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クリスマス・ホワイトアウト

#アリスラビリンス #ノベル #猟兵達のクリスマス2023

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冴島・類



城野・いばら





 ウサギ穴を抜けた先は、辺り一面の雪景色。いや、それでは済まない程度のドカ雪、もしくは猛吹雪になっていた。
「これはすごい……」
「今年も雪かきが要るかしら?」
 風上側に立ち、周囲を見回す冴島・類(公孫樹・f13398)に、城野・いばら(白夜の魔女・f20406)がそう応じる。昨年のクリスマスにこの国、ラクトパラディアを訪れた際は、特殊なダイヤモンドダスト云々で協力を求められていたはずだが、今年は今年で大変そうだ。
 せっかく着てきたサンタ衣装もこれでは真っ白になってしまう、と類が眉根を寄せて、マフラーよりも暖かいその付け髭を撫でる。
「ピーノ君達のおうちは――」
「あっちの方かな?」
 それじゃ行こうか、さんたさん。視界が通らない中、何とか方向を定めた類が促す。彼と同じようにもふもふの付け髭を引っ張っていたいばらも、それに頷いてプレゼントの袋を担ぎ直した。袋の中身は『サンタの国』からこの国の住人であるピーノくん達へのお歳暮……贈り物? である。若干疑問を感じる類だけれど、この辺りの『サンタクロース』とは馴染みなのか、いばらは訳知り顔の様子。帰ったらその辺の話も聞いてみようか、とそんなことを考えながら、吹雪に閉ざされた銀世界へと一歩を踏み出した。
 何もかもが甘いアイスで出来たこの国は、降る雪さえもやわらかで甘い。けれど大粒の、重さを伴うその雪は、風と共に二人の身体にのしかかるよう。
 毎度色々と歓待してくれるピーノくん達のために、と意気込んでいた二人も、じわじわと体力を削り取られていた。
 類の炎や瓜江の風で、都度吹雪の影響を和らげながら進んでいくことしばし。類といばら、そして瓜江の三人分の足跡が、ウサギ穴から伸びていく。しかし振り向けばそれもまた、雪のカーテンに隠されていた。
「もうそろそろ、着いても良い頃だと思うけど……」
 道に迷った? と二人は周囲を見回すけれど、氷の家が立ち並ぶ彼等の村は、吹雪に阻まれて影も見えない。せめてこの降雪が収まれば、目印のお城くらいは見えてきそうなものだが、代わりに近くに見えるのは、小屋くらいのサイズの雪山くらいだ。こんもりと膨らんだその側面に、洞窟のような横穴が口を開けているのを発見して、類は一旦避難することにした。
 かまくらみたいになったその洞窟は、暗いけれど多少は外より暖かい。入り口付近に荷物を置いて、瓜江に立ってもらって、二人は服に付いた雪を落とした。
「困ったわね、こんなにひどい天気だなんて」
「とりあえず、少し休んでいこう」
 倒れてしまってはお届けもできない。壁際の地面を座りやすいように少しならして、二人は身を寄せ合うようにして腰を下ろす。
「待っててね、温かいお茶を持ってきたから」
「うん、ありがとう……」
 元々寒さに弱いためか、若干元気のないいばらに、類は魔法瓶から注いだお茶を渡す。湯気の立ち上るそれを啜って、彼女はほっと溜息を一つ。
「ピーノくん達、どこにいっちゃったのかしら」
『ハイ?』
 呼びマシタ? という返事に、類といばらは思わず顔を見合わせる。その声は洞窟の奥……いや、洞窟そのものが発しているようだ。


