バトル・オブ・オリンピア③〜ソリステ・セラフィム
●しあわせなゆめをみる
風が山の木々を揺らして囁きのように響く。
爆ぜる焚き火の音は心をどこか遠くに連れて行ってくれているような気がした。
川のせせらぎは自然と自身のアンサンブルのようにも思えた。
耳を済ませるだけでこんなにも多くの音が響いている。
それは『彼』にとって得難いものだった。
揺らめく闇の中の焚き火を見つめる。
くべられた薪は熾火を煌々と闇のなかに示している。この暗闇の中にだって安らぎはある。
闇は照らす。
冷えた体を温める。
故に吐息を漏らす。
それは心より吐露された意味のないものの一つでしかなかった。
アスリートアースは今や『バトル・オブ・オリンピア』によって騒々しい。
けれど、この一角『めちゃひなたキャンプ場』だけはそうではなかった。
ダークリーガーの姿はなく、あるのは豊かな自然に囲まれたキャンプ場だけが広がっている。なんとも平和であろうか。
得難き平和な広場だった。
何のしがらみもない。
ただ、心ゆくまで穏やかで緩やかな時間を過ごせば良い。
眼の前の熾火は、薪をくべることで強くなっていく。
薪は多く集った人々だろう。
弾ける音は心地よい。
「……あの子らはきっと大丈夫だろう」
自分はゆっくりと顔をあげる。
亜麻色の髪が夜風に揺れた。見上げた先の星空を映す黒い瞳は、熾火に照らされていた。
『五月雨模型店』店長――『皐月』は『プラクト』の世界大会が宇宙よりやってきた『ギャラクシィリーガー』たちによって中断されたことをすでに聞き及んでいる。
幸いにして猟兵達によって星を懸けた戦いは勝利を収めることができたようである。
けれど、世界大会である『WBC』を行っていたスタジアムがサッカーフィールドに変えられてしまったことですぐさま中断された試合が再開することは叶わなかった。
けれど、『五月雨模型店』のメンバーたちも『プラクト』を愛するアスリートたちも何一つ失っていないだろう。
熱意も。矜持も。何一つ失っていないのならば、再起は遠くない未来だ。
「今は休めば良い。時には大自然の中を思うままに過ごすことだってアスリートの健全な精神には必要なことなのだから」
『五月雨模型店』店長『皐月』は熾火を見つめて、微笑むのだった――。
●いえいいえい
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だったのだが、なかこうテンション高い。
季節は冬。
だが、彼女は去年の夏に新調したセーラー水着を身にまとっていた。寒くないのだろうか。気合である。オシャレは気合。可愛いも気合である。
「お集まり頂きありがとうございます。大いなる戦い、バトル・オブ・オリンピアはまだまだ続きます。道のりは険しく長いことでしょう。ですが……『めちゃひなたキャンプ場』で小休止と参りましょう!」
確かに今回の大いなる戦いは熾烈な戦いであるが、スポーツを主体としている。
殺人的なスポーツが多いのだが、人死が全くでないのは大変に心の健康上よろしいことだった。
とは言え、だ。
スポーツは肉体を酷使するものである。
酷使した肉体は疲弊する。
ならば、休息が必要である。
「はい、今回はダークリーガーのいない『めちゃひなたキャンプ場』でキャンプです!」
いえいいえい!
ナイアルテがセーラー水着を身にまとっていたのは、そういうことかと猟兵たちは理解する。
つまり、単純にテンションが高いってことである。
「ソロキャン、グルキャン、グランピング、車中泊にキャバリア泊、ブッシュクラフトにホビークラフト……ええ、キャンパーの数だけキャンプは存在しているのです!」
なんかこう、変な単語が紛れ込んでいるような気がするんだが、と猟兵たちは思ったかも知れない。
特にキャバリア泊とホビークラフト。
なんかこう絶対違うよね? という単語が混じっているのだが、関係ない。
言ったはずである。
キャンパーの数だけキャンプは存在しているのである。
故に!
「皆さんによる皆さんのための、皆さんらしい『最高のキャンプ』を動画に撮って、キャンプの楽しさをもっともっと全世界に知らしめましょう!」
ナイアルテはカメラを構えている。
どうやら彼女は動画配信を行うようである。つまり、今回猟兵たちがやるべきことは唯一つ。
『自分が思う最高のキャンプを行う』ことである。
そして、それは動画として配信されるのだ。
それは素晴らしいことだろう。
「確かに『バトル・オブ・オリンピア』は始まったばかり。これから苛烈なる戦いに身を投げ出さなければならないでしょう。けれど、キャンプは楽しいものだって、長く苦しく険しい道のりがあるのだとしても、時には腰を下ろして休憩することも必要でしょう」
だから、とナイアルテは微笑んでカメラを猟兵たちに向ける。
素敵な思い出を、と笑って猟兵たちの大いなる戦いにおける小休止たるキャンプを全世界に伝えようと拳を握るのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『バトル・オブ・オリンピア』の戦争シナリオとなります。
今回、ダークリーガーは登場しません。ていうか、『めちゃひなたキャンプ場』にダークリーガーはいません。
なので、山、川、森のすべてを楽しめる豊かな自然に囲まれた広大なキャンプ場で皆さんの思い思いの『最高のキャンプ』を楽しむシナリオになっております。
なお、配信動画となっているのですが、カメラマンはナイアルテとなっております。基本登場はしませんが、カメラを向けていると思ってください。
また、ご自身で動画撮影をなさっても構いません。
ソロキャン、グルキャン、グランピング、車中泊にキャバリア泊、ブッシュクラフトにホビークラフトと多くのキャンプのやり方があるでしょう。
それはきっととても楽しいことです。
この楽しさを全世界に知らしめるために皆さんは楽しんでください。
プレイングボーナス……あなたの考える「最高のキャンプ動画」を撮影する。
それではアスリートアースに巻き起こる熱きスポーツバトルの祭典を戦い抜く皆さんの物語の一片となれますように、たくさんがんばります!
第1章 日常
『動画を撮ろう』
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POW : 溢れる情熱を動画に込める
SPD : こだわりの編集で見やすく仕上げる
WIZ : 他のキャンパーとのコラボ動画を撮る
イラスト:真夜中二時過ぎ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
タマキ・カンナ
動画配信?たまにプレイヤーさんたちが、GGO内で行ってるアレかな?
で、とりあえず…野宿(キャンプ)楽しめばいいってことだよね!
虹色スライム様の分体たるライドスライム『アウロラ』と一緒に楽しんじゃお!
なるほど、場と言うだけあって、整ってはいるんだね。
じゃ、やることは…テントは説明書見ながら張れた。じゃ、ご飯作ろう!
飯盒炊飯ってのも、説明書見ながら。
おかずは…簡単に焼きで!肉と野菜で…味付けは塩でシンプルに!
うちの近く、海も遠ければ岩塩採掘場もないから、交易主体で高いんだけど…ここは塩が安価でびっくりしたよね。
でも、このシンプルな味が美味しいってのは知ってるよ!
いただきます!おいしー!!
動画配信サービスというものがある。
多くのジャンルが存在していることは言うまでもないが、ノンプレイヤーキャラクターであるタマキ・カンナ(清澄玉虫・f42299)にとっては馴染みの薄いものである。
ゲームの世界に生きているからこそ、何かを発信するのはいつだってゲームプレイヤーに向けてであった。それを世界に発信するという発想はなかったのかもしれない。
だが、ゴッドゲームオンラインは究極のゲームである。
ゲーム世界ににて生まれ、育ったノンプレイヤーキャラクターもまた成長していると言ってもいい。
かのゲームがゲームプレイヤーたちの好き勝手に追加したエッセンスによって成長していくのと同じだ。
タマキもまた多くの世界を知って理解し、己のなかに蓄積していっている。
それを彼女が自覚しているかどうかは別の話ではあるけれど。
「動画配信? 偶にプレイヤーさんたちがやってるアレかな?」
タマキはアスリートアースの『めちゃひなたキャンプ場』へとやってきていた。
ここにはダークリーガーがいないらしい。
つまり、戦う必要がないということだ。でも、何をすれば良いのかと問えば、キャンプである。
とりあえず、キャンプなのである。
タマキにとってキャンプとは野宿と同義であったが、楽しめ、というのならば彼女は己の主でもあり、奉じる神でもある『虹色スライム』の分体たるライドスライム『アウロラ』と共にキャンプ場にやってきた。
「なるほど、場というだけあって整ってはいるんだね」
ふんふんとタマキは山、川、森に囲まれたキャンプ場を見やる。
野放図ではないのだな、と彼女はゲームの世界との違いを理解する。誰かが管理しているようにも思える。
過ごしやすい場所だとすぐにわかる。
「えっと、なになに? キャンプはテントを張ることから始める? そういうものなの?」
タマキはカメラを構えているであろうグリモア猟兵の言葉に首を傾げる。
手渡されたテント一式。
ペグやら支柱やら天幕やらを一度に渡されて慌てるけれど、説明書とにらめっこしながらライドスライムと共にあーでもないこーでもないと四苦八苦しながら設営をしていく。
「こんなもんかな。うん。なかなかうまく出来たんじゃない? じゃ、次は……ご飯だね。え、次もまた説明書? はんごーすいはん? 飯盒炊飯?」
なにそれ、と思いながらもタマキは説明書を読み込んでいく。
はぁ、なるほど、と思う。
「お米を炊く、ということ。ふんふん。あ、火を起こさないといけないんだね。後はお肉とお野菜も……味付けはシンプルでいいよね!」
タマキはキャンプ場の販売所に駆け込む。
彼女が普段ゲーム世界で住まう場所というのは洞窟だ。
立地的に考えれば、海も遠く、かと言って岩塩が採掘できるような場所もない。だから、交易を行わなければならないのだ。
人体に塩は必要不可欠だ。
必要不可欠なものは、当然手に入らない場所においては高価なものになる。
足元見てるなぁと思わないでもないが、仕方ないのである。
でも。
「やっす! え、やっすい!? なんで? なんで!?」
タマキはキャンプ場の販売所で売られていた香辛料や塩の値段を見てびっくりする。
トリリオンに換算しても安い、と思ってしまう。
早速購入して、タマキはライドスライムが干からびそうになりながら焚き火を起こしてくれていたのに慌てる。
アクシデントというほどではないけれど、ちょっと慌ててしまった。
でも、こういうアクシデントも楽しめる。
水をライドスライムにかけてあげれば、直ぐに回復する。ごめんね、と謝りながらタマキは焚き火の上に飯盒をおき、さらに鉄板をおく。
熱せられた鉄の音が聞こえるようだった。
「焼いていこうかな!」
じゅうじゅうと音が響く。
塩を振って、シンプルに味付けする。手の込んだことをしてもいいのかもしれないけれど、難しいことはまだできない。
なら、自分の今できることをやればいいのだ。
この動画を見ている誰かがなんやかんや言ってきたとしても関係ないのだ。だって、画面の向こう側で何かを言っていたって、この自然の中で今一番楽しんでいるのは自分だってタマキは言い切れる。
だから。
眼の前で焼き上がったお肉とお野菜を前に手を合わせる。
「いただきます!」
引いていったカメラの向こうでタマキはライドスライムと二人で、おいしー! と感激したように声を上げている。
それはきっと楽しげに思えただろう。
ただそれだけでいいのだ。難しいことを考えず、そうやって楽しむこと。
あるがままに。
それがキャンプだ――。
大成功
🔵🔵🔵
シルヴィ・フォーアンサー
視聴者の事など知らぬっ、撮影者(グリモア猟兵)が泣いててもっ(酷え)
……キャバリアでキャンプ?
