙人は気を取り直して同じくランタンを手にした潤に言う。
「悩みますが……」
 黒いペンを無意識に揺らしたり回したりしながら、薙人はぐるぐると思考を巡らせて。

『天城さんが明るい道を歩いて行けますように』

 心の中で、願いが決まれば迷いなくペンを走らせ、ランタンに綺麗な字でそう書き記す。
(「叶うかどうかは私次第でも、お願いするのは自由ですよね」)
 そう思いながらちら、と潤の方を見れば、潤は潤でペンを握ったまま固まっていた。
「願い事は、何でも良いのですか? ううむ」
 何でも良い、と言われると、迷ってしまうのが人の|性《さが》なのかも知れない。だが、潤もまた決まれば書き込むのは速く、サラサラと何かをランタンに書き込んだ。

『神臣さんの安寧と平穏を』

 ふふ、と微笑みながら潤が自分のランタンをそっと薙人に見せる。薙人は目を丸くして、潤を見た。
「天城さんの願い事は、それで良い――のですか?」
「畳みかけて良いのなら、もう一つ」

『憧れ背を追う方の護りの一刀となれるように』

 サラッと、格好良い願いを付け加え。
「それが、僕の願いです」
「……ありがとう、ございます」
 そんな潤の姿に、薙人は感謝の言葉を述べつつ、口元を覆っていた白い布に顔を埋めてしまう。あまりにも真っ直ぐに向けられた『願い』に、思わず照れてしまったのだ。
「神臣さんは――」
「秘密、です」
 桜の枝と目元だけをニュッと出して、薙人はもごもごと返す。別段隠すようなことでもなかったけれど、この流れだと何だか気恥ずかしくなってしまったものだから。

「ランタン、確かに受け取りました。すぐに飛ばしますので、見送ってあげて下さい」
 実行委員の男性が、手慣れた様子で二人から受け取ったランタンに火を灯し、夜空へと優しく浮かべていく。桜色の光となったランタンは、あっという間に空へと昇っていった。
「……」
「……」
 その一連の流れを、薙人と潤は二人並んで静かに見送っていた。
「遠くまで、飛んで行ってくれたら」
 薙人が、ランタンの桜色に染まっていく夜空を見上げながら、呟く。
「怨念も鎮まるような気がします――だって、こんなに綺麗ですから」
 潤も、桜色に照らされていく夜空を薙人と共に見上げて、返す。
「ええ、本当に」
 空に咲く光の鎮魂の桜は、掛け値なしに美しい――。

 子供たちの無邪気な笑い声が聞こえる。
 仲睦まじい男女の会話が聞こえる。
 皆、それぞれの祈りや願いをランタンに乗せて、空へと飛ばしたのだろう。
 その喧騒の中に混ざり、薙人と潤もまた、夜空を見上げていた。
「天城さん、ほら」
 薙人がすいと宙に浮かぶ桜色のランタンを指差しながら言った。
「ランタンが、桜の花みたいに見えませんか?」
「! 言われてみれば、本当ですね」
 薙人の感性に心打たれるかのように息を呑んだ潤は、率直な感想を述べる。
「天城さんは、綺麗なものがお好き、ですよね? 一緒に見られて嬉しいです」
「はい。僕、唯美主義者ですから」
 二人は、ようやくランタンから視線を外し、互いを見遣って、笑う。
(「この、闇と光のあわいに佇む桜精さんも、十二分に美しく堪能させて頂きましたよ」)
 心の中だけで、そう呟きながら、潤は薙人を見ていた。

 互いが、互いを思い、願ったランタンが夜空を彩る。
 桜色の光に照らされた二人の願いは、何時の日か、きっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
願い事……特段思いつかないけれど祈りなら。
のぞき見しないって分かってるけど内容が内容だけに会場の隅っこでこっそりと。文字も大きく書くのは憚られるのでランタンの端の方に小さく「いつかソウマコジロウさんも転生へと願われることが許されますように」
転生したからすべてがまっさらにやり直す事が出来るわけではないし、私みたいに何かしらきっかけで景色が蘇る事もあるでしょう。
もしかしたらまた同じような帝都転覆なんて考えるかもしれません。
でも新たな人生を歩む可能性もあります。
その可能性を信じるのも良いのではないかと思うんです。

