2
冬燈彩るスペシャル・デイ

#UDCアース #ノベル #猟兵達のクリスマス2023

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達のクリスマス2023


0



ミンリーシャン・ズォートン



杣友・椋





 煌めく街並み、踊るように賑やかな声が耳に心地良い。――遠く聞こえる心が浮き立つ音色は、今日が一年に一度の特別な日なのだと語っているかのようで。ミンリーシャン・ズォートン(戀し花冰・f06716)は楽しそうに辺りをきょろきょろと見回す。
 飾りつけの一環として、所々に飾られたアーチ。クリスマスらしいリースのような木々モチーフに、吊り下げられた飾りがゆらゆら揺れる。キラリと揺れる雪結晶は、小さな彼女でも精一杯手を伸ばせば届きそうな気がして――思い切り背を伸ばしてみるけれど、
「あれれ、届かないぞ」
 彼に気付かれないように、一歩引いたところから手を伸ばしても。小さくジャンプしても届かなくて。雑踏にかき消える程の声でこそりと零すミンリーシャン。
 そんな彼女の行動に気付いているのかいないのか、目の前の彼――杣友・椋(悠久の燈・f19197)はくるりと振り返ると微笑んで。
「やっぱり当日だと尚更混んでるよなぁ」
 はぐれないようにと紡いで、きゅっと繋いだ手を確かめるように握り締めた。
 中央にそびえ立つのは大きなクリスマスツリー。数多に彩られキラキラと輝いている姿は、夜になればイルミネーションで輝きもっと美しいだろう。その周囲で展開されるクリスマスマーケットを求めて多くの人で賑わっている。
 家族で、友人で、恋人で――皆誰かと、この奇跡の瞬間を楽しんでいる。
 その一幕に一緒に居られることが嬉しくて、ミンリーシャンは小さく微笑みながら彼の傍へと一歩前へ出た。寒い寒い冬だけれど、こうしていれば温かい。
 並ぶマーケットはホットワインやハニージンジャーミルクと云った冬にぴったりの飲み物。シュトーレンやビーフシチューと云ったクリスマスらしい食べ物に、サンタさんの装いをしたクマのぬいぐるみやプレゼントにぴったりな綺麗なアクセサリー。
 数多のお店はどれも魅力的で、ついつい椋の緑の瞳も吸い寄せられる。
「……あ。リィ、あれ見てみろよ」
 その中で彼が指差したのは、輝くオーナメントが並ぶお店。サンタさんにトナカイに、キラキラと輝く色とりどりのボールなど、クリスマスらしい飾りが並んでいる。
「わぁっ、すごいねっ!」
 彼の指の先を見て、その鮮やかに楽しそうにミンリーシャンは瞳を輝かせた。軽やかな足取りで近付けば、その煌めきがより一層強く輝いてみえる。
「家にあるのだけじゃ少ねえし、いくつか買っていこうか」
 先程こっそり触れようとした雪の結晶に似たオーナメントに指先で触れるミンリーシャンの姿に微笑みながら、椋は零す。その言葉にミンリーシャンは大きく頷いて、数多のオーナメントを煌めく瞳に映していく。
 そんな彼女の楽しそうな様子にどこか満足そうに微笑んで、視線を移した先。――不思議な顔が描かれた、卵のキャラクターを前に椋は眉を寄せた。
「……ハンプティダンプティだっけ」
 頭を過ぎったその名前をぽつりと紡ぐ。
 なんとも絶妙な顔をしたどこかの童謡のキャラクター。その絶妙な顔がどこか椋のツボを突いてきて、ついついにらめっこをしてしまう。
 彼の様子に気付いて、ミンリーシャンはつい口許を和らげる。――彼がふとした時に見せる、こういう表情を当たり前のように見られることが幸せだと、改めて感じたから。そっと頬を押さえて、緩んだ頬を隠せば。
「リィ、こいつ連れて帰っていいか?」
 くるりと振り返り、真っ直ぐにミンリーシャンを見つめる椋。
 彼女が満面の笑みで頷けば――彼は素であるご満悦な笑みを浮かべた。

