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ペンタチュークは風の彼方か、エースの残影

#クロムキャバリア #ノベル #エルネイジェ王国 #ACE戦記外典

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イリス・ホワイトラトリア
イリスが幼い頃、住んでいた農村がゴブリン達亜人種の襲撃を受けて全滅し、ジェラルドとソフィアに救出されるノベルをお願いします。

お話しのノリとしては、ゴブリンを皆殺しにするアレです。
ただし助けに来てくれるのは冒険者ではなくキャバリアです。

アドリブ改変その他なんでもお任せします。

●時系列
現代から10年位昔です※あくまで大体のイメージでOKです
ノベル【メサイア・シークエル】と同時期です。
一方その頃、とある農村では……みたいな感じです。

●大体の流れ
イリスはエルネイジェ王国の東方地域の農村で生まれました。
家はハッピーハーブや作物の栽培で生計を立てるごく普通の農家です。
裕福ではありませんでしたが、優しい母と頼りになる父に育てられた幸せな子でした。
兄弟姉妹は……お任せします。居ても居なくてもOKです。居た場合は最終的に皆殺しにしてください。
そんなごく普通の農家に生まれた、ごく普通の村娘がイリスです。

実は遥か遠縁に王族の血を引いているのですが、イリスは知る由もありませんでした。

ある日の事です。
遥か東の果てから灰色の煙がいくつも立ち昇っていました。
時折爆発音のようなものも聞こえます。
村の大人達は大慌てです。
「お父さん、お母さん、どうかしたの?」
イリスは尋ねました。
「バーラントの亜人部隊が近付いてきているらしい。イリスも早く逃げる準備をしなさい」

亜人部隊とは、ゴブリンやオーク、トロールにオーガ等といった恐ろしい亜人達で構成される部隊です。
主に非人道的な蹂躙行為を目的として投入されます。

イリスは両親からゴブリンは怖いもだのとよく聞かされていました。
「それは大変! 早く逃げないと!」
ですが一足遅かったようです。
村のはずれから悲鳴が上がったのです。
父は母に言いました。
「もう間に合わない! イリスを連れて隠れなさい!」
イリスは聞きました。
「お父さんは!?」
「時間を稼げば王国軍が来てくれるだろう……心配するな、エルネイジェの民は戦士の民だ!」
すると父は武器を持ち、他の大人達と共に行ってしまいました。

イリスは母に連れられて隠れました。
しかし亜人達はあっという間に村中に入り込んでしまいます。
村を襲った亜人達はとても大勢だったのです。
そしてイリスとその母も見つかってしまいました。
「イリス! 逃げなさい!」
母は自らを囮にしてイリスを逃しました。
「やだぁ! お母さん!」
イリスの見ている目の前で母は乱暴されてしまいました。
「早く行きなさい!」
イリスは火事で燃え盛る村の中を必死に逃げました。
ですがもうどこもかしこも亜人だらけです。
生き残っている村人は見当たりません。
「お父さん! お父さん!」
父を呼ぶも返事はありません。

そしてイリスも遂に追い詰められてしまいます。
母のように乱暴されてしまうかと思った矢先でした。

『インドラ! 足元に気を付けて!』
一機のキャバリアが現れ、ゴブリンの群れを轢き殺してしまったのです。
「ご無事ですか!?」
コクピットからイリスより年上の少女が降りてきました。
「だれ……?」
イリスが尋ねると少女は名乗ります。
「私はエルネイジェ王国第二皇女、ソフィア・エルネイジェと申します。こちらは我が戦友のインドラ――」
ソフィアがそこまで言い掛けた途端、建物の影から大きなオーガが現れました。
オーガの口からは誰かがぶら下がっています。
「お父さん!?」
イリスが叫びました。
オーガはインドラに襲い掛かります。
ですが横から飛んできた赤いキャバリアに噛み付かれてしまいました。
「ジェラルドお兄様!」
『大型の類いは俺とサラマンダーが引き受けよう』
オーガを倒したサラマンダーはどこかに行ってしまいました。
ソフィアはイリスに優しく言います。
「ご安心なさい。あの赤いキャバリアはサラマンダーで、乗っているのは私の兄のジェラルド第一皇子です。すぐに聖竜騎士団の本隊が来ますから、もう大丈夫ですよ」
するとイリスは父と母の事を思い出してパニックになってしまいます。
「お父さんが! お母さんが!」
イリスはオークの死体を指差しました。
ソフィアは身体の半分が無くなったイリスの父を見て首を振ります。
「お母様はどちらに? 助けに参りましょう!」
インドラはソフィアとイリスを乗せて、イリスの母の元へ向かいました。

