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サーマ・ヴェーダは恋慕か忠義の物語か

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ルウェイン・グレーデ
ルウェインがメルヴィナ達の所にワープし、メルヴィナに拒絶され、ソフィアに聖竜騎士団に誘われるノベルをお願いします。

アドリブその他諸々全てお任せします。

●時系列
ノベル【サーマ・ヴェーダは恋慕の目醒か】の直後です。

●グリモアゲートを潜った先
その日の夜、聖竜騎士団の猟兵達は海竜教会に集まっていました。
近頃頻発している所属不明機の襲撃事件についての情報を纏める為です。
「王国軍に犠牲者が出てしまった以上、今後は議会政府の動きも慌しくなるでしょう」
ソフィアは難しい顔をしています。

「ここは……?」
ルウェインが開いたグリモアゲートの先は、その海竜教会だったのです。
そこにはジェラルド、ソフィア、メルヴィナ、メサイア、ヘレナ、エレインが集まっていました。
ルウェインは驚きました。
ソフィアも驚きました。
「何者ですか!?」
皆一斉に武器を構えました。
「いやー! 不届き者ですわー! おチェストですわー! ぶちまけたボルシチみてぇにして差し上げますわー!」
メサイアが真っ先に殴り掛かります。
「メサイア! お待ちなさい!」
「ぴゃい!」
ソフィアに止められてしまいました。

「何者ですか? 名乗りなさい」
ソフィアは槍を向けたまま尋ねます。
「は! エルネイジェ王国軍所属! グレーデ男爵家当主、ルウェイン・グレーデ少尉であります!」
とんでもなくヤバい所に来てしまった事を察したルウェインは、跪いて言われた通りに名乗ります。
「グレーデ?」
ソフィアには聞き覚えのない家名です。
「我が内なる炎には無い名だな」
ジェラルドも知りません。
「メレンゲならご存知でしてよ〜」
メサイアも知りません。
「あたしのリストには無い名前ねぇ?」
ヘレナも知りません。
「男爵家の名前なんて一々覚えていないわ」
エレインも知りません。
「……あ」
メルヴィナが声をあげました。
「知っているのですか?」
ソフィアが尋ねます。
「全滅した哨戒部隊の生き残りなのだわ」
哨戒部隊の件についてはソフィア達も聞いています。
「彼が? なら王国の者に違いは無いようですが……如何にして此処に来たのです?」
ソフィアに尋ねられたルウェインは恐れ慄きありのままを話しました。
「突然門のようなものが現れました! すると中からメルヴィナ殿下の声が聞こえたのであります! そして門を潜った結果、現在に至る次第であります!」
ソフィアはジェラルド達と目を合わせます。
「もしやグリモアの?」
ソフィアはルウェインに向き直りました。
「グレーデ卿、あなたの目の前に現れた門はグリモアの転移門です。恐らくご自分で無意識に開いてしまったのでしょう」
ルウェインはグリモアという名前に少しだけ覚えがありました。
ソフィア達猟兵はグリモアを使い異世界を渡っているという噂は耳にした事があります。

「ですがそれは一旦置いておきます。問題はどうしてこの場に繋がるグリモアの門を開いたのかという事です。門を開くにはある種の強いイメージが必要となるのですが……当時のあなたは何をお考えになられていたのですか?」
ルウェインは戸惑いながらも答えました。
ここで隠し事をすればこの場で処刑されてしまうと思ったのです。
「メルヴィナ殿下の事を想っておりました」
「はい?」
ソフィアは首を傾げます。
ルウェインは思いの丈をぶちまけました。
メルヴィナに救われたあの日の夜の事とか、メルヴィナがどれだけ優しくて美しいだとか、あの日以来毎日メルヴィナの事ばかり考えていただとか、聞いていて恥ずかしくなる事を全部馬鹿正直に喋り続けました。

「はいもう結構です。わかりましたから」
ソフィアは思いました。
ルウェインはジェラルドと同じ気持ち悪いタイプの人なのだと。
「あらまあ、メルヴィナ殿下もモテるわねぇ? 彼に乗り換えちゃったら?」
ヘレナが囃し立てました。
「冗談じゃないのだわ!」
メルヴィナは声を荒げました。

「あなたは状況に惑わされているだけなのだわ! 私が助けたのはあなただからじゃなく、貴重な生存者だったからなのだわ! 私は私の役目を果たす為にそうしただけなのだわ! 何とも想っていない相手から好きだとか、そういう対象に見られても迷惑なのだわ! そもそもちょっと助けられただけで一目惚れだなんて……バカみたいなのだわ! どうせ運命的な出会いをしたとでも思っているのだわ!? あなたみたいな男をなんて言うか知ってるのだわ!? 勘違い男って言うのだわ!」

凄まじい剣幕で捲し立てたメルヴィナは過呼吸を起こして倒れてしまいます。
「メルヴィナ殿下ァッ!?」
ルウェインは真っ青になりました。
「誰か、メルヴィナを休ませてあげてください」
ソフィアが言うと誰かが(誰でもOK)がメルヴィナを部屋に連れて行きます。

一方のルウェインはメルヴィナに嫌われて放心状態になってしまいました。
「失礼しました、メルヴィナは少々難しい問題を抱えておりまして」
「いえ……自分こそ取り返しの付かないご無礼を……」
ルウェインはショックから立ち直れません。

「兄上、彼についてどう思います?」
ソフィアが尋ねます。
「内に燃える炎に嘘はあるまい」
「根拠は?」
「世界が告げている」
「あっはい」

ソフィアはルウェインに言います。
「グレーデ卿、あなたは猟兵として目覚めました」
「猟兵? 自分が?」
ルウェインは猟兵の事をある程度知っています。
常識外れのヤベーやつみたいな認識です。
「王国の為、その力を聖竜騎士団の元で振るうつもりはありませんか?」
聖竜騎士団とはソフィアが束ねる王家直轄の独立部隊です。
誉高き騎士団に招致を受けるなどと、ルウェインにとっては又と無い巡り合わせです。
「ただの士官でいるより、メルヴィナとも近い距離にいられますよ?」
ソフィアは囁きます。
「しかし自分はあのような無礼を……」
ルウェインはすっかり弱気になっていました。
「エルネイジェの男子は一度城攻めに失敗した程度で諦めるのですか?」
「しかし身分が……」
「それは私の父上に対する侮辱と受け止めますが?」

ソフィア達の父親は、元々バーラント軍の傭兵でした。
戦場で出会ったソフィアの母に一目惚れし、エルネイジェ側に寝返り、振られても振られても猛烈なアタックを繰り返し、最後は母が折れる形で結ばれたのです。
ルウェインもその話しは知っています。

「滅相もございません!」
「ならメルヴィナに仕えるに値する騎士となってみせなさい。聖竜騎士団に来れば近道ともなりましょう」
ルウェインは思いました。
メルヴィナに嫌われてしまったのはとてもショックでした。
ですが振り向いてくれなくてもいいのです。
ただお仕え出来ればそれだけで十分なのだと。
「は! 有難き幸せ! 謹んで拝命させて頂きます! 王国とメルヴィナ殿下の為に!」
「よろしい」
ソフィアはちょっと引いてました。

だいたいこんな感じでお願いします!


