ローザリウムとひみつのチョコレート
●Witchcraft
ローザリウムをご存知かしら?
おしゃべり魔女のちいさなお店に向かうには、菩提樹の森を東に進んで、柊の門を三度潜って。
――ああ、樹木の精へご挨拶をわすれないで!
招待状を掲げて見せて。
あなたがちゃあんとお作法を守れたなら、魔女はかならず道を開いてくれる。
イモークの祭が過ぎた頃。
イースターの祭が始まるまでの間だけ。
普段のあきないをお休みして、魔女のお店にはローザリウムが飾られる。
『おうさまだらけ』のガレット・デ・ロワに、チョコレートの魔法をかけて。
魔女は訪れた誰もを、とくべつなお客さまにしてくれるのよ。
●Solitary Wiccan
「やあ、僕だよ!」
グリモアベース全域に響き渡る声で高らかに告げられたのは、ベレン・エアレンディル(刑戮・f06110)の世にも賑やかで端的な自己紹介であった。
驚いて仰け反ったもの、耳を塞ぐもの、思考停止するもの。
それら全てを置き去りに、からからと可笑しげに笑うベレンはことの経緯を語り始めた。
「んふふ。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているね、いいとも! そんなお茶目な君たちに今日は素敵なお誘いがあってだね」
世はバレンタインデーだろうと続けるベレンの言葉。
これより導く先はケルベロスディバイド。曰く、顔馴染みの魔女仲間が営むちいさな店で催し物が始まっているのだそうだ。
「ガレット・デ・ロワをご存知かな? エピファニーをお祝いするための……そうそう、中にフェーヴと呼ばれる陶器の人形が隠されている祝い事のためのお菓子さ」
王さまかお妃さまはひとりだけ。けれども件の魔女は『誰だって王さまになれたらいいのに』と、『仲間はずれがいなければいいのに』と嘆き、あれこれと考えたその結果――、
「すべてのピースに『あたり』を仕込んでしまったのだそうだよ。あはは! まったくこれは魔女の横暴と云う訳だね!」
普段と様相を変えた魔女の店に並ぶのは色とりどりの|ローザリウム《花の王冠》。
晴れて『おうさま』と成ったお客さまに齎されるクラウンやティアラは棚の上に飾られている段階では葉と蕾だけで何の花かは分からない。目覚めの時を待つ花は、主の頂に飾られた瞬間にその役目を思い出して咲き綻ぶのだ。
「被せた相手のことを思えば、その心を映した花が咲くそうだよ」
それは魔女が齎すささやかなあいの魔法。
友愛、親愛。勿論愛慕であっても、何らかの『あい』を込められたならどんな形でも構わない。
「うんうん、もちろんお一人さまも気軽に魔女の茶会に足を運んでおくれ。その時は、僕か魔女が君に冠を捧げようとも! ……ただ、僕らはとても『愛情深い』性質でね。齎す花全部が薔薇になってしまうのだけど!」
誰も彼も平等に愛するが魔女たる所以、愛するが故に抑えられないとは彼の意である。
他意はあるのかと問うてみれば、『僕らはそういう生き物なのさ!』と返って来る。色恋の類ではないにせよ、共に征く同士への親愛には違いない。
「と、まあ。ここまでは魔女の招待状に寄せられた筋書きなのだけれど……」
そこで言葉を区切った魔法使いの表情があからさまに曇る。
あまいにおいに誘われて、魔女の店を目指すみちゆきの途中に困った来客もやってきてしまったのだとベレンは仰々しく頭を抱えて見せた。
「店がある森にやっかいなものが棲み着いてしまってね。君たちの道程を阻むどころか魔女の店までもを飲み込もうとしてしまっているから、パァンとついでにやっつけておくれでないかい?」
急に話の規模が大きくなったが、|件の場所《ケルベロスディバイド》ではデウスエクスが今この瞬間も世界を侵食し続けている。
人里離れた場所とはいえどその森も例外ではなく、自然に纏わる災害達が魔女の住まう森を苗床にしてしまったのだと云う。体の弱い魔女ひとりではこれらの脅威にとうてい太刀打ち出来やしないと、悲しげに睫毛を伏せたベレンは次の瞬間には一転して、くるくるとステッキが如く大鎌を手繰りながら演目の座長よろしく猟兵達を(突如ライトアップされた仮設ステージから)仰いだ。
「森を燃やさず絶やさず、該当のデウスエクスのみを迅速に倒し、魅惑のショコラを頂く! これが今回の任務であり、僕と魔女からのバレンタインプレゼントだよ」
何処からか鳴り響くファンファーレとシュプレヒコール。そして本日一の後光を受けた満面の笑顔と共に、魔法使いは転送陣を描き出す。体よく厄介ごとを押し付けられただけのような気もするが、然もありなん。
「メニューはひとつだけ。冠は想いの数だけ。君もひとつ、魔女の茶会に招かれてみてはいかがかな?」
招待状は人数分。まだ見ぬ王さま、お妃さまたちへ。
いっとう大きなりんごの木を目印に。
|魔女《わたし》のひみつのお店に、どうぞ遊びにいらしてね。
なかの
こんにちは、なかのと申します。
冒険の地は『ケルベロスディバイド』へご案内。
●進行順序
第一、二章は少人数進行、第三章はゆっくりお受けする予定です。
全編を通して火器のお取り扱いにはご注意ください。
【第一章】👾『レストレス』(断章追加なし)
森の入り口周辺に群生するデウスエクス『ドリームイーター』の一種です。
『落ち着き』を欠落しており、花粉状の微細なモザイクを対象の体内に寄生させ精神を強制的に落ち着かせることで人々のドリームエナジーを奪います。
【第二章】👿『樹龍ミステル』(断章追加あり)
森の奥に棲み着いた、攻性植物を喰らってその能力を取り込んだデウスエクス『ドラゴン』の一種です。
ヤドリギを寄生させた生物を操る能力を獲得しており、挿し木の如く増える己の劣化複製体を放ち森を急速に侵略します。
【第三章】🏠『今日はここでお買い物』(断章追加あり)
森の奥に工房を構える魔女がみなさんをお茶会に招いてくれます。
茶会に並ぶのはチョコレート味のガレット・デ・ロワとおいしい紅茶だけ。
ピースのすべてにフェーヴが閉じ込められており、全員が王さまとお妃さまになれます。
お店の商品はひとつだけ。ローザリウムの蕾たちがあなたの上で花開く時を静かに待っています。
●おまけ
当方のグリモア猟兵達は誰でも、お誘いがあった場合三章のみご一緒いたします。
はじめましての方でもおはなし相手がほしい方はお気軽にどうぞ。
シナリオの性質上、1~3人くらいのご参加をおすすめいたします。
お互いに冠を被せ合うとローザリウムに想いに寄り添う花が咲きます。
おひとりさまのご参加の場合はベレンか店主の魔女が薔薇のローザリウムをかぶせてくれます。
(他の当方のグリモア猟兵をご指名の場合は関係性に準じたものになります)
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
よろしくお願いいたします!
第1章 集団戦
『レストレス』
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POW : 鎮静
【花】から【花粉状の微細なモザイク】を放つ。ダメージは与えないが、命中した対象の感情から【落ち着かなさ】を奪う。
SPD : 平穏
【心を抉る鍵】から、戦場全体に「敵味方を識別する【モザイクの雨】」を放ち、ダメージと【精神の強制鎮静】の状態異常を与える。
WIZ : 安心
【落ち着き】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【植物型ドリームイーターの集団】から、高命中力の【身体に絡みつく植物型ドリームイーターの塊】を飛ばす。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ディフ・クライン
うぅん、まだちょっと耳鳴りがするな
少々声が大きくて吃驚はしたけれど
賑やかで楽しい彼の誘いを思い出しては柔く唇に弧を描きながら踏み入れた森
森で生まれ、森と共に生きてきたからだろうか
何処の世界でも森は好きだ
常ならば森歩きも楽しんだろうけど
良くない花が咲いてるね
モザイクに塗れた不可思議な花
妙に精神が落ち着いていくけれど
元より、戦闘ならば尚更に
冷静と落ち着きを心掛けているものだから
落ち着きを奪う攻撃であれば困ったけどね
そうでないのなら、普段と然程変わらない
青冴えた氷の細剣を抜く
密やかに編み上げた魔力は既に十二分に刀身に
絡めとられるのはあまり好きじゃないんだ、悪いね
この身に絡みつかれるより早く
寒月、閃け
●君影の森
『――と、云う訳だから。頑張ってくれたまえ!』
とびきりド派手に賑やかに。始まる前から凱旋の如き盛大な見送りに、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)は転送陣の開けた先で、とん、と軽く側頭部を押さえて瞼を閉じた。
「うぅん、まだちょっと耳鳴りがするな」
本人の前で耳を塞がないだけの理性がディフにはあったが、直ぐそばで突如執り行われたワンマンショーが今も頭に刺さったかのような重たさと共に高い耳鳴りを連れて来ている。律儀に間近で聞いた弊害ではあったけれど、ひたすらに明るい『魔女の招待状』の報せには心を得た胸が躍った。
瞼を開いたその先に、菩提樹の根元で花を咲かせる季節外れの君影草の深緑と白が揺れている。鈴に似た可憐な花は魔女が道標に植えたものであるらしく、見目にも可愛らしいその姿に唇が柔い弧を描いた。
「(……きっと、喜ぶだろうな)」
いちばん身近な|魔女《あの子》の笑顔を思い浮かべれば自然と笑みも深くなる。
森で生まれ、森と共に生きて来た。だからだろうか、何処の世界でも森は好ましいもの、居心地のいい場所だと感じられるようになった。常ならば異世界の植物と触れ合い、魔女の庭の散策を存分に楽しむことが叶っただろうけれど。
「良くない花が咲いてるね」
霜にも負けず咲く花々を押し除けるように群生する山吹の色。それがこの森に於ける異端であると直ぐに認識できたのは、その花の周囲だけが星の海や骸の海に汚染された異世界で見かけることのある『|ノイズのようなもの《モザイク》』に侵食されていたが故のものだった。
「!」
獲物を認識したらしい異形の花が噴出した花粉を咄嗟に吸い込んだディフが大きく咽せる。而して焦りや嫌悪、拒絶。反射的に浮かぶはずの感情は浮かばず、あるのはただ凪いだ海のような静寂だった。
ディフの心は揺らがない。元より戦闘時であるならば尚更に冷静さと落ち着きを欠かすことはない。
「落ち着きを奪う攻撃であれば困ったけどね。そうでないのなら、普段と然程変わらない」
物言わぬ花に意思があるのか否かは定かではなかったが、誰彼構わずに近くに寄り付くものを襲うものともなれば黙って見過ごす訳にもいかない。ましてやこの森の先で今か今かと客人を待つ魔女と、この森に住まう精霊や動物たちの命が脅かされてしまうことが既にわかっているのだから。
「絡め取られるのはあまり好きじゃないんだ、悪いね」
青冴えた氷の細身剣が星の光を湛えて煌めく。花粉を吸い込んだものを直ちに喰い尽くさんと幾重にも蔦を伸ばす異形の花々の動きは知性を持たぬ植物故か、ただ動く標的をがむしゃらに追い掛けるだけの無駄の多いものだった。それならば、この身に絡みつかれるよりも早く。
「――寒月、閃け」
氷の月が青の軌跡を描いて、ディフの短い跳躍の度に刎ねられた蔦が宙を舞う。
モザイクに侵食されていた森が僅かに晴れ、君影草のしるべが森の奥へと誘うように視界の先に広がっていた。
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
アナタ達もお花さん…?