『居住性を確保してるような機体ならともかく私達のは不向きだと思うがね』
まぁ、戦場によってはキャバリアで寝るとかあったし私は平気。
昔住んでた(奴隷扱いだった時)ボロ部屋に比べればこっちのほうがマシだし。
ユーベル・コード使えばご飯も届くし……何より他の人と接触しなくて済むしっ(ぐぐっ)
『力説する所かね……大自然キャンプ場でメカメカしい物の中で出前か』
シルヴィにとってはこれが最高だから良いんだよ、暖かいし星だって見えるよ。
『モニター越しだがな……君が良いなら良いが』
デリバリー受け取る時しか顔出さない(更酷)
キャンパーとは囲いの中にて縛られぬものである。
そういう意味で言うのならば、例え、これがキャンプの楽しさを知らしめるための動画配信であるのだとしても、撮れ高なんて知ったことじゃないとキャバリア泊に洒落込む者だっているだろう。
けれど、それを咎める理由はない。
なぜなら此処は『めちゃひなたキャンプ場』なのだ。
ダークリーガーも存在していない。
今は大いなる戦い『バトル・オブ・オリンピア』の真っ最中であるが、此処だけは自由を謳歌していい。小休止を楽しんで良い。
そういう場所なのだ。
『居住性を確保しているような機体ならともかく私達には不向きだと思うんだがね』
シルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)のサポートAI『ヨルムンガルド』の言葉に彼女は取り合わなかった。
確かにサポートAIの言葉通りお世辞にも自分のキャバリア『ミドガルズ』は居住性が良いとは言えない。
ハッキリ言って皆無である。
だがしかし、キャバリアで戦場に出ることの多いシルヴィにとっては、むしろ此処がいいのだ。
「私は平気」
そう特に問題はない。
彼女が昔のことに思いをはせるのならば、それはあまりにも劣悪な環境を想起させることだっただろう。
ボロ部屋の衛生的にもよくない場所で寝泊まりするのならば、この『ミドガルズ』のコクピットの中のほうが何倍も清潔であるとさえ言えた。
それに、と彼女は瞳をユーベルコードに輝かせる。
「ユーベルコードを使えばご飯も届くし……何より他の人と接触しなくて済むし」
それが一番大事だと言うようにコール・デリバリーするのだ。
ききーと『ミドガルズ』の近くで謎の配達屋がやってきている。
ちわー三河屋でーす、みたいなノリである。
「ほら、こうやってなんでも食事が1日三回運ばれてくる。何も不自由しない。完璧」
ぐぐぐ、と力説するシルヴィに『ヨルムンガルド』はなんとも言えない気分担ってしまう。
『力説するところかね……大自然キャンプ場でメカメカしい物の中で出前とは』
なんともチグハグなことだ。
けれど、シルヴィを咎める物は居ない。
なぜなら、シルヴィにとってこれは最高の環境であるからだ。
寒くない。暑すぎない。
それに誰の視線も気にならない。
自らと他者を隔てる壁一枚あるだけでもシルヴィにとっては得難き環境なのだ。
「いいじゃない。それに、ほら、見てよ」
シルヴィはモニターを示す。
そこには夜空があった。
明滅する星々。
「星だって見えるよ」
『モニター越しだがな……君が良いなら良いが』
しかし、これは動画配信なのだ。
いいのかね、と『ヨルムンガルド』が問いかけるがシルヴィは頷く。
いいのだ。
視聴者のことなんて知らない。
撮影者がなんか泣いてても構わない。顔を出すのはデリバリーがやってきた時だけ。
それでいいのだ。
「たまにはいいじゃない。ずっとこうじゃないんだから」
そういってシルヴィはデリバリーされてきた食べ物を口にする。
三食昼寝付き。
うん、なんて素晴らしい響きだろう。
そんなことを思いシルヴィはコクピットの中でテディベア抱え、ネコのように丸まるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
楪葉・楓梨
動画配信、でつか?(首を傾げ)
つまり、かわいいふあふあのふぅが世界にときはなたれるという事でつね!
ふぅのデビューにはぴったりでつ!
カメラマンさん、おねがいしまつよ!
豊かな自然とふぅは似合うに決まってるのでつ!
(楽しそうに草原を走りカメラにアップになるほど近付く姿は牧場動画の如し)
ごはん食べてるとことかもいりまつか?
作れないでつけど、食べるのはなんでも食べまつよ!
(ご機嫌にいっぱいもぐもぐ食べる姿はペット動画の如し)
おなかいっぱいごはんを食べたら眠くなってきたのでつよ……
(そのまま満足してうとうとと寝落ちる姿もまたペット動画の如し)
はっ! どうでつか?
かわいいふぅはいっぱいとれましたでつか?
楪葉・楓梨(夢見る仔羊・f42181)は羊の獣人である。
子羊の姿をした女の子であるが、その弱々しくもつぶらな瞳は誰をも魅了する可愛さがあった。もこもこ。それは魅惑のもこもこであったし、庇護欲をかき立てるものであったことだろう。
「動画配信、でつか?」
舌足らずな喋り方まで可愛い。
彼女の言葉に動画撮影者であるグリモア猟兵は頷いた。
そう、これは『めちゃひなたキャンプ場』で行われるキャンプ啓蒙活動というか、キャンプの楽しさを全世界に配信するための試みであり、大いなる戦いである『バトル・オブ・オリンピア』の小休止なのだ。
猟兵たちの戦いは苛烈さを極める。
ならばこそ、こんな時だけでも楽しく過ごすことが肝要なのだ。
「つまり、かわいいふあふあのふぅが世界にときはなたれるということでつね!」
楓梨はこくんと頷く。
そう、これはデビューである。
絶対最強もこもこ羊獣人のデビューなのである。全世界が相手というのもまた頷けるところであった。
「いいでつよ。ふぅのこと、かわいく撮ってくださいでつよ。カメラマンさん、お願いしまつよ!」
あ、そだ、と楓梨は思いついたように『めちゃひなたキャンプ場』の豊かな自然に駆け出す。
芝生はふわふわで踏み心地が良い。
ステップを踏んで彼女は走り回る。
「豊かな自然とふぅは似合うに決まってるのでつ!」
そうだね。
本当にそうである。固定したカメラに、これなんだろうって近づいてくるのは牧場動画のようであったし、楓梨の可愛らしさを表現するにはピッタリだった。
ひとしきり芝生の上を走り回った後、楓梨は己のお腹が少しだけ、くうくう鳴ったのを感じてカメラマンを見上げる。
「ご飯食べてるとことかもいりまつか?」
作れないけど。
でも、食べる大好き。何でも食べる。そういうようなつぶらな瞳にグリモア猟兵は、なんでも買ってあげますし、作ってあげますし! と楓梨の姿にしっかり魅了されていた。
なんだかんだで楓梨は甘え上手であった。
自分のことが一番世界で可愛いと確信している。
そして事実である。
だからこそ、楓梨は己の愛嬌を愛嬌とは思わない。それが自然なことだ。人は自然を愛する。気負うことのない自然体こそが、人の姿であるべきなのだ。や、獣人だけど、子羊だけど。まあ、そこは些細な問題である。
「う~ん、美味しいでつ! もくもく!」
ぱっと見ペット動画だけど。
まあ、それはそれである。
「おなかいっぱいご飯を食べてたら眠くなってきたのでつよ……」
うとうとと船を漕ぎだす頭。
ゆら、ゆら、と揺れる体。あー! コテンっていきそう! 大丈夫ですか、もうお眠ですか! 動画配信コメントのあちこちからそんなコメントが上がってきそうである。
こてん、と楓梨が芝生の上で温かい日差しを受けて眠る姿はコメント欄でも滂沱のように尊いコメントが乱打されまくっている。
カメラマンも起こさないようにゆっくりカメラを引いていく。
はい、ここまで、と言ったところで楓梨はぱちっと目を覚ます。
「はっ! どうでつか? かわいいふぅはいっぱいとれましたでつか?」
起き上がって駆け寄ってくる姿さえ可愛い。
そんな楓梨は動画をチェックし、楽しげにまたステップを踏んで暖かなキャンプ場を堪能するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
キャンプは初めてです。
ですが行軍訓練などのお話は聞いた事があるので要点はわかってるつもりではおります。
今のテントは簡単に張れるんですね。わんたっち。あとは中を整えてっと。
食事は石で竈を組んでの炊飯は学校行事でやりこんだので問題ないですね。
キャンプ場なので場所の問題も無いようですし。
家で下準備してきたものを飯盒に入れて炊き込みご飯。お漬物少々にインスタントのお味噌汁。
一泊ぐらいなら家で準備もありなのです。
状況次第で簡単レトルトでもいいと思うんですよね。一人分ならなおさらお残しの心配もないですし。
苦労してしんどいだけで終わるより、楽して楽しんでそういう思い出があった方がいいと思います。
「キャンプは初めてです」
夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は『めちゃひなたキャンプ場』の広がる大自然を前にして、少しだけ緊張していたのかもしれない。
いや、行軍訓練などの話は聞き及んだ事がある。
つまり、かいつまんだ要点だけは理解しているつもりなのだ。
キャンプ場に足を踏み入れると受付を済まして、レンタルのテントや道具を借り受ける。
こういうサービスがあるのがありがたいところだ。
とは言え、テント設営から始めなければならない。何事にもはじめてというものはある。お手本に誰かがついてきてくれていればいいのだが、生憎と藍についてきているのは動画配信のためのカメラマンであるグリモア猟兵だけだ。
そう、これは動画配信なのだ。
キャンプの魅力を、その楽しさを全世界に伝えるために猟兵たちは思い思いの、それこそ自分が最高だと思えるキャンプを楽しむ。
たったそれだけなのだ。
とてもじゃあないが、大いなる戦い『バトル・オブ・オリンピア』の只中であるなどとはとても思えない。
「ダークリーガーがいない、ということでしたが、本当なんですね。あっ、と……テントはこれですね。受付で貸してもらえました」
わ、と藍は己が借り受けたテントを袋から取り出すとワンタッチでテントが膨らむようにして広がる様をみやり、驚きの声を上げる。
「今はこんなに簡単にテントが張れるんですね。わんたっち。あとはペグを打って固定して中を整えましょう」
あ、そうだ、と藍はテント設営が終われば河原から石を拾って持ち込みかまどを作る。
飯盒炊飯。
そう、火を起こした後は食事の準備だ。
と言え、藍の知識は学校の行事でやりこんだものだ。問題ないかと言われたら問題はあるかもしれない。
でもいいのだ。
失敗だってキャンプの魅力の一つだ。
失敗が悪いことなのではない。失敗を活かさないことのほうが悪いのだ。
だからこそ、藍は予め自宅で用意してきた材料を飯盒に入れて炊き込み始める。薪の爆ぜる音が響き、飯盒に黒い煤が突き始める。
その間に藍はインスタントのドライフーズの味噌汁と漬物を取り出す。
代わり映えのしないものかもしれない。
普段食べている者に近しいものばかりだ。
「一泊くらいなら、これくらいでも十分ですよね」
場合によってはレトルだっていい。
一人分で手軽に用意できるし、残す心配もない。案外、こうした残された食べものというのがキャンプ場にとっては問題になりやすい。
猟兵である藍にとっては問題にならない野生の動物も一般人には脅威になるだろう。
そういうところも含めて藍は配慮をしてみせた。
「確かに手間暇かけることも楽しいかも知れませんんが、苦労ばかりのしんどい思いをしてお休みの日を飾ることもないです。楽して楽しんで、そういう思い出があったっていいと思います」
カメラに向かって藍は炊きあがった飯盒の中身を見せる。
艷やかなお米に用意してきた炊き込みご飯の材料が輝いて見える。
無理なく楽しむこと。
それもまたキャンプの楽しさの一つだろう。代わり映えのない食事メニューであっても、ところが変わればまた違った味わいだってある。
沸かされた湯を注いだお味噌汁のドライフーズが解け、溶け、味噌の香りを立ち上らせる。
「うん、いい感じです」
それじゃあ、と藍は出来上がったいつも通りだけれど、少しだけ特別な今日という日を締めくくるように手を合わせ。
「いただきます」
素朴だけれど、より良い1日にできたことに感謝するように食事をいただくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
ほっと一息でっすかー。
元気にぎやか藍ちゃんくんでっすが、静かなのも好きでっすよー?
ホビークラフトにヒントをもらったキャンプ案&配信案もありまっすしねー!
というわけで今日はいつもお世話になっている黒衣の方々もお誘いしてのんびりしちゃうのでっす!