メサイア・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●メサイアも聖竜騎士団の一員なの?
「わたくしのお仕事はお姫様ですわ〜!」
ソフィアは騎士団の一員としてカウントしています。
手元に置いておかないと何をしでかすか分かったものでは無いという理由もあります。
一方で単純な戦力としては重宝しています。

●メサイアの扱いについて
ちょっと出てくるだけの脇役程度でOKです。

●メサイアはルウェインをどう思ってるの?
「メレンゲ様ですわ〜! あら? 違いますの?」
新しい人が来た程度に思ってます。
「メルヴィナお姉様がお好きなのですわね〜わたくしも大好きですわ〜!」
メルヴィナとの関係は頭が悪いのでよく分かっていません。


メルヴィナ・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●メルヴィナって騎士団の一人なの?
「私は違うのだわ」
しかしソフィアに団員としてカウントされています。

●何故海竜教会で集まってたの?
実質孤島なのでセキュリティ的に安全だからです。
変なのが来ればリヴァイアサンが気付きます。

●メルヴィナは何故ヒステリーを起こしたの?
恋愛感情を向けられて拒絶反応を起こしたからです。

メルヴィナは好意を向けられて鬱陶しく思っている人を見ました。
「あぁ……私もこうして嫌がられていたのだわ」

そして以下のように考えるようになりました。
「興味の無い相手から好意を向けられても、迷惑に思われるだけだと分かったのだわ……私は相手の事を何も考えていなかったのだわ……」
ルウェインの事は、相手の気持ちを何も考えずに一方的に恋愛感情を押し付けてくる嫌な奴だと認識しました。

また、元婚約者を愛そうとしていた自分も嫌われて当然だったと思っています。
「でもちょっと言い過ぎたかも知れないのだわ……」


ソフィア・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●何人合わせ?
ジェラルド
ソフィア
メルヴィナ
メサイア
ヘレナ
エレイン
ルウェイン
以上7名です。
同背後なので扱いの公平性等は気にしないでください。

●騎士団長としてのソフィアについて
国内で生まれた猟兵を聖竜騎士団に取り込もうとしています。
その目的は、王室勢力の力を増やす事と、よくない勢力に取り込まれる事を防ぐ為です。
独力でオブリビオンマシンに対抗する手段と、他国の猟兵から侵攻を受けた際の対抗する手段を備えておきたいという理由もあります。

●ソフィアから見たルウェインについて
ジェラルドと同じ気持ち悪いタイプの人だと思っています。
ですがメルヴィナという鍵で制御し易い人間だとも思っています。
また、将来的にメルヴィナの安定剤になってくれれば都合が良いとも考えています。

●ソフィアの両親について
母は現在の女王です。
聖竜騎士団の前団長でしたが、インドラをソフィアに譲ってからは一線を退きました。
今は政に専念しています。
父は現在の王で将軍職に就いています。
今も前線で活躍しています。

●父ちゃんが傭兵だったって?
バーラント軍に雇われた腕の立つ傭兵でした。
戦場でソフィアの母に破れた際に一目惚れし、捕虜となった後にエルネイジェ側に寝返りました。
その後はソフィアの母に対して執拗に迫り、最終的に母が折れる形で結ばれました。


ヘレナ・ミラージュテイル
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●ヘレナの扱いについて
ちょっと出てくるだけの脇役程度でOKです

●ルウェインの事はどう思ってるの?
「お熱い事で」
「新人くんよろしくね〜」
この程度です。
メルヴィナとの関係はこれから面白くなればいいなと思っています。


ジェラルド・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●ジェラルドの扱いについて
ちょっと出てくるだけの脇役程度でOKです。

●ジェラルドはルウェインをどう思ってるの?
「内に滾るその炎に偽りはあるまい」
やる気がありそうな新人が来た程度に思っています。
メルヴィナの問題はメルヴィナ自身が決める事と考えています。
「我が妹の事は妹が決める事だ。俺は兄として見守っていよう」


エレイン・アイディール
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●エレインの扱いについて
ちょっと出てくるだけの脇役程度でOKです

●ルウェインについてどう思ってるの?
「ふぅん? ま、精々励みなさい」
あまり興味がありません。
モブ扱いかも知れません。
「ただし! メルヴィナ殿下を悲しませるような事をしたら許さないわ! 騎士なら自分の言動と振る舞いに責任を持ちなさい!」
泣かせたらシバくんじゃないでしょうか。



●|V《ヴェーダ》+|∧《キャレット》=X(アンノウン・クアンティティ)
 凍れる炎とも、燃え盛る氷とも呼ばれるのならば、其の名は如何なる名前であっただろうか。
 頻出する謎の襲撃者。
 小国家『エルネイジェ王国』の国境付近にて頻発する謎の勢力の動き。
 謎。謎。謎。
 謎ばかりが渦巻いている。
 これは言うまでもなく憂慮すべき事態であることをソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は理解していた。
 軍部のように指揮系統に従わなければ動けぬ鈍重さではなく。
 貴族議会のような篇重した意思決定の蒙昧さではなく。
 すぐさまに動ける戦力が必要であると。
 だがしかし、そんな勝手の良い力など転がっているものではない。

 猟兵たる我が身がそれを承知している。
 己であったとしても幾重もの鎖が巻き付いている。立場、身分、力。いずれもが煩わしいと思うものではなかったし、ソフィアならば、それを如何にでも出来るだけの大器があった。
 しかし、である。
 頻発する謎の勢力による事件。
 こればかりあまりにも情報と手が足りない。
「そこで皆に集まって頂いたのです」
 ソフィアの眼の前にあるのは聖竜騎士団の中でも猟兵として覚醒したものたちばかりであった。
 双子の兄であるジェラルド・エルネイジェ(炎竜皇子・f42257)、妹である第ニ皇女メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)、続く末妹メサイア・エルネイジェ(暴竜皇女・f34656)、ときに影として王家に仕えるヘレナ・ミラージュテイル(フォクシースカウト・f42184)、有力貴族アイディール家侯爵令嬢エレイン・アイディール(凛とした傲岸・f42458)。
 彼らの姿を認め、ソフィアは頷く。
「あら~? わたくしのお仕事はお姫様ですわ~! でも騎士団員でしたの? 初の耳ですわ! ハツ! ホルモン! 焼肉が食べてぇですわね~!」
「メサイア、私も違うのだわ。でも、此処で焼肉の話はやめて欲しいのだわ」
「ふむ。ならば、休暇を申請し我が内なる炎でもってBBQをせよ、と世界が俺に言っている」
「内蔵はビタミン類たっぷりなのよね。懇親会と行きましょうよ」
「あら、駄狐はそんな野蛮な食べ物しか食べられないのね。ソフィア皇女殿下、私に仔細おまかせ頂ければ、最高級の牛肉をご用意いたしましてよ。まあ、駄狐には高級すぎて舌が腫れ上がって食べられないでしょうから? 特別に油揚げでも御用意して差し上げてもよくってよ?」
「あ~?」
「なんですの?」
 通常運行のメサイアに、なんとも陰気な雰囲気を醸し出すメルヴィナ。
 素知らぬ顔でいつものジェラルドに、じゃれつくように剣呑なる舌戦繰り広げるヘレナとエレインの二人。