ブンブンと茎を揺らすそのご様子を
元気、と呼ぶのは違うよう
止まれないでいるのかしら
物言うお花たちのお喋りとはちょっと違うの
頭が重たい?痒い?
振る度に拡がっているだろう花粉さん……
ごめんなさいね、私は受取れないわ
ヒト型に害を及ぼす可能性、以外の理由でも
答えは一つで
即座にトロイメライで水の魔法の糸を紡ぎ
花粉を受けないよう、体全体に大きな水の膜でオーラ防御
そのまま紡ぎ続けて
作った水玉を落ち着かないコ達へもぶつけるわ
風さんに遊ばれてふわふわ漂う小さな粉でも、
水を含めば拡がれない筈
雨ですよーって花弁を閉じるようにお誘いしつつ
浄化と破魔を籠めた水玉の属性攻撃で
ゆっくり静かに眠れますよう
●その花は渇望せし
「アナタ達もお花さん……?」
来訪者たる猟兵を侵略者として認識したのか、身を震わせ茎を揺らす異形の花々に城野・いばら(白夜の魔女・f20406)は恐る恐るに問い掛ける。おしゃべり友達の|薔薇の貴婦人《物言う花》とは明らかに違うその挙動に一歩後退れば、モザイクに覆われた冬に似つかわしく無い夏の色がぶんと大きく宙を薙ぎ払った。
「(元気、と呼ぶのは違うよう。……頭が重たい? 痒い?)」
赤子がむずかるように身を捩るその姿に、いばらは幼い癇癪を見る。
「止まれないでいるのかしら」
コードネーム『デウスエクス・ジュエルジグラット』。それがドリームイーターと呼ばれる|デウスエクス《ひとならざるもの》の総称だった。
この因子を持つデウスエクスは自らの欠損を補うように『足りないもの』をモザイクで覆うのだと云う。『落ち着き』を欲するこの花々は、つまりは常に鎮静と平穏、安心を求めていると云うことだ。
萼を振り回す度に広がるモザイク混じりの花粉は無秩序で、焦燥にも似た声なき声を常昼の薔薇たるいばらに伝えてくるけれど。
「ごめんなさいね、私は受取れないわ」
ヒトに、動物に、精霊達に害を及ぼす可能性以外の理由でも、いばらの答えはただ一つ。
さいわいたる花と、呼んでくれたひとがいる。
指に嵌まる誓いの証に触れて、柔く目を細めるといばらは上演を告げる指揮者のように魔法の紡錘を抜き放つ。
モザイクの飛沫が真白の花弁に届くよりも早く、手にしたトロイメライが雨露を帯びた糸を紡ぎ出す。紡がれた糸は即座に宙空で編み上げられると大きな水の膜となって術者の体に寄り添った。薄い水の衣は花粉を妨げ、いばらの喉に届くことを許さない。
「おこりんぼさんのワガママで、アリスを泣かせたりはしないわ」
ちゃぷんと水溜りを蹴るような音を立てながら紡錘は絶えず水の糸を紡ぎ続ける。トロイメライの先端から生まれた雨露の糸は両の手に収まるほどの水玉を作り出し、いばらの意思に寄り添うように、シャボンの泡のようにふよふよと宙を泳ぎ始めた。
「えいっ」
異形の花はすっかり地に根を張っていて、避けることも出来ずにばちゃんと弾けた水を被る。
刹那、『雨だ!』と断片的な声のようなレストレスの無意識下の感情の発露が頭の中に響いたのは、いばらがヒトよりも花に親しいが故のものだったのかもしれない。
慌てたように閉じられた花弁が冬の冷気と水気に当てられて震えている。こうなってしまえば、もう花粉を撒き散らすどころでは無い。
「大丈夫よ。大丈夫」
清らかなる水の流れが雨となり、異形の花々の邪悪なるちからを洗い流して、全身をモザイクで染めた夏の色が次第に萎れて消えて行く。
アナタ達の欲しがった平穏や安心とはすこし違うかもしれないけれど――かなうなら、ゆっくりと、静かに。
アナタ達の眠りを、誰も妨げることがありませんように。
大成功
🔵🔵🔵
双代・雅一
デウスエクスとは様々な種類があると聞いてはいたけど…花の形のもいるとは興味深いな
スギ花粉症の鎮静に一役買えたりしないか?
…と、つい職業病な思考に至るけど
侵略的外来種は駆除しなければな
ラサルハグェ、準備は良いか
蛇が変じた槍先を花々に向けてUC発動
植物は何も炎だけに弱いものじゃない
その細胞から水分から全て凍らせてやろう
モザイクの雨は槍を風車の様に頭上を回転させて身に浴びぬように
もっとも、俺の場合…これ以上心の鎮静を受けた所で何も変わらない気もするけど
裡より聞こえる野次
「最近は割と精神荒ぶる事多いだろ雅一は」
…否定はしないけど。戦闘程度なら冷静でいられるさ
今回みたく感情抜きで戦れる相手なら特に、かな
●揺蕩えど沈まず
「デウスエクスとは様々な種類があると聞いてはいたけど……花の形のもいるとは興味深いな」
同一であり相違。『地球』と名がつくこの惑星は双代・雅一(氷鏡・f19412)にとって馴染みある、けれど何処か違和感を拭いされぬ奇妙な感慨を抱かせた。
「(大正帝都。幽世。銀の雨降る、|異なる世界線《実在するIF》。此処もまたそうなのか)」
アンディファインド・クリーチャー。太古から甦りし邪神と眷属に侵略された地球と、宇宙より飛来せしデウスエクスの侵略に抗う地球。在り方は違えども、ふたつの世界はとても似通ったもののように感じられる。
「同じ星に適応出来る植物となれば……利用価値はないだろうか。スギ花粉症の鎮静に一役買えたりしないか?」
目前の花が齎すのは『落ち着き』。であれば、品種改良や詳しい成分調査をすれば不眠症やアレルギー症状に苦しむ人々への|救い《儲け話》に――、
「……流石に無理か」
職業柄つい医学的思考に至るが、治験に対してのリスクが大きすぎるか。
かぶりを振った後に群生する花を見据えると、雅一は肩口に寄り添う魔蛇の顎を指の背で軽く撫ぜた。
「ラサルハグェ、準備はいいか。――侵略的外来種は駆除しなければな」
植物は何も炎だけに弱いものではない。
槍に変じた魔蛇の穂先を怒ったように身を捩りながら花粉を撒き散らす異形の花々へと向け、雅一が呼び覚ますは冥界の吹雪。生き物であれば目も開けられぬ程の雪の礫が轟音と共に吹き募り、うねり、周囲の空気を烟らせながらレストレスの群れを浚っていく。
「その細胞から水分から、何もかも。全て凍らせてやろう」
吹き荒ぶ雪の嵐の只中で半ば反射のように無秩序に放たれた心の鍵は雅一の心臓を貫くことは叶わない。
けれど鍵は地に突き刺さると同時にモザイクの雨を噴出させ、ひとつぶが塊のような大粒の雪の合間を縫って雅一を飲み込まんと死に物狂いの抵抗を見せた。
「遅いな」
軽く地を蹴った雅一が手にした氷蛇槍を五指で弾けば、風を切りながら回転する槍がその身を守る盾となる。旋風は花粉の雨を容易く霧散させ、その間にもレストレスの群れを吹雪は容赦無く凍らせていった。
「もっとも、俺の場合……これ以上心の鎮静を受けたところで何も変わらないような気もするけど」
『最近は割と精神荒ぶること多いだろ雅一は』
不意に裡より聞こえた|野次《惟人》の声に、ぴくりと雅一の片眉が跳ねる。
「……否定はしないけど。戦闘程度なら冷静でいられるさ」
こうして弟のちょっかいに反応できる程度には。
それに――今回のように感情抜きで戦える相手ならば尚のこと。
振り下ろされた槍が風を切ると共に途切れた冬の息吹。嵐が去ったその先で、凍りついた異形の花がぱきりと音を立てて崩れ去った。
大成功
🔵🔵🔵
クロウフォード・ゼクシオン(サポート)
「よお、何か手伝えることは……ありそうだな」
「そこにクエストがあるんだ、クリアを目指すのは当然だろ?」
「あんたの悪事もここまでだな、観念しろよ」
強大な敵から日常の困り事まで、様々なトラブルをクールに解決する青年です。
主人公然とした言動をさせておけば大体OKです。
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
また、迷惑行為や公序良俗に反する行動はしません。
――と、内気な少年が演じている設定です。たまに言葉の端で地が出ます。
※ステータスはゲームキャラクターとしての物です。真の姿は未成年のため、飲酒・喫煙はしません。
※GGO以外で活動する場合、そのことには触れません。(反応未定)