動画撮影は藍ちゃんくん達は敢えて映さずに、オリンピアで共に戦ってくださっている相棒達を映す形で皆々様の想像力をかきたてたり、雰囲気を出していきましょう。
スキー板に、カード、鉄球バスター、バット、ラケットにテニスボールなどなど。
もちろんマイクと楽器も忘れないのでっす!
相棒達とのキャンプを最高に楽しんでいる藍ちゃんくんの様子を皆々様にお伝えできればと!
『めちゃひなたキャンプ場』はダークリーガーが存在しない。
大いなる戦い『バトル・オブ・オリンピア』の只中であるのだが、しかし、此処には脅威となる存在が確認できていない。
おそらく、これからもダークリーガーは此処にはやってこないだろう。
ならば、戦いの最中であるが猟兵達には一息つく時間があってもいいはずだ。
「ほっと一息でっすかー」
紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は少しだけ考えた。
藍はいつだって元気でにぎやかだ。
その周りには人がたくさんいる。見えないかも知れないが、多くの人たちが応援してくれているからこそ、藍という猟兵が存在できるのだということを知っている。
だからこそ、今日は。
「今日はいつもお世話になっている黒衣の方々をお誘いいたしましょう!」
そう、今日のゲストは藍ちゃんくんの舞台を支えるすっごい方々!(ファントム・ミスディレクション)
そう言って藍はカメラマンであるグリモア猟兵の前に装束を纏った黒衣たちを呼び立てる。
彼らはみんないつも見えないところで藍を支えている物たちである。
見えないのがお約束なのだが、今日くらいは見えても良いだろう。
だって、今日はなんでもない日だけれど、なんでもない日だからこそ特別なのだ。
「カメラマンさん、今日は藍ちゃんくんじゃあなくって、オリンピアで共に戦ってくれる皆様方を写してくださいでっすよー!」
それに、と藍は笑って指差す。
此処『めちゃひなたキャンプ場』に来ているのは猟兵達だけではない。
多くのスポーツアスリートたちがやってきている。
少しの休憩。
大いなる戦いの間に挟まれた小休止。
誰も彼もが思い思いに過ごしている。
最高のキャンプを、と言っていたが、そんな事は考えなくてもいいのかも知れない。
それぞれが思う最高がいくつも此処にはある。
スキーやカード、鉄球バスターにバット、ラケットにテニスボール。
多くの道具が映し出される。
「これはみんな藍ちゃんくんと『バトル・オブ・オリンピア』で一緒に戦ってくれた相棒たちなのでっす! もちろん、マイクと楽器も忘れていないでっす! でも、相棒たちが居たからこそ、藍ちゃんくんは戦ってこれたのでっす!」
カメラにインサートされるのは、これまでの『バトル・オブ・オリンピア』のハイライト。
多くの戦場で戦いに興じる藍の活躍があった。
多くは殺人急なスポーツばかりであったかもしれないが、それでも楽しげに笑う藍がいた。
それはきっと最高の日々であったことだろう。
誰もが夢中になれることをしている時が最も輝いているときだ。
誰だってそれができる。
このキャンプだってそうだ。
囲われた中であるからこそ自由を見出すことができる。
出来ないことなんてないって思わせてくれる。
だからこそ、それぞれに最高のキャンプがあるのだ。
「みんなみんな楽しんでいますでっすよー。ほら、あっちはなんだか美味しそうな匂いが漂ってきていますし、やや! あちらの方は珍しいキャンプ道具を使っておられますよ!」
藍はいろんなことも目を配る。
誰一人として最高のキャンプを楽しめないことがないように。
困っているのならば助けるし、共に、というのならばいっしょに歌う。
そう、藍にとってキャンプ場もまたステージなのだ。
みんなを楽しませる藍ドル。
それが自分だと言うように『めちゃひなたキャンプ場』を忙しく駆け回り、それを追いかけるカメラマンと共に盛大に笑って歌う。
それは夜の帳に吸い込まれていく。
けれど、この日の思い出だけは決して色褪せることはないと確信するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
テントを張ったら食事の準備、だけど
自分で食材を探すのも醍醐味だよ
川魚は取っていいのかな?
問題無ければ軍手で魚のつかみ取り
コツを覚えれば子供でも出来るよ
あ、でも皆は冬は網使うといいかも
寒いからね
(水飛沫と共に無邪気に魚と戯れる姿提供)
あはは、冷たーい!
数匹取ったら魔法で軽く暖を取りつつ山へ行き
山菜やきのこ、木の実等を採取
その際食用を見極める方法について簡単な解説
戻ったら鼻歌を歌いつつ
予め別途用意したり現地購入した食材や材料も合わせて調理
山菜やきのこは天ぷらに(油は固めて持ち帰る)
魚はハーブソテーに
あ、カメラマンさんも食べる?
解説動画になっちゃったけど
皆もキャンプの良さ知ってくれると嬉しいなぁ
年々キャンプ用品の性能というか利便性というものは向上しているように思える。
テント一つとっても簡単に設営できるよに工夫がなされているし、初心者にも優しくなっているように思える。
山が高くなれば裾野が広がるように、多種多様なキャンプニーズに応えるようになってきているのだろう。
需要が高まれば技術が向上する。
そういう意味では良い時代になったとも言えるだろう。
「これでよし、と。テントを張り終えましたよ」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はテントの設営を終えて一息ついた。
向けられたカメラに向かって笑顔で設営したテントを示す。
「次は食事の準備だよね。用意してきても良かったんだけれど、自分で贖罪を探すのだって醍醐味だよ」
澪は笑って『めちゃひなたキャンプ場』の川を示す。
清流の音が聞こえる。
そう、ここは川釣りだって楽しめるのだ。
「川釣りの許可をもらっているから、此処で釣ってもいいかもしれないね。でも今回僕は……」
そう言って澪がカメラの前に差し出したの軍手を付けた両だった。
「そう、つかみ取り! コツを覚えれば子供でも出来るよ。あ、でも皆は冬は網を使うといいかも。寒いからね」
此処がめちゃくちゃ日向の良い場所であっても季節を考えれば用心に越したことはないだろう。
冷たい川の水というのは思った以上に体の体温を奪ってしまう。
体温が奪われれば、それだけ体調も悪くなりかねない。せっかく楽しい思い出を作りに来ているのに、そうなってしまったら大変だ。
「じゃあ、見ててね。コツは静かに……」
澪は川に足を踏み入れる。
けれど、冷たい。とっても冷たいのだ。痺れるような、とまでは言わないけれど、全身を駆け抜ける川の冷たさに身震いするようにして体を震わせ、思わず声を上げてしまう。
「あはは、つめたーい! あ、ほら、でも見て! 上手につかみ取りできたよ!」
川から持ち上げるのは川魚だった。
澪の軍手の内側で暴れる魚の尾びれが水を飛沫となって跳ね上げ、カメラに水滴を付けさせる。
けれど、そんな水滴さえも爽やかさを演出するものであったことだろう。
数匹その後、澪は川魚を捕まえ、魔法で冷えた体を温めながら森の中へと踏み込んでいく。
「今度は山菜やきのこも採取しようね。木の実なんかも美味しいから……あ、でもきのこは種類に気をつけようね。美味しそうだからって思っても毒があったりするんだから」
そう言って澪は籠に多くの山菜やきのこを採取し、ご機嫌で鼻歌を歌いながら自分のテント前にやって来る。
熾していた火をみやり、テーブルの上で川魚をさばいていく。
手馴れた手付きで川魚をソテーに。
ハーブを効かせるのは、持ち込んだ自前の品々だ。さらに採取してきた山菜は天ぷらに。
「こういうところではキャンプ場にダメージを残さないようにね。面倒だからって放置したりしちゃだめだよ」
天ぷら油は固めて持ち帰るし、火はちゃんと始末をする。薪の燃え残ったものはしっかりと燃やし尽くさねばならない。
いろんなことに気を使わないといけないのは自由からは程遠いかもしれない。
けれど、囲われた中だからこそ、自由は謳歌できるのだ。
自由と野放図を同じにしてはいけない。
それを伝えるように澪は実戦してみせたのだ。
「あ、そうだ。カメラマンさん食べる?」
澪はカメラマン役のグリモア猟兵がよだれをダラダラしているのに気がついて苦笑いする。そんなに、と思わないでもなかったが、仕方ない。
どれもこれも美味しそうな絵面ばっかりなのだ。
「ふふ、解説動画になっちゃったけど、いいよね。最高のキャンプって、自分だけが良ければ良い、ってことからは遠いんだよ。今日楽しかったことを後に来る人達にも味わって欲しいって、そう思えることが一番なんだから」
だから、と澪は自分が作った料理を共に食べながらカメラに向かって、誰かを思うことの大切さを伝えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
動画配信、となると…強制的に私なのですよね。
ええ、彼(疾き者)は忍びゆえ、目立つの拒みますし。
テントくらいは張りますが…。食はカップ麺になりますし。
他に何をしているかといえば、陰海月の見守り。
ちょっとした景品を当てたとのことだったので、それをここで組み立てているんですね。
※
陰海月「ぷきゅ!」
当てた景品『幻想シリーズ限定ver. キャンプ!クラゲ』組み立て
プラモなクラゲが二匹。
ミニ飯盒、テント、かまど、焚き火つき!
ふふん、最高のロケ地になるよ!
霹靂「クエ」
友って、本当に器用だな…あんな小さいのを…
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は動画配信ということで、その役割を切り替えていた。
四柱の悪霊を束ねて一人の猟兵として存在する彼らにとって、それぞれの性質、性格によって状況を切り抜けることは大きな意味を持っていただろう。
「ええ、彼は忍び故、目立つのを拒みますし」
『疾き者』からバトンタッチする形で『静かなる者』は『めちゃひなたキャンプ場』にやってきていた。
テントを張ることくらいは特別難しいとは思わない。
黙々と作業する姿は、果たして本当に動画にする意味合いがあるのかと疑問を抱くものであったが、しかし、これもまた最高のキャンプを楽しむ、という猟兵としての戦いの一環でもある。
確かに今は大いなる戦い『バトル・オブ・オリンピア』の真っ最中だ。
けれど、休息を得ることもまた戦いの一つであるというのならば、これに手を抜くわけには……いかないのであるが、しかし『静かなる者』は焚き火を起こした後、湯を沸かしてカップ麺を取り出す。
え、とカメラマンのグリモア猟兵も思った。
カップ麺。
「ええ、カップ麺です。別に特別何かをする必要もないでしょう」
それはそうかもしれないが、キャンプ……という顔色を『静かなる者』は見てとったのだろう。すこし笑って続ける。
「どこでも食べれる。いつでも食べれる。十分なものがある、というのはそれだけ恵まれたことでありましょう。ならば、これもまた一つの最高ですよ」
注ぐお湯が湯気を立てている。
言われてみればそうかもしれない。
飽食の時代とも言われる現代社会において、カップ麺はその象徴的とも言える食べ物であったかもしれない。
食に急かされることなんて古き時代であればなかったことだ。
食は生きることの最前列。
しかし、今は違う。優先順位が堕ちてきているのだ。それは嘆くことではない。むしろ、喜ぶべきことだろう。
生命を維持する以上に何かを優先できる。
それはある種の発展を意味することであっただろう。
「それに、今回私は『陰海月』の見守りです。面白い画が、というならば、あの子を撮るのが良いでしょう」
そういう先に在ったのは別のテント。
そこには『陰海月』が持ち込んだテントと、そこでホビークラフトに勤しむ彼の姿があった。
「ぷきゅ!」
「クエ」
隣には『霹靂』が興味深そうに手元を覗き込んでいる。
よくこんな小さなものを器用に組み立てられるなぁ、と関心しきりのようだった。
『陰海月』が作っているのは景品で当たった『幻想シリーズ限定Ver.キャンプ! クラゲ』だった。
プラモなクラゲが二匹とテントセット、後は細かいキャンプ用品がランナーに配置されている。
ミニ飯盒だったり、かまど、焚き火のエフェクトはクリアパーツで充実している。
テキパキと作っていく。
芝生を植えるようにして情景素材を組み合わせていけば……。
「ぷっきゅ!」
ほら、と『陰海月』が示したのは最高のロケ地ならぬキャンプ場の情景ディオラマ。
そう、彼が作ってたいのは、この『めちゃひなたキャンプ場』の縮小版ディオラマである。そこには小さな二匹のクラゲと人間、それにヒポグリフを模したであろうミニチュアたちであった。
「ほう、これはよく出来ていますね。どうです、言った通りでしょう。こちらの方が良い画が撮れる、と」
『静かなる者』は笑ってカメラマンであるグリモア猟兵に笑いかける。
出来上がったディオラマを撮影しながら『陰海月』はごきげんだ。
大自然の中で、掌に収まる小さな自然を再現する。
それは作ることへの喜びと、自然に対するリスペクトがあったことだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
神代・凶津
テントを張ってっと…ひゅー、いい感じじゃあないかッ!なあ、相棒ッ!
