|誰かの歌《ヴェーダ・キャレット》
朱鷺透・小枝子
海鶴マスター様、
ノベルをリクエストさせて頂きます。
■ノベル内容
・シナリオ:デヴァーリムは差し伸べる手を取る所以か
で邂逅しました『此処』へ再訪問。
『メリサ』少年たちが元気にやってるか様子を見に行きます。
キャバリアも見ていきます。ついでに演奏していきます。
『気分は吟遊詩人!』とはクレイドルの言。
・#古代プラント
再調査を行います。
■不意の訪問となりますね。
クレイドル・ララバイに人前で演奏をしようか!
と押し切られ、人が少なめの『此処』にやってきました。
「お久しぶりです『メリサ』殿。元気にやっておりましたか?」
と『メリサ』少年たちへ何か問題が起きてやしないかと挨拶しつつ、
キャバリアの整備状況を確認後、UC〈機楽団〉召喚。
小人型演奏メカニックマシンたちと共にキャバリアを整備します。
『はーい少年達!初めましてだね?私はクレイドル・ララバイ。
この奏者の教師さ!今から奏者が演奏するから、良かったら見てってよ!』余計な事を…!
……一通り見て終わったら、楽器演奏。場の雰囲気に合わせて魔楽機を奏でます。
練習用の単純な譜面をなぞって─
『もうちょっと色々あるだろうに!
もう仕方ないなぁ、|田園曲《パストラル》にしよう!
皆で歌って踊るなら|舞曲《ダンス》にしようじゃないか!!』
「むむむ、分かりました、分かりました!複雑なのもやります…」
『うんうん。よろしい!さぁさ!唯聞いているだけじゃあ物足りないだろう!
楽器をあげるから、君達も音楽奏でないかい!?』
機楽団から楽器を『メリサ』達へ。
|機楽団《クレイドル》の助言と応援の元、小枝子と『メリサ』達が様々な楽器の演奏技術を習います。もしや『メリサ』殿ら、自分よりも覚えが早い……?
そのついでに音楽や文化、御伽噺、巨神に纏わる話等がないか情報収集を行います。
「プロメテウスや、セラフィムを知っていますか?」
『歌や御伽噺、お祭りとかもあるなら知りたいな!』
クレイドル曰く、確たる情報がなくとも、
文化や、言い伝え、御伽噺や歌の中に重大なヒントが隠されているかも。とのことで……
クレイドルが音楽を収集したいのと、自分に人前で演奏させる為の方便な気がします……。
■やりたい事整理
・挨拶と様子見
・キャバリアの整備
・楽器演奏お披露目練習
・情報収集(音楽や文化、御伽噺、巨神等)
■特記・補足
・小枝子:「」/クレイドル:『』
・使用ユーベルコード:|機楽団《セラ・コロス》
・アドリブ歓迎いたします!
海鶴マスター様、よければ
小枝子達をよろしくお願いいたします。
●空気
穏やかな空気が『此処』には流れている。
吸って。吸って。吸って。穏やかな空気は人の心を穏やかなものにする。
「『此処』は、やはりあまり変わっていませんね」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は、そんなクロムキャバリアのある地方、『此処』と呼ばれる未開地を訪れていた。
『此処』は嘗ての『第三帝国シーヴァスリー』がまだ『シーヴァスリー』としか名乗らぬ頃に『古代プラント』を求め、オブリビオンマシンの策動に引きずり込まれた土地である。
『此処』、と小国家としての名前すら保たぬ未開地。
住まう者たちは皆、亜麻色の髪をした少年たちばかりであった。
しかも、同じ顔。同じ声、同じ性格をした『メリサ』と呼ばれていた。
自分たちのことを同一だと認識し、異なる存在を受け入れ難いと思う者たち。
縁あって小枝子は『此処』にまつわる事件を解決に導いた猟兵の一人だ。その際に彼女は『シーヴァスリー』の破壊したキャバリアを纏めて大型の鎧武者型のキャバリアを建造し残したのだ。
そんな場所に何故彼女がやってきたのかと言えば。
『そりゃあ、勿論! 人前で演奏する練習のためさ! いや、演奏するために練習してきたのだから、もはやこれは練習ではなくリハーサルでもなく、本番とも言えるね! ぶっつけ本番!』
やかましい、と小枝子は思った。
戦いの合間を脱いっては『クレイドル・ララバイ』は自分に人前で演奏することを要求してくるのだ。
小枝子はそのたびに断る口実を見つけ出そうとするのだが、のらりくらりと躱しても追及の手は止まらない。いやまあ、手がないので口が出るのは仕方のないことだろう。
いつまでも先延ばしにしていた所で『クレイドル・ララバイ』は己に演奏の要求を停めないだろう。
なら、と小枝子は押し切られる形ではあったものの、こうして『此処』と呼ばれる未開地
……ならば、人が少ないであろうとやってきたのである。
「いいですか。まずは『此処』に住まう彼らに挨拶をしなければなりません。どこの世界に挨拶という礼儀もなく、いきなり演奏を始める者がいるというのでありますか」
『奏者にしては至極真っ当なことを言うじゃあないか。だがまあ、それはわかるよ。挨拶っていうのはどんな世界にあっても共通の礼儀の一つだからね』