たくさんのランタンはまるで空に浮かぶ桜の木のようね。だからそれぐらい祈っても。



●桜色の夜空へ祈る
 『桜天燈飛ばし』の開催を喜ぶ人々が、次々と桜色のランタンに祈りや願いを記して空へと飛ばしていく。ランタンの熱に巻き上げられるように、舞い散る幻朧桜もランタンと共に桜色の空へと昇っていく。
 その様子を見上げながら、夜鳥・藍は少しだけ目を細めた。
(「願い事……特段思いつかないけれど、祈りなら」)
 思いついた『祈り』は、正直、大きな声では言えないものだった。だから、ランタンを配る天幕で桜色のランタンとペンを受け取ると、藍はすぐに会場の隅っこへ駆けていく。
 ランタンを実際に天に飛ばす際に、どうしても一度実行委員の手にランタンが渡る訳で、相手も慣れたものだろうから書いたものの覗き見などはしないはずとは分かっていても、やはり内容が内容なだけに、誰の目にも届かぬ夜空へと解き放たれるその時まで、内緒にしておきたかったのだ。
 ランタンを抱きしめるように、小さな文字で書き記す姿は、ユーベルコヲドの力で誰の目にも入っていない。だから、心からの祈りを込めて、藍はこう書き記した。

『いつかソウマコジロウさんも転生へと願われることが許されますように』

 ランタンの端にそう書いてから、先程まで激闘を繰り広げた新皇塚の方を見る。
 今では帝都軍の面々が厳重な警備を敷いているが、これがきっと、普段の新皇塚の姿なのだろう。
(「これほどまでに恐れられた、ソウマコジロウさん」)
 今は不死の帝から『許されざる者』として、封印されてはいるが――。
「転生したからすべてがまっさらにやり直す事が出来るわけではないし」
 藍は立ち上がり、ランタンに書いた文字を隠すように手に持つ。
「私みたいに、何かしらがきっかけで景色が蘇る事もあるでしょう」
 もしも、もしもだ。
 ソウマコジロウの転生が赦されて、再び現世に舞い戻ったとしよう。
「……もしかしたら、また同じような『帝都転覆』なんて、考えるかもしれません」
 これほどまでの『怨念』を抱えた存在だ、幻朧桜の浄化さえも及ばないかも知れない。
 けれど、それでも。
「でも、新たな人生を歩む可能性もあります」
 まるで、本当に生まれ変わったように、別人になる可能性だって十分にあり得る。
「その可能性を信じるのも、良いのではないかと思うんです」

 かつ、かつ。
 つらつらとそんなことを考えながら歩いていたら、ランタンを飛ばす場所までたどり着いていた。火を持った実行委員の男性は、藍の様子を見て、きっと願いごとを見られたくないのだなあ、などと思い、その繊手で隠された『祈り』を努めて見ないようにしながらランタンを受け取ると、手早く夜空へと解き放った。
「この催しで祈ったり願ったりしたことは、結構『本当に』叶うって言われているんだよ」
 実行委員の男性は、次のランタンに火を灯しながら、そう言って笑った。

(「たくさんのランタンは、まるで空に浮かぶ桜の木のようね」)
 周囲に生えている幻朧桜だけでなく、空いっぱいに広がる桜色。
(「だから、『それ』ぐらい祈っても――」)
 いつか、奇跡が起きるかも知れない。
 あるいは、その奇跡を起こすのは、自分たち『超弩級戦力』かも知れない。
 桜色に染まった夜空を見上げて、藍はただ、己の祈りが届くことを願っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「イエス・ロリータ、ノー・タッチ。其れが推しとの正しい関係性なのでしょう。だから、壁になるのです」
天燈記入

『今上帝のお傍に侍りたい』
『今上帝と新皇の逢瀬に立ち会いたい』

「殺し愛でも偲び愛でも。貴方が今上帝の特別である事に変わりはありません。とても…とても羨ましい事です。世界に飽いているかもしれない彼の方の、視線と想いを独り占めにした。貴方は彼の方の唯一です」
今上帝に|見《まみ》え
其の無聊を慰め
転生すら赦さぬと傍らに留め置かれた