「…自分が思う最高のキャンプを行うとの事でしたが。」
なぁに、難しく考える必要なんかねえよ。
ようは、楽しくキャンプすりゃいいってだけの話よッ!
キャンプと言や、そうバーベキューッ!
さあ、食べて呑むぞぅッ!材料も酒も買い込んできたしよッ!
「…あまり羽目を外し過ぎないように。
…そこのお肉焼けました。」
大自然で旨い飯を食い旨い酒を呑む…正に最高のキャンプだぜッ!
おや?あそこにいるのは。
「…『五月雨模型店』の店長さんですね。」
おーい、店長ッ!奇遇だなッ!せっかくだから一緒にバーベキューどうだいッ!?
【アドリブ歓迎】
赤い鬼面がカタカタと揺れる。
『めちゃひなたキャンプ場』にやってきて、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は最初からテンションが高かった。
それもそのはずである。
今日は大いなる戦いのなかにある小休止。
一時の憩いの場である。
『テントの設営は終わったぜッ……ひゅー、いい感じじゃあないかッ! なあ、相棒ッ!』
凶津は共に戦う相棒である巫女、桜に振り返って告げる。
桜は簡易テーブルの上で食事の材料を用意していた。
顔を上げ、テントの設営が十分に終わったことを確認してから彼女は次は焚き火を、と凶津にお願いする。
「……自分が思う最高のキャンプを行うとのことでしたが」
これで果たして正解なのだろうかと桜はモヤモヤしていた。
ただキャンプに興じているだけではないか。
もっと、こう……言うなれば、映えるようなことをしなくっていいいのかとさえ思っていたのだ。
というのも彼女が用意していた食材は言ってしまえば、一般的な串焼き……つまりはバーベキューだ。
取り立てて珍しいとも思えない食材ばかりだ。
玉ねぎだったりピーマンであったり、後は牛肉だったり鶏肉だったり。
有り体に言えば、ありふれたものばかりだ。
だが、そんな桜の杞憂を吹き飛ばすように凶津は笑う。
『なぁに、難しく考える必要なんかねえよ。ようは楽しくキャンプすりゃいいってだけの話よッ!』
つまり! と凶津は赤い鬼面を空中に浮かび上がらせ、クーラーボックスから器用にビール缶を引っ張り出してプルタブを景気の良い音と共に開ける。
『クーッ! キンキンだぜッ! 相棒ッ! お前も飲めよッ!』
「……まだバーベキューの用意が済んでませんよ。まずは火起こし」
『わーってるって! おあらよっと!」
ごう、と音を立てて凶津の鬼面から炎が飛び出し、まきを燃やしていく。
横着して、と言う桜の言葉を聞き流して凶津はビール缶をぐびっとまた煽るのだ。
喉越しがたまらない。
大自然野中、昼間から飲むビールのうまさと言ったらない。
『さあ、食べて呑むぞぅッ! たっぷり酒も買い込んできたしよッ!』
「あまり羽目を外しすぎないように」
桜は起こされた火の上に網を載せ、そこに串焼きを置いていく。後は火に任せるだけだ。
凶津にすすめられるまま桜もビールを少しづつもらっていく。
確かに、と思う。
この自然の中で昼間からお酒をいただくのは、なんとも言えない背徳感というか、罪悪感というか、そういうスパイスが在るように思えてならない。
『これぞ最高のキャンプだぜッ!』
「……そこのお肉焼けましたよ」
『おうッ! ……ん? あそこにいるのはよ……』
凶津の言葉に桜が振り返れば、そこには一つのテントがあった。
「……『五月雨模型店』の店長さんですね」
そう、『五月雨模型店』の店長『皐月』であった。
彼らにとっては顔なじみである。いくつかのアスリートアースにおけるダークリーガー絡みの事件において標的となったチームのホームとも言うべき模型店を経営している男性であり、桜にとっても縁浅からぬ人物だった。
『おーい、店長ッ! 奇遇だなッ!』
凶津の声に気がついた『皐月』が目を丸くしている。
「……お久しぶりです」
「ああ、こんにちは。代わりないようで」
『そっちもキャンプかい。なあ、せっかくだから一緒にバーベキューどうだいッ!?』
「お邪魔じゃないかな。せっかく二人なのに」
「……いいんです。これもご縁ですから」
そう言って桜も笑む。
頬が少し赤らんでいるのは、すでにアルコールを摂取しているからだろう。
「なら、少しだけ」
そう言って『皐月』は凶津からビールを。桜からは串焼きを手渡され、共に食事を楽しむ。
これもまたキャンプの楽しさの一つだ。
孤独を愛する者だっているかもしれない。けれど、時にこうして他者の環のなかに入るここともできる。
繋がりあえば、環は大きく広がるだろう。
「ありがとう」
「……いいえ、兄も……楽しんで、いたよう……ですから」
ぐごー、と凶津のごきげんな寝息が聞こえてくる。
桜も楽しかったのかも知れない。いつもよりも酒量が多いせいか体が揺れている。心地よいほろよい状態のまま眠りに落ちていくのは、もうわかっていたことだろう。
楽しい時間だった。
風邪を引くといけない、とテントに運び込まれ、幸せな時間を夢見る。
それはきっと明日の朝日を浴びる頃にまで続く微睡みにも似ていて。桜にとっても心地よいものだった。
凶津は羽目を外しすぎて頭がガンガンしてしまうかもしれないけれど――。
大成功
🔵🔵🔵
レジーナ・ビエルニィ
【POW】
……うん。丁度今までの反省会も兼ねて静かに考え事したりする機会は必要だったから。
それじゃ、行ってくる
(できれば雪のある山中を選び、『どこでもかまくら』を構える。
当人的には雪女だから寒さは平気だけど、もしグリモア猟兵が撮影で同行する場合はちゃんと中にこたつを用意している。一応もしもの時の食料調達用にキャンプ場周辺での狩猟が可能かどうかの確認と可能な場合許可は取っておく)
(基本はかまくらの中で目を瞑り集中して考え事をしているか、めっちゃ熱心に雪だるまもしくは色んな氷像を作ったりしている。しかも凝る。こたつがあった場合はこたつにも入る。だがクールっぽい表情は崩れない。例え天気が崩れても)
大自然に囲まれた『めちゃひなたキャンプ場』は多くの自然が存在している。
それ故にキャンプをするにはうってつけであったことだろう。
そして、同時に季節は冬である。
時としてキャンプとは過酷な状況でも行われるものだ。
そういう意味では、『めちゃひなたキャンプ場』は多種多様なキャンプに対応できる場所であった。
例え、それがレジーナ・ビエルニィ(雪女のバトロワシューター・f37984)以外に置いては、アルピニスト、登山家以外には需要のないエリアであったとしても、だ。
「……うん」
本気ですか、というグリモア猟兵の言葉にレジーナは頷く。
「ちょうど今までの反省会も兼ねて静かに考え事をしたりする機会が必要だったから」
だと言っても、雪山めいたエリアを選ばなくても、とカメラマンとして同行するグリモア猟兵は思ったかも知れない。
けれど、レジーナは構わなかった。
「それじゃ、行ってくる」
あ、待って待ってください、と追いかけてくるグリモア猟兵を背にレジーナは歩んでいく。
吹雪くほどではないけれど、山中は積雪していた。
『めちゃひなたキャンプ場』というだけであった、日差しが雪を銀雪のようにきらめかしている。
このまま外に居ては、雪から反射する日差しの紫外線で肌が焼けてしまうだろう。
だから、あっという間にレジーナは『どこでもかまくら』を構える。
それは例え、真夏の南国だろうがなんだろうが作成し、維持することのできる脅威のかまくらであった。
「此処に入って。こたつも用意しているから」
レジーナはそっけない言葉であったけれど、しかし同行するカメラマンに配慮はしているのだろう。かまくらの中は少しだけ温かい。レジーナには十分だったけれど、グリモア猟兵には厳しいかもと思ってこたつを用意してくれたのだ。優しい。
「此処、狩猟の許可も取れるんだね。キャンプ場としてはすごいことだけど……」
そう、食料の確保が必要になれば、狩猟することも許可されている。
とは言え、それは本物の銃を使うことではなく、バトロワ用のモデルガンを使っての、という意味である。
超人アスリートばかりのアスリートアースならではと言うべきだろうか。
「それじゃあ、私、瞑想するから」
レジーナはかまくらの中で瞑想し始める。
押し黙り、己の頭の中で『バトル・オブ・オリンピア』での戦いを思い起こす。
あの時こうすればもっとより良い結果を得られたかもしれない。
いや、ここをもっと。
次はこうする。
多くの事柄が思い浮かんでくる。
自然とレジーナの体は動いていた。
「……」
黙して語らない。
けれど、カメラは捉えていた。
レジーナがかまくらの中で熱心に、それこそ無意識下で雪だるまを作り出し、いろんな氷像を掘り出したりしている姿を。
それはあまりにも鬼気迫るものであった。
極限の集中状態。
其処に至ったレジーナは、考えるよりも先に体が動いていたのだ。
彼女の頭の中での試合の数々。
そのプレイバックが、彼女の体を通して氷像や雪だるま作成といった行動に発露しているのだろう。
「うん、こんなものかな」
目を開いたレジーナは満足げだった。
そこにあったのは滅茶苦茶細工の凝った氷像と雪だるま達。
まるで彼女のこれまでの精緻にして巧緻たる戦いの技術が集約されているかのようだった。
けれど、彼女はクールな表情を崩さない。例え、天候が大荒れに鳴ったとしても、彼女の心は揺るがないだろう。
どんなフィールドにあっても彼女がそうであったことの理由。
それが此処にあるようだった。
……と、なんかこう動画配信というよりはドキュメンタリーな雰囲気になってしまったが、一部のマニアからはレジーナのクールな表情で雪像を作る光景が癖になると評判になるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
『やっぱりさぁ……焚火にギターはさ、風情があるんだよ!』
いえ知りませんが……本当にこれが良いのですか?
火をつけた焚火に、集めた小枝を放り込み、
クレイドルから機械絆を経由して頭の中に浮かぶ譜面に思案する。
ヒーリング系ミュージック…宣伝ならもっと派手な方が良いのでは?
『楽しくワイワイやるのは確かに最高だけれどねぇ
…夜空を眺め、焚火の自然音をバックにギターを奏でる。
とっても精神が落ち着く事間違い無し。こういう最高もあるのさぁ~』
それに、奏者ははしゃぐの苦手だろう?