●未だ知り得ぬ
星を違え、世界線さえも越えた|異世界の現実《オフライン》。
ゲームプレイヤーたるクロウフォード・ゼクシオン(黒衣の男と灰色の少年・f41840)に対して、騒がしい案内人たる魔法使いは異世界の概念を伝えなかった。ゴッドゲームなる特殊な世界に於いて、|現実《統制機構》と|仮想《GGO》は太い繋がりを持ちながらも大きく隔たりのあるものである事を研究気質の魔法使いは学んでおり、ともすれば転移すること自体が、異世界を観測し理解する事自体が彼の心に大きな衝撃を与えかねなかったからだ。
故に魔法使いは多くを語らず、『僕のことは冒険者ギルドの案内人とでも思ってくれたまえ! クエストに成功したなら、きちんとご褒美があるからね!』と笑顔でクロウフォードを『新規クエスト』に送り出したのだった。
「俺に手伝えることは……ありそうだな」
新しい高レアリティの大剣の使い心地は悪くない。振りは大きくスキルモーション後に若干のディレイを感じるが、コマンド入力の正確さと速さが備われば足は動く。それ故に無駄な動きは生じない。
それに――モンスター・ハントの標的は異形の花。地に生えたそれらはその場から大きく動くことは叶わず、こちらに余程のコマンド・ミスが無ければなんて事のない相手のように見えた。
「どんな難易度だろうと、そこにクエストがあるんだ」
この森の先に、戦うことが出来ぬ魔女がいる。
彼女とその愛する森を守り抜くことこそがクロウフォードが受諾したクエストの最終目的、それならば。
「――クリアを目指すのは当然だろ?」
地を蹴った黒衣の男の姿が瞬間、消える。
グラファイトブレイドとソードクリスタルを合成した巨大な剣が振り上げられると同時に異形の花を薙ぎ払う。なす術もなく散らされたモザイクの花弁から吹き出した飛沫がクロウフォードの身に降り掛かるが、元より装備していたマスクに覆われた口元に鎮静作用を多分に含んだ花粉が必要以上に取り込まれることはない。
「あんたらの悪事もここまでだな。観念しろよ」
切り返した刃が撒き散らされる花粉ごと残りの花々を迷いなく切断する。
ざらりと生じたノイズに混じり、レストレスと呼ばれたドリームイーターは虚空に溶けて消えていった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『樹龍ミステル』
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POW : エンタングルルート
【急速に成長する蔓】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を緑で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : ヤドリギ植樹
戦場内に【無数の種子】を放ち、命中した対象全員の行動を自在に操れる。ただし、13秒ごとに自身の寿命を削る。
WIZ : 地表面侵食
【植物の種子】を降らせる事で、戦場全体が【樹海】と同じ環境に変化する。[樹海]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:塩さば
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Maleficus
森の中はしんと静まり返っており、降る陽の光の音さえも聞こえてくるような、自分の鼓動や吐息が聞こえる程の気味の悪い静寂に包まれていた。
いのちの気配は其処彼処に感じるのに、そのいずれもが息を潜めながら怯えるように姿を隠しているようだった。
花のしるべを頼りに君影の森を進んだその先に『それ』は居た。
大樹を思わせる樹皮の鱗と枝葉に覆われたその姿は見上げてもなお頂が見えぬ程。地響きを連れた唸り声と共に呼吸をするたび、周囲の木々が騒めき身を震わせた。
竜だ。それも、幾年も年月を重ねたのであろう巨大な樹龍だ。
眠っているのだろうか。それとも、この森を既に掌握したつもりでいるのだろうか。侵略者の尊大さと余裕で以って、『|この世界《ディバイド》の』樹龍ミステルは森の中心で目を伏せていた。
知らしめなくてはならない。
未だ|番犬《ケルベロス》の、|猟兵《イェーガー》の力を知らぬこの傲慢なる竜に――数多の苦難を乗り越えた我々にとって、デウスエクスが取るに足らぬ障害であることを!
冴島・類
豊かな森なのに妙に静かだなあ…と思ったら
成る程?
こんな大きな龍がいるとなると震えもするか
静かに眠るだけなら
手を出したりしないんだけど…
魔女さんの店も
住む他の子らも
取り込み侵してしまうなら、止めないと
起きた龍との戦いが始まれば
植物達に被害いかぬよう、火は使わない
枯れ尾花での薙ぎ払いで蔦を斬り、軌道そらし
こちらに気を引き
瓜江で龍に攻撃仕掛けさせ…るように見せ
防がれたら反撃を避けるように死角に向ける
自身は、引き続き中距離から薙ぎ払いに風魔法乗せて…
鬱陶しいと種を放たれたら
あえて脱力し、受け
糸車で瓜江から還す
君に…操られるわけにはいかないんでね
のしつけてお返しを
死角から不意をつき
体勢を崩せたら良いが
城野・いばら
パァンとついでにやっつけて
…には、ちょっと大きいコね
でも怯えているコ達がいるなら
すぱぁん!とお尻を叩いてでも退いてもらわないとだわ
アナタも増殖が得意なのね
技のぶつけ合いだと押し負けてしまうから
小さいなりの立ち回り方を
元は蔓バラですもの、木登りは得意なのよ
地形の利用し白薔薇の日傘や、
不思議な薔薇の挿し木を伸ばしグラップルで段差を小回りに動き
アナタの隙をShootで壊すわ
これ以上、欲張りに緑を上書きさせるのはダメ
伸びる蔓は、
紡いだ魔法の風で属性攻撃し破壊や武器受けて防いだり
伸ばした挿し木で捕縛し行動の誘引を図る
掴まえた蔓から生命力吸収しダメージを与えつつ、
UCの機を狙って体勢を崩す怪力籠めた一撃を
●廻り、巡る
君影のしるべは奥へ奥へと続いていく。
黄色く染まった葉を散らす菩提樹から漏れる陽の光は未だ寒さの厳しい中でも仄かな春の温もりを感じさせるのに、動物も精霊も何もかもが姿を見せる様子がない。
生命に満ち満ちた豊かな森であるはずなのに、その何れもが怯え竦んでいるようだった。
「……リティ?」
枯葉を踏む音はふたつ。進む先に見紛う筈のない鶸萌黄に毛先を染めた可憐な白薔薇の姿を見止め、冴島・類(公孫樹・f13398)は出来得る限り竜に気取られぬよう足を早めた。
「類!」
大切なひとだけが呼ぶその名を聞き間違えることなどありはしない。
つとめの先で、今まさに脅威に挑む緊張に己を奮わせていた城野・いばら(白夜の魔女・f20406)のかんばせが淡く喜色に染まる。どうしてと問いたげなその頬に、類は壊れ物に触れるようにそっとてのひらを寄せて微笑んだ。
「いくさの最中でなくてよかった。リティをひとりで戦わせなくて済む」
「……私、頼りなく見える?」
拗ねたように唇を尖らすいとしいひとの姿に、微かに吐息を漏らして笑う。
「まさか。信じているからこそ、だよ」
ひとりで背負うことはない。ましてやこの先に待つのは自分たちよりもずっと強大な存在なのだから。
手伝わせてほしいのだと、類が柔く細めた瞳を見つめ返す。いろを違えたやさしい眼差しに、いばらはくにゃりと顔を綻ばせた。
「パァンとついでにやっつけて……には、ちょっと大きいコね」
「随分静かだと思ったら……成る程? こんな大きい龍がいるとなると震えもするか」
静かに眠るだけであるならば手を出す必要も無いのだけれど――。
いばらと類の視線の先に聳え立つその姿は、まるで自分自身が森の主であるかのような尊大さで以って森の中心に佇んでいた。目を伏せて身を休ませているにも関わらず、竜の呼気ひとつで枝葉が揺れ、みしみしと音を立てる木々が悲鳴を上げているようだった。
