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バトル・オブ・オリンピア(嘘)〜フォーミュラを目指して

#アリスラビリンス #戦後 #【Q】 #チャンピオン・スマッシャー

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#戦後
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#【Q】
#チャンピオン・スマッシャー


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●ここで出さないともう二度と出す機会がない気がした
 アリスラビリンスに力持ちの愉快な仲間が住む村があった。
 そこは幾度となく猟書家の襲撃を受け、さらにはオウガ・フォーミュラの襲撃すら受けたが、それでも猟兵たちの活躍でどうにかそれを退け、あの時奮戦したスティーブを始めとする力持ちたちも今は平和な日々を過ごしていた。
「あ~、最近何事もなくて暇だなあ」
「そんな事言ってると、またあいつが来るかもしれねえぞ」
「いやいやさすがにもうそんな事は」

『ふははははははは!!私の名はチャンピオン・スマッシャー!!』

 ……来やがった。

『あのプロレス・フォーミュラとやら!あっさり負けおって!同じプロレスラーとしてあまりに情けなく思うぞ!』
 なぜアリスラビリンスでくすぶっていた元猟書家がそれを知っているのか?なんか直感みたいなものが働いたのだろう、たぶん。
『あんなふがいないやつがフォーミュラを名乗ったのがそも間違いだったのだ!やはりこの私が直々にアスリートアースに赴き、プロレスラーの真の強さを知らしめてやるしかあるまい!』
「お前は何を言ってるだべか」
 言葉の意味がわからずぽかんとする力持ちたちに構わず、チャンピオン・スマッシャーは続けた。
『喜べ!まずはお前ら全員私の弟子にしてやろう!そして皆であの世界に殴り込むのだ!!』
「何を言うか!お前の弟子なんかになってたまるか!」
 喧嘩っ早い力持ちたちが即座に臨戦態勢に入るのを見て、チャンピオンはにやりと笑った。ちなみにチャンピオンはもはや猟書家ではなくただのいちオブリビオンに過ぎないので、これまでと違ってリングは自然に現れる事はなく、今弟子たちががんばって設営している。また、この言葉もこれまでと違ってユーベルコードではないようだが、やはりこれを言わねば始まらない。
『今ここに無限番勝負ロードオブグローリーを開催する!!』

 一方グリモアベース。
「……システム的ないろいろがあるから、さすがにチャンピオンくんが異世界に行くのはたぶん無理だと思うのだ。たぶんね」
 世の中絶対はないが、まあ大豪傑・麗刃(25歳児・f01156)が言うとおり、たぶん無理なんだろう。たぶんね。たぶん言い過ぎ。
「ただアリスラビリンスで暴れられるのはそれだけでめいわくきわまりないし、兆億百千万が一ダークアスリートではない普通のオブリビオンがアスリートアースに行っちゃったら大変な事になりかねないから、戦争の最中ではあるけどきっちり片づけてほしいのだ」
 やる事はシンプルだ。まずはチャンピオンの弟子であるオウガと戦い、その後に出てくる元猟書家のチャンピオン・スマッシャーを倒せば良い。敵はなんとかしてプロレスに持ち込もうとするが、別に猟兵としてはそれにこだわる必要もなく……。
「じゃ、がんばってプロレスしてほしいのだ!」
 なんかこだわってほしいらしい麗刃の一礼を受け、猟兵たちはアリスラビリンスへと向かうのであった。


らあめそまそ
 らあめそまそです。アスリートアースの戦争の最中ではありますが、アリスラビリンスのシナリオをお送りいたします。むこうがお手すきの時にでもご参加いただければ幸いです。
 まあ、もうプロレスにこだわる必要もないのでしょうが、でもプロレスやってくれるなら私(と敵)が喜びます。プロレスをプレイングに取り入れた場合に判定有利になるとかは……場合によってはあるかもしれません。

 それでは皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『堕ちた犠牲者『アリススタチュー』』

POW   :    石像擬態
全身を【物言わぬ石像】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    石呪灰煙
レベル分の1秒で【口から石化ガス】を発射できる。
WIZ   :    石化接触
【本体の身体のどこか】が命中した対象に対し、高威力高命中の【石化の呪い】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。

イラスト:TAB-AS

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『固め技』の使い手
 オウガ・フォーミュラが倒れ、猟書家も倒れ、アタマを失ったアリスラビリンスのオウガたちにはかつてほどの力もなく、単発的に暴れまわったり、再起を図って無人の『不思議の国』にこもっていたりがせいぜいであった。で、そんな無人領域に隠れていた石像のようなオウガたちのところに、再起を期して各地を放浪していたチャンピオン・スマッシャーが迷い込んできたのである。
『なんだこれは?この程度が固め技だと?』
 アリススタチューの石化技をあっさりとはねのけ、チャンピオンは吠えた。
『この私が真の固め技が何たるかを教えてやろう!』

 かくしてアリススタチューたちは強制的にチャンピオンの弟子にされ『固め技』を徹底的に叩き込まれたのである。そして今、村人たちの前に立ちふさがり、徹底的に固め倒して強制的にチャンピオンの弟子にしようとしているのだ。そんなアリススタチューたちの『固め技』は以下の3種類だ。
【石像擬態】は完全防御だ。動けなくなる代わりにあらゆる攻撃に対して無敵になるという。アリススタチューはこれで相手の必殺技を受けきり、技をガードされて隙を見せた相手に必殺の関節技を繰り出して骨を折ろうとするだろう。さてどう攻略しようか。無敵を破る方法があるのか、それとも他に何か手があるのか。
【石呪灰煙】は石化ガス……なんだけど、チャンピオンの教育の成果もあり、ガスではなく関節技で固めてくる。あるいは一瞬の丸め込みでスリーカウントを狙ってくる。まさに固め技だ。超高速で繰り出されるため隙を見せたら確実に狙ってくる事であろう。一瞬の油断も許されない、U系を思わせるような攻防にどう対処するか。
【石化接触】は本来は触った相手を石化させるというものなのだが、これまたチャンピオンに徹底的に仕込まれた関節技あるいは丸め込み技となっている。ちょっとでも触ればいかなる状態でも技にもっていけるというのは実に脅威であろう。一瞬の油断も許されない、U系を思わせるような攻防にどう対処するか(2回目)。
 以上、固め技を物理的な硬化ではなく技を用いて相手の動きを封じる方に進化させたその技は強力であり、またユーベルコードを使わずとも石の体はかなりの防御力があるだろう。なかなか面倒な相手ではあるが、所詮は前座レスラーだ。オープニングマッチで会場を温めて、メインイベントに備えようではないか。
エーファ・マールト
「固め技ってそういうもんじゃねえだろ!ケヒャヒャヒャ!」
黒兎さんの挑発的な言動はごもっともですが、しかしグリモア猟兵さまのいう通り前座レスラー。ちょちょいと軽くのしてしまいましょう。さながら……イリュージョンのように!

固められて身悶えつつデコピン一発。これよりお見せするは奇跡の大脱出。不可能と思しき固め技から脱出する妙技をご覧にいれましょう。幸いこのステージなら距離を取られることもらないでしょう。大道芸で怪我しないよう己の関節でも外しつつ手際良く脱出。むぎゅっと踏んで1、2の3。いかがでしたでしょうか? 盛大な拍手と、手品仕込みの追加のダメージをお見舞いしましょうか!



●体操出身のプロレスラーは多いけど大道芸出身はどうだったか
 真っ先にリングに上がったエーファ・マールト(|魔道化《ピエロ》黒兎カーニェと|その助手《本体》・f28157)の姓『|Mahrt《マールト》』とは悪夢を見せるドイツの夢魔であるらしい。それがいろいろあって現在は大道芸にハマってパフォーマーをやっているらしい。片手にはめられた黒兎のハンドパペットに、本人もバニーガール姿と、なかなかの見栄えだ。で、対峙するアリススタチュー……仮に『A』としよう。は、そんなエーファの姿にも微動だにしない。石なのでもともと表情がないのか、それとも相手の姿に全く関心がないのかはさだかではないが。
『ケヒャヒャヒャ!』
 そんな相手に向けて挑発めいた笑いを浴びせたのはエーファの片手のマペットのカーニェだった。おそらくはドイツ語でウサギの事を『|Kaninchen《カニーンヒェン》』と呼ぶ事に由来するのだろうか。それはそうと。
『固め技ってそういうもんじゃねえだろ!ケヒャヒャヒャ!』
『何を言うか!』
 カーニェはかなり口は悪いようだ。対するAはあくまで無表情なため、挑発が効いているのかいないのかはちょっとわからない。代わりにリング下のチャンピオンが応じた。
『四の字固めにアキレス腱固め!昔から関節技は固めと呼ぶのが習わし!ならば固め技で何も問題はない!』
 まあ正直筆者も関節技を固め技と呼ぶのは多少ボーダーラインである気はしたが、まあそこはそれ。
「黒兎さんの挑発的な言動はごもっともですが」
 で、普段のショーではカーニェの下僕のようにこき使われるエーファであるが、あくまで本体はこちらであり、当然試合をするのもエーファの方だ。あくまで無表情のまま闘志を見せようとしないAの前に立ちはだかると、堂々と言い放った。
「しかしグリモア猟兵さまのいう通り前座レスラー。ちょちょいと軽くのしてしまいましょう。さながら……イリュージョンのように!」
『……私本来のやり方で固めたくなるような相手です』
 さぞや見栄えの良い石像になっただろうにと、無表情な上に口調も感情が感じられないものながら、それでもなおAの言葉にはどこか残念そうな響きが見て取れた。
「確かに後世に残る作品になるのは間違いないですが、それをやられるのはたまったものじゃありませんね!」
 エーファは冗談とも本気ともとれるような反応を返した。このあたりはさすが舞台慣れしているといったところか。ともあれゴングが打ち鳴らされた。Aは無表情ながら、石でできた体とは到底思えないほどの俊敏な動きでエーファの関節をとりにかかった。エーファもステージで鍛えた動きで簡単に掴ませようとしない。
「秒殺決着なんてエンタメじゃないですよ!」
『なんとでも言いなさい、関節技での秒殺もまたギミックのうちです、それよりそちらからは来ないのですか』
「そ、そのうち行きますよ!」
 言い返しはしたが、実際Aの動きに隙が見当たらず、エーファが攻めあぐねているのは確かであった。このあたり前座ではあるがチャンピオンにみっちりプロレスを仕込まれたというのは伊達ではないらしい。そうこうしているうちについにAのアマレス式タックルがエーファを捉えた。そのままAはエーファをリングに倒し、マウントポジションを取った。
『ギブアップをおすすめします』
 この後に来るのは馬乗り顔面パンチ、そして隙を見て腕関節か足関節を極めに来るか、それを嫌がって背を向けた所にスリーパーホールドだろうか。これを逃れる手段は……
「ギ、ギプアップなんかしませんっ!」
 エーファが伸ばした腕がAに届き、中指がその額を弾いたが、不十分な体勢ではたいしたダメージにはならない。苦し紛れだろうか、Aはそう判断した……が。
「これよりお見せするは奇跡の大脱出」
 エーファの表情は敗北を前にしたもののそれではなかった。余裕たっぷりな笑顔から発せられるは、舞台の前口上めいた言葉であった。
「不可能と思しき固め技から脱出する妙技をご覧にいれましょう」
『おもしろい冗談です』
 さほど面白いと思ってないような無表情で、Aは拳を固めた。
『ではその妙技とやらを見せてもらいましょう』
 そして振り下ろされたAの拳がエーファの顔面をとらえようとした、その瞬間。
「1、2の3!」
 信じられない事が起こった。鉄壁のマウントポジションからエーファがあっさりと抜け出したのだ。そしてそのままAの後ろに回るとその後頭部をむぎゅっと踏みつけてみせたのだ。何が起こったか観客はむろんわからないし、Aにもわからない。たぶん関節を外したのだろう事ぐらいは想像つくが、細かい事はさっぱりであった。言えるのは、大道芸を行う事の宣言、そして大道芸技。この一連の動作こそエーファ【|霊鬼戯芸《エンタメフェス》】の力であった。
「いかがでしたでしょうか? 盛大な拍手を!」
 会場を拍手と歓声が覆い尽くす。そんな中、どうにかAは態勢を立て直そうとするも、技の姿勢に入るたびに大道芸技で逃れられ、逆にダメージを入れられる始末である。
『……小癪な真似を、ですがこれで終わりです』
 それでもAはどうにかエーファの背後を取り、その胴に両腕を回す……が。
「そうですね、終わりにしましょう!」
 逆にエーファがAの胴体に両足を回すとくるっと前方一回転、逆にフォールの体勢に持っていった。もはやAにこれを返す力は残っておらず、最後も大道芸のような華麗な技でオープニングマッチは決着したのだった。

【○エーファ・マールト(XX分XX秒:サムソンクラッチ)アリススタチューA●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリスフィーナ・シェフィールド
放浪していた……ということはまだ生きていたのですかG並みにしぶといですわね。

同じ効果のユーベル・コード持ってますから防御力の高さは知っていますわ。
ですけれど動けないという点がリング上の試合という今回の場合欠点ですわ。

指定コードを発動してリミッター解除で強化された怪力でもって
攻撃すると見せかけ腕を掴みます、そのまま飛行し空中に持ち上げながら
振り回して限界速度まで回ったら勢いのまま手を離して思いっきり遠くに放り投げます。

リング上に戻って来るには無敵を解除するしかないでしょう、そこを叩くことにいたしますわ。
もしも戻ってこないなら20カウントで場外負けですわね。
卑怯でなく頭を使ったと言ってください。