 ハッキリ言って学級崩壊であった。
 熟練の、百戦錬磨の教師であっても、この問題児クラスをまとめ上げるのは不可能に近かっただろう。
 だが、その不可能を可能とするのが我等が第一皇女ソフィア・エルネイジェなのである。
 海竜教会の地下、そのブリーフィングにも使われる一室にて彼女は剛力発露するとは到底思えぬほどの細腕でありながら、その膂力を遺憾なく発揮し、備え付けられた豪奢なるテーブルを叩き割らんばかりの勢いで打ち据える。
 その轟音にヘレナとエレインは静まる。
 ジェラエルドは、世界が静寂を求めている……とかなんかよくわからんことを言っていたが、兄としてはいつも通りなのでソフィアは放っておいた。
 メサイアはハツ、モツ、マルチョウ、とか指折り数えていた。もう頭は焼肉のことで一杯のようだった。

 深い、深い、ふかーい溜息がソフィアから零れそうだったが飲み込んだ。
 ここで溜息つこうものなら、まーためんどくさい寸劇というか茶番が始まりそうだったのだ。
「よいですか。近日頻発いている所属不明機の襲撃事件についての情報をまとめる場なのです……ヘレナ」
「はい、殿下~。情報は此方に~」
「駄狐は仕事が遅いですわね」
「はいはい、そんな駄狐よりお仕事できないのはどこの誰かさんかしらね~危うく殿下よりお預かりした『ローエングリン』を失いかけたのは、どこのお貴族様でしたっけ?」
「んなっ! それは貴方が!」
「……良いですか?」
 ソフィアの言葉にヘレナもエレインも押し黙る。

 話が進まない。メサイアは聞いていない。こてっちゃんも良いですわね、とか呟いて涎をたらしかけているのをメルヴィナがハンカチで拭っている。
 ジェラルドは謎のポーズで顔を掌で覆っている。意味がわからない。
「事件は私が猟兵として、小国家『フルーⅦ』の士官学校への潜入を行った頃より起こっていると言ってよいでしょう」
 そう、『フルーⅦ』と呼ばれる小国家の士官学校。
 そこにオブリビオンマシンの影ありと彼女は猟兵として潜入し、この事件を解決に導いた。
 其の折に事件の元凶にして黒幕とも言うべきオブリビオンマシンの一騎が彼女の駆るキャバリア『インドラ』と酷似していたのだ。
 コードネームは『インドラ・ナイトオブリージュ』。
 カラーリングはホワイト。
 この一騎との接触を皮切りに続くジェラルドと国境付近に接近したオブリビオンマシン群『イカルガ』を統率していた一騎に『インドラ・ナイトオブリージュ』が確認されている。
 カラーリングはブラック。
「あれなる搭乗者は騎士であった。『サラマンダー』も感じているようだった」
 直接対峙したジェラルドが確信持った言葉を放つ。
 一体全体どこにそんな確信を得られるような要素があったのかとソフィアは戦場同じくしていながら思ったが、いつものことなのでスルーした。

「そして、私達が遭遇した機体も同タイプの『インドラ・ナイトオブリージュ』でしたね」
「どこかの誰かのせいで仕留められたのに取り逃がした機体ですわね。その機体のカラーリングもホワイトでしたわ」
「私の注意喚起がなければ、ご自慢の金ピカ金満キャバリアも今頃はスクラップ場でリサイクルされてるところでしょうけど~?」
「わたくしの『ゴールドブリンガー』は至高のキャバリアでしてよ!? そんな事態になりようがないわ! ……ああ、自分が汚れ仕事ばかりやっているものだから僻んでらっしゃるのね? 仕方ないことだわ。なんとも意地汚いこと!」
「はいはい。敵の搭乗者を確認したわけではないですが、恐らく『エース』の類いかと。それも……」
「さらに強者である、と?」
「ですね。対峙した感触ですけど」
 ヘレナの言葉にソフィアは頷く。

 いずれもが己達と遜色ないか、もしくは凌駕する乗り手であるということは確かである。
 更に加えて、メルヴィナが『リヴァイアサン』でもって緊急出動した海上の哨戒部隊を全滅させた謎の存在である。
「哨戒部隊は艦艇、キャバリア含めてほぼ全滅だったのだわ」
「ショウカイ……シューマイですの~!?」
 メサイアの食欲直結な脳は、何をどう聞き間違えたのか、焼売に繋がったようである。涎がドバドバである。
「焼売もストゼロによく合いますのよ~辛子をこう、ちょんと乗せましてホクホクあふあふしながらストゼロで流し込むと最高ですわ~!」
 アルコールに脳をやられているメサイアの言葉に、ヘレナたちはちょっと喉を鳴らした。
 美味しそうって思ったからである。
 ソフィアは、いちいち脱線しなければ情報共有もできないのかと頭を抱えそうになったが、がんばった。ものすごく頑張った。

「その機体を『リヴァイアサン』はなんと?」
「認識していないのだわ。ただ……」
「ただ?」
「現場に残されたキャバリアと艦艇……その破壊の跡が不可解だったのだわ。まるで、大きな力でねじ切られたような……それこそ凍らせながら焼かれたような、焼きながら凍らせたような……」
「なんとも言い難い惨状であった、と?」
「そうなのだわ。あれは」
 メルヴィナには一つ思い当たるものがあった。
 あのような破壊活動が出来るキャバリアなどそう多くはない。そして、彼女が知る限り、あのような一撃でキャバリアの装甲を焼き切る事ができる機体は一騎。

「『セラフィム・シックス』の『プロメテウスバーン』なのだわ」
 彼女が温泉小国家『ビバ・テルメ』の湾内より現出した氷漬けの、氷山から出現し、また海底へと眠るように沈んだ巨神と呼ばれるキャバリアの一騎を思い出していた。
 だが、あれは青い機体カラーだった。
 今回の海上にて確認された謎のキャバリアは赤と青のカラーリングであったと、軍部が回収されたブラックボックスより抽出した画像により報告を行っている。
「今回の事件と関連している、と?」
「でも、あの巨神にカテゴライズされるキャバリアには乗り手が定まっていなかったのだわ。海底に沈んだこともあったことだし、あの『ビバ・テルメ』から『エルネイジェ王国』の海まで海洋で繋がっているとはいっても、『リヴァイアサン』が言うには、正反対の位置からやってきた、と言っていたのだわ」
「無関係ではないけれど、関係があるとも言い切れない、ということでしょうか」
 エレインは首を傾げる。
「ご聡明な侯爵家ご令嬢でもわからないことはあるんですね~?」
「なら、駄狐はなにかわかっていて? 何もわからないことがわかっています、なんてお馬鹿な報告をするおつもりかしら?」
 バチッている二人をよそにソフィアは情報をまとめる。