 次に彼等が足を運んだのは、数多のお菓子を取り扱う専門店。マフィンにフィナンシェ、バームクーヘンと云った焼き菓子の中。
「これ、リィの顔より大きいんじゃねえ?」
「わぁぁあ、ほんとだ大っきい~!」
 一枚のクッキーをそっと椋が手に取りミンリーシャンの顔の横へと並べてみれば、小柄な彼女より一回り程大きい様子。甘い香りに瞳を輝かせていたミンリーシャンが、その大きさに一層煌めきを強くする様につい椋は微笑んでしまう。
 これも買っていくかと、早速お会計を。――リィなら食い切れるだろうし、の言葉には何度も大きく頷くミンリーシャン。
 クリスマスらしくスパイスをたっぷり練り込んだ特製クッキーを、割れないようにと大事に抱く少女。鼻歌でも歌いだしそうなご機嫌な様子に微笑んで。
「リィ、他に食いたいものあるか?」
「私、切り株ケーキが食べたいっ!!」
 きょろきょろと辺りを見回しながら問い掛ければ、直ぐに元気な返事が返ってくる。彼女が指差した先――切り株に見立てたブッシュ・ド・ノエルが数量限定で売られていた。
 じゃあそれを、と手に取ってもまだまだ彼女の要望は続いていく。
「この大きなお肉も食べたいっ!!」
 お次はハーブが香るローストチキン。
「ぐるぐるしてるこれも食べたいっ!!」
 その次はぴりっとほんのり辛いぐるぐるしたソーセージ。
 彼女の要望通りに購入していけば、どんどん椋の持つ荷物が膨れ上がっていく。食べ物ばかり故かそれなりに重量もあり、両腕が悲鳴を上げているけれど――そんな弱音は吐かないと、何時も通りの涼しい顔をしてみせきゅっと唇を結ぶ椋。
「えっとあとはー……」
 次のお目当てを探そうと、ぐるりと視線を回した時。ようやく椋が両手に荷物を抱え、ミンリーシャンと手が繋げない程になっていることに気付き彼女は駆け寄った。
「椋、重たい? ごめんね」
「……ん? 重くねえよ。俺のこと誰だと思ってんだっつの」
 つんと澄ましてみせて、努めて平静を装う椋。そんな彼の姿にくすくすと微笑みながら、自分も持つからもう帰ろうと、手を差し出す彼女の好意に素直に甘える椋。
 片手には沢山のクリスマスの贈り物。
 片手には愛おしいアナタの手を取って、さあ帰ろうか。