●プロレスならではの勝利条件
「放浪していた……ということはまだ生きていたのですか」
 イリスフィーナ・シェフィールド(前途多難なスーパーヒロイン。・f39772)はチャンピオン・スマッシャーと対峙するのはこれが初めてではない。
「G並みにしぶといですわね」
 なので一度倒した相手が存命だったというのはそれほど気分の良い事ではなかった。なのでタフネスぶりを罵倒する時に使う最大級の悪口をイリスフィーナが使ってしまったのも仕方のない点はあった。まあオブリビオンなので復活する事があるのは仕方ない事であるとはいえ。さておき、チャンピオンとの再戦の前に目の前の相手と戦わなければならない。石の体を持ち関節技を主体に戦う難敵とイリスフィーナはいかにして戦うのだろうか。
『あなたも実に石化映えしそうな姿ですね』
 破れたAに代わりリングに上がったアリススタチューBもA同様、本来的には文字通りの意味で固めたい欲求はあるようだが、それでも今回はちゃんとプロレスをやる意思はある、と思いたい。
「そうはいきませんわ!わたくしにそのような属性はありませんわ!」
 他の属性についてはよくわからないが、とりあえず石化についてはイリスフィーナはきっぱりとこれを拒絶するようだ。繰り返すが今回はちゃんとしたプロレスのはずだ。たぶんおそらく。
 ともあれゴングは鳴らされた。Bは石でできた体に見合わぬ速度でイリスフィーナを捉えようとし、イリスフィーナもまたヒロインに相応しい俊敏な動きでBの隙を狙うべく動く。互いにベストポジションを取ろうとしてリング上を動き回り、一度離れてはまた組み付く、そんな時間がしばし続いた。
(確か相手の技は……)
 動き回りつつ、イリスフィーナはグリモア猟兵より与えられた敵の情報を思い出していた。その技【石像擬態】は文字通り我が身を石像と化す技だ。石像とはいってもその硬さは石の比ではなく、実質上あらゆる攻撃に対して無敵になるという反則的なものだ。弱点として技の使用中はまったく動けなくなるが、こと防御に使うと割り切るのであればこれほどに強力なものはない。相手の大技をこれで受け流し、隙をさらした所を攻撃する作戦だという。
(同じ効果のユーベル・コード持ってますから防御力の高さは知っていますわ)
 ユーベルコードにはよくある話で、異なる名前と外見を持つものが同じ効果という事はしばしばある。イリスフィーナの場合【シルバリオン・アーマー】というユーベルコードがこの【石像擬態】と同様の効果であった。それゆえ、その恐ろしさについては熟知していた。だが、それがあるいは幸いしたのかもしれない。
(ですけれど動けないという点がリング上の試合という今回の場合欠点ですわ)
 そう。強みを知る事は同時に弱みを知る事でもあるのだ。知識は力なのだ。そうこうしているうちに互いに決め手を欠いたまま戦いは長引いていった。
「全力全開ッッッ!」
 状況を打開すべく、イリスフィーナが動いた。
「アルティメットモードですわっ!!」
 叫びと共にその体が黄金の輝きを放った。その攻撃力を大幅に上げる技で一気に勝負をかけるつもりだろうか。
『……防御力の低下を確認』
 Bは冷静に判断した。まさにその通りであり、今のイリスフィーナは攻撃力に全振りした状態であり、防御は完全にゼロになっている。あらゆる攻撃が致命的になってしまう状態だ。さりとてBもイリスフィーナに即座に攻撃を仕掛けるわけにはいかない。相手の攻撃力が超絶的に上がっているからには、こちらの攻撃で一撃で相手を倒したとしても反撃でダブルノックダウンになってしまう可能性がある。それでは後ろに控えるチャンピオンはおもしろくないだろう。
「では行きますわ!」
『……防御行動に移行します』
 真正面から向かってくるイリスフィーナに対するBの選択は結局防御だった。当初の予定通り、相手の攻撃を防ぎ、反撃で倒す事にしたのである。だがそれこそがまさにイリスフィーナの狙いだったのだ。
「かかりましたわね!」
 拳でBを殴るかと思われたイリスフィーナが、Bの腕を取ったのだ。身体能力もリミッター解除され、その怪力でBを掴むと、そのまま空高く飛びあがったのである。
『……空中から放り捨てるつもりですか、無駄です』
 Bもこれには驚いたが、それでも組み付かれている以上は石化を解除するわけにはいかない。しかし高所から落とされても耐える自信はあった。ならば当初の予定通り、相手の攻撃を全て受け流してから……。
「別に落とされたぐらいでダメージが入るとは思いませんわ」
 同系の力を持つイリスフィーナにはそれは重々承知であった。その狙いは全く別のところにあったのである。イリスフィーナはBを思いっきり振り回すと……手を離したのだ。
『……しまった』
 ここに来てBはようやっとイリスフィーナの狙いに気が付いたのだ。狙いはリングアウト勝ちだ。プロレスはリング上から場外に出た時、一定のカウント(今回は20)以内に戻ってこられなければ負けとなるのだ。プロレスであるからこそ可能な勝ち方である。Bは石化を解除する事もできず、そのままリングよりはるか遠くに落下した。正直この発想はなかった。
『お、おのれ卑怯な!』
「卑怯でなく頭を使ったと言ってください」
 抗議するチャンピオンにもどこ吹く風とばかりにイリスフィーナはリング上に着地した。場外を見ると、石化を解除したBがリング内に戻ろうとこちらに向かってきている……が。
「とう!!」
『!!??』
 狙いすましたイリスフィーナのスワンダイブ式場外ドロップキックがBに命中した。さすがにこれにはひとたまりもなく、Bは場外でダウンしたまま20カウントを聞いたのだった。

【○イリスフィーナ・シェフィールド(XX分XX秒:リングアウト)アリススタチューB●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

高崎・カント
「もーきゅ?」
もしキャンピーさんとタッグ組んだら36世界王者決定戦が始まっちゃうのです?
戦場が全部プロレスな戦争……ちょっと困るのです

相手が固め技特化なら、ピョンピョンと小回りを利かせながら足元から攻めるのです

組み付かれたら、【UC使用】して固められたままパチパチするのです!
石だから電気は効かない? 甘いのです!
パチパチの電気エネルギーを熱に変えて浴びせるのです
これだけ動き回れば汗もかくのです
身体の隙間に入った水分を蒸発、膨張させて内部から石を割るのです!
動きが鈍ったところで脱出し、ロープで勢いを付けてドロップキックなのです!

「もっきゅぴー!」と観客の力持ちさんたちに勝利をアピールなのです!



●実は筆者も完全に失念していた
 システム的な問題があり、チャンピオン・スマッシャーはアスリートアースに行く事はできない。それはおそらくこの闘いに挑んだ者の共通認識であっただろう。事実グリモア猟兵もそう思っていた。だが、確かに世の中絶対という言葉は存在しなかった。ネバーセイネバー。我々はつい最近、猟兵でないにも関わらず自由に異なる世界同士を行き来する存在を目の当たりにしたばかりではないか。
「もーきゅ?」
 今回のチャンピオンの野望について聞いた高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)が思い浮かべたのが、まさにそれの事であった。
(もしキャンピーさんとタッグ組んだら……)
 そう、アスリートアースの戦争で登場し、異世界を移動してみせたキャンプ・フォーミュラのキャンピーくん。その強大な能力とは裏腹に、キャンピーくんの欲求はキャンプするだけであり、猟兵の活躍でそれはあまりにあっさりと満たされたわけだが、確かにその力を変な事に利用する者が現れる可能性はまるきり否定されるべきものではない。まさにネバーセイネバーである。
(36世界王者決定戦が始まっちゃうのです?戦場が全部プロレスな戦争……ちょっと困るのです)
 そんな想像にカントは身震いした。まあ、それはそれで喜ぶ猟兵は存在するだろうが、はっきり言って付いていけない者の方が多いだろう。そもオウガを他世界に流出させるわけにもいくまい。ここで勝たねばならないと、カントは改めて決意を固めたのだった。
『……愉快な仲間?いや、違う』
 リングに上がったカントを見て、おそらくはモーラットというものを初めて見るアリススタチューCはそんな事を考えたようだ。まあアリスラビリンス固有種族である愉快な仲間は通常人間サイズではあるらしいが。
『……これはどう固めれば良いのでしょうか』
『まずは組め!組めばわかる!』
 困惑したようにチャンピオンの方を向いたCだったが、チャンピオンの返事はわかるような、わからないような、なかなか難しい要求だった。それでもCは改めてカントの方を向き直り、構えを取った。一方のカントの方も事前情報から方策を考える。
(相手は固め技特化なのです!なら……)
 かくしてゴングが打ち鳴らされ、Cはチャンピオンのアドバイスに従い、ともあれ組みに行く事にしたようだ。カントを捕まえるべく真っ向から突っ込みに行った。一方でカントとしては捕まるわけにいかない。ましてや相手はちょっとでも触れれば技の体勢に入れる脅威の技術の持ち主なのだ。
「きゅぴー!」
 カントはモーラット特有の小さい体を活かしてCの足元に飛び込むと、素早く動き回った。その動きにさしものCといえどなかなかこれを捕える事ができない。
『小癪な真似をします、ですが逃げてばかりでは勝てませんよ』
「もきゅもきゅきゅきゅい!」(そんなことはわかっているのです!これも作戦なのです!)
 カントはいまだにモーラット特有の鳴き声しか発せられないらしいが、猟兵にはちゃんと言葉が通じるらしいので、おそらくオブリビオン相手でも通じているだろう、たぶん。ともあれカントはCの掴みから逃れつつ、その足に体当たりを仕掛けていった。石の体は硬いが、それでも攻撃を繰り返せばいずれは崩れるはずだ……ただし。
「きゅ!?」
『……っと、苦労させられました』
 足を折り切る前に捕まらなければ、の話であるが。そしてついにCの手がカントに触れ、カントは瞬く間に捕らえられてしまった。
「きゅ!きゅきゅ!」
『……成程、確かに捕まえれば、どうすればいいかよく分かります』
 チャンピオンの言葉は存外正しかったと、カントを捕えたCは一見何の感慨もない風につぶやいた。少なくとも生殺与奪の権をカントは完全に握られてしまった。ここから極めるか、絞めるか、それとも……観客たちはそう思ったに違いない。だがカントは逆転の手段がちゃんと用意していたのだ。
「きゅぴー!!」
 カントから強烈なパチパチ静電気が放たれた。モーラットの得意技【モラスパーク】だ。Cは至近距離でまともにこれを受ける事になった、が。
『……それはさほど有効な技とは言えません』
 Cの石の体に電気は効かない。いわ系にでんき系のわざは普通に通るが、昔はいわ系は大抵でんき系がこうかがないのじめん系を一緒に持っていたから、そういうのがあるのかもしれない。いわ単にも見えなくもないが。
(甘いのです!)
 カントは電気エネルギーを熱エネルギーに変換してCにぶつけた……が、それでもCは涼しい顔をしていた。まあそもそも表情を変えないのだが。
『……それは悪手です』
 ほのお系ならばいわ系には半減、じめん系も重なるならさらに半減で1/4だ。これではほのおダメージがCを倒す前にCのかくとう技がカントをひんしに追い込む……少なくともCはそう思っていた。
(ではみず系ならどうです?)
『……みず?』
(これだけ動き回れば汗もかくのです!)
『……え?』
 瞬間、Cの体がひび割れ始めた。カントは無駄に動き回っていたわけではない。流れ出る汗がCにしみこみ、それが熱エネルギーを受けて膨張したのだ。そう、みずダメージならいわじめんには4倍ダメージで致命傷となるのである!
(今です!)
 思わぬダメージにCのクラッチが弱まり、その隙にカントは締め付けから脱出した。そしてロープに飛ぶと。
「きゅぴー!!」
 強烈極まりないメガトンキック……いやオカダばりの見事なフォームの両足ドロップキックを食らわせたのだった。そのまま倒れたCの上に乗ると、3カウントが数えられた。
「もっきゅぴー!」
 コーナーに上がって勝利をアピールするカントに観客からの大歓声が飛んだ。やはり体格差のある戦いで小柄な選手が勝つと会場は盛り上がるものである。

【○高崎・カント(XX分XX秒:ドロップキック→体固め)アリススタチューC●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルデ・ローゼ
「うっふっふ。やっぱり生きていたわね、チャンピオン!」
まったく性懲りもなく、と言いつつ喜び勇んで参戦しましょう。

「なるほど関節技ね、たっぷり愉しみましょうか!」
秒殺で決めたがっているようだけど、そんなものじゃ私を満足させることはできないわね!UCで耐性を上げて、どんな技も受けて立つスタイルで立ち回るわね。
とはいえ、完全に決められたらフォールを取られてしまうので、そこだけは気を付けて、寝技の技巧戦を楽しみましょう。
攻め疲れて焦ったところを捕らえてスコーピオンデスロックに固めてあげるわ。