「焦がれ、敬愛し、彼の方の為なら全てを敵にして果てる覚悟も有りますけれど。其れでも此の想いでは届かないのです。届いたのは唯一、貴方だけです」

だから私は
貴方がとても羨ましい



●オタクの流儀
「イエス・ロリータ、ノー・タッチ。其れが推しとの正しい関係性なのでしょう」
 なにいってだこいつ……じゃなかった、それが御園・桜花の真面目な持論であった。
「だから、壁になるのです」
 推しの部屋の壁になりたい。これもまた一つの、貴腐人の切なる願い。推しの視界には決して入ることなく、邪魔をせず、ただ推しの|幸福《しあわせ》を祈る。界隈に生きる者としては、まっこと正しき在りようであった。
 故に、桜花は桜色のランタンを受け取るや否や、迷わずこう書き記したという。

『今生帝のお傍に侍りたい』
『今生帝と新皇の逢瀬に立ち会いたい』

 こいつ……マジだ……!
 完全に、不死の帝とソウマコジロウが男装女子カップリングだと確信してやがる……!
 ここまで迷いなく祈り願われては、もう外野がどうこう言う余地など、ありはしない。
「殺し愛でも偲び愛でも、貴方が今生帝の『特別』である事に変わりはありません」
 今はすっかり厳重な警備の元にある新皇塚の方を見ながら、桜花は呟く。
「とても……とても羨ましい事です」
 視線を向けられた新皇塚――の中に居るであろうソウマコジロウの魂魄はどうか。あまりの激重感情に震え上がったりしてはいないだろうか。大丈夫? 鎮まれる?
「世界に飽いているかもしれない彼の方の、視線と想いを独り占めにした」
 羨ましい。本当に、羨ましい。
 帝都に仇為したソウマコジロウその人こそが、不死の帝にとっての『唯一』なのだ。
(「今生帝に|見《まみ》え、其の|無聊《ぶりょう》を慰め、転生すら赦さぬと傍らに留め置かれた」)
 いや、一応申し上げておきますとこれ全部桜花さんの妄想の産物ですからね! 史実ではないと思いますからね! そこだけよろしくお願いしますね!

 そんな妄想たっぷりの願いを託したランタンは、何事もなかったかのように実行委員の男性の手によって、他のランタンと共に桜色の光となって夜空へと舞い上がっていく。
 幻朧桜舞う中、桜色に染まる夜空を見上げながら、桜花は独り思いの丈を告げる。
「焦がれ、敬愛し、彼の方の為なら全てを敵にして果てる覚悟も有りますけれど」
 妄想まみれに見えて、その中に一本芯を貫いているのは、桜花の帝への敬愛の心。
「其れでも、此の想いでは届かないのです」

 ――届いたのは唯一、貴方だけです。

 自らを新皇と称し、帝に反旗を翻した大叛逆者。
 世にはそうとしか知らされていないが、誰も知らない物語が、あるのかも知れない。
「だから私は、貴方が、とても羨ましい」
 願わくば。
 せめて、その傍らに置いてはいただけぬだろうか。
 そうして、今再びの巡り会いの立会人となることを許しては貰えぬだろうか。
 それくらいなら、願ってもきっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
……今回は、流石にしんどかったわ。
(珍しく顔や動きに疲労感が出ている)
でも、怨念がまだ残ってるなら……もう一仕事しないとね。

【祈祷術・破邪浄魂法】発動
「瑞智」を聖槍(破邪形態)に変身させ、怨念を祓う力を強化した上で祭りに臨む
(あくまでこの手の儀式の心得がある者としての補助的運用)

紙に書く言葉は「天下泰平」
確かに奴の言った通り、私は戦「も」好き
でもそれ以外の娯楽(遊戯や食事)も好きだし、それは平らかなる世でないと十分に楽しめない
それに何より、妹達が安心して暮らせる世の方が良い
だからこそ、平和を願うわ……戦だけが、私の全てではないのだもの
(普段の脳筋ぶりからは想像出来ない清楚さで祈りを捧げる)