「魔女さんの店も住む他の子らも。取り込み侵してしまうなら、止めないと」
「怯えているコ達がいるなら、すぱぁん! とお尻を叩いてでも退いてもらわないとだわ」
ふたりの目に迷いはない。視線を重ね頷き合ったなら、類といばらは示し合わせるでもなく互いの間合いを守り合うように動き出す。
『――――!』
大地が震える。
|いきもの《愚か者》の気配に樹龍ミステルが目を開く。抗うものすべてを喰らい我が物としてきたその竜は低く唸り声を上げながら身を起こすと、ちいさき反逆者を圧倒せんと大きく吼えた。
びりびりと骨の奥まで響くようなその声に類が動じることはない。せめてこれ以上植物たちに被害が及ばぬように炎を手繰ることはすまいと、類の十指から伸びる糸が絡繰人形の瓜江を手繰る。
わざと竜の眼前に瓜江の身を踊らせたなら、がぱりと大きく開いた顎がその身を食い千切らんとするのと同時、枯れ尾花の一閃が伸ばされた蔦を断ち切った。
『ガァ、ア――!』
苛立つような声を上げて身を起こした樹龍ミステルの全身から放たれた種子を類は躱さない。喰らったように見せかけることで、いばらから注意を出来る限り逸らすことが叶うから。
「廻り、お還り」
それは攻撃を受ける所作ではなかった。
駆け寄ってきた童を抱き止めるかのように伸ばされた腕に、胸に、刺さった筈の種子が光を帯びて溶けて行く。
「君に……操られるわけにはいかないんでね」
類の身体に廻った光は伸びた赤き糸から生き人形の瓜江へと逃され、まるで何事もなかったかのようにヤドリギの種を中和させる。己が力を無力化されたことが理解出来ぬとばかりに竜は苛立ちがむしゃらに蔦を伸ばした。
苔生す体に寄生する植物から放たれた無秩序な蔦が周囲の菩提樹を抉りながら矮小なるヒトガタふたつを飲み込まんとする暴虐を類の斬撃が阻んでいく。撥ねられた太い幹のような蔓を足場に、その身に生い茂る枝葉に手から薔薇の挿し木を植え付け、いばらはぴょんと軽い所作で以って竜の身体に飛び乗った。
「リティ!」
「心配しないで、類。元は蔓バラですもの、木登りは得意なのよ」
圧倒的な質量はあれど、緑が多い場所はいばらにとっても『都合のいい』環境だった。枝のぶつけ合いでは押し負けてしまうけれど、類が竜の気を引いてくれているからある程度自由に立ち回ることが出来る。
広げた日傘で飛び交う種を弾きながらとんとんと軽い所作で竜の身体を登っていく。蔦や放出される種子の勢いは激しいが、竜自体の動きは鈍い。さしたる障害もなく竜の頸にたどり着いたいばらの存在に、愚かな竜は気付かない。
「これ以上、欲張りに緑を上書きしたらダメ」
芽吹き、花咲かせ――命よ巡れ。
伸ばした薔薇の挿し木を杭にして。打ち込まれたいばらの拳に、竜の絶叫が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
双代・雅一
竜もこの世界じゃ宇宙からの侵略生物だったかな
随分と我が物顔で居座ってるけど早急に御退去願えるか
まぁその気は向こうに無いか
強制執行開始、だな
ここは攻守分担した方が得策か
惟人、どっちが良い?(UC発動
「……言わずとも解ってるだろ」
弟の出現箇所は竜の真上
脳天一撃必殺と行かずとも眼球目掛け放つ凍結攻撃で視界を奪えれば良し
敵が放つ種子は薄い氷壁を周囲に展開して接触を防ぐ
無論惟人の周囲にもな
同時に竜の気を惹き付けるのは俺の役目
惟人は攻撃に専念
速度も上がった所で二人で翻弄しつつ冷気を以て貫こう
「こいつ倒した先に甘味と予定があるなら…負けられんな、雅一」
べ、別にそれだけじゃ無い、うん
(からかう弟と動揺する兄)
●See Figure 2.
「竜もこの世界じゃ宇宙からの侵略生物だったかな。随分と我が物顔で居座ってるけど、早急に御退去願えるか」
双代・雅一(氷鏡・f19412)の大義名分を得るために行われた表面上の問答に返ってきたのは割れんばかりの憤怒の声。こがねの眼球に爛れたような赤を帯び、樹龍ミステルが痛みと苛立ちに吼え猛る。破裂した癇癪は大地を揺るがし、遠くで鳥が飛び立つ気配がした。
ヒトは矮小な存在で、竜の力の前では為す術もなく淘汰されるもの。その筈だ。
「まぁその気は向こうに無いか」
なぜ。なぜ、何故――、
食物連鎖の頂点に君臨せし侵略者が、今確かにヒトの手に依って追い詰められていた。
「ここは攻守分担したほうが得策か。……惟人、どっちが良い?」
言葉はひとつ。けれど、その声に応えるものがいる。氷鏡に映す貌は似て非なる。ひとつの肉体の内に秘められた魂の片割れ、その姿が溜息を漏らしたかと思えば雑に頭を掻きながら雅一を見た。
『……言わずとも解ってるだろ』
「違いない」
交わされたのはたったそれだけ。展開された|術式《ファンクション》が対なる魂を加速させると同時、怒りに身を任せ暴れる竜の真上へと、唐突に『彼』は飛来した。
赤き冷気を纏め上げた両の手が大気を凍て付かせながら氷の刃を生み出すのはほぼ同時。間髪入れずに放たれたその全てが樹皮よりも硬い鱗を容赦なく切り裂いていく。躱しようのない距離で打ち込まれた氷の矢のひとつが、無防備な眼球を片方貫いた。
『グァ、ァア、グルルァア――!』
竜は蛮声を轟かせ半狂乱になりながら眼前の惟人を叩き落とさんと暴れ狂うが、片目だけでは狙いも付けられないのか、それとも激憤に囚われているからか。滅茶苦茶な軌道を描きながら撃ち出されたヤドリギの種子は雅一はおろか惟人にさえ届くことはない――否、正確には当たる寸前で弾かれていた。
それは竜の死角に位置取った雅一の防御結界。薄い氷壁がふたりの盾となり、竜の暴虐をそれ以上許さない。
雅一が守り、惟人が穿つ。かと思えば次の瞬間には竜の死角から異なる青き堅氷が襲い、そちらに気を遣れば次には真逆の方向から追い詰められる。幾度も、幾度も幾度も。繰り返される双星の対なる冷気に、次第に樹龍の動きは鈍り始める。その瞬間を、ふたりが見逃すことはない。
『雅一!』
「ああ。――強制執行だ」
瞬きほどの僅かな時間、森に静寂が訪れる。
絶対零度の氷槍が、竜の胴体を深く貫いていた。
『こいつ倒した先に甘味と予定があるなら……負けられんな、雅一』
惟人の不意な呼びかけに、びたりと一瞬だけ雅一が固まる。
「べ、別にそれだけじゃない、うん」
『どうだか!』
集中集中、なんて揶揄う弟の声。
物言いたげに目を眇めた雅一の目尻はほんの少しだけ常よりも色味を増したようだった。
大成功
🔵🔵🔵
ディフ・クライン
樹龍、か…
アルダワでは竜は基本的に友だし
身近に竜がいるからかな
少し、気が進まない
全ての竜が友ではないことを解ってはいるけれど
大樹のような異様
森の主であったならば敬意を表したが
侵略者であるならば退いてもらわねば
森にも樹龍にも火は使いたくはない
だから
おいで。君はネージュ、最果ての雪精
樹竜の真上へと展開せし魔法陣で冬を手繰る
足元が樹海になろうと集中は途切れさせない
成長した植物が遮ろうと
もう魔法は発動したのだから
氷で渦を作り、雪を纏わせ、玄冬で削り上げ
いくよ、ネージュ
其は海に於いて触れたものを凍らせる渦の槍――ブライニクル
竜巻の如く渦巻く氷の槍を落とそう
貫けずとも樹氷のように
凍らせ動きを封じてみせよう
●氷柱のメイルストロム
「(樹龍、か……)」
森を進むディフ・クライン(雪月夜・f05200)のかんばせには憂いがあった。
|自身が住まう場所《アルダワ魔法学園》では竜の存在は身近なものだ。初対面で畏敬の念を抱くことはあっても、友と呼べる存在を幾つも浮かべることが出来る。
あの子のきょうだいは、もうひとりの母君は、この戦いを嘆くだろうか――、
『ディフ!』
べちん。
名を呼ぶと同時にツメを丁寧に丸めてもらった小さな前足がディフの頬を叩く。きょとんと目を丸くして視線を向けたなら、肩に乗っていた雪精のネージュがふしゅふしゅと鼻息を荒くして『はやくあるいて』と急かす。
「痛いよ、ネージュ」