む、それはそうなのですが……そういうものですか……。
焚火の傍で、ギターに変形した魔楽機を手にして座り、
【楽器演奏】ギターの練習を行います。
知らないことを理解することは苦しみにあえぐものであったかもしれないが、時としてそれは未知を知るという楽しさでもあっただろう。
だが、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)にとっては、困惑のほうが強かったのかも知れない。
彼女は魔楽機『クレイドル・ララバイ』を手にしていた。
姿を変えることのできる魔楽機はギターの形に変貌している。
眼の前には焚き火。
爆ぜる音は彼女にとって戦火の音であったが、此処『めちゃひなたキャンプ場』においては違う音に聞こえるような気がした。
「此処にはダークリーガーがぞないしないということでしたが……」
焚き火に集めた小枝を放り込む。
燃える枝が弾ける。
その傍らで『クレイドル・ララバイ』は楽しげな声を響かせた。
『やっぱりさぁ……焚き火にギターはさ、風情があるんだよ! そうは思わないかい、奏者! そう思うよね! そうだともさ!!』
「いえ知りませんが……」
『釣れないことをいうじゃあないか! それはそうと楽譜は確認したかい! もうとっくにご存知だろうが、スコアをただなぞるだけじゃあ演奏とは言えない! 奏者、この『めちゃひなたキャンプ場』にて君は何を思う! それを旋律に乗せるんだよ!!」
はぁ、と小枝子はなんとも覚束ない返事をする。
彼女の頭には今、『機械絆』と呼ばれる眼帯を経由して『クレイドル・ララバイ』から譜面を脳内に直接流し込まれている。
目を閉じなくても譜面がわかるのはありがたいことだが、しかし、この曲目は彼女にとっては意外なことだった。
『クレイドル・ララバイ』であれば、もっと騒々しい曲を選ぶものだと思っていたのだ。
意外にも脳に浮かぶ譜面はヒーリング系ミュージックに分類される曲目であった。。
「本当にこれが良いのですか?」
『そうさ! しっとり演奏ろうじゃあないか! 見たまえ、奏者。眼の前の焚き火を。熾火を。そして、満点の星空を見上げたまえ!!』
『クレイドル・ララバイ』の言葉に小枝子は言われた通りに見上げる。
だから? と思う。
けれど、小枝子は少しだけ違う事柄が心に浮かぶような気がした。
今、目の前にカメラを構えたグリモア猟兵がいるからじゃあない。
確かにこれはキャンプの魅力を伝えるための配信動画だ。宣伝というのならばもっと派手な物がいいのではないかと思うのだが、どうやらそうではないらしい。
それがわかりそうでわからない自分がいる。
『楽しくワイワイやるのは確かに最高だけれどねぇ……夜空を眺め、焚き火の自然音をバックにギターを奏でる。それは心が落ち着くというものだよ。いいかい、奏者。何も激しくだけが最高じゃあないのさ。激しく燃え盛る炎があるからこそ、静かに燃える炎にも趣を見出すことができるように、こういうのは理屈じゃあないのさ』
『クレイドル・ララバイ』の言葉は小枝子にはわかりそうでわからないものだった。
まだ早いのかもしれない。
けれど、それでも手にしたギターの弦にふれる。
『それに奏者ははしゃぐの苦手だろう?』
「む、それはそうなのですが……」
そういうものかな、と思う。
いや、今はそういうものだと思うことにした。
指先に触れた弦を弾く。
夜空に音が吸い込まれていく気がした。いや、違うな、と思う。これはきっとアンサンブルだ。
人の呼吸もまた音だ。
自分の心臓の鼓動だって音だ。
あちこちに音が響いている。生きているものにはすべて音が満ちている。
「……そういうものですか……」
改めて言葉にする。
響く音は、少しだけ感情が乗っているように思えた。
声を発することはない。
ただ奏でることに意識を集中させている。けれど、悪くないな、と小枝子は思った。
今だけは目の前のカメラのレンズも気にならない。
揺らめく炎の影が小枝子の顔を揺らす。
体が自然と揺れていることに彼女は気づかないだろう。けれど、その様子に笑む者がいる。
カメラ構えるグリモア猟兵と『クレイドル・ララバイ』だ。
二人は小枝子の演奏に心を傾けて自然と笑む――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【サージェさんと】
菜医愛流帝いえいいえい♪
ふぁんくらぶいえいいえい♪
というとで、|菜医愛流帝FC《わたしたち》参・上!
なるほど動画配信するんだね。
それはもちろん大おっけー案件だよ!
世界のみなさまに菜医愛流帝を布教する大チャンスだもんね!
サージェさん、任せて!
ナイアルテさんに配信してもらうのは、もちろん菜医愛流帝キャンプグッズの数々!
(【偽装錬金】で作成)
アウトドア用に特別にあつらえた、菜医愛流帝学ラン。
チョコレート色のタープテント。
そして、ホットチョコレートに最適なチタンのマグカップ!
もちろんぜんぶロゴ入りだよー!
でも、サージェさんのぱつぱつの学ラン姿のほうが、破壊力はありそうだよね……。
サージェ・ライト
【理緒さんと】
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、菜医愛流帝ファンクラブの出番ですか!?
菜医愛流帝いえいいえい!FU!
ナイアルテさんのことです
撮影しながらもハプニングがあるはずです
美味しそうなキャンプ飯にめっちゃ惹かれたりとか!
ホビークラフトの場所から動かないとか!
あとは慌てすぎて転ぶとか!
そーゆーところを余すところなく撮っていきたいと思います
『『最高のキャンプ』動画を撮る人をス○ーカーしてみた』
カメラを止めるな!みたいな感じですかね!
というわけで理緒さん
菜医愛流帝いじりはお任せしました!ええ、全力でゴー
私はいかなる場所・角度・タイミングとて撮りのがしがないように
【電光石火】で参ります
黒歴史。
それは生きているのならば誰しもが抱えるものであろう。
忘れたい。忘れていて欲しい。
そう願うものである。
まあ、何が言いたいかって言うと、それもまた人となりの一部であろうということである。己の影を振り払うことができないように黒歴史だって振り切って逃げることはできないのである。
もっと具体的に?
『菜医愛流帝』のことである。
カメラマンであるグリモア猟兵は悔やんでも悔やみきれないとはこのことだな、と思った。
後悔しても遅い。
それほどまでに、彼女にとっては黒歴史だったのだ。
カメラを構えていないといけないこと。これを全世界に配信しないといけないこと。
使命と己の保身との間で揺れ動く心は、どれほどのものであっただろうか。
「『菜医愛流帝』いえいいえい♪ ふぁんくらぶいえいいえい♪」
「お呼びとあらば参じましょう。私はクノイチ、『菜医愛流帝』ファンクラブの出番ですか!?『菜医愛流帝』いえいいえい! FU!」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)とサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)の二人は浮かれに浮かれきっていた。
何をそんなに浮かれきっているのかと問いただすことは、単純に身を滅ぼすだけなのでグリモア猟兵は口をチャックした。
今の自分はカメラマンである。
それ以上でも以下でもないのである。
「ということで、|『菜医愛流帝FC《わたしたち》参・上!」
何が参上じゃい。惨状でしょうが! というツッコミは野暮なのでやめておく。
理緒とサージェは『めちゃひなたキャンプ場』にてテンション高く踊っている。ダンスホールじゃあねーんだぞ!
「撮影しながらのハプニングがきっとあるはずです。シャッターチャンスはその時ですよ、理緒さん!」
「うん、わっているよ! 世界の皆様に『菜医愛流帝』を布教する大チャンスだもんね! サージェさん、任せて!」
何もまかせたくないなぁってグリモア猟兵は思った。
でもまあ、早々にそんなことはないはずだろうと彼女は思っていた。
いや、実際にはあった。
これまで彼女は多くの猟兵たちのキャンプをカメラで収めてきた。
美味しそうなキャンプめしも目の前にして涎出たし、珍しいディオラマを仕上げていた光景にだって目を奪われていた。
「あとは転ぶところまでやれば、コンプリートですよ!」
何が?
「サージェさん、そっちをもって! わたし、『菜医愛流帝』キャンプグッズ作ったから!」
なんで?
理緒の瞳がユーベルコードに輝いている。
彼女の偽装錬金(ギソウレンキン)でもって次々と誂えていくキャンプグッズ。
アウトドア用に特別に誂えた『菜医愛流帝』学ラン。
チョコレート色のタープテント。
そして、ホットチョコレートに最適なチタンのマグカップ! なんかロゴが入っているのは気のせいか。肖像権とか大丈夫なんでしょうか。ちなみに無許可であろう。
「全部、販売権利を持っているのはわたし、だよー!」
普通、それ『菜医愛流帝』がもってるんじゃないの!?
ないの。
そうじゃないの。
「ついツッコミそうになっているのいいですね! これははかどりますね!」
サージェは、電光石火(イカズチノゴトキスルドイザンゲキ)如くカメラを持っている。そう、彼女がやっているのは『最高のキャップ動画を撮る人をス◯ーカーしてみた』である。
そこ伏せ字にしてもまるわかりだが大丈夫だろうか。もしもしポリス?
「カメラを止めるな! みたいな感じですかね!」
ネタバレ厳禁な映画の話はやめよう。怒られる。
「ふふ、この時のためにわたし、通販サイトも立ち上げたんだよー! ほら!」
URLはこちら! みたいに示されたポップアップ。
どうやって動画に差し込んでいるのかはわからないが、謎の技術でどうにかなれー! と理緒がやった結果であった。
「でも、これモデルのサージェさんがぱつぱつ学ランで破壊力すごかったよねー」
「サイトの参考画像は私です!」
にこり、と良い笑顔である。
ふたりとも本当に。でもまあ、カメラマンのグリモア猟兵だけは放心状態である。
なんたって彼女の黒歴史が全世界に向けて拡散されたのだから。
このことから得られる教訓は、取り返しの付かない冗談はやめようねってことである――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
はうあ!?
ついにステラさんの雄叫びが大気を震わせてます!?
トップミュージシャンの演奏や、超一流武術家の気合いみたいですね!
あ、いえステラさん、キャンプ。キャンプですから!
店長密着24時とかそんな企画番組じゃないですからね?
それに店長さんはソロキャンパーみたいですから、邪魔するのはマナー違反ですよ。
なのでほら、わたしたちも隣でキャンプしましょう!
そして撮るならいつもみたいにこっそりがいいと思います。
ということでキャンプ飯はわたしが作りますね♪
パンを焼いて、シチューとかいいかなー?
シチュー……ウサギ……うっあたまが。
って、ステラさん。
カメラのぞき込みながらのハミングは怖いですよ!?
ステラ・タタリクス
【ステルク】
|エイル様《主人様》の!! 香りがしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっっっ!!!
はい、メイド馳せ参じました店長様(はーと)
やっとお会いできましたね店長様(はーと)
店長様の1日密着取材動画撮ってもいいですか店長様(はーと)
ええ、逃げても一度目視したならばエイル様センサーが逃がしません…が
くっ、戦争中で無ければ自宅まで追跡しますのにっ!