●守りたいもののために
 それは、珍しい光景であった。
 荒谷・つかさが、表情や動きの一つ一つに、疲労を滲ませていたのである。
(「……今回は、流石にしんどかったわ」)
 考えてみれば、当然かも知れない。間接的にとはいえ相手取ったのは、かつて帝都を揺るがし、今なお尽きることのない大叛逆者の怨念だ。いくらつかさが戦上手だとはいえども、限界はある。
「でも、怨念がまだ残ってるなら……もう一仕事しないとね」
 お祭り気分で全てを忘れ去っても、本当は構わなかった。
 だが、つかさは最後まで『超弩級戦力』であることを選んだ。
「おいで、瑞智――【|祈祷術・破邪浄魂法《プリエール・メモリアル》】」
 すいと右手を伸ばせば、その動きに呼応するかのように、白い大蛇がその姿を現す。大蛇はつかさの意を汲み、自らその身を破邪の力纏いし聖なる槍へと変じたのだった。
 聖槍を握ったつかさは、怨念を祓う力を高めた上で、『桜天燈飛ばし』に臨む。決して聖槍をぶん回してどうこうという訳ではない、鎮魂の儀式に対しての、つかさなりの礼儀であった。

 誰の目から見ても立派な業物と分かる聖槍を担いで現れたつかさは、ランタンを飛ばしに集まった人々の注目を集めた。それと同時に、この催しがただのイベントではなく、ソウマコジロウの魂魄を鎮めるべく始められたものであるという初心に返らせてくれる、立派な装いでもあったという。
 つかさは普段の荒々しさを敢えて引っ込めて、慎ましく桜色のランタンを受け取った。そして、達筆な文字でランタンに書いた文字は――。

『天下泰平』

 ――であった。
(「確かに、奴の言った通り、私は戦『も』好き」)
 妄執の軍人が、狂気の笑みで言い放った言葉がつかさの脳裏をよぎる。
(「でも、それ以外の娯楽も好きだし、それは平らかなる世でないと十分に楽しめない」)
 つかさとて、猟兵である以前に、一人の人間だ。鍛錬の合間に漫画を読みふけったりゲームに夢中になったり、アニメの動画配信を楽しみにしていたりだったする。一人で食べる食事も、愛する妹や親しい仲間たちと食べる食事だって楽しみだ。
(「それに何より、妹達が安心して暮らせる世の方が良い」)
 妹の笑顔が、ありありと思い浮かぶ。婚約者という大切な存在を得て、幸せの絶頂にいるであろう妹が、いつまでも自分が知る笑顔であり続けられるように、願わずには居られない。

「だからこそ、平和を願うわ……戦だけが、私の全てではないのだもの」

 聖なる槍を抱いて、胸の前でそっと両手を組み、桜色の夜空の下で祈りを捧げる。
 その姿は、誰もが知るような、怪力無双で大暴れするつかさのそれとはほど遠く。
 幻朧桜の巫女を思わせる、清らかな乙女の姿そのものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
少々厳しい戦いだったが、勝てたならそれでよしと
尤も、これまでの例に漏れず……また別の何かがソウマコジロウの怨念を復活させようとするのだろうが。その時はまた止めるだけだろう

さておき、今はこの場の魂を鎮めてしまわないとな
手に取ったランタンを軽く回して、なんとなく様子を確かめながら願いを考える
世界平和を考えない訳でもなかったが。そういうのは何かに叶えてもらうのではなく、自分たちの力で勝ち取るべきものだよな、きっと

だから無難に『無病息災』と願いを書いて、ランタンを空へと飛ばす
俺が息災であれば、少しだけ世界平和の為に戦えるだろう

やるべき事は済ませた……なら、後はもう少しだけこの祭りの空気を楽しむとしよう



●大切な願いごと
「少々厳しい戦いだったが、勝てたならそれでよし、と」
 歴戦の猛者たる夜刀神・鏡介をしてこうも言わしめる今回の戦いが、いかに過酷だったかが一言で伝わる言葉であった。世紀の大叛逆者・ソウマコジロウの怨念を間接的にとはいえ相手取ったのだから、無理もないというものだ。
(「尤も、これまでの例に漏れず……」)
 既に帝都軍の厳重な警備の元にあり、平時の姿を取り戻したかに見える新皇塚を見遣りながら、鏡介は思う。
(「また別の何かがソウマコジロウの怨念を復活させようとするのだろうが」)
 予感がした。これで全てが終わった訳ではないと。
「――まあ、その時はまた止めるだけだろう」
 この世界に生きる『選ばれし者』として、『超弩級戦力』として、帝都を――そして世界を脅かす存在が現れれば、何処にだって駆けつけて、排除する。その覚悟が、鏡介にはあった。