誰も怒ることはない。あなたが愛する者たちは、この森の嘆きを許すのかと。
問い掛ける雪精の声に微かに吐息を溢し、ディフはあおいひとみを細めてかぶりを振った。
「……そうだね。そうだった」
全ての竜が友ではないことを解っている。
だからこそ、自分たちがここで止めなければならないのだ。
目前に広がる光景は異様なものだった。
樹液の如き飴色の血を流しながら猛り狂う樹龍ミステルが何度も虚空に噛みついている。
――いや。違う。
「あれは……!」
耳に触れる陽色が教えてくれる。その光景を、正確に視ることが出来る。
竜が喰らっていたのは落ち葉でも、ましてや秋の名残の果実でもなんでもない。失った血を、欠損を取り戻すように周囲の精霊たちを伸びゆく枝葉ごとぞんざいに食い散らかしていた。
ああ、一瞬でも『気が進まない』などと考えた己が間違っていた。
森の主であったならば敬意を表しただろう。けれど、目前の竜は傲慢にも森の命を踏み躙り、今まさにただ自らの為だけに全てを喰らわんと暴虐の限りを尽くしている。
ディフは強く前を見据え魔杖を手繰る。魔力の出し惜しみなどするものか。降り注ぐ種子の雨が悪しき植物を芽吹かせようと構うことはない。
「おいで。君はネージュ、最果ての雪精」
森にも樹龍にも火は使いたくない。ならばと契りの名を告げ描き出すは厳冬の陣。竜の真上に出しその術式は途切れることなく魔力を注がれていく。
周囲が白くけぶり出す。呼吸さえも奪うほどの冷気が、氷と雪の迸りが、渦を描きながらひとつの塊へと変じていく。淡く白んだ輝きを抱いた雪精の名をもう一度呼べば、それが全てだった。
「其は海に於いて触れたものを凍らせる渦の槍――ブライニクル」
銀の大蛇が如き氷柱が吹雪の中心に垂れ下がる。
其は怒り。この森が伝えてくれる、恐怖と悲しみの代弁だった。
『グ、ァ』
未だ癒えぬ胴体目掛けて一直線に落ちた槍が剥き出しの肉に触れて――ばきりと大きな音を立て、凍り付いた箇所から更に氷柱に貫かれた樹龍の身体がひとつの樹氷となって砕け散った。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『今日はここでお買い物』
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POW : 隅々まで見て回ろう
SPD : 効率的に行こう
WIZ : 気になる方へ行こう
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ローザリウムとひみつのチョコレート
君影のしるべを頼りに菩提樹に守られた森を進んで行けば、手にした招待状をみとめた柊の門が客人を迎え入れるように尖った葉を引いて新たな道を作り出す。ひとつ、ふたつ、みっつと門を潜れば、急に開けた視界のその先に妖精たちの宴のあとのようにぽっかりと開けた空間があった。
一年中真っ赤な果実を実らせるおおきなおおきなりんごの木の下に、魔女のひみつのお店が佇んでいる。
君影草の看板に刻まれた店の名前は『|Witchcraft《魔女の手仕事》』。
ひとに妖精、精霊に動物も。この森に生きるものたちは困りごとがあればその扉を叩き、魔女のおまじないを貰って日々の暮らしをほんの少しだけ豊かにして貰うのだ。
「ここはわたしのお庭。大鍋で秘薬を煮込むこともあるけれど、子どもを拐かして食べてしまうようなおうちではないのよ。……そうね、そうだわ。『魔女』は元来おそれを抱かせるものかもしれないけれど……」
長いきんいろの波打つ髪を揺らして、妖精族の血を引く魔女は若葉を思わせる緑を僅かに乗せたあおい瞳を三日月に撓めるとねこのように微笑んだ。
「魔女はね。ほんとうはみんなをしあわせにする魔法を使うの。……うふふ! 少なくとも、わたしのお母さまとおばあさま、大ばばさまはみんなそうして生きていたわ」
どうぞ入ってと、扉を開いた魔女は店の中へとあなたを招く。
台所では今まさにガレット・デ・ロワが焼き上がったところだろうか。バターとチョコレートをふんだんに練り込んだクリームのあまい香りに店の中は満たされていた。
天井に吊るされた幾種類もの薬草の数々。陳列された小瓶の中には滴る蜜が閉じ込められており――けれど、それらは今日の主役ではない。店内は小さいながらも飴色の艶を帯びた木製のテーブルが並べられ、その中心には|ローザリウム《蕾の冠》が想いを受けて花開く時を静かに待ち侘びていた。
「木々を、森を。わたしたちを救ってくださってほんとうにありがとう」
今日は普段は口にする事が出来ない想いを届ける事が出来る特別な日。
「あなたも、あなたも。どうか、特別な時間を過ごしてね」
紅茶を蒸らす時間を砂時計がさらさらと刻んでいく。
心からの感謝を告げて、魔女は猟兵たちの訪問を喜びながら茶会の仕上げを始めるのだった。
●王さまのお菓子
クレームダマンド・ショコラをおなかいっぱいに詰め込んだこの季節だけのとっておきのパイ。
香ばしく焼き上がったガレット・デ・ロワを食べ進めたなら、中にはその何れにも『|フェーヴ《王さまのしるし》』が閉じ込められている。手にした様々な形のそれは魔女からのちょっとした贈り物だ。
フェーヴを見つけることが出来たなら、あなたはその瞬間から王さまとお妃さま。
おひとりさまのお客さまは魔女たちから。
お連れさまがいらっしゃる方は、あなたが大切に思う目前のひとへ。
ローザリウムがあなたの頂に飾られたその瞬間、被せた相手の|感情《あい》を受けて想いの花が目覚めの時を迎えて花開く。
言葉にできない想いも、何時だって伝えたい想いも、咲き綻ぶ花があなたの背を押してくれるから。
今日のあなたは|王さま《お妃さま》。
うんとワガママになってしまっても、誰も咎めたりはしないのよ。
●できること
・チョコレート味のガレット・デ・ロワと紅茶をいただく
・ローザリウムをかぶせてもらう(お連れさまがいる場合は被せ合いっこしましょう)
ガレット・デ・ロワの中のフェーヴのかたちは魔女からのサプライズです。
陶器で出来たかわいらしいそのかたちは、きっとあなたに似合いのものが出てくるでしょう!
お連れさまとご参加の場合『相手との関係性、抱く感情』をぜひご記載ください。
シナリオの性質上、1~3人くらいのご参加をおすすめいたします。
お互いに冠を被せ合うとローザリウムに想いに寄り添う花が咲きます。
おひとりさまのご参加の場合はベレンか店主の魔女が薔薇のローザリウムをかぶせてくれます。
(他の当方のグリモア猟兵をご指名の場合は関係性に準じたものになります)
みなさまにとって、おなかもこころも満ち足りたしあわせな時間が過ごせますように。
双代・雅一
雪音さん(f17695)を誘って魔女の家へ
甘い物が好きなものでつい、ね
一人で来るのも…と誘ったけど
蕾の冠に視線向け
…魔女の魔法なら、定義してくれるだろうか
俺のこの感情が何か、を
そして彼女が受け入れてくれるのかを
雪音さんに被せて咲くは二色のカーネーション
左(雅一)はオレンジ
右(惟人)はピンク
二つの心、各々表す
魔女に意味を聞き、嗚呼と頷いて
雪音さん…やっぱり俺、君の事が好き、らしい
小さい頃から凍らせてきた感情が最近少しづつ融けてきて
でも胸に抱くこの想いが何か解らずにいた
しかし花は正直だった、な
今更だけど…俺と付き合ってくれる、かな
「雪音、感謝する。クソ兄のコト頼むな」
(と走り書きのメモが机にそっと
御乃森・雪音
雅一(f19412)と
感情:大切な人で大好きだけど恥ずかしいから表に出したくないし、相手の負担になりそうと思ってしまっているために素直になれない状態をずっと維持している
冠の花はハナミズキ
告白的なお花
ガレット・デ・ロワと紅茶をという事で魔女さんのお店へ
興味深いものがある店内を楽しみながらお菓子を頂き、冠に目が留まる
フェーヴが入っていたら王様なんですって
どんな花が咲くかしら?