●格闘技ってのはなあ苦痛から始まるんだ
 何度倒してもまったく懲りる様子もなく出てくるチャンピオン・スマッシャーには辟易する猟兵が圧倒的多数な中。
「うっふっふ。やっぱり生きていたわね、チャンピオン!」
 ヴィルデ・ローゼ(苦痛の巫女・f36020)だけは違っていたようだ。過去チャンピオンと3度戦い、いずれも激闘と呼べるほどの強烈な体験だったようだが、その記憶はいまだ鮮明に彼女の中に刻まれていた。具体的には……称号を見ていただければ勘のいい方にはお察しいただけるのではないかと。そんなチャンピオンが再度現れたわけだから。
「まったく性懲りもなく、本当に仕方ないけど、ここは私が相手をしてあげなければいけないわよね!」
 どことなく、心底うれしそうな感じで、リングに立ったのであった。
『……』
 先にリングに立っていたアリススタチューDはそんなヴィルデの姿に闘志を掻き立てられる様子もなければ、逆にドン引きしたようにも見えず、相変わらずの無表情を貫いていた。それでもなお、思うところが全くないというわけでもないようで。
『……いっそ石化をご希望されますか?』
「うーん、石化ねえ」
 ヴィルデ小考……ののち、返答するに。
「おもしろそうだけど、でもそうなっちゃったら、苦しくはないわよねえ」
『苦しいのがご希望ということでしょうか、理解不能です』
 その返答に対しては別段なんの感慨もないという様子でDは答えた。
「期待してるわねぇ」
『……やはり理解不能です』
 ゴングが鳴り、ヴィルデとDは互いに相手の出方を伺うように間合いを取りあう。早速低いタックルで足を取りに来たDをかわし、ヴィルデは改めて事前情報を脳内で反芻した。
「なるほど、関節技ね」
 グリモア猟兵が言う通り、前座の相手はグラウンド主体らしい。関節技で来るならヴィルデの望むような事態が起きる可能性も非常に高いだろう。
「たっぷり愉しみましょうか!」
『……愉しむ……』
 ヴィルデの言葉はバトルジャンキーが言う戦いを楽しむとは違うニュアンスのようであり、Dとて困惑しないでもなかっただろうが、それを表情に出す事はしなかった。代わりにあくまで遊びなしの早期決着を図るべく攻め続けたが。
「苦痛の女神よ、汝の褜を此処へ!」
 ヴィルデはユーベルコード【|神気纏装《sacred bless》】を発動させてこれを迎え撃った。で、ユーベルコードの効果でDの攻撃をやすやすと回避……
『……』
「……」
 ……できなかった。あまりにあっさりDはヴィルデからテイクダウンを奪ったのである。そしてそのままDはヴィルデの足関節を極めに行った、が。
「秒殺で決めたがっているようだけど、そんなものじゃ私を満足させることはできないわね!」
『不可解です』
 技は完全に決まっている。普通ならそのままギブアップを宣告するか、なんとか必死で痛みに耐えながらロープブレイクを目指すか、そのどちらかのはずだ。それなのにヴィルデは涼しい顔で……
「……で、でも、悪くはないわねえ……」
 ……訂正。まるきり涼しい顔ではないようだが、なんか苦悶に満ちた表情とも違う顔で技を平然と受けている。さすがにこれにはDも表情にこそ出さないが困惑しているに違いない。
『……違和感があります』
 プロレスにおいて、相手の技、特に関節技をただ耐え続けるという状況は全くないではないが、今回はそれに該当しないだろう。それなのにヴィルデは技に対して逃げるではなくひたすらに耐える事を選んでいる。読者向けにタネだけを説明するなら【神気纏装】の効果なのはひとつある。あらゆる属性への耐性や適応を極端に上昇させるこのユーベルコードにより、ヴィルデの激痛耐性はレベル×10……1200にまで上昇しているのだ。ただそれでもロープブレイクもせずにただただ受けるだけというのはあまりない選択肢だ。
『……なるほど』
 とりあえずDは判断した。痛みでギブアップを狙うのは無理そうだ。さりとてこのまま関節を破壊するのも難しそうである。自分が壊れないようにしながら痛みに耐えるぐらいの防御をヴィルデはしているようだ。ならば取るべき手段は……Dは技を解除すると素早くポジションを変えた。
『では苦痛も感じないようにして差し上げましょう』
 ヴィルデの背後を取ると頸動脈を狙うD。脳への酸素供給を断ち気絶させるための絞め技が狙いだった。だがヴィルデもそれを素早く察知すると亀のように体を丸めた。
「あらぁ、もっと寝技を楽しみましょう」
『楽しむとは不可解です』
 完全に決められたらフォールを取られるか、KOとなるか、いずれにせよ負けてしまう。そのバランスを見極めるだけの力がヴィルデにはあったのだ。こうなってはDとて容易に技を極める事ができない。その後も両者のグラウンドでのせめぎ合いが続き、時間はどんどんと経過していった。
『これは……予想以上のしぶとさです』
 さすがのDにも攻め疲れの雰囲気が隠せなくなってきた。一方でヴィルデにはまだ余裕があるようだ。
「あら?もうそろそろ終わりなのかしら?」
『……ま、まだまだ、です』
 挑発めいたヴィルデの言葉に、無表情ながら感じるところがあったのだろうか、Dが再度足関節を極めに来た。だがそれはヴィルデの狙いだったのだ。
「好機!」
 攻め疲れたDの攻撃をあっさりはねのけると、ついに攻めに転じた。Dの両足の間に自分の右足を差し込むと、そのまま半回転させたのだ。相手の足首と膝と腰を同時に極め、また胸を圧迫する事で気道にも負担をかける大技、サソリ固めだ。攻め疲れたDにこれを返す力はなく、無念のタップアウトとなったのだった。
「あら?もうおしまい?つまんないわねえ」
 ヴィルデの目は既に、次に向いていた。

【○ヴィルデ・ローゼ(XX分XX秒:サソリ固め)アリススタチューD●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

草剪・ひかり
WIZ判定
ピンチ、お色気等キャラ崩し描写歓迎

まだ生きてたのね、チャンピオン氏
アスアスへの影響はなさそうだけど
知らない相手でもないし、捨ておけないね

関節技やグラウンド技術は、才能以上に練習が物を言う世界
彼がどんな教育をしたか、この私が確かめてあげるね

隙だらけに見える構えで相手と対峙
序盤は彼女の速攻に、豊かすぎる肢体をあんな風やこんな風に締め上げられて大ピンチ?

でも「なぜか」最後の一押しは極まらず抜け出したりロープに逃れたり

理由は簡単
私は、貴女達よりずっと積み重ねてるの
だから、貴女達よりずっと上手いんだよ

相手が手の内を晒しきって途方に暮れた所で反撃
体格差も利してグラウンドで圧倒、貫禄を魅せつけよう



●練習量の差
「まだ生きてたのね、チャンピオン氏」
 草剪・ひかり(次元を超えた絶対女帝・f00837)もまたチャンピオン・スマッシャーとは幾度も激闘を繰り広げたひとりであった。具体的には4度である。それがゆえ、チャンピオン健在とあればアリスラビリンスにはせ参じるのも当然の流れであった。
「アスアスへの影響はなさそうだけど知らない相手でもないし、捨ておけないね」
 絶対女帝も現在はベルトを手放し、現王者との再戦も壮絶な激闘の上惜しい結果になったようだが、それでもなおその強さ、何よりも業界に与える影響力についてはいまだ小ゆるぎもしていないだろう。ならば幾度となく猟兵に敗れた身でありながら、いまだチャンピオンを名乗っているならまだしも、なんとアスリートアースに渡ってフォーミュラの座を狙うとまで言っているのだ。そのプロレス・フォーミュラとも戦ったひかりとしてはいささか思う所もあったかもしれない。ついでに言うなら確かにチャンピオンがアスリートアースになんらかの影響を与える可能性がごくわずかだろう。しかし、前述した通りその可能性が示されてしまったからには、放置するわけにもいかないのであった。
『草剪ひかり』
 その名を口にしたアリススタチューEは他のアリススタチュー同様に無表情だったが、それでもなおその口調にはどこかしらの緊張感と、それと同じくらいの高揚感が込められているようにも感じられた。
『王者にまでなったというその実力、見極めて差し上げます』
「大きく出たわね」
 ひかりがEを見る視線が、海外遠征帰りの若手がトップレスラーに噛みつくのを余裕をもって眺めているようなものだったかもしれない。あくまで王者として、格上のレスラーとして、ひかりはEに相対した。
「彼がどんな教育をしたか、この私が確かめてあげるね」
 ともあれゴングが打ち鳴らされた。間合いを取りあう状況から、互いの手と手が触れた……と思った瞬間、Eはひかりの懐に飛び込んでいた。かと思いきや両足でひかりの足を挟んで倒すと、あっという間に関節を極めてみせた。電光石火のカニ挟みからクロスヒールホールドの連携だ。
「うぐっ……ああっ!」
『王者とてこの程度ですか』
 必殺の関節技に悶絶するひかりに対し、まったく表情を変える事なく適度に挑発めいた文句を入れながら情け容赦なくEは締め上げる。だがひかりは苦しみながらもどうにかロープに逃れた。
『なるほど、これで決まらないのはさすが王者といったところですね』
「はあ、はあ、はあ……」
 なんとか逃れたが必殺の関節技に耐えて自重と相手の体重をロープまで動かした事はひかりのスタミナをかなり奪ったようだ。荒い呼吸とともに見栄えの良い胸が上下するが、ええもん見たとかそんな不届きな事を考えられる者はその場にはいなかった。それほどひかりの表情が壮絶だったのだ。
『ですが、これで終わりです』
 うつ伏せになってダウンしているひかりをEは容赦なくリング中央まで引きずると、今度は裏アキレス腱固めに極めた。これまた一瞬でギブアップを奪える級の必殺の関節技だったが、それでもひかりはロープに逃れた。その後もEは一方的に関節技をひかりに極めてみせたが……。
『……どうして』
「どうして決まらないのか……そう、思ってるわね」
 ひかりの言葉はまさに図星であった。間違いなく、Eは困惑していた。
『……』
「理由は簡単」
 観客たちは信じられないものを見ていた。圧倒的に攻めているはずのEが精神的に押されている。逆に関節技を極められまくってダメージ、スタミナ消耗の両面でボロボロのはずのひかりが、むしろ勝者のような佇まいすら見せているのだ。
「私は、貴女達よりずっと積み重ねてるの」
『……』
「だから、貴女達よりずっと上手いんだよ」
 ひかり自身も前もって触れていた事だが、俗に「立ち技は才能、寝技は練習量」と言うらしい。とある小説家が学生時代に寝技主体の高専柔道に勧誘された時の言葉とされるが、実際立ち技というのは投げだけの話ではない。素人喧嘩自慢とアマチュア格闘家の戦いにおいて、殴る蹴るの領域ではなんら格闘技のトレーニングを受けていない素人が格闘家と互角以上に渡りあうというのは決して珍しくない。確かに立ち技はセンスが左右するところはあるかもしれない。が、一度転がされるともう素人にはどうしようもない。寝技において素人は鍛錬を積んだ者には絶対に勝てないのだ。ならば鍛錬を積んだ者同士はといえば……鍛錬の量がより多い方が勝つ。単純な話だ。チャンピオンがアリススタチューたちをどんなに厳しく仕込んだかは知らないが、所詮は一朝一夕の鍛錬だ。ひかりほどの者ならいったいどれだけの鍛錬を積んできた事か、彼女らには想像すらできやしまい。
『まさか、わざとこちらのやりたいようにやらせていたとでも』
「だったらどうかな?」
 今や完全にEも把握した。目の前の相手はまさしく王者だったのだ。相手の攻撃を受けに受け、その後で反撃する……だがEとてそれで折れるわけにはいかない。
『あまり有効な手段とは言えません、あなたはダメージを受け過ぎました』
 ひかりの苦戦は演技だったかもしれないが、Eによって与えられたダメージ自体は本物だ。その差に付けこむしかない。Eは今度こそ決めるとばかり高速タックルでひかりの足を狩りに行った、が。
「狙いは悪くないけどね」
 ついにひかりが動いたのだ。これまでやられ放題だったEのタックルをあっさり上から潰すと、その後のグラウンドでも完全にEをコントロールしてみせたのだ。これはひかりのユーベルコード【|王道プロレスの伝承者《Successor or King's Wrestling》】が、受けのプロレスを行った時間に比して身体能力を上げるものだったのもあるが、無論それだけではない。
「私を沈めるには、ちょっと鍛錬が足りなかったね!」
『……これが……王者』
 その言葉通り、完璧なボストンクラブにEを捕えてみせた。完全にえび反られ、Eにはタップ以外の道は残されていなかった。

【○草剪・ひかり(XX分XX秒:逆エビ固め)アリススタチューE●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
Hey,スティーブ!
忘れちゃったかしら?私よ私、ニコリネよ!(ジュー!
なんかビビビッて村のピンチを感じたから、来たわ!!

すっかり馴染んだフラワー・ザ・グレートの衣装に着替え
仲間達に背中を叩いて貰いつつリングへ
今回も!村を守って!みせるッ!(ぎんっ

石アリスは殴ると痛そうだから投げ技を狙いましょ
堂々前から組み付いて背後に反り投げ、フラワースープレック……重ッ!!
ふぃ~、無敵というだけあるわ
花の入った水バケツを軽々運ぶ私が、ただ叫ぶ人になったわ

投げ技が失敗したって大丈夫
関節技は昆布に変身して脱出よ
ヌルヌルは反則?これ体質だからー

文句あるなら言ってみなさい
にゅるんと首に巻き付いて昆布締めにしちゃう!!