 転移を受けてからここまで激戦続きだったものだから気が付かなかったが、いつの間にか日はとっぷりと暮れて、夜空を桜色のランタンが美しく照らしていた。
「さておき、今はこの場の魂を鎮めてしまわないとな」
 ランタンを配る天幕に立ち寄って、桜色の愛らしいランタンを受け取ると、それを軽く回して、何となく様子を確かめながら願いを考える。
 何でも良い、と言われると――かえって迷うものだったりして。
 最初に具体的に思い浮かんだのは『世界平和』――いやいや、そういうのは何かに叶えてもらうのではなく、自分たちの力で勝ち取るべきものだよな、なんて。

『無病息災』

 最終的に落ち着いた鏡介なりの答えは、この一言であった。
(「俺が息災であれば、少しだけ、世界平和の為に戦えるだろう」)
 少しだけどころか、今や猟兵たちの中でも一目置かれる猛者であるという自覚が、どうやらご本人にはあんまりないらしい。戦争の時とかいつもお疲れさまです!
 無難に見えて、一番大事な祈りを託した桜色のランタンは、実行委員の男性の手に渡り、夜空へと放たれた。幻朧桜を巻き上げ、空へと昇っていく桜色の光を、鏡介は見届ける。
「やるべき事は済ませた……なら、後はもう少しだけこの祭りの空気を楽しむとしよう」
 影朧の脅威が去った今、催しには多くの一般人が参加している。家族連れからカップル、仕事帰りの独り者まで、実に様々な人々が集まっては、思い思いの祈りや願いを桜色のランタンに託して、空へと飛ばしていた。

 ――守るべきものが、ここにはある。

 祭りの賑わいをやや遠巻きに眺めながら、鏡介は舞い踊る幻朧桜の中で、改めて気を引き締めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘスティア・イクテュス
◎【飛剣】
今回の任務もこれにて終了ってね!うーん!耳が痛い!
とまだ耳鳴りする耳を抑えながら

それじゃあ、せっかくだし『桜天燈飛ばし』に参加するとしましょうか

あっ、ミネルバもお疲れ様!
ミネルバは何を書くのかしら?
わたしの願いはそうね…一攫千金?
いいじゃない別に何でもなんだし…

空を舞うランタンを眺めて
ん~綺麗ね~大きな桜の花びらが舞い上がってるみたいで



雪華・風月
◎【飛剣】
ふぅ…今回も無事終わって何よりです…
はい、あれほどの怨念、しっかりと鎮めるためにも私達も参加させていただきましょう

はい、此度はミネルバさんもお疲れ様でした
わたしの書く願いは当然、安穏無事と…
日々この世界にも大きな戦いの気配を感じるのでせめて大事無くすみますようにと願いを込めて…

空を舞う天燈に
はい、とても綺麗な光景ですね…
願わくばこのような平和な光景を来年もまた見れるよう願って



●いつか来るその日のために
 幻朧桜舞い踊る中を、ヘスティア・イクテュスと雪華・風月の二人が連れ立って歩く。
「今回の任務も、これにて終了ってね! うーん! 耳が痛い!」
「ふぅ……今回も無事終わって何よりです……」
 先の戦いで痛めた鼓膜がまだ完治していない状態のヘスティアは、両手で両耳をむにむにしながら歩く。時折、耳鳴りに襲われるのだ。
「ヘスティアさん、大丈夫ですか?」
「だいじょぶ、もう少しもすれば治ると思うから」
 やや申し訳なさそうにヘスティアの顔を覗き込む風月に、当のヘスティアは笑顔で返す。
「それじゃあ、せっかくだし『桜天燈飛ばし』に参加するとしましょうか」
「……はい! あれほどの怨念、しっかりと鎮めるためにも、わたし達も参加させていただきましょう」
 意気込んだ二人は、最後の任務でもあるランタン飛ばしに臨むのであった。