 己が乗騎『インドラ』とほぼ同型の『インドラ・ナイトオブリージュ』の頻出。
 それに呼応するようにして『エルネイジェ王国』の領海から謎のキャバリアらしき存在が『ビバ・テルメ』方面へと消えたこと。
 これらの情報を統合し、ソフィアは何かが結びつきそうな気配を感じていた。
 メサイアはもちろん、この場の誰もが想像し得ないことであったがソフィアだけが何か引っかかりを覚えていた。
 何かが、と。
「我が内なる炎も感じ取っているようだ、妹よ。この事件は関連している。繋がっている。いや、紡がれていると感じるのが正しい、と」
 ジェラルドの言葉にソフィアは、まーた、と思った。
 この兄の言葉は時々芯を食ったような、穿ったような事実を突きつけることがある。だが、時々なのだ。打率でいうのならば、かなり怪しいものである。
 だがしかし、その僅かな発言が時として状況を打開する方策を導くこともまた事実なのだ。
 だからこそ、ソフィアは瞳を閉じる。
 ジェラルドの言葉を借りるわけではないが、紡がれている。撚り合わされている。ならば、どこから? 一体どこから?
 己たちの乗騎にして機械神たる『インドラ』、『ヴリトラ』、『リヴァイアサン』、『サラマンダー』は黙して語らず。
 いや、語らないところにこそ意味があるのかと、と彼女は考えてしまう。
「……」
 百年前。
 そのフレーズが引っかかる。いや、もっと手前なのか、とソフィアは何か暗中にて指にかかるものを感じただろう。

 今回の事件は陸上と海上の違いあれど国境付近での事件である。
 十数年前にも『バーラント機械教国連合』の領土侵犯の事件があった。あのときは未だソフィアもジェラルドも聖竜騎士団の見習いであり、未熟であった。
 村一つが亜人部隊によって蹂躙されるという痛ましき事件があったのだ。
 あれも国境付近での事件であると言えば事件だ。
 その際には王国軍が国境にて敵部隊を食い止めていたが、亜人部隊に対応できなかった理由の一つに、謎の第三勢力の介入があったことが報告されている。

 曰く。
 空を飛ぶキャバリアの生首の目撃事例である。
 空に座す暴走衛生『殲禍炎剣』に引っかからぬ高度であったが、空飛ぶキャバリアの頭部が『バーラント機械教国連合』と王国軍に割って入るようにして横断したのだという。
 それは亜人部隊が蹂躙した村の方角へと飛んだということだが、ソフィアもジェラルドも感知していなかった。
 結局何が目的だったのかもわからず、軍部としては戦闘による兵士たちが見た一種の集団心的外傷ストレスが見せた幻視のようなものであろうと結論づけていた。

「ソフィアお姉様」
「なんです、メサイア。思うところがあるのなら……」
「そろそろストゼロが切れそうですわ~! 生命の源ストゼロ! 喉を潤すついでにプハぁーって致しませんこと!? しませんこと!?」
 メサイアは空気を読まないし、読めない。
 今肝心なのはメサイアが喉が乾いたな~ってことであり、喉を潤すならストゼロがいいなってことだけである。
 なんなら、今からドパってこの会議に参加している面々におすそ分けしたって良いとさえ思っていたのだ。うーん、これはなんという寛大な心。器がでっけぇのである。大器晩成も言うでしょう。
 メサイアもまた未だ完せずの大器なのである。
 器がでかすぎていつ出来るの? って感じであるが、まあ、其処らへんはソフィアも評価しているところである。いやまあ、手元において制御しなければ、兄以上に暴走する存在であることを承知しているからであるが。

 ともあれ、ソフィアは無言でメサイアの体を膝に載せた。
 流れるような、スムーズでスムースな尻叩き体勢であった。
「あんぎゃー!? なんでですの!? わたくし、皆様とストゼロを飲みたいと思っただけですのにー!?」
 バシンバシンとメサイアの尻叩きが敢行されている。
 ヘレナとエレインは、まだ自分たちの不和が見逃されているだけなのだな、と震え上がった。
 こわ~。
 ひんひんとメサイアのすすり泣く声が聞こえる。
 チラ。
 となんか泣き真似であったことがバレないようにソフィアの顔色をメサイアが伺ったようだが、即座に見抜かれて追加の尻叩きが加わった。
 おしりが四つに割れそうである。
「ひどいですわ~お兄様~!」
「我が妹よ。世界が言っている。それは必然だとな」
「なんかそれっぽいこと言ってるように思えるのですわ~! 何の解決にもなってないのですわ~!」
 そんな二人の様子にソフィアは何か掴みかけたものが霧散したことを知る。
 深い、深い、ふかーい、溜息がこぼれた瞬間であった。
 この場に居た6人の声とは異なる男性の声が耳に届く。
「ここは一体……?」
 其処に居たのは、銀髪の男性であった。一瞬で全員が意識を向ける。
 この場、即ち海竜教会の地下、海中に繋がる一室に突如として現れた男性。

 此処は謂わば孤島。
 何者かが侵入しようとすれば、『リヴァイアサン』に感知され、看破されるセキュリティで言えば、恐らく最も『エルネイジェ王国』にて堅牢なる場所の一つであろう。 
 だというのに。
 この場に集った猟兵の誰もが悪意として認識できていなかったのだ――。

●無銘の騎士
 ルウェイン・グレーデ(自称メルヴィナの騎士・f42374)は運がなかった、とも言える。
 彼の所属していた哨戒部隊は謎の存在によって瞬く間に、彼自身も認識できぬままに容易く壊滅させられたのだ。
 もっと言えば、その生まれからして運がなかったとも言える。
 そういう星の下に生まれた、というのならば、それまでなのだろう。
 男爵家とは言え、貴族としては最下級。武勲以外に出世を求めることはできず、さりとて、その出世も頭打ちが存在する。
 先行きが明るくないと言えば、それまである。

 その上、母の蒸発。加えて父の戦死。
 十代から彼は戦場に出ていた。騎士と言えど兵士。貴族と言えど木っ端。
 誰からも知られず、誰にも名を残すことなく死せる運命であったとも言えた。だが、彼は不幸と不遇の中にありて、光明の如き星を見つけたのだ。
 それがメルヴィナ・エルネイジェである。
 彼の星。 
 己の忠義を奉じるに値する御方。
 その御方の声が聞こえる謎の門が己の自宅の一室に現れ、メルヴィナの声が聞こえる、という一点において彼は門の向こう側へと足を踏み出したのだ。

 それはあまりにも浅慮である、と言えただろう。
 以前の彼ならば、そのような行動は取らなかったと言える。しかし、彼は踏み出したのだ。
 敬愛するメルヴィナ。
 彼女の声が声が幻聴であったのならば、それでいい。
 己が何か不幸を被るだけなのだ。ならば、メルヴィナには何も被害はない。何も損なわれることはないのだから。
「ここは一体……?」
 踏み出した先は、何処かの屋敷めいた一室であった。
 周囲を見回す。
 瞬間、彼の騎士としての本能に警鐘が打ち鳴らされる。危険だ、と。

 警鐘打ち鳴らす正体をルウェインは知る。
 ピンクの閃光。
 なびくような髪が、そう思わせたのだ。
「いやー! 不届き者ですわー! おチェストですわー! ぶちまけたボルシチみてぇにして差し上げますわー!」
 振りかぶられた王笏が煌めいていた。
 ルウェインはもちろん、その王笏が『エルネイジェ王国』のものであると知っていたし、その王笏を持ち得る者が誰であるかも理解していた。
 いや、ちょっと信じたくはなかった。