●元ネタは総合格闘技に参戦したプロレスラー
 会場が、揺れた。
「Hey!スティーブ!」
「おお!」
 名を呼ばれた力持ち、スティーブが歓声をあげた。
「この村も変わらないわね!」
 歓声をあげたのはスティーブだけではない。ケン、カール、ブロック、ダニエル、ジョシュ、ドナルド……この村で戦った力持ちたち全てがその声に反応したのである。
「どうしたの?今年のバラはちょっと色がイマイチねー、みたいな目で私を見て!忘れちゃったの?」
 むろん、この村に住む者でその名を忘れる不届き者はおるまい。この村にチャンピオン・スマッシャーが攻めてきたのは今回で6回目。これまでの5回の戦い全てに参戦した唯一皆勤賞な猟兵の名を。
「私よ私!ニコリネよ!」
 プロレスの手四つに見えなくもない感じで両手の指を鉤爪のように曲げながら、ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)は入場してきた。そのコスチュームは初戦の時に来ていたフラワー・ザ・グレートを名乗っていた時のものだ。
「来てくれたんだな!ニコリネ!」
「なんかビビビッて村のピンチを感じたから、来たわ!!」
 こちらもうれしそうなスティーブに笑顔を返すと、ニコリネは居並ぶ力持ちたちに背を押されながら堂々と花道を通り、ゆうゆうとリングインした。リング上では既にアリススタチューFが無表情で待ち構えていた。
『ずいぶんと人気があるようですね』
 Fの表情や口調からは、その事について羨ましいとか妬ましいとか、そのような感情は感じられない。ただただ純粋に事実のみを述べたもののように聞こえた。その内心まで推し量る事はできないわけだが。
「おかげさまでね!」
 花屋で鍛えた営業スマイルでニコリネは応じた。この村でニコリネと力持ちたちの間に何があったのか、長々と説明するような状況でもないし、そういう相手でもない。今ニコリネがすべきことはただひとつ。
「今回も!村を守って!みせるッ!(ジューッ)」
 両手を広げつつ指を曲げるボーズを取るニコリネに対し、Fは無表情だった。どうやらわからなかったらしい。ともあれ6度目のゴングが打ち鳴らされ、互いに間合いを取った。
(確か相手のユーベルコードは……)
 Fを睨みつつ、ニコリネは脳内で思考を巡らせた。グリモア猟兵によれば、敵のやり口はその石の体をさらに固くする事で相手の攻撃を回避し、技の出終わりに見せた隙を突いて関節技を仕掛けるようだ。ならどうするか。向かい合いながら考えながら体を動かしながら……
「とりあえず殴ると痛そうだから」
 先に仕掛けたのはニコリネだった。打撃が無効そうなら投げ技とばかりにFに正面から組み付くと、体を反らしてアマレス風の投げをうったのだ。日頃の花屋の重労働で培った体力には自信があった。それを見て、Fは【石像擬態】を発動させた。
「フラワースープレック……重ッ!!」
 Fは防御力のみならずその自重も大幅に上昇させたようだ。自分が動けなくなるのもそのせいだったりするのだろうか。それでもニコリネはどうにか根性を入れて投げ切ったものの、当初の予定どおりにきれいな投げとはいかなかったのは仕方あるまい。
「ふぃ~、無敵というだけあるわ。花の入った水バケツを軽々運ぶ私が、ただ叫ぶ人になったわ」
『なるほど、見た目に寄らずパワーは大したものでしたが』
 だがニコリネには休む間も与えられなかった。無敵化によって投げのダメージを耐えたFが、素早く石像擬態を解除するとニコリネに組み付いたのだ。
『ですが今の投げは体にかなりの負担をかけた様子、ならばこれが逃れられますか』
 当初の狙い通り、Fはニコリネの技後の隙を突いて逆に技を仕掛けてきたようだ。石でできた冷たい肌がニコリネの背後から首に巻きつこうとする。頸動脈を絞めて意識を失わせるスリーパーホールドだ。ニコリネが抵抗する間もなく首が絞められ……
「抜けられないと思った?」
 だがニコリネにとってもこれは読み筋だったようだ。相手がこちらの攻撃にカウンターを仕掛けてくるならば、自分はそれにダブルクロスカウンターを決める。それこそがニコリネの狙いだった。そして具体的にその手段とは。
『!?』
 完璧に決まったと思われた裸締めからあまりにあっさりニコリネが抜けてみせたのだ。それが技術で抜けられたわけではなく、わけはわからないが何やら液体のようなものが生じてウナギのようにすべりを生じ、それで抜けだしたのである。無表情ながらFに動揺が走る。
『おい!今何をやったんだ!』
 異変に気付いたチャンピオン・スマッシャーが抗議の声を挙げる……が、ニコリネは涼しい顔で応じた。
「ヌルヌルは反則?」
『当たり前だろう!どこの世界にオイル塗ってプロレスやる奴がいるんだ!』
 いや、これは実はいたりするのだが。ついでに言えば総合格闘技ならともかくプロレスでは反則ではない……はずだ。しかしニコリネは別にオイルを体に塗ったわけではなかった。
「これ体質だからー」
 そう。これはニコリネのユーベルコード【ニコリネ大變身】によるものだった。別名『μαγεία(=magic)φυτό (=plant)』が示す通りの植物に変身するものであり、それを用いてアルギン酸とフコイダンの作用によりヌメリを生じるコンブの性質を発動させてFの絞め技から脱出したのだ。
『ぐぬぬ……いやでもそれは体質って呼ぶのかなあ』
「なあに?文句あるなら言ってみなさい!」
『……いえ、別にありませんが』
 不満げなチャンピオンに対し、実際に試合をしているFは内心はともかく見た目は動揺もないように見えた。が、それでもこうなったらさすがに関節技や絞め技も使いづらそうではあった。逆にニコリネにとっては今こそまさに攻め時であった。そう、カウンターは防御ではなく反撃こそがメインなのだ。
「昆布締めにしちゃう!!」
 コンブのごとくにゅるんとニコリネはFに巻き付くと、全力で締め上げた。まさに相手のお株を奪う高速の絞め技にFは無敵になる時間もなく、あっさりと絞め落とされたのだった。

【○ニコリネ・ユーリカ(XX分XX秒:スリーパーホールド)アリススタチューF●】

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
「まーた懲りないっすねー」
愉快な仲間達の体を借りて参戦する狐のお面

「んじゃ、今回は|関節技《ジャベ》主体で行ってみるっすかー」
【怪力】を駆使しつつも【グラップル】【捕縛】の技術で関節技の応酬をするっすよ。その際に相手の手足などを極める際に火や土などの【属性攻撃】でロックしては返し返されを繰り返す
「さて、仕込みは済んだっすかね」
ロメロ・スペシャルを極めた時にUCを起動。属性魔力を埋め込んだ相手の関節部から線を結んで【結界術】による魔法陣を形成してダメージを与えるっすよ
「名付けて、リカルド式結界固めっすかね」
もっと良さげな名前があればお任せするっす



●ネーミングは難しい
 今回、村に駆け付けた猟兵の中には、この村でチャンピオン・スマッシャーと数度戦った者も少なくない。リカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)もそのひとりで、この村で5回行われた戦いのうち3度に参戦していた。
「まーた懲りないっすねー」
 そんなわけだから、チャンピオン復活と聞いては駆けつけないわけにはいかないのだった。ヒーローマスクであるリカルドは基本的には戦うのに他人の体を必要とする。場合によってはそれを自前で調達したり、たまにはそれすらなしだったりの時もなくはないのだが、今回はといえば。
「ということで、また頼むっすよ」
「あんたの頼みじゃあ断れねえな」
 以前も体を借りた力持ちに遭遇できたため、首尾よく体を借りる事ができたのだった。そんなわけでリングインしたリカルドを、早速アリススタチューGが迎え撃った。ただしGにはひとつ懸念があったようで。
『……この場合、どちらを攻撃すれば勝利なのか』
「あー、仮面の方っすよ」
 馬鹿正直に問うGに答えたリカルドの言葉が真実かデマカセかどうかはわからない。ただまあ理屈として、確かに仮面を破壊すれば勝ちは勝ちであろう。一方で勝利条件が体の破壊というのもわかる。体を借りている身のリカルドとしては仮にボディ(となってくれた人)が壊れそうになったらそこで試合を終わらせないといけないだろう。一方で本体である仮面が破壊されそうになったら……動けるうちはやめたくない、というのは本音としてあるかもしれない。
『わかりました』
 結局、Gの方針としては。
『体の方を破壊した後で仮面を破壊します』
 それなりにわかりやすい方針となった。仕込まれたのが関節技である以上、手足を攻撃する方が教わった技術を発揮しやすいと判断したからである。一方でリカルドとしては体を壊させるわけにはいかないが、相手が方針を宣言してくれたのは幸いは幸いであった。自身の方針も決めやすいからだ。
「んじゃ、今回は|関節技《ジャベ》主体で行ってみるっすかー」
 先刻別の猟兵が言っていた通り、関節技は練習量の差が左右するといわれる。リカルドとしては練習量でGに負けているつもりはまったくなかった。くわえて、リカルドはしっかりと策を用意していたのである。
『行きます』
 ゴングとともに高速タックルを仕掛けたGをリカルドは力持ちの体格を生かしてしっかりと上からがぶり潰しにかかった。が、Gとて相手に触れた瞬間に関節技に持っていける技術の持ち主である。リカルドの潰しをあっさり抜けると逆に背後を取りにかかるが、リカルドも素早くそれに反応して逆に関節を極めてくる。かくして、素人にとっては何やってるのかわからないがなんかすごい事になっている事ぐらいはわかるし、ある程度知っている人にとっては高度な技術の応酬に感心するしで、いずれにせよ観客を沸かせる関節技の応酬が続いたのだが。
『……何をしているのです?』
 リカルドの行動にGは疑問を抱いた。リカルドはGの関節を極めようとする際、ただの関節技の技術ではなく、なにか魔術めいたものをGの体に仕掛けている様子がうかがえたのだ。ただそれ自体が破壊的な効果を見せているわけでもないようで、いまだGは五体満足で動けている。ではリカルドは何を狙っているのか?
「内緒っすよー」
『……いいでしょう、その手品が効果を発揮する前に決めるだけです』
 とぼけたように答えるリカルドに、Gはそれ以上の追及を断念し、代わりに関節技の速度と密度を上昇させた。
「おっと、やられちゃったらカラダの人に悪いっすからね」
 それに対してリカルドもさらに速度を上げる。むろんタネも仕掛けもある手品ではあったが、仕込みを済ませる前にやられてしまっては元も子もない。壮絶なるグラウンドの応酬はいましばらく続いた。互いに決め手を欠く試合展開となるが、リカルドもGも焦りの様子など見せてはいない……いや仮面と石像では表情が見えないだけではあるのだが。
 そして、その時は来た。
「さて、仕込みは済んだっすかね」
 リカルドはGをうつ伏せにすると両手両足を極めて上下ひっくり返した。ロメロスペシャルだ。実戦で決まらない技の代名詞と言われてしまう技であるが、某バラエティー番組ではプロレスラーが本気で逃げる肉体自慢の芸能人に次々とこの技を極めてみせた……ヤラセではない、はずだ。
『このような技、抜けられないとでも』
 通常の場合、ロメロスペシャルは脱出不可能であり、技のかけ手が自ら解除しない限りは解けないとされているが、かけられている側がうまい事バランスを崩す事で逃れられる例も一応はあるという。アリススタチューの重い体なら左右に揺れる事でバランスを崩す事も不可能ではないのかもしれない……が。
「いーや、もう終わりっす」
 ここでリカルドの仕掛けがついに作動したのだ。技の応酬の最中にリカルドがGに仕掛けていたのは火や土などの属性の魔力であった。それらが一斉に発動すると、点同士が線で結ばれ、魔法陣を形成した。
「ここに悪しきを払い、恵みをもたらせ!」
 そしてリカルドは魔法陣により結界を作りダメージを与えるユーベルコード【|森羅穣霊陣《グレイスフル・ガーデン》】を発動させたのである。
『……!!』
 勝利を確信し、リカルドは技を解いた。名前からしてくさ系の技はいわ系には大ダメージだったらしく、Gは起き上がる事はできなかった。

【○リカルド・マスケラス(XX分XX秒:ロメロスペシャル)アリススタチューG●】

「おっと待つっす」
 アナウンスにリカルドのチェックが入った。ということで改めて。

【○リカルド・マスケラス(XX分XX秒:リカルド式結界固め)アリススタチューG●】

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『チャンピオン・スマッシャー』

POW   :    グローリーチャンピオンベルト
自身の【チャンピオンベルト】が輝く間、【自身】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    キス・マイ・グローリー
【プロレス技】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
WIZ   :    アイ・アム・チャンピオン
自身の【攻撃を回避しないチャンピオンとしての信念】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。

イラスト:草間たかと

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●現在のアリスラビリンスのシナリオフレームに1章ボス戦2章日常てのがなかった
『では次は私が』
 だがアリススタチューHはリングに上がる事ができなかった。弟子たちの相次ぐ敗戦に業を煮やしたチャンピオン・スマッシャーがリングに上がったからである!
『ええい!ふがいない!それでも私の弟子か!お前達は私の戦いぶりを見て良く学ぶが良い!』
 そしてチャンピオンの怒りは弟子たちから猟兵へと向けられた。
『しょせんお前たちは私の弟子を相手にしたにすぎん!この俺様が直々にプロレスラーの強さを見せつけてやろう!』

 あのアスリートアースのプロレス・フォーミュラと違い、チャンピオン・スマッシャーにはさすがに相手を一発で骸の海送りにするような凶悪極まりない程の技はもっていない。それでも元猟書家だけあって、その技は強力だ。
【グローリーチャンピオンベルト】は攻撃回数を9倍に増やすものだ。チャンピオンの巨体から繰り出される技はただでさえ凶悪なのに、それが9回も飛んでくるとあってはヤヴァい事この上ない。寿命が減るデメリットも短期決戦では問題にならないだろう。
【キス・マイ・グローリー】は対戦相手を自宅に帰すというものだ。むろんそんなものを食らってしまってはリングアウト負けは免れないだろう。そのため相手はペナルティの追加ダメージを受けながらチャンピオンの攻撃に耐えねばなるまい。
【アイ・アム・チャンピオン】は相手の技を回避しなければしない程に身体能力を上昇させるものだ。生半可な攻撃では与えたダメージよりも身体能力上昇の方が大きく結果として相手を強化してしまうだろう。相手の強化を上回る攻撃を仕掛けるか、それとも?
 以上、フォーミュラを狙っていると豪語するのは決してただの思い上がりとはまるきり言い切れない強敵だが、それでもここで負けるわけにはいかない。この難敵を打ち破り、今や猟書家の任を解かれたただのいちオブリビオンにすぎない事を思い知らせてやろう。そして闘いが終わったらアスリートアース流に焼肉パーティーでもやろうではないか……残念ながら第3章は存在しないのだが。
イリスフィーナ・シェフィールド
デスリング総統が不甲斐ないと言うなら貴方も攻撃を受けきってから
反撃してみてはいかがでしょうか、同じプロレスラーとして。
……とはいうもののそんな潔くありませんわよね、相手の攻撃を凌いだら強化されるコードを使うなら別でしょうが。

グローリーチャンピオンベルトを発動したならこちらもシャドウ・モードを発動。
動きが止まった好きに打撃コンビネーションで蹴り倒して技を阻止。
倒れたチャンピオンを立ち上がらせながら両手を逆の両手で取ってXの字に極めて
後ろに海老反って勢いで持ち上げながら極めて交差してる部分に膝蹴りを決めて空中へ打ち上げ頭部から落とします。