「あら、二人ともお疲れさま。今回も本当にありがとう」
 桜色のランタンを配る天幕のもとへ向かったヘスティアと風月は、ちょうど同じくランタンを受け取ろうとしていたグリモア猟兵ことミネルバ・レストーに声をかけられた。
「あっ、ミネルバもお疲れ様!」
「はい、此度はミネルバさんもお疲れ様でした」
「わたしは後ろで応援してただけよ、みんなの頑張りあってこそだわ」
 ミネルバはあくまでも謙虚に、笑顔でそう返す。グリモア猟兵は自らも戦地に立つこともあるが、予知をした側になると、ただただ無力だから。
「ミネルバは何を書くのかしら?」
 桜色のランタンを受け取りながら、ヘスティアがミネルバに問う。
「それがね、正直さっきからずっと悩んでて。そしたら二人が来たってワケ」
 淡々と願い事を決めてしまいそうに見えて、実は結構優柔不断なタイプらしい。そう、とヘスティアが言いながら、迷わずにペンを手に取った。
「そういうヘスティアは、何をお願いするの?」
「わたしの願いはそうね……」
 うーんと上を向く仕草をしながら、けれどササッとランタンに書いた文字はこうだった。

『一攫千金』

 ええ……という顔で、ミネルバと風月がヘスティアを見た。すごいジト目だった。
「ちょ、いいじゃない別に、何でもいいって話なんだし……」
 心外だと言わんばかりにヘスティアが言い返すも、二人はやだわあという顔を崩さない。
「じゃあ風月はどうするのよ、さぞかしご立派な願い事なんでしょうね!?」
「当然です! ヘスティアさんみたいに私利私欲にはまみれていません!!」
 決然と言い放ち、風月はランタンにこう書き記した。

『安穏無事』

 あら~、という顔でミネルバが風月を見た。対するヘスティアは舌打ちをする。
「日々、この世界にも大きな戦いの気配を感じるので……」
 風月は、割と真面目な顔になってランタンに視線を落とした。
「なので、せめて大事無く済みますようにと願いを込めて」
「風月……」
 ヘスティアは、かつて出身世界が戦禍を被り、猟兵たちの活躍で窮地を脱した経験があった。それを糧に、今度は自分が他の世界を救いたいと、異世界を渡り歩いている身である。故に、風月の言葉は我がことのように胸に突き刺さった。
「どうするの、ヘスティア? 今ならまだ、願い事を変えられるけど」
「い、いいの! わたしはこのままで行くわ!」
 それを見抜いたのか、フフフと笑いながらそう声をかけてきたミネルバの言葉を突っぱねて、ヘスティアはさっさとランタンを飛ばしてもらうべく実行委員の男性の元へ向かう。
「ミネルバさんは……」
「うーん、わたしはもうちょっと悩んでみる。先に飛ばしててちょうだい」
「わかりました、いい案が浮かぶといいですね!」
 そう言うと、風月もヘスティアを追ってランタンを飛ばしに駆けていった。

 幻朧桜が舞う中を、火を灯されたランタンが桜色の光となって、ぐんぐん夜空を昇っていく。ヘスティアと風月は、並んでその様子を眺めていた。
「ん~、綺麗ね~。大きな桜の花びらが舞い上がってるみたいで」
「はい、とても綺麗な光景ですね……」
 ソウマコジロウの怨念と、それに魅入られてしまった影朧たちとの戦いは、壮絶なものであった。けれど、それを制したことで、誰もがまた一つ成長したことだろう。
 風月が懸念する『その時』が来たとしても、超弩級戦力たちが力を合わせれば、きっとどんな相手であろうと打ち勝てる――そんな気がした。

「願わくば、このような平和な光景を、来年もまた見られるように……」

 そう呟く風月の横顔を、ヘスティアは温かく見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御桜・八重


桜色のランタンに丸っこい文字でサラサラと。
「これで、よしっと」
むふーと出来上がったランタンを掲げていると自分を呼ぶ声が。
「あ、ネリーちゃん」

神楽舞とかやらないのかって?
うーん、それも考えたんだけど……

周りを見ればランタンに願いごとを書く沢山の人。
「みんな、楽しそうだよね」
小さな願い一つ一つが幻楼櫻の力になるのなら。
大仰な儀式は必要ないのかもしれない。
わたしってばすぐ気負い過ぎるからねー、と笑う。

浮かび上がりどんどん小さくなる沢山のランタン。
二人で見上げていると、何を書いたのとネリーちゃんが。
『その魂が救われますように』
いつか、きっと。

それはともかくこの後時間ある? 小径で新メニューだって!