 今まさに己に飛びかかってきているのは、己が忠義を一方的に、勝手に捧げているメルヴィナ皇女殿下の妹君、メサイア・エルネイジェその人なのだ。
 そう、彼女は扉の奥に踏み込んだ己を真っ先に、その王笏でもってぶっ叩き、銀髪の頭をひしゃげたトマトみてぇにしてやろうとしていたのだ。
 ボルシチは比喩である。
 メサイア流のジョークってやつである。
 本当にそうしたいわけではない。あ、いや本当にそうするつもりなのかもしれないが、幸いなことにメサイアを止められる人材が、そこには豊富だった。
「メサイア! お待ちなさい!」
「ぴゃい!?」
 その一括。
 凛とした声が響き渡り、王笏振り上げ、今まさにルウェインの頭をひしゃげさせようとしてたメサイアを止めたのだ。

「何者ですか? 名乗りなさい」
 それはソフィアの声であった。
 彼女の威厳を持つ高貴なる声色にルウェインは一瞬で理解する。彼女の手にしていた槍の穂先が己に向けられている。
 すぐさまルウェインはソフィアを認め、膝を折り、頭を垂れる。
 恭順ではない。己に害意ないことを示さねばならないと理解したからだ。
 明らかに来てはならぬところに来てしまった、ということを彼は己の頭を垂れた後頭部に押し付けられた固い感触にて悟る。
 ヘレナが引き抜いた拳銃が突きつけられているのだ。
 なにかおかしなことをすれば、即座に発泡する、という意志が汲み取れる。
「は! エルネイジェ王国軍所属! グレーデ男爵家当主、ルウェイン・グレーデ。階級は少尉であります!」
 一拍も置かずにルウェインはまくしたてる。
 焦りが込み上げてくる。
 王族居並ぶ中、許可なく立ち入ってはならぬ場所に、偶発的とは言え踏み入ったのだ。う即座に射殺されても文句は言えない。

「グレーデ?」
 ソフィアは頭の中の家名を総当りし始める。アルファベット順に検索していっても7番目位からのスタートである。
 一瞬彼女の聡明なる頭脳であっても、ぱっとは出てこない家名であったのだ。
 つまり、それは。
「あたしのリストにはない名前ねぇ?」
 己の後頭部に突きつけられた拳銃の主、ヘレナが首を傾げる。彼女の言うところのリスト、というのは恐らく王家に対立するような連中のことだろう。
 逆を言えば、己の家名が、そのリストにないのは身の潔白を証明するにはよかったのかもしれない。いや、逆だとしても、警戒されるほどの力もない、とみなされているのだから、それはそれで……なんとも不甲斐ない気持ちにされてしまう。

「我が内なる炎にはない名だな」
 ジェラルドも頭を振っている。
 あのジェラルド皇子! とルウェインは驚嘆する。第一皇子にいて『炎竜皇子』とも呼ばれる苛烈なる聖竜騎士団の副団長! なんたることだ。こんな場所でお目にかかるとは、と彼は感激に震える。
 だが、やはり己のことを知る者ではない。
「メレンゲならご存知でしてよ~」
 食べ物のことばっかりであるメサイアは。これは論外。端から勘定には入れてないのでセーフ。いや、アウトだが。
「男爵家の名前なんていちいち覚えてないわ」
 侯爵家の令嬢エレインもまた同様であった。
 彼女の地位から考えれば当然だろう。男爵たる地位を持つとは言え、貴族階級では最下級。そこに最大勢力とも言われるアイディール侯爵家に認識されているわけがない。
 いや、自分の地位に卑下して鬱屈たる思いを覚えている場合ではない。

 釈明せねば。
 いや、我が身の潔白を証明せねば、生命が終わる。
 なにか言わねば、とルウェインが口を開こうとした瞬間、己の耳が一瞬で理解する。
「……あ」
 メルヴィナ殿下!
 気がついてくださった! ルウェインはこの絶体絶命の状況で歓喜に心震えていた。その『……あ』は、もしかして自分を認識していてくださった!?
 なんということだ! 連日怪我の具合を推してでも海竜教会の礼拝に参拝していた甲斐があったというものだ! 無常の喜びである。もう死んでもいい。いや、死にたくはないが、それだけで十分報われた人生であった!

 なんて、ルウェインが頭を垂れながらなんていうか、緊張感ないことを考えていると、ソフィアがメルヴィナの様子に気がつく。
「知っているのですか、メルヴィナ?」
「はい、ソフィアお姉様……確か……海上における哨戒部隊壊滅事件の生き残りなのだわ」
「彼が?」
 ソフィアも事件の詳細を把握してはいたが、生き残った兵の名前まで覚えていなかったのだ。
 だが、直接救助にあたったメルヴィナが言うのならば間違いないのだろう。
「なら、王国の者に違いはないようですが……しかし、如何にして此処に来たのです?」
 そう、そこが肝心である。
 この海竜教会の地下のセキュリティを考えればありえないことである。
 陸上から侵入するにしても、海上から潜入するにしても、『リヴァイアサン』の感知をかいくぐることなどできはしないからだ。

「はっ! 突然自室にて門のようなものが現出! すると中からメルヴィナ皇女殿下の声が聞こえたのであります! 何か不測の事態が、と愚考いたしました上、この門をくぐったところ、現在に至る次第であります!」
 恐れ多いことである。
 一介の、それも貴族階級の底辺たる己が王族方の身を案ずるなど。己よりも手練れの騎士が護衛についていてしかるべきである。
 ただの浅慮と言われても仕方のないことであった。

 だが、ソフィアは其の言葉にジェラルドたちと目を合わせる。
 思い当たる事柄があったのだ。
「もしやグリモアの?」
 そう、それはソフィアたちグリモア猟兵に関連するものであった。
 オブリビオンの起こす事件を余地し、これを解決するために現地へと転移を担うために現れる力。
 その一端としてルウェインは覚醒をこのようなタイミングで得てしまったのであろうことが予測できる。

 ならば、とソフィアは彼に向き直る。
 ヘレナに目配せし、拳銃を下げさせると彼の前に踏み出すのだ。
 ルウェインはまだ顔をあげられない。落ちる影に自分が如何なる処遇を受けるのかと悪い想像を巡らせていたのだ。
「グレーデ卿」
「はっ!」
「あなたの目の前に現れた門はグリモアの転移門です。恐らくご自分で無意識に開いてしまったのでしょう」
「ぐり、モア……?」
 ルウェインは面を上げる。
 ソフィアの瞳を見れば敵意がないことが見て取れた。