●鉄壁コスチューム
 チャンピオン・スマッシャーは猟兵に敗れたプロレス・フォーミュラことデスリング総統をふがいないと断じ、自らが代わってプロレス・フォーミュラになる事を目指し、いまだ戦争の終わらぬアスリートアースへの移動を本気で考えているという。なおかく言うチャンピオン自身が猟兵に何度も敗れた事は、まああれだ。限りないチャレンジ魂の現われということで。
「デスリング総統が不甲斐ないと言うなら……」
 多少変則的なルールでとはいえ自らそのデスリング総統と戦い、その強さについては身をもって知っているイリスフィーナ・シェフィールドは、その総統が実際に猟兵相手にとった戦術を引き合いに出した。
「貴方も攻撃を受けきってから反撃してみてはいかがでしょうか、同じプロレスラーとして」
『何?』
 そう。基本的に他世界のフォーミュラはまずユーベルコードによる先制攻撃を行い、猟兵はこれをユーベルコードなしで対応しなければいけないというのが定番の流れだった。それに対し、プロレス・フォーミュラたるデスリング総統はまず猟兵に一方的に攻撃をさせたのだ。そしてそれを全て受けきった上で、必殺の骸の海送りな技を繰り出したのである。
「……とはいうもののそんな潔くありませんわよね」
『何を言うか!それはあくまでプロレスの一面に過ぎん!』
 挑発するように言うイリスフィーナに対し、チャンピオンは真っ向から言い返した。まあ確かにプロレスが受けの美学だという考え方は現在では多少古びたものになっている感はある。それでもまあ、確かにデスリング総統ぐらい徹底してやられると、さすがフォーミュラと感服せざるをえまい。
「相手の攻撃を凌いだら強化されるコードを使うなら別でしょうが」
『むむう……』
 明らかにイリスフィーナはチャンピオンがそういうユーベルコードを持っている事を知りつつ挑発している。今回チャンピオンはそれを使う気分ではなかったようだが、そう挑発を受けてはあえてそれに乗ってやろうかとも考えなくはなかったかもしれない。
「誘いのつもりか?そうはいかんぞ!」
 だが結局チャンピオンは当初の予定通り、ガン攻めモードで行く事に決めたようだ。これをチャンピオンが挑発に乗らないクレバーな一面があると見るか、相手の攻撃を受けない器の小ささと見るかは人次第であるだろう。
 かくして試合は始まった……とはいえ、やはり基本的には純粋なプロレスではチャンピオンは強い。ただでさえイリスフィーナとの体格差が明白な上に、ことプロレスという点においては経験面でもチャンピオンの一日の長がある。デスリング総統よりおそらくは弱いのだろうが、それでも十二分に強い。
『ふっふっふ、でかい口を叩いた割りには大したことはないようだな』
「くっ、人間的に小さいくせにさすがはプロレスラーですわね」
『人間的に小さいとか言うな!あとフォーミュラより弱いとか言うな!』
 とはいえ相手の強さに感心ばかりしてもいられない。見た目の割にあるパワーでイリスフィーナはどうにかチャンピオンの技に必死で食らいついていった。そう、純粋なプロレス勝負では分が悪いかもしれないが、猟兵の戦いはそれが全てではないのだ。
『ふん、なるほど大口を叩くだけあって、それなりにやるようだな』
 チャンピオンはイリスフィーナと戦った事はあるはずだが、まあ同じチャンピオンであっても別個体だから覚えてないのは仕方がないのである。ともあれチャンピオンは必死で食らいつくイリスフィーナを認めるような発言をした……ということは、ここまでは前置きである。いよいよ本気を出す時が来たのだ。
『ならば俺様の真の力を見るが良い!』
 腰に巻いたチャンピオンベルトが光を放った。同時にチャンピオンの戦闘力が爆発的に増大する。攻撃回数を爆発的に増大させる【グローリーチャンピオンベルト】の合図だ。
「来ますわね、ならばわたくしも!」
 だがこの展開こそ、むしろイリスフィーナが望むものだったのだ。純粋なプロレスならまだしも、ユーベルコードのやりとりなら勝機を見い出せるに違いない。チャンピオンがユーベルコードを解禁したのに合わせ、イリスフィーナもまた切り札を抜いた。
「闇夜に沈む黒い影、シャドウ・モードですわっ」
 掛け声とともにイリスフィーナのコスチュームが変化した。これはあの韓信と戦う時に使ったユーベルコードだが、あの時と違ってちゃんと『くノ一風の正義のヒロインな真の姿』ができていた。網目のあるレオタードにポニテ姿と、これはまさしくくノ一だ。その姿に9回攻撃をくらわそうとしたチャンピオンの手が止まった。ちなみに動きが止まる理由もなにげに前回の恐怖から魅了に変更されている……のだが。
『……ぬげんか?それ』
「何を今更ですわっ!」
 脱げそうな服装の猟兵などいくらでもいるのになぜチャンピオンは今それを言うのか。まあ突然変わったから戸惑ったというのもあったかもしれない。ともあれチャンピオンの動きを止める事はできた。今こそチャンスだ。強化された速度と隠密性をもってイリスフィーナはチャンピオンに急接近すると、連続で蹴りをくわえた。不意を突かれる形になってダウンを奪われるチャンピオン。
「今ですわ!」
 イリスフィーナは素早くチャンピオンを立たせるとその両腕を取った。そのまま後方に放り投げれば閂スープレックスだが、イリスフィーナの場合はチャンピオンの腕を交差させており、さらに腕への負担を強める事ができる。さらにさらにである。
「くらいなさい!」
 投げの前に、チャンピオンの腕が交差した部分に膝蹴りを食らわせ、その反動で放り投げるというかなりの力技だ。まさにシャドウ・モードで打撃・絞め・投げの全てが強化されたからこそ可能な大技と言えた。巨大な鬼を退治する桃太郎を思わせるような豪快な攻撃で、イリスフィーナはチャンピオンの巨体を見事に投げ切ってみせたのである。
『ぐはあっ!』
 受け身の取れぬ形で脳天からリングに落下したチャンピオンはリング上で転がって悶絶した。それを見てイリスフィーナは断言したのだった。
「やっぱりあなたはまだまだフォーミュラには及びませんですわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

エーファ・マールト
では私はこの辺りでいだいいだいいだいです! ひっぱってますとれますとらないで!
「ショーの途中で帰るパフォーマーがどこにいんだよケヒャヒャヒャ!」
私は左手のハンドパペットに猛抗議です。でもあの人猟書家さんですよ! 先制攻撃が来ますよ資料で見ましたほらほらほらきた! ひいいいお先におうちに帰らせていただきます!
とかなんとか言いつつ、どうみても貫通したり頭より大きなたんこぶ作ってオーバーに痛がったり…なんだかんだで手品っぽくしてうまく受け止めます。ここからはまばたき禁止ですよ♪ 1、2、3の合図でどこからともなく取り出したパイプ椅子で連続打撃フルスイング! 拍手をお願いします♪



●ハンドパワーです
 猟書家といえばかつてアリスラビリンスを中心に各世界で暗躍した強力なオブリビオンであり、リーダーのオウガ・フォーミュラ以下、さまざまな事件を引き起こした。最終的にすべてのフォーミュラが猟兵によって討伐されたが、それでもなお猟兵の手を逃れた猟書家も存在している。現在は一般オブリビオン、一般オウガとしていずれ完全に滅び去る日までは散発的に活動を行うのみとされているが、それでもなお恐怖の対象となりうるだけの力を十分持っている事だろう。で、今リングに立っているチャンピオン・スマッシャーもそんな元猟書家のひとりなわけだが。
「では私はこの辺りで……」
 そんなわけだからエーファ・マールトはチャンピオンの待つリングに上がる事なく帰宅の途に就こうとした……が。
「いだいいだいいだいです!ひっぱってますとれますとらないで!」
 そんな事が猟兵に許されるはずもなく、左手にはめられた黒兎型ハンドマペットであるカーニェに思い切り耳を引っ張られた。
「ショーの途中で帰るパフォーマーがどこにいんだよケヒャヒャヒャ!」
「でもあの人猟書家さんですよ! 先制攻撃が来ますよ資料で見ました!」
 エーファはカーニェに抗議するが、一応書いておくとユーベルコードによる先制攻撃(猟兵はユーベルコードなしで対処しなきゃいけないやつ)は基本的にはフォーミュラの専売特許とされている。たまに中ボスクラスで先制攻撃を行う者もいるし、逆にごくまれにであるが猟兵に先制攻撃を許してくれる奇特なボス級も存在する。つい先日出たばかりのプロレス・フォーミュラと、かつて封神武侠界の戦争に出たのと……他にいたかはちょっと失念したが。
『よもや私の技を使うまでもなく帰宅を考える者がいるとは思わなかったぞ』
 ともあれ、チャンピオンは先制攻撃をしない部類だ。でもって、完全にエーファとカーニェのやりとりにあきれ返っていた。なので先制攻撃の代わりに。
『どうした?尻尾をまいて逃げてもいいんだぞ?』
 リング上から挑発を行った。むろんこれはユーベルコードではない。と、ここまで言われてリングに上がらなければ赤丸3個は免れまい。
「わかりましたよぉ、やればいいんですよねやればぁ!!」
 じつに嫌そうにリングに上がるエーファ。良かった赤丸3つだけは免れたようだ。だが早速チャンピオンの攻勢を受けた。
『よくぞこのリングに上がって来たものだ!褒美をやろう!|我が威光に跪くがよい《Kiss my glory》!』
 チャンピオンの巨体から繰り出される逆水平チョップがエーファの胸元を襲った。喉元と胸部装甲部分のちょうど間ぐらいの場所だ。瞬間、強力な重力のようなものが働き、エーファの体を吹き飛ばそうとした。ユーベルコードの効果でエーファを自宅に戻そうとしているのだ。
「ほらほらほらきた!ひいいいお先におうちに帰らせていただきます!」
「舞台の途中で帰るやつがあるかよ!」
 すぱーん。左手のカーニェより強烈なツッコミが入り、エーファの帰宅は免れた……が、一度宙に浮いた体が不自然な姿勢で落下した事により、エーファには追加のダメージが加わるハメになった。
「ううう……痛いです」
『どうした?今のうちにおうちに帰った方がいいんじゃないか?』
「帰りたいけど帰らせてもらえないんですよう!」
 その後もチャンピオンが一方的に攻め、エーファが逃げたが逃げきれずダメージを受ける展開が続いた。
「うう……」
 その頭には実に痛々しいたんこぶができていた。エーファの頭よりも大きなたんこぶが……
『っておい!』
 さすがにこれにはチャンピオンもツッコミを入れざるを得ない。
『お前、実はわざとくらってるだろ!?』
「そ、そんな事ないですよう……いたたたたた」
 自分の胸よりも大きなこぶをおさえて本気で痛がっているように見えるエーファ。こんなマンガのようなわざとらしいたんこぶとか、西洋妖怪ならありえるとは言い切れない所ではあるが。それでもチャンピオンが疑念を持つのも当然であった。
『ならばこれをくらえ!』
「ぎゃー!」
 反則のグーパンチがエーファの顔面をとらえ……貫通した。
『え?』
「い、いたいいたいいたいですッッッ」
 思わず腕をひっこめるチャンピオンの前で、エーファは顔面をおさえて悶絶した。巨大なたんこぶといい、これといい、さすがにチャンピオンもおかしい事に気が付かざるを得ない。間違いない、わざとくらっている。まるでエーファが演じる手品のアシスタントをつとめさせられているかのような……。
『ええい!ならばその小細工ごと粉砕してくれよう!』
 チャンピオンはエーファに組み付きにいった。何を企んでいるのか知らないが、プロレスラーらしく全て受け止めた上で真正面から粉砕するのみ。そしてそれを見て、エーファがついに動いた。
「ここからはまばたき禁止ですよ♪」
 それはエーファの【|四角四方の大劇場《close-up》】発動の合図だった……が、実のところ既にユーベルコードは発動していたのである。その効果は物体の出現消失、あるいは貫通や預言等、まさに奇術のような効果を発揮するものであった。不自然なほどに巨大なたんこぶも顔面貫通もこの効果だったのである。そして次にエーファが呼び出すのは。
「ワン、ツー、スリー!」
 どこから取り出したのか、エーファはパイプ椅子を握りしめていた。そして向かってくるチャンピオンに超高速の連続打撃をかましたのである。その数エーファのレベルと同じ131回。
『ぐはぁ!』
 一説によればプロレスで一番痛い凶器はパイプ椅子らしい。その攻撃をこれだけくらったとあっては、さすがのチャンピオンもただではすまず、ダウンを奪われたのだった。
「みなさん、拍手をお願いします♪」
 観客から沸き起こった万雷の拍手の中一礼するエーファ。ところで結局左手のカーニェが独自の意志を持っているのか、それともエーファの一人芝居なのか、正直分からないのである。後者なら最初にエーファがリングに立つのを嫌がっていたのも全て演技ということになり、だとしたらなかなかの役者ぶりではあるが、まあそれはエーファ本人だけが知っていれば良い事であろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高崎・カント
「きゅっぴー!」
やる気いっぱいでロープの下をくぐってシュターンとリングに上がるのです!

スマッシャーさんが9回攻撃なら、カントは144回攻撃なのです!
【UC使用】で、加速して攻撃なのです
当たれば良し、躱されたらロープの反動で戻って攻撃するのです!
軌道がそれれば方向修正、それ以外は攻撃ごとに加速するのです
カントの連続技は繰り出すほど強くなるのです

スマッシャーさんの意表を突くため、お客さんを飽きさせないため、いろんな技を繰り出すのです
キック! チョップ! ラリアット! ショルダータックル! ヒップアタック!
(モーラット体型なのでちょっとわかりにくい)

とどめは必殺のフライングヘッドバットなのです!