それから暫く経ちました。
聖竜騎士団の本隊が到着すると、村を襲っていた亜人達はあっという間に一掃されてしまいました。
時を同じくして、イリスの母は無惨な亡骸で発見されました。
イリスは父と母の遺体に抱き付いて大声で泣きました。
「もう少し早く到着していれば……」
ソフィアはその姿を見ている事しか出来ません。
「イリスと言ったか……生き残ったのはこの者だけだ。それと、村民達が抗った痕跡がある。最期までな。彼等は文字通り命を賭けて、この娘を|守護《まも》ったのだ」
勇敢なイリスの両親や村民達に、ジェラルドは青剣を地に刺して哀悼を捧げました。
焼けた村には、イリスの泣き声がずっと響いていました。

だいたいこんな感じでお願いします!


ソフィア・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料程度に扱ってください。

●何人合わせ?
イリス
ソフィア
ジェラルド
以上3名です。
同背後なので扱いの公平性等は気にしないでください。
ソフィアとジェラルドは脇役でもOKです。

●この頃のイリスについて
多分6歳位です。
普通の農家の村娘で、ちょっと内気だけど誰にでも優しい良い子ちゃんです。
まだ猟兵化していません。或いは気付いていません。
治癒魔法の才能も目覚めていないか気付いていません。

●イリスがエルネイジェの王族の血を引いてるって?
引いてますが現在の王族とは遥か遠縁です。
それも百年どころでは無い大昔です。
本人はおろか王族も知らず、記録すらほぼ残されていないレベルです。

●血を引いた経緯は?
遥か遠い昔の王族の中に村娘と恋に落ちた者がいました。
その者は身分を捨てて野に降りました。

●この後のイリスについて
両親を失い戦災孤児となりました。
「清く正しく生きる事。それが命と引き換えにわたしを守ってくれた父と母に報いる事と信じてます」
聖竜教会が運営する孤児院に送られます。
聖竜教会とは、機械神インドラを崇める宗派の教会です。
そこで敬虔な修道女となります。
「あの日、わたしはインドラ様とその巫女であるソフィア殿下に御救い頂きました。信心を捧げる事で少しでも御恩をお返ししたいのです」
「あ! 勿論ジェラルド殿下とサラマンダー様にもですよ?」
そして治癒魔法の才能を芽生えさせます。
「この力はきっと、より多くの人々を癒すようにと断罪の竜帝が御授けになったんだと思います」
その後は修行を積んで神官となります。
「わたしなんかが神官なんて……でも頑張ります!」
一応キャバリアにも乗れるようになります。
「もし目の前で同じ事が起きたら、今度はわたしが助ける番になりたいんです。インドラ様とソフィア殿下のように。ですけれど、やはり荒事はあまり得意になれなくて……」
ゴブリンやその類いはトラウマになっています。
「あの日の事が今でも時々夢に出るんです……」
見るだけで腰が抜けてしまいます。
「ひいぃっ! ゴブリンはいやぁっ!」

●現代のイリスについて
背中に飛行甲板を背負った竜脚類型の超巨大キャバリアの巫女になったり、参照画像のパイロットスーツを貰ったりする事になるのですが、また別のお話しなので気にしないでください。
キャバリアのイラストが完成したらノベルをご依頼させて頂きたいと思っています。
よろしければお願いします。


ジェラルド・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料程度に扱ってください。

●この頃のジェラルドとソフィアについて
聖竜騎士団の騎士見習いでした。
多分まだ猟兵では無かったと思います。

●舞台となる農村について
エルネイジェ王国東部の田舎です。
ごく普通の農村で、村人の多くは王国特産のハッピーハーブや作物を育てて生計を立てています。
農村からずっと東に行くとバーラント機械教国連合の国境線に到達します。

●亜人部隊について
バーラント機械教国連合が使う亜人で構成された部隊です。
歩兵戦力はゴブリンやオークが中心で、キャバリア級の戦力としてトロールやオーガで構成されます。
主に蹂躙や略奪などの目的で投入されます。
基本的には使い捨てです。
脅威度としては、一般人で太刀打ちするのは難しいレベルです。