「それ、は……もしや、噂に聞く皇女皇子殿下が猟兵としての力を使い異世界に渡り、悪しき者共を誅しているという噂との……あのグリモア、のことでございましょうか」
「ええ、ですが、それは一旦置いておきます。問題は、どうしてこの場に繋がるグリモアの門を開いたのかということです」
 ソフィアの瞳に敵意はないが警戒の色はあった。
 そう、彼女にとって国内で発生した猟兵という力は、須く聖竜騎士団にて管理すべきであると考えているものであるからだ。
 他の猟兵たちに強制することはできない。
 当然である。
 だが、自国において発生したのならば、例外である。
 確かに王室勢力の力を取り戻す、という点においては急務であるし、また『エルネイジェ王国』を割るような思想を持つ勢力に猟兵という力を取り込ませてもならぬと判断したからである。
 オブリビオンマシンの脅威は未だ消えず。
 猟兵以外にはキャバリアとオブリビオンマシンの区別はつかない。

 となれば、ヘレナが国境付近の基地にて発生したオブリビオンマシンの蠢動を秘密裏に処置したように、猟兵の力が求められるところが多くなるからだ。
 加えて言うのならば……他国の猟兵戦力に対する対抗策であるとも言える。
 斯様なことが起こらないことを祈るばかりであるが、こればかりは呑気に事を考えている暇はない。
 確かに現在の女王であるソフィアたちの母は政に専念している。
 だが、それも猟兵でなければオブリビオンマシン関連のことは正しく認識することもできないだろう。
 となれば、己が猟兵である、という点を活かす他無いのだ。

 だからこそ、問わねばならない。
 この場に悪意持ってルウェインがやってきたのならば。
「グリモアの力を行使するには多大なる集中とイメージが必要となります……あなたは何をお考えになられていたのですか?」
 己達に敵意持つのならば、イメージすることは容易いだろう。
 だからこそ、その真贋を定めるための問いかけだったのだ。

 其の言葉にルエウィンは面を上げてまっすぐにソフィアを見やる。
「メルヴィナ皇女殿下のことを想っておりました」
 曇り無き眼であった。
 あまりにも真っすぐで、あまりにも愚直で、あまりにもドストレート。
「はい?」
 思わずソフィアも首を傾げた。
 なんて? その場に居た誰もが思っただろう。あ、メサイアとジェラルドは例外である。へレナもエレインも、ソフィアも、名前を出されたメルヴィナすらあっけにとられていた。
 今このルウェインを名乗る騎士はなんと言ったのだ、と思ったのだ。

「僭越ながら申し上げます! よろしいでしょうか! ご許可を頂きたく存じ上げます!」
 その言葉に、勢いにソフィアは頷いた。頷いてしまった。
 まさかただの男爵に此処まで勢いに押されるとは思いもしなかっただろう。
「メルヴィナ皇女殿下にお救い頂いたあの星夜よりずっと、私の胸の中にはメルヴィナ皇女殿下のことばかりが渦巻いているのです。それは湖より清流が湧き出すかのように。泉は何れ湖へと変ずるでしょう。そして、その湖はあまりにも美しいのです。当然のことと具申させていただくことをお許しください。当然でございましょう! メルヴィナ皇女殿下はお美しい。一目拝見した時、私は思いました。まるで御伽噺に出てくる人魚姫のようだと。その美しさは言うに及ばず。その心根もまた清廉そのもの! お恥ずかしい話、私が粗相を致しました折に置かれましてもメルヴィナ皇女殿下は厭うことなくその手を差し伸べて下さいました! 本来であれば極刑に処せられても致し方ない我が身の愚昧たるところでございましょう。ですが、メルヴィナ皇女殿下は慈しみを持って我が不遇を慰めてくださいました。あの優しさ、慈悲、やんごとなき身でありながら、なんという深いお心。幾度思い出しても色褪せることなくメルヴィナ皇女殿下の大器に私は心打たれたのでございます! それ以来、私は幾度となくメルヴィナ皇女殿下のことを思い出しておりました。一挙手一投足! そのたおやかな指先のぬくもり! 星空を溶かしたかのような見事な黒髪! 透き通るような、それこそ陶磁器のようにきめ細やかな肌! 正しくエルネイジェ王国の至宝とも言うべき紺碧の如き瞳! 如何なる宝玉も霞むかのような美しさ! わかっております。私程度の者がメルヴィナ皇女殿下を語ることなどおこがましいことであると! ですが! これは声を大にして言わせて頂きたいのです! メルヴィナ皇女殿下は素晴らしい御方です。今後エルネイジェ王国の歴史が未来永劫続くのだとしても! メルヴィナ皇女殿下のよう御方が現れるとは思えません! それほどまでに慈愛に満ちた、まさに聖母! 機械神『リヴァイアサン』様のご寵愛を受けるに相応しいと存じ上げます! 故に私はメルヴィナ皇女殿下に夢中なのです! これは、偽りようのない忠義! いえ、愛であると言わざるを得ないでしょう! 私はこれまで多くのことを取りこぼしてきた身。不肖、と言葉にするのもおこがましい身ではありますが! それでも私はメルヴィナ皇女殿下の為にこの身滅ぶまで捧げる所存なのです!!!!」

 クソ長かった。
 もうなんていうか、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
 ヘレナはヘラヘラと笑っていたが、エレインはあまりの熱量に顔を真赤にしていた。初心である。何だこの令嬢クソ可愛いかよ、と思わないでもなかったが、ヘレナに誂われてブチキレていた。
 ジェラエルとは何か得心言ったような顔をしていたし、メサイアは、あ、焼肉の妖精さんですわ、とか訳のわからんこと言っていた。
 なおもルウェインは言葉を紡ごうとしていた。恐るべきことである。
 あれだけのクソ長いメルヴィナの名を連呼してしまった思いの丈を吐き出したというのに、今の息継ぎでしかなかったことにソフィアは戦慄する。
 また同時にこれが偽り無きものであることも、敵意なき者であることもまた理解できるところであった。
「はいもう結構です。わかりましたから」
 ソフィアは既視感を覚えていた。
 これはあれだ。ルウェインと名乗る騎士は、己が兄ジェラエルドと同じタイプなのだと。ハッキリ言うと、気持ち悪いタイプの人なのだと認識していた。
 正直に言うとヤバイやつである。
 ジェラエルドに視線を向けるとジェラルドが謎に自信に満ちた不敵な笑みを浮かべたので、さらにイラっとした。

「あらまあ、メルヴィナ殿下もモテるわねぇ? 彼に乗り換えちゃったら?」
 ヘレナはメルヴィナを巡る問題の真相を知る者である。
 だからこそ、これは、と思ったのかも知れない。
 あの熱量だけは本物だと思ったのかも知れない。けれど、生来の気質のせいだろうか、囃し立てるようになってしまったのは仕方のないことだったのかもしれない。
 だって此処は聖竜騎士団でありながら、まあ、その、問題児クラスでもあるので? どうしたってそうなってしまうのである。色恋沙汰が絡めば、楽しくなっちゃうのである。仕方ないね。

「冗談じゃないのだわ!」
 だが、当の本人。渦中の人とも言うべきメルヴィナはヒステリックに声を荒らげた。
 その声色にヘレナは、あ、と思っただろう。
 これはやってしまったかも、とバツが悪くなる。けれど、それ以上にメルヴィナは激情がほとばしるようであったのだ。
「あなたは状況に惑わされているだけなのだわ!」
「め、メルヴィナ皇女殿下、私は……」
 本当に心から感謝しているのだとルウェインは言葉を紡ごうとして遮られる。メルヴィナの、あの優しげであった瞳に涙が溜まっているのを認めてしまったからだ。
 他ならぬ己が、その涙の原因である、ということを悟るのにさしたる時間はかからなかっただろう。