「たーだいまーー。おーかえりーー」
 慣れた扉をくぐれば、何時も通りミンリーシャンが空っぽの部屋へと声を響かせる。その明るい声が響けば冷ややかな部屋も暖かくなる気がして、「セルフ出迎えかよ」と小さく笑い声を零しながら椋は買い込んだ荷物を置いていく。
 日暮れの早い今の時期。すっかり部屋は暗くなっていて、灯りを点ければ目の前に置かれたのは緑一色のクリスマスツリー。未だ何も飾られていないからこそ、まだまだ可能性を秘めている今日の日の象徴。広場に飾られていた大きさには敵わないけれど、二人に一番ぴったりなツリーだ。
 ぱぱっとコートを脱いで、ミンリーシャンは準備してあった飾りの入った箱を開ける。
「ふさふさー♪ キラキラ―☆」
「おーい、自分を飾ってどうするんだっつの」
 金色のキラキラモールやペッパーランプを首に掛け、楽しそうに紡げば椋は苦笑交じりに突っ込んでしまう。そのまま彼は購入してきたばかりのオーナメントを手に取った。
 トナカイ、猫、煌めくボールに、つい惹かれてしまったハンプティダンプティ。
 それと――。
「――てるてる達も飾るんだろ?」
「うんっ、てるてるリィとてるてるリョウも、飾って下さいっ!」
 それは二人にとってとても大切な子達。
 バランスを見ながら飾る彼の様子を見て。ミンリーシャンは自分が飾り付けた部分と彼の部分を見比べると、慌てて飾り直し始めた。
 何も考えていなかった彼女は、同じ向きばかり飾っていたと気付いたから。
 こうかな、こっちのほうが良いかな。眉を寄せ、唇を結び。真剣な眼差しで飾り付ける彼女の横顔を見たら、愛おしさが込み上げてきて――椋はふっと笑みを落とすと。
「……リィは、いつまで経っても変わらないよな」
 自然と言葉が、唇から零れていた。
 その言葉にミンリーシャンは顔を上げ椋を見つめると、不思議そうに小首を傾げる。変わらない――身長、は伸びてない。胸元? いや大人の女性の魅力的な何か?
 色々考えて、やっぱりよく揶揄う身長の話だろうかと、気にするように自分の頭をぽふぽふと叩く彼女。そんな彼女の様子にまた微笑んで、椋は顔を近付けると――。
「そこが可愛いんだよ」
 そっと紡ぎ、彼女の白い頬へと優しく口付けた。
 悩んでいた時に不意に訪れた温もりに、ミンリーシャンは小さく声を上げる。ドキドキと鳴る心臓、嬉しさに仄かに熱い気もするけれど――言葉にはせずに必死に隠して、彼女はふわりと幸せそうに微笑むと飾り付けを再開した。
 予想外の薄い反応に、椋は意外そうに緑の瞳を瞬いた。
 何時もだったら……そんな事を考えながら、彼女が始めたのならば自分もやらなければと一緒になって飾り付けを再開する。全体のバランスを見て、高いところは椋が飾り付けて、最後にモールとランプもツリーに飾り、灯りを点ければ――。
「完成!!」
 嬉しそうな声を上げ、そのままミンリーシャンは椋へと飛びつき抱き着いた。そしてそのまま、贈られるのは頬への温もりの嵐。
「ふふーっ、椋だぁ~いすきっ」
「おい、何だよそれ!」
 彼女の不意の行動に驚きつつも、先程の薄い反応にほんのり心配していた心が晴れる様を椋は感じる。――いきなりで引かれたかな、などと心配してしまったけれど、そんな事は無かったのだと分かったから。
 触れる温もりは、温かな室内よりも更に深く、深く感じた。