●王国軍は何をやっていたんだ!?
国境線で頑張ってました。
バーラントの正規軍を止めるので手一杯で、亜人部隊の浸透を許してしまいました。

●片田舎の農村を襲撃する理由なんてあるの?
ハッピーハーブの栽培はエルネイジェ王国の経済を支える産業の一つです。
また、一度摂取すると病み付きになる性質により、製薬や政治等の様々な分野でも影響力を及ぼしています。
ハッピーハーブを生産する農村を攻撃する事は、結果的に国力に打撃を与える事となります。



●如何にしてと問うのならば
 今日と変わらぬ明日があると信じることができるのは幸いである。
 つまるところ、朝日が今日も昇るということだった。
 イリス・ホワイトラトリア(白き祈りの治癒神官・f42563)にとって、それはきっと己が奉じる機械神『インドラ』がもたらしてくれるものであった。
 己たちの身に降りかかるであろう脅威は断罪の竜帝が、その罪を罰でもって正す。
 天網恢恢疎にして漏らさず、というのならば、きっと『インドラ』は汎ゆる害悪を雷でもって正す存在である。
 イリスは、敬虔なる祈りの徒であった。

 目覚めに祈る。
 朝日が今日も己の瞼に始まりを告げるように差し込んだように。
 変わらぬ毎日がどれだけ得難いことかを彼女は知っていた。
 父と母からの教えを忠実に守っていた。兄と姉もまた同じだった。
 優しい家族がいた。
 いたって普通の農村で育ち、今日も、明日も、その先もずっとこの村で生きていくのだと思っていた。
 それは変わらないことであったし、それ以上をイリスは望んではいなかった。
 今日と同じ日が明日も続きますように。
 平穏無事なる明日がまた来ますように。
「『インドラ』様……今日という日を父と母が、兄が、姉が……無事一日過ごせますように」
 祈る。
 祈りを捧げる。
 毎日欠かさずに幼いながらもイリスは祈りを捧げていた。
 兄はそんな自分の頭を優しく撫でてくれた。姉も同じだった。優しい二人は、自分のことを可愛がってくれていた。
 農作業の合間に遊んでくれたし、時には林檎を分けて食べあった。
 甘酸っぱい味わいが頬をほころばせる。

 毎日が幸せだった。
 母が呼ぶ声が聞こえる。朝食の時間だと。兄と父はすでに作業に出る準備を終えていた。
「先に行っているよ、イリス」
「ええ、兄さん。いってらっしゃい。後でお母さんと姉さんと一緒に」
「まずは顔を洗っていらっしゃい」
 他愛の無い会話。
 明日も続くと思っていた。きっと明後日、明明後日も。ずっと。
 こんなやり取りばかりが続くと信じて疑わなかった――。

●禍福はあざなえる縄の如し
 よいこととわるいことが交互にやってくるのが人生であるというのならば、今までの自分は幸福に満ちていたのだと思う。
 少なくともイリスは予感した。
 よいことの後にわるいことはやってくる。
 なら、あの空に浮かぶ灰色の煙は、わるいことの前触れのように思えたのだ。
 胸がざわめくようだった。
 知らず、姉の裾を握っていた。姉にも、自分の悪い予感が、それを感じた不安が伝わっているようだった。
「どうしたのかしらね」
 姉は無理に笑っているようだった。

 自分の手を握りしめる手が知らず強い力であることに、彼女自身気がついていないようだった。
 それが余計にイリスの心を掻きむしるようだった。
 なにか、わるいことが起ころうとしているのではないか。
 そんな予感が大きくなっていくように、東の空を染める灰色の煙が黒く染まっていく。
 近づいてきている。
「急げ! 女子供からだ! 早く!」
 怒号にも似た声。
 その声にイリスは思わず尋ねることしかできなかった。
 そうしなければ不安に心が押しつぶされてしまいそうだったからだ。

「お父さん、お母さん、どうかしたの?」
「バーランとの亜人部隊が近づいてきているらしい。逃げる準備をしなければ」
 亜人。
 その言葉に姉の自分の手を握る手に力が込められる。
 痛い、と思ったが、それを言葉にすることはできなかった。