「私が助けたのはあなただからじゃなく、貴重な生存者だったからなのだわ! 私は私の役目を果たすためにそうしただけなのだわ! 何とも想っていない相手から好きだとか、愛だとか、そういう対象に見られても迷惑なのだわ! そもそも!!」
 息を継ぐ暇がない。
 メルヴィナの涙湛えた眼差しすらもルウェインは場違いにも美しいと想ってしまっていた。激情かられる彼女の怒りにも似た感情に己がさらされていると知ってなお、ルウェインはそう思ったのだ。
「ちょっと助けられただけで一目惚れだなんて……バカみたいなのだわ! どうせ運命的な出会いをしたとでも思っているのだわ!?」
 その言葉にルウェインは否定しようとした。
 だが、それさえも遮られるように矢継ぎ早にメルヴィナの語気荒ぶる言葉が矢のように、槍のように迫る。

「あなたみたいな男をなんて言うか知ってるのだわ!?」
 息を吸い込む。
 肺が膨らみ、神経を圧迫する。めまいがするようであったことだろう。けれど、メルヴィナは止まらなかった。
 これだけは言わねばならないと彼女は思ったのだ。
「――勘違い男って言うのだわ!!!」
 すあまじい剣幕。
 次の瞬間、メルヴィナの視界は真っ黒に染まり、よろめくようにして倒れ込んだ所をメサイアが支える。
「あれま~メルヴィナお姉様お眠ですのね~? さあ、あちらでおやすみなりましょう。それとも気付けにストゼロをぐびっといきまして?」
「メサイア」
「ぴゃい」
「め、メルヴィナ殿下ァッ!?」
 ルウェインは真っ青になって駆け寄ろうとするが、即座にヘレナとエレインが彼の前に立ちふさがる。

 メルヴィナのことをあんじてのことであったのだろうが、しかし、婦女が倒れたからと言って男性が近づくことを良しとしなかったのだ。
 そもそも皇女と男爵家の身分が違いすぎる。
「メルヴィナ殿下! 殿下!」
「はい、ストップ。勘違い男君」
「それ以上は見苦しいものでしてよ」
 その言葉にエルウィンは、漸く我に帰る。そう、つまりは己はメルヴィナに嫌われてしまったのだと、理解できたのだ。
 その事実にルウェインは膝から崩れ落ちそうになるが、なんとか堪えたのは、王族の前であったからだろう。

 ジェラルドは、ほう、とわずかに感心したようだった。
「失礼致しました。メルヴィナは……少々難しい問題を抱えておりまして」
 ソフィアの言葉にルウェインは力なく頷くしかなかった。
 取り返しのつかないことをしてしまった。
 無礼、と呼ぶにはあまりにもな狼藉とも言うべき行い。それにメルヴィナが激怒したことは取り繕うこともできなければ、取り付く島もないことであった。
 ショックすぎる。
 推しに認知されたと思ったら、マイナス方面でパッシブバフが懸かってしまったかのような状況であった。何言っているかさっぱりわからんが、まあともかくルエウィンにとっては良くないことである。それだけはわかっていることである。

「兄上、彼についてどう思われます?」
 ジェラルドは、ふむ、と頷く。
 なぜ、ジェラルドにルウェインの所感を求めたのかは言うまでもない。同じタイプだからだである。身も蓋もなさすぎであるが事実である。
「内に燃える炎に嘘偽りはあるまい」
「根拠は」
「世界が告げている」
「あっはい」
 自分で聞いておきながら、馬鹿げた質問をしてしまったと、ソフィアは思った。ちょっとメルヴィナが羨ましくも思えたからかもしれない。
 なんとも思っていない相手からの盛大なる言葉。
 それは確かに真摯なものであったし、バカが付くくらい正直で衝撃的であったのだ。
 だがまあ、自分が同じことを、同じ面々の前でされたらと思うと、それはそれで御免被ると思った。正直である。

 ふぅ、とソフィアは頷く。メサイアがメルヴィナを海竜教会の自室に運び込むのを見届けてから、彼女はルウェインに向きなおる。
「グレーデ卿。あなたは猟兵として目覚めました。ならば」
 茫然自失の体であるルウェインはソフィアの言葉を反芻する。
 それほどでにメルヴィナの言葉は頭をぶちまけたボルシチみてぇにされるよりも衝撃的だったのだ。
「王国のため、その力を聖竜騎士団の元で振るうつもりはありませんか?」
「自分が?」
 それは願ってもないことだった。
 ただの士官。それも男爵家とはいえ、最底辺の己が誉高き王家直轄の聖竜騎士団に招致されるなど、青天の霹靂の如き出来事なのだ。
 又とないめぐり合わせというほかない。
 だが、とルウェインはためらう。
 当然である。聖竜騎士団に所属する、ということは即ち、メルヴィナとの関係性もまた変わる、ということだ。
 あんなことがあった後でメルヴィナとの関係が拗れないわけがない。
 だからこそのためらい。
 己の存在は、メルヴィナの負荷にしかならないのではないかと考えたのだ。

 その考えを見透かすようにソフィアはささやく。ピンクの悪魔みたいだった。
「ただの士官の甘んじているよりは、メルヴィナと近い距離にいられますよ?」
「しかし自分はあのような無礼、非礼を……」
 すっかり弱気になっている。
 だが、ソフィアとしては望むところであった。衝撃に打ちのめされ、今のルウェインはあまりにも弱気になっているのだ。
 言ってしまえば、心の隙がガバである。
 いくらでもソフィアならば付け入れる。彼が猟兵である、ということが知れたのならば、エルネイジェ王国の各勢力が必ずや取り込もうと画策するだろう。
 そうなれば、彼の処遇を決める事ができる好機は今を置いてない。ならば。

「エルネイジェの男子は一度城攻めに失敗した程度で諦めるのですか?」
 それは冷たい視線であった。
 蔑むようでもあった。ぞわりと、ルウェインは背筋が寒くなる思いであった。だが、ソフィアの言う通りである、とさえも思えただろう。
 そう、一度の失敗でくじけるような男が騎士であるなど在ってはならない。
 決して折れぬ矜持と誇り、そして剣を持つからこそエルネイジェの男子は己が壁となりて、迫る外敵を払い除けることができるのだ。
 だが、それでもルウェインには懸念があった。

「しかし身分が……」
 そう、そこが最大のネックである。エレインもそれはそう、と思っているようだった。
 皇女と男爵。
 釣り合うわけがない。ハッキリ言って世迷い言であるし、なんなら不敬罪でしょっぴいて斬首刑である。
「それは私の父上に対する侮辱と受け止めますが?」
 ソフィアの言葉にルウェインは首を横に振る。
 滅相もないことである。
 そうなのである。ソフィアたちの父は嘗て傭兵であったのだ。身分で言うのならば、男爵である己よりも下である。
 爵位もたぬ野良犬。
 そう呼ばれていただけでなく、戦場でソフィアの母に敗れて捕虜となった折に一目惚れし、寝返ったことでも有名なのだ。
 当然、当たり前のように振られて、振られて、振られて、振られまくって。それはもう盛大な振られっぷりを炸裂していたという。