「では暫し黙れ」
『言い方!』
そんなやり取りをしながら小枝子は『此処』と呼ばれる未開地、その集落の入口に差し掛かる。
すると他の猟兵達がそうしたように小枝子もまた作り上げたキャバリアたちの姿が見える。
千手を持つようなキャバリアに、鎧武者の大型キャバリアが座している。
他にも他の猟兵たち謹製のキャバリアが鎮座している。
だが、それらが使われた形跡がないように思えたのだ。自分たちが『シーヴァスリー』とオブリビオンマシンを退けた後から何ら変わるところがないように思えたのだ。
「……あ、あれ? あなたは……」
一人の亜麻色の髪をした少年『メリサ』が小枝子の姿を認めて駆け寄ってくる。
相変わらず無防備だ。
疑うことを知らないかのような彼らの振る舞いに小枝子は少しだけぎこちなく会釈する。
「お久しぶりです『メリサ』殿。お元気でやっておりましたか?」
「ええ、覚えてます。小枝子さん。そうおっしゃっていた方ですよね。おーい、みんなー!」
小枝子を認めた『メリサ』が振り返り未開地である『此処』へと呼びかける。
するとあちこちから同じ亜麻色の髪をした少年たちが現れる。
駆け寄ってくる者、作業の手を止める者。
いずれもが同じように小枝子の元に集まってくるのだ。皆、同じ顔をしているからか、なんとも言えない光景である。
彼らは小枝子の元に集う。
「何かあれからおかしなことは起こっておりませんか?」
その言葉に彼らは一瞬、言葉に詰まるようだった。
何故、と思うと『メリサ』たちは口を開く。
「一人の僕……俺達から『彼』が何処かに旅立ってしまったこと以外は変わりないです」
「『彼』? それはあの『フルングニル』に乗った『メリサ』殿のことをでしょうか」
「そうです。『彼』は僕……俺達とは違う存在になってしまったと、自ら『此処』からでていきました。『彼』がどうなったのか知りませんか」
小枝子は頭を振る。
『メリサ』たちは一様に落胆した様子だった。けれど、あれから他の小国家などが『古代プラント』を狙って攻め込んできたであるとか、そうしたことは起こっていないことは喜ぶべきだったのだろう。
「機体の整備は教えた通りやっておりますか?」
「それは勿論。もっぱら、大地を耕すのに使ってますけれど」
「そう、あの鎧武者型は力が強いのでとても助かってます」
良く見れば、確かに戦った形跡はないが自分たちが作ったキャバリアはどれもが土にまみれていた。
彼らの言葉通り、あれらは戦いのためではなく、戦い以外のことに使われているのだろう。
それはキャバリアの存在意義からは大きく外れる扱いであったが、むしろ小枝子にとっては好ましいことだった。
「なるほどでありますな。それは重畳であります」
『そろそろいいかな、奏者』
「ダメであります」
『なんでさ。もう十分に彼らに挨拶は済んだだろうし、近況は知れただろう? 結構なことじゃあないか。平和そのものさ。この戦乱満ちるクロムキャバリアに置いて、『此処』は確かに平和そのものだろうさ! ならさ!』
「『クレイドル』、それは貴殿の欲望の発露にすぎないだろう」
『欲望の発露! その何が悪いのさ! ええい、奏者は見ているがいいさ。この私のコミュニケーション能力ってやつをさ!』
そんな二人のやり取りに『メリサ』たちは目を丸くする。
そう、彼らにとって以前小枝子が『此処』に訪れた際には『クレイドル・ララバイ』はいなかった、初めての来訪者である。
「こ、この声は?」
「どういう……?」
「これは……ええと」
小枝子はなんと説明したものかと考えあぐねていると。
『はーい少年たち! はじめましてだね? 私はクレイドル・ララバイ。この奏者の教師さ!』
「きょうし」
『知らないのも無理はないだろう。だが、言葉で説明するよりも知る方が速いってこともあるだろうさ。さあ、奏者!』
「……」
『おや、だんまりかい!『此処』に君は何をしにきたんだい? ただ近況報告を聞きに来たわけじゃあるまい! そう、演奏をしに来たんだ! さあ、少年たち。今から奏者が演奏をするから良かったら聴いてはもらえまいか!』
「えんそう」
『クレイドル・ララバイ』の言葉に『メリサ』たちは首を傾げる。
彼らには『教師』も『演奏』も、概念として持ちえていないのだろう。
初めて聞く単語に一様に『メリサ』たちは首を傾げているのだ。
「余計なことを……!」
「でも、僕……俺達は知りたいです。その『きょうし』というものも、『えんそう』というものも」
小枝子は真摯なる瞳に負けた。
自分はまだ練習用の譜面しかまともに披露できない。
だから、とできるだけ単純な譜面で無難に、それこそ失敗のないようにと演奏を開始しようとして『クレイドル・ララバイ』から止められる。
『おいおいおいおい、奏者! もうちょっといろいろあるだろうに!』
「そうは言っても」