 亜人とはバーラントにおける悪名高き存在。
 寝物語に聞かされる、恐怖の象徴。ときに子供らのしつけにも用いられる架空ではない恐るべき怪物たちの総称。
 ゴブリンやオーク、トロールにオーガと言った名で知られることもある存在。
 その非人道的な、そしてときに悪逆無道なる行いはイリスにも深く恐怖の対象として刷り込まれていた。
 喉が詰まる。
 言葉が発せなかった。それは母も、姉も同じだった。
 父と兄に急かされるようにして駆け出す。
「早く逃げなければ!」
「いや、間に合わない」
 父と兄は農具を手にとって自分たちとは別方向に駆け出していく。

 なんで? 一緒に! と叫ぶ声は兄の、あの優しかった兄とは思えない切羽詰まった声にかき消された。
「だめだ。イリス、君は母さんたちと一緒に逃げて隠れているんだ」
「やだ! いやだ! お父さんも!」
「……時間を稼げば王国軍が来てくれるだろう。心配するな。エルネイジェの民は戦士の民だ」
 兄と父は己に背を向けて駆け出した。
 自分の腕を引く母と姉は涙をこらえているようだった。それは死地に向かう父と兄をあんじてのことであっただろうし、また同時に彼らの生命が失われるであろう予感に打ち震えているからでもあっただろう。

「きっと大丈夫よ。大人の男の人達と一緒なのだから。ええ、きっと……」
 姉の声は震えていた。
 わかっていたことだ。それはあまりにも希望的観測であることを。
「王国軍が、必ず来てくれるわ。だから、今は」
 農作物を保管する倉庫は堅牢なる扉があった。彼処に逃げ込めばいい、と考えたのは普通の家屋と違って感情だから、という考えもあったのだろう。
 けれど、それはあまりにも浅慮な考えであった。
 其処が農作物の保管庫だというのならば、略奪を旨とする亜人たちにとっては、真っ先に狙われる場所であった。

 怒号が聞こえる。
 倉庫の奥に駆け込んだイリスたちは、その恐ろしげな声に身を震わせるしかなかった。
 きつく抱き合った体のぬくもりさえ忘れてしまうほどに、外の気配はどんどんと大きくなっていく。
 悲鳴が聞こえる。
 それは亜人たちが村の中まで入り込んできたことを示すものであった。
 男の声は聞こえない。
 つまり、それは。
「――ッ!!」
 奇怪な声。
 それが人のものではないとイリスはすぐに気がついた。
 体が震え、どうにもならない恐怖が喉から込み上げてくるのと同時に、倉庫の扉がけたたましい音と共に打ち据えられるのを聞いた。

 どうか、と祈る。
「『インドラ』様……!」
 祈る。
 祈ることしかできない。
 今までもそうであったように、これからもそうであるからとイリスは祈った。
 良い子であること。教えを遵守すること。祈りを欠かさぬこと。
 それらを必ず、と祈る。
 けれど、打ち破られた扉の音は絶望しか呼び込まなかった。

「――ッ!!」
 またあの声。
 恐ろしくも、下卑にして野卑たる声の主たちの騒々しい足音が近づいてくる。
 如何に倉庫と言えど、自分たちの姿はすぐに見つかってしまう。
 亜人たちの恐ろしくも欲望に塗れ濁った瞳がイリスを捉えていた。
 獲物。
 奪うべきもの。滴り落ちる涎が悪臭を放っていた。
 この距離でもわかる。
 あれは、己の欲望のためだけに生きる存在。欲望を満たすのならば、如何なることも肯定する存在。
 己たちのように祈り、他者と共存してくことをまるで考えていない。
 眼の前に奪うべきものがあると知った時の歪んだ笑みにイリスの足は震える。

「イリス! 逃げなさい!」
「走って!」
 母が飛び出す。
 姉と自分を守るために亜人たちへと我が身を犠牲にしたのだ。亜人たちは笑っていた。
 自ら身を差し出すというのならば、お前からだというように分からぬ言葉で喚き立て母を地面に引き倒した。
 衣服を引き裂く音が聞こえ、母の顔を打ち据える。
 髪を掴み、叩きつける音。
「やめて! お母さん!」
「イリスを連れて逃げなさい! 私のことは……ああっ!!」
 鈍い音が響く。
 足がすくむ。自分たちが一体何をしたというのだろう。
 どうしてあのように暴力性に満ちた行いができるのか、イリスは己の眼に刻み込まれたような光景に震える。

