「無事か?」
襲い掛かるオウガを切り伏せ、凛とした鈴が如くの音を立てて鞘に刀を収めるオニバス・ビロウ(花冠・f19687)
その視線の先に居たのは、奇々怪々な姿を持つ愉快な仲間達、そしてオウガに追われていた着物姿の少女のアリスだった。
「あ、ありがとう」
「良い。悪鬼が世に蔓延る事は許されぬ。それに此方にも事情がある故」
アリスにそう答え俺は、目線を下に落とし助けた者達を見渡す。
欠けた者はおらず助かったと安堵の息をつく者や、次にあったら自分が懲らしめると、何度も手を前に突き出す者等、様相は様々なれど無事には違いない。
「しかし、まぁ」
一言独り言ちると顔を上げて、自らが降り立ったありすらびりんすの世界を見渡してみる。
此処は今の時期にまさしくと言った場所であった。
(この甘い匂いはちょこれぇーとだな)
そこらに生える木々や草、流れる川の水、家の床や屋根から山の頂上まで。
何処を見てもちょこれぇーと。まるで西洋の妖に化かされた様ではないか。
「流石はありすらびりんす。面妖な事この上ない」
しかし、この程度の事は慣れた物。周囲の安全を確認した俺は、片膝を突くと助けたアリスの顔を見る。
「所で、女を見ていないか?お主の様な装いの女なのだが」
目を合わせて問いかける俺に、アリスは何も知らぬと首を横に振る。他の者も誰も彼もが知らぬと言う。
つまる所。此度も我が妻の事は何も聞けずじまい。という訳だ。
「分かった。安全な所まで送ろう。何処か当ては有るか?」
僅かに肩を落とすが何、どうと言う事は無い。今までも何の手掛かりも無かったのだ。それがただ一度増えただけの事。
しかし。その姿が彼等から見れば、よほど落ち込んでいる風に見えた様で。
「オジサン!コレタベテ!!」
切れ込みで顔を作った南瓜の頭が片言で俺に話しかける。顔に似合わぬ小さな手に持っていたのは、この時期によく見かけるアレである。
「おお。ちょこれぇーと、ではないか!」
いやはや。自分でも卑しいと少し思うが、つい目を輝かせてしまう。
あまり大きな声では言えぬが、この菓子と出会えた事は猟兵になって良かった事の一つ。
遠慮なく一つ指で摘み口に頬張ると、固い表面が溶けだし、甘味とコクの有る少々の苦味が少しずつ口の中へと広がってゆく……嗚呼、実に堪らぬ!
「オイシイ?」
「うむ。俺はこの手の甘い菓子が好きで、特に酒入りのちょこれぇーとが好きなのだ」
思いがけぬ僥倖に、思わず頬が緩んでしまった。
こんな姿を、我が妻が見ればなんというであろうな。
だらしないと言うか?或いは、甘味は程ほどにと言うか……まさか、泥を口になさって!等と言うか?
「いや、あれは聡明な奴だ。南蛮の菓子だと分かってくれる」
そして、だ。伴天連由来の祭りなれど、愛を謳うに惑う事は無し。今すぐ会えるのであれば、このちょこれぇーとと共に今までの苦労を労わり、愛の言の葉を投げかけるに躊躇いはない。
嗚呼、愛しきお前よ。何処に居るのか……等と惚けている間に。俺の連れがどうやら、ちょこれぇーとにご執心だったようで。
仔狐の花桃と白馬の雪手亡が、愉快な仲間達へと無言で鼻先を押し付け、ちょこれぇーとの催促をしていた。
「キミタチモ、タベタイ?」
彼等の言葉に首を縦に振る二匹。
「ソッカ!ジャアツイテキテ!オジサン、アンゼンナトコロニイコウ!!」
「お前に出会えたら伝えたい事が……まて、オジサン?俺はまだ三十。いや待てそうではないな。そうか、安全な場所を知っているか。では行こう」
ううむ、俺とした事が。ついうっかり惚けに酔う等とは。
兎も角一つ咳払い。気を取り直して彼等の後に続く事にする。
何処を見渡してもちょこれーとで彩られた森の中を歩く事、どれ程経ったであろうか。
やがて俺達の目の前に森の中の開けた場所に出て。
「キューン!」
「ヒヒーン!」
そこにある、こんこんと湧き出るちょこの泉の数々を見るなり、花桃と雪手亡は一目散にちょこの泉へと飛び込んだのだ!
「あっ、あいつら……」
あの様な所で泳げば、それ見た事か。全身がちょこまみれだ。
後で洗う事を考えれば少しばかり頭が痛くなるが、しかして上手そうに舌を出してちょこを舐めとる二匹を見ていると、このちょこの泉の味が気になるの仕方ない事。
「どれ」
奴らの入った泉とは違う泉に指を入れて、そのまま口へと入れると先程貰ったちょことはちがった、どろりとあまったるいちょこれーとの味に頬がにやけてしまう。
「ドウ?オイシイデショ!?」
「うむ、確かに」
これは実に美味なる物。あ奴らも楽しんでいる事であるから、暫し此処でくつろぐ事とするか。
そう思い腰を据えると、空を見る。
「良い土産話が出来るな」
思うは、我が愛しき妻の事。何処かに居るのかはわからぬが、何れ必ず見つけてみせる。
そして言うのだ。世界はこのような面白くも不可思議に溢れていたと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