『まったく気が利かないな、奏者は。いいかい。失敗することが悪いんじゃあないんだよ。失敗死たことをそのままにすることが悪いことなんだ。それに挑戦しないこともね。いいかい、挑戦しなければ成功どころか失敗だって得られやしないんだよ』
「ぬぐ……」
『そんな奏者には、|田園曲《パストラル》が良いと思うんだ。みんながいるんだ。せっかくなら歌って踊っての|舞曲《ダンス》にしようじゃないか!!』
その方が楽しい! と『クレイドル・ララバイ』が言い放つ。
確かに、と理詰めで迫られては小枝子も頷かざるを得ないだろう。
「わかりました……」
「それで、僕……俺達はどうすれば……」
『メリサ』たちが所在投げに問いかける。
その問い掛けに『クレイドル・ララバイ』は笑って言うのだ。
『なにかしなければならないことなんて何一つないのさ。あるのは、どうしたいかさ。今、君たちの心に何があるのか。そして、奏者の演奏によって去来するものが何かを君たちは吉達自身に問いかけることをすればいいのさ。さすれば、自ずとわかるはずさ!』
「どうしたいか」
『そう!』
小枝子が『クレイドル・ララバイ』が変じた魔楽器を奏でる。
それはお世辞にも上手とは言えなかったかも知れない。
けれど、その音色は、旋律は『メリサ』たちの胸に何かを運ぶ。それが一体なんであるのかを示す言葉を彼らは持ち得なかっただろう。
音色に体が揺れる。
考えてのことではない。自然と音色に体がリズムを刻むのだ。
どんなに多くのことを知らぬ者たちであっても、音は体にリズムを刻み込む。教わることもなく肩を揺らし、足踏みをする。
それが音を奏でるということだ。
原初の行動だ。
原始的な欲求であると言ってもいい。
そんな彼らの姿を認めて『クレイドル・ララバイ』は小人型演奏メカニックマシン、機楽団(セラ・コロス)を呼び出す。
『ただ聴いているだけじゃあ物足りないだろう! 楽器をあげよう。君たちも奏でてみないかい!?』
「これが、がっき」
「これを僕……俺達も?」
『何も恐れる必要はないんだよ。君たちが思うままにすればいいんだ。ちょっとしたコツはあるから、それを教えてあげよう!』
次々と小人型演奏メカニックマシンたちが『メリサ』たちへと楽器を手渡していく。
彼らの技能習得速度は尋常ではない。
小枝子は、目を見開く。
己が演奏している譜面を彼らは教わればすぐさま追いかけるようにして追従する。
いくつもの音色が重なっていく。
さながらオーケストラのようであった。多重に重なる音が『此処』に響いていく。
全員が一緒。
全てが同じであることを求める彼らにとって、己達が奏でる楽器が異なれど、一つのものを作り上げていく光景に、音に、音色に、旋律に瞳が潤むようだった。
こんなにも単純なことが心を突き動かすことに何処か震えるような感情を彼らは知ったのだ。
「『メリサ』殿たち……もしや自分よりも覚えが早い……?」
『奏者の演奏技術をあっという間に追い抜いていったね! スポンジみたいな子らだね!』
「これは僕……俺達でもわかります。楽しいってことが!」
演奏を終えて彼らは手渡された楽器を大切なものを扱うようにして抱えて、頭を下げる。
彼らにとって、これほどに心揺り動かされたことはなかったのかもしれない。
「貴殿らは……」
小枝子はふと思いつく。
彼らが音楽に始めて触れたのならば、『此処』とは一体どのような興りを持っているのか、と。
どんな小国家であろうと興りという原因がある。
『グリプ5』が嘗て『憂国学徒兵』と呼ばれる『ハイランダー・ナイン』たちによって興されたように。
ならば、と思い問い掛けたのだ。
「僕……俺達は、目醒めただけです。『此処』で。みんないっしょに。だから、過去のことはわからないんです。ただ『此処』で生きていく、ということだけがみんなの同じ一つだったんです」
だから、という彼らに小枝子は、ならば、と言葉を変える。
「『プロメテウス』、『セラフィム』という言葉を知っていますか?」
その問い掛けに彼らは答える。
「『プロメテウス』は怪物の名前でしょう。『ヴェーダ』と『キャレット』に分かたれた怪物。赤と青の炎を持つ怪物です。僕……俺達はそれを知っている」
「『セラフィム』は鋼鉄の巨人の名前です。完全な善性を持つ者と、完全な悪性を持つ者とに分かれているけれど、完全であるがゆえに同じ者たち」
「共に星の海から」
「『何処』からか『此処』にやってきた者たちのことです」
だから、それは自分たちと同じなのだと『メリサ』たちは手にした楽器を奏でる。
それは何処か無邪気さを感じさせるものであったことだろう。
小枝子は、思う。
彼らは歌なく、過去なく。
それでも二つの名を知っていた。
何故。
その答えは今得られず。
けれど、『此処』に歌は響いている。
『誰かの歌』が、確かに今己達が齎した旋律に乗って、響きわたり始めていた――。
成功
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