想いが咲く、と聞いてしまえば内心緊張
冠が花開くさまをじっと見つめる
花の意味を聞けば真っ赤になって硬直
…あの、うん。えぇと……そう、なの。
うん…よろしく、ね。
嬉しすぎて涙目になりつつも笑顔
(メモに気付けば、後でそっと手の中へ)
●『知りたい』
「わぁ。すごいのね、絵本の中に迷い込んだみたい」
いらっしゃいと微笑む魔女にお邪魔しますと会釈をひとつ。喜色に染まる頬を緩ませながら、御乃森・雪音 (La diva della rosa blu・f17695)は傍の双代・雅一(氷鏡・f19412)の横顔をちらりと覗き見た。
歳の離れた大切なひと。
隙がなくて完璧で。でも、ほんとうは不器用で。
人を寄せ付けないのは怖がりの裏表なのだと、知ればいとしさが募って表に溢れ出てしまいそうだった。
「(でも……この気持ちは、アタシだけの秘密)」
この想いを口にして、アナタのそばに居られなくなってしまうことが怖い。
この想いを吐き出して、アナタを傷つけてしまうことが、怖い。
肩がほんの少し触れそうになるだけで、この胸は忙しなく鼓動を早めていくけれど。
――大丈夫。アタシは今日も、『大丈夫』で居られる。
「甘い物には目がなくてね。雪音さん、来てくれてありがとう」
一人で来るのも何だからと彼女を誘ったけれど、ただの口実だ。
この店をきっと気に入ってくれると思った。だから、二人で行きたかった。
「(……魔女の魔法なら、定義してくれるだろうか)」
棚に並ぶローザリウムは今はまだ何の花もつけてはいない。
想いを乗せて咲く花。君を待つ蕾の冠。
幾つもの仮説を立て、共に歩んできた日々を重ねて根拠を辿ったけれど、抱いたことの無い得体の知れない感情に雅一は名をつけられずにいた。
面映くて、胸の奥底を温めては内なる氷を融かしていく、この感情は。
俺のこの感情は何なのか。
そして――彼女は飾らぬ想いを受け入れてくれるのか。ただ、それだけが知りたかった。
ガレット・デ・ロワを囲む間、雅一は努めて冷静だった。
そろいの|フェーヴ《雪うさぎ》が並ぶ姿を見止め、笑みを深めた魔女がローザリウムを手にしてふたりが待つテーブルへと歩み寄ってくる。
「ローザリウムは想いを映す鏡。どうぞ、あなたたちに祝福を」
「えっ?」
互いへの想いが咲くのだと、告げられた魔女の言葉に雪音の心臓が高く跳ねる。
だって、だって、彼はそんなこと教えてくれなかった。特別なお菓子を囲んで、普段は足を運ぶことの無い魔女のお店を楽しんで、それで、それで――。
「雪音さん」
平静を装う雪音の動揺を肌で感じ取ったのか、名を呼ぶ雅一の声は優しい。
黙っていたのは悪かったと思っている。でも、それでも、君の気持ちが、自分の感情が知りたい。だから。
「君も」
「あ、……」
緊張に身を固くする雪音のこうべに乗せられたローザリウムが、目覚めの時を迎えて綻ぶように花開く。
夕映えの橙に東雲を思わす薄紅のカーネーション。それは内に秘めたふたつの想い。君へ向かう直向きな。
震える雪音の両の手が、促されるままに返礼の冠をそっと雅一の髪に乗せる。ましろの花水木が告げるのは、あなたを守りたいと願う心。溢れそうな想いを受け取って欲しいと願う、アタシの、
「ち、ちがう、の。ちが、」
「違わない」
花に込められた言の葉を聞けば、嗚呼、と息を吐いた雅一が真っ直ぐに雪音を見詰めてその手を恭しく取った。否定しないでと告げるように力を込めれば、自身の髪に触れる橙色が示す想いの意味を理解した雪音の頬が見る間に赤く染まっていく。
「雪音さん。……やっぱり俺、君の事が好き、らしい」
「……あの、うん。えぇと……そう、なの」
幼い頃から凍らせてきた感情が、君との触れ合いで少しずつ融けてきて。
けれど、この胸に抱く想いが何なのか解らずにいた。
「しかし花は正直だった、な。今更だけど……俺と付き合ってくれる、かな」
どうか。怖がらないでほしい。
胸の底から笑うことを思い出させてくれた、君の傍に居たいのだと。告げられる想いに、隠し続けようとしていた心が内からあふれて、あふれて。熱を持った瞳を潤ませながら、雪音はちいさく頷いた。
「うん。……うん。よろしく、ね」
重ねたてのひらを握り返せば、驚くように微かに跳ねる彼の手指が可愛らしい。
嬉しい。ありがとう。大好き。
言葉にすることは叶わなくても、ローザリウムが教えてくれる。
アナタの気持ち。アタシの気持ち。
今度はきちんと自分の言葉で伝えるから――今はほんの少しだけ、このままでいさせて。
『雪音、感謝する。クソ兄のコト頼むな』
テーブルの片隅に添えられた|紙片《もうひとつの想い》に雪音が気付くのは、もう少し後のこと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と
可愛くて幸せにしたいと願う、大切な人
お招き有難う御座います、魔女さん
挨拶しつつそわそわしてるラナさんに微笑んで
ガレット・デ・ロワを食べるのは初めて
フェーヴを砕かないようゆっくり味わい並べた後は
想いを籠めたローザリウムをラナさんへ
…綺麗ですよ、ラナさん
まるで妖精のお姫様みたい
我が儘…ですか?
こうしてラナさんの時間を貰ってるだけでも
十分に我が儘だと思うけど
そうですね、じゃあ…
俺がどきどきするような魔法をかけてくれませんか?
考える彼女を見守って
それから掛けられた魔法につられて顔が熱く
すごいどきどき、しました
じゃあ、今度は…二人きりの時に改めて
とっておきの魔法をかけて下さいね
ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と
初恋で傍に居たい人
本物の魔女さんのお店なんて…!
幼い頃から憧れていた人のお店についそわそわ
私も、人を救える魔法使いになれるよう頑張ります
甘いガレット・デ・ロワでお腹も心も満たして
二人のフェーヴを並べて微笑んで
賛辞に頬を染めながら
想いを込めローザリウムを重ねて
蒼汰さん
今日はせっかくですから…
何か、して欲しい事は無いですか?
普段は私のお願いばかり聞いてくれる大人な彼
今日は、我儘を言って欲しい
ドキドキ?
彼の言葉に驚き、必死に考えて
右手を両手で包んだ後――指先へと唇を触れて
自分でも分かる位顔が熱い
あの、お店なので…
これが、精一杯、です
はい、二人の時に
とびきりの魔法を貴方に
●魔女の魔法
ちりん、ちりん。
木彫りの扉を開けばドアベルのつとめを担う君影草が店の主人のために歌い出す。揺り椅子に深く腰を下ろしていた魔女は編み物の手を止めると、いそいそと客人を出迎えるために立ち上がった。
「本物の魔女さんのお店なんて……!」
扉を開ける所作ひとつにも緊張してしまって、それでも高鳴る胸の鼓動に嘘なんか吐けなくて。一歩足を踏み入れたなら、広がるちいさな世界にラナ・スピラエア(苺色の魔法・f06644)はしろい頬をばら色に染めて感嘆の声を上げた。
「お招き有難う御座います、魔女さん」
そんな姿に月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)は柔く微笑み、特等席へと招く魔女のあとに続く。断りをひとつ置いてから椅子を引いてラナを促せば、逸る気持ちを抑えられない様子で、それでも行儀良くちょこんと椅子の上に座る彼女の姿が愛らしい。
「私も、人を救える魔法使いになれるよう頑張ります」
幼い頃から憧れていた朧げな輪郭の延長線がここにある。きらきらと瞳を輝かせながら店内を覗って、ぱちりと魔女と視線が重なって。急に気恥ずかしくなって俯けば、魔女はポットから鮮やかな紅色を注ぎながら『好きなだけご覧になってね』と笑いかけた。
王さまのとっておきのお菓子。かくれんぼをしているちいさなフェーヴを砕かないように慎重に。ころんと机の上に並んだ、いちごを抱きしめたましろと灰色の野うさぎの姿に微笑んで。
魔女から受け取ったローザリウムをそっとラナの髪に寄せれば、蕾の冠に春の魔法が降り注ぐ。淡くしろい蕾が綻んで、花開いたマーガレットに蒼汰は思わず息を呑んだ。
「……綺麗ですよ、ラナさん。まるで妖精のお姫様みたい」
手放しの賛辞に頬を染め、お返しにとラナが蒼汰に重ねたローザリウムに咲くあおいろのビオラ。互いを想う気持ちはもの言わずとも花が教えてくれるのだと、知れば胸が擽ったくなって。交わす視線の甘さにはにかみ、ふたりは密やかに微笑み合った。
「蒼汰さん、今日はせっかくですから……何か、して欲しい事はないですか?」
紅茶を一杯飲み終えたころ、徐にラナが口を開く。
普段は自分のお願いばかり聞いてくれる大人な彼に、今日は我が儘を言って欲しい。
「我が儘……ですか?」
こうしてラナの時間を貰っているだけでも十分に『わがまま』だと思う。蒼汰にとってそれ自体が可愛らしいおねだりのように思えて、ラナの少しの背伸びは既に叶えられているようなものなのだけれど。
「そうですね、じゃあ……俺がどきどきするような魔法をかけてくれませんか?」
「ドキドキ?」
蒼汰の口から齎されたお願いに、ううんと考え込む所作を挟んで。一生懸命に考えるラナの姿を微笑ましく見守っていたら、不意に伸びた両のてのひらが蒼汰の右手を掬って、それから。
「!」
近付いた唇が、一瞬だけ蒼汰のゆびさきに触れて。
伏せられた睫毛の長さまで焼き付くようで。
銅のケトルがしゅんしゅんと鳴く音だけがいやに響いている気がした。
「あの、お店なので……これが、精一杯、です」
内緒話のように潜められた声。繋いだ手指から脈が伝わってしまいそうだった。
一気に顔に熱を上らせ、赤い顔を見合わせて。一瞬言葉を忘れかけた蒼汰は不安に瞳を揺らがせるラナの手をそっと両の手で包み返した。
「……すごいどきどき、しました」
可愛くて幸せにしたい、誰より一番大切なあなた。
ああ、本当なら今この場で抱きしめてしまいたいくらいだけれど。
「じゃあ、今度は……二人きりのときに改めて」
――とっておきの魔法をかけて下さいね。
囁くいとしい声にかっと耳まで赤く染めて、それでもラナはこくんと頷いた。
「はい、二人のときに……とびきりの魔法を貴方に」
解けない魔法は、もうとっくに。|あなた《私》をとらえて離さないのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マシュマローネ・アラモード
◎
素敵な工房ですわ……!
モワ、どこか|星々の息吹《デウスエクス》を感じさせるようなエッセンスもあり、異世界の地球と言うに相応しい地ですわ。
👑
ガレット・デ・ロワと紅茶、何かお土産になりそうな物を探して。
モワ、お友達のプリンセスに差し上げたいのですが、お手伝いしていただけますか?
とても御本の幻想的な物語が好きな、ふわふわとした柔らかな花のように可憐で、風に乗ればどこか遠くにまでいけちゃうような……そんなお姫様です。
もしよろしければ、今日の日の思い出をお話したく思いますので……!
