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安らぎの贈り物

#封神武侠界 #ノベル #猟兵達のクリスマス2023

厳・範




●祝祭日
 どんな日だって特別なものにすることができる。
 少なくとも『无灰』にとって毎日というのは、なんでもない日の連続ではなかった。どんな日だって特別なものであると思ったし、同じ日は二度とやってこない。
 川の流れを見てみればわかる。
 あれはいつもと同じ風景に見えて、全く別のものである。
 川幅も変われば、流れの速さも変わる。水の色合いだって変わる。
 その時時で千変万化たる様相を川の流れ一つとっても見せてくれるのだから、多くの生命が行き交う己が番犬ならぬ番鷹獅子をしている店先は殊更であったことだろう。

 とは言え、今日は店が休みなのだという。
「だから、『阳白』『阳黒』と遊んでおいで」
 店の主である『若桐』の言葉に首を勢いよく振って『无灰』は足取り軽く飛び出していく。
 空にはもうすでに先輩グリフォンの二頭が遊びに誘うようにして空を舞っている。
 待って待って、と追いかけるようにじゃれ付けば先輩グリフォン二頭も笑ってくれる。
「あっちの峠まで競争」
「速いもの勝ち」
 わーい!
 些細なことだけれど、それでも楽しい。
 まだまだ甘えたい盛りの性格であることは言うまでもない。
 日差しは動けば呼び水にするみたいに体躯の内側から熱を発する。寒さなんて気にならない。羽毛があるおかげもあるが、それでも先輩二頭とじゃれ合うようにして競争するのは楽しい。
 空を飛ぶこと。
 大地を駆けること。
 
 その何れも『无灰』にとっては得難いことだった。
「そろそろかな?」
「そろそろかも」
 二頭の言葉に『无灰』は何のこと? と問いかけるが、二頭はこっちの話と笑っている。
「クエッ!」
 見上げると空がどんよりと曇っている。
 かと思えば、チラチラと視界に白い粒が見える。
 そう、雪だ。
 わー! とまた気分が高揚してくる。
 跳ねるたびに羽根に雪がまとわりつく。弾くようにして羽ばたけば雪が舞い散る。それがまたなんともキラキラしていて、きれいなのだ。

 遊び疲れるようにして三頭は『若桐』の店へと戻る。
 すると、そこにあったのは白い雪を思わせるような、まあるい何か。
「ケーキですよ。私とお婆様とで作りました。どうでしょう?」
『花雪』がなんだか自信満々な顔をしている。
 どうやら彼女は朝からやってきたと思っていたら、せっせとこれを作っていたのだという。
 それにしてもケーキ。
 なんともキレイでなんとも魅惑的な言葉の響きだろうか。
「ふふ、『花雪』も張り切っていたからね、それにしても、範は遅いね?」
『若桐』の言葉に『无灰』は見回す。
 すると桃の花が咲いたような結晶と共に厳・範(老當益壮・f32809)が現れる。
「おっそーい」
「すまぬ。少々手間取った。とは言え、抜かりはない」
 範が結晶の中から取り出したのは、岩盤であった。

 この場にいる者たち以外であれば、なにそれ、となるところであっただろう。
 だが、『无灰』は目を輝かせる。
 そう、それは先輩グリフォンたちが爪を研ぐために使っていた固い岩盤である。
 どうやらこの世界にあるものではないらしい。
 どこかの世界にあるものなのだとか、聞いたことがある。
 それが己の眼の前に置かれたのだ。
「ああ、そなたのものだ。二人とおそろいだ」
 そう言う範の言葉に『无灰』は夢中になって爪でもってひっかく。良い具合に研がれていく。研ぎ心地も最高である。

 そう、先輩二頭のこれを見て、いいなーと思っていたのだ。
「よかったねぇ。なにせ今日はクリスマスだ。異世界では良い子の所に贈り物を持ってきてくれる老人がいるようだよ」
 それが、と『无灰』は範を見上げ、主人たちのことなんだなぁ、と歓び一際高く鳴くのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月27日


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