●ソノ魂、何時カ幻朧桜ニ還ラン事ヲ
 桜色のランタンを配る天幕に向かった御桜・八重は、愛らしいランタンを受け取ると、願いごとを書き込むペンを迷わず走らせて、丸みを帯びた特徴的な文字で何かを書き記した。何を書くかは、最初から決まっていたのだろう。
「これで、よしっと」
 願いを託したランタンを満足げな表情で掲げる八重。後はこれを実行委員の男性に託すばかり――という所で、八重は自分の名を呼ぶ声を耳にした。
「あ、ネリーちゃん」
 声の方を振り返れば、グリモア猟兵ことミネルバの姿があった。
「八重はこれからランタンを飛ばすの?」
「うん、今願いごとを書き終えたところ」
 やって来た方向から察するに、ミネルバは今まさにランタンを飛ばしてきたばかりなのだろう。何を書いたのか問おうと八重が口を開こうとしたまさにその時、ミネルバの方が先んじて八重に尋ねた。
「八重のことだから、神楽舞のひとつでも即興で披露するかと思ったけれど」
 口元に指を当ててそう告げるミネルバは、本気でそう思っていたらしい。
「うーん、それも考えたんだけど……」
 言われた八重は、正直に返す。考えはしたが、止めることにしたのだと。

 八重とミネルバは、しばし言葉を切って、周囲を見回す。辺り一面、桜色のランタンに願いごとを書く、たくさんの一般人の姿があった。
「みんな、楽しそうだよね」
「そうね、この光景があるのも、八重たちみんなが頑張ってくれたおかげよ」
「むふー」
 しみじみと言う八重に、ミネルバがさらりと感謝の言葉を返せば、ちょっと得意げになる桜巫女。
「こういう、小さな願い一つ一つが幻朧桜の力になるのなら」
「?」
「神楽舞とかそういう、大仰な儀式は必要ないのかもしれない」
「……そう、かもね」
 二人は、夜空を照らす桜色の光たちを見上げながら言葉を交わす。八重の思慮にミネルバが肯定の意を示すと、八重は笑いながらこう付け加えた。
「わたしってば、すぐ気負い過ぎるからねー」
「全くね、もっと自分のことを優先してもいいんじゃないって思う時が多いくらいよ」
 歯に衣着せぬ物言いでミネルバが言う。だが、その表情はとても穏やかだった。

 影朧の脅威が無事去った今、『桜天燈飛ばし』にはたくさんの一般人が参加している。
 人々が次々に祈りや願いを託して飛ばす桜色のランタンは、どんどん小さくなる代わりに、春の夜空を桜色に染め上げていく。その中には、八重のランタンも含まれていた。
「聞いてもいいかしら」
「んー?」
「八重は、ランタンに何を書いたの?」
 ミネルバが、八重を見ていた。
 八重は、桜色の夜空を見上げたまま、口を動かした。

『その魂が救われますように』

 ――いつか、きっと。
 その日が来ますように。

「それはともかくこの後時間ある? 小径で新メニューだって!」
「あっ、ディナータイム限定のでしょ? 聞いたわよ、今から行く?」
「もっちろん! お腹空いちゃってもう~」
「じゃあ決まりね、今日のお礼にお代は持つわね」
 八重とミネルバは、連れ立って大手町を後にする。目指すは銀座の大通り、行きつけのカフェーだ。
 そんな二人を含めた人々を、そして今は厳重な警備の元にある新皇塚を、幻朧桜と桜色の夜空が、いつまでも、どこまでも美しく包み込み続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年04月02日


挿絵イラスト