こういう時はルクス様のお料理が映えますので
私が撮影係を
ええ、美味しいは正義
自然のBGMも悪くないですが
ちょっとハミングなど入れて楽しそうなBGMにしてみましょう
それではルクス様今日のお料理よろしくおねがいしまーす
『めちゃひなたキャンプ場』に響くは轟音だった。
「|『エイル』様《主人様》の!! 香りがしまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっっっ!!!」
うるさ。
滅茶苦茶うるさい。
それはもうとってもうるさかった。
いつもは破壊音波魔法で持って周囲の鼓膜をぶち抜いているルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)すらも目を白黒させるほどの轟音だった。
もう叫びでもなんでもない。
公害レベルである。
「はうあ!? ついにステラさんの雄叫びが大気を震わせてます!?」
ルクスは思った。
これはもうトップミュージシャンの演奏や、超一流武術家の気合みたいだな、と。
しかし、そんなルクスの思いとは裏腹にステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の息は荒かった。ちょっと、いや、かなりヤベー感じである。
「はい、メイド馳せ参じました店長様はーと」
はーと、じゃない。
彼女はぴとっと『五月雨模型店』店長『皐月』の背中に張り付いていた。
「やっとお会いできましたね店長様はーと」
うわぁ、とルクスは思った。
ついに出会ってしまった、と。今まで巧妙にニアミスしてきたというのに、ついにここにきてステラと店長が出会ってしまった。
あいや、店長に罪はない。
ヤベーのはただ一人ステラだけである。本当にやばい。
「ああ、いつもあの子らのことを気にかけてくれてありがとう。でも、様はいらない」
亜麻色の髪を揺らして『皐月』は微笑んでいる。
それがまあ、なんともステラの胸をクリティカルである。
なんか大人の余裕ささえ感じさせる店長こと『皐月』の微笑み。
その微笑みにステラは目をハートマークにしながら、すくっと立ち上がる。息やばい。
「店長様の一日密着取材動画撮って良いですか店長様はーと」
「何故」
「私が! 撮りたいからです!!」
我欲の塊みてーな良い返事である。
「あ、いえステラさん、キャンプ。これキャンプ動画ですから。店長密着24時とかそんな企画番組じゃないですからね?」
そこにルクスが止めに入る。
ステラの『エイル』センサーがぎゅんぎゅん唸って歯止めが効かなくなっているのだ。
今は大いなる戦い『バトル・オブ・オリンピア』の真っ最中である。
もしも、その歯止めがなかったのならばステラは店長の自宅までストーキングすることだろう。一番やばい人が、一番良いタイミングで首の皮一枚で躱したような形である。
我ながらよくわからん例えをした自覚はあるので、それ以上は辞めておいていただきたい。
「くっ……わかりました。こういう時はルクス様のお料理が映えますので、私が撮影係をいたしましょう」
「ものわかりがよいですね。そんなの関係ない! とばかりにぐいぐい行くのかと思いました」
いややりそうである。
とは言え、ルクスは胸をなでおろす。
店長『皐月』はソロキャンパーとして『めちゃひなたキャンプ場』にやってきていたのだ。それを邪魔するのはマナー違反である。
それをステラはしっかりと守ったとも言える。
いやまあ、それがなかったら何をしでかしていたかわからないという怖さはあるけれど。
「……もしかして、こっそり撮ろうとか考えてません?」
「そんなことございません。さ、ルクス様、お料理を。美味しいは正義です」
「なんか釈然としないですが……でもお料理が出来るのは楽しいですから♪」
ルクスは早速ステラにカメラを向けられながら、キャンプめしの準備に入る。
何にしようかなと少し考える。
パンは持ってきている。
なら、煮込み料理とかもいいかもしれない。うん、そうしよう、と決めてルクスは頭が痛むのを感じた。
シチュー、ウサギ……今年は辰年なので、兎年は去年だったね、とかなんか違う思考が入り混じったりもしたが、ステラのハミングにビクッとなる。
なんかカメラを覗き込みながらなのが不気味だったのだ。
そんなにか。そんなに店長と邂逅できたことが嬉しかったのかと思ってしまう。
「ふんふんはん♪ 自然の音だけでもいいのでしょうが、私の喜びのハミングも楽しいBGMになるでしょう」
「えぇ……」
ルクスはちょっと怖いな、と思いながらも調理を進めていく。
とは言え、ステラが上機嫌なのは良いことだ。
今なら食後に演奏会を開いても二つ返事でオッケーしてくれそうな気さえする。
あとで聞いてみようと思いながらルクスはステラと同じくらい上機嫌でキャンプめし動画を撮りながら、大自然あふれるキャンプを楽しむのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
勝守・利司郎
【炎蝶城】
てなわけで。動画配信っていったらオレたちだろ!
うん、今日はオレたち二人な。
ほら、燐様いると…火起こし任せがちになるから…。
テントは2つな。そこは分けないと。
近くには張るけど、ここは絶対だ。
火起こしは2人で頑張った。オレが草花属性で良かったよ…木材の乾き具合わかるから。
んで、オレは具材切ってくな。人参と玉ねぎは、この大きさでいいんだろ?
じゃがいもは、青い芽を取って…皮を剥いて、溶けてもいいから気持ち小さめ…っと。
肉は豚コマ。念の為に2枚目のまな板と包丁使う。で、適度な大きさにしてっと。火が絶対に通るようにした。怖いのが半生だからな。
完成したのも食べるけど、やっぱり美味いな!
瑞波羅・璃音
【炎蝶城】
そう、動画配信といえば!
って、何で利司郎と2人…と思ったけれど。
ああ、たしかに…そうね…。燐様、炎だもの…。
てことで!
利司郎の属性がここで活きるとは…。
テントも張るけれど…2つ?頑なだけれど、そういうものかしら?
火起こしは2人で四苦八苦しつつできた。
そして、此度作るはカレーライス。
飯盒炊飯は、水属性のあたしが加減わかるから…自然と調理担当に。
ここはルーを溶かすやつで。その方が味は裏切らないし、簡単だから。
そして、肉類の半生怖いはわかるから…そこは慎重に。
でも、できたのはとても美味しいカレーだったのよ。
これも、いい思い出かしら。
動画配信者の性とでも言えば良いのだろうか。
アスリートアース『めちゃひなたキャンプ場』において最高のキャンプを楽しむ動画を配信する、というグリモア猟兵の言葉に即座に反応したのが、そうしたことを生業にしている猟兵たちであった。
そう、勝守・利司郎(元側近NPC・f36279)と瑞波羅・璃音(元離反NPC・f40304)の二人だった。
彼らは意気揚々としてキャンプ場の受付を終えてテント用品を借り受ける。
「てわけで。動画配信っていったらオレたちだろ!」
「そう、動画配信と言えば! って、なんで利司郎と二人……?」
璃音は首を傾げる。
別におかしいところはない。少なくとも動画の視聴者たちはそう思っただろう。けれど、それはアスリートアースにおいて、彼らの動画配信を視聴してるものたちだ。
彼らのホームであるキマイラフューチャーであれば、確かに、と皆頷いたことだろう。
「うん、今日はオレたち二人な。ほら、燐様いると……火起こしまかせがちになるから……」
「ああ、確かに……そうね……燐様、炎だもの」
キャンプにおいて焚き火はつきものである。
そういう時に上司にあたる人に『火起こしよろでーす!』とはなんていうか、こうその、ほら、居心地悪いやつであろうというわけである。
なので、今回は二人なのだ。
「テントは二つな」
利司郎はハッキリと受付で、そう告げた。
やけにきっぱりだった。
「なんでよ。テント二つだと設営の労力二倍よ」
「いいや、近くには張るけど、ここは絶対だ」
「頑なね……そういうものかしら?」
「そういうもんなの!」
利司郎の頑なさにコメントは、紳士……と悪ノリコメントが走っている。でも、利司郎的にこれはコンプラ的な遵守の意味もあるのだ。
あと、テント設営どっちが早く追われるかと言った競争企画もできる。
「ねえ、こっちなんでペグ足りないのよ?! そっち多く使ってない!?」
「なんでだよ! あっ! ていうか、そっちオレのクッションシート持って行っているだろう!」
「言いがかりはやめて欲しいわね!」
そんな感じで四苦八苦しつつテントを張り、さらに火起こしもこれまた四苦八苦。
火起こしに至っては、テントを張る時に張り合ったことで疲労したのか、二人でなんとか火を起こす事に成功していた。
テントは労力二倍で成果も二倍だけれど、火起こしは一つが付けば、分け火が出来るからありがたいことだ。
「じゃあ、次はカレーライスね。キャンプと言ったらこれよね」
「うっし、オレは具材切ってくな。ゴロゴロした野菜は食べごたえあって良いよな。こんくらい?」
「ええ。お肉類はしっかりと火を通したいから、ちょっと気持ち小さめね」
璃音は属性を駆使して飯盒炊飯をこなしていく。
火起こしのときも思ったが、互いの属性がうまいこと噛み合っているような気がする。
コメントでも凸凹コンビのように扱われがちだが、案外相性が良いのかも知れない。
「ルーは? 甘口? 辛口?」
「どっちも入れましょう。その方がスパイスで味わいが複雑になるから。それに味は裏切らないもの」
それに簡単だしね、と璃音は笑って鍋のなかに材料を投入していく。
「豚肉カレーはコクがあっていいよな。半生は絶対注意な! これ、本当に!」
利司郎はカメラに向かって注意! と念入りに告げる。
せっかく楽しいキャンプなのに、食中毒になってつらい思いをするのは悲しいことだからだ。
「うん、できた」
「完成か! 食べようぜ……あ、その前に米だ米。璃音、どうよ?」
「私の属性考えなさいよ。そこのところは……ほら、ばっちりよ!」
飯盒の中身をカメラの前に映す。
そこには粒だった白米の艷やかな輝きがあった。蒸らしてから炊きあがったお米を二人で訳あってカレーソースを注ぐ。
見事なまでにキャンプカレーだ。
「うん、やっぱり美味いな!」
利司郎の頬がほころぶ。そう、とっても美味しいのだ。
これだけ美味しいのだから、己たちの上司にも持って帰りたいとも思う。
けれど、すっかりおかわりして食べきってしまいそうだった。
「ふふ、これもいい思い出になるのかしら?」
「そりゃそうだろ。今度は燐様も一緒に来ようぜ。これは謂わば下見ってやつだよな!」
そう言って二人は笑い合って、次の約束をする。
今度は三人で。
それは思い出が繋ぐ環だった。こうして思い出は連なっていくのだ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フラメル・パラケルスス
「最高のキャンプ!
それでしたら、天才錬金術士である私が錬金キャンプ――略して錬キャンを披露しましょう!」
テントを張ってー、焚き火をおこしてー、そこに錬金釜をセットします。
『汝、何かおかしくないか?』
「いえ、これが錬キャンですが、何か?」
魔本のエメの言葉は無視して、次は素材採取です。
山や森、川から天然物の素材を集め――それを錬金釜に放り込んでかき混ぜます!
「さて、この素材だとどんなポーションが出来上がるでしょうね!」
『絶対、碌でもないポーションだと思うのである』
ポーションの効果を確かめるのも錬キャンの醍醐味!
夜空に向かってポーションを投擲します!
『どうやら爆弾ポーションであったようであるな』
『最高のキャンプ』は、人それぞれが胸に秘めたものであり、持ち得るものである。
誰もが『最高のキャンプ』を楽しむことが出来る。
それを実現するのは、いつだって、その人なのだ。
だからこそ、フラメル・パラケルスス(実験大好きな錬金術士・f41698)はアスリートアースの『めちゃひなたキャンプ場』にて意気揚々と宣言する。
カメラマンを務めるグリモア猟兵は彼女の力強い眼差しに微笑んだようだった。
「最高のキャンプ! それでしたら、天才錬金術士である私が錬金キャンプ――略して錬キャンを披露しましょう!」
これもまた『最高のキャンプ』の一つであろう。
どんな事柄も受け止めて、キャンプのカテゴライズに昇華する。
それがキャンプの良いところだ。
フラメルは受付を終えてテントを借り受けて設営する。
不慣れな部分もあったかもしれないが、それでもフラメルにはお手軽と言えるものであった。
焚き火をおこして、火の強さをチェックする。
「テントよし、焚き火よし、あとはそこに錬金釜をセットします!」
……。
今なんか最後、変なこと言わなかった?
錬金? 釜?
『汝、何かおかしくないか?』
喋る魔本『エメラルド・タブレット』がポン! とフラメルの腕から飛び出して声を発する。
意志を持つ喋る魔法の本。
それが『エメラルド・タブレット』である。
「いえ、これが錬キャンですが、何か?」
フラメルはしかし、『エメラルド・タブレット』の言葉を無視して『めちゃひなたキャンプ場』のあふれる大自然へと駆け出していく。
火を起こして錬金釜をセットしたのならば、次は素材の採取に決まっている。
幸いにして此処には山も川も森もあるのだ。
素材には事欠かないだろう。
あちこちからフラメルは素材を採取していく。
なんかの鉱石だったり、川に住まう生物であったり、後なんか怪しいきのこだったり、木の実だったりと、まあそれはもう雑多な種類をとりあえず片っ端から集めに集めてきているのだ。
「はい、これをですね。ぽいぽいっとしちゃうんです」
釜のなかにフラメルは素材をこれまた片っ端から放り込んでいく。
なんていう、全体的に雑ではないだろうか。
フラメルはしかし自信満々である。一体全体どこからこの自信はやってきているというのだろうか。
本当に不思議である。
「さて、この素材だとどんなポーションが出来上がるでしょうね!」
ん?
もしかして、当てずっぽうにやってるこの天才錬金術士?