 姉が嗚咽を漏らしながら自分の手を引いて走る。
 どこもかしこも炎に包まれていた。決して大きい村ではなかった。だから、誰も彼もが見知った者たちだった。
 どこを見て、略奪が満ちていた。
 悲鳴を塗りつぶすように下卑た笑い声が追いかけてくる。
「やだぁ! こんなのやだぁ!!」
「イリス! 走って! 早く……あっ!?」
 横合いから前を走る姉に飛びかかる亜人たち。姉が、姉だったものが宙を舞う。
 それは亜人の巨躯が、まるで道端の何かを轢き潰すようなものだった。

 己の手を握っていた姉の手がだらりと力なく落ちた。
 血潮が地面に広がっていく。
「え……ねえ、さん……?」
 いない。
 さっきまで居たのに。
 混乱するイリスは見てしまった。宙を舞った姉の体が、まるでボロ雑巾のように己の視線の向こう側に落ちているのを。
 声が出ない。
 喉から絞り出そうとした悲鳴は、出なかった。

 それでも走った。走るしかなかった。
 母も、姉も、兄も、父もいない。
「お父さん! お父さぁん!!」
 叫ぶ声。
 応える者はなく。
 人の祈りも、願いも、届かない。此処は地獄だ。炎が全てを飲み込むのならば、己もそうなるのだろうとイリスは思った。
 足もつれ、何かに足を取られてイリスは身を地面に投げ出す。
 体を打ち据え、息が漏れる。
 頬濡らす涙は、意味などなさない。
 自分が何に躓いたのかと思い、振り返る。
 そこにあったのは、死体だった。人間だったもの。大人の体。なんで、と思った。
 自分を助けてくれる者など誰一人としていない。

 振り返った先にあったのは、亜人たちの群れ。
 嗜虐の心に塗れた瞳が戦火を受けて濁った輝きを放っていた。その幾つもの双眸はイリスを射抜くように向けられていたのだ。
「いや、いや、いや……いやぁぁぁぁッ!!」
 来ないで、と手を向ける。
 けれど、きっと自分も母と同じような目に遭うのだと思った。
 それは避けようのない未来だと思ったのだ――。

●断罪の竜帝
 雷が奔ったようだった。
 イリスの眼の前を雷のように走り抜ける何かがあった。
 轟音が鳴り響き、迫る亜人たちを轢き潰す何か。巨大な何か、その影をイリスは見上げる。
「『インドラ』! 足元に気をつけて! ご無事ですか!?」
 その影から飛び降りてくる声の主をイリスは知らなかった。
 けれど、どこか懐かしい気配を覚えたのは何故だったのか。彼女も、そして、声の主も、他の誰にも知り得ぬことであったが、それは遠き血脈の為せる業だった。
 イリスは遥か遠い昔に『エルネイジェ王国』の王族の血を引く者だった。
 身分違いの恋に生きた者。
 記録にも残らぬほどのはるか昔にあった小さな一つの恋物語が紡いだ血脈。

 それ故に、影より飛び降り駆け寄ったソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)の姿に恐怖よりも先に懐かしさを覚えたのかもしれない。
「だれ……?」
「私は『エルネイジェ王国』第ニ皇女、ソフィア・エルネイジェと申します」
 彼女の言葉にイリスは混乱するしかなかった。
 己の住まう小国家。統治する王族の一人が今目の前にいるという事実に混乱するしかなかったのだ。
 そして、彼女が従えるは、鋼鉄の竜の如きキャバリア。
 アイセンサーの輝きが己を見下ろしていた。

「こちらは我が戦友の『インドラ』――」
「――ッ!!!!」
 咆哮が轟き、二人は顔を向ける。
 そこにあったのは恐るべき巨躯を持つ亜人オーガの姿だった。巨大な牙。強靭な体躯。その巨腕は人の体と思しきものを握りしめ、そして、その腕をまるで食物のように引き裂いて食していた。
 血潮が溢れる。
 衝撃の光景であった。
 けれど、イリスにとって、それは二の次だった。
 オーガが口にしていたのは。
「――お父さん!?」
 瞳が見開かれる。閉じたいと思ったのに、意に反して彼女の瞼は開かれていた。その眼にしっかりと、その光景を刻み込んでしまっていた。