●戦いは数だよ兄貴
『ええい、もうこうはいかんぞ!次は誰だ!』
 猟兵への怒りか、はたまたこれまで猟兵に後れを取った自らへの怒りか。明らかに怒気をはらんだ叫びをあげるチャンピオン・スマッシャーが立つリングに飛び込んできたのは一匹の毛玉、もとい。
「きゅっぴー!」
 モーラットであった。出番が待ち遠しかったかのように高崎・カントは全力でサードロープの下をくぐり抜けてリングインすると、シュターンと擬音が聞こえてくるかのように颯爽とポーズを決めてみせた。
『ほう、軽量級か』
 チャンピオンはカントを見下ろした。ただ実際モーラットであるカントの体格はプロレスラーの中でも軽量であるジュニアヘビー(クルーザーとも)級レスラーどころの話ではなく、人間よりもはるかに小さい。ただでさえスーパーヘビーの体格のチャンピオンからすれば大人と子供どころの話ではない。猟兵の戦いは必ずしも体格で決まるものではないとはいえ、チャンピオンがプロレスラーであるからにはでかいやつはやっぱり強いのだ。
『ジュニアヘビーだろうと私は容赦はせんぞ、覚悟するがいい』
「もきゅー!きゅぴー!」(のぞむところなのです!かかってくるのです!)
 むろんカントとてリングに上がった時点で覚悟はできていた。体格差がある相手だろうと戦い抜いてみせるという強い決意が。たしかにプロレスラーならでかいやつは強い、それは間違いがないことだ。だがプロレスラー以前にこれは猟兵の戦いだ。だったら体格差が必ずしも勝敗の差を分けるわけではない事をカントは証明してみせなければならなかった。逆に言えばそれができなければカントに勝機はない。
『おもしろい、ならば見せてみるがよい!』
 かくしてゴングが鳴らされた。体格差がある者同士の試合のセオリーとして、カントは絶対に真正面からチャンピオンにかかっていってはいけない。いくら猟兵の戦いに体格関係ないとはいえ、もともとスピードを活かすタイプのカントとしては。
「もきゅー!」
 そうそう、そんな風に相手の周囲を回りつつ隙を伺うのが正しいやり方といえた。真正面からいっても相手のパワーに叩き潰されるだけだ。またお客さんの存在もある。体格差ある者同士が真正面からぶつかったら観客からはその力量差が実際の差以上に見えてしまうことがあるらしい。とある軽量級の伝説的レスラーは腕相撲の力が重量級並みにあると言われていたが、それでも重量級と戦う時は決して真正面から行く事はなかったそうな。ともあれ動き回ればそれを捕まえるために相手も動かねばならず、それで相手のバランスを崩す事ができれば軽量級側も勝機があるというものだ。
『どうした!逃げ回っているだけでは時間が過ぎていくだけだぞ!』
(なんとでも言うがいいのです!)
 また軽量級が逃げまわる事は追いかける側のスタミナを奪う狙いもあった。やはりでかい人は疲れやすく、疲労がたまれば隙もできるというものである。まあでかいとはいってもさすがにチャンピオン級のプロレスラーともなればスタミナも無尽蔵だろう。60分試合してドローに終わった時に対戦相手が控室でグロッキーになっていたにもかかわらずケロッとしていた元オリンピアンのように。針の穴を通すがごとく、嵐のようなチャンピオンの猛攻をカントは逃げてしのぎ、時たま伸びた手足にキックやパンチや体当たりを食らわせて徐々にスタミナを削っていった。
『ええい!もう俺は我慢ならん!こいつでカタをつけてやるぞ!』
 一人称が私から俺に変わり、チャンピオンがそうとう苛立っている事がわかる。そしてついにチャンピオンは切り札の【グローリーチャンピオンベルト】を抜いた。腰のベルトが輝き、チャンピオンの戦闘力が急激に増大するのがカントにもわかった。
(スマッシャーさんが9回攻撃なら……)
 これは事前にグリモア猟兵から聞いていた情報だ。それに基づき、カントも備えてきたのである。
(カントは144回攻撃なのです!)
 カントは全身からパチパチ静電気をほとばしらせた。これがパワーアップの合図だと、チャンピオンはすぐに理解した。雑な計算になるがカントの猟兵強度が100万パワー、チャンピオンの強度が1000万パワーだとして、9回攻撃のチャンピオンが9倍の9000万になっても144回攻撃のカントが100万×144=1億4400万パワーになるから勝てるのだ。
『おもしろい。我が攻撃を受けてみるがよいわ!』
「もっきゅー!!」
 互いに真正面から突っ込む……と思いきや。カントの体はチャンピオンの横をすり抜け、ロープへと飛んでいった。そして反動で戻って来たカントの両足蹴りがチャンピオンに突き刺さる。
『おのれ!チキン戦法は変えないというのか!』
 チャンピオンは激怒したが、これは両者のユーベルコードの違いによるものなので仕方がない。チャンピオンの攻撃は9回『同時』攻撃だが、カントの【|超電磁モーラット砲V《モーラットレールガン・ビクトリー》】は『計』144回攻撃であり、一撃一撃は1回攻撃でしかない。まともにぶつかったら100万パワー対9000万パワーとなってカントは普通に死ぬのだ。
(チョーップ!)
 自らレールガンの弾丸と化したような超高速攻撃をカントは次々にチャンピオンに叩きつけた。
(ラリアーット!)
 モーラット体型に加えて超高速の動きであるために観客にはなかなか伝わりづらいが、1回ごとに違う攻撃を行うなかなかのこだわりぶりだ。まあそれくらいの速さでなければチャンピオンに捕らえられてしまうのだが。
(ショルダータックル!)
『お、おのれ、捕まえさえすれば……』
 そうなれば勝負は決まる。それはチャンピオンのみならずカントも観客も全てに共通した認識だっただろうし、おそらく正しいのだろう。だからこそチャンピオンは捕まえるのに、カントは逃げつつ攻撃を加えるのに、それはもう必死であった。なにせカントとしても9000万パワーを上回るためには、雑な計算でいくなら144回攻撃のうち最低90回は命中させないといけないのだ。繰り返すがチャンピオンに捕まらない上で、である。
(ヒップアタック!)
 それでもカントは攻撃を続けた。そしてその苦労が実る時がついにやってきたのだ。
(とどめは必殺のフライングヘッドバットなのです!)
『ぐぼあ!!』
 必殺の頭突きがチャンピオンの攻撃をかいくぐってその顔面に突き刺さり、ついに巨木が、倒れた。
「も、もきゅ……きゅー!」
 同時にカントも力を使い果たしたかのようにリング上におしりを付けた。だがその顔は実に誇らしげであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス
「何度もしつこいっすね。でも、そろそろ終わりにするっすよ」
引き続き愉快な仲間達から体を借りて戦うっすよ
「ここは正々堂々やらせてもらうっすかね」
あえて正面からプロレスを仕掛けるっすよ。【怪力】【グラップル】で互いに技を出したり受けたりを繰り返す。相手の身体能力が増大するっすけど、逆にそれを利用させてもらう
「その力、利用させてもらうっすよ!」
投げられたり吹き飛ばされたりしたら、【ロープワーク】でリングロープを使い、反動で飛んでチャンピオン・スマッシャー目掛けて【猛狐十字焔】。【念動力】で加速しての火【属性攻撃】
「どうっすかね? 新技の味は」
成長の止まったオブリビオンに負ける訳にはいかないっすよ



●新必殺技炸裂
 改めて言うまでもなくオブリビオンというものは元来しつこいものだ。何度滅ぼされてもなんらかのきっかけてまた出てくるものだ。ごくごく短期間に繰り返し滅ぼされるとか、因縁ある宿敵と呼べる猟兵に倒されるとか、そういう事がない限りは完全に消滅する事はないとされている。それはもう、そういうものなので文句を言っても仕方のない事かもしれない。
「何度もしつこいっすね」
 それでもなお、リカルド・マスケラスにはそれを述べる権利があった。なにせチャンピオンと戦うのは5(うちこの村では4)回目になるわけだし。いいかげんにしろと思ってもまあ当然の流れといえよう。
「でも、そろそろ終わりにするっすよ」
 まあ本当に終わりになるかは、今からでも宿敵主の乱入があるか、さもなくばどこかの誰かがもうネタを思い浮かばない上に他の誰かも出さないかのどちらかなのだろうか。なにせアリスラビリンスという世界自体、このまま何もなければどんどん平和へと向かう世界であろう。オブリビオンの、オウガの居場所はどんどんなくなっていくのだ。それでもなお骸の海というものが存在する限りは、出てくる可能性はゼロにはならない……の、だろう。おそらく。
『馬鹿め!私には野望がある!こんな所でつまずくわけにはいかないのだ!』
 一方でチャンピオンもアスリートアース進出という目的を持ってしまったからには、オウガとしてはそれを完遂させないわけにはいかない。そして猟兵はそれを実行させるわけにはいかない。折しもアスリートアースはちょうど戦争が終わったばかりだ。新たな騒動の種を持ち込ませるわけにはいかないのだ。多少大げさではあるがこの闘いはふたつの世界の平和がかかっているのだ……むろんもう片方の世界が影響を受ける可能性はごく低いのだろうが。
「悪いっすけど、それをさせるわけにはいかないっすよ」
 先の戦いに続き、力持ちの体を借りたリカルドはファイティングポーズをとった。いずれにせよやる事はひとつだ。目の前のチャンピオンを破る事。そして何度も戦っているリカルドは、その強さについては十分身に染みている……が、それでもなお必勝を期してここに立っている。その理由は……。
『ふん、どんな策略を用いるか知らんが、真っ向勝負で叩き潰すのみ』
「いや、ここは正々堂々やらせてもらうっすよ」
 時として変則的な戦い方やネタもやるリカルドではあったが、それでも基本的にはベーシックなプロレスができる人なので、今回はちゃんとしたプロレスをやるつもりなようだ。そしてチャンピオンもリカルドの目(この場合仮面の方なのか下の人の方なのかはわからないが)を見て、その言葉に偽りのない事を確認したようであった。
『おもしろい。堂々と来るのであれば、チャンピオンとして真っ向勝負で叩き潰すのみ(2回目)』
 相手がどんな手で来ようと基本的には同じ戦法を使うのはチャンピオンぽい一面といえた……オブリビオンなので融通がきかないだけかもしれないが、そこはそれだ。ともあれゴングが打ち鳴らされ、リカルドとチャンピオンはがっぷり四つに組み合った。今回のリカルドはベースが力持ちの愉快な仲間ということあって、さすがにパワーはあるようだ。くわえてリカルドがさらに怪力を付与しているので、頭一つ大きいチャンピオンとパワー面で互角にやりあえていた。
『なかなかやるな!なるほど力だけは私の前に立ちふさがる程はあるようだ』
「なんの、感心するのはまだまだこれからっすよ」
『ぬかしおって!ならば私の本気の一端を見せてやろう!|俺様がチャンピオンだ《I am champion》!』
(ここで来るっすか)
 チャンピオンの言葉にリカルドは警戒の度合いを強めた。それは相手の攻撃を受ければ受けるほどに身体能力が増加する、まさにプロレスのチャンピオンに相応しいユーベルコードだ。それでもなおリカルドは攻勢の手を止めない。打投極の応酬が続けば続くほどにリカルドにかかる圧力は強まっていくが、なおもリカルドは攻め続け、受け続けた。
『どうした?そろそろきつくなってきたんじゃないのか?』
「……そうっすね、もうそろそろってトコっすかね」
 むろんリカルドとて何も策がなく攻め続けているわけではない。考えあっての事だったが、そのためにはどんどん強くなるチャンピオンの攻勢に耐えなければならない。その時が来るのが先か、自分が折れるのが先か。まさにプロレスラーとは技を受けるもの、その点についてはリカルドもチャンピオンも一緒であった。
『くらえ!』
 そしてついにその時が来た。チャンピオンがリカルドの腕をつかむと、ロープに投げ飛ばしたのだ。
「今っす!」
 反動で戻って来たリカルドは巧みなロープワークを用いてチャンピオンの攻撃を回避した。反対側のロープでさらにその速度は加速する。そしてリカルドは跳んだ。
「その力、利用させてもらうっすよ!」
 リカルドの全身が燃えた。そして腕を×の形に組むと強烈なフライングクロスチョップをくらわせた。火炎属性のフライングクロスチョップはその名を【|猛狐十字焔《blazing cross》】といった。ロープ等の反動を利用して加速し、相手に強烈な攻撃をくわえる技だが、さらに威力を増強するためには反動に加えて初速が必要だった。それを得るためにリカルドはチャンピオンの力をあえて増強させていたのだ。
「どうっすかね? 新技の味は」
『ぐわああああああ』
 それはリカルドがかつてチャンピオンと戦った時にはなかった技だった。そしてその威力は今まさに燃え盛っているチャンピオンの悲鳴が雄弁に語っているだろう。そう、確かにチャンピオンは強い。だが常に進んでいる世界において、過去強かった者が現在においてもいまだ強いとは限らない。骸の海に眠っている過去の記録のみで戦っているチャンピオンは、いかに強くともその強さは上昇する事がない。
「成長の止まったオブリビオンに負ける訳にはいかないっすよ」
 リカルドはきっぱりと言い放った。そう、猟兵は常に未来を見ている。常に成長し続ける者が過去の遺物が負ける道理がないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルデ・ローゼ
「猟書家は引退したみたいだけど、まだまだ懲りないみたいね、チャンピオン!」
最初からUCを発動しておいて、分身と一緒にリングイン!
まさか、こんなか弱い女の子2人が怖いなんてないわよね?と挑発して2対1の変則マッチを承諾させるわ。

「よもや、苦痛の女神はただ受けるだけと思うてはおるまいな?」
私は真ん中で構えて受け&組み技主体、分身はリングを広く走り回ってかく乱&飛び技主体。
チャンピオンの攻撃を私が受け止め、分身が攻撃する連携で行くわ。