『絶対、碌でもないポーションだと思うのである』
『エメラルド・タブレット』の言葉が信憑性を帯びてきている。ちょっと怖い。
いや、ていうか、確実にこれって。
「うん、できました!」
見るからに怪しいビビットカラーな液体。
ごぽごぽ言っているし、なんか時折脈動するみたいに液体? が跳ねている。マジで大丈夫なのか、これ。
「ポーションの効果を確かめるのも錬キャンの醍醐味! それ!」
フラメルはそう言って瓶詰めしたポーションを空に投げ放つ。
夜空に投擲されたポーションの瓶が振動で内部で微細に振動し、炸裂する。
それは夜空に咲く。
いや、そう言えば格好が作ってもんだいではないが、有り体に言えば。
『どうやら爆弾ポーション(ボム・ポーション)であったようであるな』
冷静に言うところじゃあない気もするが、フラメルは空に咲く爆弾ポーションの炸裂した炎色反応に笑顔を咲かせる。
「狙い通りです!」
本当に? そうなの?
疑問は尽きない。けれど、それは些細なことだ。どんな偶然だって、意味を見い出せば、そこに必然が生まれる。
なら、フラメルの作り出したポーションは爆弾じゃあなくて、花火なのだ。
色とりどりの星に負けぬ輝きを、きっとフラメルは忘れないだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
動画の用意良し……さーキャンプするぞー…
…キャンプと言ってもお手軽に準備した後はひたすら積んでる本を消化するだけだけど…
…【エンバール】からキャンプ道具を色々おろして……
…まずはテントを張るところから…と言っても一人分だしワンタッチテントを…これでよし…寝袋設置よーし
…焚き火台を設置して…薪を用意して…(自作発火ガジェットで)着火ー
…ランプとリクライニングチェアよーし…自動調理鍋【ダグザ】に食材と調味料叩き込んで蓋して食事準備よーし…
…水汲んで浄化して飲み水よーし…
…さー読むぞー…(数時間経過)…そろそろお腹空いてきたな…
…良い感じにシチュー出来てるし…これを食べてまた読みに戻るとするかー…
最高とは何かをしなければ手に入れられないものか。
特別なことをしなければいけないのか。
そう問いかける声があるのだとして、応える必要はない。義理なんてないのだ。
つまるところ、それを自分がどう思うかに懸かっている。他の誰かが何かを言ったのだとしても、それはあまり意味がないのだ。
何もしない。
特別でないこと。
そこにだって最高を見出すことができる。
「動画の用意良し……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)はグリモア猟兵から借り受けたカメラ機材を設置すると一つ頷く。
録画ボタンを押す。
彼女は伸びをする。
周囲にあるのは大自然。
『めちゃひなたキャンプ場』はアスリートアースにおいても屈指のキャンプ場だ。
ただいるだけでも心地よいと思えるほどの日差しが冬の季節でありながらも降り注いでいる。
「さーキャンプするぞー……」
言葉とテンションが一致していない。
けれど、メンカルにとってはこれが通常運行だった。
キャンプと言っても彼女にとってはお手軽さこそが信条であったのかもしれない。改造装甲車の『エンバール』から道具を下ろす。
テントはワンタッチで展開するお手軽で簡易的なものだ。
一人分の寝床が用意できれば良いのだから、これでいい。寝袋をマットをしいたテントのなかに放り込む。
まだ眠るには早い。それにキャンプと言ったら焚き火だ。
焚き火台もまた簡易的なものだった。薪を拾ってきて重ねれば、自作のガジェットでもって着火する。
息を吹き込めば、火が立ち上る。
「……これでよし……さ、次は、と」
リクライニングチェアを『エンバール』からおろして焚き火のそばに設置してメンカルは座り心地を確かめるように軽く揺らす。
うん、悪くない。
「……チェアよーし……自動調理鍋『ダグザ』よーし」
さらに焚き火の上に鍋をかける。これもメンカルのガジェットだ。調味料と食材を叩き込んで蓋をしてコトコトすれば食事の準備も出来たも同然である。
ここまでカメラが定点観測のように彼女の行動を映している。
それは代わり映えのないものだった。
ただ黙々と自分の環境を整えているだけだ。そこには何も特別はない。
けれど、それがいいものだと視聴者は理解するだろう。派手さがあればいいというものではない。何かハプニングが起これば良いというわけではない。
淡々としながらもなんでもないということをメンカルはしているのだ。
「……水汲んで浄化して飲水よーし……」
こんなものかな、とメンカルは一通り終えてリクライニングチェアに、どかっと腰を下ろす。
彼女の目の前には焚き火と積み上げられた書籍の山だった。
そう、彼女は今日此処に溜め込んだ未読の本を読破するためにやってきたのだ。
「……さー読むぞー……」
なんとも消極的なことだろうか。
けれど、穏やかだ。何も変わらない。平坦な時間が流れていく。
しかし、せわしなく生きる者にとっては、これほど特別な時間もないだろう。何にも急かされることなく、切羽詰まる事無く、己のやりたいことをやる。
ただのそれだけがどんなに幸せなことかをメンカルは示すようだった。
ぐぅ、とメンカルのお腹の虫が騒ぐ。
「……そろそろお腹すいてきたな……」
ぱたん、と本を閉じると立ち上がって鍋の様子を見やる。
「……うん、良い感じ。やっぱり煮込みといったらシチューでしょ」
美味しそうな匂いが伝わるような湯気がメンカルのメガネを白く曇らせる。
「……これ食べてまた読みに戻ろう……」
ランタンに火を灯す。
暖かな光が広がる。もうすっかり夕暮れ時だ。昼間から読み進めていたのに夢中で気が付かなかった。
でも、ここからがメンカルのキャンプだ。
穏やかで、代わり映えのない、何も起こらない日。
その特別さをメンカルはただ、自然体で過ごして示すのだった。
それが最高なのだと――。
大成功
🔵🔵🔵
エリシャ・パルティエル
キャンプはいいわよ!
自然豊かな場所でのんびりできるんだもの
今日はあたしのおすすめの楽しみ方を教えちゃうわ
じゃーん
猫ちゃん型のテント!
耳っぽいのがついてて可愛いでしょ
こう見えて組み立ても簡単で
何より虫よけバリアつきよ
快適に過ごせるわ
キャンプの楽しみは料理もあるわね
猫ちゃんの形のミニフライパンを使って
ホットケーキを焼いていくわ
いい色に焼けたら
チョコペンで顔を描いて…
可愛いでしょ?
市販の猫ちゃんがマグカップにつかってるみたいな
ティーバッグで紅茶を用意して…
最高のおやつタイムね
大好きな猫ちゃんを感じるキャンプ
あたしにとっては最高ね
推し活も流行ってるし
みんなも好きなもので好きなキャンプを体験してみてね!
キャンプはよいものだ。
エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)はアスリートアース『めちゃひなたキャンプ場』にてキャンプの魅力を伝えるべく『最高のキャンプ動画』を撮影するために本格的なキャンプウェアでカメラの前に立つ。
「今日はあたしのおすすめの楽しみ方を教えちゃうわ」
自然豊かな場所でのんびりすることは言うまでもなくキャンプの魅力の一つだ。
現代社会に生きる者にとって自然とは遠い存在である。
だからこそ、そうした喧騒じみた生活からすこしだけ離れて見るのも、心のリフレッシュには必要なのだ。
エリシャはカメラの前でにっこり笑ってカメラをパンする。
横に振られたカメラのレンズに映し出されたのは、猫耳がついたテントだった。
「じゃーん! 猫ちゃん型のテント! 耳っぽいのがついてて可愛いでしょ」
示す先にあったテントは可愛らしい。
なんとも遊び心をくすぐるデザインであるし、猫が好きならなおさらだろう。
「光見えて組み立ても簡単で、何より虫除けバリアつきよ。夏場でも快適に過ごせるわ」
それに、と彼女は猫型テントの後ろに回る。
そこにはペグに引っ張られるようにして伸びる猫の尾のようであった。
「こういうところも可愛いわよね。こうしたアイテム一つでも楽しくなっちゃうわ。なんでもないことだけれど、大切なことよね」
さ、とエリシャはさらにカメラを横に流す。
今度は簡易テーブルの上だ。
そこにあったのは猫型のミニフライパン。
今回エリシャは猫をテーマにしているのだろう。猫型に縁取られたフライパンをくるりと回して、彼女は焚き火の上にかざす。
「一度熱してからね、粗熱を取るの。あ、何を作るのかって? ホットケーキよ!」
お手軽だし、何より皆好きでしょ、とエリシャは微笑む。
ボウルでさっくりホットケーキミックスを卵、牛乳と混ぜ合わせて生地を作り上げる。
粗熱の取れた猫型フライパンをまた焚き火台の上に乗せる。
流し込まれるホットケーキミックス。
ぷつぷつと生地の中の空気が温められて表面に現れる。
「もうすこしよ。焦らないで……はい、ここでひっくり返して!」
よ! と気合一閃エリシャがフライパンの上で器用にホットケーキをひっくり返す。
焼き目が綺麗についている。
見ただけでわかる。これは絶対に美味しいやつである。
「裏面も焼いたら……はい、お皿の上に載せて……チョコペンでおひげも書いてあげましょ。ほら、可愛いでしょ?」
ほっぺたにホイップクリームをトッピングすれば、なんとも美味しそう可愛らしい猫ちゃんホットケーキの出来上がりである。
さらに温めていたお湯でマグカップにティーバッグの紅茶を用意する。
マグカップも猫ちゃんが温泉に浸かっているような飾りの付いた徹底ぶりであった。
「最高のおやつタイムね」
エリシャはアウトドアチェアに腰を下ろしながらホットケーキを頬張る。
甘みが広がって頬がほころび、温かい紅茶を頂けば、心から癒やされる。周りには大好きな猫ちゃんグッズ。
「これがあたしにとっては最高のキャンプ」
それはきっと誰にでもできることだろう。
けれど、そのやり方がわからないものだっているだろう。どうやっていいのかわからない。迷い、惑い、足踏みしているものたちだっているはずなのだ。
エリシャはそんな者達に一歩を踏み出して欲しいと思う。
誰かに背中を押されることもいいのかもしれない。
けれど、自分の意志で、楽しそうだと思ったことに足を踏み出して欲しいと思うのだ。ただそれだけのことで、人生は一変する。
「猫ちゃんたちが大好きだから、こんなにもたくさんのグッズに囲まれてあたし、幸せよ。こういうのって推し活っていうんでしょう? 流行っているものね」
そして、エリシャはカメラに寄って微笑む。
簡単なことなんだと。
一歩踏み出すには勇気がいる。でも、その勇気だって簡単に、好き、という感情で湧き出すものなのだと。
「みんなも好きなもので好きなキャンプを体験してみてね!」
それは動画の締め括り。
二の足踏んでいる誰かの手を引くエリシャの優しい微笑みだった――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
キャンプ動画…
ふっふっふ、これは驚いた
バズ・メソッド抜群な動画を撮るなら、既に予習済み!
勝った…!
いや、誰に勝つんだろう…
お洒落なソロキャンは…バズる!
という訳でまずは設営から
ただのキャンプじゃない、お洒落なキャンプ
テントもちょっとお洒落感出しつつ設営
先ずは外観をぐるっと撮影、そう何か物件紹介番組っぽく撮影しつつ私は動画に映らないように注意
そしてそのテントを背景に焚火
【断章・不死鳥召喚】起動
蒼炎をゆらゆらと燃やし何か良い雰囲気を演出
何か焚火動画って需要あるらしいし…
チルらしいし、チルって良く知らんけど
後は猫はバズる!
でも猫とか居ないから不死鳥で代用!
多分チルくてバズるはず!
バズバズするはず!
「キャンプ動画……ふっふっふ、これは驚いた」
何が? とのっけから思わないでもない。
だがしかし、その不敵な笑みの主、月夜・玲(頂の探究者・f01605)はアスリートアース『めちゃひなたキャンプ場』の一角、影なんて一切ない、めちゃひなたでほくそ笑む。
不気味な雰囲気を醸し出そうとして、めちゃひなたなので彼女の笑みは白日の下に晒されている。
「バズ・メソッド抜群な動画を撮るなら、既に予習済み! 勝った……!」
第三部・完!