 だが、めげなかった。
 猛烈にアタックを繰り返し、真摯に言葉を伝え、愛を伝え、心を尽くして、尽くして砕いて、まぶして、それはもうなんとも健気なアタックをしたのだとソフィアは父から聞き及んでいた。
 ちょっと引いたけど。
「滅相もございません!」
「なら、メルヴィナに仕えるに値する騎士となってみせなさい」
「そ、それは……」
「強権に背中を押されなければ立ち上がれぬ男子など、私は認めません。エルネイジェの男子であるという自負があるのならば。今、此処で立ち上がりなさい」
 ソフィアの言葉にルウェインは面を上げる。
 ヘレナはソフィア殿下のお得意のやつだーと思ったし、エレインはそうでなければとさえお思っただろう。というか、あんまり興味ない。
 此処でくじけるようならば、犬畜生以下である。なんなら、立ち上がってもわんこ程度の認識でしか無いかもしれない。

 だが、ただ一人ジェラエルドだけは違った。
 彼には世界の声が聞こえる。
 眼の前の男は今、男子から男になろうとしている。彼のナイーヴな精神性はメルヴィナの凄まじい剣幕によって散々に打ち砕かれた。
 打ちひしがれ、心折れただろう。
「……」
 だが! である。彼は今まさに立ち上がろうとしている。
 己が言ったことだ。忠義だと。愛敗れた後に何が残る。そう、忠義である。その一点におてのみ、いまだ穿たれへし折られぬ真芯をルウェインは持っているとジェラルドは理解したのだ。
 故にジェラルドは謎の自信満々な視線でルウェインを認めたのだ。
「ルウェイン・グレーデ卿。聖竜騎士団に来なさい。これは下知ではありません。貴方の意志で。貴方の決意でもって表明なさい。それが貴方の最初の仕事です」 
 その王威にルウェインは歯を食いしばり、膝をつく。
 たとえ、己が思いが報われなくてもいい。
 メルヴィナに、此度のような視線を向けられようとも構わない。

 そう、もう甘えは許されない。
 立場が、という理由も。
 身分が、という言い訳も。
 なにかもが必要ない。己の今を支えるは、あの星夜に見たメルヴィナの優しさ、慈悲に報いるための忠義のみ。
「は! 有難き幸せ! 謹んで拝命させて頂きます! 王国とメルヴィナ皇女殿下の御為に!!」
 その決意漲る声にソフィアは満足気に頷く。頷いてみせた。
「よろしい。沙汰あるまで待つことを命じます」
 あまりにも扱いやすい鍵を手に入れたことで、ソフィアは確かに目的を達することができたのだろう。
 だが、なんとも言えない気持ちになった。
 これで聖竜騎士団の力は盤石に近づくだろう。けれど、なんていうか。こう、この期に及んでもまだルウェインはメルヴィナのためにと言ったのだ。
 ちょっと引いた。 
 いや、正直に言う。
 かなり引いた。ジェラルドだけはものすごく満足気だった。
 どうだ、俺の言った通りだろう、と言わんばかりな態度が余計にイラッとさせられたが、無視しておく。

 けれど、とソフィアは思う。
「彼がもしも、将来的に……」
 成長し、妹を任せられるほどになったのならば。
 安定しない病んだ精神を得てしまったメルヴィナを支えてくれるかも知れない。そうなれば、都合が良い、と考えるのは姉としてというよりも国家の安寧を担う次期王女としての責務が勝ちすぎている気がしないでもない。
 それでも、と期待してしまうのは、買いかぶりかも知れないけれど。

「ま、よろしくね~新人君。中々お熱い主張だったよん」
「は、ご指導ご鞭撻のほど頂戴いただけましたら……そ、それは……!」
「ふぅん? ま、殊勝な心がけね。当然とも言えるけれど。ま、精々励みなさい」
 ヘレナとエレインにルウェインは挨拶を済ませる。
 今日のところはこれにて、ということなのだが、なんとも落ち着かない。
 ソフィアも場を辞して良い、とのことであったが眼前に炎竜皇子ジェラルドが立ちふさがっている。
 よく考えたらルエウィンはヤバイな、と思った。
 そりゃそうである。
 皇子であるジェラルドにとってメルヴィナは妹。
 そんな妹を彼処まで激昂させたのだ。何かしらの咎めがあってもおかしくないと思ったのだ。
 
 だが、そんなルウェインに反してジェラルドは肩を軽く叩く。
「その内なる炎に偽りはあるまい。俺には初めからわかっていたがな。俺に伴する者は必要ない。だが、並び立てるほどに成長を見込んでいる」
 これもまた世界の声だ、とジェラルドの言葉にルウェインは何も言えなかった。というか、言えるわけがない。独特すぎてヤバイ、とルウェインは誰が言うんだ、という感想を抱いていた。
「ジェラルド皇子殿下……自分は……!」 
 それはそれとして非礼を詫びねばならない。
 跪こうとして手で制される。
「我が妹のことは、妹が決めることだ。俺は兄として見守るのみ。ならば、お前も同様だ。咎めるつもりはない。今も、これからも。ただお前は示せ」
 己が力を。
 己が矜持を。
 へし折れ、砕けた愛があるのだとしても、それをかき集めるだけの忠義があるのならば、と。
 故に、とジェラエルドは薄く、けれど柔らかな笑みを浮かべルウェインの前より立ち去っていく。

 一人残されたルウェインは激動たる時間を過ごしたことで肩の力を落とした瞬間、横合いから突如として声をかけられて飛び上がった。
「メルヴィナお姉様がお好きなのですわね~?」
 メサイアであった。
 メルヴィナを寝室に運んで、やって戻ってきたのだろう。メサイアの瞳は混じり気なしの興味しかなかった。
 いや、新人が来た程度の認識でしかないのだろう。
 だが、その言葉にルウェインは頷く。
「はい、お慕いしております」
「わたくしも大好きですわ~!」
 なら、メルヴィナお姉様好き同士ですわね、とあっけらかんと笑ってメサイアはストゼロをグビる。
 何処か遠くから見ていたかのようにソフィアの『メサイアッ!』という声が聞こえて彼女は慌てて走り出す。

 その背中を見送りルウェインは決意を新たにする。
 海竜教会を背に。
 その一室で目覚めたメルヴィナが自己嫌悪に陥って居ることも知らず。されど、それは澱のようなものだ。
 たとえ、どれだけ己がメルヴァナに忌避される存在であったとしても。
 それでも、とルウェインはくじけない。
 愛の代価に心傷ついた者を癒やすことができるのもまた愛抱えるものである。
 ならばこそ、ルウェインは今一度己が愛を見つめ直さねばならない。

 ただそれだけが物語を生み出すのだ。
 恋慕か忠義か。
 どちらかなどとは言わない。その全てを抱えてこそ己であるのだと示すように、ルウェインの瞳はユーベルコードの輝きを湛えていた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月04日


挿絵イラスト