●まごころにリボンを添えて
交わらぬ平行線の世界。身近ではない地球。
どこか|星々の息吹《デウスエクス》を感じさせるエッセンスはこの場所がマシュマローネ・アラモード(第一皇女『兎の皇女』・f38748)の知る『ここではない地球』の何れとも異なる地であることを教えてくれる。
いっとうおおきな木から鈴なりに実をつけた真っ赤なりんごのカーテンをよいしょと潜り抜け、マシュマローネは浮き立つ足取りそのままに扉を開いた。
「ごめんくださいませ!」
焼けたバターとナッツ、チョコレートの甘い香りで満たされた店内は釣鐘草のランプのあたたかな灯りに照らされて、棚に飾られた鉱石がなないろのひかりを溢している。厚い書物が詰まった本棚は、魔女のひみつのレシピ帳だろうか。
「素敵な工房ですわ……!」
あかく塗られた座椅子に腰を下ろせば、魔女がメニュー代わりにガレット・デ・ロワとティーセットをトレイに乗せてやって来る。
喜色を乗せた声を上げるも、次にはもじもじと指を組んでは解く物言いたげなマシュマローネの姿に『どうかなさったの』と魔女が首を傾げたなら、意を決したマシュマローネが居住まいを正し視線を上げた。
「モワ、ローザリウムをお友達のプリンセスに差し上げたいのですが、お手伝いしていただけますか?」
「まあ」
目をまあるく見開いた魔女は一度ぱちりと瞬いたのち、すぐさま頬をばらいろに染めて快く是を唱えた。
一度店の奥へと姿を消した魔女が再び顔を出したのはマシュマローネがガレット・デ・ロワから四葉をつまんだ小鳥のフェーヴを見つけたころの事だった。
「……モワ!」
瓶に詰められた薬草に花々。金平糖の星々に、秋の間に仕込んだドライフルーツがたくさん。
茶葉の支度を整えて、魔女はマシュマローネの正面の席に着く。
「思い出を持ち帰るのなら。とびきりの魔法をおみやげにお渡ししなければならないわ」
どうぞその方のことを教えてと、促す魔女にマシュマローネはきらきらと瞳を輝かせて頷いた。
「とても御本の幻想的な物語が好きな、ふわふわとした花のように可憐で。風に乗ればどこか遠くにまでいけちゃうような……そんなお姫様なんです」
さふ。さふ。
マシュマローネの言葉を聴きながら、魔女は空の茶缶に茶葉と花々を詰めていく。仲睦まじい姫君ふたりの姿を想いながら色とりどりの花弁を混ぜ、甘酸っぱいフルーツや砂糖の星を散らして。
「その方をとても大切に想っていらっしゃるのね。……うふふ! ねえね、もし。もしよろしければ、こちらをおふたりで召し上がって。そうして……よかったら、お味の感想をくださいな」
「モワ! よろしいのですか? ……ええ、きっと! 今日の思い出もたくさんお話ししますわ!」
くしゃくしゃに丸めた包装紙を広げたなら、魔女はローザリウムをふたつ包んで茶缶と共にマシュマローネへと差し出した。
魔女の魔法のお裾分けはふたつ。
アップルキャンディの夕暮れ紅茶に、今はまだ口を閉ざしたローザリウム。
蕾の冠を分かち合うのは、おうちに帰ってからのおたのしみ!
大成功
🔵🔵🔵
ディフ・クライン
ヴァルダに声をかけて
良ければ共に、魔女のお店へ
魔女はみんなを幸せにする魔法を使う、か
ふふ。ヴァルダの、てのひらの氏族みたいだね
柔く目を細め、届いたガレッド・デ・ロワと紅茶に
声を揃えていただきますと唱えたら
出来たてのパイにフォークを入れよう
最近気づいたんだけど……オレ、結構チョコ好きみたい
今更なんだけどと少し照れ臭そうに
味も勿論だけど、愛を伝えるお菓子って聞いたからかな
なんて言ったら、貴女はどんな顔をするだろうか
そうしたら、かつんとパイの中で何かがフォークに当たる音
貴女もそうだと知れば
ね、せーので見せあいっこしてみようか
準備が出来たら合図と共に貴女に見せよう
魔女さんの贈り物はなんだろう
きっと何だって嬉しいけれど
そして互いに王様とお妃様になったなら
ローザリウムを手に貴女の前へ
お妃様。貴女に王冠を被せる栄誉を頂いても?
なんて微笑みながら両手でそっと被せたら
貴女の冠に咲き誇る、ブーゲンビリア
甘やかに微笑んで貴女を見詰めながら
今度はオレが膝をつく番
……オレにも、冠をくれる?
貴女の想いを託した花冠を
●メルティング・ブルー
ディフ・クライン(雪月夜・f05200)とヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)の来訪を心から喜ぶ魔女が思ったよりもずっと年若いことに驚いた。けれど――その長耳は魔女とヴァルダが同族であるしるし。見目の通りの年齢ではないのかもしれない。
勧められるままちいさなテーブル席に着けば、程なくして人好きする笑みを浮かべた魔女がすぐにティーセットをトレイに乗せてやってくる。感謝をふたり揃って告げたなら、魔女は更に笑みを深めて『どうぞ、あなたたちの想いのままに』と。フェーヴを見つけることが出来たらまた声を掛けて欲しいと添えて、来た時と同じように揺り椅子へと戻って行った。
「魔女はみんなを幸せにする魔法を使う、か……ふふ。ヴァルダの、てのひらの氏族みたいだね」
その背を見送り呟けば、ヴァルダもしろい頬を喜色に染めて「はい」と声を弾ませ頷く。
「同じ思想のもとに魔法を使う方とお会いできてとても嬉しいです。王さまのお菓子も……うふふ、とっても美味しそう」
温かいうちにいただこうかと微笑み合えば、声の揃った『いただきます』が擽ったくてなんだか照れ臭い。幾度となく繰り返したその言葉も、外出先となれば嬉しくも少しだけ気恥ずかしい――彼女も同じ気持ちなのか、尖った耳の先を垂れさせながらはにかんでいた。
「最近気づいたんだけど……オレ、結構チョコ好きみたい」
「まあ。ほんとうに?」
「うん、味も勿論なんだけど。愛を伝えるお菓子って聞いたからかな」
チョコレートを『美味しい』ときちんと感じるほどに味わって食べたのは、貴女がオレを想って渡してくれたから。
自分の事を想って作ってくれた唯一のチョコレートに、蕩けるようなあいを乗せて。そんな甘さを知ってしまったから、これが特別なお菓子なのだと認識してしまっても仕方のないことではないだろうか、なんて。
「……そっ、……そう、なんです、ね」
告げれば、見る間に顔をりんごのように真っ赤に染めて俯いてしまうから。ねえ、今年もくれるんだよね、なんて。黙っているつもりがうっかり口に出してしまいそうになって、表には出さず急いでもう一口頬張ることで何とか飲み込む。気付いているけれど黙っているのも、なかなかどうして大変なことだ。
「……これって、」
かつん、と不意にフォークに触れる硬い感触に視線を上げれば、赤く染まったままのヴァルダと目が合う。彼女もまた王さまのしるしを見つけたのだと知れば、ディフは笑みを深めて首を傾いで見せた。
「ね、せーので見せ合いっこしてみようか」
「はい」
紙ナプキンで軽く破片と油分を拭ったなら、せえのと差し出したふたりのてのひらの中にあったのは。
「……これって」
王冠を被ったヘラジカがふたり。
冬の王さまのようなその佇まいに、思わず顔を見合わすとディフとヴァルダはどちらからともなく笑い合った。
「ふふ、……うふふ! ディフさんのほうがおじいさまかしら」
「ヴァルダのはニルオン? すごい、よく似て……、……ふ、ふふ。かわい」
本人たちより随分まるっこい顔つき。威厳ある表情がギャップと笑いを誘う。
あとで本人たちに見せに行こうか、なんて笑っていたら。ふたりがフェーヴを見つけたことに気付いた魔女がローザリウムを持っていつの間にか卓のそばまで歩み寄ってきていた。謝礼を添えれば、覗き見をするつもりはないらしい魔女は『紅茶のおかわりが欲しかったら呼んでね』と今度は台所へ引っ込んで行った。あたらしいお湯を沸かしに行ったのだろうか、マッチを擦る音が聞こえた。
「……お店に遊びに来たというより、おうちにお邪魔しているような気持ちになりますね」
「うん、そうだね。親しみやすいというか」
随分マイペースだ。けれど、その位が気負わなくていいのかもしれない。
ローザリウムを受け取り席を立ったディフがそっとヴァルダの前に歩み寄る。甘く微笑むあおいひとみと目が合って、ヴァルダの耳先までもが朱に染まった。
「お妃様。貴女に王冠を被せる栄誉を頂いても?」
「ぁ……わ、……は、はい、」
何か物言いたげなその様子を笑顔で押し切り両手でそっと甘く蕩けるきんいろの髪に蕾の冠を被せたなら、綻ぶ花が告げるのは。
「『貴女しか見えない』。……ふふ、合ってる」
赤い葉に囲まれたブーゲンビリア。一方のヴァルダは花よりも言葉が出なくなっていて、赤くなった顔を両手で覆ったり指の隙間からディフの顔を覗き見たりと忙しない。
あんまり慌てている姿がおかしくて、ひとふさ髪を掬って見せて。『顔を見せて』と囁いたなら、恥ずかしいだろうに素直に応じてくれる貴女が愛しい。
「……オレにも、冠をくれる?」
目前に膝をついてこうべを垂れて見せたなら。震える両の手がそっと、蕾の冠をディフに託してくれたのが分かる。髪に、頬に触れる感触に睫毛を上げれば――それは、目前の彼女が大切に身に着けてくれている可憐な青と同じもの。
「ヴァルダも、……おなじきもち、です」
わたしだけの王さま。……わたしがお妃さまなら、旦那さま?