 かんぱーいっ。
 ミンリーシャンの高らかな声と共に、部屋に響くのはグラス通しが触れ合う音。
 グラスの中には果実の入ったグリューワイン。スパイスも入った大人な味わいのそれは湯気が立っていて、ふうふうと息を吹きながら少しずつミンリーシャンは飲んでいく。
 ブッシュ・ド・ノエルにチキンにソーセージに――両手いっぱいになって購入した品々を楽しみながら、彼等は今日の日の事を語り合うが。
「リィ、顔赤くなってるぞ」
 段々と赤くなるミンリーシャンの頬に気付き、つんっと突いてくる椋。酔ってるのか? なんてくつくつ笑う彼の姿に、分かりやすくミンリーシャンは頬を膨らませる。
「むーー、まだ酔ってないもん。椋はもう酔ってるの?」
「んー? 俺は大人だから酔わねえよ」
 飄々と答える彼の様子はあまりにもいつも通りで、そんな彼が嫌いじゃない、むしろ好きだけれどもついつい頬を更に膨らませてしまう。
 そんな彼女の姿があまりにも可愛くて、椋はまた小さく笑い声を零してした後。彼女の心を落ち着かせるように彼は紡ぐ。
「――そうだ、プレゼント交換するって約束だっただろ」
 ほら、と彼が取り出したのは小さな箱。開けてみて、と彼女の小さな掌に乗せれば、ミンリーシャンは先程の事は無かったように瞳を輝かせ、大切そうに包装を解く。
 中に入っていたのは――淡いブルーの文字盤と、細身のベルトをした時計。メッセージに昼に見つけた猫の意匠のカードを添えて、今日の日の祝福を。
 ――これからもリィと同じ時を過ごしたい……とは照れるので言わないけれど、彼の愛情はしっかりと伝わるから。ミンリーシャンは大切そうに時計を両の手で包むと。
「凄く可愛い腕時計、椋、どうもありがとうっ」
 嬉しさに仄かに瞳を滲ませながら、満面の笑みで紡いだ。
 その笑顔が見られただけで、椋はどこか満足そうに笑みを零す。けれども、これは交換だ。貰ってばかりでは勿論無く、ミンリーシャンからの贈り物がある。
「私からは、これでーす」
 自信満々な笑顔で紡ぐ彼女。手を出して、の声に素直に従えば、掌に何やら紙の感触が。彼女の手が離れたところで、まじまじとその紙を見てみれば――。
「……おてつだい券?」
 まず最初に飛び込んできた文字を、つい言葉にしてしまった。
 それは何枚かの紙の束になっており、他にも『背中かき券』や『なんでも券』など様々なお手伝いの項目が綴られていた。
 それは子供が親にプレゼントするような――どこか懐かしさを感じる品。
 目の前で満面の笑みを浮かべて様子を見る彼女の姿もまた、懐かしいと思ってしまう理由。きっと、頭を捻って考えてくれたのだろう。俺が、喜ぶことを。
 そっと券の束を指でなぞる椋。そんな彼の姿にミンリーシャンは「どの券も一日一回までなら使っていいよ!」と、更に言葉を重ねた。
 その真っ直ぐな様子に、またふつふつと湧き上がる想いがある。
「ありがとうな、リィ」
 椋から零れる笑顔はミンリーシャンしか見ることの出来ない破顔。くしゃりとした彼の大好きな顔を見れば、彼女は嬉しそうに頬を緩めた。
「でもこれ――背中かき券はリィが使えよ。俺よりリィの方がこれ必要だろ。腕の短さ的な意味で」
 またそんな風に、何時ものように揶揄する彼。その言葉にミンリーシャンはまた頬を膨らませて見せるけれど、まだ見ぬワクワクを胸に秘めていた。
 ――今はまだ、内緒だよ。
 ――彼の枕元に、組紐のブックマーカーを用意してあるのだけれど。
 ――まだ、今はこれだけだと。ミンリーシャンはひっそりと笑みを浮かべていた。

「ねーぇ、りょう、嬉しい?」
 クリスマスディナーを終え、ソファーで並んでくつろいでいれば。彼へと寄りかかりながらそっとミンリーシャンが尋ねた。
「ん? 勿論、嬉しいに決まってるだろ」
 その問いに当たり前だと言いたげに、さらりと答える椋。その返答が嬉しくて、ミンリーシャンはえへへ、と頬を緩ませると隣から彼の膝の上へと移動する。
 そして――ポケットから取り出した、赤い毛糸を自分と彼の小指へと結んだ。
 運命の、赤い糸。
 その意味が分からない椋では無い。瞳に焼き付くような小指の赤を見て、彼女の嬉しそうな笑顔を見て。無意識に椋は、彼女の小さな身体を抱き締めていた。
 彼にとって、クリスマスとは何でもないただの日常だった。
 浮かれる世間に何て興味なく、ただ何時もと変わらぬ日常を過ごすだけだった。それなのに、彼女と過ごすようになってから、こんなにも温かく愛おしいものになるなんて。
「――リィが変えてくれたんだな、俺のこと、全部」
 きゅうっと彼女が痛くない程度に強く抱き締めながら、その耳元で紡ぐ椋。
 その声色はとても優しく、甘く――包み込む温もりに身を任せながら、そっとミンリーシャンは笑みを零し、その腕へと手を添えた。
 貴方がふわりと優しく微笑んでくれるから、幸せ。
 ぎゅって抱きしめてくれるあたたかな温もりが、幸せ。
 一緒だから――。
「リィ、これからもよろしくな。来年も、その先もずっと」
 今年を共に過ごせるのはあと僅かだけれども。来年も、再来年も――ずっとずっと先まで一緒だと、誓いを立てるように椋は紡ぐ。その幸せな言葉に静かに頷いて、ミンリーシャンもよろしくと返すのだ。

 ――これまでもこれからも、おまえを愛してる。
 ――私も、愛してる。
 紡がれる甘やかな音は聖なる夜に融けていく。
 いとおしいアナタと、その先の誓いと共に。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月25日


挿絵イラスト