『コンニチハー、猟兵サン』
「こんにちは……?」
 もう一度身支度を整えて、洞窟を出た類が答える。続いて、いばらもそれを見上げて。
「ちょっと会わない内に、ずいぶん大きくなったのね」
 こんもりとした雪山……に見えていたそれは、ばかでかいピーノくんの頭だった。先程二人が休憩していた洞窟も、彼の口の中だったらしい。
『チョット身動きが取れナイ内に、雪がくっついちゃいマシテ』
「ははあ……」
「体はどうしたの?」
『雪の下に埋まってマスヨー』
 そんなことある? 穴に嵌ってしまったという彼の頼みに応じて、いばらは蔦を巻き付けてその頭を引っ張り上げる。類と瓜江も力を貸して、いばらも怪力を発揮し――。
『ワーイ』
 すぽん、とワインのコルク栓が抜けるような調子で、ピーノくんの身体が雪の中から引っこ抜けた。雪がくっついて大きくなった頭に対して、身体はいつもの大きさ、アンバランスな頭でっかちピーノくんに、いばらがトロイメライを振って風を送る。
 びゅう、という突風で頭についた雪が散って、ピーノくんは徐々にいつものサイズへと戻っていった。
『助かりマシター』
「でも、どうしてこんなところに一人で居たの?」
 それと、皆の村はどこに? 二人の問い掛けに、ピーノくんはいつもののんびりとした調子で答え始める。
 曰く、当初の二人の見立て通り、ここは彼等の住む村のあった場所らしい。キャンディスノウが降るより前に、今年の降雪はとにかく量がものすごかったため、住人達はみんな、一旦お城の方へ避難していると彼は言う。
「えっ、じゃあ皆のおうちは?」
『雪の下に埋まってマスヨー』
 そんなことある? と言ってもまあ仕方あるまい。このピーノくんは村から逃げ遅れた仲間を探しに来ていたようだが。
「あなたはどれくらい埋まっていたの?」
『丸一日くらいデスカネ?』
 それは大変だ。その割に元気なピーノくんの様子に苦笑しつつ、類は手伝いを申し出た。
「とはいえ、この雪の下となると……」
『アレ、何か声がしマスネ』『誰か居るんデスカー?』
 難航間違いなしのような気がした遭難者の捜索は、思わぬところで解決した。先程ピーノくんを引っこ抜いた穴――それは、雪の下深くまで繋がっていて、そこから声が聞こえてくる。
『灯台モトクラシーってやつデシタネ』
「その言い回し、どこで覚えたんだい……?」
 言いつつ、類はぽっかりと空いたそれを見下ろす。
「この穴、一体何なのかな」
『アー、多分ボクらのおうちの煙突デスネ』
 丸ごと雪に埋まった住宅の、煙突のてっぺんだけが顔を出しているようだ。
「じゃあ、私が迎えにいってくるわね!」
「え」
 何だか急にやる気の増した様子の彼女に、類が首を傾げる。こういう場合は瓜江に任せるのが最適のような気がするけれど。
「煙突からの潜入、一度やってみたかったのよ」
 ふんす、と胸を張って言われる。こうなった彼女は言っても止まらないだろう。命綱代わりの蔦を受け取って「気を付けてね」と類は応じた。
 暗い竪穴、煙突を「これがサンタクロースの気持ちか」と感心しながら降りていったいばらは、取り残されていた住人達を発見する。
『あー、猟兵サンじゃないデスカー』『サンタのヒトみたいデスネー』
「メリークリスマス、ピーノ君。ここに残ってるのは二人だけ?」
 そうでーす。ワーイ。雪とかアイスを食べてれば生きていける彼等に衰弱した様子は一切ない。どうせ逃げ遅れたのも、昼寝をしていたとかそんな理由だろう。
「引き上げるよ」
「うん、お願い」
『アリガトウゴザイマース』
 いばら達を落とさないよう慎重に、類は煙突の中に伸びた蔦を引っ張る。
 どうやら、今回の仕事も無事に終わりそうだ。気が付けば、吹雪もすっかり収まって、まっさらな雪原が月の光に照らされ輝いて見えた。この素晴らしい光景を、できれば彼女とも共有したいところだが――。
『アッ引っ掛かった』
「あら、大丈夫?」
『最近ずっと食っちゃ寝してたカラ……』『イヤーン』
 何とも平和な会話に続いて、ピーノくんのお尻を押すいばらの声が聞こえる。さてもうひと頑張りだと、類も両手に力を込めた。

 助けた彼等に案内されて、二人は無事に、プレゼントの配達を完了した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年01月25日


挿絵イラスト