止めはツープラトン式ダイヤモンド・カッターで決めるわ。



●卑怯とは言うまいね
「猟書家は引退したみたいだけど、まだまだ懲りないみたいね、チャンピオン!」
 リングに向かうヴィルデ・ローゼはしつこいチャンピオンに辟易しつつも、どこかうれしそうであった。苦痛と夜を司る女神なるものの巫女であるヴィルデにとって、チャンピオンとの戦いはその信仰を改めて確かめる手段としてはこれ以上ないものだったようだ。これまでのチャンピオン・スマッシャーとの3度の戦いにおいて、その精神は存分に発揮されたようで、戦いを楽しんでいる側面も結構出ていたように見えたような気もした。ならば今回の戦いもまたそれを世に知らしめるついでに自分の信仰もより深まるという事で、まさに絶好機と言えた、のかもしれない。
 そんな思いを抱えながらリングインするヴィルデ……
『おいおいおい』
 に対し、チャンピオンは表情を変えないながらも、その口調はどこか不満げだった。
『堂々と複数で来るか』
 そう。ヴィルデはひとりではなく、完全に瓜二つの分身を伴っていたのだ。これはヴィルデのユーベルコード【|鏡写しの影《another phase》】によって生み出された分身であった。
「まさか、こんなか弱い女の子2人が怖いなんてないわよね?」
 ヴィルデは堂々と応じた。2対1のハンディキャップマッチをする気満々だったのだ。さてチャンピオンが1対多のハンディキャップマッチをした例はない。ヒーローマスクが他人の体を借りたのはハンディキャップマッチとは違うだろう。基本的には猟兵対チャンピオンの1対1で戦っていた……応用的にはどうかといえば、1対1しかしてないのは『この村では』という話であり、アリスラビリンスの他地域に出現した時にチャンピオンが1対多を強いられた事はあるようだ。
『おもしろい!その挑発にのってやろう。1対2なら勝てるなどという思い上がりを正してやろうぞ!』
 まああれだ。もともとチャンピオンがプロレスラーだからといって、本来なら猟兵がそれに乗る必要はまったくなく、何人でフクロにしようが遠距離攻撃を行おうが何も問題ない事を考えれば、複数対1であってもプロレスの形式に乗っ取っているだけチャンピオンにとっては十分すぎたということだろう。みんなプロレスで来てくれてチャンピオンも筆者も本当にありがたく思っております。いや本当に。
 ともあれこの村初のハンディキャップマッチは始まった。チャンピオンと相対しているのは本物のヴィルデの方のようだ。こういう場合、数が多い方はふたり同時にリングに上がる場合と、リング内にいるのはひとりだけで、残りはタッグマッチの要領で自コーナーに控え、タッチする事で入れ替わる場合があるようだが、今回はどうやら後者方式でいくらしい。
『行くぞ!|我が栄光にひざまずくが良い《kiss my glory》!』
 ヴィルデが試合前からユーベルコードを使ったのを見たためかどうかはわからないが、チャンピオンも試合開始早々ユーベルコードを放った。技をかけた相手を自宅に帰るか追加ダメージを受けるかを迫る凶悪なものである。早速大振りのチョップがヴィルデの胸元付近に叩き込まれる……そういえばこの技の効果範囲は【レベルm半径内の指定された対象全て】なのだが、さすがに技をかけられてもいない相手に効果及ぼすのはちょっとプロレスぽくないので、コーナーで控える分身ヴィルデ(以下分身……『本体』はそのままヴィルデで)には効果は行かない事としましょう。
「くっ……相変わらず、強烈な打撃……ッッッ」
 むろん自宅に帰るわけにいかないヴィルデはチャンピオンの攻撃そのもののダメージに加え、帰宅拒否ペナルティのダメージを追加でくらうことになる。その後もチャンピオンの容赦ない攻撃が続き、ダメージによる苦悶とはちょっと違う成分も混ざった表情を浮かべてヴィルデはダウンする。
『まだまだこんなものじゃないぞ!』
 チャンピオンはリング中央でヴィルデを|逆エビ固め《Boston Crab》にとらえた。背骨折りを耐えるヴィルデ……とこれまでだったらなるところだが。
『よもや、苦痛の女神はただ受けるだけと思うてはおるまいな?』
 本体とは違ってどこか時代がかった偉そうな口調の分身がリングに乱入するとチャンピオンの顔面にドロップキックをくらわせたのだ。たまらず技を解くチャンピオン。関節技やフォールをされた時にノータッチで入って来るのは一般的なハンディキャップマッチでもよく見られる光景だ。
『ふん、やはり来たか。まあ良い……』
『そうりゃ!』
 分身はさらにドロップキック。ノータッチで入った後に試合権利がないのにしばらく攻撃を続けるのも普通にある事、なのだが。
『……おい』
 受け身を取り立ち上がったチャンピオンの後方から立ち直ったヴィルデが組み付き、分身が一度エプロンサイドに出てからロープを掴んでスワンダイブ式ドロップキックをチャンピオンにくらわせた所でチャンピオンも気が付いたようだ。こいつらもう完全に片方引っ込む気がなくてこのまま1対2でやるつもりだな、と。
『ふん、それならそれで構わぬわ!両者いっぺんに倒してくれよう!』
 チャンピオンはチャンピオンらしく覚悟を決めた。ならばふたり同時に攻撃せんと、両腕を広げてヴィルデと分身の両方同時にラリアットを狙った。これでまとめてなぎ倒す策だったのだが。
「そうはさせないわ!」
 ヴィルデは分身の分の攻撃をも自らの体で受けたのだ。実のところ分身はヴィルデよりSっ気が強くMっ気が少ない。なのでヴィルデよりもダメージには弱いのだ。それに……
「ふうっ、やっぱりぃ、い~い攻撃だわぁ……」
『お、おのれどMめ!』
 ヴィルデの鬼気迫る(?)表情にチャンピオンは恐れおののいた。そう、こんないい物を分身とはいえ分けてあげるなんてもったいないのだ。ごちそうは独り占めにするに限る。
『そろそろ決める事にしようかのう』
 隙を作ったチャンピオンに分身が延髄斬りを決めた。チャンピオンの動きが止まった所に……
「そうね、名残惜しいけど、決めましょう」
 ヴィルデと分身、同時にチャンピオンの腹部に前蹴りをくらわせた。そして前傾姿勢になったチャンピオンの顔を背負うようにふたりして抱えると、同時にジャンプして背中からリングに落下し、チャンピオンの顔面をリングにめり込ませた。ツープラトン式ダイヤモンド・カッターだ。
『ごふわ!!』
 強烈な一撃にチャンピオンはもんどりうって倒れた。その様子にヴィルデは思わず。
「……次は私がこれをかけてもらおうかな」
『なぜ妾の方を見る』

大成功 🔵​🔵​🔵​

草剪・ひかり
POW判定
基本的にソロ描写希望
ピンチ、敗北、お色気等キャラ崩し描写歓迎

貴方はお弟子さん達に憤慨してるけど、それほど悪くなかったよ
他の皆はわからないけど、少なくとも私はあの子達に光るものを感じたからね

そして、その指導をして魅せた貴方とも、やっぱりプロレスラーとしてやり合いたいね
猟兵とか(元)猟書家とかフォーミュラとか関係なく、プロレスラーらしく真っ向からやり合おうよ

まずは体格差を気にせず正面から組み付き力比べ(私も女子レスラーとしては体格はある方だけど……)
強烈に逆水平チョップを打ち込めば、胸元の爆乳にその衝撃が伝わって激しく揺れる
巨体をものともせずに抱え上げ、マットに叩きつけるボディスラム
そして、長身のスマッシャーの顔面を打ち抜く、高く美しい軌道のドロップキック!

もちろん、激しく仕掛ければそれ以上に返されるのは覚悟の上
例の9倍攻撃をまともに受けて、さすがの私もKO寸前の大ピンチ

けど、プロレスラーは一人で戦うわけじゃないからね
「頑張れ!」という声が微かにでも聞こえれば、立ち上がれるんだよ



●絶対女帝対チャンピオン
 草剪・ひかりはプロレスラーというジョブが世界に登場する前からプロレスラーとして精力的に動いていたひとりだ。猟兵としての活動においてもそれは遺憾なく発揮され、さまざまな世界で様々なプロレスを行ってきた。今リングに上がるチャンピオン・スマッシャーとも幾度となく戦い、またアスリートアースにおいても様々なダークレスラーたちと戦ってきた。そしてチャンピオンが言及するプロレス・フォーミュラとも戦っているのだ。
 そんなひかりがリングに上がれば観客の声援はひかりコール一色となるのは当然の流れといえた。まあチャンピオンとてこの反応はさすがに予測の範疇だろうから、完全アウェーの中でもふてぶてしい態度を崩そうとはしなかったのだが。
『来おったな、草剪ひかり』
 基本的にオブリビオンは過去の記憶は残されていないようだが、応用的にはいろいろあるらしく、チャンピオンもひかりの名声についてはどういうわけだか知っていたようだ。まあ他世界のフォーミュラの情報すら聞き及んでいるようなので、他世界で活躍する伝説に足を踏み込みつつあるプロレスラーの事ぐらい知っていてもおかしくはあるまい。
『貴様こそ私の海外遠征前の壮行試合の相手として相応しい』
 この闘いの前に結構いろんな人と戦って後れを取っている事など完全に忘れたようにチャンピオンは言い放った。都合の悪い事は忘れよと砂で構成されたとある巨漢レスラーも言っていたではないか。
「貴方はお弟子さん達に憤慨してるけど」
 それに対し、ひかりはつい先刻戦ったチャンピオンの弟子、あのグラウンドを得意とするがひかりに敗れ去ったアリススタチューたちについて触れた。
「それほど悪くなかったよ」
『何?』
 チャンピオンが弟子のふがいなさを怒ったのが本気なのか、それとも外向けのポーズなのか、それはなんとも言えないところである。ただ、ひかりがその弟子の事を評価めいた事を言うのはチャンピオンとしてはさすがに意外だったようだ。
「他の皆はわからないけど、少なくとも私はあの子達に光るものを感じたからね」
 あえてそう演じたとはいえ、徹底的に受けに回り、存分にその技を受けての感想なれば、ひかりの言葉には説得力があった。もともと身体能力が高いオブリビオンが超一流レスラーの鍛錬を受けたならば、まあそこそこのレスラーにはなりそうなものである。それでも、関節技は鍛錬の時間によるというが、想定される訓練量よりもその実力は上回っていたということだろうか。
「……そして」
 あらためてひかりはチャンピオンを見据えた。
「その指導をして魅せた貴方とも、やっぱりプロレスラーとしてやり合いたいね」
『ほう』
 チャンピオンはにやりと笑った。もしかしたらこの村で戦いを始めて数年になるが、その中においても初めて見るような、一番うれしそうな笑顔だったかもしれない。
「猟兵とか(元)猟書家とかフォーミュラとか関係なく、プロレスラーらしく真っ向からやり合おうよ」
『いいだろう』
 どうやらチャンピオンもひかりの言葉に心動かされるものがあったようだ。元猟書家ではなく、一介のプロレスラーとしてリングに立つ。その言葉にはそんな決意を示すかのような響きがあった。
「よろしく」
 ひかりはチャンピオンに右手を差し出した。チャンピオンは一瞬逡巡したようにも見えたが、その腕を握り返すとクリーンに自コーナーに戻った。このチャンピオンのオブリビオンらしからぬ行動に、観客が、リング下の弟子たちが、それぞれのやり方で驚きにどよめく中、幾度目かのゴングが打ち鳴らされた。
『行くぞ!』
 ひかりにチャンピオン、開始早々リング中央に突撃して真っ向からがっぷり四つに組み合った。その姿はトップレスラーよりも、情熱を全開にしてライバル心むき出しでぶつかりあう若手レスラー同士の対戦を思い浮かばせるものであった。身長はあきらかにチャンピオンが上回り、上からひかりを押しつぶす形になる。ひかりとて170cmを超える身長は女性の中では高い方であり、あるいは胸囲ならチャンピオンに匹敵するかもしれないが……いやいやチャンピオンの胸囲はもっとありそうだ。下手したら200cm超えもありえるぞ。ともあれ体格差ではチャンピオンに分があり過ぎるのであった。いかに猟兵とオブリビオンの戦いにおいて体格は絶対的な差ではないとはいえ、やっぱり体格がでかい方が有利は有利なのだ。特にことプロレスということになればなおさらだ。
「くっ、やっぱりこうなるよね」
 押しつぶされそうになりながら、それでもひかりは力を込めてチャンピオンの剛力に耐えた。不利だからといって自分から挑んだ手四つでそう簡単に折れるわけにはいかない。
『どうした、大口叩いておいてこの程度か』
「そっちこそ、まだまだ始まったばかりなのにそんな事言うのは早すぎる……よっ!」
 挑発めいたチャンピオンの言葉に呼応するかのように、全身全霊の力を込めてひかりはチャンピオンの巨躯と怪力に抗し、ほぼブリッジに近い状態から五分の状態まで押し戻した。やがてグラウンドの応酬、関節の取り合いポジションの取り合いを経て一度間合いを離すと両者のすばらしいムーブに惜しみない拍手が観客から降り注ぐ。そして再度両者は真正面から接近すると今度は壮絶な打撃戦へと移行した。ひかりがチャンピオンの胸板に逆水平チョップをぶち当ててその胸板を揺るがせれば、お返しとばかりにチャンピオンも逆水平チョップを返してひかりのばくちちと呼べるほどの胸が揺れる。互いにバストサイズはメートル級であるがその質の違いから揺れ方にも差異が発生するのは自然の流れというものであろう。むろん今は観客の中にいいぞチャンピオンもっとやれと思うようなけしからん者はいない……はずだ。
「くっ……なんの!」
 数度のチョップの応酬ののち、打撃戦でもパワーと身長のあるチャンピオンに分があるとみたひかりは一気に接近してチャンピオンに組み付いた。そして自らの右腕をチャンピオンの股に、左腕を肩に回す。
『ほう、私を持ち上げようというのか、やってみたまえ』
 ひかりの意図を察したチャンピオンはあえてそれを跳ねのけなかった。そして地に根を張ったように踏ん張ってそれを打ち破らんとした。だが。
「く、ぬおおおおおおお!」
 凄まじい形相で全身の力を込めたひかりが、チャンピオンの巨体を持ち上げたのだ!そのままリングにボディスラムで叩き落した。ハンセンが世界で5人目だとしてさてひかりは世界で何人目になるだろうか。
『くっ、やるな』
「まだまだ!」
 すぐさま立ち上がったチャンピオンにひかりはドロップキックを決めてみせた。美しいフォームもさることながら、超長身のチャンピオンの顔面に決めてみせたジャンプ力はそれだけでカネが取れるだろう。むろん肉体が躍動すると肉も躍動するわけだが、やましい気持ちでそれを見た観客はいない、はずだ。
『いいだろう、ならば俺様も本気を出そうではないか!』
 再度立ち上がったチャンピオンのベルトが輝きだした。【グローリーチャンピオンベルト】の合図だ。
(……来る!)
 むろんひかりは覚悟の上だ。腕を振り回すチャンピオンを前に身構えると、肉体と精神の両面で覚悟を決め、その時を待った。そして
『くらえ!俺様の剛力を!』
 チャンピオンの右腕が繰り出された。9倍ラリアットがひかりの首を狩らんと飛んでくる。ひかりは……避けない。そしてひかりの体が紙切れのように宙を舞い、一回転してリング上に自然落下した。一撃でレスラーの首を折るラリアットの、その9倍の威力をまともに受けてしまったのだ。リング上に大ひかりコールが鳴り響く。ひかりは……
『無駄だ、起き上がれるはずが』
「……そう、かな……」
『何!?』
 勝ち誇ったチャンピオンの顔が驚愕に変わった。ひかりがゆっくりと、確かに自分の両の足で立ち上がったのだ。
「……プロレスラーは一人で戦うわけじゃないからね」
『馬鹿な!今の一撃を受けて立てるはずがない!』
「『頑張れ』という声が微かにでも聞こえれば、立ち上がれるんだよ」
 かつて『一撃で相手の体力を35%減らす』という触れ込みの技を使ったレスラーがいた。だが彼がチャンピオン(スマッシャーではない)にその技を3発決めたが、105%ダメージでKOとはならなかった。チャンピオンは観客からの応援で体力を回復させた事でKOを免れて逆転勝利したのだ。プロレスラーとはそういうものなのだ。そして割れんばかりの大声援の中、ひかりはファイティングポーズを決めてみせたのだ。
「さあ、勝負はここからだよ!」
『ほざけ!強がりを言うな!』
 チャンピオンはひかりに組み付いた。今度は投げ技を狙おうというのだ。だが。
「悪いけど、スープレックスなら私の領域よ!」
 ひかりはチャンピオンのクラッチを切ると、先刻の大ダメージが嘘のような動きで背後に回った。そして思い切り投げ飛ばしたのだ。そしてどこからともなく突然声が響き渡った。
『出たー!絶対女帝の新たな象徴!全てが平伏す権威の証!女帝の逆鱗に触れた者が、怒りの嵐から逃れる術は存在しない!』
『な、なんだこの実況は……!!!!????』
 その技の名は【エンプレス・トルネード・スープレックスホールド】。ひかりが開発した、受け身不能のスープレックス。まさに女帝の逆鱗に相応しい威力とフォームの美しさであった。あるいは体力だけならチャンピオンはこれを耐えるだけのものがあったかもしれない。だが勝利を確信した状態からひっくり返された事、そしてそれを成し遂げたひかりの精神力は、チャンピオンの耐久力を上回ったのだ。
『こ、これが……プロレスラー……』
 ダウンしたチャンピオンの横で、完全に力を出し尽くしたと思われたひかりだったが、それでもどうにか両の足で立つと、観客の大歓声に応じるのだった。
「再戦したいのなら、いつでも待ってるよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
最後かもしれないから打ち明けるけれど
この村を第二の故郷と愛する私は
村の平和を願う一方で過去の刺激的な試合を懐かしんでもいた
また「〇〇から来た男」が来ないかしらなんて
新たな猛者が現れた事を嬉しく思ったなんて
村娘失格だった事を皆に正直に謝るわ