 もう涙は枯れ果てた。
 母が亜人たちの慰み者にされ、姉は轢き殺された。
 そして、目の前で父の体を貪るオーガがいた。どうしてこんなことになったのか、わからない。
 だが、オーガは次なる獲物に『インドラ』を定めたようだった。
 乗り手が降りた今ならば、オーガは容易く『インドラ』を組み伏せるだろう。ソフィアも無事ではすまないだろう。
「間に合わな――」
 ソフィアが己の体を抱く。それはとっさに自分を守ろうとしたのだろうということがわかった。
 しかし、それではソフィアが、とこれまで守られるばかりだったイリスは叫ぼうとする。

「我が妹と民を害するのは許さん!」
 声が聞こえた。
 炎のように苛烈なる声。裂帛の気合と共に赤き炎が迫るオーガの喉元に喰らいつき、掻き切る。
 血潮が雨のように降り注ぐ。
「ジェラルドお兄様!」
『大型の類いは俺と『サラマンダー』が引き受けよう』
 ジェラルド・エルネイジェ(炎竜皇子・f42257)の駆る竜型キャバリア『サラマンダー』が彼の言葉受けて咆哮する。
 オーガの巨体を蹴倒し、さらにイオンブースターが凄まじい突風を生み出しながら疾駆していく。
 風が止んだ。
 炎の熱波がイリスの涙乾いた頬を撫でるようだった。
 慰撫するような暖かさがあった。

 それは熱波だけではなく、ソフィアの掌だった。
「ご安心なさい。あの赤いキャバリアは『サラマンダー』で、乗っているのは私の兄ジェラルド第一皇子です。すぐに」
 すぐに、とソフィアは言葉をつなぐことができなかった。
 彼女を安心させようと言葉を紡ぐより早く、イリスの半狂乱なる声が遮ったのだ。
「お父さんが! お母さんが!」
 もがくようにしてソフィアの抱きしめた腕を振りほどこうとしていた。
 父の体が、其処に在る。
 腕は引きちぎられ、胴はえぐられていた。
 絶命していることは言うまでもない。

 ソフィアは忸怩たる思いだっただろう。『バーラント機械教国連合』の侵攻は王国軍が国境線で食い止められていたが、正規軍と混乱に乗じるようにして現れた第三勢力に手一杯で亜人部隊に対処することができなかったのだ。
 それが、この惨状である。
 自分たちが聖竜騎士団から強引にキャバリアでもって飛び出さねば、イリスの生命すら救うことはできなかっただろう。
 ただ蹂躙されるしかなかったはずだ。
 生命あれば、と言えるわけがなかった。イリスは父の亡骸に走り出そうとしている。だが、それをソフィアは抱きとめた。
 だめだ、と絶命しているのだと、告げることはイリスの心を二重に抉るものだと知りながらも、しかしそれでも彼女は首を横に振るしかなかったのだ。

「お母様はどちらに?」
 亜人は男と見ればまず先に殺害を為す。
 だが、女であれば慰み者にするのが常だ。ならば、わずかに。そう、わずかに希望があるように思えた。
 例え、死よりも辛い凌辱を受けようとも生命あれば、と。
 可能性があるのならば、とソフィアはイリスを抱きしめて言うのだ。
「助けに参りましょう!」
『インドラ』に乗り込み、駆け出す。
 僅かな、幾ばくかの。
 限りなくか細い希望の糸を手繰り寄せるように――。

●失意、失望、失墜
 例え、それらの事柄に塗れても人は生命在るのならば、生きていかねばならない。
 どんなに悲しくても。
 どんなに辛くても。
 どんなに苦しくとも。
 生きねばならない。誰に頼まれるでもなく、己の胸の鼓動が刻まれている。

 聖竜騎士団のキャバリアが、亜人部隊の襲った村へと到着し、彼らを一掃していく。
 亜人たちがキャバリアには歯が立たない存在であったとしても、農村に生きる者たちにとっては死を覚悟する存在だ。
 それは、あまりにもあっけないものであった。
 こんなに簡単なのならば、とイリスは思わないでもなかった。
「お父さん、お母さん、姉さん……」
 三つの遺体が並んでいた。
 膝が崩れるようにして地面に落ちる。
 どれも無惨な亡骸だった。腸を貪られ、まるで食物のように食い荒らされた父。言いようのない陵辱の痕残る母。人体の原型を留めていない姉だったもの。