――ふとした瞬間に溢れたヴァルダの呟きに、今度赤くなるのはディフの方だった。
大成功
🔵🔵🔵
冴島・類
【白夜】
合流したリティと
関係性は夫婦
抱く想いはあいと、感謝と信頼を
お店の扉をくぐれば、美味しそうな香りと
不思議に満ちていて
うん、素敵な場所だね
見回し感心してる君の視線を追い
魔女さんにお礼を言ったら席に
本来は運試しもあるんだろうが
今回はどんな形かな?のわくわくがあるね
力一杯齧らぬよう気をつけて…
リティのはどんな子だった?
溢れた呟きに
立派な、魔女さんか…
君が描くなりたい像は
まだ輪郭が朧げなんだね
色んな方がいるだろうし
後で魔女さんにお話を聞いてみるのも良いかも
一番に聞かせてくれてありがとう
僕は、魔女さんに詳しいわけではないが
リティは何時も…
ありす達に笑顔の花を咲かせたいって願って
白夜に来る子にも安心できる場をと土を耕してるだろう?
だから、君がどんな魔女さんになっても
届けたいのは、花を見た時笑んでしまうよな
しあわせだろうと思うから
心配はしてなくて
咲かせてくれた冠の花
綺麗だと自然に笑み
君へも、冠を
夢も、未来のかたちも
ゆっくり探して紡げば良い
共に香ばしいぱいを食べながら
相談や話す時間も
しあわせだから
城野・いばら
【白夜】
愛称:リティ
合流した旦那さん達と一緒に
魔女さんのお茶会へ
関係性は夫婦
唯一無二の愛を捧ぐ愛しい人
門を開けてくれた柊さん
お店を包み込む林檎さん
伝わってくる自然に愛された場所
素敵ね…これが善き魔女さんのお庭なのね
新米魔女は感心するばかり
お招きのお礼を伝え席に
香ばしいパイさんに
仕掛けが隠れん坊してるのですって
全てのピースにって、凄く素敵!
旦那さんの気を付けてに、
ぱかっと開けた口を小さくしつつ
類はどんなコだった?
リティは…王様より立派な魔女に成りたいなぁ
どんな風にと問われると
…まだふわっともカタチ創れずにいて
何か切欠を頂けたらと
今回お邪魔したけれど
…一番、聞いてほしかったのは
旦那さんだったのね
真直ぐに聞いて、受止めてくれる類
ココロがふわんとあたたかくなる
キモチのままに
あなたの頭にふわっと冠咲かせて笑み
乗せてくれた冠さんに
ふふっ、結婚写真を撮った時を思い出す
未来を共にと、番ってくれたあなた
こうして一緒にパイさんを突く倖せ
白夜のお庭を二人で育む時の様に
急がず急かさず
いつか、夢描けた私に成れたら
●愛しむ日々
木と家が一体化したような佇まい。植えられた花々は今か今かと花開く時を、あたたかな春の日差し待っている。
「素敵ね……これが善き魔女さんのお庭なのね」
「うん、素敵な場所だね」
新米魔女は感心するばかり。どのくらいの時をこのお店は重ねてきたのかしら――なんて、冴島・いばら(白夜の魔女・f20406)がほうと感嘆の息を溢す姿に、冴島・類(公孫樹・f13398)の胸に温みが灯る。見回し感心する妻の視線を追いかけながら『入ってみようか』と手を差し伸べれば、当たり前のようにてのひらが重ねられた。
『おいしいお茶が入ったの。どうぞ、座っていらしてね』と。
言われるままに席で待つこと数分、類といばらのテーブルにもささやかな茶会の支度が整えられた。
「ね、類。香ばしいパイさんに仕掛けが隠れん坊してるのですって」
全部のピースが『あたり』なんて、凄く素敵!高まる胸の鼓動をそのままに、弾む声を上げるいばらの姿にゆるゆると目尻を下げながら。いただきますと類が両手を重ねれば、いばらもはにかみながらそれに倣ってあつあつのガレット・デ・ロワにそっとフォークをさし入れた。
「本来は運試しもあるんだろうが、全部に入っているなら……今回はどんな形かな? のわくわくがあるね」
「ふふ、そうね」
力一杯齧らないように気をつけて、と。類が言葉を重ねれば、ぱかっと大きく開けた口を慌てて小さくして慎重に食べ出す姿が可愛らしい。
さくさくとしたパイ生地の下、少し粒感を残したしっとりと甘いクレームダマンドが紅茶に溶かされて解けていく。混ぜ込んだチョコレートのほんの少しのほろ苦さが甘さを際立て、鼻に抜けるアーモンドの香りが口いっぱいに満たされて。美味しいね、とふたり微笑み合えば胸の温みも増すようだった。
ピースの中腹に差し掛かるころ。かつんとフォークに当たる軽い感触に気付いたなら、紙ナプキンで油分を拭い、手の中に包んだそれを抱いて問い掛ければ、類に少し遅れていばらからも小さな歓声が上がった。
「リティはどんな子だった?」
「私は……あっ!」
共にと広げられたてのひらの中に収まっていたのはトランプのカードたち。いばらの手にはスペードの庭師。類の手にはハートの姫君。つるんとした顔に描かれていたのはどちらも幸せそうな笑顔だった。
「このコたちの女王様は、きっと『せっかち』じゃないのね」
いばらの生まれた庭園でも、彼らはこんな笑顔だったろうか。
「そうだね、ふたりとも嬉しそうだ」
これでふたりは王さまとお妃さま。けれど、いばらの表情は気恥ずかしそうに――すこしだけ萎縮しているようにも見えたから。どうかしたのかいと問い掛けたなら、仄かにしろい頬を上気させながら、いばらはその花唇からぽつりぽつりとゆめを語り始めた。
「リティは……王様より立派な魔女に成りたいなぁ」
それはまだ朧げで、ふんわりとも形作れずにいる憧れめいたものなのだけれど。
「立派な、魔女さんか……」
揺り椅子に揺られている魔女の姿をちらりと見れば、彼女はただ緩やかに流れる時間を慈しんでいるように見えた。
訪れる客人ひとりひとりの顔を浮かべながらお菓子を焼いて、この日にぴったりの茶葉を選んで。待ち遠しい時間は編み物をして過ごして、寒い冬の間はしんしんと降り積もる雪の声を聞いて――そうして、森の動物や精霊たちと共にあたたかな春を待つ。
彼女は自然で、あるがままを受け止めているようだった。そう、であるならば。
「魔女さんにもいろんな方がいるだろうけれど。リティはリティのままでいることが、善き魔女への近道なのかもしれないね」
ご覧、と類の視線を追い掛ければ、ふたりの視線に気付いた魔女がふたりぶんのローザリウムを携えて歩み寄ってくる。ふたりの会話を聞いていたやらいないやら、何か切っ掛けを頂けたらと。いばらの問いに目を丸くした魔女は緩やかに膝を折ると、そっといばらと視線を重ねて微笑んだ。
「自然と共に生きることを選ぶ魔女も、人と共に生きることを選ぶ魔女もいるけれど。……うふふ。あなたはもう、その何方もを手にしているように見えるわ」
次にきょとんと目を丸くするのはいばらの方。漠然とした答えに首を傾げど、魔女はふくふくと幸せそうな笑みを浮かべたまま。
「わたしはね。魔法の根源は、『愛すること』だと思うの」
だから――あなたはもう。魔女のあり方を、魔法の何たるかを理解できているはず。
戸惑うようないばらとは対照的に、類は『ね』と魔女の言葉に笑みを深めた。
「いちばんに聞かせてくれてありがとう、リティ」
君は何時もありす達に笑顔の花を咲かせたいと願って。白夜の揺籃に訪れる子らにも安心できる場をと土を耕して、そうして誰かの笑顔のために努力していることを知っている。
「だから、君がどんな魔女さんになっても……届けたいのは、花を見た時笑んでしまうよなしあわせだろうと思うから」
僕は心配していないんだと重ねた類の言葉。
描いたゆめを真っ直ぐに聞いて、受け止めてくれるあなた。胸に春が灯る心地がすれば、いばらのかんばせにもくにゃりと笑みが咲く。
「……一番、聞いてほしかったのは旦那さんだったのね」
温かくなる気持ちをそのままに、類の頭にローザリウムを被せたなら。蕾をつけて咲う花は、いばらの心をあらわしたかのような八重咲きの白薔薇。
馴染んだそのあまい香りに目を細めた類がお返しにといばらに冠を乗せれば、ちいさな青を結んで開かせた勿忘草がまことのあいを囁き揺れて。
「綺麗だ」
「ふふっ、結婚写真を撮った時を思い出すね」
未来を共にと番ってくれたあなた。
白夜の庭をふたり育むように、急がず急かさずに。
夢も、未来のかたちも、ゆっくりと探していけばいい。
こうしてあたたかなお菓子をつつくことも、まだ見ぬ明日を語らう時間も、しあわせだから。
いつか夢描いたような『私』に、きっと――あなたとふたりなら。
大成功
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