ごめんねスティーブ!
ケン、カール、ブロック、ダニエル、ジョシュ、ドナルド!
あとタッグを組んでくれた大大大大大好きな約100人の力持ち達!
今から立ち向かうのは正義感からじゃない
私、もう二度とない試合を存分に楽しみたいの

それに覚悟を決めたわ
I am champion! 私はこの村のチャンピオンになる!
私の大事な友達を部下にしようなんて連中は、もう来させない

だから私も王者としての信念の為に敢えて不利な行動を
歌を口遊みながら月桂樹を編み、花冠にして被る
花言葉通り、村に「勝利」と「栄光」を齎すべく無敵になるわ

と言っても相手は格上
格下の私はクイック!一瞬の逆転技を狙いましょ
体格も技量も未熟だけど、貴方のような男とだけは闘い慣れてる

この試合に勝って!
焼肉を!食べるー!



●NEVER SAY, NEVER AGAIN
 始める前に前提として、基本的にグリモア猟兵が猟兵をさまざまな世界に案内する場合は事件や戦闘といった危険な行為を解決してもらう目的がある。とりわけアリスラビリンスは他の世界と比べてもちょっと事情が特殊であり、もともと人喰いの化け物であるオウガがさまざまな要因でこの世界に紛れ込んできたアリス適合者を苦しめた末に捕食する事を目的に存在する世界と言ってもよい。そのため他の世界にたまにあった、事件解決や戦闘を目的としない平和的な案内は皆無と言っても差し支えのない状況だ。それでもかつてはクリスマスやバレンタインデーといった特別な場合においてはアリスラビリンスでもそういう平和な行事を目的として猟兵が送られる事も一応はあった……のだが、いつの間にかアリスラビリンスのみならず、他世界においてもそういう目的での猟兵の移動が見られなくなってしまったのだ。
 そんな事があり。
「……最後かもしれないから打ち明けるけれど」
 ニコリネ・ユーリカがこの村で見せた事のない深刻な顔をして、これまで仲良くしてきた力持ちたちに話しかけたのは、今リング上に立つ強敵に対する恐れからではない。もっと重大な事情があったのだ。
「私はこの村の事は、第二の故郷のように愛しているわ」
「おう!あんたは間違いなくここの村人だぜ!」
「……だけど」
 力強く答えるスティーブら力持ちたちの言葉が、今のニコリネには重い。
「村の平和を願う一方で、過去の刺激的な試合を懐かしんでもいたわ」
 そう。ニコリネが村人に迎え入れられたのは、もともとアリス適合者を助ける愉快な仲間たちの本能や性質もさることながら、数々のチャンピオン・スマッシャーとの激闘、さらには鉤爪の男との激闘。そういったものに襲われた村を身を挺して救ったからに他ならない。
「……で、思っちゃったの。また『〇〇から来た男』が来ないかしらなんて……そして、今また新たな猛者が現れた事を嬉しく思ったなんて」
 そうなのだ。かつてと違い、そういう事件でもなければニコリネがこの村を訪れる事はない。筆者としてもイベントシナリオでこの村を出す予定はあったのだが、いつの間にかイベントシナリオ自体が消え去ってしまった。そして事件が起こる事、ニコリネが村を訪れる機会に恵まれた事は、同時に村の危機を意味している。
「村娘失格だった事を皆に正直に謝るわ」
「そんなことないぜ!」
 だが、スティーブを始めとしたケン、カール、ブロック、ダニエル、ジョシュ、ドナルドといった力持ちたちはニコリネを責める事はしなかった。代わりに彼らはニコリネがこれまで村に来てくれた事、そして戦ってくれた事、そして今回もこうして来てくれてた事への感謝を述べた。
「こういう時でもなきゃ嬢ちゃんがここに来られねえってんなら、事件だって大歓迎だ!」
「おう、俺たちだって平和が続いてたらボケちまうぜ!」
 小声で言うと実のところチャンピオンの復活を期待していた方はニコリネ以外にも結構おられたんですよねえ……ともあれ。愉快な仲間はどんな状況であっても愉快でいられるからこそ愉快な仲間なのだ。
「みんな……」
 ニコリネはひとりひとりの名を呼んだ。名の挙げられた者は約100人。みなニコリネとともに戦った者たちだ。呼ばれた者がみなうれしそうに微笑むのを見て、ニコリネもまた笑顔を作った。
「ごめんね!そして、ありがとう!今から立ち向かうのは正義感からじゃない!私、もう二度とない試合を存分に楽しみたいの……それに!」
 ニコリネの視線がリング上のチャンピオンへと向けられた。
「覚悟を決めたわ」
 ニコリネの鋭い視線を真っ向から受けて、チャンピオンは不敵な笑みを浮かべた。見る者を圧するような壮絶で獰猛な笑みだ。笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点であるらしい……が、それに気圧される事もなく、ニコリネは言い放った。
「I am champion!」
『!!??』
 さすがにこの言葉にはチャンピオンは驚愕した。本来なら自身が言うべきセリフだったからだ。
「私はこの村のチャンピオンになる!」
『何だと?』
「私の大事な友達を部下にしようなんて連中は、もう来させない!」
 果たして今回の勝利でチャンピオンがもうここに来なくなるか……それはわからない。今言う事ではないかもしれないが、オブリビオンはしつこいのである。変わった試合形式を思いついてしまえばまた出てくるかもしれないし(試合形式のアイディアは常時お待ちしております)、もしかしたらチャンピオン・スマッシャー以外が来る事だってあるかもしれない。だが、少なくとも今この段階ではこれを最後にするつもりで戦う事はきわめて重要だ。平和が恒久的なものになるか、短いものになるかはわからないが、仮にきわめて短時間であっても平和とは何より貴重なものなのだ。
『この私を前によくもまあ大口を叩いたものだ』
 改めてリングに上がったニコリネに、そこまで言われたチャンピオンも黙っているわけにはいかない。その表情にもはや笑顔はなく、純粋なる怒り、闘志だけがそこにあった。
『チャンピオンは貴様ではない!この私こそ……俺こそチャンピオンなのだ!』
 そしてチャンピオンは両腕を広げた。どこからでも来いという構えだ。それは単にプロレスラーとしての生きざまを見せるだけではない。自ら攻撃を受ける不利を背負えば背負うほどに強くなるチャンピオンのユーベルコードなのだ。それはニコリネもよく分かっていた。ならばチャンピオンになると宣言した者としてニコリネが取るべき道は。
「それなら私も!」
 ニコリネは逆に構えを解いた。そして。
「我が王は剛く、賢しく♪」
『何?』
 チャンピオンも、村人たちも、みな驚愕した。なにせニコリネが突然歌い出したのだ。それは実に美しく、荘厳な歌。そしてその手には。
「その足に遍く邪を組み敷き、手には栄光を摑み取る♪」
 いつしか月桂樹の冠が握られていた。それははるか古来より勝者たる者に与えられたものだ。
『生意気な!|戴冠式《Coronation》気取りとは、もう俺に勝ったつもりか!』
「そうよ」
 ニコリネは言い放った。月桂樹の花言葉は勝利と栄光。村にそれを齎すべく、ニコリネは月桂冠を被ったのである。
「今の私は、無敵だもの」
 かくして始まった戦いは、それはもう、壮絶のひとことであった。なにせ互いが互いの攻撃を回避もせず、ひたすらに受け合う戦いになったのだ。受ければ受けるほどに強くなるチャンピオンがそういう戦法を取るのは当然として、それを真っ向から受けて立つ構えのニコリネもチャンピオン同様の戦術を取ったのである。ニコリネのユーベルコードは【無敵の月桂冠】をうまく使わないと王たらんとする願いがかなわないという。ではいかにして月桂冠を使えばいいのか、その答えは、王たるに相応しい戦い方であったのだ。結果として両者の戦術が同じものになるのは必然といえた。
「さ、さすが、なかなかやるわね」
『ふん、貴様こそ、口だけではないようだな』
 チョップにキック、膝に拳を叩き込み合う壮絶な打撃戦を経て、ニコリネもチャンピオンも試合開始からほどなくしてボロボロになっていた。だが大ダメージを受けたはずの両者の力は減衰することなく、むしろどんどん勢いを増していった。結果として戦いは時間の経過とともに壮絶の度合いをさらに増し、最初はニコリネに大声援を送っていた力持ちたちも、あまりの壮絶さにいつしか言葉も出なくなり、ただ息を飲んで趨勢を見守り、ニコリネの勝利を願うだけであった。
『食らえ!』
 だがやがて戦いは体格に増すチャンピオンが優勢になってきた。ニコリネとて歴戦の猟兵だしプロレスの経験も豊富だったが、必要のためとはいえ体格差のある相手にあえて不利な戦法を行った事の負担はやはり大きかったようだ。大振りのチャンピオンのチョップに、ついにニコリネの体がふらついた。
『今だ!』
 すかさずチャンピオンはニコリネの体に組み付くと豪快に持ち上げ、抵抗する隙すら与えずにリングに叩きつけた。体がバウンドするぐらいの強烈な衝撃にニコリネの顔が苦痛にゆがむ。
「ニコリネ!ニコリネ!!ニコリネ!!!」
 これを見て、ようやっと力持ちたちは呪縛から解き放たれたようにニコリネに大声援を送り始めた。だが一度傾き始めた流れはそう簡単に戻る事はなく、チャンピオンが一方的に攻める展開が続いた。リング上でニコリネは投げられ、固められ、打撃を受け続けた。
『ふん、これだけやられてまだ倒れない事だけはほめてやろう』
「……言ったでしょう、私はチャンピオンになるって!」
 大声援に背を押されるように立ち上がるとニコリネはチョップを返していった。大ダメージを受け続けた者が放ったものとは思えないほどの強烈な音がリング上に響き渡るが、散発的な打撃はチャンピオンの剛腕の前にすぐに吹き飛ばされ、再度チャンピオンにターンが回ってしまう。
「……やっぱり、むこうが格上ね」
 それは重々に承知していた。その上で挑んだ戦いなのはニコリネにもわかっていた。この苦戦も覚悟の上。それでもなお、負けるわけにはいかない戦いだった。その想いが、そして見ている全ての力持ちたちの想いが、ニコリネを突き動かしていた。
『お前はよく頑張った!だが、これで終わりにしてやろう!』
 チャンピオンはニコリネの腹部に前蹴りを食らわせると、前かがみになったニコリネに前方から覆いかぶさるようにしてその体を抱えた。そして高々と持ち上げた……超滞空のパワーボムだ。このまま投げっぱなしで叩きつけるか、それとも押し潰すようにフォールにいく正調パワーボムか。いずれにせよこれをくらってしまっては……。
「……体格も技量も未熟だけど……」
 だが、ニコリネの目はまだ死んでいなかった。その耳には力持ちたちのニコリネコールが確かに届いていた。
「貴方のような男とだけは闘い慣れてるのよ!!」
 叩きつけられる寸前、ニコリネは両足をチャンピオンの首に巻き付けると思いっきり体を反らし、チャンピオンの巨体の下に潜り込んだ。格上の相手を倒すのに役に立つ技はクイックによる一発逆転。最初からこれが狙いだったのだ。
『なっ!?』
 思わぬ動きにチャンピオンの体が前のめりになると、そのまま前方に一回転した。そして次の瞬間、ニコリネがチャンピオンの上になっていたのである。はねのけようとしたチャンピオンだが、謎の力がそれを許さない。ニコリネが王たらんととっていたリング上の一連の動きを、ついに月桂冠は認めたのだ。
「ワン!ツー!スリー!!」
 レフェリーがマットを叩くと同時に、会場の全てが同じコールを行った。そしてレフェリーの腕は、3度マットを叩いたのであった。

【○ニコリネ・ユーリカ(XX分XX秒:ウラカンラナ)チャンピオン・スマッシャー●】

『……お、おのれ……』
 そしてチャンピオンの姿は徐々に消えていき、骸の海に還っていく。アリススタチューたちも逃げ去った。村は救われたのだ。

(だ、だが……これで終わりではないぞ、私は必ず修行し直して……)

 力持ちたちが口々に歓声をあげながら、ニコリネに、戦った全ての猟兵たちに駆け寄っていく。
「さあ!焼肉を!食べるー!!」
 そしてアスリートアースと違って費用はチャンピオン持ちではなく愉快な仲間達持ちではあったが、戦った全ての者たちの健闘を称えるべく、焼肉パーティが開催されたのであった。
 この村の平和がずっと続くのか、それともまた何者かに乱されるのか。それはわからない。ただ、もしなんかあった時には、まあなんとかなるだろう。これまでだってなんとかなったのだから。今は焼肉を楽しもう。明日の事は明日考えればいいさ。誰もがそんな事を考えていたとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年02月12日


挿絵イラスト