 亜人部隊が侵入した村は全滅だった。
 イリス以外の誰もが生きていなかった。変わり果てた姿。遺体が人の原型を留めているのであれば、それは幸いであったとも言える。
 亡骸を埋葬することができたからだ。
 少なくとも、人の最低限の尊厳は守られただろうから。
 けれど、亜人たちの所業は鬼畜悪魔のそれであった。人の原型すら認めぬ遺骸が数多く在った。
 きっと、兄も。
「兄さん……」
 あの優しかった兄も、とイリスは枯れ果てたはずの涙が溢れるのを覚えただろう。

 そんな唯一の生存者の背中をソフィアは見つめるしかなかった。
「もう少し早く到着していれば……」
 ジェラルドは違った。ゆっくりと、その背中へと一歩を踏み出した。
 彼には聞こえていたのだ。
 世界の声が。
 今は悲しむべきなのだろう。けれど、と叫ぶような声が聞こえたのだ。
 生命あるのならば、と。
「イリスと言ったか……生き残ったのはお前だけだ」
 彼女の肩に手を置く。
 それは熱を持って涙流すイリスの顔をあげさせるには十分だった。

 風が吹いていた。

「だが、見よ」
 ジェラルドは言う。ソフィアはこんな時に、と兄を諌めようとして立ち止まった。
 彼の瞳が、有無を言わさぬ光を放っていたからだ。
「これが村民たちが抗った痕である。最期までな。彼らは文字通り生命を懸けて、お前を|守護《まも》ったのだ」
 ならば、とジェラルドは決して砕けぬ己が剣を大地に突き立てる。
 胸には哀悼を。
 されど、瞳には敬意を。
 何かを守ろうとすれば、何かを喪う。
 全てを得ることはできず。されど、それでも、と祈りは願いに昇華したのだ。
 例え、悲劇に塗れても、ただ一つの命をと。
 故に、とジェラルドはイリスの泣き声に耳朶を打たれながらも、世界の声を聞く。

 純粋なる悪性を討てと。
 そのために、と――。

●未来があるのだとして
 果たして、それが幸いになるだろうかと思う。
 だが、しかし、生きている己の生命が守られたものであるというのならば、それに報いなければならないとイリスは思う。
 あの日、絶望と失意に塗れてもなお、イリスは祈りを欠かさなかった。
 諦観に伏しても仕方ない出来事だった。
 それでも、己がために生命を懸けた者がいたのだというジェラルドの言葉彼女の耳に残っていた。
「ならば、なんとします。イリス・ホワイトラトリア」
 ソフィアの言葉にイリスは深くうなずく。
「あの日、わたしは『インドラ』様とその巫女であるソフィア殿下にお救い頂きました」
 それは決意だった。
 何ができるかなどわからない。
 身よりもない。縁故もない。ただ一人のイリス。たったひとりぼっちのイリスになってしまった。

 それでも。
「信心を捧げることが御恩返しであると思っております。無論、ジェラルド殿下にも、『サラマンダー』様におかれましても同様でございます」
 胸に抱くは決意だけではなかった。
 力が在る。
 それは祈りが願いに昇華したものであったのかもしれない。
「もし目の前で同じことがまた起きようというのならば、今度こそわたしが、と思うのです」
 今も夢に見る。
 悪夢だ。あの日から毎晩のように見る夢。
 亜人たちの下卑たる笑い声。迫る爪が、手が、舌が、悪臭が、己に癒えぬ傷を心に刻み込んだ。
 毎晩、眠ることを恐れる。

 だが、それでも。
 己は守られたのだ。
 ならばこそ、イリスは凛然たる眼差しでソフィアを見上げ、告げる。
「かつてのソフィア殿下とジェラルド殿下のように。必ずや、わたしが助けいたします」
 決意は満ちていく。
 悪夢は消えず。けれど、決意で拭うことはできるのだ。

 故にイリスは神官たる洗礼を受けるに至る。
 奪われたものを奪い返すのではなく。己と同じ境遇の者を一人でも守らんとする意志に背中押されて立ち上がる。
「――ふ、よい顔になった」
 ジェラルドの言葉にイリスはぎこちなく笑む。
 涙に覆われた過去は、癒えず、消えず。
 されど。

 風の彼方に熾火は昌盛す――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月01日


挿絵イラスト