じゃあない。
「いや、誰に勝つんだろう……」
そう、バズ動画界隈に勝利者なんていないのである。
玲は戦いの虚しさを感じながら、いつになったら戦いが終わるんだろうとかなんとかそんなことを一瞬考えてすぐに放り捨てた。
何はともあれ、バズである。バズ。万バズ目指して動画を撮る!
これが今の玲の原動力であった。
そして、今回『めちゃひなたキャンプ場』にやってきたのはお洒落なソロキャン動画を撮るためである。
なにせ、今の玲にはバズ・メソッドがある。
動画を見る者たちは、兎にも角にもオシャレなのが大好きである。
キラキラな動画を撮れば、それでええんじゃろ! と玲はカメラで己が設営したテントをぐるっと撮影していく。
劇的にびふぉーあふたー。
なんということでしょう。『めちゃひなたキャンプ場』の一角、芝生が青々としていた場所に設営されたのは、シャレオツテント。
ワンポールテントは独特なシルエットを生み出している。
変わった、ということは紙一重でシャレオツになるポイントを秘めている。そう、他とはちょっと違うこと。それがバズには必要なのである。
変わっていることに人は目を引かれる。
まずは、このワンポールテント、ティピーでもって視聴者の視線を釘付けにさせていただく!
「そんでもってテントを背景に焚き火!」
おらっ! と玲がユーベルコードを発動する。
こんなことでユーベルコード発動していいのかなって思うが、まあいいのである。
断章・不死鳥召喚(フラグメント・フェニックスドライブ)は、浄化の蒼炎で構成された不死鳥である。焼き鳥って良いよね。そういう意味じゃないのはわかってるけど。
焚き火に揺らめくは蒼い穂の。
ゆらゆらと薪が燃える様は、なんともそこはかとなくエモである。
というか、こういう流行りもののバズなことをしていると、カクリヨファンタズムから新し親分こと『バズリトレンディ』が飛びついてきそうな気がする。
「うん、チルい。チル・アウト」
万華鏡エフェクトをふんだんにつかいながら、玲の動画は仕上がっていく。
なんていうか、こう、その、エモーショナルっていうか。その、となる雰囲気だったが、唐突に猫動画がインサートされる。なんで?
「シャレオツアイテムにチルい焚き火、そんでもってダメ押しに猫ちゃん! 猫はバズる。私は詳しいんだ」
そうなの?
そうなのかもしれん。猫ちゃん可愛いからね。
でも、いきなりキャンプ場に猫がいる、とうことはないので、不死鳥で代用である。
蒼炎を無理くり丸まらせて、猫っぽい形にしているのである。不死鳥使いが荒い。荒すぎる。
「うん、多分チルい。バズる!はず!」
ガハハ! 勝ったな! と玲は盛大に笑う。
果たして、彼女の動画が大バズリしたかどうかはまだわからない。けれど、玲には確信があったのだ。
「バズバズバズバズ!」
笑い声までバズっている。
変な方向で流行ってしまいそうな気がしないでもないが、不死鳥はそろそろ体丸めのやめていいすかね、と視線で玲に訴えたが、しかし玲はバズバズバズバズと笑うばかりであった――。
大成功
🔵🔵🔵
八洲・百重
はえ~、キャンプしながらプラモを組み立てるって動画があるんだなぁ
おらもやってみてぇだども…妖怪パーツ隠しが出た事を考えっとやらねぇ方が無難だべ(スマホ画面をそっ閉じ
それに動画配信だど撮れ高あるインパクトっちゅうのが必要だべし…あ、キャンプ場の隅っこに竹藪があるだ
そんならテントも焼肉の網も竹を使ったバンプーキャンプってのしてみっべ
管理人の許可を貰ったら…ぽんぽこボンバーのトレーニングがてら竹取りだべ
小狸の頃からぶきっちょだったども、こうして竹細工を作ってたから童心に戻った感じだぁ
竹ひごを並べただけの竹網は青竹部分を肉側にすれば、竹のいい香りが肉に移って食欲がそそるべさ
それを竹筒ごはんで頂きますだ
天山・睦実
キャンプなぁ
ドン勝キャンプ、ちゅうたら何がなんだか分からん動画になってしまうのが目に見えはりおるから迷うわなぁ
キャンプ場をほっつき歩いとれば何か良いネタを思いつくやろし、散歩にでも…何か竹藪が騒がしいと思ったら物怪プロレスリングの暴れ狸『ヤッシマー魔魅』がおるやん!
うっわぁ、うちメッチャ感激
サイン貰ったろうっと♪
…と思ったら、なんか半べそかきながらビョンビョンしなっとる竹と格闘してるわ
もしやプロレスの修行を密かにやっとるとか…と思いはったら、手助けを乞われたわ
しゃあないから助け舟出して、うちもバンブーキャンプに洒落込むわ
丁度ドン勝用の米や豚肉も持ってきよってるから、これで撮れ高間違いなしやな♪
ホビークラフトキャンプというものがある。
あるのか? と誰もが思ったかも知れないが、まあ、あるのである。あるっていったらあるのである。
そんな参考動画を眺めながら八洲・百重(唸れ、ぽんぽこ殺法!・f39688)はなんとも言えない声を上げていた。
「はえ~、キャンプしながらプラモを組み立てるって動画あるんだなぁ」
それは依然猟兵たちが『五月雨模型店』の面々とキャンプに向かった時の動画であった。
なるほど、確かにプラモデル作成とはインドアな趣味である。
しかし、外に飛び出してはならぬという理由はない。
百重は自分もやってみたいな、と思った。だが、しかし。
そう、プラモデル作成にはヤツが潜んでいる。
『妖怪パーツ隠し』である。
部屋の中でも、何故かパーツが見つからなくなる事象。あれが大自然の中にもいるのならば……。
「ぞっとしないべ」
やめとこ、とスマホの動画を閉じて彼女は『めちゃひなたキャンプ場』を見やる。
ここでキャンプをする。
それが今回猟兵たちに課せられた戦いである。いや、戦いじゃあないけれど、『最高のキャンプ動画』を撮る、ということはひいてはこの『バトル・オブ・オリンピア』を戦い抜くエで必要になってくるのかもしれない。
ならば、やはり必要なのは。
「撮れ高だべ。それにインパクトっちゅうのも必要だべし……あ、キャンプ場の隅っこに竹藪があるべ」
なんでもあるな、この『めちゃひなたキャンプ場』。
しかし、百重の頭上に豆電球が輝く。
ひらめいた!
「そうだべ! 竹藪があるんなら、テントも焼肉の網も竹を使ったバンブーキャンプってのしてみっべ! そのためには管理人の許可を貰うべ!」
百重は善は急げと言わんばかりに早速『めちゃひなたキャンプ場』の管理人から許可を得て竹藪から竹を拝借しようとするのだ。
確かに百重は子狸の頃から器用なほうではなかった。けれど、最近得た模型趣味でもって手先の器用さは先天的なものではなく、後からでも身につくものであることを知った。
ならば、竹細工だってできないことではないのだ。
できないことを最初から出来ないと諦めることこそ、百重の大敵だったのだ。
彼女は童心に帰れど、しかし、その点だけは得たものを心に収めて竹をへし折ろうとする。
だが、流石にプラモデルとは勝手が違う。
「あんれー!?」
しなる竹に大苦戦してしまう。なんでこうなるんだべ、と涙目だ。
そんな彼女を見つめる瞳があった。
天山・睦実(ナニワのドン勝バトロワシューター・f38207)だった。彼女はキャンプ動画を取らねばならない、とグリモア猟兵から説明を受けていたのだが、どうしたものかと悩んでいた。
彼女はバトロワシューターだ。
いつも縁起にあやかったカツ丼を食べに食べまくっている食べざかりのJKである。通称『ドン勝』である。これを睦実は愛してやまない。
「ドン勝キャンプ、ちゅうたらなんだかよくわからん動画になってしまうのが目に見えはりおるから迷うわなぁ……」
彼女はどうにかネタがないかとほっつき回っていたのだが、そこで百重が竹藪でしなる竹と格闘しているところに遭遇したのだ。
「……なにあれ」
「んわー! だめだべー!?」
狸が竹と戯れている。ぱっとみそんな感じだった。
いや、違う! あれは! 狸だけど狸じゃない!
「『ヤッシマー魔魅』やん! ほ、ほんもの!? 本物の!? うち、狸に化かされてへん!?」
睦実は目を見開く。ついでに目元もゴシゴシ擦ったし、ほっぺたもつねった。それ言うなら狐に化かされるとかそういうの……と思ったが、些細なことである。
狸も狐も変わりないのである。とかそんなこと言ったら、十分に違うわ! と叩かれそうである。
そんな勢いで睦実は二度見した。
「うっわぁ、本物やん。うちめっちゃ感激! めっちゃファンなん……いや、でもなんか格闘しとるわ……もしやプロレスの修行を密かにやっとるとか……?」
ファン過ぎて近づけない心理もちょこっとあった。
でも、なんか涙目になっている『ヤッシマー魔魅』とかレアショットが過ぎるので、シャッターチャンスは逃さなかった。
「んわー……あ?」
「あ」
見つかった。バチッと目が合ってしまった。
なんとも気まずい。睦実は仕方ない、とあくまで一般人的な感じで百重へと近づく。
「あのー……何か困ってはります?」
「い、いいところにー! この竹、強敵なんだべ!」
なはは、とごまかすように笑う百重に睦実は、察する。あ、これ修行ちゃうわ。単純に竹に翻弄されてるやつやわ。
でもでも、ファンとして!
彼女をこのまま竹に良いようにされているわけにはいかない。
「へし折ろうとするから竹の弾力に負けちゃうんですわ。ちょいまっとってくださいね」
そう言って睦実は手にしたアサルトライフルで竹の根本をぶち抜く。
轟音に百重は目をパチクリさせている。
「ふんわー……すっごいべ。これで竹が用意できたべ! あんがとうなぁ!」
「いえいえ……ほんで、これどないしますの?」
「ふふーん! こうすんだべ!」
そう言って睦実は百重のドヤ顔ええわぁ、とか思いながら彼女の竹編みを見つめる。さっきまで竹が折れなくて涙目になっていたギャップ最高とか思っていた。
そして。
「おっと、肉もいいけどご飯はどんな具合だべ……?」
「こっちもいいみたいですわ。まっ黒焦げなんやけど、本当にこれ大丈夫ですの?」
竹網の上で肉が焼けて、竹の香りが移って芳しい網目の上では睦実が持ち込んでいた豚肉が油を弾かせる音を立てながら焼けていた。
そんな中、彼女は竹筒にて炊いた白米の様子を見たのだ。竹はもうすっかり黒コゲであるが、内部はどんな具合だろうか?
「んふふ~見てのお楽しみだべ!」
百重が、ぱか、と蓋をしていた竹を外す。
すると、そこに現れたのは艷やかな輝きを放つ白米だった。
見事だった。
「はわ~! こりゃすんごいべ! うん、竹の香りも移ってるべ!」
「へぇー……こんなふうになるんやねぇ。バンブーキャンプってところかいな?」
「え、ばんぶー、なに?」
「いえ、なんでもあらしまへんよって。さあさあ、食べましょ、魔魅さん」
睦実はこういうギャプもええなぁと思いながら、『ヤッシマー魔魅』とは一味違う百重の姿に撮れ高ばっちりや、と竹筒から白米を装って彼女に手渡すのだ。
わあ、と百重は蒸らした白米の上に焼肉をバウンドさせて口に運んでかっこむ。
幸せである。
その笑顔は、見るものをきっと笑顔にさせるだろう。
それだけの純朴さがそこにあったのだ。
「睦実も食べるべさ~! 美味しいべ~!」
「はぁい、いやぁ、うち、普通にしていても勝ってまうなぁ。『ヤッシマー魔魅』ともお近づきになれるし、うん、大勝利、ドン勝やね!」
こうしてキャンプの楽しさは広がっていく。
誰もができる。やらない理由を探すよりも、やる理由を探した方がいい。
そういう意味では百重と睦実は、キャンプの楽しさを動画にして人々に伝えきるのだった――。
大成功
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